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バトル・ロワイアル 〜狭間〜
494
:
Turning Points
◆2zEnKfaCDc
:2021/09/17(金) 11:06:08 ID:JgrdMADY0
「だったら……ごめんね、鹿目さん。やっぱり私は別行動にしようと思うわ。」
「えっ……どうして?」
「ファフニールさんみたいに、自分たちだけで助かろうとはしたくないの。それだったら、別々に回った方が効率的でしょ?」
ヒナギクを突き動かすのは、殺し合いを強要するなんて許せないという通念上の正義感であり――そして、千穂を目の前で失ったことの後悔でもある。
この世界にいるのは、鋼人七瀬のような意思のない怪物もいるにはいるが、誰もが姫神によって集められた被害者だ。救える命であるかもしれないというのに、警戒心などという曖昧な根拠で失わせてしまうのは、悲しいことだ。
「……でも、危険よ。」
「大丈夫。私、元の世界で使い慣れた剣が支給されていたからある程度は戦えるわ。」
(……元の世界で使い慣れてたらそれはもう銃刀法違反なんじゃないかしら。)
浮かんだ疑問はひとまず不問にするとしても、彼女の話によれば、その剣に鋼人七瀬の振り下ろす鉄骨を受け止めるだけの力があるのは確かなようだ。その地点で、彼女の戦力は自分の遥か上を行く。やもすれば、杏子以上かもしれない。その場合はむしろ、3人と1人に分かれたとしても、戦力の天秤はヒナギクの側に傾くだろう。
「……ヒナギクさん。また、会えるよね……?」
「ええ、もちろんよ。ひとまず次の0時を目安に見滝原中学校に向かおうと思うわ。」
再会の約束をして、三人は見滝原中学校の方向へと向かって行った。それを見送った後、ヒナギクが向かった方向は、南。ひとまずは負け犬公園を目指し、知り合いとの合流を図る腹積もりだ。
そしてその場には当然、滝谷とファフニールのみが残された。
憑き物が取れたように、大きくため息を漏らす滝谷。その様子が気になって、ファフニールは尋ねた。
「……滝谷。お前はこれで良かったのか?」
「どうして?」
「ドラゴンが群れないのは強者たるゆえの摂理だ。だが、人間は……お前は、そうではない。」
それを受け、クスリと笑う滝谷。
「もしかして、心配してくれてるのかい?」
ファフニールは、思いやりという言葉からは遠くかけ離れたドラゴンだった。生き方がそもそも人間のそれと違ったのだから、当然のことだ。
だけど――そんな、人間よりも永い時を生きた者たちが、人間ににじり寄り、何かが変わりつつあるのだ。
(――でももしかすると……私たちも変わらないといけないのかも。)
頭の中で、紗季の言葉が反芻する。紗季が語ったのは、あくまでも精神面での話でしかない。例えば、人魚とくだんの肉をそれぞれ食した九郎の話がフラッシュバックして、今でも肉を食べることができない。未知なるものへの根源的な拒絶反応。それの克服に繋げるべきという話に過ぎない。この殺し合いからの脱出にあたり岩永や九郎の手を借りるつもりなのだから、トラウマの克服が彼女の生還に繋がることに疑いはない。
だが――滝谷にとってはそうではなかった。彼は、望めば今すぐにでも、『肉体的に』変わることが出来るのだ。
殺し合いの世界に招かれ、現状把握がてら真っ先に開いたザックには――説明書の付属した、液体入りの注射器の箱。『試作人体触手兵器』と呼ばれるらしいその薬品は、接種することにより強大な力を得られるとともに、メンテナンスを怠ると地獄の苦痛が待ち受けているという。
それが事実であるかどうかはどうも眉唾ものだ。強大な力というのも、存在としての規模が違うドラゴンと比べられるほどのものなのか分からない。だが、その真偽も、その効力も、さしたる問題では無いのだ。ただ、それを用いようと思った地点で。ただ、人間の手に余るだけの力を求めた地点で。それは、人間を辞めることに他ならなかった。
滝谷はそれをそっと、封印するかのようにザックの底にしまいこんだ。今はファフ君が傍にいて、自分が何かをする必要もなく守ってくれている。コミュニティはまだ維持されている。だけど、この世界ではそれがいつ脅かされるやも分からない。そんな時は――或いは僕も、何かに変わらないといけないのだろうか。
495
:
Turning Points
◆2zEnKfaCDc
:2021/09/17(金) 11:06:47 ID:JgrdMADY0
【C-3/平野/一日目 黎明】
【桂ヒナギク@ハヤテのごとく!】
[状態]:腰の打撲 疲労(低)
[装備]:白桜@ハヤテのごとく!
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜2
[思考・状況]
基本行動方針:誰も死なせない
一.負け犬公園へ向かう
二.18時間後、見滝原中学校に向かう
三. 佐々木千穂の思い人に出会ったら、共に黙とうを捧げたい…
※名簿を暗記しました。
※参戦時期は姫神と面識を持つ前です。
※情報交換によりドラゴンや異世界の存在、鋼人七瀬、魔法少女について知りました。
【滝谷真@小林さんちのメイドラゴン】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜2(本人確認済み)、試作人体触手兵器@暗殺教室
[思考・状況]
基本行動方針:好きなコミュニティーを維持する
一.放送に耳を傾けて今後の方針を考える。
二.ファフ君がドラゴンとして殺し合いに乗るのを防ぐためにも、まずは自分が死なない
三.小林さんの無事も祈る
[備考]
アニメ2期第6話(原作第54話)より後からの参戦です。
【大山猛(ファフニール)@小林さんちのメイドラゴン】
[状態]:左腕喪失(再生中) 人間に対するイライラ(低)
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜3(本人未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:姫神を殺す。
一.放送に耳を傾けて今後の方針を考える。
二.ひとまずは滝谷を守りながら脱出の手段を探す。
[備考]
滝谷真と同時期からの参戦です。
【支給品紹介】
【試作人体触手兵器@暗殺教室】
滝谷に支給された薬品入りの注射器。接種することで殺せんせーが得たものと同じような触手を後天的に植え付けることができる。原作では、雪村あかりが使用した。
本ロワでは制限の代わりとして、以下の設定を適用する。
『原作のようにマッハ戦闘を可能にするほどの速度を出せるまで身体に適合するには、この殺し合いの実質的な制限時間である三日間では足りない程度の期間を要するため、実際に得られる力はパワーバランスを著しく破壊しない程度に絞られる。』
496
:
Turning Points
◆2zEnKfaCDc
:2021/09/17(金) 11:08:12 ID:JgrdMADY0
「……!」
紗季とまどかと杏子の三人がその銃声を聞きつけたのは、ファフニールたちと別れ、10分ほど経った頃だった。
紗季は、その音を知らなかった。警察官として発砲音やその危険性を察知できており、相応に危機感を覚えていたが、認識はそこで止まっていた。
まどかも、その音を知らなかった。その音の意味を理解できないほど楽観的ではないが、しかしその主を識別できるほど"彼女"との仲を深めていなかった。
(この音……)
一方、杏子は――その音を知っていた。むしろ、現物の銃器の音を知らないからこそ、それにしか結び付けられなかった。
(……ティロ・フィナーレじゃねえかよっ!)
かつて魔法少女の先輩、巴マミとタッグを組み、魔女と戦っていた時に幾度となく背中を預けてきた、"正義"の音。何の因果が巡ったかは知らないが、彼女の正義は今――殺し合いの渦に呑まれている。敵が鋼人七瀬のような怪物であればいいのだが、名簿に載った人間の割合を考えても、その確率は低い。
「悪ぃ、あたしは先に行く。」
「……杏子ちゃん?」
「ちょっと、落ち着きなさい。銃撃戦が起こってるのよ。」
「……それでも、だ。」
「あっ……待ちなさいったら!」
二人の制止も聞かぬまま、杏子は大地を蹴って加速し、森の中へと消えていく。
(一体どうしたの、杏子ちゃん……)
俯いたまま戦場へ向かって行った彼女は、ついさっきまでの彼女とは打って変わって、思い詰めたような様子だった。何があったのかは、マミと杏子の関係を知らないまどかには推理できるまで至らない。だが、苦しそうに戦場へ走る杏子の姿からは、死ぬ間際のさやかの姿が思い返された。そのまま、永遠の別れになってしまうような気がしてならなかった。
「私も……行きます!」
「ええ……佐倉さんを追う必要はあると思うわ。でも……」
そして紗季にとっても――嫌な予感が頭をめぐって離れなかった。都市伝説などに警察は動かないからと独自調査のために単独行動をとって、そのまま鋼人七瀬の手によって帰らぬ人となった、寺田刑事。今の杏子だけではなく、危険な地帯にあえて飛び込もうとしているまどかも例外なしに、彼と重ねてしまうのだ。
「……私の傍は、離れないで。」
痛ましいほどに必死なその言葉に、まどかは頷くことしかできなかった。そして同時に――この世界に渦巻く絶望の種に、得体の知れない恐怖が襲ってきた。
【C-4/平野/一日目 早朝】
【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:健康
[装備]:綾崎ハーマイオニーの鈴リボン
[道具]:基本支給品 不明支給品1〜2(未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを終わらせる
一.杏子たちと見滝原中学校に向かう
二.キュウべえが居るなら、魔法少女になってでも
※情報交換によりドラゴンの存在と向こうの世界(異世界)と鋼人七瀬について知りました。
【弓原紗季@虚構推理】
[状態]:疲労(小)
[装備]:モバイル律
[道具]:不明支給品1〜2、ジュース@現地調達(スメルグレイビー@ペルソナ5)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いの破綻
1:杏子を放っておけないため見滝原中学へ同行する
2:可能であれば九朗君、岩永さんとの合流
3:美樹さやかに警戒(巴マミの存在も僅かに警戒)
4:魔法少女にモバイル律……別の世界か……
※鋼人七瀬を倒す作戦、実行直後の参戦です
※十中八九、六花が関わってると推測してます
※杏子から断片的ですが魔法少女に関する情報を得ました
※モバイル律からE組生徒の情報及び別の世界があるという可能性を得ました。
※杏子とのコープが4になりました。以下のスキルを身に付けました。
「警察の追い打ち」杏子の攻撃で相手をダウンできなかった場合、追撃する。
「現実トーク」相手との会話交渉が決裂した時に、人間であれば、交渉をやり直せる。
【C-4/D-4境界付近/一日目 早朝】
【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:姫神に対するストレス、魔法少女の状態
[装備]:なし
[道具]:不明支給品1〜3 ジュース@現地調達(中身はマッスルドリンコ@ペルソナ5)
[思考・状況]
基本行動方針:とりあえず姫神を殴らないと気が済まない
1:紗季と見滝原中学へ向かう
2:鋼人七瀬に要警戒
3:さやかに会ったら…
※魔女化したさやかと交戦中の時の参戦です
※最初の場のやり取りを大雑把にしか把握していませんが、
大まかな話は紗季から聞いています
※紗季から怪異、妖怪と九朗、岩永の情報を断片的に得ました
※モバイル律からE組生徒の情報及び別の世界があるという可能性を得ました。
※さやかは魔女化した状態と思ってます
※パレスの中では、鋼人七瀬が弱体化してる可能性は仮説であるため、
実際に彼女が本当に弱体化してるかどうかは分かりません
497
:
Turning Points
◆2zEnKfaCDc
:2021/09/17(金) 11:10:02 ID:JgrdMADY0
■
ある地点の森の中で繰り広げられている銃撃戦は、しばらくの間、停滞を見せていた。木々という遮蔽物が、弾の命中精度を大きく下げている状況。弾薬に限りがある中、無駄撃ちを避けながらの様子見が長く続いている。
銃撃戦を担う片側、鎌月鈴乃は暗殺を生業とする戦闘スタイル。弾幕をくぐり抜け、武身鉄光による一撃を当てること、それが最も手っ取り早く相手を制圧させる手段だ。十字架を模したロザリオを大槌に変化させられることはすでにバレている。不意打ちは通用しない。
もう一方の巴マミ。魔法で形成し、魔力の続く限り放てる弾薬も、鈴乃の魔避けのロザリオの効力で回避され続け、得意とする手数で押し切る戦術が機能していない。
両者の最も得意とする戦術がともに有効に働かない現状。見せていない手札は両者ともにゼロではない。聖法気を用いた小技の連撃と、一撃で敵を仕留める大技ティロ・フィナーレ。ともにこれまでの戦闘スタイルを一新する緩急差を利用した不意打ちでありながら――そのどちらもが、これまで戦ってきた相手の得意な土俵であると理解している。リスクは、少なからず伴う。
(それでも……)
(だからといって……)
ただでさえ、誤解やすれ違いから始まった決闘。戦う理由は同じ方向を向いていようとも。
(――カンナ殿を助けるために……)
(――渚くんを守るために……)
どちらの信念も、リスクを甘受してでも止まれない理由に足り得るのだ。
「「負けるわけにはいかないっ!」」
遮蔽物となっていた木から飛び出し、聖法気を練り上げる鈴乃。それに対し、マミは変質させたリボンを木に横巻きに結び付ける。
「武身鉄光……」
鈴乃の手には、魔法を弾く性質を付与された大槌。しかしその狙い澄ます先はマミではなく、その前方の空間。
「――武光烈波っ!」
破壊力に特化したそれを振るうと、それに伴う衝撃波がマミへと吹きすさぶ。襲いかかる風塵がマミの視界を覆い、鈴乃の姿はその瞬間に隠される。即座、サイドステップ。視界から消えている間に素早い動きで撹乱せんと、利き腕と逆なマミの左側に跳んだ。
「――前が見えないのなら……」
次の瞬間、木に巻き付けてあったリボンがまるで触手のようにうねり、大地に根付いたはずのそれを引き抜いた。
「薙ぎ払ってしまえばいい!」
「なっ……ぐあああっ!!!」
巻き付けた木ごと、前方に振り払う。予想だにしていない反撃に、持ち前の素早さまで加算され激突する鈴乃。その衝撃に、一直線に吹き飛んでいく。その先には、一本の大樹。阻むものなく激突し、全身から血を吹き出しなが崩れ落ちる鈴乃。
(今が……この上ないチャンスっ!)
マミの追撃の中身に思考を費やす余裕は、今の鈴乃にはない。マスケット銃の追撃でも充分に脅威だ。
(くっ……急いでこの木の裏に……!)
だからこそ、それが咄嗟の判断から導き出された行動であり――
(もちろん、そう動くわよね。なら……)
498
:
Turning Points
◆2zEnKfaCDc
:2021/09/17(金) 11:12:19 ID:JgrdMADY0
「……そいつごと、吹き飛ばすっ!」
――それはマミの計算の、範囲内。
鈴乃が立ち上がったその時に、砂煙の奥に見たのは――身の丈に合わぬ巨大な大砲を、鈴乃に向けて構えた姿。
「しまっ……!」
「――ティロ・フィナーレ!」
しかし、照準を鈴乃と、その背後にある巨木に定めたその時。
「えっ……?」
マミの視界に、映ってはならないものが映った。
撃ち抜こうとしているその巨木の裏から。唐突に吹き飛ばされてきた鈴乃から、逃げるように。
――走り去ろうとする、塩田渚の姿だった。
(――あっ……)
……駄目だ。
トリガーを引く指は反射でも停止できる段階にない。必殺技の、発射自体は止められない。
だから、撃ち殺しちゃう――――――誰を?
決まってる。鎌月鈴乃、渚くんを傷付けかねない私の敵。
それだけ?
近くには、南で待っておくように言っていたはずの渚くんが何故か隠れていた。
それは、つまり?
……あっ。
守るはずの、渚くんごと――殺しちゃう。
「いっ……いやあああああっ!」
直後、マミの背中から生えたリボンが大砲の先に絡み付く。発射そのものは止められるものでなくとも。絶望から一気に放出された魔力はその一瞬だけ、渚の知る殺せんせーの"触手"並の速度を展開し、発射よりも早くその銃口の向く先を強引に捻じ曲げた。
的外れの方向に放たれたティロ・フィナーレ。それは誰ひとり撃ち抜くこともなく虚空へと消えていく。そして、強引な停止のために魔力を使ったマミは、その場にどさりと崩れ落ちる。
「まずいっ……!」
自分の存在に気付いていないマミの大砲の照準が自分へと向いた時、渚は命の危機をこの上なく感じ取った。だからマミがギリギリで自分の存在に気付きその照準を強引に変えてくれた時――命が助かったことによる安堵が先行し、その場で呆然と立ち尽くしてしまった。
そのせいで――目の前にマミと戦っていた鈴乃が――殺し合いに乗っているようにしか見えない少女が、自分を発見したことに気付くのが、遅れてしまった。
(――殺されるっ!)
恐怖がまず、心の中を支配した。次に、何をすべきかが見えてきた。腰のナイフへと、手を伸ばし――
「――逃げろ。」
次に聞こえた言葉は、渚の認識を反転させた。
「……えっ?」
殺せんせーを殺すための教室で、一年近く殺意を磨いてきたからこそ、分かる。その一言には、凡そ殺意というものが籠っていなかった。
そもそも、マミと鈴乃が戦っているのは、鈴乃が殺し合いに乗っているからだという前提があったはずだ。それならば、鈴乃の標的はマミに留まらず、当然に渚も含まれるはずだ。
「あの女の相手は私がするから、早く逃げるんだっ!」
(あっ……この人……)
渚は、気付く。
(何か、誤解がある……! マミさんと戦う理由が……ない……!)
この決闘が、何かの間違いによって導かれていたということに。
そして、それと同時のことだった。
「――やあ、調子はどうだい?」
……殺し合いが始まって6時間が経過し、第一回放送が開始した。
或いは、殺し合いにまで発展したが、誰も死なずに解かれ得る誤解の連鎖かもしれない。しかしこの場で巻き起こっているのは、少なくとも今はまだ完全には終わっていない決闘である。
まだ、未来は確定していない。しかしただひとつ言えるのは――この放送が、彼女たちの局面を充分に変え得るものであるということだけだ。
499
:
Turning Points
◆2zEnKfaCDc
:2021/09/17(金) 11:12:45 ID:JgrdMADY0
【C-4/D-4境界付近/一日目 早朝 放送開始時刻】
【鎌月鈴乃@はたらく魔王さま!】
[状態]:ダメージ(中)
[装備]:ミニミ軽機関銃@魔法少女まどか☆マギカ、魔避けのロザリオ@ペルソナ5
[道具]:基本支給品 不明支給品0〜1(本人確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:皆が幸せになれる道を探す
一.マミを無力化する。
二.カンナ殿、千穂殿、すまない……。
※海の家に行った以降からの参戦です。
※小林カンナと互いの知り合い・支給品の情報交換をしました。
【巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:ダメージ(中)、魔力消費(大)渚の保護を重視
[装備]:魔法のマスケット銃
[道具]:基本支給品、ロッキー@魔法少女まどか☆マギカ(半分)、不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを止める。殺し合いに乗る者を殺してでも、皆を守る。
一:鎌月鈴乃が……渚くんの近くにっ!
二:渚、まどか、さやかを保護する。杏子、ほむらとは一度話をする。
三:渚くんと会話をしていると安心する...彼と一緒に行動する。
※参戦時期は魔女・シャルロッテに食われる直前です。
※潮田渚と互いの知り合い・支給品の情報交換をしました。
【潮田渚@暗殺教室】
[状態]:健康
[装備]:鷹岡のナイフ@暗殺教室
[道具]:基本支給品 不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本行動方針:暗殺の経験を積む...?
一:鈴乃さんは殺し合いに乗っていない……?
