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人類観察都市 東京二十三区

1 ◆6bb6LonGS2:2022/03/26(土) 23:01:20 ID:mgsc6GrA0
.





   貴方を見棄てたこの世界  貴方は孤独を生き抜いた


   敗北るものかと前を向き  貴方は孤独を生き抜いた







782 ◆di.vShnCpU:2022/06/18(土) 18:39:15 ID:875p26PQ0
投下します。

783交響曲第九番『合唱付き』 ◆di.vShnCpU:2022/06/18(土) 18:40:44 ID:875p26PQ0
 ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪


「どうぞ。入って貰って構いませんよ」

 北区滝野川、とある豪邸。
 夜更け過ぎまで本を読んでいた胡蝶しのぶは、自室の戸を叩くノックに静かに答えた。

「まだ起きているのかい。明日から早いのだろう?」
「寝付けそうになかったもので」

 促されるままに乙女の自室に入ってきたのは、表向き彼女の『彼氏』――ということになっている男。
 ぼさぼさの髪に、よれた服。
 ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーベン。
 実際には、胡蝶しのぶに割り振られたサーヴァントであった。

「それは……ああ、『あいつら』に関する本か」
「ええ。『クトゥルフ神話』。
 今までの私とは縁のない分野でしたので、少ししっかり背景まで把握しようかと」

 少女の手元に積み上がっていたのは、翻訳された海外文学の文庫本に、ちょっと判が大きく絵の多い冊子。
 『クトゥルフ神話大百科』、『怪奇文学シリーズ』、『知られざる世界』……。
 短編小説集から挿絵付きのまとめ本まで、雑多なモノが集められている。

「20世紀のアメリカで生み出された『架空の』神話体系。
 奇妙な世界観を用いた『シェアードワールド』の小説群。
 この世界には、時に『神』などとも呼ばれた奇妙で強大な存在が多数、太古から存在していて。
 人智を超えた力を持ち、人智の及ばない論理で動いていて。
 今でも当たり前の日常の薄皮一枚下に潜んでいる。
 『踊る泡』、『クグサクサクルス』あるいは『サクサクルース』もそのうちの一柱……」

 軽く諳んじて、そしてしのぶは大きくため息をついた。

「……それって要するに、『フィクション』ってことですよね?
 作り物、小説家たちが勝手に書いたことですよね?
 根も葉もない、『作りごと』、なんですよね?
 そんなモノが本当にこの聖杯戦争に『居る』っていうんですか?」
「確かに、表向きは『そういうこと』になっているね。ただ――」

 少女の問いかけに、男は少し言葉を探すような間を空けて。

「ただ――古代より、優れた芸術家や詩人は、常人には知りえない『何か』と通じ合ってきたと言われている。
 ミューズや神々、悪魔にリャナンシー。
 あるいは、そういった名前すらつけられなかったもの。
 優れた才能が『何か』を引き寄せるのか。
 それとも、『何か』と通じ合ったから傑作を手に出来たのか。
 そういった例はたくさん知られている。
 だから……小説家が『知られざる何か』と『通じ合って』『真実に触れた』のだとしても。
 僕は、驚かないかな」
「へぇ」

 胡蝶しのぶは、そこで不意に『嘲笑った』。
 男の顔を下から見上げるようにして、両目を大きく見開いて、口元だけで笑みを浮かべる。
 深い淵のような、大きな、どこか虚ろな瞳孔がベートーベンを射すくめる。
 瞳の中に吸い込まれるような、際限なく虚空へと落ちていくような、そんな錯覚を覚える。
 なぜか、気圧される。

「それって、『御自身』の経験からの言葉ですか?」
「……ッ!」


「『トルネンブラ』」


 思わず息を呑んだ所に、不意打ちで被せられた、奇妙な響きの知られざる名前。
 男は脂汗を浮かべるだけで、身じろぎひとつ出来ない。
 代わりに、室内には冷たい風が巻き起こる。
 窓を閉じたままの夜の部屋の中に、一陣のつむじ風のような風が吹く。
 ありえない現象に髪を揺らしつつ、胡蝶しのぶの笑みは変わらない。

784交響曲第九番『合唱付き』 ◆di.vShnCpU:2022/06/18(土) 18:41:27 ID:875p26PQ0

「実のところ、半分、あてずっぽうだったんですけどね。
 さっきこの本で『それっぽいもの』を見つけたもので、カマかけちゃいました」
「……驚いたな。
 隠しきれるとは思っていなかったけれど、こんなにも早く、名前まで」
「違和感があったのは、貴方が『私に音楽の才能がないこと』を『喜んで』いたことです。
 まだ短い付き合いですけど、本来の貴方は、それを喜ぶような性格ではありません。
 自分の能力と作品を正当に評価されることを望む、ごく真っ当な感性の持ち主です。
 なのにがあえて『才能がない』ことを『喜ぶ』というのは――
 もし『それ』があったら、何か『困ったこと』が起きかねないから」
「まいったな、脱帽だ」
「そして――今も『いる』んですよね? 貴方と一緒に?」
「……ああ」

 ベートーベンは深いため息をつく。
 観念したような表情で、ちらりと横にいる『何か』に目を向ける。
 しのぶの目には、そこには何もない空間しか見えないけれども。

「予め言っておくと、それらの本に書かれたことは、物事の一面に過ぎないだろう。
 大雑把に言って『当たらずとも遠からず』。せいぜいがそれくらいの情報のはずだ」
「でしょうね。見当はつきます」
「君の推測の通り、僕は『これ』から『踊る泡』の名前を聞いた。
 縁者ではあるけれども、同時に油断のならない、恐るべき存在であるらしい。
 彼女はすっかり怯えてしまっている」
「『彼女』……?
 女性、いえ、性別があるという記述はなかったはずですが」
「まあ色々あったのさ。僕とコイツの間にも」

 男の見つめる先の虚空に、小さな風が渦巻く。
 気を付けて観察すれば、それの本質は風ではない……超高周波の小さな音の集合体。
 指向性をもって小さなループを描き続ける、外に漏れることのない振動そのもの。
 動きに伴う微細な振動が副次的に『風』として『才能のない者』にも感じられているのだ。

 生ける異界の音楽、トルネンブラ。
 もしもそれと通じ合うほどの『才能』があったら、それはどれほどの存在感があるものなのだろう。
 どんな姿として顕現して見えるものなのだろう。
 そして、それらの同類が、この東京二十三区には神出鬼没に闊歩しているというのだ。


 ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪


「私が留守の間に来たという、泡のような存在、『クグサクサクルス』。
 この本には『同族食い』、独りで子を産んでは子を食うものとありますけど」
「それは真実の一面だろうな。
 僕が聞いた話では、そいつの本質は『宗教を捕食するもの』なのだという」
「宗教を……捕食?」
「神と、それを信仰するもの。信仰者が作り上げた文化や概念。
 それらを丸ごと『喰らって』、『初めからなかったかのようにする』存在。
 彼女たちのような存在にとっては、まさしく天敵のようなもの……であるらしい」
「なんだか凄いお話ですね」
「伝え聞いている僕も、全貌を把握できている気はしない。
 ただ、それでもいくつか言えることがある」

 ベートーベンは断言する。
 彼とて『彼女』の同類についての知識は多くはない。
 こいつも傍迷惑な悪霊みたいなものだが、それぞれ全く違う種類の厄介さを持っているのだろう。
 けれど、他ならぬ彼自身が、『英霊』であり『サーヴァント』である。

「『彼ら』の本体がいかに強大な存在だったとしても。
 聖杯戦争において、『サーヴァント』やそれに付随して呼ばれたモノとして現界したのなら。
 彼らには、『サーヴァントとしての限界』がある」
「サーヴァントとしての……限界」
「仮に『本体』は不滅だったとしても、真に不滅でいられる『サーヴァント』はそうそう居ない。
 何をするにも魔力を消費する。大掛かりなことにはそれだけ膨大な魔力を消費する。
 大抵の場合、マスターを失えば存在を維持していられない。
 つまり――」
「やり方次第で戦って倒すことも可能なはず、ということですね」

 しのぶは男の意を理解する。
 彼女たちの主従が異例なほどに『弱い』ことは脇に置くとしても。
 最初から諦めなければならないような相手ではない。

「その『踊る泡』、まさか本当に遊びに来ただけってことはないと思うんですけど。
 それでも、一方的にこちらの居場所を把握されているのは間違いありません」
「また来るって言ってたしね」
「こちらから積極的に敵対する必要はありませんが、対策を練っておくべきです。
 仮に敵に回ったとしても返り討ちにできるような、そんな策を」
「できるかね」
「それが『捕食者』だと言うのなら……倒すだけなら、実は簡単なんですよ。
 多少の分析と研究の時間は要りますが、『必殺の策』は、あります」
「言いきるね」

 しのぶの口元に、どこか酷薄な笑みが浮かぶ。


「毒を、盛るんです」


 悪戯っぽくも『毒』を帯びた口調で、彼女は語り続ける。

785交響曲第九番『合唱付き』 ◆di.vShnCpU:2022/06/18(土) 18:42:35 ID:875p26PQ0
「食餌に見せかけて、『食べてはいけないもの』を食べさせる。
 偽装した致命の仕掛けを、相手に自発的に飲み込ませる。
 相手の内側から、殺す。
 私の一番得意な『闘い方』です」
「なるほど。
 では何を食べさせる。
 何ならば食いつく」
「そうですね……思いつくままに挙げるなら。
 一見宗教のようで宗教でないもの。
 あるいは、宗教であるかどうかすら曖昧なもの。
 神を称えるように見えて神を否定するもの。
 信仰のように見えて、信仰を否定するもの」
「あるかな、そんなもの」
「即答はできません。
 ただ、有無で言うのなら、どこかに必ずあるはずです。
 『宗教捕食者』が、差し出されれば食いついて、そして消化できずに身を滅ぼす『何か』が」


 ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪


「ただ、そういうことなら……僕も力になれるかもしれない」
「と言いますと?」
「例えば『宗教的熱狂』の『ようなもの』なら、僕は意のままに『作る』ことができる」

 男はそこで言葉を切って、深く息を吸い込む。
 やがて静かに穏やかに紡がれ始めたのは……口笛だった。

「…………ッ!」

 一音一音、明確に区切るように発せられる音は、シンプルなメロディを作り出す。
 一音ずつ丁寧に、段を登って、段を降りる。
 一音ずつ丁寧に、段を降りては、段を登る。
 あまりにも明瞭で、簡単で、単純で、たった一音の口笛でしかないのに。
 それは圧倒的なまでに豊穣で、光に溢れて、否応なしに力強い感情の波を引き起こす。

 主旋律に寄りそう数多の音がありありと想像できる。
 数多の人々が、声を合わせてこの歌を奏でる姿が脳裏に浮かぶ。
 全身が総毛立つ。
 生の喜びと、今ここにこうして居られることへの心の底からの感謝。
 一切の捻りなく、淀みなく、高らかに歌い上げる。
 宗教的熱狂。
 その通りだ。
 もしも『これ』で足りないのなら、一体何がその言葉に相応しいと言うのだろう――

