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魔界都市新宿 ―聖杯血譚― 第3幕

1 ◆zzpohGTsas:2016/09/20(火) 21:48:52 ID:DjcyjtZg0






     「ああ、分ってるよ。初めはものすごくうまくいってたんだね。『珊瑚島』みたいにね」

     ラーフは黙って士官の顔を見た。一瞬間、かつてこの浜辺をおおっていた、あの不思議な魅惑の面影を思い浮かべた

     しかし、島は朽ち木のようにかさかさに干からびてしまったのだ

     ――サイモンも死んだ――そして、ジャックのやつが……涙がとめどなく流れ、彼はからだを震わせて嗚咽した

     彼はこの島にきてから初めて、心ゆくばかり泣いた。全身をねじ切るような悲しみの激しい発作に、彼は身を委せて泣いた

     今、島は焼けただれ、荒廃に帰そうとしていた。その光景を前にして、濛々たる黒煙の下で彼は声を上げて泣いた

     この激情につりこまれて、他の少年たちも、からだを震わせて嗚咽し始めた

     それらの少年たちの間に立って、からだは汚れ、髪はべったりとくっつき、洟は垂れ放題のまま、ラーフは、無垢(イノセンス)の失われたのを、

     人間の心の暗黒を、ピギーという名前をもっていた真実で賢明だった友人が断崖から転落していった事実を、悲しみ、泣いた

                                             ――ウィリアム・ゴールディング、蠅の王





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261明日晴れるかな ◆zzpohGTsas:2017/02/08(水) 02:04:41 ID:oq.mIL1I0
「オガサワラァ!! 貴様、其処に那珂を一人で行かせたのか!!」

「た、確かに行かせました!! で、ですが、『私には秘策がある』とか、『それにはオガサワラさんの協力が必要』だって言って聞かなかったんです!!」

「何!?」

「那珂さんは『自分は競技フィールドに向かうから』と言ったのと同じ時に、私には『急いで競技場の外に出て周りに誰もいない所に向え』と命令したんです!! そして、周りに誰もいない所に着いたら、『那珂さんから別れた瞬間から起算して八分後に、ボスに電話を掛けろ』って言われたんです!!」

 此処まで言われて、那珂の意図に気付いた。那珂はオガサワラを競技場から脱出させるのと同時に、この男を伝令代わりにしたのである。伝える先は勿論、彼女のマスターであるダガー・モールス以外にあり得ない。

「彼女は何て言っていた!!」

「わ、私にはよく解りませんが、れ、れ……『れいじゅ』、と言う物を使って社長室に那珂さんを呼んで――」

 其処で乱暴に子機を受話器に起くダガー。要するに那珂は今、競技場で戦っており、そして、逃げ出せないと解っていたからこそ、ダガーを頼ったのだ。
そう、令呪。これを使えば百%どんな所からも逃げ切れる。令呪は確かに貴重なソースだが、此処で切らねば那珂が死ぬ。四の五の言ってはいられない、今まさにダガーは三つの鬼札の内の一つを切った。

「――令呪の福音にダガーが命ずる」

 言ってダガーは、己の喉に刻まれた、UVM社のロゴマークを模したトライバルタトゥーに右手を当てる。

「我がサーヴァント、アーチャーの那珂をこの場に呼び戻せ!!」

 そう告げた瞬間、ダガーの喉に刻まれた令呪がカッと光り輝き始め、それと同時に一画を失う。
そして次の瞬間、デスク越しに那珂が何の前触れもなく姿を現していた!! 頭からつま先間で余す事無く、素潜りをした後のように彼女はずぶ濡れだった。
だが、そんな姿が問題にならない程、今の那珂は、ダガーの知る彼女とは別の存在になっていた。
腕に装備した連装砲は、マスターであるダガーの方に向けられており、それが途轍もない威圧感を彼に与える。だが何よりも恐ろしいのは、那珂の宿す双眸の輝き。今までの中には見られない、虎か狼を思わせる鋭い光は、ダガーを威圧するには十分過ぎるものがあった。

 那珂が、自分が連装砲を向けている相手が誰なのかに気付いたらしい。
ハッとした顔で艤装を解除し、ふぅと息を吐き、へなへなと両膝から地面に座ってしまった。

「さ、作戦成功……」

 疲労困憊と言った様子で、那珂が呟き、彼女を見かねてダガーが近寄ってくる。
かくして那珂は、令呪と引きかえにではあるが、あの地獄の如き世界から逃れる事に成功したのであった。




【市ヶ谷、河田町(UVM本社)/1日目 午後3:00分】

【アーチャー(那珂)@艦隊これくしょん】
[状態]健康、魔力消費(中の中)
[装備]オレンジ色の制服
[道具]艦装(現在未装着)
[所持金]マスターから十数万は貰っている
[思考・状況]
基本行動方針:アイドルとして、平和と希望と愛を守る
1.とほほ、もうライブはこりごりだよ〜
2.ダガーもオガサワラも死なせないし、戦う時は戦う
[備考]
・現在オガサワラ(SHOW BY ROCK!!出典)と行動しています
・キャスター(タイタス1世{影})が生み出した夜種である、告死鳥(Ruina -廃都の物語- 出典)と交戦。こう言った怪物を生み出すキャスターの存在を認知しました
・現在の交戦回数は、上記の告死鳥の分も含めて『2回』です。あと1回の交戦で、改二の条件を満たします
・新国立競技場で歌を歌った事で、改二の条件を一つ満たしました
・新国立競技場で新たに、セイバー(ダンテ)、セイバー(チトセ・朧・アマツ)、アーチャー(バージル)、アーチャー(八意永琳)、アーチャー(那珂)、アーチャー(パム)、ランサー(高城絶斗)、ライダー(大杉栄光)、アサシン(レイン・ポゥ)の存在を認知しました

262明日晴れるかな ◆zzpohGTsas:2017/02/08(水) 02:05:13 ID:oq.mIL1I0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「創生せよ……あぁ、これはとても語感がいい……。それとも、天昇せよ……? うむ、これは良いかも――」

 高度数百m地点を、パムに抱えられながら、元のアジトであるホテルセンチュリーハイアットへと向かっているレイン・ポゥと純恋子。
純恋子に纏われていた黒羽のライダースーツは既に解除され、元のパムの羽へと戻っている。
現在パムは、己の羽の一枚を彼女ら三名に作用するステルス現象に変化させ、自分達の身体の透明化に充てさせていた。誰かに見られたら事の為だ。
流石に便利な能力だとレイン・ポゥも思ってはいたが、さっきからブツブツと、パムが煩い。流石の純恋子も不気味に思っているらしく、胡乱そうな目でパムの事を見ていた。

「ねぇ、うるさいんだけど魔王様」

「む。それはまぁ……そうだな」

「? ……何か素直だな。何かあったのかよ、あの競技場で」

 パムが戦闘を楽しむと言うのはよくある事なので、それは良い。
如何も今のパムは思い悩んでいるようで、戦闘で負ったダメージが気がかりと言うよりは、何か戦闘で自分の心証や固定観念を覆される様な何かに出くわしたような。そんな空気を、レイン・ポゥはパムから感じ取ったのである。

「いやな、あの競技場で凄いかっこい――ゴホン、参考になる詠唱を唱えるサーヴァントと戦ってな。それを応用したい」

「私達の魔法って詠唱何て必要ないでしょ、固有の奴だし。やろうと思えばノータイムで行けるじゃん」

「此処から突き落とすぞ小娘。兎に角、そう言う事だ。だからな、お前に聞きたい、虹の道化師」

「何」

 もうナチュラルに虹の道化師である事を受け入れてる自分が、レイン・ポゥは恐ろしくて仕方がなかった。

「『天昇せよ、我が守護星―――魔王の光気を掲げるが為』、と、『創生せよ、天に描いた星辰を――我らは煌めく流れ星』、のどっちの詠唱が良いと思う?」

「……どっちも痛い」

「は?」

 拙い、逆鱗だったようだと思い直す。本気で考えなくては行けないらしい。
何で戦闘以外の選択肢を間違えると、物理的に首が飛ぶような相手と自分は同盟を組んでるのだろうと、レイン・ポゥは考えていた。

「そ、創世せよ……、の方かな」

 全部言うのはとても恥ずかしい詠唱なので、最初の数文字しかレイン・ポゥは言えなかった。

「私は、天昇せよの方かと。天へと昇ると言うのが好みです」

「そうか……うむ、そうか!! やはりそっちの方が良いか!!」

 ある程度悩んでから、パムは満面の笑みを浮かべ、純恋子の意見を採択した。正直レイン・ポゥには、どっちの詠唱の何が良いのかよく解らない。

「いや、実を言うと確かに『創世せよ、天に描いた星辰を――我らは煌めく流れ星』の方も捨て難いのだが、こっちの方は私と戦ったサーヴァントとの唱えた詠唱でな。そっちを採用すると所謂『パクリ』になりそうだったのでな。正直此方を使う事は嫌だったんだ。だからやはり、前者の『天昇せよ、我が守護星――魔王の光気を掲げるが為』の方がオリジナリティがあるし、私のキャラにも合致して良いなとは、薄々思っていたんだ。良いセンスだぞアイアン・メイデン純恋子。そして、虹の道化師。お前は実力こそ優れているがこっちの方のセンスがないな。普通に考えれば詠唱の中の魔王と言う言葉から、こっちの方が私好みだと解りそうなものだが、ハハハ、さてはお前は余り本を読んでないな。だからあまりセンスの方が磨かれてなかったんだ。よし、帰ったら一緒に私とセンスを磨いて修行

263明日晴れるかな ◆zzpohGTsas:2017/02/08(水) 02:05:30 ID:oq.mIL1I0
【西新宿方面(ホテルセンチュリーハイアット近辺上空)/1日目 午後3:00分】

【英純恋子@悪魔のリドル】
[状態]意気軒昂、肉体的ダメージ(小)、魔力消費(小)、廃都物語(影響度:小)
[令呪]残り二画
[契約者の鍵]有
[装備]サイボーグ化した四肢
[道具]四肢に換装した各種の武器(現在は仕込み式のライフルを主武装としている)
[所持金]天然の黄金律
[思考・状況]
基本行動方針:私は女王(魔王でも可)
1.願いはないが聖杯を勝ち取る
2.戦うに相応しい主従をもっと選ぶ
[備考]
・アーチャー(パム)と事実上の同盟を結びました
・パムから、メフィスト病院でキャスター(メフィスト)がドリー・カドモンで何を行ったか、そして自分の出自を語られました
・遠坂凛&バーサーカー(黒贄礼太郎)、セリュー・ユビキタス&バーサーカー(バッター)の所在地を掴みました
・メイド服のヤクザ殺し(ロベルタ)、UVM社の社長であるダガーの噂を知りました
・自分達と同じ様な手段で情報を集めている、塞と言う男の存在を認知しました
・現在<新宿>中に英財閥の情報部を散らばせています。時間が進めば、より精度の高い情報が集まるかもしれません
・遠坂凛が実は魔術師である事を知りました
・新国立競技場で新たに、セイバー(ダンテ)、アーチャー(バージル)、セイバー(チトセ・朧・アマツ)、アーチャー(八意永琳)、アーチャー(那珂)、ランサー(高城絶斗)の存在を認知しました
・キャスター(タイタス1世)の産み出した魔将ク・ルームとの交戦及び、黒贄礼太郎に扮したタイタス10世をテレビ越しに目視した影響で、廃都物語の影響を受けました
・次はもっとうまくやろうと思っています


【アサシン(レイン・ポゥ)@魔法少女育成計画Limited】
[状態]霊体化、肉体的ダメージ(小)、魔力消費(小)、身体の内から自分ではない何かが皮膚を裂いて現れその何かに任せて暴れ回りたい程のストレス
[装備]魔法少女の服装
[道具]
[所持金]マスターに依存
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯獲得
1.マスターを狙って殺す。その為には情報が不可欠
2.天昇じゃなくて昇天しろ馬鹿共
[備考]
・遠坂凛が実は魔術師である事を知りました
・アーチャー(パム)と事実上の同盟を結びました。凄まじく不服のようです
・パムから、メフィスト病院でキャスター(メフィスト)がドリー・カドモンで何を行ったか、そして自分の出自を語られました
・ライドウに己の本性を見抜かれました(レイン・ポゥ自身は気付いておりません)


【アーチャー(魔王パム)@魔法少女育成計画Limited】
[状態]肉体的ダメージ(中)、実体化
[装備]魔法少女の服装
[道具]
[所持金]一応メフィストから不足がない程度の金額(1000万程度)を貰った
[思考・状況]
基本行動方針:戦闘をしたい
1.私を楽しませる存在めっちゃいる
2.聖杯も捨てがたい
[備考]
・英純恋子&アサシン(レイン・ポゥ)と事実上の同盟を結びました
・新国立競技場で新たに、セイバー(ダンテ)、アーチャー(バージル)、セイバー(チトセ・朧・アマツ)、アーチャー(八意永琳)、アーチャー(那珂)、ランサー(高城絶斗)の存在を認知しました
・すごくテンションが上がっています

264明日晴れるかな ◆zzpohGTsas:2017/02/08(水) 02:06:11 ID:oq.mIL1I0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「……来たか。ク・ルーム。我が配下にして無二なる友。討竜を成し遂げた不死身の英雄よ」

 その男が姿を見せた瞬間、警護を担当していた夜種の多くが、通り道の左右に分かれ、キビキビと整列を始めた。
そして彼らに見守られるが如く、岩地の道をゆっくりと歩いて進む男がいた。フードと一体化した黒灰色のローブを身に纏う、二mにも届こうかと言う偉丈夫。
両手に大剣を握り締め、油断なく、竜種の骨を削って造られた円卓の上座に座る男と、その対面に座っているスーツの男の方へと近付いて行く。
彼ら以外に、この円卓に腰を掛けるものはいない。歴代のアルケアの皇帝のみが腰を下ろす事を赦される、言ってしまえば選ばれた神の座に相当するこの円卓の席の大部分は、今は空白の状態だった。

 スーツを纏った男、ムスカ、神楽坂における一連の事件の黒幕とすら言えるこの男は、タイタス10世が大暴れしたのを見届けるや、
全く無関係なNPCの風を装い、急いで新国立競技場から脱出。その後すぐにタクシーを利用し、元のアジトである百人町の高級ホテルへと帰還していた。
そして、サーヴァントである始祖のタイタスに諸連絡を行い、暫くしてから、ク・ルームが戻って来た。事のあらましは、こう言う事になる。

「……画策した企ての方はどうなっている」

 到達するなり、ク・ルームは訊ねた。いきなりこのような事をぶしつけに訊ねられるのは、ク・ルームと、上座に座る王の中の王。
つまり始祖帝とが、旧知の間柄にして、同じ釜の飯を喰らい合った程の関係だからに他ならない。灰色のトーガを身に纏った、王の威風を放つ男は静かに口を開き始めた。

「余が当初思い描いていた、十番目に連なるタイタスを用いた策は、夢を用いる戦士の勇敢さを以って失敗に終われり」

「夢、とは? 始祖よ、其処まで解るのですか?」

 始祖のタイタスに対して、彼のマスターたるムスカが問うた。
これではムスカがサーヴァント(奴隷)で、タイタスの方がマスターの方だと、誰もが思うだろう。だが、ムスカが此処まで遜るのを、果たして誰が責められようか。
竜の肋骨を削って作った椅子の肘掛けに膝を付くこの男、魔術の始祖にして文明の創造主たるこの男の前では、ムスカの如き男は、忽ちその価値が消失してしまう。

「彼ら魔将は、我が手足にして我が耳目。余がその気になれば、山を隔てた草原、海を越えた島に魔将がいようとも、魔将が見聞きしているものは此処にいながら余も見聞出来るのだ」

「で、では始祖は此処にいながら、同志ク・ルームの視ていた物を……」

「それすらも出来ずに、魔術の王を名乗るなど……恥知らずにも程があろう」

「夢を操る戦士、とは何か。始祖よ」

「勇者よ。お前が見た戦士は、素養のない者が見ても不可思議な技を使う男にしか見えぬだろうが、あの戦士が用いていたものは夢なり。我らの生きる現実にも作用する夢よ」

「何を以って解る」

「それをこそ、愚問。認識の中に国を編む術を生んだ余が、よもや夢を見誤ると?」

 これを言われれば、ク・ルームもそうだと思う他がない。始祖の言う通り、『夢』については、始祖のタイタス程造詣の深い存在はこの地にはいないのだから。

「十番目の余は、夢の戦士の手によりまさに邯鄲に堕ちた。だが、勇者よ。お前の働きによりて、余の計画は一先ずの段階にまで至った」

「夜か」

「然り。夜の君主である月と、月の臣下たる星とが天球を行軍するその時間にこそ、我らに魔力が集まる時。そしてその時を以って、アーガの都は空に結ばれる」

「では、始祖よ!! この戦いは我々の勝利――」

「逸るな、貴種(マスター)。その言葉、口にするには余りに早い」

 タイタスの瞳が光った。それだけでこの場の気温が、十度も下がったような気配を一同は憶えた。

「時計の針が右に回る程に、余は実感する。異世界の勇者なる者達の強さを。そして、彼らの行いを知る度に、意識する。余の案に生じる、避ける事の出来ぬ綻びを」

 言葉を続ける。

「決して、気を緩めるな。聖杯戦争、一筋縄で行くものではない事は重々言っているだろう。現に、十番目の余は成す術もなく、夢を操る戦士に葬られたのだからな」

 ムスカに目を向けてから、佇むク・ルームの方に目線を向け、タイタスが口を開く。

265明日晴れるかな ◆zzpohGTsas:2017/02/08(水) 02:06:39 ID:oq.mIL1I0
「五度、滅ぼされたな。勇者よ」

「言い訳は、しない」

 その言葉にムスカは愕然とする。あの三十分程度の短い時間に、五回も殺されたと言うのか?
如何に弱体化しているとは言え、この魔将は竜種の王と互角以上の戦いを繰り広げた勇者なのである。それをいとも簡単に幾度も葬れる手合い……それが、サーヴァントなのかと。ムスカは改めて、己らの敵になる存在の強さと恐ろしさを再認した。

「責めた訳ではない。竜をも抑え込むこの男ですら、たかが半刻の戦いで五度も命を落としてしまう。聖杯戦争……いよいよ余も、力を蓄えねばならぬと、思っただけよ」

 一呼吸を置いてから、タイタスは口を開く。

「何れにしても、見事なりク・ルーム。お前の働きの甲斐もあり、余は今後の未来を決める天啓を得る為の素を得たり。二番目の余の下まで戻るが良い」

「……御意」

 身に纏う魔将の外衣をはためかせ、ク・ルームはこの場を後にする。
向った先はタイタスが『二番目の余』と言っていた者が幽閉されている場所……つまりは、タイタス2世が閉じ込められている石室であった。
2世は始祖を除けば最も優れた膂力と霊的資質を有するが、10世同様ある時期を境に乱心を起こし発狂してしまったが為に、専用の石室に閉じ込められているのだ。
これを常に番していなければならないのが、ク・ルームである。と言うより、これこそが本来のク・ルームの仕事なのである。

「……宜しいのですか? 始祖よ。休ませなくとも」

「疲れなど、余の魔術で幾らでも治る」

「……成程」

 この恐るべき労働スケジュールが、何時か自分にまで回って来るのかと思うと、ムスカには、ゾッとしない話なのであった。




【高田馬場、百人町方面(百人町三丁目・高級ホテル地下・墓所)/1日目 午前2:00分】


【ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ@天空の城ラピュタ】
[状態]得意の絶頂、勝利への絶対的確信
[令呪]残り二画
[契約者の鍵]有
[装備]普段着
[道具]
[所持金]とても多い
[思考・状況]
基本行動方針:世界の王となる。
0.アルケア帝国の情報を流布し、アーガデウムを完成させる。
1.本日、市ヶ谷方面で行われる生中継の音楽イベントにタイタス十世を突撃させて現場にいる者を皆殺しにし、その様子をライブで新宿に流す。
2.タイタス一世への揺るぎない信頼。だが所詮は道具に過ぎんよ!
[備考]
・美術品、骨董品を売りさばく運動に加え、アイドルのNPC(宮本フレデリカ@アイドルマスター シンデレラガールズ)を利用して歌と踊りによるアルケア幻想の流布を行っています。
・タイタス十世は黒贄礼太郎の姿を模倣しています。模倣元及び万全の十世より能力・霊格は落ち、サーヴァントに換算すれば以下のステータスに相当します。
・遠坂凛の主従とセリュー・ユビキタスの主従が聖杯戦争の参加者だと理解しました。
・結城美知夫とコンタクトを取りました
・真っ先に新国立競技場から出た為に、内部で何が行われていたのかをほとんど知りません


【魔将ク・ルーム@Ruina -廃都の物語-】
[状態]健康
[装備]二振りの大剣、準宝具・魔将の外衣(真)
[道具]タイタス十世@Ruina -廃都の物語-
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:タイタスの為に動く
1.ムスカの護衛
2.道具である十世を守り抜く
[備考]
・タイタスにより召喚された、魔将です。サーヴァントに換算すれば以下のステータスに相当します。

【クラス:セイバー 筋力A 耐久B 敏捷B 魔力A 幸運E- スキル:勇猛:C 対魔力:C 戦闘続行:EX 異形:A 心眼:C 】

・準宝具の魔将の外衣は、Cランク相当の対魔力を付与させると同時に、『7回までは死んでも即座に復活出来る』と言う効果を持ちます(現在死亡回数は5です)
・セイバー(ダンテ)、アーチャー(バージル)、ライダー(大杉栄光)、アサシン(レイン・ポゥ)、ライドウ、ザ・ヒーロー、英純恋子の存在を認知しました(タイタス1世もこれを理解しております)

※偽黒贄礼太郎(タイタス10世)及びク・ルームの影響で、廃都物語が数百万人規模で拡散されました。が、これでもまだアーガデウムの顕現には時間が掛かります

266明日晴れるかな ◆zzpohGTsas:2017/02/08(水) 02:06:52 ID:oq.mIL1I0
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   346プロダクションの方々へ、私めにアイドルと言う素晴らしい女子や女性を預ける事を許された親御様、そして全てのアイドルの関係者様へ



   素晴らしい夢を見させて頂き、まことにありがとうございます。シンデレラプロジェクトは発足からずっと苦しい事も続きましたが、



   私にとってはどれもかけがえのない、一つの例外もなく素晴らしい思い出ばかりでした。



   未来に希望が満ち溢れ、若く、そして素晴らしい命を散らしてしまった責任者として、そのけじめをつけたいと思います。
   


   皆さま、今までありがとうございました。そしてごめんなさい。私は、耐えられません




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267明日晴れるかな ◆zzpohGTsas:2017/02/08(水) 02:07:19 ID:oq.mIL1I0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 目が覚めた時には、美城は公園のベンチの上だった。
其処に仰向けに寝かされていた美城は、意識が戻るなり、バッと起き上がり、辺りを見渡した。
何があったのか、最初の数秒は思い出せなかったが、それが過ぎる頃には鮮明に思い出していた。
確か自分は、自分の姿に化けた長身の怪人に、階段から突き落とされ、頭を打ち、意識を失ってしまったのだ。今も、打ちつけた後頭部がジンジン痛む。夢ではない。
そして今美城がいる場所は明らかに、新国立競技場の内装ではない。外だった。そしてその上、どう見ても霞ヶ丘町の風景ではない。
此処は何処だと、スマートフォンを取り出し地図アプリを開いた。如何やら<新宿>の富久町、その公園であるらしかった。

 普段はあまり人通りのない街の上、今の<新宿>で起った事件が事件だ。輪を掛けて、人通りが少ない。
東京都の中で一番活気のある<新宿>の住宅街である筈なのに、この過疎の波に攫われた田舎の商店街の如き静けさは、どうだ。
まるで、街全体が死んでいるようだと、美城は思った。スマートフォンが指し示した時刻は、夕方の六時。沈みゆく太陽は、既に白から、焼けるような橙色に変じている。
振える指で、新国立競技場で何が起こったのか、美城は改めて調べ、そして、スマートフォンを落としてしまった。
新国立競技場そのものが、忽然と姿を消し、そして、346プロダクションに所属するアイドルの多くが行方不明。
今回の責任者であった美城常務自体の行方も杳として掴めず、警察はその行方を今しがた捜査し始めたらしかった。

 だが真に生々しい情報が列挙されていたのは、SNSやニュースのまとめブログである。
アイドルの死を悼む記事やツイートもあれば、淡々と事件の流れをリアルタイムで纏めているものも。
そして、PV数やRT数を稼ぎたいが為に、ある事ない事を吹聴し、恣意的な編集を行う見るに堪えないものも。
その中に、今回のイベントの最高責任者であるところの、美城を非難する記事やツイートを見た時、息が止まりそうになった。
自分だけ逃げたと言うものもあった、最低だ、人間の屑だと言う意見もある。賠償金や慰謝料を支払われる可能性だってある事を示唆するものもあった。
自分の責任を追及するものも、当たり前のようにインターネットの各所で散見出来るのだ。それは当然の流れでもあった。
何故ならば今回のイベントにGOサインを出したのは他ならぬ、この美城本人であるのだから。

 自分は何故、此処にいる? 誰に手によって、連れて来られた?
そんな事は、何の問題にもならない。ただ解るのは、自分が築き上げてきた社会的地位も、個人・企業・法人問わぬ信頼関係も、全て失ってしまったと言う事だ。
これを認識した瞬間、美城は真っ先に、胸元からペンを取り出し、懐にいつも忍ばせていた手帳の一ページをちぎり、文章をしたためていた。
そしてその後美城は、近くのゴミ箱を引き倒し、それを踏み台に、近くの枝に己の着ていたスーツを紙縒り合せ、それを枝に巻き付けていた。
紙縒りあわされたスーツの先端は輪っかになっており、その輪っかに手を掛け、美城は、一気に何十歳も老け込んだような疲れた顔立ちで、静かに呟いた。ごめんなさい、と。そしてその輪っかに頭をくぐらせようとした時だった。

「およしなさい、美城さん」

 自分の名を呼ぶ声に、美城はバッと背後を振り返った。
其処には、よく知った人物がいた。何十年来の古い付き合い、と言う訳ではない。彼と知り合ったのは一週間にも満たない短い時間。
身に纏うスーツも、シャツも、ネクタイも、タイピンも、革靴も、腕時計も。全て、『一本』の年収以上を容易く稼ぐ男が纏える一級品。
それを嫌味なく着こなすのは、これまたエリート特有の、甘く整った顔立ち。結城美知夫。今回のライブイベントの際に、数億円の融資を美城に許可した、あるメガバンクの貸付主任であった。

268明日晴れるかな ◆zzpohGTsas:2017/02/08(水) 02:07:32 ID:oq.mIL1I0
「ゆ、結城様……貴方が如何して、此処に……」

「住まいが近かっただけですよ」

 短くそう答えながら美城の下に近付いて行くや、目にも留まらぬ速さで彼女のシャツを引っ掴み、そのまま地面に押し倒した。
突然の事だったので彼女は仰向けに勢いよく倒れ込み、強かに頭を打ちつけてしまう。
それを悪びれる事もなく結城は、彼女が脱いでいたハイヒールの右足に丁寧に畳んで入れられていた紙を取りだし、其処に書かれていた内容を読む。

「……やはり、遺書でしたか。そしてこっちは――」

 首吊りの為の、言ってしまえば『縄』と言う訳だ。
自殺の理由は、言うまでもない。今回の事件が、耐えられないからだろう。

「何で、何で邪魔をする!! お願い、私を……私を死なせて!!」

 結城の意図に気付いた美城が、それまで被っていたキャリアウーマン然とした仮面の全てを脱ぎ捨てた、本当の素顔で叫んだ。
いや、今回の事件の当事者になって、誰が気丈な姿でいられるか。彼女もまた、良心の呵責に耐えられなかった一人の人間であった。

「今の貴女にとって、こんな言葉など聞きたくもない陳腐なものなのかもしれませんが……死ぬ事は、逃げでは?」

「そうだ、そんな事……解っている!! だが、私は……私は、どうしたらいいの……!?」

 其処で顔を覆い、美城は泣き始めた。結城に引き倒された時点で、既に涙で濡れていたその顔は、化粧が崩れる程グシャグシャになっていた。

「皆、私なんかよりもずっと未来が輝いてて……、皆、とっても良い子達だったのに……どうして……どうして……、皆死んでしまったの!? ……どうして、私だけが、生き残ってしまったの……!? どうせなら、皆と一緒に、消えてなくなるべきだったのに……」

