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☆魔法少女リリカルなのは総合エロ小説第100話

1名無しさん@魔法少女:2009/08/05(水) 20:14:08 ID:7A.0xa9.
魔法少女、続いてます。

 ここは、 魔法少女リリカルなのはシリーズ のエロパロスレ避難所の2スレ目です。


『ローカル ルール』
1.リリカルあぷろだ等、他所でのネタを持ち込まないようにしましょう。
2.エロは無くても大丈夫です。
3.特殊な嗜好の作品(18禁を含む)は投稿前に必ず確認又は注意書きをお願いします。
  あと可能な限り、カップリングについても投稿前に注意書きをお願いします。
【補記】
1.また、以下の事柄を含む作品の場合も、注意書きまたは事前の相談をした方が無難です。
  ・オリキャラ
  ・原作の設定の改変
2.以下の事柄を含む作品の場合は、特に注意書きを絶対忘れないようにお願いします。
  ・凌辱あるいは鬱エンド(過去に殺人予告があったそうです)

『マナー』
【書き手】
1.割込み等を予防するためにも投稿前のリロードをオススメします。
  投稿前に注意書きも兼ねて、これから投下する旨を予告すると安全です。
2.スレッドに書き込みを行いながらSSを執筆するのはやめましょう。
  SSはワードやメモ帳などできちんと書きあげてから投下してください。
3.名前欄にタイトルまたはハンドルネームを入れましょう。
4.投下終了時に「続く」「ここまでです」などの一言を入れたり、あとがきを入れるか、
   「1/10」「2/10」……「10/10」といった風に全体の投下レス数がわかるような配慮をお願いします。

【読み手 & 全員】
1.書き手側には創作する自由・書きこむ自由があるのと同様に、
  読み手側には読む自由・読まない自由があります。
  読みたくないと感じた場合は、迷わず「読まない自由」を選ぶ事が出来ます。
  書き手側・読み手側は双方の意思を尊重するよう心がけて下さい。
2.粗暴あるいは慇懃無礼な文体のレス、感情的・挑発的なレスは慎みましょう。
3.カプ・シチュ等の希望を出すのは構いませんが、度をわきまえましょう。
  頻度や書き方によっては「乞食」として嫌われます。
4.書き手が作品投下途中に、読み手が割り込んでコメントする事が多発しています。
  読み手もコメントする前に必ずリロードして確認しましょう。

『注意情報・臨時』(暫定)
 書き込みが反映されないトラブルが発生しています。
 特に、1行目改行、且つ22行以上の長文は、エラー表示無しで異次元に消えることがあるそうです。
 投下時はなるべく1レスごとにリロードし、ちゃんと書き込めているかどうか確認をしましょう。

前スレ
☆魔法少女リリカルなのは総合エロ小説第99話
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/12448/1243670352/

160名無しさん@魔法少女:2009/08/14(金) 09:12:16 ID:2KSzIJc6
ぎゃあああフェイトそんkoeeeeeeeeeeeeee!!!!

161名無しさん@魔法少女:2009/08/14(金) 12:20:19 ID:AQn7UiGI
>>158
鬼畜GJ!あああああ、プレシアママンの血が・・・・
なのはもトラウマ-になりそうな悪寒

162名無しさん@魔法少女:2009/08/14(金) 19:57:52 ID:aDqTxUa2
GJ!!です。
フェイトがロールシャッハみたいになってしまいそうだw
犯罪者は皆殺しや過剰に凹って刑務所送りだぜ!!www

163名無しさん@魔法少女:2009/08/14(金) 22:40:18 ID:DpWCCDgw
GJ
なんていうか非殺傷設定を切ったのにバルディッシュの抵抗がないってことは彼もぶちキレたんだな・・・・
しかし、やりたい放題やっておきながら、命乞いする悪党はフェイトじゃなくても殺したくなるな

164名無しさん@魔法少女:2009/08/14(金) 23:27:54 ID:D1wWuJ5s
これは中々のダーク作品・・・乙でございますよ。
フェイトそんでなくてもブチギレるだろなぁ。

165名無しさん@魔法少女:2009/08/15(土) 01:16:16 ID:iW6E8i5g
うわ、うわあああああ!orz

GJ!!!

166名無しさん@魔法少女:2009/08/15(土) 11:52:38 ID:5y1G8n2w
GJ
 こういうプロじゃない連中は、嬲り殺されて当然!
 本当のプロは、殺しの相手を陵辱などしません。
 さくっと殺して煙のように消えるものです。

167名無しさん@魔法少女:2009/08/15(土) 13:06:59 ID:PgwaWCQE
なのはさんあたりならぶちギレても殺さなそう

もっとエグいことをやりそうだ

168名無しさん@魔法少女:2009/08/15(土) 18:51:48 ID:DBnsWjFY
死よりも重い罰ですねヒャッホーイ

169ザ・シガー:2009/08/15(土) 21:19:42 ID:Ha6LtPl.
これはひでぇ陵辱、だがGJ。
以前自分が書いたキャロ陵辱が霞むわww


そして書きあがったので投下。
長編・非エロ・『偽りの恋人』です

170偽りの恋人:2009/08/15(土) 21:20:16 ID:Ha6LtPl.
偽りの恋人7


 しくじった。シグナムの脳裏はその思考で埋め尽くされた。
 対峙した少女二人の狙いが自分ではなく、最初からヴァイスだったとどうして気付けなかったのか。
 ティアナの援護の、普段からは想像もできない粗雑さ。ソフィアの剣筋から伝わる焦り。
 気付くべき要素は幾つもあった。
 だが自分はまんまと彼女達の策に嵌り、後方援護に回したヴァイスを見事に落とされた。
 言い訳などできない、これは己が非によって招いた醜態だ。
 シグナムは美しい顔を苦々しく歪め、心中にて恥じる。
 ヴァイスの射撃支援を失った以上、もはや孤剣にて奮闘するより他は無い。
 手中の愛剣、炎の魔剣レヴァンティンを強く握り締め、烈火の将は眼前の少女らに鋭い眼差しを向けた。
 炎熱変換資質により通常の術式プロセスを無視して燃焼される猛き炎が、魔剣の刀身を這う。
 それはさながら彼女自身の闘志の如く、轟々と燃え盛り、鮮やかに美しい。
 戦場に吹く風に舞う緋色の髪を相まって、さながら古いおとぎ話に登場する戦場の女神。
 だがそれに見惚れる事もなく、彼女と対峙した少女らは駆けた。
 橙色の光弾、ティアナの誘導弾が。
 薄青色の刃、幾筋も出現したソフィアの氷刃が。
 シグナムの艶めく女体を求めて飛び交った。





 スターライトブレイカー、オリジナルのなのはのものとは違い、ティアナの魔力光であるオレンジ色をした砲撃の残滓が大気を焦がしつつ終息し、消え行く。
 砲撃の余韻に震えるティアナに、喜色を溶かした念話が響いた。


《やりましたね、ティアナさん!》


 シグナムとの剣戟戦によって得たダメージが嘘のように、ソフィアは笑顔を浮かべて視線と念話を相棒に向ける。
 ティアナもまたこれに応えるように、戦意に満ちた不敵な笑みを見せた。


《ええ、大気中の魔力素がまだ少なくて威力はオリジナルの比じゃなかったけど、ちゃんと当てられた。これで戦況は》

《2対1》


 もはや揺ぎ無い圧倒的なまでの数的優位性を得た。
 確かにシグナムは強い、純粋空戦S−という高ランク騎士、ヴォルケンリッターの将である。
 その強さは恐らく最強の、現存する全魔道師の中でも指折りのものだろう。
 まともにやり合えば勝ち目は希薄極まりない。
 だが今、それは瓦解の呈を成す。
 2対1という単純な数の有利を得て、そして何より二人が編み出した“秘策”と相まって。
 この日の為に、この戦いの為だけに技と心を磨き抜いてきた乙女達は、口元に微笑を浮かべた。
 不敵な、それでいてどこか、悪戯が成功した子供みたいな愛らしい笑顔だった。
 さあ行こう。勝つ為に、大好きな人に大好きと言う為に。
 二人の乙女がまったく同じ事を思うのと、攻撃を仕掛けたのはまったく同じタイミングだった。
 ティアナの誘導弾、今度はヴァイスへの索敵を行っていない為に本気で行ったそれが群れを成す。
 ソフィアの氷結刃、彼女の先天技能である氷結変換資質により生み出された氷の刃が幾筋もの軌跡を描く。
 二つの相反する光が織り成す破壊の二重奏、妙なる調は空気を引き裂く鋭い合唱を伴い、眼前の艶めく女体を求めた。
 直線的な氷結刃の軌道、曲線的な誘導弾の軌道、二つの対照的な軌跡は都合23の連撃と成ってシグナムに襲い来る。
 が、それを銀閃と鮮やかな炎が阻む。
 瞬く間に実体を得て顕現した鞘とレヴァンティンの刃が炎熱変換によって生み出された灼熱を纏い、神速の斬撃によって迫る脅威を造作もなく薙ぎ払う。
 結われた緋色の髪を揺らし、爛熟と実った肢体が踊るように刃を繰る様はある種幻想的ですらあった。
 されど見惚れる者もなく、次なる戦手筋は成される。
 風が舞った。
 青い衣を纏い、黄金の髪を揺らした乙女の瑞々しい身体が吹きすさぶ風と舞う。



「アクセル、サードッッ!!」


 言葉と共に行使される加速、ソフィアの得意な肉体の運動速度を爆発的に上昇させる魔法術式。
 アクセルシリーズの三つ目だ。

171偽りの恋人:2009/08/15(土) 21:20:51 ID:Ha6LtPl.
 急加速したソフィアの肉体は一瞬でトップスピードに乗り、魔力の加護を受けた二つの剣閃を振るう。
 シグナムの真正面に斬り込む二筋の刃は、一つは首を、一つは脇腹を、左右から抜くように薙いだ。
 次なる刹那に踊ったのは、甲高い金属音と眩い火花、刃と刃が織り成す契り。
 猛る炎を纏った炎の魔剣が、超低温の冷気を纏った二つの剣閃を斬り上げた。
 凄まじい温度差の剣戟により生じた小規模な水蒸気爆発の炸裂が大気を震わし、駆け抜ける。
 頬を撫ぜる爆風を物ともせず、烈火の将は振り上げた愛剣の刃を斬り返した。
 正中線を上から下に、鋭く断ち斬る真っ向からの振り下ろし。
 刃に纏った魔力炎をブースターと化し、生じた速度は秒速500メートル、神速の領域である。
 まともな魔導師ならば反応する事すら出来ず、鋭き斬撃に意識を奪われるだろう。
 されどソフィア・ヴィクトリア・ルイーズとは凡百の魔導師など比べ物にならぬ天才だった。
 そして、今彼女が行使している加速魔法、アクセル・サードの力ならばこの程度の窮地など物の数ではない。
 シグナムに斬り掛かった際の前方への慣性を捻じ伏せ、ソフィアの肢体が左側方へ跳ぶ。
 一瞬で最高速度に達したうら若き美少女騎士の女体は、次なる刹那には烈火の将の背後へと移動。
 これがソフィアの加速魔法の三つ目、アクセル・サードの特性である。
 トップスピードは敢えて抑え、急加速と急制動により移動する、変幻自在の高速移動術式だ。
 動体視力や反射速度に優れぬ者ならば、その不規則な移動や生じた残像によってさながら分身したかと思う程の妙技である。
 その高速移動により瞬く間にシグナムの後ろを取ったソフィアは、迷う事無く掌中の愛剣を一閃。
 魔力強化の筋力により足元のアスファルトを踏み砕く程の踏み込み、黄金に輝く髪と青い騎士服を揺らして少女はシグナムの無防備な背に刃を振るう。
 両の剣を平行にして、平行に右へと流す横薙ぎの斬撃だ。
 左方から右方へと振り抜く一撃、シグナムからすれば背後から脇腹へと駆け抜ける刃。
 瞬間、生じたのは超硬質な金属同士が衝突する音。
 空気が火花を伴い爆ぜた後には、ソフィアの双剣とシグナムの持つ鞘の鍔競る様がある。
 先ほどの剣戟で顕現したレヴァンティンの鞘、左手に持つそれで背後からの一撃を烈火の将は防いだのだ。
 振り向く事もなく、おそらくは半分近くを“勘”という非科学的にして信頼性は折り紙つきの感覚で。
 一騎当千の凄まじい強さ。烈火の将、剣の騎士の名は伊達ではない。
 ポニーテールに結われた緋色の髪を振り乱し、シグナムが振り返る。
 切れ長の蒼き双眸が鋭く少女を射抜くように睨めば、右手の魔剣が唸った。
 雄の淫心をくすぐって止まぬ罪な女体を踊らせるように捻り、将が踊る。
 左の鞘でソフィアの双剣を弾き飛ばし、同時に右方向への旋回と共にレヴァンティンの斬撃を見舞う。
 さながら咎人を屠る断罪の断頭刃の如く、炎を孕んだアームドデバイスの刃は少女の首を横一文字に薙いだ。
 引き裂かれるソフィアの美しく白い首筋。
 されど、その像はすぐに掻き消える。
 シグナムに裂かれたのは瞬間的な加速によって生み出された残像だ。
 アクセル・サードの急加速により、既にソフィアの実体は遥か後方、ティアナのいる場所まで退いていた。
 現状での双方の戦力は互角だった。
 数的な優位を持つソフィアとティアナ、その二人を魔力と戦闘経験で圧倒するシグナム。
 戦闘力において拮抗する双方は、緊迫の二文字を以って対峙する。
 が、そこで一方が笑んだ。
 ソフィアとティアナの口元に、不敵な色を孕んだ笑みが浮かぶ。


(ほう……どうやらまだ何か一手隠しているようだな)


 眼前で笑む二人の少女の様に、シグナムは胸中で感嘆を込めて思う。
 スターライトブレイカーによるヴァイスへの狙撃も見事だったが、ここに来て二人はまだ奥の手を隠しているのだ。
 それほどまでに修練を積み、それほどまでに鍛え磨いた。
 果たして彼女らは短い間にどれだけの研鑽を重ねてきたのか。
 その全ては自分に勝つ為、恋の為。
 ヴァイスと偽りの恋人を演じて騙しているという事実がチクリと心を刺す。
 自分は不誠実だな、とシグナムは思う。

172偽りの恋人:2009/08/15(土) 21:21:33 ID:Ha6LtPl.
 動いたのは蒼き騎士服と金髪を揺らした少女。
 先ほどと同じ術式、アクセル・サードの残像付きの超加速だ。
 前後左右上下に不規則な残像の群れ、飛行魔法も交えた乙女の舞は様々な方向からシグナムへと迫る。
 それだけなら、彼女と何度も戦った事のあるシグナムにとっては珍しい事ではない。
 アクセル・サードの能力を用いて最大10の分身を伴って行う攻撃はソフィアの十八番だ。
 だが、その認識は即座に否定される。


「なッ!?」


 舞い踊る剣姫の姿は、10どころではなかった。
 双剣を振りかざしたソフィア・ヴィクトリア・ルイーズの姿、都合30の残像。
 ありえない、それは彼女の能力の限界値を遥かに超えた技だった。
 種は簡単に割れた。
 後方で魔法陣を多重展開している少女、オレンジ色の髪をツインテールに結ったガンナー、ティアナ・ランスター。
 彼女の得意とする魔法の一つ、幻術に他ならない。
 ソフィアが残像によって作り出した分身と、ティアナが生み出した幻術の映像はさながら舞い踊るようにシグナムへと襲い来る。
 幾重にも輝く刃の煌めきを前に、将は己を律した。


(いや、焦るな……どれだけ幻術で姿を眩まそうとも実体は一つ。魔力や質量は隠しきれん筈だ)


 目を鋭く細め、掌中の愛剣を握りながら感覚を研ぎ澄ます。
 鋭敏に、鋭敏に、五感と魔力による探知力を極限まで上げていく。
 どれだけ巧妙に幻術を駆使しようとも、決してソフィアの五体が霧散する訳ではない。
 接近し、攻撃する段階になれば必ず反応できる。
 シグナムにはその自信があった。
 刃を持ちて舞い踊る幾つもの乙女の姿、そのほとんどはこちらの意識を撹乱する為のフェイントだ。
 視覚だけではない、五感と魔力によるサーチの全ての感覚の全てを以ってシグナムは集中する。
 極限まで高まる緊張。
 そして数瞬の時を経て、時は来る。
 前方から迫る青い騎士服の少女と、手に握られた双剣の銀光。
 だがそれはフェイントだ。
 シグナムの、五感・経験・魔力サーチ、そして勘がそう告げる。

173偽りの恋人:2009/08/15(土) 21:23:13 ID:Ha6LtPl.
 ならば、陽動に隠れた本命は、


「こちらだッ!!」


 将の発した澄んだ残響が大気に響き渡った時、既に彼女の身体は動いていた。
 緋色の髪を、美しく引き締まった肢体を、銀色の刀身を、刃を包み込む業火を。
 円舞の如く華麗に舞わせ、燃え盛る魔剣の剣閃を振るい抜く。
 狙うは後方、シグナムの背後に接近し、双剣を構えた金髪の少女。
 一切の無駄を省かれた横薙ぎの斬撃は右方へ駆け抜け、今度こそ真一文字にソフィアを絶つべく閃いた。
 勝った。将はそう確信した。
 青い騎士服の少女は背後に回った慣性を完全に殺しきれず、双手の刃を振るうまでに一瞬のタイムラグがある。
 一瞬、それはこの勝負を決めるのに十分過ぎる時間だ。
 魔力により高速化された思考と動きの中、そんな事を考える。
 そしてレヴァンティンの刃は、シグナムの考えた通りにソフィアの身体を薙いだ。
 正確に、迅速に、荒々しく。
 青い騎士服、ロングスカートのドレスのような華麗な衣装の乙女を、炎の刃が引き裂く。
 だが、


(な、に?)