「――アン・ディー・フロイデ。
 交響曲第九番、第四楽章。その中心となる旋律。
 この時代の日本では『歓喜の歌』として知られているみたいだね」
「夜中の演奏はやめて下さい、と前にも言いましたが。
 口笛も、やめて下さい。ご近所に迷惑です」
「済まないね。ただ、聞いてもらった方が早いと思ってね」

 男は頭を掻いてみせるが、その実、まったく悪びれていない。

「これは本来は合唱つきの交響曲だ。
 フルのオーケストラに加えて、合唱団がつく。
 さっきの主題に至るまでの前準備も長いし、そこからの展開も複雑だ。
 今のだってだいぶ『手加減』したんだぜ。
 僕が本気で再現したら、『こんなもの』では済まない」
「それは……私にも分かります。
 嫌でも、分からされました」
「あの『踊る泡』が出た時、これを聴かせていたなら、どうなっていたのかな。
 ひょっとしたらその場で僕も食べられて、そのまま倒せてしまっていたのかもしれない」

 ひゅごうっ。
 男の軽口に、見えざる風が一瞬だけうなりを上げる。
 しのぶもつられて溜息をつく。

「つまらない冗談はやめて下さい。
 勝手に脱落されても迷惑ですし……それに『彼女さん』、怒ってるみたいですよ」
「彼女って訳でもないんだけどなぁ」
「ただ……貴方ごと食わせるのは論外だとしても。
 『音楽』を餌にする、というのはアリかもしれませんね」

 優れた音楽によって引き起こされる感動や情動を、『信仰』と誤認させる。
 それを『宗教捕食者』に『誤嚥』させる。
 もちろんまだまだ詰めねばならない部分はある。
 具体的に何を食わせるのか。そこにどんな『毒』を仕込むのか。本当に倒しきれるのか。
 それでもこれはひとつ、有力な可能性であった。

786交響曲第九番『合唱付き』 ◆di.vShnCpU:2022/06/18(土) 18:43:21 ID:875p26PQ0


 ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪


「ずいぶんと話し込んでしまったね。明日も早いのだろう」
「そうですね」

 夜もだいぶ更けて。
 男は椅子から立ち上がる。
 明日からは聖杯戦争の本番開始であり、また、学生にとっては連休の始まりだ。
 ここまでは学生の役割(ロール)のために、ほとんど動くことができなかった胡蝶しのぶ。
 それでも、彼女はただ無為に時を過ごしていた訳ではない。
 動けないなりにネットや級友たちから情報を集め続けて、既にある程度の目星をつけている。

 しのぶが狙うのは、この聖杯戦争の主催者を吊し上げ、最低でも『一発派手にブン殴る』ことである。
 ある意味で非常に厳しい道である。
 なまじ優勝と聖杯を目指すよりも遥かに厳しい道。
 しのぶとベートーベン、そこにトルネンブラを数に入れたとしても、三人だけで届く目標ではない。

 必要となるのは『協力者』だった。
 必ずしも全ての思惑が一致する必要はない。
 こんな酔狂な目的を掲げる主従が、他に居るとも思えない。
 けれど、自分たちだけでは届かないのなら、誰かの助けが要る。

 どうやら優勝狙いではなく、けれど聖杯戦争の関係者としか思えず、接触しようと思えばできる相手。
 そんなものはどうしたって限られてくる。
 しのぶたちの求める条件に合う存在は、現時点ではたったひとりしか居なかった。

「最近になって不自然なまでに急に人気を上げてきたアイドル、『リルル』。
 きっと彼女もマスターか、あるいはサーヴァントです」

 他の主従を釣って倒すための罠である可能性は検討した。
 しかし、それにしては行動が不自然なのだ。
 趣味なのか、何らかの宝具の発動条件なのかは知らないが、悪目立ちすることを厭わず活動している。
 明らかに、何か超常的な能力を惜しみなく使ってその地位を確立している。
 どう考えても、労力として、ただの釣りとしては割に合わない。

「気を付けていってらっしゃい。良い報告を期待して待ってるよ」
「何を言ってるんですか? 貴方も一緒に来るんですよ」
「ええっ!? 僕は戦力にならないよ?」
「そこは最初っから期待してません」

 情けない悲鳴を上げた楽聖に、しのぶはニッコリと、あまりにも明るい笑みを浮かべてみせた。
 花のような笑顔に、断るという選択肢はない、と言わんばかりの強い圧が備わっている。

「相手は『歌』で勝負している『アイドル』です――
 それがどんな交渉になるにせよ。
 『英霊の座に名を刻むほどの音楽家』からの『楽曲提供』の可能性は、立派な『交渉材料』になるはずです」

787交響曲第九番『合唱付き』 ◆di.vShnCpU:2022/06/18(土) 18:43:43 ID:875p26PQ0

【北区・滝野川/胡蝶家の屋敷/1日目・未明】

【胡蝶しのぶ@鬼滅の刃】
[状態]:健康
[令呪]:残り三画
[装備]:専用の日輪刀(竹刀袋入り)
[道具]:応急処置セット、日輪刀で使うための毒物一式
[所持金]:潤沢
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争の仕掛け人を突き止めて張り倒す。
1:夜が明けたら人気急上昇中アイドル『リルル』と接触を図り、可能なら手を組む。
2:『宗教捕食者』への対処法を練る。

[備考]
※フィクションとしての『クトゥルフ神話』の基本的な知識と資料を得ました。
※ベートーベンと共にいるトルネンブラの存在を知りました。


【ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーベン@史実+クトゥルフ神話】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:無し
[所持金]:無し
[思考・状況]
基本方針:マスターのために曲を作る。
1:えっ僕も行くの? えっ楽曲提供?? 聞いてないよ!?
2:『宗教捕食者』への対処法を練る。

788 ◆di.vShnCpU:2022/06/18(土) 18:44:34 ID:875p26PQ0
投下終了です。

789 ◆6bb6LonGS2:2022/06/18(土) 22:09:12 ID:DQDB8Wj20

皆様投下お疲れ様です。
感想が溜まりまくっていたので消化していきます。


シャミ子が悪いんだよ
 こういう形でマスターたちの悩みを解消できるのが、シャミ子の長所な一方、活躍の場が限定的ではある…
 にちかのメンタルが少し良くなった…ホントに少しだけ!まだまだ、これからな感じではありますが
 二人が同盟として活動する事で、より良い方向へ進んでくれそうな予感がします!
 ただ、戦力は二組合わせっても強いとは言えないのが不安。
 頑張れシャミ子とにちか! 仲良くなって聖杯戦争を生き残るんだ!!


炎のさだめ
 駄目だ……エンデヴァー。カグツチちゃんにはタピオカを飲ませてあげるべきだったんだ……
 無駄だと分かっても意味はあるんだよ。こういう気使いができないのが、手心が足りない、こういう男なのだと……
 そして、姉を名乗る不審者ではなかった本物の姉のエントリーとは、もうこれわけわかんねぇな。
 カグツチちゃんがマスターの技を使う展開を見ると、一方的ではありますが彼女はマスターへの好感度はあるんですよね(なお
 そして、熱いのが好きじゃないと言っているスカディ様が可愛い。真面目な場面なのですが、
 やっぱり彼女は、こういうところが可愛いですよね…


DEAREST DROP
 本当に気持ち悪いよ(誉め言葉)あれこれと方便垂れて、戦闘でもいなしたランサーですが、これでも相性的に
 ギリギリの相手とタイマンやってた時点で、際どい戦闘でありますし、それでも平静に対処している時点で
 こいつの異常さが伝わってきますね……そして前話から続いて連戦でしかもイライラマックスなオロチですが
 バーサーカーたらしめるのが、愛に狂っているという指摘は結構な直撃で、腑に落ちた部分でもあります。
 これはオロチに限らず、他のバーサーカーも共通する狂気に当てはまります。
 果たして、オロチはその狂気に囚われたままなのか、先が気になります


交響曲第九番『合唱付き』
 この主従、結構行く先ハードなんだろうなぁと思いましたが、割となんとか行けそうなのは鬼相手に
 工夫しながら幾戦を生き抜いてきたしのぶさんらしい発想力あってですね。結構、的確に今後の行く先も
 相手の対策も講じていっているのは頼もしい。振り回されるベートーヴェンさんは頑張ってください…
 

改めて皆様、投下の方、ありがとうございました。

790 ◆6bb6LonGS2:2022/06/19(日) 22:23:37 ID:CLc/zK7M0
予約分投下します

791フォニイ ◆6bb6LonGS2:2022/06/19(日) 22:24:24 ID:CLc/zK7M0
『童磨』の立ち位置は中々面倒だった。
優位な状況ではあった。『万世極楽教』の人脈を使い、ある程度の情報収集に
自身とランサー『マンティコア』の食糧という名の人材確保。それらを隠蔽工作する程度は造作もなかった。

それでも、慎重でなければならない理由。即ち、童磨の弱点――『太陽』。
車で移動するなり、昔と比較すれば行動範囲が広くなったとはいえ結局、弱点は健在なのだ。
そこを突かれれば彼が不利になるのは当然。

本戦開始とはいえ……それでも踏み込んだ行動に出るのは迂闊。
何より、聖杯を獲得するべく全ての主従を相手するのも困難を極める。
見境ない暴力者であれば、ただ一人残さず蹂躙し尽くすだろうが、童磨にはそういう感性を持ち合わせていなかった。


童磨が打った手は『情報収集』である。
既にサーヴァントの主従らしき情報を幾つか取得しているが、所詮はNPCが現実に準じた表面上に公表した情報。
どういう趣旨で行動しているか、童磨のように能力がデメリットとなって制限されているか。
何も分からない。


「ランサーには『切り裂き魔』を探して欲しいんだ。俺の想像通りなら今晩も誰か殺すと思うから」


童磨の目を付けた標的は――深夜、女性を対象に行われる連続殺人事件。
犯行手口から十九世紀にイギリス・ロンドンを恐怖に落とし込んだ未解決殺人事件『切り裂きジャック』の模倣犯と称されているが。
まさか、そのまんま『切り裂きジャック』の英霊が起こした犯行なのか? 否、英霊となれば『切り裂きジャック』が召喚されてもおかしくはない。
ないのだが……あからさまに過ぎでは? 逆張りな疑念を抱く事だろう。
マンティコアは眉をひそめて率直な意見を出す。


「あのさぁ。こう、何度も同じ場所でヤらねぇだろ。人間(メシ)食うのも敵(ジャマ)始末するのも、派手にカマせば目ぇつくんだからよ」

「うんうん。普通はそうだよねぇ」


同じ手口の犯行を、ワザとやって他の主従を炙るか、誘導し罠を張り巡らされているか。
そうじゃなければ馬鹿の一つ覚えで、連続殺人なんて意図して起こさない訳で。
だけど、童磨はある見解を持っていた。
申し訳なさそうに、それでいて躊躇なく彼は言い放つ。