 其処で美城は、本当に大声で泣き始めてしまった。
三十路も過ぎ、じき四十に達するかと言う年齢の女性が、子供のように大泣きしているのだ。それ程までに、彼女の身に襲い掛かっている重圧は、身体を外側から圧迫し、内側から身体を張り裂いて来る程の苦しさなのである。

「こんな苦しみ……耐えられない……!! こんな重荷を背負って生きて行くなんて、私……私……!!」

「恐らく貴女は、生き残るべくして生き残ったと、私は思いますな」

 美城の肩に手を掛け、結城が呟く。その言葉を受け、美城は、何を言っているのか解らないと言う風に、彼の方に顔を向けた。

「あれから、もう三時間も経っています。酷い物でした。恐らく、逃げ遅れた方々は一人残らず死に絶えたでしょう」

「では何故、私は今も――」

「それは解りませんが……、恐らくは、貴女が生き残ったのはきっと、偶然ではない筈です。あんな酷い所から、貴女だけが生き残る。偶然と考えるには、余りにも虫が良過ぎる。貴女は、生き残るべくして、生き残ったのだと私は思います」

「そんな事……解らないでしょ……」

「そうですね。ですが、死んだアイドルの方々も、貴女に後を追って貰う事を、望んではいないと思いますがね。寧ろ、生きていて欲しいと、思っている風に私は思いますが?」

 結城の言葉に、目を見開かせた。そんな事、考えもしなかった。

「ば、馬鹿な……私に、一体何が出来ると、言うの……!? こんな、悪運だけが強い女に、何が……!!」

「それを、一緒に私と話しあいましょう。今回の事件、貴女に融資をしてしまった私も、責任を感じています。何処かで融資を断っていれば、もしかしたら、違った未来があったのかもと思うと、私は……」

「あ、貴方は関係ない!!」

「そう言って貰えると、私も大変嬉しく思います。……美城様、如何か自殺だけは思い止まって下さい。それに此処は目立ちます。今は貴女も有名になってしまわれた。此処から私の住まいが近い。其処で落ち着いて話し合いましょう」

「……」

 無言で美城は立ち上がり、結城の肩を借りた状態で、何とか靴を履き、よろよろと歩き出した。
向う先は、結城の住まいである、富久町から歩いて数分の、超高級タワーマンションであった。

269明日晴れるかな ◆zzpohGTsas:2017/02/08(水) 02:08:18 ID:oq.mIL1I0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「此方です」

 結城に案内されたタワーマンションは、差別的な空気に満ちた言葉だが、文字通りの人生における勝ち組だけが住める物件だった。
ロビーからして既に高級感あふれる佇まいなだけでなく、通路も清掃が整っており、内装自体も現代的。
――だが、結城の部屋は、美城の予想していた部屋の内装を大きく裏切る、言ってしまえば異質その物の空間であった。

 所々に設置された、様々な数値が絶えず変動する用途不明のコンソール、液晶TVのそれとは違う巨大ディスプレイ、TVニュースでも見た事のあるスーパーコンピューター。
そして何よりも目を引くのが、随所に陳列された、何かを培養しているカプセルと、其処で蠢く何かの生物。
子供の頃に見たSFもののアニメや特撮などに出てくる、悪のマッドサイエンティストのイメージ宛らの様相。それが、国内最大級の総資産を誇る某メガバンクの貸付主任、結城美知夫のプライベートの象徴たる、私室の姿であった。

「子供の頃からの趣味……と言われると、ハハ、少々厳しいでしょうかね。これでも結構、こう言うのに憧れておりましてね。ずっとこう言う部屋にしてみたかったのですよ。尤も、同僚からは子供っぽいと笑われましたがね」

 笑みを浮かべ、鍵を掛ける結城。何が何だか、と言う風に、結城の先を歩かせられていた美城は、異様な空間を見渡すだけ。
結城はやはり、部屋の主だけあって歩き慣れている。設置された物々しい機械の類の密集した方向とは違う、クラシカルなデザインの棚が趣味の良さを窺わせる、
ホームバーの方へと向かって行く。棚の中には、酒の知識を少し嗜んだ者が見れば、直にそれと解る程の高級銘柄がズラリと並んでいた。
現代の科学技術の何年先を行っている、と言う装置や機械が部屋の殆どを埋め尽くしていると言う奇妙過ぎる空間の中にあって、このホームバーだけが、タワーマンションの部屋に備わっていた元々の設備の名残を残しており、寧ろ異常さをより際立たせていた。

 棚から酒瓶を一本取り出し、手慣れた風にそれを開け、ショットグラスにそれを注いで行く。
ストレートだった。如何やら氷を入れるオンザロックや、天然水で割る水割り等を好まない、無垢の味わいを楽しむのが好きな性格らしい。

「サントリーから販売されている、響の三十年物です。日本はウィスキーの歴史が浅いからとツウには馬鹿にされがちですが……いやはや、国内外の銘柄を色々飲み比べると、これが中々侮れない。これは中々の逸品ですよ」

 そう言って結城は、美城の方に、響と言う名前のウィスキーを注がれ、琥珀色に変じたショットグラスを差し出した。

「わ、私は遠慮しておきます……」

「おや飲めませんか? それとも、不謹慎でしたかな。落ち着かせる為に用意しましたが……いやはや、所詮は馬鹿みたいに酒を飲む銀行員の間でしか通用しない処世術でしたか」

 残念な風に、ショットグラスと響の酒瓶をカウンターテーブルの上に置き、溜息を吐いた。何処までが本気だったのか、美城にはよく解らない。

「……煩いぞマスター。気が散る、別室で待機していろ」

 それは、こんな事が起きる前の美城以上にヒステリックで、しかし、美城以上に知性の奥深さを感じさせる女性の声だった。
立ち並ぶ機械と機械の影になっている所からヌッと現れたその女性は、射干玉の如き黒髪を後ろに長く伸ばした、白衣とも、白装束とも取れる服を身に纏う女性だった。
年の頃は、美城と大差ないかも知れない。だが、何故だろう。声からは女性である事は解る。胸の隆起も、女性特有のもの。
だが不思議な事に美城は、女性を見た瞬間、『男性的』なイメージを感じ取ったのだ。男らしい、と言う印象を受けるアイドルは多々いたが、男性としての側面が見られると思う程の女性は……美城は、これまでの人生で、出会った事がなかった。

「あぁ、キャスターか。彼女だよ。以前話していた、アイドルプロダクションの……」

「……成程、彼女がか」

 如何やら結城と、キャスターと呼ばれる女性は、同棲関係に近い間柄のようで、しかも、美城の事を既に話していたようである。

「だが彼女は、いなくなった筈ではないのか? 警察も捜索している事だろうし、何よりも……何故彼女を此処に招き入れた? 手癖の悪さを、自慢する為か」

「ハハハ、馬鹿な。熟れるだけ熟れて、後は醜くなって行く女性は、僕の趣味じゃないんだ。まぁ、抱かなきゃ行けない時は抱くんだけどね」

270明日晴れるかな ◆zzpohGTsas:2017/02/08(水) 02:08:34 ID:oq.mIL1I0
 其処で結城は、自分の分のショットグラスに、響の中身を注ぎ、蓋を閉める。
そして、美城が、何が何だか解らないと、顔の向きをキャスターの方に向けた瞬間を狙い、酒瓶を彼女の脳天にふるい落とした!!
ガシャン、と言う音。どれだけの力で殴りつけたのか、酒瓶は砕け散り、砕けたのと同時に頭から血を流し、美城は俯せに倒れ込んだ。
シャツに、琥珀色の染みに混じって紅い液体が伝い始めて浸みこんで行くのを、結城は面白そうな笑みを浮かべて眺める。

「ま、何が言いたいかって言うと、如何だろう? 彼女、チューナーにするには良いんじゃないかな? ってさ」

「……お前と言う奴は」

 呆れ気味に、キャスター、ジェナ・エンジェルが呟く。

「『窓の外で面白いものを見たから、ちょっと話してくる』……。何を見つけたのかはその時は解らなかったが、そう言う事か」

「まぁね」

 事の顛末は、ジェナの言葉の通り。
急いで新国立競技場から立ち去り、務めている銀行の<新宿>支店に戻らず、今日はこのまま行方不明を装いフケ込もうと思い、
結城は自宅のタワーマンションに戻っていたのだ。流石に情報戦に強いジェナは、新国立競技場で起った事件をある程度は理解していたらしく、その時はかなり心配していた。
どちらにしても何とか生き残った結城は、ジェナの作ったこの工房に引きこもり、暇を潰していたのだが、ふと、窓を眺めていると、公園に見知った人物がいたのを発見した。
それこそが、346プロのシンデレラプロジェクトの責任者にして、最新の融資相手、美城常務その人だったのだ。
階数がそれ程高くないのが幸いした。もっと高ければ、近くの公園に一人だけぽつんと佇んでいた女性が、美城だとは知る由もなかったろう。
そして、彼女を使った面白い遊びを思いつき、結城は彼女にコンタクトを取ったのだが……流石に、自殺を試みようとするなど思わなかった。
其処で、口八丁手八丁を用い、美城を此処まで案内し――そうして、今の様な行為を行った。美城は今もカウンターテーブル越しの床で、ビクビクと、魚の活け作りのように痙攣を続けていた。

「如何だろう、遊べるかな」

 無邪気な、子供の声音。

「……丁度、ウィルスの補充も少しは済んだ所だ。遊べるかは兎も角、チューナーには出来るさ」

「おっ、さっすがキャスター先生。確か、魔術って奴で傷を治せるんだろ? 治してさっさとチューナーにしちゃおうぜ」

 カウンターテーブルに両肘をかけた状態で、だらしなくウィスキーを口に運びながら、結城はジェナに対してそんな提案をした。
そして、そんな悪魔的な提案に対してジェナもまた、悪魔的な微笑みで返した。今からやる事に対して、面白さを感じてる事の証左であった。

 魔界都市に神はいない。何故ならば、魔界に跋扈するのは何時だって――悪魔と、悪魔のような『人間』だけであるから




【市ヶ谷、河田町方面(富久町・超高級マンション)/1日目 午後6:00分】

【結城美知夫@MW】
[状態]いずれ死に至る病
[令呪]残り三画
[契約者の鍵]有
[装備]銀行員の服装
[道具]
[所持金]とても多い
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争に勝利し、人類の歴史に幕を下ろす。
0.とにかく楽しむ。賀来神父@MWのNPCには自分からは会わない。
1.<新宿>の有力者およびその関係者を誘惑し、情報源とする。
2.銀行で普通に働く。
[備考]
・新宿のあちこちに拠点となる場所を用意しており、マスター・サーヴァントの情報を集めています(場所の詳細は、後続の書き手様にお任せ致します)
・新宿の有力者やその子弟と肉体関係を結び、メッロメロにして情報源として利用しています。(相手の詳細は、後続の書き手様にお任せ致します)
・肉体関係を結んだ相手との夜の関係(相手が男性の場合も)は概ね紳士的に結んでおり、情事中に殺傷したNPCはまだ存在しません
・遠坂凛の主従とセリュー・ユビキタスの主従が聖杯戦争の参加者だと理解しました
・早期に新国立競技場から退散した為に、内部で何があったのかの殆どを理解していません
・346プロダクション(@アイドルマスター シンデレラガールズ)に億の金を融資しました
・宮本フレデリカがチューナーである事を知っています
・ムスカと接触、高い確率で彼が聖杯戦争に何らかの形で関わっているのではと疑っています

271明日晴れるかな ◆zzpohGTsas:2017/02/08(水) 02:08:48 ID:oq.mIL1I0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





     心に シンデレラ

     私だけじゃ始まんない

     変われるよ 君の願いとリンクして

     誰かを 照らせるスター☆

     いつかなれますように…

     動き始めてる 輝く日のために




.

272明日晴れるかな ◆zzpohGTsas:2017/02/08(水) 02:11:21 ID:oq.mIL1I0
これで正真正銘、昨年9月の中頃から続いた本話も終了になります
予約したキャラクターを全員活躍させよう、目立たせようと思った結果、長期拘束では済まされない程あらゆるキャラクターを拘束した挙句、
あまり目立ててないキャラクターもチラホラ存在したりなど、企画主としての技量の浅さを実感する次第でした。
さしあたって、当分の間これより長い話はなさそう(合計738kb)ですので、其処だけは約束したいと思います。

何にしても、長期のキャラ拘束を、企画主の名の下に行ってしまった事を此処に謝罪いたします。まことに、申し訳ございませんでした

273 ◆2XEqsKa.CM:2017/02/08(水) 23:32:37 ID:CM0RDBgQ0
大作投下乙です
殺人的な文量が面白さと巧みさを孕んで殴りつけてくる悦び……!
殴られ続けて五ヶ月間、投下の度に感嘆し良質なクロスオーバーと原作愛に打たれておりました
<新宿>で起きた数々の悲惨な事件の中でも一際輝いた序盤の山場、堪能し何よりこれからの展開に心が躍ります
貧乏くじを引いたように見えて、特にヤバいバーサーカー連中との遭遇は免れたベルク・カッツェ、頑張れ
サーヴァントに着いていくだけだった方針が友人の死や魔戦を目撃したことで変わるか、志希にゃん
参加者中最高じゃないのか、と思うほど辣腕の魔術を見せ付けたえーりんはクビを免れるのか
ライドウとダンテのスマートさには一歩譲るも、随所でマスターあかりを庇う好プレーを見せたバージルは那珂ちゃんを斬れるのか
蝿の王、ゼットは生前から自分の仕事には真摯な一面があったのがサーヴァントとして正しく在る裏付けになっていてとてもいい
順平と栄光はライブを純粋に楽しみに来たのが嫌な展開になってしまって気の毒、ありのままの感情をぶつける姿に涙
凛ちゃん!!!アイドルを殺して平気なの!!!???あれだけ忌んでいたバーサーカーに頼っていく様子はまさに地獄への片道特急
そんな黒贄も死んでしまったが、また生き返ってよかったね凛ちゃん!!!アイドルはみんな生き返らないのに……
ヴァルゼライドに関しては投下の度に「ヴァルゼライドもついに終わりか!何が英雄だ、成り上がりめ無様に死↑ねェェ↓」という声がどこからか頭を満たしていましたが、死ななかった、気合と根性ってすごい
ザ・ヒーローとの穏やかに狂った会話が、彼のぶっ壊れぶりを現しているようで結構怖い
那珂ちゃん、ライブという舞台で唯一アイドルの仕事が出来たがそれ以上に仕事人の姿が印象に残る。とほほじゃないでしょ
ダガーは令呪を切らされたが、他のサーヴァントの戦技や人となりの情報だけでそれ以上と思える収穫だろうか。ガルパンは元気か?
パムと愉快な仲間たちは自分達の行く道を往く感がとんでもない、こいつら何があっても楽しいんだろうな(身体の内から自分ではない何かが皮膚を裂いて現れその何かに任せて暴れ回りたい程のストレス)
ムスカはムスカ。タイタスの策略も佳境に至り、中盤以降の展開を揺るがす雰囲気にwktkが止まらない!
結城、ここをMWと勘違いしているのではと思う程の外道ぶり。美城常務を賞味期限切れかのごとく誹謗したツケをいつか払うことになるだろう

キャラ毎に分けても言い切れませんがとにかくとにかく、楽しかったです!



キャスター(メフィスト)
ムスカ&キャスター(タイタス1世(影))
ロベルタ&バーサーカー(高槻涼)
アイギス&【EX】サーチャー(秋せつら)
マーガレット&アサシン(浪蘭幻十)
有里湊&【EX】セイヴァー(アレフ)
青のライダー(美姫)

予約します、延長もしておきます

274名無しさん:2017/02/09(木) 10:32:28 ID:ht.lRrtw0
美城常務……死んだ方がマシじゃね?と最初の方から思ってたけれど、まさか生き残ってチューナー化。やはり死んどけば
那珂の立ち回りが巧い。ちゃんと退路を確保してから戦場に臨むとは、此れでクラゲも那珂に対する認識を改めるか?
そして死なない総統閣下。理不尽の権化。こんなんをSATSUGAIした(夢オチ)人修羅はやはりバケモンやで

ザ・ヒーロー&バーサーカー(クリストファー・ヴァルぜライド)
セイバー(シャドームーン)
塞&アーチャー(うどんげ)
ジョナサン&アーチャー(ジョニィ)
佐藤十兵衛&セイバー(比那名居天子)
北上&魔人(アレックス)予約します

275 ◆v1W2ZBJUFE:2017/02/09(木) 10:33:27 ID:ht.lRrtw0
トリが消えてましたが此れです

276 ◆v1W2ZBJUFE:2017/02/13(月) 13:39:11 ID:DIRarfC20
予約を延長します

277 ◆v1W2ZBJUFE:2017/02/15(水) 19:22:10 ID:Z7jWGD..0
魔王パムと愉快な仲間達を追加で予約します

278名無しさん:2017/02/16(木) 21:44:56 ID:QTjaHB7w0
魔王パムと愉快な仲間達を投下します

279自由を!:2017/02/16(木) 21:46:45 ID:QTjaHB7w0
前回までのあらすじ


地獄と化した新国立競技場から生還したレイン・ポゥは、床に落としていったタブレットで情報を集めようとしたら、ジャンキーよりもイカレたゴリラ共にタブレットを奪われてしまったのじゃ。





“怒りの日、裁きの時。天地万物は灰燼と化し、ダビデとシビラの預言のごとくに砕け散る”

「ダビデとシビラの預言……魔王たる我には相応しく無いか…?」

「モーツァルトのレクイエムですか、敵を葬送するという点では丁度良いかと」

─────それ流してやるからさっさと死んでくれ。



“我招く無音の衝裂に慈悲はなく、汝に普く厄を逃れる術も無し”
 
「決め技に使えそうだな」

「普く厄を逃れる術も無し、というのが此方が敵にとって絶対的な存在である。という事を強調していますわね」

─────私がお前らという厄から逃れる術は無いものか。



“闇に飲まれよ”

「シンプルだがそれもまた良し

「シンプル・イズ・ベストという言葉も有りますしね」

─────あの泥に飲まれてりゃ良かったんだよ。



“我は混沌。我は無限。全てを飲み込み…力と為して無へと還すもの”

「あのランサーの技っぽい」

「そうですね」

─────私のストレスも無限だよ。



“カイザード・アルザード・キ・スク・ハンセ・グロス・シルク。灰燼と化せ冥界の賢者。七つの鍵を以て開け、地獄の門”

「私の羽が七枚あればなあ」

「増やせませんの?」

「無理」

─────地獄の門開いて向こう側へ旅立って下さい。



“自由を!”

「此れはダメだな」

「ダメですね」

─────自由を!!!

280自由を! ◆v1W2ZBJUFE:2017/02/16(木) 21:47:47 ID:QTjaHB7w0
ホテルセンチュリーハイアット最上階。新国立競技場からハイテンションで帰ってきた魔王様と女王様は、そのままのテンションで落ちていたタブレットを拾い、ネットサーフィンを始めていた。
目的は情報集めでも、誤情報を流して他陣営を撹乱するわけでもなく、新国立競技場で出会ったサーヴァントが使っていた、“カッコ良い詠唱”に匹敵する詠唱探しである。
「これ採用」だの「この詠唱に合わせた必殺技を」だのとホザいているイカレ魔王と、「我は無敵なり」とか「TON☆JI☆CHI 」とかヌカシている女王を尻目に、レイン・ポゥのテンションはひたすら下がっていた。
正確にはストレスが天井知らずに上がっているが、際限無く気が滅入っている。という状態である。
帰ることも許されずに、酔っ払い二匹に絡まれ続ける飲み会に気分は近い。
盛り上がる二人の戯言に、心の中とはいえツッコミ入れる自分は、人類史に残る寛大な精神の持ち主だとレイン・ポゥは自画自賛する。

「良し。“焔に現るは、誇り高きいにしえの破壊獣”と“禁断のデュエルの時、タナトスが呼んでいる”この二つは中々良いな」

「私は“故に恋人よ枯れ落ちよ、骸を晒せ”がロマンチックで気に入りました」

─────枯れ落ちろ。お前らの生命。


「おい」

「アサシン」

─────死ね。死ね。死ね死ね死ね死ね死んじまえー。

「虹の道化師」

「…………ッ!?何?」

レイン・ポゥがいまの心境を表現するのに丁度良い歌を心の中で熱唱していたら、何時の間にやらナチュラルイカレジャンキー共がレイン・ポゥに話を振ってきていた。

「何れが良いとアサシンは思います?」

「修行の一環だ、虹の道化師。此れでお前のセンスを測る」

─────いや測らなくって良いから。

ギリギリと胃が痛む様な気がする。少なくとも此処でお気に召す回答が出来なければ、この魔王様は私の精神をクスリ漬けにするべく努力しだすだろう。
誰が此奴を喚んだ。召喚者出て来い、殺してやるから。
そんな事を考えていると、焦れたパムがネットサーフィンの成果を突きつけて「選べ」と凄んでくる。
此処で一番選びたい選択肢は“パムをヌッコロス”だが、当然選べるわけが無い。

「仕方ないですわね」

純恋子が助け舟のつもりか三つ選び出した。「いやもうマスターが選んで下さい。マスターが選らんでくださったのが一番良いです」とか言ったら凄い目で二人が睨んできた。殺したい。

281自由を! ◆v1W2ZBJUFE:2017/02/16(木) 21:48:28 ID:QTjaHB7w0
選択問題・次の三つから答えよ。

1.春暁の紅姫
2.紅蓮の夜姫
3.薔薇の闇姫

何の罰ゲームだ!!!レイン・ポゥは心の中で絶叫した。

答えられて当然だろうこの程度、とばかりにふんぞり返る己がマスターを取り敢えず頭の中で惨殺しておく。
答えられなかったら、先刻魔王がヌカシていたように修行とやらが始まるのだろう。殺したい。
今のレイン・ポゥはさながら居なかった事にされた北斗の三男坊ににショットガン突きつけられたモヒカン(実際にはモヒカンではないが)の如し、選択肢を間違えれば即あべし。
それよりも答えは有るのだろうか?答えが明確な分三男坊の方がまだ有情。
それでもレイン・ポゥは必死に頭脳をフル回転させる。こんなイタイ修行とかやりたくないし。

─────待てよ。此奴確かダークネスとかホザいてたし、お嬢様とかいったら薔薇と相場が決まってるッッ!

「答えは3だッッ!」

思わず叫ぶ。叫ばずにはいられない。

「流石ですわアサシン。私の好みを良く把握していましたね」

─────してない。

「しかし何れも良いセンスだ。この三つは誰が考えたんだ」

腕組みしながらシミジミと呟く魔王。レイン・ポゥは猛烈に嫌な予感がした。逢いたいとか言い出すんじゃなかろうか?ナチュラルイカレジャンキーがこれ以上増えたら死ぬ。主にレイン・ポゥの精神が。

「神崎蘭子というアイドルですわ」

─────アイドル!?

「ひょっとして…新国立競技場でライブやってた…?」

チョッピリ震え声で訊くレイン・ポゥ、頼むからそうであってくれ。そして死んでてくれ。

「その通りですわアサシン。彼女は新国立競技場でイベントを行っていた346所属のアイドルです」

心中で歓喜の雄叫び上げながら、おくびにも出さずに生きているかどうか聞いてみる。

「別の仕事であのイベントには参加していませんでしたから、無事ですわよ」

─────死んでろおおおおおおおおお!!!!!

「是非一度会ってみたい」

やめて下さい私のメンタルが死んでしまいます。

「フフフ…英財閥の力を以ってすれば容易いことです」

「アイドルってそんなに暇じゃないだろ?」

「この件で346プロダクションは終わりです。社会的なバッシングに、遺族への賠償金。それに早速UVMが引き抜きを開始しています。明日には346は仕事も無くなるでしょう。
英財閥の力を以ってすれば、会食の時間を設けることなど容易いことです」

レイン・ポゥの淡い期待は、真夏の陽光に照らされたカキ氷の様に溶け去った。

「優れたセンスの持ち主だ。しっかり学べ、虹の道化師」

─────ふっざけんなあああああああああああ!!!!!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

282自由を! ◆v1W2ZBJUFE:2017/02/16(木) 21:48:56 ID:QTjaHB7w0
「それで、だ。アイアンメイデン、私の頼みはどうなっている」

唐突に話題を変える魔王パム。その目には凶猛な戦意が漲っている。

「警察から得た情報により、セリュー・ユピキタスの拠点は突き止めています」

魔王様の頼みとは他サーヴァントの捜索に他なら無い。ランサーの乱入で新国立競技場での戦闘が、不完全燃焼に終わったパムは、今度こそ満足いくまで戦うつもりなのだ。
ついでにレイン・ポゥに言った、「令呪を獲得してやる」という言葉を守るべく、討伐例の出た面子を純恋子の伝手で探させていたのだった。
セリューを最優先して探させたのは、未知なる敵と戦いたいという、魔王様の闘争心の故である。

「もう一つ。遠坂凛の行方も凡そ判明しています」

「あの不死身のバーサーカーか。マスターとは前に戦って良い勝負だったんだろう」

フフン。と胸を張る純恋子に、レイン・ポゥは嫌なものしか感じない。

「あの時の私とは違います。今の私はダークネス……いいえ、“闇に気高く咲く鮮血の薔薇”英純恋子!!おさおさ引けは取りません!!!」

「ゆっゆっゆっゆっゆっゆっゆっ」

あまりのイタさに痙攣しだすレイン・ポゥを余所に、二人の会話は続く。

「で、“凡そ”というのは」

魔王様の質問に、さっきまで使っていたタブレットとは違う、もう一つのタブレットを取り出して説明する。
『最初見た時は島村卯月かと思ったが、改めて見ると遠坂凛だった』という目撃情報が警察に寄せられている事を。
因みに連絡者は島村卯月の担当のプロデューサーで、頭頂から股間まで刃物では無い物体で真っ二つに両断された死体になって発見されていた。

「何方を狙うか……セリュー・ユピキタスは今何処に居るのか判らないんだったな」

「〈新宿〉中を出歩いて居る様ですね」

フム…と魔王様はほんの少し考えると。

「遠坂凛を追うぞ」

と、言い放った。

「ハァ!!?」

仰天するレイン・ポゥでは無く、純恋子に何故遠坂凛を狙うのか質問する魔王様。

「遠坂凛の足跡は簡単に知れる……つまり!遠坂凛を狙ってやってくる他の主従も纏めて相手に出来る!!」

─────待ち伏せしてブッ殺すんなら私に任せろ。

「ああ…楽しくなりそうだ」

「今度こそ決着を着けますわ」

獰猛な笑みを浮かべる二人は、そんな発想は微塵も無いと、言葉以外のもので雄弁に示していた。

レイン・ポゥがストレスで発狂するのもそう遠くない未来かもしれない。

283自由を! ◆v1W2ZBJUFE:2017/02/16(木) 21:49:23 ID:QTjaHB7w0
【西新宿方面(ホテルセンチュリーハイアット最上階/1日目 午後3:30分】

【英純恋子@悪魔のリドル】
[状態]意気軒昂、肉体的ダメージ(小)、魔力消費(小)、廃都物語(影響度:小)
[令呪]残り二画
[契約者の鍵]有
[装備]サイボーグ化した四肢
[道具]四肢に換装した各種の武器(現在は仕込み式のライフルを主武装としている)
[所持金]天然の黄金律
[思考・状況]
基本行動方針:私は女王(魔王でも可)
1.願いはないが聖杯を勝ち取る
2.戦うに相応しい主従をもっと選ぶ
3.新生した自分の力を遠坂凛に示して勝つ
[備考]
・アーチャー(パム)と事実上の同盟を結びました
・パムから、メフィスト病院でキャスター(メフィスト)がドリー・カドモンで何を行ったか、そして自分の出自を語られました
・遠坂凛&バーサーカー(黒贄礼太郎)、セリュー・ユビキタス&バーサーカー(バッター)の所在地を掴みました
・メイド服のヤクザ殺し(ロベルタ)、UVM社の社長であるダガーの噂を知りました
・自分達と同じ様な手段で情報を集めている、塞と言う男の存在を認知しました
・現在<新宿>中に英財閥の情報部を散らばせています。時間が進めば、より精度の高い情報が集まるかもしれません
・遠坂凛が実は魔術師である事を知りました
・新国立競技場で新たに、セイバー(ダンテ)、アーチャー(バージル)、セイバー(チトセ・朧・アマツ)、アーチャー(八意永琳)、アーチャー(那珂)、ランサー(高城絶斗)の存在を認知しました
・キャスター(タイタス1世)の産み出した魔将ク・ルームとの交戦及び、黒贄礼太郎に扮したタイタス10世をテレビ越しに目視した影響で、廃都物語の影響を受けました
・次はもっとうまくやろうと思っています
・口上と必殺技名を幾つか考えつきました


