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☆魔法少女リリカルなのは総合エロ小説_第111話☆
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魔法少女、続いてます。
ここは、 魔法少女リリカルなのはシリーズ のエロパロスレ避難所です。
『ローカル ルール』
1.他所のサイトの話題は控えましょう。
2.エロは無くても大丈夫です。
3.特殊な嗜好の作品(18禁を含む)は投稿前に必ず確認又は注意書きをお願いします。
あと可能な限り、カップリングについても投稿前に注意書きをお願いします。
【補記】
1.また、以下の事柄を含む作品の場合も、注意書きまたは事前の相談をした方が無難です。
・オリキャラ
・原作の設定の改変
2.以下の事柄を含む作品の場合は、特に注意書きを絶対忘れないようにお願いします。
・凌辱あるいは鬱エンド(過去に殺人予告があったそうです)
『マナー』
【書き手】
1.割込み等を予防するためにも投稿前のリロードをオススメします。
投稿前に注意書きも兼ねて、これから投下する旨を予告すると安全です。
2.スレッドに書き込みを行いながらSSを執筆するのはやめましょう。
SSはワードやメモ帳などできちんと書きあげてから投下してください。
3.名前欄にタイトルまたはハンドルネームを入れましょう。
4.投下終了時に「続く」「ここまでです」などの一言を入れたり、あとがきを入れるか、
「1/10」「2/10」……「10/10」といった風に全体の投下レス数がわかるような配慮をお願いします。
【読み手 & 全員】
1.書き手側には創作する自由・書きこむ自由があるのと同様に、
読み手側には読む自由・読まない自由があります。
読みたくないと感じた場合は、迷わず「読まない自由」を選ぶ事が出来ます。
書き手側・読み手側は双方の意思を尊重するよう心がけて下さい。
2.粗暴あるいは慇懃無礼な文体のレス、感情的・挑発的なレスは慎みましょう。
3.カプ・シチュ等の希望を出すのは構いませんが、度をわきまえましょう。
頻度や書き方によっては「乞食」として嫌われます。
4.書き手が作品投下途中に、読み手が割り込んでコメントする事が多発しています。
読み手もコメントする前に必ずリロードして確認しましょう。
前スレ
☆魔法少女リリカルなのは総合エロ小説_第110話☆
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/12448/1302424750/
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非欝作品を投下する予定でも、気にせず投下GO!
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ぐっじょおおおおおおおぶうううう!!
おもしれえ、冗談ぬきに、ガチで。
文章レベルも高いし、途中でドゥーエが少年を貫くところも普通に驚いた。
なによりラストの締めくくりが最高に叙情的。
ただ欝で残酷なんじゃない、風情があるのがいい。
良いものを見せてもらった、ありがとう。
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はい。
欝祭り、引き続きは私、野狗でございます。
タイトルは「はやてちゃんとコージ君」
あえて言っておこう。 欝注意。
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コージの学校生活は、中三の四月で終わってしまった。
いずれはそうなるという予感はあったのだ。早かれ遅かれ、そうなるだろうと。
自分は虐めの対象だという自覚もあった。それでも辛うじて友人はいた。学校にも逃げ場はあった。
ある事件で、コージの家庭が崩壊するまでは。
コージは一人、家を出て街を歩く。
学校へ行くわけではない。行く当てなど無い。ふらふらと歩き、昼食は適当に買う。金だけはある。
朝起きると、ダイニングのテーブルの上にお金が置いてあるのだ。コージはそれを取ると、家を出る。
この数日、父母の姿は見ていない。
部屋の様子を見ている限り、母は一応深夜には帰ってきているようだ。父は四月が終わる前に何処かへ行ってしまった。
そのまま家にいても良いのだが、気が滅入るだけなので家を出る。
そして学校に、既にコージの居場所はない。
だから、彼は一人で街を歩く。
もしも学校へ行けば、コージは格好の標的だろう。
誰もが認める、暇つぶしに虐める相手として。
「手抜き工事」
「欠陥工事」
それが今の彼の渾名。皆が彼をそう呼ぶ。
三月までは、ただの「コージ」と呼ばれていたはずなのに。
四月の事件以来、皆は彼を「テヌキコージ」「ケッカンコージ」と呼ぶ。
そしてコージは今日も、いつもと同じように一人で図書館へ入る。
いつもと同じように、彼女に会う。
「また、来たんや?」
「うん。ここが一番静かだから」
「そやね」
街を歩いていたコージは、車椅子の女の子と知り合いになった。
女の子は、コージのことを知らない。
コージも、女の子のことを知らない。
だから二人は、友達になった。
名前だけは知っている。
彼女の名は八神はやて。
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「なんでコージ君は、学校行かへんの?」
「はやてちゃんだって、行ってないじゃないか」
「あたしは、足がこれやから……」
自分よりマシだ。とはコージは言わない。
他人には他人の事情がある。
人の事情に安易に口を出してはいけない。コージはそう教えられている。
「僕が学校へ行かないのは、虐めがひどくなったからだよ」
コージはそれを口にしない。
「なんで、虐められてるん?」
そう聞かれるなら、答えることは出来る。
理由はいじめっ子達に聞いてくれ、と。
「何で虐めが酷くなったん?」
それには答えられない。いや、答えたくない。
父が、ビルを造った責任者だったから。
あの日、突然亀裂が入って壊れてしまったビルを造った人だから。
そのビルの中には、人が沢山いたから。
「あり得ない。なんで、あんなことが……」
父の呟きは、まさに当を得ていた。
それは、起こるはずのない事故だったのだ。
ジュエルシードさえ海鳴に落ちなければ。
二人の魔法少女の戦いの舞台とならなければ。
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高町なのはのせいではない。
フェイト・テスタロッサのせいでもない。
二人は、誰一人殺していないのだ。
確かに二人の行動で町は破壊された部分がある。
それでも、誰も死んでいない。
二人の行動では誰も死んでいないのだ。
ただ、たまたま別の理由で死んだ者がいるだけ。
道路が割れた。
ビルが壊れた。
何故割れた、何故壊れた。
あり得ない。
ならば、手抜き工事に違いない。欠陥工事に違いない。
責任者は必要だ。スケープゴートは必要だ。
ついでに、死んだ者に対する責任も取らせよう。
自然死? 別原因? 犯罪?