 将の胸中に湧く不可思議な感覚。
 愛剣を通して手に伝わった違和感に、シグナムは胸の底がざわめくのを感じた。
 レヴァンティンの鋭い刀身に生じたのは、防護衝撃を破壊する硬質な感触でもなく、騎士服を裂く衝撃でもない。
 粘り気を持ったような、どこか柔軟なモノを絶つ感触だ。
 視覚もまた異常を捉えた。
 目の前の少女の像が歪んだかと思えば、それは爆ぜるように霧散した。
 散った像の残滓は、オレンジ色の魔力光となって大気に溶ける。
 まるで色を持った淡雪の如く、美しい様。
 そして、風と共に風が去り行く。
 蕩けるような甘い残り香を持った金糸が、美しく輝く金髪が舞う。
 シグナムの横をふわりと風が抜け、頬を撫ぜた。
 同時に、剣を振り抜いて無防備となった女のを脇腹に凄まじい衝撃が生まれる。
 冷たく、鋭く、重く、速い、強烈な一撃。
 脳天に痛みを伝える電気信号が駆け抜けた後、一拍の間を置いて将は咽ぶ。


「がッッ!」


 魔力ダメージを受けた時特有の、痺れるような痛み。
 そして冷たい感触が脇腹に生じた。
 視線をそこに向ければ、引き裂かれた騎士甲冑から自身の白い柔肌が晒されている。
 戦闘時に常時展開しているフィールド系防護障壁と強靭な騎士甲冑は脆くも破壊され、騎士甲冑から覗く肌には淡い傷跡。
 霜の降りた騎士甲冑の断片から、これがソフィアの斬撃だと分かる。
 極低温の魔力を帯びた刃で障壁と防護服を破壊し、その下に隠された相手の肉体にダメージを与えるのが彼女の得意技。
 “フリージング・ブラスト”と呼ばれる剣戟だ。
 そんな思慮の最中にもシグナムの身体は動く。
 足元を踏み砕くほどに力を込め、魔力により生み出した推進力と重力ベクトルの操作で飛翔。
 体勢を立て直すべく一直線に空へと舞う。
 だが、それを遮る物があった。
 金糸を棚引かせた青い影、双剣を構えた氷結の剣姫、ソフィア・ヴィクトリア・ルイーズ。
 両の手に握られたアームドデバイス、アルズ・ファルトの二振りの刃が眩い陽光を受けて輝く。
 咄嗟に、本能的とも呼べる防衛本能がシグナムの手を動かした。
 今度は左手の、鞘を持つ手が突きを繰り出してソフィアの美貌を貫いた。
 魔力強化によって神速を得た至高の刺突だ。
 が、またしても結果は同じ。
 奇妙な感触を伴い像が爆ぜ、霧散し消える。
 そして、咄嗟に鞘を繰り出した左手に衝撃。
 フリージング・ブラスト特有の冷気を伴った痛みと共に、左前腕を覆う装甲が破壊されてしまう。
 その反動で鞘を手放し、将の顔は苦痛に歪む。
 痛みやダメージとは切り離された騎士の本能が身体を動かし、空中で急制動をかけて制止する。
 そしてここに至り、ようやく理解した。
 今相手にしている絶技の正体を。


「なるほど、そういう訳か……幻術とアクセル・サードの合体技……それに幻術で作り出した像には魔力弾のフレア(欺瞞装置)付きとは……」


 と、シグナムは一人呟く。
 それは、ソフィアとティアナの作り出した芸術的な技だった。
 アクセル・サードの高速移動で作り出して残像と、ティアナの作り出した幻術との乱舞。
 だがそれだけではなく、幻術で生まれた像の全てには魔力の反応を撹乱する欺瞞用魔力弾を内蔵している。

174偽りの恋人:2009/08/15(土) 21:25:03 ID:Ha6LtPl.
 幻術の映像と誘導弾を同時に操るだけでもティアナに掛かる負担は並大抵の事ではない、しかもその全てが高速で移動するソフィアの動きをトレースしているのだ。
 またそれはソフィアも同じであり、ティアナの幻術と足並みを揃えなおかつシグナムの虚を突く形での高速移動を絶えず続けるのは魔力的・肉体的に見てもかなりの負荷があるだろう。
 なんという高度な技能、なんという高度な連携。
 正に絶技の名を冠するべき絶妙なる技。
 これが二人の編み出した必勝の合体技“アクセル・ミラージュ(加速幻影)”である。
 シグナムの漏らした言の葉を聞き取ったのか、彼女に答えるように幾重にも分かれたソフィアの像が口を開いた。


「どうやらお気づきになられたようですね。ですが、私たちの編み出した技、“アクセル・ミラージュ”に死角はありません」


 そう言い放つソフィアの言葉に、シグナムの美貌が歪む。
 不敵な笑みの、どこか妖しげですらある微笑だ。


「面白い。その自信、正面から打ち砕いてくれる。さあ来い!」


 二つの斬撃の痛みも忘れ、将が裂帛の気合を以って吼えた。
 相手が強い程、繰り出す技が凄絶である程、シグナムの中の戦意は燃え盛る。
 心中の気迫と呼応するように、リンカーコアが唸りを上げて空気中の魔力素から魔力を生成。
 さらにその生まれ出でた魔力を炎熱変換により炎へと変える。
 炎を纏った妙なる剣の騎士はさながら戦女神のように美しく、歴戦の英雄のように勇ましい。
 対する少女らもまた然り。
 幾重にも残像と幻術で姿を増やして舞う、双剣の美少女騎士。
 その遥か後方で、幻術と誘導弾の制御による疲労に汗を流す双銃の少女。
 美しく勇ましい少女らは、将の言葉に応えた。
 自分たちの編み出した絶技によって。





 ヴァイスが目を開けたら、そこには輝く雲と青い空があった。
 彼の肉体は先ほど立っていたビルの部屋ではなく、その階下の道路に横たわっていた。
 全身を走る痺れと痛み、視界がぼやけ、四肢が上手く言う事を聞かない。
 だが、それでも意識は途切れていないし、気力を振り絞ればなんとか立ち上がる事が出来た。
 近くに転がっていた愛銃、ストームレイダーの銃床を杖代わりに、ふらつきながらもヴァイスは立つ。


「ああ……いてぇ」


 口から漏れたのは痛みへの訴え。
 倒れる前に見た光、鮮やかな橙色の閃光を思い出す。
 ティアナがなのはから修得した収束魔力砲撃、スターライトブレイカーの一撃。
 防護服はおろか防御障壁すら構築できないヴァイスが受ければ、間違いなく一発で終わる魔法の筈だった。
 だがしかし、彼は今も健在である。


「ティアナのやつ……収束に頼りすぎだっつうの……」


 言いながら、ヴァイスの視線は遥か遠方に立つ少女へと向けられた。
 スターライトブレイカーとは、収束魔力砲撃である。
 使用者自身の魔力だけでなく、周囲の大気中に拡散した魔力をも収束・集積する。
 それによって得られる魔力は凄まじい破壊の力を持ち、エースオブエース高町なのはの有する最大・最高の絶技として存在している。
 されど、今しがたティアナの放ったものは所詮その模倣に過ぎなかった。
 ヴァイスを探し出す為の索敵魔法、そして後に残るシグナムとの戦闘を想定し、少女は敢えて砲撃に回す自分の魔力を抑えた。
 代わりに用いたのは収束砲撃の収束砲撃たる所以、周囲から集積した魔力だ。
 そこに問題があった。
 いくら前線で戦っているソフィアとシグナムの持つ魔力が強大極まりないとは言えど、戦いにより周囲に散らされた魔力はそれほど濃くはない。
 つまり、ティアナの放ったスターライトブレイカーの威力はオリジナルとは比べられぬほどに弱かった。
 それが活路。
 先の砲撃、迫り来る閃光にヴァイスはティアナを狙う為にチャージした狙撃を放った。
 貫通特化のスナイプショットを一発一発の威力を減らして連射、バーストショットで以ってなんとか相殺を狙う。
 僅かに威力を減じた砲撃から逃れるように、ヴァイスはビルの窓から飛び出した。
 それでも極大の砲撃の全てを回避できる訳ではない。

175偽りの恋人:2009/08/15(土) 21:26:30 ID:Ha6LtPl.
 防護服すら纏えない彼の肉体を、魔力ダメージを伴う強烈な閃光が包み込んだ。
 身を焼く痛みと喪失感が、狙撃しか能のない彼を苛む。
 だが、それでもヴァイス・グランセニックの五体はしっかりと着地を果たす。
 ほとんど反射的に衝撃を受け流し、転がる。
 意識の寸断はなんとか免れたが、それでも着地の衝撃と砲撃の余韻から容易に立ち上がる事は出来ず、しばし彼の肉体は倒れたままとなった。
 そして、今に至る。


「さぁて……やられっぱなし、ってのは後味悪いよなぁ……ストームレイダー」


 よろめきながら、ヴァイスは手の愛銃に問うた。
 愛機、狙撃特化のライフル型デバイスは言葉の代わりにコアを軽く明滅して応答する。
 それは言わずもがな、肯定の意。
 狙撃手としての、遠距離射撃のエースと呼ばれた者としての意地があった。
 どんな時でも、どんな状況でも必ず最前線に弾を撃ち込み、敵を倒す。
 ちっぽけな狙撃手の誇り。
 だが決して譲れず、曲げられない、貫き通すべき男の筋だ。
 ヴァイスは顔を上げ、視線を遥か前方へと向ける。
 そこには一つの演舞があった。
 それは美しく激しい、剣の舞。
 緋色の髪を揺らして、蛇の如くうねる炎の魔剣、連結刃の刀身を薙ぎ払う烈火の将。
 輝く金髪を揺らして、無数の幻影と共に氷結の双剣を振るう美しい少女。
 幻想的な、時を忘れて魅入ってしまいそうな光景だ。
 しかし男は惑わない。
 彼はその場で膝を突く。立つ力を失った訳ではない、反撃の為にだ。
 右の膝を地につけ左の膝は立てる、左の肘をその立てた左膝の上に乗せ、銃を構える。
 右手による膝撃ちの構えだ。
 今にも崩れそうな身体に気力を振り絞り、ヴァイスは狙撃手としての己を洗練させていく。
 銃を固定する為に魔力強化された筋肉が、万力の如き力を発揮。
 僅かな揺れも殺された構えは、静止画さながらの様。
 そして狙撃手がスコープの先に捉えるのは、一人の少女だ。


「行くぜティアナ、こいつが俺の返礼だ」


 呟くと同時、炸裂音と衝撃を伴い金色の薬莢が弾けた。





 大地の上に吐き出された薬莢が舞い落ち、小気味良い金属の音が鳴る。
 だが次なる刹那、その残響は爆音に刻まれた。
 音の主は波打ちうなる、長大な刃の蛇。
 炎の魔剣レヴァンティンの二つ目の形態、シュランゲフォルムの燃え盛る連結刃である。
 しなる炎の刃はさながらのたうつ蛇の如き動きで大気を引き裂き、焦がす。
 高熱の炎を孕み、剣蛇は眼前の少女に襲い掛かる。
 描き軌跡は複雑にして、その動きは神速の域。
 だが、蛇が少女の青い騎士服を裂くことは叶わず、虚しく大気を薙ぐに止まる。
 レヴァンティンの刃が断ったのは、ティアナの幻術で生み出された幻のソフィアだ。


「くッ!」


 自慢の愛剣の一撃が空振りに終わり、シグナムの表情が苦く歪む。
 これで幾度目なのだろうか、もはや数え切れない。
 幻術と残像の織り成す無数のソフィアの影を追い、カートリッジの消費を対価に第二形態であるシュランゲフォルムを彼女は解放した。
 長剣から連結刃へとその姿を変えたレヴァンティンは恐るべき圧倒的な射程と威力を発揮する。
 烈火の将が持つ必勝の戦法。
 だが、それは功を成さない。
 唸りを上げた刃が斬り裂いたのは全て魔力で練り上げられた幻であり、本物のソフィアには1ミリとて触れなかった。
 そして、剣蛇の一撃を空ぶらせたシグナムの身体に二筋の銀閃が駆ける。
 残像と幻術が織り成した華麗な舞踏と共に奔る、アームドデバイスの斬撃だ。
 先ほどの攻撃後の、無防備なシグナムの脇腹目掛けて迫る刃。
 寸前で身を翻すが、完全に回避する事は叶わず。


「ぐあぁッ!!」


 苦痛への叫びと苦悶の表情。
 騎士甲冑の腹部に二つの斬撃により、二つの傷が穿たれたのだ。

176偽りの恋人:2009/08/15(土) 21:27:59 ID:Ha6LtPl.
 シュランゲフォルムのレヴァンティンは、射程距離と破壊力を爆発的に増す代わりに使い手の動きを著しく制限する。
 攻めに回るならば無双の魔剣だが、受けに回れば実に脆い。
 だからといって、シュランゲフォルムの間合いの内側に踏み込むなど普通ならば不可能だ。
 並みの使い手どころか、熟練のベルカ騎士でも容易には踏み込めない、のたうつ剣蛇の腹の中。
 そこに敢えて飛び込むなど、シグナムと十年来の友にして好敵手であるフェイト・T・ハラオウンとて躊躇するだろう。
 それはほとんど愚行。
 されど、今正にその愚行をうら若き少女騎士は遂行している。
 ティアナの作り出した幻術の囮、そして何より、振り乱される連結刃の軌跡を掻い潜る軽やかな身のこなしと動きを見切る動体視力。
 それらが、本来覆し難い実力差を凌駕しようとしていた。
 先の一撃に飽き足らず、青い騎士服の少女が刃を手に幾重もの幻影を従えて舞い踊る。
 前後左右、加えて上方、都合5方向からの波状攻撃だ。
 どれが残像で、どれが幻術で、それが本物なのか。
 それを考慮する暇など与えず、高速で迫る刃の煌めき。
 シグナムは反射的に反応する。
 存在する全てのソフィアの像目掛けて、燃え盛る連結刃を見舞った。
 しなやかな腕が振るわれ、そこから連なる刃の蛇が踊る。
 剣蛇は淀みない、そして無駄のない動きで大気を焼き刻み、迫るソフィアの像を全て引き裂いた。
 が、シグナムの手に乙女の身体を刃が捉えた感触は伝わってはこなかった。
 代わりに肌が感じたのは、危機を察知した時の粟立つ心地悪さ。


(……しまった!)