【アサシン(レイン・ポゥ)@魔法少女育成計画Limited】
[状態]霊体化、肉体的ダメージ(小)、魔力消費(小)、身体の内から自分ではない何かが皮膚を裂いて現れその何かに任せて暴れ回りたい程のストレス
[装備]魔法少女の服装
[道具]
[所持金]マスターに依存
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯獲得
1.マスターを狙って殺す。その為には情報が不可欠
2.天昇じゃなくて昇天しろ馬鹿共
3.死ね死ね死ね死ね死ね死ね死んじまえ〜
[備考]
・遠坂凛が実は魔術師である事を知りました
・アーチャー(パム)と事実上の同盟を結びました。凄まじく不服のようです
・パムから、メフィスト病院でキャスター(メフィスト)がドリー・カドモンで何を行ったか、そして自分の出自を語られました
・ライドウに己の本性を見抜かれました(レイン・ポゥ自身は気付いておりません)
・魔王パムを召喚した者に極大の殺意


【アーチャー(魔王パム)@魔法少女育成計画Limited】
[状態]肉体的ダメージ(中)、実体化
[装備]魔法少女の服装
[道具]
[所持金]一応メフィストから不足がない程度の金額(1000万程度)を貰った
[思考・状況]
基本行動方針:戦闘をしたい
1.私を楽しませる存在めっちゃいる
2.聖杯も捨てがたい
3.神崎蘭子とかいうアイドルに逢ってみたい
[備考]
・英純恋子&アサシン(レイン・ポゥ)と事実上の同盟を結びました
・新国立競技場で新たに、セイバー(ダンテ)、アーチャー(バージル)、セイバー(チトセ・朧・アマツ)、アーチャー(八意永琳)、アーチャー(那珂)、ランサー(高城絶斗)の存在を認知しました
・すごくテンションが上がっています
・口上と必殺技名を幾つか考えつきました
・遠坂凛の潜伏先を大雑把に把握しています。
・遠坂凛に群がってくるサーヴァントと戦うつもりです

284自由を! ◆v1W2ZBJUFE:2017/02/16(木) 21:49:54 ID:QTjaHB7w0
投下を終了します

285名無しさん:2017/02/16(木) 22:07:01 ID:GLMK4vCA0
投下乙
アサシンは聖杯に良く効く胃薬願えばいいんじゃないかな

286 ◆zzpohGTsas:2017/02/16(木) 22:21:16 ID:vMkGV3JA0
>>◆v1W2ZBJUFE様
感想は早急に言いたい所はやまやまなのですが、氏がそれ以前に予約していた数多くのキャラクターは何処に消えたのかなぁと言う事だけが疑問に思いました。
邪推、と思われるのも致し方ない所かも知れませんが、『なりすまし』、を疑ってしまいます。
もしも>>274で予約された方と、>>277で予約された方が同一人物であれば、一先ずこれについての理由の弁解を聞いてから、感想と言う事で宜しいでしょうか?
『なりすまし』であるとは思いたく御座いませんが、その場合は企画主として強権を振るう事も視野に入れねばなりませんので。
そして、これはおせっかいかも知れませんが、E-mail欄に酉キーらしきものが紛れ込んでおりますので、次に投下する際は酉を変えた方が宜しいかと申し上げます。

287自由を! ◆v1W2ZBJUFE:2017/02/16(木) 22:21:24 ID:QTjaHB7w0
すいません>>282を廃棄して、此方に変えます

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「それで、だ。アイアンメイデン、私の頼みはどうなっている」

唐突に話題を変える魔王パム。その目には凶猛な戦意が漲っている。

「警察から得た情報により、セリュー・ユピキタスの拠点は突き止めています」

魔王様の頼みとは他サーヴァントの捜索に他なら無い。ランサーの乱入で新国立競技場での戦闘が、不完全燃焼に終わったパムは、今度こそ満足いくまで戦うつもりなのだ。
ついでにレイン・ポゥに言った、「令呪を獲得してやる」という言葉を守るべく、討伐例の出た面子を純恋子の伝手で探させていたのだった。
セリューを最優先して探させたのは、未知なる敵と戦いたいという、魔王様の闘争心の故である。

「もう一つ。遠坂凛の行方も凡そ判明しています」

「あの不死身のバーサーカーか。マスターとは前に戦って良い勝負だったんだろう」

フフン。と胸を張る純恋子に、レイン・ポゥは嫌なものしか感じない。

「あの時の私とは違います。今の私はダークネス……いいえ、“闇に気高く咲く鮮血の薔薇”英純恋子!!おさおさ引けは取りません!!!」

「ゆっゆっゆっゆっゆっゆっゆっ」

あまりのイタさに痙攣しだすレイン・ポゥを余所に、二人の会話は続く。

「で、“凡そ”というのは」

魔王様の質問に、さっきまで使っていたタブレットとは違う、もう一つのタブレットを取り出して説明する。

『最初見た時は服の所為で島村卯月かと思ったが、改めて見ると遠坂凛だった』という目撃情報が警察に寄せられている事を。
因みに連絡者は島村卯月の担当のプロデューサーで、頭頂から股間まで刃物では無い物体で真っ二つに両断された死体になって発見されていた。

「認識を誤魔化していたが、服の持ち主の知り合いと遭遇してバレたってわけか」

「服を奪ったのは……今までの服が血塗れだったから?」

レイン・ポゥと純恋子が遠坂凛の行動について分析する。
実際問題として、認識阻害の術を円滑に行使する為に島村卯月の服を奪った遠坂凛が犯したミスは、たったの一つ。
血塗れの服が、認識阻害におけるエラーとなっていた様に、今度の服は、“新国立競技場で行方不明になっているアイドルのもの”という事。
アイドルであるだけに顔も名前も知られている人物の服を着て、消失した新国立競技場の方からやってくれば、ファンの一人や二人とすれ違うことみある。
そしてこの場合、服を着ている当人がエラーと化すのである。ましてや知り合いともなれば尚更である。そして気付いてしまえば最後、黒贄礼太郎による殺戮の犠牲とされる。
既に警察に連絡したプロデューサー以外にも、数人の島村卯月のファンや知人が惨殺死体となって発見されていた。

「まあその辺りは当人に訊くさ」

そんな事はどうでも良い。とばかりに魔王様が会話を打ち切った

「何方を狙うか……セリュー・ユピキタスは拠点しか判っていなくて、今何処に居るのか判らないんだったな」

「〈新宿〉中を出歩いて居る様ですね」

フム…と魔王様はほんの少し考えると。

「遠坂凛を追うぞ」

と、言い放った。

「ハァ!!?」

仰天するレイン・ポゥでは無く、純恋子に何故遠坂凛を狙うのか質問する魔王様。

「遠坂凛の足跡は簡単に知れる……つまり!遠坂凛を狙ってやってくる他の主従も纏めて相手に出来る!!」

─────待ち伏せしてブッ殺すんなら私に任せろ。

「ああ…楽しくなりそうだ」

「今度こそ決着を着けますわ」

獰猛な笑みを浮かべる二人は、そんな発想は微塵も無いと、言葉以外のもので雄弁に示していた。

レイン・ポゥがストレスで発狂するのもそう遠くない未来かもしれない。

288 ◆v1W2ZBJUFE:2017/02/16(木) 22:27:32 ID:QTjaHB7w0
>>286

本来考えていた話が詰まって気分転換にVP2やっていたら、「大魔法の詠唱って気に入りそうだよなあ」とか思って衝動的に予約してしまった訳です。すいません

289 ◆zzpohGTsas:2017/02/16(木) 22:32:39 ID:vMkGV3JA0
>>◆v1W2ZBJUFE
成程、そう言う事もありますね。
それでですが、氏が英純恋子&アサシン(レイン・ポゥ)、黒のアーチャー(魔王パム)以前に予約された主従はどうなるのでしょう?
破棄と言う形で、今UPなされた作品を通すのか、それとも以前予約されたキャラクター達の話は今別個に執筆しており予約は継続中なのか、その真を問いたいと思います。
それと、これは本当に個人的なお願いなのですが、もうトリップが割れており、なりすましが現われる可能性もゼロとは言えなくなりしたので、この辺りで新しいトリップで活動して頂ければなぁ、と。ポリシーに反するのならばそれで構わないのですが。

290 ◆/sv130J1Ck:2017/02/16(木) 22:42:10 ID:QTjaHB7w0
>>289
以前予約した面子は現在執筆中です。本来の予約期間中に投下する所存です

291 ◆zzpohGTsas:2017/02/16(木) 22:44:36 ID:vMkGV3JA0
>>◆/sv130J1Ck様
了解いたしました。疑いの目を向けまして申し訳ございません。
感想は明日にでも投下いたします。執筆の方、企画主として心から応援いたします!!

292 ◆/sv130J1Ck:2017/02/16(木) 22:51:13 ID:QTjaHB7w0
此方こそ紛らわしい真似をしてしまい申し訳ありません

293 ◆zzpohGTsas:2017/02/17(金) 22:18:09 ID:jMqwJskU0
>>自由を!
血塗れの服装では行動に支障を来たす上、認識阻害を行おうにも血液が邪魔になって上手く術が掛からない事を懸念し、UDK姉貴の制服を奪った凛ちゃんの行動が、
思わぬ形で裏目に出てしまった。その理由づけと説明が上手いので、むむ、と唸りました。この辺りの説得力のある説明は見事な手腕。
そしてパムもやはり義理堅いと言うか律儀で、レイン・ポゥ主従に令呪を与えると言う褒美を忘れてないのも、大物っぽくてとても良い。
が、その相手がよりにもよって企画中でヴァルゼライドと並ぶ理不尽なサーヴァントを従えるバーサーカー、黒贄礼太郎と言うのがどう転ぶのか。
純恋子様達は2回も黒贄さんと戦っており、いよいよ相手の強さの本質と不死の特性も気付きそうですが、此処から話がどうやって展開されるのか、見物ですね。
そして、企画中恒例となったレイン・ポゥのストレス蓄積。最初にパムが戦った相手がチトセと言う、Light特有の詠唱を使って来る相手だったのが痛い(ダブルミーニング)。
パムの方も詠唱に凝り出すわ、純恋子もそれに乗り出すわ、何かなんやかんやあって生き残ってた蘭子ちゃんと会食する羽目になるわで、
こっちの方は本当に良いようにならない。客観的に見ればパムと組めた時点で凄い幸先が良いのに、細かい所の尽くがダメと言うのが、妙なバランス感があって面白い。この主従は本当に、今後の動きに期待したい。そう思わせるに足るお話でした。

ご投下、ありがとうございました!!

294 ◆TE.qT1WkJA:2017/02/19(日) 02:51:44 ID:xFlSy7v20
投下乙です!
虹色の子かわいそう…
レイン・ポゥの胃がいつまで持つのか、ある意味で見物ですね
これだと仮に他の主従と同盟組む機会がきても、マスターと組まされているサーヴァントのせいで同盟断られそう…w

私も企画主様の素晴らしい作品に刺激されましたので、人数は少ないですが

不律&ランサー(ファウスト)
で予約させていただきます

295 ◆2XEqsKa.CM:2017/02/20(月) 01:09:43 ID:G55vu7oE0
前編投下します

296夢に見たもの ◆2XEqsKa.CM:2017/02/20(月) 01:11:14 ID:G55vu7oE0

夢は、見る暇さえなかった。
怖い―――それが、この<新宿>における"王"の偽りない最初の思考だった。
次いで、瞬く間もなく変容した外界への戸惑いが脳裏を占める。
やがて五情・六情・七情と膨れ上がっていく自我を認識するに至って、"王"は怯えも顕わに身を震わせる。
たった今の今まで、確かに眼前に存在していた"何者か"への誰何の念だけは、欠片も浮かべまいとするように。
幾ばくかの沈黙を経て、ようやく"王"は"王"らしさ、というようなものを取り戻した。
かって魔界都市<新宿>を制覇せんと魔手を伸ばし、秋せつら・浪蘭幻十・メフィストを向こうに回して互角以上に渡り合った、正真の魔人。
そんな彼にしてはあまりにも長い、数秒の沈黙であった。それほどの物を、見た証左であった。

「ここは<新宿>だ。それは間違いない。だが―――」

人の営みを感じる方向へ首を向ける。どうやらここは地下であるようだった。
広さも高さも判然としない、漆黒の世界。何故こんな所にいるのかは分からないが、とにかく快適な空間ではない。
何か出来ないか、と身体を巡る力を操作する"王"。
その手が振られた先に、周囲の暗闇よりも深く淀んだ魔霧が生じた。
霧はたちまち四器の人型を形取り、キングを守るチェスの駒のように"王"を取り囲む。
双剣を背負うナイト、弩持つビショップ、精研の巨躯たるルーク、妖艶な肢体を揺らすクイーン。
その全てが、魔人であった。

「おまえたちにも聞きたい。ここは魔界都市か、否か?」

「「似ても似つきませぬ」」

「「間違いないかと」」

綺麗に分かれた。睨みあう二人と二人を、王の苦笑が宥める。

「また契約書が必要か?」

「王……お戯れを。前の契約は未だ有効のはず」

「そうですわ。朋友の浅慮を咎めて争うほど、我々は愚かではありません」

紅一点にしては棘のある物言い。剣閃の届く間合いに詰めようとして、駒の一人は自重した。
"王"への怯臆もさることながら、今は小競り合いに興じる意味などないと、駒達も知っている。
彼らとて"王"と同じで、つい先刻まで魔界都市にて魔人たちと鎬を削っていた、という認識なのだ。
白昼夢から覚めたかのようにはっきりとした意識が、現実に対して「おかしいぞ」とアラームを鳴らしている。
その得もいえぬ違和感が、彼らをかえって冷静にさせていた。

297夢に見たもの ◆2XEqsKa.CM:2017/02/20(月) 01:13:47 ID:G55vu7oE0

「まさか気付いていないわけでもあるまい。<新宿>の魔人ども……彼奴らの精気は健在ではないか」

「本気で言っているのか? 確かにそれらしい脈動は感じるが、幽鬼のごとき儚さに感じるぞ」

「そもそも何故、やつらの存在を感じるのかしら。これまでこんな事はなかったはずよ。あちらが故意に知らせているとして、何の為に?」

「深く考える必要があるか? 誘ってくるのならば、是非もない。もう一度挑むまでだ」

最後の言葉が、全員の統一意思に最も近かった。
多少の差はあれ、古代より存えてきた魔人たちは総じて好戦的である。
"王"もまた、臣下たちと同じく支配と征服の欲求に胸を焦がしつつあった。

「よかろう」

掌の皮を引き裂くように魔杖が迫り出していく。
"王"の振るうそれは、大宇宙に充満するエーテルをも操る。
神域に達したそれに名は無く、ただただ全てを打ち破る力の現れ。
驚天動地としか言いようの無い災害が、再び新宿を襲わんとして―――。

「今の<新宿>ならば……獲れる。王の帰還だ、受け入れるがいい」

「それでは、困るのだ」

静かな声だった。だが、無空を裂く吐息、絶対性すら感じる威風が、"王"の手を止めさせた。
威厳で、この"王"を留めるなど……ありえるはずもないのに。
暴風の勢いで声の主を振り向く"王"の目に映ったのは、白。
一瞬、脳裏をよぎった魔界医師ではない。それは穢れた……穢れ尽くした白い騎士のように、"王"には見えた。
現実味のない朧な影に、四騎の敵意と"王"の凝視が集中する。

「貴様……何者だ? 夢魔の類か」

「夢、そのものだ」

「何?」

「夢からは逃れられぬぞ。魔界都市<新宿>の見た夢の中で、最も余に近しい廃王よ」


―――"王"が、魔杖を振るう。その迅速さには、恐怖の色が混ざっていた。

298夢に見たもの ◆2XEqsKa.CM:2017/02/20(月) 01:16:51 ID:G55vu7oE0




寝覚めのいい、悪夢を見た。
反射的に身を起こしたロベルタの上体から、柔らかな毛布が滑り落ちる。
意識の覚醒と同時に動いた身体を両手で探る―――異常はない。
眠りにつく前の記憶が蘇るに至って、ロベルタの額に透明な珠が浮いた。
なぜ腕がある? 無能なサーヴァントの失態により失った筈の両手が。
疑問は、すぐに氷解した。右肘と左の二の腕から先が金属の輝きを放っている。


「なんだこれは!」


目にするまで気付かなかったのには訳がある。
まるで生身のように、完全に神経が通っていたのだ。指先まで思うままに動かせる。
右の義手は銀の光沢と生物的手触りをもつ鋼を織り交ぜて打たれた鉤爪付きの逸品。
左の義手は、「右よりサイズに余裕があったのでやってみた」と言わんばかりに大砲を搭載した珍品。
両方ともに、親指の腹に【Titus】の刻印が入っている。自分を庇護すると言っていたのは妄言ではなかったのだろうか。
ふと、頭部に重さを感じた。義手を伸ばして触れれば、感触だけで艶麗さが伝わる宝石を、中央に飾る装身具があった。


「ふざけるな!!!」


寵愛とか言っていたが令嬢でも拾ったつもりか、と激したロベルタが額飾りを掴んで地面に叩きつけようとする。
だが考え直せ、本当にこれを捨ててもよいものだろうか? 冷静さを欠くべきではないと学んだろう?
これほどロベルタが健啖に振舞えるのは、義手を付けられ休息を取れたから、だけではあるまい。
余命数秒の惨状から血を補充し、傷を塞がれ、健康体に戻った現実は、明らかに超常の力によるもの。
このフェロニエールにも、何らかの特殊な効果があるのではないか? 間違いない。外すべきではないだろう。

299夢に見たもの ◆2XEqsKa.CM:2017/02/20(月) 01:17:59 ID:G55vu7oE0


「仕方ないわね……」

気を取り直し、寝かされていた棺の上から降りて下半身の具合を確かめる。
歩行には何の問題も無い。走ることもできるだろうし、すぐにでも戦闘可能だ。
バーサーカーはどこにいったのか。自分の側にいないとは、サーヴァントとしての責務も忘れたか。
念話は通じなかったが、恐らくここはタイタスというキャスターの居城。
魔術的な妨害が行われているものと判断し、ロベルタは特に気にせず部屋を見回した。
棺の他には泥土と、冷たい石壁しかない狭い部屋だった。
棺の中は空だが、開けると同時に魂の底から身震いするような霊気を感じる。何が入っていたのか。

「出られる……?」

予想に反して、部屋の扉は施錠されていない。
ロベルタは部屋を抜け出すと、予想通りの光景に辟易した。
古代文明の遺跡のような、迷路然とした通路。
あちこちから、人外のものとしか思えない息遣いや奇声が聞こえてくる。
部屋に戻った方がいい、と直感しながらも、彼女は手探りで先に進み始めた。

「……」

言葉を発する余裕も無いのに、ロベルタの足取りは不自然なほどに軽い。
まるで翼が生えたかのように迷い無く進んでいく……立ち止まった。
扉がある。恐らくは、自分が寝かされていたのと同程度の広さの部屋があるのだろう。
聞き耳を立てると、男女の笑い声が漏れ出ている。睦言とも稚言とも取れる、無邪気な声色だった。
どうしても部屋に入る気になれず、ロベルタは素通りして大階段を下りた。
明かりが強くなる。おぞましい魔気も幾分か弱まり、視界も開けていく。

「街……か……?」

ドーム状の空間に入ると、その空間を埋めるため、というように石と泥で作られた都市が見えた。
人の住んでいる気配は無い―――妖物だけが、住んでいた。

300夢に見たもの ◆2XEqsKa.CM:2017/02/20(月) 01:19:45 ID:G55vu7oE0

「ギギギギッ! 俺ノ、勝チダナ! カネ払エ!」

「畜生、これですっからかんだシシ。困ったシシー」

小鬼と獅子面の神官が、サイコロ賭博に興じている。
こちらに視線を向けても、慌てたように明後日の方向を向いて近づいてこない。
何かを恐れているようであり、話が聞けるとは思えなかった。
ロベルタは妖物たちが思い思いに生活している事に驚きながらも、先に進む。

「……これから、どうする」

あのタイタスというキャスターが自分とバーサーカーを利用するつもりで助けたのは明白。
このままいいように使われる羽目になるのは御免だ。
しかし、逃げ出したとしても先は知れている。
メフィスト病院への襲撃が失敗して魔力プールを得る算段を失った上、この一日で自分達は動きすぎた。
いつ討伐令を出されてもおかしくない程に、暴れすぎてしまった。

「当面は、ここに身を寄せるべきか」

自分の悲願を達成するためには、死ぬわけにはいかない。
だからこそあの忘却の果ての世界から戻ってきたのだ……とそこまで考えて。
ロベルタに、一つの疑問が生まれた。今の身の上でなければ、決して生まれない疑問が。

(私の願いを果たしたとして―――御当主様の無念が、若様の悲しみが本当に晴れるのか?)

こんな疑問がフッ、と浮かぶ事は、実は過去何度もあった。
ロベルタとて人間だ、<新宿>での隠れ家で亡霊に諭されるまでもなく心がブレることはある。
ただ、その度に鋼の克己心と薬物による精神変容で"思い直し直し"てきただけの事。

301夢に見たもの ◆2XEqsKa.CM:2017/02/20(月) 01:23:42 ID:G55vu7oE0


しかし今の彼女は薬物の依存症状から完全に脱していた。
もちろん、義手作成と並行して肉体の治療、破れた服の修繕などを行っていたタイタスの手によるものである。
彼女が覚醒剤、コカイン、MDMAなど多種多様な薬物中毒を患っている事を看破した始祖帝は大いに嘆いた。
なんと安く、効果の薄く、効率の悪い物を使っているのか、と。
彼女の燃え盛る情熱と、諦めを踏破し邁進する愚直さを好んで迎え入れた以上、タイタスにはロベルタに対し一種の責任があった。
ロベルタの愛おしい悪性をより高みに導き、人理にその輝きを刻む責任が。彼女の異常とも言える情熱を、薬物による人間性の削減が支えているのは明らか。
そこで、彼はロベルタの中毒症状を更に強力にすると決意する。人を超えんとする獣の狂気に、魔の助力を。
始祖帝はアーガ伝来の霊薬と竜・妖精・巨人・小人の四大奉仕種族が精製した秘薬を調合し、新進麻薬―――魔薬を創り出した。
体内に0.5mgほど取り込むだけで全身の体液と神経に浸透し、以後永遠に劇的かつ完全周期的な狂奔を起こすという効能である。
急速な体質の変化に伴う、精神の変容を、ロベルタは安定期ならではの静かな心で受け入れていたのだ。彼女のこれからの一生で、最後の安らかな時に。

「私は間違っていた。当主様も、若様も、私が血脂の煉獄に舞い戻ることなど、喜ぶわけがないではないか……」

穏やかに呟くロベルタの表情からは、険が取れていた。
もはや亡霊も見えていないだろう。では、彼女は諸人の忠告を受け入れ、復讐を思いとどまったのだろうか。
否。
タイタスの持て囃す、ロベルタの一側面が消えてなくなるわけがない。

「私は若様の元に戻り、あの方を最期の最期まで見守ろう。犬ではなく、人間として生きよう。私は私の大事な人の為に、幸せになる」

額飾りの宝石に、冒涜的な光が射した。ロベルタの眼光が。

「だが、奴等に私の幸福の一千万分の一でも与えてやるものか。犬の共食いでも、人間の復讐でもなく、悪鬼の制裁を以て償わせてやる」

銀の義手が、装飾を凝らした石の壁をざりざり、と削る。
ロベルタの顔は、加虐の悦びで歪んでいた。

302夢に見たもの ◆2XEqsKa.CM:2017/02/20(月) 01:25:32 ID:G55vu7oE0


「一人も殺さない。グレイ・フォックス部隊の人間共。子を成し、老い、幸福を追い求めるがいい」


「お前達の、お前達の子の、お前達の孫の、お前達の血脈が枯れる最後の一人にまで、私は向き合おう」


「一人たりとも『生まれてよかった』と思わせない。幸福に最も近付いた瞬間に、貴様等の周囲全てにあの日の当主様の不幸を与えてやる」


常命の者には決して成せない、永遠の報復。負の連鎖など意に介さない妖物の妄執であった。
血筋に呪いをかけるのでもなく、自分自身の手で復讐対象とその孫子を永遠に苛み続ける、という狂気。
それでいて、自分は過去の罪悪感と己への嫌悪を忘れ切り、愛する人たちに輝く笑顔を振りまき続けようという前向きさ。
ロベルタは、もはや人間ではなくなってしまったのか。比喩や悪罵ではなく、真正の魔に堕ちたのか。

「……」

ああ、魔物になりかけている女が足を止める。とうの昔に魔物となった女の気配を察知して。
都市の外れ、他より装飾が煌びやかな建物に足を踏み入れる。
反して、内装は質素だった。洞窟にすら見えた。
そこには、魔性の女がいた。魔将の女がいた。
女は、塵を啜り、泥を食み、無が放つ精を、世界が漏らす悪意を子宮に湛えていた。
親のない、営みに因らぬ生を受けた嬰児が、魔将の足元にビチャビチャと産み捨てられる。
こうして見ると、夜種たちは生物として最初に受けなければならない、親の愛を得ていない事が分かる。
まるで英雄に倒される事で物語を引き立てる端役だから、不完全でいい、と言うような子産み。
だがその印象を裏切るように、魔将・アイビスはロベルタに気付いて慈母のように微笑んだ。
たどたどしく、相手の母国語で呟く。


あ・な・た・の・こ・ど・も・よ


ロベルタは目を見開き、行き過ぎた女の冗句を笑って流した。
同胞の、冗句を。

303夢に見たもの ◆2XEqsKa.CM:2017/02/20(月) 01:28:58 ID:G55vu7oE0





心地よい、夢を見た。
まどろみというにも短い時間、目を閉じていた女は、美しかった。
目蓋が開いた瞬間に、世界そのものが色彩を持つ事を許可されたように色めく。
吸血鬼の姫……あまりにありふれた肩書きなど、その美を語るに不足が過ぎる。
その立ち姿を見れば百人の男が万通りの讃美を叫び、万人の女が百回ずつ子を生贄に捧げて口づけをせがむであろう。
櫂船の帆柱に備えられた、木箱に布を引いただけの即席の椅子ですら、この美姫が座っていたとなれば一国の王座の風格を孕む。
天与の貴姿がただの女のように片手を高々と上げ、くあ、と漏らした欠伸をもう片方の手で押さえる。このギャップだけで、二億人のナードが死滅する。

「つまらぬ街に成り下がったものよ。だが夢だけは、あの魔都のように……」

高空を泳ぐ船から眼下を見下ろして、姫は不快を隠さず言い放つ。
その声を聞いただけで、近くを飛んでいた鳥が浮力を手放して落ちていった。
落ちるのは鳥ばかりではない。船に集まってきた妖魔変化の半数ほどが脱力して死へのダイブを始めていた。
姫は、ただそこにいるだけで下級の吸血種を惹きつける。
魔界都市の一画に居を構えていた者達とは比べるべくもないが、この<新宿>においても血を吸う妖物は存在していた。
各々の主への忠誠を捨ててまで、姫に侍る光栄を受けんと集う魔物たちに、しかし姫は一瞥もせず。
己が血を分けた眷族ならまだしも、勝手に寄って来た蟻など潰す気にもならないらしい。


「母さん」

「なんじゃ」


とはいえ、多少は興を引くものもいるようだ。
先ほどまで船首の先で両手を広げ、高度を逐一呟いていた男。
身体に何らかの細工を施されて悪魔に変じたNPC。
物珍しさに免じて船内に入れた佐川という男を美姫はまじまじと見つめた。
この男、精神に異常をきたしているらしく美姫に対してまるで欲情しない。
バーサーカーの狂化でさえ、ランクA+程度ならば美姫の面貌に無反応ではいられまい。
無論、本気で誘惑しようとすれば話は別だが、それにしても並みの狂い様ではない。
その一点だけが美姫の笑いを取るところであった。

304夢に見たもの ◆2XEqsKa.CM:2017/02/20(月) 01:30:37 ID:G55vu7oE0


「やっぱり父さんと会って話をしてほしいんだ。家族は一緒にいるのが普通だからね」

「お前の父とは誰だったかの。答えよ」

「僕の口から言わせるというのですね。我らが父にして貴女の夫、佐川雅夫の名を」

聞いたことないな、と美姫は言わない。おかしそうに口を歪めただけだ。
微細な反応ではあるが、彼女のかっての臣下が見れば嫉妬に身を焼いただろう。
佐川のあまりにも真摯で滑稽な様子に、美姫はそれなりに"ウケ"ていた。