否。
ビルの欠陥が直接の死因だ。罪など押し付けてしまえ。
遺族に責任など無い。加害者などいない。
放置などしていない。殴打などしていない。
無責任な遺族などいない。逆上した知り合いなどいない。
そこにいるのは、欠陥建築、手抜き工事によって家族や知り合いを殺された不幸な被害者達だけ。
それで全て丸く収まるではないか。
ならば、一部の者が犠牲になればいい。どうせ、手抜き工事は事実なのだ。ビルが壊れたのは現実なのだ。
「どう考えても、あり得ないんだ」
「あれは事故じゃない。手抜き工事でもない」
「何かの、誰かの仕業ですよ」
関係者は皆そう言った。
直接工事に関わった者達はそう言った。
だが――
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「木があったんだ。でかい木が」
「そんなもの、誰が見たんだよ」
「あったんだよ、俺は見たんだよ」
「医者行ってこい」
「ふざけんな、俺は見たって言ってんだろうが」
「……ありゃ集団幻覚だよ、ある種のガスが検知されたそうだ」
「それこそふざけんなだろ、ガスなんか吸ってないだろう、あんたも俺も!」
「吸ったんだよ」
「吸ってないっ!」
「上が吸ったって言ってんだ。吸ってなきゃ、労災も保険も見舞金も一切おりねえぞ、ついでに仕事もクビだ。それでいいんだな?」
それが全てだった。
彼らが見たものは、見てはいけなかったもの。
そこに何があったかを決めるのは、そこにいた彼らではなくて、そこにいなかった人々だということ。
何故そうなるのか、コージにはわからない。
やがてコージの父を信じる者はいなくなった。
コージの家には塀がある。
「殺人ビル建設業」
「金も命も取ります」
「欠陥ビルなら我が社にお任せ」
そんな落書きだらけの塀が。
そんな落書きをする人たちが、父を信じるわけがない。それはコージにもわかる。
だから、はやても父を信じないかも知れない。
だから、コージは虐めに荷担する相手が増えた理由を話せない。
だから、逃げ場所が無くなった理由は話せない。
だから、学校へ行かなくなった理由は話せない。
「色々あるのさ」
そう答えると、はやてはもう追求しない。
そこで二人は、静かに本を選び始めるのだ。
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「そしたら、またな」
「じゃあね」
昼を過ぎた頃にそう言って別れる。
そして二人が出逢って一週間ほど過ぎた頃。
「あのなあ」
「なに?」
何故か言いづらそうに、はやては続ける。
「今から、家帰ってご飯食べるん?」
「うん」
家には誰もいない。だから、コージは母に貰ったお金を持ってコンビニへ行く。
朝はパンを買った。お昼はお弁当を買う。晩はきっと、カップ麺とお弁当を買う。
コージはこの数日母の顔を見ていないが、気にするのは止めていた。
顔を合わせても、怒鳴りつけられるか殴られるだけ。
母も既に、母であることをやめている。
もしかすると、わかりやすくなっただけで、もっと前から母をやめていたのかも知れなかった。
「だれか、家で待ってるん?」
コージは素直に首を振った。
「それやったら、一緒に食べへん? ウチで」
「え、いいの?」
「あたしも一人やから」
「じゃあ、コンビニに……」
「ちゃうちゃう。行くんやったらスーパーや」
「え?」
「ご飯作るよ?」
「作るの? 買うんじゃなくて?」
「うん。あたし、ご飯作れるよ?」
結論はあっさりとしたものだった。
二人は話し合い、コージは幾ばくかの金をはやてに渡すことにした。
それは単なる材料費であり、多くも少なくもない適正な金額だった。
後にコージは気付く。
その行為が、間違っていたことに。
コージが個食を選んでいれば、何も起こらなかった。
それでも、コージははやてと共に食事を摂ることを選んだ。
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「あれ、ケッカンコージじゃん」
「あ、人殺しだ」
「何で学校来ないんだよ、お前」
「あ、やべ。今度おめえの学校が壊れるんじゃね?」
「それで来ないのかよ、こいつ。うわ、最低」
「さっすが、人殺しの家は違うなぁ」
「車椅子があるぞ」
「女連れかぁ、すげぇ」
「人殺しが女連れかぁ」
「あいつも人殺しじゃね?」
「いやいや、コージがあいつの足壊したんだろ?」
「さすがケッカンコージ」
いつの間にか夕食まで共にするようになった頃、買い物帰りの二人は別の集団と行き会う。
コージの同級生と、その兄たち。数を見れば、兄たちがメインで同級生がそれについて行っているだけだとわかる。
しかし、コージはその連中全員に見覚えがあった。
何度も会ったことがある。
何度も虐められたことがある。
中学生を虐めて喜ぶ高校生や社会人がそこにいる。
「なんなん? あの人ら?」
顔をしかめるはやて。
コージは慌ててその場から去ろうと、はやての車椅子を強く引く。
「どしたん?」
「いいよ、あんなやつら」
だが、逃げられるわけもなく。
「おーい、テヌキコージちゃん、何してんだよ、こんなところで」
「誰これ」
「彼女?」
「ショーガイシャじゃん、ショーガイシャ」
「なんなん、あんたら」
「あ、ショーガイシャが喋った」
「え、喋れるの? スゲ」
「なあ、これ、乗せろよ」
連中の一人が車椅子を掴んだ。
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「何言うてんの」
「いいじゃん、降りてよ、ちょっと乗せてよ」
非常識、とはやては感じるが、それが通じる相手ではない。
いや、それどころか。
別の一人の手がはやて自身に伸びる。
身体か浮いた、と感じた次の瞬間、はやての身体が宙に浮いていた。
「やめっ……!」
止めようとしたコージはその場から押しのけられ、地面に転がされる。
その隣に投げ出されるはやて。
一人が車椅子に乱暴に座った。
別の一人がそれを押す。
歓声を上げる連中。彼らにとっては車椅子は補助道具ではない、ただの遊具だ。
「あかん! 返して!」
はやての訴えにも意味はない。
立ち上がりかけたコージの胸元を一人が蹴り飛ばした。
それでもうコージは動けない。胸元を抑えうずくまっている。
はやてはすぐに両手を使ってコージの元へ這う。
「コージ君!? コージ君!」
振り向いて、連中へ激高の言葉を投げかけようとしたとき、はやての視界いっぱいに車椅子が映る。
「ひっ!」
頭を抱えて横に転がったはやての姿に笑う一同。
車椅子を動かしていた、連中で一番の年嵩の少年が一人で声高に笑っていた。
少年ははやてを追いかけるように車椅子を動かし始めた。
はやては為す術無く、転がりながら逃げるしかない。
少年達は狂ったように笑い続けている。
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「みっともねぇなあ。死ねよ、お前。何で生きてんの?」
「やめて……お願いやから……」
「なにそれ。日本語? 日本語喋れよ、うぜえ」
「知ってる。大阪語って言うんだろ」
「ギャハッ、大阪語かよ、なにそれ」
「お願いや……やめて……お願い……」
涙を流しながら訴えるはやてに対して、連中に何の感慨が湧くわけもなかった。
彼らにとって、そこにいるのは虐めて楽しい相手、助けを乞うみっともなく弱い者に過ぎない。
自分たちを抑圧するのは強い者。自分たちが抑圧するのは弱い者。
彼らの世界観は、ある意味ではひどくシンプルでわかりやすい。
故に、不必要なまでに強靱でもある。彼らの世界観は、そう簡単には壊れない。
外部からの圧倒的な衝撃か、あるいは世界観の持ち主そのものの消失か。それだけのものをもってしても、壊れない場合もある。
実に厄介な代物なのだ。
しかし、連中の手は止まった。