「でも多分、これやってる子――頭が悪い子だと思うんだよね。特徴的過ぎる。真名を隠そうとしてない。
 表では報道されてないけど、犯行の手口の……『子宮』が取られたり、傷つけられてるのも、やるにしてもそのまんま過ぎるよ」


ドストレートな批判である。
一方で、こうも言う。


「俺とランサーみたいに苦労はしてないのは『どうにかできる』能力を持っているからだろうね」

792フォニイ ◆6bb6LonGS2:2022/06/19(日) 22:24:45 ID:CLc/zK7M0
生前、何か失敗を犯して死に至り、英霊となったのならば多少の反省がみられる筈。
反省や改善は愚か、生前の手口まんまを馬鹿の一つ覚えで繰り返すのは、失敗がなかったという事。
『切り裂きジャック』は結局、最後まで正体は明らかにならず。
スコットランドヤードの目を搔い潜ったのだ。
故に、絶対の自信がある。『切り裂きジャック』の能力が優れているが為の慢心。
マンティコアが聞き返した。


「……で。探すって、ぶっ殺すんじゃねえのかよ」

「俺も色々考えたんだよ。序盤から中盤までに必要なのは協力者、つまり同盟相手さ」

「は? オレたちに同盟とか冗談だろ、童磨」


主従どちらも人食い主軸の社会的には終わっている事は、童磨もマンティコアでさえも分かっている。
普通、彼らと同盟を結びたいと試みる相手などいないだろう。
ただ相手が『普通』であればの話。
童磨は言う。


「俺達でも同盟を組んでくれそうな相手を探す。その有力な候補が『切り裂き魔』なんだ。
 この子も、この子のマスターも同盟相手に困っているだろうし、
 彼らが同盟を考慮してなくても話を持ち掛ければ、少しは聞いてくれるんじゃないかな」


『頭の悪い者を救う』という、案外、彼らしい提案に納得する反面、コイツらしいなとマンティコアは呆れた。
まあ、彼の話は間違いではない。
マンティコアも流石に全員相手にして戦い抜く魂胆はない。
彼女の性能は彼女自身が最も理解している。敵が複数相手なら厳しい部分があった。
マンティコアは渋々了解する。


「血の匂いならすぐ鼻につくからな。近くまでいけりゃ掴めるだろうぜ」

「うん。よろしく頼むよ。ああ、もしこっちにサーヴァントが来たら念話で知らせるからね」


例の宗教関係襲撃者。
彼らが『万世極楽教』へ来る可能性は十分あるが、警察に目がついたからといって必ずしも襲撃される保証もない。
童磨もある程度、サーヴァントを引き留める能力を備えている。
いざとなれば、マンティコアを令呪で呼び寄せる事も。


ただ、想定外の事態は起きてしまうのだ。





793フォニイ ◆6bb6LonGS2:2022/06/19(日) 22:25:07 ID:CLc/zK7M0
「前から思ってたんだけどよぉ。んな形の入れ物に沢山入る訳ねえだろ」


『ジャック・ザ・リッパー』こと『鎌鼬』が突っ込んだのは、ランドセルについてである。
『久世しずか』が食糧を詰め込もうとしたランドセル。
小学生が持つ鞄の象徴ではあるものの、これを普通の鞄代わりにしようというのは相当不釣り合いであった。
しずかが困っていると、鎌鼬は勝手に家の中を探しまくった。


しずかの住む家は、聖杯戦争の舞台より前に暮らしていた彼女の自宅と同じ、全体的に一般家庭からすると物が放置され。
衣服もクローゼットにしまわれていない。
でも、生活感ある要所要所が片付いているのは、時折帰って来る母親が最低限の家事をするからだ。
母親は滅多に帰って来ない。
だけど、しずかが生活できる為の最低限のこと――食糧の提供などしてくれる。

実は先程まで、母親が帰って来ていた。
ゴールデンウイーク中だから、仕事が休みなのかと思えば、ゴールデンウイークだからこそ自宅には戻らず仕事で帰らない事を伝えにきたのだ。
ある男と旅行を楽しむ為、とはしずかに説明せずに。
学校が休みなので、多めに食糧を用意してくれた。
あとは、面倒くさそうに家事を済ませて、そそくさと家から退出する。


そして、二人が考えたのは(厳密には鎌鼬が考え、しずかは賛同しただけ)『他の主従を探しに行く』だった。
拠点であり一安心できる自宅に固執せず。
というか、じっとしてサーヴァントが向こうからやって来るのを待つより。探した方が早いだろう、という奴。

殺人事件を起こしておいて、注目されているだろと他の誰かがいれば突っ込む場面だが。
残念ながら突っ込む者は誰もいなかった。
第一、鎌鼬本人が何度も事件を起こしても、他サーヴァントが現れなかった事から、自分は注目されてないと勘違いしたのである。

これも様々な要因――派手に暴れる他主従の存在で、鎌鼬の脅威が二の次にされたのが一番だろう。
ある意味、彼らは幸運かもしれない。


鎌鼬が、母親が使っていたらしい手提げバッグを見つけて、そこに母親が用意したおにぎりとかパンを詰め込みまくる。
ボーっと光景を眺めるしずかだったが、突然、外が明るくなる。
何やら騒がしい声が無数と、騒音が聞こえると――彼らの家に火種となる火炎物が投げ込まれたのだ。


サーヴァントの襲撃ではない。
無法の荒くれもの共――『殺島飛露鬼』が率いる集団、所謂『新生・聖華団』の仕業だった。


これは『聖華団』の常套手段。
近隣住宅に火災を引き起こし、そこへ警察の眼を逸らし、主要の暴走行為を行うというもの……
決して、しずか達を狙った犯行ではないのだが。
それを知らぬ者からすれば、自分達を狙ったものと警戒するのだ。

794フォニイ ◆6bb6LonGS2:2022/06/19(日) 22:25:38 ID:CLc/zK7M0




「オイオイ! こりゃ他の奴らに先越されたのかぁ?」


遅れて現場に到着したマンティコアも当然、これがサーヴァントの犯行かと疑った。
ある意味、間接的にはそうなのだが。
辺り一面の火の海を見れば、ここで暴れていた『切り裂きジャック』を炙り出す手段でこうしたと勘違いされても仕方ない。
愉快そうに駆けまわる単車を幾つか捕捉したマンティコアが、サーヴァントの身体能力で追い抜き。
腰から生えた蠍の尾で車を突き刺して、持ち上げて無理矢理車内を確認する。
運転席、助手席にいる人間は非現実(ありえない)状況に戦々恐々だが、マンティコアは「ふーん?」と首を傾げた。


「普通の人間だけど、なーんか『匂い』が違げぇなぁ」


すると人間側から声が聞こえる。


「て、てめぇっ。『暴走族神』が言ってたサーヴァント!?」

「んん? サーヴァントの事、知ってんのかぁ。じゃあ――」


マンティコアが疑問を解消する為、蠍の尾を振り上げ車体を真っ二つに、車内の男二人の急所たる首を狙って噛みついた。
十八番芸の如く吹き飛ぶ首二つと共に。
喉元を食らったマンティコアは「おお!」と確信を得た。


「やっぱりだ! コイツら『サーヴァント』っぽくなってやがるッ!! こいつはぁいいぜ!」


これはアルターエゴ『アイホート』のスキル、ブギーマンの加護により人間を疑似サーヴァント化したもの。
ある種、驚異的である能力だが。
マンティコアにとっては、普通の牛肉が最高ランクAへ昇格するような裏技である。
つまり彼女の糧になる獲物を量産されまくっているのだ。
最も、アイホート側はそんなの知りもしないのだが。

そうと分かれば、食えるものは食っておこうとマンティコアは獲物を探した。
と言いつつ。
例の『切り裂き魔』を捕捉しなければならない。

炎の海と化した住宅街を駆けていくと血の香りが漂う。
マンティコアがそれを追っていくと、ある一軒家の前で複数の人間がバックリと肉体を『切り裂かれて』いた。
暴徒『新生・聖華団』の最前線にいる者の多くは男。
肉体のあちこちをバックリ裂かれるか、車体を切られ炎上している車内に取り残された者など、死因は様々。
彼女も『切り裂き魔』が童磨のように女ばかり狙う輩なのは知っていたので、これが意外な光景である。
普通に男も殺すのだと。

795フォニイ ◆6bb6LonGS2:2022/06/19(日) 22:26:04 ID:CLc/zK7M0
勿体無いとマンティコアは炎で焼かれていない死骸から食っていく。
この辺りは好みの問題だが、彼女的に肉は生(ナマ)に限る、らしい。
だが、これでは『切り裂き魔』はここから離れてしまったかも分からなかった。
ムチャムシャと肉を頬張りつつ、マンティコアが周囲の気配を探るがやはり、それらしいものはない。
……代わりに風の音が聞こえる。

多少の風の音であれば自然現象だとスルーするところ、異常なまでに吹き抜けようとする突風特有の高い音色。
流石にマンティコアも素早く後退し『攻撃』を回避した。

やはり、童磨が指摘する通り、相手は馬鹿のようだ。
折角気配を消して不意打ちを狙えたものを、風の音のせいで攻撃が来ると知らせている。
マンティコアもケッと侮蔑を吐こうとしたが――魔力の荒波で構成された暴風はマンティコアが回避したギリギリにやって来た。
ただの風ではなく、マンティコアが食い残した死骸や炎上中の車体をみじん切りにするかの如く、鋭利な刃と化した旋風。

想像以上に攻撃速度は速い!
『切り裂き魔』と称されているのだから、てっきり接近型の相手と予想しただけに。
まさか、風で相手を切り裂く、遠距離型なのはマンティコアも目を見開いた。


(マジかよ! 面倒くせぇ――)


刹那。
暴風の中から、突如、大鎌を持った男が実体化し、風に乗ったままマンティコアへ突撃した。







初見殺し。
皮肉にもマンティコアと鎌鼬の戦法は似ていた。

マンティコアは腰から生えた蠍の尾(スティンガー)から射出される『棘』。
一種の飛び道具であり、上手く使えば相手を射止め、命中すれば毒の効果を与えられる。

鎌鼬は直前までの気配遮断。
魔力放出の風に同化することで実体を隠し、そこから最速の不意打ち。

ただし――やはり、真名による情報戦は重要である。
事前にマンティコアは童磨から一つ、アドバイスを貰っていた。
最初、聞いた時はふざけてんのかと若干キレたマンティコアだったが、驚くほどに的確ではあった。


――もし向こうが攻撃したら、ランサーは『女の子』だから『下腹部』狙ってくるよ。


蠍の尾(スティンガー)は大きさを変化させる事ができ、初撃を盾のように大きくした先端部で防ぐ。
ガキン!と大鎌が見事に嵌まって、鎌鼬は血塗れの口で「あぁ!?」とドス吐く。