「お前を悪魔化させたのもその父か?」

「うん。お陰で僕は身体の中の毒を気にしなくてもよくなったんだよ」

「ん?」

「身体の中のガラス玉が割れて毒が全身に回った人間を正常に戻す方法はもう一つあったんだ。
 ガラス玉に薬を持つ人間を探すよりも、別種の毒を人に移す特異体質を持つ人間を見つけるのが早かった。
 まさか父さんがそうだとは思わなかったけど……お陰で僕は強くなって父さんから必要とされるようになれた」

「毒をもって毒を制するというわけじゃな」

「そう! 血だけじゃなく肉も食べなくてはならなくなったのが不便だけど」

「父親はどこにおる?」

「富久町のマンションに同居人と住んでるよ。僕は今は別居中なんだ」

同居人は勿論男性だよ、と真顔でフォローする佐川にそうか、と返して美姫は顎に手をやる。
恐らくはキャスターのサーヴァントであろうが、彼女にはわざわざ佐川父に構う理由はない。

305夢に見たもの ◆2XEqsKa.CM:2017/02/20(月) 01:32:24 ID:G55vu7oE0


「母さん、ケーキの好みはありますか? 父さんは食わず嫌いだけど再会の記念なら…」

「会わぬ」

(何故母さんはここまで頑ななんだ……女性と会話した事がないから気持ちが読めない)

「船首に戻るがよい」

(父さん……今ようやく貴方の気持ちが分かりました……貴方も捨てられた人だったんですね)


無言で船首に歩いていく佐川。
その背から目を離した美姫が、突如硬直した。
佐川が背に感じていた美姫の変調を察知できたのは当然であった。
早まった心臓の鼓動が身体のわななきを通して熱風を生み、船を揺らしたのだから。
何事か、と振り向けたことは奇跡としかいいようがなかった。
振り向いた佐川の身体が、突進してきた女の手に払われて二つに分かれる。
目から命の光を失いながら、中空にばら撒かれた彼はたった一人の例外となれた。
西新宿八丁目……その中心部で起きた、全てのNPCの失聴事件の例外に。
その瞬間、自分達の鼓膜が破れた理由が"音"であることに気付けた者は極少数だった。
その瞬間、その"音"の正体が一人の女の声であることに気付けた者は皆無だった。







「せつら!!!!!!!!!!」

306夢に見たもの ◆2XEqsKa.CM:2017/02/20(月) 01:35:15 ID:G55vu7oE0






夢は、常にその身体と一つだった。
サーチャー、秋せつらは平時の茫洋とした態度でオープンカフェの一席に腰を下ろしていた。
周囲は全て満席だが、ざわめきもカップがテーブルに触れる音も無い。
全ての客がせつらの挙動を注視しており、呼吸も、瞬きも忘れたかのように硬直している。
せつらが、カフェで飲むのに相応しいとは思えぬ○〜いお茶の缶を握る音に雑味を入れることを恐れるように。
せつらが、新聞紙を広げて時折漏らした吐息が、唇を湿らせる一瞬を見逃すまいと神に誓ったかのように。
彼ら群集が自発的に音を発するのは、せつらが不意に周囲を見回す時だけだ。
目と目が合うことを避けるために、その時ばかりは首を90〜120度も曲げてゴキリ、と音を鳴らす。
本能で知っているのだ。この美影身と視線を交わす法悦と恐怖の相乗を。


「遅いな、マスター」


せつらの呟きだけで、二人の女性客が卒倒した。
誰かを待っているかのような物言い、見ればせつらの向かいにはもう一本、○〜いお茶の250ml缶が置かれているではないか。
注文とかしないんですか? と聞ける人間はいない。店主ですら、店内のガラスに顔を貼り付けて他の事は忘却しているのだ。
そもそも、せつらの席には店員が来なかった。魔界都市<新宿>ではせつらの情報は全都民に知られているといっても過言ではなく、
その美貌に対しある程度の自衛策は確立していた。飲食店でこのような失態が起きたのは、せつらとしても相当に久しい。


「学生時代でも、もう少しマシだったけどなぁ」


だがせつらよ、お前は覚えていまい。
サーヴァントとして枠を嵌められていなかった生前の自身の美貌は、魔界都市の住民に"忘れることすら忘れさせて"いた事実を。
自失としているNPCたちは本来ならばこうなることすらなく、魂だけを忘失したように無表情で己の挙動をこなしていた筈だった。

307夢に見たもの ◆2XEqsKa.CM:2017/02/20(月) 01:36:09 ID:G55vu7oE0


「この新聞、三日前のじゃないか」

ドクター・メフィストからの依頼で、アルケアなる国の伝説を流布するサーヴァントを探していたせつら。
彼がボヤキながらオープンカフェで新聞を読んでいるのは、決してサボタージュを決め込んでいるわけではない。
大方の調査は終了したのだ。蓋を開けてみれば、彼にしてみればそれほど困難な捜索でもなかった。
まず、アルケア伝承を広げている物品を二つ三つ見つけて、表面を妖糸で探る。
無数の指紋の中から人外のそれを見つけ出し、糸で指先から掌、掌から肩、肩から霊核と再現していってクラスを特定。
見つけたのは同一の指紋のキャスター一人。これが、捜しサーヴァントと見て間違いないだろう。
件のサーヴァントが妖物をアルケア伝承の宣伝塔にしている節があったのが幸いした。
往来を歩く中で捉えた、翼獣型の妖物に身も凍る拷問を加えて聞き出した『タイタス』と同一人物と断定。
また、アイドルの新曲のいくつかに、アルケア物品が示す伝承と共通する単語があることを発見した。
後は、古物商や芸能プロダクションの人間を片っ端から当たり、最近接触してきた者とその関係者を芋づる式に捜索。
そしてムスカという一人の男を特定したのと同時、つい二十分ほど前のことだった。
街灯TVが、コンサート会場を暴漢が襲った、との一報を伝えた。
暴漢がテロリスト、テロリストが殺人鬼とグレードアップしていくのに二分とかからなかった。
血相を変えるマスターに「今から行っても間に合わない」とだけ告げ、せつらはむしろ好機と考えていた。
ムスカという男は、アイドルに新曲を与えた事によるVIP待遇として件のコンサートに顔を出しているらしい。
ならば、彼が恐怖に駆られて出てくるところを捕らえればいい、とせつらは決めた。
この数時間、<新宿>全域を妖糸で簡易に探索できる程度に歩き回ったが、タイタスの居城は探りきれなかった。
ただ結界を張っているだけではなく、結界自体を認識させない高度な術を使っているのかもしれない。

「ムスカさんがいなかったら、お手上げだったね」

泰然と言うせつらの言葉に、剣呑な響きはまるでない。
その声を聞いてこれから彼がやる行為を想像することなど、誰にも不可能であろう。
せつらは新国立競技場に遅まきながら足を運び、その周囲円形に妖糸を張る予定である。
一網打尽、とまではいかないだろうが、ムスカだけではなく事件に関わったサーヴァントやマスターもキャッチできるかもしれない。
己のマスター、アイギスは間もなくここに来る。
単身でマスターから離れて捜査をしていても、糸電話の要領で念話の限界距離をカバーできるのがせつらの強みだ。
一人で行ってもいいのだが、アイギスは激戦を予想してマスターとしてのサポートをしたいという。
せつらに断る理由は無い。彼は過保護な性質ではなかった。

308夢に見たもの ◆2XEqsKa.CM:2017/02/20(月) 01:37:14 ID:G55vu7oE0

「ん」

せつらの全身を、寒気が走った。
上空から何か―――と見上げた所で、大音量で名前を呼ばれた。
女が、下りてくる。見覚えのある女だった。
せつらは「はあ」とも「はあはあ」とも言わず、無言でその女を見つめている。
彼にとっては、最大単位の驚きの表現である。
バタバタと倒れる周囲のNPCが、塵のように宙を舞う。
隕石というには、瑕一つない玉。美の極致が今ここに二つ。

「せつら」

「また来たのか」

再度、万感を込めて己の名を呼ぶ女に、せつらは呆れ半分、驚き半分といった声音で返した。
むしろ、半分も驚きを引き出せたことを誇るように、女……美姫は満面の笑みを浮かべている。

「ほほ。私がどこに行こうと、私の勝手よ。むしろ責められるべきはお前のほうではないか?」

「なんだと」

「せつら、お前の居場所は魔界都市じゃろう。そこにしか居れぬ男。そこにこそ居るべき男。何故、斯様な所におる?」

「いる事にしたからさ」

春風駘蕩の態度を崩さないまま、せつらは女吸血鬼と会話を続ける。
なんら気負うことのない様子に、美姫の眉が悩ましげに動いた。

「マスターの為か?」

「え?」

「サーヴァントなどに落ちぶれた哀れな身。マスターを護るとでも誓いを立てたのかと聞いておる」

「うーん」

「マスターは何処じゃ!!!」

309夢に見たもの ◆2XEqsKa.CM:2017/02/20(月) 01:41:06 ID:G55vu7oE0


突如激した美姫に何だこいつ、という視線を送りながら、せつらは普通に答えた。

「彼女なら、もうすぐここにくるはずだけど」

彼女、ときた。美姫の表情から色が消える。
何の変哲も無いオープンカフェが、霜に覆われたような肌寒さを帯びた。
そして最悪のタイミングで、三人目の役者が登場する。

「サーチャー! 今の……声、は……」

オープンカフェに駆け込んできたアイギスは、余りの光景に忘我となっていた。
地上に太陽が二つ。せつらの茫洋とした「や」という挨拶がなければ、北風と太陽か。
そして燃え盛っている方の太陽は、アイギスを見ていた。
睨め付けている、などという言葉では足りない。
アイギスの命を、アイギスの魂を、アイギスの存在そのものを、視線だけですり潰そうとしていた。
事実、あと数秒長く見られていればそうなっていただろう。
しかし、美姫はアイギスからその魔視線を外した。せつらが妖糸を駆使したのか。
否、それならばせつらの方に首を向けることはあるまい。
美姫は一瞬で冷徹な美を取り戻し、せつらに声をかける。

「人形の娘に"モテる"奴」

「何でも色恋沙汰に結びつけるなよ」

色情魔、とせつら。
憮然とした美影身に満足したのか、いかに激情を消化したのか、高笑いする美姫。
アイギスは知り合いですか、とも誤解です、とも言えずに二人を交互に見ている。

「どれだけ劣化しても変わらぬ所はあるか」

「そういうお前も、僕より弱くなってるぞ。誰だ、桀王、紂王、幽王の不肖の弟子は?」

「お前も私もよく知る男よ」

「あの野郎」

310夢に見たもの ◆2XEqsKa.CM:2017/02/20(月) 01:42:57 ID:G55vu7oE0


せつらにしては珍しい、率直な悪罵が飛び出した。
<新宿>に混乱をもたらすサーヴァントを探せ、と依頼をしておいて自分はこれか、と。
愉快そうにせつらの反応を見ていた美姫の首に朱線が走る。
即座に消える。糸の切れる音は、アイギスのセンサーにも拾えなかった。
流石に目の色を変えた美姫に、悪びれもせずせつらは呟いた。

「やっぱり無理か」

「せつら―――ここで死にたいか?」

「殺しに来たんだろう?」

「急くことはない。お前が"そう"なら尚更、な」

「また下僕にする、とか言い出すんじゃないだろうな」

「黙れ」

再び、場を極点の氷土が覆った。
美姫の声は、搾り出すような苦鳴に聞こえた。何も知らぬアイギスにさえ。
全てを知るはずのせつらだけが、美しい顔を動かさずにいる。

「お前を下僕にする事は、この私が諦めたのだ。何物にも許しはせぬ。私自身にもな」

「意外と律儀な奴」

「お前が言うな」

苦笑して、美姫は地を蹴った。
大地が彼女を手放すことを恐れるように、一瞬その身を止める。
だが、天が契りを引き裂いた。重力からも自由である、というように、はるか上空へ昇る美姫。
去り際に、せつらとアイギスに声をかけた。

「せつら、そして人形娘よ。お前達には特上の悦と脅を与えてやる。この舞台がもう少し賑やかになってからな」

「ご勝手に」

別れ際にだけ、僅かにせつらが感情を見せた。
面倒なことになったぞ、と思っていると、アイギスにも分かる程に。

「……サーチャー、彼女は」

「話すと長い。……が、もういいか」

せつらの言葉に、アイギスがハッと時計を見る。
オープンカフェに飛び込んだ時から、一時間半が経過していた。
あの絶世の美女は、相対する者の時さえ魅了するのか。
せつらは忌々しげに語りだす。予定を無邪気に壊された怒りを込めるように。

311夢に見たもの ◆2XEqsKa.CM:2017/02/20(月) 01:44:43 ID:G55vu7oE0



夢を求めた。夢に焦がれた。
暗闇の中に、綺羅星の如き動体があった。
その美しさは、光さえ捕らえる重力渦にも影響されまい。
その手際は、現世を泡沫と化す邪神の目覚めにも影響されまい。
動体の名はメフィスト。腕を流星の速度で振るい、目を紅炎の如く輝かせる魔界の星。
魔界医師の異名を持つ彼は、今まさにその手腕で医術の進歩に貢献しているのか。
そうではなかった。今、病院の地下で尽くされている秘奥は魔導の術なのだ。

「―――■■■■。■■■――。■■。■。」

遠からん者にも聞き取れぬ、不可思議な音がメフィストの口から漏れている。
メフィスト病院の院長を僅かでも知る者が聞けば、造物主がついに降臨る美体を選んだのだ、と叫ぶだろう。
しかしこのゲルマンめいた言語は、彼が青春を過ごしたファウスト魔術校の公用語。魔術語であった。
この言語を用いている彼の精神は、限りなく魔術師のそれに近付いているという証か。

「完成だ」

魔術師は、唐突に魔界医師に戻った。それと同時に、メフィストの手元に黒ずんだ金属球が現れる。
輝かしい作業の成果にしては、いささか地味な被造物……と思えるのは、初見から数秒程度だろう。
球体は独りでに浮き上がると、メフィストを導くように空を転がり始めた。
時折、甲高い音を上げている。何かに共振しているようでもあった。

「蜜を追えるかな。鬘を被った雀蜂」

メフィストが後に続く。それだけで、前を行く玉は月に見えた。光彩陸離の祝福を受けて。
院長が病院を出ていくのを、止める者はいなかった。
誰も、想像もしていないのだ。この男が牙城に戻らぬことなど。
運転手付きの車にも乗らず、徒歩で出て行くのには少々驚いた者もいたが。

312夢に見たもの ◆2XEqsKa.CM:2017/02/20(月) 01:45:47 ID:G55vu7oE0


無人の野を進むがごとき歩みは、目撃したNPCに一過性のトラウマを植えつけていく。
当然のように実体化して街を闊歩する魔界医師の全身から、形容しがたいオーラが噴出している。
誰かを殺しに行くのだ。誰かを救いに行くのだ。目撃者の言葉は、綺麗に二分されていた。
駆け込んできたNPCの話を聞くメフィスト病院のスタッフは、そのどちらにも確信を持って頷けない。
彼らとしては、分かるはずもない院長の心境に想いを馳せるよりトラウマを抱えた患者の治療が先だった。
他ならぬ、メフィストの教育の賜物であった。

「ほう」

いくらか歩いた後……いくらか、というのはかかった時間が不明瞭だからである。度を越えた美しさは容易に時を計らせない。
メフィストが立ち止まって呟いた。感嘆とも言える言葉には、二つの意味があった。
まず一つ目は、思いの他近くにいたな、という驚き。
魔界医師に追われる、となれば地の果てまで逃げる者も珍しくない。無理もないとはいえ、新宿に留まっているとは。
二つ目は、ばったりと出くわした男。それは患者であり、情人であり、敵であった。
浪蘭幻十。かって<新宿>を震撼させた、魔人との再会であった。

「これは、ドクター。お久しぶりです」

「ああ」

あまりにも普通の再会であった。互いに所用の最中であり、互いに劇的な反応をすべき男は別にいる。
とはいえメフィストの方には、投げなければならぬ問いがあった。

「私の患者に、北上という娘がいる。軍国主義の化身のような武器を携えた娘だ」

「……」

「聖杯戦争のセオリーに従うなら、手負いのマスターを狙わねばならんな、幻十」

「僕のマスターは、そのセオリーに反対でしてね」

「性格の良い主に恵まれたな。羨ましく思う」

313夢に見たもの ◆2XEqsKa.CM:2017/02/20(月) 01:46:59 ID:G55vu7oE0

言外の問いに、言外の返答。冷え冷えするような綱渡りと言えた。
追求はそれで打ち切って、メフィストは金属球との追いかけっこを再開した。
その後ろを、幻十がついてくる。隣に並んでも―――むしろ重なり合っても、誰も異は唱えないであろう二人。
メフィストは歩速を緩め、幻十の好奇心を許した。二人は並んだ。

「せつらの真似事ですか? あのUFOの素行調査でも?」

「狩りだ」

メフィストの言葉は、幻十の背を凍らせた。
裏腹に、胸は躍った。ここまで出来上がっているとは―――誰が、何をした? と。
それを聞こうとする前に、メフィストが立ち止まる。
金属球が、静止していた。ここだ、と主張するように。
辿りついたのは百人町三丁目の、高層ホテル以外には近くに何の見所も無い公園である。

「ほう」

二度目の言葉が出た。今度は、二つや三つの感嘆では足りぬ。
メフィストの目を以てしても、この景色に何の異常も発見できなかったのだ。
だが己の被造物は、この地点に着いた。間違いであろうはずがない。

「この公園に何か用でも?」

「気付かんかね?」

受けて、幻十が妖糸を放つ。くまなく探査するが、何も無い。夢か煙を薙ぐように無抵抗に、妖糸は空を切った。
眉を顰める。彼のプライドも、メフィストには及ばないが相当に高い。

「白眉の術者だ。相手側から招き入れぬ限り、神であっても気付くまい」

「何事にも例外はあります」

「この場合は私がそうだな」

314夢に見たもの ◆2XEqsKa.CM:2017/02/20(月) 01:48:27 ID:G55vu7oE0

さらりと言って、メフィストはメスを取り出した。
幻十が一歩下がる。何を切ろうとしているか分からない以上、何者も彼の刃圏に入ってはならない。
だが、死をも殺せる白刃は空間も結界も要石も切断しなかった。
メフィストは刃を掌中に収めると、握り締める。
幻十には、冥王星から木星までが泣き叫んだように感じられた。メフィストの繊手が、血を流している!

「"夢歩き"と"血吐きの目覚め"の複合」

流れる血が、公園の大地に浸みる……刹那、ジャングル・ジムの片隅に空間異常が発生した。
ハッ、と気付いた幻十が、そこに妖糸を殺到させた。強力な抵抗を物ともせず、こじ開ける。
場所を知ってしまえさえすれば、今の幻十の妖糸でも破れる結界であった。
だが、隠匿性と復元力が凄まじい。妖糸を全力で繰って広げても、人一人が入れる程度の穴が開いたのみ。
それも、放置すればすぐに閉じるであろう。幻十は気を張りながらメフィストに話しかけた。

「入るならば、どうぞ。帰りの手伝いは出来ませんが」

「構わんよ」

元を断つのだから、と心の中で呟くか、メフィスト。
だがこの先にいるのは、魔界医師と比しても拮抗するキャスターのサーヴァント。
容易く滅ぼせるとは限らない―――この女が、そうであったように。

「好き血じゃ。今だけは劉貴を羨ましく思うぞ、メフィスト」

「―――!?」

一瞬前までは絶対にいなかった気配に、アサシンたる幻十が愕然として振り返る。
このような事ができるのは、魔界医師くらいのものではなかったか。
女の顔を見た幻十が、二度目の驚愕を味わった。女……美姫も同じであった。

「なんと―――お前のダミーか、メフィスト!?」

「そうお疑いならば、一夜を共にしてもよろしいですよ。美しい魔人(ひと)」

あまりにも絢爛たる、ロミオとジュリエット。メフィストと幻十以上に、抱き合ってもおかしくない二人であった。

315夢に見たもの ◆2XEqsKa.CM:2017/02/20(月) 01:49:05 ID:G55vu7oE0


「その物言い、せつらのダミーでもなさそうじゃな。妖糸も……なんじゃこれは、紛い物か」

「はは」

恋の歌劇は一瞬で終幕した。
美に打たれ、恍惚とした女は即座にその美を他者と比べて侮蔑した。
侮蔑された男にとって、己と比して上と語られた男こそが、譲ることの出来ぬ宿敵であった。
柔らかい部分を無造作に突く美しい女と、爽やかな笑みのままその報復に至れる美しい男。
二人の激突を遮ったのも、やはり美しく―――より冷ややかな男であった。

「去れ、姫よ」

「呼んだのはお前であろう。あの芳醇な血の香り―――私が見逃すとでも思うたか」

「そうか」

ならば、順番を変えよう。そう言いかけてメフィストが口を噤んだ。
美姫の表情の変化によって。女嫌いの男の、ありえぬ変節。
それほどに、美姫の眼光は鋭く"穴"を穿っていた。

「……私に夢を見せたな。それも悪夢ではなく、心地よい夢を」

美姫の声には、限りない怒りと恥辱、なにより歓喜が混ざっている。
メフィストに、その響きの記憶があった。吸血鬼として彼女の陣営に与した時に幾度となく聞いた。
興味を持ったものへの、圧倒的偏執……せつらにだけ向けられていたそれが、今別の物に振り分けられている。
好機といえた。

「同行するかね?」

「変節漢め。恥を知った方がよいぞ」

「やはり、僕も手伝いましょう」

幻十もまた、抑え切れない感情を発している。
せつらを知る姫への興、メフィストを激怒させた者への興、そして何よりも……魔界都市の様相を呈してきた、この地への興。
魔人が三人、夢界に入る。
魔界都市ですら、そうは見れない光景であった。

316夢に見たもの ◆2XEqsKa.CM:2017/02/20(月) 01:50:16 ID:G55vu7oE0
以上で投下終了です
後編は出来るだけ早く投下します

317波紋戦士暗殺計画 ◆/sv130J1Ck:2017/02/20(月) 22:50:12 ID:NJSF5ysM0
>夢に見たもの
“王”とはまたエラいもんが……出落ちっぽいけど
新・魔人同盟に迫られるタイタス帝の運命と、糸の地獄がひた迫るムスカの明日はどっちだ!?

それでは投下します

318波紋戦士暗殺計画 ◆/sv130J1Ck:2017/02/20(月) 22:50:49 ID:NJSF5ysM0
ジョニィがロベルタを狙撃した時、鈴仙は走り去る女子高生を見て、女子高生が“何らかの存在が化けたもの”と認識、
その事を念話で聞かされた塞がロベルタを見失ったジョナサンを連れてうどん屋に戻ったのだった。
そして一目につかない場所で話し合いを続けるべく、適当なカラオケボックスに移動して、周囲からの認識を誤魔化して、
ロベルタの足取りを寨の情報網で追う振りをしながら、この厄介な紳士を放り出す算段を、寨と共にしていたのだった。

塞としては、北上に関しては今のところ決めかねている。北上はジョナサンと違って、扱いやすそうだし、モデルマンのステータス自体が強力というのが主な理由だ。
塞は現状の同盟関係のままでは。聖杯は手に入らないと踏んでいる。
何時かは刃を交えるであろうライドウとダンテ。この両者を排除するにはあと二組は仲間に引き入れたい処だった。
何しろ下手なサーヴァントを凌駕する強さのライドウが、破格の強さを誇るダンテを従え、此処に更にライドウの使役する強力な複数の悪魔が加わる。
塞と十兵衛の組が組んだ処で、ライドウとダンテで此方のサーヴァントを拘束し、マスターである二人に悪魔をぶつけられれば、塞達は確実に屠られるだう。
塞の見立てでは、ライドウとダンテを斃すのに必要なサーヴァントは最低でも三体。確実を期すには四体は欲しい。
此方のサーヴァントの性能や、ライドウが此方に秘密で同盟を組んでいた場合には必要な数は更に増えるが、三を下回る事は決して無い。
更に問題が有る。聖杯を獲得できるのは只一人。なるべく戦わない、戦う時は多対一。この方針を貫いた処で、最終局面においては最後に残った二対二の勝負となる。
塞としては、此処で最後まで残っていて欲しい相手は北上とモデルマンである。何しろ無力な小娘だ。鈴仙がモデルマンを相手に十秒保たせればその間に北上を殺せる自信が塞にはある。
“北上は扱い易い”というのは、こういう面も含んでいる。
常に北上を自陣営に置いておき、モデルマンの戦力をフルに利用して最後の最後で北上を屠る。此れが出来れば勝ちの目はグッと高まるだろう。
北上の現在の窮状を考えれば懐柔など容易に出来るであろう。北上とモデルマンはデメリットを考慮しても魅力的な主従だった。
そしてそれは他の連中にとっても同じ事。今の北上は金塊抱えてオウガストリートを徘徊している様なもの、直に身ぐるみ剥がれて輪姦された挙句惨殺された骸となる事だろう。
それこそジョナサンやライドウの様な例外に出会わなければ。
それに塞には、確実に自分と同じ事を考える手合いに心当たりが有った。
佐藤十兵衛。あの狡い餓鬼は北上とモデルマンを知れば間違いなく骨までしゃぶりつくしてから捨てる算段をするだろう。
優秀且つ強力な宝具持ちのセイバーを擁する十兵衛に、これ以上の手駒を与えるわけにはいかなかった。
十兵衛に関しては、ある一点だけ塞は信じていることがある。それは、“裏切るタイミング”。十兵衛が此方を裏切るのは最終盤になってから。
具体的にはライドウを排除してから、というのが塞の読みだった。
十兵衛にしたところでライドウに対するには同盟して当たるしかない。そして塞の主従は十兵衛からはカモだと思われていることだろう。
塞は十兵衛に対し勝てると踏んでいるが、楽に仕留められるとも思っていない。十兵衛がのらりくらりと闘えば、鈴仙が天子に仕留められて終わるだろう。
塞から見た北上達は、十兵衛から見た塞達なのだった。
十兵衛は塞達に勝てる算段が有る、それを前提にしているからこそ此方と組むメリットを甘受し尽くせるのだ。
この十兵衛の目論見を破る為にも北上を押さえておくことは重要だった。
そして此処で北上を放り出せばジョナサンと行動を共にする可能性が高い。ジョナサンの様な此方の制御を受け付けない男と強力なサーヴァントを有する北上を共に行動させ続けるのは愚策というものだろう。

319波紋戦士暗殺計画 ◆/sv130J1Ck:2017/02/20(月) 22:51:33 ID:NJSF5ysM0
やはり北上を確保しておく為にも何処かに仮宿を用意してやるべきかも知れないが、その場合ジョナサンにも同じ様にしてやらないと、北上が此方を疑い出すだろう。
非常に面倒な事態だった。
ライドウや十兵衛といった要素抜きにしても、北上とモデルマンを今すぐには放り出せ無い。
何故ならばモデルマンを一蹴したアサシンというのが不気味極まりないからだ。
鈴仙のステルスをあっさり見破る上に、オールAという比那名居天子を軽く凌駕し、ダンテにも匹敵するステータスを持つモデルマンが、
全く勝負にならずに一方的に敗北する戦闘手段を持つ美貌のアサシン。そんなものと関わるのは御免蒙る。
此処は折角やる気になっているのだから、交戦経験の有るモデルマンに精々頑張って貰おう。鈴仙を差し向けてマスターを殺すまでは粘って欲しい。

そんな事を考えながら、塞は取り敢えず顔の割れたジョナサンと北上との為に、仮の宿の手配─────実際は北上とジョナサンをライドウから隔離するべく─────二人の為の宿を手配している最中で、
ジョナサンとジョニィとアレックスは鋼のバーサーカーや美貌のアサシンへの対策を話し合っていた。

「守るも攻めるも黒鉄の〜」

北上は『カラオケボックスで誰も歌っていないと不審がられる』という理由で一人歌い続けていた。



終わったか。

心中密かに塞は呟く。新国立競技場で起きていたファイトクラブは競技場の消滅という形で幕を閉じた。
本当に防音の効いた此の場所に移動して来て良かったと思う、情報端末の類を持たないジョナサンを外の騒ぎから隔離できたのは大きい。
さて、暴れ混んで来た奴は鈴仙が言うには「偽物と断言できる」そうなのだが、此処はジョナサンに盛大な勘違いをしてもらおう。

「とんでもない事が起こっていた様だな」

出来る限り沈痛な面持ちを作って塞は切り出す。取り敢えず鈴仙には波長操作を行わせておく。この後の展開がひとつだけ確信できているからだ。

「アーチャーッ!!」

怒声や咆哮という域を越えて、爆音とでもいうべき大音声。ジョナサンの抱いた怒りがどれ程のものか塞は想像がつかなかった。
波長操作を行わせていなければ警察を呼ばれただろう。