「メシ行こうぜ、飯」
良心、そんな生易しい代物ではない。彼らの嗜虐欲を止めるのは、本能に根付いた別の欲だけ。
それが食欲であることに、はやては感謝するべきだっただろう。
性欲であれば嗜虐を加速することもあるのだから。
しかし、今のはやてにそれがわかるわけもない。
それがわかるには、まだしばらくの猶予がある。
連中の姿が消え、ゆっくりと起きあがるコージ。
顔の半分を覆い、シャツの胸元にも広がっているのは蹴られた衝撃による吐瀉物。
よろよろと、今にも倒れそうな足取りでコージは車椅子に近寄った。
そのまま無言で、車椅子をはやての傍まで寄せる。そして、はやてに手を伸ばした。
はやてを車椅子に引き上げようとして、バランスを崩したコージは尻餅をついた。
その拍子にはやてはコージの胸元へ頭を落としてしまう。
シャツに広がる吐瀉物がはやての顔にぺしゃりとへばりつく。
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「は……」
奇妙に息が漏れる。
「ひ……」
それははやても同じだった。
「ははは……」
「ひっはっはは……」
数時間前の自分たちなら口を揃えて言っただろう。
「気持ち悪い」
そんな笑い声が二人の口から漏れていた。
しばらく、笑いは止まらなかった。
笑うのを止めれば泣いてしまうから。泣いてしまえば、もう止められないから。
だから、二人は笑っている。
笑いは、なかなか止まらなかった。
結局、その日ははやてを自宅まで送ってすぐに別れることになった。
翌日、コージは図書館とも八神家とも違う方向へと歩く。そして一人で一日を過ごす。
その次の日も。また、その次の日も。
はやてと顔を合わせたくない。連絡は取らない、連絡も来ない。
一度だけ、はやてからと思われる電話がかかってきたことがあるが、コージが誰何した直後に電話は切れた。
会いづらい。
はやてと会うことで、無様だった自分を思い出したくない。はやてに無様だった自分を思い出させたくない。
だから、次にはやてを見かけたのは単なる偶然だった。
はやてと一度買い物へ行った八百屋の近くを通りかかったのは、はやてに会うためではなかった。
それでもその時、はやてはそこにいた。
八百屋の前を、車椅子で通りがかるはやてがいた。
連中に囲まれた中央で、俯いた姿で。
ニヤニヤ笑いに囲まれた、憔悴しきった顔で。
コージは思わず身を隠す。そして、連中がいなくなってから店へと顔を出した。
はやてと数回訪れた店の主人は、コージの姿をはやてとセットで覚えていたようだ。
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「高校のボランティアサークルなんだって?」
連中はそう自分たちを説明していたのだろう。
それなら、はやてと一緒にいる名目は付く。
「大変だったね」
何が、とコージは尋ねる。
八百屋の主人は一瞬首を傾げるが、それでもコージに説明する。
はやてが、うっかり階段から落ちたのだと。
そのために、顔に痣を作ってしまったのだと。怪我をしているように見えるのもそのせいだと。
心配したボランティアグループが、はやてにくっついているのだと。
「そうですか」
コージは静かに答えた。
嘘とわかりきっていても、とりあえずそう答える。
階段から落ちた痣など、あるわけない。
痣はあるのだろう。階段から落ちたことが理由でないにしろ。
怪我をしているのだろう。階段から落ちたことが理由でないにしろ。
痣と怪我の理由など、心当たりはありすぎるほどにある。
なにしろ、はやては自分と違って逃げられないのだから。
「だけど怪我はしてても、はやてちゃんも元気みたいで良かったね」
元気?
不可思議な言葉に顔を上げたコージに語りかけるのは、配達帰りと思しき店員。
ミニバンを店横に止めながら、何を思い出したのか笑っている。
「さっきあの子見かけたんだけど、ボランティアの兄ちゃん達と追いかけっこしてたよ」
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訂正。
はやては逃げようとしたのだ。
無謀にも。
愚かにも。
コージの中の何かが、その光景を笑っていた。
認めたくない何かが、その無様を嗤っていた。
別の何かは、ほくそ笑んでいた。
これで連中は、はやてに執着するだろう。安いプライドを傷つけられれば、連中は無駄と思えるほどの粘着性を発揮する。
相手が強者でなければ、だ。
離れよう。とコージは思った。
自分はもう用済みなのだ。しばらくの間は目をつけられることもないだろう。
連中には新しい玩具がある。
それでも気が付くと、はやての家に近づいていた。
視界に映る家に、心が不思議と惹かれている自分を感じる。
まるで、治りきっていない傷痕を眺めるように。
乾ききっていない瘡蓋を剥がすように。
潰れた膿跡を観察するように。
それは病的な好奇心。加虐と被虐の入り交じった精神の悪戯。
そこで何を見るというのか、それはコージにも説明できない。
いや、何が見えると思っていたのか。何を、見たかったのか。
はやての姿は見えない。連中の姿も見えない。
何も見えなくとも、翌日からは日課のように、はやての家へとコージは通った。
まるで、誰かに引き寄せられるかのように。
毎日のようにはやての家で見かける野良猫のせいだ。
何故か、コージはそう確信していた。
そして六月が訪れ、それは起こった。
いつものように忘我で眺めているコージは、大きな音で我に返る。
いや、音がした原因はわかっている。コージには見えていた。その音を発したものが。
二階のベランダから、玄関ポーチへと投げ捨てられた車椅子。
落下地点にいたらしい野良猫が逃げ出すのが見える。
猫を追うようにポーチの床面を削り砕いた車椅子は、無惨にひしゃげて玄関脇へと転がった。
その動きが止まったと同時に、ベランダから顔を出す男。
男は、身体をベランダから出し、顔を室内に向けている。
「これでおめえ、勝手なこと出来ないだろ?」
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それほどの大きさはなくとも、声だけがハッキリと聞こえた。
コージは何が起きたかを理解した。
簡単なことだ。
獲物が逃げられなくなった。それだけのこと。
ならば。
自分の取るべき行動は決まっている。
振り向いて、この場を去ること。
自分は何も見ていない。
何も聞いていない。
八神はやて。誰だ、それは。
「あれ、コージじゃね?」
そんな言葉も聞こえないふりをして。
コージは駆けだした。
ここにはいたくない。だって、自分には関係のない場所だから。
自分とは関係のない人たちのいる場所だから。
「何やってんだよ、お前」
追いつかれ、回り込まれ。
正面から思いっきり殴られた、腹を。
逃げられるわけもなく、数人に追いつかれ、殴られた。
ゲロを吐くほど殴られて、その場にうずくまると力任せに引きずられた。
必死に暴れると、地面に押し付けられ、殴られた。
吐ける物が無くなるまで、殴られた。
気が付くと、見覚えのある部屋にいた。
いや、見覚えなんて無い。
自分が覚えているのは、キレイに整頓された部屋。
今いるのは、薄汚れた、掃除一つされていない部屋。
そして部屋の隅にいるのは、見知った顔。
いや、違う。
自分が覚えているのは、よく笑う可愛い女の子。
今そこにいるのは……
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コージは考える。
この状況は何か。知らない。
異様な光景なのか。違う。
そうだ、当たり前の光景じゃないか。
もう六月に入って三日目だ。充分に温かい。
自室で裸で過ごす女の子がいても良いだろう。
ああ。随分顔色が悪いね。
