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【石川賢】ゲッター線が他作品に出張!! 避難所【クロスSS】

1追い出された名無しさん:2010/12/29(水) 15:56:47 ID:xU68qfbE0
【石川賢】ゲッター線が他作品に出張!! 避難所【クロスSS】

ゲッターロボ等、基本的に石川賢作品と他作品のクロススレです

●保管庫
ゲッタークロスオーバーSS倉庫
ttp://wikiwiki.jp/gettercross/

177追い出された名無しさん:2012/08/01(水) 00:44:45 ID:ua/8RxNc0



 そのセシリア・オルコットは憤慨していた。
 目の前の男がクラス代表に推薦されたからだ。
 セシリア・オルコットはイギリスから代表候補生に選ばれた存在である。
 生まれも名門貴族で高貴な生まれたが、だからといって地位でそれを勝ち取ったわけではない。
 生まれ持った才能等もあったが努力による部分が大きいことは誰にも否定はできない。
 努力のきっかけは彼女の両親が残した遺産を守るためである。
 彼女の今は亡き母親は会社を経営して成功し続けていた。
 ――――だが、父は婿養子のためか卑屈にもそんな母親の顔を窺うような軟弱男であった。
 彼女が父に抱く思いは「情けない」の一つしかなかった。
 だが、彼女にとって一番知っている男性が父であったために、先入観に偏見が混じってしまっているにしても、
全ての男が腑抜ではないということは一応は頭にはある。
 現在、インベーダーからIS使いと共に地球を守っているロボット兵器を操る者は大半が体力の面で男性である。
 その男達は彼女に負けないくらい、またはそれ以上に切磋琢磨をしたはずである。
 今日、もしかしたらこの瞬間ですらも過酷な任務に命を削っているかもしれない。
 だから、そういう男達を認めざるえない。

――――だから、「ISが動かせる」という点だけの男がクラスの代表になることは許せなかった

178追い出された名無しさん:2012/08/01(水) 00:46:57 ID:ua/8RxNc0

 そういうわけで一夏はセシリアと模擬戦という決闘を行うことになった。
 決闘まで数日後に控えている一夏だが、彼とセシリアのISについての知識、技能差は大きい。
 それをどうにかするために彼は特訓をしていた。

「一夏、やるな! だが、甘い」

 ――――パン。
 奇麗な一本の音が道場に響く。
きれいに箒の竹刀が一夏の面が叩く。

 一夏は再会した幼馴染の箒と道場で剣道していた。
 姉がIS開発者である箒に協力を求めたところ「実力を見る」ということで剣道をすることになった。
 確かに、ISの動きは操縦者に左右されるために生身の戦闘の技能が高ければ高いほど強いともいえる。
 一夏は一応ロボット乗りを目指していたために体力付を怠らず、バイト(お手伝いレベルだが)の合間に部活動生以上の運動はしている上に、
義兄のトレーニングに付き合ったりしていた。
 バイトの合間だったために部活動に所属はできなかったが、体力には飛びぬけてというほどにないにして、もある程度の自信があった。
 それが功をなしたのか目の前の箒に善戦していた。
 目の前の箒は全国制覇したこともある腕利きの剣士である。

「一夏……お前、体力はあるが剣の腕が鈍っているな。中学では剣から離れて陸上部か球技でもやっていたのか?」

 体力が付いても、剣道や柔道などの戦うための技能は磨かなかった。
 まず、藍越に入学することから考えており、中途半端でヘタな偏りは避けたほうがいいと考えていた。
 本当は超実戦思考空手の使い手で且つロボットパイロットである義兄から教えてもらいたかったが彼は多忙のため、
なかなか家にいないから中途半端に偏りかねない。
 姉もロボットのりではないがかなりの腕利きである、のだが同様の理由で無理。
 とりあえずは基礎体力を上げて戦闘の技術はそこで身に着けようと思っていた。
 なのだから、まさかいきなり模擬戦をする羽目になるとは思っていなかった。
 一応は性別差からくる、腕力、体格差で箒を吹き飛ばすことはできるのだが、箒の技がそれをさせなかった。
さらに、ISでは筋力が反映されにくいのでそれで勝っていても意味がない。


「――だから、どんどん来い、箒!」
「行くぞ! 一夏ぁ」




彼らの戦いこれからだ!!

        未完

本作は今亡き某所に投稿しようとしたゲッターとISのごちゃまぜSSです。
コンセプトとは私がためらわない程度の改変で実はこれでもギリギリなチキンハートです。
IS、ゲッターロボと共にいろいろ設定を変えています。
このまま書いたままにするのは無駄なことをした気になるのこっそり投下させてもらいました。
もちろん、続きはもう書くことはありません。

179追い出された名無しさん:2012/08/01(水) 20:54:17 ID:sHpB6GYc0
GJ!
続き無いのかもったいない……

180追い出された名無しさん:2012/08/01(水) 22:07:29 ID:r5nJu7JM0
乙ぅー!   

それにしても規制の嵐で本スレに全然書き込めないのが辛い……

181追い出された名無しさん:2012/08/01(水) 23:00:26 ID:q1i0MiUE0
どうも作者です。
感想ありがとうございます。
某所の三月の規制で投下のタイミングを逃し、そのまま放置していたので。
もう続きを書くのが…………って状況でしって。

一応この後にゴウが出てきて
竜馬・境遇が変わっているされている
一夏・スペックが少し変わっている。
弾・機械的な魔改造
ゴウ・ナマモノ的な改造。

という感じの四人の主人公で書こうと思ったんですが、難しすぎると断念

他のキャラはゲッターは
隼人・やっぱり偉くなっている、あるキャラのある部分に驚く
武蔵、弁慶・チェンゲ第一部の設定。
元気・チェンゲ版なので女、でもおもに面倒見ていたのが弁慶たちなので性格が……
    一夏と昔からの友人だが好みが境遇のせいで偏っているために恋的なものは全くない。
敷島・チェンゲ版も漫画版も好きなので二人とも出しました。
    ちなみにサイボーグ一号は極道なあのかた

ISのヒロインは箒と鈴は変化なし、セシリアはすでに書かれている通り
シャル・母親の負担を軽くするために手先の器用さでパイロット育成校に特待生として入学しているため男装設定なし。
ラウラ・千冬の特訓で克服する前にロボのパイロットをさせられたために能力が原作より低いし、性格が少し卑屈(逆補正改造)
     敷島兄に作られた設定でゴウは彼女を作った時のデータが利用されている。
生徒会関連:そこまで考えていませんでした。
山田・隼人の自分(の胸部)を見る熱い眼差しを意識しているのかしていないのか?

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184奴らに墓標はいらない。:2013/03/15(金) 04:38:50 ID:shK785nE0
 悪魔がホルンを吹き鳴らす時刻、街に立ち並んだ巨大なビル群は、峻厳とした山々の峰のように如く天高く聳え立っている。

 チクタクと静かに回る秒針の音──時計の針が午前一時を差す。路地裏にたむろするギルドの売人どもから、月のアガリをせしめるバイケン。
 バイケンは売人にロド麻薬を売らせ、売人はバイケンに売った麻薬の金の二割を上納金としておさめるのが、ここでの取り決めだ。

 闇金、賭博、売春宿、殺し──この街での非合法なビジネスは、全てバイケンの息がかかっている。
 悪党のバイケン、それがこの男の通り名だ。口に咥えた葉巻が、グレーの煙をゆらゆらと立ち上らせる。

 バイケンは海賊ギルドの中堅幹部で醜い痘痕面をしていた。
 魔女のように伸びた鷲鼻は痘痕だらけで、右目には眼帯が巻かれている。
 おまけにせむしで、到底女受けするような色男とは呼べない。
 右目の眼帯はかつて一匹狼の海賊に奪われた。海賊の名はコブラ、宇宙最高の賞金首と呼ばれた男だ。

 もっとも、数年ほど前にぷつりと消息を絶ち、今ではもう死んでいるだろうというのが、もっぱらの噂だった。
 だが、バイケンはそんな噂話なぞ信じてはいなかった。

 そうだとも、奴はどこかで生きているはずだ。あいつはそんなヤワなタマじゃない。 
 奴は地獄の住民だ。悪魔を友にし、死神と連れ歩く、それがあの男だ。
 バイケンの胸裏にはいつまでもコブラとサイコガンのシルエットが付きまとっていた。

 ぼんやりとした薄明かり、外灯の回りでは、季節外れの蛾が飛び回っていた。
 今月に入ってから、ロド麻薬の仕入れ値があがるという。そんな話が近頃のバイケンを悩ませていた。

 ロド麻薬は金になる。買った奴はやがて廃人になる。売人は新しい客を捕まえて、ロド麻薬を売りつける。
 売った金はバイケンの懐へと転がり込む。仕入れ値があがれば、その分値段をつり上げなければならない。
 麻薬の売値をあげれば、客との揉め事が置きかねない。その事が今夜のバイケンを不機嫌にしているようだった。

185奴らに墓標はいらない。:2013/03/15(金) 04:39:30 ID:shK785nE0
 上がりをせしめて回っているうちに、バイケンは息のかかった売人のひとりを捕まえた。
 「ナット、最近売り上げが落ちてねえか」
 「バイケンさん、この頃、銀河パトロールの目がうるさくて、ロド麻薬が思うように売れないんでさァ」
 灰色のコンクリートでできた街路、壁に貼られた賞金首のポスター、
 方眉をつりあげ、バイケンが不機嫌そうに灰になりかけた葉巻を吐き捨てる。
 言い訳がましい売人にバイケンが一発、蹴りをくれてやる。それも睾丸のど真ん中にだ。
 
 ブーツの先が売人の股間をえぐった。
 身体をくの字に曲げ、呻くナット──バイケンが引き抜いた拳銃をナットの額に押し付けた。
 「ナット、お前が手下の売人どもから金をチョロまかしてんのは知ってんだ」

 恐怖のあまり、ナットの全身が硬く強張った。バイケンが三十八口径の銃口を額の皮にぐりぐりと押し付ける。
 ネズミをいたぶる猫のように、サディスティックにネチネチと。
 「か、勘弁してください、バイケンさん、出来心だったんです……」
 ナットは胸の辺りで両手を握り合わせ、バイケンに許しを求めた。それに対するバイケンの返答。

 「勘弁できねえな、ナット、俺はそこまで心の広い男じゃねえ」
 銃口が火を噴いた。銃弾がナットの額から後頭部へと突き抜ける。血と脳漿がザーメンのように派手に吹き飛んだ。

 髪の張り付いたピンク色の肉片が、壁に付着する。地面に散らばったナットの砕けた頭部を踏みつけ、バイケンはせせら笑った。
 「ひひひっ、俺の金をチョロまかそうなんざ、百年早えんだよ、なあ、ナット」

 「また派手にやったもんだな、バイケン」
 突然後ろから何者かに声をかけられ、バイケンは驚きながら振り返った。全く気配を感じなかった。それこそ微塵もだ。

186奴らに墓標はいらない。:2013/03/15(金) 04:40:09 ID:shK785nE0
 「そこにいるのは誰だッ」
 バイケンは叫んだ。振り向きざまに叫んだ。
 暗がりから、こちらを覗く一体の影法師──影法師がジッポーライターに火をつけた。

 ライターの炎で、葉巻の先を炙る男の素顔──バイケンは、映し出された男の顔に見覚えがなかった。
 男の髪は短めのブロンドヘアで鼻は丸っこい団子鼻だった。目は垂れ下がって、口元がしまりもなく、にやついている。

 愛嬌のある顔ではあるが、お世辞にもハンサムとはいえない。
 「おいおい、俺を覚えてないのか。冷たいなあ」

 男が親しい友人に話しかけるように、バイケンに向かって気さくに声をかける。

 記憶の糸を手繰り寄せてはみたが、やはり身に覚えはない。なるほど、銀河パトロールの犬ってとこか。
 恐らくは犯罪現場を押さえる為に、こちらをつけ回していたのだろう。それなら納得がいく。
 「兄ちゃん、人殺しを見られたとあっちゃ、生かしておけねえ。悪いがここで死んでもらうぜ」

 バイケンが引き金を引いた。路地裏に閃光が走った。
 闇夜を引き裂く銃声──死の間際、バイケンの瞳に黒光りする男の左腕が焼きついた。

 鈍色に輝いた紡錘形のフィルム──それはまるで死神の鎌を彷彿とさせた。
 「サ、サイコガン……」
 バイケンの瞳から命の灯火が、ふっと消えうせた。前のめりに崩れ落ちる。

 サイコガン──最後に遺したその言葉が、バイケンの墓碑銘となった。

187奴らに墓標はいらない。:2013/03/15(金) 04:41:30 ID:shK785nE0
 闇に沈んだ廃屋で、キリコは赤ん坊を優しく抱きしめた。夜風のせせらぎと静かな月の光。
 キリコ・キュービィー、それがこの男の名だ。キリコ──神の後継者と呼ばれ、神を殺し、そして神の赤ん坊を連れ去った男。

 その半生は神秘と伝説に彩られ、マーティアルですら恐れおののいた。

 カインは森にある一際大きな老いた杉の木に登り、二百メートル離れた廃屋の壊れた窓から、暗視スコープ越しにキリコの様子を覗った。
 異能生存体/不死身の男/触れ得ざる者──本当にそうなのか。元レッドショルダーだけあって、確かに腕は立ちそうだ。

 スコープドッグを扱わせれば、超一流の腕前を誇るのだろう。だが、今はどうだ。足手まといの赤子をつれ、武器は一丁の銃のみ。

 奴を消せば、名があがる。カインは愛用のライフルを手に取り、構えた。自作したステンレスの銃身が、カインの眼に頼もしく映る。
 スコープのピントをあわせ、汗で蒸れた掌で、グリップを握った。ストックに右頬を張り付かせる。ライフルの照準が、キリコの頭部に狙いを定めた。

 カインは胸の奥底で、小さなざわめきを感じた。ざわめきを振り払うように遊底をスライドさせ、チャンバーにライフル弾を送り込む。
 
 激しく胸を打つ心臓の鼓動、血管を駆け巡る血潮──ゆっくりと息を吐き、カインはライフルの引き金を絞った。
 反動──ライフルの床尾が、カインの肩に食い込んだ。やったかっ!?カインはスコープを通して、一筋の血が宙に舞うのを見た。

 廃屋の床に倒れるターゲット──呆気ないものだ。所詮は相手も生身の人間、伝説には尾ひれがつくものと相場は決まっている。
 カインが通信機のスイッチをいれた。

 『やったぞッ、キリコを仕留めたぞッッ!』
 応答はなかった。通信機のダイヤルを回し、カインがマイクに何度も呼びかけ続ける。だが、帰ってくるのは雑音だけだった。
 『おいっ、ボブっ』
 数秒後、森にバハウザーの銃声が木霊した。

188奴らに墓標はいらない。:2013/03/15(金) 04:42:56 ID:shK785nE0
 惑星アルディーンはザ・ゴザと並ぶ戦場の星だった。金に目が眩んだ命知らずの傭兵と、賞金首のお尋ね者が集う星、
 それがアルディーンだ。巨大なドームが割れ、次々と宇宙船が飛来していく。
 
 空中に掲げられた航路標識を小型の飛行艇が横切った。ここはアルディーンの首都だ。
 傭兵達が雑多で薄汚れたメインストリートを行きかう。

 通りの角に備え付けられたシャワールーム──曇りガラスから湯飛沫の音が聞こえた。
 熱い湯を浴び終え、キリコがシャワーのコックをひねって、湯を止める。
 タオルで身体を拭き、オレンジ色の耐圧服を着込むとキリコがシャワールームから出る。

 「ああ、さっぱりした。これで綺麗な姉ちゃんでもいればなあ」
 キリコと同時に隣のシャワールームから男が出てきた。肩から湯気を立ち上らせ、陽気に鼻歌をうたいながら、男が髪の毛を指でぬぐう。
 「よう、キリコ」

 男がキリコにウインクし、今から飲みに行かないかと誘った。キリコが無言で頷く。
 それじゃあ、いこうぜと男が葉巻を唇の端に咥え、ジッポーで火をつけた。男の陽気な振る舞いと出で立ちは、キリコに若い頃のバニラを思い起こさせた。
 ふたりが大通りへと出て、いきつけのバーへと向かう。

189奴らに墓標はいらない。:2013/03/15(金) 04:43:26 ID:shK785nE0
 激しいドラムとベースのリズム、耳を聾するエレキギターの咆哮。カウンターに並ぶスティールにふたりは腰を下ろした。
 コブラがバーテンにライトビールを二つ注文した。キリコはあまり酒が飲めない。ビールを嗜む程度だ。
 この前、コブラがバーボンを奢ってやったら、酒の度数にキリコは顔をしかめていた。

 薄暗い照明、天井からつり下がった裸電球は、絞首台にぶらさがった死刑囚のように音もなく揺れていた。
 ふたりが知り合ったのは、ほんの二週間前だった。

 ATの訓練場で、右も左もわからず困り果てていたコブラにスコープドッグの操縦を教えてやったのはキリコだ。

 眼を見張るばかりの吸収力だった。コブラは凄まじい集中力と適応力を見せ、一週間もしない内にATの完璧な操作技術を身につけた。
 最初は全くの素人だった。当たり前だ。コブラはこれまで、ATを見たこともなかったのだ。