「僕たちに出来ることはもう何もない」

呟く様に告げたのはジョナサンのサーヴァントであるジョニィ。新国立競技場は既に消滅し、どうしてできたかか判らぬ大穴を残すのみ。此れでは赴いても意味はない。
立ち上がった姿勢のまま拳を震わせるジョナサンの全身から漏れ出る怒りよ、北上が小さく悲鳴を漏らした程だ。いまのジョナサンは冬篭りに失敗した羆でも避けて通るだろう。
塞は遠坂凛にホンのチョッピリ同情した。

「知っての通り、犯人は追討令が出ているマスター、遠坂凛のサーヴァントだ。」

紺授の薬で戦うところを見た鈴仙が即座に偽物と断定し、塞の集めた情報からは“何者かが黒贄礼太郎の姿に化けていた”と判明している。
だが此処は遠坂凛に罪を被ってもらおう。現場に居たそうだし。

「取り敢えず何の目的でこんな事をしたのかは判らん。他の連中に袋叩きにされそうだから魔力を補充しようと思ったのか、別の目的が有ったのか。
何方にせよ、これ程の事をやったんだ。話し合いが成立する余地は無いだろう」

ジョナサンが遠坂凜の説得に及ぶのを防ぐ為に、念を押しておく。
少なくとも鈴仙の話では、遠坂凜は覚悟を決めていたそうだし、黒贄礼太郎は話が通じる相手では無い。
つまりは、“話し合いが成立する余地は無い”というのは事実だ。嘘では無い。
即座にジョナサンの気配が膨れ上がり、塞の背筋に汗が流れる。塞の思惑が知れれば塞自身が殺されかねない。だが、大丈夫。嘘は吐いてない、推論を述べているだけだ。

320波紋戦士暗殺計画 ◆/sv130J1Ck:2017/02/20(月) 22:51:59 ID:NJSF5ysM0
「目的は判らんが遠坂凛が何処へ行ったかは大雑把にだが判明している」

ライドウは黒贄礼太郎が偽物であると気づいているだろうか?気づいていなければ此方から教えてやれば良い。ライドウは必ずや真犯人を追うだろう。

「都合が良すぎるな」

呟く様に言ったのはジョナサンのサーヴァント、ジョニィ。確かに遠坂凛に怒りを燃やすジョナサンに対し、遠坂凛の居場所を大まかとはいえ掴んでいる、となれば何らかの作為を感じるのは当然だろう。
実際に思惑はあるが、遠坂凛を見つけたのは只の偶然なのだが。

「俺は構わない。令呪を補充で来るしな、後はマスター次第だ」

ジョニィに次いで発言したアレックスの声に含まれたものに、北上が僅かに震える。闘争に怯えている様に塞には見えたが、ジョナサンとジョニィにはアレックスに怯えている様に見えた。

「偶然さ、遠坂凛は島村卯月というアイドルの制服を奪っている。消滅した競技場から行方不明のアイドルの制服を着た奴が出てくれば気づく奴だって居る。
何しろアイドルだ。名前も顔もそれなりに知られている、ファンだって居る。遠坂凛を目撃して、警察に連絡した奴が居るんだよ。『最初見た時は島村卯月かと思ったが、改めて見ると遠坂凛だった』ってな。
因みに連絡者は島村卯月の担当のプロデューサーでで、頭頂から股間まで何かで真っ二つにされた死体になって発見されてる。ニュースで今やってるよ。
ま、遠坂凛としては偽装のつもりだったんだろうがアイドルを甘く見過ぎたな」

そう言って塞が見せた情報端末には、女性に声かけたら間違いなく事案か職質だろうという殺し屋みたいな顔の男の写真と、写真の男が惨殺死体となって発見された現場が報道されていた。

「確か遠坂凛は血塗れの服装だったはず、服を盗むついでに魂喰いをしようとしてこんな事を?」

鈴仙の発言に心の中で親指を立てる塞。ナイスアシスト。
眼前にいるジョナサンの怒りが有頂天どころじゃ無くなってきて、塞の背筋(スパイン)を凍らせ(チル)た。鈴仙に感謝する気持ちがとんでもない勢いで冷えていく。
塞が名誉と人格を貶めたとはいえ、遠坂凛に対する同情を雀の涙レベルで増やした。

これでジョナサンは遠坂凛を追うだろう。真犯人に誅を下さんとするライドウと出会うことは無いはずだ……多分。もしライドウが欺瞞されている様なら教えてやれば良い。
だが、確信は出来無い。何しろ遠坂凛の足取りはある程度だが掴めているのだ。ライドウが楽に補足出来る遠坂凛を優先する可能性は充分にある。

─────紺授の薬使えたらなあ。

使っても良いがこれ以上使うと行動に支障が出る恐れがある。そんな状態で突発的な戦闘に巻き込まれたら比喩抜きで死にかねない。
まさか使用がキツくなって来た時にこんな事態になるとは思っていなかった塞は心中に溜息をついたのだった。
まあ取り敢えずはジョナサンには遠坂凛を追いかけて黒贄礼太郎と戦って死んで貰おう。何しろ不死身のフィジカルモンスターだ。ジョナサンとアーチャーが幾ら強かろうと敵うまい。
此方は鈴仙に遠坂凛を補足させておき、ジョナサンが死んだら遠坂凛を殺して逃げれば良い。ジョナサンは死んで令呪が手に入りメデタシメデタシというわけだ。
この計画にセリュー・ユピキタスを選ばなかったのは、実力が不明だからだ。とんだ雑魚でアッサリ殺せました。では話にならない。
ザ・ヒーローを選ばなかったのは逆の理由で、マスターの戦闘能力が高く、アッサリ殺せ無いからだ。
長引かせればルーラーが襲って来る以上、強いことが判明していて、かつマスターを速やかに殺せる遠坂凜をジョナサン暗殺計画に使うは当然の成り行きだった。
ジョナサンが死ねば北上は自分しか頼れる人間が居なくなる訳だからどうとでも操れる。
当面の計画を立てた塞は、ジョナサンに遠坂凛の逃亡した方向を語り出した。

「嵐の前の静けさに 刃を振り下ろしていくんだ」

北上が何曲目か判ら無い独唱を始めていた。

321波紋戦士暗殺計画 ◆/sv130J1Ck:2017/02/20(月) 22:53:41 ID:NJSF5ysM0
【四ツ谷左門町一丁目のカラオケボックス/1日目 午後3:10分】


【ジョナサン・ジョースター@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]健康、魔力消費
[令呪]残り二画
[契約者の鍵]有
[装備]不明
[道具]不明
[所持金]かなり少ない。
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争を止める。
1.殺戮者(ロベルタ)を殺害する。
2.聖杯戦争を止めるため、願いを聖杯に託す者たちを説得する。
3.外道に対しては2.の限りではない。
4.黒贄礼太郎を殺す。
[備考]
佐藤十兵衛がマスターであると知りました
拠点は四ツ谷・信濃町方面(新宿御苑周辺)です。
ロベルタが聖杯戦争の参加者であり、当面の敵であると認識しました
一ノ瀬志希とそのサーヴァントあるアーチャー(八意永琳)がサーヴァントであると認識しました
塞&アーチャー(鈴仙・優曇華院・イナバ)の主従の存在を認識。塞と一応の同盟を組もうとは思っていますが、警戒は怠りません
塞がライドウと十兵衛の主従と繋がりを持っている事を知りません
北上&モデルマン(アレックス)と手を組んでいますが、モデルマンに起こった変化から、警戒をしています
遠坂凜を追跡することに決めました。

【アーチャー(ジョニィ・ジョースター)@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]魔力消費、漆黒の意思(ロベルタ)
[装備]
[道具]ジョナサンが仕入れたカモミールを筆頭としたハーブ類
[所持金]マスターに依存
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争を止める。
1.殺戮者(ロベルタ)を殺害する
2.マスターと自分の意思に従う
3.次にロベルタ或いは高槻涼と出会う時には、ACT4も辞さないかも知れません
4.黒贄礼太郎を殺す
[備考]
佐藤十兵衛がマスターであると知りました。
拠点は四ツ谷・信濃町方面(新宿御苑周辺)です。
ロベルタがマスターであると知り、彼の真名は高槻涼、或いはジャバウォックだと認識しました
一ノ瀬志希とそのサーヴァントあるアーチャー(八意永琳)がサーヴァントであると認識しました
アレックスがランサー以外の何かに変質した事を理解しました
メフィスト病院については懐疑的です
塞の主従についても懐疑的です

322波紋戦士暗殺計画 ◆/sv130J1Ck:2017/02/20(月) 22:54:12 ID:NJSF5ysM0
【塞@エヌアイン完全世界】
[状態]健康、魔力消費(中)
[令呪]残り三画
[契約者の鍵]有
[装備]黒いスーツとサングラス
[道具]集めた情報の入ったノートPC、<新宿>の地図
[所持金]あらかじめ持ち込んでいた大金の残り(まだ賄賂をできる程度には残っている)
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を獲り、イギリス情報局へ持ち帰る
1.無益な戦闘はせず、情報収集に徹する
2.集めた情報や噂を調査し、マスターをあぶり出す
3.『紺珠の薬』を利用して敵サーヴァントの情報を一方的に収集する
4.鈴仙とのコンタクトはできる限り念話で行う
5.正午までに、討伐令が出ている組の誰を狙うか決める
6.ジョナサンにはさっさと死んで頂く。
[備考]
拠点は西新宿方面の京王プラザホテルの一室です。
<新宿>に関するありとあらゆる分野の情報を手に入れています(地理歴史、下水道の所在、裏社会の事情に天気情報など)
<新宿>のあらゆる噂を把握しています
<新宿>のメディア関係に介入しようとして失敗した何者かについて、心当たりがあるようです
警察と新宿区役所に協力者がおり、そこから市民の知り得ない事件の詳細や、マスターと思しき人物の個人情報を得ています
その他、聞き込みなどの調査によってマスターと思しき人物にある程度目星をつけています。ジョナサンと佐藤以外の人物を把握しているかは後続の書き手にお任せします
バーサーカー(黒贄礼太郎)を確認、真名を把握しました。また、彼が凄まじいまでの戦闘続行能力と、不死に近しい生命力の持ち主である事も知りました
遠坂凛が魔術師である事を知りました
、ザ・ヒーローとバーサーカー(ヴァルゼライド)の存在を認識しました
セリュー・ユビキタスの主従の拠点の情報を警察内部から得ています
<新宿>の全ての中高生について、欠席者および体のどこかに痣があるのを確認された生徒の情報を十兵衛から得ています
<新宿>二丁目の辺りで、サーヴァント達が交戦していた事を把握しました
佐藤十兵衛の主従と遭遇。セイバー(比那名居天子)の真名を把握しました。そして、そのスキルや強さも把握しました
葛葉ライドウの主従と遭遇。佐藤十兵衛の主従と共に、共闘体制をとりました
セイバー(ダンテ)と、バーサーカー(ヴァルゼライド)の真名を把握しました
ルーラー(人修羅)の存在を認識しました。また、ルーラーはこちらから害を加えない限り、聖杯奪還に支障のない相手だと、朧げに認識しています
、ジョナサン・ジョースター&アーチャー(ジョニィ・ジョースター)、北上&モデルマン(アレックス)の主従の存在を認識しました
上記二組の主従と同盟を結ぼうとしていますが、ジョナサンの主従は早期に手を切り脱落して貰おうと考えています。また、彼らにはライドウと十兵衛とコネを持っている事は伝えていません
ジョナサンとアーチャー(ジョニィ)lを黒贄礼太郎に殺害させる計画を立てました。
北上とモデルマンには自分たちと一緒に最後に残る組になって欲しいと思っています


【アーチャー(鈴仙・優曇華院・イナバ)@東方project】
[状態]魔力消費(中)、若干の恐怖
[装備]黒のパンツスーツとサングラス
[道具]ルナティックガン及び自身の能力で生成する弾幕、『紺珠の薬』
[所持金]マスターに依存
[思考・状況]
基本行動方針:サーヴァントとしての仕事を果たす
1.塞の指示に従って情報を集める
2.『紺珠の薬』はあまり使いたくないんだけど!!!!!!!!!!!!
3.黒贄礼太郎は恐ろしいサーヴァント
4.つらい。それはとても
[備考]
念話の有効範囲は約2kmです(だいたい1エリアをまたぐ程度)
未来視によりバーサーカー(黒贄礼太郎)を交戦、真名を把握しました。また、彼が凄まじいまでの戦闘続行能力と、不死に近しい生命力の持ち主である事も知りました
遠坂凛が魔術師である事を知りました
 ザ・ヒーローとバーサーカー(ヴァルゼライド)の存在を認識しました
この聖杯戦争に同郷の出身がいる事に、動揺を隠せません
セイバー(ダンテ)と、バーサーカー(ヴァルゼライド)の真名を把握しました
ルーラー(人修羅)の存在を認識しました。また、ルーラーはこちらから害を加えない限り、聖杯奪還に支障のない相手だと、朧げに認識しています
ダンテの宝具、魔剣・スパーダを一瞬だけ確認しました
アーチャー(ジョニィ・ジョースター)に強い警戒心を抱いています

323波紋戦士暗殺計画 ◆/sv130J1Ck:2017/02/20(月) 22:54:37 ID:NJSF5ysM0
【北上@艦隊これくしょん(アニメ版)】
[状態]精神的ダメージ(大)
[令呪]残り二画
[契約者の鍵]有
[装備]鎮守府時代の緑色の制服
[道具]艤装、61cm四連装(酸素)魚雷(どちらも現在アレックスの力で透明化させている)
[所持金]三千円程
[思考・状況]
基本行動方針:元の世界に帰還する
1.なるべくなら殺す事はしたくない
2.戦闘自体をしたくなくなった
[備考]
14cm単装砲、右腕、令呪一画を失いました
幻十の一件がトラウマになりました
住んでいたマンションの拠点を失いました
一ノ瀬志希&アーチャー(八意永琳)、ジョナサン・ジョースター&アーチャー(ジョニィ・ジョースター)、塞&アーチャー(鈴仙・優曇華院・イナバ)の存在を認識しました
右腕に、本物の様に動く義腕をはめられました。また魔人(アレックス)の手により、艤装がNPCからは見えなくなりました


【“魔人”(アレックス)@VIPRPG】
[状態]人修羅化
[装備]軽い服装、鉢巻
[道具]ドラゴンソード
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:北上を帰還させる
1.幻十に対する憎悪
2.聖杯戦争を絶対に北上と勝ち残る
3.力を……!!
[備考]
交戦したアサシン(浪蘭幻十)に対して復讐を誓っています。その為ならば如何なる手段にも手を染めるようです
右腕を一時欠損しましたが、現在は動かせる程度には回復しています。
幻十の武器の正体には、まだ気付いていません
バーサーカー(高槻涼)と交戦、また彼のマスターであるロベルタの存在を認識しました
一ノ瀬志希&アーチャー(八意永琳)、メフィストのマスターであるルイ・サイファーの存在を認知しました
マガタマ、『シャヘル』の影響で人修羅の男になりました

魔人・アレックスのステータスは以下の通りです
(筋力:A 耐久:A 敏捷:A 魔力:A 幸運:A。魔術:B→A、魔力放出:Bと直感:B、勇猛:Bを獲得しました)

324流星 影切り裂いて ◆/sv130J1Ck:2017/02/20(月) 22:57:19 ID:NJSF5ysM0
次いでもう一つ投下します
こっちは多分長いんで区切ります

325流星 影を切り裂いて ◆/sv130J1Ck:2017/02/20(月) 22:57:46 ID:NJSF5ysM0
シャドームーンは新国立競技場で起きた出来事を、一部始終という訳では無いが目撃し把握していた。具体的にはクリストファー・ヴァルゼライドが乱入して来た辺りから。
元より新国立競技場は赴くつもりの場所ではあったが、事件発生を知ったシャドームーンは予定よりも早くに出立。
競技場では無く警察署に直行し、事件発生を知り一つ処に集まっていた警察上層部を洗脳。
〈新宿〉中の目が競技場に向いている隙を突いたこの行動は物の見事に図に当たり、シャドームーンは警察組織を掌握。そして最初に下した命令は、“競技場を遠巻きに包囲して誰も通すな”というものだった。
シャドームーンが警察組織に期待する役割は、情報収集と戦闘の際に敵の脱出を困難とする肉壁役である。
競技場が魔天すら揺るがす魔戦の場となる事を推察したシャドームーンは警官を万どころか億投入しても骸の山になるだけだと判断。
本来の役割以外の事に兵を投入して無駄死にさせるのは愚行を避け、警官を無駄死にさせず、尚且つ警察の行動を不信がられない指示を下したのだった。
そうしてシャドームーンは、競技場にほど近い場所からキングストーンの力で疑似的に気配遮断を付与させ、マイティアイで競技場内部で行われる魔戦を見届けたのだった。
そして見たのだ。シャドームーンがシャドームーンで有る限り、必ず己自身で斃さねばならぬ男を。
身を異形と化し、鋼の身体と変えられても人の心と魂を失わず、人の技と精神力とを以って絶望しか抱けない戦力差を覆し続けた男達と同じ存在を。
シャドームーンには理解できる。あの男は己が打ち倒さなければならない者と同じだと。
知った以上看過することなど有り得ぬ。シャドームーンはこの〈新宿〉に顕れて以降、初めてといえる決意を胸に、空間転移を行った。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

326流星 影を切り裂いて ◆/sv130J1Ck:2017/02/20(月) 22:58:24 ID:NJSF5ysM0
南榎町にある廃マンション『クレセント・ハイツ』の屋上。〈新宿〉全域が煮えたぎる地獄の釜の様な喧騒に包まれている中、座り込んでスマホを見るガタイの良い少年─────佐藤十兵衛が居た。

「凄ェ!なんだコイツラ明らかに体積以上に喰ってやがる!!」

見ているものはこの世界で過去に行われたフードファイト。
丸いとしか形容出来無い怪女と、桃色の髪のゆったりとした服の上からでも分かる素晴らしいプロポーションの美女が、吸い込んでいるとしか思えない勢いで皿を空にしていた。
怪女のお付きの妙にひょろ長い腕と短足と色黒のせいでゴリラにしか見えない男と、美女のお付きの銀髪の少女が顔を引き攣らせているが、当人達は気付いた風もない。

新国立競技場の惨劇を知った十兵衛は、最初はアーサー・シロタとかいうオッさんが運営しているサイトが、会場の様子を写しているという書き込みを当てにして会場の様子が判るかと覗いてみればとんだ大外れ、
下半身が炭化し、矢が突き立った神谷奈緒の死体や、完全に炭になって誰だか判ら無い死体。砕けて潰れて泥の様になった人体などが映されているだけだった。
思わずスマフォに罵声を浴びせる十兵衛。
バージルがカメラを破壊した上にNPCが全て逃げてしまった為に追加の映像が無いのだが、そんな事は露知らず、「管理人が悪魔にでも喰われりゃ良い」などと毒吐く十兵衛だった。

そして諦めて、面白そうな動画を探していると、この映像に行き当たったのだった。

“カービィvsタッコング”

そんな感想を十兵衛が抱いたのを見計らったかの様に待ち人がやって来る。

「十兵衛〜お待たせ〜」

凡そ緊張感を感じさせない美声の主は比那名居天子。少年─────佐藤十兵衛のサーヴァント。
新国立競技場で起きた惨劇を知った十兵衛は、競技場にサーヴァントが殺到することを予測。霊体化した天子を派遣して観戦させていたのだった。

「おお、どうだった?」

スマホをしまって訪ねる十兵衛。実際問題として十兵衛はそこまで期待してい無い。二丁目の戦闘を目撃した際も、あまり要領を得ない答えを返して来たからだ。
尤も、実際に戦うのは天子である為、観戦させておいても損は無いだろうと考えてはいる。
此奴が見た事を実戦で活かせるかどうかについては際限無く不安に思っているが。

「ん〜一応見て来たんだけど。前にも言ったけれど、遠くのものを見るのは自信無いのよ」

そもそもが見つかる事を避ける為にかなりの距離から見ていた事も有り、「そんなに精確に観れるとは思わない事ね」とは天子自身の言である。

そして語りだした内容は、十兵衛で無くとも戦慄するものだった。
凡そ原型を留めぬほど肉体を破壊されても平然と戦い、遂には肉体を消し去られても復活した黒礼服のバーサーカー。
マスタースパーク─────相変わらず何の事か判らなかったが─────よりも強力な閃光放つクリストファー・ヴァルぜライド。
四枚の翼を操り、凡そあらゆる攻撃を放った痴女みたいな格好の女。
気象を操り衣玖みたいな─────だからなんだよイクって何か響きがエロいけど─────雷落とす女。
紅白巫女みたいに─────だからわかんねーっての─────攻撃を透過する少年。
クリストファー・ヴァルゼライドに不意打ちを決めた虹を操る少女。
あの戦場に集った魔人達を縛った、不思議な歌を歌う少女。
そして、十兵衛が知りたかったサーヴァントの情報と、無視など到底出来ぬ重要な情報。
銃と剣と瞬間移動と良く判ら無い防御法を駆使して縦横無尽に戦い、異形の姿に変貌するライドウが従えるセイバー。
そのセイバーと互角に戦った瞬間移動と飛ぶ斬撃と虚空に出現する剣を飛ばす、これまた異形の姿に変貌するセイバーそっくりな何か因縁の有る剣士。
そして─────十兵衛の目下の同盟相手、塞が従えるサーヴァント、鈴仙・優曇華院・因幡の師。月の賢者八意永琳。
それらの強者達をどうやってか纏めて行動不能にしたオレンジ色の服着た少女。
最後に現れた、競技場を消し去った少年。

327流星 影を切り裂いて ◆/sv130J1Ck:2017/02/20(月) 22:58:49 ID:NJSF5ysM0
「あのオッサンのサーヴァントの師匠って……お前の処から来過ぎだろ!!?」

英霊とやらが何れだけ居るか知らないが、幾ら何でも多過ぎる。単に幻想郷とやらが多士済々なだけなのか?

「私が知る訳ないでしょう。それにしても面倒なのが出て来たわね」

十兵衛は天子の発言に聞き捨てならないものを聞いた。「面倒?」この自信満々な傲岸不遜を絵に描いたような女が「面倒」。

「其奴はそんなに強いのか?」

「さあ?手の内がさっぱり判らないからなんとも言えないけれど。幻想郷でも上位に入る顔触れを纏めて捻った綿月姉妹の師だから、相当強い筈よ」

「何だそりゃ?東方不敗か何かかよ?」

まあ髪型は似ているが。

「誰それ?とにかく、心しなさい十兵衛。あそこに居たのは全員油断していると足元を掬われる相手よ」

天子が見た処、一番弱いのは虹を使う少女だが、紅と蒼の二人の魔剣士の猛攻を凌ぎ切り、剰え蒼いコートの方の技を盗んで反撃し、
その後八意永琳を初めとする強者達に盛大に袋叩きにされても防ぎきったクリストファー・ヴァルゼライドに、完璧な不意打ちを決めるというのは尋常では無い。
紅魔館のメイドの様に時を止めた明けでは無い。おそらくは覚の妹の方の様な能力持つのだろうが、あれは厄介だと思う。
何しろ自分でも多分防げない不意打ち、十兵衛に矛先が向けばどうしようも無い。為す術無く己は退場させられるだろう。
─────だが、それでも。

「安心しなさい十兵衛、勝つのは私よ。私が敗北するなんて事はありえ無いんだから」

傲慢とも言うべき確信を持って断言するその姿を見て、十兵衛は安心感を─────抱いたりはしなかった。
十兵衛の抱いた感想は、“世紀末救世主をチビヤロウ呼ばわりして、自信満々で挑んだ元プロボクサー”。或いは“某地上最強の生物
目をつけられたムエタイ”といったものだった。
どう転んでもあべしするかジャガられるかの未来しか見えない。
取り敢えず何か言ってやろうと思い、口上を考えていると、突如として轟音が響き、クレセント・ハイツが直下型地震にでも遭ったかのように激震した。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

328流星 影を切り裂いて ◆/sv130J1Ck:2017/02/20(月) 23:00:51 ID:NJSF5ysM0
人の居ない方へ居ない方へと移動を続けたザ・ヒーローとクリストファー・ヴァルゼライドは、人気の無い寂れた場所に来ていた。
群がって来る野次馬や、逆に非難する者たち、道路を封鎖する警官を避けて移動するうちに、南榎町の一角に辿り着いていた。
移動しながらヴァルゼライドの手傷を癒してはいるものの、余りにも損傷が酷く、癒えるのは相当の時間と魔力を費やさねばならない様だった。
ヴァルゼライドは全く意に介しておらず、意気軒昂だが、ザ・ヒーローとしては看過できる傷では無い。
それに、魔力の消費も無視出来無い。ザ・ヒーローが今後の事を考え、僅かに焦燥を抱いていると、不意にザ・ヒーローの背筋を悪寒が走り抜けた。
無言で大きく前方に飛ぶザ・ヒーロー。ヴァルゼライドも同じであったらしく、並んで飛びながら、宙で身を捻って180度向きを変え、最優先で修復した刀を左右の手で抜きガンマレイを纏わす。
同じくヒノカグツチを抜き、宙で方向を転換し構えるザ・ヒーロー。
そして二人の足が未だ地につかぬうちに、天空より飛来した銀色の影が、先程まで二人の居た地点に着弾。
アスファルトの路面が20m範囲に渡って砕けて大穴が空き、更にその周囲の路面が70m程陥没し、爆弾でも投下されたかの様な音と震動が生じた。
音速を超えて飛来する瓦礫を撃ち落としながら再度後方に飛びす去るザ・ヒーロー。
隣で同じ様に飛びす去るヴァルゼライドが、着弾地点目掛けガンマレイを放つ。
生じた土煙も未だ飛来する瓦礫も消し飛ばし、穿たれた穴に着弾したガンマレイが再度の爆発を起こし、上空数百mにまで噴煙と土砂を噴き上げ、周囲に瓦礫を降り注がせる。

─────!?