「人間じゃねぇ! 折角、食おうと思ったのに。虫食ったことあるけど糞マジィんだよ」

「オレのどこが虫だ! むしろコッチの台詞だ!! 殺人鬼かと思ったら全然違げーし、ってか虫食った事あんのかよ!?」

「これ虫の尻尾だろ! こんなん生えてて虫じゃねえとか馬鹿にしてんのか!?」

「虫はこんな牙生えてねーだろが! 後先考えねえで殺しまくってる癖して、馬鹿はそっちだぜ!!」

「後先考えてねぇのはお前だ、バカスカ食ってると鬼みてぇにデブるぞ」

「はぁあぁぁあっ!? サーヴァントがデブになるかよ!」

「なるに決まってんだろ! 腹周りに脂肪だけついでダブダブになんだよ」

「だったら手前はどーなんだ! そっちだってデブになるだろ!!」

「俺は美味い部分しか食わねぇんだよ! 取り合えず沢山食べれればいい馬鹿と一緒にすんなぁ」

「オレだって美味いモン狙ってるぞ! 美味いサーヴァントな!!」

「サーヴァントになっただけで美味さ変わる訳ねーだろ、何言ってんだ」

「変わんだよ! にわか野郎!!」

796フォニイ ◆6bb6LonGS2:2022/06/19(日) 22:26:49 ID:CLc/zK7M0
……そんな痴話喧嘩染みた、しょうもない小競り合いを外野は何事かと見物していた。
外野とは、住宅火災により避難した周辺住民や、現場に駆け付けた警察・消防、様子をSNSで撮影しようとしていた野次馬など。
周辺に惨殺死体や、双方が血塗れじゃなきゃ、まだ若いカップルの喧騒で済まされたものの。
一体どう割り込めばいいのか、外野側が困惑している。
ギャアギャアと喚き合って漸く、鎌鼬の方が気づく。


「コイツら、お前が差し向けた刺客じゃねえのか」


そう。
鎌鼬としずかの拠点であった自宅に火を放り込んだ襲撃者たち。
彼らを食っていたマンティコアは、つまり彼らの仲間ではないのだと。
常識的な状況に彼女は呆れた。


「今更気づくの遅せぇよ」

「じゃあ何でしずかの家燃やしに来たんだ、コイツら。俺狙ってるにしても遅すぎるだろ。俺が『殺し』やり始めて数日経ってるだろーが」


素直な感想と指摘をしでかす鎌鼬に、彼が変に馬鹿で変に理屈がある事に突っ込みきれないマンティコア。
鎌鼬を狙ってやったのか。
それとも別の狙いがあったのか。
二人には、どちらか判別できる根拠を持ち合わせていない。
ただ、元より襲撃犯狙いの待ち構えだった鎌鼬にとっては大鎌と『蠍の尾』の先端部を弾いて、構えるのを止めた。


「とっとコイツら片付けてぇ。大人数でワラワラ来られて相手すんの面倒くせぇし、男ばっかだしよぉ」


元より出ていくつもりだったので拠点が燃やされたのは、大して痛手ではなかった。
問題は、襲撃者を指揮する主従がどこにいるか不明な点である。
鎌鼬自体の性能は複数相手に優位で立ち回れるのだが、不釣り合いな事に、本人はその気が皆無だった。
仕方ないと鎌鼬が魔力放出の風を纏って、マンティコアに捨て台詞吐く。


「手前(テメェ)は後回しだ。先にコイツら操ってる奴、ぶっ殺すからよ」

「はっ、オイ! ちょっと待て!!」

「誰が待つかよ、デブ」


鎌鼬の暴言に沸点上昇したマンティコアが毒針を刺しこんでやろうと思ったが、相手は風に同化し、
暴風そのものとなって二十三区の空へ溶け去った。

797フォニイ ◆6bb6LonGS2:2022/06/19(日) 22:27:41 ID:CLc/zK7M0




しずかは、一旦火災現場から食糧の入ったバッグと一緒に避難させられていた。
鎌鼬が火をぶち込んだ連中と、指示した奴をぶち殺すと宣言していたが。
残念な事に戦果なしの結果であった。
彼の報告に、しずかは素直な疑問をぶつける。


「途中で会ったサーヴァントを倒さなかったのはどうして? ライダー」

「ああいうのより、家に火ぃ投げ込んだ連中操ってる奴を放っておく方が面倒だろ。
 どこかに隠れて楽しようとしてんだぞ。先に片付けた方が、後々邪魔にならねぇからよ」

「……そうなのかな」

「しずかには、わからねーだろうが。操られてる人間共が斬りにくかったんだよ。なんか強化されてやがる。俺よりすっとろいがよ」

「……じゃあ倒した方が良さそう」

「だろ? 取り合えず、この辺りにはいねぇみてぇから、さっさと行くぞ」


二人はアイホートの強化を受けている人々が、決して洗脳されておらず自主的に行動している事や。
マンティコアが彼らに同盟を試みようとしていた事など知る由もなく。
二十三区の戦場へ突き進むのだった。




【大田区 住宅街/1日目・未明】

【久世しずか@タコピーの原罪】
[状態]無傷
[令呪]残り3画
[装備]
[道具]食糧が入ったバッグ
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯獲得
1.人を操ってるサーヴァントを先に倒す
2.紙は食べないよ
[備考]
※紙(『地獄への回数券』)を食べる人間がいるのを把握しています
※ランサー(マンティコア)の存在を把握しました
※アイホートの強化を受けている人間の存在と、彼らが強化を受けているのを理解しましたが
 操られているものと思っています。


【ライダー(ジャック・ザ・リッパー)@史実、民間伝承】
[状態]:魔力消費(小)
[装備]:
[道具]:
[所持金]:
[思考・状況]
基本方針:美味いものを食う
0.サーヴァントって美味いのか?
1.人を操ってるサーヴァントを先に倒す
2.紙食ってる人間は食わない
[備考]
※『地獄への回数券』の存在を把握してますが効力は知りません
※ランサー(マンティコア)の存在を把握しました
※アイホートの強化を受けている人間の存在と、彼らが強化を受けているのを理解しましたが
 操られているものと思っています。

798フォニイ ◆6bb6LonGS2:2022/06/19(日) 22:28:35 ID:CLc/zK7M0





「へ〜、散々だったねぇ」

「全くだぜ。話きかねえわ。オレらを目撃してた人間片付けねえわ。厄介だから、オレが喰っておいたけどな!」


万世極楽教本部にて。
ぶつくさ文句を吐いているマンティコアから、切り裂き魔の情報を聞かされ童磨は色々と興味深く感じていた。
切り裂き魔の正体やサーヴァント化している人間の集団。
件の集団については、童磨も存在を把握していた。

元暴走族の組長『暴走族神』と称えられる彼は、ある意味、童磨と似通っている立ち位置だった。
社会の荒波に疲れ果て、暴走(ユメ)へ導く神。それ即ち『人々の救済』。
哀れな人間を認め救済する意味では、成程、多少の関心はあった。

――価値観や意見が合うかは、ともかく。

とは言え、十分な収穫はあった。童磨は前向きに笑顔をつくって言う。


「ランサーの情報通りなら、切り裂き魔は『鎌鼬』だったってことかぁ」

「カマイタチィ?」

「日本にいる妖怪だよ。しかも人を食う妖怪なら、尚更、同盟相手には最適だね」

「……本気でアイツと組むのかよ。だったら人間をサーヴァントにしてくれる奴にしねぇか?」

「どうしてだい? 同じ人喰い同士仲良くなれそうじゃないか」

「アイツ、オレの事。デブ呼ばわりしやがるんだぜ。一緒にいたくねえ」


マンティコアの嫌々しい反応を見て、意外そうに童磨が「そんな事、気にするなんて。ランサーも女の子かぁ」と口にしたら。
彼女が逆上したのは言うまでもなかった。




【品川区 万世極楽教本部/1日目・未明】

【童磨@鬼滅の刃】
[状態]無傷
[令呪]残り3画
[装備]
[道具]
[所持金]教祖としての資金
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯獲得
0.ランサーも女の子かぁ〜
1.ライダー(鎌鼬)とは同盟相手になれそうと確信
2.『暴走族神』ね…
[備考]
※ライダー(鎌鼬)の存在を把握しました
※アイホートの強化を受けている人間の存在を把握しました



【ランサー(マンティコア)@古代の博物誌・伝説】
[状態]:腹八分目、苛立ち
[装備]:
[道具]:
[所持金]:
[思考・状況]
基本方針:肉を食う、英霊を食う
0.アイツ(鎌鼬)と同盟は嫌
1.サーヴァントを捕食する
2.人間をサーヴァントにしてくれる奴と同盟組まねえか?
[備考]
※ライダー(鎌鼬)の存在を把握しました
※アイホートの強化を受けている人間の存在を把握しました
※大田区の火災現場での目撃者を捕食しました

799 ◆6bb6LonGS2:2022/06/19(日) 22:29:59 ID:CLc/zK7M0
投下終了します

続いて
殺島飛露鬼&アルターエゴ(アイホート)
綾辻真理奈&アーチャー(冬将軍)
予約します

800 ◆6bb6LonGS2:2022/07/03(日) 12:36:34 ID:e4NXLdtg0
長く予約していましたが、予約取り消し致します。
長期のキャラ拘束申し訳ございませんでした。

801 ◆6bb6LonGS2:2022/07/16(土) 22:43:45 ID:FGTUgvf20
書く余裕ができた為、
殺島飛露鬼&アルターエゴ(アイホート)
綾辻真理奈&アーチャー(冬将軍)
再予約いたします

802 ◆6bb6LonGS2:2022/07/30(土) 23:24:35 ID:LCn3DqJI0
投下します

803永遠の不在証明 ◆6bb6LonGS2:2022/07/30(土) 23:25:12 ID:LCn3DqJI0

『青天の霹靂』なる故事成語が存在する。
意味は、予想だにしない出来事が突然起きることだ。

『綾辻真理奈』にとって昔の、飛行機墜落事故こそ青天の霹靂に値するだろう。
あるいは完璧な完全犯罪を目指そうとしたが、彼女にとって予想だにしなかったミスにより真相が暴かれた事も、そうかもしれない。

いずれにしても。
綾辻は、優秀な刑事を出し抜ける程、頭は冴えている。
前述のような不幸で不運な青天の霹靂さえなければ、彼女は堅実に生き残れると確信した。

優先すべきは彼女、彼女のサーヴァント『冬将軍』の天敵の排除。

炎。

連続焼殺事件の首謀者が何者かは分かっていないが、聖杯戦争の関係者であるのは容易に想像できる。
真っ向からは挑まない。
相手がサーヴァントならば、冬将軍のように強力な宝具を備えており、圧倒的に不利。
……なら、どうするべきか?