 将は心中でそう叫ぶ。
 が、時既に遅し。
 彼女の思考と肉体が反応する事すらできぬ、超高速の領域で閃く斬撃。
 刃に輝きは、吸い込まれるようにシグナムの背中を撫ぜた。
 瞬間、脳天まで突き抜ける痛みと衝撃。
 だが、痛みに叫ぶ声を噛み殺し、連結刃を通常の長剣へと戻しつつ将は跳躍して追撃を逃れる。
 緋色の髪を振り乱し、艶やかに実った肢体を大地の上に転がして、シグナムはなんとか距離を取った。


「はぁ……はぁ……」


 濡れた唇からは、ただ荒い息だけが零れた。
 体力、魔力、そしてカートリッジ、全てを消耗していた。
 まさか、ここまでの苦戦を強いられるとは想像もできなかっただろう。
 相手の少女らを舐めてかかった訳では断じてない。
 しかし、ソフィアとティアナの連携はシグナムの想像を遥かに凌駕していた。
 もはや余力はほとんどなく、将の顔は苦く歪む。

「さて、どうしたものか……」


 と。
 ここにきて後悔するのは、真っ先にティアナを潰しにかからなかった事だ。
 二人がアクセル・ミラージュを解放してから、幻術の元を断とうとティアナを狙ったがそれは徒労に終わった。
 ソフィアの剣戟がそれを許さず、何より距離を取られ過ぎていた。
 全ては少女二人の策略通りか。
 後がないな、と将は思う。
 だが、それは彼女だけではなかった。

《ティアナさん、そろそろ……》

《……はい》


 どこか弱弱しい念話の声を、二人は交わす。
 余力がないのは彼女らも同じだった。
 急加速と急制動を続ける加速魔法と、高性能な幻術魔法の同時行使。
 体力的にも魔力的にも負荷は果てしなく強い。
 二人の合体技、アクセル・ミラージュを続けられる時間はあと僅か。
 決着の時だ。

177偽りの恋人:2009/08/15(土) 21:29:38 ID:Ha6LtPl.
 もはや言葉や意思を交わす必要もなく、その結論は導き出された。
 ならば迷う必要もなく、動く。
 これで全てを終わらせるべく、今までよりもさらに数を増した幻影が舞った。
 シグナムは己の敗北をすら覚悟した。
 だが決して心は挫けまいと、燃え盛る愛剣を構え、将は視線に力を込めた。
 そして――それらの全てを一発の銃弾が撃ち砕いた。





 射線が生まれ、そして消えるのは一瞬。
 後方に控えたティアナと、ソフィアの身体が重なる瞬間だ。
 針穴よりもか細いようなその一点を、浅葱色の魔力弾が駆け抜ける。
 狙撃というただその性能のみを求め、極められた至高の一発。
 恐るべき狙撃手の慧眼、ストームレイダーの高感度スコープと合わさったそれは無数の幻術の中からパターンを識別する。
 そして、引き金は絞られる。
 大気を引き裂く鮮やかな緑の閃光が、必勝の軌跡を描いた。
 魔弾の射線がまず撃ち抜いたのは、青い騎士服の少女の腕。
 次いで着弾したのはオレンジ色の髪をした少女の額。
 双剣の一つを振り上げた細やかな乙女の左腕を撃ち、そのまま後方に駆け抜けてもう一人の少女の頭部に命中した。
 高速で舞い踊る騎士の少女ごと後方の銃手の少女を射止める。
 貫通効果を極限まで高めた一条の閃光は、一撃にて二人を撃ち抜く。
 神がかったどころか悪魔染みた、超絶の狙撃の一弾だった。
 もはや形成は逆転する。


「ティアナさんッ!?」


 魔力ダメージを被り、自由の利かぬ左手から剣を取り落としながらもソフィアが叫んだ。
 だが無意味だ。
 幻術は掻き消え、後方にいた双銃の使い手は倒れている。
 気を失い、もはや戦意も戦力もなく、ティアナの身体は力なく横たわった。
 撃破された仲間の姿に、ソフィアの顔が苦く歪む。
 先ほどの射撃が誰の者か考えるまでもない。
 ヴァイス・グランセニック。
 まだ倒れていなかったのか、まだ立ち上がるのか、まだ戦うのか、まだ立ちはだかるのか。
 ならば、今度はこの刃を見舞おう。
 少女の脳内で、アクセル・セカンドの術式とヴァイスを倒す戦術の流れが淀みなく構築される。
 が、それより早く閃く刃。


「くうッ!!」


 迫る炎の魔剣を、少女は片手の愛剣で受けた。


「どこを見ている、お前の相手は私だぞ?」


 少し顔を動かせば唇が触れ合いそうな距離で、シグナムが告げた。
 その将に、乙女は答える。


「そろそろお休みになられては? 剣が震えてますよ?」

「そういうお前も、だ。強がりは似合わんな」


 もはや二人の剣に力強さはなかった。
 今までの消耗が、一瞬の鍔競りで露呈する。

178偽りの恋人:2009/08/15(土) 21:30:47 ID:Ha6LtPl.
 双方の刃に生じた炎も冷気も、そして剣を握る力も、今は酷く弱弱しい。
 ソフィアもシグナムも、剣を振るえる限界が近いのだ。
 余力などなく、顔に浮かぶのは冷や汗と苦悶。
 されど、シグナムの顔には不敵なる笑みが浮かぶ。


「悪いが、この勝負は私の勝ちだ」

「何を根拠にそう仰るのですか?」

「根拠ならある。あいつは倒れなかった、だからお前はあいつの、ヴァイス・グランセニックの銃弾に倒れる」


 まるでそれが既に決定している事項であるかのように、彼女は言う。
 投げ掛けられた言葉に、ソフィアの眉根が歪んだ。
 少女は否定の言葉を返す。


「それはありえません。これだけ隊長と密着した状態で、まさか私だけを撃ち抜く事は彼に不可能です」


 なにせ、と加えながら言葉を続ける。
 嘲笑染みた残響を以って。


「かつて誤射をしたあの方が、この状況で当てられる訳がありませんわ」


 と。
 ヴァイスの過去の汚点を知る少女は言う。
 しかし、それへの否定は即座に成された。
 どこか口惜しそうに、寂しそうに、されどそれ以上に嬉しそうに。


「それはない。残念だったな、お前との決着はちゃんと私の手でつけたかった。だが最早それはない……」


 絶対の自信を、信頼を込めて、将は語る。
 まるでそれが永遠不滅の事項であるかのように。
 そして将は言葉を続けた、力強く。


「ヴァイスは、どんな時でも、どんなに離れていても必ずその銃弾を届ける――必ずだ」


 言の葉の残響と、閃光は同時だった。
 シグナムの緋色の長髪を僅かにかすめ、針の穴を通すような軌道を縫って、光の魔弾が駆け抜ける。
 精密狙撃のスナイプショットがソフィアの意識を刈り取るのは一瞬の事だった。



続く。

179ザ・シガー:2009/08/15(土) 21:32:33 ID:Ha6LtPl.
投下終了。
戦闘決着の回でした。

いやぁ、前回『次回で最終回』とか申しましたが、いかんせんバトル描写がやたら長くなったのでとりあえずここで投下しました。
そう遠くないうちに最終回は投下しますです。

180名無しさん@魔法少女:2009/08/15(土) 23:32:59 ID:rwBsGuT2
うひょー!
ヴァイスファンの自分としてはカッコ良すぎて悶絶しそうだぜ!

乙です
最終回期待してますよ

181名無しの蔓 ◆PVEksKylgI:2009/08/16(日) 02:34:38 ID:tcUu.JZk
鳥を変えました。
・エロ、ハード、陵辱あり
・オリ主嫌いはスルー推奨
・ラグナ、ヴァイス好きに先に謝罪
・救いはありません
・いやぁーお金って良いものですね(水野春男調)
・タイトルは殺し屋”名無し”

仕事の一 兄妹狩り(10)

 陸士隊共同墓地13号。13という聖王教会にとって縁起の良い数字が冠せられたこの
墓地は、陸士隊隊員でも殊勲勲章級の功績を挙げた者しか埋葬されないのが慣例だった。
 この墓地にヴァイス・グランセニックが埋葬されたのは、私の偽装工作が成功したこと
を意味している。
 八神はやて暗殺に失敗したヴァイスをベネリM4で始末した俺は、陸士狙撃部隊の隊員
が、常時携帯している実態弾デバイス”コルトVx”を腰のホルスターから引き抜くと、
バレットM82を置いていたあたりに向かって3発撃つと、私は死んだヴァイスの手に握
らせバレットM82を分解しケースに収め、その場を立ち去った。
 教会の屋上でヴァイスの死体を発見した所轄の武装隊の結論は、八神はやて狙撃犯を
追跡していたヴァイスが、狙撃犯との戦いの末に射殺されたであった。
 狙撃犯の素性については、ヴァイスの自宅のパソコンに残されていた資料から、”陸”の
レジアス派残党がはやて暗殺に動いているとの情報を”クラナガンでも3本の指に入ると
言われている情報屋”から得たヴァイスが、時間的制約から単独行動した事が明らかになり、
かっての上司を救うために、リスクを冒さざる得なかった彼の事情が、”海”上層部に評価された結果が、
殊勲勲章級の働きと認められ、この共同墓地に埋葬されることになっただ。
「来たようだな」
 共同墓地が見下ろせる丘の上に駐車たランドクルーザーの助手席に座った私は、双眼鏡で
ヴァイスの埋葬に立ち会っている八神はやてとヴォルケンリッターの3人と1匹、それにティアナ・ランスター、
スバル・ナカジマ、陸士狙撃班の同僚数名とラグナという寂しいものだった。
 参列者が少ないのは、ヴァイスが、”陸士のくせに海に魂を売った下衆野郎”と陸士で嫌われている
からだった。
ヴァイスと親しかった上司の高町なのはやフェイト・テスタロッサは、キャンセルできない仕事が入った
ため参列していなかった。
「始まったよ。マスター」
 双眼鏡を使う必要もない人工眼で、聖王教会の司祭が祭文を読み上げている様子を実況中継する002
の軽口を閉じさせようとした私は、ちらりと奴の顔を見たが、あえてやめさせなかった。
 優先すべきは、これからラグナに行わせること、”今回の仕事の仕上げ”であった。
「ラグナの盗聴器をオンにしろ」
「スイッチオンね」
 その声と共に002の口から土盛りされたヴァイスの墓の前で、ラグナが演じる茶番劇のライブが始まった。
「気ぃ落としたらあかんよ。ラグナちゃん」
「はい・・・・・・ 」
 小声で答えたものの、それっきり沈黙したラグナの暗い姿に耐えきれなくなったのか、はやてが沈黙を破った。

182名無しの蔓 ◆PVEksKylgI:2009/08/16(日) 02:39:27 ID:tcUu.JZk
仕事の一 兄妹狩り(11)

「これから、どうするん? 」
「親戚の叔父が、働くところを紹介してくれるそうです。お金がないですから」
「な、なんやて!? 遺族年金とか特別弔慰金とかは、でえへんの? 」
「あ、あの・・・・・・」
「残念ですがヴァイス陸曹は、陸士として今回の狙撃犯を追ったのではなく
個人で行動し たというのが地上本部総務課の見解です。ですから特別弔慰金
の対象となりません。更 に付け加えますとラグナさんは、ヴァイスの配偶者では
ないので遺族年金も支給されま せん! 」
 噛みつくように無言のラグナに代わってはやてに答えた狙撃班の男の声は、怒りに震えていた。
「そ、そんなん無いわ。理不尽すぎる・・・・・・ 」
「主、はやて興奮してはいけません。傷に響きます」
「はやてちゃん、落ち着いて」
「はやてよ〜。せっかく繋いだ腕が落ちたらヴァイスが犬死にだぜ」
 鉄槌の赤騎ヴィータの皮肉のこもった言葉で周囲の空気が凍り付いたのが盗聴マイクを、
通じても感じられた。
「わーってるよヴィータ、ヴァイス君のおかげで拾った命とこの腕、大事にせんとね。
 でも、この腕の落とし前はきっちりつけたる」
 冷たく言い放ったはやてを双眼鏡で確認した俺は、夜天の書の主というより、かって
幾多の次元世界を破滅に追い込んだ闇の書の主を思わせる顔を見てニヤリとした。
 これで”陸”と”海”の対立と軋轢が、ますますヒートアップしていくだろう。 
「ラグナちゃん、家が良い働き口探したる。今からうちに来ない? 」
「でも、叔父と話し合わないと、今日の夜、兄のマンションに・・・・・・来るんです」
 そこまで言うとラグナは、筋書き通り、涙を流して嗚咽を始めた。
「そうやね。急な話やものね。ええよ、明日にでも、私が行くから」
「そんな・・・・・・悪いです」
「ラグナちゃんは、気にせんでええの。あなたのことは、八神はやてが責任もって引き受
 けたる。大船に乗ったつもりでええよ」
 いくら機動六課の隊長を務めていたとはいえ、所詮は二十歳そこそこの小娘である。
ラグナの涙と嗚咽に見事に引っかかったはやての言葉を聞きながら、私は含み笑いを
こらえるのに苦労した。
 これで、準備は完了した。
 後は、仕上げを明日のミッドチルダ犯罪報道チャンネルで確認するだけだ。私は、00
2にランドクルーザーを発進させるよう命じた。
 次元航行旅客船”ペイルライダーⅢ”の二等客室B402のシートに腰を下ろした私は、
ルームサービスの来るまでの間、客室備え付けのモニターをオンにするとミッドチルダ犯
罪報道チャンネルにチャネルを合わせた。
「本日のミッドチルダ犯罪報道をお知らせします。本日、8時20分、陸士隊専用アパー
 ト”スプリングフィールドA11”401号室で爆発事故が発生しました。爆発現場か
 ら中年男性の死体が発見されました。なおこの爆発に巻き込まれ、隣室の403号室の
 ハリー・フラップさんとその妻ペニーさん、長男のジムちゃんが死亡しました。ガス爆
 発が原因と思われますが、部屋の所有者であるラグナ・グランセニック嬢の行方がわか
 りません・・・・・・ 」
 そのニュースを聞きながら、ルームサービスが持ってきたモーニングサービスのクロワッサン
を取り上げた私は、数ヶ月後、次元世界の闇ルートに流出するであろうラグナの裏ディスクを
見たはやての顔を想像して、含み笑いをこらえるのに苦労した。