 異能者──それがキリコの脳裏に浮かんだ言葉だった。
 「ここの酒場は華がないね」
 「それは言いっこなしですぜ、旦那」

 バーテンが運んできたビールグラスをコースターと一緒にふたりの前においた。
 「でもよ、色気ってもんがないぜ。男ばっかで、むさ苦しいったらないね。悪い事は言わない。可愛い子をウエイトレスに雇いな」
 バーテンに軽口を叩きながら、コブラがグラスのビールを半分ほど飲み干す。
 「ま、ビールの味は悪くないがね」

190奴らに墓標はいらない。:2013/03/15(金) 04:45:11 ID:shK785nE0
 「そういえば、おふたりさん、サラマンダーの噂はご存知ですか?」
 グラスを磨きながら、バーテンがふたりに尋ねた。
 「サラマンダー?なんだ、そりゃ?」
 コブラがバーテンに聞き返す。バーテンが声をひそめて喋りだした。キリコが静観したまま、バーテンの話に耳を傾ける。
 「たった一機で二十機のATを仕留めたっていう、化け物の話ですよ」
 「へえ、そいつはおっかねえな、くわばら、くわばら」
 
 「旦那、あっしの話を信じちゃいないでしょう。でも、こりゃ本当のことなんですよ。
 サラマンダーっていうのは赤いATに乗ってるから、そんな名前がつけられたそうなんですがね。金さえ貰えりゃ、どの陣営にもつくっていう流れ者でさ」
 「なるほどね。まあ、用心はするよ」
 コブラがグラスを傾けながら答えた。


 低い空、暗雲が重く圧し掛かってくる。森と森を隔てる川──黒い急流を二体のスコープドッグが泳ぐように突き進む。
 水深に足を取られないように注意しながら、岩床の裂け目に流れ込む、強く引っ張るような川の力をふたりの男は感じていた。

 川岸にたどり着き、泥濘を踏みつけながら、キリコは辺りに敵兵が潜んでいないか警戒した。
 地面から突き出た岩場の影、生い茂った茂みの中、苔むした倒木にカモフラージュし、敵はどこからでも飛び出してくる。
 何の前触れもなく、飛び出してくる。何気なく落ちている枝、松の木から伸びた葉、何気げない自然物でさえ、敵は利用する。

 葉のこすれる音、踏みつけた枝の折れる音、これらの鳴らす音が敵にこちらの存在を告げるのだ。
 ──おい、キリコ、そっちはどうだ?
 コックピット内の通信機からコブラの肉声が飛び出す。
 ──問題ない。
 ──OK、こっちもだ。

191奴らに墓標はいらない。:2013/03/15(金) 04:46:44 ID:shK785nE0
 
 互いに背を張り付かせ、死角を補いながら、ふたりはすすむ。目的の場所へと。
 山の冷たい風が、木々の間を通り抜けた。ふたりが深い谷底へと降りていく。
 急な勾配な岩肌を駆けおりると、だだっ広い平地に出た。

 断崖に囲まれた谷間には、障害物や隠れられるような場所はなく、ふたりは敵に会うこともなく目的地へとたどり着いた。
 ──おい、キリコ、なんだか妙な胸騒ぎがしやがるぜ。敵さんは一体全体、どこにいるってんだ。

 コブラは拍子抜けするほど無用心な敵を逆に気味悪がっていた。それはキリコも同感だった。
 ──もしかしたら、罠かもしれない。
 ──俺もそう思うね。それじゃあ、こっちから燻りだしてやるとするか。

 パネルを眺めていたコブラが、おもむろにヘビィマシンガンを乱射する。弾丸を浴びせられた岩壁が砕け、地面が抉られる。
 渓谷に大きく響き渡る銃声、硝煙の匂いが一陣の風に吹き抜けた。
 ──へへ、どうやらおいでなすったぜ。

 地面が盛り上がり、土にまみれた四機のツヴァークがその姿を現した。ローラーダッシュの鋭い回転音。
 轟音をあげ、岩棚から飛び降りた六機のスタンディングトータスが、ふたりの目前へと迫る。
 敵は十機、こちらは二機だ。
 ──面白くなってきやがった。

 ふたりが左右に旋回しながら、敵の銃弾を回避する。キリコの撃った数発の弾が敵の装甲を貫いた。
 ポリマーリンゲル液に引火し、一機のツヴァークが回りの仲間を巻き込んで爆破した。

 鼓膜を震わせる爆音、吹き上がる紅蓮の炎、機体の破片が岩肌に突き刺さる。ゴーグル越しにキリコは敵を見据えた。

 アルディーン──そこはもっとも地獄に近い惑星だ。コブラが、断崖から突き出た岩に向かってアサルトライフルを発砲する。
 まるでビリヤードのように跳びはねる弾丸が、二機のスタンディングトータスのタレットスコープにヒットした。
 スタンディングトータスのコックピット内で、血が派手にぶちまけられた。

192奴らに墓標はいらない。:2013/03/15(金) 04:55:57 ID:shK785nE0


 ──これで敵さんは半分に減ったな。おまけに相手は及び腰だぜ。
 敵が怯んだ隙をつき、キリコとコブラが示し合わせたように同時に動く。

 右腰に装着したミサイルランチャーをキリコが立て続けに発射し、二機を吹き飛ばすと、ターンピックを地面に打ち込み、反動を利用する。
 キリコへと追いすがるように接近するツヴァーク──顔面にアームパンチを浴びせた。

 バウンドするツヴァーク。焦げるようなモーター音──後方へと吹き飛び、ツヴァークは炎に飲み込まれた。
 ──おい、キリコ、ありゃなんだ?
 
 キリコが谷を見上げた。崖からこちらを見下ろす深紅の機体。突然、深紅の機体がこちらに攻撃をしかけてきた。
 唸りあげるロケット砲が断崖に炸裂した。瀑布の如く降り注ぐ岩盤が、残った敵の機体をスクラップにする。
 深紅の機体がキリコとコブラに向き合い、再びロケット弾を撃った。

 発射された小型ミサイルが、キリコの乗ったスコープドッグ目掛けて襲い掛かる。
 コブラがコックピットの蓋をはねあげた──ミサイルが空中で花火のように爆発した。

 キリコは見た。コブラの左腕を。そこに腕はなく、肘から先にあったものは銃だった。
 キリコは動揺した。それは深紅の機体も同じだった。身を翻し、深紅の機体がふたりの前から姿を消す。
 「なるほど。奴がサラマンダーか」

 コブラが葉巻を咥えた。
 「コブラ、引き返すぞ」
 銃撃戦を聞きつけた敵の傭兵がこちらに群がってくるのがわかった。あいよと返事をし、コブラがコックピットの蓋をしめる。
 それからふたりは森の奥へと戻っていった。そのふたりの後姿を見送ると、深紅の機体もまた姿を消した。
 岩の裂け目から消えた三機の様子をスコープ越しに探っていた男──流竜馬が呟く。
 「この星にはおもしれえ連中がいるようだな」

193奴らに墓標はいらない。:2013/03/15(金) 04:57:54 ID:shK785nE0
第一話終了

194追い出された名無しさん:2013/03/15(金) 22:49:39 ID:poXppeK20
なんちゅうクロスwww
今後の期待大

195追い出された名無しさん:2013/03/16(土) 02:20:42 ID:wEO5ghAQ0
GJ
忍法帖関係か規制で本スレに投稿できないのかな?

196奴らに墓標はいらない。:2013/03/16(土) 17:49:50 ID:shK785nE0
本スレに投稿すると規制中って出るんだよね。

197追い出された名無しさん:2013/03/16(土) 19:44:33 ID:wEO5ghAQ0
代理に本スレへの投下必要ある?

198奴らに墓標はいらない。:2013/03/17(日) 03:25:00 ID:shK785nE0
出来れば本スレへの投下代行してもらえると嬉しいよ。

199奴らに墓標はいらない。:2013/03/17(日) 03:28:52 ID:shK785nE0
あとこのクロスSSは某所で投下したのを書き直しながらする予定だよ。

200奴らに墓標はいらない。:2013/03/17(日) 03:33:56 ID:shK785nE0
ミッター橋が強い突風にあおられて、グラグラと揺れるように傾いだ。キリコが橋の中央までいくと、橋下を見おろす。
 打ち寄せる汚水の波が、コンクリートの壁を引っかいている。
 排水溝が垂れ流す廃棄物──ヘドロの川から昇る異臭がキリコの鼻腔を撫でた。

 コブラの左腕は義手だった。義手の中に仕込まれていたのは銃だ。

 帰還した後のキリコは、コブラの左腕については何も尋ねなかった。元来が口数の少ない男だ。
 尋ねる必要などなかったし、誰しも他人に聞かれたくない事情がある。それはキリコ自身が良く知っていた。
 
 血に染まった戦場を生き抜いてきた男達だ。何も語らずとも察する事ができる。
 バイマン──レッドショルダー部隊に所属していたキリコの戦友のひとり。

 バイマンもまた、戦場で右手を失った男だった。
 伊達男の右手にはまった銀色の精巧な義手の輝きを、キリコは今でも覚えている。

 キリコは嗅いだ。コブラの身体に染み付いた硝煙と血の臭気を。
 キリコは見た。死の陰りを纏わせたコブラの後姿を。 
 キリコは感じた。コブラもまた、己と同様に戦いの中でしか生きられぬ男であるという事を。

 ふたりは性格は違えど、似た者同士だった。まるで兄弟のように。

 通行人が投げ捨てたタバコの吸殻が、真っ黒く染まった河面に吸い込まれていった。
 星一つ見えない夜空、排気ガスの黒い人口雲、タール舗装の道路を横切り、キリコは近くにある食堂に入った。

 キリコはウエイターにブラックコーヒーを注文した。ニコチンの匂いが滲む食堂で、キリコは運ばれてきたコーヒーを飲んだ。
 ここは血と暴力が渦巻く戦場の星アルディーン──キリコが飲むアルディーンのコーヒーは苦い。

201奴らに墓標はいらない。:2013/03/17(日) 03:37:43 ID:shK785nE0



 食堂を出てから月のない殺風景な夜空を眺めるキリコ。いつもの酒場へと歩を進める。
 コブラとキリコが良く集う、その酒場の名前は「ハッシュ・ハッシュ・ハッシュ(マリファナだらけ)」といった。
 何故、そんな名前なのかは誰にもわからない。バーテンですら知らなかった、
 
 酒場に陽気なサックスが響いた。赤々と燃えた葉巻の煙を吐き出し、コブラが空になったグラスをコースターに置く。
 溶けかかった氷がグラスにぶつかり、カランと音を鳴らした。
 「お次は何を飲みますか、旦那」

 灰皿に葉巻の灰を落とし、それじゃあ、タルカロスをくれとコブラがバーテンに告げた。
 「なんですか、そりゃ?」
 バーテンが聞き返す。コブラがやれやれといわんばかりに軽く首を振った。

 「いいんだ。忘れてくれ。んん、そうだな、じゃあ、ウイスキーのミルク割りをくれ。ミルクを抜いてな」
 仰せのままにと、バーテンがグラスに琥珀色の液体を注ぎ足す。
  
 バーのボックス席は傭兵達が陣取り、ポーカーに興じながらギャンブルの勝敗に一喜一憂していた。
 「ひひ、そういや、聞きましたよ、旦那」
 バーのボトル棚に並んだ酒を入れ替えながら、バーテンが愉快そうに笑い声をあげた。

 「何のことだ?」
 「またまた、とぼけちゃって。ちゃんとこっちの耳にゃ、届いてるんですからね。
 なんでもたったふたりで、敵さんのATを十数機も吹っ飛ばしてきたそうじゃないですか。
 まあ、旦那方が凄腕のボトムズ乗りだってのは、薄々気づいちゃいましたがね」

 「なんだ、その事か。ありゃ、敵の傭兵達が勝手に自滅したんだよ。
 奴さん達は、どうやらATライフルの扱い方がわからなかったようでな。何度もトリガーを引いたんだが、弾がでなかったんだ。
 それであいつら、何で弾がでないのか不思議がって銃口を覗いたのさ。
 その時、たまたまライフルが火を吹いてな。それで奴さんたちの頭が、半分ほど無くなっちまったってわけだ」

 「そりゃまた、随分と間抜けな傭兵もいたもんだ」
 「全くだ」
 バーテンがグラスを拭き、コブラがグラスを掲げ、ふたりはさもおかしそうに笑いあった。

202奴らに墓標はいらない。:2013/03/17(日) 04:00:48 ID:shK785nE0


 ふたりが与太話を飛ばしていると、バーのドアが勢い良く開いた。扉の向こうから現れたシルエット。
 擦り切れた赤い布地を首に巻いた機甲猟兵じみた無骨な印象を受ける大男だ。
 その男がコブラとキリコの座るカウンターの隣に腰を下ろし、バーテンにバーボンのボトルを持ってくるように告げる。

 流竜馬──それがこの男の正体だ。コブラは何となくきな臭い匂いを感じていた。
 キリコも同様だったが、口に出さなかった。
 「隣いいか?」
 ふたりにたずねる竜馬。

 「ああ、かまわんよ。このカウンター席は自由席だからな」
 おどけた口調で竜馬に返すコブラ、相変わらずキリコは何も語らず。
 「しかし、珍しい光景だな。宇宙最高の賞金首と銀河随一のボトムズ乗りが肩を並べてやがる。
 そっちがキリコ、そしてあんたがコブラだ」
 ふたりを指さしながら喋る竜馬。

 「どうやらあんたは俺達のスリーサイズまで知ってるようだが、生憎と俺達はあんたの事を知らない。
 なんだ、賞金稼ぎか、それとも俺達の首を取って名を上げたいって手合いか?」
 「物騒なもんはしまってもらえるか、生憎と俺は賞金稼ぎじゃないんでな。あんたらの首に興味はない」
 「は、どうだか」
 右手にウイスキーグラス、左手にマグナムを握ったコブラが竜馬の両眼を覗き込む。

203奴らに墓標はいらない。:2013/03/17(日) 04:10:32 ID:shK785nE0


 「実は面白い話があるんだが、興味はないか?」
 マグナムを弄びながら尋ねるコブラ。
 「面白い話だって?」 
 「ああ、ある輸送車を襲おうって計画なんだが、ひとりじゃ難しくてな」
 「その輸送車には現金か何かが詰まってるのか?」
 コブラが新しい葉巻を口に咥えた。ジッポーライターで火をつける。
 「ああ、勿論だとも」
 まとわりついてくる甘ったるい葉巻の煙を嗅ぎながら、竜馬は答えた。

 ストリートに立ち並んだ露店の行商人達が大声を上げ、客を呼び止める。

 行商人のひとりが、背中にイボを乗せた大きな牛蛙の足を引っつかみ、純粋な蛋白源はいらねえかっ、と威勢良く声を張り上げた。
 酒と女に浮かれ騒いだ傭兵達が行商人を冷やかす。ドラッグのキレたヤク中がショットガンをぶっ放す。
   毒々しくも色艶やかなネオン──その下を通る路上の人込みは絶える事を知らなかった。

 安物の香水/濃い化粧/泣き黒子/路地の一角に集う娼婦達。
 通行人に小銭をせびる老婆、路地裏にあるポリバケツの生ゴミを漁るホームレスと孤児。
 血と硝煙に包まれた惑星アルディーンにいま、三人の男達が交差する。

204奴らに墓標はいらない。:2013/03/17(日) 04:21:57 ID:shK785nE0



 アルディーンの首都──クルンテープ──意味は神の都だ。
 神の都──なんとも皮肉の利いた名前だ。ここでは誰もが死の恐怖に晒されている。
 男も女も老人も幼子も人はいつか死ぬ。問題なのは、その死に方だ。

 愛する者に見取られて死ぬか、それとも戦場の炎に巻かれて死ぬか。
 クルンテープではまともに死ねる者は少ない。それでもここの住民達は銃を手に取り、ATに乗り込んでは戦い続ける。
 
 酒場から西へ十二ブロック離れた地域を三人は歩いていた。アルディーンはどこもかしこも物騒だ。
 頭のイカレたならず者が、突発的に通行人を銃で撃つ。
 ホルスターに手をかけ、暗がりからこちらの様子を覗っているチンピラ──コブラがウインクを投げた。

 コブラに毒気を抜かれたチンピラが、暗がりへスゴスゴと退散する。
 
 どこの路上にも家を焼け出され、親を失ったストリートチルドレン達がいる。
 配線に止まるカラスのように、横に並んで物欲しそうにこちらを見ている。

 コブラがポケットを探り、小銭を掴むとストリートチルドレン達に向かって放り投げた。
 ばらまかれたギルダン硬貨に孤児達がわっと群がる。
 「さっきも話したように、狙うのはバトリング、それも闇バトルで集まった金だ」
 竜馬がストリートチルドレン達を尻目に話を続ける。

 「最初にその闇バトルに参加して、内部の様子を探り、客の金が集まってきたところを襲撃するんだろ」
 「ああ、そうだ」
 「キリコ、お前はどうだ?」
 「金に興味はない」
 無表情なままでふたりに答えるキリコ。
 「だそうだ」
 小さく頭を振り、両手で後頭部を揉むコブラ。口元に張り付かせた笑みを崩さぬ竜馬。