二:何ができるか、何をすべきか、考える。
三:暗殺をするかどうかはまだ悩み中。
四:とりあえず巴さんの通っている見滝原中学校へ向かう。
※参戦時期は死神に敗北以降〜茅野の正体を知る前までです。
※巴マミと互いの知り合い・支給品の情報交換をしました。
500
:
◆2zEnKfaCDc
:2021/09/17(金) 11:20:58 ID:JgrdMADY0
投下完了しました。
元々はティロ・フィナーレが紗季さんを撃ち抜くつもりでしたが『さすがに放送で名前呼ばれたら東に向かわせるつもりのないヒナギクやファフニールが動くだろう』と没にした結果、マミと鈴乃の対決別話で書けばよくない?みたいな話になってしまいました。
第一回放送は、数日以内には投下しようと思っています。
501
:
◆2zEnKfaCDc
:2021/09/18(土) 22:48:24 ID:v64Pj4eA0
第一回放送を投下します。
502
:
第一回放送
◆2zEnKfaCDc
:2021/09/18(土) 22:49:46 ID:v64Pj4eA0
時刻は5時58分。死亡者の発表と、禁止エリアの通達が行われるという放送の開始時刻まで、すでに2分を切っていた。
「……まるでエンタメとでも言いたげじゃねえか。」
殺し合いの会場、〇〇〇〇〇〇〇〇パレスの一角。真奥貞夫は、震える拳を握り込む。見据えるは、己を慕っていた少女の仇。
「上等だ。お前の一言一句を、俺の魂に刻み込んでやる。」
彼を突き動かすのは――身を焦がすほどの怒りであり。凍てつくばかりの悲しみであり。平然と他者を傷付けられる邪悪への嫌悪でもあった。その身が何ら潔白でなくとも――否、悪の代償をその背に負った王であればこそ――悪より悪しき邪悪に、断罪を。
但し――彼の悪を唯一裁くことのできるはずであった勇者はもう、どこにもいない。
■
「……姫神。お前は一体どうして……」
殺し合いという非日常に巻き込まれながらも――幼き頃より殺し屋に命を狙われ続けた三千院ナギにとって、死の恐怖は日常と隣り合わせにあった。この催しとて、未だ日常の延長線上を著しく逸脱してはいない。
「……なあ。この放送とやらで、何かを教えてくれるのか?」
彼女を突き動かすのは――ただただ純粋な疑問であった。何故あの人は、自分たちを殺し合いなどというものに巻き込んだのか。その答えは――かつてあの人が自分の元を去ったその理由にも繋がっているという確信があった。
但し――彼女にとって死の恐怖が茶飯事であったとしても、親友の死そのものはそうではない。
■
「……間もなくね。」
暁美ほむらにとって、主催者の目的を探ることは最優先事項であった。そして主催者からの直接のコンタクトを得られる定時放送は、彼らの情報を得られる数少ない機会である。
「何の狙いかは分からないけど……利用させてもらうわ。」
彼女を突き動かすのは――いつかの日の約束。もう歴史の彼方へと葬られたその世界線に、今も彼女は囚われている。インキュベーターの魔の手からまどかを守るため――利用できるものは、例え悪魔であっても利用してみせる。
但し――――――
503
:
第一回放送
◆2zEnKfaCDc
:2021/09/18(土) 22:50:55 ID:v64Pj4eA0
時計の針が、6時を示した。
各地に散らばる参加者たちは、その思惑こそ様々なれど、その殆どがごくりと生唾を飲み来たる放送に備える。
だが、屋内に位置する参加者はともかく、屋外に放送機器らしきものは存在していない。如何に放送を伝達するのか――抱き続けてきたその疑問は、間もなく解消された。
「――やあ、調子はどうだい?」
その軽口は何かの装置を介してではなく、脳内に直接送信された。その手段こそ一部の者たちにとっては驚くべきものであるが、それ以上に着目すべき点が他にある。
「ほとんどの人にとってははじめましてになるね。」
その声は――姫神のものではなかった。抑揚のない、単調な語り口。知り合いを含む面々を集めての殺し合いという残酷な催しに対し、憐れみも愉悦も、何の感情をも感じさせない声色が、この世界の不気味さにいっそうの拍車をかけていた。
「――ボクはキュゥべえ。厳密にはシャドウだけど、ひとまずはそう呼んでくれるといい。」
会場内にいる何人かは、その名前に顔をしかめて反応を見せた。
「すでに誰かを殺した人も殺されかけた人もいるだろうね。もちろん、殺された人はこの放送を聞いていないわけだけどね。」
「さて、前置きはこれくらいでいいかな? じゃあまずは禁止エリアの発表だ。うっかり聞き逃したりして禁止エリアに入ると首輪が爆発するから気をつけてくれ。」
「……まあ、ボクたちも鬼じゃない。境界線をつい越えてしまうことくらいはあるだろう。その時は今みたいにテレパシーで警告して、30秒はそこから出る猶予をあげよう。」
「それじゃあ改めて、禁止エリアは以下の通りだ。」
「今から二時間後、8:00にF-4。」
「四時間後、10:00にC-3。」
「そして六時間後、12:00にA-2。」
「続いて、脱落者の名前を読み上げるよ。興味がなければ人数だけ覚えてくれればいい。」
『影山 律』
『茅野カエデ』
『烏間惟臣』
『小林トール』
『鷺ノ宮伊澄』
『美樹さやか』
『遊佐恵美』
「以上、七名だ。」
「うーん、お世辞にもよく進んでいるとは言えないね。君たちの中にもまだ殺し合おうとしない人がいるようだ。」
「でも、きっと時間の問題だね。君たちの抱く恐れや不安、そして絶望――いわゆる負の感情は次第に増幅しているはずだ。」
「全部分かっているよ。だってこの会場は――ボクの認知で構成されているからね。」
「それじゃあがんばって。生き残れたら、六時間後にまた会おう。」
テレパシーによる放送が途切れる。姫神に闘志を燃やしていた者、姫神の接触を待っていた者、そして――姫神に協力することが、キュゥべえの企みの阻止に繋がると考えていた者。その情報は、盤面に大なり小なり干渉し、それぞれに様々な想いを残しつつも――殺し合いは再び開始する。
■
「……まったく、わけがわからないよ。」
無表情のままに、放送を終えたシャドウキュゥべえは呟く。視線の先には、長い鼻をした一人の老爺。
「どうして認知に一切歪みの無いボクに、認知の歪みに由来するパレスが存在するんだい?」
そこはパレスの内部ではなく、夢と物質、精神と現実の、狭間の場所――ベルベットルーム。既に用済みとなったがために処刑を執行された双子の死骸を目下に据えながら、老爺は笑う。
「人は、認知のフィルターを通して世界を見る。そこには平常、少なからず歪みが生じるものだ。その歪みが強ければ、大衆心理<メメントス>から独立しパレスを生む。だが……」
姫神にイセカイナビを与えた老爺、イゴール。ベルベットルームの住人にして――大衆の願いを統制する聖杯の化身。
「……聖杯の名の下に人々の歪みの存在それ自体を是とするならば――歪みの無きこそ真なる歪みと言えよう。」
殺し合え、狭間に生きる者たちよ。その舞台の名は――
「――『インキュベーターパレス』。司るは、空白。」
504
:
第一回放送
◆2zEnKfaCDc
:2021/09/18(土) 22:52:00 ID:v64Pj4eA0
【カロリーヌ@ペルソナ5ㅤ死亡】
【ジュスティーヌ@ペルソナ5ㅤ死亡】
【???/ベルベットルーム/一日目ㅤ朝】
【キュゥべえ(シャドウ)@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:健康
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを運営する。
一:???
【イゴール@ペルソナ5】
[状態]:健康
[思考・状況]
基本行動方針:人々の願いを統制する。
一:???
505
:
◆2zEnKfaCDc
:2021/09/18(土) 22:53:48 ID:v64Pj4eA0
投下終了しました。
皆さまのおかげで第一回放送を突破することができました。この場を借りて、御礼申し上げます。
そして、これからも狭間ロワをよろしくお願いします。
予約は明日の正午から解禁しようと思います。
506
:
名無しさん
:2021/09/21(火) 16:08:13 ID:aEK57LaU0
第一回放送突破、おめでとうございます!
インキュベーターは放送役にピッタリですね。
インキュベーターのパレスという発想はおもしろく、司るものが『空白』というのも納得できてしまいます。
P5主人公の参戦時期、殺されたジュスカロ、そしてイセカイナビを与えたイゴール…その意図が明かされるのが楽しみですね。
507
:
◆2zEnKfaCDc
:2021/09/23(木) 17:32:24 ID:avrtFjpc0
エルマ、刈り取るもので予約します。
508
:
◆2zEnKfaCDc
:2021/09/24(金) 22:04:58 ID:.RMltRaY0
投下します。
509
:
生生流転――ふたりぼっちのラグナロク
◆2zEnKfaCDc
:2021/09/24(金) 22:06:12 ID:.RMltRaY0
――無味。
喰らい尽くしたドラゴンからは、何の味も感じなかった。肉も尾も鱗も、その全てがまるで水のように後味が無い、透明な。
食べることへの喜び、おいしいものへの執着――数あるドラゴンの中でも、私だけが特に見せていた特質。それが、消えた。消えてしまった。
私じゃなかったものが取り除かれて、本来の私の輪郭が浮かび上がる。残ったのは、聖海の巫女としての、調和勢のドラゴンである私。かくあるべしと、固められた私。
――私が消えてなくなってしまう。
残ったものこそが私であるはずなのに――不意に、そんな感覚が胸の中に襲って来た。
また一つ、私が固まっただけなのに。
また一つ、輪郭がはっきりしただけなのに。
また一つ、あるべき姿へと変容の歩みを進めただけなのに。
まるで、大切な何かを失ってしまったかのような、そんな錯覚。
まるで、否定されて然るべきだと信じてきた価値観が、真逆へと転換してしまうような、そんな感覚。
「……まあ、どちらでもいいか。」
ああ、今は本当にどちらでもいい。
私が、いち調和勢の龍であったとしても。
私が、本能のままに生きる、捉えどころのない水のような存在であったとしても。
――調和を乱す存在でありトールの仇でもある、眼前の死神を見逃す道理なんて、どこにも有りはしないのだから。
510
:
生生流転――ふたりぼっちのラグナロク
◆2zEnKfaCDc
:2021/09/24(金) 22:06:54 ID:.RMltRaY0
死神の虚ろな眼と、視線がぴったりと合った。片時も外さぬその様相、向こうもこちらを天敵と認識したのは明らか。
「……さて。」
誰に語りかけるでもなく、口を開いた。本来その言葉の向かうべき相手がもうこの世に居ないことは分かっている。
だけど、吐かずにはいられなかった。
「最後の――勝負といこうか、トール。」
――トールとは、勝負するのが好きだった。
混沌勢と調和勢、馴れ合うには互いの背負うものの違いから生まれる溝が、あまりにも大きすぎた。あいつとの関係の根底にあるのは、対立。けれど、あいつが人間たちの宮殿を破壊したあの時までは、決して殺し合うことを是とする仲では無かった。
その結果として生まれたのが勝負という儀だ。戦闘でなくとも、闘争ではある関係性のいち形態。混沌と調和の狭間にあるような、その程度の仲が私たちには丁度よく、そして心地よかった。
しかしその決着は、一度も付かなかった。互いが負けを認める性分では無かったから。保留している限り、"次"が約束されていたから。
しかし、今やもう、その"次"は約束されていない。
「お前が倒せなかったコイツを私が倒したら……私の勝ちだ。文句はあるまい?」
多くの者と連戦を重ね、少なからず深い傷を負っているはずの刈り取るもの。しかし、未だ満身創痍にはほど遠い。特に、スキル『超吸血』によりさやかの死骸から力を吸収したことがその要因として大きかった。魔法少女としてのさやかの力は、想い人の腕の大怪我を治すための『癒し』に由来する。力の属性は、すなわち回復。その力を吸収した死神は――エルマが切断していた腕ごと、既に再生を果たしていた。それならば、純粋な戦力としてはトールと戦った片腕の死神よりも――
(……だから、どうした!)
正しさに裏打ちされた理屈なんていらない。逃げる選択肢を取るつもりがないのなら。
「ぶつかって……ありったけをぶつける、それだけだぁぁっ!!」
一歩近付くと、眼前に核熱がほとばしる。逃げるつもりがないとの予測の上で、こちらの前進を待っていたのだろう。力量に明確に差があるならば、先手を打って即座にねじ伏せればいい。逆ならば、先手を打たれる前に逃げるより他にない。その上で、こちらの攻撃を"待って"いるのなら、その意味はひとつ。
「受け止めるつもりか、ドラゴンの一撃を。」
武器を持っていないからか。それとも頭数が減ったからか。この程度の攻撃で止められるつもりとは、随分と甘く見られたものだ。
意にも介さず走り抜ける。振り抜くは、拳。ドラゴンの身体能力に、本来人間の身の丈に合った武器など、必要無し。
――空間殺法
応戦に用いられたスキルは瞬速の妙技なれど、トールがその軌道を見切り、受け流したもの。超えねばならぬ壁に、他ならない。
「負けないよ。」
見舞った体技と相殺し、両者は再び見合う。先のトールのように、完全なカウンターを叩き込むには至らない。
喪失も、怒りも。精神論など――決定的なスペックの差を埋めるには、足りない。普段の戦いの実力はほぼ同じであっても、普段と異なる徒手空拳の戦闘スタイルにおいてはトールのそれに一歩及ばない。
511
:
生生流転――ふたりぼっちのラグナロク
◆2zEnKfaCDc
:2021/09/24(金) 22:07:21 ID:.RMltRaY0
(まだだ。)
『――馬鹿だな。崖から足を滑らせた人間など、放っておけばよいものを。今回は、我の勝ちだな。』
――追想するは、いつかの、トールとの勝負。
(まだ、足りない。)
鳴動する剛炎が、再び懐に潜り込もうと迫るエルマの行く手を塞いだ。
『――旅人のコートを脱がせれば勝ち? 馬鹿馬鹿しい。そんなもの吹き飛ばしてしまえばいいではないか。』
――単なる競走であるときもあれば、変わったルールを設けたこともあった。
(あいつのように。)
――あいつは、いつもドラゴンとしての威風に満ちていた。だから――
翻した右手より顕現するは、トールより喰らった魔力を用いて発した激流の魔力。炎を打ち消し、進む道を開く。その先には当然、刈り取るものの姿。
(――奴に終焉をもたらせるだけの、闘志を!)
再び、ぶん殴る。腕に襲い来る、今度こそ明確な手応え。剛腕が刈り取るものの胴体を打ち付け、その巨体を大きく後退させる。
全身の体躯がぐらりと揺れる味わったことの無い感覚に、かの刈り取るものとて動揺を覚えずにはいられない。
「まだだっ!」
その一撃に終わらず。跳躍し、徒手空拳から繰り出される連撃。
一撃目は、胴体を大きく揺らした。
二撃目に、反撃に突き付けられた二つの銃口を払い除け、大地に叩き落とす。
三撃目に、真っ直ぐに打ち付けられた正拳が刈り取るものを吹き飛ばす。
「……しぶといな。」
その上で――常人ならば両の指で数えられぬ回数肉片に変わるドラゴンの連撃を受けてなお、刈り取るものはそこに在り続ける。落としたはずの拳銃も、両の腕に収まっている。存在自体が認知で構成されている刈り取るものというシャドウは、武器である拳銃も含めた認知存在。腕の再生とともに、必然的にそこに"在る"同体。
――至高の魔弾
無造作にばら撒かれた弾幕。その一つ一つが、命を文字通り刈り取らんとばかりに、どす黒く煌めいて――されど、足りない。怒れる龍を鎮めるには、到底。
512
:
生生流転――ふたりぼっちのラグナロク
◆2zEnKfaCDc
:2021/09/24(金) 22:07:48 ID:.RMltRaY0
「うおおおおッ!!」
両腕を掲げるとともに、エルマの激情を具現化したかの如き竜巻が、亜音速の弾丸の全てを吹き荒らして消し飛ばす。
同時に、嵐に身を隠し疾走する影。それに刈り取るものが気付けど、もはや手遅れ。両手を頭上で組み、上方から頭部を叩き付ける。刈り取るものを通して大地にまで亀裂が走るほどの衝撃。弱点としての脳など存在しないが、しかし衝撃で大きく体勢を崩した刈り取るものを加えて蹴り付ける。ダメージを許容しつつ何とか起き上がった刈り取るものは、『スキル』を詠唱する。次は炎か氷か、或いは雷か。どの有形力にも対抗できるよう、一歩引き下がって獄炎のブレスを準備し――
「……ッ!」
――サイダイン
「ぐっ、ああああっ!!!」
しかし反撃に繰り出されたのは、有形の属性ではなく、脳に向け直接送り込まれた害悪。不可視の脳波に抗う術もなく、頭を内側から掻き回されているかのような振動に膝を着く。
元より戦闘不能に至るだけのダメージを、食によって無理やりつなぎ止めていただけの肉体。そもそもにして限界は近かったのだ。視界が揺らぐ。栓が外れたように全身から力が抜けていく。幻か――刈り取るものに重なってトールの姿まで見え始めた。
(……遠いな。)
『――トールが行方不明だそうじゃ。』
死神――冥界の王ハデスの系譜であるそれは文字通り神性を帯びた存在であり、ドラゴンよりも種族としての格においてひとつ上に位置する。
『――神々の軍勢にたった一人で戦いを挑んだらしい。』
(お前も、こんな景色を観ていたのか……?)
世界の調律者たる神を打倒するのが容易であるならば、調和勢と混沌勢など生まれ得なかった。ドラゴンという絶対的存在として管理を受けることを嫌悪しながらも、しかしそれでも既存の秩序に組み込まれることを良しとする調和勢が生まれたのは――偏に神族の格を絶対視しているからに、他ならない。神の打倒が成せぬという共通の理念の下に、調和勢は存続している。刈り取るものへと食らいつくことは、間違いなくドラゴンの戦争の歴史に裏打ちされた無謀であった。
『――おそらくは、生きてはおらんじゃろう。馬鹿なことを……。』
(ああ、知ってるよ。だって、この死神に挑まずにはいられない私も――)
あの時は、神々の軍勢へ報復に単身向かおうなどとは考えなかった。結果的にトールが生き延びていたとはいえ、当時はトールの死を確信していながらも、ただただトールの身を案じることしかしなかった。だが、今は違う。刈り取るものにその身をもって報いを与えんと挑戦している。
あの時と今の差異は、何か。そんなもの、分かりきっている。
あの世界でトールと新たに築いた絆が、刈り取るものを逃がすことを許容しないんだ。それくらいに――
513
:
生生流転――ふたりぼっちのラグナロク
◆2zEnKfaCDc
:2021/09/24(金) 22:08:12 ID:.RMltRaY0
(――どうしようもない、大馬鹿なのだから!)
おぼつかない足をその地に立たせているのは、単に気合いでしかない。そんな満身創痍の状態のエルマに追撃で与えられる銃撃。二度、三度……人間を遥かに超越するドラゴンの皮膚の硬度を持ってしても、ギリギリでつなぎ止められた生命の糸を揺らすには十分過ぎるだけの痛みがエルマを襲う。
銃撃の数が二桁に達したその時、耐え難い衝撃についに膝をつく。銃撃に撃ち抜かれた脚は、もはや身体を支えるのに役に立たない。ならばと下半身を水竜のそれへと変貌させ、浮遊。
全身のドラゴン化はパレスに制定された制限により不可能。しかしドラゴンの力を解放した半身は、人間形態を超えた速度で接近を可能とする。ただし――
「……あっ。」
――力の代償。超速接近を臨んだ以上、途中では止まれない。
(まずいまずいまずいっ!)
不審に思うべきだったのだ。刈り取るものが何ら『スキル』を付与せぬ銃撃を繰り返していたことに。銃口のその向こう、硝煙に隠れた先。死神には、何かを準備する猶予があった。
――メギドラオン
真に強者と認めたものにのみ放たれる、刈り取るものの切り札。トールを葬った、混沌よりも深い終焉。刈り取るものにとって、すでにエルマは真っ先に排除すべき天敵であった。
「……く、そぉ……っ!」
あの銃撃は確実な死をもたらす爆心地への誘導だったのだ。死神のもたらす死、その真骨頂。
――ふと、自嘲が漏れる。
殺意に身を任せ、攻撃のみに一点集中した結果が、これだ。ああ、トール。私は……どうやらお前のようにはなれないらしい。輪郭が見えず、自分だけの色を持ちながらそれでも何色にも染まろうとする、透明な――水みたいな。そんな、ただそこに在り続けるだけの生き方が。
――私は、羨ましかったんだ。
514
:
生生流転――ふたりぼっちのラグナロク
◆2zEnKfaCDc
:2021/09/24(金) 22:08:40 ID:.RMltRaY0
『――さすがはテルネ様の一族だ!』
私には、立場があるから。自分というものが、すでに周りによって固められているから。
『――聖海の巫女様! どうか私たちに恵みを……』
そんな私が――お前のように生きられるはずがなかったんだ。お前のようにひとりぼっちで神に挑んだとて、お前のように……或いはお前よりも無様に、その身を散らす結果にしかなり得ない。そんなの、最初から決まっていたじゃあないか。
『――お前……一生そうしてるつもりか?』
「っ……!」
だから、やめろ。やめてくれ。私は水にはなれないと、知っているから。
――私を変えようと、しないでくれ。
「私は……。」
――立場が定められた私は、変わっちゃいけないんだ。だから……
「私、は……!」
刈り取るものの眼が妖しく煌めく。崩壊が、発動する。
――だから私は、何も選べない。
――だけど。
たった一つ、夢を語るなら。
たった一つ、希望を謳うなら。
たった一つ、本当の気持ちを吐露するならば。
515
:
生生流転――ふたりぼっちのラグナロク
◆2zEnKfaCDc
:2021/09/24(金) 22:09:06 ID:.RMltRaY0
「ただ……お前と……一緒にいたかったんだああああっ!!」
たった一つ、叫びと共に――空間が空白に包まれていく。
これは、無謀に等しい神への挑戦。確定された終末の訪れ。
なればこそ、戦いによる戦いの終結を願ったドラゴンが、神剣によって撃墜された、かつてのラグナロクと同じ結末も――
――"独り"で戦う私には、必然的な到来か。
――但し。
――本当に、それが"独り"であるならばの話。
「……そうか。」
死神が、その名の通り相手の命を確実に刈り取ることを確信して放った必殺の絶技。その残滓の中――エルマの命の灯火は、消えずそこに存在していた。虚ろな眼が、驚愕に見開かれたのも束の間。すでに残像を残して消えていたエルマの動きに、反応が追いつかない。
「お前が救ってくれたんだな、トール。」
516
:
生生流転――ふたりぼっちのラグナロク
◆2zEnKfaCDc
:2021/09/24(金) 22:10:48 ID:.RMltRaY0
――時に、食べるという行為は儀式的・呪術的な意味合いを内包する。
肝臓が丈夫な生き物の肝を食せば、肝臓が良くなる。目の良い生き物の目を食せば、目が良くなる。或いは――不死の象徴たる人魚の肉を食せば、予言の力を持つ妖怪くだんの肉を食せば、それに応じた力を得られる。これらは一例であるが――他者の一部を取り入れるという行為は、その相手の能力や資質を取り入れるという発想とかなり近いところにあるのだ。
エルマは――混沌の龍トールの肉を骨ひとつ残さず喰らい尽くした。
本来であれば食すという行為で得られる力は、体内に存在した魔力や栄養素を取り込む程度の効力しか発揮し得ないだろう。しかし――ここは桜川六花についての知識を有するインキュベーターの認知で構成された世界。そこで成された『食』の行為には――少なからず、力の継承という意味が生まれる。
異世界と空間を接続し、そこへ物質を転送するトールの魔法。出自の違いから、エルマには到底扱い得ぬ類のものであったが――食によってトールの力を受け継いだことで、その魔法は発動した。エルマを消し飛ばすはずであったメギドラオンは、その力の根源ごとどこか異世界へと転送され、パレス内から消滅した。
その因果を経て――今、エルマはここに立っている。そしてメギドラオンという絶技の反動で動きが鈍ったその瞬間を、エルマは逃がさない。冷徹なる調和の意志を宿した拳が、刈り取るものの顔面を打ち付ける。みしり、と音をかき鳴らしながら沈んでいく拳。
「さあ……終わりだ。」
その瞬間、冷たさに満ちていた拳が、熱く熱く、燃え上がった。そこに宿るは、調和とはほど遠い、混沌の意志。勢いを増した拳は容易に刈り取るものの顔面を砕き、貫いていく。
その瞬間を以て――死神の名を冠した大型シャドウ、刈り取るものの巨躯は塵芥へとその身を散らし、虚無の中へと沈んでいった。
その散りざまは、あれだけの存在感を示していた割に、いやに呆気なくて。虚構に生まれた存在というものの儚さを、提示しているようで。
何にせよ、これで終わったのだと、確かな実感を込めて静かに呟いた。
「……勝ったよ、トール。」
517
:
生生流転――ふたりぼっちのラグナロク
◆2zEnKfaCDc
:2021/09/24(金) 22:11:38 ID:.RMltRaY0
そして、それと同時に――その場で仰向けに倒れ込んだ。
「勝負は、引き分けだな。お前がいなければ勝てなかった。だけど……この、勝利だけは。味覚の壊れた私にも、勝利の美酒の味わいを与えてくれるものなんだな。」
見上げた先には、眩しいばかりの太陽と――それが照らし出す青空が、広がっていた。
「……なあ、トール。」
そしてその先に――いつもと変わらない、トールの姿を見た。
「お前を元の世界に連れて帰る……だっけか? もうそんな建前は言わないよ。」
ぼんやりと霞みゆく視界の中でも、トールの姿だけは変わらずそこに在り続ける。いつか仲直りした時と同じように、何処か照れ臭そうにこちらを見ている。
「……今度こそ二人で、一緒に旅をしよう。人間の世界を見定めるなどという目的もない、ただ私たちが楽しむためだけの、自由な旅だ。」
死神の多彩なスキルを、少なからずその身に受け続けたこと。それに加え、メギドラオンの衝撃も完全に異空間に消し飛ばすことは出来なかったこと。すでに身体は、限界を迎えていた。
「人間の姿のままでの食べ歩きもいいな。お前が隣(そこ)にいてくれるなら、きっとどんなものでも、美味しいだろう。」
そもそもの話――この二度目の戦いに出向けたのも、トールの死骸から得られた体力と魔力を糧としたものに過ぎない。戦う前から、とうに限界など超えていた。
「それに……そっちだったら、小林さんも連れてこいとは言うまい?」
だから――この時は、必然的な到来であったのだ。
「……ああ。」
どこか満足気な表情のまま、エルマはそっと目を閉じた。
「――本当に……楽しみだ。」
その様相たるや、漂う水のように。静かに、そして、安らかに。
【刈り取るもの@ペルソナ5ㅤ死亡】
【上井エルマ@小林さんちのメイドラゴンㅤ死亡】
【残りㅤ36人】
518
:
◆2zEnKfaCDc
:2021/09/24(金) 22:12:15 ID:.RMltRaY0
投下終了しました。
519
:
◆2zEnKfaCDc
:2021/09/25(土) 01:30:11 ID:dd/3R.PM0
全滅で状態表がなかったので時間帯が伝わらなくなってましたが、【E-6/朝】です。wiki収録時に追加します。
そして連絡を忘れていましたが、件のwiki荒らしの対策のため、wikiの編集権限を制限しています。何か追加したい事項があればこちらのスレか、もしくは私のTwitter(@私の酉、もしくは#狭間ロワ のハッシュタグでいちばん頻繁に発言している奴)にお願いします。(死者スレのネタなども是非……
520
:
◆s5tC4j7VZY
:2021/10/02(土) 20:47:19 ID:3CTLlQug0
遅くなりましたが、投下並びに第一放送突破おめでとうございます。
Turning Points
まどかも、その音を知らなかった。その音の意味を理解できないほど楽観的ではないが、しかしその主を識別できるほど"彼女"との仲を深めていなかった。
↑参戦時期故に気づかないのは、なるほど!と思いました。
そして、戦闘中の放送が、もたらすのは……次の話が楽しみです。
第一回放送
何人かの参加者の独白がまた味があっていいですね。
ペルソナ勢がいるだけに誰かのパレスとは思っていましたが、まさかの正体に脱帽しました!!!