                  了

相変わらず遅筆ですが、ご勘弁ください。
次の仕事は「エリキャロ」。
題名は仕事の二「首はいらない」です

183B・A:2009/08/16(日) 10:06:25 ID:RACz4itw
投下からだいぶ経っているし、もう良いかな?
投下行きます。


注意事項
・sts再構成
・非エロ
・バトルあり
・オリ展開あり
・基本的に新人視点(例外あり)
・タイトルは「Lyrical StrikerS」

184Lyrical StrikerS 第4話①:2009/08/16(日) 10:07:25 ID:RACz4itw
第4話 「ファースト・アラート」



機動六課が正式に稼働を開始して、2週間が過ぎ去った。
その間、スバル達は厳しい訓練に明け暮れていたが、それ以上のことは何も起きていない。
事件らしい事件も起きず、模擬戦と団らんが繰り返される平穏な日々。
最初はぎこちなかったフォワード4人も段々と固さが抜けていき、日常生活の中で各自の個性が出てくるようになった。
同期のキャロが相談を持ちかけてきたのは、そんなある日の早朝のことであった。

「ふぇ? 何て言ったの、今?」

「男の子と仲良くなる方法を教えてください」

「男の子って……………エリオのこと?」

「はい」

表情を固くしたまま、キャロは小さく頷く。
話は数日前まで遡る。
新人同士ということもあり、特に用事がなければ4人は行動を共にすることが多かった。
昼食や終業後の団らんも席を共にすることが多く、自然と互いを知り合う機会は増えていく。
そして、いつものように昼食の席を囲んでいたある日、スバルが不意に思いついたことを口にしたのだ。

『そういえば、エリオとキャロってフェイト隊長の保護児童なんだよね?』

『はい』

『兄妹みたいなものなんだよね……………うぅん、それにしては固いようなぁ』

『そ、そうですか?』

『2人とも、苗字や階級で呼び合っているしなぁ。そんなんじゃ肩が凝るよ。同期なんだし、もっと気楽にいこうよ』

『き、気楽って…………』

『話半分で良いわよ。どうせ、スバルのいつものお節介なんだから』

『兄妹なら尚更仲良くしなやダメだよ。『行くよキャロ!』、『うん、エリオくん!』みたいな感じにさ』

『な、名前………で……………』

『あれ、エリオってば顔が赤い。照れているのぉ?』

『そ、そんなこと…………失礼します!』

『あっ、行っちゃった………ねぇ、キャロはどう?』

『えぇっ!? えっと……………頑張ります』

それからキャロは、事ある毎にエリオのことを名前で呼ぼうとしたらしい。
だが、後一歩というところで萎縮してしまい、今日まで呼べず仕舞いなのだそうだ。
対するエリオは接し方こそ丁寧だが、その態度にはどこか壁があるように思えてならないらしい。
だから、普段から仲の良い自分とティアナに相談を持ちかけたのだそうだ。

「お願いします、お二人のように、仲良くなる方法を教えてください」

「な、仲良くなる方法って……………言われても……………どうしよう、ティア?」

「さあ? 名前を呼ぶなんて、そこまで難しく考えるものじゃないし」

「ティア、訓練校時代のこと、忘れたとは言わせないよ」

訓練校でコンビを組み始めた当初、ティアナは「慣れ合う気はない」と言って自分と距離を取ろうとしていた。
最初の頃はプライベートでも他人行儀な態度を崩さず、互いに名前で呼び合うようになるまで3ヶ月もの時間がかかったものだ。
最も、具体的にどうやって彼女の心を開かせることができたのかはわからない。
気がつけばティアナは自然と自分のことを「スバル」と呼んでいて、そのお返しに自分は彼女のことを「ティア」と呼んでいる。
本当にただそれだけで、特別なことなど何もしていない。積み重ねた時間以外に友情を育むものなどないのだから。

185Lyrical StrikerS 第4話②:2009/08/16(日) 10:08:04 ID:RACz4itw
「ねえ、協力してあげようよぉ」

「はいはい。まったく、お節介なんだから」

ため息を吐きながら、ティアナは梳かした髪の具合を確かめるように自分の頭を撫でる。

「別にエリオは、キャロのこと嫌っているわけじゃないんでしょ? 寧ろ、仲良くしたいって思っているように見えるけど?」

「それはそうなんですが…………その、同い年の男の子とお話したことって、ほとんどなくて………………」

「恥ずかしいってわけ?」

「どんな風に接したら良いのか、わからないんです」

それは2人を見ていて、スバルが常々思っていることと同じであった。
どうも2人は、同年代の異性と接した経験が少ないようなのだ。
他人行儀で大人びた言動も、年上の大人とばかり接してきたからで、年相応の子どもらしい一面を見せることはほとんどない。
だから、同い年の異性を前にしてどのように振る舞えば良いのかわからず、無意識の内に距離を置いてしまっているのだ。
2人とも遠慮がちな性格であることも、後押ししているはずだ。
ならば、ここは強引にでもこちらからアプローチを仕掛けなければ、現状を打開することはできないかもしれない。

「キャロ、とにかくまずは当たって砕けろだよ。友達作りは怖がったらダメ。
相手にぶつかっていくつもりで話しかけるの。勇気だよ、キャロ」

「ゆ、勇気………」

「そう、難しく考える必要なんてない。『エリオくん、おはよう』って言うだけ。やってみて」

「エ、エリ………エリオくん………」

「そう、その調子。もう1回」

「エリ…オくん」

「そうだよ、その感覚を忘れないで。ほら、次は実践だ。当たって砕けろ!」

「は、はい!」

意を決して、キャロは女子寮のロビーを走り去っていく。
恐らく、フリードと共に外で自分達を待っているエリオのもとに向かったのだろう。

「ねえ、何となく嫌な予感がするのって………あたしの気のせい?」

「ごめん、あたしもそんな気がしてきた」

発破をかけた手前、無責任に放り出すこともできない。
言い様のない不安を抱いた2人は、テーブルの上で磨いていた自分のデバイスを無造作に抱えてキャロの跡を追う。
案の定、寮の玄関を出た先ではこちらが想像していた通りの光景が繰り広げられていた。

「ルシエさん、ルシエさん、しっかり!」

「は、はひぃ………だ、だいじょうぶれす。だいじょ………」

「急に飛び出すから足を滑らせたんだ。医務室に行こう、打ち身の跡が残ったりしたら大変だから」

痛そうにお尻を押さえるキャロに肩を貸しながら、エリオは隊舎の方へと歩いていく。
去っていく2人の後ろ姿を見送りながら、スバルは2人に聞こえないよう小さな声で、傍らに立つ親友に囁いた。

「これは、前途多難だね」

「あんたのせいでしょ、全部」

ちなみにキャロのケガは大したことなかったが、この一件のせいで早朝訓練の時間が10分だけ短くなってしまい、
慌てずに落ち着いた行動を取ることをなのはに窘められたのは言うまでもなかった。







機動六課での訓練は基礎訓練である体力作りや基本スキルの反復が主で、それらと並行する形で模擬戦闘訓練が盛り込まれている。
大抵の場合は任務上の障害となるであろうガジェットを仮想敵としているが、最近では教導官であるなのはが
直々に対戦相手を務める弾丸回避訓練(シュートイベーション)も頻繁に行うようになった。
なのは曰く、演習での仮想敵は戦技教導隊の十八番であり、教導任務で何度も実施してきたらしい。
実際、誘導操作弾の扱いに長けたなのはを相手にするのは4人がかりでも厳しく、最初はすぐに撃墜された始めからやり直しということも多かった。
それでも繰り返す内に傾向と対策は少しずつ確立されていき、なのはの動きにもついていけるようになった。
そして、今朝もいつものように、早朝訓練の締めとして弾丸回避訓練が行われていた。

186Lyrical StrikerS 第4話③:2009/08/16(日) 10:09:33 ID:RACz4itw
「我が乞うは、疾風の翼。若き槍騎士に、駆け抜ける力を」

《Boost Up. Acceleration》

キャロの厳かな詠唱と共に、両手に装着したブーストデバイス“ケリュケイオン”から放たれた光が、エリオの持つストラーダへと吸い込まれていく。
頭上では、なのはが操る誘導弾を引きつけるために水色のレールを駆け回るスバルの姿があった。
ほんの数日前は10秒と保たなかったなのはの集中砲火を、スバルはティアナの援護を受けて必死に避け続けている。
2人がなのはを引きつけている間に、加速を強化したエリオが回避不能の一撃を叩き込む。
それがティアナの立てた作戦であった。
そのため、キャロはエリオと共に物陰に隠れていたのだが、ふとスバルの動きに違和感を覚えて眉間に皺を寄せる。
こうして離れたところから見ているとわかるのだが、今朝のスバルは跳躍や着地の際に体のバランスを崩しやすく、機動もどこか大回りだ。
ティアナも援護射撃のタイミングがずれており、スバルが何度か窮地に陥る場面が見られた。
ひょっとしたら、2人とも疲労が溜まっていて動きが鈍っているのかもしれない。
ならば、速攻で決めなければどんどん後が辛くなっていく。

「あの、かなり加速がついちゃうから…………気を付けて…………」

「大丈夫、スピードだけが取り柄だから」

頼もしげに笑みを浮かべ、エリオはストラーダの矛先を頭上のなのはへと向ける。
弾丸回避訓練は、制限時間を被弾なしで逃げ切るか、相手にクリーンヒットを入れることで終了となる。
エリオの機動力ならば、なのはに攻撃される前に懐に潜り込むことができる。
問題があるとすれば、堅牢な彼女の防御をエリオの一撃で貫くことができるかどうかという点だ。
恐らく、エリオは残った全ての力をこの一撃に注ぎ込むだろう。
勝負を決するのはやはりスピード。
なのはがバリアを張るよりも早く接近し、槍を叩き込むしかない。

(でも、失敗したら…………なのはさんなら、きっと動けなくなった三士を狙う。いくら速く動けても、
あんな至近距離で攻撃されたら………………そうだ、応援。応援しよう。『頑張って、エリオくん』って。
そうだ、これはチャンスなんだ。スバルさんが言っていたように、当たって砕けるんだ)

武芸者ではない自分には、直接刃を交える時の際どさは大よそ理解の範疇を逸脱している。
だが、どんな状況であろうと声援は力となるはずだ。初めて補助魔法を習得した時や、
卵から孵ったばかりのフリードを育てていた時も、周囲の人からの声援があったから自分は挫けずにいられたのだ。
たった一言で良い。
頑張ってと言えれば、きっと彼の力になれる。
それがきっと、彼と心を通わせる第一歩になれる。

「あ、あの………エリ…………」

『エリオ、今!』

「いくよ、ストラーダ!」

《Speerangriff》

白煙をまき散らしながら、エリオはなのは目がけて突撃していく。
ストラーダの魔力噴射機構を利用した突撃戦法だ。
直線方向に限定されるが、これを使えば空を飛べないエリオでも飛行することができる。
できるのだが、どうしてこんなにも間の悪いタイミングで突貫してしまうのだろうか?

(ティ、ティアさん……………)

あそこでティアナが号令をかけなければ、エリオに一声かけることができた。
ご丁寧にもなのはの気を引くためにフリードが火球まで吐いて、エリオが飛び出す隙を作っていた。
戦術としては決して間違っていない。寧ろ、余計なことを考えていた自分の方が悪いのだが、
やはり釈然としないものがあった。

(止そう、わたしがいけないんだし)

轟音と爆発が轟き、吹っ飛ばされたエリオが廃ビルの窓枠に捕まって落下を逃れる。
黒煙の向こうから現れたなのははどこか嬉しそうな笑みを浮かべながら、訓練の終了を告げた。
エリオの攻撃は、ほんの僅かではあるが彼女のバリアジャケットまで届いていたらしい。

「じゃ、今朝はここまで。一旦、集合しよう」

呼びかけながら着地したなのはが、バリアジャケットを解除して元の制服姿に戻る。
キャロも気持ちを切り替え、足下に降り立ったフリードを抱えてなのはのもとへと駆け寄る。
整列したスバルやティアナの顔色を伺うと、疲労の色こそあったがそれほど堪えているようには見えなかった。
こちらの杞憂だったのだろうか?

187Lyrical StrikerS 第4話④:2009/08/16(日) 10:10:08 ID:RACz4itw
「さて、みんなもチーム戦に大分慣れてきたね。ティアナの指揮も筋が通って来たよ。指揮官訓練、受けてみる?」

「いや、あの…………戦闘訓練だけで、いっぱいいっぱいです」

褒められたことに戸惑いながら、ティアナは首を振って遠慮する。
彼女はああ言っているが、チーム戦における戦績はティアナの指揮に助けられている部分が多い。
2週間前は指示も抽象的で動き辛かったが、最近は先の先を見越した戦術を披露し、
連携のタイミングもちゃんと計って合図を送ってくれる。エリオへの突撃の合図も、
自分にはほぼ完璧なタイミングであったように思えた。
もしもティアナがチームから抜けてしまったら、自分達はもっと無様な姿を晒していたかもしれない。

「きゃふ? きゅくるー?」

不意に、足下のフリードが鼻をヒクつかせながらキョロキョロと首を回す。

「フリード、どうしたの?」

「何か、焦げくさいような……………」

そう言われてみれば、何かが焦げた匂いが漂っている。
それも、そう遠くない場所から。
しかし、周囲を見回しても何かが燃えているような気配はない。
気のせいだろうか? そう思った刹那、ティアナが匂いのもとを見つけ出して声を上げる。

「スバル、あんたのローラー!」

「うわっ、やばっ!」

見ると、車輪と靴の接続部分がスパークしていて、僅かではあるが黒煙を噴いている。
慌ててスバルはローラーの具合を確かめるが、落胆した表情から損傷がかなり深刻であることを物語っている。

「しまった、無茶させちゃった」

「オーバーヒートかな? 後でメンテスタッフに診てもらおう。ティアナのアンカーガンも、結構厳しい?」

「はい、騙し騙しです」

申し訳なさそうに、ティアナは頭を垂れる。
どうやら、2人ともデバイスにかなりの負担がかかっていたようだ。訓練中の不調も、きっとそれが原因なのだろう。
聞いた話では、2人が使っているデバイスは訓練校時代に自作したものらしい。
いくらメンテナンスを繰り返しているとはいえ、3年も酷使し続ければ不具合の1つくらい出てきてもおかしくない。
だが、そうなってくると修理が完了するまで代わりのデバイスを用意する必要がある。
銃型はともかく、ローラー型のデバイスなんて珍しいものがすぐに用意できるだろうか?
そんな風に考えていると、何気ないなのはの言葉が耳に刺さった。

「みんな、訓練にも慣れてきたし、そろそろ実戦用の新デバイスに切り替えかな?」

「新デバイス?」

不意打ち染みた呟きに、新人達は目を丸くする。
新しいデバイス。
そんなものが用意されていたことに、4人とも驚きを隠せなかった。
そもそも、自分達が使っているデバイスは、一般的な近代ベルカ式アームドデバイスであるストラーダを除けば
手製の特注品と使い手の少ないブーストデバイスである。
そんなものを一から組み立てて、人数分用意するなんて太っ腹も良いところだ。
海上訓練施設なんていうものは他の陸士部隊では余り見ない代物らしいし、改めて機動六課という部隊の気合いの入りようが実感できる。

「じゃ、一旦寮に戻ってシャワー浴びて、みんなで朝ご飯にしようか? 新デバイスのことは、その後でね」

悪戯を企てている子どものような笑みを浮かべながら、なのはは陸戦シュミレーターの立体映像を消して隊舎へと歩き出す。
その後姿に疲労している気配は一切なく、彼女の基礎体力の高さを改めて思い知らされる。
善戦してはいても、やはり自分達は教導官であるなのはの足下にも及ばないのだろう。
他の3人も似たようなことを考えているのか、互いの目が合うと疲れた笑みを浮かべて先頭を歩くなのはの後を追いかけた。
やがて、隊舎の正面玄関まで戻ってくると、前方から見覚えのある黒塗りの自動車が走って来るのが見えた。
普段、六課の駐車場に停めてあるものだ。持ち主は誰かわからないが、六課の隊員の誰かなのだろう。