何かを感じたのか、咄嗟に後ろを振り向くヴァルゼライド。その顔面に勢い良く拳が叩き込まれ、ヴァルゼライドをガンマレイにより更に広がった穴の中に叩き込む。
即座に反応したザ・ヒーローがヒノカグツチを薙ぎつけるが、真紅の剣身が斬撃を阻み、ザ・ヒーローの攻撃と同時に放たれていた前蹴りが、ザ・ヒーローを蹴り飛ばした。

瞬時に15mも飛ばされた処で、地にヒノカグツチを突き立てて急制動をかけ、5m程の溝を地に刻んでザ・ヒーローは停止した。
間髪入れず、穴の中から崩落する瓦礫を足台として踏み抜いたヴァルゼライドが躍り出て、ガンマレイを纏った双刀を勢い良く振り下ろすが、既に場所を移していた襲撃者を捉えられず、路面に鍔元まで刀身を埋め込むだけに終わった。

「何者だ」

ザ・ヒーローが問う。〈新宿〉で今まで対峙した相手に対し、ザ・ヒーローが声を掛けるのはこれが最初。相手の返答など最初から期待していない。仕切り直す為の時間稼ぎだった。

「クリストファー・ヴァルゼライド………。俺はお前を殺しに来た」

問いに対する答え。返した者は総身を銀の鎧で覆い、髑髏を思わせる蝗の様な頭部に、エメラルド色の瞳を鈍く輝かせた剣士。世紀王シャドームーンに他ならなかった。

「お前も糞蠅の様に、楽に勝ちを貪りに来たのか」

立て直したヴァルゼライドが、鋼が軋むような声で問う。先刻の蝿の王を思い出して怒りに再度火が着いたのか、刀身に纏ったガンマレイが輝きを増した。

329流星 影を切り裂いて ◆/sv130J1Ck:2017/02/20(月) 23:01:19 ID:NJSF5ysM0
「ならば最初に空を飛んで逃げた女のサーヴァントを狙っている」

シャドームーンの答え。これは真実その通りで、最初に空を飛んで逃げた女のサーヴァントこと八意永琳、彼女とといえども、
上空数百mの高さで、マスターである志希を抱えた状態でシャドームーンに攻撃されれば、確実に敗北していただろう。
シャドームーンが攻撃しなかったのは自分以外に覗き見ていた者の存在を認識していた為だ。
だが、この男だけは見逃せぬ。この〈新宿〉のちに顕現した者共は、世紀王シャドームーンといえども敗北して地に伏すかもしれぬ魔人達。
だが、それら総ては、聖杯への途上にある障害でしかない。
只この男一人を除いては。
クリストファー・ヴァルゼライド。シャドームーンが只一つの座に至る為に戦い、そして敗れたRXの様に、条理を捻じ曲げ不思議な事を起こしてのける男。
シャドームーンは思うのだ。この男を避ける様では、この男一人を斃せぬ様では、己は到底RXの前に立つ事など出来ぬと。この男の輝きを上回れぬ様ではRXもまた上回れぬと。
此処に世紀王シャドームーンは、クリストファー・ヴァルゼライドを『敵』と、聖杯への途上にある障害では無く、己が何としても打ち斃さねばならない『敵』
と認識した。

「お前を斃した際の褒賞の令呪など知らぬ。俺は俺の大願に掛けて、クリストファー・ヴァルゼライド、お前を殺す」

シャドームーンの言葉と共に放出される極大の殺意と戦意。この前には言葉など一切不要。世紀王が不退転の意思を以って、光の英雄を斃しに来たと、見るもの総てに悟らせる。

「貴様には貴様の願いが有り、その為に聖杯を欲しているのは理解した。貴様は大願成就の為に、俺を殺しに来たことも。」

ヴァルゼライドが一刀を青眼に構える。一刀?今彼は両手に一振りづつ刀を持つのでは無く、両手で刀を握りしめていた。

「その決意、受け止めよう。だが、お前の大願が俺の屍の先に有る様に、俺の願いもまた、お前の屍の先に有るのだ」

両者の間に満ちる戦意が、二人の間の空間を軋ませ。二人の身に纏う殺意が、二人の周囲の空間を陽炎の様に歪ませる。

「刃を交えずとも判る、お前は強い。対する俺は傷付き、疲弊している。だが、それでも─────」

ヴァルゼライドの握る刀身が更に光を増していく。シャドームーンの全身に纏う魔力が目に見える程に濃密さを増していく。

「─────勝つのは俺だ」

クリストファー・ヴァルゼライドが断言するのと

「そうでなければ殺しに来た意味が無い」

クリストファー・ヴァルゼライドの言葉を予感していたかの様に、シャドームーンが告げたのは同時。
そして─────二人が動いたのもまた同時。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

330流星 影を切り裂いて ◆/sv130J1Ck:2017/02/20(月) 23:02:03 ID:NJSF5ysM0
ヴァルゼライドが納刀していた一刀を猛速で抜刀する。新国立競技場でバージルの次元斬から習得した剣技で先手を取りに行ったのだ。
無論この一撃が本命という訳では無い。先程の攻防からシャドームーンが空間移動を使い、まともにガンマレイを撃つだけでは回避されることを本日のこれまでに至る戦闘経験から推測。
先ずはシャドームーンの動きを止め、その後に必殺の威力を持つガンマレイを叩き込むつもりだった。
空間に無数の光条が刻まれる、本命に繋げる為の攻撃とはいえ光の一筋一筋に宿る威力と込められた意志は紛れも無く必殺。この攻撃で決着を見てもおかしくは無い。
だが、その時既にシャドームーンは動いている。無論、ヴァルゼライドの方に向かってだ。右手の長剣を真っ直ぐ突き出し、キングストーンの膨大な魔力を足に籠めて爆発が生じたかの勢いで路面を蹴り、、
一直線にヴァルゼライド目掛けて突撃する様をダンテやバージルが見れば驚いただろう。威力は落ちるが、その動きはまさしくロキが創った異界の中で、紅い魔剣士が使用した『スティンガー』に他ならない。
虚空に虚しく刻まれた光条を背に、50mの距離をコンマ一秒と懸からずシャドームーンはヴァルゼライドに突っ込む。
此れにヴァルゼライドは即座に反応、鮮烈に輝く刀身を振るい、真紅の長剣ごとシャドームーンを撃砕せんとする。
此処でシャドームーンは再度大地を蹴って加速。振り下ろされる刃よりも速くヴァルゼライドを刺し貫き、長剣に籠めた暴力的な魔力を流し込んでその肉体を四散せしめんとする。
シャドームーンの速度と動きを完全に見切って迎撃を行い出した刹那の加速。振るい出した刀に更に速度を込めるにはもはや遅い。
だが、それにも対応する事を可能とするのが、クリストファー・ヴァルゼライドの積み上げてきた研鑽と蓄積してきた経験。
更には聖杯戦争という、魔戦の場で研磨された感覚の為せる技だった。
シャドームーンを斬り伏せる為に踏み出していた足を引き戻し、本来踏み降ろす位置より手前に降ろす。
此れによりヴァルゼライドの歩幅は狭まり、斬撃の描く弧が変わり、丁度加速したシャドームーンの脳天を直撃する線を描いた。
シャドームーンの突きも己に刺さるだろうが問題無い。己は只刺されるだけ、相手は頭を撃砕されて絶命する。
こちらは生き、向こうは死ぬ。


この迎撃をシャドームーンは予測していたわけでは無い。だが、新国立競技場での一戦を見ていれば判る。この程度の攻撃に即応出来ぬ程、この英雄の技量は低くは無いと。
事実、ヴァルゼライドは即応し、シャドームーンに致命傷を与える斬撃を放ってきた。
此方の突きもヴァルゼライドを捉えるが、致命傷には至らない。
シャドームーンは敗死し、ヴァルゼライドは勝って生き延びる。

だが、ヴァルゼライドの刀は再び虚空を断った。
種は至極簡単で、迎撃されることを確信していたシャドームーンが空間転移を行った為だ。
しかも悪辣此の上ないことに、長剣を手から放した上で空間転移を行っている為、慣性に従い長剣は真っ直ぐヴァルゼライドの胸目掛けて飛来している。
握る者が居ないとはいえ、鋼すら貫く勢いの剣身に、何とか刀身を叩きつけ、防ぐことに成功するヴァルゼライド。
同時に周囲を白く染め、轟音が半径50mに渡って、建物の窓ガラスを粉砕し、地と空を伝った爆発の衝撃が数百範囲の建物を震撼させた。
シャドームーンが予め剣身に纏わせていた魔力が、ヴァルゼライドの持つ刀身に纏うガンマレイと反応し、爆発を起こしたのだとヴァルゼライドに思考する暇があったかどうか。
地面と水平に後方に飛んでいくヴァルゼライドの上方にシャドームーンが出現。ヴァルゼライドの援護に動こうとしたザ・ヒーローをシャドービームで牽制。ヴァルゼライドには今だ手に持つ短剣を投擲する。
ザ・ヒーローがシャドービームをヒノカグツチで切り払うのと同時、ヴァルゼライドもまたガンマレイを纏った刀で短剣を払い除ける─────のとシャドームーンにガンマレイを放つ事を同時にやってのけた。
この攻防一体のヴァルゼライドの動きにシャドームーンはまたしても瞬間移動で対応。立て直して地に二条の溝を20m程刻んで止まったヴァルゼライドに、上空から念動力を叩き込む。
一度目、路面の広範囲に渡って太い亀裂が入った。。
二度目、路面が大きく陥没した。
三度目、路面が砕け、下を走る下水道にヴァルゼライドが落下した。

331流星 影を切り裂いて ◆/sv130J1Ck:2017/02/20(月) 23:02:31 ID:NJSF5ysM0
シャドームーンの周囲の空間が揺らめく。無数の真紅の剣がシャドームーンを囲む様に出現。ヴァルゼライドが消えた穴目掛け殺到する。
剣の群れが穴に突入するかどうかといった処で、黄金光が真っ直ぐ天目掛けて上昇。剣の群れの悉くを蒸発させた。
黄金光が収まるより早く、ヴァルゼライドが穴の中から飛び出し、路面に降り立つ。
その前方5mの処に、再度両手に長短の剣を持ったシャドームーンも着地。二人は静かに、それでいて必殺の意思を籠めて睨み合う。
此れだけの濃密な攻防を僅か5秒にも満たぬ間に行った両者は、未だに些かの揺らぎも見せていなかった。

「ムンッ!」

「オオオオオオッッ!!」

再度同時に踏み込む。路面が砕ける程の勢いで踏み込み、互いに手にした武器を振るう。
激突した刃が音の域を超えた衝撃波を放って、周囲を揺るがす。
両者は互いに有利な位置を求めて動き、再度繰り出される刃と刃が激突し、生じる火花と衝撃波。
秒の間に撃ち交わす50余合、無数の火花が二人を彩り、衝撃波が周囲の建物と路面を破砕する。
凡そ地力で大幅に劣る─────それこそシャドームーンが本戦開始直後に撃破したバーサーカーとさして変わらぬクリストファー・ヴァルゼライドが、
力も技もヴァルゼライドの上をいくシャドームーンと此処まで拮抗できるのは何故か?
気合と根性で力を振り絞る─────処か増幅させているのもあるが、本戦開始以降最も多く戦闘を経験して来た、というのが大きい。
人という種の持つ最大の強み。人類をして万物の霊長足らしめるもの、全ての生物を比べた時、『脆弱』という言葉で語れる人類を地上の覇者足らしめたもの。
経験の蓄積と、技術の研鑽、そして体験した事象に対する思考である。
ヴァルゼライドは今まで戦い経験した者達の技を、何度も脳内で反芻しては思考し、模擬戦闘を繰り返しては勝利する術を得ようと努力し続けていた。
シミュレーションに有りがちな己に有利な夢想など一切排した模擬戦闘は、結果としてヴァルゼライドの技量を極短時間で向上させ、〈新宿〉に顕れた魔人達の技の模倣すら可能とさせたのだ。
ダンテの、バージルの、タカジョーの、ライドウの、果ては人修羅に至るまでの人の域を越えた技を、
己が今までに積み上げた技術と蓄積した経験とを以って、己の技とアレンジして使いこなすヴァルゼライドの技量は、最早今朝公園でタカジョー及びパスカルと戦った時の比では無い。
地力で遥か上をいき、極限域を越えた武技を持つシャドームーンと互角に斬り結ぶ程に。
二人の剣撃は全くの互角。このまま一日中刃を交えてもケリが着くとは萌えない。
この均衡を崩すべく此処でザ・ヒーローが参戦する。
己に殆ど意識を向けないシャドームーンが、宣言通りヴァルゼライドを殺すことに執着している事を理解したザ・ヒーローは、積極的というよりも大胆に仕掛けていった。


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332流星 影を切り裂いて ◆/sv130J1Ck:2017/02/20(月) 23:03:03 ID:NJSF5ysM0
二振りの真紅の剣が同時に振るわれる。長剣はヴァルゼライドの首を薙ぎ、短剣はザ・ヒーローの燃え盛る剣を短剣で防ぐ
シャドームーンとしては実に腹立たしい事態だった。
通常マスターはサーヴァントに対して、有効な攻撃手段はおろか、対峙して5秒と生きる術を持たぬ。
つまりはサーヴァントとサーヴァント、マスターとマスターが鉾を交えるのがセオリーなのだが、ザ・ヒーローはサーヴァントと互する力量と、サーヴァントを害せる武器を持つ。
通常のマスターならば捨て置いてヴァルゼライドに専念できるのだが、このマスターは放置すれば致命傷を負わされかね無い。
しかもザ・ヒーローは、シャドームーンの心情を理解して、防御を全く考えないで攻めてくる。
互いに全力を傾注した一対一で互角なら、二人に気を払わねばならないこの状況は、シャドームーンにとって絶対的な不利を齎していた。
だが、それでもシャドームーンは退かぬ。RXを撃ち斃す困難に比べればこの程度は気にもならない。
長剣で、受けたヴァルゼライドが後退する程の渾身の斬撃を見舞い、次いでザ・ヒーローの上段からの斬撃を短剣で跳ね上げて体を崩し、右膝膝に前蹴りを入れて蹴り砕き、ザ・ヒーローの動きを止めようとする。
対するザ・ヒーローは右足を上げて防御。シャドームーンが片足立ちという不安定な状態になった隙を逃さず、立て直したヴァルゼライドが左右の刀を振るう。
右は袈裟懸けに、左は右脚を狙った斬撃。方や必殺、方や行動に重大な損傷を与えて動きを止め、必殺の機を齎す攻撃。
どちらを受けても敗北必死な攻撃をシャドームーンは前方に跳躍し、ザ・ヒーローを飛び越えることで凌ぐ。
ザ・ヒーローが振り向くより早く着地を決めると、振り向き終わったザ・ヒーローを捕まえ、腹に膝を連続して撃ち込む。
三発目を入れた処でヴァルゼライドが横に周り、シャドームーンの背中目掛けて刃を薙ぎつけて来るのを、ヴァルゼライドにザ・ヒーローをぶつけて防ぎ、
ザ・ヒーローを上空に放り投げると、ヴァルゼライド目掛けてシャドービームを放射、ヴァルゼライドが切り払った隙を狙い念動力でヴァルゼライドを背後の廃マンションに叩き込む。
コンクリートの壁が砕けて崩れ、瓦礫に埋まったヴァルゼライドに追撃のシャドービーム。廃マンションが大きく揺らぐ勢いで、瓦礫ごと爆発炎上させた。
次いで跳躍し、上空のザ・ヒーローに拳を振るう。ヒノカグツチで受けたザ・ヒーローを、同じく廃マンション目掛けて殴り飛ばすのと、シャドームーンが先刻立っていた場所をガンマレイが通過するのが同時。

カシャンという、金属音の響き、地に降り立ったシャドームーンは油断無く再々度長短の剣を構え、ザ・ヒーローとヴァルゼライドも身を起こす。
そのまま三者は静止。飢えた獣ですら飢えを忘れて逃げだしそうな、凄惨無比な殺気が周囲に満ちた。
均衡を破ったのはヴァルゼライド。バージルから習得した技で空間に十数条の亀裂を刻む。
同じ様に前へと己の身体を撃ち出すシャドームーン。此れをザ・ヒーローがヒノカグツチを横薙ぎに振るって迎撃、
読んでいたシャドームーンは、短剣で受け止めると、突撃の推力と己が膂力とを併せてザ・ヒーローを弾き飛ばす。
ザ・ヒーローに迎撃されて、勢いを減じる処か更に増したシャドームーンにヴァルゼライドが一刀を振り上げる。
最初の攻防の焼き直しに見えるこの一幕。無論シャドームーン程の戦士がそんな事をする訳が無い。
ヴァルゼライドがシャドームーンの瞬間移動に備えて、左の刀を納刀し、脚に移動する為の力を蓄えているのは先刻承知。
ヴァルゼライドが裂帛の気勢と共に一刀を振り下ろす。その切っ先の前にシャドームーンの姿は在った。
何の事は無い、急制動を掛けて制止。ヴァルゼライドに空振りさせてから、隙を晒したヴァルゼライドに引導を渡すつもりなのだ。

この瞬間、ヴァルゼライドは─────シャドームーンの上をいった。


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333流星 影を切り裂いて ◆/sv130J1Ck:2017/02/20(月) 23:04:18 ID:NJSF5ysM0
クリストファー・ヴァルゼライドがシャドームーンの上を行った攻撃は、クリストファー・ヴァルゼライドにしか為し得ぬものだった。
要はするに、競技場でバージルの幻影剣を防いだ時と同じ事をやっただけ、虚空に黄金光の膜を形成したのだ。
持続時間が秒にも満たぬとはいえ、空振りしたヴァルゼライドの隙を補い、ヴァルゼライドの首を落とすべく踏み込んだシャドームーンに痛打を与えるには充分だった。
苦悶の声をあげて後方によろめくシャドームーンに、ヴァルゼライドは真っ向から斬りかかる。
アスファルトの路面が砕け、足首までもが埋まる程の踏み込みから、脳天から股間まで唐竹割にする斬撃。
此れをシャドームーンは膨大な魔力を纏わせた左腕のシルバーガードで防御。凄まじい火花が散り、シャドームーンの左腕の処か、全身の関節を震撼せしむる衝撃が伝わった。
シャドームーンとヴァルゼライドが、バチバチと火花を散らせながら拮抗すること3秒。シャドームーンは全方位に念動力を放ち、
ヴァルゼライドと後ろから斬りつけようとしていたザ・ヒーローを退けた。

ザ・ヒーローが立て直し、ヒノカグツチを構え直す。
シャドームーンがマイティアイを爛と輝かせ、キングストーンの絶大な力を開放しようとする。
ヴァルゼライドが刀身に纏わせたガンマレイをより一層輝かせる。




その時─────天地が翳った


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334流星 影を切り裂いて ◆/sv130J1Ck:2017/02/20(月) 23:05:34 ID:NJSF5ysM0
三人が死闘を繰り広げる路上の側に有る廃マンション、クレセント・ハイツの上空から、要石に乗った佐藤十兵衛と、その横に浮遊する比那名居天子は、眼下で繰り広げられる魔戦を見守っていた。
但し、十兵衛には何が起きているのか全く理解できていないが。

「どうするの?あれ」

「どうって言われてもなあ……」

十兵衛の基本戦略は情報収集と数の暴力による圧殺。此処で天子を投入するのは十兵衛の本意では無い。
だが、此処でヴァルゼライドを葬れば十兵衛が令呪を独占できる。
優勝を狙うのならば避けては通れぬライドウや、油断も信頼もならない塞といった面子に隠れて切り札を増やせる、というのは魅力的だった。
腕組みして考える十兵衛。
大体、今の処は目の前の相手に集中しているのと、距離を置いている所為で気付かれてはいないが、気付かれたら最後、ヴァルゼライドの放射能熱線で消し飛ばされるのは必至。
少なくとも、自分が安全地帯に移動するまでは何もしないのが賢いのだが、此処で問題になるのが“もし自分が離れて、天子を嗾けた場合。果たして此方の指示を聞くのか”というものだった。
一撃加えて退け。と命じても、無視して戦闘続行しそうな気質をこの少女は有している。

「それにしても、あのバーサーカー。放射能熱線出しまくるわ、あんな傷でも元気に戦うわ。G細胞でも植え込んでるのか?」

無論バイオじゃ無い方の。

「G細胞?」

訪ねてくる天子をスルーして眼下を見る。高い地力と多彩な能力とを持つ銀蝗のセイバーが、ヴァルゼライドを相手に手傷を負わされていた。
此処に十兵衛の肚は決まった。

「セイバー。俺を安全な場所まで運んでから、強烈なのを一発カマシてくれ。狙いはバーサーカーのマスター」

双方が傷付いたのなら得るべきは漁夫の利。強敵を労せず排し、令呪をコッソリ頂こう。

「私達は蛤と鷸を捕らえる漁夫という訳ね。任せなさい、天網恢恢疎にして漏らさず。一網打尽という言葉の意味を教えてあげる」

手に握るは天人にしか扱えぬ緋想の剣。〈新宿〉に顕現した英霊が持つ宝具の中でも上位に入る性質の剣を開帳すると、巨大な要石を造り出し、その上に乗った。

要石
─────* 天 地 開 闢 プ レ ス

直径10m、重量にして100tを超える要石が、地上で対峙する三人に落ち行く様は、まさに争いを止めぬ愚者共に対し、天が下した罰か。
古典文学に詳しい者なら、ジョナサン・スウィフトの小説に登場する、空に浮かぶ国を思い浮かべたかもしれない。
地上の三人が上を見上げたのが同時。
燃え盛る剣を持った男が要石の下から走って逃げようとし。
輝く剣を持った男が両手の光刃を振り上げ。
銀蝗の剣士の姿が描き消える。
そして─────落下した要石が路面を貫き、下水道すら粉砕し、完全に路面に埋まってから、緋想の剣を持った天子がドヤ顔で誰も居なくなった路上へと降り立った。
周囲に有った建造物が、要石の落下の際の激震と路上の陥没に伴い、大きく傾いでいるが気にした風も無い。
その時、天子の遥か上空から銀色の影が極音速すら超えて落下してくる。その様は、人が近い未来に於いて実現するであろう神威の兵器。“神の杖(ロッズ・フロム・ゴッド)”さながらのものだった。

回避も要石を用いた防御も間に合わぬ程に迫った処で、漸く気付いた天子が緋想の剣で銀影を受け止める。
隕石の落下にも匹敵する轟音は、衝撃波と化して周囲の建物を撃ち震わせ、耐えられなかった建物を倒壊させる。


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335流星 影を切り裂いて ◆/sv130J1Ck:2017/02/20(月) 23:06:55 ID:NJSF5ysM0
投下を終了します
続きは近日中に投下します

336名無しさん:2017/02/21(火) 21:48:26 ID:/ZHxzIFY0
投下乙です

>>夢に見たもの
魔界都市勢の強さと凄みの描写が非常に卓越していて、読んでいて余りの表現力の高さに唸らされました
超級の魔人達に目を付けられてしまったタイタスは災難ですが、然し然程不安を感じさせない辺りは流石の始祖帝
どう転んでも只では済まなそうなお話、後編もとても楽しみです

>>波紋戦士暗殺計画・流星 影を切り裂いて
ジョナサンを隙あらば斃したい塞の考えは尤もですが、当のジョナサンのアーチャーにはとんでもない宝具があるのがまた
シャドームーンとヴァルゼライド閣下の戦闘は非常に読み応えがあり、どちらが勝利しても何らおかしなところのない激戦に手に汗握る想いで読み進めていました
此方も此方でとてつもない対決になりそうで、後編を楽しみにしています

337 ◆84KkaZCadA:2017/02/21(火) 21:50:27 ID:/ZHxzIFY0
それと差し障りなければ、遠坂凛&バーサーカー(黒贄礼太郎)を予約させてください

338 ◆84KkaZCadA:2017/02/22(水) 18:34:29 ID:qCpQ9VzI0
投下させて戴きます

339追想のディスペア ◆84KkaZCadA:2017/02/22(水) 18:36:16 ID:qCpQ9VzI0
 地獄だ。これ以上の地獄はないと、遠坂凛は心の底からそう思う。
 体を循環する血液と言う血液が丸ごと溶けた鉛に置き換わってしまったかのように身体はただただ重く、疾走の息継ぎで酷使した喉は乾いて裂けるような痛みを伝えてくる。何か考えなければならないと頭では分かっているが、考えれば考えるほど胸の奥で暴れている心臓が鼓動を強めて凛を追い詰めるのだった。
 人気のない路地裏に入り込み、凛は歩調を緩めてようやっと少し体力を回復する。

 ――兎にも角にも、先ずはこれから何処に向かうかを明確化しなければ。衣服の調達には、一応成功した。外面を取り繕う認識阻害の魔術の恩恵もあって、これで少しは人目に付いても問題なくなる。
 だからと言って、凛は呑気に大手を振って久方振りの娑婆を満喫するような阿呆ではない。そも、新国立競技場のあの惨状を前にしても尚その近辺に留まれる等、とんでもない胆の座りようだ。在り方としては、最早自殺に近い。
 恐ろしい戦いだった。聖杯戦争を侮っていた訳では絶対にないが、それでも、あの戦いは凄まじいの一言に尽きた。
 どこもかしもも神秘で満ちている、神話の大戦めいた光景が彼処にはあった。

 並のサーヴァントであれば最低でも三度は死んでいるような傷を負って尚、知ったことかと暴れ回る黄金の英雄。
 奇矯な歌を響かせて敵の動きを止め、止まっている間に撃ち込むと言う恐るべき戦法を駆使した艦装の少女。
 深淵に繋がる闇の湖面を形成し、激烈なる大戦争を事実上終結させた魔王の如き少年。
 凛が集中して観察していた面子だけでも、これなのだ。にも関わらずあの場には、少なく見積もってもその倍ほどのサーヴァントが揃っていた。セオリー通りの聖杯戦争ではまずお目にかかれない光景だったと言える。虚無の湖面により全員が散開したように思われるが、この近くに残留している者もまだ多く居るだろう。お尋ね者の身としては、そういう意味でもとてもじゃないが長居したいとは思えない。
 ――では、何処へ向かう? それが問題だった。何だかずっと前のことに感じられるが、そもそも自分は漸く見つけた新たな拠点を早々に後にし、新たな"最低限、家の体裁を保った"拠点を探すべく動いていた所だったのだ。其処まで思い返すと、今後の方針は自ずと浮かび上がってくる。

"出来るだけ競技場から距離を取りつつ、新しく拠点に出来そうな場所に当たりを付ける事……ね"

 忌まわしい偽物に罪を被せ、少なくとも聖杯戦争に噛んでいる人間からの関心を反らす目論見は失敗に終わった。凛とて、全部が全部上手く行くと思っていた訳ではないが、彼処まで何もかも上手く行かないと一周回って可笑しくなってくる。凛はあの競技場で無駄な徒労と心労を背負わされただけで、何一つ現状を変える事が出来なかった。貴重な時間と魔力を使って、無駄に疲れに行ったような物だ。
 そう考えると元凶の偽黒贄、ひいてはそれを生み出したステージ襲撃の首謀者に八つ当たりじみた怒りが沸々と湧き上がってくる。お前達さえ居なければと、そう思わずにはいられない。感情の薪を燃やした所でどうにもならないとは分かっていても、割り切れるかどうかはまた別の話である。
 無論、何時までも終わった事を引き摺っていても仕方のない事。失敗は素直に失敗と受け止めた上で、これからその損した分をどうやって挽回していくかが肝要だ。
 其処で凛は、行動の方針を元に戻す事が一番だろうと判断した。触手遣いのマスターとの戦闘もあった以上、何処かで暫く身体を休めつつ魔力の回復に努めたい。その為にも、やはり拠点……最悪そうとまでは行かずとも、人目を凌げ、腰を落ち着けられる場所は確保しておきたかった。

340追想のディスペア ◆84KkaZCadA:2017/02/22(水) 18:37:08 ID:qCpQ9VzI0
「浮かぬ顔ですなあ」
 
 まるで他人事のように、凛から一歩引いた位置で、気怠げな瞳のバーサーカー……黒贄礼太郎がへらへら笑っていた。
 その緊張感も責任感も皆無と言った振る舞いに、凛はもう怒りすら湧いてこない。いや、事実、彼にとっては他人事のような物なのだろう。不死の性質を持ち、聖杯戦争にも凛程の執着はない異端のサーヴァント。規格外の狂化ランクをあてがわれるのも頷ける、狂気の権化。彼にも自分の怒りや焦りを共有して欲しいなどとは、今や凛は全く思っていなかった。それは無駄な事で、疲れるだけだと遅まきながら理解したからである。

「……最低限、気だけは張っておきなさい。それとなるべくなら、私の盾になるような感じで歩いて。もう大分離れたとは思うけど、サーヴァントにしてみればこのくらいの距離、殆ど無いも同然だろうから」

 あの状況で自分達を追い掛けてくる程余裕のある主従が居たかは定かではないが、警戒するに越した事はない。内に居たサーヴァントでなくとも、外で虎視眈々と待ち受けていた輩が居ないとも限らないのだ。黒贄にアサシンの襲撃を予見するなんて働きは期待していないが、正面戦闘と耐久競争に於いてだけは、この狂戦士はまさに天下一品の怪物だ。肉盾として活用すれば、実質絶無に近い消耗で得意の真っ向勝負に持ち込める。
 其処まで考えて、凛は足を一瞬止め、乾いた唇を血が出そうなくらい噛み締めた。
 後ろを歩いていた黒贄の歩みが予期せず追い付いて、彼も足を止める。殺人鬼は今、凛の隣に居た。「どうしたのですかな?」と問い掛けてくる黒贄に、凛は「何でもない」とぶっきらぼうにそう返す。此処で要らぬ追及を掛けてこない、掛けようという気にならない所だけは、今の凛にとっては少しだけ都合が良かった。

"……慣れたわね。色々と"

 遠坂凛と言う魔術師は、超を付けてもいいくらい優秀な人物だ。
 冬木の御三家が一角である遠坂の姓を持つ時点で、家柄が重視される魔術師の世界では誰もが無視出来ない。その上凛は自分の才能に驕って研鑽を怠るでもなく、自分の身に流れる血統に誇りと責任を持ち、より素晴らしい魔術師になるべく前進を続ける模範的な性分の持ち主でもあった。
 異世界の<新宿>で行う聖杯戦争と言う舞台設定には、簡単に慣れる事が出来た。然し彼女は――この街に招かれたマスターの中でも一二を争う位に、兎に角運がなかった。戦力面以外は最悪の一言に尽きる殺人鬼のバーサーカーを引き当てた挙句、何一つ自分の思い通りに行かない。聖杯戦争に於いて忌避される民間への露出と不要な殺戮を、出だしから己のサーヴァントの手で行われてしまった。
 血と臓物の臭いが常に隣り合わせの、想像していたのとは全く別な意味で過酷過ぎる聖杯戦争。
 事実常人なら、最初の大虐殺の時点で精神を病み、首を括っていてもおかしくはないだろう。

