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決闘バトルロイヤル part4

248 ◆ytUSxp038U:2024/10/10(木) 23:23:26 ID:m81FVtx.0
投下終了です

249 ◆QUsdteUiKY:2024/10/21(月) 00:39:05 ID:rR.sf6O60
投下します

250凛と咲く花のように強く美しいナルシスト ◆QUsdteUiKY:2024/10/21(月) 00:40:57 ID:rR.sf6O60
尊とユキは、新たな仲間を探すために探索していた。
 なかなか参加者と遭遇出来ないが、その分だけNPCを打ち倒し、尊はパンチホッパーとしての力を着実に身に着けていた。

「それにしてもこのアイテム、どうして表裏で色が違うんだ?」

 尊は影山がそうしていたように、灰色の側を表にしてパンチホッパーに変身している。
 じゃあどうして、もう片方は緑色なのか。
 まあそういう道具だと片付けでも良いのだが、何かが引っ掛かる。NPCの蛹ワームを倒した尊は、変身解除して緑色の側を見る。

「それは、何か特殊なギミックがあるアイテムなんじゃないか?」

 蛹ワームの大群を倒したいて気配に気付かなかったが……いつの間にか居た黒の剣士が声を掛ける。
 他に居たのはI♡人類とかいう悪ふざけみたいな黄色の服を着た男と――

「これが新しい仲間か?空よ」

「ばんなそかな!?」

 何故か日本語を喋るよくわからない物体に、しかもNPCのような蝙蝠のモンスターまでいる。

「安心してくれ、こいつらはNPCじゃない」

 空はリリスとキバットがNPCじゃないと口にした。
 ユキはこの手の類のモンスターには慣れてるから何も思わなかったが、尊は少し考える。
 本当にNPCじゃないとしたらこの理由のわからない生き物達はなんなのか、と。
 しかし攻撃してくる様子はない。いきなり喋りだしたことは驚いたが……

「……ハ・デスが言っていたな。この世には無数の世界があるって……事実、この道具や仮面ライダーという言葉を僕は知らない。そいつらも僕とは違う世界の住人ということか」
 
「ボクとタカノリくんも全然違う世界だもんね。ボクの世界にはこういう魔物も普通にいるよ♪」

「そういうことだ。しかもこいつらは支給品として渡された。参加者でも、NPCでもない特殊な存在だ」

空の言葉に尊は驚くが、影山が託したホッパーゼクターも意思のようなものがある。
 そういう支給品も、存在することを認めざるを得ない。

「とりあえず自己紹介から始めないか?俺はキリト。……過去にデスゲームに巻き込まれて、クリアした経験がある」

「何!?過去にもこんなことが起こっていたのか!?」

251凛と咲く花のように強く美しいナルシスト ◆QUsdteUiKY:2024/10/21(月) 00:43:01 ID:rR.sf6O60
「ああ。あの時は仮想世界だったけどな。……まあ今回はリアルっぱいのに俺が何故かリアルじゃなくてアバターで巻き込まれてるから、以前以上にイレギュラーだ」

「ちなみにボクは初めてだよ」

「僕もだ。海斗ならともかく、僕はこんな殺し合いに巻き込まれることをした覚えはない」

「俺も初めてだな。というか、キリト以外は全員初めてだ。……ところでその海斗って奴はどういう奴なんだ?」

「忌々しい問題児で、僕たちボディーガードの恥だ。……まあたまに頼りになることもあるがな」

 その話を聞いて、空は海斗と尊の大まかな関係性を把握した。
 口では悪態ついてるし、実際に犬猿の仲なのだろうがその実力は認めているといった感じか

「その海斗は駆紋戒斗か?天城カイトか?」
「朝霧海斗だ。この殺し合いの名簿には載ってない。あいつのことだから、巻き込まれてると思ったんだけどな。ちなみに僕の知り合いは名簿に一切書かれてない」

「ボクはヴァイスフリューゲルの仲間……モニカ、ニノン、クウカが巻き込まれてるよ。あとは……見せしめに殺されたアユミだね……」

 ユキの声は、少し寂しそうだった。
 大切な仲間を失ったのだ。当然だろう。
それに続いて影山まで失い……気丈に振る舞っているが、ユキの精神的なダメージは少なくない。
 それでも今もこうして平静を保てているのは、尊が何かと面白い存在ということや、アユミや影山の意志を継ぐためだ。
 こんなところで、泣いていられない。今でもきっとみんな、必死に抗ってるはずだ。今、目の前にいる尊がそうであるように。

「そうか……。それは辛かったな……」

 キリトが同情気味に口にする。
 サチとユージオ。
 自分にもっと力があれば助けられた大切な人を二度も失ってるキリトには、ユキの気持ちがよくわかる。

 仲間が居ると言えば聞こえは良いし頼もしく感じることもあるが……こういうこともある。
 アンダーワールドを救えたのは、ユージオのおかげだ。それは間違いない。
 だからといって、ユージオを失ったことを悔いてないといえば、嘘になる。

 きっとこの少女にも、これから色々と辛い出来事が起きるのだろうと思う。……実際は男だが、まだキリトは気付いてないゆえに少女だと誤認している。
 もしかしたら――アスナ達が巻き込まれなかったのは、運が良かったかもしれない。
 アスナ達が居ればそれほど頼もしいことはないが、彼女達を殺されたくはないから。

 (そんなふうに考える俺は、自己中なのかもな……)

 大切な仲間が巻き込まれてる少女を見て、まだ自分は運が良い方だと思った。
 ……同時に、そんなことを考えてしまう自分が最低だとも。

 もしかしたら――こうしている間にも、少女の仲間が誰かに襲われてるかもしれない。殺されてるかもしれない。
 そんな少女になんて声を掛ければ良いかわからなくて――

「顔色が悪いぞ、キリト」

 そんなキリトに空が声を掛ける。
 ユキの声色から、彼女(実際は男だがそこまで流石の空でも見破れなかった)が悲しみを滲ませてるのはわかる。
 そしてキリトは二度目のデスゲームに巻き込まれた――謂わばリピーターだ。
 一度目のデスゲームで、様々な仲間の命を散らしてきたことは簡単に想像出来る。
 キリトはその背中に、とてつもなく重いものを背負っているのだ。

252凛と咲く花のように強く美しいナルシスト ◆QUsdteUiKY:2024/10/21(月) 00:43:46 ID:rR.sf6O60
それは空にはどうしようもない出来事で。
 でも空黒になり、相棒になったからこそ――放ってはおけない。空はなんだかんだ、優しい人間だ。
 だが、この状況をどうしたら打開出来る――

「自己紹介の途中だったよね。ボクの名前はユキ。よろしくね♪」

 ユキは、どこまでも気丈に振る舞っていた。
 その姿があまりにも辛くて尊も、キリトも、空も――皆がユキを心配している。

 だが――ユキとそれなりに付き合いが長い――といっても数時間だが、そんな尊だからわかることがある。
 ユキが気丈に振る舞ってるのだ。きっと悲しいに違いないのに。自分だって麗華や彩、それに薫や侑祈を失えば悲しい。……そこには海斗すら含まれている。

 それでもユキは気丈に振る舞ってる。普段通りの振る舞いで――それはまるで気高く咲く可憐な花だ。
 ならば尊がすることはもう決まっている。

「僕は宮川尊徳だ。このナルシストとは数時間前にあった」

「タカノリくんの方がナルシストだよ。ボクはほら……鏡を見ればそこには美少女が写ってるよ♪」

「そういう奴をナルシストというんだ。だいたい僕はエリートだぞ」

「証拠はあるの?♪」

「僕の世界のエリートだからな。証拠はない。だが僕は優秀なボディーガードとして暮らしてきたぞ」

 ――そんなふうに軽口を叩きあって、ユキの気持ちを癒してやる。
 ただただ悲しんだり、無理して気丈に振る舞わせるよりは気が晴れると思ったから。
 その軽口の応酬は、まるで海斗と話しているようで自然と尊の心も落ち着く。……こんな場面であの男を思い出すのは、少し癪だが。

 そして気が付けば自然とユキは本来の調子を取り戻していた。

「仲が良さそうで、なによりだな」

 二人の掛け合いを見て、微笑むキリト。
 空すらも打開出来ない状況を――ユキの笑顔を尊は守った。そういう意味では、たしかに尊はボディーガードとして優秀なのかもしれない。精神的な意味で。

「誰がこんなナルシストと仲が良いものか」

 もっとも尊がこういう漫才染みた掛け合いが出来るようになったのは、海斗のおかげなのだが。

「とりあえずこれからもボクのボディーガードを頼むよ、タカノリくん♪」

「僕はこんなナルシストのボディーガードなんて嫌なんだけどな……」

 なんていうのも嘘で。

「でもなんだかんだ守ってくれるじゃん♪」

「それは、影山に託されたからだ。まあ僕はエリートだから貴様のようなナルシストを守ることくい、造作もないがな」
 
 ユキは麗華ほどじゃないが美しいのは事実。
 それに影山に託されたのだ。守らないわけには、いかないだろう。

「そっか♪ヴァイスフリューゲルのみんなに会ったら、タカノリくんやキリトくん、ソラくんのことも紹介しないとね♪」

 ユキは本調子を取り戻しつつある。
 しかし彼は知らない。既にヴァイスフリューゲルの一人、ニノンが戦死したことを。

 (ギルドメンバーに紹介する、か……)

 キリトは思う。
 きっとユキはヴァイスフリューゲルのメンバーを心から信用しているのだろう、と。
 だがそんな心強い仲間でも、死ぬ時は死ぬ。それはユージオが死んだ時、嫌というほど思い知った

 だからユキにはそんな思いはさせたくないけど――デスゲームはそう甘くない。
 それをキリトは重々理解しているし、空もキリトの顔色を見て察した

「よし。じゃあまずはそのヴァイスフリューゲルのメンバーを優先的に探そうぜ。俺も、キリトも、尊徳も仲良いやつがいないならユキの仲間探しだ。それにヴァイスフリューゲルは戦力にもなるんだろ?ユキ」

 この状況でも生きてる可能性がある――それはある程度の戦力があるからだろうと空は予想する。

253凛と咲く花のように強く美しいナルシスト ◆QUsdteUiKY:2024/10/21(月) 00:44:17 ID:rR.sf6O60

「うん、みんな強いよ♪」

 予想的中
 ユキのメンタルのためにも、戦力探しにもヴァイスフリューゲルを探すのが優先される。
 それにユキのこの信用からして、きっと悪人じゃないはずだ。殺し合いに積極的じゃない――思いたい。

 兎にも角にも会ってみなきゃわからないことだが。
 とりあえず話し合いがひとまず終わる。
 影山と呼ばれていた男のことも聞きたいが、いきなり質問攻めされるのは相手が困るだろうし尊やユキのメンタルにも関わる。
 おそらく影山という人物は死んでいて、尊に託したからだ。
 影山に託されたと話した時に、尊の語気が僅かに弱まっていたのを空は見逃さない。

 とりあえずユキと尊のメンタル回復も、多少は必要だろう。特にユキは二人も死んでるし、更にヴァイスフリューゲルから死人が出てる可能性もある。

 さぁ――と風がユキの髪を揺らす。

「……だがそのヴァイスフリューゲルから死人が出でてなければ良いがな……」

「大丈夫だよ、タカノリくん。ヴァイスフリューゲルの人たちはみんな強いから」

 尊もユキも――キリトや空すらも知らない。
 ヴァイスフリューゲルの天真爛漫な少女、ニノンが死んだことを。

 しかしこの後、いずれか否が応でも知ることになるだろう――。

「そういえば、空。ホッパーゼクターのギミックってなんだ?」

「俺もあまり知らないけど……ちょっと変身してくれないか」

 緑色の側を表にして変身させると、尊はキックホッパーに変身していた。

「まあ性能の差は俺にもわからないけどな」

「そうか。まあ良い、影山は灰色の方を表にして変身してたんだ。僕も出来る限りそうする」

 ――それは尊なりの影山に対する敬意を評してのことだった。
 その言葉に誰も反対することなく、尊はこれからも影山の意志を継ぎパンチホッパーとして戦い続ける。

254凛と咲く花のように強く美しいナルシスト ◆QUsdteUiKY:2024/10/21(月) 00:44:28 ID:rR.sf6O60
【一日目/早朝/C-8】
【宮川尊徳@暁の護衛 トリニティ】
[状態]:健康
[装備]: ホッパーゼクター&ZECTバックル@仮面ライダーカブト
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜5
[思考・状況]基本方針:僕たちがゲームマスターを倒す!
1:ユキと一緒に影山とアユミの仇を取る
2:影山……お前の意志は僕が引き継ぐ
3:ヴァイスフリューゲルのメンバーを優先的に探す
[備考]
※パンチホッパーとしての戦い方がわかりました

【ユキ@プリンセスコネクトRe:Dive】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]基本方針:ボクの美しさをクロトやハ・デスにも知らしめてあげる
1:タカノリくんはボクが応援してあげるよ ♪
2:みんなは大丈夫だよね
3:アユミ……
4:ヴァイスフリューゲルのメンバーを優先的に探す
[備考]

【キリト@ソードアート・オンライン(アニメ版) 】
[状態]:疲労(小)
[装備]:カゲミツG4@ソードアート・オンライン、ごせん像@まちカドまぞく
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1(確認済み)
[思考・状況]基本方針:ハ・デスと檀黎斗を倒す
1:空と共闘する
2:北東で参加者を捜す。
3:2の後、エルキア大図書館に寄り、調べる。その次にD-6の島を調査する
4:リリスのよりしろ探しを手伝う
5:変なおっさん(肉おじゃ)、PoH、謎の気狂いの変態、念のため美遊の関係者を警戒
6:金髪の男(ポセイドン)、継国縁壱を最大限に警戒
7:ヴァイスフリューゲルのメンバーを優先的に探す
[備考] 
※参戦時期はソードアート・オンライン
アリシゼーション War of Underworld終了後
※遊戯王OCGのルールをだいたい把握しました
※アバターはSAO時代の黒の剣士。
GGOアバターに変身することも出来ます。GGOアバターでは《着弾予測円(バレット・サークル) 》及び《弾道予測線(バレット・ライン) 》が視認可能。
その他のアバターに変身するためには、そのアバターに縁の深い武器が必要です。SAOのアバターのみキリトを象徴するものであるためエリュシデータやダークリバルサー無しでも使用出来ます。SAOアバター時以外は二刀流スキルを発揮出来ません。これらのことはキリトに説明書に記されており、本人も把握済みです。
※主催陣営はSAO事件を参考にしたと推測しています。
※空と空黒というコンビ名を結成しました。

【空@ノーゲーム・ノーライフ(アニメ版) 】
[状態]:健康
[装備]:デュエルディスクとデッキ(蟲惑魔)@遊戯王OCG、キバットバット三世@仮面ライダーキバ
[道具]:基本支給品、高級木材のモーターボート@現実、首輪×2(御伽、遠野)
[思考・状況]基本:ハ・デスと檀黎斗を倒す。あまり人類ナメるんじゃねぇ
1:キリトと共闘する
2:北東で参加者を捜す
3:2の後、エルキア大図書館に寄り、調べる。二手に別れるかは人数と戦力状況による。その次にD-6の島を調査する
4:主催者と関係ある人物と接触する
5:リリスのよりしろ探しを手伝う。それに大きくする道具はあるか?
6:渡の殺害の件がきな臭い。士とレイに接触し、当時の状況の詳細を聞き出す
7:変なおっさん(肉おじゃ)、PoH、謎の気狂いの変態、念のため美遊の関係者を警戒
8:金髪の男(ポセイドン)、継国縁壱を最大限に警戒
9:ヴァイスフリューゲルのメンバーを優先的に探す
[備考]
※参戦時期はアニメ終了後
※遊戯王OCGのルール及び蟲惑魔デッキの回し方を把握しました
※主催陣営はSAO事件を参考にしたと推測しています。
※キリトと空黒というコンビ名を結成しました。

【リリス@まちカドまぞく】
[状態]:正常
[思考・状況]基本:全員で生きて脱出
1:空とキリトと行動を共にする
2:吉田一家を優先に捜す
3:小倉を見つけたら、等身大のよりしろを作って貰いたい
4:桃とミカンの合流は後回し。合流したら挨拶はする
5:よりしろを見つけ出す
6:ヴァイスフリューゲルのメンバーを優先的に探す
[備考]
※参戦時期は4巻(アニメ2期)終了後
※他者との肉体を入れ替える能力と他人の夢に入る能力は制限対象で黎斗によって不可にされています。
※黎斗によってよりしろで活動出来る時間は10分に制限されていて、二時間経過しないと活動出来ません。等身大よりしろも同様です。
※よりしろ状態でも並行世界――きららファンタジアで手にした力を引き出すことは可能とします。ただし、少なくともキリトの支給品にきらファンでのリリスの専用武器はありません

255 ◆QUsdteUiKY:2024/10/21(月) 00:45:16 ID:rR.sf6O60
投下終了です

256輝望道 ◆EPyDv9DKJs:2024/11/05(火) 21:48:50 ID:YHkTpgY.0
投下します

257輝望道 ◆EPyDv9DKJs:2024/11/05(火) 21:50:30 ID:YHkTpgY.0
 西か南か。
 どちらが正解の道なのか。
 確率は二分の一。選んだ結論としては、

「俺は南がいいと思うぜ?
 寒さと雪で足元掬われちまう場所を、
 殺し合いに乗ってない奴が優先するとは思えねえ。」

 ベクターが最初に提案し、その方角は南だ。
 逃げるならやはり平地。体力も消耗しやすい雪原で、
 長居するような参加者はあまりいないだろう。
 無論、その裏をかいてあえて居座る参加者や、
 スタート地点がそこだから居座る可能性もなきにしも非ずだが。

「ええ、真月さんの言う通りです。
 我々は敵味方どちらと出会っても構わない状況にあるのが一番の強みですから。」

 オーバーロード、仮面ライダー、デュエルモンスターズ。
 他の勢力がどの程度かは知らないが、このチームは少なからず力がある方だ。
 このまま勢力を拡大させるにしても、殺し合いを加速させる敵に出会っても、
 どちらであったとしても困ることではない面子というのは大きな強みでもある。

「それともう一つ理由が。」

「何だ?」

「月君が南にいるかもしれない、と言うことです。」

「根拠はあるんだろうな。」

「私が北にいるからです。」

 デスノートの時にも話したことだが、
 名前と名簿がわかるようなものを持った参加者と、
 本物のデスノートを持った参加者を近くに配置するとは思えない。
 月とLも同じと仮定し、南の方角の方に彼がいる可能性がある。
 月がLをどのような人物として吹聴するかは定かではないが、
 月の息がかかった勢力とLの息がかかった勢力のぶつかり合い。
 確率は低いにしてもそういうことはありえるかもしれないことだ。
 それに月も自分たち同様中央のエリアを目指す可能性は十分にある。
 そういう意味も含めて、南へと直進していくのがいいと判断していた。

「根拠に欠けるが、まあ勢力同士のぶつかり合いってのは、
 ゲームを重んじてる主催者の連中からしたら一つのイベントかもな。」

 名探偵と殺人鬼の勢力同士のぶつかり合い。
 話し合いで終わるかもしれないがイベントとしては盛り上がる要因だろう。
 北のL陣営と南の月陣営。ある種のSLGの類のようにも思える。

「では移動先も決めたことですし、
 真月さん、首輪の回収をしておきましょう。
 幸か不幸か、此処にはサンプルが大量にありますから。」

「ホープでやれってか? あんまり気乗りしねえんだがな……」

 曲がりなりにもこれは遊馬のカード。
 言うなれば不殺の象徴ともいえるカードだろう。
 それで首を斬り落とすというのは少々憚られるが、
 今すぐ切れ味のいいモンスターを探せと言われて探すには、
 時間がかかるということも相まってやむを得ずホープを召喚する。

「ところでなんで今になってサンプル確保なんだ? さっきの二人は回収しなかったじゃねえか。」

 さっきの二人と言うのは、麻耶と牛尾のことだ。
 先の二人も別に首輪の回収をすればよかったのに、
 今になって首輪を回収することにベクターは疑問を持つ。

「死体を見つける為ローラー作戦をやってかなり目立ちましたからね。
 槍の男が近くにいる可能性を考慮して早めに切り上げたかったんですよ。
 あの男を相手に今の戦力で挑むのは少々不安が拭えないのは事実ですから。」

 こうして歩いて今まで出会ってないということは、
 周辺に件の相手はいないということが伺える。
 ただ、流石に死体が四人もいては流石に予想外な出来事だったが。

「探偵様の考えることは違うねぇ。
 まあ態々映像で流されるぐらいの奴だ。
 一筋縄じゃあいかねえってのは予想がつく。」

 着物の男(縁壱)と同じように、
 いわゆるボスキャラクターのポジションのはずだ。
 あれらを相手するのに、万全の状態で挑むのがベストなのは理解できる。

「で、お前は何をしている?」

 ホープが丁寧に首を切断してる最中、
 ベクターは二つのデッキのカードを交互に見合う。
 その中からカードを抜いたり入れたりとしている。

「見りゃ分かんだろ。デッキ改造だ。
 俺に遊星のデッキは扱えねえからな。
 牛尾のデッキに使えそうなのを混ぜ込んでんだよ。」

258輝望道 ◆EPyDv9DKJs:2024/11/05(火) 21:51:20 ID:YHkTpgY.0
 牛尾のデッキはエースカードの一枚となるゴヨウ・ガーディアンを使用する場合は、
 レベル4+レベル2のチューナーを用いて召喚するパターンが多いデッキでもある。
 レベル4モンスター自体は遊星の方が多いもののホープを使用するのであれば、
 こちらを使用していく方が安定性が取れると判断して勝手ながら改造している。
 シンクロ召喚に慣れてないベクターにとってはコンボ性よりも安定性を重視していく。

「シンクロモンスター専用のカードはなるべく避けて……」

「ああ、そういえば真月さん。これを渡しておきます。」

 作業の合間にLは一枚のカードを渡す。
 裏面がデュエルモンスターズなのは分かる。
 しかしそれをめくった後ベクターの表情は真顔となった。

「……マジか。」

 予想だにしてないカードを渡されたのもあるが、
 使うことができないわけではないのと、シンクロより性に合うカードだ。
 そのカードの強み自体は知ってはいるので、ありがたくデッキに入れることにした。

 そうやってベクターがデッキの試行錯誤してる間に首輪は回収。
 一見するとどう見ても普通の機械の首輪にしか見えないが、
 少なくとも人の首を分離できる程度の威力はあるらしい。
 いや、厳密には参加者に平等に同じ威力とも限らないとLは考える。
 ロード・バロンの力はすさまじい。あくまで耐久の確認のためにと、
 変身して戒斗に切りかかったが傷などろくにつけられないままに終わった。
 当然、人間の首を破壊する程度の威力の爆弾ではすまされないのは分かっている。
 ザックが仕掛けたときのように人間状態なら確かに分からないでもないことではあるが、
 とてもこれだけで殺せるとはいいがたい要素ともいえるだろう。
 オーバーロードのデェムシュだってそうだ。最初に倒されたとはいえ、
 イコール弱かったというわけではない。数々のアーマードライダーを前にしても、
 圧倒するその頑強さを考えると人によって首輪の爆破、或いは殺し方は違う可能性は高い。

「ま、こういっちゃなんだがその辺は俺でも予想できるな。」

「でしょうね。人間とオーバーロードとバリアン。
 人種の違いの時点でこれぐらいは誰でも思いつくかと。
 ですが言い換えればこれもまた武器になりえるということです。」

 人の首を斬り落として拝借して、
 それを武器にするとは常人には発想できないことだろう。
 それがこの中で唯一の人間であるLが発言したことで、
 中々の悍ましい発言にベクターは僅かに顔を顰める。
 確かに仮にオーバーロードを殺せる首輪をぶつければ、
 大概の参加者を殺すことは可能なのかもしれない。

「まあ、対象が死亡したら爆発しないと言う可能性もあるので過信はできませんが。」

「貴重なサンプルだ。本当に最終手段として使うべきものだ。」

「分かってます。首輪の回収も終わりました。
 あとはこの手の知識に詳しい参加者を探すだけですね。」

 首の切除、首輪の回収、デッキの改造も一通り終わりとなり、南へと歩を進める三人。
 これまで死者としか出会えていなかったので、いい加減生者と出会いたいと望むが、

「全員構えろ!!」

 戒斗の叫びが全員の脳に警鐘を響かせる。
 Lはロックシードをドライバーにはめ、ベクターはデッキからカードを引く。
 普段静かな彼が急に叫ぶほどの相手となれば。それは一人しかいない。
 眼前に捉えるのは深紅の鎧の怪物。聞き及んでいたオーバーロード、デェムシュだと。

「貴様はいツカの猿だっタな。」

 先ほどドラゴンフルーツエナジーロックシードを食べることになった原因。
 それと間もなく相対することになることは、デェムシュも予想はしていなかった。
 結芽がつけた傷が目立っており少なからずダメージを受けてるように見受けられるが、
 雰囲気は嘗ての時とは違う。何かしらの力を得て強くなっているのだと戒斗は察する。

「猿、か。だがこれを見ても貴様はそう言えるのか。」

 両手を広げて人の姿からロード・バロンへと変身する戒斗。
 彼がオーバーロードになれることを知らないのもあり、多少の関心を抱く。
 地球人など下等な猿としか思ってない彼からすれば大躍進した存在ともいえる。

「貴様もオーバーロードに至っタカ。
 ダガいくらオーバーロードにナロうと地球人、猿であるコとには変わらん!」

 だからと言って地球人に敬意など持つはずがない。
 最も強く、最も愚かであるフェムシンムの生き残り。それがデェムシュだ。
 故に同胞だとか身内だとかと喜ぶ気などなく、寧ろ憤りすら感じている。
 自分達の領域に地球人如きが踏み入ることなど、あってはならないと。
 それはある意味、戦極凌馬のプライドに近しいものがあった。
 戒斗からすればつまらんプライドに過ぎないが。
 憤りながらデェムシュはシェイムを手に肉薄する。

「何!?」

259輝望道 ◆EPyDv9DKJs:2024/11/05(火) 21:52:51 ID:YHkTpgY.0
「げ、俺かよ!?」

 しかし狙いは戒斗ではなく、ベクターだった。
 怒りの矛先から戒斗を狙うものだと思ってたのもあり、
 支給品の中から漆黒の剣を取り出したが標的は別で一歩遅れを取る。
 ベクターもドローしたばかりで壁モンスターすら出すことができない。
 首を刈り取られる前にモンスターを召喚しようとするも間に合わず、、
 Lが変身したバロンの得物であるバナスピアーがかろうじて防ぐ。