188Lyrical StrikerS 第4話⑤:2009/08/16(日) 10:10:47 ID:RACz4itw
「ルシエさん、こっち」

車に引かれては危ないと思ったのか、こちらの腕を取ったエリオに引き寄せられる。
僅かにバランスが崩れて肩がぶつかるが、エリオは特に気にする素振りを見せなかった。
ただ、頬が少しだけ赤くなっているのが印象的だった。

「あ、こっちに来る」

スバルの言葉に、全員が近づいてくる黒い車に注目する。
車はゆっくりとした速度で自分達の目の前に停止すると、運転席側の窓とルーフが開いて搭乗者の姿が露になる。
そこにいたのは良く見知った顔ぶれで、キャロも思わず驚きの声を上げてしまった。

「フェイトさん、八神部隊長!?」

「これ、フェイト隊長の車だったんですか?」

「うん、地上での移動手段なんだ」

「許可がなかったら、空は飛ばれへんし転送魔法も使われへんからね。
それより、練習の方はどないや? みんな頑張っている?」

はやてに訓練について話を振られ、スバルとティアナが言葉を濁す。
無茶のし過ぎでデバイスが不具合を起こしたことを気にしているのだろう。
はやてが不審がる前になのはが助け船を出し、訓練が順調であることを告げると、
はやては満足そうに笑みを浮かべた。

「そうか、それは頼もしいな」

「エリオ、キャロ、ごめんね。私は2人の隊長なのに、訓練を見てあげられなくて」

「いえ、そんな………」

「大丈夫です」

いつものように頭を撫でながら、申し訳なさそうな笑みを浮かべるフェイトに、
キャロとエリオは満面の笑みを浮かべて自分達は大丈夫だとアピールする。
一緒にいられないのは寂しいが、彼女にだって仕事はある。
自分達が訓練に明け暮れている間も、フェイトはある犯罪者を必死で追いかけているのだ。
それに集中できるように、自分達のことで心配などかけてはならない。

「わたし達は大丈夫ですから」

「フェイトさんはお仕事、頑張ってください」

「うん、ありがとう。お昼前には戻るから、お昼は一緒に食べよう」

「私は夕方になるから、それまではグリフィス君に任せている。何かあったら、その時はよろしくなぁ」

はやてが陽気に手を振りながら、フェイトの運転する車は中央に向けて走り去っていく。
穏やかで何気ないやり取り。
新人達の誰もが、今日も何事もなく終わっていくと思っていた。
それが甘い考えだと、心のどこかで思いながら。







目の前に積まれたパンの山がもの凄い勢いで崩されていき、キャロは唖然とした表情を浮かべていた。
早朝訓練があるため、フォワード部隊が朝食を取るのは他の隊員達よりも少しばかり遅い。
大体の場合、みんなが食事を終えてオフィスに向かう時分に食堂を訪れるため、
食堂はガランとしていて食事をしているのは自分達だけである。
だが、テーブルの上に並べられている料理の量は4人分を遙かに逸脱している。
山と積まれたパンに特大ボールに盛られたサラダや大鍋で煮込まれたスープ。
これらをたった2人の男女が食べ切るなどと、果たして誰が信じるだろうか?

189Lyrical StrikerS 第4話⑥:2009/08/16(日) 10:11:35 ID:RACz4itw
「気にしたら負けよ。スバルの大食いは今に始まったことじゃないし」

「いえ、そういうわけじゃ……………」

どちらかというと、スバルとほとんど同じペースで大量の料理を平らげていくエリオに対して驚いているのだ。
あの小さい体のどこに、あれだけの料理が入っていくのだろうか?
何か特別な魔法やロストロギアで、口の中に入った料理が虚数空間に消えていると説明されても、
何の疑問も抱かずに納得してしまうかもしれない。

(そんなものがあるのなら、わたしも使いたいな………………)

小皿に残った角切りのニンジンをフォークで突きながら、キャロは眉間に皺を寄せる。
好き嫌いは少ない方ではあるが、ニンジンだけはどうしても食べられないのだ。
あの独特の歯応えと甘みが苦手で、匂いも余り好きではない。
前に所属していた自然保護隊でも、ニンジンが食事に出された時はいつも残していた。

(けど、わたしだって武装局員になったんだから、ニンジンくらい…………………)

そうだ、このニンジンが何か酷いことをしただろうか?
自分を傷つけるような真似をするだろうか?
熱線を乱射しながら向かってくるガジェットに比べれば、こんな有機物の塊など怖くもなんともない。
意を決して、キャロは手にしたフォークの先端をニンジンに突き刺し、ゆっくりとした動作で口へと運ぶ。
瞬間的に広がる甘い芳香。
温野菜特有の蕩けるような舌触りと繊維が歯に絡まる独特の感覚が口の中に広がり、思わず息が詰まりそうになる。
飲み込めない。
どんなに噛み砕いても、舌がニンジンを喉の奥へと運んでくれない。
分泌された唾液はニンジンだった残骸をグチャグチャに溶かし、ペースト状のそれは顎の上下運動によって掻き回されて
更に口一杯に広がっていく。

「うっ!」

半ば反射的にコップを掴み、勢いよく水を飲み干す。
原型を留めなくなるまで噛み砕いたことが功を征したのか、ニンジンは水を嚥下する勢いに押されて食道へと流されていった。
何とか食べることはできた。だが、たった1個のニンジンを食べただけで息が上がり、冷や汗が全身を伝っている。
労力だけを見るなら、なのはの教導を受けている方がよっぽどマシかもしれない。

(ど、どうしよう………………)

まだ小皿の上には、苦手なニンジンが4つも残っている。
これを全て食べ切るまで、果たしてどれだけの時間を要するだろうか?
急いで平らげてしまわねば朝の業務が始まってしまうのに。

「ルシエさん?」

「ふぇっ!?」

少年の呼びかけが、キャロの落ち込み始めた意識を揺さぶり起こす。
振り向くと、夢中でパンを頬張っていたエリオがジッとこちらを見つめていた。
彼の視線は、自分が手を出したくても出すことのできない小皿の上の赤い悪魔に注がれている。
彼はそれだけで、自分がニンジンを食べられないことに気づいたようであった。
キャロの胸中で、焦りがどんどん増していく。
キャロにとって、ニンジンを食べられないことをとても恥ずかしいことであるため、
なるたけみんなには秘密にしておきたかった。なのに、あろうことか同じ分隊の同い年の男の子に知られてしまった。
この後、彼はどうするのだろうか?
見て見ぬ振りをするのか、励ましの言葉をかけるのか、自分の好き嫌いをからかうのか。
緊張が頂点に達し、キャロの矮躯がガチガチに固まっていく。
だが、エリオが取ったのは意外な行動であった。
彼はそっと周囲に目を配り、スバル達がこちらを見ていないこと確認すると、自分が使っていた空っぽの小皿と、
ニンジンが乗った小皿を素早くすり替えたのである。

(えっ?)

エリオは無言だった。
穏やかな笑みを浮かべ、さも当然のようにニンジンを口へと運んでいく。
キャロが呆然としている中、小皿の上のニンジンはあっという間になくなっていった。

190Lyrical StrikerS 第4話⑦:2009/08/16(日) 10:12:28 ID:RACz4itw
『後でエリオにお礼、言っておきなさいよ』

『えっ、ティアさん?』

不意に頭に響いた念話に戸惑いながら、キャロは自分の反対側に座るティアナの顔を見る。

『ちびっ子にも子どもらしいところがあったのねぇ』

『うっ…………す、すみません』

『別に責めているわけじゃないわ。あたしだって、小さい頃は嫌いなもの、みんな兄さんに食べてもらっていたし』

『ティアさん、ご兄妹がいたんですか?』

『兄が1人ね。こうして見ていると、まるで自分が子どもの頃を見ているみたい。
まあ、あんた達は兄妹にしてはちょっとだけ、遠慮し過ぎているけどね』

そう言って、ティアナは自分の分のパンを平らげて食事の後片付けを開始する。
ティアナがこんな風に話しかけてきたのは意外だった。
自分達に分け隔てなく接してくれるスバルと違い、ティアナはあくまで同期のフォワードというスタンスを崩さなかった。
もちろん、愚痴を零したり他愛もない談笑をすることは多いが、そういう時も大抵はスバルに話しかけることが多く、
自分達と話をする時は聞き手に回ることが多い。だから、彼女の方から念話を使ってまで話しかけてきたことが、
とても意外だったのだ。念話が切れる前の苦笑が、どこか昔を懐かしむような切ない響きだったのも強く印象に残っていた。

(兄妹…………か……………)

ティアナに言われた言葉を意識しながら、傍らで美味しそうにソーセージに噛り付くエリオの横顔を見る。
ティアナは言っていた、自分達は兄妹のようだと。
ひょっとしたら、彼も同じように考えていたのかもしれない。
自分の方がほんの少しだけ年上だから、兄として接しようとしてくれているのかもしれない。
だから、自分は彼に距離感を抱いていたのだ。
たった2ヶ月分の距離感。兄妹なら決して埋まることのない時間という壁。
もしも、本当にそうなのだとしたら、それはとても嬉しいことであった。
彼の中には、既に自分の居場所ができているのだ。
自分を家族として受け入れてくれているから、彼は兄であろうとしてくれているのだ。

(お兄ちゃん…………で良いのかな?)

ふと目が合い、どちらからというでなく笑みを浮かべる。
エリオが兄だとか異性だとか、そんなことはどうでも良くなっていた。
ただ、ちゃんとした繋がりがそこにあるということに、キャロは喜びを禁じ得なかった。







朝食を終えて通常業務が始まると、スバル達はリインに連れられてシャーリーの根城とも言える整備室を訪れていた。
そこで待ち構えていたシャーリーは、まるで自慢の子どもを紹介する母親のように、意気揚揚と4つのデバイスを並べていく。
一見するとただの宝石やカードのように見えるこれらが、自然界に働きかけて秘蹟を起こす魔法の杖などと、
いったい誰が思うであろうか?
まだ魔法という存在を知らなかった子どもの頃、小さな宝石が杖に変化する光景に目を輝かせたのは、
今でも色褪せない思い出だ。

「うわぁ………これが…………」

並べられたデバイスの内、蒼い宝石と白いカードを見下ろしながら呟く。
宝石の方が“マッハキャリバー”という名前で、自分に合わせて調整されたローラー型のインテリジェントデバイスらしい。
カードの方は“クロスミラージュ”というティアナ専用のインテリジェントデバイスで、アンカーガンと同じ機能を持った
銃型デバイスなのだそうだ。どちらも、今まで使っていたデバイスの延長として使えるよう、
形状などはできるだけ似せるように作ったのだそうだ。しかも、マッハキャリバーはリボルバーナックルとの同調機能が付けられていて、
収納と瞬間装着の機能も組み込まれているらしい。これで今まで手で持ち運んでいたリボルバーナックルを、
デバイスの中に収納して運ぶことができる。

191Lyrical StrikerS 第4話⑧:2009/08/16(日) 10:13:19 ID:RACz4itw
「あたし達の、新デバイス………ですか?」

「そうでーす。設計主任、私。協力、なのはさん、フェイトさん、レイジングハートさんとリイン曹長」

嬉しそうに片手を上げたシャーリーが、さりげなく自分の優秀さをアピールしてくる。
お喋り好きのメカフェチだとばかり思っていたけど、ただのメカフェチではなかったようだ。

「ストラーダとケリュケイオンは変化なしかな?」

「うん、そうなのかな?」

隣で待機状態である腕時計と羽根飾りのデバイスを見つめながら、エリオとキャロは首を傾げる。
すると、リインが待ってましたと言わんばかりにエリオの頭上に着地し、
両手を広げながら2機のデバイスについて説明する。

「違いまーす。変化なしは外見だけですよ」

「リインさん」

「はいですぅ。2人はちゃんとしたデバイスの使用経験がなかったですから、
感触になれてもらうために基礎フレームと最低限の機能だけで渡してたです」

「あ、あれで最低限?」

「本当に?」

「みんなが扱うことになる4機は、六課の前線メンバーとメカニックスタッフが技術と 経験の粋を集めて完成させた最新型。
部隊の目的に合わせて、そしてエリオやキャロ、スバルにティア。個性に合わせて作られた文句なしに最高の機体です。
この子達はみんなまだ生まれたばかりですが、いろんな人の思いや願いが込められてて、いっぱい時間をかけてやっと完成したです。
ただの道具や武器と思わないで大切に、でも性能の限界まで思いっきり全開で使ってあげて欲しいです」

「うん。この子達はね、きっとそれを望んでいるから」

魔法使いの中にはしばしば、デバイスに心があると語る者もいる。
特にインテリジェントデバイスは魔法の発動の手助けだけでなく、搭載されたAIによる状況判断を行い、
状況に合わせて魔法を自動詠唱したり主の性質に合わせて自身の機能を微調整することができる。
特に高度なものは自我ともいえる個性を持ち、会話や質疑応答だけでなく日常生活のサポートまでこなすことができる。
そんな鋼の相棒を手にする魔導師達は、共に過ごした経験を振り返って手にしたデバイスを友と呼び、
家族と親しむことが多い。彼らは一様にして、デバイスはただの道具ではなく、苦楽を共にする大切なパートナーなのだと語る。
自分も、彼らのようにデバイスと絆を育むことができるであろうか?
なのはとレイジングハートのように、固い絆で結ばれたパートナーに。

「ごめんごめん、お待たせ」

整備室の扉が開き、所用で遅れてきたなのはが姿を現す。
彼女の姿を見て、スバルは慌てて頭を振って思考をニュートラルな状態に戻した。
こちらの考えを見透かされて、変に思われたら堪らない。

「もう、すぐに使える状態なんだよね? シャーリー、説明を頼める?」

「はい」

そんなに自分の手がけたデバイスのことを話すのが嬉しいのか、シャーリーは浮き浮きと手を合わせながらなのはに微笑み、
背後の端末を操作してディスプレイに4機の新デバイスの画像を映し出す。
そこには、『出力リミッター』という単語と各デバイスの簡単なスペックが表示されていた。

「まず、この子達はみんな、何段階に分けて出力リミッターをかけているわけね。一番最初の段階だと、
そんなりびっくりするほどのパワーが出る訳じゃないから、まずはそれで扱いを覚えてみて」

「で、各自が今の出力を扱い切れるようになったら、あたしやフェイト隊長、リインやシャーリーの判断で解除していくから」

「丁度、一緒にレベルアップしていくような感じですね」

レベルアップ。
そう言われると何だかゲームみたいな感じがするが、何を目標にして鍛えていけば良いのかわかれば
訓練はずっとやりやすくなる。マッハキャリバーがどれだけ凄いデバイスなのかはわからないが、
それを使いこなせればきっと自分は強くなれる。そうすれば、もう誰も傷つけずに済むはずだ。

192Lyrical StrikerS 第4話⑨:2009/08/16(日) 10:14:42 ID:RACz4itw
(あれ、出力リミッター?)