205奴らに墓標はいらない。:2013/03/17(日) 04:27:13 ID:shK785nE0


 「最初にその闇バトルに参加して、内部の様子を探り、客の金が集まってきたところを襲撃するんだろ」
 「ああ、そうだ」
 「キリコ、お前はどうだ?」
 「金に興味はない」
 無表情なままでふたりに答えるキリコ。
 「だそうだ」
 小さく頭を振り、両手で後頭部を揉むコブラ。口元に張り付かせた笑みを崩さぬ竜馬。


 隣では、錆びた給水塔からこぼれた水を野良犬がぴちゃぴちゃと舐めている。
 「コブラ、あんたはどうなんだ?輸送車に興味はないか?」
 「そりゃあ、無いといえば嘘になるがね」
 「なら、俺とあんたで計画を進めよう。キリコ、もし興味がわいてきたらいってくれ」
 それから三人は一旦、その場を離れた。

 特大スクリーンの向こう側では、顔面にアームパンチを叩き込まれたスタンディングトータスが、派手に転倒した。

 変形したコックピットのハッチから、夥しい血が溢れ出す。スタンディングトータスに乗っていた奴は間違いなく即死だろう。

 「くそっ、くそっ、くそったれっ、これで有り金全部スっちまったっ」
 汗ばむ掌のチケットを握り潰し、冴えない顔色をした中年の男が悔しそうに地団太を踏む。

 僅かに残っていた気力も萎えていった。乾いた唇から青い吐息を吐き、男が力なく肩を落とす。
 「おい、おい、どうしたんだい、とっつぁんよ。辛気くせえ顔してよ」
 
 後ろから声をかけられ、ムッと不貞腐れた顔を浮かべ、男が振り返る。
 「どうしたもこうしたもあるかッ。大穴狙いで新米のボトムズ乗りに金を賭けたらよ、たったの一分で全財産が水の泡さっ」
 葉巻をくゆらせ、コブラが肩をすくませて答えた。
 「そいつはご愁傷様だな、まあ、元気出せよ。その内良い事もあるさ」

 「そうだといいんだがな」
 「なんなら、とっつぁんよ。次の勝負は俺に賭けてみな。たっぷりと儲けさせてやるぜ」
 中年男が胡散臭げにコブラをじろじろと眺めた。

 「お前さんがだって?」
 「ああ、そうさ」
 男がコブラの身体つきに気付く。

206奴らに墓標はいらない。:2013/03/17(日) 04:33:47 ID:shK785nE0


 なるほど、肩幅は広く、がっしりとした筋肉に覆われた身体は素人から見ても鍛え抜かれているのがわかる。
 厳しい戦場を渡り歩く歴戦のワイルドギース──大方そんな所だろうと中年男が検討をつけた。

 「いいだろう。お前さんの言葉を信じよう。次の試合はお前さんに賭けるとするよ。だがな、ここで一つ問題があるんだ」

 中年男が声を潜めて、コブラの耳元に呟く。
 「問題だって、何の問題だ?」
 「オアシの問題さ。なんせ有り金全部突っ込んだせいで、一ギルダンも持ち合わせがないんだ。
 これじゃあ、賭けたくったって賭けられねえ」

 中年男の話に耳を傾けていたコブラが、なるほどねと、カールされた金髪をぽりぽり掻いた。

 「いいだろう。俺がとっつぁんに少しばかり貸してやろう」
 コブラの申し出に中年男がいやらしく、相好を崩す。
 「へへ、すまねえな」  
 「何、困った時はお互い様さ」
 ギルダン金貨を中年親父に何枚か手渡すと、コブラは控え室へと消えた。
 そうだ。コブラはバトリングの輸送車襲撃計画に乗った。退屈しのぎになると思ったからだ。
 控え室の呼び出しボタンを押し、コブラは整備士に向かってスコープドッグを用意してくれと頼んだ。

207奴らに墓標はいらない。:2013/03/17(日) 04:36:55 ID:shK785nE0
二話終了

208奴らに墓標はいらない。:2013/03/17(日) 05:10:09 ID:shK785nE0

一話予告

ワイズマンの手を逃れたキリコと神の子を待っていたのはまた、地獄だった。
血と硝煙が渦巻く欲望と暴力の惑星アルディーン。
悪徳と野心、退廃と混沌とをコンクリートミキサーにかけてぶちまけたここは、戦場の星。
次回もまた地獄に付き合ってもらおう。

209奴らに墓標はいらない。:2013/03/17(日) 05:13:43 ID:shK785nE0
二話予告

食う者と食われる者、そのおこぼれを狙う者。牙を持たぬ者は生きて行かれぬ地獄の街。
あらゆる悪徳が武装する、ここは神の都。ここは百年戦争が産み落とした傭兵どもの血塗られた惑星。
奴らの体に染みついた硝煙の臭いに引かれて危険な奴らが集まってくる。
竜馬が飲む、アルディーンのバーボンは苦い。

210奴らに墓標はいらない。:2013/03/17(日) 05:15:19 ID:shK785nE0

三話予告

かつて、あの重々しき歌に送られた戦士達。故国を守る誇りを、厚い装甲に包んだアーマード・トルーパーの、ここは、墓場。
無数のカリギュラ達のギラつく欲望にさらされてコロッセオに引き出されるアルディーンの剣闘士。
魂無きボトムズ達が、ただ己の生存を賭けて激突する。
回るターレットから、コブラに熱い視線が突き刺さる。

211追い出された名無しさん:2013/04/05(金) 12:14:38 ID:R5NOdJNA0
それにしても本スレに書き込めないな
神の軍団の仕業かってくらい規制が多い

212力への意思:2013/05/26(日) 22:58:55 ID:Is/rVKB20
「ちっ、こいつら物体を通り抜けられるのか!」
「あ、あああーーーーー!!」
A.M.W.Sのパイロットが悲鳴をあげた。別の幽霊に捕まり、頭を持ち上げられている。
「離せ!」
弁慶がネオゲッター3でその腕を叩き折ろうとするが、金属の拳は幽霊の体を通り抜けてしまった。
そして捕まったパイロットは、接触している頭部から次第に白くなっていき、最後に足まで白くなると、その場で砕け散った。床には白い灰の様なものが降り積もる。
「灰……!?」
「いや、塩だ。気をつけろ! こいつに捕まると塩にされるぞ!」
「塩だと!? 蒔かれる側のくせしやがって!」
竜馬は、ガトリングガンを幽霊向ける。無駄弾だけが排出されていくが、銃口を向けられた一瞬だけ、幽霊が怯む。
幽霊は壊れたA.M.W.Sに近づくと、ふいとその金属に潜り込む。さっきまでそこにあったA.M.W.Sが鎧の様に幽霊に貼りつく。
「…………この幽霊野郎! インベーダー見てぇなことしやがって!!」
A.M.W.Sの部分は半透明になっておらず、竜馬は金属が粉微塵になるまで弾を撃ち続けた。
ずるり、と天井をすりぬけ、幽霊が落ちてくる。落下先で倒れていたパイロットが踏み潰され、塩になった。幽霊はそのままネオゲッター達に手を伸ばしていく。

  バゴォッ!!

壁に大穴が開いた。A.M.W.S作成の大手、ハイアズム重工業の部屋からだった。
血糊や塩のついたA.M.W.Sを着こんだ幽霊が、装備されたガトリングガンやミサイルランチャーをネオゲッターに向ける。
「ゲッタートルネード!!」
ネオゲッター3の頭部周囲のファンから発生した竜巻が、吐きだされた弾を巻き込み、幽霊共々爆発させる。破れた鉄の扉が更に捲れあがり、壊れた研究室を露呈させる。
「やったか!?」

213力への意思:2013/05/26(日) 23:00:24 ID:Is/rVKB20
だがやはり壊れたのはA.M.W.Sの部分だけで、幽霊たちは平然とネオゲッター達に近づいてくる。
ネオゲッター1の両手にプラズマエネルギーが発生した。
「竜馬!?」
「外に出るぞ! こんな狭い場所で戦えるか!」
「しかし……」
「こいつらは中心の第三区画にまで入りこんでるんだ。ブリッジは塩だらけだろうよ」
隼人が代わりに言い放った。実際、飛び交う通信は、回線が込み過ぎていてまったく通信の役目を果たさず、辛うじて拾えた一言二言は悲鳴のみというありさまだ。ヴォークリンデのみならず、随伴する艦も同様なのは間違いない。
反対側の通路からも幽霊が集団で出てきた。銃口も見えないのに無差別に気化弾頭を撃ってくる。
「プラズマサンダアァァァーーーー!!」
フルパワーで放ったプラズマサンダーは、幽霊共々ヴォークリンデの数百メートルある艦体を貫いた。真空中に、空気と機体が吸い出される。
宇宙空間に放り出された瞬間から映し出された映像には、幽霊の艦体が見えた。面を覆うその数は膨大で、視界を埋め尽くすというに十分に値する。
幽霊巨大な深海魚のような外見から、次々とミサイルのような何かと、小型のロボットサイズの幽霊を吐きだしている。
「結構な数が来てるじゃねぇか」
周囲に漂う戦艦やA.M.W.Sの残骸を見ながら、竜馬は再度プラズマサンダーの発射態勢に入った。
「竜馬、避けろ!」
物理攻撃を受け付けない幽霊相手に分が悪いネオゲッター2は避けるしかない。細かに動きながら、発射前の無防備になる一瞬、ネオゲッター1に幽霊が群がってきているを見た。トルネードを発生させているネオゲッター3には取りつきにくい様で近づいていかない。
幽霊の一匹がネオゲッター1の頭部にくっついた。そのまま装甲を無視して竜馬に向かって手を伸ばす。
「くそっ!」
竜馬は咄嗟に機体を振って振り落とそうとしたが、鉤爪の様なものでしっかりくっついており、容易には剥がれおちない。ヘルメットを通り抜け、爪が竜馬の頬に当たる。
顔を掴まれた、その感触は確かにあった。

214力への意思:2013/05/26(日) 23:02:49 ID:Is/rVKB20
「だったらそこからぶっ殺すまでだ!!」
咄嗟に操縦桿から手を話、幽霊の腕を逆に取ろうとする。掴まれた頬と、掴んだ指先から、一気に全身に緑色の線が走った。
「うおおおおおおおおお!!!!」
群がる幽霊がゲッター線に触れ、風化していく。10体近くの幽霊が消し飛んだところで、ゲッター線は消えた。
「竜馬!?」
「無事か!?」
隼人と弁慶が慌てて機体を近づける。ネオゲッター1の中で、竜馬は貧血でも起こしたかのように、ぐったりとシートに凭れて荒い息を吐いていた。
「大丈夫だ……あいつら、ゲッター線ならぶっ飛ばせる…………!」
「取りに行くのがちと面倒だがな!」
遠巻きに見ていた幽霊達が、一斉に更に群がり始めた。能動的に動いているのが、もはや自分達だけらしい。
「ゲッタートルネード!」
ネオゲッター3が回転をしながらエネルギーの竜巻を起こし、幽霊を追い払う。
「どうする……? 何か手はないか……?」
隼人は周囲に目を配った。沈黙した戦艦のエンジンでも爆発させればロジカルドライブが暴走して、幽霊達をどこかの位相に吹っ飛ばせるが、こちらも見ず知らずの辺境に飛ばされる可能性もある。その時は避難信号で拾ってもらえばいい。
「やるか……!」
プラズマソードをドリルアームに変形させると、まだエンジンが無傷の艦に向かって飛んだ。
刹那。
爆光が迸った。衝撃波も何も伴わない、青白い光が数百天文単位に波紋を広げる。
光に触れた幽霊が、次々と実体化していく。
「なんだこの光は!?」
「実体化……発生先は!?」
「んなのどうでもいい」
ネオゲッター1は手近な幽霊を鷲掴んだ。
「こいつらをぶっ殺せるようになったんだからな!!」
そのままぐしゃりと握りつぶすと、ショルダーミサイルを視界360度全方位に向けて放った。
「ドリルアーム!!」
隼人もネオゲッター2の両手のドリルで、幽霊の只中に突っ込んでいく。一番近くの戦艦クラスの大きさのものに突入すると、そのまま反対まで通過した。
ネオゲッター3は背中からプラズマブレイクを撃ちだし、次々と幽霊を撃破していく。
「いくら実体ができたからといって、これじゃキリがないぞ!」
「戦艦クラスだけでもまだ20近くある! 先にそっちを……」
「あれだっ!!」
突然竜馬が叫んだ。そのままネオゲッター1を反転させ、ブリッジもエンジンも破壊されたヴォークリンデに向かって行く。
壊れたヴォークリンデの一角から、幽霊にまとわりつかれた巨大な一枚の板がせり上がってきた。それはヴォークリンデの真上に制止している戦艦クラスのクジラのような幽霊に格納されようとしている。
「隼人!」
「任せろ!!」
隼人はネオゲッター2をフルスロットルにして、その物体に高速接近する。防ぎにかかる幽霊はそのままドリルで貫き、攻撃してくる他の幽霊はネオゲッター1とネオゲッター3が撃ち落とす。
だが最後の肉の壁に手間取っている隙に、幽霊達の周囲を丸く削り取るかのように空間が開いた。
「ゲートジャンプする気だ! 間に合わせろ! 隼人!!」
「うおおおおおおお!!!!」
更に加速し、幽霊の壁を貫き終わった瞬間、板を収納した巨大幽霊が消えた。
「ちっ、間に合わなかったか……」

215力への意思:2013/05/26(日) 23:04:41 ID:Is/rVKB20
以上です。

216力への意思2話-11:2013/06/16(日) 22:52:42 ID:Is/rVKB20
(いきなり話かけるんじゃねえよ!!)
(お前にしか話しかけられないからいいだろうが。
それより、今の感覚わかったか?)

自分とまったく同じ声――流竜馬の声――が、竜馬の頭の中に響く。

(今の、音か? 何か落ちたんじゃ……)
(違う。あの部屋の物が物理的に落ちたんじゃない。何処かで何かが傾いたんだ。まあ、まだ俺もそれが何か分かる程進化してないがな。
そっちにいる間は、俺の感覚とリンクさせておくから、ちゃんと調べてこいよ。例のモンは、多分この音と関わってる気がする)
(勝手にそんなもん取りつけるんじゃねーよ!)

文句を言っても返事も返ってこない。竜馬は舌打ちすると、談話スペースに戻った。

「それで、第二ミルチアだがな」

隼人は特にそれに頓着することもなく話の続きに入る。

「U.M.N管理局の中央センターがある。隠ぺい資料なんかも含めて、そこを調査するのが一番だろう」
「なるほどな。
しっかし何時までスパイごっこをするんだ? 俺にゃ性に合わねえよ」

弁慶の言葉に俺もだと言いたいが、竜馬は黙ってコーヒーを飲んだ。性に合わないスパイごっこをさせている本人も、全くそういうのに向いていないのがわかっているからだ。

「そこまでの潜入は別に俺達でなくてもいいだろう。ハイパースペースを抜けたら、艦に連絡を入れて別部隊を……」

突然、艦内に緊急帯の通信が入った。艦内通信用のモニターが勝手に開く。三十代ぐらいの、金髪をオールバックにした男性の顔が映った。

『前方を航行中の民間船へ。
ハイパースペース内で戦闘が発生している。貴船の安全の為、速やかにゲートアウトする事を勧める』

同じ通信を強制的に聞かされているマシューズ達は血相を変えた。

『お、おいちょっと待て!
ハイパースペース内で戦闘だぁ? どこのバカだ、おまえら!!』
「へっ、どうやら面白いことになってるじゃねえか」

竜馬達は凶悪な笑顔を浮かべると、ブリッジに通信を繋げる。

217力への意思2話-12:2013/06/16(日) 22:54:08 ID:Is/rVKB20
「おい、戦闘ってのはどの規模だ?」
『よしてくれ! 厄介事はあのロボねーちゃんだけで十分だ!』
「だから追っ払ってやるってんだよ! カーゴベイ開けろ!」
『バカ言うんじゃねえよ! A.M.W.Sで出る気か!?』
『小型艇を数十機の戦闘機が追ってる。救難信号が小型艇から発せられているんだ』

ケイオスはブリッジのカメラ映像を竜馬達の方に回した。
丸っこい形の小型艇の後ろを、可変構造の戦闘機が追いながら、射撃を繰り返している。小型艇のパイロットの腕が良いのか、今のところ被弾はない。

『何処の所属だ、こいつら!? 
ヴェクターのねーちゃんは知ってるか!?』
『うちの製品じゃないと思いますけど……』

シオンがのんびり返事をしている間に、小型艇はエルザの側面を回って前方に出た。戦闘機がそれを追う。

『まずい! 射線軸に載ってる!』
『何だと!?  かわせ!! 境界面に触れたら御陀仏だ!!』
「今すぐカーゴベイ開けろ!」

竜馬は怒鳴って艦内通信を切ると、隼人と武蔵と共にエレベーターに駆け込む。
第六層のカーゴベイに着くと、ネオゲッターに飛び乗った。同時に被弾したのか、船体が揺れる。