さて、会場がパレスと言うことは”オタカラ”果たして奴のオタカラとは……
生生流転――ふたりぼっちのラグナロク
もう、文章を一文読むごとになんというか色々な感情が胸にこみ上げてきました。
「――本当に……楽しみだ。」
その様相たるや、漂う水のように。静かに、そして、安らかに。
↑エルマには本当にお疲れ様の言葉をかけたいです。
死者スレではトールと2人旅しながら過ごす姿が見たいですね……
狭間ロワのさらなるご活躍をお祈り申し上げます。
521
:
◆2zEnKfaCDc
:2021/10/08(金) 05:32:02 ID:GoEHiShI0
ゲリラ投下します。
522
:
このちっぽけな世界で大いなる退屈を遊ぼう
◆2zEnKfaCDc
:2021/10/08(金) 05:32:44 ID:GoEHiShI0
ぽっかりと空いた空白があった。如何なる財物を得ようとも、万能の英智を駆使しようとも、決して埋まることの無かった心の空白。しかもそれは、内側から蟲が喰い破っていくかのごとく、年月の流れと共にじわじわと広がっていく実感があった。
ただ私はそれを、埋めたかった。ただ、それを埋められるのが何であるのか、分からなかった。
その一方で、私には力があった。望むものを、望んだように手に入れられるだけの力が。運命とやらさえ引き寄せるだけの、王の資質が。その空白を埋めること以外は、何であろうと実現は可能だった。
強欲に、されど貪欲に。望んだ数だけ世界は私の手の中に収束していく。まるで世界全てが最初から私であったかのように、パズルのピースが難なく型にはまっていく。私がひとつずつ、出来上がっていく。
だけど行方不明のピースが、たったひとつ。それはまだ、形すらも見えてこない。その空白がある限り、私という存在は決して完成しない。手に届く場所にあるのか、それすらも分からない。
だけど、私が本当に何もかもを手に入れられるのなら。私が本当に、願いを掴み取る力があるのなら――真に全てを手にした時、答えは必ずその中にあるだろうさ。
――その確信を軸に据えて、私はここに立っている。
自分という存在を完全なものにするがために。唯一、望むだけでは得られないものを得るために。
そして、その因果の先に――
「……適合した、か。」
今ここにまたひとつ、初柴ヒスイという名のパズルに、ピースが当て嵌められた。彼女がそれを求めていたなればこそ、この結果は必然的な到来だった。
その手に握っているのは、魔王の宝剣――手にする者に魔王の絶大なる魔力の一部を供給し続ける魔剣。魔力の受容体を持っていても許容量を超えやがて発狂に至るであろうその魔力を、あろうことかヒスイは、受容体すら無しに強引に取り込み続けた。そしてその結果――ヒスイの体内には確かに、魔力を受容し、はたまたコントロールをも担う器が、形成されたのである。
無尽蔵の精神力は、人間の肉体の限界すらも超克した。生まれ持っての素質より扱い得ぬ力をも、その身に宿したのだ。
そして、そのリミットさえ超越してしまったならば――
523
:
このちっぽけな世界で大いなる退屈を遊ぼう
◆2zEnKfaCDc
:2021/10/08(金) 05:33:11 ID:GoEHiShI0
「ふむ、悪くない。」
軽く振り回した宝剣に、供給され受容した魔力を、試しとばかりに宿した。
ひと凪ぎ。
剣の軌道に沿って、朱い焔が煌めいた。
ふた凪ぎ。
残火に揺らめく空気が凝結し、急速にその温度を無くして凍り付く。
3、4、5……素振りのひとつひとつに、あらゆる属性のエンチャントが成されていく。それはエンテ・イスラに点在する多くの魔法剣士たちが、幾年もの修練の果てに漸く掴み取れるであろう絶技の数々。魔力――もとい、聖法気の受容体という基盤を同一にしたその瞬間から、ヒスイはその応用となりうる全てを手に入れていた。これこそが、巨額の富を築いた三千院帝をして驚異と言わしめた、初柴ヒスイの真骨頂。
「夜空を操る霊力とはまた違う。イメージを具現化するかの如き、万能の力。異世界にまで視野を広げれば、まだこのような力は眠っていたのだな。」
素晴らしい、と感嘆の声を漏らす一方で、心の空白は少しだけ広がったような気がした。三千院家の令嬢、ナギとその執事を殺すことが確定してもまだ、手に入れていないものがあるらしい。
「……それにしても。伊澄、お前が死んだか。」
霊力について想起したからか。先ほどの放送の余韻が、今さら襲ってきたようだ。
「残念だよ。私も鬼じゃあないんだ。せめてひと思いにお前を楽にしてやるくらいの情けはかけてやるつもりだったんだが……。」
光の巫女、鷺ノ宮伊澄の、人間として規格外の霊力。伝承の中で神性を得たキング・ミダスの娘、法仙夜空をしても苦戦を強いられた強敵として、彼女はこの戦いの中で立ち塞がるものだとばかり思っていた。それが、最初の放送を迎える前からこのざまだ。
落胆、とは少し違う。伊澄には、野心が決定的に足りないという認識は昔からあった。十二分に王を目指せるだけの才覚を持ちながら、現状に甘んじ、誰かから差し伸べられる手を待っている。殺し合いの世界でなくとも、心の在り方が根本的に王の器から遥か遠く。ましてや他者を蹴落とすこの世界では、遅かれ早かれ敗北を喫することはもはや確定していたに等しい。
だが伊澄が脱落した現状に感じる物寂しさをあえて言語化するならば――きっと、同化した夜空の追想といったところだろうか。伊澄を含むナギの執事との王玉を巡る戦いにおいて、姫神の乱入や夜空の英霊化などにより、結局夜空と伊澄の戦いの決着は付かずじまいだった。負けず嫌いな一面のある夜空としては、その再戦は望むところだったのだろう。それが、もはや二度と果たせなくなってしまった。二度と――鷺ノ宮伊澄に"勝利"することは、果たせなくなってしまった。
「……時間が惜しいな。綾崎ハヤテ、どうかお前は私に殺されるまで、死なないでくれよ?」
勝利は、疑いを差し込む余地もなく確信している。初柴ヒスイという少女が殺し合いに降り立った地点で、あらゆる運命はヒスイに味方をすると決まっている。求めるものは、それではない。
この胸に在る空白を。常に望むものを手に入れてきた私が、唯一手に入らない充足を。
【C-2/草原/一日目ㅤ早朝】
【初柴ヒスイ@ハヤテのごとく!】
[状態]:健康
[装備]:サタンの宝剣@はたらく魔王さま!
[道具]:法仙夜空@ハヤテのごとく! 武見内科医院薬セット@ペルソナ5 基本支給品×2 不明支給品(0〜2個)、烏間惟臣の不明支給品(0〜3個)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに勝利する。
1.次の闘いへ向かう
2.王となるのは私だ。
3.本当に、願いで死者さえも甦らせることができるのなら―――
4.次に出会ったときナギと決着をつける…どちらかの死で。
5. 誰が相手でも躊躇しない
※原作51巻、ハヤテから王玉を奪った後からの参戦です。
【支給品状態表】
【法仙夜空@ハヤテのごとく!】
ヒスイに力を授けるために英霊となった法仙夜空。すでにヒスイと融合している。上段に人間のような二本の腕、下段に骸のような二本の腕がある。現在は下段の右腕が粉砕されており、残りは三本。
【武見内科医院薬セット@ペルソナ5】
武見妙が扱う医薬品。効果は確かに効く。
内訳 ナオール錠50mg×2 ダメージ・疲労を(低)回復させる
ナオール錠100mg×2 ダメージ・疲労を(中)回復させる
全快点滴パック×1 ダメージ・疲労を全回復させる※参加者との戦闘中は使用不可
524
:
◆2zEnKfaCDc
:2021/10/08(金) 05:34:07 ID:GoEHiShI0
投下完了しました。
525
:
◆2zEnKfaCDc
:2021/10/08(金) 05:34:52 ID:GoEHiShI0
すみません。状態表の修正を忘れていました。
【C-2/草原/一日目ㅤ朝】です。
526
:
◆2zEnKfaCDc
:2021/11/18(木) 07:23:21 ID:2dE7nyjY0
綾崎ハヤテ、新島真、岩永琴子で予約します。
527
:
◆2zEnKfaCDc
:2021/11/18(木) 21:21:46 ID:2dE7nyjY0
投下します。
528
:
共に沈めよカルネアデス
◆2zEnKfaCDc
:2021/11/18(木) 21:23:00 ID:2dE7nyjY0
「――お待ちしていました。」
数十分前に殺し合いを繰り広げた間柄とは到底思えぬほどに、新島真と相対する岩永琴子の表情は余裕に満ちていた。
「……何のつもり?」
この現状が不可解であることに気付かぬほど考え無しな真ではない。先手を許してしまった以上、綾崎ハヤテの運転する自転車に乗っていれば、ヨハンナの追跡から逃れ切ることは充分に可能であったはずだ。仮にハヤテと何らかの衝突があり別れることとなったにしても、ルブランと負け犬公園の間に位置する場所で待機していれば自分と遭遇するリスクが高いことは承知のはず。この場に岩永が留まり、自分を待ち構えていたという事実、その地点で何かの罠を疑うのが鉄則というもの。何より、岩永の同行者であったハヤテの姿が見えないのが気にかかる。
「準備が整いましたので、然るべき提案をしに来ただけですよ。」
「準備……?」
「ええ。」
暴力で捩じ伏せるのは容易であるはずなのに、それを行使してしまったら破滅への道を歩み出す結果となるという感覚がどうしても抜けないのだ。ゆえに真は、それ以上踏み込むことができなかった。安直な暴力への躊躇を感じ取った岩永は僅かに会釈し、一拍間を置いて答える。
「といっても中身はシンプルです。……和解といきましょう。」
529
:
共に沈めよカルネアデス
◆2zEnKfaCDc
:2021/11/18(木) 21:23:56 ID:2dE7nyjY0
■
時は遡り、放送直後。
放送の情報を纏めてメモし終えた岩永と、そのために移動を止めていたハヤテ。岩永は何かを考え込むように指を顎に当て、一方そんな彼女の様子も目に入らないほどに、ハヤテは戦慄していた。
(まさか……伊澄さんが死んでしまう、なんて……。)
殺し合いなどというフィジカルに特化した催し、お嬢さまの身が危ないという意識は充分にあった。西沢さんやマリアさん、さらには武闘派のヒナギクさんに対しても、そういった危機感は少なからずあったはずだ。だが、それでも伊澄さんに関しては、その点の心配は殆どしていなかった。不思議な力を操り、この世のものならざるものも日常的に相手にしてきた伊澄さんが、まさか他の皆よりも先に殺されてしまう事態など――正直、起こり得ないと思っていた。伊澄さんは守るべき相手ではなく守る側であるのだという油断があった。そんな気の緩みの中に叩き付けられた、彼女の死。それはお嬢さまだけでなく、西沢さんもマリアさんもヒナギクさんも――他の知り合いたちだって当然に殺され得ることを示していて。
(……僕は本当に、お嬢さまを守れるのか……?)
浮かんできた考えも当然にネガティブなものにならざるを得なかった。根性論でもご都合主義でもどうにもならない死という不可逆を、改めて提示されたのだ。やもすればそれをも覆してしまうかもしれないゴーストスイーパーは、もうこの世に存在していない。
ぐるぐるとから回る思考が、ハヤテを焦らせる。結局やるべきことは1秒でも早くお嬢さまを見つけることに収束するというのに、それができないことがもどかしい。そもそもお嬢さまがどこにいるのか分からないし、そういう『取引』をした以上は岩永さんも守らなくてはいけないし……
『――ハヤテさまにとって、一番守りたいものはなんですか?』
ㅤふと、ハヤテの脳裏に悪魔が囁いた。
『――ハヤテさまにとって、一番大切な人は誰ですか?』
……否。厳密には囁いたのは悪魔ではなく。強いて言うならば、亡霊か。
この世界で唯一数えた喪失である伊澄のことを思い返したことによって、生前の彼女に言われた言葉が不意に頭の中に反芻されたという、ただそれだけの事象だ。だけど、その事象が示す意味は、明確に悪魔の囁きと呼んでも過言でないものであった。
お嬢さまに相続されるはずである三千院家の遺産を実質上放棄せねば、アーたんこと天王州アテネを救えない、と。お嬢さまの将来か、アーたんの命か、どちらかを犠牲にするよう突き付けられた時の言葉。現状も、その時と同じであるからだ。岩永さんをここで見捨てれば、お嬢さまを探すことだけに集中できる。僕が本当に守りたい人だけを、守れる。
(そうだ。取引といっても、結局は口約束。岩永さんとお嬢さま、仮にどっちかを切り捨てないといけないのなら、僕に迷いはない。)
530
:
共に沈めよカルネアデス(前編)
◆2zEnKfaCDc
:2021/11/18(木) 21:25:17 ID:2dE7nyjY0
岩永さんは未だ何かを考え込んでいる様子で、彼女の支給品であったデュラハン号は自分の手の届く範囲に放置している。もし、自分がデュラハン号に即座に乗り込んで颯爽と逃げ出したとしても、彼女には何も手出しは出来ないだろう。岩永さんと二人乗りで自転車を漕ぐ場合、岩永さんに配慮した速度で乗り回さないといけない。それは……お嬢さまを探す自分にとって邪魔な事実でしかないじゃないか。
(別に彼女を殺そうというわけじゃない。だったら……)
かつて、お嬢さまを守るためだったら法律すらどうでもいいと豪語したことがある。それに一切の誇張はないし、ましてやこの場で試されているのは法律ですらない、倫理観という曖昧なものだ。ひとつの舟板に、掴まれるのはただ一人。大切な人を掬い上げるためには、もう一人を沈めるしかない。
ここまで岩永を裏切るに値する条件が揃ってなお、あえてハヤテを躊躇させているとすれば、それがお嬢さまを守る結果に確実に繋がるとは言えないこと。理想は当初の予定通りに岩永さんを守りつつお嬢さまも守ることであり、それへの道も決して閉ざされているわけではないということ。極論、今この瞬間に目の前の草むらからひょっこりとお嬢さまが現れ、岩永さんと三人で脱出を目指すことになっても何らおかしくはないわけで、まだ理想を追う道は充分に残っているのだ。しかし、仮に見捨てる選択肢をとってしまえばもう岩永さんとの信頼は回復しない。岩永さんを見捨てた上で、彼女がどうにか一人で生き残ったとしても、僕は彼女の脱出に協力する資格を失うのだ。それに、少なからずお嬢さまのために動いてくれている岩永さんを裏切ることだって、悪いと思わないはずもない。
『――もちろんあなたには力ずくでこれを奪うという選択肢もありますよ。』
岩永さんにデュラハン号を提示された時の言葉が、今さらながら脳裏に浮かんできた。あの時は心配性だ、なんて思いながら否定したけれど。こうして殺し合いという事実に改めて向き合ってみると、僕がそれを選択するもしもすら現実的なものであったのだと分かる。僕は伊澄さんの死によってようやくこの殺し合いの非情さを認識したが、岩永さんはこの殺し合いがどういうものなのか、あの段階で大まかに見通していたということだ。
(そうだ、岩永さんは僕に見えないものも見えている。お嬢さまを守るのなら、彼女の力を借りるのは必要で……)
取引を放棄すれば岩永さんを敵に回すことになるのは、どう見積っても間違いないのだ。彼女の性格を考えると、仮に裏切ったとてお嬢さまを報復に殺すような真似は流石にしないとは思うが、ここまで彼女の頭脳の片鱗を少なからず目の当たりにしている以上、なるべく彼女は味方につけておきたい存在であることは確かだ。
結局先に浮かんだ想像を、気の迷いとして切り捨てたハヤテ。同時に、自己嫌悪が襲い来る。
(……はぁ。最低だ、僕は。)
彼女を裏切ることを実行し得る選択肢として挙げたこともであるが、更にはそれを止めたのは道徳ではなく、彼女の頭脳を当てとする打算でしかなかった。
531
:
共に沈めよカルネアデス(前編)
◆2zEnKfaCDc
:2021/11/18(木) 21:26:10 ID:2dE7nyjY0
もし、世の中が打算のみで回っていたとすれば、僕は今ここに立っていない。ヤクザに売られ、誰からも見放された僕をつなぎ止めてくれたのは、お嬢さまの、打算なき優しさだった。だというのに、僕が今の今まで考えていたことは、その優しさに真っ向から反する行いだ。
そんなハヤテの後悔すら、見透かしたかのように――岩永は、唐突に切り出した。
「デュラハン号はこのままあなたに差し上げます。その上で――同行関係は、一旦ここで打ち切りとしましょう。」
「……えっ?」
それを本心では望んでいた自覚があったからこそ、必要以上の驚きがあった。
「い、一体どうして……」
「そもそもの話をしましょうか。」
唖然とするハヤテをよそ目に、デュラハン号の方へと歩みを進めながら岩永は口を開く。
「殺し合いを命じられていながらも私たちが同行に至った理由は大きく分けてふたつ。あなたの探し人の保護と、私の安全の確保です。
ここで、あなたの探し人の保護のみに観点を置くのであれば、彼女の捜索にあたっての移動手段として、デュラハン号があればそれ単体で足りるでしょう。その点、私は重りでしかないし、むしろ私と手分けした方がナギさんの発見に至る可能性は高いとまで言えます。
つまり私たちが同行していることのメリットは、全て私の安全確保にのみ直結しているのです。
これは私にとってはリスクでしかありません。あなたがあなたの目的にのみ忠実に動くのなら、私を切り捨てるのが最適となるのは自明なのだから。」
そんなことはしない、とハッキリと言えたら良かったのだろうけれど。彼の脳裏に過ぎった考えと完全に一致していたからこそ、何も言えなかった。だけどこのまま俯いていても心の底を見透かされてしまうような気がして、黙ってこくりと頷いた。
「……そしてこれはここまでの同行であなたを信頼しているからこそ伝える情報でもあるのですが……リスクを承知の上であなたに同行していた理由のひとつに、私の探し人であった桜川九郎があります。
彼は、自分の身の危険に対してすごく疎い。このパレスとやらによる制限が彼の体質にいかなる影響を及ぼすか不明だったので、可能であれば彼に一言、注意喚起をしておきたかった。
ですがこの6時間で彼と会うことは叶いませんでした。それでも、彼が死んでいないことは放送から分かっています。パレスに人魚の力への制約がなかったのか、はたまた彼自身が身の危険を察知し死なないように立ち回っているのか……どちらにせよ、私が彼を急いで探す必要が薄れたことは今の放送から明らかになったということです。」
岩永は語り続け、ハヤテは下を向いたままだ。まともに直視ができない。今、彼女はどんな顔をしているのだろう。何もかもを見透かしているかのような印象すら受ける岩永の眼光は今、どこを向いているのだろう。心苦しさに胸が詰まりそうだった。何かを言わなくては、耐えられなかった。
「……岩永さんの身の安全はどうするんですか?」
震えた声で、ハヤテは尋ねた。ハヤテにとって何より腑に落ちない点はそこだ。岩永を置いていくことで得をするのは自分のみ。彼女を放置して逃げる想像を先ほどまでしていたからこそ、それは特に理解している。それをあろうことか彼女の側から提案してきたのだから、疑問に思わないはずがない。
「ご心配なく。それについてもアテはあります。」
「そのアテとは何ですか?」
さらに食い下がるハヤテに、キョトンとした顔持ちで見つめる岩永。
532
:
共に沈めよカルネアデス(前編)
◆2zEnKfaCDc
:2021/11/18(木) 21:27:18 ID:2dE7nyjY0
「……一応、現状この話はあなたにとって悪い話ではないはずだと思いますが。」
「それでも、心配に決まっているじゃないですか。」
それは紛れもなくハヤテの本心であるが、同時に裏切りを考えたことへの罪滅ぼし的感情でもあった。このまま彼女を置いていくことが、自分の裏切りの結果のように思えてならなかった。
「……なるほど。確かにこの条件はあなたに有利です。私としてはそれでも構わないと思っての提案なのですが、それであなたに罪悪感を与えてしまうのはやぶさかではありませんね。
では、ひとつ条件を付けましょうか。あなたの支給品の中から……そうですね、それをデュラハン号と交換の形でいただく、というのはどうでしょう。」
岩永が指したものを見て、いっそうの戸惑いを見せるハヤテ。それは彼のよく知る道具だったからだ。
「こ、こんなもの……何に使うって言うんですか。」
あまりにも殺し合いという用途からはかけ離れたその道具が本当に岩永の役に立つのか、そんなことはどうでもよかった。ハヤテにとって重要なのが、その道具を彼の前で用いた者が、いかなる末路を辿ったかということ。
「こういうのもアレですけど……これ多分ハズレですよ?」
岩永が指した道具は、クルミ割り器。それは決して、殺し合いの武器などにはなり得ぬただの道具だ。殺し合いの世界における支給品としてハヤテが称した『ハズレ』との評価も、何ら間違ってはいない。
しかし彼にとっては、それはお嬢様の『自己犠牲』を象徴する、忌むべき道具でもあった。岩永がそんなことを知る余地はないと理解していても、彼女も彼女と同じ道を進んでいるのではないかと、心のふちに刺さった邪推が抜けなかった。
「用途は思いついています。少し賭けの要素も含みますが……」
「……じゃあ、そのアテとやらを確保できるまでは同行します。」
「それはできません。そのアテの確保にはあなたがそこに居ないことが必須であるからです。」
「でも……危険ですよね?」
そのアテというのが誰のことを指すのかは明らかだった。これまでの経路で二人が出会うか、または大まかな位置を把握し得るのは『新島真』と、彼女との情報交換で得た『刈り取るもの』の両名のみ。彼女によれば後者はむしろ回避すべき危険そのもの。消去法的に、新島真しか有り得ない。
半ば決別的に別れた彼女を用いた安全確保とは、一体何であるのか。それは、自分という存在を切り捨ててでも確保する価値のあるものなのか。
533
:
共に沈めよカルネアデス(前編)
◆2zEnKfaCDc
:2021/11/18(木) 21:28:42 ID:2dE7nyjY0
「ええ、危険です。しかしこの6時間で13人が死んだことが示している通り、このパレスと呼ばれる世界にいること自体が少なからず危険なものなのですから、リスクを承知で動くことに価値はあります。」
「でも……」
「何より――」
ハヤテの反論を遮って放たれた岩永のひと言は――
「――彼女は、三千院ナギという少女に戦闘能力が備わっていないことを、知ってしまった。」
「っ……!」
――ハヤテにとって、決して無視できないものとなった。
「彼女は、私たちを出会い頭に殺そうとはしませんでした。彼女が実際に殺し合いに乗っていない可能性こそありますが、それならば特に何も困ることはありません。ただ、そうでない場合……一体何故彼女は、即座に私たちを殺そうとしなかったのでしょうか?」
「――もったいぶらず教えてくださいっ!」
これまでの温厚さから一転、上擦った声で叫ぶハヤテ。ここでお嬢さまの名前を出されたことへの焦燥が、正常な思考力を奪っていた。その形相に一瞬怯む様子を見せた岩永。しかし次の瞬間には再びポーカーフェイスを纏い、淡々と語り始める。
「……頭数だけで見れば1対2、人数的不利があったからというのが有力な見解でしょう。彼女もまた、私たちの力を警戒していたんです。体格で遥かに劣る私すらも警戒対象にあった辺り、単純な暴力とは違う、人間の規格を超えた力というものを彼女も知っていると見られます。彼女自身がそれを扱えるかは定かではありませんが……。」