一番に想像するのは『同盟』。
これは綾辻以外の主従も行動を移しそうで無難な選択ではある。
通達で残存主従は二十二組と伝えられた。意外と多い。綾辻は悩んだ。
誰かと同盟を組めば、序盤・中盤にかけて余力を残しつつ、他主従を相手できるし、向こうも同盟を結成していたら、こちらも相応の対処が可能。

ただ……同盟を組むという事は即ち、宝具や能力、手の内を把握されるという事。
ミステリーなら、第三者にトリックを明かすのと同意儀。

無論、手の内を明かされたからといって、冬将軍の強さが低下する訳ではない。むしろ冬将軍は強力なサーヴァントの一騎。
聖杯戦争では当たりの三騎士『アーチャー』クラス。
しかし、二十二組の主従。弱点持ち。そう考えると綾辻は同盟には踏み切れなかった。

綾辻が考えたのは――完全な同盟を組まない。
それでいて、いざという時は冬将軍が圧倒できる相手。
他主従との接触が可能で、姑息に立ち回り、炎使いのサーヴァントを倒せる……そんな都合のいい主従がいるのか?


いたのだ。
派手で馬鹿目立って『暴走』を続け、現実に疲れ果てた人々を導く『神』が


「サーヴァント?」

「そ〜。昨日、拠点の一つが襲撃されたんだって〜サーヴァントってのに。
 あたしも幹部の人から聞いただけでよく分かんないけど〜……ヤッバだよねぇ。あたしらのところに来ても困るし」


そんな話を、如何にもギャルを代表できる肌を焼いて、コテコテのメイクに金髪染めした女子学生と
会社に嫌気が差して逃げてきた……設定を作って居座っている綾辻が繰り広げていた。

ここは『新生・聖華団』が拠点にしている廃墟の一つ。
二十三区内に点在する拠点の一角に過ぎないが、日夜、様々な人々が現実から逃げて来る。
会社から、学校から、家庭から、環境から。
綾辻と会話しているギャルも、家庭問題を理由にここへ訪れ、同じ境遇の学生と仲良く会話(ダベ)っているように。
主に、この廃墟は女性子供中心で集結している印象がある。
なので綾辻は自然に彼らへ紛れ込む事ができた。

804永遠の不在証明 ◆6bb6LonGS2:2022/07/30(土) 23:25:30 ID:LCn3DqJI0
とは言え。この中では、綾辻は新入り。
連日の連続焼殺事件から警戒して、ここへ通い詰め始めて間もない。彼らが崇める『神』とは面識がなかった。
さり気なく綾辻はギャルに尋ねた。


「私、まだ会っていないのよ。『暴走族神』さんと……」

「真実(マジ)〜?! 『ヤジ』と会ってないのぉ〜〜?」

「やじ?」

「『殺島』だから『ヤジ』! ヤジ、あっちこっち顔出しに行って忙しいってぇ。でも、ここに来たことあるよ〜」

「そ、そうなのね。会ったら、ちゃんと挨拶したいと思って」


生き生きなギャルに対し、綾辻は若干緊張気味になる。
敵対する相手であり、反社会的な勢力に属していた人間だ。恐らく並の精神で立ち向かえる輩ではない。
いくら綾辻が幾人も手をかけた殺人者であっても、これは話が違う。

などと思ってた矢先。
突如、奥の方から騒がしい歓声が聞こえる。まるでジャニーズがファンの前で凱旋しに登場したかのような熱気だ。
雰囲気から綾辻は察したが、周囲もそれを自然と理解する。


「虚偽(ウッソ)! ねえ、ヤジ来たって!!」

「ちょい待ち!? メイク途中なんだけどぉ〜〜〜!」

「早くしないと行っちゃうよ〜〜!」


綾辻も内心、前兆なく現れたのに焦りがない訳ではないが、むしろ最初から構えていた。
なにせ、聖杯戦争の本戦開始に、謎の男による追加の通達など、事を急かすような出来事が連鎖している。
一般人であるNPCらにサーヴァントの情報を流している様子から『暴走族神』も本格的に動き出すであろうことを……
こうして『暴走族神』と多少の接触をする前提だった綾辻にとって、ここからが本番。

実際に現場へ足を運んだ綾辻だったが……なにこれ。本当にアイドルの凱旋じゃないの?みたいな現場になっていた。

『暴走族神』――殺島は彼女が想像していた以上に『普通の人間』だった。
暴走族の恰好をしている時点で普通も糞もないのだが、所謂、ヤクザとか半グレみたいな『如何にも』な雰囲気はない。
だけど、女性にモテる顔立ちに、歳は相応にありそうなのに若さがある。
普通のスーツ着て、街に歩いてても何ら違和感ない。お人好しな雰囲気だった。
何故だろう。反社会的な所に居座っているのが不思議に思える。何かなければ暴走族に走らなかったんだろうな……そんな男性である。


(いけない。まず彼のサーヴァントを探らないと)

805永遠の不在証明 ◆6bb6LonGS2:2022/07/30(土) 23:25:45 ID:LCn3DqJI0
我に返った綾辻が人混みからさり気なく離れ、ごく自然に周囲を見渡す。
サーヴァントを視認すればステータスとクラスが見える。だけど、それはない……マスターが狙われる事はサーヴァントにとっては致命的。
だから、どこかでサーヴァントが彼を警護しているだろう。
そうでなくとも、人々を洗脳し、熱狂させるスキルがあるとしたら不用意に彼へ接触するのは危険。
……ただ。ここまで綾辻が分析するに、色々と不自然な事が多い。


(やっぱり……サーヴァントがいない? ここにいる人達と話してきたけど、不自然なところはない。洗脳されているようには思えないわ)


これは冬将軍と共に、遠目から彼らを観察して感じた事だが、彼らは彼らなりの理由があり、それに対し『暴走族神』がつけこんだ。
悪く表現すれば、そういうこと。
しかし、逆に言えば超能力だとかスキルで洗脳されていない……これはこれで厄介な部分になる。
『暴走族神』が死しても、その残党が凶行に走ってもおかしくない。

もう一つ。殺島のサーヴァントについて。
これも謎めいていて、これほど暴れ回っておいて、主犯格の一人たるサーヴァントが全く姿を見せないのは、一周回って不気味だ。
逆に、アサシンのサーヴァントで常に気配を消しており。
暴走行為は全てマスターの殺島による手腕……本当にサーヴァントは加担していないのだろうか?


(それに彼はどうやってここに……)


そして、最後に殺島が唐突に現れた事に違和感を感じた綾辻。
暴走族ならバイクだの、暴走車だのに乗って登場するのが常識のようなもの。
だけど彼が現れた際、エンジン音一つすらなかった。まさか徒歩じゃあるまいし。
賢さ故か、綾辻はある仮説を思いつく。非現実な仮説――即ち『瞬間移動』『ワープ』のような類を使ったのではないかと。

だからこそ連日までの『新生・聖華団』の暴走は納得できるものだ。
神出鬼没。
前触れなく出現し、暴走し、消え去る。存在そのものが嵐の如く、被害だけを残していく。
彼らもまた『瞬間移動』『ワープ』を活用しているならば……


(ここにいる人達は暴走行為とは無縁。だから知らないんだわ。もし、そうだとすれば――)


綾辻が廃墟の奥を探ると、予想通りのものを発見する。
不自然に開いた扉!
あそこの奥を出入りする者は、少なくとも綾辻は見かけないうえ、ついさっき開かれたかのように、扉はキィと音を立てて僅かに開放度を上げる。


(あれだわ! あそこから入ってきたなら、もしかして奥には――)





806永遠の不在証明 ◆6bb6LonGS2:2022/07/30(土) 23:26:13 ID:LCn3DqJI0

『我らの初動はただ一つ、同盟相手を探す! ただし――ヒロキも分かっておるだろう。
 同盟の条件はサーヴァントとそのマスターが宗教とは無縁である事よ』


アルターエゴ『アイホート』の条件は簡単そうで以外と難しいものだった。
意外と英霊というのは宗教――神と繋がりがある。
たとえサーヴァント自体が神に仕える類でなくとも、神と『縁』があるだけで件の宗教食らいの影響を受けるのだとか。
ただの人間で、『暴走族神』というある種の信仰を得た『殺島飛露鬼』ですら対面でアレだったのだ。
英霊も人間もタダではすまない。

……だが、派手に動いている分。
アイホートらも、他主従の恰好の的になっているのは事実。
二十三区内で点在する拠点の幾つかは襲撃されており、中でも空間破壊をしてきたライダーらしき痩せこけた男は
アイホートが二の次に警戒している存在だった。


(……同盟か)


別に殺島からすれば、同盟を組む事に抵抗はなかったし、むしろ交流関係なら殺島の得意分野でもある。
ただ、どうも他主従の動きが疎らで、統一性がなく、ある意味では複雑怪奇の模様と化していた。

シンプルに殺島の陣営を襲撃している主従。
異なる趣向の殺人事件を起こす主従。
麻薬を配る主従。
マスターの方が指名手配を受けた主従。
路上ライブを行っている主従。

把握している数だけでは、発表された二十二組には含まれない。
若干、引っ掛かる部分が例の聖杯戦争関係者らしき男が追加で伝えた内容。そう、帰還できるのは『聖杯を手にしたマスター』だけ。
裏を返せば、それ以外の奴らは全員……

それが読めれば、殺島の行動に迷いはなかった。
女性中心の拠点へ足を運んだのも、理由あってのこと。
ある少女の画像を見せ、女子学生らに聞き込みしたが、満足な結果は得られなかった。


「え〜〜、知らなーい」

「ウチん所の制服じゃん。でも知らない子ー、同じ学年じゃないかも」

「その子探してんの? 見つけたら連絡するよー!」


少女とは『七草にちか』である。
悪い意味で有名になった路上ライブに同行しているマネージャー的な存在として、ひっそり居る彼女については
謎に情報が乏しい。
平凡で普遍的な少女のマスターとは、一際目立っている。
そういう意味では接触しようとする主従は多いかもしれない。
何より、殺島が彼女を探そうと試みているのは……


「もしかして、その子って何かトラブルに巻き込まれているんですか?」

807永遠の不在証明 ◆6bb6LonGS2:2022/07/30(土) 23:26:31 ID:LCn3DqJI0
話を聞いていた女性の一人の問いに、殺島が「まあな」とさも当然のようにサラリと答えた。


「コイツも、悲鳴を上げてるからな」


何故か殺島には聞こえた。
一見、普通で平凡で至ってありきたりな少女から、どうしても悲痛な叫びが聞こえるのか。
とはいえ。
よくある虐待とかイジメのようなもので受けた苦痛に苛まれては、いなさそうなのだが。
「それで」殺島が女性からの相談の続きをする。