『やりやがったな、このトーヘンボク!!』
「だから言ったろうが!」
『わーったよ! 
ケイオス!』
『了解』

目の前の壁が開く。三機のネオゲッターがワームホールの内側のハイパースペースに飛び出した。

「ゲッタートルネード!」
ネオゲッター3はエルザの上部に着くと、すぐに後方から追い上げてくる戦闘機めがけてトルネードを発生させた。よじれたビームがエルザを掠め境界面に吸収される。

「プラズマソード!」
高速で飛んだネオゲッター2は、後方からのビームの嵐を避けながら前方を行く戦闘機に追いつくと、次々とそれらを斬っていた。

『ちょっ……A.M.W.Sで戦闘機以上の機動とかありえないですよーーーっ!?』

アレンとハマーがブリッジでそのスピードに目を剥いた。

「チェーンナックルゥーーー!!」

ネオゲッター1は近くに来た戦闘機を蹴飛ばして弾くと、チェーンナックルで自分と同サイズの戦闘機を鷲掴みにすると、そのまま振り回して付近の戦闘機と一緒に境界面に叩きつけた。圧縮された時間と空間の狭間に飲み込まれ、たちまち分解されていく。
戦闘機群を全滅させたところで、更にまた別の戦闘機群が出てきた。

「新手か! しつこい野郎どもだ!」

しかも先程のものよりも機動が早い。

『巡航速度を維持し、降伏しろ。しからざれば攻撃する。
繰り返す。巡航速度を維持し、降伏しろ。しからざれば攻撃する。こちらの指示を遵守すれば、危害は加えないことを確約する』

合成された音声に、及び腰だったマシューズの表情が引き締まる。

『自律戦闘端末<オーテック>か。くだらねぇ。
見え見えなんだよ! 死人に口無しってな!
トニー! ジェネレータ出力最大! 船でヤツを吹っ飛ばせ!!』
『おっしゃぁ!
お客さん達、しっかりつかまってろよ!!』
『わあ、何するっすかーーーっ!』

ハマーはトニーが操縦桿を引っ張った瞬間に嫌な予感がした。
エルザの船体が船尾側に傾いた。境界面に接触した装甲から炎が噴き上がり、エルザ後方の空間を埋め尽くす。

「ハイパースペースでウェーブライドかよ! イカレてやがる」

竜馬は犬歯を剥きだして笑うと、隼人のいる方に目を向けた。辛うじて炎の飛沫を免れた戦闘機が、ビームを放ちながら小型艇とネオゲッター2に向かっている。
一条のビームが小型艇に当たった。

「ドリルアーム!」

ネオゲッター2は両手をドリルに変形させると、ほぼ平行に突っ込んでくるオーテックを同時に貫いた。

「おっと!」

そして境界面に接しそうな小型艇を抱え上げる。1秒にも満たない早技だった。

218力への意思2話:2013/06/16(日) 22:54:43 ID:Is/rVKB20
以上です

219追い出された名無しさん:2013/08/10(土) 17:26:31 ID:3BNZIxfw0
つながらないな
盆前だしな
例のたかしげゲッターに辛口コメントがあってワロウタ

220追い出された名無しさん:2013/08/10(土) 19:27:01 ID:.vhqGgJw0
僕は一巻買ってないけど読みました(半ギレ)
それにしても規制半端なさすぎワロエナイ、たすけて汚穢衆!!

221追い出された名無しさん:2013/08/10(土) 22:45:41 ID:3BNZIxfw0
電子書籍版いつの間にかなくなったしな

222追い出された名無しさん:2013/08/12(月) 00:38:52 ID:inkvUpdE0
SS書こうと思っても他のことに気を取られてしまう…………
畜生…………

223力への意思5話-9:2013/08/15(木) 16:07:25 ID:Is/rVKB20
次に来たのは、何処かの森の中にある教会の前だった。
モモがその場に泣き崩れる。
「う……う、うう……。
パパ……初めて、会えたのにっ……!」
「モモ……」

Jr.がモモの方に手を置く。

「思い出して泣くのもいいが、今はやめておけ。この世界は起きた時間軸を再現しているだけに過ぎん」

隼人はそういうと、さっさと教会に向かって歩き出す。慰めの言葉はジギーとJr.が勝手にかけてくれるだろう。
教会の入り口で、走ってきたらしいシオンとアレンに出くわした。

「シオンか?」
「リョウマさん。あっちにはJr.君達も……。
あなたたち、どうやってここに?」
「わかんね、シオンがダイブした途端、視界がぼやけて……気付いたらここに来ていた。
その後、いろんなもの見せられて……」

Jr.が苦い顔で返事をする。

「そっちはヴォークリンデの映像を見ていないのか?」
「え? ベンケイさん達は、ちゃんと追体験できたんですか?
僕ら全員、主任のエンセフェロンダイブに引きずられたんでしょうか?」
「まさか……。みんなは接続してなかったのよ」
「でも、KOS−MOSから発信されるパルスがダイブモジュールを介して逆流したとすれば、考えられない話じゃないですよ、うちで採用してるのは、非接触式ですし」
「だとしても、簡易モジュールではその負荷に耐えられないわ。なにかもっと別の外的な力がないと……」
(いや、KOS−MOSだかマリアだか知らねえが、モジュールなんて関係なくできたはずだ。ただ、そのチャンスがくるのを待ってただけってことだ)

竜馬がケイオスを見ると、彼は曖昧に笑って答えた。

「いずれにせよ、ここはKOS−MOSのメインフレーム―――いわゆる内的世界。僕らの持っている記憶が共鳴した結果 創造された世界……そんな感じがする」
「でも、僕にはこんな場所、記憶にありませんよ。それに、それなら僕とかベンケイさん達の記憶とか混じっててもいいはずじゃないですか?」
「そうだね。
記憶――つまり、過去に起きた出来事は、同一の時間軸、空間軸が共鳴することによって、より強固で優先的、選別的なものになるんじゃないかな。
そう考えれば、僕やアレンさんの記憶が反映されていなくても不思議じゃない」
「要するにこの世界は、共通の空間的、時間的体験を持った者たちによって常に変化するということか」
「そうなるな。そのうち俺達の記憶も出てくるかもしれん」
「みんな幻なんですか?」

モモの疑問にシオンが微かに震えながら首を振った。

「幻覚と現実は、それを体験する主体者にとっては同じことよ。これは幻なんかじゃないわ」
「主任……」

224力への意思5話-10:2013/08/15(木) 16:09:03 ID:Is/rVKB20
教会の中に入ると、礼拝所を20歳ぐらいの女性が一人で掃除をしていた。灰色のショートボブにロングスカートの清楚な感じだ。

「レアリエンか」
「ええ、たしかにレアリエンみたいですけど……でも、ちょっと違う感じもします。もっと人間に近い……」

モモの観測装置はその女性を見て、微かな違和感を伝える。

「モモちゃん、観測できるのか?」
「え? は、はい……」
「今まで見せられた一方通行の光景とは違うようだな」

隼人の考察を受けてジギーが尋ねた。

「君はレアリエンなのか?」
「はい、フェブロニアといいます。レアリエンの安らげる場所が欲しくてこの教会の手入れをしているんです」

聖母の笑みという言葉がぴったりのフェブロニアの笑顔に、シオンが2,3歩よろける。

「フェ、フェブロニア……」
「知り合いか?」
「私、知ってる……知ってるわ…………あなたを。
でも、嫌……思い出したくない……。だって、だって……」

いやいやと頭を振って逃げようとするシオンに向けてフェブロニアはまた微笑んだ。

「シオン、いらっしゃい」

フェブロニアは教会の裏手に出る扉の方に向かうと、先にその向こうへと出て行った。

「シオン」

そのフェブロニアの後ろ姿に重なって、10歳ぐらいのオレンジ色の長い髪を持った少女が現れた。

「なんだこのガキは」
「ネピリム……」

ネピリムは竜馬達にまるで闖入者を見るような視線を一瞬向けると、シオンにその視線を固定する。

「その扉を開けた瞬間から、あなたたちは自分自身と向きあっていくことになる。
それは、とても辛くて哀しいこと……。
だけどそれは、あなたたちにとっても私たちにとっても、とても大切なことなの」
「何が出てくるか知らねーが、そんなもん見せる為に呼びつけたのか?
見せたきゃ見てやるが、とっとと元の場所に帰せよ」
「え?」

大股でずかずかとフェブロニアの後を追った竜馬達を見て、ネピリムやシオンは当惑した表情をした。

「ネピリム、もう、そんなことをしなくてもいいんだ」

ケイオスはそう言うと、晴々とした表情で竜馬達の後を追った。

225力への意思5話-11:2013/08/15(木) 16:10:49 ID:Is/rVKB20
「ケイオス!? どういうことなんだ!? おい!」

Jr.達も慌てて後を追う。
扉の向こうは、灯りの落ちた病室だった。
医者と看護師と、普通の服を来ているから見舞いの者と思われる死体。そしてベッドの上に群がるレアリエン達。
レアリエン達は布団に浸みてもなおしとどに流れ落ちる血の中で、貪っていた。

「暴走レアリエンってのは人を喰うのか……」
「い、いや……」

シオンがか細い声をあげる。

「ここは重篤神経症治療施設。あなたのよく知っているところよ」
「い、いやあああああっ!!!!」
「くひひ……!」

シオンの悲鳴に混じって、甲高い子供の笑い声がする。窓の外には、白い髪をしたJr.と同じ顔の子供が、隣のビルの屋上で笑い転げていた。

「アル……ベド……」
「きひひひひ!
歌、歌声が……僕を……ひゃはははは!
鏡よ、僕を映せ! 僕を定義しろ……! うひゃひゃ!
僕は無限のテロメラーゼだ! 僕は反存在なんかじゃない……完全なる連鎖だーー!!
あーっはっはっはっあっはっひゃっひゃははっはっははひゃひゃひゃはっはーひゃひゃっひゃひゃひゃひゃはは!
「う……うわあああああああっ!」
「いやああああああっ!」
「主任、Jr.くん! いったいどうしちゃったんですかっ! ねぇっ、主任……」
「あー、うるせえ!」

笑い声に殺意を憶えた瞬間、竜馬の手に勝手に銃が出現した。

「そうか、エンセフェロンの中だから好きな様に……」

過去に起こった出来事を変えることはできないが、今この面倒な映像を消すことぐらいはできる。銃が出現したということは、そういうことだろう。
竜馬は躊躇なく引鉄を引いた。隼人も弁慶もショットガンやマシンガンを手にして、目の前の光景をガラスの様に打ち砕いた。

「よーし、以上だな?
他に見せたいものはあるか?」

ネピリムは竜馬達の態度に怯んだように一歩退いた。

「あなた……あなたは……違う……」
「うるせえ! さっきからワケのわからないもんばっかり見せやがって!
いい加減に説明しろ! でなきゃてめーら全員殺せないまでもここの背景ぶっ壊すぞ!!」
「ひい〜〜!! や、やめてください!」

慌てて止めに入ったのは腰が引けているアレンだった。

「エンセフェロンが崩壊したら、接続している僕達全員、廃人になっちゃいますよ〜〜〜!」
「根性がねえからなるんだよ!」
「何無茶苦茶な事言ってるんですかーー! 根性のある人だってなっちゃいますよ〜〜!!」

半べそをかきながらしがみついてくるアレンを弁慶の方に押しやり、竜馬はネピリムに銃口を向けた。

「ごめんなさい」

226力への意思5話-12:2013/08/15(木) 16:12:06 ID:Is/rVKB20
謝罪をしたのは、フェブロニアだった。周囲は草原と、一本の大木に切り替わっている。

「私達は、この意識の世界でだけしか存在できない。だから実数世界に助けを求めるには、こうするしかなかった」
「くどくど言いわけすんな。もっと短く言え」
「私の妹達を解放してあげて欲しいの」

大木の下には、座って微笑むフェブロニアと、その周囲を駆け回っている女の子が二人いた。

「……なんか変じゃないか?」

弁慶が二人の子供を見て言った。女の子達は、ずっと同じ方向だけをぐるぐると回り続けているのだ。
「そうですか? 楽しそうな光景に見えますけど」
「子供ってのはもっと好き勝手に追いかけっこするもんだ。あれじゃまるで……」
「ええ。ここは、あの子たちを捕らえた檻なの。
私達はゾハルを制御するために、創られた、”人間と誤認される”トランスジュニックタイプのレアリエン。
そしてあれは人が創ったシステムによる呪縛。でも、あの子たちにとっては現実の世界そのもの。
ここから解放してあげて欲しい、妹たちを……。
私はそれをシオンに頼みたかった」
「わ、私に……?」
「でも、それはとても辛いことを思い出させてしまう。今のあなたは忘れることで自分を保っていられるのに。
もし、関わり合いの無いあなた方にお願いしても良かったら、どうか……」
「まあいい。考えといてやる。
てめーはどうなんだ?」

睨みつけられたネピリムは、少し落胆した様子で口を開いた。

「私は……ただ未来を変えたかっただけ」
「未来を、変える……?」
「私達が存在できるのは、意識の世界だけ。だから、私を見れるシオンに接触したの」

ネピリムは背伸びをして、シオンの眼鏡に触れた。

「やめて!」

思わずその指先を叩き落とす。

「主任……?」
「あ……ご、ごめんなさい……」

ネピリムはシオンの態度に頓着はせず、首を巡らせた。

227力への意思5話-13:2013/08/15(木) 16:14:14 ID:Is/rVKB20
視界は一気に宇宙空間になり、目の前に惑星が一つせり上がってくる。

「あの惑星は?」
「……旧ミルチア……!」

シオンが目を見開く。
そのミルチアに向かって飛来する物体があった。

「あれは……KOS−MOS!?」
「しかもあれって、第三種兵装じゃないですか! 開発中ですよ!」

KOS−MOSはミルチアから湧き上がってくるモノに、両肩の相転移砲の照準を向けた。

「なんだ、あれは……!?」

竜馬の全身が総毛立つ。
見たことはないが知っている。それは”竜馬”も同じであり、同時に倒すべきものだと直感的に分かった。
蔦の様な、コードの様な、骨の様な、常に何かを侵食するソレ。

「竜馬?」
「おい、あいつは……」

KOS−MOSの放った相転移砲は、やがて掻き消され、KOS−MOS本人も飲みこまれていく。

「あの波動は、ウ・ドゥと呼ばれる意識体」
「ウ・ドゥだって!?」

ネピリムの答えに、叫んだのはJr.だった。

「ウ・ドゥは十四年前、ミルチア宙域を巻き込んだ局所事象変移の源。
いま見た光景は、そのウ・ドゥと本来あるべき姿となったKOS−MOSとが出会ったときに起こる、未来の映像<ビジョン>。
ウ・ドゥはじき目醒める。”彼”を目醒めさせようとする者たちと”彼”を求める者の意識を糧として」
「目醒めるのか……奴が……」
「いま見た未来は、無限にある可能性事象のうちのひとつ。
でも、決定されているわけじゃない。新たに生じた僅かな波が、全体に波紋を広げることもある。事象は刻々と変化する、漂う波のようなものだから」
「だから、こういうのもあるんだろ?」

KOS−MOSの飲みこまれた空間が、緑色の光線によって引き裂かれる。

「……!!」

ネピリムが息を飲み、ケイオスが表情を和らげた。

「その波は、もう生じているみたいだね?」

大きい。
周囲360°全てを使ってもまだ足りない。それほどの巨大な戦艦が、遥か銀河の果てから、こちらを目指してやってくる。

「これは……希望、なの……?」
「さあ? 絶望かも知れないぜ?」

隼人達は顔を見合わせて笑う。

「もしかしたら……」

ネピリムが呟くと、その姿は扉へと変わった。

「こっから帰れってことか?」
「多分な」

228力への意思5話-14:2013/08/15(木) 16:15:23 ID:Is/rVKB20
宇宙空間に突然できた奇妙な扉に手をかけ、開く。
扉の向こうは洞窟に手を加えただけの簡素な墓所だった。正面にはKOS−MOSが磔にされている。

「KOS−MOS!」
シオンがKOS−MOSに駆け寄る。

「ここがあなたの心の中なの……?」

竜馬はケイオスを見た。曖昧な笑みの中、眉根を潜めて一つの石棺を見つめている。

(マリアの墓、か……?)