「グッ……!」

 とは言え相手はダメージが大きく消耗していてもオーバーロード、
 しかも強化されている状態なので並のアーマードライダーでは耐えきれない。
 受け止めても衝撃で吹き飛ばされ、後方にいたベクターを巻き添えにしながら大地を転がっていく。
 一手遅れた戒斗がデイバックから引き抜いた漆黒の剣、夜空の剣をを背後から斬りつける。
 それを勢いをつけるように体を捻り、鍔迫り合いへと持ち込む。

「貴様、俺と戦うのではなかったのか!」

「ソの前に邪魔な猿を蹴散らスだけダ。特にあの猿はナ!」

 戒斗の一撃を押しのけると、今度は主霊石を使い無数の氷柱が地面から隆起。
 そのまま二人へと襲い掛かるが、双方何とか横へ転がる形でかろうじて回避する。

「おい! こいつはカードのことを知ってやがる! 距離をとれ!」

 露骨にベクターばかりを狙っている行動。
 明らかにデュエルモンスターズが何かを理解している。
 同時にそれがどれほどの利便性かもわかってるとみていい。
 こうなってはベクター達が足枷にしかならなくなってしまう。
 ベクターへ集中させないように夜空の剣を振るい剣戟へと持ち込む。
 ギガスシダーを素材に作られた剣はすさまじい硬度を持っており、
 シェイムとの剣戟にも十分耐えられる代物となっている。

「大丈夫ですか?」

「これぐらいなら何とかな……で、
 距離をとれつってもあっちに倒れてる奴を助けねえとやべえぞ。」

「オトーサン……オトーサン……」

 デェムシュが連れていた参加者と思しき人物。
 左耳を失っており、少なくとも無事であるとはいいがたい。
 早急に手当てぐらいはしておくべきだとベクターが向かおうとするが、
 遮るように氷柱を飛び越えて彼を足止めするようにLが立つ。

「おいおい、何の真似だよ?」

「理由は簡単に二つ。一つは台詞が棒読みで演技臭いこと。
 もう一つはデェムシュでしたか。彼がなぜ人間を生かして連れているかです。」

 デェムシュは好戦的な正確なことは知っている。
 だったら参加者を生かしておく理由などどこにもない。
 では人質の為……そうLも最初は考えたがすぐに否定された。
 当のデェムシュが人質としての利用価値を見出していないからだ。
 今や氷柱を隔てた向こうで戒斗と人間離れした剣戟で周囲を荒らす威力を放っている。
 とても人質として扱ってる様子はなく、この状況に違和感しかなかった。

「少しだけ落ち着きましょう。真月さんならモンスターでも救出可能なはずです。」

「……どっかのかっとビングにあてられ過ぎたな。」

 あいつだったらあれが敵だとしても放っておかなかっただろう。
 けれど自分は良かれと思ってと場をかき乱す真月ではなくベクターだ。
 回りくどいレベルの入念に計画してことに出る。そういう男だろうと。
 言われればそうだ。なぜ相手は生きたままこうしてここにいるのかが謎だ。
 一方で人間を見下してるはずのオーバーロードが人間を利用しているのは、
 聊か戒斗から伝えられた人柄と違って違和感を持たざるを得ないのだが。
 念のためモンスターを適当にセットしながら様子をうかがっていると、

「う、うわあああああ!!」

 流れる血のせいか、向けられているデェムシュの圧のせいか。
 痛み、恐怖、死といったものからへの逃避するためのありふれた生存本能。

『シャバドゥビタッチヘンシーン』

『チェンジ ナウ』

260輝望道 ◆EPyDv9DKJs:2024/11/05(火) 21:53:46 ID:YHkTpgY.0
 それがMNRを突き動かし、しびれを切らした彼は襲い掛かるように置き上がり変身。
 仮面ライダーワイズマンへと変身しながらハーメルケインを振るい、二人へ襲い掛かる。
 被害者の振りをするようにデェムシュには言われたものの、時間と我慢の限界だった。
 同じオーバーロードでも狡猾なレディエであればよりよい利用できたのかもしれないが、
 怒り心頭であったデェムシュではこれぐらいの策を考えるのが限界でもあった。
 遮るようにバナスピアーで防ぐものの、こちらもまた重い一撃で後ずさりをするL。
 元々ワイズマンはウィザードの最終フォームとも呼べるインフェニティースタイルにも太刀打ちできる。
 マンゴーアームズもゲネシスドライバーもない。ただのバロンでは分が悪くても仕方のないことだ。

「悪いがそのまま時間を稼げよ! ジャンク・シンクロンを召喚!」

 何とか時間を稼いでる間にリコイルスターターを背中につけた、
 オレンジ色の小柄なモンスターが召喚されて。更に横にはジュッテ・ナイトも反転召喚される。

(ジャンク・スピーダーってやつは強いのは分かっている! これで手数を増やして援護を……)

 遊星のデッキは複雑で扱いづらくはあるが、
 パワーカードであるカードにはいくつか目をつけている。
 その中でもジャンク・スピーダーは攻守どちらにおいても役立つ、
 召喚するだけでデッキから大量のモンスターを呼び寄せることができる。
 召喚制限はかけられるが、少なくともシンクロ召喚に疎いベクターでも強いと認識できるカード。
 故に改造したデッキにもカードは入れてデッキに入れており、

「レベル3、ジャンク・シンクロンにレベル2、ジュッテ・ナイトをチューニング!」

『ERROR』

「……は?」

 出てきた答えはまさかの召喚できないに変な声が飛び出す。
 シンクロ召喚という概念は彼のいた世界には存在しなかったので、
 疎い以上知らない基本的なルールが存在していることも理解してない。

「真月さん、チューナー同士では基本的にですがシンクロ召喚できません!」

「な、まじかよおい!?」

 何とか躱すなど凌いでいるLが、困惑するベクターへと回答を促す。
 あらかじめデュエルのアプリで細かく理解していたのもあり、
 シンクロ召喚という概念に対しては彼の方が造詣が深かった。
 一部の例外を除き、シンクロ召喚はチューナーとチューナー『以外』のモンスターを使う。
 今フィールド上に存在しているのはどちらもチューナーモンスター。
 この条件で出すことのできるシンクロモンスターは今のデッキには存在しない。

 プレイングミスの間も時間は過ぎていく。
 立ち回りも何もあったものではないハーメルケインの連撃だが、
 初めて仮面ライダーになったLなのも相まって押されている。

「なら反撃の時間稼ぎだ。ジュッテ・ナイトの効果発動! 白い仮面ライダーを守備表示に変更する!」

 しょうもないことでミスしやがったなと、反省しつつも援護をしていく。
 強制的に攻撃を中断させられるように動作が停止させられ、
 バナスピアーの一突きで軽く突き飛ばされるMNR。
 一撃は通ったものの、スペック差は埋めようがないこと。
 ダメージも耳を失ったことと比べればずっと軽微なダメージだ。

「ついでにカードをセットして、ワンショット・ブースターを特殊召喚!」

 続けざまに展開される頭部にシグナルをつけた黄色の機械が姿を現す。
 通常召喚に成功したターンに手札から特殊召喚することが可能なモンスターで、
 今度はチューナーではないことを確認してから行動に移す。

「シンクロ召喚ってのはつまりこういうことだな!
 レベル3のジャンク・シンクロンにレベル1のワンショット・ブースターをチューニング!」

 起き上がろうとするMNRを踏みつけて動きを封じるつもりだったが、
 横へ転がる形で回避されてしまいバナスピアーで続けて攻撃を狙う。
 身体能力は決して低くはないLではあるものの、本気の殺し合いの経験は浅い。
 MNRにも言えることではあるが、先の照や桃との交戦で経験値がないわけではないし、ま、多少はね?
 だから仮面ライダーのスペックもあるが、L以上に人を殺すことに対してのブレーキがないのだ。、
 この舞台に来る以前からブレーキなどないのだから、それも差を少なからず埋められないものにしていた。

「チッ、使えン猿め。」

 まだ一人も仕留めきれてないとは、
 はなから人間程度の存在に期待などしていなかったが、
 あの程度の痛みでは役に立たないということ分かった以上、
 もう片方の耳でも引きちぎってやろうかと考える……暇などなく。

261輝望道 ◆EPyDv9DKJs:2024/11/05(火) 21:54:27 ID:YHkTpgY.0
「よそ見する暇があるのか!」

 植物の蔦が鞭のようにしなやかに襲い掛かる。
 迫りくる蔦を、軒並み水の主霊石で凍らせ動きを止めていく。
 様々な宇宙を巡ってる都合本来なら弱いであろう氷にも耐性はあるが、
 ロックシードを食べたことで強化された氷の力の前では武器として機能しない。
 ついでにその勢いで戒斗の下半身をも凍らせるほどの威力を発揮させる。

「散レ!!」

 連続して放たれる炎の玉。
 それを斬る、打ち消す、あるいは反射能力で次々と返していく。
 しかしドラゴンフルーツのロックシードを得たことで弾速、威力共に上がっており、
 攻撃速度に戒斗追い付かず被弾し、氷を砕きながら吹き飛ばされる。

(やはり反射は都合よく使えないか……!)

 被弾は確かにデェムシュが強化されたのもあるが、
 攻撃を反射する能力に制限がかけられてることに今気づいたのもある。
 考えれば破格の防御能力だ。バランスを考慮されていてもおかしくはない。
 どの程度の制限が科せられてるのか定かではないが、多用は禁物だと自戒する。

「以前よりも強くはなっているようだな……だが!」

 立ち上がり手をかざすと。大地を抉りながら赤い竜巻状のエネルギーを放つ。
 対抗するように水の主霊石を翳し氷塊を飛ばし攻撃を相殺。
 氷は砕きながら周囲へと散弾のように散っていき、ベクター達を襲う。
 ベクターは咄嗟に近くの岩陰へ隠れて難を逃れるものの、
 ほかの二人は仮面ライダーの装甲で被弾こそすれども怯む程度にとどまる。

「クソッ、向こうが派手過ぎてこっちにまで被害出て……」

 岩陰へと隠れたベクターだったが、
 氷塊が被弾して転がってきたMNRと目が合う。
 ワイズマンの顔には目と思しき場所が判断つかないのだが、
 視線が合ったことだけは分かり、ぞわりと悪寒が走った。
 即座にジュッテ・ナイトを壁にしながら岩の上へ立つようにジャンプすると、
 ジュッテ・ナイトごと岩を破壊し、ベクターは足場が崩れる前に近くの大地へと転がる。

「ったく俺のターンぐらいよこせ! アームズ・エイドをシンクロ召喚!」

 ドローする暇すら与えられない激戦区の中、
 やっと赤い爪の腕のような機械を召喚に成功する。
 しかし攻撃力は1800。低くはないが下級モンスター並だ。
 今のMNRを相手するのには力不足であると言わざるを得ない。

「出せるから出してみたが悪くねえな! アームズ・エイドの効果発動!」

 しかしこのカードの本領はそのモンスター効果にある。
 アームズ・エイドにはモンスターに装備カードとして装備することができる効果を持つ。
 装備するモンスターが不在では効果は発動できない。だが此処ではそうはならない。

「ほら、名探偵様にくれてやるよ!」

 MNRの背後よりバナスピアーを振るうLへ、ハーメルケインで弾く。
 隙をさらしたところに続けざまの攻撃を妨害するように飛び交い。攻撃を妨害する。
 そのままLの左腕に装備され、仮面ライダーバロンは新たなステージへと進んでいく。
 仮面ライダーバロンアームズ・エイドと言ったところだろうか。

「鬱陶しいなぁ!」

 MNRもデュエルモンスターズの厄介さを理解した。
 指輪をパームオーサーへ翳し、ベクターの両腕を縛り付けるように鎖が彼を縛り付ける。
 当人を縛るように即座に召喚されるのもあり、回避不可能な理不尽さがバインドリングの強みだ。
 突然縛り付けられたこともあり、身動きがうまく取れずに転倒する。

「少シはやルようダな猿!」

 今こそ好機。
 相殺した攻撃の後剣戟を続けていたデェムシュは、
 攻撃の片手間に主霊石で氷塊をベクターの頭上へと出現させる。

「消え失せろぉ!!」

「げ、しま……」

 逃げようにも腕が縛られてうまく立ち上がれず、逃げに送れるベクター。
 舌打ち交じりに戒斗が剣戟をやめ、飛び蹴りで氷塊を蹴り飛ばしで砕いて破片程度にすませる。
 一命をとりとめることができたものの脅威はまだ続く。そのままデェムシュが肉薄してきたからだ。
 迫るフェイムをアームズ・エイドを装備したLが咄嗟に盾にする形で防ぐが、同時にアームズ・エイドが破壊。
 せっかく装備させてもオーバーロード相手では微々たるものであるということが伺える光景を見ながら、
 その一瞬で稼いだ隙に夜空の剣がバインドのチェーンを断つ。
 仲間を助ける。生前からすれば戒斗らしからぬ行動ではあるが、
 手を組んだ以上見捨てるような真似をするつもりはない、彼なりのプライドだ。

『エクスプロージョン ナウ』

262輝望道 ◆EPyDv9DKJs:2024/11/05(火) 21:55:53 ID:YHkTpgY.0
 だがそのプライドが仇となった瞬間だ。
 三人が集っているところこそ狙い目であり、
 エクスプロージョンリングによる爆発が三者を襲う。
 グレムリンやビーストを一撃で戦闘不能に追い込む魔法だ。
 生身であるベクターが受ければまず死ぬこともあり、Lが突き飛ばす。
 加減したとはいえ仮面ライダーの力で大きく突き飛ばされたベクターは、
 連鎖する爆発に巻き込まれる二人を見て苦虫を嚙み潰したような顔になる。

「クソッ、俺が役に立たねえのがムカついてきやがる……!」

 戒斗一人で戦ってれば多少苦戦はすれども十分に戦えただろう。
 Lがそこに加勢すればMNRの方は苦戦すれどもデェムシュを相手に余裕をもって戦えたはず。
 この中で一番戦力外どころか、足手まといになっているのが自分であることが歯がゆく思う。
 爆発にのまれた二人は吹き飛ばされ、追撃をかけるように水の主霊石の氷柱が弾丸のように倒れる二人へ襲い掛かる。

「させん!」

 再び竜巻状のエネルギーを飛ばし、
 氷柱を吹き飛ばしながらそのまま反撃に出る。
 デェムシュは霧状になって攻撃を回避し、肉薄しつつ元に戻りながらシェイムを振るう。
 夜空の剣の対応は間に合わず、ゲネシスドライバーのアーマードライダーでも傷つかなかった外骨格へ傷をつけ火花を散らす。
 通常だったら叶わなかっただろうが、ロックシードを摂取し強化されたこでダメージが通るようになっていた。

「くそ、奇跡の残照を発動してアームズ・エイド復活だ!」

 二人が作ったこの隙を逃すほどベクターも愚かではない。
 このターン戦闘で破壊され自分の墓地へ送られたモンスター1体を復活させるカード。
 ワイズマンに破壊されたアームズ・エイドを復活させるが、装備はさせず目的は別にある。

「ドロー! ジャンク・サーバントを通常召喚!
 レベル4のジャンク・サーバントとアームズ・エイドでオーバーレイ!」

 ジャンクの名前が付いた通り、
 ガラクタをつぎはぎしたような人型のモンスターが召喚されるが、
 すぐに目的のための素材として光の球となって消滅する。

「猿!」

「わ、分かってるよ……!」

 デェムシュは戒斗との剣戟によって手が出せない。
 相手が何かをしようとしているのはMNRも理解しており、
 威圧的な声にうわずった声と共にエクスプロージョンリングを行使しようとするが、
 遠くにいたLが刀身であるバナキールからバナナ型の発光エネルギーを飛ばし、妨害する。
 自分に近接攻撃しか手段を持ち合わせてないと思わせるためにとっておいた一撃は、この局面で発揮していく。
 予期せぬ攻撃を直撃したのもあって、Lとベクターへの対応が遅れてしまう。

「二体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築! エクシーズ召喚!
 現れろNo.39! さあ、白き翼に望みを託すとするぜ! 光の使者、希望皇ホープ!」

 光の爆発から姿を現す、塔のような形状の物体。
 そこから変形し、現れるのは風祭小鳩の時に召喚したあのモンスター。
 九十九遊馬が信じ続け、数々の道を切り開いてきたエースモンスターの登場である。
 先のホープと違うところがあるとすれば、正規の方法で召喚したから周囲には光の球体、
 オーバーレイ・ユニットがホープを中心に宙を漂っている状態だ。

「いい加減デュエリストも戦力になるって、
 証明しねえといけねえんでな! ホープ剣・スラッシュ!」

 未知の存在の一撃。単なる斬撃なのかそれも定かではないのと、
 何よりロード・バロンやデェムシュといった巨漢の三倍近くの体躯の差。
 受けるという選択肢は皆無であり、横へ飛ぶ形で攻撃を回避。
 地面に塹壕でも作るかのような爪痕を大地へと刻む。

『エクスプロージョン ナウ』

 化け物(オーバーロード)にも通用した攻撃だ。
 十分な攻撃力を備えているのは分かっており、再び爆撃の嵐。
 無防備なホープへすべてが直撃し、無残な残骸となるだろう。
 しかし。

「ナンバーズはナンバーズ以外と戦闘では破壊されねえんだよ!」

 超過ダメージこそ受けて疲労感はあるものの、
 ホープを出したからか、テンションが上がっているベクター。
 疲労感などお構いなしに次なるホープ剣・スラッシュを叩き込む。
 爆風の中から飛び出してきたホープの斬撃は間に合わず、火花を散らしながら倒される。

「やだ……やだよ……」

 ダメージとしては仮面ライダーともあって軽微なものだが、
 痛みに対する耐性がデェムシュによって失った左耳を、虐待した父を思い出す。 
 虐待の記憶、耳障りな女(照)、デェムシュによって喪った左耳。
 あらゆる不快なものが想起していき、MNRは叫ぶ。

「いやだあああああッ!!」

263輝望道 ◆EPyDv9DKJs:2024/11/05(火) 21:56:34 ID:YHkTpgY.0
 遠野から奪った支給品の中にあった黒いカード。
 相手も使っているのだからこのカードだって強いはず。
 デイバックから強引に引き抜いて召喚されたカードに、真月は慄く。
 巨大な爪を持った翼を広げた、二足歩行の恐竜のような赤黒いモンスター。
 だが問題はそこではない。左胸にある61にも見える数字が問題だったのだ。
 あれはホープと同じ、ナンバーズのカード───No.61 ヴォルカザウルス。

「駆紋! あれはやべえ!」

 ヴォルカザウルスの効果は判断がつかないがナンバーズである以上は危険な効果だと判断する。
 モンスターを破壊し、その攻撃力分ダメージを与える、極めて攻撃的な性能を誇るモンスターだ。
 だがオーバーレイ・ユニットがなければ効果を発動することができないのがエクシーズモンスター。
 ではあるが、このヴォルカザウルスはゴールドシリーズ。一度の使用で十全な効果を発揮できる黄金のカード。
 故にオーバーレイ・ユニットはホープ同様に二つ漂っており、効果を使用することができることを証明している。

「効果、効果!」

 効果の宣言というよりテキストの確認のような物言いだが、
 本人は死に物狂いで効果を発動しようとしているためか効果が発動。
 オーバーレイ・ユニットをヴォルカザウルスが喰らい、顔の横の爪から炎が放出。
 ホープには攻撃を守る効果があるが、あくまで攻撃。モンスター効果は防ぐことはできない。
 その上破壊されれば後続のモンスターが手持ちにないベクターは本当の戦力外になる。

「な……」

 ホープに向かって炎、マグマックスが目掛けて飛んでくる寸前。
 Lがかばうように飛び出してその炎を一心に浴びる。
 苦悶する声すら飲み込むような炎の一撃は爆発を起こし、
 煙を吹き出しながら吹き飛んだLは変身が強制的に解除される。

「何やってんだてめえ!?」

 火傷こそ致命的ではないようだが、
 変身が解除されててもドライバーは壊れてない。
 意識もあるようなので生きてはいるが、ダメージは決して軽くはないだろう。

「そのモンスターを失うことの方が危険だと……判断したまでです……」

 何とか立ち上がろうとするLではあったが、
 ダメージが大きく満足に立つことができないでいた。
 このままだとLがデェムシュの餌食になりかねない。
 早急に対策を考えなければならなかった。

(ホープとあのナンバーズは攻撃力が同じ!
 ナンバーズはナンバーズで倒すことはできるが、
 此処で相打ちになったら俺には壁となるモンスターが消える。
 そうなったら俺は生身であの仮面ライダーと戦わなきゃならねえ!)

 時間がない中必死に考える。
 この場でできる一番の対処法を。

(そうか、あるじゃねえかよ。)

 手札に残されたカードのうち二枚。
 その中の一枚がこの戦況を大きく変えてくれる。
 ただし、その行為には多大な危険を伴う。

「だったらやってやろうじゃねえか……あえて言わせてもらうとするか。」

 大地を蹴る。
 その一歩は希望と破滅、表裏一体の一歩だ。
 駆ける。大地を踏みしめベクターは駆ける。

「かっとビングだ、俺ーッ!!」

「何!?」

 ベクターが踏み出したのは、なんとデェムシュの方だった。
 ヴォルカザウルスでも、ワイズマンとなったMNRでもありえないが、
 よりにもよってこの中で最も強いであろうデェムシュに突っ込む行為。

「狂ったか猿!」

 それはデェムシュから見ても愚かとしか言えない行為だった。
 シェイムで戒斗を押しのけると、水の主霊石による氷柱が隆起し、ベクターを襲う。
 串刺しは確実。誰もがそう思った瞬間、氷の勢いが急激に止まり、攻撃が中断される。

「速攻のかかし、効果発動だ。」

 相手が直接攻撃をしてきたときに、
 手札から捨てることでバトルフェイズを強制終了させるカード。
 モンスター同士の攻撃では発動できない、つまりホープとヴォルカザウルスの戦闘ではだめだ。
 だからあえて自分から突っ込んで強引に相手にダイレクトアタックを強要させるように仕向けた。
 やることを終えると即座にバックステップで距離を取りながらカードを自分のターンとしてカードを引く。

「……ドロー!」

264輝望道 ◆EPyDv9DKJs:2024/11/05(火) 21:57:08 ID:YHkTpgY.0
 目的はドローフェイズのドローカードのためだ。
 この二人とモンスターを一気に打開できるカード。
 手札のカードはフォース。残念ながら迷宮兄弟が使ったフォースとは違い、
 相手のライフを半分にして攻撃力に換算するようなパワーカードの効果ではない。
 相手の攻撃力を半分吸収し、その攻撃力分エンドフェイズまでアップさせるカード。
 これではヴォルカザウルスは突破できてもMNRやデェムシュを突破することはできない。
 だから欲した。自分にとってあのカードが引けることこそが最良なのだと。

「……最強デュエリストは全てが必然ってか?
 RUM(ランクアップマジック)-リミテッド・バリアンズ・フォース発動!」

 望んだカードは届いた。
 かつて遊馬に己の計画のために託したカード。
 それがここぞというタイミングにおいて、やってきてくれた。
 ホープが光の球となって、中空の渦へと吸い込まれていく。
 Lの支給品に混ざっていて渡されるとは思いもしなかったが、
 これで進化態となるホープレイVを召喚することで逆転───










「だめだよ、それは。」

 しなかった。
 先ほどまで叫んだり憔悴してた声色だったMNRの声が、急に冷静になった。
 痛みに慣れたからなのか、恐怖を通り越したのか、どこか機械的な声色でそう呟き、
 武器であるハーメルケインを笛のように奏でると、中空に浮かんでいた渦が消滅する。

「……は?」

 何が起きたか理解できなかった。
 無理もないことだ。ハーメルケインのみにならず、
 仮面ライダーワイズマンは魔法の強さからその効果を忘れがちだが、
 ハーメルケインには『魔法を打ち消す』という特殊な力が宿っている。
 仮面ライダービーストのハイパーセイバーストライクですら無力化できるのだ。
 リミテッド・バリアンズ・フォースは『魔法』カードなのだから、
 当然無効にすることは可能だった。

 消失した状況に一瞬唖然としてしまうベクター。
 すぐに我に返りながら苦肉の策のフォースを使う。

「ならフォース発動だ! てめえのモンスターの攻撃力を……」

「はぁ〜〜〜〜〜(クソデカため息)。」

 無駄だと言わんばかりのため息とともに、
 再びハーメルケインを奏でるとフォースの効果も打ち消される。
 フォースもまた魔法カード。無効化できる対象なのは当然の帰結だ。

「嘘だろ、おい……」

 これで彼の手札は0。場にはホープだけ。Lは戦闘不能。戒斗はデェムシュと未だ交戦中。
 できることなど何もなかった。後は武器たるショット・オブ・スターで撃つことぐらいだ。
 だが相手は仮面ライダーだ。そんなものが通用するとはとても思えなかった。
 つまり───詰みであると。





「だからって、諦めきれるかよぉ!!」

 困難に立ち向かう諦めない心。それがかっとビングだ。
 ベクターらしからぬ発言は、きっと遊馬の影響なのだろう。
 あの男はどんな困難にあろうとも諦めようとはしなかった。
 手札が0? だからなんだというのだ。遊馬とデュエルした彼だからわかる。
 遊馬は手札どころかデッキも一枚だけ、しかも仕組まれたカードであったのに、
 とんでもない方法で活路を見出して自分に逆転した男だ。この程度であきらめる男じゃない。
 故にか。そんな諦めない精神に応えるようにエクストラデッキからカードが光る。
 何が起きたかわからないが、それが一抹の希望だと言うことはすぐに理解した。
 隠されたシステム、心意システムが知らず知らずのうちに発動していたのだ。

「───そうか。まだ戦えるってことか……俺は!
 俺は、希望皇ホープでオーバーレイ・ネットワークを再構築!」

 再び中空に浮かぶ渦。
 リミテッド・バリアンズ・フォースの時と同じだ。

「無駄だって。早く諦め……」

 どうしようもない奴だな、
 諦念気味にハーメルケインの笛を吹くものの、
 渦は消えることなくホープは光の球となって中へと入っていく。

「え?」

「無駄だ! こいつは魔法カードを介さず重ねてエクシーズ召喚を行う!
 さあ来な、一粒の希望よ! 今、電光石火の雷となって闇から飛び立て!!」

 渦が爆発し、中から登場するのは姿形を変えたホープ。
 翼は羽というよりは剣のようになり、全体的に細身の体となっている。
 稲妻を轟かせながら荘厳な立ち居振る舞いと共に姿を現す。