厳密には、真が即座に襲って来なかった理由はそこが怪盗団のアジトである純喫茶ルブランであったためだ。怪盗団の信念である不殺生に真っ向から反する行いが、ルブランでの殺し合いを真に躊躇させた。とはいえそれに至るまでの根拠を、岩永は持っていない。岩永としても、自身の語った推理が必ずしも正しい答えであるとは思っていない。
だが、その正誤はどちらでもいいのだ。ハヤテの説得、ただその一点において、三千院ナギに迫る危険を語るこの仮説は、何よりも効果的であるのだから。
「……ですが、警戒による時間稼ぎの余地はもはやナギさんには働かない。人数差があったとしても、彼女はその人数に計上せずとも戦局に影響を及ぼさないと知られてしまった。つまりナギさんが新島さんと出会ってしまった場合、私たちの時とは違い、新島さんは躊躇なくナギさんを殺しにかかる可能性がある。」
「それ、は……。」
それを聞いたハヤテの顔色が一気に青ざめるのが岩永にも分かった。ナギのことを真に語ったことが、失敗だったという認識についてはハヤテにも間違いなくあった……が、浅かった。それがナギが殺されることに直結する情報であるとまでは考えが及んでいなかった。
534
:
共に沈めよカルネアデス(前編)
◆2zEnKfaCDc
:2021/11/18(木) 21:29:22 ID:2dE7nyjY0
「安心してください。私なら、真さんがナギさんに手を出さないよう調整することもできる。」
ナギのことを恩人であると語っていたハヤテ。垣間見えるは、恋愛感情とは似て非なる、異様なまでの忠誠心。
ハヤテとの同行関係を繋ぎ止めていたのは、ナギの存在に他ならない。彼女に危険が及びやすい状況が生まれてしまえば、それはハヤテが自分を裏切る危険性も比例的に増していくということだ。現に、ナギに迫っているかもしれない危険を伝えたハヤテは、仮に目の前に居ようものなら真に襲いかかりかねないほどに血走った目をしている。
当然、ハヤテとしても、提案がお嬢さまを守ることに繋がるとなれば反対できない。むしろ、最初からこうなることを望んでいたかのようにも思えてしまう。
「では、そちらの道具とデュラハン号を交換するということで。取引、成立ですね。」
「……はい。ですが、お気を付けて。」
間もなくして、ハヤテは負け犬公園へと向かって行った。岩永を乗せていた時よりもさらにいっそうギアのかかった、文字通り『疾風』の如き速度。配慮を求めたあの時も全力ではなかったのか、とハヤテの脚力に改めて驚愕を見せる。
「……できることならば、また会いましょう。」
岩永の放った声が、虚空に消えていく。文字通り音を置き去りに走り去ったハヤテに、その言葉は届かなかった。
535
:
共に沈めよカルネアデス(前編)
◆2zEnKfaCDc
:2021/11/18(木) 21:30:42 ID:2dE7nyjY0
■
時はいま一度、冒頭の場面に遡る。
岩永の和解の申し込みを受けて、真は思案を巡らせていた。実力行使に出ることは難しくない。先ほど岩永が用いた電撃を発生させる何らかの装置は確かに驚異であるが、それが支給品の力であるならば、岩永を殺せばそれが自分や、自分を含む怪盗団のための道具として利用できる。何故か殺人者だと気付いた風の岩永の口封じも兼ねて、このまま岩永を処理できるのは理想の流れだ。
しかし岩永としても自分を殺人者に見立てた上でこうして現れているのだから、そのリスクも承知の上だろう。その点について何も対策を仕込んでいないとは到底思えない。
「……あのねぇ。和解も何も、そもそもあなたが勝手に私を殺人者呼ばわりしたんでしょう?」
しかし様子見を選ぶにしても、殺人を認めるのは真にとって好ましくない。それを認めてしまえば岩永の言い分が全て正しかったことを認めるに等しく、仮に岩永の提案通りに和解する道があるにしても、こちらに有利な条件を出すことはほぼほぼ不可能になる。
そしてそもそもの話、だ。未だ真は、何ら殺人の証拠を提示されたわけではないのだ。それならば、『一方的に言いがかりを付けられ、その訂正に来た』の体を装うこととて、それ自体は無理筋ではない。もしも岩永が何らかの証拠を握っているのであるとしても、それを提示するまでは譲歩しない。岩永が求めているのが和解である以上、紛争の前提となる証拠を提示する義務は向こうにあるのだ。
「私は誰も殺してなんかいない。この一件は完全に貴方が先走っているだけよ。」
もちろん、完全なる嘘っぱちだ。すでに真は影山律を不意打ちで殺害しているし、先のルブランでの一件とてハヤテと岩永を殺害しようとしていたのも事実だ。
確かに律は、真を裏切って殺す算段を心内で打ち立てていた。真が心の怪盗団の不殺の信念に従い、律と共に主催者を打倒して脱出を目指していたとするならば、屍となっていたのは真だったかもしれない。結果だけを見るならば、真の行いは正当防衛に近しいものだ。しかし、律の思惑を知らなかった以上、少なくとも確定した現実において真は無実の少年を殺した罪を背負っているし、本人もその事実を認識している。
だが、その認識の上で。真はさらに岩永を騙そうとしている。自身を死神に殺された悲劇の少年の死を看取った者に置く、虚構の物語で丸め込もうとしている。
「ええ、その可能性も充分にあるでしょう。あなたは複数人分所持している支給品は、刈り取るものに襲われた律という少年を看取った時のものだと言いましたが、私はそれを嘘だと断じることはできません。もしかするとあなたの言ったことが全て真であり私が勝手にあなたを警戒して止まないだけかもしれない。」
そして現に、それを否定するだけのものを岩永は持たない。そもそも真を殺し合いに乗ったと断じたことに、何ら具体的な根拠があったわけではない。言ってしまえば、その由来は印象論という山勘に過ぎない。ここが現世であったならば、知恵の神として怪異・あやかしの類と連携し、確たる証拠を押さえることもできただろう。或いはより精巧な調査をする時間さえあったならば、真の真意をより正確に掴むことも可能だっただろう。しかしここは万物に宿る妖怪を排除された認知世界であり、同時に時間制限付きの殺し合いの世界でもある。
「ですがそんなこと、最初からどちらでも構いません。先のみならず、現段階においてもその正誤を問うつもりはありません。……ただ、これだけは言える。」
ただ、仮に影山律を看取ったのではなく殺していた場合も、そこの真実の判断がつかないこと。証拠を用意できず、虚構を語れる舞台は真の側に整っている。
536
:
共に沈めよカルネアデス(前編)
◆2zEnKfaCDc
:2021/11/18(木) 21:31:16 ID:2dE7nyjY0
なればこそ、岩永はその土俵に立たない。
「私が見てきた限り、あなたは理性的な人間だ。少なからず無礼を働いた私に対し、殺し合いを許された場においてこうして落ち着いた対応を取っていることからもそれは明確です。そして、私があなたをそう評価しているからこそ、こうして交渉のテーブルを用意するに至ったのです。……そして同時に、私はこうも評価している。あなたは真顔で嘘が吐ける、と。少なくとも私はあなたの語る虚構を、直感では見抜けない。この認識が私にある以上、あなたの語る言葉は私の警戒を解くに値しません。」
「……そう。随分と高く見られたものね。」
それは、おかしい。
岩永の言葉に理を認めるとすると、岩永がこの場に和解を申し込みに来ていること自体と矛盾する。自分の言葉が岩永を信頼させるに足りないのであれば、そもそも言葉の上での和解など理論上、出来ようはずもない。その和解に、口約束以上の効力を持たせられる執行者はこの世界に存在していないからだ。むしろ、唯一執行者足り得る姫神こそが、その裏切りとそれに伴う殺し合いこそ要請しているとすら言える。
「じゃあ、聞かせてもらえないかしら。そこまで警戒している私とわざわざ談合する目的は何なのか。」
だからこそ、真としてはそれを聞く他なかった。岩永が明確に筋の通った行動方針を貫いていることはこれまでの語りから少なからず分かる。それだけの一貫性ある頭脳をもってして、その論理矛盾に気付かないはずがない。ならばその矛盾を解消する理論は間違いなく存在しているのだ。さもなければ和解の提案そのものが無意味であるから。それが何であるのか、知らないままには岩永を殺せない。殺されるリスクを承知で岩永がこの場に臨んでいる以上、向こうには何かの交渉材料があるはず。
そして、岩永を直ちに殺そうとしないのなら、殺し合いに乗っていないフリをするのが自然だった。乗ったことを認めれば、そのような嘘をつく道理がないためにそれは事実として確定してしまう。殺し合いに乗っていないと言い張っているからこそ、背負った罪の量高において対等である岩永から情報を聞き出すことができるのだ。
(ここまででボロは出していない、はずだけど……)
客観的に見て、岩永を殺さないことも、殺し合いに乗っていることを認めないことも、真の行動は理にかなっている。だが、どちらもあくまで消去法で導き出されたものでしかない。岩永を殺して死人に口なしと言えたなら、それに越したことはないのに。だが岩永がそれを警戒していないはずがないからこそ、こうしてただ岩永の話を聞くことしかできなくなっている。
まるで、岩永にそう誘導されているかのごとき進行具合が、どうも不気味に思えて仕方がない。
そして岩永は、静かに語り始める。そして同時に、開かれるは怪盗攻略議会。論者はただ二人、怪異たちの英智を司る知恵の神と、女王の名を冠する怪盗団の参謀。一方で、傍聴人は一人としていない。二人の語る虚構を真実をもって指摘する者は、どこにも存在しない。まるで幻影のように、真実は覆い隠されている。
537
:
◆2zEnKfaCDc
:2021/11/18(木) 21:33:01 ID:2dE7nyjY0
前編投下終了です。
後編も近く投下します。
>>526
に加え、桂ヒナギクを追加で予約します。
538
:
◆2zEnKfaCDc
:2021/11/18(木) 21:39:47 ID:2dE7nyjY0
一点修正します。
>>533
の冒頭
「ええ、危険です。しかしこの6時間で13人が死んだことが示している通り、このパレスと呼ばれる世界にいること自体が少なからず危険なものなのですから、リスクを承知で動くことに価値はあります。」
の台詞の「13人」の部分を「7人」に修正します(表裏ロワかゲームロワの死亡人数が混ざっちゃいました)
539
:
◆2zEnKfaCDc
:2021/11/25(木) 02:30:53 ID:Zupfd7Zs0
予約を延長します。
540
:
◆2zEnKfaCDc
:2021/11/29(月) 20:33:02 ID:jig807Q60
後編を投下します。
541
:
共に沈めよカルネアデス(後編)
◆2zEnKfaCDc
:2021/11/29(月) 20:33:44 ID:jig807Q60
「あなたは、殺し合いに乗っていないと言いました。」
「でもあなたはその言葉を信用できないんでしょう?」
開口一番に発された言葉は、和解とはほど遠い険悪なものだ。しかし岩永の言葉が理不尽な言いがかりであると主張する以上、そこで真は引いてはならない。
「ええ、その正否は分かりません。……しかし、あなたがこの殺し合いに『乗らない』選択肢を少なくとも現実的に取り得ると見ていること、それだけは分かります。」
「……どういうこと?」
「考えてもみてください。現状、私たちは爆弾付きの首輪を嵌められて殺し合いを強制されているんです。
ここで我が身が最も可愛い正常な人間であれば、生き残るために誰かを殺す選択をする。それならば、『乗らない』選択肢などそもそも脳内に生まれ得ないものですよ。
……にもかかわらず殺し合いに乗らない選択肢を選ぶ人間には、ふたつの理由が考えられます。他者を殺してまで生き残りたくなく、生を諦めているか――或いは、殺し合わずとも脱出ができる可能性に賭けているか。
そしてその規範は当然に、殺し合いに乗らないことを詐術に用いる者にも存在しています。」
真の語った殺し合いへのスタンスは、嘘である。そして岩永はその嘘を嘘であると断定できない。しかしそれが嘘であるという仮定の下では、真が、その嘘をもって他者を騙せると判断したこと。それは紛れもない真実として岩永に提示されているのだ。それは、真の中に『生き延びるためであっても他者を殺したくない』という意識規範があること、もしくは真が『脱出の可能性とて現実的なものと考えている』ということに他ならない。
「……つまり、仮に私が殺し合いに乗っていた場合であっても、殺し合いに乗らないことを平常として謳えるだけの意識が私の中にある――そう言いたいわけね?」
「ええ、話が早くて助かります。その意識が小なりともあるのであれば、仮にあなたが殺し合いに乗っているとしても、交渉の余地は充分にある。つまり私がすべきは、殺し合いに乗らないことのメリットが乗るメリットを上回ること――もとい、殺し合いに乗るデメリットが乗らないデメリットを上回ることを提示することに他なりません。」
「……回りくどいことをするのね。私は最初から乗っていないのだから、そんな小細工は必要ないのに。」
「だとしたら、私の用意した回答はあなたへの無礼も相当に含むでしょう。何故なら私は、乗らないことのメリットだけでなく、乗ることのデメリットも用意してきたから。……それはある種、あなたへの『脅迫』を意味します。」
頭角を現した本題を前に、真はため息を漏らす。全てを見透かすがごときこの少女が前に立ち塞がっている地点でろくな話じゃあないと想像はしていたけれど、それがハッキリと明示されたのだ。
「……ホント、厄介な相手に捕まったものね、私も。」
それだけではない。少なくとも岩永が語る予定の語りの中には、殺し合いに乗ること――すなわちこの場で岩永を殺すことに、何らかのデメリットがあることをあらかじめ提示されたのだ。その地点で、それが何であるか問い質さないことには真は岩永を殺せない。
「では……まずは定義を確認しておきましょうか。私の言う『和解』とは、不干渉ではありません。殺し合いを打破するために以降の行動を共にし、情報を共有することまでを含みます。」
岩永がまず切り出した内容は、さっそく譲歩できないところだった。真の目的は、心の怪盗団『ザ・ファントム』の存続、すなわち怪盗団全員の生還にある。放送によれば彼等はまだ誰も死んでおらず、まだその目的はくじかれていない。みんなが生還できるのなら、心の怪盗団以外の他者と手を組むこととて選択肢に入るのは真のスタンスからして間違いない。
542
:
共に沈めよカルネアデス(後編)
◆2zEnKfaCDc
:2021/11/29(月) 20:34:10 ID:jig807Q60
「まずはそのメリットを提示しておきましょうか。私はこの殺し合いの主催者、姫神葵の裏にいるであろう人物を知っています。」
「……! それ、確かなの?」
それを聞いた真の表情が驚愕に染まる。真には全く裏の読めていないこの殺し合いに、姫神以外の人物が関与していることを岩永は確信しているのだ。
仮に名簿に明智吾郎の名が無かったら、彼の関与を疑っていたかもしれない。仮に明智についてもう少し調査が進んでいれば、獅童正義やその軍門の関与を疑っていたかもしれない。仮に世界の真実に辿り着いていたならば――統制を担う聖杯の関与を、察知していたかもしれない。
真は、そのどれでもなかった。姫神葵という人物にこそ面識は無かったが、世を賑わす心の怪盗団であるというだけで誰からでも狙われる原因ならば有している。
「少なくとも私はそう確信しています。放送の主が姫神の声でなかったことから、主催側が一枚岩でないことは容易に想像つきますし。」
「一体、それは誰なの?」
口から出まかせだとは思えないが、現状、岩永と真の情報交換において、岩永は自身の持つ情報をほとんど出していない。興味ありげに質問で返す真。
(……この名簿に鋼人七瀬が載っている地点で、彼女に自身の存在を秘匿する意思はない。それなら、名前を出したくらいで首輪を爆破されることはないでしょう。)
少しだけ、考える風な表情を見せた岩永であったが、間もなくして口を開いた。
「――桜川六花。世の秩序に干渉してでも己が目的を叶えんとする者です。」
「……抽象的すぎて分からないけど……要は悪党ってことよね。」
「今はまだ詳細は伏せますが……ひとまず、これで情報の前払いということで。ところで、桜川六花の名前に聞き覚えはありますか?」
「いいえ、特に無いわね。強いて言うなら、桜川の苗字は名簿にあったかしら。」
名前だけでなく、イセカイナビを取り戻した時に、桜川六花なる人物がいかなる認知の歪みを有しているのか、その内容となるキーワードも手がかりがあるのであれば手に入れておきたいところだ。少なくとも、真の最終的な目標は優勝ではなく姫神の改心にある。しかし奴に協力者がいるというのなら話は変わってくる。姫神だけでなくその人物もまた改心の対象であるのだから、その人物の情報を知る者がいると言うのならば、協力する理由にもなるだろう。
あえてその選択肢を遠ざけている理由として、真たち怪盗団の現状があった。改心後の会見中に廃人化し、そのまま死亡した奥村邦和の一件。それ以来、世間における心の怪盗団の信用は地に落ちたと言っても過言ではないのだ。
特に最初の会場で姫神は、竜司を怪盗たる集団に属する者であると実質的にカミングアウトした。厳格には心の怪盗団であると言われたわけではないが、怪盗と言えばそれを示すのだという世論は形成されてしまっている。仮に対主催者の集団ができたとしても、少なくとも正体がバレている竜司は爪弾きにされる可能性が高いのだ。
ではそうなった場合に、心の怪盗団のメンバーは竜司を見捨てるか? 否、彼等は、そして真自身とて、絶対にその選択を取らない。竜司が対主催集団から孤立するのであれば、それらと敵対してでも竜司の側に付くだろう。それが弱気を助け強きをくじく怪盗団の反逆の意思であり、それがかつての真を救った怪盗団の誓約であり、そしてそれが真が居場所であると感じている怪盗団の信念なのだから。
543
:
共に沈めよカルネアデス(後編)
◆2zEnKfaCDc
:2021/11/29(月) 20:35:07 ID:jig807Q60
だから、対主催同士であったとしても怪盗団のメンバー以外と組むのは困難だという認識は真の中に存在する。そして、なればこそ敵対者の淘汰という結論がある。怪盗団と敵対し得る勢力を残すくらいなら、最初から怪盗団の礎にする方が合理的だ。真が殺し合いに乗っている考えの根底には、世間が怪盗団を見る目への不信が根付いている。
「私から提供できる協力のメリットはこの情報にあります。逆に私を殺すと、主催者に繋がる情報を得られる機会は喪失するともいえます。」
百歩譲って、岩永が心の怪盗団の支持者、もしくはそれを受け入れる度量の持ち主だったとしよう。そうすれば、彼女自身とは協力していけるかもしれない。しかし、彼女が増やしていくであろう他の協力者についてはそうではない。岩永が自分だけでなくさらに他の者たちとも協力するスタンスを取るのであれば、必ず怪盗団に不信を抱く人物も存在するだろう。
「……しかし、これだけでは不十分です。何故なら、私が私の持つ全ての有力な情報を提供したならば、私を生かしておく価値がなくなる。つまり私は、常にあなたに与えられる情報を温存しなくてはならないことになる。」
「だから、私はそんなこと――!」
言い返そうとした時、真は気付いた。少なくとも殺し合いに乗っていないと謳っている以上、協力を要請する岩永の言葉には、全て二つ返事で返すしかないということに。殺し合いに乗ることのデメリットとやらの話に語りが進んでいないから、問答無用で殺す選択肢が取るに取れない。つまり真としては岩永の話を、基本的には黙って聞く他ないということだ。様々に言い分を許しつつも、最終的には「本当に殺し合いには乗っていないのだから構わない」の常套句で許容しなくてはならない。
「……いいえ、何でもない。」
それの何が和解だ。まるでこれが対等な話し合いであるかのごとく進行させているが、真の反応は最初から誘導されている。何を主張しようとも、自分が真顔で嘘をつけるという前提に岩永が立っている以上、この場では自分の語る真実に力はない。一切の反論が、許されていない。
そう、これは――言うなれば、推理だ。探偵が容疑者を集め、それぞれに納得のいくように言論を進めていくかのごとく進行しつつも、しかしその導線はすべて犯人を追い詰める、ただそれだけのために敷かれている。議論の進むべき道は最初から決まっている。
確かに、その予兆は最初から感じていた。わざわざ姿を現した岩永の意図が読めず、迂闊に殺せないこと。そして、殺せないがために殺し合いに乗っていないフリをするしかないということ。消去法的に選ばされた行動の、まるで全てが岩永の思う通りに誘導されているかのような。
544
:
共に沈めよカルネアデス(後編)
◆2zEnKfaCDc
:2021/11/29(月) 20:35:39 ID:jig807Q60
「……いや、待って。」
――気に入らない。
"推理"を語る岩永が初めから潔白であるかのように見なされる土台がそこにあることが、気に入らない。
「そもそもこの談合には、重要な視点が抜け落ちているわ。」
"探偵"こそが正義であると誰が言ったか。
"探偵"は真実を語ると誰が決めたか。
「だってそうでしょう? あなたが私に取り入って、私を背後から撃つつもりである可能性は否定できないじゃない。」
岩永と対等であるというならば、真の側にも疑念を発露する余地がある。岩永が真を警戒するが故の討論ならば、真にも同等の主張をする権利がある。殺意の無い証明を成すことが無理難題であればこそ、二人の邂逅はこうして捻れているのだ。
「そもそもの話、殺し合いに乗らないにあたっての同行者が欲しいのならさっきまで一緒だった綾崎ハヤテでも良かったはずよね? にもかかわらずあなたは私に接触し……同時に彼はこの場にいない。その地点で、彼がすでにあなたに殺されている可能性まで浮かんでくるわ。」
真はさらに続ける。岩永との討論においてようやく見出した優位性だ。自らの置かれた立場が不利であったのならば、その立場を反転させてしまえばいい。
(綾崎ハヤテを切り捨てた理由……深堀りされると都合が悪い。)
一方、岩永がハヤテを一人で行かせた理由は、三千院ナギを最優先とするハヤテのスタンスが時に己の安全確保と衝突し得るからだ。しかしその真実を語るのは、後に紡ぐ予定の虚構との折り合いがつかない。少なくとも綾崎ハヤテの行動の手網は、岩永がある程度握れる立場にあることは仄めかしておく必要がある。
「確かに、私とて殺意が無いことの証明はできません。でも、私はその上であなたと協力体制を築くことを最優先としたいのもまた確か。」
真は、パレスとは何であるのか、その知識を有している。仮に現状、殺し合いに乗っているのだとしても、脱出のために動いてもらうだけの理由がある。だからこそ、真の協力を得ることを最優先事項に据えた一手を打つ価値がある。
「では、これでいかがでしょうか。」
「っ……!」
岩永が懐から取り出したのは、かつて九郎の力を借りて処分に当たった隕石の欠片。それから発される電撃の威力は真もすでに知るところであり、岩永を殺してでも奪う価値を見出してすらいる産物だ。真は一歩引いて、岩永の出方を伺う。
もしも発射しようものなら、電撃ごとヨハンナで打ち払えるよう準備して――
545
:
共に沈めよカルネアデス(後編)
◆2zEnKfaCDc
:2021/11/29(月) 20:36:14 ID:jig807Q60
「ちょっと、何を――!」
しかし岩永がもう片方の手に握ったものを確認するや、真はその顔を驚愕の色に染めた。
――パキィンッ!