シオンはKOS−MOSの前で手を翳して、パスワードを告げた。

「汝ら神の如くなりん」
KOS−MOSを縛りつけている鎖が消え、俯いていた顔が正面を向き、そして赤い瞳が真正面にいるシオンを見た。

「深層領域プロテクトを解除します」

青白い光が何匹もの龍の様に畝って洞窟を満たす。
眩しさに思わず目を瞑る。次に目を見開いた時、そこはエルザのカーゴスペースだった。

「戻ってきたのか」
「全員、無事らしいな」

調整槽のKOS−MOSがゆっくりと上体を起こす。

「おはよう、KOS−MOS」
「おはようございます、シオン」
「ああ、主任! しゅにーん!」

アレンはバイザーを外したシオンに抱きついた。

「良かったあああーーーー!! 無事で、本当に良かったです……!」
「アレン、君……?」


デュランダルのブリッジでは、まだ部下を介抱しているローマン大尉がいた。竜馬達の顔を見て、一瞬顔を引きつらせる。
シオンがデータディスクを渡した。

「対グノーシス専用人型掃討兵器KP−X略称KOS−MOSのメモリーデータです。
プロテクトレベルAAA。改竄の余地はありません」
「たしかにお預かりします。おって嫌疑が晴れるまでミルチア太陽系圏を出ないように」

229追い出された名無しさん:2013/08/15(木) 16:16:59 ID:Is/rVKB20
以上です。

230追い出された名無しさん:2013/11/30(土) 23:03:35 ID:yW8O/g/E0
本スレ規制のため、27番目スレの162の続きです

231ゲッターロボ+あずまんが大王 第8話:2013/11/30(土) 23:04:22 ID:yW8O/g/E0

時間があるのなら、精々利用させてもらおう。
彼は、両の手首から垂れ下がる包帯の端を、器用に口に咥えると、一気に腕を下ろした。
緩んでいた包帯が締り、逞しい両手が現われる。
感覚が痛みとして骨にまで届くほど、彼は包帯を引き絞った。
完全武装でない以上ぶち殺す方法はある。
眼球を拳で突き破り、内部のメカニズムを破壊すればいい。
脳天を叩き潰すことが出来るかもしれない。
リスクがあるが、装甲を引き剥がしてやるのもいい。

左の指が、僅かに痺れた感覚を宿している。
痛みは麻痺しかけているが、こればかりはどうしようも無い。
確実に、凄惨無比な光景となる。
元より、自分に選択肢などないことは、遥か昔に気付いている。
異形と戦う前から、人間では自分の相手にならないと分かった時から。

心を決めた途端に、別種の生き物になっているとは思うが、感慨に耽る趣味も余裕も無い。
相手を仕留められない武術など、踊りと大して変わりはしない。

両手が彼の満足の行く形に搾られるまで、1秒とかからなかった。

「待たせたな、トカゲ野朗」

敬語ではない彼の言葉に、暦は背筋を震わせた。
ああ、先程の違和感は、これだったのか、と思った。
恐怖ではない何かが、彼女の心に去来していた。

対峙してからほんの数秒しか経っていないが、彼には莫大な時間が過ぎたように感じた。
コンマ数秒を争う戦いを続けていたことによる、一種の職業病だと思った。
選択肢などは無い。
この命のある限り、この侵略者どもを殺し続けてやる。

232ゲッターロボ+あずまんが大王 第8話:2013/11/30(土) 23:05:41 ID:yW8O/g/E0

臨戦態勢に入ったと、翼竜は悟った。
生物の本能と、電脳が、眼前の矮小な敵の危険性を全身に知らしめる。
それが優越感を上回ったのか、先に仕掛けたのは翼竜だった。
巨大な嘴が、大きく開かれ、右の手が刃の速度で竜馬に迫る。

ぎりぎりでかわし、懐に飛び込む。
シンプルかつ、確実に一撃が加えられそうなプランであった。
竜馬はカウンターを構えた。

既に、だとは思うが、他人から見れば、自分はやはり化け物なのだろう。
英雄を気取っている訳でもないし、嫌われることが好きであるわけが無いが、
自分と会話をしたあの女性に、苦労をかけるかもしれないと思った。
こんな時に何を考えているのか、竜馬自身でも苦笑したくなった。
そもそも、なんでこんなことを考えているのか、自分でも分からなかった。

「(あいつは…)」

とだけ、ほんの少しだけ思い、すぐに消した。
左の指の震えは、その途端に止まった。
無意識というもののおぞましさについて、忘れていなければ、後で考えることにした。

自分まであと数メートル。
彼の視界に異物が映った。

それは、白い輝きを放っていた。
数は、1個、そして数えた時にはもう1つ増えていた。
翼竜の巨体が、大きくよろめいた。

彼は、漲らせていた力の全てを、両足に込めて飛んだ。
弾丸と化して、背後へと。
ちらと振り向くと、生徒たちはもう十分後ろにいることがわかった。
心配するのは、己の身だけであることに、安堵を覚えた。
装甲を喰い破って減り込んだ箇所を基点に、一瞬、
翼竜の細身が鞠の様に膨らむと、その輪郭は完全に崩壊し、内側から熱と光が溢れ出した。
生じた衝撃は思いの他小さかったが、体育館の入り口を
完膚なきまでに破壊することと、退避中の「浮遊物」を爆風で
吹き飛ばすには十分すぎるパワーがあった。

233ゲッターロボ+あずまんが大王 第8話:2013/11/30(土) 23:06:15 ID:yW8O/g/E0

暦の傍らを、何かが通り過ぎていった。
ゴムが焼ける臭いを立て、摩擦音を起こしつつ、それは停止した。
振り返ろうとした時、体育館内に白塵が充満した。
翼竜の叫びで緩んでいたことと、先程の爆発がとどめになったに違いない。
破砕された物体の粉っぽい臭いと、霧のような塵によって、視界はほぼゼロとなった。
割れた窓から注ぐ光によって、かろうじて人のシルエットが映っている。
突然の暴虐に、相次ぐ異常時に疲れを見せていた生徒たちも、
再び動揺せざるをえなくなった。
約1年半の異常な敵対種族との戦争に曝された経験が、彼らの精神を多少タフにしていたようだ。
しかし、それでも

「おいこらこの鬼娘!!!」

と、爆発音や翼竜の叫びをも上回るとさえ思わせる怒号を聞いたときは、
もう感情を捨て去りたくなった。

「そんなのがあったらさっさとよこせ!無駄な手間食ったろうが!」
「貴女には危険すぎるわ。巻き添えを出したらどうなるの」

更に、新しい声が加わった。
何人かは、決して少ない数の者たちが、その存在に恐怖した。
冷徹、と呼ぶに相応しい声色と、彼らの担任に匹敵する声の大きさを、
その主は持っていたからだ。

「んなもん知るか!あたしが何度食い殺されかけたか分かってんの!?」
「7回ね。面白かったわ」
「やかましいわ!さっさと手伝え!私はそいつを知らん!」

誰もが、嫌な予感しかしなかった。
最も近くにいた暦は、声をかけようと思ったが、
白塵の奥から迫りつつある半月の4つの眼に、何も言うことは出来なかった。

234ゲッターロボ+あずまんが大王 第8話:2013/11/30(土) 23:07:34 ID:yW8O/g/E0

ごそごそと何かを漁る音。
そして、何かが引きずられる音が、体育館の中に不気味に木霊していた。
誰も、その場を動けなかった。
少なくとも、まともな奴は。

塵が収まる頃、聞きなれた女教師の冒涜的な怒号と、
聞きなれぬ女傑な声の主、そして流竜馬と名乗った少年の姿が消えていた。

「何だったんだ…今のは」

分かりきってはいた。
言わずにはいられなかった。
ある意味、自分の習性なんだと思った。
振り返った暦は眼を剥いた。
衝撃と爆音の影響か、馬鹿者を拘束していた女子生徒が全員床に伏せていた。
ぴくぴくと、涎を垂らして痙攣している。
どことなく、破廉恥な様子だった。
その姿を見ている男どもに、暦はキツい視線を飛ばした。
ぞっとするものを背に覚え、思春期な男子たちは沈黙した。

緊張と疲労で、混乱も大いにしている精神であっても、
あの少年への少なくない感謝と、嘆きに近い感情を抱かずにはいられなかった。
せめて、眼を閉じている間は、安らかにと。

とりあえず、周りの連中をまとめることに努めた。
どうやら自分は、男口調のせいか、そういうことに向いているらしい。
その過程で、2人ほど女子がいないことに気付いて、激しい頭痛がするのを覚えた。

「…なんで、あいつまで」

外を見ると、かつて翼竜であったものの残骸から白煙が昇っていた。
鉄の部分だけを残して、溶けているかのようだった。















つづく

235追い出された名無しさん:2013/11/30(土) 23:16:23 ID:yW8O/g/E0
本スレの方、代理していただきありがとうございました
今度からまともに書き続けられそうなので、またよろしくお願いします

236追い出された名無しさん:2013/12/14(土) 20:56:26 ID:yW8O/g/E0
ゲッターロボ+あずまんが大王 第8話-(2)-



「………………」

決して小さくない揺れに身体を預けながら、彼はぼんやりと眼を開いた。
職業柄、よく気絶してはいたが、最近は特に酷い。
元々、気を失う原因としては、巨大クラゲに突撃して無茶をやったとか、
超高度から愛機もろとも落下しただとか、そういうものであったが、
ここ最近のものは体力が限界を迎えてのそれとなっている。
思考がまともに動き始めるまで、しばし待つことにした。

「あ、起きた」

耳元で、正確には肩の辺りで声がした。
眠気は、一気に消滅した。
声量ではなく、その声の主が誰であるかが、覚醒の鍵となった。

「よぉ。久しぶりだな」

時間的には数時間、恐らく4、5時間ぶりだろうが、異常に長く感じていた。
何となくだが、年単位で会っていなかった様な気さえする。
確かな感慨を覚えていると、細い指が彼の頬に触れた。
それは肉を掴むと、主の下へと肘を引っ張った。

「何しやがる」

少し左に傾いた耐性のまま、頬を伸ばされながら、
やや兇悪な眼つきを携えて竜馬が言う。
尚、ややというのは竜馬の基準でである。
敬語など使う必要は、細胞一つ分も無い。
使うときは、からかう時ぐらいだろう。

「怪我の治り具合の確認に」
「嫌がらせの間違いだろ」

左の頬を引っ張られたまま、竜馬は器用に返答した。
音速を越えた戦闘の中で叫び続けていた成果だろうか。

237追い出された名無しさん:2013/12/14(土) 20:56:59 ID:yW8O/g/E0

「うんうん、傷も大分治ってるね」
「お前が掴んでるところは、ちょうど裂けてた場所なんだが」
「確かにちょっと赤いね。ここは?」

左手の指は、竜馬の右眼辺りを指していた。

「古傷だよ。たまに疼くんだ……イラついたりな」
「そういうのはよくないよ。ストレスは発散しなきゃ」
「悪ぃが補充されてるんでね」
「これのせい?」

掴んでる部分を、ミリ単位で上下に動かしながら智が言う。
意味深そうな表情で。

「そもそも、何で掴んでんだ」
「リハビリのために」
「………」
「必要悪ってやつだよ」

善意でやってるのか、よく分からなかった。
それに、肌のリハビリなぞ聞いたことも無い。
とりあえず、智の指で生じた汗の塩分のせいで、治りかけた傷口がむず痒かった。
何かを握ってでもいたのだろうか。
やたら汗の量が多い。そして油の匂いもする。
自分のナリも相当なものだが、衛生的に大丈夫だろうか。

「ふむ…」
「…何だよ」

考えるような顔付きになった。
考えているのではない。
つまり、危険ということである。
訝しげな表情を(彼女と出会ってから、よくこの顔をするようになっていた)、
まじまじと眼に映しながら

238追い出された名無しさん:2013/12/14(土) 20:57:50 ID:yW8O/g/E0

「あんた、彼女とかいないの?」

唾液が枯渇しかけていることを感謝する時が来るとは、竜馬ですら思っていなかった。
何時の間にか、友の手が頬から離れていた。
飽きたのだろう。
竜馬の頬に、よく分からない感覚が残った。
修行と治療と暴力以外で頬に触れられた思い出は、少なくとも彼が覚えている限りではなかった。
尤も、智の行為はこれら3つに含まれるに値するだろう。

「何言ってるんだお前は。こんな状況で」

少なくとも、怪物の襲撃を受けた後の会話ではない。
しかしこの場合、発信源も受け手もどうかしているとしか言いようが無い。
重要な話題が、こんな事である筈が無い。

「今はいねぇよ」

数ヶ月前は、女性を映画に誘っていたのでそう応えた。
なんでああなってしまったんだろう、という考えは、消そうとしても
どうやっても心に去来してくる。

「んな余裕も無えしよ」
「どっかに囲ってない?」
「いたら世話してもらってると思うんだが」
「ああ、あんた頭良いね」
「おう、ありがとよ」
「いや、礼には及ばないよ」

皮肉で言ってんだよと言いたかったが、更なる火種を撒くだけなのでやめた。
防御でもそうだが、直接受けきるよりは流した方がダメージは少ないのだ。
そろそろ、口の中の渇きが気になってきた。

「まぁ、こういうのは巡るものだから、そんなに気を落さないでさ」
「流行のことか?70年代の服や車じゃあるまいし」
「そう!それだよそれ!分かってるじゃん!」

どうせなら、20年は生まれる時期がずれてくれればと思い始めた。
こういう考えをするのは、こいつと会ってからなので、それは恐らく
影響を受け始めていることなのだろうと竜馬は判断した。
汚染とまではいかないにしても、侵食という言葉は当てはまるようであった。

239追い出された名無しさん:2013/12/14(土) 20:59:21 ID:yW8O/g/E0

「こういうのはぐるぐる回るんだよ!宇宙みたいに」
「ほう、俺は宇宙規模だったのか。知らなかった」
「いや、私が宇宙で、あんたは瀬戸内海の渦潮レベルだよ」
「話の主旨もあったもんじゃねぇな」

主旨もなにもへったくれもない会話であった。

「ところで、ここはどこだよ」

話の本筋への、遅すぎる流転であった。

「車の中」

じっと、竜馬は智を睨んだ。
そんなことは分かっている。
ついでに、割と良い車であることも。少なくとも、
シートはあの機械の化け物よりは上等であると感じられた。
難点を言えば狭いことだが、これは許容範囲を越えて乗り込んでいるので仕方が無い。

「街の中」

更に眼を細ませた。
街のチンピラなら彼方へ逃げ出しているような眼だった。
智は、相変わらず太陽のような笑顔をしている。
どうやら、耐性がついているようだ。
或いは、脅威と受け取っていないのか。

「次は地球か?」
「いや、日本。惜しかったね。あと少しだったのに」
「何が?」

掠れているせいで、普段よりも恐ろしげな声になっていたが、
智は気にする様子が無い。
むしろ、「ふふん」と、少なくとも向けられた方としては不愉快な笑みを零した。
竜馬はもう慣れたので別段嫌な思いもしなかったが、
少なくとも、あの時の奴なら顔面を毟(むし)り取るだろうな、と竜馬は思った。

240追い出された名無しさん:2013/12/14(土) 21:01:11 ID:yW8O/g/E0

いや、アホらしくて離すか、いや、毟るな、と追加で思った。
身体的な特徴も、好みからは外れまくっているであろうし。
奴と呼ばれた者の思考の、少なくとも人間にあるまじき部分は彼でも分かりえないものだった。
尤も、人間とはそういうものだと、彼も理解してはいるのだが。
今思っても、あの時の様子は異常だったと思わずを得なかった。
同時に、それは自分も似たようなものではなかったかということも。

「ほれ」

たぷん、と竜馬の前に、黒いボトルが差し出された。
簡素なもので、「コーラ」とだけ書かれていた。
ギャグマンガ、しかも枠の少ない4コマ漫画の小道具のような手抜き振りだった。

「少し飲んだ。大丈夫、口付けてないから」

黒い液体の奥にある、少し歪んだ竜馬の顔を眺めながら、楽しそうに智は言う。

「どこに入れてたんだよ」

液体の揺れる音は聞いた覚えが無い。

「付けた方が良かったかな?こういうのって売れるんだよね?」
「お前は何を言っているんだ」

疑問符は付かない。
呆れきっているのだ。

「あんたネットできる?ああ、やり方知らないんなら教えるよ?あ、顔写真撮らないと」
「そのぐらいは分かるが自分でやれ。というか恥を知りやがれ」
「あ、その言い回しいいね。恥を知りやがれって。覚えとこう」
「あの…」
「忘れろ。いや、忘れてくれ、頼むから」

自分の口調を口に出して記憶すると言われるのは、何か無性に腹立たしい。
いよいよ咽喉が辛くなってきた。
コーラで回復できるかは知らないが、このままよりはマシなはずだ。
炭酸さえ抜けば。
危機を感じ始めた竜馬には、智の奥から聞こえた声など、耳に入っていなかった。

241追い出された名無しさん:2013/12/14(土) 21:02:24 ID:yW8O/g/E0

「つうか、それ一口でいいからくれよ。俺を生殺しにするのに持ってきたんじゃないんだろうが」

口をつけずに一口で一気に飲み干してやるつもりだった。
そして、後半に彼が口走ったことこそ、こいつの目的なんじゃないかと思い始めていた。

「あぁ、それいいね!」

確定してしまった。
ひらめいた!と、誰でもわかるようなリアクションをしていたので、
言わなければ、素直にくれたのかもしれない。

「お前…いい加減にしろよ…怒るぞ」

声がもうおぞましささえ感じさせるものへとなってきている。
紅の閃光で、無数の百鬼を焼き払った時も同じような声だった。
それが、こんなところで出るとは。

「な、なんだよ!そんなに飲みたいのかよ!」

流石に怒気が通じたのか、ややびびっているようだった。
大事そうに胸元で抱えられたコーラがたぷんと揺れた。
先程よりも揺れ幅が大きい。
何時の間にか、また少し飲まれたようだった。

「ああそうだよ…昨日から、何も飲んでねぇ」

これは嘘だった。
起きた時に500mlボトルに入った麦茶を1本飲んでいた。
状況が状況だったので、忘れてしまっていたのだった。

「質問に答えてから」
「その質問とやらの話を逸らしたのはテメェだろうが!!