「現れろ、S(シャイニング)No.39 希望皇ホープ・ザ・ライトニング!!」

265輝望道 ◆EPyDv9DKJs:2024/11/05(火) 21:58:58 ID:YHkTpgY.0
 彼らが知る世界線。
 それとは異なる世界にて覚醒したホープの先。
 そのモンスターが心意システムによって呼び寄せた。
 この舞台におけるジャック・アトラスと同じ結果を彼は招くことに成功したのだ。

「行くぜ! ホープ・ザ・ライトニングの攻撃! ホープ剣ライトニング・スラッシュ!」

「させないよ。」

『エクスプロージョン ナウ』

 Lは倒れていて戒斗は防御に参加できない。
 この状況でベクターはホープを盾にするしかない。
 エクスプロージョンリングを翳してとどめを刺そうとするも、
 エクスプロージョンが発動することはなかった。

「無駄だ! ホープ・ザ・ライトニングが攻撃するとき、
 相手は全てのカードを発動することができなくなるんだよぉ!」

「え……」

「何ダト!?」

 そのせいで、水の主霊石も機能しなくなった。
 咄嗟に出なくなったことで隙を突かれ、夜空の剣が炸裂し火花を散らす。

「グオッ! この猿がぁ!!」

 とは言えデェムシュはもともと剣技に優れるオーバーロード。
 はなから主霊石を頼らずとも十分な戦いができるので、
 こちらはさしたる問題ではなかった。

「でも攻撃力は同じ2500……」

 相打ちになる。
 その後エクスプロージョンを見舞えば勝てる。
 大丈夫。大丈夫。自分に言い聞かせるようにしていると、

「そうはいかねえ! ホープ・ザ・ライトニングの効果発動!
 オーバーレイ・ユニットを二つ取り除くことで攻撃力を二倍の5000にする!」

 宙に漂う素材を二つ消失し、
 ホープは翼の剣を手に稲妻の如く飛ぶ。
 ヴォルカザウルスを翼の片割れを使い一刀で切り裂き、
 モンスターが爆発することで爆風が周囲を襲う。

「うわあああああ!!」

 使役していたMNRには更にダメージが上乗せされ、
 吹き飛ばされながら変身が解除され、元の姿に戻る。
 元々デェムシュ達と戦ってダメージが大きかったところに更に大ダメージだ。
 変身が解けるのは無理もないことだった。

「こっちは片が付いた、あとはそっちが戦いやすいよう離脱するだけだ!」

 ホープ・ザ・ライトニングでLを抱えて離脱。
 それが理想の形ではあったのだが、

「コの使えン猿め!!」

 デェムシュは予想だにしない行動に出る。
 戒斗から距離を取り、倒れているMNRのドライバーを踏み砕く。
 オーバーロードの踏みつけを受け、血反吐をぶちまけながら苦悶の表情になるMNR。

「な、味方を攻撃しやがった!?」

「いえ、違います……あれはベルトを破壊したのかと。」

 このままMNRが奴らに倒されれば、
 そのままワイズマンの力が猿に渡ってしまう。
 ワイズマンになる気もないデェムシュは此処が潮時と判断し、
 MNRのドライバーを粉砕する行動に出たというわけだ。

「屈辱だ……貴様等如き猿に逃げることになるなど!!」

 ついでにMNRのデイバックをシェイムで切って強引に奪い、
 そのまま逃げるように霧状になって北の方へと離脱する。

【C-5/一日目/早朝】

【デェムシュ@仮面ライダー鎧武】
[状態]:疲労(絶大)、怒りと屈辱(多少緩和)、高揚感
[装備]:両手剣シュイム@仮面ライダー鎧武、水の主霊石@テイルズオブアライズ
[道具]:基本支給品一式、基本支給品一式×2、ランダム支給品×1〜2
[思考・状況]
基本方針:ハ・デスも参加者も皆殺し。
1:今は体力の回復に努める。
2:自分をコケにした猿ども(承太郎、一海、城之内、結芽、いろは、黒死牟、戒斗)は必ず殺す。
3:逃げた小娘(やちよ、桃)もいずれ殺す。が、3の連中より優先度は低い。
4:猿共に負けるぐらいならば主霊石を使っていく。
5:あの猿(MNR)は道具として使えなかった。
6:使える猿を探す。

266輝望道 ◆EPyDv9DKJs:2024/11/05(火) 22:00:38 ID:YHkTpgY.0
[備考]
※参戦時期は進化体になって以降〜死亡前。
※水の主霊石を手にしたため水、氷の攻撃が可能になりました。 
 制御はうまくできてない為自分が巻き添えになる可能性はあります。
 代わりに制御と言うブレーキがないため、強めの力を放つことができます。
 なお、彼が凍ってもダメージはありません。
※ドラゴンフルーツエナジーロックシードを食べ進化した為、オーバーロードの能力が強化されました。





「追うか?」

「追える状態じゃないな。」

 元の姿に戻りながら戒斗はベクターの提案を断った。
 一人であれば追跡できただろうが、ダメージの大きいLがいる状態だ。
 このまま挑めば最悪この殺し合いにおけるブレインを失うことになりかねない。
 そうなれば場合によってはあのキラである夜神月に頼る可能性だってあるのだ。
 信用できるかどうかで考えるならば、Lであることの方が望ましかった。

「すみません……足を引っ張ってしまって。」

「いや、おめえのおかげで何とかなった。助かったぜ名探偵様よ。」

 ヴォルカザウルスの一撃はすさまじいもので、
 受ければホープ・ザ・ライトニングも出すことはできなかった。
 結果論ではあるが、彼がいなければ確実に敗北していたのは確かだ。

「で、こいつどうする?」

「痛い、痛いよ……」

 腹を抑えながら蹲るMNRは、
 傍から見れば無力な参加者に見える。
 デェムシュに付き添ってたのは脅された、
 そういう風にも受け取れる後継でもある。

「もう無力な一般人みてーだし助けるか?」

「一般人ですか……それは無理かと。」

 どういうことだ、
 と思ってLが刺した方向を見やる。
 そこには人にあるべきものが大地に転がっており、
 デェムシュが乱暴に回収した際にデイバックから落ちたのだろう。

「うげ……」

 誰のものかはわからない。
 殺し合いに乗った参加者かもしれない。
 けれど、どちらであっても猟奇的行動をとるような男だ。
 デェムシュに猟奇的趣味はない。よって、誰がやったかは明白である。

「こいつはもとから猟奇殺人鬼ってわけだな。」

「いやだ……助けて、オトーサン……!!」

 痛みに耐えながら、必死に這いずって逃げるMNR。
 しかしその程度の動きはナメクジとそう変わることはない。
 全力で走ることすらかなわない状態ではどうにもならなかった。

「で、どうする? 名探偵様やオーバーロードはこいつを生かす理由は?」

「この様子だと情報を吐けそうになければ、味方にもできないでしょうね。
 彼はすでに自分の目的のために少なくとも二人は殺しているでしょうし。」

「戦極凌馬の奴が見れば興味深いと言いそうだが、俺にとってはどうでもいい奴だ。好きにしろ。」

「んじゃ、そういうことで。悪いな。」

 先の首輪回収で抵抗が薄れているのか、
 ホープ・ザ・ライトニングをMNRへ向ける。

「嫌だ、やめてよオトーサン……」

 錯乱していて最早誰を見ても父を想起する。
 そんな絶望の中、希望の名を関した閃光の刃が彼の首を刈り取った。

「首輪五つ目か……にしてもあいつの支給品、
 別の意味で奪われて正解だった気がしてくるぞ。」

 男性器や女性器が入っていた支給品を持ち合わせるなど、
 ほかの参加者からあらぬ誤解を招く可能性だってあり得るわけだ。
 そういう意味で、というわけではあるが回収されてよかったとすら思える。

「いいとは言えないだろうがな。奴に支給品を奪われたのは痛い。」

「分かってるよ。で、僅か一戦で壊滅状態だしどっかで休憩するか?」

「休憩先に奴が殺した遺体がなければいいがな。」

「想像させるのやめろ。」

267輝望道 ◆EPyDv9DKJs:2024/11/05(火) 22:01:09 ID:YHkTpgY.0
 三者は無事誰も欠けることなく生存した。
 これからもこれぐらいの激戦が待ってるとなると、
 溜息が出そうになるベクターだった。



【MNR@真夏の夜の淫夢 死亡】



【駆紋戒斗@仮面ライダー鎧武】
[状態]:ダメージ(中)
[装備]:夜空の剣@ソードアート・オンライン
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1(確認済み)
[思考・状況]基本方針:殺し合いを力で叩き潰す。
1:殺し合いに乗っている参加者は潰す。
2:首輪を外せる参加者を見つける。
3:L、ベクターと共に行動する。
4:槍の男、デェムシュは要警戒。
5:大我、遊星、ジャック、遊戯、海馬かその知人、或いは会った参加者と接触。必要なら知り合いを装う。

[備考]
※参戦時期は死亡後です。
※クラックを開き、インベスを呼び出すことは禁止されています。
※Lの考察については半信半疑です。
※攻撃の消滅、反射に制限がかかってます
 どの程度の制限かは後続にお任せします

【L@DEATH NOTE】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(中)
[装備]:量産型戦極ドライバー@仮面ライダー鎧武、バナナロックシード@仮面ライダー鎧武、真中あおの杖@きららファンタジア
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1(確認済み、武器の類はなし)
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止める
1:駆紋戒斗、ベクターと共に行動する。
2:他の参加者を探し、情報交換をする。
3:無暗に犠牲を強いるつもりはないが、綺麗な手段だけで終わらせられるとも思ってない。
4:槍の男。デェムシュには要警戒。
5:大我、遊星、ジャック、遊戯、海馬かその知人、或いは会った参加者と接触。必要なら知り合いを装う。
[備考]
※参戦時期は死亡後です
※この殺し合いにドン・サウザンドが関係してる説を考えてます。
 (関係してるだけで関与してない可能性も高く、現時点では推測程度)
※永夢と大我、遊星と牛尾とジャック、遊戯と海馬(両方)と城之内と御伽が知己であると考えてます
 遊星達と遊戯達が同一の世界かどうかまでは確定できていません。

【真月零(ベクター)@遊戯王ZEXAL】
[状態]:ちょっとセンチな気分、疲労(中)、ダメージ(中)、
[装備]:ショット・オブ・ザ・スター@グランブルーファンタジー、九十九遊馬のデュエルディスク@遊戯王ZEXAL、No.39希望皇ホープ@遊戯王ZEXAL、牛尾デュエルディスクとデッキ@遊戯王5D’s、不動遊星のデュエルディスクとデッキ@遊戯王5D’s
[道具]:基本支給品一式×3(牛尾、麻耶、自分)
[思考・状況]基本方針:主催にとって良からぬことを始めようじゃねえか。
1:遊馬にデュエルディスクを返すが、デッキはどこだよ。
2:ナッシュや遊馬がいることだし少しだけ協力は考えてやる。ナッシュは……いややっぱやめとくか?
3:帰宅部ねぇ。ま、いたら声はかけるか。
4:Lに駆紋、アウトローで構成されてるねぇ。ま、俺らしく外道な手段でやってやるさ。
5:ドン・サウザンドの復活ねぇ……どうだか。
6:槍の男には要警戒。
7:大我、遊星、ジャック、遊戯、海馬かその知人、或いは会った参加者と接触。必要なら知り合いを装う。
8:エクシーズ召喚できるデッキをくれ。と言うかなんだよシンクロって。
9:ホープ・ザ・ライトニングねぇ……まさか俺が新しいホープを手にするとはな。
[備考]
※参戦時期はドン・サウザンドに吸収による消滅後。
※ドン・サウザンドの力、及びバリアン態等の行使は現状できません。
 力が残っていて、バリアンスフィアキューブがあれば別かも。
※Lの考察については半信半疑です。

【夜空の剣@ソードアート・オンライン】
戒斗に支給。ギガスシダーと呼ばれる巨木を長い時間と貴重な砥石を消費した末に、
完成してアンダーワールドにおけるキリトの剣となった武器。命名はユージオ。
ソルスの恵み(太陽光)をシステム的には空間リソースを300年もの長期に渡って浴び続けた結果、
とてつもない硬度を獲得している。

【No.61 ヴォルカザウルス(ゴールドシリーズ@遊戯王OCG】
遠野に支給。ゴールドシリーズについては他参照。
ゴールドシリーズのためエクシーズ素材が最初から二つ備わっている。
ゴールドシリーズであるため、アニメにおけるナンバーズの耐性などはない。
テキストは以下の通り
エクシーズ・効果モンスター
ランク5/炎属性/恐竜族/ATK2500/DEF1000
レベル5モンスター×2
①:1ターンに1度、このカードのX素材を1つ取り除き、相手フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。
その相手モンスターを破壊し、そのモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える。
この効果を発動するターン、このカードは直接攻撃できない。

268輝望道 ◆EPyDv9DKJs:2024/11/05(火) 22:01:36 ID:YHkTpgY.0

【RUM-リミテッド・バリアンズ・フォース@遊戯王OCG】
Lに支給。テキストは以下の通り
通常魔法
自分フィールド上のランク4のエクシーズモンスター1体を選択して発動できる。
選択したモンスターよりランクが1つ高い「CNo.」と名のついたモンスター1体を、
選択した自分のモンスターの上に重ねてエクシーズ召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。

【SNo.39 希望皇ホープ・ザ・ライトニング】
ベクターが心意システムで得たカード。
テキストは以下の通り
エクシーズ・効果モンスター
ランク5/光属性/戦士族/攻2500/守2000
光属性レベル5モンスター×3
このカードは自分フィールドのランク4の「希望皇ホープ」モンスターの上に重ねてX召喚する事もできる。
このカードはX召喚の素材にできない。
①:このカードが戦闘を行う場合、相手はダメージステップ終了時までカードの効果を発動できない。
②:このカードが「希望皇ホープ」モンスターをX素材としている場合、
このカードが相手モンスターと戦闘を行うダメージ計算時に1度、
このカードのX素材を2つ取り除いて発動できる。
このカードの攻撃力はそのダメージ計算時のみ5000になる。

269輝望道 ◆EPyDv9DKJs:2024/11/05(火) 22:01:58 ID:YHkTpgY.0
投下終了です

270 ◆EPyDv9DKJs:2024/11/06(水) 00:11:42 ID:jDc137/s0
すいません表記忘れてました

※C-5に
 壊れた白い魔法使い(ワイズ)ドライバー
 ハーメルケイン
 エクスプロージョンウィザードリング
 仮面ライダーウィザード
 バインドウィザードリング
 テレポートウィザードリング
 アテムが用意したナイフ
 があります

271◆2fTKbH9/12:2024/12/25(水) 17:17:33 ID:???0
今更ですが、私が投下したゲーマーコンビは不思議な生物と出会うようです の>>211の修正箇所をwikiに編集されていないです。
◆4Bl62HIpdE氏が投下して下さった懺恨のJudgmentの>>213の修正箇所も同様に編集されていないです。
修正した場面の編集をお願いします。

夜神月、ラヴリカ(NPC)を予約します。

272 ◆QUsdteUiKY:2024/12/26(木) 21:49:26 ID:xGGWmlGA0
ご予約、ご指摘ありがとうございます
自分では編集したつもりになっていましたが、ご指摘のおかげでまだしていないことに気付きました。申し訳ありません
というわけで該当箇所を編集しました

273◆2fTKbH9/12:2024/12/28(土) 14:55:13 ID:???0
投下します。

274◆2fTKbH9/12:2024/12/28(土) 14:56:43 ID:???0
暫しの休息を取った月は狐島から脱出し、本島に上陸した。
否、戻って来た。

(こんな場所を選んだのは失敗だ!!)

態々、南西の狐島を安全地帯と思い込んだのは浅はかだった。
よく考えれば殺し合いに安全な場所は何処にもない。
普通に狐島に行かずに本島で参加者を捜した方が早かった。
殺し合いを良しとしない面子と接触出来ていれば黒ポンチョの男(PoH)をそいつらに押し付けた。
あの男が何を言われても戯言と言いくるめて、誤魔化せばいい。

軽率な行為はこれだけに限った話ではない。
一番の自殺行為は怒りを露わにし、大声で叫んでしまった。
今思えばこんな事をしたら危険人物を呼び寄せかねないくらい想像出来たはずだ。
馬鹿な真似をして、周囲を警戒せずPoHに聞かれたのに気づかなかった。
殺されかけるもキリトに伝言を任される口実を向こうが作ってくれたお陰で危機を乗り切った。
Lでなくてもこんな奇行はしない。
こんな所で黎斗達の元に辿り着けずむざむざと死んでたまるか。

最も月は首席で大学を合格するくらい優秀だが、感情的になる欠点がある。
それが原因でLにキラの居場所を絞り込まれている。
その悪癖が正史の未来にて最後の最後で墓穴を掘った要因の一つなのは月も預かり知らぬ先の話だ。

兎にも角にも開始早々に反省すべき点はいくつもあった。
判断を間違えまくるなど、いつもの自分らしくない。
最初から狐島に行かずに協力的な参加者と接触し、集団に紛れ込めば早かった。
Lなら即普通の判断を下しただろう。

(時間を使いすぎた。行動に移らないと)

PoHとの戦闘で仮面ライダーメイジの使い方は把握した。
あの後、無理をしないように体力を回復するべく念を入れての休憩を取った。
しかし、気が付けば時間を費やしてしまっていた。
体力を大体回復した後、月はようやく動き出し、急いで狐島から脱出した。

そして、現在に至る。
今までの失態は仕方なく、月は過ぎた事だと次に切り替える。

(周辺を捜すのが無難か)

月の現在地は南西のG-2
かなり時間を食ったのもあって既に誰もいない可能性もある。
其れでも捜索しないと始まらない。

此れまでの考えは狐島にいる際に休憩中に色々とまとめてある。
まだ南西にいるか不明だが、黒ポンチョの男を深追いはしない。
何れ屈辱を晴らしたいけど、再戦しても悔しいが自分の実力では勝ち目はない。
あの男だけではなく、他のゲームに乗った参加者にも言える。
ホーリーリングは強力だが、それだけでは足りない。
なら、協力者の存在は必要不可欠。
月の戦闘面での実力が劣っても経験が豊富な人材がわんさかいる。
心当たりがあるのはPoHが言っていたキリトのみ。
個人的には前衛を張れて安心出来る強者が良い。

275◆2fTKbH9/12:2024/12/28(土) 14:57:59 ID:???0
(Lの始末は保留だな)

最初からLの悪評を流す気はない。
今頃、接触した参加者に絶大な信用を勝ち取っている。
悪評を撒けば撒くほど自分の信用が地に落ちかねない。
仮に始末するとしても丁度いい頃合いを待つ。
今も疑いを持たれているが、まだキラだとバレてない分、様子を見たほうが賢明だ。
デスゲームの真っ只中でデスノートを取り戻す目的を知られないよう立ち回る。

その自分がキラの正体を絶対に露呈は避けたい。
此の事が公になったら今度こそ信用が地に落ちてしまうだろう。
このデスゲームでやらかさなくともこの点はマイナス要素だ。
キラだとバレない限り、基本的に手を貸すが誰かが正体を知ったその時は障害になると判断したら消す。

(さて、遅れを取り戻すぞ)

ゲーム開始から数時間が経過した。
月には協力的な人物は不在でLとは大分後手に回っているだろう。
自分も集団に混ざらないと負ける気がする。
先ずは南西で人探しだ。
時間が時間なだけに南西で人と会えるか定かではない。
せめてPoHみたいな危険人物ではなく、友好的な人物が好ましい。

そう思いながら月は行動を開始する。





少し歩くと二つの足跡を発見した。
一つは古く、もう一つはつい最近新しく出来た物のようだ。

「賭ける価値はありそうだ」

前者は兎も角、後者は追いつけば間に合うかもしれない。
月は希望を抱き、走りながら真っ直ぐ続いている足跡を辿った。
足跡はF-2まで伸びていた。
近づく度に嫌でも大きな音が聞こえる。

(また面倒な事態か!!)

この音は戦闘音と予想が付く。
後者の足跡は危険人物だと確信を得た。
まだ南西に黒ポンチョの男がいるかもしれない。
そいつがいるとしたら厄介で、自身の本性も知られてしまった。
先に自分が友好的な参加者と接触が早ければ話は別だったが、後なら本当の事実を吹き込まれて警戒されるであろう。
月は内心イラつきながらも様子見を決める。
黒ポンチョの男が原因でなくても其れは変わらない。

月は目的の場所に付き、すぐさまオープンカフェの物陰に潜んだ。
戦っているのはカードを使う男、仮面ライダーに変身した二人、ピンクの髪の女、紫髪の女の5人組と襲っている相手は触手の男で後者がゲームに乗っている事は一目瞭然。
触手の男は殺すべき悪と断定する。
PoHがいないのは不幸中の幸いだ。

276◆2fTKbH9/12:2024/12/28(土) 14:59:46 ID:???0
(あの男、滅茶苦茶強くないか!)

黎斗がデュエルを推している理由を理解した。
カードでモンスターを実体化して戦う光景を見せられたら納得するしかない。
後衛の存在はいなくてはならない存在で戦いの鍵になる。

其れはさておき、触手の男はPoHよりかなり強くて隙など無い。
貴重なデュエルによる後衛も意味をなさい戦況。
自分よりも戦闘経験が上の筈な肝心の仮面ライダーも両方とも蹂躙出来る強さだ。
此れでは自分の加勢も無駄で終わるだろう。
彼らには悪いが逃走したほうが早いと揺らぎ出す。

すると白衣の男が変身した黒くて黄緑色のライダーが善戦する。
何と触手の男だけ時間を止めた。
月から見ても強力な変身道具だと認識する。
相手に渾身の蹴りを食らわせ、月は思わず右手でガッツポーズをした。
しかし、喜びは束の間で急に変身が解除し、苦しみ出して倒れてしまった。
如何やら、あの変身道具は何かしらデメリットがあると推測する。
それだけリスクを負ってでも使わざるを得ない切羽詰まった状況だ。

(もう、こいつらは駄目だな。使えない)

月は遂に役に立たないと判断し、5人組と接触せずに見捨てる事を選ぶ。
白コートの男が抗うのはまだ良い、だが、主力の二人が脚の負傷、デメリットのせいで気絶寸前、それらなら未だしもピンク髪の少女の戦意喪失が決定打を打った要因だ。
ピンク髪の女もデュエルを装備しているのを見るに後衛で動けば多少の時間稼ぎくらいは出来ただろう。
あの女の有様を見れば戦いの本当の厳しさと怖さをまるで分かっていない。
足を引っ張る事実を同行者が何も言わなかったであろう時点で考えが甘いと月は呆れ果てた。
どうせ誰か一人くらいは気を遣って、意味がない特訓に付き合っただろうが、その必要性は全くないことを。

(悪く思うなよ)

同行者の殆どが心身ボロボロになり、月はこの集団に紛れても此の先メリットはないと見切りを付け、デスノートも彼らは所持してないのは確認した。
仮に誰かが囮になって逃がしても支給品次第で触手の男が追いかけて来る危険性が高まる。
善人の彼らを見捨てるのは罪悪感が無いわけではないが、こんな所で新世界の神に返り咲く目的を絶たれる訳にはいかない。
月は誰にも気づかれずにオープンカフェから距離を離していった。





「仕方ない、仕方なかったんだ」

人知れずF-2から離脱した月は走ってE-2の東寄りに来ていた。
やむを得ないとはいえ、彼らを見捨てた後悔はないはず。
しょうがなかったのだ。生き延びるにはこの選択しかない。
今になってPoHの苛め抜かれた言葉が頭の中で再生されかけるも。

「違う!!僕は正義だ!!」

月は振り払うように口に出した。
何故このタイミングでリピートし出しかけた?
脳裏に過ったのは五人組を見捨てたのが付き纏っているというのか。
こんな事はもう忘れたい。

277◆2fTKbH9/12:2024/12/28(土) 15:00:45 ID:???0
月は目的の為なら手段を選ばない傾向がある。
実際、キラの正体を疑い嗅ぎまわっていたレイ・ペンバーを始めとするFBIの捜査官全員を殺害し、Lに協力する者、挙句の果てには最悪の場合家族を殺す選択も入れている。
保身で海馬達の助力をせずに逃げたのが悪い方向に作用してしまった。
PoHからも同類と言われた本質に本人は自覚する事はない。

(Lと接触する前に最低限、集団を作りたい)

冷静になった月は一から協力的な参加者を捜し直すのを決める。
自分は不利でLより出遅れてしまった現状を容易に推測出来る。

(あいつは地図の中心に行くはずだ。なら、僕は裏をかこう)

敢えて北上する方針を取る。
恐らく、Lの初期位置は北と予想する。
他者の接触を多くするべく中心部へと動いているだろう。
協力者が不在でLと会う訳には行かない。
それなら、自分は見知らぬ場所に向かい、勢力を作るのが良い。
集団に混ざって、自分の信用を最大限にしてからでも挽回は出来なくはない。

(待ってろL。僕は追い越してやる)

負けず嫌いな月はしぶとく生きているだろうLに対抗心を燃やし、北へ直行する。



【E-2 東/一日目/早朝】

【夜神月@DEATH NOTE(漫画版) 】
[状態]:ダメージ(中)、怒り(特大)、手に傷(止血済み)
[装備]:メイジのベルト&メイジウィザードリング(緑)@仮面ライダーウィザード、テレポートリング@仮面ライダーウィザード、ホーリーリング@仮面ライダーウィザード
[道具]:基本支給品
[思考・状況]基本:必ずやハ・デスと檀黎斗に神罰を与え、新世界の神に返り咲く







































「は?な、んで...........」

278◆2fTKbH9/12:2024/12/28(土) 15:01:41 ID:???0
突如、月は急に足を止め、困惑と驚愕の混ざった表情をする。
何故ならば、今度こそ魂すら消す死神が瞬間移動して来たかのように目の前に現れたのだから。





先程の戦闘を終えたポセイドンは此処から離れた場所に移動すると決断した。
理由としては気晴らしに一旦、状況をリセットする。ただ、それだけだ。
逃げた雑魚(カス)共は何れかち合えばつけ上がらせずに殺す。
特に自分を洗脳した汚物(野獣先輩)は神の裁きを持って償い、報復しないと気が済まない。
ただ、執着しない。そいつもかち合い、汚物(野獣先輩)がまたのぼせ上っても殺す。

移動の方法は転移結晶と言う道具だ。
やり方は地面の下へ叩き付けるだけでランダムに転移する。
ポセイドンにとって利用出来る価値のある物。

早速、転移結晶を地面に向けてぶつける。
するとポセイドンは一瞬の内に瞬間移動した。
新たな地に空間転移した矢先に目の前に参加者がいた。
手間が省けて良い、直ぐに雑魚(カス)を片付けられる。

(嘘だろ!?最悪だ!!)