聞き覚えのある単語に、スバルは眉をしかめる。
確か、いつかの食事の席でなのはやフェイトのデバイスにもリミッターがかけられていると聞いた覚えがある。
隣のティアナもそれを思い出したのか、自分に代わってなのはに質問をしてくれた。

「出力リミッターっていうと、なのはさん達にもかかっていますよね?」

「ああ、あたし達はデバイスだけじゃなくて、本人にもだけどね」

「リミッターをですか?」

「能力限定って言ってね、うちの隊長と副隊長はみんなだよ。あたしとフェイト隊長、ヴィータ副隊長とシグナム副隊長」

「はやてちゃんもですね」

「ひょっとして…………能力制限、ですか?」

いつだったか、なのはが部隊における魔導師ランクの保有制限について話していたことを思い出す。
あの時は、各部隊の業務遂行能力の均一化を図るために定められた制度だと言っていたが、
よくよく考えれば機動六課はその制限を大きく逸脱している。
何しろ、部隊長がSSランク、隊長陣も4人中3人はニアSランクで固められていて、
更に交替部隊や医務官にまで魔導師が在籍している。普通に考えれば、明らかに既定違反だ。

「1つの部隊にたくさんの優秀な魔導師を保有したい場合は、そこにうまく収まるよう出力リミッターをかけるですよ」

「うちの場合だと、はやて部隊長が4ランクダウンで、隊長達はだいたい2ランクダウンかな。
あたしの場合は元々S+だから、2.5ランクダウンでAA。だからもうすぐ、
1人でみんなの相手をするのは辛くなってくるかな」

それはつまり、今まではこっちより2ランク上の魔力しか出せない状態で模擬戦の相手をしていたということになる。
なのはは謙遜していたが、満足に力を振るえない状態で自分達4人の相手をしていたことに、スバルは驚嘆を禁じ得なかった。
そして、同時に些細な疑問が胸中を過ぎる。
こんな風に能力を制限してまで優秀な魔導師を集めて、はやてはいったい何をしようとしているのだろうか?
それだけレリックが危険度の高いロストロギアなのかもしれないが、ひょっとしたらそれだけではないのかもしれない。
何か、とてつもなく重大な任務が機動六課にはあるのかもしれない。
何れにしても、隊長陣が本来の力を発揮できないというのなら、それだけ自分達に負わされる責任が重くなるということである。
任務にあたる際は、気を引き締めて挑まねばならない。

「あの………そのリミッターって、ずっとかけたままなんですか?」

「良い質問だね、エリオ。リミッターだけど、解除自体は上司の許可さえあればできるよ。最も、回数制限があるけどね」

「隊長さんははやてちゃんの。はやてちゃんは直接の上司のカリムさんか、部隊の監査役クロノ提督の許可がないと……………」

言いかけ、リインは何かを思い出したように目を見開く。
隣に立つなのはもため息のようなものを吐いていて、シャーリーも表情を曇らせていた。
いったいどうしたのかと戸惑っていると、言い淀んでいたリインが3人を代表して口を開き、
中断していた説明を再開する。

「カリムさんとクロノ提督…………それと、地上本部防衛長官レジアス・ゲイズ中将の許可がないと、
リミッターを解除できないです」

「ゲイズ中将? あの、ゲイズ中将ですか?」

地上本部の権力者の名に、ティアナが驚きの声を上げる。
レジアス・ゲイズがレアスキルを毛嫌いしていて、本局を敵視していることは有名である。
なのに、そのレジアスが本局直属の部隊である六課の関係者として名を連ねている。
これは正に、天地が引っくり返ったかのような衝撃であった。

「厳密には、中将にリミッターを解除する許可は与えられていないだけどね。
あの人が持っているのは、リミッターを解除する許可を与える許可を出す権利」

「はい?」

言葉がこむら返りを起こしているような発言に、スバルは思わず聞き返す。
すると、なのはは更に盛大なため息を吐き、親友と地上本部中将が交わした約束について説明し始めた。

193Lyrical StrikerS 第4話⑩:2009/08/16(日) 10:15:40 ID:RACz4itw
「色んな裏技使って強引に部隊を設立したから、せめて筋だけは通すんだって。
ほら、うちって身内人事でしょ。だから、体面的にも無関係な人が抑止力でいてくれた方が良いって」

はやてだけでなく、なのはやフェイト達隊長陣のリミッターを外す際も、
レジアスに伺いを立てなければいけないらしい。
迅速な対応をモットーとする機動課において、これは非常に大きな足枷であった。
しかも、これはあくまで妥協案であり、場合によっては機動六課の指揮権を地上本部に
帰属するというプランも出ていたらしい。

「まあ、この話は心の片隅くらいで良いよ。それよりもみんなのデバイスのこと。
午後の訓練で使ってみて、微調整を………………」

なのはがそう言いかけた時、不意に機動六課隊舎内に耳障りなまでの音が鳴り響く。
周囲のディスプレイが赤く染まり、表示される“ALERT”という文字。
これは、一級警戒態勢を告げる信号だ。

「グリフィス君!」

『はい、教会本部からの出動要請です』

『なのは隊長!』

グリフィスとの通信に割り込むように、別のディスプレイにはやての姿が映し出される。
先ほど、グリフィスが教会本部と言っていたが、どいうやら彼女はそこにいるようだ。

『教会騎士団の調査部で追っていた、レリックらしきものが見つかった。場所は鋭利の山岳丘陵地区。対象は山岳リニアレールで移動中。
内部に侵入したガジェットのせいで、車両の制御を奪われている。リニアレール内のガジェットは最低でも30体。
大型や飛行型の未確認タイプも出てくるかもしれへん。いきなりハードな初出動や、いけるか?』

「山岳地帯のレールウェイ。まずいな、交替部隊隊長のシグナムさんを動かすことはできないし、
ヴィータちゃんも今日はいない……………それに新人達もスバルちゃんとティアナのデバイスを壊れていて、
とても出動できる状態じゃ……………」

「いえ、大丈夫です」

自分でも驚くくらい、ハッキリとした声を出すことができた。
全員が何事かとこちらを注視する中、スバルはまっすぐになのはの瞳を見つめ、
意を決して懇願する。

「デバイスなら、この子達がいます。やらせてください、なのはさん」

「けど、まだテストもしていないんだよ。疑う訳じゃないけど、もしもがあったら……………」

「大丈夫です。あたしなら………あたし達とこの子達なら、きっとできます。
それに、もう何もできずにジッとしているのは嫌なんです。戦えるチャンスと守れる力があるのなら、
使わせて下さい。お願いです、なのはさん」

ここで自分達が出動しなかったとしても、なのは達ならきっとうまく立ち回るだろう。
けれど、だれかが代わりに戦ってくれるからといって、戦いから逃げて良い理由にはならない。
目の前のチャンスを逃して後悔するのはたくさんだ。

「なのはさん、あたしからもお願いいます」

「ティア?」

「僕からもお願いします」

「ちゃんと………やりますから」

「エリオ、キャロ?」

次々と名乗り出る新人達に押され、なのはは困惑の表情を浮かべる。
だが、すぐに心を決めると、頼もしい隊長としての顔になって通信の向こうにはやてに向き直った。

「はやて部隊長、高町なのは一等空尉とフォワード4名、いつでも出動できます」

「なのはさん!?」

スバルの言葉に、なのはは茶目っ気のあるウィンクで返答する。
はやては一連のやり取りを見てどこか楽しそうな笑みを浮かべると、一度だけ咳払いをして居住まいを正し、
厳かな声で機動六課の出動を告げる。

194Lyrical StrikerS 第4話⑪:2009/08/16(日) 10:16:10 ID:RACz4itw
『シフトはAの3。グリフィス君は隊舎での指揮、リインは現場管制。なのはちゃんは現場指揮、
フェイトちゃんも呼ぶから現地で集合や。みんな、これが初出動や、気合い入れていくで。
機動六課フォワード部隊出動!!』

「はい!」

初めての出動、初めてのデバイス、初めての実戦。
不安や緊張がないとは言えない。なのはの前で啖呵を切ったが、内心ではかなりガチガチに緊張している。
移動中のヘリの中でも無言のままで、隣のティアナや反対側に座るエリオとキャロを気にかけることもできなかった。
エリオに励まされているキャロが、今だけは少し羨ましい。
だから、なのはが激励の言葉をかけてくれなければ、ひょっとしたこの出動で手痛い失敗をしていたかもしれない。

「危ない時は、わたしやフェイト隊長、リインがちゃんとフォローするから、おっかなびっくりじゃなくて思いっきりやってみよう」

そう、自分は1人ではないのだ。
隣にははティアナがいるし、エリオやキャロもいる。
空にはなのはやフェイトがいる。
そして、手の平の上にはこれから共に戦うことになる相棒がいる。
背中を守ってくれる人達がいて、共に力を合わせる仲間がいる。
これほど心強いことはない。

「初めましてで、いきなりになっちゃったけど、一緒に頑張ろうね、相棒」

握り締めたマッハキャリバーに話しかける声音は、既に震えを感じさせなかった。






                                                            to be continued

195B・A:2009/08/16(日) 10:17:22 ID:RACz4itw
以上です。
レジアスパートまで持っていきたかったなと思う今日この頃。
書けば書くほど味が出てくるあの親父はスルメかw
後、キャロ可愛いよキャロ。
ラストバトルは時間加速能力を手に入れたスカが一巡後の世界でキャロと戦うんだね(マテ

196名無しさん@魔法少女:2009/08/16(日) 21:52:24 ID:Q.GgysFk
投下乙です

エリオとキャロが良い感じですねぇ
というか、最近この二人がやけに人気あるようなwww
GJでした、次回も待ってます!

197名無しさん@魔法少女:2009/08/16(日) 22:24:09 ID:BQXqlnXA
>>179
GJ!
職人的なヴァイスがかっこいいです。

198 ◆6BmcNJgox2:2009/08/16(日) 23:04:27 ID:D8HHPAeg
じゃあそろそろ書きまっせ。

・毎度おなじみなのは×ジェイル系シリーズのバリエーションとしてウーノにもスポットを当ててみたり
・またおまえかとか言わないでorz
・今度はウーノに百合なんかもされちゃうなのは
・百合→3Pエロ
・キャラ崩壊注意
・毎度のごとくなのは孕まされENDなのでご了承注意
・このシチュ嫌いな人はここで引き返した方が良いと思いまする

199悪鬼ウーノの狂乱 1 ◆6BmcNJgox2:2009/08/16(日) 23:05:24 ID:D8HHPAeg
 この世界は『こんなはずじゃない事ばかりだ』と誰かは言ったが、男女の関係においてもそう。
『この人が何故あんな奴と結婚しちゃうかね?』と言う状況も過去の歴史においても決して少なくは無い。

 『高町なのは』と『ジェイル=スカリエッティ』 片や『時空管理局のエース』片や『大時空犯罪者』
一体どうすればこんなのが成立するのか? なんて突っ込みたくなる超異色のカップリングもまた
その歴史の一つに加えられる事となるであろう。

「良くぞ頑張ったななのは君。私に似て実に良い面構えをした子供では無いか。」
「お願い…皆には私の事は死んだって事にしておいて…。こんな姿…フェイトちゃん達には見せられないよ…。」

 父親と同じ紫色の頭髪と金色の瞳、そして悪そうな目付きの赤子を抱くなのはの目には一滴の涙が流れ落ちていた。
なのはは別に好き好んでこんな男と結ばれ、その子供を産んだわけでは無かった。

 管理局のエースと呼ばれ教導官を務める程のなのはであったが、その実力と美貌が逆に仇となり
ジェイルに見初められて捕らえられ、無理矢理結婚させられ子供まで産まされてしまったのである。


 ……とまあここまでは今までも何度か書いた良くある話(?)なのだが…ここに至るまでの一幕に
やや異なる所があったりもしたのである。


 なのはがジェイルに捕らえられて間も無く、ジェイルの研究室にてジェイルと彼の秘書でありナンバーズの
長女に当たるウーノの姿があった。

「ドクターのお考えにケチを付けるわけでも無いのですが…あの管理局魔導師を捕らえてどうするおつもりですか?」
「私は…高町なのは君を…妻として迎えようと思う。」
「は…?」

 ジェイルの言葉にウーノは絶句した。

「あの…ドクター? それは勿論ただの冗談ですよね?」
「冗談では無い。私は彼女が欲しいから態々捕らえる様に命じた。」
「そ…そんな事の為に…そんな事の為にあれだけのガジェットを犠牲にしたんですか!?
ガジェットだって決してタダでは無いんですよ!?」

 これには流石のジェイルに忠実なウーノでも思わず反論してしまいたくなるって物だ。
全く正気の沙汰では無い。が…ジェイルの目は真剣だった。

200悪鬼ウーノの狂乱 2 ◆6BmcNJgox2:2009/08/16(日) 23:06:26 ID:D8HHPAeg
「ああその通りだ。彼女を捕らえる為に投入し破壊されたガジェットの数が相当な物である事は承知。
彼女も我々に囚われこそしたが、我々の被った被害を考慮すればその実力は本物と言う事が出来るだろう。
あれだけの力を持った魔導師を管理局の犬で終わらせるのは実に勿体無い! 味方に引き込んだ方が
遥かに良いとは思わないかね!?」
「……………。」

 自信満々に語るジェイルにウーノは半ば呆れていたが…そこで彼女はある事に気付いた。
それはジェイルの股間がズボンの上からでも見て分かる程にまで勃起していたと言う事である。

「(え…? ド…ドクター!?)」

 ジェイルの勃起。それはウーノにとって衝撃的な事だった。確かに他の者からすればどうと言う事は無く
男なら仕方の無い生理現象だと思える事かもしれないが、長年ジェイルの秘書として最も近くから
彼を支えて来た彼女にとってはそうでは無い。何故ならば、ジェイルは今まで勃起をした事が無かったからだ。
美女揃いのナンバーズに囲まれる環境にいながら、ジェイルは彼女達に欲情はおろか勃起すらした事が無い。
だが、高町なのはに対しては違った。それどころか、なのはについて語るジェイルの姿は何処か
興奮している様にも見えていたのである。

「私とて不老不死では無いのだ。いずれは老いる。だからこそ私の後と継ぐ者を作る必要性がある。
それに見てみたくは無いかね? 最高の魔導師と最高の科学者とでどんな子供が生まれて来るかを…。」
「そ…それは………。」

 果たしてなのはが最高の魔導師なのか否かはともかくとして、ジェイルにとってはなのはが最高の魔導師なのだろう。
今にも別室に軟禁しているなのはに向けて突撃をかけんばかりに興奮したジェイルにやはりウーノは引いていた。

「お言葉ですがドクター、あのプレシア=テスタロッサとその娘のアリシアの例を見る通り、
親が優れているからと言って必ずしもその子供も優れているとは限りませんよ。それにドクター自身に
何かあった時に備えてドクターのクローンだって既に用意出来ているじゃありませんか。」
「だからだよ。既に私のクローンが計十二体、君達それぞれの身体の中に入っているんだ。
ならば一人位普通に産ませた子供がいても良いとは思わないかね?」
「しかし、そんな事をすればドクターの高貴な血が薄れてしまいます。」
「だがその分なのは君の血が混ざるのだ。そこから新たな可能性が生まれるかもしれない。」

 ああ言えばこう言う。今のジェイルの言動はウーノにとって眉を細める程だった。
ウーノを筆頭とするナンバーズは皆ジェイルの手によって作られた、いわば娘とすら呼べる存在である。
しかし、そんなウーノ達にとって父と言えるジェイルがなのはを妻として迎えようとする姿は
例えるならば娘よりも年下の女と再婚しようとする父も同然であり、もしこのままジェイルが本当に
なのはと籍入れちゃおう物なら、なのははウーノにとって年下の義母になってしまうわけで…
そこがやや気まずい物だった。しかし、ジェイルと真っ向から対立する様な事もやりたくは無い。
と言う事で…ウーノはある事を考えた。

「分かりました。ですが、その前に私なりに彼女が本当にドクターの妻に相応しい女性かどうか
試させてはいただけないでしょうか?」
「そ…それは別に構わないが…手荒な事だけはするなよ。何しろ私の子を産む大切なカラダだ。」
「ハイ…分かりました。では失礼します。」

 ウーノの考え…それは彼女なりになのはを試す事。それに関してジェイルからの許可も貰った。
後は行動に移すのみであった。

201悪鬼ウーノの狂乱 3 ◆6BmcNJgox2:2009/08/16(日) 23:07:20 ID:D8HHPAeg
 一方、なのはは厳重なAMFによって魔法が使用不能な状態になった別室に軟禁されていたのだが
そこにウーノがやって来た。

「私をここに捕らえて一体どうするつもりなの? 身代金目的? 私を何かの実験台にでもするの?」

 平静を装いつつもウーノに質問するなのはだったが…ウーノは一切答える所かその直後、
有無を言わせずになのはに抱き付きそのままベッドへ押し倒していたでは無いか!