部屋が暗いからそう見えているだけだろう。
怪我をしていないか? 顔の痣は、殴られた痕じゃないのか。
八百屋が言っていたじゃないか。階段から落ちたんだろう。
手足の傷は何だ、ほら、自分にも手のひらに同じ傷痕があるだろう。まるで、煙草を押し付けられたような痕が。
はやては自炊している。その時に火傷したんだろう。
何故怯えているんだ。
恐い夢でも見たんだろう。
どうしてあんなに汚れているんだ。
風呂が壊れているんだろう。
部屋が臭くないか。
連中の匂いだろう。
何も起こっていない。はやての身には、特筆すべき事は何も起こっていない。
コージは自分に言い聞かせる。
嘘でもいい。自分が信じられるのならそれでいい。
自分は悪くない、なぜならはやての身には何も起こっていないのだから。
軟禁されていたぶられている少女などいない。いようはずがない。
少なくとも自分の前にはいない。自分には関係ない。
泣くことすら諦めた表情の少女などいない。
男達の吐き出した汚れをその身にこびりつかせた少女などいない。
破瓜の血が茶黒く乾いたシーツの上で膝を抱えて震えている少女などいない。
膝を抱えた手の指が数本、あらぬ方向へ曲がっている少女などいない。
自分を見て、新たに怯えている少女などいない。
男達に煽られ、ゲロを吐きながらズボンを脱いでいる自分などいない。
少女にのしかかろうとしている自分などいない。
ヤって見せたら家に帰って良いぜ、などと笑う男達などいない。
ここには、誰もいない。
ここにいるのは、はやてを気遣う自分しかいない。
そうだ。自分ははやてを気遣っている。
犯せと言われたから犯すのではない。
犯さなければ、もっと酷い目に遭わされるとわかっているから犯すのだ。これは、はやてを守るため。
自分の身を守るためではない。
逃げようとしたことなどない。
はやてを見捨てたことなどない。
自分は間違っていない。
悪いのは連中。
はやては被害者。
自分ははやてを守る者。
沢山守るために、少しだけ傷つける。それは仕方のないこと。
きっと、はやてならわかってくれる。
だって、はやては優しいから。だから、わかってくれる。
だから、怯えないで。
僕を見ないで。そんな目で僕を見ないで。
僕は悪くない。悪くないから。仕方のないことなんだから。
ゲロを吐きながら、下半身を露出させながら、はやてにのしかかりながら、稚拙に腰を振りながら。
僕ははやてを守っているんだよ。
だから、泣かないで。そんな目をしないで。
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部屋の隅で、何かが光った。
立ち上がる四つの影に、部屋にいる者達は何事かとざわめく。
その中でただ一人、はやてだけがその意味を理解した。いや、理解させられた。
「皆、殺してぇ!」
彼女が理解したのはただ一つ。
力を手にしたこと。
だから力を振るった。
自らが得た力を。自らの思う方向へと。
烈火の刃は鮮血に染まる。鉄騎の大槌は骨を砕く。獣の牙は肉を噛み千切る。
癒し手は怨嗟と血臭に囲まれながら、はやてを癒す。
「はやて……ちゃん……?」
僕は、君を……
言いかけたコージが最後に見るものは、迫り来る刃の切っ先。
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以上、お粗末様でした。
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救いがねぇ・・・鬱すぐる・・・
GoodUtsu
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鬱だわコレ……いじめシーンは効いたわ……
そうそう、変則的なザフィーラ×なのはを捜してるんだが、道を間違えたようだ
wikiで捜す
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なんという酷さ(褒め言葉
これは欝以外のなにものでもありませんな。
野狗氏さすがです……ッ
さて、今回の投下を以ってIRCチャットのメンバーで予定されていた投下は終わりました。
もちろんチャットの方に参加していない方も後続で投下しておkですぞ。
そして、気は早いですが既に来月の祭の予定が浮上しました。
題して 『高町なのは祭』ッッ〜!!!!
リリカルとして外せないキャラであるなのはさんを今年のトリに、と。
開催はクリスマス、12/24を予定しております。
読み手、書き手、の皆様どうかふるってご参加ください。
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知人友人達を集めてのパーティーのはずが、
行き送れたもの達のサバトになったりするのだろうか。
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忍「恭也♪」
なのは「ユーノ君♪」
美由希「」
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忍「恭也♪」
すずか「ユーノくん♪」
なのは「」
美由希「」
まあ、こういう可能性も…
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恭也「ユーノ♪」
こうですか? わかりません
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>>975
ユーノ「恭也さんから女の子の服着てがおって言ってくれって頼まれたんだけど、
何の意味があるんだろう?」
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>>976
シャマル「」ガタッ
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正直ユーノの女装が許されるのは子供時代だけだよな
あれでいて19歳時点のユーノってシグナムより背が高いわけだし
むしろ男として育てられた美少女ってネタもありか
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>>978
つっても168だったかくらいだから、一緒に身長の高い男を並べれば問題ない
てか3期での聖王ヴィヴィオとかトーレ、セッテの方がさらに身長たけーし
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>>978
君はなのはVSシグナムの特別編は読んだかね?
あれはどう見ても美少女
ユーノは実は女性だからなのはと進展がないんだと思い始めた
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>>974
いや、むしろ原作的に、
忍「恭也♪」
なのは「クロノくん♪」
美由希&晶&レン&フィアッセ&那美「」
じゃね?
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>>981
原作的なら、恭也と忍が上手く行ってる時点で、美由希には年下の彼氏がいるさね
原作シリーズ的には、他の面子も良い相手を見つけてるだろうさ
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フィアッセは犠牲になったのだ…
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本当に腐った俺からすれば女装なんて邪道
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フィアッセは……犠牲になってなどいない!