月は想定外の事態に対処出来ないでいる。
これからというタイミングで突然、瞬間移動したかのように目先に出現したそいつは黎斗の放送でアプリに写っていた槍の男本人。
一目拝見しただけでも人外で桁違いの威圧感に押されかけた。
触手の男なんかよりも比べものにならない程強いと分かる。
よりにもよって圧倒的な強さを誇る相手に突如、対峙させられて、苛立ちを隠せずにいた。
唐突な邂逅の原因は瞬間移動で道具の機能による物と推測を立てた。
危険人物ばかり遭遇し、更に目先に参加者の中で最強クラスの強者の悪と邂逅してしまう始末。
PoHの時は自分の過失で呼び寄せてしまったのは反省点であるが。

(どうする?)

279◆2fTKbH9/12:2024/12/28(土) 15:02:47 ID:???0
あの時はPoHから口実を与えたお陰で助かった。
槍の男は違う。話しをしようにもあの様子だとその余地すらない。
絶対に逃がさない気迫も伝わって来る。
今からでも襲い掛かる雰囲気だ。

(あいつを殺すしか道はない)

残された選択肢は戦って目先の悪を葬る。
逃げようにも檻に閉じ込められた感じで逃げ場すら与えられない。
月に協力者は周りにいない。
此処に来て、五人組を見限らずにあの場に残って行動を共にするべきではと後悔の念が渦巻く。
彼らがいれば月の頭脳が発揮し、この場を切り抜ける策も浮かんだだろう。
しかし、現実は月一人だけ。
支給品もメイジの変身道具一式のみ。
テレポートリングも長距離は転移不可で短距離では時間稼ぎにもならない。
彼らを見捨てた罰が当たったのだろうか?
今更、悔いても始まらない。
何が何でも新世界の神に君臨するまでは絶対に死ねない。

腹を括った月はベルトを腰に巻き、メイジウィザードリングを中指に付ける。

『ドライバー・オン!』

『シャバドゥビタッチヘンシーン!シャバドゥビタッチヘンシーン!』

「変身!」

月は掛け声を上げると同時に緑のメイジウィザードリングをハンドオーサーに翳す。

『チェンジ!ナウ!』

変身時の呪文詠唱が音楽の様に流れながら、仮面ライダーメイジへの変身を完了した。
カラーリングは緑で腰回りにはスカートのような形状が特徴。

メイジには橙と青のカラーリングも存在する。
月の所持するメイジは只の量産型ではない。
白い魔法使いと似たベルトを使用し、ウィザードと変わらない魔法の発動が可能。
本人の戦略と熟練度次第で幹部級のファントムと互角に渡り合える。

本来なら魔法使いにしか使用は不可能だが、黎斗によってメイジは魔法使いでもない者でも変身が可能になった。
魔法に無縁の月でも扱えるようになった。

(こいつは正攻法からの近距離は通用しない)

ポセイドンからのプレッシャーに圧倒されかけるも月は奮い立つ。
この相手には間合いを詰めて真正面からの接近戦は無意味。
馬鹿正直に突っ込んだら死が待っている。
PoHとの戦闘で使用しなかった武器で遠距離攻撃を行う。

その名はウィザーソードガン。
ウィザードと同じ装備品だが、違う箇所は銃のみの使用で剣は搭載していない点だ。
元々の変身者山本昌宏はこの装備を使用していないが、メイジの共通の武器で所持している。
射撃は初めてであるが、慣れればそれ程でもない。

280◆2fTKbH9/12:2024/12/28(土) 15:03:48 ID:???0
月はウィザーソードガンを数十発ポセイドンに撃ち放った。
人体の急所になる部分を確実に狙う為だ。
まず、囮に正面から十発程、弾を撃ち込んだ。
アプリで得た情報では一撃でモンスターを沈めさせた。
無暗に撃ってもあっさり防がれるだけ。
囮の弾を利用し、弱点になりそうな顔面、額、顎、金的、肩口、脇の下、膝、足等を標準にして、月は速く弾を発射する。
いくら化け物に当て嵌まる悪だろうが、急所に当たったらダメージを受ける。

数十発の弾丸がポセイドンに定められるも一歩も動く気配はない。
するとトライデントを持っている利き手を動かし、常人では視認不可の超高速で真ん中から弾丸を突き、相殺していく。
急所に的を絞っていた銃弾もそうは行かないと言わんばかりに片付けていく。
銃弾を収拾したものの自分に向かってきた攻撃が止んだ矢先に目先の雑魚(カス)がいない。

(此処から本番だ)

月はポセイドンの真上の後ろにいた。

実は月は二段構えの戦略を考えていた。
一段目は急所の箇所を狙い撃ちにし、仕留める作戦。
と言ってもあくまでこの戦略は建前に過ぎない。
はなから射撃で急所に当てられるとは微塵も思っていない。
絶大な力を持つ男が此れくらいで殺せるとは甘くない。

考え付いた結果が二段構えによる寸法だ。
まず、もう一つの策略を悟られぬよう表向きの作戦を決行する。
上記の通りの計略で本気でウィザーソードガンを素早く撃ちながら人体における急所を狙いつつ、真の狙いがバレないようする。
金髪の男が銃弾を処理しているその一瞬の間にテレポートリングで空間転移する。
因みにテレポートリングを翳し、『テレポート!ナウ!』と発音で勘付かれる危惧で焦りかけた。
何事もなく後ろを回れた。

真の戦法はポセイドンの首輪の爆発が目的。
参加者全員に付けられた共通の枷。
月は最初から首輪狙いを集中していた。
デスゲームのルールを利用して、首輪の効力で如何に桁違いに強い参加者も命は潰える。

だが、この戦法には一つ欠点がある。
首輪を破壊すればその余波で自分も巻き込みかねない諸刃の剣。
メイジの変身中は衝撃を和らいでくれると願いたい。
目的を達成出来なくなるより、この手段を取ったほうがまだ良い。

此の戦略の参考はPoHとの戦闘だ。
よくよく考えれば自分の戦い方はほぼ脳筋に近かった。
その反省を活かして月らしい頭脳特化のスタイルに変更した。
メイジに慣れつつあって、知恵を武器に弱者らしいやり方で貫く。
ただし、この二段階の策略はPoH戦の一部の焼き直しであるのは否定出来ない。
それ以外は見直して、改良した。

(最後に仕上げだ)

首輪を破壊して終わらせる。
相手の背中は隙が生まれていた。
左腕にスクラッチネイル、右手にウィザーソードガンを構え、準備は整った。
万が一を考え、両手で多種多様の武器で首輪に向けて攻撃を加える。

281◆2fTKbH9/12:2024/12/28(土) 15:04:46 ID:???0
(貰った!)

地面の下に落下する中、これが最初で最後のチャンスだ。
スクラッチネイルを振り上げ、ウィザーソードガンの引き金を引く寸前。
月は勝利を確信し、仮面の下で口角を上げる。
息を潜めて動作をしようとした。




並の相手なら月の戦略は成功したであろう。
ところが現実は非情だ。
ポセイドンは咄嗟に後ろを振り向いてトライデントを物凄い勢いで突きを繰り出す。
月は瞬時に身体を右に傾ける。
直撃は免れたが、しかし、月自身の視界に左腕が串刺しにされ、左脇腹も鎧ごと食い込まれた。

「そ、んな」
「気配でバレバレだ。雑魚が」

一言吐き捨て、トライデントを振り上げて、月は投げ飛ばされるように声にならない悲鳴と共に地面にキスした。

(此れ程までとは.........。舐められてたまるか!!)

理解はしていた。
余りにも力の差が歴然で二段構えが全然通用出来なかった。
左手は激痛になり、動けなくなっても可笑しくないくらいボロボロで左脇腹は少なくない血が流れている。

其れにプライドも大いに傷つけられた。
ポセイドンにはPoHを超える屈辱を味わわされており、侮られている。
あの男は自分に全く目を合わせようとしないのが証拠だ。
未だに本気を出さず眼中にないのが何より、悔しかった。
月はまだ残っていた悪足掻きを決行する。

ポセイドンは止め刺すべく死刑宣告をするかのように一歩、また一歩と近づく。

「まだ.....だ」

月は無事な右手を支えて左脇腹から少ない血が垂れるもゆっくりと立ち上がる。
相手が規格外でも諦める気は毛頭ない。
今度こそ本当の敗者で終わるのは御免被りたい。
生への執着も人一倍ある。

「僕はキラだ!何れ新世界の神になる男だ!貴様みたいな奴に僕の理想を阻まれてたまるかーーーーーー!!!」

感情を曝け出し、言葉も叫びとなって吐いた。
言い終わった後、僅かに動く右手にホーリーリングを左手の中指につけ、ハンドオーサーに翳す。

『ホーリー!ナウ!』

現在の所有する月の最大武器を発動させる。
聖なる光波を光線の如く直線上から物凄い速さでポセイドンに向かって放った。
そもそもホーリーリングは姉の仇討ちを願う少女に白い魔法使いの甘言により授けられた強力な魔法。
PoHとの戦闘では魔法カードを使われたせいで空ぶって終わる羽目になった。
余程の事がない限りは重症を負うのが普通だ。

282◆2fTKbH9/12:2024/12/28(土) 15:05:50 ID:???0
対するポセイドンは棒立ちのまま横に避けない。
否、する必要性もこれっぽちもなくトライデントで光波を受け止めている。
ホーリーとトライデントがぶつかり合い、互いに粘るもポセイドンが少しずつ押し返そうとする。
拮抗し合っていたのはほんの数秒だけだった。
こんな大技を破ろうとする姿に月は絶望視しかける。

(なんなんだこいつは!?こんな切り札まで。だけど、僕は終われないんだ!!)

月は目先の悪を殺し、キラの使命と何が何でも脱出する原動力になっていた。
これらの執念が光波の出力を緩めない。
ポセイドンの疲労も重なって再び拮抗になり、若干の余裕を取り戻し、流れが月に向くと思われた。

「図に乗るな。雑魚(クソ)が!!」

またしても数秒だけで今度は押し返す所か光波を捩じ込もうとしている。
ポセイドンは前進しようとする直前だ。

「貴様如きに神を名乗るなど驕りが過ぎる!!」

月は一切、気を緩めず踏ん張り続けた。
だが、圧倒的な差を埋めらずに如何しようもない。
キラとして暗躍しているが、本当の戦争とは無縁の世界の出身。
何より、神と自称した事でポセイドンの癪に触れてしまった。
その結果、月を敗北に追いやろうとする。

トライデントが遂に光波を捩じ込んだ。
一気に間合いを詰めるべく捩じ込まれた部分を貫いていく。
光波を真っ二つに割る様にし、前に道を空ける感覚でポセイドンは着々と進撃する。

(クソっ!クソっ!)

月の敗北が・・・いや、死が目前に迫っている。
最後の悪足掻きも無下にされ、最早、無意味に足掻く。
こんな化け物のせいで生が終了する現実に頑なに認めなかった。
無意識に絶望的な表情を作った事実を月自身は気付かない。

瞬く間に光波を完璧に打ち破られた。
間合いに入ったポセイドンは攻撃の元になっているホーリーリングの破壊を月の右腕ごと突きで木っ端微塵にした。

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」

PoHのエリュシデータに右手を斬られた以上の右腕を失う尊大な苦痛が襲った。
人生で今までにない悲鳴を上げるもポセイドンは何時の間にかゼロ距離に辿り着いていた。
トライデントを思いっきり振り上げ、月の腰に強烈な一撃を食らわせた。
メイジのベルトも粉々に砕かれ、月は上半身と下半身が分断されてしまった。

(ぼ.........くは.......こん..な....と.....ころ.......で.......)

月はまだ残っている意識の中であるのは後悔しかない。
PoHやポセイドンと言った悪を殺せず、Lとの決着を白黒付ける事もなく、デスノートを取り戻せず、主催共に裁きを与えて新世界の神に返り咲く目的も遂げられない。
脱出してから犯罪のない世の中の実現は不可能になった。
今度こそ敗者として何も成し得なかった。
彼らを見限らなければ違う結末はあったのだろうか?
己の無念を抱え、神への再起も不能のまま月は本物の神に殺された事実を知らずに意識は途切れた。

283◆2fTKbH9/12:2024/12/28(土) 15:07:24 ID:???0
月の敗因は言うまでなく仲間の不在だろう。
五人組もとい海馬達の接触する絶好の機会があったのだが、触手の男=無惨との戦闘で心身共に傷を負ったのは無理もない。
彼らの再起の可能性を信じ切れずに切り捨ててしまった。
ツケが回ったのか運悪くポセイドンと遭遇してしまい、自身の破滅の結末を生んでしまった。
もしも、彼らの可能性を感じ取り、一緒に同行し、単独でポセイドンとの邂逅は避けられた運命もあっただろう。
あくまで例えばの話だ。進んでしまった分岐の変更は当然ながら、不可能だ。



【夜神月@DEATH NOTE(漫画版)  死亡】



ポセイドンは月との戦闘後、既に動き出していた。
あの戦いの最中に何者かが近づいていた気配を察知した。
直ぐに離れて行ったが、一応、逃げた方角は記憶してある。
逃げ果せた可能性もあるので周辺を捜索する程度。
見付からなかったら、どうでもいいだろう。

周辺の捜索が終了次第、もう一度北へ前進する。
自分の現在地がE-2だと把握した。
北への行く道はD-2とE-2境界線にある橋。
理由としては気晴らしも済んだし、転移する前に殺し損ねた雑魚(カス)共とかち合う可能性を高める為だ。
そうでなくてもやる事は変わらない。

先程の殺した男は勝手に神を名乗る愚か者がまだいた。
主催もそうだが、参加者にも神の名を振り翳す人間がまだ存在していたとは。
あの雑魚(カス)相手に本気を出すまでもなく、比較的楽に殺せたが、変身中に攻撃しなかったのも何時でも片付けられたから。
最後の光波の攻撃も避け様と思えば簡単に出来るが、躱さなかったのは、神を騙り、調子に乗っている愚か者に身の程を知らせる為に過ぎない。

しかし、あの男も此れまでの参加者同様、のぼせ上がっていた。
自分に勝利すると思い込み、牙を剥き、諦めるの『あ』の文字すらない。
どいつもこいつも自分に神に道を譲る気はないようだ。
全員歯向かう輩は死を以って償うだけだ。

其れから辺りを捜索し、かなり遠い位置に黒い鎧や異形などをギリギリ発見した。
ポセイドンは気が変わり、標的を変えて、あの四人を殺し、次に再度、北へ北上する。
先程の何者かは放っておいてもどうせ問題はない。
視界は豆粒みたいな位置だが、追いつけばどうとでもなる。

ポセイドンはまた動く。
神に休息が訪れる日は来るのだろうか。



【E-2/一日目/早朝】

284◆2fTKbH9/12:2024/12/28(土) 15:09:07 ID:???0
【ポセイドン@終末のワルキューレ】
[状態]:内臓にダメージ、疲労(絶大)、打撲(超軽微)、胴体に裂傷(中)、全身に切り傷(超軽微)
[装備]:トライデント@終末のワルキューレ
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1
[思考・状況]基本方針:偽りの神共とのぼせ上がった人間共を殺す。
1:遠い位置にいる四人の雑魚(カス(ジャック組) )を殺し、その後は再び北へ前進する。
2:一刻も早く雑魚(カス(参加者) )共を殺し、殺し合いに優勝して雑魚(ハ・デスと黎斗)の元へたどり着く。
3:あの不敬極まる汚物(野獣先輩)は必ず殺す。
[備考]
※参戦時期は本編登場前。
※通常の兵器でもポセイドンにダメージは与えられます。
※野獣先輩によって<<洗脳ーブレインコントロール>>を使用されましたが、自力で解除されました。





「迂闊に乱入しなくて良かった」

そう呟いた人物は小太りで白色のスーツを着用した男、天ヶ崎恋。
それは人間態の話で、もといラヴリカバグスターである。
嘗て表向きは一時消滅した黎斗の代わりに幻夢コーポレーションの三代目社長を務めていた。

彼は小鳩にモーニングスターで夜空の彼方へ飛ばされて敗北した。
地面に落ちた先は橋が見える位置だった。
ラヴリカの現在位置はD-2の橋の近辺だが、本人はNPC扱いであるが故に地図を所持していない。
傷心を癒す休養を充分に済ませた後、NPCの役目を真っ当するべく行動に移す。

行き先は適当に橋を渡るのを決めた。
移動して、橋を渡る目前で人間......いや、エルフ耳の少女の死体が転がっている。
彼女が殺害されたついては自分なりに保護出来ずに残念な結末にがっかりつつもあっさり後にした。

橋を渡り、E-2に舞台が変わる。
その時、銃声が鳴り響いていた。
誰かいると確信し、少し近づいたら、金髪のイケメンと自分の知らない仮面ライダーとの戦闘ではないか。
スカート状のライダーの中身は不明でテレポートで後ろを取り、寝首を搔こうとした。
たが、金髪のイケメンはあっさり対応し、捻じ伏せて見せた。
此の光景を見たラヴリカは危機感を感じて、一目散に逃げた。
NPCとして参加させられても金髪のキザ男とは関わりたくない。
物理攻撃の無効が強みでもあんな規格外に勝つ見込みがない。
タイミング悪く突撃してしまったら、あのライダーは分が悪いと押し付けられて、自分は葬られただろう。
幸い、あのライダーの変身者が声の主が男性と確信し、興味を失くしたのもあった。

かなり距離を取り、今に至る。

「もう少し、離れて・・・・・・あれは!?」

そう遠くない距離にマッシュルームヘアーの男とピンク髪の女性の姿が映った。
前者が担いでいる二人の内の一人はラヴリカが見知った人物だ。
まさかの偶然による再会で驚愕する。

「彼もこのゲームに招かれるとはね」

気絶している男が白衣に白が混じった髪を忘れる訳がない。
ブレイブこと花家大我本人だ。
ラヴリカは何れも大我に二度も敗北を喫している。
二度目はそうではないが、大我の決死の抵抗により、スナイブこと鏡飛彩に敗北する原因を作っている。

もしかしたら、大我がいるのなら、飛彩と宝生永夢も来ている可能性を失念していた。
そもそも、殺し合いの運営を仕切る黎斗が彼らを招待しないはずがない。
せめて名簿が手元にあれば早く知れたものを。

285◆2fTKbH9/12:2024/12/28(土) 15:10:15 ID:???0
ラヴリカは目的を一つ増やす。
この場で大我との三度目の再戦を挑もう。
二度の苦い敗北した分の清算をして貰おう。
飛彩と永夢のリベンジの優先は低く、来ているか不明。
特にエグゼイドの因縁は薄くて、どうでもよかった。

けど、唯一の難点がある。
NPCの役割であるが故に参加者を殺せないようそれすらもプログラミングで調整されてしまっている。
此ればかりは如何しても不満だ。
制限が無ければ小鳩だって始末する一択のみの選択。
同じNPCでも継国縁壱みたいに命を奪えるように許可して欲しいものだ。
文句を垂らしても仕方ない。

「彼らはあっちだな」

彼らを的確に追跡し、大我にリベンジを達成させ、他の男二人も再起不能だけで終わろう。
黎斗が余計な細工をしなければ再起不能では済ませないが。
ピンク髪の女子を自分なりのやり方で保護しよう。
ラヴリカは走って行った四人組を追って行った。

しかし、ラヴリカは一つだけ勘違いしていた。
保護する予定のピンクの髪の女子こと百雲龍之介は男性である事を。
見た目からして見抜くのも無理難題な話。
其のことを知った時、何を思うのか。

図らずも大我とラヴリカの第三ラウンドが始まるかもしれない。
一度目は西馬ニコの罵倒を浴びて弱体化し、そこを狙われて敗北。
二度目は黎斗の手で復活するも、彼によって百瀬小姫の洗脳が解除され、飛彩に引導を渡される要因になった。
大我が目を覚ませば三度目の戦いのゴングが鳴り響くだろう。


本物の神とNPCのバグスターは標的を発見した。
同じエリアでも二カ所の地で距離がある。
間もなく放送が始まろうとする。
終われば、離れた場所で其々の死闘が幕を開くであろう。



※ラヴリカはトリロジーアナザー・エンディングで消滅後までの記憶を持っています。
※エリンの死体はD-2の橋の前に置かれています。
※メイジのベルト&メイジウィザードリング(緑)@仮面ライダーウィザード、テレポートリング@仮面ライダーウィザード、ホーリーリング@仮面ライダーウィザードは全て破壊されました。修繕は当然ながら不可能です。



【転移結晶@ソードアート・オンライン】
ポセイドンに支給
旧SAOにてドロップで手に入れられるアイテム。
使用回数は一回で結晶を地面に叩き付ける事で自分が指定した場所に行ける。
本ロワではランダムに転移する。

286◆2fTKbH9/12:2024/12/28(土) 15:11:50 ID:???0
投下を終了します。
タイトルは偽りの神 です。

287 ◆ytUSxp038U:2025/03/04(火) 14:20:02 ID:cS9VIg6I0
皆様投下お疲れ様です
生存中のキャラが全員早朝の時間帯に登場したので、◆QUsdteUiKY氏が宜しければ私の方で第一回放送の予約をしたいと考えていますがいかがでしょうか?

288 ◆QUsdteUiKY:2025/03/06(木) 03:01:04 ID:K5AJs0qk0
>>287
ありがとうございます。ぜひお願いします。皆様とてもクオリティが高く、自分なんかがこの企画の放送を書いて良いのか悩んでいたのでとても助かります
アニメ版の海馬のみ黎明ですが1名くらいなら問題ないと考え、企画の進行を優先させていただきます

289 ◆ytUSxp038U:2025/03/06(木) 23:06:48 ID:QzmKpfRM0
>>288
こちらこそありがとうございます。では投下します

290第一回放送 ◆ytUSxp038U:2025/03/06(木) 23:07:50 ID:QzmKpfRM0
「予想以上、だな」

誰に向けるでもなく呟かれた声色には、尊大な神らしからぬ驚きが含まれていた。
会場全域を映し出す無数のモニター。
プレイヤー達の奮戦、そして最期を己が居城で見させてもらった。
参加者の数だけ喜劇が、悲劇が、闘争が、絶望が、ドラマがある。
やはり自分の目に狂いはなかった、彼らは究極のゲームを彩るに相応しい者達だと。
そう思いつつも、脱落者への驚きは隠せない。

「まさか、君がこんなにも早くゲームオーバーになるとは……」

自分に強烈な嫉妬心を植え付ける程の、想像力の持ち主。
最高のモルモットにして、最強のゲーマー。
因縁深い小児科医の最期も、画面越しにしかとこの目で見た。

こうなる結果を微塵も考えていなかった、とは言わない。
ガシャットの大半を没収され、エグゼイド以上の力を持つ参加者もいる環境だ。
あの男とて、生き延びられる保障は全くない。
ただそれでも、彼を知る一人として期待を抱いていなかったと言うと嘘になる。
決闘と称した新たなゲームで、一体どのようなエンディングに辿り着くのか。
如何なる方法で攻略し神の元へ辿り着くかを、心のどこかで待ち望んでいたのかもしれない。

「だが、残念ながら君はもうプレイヤーの資格を失った。コンティニューは認められない!」

僅かに感傷らしきモノがよぎるも、即座に不敵な笑みで捻じ伏せる。
ああ確かに、あの男の脱落に思う所がないとは言えない。
だが、だからこそ面白い。
天才ゲーマーMですら呆気なく死ぬ。
善が勝利を収めるお決まりの展開を大きく外れた、己がゲームの出来栄えに笑いが零れる。

誰が予想出来たのか。
宝生永夢が、ハイパームテキが手元にないのを加味しても、あんな最期を迎えるなんて。
面白半分で参加させた、ネットの情報の集合体なんていう存在自体が嘲笑の的のような存在に、惨めに殺されるなど。
まさに予測不可能、凡人どもには決して真似できない神の作ったゲームならではだろう。

永夢だけではない。
司波達也は最愛の妹の元に帰れず、異界の地で朽ち果てた。
九十九遊馬はかっとビングを見失い、ヤケクソの末に一人寂しく息絶えた。
夜神月は愚かにも自身が偽りの神に過ぎないと突き付けられ、何一つ為せずに死んだ。

それぞれの世界で中心となった者達でさえ、神のゲームでは主人公になれなかったのだ。

彼らを失ったプレイヤー達がこの先どうなるのか。
特に期待を寄せる参加者達はまだ残っている、こちらで用意した敵キャラクターも健在。
正にゲームはまだ始まったばかり。

「さあ、君達の足掻きを私に見せてくれ。私のゲームの完成度を高める為に、存分に励むが良い!」

291第一回放送 ◆ytUSxp038U:2025/03/06(木) 23:09:01 ID:QzmKpfRM0



太陽が顔を出し、新たな一日の始まりを告げる。
仕事や学業への憂鬱さを抱く者、休日なのを良い事に二度寝を決め込む者、若しくは新生活のスタートを切り一歩踏み出す者。
そういった日常を謳歌する人々は、ただの一人も存在しない。
神から見れば光栄な、彼らにとっては不運な、殺し合いのプレイヤー達。
全員の意識を引き付けるように現れる、天空の巨大モニター。
6時間前と同じ現象に誰もが空を見やり、耳を傾ける。
これより起こるのが忌まわしいものであろうと、自分達の今後を左右するのは事実なのだから。

『御機嫌ようプレイヤー諸君。まずはおめでとうと言わせてもらおう。
 この放送を見ている君は予選のみならず、本選最初の6時間をも生き抜いた優秀な参加者だ!誇るが良い!自らの武力、知力、幸運!それらを駆使しよくぞここまで残った!
 反対に生き延びられなかった敗者どもォ!残念だが貴様らに復活権は与えられん!精々優勝者が生き返らせてくれることをあの世で祈っていろ!』

『ここからはルールに載っているように、伝達事項を話しておく。まずは禁止エリアからだ。
 既に把握してる者が大半だろうが、念の為に私からも話しておいてやろう。
 6時間毎に三つずつ、こちらで指定したエリアを立ち入り禁止とする。侵入が確認された場合、諸君らの首輪が爆発しジ・エンドだァ…。
 一応警告を発し多少の猶予はくれてやるがな。
 そして首輪が爆発すればどんなプレイヤーだろうと死は免れない。君達の中にもいるだろう?本来なら首輪の爆発程度じゃ死なない存在が!
 つまりこれはチャンスという訳だ!力で叶わなくとも、工夫すれば格上相手に勝利を狙える!戦い方次第で誰しもが勝者になれることを、努々忘れるなァ!