「え!? んぶぅ!!」

 ウーノはなのはをベッドへ押え付けつつ、唇を奪った! 忽ちなのはの頬が赤くなる。
なのはは必死に手足をバタ付かせて抵抗していたが…ウーノはなおもなのはの唇を奪い続け、
まるで力が吸い取られ崩れ落ちる様に動かなくなってしまった。

「ぷはっ!」
「んぁ………んぶ…。」

 ウーノが呼吸の為に一度なのはの唇から離しても、なのはは抵抗する力も無くグッタリとベッドに
横になるのみであり、なすがままに再びウーノに唇を奪われるのみだった。

「ん…ん…ん…んんん〜〜〜〜〜。」

 一体何を考えたかウーノはひたすらになのはの唇を貪る様に奪い続け、抵抗出来ないなのはの
頬は赤く目からは一滴の涙が零れ落ちていた。

「んっ!」

 全身の力が抜けて動けないと思われていたなのはの身体が思わずビクッと震えた。
ウーノがなのはの唇を奪う事によって注意を唇に向けた隙に、ウーノの右手がなのはの股間へと伸び、
スカートは愚かパンティーの中にまで潜り込み…そのクリトリスを指で摘んでいたのである。

「んっ! んっ! んんんんん〜〜〜〜〜〜〜〜!」

 ただでさえウーノに唇を奪われ、舌までねるねると絡まされていると言うのに、
さらにクリトリスを弄られるという身体的・精神的な衝撃は説明し難い物があり、
なのははただただ身体をビク付かせて喘ぎよがるしか無かった。

「ぷはっ!」
「んぁ………ハァ……ハァ……ハァ……。」

 やっとウーノの唇がなのはの唇から離れた後も、二人の舌と舌の間には唾液の架け橋が伸びており、
またクリトリスを弄られた事によってなのはのパンティーは愛液でグッショリと濡れていた。
そうあってもなのはは頬を赤くし、目から涙を流しながら倒れこんでいるだけ。
そんな彼女の姿をウーノは見下すように見つめていた。

202悪鬼ウーノの狂乱 4 ◆6BmcNJgox2:2009/08/16(日) 23:08:05 ID:D8HHPAeg
「(何が管理局のエース? 如何に優れた魔導師とて性感帯を弄られればこの有様…。
やはりこの女はドクターの妻となる器では無い…………。)」

 これならばジェイルも一時の気の迷いとしてなのはを諦めてくれるだろうと、ウーノはその場から
立ち去ろうとしていたのだが…その時だった。突然なのはが蘇生し逆にウーノをベッドに押し倒して来たのだ!

「いきなり何をするの!? ビックリしちゃったじゃない! もしかして態々こんな嫌らしい事を
する為だけに私を捕まえたわけ!?」
「え!? ええ!?」

 ウーノは困惑した。先程までの愛撫によって喘ぎよがり、もうダメになったと思われていたなのはが
何事も無かったかの様に蘇生し、逆にウーノを押し倒して来たのだから…

「フェイトちゃんと言い貴女と言い…どうして女の子なのに皆私に対してそんな事するの!?
最近は同性愛がブームなの!? それとも私ってそんなに男の人みたいに見える!?
キィィィィィィ!! 悔しい! ならやってやる! 私もやってやるからぁぁぁぁ!!」
「んぶぅぅ!?」

 何と言う事だろう。今度はなのはが逆にウーノの唇を奪って来たでは無いか。
先程まではなのはを一方的に愛撫していたウーノだが…逆に愛撫される事には慣れていないのか
今度は逆になのはの思うがままにされてしまう。

「ほらほら、どうしたの? どうしたの?」
「え!? 何で!? どうして!? あああ!!」

 なのははウーノの唇を奪うのみならず、無理矢理に服を脱がしてその素肌を撫でて行くのである。

「あら、意外と良い肌触りしてるじゃない? 戦闘機人もこういうの感じちゃうの?」
「あ…ダメ……嫌ぁぁ………。」

 すっかり立場が逆転し、なのはのに一方的に愛撫されていたウーノだが…
彼女にも負けられない理由があった。

「わ…私だって…私だって…貴女なんかにぃぃぃぃ!」
「んっ!!」

 形勢逆転に持ち込むべくウーノはなのはの唇に吸い付いた。しかしなのはとて負けじと
ウーノの唇を吸い付き返す。ここから壮絶な百合合戦が始まった。

「んっ! んっ! んっ! んっ!」
「んん! んんん! んん〜〜!」

 なのはとウーノはお互いの唇を奪い合い舌を絡ませ合いつつ、乳房を揉み合い、膣口同士を擦り合い
とにかくお互いの性感帯を弄り合う。こんな事をして何になるのかは恐らくやっている当事者すら
もはや分からないのだろうが…今更引く事は出来なかった。そして………

203悪鬼ウーノの狂乱 5 ◆6BmcNJgox2:2009/08/16(日) 23:09:00 ID:D8HHPAeg
「アッああああああああ〜〜〜〜〜!!」

 ついにウーノは絶頂を向かえ、イッてしまった。そして膣口から潮を吹きながらベッドへ倒れこんでいた。

「ま…参りましたわ…私の負けです……。」
「やった! 勝ったー!」

 とりあえず勝利を喜ぶなのはであったが…………そこでウーノが頬を赤くしながらなのはの手をギュッと握った。

「今ならドクターが貴女を気に入るのも分かる気がします。管理局魔導師にしておくには惜しいですわ。」
「え…? それって…どういう事…?」

 ウーノの言葉になのはは一時困惑するが、そこへ突然ドアを開けて現れたのがジェイル本人。

「話は聞かせてもらった。ならばもう別に構わないのだな?」
「ハイ! ドクター!」
「え!? な…何をする気なの!?」

 ジェイルが現れるや否や、ウーノは素早くなのはの背後に回りこみ羽交い絞めにした。
それには慌てバタ付かせるなのはだが、そんな彼女の太股をジェイルが両手でガッシリと掴んでいた。

「フフフフ…なのはさん…いやこれからはあえて奥様と呼ばせて頂きます。貴女はドクターと結婚するのです。」
「け…結婚!? だっ誰が貴方みたいな犯罪者なんかと!!」
「良いでは無いか。管理局にいた所で君を抱いてくれる男などいまい? それに住めば都と言う言葉もあるでは無いか。」
「い…嫌ぁぁぁぁ!! 離して! 離してよぉぉぉ!!」

 なのはは囚われの身となってはいるが、一応は管理局のエースなのだ。それが何が悲しくて時空犯罪者である
ジェイルと結婚させられなければならないのだろう。必死に抵抗するなのはだが、ウーノに羽交い絞めにされる
のみならず、さらにジェイルに太股をつかまれ大きくM字開脚までさせられてしまった。

「健康診断の結果過去に大怪我をした形跡がありますが、何の問題もありません。」
「そうか。ならば心置きなく抱く事が出来るな。」
「え!? 健康診断って…………。」

 ここであえて説明するとするならば、先にウーノが行ったなのはに対する百合行為。
あれこそ百合&なのはがジェイルの嫁に相応しいか否かのテストを兼ねた健康診断でもあったのである!

204悪鬼ウーノの狂乱 6 ◆6BmcNJgox2:2009/08/16(日) 23:09:51 ID:D8HHPAeg
「ですからドクター、安心して奥様にお子を産ませてあげてくださいませ。」
「いっ嫌ぁ! やめて! 離して! 誰が貴方なんかの子供を! 産んでたまるもんですかぁぁぁ!」
「管理局に未来など無いよ。後々の事を考えればここで私と一緒になった方がずっと幸せかもしれないぞ。」

 もはや今のなのはに逃げ場等無かった。百合に対しては百戦錬磨と呼んでも過言では無い程にまで
百合慣れはしていても、未だ男を知らぬ処女であったなのはにとってジェイルに抱かれる事は一溜まりも無かった。

 ましてやジェイルはドクターの肩書きは伊達では無いとばかりに医学知識をフルに活用した愛撫を
情け容赦無く行って来るのだ。これもやはりなのはが今まで体験して来た百合とは勝手の違う物であった。

「あ…あ…あぁ…んぁぁぁ…。」

 母・桃子の股から生れ落ちて約十九年。生まれて初めて味わう男の味は、十年前に体験した
魔法との出会い以上の衝撃であり、未だ男を知らなかった処女の身体を少しずつ穢して行った…。
それのみならず、背後からなのはを押え付けていたウーノまでもがその乳房を鷲掴みする始末。

「見て下さいドクター! 奥様のこの胸を!」
「うむ。確かにお前の言う通りだ。これならば良き子を育てる事が出来よう。」
「嫌! やめて! 離して! そんな強く握らないで! オッパイパンクしちゃうぅぅ!」

 ジェイルに見せ付ける様になのはの乳房を揉み解すウーノになのははビクビクと痙攣してしまう。
これがただ単にウーノと一対一の状態ならば物ともしなかったであろうが、ジェイルに
愛撫されている最中であった今は違う。ジェイルとウーノのチームワークがなのはをさらに
追い詰めていたのである。

 そしてついにこの時が来た。ジェイルの勃起した肉棒がなのはの処女膣口に押し当てられたのだ。

「あ……こ…これが…男の人の……おちんち………。」
「フッフッフ…なのは君…私をここまで勃起させたのは君が始めてだ。だからこそ君は私の妻となる資格がある!」

 未だ男を知らぬ処女であるなのはにとって父・士郎、兄・恭也を除く男の肉棒を見るのは初めてであり、
しかもジェイルの肉棒はなのはの記憶に残る士郎・恭也のそれよりも遥かに巨大で固そうだった…。
さらに言うならば、ジェイルの肉棒をそこまで勃たせた要因はなのは自身であると言う事。
そして、その先端の固いカリがなのはの処女を強引にこじ開けて行くのである。なのはは必死に
処女を締めて侵入を防ごうとするが…無駄だった…。

「さあ行くぞなのは君! この一発こそ君の運命を変える一発となろう!」
「え!? それ挿れるの!? 無理無理! 挿らな………いぃ!!」

 次の瞬間、なのはの未だ男を知らぬ処女を……ジェイルの男が…貫いた!! 穢した!!

205悪鬼ウーノの狂乱 7 ◆6BmcNJgox2:2009/08/16(日) 23:11:50 ID:D8HHPAeg
「うっ………くっ…………。」

 今まで女同士の交わりしか知り得なかったなのはにとって…彼女の処女を奪った一撃は想像を絶する物だった。
女同士の百合とは根本的に違う……これが男……。そしてなのはが男を知ると同時にジェイルもまた己の肉棒で
なのはの処女を貫き、切り裂き、抉る。それはなのはの足先から脳髄まで稲妻が走るかの様な衝撃を与え、
その処女であった肢体を女へと改造して行くのである。

「あっ……うっ……あっ……。」
「ほらほら、どうしたどうしたなのは君?」
「奥様しっかりしてくださいな。」

 前からジェイルが、背後からウーノがなのはを煽る中…なのはは必死に耐えた。いや耐えようとした。
なのははまだ処女でいたかった。例え時空犯罪者であるジェイルに処女を奪われようとも、心の処女だけは守り通す。
その為にはこの痛烈な愛撫にも耐え抜く他は無い。

「あっ…あっ…あっ…。」

 しかし、ジェイルはその間も情け容赦無くなのはの膣を突き続けていたし、ウーノは背後からなのはの
乳房を揉み解し、その頬に口付けを繰り返していた。この二人の息の合ったチームプレイにもなのはは
必死に耐えようとするが…ジェイルが突けば突く程なのはの処女は穢されて行く。

「うっ……くっ……おちんちんが………私の膣内を………ゴリゴリ…ビクビクって…………あっ……。」
「最初は痛かった様子だが、そろそろ感じて来たかな?」
「構わないんですよ? 奥様…。正直におっしゃっても…。」

 ジェイルとウーノは一応はなのはに優しく話しかけていたが、だからこそ逆に信用出来ない。
だからこそなのははなおも必死に耐え続ける。しかし、そうあってもジェイルとウーノの愛撫が終わるはずが無く、
なのはの肢体もまた処女から女へと改造されて行く………

「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…。」

 二人の愛撫に耐え続けるなのは。しかしその頬は真っ赤にそまっていたし、全身は汗だく。さらには口から唾液が
垂れ流れてしまう程にまで…なのはの肢体は追い詰められていた。例え心では処女でいたくとも…身体の方が
その心に付いていけない…。むしろ身体がなのはの心の足を引張って行く…。何故なら…なのはの肢体は既に
処女では無く………女になってしまったのだから………。

「あっ……ああああ………も……我慢…………でき……な………あぁぁ……。」

 ウーノに乳房を揉まれ、ジェイルに突き上げられる中、なのはの身体が反り返った。そして顔を天井へ向け
小刻みにブルブルと身体を痙攣させ始める。虚ろとなったその両目からは一筋の涙が流れ落ち………
口からはまるで犬の様に唾液にまみれた舌が垂れ伸び……………

206悪鬼ウーノの狂乱 8 ◆6BmcNJgox2:2009/08/16(日) 23:13:00 ID:D8HHPAeg
「んはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 なのはの喘ぎよがる美声が部屋中に響き渡った。そしてこれこそがなのはの降伏宣言。
なのはがその身のみならず心までもが処女を失い…女にされてしまった事を示す証明。
これでもうなのはは管理局には帰れない。当然教導官も廃業。これからはジェイルの望む通り
彼の妻としての生き方を余儀無くされてしまった。もう彼女は処女では無い。女になってしまったのだから…

「はっはっはっはっ! 美しい! 美しいぞなのは君! 私はこうまで美しい女性を今まで見た事が無い!
まして君は人為的な操作を受けずに自然な方法で誕生した人間であるからなおさらだ!
やはり君こそ私の妻となり、その子を産むに相応しい女性だ!」
「ドクターの言う通りです! 私はドクターのみならず奥様にも付いて行く決意ですわ!」

 この一発が…文字通りなのはの運命を大きく変えたと言って良いだろう。この一発さえ無ければ
なのはは今も管理局で百合好きの者達の顔色を窺う生活を続けていたのかもしれないが…………
そんな彼女の運命を大きく変えたジェイルの一発が………………

 なのははジェイルに抱かれ処女を失った。しかし…得た物もあった。それは母性。
かつてなのはが持っていた処女性とはまた異なる物。そしてもう一つ…。

 ジェイルの精液がぶちまけられなのはの膣・子宮を満たした後、その内の一つの精子がなのはの卵子と
結合し…二人の血を受け継ぐ新たなる命が芽生える事となる。かつてなのはの父・士郎と母・桃子が愛し合い、
二人それぞれの精子と卵子が結合する事によってなのはと言う命が生まれた様に…………なのはもまた
ジェイルの子供を……産んだ………。なのはとジェイルの子供もまたいずれ大人になれば
誰かと子供を作ったりするのだろう……。その子もまたやはり大人になれば………………。
人の歴史とはこの繰り返し。人はこうして世代を重ね続けて今日まで生き続けて来た。そしてこれからも…

 とか何とか格好良い事書いてはみたものの…要するにこうして冒頭部分に続くわけである。


「私も管理局のエースなんて呼ばれて持ち上げられてたりしたけど…所詮は女だったって事だね。
女だから…犯罪者の子供だって産めちゃうんだ……。これじゃあ管理局には帰りたくても帰れないよ…。
せめてこの子が…私似なら…何とかして誤魔化す事も出来たかもしれないけど……ジェイルと同じ
紫の髪と金色の瞳…そして悪そうな目付き……これじゃあどうやっても誤魔化せないよ……。」