残りの水分を振り絞り、竜馬が叫ぶ。
被害者のようにも見えるが、状況を鑑みるに、どう見ても加害者の立場であった。
更に、話をこじらせた原因にも見て取れる。
そして普通なら、この叫びを前にすれば人間なら大悪党でも怯む。
底知れぬ恐ろしさを感じるからだ。

242追い出された名無しさん:2013/12/14(土) 21:03:03 ID:yW8O/g/E0

「なんだとぅ!?」

しかし残念ながら、相手は普通ではなかった。
どこかで、何かが擦れ、砕けるような音がした。
彼らにとって不幸だったのは、それに気付けなかったことだ。
そして、ここが車内だということを、竜馬は途中から、智はほぼ最初から
脳内から消し去ってしまっていたことだった。

「これ高いんだぞ!!国からも認められてるんだ!」
「ああ、ありがとよ。でももう三分の一しかねぇじゃねえか!何時飲んだんだ!」
「細かいこと言うな!デリカシーの無い奴め!下郎!」
「下郎だと!?」
「えと…あの…」
「あ、ゴメン。意味は知らないから削除で」

咽喉が渇いたのか、キャップを緩めて口に運ぶ。
遅れたが、コーラは2L入りである。
そして、ヒートアップした両者の間に、普通の声は最早届かない。

「お前!どれだけ飲めば気が済むんだ!」
「ふーんだ。口付けちゃったからもうやらねーっと。値段下がるし」
「お前な…つうか、元はといえばそれ俺の金で買った奴だろ!」
「ぎくり」

口に出して言う奴を始めて見た。
それこそ70年代のキャラクターかと思った。

「か、金のことを出す男は嫌われるんだぞ!」
「現実的でいいと思うがね」
「夢がないと駄目なんだよ!現実に縛られるな!」
「咽喉の痛みって現実にやられそうなんですけどね!」
「おい」
「急に敬語を使うな!怖いだろうが!」
「敬語じゃなくて丁寧語ですよ滝野さん」
「うわあああ!!やめろ!夢が壊れる!」
「夢って何だ!?気色悪いことを抜かすな!」
「おいったら」
「ええいうるさい!気色悪いとか言うな!傷付く!泣くぞ!」
「ああ、泣けよ。笑ってやる」
「言ったな!泣くからな!泣いてやる!」

半月の形になった眼の隅に、瑞々しいものが溜っていく。
笑ってやると豪語した竜馬も、気まずさを感じ始めていた。
一応、一応は智は女の子なのである。
胸はそれなりだし、竜馬の持つ女性像とはかけ離れているどころか
別次元の存在であったが、世話にもなっている。
それに、こういうときにどうすればいいのかも分からなかった。

243追い出された名無しさん:2013/12/14(土) 21:04:05 ID:yW8O/g/E0

「(…野朗だったら、気絶させればいいんだが)」

と、恐ろしげな考えをした時、智の動きが止まった。
大きな眼が、ぱちっと開いている。
2、3度、ぱちくりと眼を瞬かせた顔が、左向きに動き始めた。
彼女の頭には、健康的に日に焼けた手が置かれていた。

「お前、ちょっとうるせぇ」

向けられた先にある、快活そうな少女の顔が、きつめの口調と表情で静かに告げた。
竜馬は、その声に聞き覚えがあった。
その、傷付いた手にも。
相手も、竜馬の視線に気が付いたようだった。

「…それ以上は、やばいよ」

竜馬は気付いた。
真の脅威は彼女ではない。
それは、彼の前にいた。

バックミラー越しに、眼が、こちらを向いている。
その眼光に、智は笑うのをやめた。
竜馬は、その様子を見て、不気味な感覚を覚えた。

「大丈夫。バレてな「いい加減にしろお前等!!」」

怒号。
そう呼ぶに相応しかった。
少なくとも、彼が起きてから聴いた音では、最も大きな音だった。

「直立トカゲぶちのめした奴がいるって言われたからどんな奴かと思ったら、
人の車で延々とワケの分からんこと言いやがって!お前だ!お前が原因だバカ智!!
聞いてた話と違うじゃないか!私はこいつが目を覚ました瞬間、
首を引き千切られるんじゃないかと思ってたんだぞ!
お前アレだろ!今やってるアニメでそうやって死んだ奴がいたんだろ!」
「いや、あれは食い千切「うるせぇ!馬鹿!」」

馬鹿の一言には、質量があるように感じられた。
それも、莫大な。

244追い出された名無しさん:2013/12/14(土) 21:06:46 ID:yW8O/g/E0

「お前はさっさとそいつに栄養やれ!そのために持ってきたんだろ!
 それに死なれたら寝覚めが悪い!!あと、誰がこの車を掃除する!?
 お前らの靴、結構汚れていたからな!!靴ぐらいちゃんと洗え!
 あと神楽!お前はさっさとこいつらを止めろ!先手必勝って言葉を知らんのか!
 頭潰せば後は楽なんだよ!トカゲみたいに!」

なんということだ、と竜馬は思った。
あの滝野が押されている。
破壊不能なものが壊されていくような気がした。
御するならともかく、勢いで負けているというのは中々信じられなかった。
気が付けば、智は傍らで静かになっている。
黙っている、のではなくだ。

「それと、少年」

竜馬は思わず、はいと答えた。
思い出して、自己嫌悪に陥れるぐらいの情けない声だった。
咽喉の渇きのせいにすることにした。
あと、トカゲは頭を通してからが厄介なんだよな、心の中でと突っ込んでおいた。

「生きて戻ったら、あの女の弱みを教えなさい。それが運賃」

とてもじゃないが聞き捨てならない台詞をかけられ、非現実的な光景も目の当たりにしたことで、
竜馬は思考が正常に戻っていくような感覚がした。
狂気というものと、さほど変わり無いような気がした。
いいや、それに違いないと、竜馬は心の中で勝手に肯定した。
確実なのは、それがどうなるかは、残念ながらここにいる4人に
掛かっているということだった。














つづく

245追い出された名無しさん:2013/12/22(日) 13:11:33 ID:yW8O/g/E0
規制がかかってしまったので、本スレ399からの続きです。

246ゲッターロボ+あずまんが大王 第8話-(3)-:2013/12/22(日) 13:12:36 ID:yW8O/g/E0


「(これが、あれか、ゆかり車ってやつか)」

飾り気も品番もない、鉄の巨筒とでも呼ぶべき兵器、
恐ろしく古典的な形状をしたロケットランチャーを構えつつ、竜馬は智の話を思い出した。
聞いてた話と、よく似ている。
この教師は、条理を覆す存在のようだ。
この滅茶苦茶さに、竜馬は素直な好感を持った。
竜馬の心に渦巻いていた思惑が、それを合図としたかのように、ある感情へと昇華する。

背後の二人にぶつけないように注意を払われて器用に回された重火器を、
竜馬は自身の右肩に備え付けた。
凶悪な重さが、その感情に磨きを掛けた。

戦いに必要な、敵意と、殺意に。

「くたばりやがれ!!」

敵対者に対する破壊衝動で彩られた声と共に彼は引き金を引いた。
白煙が車の背後に広がり、車体を大きく揺らす。
クロガネの巨筒が吐き出した弾頭は、命中と同時に白光を放ち、爆風と爆音で巨体を包む。
傍らにまで迫った車が、白煙を吹き飛ばすと、奥からグロテスクな形状となった角竜の姿が現われた。

二本の角は神経の断片を根元にちらつかせて消失し、
嘴は口腔内へと減り込んでいる。
更に、体表面からは泡を吹き、肉は骨から剥がれ落ちつつある。
そして、身体のあちこちに開いた肉の穴からは、
液体の代わりに火が唾液のように垂れている。
彼らにとって幸いだったのは、動体視力の極端な差があったため、
その様子を認識できたのが竜馬だけであったことだ。

「…やっぱ普通の兵器じゃねぇな」

火花を吹きつつもまだ動いている頭部の、爆砕された部分に、
用済みとなった砲を投擲した。

247ゲッターロボ+あずまんが大王 第8話-(3)-:2013/12/22(日) 13:13:26 ID:yW8O/g/E0

あふれ出したものは蒸発したのか、爆風で皮も抉られた
その破壊口の奥で、潰れて弾ける音が鳴った。
それが脳髄、または電脳を破壊したのか、角竜は四足を折り曲げて地に伏した。
ゆかりが「やったぜざまあみろ!」と叫ぶ声が聞こえた。
これが演技であってほしいと、竜馬は願った。

「うぉ!?」

角竜の最期の抵抗か、破砕した角と思しき部分を踏み上げ、車体が大きく揺れた。
乱暴さを増した運転でふらついた身体が、内側に倒れ込んだ。
何時の間にか、車内の二人が竜馬のボロボロになったコートの、
中央から破れ、いびつな翼のように左右に分かれた端の部分を握っていた。

「悪い、助かった」

二人の上に倒れ込めかけた身体をシートに無理矢理ぶつけつつ、竜馬は智に言う。
引かれなければ、転落していたかもしれない。

「いいのいいの。今度やるときは私にも撃たせてね」
「お前は前見て座ってろ」

渡したらどんな状況になるのか、竜馬でさえ想像できなかった。
最終手段ということにしておこうとだけ、頭の隅に置いておいた。

「大丈夫だよ。説明書なら読んだから」
「そんなもんねぇよ」

ちらと神楽の様子を見ると、煙を吸い込んだのかむせている。
どうやら、貧乏くじを引きやすい体質のようだ。
少なくともこの車内で最も真っ当な人間なのは神楽であった。

「次、どれにする?」

と、ゆかりに聞かれたが、しばしその光景を見つめるしかなかった。
普通の武器の山なら、彼もそんなには驚かなかった。
せいぜい、どこで手に入れて来たんだと疑うぐらいだ。
しかし、それらは違った。
とてつもなく嫌な気配を、それらは放っていた。
危機は迫っている、そしてこれらを使えるのは現状では自分しかいない。
それを少しの間とはいえ留まらせるものが、山と詰まれたものからは感じられた。
しかし、事態は切迫している。
この中から、選ぶ必要があった。
いっそ降りて素手で戦おうかとさえ彼は思い始めた。
ゆかりの隣、助手席に積まれていたのは、そんな武器ばかりだった。



つづく

248追い出された名無しさん:2013/12/22(日) 13:15:19 ID:yW8O/g/E0
以上です
解除され次第、見やすいように本スレにも投稿しておきます

249追い出された名無しさん:2013/12/26(木) 00:45:02 ID:bF1rrBLI0
時獄篇のPVでトップバッターだったり
パケ絵でど真ん中だったり
不思議な優遇を受けてる気がするのは俺の気のせいだろうか

250追い出された名無しさん:2014/01/03(金) 22:57:02 ID:yW8O/g/E0
なにか度肝を抜くことやってくれるんですかね?
新年早々だけど、ゲッター+あずまんが投下します

251ゲッターロボ+あずまんが大王 第8話-(4)-:2014/01/03(金) 22:57:44 ID:yW8O/g/E0

ゲッターロボ+あずまんが大王 第8話-(4)-


その車は、多くの者から注視されていた。
人間から、そして異形から。
眼の良い者、或いは不幸にもその近くにいたものは裸眼で。
遠くの者は、望遠鏡や双眼鏡を用いて。

当初、異形を注視していた視線は、次第にそちらに移り始めていた。
というのも、

「正に、悪魔ね」

という言葉を漏らした白衣の女性の言葉通り、
悪魔に相応しき光景が広がっていたためだ。
そして、それは『火炎地獄』という意味に等しい。
突如、建物を崩して出現する角竜。
本来備わっていないはずのはばたきと牙を用いて大空より急襲する翼竜。
そのどれもが、疾走する車から吐き出される火力によって砕かれていった。

無数の火花と共に撃ち出される弾丸群は翼竜の鼻面をごっそりと抉り取り、
炸裂した鉄塊は角竜を肉と機械が雑じった奇怪なオブジェに変えていく。

何人かは、この車の右側面に何やら風に揺れている物体が張り付いているのを
目撃したが、それは犠牲者たちの残骸が怨念のように、そこに残っているのだと判断した。
そして大量の火力は、この車に備え付けられた兵器であると。
この場所が何の麓町であるのかを熟知している一部の者であれば、特に疑問も持たなかった。
勿論、例外の方が多かった。
この車を、誰が操縦しているのか知っている連中である。
そして彼らは、砕かれていくものよりも恐ろしげな思いを車に抱き、
無慈悲な破壊活動を屋上からみつめていた。
時折、車は観測者たちから見て遮蔽物となる建築物に隠れるが、それもほぼ一瞬のことだった。
何故なら、見えなくなったと思ったら、その遮蔽物はすぐに煙を上げて破壊されていったためだ。

「…あいつ」

天文部の友人から借りた、中々に精度の高い望遠鏡を用いながら、

「やっぱり、あの一員か」

水原暦は、呻くように呟いた。

目撃者の多くから残骸扱いされていたその者は、
火花の残滓と煙を浴びつつ、殺戮の使徒となっていた。

252ゲッターロボ+あずまんが大王 第8話-(4)-:2014/01/03(金) 22:58:35 ID:yW8O/g/E0

「またきやがった」

悪態と共に空へと向けられた砲が火を吹く。
数秒の後に炸裂した弾頭が犠牲者の残骸をぱらぱらと地に落す。
弾頭の恐るべき威力は、太古に君臨した大空の覇者さえも木っ端微塵の群体に変えていく。
車の周囲に、殺戮と破壊の乱舞が構築されていた。

「何でロケランがこんなにあるんですか」

まだ息があるものの、ひしゃげた鼻面に鉄の筒をぶち当て、
車の振動で物騒な音を立てつつ揺れる銃火器の山を見ながら、呟くように竜馬は訊いた。
ロケランという言葉を使ったのは、傍らの少女が「はい、新しいロケラン」、
「ロケラン一丁上がり!」などと言いつつ、
物騒極まりないことに鼻先にその弾頭を押し付けてくるので、
何時の間にか脳に刻まれてしまったからだった。
また、先の質問の解答に関しては、あまり期待していないようだった。

「ロケット花火とか好きだから」
「誘爆したら車が消し飛びますよ」

その程度で済むわけが無いが、危機を伝えるためにピンポイントで説明した。
回りに被害が及ぶと言っても、この人は自分は生き残るだろうと思う人種な気がしたからだ。
取り返しのつかないことをやることも大好きなように感じた。
それにしても異常な量だと、竜馬は思った。
既に5本の砲を使い果たしたが、まだ2〜3本ほどが助手席に刺さっており、
その周りには、最早、群体生物にさえ思えるほどに絡まり、重なり合った銃火器が山を成している。

「(このまま放って置けば、何か生まれんのかね)」

その様子が、生物の臓物か筋組織と骨格のように見えたらしく、竜馬はそう思った。

253ゲッターロボ+あずまんが大王 第8話-(4)-:2014/01/03(金) 22:59:20 ID:yW8O/g/E0

現在、竜馬はほぼ車体に張り付いての迎撃を行っており、武装の運搬役は主に智が行っている。
神楽はというと、

「ごほっ、うぐっ、ごぁああ……」

と、本来は快活かつ可憐さを備えた声を悲鳴に近い嗚咽に変えてむせ続けていた。
というのも、周囲で巻き起こる破壊の副産物たる煙が
窓から侵入し、彼女を直撃し続けているせいであった。
竜馬は慣れているので耐性があり、ゆかりは窓を開け、冷房を最大にして無理矢理
煙を己から引き剥がしている。
そして智に至っては竜馬を盾にすることで煙を交わしている。
結果、竜馬で遮蔽しきれなかったものと前列から追いやられた煙が神楽を直撃することになっていた。
どうにかしてやりたいとは竜馬も思ったが、位置的にもどうしようもなかった。
実際は、神楽側の窓を開ければある程度は解決したのだが。

そこに、再び高周波を伴う叫びが鳴った。

「はい」

タイムラグは殆ど無く、竜馬に武器が手渡される。
先ほど竜馬が生物に見立てた部分で言う、心臓に当たる部分の担っていた物だった。
受け取ると同時に、鋭い犬歯でピンを抜き、遥か上空へと放り投げる。
汗による仄かな塩味を口に感じた頃、投擲された手榴弾はその身を炎に変えていた。
胴と嘴を分断された翼竜は、最期の抵抗か車へと頭部を落下させたが、
それを少年は許さず、激突の寸前に左の裏拳でその肉塊を薙ぎ払った。
目玉が潰れ、左右に20センチ以上も嘴をずらした頭部は、
弾き飛ばされた先の壁に激突した。