『では禁止エリアを伝えよう。

【B-7】
 【D-1】
【F-3】

 以上だ。これら三つは2時間後に禁止エリアとして機能する。用があるなら早目に済ませるのを薦めよう。
 それと君達の地図にも禁止エリアに印が付いている筈だ。うっかり聞き逃す馬鹿はいないと思うが、もしいるなら神からの慈悲を有難く思え!』

『続いては君達が最も気になるだろう情報…そう、脱落者達の発表だァ!
まずは神である私が最初に行った放送すら聞けず、ゲームオーバーとなった負け犬ども!こいつらから教えてやろう。
 
 ボーちゃん
 桜田ネネ
 御伽龍児
 遠野
 条河麻耶
 ひで
 小倉しおん
 吉田清子
 星合翔李
 エリン

 以上10名。たった1時間かそこらも生き延びられないとは…この雑魚どもめェ!
 次はこの6時間でゲームオーバーとなった者達だ。

292第一回放送 ◆ytUSxp038U:2025/03/06(木) 23:11:18 ID:QzmKpfRM0
 アユミ
 影山瞬
 紅渡
 鹿目まどか
 片桐章馬
 深月フェリシア
 牛尾哲
 猿渡一海
 宝生…永夢ゥ!
 百式照
 大尉
 司波達也
 城之内克也
 うさぎ
 野比のび太
 尾形百之助
 虐待おじさん
 梓みふゆ
 桜ノ宮苺香
 櫻井戒
 パラダイスキング
 ニノン・ジュベール
 九十九遊馬
 フグ田タラオ
 白鳥司
 涼邑零
 ルナ
 天々座理世
 MNR
 夜神月

 以上30名。ン素晴らしいッ!!君達は私の予想を超えて、実にゲームを盛り上げてくれたッ!
 アア…だが聞こえるぞ……喪失を嘆く者どもの声が…!
 そんなに悔しいかァ?

 CRの戦友が!
 みかづき荘の魔法少女が!
 決闘(デュエル)で繋がった友(ライバル)が!
 新世界へ渡った筈の命が!
 ヴァイスフリューゲルのメンバーが!
 ザルバ(友)である魔戒騎士が!
 ラビットハウスで共に過ごした友人が!

 彼ら彼女らの死が!受け入れらないのなら方法は一つ!最後の一人に勝ち残れ!
 優勝者への褒美を、死をも覆す権利を、ゲームマスターにして神の私が約束しよう』

『さて、生き残った諸君には幾つか耳寄りな情報がある。
 一つは会場に解き放たれたNPC。既に遭遇した者もいるだろうが、中には少々特殊な個体も存在する。
 首輪や所持した支給品と引き換えに、アイテムや情報の売買を行うNPCだ。
 もし首輪が装着されたままの死体を見付けたら、積極的に集めるといい。戦力強化や情報集めのチャンスになる、是非活用したまえ』

『二つ目。実は放置され回収されていない支給品が幾つかあってなァ。今回は君達の奮闘を評価し、特別に場所を教えよう。
 F-7とE-5だ。誰が手に入れるかは早い者勝ち。勿論、先に入手した者から奪っても問題はない』

『それと、だ。君達の中には既に奇妙な現象に遭遇した者もいることだろう。
 本来なら使えない力やアイテムを、死闘を経験し手に入れた者達が、だ。
 不安がる必要はない!それらも私が設定した、ゲームを盛り上げる要素の一つ!
 たとえ格上とぶつかっても腐るな!一発逆転のチャンスは平等に転がっているゥ!』

『では今回の放送はここまでだ。今後も君達の活躍に期待しているぞ。
 そして忘れるな!優勝か、私を倒すか、ゲームクリアまでの過程に決まった手順は存在しない!君達一人一人が自由に攻略ルートを組み立てたまえ!』

『さらばだ諸君!6時間後にまた会おう!無事に生き延びられたらの話だがな!ヴァーッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!!』

293第一回放送 ◆ytUSxp038U:2025/03/06(木) 23:12:24 ID:QzmKpfRM0



「無駄が多いな」

定時放送を終えた黎斗に掛けられたのは、労りとは正反対の言葉。
辛辣な評価をぶつけた本人はニコリともせず、瞳が神を射抜き続ける。

「必要な情報を伝えるだけなら、磯野にでもやらせておけば良いだろう。わざわざお前が出張って余計な挑発を繰り返し、何の意味がある」
「挑発とは心外だな。ここまで生き残ったプレイヤー達へ、神が直々に言葉を授けてやったのだァ」

腕を組みあからさまに見下す態度の黎斗へ、相手はやはり無表情。
ここにハ・デスがいれば、神への不遜な態度を咎めただろう。
尤も、仮にそうなったとて素直に聞き入れる者ではない。

重厚な鎧を纏い、神の眼前に立つのは男。
否、兜から覗く顔はまだ少年と言っても良い年頃だ。
だが見よ、絶望を見て来た人間にしか宿らない、深い闇が渦巻く瞳を。
常人では同じ空間にいるだけで震えの走る、強大なプレッシャーを。

戦士か?違う。
勇者か?違う。
では悪魔なのか?違う。

覇王。
その二文字こそが最も相応しい男もまた、バトルロワイアルを運営する側の一人。
といっても磯野やハ・デスと違い、黎斗に従っている訳ではない。
他者を支配下に置きこそすれど、自らが首を垂れ傀儡となるのは覇王の振る舞いに非ず。
利用し合っているのが神と覇王の関係に当て嵌まる。

「会場の様子は君も見ただろう?ならば、思う所はあるんじゃあないか?」

含みを持たせた言い方が、誰を指しての事かは察しが付く。
初代決闘王(キング・オブ・デュエリスト)。
ネオ童実野シティの英雄。
『本来の』彼がデュエルを通じ、絆を結んだ男達。
デッキを奪われて尚も戦い、仲間達と共に勝利を掴んだ二人へ――

「何もない。最後まで生き残り、俺の前に立つなら相手をしてやるだけだ。仮に志半ばで力尽きたとしても、所詮その程度の弱者だったに過ぎない」

声を震わせることなく、淡々と返す。
それ以上何も話す事はないとばかりに背を向ける覇王を、神は楽し気に見送る。

「そうか。ならば私も君が、武藤遊戯や不動遊星達と相見える瞬間に期待するとしよう。遊戯十代、嘗てそう呼ばれた決闘者よ」


追加主催

【覇王十代@遊戯王デュエルモンスターズGX】

294 ◆ytUSxp038U:2025/03/06(木) 23:14:34 ID:QzmKpfRM0
投下終了です
問題が無ければこのまま

環いろは、黒死牟、空条承太郎、天津垓、不動遊星、燕結芽、キャル、ポッピーピポパポ(NPC)、滅、野獣先輩、デェムシュ、継国縁壱を予約し延長もしておきます

295 ◆QUsdteUiKY:2025/03/07(金) 04:04:34 ID:.H46VtW.0
投下乙です
GXから誰も出せずに居たことや遊戯王キャラから主催者を出せなかったことを後悔していたので覇王十代が追加主催に居てとても嬉しかったです
この放送に特に問題はなく、本採用としていただきます。ありがとうございました

296 ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:00:54 ID:LPbpj4TY0
感想&本採用ありがとうございます
投下します

297刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:02:51 ID:LPbpj4TY0
「カンノミホ……(寝言)」

民家の一室。
本来ならば夫婦が愛を営むダブルベッドの上に、意味不明の言葉を呟くクッソ汚いホモが一人。
一生ネットの宝物、僕らのアイドル男優、四章の眠らせてくる奴、ホモビに出ただけでバトルロワイアルに参加する男。
野獣先輩が非常に腹立たしい顔で眠りに就いていた。

まるでどっかの悶絶少年のような、見ているだけで苛立ちを覚える表情である。
怒れる海神からの逃走に成功し、溜まりに溜まった疲れへ苛まれたのが少し前。
いい加減休むべきと判断を下すのに時間は掛からなかった。
無人なのを確認し民家へ我が物顔で居座り、睡眠という手っ取り早い回復手段を取り今に至る。

『御機嫌ようプレイヤー諸君』

「ファッ!?」

唐突に響いたクソデカ音声に飛び起き、慌てて身構えるも室内に人の姿は見当たらない。
訪れた時と同じく、民家にいるのは自分だけ。
ではどこからと、難しく考えるまでもなく窓の外に原因を見付けた。

「なんだあれは…たまげたなぁ」

一人勝手にたまげる野獣先輩の視線の先では、天空に浮かび上がった巨大モニター。
そこに映る尊大な態度の男を全ての参加者が知っている。
いつの間にやら6時間が経ち、ゲームマスターによる定時放送が始まったらしい。
所々で参加者を煽る発言に苛立ちながらも、有用な情報な故聞き逃さず耳を傾けた。

298刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:05:17 ID:LPbpj4TY0
「ウン……」

やがてモニターは消え、野獣先輩のいる民家も静寂を取り戻す。
普段からクッソ陽気で五月蠅いこの男にしては珍しく、神妙な顔で顎を擦る。

(やっぱり、優勝するしかないってことっスね……)

放送で呼ばれた退場者の中には、当然の如く愛しの後輩もいた。
何も不思議な事ではない、死体を己が目で見たのだから。
むしろ呼ばれない方が遥かにおかしいだろう。
他の参加者と協力して、檀黎斗達を倒すつもりは微塵もない。
改めて、優勝し遠野を生き返らせる方針を固める。

今更ながら、ここに迫真空手部の大先輩や後輩、師範がいなくて良かったと思う。
幾ら私欲の為に参加者皆殺しを目論む人間の屑であっても、親しい者まで手に掛けるのに抵抗が無い訳ではない。

虐待おじさんやひでと言った名前に多少既視感を覚えたものの、強い動揺を抱く程ではなかった。
やることは放送前と同じ、最後の一人に勝ち残って願いを叶える。
中途半端な時間だが睡眠を取った甲斐も有ってか、戦闘が可能な程度には疲れも取れた。
参加者を見付け、パパパって殺って終わりっとするべく民家を出発。

「ん?」

それからすぐの事だ、怒れる異形を見付けたのは。

299刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:06:16 ID:LPbpj4TY0



「思い上がっタ猿如きガ、俺を見下すナど許サン……!」

屈強な真紅の肉体を震わせ、デェムシュは黎斗への怒りを吐き捨てる。
見下し、嘲笑い、弄ぶ。
それらは全て、フェムシンムである自分達のみの特権。
だというのにあの人間は愚かにも神を自称し、あまつさえ己を遊戯盤の駒として扱う。
許せない、今更何をされようと絶対に許すつもりはない。
今すぐにでも引き摺り下ろし八つ裂きにしてやりたいが、出来るのならとっくにそうしている。
本当だったらあのような憎たらしい猿の言葉など切って捨てたい所であるも、聞き逃せば自分の首を絞めると分からない訳ではなく。
尋常ではないストレスを抱きつつ、情報はしっかりと噛み砕き頭に入れた。

とはいえ、禁止エリアはともかく死者に関してデェムシュが感じるものはほとんどない。
精々、自分が殺したいと思ってる連中が勝手に死んでいなければいい。
フェムシンムの同胞もいない以上、そう思った程度。
近隣エリアも禁止区域に指定されておらず、慌てて移動せずとも問題なし。

となれば真っ先に行うべきは、体力の回復だろうか。
最初に出会った人間達との戦闘に始まり、放送前は連戦の嵐。
ただの一人も殺せず、むしろ手痛い反撃を受け続けた。
忌々しい猿どもを早急に殺してやりたいのは山々だが、流石に疲労は無視できないレベルに蓄積中。
先程の戦闘から撤退したのも、それが理由の一つ。
加えて向こうには猿の分際でオーバーロードの力を得た戒斗や、奇怪な搦手を用いるベクターもいた。
自分と違い向こうは一人重傷を負ったが、残る二人はノーダメージ。
万全に近い状態の敵と戦闘を続け、不意を取らないとも言い切れない。
だから不服であれど自ら退き、命は繋がったままだが余計に鬱憤が溜まる結果となったのである。

(コの俺がいつまデも猿ニ不覚を取ルトは……)

選ばれし強者、フェムシンムとは思えぬ戦績。
素直に敵の力を認め考え方を変える、といった反省は起きない。
それが出来ないからこそ、彼らの文明は滅びを迎えたのだから。

300刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:07:07 ID:LPbpj4TY0
そうして休む場所を探すべく進んだ先で、デェムシュの瞳が一人の参加者を捉えた。
汚い、他の猿どもと比べても非常に汚らわしい男。
ガッシリと筋肉質ながら、見ているだけで不快感を感じざるを得ない。
しかも妙に臭い。
ただでさえ人間を猿と蔑むデェムシュからすれば、友好的に接しろと言う方が無理難題。
むしろ余計に苛立ちを刺激され、意識せずとも得物を握る力が強まる。

「薄汚レた猿メ、吐き気ガすル…!」
「辛辣過ぎィ!」

会っていきなりボロクソに貶され、ショックを受ける汚い猿。
ついさっき民家を出た野獣先輩はいきなりの暴言に心を痛める。傷付きやすいのは女の子の特徴、ハッキリ分かんだね。

一方で殺気立った相手の様子に、殺し合いに乗った者と察した。
目指す場所が自分と同じ優勝なら、たった一つの椅子を譲ってやる道理はなし。
このまま戦闘に発展しても負けはしない、遠野蘇生の礎にするまで。

(そうですねぇ……)

だが他に賢いやり方があるのではと、内心考え込む。
自分が参加者の中で弱い方だとは思いたくないが、放送前の戦いで痛い目を見たのはノーカンに出来ない。
特に金髪の偉丈夫とは真正面からぶつかった場合、自分と言えども無傷で勝てる確率は低い。
ならば、信頼関係など無くとも一時的に手を組む相手を作るのも悪い手ではない筈。
何よりどうしてか、目の前の赤い異形からは他人の気がしない。
強いていうなら、声から親しさに似たモノを感じないでもなかった。(大人気声優のSGTTMKZ兄貴は無関係だろいい加減にしろ!)

「まずうちさぁ、殺し合い乗ってんだけど、手ぇ組まない?」
「ナニ…?」

そうと決まれば早速共闘を提案。
後輩を屋上へ日焼けに誘った時のような気軽さで話しかければ、デェムシュは案の定訝し気な反応。
困惑は即座に怒りへ変わり、煮え滾る殺気を叩き付ける。
猿如きが馴れ馴れしい態度で、自分に手を組もうとほざいた。
百歩譲って、道具らしく跪き隷属を望むなら考えてやってもいい。
何を勘違いしたのか、眼前の猿はフェムシンムを旧来の友に思い込んでるとでも抜かすつもりか。

301刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:08:33 ID:LPbpj4TY0
「思い上がリも甚だシイぞ猿メ!」

湧き上がる衝動へ逆らわず、のぼせ上った猿へ剣を振り被る。
最早相手の言葉は一文字も聞き入れる価値なし。
憎たらしい顔面を叩き割り、地面を汚す腐肉の塊に変えるまで。

「まま、そう焦んないでよ」
「ヌゥッ!?」

だが一手早く、野獣先輩が懐に潜り込む。
絶対唯一神GOの語録を使うという、正に神をも恐れぬ所業と共にデェムシュの顔部分へ手にした道具を押し当てる。
もしデェムシュが万全の状態ならば、こうもアッサリ接近を許しはしなかった。
ロクに休まなかったツケで、野獣先輩の望む光景を生み出す。
棒の先端にバツ印が付いた道具を当てられ、暫し沈黙。
ややあって離せば、真紅の瞳で相手を見下ろしつまらなそうに吐き捨てる。

「…………フン、いイだロウ。貴様ヲ新しイ道具トシテ使ッてヤロう」
「いいねぇ〜!Foo〜↑」

快くとはいかなくとも、共闘は受け入れられた。
相手を道具扱いは野獣先輩とて最初からそのつもりだ、変に仲良くしたいとも思っていない。
丁度良い駒も手に入り、放送後の再スタートとしては申し分ない。
後は軽く2〜3人くらい軽く始末してやれば尚良い。

「あっそうだ(唐突)。俺早速行きたいとこあるんスよ」
「貴様ノ望ミなどドウデもイイ。黙っテ俺に――」
「そう言わずに聞いてくれよな〜頼むよ〜(懇願)」

お願いしつつも再び棒をデェムシュに当てる。
すると先程と同じく、不服そうにしつつも聞く姿勢を取った。
満足気に頷きつつ行きたい場所を言えば、損はないと理解。
問題は自分達の現在位置から数エリアは離れてる点だが、解決する手なら持っている。

302刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:10:25 ID:LPbpj4TY0
「見とけよ見とけよ〜」

大先輩のイチモツを押し当てられるクッソ哀れな後輩を煽るように、クッソ腹立たしい口調で道具を取り出す。
デイパックには到底入り切らないだろうサイズの、ピンク色のドア。
この奇妙な物体の名はどこでもドア、複数人の参加者にも支給された22世紀のひみつ道具の一つ。
行きたい場所を告げて開けると、ドアの先が目的地へ繋がるという破格の移動手段だ。
殺し合いでは幾つかの制限こそ設けられているも、移動時間の大幅な短縮には持って来いである。

ドアを開けると予め指定した場所へ通じ、文字通り一瞬で到着。
見慣れぬ街並みが広がっており、異物とも取れるモノが転がっている。
既に乾いた血だまりに伏し、ピクリとも動ない青年。
命を賭し仲間達を逃がした櫻井戒の骸と、傍らへ落ちた幾つかの道具。
放送であった放置されたままの支給品を回収すべく、E-5へやって来た。

流石に放送から間もないだけあって、他の参加者は見当たらない。
自分達が一番に着き、支給品は全て頂く。
上機嫌で手を伸ばすと、横からヌッと赤い腕が現れ掻っ攫った。

「ホウ……猿に持たセルニは勿体ナい剣だナ」
「クゥーン…(子犬)」

勝手に取られ子犬みたいに嘆く小汚いホモを無視し、デェムシュは感心したように手元の剣を見やる。
戒の支給品であったザンバットソードは、ファンガイアの王の為に生み出された魔剣。
デェムシュからしても見事と言わざるを得ない力が宿っており、自分が振るうもう一つの得物として申し分ない。
現代のキングや戒が決して望まない使い方をする気だが、死人から文句は飛ばない。
仮にあっても聞く耳持たずだったろうが。

ついでにデイパックを開け中身を確認、今正に必要とする道具を見付けた。
説明書を読み終えるやカエルのイラストが描かれたシールを、迷わず自分に貼り付ける。
するとあれだけ圧し掛かっていた疲労が、あっという間に消えたではないか。
見た目はただの玩具に見えるも、これもまた22世紀のひみつ道具。
ケロンパスと言い、貼った者の疲れをシールに移し替える効果を持つ。

303刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:11:00 ID:LPbpj4TY0
上等な剣の入手と、疲労回復。
両方が叶い幾分機嫌も良くなり、ザンバットソードで戒の首を斬り落とす。
胴体から離れた顔に見上げられるも、感じるものは皆無。
同じように転がった金属製の首輪へ切っ先を向け、同行者の人間の屑に言う。

「猿、貴様にハこれデ十分ダロう」
「……しょうがねぇなぁ(GKU)」

武器も道具も総取りしておきながら、上から目線極まる態度。
さしもの野獣先輩もカチンと来たが、怒り散らして折角の協力関係が台無しになるのも勿体ない。
特殊個体のNPCに渡せば道具と交換出来るらしいし、首輪の手に入れるのは不満でもない。
よって寛大な心で妥協してやった。これはどう見ても人間の鑑じゃないか、たまげたなぁ。

必要な物は全て手に入れ、もうこのエリアは用済み。
では次は何処へ向かうかだが、既にデェムシュが決めてある。
放送前は中へ入らず終いだった、白く巨大な建造物。
少なくともあの施設の前で一戦交えた二人組は、高確率で立ち寄った筈。
まだいる可能性も低くなく、ならば行かない選択肢はない。
六眼の剣士と桜色の小娘、二人揃って今度こそ仕留める時だ。

「付いテ来イ猿!奴ラに地獄を見せル時ダ!」
「ウン、おかのした。ほら行くどー」

事情は知らないが参加者を殺せる場に赴くなら、野獣先輩も異論はない。
片や隠さぬ憤怒を撒き散らし、片やクッソ気の抜ける語録を発し足早に次なる目的地を目指す。

その姿を、見られているとは気付かずに。

304刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:11:40 ID:LPbpj4TY0
◆◆◆


怒りがあった。
聞かざるを得ない情報と、聞きたくもない挑発染みた神の言葉。
それら全てを映像越しに耳に入れ、病室へ静寂が戻った後。
キャルの中にはどうしようもない程の、怒りが生まれた。

ふざけているとしか思えない殺し合いに巻き込み、とことん参加者を舐め腐った檀黎斗への。
ユウキと絆を結んだヴァイスフリューゲルの少女を殺した、顔も知らないどこぞの悪党への。

何より、すぐ隣で仲間の死を知らされた少女がいるにも関わらず、コッコロ達の名が呼ばれず安堵してしまった自分自身への。

簡単に死ぬような奴でないとは分かっている。
美食殿のメンバーでは最年少なれど、あの年頃らしからぬ落ち着きがコッコロにはある。
幾つもの依頼や、ランドソルを襲った大事件をも生き延びたのだ。
だから大丈夫だとは思っていたが、それでも生存を確認出来れば感じ入るものが無いとは到底言えまい。
良かったと、ホッと胸を撫で下ろした。

同時にもう一人、陛下と呼ぶあの人もだ。
殺し合いに抗う者達の事を考えれば、カイザーインサイトが生存中なのは悪い話だろう。
高確率で殺し合いに乗っているか、仮に乗っていなくとも何らかの被害が出た可能性は低くない。
けど、自分とあの人の関係は昔の主人だとかそんな言葉で片付けられない。
向こうにとっては道具に過ぎなくとも、既に敵対してるのであっても。
カイザーインサイトは、嘗て間違いなく己の救いとなった人なのだから。

(最悪……)

別に悪い事ではない。
死んで欲しくない者の無事を知り、喜ぶのは罪にならない。
分かっていても、そう簡単に受け入れられるかは別。
脱落者の名前が発表された時、隣で凍り付く気配は確かに感じた。
明らかに動揺してると、ハッキリ分かったのに自分が第一に思ったのは「コロ助達が生きてて良かった」だ。
自分自身への嫌悪が苦みとなって口いっぱいに広がり、

305刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:12:33 ID:LPbpj4TY0
「キャルちゃん?大丈夫…?」

掛けられた声に思わず隣を見やる。
眉を八の字に下げ、心配気に自分を覗き込む顔。
表情を歪めた自分が気になり、放っては置けなかったのだろう。
いろはと視線が合い、黎斗達への怒りとは異なる苛立ちが湧く。

(何であんたの方が気を遣うのよ)

お人好しな少女だとは放送前の様子から察しは付く。
でなければ、常時抜き身の刃染みた空気を纏う男を何かと気に掛けようとはしない。
そういった性格を悪いと言う気はないし、嫌いだとも思わない。

でも、今やってるソレは違うだろう。
顔色を悪くし、僅かに手が震えているのを見れば分からない馬鹿はいない。
告げられた脱落者の名へ、浅くない傷を負っている。
なのにいろはは喪失に打ちのめされるよりも、キャルへの心配を優先した。

「そうじゃないでしょうが馬鹿」
「痛いっ!?キャルちゃん!痛いよ!」
「うっさいバーカ」

それがどうにもムカつたので、いろはの頬を抓ってやる。
痛みに悲鳴が飛ぶもお構いなしだ。
暫くは餅のように柔らかい頬を引っ張り、頃合いを見て解放。
ヒリヒリ痛む箇所を擦るいろはに顔を近付け、無愛想に言う。

306刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:13:31 ID:LPbpj4TY0
「あんたが超が付く程のお人好しなのは、別に良いわよ。けど、こんな時でも他人を優先しなきゃならない程なの?」
「え…?」
「仲間が、呼ばれたんでしょ。あんな自分を神様だとか言ってるキモい奴の言う事なんて、信じたくないけど」

嘘だったら良かったと、大半の参加者は言うだろう。
同時にただの現実逃避に過ぎない、神が告げた者達は本当に死んでしまったと、誰もが理解している。

「なのに我慢なんかしてんじゃないっての。溜め込んだって自分がぶっ壊れるだけよ、そんなの」
「……っ」

痛い所を突かれた自覚はあったのか、唇を噛み俯く。
正面からいろはを見続けるキャルはため息を一つ零し、そっと手を伸ばす。
自分の方が年下だというのに、全く世話が焼ける。
案外自分もお人好しな友人達に影響を受けたのかもしれない。
なんて小さく呆れ笑いを浮かべ、いろはの顔を自分の胸に押し当てた。

「わっ…」
「こうしてれば、あんたがどんな顔してるかも見えないわよ。それに、空気読まず部屋に入って来る奴がいたら蹴っ飛ばしてやるわ」

天井を見上げながら言うと、ビクリと震えるのが分かった。
自分自身の為に感情を吐き出すのが下手くそなのを見かねて、キャルなりに何とかしようとしてくれる。
どこか不器用だけど、決して冷たくない優しさを感じポツポツと言葉を紡ぐ。

「……まどかちゃんは一緒にいた時間は長くないけど、でも強い女の子なの。大事な先輩を助ける為に戦って、それでちゃんと助けられて…」
「うん」

キレーションランドでの戦いの後は別れたけど、もしかしたらまたいつか会えるかもしれなかった。
今度はお互いの事をもっと知って、友達になれるかもしれなかった。
そんな機会はもう二度とない。

307刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:14:07 ID:LPbpj4TY0
「みふゆさんはやちよさんの親友で、わたしの知らないやちよさんの事を沢山知ってて……会えたらきっと、やちよさんも喜ぶ筈で……」
「…うん」