俺がこれから証明してみせる!
そんな訳で15分から投下します。
よろしいかな?
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15分になったので投下します。
何だこのグッドタイミングは……
・セイン他教会メンバー
・今回は全年齢
・フィアッセ2世出てきます。
ではでは始まります。
タイトルは「幻影の子」
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「セインー、お茶の時間だってー」
「今行く! 先に行ってて」
だぶだぶの修道服を着た少年の影が、ドアの向こうに消えていった。
セインは微笑と共に、ホウキを掃く手を止める。
この部屋の掃き残しは、あと僅か。どうせならやってしまおうと、歩を進めた。
窓を開けて、午前中のすずしくて爽やかな空気を吸い込んだ。
「よっしゃ、やりますか!」
自他共に聖王教会に名を残せるくらいのサボり魔として認めるところのセインであるが、最近は至ってまじめに生活している。
シャッハに病院へ連れて行かれそうになったこともしばしばだが、別におかしくなった訳ではない。
ただ……ただ、サボりたくなくなるような理由が一つできただけだ。
そよ風のなびく中、セインは掃除を進める。
一通り綺麗になった所で、ホウキをしまって談話室へと向かった。
既に主要なメンバーは集まっていて、ディードがカップを温めておいてくれた。
「セイン姉様、最近は忙しいようですね」
「いや、その方が暇しなくて済むってことをようやく知ったよ。あはは」
カリムはニコニコ笑っていて、シャッハは気丈な顔をしている。
その隣で一人、カップに両手を添えながらふーふーやって飲んでいる少年。
歳の頃は、初めて会った時のエリオと同い年くらい。
耳にかかるくらいの黒髪と、同じく鴉色の瞳。ベルカの地で見かけることは稀な存在、のはずだった。
ぽろぽろと、少年が食べていたスコーンの欠片がテーブルに落ちる。
よく見れば、頬にハチミツがちょっぴりついていた。
セインはハンカチを持ってそれを拭き取ると、明るい笑顔でつん、と彼のおでこをつついた。
「もう、落ち着いて食べなさい、士郎!」
-
士郎と呼ばれた少年は、あどけなさの残る微笑みでセインを向いた。
「うんっ」と一言、でもやっぱり元気に大口を開けて、スコーンを齧った。
***
セインが少年と謎に満ちた出会いを果たしたのは、つい二週間前のことだった。
当然のように昼休みからシエスタを続行していたベッドの上に、突然彼が降ってきたのだ。
「うぼぁっ!?」
「いたた……でもベッドで助かったぁ」
本当にそう表現するしかない程突然の出来事で、その証拠に天井が大穴を開けていた。
黒髪に、見たことのない服装。背は低くて、多分ヴィヴィオと同い年くらい。
初等学校の学生だとしても、明らかにベルカ自治区を歩いているような顔ではなかった。
何の荷物も持っていなくて、観光や流浪の類とも思えない。
「いたた……」
「ねぇ、そこのキミ」
セインは少年に向かって言った。彼はきょとんとしている。そりゃそうだろう。
けれど、どんな状況だとしても、言わなければいけないことがある。
「どいてくれると嬉しいな……あたしの胸、我ながら衝撃吸収材にならないから」
「わっ、わわっ、ごめんなさい!」
──今の言葉を聞いて、確信した。この子は間違いなくこの地の人間ではない。
何故ならば、ミッドでもベルカでもない、第三の言語で謝っていたからだ。
こちらには、謝罪と思える意図しか伝わって来なかった。
「取り敢えず、話をしようか」
シャッハに事情を話したら様々な勘違いをされて折檻を繰り返されたが、最終的には事実を受け入れて納得してくれた。
名前も知らない少年と向い合って椅子に座るというのは、何だか取り調べみたいで気まずい。
まずは名前だ。そう思って口を開きかけると、向こうが先に聞いてきた。
喋っているのはミッド語だった。
こちらの顔つきを見てのことなのか、シャッハとの会話を聞いてなのか、さっきの言語ではなかった。
「ここは……どこなの?」
「ベルカ自治区の聖王教会ってところだよ」
こちらも、慣れないミッド語で応じる。しかし、どう見ても、知らないという顔をされた。
どこから来たとしても、自分のいる国くらいは知っていそうなものだが……
改めて顔つきを見ると、ミッドチルダにはいないような顔だ。むしろなのはやはやてに良く似ていた。
移民の子なのかもしれない。
こちらも拙いミッド語を使って、なるべく優しく、そして簡単な単語で話しかけた。
-
「あたしはセイン。君は?」
「オレは……高町士郎。『ベルカ自治区』って、ドイツあたり?」
ドイツってどこだ、と反射的に聞こうとして、名前をもう一度繰り返した。
高町士郎。高町、タカマチ……そうだ、なのはの旧姓だ!
「ちょっと待っててね、家族の人に連絡してみるから」
なのはを電話口で呼び出して、聞いてみる。
ところが、帰ってきたのは呆気に取られる言葉だった。
「うーん、わたしの親戚にそんな名前の子、いたかなぁ……この歳で英語も喋れるし、別の高町さんなんじゃないかな?