次の瞬間、ハヤテから受け取った支給品、クルミ割り器が隕石の欠片を粉々に砕いた。基本支給品である腕時計のベルトに用いられた絶縁性のナイロンを挟み込むことで漏電を起こすこともなく、電撃発生装置としての役割を失った欠片がその場に零れていく。
「っ……!」
「これで、私があなたを物理的に害する手段は失われました。」
隕石の欠片の破壊の意味は、武装解除に留まらない。有用な支給品の奪取という、真が岩永を殺すに足る理由のひとつが失われた。
そもそも、岩永琴子は秩序を重んじる知恵の神である。本来、宇宙的な怪異の産物である隕石の欠片に秘められた電撃の力は、否定して然るべきものに他ならない。
桜川六花の企みを阻止するという目的の下に桜川九郎の人魚・くだんの力を利用しているように、その力の持ち主に殊更秩序を破壊する目的が見られず、かつ一定の妥当性・必要性があれば秩序に反する力を利用することも視野に入れないではない。その一方で、その力を封じることにこそ、真への武装解除という明確な理由が生じている今、隕石の欠片を破壊することにも何ら躊躇する理由はない。むしろ、秩序維持を生業とする知恵の神の本分であるとすら言える。
「……どうかしてるわ。」
だが、そんな事情など真は知らない。知る由もない。支給品に人の命以上の価値を置いて、怪盗団のためにそれを確保しようとしている真にとって、岩永の行動は狂気じみたものにしか見えない。
「私のことを警戒していると宣っておきながら、その一方で私への抵抗手段を自ら捨て去るなんて。」
そして、その手段を真には到底、真似出来ないのだ。他者を殺してまで集めた支給品を捨てることはもちろんであるが、己の心の一部であるペルソナは物理的に武装解除が出来ない。たとえヨハンナが、岩永にはただのバイクに見えていたとしても、そもそもバイク自体が充分に凶器であると見なせるのだ。
確かに、目の前で支給品を砕いた岩永とてペルソナ、もしくはそれに準ずる異能の力を持っていないとは限らない。だが、真はその疑問を岩永にぶつけることはできない。一般人には到底浮かびえないその疑問を呈すること自体が、自分が異能の力を持っていることのカミングアウトと同義だ。
別にペルソナはバレてはならない類の力というほどではないが、それは律を殺害した力。万が一ルブランを訪れる前の岩永が律の死体を目撃していたとしたら、彼に残った傷跡と照合するなどして彼の殺害が発覚しかねない。
そして丸腰となった岩永は、再び口を開く。
「確かに私は、この談合はあなたへの脅迫でもあると言いました。しかし、脅迫材料が武力であるなどとはひと言も言ってませんよ。」
「……じゃあ、何だって言うの。」
着地点は、未だ見えない。しかし真は、思い知ることとなる。着地点を遠くに見据えた岩永琴子のやり口を。
「――この場にいない綾崎ハヤテ。それこそが、私があなたに提示する脅迫材料です。彼がこの場にいないからこそ、仮にあなたが殺し合いに乗っていたとしても、あなたは私を殺せない。」
言葉の刃を振りかざしながらも、片や見えないところで猛毒を注入するかのごとく――
「つまり……武器は彼に預けている……そういうこと?」
「いいえ。あの自転車は確かに彼に譲り渡しましたが、武器として渡したものは何もありません。
この談合に当たって私が彼に与えたのはただ一つ、言伝です。その内容は、以下の通り。」
546
:
共に沈めよカルネアデス(後編)
◆2zEnKfaCDc
:2021/11/29(月) 20:37:45 ID:jig807Q60
――最後の一撃は、指し示された。
「『放送で岩永琴子の死亡が確認された場合、新島真、ならびに彼女の仲間と思われる怪盗の名を冠する集団、その全員を危険人物として他の参加者に周知せよ。』」
――真っ赤な嘘だ。
ハヤテに対し、岩永の死後の言伝などされていない。仮にそれがなされていた場合、進んで死に向かうかのような岩永の行動を、ハヤテはむしろ躍起になって止めていただろう。
「そんなっ……」
言葉の上ではともかく、行動の上で岩永は何も真の実力行使に対する対策を練っていない。しかし、仲間の居場所が脅かされかねないその虚構は、真に致命的なひと言を、言わせてしまった。
「――みんなは……関係ないじゃないっ!」
直後、真は自分の発した言葉にハッとしたように、慌てて口を押さえた。だが、手遅れだということはその場の空気が物語っている。姫神に怪盗の肩書きを暴露された竜司と真の繋がりが――世間的に悪と見なされている怪盗団であることが――岩永の前に露呈してしまった。
ただし、現実として心の怪盗団を知らない岩永にとって、それはさしたる問題ではない。
「……。」
「ともかくこれで、あなたは私を殺せない。さらには、見捨てることもできない。私があなたと関係ないところで死んでも、綾崎ハヤテにそれを区別することはできませんから。」
何より、武力で圧倒的に上回っていながら口封じもできないのがもどかしい。岩永の仕掛けた爆弾が爆発するのは、岩永を殺したその時である。
怪盗団以外を死の海に蹴落としてでも、怪盗団の皆だけは守りたい――真のそんな決意に、鉄の鎖で巻き付くのごとく、岩永は己の命を怪盗団の命運に結び付けたのだ。
「……これで私が本当に乗っていなかったら……ううん、事実乗っていないのだから、随分な不義理を働いてくれたものじゃない。」
「人殺しすら許容される空間で、今さら何を言いますか。」
547
:
共に沈めよカルネアデス(後編)
◆2zEnKfaCDc
:2021/11/29(月) 20:38:13 ID:jig807Q60
岩永としても、真以外に原因を置く自身の死によって、真や怪盗団に不当な不名誉を被せるのは面白くない。真が自分を殺すことさえ封じられれば、ひとまず同行関係は築けるのだから、それで良い。
だからこそ、その不義理をも『岩永琴子ならやりかねない』とまで思わせるために、ルブランでは根拠の揃わぬ内に真を殺人犯と糾弾した。証拠もなく、疑惑の段階で真相に先走り得るという印象を真に植え付けた。
その一方で、岩永は真を殺人犯だと明らかにした根拠を『女の勘』と曖昧にしか説明していない。仮に岩永の死亡が次の放送で明らかになった場合、ハヤテは真を警戒することはあっても、確信を持って殺人犯だと触れ回るようなことはないだろう。
ただ一つ、不安要素があるとするならば、『ハヤテごと口封じができるのなら真は岩永を心置き無く殺せる』ということだ。ハヤテが負け犬公園に向かうことは真も想像している通りだろう。岩永を殺害し、負け犬公園でナギの捜索をしている最中のハヤテの口封じに向かうことが、岩永の推理に対する最大のカウンターであった。
「……そして、これまで長く話してきたことにより、すでにハヤテさんは負け犬公園の探索を終えている頃でしょう。ナギさんを見つけられていれば良いですが……どちらにせよ、捜索を終えた彼がどこに向かっているか、もう私たちには分かりません。」
だからこそ、あの脅迫を語りの最後の一撃に据えた。真が現状に気付いた時に、ハヤテを追う猶予を与えないために。
――怪盗攻略議会は、今ここに終結を迎えた。
和解は、成功。真は岩永を殺せない状況が形成され、そして心の怪盗団のブレインと妖怪怪異の知恵の神が、主催者への反逆のために情報を統合するに至った。ふたつの世界の叡智が揃うこの談合は、殺し合いの世界を打ち破る鍵となるか。
548
:
共に沈めよカルネアデス(後編)
◆2zEnKfaCDc
:2021/11/29(月) 20:38:48 ID:jig807Q60
【D-4/草原/一日目 朝】
【岩永琴子@虚構推理】
[状態]:健康 義眼/義足装着
[装備]:怪盗紳士ステッキ@ペルソナ5
[道具]:基本支給品ㅤクルミ割り器@ハヤテのごとく!
[思考・状況]
基本行動方針:秩序に反する殺し合いを許容しない
一.不死者を交えての殺し合いの意味は?
二.九郎先輩と合流したい。
※綾崎ハヤテと三千院ナギの関係について大体を聞きました。
※鋼人七瀬を消し去った後からの参戦です。
※この会場がパレスと呼ばれる認知の世界が混ざっていると知りました。
※新島真は暗所恐怖症だと勘違いしています。
※新島真ならびに正義の怪盗団は何かしらの異能の力を有しているのではと推測しています。
【新島真@ペルソナ5】
[状態]:健康 焦り(大)
[装備]:アーザードの聖法衣@小林さんちのメイドラゴン
[道具]:基本支給品×2 不明支給品(0〜3) 影山律の不明支給品(0〜1) さやかのバット@魔法少女まどか☆マギカ マグロバーガー@はたらく魔王さま!×2
[思考・状況]
基本行動方針:心の怪盗団全員で生還する。
1.双葉……頼んだわよ……。
2.明智を見つけたら、殺して自分の罪を被ってもらおう。
※ニイジマ・パレス攻略途中からの参戦です。
※ハヤテの探し人(三千院ナギ)を知りました。
※ハヤテ・岩永の関係する場所を知りました。
【支給品紹介】
【クルミ割り器@ハヤテのごとく!】
綾崎ハヤテに支給され、岩永琴子に渡った。
三千院家で使っていたクルミ割り器。豪華な意匠が施されており、おそらくは高級品と思われる。
549
:
共に沈めよカルネアデス(後編)
◆2zEnKfaCDc
:2021/11/29(月) 20:39:24 ID:jig807Q60
■
岩永がいなくなった今、空いたハヤテの背中には代わりのものが収まっていた。聖剣デュランダル――煌びやかに輝く装飾の成された抜き身の剣。何ら意思を持たぬその剣を前にして、移動速度に気を使う必要など一切ない。お嬢さまの身の安全、ただそれだけを考慮し、保護にのみ走るのであれば、探索及び敵の排除の両面で岩永以上に優れた相棒であると言えよう。
ハヤテの方針にとりたてて大きな変化はない。ただ、武器を背負いながら二人乗りができなかったからこれまではザックにしまっていたものを、岩永との別れによって所持し始めたというだけに過ぎない。強いて言うならば、この世界では誰もが大なり小なりしている武装を強くしたというだけだ。だが、それはあくまで大まかな方針の上での話だ。
お嬢さまの幼なじみである彼女が死んだ。
お嬢さまよりも遥かに強いゴーストスイーパーである彼女が死んだ。
取り留めのない日常をお嬢さまと共に過ごしてきたはずの彼女が、死んだ。
その事実と向かい合えば向かい合うほど、現在進行形で何かが崩れ去っている実感が抜けない。伊澄の死による焦燥は、確かにハヤテの心に深く根差していた。その背に主張する刀剣は、紛れもなくその表れと言える。
「――着いたっ!」
元は最速の自転車便と呼ばれた男である。目的地である負け犬公園に到着するのに、さほど時間は要さなかった。開放された門をくぐり抜け、急ブレーキを踏み込み停止する。
――その瞬間。
「わっ……!!」
急ブレーキによって機体にかけられた負荷によってデュラハン号は空中分解した。
デュラハン号は元を辿れば、一文無しで日本に降り立った真奥貞夫が、得始めたばかりの僅かな収入を振り絞って購入した格安自転車である。さらには、二人乗りやハヤテ特有の高速運転で機体のキャパを超えて強引に乗り回したこと。すでに、限界を迎えていた。
550
:
共に沈めよカルネアデス(後編)
◆2zEnKfaCDc
:2021/11/29(月) 20:40:03 ID:jig807Q60
「……くそっ!」
デュラハン号から叩き付けられ地面に叩き付けられても、まるで何事も無かったかのように立ち上がるハヤテ。新幹線から振り落とされた上にトラックに轢かれても無傷で立ち上がるまでの頑丈な肉体は、その程度で壊れはしない。だが、お嬢さまを探す効率を格段に高めていた自転車は壊れてしまった。
もっと言えば、デュラハン号は岩永さんと取引したものだ。彼女と離れ離れになった上にこうしてデュラハン号まで失って――ああ、この殺し合いにおける彼女との絆はもう、失われてしまったのだと、そう思わずにはいられなかった。
(……何としても、守らないと。)
もはや僕は今、岩永さんを捨ててここに立っている。もちろん、それを提案したのは向こうからだ。だけど裏切りを考えていたことは事実であり、さらにその想像の通りにことが進んでいることもまた現実。心の上では、岩永さんを切り捨てたのは僕だ。
決意と共に背中の剣を手に取る。お嬢さまを脅かす敵がいるならば、すぐにでも、1秒でも早く敵を殲滅して、お嬢さまを守れるように。
真っ先に向かったのは、自動販売機前。お嬢さまの誘拐を企てた己の過去の戒めの場所にして、お嬢さまと出会った思い出の場所。
「っ……!」
そこは凄惨な有り様だった。肝心の自動販売機は側面からの衝撃で大きくひしゃげている。周辺の遊具や木々もおびただしい数の裂傷のようなものが刻まれている。
もしお嬢さまがこの場所を目指していたら。そしてそのまま留まっていたとしたら。この破壊を実行した危険人物と出会わずに済むとは思えない。実際、その惨状を作り上げた人物である佐倉杏子は殺し合いには乗っていないのだが、少なくとも負け犬公園の現状からそれを推察することは不可能だ。
「――お嬢さまっ!ㅤいらっしゃいませんか!」
負け犬公園の自動販売機は、これまでの日常を共にしてきた光景のひとつ。そして、そこに刻まれた破壊の痕。これまでの日々は決定的に破壊されてしまったのだと、嫌でも思い知らされてしまう。
「お嬢さま……お嬢さまああああっ!」
剣を握った手を血が滲むほど強く握り締めながら大声で叫んだ。当然、その相手はここにはいない。そのためその叫びに返す者など、いるはずもなく。お嬢さまがいると予測していた地点に大破壊がぶちまけられていたことも含め、焦燥感ばかりが膨らんでいく。
だが、どれだけ叫び見回そうとも、お嬢さまの姿は見つからない。もしかしたらどこかに隠れているのかもしれないと、園内のランニングコースへと向かい、駆け出す。
しかし、間もなくぐるりとひと回りを終えても、何の成果も得られない。公園内のどこに身を隠していても、ハヤテの声または視線が届かないはずがない。
お嬢さまは負け犬公園にたどり着いていないという、ただただ無情な結論だけがそこに示された。
551
:
共に沈めよカルネアデス(後編)
◆2zEnKfaCDc
:2021/11/29(月) 20:41:27 ID:jig807Q60
「そんな。それじゃあ……」
それはお嬢さまがいる可能性が最も高い場所、つまり唯一の手がかりが潰えてしまったことに他ならない。他の場所を探そうにも、お嬢さまがいる可能性が高いと推測できる場所はない。現在進行形で負け犬公園に向かっている可能性もあれば、殺し合いの開始から負け犬公園から遠く離れた場所にいて、体力的に向かうことすら諦めている可能性だってある。この場に留まるか、それとも探しに行くか。仮に行くとして、どの方角に向かうか。いかなる行動を取ろうとも、お嬢さまと出会える確率が最も高い場所など想像が及ばない。岩永さんなら何かしらの根拠の元にその答えを導き出してくれたかもしれないが、彼女とはすでに別れている。
公園を一蹴した後に自動販売機前に戻ってくると、そこには当然のようにデュラハン号の残骸があった。せめてこれさえ使えたならば、しらみ潰しに探すにも効率的に行えていたはずだ。しかしチェーンが千切れてペダルの折れたその鉄くずにその役割がもう果たせないのは明白だった。
「ああ、もうっ!!」
ㅤたまりたまったモヤモヤを叩きつけるように、手にした剣をひと凪ぎ振り下ろした。その剣の『何でも斬れる』という評価は決して飾りではなく、鈍い音と共にデュラハン号の残骸は両断される。
「まったく、どうしていつもいつも……!」
まるで、呪われているかのように立て続けに起こる不幸。鉄くずを刻んだところで、苛立ちは癒えない。お嬢さまを探す過程でランニングコースを全力疾走で駆けてきたために呼吸は荒くなっており、息苦しさが感情の昂りをさらに加速させる。
ハヤテの脳内を占めているのは、お嬢さまの行方だけだった。だから、考えもしていなかったのだ。負け犬公園という地を目指し得るのは、お嬢さまだけではないということを。
そして――
552
:
共に沈めよカルネアデス(後編)
◆2zEnKfaCDc
:2021/11/29(月) 20:41:59 ID:jig807Q60
「ハヤテ君?」
――今の自分が客観的に見て、いかなる様態を晒しているのかということを。
「誰だっ!?」
その声に反応し、咄嗟に振り返る。手にした剣を構えながら。その剣幕に一瞬怯みつつも、声をかけた少女――桂ヒナギクは、想い人でもある執事と向き合った。
「ヒナギクさん……。」
負け犬公園に辿り着いたヒナギクが見たのは、植え込みから自動販売機に至るまでことごとく残された破壊の痕――そしてそれを前に、鉄くずに当たり散らし、負け犬公園の中に存在するオブジェクトに新たなる裂傷を刻み込むハヤテの姿だった。
「良かった、無事だったんですね。」
「……その前に。事情を聞いてもいいかしら?」
駆け寄ろうとするハヤテを静止して告げるヒナギク。そこでようやく冷静になったハヤテが、今の自分を取り巻いている状況に気付く。公園内をめちゃくちゃにしたことまで自分の仕業であると、勘違いされているのではないか、と。
「っ……! 違うんです、これは……!」
「……言葉にしなくても分かってるわ。」
「……えっ?」
「ここに残っているほとんどのキズはその剣よりも細いもの。剣と言うよりは、槍のようなもので付けられたように見えるわね。」
誤解は、生じない。誰が呼んだか、完璧超人。その観察眼も一般的な女子高生の域を優に超えている。
「はい!ㅤだから……」
「……でも、私はその上で。ハヤテ君の現状を看過できないの。」
しかし、なればこそ。ハヤテの精神状態が危うい状態にあることも、理解していた。
「らしくないじゃない、やたら焦って。何かあったの?」
「……まあ、これはヒナギクさんも分かっていることでしょうけど……」
553
:
共に沈めよカルネアデス(後編)
◆2zEnKfaCDc
:2021/11/29(月) 20:42:29 ID:jig807Q60
伏し目がちになりながら語るその様子に、ヒナギクには次の言葉が概ね、予想がついた。そしてその予想通りの言葉を、ハヤテは紡いだ。
「……伊澄さんが、亡くなったんです。」
その焦燥の原因を、ハヤテは簡潔に――しかしこの上なく荘厳に、述べる。それを受けたヒナギクは少し俯きがちになりながら返す。
「……ええ。」
目の前で死んだ佐々木千穂の時とはまた違う。いつどこで死んだのかも不明瞭なままに、単に放送という曖昧な手段で知り合いの死を突き付けられたことは、ヒナギクの心にも少なからず影を落とした。どうすれば彼女が死ななくて済んだのかなど、後悔する余地すらも残してくれない。関わることも最初から許されぬままに、死という結果だけがそこにあった。
「つまり……この世界には伊澄さんを殺せるような人がいるってことなんですよ……!」
切羽詰まった様相でハヤテは語る。
伊澄の持っていたゴーストスイーパーの力を、ハヤテは何度も見てきたから、そんな彼女を殺せる相手がこの世界で殺し合いに乗っているという事実に対し、お嬢さまの身の危険を感じずにはいられない。
しかしその一方で、ヒナギクは伊澄の力のことを知らない。成人男性に見える者も一定数いるこの殺し合いに、伊澄を殺せるような人など決して少なくないだろうという認識がヒナギクにはある。
言葉は、不完全だ。この場においてハヤテの言葉がヒナギクに正しく伝達されることはない。
「……だったら、どうするの?」
――だけど、それでも。
「……お嬢さまを、守ります。」
言葉が不完全でも、発した言葉が正しく受け取られる保証なんてどこにもなくても。
言葉の裏の心だけは、きっと等身大のままに伝わることのできるものだから。
「――もし敵がいたとしたら、命を奪ってでも?」
554
:
共に沈めよカルネアデス(後編)
◆2zEnKfaCDc
:2021/11/29(月) 20:43:48 ID:jig807Q60
ㅤそれは、考えないようにしていたことだった。
ㅤそれを認めてしまえば、岩永さんの信頼を本当に、裏切ってしまうことになるから。
「…………ええと、それ、は……。」
ぼかすことも、或いはできたかもしれない。だけどヒナギクの視線が、ハヤテの逃げ場を無くした。安易な虚構は通用しないと、彼女の目が物語っていた。
「……はい。お嬢さまを守るためなら、その覚悟はできています。」
「…………そっか。」
時が止まったように、しばらく二人とも声を発さなかった。そしてその沈黙に疲れたように、先に声を発したのはハヤテの側。
「……ごめんなさい、ヒナギクさん。もう、行きます。」
そう言って明後日の方を向いて、ハヤテはナギの捜索のために立ち去る。一瞬だけ垣間見えた、視線の逸れた横顔からでも、ひしひしと伝わってくる真摯な感情――その片鱗すらも、向いている先は決して自分ではなく。
「ねぇ、ハヤテ君。私は――」
痛々しいほどに痛感する。この恋はもう、終わっているのだ、と。否――最初から始まることすらもなかったのだ。
「――ハヤテ君のことも心配だわ。」
だってあなたは最初から、私のことを見ていなかった。あなたの見る先には常に、ナギがいた。
この想いは、伝わらない。
真っ直ぐに伝えるには感情が追い付かなくて。だけど遠回しな気持ちなんて、あなたに届けるには足りないから。
「……でも。」
――だけど。
言葉にしないと伝わらない想いならば。私の心だけを届けるに足る想いが、あなたに無いのならば。
「――今回ばかりは私も、譲れないんだから。」
鈍感なあなたにも伝わるよう、言葉にすればいい。
あるがままの想いを、"告白"すればいい。
555
:
共に沈めよカルネアデス(後編)
◆2zEnKfaCDc
:2021/11/29(月) 20:46:30 ID:jig807Q60
ㅤ勇気を出して、あと一歩――
「私はもう……誰も死なせないって決めたのっ!」
――強引にでも、振り向かせてやるんだからっ!