「その『駆け込み寺』。裏で出回っている話じゃ、死体処理専門のカルト宗教団体だぜ。早々に縁切った方がいい」

「う、嘘っ!? ど、どうしましょう。『暴走族神』様! 私の友人とその息子さんがそこで避難しているんです!!」


表向きでは『駆け込み寺』として有名な万世極楽教。
だが、裏に生きる殺島の立場上、どうもカルト宗教としての側面ばかりが耳に入る。
霊感商法とか政治家との繋がりは、良くも悪くもある話だから特段珍しくない。一際、耳に入ったのは死体処理の話だ。
時期的に聖杯戦争の関連が疑われる。
ただ同盟相手としては少々問題あった。『宗教食らい』の特攻対象になりうる。
無論――向こうも警戒している。故に殺島はこう告げた。


「近々、そっちに顔(ツラ)出す必要ができた。そん時、話をつけてやるよ」

「……! ありがとうございます、『暴走族神』様!!」


そこで一本の電話が殺島の元に入る。


『暴走族神! アルターエゴの姐さんはとっくに出発(デッパツ)しちまいましたよ!?』

「あぁ!? ったくよぉ〜〜、早漏(はや)りすぎだろ!」


騒がしい雰囲気を感じ取り、女性らが聞く。


「ヤジ、もう行っちゃうのぉ〜〜〜?」

「どこに行かれるのですか?」


殺島は爽やかに笑みを浮かべ、煙草を吹かしながら答えた。


「軽く制圧するだけだぜ。『本丸』をな」






808永遠の不在証明 ◆6bb6LonGS2:2022/07/30(土) 23:27:08 ID:LCn3DqJI0





(えっ……!? う、嘘でしょ……)


影から話を聞いていた綾辻は戦慄していた。
例の、奥の扉には深入りせず、こちらに戻って正解だと綾辻は確信したのと同時に、暴走族神――殺島の凶行宣言に驚愕する。


「これより『警視庁』をアルターエゴによる支配下に置く! 表向きは異常ないが、実質敵の一角を削ぐ事となる!!」


とんでもない話だった。
今のいままで馬鹿の如く暴走行為を続け、警察などは第三勢力に置いていた筈なのに。
唐突な風の吹き回しが過ぎると一瞬、綾辻も困惑したが、冷静を取り戻せば、むしろ策略なのだと分かる。


(ここの人達には洗脳を使わず、警察相手に洗脳を使った!
 手間や時間をかけないで簡単に洗脳できるなら、確かにこのタイミングね……予選中に下手な動きをすれば警戒されるし。
 実際、今日の今日まで敵対関係を築いた勢力と手を組んだとは、結びつかない)


それに、彼が宣言した通り、警察は所詮、フレーバー程度の第三勢力。
否、勢力にすらカウントされてないだろう。
聖杯戦争は人と戦うのではない。
突拍子もない宣言の後、殺島は告げた。


「今宵よりこの二十三区は戦場となる! 多くが犠牲となり、勝者以外が消え去る!!
 なら――俺が勝利し、オメーラを全員救済(すく)う!」


そして、聖杯戦争を知る綾辻だからこそ、彼の宣言は本気なのだと理解するのである。








――千代田区 霞が関――



警視庁には連日の『新生・聖華団』による暴走行為の対策本部が設置され、その矢先に異常な事態にさらなる混乱を加速させていた。


「警視庁内で蟲の大量発生……!?」

「は、はい! しかも人を襲って、数が多過ぎて対処しきれません!」

「しかも『大田区』での住宅火災で人員が割かれて……!!」

「こんな時間帯ですから、害虫駆除業者とも連絡がつかず!」

「業者に頼っている場合か! な……なんだ……?」


対策本部で使われている会議室が謎の歪みと共に、平衡感覚と狂気を帯びた薄暗さと異臭が揃った大洞窟へと変貌した。
白の長衣を身に纏う女性――アイホートが単語を紡ぐ。


「『母なる神の大迷宮(グレート・マザー・ラビリンス)』。ここを潰したところで大したことはないがの。
 しかし、ここは便利が過ぎる。武器も人材も妾にとっては宝庫のようなものよ。
 誰も狙っておらなんだ? 不思議よなぁ」


発狂する人間の阿鼻叫喚の中、稀に精神力ある者がアイホートに銃口を向けようとすれば。
洞窟内全体に犇めく、白い蟲の群れを認知し、手を止めてしまうのだった。

809永遠の不在証明 ◆6bb6LonGS2:2022/07/30(土) 23:27:34 ID:LCn3DqJI0
【江戸川区 廃墟ビル/1日目・未明】

【綾辻真理奈@金田一少年の事件簿】
[状態]無傷
[令呪]残り3画
[装備]
[道具]
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯狙い
1.存在がバレないよう立ち回る
2.
[備考]
※『新生・聖華団』の一員として潜入中です
※ある程度、アルターエゴの性能を考察しています


【アーチャー(冬将軍)@史実、自然現象】
[状態]:霊体化
[装備]:
[道具]:
[所持金]:
[思考・状況]
基本方針:聖杯狙い
1.マスターに従う
2.
[備考]




【殺島飛露鬼@忍者と極道】
[状態]無傷
[令呪]残り3画
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯狙い
1.他の主従との同盟。なるべく宗教関連ではないものと。
2.
[備考]
※ある程度、主従の情報を収集済みです
※七草にちかに関しては何らかの事情があると感じ取っています
※万世極楽教の裏情報を耳にしています




【千代田区 警視庁/1日目・未明】


【アルターエゴ(アイホート)@クトゥルフ神話、民間伝承】
[状態]:無傷
[装備]:
[道具]:
[所持金]:
[思考・状況]
基本方針:聖杯狙い
0.警視庁の制圧
1.他の主従との同盟。なるべく宗教関連ではないものと。
2.
[備考]

810 ◆6bb6LonGS2:2022/07/30(土) 23:28:59 ID:LCn3DqJI0
投下終了です

811 ◆6bb6LonGS2:2022/08/07(日) 23:23:01 ID:pnyLfyuY0
トガヒミコ&モーモス
ユーリ・ペトロフ&ツクヨミ

予約します

812 ◆6bb6LonGS2:2022/08/21(日) 21:45:20 ID:nl0Rt47A0
申し訳ございませんが、予約取り消しします

813 ◆Uo2eFWp9FQ:2022/10/14(金) 20:00:08 ID:wyz6.E9o0
ヴァッシュ&ランサー(アップルシード)予約します

814 ◆Uo2eFWp9FQ:2022/10/20(木) 11:03:13 ID:VjQssm4k0
すみません一旦予約破棄します

815 ◆Uo2eFWp9FQ:2023/01/13(金) 20:40:40 ID:QpJoo7cw0
以前予約した分を投下します

816 ◆Uo2eFWp9FQ:2023/01/13(金) 20:41:16 ID:QpJoo7cw0



穢れ、というものがある。
死、疫病、災いといった目には見えぬ忌み事に付随する不浄の概念だ。
汚物を触れば手が汚れるのと同じように、忌み事に関われば「穢れ」がついてしまう、という考え方である。

ここは昔合戦場でたくさんの人が死んだから、今でも不吉な噂が絶えないであるとか。
この一族は昔やってはいけないことをしてしまったから、定期的に忌み子が生まれてしまうのだとか。
現代においては事故物件や事故現場が忌避されるように。
よく考えれば特に因果関係などないはずなのに、「悪いことがあった」から何か良くないものがついている、という考えは無意識のうちに人々に共通して信仰されている。

こうした穢れの成立に、実際に死人が大量に出たとか幽霊騒ぎが起きたとか、そういう大仰な実態は必要ない。
人間の負の想念は、人が思う以上に些細なきっかけで溜まるのだ。
例えば夜の学校や病院、放置された廃墟、鬱蒼とした木々に囲まれた無人の溜池、誰も立ち寄らない路地裏、旧道のトンネル、薄暗い山奥。
何となく気味が悪い、何となく怖い。その程度で十分なのだ。少なくとも、この造られた東京二十三区においては。
本来ならば都市伝説にすらならない日常の違和。しかしそれすら、この都市においては魔性と化す。
人外なるサーヴァントが跋扈し、幾多もの魔力闘争が為されてきたこの東京は、文字通りの魔都となり果てていた。
特に災いを為し人々の精神を歪める邪なる神が如き者たちが招致されていたことが大きかったのだろう。僅かな負の想念を基点に、悪性の魔力溜まりが形成されているのだ。

路地裏に入ってみるといい。茂みを覗き込むがいい。日常よりほんの少し目を逸らせば、そこには魔が宿っている。
古来より魔とは目に見えず実体を持たないものとされてきた。鬼とは隠(おぬ)を語源とする、病気や災害の総称であることを鑑みれば、正しく百鬼夜行が練り歩く様が如しであろう。
ならばこそ、脆弱なる人間が生き延びる道理もまた、そこにはないのだ。無知なる蒙昧はただ貪られるがままに消費され、新たな魔が育つ苗床になるが相「こいつはりんごろう」ンゴー





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

817 ◆Uo2eFWp9FQ:2023/01/13(金) 20:42:08 ID:QpJoo7cw0





「天にまします我らの父よ。どうかその御名の尊ばれんことを……」

薄暗がりに光が差していた。
雑多な廃材が打ち捨てられ、配管が血管のように張り巡らされた路地裏であった。人の行き交わぬ場所、多くのビルディングに挟まれおよそ陽の光が差し込まぬ場所。
其処に一本の瑞々しい樹木と、それに傅き祈りを捧げる少女が在った。木漏れ日のように差し込む一条の朝日が、彼女たちを照らしている。
絵になる光景ではあった。ともすれば、現代の宗教画とさえ見紛う者さえいるだろう。
グラサントンガリ男はうーんと顎を撫で、少女が膝をつくその木を見遣る。
コンクリをぶち破って雄々しく屹立する、そのド根性リンゴの木を。

「普通に近所迷惑じゃない?」
「いえいえ、近所迷惑と言うなら『彼ら』こそがそうですよ」

立ち上がり、「よっ」と一声。身の丈ほどもある大きなスコップを振り上げて肩に背負い込むと、何を悪びれることもなく少女は言ってのけた。

「魔道の薫陶を受けていないマスターでは感知できないのも無理はありませんが、この都市には超常的な神秘の類がそこかしこに跋扈しています」
「まあ、毎日バカスカやってるもんね」
「ですのでそれら魑魅魍魎に付随して残穢がそこかしこに残留しており、ここにも放っておけば事故者多数の最恐心霊スポットとして語り継がれるであろうほどの穢れがあったわけですが」
「うんうん」
「その結果がりんごろうです」
「困ったな、いきなり話が飛躍してしまった……」