やちよがみふゆをずっと、マギウスから取り戻したかったのを知っている。
ドッペルの暴走を止める為に力尽きたけど、でももう一度やちよに会えるかもしれなかった。
元の世界に帰れれば、鶴乃や天羽姉妹だって喜んだろう。
そんな未来は実現しない。

「フェリシアちゃんは……みかづき荘の大事な仲間で、わたしの作るご飯をよく薄いって言うけど、でも美味しそうに食べてくれて……」
「うん」
「鶴乃ちゃんとも仲が良くて、それで、それ、で……っ」

思い出すのは、フェリシアと会ってからの数々の記憶。
魔女への復讐心を抑えられなかった頃や、みかづき荘で共に過ごした日々。
助けられなかった絶望へ沈んだ自分を、やちよ達と共に引き上げてくれた瞬間。
けれど記憶にない新しい彼女の姿はもう二度と見れない。
無事に神浜へ帰れたとしても、そこにフェリシアはいない。

妹達を喪った時と同じ、引き裂かれるような痛みに涙が零れる。
押し当てたキャルの服が濡れてしまうと分かっても、止められなかった。
何度味わっても、喪失の苦痛だけは慣れない。
殺し合いを止める決意は揺るがないけど、今は少しだけ悲しみに身を委ねたかった。

308刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:15:28 ID:LPbpj4TY0
◆◆◆


大体が予想通りの内容だった。
脱落者の中に一海の名があったのは、直接自分達の目で死を見た故驚くに値しない。
飛電或人や滅が生存中なのも、DIOが未だ死んでいないのも。
信頼と敵対という異なる関係であれど、実力の高さを知っていれば何ら不思議ではなく。
最初の放送前の脱落者も含め、計40名が死んだ事実に多少の驚きこそあれど、出会った敵対者の強さを思えば有り得ない話でもない。
悪趣味極まる内容への怒りが無いとは言わないが、承太郎も天津も分かり易く感情を面には出さない。
あくまで内に留め、表面上は冷静さを保つ。

何より、『彼女』の様子を見れば自分達の怒りを優先したいとは思えなかった。

『嘘だよ……こんなの……エム……!なんで……!』

画面越しからでも伝わる悲痛な叫び。
喪失に流す涙は彼女が人ならざる存在であっても、人間と同じ感情の持ち主なのを伝えて来る。

定時放送が近いのを時計で確認し、一旦地上へ戻った時だ。
タイミングを合わせるように浮かび上がった巨大モニターを、病院内の窓越しに見たのは。
聞き終えた天津達は再び地下のCRへ戻り、筐体の中で待つ彼女へ伝えた。
宝生永夢もこの6時間で死亡したことを。

「……」

泣き腫らした顔で永夢の名を呼ぶポッピーを、天津は決して不快には思わない。
以前までの、ヒューマギアへ強い敵愾心を向けていた頃なら。
きっとバグスターであるポッピーにも、悪感情を抱いただろう。
今はもう違う、出会って数時間の関係だとて彼女も殺し合いに抗う仲間だ。
永夢の死を知った時の表情が強く頭に焼き付いている。
『嘘だよね…?』と震える声で聞き返す姿へ、真実を伝えるのが楽な役目だとは口が裂けても言えなかった。

309刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:16:30 ID:LPbpj4TY0
『エム……』

何度名前を呼んでも、自分の知る彼は現れてくれない。
小児科医になってからも昔と同じ、人懐っこい笑みを見せてはくれない。
ポッピーだってCRの一員として、医療に携わる者だ。
患者の死に立ち会う機会はゼロでなく、時には手の施しようの無い時があるとも理解してる。
でもこんな、大切な仲間が自分の見ていない場所で殺されたなんて到底受け入れられない。
全部黎斗のデタラメだと言い切れたら、どれ程良かったか。
檀黎斗を知るからこそ分かる、分かってしまう。
あの男は自分の作るゲームには妥協せず、本気で向き合っている。
だから放送に偽りは混ぜていない点だけは、黎斗を信じられるのだ。

永夢はもういない。
他の仲間に向けるのとは違う感情の意味を知る前に、彼は死んでしまった。
会場のどこかで放送を聞いた大我はどう思うだろうか、元の世界で帰りを待つ飛彩達に何て言えば良いのか。
分からないし、今は何も考えたくない。
耳を塞ぎ続けてれば傷は癒えずとも、それ以上痛みを味わいもしない。

(でも、それじゃあダメなんだよね…エム……)

悲しみを逃げ道に使うのは、ポッピー自身も望まない。
バグスターであれどCRの一因であり、看護師という顔を持つからこそ命の重さは理解している。
全てが手遅れだと言い切るには早過ぎる、助けられる命はゼロじゃあない。
だったら、戦うしかないのだ。
時に己の無力さを痛感して尚、患者と向き合い救いの手を差し伸べ続けるドクター達のように。

『二人共ごめんね。大丈夫…って簡単には言えないけど、でもずっと落ち込んでもいられないよね』
「もし時間が必要なら……」
『エムはきっと、誰かを助ける為に最後まで戦った筈だよ。だから私も、自分に出来ることをやりたいの」

気遣いは有難いが、強がりじゃなく本心からの言葉を返す。
永夢がどんな最期だったにしろ、命を守る為に戦ったのだと確信を持って言える。
それなら自分も仲間が守ろうとした者を守り、意志と命を繋いでいく。
きっともういない彼も、それを望んでるだろうから。

310刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:17:20 ID:LPbpj4TY0
『う〜…でもここから出られないのはやっぱり困るよ〜…ガシャットも取られちゃってるし……』
「ガシャット……というのはひょっとしてこれのことか?」
『へっ?あー!それ!』

悩む様子のポッピーへ、何かを思い出したように天津が支給品を見せる。
サウザーのドライバーやプログライズキーとは別に、見慣れぬ変身ツールらしき物がデイパックにあった。
使い慣れたライダーの力がある以上、特に取り出す場面もなかったが。
指を差しオーバーなリアクションを取るポッピーの様子から、彼女にとっては馴染み深い物らしい。

『それだよそれ!私のガシャット!』

天津が見せたのは、他でもないポッピーが元々所持していたアイテム。
バグルドライバーⅡと、ときめきクライシスガシャット。
仮面ライダーへの変身に必要な二つが揃っている。
まさか参加者、しかも天津の元に渡っていたのは予想外。
だがこうして再び自分の所へ戻って来たのは喜ばしい、となるにはいかない事情がある。

「ソイツが元々お前の物なのは分かるが、出て来れないならどうしようもないんじゃねぇのか?」
『うぐっ、そうなんだよねぇ……』

冷静に現実を突き付ける承太郎へ、ガックリと肩を落とす。
自分もライダーになって天津達と共に戦う。
といった光景が実現するにはまず、筐体から外に出なくては始まらない。
正式な参加者でない自分が自由に動き回るのを、黎斗は認めていない。
ドレミファビートの筐体という狭い空間が、唯一許された場所。
大きく制限された現状を嘆くも、打開策は見当たらず――

311刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:18:46 ID:LPbpj4TY0
『あ、もしかして……』

ふと、頭の中で閃きが生まれた。
外を好き放題歩き回れる、とはならないだろうけど。
しかし筐体から出て行くだけなら、どうにかなるかもしれない。

『ねえガイ、ちょっと試して欲しいことがあるの』

いきなりの頼みへ首を傾げつつ、断る理由は見当たらない。
ポッピーに言われるがまま、バグルドライバーⅡを向け操作。
何が起こるのか疑問に感じるのも束の間、すぐに変化は起きた。

『よっと!やった!成功!』
「これは…ポッピー?まさか君がこの中に?」
『そ!前にクロトにやったのと同じのが、できないかなーって思って!』
「檀黎斗も昔はこうやって閉じ込められてた、ってことか?」

男二人が見つめるのは、バグルドライバーⅡ中央のモニター部分。
装備中のガシャットに応じたグラフィック等を表示する画面に映るのは、今の今まで筐体に囚われていたポッピーの姿。
以前バグスターとなり復活した黎斗が目に余る行動に出た時、度々こうやって閉じ込めた。
ポッピー自身もバグスターであるのを利用し、今回は一つの脱出方法に使ったが無事成功。
後は天津の方で操作してもらえれば良いだけだが。

「フム…何度押しても反応は無い。やはりポッピーが自分で動くのは禁止されているか」
「まあ、病院の外に連れ出せるってだけでも収穫だろ」
『うん!これならガイ達と一緒に動けられるよ!……あれ?なんだろこれ、何か細工されてる?』

バグルドライバーⅡの中に入って違和感を覚えたのか、画面上であっちこっち動き回る。
外から見ていても何の事か分からないがともかく。
ポッピーの件は一先ず良しとして、今後の方針を改めて確認する必要がある。
行き先を決めているキャルや、仲間と合流するつもりの遊星も含め出発前に話しておきたい。

特に放送で黎斗が言った、『本来使えない力やアイテムを手に入れた者』に若き決闘者は恐らく該当。
もう一度詳しく話を聞いて損はない。
「殺し合いに抗う者だけが使える」と自称神の言葉にないのから察するに、優勝を狙う者もそういった強化の恩恵は受けられるのだろう。
出来れば発生条件などを正確に知り、対策なりを立てたい。

とにかく全員また集まってからだ。
地上へ向かうエレベーターに乗り込み、CRには人っ子一人いなくなった。

312刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:19:36 ID:LPbpj4TY0
◆◆◆


破壊の傷痕が深く刻まれた一階ロビー。
待合室も兼ねた拾い空間を見て、ここが病院だとすぐに受け入れられる者が果たして何人いるのやら。
腰を下ろす為の長椅子や、退屈を凌ぐテレビは破片となってそこかしこに散乱。
治療を訴える人間も、適切な診療科へ案内するスタッフも、清潔感を保つべく業務に勤しむ清掃員ですら不在。
変わりに佇むのは命を繋ぎ元の暮らしへ送り出す、ドクター達の戦場には到底相応しくない存在。
爆撃でも受けたような空間を無感動に見つめる顔には、人では有り得ない六つの眼。
大正時代にて朽ち果てた鬼からすれば、現代の技術が用いられた空間は神の国と言われても不思議は無いだろう。
なれど黒死牟は一切の関心を抱かず、冥府より迷い出た幽鬼の如き様でじっと立ち尽くす。

「……」

放送の内容は把握した。
天空へ己が身を出現させる奇怪な術への疑問も無く、ただ喧しく齎された情報を自身の内へ溶け込ませる。
生存の叶わなかった40人へ、感じ入るものは一つもなし。
病院内にいる者達の仲間が呼ばれたとて、特にどうとも思わない。
慰めるだとかそういった類は、傍らに付く連中がやる事であり己には無関係。

更に付け加えるなら、呼ばれなかった者達にも然して驚きは抱かない。
主も弟も、持ち得る力は自分以上。
生存への執着がこの世のどの生物よりも強い無惨ならば、四半日程度やり過ごすくらいやってのけるだろう。
縁壱に至っては、死ぬのを予想しろと言う方が難しい。
全盛期の体を取り戻した弟が、有象無象の者達に後れを取るか否か。
何とも下らない問いだ、どうやったら後者以外の答えを出せる。
軍服の男や真紅の騎士といった、先の数時間の間に戦った男達。
強いとは分かる、上弦の鬼にも匹敵する実力の怪物だと認めざるを得ない。
しかしあの者達でさえ、縁壱には及ばないのだ。
人でありながら化け物を超える力を持つ、神々の寵愛としか形容できぬ天賦の才を与えられた弟には。

そんな弟が、よりにもよって無辜の民相手に剣を振るっている。
鬼から人を守る為の刃が、神の愉悦を満たす人形の刃へと腐り落ちた。
荒唐無稽で脈絡のない悪夢染みた現実は、何を思おうと否定出来ない。
もし今の縁壱と出会った時、自分が何をすれば良いかも分からないまま、気付けばここまで生き延びてしまった。
仮に縁壱が元の人格から変わらず、鬼を滅ぼす剣を振るっていたならば。
自分も生前と何一つ変わらない、狂おしいまでの嫉妬と憎悪に身を焦がしたのだろうか。
或いは、こう考える時点で自分は既に何かがおかしくなっているのか。

313刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:20:38 ID:LPbpj4TY0
「あっ、黒死牟さん!」

今の自分自身と同じくらいに理解出来ない、春の訪れを思わせる声が鼓膜へ届く。
怨嗟と絶望に彩られた鬼狩りの叫びとは全く異なるソレに、小さくため息を零す。
相も変わらず自分への警戒心などまるで感じられない、飼い主を見付けた子犬のよう。
桜色の髪を揺らし駆け寄るいろはの頬には、薄っすらと涙の痕が見て取れる。
この娘と言えども、放送であった仲間の死は堪えたらしい。
しかしこちらを見つめる瞳に澱みは宿っておらず、悲しみこそすれど戦意をへし折るには至らなかった。

「……」

一瞬、口を開き掛けすぐに閉じる。
何を言うべきか見付からず、そもそも自分が言う意味がどこにあるのか。
大方隣へ並んだ獣の特徴を持つ娘が、あれこれ話しかけたと察しが付く。

「男ならもうちょっと、気の利いた言葉くらい言ってやりなさいよ」

その当人は猫耳を揺らしながら、呆れたとばかりにジト目を向けて来た。
数時間前は事ある毎に怯えていたにも関わらず、随分態度が変わったものである。

「馴れ合いなど……お前達だけでやれば良いだろう……私に無意味な期待をするな……」
「あーはいはい、そう言うんじゃないかとは思ったけどね」
「キャルちゃん?何だかさっきより黒死牟さんと仲良くなってるような…?」
「どこがよ、これで仲良いなら大半の奴が大親友になるっての。何て言うかアレよ、あんたに世話焼かれてるって分かったらビビるのも馬鹿らしくなったって感じ。顔恐いとは思うけど」

余計な一言を付け加えるキャルをジロリと睨めば、サッと顔を背けた。
いろはが勝手にやっている事であって、頼んだ覚えは微塵もない。
困ったように笑う娘の影響なのか、やけに馴れ馴れしく接する者が他にも増えるとは。

314刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:21:42 ID:LPbpj4TY0
「あっれー?お話し中だった?」

何かを言うより早く、更にロビーが姦しくなる。
動きに合わせて藤色の長髪を揺らし、トコトコと寄って来る少女。
後ろからは肩部プロテクター付の上着に、奇抜な髪型が特徴の青年が続く。
食堂にてデッキの構築を終えた遊星と、護衛を請け負った結芽。
二人も放送を確認し話を纏め、病院内にいる者達との合流に動いたのだった。

「皆で次は何処へ斬り込むかの相談?だったら結芽も混ぜてよー」
「そんな物騒な話で盛り上がれないわよ。…あんた達は大丈夫なの?」

何がとは聞き返さなくとも分かる。
放送で呼ばれた名前には、大尉相手に共闘した少年達もいた。
加えてもう一人、遊星の仲間も6時間を生き延びられなかったのが判明。
事実、CRで一旦解散となった時よりも表情に翳りが見えた。

「ああ、悲しくないと言ったら嘘になるが……」

牛尾の死を知り、動揺しなかった訳ではない。
ジャックや遊戯共々、仲間達なら大丈夫だと心のどこかで油断があったのかもしれない。
軍服の男のような桁外れな力の持ち主とぶつかれば、歴戦の決闘者だとて危険だというのに。

最悪のファーストコンタクトをした男だった。
あの頃の牛尾はサテライトの住人を露骨に見下していて、自分も権力を振りかざす奴は心底嫌っていて。
デュエルで白黒付けても、向こうを決闘者(デュエリスト)と認めたくなかった。
しかしダークシグナーを巡る事件の際、セキュリティの仕事に誇りを持つ男だと知った。
孤児院でマーサの尻に敷かれたりと意外な一面も見て。
向こうもサテライトの住人への偏見を正し、気付けば互いに信頼関係を結ぶに至ったのだ。

けどもう、牛尾の顔を見ることは二度と出来ない。
ブルーノの時と違い、どんな最期だったかも分からないまま脱落を告げられた。
たとえネオ富実野シティに帰れても、あの街で最も信頼出来るセキュリティの男はいない。
クロウ達に伝えねばならない時を思うと、今から気が重くなる。

315刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:22:35 ID:LPbpj4TY0
(だが牛尾…アンタはきっと、最後まで誰かを守ろうとしたんだろう?)

仲間だったからこそ、確信を持って言える。
牛尾哲という男は、きっとセキュリティの誇りを貫いて死んだのだろうと。
ここがネオ富実野シティでなくとも関係ない。
自分の命が脅かされる状況であっても守る為に立ち向かい、命を散らした。
そういう男だと分かっているから、喪失に胸を痛めても戦意までは失くさない。
悲しみを言い訳に戦いを投げ出せば、それこそあの世から牛尾に怒鳴られたっておかしくない。
命懸けで戦った城之内と達也にだって、合わせる顔がないだろう。

「皆が戦っているのに、俺一人だけ逃げるつもりはない」
「あの黎斗っておじさんに好き勝手言われたままなのも、ムカつくもんねー」

軽い調子で同意する結芽だが、これでも相応に不快感は抱いてる。
城之内や達也の名が呼ばれ、動揺があった訳ではない。
二人の最期は自分の目で見た、実は生きているだとか都合の良い期待は最初から考えてない。
御伽にしたって話でしか知らないのもあり、多少驚いた程度。
ただ黎斗が死んだ彼らの事を言いたい放題に貶したのは、率直に言ってムカついた。
死を深く嘆く程、長い付き合いだったとは言えない。
人目も憚らず涙を流せるような関係でもなかった。
けれど、肩を並べて戦った仲間なのは、結芽自身も認めている。
頼んだ覚えは無くとも、命を助けてもらったのだって本当。
その相手を悉くコケにされては、流石にカチンと来るというもの。

(いーよ、そうやって偉そうにしてれば。絶対そこまで上って行ってやるんだから)

ふんぞり返って今も自分達を嘲笑う自称神に向け、胸中で宣戦布告。
死者を蘇生させられるだろう技術を手に入れる前に、一発痛い目を見せてやる。
でないと自分の気は晴れない。
城之内と達也、後は本田の文も含めて計四発はキツいのを食らわせてやろう。

316刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:24:27 ID:LPbpj4TY0
(…何か不思議な感じ)

死んだ者達へ引き摺られてるとまではいかないけど、色々と考えてしまう。
一度死んで、二度目の生で誰かの死に立ち会ったから。
余裕のなかった生前とは違う、親しい者に置いて行かれる側になったから。
前は想像も出来なかった心境の変化に、戸惑いこそあれど不快には思わなかった。

内面を言葉には出さず、何と無しに吹き抜けとなった出入り口を見つめ、





殺意を振り撒く真紅が映り込んだ。





「――――っ」

敵襲と、脳が情報を受け取るのを待たず体が動く。
自身の愛刀とは違う御刀を引き抜き、写シを発動。
幾分か休めたお陰で戦闘に支障はなく、いつでも斬り合いに臨める状態。
相手の方からやって来たのであれば、望む所と言うやつだ。

が、結芽より数手早く抜刀するのは黒死牟。
視界に捉えるまで待つ必要もなし。
上弦の鬼にも引けを取らぬ血の臭いを風が運び、肌を突き刺す憤怒と共に接近を知らせる。
抜き放つは己が体内で作りし妖刀、真っ向より迫る真紅へ食らい付く。
獲物を噛み砕く感触はなく、なれど刃がかち合う感覚も未知に非ず。
襲撃者の正体も記憶したのと細部に違いはあるも、知らぬ者ではなかった。

317刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:25:01 ID:LPbpj4TY0
「やはり……生きていたか……」
「当たリ前ダ!猿如きノ剣で俺を殺セルト思ウなっ!!」

得物を挟み怒声をぶつける真紅の騎士、デェムシュ。
四肢は異様に太く、胴は更に頑強へと変貌を遂げてある。
頸を落とさぬ内は死んだと思えなかったが、何が起きたか力を増しているようだ。

警戒を強める黒死牟とは反対に、デェムシュは怒りと歓喜に打ち震える。
予想通り、自分に屈辱を味合わせた連中がいた。
こうなったらやる事は一つを置いて他にない、全員に借りを返す。
連中の血で猿共の建造物を赤く汚してやるまで。

まずは自分を斬り飛ばした男からと両腕に力を漲らせる。
が、顔面へ奔る煌めきに急遽標的を変更。
鍔競り合いを中断し、別方向からの剣を防御。
他に比べ脆い顔面部分を狙われようと、猿の剣では重症に程遠い。
ただ素直に受け止めるのも癪なので、得物を用いて阻む。

「わっ、と!」

そのまま押し返して吹き飛ばし、壁の染みに変えるつもりだったが失敗。
純粋な膂力では敵が上と理解しており、結芽はすかさず後退。
宙で一回転し黒死牟の隣へ着地、風船のように頬を膨らませる。

「このおにーさん、面倒であんまり戦いたくないんだけどなぁ」

尋常ならざる耐久力と、氷を操る異能。
城之内と共に戦った時は確実に倒す手段もなく、やる気を削がれたのもあり撤退したのは覚えてる。
今はより破壊力に優れたモンスターを操る遊星達もいるので、同じ結果にはならないだろうけど。

318刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:25:50 ID:LPbpj4TY0
「小賢しイ札使いノ猿はイナイか…フン!俺の手ニ掛カル前に野垂レ死ンだカ!」
「んー……前言撤回!やっぱりムカついたから、相手してあげる!」

気分次第で戦う気力が左右するが、今の一言で俄然やる気になった。
仮にやる気を出さずとも、デェムシュの知った事ではなく皆殺しに動いたろうが。

「結芽達が戦った赤い騎士はこいつのことか…!」
「は、はい!でもあの時よりもっと強くなってるみたい…」
「どっちにしたって敵なのは同じでしょ!」

剣士達に多少遅れる形で、残る三人も各々反応を見せる。
放送前の交戦時以上に手強くなっているようだが、キャルの言う通り。
敵であるのに変わりない以上、戦って切り抜ける他ない。
各々戦闘準備に入り、

「モタモタするナ猿!そコノ札使いヲ仕留めロ!」
「人使い荒過ぎィ!」

怒声を浴びせられたクッソ汚い男が妨害に出た。
事前に何の一言も無く病院へ飛び込んだデェムシュを追い、後からやって来た野獣先輩だ。
追い付いたと思えば強い口調で命令。
ホモビ制作会社がマシに思える程の扱いにボヤきながらも、参加者を殺すのに異論はなし。
迫真空手で鍛え上げた拳が狙うのは、デッキからカードを引こうと動きを見せた青年。
デュエルモンスターズの厄介さは身に染みているが故、デェムシュは遊星を優先的に殺すよう指示。
屈辱を与えた猿ではない為、自分以外の手で殺させても問題ない。

「死んで、どうぞ(無慈悲)」
「っ!」

優れたフィジカルを持つ決闘者とて、超人レベルの敵相手には分が悪い。
カードを使われるより先に殺し、遠野蘇生の生贄に加えてやる。
非常にあくどい笑みと共に突き出した拳は、遊星の心臓をも貫くだろう威力。

319刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:26:50 ID:LPbpj4TY0
「スタープラチナ!」

どこまでも汚い一撃を、青き拳闘士の鉄拳が弾く。
仕留める筈が邪魔をされた挙句、間髪入れずに殴打の嵐が放たれた。
モロに受けては敵わぬと慌てて後退、クッソ情けない野獣先輩と入れ替わりに黄金の戦士達が参戦。
仮面ライダーグリスと仮面ライダーサウザーにそれぞれ変身し、承太郎と天津が襲撃者達を睨む。

「承太郎?済まない、助かった」
「礼は良い。妙に騒がしいんで来てみりゃ、見覚えのある野郎がいやがるな」
「君と一海君が一戦交えた異形、か。放送が終わって間もないのに、血の気盛んな連中だ」

CRから地上に戻り仲間達を呼びに向かったは良いものの、激しい物音へ嫌な予感がし急行。
念の為先に変身を済ませ正解だった。
体中が強張る程の殺意を垂れ流す真紅の騎士を見れば、戦闘は確実と理解。

「調子こいてんじゃねぇぞオォン!?」

ついでに攻撃を妨害されたステハゲもご立腹。
そっちがライダーの力を使うなら、こっちも相応しい力で殺してやる。
四度目の戦闘だけあって、変身にもすっかり慣れた。
ブレイバックルを素早く装着、ハンドル部分を操作しカテゴリーAの力を解放。

「変身!(迫真)」

『TURN UP』

ヘラクレスオオカブトが浮かび上がった、カード状のエネルギーへ疾走。
潜り抜け白銀の装甲を纏えば、仮面ライダーブレイドへの変身が完了。
しかし此度はまだ続きがある、手に入れた新たな力を試す良い機会だ。
これまで野獣先輩が変身したブレイドには無かった、左腕の黒い装置。
引き抜いたカードをスロット部分へ読み込ませ、アンデットの力を更に解放。

320刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:27:59 ID:LPbpj4TY0
『Absorb Qeen』

『Evolution King』

内より湧き出る力へ逆らわず、全身へ行き渡らせる。
高揚感を裏付けるように、ブレイドの姿が一変。
纏う鎧は白銀から黄金へと大きく変わり、より重厚かつ絢爛なフォルムへ。
頭部の剣も鋭さを増し、まるで王冠を思わせる形状。
全身各部の意匠はスペードのラウズカードに封印された、13体の不死生物をあしらったもの。
アンデットの力をただ行使するだけではない、変身者と融合を果たした姿。
仮面ライダーブレイド・キングフォーム。
戦えない全ての人々に代わって戦う剣崎一真の決意を踏み躙る、最悪の形で降臨。

「Foo〜↑気持ちいい〜(力に溺れる屑)」
「輝いてるのは外見だけで、中身は醜悪な俗物に過ぎないようだな」

黄金で覆い隠しても、腐り切った性根は誤魔化せない。
それでいてライダーの力自体は油断出来ず、自分達を襲う威圧感が強くなったのを嫌でも察する。
容易く勝てる敵ではないと、戦う前から理解せざるを得なかった。

そして事態は更に混迷を極める。
ロビーの壁が吹き飛び、否が応でも全員注目。
太陽を背に瓦礫を踏み付け、堂々と侵入して来たのは真紅と金色の装甲を纏った戦士。
額に星座盤を填め込み、頭部から突き出たスキャンセンサーが悪魔の如き風貌を作る。
ブラッド族が用いる惑星破壊の兵器、仮面ライダーエボル。
なれど変身者は星狩りに非ず、滅亡迅雷.netのヒューマギア、滅。