「おー、凄いな。一撃必殺ってやつ?」

壁面に減り込みつつずるりと落ちた骸を見て、智が言った。
楽しげ、且つ誇らしげな口調だった。

254ゲッターロボ+あずまんが大王 第8話-(4)-:2014/01/03(金) 23:00:13 ID:yW8O/g/E0

「殴ったのは屍骸だけどな」
「じゃあ、ちょっと凄みが減ったね」
「なんだよそれ」
「アレ、大体私と同じくらいの大きさだね」
「寝覚めの悪いことを言うんじゃねぇ」

殺戮の手を止めると、竜馬は全身に痺れが回るのを感じた。
どうやら、あの銃火器の出所は、これではっきりしたようだ。
彼の身を蝕みつつ守っていたのは、製作者が、
螺子の一本から弾丸の一発に至るまで込めた狂気に違いない。

「あんたら…修学旅行じゃねぇんだぞ」
「ごめんごめん。つい花咲いちゃった」
「咲いてねえだろ」

言いつつ、心の中では咲いていると思っていた。
ただし、破壊と殺戮の花火のことであったが。
竜馬は、今時の修学旅行はこういう雰囲気なのかと思っていた。
まともな神経なら絶対に楽しくないに違いないと、勝手な誤解をするにまで至っていた。

この武器群は、使用者を高揚させる何かがあった。
狂気による酩酊感とでもいうべき感情が、
敵対者の破壊を使用者に見届けさせる度に、手元から脳髄へと駆け上がっていく。
竜馬としては、慣れかけたようなもので、感情の制御はできているようだが、
もしも慣れない者が使えば、それは麻薬よりも危険なもので、脊髄と脳を蝕むだろう。

「ったく、トカゲどもめ。あたしの車返せっつうの」

この状況でこの女性が己を貫いているのも、
恐らくこのおぞましい武器を使用したことによる影響だと、竜馬は断定した。
でなければ、こんなに順応できるものか、と。

再び身を乗り出し、竜馬が周囲を見渡す。
周囲は残骸が散乱し、大気は黒煙にまみれている。

255ゲッターロボ+あずまんが大王 第8話-(4)-:2014/01/03(金) 23:00:56 ID:yW8O/g/E0

「戦後みたいだね」
「戦後だけどな」

その言葉に、智はデジャヴを感じた。
実際に言われた言葉だった。
竜馬はというと、空を見渡しながら学校のほうを見据えた。
遥か遠くにいた、先ほど会話した女性と(少なくとも竜馬の方は)眼が合い、彼は軽く会釈した。
相手方に困惑の色が走ったのは、言うまでも無い。

「やっと一息つけるな。おい神楽、今どこらへん?」

なにかおかしい気がしたが、竜馬は気にするのをやめた。
隣の智は、「んん〜〜」っと猫のように背伸びをしている。
本当に一息ついていた。
そして問いの内容は、どこに行けばいい、ではなく、今どこに自分たちはいるときた。
振られた方としては、最上級に困る問いかけだった。

「…こ」
「何言ってんだお前。お姉さんに話してみ」

ぜぇぜぇ言いながら頭を抱える神楽の手が、這い寄るように近付いた智の左耳を引っつかんだ。
彼女が「痛ぇ!!」と叫ぶ前に、神楽は大きく息を吸った。

「ここだよ!!ここ!!」

エネルギーが蓄積していたのか、凄まじい声量だった。
先ほどまで銃火器を振り回していた竜馬すら、一瞬だがぎょっとしていた。

「って、ああもう少し過ぎちまった!先生、ちょっと戻って!」
「あいよ」
「真っ直ぐって言っただろ!先生!人の話聞いてくれよ!!」
「え?むせてたじゃん」
「お前の肩叩いただろ、智!!何度も!何度も!」
「あー、重いの持ってたから麻痺してた。私ってこう見えて神経は繊細だからさ」
「お前がそんな上等な神経の持ち主か!!」
「仕方ないじゃん、感じなかったんだから」
「かっ…変なこと言うな!!」

何やら、勝手に話が始まった。
恐らく、到着するまで続くだろう。

256ゲッターロボ+あずまんが大王 第8話-(4)-:2014/01/03(金) 23:04:12 ID:yW8O/g/E0

「疲れるでしょ、こいつらといると」

疲労と緊張の弛緩により、ややぐったりとしていた竜馬に、ゆかりが声をかけた。

「ま、こんな連中をまとめられるのも私の手腕があるからよ」

性格に問題ありだというのは智の談だが、
多分それは彼女の隣にある物どものせいだろう。
独り身だというのは、なんとなく分かったが。
ブロンドヘアーの中々の美人さんだが、並の男では御せられないのだろうと。

そんなことを考えているうちに、車は停車した。
山の斜面の一角に、白いシートで覆われた箇所があった。
町外れ、そんな言葉が正しい場所に、これはあった。
建築中の、建物か何かのようだった。

「おし、これだな。じゃお前ら降りろ」
「え?」

返したのは竜馬である。
『ら』とはどういうことなのか。
聞き間違えだろうと竜馬は思った。
先ほどから、鼓膜が酷使されているせいだと。

「おい智。まだ話は終わってないからな」
「はいはい分かった分かった。ん?竜馬は降りないの?」
「降りるよ。俺は」
「あんたも、よ」

聞き間違えでは無かったらしい。
なし崩し的に、三人は車から降ろされた。

257ゲッターロボ+あずまんが大王 第8話-(4)-:2014/01/03(金) 23:05:08 ID:yW8O/g/E0

「あの、なんで二人も」
「え、いや。こういうのって、そういう展開じゃないの?」
「何がですか」
「大人は大人でやることあんのよ。ガキは邪魔にならないように隠れてな」
「危ないと思うんですが」
「大丈夫よ。あんたがいるし」
「んなムチャクチャな」

少なくとも、会ってから僅かな時間しか経っていない人間に託すことではない。
しかし、その時間も少ないようだ。
竜馬は、再び地面に足を降ろしたその時から、
足の裏で生じる『振動』に気付いていた。

「…分かりました。生徒さんをお預かりします」

『生徒さん』どもは早速先程の続きをしていた。
ヒートアップしているのか、互いに互いの頬を抓りあっている。
ぐにぐにと、柔らかく張りのある肌が漫画のように伸ばされていた。

「そんなに畏まんなくていいよ。グロい怪我とか死ななければ御の字」
「…まぁ、それが俺ならいいんですがね」
「…ナガレくん、ちょっと耳貸しなさい」

妙な気配がしたが、逆らっても逃げられなさそうなので、
竜馬は大人しく従った。
首肯に近い形で顔を近づけると、頭部で『ポカン』と間抜けな音が鳴った。
緩く握られた拳が、彼の頭を叩いたのだ。

「ガキのくせに、死ぬの生きるの簡単に言うんじゃないわ」

僅かに、その表情から疲れが見えた。

「少年。あんた、もしも心臓をエグられたらどうなる?ここをぐいーって掻っ捌かれて」

少しだけ時間を置いて、

「多分、死にます」

と応えた。
多分、という言葉と即答ではなかったことにゆかりは少しの疑問を感じたが、
それは無視することにした。

258ゲッターロボ+あずまんが大王 第8話-(4)-:2014/01/03(金) 23:07:33 ID:yW8O/g/E0

「あんま無茶するんじゃないわよ。強いみたいだけど、あんたは普通の人間なんだから」

普通という言葉に、思わず竜馬は苦笑したくなった。
そんな言い方をされるのは、一体何時以来だろう。
もしかしたら、生まれて初めてかもしれなかった。

「努力しますよ」
「努力じゃ駄目だ。結果出せ」

強引だが、尤もな言葉だった。
存外に優秀な教師ではないかと、竜馬は思った。
少なくとも、彼が昔に通っていた学校の教師とは大きく異なっている。色々と。

「つまり死ぬなってことよ。あんたが死んだら、少なくともあの連中も死ぬわよ」
「…分かりました」

すぅっと、竜馬は息を吸った。
咽喉の痛みを、今になって思い出していた。

「あいつらは、絶対に死なせやしませんよ」

それは、確かな決意の顕われだった。

「うん、ならそれで良しとしておこう。そんじゃ、行ってらっしゃい」

少し深めにこうべを垂らし、竜馬は白いシートの中へと消えていった。
僅かに開いたその先から、

「うわぁ!すげぇ!!」

と空気の読まない声が聞こえてきた。
どうやら、既に進入しているようだった。

259ゲッターロボ+あずまんが大王 第8話-(4)-:2014/01/03(金) 23:08:06 ID:yW8O/g/E0

「凄いというか何というか、面白い連中ね」

竜馬の姿が消えてすぐ、かつて彼がいた場所に、白衣の女性が座っていた。
どのような偶然か、周囲は熱が渦巻いているのに、
開いているドアから入ってくる煙も空気も、何故か冷気を纏っていた。
その女性の、声色のように。

「近くにいたなら言いなさいよ。鬼娘」
「あらかた片付けたわ。というよりも、一番大きくても、さっきの角竜だけだったみたいね」
「なにそれ。拍子抜けするわね」
「多分、収容したか様子見だったんでしょう」
「ふうん。まぁ、こっちとしては命拾いしたからいいわ」
「そうね」

隠そうともせず、どことなく残念そうな口調で女性は言った。
ゆかりの方は、軽く「けっ」と呟いた。無論、相手によく聴こえるように。

「でも、何かあったら監督責任を取られるのはあなたじゃないの?」
「証拠物は、私のじゃないし」
「ある意味、誘拐に近いと思うのだけれど?」
「いや、勝手に着いて来たから乗せただけ」
「だったら、こっちの方に回して欲しかったわ。
 あぁ、お友達なら元気よ。少なくとも今は」
「じゃあ大丈夫だわ。体育会系だし」
「貴女って、悪い人ね」
「言われたくないわ、あんたには」

バックミラー越しに、女性の笑みがゆかりの眼に映り、
ゆかりの笑顔はサイドミラーによく映っていた。
女傑という存在の、手本に出来そうな表情を、彼女らは浮かべていた。














つづく

260ゲッターロボ+あずまんが大王 第8話-(5)-:2014/01/17(金) 01:18:25 ID:yW8O/g/E0

ゲッターロボ+あずまんが大王 第8話-(5)-


「何でお前らまで来るんだよ」
「なんでというか…」
「降ろされちゃったしね」
「一種の置いてけぼりだよな」
「お前ら疑問とか思わなかったのか?」

互いの声がそれなりに大きいことと、この場の環境が会話を可能にさせていた。
彼らは今、細い通路を走っていた。
炭鉱然、とでも言うような山の斜面に設けられた簡素な入り口から、
四方を簡単な支柱で支えられた岩や土の洞へ、そしてしばらくした後の、
四面が金属光沢と確かな足取りを伝える滑らかな通路へ。
高さは、身長約174cmの竜馬よりも頭二つ分程度高く、およそ2m少々といったところ。
幅は約3m程度。その大きさを、竜馬は「丁度こいつ等が縦に並んで寝転がったぐらいだな」
と判断していた。尚、神楽の身長は156cm、智の身長は154cmである。

「ま、今戻っても危なそうだしな」

走りつつ、神楽は竜馬に言った。
確かにその通りである。
彼女らを降ろした女教師の性格上、もう既に車は無いと思った方がいい。
それならば、町に上がるよりもこのまま行った方が無難だと神楽は思っていた。

「…まぁ、そうだな」

竜馬は、全く安全である気がしなかった。
彼自身、こんな場所を全く知らなかったということもある。
それに、事実上の拉致をされた後に待つものは(いいことがある拉致ということ事態異常だが)
ろくでもないことであると、彼は経験上知っている。

「おい滝野、生きてるか?」

ペースは落さず、竜馬は首だけを後ろに回した。
自分(竜馬)→→神楽→→→→智となっていることが分かった。
矢印一つで、1mと思ってもらえればいい。

「ああ!!なんとかな!!!」

死ぬほど元気そうな声だった。
言っている間に、また二人から離れつつあったが。

261ゲッターロボ+あずまんが大王 第8話-(5)-:2014/01/17(金) 01:19:56 ID:yW8O/g/E0

「ところでお前、何持ってんだよ」

今までどこに隠してたんだ、という意味もある問いかけだった。
ぜぇぜぇ言いながら走る智の左手が、何かを掴んでいる。
薄暗い中で見えたのは、灰色に近い白色の布の切れ端のような物だった。
それが智の手を介して肩に回され、背中から時折ちらちらと膨らみの
断片を覗かせるところから、何か袋を背負っていることが分かった。

「気にするな!あとのお楽しみだ!!」

嫌な予感と、期待が竜馬の中で渦巻いた。
この際、使えるものはなんでも使おうと思い始めていた。
当然、嫌な予感の方が強かった。

「重いんなら持ってやろうか?」

返ってきた声が叫び声に近いものであったためか、
敬語を使い続けていたことの反動か、
竜馬の口調にからかいの要素が加わっていた。

「私とセットならいいぞ!」
「分かった、頑張れ」
「車で見てたけど、お前らちょっと似てるな。何が似てるのか分からないけど」

経験が無かった訳ではないが、突っ込み役に回ることに
神楽は新鮮な何かを感じていた。
また、咳き込みつつも様子は伺っていたらしい。

「もう背負えねぇぞ。ちとヤベぇからな」

ヤベぇのはお前だと、走りながら神楽は思っていた。
包帯を剥かれた彼の怪我の具合は、走るどころか歩くことすら出来そうに無いものだった。
そして、彼の筋肉の付き方にも並々ならないものを感じていた。
水泳部の連中と比べても、至る所を朱に染めていたとしても、
実に作り込まれたカタチをしていたのを、彼女は覚えている。
身体能力に純粋な興味を持ち始めていた。
一体、何をどうすればここまで強くなるのかと。
そして、男の半裸をまじまじと見ていたことを思い出し、
初心(うぶ)な少女の心は頬の紅潮と体温の上昇という形で肉体に作用していた。

262ゲッターロボ+あずまんが大王 第8話-(5)-:2014/01/17(金) 01:21:41 ID:yW8O/g/E0

「(トレーニング法とか、聞いてみようかな…)」

尚、彼がやばいと感じた怪我の具合ではなく、足の下から伝わってくる振動にあった。
時間は、刻一刻と迫ってきていた。

しかし、これ以上は速く走れなかった。
既に同年代の連中の中でも上位のレベルのスピードで走っていたが、
この程度は彼の中では余所見をしながら怠惰に行う散歩と大して変わりなかった。
それが現状では体力の消耗を確かに感じさせるものになり、
動かす度に、痛みと筋の引きつりいう形で彼を苛んでいた。
また、置いていくわけにもいかなかった。
最悪の場合、運ぶ手段に拘ることなく実行するつもりでもあった。

既に、視線は前へと移っている。
ぎらついた眼は、光を増していた。
通路の切れ目が、間近に迫っていた。

この状況下で、何があるのか。
彼はなんとなく分かっていた。
何故か、不安と嫌悪感は無かった。

「(逃げられねぇってことか)」

皮肉めいた、たちの悪い冗談を悪友から言われたような、そんな気分だった。

その視界に、何かが映りこんだ。

通路の先より這入り込む光を、その影は遮っていた。

「伏せろ神楽!!!」
「っ!」

反射的に頭を抑え、倒れ込むようにして神楽は床に伏せた。
彼女の運動神経と、異形たちの侵略の中で生き残ったために身に付いてしまった
退避行動だったが、それを成し得させたのは竜馬の叫びであった。

伏せつつ、彼女は見た。
光を遮る者の姿を。

それは、壁面に手を伸ばしていた。
神楽の顔があった場所を通過したそれは、壁の鉄板を貫きその一角を歪ませていた。
音も無く引き抜かれた先端は、黄ばんだ歯のような色をしていた。

263ゲッターロボ+あずまんが大王 第8話-(5)-:2014/01/17(金) 01:23:10 ID:yW8O/g/E0

そのシルエットは、ヒトガタをしていた。
薄暗い中で、何かがのたうつ。
それは、ヒトガタの背後で蠢いている。
しゅうしゅうという、蛇のそれに近い呼吸音が彼らの鼓膜に届いた。

「クワァッ!!!」
「うるせぇ!!!!」

忌々しい叫びと雄雄しい怒号が、爪と拳が交差する。
爪は彼の頭髪を僅かに落としたが、彼の拳は、襲撃者の頭部を捉えた。

驚愕の色を含んだ息が零れる。
それは、竜馬の口から生じていた。
捻じ込んだ拳から、異様な感覚が脳へと伝わっていた。
そこに、一条の肉の鞭が迫った。

「ちっ…」

彼は、右腕でそれを受けた。
残る左手も、右腕を支えている。
先ほど殴打のために振るわれたのも左手だった。
その甲の包帯が、抉れていた。
内側にある肉が、僅かに断面を覗かせている。

「智!急げ!!」

神楽が叫んだ。
私達は邪魔になる、とその声は告げていた。

「ッ!?」

右腕を基点に全身に広がる激痛の中、彼は見た。
受け止めた尾の先端の、金属の光沢を。

「この空き巣野朗!!」

ぎりぎりと、異形の力が込められる尾を、竜馬は現状で出せる限りの渾身の力で振り払った。
襲撃者の身体が薙ぎ払われ、壁面へと叩きつけられる。
その反対側を、智は駆けていった。