まあまあ、とランサー。

「マスターは耳タコかもしれませんが、改めて説明すると私のリンゴは周囲の魔力を吸収して育ちます。
 基本的には私がある程度魔力を分けてあげるのですが、他の魔術師やサーヴァントが悪意で以て発動した魔術……例えば火の玉を飛ばしてきたり、呪いをかけたり、目からビームを撃ってきても、この木に魔力を吸収されて無力化されてしまいます」
「なるほど」
「ちなみに私の目標は、聖杯の魔力を苗床にしたクソデカ果樹園を開園させることです」
「なるほど?」
「ともあれ、私の木は魔力が無ければ育ちません。土地そのものに魔力が充ちている霊地であるならともかく、ただ植樹しただけでは苗木のまま変化することはありません。が、実際はこの通り、木は大きく育ちリンゴもたわわに実っています。つまり?」
「ここには木の栄養になるくらいの魔力が溜まっていたってこと?」
「大正解です。マスターにはアップルちゃんスタンプを進呈いたしましょう」

貰ってしまった。何かに使えるの?と聞いてみれば、頑張ったご褒美に頭を撫でてあげましょう、と返された。そっかぁ。

818 ◆Uo2eFWp9FQ:2023/01/13(金) 20:43:28 ID:QpJoo7cw0

「要するに、ランサーの言うところの『穢れ』があって、それをリンゴの木に吸わせた……と」
「予想以上に育ってしまいましたが、悪性情報も私のスキルにかかれば無害な果物に変換できますので。これもまた主の恵みであらせられます」

なるほどなぁ、とヴァッシュ。魔術など門外漢な彼にはてんで分からないが、こうして毅然とお祓い(?)をするランサーを見ると、おかしな言い方だが聖職者なんだなぁという気分になる。
なにせ比較対象は飲酒喫煙当たり前で銃弾とミサイルをぶっ放すテロ牧師だし、ランサーも普段は土いじりをしたりヴァッシュを正座させてお母さんみたいな説教をしてくるかの二択なので、こういう姿は珍しかった。

「よく分からないけど、そういうのっていうと前にウチに来たみたいな……」

と、ランサーは露骨に嫌そうな顔をしてヴァッシュを見てきた。話題に出すだけでそこまで嫌か。

ヴァッシュが言ったのは、彼らが拠点としている廃工場に以前やってきた正体不明の黒い不定形のことだ。敵意を感じられない"それ"にヴァッシュ個人としてはそこまで悪い印象を抱いてはいないのだが、他ならぬランサーが生理的なレベルで嫌悪感を抱いていた。
となれば、あれもランサーが持つ聖性と相反する穢れの類なのではないかと、ヴァッシュは思ったのだ。確かに見た目だけなら物凄く気持ち悪かったし。

「……まあ、当たらずとも遠からず、といったところでしょうか。あれはどちらかと言えば神の威光を貶めるもの、信仰を歪めてしまうものとは思いますが」
「信仰?」

またよく分からないニュアンスのものが出てきた。信仰、その意味するところは当然ヴァッシュとて知っているが、それを歪めるとは?

「私もあくまで直感ですので大きなことは言えないのですが……何と言えば良いのでしょう、あれは私達の持つ祈りの根幹、いえそもそも私達という存在の根底を揺るがしかねないといいますか」
「うーん……?」
「そうですね。この際ですから一から説明しましょうか」

つかつかと歩み寄り、何かを教授する顔つきになる。ヴァッシュも自然と姿勢を正した。

819 ◆Uo2eFWp9FQ:2023/01/13(金) 20:44:32 ID:QpJoo7cw0

「まず大前提として、私達サーヴァントにとって信仰とは非常に重要な意味を持ちます。何故ならサーヴァントという幻想は、名も無き大勢の人々が信仰し、想像した共通認識によって発生しているからです。例えばこの私は見ての通り、心優しくも慈悲深い聖女系美少女として現界しているわけですが」
「自分から言ってくんだ……」
「わけですが、生前の私は今ここにいる私ほど『戯画的な善人』ではありませんでした。無論悪党になった覚えはなく、私なりに人々のために尽くし生きてきた自負はありますが……所詮はままならぬ現実に生きたひとりの人間に過ぎません。綺麗ごとでは済まないことは数え切れないほどありましたし、苛烈なことを言ったりやったりなどは日常茶飯事でした」

ランサー、ジョニー・アップルシードの生きた西部開拓時代とは、すなわち銃声の時代であった。
共同体の庇護もなく法律の加護もなく、他民族の住まう未開の土地に身一つで乗り込んで原住民の財産を根こそぎ奪っていく無法の時代である。そんな荒くれ者の楽園を、子供めいた博愛主義だけで乗り切っていけるほど現実は甘くない。
然るに史実において実在したジョン・チャップマンは、その偉業において紛れもなく利他の化身とも言える偉人ではあれど、決してそれだけの人間ではあり得ないのだ。元より様々な側面を併せ持っての人間である。そこには善も悪もなく、まあともあれ。

「しかし『今の私』は少々違います。というのも、人々が信仰し定義したジョニー・アップルシードとは、トールテイルに語られる創作上の英雄だったわけです。なので私は、生前の私よりも幾分か分かりやすい絵本のヒーロー的気質を持つに至っているのですよ。サーヴァントにおける信仰の本質とはそこにあります。人々が願った祈りの形とは、事実さえも容易に捻じ曲げてしまうのです、私の場合、良い方向で現れてくれましたが」
「つまり?」
「信仰とは、私が私として在る根源なのですよ。それも存在理由(レゾンデートル)のような心持の問題ではなく、物理的な意味において、です。
 ではそれを歪められ、或いは食べられてしまう恐怖とは? 私がアレを嫌うのはそういう理由があります。悪意の有無は、正直関係ありません」

それは、そうなのだろう。我が身に置き換えて考えてみれば、ヴァッシュ・ザ・スタンピードが歩んだ百数十年が根こそぎ否定されるようなものだ。レムとの思い出や、様々な人との出会いが最初から無くなってしまうような……それは確かに、根源的恐怖と言えるだろう。
では、それほどの現象を起こすあの黒い泡は、何であるのか。それがサーヴァントとして在るこの聖杯戦争において、それらの同類ともいえるであろう超常がどれほど湧き出で、這いずっているのか。
ほんの僅かではあるが、ヴァッシュの背筋が冷えたような感覚があった。得体が知れない、とはこのことを指すのか。

「中々実感し辛いことではあるけど、でも脅威の程は分かった……と思う」
「それは良かった。というわけで、マスターにはこれを渡しておきます」

そう言われてポンと手渡されたのは、銃弾であった。あれ?

「これどしたの?」
「法儀礼済みの強化弾丸が20発です。マスターは今日まで、鉛玉でサーヴァントを殺傷できないのをいいことに思う存分不殺ライフを満喫してたようですが、それもここまで。これより先はマスターにも最低限の自衛手段を持ってもらわねばなりません。なにせ、命に係るので」
「危ない橋はできるだけ渡らないつもりだよ?」
「毎日どっか怪我してくる人が言っても説得力がありませんね」

ぐうの音も出なかった。

820 ◆Uo2eFWp9FQ:2023/01/13(金) 20:45:13 ID:QpJoo7cw0

「それで、これから具体的な予定などはあるんですか? まさか毎日、無軌道に突っ走っていたわけではないでしょう?」
「一応、ね。とりあえずは昨日も言ったいきなり元気になった病人の話とか」
「十中八九聖杯戦争の関係者でしょうねあれは……」

なにせ寝たきりの重病人がいきなり人間を物理的に投げ飛ばして堂々と自主退院していったのだ。マスターかあるいは、サーヴァントの力の影響を受けた人間で間違いないだろう。

「あとさっき入ってきた耳より情報だと大田区で大規模火災があったとか、警視庁がきな臭いとか、まあそんなところだけど……」
「だけど?」
「ほら、俺って指名手配されてるじゃない? だから警察の御厄介にはなりたくないなーって」
「拳銃片手にヤクザ者に襲撃(カチコミ)かけといて今更ですね……」

閑話休題。

「怪しいと言えば正直色々ありすぎるんだよね。ヤクザもそうだし、下部組織や半グレも活性化してるとか、あと宗教関係でも結構変な話が聞こえてくるしさ」
「そこらへんの情報の取捨選択は、鉄火場慣れしたマスターが得意とするところでは?」
「そういう頭使うの、苦手なんだよね」
「つまり行き当たりばったりということですか」

今までもこんな感じだったんだろうなー、と悟り、でっかくため息を吐く。

「ではぶらり気ままにお散歩と洒落込むおつもりで?」
「まあ、俺としては手と手を取り合える人とかいないかなー、って思っててさ。そういう人を探そうかとも考えたんだけど」
「そんな人が都合よくいるわけがないと……これも今更ですね」

ヴァッシュの最終目的は聖杯戦争からの円満終結である。
それもできるだけ多くの人間が五体満足なまま、という枕詞がつく。
それはつまり聖杯を破壊ないし機能停止させコールドゲームとするか、優勝者に願いを諦めさせ全参加者の生還を託すということに他ならない。
険しい道、どころの話ではない。それは当人もランサーも承知の上であったが。

「アテがないのでしたら、実は行ってみたいところがあるんですが……」

と、ランサーは手近な壁に貼られていた、手製と思われるビラを指差す。

821 ◆Uo2eFWp9FQ:2023/01/13(金) 20:45:52 ID:QpJoo7cw0

「『リルル』……ああ、あのラーメンの」
「ご存じでしたか」

それは世事と当世に疎いヴァッシュでも見知った名前だった。
リルル、正体不明新進気鋭のアイドル。およそ日本人離れした見た目と名前だが出身地はおろか学校に通っているかさえ不明。多くのテレビ出演を果たすも未だに日を跨がずの路上ライブを敢行し、その人気は事前告知をしておらずとも警察が出張って交通整理をしなくてはならなくなるほどだとか。

「会ったことはないけど、方々で話題になってるしやたら目立つもんね。
 けどランサー、意外とこういうの好きだったんだ?」
「否定はしません。神の愛や現世利益を絡めずとも、ただ歌唱と舞踊のみで人々を惹きつける様。
 先程の信仰の話とも絡みますが、このように人々の心に光を与える行いにはある種の憧憬と共感を抱きます」
「……そっか。うん、そうだね」
「あとマイフェイバリットアイドル辻野あかりをも本当に凌ぐかどうかというのも確かめねばなりません」
「今度こそ本当に誰?」
「さあ行きましょうマスター。この東京の地を開拓し尽くしてリンゴで埋めてやるために」
「それはダメって言ったでしょ」

そういうことになった。
ちなみにゲリラライブはゲリラでやるからゲリラライブなのであって、いつどこでやるのかなんて誰にも分からないことに気づくのはその数分後のことである。


【港区・虎ノ門/路地裏/1日目・早朝】

【ヴァッシュ・ザ・スタンピード@トライガン】
[状態]健康
[令呪]残り3画
[装備]愛用の拳銃
[道具]通常の弾丸(たくさん)、強化済み弾丸(20発・ランサーが量産可能)
[所持金]素寒貧
[思考・状況]
基本行動方針:できるだけ誰も死なない形での聖杯戦争終結を目指す。
0.アイドルかぁ……
1.協力者を探したい。
2.あの黒いの、悪意はなかったと思うだけどな。
[備考]
※港区・虎ノ門5丁目の廃工場を仮の拠点にしています。