冴島邸での戦闘から撤退後、ダメージを修復する施設を滅は探し歩いた。
苦労の甲斐あってか、見付けたのは自身の記憶にあるのと寸分違わぬ場所。
飛電製作所。一時期飛電インテリジェンス社長の座を追われた或人が、再出発の為に作り上げた新会社。
アークの襲撃で破壊させられたが、殺し合いでは無事だった頃の製作所を再現され設置。
施設内部には多数の機械用品のみならず、ヒューマギアを修理する設備もあった。
よりにもよって飛電に頼るのは抵抗があったが、ダメージは大きく意地を張ってられる状態でもない。
怒りを無理やりに飲み込み、修復へ利用したのだった。

直後に起こった放送に、思う所は特になし。
或人も、ついでに天津もまだ生き残ってるなら構わない。
人類滅亡、アークと同じ結論は依然として揺るがず参加者の捜索を再開。
近隣エリアを見て回る最中、偶然目に付いたのは赤い異形と遠目にも汚いと分かる人間。
こちらへ気付かず目的だろう場所へ向かう彼らを密かに追跡し、ここ聖都大学付属病院へ辿り着いたのだった。

321刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:28:37 ID:LPbpj4TY0
ゼロワンはいないが、知っているライダーはいた。
サウザーということは天津か、若しくは中身は違う者か。
本来の変身ツールを奪われた自分の例があるだけに、別人がサウザーの可能性もないとは言い切れなかった。
どちらにせよ殺すのに変わりはないが。

「まーたヤバそうな奴が来たわね……」

マナーの「マ」の字も知らないやり方で、病院に現れたライダー。
普通に入って来いと言いたいが、ひしひしと素肌を痛め付けるプレッシャーに常識を解いても無駄と早々に諦める。
カイザーインサイトが参加してる以上、他の参加者も一筋縄でいかないとは理解したつもりだ。
けどこうやって実際に現れると、うんざりする気持ちを抑えられない。

デェムシュは黒死牟達が、野獣先輩は承太郎達が相手取る。
となると、乱入者をどうするかは決まったも同然。
貧乏くじを引かされたと一瞬思うも、どれと戦っても大して違いはない。
危険なライダーを叩きのめし、コッコロ達の安全確保へ繋がると思えばやる気も出て来る。

「んじゃ、さっさと片付けるわよ!」

吹き抜けとなった場所を駆け、屋外へと移動。
逃げるのではない、戦う為の準備はこっちの方が良い。
何せ屋外で姿を変えようものなら、確実に周りを巻き込む。
エボルの視線が自分の方をチラと見た。
それで良い、どうせ今から相手をしてやるのだから。

322刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:29:17 ID:LPbpj4TY0
『Golza.』

『Mleba.』

『Super C.O.V.』

ブレードを扇状に展開し、スロット部分へ三枚のメダルを装着。
闇の支配者の尖兵たる超古代怪獣の二体と、根源的破滅招来体に送り込まれた怪獣兵器。
ウルトラマンティガとウルトラマンガイアに撃破された怪獣たちのデータを、此度はキャルの力として纏う。
バラバラに扱うのではない、一つの融合しより強大な存在へと昇華。

「借りるわよアンタ達の力!チェンジ!テリブルモンスターフォーム!」

『Try-King!』

光に包まれ、少女のフォルムが巨大な異形へ変貌。
溶岩を彷彿とさせる硬質的な皮膚と、恐竜に酷似した頭部。
額を覆うように怪鳥の顔が存在し、背には赤茶色の巨大な翼。
腹部にも上記二つとは異なる顔が浮かび、鮮血色と金色の混ざり合った太い両脚がアスファルトに亀裂を生む。
名をトライキング。
寄生生物セレブロが、ウルトラマンZとの戦闘で変身した合体怪獣である。
本来よりも大幅にサイズダウンしてるとはいえ、掌に人間二人を乗せて運べる巨体だ。
ロビーで動き回ったら敵味方問わず巻き込んでしまう。

『この赤い奴はあたしがブチのめしてあげるから、そいつらは任せた!』
「チッ…!」

言いながら叩き付けた拳を、赤いオーラを纏いエボルが回避。
病院から離れるように移動するのは好都合、こっちも周りを気にせず力を振るえる。

定時放送が終わり、神のゲームは新たなステージへ進んだ。
聖都大学付属病院での死闘が、第二幕の合図となる。

323刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:30:50 ID:LPbpj4TY0



当然の話であるが、ウルトラゼットライザーには制限が加えられている。
最たる例はウルトラマン・怪獣共に変身後の大幅なサイズダウン。
本来のトライキングに比べればパワーもタフネスも、縮小に伴い低下は免れない。
では恐れるに足りない雑魚かと言うと、それもまた否。
あくまで元々に比べれば小さいだけで、三階建ての建造物を余裕で追い越す程度には巨大。
等身大サイズの参加者からすれば、十分な脅威に映るだろう。

トライキングが取った戦法は極めてシンプル。
拳を握って眼下の敵目掛け振り下ろす。
特別な異能も何もない、純粋なまでの暴力。
フォームだって格闘経験を学んだソレとは程遠い、力任せの一撃に過ぎない。
しかし単純な殴打も放つ存在が十代の少女ではなく、『怪獣』ならば脅威の度合いは何十倍にも引き上げられる。
ましてトライキングの両腕のパーツは古代怪獣ゴルザ。
マッシブな見た目は飾りに非ず、地底を高速で掘り進むのに適した剛腕。
そのような腕力を乗せたパンチを受け止めようものなら、地面の染みになる末路以外有り得ない。

だがエボルは哀れな犠牲者の枠に入らない、真っ向より迎え撃てるライダー。
片手に超硬合金製の斧を握り、頭上より飛来する拳を睨む。
避ける素振りは見せない、見せる必要も無い。
自身の体躯を超える拳へ得物を叩き付け、力任せに弾いた。

強化ボディスーツが運動能力を最大以上に高め、ヒューマギアの限界を超えたパワーを発揮。
更に物体を意のままに操る、赤いオーラを纏わせる。
接触した対象を押し返し、圧殺されるのを防いだ。
ドライバーこそ複製品でも、オリジナルのエボルに見劣りしないハイスペックである。

324刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:31:26 ID:LPbpj4TY0
まさか避けるのではなく、弾かれるとはキャルにも予想外。
とはいえ驚きは長続きせず、即座に気を引き締め直す。
忘れるなかれ、自分達が巻き込まれた殺し合いはカイザーインサイトでさえ参加者側にいる魔境。
怪獣相手に真正面から戦える者がいても、何ら不思議はない。

一撃防がれたからといって、勝負がお開きにはならない。
どちらか片方が力尽きねば終わらず、そちら側になるのは真っ平御免。
再度拳を振り下ろせば、エボルも得物を用いて対抗。
衛星ゼアが生成した武器は切れ味のみならず、強度も破壊困難な程。
対するゴルザの拳もまた、ウルトラマンティガと肉弾戦を繰り広げた凶器。
互いに僅かな亀裂すら生まれず、ならば次だと三撃目に移行。

『こんの…!』

殴る、殴る、殴る、殴り続ける。
地上へ降り注ぐ無慈悲な拳の雨を、甘んじて受け入れる趣味はない。
右拳を押し返し、左拳へ斧を叩き付け、次の攻撃も同様。
十を超えても双方受けたダメージはゼロ。

変化の見られない戦況維持をキャルは望まない。
殴るだけが能でない所を、そろそろ見せてやる頃合いか。
両腕の動きは止めず、額へエネルギーを収束。
紫に輝く超音波光線が、エボルを飲み込まんと迫り来る。

地球外の物質を利用した装甲は、並大抵の攻撃では傷一つ付かない。
しかし敵の巨大さに相応しい熱量の光線を、あえて浴びる意味もあるまい。
腕に纏わせたオーラを今度は脚部に流し込み、走力を大きく引き上げる。
残像を残し回避、光線はアスファルトを破壊し煙が立ち込めた。

先手は取られたが、今度は自分が仕掛ける番だ。
走力を落とさずにエボルが再接近、跳躍し顔面部分へ狙いを付ける。
肩部の装甲ユニット内で強化剤が生成され、瞬間的に能力が上昇。
ただの斬撃でありながら、必殺の威力を叩き出す。
自分以上の大きさがあろうと無事では済まない。

325刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:32:19 ID:LPbpj4TY0
『甘いのよ!』
「チィッ……!」

敵が今日初めて戦闘を行った、巨体を利用し暴れ回るだけの素人なら。
今の斬撃に何らかの反応が出来たかは怪しい。
なれどキャルは殺し合いより以前を、気楽に遊んで過ごした訳ではない。
美食殿の一員として魔物退治をこなし、ランドソルでの決戦といった修羅場も潜り抜けた。
今更この程度で慌てる少女じゃあない。

翼を思わせる形状の被膜を振るい、暴風を巻き起こす。
最大速度マッハ6の飛行を可能にする、メルバのパーツを動かしたのだ。
吹き飛ばされ壁に叩き付けられる寸前で、全身に赤いオーラを流しどうにか宙で安定。
地へ降り立つのと同じタイミングで再び超音波光線が放たれ、忌々し気に回避。

もう一度接近し斬り付けるか、より高威力の技を放つか。
それとも武器を遠距離形態に変え、移動しながら体力を削るか。
或いはボトルを変え、パワーを引き上げた上で接近戦を挑む手もある。
フェーズ1のエボルでも真正面からの打ち合いは可能、故に格闘戦特化のフェーズ2ならダメージに期待出来る。

(いや、ここは……)

敵の巨体は厄介と認めるが、小回りの利く動きは自分が勝る。
そこを活かさぬ手はなく、丁度良い道具が手元にはあった。
正確に言うなら、奪い取ってやったのだが。

326刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:33:02 ID:LPbpj4TY0
『RABBIT!RIDER SYSTEM!EVOLUTION!』

『Are You Ready?』

「変身」

『RABBIT…RABBIT…EVOL RABBIT!』

『フッハッハッハッハッハッ!』

邪悪な高笑いが響き、エボルの姿にも変化が起こる。
肩部装甲は鋭利な形状から、丸みを帯びシンプルなものへ。
頭部パーツも大きく変わり、レンズ部分には兎の耳を模したブレード。
桐生戦兎が変身するヒーロー、仮面ライダービルドと瓜二つな仮面を被る。

仮面ライダーエボル・ラビットフォーム。
加速ユニットを追加し高速戦闘へ特化したフェーズ3。
フェリシアの支給品から見付けたラビットエボルボトルを使い、更なる進化をここに果たす。

『変わった!?…って、そんな驚く程でもないわね!』

自分が怪獣メダルを使ってるのもあって、外見の変化に大きな驚きは見せない。
問題は新しい姿になった敵が、どんな能力を持ってるかだ。
警戒を強め、迂闊に近付くよりはと超音波光線を発射。
餌を吊り下げられた獣の如く迫る光へ、エボルは焦らず頭部パーツを指でなぞる。
飲み込まれる正にその時、真紅の装甲が消え去った。

『痛っ!?』

後頭部へ鈍い痛みが走り、何だと振り返るもそこに人影は見当たらず。
と、肩に異物のような感触を覚え見やる。
ほんの数秒前まで地上にいたエボルが立ち、片脚を振り被っていた。
頬を鈍痛が襲い、巨体が僅かに怯む。
片手を伸ばし振り落とそうとするも、既にエボルはいない。

327刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:33:40 ID:LPbpj4TY0
『ウロチョロすんなっての…!』

視線を落とし、見付けた先を踏み付ける。
潰れた蟻同然の末路を歓迎する気はない、軽やかに跳び回避。
ついでにオーソライズバスターを撃ち、胴体へ火花を散らす。
致命傷にはならないが痛みが無いとも言えず、連続で当たれば少しずつだが体力も削られる。
図体のデカい的扱いは御免被る、もう一度吹き飛ばすべく両の被膜を操作。
だが暴風に閉じ込められる前に背後を取り、無防備な背を斬り付けた。

『こいつ…!』

敵の狙いに嫌でも気付かされ、視線は険しさを増す。
サイズ差と高速移動を利用し、こっちの反応を待たず体力を削り取る気か。
セコい奴だと悪態を吐き捨てるも、実際有効なのが余計に腹立たしい。

ラビットフォームのエボルはパワーこそドラゴンフォームに劣るものの、敏捷性は上。
加えてカメラアイから伸びたパーツは飾りでなく、聴覚強化装置。
ほんの僅かな身動ぎすら正確に捉え、敵の動きを予測し常に先手を取る事が可能。
巨体故細かい動作の利かない今のキャルには、非常に相性の悪い力だった。

(デカい技で一気に勝負を着けてやれば良いんだろうけど……)

病院内で戦闘中の者達まで巻き込みやしないかと、危惧を抱き大技に躊躇が生じる。
しかも敵も察してるのか、時折病院を背に動きこっちの攻撃を牽制するのだから本当に腹が立つ。
内心で文句を言っても戦況に変化は齎さず、両刃の斧が命を刈り取らんと迫りつつあった。

328刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:34:32 ID:LPbpj4TY0



黄金の戦士が駆け出し、狙う標的もまた黄金を纏った男。
仲間を襲撃し、言動や態度からも善とは程遠い人間性と察した。
これでまだ対話を行い戦闘回避を望む程、天津も承太郎もお人好しではない。
訪れた危機を退ける方法はたった一つ、戦ってどうにかするのみ。
判断を間違えればツケを払うのは自分だけでは済まされない、仲間にも危害が及ぶ。
であれば攻撃に迷いは微塵も抱かず、揃って敵を自らの間合いに閉じ込める。
グリスの鉄拳が叩くか、サウザーの槍が貫くか。

「オォン!」

どちらでもない、耳が腐る喘ぎ声を発し振るった剣が阻む。
最初の一撃で即決着になるとは、この場の誰も思っていない。
予想出来た結果に一切の動揺を持ち込まず、男達は示し合わせたように次撃へ出る。

「24歳、学生です(自己紹介)」

殺す前の挨拶を礼儀とでも思い込んでるのか、単なる挑発のつもりか。
若しくは淫夢語録しかロクに喋れない、ホモガキの玩具故のクッソ哀れな習性か。
正確な理由をグリスは知らないし知る気も皆無。
敵を倒す、必要な考えは50日に及ぶ旅での戦いの頃から変わらない。
耐衝撃ボディスーツが腕力と運動能力を劇的に強化、喧嘩自慢の高校生を超人の領域まで引き上げる。
伸ばした腕にはツインブレイカーと呼ばれる、専用の可変型武器を装備。
杭型の打撃装置が回転数を速め、強固な装甲をも砕き貫通する威力をグリスへ付与。
自らが操るスタンドにも引けを取らないパワーに、敵の取る手は同じく打撃。
グローブに覆われただけの無手で以て迎え撃つ。
己の手を進んで使い物にならなくさせるとしか思えない、愚行の極み。
大多数がそう嗤うだろう光景は現実にならず、グリスの拳と打ち合った。

「オラァッ!」

敵の拳を砕いた感触は無く、自身も同様にダメージゼロ。
突き出した拳を一旦引き、もう片方で殴り掛かる。
ツインブレイカーは両腕に装着済みだ、威力の低下は起きない。
攻め立てるのはグリス単独ではない、サウザーもまた己が得物を操り勝利を狙う。
サウザンドジャッカーはZAIAの技術を結集させ作っただけあり、飛電の装備にも引けを取らない高性能。
金に輝く穂先に掛かれば、1000mmの特殊合金すら障子紙同然。
だが装甲は勿論、敵が翳す大剣には軋み一つ与えられない。
拳と得物を通じサウザー達の強さを感じ取ったのか、仮面の下でゲスい笑みを作る。

329刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:35:18 ID:LPbpj4TY0
「いきますよーイクイク(攻撃宣言)」

次いで響くは拳と刃が絶えず激突を繰り替えし、闘争が生み出す音色。
グリスが両拳で放つ殴打の嵐を、片腕のみで対処。
サウザーとも剣戟を展開し、己が身には一撃たりとも掠めさせない。
生半可な防御や回避は呆気なく崩す猛攻が、此度は二つ揃った。
にも関わらず敵は余裕の態度で凌ぎ、たった一人で相手取るのは悪い夢のよう。

サウザーとグリスの性能の高さは今更言うまでもない。
しかし野獣先輩が変身中の仮面ライダーブレイド・キングフォームもまた、引けを取らない強さを持つ。
単純なスペックだけなら上記二つが上であるも、最大の特徴は13体のアンデットの力をラウズカードのリード抜きで自在に操れる点。
パンチ力の加速と破壊力の強化を行い、更には高速移動能力も付与。
平時でさえ高周波振動による切れ味を誇る専用装備、キングラウザーも同様に斬撃の威力を引き上げた。
加えて言うなら変身者の野獣先輩は無限に等しいBB素材により、型に囚われない攻撃が可能。
グリス達を相手に一人で渡り合っても、何ら難しい話ではない。

「ジャンク・フォアードを手札から特殊召喚!」

モンスターが封じられたカードを使うのは、ブレイドの専売特許ではない。
仲間だけに戦闘を押し付けるつもりは最初からなく、遊星もデュエルモンスターズを駆使し参戦。
達也が遺した支給品を使い念の為ウィザードに変身したが、やはり本領発揮はカードを使ってこそ。

ホカクカードを使い手に入れたモンスター、ジャンク・フォアード。
自分の場にモンスターが存在しない時、手札から特殊召喚が可能になる。
参加者もモンスターとして扱われる為どうなるかは半ば賭けだったが、ある程度は都合都合で解釈出来るらしく成功。
アタッカーを任せるには攻守ともに頼りないが構わない。

330刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:36:19 ID:LPbpj4TY0
「更に俺は、レベル3のジャンク・フォアードにレベル2のシャドウ・ファイターをチューニング!」

通常召喚したレベル2のモンスターは、城之内のデッキから借りた一体だ。
新たに現れるのは白銀の装甲と包帯、名前の通り全身に傷痕を刻んだ戦士。
レベル5のスカー・ウォリアーに睨み付けられ、ブレイドは弾かれたように突撃。
大剣を振り下ろし一刀両断で終わらせる気だろうが、黙ってやられる自殺志願者じゃあない。
包帯に隠された刃を突き出し、キングラウザーと打ち合う。
トライアルシリーズですら薙ぎ払う斬撃を前に、スカー・ウォリアーは破壊されず拮抗。
仕留められなかったブレイドには苛立ちよりも、困惑の方が大きかった。

「これもう分かんねぇな…お前どう?」

日焼けに誘った後輩に対してのような気安さで問うも、遊星からの返事はない。
種明かしをするなら、スカー・ウォリアーは1ターンに一度だけ戦闘では破壊されない効果を持つ。
更に場に存在し続ける限り、相手は他の戦士族モンスターを攻撃対象に選べない。
仮面ライダーに変身している為か、グリス達は戦士族扱いされたようである。

スカー・ウォリアーしか攻撃出来ず、しかも今だけ破壊不可能。
となったらどう動くかは決まったも同然。

『スクラップフィニッシュ!』

『Progrise key comfirmed. Ready to break.』

ドライバーを操作し、グリスの腕部アーマーから黒い液体が噴射。
エネルギー源たるヴァリアブルゼリーを使い急加速し、勢いを乗せた拳を叩き込む。
サウザーも同様に得物へプログライズキーを装填、高威力の技を発動。
巨大な蠍の尾が出現、毒針の強烈な一突きが頭上より襲来。

331刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:37:02 ID:LPbpj4TY0
「これでもう勝った気とか甘過ぎィ!笑っちゃうぜ!ウッソだろお前!(ガンダム主人公)」

直撃を受ければタダで済まないと理解しつつ、余裕たっぷりに嘲笑うブレイド。
アンデットの力を引き出し磁力操作、スカー・ウォリアーを盾として翳す。
戦闘耐性が継続中なのが影響し、ブレイドへ一切の攻撃を寄せ付けない。
無傷で凌ぎ、結果的に万能の盾を手に入れた。
こうなれば何度攻撃を加えようとスカー・ウォリアーで防がれる為、ターンを終了する他ない。

「冷えてるか〜?」

大先輩の語録を無断で使うという人間の屑っぷりを見せ付けながら、効果の切れたモンスターを破壊。
スカー・ウォリアーを仕留めた大剣を遊星に向け、切っ先へ帯電。
アンデットの力を使えば斬るのみならず、電撃を浴びせ焼き殺す事だって可能だ。
変身中とはいえ直撃は危険、ましてデュエルディスクの故障やカードが焼かれるのも有り得る。

「スタープラチナ・ザ・ワールド」

故にグリスは迷わず己が力を行使。
一海から託された仮面ライダーの力ではない、承太郎が本来持つ異能。
宿敵である帝王との決戦にて開花した、時間停止。
時を支配下に置き、聖都大学付属病院一帯は完全なる静寂に包まれる。
唯一動けるのはグリスのみ、とはいえ永遠の静止は不可能。
僅かに得た猶予を無駄にせず、スタンドと本体の両方が拳を放つ。
ライダーの装甲相手には同じライダーのパワーで対抗していたが、時間停止中の無防備な状態なら有効打を与えられる筈。
強敵たる人狼相手にも大ダメージを食らわせたラッシュで以て、仲間の危機を遠ざけるのだ。
黄金の戦士と青き拳闘士、両者の拳がブレイドを――

「なっ…!?」

打ち抜く寸前で阻まれた。
ブレイドの前に突如出現し、自分達同様に拳を放った存在。
その姿をグリスは知っている。
知っているからこそ、有り得ない光景に目を見開く。

332刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:38:07 ID:LPbpj4TY0
青いボディを持つ拳闘士、スタープラチナ。
他でもない、承太郎のスタンドがもう一体現れたのだ。

「どういうことだ…何故テメーが俺のスタンドを…!?」

スタープラチナとザ・ワールドのように同じタイプのスタンドこそあれど、姿形や能力全てが同一は存在しない。
だというのにスタンド使いのルールを根底から覆す存在が、確かにいる。
相手のスタンドをコピーする能力だとか、そういった類なのか。

何故スタープラチナがもう一体現れたのか。
答えを明かすにはまず、野獣先輩とは如何なる存在なのかを説明せねばなるまい。
知っての通り、殺し合いに参加しているこの男は厳密には人間ではない。
24歳の学生や後輩をレイプした人間の屑を演じたホモビ男優が、ネットの世界で数多の逸話や冒険譚、喜劇に悲劇を付け足され生まれた情報集合体。
だからこそTDNホモビ男優が本来持ち得ない戦闘能力を発揮出来た。

殺し合いにおける野獣先輩の強さの元は大きく分けて二つ。
一つはBB素材。
俗にBB先輩シリーズとも言われる、ホモビ本編を切り抜き動画の素材に加工する正気の沙汰とは思えないホモガキのクッソ寒いお遊戯。

そしてもう一つ、野獣先輩を象徴する力こそスタンドを使えた理由。
ある意味BB先輩シリーズ以上に強力な為、殺し合い直後は睡眠薬入りアイスティーを飲まされた水泳部の後輩のように眠ったままだった。
しかし魔戒騎士や仮面ライダー、神との闘争を経て本能的に力の使い方を理解したのだろう(適当)。

333刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:38:44 ID:LPbpj4TY0
野獣先輩新説シリーズ。
国内のみならず国外にまで痴態を晒されて尚、一切の目撃証言や過去の経歴が明かされない。
今日に至るまで野獣先輩の正体は不明=不明ということはどんな存在も根拠さえあれば野獣先輩になるんじゃないか。
小学生でも考えないようなガバガバ理論により生まれたのが、この力の根源である。

此度の戦闘でも新説シリーズの力を引き出し、承太郎の時間停止を打ち破った。
名は野獣先輩空条承太郎説。
野獣先輩の正体はジョジョの奇妙な冒険の大人気キャラクター、空条承太郎であると提唱する説だ。
多くのジョジョラーからも、「んなわけねェだろこのタンカスがッ!」と好評を得ている。

「俺だけの世界に勝手に入って来ないでくれよな〜頼むよ〜」

野獣先輩でありながら承太郎でもある、だからスタープラチナを使える。
馬鹿げた理由を知る由もなく、ただ現実として敵は自分と同じスタンドを操ると理解。
素直に答えを返してくれるとは期待しておらず、野獣先輩もまた種明かしをする気は皆無。
時が再び動き出すまで残り僅か、仮面越しに互いの視線が交差し火花が散る。

「いくぜオイ!」
「良いよ!来いよ!」

同じ力を持っていようと関係無い。
仲間を襲いクソッタレなゲームに乗った悪党を、愛する後輩の蘇生を阻む邪魔者を。
彼らが認めるのは断じて有り得ないのだから。

334刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:40:02 ID:LPbpj4TY0
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!!」
「もっとスタンドパワー使って!使ってホラ!ホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラァッ!!!」

殴り合いと言うには苛烈極まる光景が繰り広げられる。
近接最強のスタンド、スタープラチナ同士の一歩も譲らぬ激戦。
宿す想いは正反対、黄金の精神と狂い落ちた歪愛。
相容れぬ両者共に勝利を奪い取る気概は十分、なれば勝負を決めるのはなにか。
スタンドの性能は全く同じ、幾度拳を叩き付けても砕けず、砕かれず、届かず、届かせない。
共通しているのは時間停止に課せられた制限もだ。
2秒を超える支配は現状不可能、凍てついた世界は熱を取り戻し一先ずの終わりが――

「ぐっ!?」
「がぁ…っ!?」

訪れた筈が、予期せぬ痛みに呻き声が上がる。
スタンドへ殴打を受け、本体のグリスにもフィードバックが襲う。
更には遊星も背後から斬られ、少なくない火花が散った。
唯一無傷のサウザーは困惑するも、仲間が攻撃されたのは瞬時に察知。
得物を振るいブレイドを引き離した。

「野郎……」

この程度の痛みなら押し殺せるが、問題なのはブレイドが何をやったか。
間違いない、間髪入れずに時間をもう一度止めた。

「気持ち良いか〜KMR〜?]