壁面に埋まっていない方の眼がぎょろりと動き、
自分の姿を中に写していたことに、彼女は生理的な嫌悪感を覚えたが、構わずに走った。
彼の邪魔には、なりたくなかった。

264ゲッターロボ+あずまんが大王 第8話-(5)-:2014/01/17(金) 01:24:29 ID:yW8O/g/E0

智を怯えさせたその場所に、竜馬の左拳が飛んだ。
竜馬の拳によって、壁面には洗面器大のクレーターが生じた。

しかし、僅かな鱗だけを許し、異形は壁から滑り抜けていた。
その動きの中で、尾が独立した生物のように異常な動きを示した。

頭部に向けて去来する切っ先を前に、彼は下半身の力を緩ませた。
怯えたのではない。
戦うために、である。

「ぅるぁあ!!!」

獣の声帯を通る空気は、こういう音を孕むのかもしれない。
恐ろしい唸りとともに、弛緩した右足に力が籠もり、
襲撃者の腹に蹴りとなって叩き込まれた。
足の先が、肉と鱗以外の感覚を捉え、爪の損壊を告げたが
竜馬は気にせず、更に力を籠めた。
襲撃者の身体は、電球のいくつかを巻き込んで天井を奔った。

壁面にぶつかり、床面をそのカタチに経込ませたが、
一瞬の停滞のみを残して異形は再び竜馬に迫った。

鋭角を備えた指が、竜馬へと迫っていく。

竜馬は、右足の硬直を感じた。
視線を落すと、黒いジーンズの一角に隙間が生じていた。
眼で認識した時に、そこから溢れ出す物に気付いた。

「グゥゥアアアア!!!」

束ねられた指が開き、竜馬の頭部へと巻き付いた。
竜馬を振り回すように拘束しつつ、異形はそのまま回廊を走破し、光の先へと抜けた。

「っがぁあ!!」

光を浴びると同時に、竜馬は両拳を自らを縛める腕へと放った。
二つの拳が、異形の肉越しに組み合い、挟まれた肉と骨を歪ませた。
拳の接触面が陥没し、また、押しやられた筋が皮膚を食い破って露出する。
そして、それに砕かれた骨が続いた。

265ゲッターロボ+あずまんが大王 第8話-(5)-:2014/01/17(金) 01:25:23 ID:yW8O/g/E0

「ガァ」

悲鳴にも似た叫びに次いで、大きく振りかぶると、異形は竜馬を投げ飛ばした。
ほぼ同時に、鈍い金属音が鳴り、仰け反る異形の胸部が異常な形状を光に晒した。
その中心に、竜馬の左足があった。
ほぼ踏みつけに近い、強烈な前蹴りで陥没した場所を基点に、竜馬の身体が宙を舞う。
蹴りによって、投擲による力を相殺させていた。
もしまともに投げられていたら、壁面や地面への激突による大ダメージは必至だった。
普通の人間なら、一撃で全身の骨と肉を砕かれ、内臓を潰されてしまうだろう。

ふらつき、右足を引き摺りつつも着地した竜馬と異形の間には、約10m程の距離が開いていた。

「竜馬!」

智の声が、竜馬から見て右側で生じた。
かろうじて、りょうま、と聞き取れる、掠れた声だった。
そして智は、傍らの神楽に何かを手渡した。

「ガァァァアアアア!!!!!!」

口と胸から赤紫の液体を滴らせながら、血塗れの咆哮を上げる異形。

それに雑じって、風を切る音を感じた。
彼にとっては大きさは違うが、似たような音だった。

「(成る程な)」

それは、智から神楽へ、

「(お楽しみか)」

そして竜馬へと伝わった。
ブーメランのように回転しつつ飛来したそれを、鎌のように振られた右手が受け止める。
がしっという、獣に噛み砕かれる骨のような音を立てて、
それは竜馬の下へ『帰り』着いた。

大きく開いた異形の両腕の、鎌のような爪を従える手。
貫き、引き裂くことに特化した錐のような歯が密集した口蓋。

一瞬の停滞も無く、それらの中心たる異形の体幹に、その切っ先は向けられた。
無骨な鉄の身をもった狂気の塊は、天井から注ぐ光を受け、
どす黒い輝きを放っていた。

266ゲッターロボ+あずまんが大王 第8話-(5)-:2014/01/17(金) 01:26:01 ID:yW8O/g/E0

侵略者曰く、ちゃちな武器。
狂人染みた科学者曰く、傑作の一つ。

「くたばりな」

粘着いた唾液と渇きによるためか、黒く、
えぐい発音とでも言うような声を、竜馬は異形へ与えた。
そして、引き金が引かれた。

ドワッ 
  

ドワッ


ドワッ


兇悪な、存在してはいけないような音が鳴った。
空気が弾け、虚が砕けるような音だった。

引かれたのは一度きりにも関わらず、それは自らに
内蔵した殺意の塊を、断ち続けに3発も吐き出した。

放たれた弾丸は空中でばらけ、鋭利な無数の刃と化して異形の全身に突き刺さっていった。
一発目で、表面の皮膚がずたずたになり、二発目は筋肉と骨をもぎ取った。
三発目の弾丸で遂に全身が狂気の奔流に耐え切れなくなり、腕はもげ、
口蓋が引き裂かれ、頭部が内容物の原型も残らず爆散した。

また、内包された散弾を出し尽くして尚、威力は衰えないのか。
胸部に当った三発の弾丸によって、竜馬に穿たれた大穴はこじ開けられ、
背骨さえも砕かれ、異形越しに反対側の景色を露出させていた。

ほぼ挽肉となった異形から生じた、液体を舐め啜るような音に雑じって、
からからという金属音が床面で鳴っていた。
やがてそれは、異形から溢れた赤紫に呑まれていった。

267ゲッターロボ+あずまんが大王 第8話-(5)-:2014/01/17(金) 01:28:42 ID:yW8O/g/E0

「…凄いな。なんだよ、それ」

自らが投げたものが成した破壊行為は、グロテスク極まる遺骸の状態を眼にして尚、
武器としての性能に着目せざるを得ない興味を神楽に与えた。
或いは、異形以上の脅威と受け取ったためか。

「普通のマグナムだよ」

そんな訳は無いが、妙に興味を持たれても困る。

竜馬の知る限りでも最上級の狂気が作り出した傑作品。

三連発小型散弾銃であった。

よく見ると、真新しい油が差してある事に気が付いた。
量が多く、ややどろっとするほど塗りたくられたそれは、
一目で素人のものだと分かった。
先ほど引っ張られた頬が、同じ匂いを宿している。
そうか、そうだったのか、と竜馬は思った。

ここで、竜馬は自身の身体に宿る力が霧散していくのを感じた。
グリップを握る指は辛うじてその形を保ち、膝を折り曲げることはしなかったが、
呼吸は乱れ、両手はだらりと垂れ下がった。
一呼吸するごとに熱の変わりに、冷気が気道に這入り込み、彼の全身の熱を下げていく。

「(筋もやられてやがるのか。情けねぇ)」

ただでさえ強烈な反動は、現状の彼に多大な負荷を与えていた。
以前だったら痺れる程度だったそれが、
骨に針を抉り込まれていくような感覚に変わっていた。

268ゲッターロボ+あずまんが大王 第8話-(5)-:2014/01/17(金) 01:29:44 ID:yW8O/g/E0

「おい…竜馬…」

駆け寄りつつ、その傍らに神楽は立った。
神楽が彼の名前を呼ぶのは、これが初めてだった。
運動部だからこそ、彼女は分かっていた。
竜馬を苦しめるものは、単なる疲労や怪我ではない。
生命に直結するものが、脅かされ始めているのだと感じていた。
手を差し伸べることも躊躇うほど、彼の呼吸は乱れていた。
羽織われていたコートは、異形の投擲を受けた際に、
遂に背中が引き裂け、崩れていた。
絞り込まれ、一見細くさえ見える逞しい肉体の表面を、
赤と白と、凝固した赤黒が覆っている。
手や肩を貸すにしても、何処に触れてよいのかさえ分からなかった。

ふと、智が来ていない事に気付いた。
様子を見ている限りだと、自分を押し退けてでも、
真っ先に来てもおかしくは無いはずなのに。

智のもとへと視線を送ると、
彼女は、別の場所を見ていることを知った。

その方向に、神楽も視線を這わす。

アーモンド状の、彼女の性格を体現したかのような眼に、それは這入り込んだ。

高さも幅も、彼女らの体育館を真横に切り裂いたような、この空間の奥に、それはいた。

智は、魅入られたようにそこを見ていた。
神楽は、自分の動悸が激しくなっていくのを感じた。
竜馬も、その存在に気が付いた。

破裂しそうなほど蠢いていた彼の心臓が、どぐりと一際大きく鳴った。
それを最後に心臓の唸りは鳴りを潜め、呼吸も元に戻っていく。
がたがたと蠢くように震える足も、まるで抑え付けられたかのように
その震えが止まっていった。

そして、坂道に垂らした水が自然に流れ出すように、彼はそこへと歩を進めていった。

269ゲッターロボ+あずまんが大王 第8話-(5)-:2014/01/17(金) 01:31:53 ID:yW8O/g/E0

カツリ、カツリと、鈍い銀色をしたタイル状の金属床を踏む音が、無機質に鳴り響く。

歩み進めていく先に、巨大な穿ちが生じていた。
天井からは、細く長いケーブルと、
昆虫の節足のような形状をした機械の束が群れを成してぶら下がっている。

その中心に、それはいた。

誰がいつ、この場所を構築したのか、何故異形がいたのか。
その全てに彼は答えを持っていなかった。

だが、そこにいるものの正体は分かった。

予感じみたものはあったし、現段階で
対抗する手段はこれしかないことも分かっていた。

薄暗く、その全身の大半を暗闇に喰わせつつも、その輪郭が彼には分かった。

「竜馬!」

彼がふらりと横を見ると、そこに智が立っていた。
彼女の手には、例の袋が握られていた。

「ん…あ、ああ!ごめん、ちょっと待ってね」

これを取り出すのに、そんなにがさごそやる必要があったのか、竜馬には疑問だった。
というよりも、どうやればこれが中に入るのか。

彼女が突き出したのは、あの2Lボトルのコーラだった。
相変わらず(変わるはずがないのだが)、間抜けな筆記体でその名称が書かれていた。

「面白ぇ特技持ってるじゃねぇか」

渇き、古傷の浮かび上がった唇を歪めて、竜馬が言った。
彼は笑っていた。

270ゲッターロボ+あずまんが大王 第8話-(5)-:2014/01/17(金) 01:34:50 ID:yW8O/g/E0

「ありがとよ」

真っ直ぐ天井を向き、がばっと口を開け、口を付けずに食道へ一気に流し込む。
程よく抜けた炭酸の甘みと水分は、文字通り彼の身体に染みこんで行った。
ヘタに量が多いよりも、このぐらいで丁度いい、と竜馬は思った。
飲み終わったそれに丁寧にキャップをし、
「ご馳走さん」と告げて智へと突き出した。

「いや、もういらないよ」
「売るんじゃねぇのかよ」
「そんな場合じゃないし」
「そういや、そうだな」
「お前ら、何言ってんだよ。こんな状況で」

そこに、神楽も歩み寄る。

「「確かに(な)」」

二人の反応はほぼ同じだった。
言い始めも、言い終わりも。
パクるな、うるせえ、というやり取りをしつつ、

「どんな世界でも、こんな時にこんなコト言ってる連中なんていねぇよ」

と、悪意の無い皮肉っぽい笑いを浮かべて竜馬は言った。

「おおー。そう言われると、誇らしいね。ある意味進化だよ」

無い胸を張り、智も笑う。

「連中って、私もかよ」

疲れたように、神楽は目元を左手で覆っていたが、
その口はにいっと広がり、白い歯を二人に見せている。

271ゲッターロボ+あずまんが大王 第8話-(5)-:2014/01/17(金) 01:39:46 ID:yW8O/g/E0

「ああ。運が無かったんだよ」
「まぁ、確かに」
「ふ…フフ」
「滝野、お前何、笑ってやがる」
「お前も、似たようなもんだぞ。竜馬」
「へ、そうかい」

それから、直ぐの事。
誰が始めたのかは分からなかった。
恐らくは同時だったろう。
三人は、笑い声を上げていた。
はしゃいでいたと、言ってもいい。
底無しのエネルギーを宿した、暴走馬鹿の笑い声。
快活な、運動に青春を捧げている少女の声。
そして、元来彼が持った明るさと人間味が合わさった声。

それらは不思議で、不可解で。

そして、ある意味普通の光景だった。
彼らは、同年代の若者達なのだから。

「はっ…何やってんだろうな、俺らは」

彼は、思い出していた。
あの時も、こんな気分だったと。
正確には、近かったというべきか。
絶体絶命の中で、亡き友と飛び立ったあの時に。

今度は自分の番だと、竜馬は思っていた。

「じゃあ、俺は行くぜ」

毅然とした口調で、竜馬は二人に告げた。

「…ああ」
「おう!頑張れ!」

神楽に次いで、智が言う。
そこに。

「あ、そうそう」

再び、あの袋をごそごそと漁り始める。
今度は、すぐに見つかったようだ。

272ゲッターロボ+あずまんが大王 第8話-(5)-:2014/01/17(金) 01:41:20 ID:yW8O/g/E0

「はい、これ」
「おい、これは…」
「いいからいいから。風邪、引くよ」
「……おう」

渡されたのは、男子用の学生服の上着だった。
体育館で、彼が見た連中のものと同じ黒色の、どこにでもありそうな上着だった。

「(最近のはボタンが随分小せぇな)」

と、どうでもいい感想を抱きながら、ああ、そうだ。と竜馬は加えた。

「神楽、こいつは頼んだ。俺らと違ってもうロクに動けやしねぇはずだからよ」
「なんだと!智ちゃんを甘く見る…ん?」

言い終えるが早いか、膝ががくっと折れ、ぺたりと膝を、そして尻が床に着いた。

「ほれ見ろ。燃料切れだ」
「う、うるさい!この怪我人め!」
「まぁ、この調子なら大丈夫だろ。危ねぇから、俺が行ったら端っこまで下がってろよ」

神楽に目を向けると、神楽はそれに頷きで応えた。

「おう。んじゃあな」

まるで、下校途中で分かれる時のような言い方であった。

竜馬は制服の襟首を見た。
『長谷川』と書いてあった。
不幸な奴もいるもんだと、竜馬は思っていた。
そういえば、投げて退かした連中の中に、
一人だけYシャツ姿の奴がいたような気がしていた。

273ゲッターロボ+あずまんが大王 第8話-(5)-:2014/01/17(金) 01:46:07 ID:yW8O/g/E0

そして再び、彼は動き出した。
彼女が渡した学生服を羽織い、二人に背を向けて歩き出す。
その輪郭は、ひどく歪んで見えた。
包帯が引き剥げた親指も、本来は爪がある箇所が肉の色を晒している。
恐らく、他の部分も似たようなものになっているだろう。

彼が一歩進むたびに、存在が遠くなっていく。
二人は、竜馬がついさっき、ほんの一分足らず前に笑い合っていたものとは、
別の何かに変わっていくような気がしていた。

世界が違うような、異なるものであるというような感覚さえある。
彼の存在を否定するような感情が何故沸きあがってくるのかは分からなかったが、
それを認めるのは嫌だった。

遂に穿ちの縁まで、彼は辿り着いた。
手摺の無い縁の先に、天井から下がる管と鉄の中心に、
穿ちの中で、それは彼を待っていた。
彼はその様子を、『檻』だと思った。
つまり、中にいるものは―――。

足をがくがくと震わせながら、智は彼に寄ろうとした。
もしかしたら、止めようとしたのかもしれない。
それを、神楽が抱きすくめる様にして抑えた。

もうここから先は、彼の住む世界の領域であるようだった。

その先にあるものへと向き合っている彼の左腕が、ゆっくりと水平に伸びていく。
末端の手は、拳の形を取っていた。

「また、遊ぼうぜ」

そして、剥げていた包帯を器用に巻きつけ、親指を立てた。

そのまま振り向かず、彼は「それ」に向って飛び降りた。

背後で鳴った叫びが、竜馬の耳にこびりつく。

274ゲッターロボ+あずまんが大王 第8話-(5)-:2014/01/17(金) 01:47:16 ID:yW8O/g/E0

ケーブルと機械の檻を抜け、中心部へと近付いていく中、竜馬はそれに目を向けた。


そいつを見つめる竜馬のぎらついた眼光は、
光を宿さぬ、機械の眼に向けられていた。



「久しぶりだな、兄弟」




それはまるで、悪友に語りかけるかのような声だった。

彼を背を覆った黒色が、まるで翼のように翻り、
吸い込まれるようにして、竜馬の姿は、彼が『兄弟』と呼んだ者の胸元に消えていった。


そして、煌煌とした二つの光が、闇の中で輝いた。

二人の少女の、その前で。
















つづく

275追い出された名無しさん:2014/02/18(火) 18:47:02 ID:yW8O/g/E0
本スレ埋まってね?

276追い出された名無しさん:2014/02/28(金) 02:54:06 ID:17S8mV5YO
何か板ごと落ちたみたいだな
本スレ新しいの立てたばっかだったのに…


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