【ランサー(ジョニー・アップルシード)@史実、アメリカ開拓史伝承】
[状態]:健康
[装備]:デカスコップ
[道具]:
[所持金]:
[思考・状況]
基本方針:マスターに従う。
1.リルルに興味。
2.あの真っ黒野郎は次にツラ見せやがったら物理的に潰す。
[備考]

822 ◆Uo2eFWp9FQ:2023/01/13(金) 20:47:37 ID:QpJoo7cw0
投下を終了します。タイトルは「路地裏に怪物はいない」でお願いします

823 ◆6bb6LonGS2:2023/01/14(土) 13:08:20 ID:Ne0UahxI0
投下ありがとうございます
感想は後日改めてさせて頂きます。
久方ぶりですが、ユーリ・ペトロフ&ツクヨミ、忍者&クトゥグアで予約します

824 ◆6bb6LonGS2:2023/01/29(日) 22:59:51 ID:.HLsjZC20
体調を崩した影響等で書き上げられず、一旦予約は破棄しますが感想投下します


>路地裏に怪物はいない
こいつはりんごろう……何故だろう、もう凄く懐かしいネタに感じてしまいます。
それはそれとして、りんごろうが成長できてしまうほど、厄い現状になっている東京二十三区。
果樹園になるか魑魅魍魎になるか極道色になるか氷漬けか火の海か……
他にも、候補をあげればキリがないのですが、この中で一番マシなのがクソデカ果樹園なのでは?
そして、聖杯戦争関係者のアテとして、良くも悪くもアイドルのリルルに焦点絞るのは悪くないのですが
ヴァッシュ自身がお尋ね者の為、そこも狙われるのでは……
投下ありがとうございました。

825 ◆6bb6LonGS2:2023/02/10(金) 21:11:35 ID:ov6iEnVU0
このような形でスレ投下する事になり申し訳ございません。

他企画にて◆Uo2eFWp9FQ氏が盗作と剽窃を行った件について
◆Uo2eFWp9FQ氏は当企画にも作品を投下しており、こちらの作品にて盗作・剽窃が行われている可能性が否定できない為
当企画に投下した◆Uo2eFWp9FQ氏の作品(候補作含め)全ての破棄処分を致します。

当然、当選枠となる◆Uo2eFWp9FQ氏が執筆した
『ヴァッシュ・ザ・スタンピード&ジョニー・アップルシード』
『レガート・ブルーサマーズ&カルタフィルス』
この二つの候補作も処分する為、当企画の進行にも影響があり、OPの書き直しを行う予定です。

また当選枠が二つ消える為、別の主従を繰り上げ当選させるか、二十組で進行するかは後日報告致します。

826 ◆6bb6LonGS2:2023/02/11(土) 15:07:09 ID:MA6UAUnc0
wikiのOP等の修正、書き直しを行いました。
当選主従枠の繰り上げはなく、このまま二十組での進行をさせて頂きます。
また、今回消えてしまった二組の主従に触れている作品に関する修正は、このスレにて報告お願いします
この度は大規模な変更となり、申し訳ございません。
あまり進展の少ない当企画ですが、細々と続けていくので、応援のほどよろしくお願いいたします。

827 ◆/dxfYHmcSQ:2023/02/11(土) 16:26:05 ID:8yERjhIE0
惨劇序章・修正版を投下します

828 ◆/dxfYHmcSQ:2023/02/11(土) 16:27:48 ID:8yERjhIE0
悪意の代償を願え 望がままお前に 



 最初は新宿区百人町で、夕暮れ時に街を彷徨いていた少女が。
 次も新宿区靖国通りで、盛り場で堅気を恐喝(ガジ)っていた半グレが。
 その次は新宿区高田馬場で、仕事帰りに酒を飲んで帰宅途中のサラリーマンが。
 そして最後は新宿中央公園で、夜中にジョギングしていた主婦が。

 無惨に変わり果てた─────親子兄弟ですら判別できない程に壊された惨殺死体となって発見された。

 立て続けに発見された四つの死体。殺害された四人には何の繋がりも、共通点も存在せず、只々偶然目についたから惨殺したという事実よりも、捜査を担当した警察関係者や事情を知ったマスコミを震え上がらせ理由(わけ)は別にあった。
 四つの死体は無惨極まりないほどに損壊していた。被害者の全てが四肢を切断され、頭部を切り落とされていた。
 それ以外にも全身に出血や打撲に内臓破裂、要するに凄惨極まりない暴行─────拷問を受けていた事もさる事ながら、四人全員の死因が『失血死』だったという事実。
 四肢を切断したのちに長時間拷問して、その間被害者を生かし続ける残忍さ、一分一秒でも長く苦しめるという執念。
 これらの犯人の異常極まりない精神を思えば、捜査関係者やマスコミが慄然とするのも当然と言えた。
 この連続殺人事件は、その余りにも凄惨な手口から報道管制が布かれ、『同一犯による四件の連続殺人事件』としか報道なかった。


─────────────

829 ◆/dxfYHmcSQ:2023/02/11(土) 16:28:27 ID:8yERjhIE0
 「気づくかな。姉様」

 薄暗い部屋の中、血で汚れた服を着替えながら『ヘンゼル』が囁く。

 「大丈夫よ兄様。一つや二つなら兎も角、四つだもの。これだけやれば、嫌でも気づくわ」

 クスクスと笑いながら、血に染まった服をゴミ箱に投げ込んだ『グレーテル』が応じる。

 「そうだね、姉様。『今この時』なら、誰もがそう思うだろうね」

 聖杯戦争に参加する/させられている主従全てを殺すことが二人の目的だが、他の主従が何処にいるのか皆目見当もつきやしない。
 虱潰しに探すなど、一つの区が一つの都市にも匹敵する東京では非現実的にも程がある。
 二人の採った手段は、捜索するのではなく呼び出す事。他の主従ならばならば犯人が聖杯戦争の関係者だと理解出来る様に死体を作り、ノコノコとやってきた者達をを待ち伏せするのだ。

 「そうよ、兄様。聖杯戦争が始まったすぐ後だもの、誰もが思い浮かべるわ」

  常ならば、ただの異常者と思われるかもしれないが、聖杯戦争の開幕が告げられた矢先に起こった四件の殺人事件。
 余程の愚鈍(マヌケ)でもない限り、この連続殺人が鮮血で記された挑戦状だと気付き、やって来るだろう。
 それが義憤に駆られた正義の味方(ヒーロー)だろうが、獲物を見つけたと舌舐めずりする悪漢(ヴィラン)だろうが関係無い。
 来れば殺す。それだけだ。

 「兄様。お薬はちゃんと持った」

 「持っているよ。姉様は」

 「持っているわ」

 二人は仕事で偶然手に入れた『地獄への回数券(ヘルズ・クーポン)』を見せ合った。
 この薬の齎す強大な戦闘能力は、仕事で殺した極道が証明した。
 地獄への回数券(ヘルズ・クーポン) を決めたその極道は、BARの弾丸をいくら撃ち込んでも怯まず、ヘンゼルの振るった手斧を素手で止めて掴み潰し、手練れのサーヴァントを相手取れる双子をして梃子摺らせた程だ。

 「スゴイわね。この薬」

 「ずいぶん減っちゃったけどね」

 更に双子は、他の主従へのメッセージ代わりに作った死体で行った実験で、この薬の齎す驚異的な不死性についても知悉している。
 四肢を切断して、延々と拷問し続けても、薬の効果が切れるまで死ぬ事なく泣き叫び続けた、あの驚異の耐久力(タフネス)。
 用心して最初に四肢を切断しておかなければ、逃げられるか思わぬ反撃を受けたかもしれない。薬物中毒者(ジャンキー)の類を腐るほど見てきたグレーテルですらそう思う。それ程の効果を発揮する地獄への回数券(ヘルズ・クーポン)は、今後の戦いを勝ち抜く上で、大きなアドバンテージを二人に齎すだろう。
 尤も、元々入手した数が少なかったのと、四度に渡って行った実験で、数が残り少なくなってしまったが二人は全く気にしていない。

 「その時は、また『貰って』くれば良いわ。兄様」

 「そうだね、姉様。持ってるヤツらは沢山いるしね」

 何も問題は有りはしない。地獄への回数券(ヘルズ・クーポン) は、この二十三区に多量に流注し、地獄への回数券(ヘルズ・クーポン) を持つ極道は数多く居る。
 何も問題は有りはしない。

 「もし来なかったらどうしようか」

 「他にも沢山いるわ。ゾクガミに、極道(きわみ)に、アイドルに、犯罪者を焼き殺す怪人に、殺人鬼に、……来なければ彼等のどれかへ行けば良いわ」

 極道達から知り得た、他マスターと思しき者達を、歌う様に挙げていくグレーテル。
 二人の思惑が外れて、誰も自分たちの前に現れなければ、マスターと思しき者達の居場所へ出向くだけの事。
 見つけ次第殺すというだけの事。

「そうだね。姉様」

「そうよ。兄様」

 クスクスクスクス。クスクスクスクス。

830 ◆/dxfYHmcSQ:2023/02/11(土) 16:29:23 ID:8yERjhIE0
【新宿区・香砂会事務所/一日目・早朝】


【グレーテル@BLACK LAGOON】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備] ブローニングM1918
[道具]地獄への回数券(ヘルズ・クーポン)×1
[所持金]極道のお仕事こなしてお小遣いを沢山貰いました
[思考・状況]
基本方針:聖杯獲得
基本行動方針:
1. 誘いに乗って動いた主従を新宿区へとと誘き出して殺す
2. 誘いに乗らず誰も来なかったら、適当なマスターと思しき人物を殺しに行く。
3. 地獄への回数券(ヘルズ・クーポン) が無くなったら、手頃な極道から調達する。
[備考]
地獄への回数券(ヘルズ・クーポン) の効力及び持続時間を把握しました。
新宿区で四つ惨殺死体が発見されました。

【アサシン(グロテスク)@史実・文学等】
[状態]:健康
[装備]:手斧×2
[道具]:地獄への回数券(ヘルズ・クーポン)×1
[所持金]:極道のお仕事こなしてお小遣いを沢山貰いました
[思考・状況]
基本方針:聖杯獲得
基本行動方針:
1. 誘いに乗って動いた主従を新宿区へとと誘き出して殺す
2. 誘いに乗らず誰も来なかったら、適当なマスターと思しき人物を殺しに行く。
3. 地獄への回数券(ヘルズ・クーポン) が無くなったら、手頃な極道から調達する。
[備考]
地獄への回数券(ヘルズ・クーポン) の効力及び持続時間を把握しました。
新宿区で四つ惨殺死体が発見されました。

831 ◆/dxfYHmcSQ:2023/02/11(土) 16:29:47 ID:8yERjhIE0
惨劇序章・修正版の投下を終了します


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