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囚われの姫騎士
42
:
名無しのごんべへ
:2020/04/19(日) 13:35:09 ID:jb/DmEDk0
(それでも……このままの生活をずっと送るわけにはいかない!)
リスクを飲み込んだうえで、リリシアの決意は固かった。
そして、運命の日が訪れる。
城内で感じられたザルディスの重々しい気配が消えた。
リリシア、タリア共に隠し通路へと覚束ない足取りで向かい始める。
(お腹が…まさか…、今なの?)
ここ数日、リリシアは自身の身体に初めて経験する違和感を覚えていた。
そして今日、固く張ったお腹が何処か張り詰めているのを感じ取る。
「はぁ……はぁ……」
産み月に入った二人の妊婦の足並みは遅々として進まない。
臨月の妊婦が無理を押しての強行軍である為だが、なによりもリリシアよりも遥かに大きなお腹を抱えたタリアがその速度を大きく落としていた。
タリア自身、お腹が重荷になっておりここ数日間自身で歩くことすら億劫になっていた。その為、姉であるリリシアの肩を借りながら一歩。また一歩と進むほかなかった。
「お姉さま、わたしを置いていってください」
「タリア!?」
隠し通路の入り口を目前に足を止め、息を整える。
あと少しだ。と、意気込むリリシアに妹の声が刺さった。
「このままでは、二人とも捕まってしまいます。私を置いていけば姉さまだけでも脱出できるはずです」
「でも……」
「ご決断を。私は、私のせいで姉さまが悲惨な目にあう姿を二度と見たくないのです」
迷うリリシア。
その迷いを断ち切るようにタリアは言葉を強めた。
互いの視線が交わり、言葉なくただ時間だけが過ぎる。
「……ごめんなさい、タリア」
「ありがとうございます、お姉さま」
折れたのはリリシアであった。
支えていた妹の身体から離れ、隠し通路へと進む姉の後姿をタリアは毅然とした態度で見送る。
姉は振り返らない。決意が鈍ってしまうから。
妹は手を伸ばさない。敬愛する姉の幸福を願うが為に。
「っぁ、ぅ」
リリシアの姿が隠し通路へと消え、入り口が閉ざされた時、タリアは力尽きるように地面へと倒れこんだ。
既に限界であった。
朝より定期的に張りを強めていたお腹は、いま痛みを伴ってタリアを襲う。
「……幸福を祈っています。お姉さま」
か細く紡がれた言葉は、最後まで姉を思うものでそれをかき消すように見回りの魔族の声が廊下へと響き渡った。
『タリア、バッドエンド√が脳裏に過りました。姉は脱出し、子と共に人類の為に。妹は魔に堕ち、孕み袋として魔族繁栄の礎に。なんてどうでしょう』
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