 然し遠坂凛は優秀だった。聖杯を獲らねばならないと言う想いも人一倍強く、故にその感情を支柱にして、壊れかけの精神を繋ぎ止める事が出来た。そして、それだけではない。時間は大分掛かったし失敗も山ほどしたが、凛はこの血腥い現状に段々自分が順応し始めているのを感じていた。
 素直に喜べる事では、無いだろう。それは裏を返せば、真っ当な人間の範疇から現在進行系でどんどん逸脱していることの証左に他ならない。魔術師の中には世間一般に人でなしと呼ばれるような人間も決して少なくはないが、それでも黒贄レベルの凶行に及ぶ者はまず居ない。そういう意味では今の凛は、魔術師基準でも"異常"な精神に成長しつつあるのだった。

 ああ、どうしてこんな事になってしまったのだろう。
 忘れもしないあの時――今思えば明らかに曰く付きの代物だった――最上のサファイアに手を掛けさえしなければ、自分はこんな冗談みたいな世界に迷い込むは無かったのだろうか。きっと、そうに違いない。何故なら今も手元にある"これ"はサファイア仕立ての宝石細工等ではなく、契約者の鍵。<新宿>と言うワンダーランドで執り行われる、聖杯戦争と言う名のティーパーティーへの招待状。
 数百万ぽっちでこんな上物を買えるなんてと喜んでいた自分を殴り飛ばし、ありったけのガンドで蜂の巣にしてやりたい。あの時、凛は"買った"のではない。"売った"のだ。たった数百万円ぽっちで、凛は自分の未来を悪魔に売り渡してしまったのだ。契約者の鍵と言う、代金を受け取って。

341追想のディスペア ◆84KkaZCadA:2017/02/22(水) 18:37:56 ID:qCpQ9VzI0


『人殺し!!』

 走馬灯のように、脳裏に甦る声がある。

『あなたのせいで、皆死んだ! あなたさえ来なければ、皆で楽しく、素晴らしくライブが終われた筈なのに!! 辛かったトレーニングが実を結んだんだって笑いあえたのに!!』 

 あの時、凛は違うと言った。事実として、それは正しい。
 悲痛に叫びながら滂沱の涙を流す少女の仲間達を殺したのは黒贄礼太郎を騙った何某かであって、遠坂凛はあの一件に関しては被害者だった。其処については、何の間違いもない。だが、ああ。それがどうしたと言うのだろう。
 本物の黒贄が殺した人間の家族や友人が凛を見たとしても、きっと同じ反応をした筈だ。
 要は橘ありすは、そう言った人達の代弁者でもあった。何十、下手をすれば百にも届くような人間が、この世界の何処かで遠坂凛と言う人間……もとい殺人鬼に対して、彼女と同じ感情を抱いている。母を、父を、姉を、兄を、弟を、妹を、祖父を、祖母を、友を、恩師を、返せと哀しみに震えている。

 
 人間は、人の事を声から忘れていくと言う。
 なのに凛は、あの時の少女の声を今も頭の中で再生する事が出来る。
 それ程までに深く、橘ありすの訴えは凛の心に突き刺さった。返しの付いた針のように、それが抜ける気配もない。
 それが抜けた時が、遠坂凛が完全に戻れなくなる時だ。人倫の外にある、人でなしの精神性を手に入れる時だ。そうはなりたくないと、凛はまだ辛うじてそう思う。
 そんな事を考えながら歩いていると――どん、と何かにぶつかった。

342追想のディスペア ◆84KkaZCadA:2017/02/22(水) 18:39:56 ID:qCpQ9VzI0
「痛ってえな! てめえ、どこ見て歩いてやがんだ!?」

 人だった。ガタイのいい、凛よりも背の高い男。男とは言っても、歳は凛より下だろう。背は高いが、顔立ちと声の調子を聞く感じは、精々中学生くらいと思われる。
 いきなり声を荒げた彼に驚いた様子で、後ろを歩いていた取り巻きらしい少年の一人が彼を止めに掛かった。

「とと、すいません! おい寺坂あ、気持ちは分かるけど誰彼構わず喧嘩売んのは止めろって!!」
「うるっせーぞ村松ゥ! 俺ぁな、今虫の居所が悪いんだよ!!」

 ……凛の抱いたイメージは、"典型的な不良学生"だった。親か、或いは学校か。どちらかは分からないが、今の現状に強い不満なり劣等感なりを抱いているのだろう。そのストレスを不良行為で発散する、テンプレートじみた思春期の子供。それは合っていたが、然し厳密には違っていた。
 彼らは、黒贄の殺戮とはまた別な、<新宿>を襲った災禍に依って友人を奪われた被害者であった。
 時は遡る事数時間前。何ら変哲のない住宅街の一角が、黄金の極光で無惨に焼き尽くされた。犠牲者の数はとんでもない人数に達しており、その中に、少年達がよくつるんでいる友人も含まれていたのだ。正確な安否を確認したくても、爆心地の周辺が警察に封鎖されているからどうにもならない。
 やり場のない怒りと遣る瀬無さを抱えながら当てもなくぶらついている時に、彼らはこうして凛と遭遇するに至ったのだった。認識阻害の魔術が掛かっている為、一目見られただけで素性が割れるような事はない。――ない、が。

「はは、謝る事はありませんよ。どうかお気になさらず」
「いや、ホントすんません! ……って、あれ? アンタ、確か――」

 何か言いかけた、村松と呼ばれた少年の首が、一瞬にして百八十度回転した。
 激昂する事も忘れて、何が何だか分からないと言った顔で、寺坂少年が「あ?」と呟く。次の瞬間には、二人の後ろ側にいた、やはり彼の取り巻きの一人なのだろう少女の頭がスイカのように潰されて、残った少女の首から下がハンマーのようになって寺坂の頭部をやはり果実のように粉砕した。
 此処まで、僅か四秒程だ。凶行を終えた黒贄は血塗れ姿で凛へと振り返り、その顔を見て「むむ?」と呟く。

「おや、ひょっとして拙かったでしょうか? 先程工面してやると言われた分を、今殺させて戴いたのですが」

 遠坂凛には、少年達に警告する事が出来た筈だ。何を言っているのかと言われてでも、逃げろと口にする事が出来た。
 まず人は通らないだろうと思っていた薄暗い路地裏で誰かと遭遇するなんて思わなかった――そうだとしても、やはり警告する事は出来た筈だ。然し凛は、そうしなかった。"殺人鬼・遠坂凛"の動向が早速漏れてしまうのと、少年達の命。それを天秤に掛けた結果、凛は前者の方を重視したのだ。
 此処が人気のない路地裏である事。少年達が少数である事。
 そして――先程競技場で、その場凌ぎの口約束とは言え、黒贄に"後で人命を工面してやる"と発言した事。後々変な場面でその約束を履行されるよりかは、何かと都合が良い今この時に済ませてくれた方が幾らかマシだ。そんな、凡そ真っ当な良心を持つ人間とは思えない考えの下に、凛は三人の中学生を犠牲にしたのだった。

「……行くわよ」

 擦り切れそうな精神を爆速で摩耗させながら、遠坂凛は往く。もう戻れない、"人殺し"の道を、着々と。
 
 その事を、他ならぬ凛当人も実感していた。だって今、中学生達が目の前で殺された時、凛はこう思ったのだ。
 自分の行いを嫌悪するよりも先に。仕方のない事だと自分に言い聞かせるよりも先に。

343追想のディスペア ◆84KkaZCadA:2017/02/22(水) 18:40:18 ID:qCpQ9VzI0



 ――ああ、代えたばかりの服が汚れなくて良かったな……と。



【霞ヶ丘町方面(路地裏)/1日目 午後3:30】

【遠坂凛@Fate/stay night】
[状態]精神的疲労(極大)、肉体的ダメージ(小→中)、魔力消費(中)、疲労(大)、額に傷、絶望(中)
[令呪]残り二画
[契約者の鍵]有
[装備]いつもの服装(血濡れ)→現在は島村卯月@アイドルマスター シンデレラガールズの学校指定制服を着用しております
[道具]魔力の籠った宝石複数(現在3つ)
[所持金]遠坂邸に置いてきたのでほとんどない
[思考・状況]
基本行動方針:生き延びる
1.バーサーカー(黒贄)になんとか動いてもらう
2.バーサーカー(黒贄)しか頼ることができない
3.聖杯戦争には勝ちたいけど…
4.今は新国立競技場から逃走
5.それと並行して、新たな拠点にも当たりをつけておきたい
[備考]
遠坂凛とセリュー・ユビキタスの討伐クエストを認識しました
豪邸には床が埋め尽くされるほどの数の死体があります
魔力の籠った宝石の多くは豪邸のどこかにしまってあります。
精神が崩壊しかけています(現在聖杯戦争に生き残ると言う気力のみで食いつないでる状態)
英純恋子&アサシン(レイン・ポゥ)の主従を認識しました。
バーサーカー(クリストファー・ヴァルゼライド)が<新宿>衛生病院で宝具を放った時の轟音を聞きました
今回の聖杯戦争が聖杯ではなく、アカシックレコードに纏わる操作権を求めて争うそれであると理解しました
新国立競技場で新たに、ライダー(大杉栄光)の存在を認知しました。後でバーサーカー(黒贄礼太郎)から詳細に誰がいたか教えられるかもしれません
あかりが触手を操る人物である事を知りました
現在黒贄を連れて新国立競技場から距離を取っています。何処に移動するかは次の書き手様にお任せします


【バーサーカー(黒贄礼太郎)@殺人鬼探偵】
[状態]健康
[装備]『狂気な凶器の箱』
[道具]『狂気な凶器の箱』で出た凶器
[所持金]貧困律でマスターに影響を与える可能性あり
[思考・状況]
基本行動方針:殺人する
1.殺人する
2.聖杯を調査する
3.凛さんを護衛する
4.護衛は苦手なんですが…
5.そそられる方が多いですなぁ
6.幽霊は 本当に 無理なんです
[備考]
不定期に周辺のNPCを殺害してその死体を持って帰ってきてました
アサシン(レイン・ポゥ)をそそる相手と認識しました
百合子(リリス)とルイ・サイファーが人間以外の種族である事を理解しました
現在の死亡回数は『2』です
自身が吹っ飛ばした、美城に変身したアサシン(ベルク・カッツェ)がサーヴァントである事に気付いていません
ライダー(大杉栄光)が未だに幽霊ではないかと思っています

344 ◆84KkaZCadA:2017/02/22(水) 18:40:32 ID:qCpQ9VzI0
投下を終了します

345 ◆TE.qT1WkJA:2017/02/26(日) 22:46:02 ID:aQYdWu.U0
>>294の予約を延長します

346 ◆zzpohGTsas:2017/02/28(火) 04:25:54 ID:Xae50M.k0
>>夢に見たもの
予約した段階で思ったのは、遂に新宿聖杯に参戦している魔界都市シリーズのサーヴァントが全員予約されたか、と言う事。これは期待せざるを得ないでしょう。
そしていざ投下された物を見ると、これまた、大波乱の幕開けを思わせるような素晴らしい前半であったと言う事。
魔界都市勢、もとい菊地秀行御大特有の美貌描写や、ハッタリを効かせた文章の再現度も然る事ながら、しょっぱなから<王>とタイタスと思しき存在の会話を持って来る、
と言うクロスオーバー力には脱帽させて頂きました。再現する事に関しては特に難しい菊地節を此処まで再現されるとは、見事と言う他ない。
そして再現の見事な部分は地の文のみならず、せつらを筆頭とした魔界都市勢の会話文もまた素晴らしい。
>>「そういうお前も、僕より弱くなってるぞ。誰だ、桀王、紂王、幽王の不肖の弟子は?」
魔界都市勢の会話の中でも、これが一番凄い。原作のせつらが言いそうなセリフその物であったので、相当作品を読み込んで来たな……と言う事を窺わせる素晴らしい一文でした。
特に注目していた魔界都市シリーズのキャラクター以外にも、タイタスに匿われ人間である事を止めさせられたロベルタと、彼女を取り巻く境遇の描写も良い。
原作Ruinaにおける事実上のラストダンジョンである地下玄室、その精緻な描写は、原作をよくやり込んだ人間でなければ上手く再現出来ない素晴らしい物。
そして所々に、原作におけるタイタスの一番のシリアスブレイクが見られる小ネタをさりげなく挟むその腕前の方にも、嘆息を隠せません。
後、最近弟が十兵衛君に倒された佐川睦夫くん!! 君は陰陽トーナメントに帰ろう!!
どちらにしても、まだまだキタローとアレフのペアと、高槻君が出ておらず、どのように後編が展開されるのか、予想が出来ません。
非常に面白く、そして後編を期待させるその『引き』や、前述した様々な小ネタや再現困難な作品の地の文・会話文の再現。まことに見事で、美しかったと私は思います。

ご投下、ありがとうございました!!

>>波紋戦士暗殺計画・流星 影を切り裂いて
前者、波紋戦士暗殺計画は、塞の狡猾さも勿論、目的達成の為の様々なフォローの上手さも目立つ話だなぁと思いました。
蹴落とさねばならないライドウや十兵衛の事を意識し、彼らを倒す為の諜報・スカウト活動を行いつつ、運悪く引いてしまったババであるジョナサン主従を、
何とかして脱落させようと策を張り巡らせる様は実に狡猾。だが、ただ脱落させようと厳しい境遇にジョナサンを置かせるだけじゃなく、
彼らに違和感や不利を悟らせ難いやり方は、本当に恐ろしい。今の所塞の意図を読めず、義憤を露にするジョナサンは今の所、塞の望む通りの態度。
今後此処からジョナサンはどのように動き、そして塞の狡知と、北上主従の行く末が非常に気になるお話でした。
そして後半の、流星 影を切り裂いては、ヴァルゼライドとシャドームーンの烈しい戦闘話。先ず思ったのは、こいつ前話でアレだけ消耗しておきながらもう元気に戦うのか……、
と言う恐ろしいまでのヴァルゼライドのポジっぷり。コイツ本当に最初の話以外で戦闘しかしてないな、と言う事を改めて思い知らされました。
あれだけダンテやバージルを筆頭としたサーヴァントにボコボコにされながら、これまた<新宿>でも上位の強さのサーヴァントであるシャドームーンを相手に、
一歩も引かないガチバトルを展開するのは本当に流石総統。ですが、その戦闘描写がこれまた見事。
ヴァルゼライド程ではないにしろ、<新宿>でも戦闘経験を積んで来たシャドームーンと、語るまでもなく戦闘をこれまで一番行って来たヴァルゼライドの戦闘経験のぶつかり合い、
そして互いに『改造人間』の身の上である両名のサーヴァントの凄絶な死闘は、とても激しく、読む側である自分を熱くさせる大変面白い話でした。
そんなまさに「どうオチを付けるのか」と言う程激しい戦いに乱入して来た十兵衛主従。彼らが首を突っ込んだ事で、この話はどう展開されるのか。それが非常に気になりました。

ご投下、ありがとうございました!!

347 ◆zzpohGTsas:2017/02/28(火) 04:26:11 ID:Xae50M.k0
>>追想のディスペア
本編に登場する度に、テンションが沈んでは浮かび、そして上昇分の二倍ぐらいは沈んで行く事に定評のある新宿聖杯における遠坂凛。
そして今回の話でも……全然好転しませんでしたね……。何で状況がよくならないんですかね〜不思議ですねぇ〜(他人事)。
凛ちゃんによる新国立競技場で起こった事の回想ですが、まぁどんなに記憶を巡らせても良い事がなかった事を再認させてくれるお話でした。
他の多くの主従同様骨折り損だっただけでなく、NPCのありすから言われた『人殺し』の罵倒も、心に深い傷を負っていた模様。
あの話を執筆した身としては、ありすのあの台詞を思い出させてくれた事は嬉しい限りで御座います。あのやり取りは少し自信がありましたので。
凛の現状を読みやすく、解りやすい、見事な文章で描写しきっただけでなく、最低最悪のバーサーカーである黒贄が、暗殺教室出典のキャラを殺しても、
服が汚れなくて良かった程度に考えると言うたった一文だけで、精神が悪い方向にタフに成長して行っている事を説明出来ていて非常に良い。
遠坂凛と言うキャラクターの掘り下げが見事に成された、素晴らしいお話であると思いました。

ご投下、ありがとうございました!!

348 ◆TE.qT1WkJA:2017/03/05(日) 21:42:50 ID:jlN3P.as0
申し訳ありません、予約期限を超過していますが、>>94の予約を破棄します
ある程度進んではいますので、近日中にゲリラ投下という形で投下できると思います
予約したい方はご自由にどうぞ

349流星 影を切り裂いて ◆/sv130J1Ck:2017/03/07(火) 22:10:14 ID:Ef0xKzCs0
予約期間超過してしまった上に、途中ですが投下します。
次で終わりますんで許してください。お願いします

350流星 影を切り裂いて ◆/sv130J1Ck:2017/03/07(火) 22:11:00 ID:Ef0xKzCs0
カシャン。という音と共に大地を踏みしめるシャドームーン。先刻までの戦意は消え失せ、凄まじい怒気を宿して、天子が立っていた場所に穿たれた大穴を睨め付けた。

「絶えて滅びよ、道化」

忌々しげに呟くと、念動力で天子を穴の底から引き摺り出した。
右の拳を真直ぐに引く、エルボートリガーを作動させることなどしない。
RXとの再戦の為の儀式、己がRX前に立つ為に避けては通れぬ相手との一戦に、巫山戯た乱入をしてきた女に、シャドームーンは激怒していた。
この怒りは乱入者を、死ぬまで殴って殺しでもしなければ晴れはしない。
穿たれた穴の底から天子がゆっくりと引き上げられてくる。
見る者が居れば、シャドームーンの風貌も合間って、宙に釣り上げられた天子は魔神に捧げられた美しい贄を思わせたに違いない。
その眼に烈しい戦意を湛え、身体の周囲に要石を旋回させていなければ。

「今のは…大分痛かったんだから!!」

─────要石 カナメファンネル

天子の怒りの声と共に、天子に周囲を旋回していた要石がシャドームーン目掛けて猛進。シャドーセイバーを振るっての迎撃を嘲笑うが如く展開し、シャドームーンを包囲すると、凄まじい勢いで光弾を射出し始めた。

「ヌゥオオオオオオオ!!!」

全方位からの弾幕を浴び、全身に火花を散らせて怒声を上げるシャドームーン。然し、直線上に位置する天子とシャドームーンで射線が重なる為に、真後ろにだけ要石が配置されていない事を即座に看破、スティンガーを模した動きで一気に天子との距離を詰める。
前方に突き進むことで弾幕から逃れ、天子との距離を詰める。この二つの行為を一つの動作で行う動き。
今だシャドームーンの念動力に捉われた天子にこの攻撃を防ぐことも躱すことも叶いはしない。

351流星 影を切り裂いて ◆/sv130J1Ck:2017/03/07(火) 22:12:08 ID:Ef0xKzCs0
「ゴフッ!?」

胸に撃ち込まれる拳の一撃、エルボートリガーもシャドーセイバーを用いなかったのは、やはり怒りの所為だった。
更に振るわれる拳の連打。肝臓、胃、鳩尾、心臓、喉、と急所に連続で撃ち込んで天子に苦鳴を吐かせ続け、最後に大きく右拳を弓引いた。
弓引いた右の拳に赤熱の魔力を纏わす、放つは必殺のシャドーパンチ。頑強な肉体を持つ天人といえども、この一撃を受ければ頭が砕けて死に至る。
拳が放たれようとした時、攻撃に間が生じた機を逃さず、天子がカナメファンネルを再度操り、シャドームーンの背中に連続して要石を直接叩き込む。
シャドームーンの背中に連続して火花が散り、よろめいたシャドームーンに今度は正面からありったけの魔力弾とレーザーを射出。
シャドームーンの姿が火花の向こうに消える程の弾幕を生成し、シャドームーンを後退させる。
此処で念動力による拘束が緩んだ事を認識した天子は、全力で拘束を振り切り大きく空中へ飛翔。30m程の処に浮遊すると、再度カナメファンネルを展開し、
自身の放つ魔力弾、レーザー、要石及び、カナメファンネルの魔力弾で濃密な弾幕を形成した。
幻想郷の弾幕ごっこだと反則必至の隙間の無い魔力弾とレーザーの嵐。
回避など出来よう筈も無く、防いだ処で雨霰と降り注ぐ攻撃に削り潰される。手数と威力に物を言わせた弾雨を、念動力の壁で防ぐシャドームーンの周囲が、陽炎のように揺らめいて無数の剣が形作られていく、その全ての切っ先は、シャドームーンの殺意を示すが如く天子の方に向いている。
念動力の壁が凄まじい勢いで削られている事を全く意に介さないシャドームーン、
シャドームーンの緑色の複眼が禍々しい光を放つと、一つ一つが膨大な魔力で形成された、無数の刃が天子めがけて殺到する。
天子の弾幕が雨ならば、此方はさしずめ剣の嵐。雨を蹴散らし呑み込んで、雨の元たる不良天人を斬り刻み、肉体を塵と散らして弾雨を止めんと宙を舞う。
並のサーヴァントならば、死命を制されていただろうが、そこは弾幕の撃ち合いには慣れっこの幻想郷の住民である比那名居天子、飛来する剣を回避し、カナメファンネルをぶつけて防ぎ、緋想の剣で薙ぎ払う。
顔面目掛けて飛んできた最後の一本を回避したのを最後に、撃ち止めになった事を認識し、防御の為に使い潰したカナメファンネルを再形成したその時、
背中側に在ったカナメファンネルが突如として砕け、反射的に身を捻った刹那、首筋を掠めて、さっき躱したばかりの剣が通過、処女雪の様な白い肌から紅い血の珠が飛散した。
シャドームーンは最後に放った剣に念動力を纏わせ、天使に回避された剣の向きを変えて、背後から襲わせたのだった。
天子がこの攻撃を凌いだのは、幻想郷での弾幕ごっこでは、躱した後背後から飛んでくるという攻撃はさほど珍しく無いからだが、
それにも関わらず刹那の差で致命傷を負わせる攻撃を行ったシャドームーンの技の冴えよ。
差し伸べられた右手に自然に収まった長剣、シャドーセイバーを構えて空中の天子を睨みあげるシャドームーン。
緋想の剣を手に、身体の周囲に要石を旋回させ、地上のシャドームーンを睨みつける天子。
天子が再び弾幕を放とうとし。
シャドームーンの周囲に陽炎が生じたその時。
要石の埋まった場所から、彼らのいる方向へと向かって、直線距離にして数百mの距離に渡って地面が爆砕、その先の1km近くが煮えたぎる灼熱の溶岩と化した。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

352流星 影を切り裂いて ◆/sv130J1Ck:2017/03/07(火) 22:12:36 ID:Ef0xKzCs0
要石を壁にして、噴き上がる土煙と瓦礫を避けながら天子は見た。地面に埋まった要石の頂点部分が閃光を放つのを。
光の柱が天地を繋ぎ、要石が内部からの光圧に耐えかねたかの様に千々に砕けて四散する。
その様は地中深くに封じられていた破壊神が、封を破って地上に躍り出ようとする瞬間に天子には見えた。
果たして閃光に灼けて眩む天子の視界の中を舞ったのは、黄金の英雄クリストファー・ヴァルゼライド。遍く邪悪を憎んで許さず撃滅する英雄だった。

「嘘でしょ………」

最早天子はヴァルゼライドが人類種とは信じられなくなってきた。幾ら常識に囚われてはいけない幻想郷の住人でも限度という物が有る。

無論、ヴァルゼライドが健在なのには種が有る。ヴァルゼライドとてあんな巨岩に潰されれば死ぬ。
岩が直撃する寸前に振り上げた双刀に纏わせた黄金光の熱で、要石の自身と接触する部分を蒸発させ、砕けた路面と共に地下へと落下。
その場でガンマレイを放ち、地下からの一撃で乱入者諸共シャドームーンを消し飛ばそうと目論んだのだ。
その目論見は一応の成果を見せ、シャドームーンをこの場より消し去った。
だが、その代償は果たして成果に応じたものか?もとより満身創痍の上に、シャドームーンの猛攻に晒されたヴァルゼライドの身体は、最早死に体というものを通り越し、生きて─────現界を保てる事自体が理不尽な程の傷を負っていたのだ。
そこへ更に岩盤が蒸発したことによる、溶岩など比較にならない高熱のガスに身を浸していたのだ。ヴァルゼライドは人の英霊だ、吸血鬼でも蓬莱人でも無い、
にも関わらず五体が─────酷く傷付いているとはいえ存在し、動けること自体が異常此の上無いのだ。
ヴァルゼライドを見る天子の眼は、真性の怪物を見るそれだった。妖怪や神が其処いらで酒盛りしている幻想郷でも、天子が此の様な目で他者を見たことなどはない。

「あの銀のセイバーは消えたか、残るはお前だ。俺の願いの為、永遠の人理の繁栄の為に此処でその命を終えてもらう」

黄金光を纏わせた双刀を構えるヴァルゼライド。確かにダメージは受けている。傷の痛みと体機能の損傷はヴァルゼライドを苛んでいる。
それでもこの英雄は止まらない。有限の魔力体力では無く、無尽蔵の気合と根性で、壊れた/壊れつつある身体を支え、天子を斬ろうと動き出す。

「貴方はさっき“全ての悪の敵となり、全ての『善』と全ての『中庸』から『悪』を遠ざけ、彼方にて悪を断罪し続ける裁断者となる”そう言ったわね。
過ぎたるは猶及ばざるが如し、薬も過ぎれば毒となる。この世が病人だとするならば、貴方は過ぎた薬で、そして悪だわ。病魔を絶やしても病人を死なせる薬なんて意味が無い」

対する天子も緋想の剣を構え、身体の周囲にカナメファンネルを旋回させる。
新国立競技場でのヴァルゼライドの雷声は、
遮蔽物が無いというのもあるだろうが、かなり離れて見ていた天子の耳にも届く大音声だった。
そのヴァルゼライドの宣言に嘘偽りが無い本心からの言葉であることは天子にも理解できる。
そしてその在り方が有害極まりないことも、戦い方を見ていれば理解できる。

「だろうな。確かに俺はこの世界にとっては毒だろう。だが、毒であるからこそ病魔を駆逐する事が出来る。毒である俺が此の身を処するのは、全ての病魔を駆逐した後の事だ」

天子の言葉に返し終えた時には、既に双刀は黄金光に激しく鮮烈に輝いている。
ヴァルぜライドは天子の言葉が正しいと理解している。だがそれでも英雄は止まらない。只真っ直ぐに征き、そして理想成就という勝利を得て死ぬのみだ。
その決意と想いを刃に乗せ、クリストファー・ヴァルゼライドは比那名居天子を屠るべく動き出した。
方や地を操り天に住まう少女。
方や地に生き天罰の具現とも言うべき黄金光を放つ英雄。
生きる場所も、使うものも対照たる二人は、今天地に分かれて争覇する


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

353流星 影を切り裂いて ◆/sv130J1Ck:2017/03/07(火) 22:13:13 ID:Ef0xKzCs0
天に浮かんで、地に聳え立つヴァルゼライドと対峙した天子は迷うこと無く地に降りようとした。
亜光速のガンマレイはその速度故に発動モーションを見て、放たれるより前に回避するしか無いが、飛翔速度が其れ程速くはない天子では、回避しきれ無い可能性が高いのだ。
防ぐことなど無論出来ず、回避も宙にあっては難しいとあれば、地に降りるのは理の当然。飛翔したままで、ヴァルゼライドの剣技を封じるという利点より、不利の方が大き過ぎる。
天子の動きにヴァルゼライドは、右手に握った星辰光の発動媒体であるアダマンタイト製の刀を振るう。
ヴァルゼライドの動きに、ガンマレイの発動を予感した天子は即座にカナメファンネルから光弾を射出しつつ、要石を蹴り抜き横っ飛びに移動。死光の射線上から身を避ける。
だが、そんな事はお見通しだとばかりのヴァルゼライドの一手。右は陽動、本命の左が、バージルの次元斬を模したガンマレイを発動する。
偽攻に釣られた天子に回避する術は無く、如何に頑強な天人の肉体といえども、極熱の放射能光を直接身に刻まれれば絶命するより他にない。

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ!!?」

天子が助かったのは、放ったカナメファンネルの一弾が偶然ヴァルぜライドの左腕を直撃。技の威力を鈍らせ、狙いを狂わせた為だった。
それでも右足を掠めた死光に、まともに声も出せずに苦悶し、地へと落ちていく。
天から落ちた天人は、只人にすら組み伏せられるのは各地に残る伝説が語る通りだ。
ましてや天子を地に引き摺り下ろしたのは、人類種に於ける最大の異常者(えいゆう)クリストファー・ヴァルゼライド、比那名居天子の命運は此処に窮まる─────事は無かった。