「――白桜ああぁッ!!」
陽光の煌めく空の下に、一陣の風が吹き抜けた。
「……うわあっ!」
今や亡き友の忘れ形見となった剣は、まるで太刀風の如く瞬時に、ヒナギクをハヤテの眼前へと運んだ。そして同時に、その剣はハヤテへとその矛先を向ける。
「なっ……ヒナギクさん!?」
「構えなさい、ハヤテ君。」
この恋に、飾った言葉なんていらない。ただ想いの丈をぶつけ、一歩を踏み出す勇気さえあればいい――ほんとはずっと分かっていたのに。
「どうして……どうしてジャマをするんですかっ!」
「……違うのよ。私は別に、ナギを助ける邪魔をしたいわけじゃない。」
――罪を犯した人間が、その罪の報いを受けるとするならば、それはいつのことだろう。
私は、嘘をつき続けてきた。皆にも、自分の心にも。
友達である歩を、裏切るのが怖くて。あなたとの関係が、少しでも変わってしまうのが怖くて。ぐるぐる、ぐるぐると同じところを廻り続けて。
たった一言の告白、その一歩を踏み出す勇気をいつまでも保留してきたが故に――今ここに、あなたと剣を交わす因果が生まれた。
「でも、この気持ちまでもを抑え込んで、ここでハヤテ君を行かせて……そのせいで誰かが犠牲になってしまったら私、殺されたあの子にもう顔向けができないもの。」
ハヤテの脳裏に過ぎるは、いつか遠い昔の光景。些細な、しかし致命的なすれ違いの果てに、互いに剣を取り戦うまでに至った天王州アテネと、決定的に道を違えたあの時。
「だから、ハヤテ君。この先へ進みたければ、私を倒してからにしてもらうわ!」
「っ……! だったら……」
今も、あの時と同じだ。正しいのは目の前の少女で、間違っているのは、僕で。
「僕は、進みます! たとえ……ヒナギクさんを倒すことになっても!」
僕らは、弱くて、不器用で、何もかもを手にすることなんてできない。二兎を失うのが怖くて、進んで何かを切り捨てる。言ってしまえば、幸せの妥協だ。譲歩できないラインを切らぬギリギリまで、幸せを放り捨てていく。
556
:
共に沈めよカルネアデス(後編)
◆2zEnKfaCDc
:2021/11/29(月) 20:46:57 ID:jig807Q60
【D-3/負け犬公園/一日目 朝】
【綾崎ハヤテ@ハヤテのごとく!】
[状態]:健康 焦り
[装備]:聖剣デュランダル@はたらく魔王さま!
[道具]:基本支給品 不明支給品0〜1
[思考・状況]
基本行動方針:お嬢様を守る
一.たとえ、この命にかえても。
二.ヒナギクさんを倒して、先に進む。
三.新島真並びに注意する。
四.真さんにお嬢様の事を話したのは失敗でした……
※ナギとの誤解が解ける前からの参戦です。(咲夜から初柴ヒスイの名を聞かされています)
※新島真は暗所恐怖症だと勘違いしています。
【桂ヒナギク@ハヤテのごとく!】
[状態]:腰の打撲 疲労(低)
[装備]:白桜@ハヤテのごとく!
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜2
[思考・状況]
基本行動方針:誰も死なせない
一.綾崎ハヤテを止める。
二.二日目スタート時までに、見滝原中学校に向かう
三. 佐々木千穂の思い人に出会ったら、共に黙とうを捧げたい…
※名簿を暗記しました。
※参戦時期は姫神と面識を持つ前です。
※情報交換によりドラゴンや異世界の存在、鋼人七瀬、魔法少女について知りました。
【支給品紹介】
【聖剣デュランダル@はたらく魔王さま!】
天使ガブリエルが扱っている聖剣。本人曰く『何でも斬れちゃう』ほどの斬れ味を誇る(アルシエルの肉体や遊佐の聖剣に弾かれているため、そういった特殊効果は無い)。
557
:
◆2zEnKfaCDc
:2021/11/29(月) 20:47:11 ID:jig807Q60
投下完了しました。
558
:
名無しさん
:2022/03/03(木) 12:22:06 ID:xQS6KVUY0
遅れてしまいましたが乙です
情報量の違いもありますが、すれ違いが焦りを加速させてますねえ
気づいているのかいないのか、そのタイミングだからこそできる衝突が物悲しくも熱かったです
559
:
◆2zEnKfaCDc
:2022/03/24(木) 04:57:43 ID:80WX/zh60
投下します。
560
:
バイバイYESTERDAY
◆2zEnKfaCDc
:2022/03/24(木) 04:58:54 ID:80WX/zh60
「ねぇ。起きなさい。早く起きなさいったら!」
「……ん。」
赤羽業の意識は、強引に揺すり起こされることにより覚醒を果たした。開けた視界に、女豹を象った装束に身を包んだ女怪盗、高巻杏の姿が映し出される。
「……ああ。」
そして体を起こし、数秒ほど寝惚けたようにキョロキョロと辺りを見回して――間もなく、思い出す。何故自分が気を失う羽目になっていたのか。そして杏と自分を昏倒に至らせたのが、誰であったのかを。
「さやかは、一人で……?」
その下手人の行方は聞くまでもなく分かっていた。杏は自分よりも早く気絶していたのだから、自分の気絶後に杏がさやかを止める手段などあるはずがない。それ以前に、そもそもこの場にさやかがいないのだから、戦場に向かおうとしていた彼女を引き留めることに失敗しているのはもはや明らかだ。それでも、何か想像もつかない要因が――奇跡とでも呼べる何かが、さやかを止めていることを信じたかった。だが、杏はただ黙ってそれに頷いて返すことしかできない。魔法と呼ばれる異能はあれど、それは奇跡とは程遠く。
それを思い知らせるように、様々な死別を告げる定時放送が彼らの聴覚を支配したのは、それと同時のことだった。
「…………。」
ここで放送が流れなければ、さやかもまだ刈り取るものと戦っている最中であるのだと、まだ間に合う可能性に縋ることが出来ていたかもしれない。しかし、答えは提示された。箱の中の猫が死んでいることは明かされてしまった。
杏もカルマも、不覚を取ったという自覚はある。美樹さやかという人物を理解していなかった杏は、さやかの奇襲を予測できなかった。逆に、カルマはそれを予測こそしていたが、魔法という異能力を前にして力が足りなかった。足りないものを持っている隣人がいながらも、それを補い合うこともできなかった。
561
:
バイバイYESTERDAY
◆2zEnKfaCDc
:2022/03/24(木) 04:59:27 ID:80WX/zh60
「……どうして、死に急ぐかなぁ。」
しばしの時。静寂を切り裂いてカルマがようやく発した言葉が、それだった。自己嫌悪の言葉はとめどなく湧いてくる。しかし、さやかを止められなかったのは自分だけでないことも知っているのだ。それを吐き出せば、その言葉は同時に相手の責任をも問うことになる。それはカルマの本意ではない。
「……それは知らない、けどさ。」
さやかと同じく、カルマの制止を振り切ってでも戦場に戻ろうとしていた杏は、それに同意などできない。杏もまた、死に急いだつもりなどはなくとも無謀な戦いに挑もうとしていた自覚はある。さやかの矜恃は、杏の抱くそれと同じ方向を向いていた。しかし、杏はそれを貫けなかった。あの時さやかに気絶させられていなければ、或いは呼ばれていた名前は自分の名前だったかもしれないのだ。
杏が向かっていた場合の戦局など、今となっては知りようもない。それでも――否、だからこそ、だろうか。さやかは、自分の身代わりに死んだのだと、そう思わずにはいられなかった。カルマの追想に返すべき言葉は、同意でも謝罪でもなければ、ましてや慰めでもない。理不尽を前に反逆の意思を掲げるは怪盗の美学。傷の舐め合いに終わるなど真っ平御免だ。
「今は、先にやることがあるから。」
「……そうだね。」
冷徹な、しかし冷静な現状判断。なぜなら、刈り取るものの名を冠した異形は未だ存在し、殺し合いにその身を投じているのだ。
「っていうかアンタ、そもそも逃げろ派だったよね? 来るわけ?」
「ま、戦局が明らかに崩れているのが分かってるし……人命救助くらいにはね。」
トールが死んで、さやかも死んで。あの戦場に残されているのはあと二人。刈り取るものが生き残っていることへの恐怖の先には、エルマがまだ生き残っていることによる焦燥がある。まだ救えるかもしれない命があの場には残っているのだ。
仮にエルマまで放送で呼ばれていたのなら、敗北を認め潔く撤退するという選択肢もあった。しかしエルマの名が呼ばれていないことこそが、撤退の選択肢を杏の行動選択から除外した。二人もの罪も無い人の命を奪われておきながら、これ以上の喪失を看過するわけにはいかない。それが少なからず仲良くなれたエルマであるなら尚更だ。
「ただし、エルマの救出を果たしたら撤退してもらうよ。それ以上の無茶は駄目。ヤツは改めて人数を揃えてから叩くってことで。」
「……ん、分かった。」
その言葉を前に、僅かに呆気にとられたような表情で、杏を見つめるカルマ。
562
:
バイバイYESTERDAY
◆2zEnKfaCDc
:2022/03/24(木) 04:59:59 ID:80WX/zh60
「なに?」
「いや、意外だなあって。」
「もっと聞き分けのない女だとでも思ってた?」
「……まーね。」
カルマの言葉に少しムッとした顔を見せた杏は、しかし次の瞬間には伏し目がちになりながら、ひと言。
「……まあ、私も。アンタはもっと、冷酷な奴だと思ってた。」
「はは、否定はしないけどねー。」
さやかの末路を見たからか、戦いに戻ると聞かなかった杏もカルマの言葉に素直に応じているし、撤退を唱えていたカルマもエルマの救助に向かおうとしている。トールとエルマを助けに行くか行かないかで揉めた時も、撤退を前提とした上での加勢であれば、さやかは乗っていただろうか。この結論をもう少し早くに打ち立てられていたならば、結果は違っていたかもしれない。タラレバに意味は無いが、それでも、考えてしまう。
二人が昏倒するに至り、さやかが死ぬという結末を導いたあのいざこざは、当事者がいざ落ち着いて話し合ってみれば、こんなにも簡単に解消されてしまうものだったのだから。
(……どーでもいいことだった、とは言わないけどさ。)
人と人は、時に分かり合える。言葉は人間に与えられた高度な技能だ。そんな当たり前のことが、あの時は見えていなかったのだ。
(熱くなると、周りが見えなくなるもんなのかね。)
撤退すべきか、戦場に出向くべきかなどという話でなくとも、提唱した行動が食い違うことくらい、いつだって起こり得る。例えば――殺せんせーを助けるべきか、殺すべきか。この催しのせいで重要度の下がった問い掛けだけれど、元の世界に帰ったら目下に抱えたそれを改めて向き合わなくてはならない問題には他ならない。
刈り取るものという脅威に立ち向かおうとしている今、その先に殺せんせーを殺すかどうかの話なんて、どうでもいい。だけど、それでも――その決意が、そして殺意が、どこか揺らいでいる自分がいた。殺せんせーを殺す派についた理由は、それが殺せんせーが命を賭けるに足る信念であったのだと分かったからだ。
だけど、その信念の裏に遺された者たちの気持ちもまた、知ってしまった。喪失に伴う感情は、そんなものと吐き捨てられるものでないことも理解してしまった。
今でも、殺せんせーを殺すべきと言い放ったことは間違っていないと胸を張って言えるだけの矜恃は抱えている。だけど同時に、「それはアンタのエゴではないか」とぶつけられる自分も見付けてしまった。殺せんせーと同じく、命を賭けるに足る願いを見出したさやかを失ったことを、まだ割り切れていないから。そして――あの教室の恩師のひとりも、殺せんせーに最も強い殺意をぶつけた少女も、放送で呼ばれていたから。
(……ダメだ。殺意を、鈍らせちゃ。)
この世界には、烏間先生という怪物を殺せる人物がいる。曲がりなりにも自分たちと同じ訓練を受け、死線をくぐり抜けてきた少女を殺せる人物がいる。殺す気で挑まないと――殺される。
563
:
バイバイYESTERDAY
◆2zEnKfaCDc
:2022/03/24(木) 05:01:54 ID:80WX/zh60
「……あ。」
間もなくして、カルマより前を走っていた杏が小さく声を漏らした。その視線の先にカルマが気付くよりも早く、杏は足を速めてその場へと向かう。
「……エルマッ!」
エルマは、荒れ果てた大地に横たわっていた。二度と開かない目に降り注ぐ陽光が、その表情を明るく照らし出す。
「……っ!ㅤそんな……。」
すでに手遅れだった。だけど、やもすれば間に合ったかもしれない命でもあった。エルマの身体はまだ温かく、放送時には間違いなく生きていたことを踏まえても死からさほど時間が経っていないのは明らかだ。
しかし、それにしては妙な箇所が一点。おそらくエルマに手を下した存在であろう刈り取るものの姿が、辺りを見回してもどこにも見当たらないのだ。
「……シャドウは倒したら姿かたちも残さず消えてしまうはず。ってことは……」
「相打ち……ってことかもね。」
エルマを殺した後に逃げた可能性も無いではないが、エルマと刈り取るものの生存が確認できた放送からさほど時間は経っていない。それだけの時間は、許していないはずだ。仮にそれを許してしまっていたとしても。エルマが放送直後に殺され、刈り取るものが即座に撤退を選び自分たちの前から姿を消されていたとしても。元より撤退を前提にここに駆け付けてきた二人に、それを追いかける選択肢はない。
そして何より――大願を遂げたかのごとく貼り付けられたエルマの笑みが、それが無念の戦死などではないことを饒舌に語っていた。刈り取るものの消滅は次の放送で確認するまでは真偽不明のままではあるが、一旦は討伐したものと仮定して問題無いだろう。
「……埋葬とか、した方がいいのかな。」
杏がぽつりと呟く。この世界で多くの命が奪われたこと。さらに、今もなお誰かの命が脅かされつつあるのも、分かっている。だけど、少なくとも放送で、怪盗団の仲間は誰も死んでいないと確認できた。さやかもトールも、共に絆(コープ)を深めた時間は、ほとんど皆無に等しかった。明確に"仲間"と呼べる者との死別は、初めてだ。
「穴掘って埋めるのは大変かもしれないけどさ……せめて、火葬だけでも。」
「……火元はどうすんの?」
「カルメン。」
「あー、あの背後霊みたいなやつ?」
「そうそれ。説明はめんどいしぶっちゃけ私も分かんないから。アンタ頭は良さそうだし、何となくで感じ取ってよ。」
何でもアリだな、という感想もといツッコミは、すでにマッハ20の超生物に出し尽くしている。殺せんせー以上に科学で説明が付かない存在も、それを当たり前に扱っている杏のことも、もはや受け入れるしかないようだ。
564
:
バイバイYESTERDAY
◆2zEnKfaCDc
:2022/03/24(木) 05:02:34 ID:80WX/zh60
「じゃ、任せるよ。俺は念のため、近くの見回りとかやっておくから。」
エルマの火葬に立ち会わないのは、無意識に感じている罪悪感からでもある。少なくともカルマは一度、エルマとトールを見捨ててさやかと共に撤退する選択肢を打ち出したのだ。
そんな複雑な想いを察してか、杏は黙ってカルマを見送った。どの道エルマに別れを告げるべきは、あの長いようで短い刈り取るもの戦線で少しばかり共闘しただけのカルマではなく、それ以前から数時間に渡って同行し、絆を紡いだ自分に他ならないのだ。
「……エルマ。」
カルマが去って一人になって。そして改めて、物言わぬ骸となった竜と向き合う。
「フルーツ好きっていう共通点見つけてから、食べ物の話とかいっぱいしてくれたよね。」
"好き"を語るエルマは、幸せそうに笑っていた。今のエルマも、同じ表情をしている。腐敗していくのが勿体ないくらいに、一切の無念を感じさせない、幸せの顔だ。
「私も、美味しいもの食べてる時は、幸せだった。一人で食べてる時も、誰かと一緒に食べてる時も。そんな幸せな日常がずっと、ずっと続いてくんだって思ってたんだ。……でも、そんな些細な幸せを壊して笑ってる奴らが、この世界にはうじゃうじゃいる。」
誰かを虐げる悪意が、この世界には蔓延っていて。その悪意に踏みにじられる幸せは、数え切れない。自分が心の怪盗団としてここに立っている根源でもある友人、鈴井志帆もその一人だった。醜悪な悪意に晒されて、幸せを奪われて。
「私、許せない。この催しの裏で笑ってる奴がいるのなら、怪盗としてそんな楽しみ、奪ってやる。だから……見守ってて。」
仮面に手を翳すと同時に、顕現するひとつの影。死に伴ったエルマの痛みが、どうか熱さの中に溶けていきますように。
「――踊れ、カルメン。」
――アギダイン
ぱちぱちと音を立てて、骸は炎に包まれていく。最後までエルマは幸せそうな顔のまま、ゆっくりと灰へと変わっていった。
565
:
バイバイYESTERDAY
◆2zEnKfaCDc
:2022/03/24(木) 05:05:27 ID:80WX/zh60
■
「……見つけた。」
少し離れた岩陰に、さやかは横たわっていた。その身体に目立った外傷はなく、血も大して流れていない。どう見ても、傍目には眠っているようにしか見えない。
「……どいつもこいつも、死んでるくせに満足そうな顔、しちゃってさ。」
エルマに続いてさやかも、何かをやり遂げたような、そんな表情を浮かべている。志半ばに戦死したとは思えない、そんな顔だ。だからこそ眠っているだけのようにしか見えなくて。だからこそ、死という現実から逃げ出したくもなってしまう。
だけど、"さやか"がこの眠っている少女ではないのは、知っていて。
「……本当に、こっちがさやかなんだ。」
青く煌めいていた宝石に、今や輝きは点っていない。刈り取るものの銃撃を受け、粉々に砕け散っていながらも――しかしその装飾部の痕跡は残っている。さやかがソウルジェムと呼び、彼女の魂が篭っていると説明していた宝石。さやかの死因が人間の肉体の損傷でないことは、連鎖的にあの話も、紛れもない事実であると証明している。
「……後悔とかでうじうじするの、嫌いだからさ。ごめんねとかは言わないし、責めるつもりも別にないよ。」
互いに肯定も否定もすることなく、不干渉。それがさやかとの関係の、始発点だった。どの道この殺し合いの間だけの関係であると、ビジネスライクに。冷や水のように、冷徹に。
「だから、これは俺の独り言。」
だけど、ほんの少しだけ。運命的に僅かに重なり合った因果に、意味を見出すのなら。
「あの悪徳商人はさ、ちゃんと俺がボコボコにしとくから――殺す気で。」
放送を担当していた者は、キュウべえと名乗っていた。それは、さやかから聞いた、契約した相手の名前だ。願いを餌にさやかの人生を弄び、さらには殺し合いという催しにまで落とした存在。
さやかの抱えている戦いに干渉しようなんて心持ちはなかったはずだ。だけど、そのやり口に心から気に入らないと思ったからには、それはすでに自分の戦いでもある。それに、脱出して主催者をぶん殴るのに、モチベーションは多ければ多いほどいい。
最後に、手を合わせた。湿っぽい別れは嫌いだけれど、これでお別れだと終止符を見出すことは、生者が死に見切りをつけるのに必要な儀式だ。恩師との別れまで、こんならしくない真似は、とっておくつもりだったけれど。どうやら感情とは、そう簡単にいくものでは、なかったらしい。
「……ほんっと、らしくないけどさ。」
ㅤ僅かに零れそうになった涙は、無理やりに抑え込んだ。これを流すのは、全てが終わった後にするために。
566
:
バイバイYESTERDAY
◆2zEnKfaCDc
:2022/03/24(木) 05:05:50 ID:80WX/zh60
■
「それで、ここからどうするの?」
それぞれがそれぞれの形で、かつての同行者との別れを終えた。ここからは、新たな同行者と共に、これからの話に移るフェイズだ。
「霊とか相談所ってとこに向かおうと思うよ。」
「別に異論はないけど……理由とかあるの?」
「特に。ただこれといったアテもないし。」
「じゃあその前に……ここ、純喫茶ルブランってとこに寄ってもいい?」
「ん、別にいーけど……ここは?」
「私たちの拠点。心強い仲間、必要でしょ。 」
やるべきことは、次第に見えてくる。殺し合いなどという理不尽を前にしても、彼らのやることは凡そ変わらないのだ。権力を振りかざす大人たちの存在と、エンドのE組。彼らにとって、世界は元より、理不尽だった。
今が苦しみに満ちていたとしても、未来が暗雲に閉ざされていたとしても、それでも弱者なりの戦い方がある。反逆の意思を胸に掲げていられるために、強者に奪われた過去は決して忘れない。掴み取る明日に笑っていられるのなら、踏み躙られた昨日までにも、きっと意味があるから。
【E-6/住宅街エリア外/一日目 朝】
【赤羽業@暗殺教室】
[状態]:ダメージ(中)
[装備]:マッハパンチ@ペルソナ5
[道具]:不明支給品1〜2(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:元の日常に帰って殺せんせーを殺す
1.キュウべえを倒す
2.純喫茶ルブランに寄った後、霊とか相談所で首輪の解除方法を探す
3.渚くんを見つけたら一発入れとかないと気が済まないかな
※サバイバルゲーム開始直後からの参戦です。
【高巻杏@ペルソナ5】
[状態]:ダメージ(中) 気絶
[装備]:マシンガン※対先生BB弾@暗殺教室
[道具]:基本支給品(食料小) 不明支給品1〜2
[思考・状況]
基本行動方針:姫神を改心させる
一.純喫茶ルブランに向かう。
二.島にあるであろうパレスの主のオタカラを探し出す
※参戦時期は竜司と同じ9月怪盗団ブーム(次の大物ターゲットを奥村にする前)のときです。
※姫神がここをパレスと呼んだことから、オタカラがあるのではと考えています。
567
:
◆2zEnKfaCDc
:2022/03/24(木) 05:06:05 ID:80WX/zh60
投下完了しました。
568
:
◆2zEnKfaCDc
:2022/04/18(月) 04:04:59 ID:HlQLjCVA0
雨宮蓮、小林さん、漆原半蔵、花沢輝気で予約します。
569
:
◆2zEnKfaCDc
:2022/04/20(水) 22:06:02 ID:6G79CgFU0
投下します。
570
:
つわものどもが夢の跡
◆2zEnKfaCDc
:2022/04/20(水) 22:06:39 ID:6G79CgFU0
放送を迎える心持ちとしては、決して穏やかではなかったにせよ、それでも比較的落ち着いたものであったはずだ。
確かに、私たちを守って死んだ少女、鷺ノ宮伊澄については未だ割り切れているわけではない。だがそんな死別があったとはいえ、その死を改めて突きつけられたとて殊更心を乱されるわけではないだろう。少し時間が経っているのもあって、それくらい私は落ち着いている。
そうなれば、放送に向かう心持ちも比較的平穏だと言えるはずだ。強いて言うなら私と同じく戦う力なんて持っていない滝谷くんが心配だというくらいか。何なら、先走ってるかもしれないあの子らに、ひとまず私の無事を伝えられるというひねくれた期待もあった。不謹慎かもしれないが――私はこの放送を、どこか待っていたような心持ちでいたのだ。
「――小林トール」
私は断じて、その心配だけはしていなかった。
「……は?」
当たり前のように私の隣にいたあの子が。終焉をもたらすだけの力を手に、日常を謳歌していたあの子が。
「……嘘、だろ。」
すでに死んでいる、なんて。
■
571
:
つわものどもが夢の跡
◆2zEnKfaCDc
:2022/04/20(水) 22:07:05 ID:6G79CgFU0
最初から分かっていたことだ。トールとの日々は、永遠ではない。
日常の中であの子はたまに、ふと顔つきに陰りを見せる時があった。そんな時はその陰りを押し隠すように、あの子は笑って――それを見ながら、私は考えた。トールはこの暮らしが終わる瞬間を、すでに脳裏に思い描いてしまっているのだ、と。ドラゴンのあまりにも果てしない寿命。それを前にすると、きっと私という人間など、風前の灯火のように、脆弱で儚い命にしか見えていなかったのだろう。
トールはずっと、終わりを見据えていた。けれどその終わりは、私の死によって訪れるものではなかったのか。まさか私が残される側になるなんて、考えたことすらなかった。私だけが、永遠でないひと時を永遠であるかのように錯覚していた。
(どうして、忘れていた?)