あ、でも『士郎』ってわたしのお父さんと同じ名前だ。関係あるのかな? うーん……」
「ちょ、ちょっと! なのはだけが頼りなんだよ? 早いとこ親御さんに帰してあげないといけないんだから!」
彼女も知らぬ存ぜぬ、しかも知り合いなど他にまったくいないとなれば八方塞がりである。
割とどうしようもなかったので、願い出て午後は休暇を貰った。
……サボった昼休みの分は後日回収されるそうだ。ちくせう。
「士郎はどうして空から降ってきたの?」
「分かんない」
「元々どこにいたの?」
「海鳴。知らないよね?」
「ううん、さっき話してた女の人が海鳴の出身なんだよ。仕事が終ったら来るって」
「ドイツにオレの親戚かぁ……かーさんの知り合いなのかな」
話が進まない。本当に空から降ってきたのだろうか。
どうしたものかと思案に暮れていると、すっくと彼が立ち上がった。
「セインさん、トイレってどこにあるの?」
夜中は何とも不便だが、手洗いは別棟にある。『さん』づけで呼ばれ、物凄くこそばゆかった。
そこまで案内しようとして、立ち上がる。
「あ、あぁ、こっち。あと、『セイン』でいいよ。あたしも『士郎』って呼ぶよ?」
「うん、ありがとう、セイン」
用を足して戻ってきた士郎が、旧にあさっての方を向いた。
そっちにあるのは大聖堂だけだが、と思った瞬間、少年はまさにその大聖堂を見て歓声を上げた。
「何だこれ! 凄い! セインはここのシスターなんだね!」
「あ、ああ、うん、まぁそんなとこだね」
本当は見習いだが、ちょっとだけの秘密。
海鳴はこういった聖堂はほとんどないと聞く。文字通りのシスターも。
そうした光景がよほど珍しかったのか、あちこち見ては好奇心をフル稼働させていた。
-
「迷子の迷子の士郎君、あんまりはしゃぐとはぐれるから気をつけてよ」
「わーってるよ! ……セインしか知ってる人、いないもん」
口を尖らせてそっぽを向く士郎。ちょっと生意気なくらいがむしろ可愛いもんだ。
しばらく、聖王教会散策ツアーになる。カリムは執務室で膨大な書類に目を通していた。
「あら、セイン。その子が例の?」
「そうだよ。教会の聖堂に興味を持ったみたいだから、今あちこち案内してるとこ」
まじまじと顔を見られた。別に睨まれている訳でもないのに、足が竦む。
何を言われるのかと思いきや、カリムは羽ペンを一度置くと、セインと士郎、両方に微笑んだ。
「ふふっ、セインもお姉ちゃんになったのね。その子をちゃんと守ってあげなさい」
ベルカ語だったので、彼は分からなかったに違いない。
でも、カリムの柔和な笑みは、言葉よりも分かりやすくて、セインも敬礼でもって応えた。
最後は懺悔室だ。意図的に証明を落として、告白をしやすくしている。
これまた意図的に、あちこちに聖骸布のレプリカや聖書を置いたりして、狭い空間を演出している。
「怖い?」
「こ、怖かねーよ。ちょっと暗くて足元が見えづらいだけだよ」
外がもう薄暗いこともあり、士郎の顔はおろか自分の足元も確かに見えづらい。
ランプの位置もろくすっぽ分からず、さっさと出ようということになったが、そこで突然ハプニングが起きた。
踏み出そうとした足を士郎が踏んづけ、バランスを崩してしまった。
しかも裾を掴まれていて身動きも取れない。
不意の動きをセインがしたせいで士郎もアンバランスな姿勢になり、身体を捻ったらそこに士郎がいた。
「ちょ、どいてどいて!」
「無理に決まって……あーっ!」
騒ぎを聞きつけたシャッハが懺悔室の前まで走ってきた。
そこにいたのは、少年を押し倒しているシスターの姿。
「何事ですか!? ……セイン、あなたという人は……修道女という立場も、場所すらわきまえないとは!
神の御前で懺悔するといいわ」
「え、何ちょっと待ってあたし何したの何もしてないようわあああああああああぁぁぁぁぁぁっ!!」
その後、セインの悲鳴が教会中に響き渡っていた。
夕方になって早引きしてもらったなのはに士郎を見せたが、やはり面識は一切ないらしい。
でも。
「なのはさん! どうしてここに!?」
「え、ええっ!? セイン、どういうこと?」
-
ますます混乱が深まったのは言うまでもない。
士郎はなのはを知り、なのはは士郎を知らない。何がどうなっているのか、知る者は皆無だった。
彼がここに着た理由は、本当に不明。
「高町」と名乗るくらいだから、念のためになのはと一緒に事情を聞いてみたが、なのはのいた『海鳴』と細部で異なっていた。
士郎は海鳴から来たらしいが、なのはの知らない名前がぽんぽん出てきたという。
記憶喪失という訳ではなく、ここに来た経緯を更に詳しく聞いてみたが、「よく分からない」の一言で、芳しい回答は得られなかった。
「ちょっとつまずいて転んじゃって、で気付いたら空にいたんだ。それで」
「屋根を破ってきた、と」
「うん。あっ、ご、ごめんなさい……屋根」
「ちびっ子が気にするんじゃないよ。あたしと二人で直せばすぐだよ」
向こう三日は晴れる予定だ。それだけあれば何とでもなるだろう。
それより問題は、彼の正体である。
こういうことは、無限書庫が一番だと、ユーノにメールを送ってみた。すると、すぐに返事が来た。
但し、そこにも答えがズバリ書いてあるものではなかった。
『パラレルワールドとか、或いは未来や過去から迷い込んじゃう人が時々あるらしいんだ。
念のため、その辺りのことを詳しく聞いてみて。なのはも交えながらね』
返信を見て早速聞いてみると、どうにもその可能性が高まっていた。
士郎の生まれは新暦でいうところの69年。つまり、ヴィヴィオと同い年。
ジュエルシード事件と闇の書事件は65年、そしてなのはがミッドに移住したのは72年。
だが、フェイトとの一件も、闇の書のことも、それどころか『なのはが魔法を使う』という話すら聞いたことがないという。
彼曰く、なのはは士郎にとっての叔母で、大学に通う傍ら翠屋の二代目として修行を積んでいるとのことだった。
引っ越すなんてとんでもない、と。
何が何だか分からなくなって、また無限書庫へメールを飛ばした。
ユーノから返ってきたのは、またしても『お手上げ』の内容だった。
-
『どこかで歴史が狂ったんだね。きっと僕が上手いことジュエルシードを運び終えた世界の住人なんだ。
多分だけど、それ以外の色んなことが──ミッドにまつわるありとあらゆることが、どうなっているか分からない。
もしかすると、滅んでさえいるのかも。僕がジュエルシードを持ち帰ったから、とかそんな理由で』
取り敢えず、当面はセインの部屋で共同生活をすることになった。
これからの行き先は、セインとカリム、そしてスクライア夫妻の三者で決められる予定。
母親が英語──つまりこちらでいうミッド語の母語話者だということもあり、話は簡単に進んだ。
ベルカ語の勉強をさせつつ、教会内では見習いシスターの更に見習い、要は雑用係に任命された。
ここでは、働かざる者食うべからず、だ。人のことは余り言えないが。
「セインー、この服ぶかぶかだよー」
「これしかないんだよ。まさかこんな小さな子の着替えなんてないんだから。ベルトで頑張って締めて」
士郎の身長は、セインの首元くらい。修道服で今手元にあるのは、セインより更に頭一つ分は身長が高い人用のだけだ。