予選で人間の鑑っぷりを見せ脱落となった後輩の名を口にし、ここぞとばかりに煽る人間の屑。
グリスの考えた通り、今やったのは時間停止。
但しスタープラチナではなく、スカラベアンデットの力を使ってだ。
停止中は敵への攻撃も無効化されるが死角へ移動し、解除と同時に痛め付けた。
スタンドと同様に連続使用が不可能な制限こそあるも、時を止める手段を二つ持つのは大きな強みだろう。

「…っ、俺は手札から速攻魔法、ハイパーフレッシュを発動していた……!」

だが転んでもタダでは起きないのが決闘者。
ブレイドが自身に電撃を浴びせる予兆を見せた時、遊星は咄嗟に魔法カードを使用。
自分のライフポイントを予め倍にし、被害をなるべく最小限に抑えた。
何よりダメージを受けたからこそ、効果を発揮するカードが手札にがある。

「手札のBKベイルの効果発動!戦闘によるダメージを受けた時、このカードを特殊召喚しライフを回復する!」

あくまで今負った分のダメージのみ回復な為、放送前からの傷は変わらずとも幾分痛みが和らぐ。
大尉との戦闘時にも使ったモンスターを召喚、これで場ががら空きになるのは防げた。
ウィザードに変身中の恩恵もあるだろう、大尉に蹴り飛ばされ時と比べればスムーズな召喚だ。
そう簡単に倒されてはやらない、仲間と共に勝利を掴むべく戦意を滾らせる。

335刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:41:27 ID:LPbpj4TY0



対照的な剣を振るうは二体の化け物。
真紅の騎士、デェムシュが己が魔剣に宿すは憤怒。
1日にも満たない間に受けた数々の屈辱が、自身を闘争へ突き動かす燃料へ変える。
選ばれし種族、フェムシンムをコケにした猿を殺す。
自分達に跪き、慄き、ただ殺されるのを待つだけの弱者に過ぎないと教えてやらねばならない。

対するは十二鬼月・上弦の壱、黒死牟。
妖刀へ乗せる感情はデェムシュと正反対に、酷く冷め切ったもの。
強者との斬り合いへ高揚は抱かず、貪欲なまでに勝利を求めず、まして人間達のように他者を守りたいなど以ての外。
襲われた、だから殺す。
他に大きな理由を見付けられないまま、しかし大人しく死を受け入れる程殊勝にもなれない。

戦闘へ臨む心構えで言うなら、圧倒的にデェムシュが上。
人も鬼も、命を燃やさずして掴める勝利は存在しない。
と言い切るのは容易いが、黒死牟は精神の差を大きく埋められるだけの実力を持つ男。
顔面を叩き割らんと襲い来る大剣を見据え、言葉なく刀を振り上げる。
岩をも砕く刃を弾き、あっさりと死を跳ね除けた。

猿の分際で煩わしい抵抗に出た事実へ、デェムシュの苛立ちが上昇。
尤も、敵が全くの雑魚でないとは理解している。
一撃防ぐ事すら不可能なら、最初に会った時点でとっくにあの世行きだ。
大人しく死ぬ気がないのであれば、力尽きるまで得物を叩き付けるのみ。

336刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:42:08 ID:LPbpj4TY0
頭部目掛け大剣が振り下ろされる。
愛剣シュイムの強度と切れ味が如何程かは、長々と説明するまでもない。
アーマードライダーの装備と打ち合って尚も刃毀れ一つせず、装甲を削り取った。
そこへ劇的な強化が起きたパワーを乗せた以上、剣でありながら木っ端微塵に打ち砕く威力と化す。

されど黒死牟纏う空気に、僅かな乱れも生じない。
闘争への熱を抱けないだけが理由に非ず、身を震わせる程の脅威でないが故。
果実の如く脳漿と肉が散らばる光景は実現しない、両手で握った得物が大剣と激突。
刀身越しに伝わる力は、成程日の出前の戦闘時以上に重い。
嘗てこの身を滅ぼした岩柱をも超えていると、極めて冷静に判断を下す。

だが忘れるなかれ、膂力に優れるのは黒死牟も同様。
執念で研磨を重ねた肉体が、人の限界から解き放った鬼種の血が、火炎の如き痣の恩恵が、食らい続けた数多の鬼狩りの肉が。
オーバーロードとの斬り合いを可能にし、再び刃を弾き返す。
次に剣が迫るのを待ちはしない、こっちから仕掛け早々に終わらせる。
人も異形も頸を落とせば死ぬ、眼球の張り付いた刀身が頭部と胴を繋ぐ部位へ疾走。
死を運ぶ妖刀へ、デェムシュは首筋に冷たさを覚えた。
猿如きの剣で斬首されるなど断じて受け入れない、シュイムを翳し防御。
押し返し体勢を崩しに行くも、一手早く敵が得物を大剣から離し死角へ移動。
瞬間移動と見紛う速度と共に行う斬り付け、この動作だけで数十の隊士を纏めて葬れる。

「甘イわ!」

が、オーバーロードを仕留めるには至らない。
目で追わずとも、外皮を貫く殺気で居場所を察知。
巨体とは裏腹の俊敏な動きで迎撃、シュイムで薙ぎ払いを繰り出す。
互いの刃がかち合い重い金属音が響く中、次の手にはデェムシュの方が早く出た。
もう片方の得物をがら空きの脇腹へ突き立てる。

337刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:42:48 ID:LPbpj4TY0
「チッ!」

その寸前で狙いを急遽変更、背後からの斬撃を防ぐ。
瞳を動かせば案の定、憎たらしい笑みを浮かべた小娘が映り込む。
力任せに押し潰そうと力を籠めるも、膂力で叶わないとは向こうも理解してるのだろう。
打ち合いは避けパッと飛び退き、タイミングを同じくして桜色の矢が次々突き刺さった。

「小賢シいゾ脆弱なサルどモガァっ!!」

左手を豪快に振り回し、殺到する矢を吹き飛ばす。
一方で右腕は絶えず黒死牟との打ち合いを続け、切っ先が撫でるのも許さない。
とはいえ、僅かながら意識が外れたのを見逃さない。
呼吸により全身の血が煮え滾り、鬼の身体能力を更に引き上げる。

――月の呼吸 弐ノ型 珠華ノ弄月

振るう刀は一本、なれど放たれる斬撃は三つ。
前方へ巨大な三日月が現れ、同じく大量の刃がデェムシュを取り囲む。
不可視の刃で作り上げた檻は、迂闊に動こうものなら最後。
待ち受ける末路は生物の原型を留めぬ、肉片の山。

「コノ程度がどうシたッ!」

惨たらしい最期を覆すべく、デェムシュもまた得物を振り回す。
シュイムともう一本、新たに得た魔剣が竜巻の如き斬撃を発生。
回避などに出る必要はなし、小手先の技は力で打ち破るに限るのだから。
次は刃を放った本人の番と言わんばかりに、黒死牟を襲う二振りの剣。
左右から挟み込むように襲い来る刀身を、跳躍し躱した上で頭上からの一撃を見舞う。

338刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:43:33 ID:LPbpj4TY0
――月の呼吸 参ノ型 厭忌月・鞘

横薙ぎの刀から放つ三日月状の刃が、鋸を思わせる回転で飛来。
連続で放ち位置を変え、回避を更に困難なものへ変える。
尤も、デェムシュの対処法は同じく得物を用いた迎撃。
叩き付けるかのように振り下ろされ、刃は全て剣が食い潰す。

着地の瞬間を見極め襲い来る双剣を、黒死牟は刀一本で防ぐ。
癇癪を起こし暴れる童子さながらの動きに見えて、その実狙いは恐ろしいまでに正確。
自らを怒りに捕えながらも、編み上げた剣技の低下は引き起こさない。
むしろ怒れば怒る程、技のキレが増す気さえあった。
感情を剥き出しにし、尚且つ振り回されず糧にするとは実に厄介極まる。

「そっちから喧嘩売っといて、無視は酷くない?」

不満を垂れる口調は年相応の微笑ましさがあれど、我が身を矢に変えた速度は到底少女のソレではない。
頬を膨らませながら結芽が接近、迅移を使い加速の勢いを乗せた刺突を放つ。
加えて得物は破壊困難な御刀、鉄板を重ねても貫通は確実だろう。
尤も人間の常識を鼻で笑う耐久性のデェムシュには届かず、そもそも刃を体に当てさせてももらえない。
シュイムで黒死牟を相手取りつつ、二本目の得物を結芽へ突き出す。
切っ先同士の衝突が起こり、押し負け後方へとよろめく。

「かったい…!」

八幡力で筋力を強化したと言うのに、尚も力は敵が上。
既に分かり切ってるが、マトモな打ち合いでは自分が圧倒的に不利。
それならそれで戦い方はある、再度迅移を発動し疾走。
別方向から狙うも、オーバーロードは動体視力にも優れた存在。
のこのこ近付く姿をハッキリと捉え、反対に串刺しにせんと突きを放つ。

339刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:44:21 ID:LPbpj4TY0
そこへ動くのは三人目、桜色の矢を射る魔法少女。
装填の手間を必要とせず、意思一つで連射可能なクロスボウ。
固有装備でデェムシュを狙い撃ついろはが、仲間へ攻撃を当てさせない。
倒せるとは思っていない、少しでも気を逸らせれば良い。
現に背へ突き刺さり、鬱陶しい痛みにデェムシュがこちらを睨み付けた。

ナイスと言いながら剣を紙一重で躱し、真紅の胴体を斬り付ける。
これが人なら重症は確実、しかしデェムシュには痒いと感じたかも怪しい。
ただでさえ強固な体がロックシードの摂取の影響を受け、更に頑強な装甲と化したのだから。

厄介な敵がもっと厄介になって自分達の前に現れた。
直視せざるを得ない現実に、文句を付ける暇は存在しない。
上体を大きく反らし避け、結芽は次に斬るべき箇所を定める。

直後、傍らで膨れ上がった威圧感に幼い肢体が引き締まった。

「――っ!あはっ…やっば♪」

自身へ敵意を向けられたのではないが、急ぎ離れねば危険。
汗を垂らしつつも楽し気な笑みを浮かべ、黒死牟から距離を取る。
誤解から始まった戦闘時にも感じた技の予兆。
違うのは一点、本気で殺す為に放つ気だ。

――月の呼吸 玖ノ型 降り月・連面

背中へ回した刀を前方に振り、頭上より複数の斬撃波が降り注ぐ。
流星群の如き勢いと、床を砕き地下深くまで削り取る威力。
鬼殺隊を苦しめた悪夢同然の光景が、此度は黒死牟と同じ人外を屠る為に放たれた。

「オノレ…!」

広範囲尚且つ、不規則な軌道故に読み辛い。
よってこの戦闘で初めて双剣の防御を選択肢から外し、回避を選ぶ。
全身を赤い霧に変えロビー内を飛行、斬撃波が当たろうともダメージにはならない。
首輪に衝撃が与えられる可能性は無視出来ない為、気は張っているが。

340刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:45:41 ID:LPbpj4TY0
「当たって!」

気体化を解除した瞬間を狙い、いろはがクロスボウを連射。
デェムシュにとっては微々たる違いだろうが、以前の交戦に比べ矢の威力も上がっている。
装備者の攻撃の貫通力を強化するアクセサリー、ストライクマークもいろはの支給品の一つ。
大型の魔女にも効果的なダメージを与えるだろうけれど、今回は相手が悪い。

しかしデェムシュの肉体を貫けないのは百も承知。
狙うのは左手に握る得物の刀身部分。
一点集中で命中させ、剣を持つ力が弱まった所へ動くのは結芽だ。
彼女もデェムシュの能力は初戦時にある程度把握しており、実体化のタイミングを見逃さない。

「あんなキラキラした剣、おにーさんに似合ってないよっ!」
「減らず口ヲ叩クな猿ガ!」

小馬鹿にするようにけらけらと笑う結芽へ、何度目になるかも分からない苛立ちを覚える。
挑発こそしないが、この機を逃さぬと黒死牟も接近。
離れた位置ではいろはもクロスボウの狙いを付け、反撃に打って出る気なのは明らか。

「貴様ラの勝利なド万に一ツも有リ得エん!」

剣一本を手放した程度が何だと言う、愛剣は未だ手元に存在する。
加えて両手が塞がっていた先程と違い、左手が開いたから使用可能な力があるのだ。
猿の道具を使う抵抗感などとっくに消え失せており、何の躊躇もない。
数度の使用で使い慣れた力を、此度は更に上位の術として引き出す。

「……」

表面上の変化が確認出来ない程小さく眉を顰め、黒死牟が脚を速める。
いろはと結芽も足元で力の収束が発生し、慌てて飛び退く。
水の主霊石を使った攻撃は、対象の凍結や氷柱の射出だけじゃない。
地面から次々氷が噴出し、天井へ届き兼ねない程の高さとなった。
直撃すれば人体など鑢にかけられたように、骨まで削り取られるに違いない。
足を止めず回避しながら距離を詰めた黒死牟は、斬り殺し強制的に術を止めんと動く。

接近に気付かないデェムシュではない、自前の能力である火球を生成し連射。
強化の恩恵を受け弾幕を張るも、面攻撃は敵の得意分野。
刀が生み出す無数の三日月に掻き消され、直に頸を落とすべく踏み込む。

341刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:46:28 ID:LPbpj4TY0
「……っ!」

だが直前で真横へ跳び、結果デェムシュから遠ざかる。
そうせざるを得ない理由は、破壊され見るも無残な床を照らす光。
氷の柱か火球の連射か、どちらが原因かはこの際重要ではない。
不死に等しい生命力の鬼が唯一恐れる、太陽の光がロビーを照らしていた。

「…ハハハハハハッ!ソうか!やはリ貴様は我ラに遥カに劣ル、下ラン猿に過ぎン!!」

悪い事にデェムシュも弱点を察したらしく、嘲笑と共に火球を放つ。
狙いは天井や壁、日の光を遮る物体を破壊するつもりなのは明白。
当然阻止に動き刀を振るうも、不意に自分を包む影に頭上からの脅威を見た。
火球を放つ間も主霊石を操作し、巨大な氷塊を生成。
参ノ型『厭忌月・鞘』で砕くが狙いは別にあった。
天井と自身の間に氷塊で壁を作り、一時的に視界を塞ぐ為だ。

「がっ……!?」

氷塊の破壊へ意識を割いた一瞬の内に、黒死牟の真上部分の天井を破壊。
細かに散った氷の欠片をも溶かす、太陽の光が降り注ぐ。
人間達には祝福の光も、鬼にとっては地獄の責め苦に等しい。
網の上で炙られるように皮膚が焼け爛れ、力を急激に削ぎ落す。

「黒死牟さん…!」

鬼の死。
大正の世にて僅か数体の例外を除き、人々が望んだソレをこの場においては認めない者がいた。
火球や氷柱が群れを為し襲う中、歯を食い縛りいろはは駆ける。
時折掠め純白のフードに赤色が滲むも、構っている場合じゃない。
奇跡的に無事な箇所の床を蹴り、黒死牟の元へ身を投げ出す。
渾身の力で飛び掛かった甲斐もあり、自分諸共日陰まで放り出された。

「ヌウエエエエエエエエエエエエイッ!!!」

巨大な竜巻に身を変えたデェムシュが、二人を纏めて吹き飛ばしたのは直後のこと。
運が良いのか、病院内の壁を突き破り奥へ奥へと転がる。
落ちて来た瓦礫がロビーへの道を塞いだ。

342刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:48:40 ID:LPbpj4TY0



「……」

何をしているのだろうかと、改めて無様な自分へ辟易する。
稚雑な策に翻弄され、地に背を付け倒れ伏す有様。
これでもまだ屈辱感を戦意に変える気さえ起きず、ため息を吐くのも億劫だ。
極め付けは、そう、

「黒死牟さん!大丈夫、ですか…?」

間近で自分の顔を覗き込む娘の存在が、余計に己を惨めにする。

突き飛ばした状態から然程変わらず吹き飛び転がった為、傍から見れば相手を押し倒す体勢。
自身の現状を気にする余裕もなく、いろはは心配気に尋ねる。
鬼が太陽に嫌われてると、黒死牟から直接聞いた。
最初から疑う気は微塵も無かったが、先の光景が嘘ではないとの証明。
業火へ包まれたように全身が焼け爛れ、骨も残らない消滅は時間の問題だった。

「見て理解出来ない程の……愚鈍ではないだろう……」

苛立ちを籠め、投げやり気味に吐き捨てる。
日の光から逃れたなら、鬼の生命力も即座に機能し再生。
惨たらしい火傷は消え失せ、傷一つない肉体がいろはの視線の先にあった。
ホッとしたのも束の間、ようやく自分の体勢に気付き慌てて退く。

「ご、ごめんなさい…でも、黒死牟さんが助かって良かったです」
「……」

恥ずかし気に頬を赤らめ、かと思えば心からの安堵で笑みを見せる。
これが鬼狩りなら「大人しく死ねば良いものを」と、憎悪を滾らせ言うだろうに。
今に始まったものではなくとも、やはりこの娘はどうかしている。
理解の到底及ばない狂人だと言う他ない。

343刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:49:27 ID:LPbpj4TY0
だというのに、未だそう言い切らない自分もまたおかしくてならない。
思考を割く意味も価値も無しと断じれば、簡単に済む話だろうに。
何故、何故と馬鹿の一つ覚えで声に出さず問い続ける。
いろはも、自分自身も理解出来ないのは、二度目の生を受け間もない頃から変わらない。
ただ唯一、己を太陽から遠ざけたように。
この娘が「そういった行動へ躊躇せず出れる人間」とだけ、数時間の付き合いで分かった。
だから何だと言うものであり、本人へ伝える気は小指の先程もないが。

のっそりと体を起こし、ロビーと違って原型を保った床を踏みしめる。
と、自分達以外に転がる物へ気付き手を伸ばす。
暴風に巻き込まれ偶然ここまで飛ばされたのか、運が良いのか悪いのかよく分からない。
拾い上げたソレはただの人間には重く、だが鬼の膂力には軽い。

「それって……」

黒死牟が手にした物を、いろはも少々驚きつつ見つめる。
つい先程までデェムシュが振るい、結芽が弾き落とした剣だ。
前に戦った時には使ってなかったが、支給品で所持してたのか。
持ち主の手を離れ黒死牟の元へ渡った以上、わざわざ返す理由もあるまい。

眩い刀身と、黄金の蝙蝠の形の鍔。
特徴的な剣がただ豪奢な見た目だけではないと、二人共分かる。
魔法少女に変身中のいろはは、そこにあるだけで溢れる力をより深く感じ取った。

「もしかしたら……あの赤い人?に勝てるかもしれません」

剣を見つめたと思えば、考え込む仕草を取ること十数秒。
閃いたように顔を上げたいろはへ、訝し気な瞳を返す。
この剣が妖刀、否、魔剣の類だとは察しが付くも振り回せば勝てると言う気か。
疑問を視線に宿しぶつければ、逸らさず受け止め口を開いた。

344刃骸魔境 ─乱舞Escalation─ ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:50:55 ID:LPbpj4TY0



「弱い!弱過ギるぞ猿!所詮ハ滅び行クダケの脆き下等種族カ!」
「一々煽んないでよ!ほんっとに性格悪い!」

状況は悪化の一途を辿っている。
正面切って剣戟を展開可能な黒死牟、ベストタイミングでの援護を行ういろは。
両名が一時的に戦線離脱し、結芽単独でデェムシュを相手取る羽目になった。
どれ程分が悪いかを懇切丁寧に行うまでもなく、回避へ専念するので手一杯。
時折刀が胴を叩くも、ダメージらしいダメージは一切なし。
だったら胸部へ浮かぶ、恐らく自分や黒死牟が放送前に付けた傷痕を狙うも効果はイマイチ。
率直に言って、破壊力が大きく足りない。

「蒼炎の剣士の効果を発動!」

遊星の宣言通り、自身の攻撃力低下を代償に結目を強化。
600ポイントアップは少なくないが多くもない、しかし微量だろうと力を上げねば勝てない。
細い腰へ迫る大剣を防ぎ、歯を食い縛って押し返す。
体勢も崩せれば隙が生まれるのだが、巨体をグラつかせるには腕力が不足。
反対に太い足で蹴りが放たれ、全身を大きく反らしながら後退。

(マズいな……)

結芽一人でデェムシュと戦うのは無茶と、天津達もすぐに察したのだろう。
ブレイドを押さえ、遊星を援護に向かわせた。
なれど状況は芳しくない。
引いたカードによって戦況が左右されるとはいえ、今のままでは壁モンスターをチマチマ並べるのが精一杯だ。
少しでも結芽への脅威を肩代わりすべく、スケープゴートを発動したが気付けば既に一体のみの有様である。

345刃骸魔境 ─乱舞Escalation─ ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:52:15 ID:LPbpj4TY0
「猿ノ小細工ニモ期待できンか!ナらバ揃って死ヌがイイ!」
「勝手に終わりにしないで欲しいんだけど!」

城之内の時程のトリッキーな戦法は無く、デェムシュの中で決闘者への警戒度も多少低下。
見下し敗北を突き付けるが、そんなつまらない最期を共に戦う少女が否定する。

「こんな奴に好き勝手言われたままじゃ、おにーさんだってムカつくでしょ!」

刀身越しに走る痺れで得物を落としそうになるも、決して放すまいと握り締め背後へ叫ぶ。
最初はカードで戦うなんてピンと来なかったし、一緒に戦うのだって群れてるみたいで良い気分じゃなかった。
しかし一度はデェムシュへ食らい付かせてくれた城之内を、片腕が使い物にならなくなって尚大尉に勝利を収めた遊星を。
最後の最後まで降参(サレンダー)を跳ね除け、戦い抜いた決闘者(デュエリスト)達を見て来た結芽だから言える。
きっと此度も、強敵へ一泡吹かせられると。

「…ああ!ここからが、本当の勝負だ!」

仲間からこう言われ、彼女なりの信頼を向けられたなら応えない訳にはいかない。
戦意が燃え上がる、絆を信じる心が新たな可能性を引き寄せる。
覚えのある感覚に逆らわず、勝利への鍵(ピース)を掴み取るべく手を翳す。
これは自分一人の戦いではない。
結芽と、力を貸してくれるカード達と、デッキを遺していった戦友。
たとえ城之内自身はもうこの世にいなくても、決闘者にとって最大の相棒とも言えるデッキがあるならば。
己が魂の叫びに、必ずや応えてくれる。

346刃骸魔境 ─乱舞Escalation─ ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:54:22 ID:LPbpj4TY0
「――っ!?これは……」

そうして心意は、再び遊星へ微笑む。
無から生み出した、或いは引き寄せた可能性を実体に変えた。
現れたカードはホカクカードでもなければ、城之内のデッキにも存在しなかった一枚。
戦況を変えられるかもしれないが、デュエルモンスターズの宿命と言うべきか。
サテライト・ウォリアー同様、手札から出して即発動とはいかない。
必要なキーカードを揃える必要があり、現状ではただの紙同然。

「俺のターン!ドロー!」

だったら引き当てるまで。
絶体絶命の状況で、一度のドローに全てが懸かった場面は初めてじゃない。
これまでと同じ、デッキを信じるだけ。

「よし…!手札から運命の宝札を発動する!」

サイコロを振り出た目の数ドローを行い、その後同じ枚数をデッキから墓地へ送る。
運次第だが手札補充と墓地の環境調整を同時に行う、起死回生の一手。
出目は3、新たに手札を増やし――勝機を掴んだ。
黒き竜が遊星の元へ渡ったのだ。

「儀式魔法、レッドアイズ・トランスマイグレーションを発動!蒼炎の剣士と手札の真紅眼の黒竜をリリースして、ロード・オブ・ザ・レッドを召喚!結芽!受け取ってくれ!」
「うん!って、なにこれ!?」

先んじて結芽を強化したモンスターと、手札の黒竜を捧げ降臨させる。
但しフィールドにそのまま出すのではなく、仲間への装備としてだ。
結芽が驚くのも当然の反応だろう、てっきり剣を寄越すのかと思ったらまるで違う。
幼い肢体を覆い隠す、黒く輝く竜の装甲。
背には剣のように鋭利な翼を生やし、臀部からは太くうねる尾が出現。
加えて頭部は黒竜を模した兜を装着、両手と顔面以外は全て鋼鉄を纏った。
S装備とも大きく異なる鎧姿の結芽は、困惑を露わに全身を見回す。

別の世界線の城之内が、ドーマの三銃士の一人ヴァロンとのデュエルで召喚した儀式モンスター。
城之内自身がパワードスーツのように装備し、相手プレイヤーとの壮絶な死闘を繰り広げた。
デュエルでありながら、リアルファイトでもある特異性は殺し合いでも健在。
結芽に装備させる形で召喚を果たしたのだった。

347刃骸魔境 ─乱舞Escalation─ ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:55:09 ID:LPbpj4TY0
「もう!着させるなら先に言ってよね!でも、何かいけそうかも!」
「ガラクタを纏っタ所デ何だトイうのダ!」

予想してなかった為少々抗議を入れるも、切り替えデェムシュへ斬り掛かる。
黒い手袋と違い、仲間との協力があって齎された力だ。
なら抵抗感なしで戦える。
見た目が多少変わった程度で動じないデェムシュの大剣と、御刀が真っ向から激突。

先程までなら力負けし吹き飛んだろうが、もうそうはいなかない。
2400の攻撃力を結芽の元々の強さに上乗せし、大幅な強化が叶ったのだ。
押し負けず拮抗、刀身がギリギリと擦れ火花が散る。
互いに弾かれ、秒と掛けずに再度激突。
デェムシュの薙ぎ払いを劣らぬ膂力で叩き落とし、床を踏み砕きながら突きを繰り出す。

「猿ノ小娘がァッ!!」

切っ先が僅かに触れるのすら許さない、打ち払い反対に首目掛け大剣が駆ける。
甲冑を纏っていようと無関係、隠れた細い首共々粉砕するまで。
2000を超える守備力があっても、デェムシュ相手に慢心は抱けまい。

「猿猿猿って、同じことしか言えないおにーさんの方がお猿さんだと思うなっ♪」

ロード・オブ・ザ・レッドを装備しても、迫り来る死には背に冷たいモノが落ちる。
だが馬鹿正直に緊張を面に出し相手を調子付かせるのは、癪なのでお断り。
小生意気に笑い飛ばし跳躍、シュイムの刀身へと着地。
写シを使用中なのもあるが、鎧を纏っているのに身軽に動ける。
耐久性を犠牲に機動力が低下、といったデメリットは皆無らしい。
生身の時と謙遜ない戦闘が可能ならこっちのもの、刀身から更に跳び上がり頭上を確保。
落下の勢いを利用し刀を振り下ろせば、向こうも咄嗟に得物を翳して防ぐ。


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