ふと私は、トールと初めて出会った時のことを思い出していた。酩酊のままに引き抜いた神剣――あの日もトールは、私がいなければ死んでいたのだ。
ドラゴンと死とは、決して無縁の概念なんかじゃない。そりゃあ、そうだ。盛者必衰の理というように、命あるもの、いつかは終わる。ドラゴンという生命に何かしら特異性があるとしても、それはただ長いか短いか、強いか弱いかの差でしかない。そんな当たり前のことが、ずっと頭から抜けていたのだ。
(……違うな。たぶん私は……忘れていたんじゃなくて、考えないようにしていただけなんだ。)
ああ、これはどうしようもない現実逃避だ。
トールが私の関与しないところで死んでしまい得ると認めてしまえば、あの子たちを、人間というちっぽけな枠組みからもっとスケールの大きい枠組みに、切り離してしまうような気がして。せめて共に過ごすひと時だけは、彼女たちには人間の枠組みを生きてほしかったのだろう。
「……さん。」
もちろん、私はどうしたってドラゴンにはなれないし、あの子たちだって人間にはなれない。絶対的な種族差それ自体を変えることはどう足掻いても不可能だ。だけど、その違いを受け入れた上で、楽しむことはできる――私はそれを、前向きに捉えていたはずだ。価値観の違いを受け入れ、擦り合わせることの楽しさを、例えばそれを人間ごっこだと言い放ったファフニールに、時には、ドラゴンの価値観に囚われていたイルルに、はたまたその領域を理解しようとすらしなかったキムンカムイに、伝えたかった。
だというのに、結局私は、あの子たちに人間であってほしかったのだ。戦いに生き、そして死にゆくドラゴンの枠組みの概念を、あの子たちから遠ざけたかったのだ。
572
:
つわものどもが夢の跡
◆2zEnKfaCDc
:2022/04/20(水) 22:07:37 ID:6G79CgFU0
(何が違いを楽しむ、だ。)
それを違いであると認めたくなかったのは。
ドラゴンの死を、人間の基準で起こりえないものであるとみなし目を背けていたのは。
人間ごっこから、都合よくドラゴンの価値観だけを排除しようとしていたのは。
他でもない、私じゃあないか――
「――小林さん!」
耳に響く花沢くんの声と共に、私の意識は現実に引き戻された。
「あ……ごめん。ボーッとしちゃって……。んと、どしたの?」
「放送、聞いてなかったのかい!?」
「あ……うん。ゴメン……。」
トールの名前が呼ばれてから以降の名前は、全く耳に入っていなかった。トールが死ぬ世界だ。滝谷くんはもちろん、カンナちゃんやエルマ、ファフニールに至っても無事である保証なんてない。
「えっと……誰の名前が呼ばれたか、覚えてる?」
きっとこの時の私は、間の抜けた顔をしていたことだろう。花沢くんは少し、じれったそうな顔をして――
「悪いけど今は……それどころじゃないんだ!」
次の瞬間、私の身体はふわりと持ち上がった。
「えっ……」
「少し荒っぽく運ばせてもらうよ。」
さらにそのまま――私は一陣の風となった。方向感覚もなくなるくらいの速度で、どこに向かうかも分からぬまま強引に高速移動をさせられる。
573
:
つわものどもが夢の跡
◆2zEnKfaCDc
:2022/04/20(水) 22:08:02 ID:6G79CgFU0
「う……うわああああああっ!」
まるで前に向かって落下しているような、そんな感覚。トールに初めて乗った時も、これに近い恐怖だった気がする。それに並走するように一緒に飛んでいる花沢くんの姿も、向かい風に晒されほとんど機能していない視界の端に、ギリギリ見て取れる。表情は見えないが、彼が何かしらに真剣であるのは間違いない。
そして私たちは、"現場"にたどり着いた。
そこには先に漆原がいて、私たちを横目で確認すると、それまで見ていた箇所に再び視線を移す。まるで信じられないようなものを見たとばかりのその目の向かう先。自ずと私の視線も、そちらへ吸い寄せられ――そして理解する。私が聴き逃した放送が、誰の名前を呼んでいたのか。
視線の先で、僅か数分前まで遊佐恵美だったであろうものが、一本の大木に吊り下がって揺れていた。その細い首にはロープらしきものが架けられており、言うなれば典型的な、『首吊り自殺』の単語が浮かんでくる光景だった。
「……馬鹿なヤツ。」
その光景を見て、漆原は小さく吐き捨てる。人間の文化に精通しているわけではないが、執行を重力に委ねることができる首吊りは、エンテ・イスラでも典型的な自殺の手段である。彼の頭に浮かんだ想像も、他の二人と大差は無い。あえて気になることといえば現場に踏み台に類するものが無いということ。しかしそれについても、遊佐の脚力ならば必要ないと言えよう。
「お前にとって罪って、そんなにまで受け入れられないものだったのかよ。」
死を選んだ理由は、想像できる。明智吾郎という男との交戦の末に促された精神暴走により、罪のない少女の命を奪ってしまったこと。
仮にも漆原は、魔王軍として人間と戦う中で、相手を殺したことも数え切れないほどある。しかしだからといって、遊佐にとってそれがそんな些細なことと吐き捨てられるほど、軽いことであるとは思わない。奪った命への償いの気持ちというのも、今なら少しは理解できる。
574
:
つわものどもが夢の跡
◆2zEnKfaCDc
:2022/04/20(水) 22:08:35 ID:6G79CgFU0
「……白くあり続けようとするのは、尊いことだ。だけどそれに溺れてしまうくらいなら、深淵よりも真っ黒に、堕天してしまえば良かったんだ。」
生き方がほんの少し変わってしまうことくらい、天使にだって――そして悪魔にだって、ある。それを悪いことだとは思わないし、かの勇者エミリアであれば、どれだけ変わってもきっと根底の正義は揺らがないだろうとも思っていた。ちょっと独りにしてほしいと言った遊佐を送り出したのは、偏に信頼だったのだ。アイツならきっと、自分の罪と向き合って、それを糧に正義を志してくれる。だから大丈夫だ、と。少しながらも遊佐を知っているからこそ、その言葉に頷いたのに。
(行かせなければ良かったのか?ㅤそれとも……死なせてやった方が、アイツのためには正解だったのか……?)
もう、どんな感情を抱くべきなのかも分からない。そもそも遊佐は魔王軍から見たら敵勢力なわけで、ここまで馴れ合ってきたこと自体がイレギュラーであるとも言えるのだ。旧敵がいなくなったこと、その事情だけ見れば、喜ぶべきなのだろう。だけど、とてもそんな気分にはなれない。
ひとつだけ、明確に言えるとするならば――こんな形の決着、真奥のヤツも望んじゃいなかったろうに、と。ただ、それだけだった。
「……まだ、助からないかな?」
そう切り出したのは、花沢だった。言葉と同時に放った念動力が、ひとまず遊佐の身体を空中にキープし、重力で締め付けられていた首を解放する。
「確かに放送では死んだと言われていたけど、そもそも医者であっても立ち会わずして厳密な死亡宣告なんてできるわけがない。もしかしたら仮死状態にあるだけかもしれないだろ?ㅤ僕が念動力で浮かせておくから、このまま縄を解いて降ろそう。できるだけ、慎重にね。」
「……そうか!」
遊佐との親交が薄いからこそ、花沢は冷静だった。その言葉を聞いて、ハッとしたように遊佐の方へと走り出す漆原。
その隣で、小林はどこか考えるような素振りを見せていた。
575
:
つわものどもが夢の跡
◆2zEnKfaCDc
:2022/04/20(水) 22:09:42 ID:6G79CgFU0
(具体的な根拠が、あるわけじゃない。)
小林から見ても確かに、最後に見た遊佐は精神的に弱っていた。漆原ほど彼女を知っているわけではないが――それでも、思わずにはいられない。彼女が本当に、自殺という手を選んだのか?
かつてトールは、私を慕ってくれていた。下等で愚かな生物だと謳っていた人間である私を。ドラゴンという私たちとは比べ物にならないほどの存在が、たった一晩で心を変えたのである。そして、彼女を変えた何かは間違いなく存在しているのだ。
トールを変えたのは小林さんであると、トールは言っていた。でもね、私はただ酔った勢いであの山にフラフラとたどり着いただけのただのOLなんだ。私自身が特別ってわけじゃあない。トールが言うような価値なんて、私にはないんだよ。
(でもトールはあの時――震えてたんだ。)
そう、トールを変えたのはきっと、私なんかじゃないんだ。
(ドラゴンであっても……きっと生物である限り、簡単には抗えないんだよね。)
トールと初めて会った山の中。私に信仰心があれば、抜けなかったであろう神剣とやら。死という、あらゆる変化の終着点を前にしたトールは、抗えない恐怖と戦っていた。
死ぬのは怖い――生物に定められた生存本能。それに逆らうのは、ドラゴンの心すら変えてしまうほどに、決して容易なことなんかじゃなくて。
私たちと別れてから放送が始まるまでの数分間で、旧知の相手にまで気持ちを隠し切ったまま、生存本能を振り切って自殺に走る。そんなの、心の弱った彼女に――いいや、心が弱っていればこそ、できるわけがない。死という不可逆的な変化を受け入れるその心は、ある種、強さと呼べるものだから。
だからこれは、自殺じゃない。だとすると、この現場を作り上げた第三者がいるのだ。
わざわざ手間をかけて、遊佐が自殺したかに見せかける、その者の狙いは――
576
:
つわものどもが夢の跡
◆2zEnKfaCDc
:2022/04/20(水) 22:10:10 ID:6G79CgFU0
「……待てっ!」
突然の小林の発言に、漆原はピタリと静止する。
「えっ?ㅤ…………なっ!?」
――次の瞬間。遊佐を吊るしていた巨木の影から、ひとつの影が漆原へと飛びかかった。
突然の出来事に、的確な反応なんてできようはずもない。その影の手にしたナイフの刃先が、漆原の喉を掠める。僅かに届かなかった一撃に、影は小さく舌打ちをしながら、空いた左手を顔に装着した仮面へと当て、そして、発する。
「――アルセーヌ!」
続いて襲撃者――雨宮蓮の背後より顕現したペルソナ、アルセーヌから放たれた斜めの斬撃が、漆原の胴に裂傷を刻む。
「ぐっ……このッ……!」
更なる追撃を許すわけにはいかない。血が流れ出て脱力する身体に鞭打って、支給された三叉の槍をぶん回す。遠心力を味方にした横薙ぎの槍術で、振り下ろされるアルセーヌの腕とぶつけ合って、互いに弾き合う。
攻撃されていると理解してからは、正面戦闘に遅れを取る漆原ではない。しかし、心の準備が相手より二手分は遅かった。遊佐の身体に超能力を使っていた花沢も、直ぐに対象を切り替えるには至らず、また最も襲撃を警戒できていた小林とて、単独で戦局を動かす力はない。アルセーヌの『スラッシュ』によって胸に深く刻んだ傷とて甘受して然るべきと言えるまでに、全員が襲撃者に対して遅れを取ってしまっていた。仮に小林さんの警告が無く、あと一歩踏み込んでいたならば――喉元を掠めた斬撃を前に、その先の想像は容易い。
「……お前が遊佐を、殺したのか?」
状況を見るに、この男が遊佐を殺したのは間違いない。むしろ、遊佐の自殺を突きつけられた時に覚えたあの失望にも似た動揺を思えば、殺されたという方が――明確に仇討ちの相手がいる方が、精神的にも楽ではある。だが一方で、漆原はそれを信じたくなかった。
何せ、明智や自分たちとの連戦で心身ともに弱っていたとはいえ、仮にも遊佐は勇者と呼ばれた人間だ。それを、自分たちと別れてからの短時間にいとも容易く殺し、そればかりか自殺偽装により来訪者の不意をつく準備を許す時間まで残しているのだ。それは目の前の男の実力を証明するには十分過ぎる事実。
それを改めて突きつけるように、静かに、そして荘厳に、男は口を開いた。
577
:
つわものどもが夢の跡
◆2zEnKfaCDc
:2022/04/20(水) 22:10:34 ID:6G79CgFU0
「――そうだ。俺が殺した。だが、大丈夫だ。すぐにお前たちにも後を追わせてやる。」
いつか不殺の誓いを打ち立てた怪盗団のリーダー。聖剣の勇者の名の下に人々を率いて戦った少女。悠久の時を生きるはずだったドラゴン。もう、どこにもいなくなってしまった者たち。
生きている限り、誰もが常に、その在り方を変えていく。いずれ死ぬその時までは、誰かを信じて、時に疑って、されどまた信じて、そんな巡りを続けていく。だからこそ、かつて敵だったものは、明日の仲間かもしれなくて。
今のこのひと時が、たった一発の銃声で掻き消えてしまうほどに儚いものであると、知っているから。
相手の命を奪ってでも、生にしがみつくその理由なんて――それでいい。それだけで、十分だ。
【D-3/草原/一日目 朝】
【雨宮連@ペルソナ5】
[状態]:健康
[装備]:綺麗なナイフ@虚構推理
[道具]:基本支給品 不明支給品0〜2(本人確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに乗る
一.…やるか(殺るか)
二.怪盗団のメンバーも、殺そう。
三.明智五郎は、この手で殺された借りを返す
※11月20日新島冴との取引に応じ、明智に殺されてBADエンドになったからの参戦です。
※所持しているペルソナは【アルセーヌ】の他にアルカナ属性が『正義』のペルソナが一体います。詳細は後続の書き手様にお任せします。
【小林さん@小林さんちのメイドラゴン】
[状態]:胴体に打撲
[装備]:対先生用ナイフ@暗殺教室
[道具]:基本支給品 不明支給品(0〜2) 折れた岩永琴子のステッキ@虚構推理
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを止める。
1.トールの死による喪失感
【漆原半蔵@はたらく魔王さま!】
[状態]:腹部の打撲
[装備]:エルマの三叉槍@小林さんちのメイドラゴン
[道具]:基本支給品 不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本行動方針:元の世界の知り合いと力を合わせ、殺し合いを打倒する。
一.雨宮蓮を打倒する。
※サリエルを追い払った時期より後からの参戦です。
【花沢輝気@モブサイコ100】
[状態]:念動力消費(大)
[装備]:金字塔のジャケット@ペルソナ5
[道具]:基本支給品 不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗らない。
一.雨宮蓮を倒す。
二.影山茂夫への尊敬と、無意識な恐怖。
三.影山茂夫には頼りきりにならないようにする。
※『爪』の第7支部壊滅後からの参戦です。桜威に刈られた後のカツラを装着してますが、支給品ではなく服装扱いです。
578
:
◆2zEnKfaCDc
:2022/04/20(水) 22:11:00 ID:6G79CgFU0
投下完了しました。
579
:
名無しさん
:2022/04/21(木) 04:32:01 ID:MWAULjhY0
投下乙です。
第二回放送後の感想を、好きな文章を引用しながら書いていきます。
・生生流転――ふたりぼっちのラグナロク
前回からも示唆されていたように、味覚が消失したエルマ。
ある種、人間との繋がりでもあるそれを失い、なおも刈り取る者を打倒することをめざすエルマ。
しかし一歩及ばず、死の危機に瀕したときに思い出すのは、許されない本当の気持ち。
>「ただ……お前と……一緒にいたかったんだああああっ!!」
ここの叫びは、調和勢としてごまかしてきたのであろう感情をついに吐露したように感じられて、とても熱いものでした。
そこからの、トールの力を借りた二人での勝利。語りかけた言葉は、もはや嘘偽りも、建前すらもない、正直な感情なのでしょう。
>「お前を元の世界に連れて帰る……だっけか? もうそんな建前は言わないよ。」
>「……今度こそ二人で、一緒に旅をしよう。人間の世界を見定めるなどという目的もない、ただ私たちが楽しむためだけの、自由な旅だ。」
>「人間の姿のままでの食べ歩きもいいな。お前が隣(そこ)にいてくれるなら、きっとどんなものでも、美味しいだろう。」
心が締め付けられるようなセリフの数々でした。
・このちっぽけな世界で大いなる退屈を遊ぼう
このキャラクターは未把握なのですが、異世界の存在であるサタンの宝剣を十全に取り扱うだけでも、格の違いが見て取れます。
>二度と――鷺ノ宮伊澄に"勝利"することは、果たせなくなってしまった。
>「……時間が惜しいな。綾崎ハヤテ、どうかお前は私に殺されるまで、死なないでくれよ?」
覚悟はすでに決まり、戦力的にも精神的にも不安のないヒスイ。
付け入るスキがあるとするならば、綾崎ハヤテへのこだわり、なのでしょうか。
・共に沈めよカルネアデス
おひいさまこと岩永が、どこまでも、冷徹と言えるくらいに冷静沈着。
虚構を用いてハヤテを説得し、さらにクイーンとの怪盗攻略議会も有利に進めていくさまは、見ていて空恐ろしいですね。
論理展開の巧さは原作の『虚構推理』を読んでいるかのようで、岩永の再現度の高さには舌を巻きました。
>「『放送で岩永琴子の死亡が確認された場合、新島真、ならびに彼女の仲間と思われる怪盗の名を冠する集団、その全員を危険人物として他の参加者に周知せよ。』」
>「――みんなは……関係ないじゃないっ!」
>直後、真は自分の発した言葉にハッとしたように、慌てて口を押さえた。
それに対する真は、チェスでいうなら次第に詰められていくようなもの。
引用した部分は、「推理漫画で探偵にカマをかけられて犯人しか知り得ない情報を口走ってしまったとき」のやつ。好きです。
もちろん、ハヤテとヒナギクのバトルの結果も気になるところです。
ラストの地の分にもあるように、彼らが不器用だからこそ起きた戦闘。取り返しのつかない結果をもたらさないと良いのですが。
・バイバイYESTERDAY
>「私、許せない。この催しの裏で笑ってる奴がいるのなら、怪盗としてそんな楽しみ、奪ってやる。だから……見守ってて。」
>仮面に手を翳すと同時に、顕現するひとつの影。死に伴ったエルマの痛みが、どうか熱さの中に溶けていきますように。
>「あの悪徳商人はさ、ちゃんと俺がボコボコにしとくから――殺す気で。」
>僅かに零れそうになった涙は、無理やりに抑え込んだ。これを流すのは、全てが終わった後にするために。
共闘した相手を悼む。言葉にすると単純ですが、とても丁寧に描いてくれていて好感が持てます。
主催者からすればちっぽけな存在だとしても、彼らは昨日までを無為にしないために、反逆の意思を絶やすことは無いでしょう。
580
:
名無しさん
:2022/04/21(木) 21:48:57 ID:MWAULjhY0
・つわものどもが夢の跡
放送後の反応で、気になっていたうちのひとつである小林さん。
『小林さんちのメイドラゴン』への理解はまだまだ浅いのですが、小林さんが“人間として”ドラゴンたちと対話をする点が面白い要素だと考えています。
異種間のコミュニケーション。そこにある徹底的な隔たりのひとつである寿命は、ともすれば普通の日常を生きている人間も忘れてしまうことです。
>トールはずっと、終わりを見据えていた。けれどその終わりは、私の死によって訪れるものではなかったのか。まさか私が残される側になるなんて、考えたことすらなかった。私だけが、永遠でないひと時を永遠であるかのように錯覚していた。
>トールが私の関与しないところで死んでしまい得ると認めてしまえば、あの子たちを、人間というちっぽけな枠組みからもっとスケールの大きい枠組みに、切り離してしまうような気がして。せめて共に過ごすひと時だけは、彼女たちには人間の枠組みを生きてほしかったのだろう。
>だというのに、結局私は、あの子たちに人間であってほしかったのだ。戦いに生き、そして死にゆくドラゴンの枠組みの概念を、あの子たちから遠ざけたかったのだ。
トールを“ドラゴンとして”扱うより“人間として”対等に扱っていた小林さん。
ただトールの死を悲しむだけではなく、こうした思考の過程を描くことで、小林さんの特異な点を描き出している作品だと思います。
>死ぬのは怖い――生物に定められた生存本能。それに逆らうのは、ドラゴンの心すら変えてしまうほどに、決して容易なことなんかじゃなくて。
>私たちと別れてから放送が始まるまでの数分間で、旧知の相手にまで気持ちを隠し切ったまま、生存本能を振り切って自殺に走る。そんなの、心の弱った彼女に――いいや、心が弱っていればこそ、できるわけがない。
>死という不可逆的な変化を受け入れるその心は、ある種、強さと呼べるものだから。
さらに思考を発展させて、遊佐が自殺するはずがない、という結論に辿り着かせるのがお見事。
そして、殺した遊佐の死体を利用して奇襲をかけたジョーカー。手段を選ばない覚悟が見て取れます。
>いつか不殺の誓いを打ち立てた怪盗団のリーダー。聖剣の勇者の名の下に人々を率いて戦った少女。悠久の時を生きるはずだったドラゴン。もう、どこにもいなくなってしまった者たち。
>生きている限り、誰もが常に、その在り方を変えていく。いずれ死ぬその時までは、誰かを信じて、時に疑って、されどまた信じて、そんな巡りを続けていく。だからこそ、かつて敵だったものは、明日の仲間かもしれなくて。
>今のこのひと時が、たった一発の銃声で掻き消えてしまうほどに儚いものであると、知っているから。
>相手の命を奪ってでも、生にしがみつくその理由なんて――それでいい。それだけで、十分だ。
ラストの地の文章がめちゃめちゃ好きです。
命の儚さを知り、あるいは再認識した者たちの、決死の勝負が始まりますね。
581
:
◆2zEnKfaCDc
:2022/05/10(火) 02:05:20 ID:S70Bmxgk0
感想ありがとうございます。
いつも励みにさせていただいてます!