三着ほどあるが、どれもこれも大きすぎ。とてとて歩いてはべちっと転ぶ。
聖王教会の威厳とは裏腹に、そんな可愛げのある服だった。
縫ってもいいが、出来上がる頃には春が来ているだろう。
他に買える服といっても、彼は何故か修道服をいたく気に入ったようで、彼はそれを着続けた。
まとめて全部洗濯されると、最初に着ていたパーカーを被って、裏手を掃除していたりした。
ザンクトヒルデに頼んで、初等学校の教科書を取り寄せ、読み聞かせた。
「アー・ベー・ツェー・デー・エー・エフ・ゲー……」
アルファベットもそこそこに、今度は挨拶の練習。
どこでも同じ事。おはよう、こんにちは、おやすみ、ありがとう──
高町の家系だからか、飲み込みはエラく早かった。
「マイン・ナーメ・イスト・シロウ!」
「おー、うまいうまい! これで士郎も一人前のベルカっ子だね!」
くしゃくしゃっ、と頭を撫でてやる。
そうすると、決まって彼は照れたように俯いて、「止めてよセインっ!」なんて言い出すのだから可愛くて仕方がない。
女ばかりのナンバーズだったから、こんな光景は新鮮だった。
まるで、弟ができたみたいだ。或いは、昔からの友達。
-
『そうそう、なのはも頭を撫でると喜ぶんだよ。照れながらもっともっとっておねだりするのが可愛くてあべしひでぶっ』
『あなたぁ、それはヴィヴィオと三人の秘密だって言ったよね? 言ったよねぇ?』
ユーノからの連絡で、ますます「高町家の子だ」と確信を深めた。
大いなる犠牲に、神の慈悲があらんことを。
ものの三日で仲良くなり、一週間もする頃には一緒に市場へ行って買い物をするまでになった。
「お、今日もシロウが一緒なのかい、どうだい、リンゴ一つおまけしとくよ」
「クリムトさん! ありがとう、大切に食べるね! 神に感謝を」
ぺこっ、とお辞儀をする士郎。元気者で、すっかり八百屋の主人と盛り上がるようになってしまった。
一方、いたずら小僧の汚名がようやく晴れ始めたらしく、セインもまともなシスターの仲間入りをすることができた。
「ようやくですか、セイン姉様」と、ディードには呆れられたが、これも進歩というものである。
そもそも、いたずらとかサボりとか、士郎が来てからこの方一度もやっていない。
いつもちょこちょこ後ろをついてくるし、そうでないのは一人で勉強をさせている間だけだ。
本当に人懐っこくて、頭を撫でたくなる。
カリムは、このままセインが養育していけばいいと言ってくれた。
三ヶ月経っても保護者が現れない──こちらは絶望的だが──、又は帰る手段が見つからなかったら、
書類の上では迷子の保護から養子に切り替える予定だという。
今のところの問題としては、それがカリムなのかなのはなのか、全然決まっていないということだった。
好き嫌い、なし。運動能力、抜群。国語はまだまだとしても、算法は年齢相応。
好きな武器は短刀。本当の得物は他にあるようだったが、残念なことに教会にはなかった。
非常に嬉しいニュースだったが、暴力シスターとか暴力剣士とか暴力執務官と違って、非常に優しい男の子だった。
戦いらしい戦いは、他の武闘派修道士と軽く手合わせするだけ。軍事的教練ではなく、体力づくりの運動程度。
聖王教会に平和がやってきたと、その時は喜んだものだ。
ディードも、オットーも、それぞれに手伝ってくれる。
サボり癖は、どこかに飛んでいってしまったようだった。
「セインが先生なのやら、士郎が先生なのやら……」
シャッハの言葉は、今はまだ分からなかった。
十日目のこと。
先に風呂へ入って自室へ戻ろうとしたところ、部屋の中から彼の歌声が聞こえてきた。
-
「La... Lalalalala...Lala...Lala...」
少年らしい澄んだ歌声でメロディを奏でていたものだから、つい部屋に入るのをためらってそのまま聞き耳を立てていた。
やがて歌い終った少年がベッドに座った音がして……そして静かに泣き始めた。
「とーさん……かーさん……帰りたい、海鳴に帰りたいよ……なのはさん、オレのこと知らないんだよ……うぅっ……」
泣き疲れたのか、嗚咽はしばらくして止んだ。士郎は毛布もかけていなかった。
冷えた身体をベッドに寝かせて、少年の身体を抱く。
同情なんて気持ちはなくて、ただ、この子の寂しい気持ちを少しでも紛らわせたかった。
心からの笑顔を、見たいと思った。
翌日早く、セインはベッドの寒さに目が覚めた。
寝ぼけなまこで起き上がってみると、そこには士郎。いつものぶかぶか修道服で、部屋を掃除している。
「どうしたの、こんな朝早く……」
「あ、ごめん、起こしちゃった? この調子だとずっとお世話になるかもしれないから、掃除でもしておこうかなって」
昨日流した涙が嘘であると言いたいかのように、一心不乱にモップを動かす士郎。
その仕草と横顔で、セインは気付いた。
──夜、抱きしめたことを知っている。
無理な笑顔は作っていない。けれど、楽しそうな顔もしていない。
少年らしい、けれど、とても悲しい達観の表情だった。
セインはその時何も出来ず、ただ毛布を被って掃除が終るのを待った。
***
初めての出会いから、二週間後。
さんざ揉めた果てに、士郎少年はセインが引き取ることになった。
名目と書類の上はカリムが保護しているということになっているが、世話から教育まで全部セインがやることになった。
なのはがヴィヴィオ共々引き取ろうという話もあったが、生まれて初めて強く主張した。
高町姓を持つからと、事情を話して海鳴の実家に、という話になっても、執拗に食い下がった。
話が決まるまでの数日間、悩みに悩み抜いて、一生の中で一番考えた。
「この子は、運命なんだ……きっと、あたしがここで死なずに生きてることに、神様が試練を下さってるんだ」
スカリエッティ事件、なんて名前で呼ばれているが、そこに加担した身である。
戦いの途中で死んでも不思議ではなかったし、逮捕された後も仮釈放なしの終身刑を食らっても不思議ではなかった。
今、聖王教会でヴィヴィオや他のシスターと共に生きているという事実自体が、信じられないことなのだ。
-
そこへ、士郎がやって来た。偶然だとは思うけれど、これを偶然ではなく必然と考えたかった。
つまり──士郎と出会うために、生まれてきたのではないか。
カリムはもちろんのこと、なのはも皆も反対したが、小さな少年の身体を抱き締めて、声を張り上げた。
「あたしが面倒を見る! ……士郎さえ良ければ。あたしは……士郎の笑ってる顔が大好きなんだ。だから……!」
士郎にとっても姉のような存在で、慕ってくれているのが分かる。
会議の間中、ずっと修道服の裾を握って離さなかった。
「士郎は、どうしたいですか?」
カリムの投げかけた質問が、全ての決め手だった。
少年は首をふるふる振って、ぎゅっと拳を握った。
下を向きながらだが、しかしはっきりと、自分の意見を述べた。
「なのはさん、ごめんなさい。今の海鳴に帰っても、オレに居場所はないみたいだから……
オレは……セインといたい。この教会の皆と、一緒にいたい!」
なのはの眉がぴくりと動いて、すぐに元に戻る。
笑みを浮かべたなのはは、「うん、分かった」とだけ言って、席を立った。