─────気符 無念無想の境地。

如何なる攻撃を受けても怯まず退かぬ天子の闘法。一説によれば“只気合と根性で耐えているだけ”とされるだけの代物であるが─────鬼の猛打にすら引かずに制圧前進出来る頑強さをこの少女の華奢な身体は有している。
つまりは、比那名居天子は、死光の直撃を受けたのならば兎も角、光条が足を掠めた程度では倒れ伏すことも止まることもないのだ。

天に留まった天人は、その人という種とは比べられぬ程の頑強さを以って黄金の死光に耐え、大地を両の足で踏みしめて、殺到してくるヴァルぜライドを迎え撃つ。

「人間五十年。下天の内を比べれば、夢幻の如くなり。私(天人)から見れば一瞬にも満たない生で、幾ら功を積み上げても、天には届か無いと知りなさい!!」

緋想の剣を青眼に構えて天子が啖呵を切る。

「笑止。人が武技を研鑽し積み上げてきた歳月は、猿人同士が殺しあった時から始まっているッッ!!貴様がどれほどの生を生きたかは知らぬが、人という種を甘く見るなッッ!」

言葉とともに繰り出される黄金剣を、天子は橙色に燃え盛る剣で受ける。

「そっちこそ!種の違いを知りなさい!!」

354流星 影を切り裂いて ◆/sv130J1Ck:2017/03/07(火) 22:13:41 ID:Ef0xKzCs0
緋想の剣で斬り返す。ヴァルゼライドは左手の刀で受け、天子の首目掛けて右の刀で刺突を放つ。
上体を横に振って躱した天子に、繰り出した刀を横薙ぎに振って追撃。膝を曲げて屈んだ天子が地に緋想の剣を突き立て、ヴァルゼライドの足元から要石を出現させる。
当たれば腰から下が骨と血の混じった肉塊と化した奇襲を、ヴァルゼライドは跳躍することで回避、追う様に下から迫る要石を更に蹴って飛翔。上方から天子目掛けて襲い掛かる。
天子は咄嗟にレーザーを数条放ち、ヴァルゼライドの身体を穿つが、頭部だけを護って突っ込んだヴァルゼライドは天子の脳天目掛けて、太陽の如き輝きを放つ刃を振り下ろす。
受け止めた天子の足元の路面が、割れ砕けて大きく陥没する程の一撃。

「鬼並みじゃない!!?」

シャドームーンと交えていた時よりも、上昇しているヴァルゼライドの膂力に驚愕する天子だが、そんな呑気な事をしている暇は無いと、刹那にも満たぬ後に思い知る。

頭頂から股間まで両断し、踏みしめている地殻ごと打ち砕かんと振り下ろされる上段からの斬撃。
胸を貫く─────どころか当たった部位を中心に、肉が骨が吹き飛んで大穴が開きそうな突き。
万年の大樹の幹を枯れ枝の様に撃砕する剣威の薙ぎ払い。
それら全ての動き一つ一つが複数の変化を秘め、全ての動きは自然に繋がり、淀みない連続技─────どころかたった一つの動作にを緩慢に行っている様に見える程に超高水準に連結された動き、双刀を存分に駆使したこの剣嵐を、要石を併用しているとはいえ、殆んどを只一振りの剣で支える天子の身体能力こそ讃えられるべきだろう。
それでも、服の各所に焦げ目が生じているのは、凌ぎきれずにグレイズしている為だった。
そんな窮状にありながらも、天子あ半歩も下がってはいない。両足は同じ場所を踏みしめたままヴァルゼライドの猛威を耐えしのいでいる。
其れは天人としての意地か、下がらずに耐えれば即座に反撃に移れるという計算か。
それも有るが、やはり死光の掠めた右足の損傷が無視できず、この猛撃のさなかに僅かでも下がればそのまま押し潰されると理解している為だ。
受け、弾き、捌き、躱し、その合間を縫ってレーザーや要石で応戦するも、悉く黄金に燃え盛る双刀に阻まれ、当たっても英雄の勢威を微塵も揺るがせることもできはしない。
誰の眼から見ても劣勢─────どころか敗勢にある天子だが、その眼に宿した戦意に僅かの曇りも無い。
裂帛の気勢と共に振り降ろされた黄金剣を緋想の剣で受け流す。天子の足元がひび割れる。
喉笛を貫き、剣勢で首を宙へと飛ばす程の突きを、緋想の剣を横からぶつけて逸らす。天子の足が砕けた路面に僅かに沈む。
壮絶無比の剣撃が伝える衝撃は、天子の身体を伝わり、元々傷んでいた路面を更に破壊していく。
そして遂に放たれる、受けた剣ごと両断し、剣が持っても剣を支える腕が撃砕される剣威の真っ向上段からの斬撃。
此れを天子はヴァルゼライドの刀を握る右手に要石を連続してぶつけることで対抗。刀こそ手放さぬものの。流石に威力を減じた斬撃を受け止める。
同時、形容し難い音とともに天子の足元の路面が砕け足首までが地に埋まった。
同時に繰り出される首を狙った左の横一文字。天子の首を斬り飛ばす処か微塵と砕く威力を乗せた刃が、音を遥かに超えた速度で迫る。
死地に落ちた天子にこの絶殺の斬撃を躱す術無し、受けたところで押し切られて首が飛ぶ。
此処に比那名居天子は〈新宿〉の聖杯戦争に於ける最初の脱落者に─────なりはしなかった。

355流星 影を切り裂いて ◆/sv130J1Ck:2017/03/07(火) 22:14:20 ID:Ef0xKzCs0
空間をすら断裂する勢いで黄金に輝く刃が虚空を薙いだ時、天子の頭はヴァルゼライドの膝より低い位置に在った。
自分の踏んで居る場所が砕けつつあるの当にを感知していた天子は、路面が砕けて身体が沈んだと同時に膝を曲げ、上体を地面に伏せて、ヴァルゼライドの刃を躱してのけたのだ。
傍目から見れば敗北のベスト・オブ・ベストにしか見えない姿勢だが、そんな姿勢をこの気位の高い少女がするはずも無く。

─────ッッ!?

ヴァルゼライドの剣舞が極小の間、静止する。ヴァルゼライドは人の子の英雄、条理を逸脱した精神を持とうとも、その肉体構造は人のそれと同じ。
人の剣術が威を発揮するのは、相手の身体の高さが膝の辺りにあるまで、それより低い相手には、常の姿勢では刃は届かぬ。
この機を狙っていた天子が地に突き立てた緋想の剣を振り上げる。ヴァルゼライドの左の刀は振り切ったばかり、右の刀もこの下からの猛襲を防ぐには遠い。
古流剣術の奥伝にも似たこの動きは、ヴァルゼライド程の剣士をして剣舞を止め、退かせた。
咄嗟に後方に跳躍して躱したヴァルゼライドに、構え直した天子が、脚を叱咤して前方に跳躍し、真っ向上段から緋想の剣を振り下ろす。
此れに対しヴァルゼライドも猛然と右の刀を振るい、自身目掛けて振るわれる緋想の剣の切っ先目掛けて刃を振り下ろす。
振り下ろされた刀の加えた力により、緋想の剣は更に勢いを増すが、僅かに方向を狂わされ虚しく地面を穿つ。
緋想の剣を撃ち落としたヴァルゼライドの刀は、そのままの勢いで天子の頭を割りにいく。
攻防一体のこの動きは、ヴァルゼライドのいた世界では消滅した/今ヴァルゼライドの居る地─────日本に伝わる剣術で言うところの“切り落とし”と同じ技だった。。
思い切り天子が仰け反った為に、刃は被った帽子の鐔を割っただけに留まった。
ヴァルゼライドが後方に飛んで居る最中でなければ、天子の頭は両断されていただろう。
着地し、天子が放った要石を双刀で捌きながら、更に後ろに飛んだヴァルゼライドが、刀を握った両手を後ろに回す。
双刀から放たれるガンマレイ、斜め後方に放たれた黄金光が路面を穿ち、巨大な爆発を起こす。
そしてヴァルゼライドは超音速の爆風を背に受けると同時に地を蹴り、音を遥かに超える速さで天子目掛けて突貫した。
驚愕に天子の眼が見開かれる、こんな方法で加速するなど思いもよらぬ。背中に刺さった複数の石塊など知らぬとばかりに双刀を振りかざすその姿は、鬼神も三舎を避けるだろう。
咄嗟に天子は地に刺さったままの緋想の剣に魔力を注ぎ、足元の地面を隆起させ己の身体を上昇させる。
そのまま突っ込んだヴァルゼライドが黄金に輝く双刀を振り抜く、隆起した石柱に刀身が接触した刹那、常軌を逸した剣勢で石柱が爆散した。
石柱の内部に予め爆弾が仕込まれていて、それが爆発したのだと言われても納得いく爆発。石柱の上に乗っていた天子の身体が宙に放り出される。
間髪入れず放たれるガンマレイ、しかし、ヴァルゼライドがガンマレイを放つモーションに入るより早く、ヴァルゼライドの足元に撃ち込まれた要石と魔力弾が、ヴァルゼライドの足元を崩していた為、虚しく宙を彩るに留まった。
天子が空中で弾幕を形成し、ヴァルゼライドの両脚を狙って光弾を猛射、ヴァルゼライドに防御に務めさせて、その隙に着地を決める。
地に降り立ったと同時に、緋想の剣を地に突き立てると、己の足元から斜め三十度の角度で地面を勢い良く隆起させ、
先のヴァルゼライドの模倣を行い、その隆起をカタパルト代わりにして勢いをつけ、ヴァルゼライド目掛けて突撃する。


「ええええええええいッッ!!!」

「オオオオオオオオオッッ!!!」

叫喚して突っ込む天人に、英雄は双刀を振り上げ真っ向から迎撃。
三つの刃が両者の間で交差した。
刃と刃が激突した音が衝撃波と化して宙を伝わり、天子の突撃の威力が地面に激震として伝わり、砂塵はおろか周囲の瓦礫すら舞い上げる。
拮抗する両者が鍔競り合う最中、先刻放たれたガンマレイで、マグマと化して煮え滾っていた路面が盛り上がり、灼熱の波濤と化して二人の頭上から落ちてきた。


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356流星 影を切り裂いて ◆/sv130J1Ck:2017/03/07(火) 22:14:50 ID:Ef0xKzCs0
ヴァルゼライドの放ったガンマレイの爆発で飛ばされ、マグマと化した一帯に墜落したシャドームーンは、念動力を身体の周囲に展開し、自身の周りにマグマを寄せ付けず。
更にシルバーガードの防御力を併せる事で、マグマの中に潜伏。マイティアイを用いてザ・ヒーローの居場所を探っていたのだった。
結果、ザ・ヒーローは、乱入してきた女のマスターを求めて離れた場所に居る事を把握。此れでヴァルゼライドのマスターを巻き込む心配は無い。

シャドームーンは神経が繋がっているかどうか確かめる様に、左手の手指を開閉させる。
数万年の歴史を持つゴルゴムの科学力の結晶たるシャドームーンである、活火山の火口に放り込まれたのならいざ知らず、高熱で溶けたアスファルト程度では小揺るぎもしない。
気になるのはヴァルゼライドの一刀を受けた左腕。ヴァルゼライドの死光は高濃度の放射能を帯びているということは、ルーラーからの通達と、マイティアイでの観察で理解しているが、
それだけでは無い何かを、あの死光は帯びている様だった。でなければ、キングストーンの力を用いているのに、傷は治らず兎も角痛みが引かぬということがあり得ない。

─────其れでも関係ない。

動けば良いのだ。クリストファー・ヴァルゼライドはあれだけの損傷を負って、尚も烈しく戦い抜いたのだ。
比べれば、この程度は傷とも呼べぬ。

シャドームーンはキングストーンの生成する膨大な魔力を用いて、マグマを束ね、津波として、合い戦う天子とヴァルゼライドの頭上から落としたのだった。


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突如として起きた灼熱の津波に、二人が愕然としたのも束の間。意識が他を向いた隙に、十数発の魔力弾を放ちながら天子が大きく後ろに飛ぶ。
ヴァルゼライドの両脚と左右に放たれた魔力弾は、脚を撃って脱出を阻む狙いと、左右に回避する余地を潰す意図の元放たれている。
此れに対しヴァルゼライドはガンマレイを応射。魔力弾諸共天子を消し飛ばそうとするが、予め読んでいた天子は再度足元の地面を隆起させて踏み台とし、上空へと自身の身体を打ち上げていた。
いよいよ降りかかってくる灼熱の波濤を迎え撃つべく、ヴァルゼライドが双刀を振り上げ、ガンマレイを放とうとしたその時、
ヴァルゼライドの背後から飛来したカナメファンネルが背中を直撃。動きが止まった刹那を逃さず、緋想の剣気が直撃する。
そして─────英雄の姿は滾り落ちるマグマの中にに消えた。

「まだだっ!」

燃え盛る溶岩の中、より熾烈に、より鮮烈に煌めく黄金光が天地を繋ぐ。
天より神が降臨したと言われて、聞いた者全てが納得しそうな光景を現出せしめたのはクリストファー・ヴァルゼライドに他ならない。
灼熱の溶岩を浴びながらも、振り上げた双刀からガンマレイを放ち、溶岩を蒸発させてしまったのだ。

この光景を上空から呆然と見やる天子。幾ら常識に囚われてはいけない幻想郷の住人でも限度という物が有る。
天子が動けずにいる間に、ヴァルゼライドが灼熱地獄と化した、陽炎揺らめく路上で双刀を動かす。
左の刀の切っ先は天子の方を。
右の刀の切っ先は津波が到来した方を。
放たれる二条のガンマレイ。切っ先が此方を向きだした瞬間に回避を始めていた天子は何とか回避に成功する。
右の刀から放たれたガンマレイは、空間そのものが揺らいでいるとしか見えない程に烈しく空気が揺らめく方へと放たれ、過ぎ去った。

357流星 影を切り裂いて ◆/sv130J1Ck:2017/03/07(火) 22:17:03 ID:Ef0xKzCs0
──────────!?

何かを感じた二人が頭上を仰ぎ見る。銀色の影が上空に浮遊する天子の更に上空に現れる。二人が構えた時、シャドームーンは既に攻撃を終えていた。
爆発音としか聞こえない轟音。シャドームーンが念動力で天子を叩き落としたのだ。
地面に種蒔いたら生えてくる戦闘員に自爆されたZ戦士そっくりなポーズで、天子の身体が路面にめり込む。その上から砕けたカナメファンネルの残骸が降り注いだ。

「ぐうう……」

流石に動く事も出来ずに呻くだけの天子目掛けて、止めを刺すべく空中からシャドームーンが膝を落とす。
レッグトリガーを最大限に稼働させたニードロップは、当たれば天子の背骨を粉砕し、九穴から赤黒い肉塊を噴出させて絶命させた事だろう。
だが、膝が触れる直前でシャドームーンの姿は掻き消え、俯せに伏したままの天子の身体が地に埋没する。
刹那の間も置かず、天子の倒れていた辺りを閃光が走り抜けた。


ガンマレイを放ったヴァルゼライドは双刀を持った両腕を真っ直ぐ伸ばして回転。自身の周囲を黄金光の幕で覆う。
シャドームーンが天子に止めを刺しに行ったのを、己の攻撃を誘う為と、己に天子を始末させる為の、二つの目的を持った行為と理解した上でのガンマレイ。
二人纏めて屠るつもり─────少なくとも天子は葬れると踏んだのだが、両者共にガンマレイを回避、ヴァルゼライドはこの結果にも動じず、シャドームーンの猛襲に備えて動く。
果たして、ヴァルゼライドが展開した防御幕に、全方位からシャドームーンが形成した武具が激突し、激しい爆発を起こす。
ここでヴァルゼライドは直感に任せてガンマレイを発射。確かにガンマレイはシャドームーンのいた位置を通り抜けるも、シャドームーンは捉えられず。
此れも又予測の内。右の刀を納刀し、左の刀を振り上げ垂直に放つ黄金光。同時に膝を地につけて屈み込む。
果たして黄金光は再度シャドームーンを捉えられず。ヴァルゼライドが屈むと同時にその背後に出現したシャドームーンが、真紅の長剣を振るうも虚しく虚空を裂いたのみ。
不意に居る筈の標的を見失い、シャドームーン程の大戦士が、刹那の間にも満たぬ間動きを止める。
先刻の天子が、ヴァルゼライドの剣舞を凌いで反撃した時と同じ状況だとは、シャドームーンは知らぬ。
此処に来て更に冴え渡るクリストファー・ヴァルゼライドの感覚は、シャドームーンの出現と同時に身体を動かし、神速という言葉ですら猶遠い抜刀でシャドームーンに斬り掛かる。

358流星 影を切り裂いて ◆/sv130J1Ck:2017/03/07(火) 22:17:39 ID:Ef0xKzCs0
シャドームーンはこの攻勢に、素早く思考を巡らせる。
空間転移─────即座に使うことは出来ない。
魔力を脚に纏わせ敢えて受ける─────否。今からでは間に合わぬ。脚を斬り飛ばされる。
後ろに飛ぶ─────否。あの虚空に光条を刻む技を仕込んでいるかもしれない。
であれば残るは─────。
サイドステップして回避─────ヴァルゼライドの斬速の方が遥かに速い。
残るは─────上。
シャドームーンは跳躍し、ヴァルゼライドの斬撃を回避する。
しかし、此処で更にヴァルゼライドは加速。左腰の刀を抜刀して水平に薙ぐ右腕のベクトルを強引に変換。真っ向上段からの縦の斬撃に変えてシャドームーンを猛襲する。
もとよりこの局面、上方にしか脱げ場が無い。故にシャドームーンの読むことは容易いが、その動きへの対応が尋常では無かった。
強引極まりない変化に筋肉が裂け、骨が軋むがそんな事には構いはしない。
この鬼神でも予測不可能な奇襲を、シャドームーンは咄嗟にシャドーセイバーで防ぐ。
天を圧する巨人が、大鉄槌で山を砕いたかの様な衝撃と轟音。双方の刃が半ばからへし折れ宙を舞う。
シャドームーンは極音速で飛ばされ、ヴァルゼライドが空に刻んでいた黄金の残痕に背中から突っ込んだ。
間髪入れずに放たれるガンマレイ。遍く悪を許さず滅ぼす黄金光がゴルゴムの世紀王、反英霊シャドームーンを討ち滅ぼす。
シャドームーンはヴァルゼライドの奇襲を受けた時、背中に魔力を集めて防御する事をしなかった。
そんな事に魔力を使うよりも、シャドーチャージャーに魔力を集める事を選んだのだ。
一日で二人の相手にこの宝具を使う事になるとはシャドームーンも思ってはいなかったが、読み合いに負けて王手詰み(チェックメイト)になった時点で切り札を切るしか無いと確信。
窮まった盤上を覆すには、最早盤面そのものを引っくり返すより他に無し。

「シャドーフラッシュ!!」

ヴァルゼライドが黄金光を放つと同時、シャドーチャージャーも緑色の光を放つ。
黄金光が緑色の光に呑まれる様に掻き消えたその時、シャドームーンはヴァルゼライド目掛けて躍り掛かっていた。
左へと─────ヴァルゼライドから見て右へと回り込み、再び形成したシャドーセイバーによる、ヴァルゼライドを縦に両断し地面にまで切っ先を食い込ませる振り下ろし。
ヴァルゼライドは必殺の一撃が霧散して、意識に空白が生じているが、そんなものが致命となる程この英雄は柔ではない。
そこで折れた刀を持つ手の方から仕掛ける。右の折れた刀では満足に防御が行えない。それはシャドームーンは知らぬが、ルーラーとの一戦でも明らかだ。
だが─────真紅の刃は半ばから折れた刀に止められていた。
激しく動揺しながらも繰り出す四撃、その全てが折れた刀で防がれる。反撃として放たれたライフル弾を超える速度のヴァルゼライドの突きを、左手の短剣で受け止める。
立て続けに繰り出される八連撃、悉くを短剣で捌いて首を狙っての刺突を返す、右の折れた刀で跳ね上げられ、空いた胸元に左の突き、
跳ね上げられた勢いを利用して後ろに飛び、右にサイドステップ。十数条の光条が虚空に刻まれる。
両者は5mの距離を置いて静止した。
シャドームーンは内心大いに驚愕していた。まさかこの極小の間に、己の剣技すら習得してのけるとは、やはりこの男は強い。それもスペックなどでは無く、人として純粋に強い。
まるで“あの男”の様に。身体を改造されても、人では無い身体となっても、人の心を失わず、人として戦い抜いた“あの男”の様に強い。

─────矢張りこの男を越えねばRXは見えてこない。

そう、確信したシャドームーンは静かに一歩を踏み出す。

359流星 影を切り裂いて ◆/sv130J1Ck:2017/03/07(火) 22:18:24 ID:Ef0xKzCs0
ヴァルゼライドは内心大いに驚愕していた。まさか己の星辰光が幻の様に消えるとは。
あれこそがこのセイバーの宝具なのだろう。宝具を抜いてさえ尋常では無い程の強さ、それがあの様な超常の宝具を用いだしたとなれば、魔星全てを同時に相手取って勝ちを収めるのではあるまいか?
今日戦った者達は、皆超絶の強さを異能を持つ者達。此の男は彼等と比べても遜色無いどころか上位に入る。

だが、それでも─────。

「“勝つ”のは俺だ」

そう口にして一歩を踏み出す。
進んだ距離は同じ、振り下ろす刃の速度も同じ、二つの刃が交わる─────。
その刹那、二人を中心に地面が急激に隆起する。
見る者が居れば、二人の発する圧で、二人の間の地面が押し上げられたと取るだろう。
この現象により、後方に崩れた姿勢を立て直そうとしていたヴァルゼライドが、不意にトンボを切って後方に飛ぶ。
同時に地面を突き破り、緋想の剣を肩に担いだ天子が飛び出して来た。
シャドームーンに叩き落とされ、ヴァルゼライドの死光を躱す為に地に潜った天子は、下水道を通って二人の下に移動、
『大地を操る程度の能力』を用いて二人の間の地面を隆起させ、隙を作らせた上で強襲したのだ
身体を真っ直ぐ伸ばし、頭からヴァルゼライド目掛けて飛翔する。天人の頑丈さを活かしたこの猛襲。直撃すればヴァルゼライドの背骨と臓腑が砕けたろうが、
天子が飛び出すと同時に回避行動に移っていたヴァルゼライドには当たらない。
だが、天子とてそれでも終わる攻撃をする様な甘いサーヴァントでは無い。自身の上方で背を晒すヴァルゼライドに担いだ緋想の剣を振るう。
緋想がヴァルゼライドの身体を背骨に沿って斬り裂く、全身を大きく震わながらも着地を決めるが、ダメージが大きすぎるのかそのまま蹲ってしまう。
好機とばかりに天子が突っ掛けるが─────。

「まだだっ!!」

裂帛の気勢を挙げ、立ち上がったヴァルゼライドが、凄まじい速度で左の無事な刀を振るう。明らかに速過ぎる、天子の服に切っ先がかする事も無く過ぎ去る攻勢。
天子の全身に走る衝撃。石壁に全力疾走してぶつかった様な痛みと衝撃を受けて後方に飛ばされる。
ヴァルゼライドが人修羅との一戦で受けた『烈風破』、振り抜いた腕で大質量の物体に等しい空気の壁を作り出しぶつけて攻撃する技で、ヴァルゼライドは天子を弾き飛ばしたのだった。
元々はガンマレイを無効化する閻魔刀を持つバージルを破る為の方策を模索していた結果の産物だが、よもやこんな形で役立つとは思ってもみなかった。
今だ宙を飛び続ける天子目掛けてヴァルゼライドは死光を放つ。
此れに対し、天子は自身の斜め後ろに要石を形成、ぶつかることで飛翔の軌道を変えて、死光の範囲外へと逃れる。
ヴァルゼライドは追い討つ事をせず、回転しながら刃を振るう。180度開店した処で火花が散り、刃が止まる。
シャドームーンが空間転移を行い、ヴァルゼライドの後ろに回り込んだのを、ヴァルゼライドがその一刀を以って防いだのだ。
獅子吼と共に繰り出されるヴァルゼライドの六連撃。防ぎ、躱しきったシャドームーンが念動力を至近距離から放つも、ヴァルゼライドは黄金光に輝く刀で両断、霧散させてしまった。
シャドームーンとて、ヴァルゼライドを相手に散々多用した念動力だ、どれ程至近距離であろうと今更正面から念動力を放っても通用しないと判っている。
元よりこの攻撃はヴァルゼライドの攻勢を止める為のもの。シャドームーンは僅かに稼いだ時間で体勢を立て直し、猛然と刃を振るう。
共に長短の刃を持つ両者は、秒週の間に無数の剣撃を交わし、身体の周囲を無数の火花で彩った。
突如として両者に飛来する十数条の赤い光線。シャドームーンとヴァルゼライドがそれぞれ反対方向に7mも飛び、レーザーの飛来した方に視線を向ける。
二人の視線を浴びて傲然と立つは、比那名居天子に他ならない。既に身体の周囲にカナメファンネルを旋回させ、傲岸とさえ言える視線を両者に向ける。

360流星 影を切り裂いて ◆/sv130J1Ck:2017/03/07(火) 22:20:42 ID:Ef0xKzCs0
「随分と面白くなってきたじゃない」

天界での何不自由無い平穏で退屈な暮らしに飽いて、ワザワザ地上に異変を起こした不良天人の本領此処に在り。
天人の永い永い生から見れば、人の生など瞬きの間に終わる程度。だが、人にとって、時に人の生の刹那の燃焼は、永劫の輝きを凌駕する。
比那名居天子は元は地上の者である。其れ故にこそ人の生の輝きに魅せられ、地上の諸人諸妖と交わり戯れる様になったのだ。

─────愉しい。こんなに愉しいのは久し振り。

地上の愉快な人間達が皆死んでしまい。妖怪達も数が減り、死ぬ前にはそれはそれは退屈だった。
死んでからまたこんな愉快な事に巡り会えるとは思わなかった。
いっそのこと聖杯に願ってもう一度生を得ようかと思う程に、心の底からの愉悦を感じながら、不良天人は驚天の魔人超人に挑みかかる。
此処に三つ巴の魔戦が開始された。


三人の中で唯一、武器が宝具であり、尚且つ頑丈極まりない身体を有し、多彩な飛び道具を持ち、地殻を操る程度の能力を持つ比那名居天子。

三人の中で最も高いステータスを有し、シルバーガードによる高水準の防御力と、多彩な能力による強力な攻撃力と、尽きることの無い魔力を有するシャドームーン。

この両者と比べれば、やはりヴァルゼライドは劣っていると言わざるを得ない。
武器で劣り、手数で劣り、魔力量で劣り、何より基準となるべきステータスで劣る。
そして満身創痍を通り越して死に体だ。今日これまでに無数の傷を受け、そして此の場でも痛手を負った。
息が有るだけで奇跡。意識が有るだけで偉業と言える重篤の身で、二本の足で立って戦うという理不尽を成し遂げるヴァルゼライドは、二人を相手に優勢を保って戦うという大理不尽を成し遂げていた。
新国立競技場で、紅蒼の魔剣士達を相手取った時は、二人の息の合い過ぎたコンビネーションの前に一方的にやられたが、シャドームーンと天子にコンビネーションなど発揮出来るわけも無く。
且つシャドームーンはヴァルゼライドと戦って勝つ為に此の場に在り、比那名居天子は佐藤十兵衛の狙いがザ・ヒーローで有る為に此の場に現れた。
此の為、シャドームーンは先ず天子の排除を優先し、天子はヴァルゼライドを狙う。
そしてヴァルゼライドは二人を此の場で屠るべく奮起する。

左の刀でシャドームーンの放った念動力を斬り散らし、右の折れた刀で天子の放った要石を、シャドームーン目掛けて飛ぶ様に軌道を変える。
シャドームーンが防いでいる隙に天子の目掛けて猛攻を掛ける。
悉くを受け、捌き、躱す天子だが、明らかにヴァルゼライドの動きに追随出来ていない。
それもその筈、幻想郷の住人は基本的に空を飛んで戦う者。地に足を着けて戦う経験が乏しい為に、間合いを構成する要素のうち、歩幅や歩法といったものに慣れていないのだ。
それでもヴァルゼライドの攻勢を凌ぎ切れるのは、陽動や回避先潰し、只の見せ球を含む無数に飛来する弾幕の中から、
自身に直撃するものを精確に見切って防ぎ、躱す、命名決闘法の経験によるものだ。
向かって左から首を薙いできた刀を緋想の剣で受け止める。ガンマレイが掠めた右足が激しく痛むが歯を食いしばって耐える。
動きが止まったのは一瞬。同時に2人は後ろに飛ぶ。
ヴァルゼライドの首の有った処を光条が、天子の首が有った位置を真紅の長剣が、同時に通過した。


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