三千院ナギ、モルガナ予約します。
582
:
◆2zEnKfaCDc
:2022/05/13(金) 06:09:42 ID:XQc5FwDQ0
投下します。
583
:
朝焼けすらも許さない
◆2zEnKfaCDc
:2022/05/13(金) 06:11:27 ID:XQc5FwDQ0
「……キレイだな。」
燦々と降り注ぐ朝の陽射しを浴びながら、三千院ナギはどこか遠い目のまま呟いた。落ち着いているようにも見えるが、先ほどまでの天真爛漫な様子から、放送を受けた後に一転しての様相である。
主催者の姫神がナギの昔の執事であるという話はすでに聞いている。不安げな想いを隠せないままに、モルガナはナギを見ていた。ナギの小さい身体よりもいっそう小さな身体であるが、その様子から労りの気持ちは伝わったようで、ナギはゆっくりと口を開いた。
「……私さ、朝は遅いんだよ。平日は学校に行くギリギリまで寝てるし、休日なんか昼に起きてるし。」
「お、おう……?」
ぽかんとしたモルガナを前に、ナギは続ける。
「だから、朝日が出てくるところなんて、ほとんど見たことないんだ。」
いつか、柄にもなく早起きをして見た、早朝の世界。立ち上る朝日に、感動した。気だるい身体をラジオ体操で動かして、思った以上の爽快感に包まれた。
「でも、私の執事もメイドも、早起きだ。朝日よりも早く起きて、私の朝ご飯とか弁当とか作ってくれてたりさ。ハヤテもマリアもそうだし……姫神も、そうだった。」
そしてそこには――どこかいつもと違う、執事の姿があった。私に呼びつけられる心配もなく、ひとり台所で食事を用意するハヤテ。その横顔に差し込む朝日が、すごく綺麗だと思った。
私が普段眠っている時の三千院家には、私の知らないものが詰まっていたのだ。
「たったそれだけだけどさ。でも、私と、私の周りの人間ではこんなにも、見てる世界が違うんだなって、そう思うんだよ。」
私が小さな冒険をしているような感覚で歩んでいた早朝の世界は、とうに彼らの日常のルーティンに組み込まれていた。私だけが、お嬢様というカゴの中に取り残されているような、そんな気すら湧いてくる。
そしてナギは俯いたまま、か細い声で紡いだ。
584
:
朝焼けすらも許さない
◆2zEnKfaCDc
:2022/05/13(金) 06:12:03 ID:XQc5FwDQ0
「やはり、傲慢だったのだろうな。こんな私が、姫神のことを理解しようなんて。」
最初から分かっていた。ただ、認めたくなかっただけだった。自分は背伸びをしているだけの子供で、ちっぽけで、まだ何も見えていない。私と違うものが見えている姫神のことを理解しようとすること自体、そもそも間違いだったのだと。
「私さ、待ってたんだ。姫神が、放送に乗じて何らかの殺し合いの打開策を教えてくれる。かつて私を守ると誓ってくれたあの男は、何だかんだで最終的には私のために動いている……って。殺し合いを命じられてるのに、そんな信頼が、心の底にはあった。」
「いや、まだこれからでも……」
「……いいんだ。」
フォローを入れてくれようとするモルガナに、キッパリと返す。間違っていたのは私だった。その事実は、事実として受け止めるから。
「だって、姫神の言葉で巻き起こった殺し合いで、現に人が死んでる。」
「……まあ、そうだよな。」
「それに……」
ああ、もう手遅れなのだ。仮にこの殺し合いが、よく分からない因果の先に、私のために行われたようなものであったとしても。
「……伊澄が殺されてる地点で、もう私たちに分かり合う道は残ってない。だから……これでいいんだ。」
その犠牲に伊澄を選出した地点で、私がそれを認めることは絶対にないのだから。
「伊澄は、マイペースで何考えてるか分からないし、どこに行くかもどこから来るかも分からないし、ボケは多いし、一緒にいると色々大変だったけどさ。」
伊澄には、いつも困らされるばかりだった。
すぐに迷子になるからトラブルメーカーになるばかりだし、向けられる好意に鈍感すぎるが故に起こるワタル関連のとばっちりを受けるのは主に私だし、時に私のハヤテを勝手に買収していったこともあった。
咲夜やワタルも含めての幼なじみという関係性だからどうしたって縁が切れることは無く、向こうも同じく大金持ちの家系であるから旅行などにも気軽に着いてくるし、そしていつも大規模な迷子になる。まるで予測も回避も不可能な台風と言わんばかりのタチの悪さだ。
「それでも……」
585
:
朝焼けすらも許さない
◆2zEnKfaCDc
:2022/05/13(金) 06:13:07 ID:XQc5FwDQ0
『――その漫画の……続きはどうなるの?』
「……伊澄は私の世界を、認めてくれたんだ。」
どれだけ困らされようとも、一緒にいる理由なんてそれだけでよかった。
「みんなが私の下手な漫画を笑いものにしてたパーティーの中でさ、伊澄が……伊澄だけが、面白いと言ってくれたんだ。私が漫画を投げ出さずに描き続けられたのは、そのひと言があったからなんだよ。」
私の世界は、誰かと分かち合うことができるのだと、そしてその喜びは言葉じゃ言い表せないくらい大きいものなのだと、伊澄は私に教えてくれた。
だからこそ、私も伊澄の世界に触れたいと思った。伊澄のマイペースがどれだけ困りものだろうと、それが伊澄の世界であるならば、私は受け入れる。
それが私たちの、幼なじみという関係をも超えた親友としての在り方だった。間違っても、何かを得るために犠牲にしていいものなんかじゃなかった。
「そんな伊澄をこの殺し合いは……姫神は、奪ったんだ。もう、元になんか戻れないよ。」
「ナギ……」
己の言葉を省みて、安直な慰めの言葉だったかもしれないと、モルガナは思った。ナギはすでに事実と直面し、等身大の気持ちで受け止めている。それが彼女の生まれ持っての強さなのか、或いはすでに姫神よりも大切な執事がいるからこその強さなのかはわからない。
だが少なくとも、今の彼女にかけるべき言葉は、慰めではなく。
586
:
朝焼けすらも許さない
◆2zEnKfaCDc
:2022/05/13(金) 06:15:48 ID:XQc5FwDQ0
「だったら、もっと……もっと、怒るんだ。」
「え……?」
「理不尽に親友を奪われて……それなのに感傷に浸っている暇なんて、ありゃしないだろ?」
ナギの強さに対してかけるべき言葉は、共鳴に他ならない。その強さを、踏みとどまるためではなく、前に進むために導くこと。姫神の犠牲となり、死んでしまったものに強者を挫くことはできない。その遺志を継いで、力を振りかざす強者を刺すことができるのは――いつの世も、喪失を乗り越えた弱者だ。
「怒って、そして反逆するんだよ。向こうから反故にされたいつかの約束なんて気にするな。戦う道理はこっちにある。」
ぽかんとした顔で、ナギはモルガナを見ていた。
意地になって、ハヤテに酷いことを言ってしまった時に、謝罪の一歩を踏み出せない私を優しく諭し、背中を押してくれたマリアのような。はたまた何かにつけてはサボりがちだった私を諌めてくれたハヤテのような。私の中のモヤモヤを言葉にした上で、やるべきことに導いてくれる。
「……そうだな。うん、そうだった。」
ああ、そうだ。私の大切な人は、いつかの約束を放棄して消えた執事なんかじゃない。今ここに、私のために言葉を投げかけてくれるヤツがいる。
「忘れてたよ。そういえば私は……ワガママお嬢様だったのだな。」
最初から、間違っている。
最初から姫神のことなんて、理解しなくて良いのだ。だって私はお嬢様なのだから、執事である向こうが私に気を使うべきではないか。姫神はそれに応じないどころか、あろうことか私の、本当に譲れない大切な親友を奪ったのだ。クビにしたって、引っぱたいたって、全然足りやしない。
「そうだ、姫神を理解する必要なんてどこにもないじゃないか。私は私の視野のまま――伊澄が認めてくれた、私の世界のままで。とんでもない無礼を働いたダメ執事の姫神を断罪すればそれでいいのだ。」
今までだって、気に入らない使用人に対してはそうしてきた。私を目覚めさせる朝焼けにだってその矛先を向けるくらいには――怒りとは、私がお嬢様たる所以ではないか。
「さあ行くぞモナ。あのふざけた元執事をなぎ倒してやるのだ。全速前進で私についてこい!」
「よーし、その意気だナギ!」
587
:
朝焼けすらも許さない
◆2zEnKfaCDc
:2022/05/13(金) 06:16:22 ID:XQc5FwDQ0
【B-4/一日目 朝】
【三千院ナギ@ハヤテのごとく!】
[状態]:疲労(大) 不安(小) 膝に擦り傷 手の爪に砂や泥
[装備]:CD火炎放射器と私@虚構推理
[道具]:基本支給品 CDラジカセ
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに乗らない
1.姫神…何をたくらんでいるのだ?
2.次に出会ったとき、ヒスイと決着をつける
3.ハヤテー!マリアー!どこだー!……生きているよな?
4.烏間なる人よ……成仏してくれ
※モルガナとのコープが5になりました。以下のスキルを身に付けています。
「駒さばき」集団行動のとき、メンバーに的確な指示を出すことができるようになる
「お嬢様の追い打ち」モルガナの攻撃で相手をダウンできなかった場合、追撃する。
※ヒスイとのコープが9になりました。まだスキルは解放されません。
※ヒスイが姫神側の人間であると知りました。
※ペルソナの存在について理解しました。
※ロトの鍵捜索中からの参戦です。
※もしかして自分は「運動が実は得意」なのではないかの思いが内心、芽生えました。
【モルガナ@ペルソナ5】
[状態]:ダメージ(低)、疲労(中)、SP消費(小)
[装備]:ノーザンライトSP@ペルソナ5
[道具]:基本支給品 不明支給品(1)(不明支給品にモルガナが扱える武器は含まれていません。)
[思考・状況]
基本行動方針:ナギとの取引を果たす
1.姫神の目的はなんだ?
※ナギとのコープが5になりました。
※ヒスイが姫神側の人間だと匂いでわかりました。六花の匂いにも気づきましたが、異様な匂いだと感じています。
※シドウ・パレスのレストランで政治家・大江を倒した時よりは後からの参戦です。
588
:
◆2zEnKfaCDc
:2022/05/13(金) 06:16:43 ID:XQc5FwDQ0
以上で投下を終了します。
589
:
◆2zEnKfaCDc
:2022/09/03(土) 18:51:39 ID:pbzklRQ.0
鎌月鈴乃、小林カンナ、鹿目まどか、巴マミ、佐倉杏子、潮田渚、弓原紗季で予約します。
590
:
◆2zEnKfaCDc
:2022/09/10(土) 15:18:14 ID:nbgMbBOU0
連作の1話目のみになりますが、投下します。
591
:
Memosepia【戻れない選択が象ったもしもが、ちらついた】
◆2zEnKfaCDc
:2022/09/10(土) 15:24:13 ID:nbgMbBOU0
ㅤかたちあるものは。
ㅤいつかはこわれて、きえてしまう。
ㅤぴしりと、おとをたてながら。
ㅤぽろぽろと、あふれるままに。
ㅤひびわれて、こぼれて。
ㅤそして、かたちをなくしていく。
ㅤ――ああ、まただ。
ㅤわたしのかたちが、とけだしてゆく。
ㅤこわい、こわいよ。
ㅤだけど。
ㅤわたしがいつか、かたちをなくしたそのあとは。
ㅤ――かたちなきしあわせを、つかめますように。
592
:
Memosepia【戻れない選択が象ったもしもが、ちらついた】
◆2zEnKfaCDc
:2022/09/10(土) 15:25:23 ID:nbgMbBOU0
■
身体が軽い――巴マミがそんな感覚に陥ったのは、おおよそ6時間ぶりのことだった。6時間前は、幸福感、もとい高揚感から。鹿目さんが魔法少女になる決意を固めて、一緒に戦ってくれると誓ってくれた時のもの。ずっと欲しかった私の居場所というものがようやく与えられたような気がして、それが魔女との命を賭けた戦いの場であるというのに、どこか舞い上がってしまっていた。その結果――眼前に迫り来る、死という底知れぬ恐怖を垣間見ることとなった。
そして今、マミは再び、同じ感覚に陥っている。しかしその裏に秘められた感情は、6時間前とは真逆であった。憔悴、焦燥、そして絶望――全身の脱力が感じられるほどに、脳裏を駆け巡る様々な想い。
数時間に渡る鎌月鈴乃との戦闘は、マミの精神を着実に蝕んでいた。確かにマミは、幼少期にキュゥべえとの契約を果たし、以降長きに渡り魔女と独りで戦ってきたベテランの魔法少女である。しかし鈴乃も同様、幼い頃から暗殺の訓練を受け続けてきた歴戦の暗殺者。二人の年齢差をも考慮に入れれば、むしろ鈴乃の方が戦いに身を投じてきた年期は長い。さらには、消耗すればするほど失われていくソウルジェムの輝きに対し、鈴乃は大気から聖法気を取り込むことができる。最初の段階で互角に撃ち合っていた地点で必然的に、戦いが長引けば長引くほどマミの側の不利が広がっていく。
そんな戦局の中で、鈴乃の警戒の外側にあった唯一の切り札、『ティロ・フィナーレ』は確かに、鈴乃を捉えたはずであった。そう、その瞬間に、鈴乃の後方に潜んでいた庇護対象、潮田渚の姿さえ見えなければ。
護るべき相手を、射殺しかけたことによる焦り。そして鈴乃と渚に向いていた銃口を強引に捻じ曲げて阻止したとしても、未だ護りたい相手である渚が、殺し合いに乗っている(と思っている)鈴乃の射程圏内に入ってしまっているという事実。焦燥が加速する要因は、この上なく出来上がってしまっていた。
「――やあ、調子はどうだい?」
極めつけに、狙ったかの如きタイミングで流れ始めた第一回放送。本来であれば、1秒先の自分の未来すら閉ざされているかもしれない戦場で、耳を傾けるに値するだけの情報ではなかっただろう。
事実、鈴乃はその声をいったん、意識の外に置いていた。完全に音声をシャットアウトすることなどできはしないものの、心持ちを眼前の光景に集中すれば、ある程度を除外することは可能である。
一方で、マミの側。最初に聴こえてきたその声を、意識の外に飛ばすことなど――到底、できるはずもなかった。
593
:
Memosepia【戻れない選択が象ったもしもが、ちらついた】
◆2zEnKfaCDc
:2022/09/10(土) 15:25:59 ID:nbgMbBOU0
「キュゥ……べえ……?」
その声の主――殺し合いの主催側の人物であり、自分たちをこの死地にたたき落とした紛うことなき敵であると認識していた相手は、マミのよく知る存在であったのだから。
魔法少女としてのマミの隣には、誰もいなかった。守る側と、守られる側。同じ人間であろうとも、両者の隔たりは大きい。研鑽を怠れば命を落とし得る者と、当たり前のように日々を謳歌している人たち。成績を維持する程度の勉強を行っていれば、趣味に費やせる時間が無い者と、文武両道を為せる者たち。歳を重ねるごとに、その溝は大きくなっていった。
そんな中でも、隣にとまでは言えずとも、常に共にあり続けた唯一の存在。それが、キュゥべえだった。その企みも知りえぬままに、家族の代わりとすら言えるだけの、歪な信頼関係がそこにあった。
この殺し合いの主催側に、彼がいる。その事実は、簡単に拭えるはずもない。
「……そっか。そうなんだ。魔法少女って、そういう……」
放心にも見える表情で、何かを呟いているマミ。そして、暗殺者、鎌月鈴乃はその隙を逃さない。放心状態のマミへと即座に銃口を向ける。魔法少女の身体の耐久性は先の応酬で理解している。厳密には、偶然にソウルジェムに当たっていないがためにマミへと致命打を与えられていないだけで、実際の耐久性とは認識の齟齬がある。ただ少なくとも、魔法少女の秘密など知る由もない鈴乃にとっては『ただの銃撃では殺せない』と判断するには十分な要素でしかなく、『殺さずに無力化する』という目的のために銃撃を選ぶ結果となった。
「っ……待って!」
「なっ……!?」
そんな鈴乃に対し、発せられた声。その主は、鈴乃の言葉を耳にして、この戦いが誤解から始まっていることをすでに察している少年、渚だった。
獲物に対して銃口を向ける鈴乃の行いは、ただの人間である暗殺者、潮田渚から見れば『マミの殺害』を試みる挙動に他ならない。魔法少女となったマミが、鈴乃から銃撃では殺せないと判断されるまでの能力を持っていることは、実際に戦っているわけではない渚にまで伝わっているわけではない。
しかし一方で、鈴乃は殺し合いに乗っているわけではないことも察している。当然、戦いが始まる前に接していたマミも同様。
渚には、殺し合わなくてもいい二人が殺し合っているようにしか、見えないのだ。止めなくては――単純明快な理屈に裏打ちされたその一心で、鈴乃の手にした銃へと思い切り右手を伸ばし、根本から銃口を逸らした。
渚が教室で暗殺を学んだ一年にも満たない期間など、鈴乃の暗殺者としての経験には遠く及ばない。しかし、鈴乃も決して完全無欠なる人間ではなく、注意を渚に逸らされ、物理的に銃の側面からの力を加えられたままに使い慣れていない銃を正確無比に扱うことなどできはしない。発射された弾丸はマミへと命中することはなかった。
そして――その一瞬はマミの意識を戦場に引き戻すには十分であった。
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