「もし、帰れる方法が見つかったら連絡するね。
わたしは別に士郎君をどうこうしたい訳じゃないから、自分で決めていいよ。
わたしも、カリムさんも、もちろんセインも、みんな士郎君の味方だから」
そう、言い残して、なのはは会議室を後にした。
椅子に座っていたセインと士郎は、そのまま呆然として食事時までずっとその場を動かなかった。
夕飯の準備に呼ばれて、ようやくセインは我に返った。
端末には、一通の着信。なのはからだった。
一体何だろうと開けてみると、そこには何かを確信した様子の言葉が綴られていた。
「あの子──遠くの世界で、絶対わたしの家族だったよ。一度言ったら絶対に聞かない子だもん。
態度を見てたら分かるよ、わたしと同じだから」
カリムは士郎に食堂へ来るように伝えると、ササッといなくなった。
部屋にいるのは、やっぱり二人。
弾かれたようにセインは立ち上がって、厨房へ行こうとした……が。
「セイン……セインと、カリムさんと……みんなと、暮らせる? 暮らしてもいいの?」
いつものように裾を握った士郎が、上目遣いで聞いてきた。
目に涙を貯めている。セインの前では、いや人前では初めてのことだった。
「もう、いいに決まってるじゃん。士郎はもう、聖王教会の見習い修道士なんだよ。
簡単に破門なんてさせないんだからねっ!」
-
力の限り、少年の身体を抱きしめる。士郎の腕もセインの腰に回って、抱き返してくれた。
セインの目からも、自然に熱い雫がぽろぽろ零れてくる。
止めたくたって、止められるものではなかった。
「セイン……セインっ……うわああああああああああああぁぁぁぁぁん」
「士郎、士郎、士郎……! あたしもずっと一緒にいたいんだよぉっ!」
二人で抱き合って泣き続けて、いつしか揃って会議室で疲れて瞳を閉じてしまった。
朝起きたら、毛布が何枚か、重ねられて被せられていた。
小さな優しさが、物凄くありがたかった。
***
翌日から、セインは辞令を渡された。
その中身はといえば、聖王教会の見習いシスターから、正式なシスターに昇格。
併せて、士郎には期限付きの見習い修道士。
狭いベッドに二人して寝ていたのが、ようやく個室を与えられた感じだ。
それに伴って、言葉だけではなく他の学問──士郎のいた世界としては相当な英才教育になってしまうが──、
修道士としての嗜み、教会の教義と歴史についても教えていくことになった。
洗礼はまだしない。もっと事態が確定してからだと、カリムとの間で合意を得た。
「シャッハさん、『青版』の偽典、整理終りました!」
「おぉ、早いですね士郎は。ディード、あなたもぼやぼやしていられませんよ」
「承知しています。士郎さん、『赤版』の写本は目を通しましたか?」
教会にある古い本棚だが、そこでみっちり古代ベルカ語を仕込むことにした。
教育者がいる訳でもなし、下手な教科書よりも実践的な資料に触れさせる方が遥かに有益だ。
食事も一緒だし、勉強も一緒。風呂は流石に別々だが、実は寝る時こっそり一緒だったりする。
士郎の、海鳴での生活を聞いていると、凄く楽しいひと時になる。
目をキラキラさせて自分の好きな話をする少年ほど、相手をするのが楽しい話もない。
自然と、ごくごく自然と、セインの意識は士郎に集中するようになった。
それはもちろん、監督者としてのそれもあったが、それ以上の「家族」、姉としての思いが強かった。
「どっちが先生なのか」というシャッハの台詞も、今なら分かる。
教わっていたのは、むしろセインの方が多かったかもしれない。
教えることでようやく分かる、自分の未熟さ。
模範を見せなければいけない、先輩格としての威厳と責任。
精神的に重くのしかかってくるそれを感じて、シャッハが厳しく事に当たる意味をようやく理解した。
-
それが、上に立つ者の勤めなのだ。
長いキャンプを楽しんでいるようだった。
いつか来る、いつか来ると思っていた別れも、気配すらない。
時空のど真ん中にぽっかり開いた穴は、もう一度開くとしたら何年かかるのか……
試しにユーノに聞いてみた。
「偶然に頼るとすると、一番都合のいい確率でも百万分の一かな……平均的に言えば、ほとんどゼロ。
人工的に『所定のパラメーターが振られた時空』を作るのは、アルハザードでも不可能だったよ」
つまり、まったくの望み薄ということである。
この話をすべきか否かは丸々一週間も悩んだが、士郎に心配されるまでになったので思い切って打ち明けた。
すると……
「オレ、ここの生活が気に入ってるから……セインも言ってくれたでしょ? ここにいるのは、それが運命だからだって。
だから、オレも運命を受け入れることにしたんだ」
ニカッと笑ってみせた士郎の笑顔に、もう悲しみや暗さは見えなかった。
セインは少年の頭を撫でてやると、「えへへ」と破顔して身体を擦り寄せてきた。
その瞬間、少女の中で何かが変わった。三日も経てば、すぐに自覚ができた。
気がつくと、視線が士郎を追っていた。
気のせいだと思い込むことにしたし、何より炊事洗濯掃除にミサ。
農園に行って薬草を育てたり、週に一度の懺悔や、
孤児院に顔を出して子供達の世話をしたりした。
時間がある時は生薬の調合に丸一日費やしていた。
腰を据えて教会を見回してみると、やるべきことは山のようにあったのだ。
そのことを身体で覚えてからは、最低限のこと以外はなるべく士郎に顔を合わせないようにした。
見ているだけで心が熱くなるし、正常な思考ができなくなる。
-
悶々としたまま季節が一つ過ぎたある日、聖書の輪読会で資料を作ってくれたことを褒めて、頭を撫でた。
単語や文法の勉強をするのも、現代語で書かれているとはいえ聖典を読むのも一苦労だというのに、
彼はやってのけた。ルーテシアより
「頑張ったね。凄いよ、こんなに早くベルカ語が上達するなんて!」
「やったぁ! ね、ね、セイン、頭撫でてー」
仕方ないなぁ、そんなことを言いながら頬の緩みを抑えきれずに頭に手を置く。
軽くなでなですると、少年はほにゃほにゃ顔を嬉しそうに崩して、小動物みたいに笑った。
心臓が跳ねる。顔が赤くなる。
「は、はいっ、おしまい!」
「えーっ、もっとー」
キラキラ目線でお願いされる。ますます狼狽えてしまったセインは、思わずその場を逃げ出してしまった。
踊り場の陰で、はぁ、はぁ、と荒く息を吐く。
自分がどうなってしまうのか、考えただけで怖かった。
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行数しか見てなくて字数制限に引っかかりまくった……orz
途中までの分母は見なかったことにして下さい。
すまぬ。
後半はエロあり。お楽しみに。
ではまた。
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投下乙、続きが気になるじゃないか・・・ッ!
感想は次スレに頼むぜ、ではスレ立て!
次スレ: http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/12448/1321277629/
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