 自身の乳房に吸い付く息子の顔を見つめながらなのはは悲しげに呟く。そして同じく部屋にいた
ウーノに目を向け、悲しげな目で訪ねた。

「ねぇ……私の事……管理局には死んだって事にしておいてよ! 私…怖いの…ここでジェイルの
子供産んじゃった事が皆に知られたら……フェイトちゃん…どんな顔をするか…。怖い…怖いよ…
物凄い形相で私に迫ってくるフェイトちゃん………嫌だよ……そんなの嫌……。」
「大丈夫ですよ。ドクターが奥様の事を大切にしていらっしゃるのは奥様が良く分かっている事では
ありませんか? ましてやそんな事はドクター自身の首を絞める事にもなるんですから。」

207悪鬼ウーノの狂乱 9 ◆6BmcNJgox2:2009/08/16(日) 23:14:26 ID:D8HHPAeg
 これはなのはがジェイルに女にされて…その子供を産んで以来の悩みだった。
今の姿を管理局の皆が見たらどう思うだろう。裏切り者として責められるに違いない。
それが怖くてたまらない……と…ジェイルの子を産んでしまった罪悪感からか、この様に
時折情緒不安定になる事もまた度々あり、そんななのはを支えるのもまたウーノの役目だった。

「ジェイルだって何時も怪しい研究ばかりやってるけど…まさかこの子まで実験台にしないよね!?
私嫌だよ! 痛い思いして産んだこの子が変な実験台にされて体弄られるなんて……。」

 なのははジェイルの子供を産んでしまった事に強い罪悪感を感じながらも…
一方で自身が苦しい思いをして産んだ我が子を憎む事が出来ず、むしろ愛してさえおり…
その矛盾がまた彼女を情緒不安定にさせる要因の一つでもあったのだが、
そんななのはを支えるのもやはりウーノ。

「それも大丈夫ですよ。ドクターは奥様がお産みになったお子様に関しては普通に育てると
仰っていましたから。」
「本当なの…? でもウーノさんは良いの…? 私がここに来る以前からウーノさんは
ずっとジェイルと一緒にいたんでしょ? 私の事…嫉妬してるんじゃないの?」

 あの日以来、ウーノはずっとなのはに優しくしてくれる。だからこそなのはは
何故こうまでウーノがなのはに尽くしてくれるのかが分からなかった。むしろジェイルに一方的に
やられたとは言え、ジェイルの子を産み妻にまでなってしまったなのはを恨んでも良いはずなのに…
しかし、ウーノは優しく微笑むのみだった。

「それは……ドクターだけじゃなく、私もまたなのはさんの事が好きになったからです。
だからこそ私は貴女にも付いて行けるのです。ささ、そろそろ落ち着いて下さいな。
奥様がその様ではお子様も不安になってしまいますわ。」
「そ…そうだね…。」

 とりあえずなのはは落ち着いたが、この後も何かの拍子で情緒不安定になるのかもしれない。
その時なのはを落ち着かせる事が出来るのはウーノだけだ。頑張れウーノ。負けるなウーノ。
君こそは世界の希望だ。


 ちなみに、百合っぽい健康診断は今でも行われているそうな。

                        おしまい

208 ◆6BmcNJgox2:2009/08/16(日) 23:15:37 ID:D8HHPAeg
全然悪鬼でも狂乱でもありませんね…。後半のウーノは殆ど空気だしorz

実は、ウルトラファイトに「悪鬼ウーの狂乱」ってサブタイトルの回がありましてね…
それをタイトルだけパロってウーノを題材に何かやろうと考えていたんですけど
内容が中々思い付きませんでね…なのはをどうするか? を巡ってジェイルとウーノが
マジバトル(ただしプロレスで)とかも考えてたんですけどw

209名無しさん@魔法少女:2009/08/17(月) 21:34:21 ID:puYr.l66
>>208
なんか偉いことなのかエロイことなのかよくわからんがとりあえず
なのは×ウーノもありだと思える今日この頃w
GJした

210亜流:2009/08/18(火) 01:57:29 ID:h2bKYLkE
投下行きます。
土〜日曜に投下予定でしたが、色々あって遅れました。


一応注意事項

・当分非エロです。
・ユーノ×アルトです。ユーアルと略するとアルフと区別つかない・・・
・細かいところを捏造してますが、本編には特に影響はありません。
・一人称が交代するごとに話数が進みます。
・モノローグとかくどいですが勘弁してください。
・NGワード(ピポーン)『こんなはずじゃなかったふたり。』

211こんなはずじゃなかったふたり。第6話 YUNO View:2009/08/18(火) 01:58:41 ID:h2bKYLkE
「確か六課宿舎がアースラにあったとき、廊下ですれ違ってご挨拶したはず……ですよね?」
「は、はい! そうです!」
「よかった……お会いしてご挨拶も交わしたはずなのに、忘れててすみませんでした」
「いいいいえいえ!? あたしみたいな下っ端陸士のことをお見知り置き下さっただけでも光栄ですっ」
アルトさんは恐縮したのか、いきなりブンと頭を下げる。
しかし勢い余ったのか、頭をハンドルのクラクションのところにぶつけてしまった。
プッと鳴るホーンの音と共に、額からゴンという景気のいい音がした。
見てみると、ぶつけたところが少し赤くなっている。
ぶつけた衝撃で急ハンドルにならなかったのは不幸中の幸いかもしれない。
「だ……大丈夫ですか? 治療魔法、かけますか?」
「ぁ痛たた……へ、平気です」
ベルトを弛めて近づこうとするのを彼女に手で制される。
そうは言うけど、額を押さえた状態で涙目になっていたら説得力が無い。
っていうか片手でハンドル操作は危ない。
「それに、この程度のことでスクライア司書長のお手を煩わせたらあたしが周りから怒られます」
「いやあの……ボクはそこまで畏まられるほどの地位なんて無いですよ」
事実、ボクの使える権限なんて書庫業務以外では高が知れている。
管理職待遇ではあるけど、基本的に民間協力者なんでフットワークは軽くても権力と給与は多くない。
「でも、あたしが聞いたお話だとあのクロノ・ハラオウン提督とタメ口で話せる友人だとか」
「そりゃあまぁ、その……一応アイツとボクは10年来の付き合いですから」
あいつとは10年近くそうやって来たし、今更意識してもしょうがないとお互いに認識していた。

……それにしても。
「でも、アルトさんはどこからそんな話を聞いたんですか?」
やっぱりシャマルさんだろうか。
「えっとですね……六課時代、前所属が次元航行隊だったあたしの友人からです」
「なるほど」
出所はエイミィさんだな、きっと。
なぜか断言できる。
アルトさんの御友人がどこの艦の所属なのかは知らないけど。
「えっと……ここを右に曲がるっと」
交差点の標識を見て、アルトさんはモービルを減速させてウィンカーを出した。
ぐいっと大きく切られるハンドルを見て、ボクは慣性に備えるべく踏ん張ったが
しかし、予想していたような慣性力はあまり感じなかった。
雑に曲がったように見えて、彼女の運転技術は意外と上手い。
たぶんアクセルの踏み方が丁寧なんだ。

「あ、その……スクライア司書長にひとつお願いがあるのですが」
曲がりきったところで、不意にアルトさんが声をかけてきた。
「なんでしょうか」
「はい。あたしのことは『さん』付けじゃなくて、どうか呼び捨てでお願いします。
 子供達とかならまだいいんですけど、目上の方から言われるのはどうにも違和感が」
「いやあの、それはちょっと……ボクもそういうのは苦手でして」
ボクはまだ会って間もない人を呼び捨てできるような神経の太さは持ってない。
司書長に就任して随分経つけど、職場の部下に対して基本的には今でも『さん』付けで、
呼び捨てに出来るのはせいぜい同年代の古い友人達くらいだろうか。
「そうなんですか?」
「はい。でも、そのくせ名前で呼ばれることに対して全然違和感覚えないんですよ。
 我ながら難儀な性格してるなぁって、思うことがたまにあります」
アルトさんの問いに思わず苦笑いになる。
ボクはいつも『ユーノ君』『ユーノ』『司書長』と、名前か役職のみで呼ばれている。
『スクライア』で呼ばれることは公式の場や局内での資料依頼の場くらいだ。
「それじゃあ、スクライア司書長は全てのお知り合いに名前で呼ばせているんですか?」
「ええ。年下とか年上とか、名前で呼ばれることに関して特に意識したことはありません」
考えてみれば、母親のマネなのかヴィヴィオもボクのことを『ユーノくん』って呼んでいるけど
それに違和感を覚えないのも、そういった環境で長い間過ごしてきたせいなのかもしれない。

212こんなはずじゃなかったふたり。第6話 YUNO View:2009/08/18(火) 01:59:34 ID:h2bKYLkE
「とりあえずそういう事なので、ボクを呼ぶときは出来れば名前のほうでお願いします。
 それに、自分でこう言うのもなんですけど『スクライア司書長』って言いにくいですよね?」
別に今は公式の場というわけでもないし、彼女に対して命令権限もない。
それになにより、ああいう風に畏まられるのは苦手だ。
そんなボクの提案にアルトさんは慌てて、
「い、いえ! そんな事は……スクライア司書長、スクライア司書長、スクライアししょしょ……はぅ」
必死に否定しようと早口言葉みたいにまくし立てるものの、途中で噛んでしまったようだ。
失敗したといった感じの表情で顔をしかめ、小さく舌を出している。
その様子にボクは思わず吹き出して、
「遠慮することはありませんよ。さっきも言いましたけど、ボクは気になりませんから」
そう言うと彼女はうーんと唸るような声を出して、
「それじゃあ…考古学の先生ってことですから、間を取って『ユーノ先生』でいいですか?」
「いいですよ。ボクの知人の査察官もそう呼んできますし」
数少ない例外は今でもたまに『フェレットもどき』と呼ぶアイツくらいだろう。
「わかりました。それじゃあユーノ先生も、あたしのことを『アルト』って呼び捨てで」
「いやあの、その……あー、努力します」
「むー……それズルいです」
「す、すみません……」
膨れっ面になるアルトさんに対し、ボクは頬を掻いて苦笑するしかなかった。


そんなやり取りしているうちに、ボクの家があるマンションの前に着いた。
ボクとアルトさんはシートベルトを外し、モービルから降りた。
彼女のほうは運転していて身体が凝ったのか、腕を伸ばして伸びをしている。
「今日は送っていただきまして、ありがとうございます」
「いえ、お構いなく。でもシャマル先生のセリフじゃありませんが、無理はしたらダメですよ?
 週単位の連徹で仕事なんて、タフネスでならした武装局員でも引きますよフツー」
アルトさんは腕を組んだ姿勢で眉間にしわを寄せている。
毎度この手の話題は耳の痛い話ではあるけど、ボクはこのペースを落とす気はない。
今ボクが必死に働いているのは、自分で望んでやっていることだから。



 ◇



ボクはあの日以来、ひとつのジレンマを抱えていた。
シャマルさんを始めとする、色々な人に心配をかけるから無理をしてはいけないのはわかっている。
だけど、無理をしないとまともでいられる自信がなかった。
今も引きずっているなのはへの想いが、ボクから平常心を奪っているから―――


なのはにフラれた直後、ボクは意外とショックを感じていなかった。
半ば予想されていた答えが返ってきたから。
しかし、そのショックは自分でも予想しきれないほど大きかったんだと思う。
あの日の事を思い出す度、胃が痛んで吐き気や下痢といった症状が表れるようになった。
このままでは胃に穴が開くのも時間の問題かもしれない。
医者に診てもらわずとも、これがストレス性の神経症だというのは容易に見て取れた。
ボディーブローのようにじわじわと身体を蝕んでいくストレスの原因はとっくにわかっている。
放置して入院沙汰にならないように、ボクは策を練った。
要は、なのはのことを考えられないような状態にしておけばいいのだ。
ボクにとって一番手軽に出来そうだったのが、大量の仕事を抱えて忙殺されることだった。
だけど持ち前の持久力は負荷に比例して増えるわけじゃない。
事実、過剰なまでの疲労はボクの身体を違う意味で蝕んだ。
仕事中は精神面が落ち着くものの、疲労で繰り返し繰り返し倒れるようになったからだ。
それでもボクはこの状態をやめることが出来ず、ただひたすら働いた。
胃に穴が開きそうなストレスに苛まれるよりずっとマシだったから。
忙しさにかまけていれば、否が応でも辛いことを忘れていられる。
表情と心に仮面をかぶせられる。

213こんなはずじゃなかったふたり。第6話 YUNO View:2009/08/18(火) 02:00:29 ID:h2bKYLkE
ただ、最近では少しでもボクを休ませようとシャマルさんがあの手この手を使ってきた。
ドクターストップという名目で飛翔魔法の使用許可を出させないなんてのは序の口。
ある日ボクが仕事中に気絶して目を覚ますと、自宅のベッドの上だったことがあった。
管理人さんに話を聞いたところ、古くからの友人がボクを部屋に担ぎ込んだらしい。
そこから書庫に戻るまでの間は胃痛との戦いだったのは言うまでも無い。
それがシャマルさんの差し金だというのはすぐにわかった。
今ボクがここに居るのも、その延長だろう。

シャマルさんが糸を引いていることを知って以来、ボクも相応の対抗策を講じることにした。
策といっても、お向かえが来る前に目が覚めたら何も言わずエスケープするだけ。
間に合わなければ、その場はとりあえずおとなしくしておく。
そしてうまく書庫まで逃げ切れれば、後はひたすら篭城。
シャマルさんには書庫内に入るためのIDを発行してないので、中に入ればこっちのもの。
IDを発行することや入室の許可に関する権限には、基本的にボクが握っている。
これはボクが書庫内で揮える、数少ない権限のひとつだ。

これを突破する方法があるとすれば、既にIDを持った他の人間に代理を頼むことくらいだ。
たとえば、昔から会うことが多かったなのは。
彼女の娘のヴィヴィオに、騎士カリムに近い聖王教会関係者など。
教会関係者は干渉してこないし、ヴィヴィオは舌先三寸で丸め込んでしまえばいい。
だけど、なのは相手ではそうはいかない。
たとえボクが何を言っても、問答無用で首根っこを掴んで書庫からボクを引き摺り出すだろう。
幸い教導官としての仕事が忙しいのか、なのはが出張ってきたことは今のところ一度も無い。
安心している反面、ボクへの関心が薄くなっているんじゃないかという疑念も湧いてくる。
でも、それを思うと胃の痛みが強くなるからあえて考えない。
逆に言えば、それさえ考えなければボクの精神状態は概ね平和だった。

それでも時折、仕事をしている時に負の妄想が頭を過ぎって苛立ちを覚えることが何度かある。
そうなる度にいっそのこと何もかもぶちまけて楽になろうか、ということとか。
しかし、それはボクの人間関係の袋小路になる可能性が高かった。
周りに心配をかけてまで働く理由が『女の子にフラれたから』なんて知られたらどうなるか。
間違いなく周囲から軽蔑されるだろう。
きっと、なのはだって例外じゃない。
そう考えることでどうにか踏み止まれてはいたけど、今でも水際であることに変わりない。
このまま無駄な時間を過ごせば、いつかボクはストレスに押しつぶされて壊れるだろう。
それが明日なのか来年なのか、自分自身でもわからなかった。
でも、ボクは何があっても決して壊れてはいけない。
仕事に対する責任がある。
部下の司書たちに対する責任がある。
それになにより、ボクはなのはを支えなくちゃいけない。
彼女が辛そうにしていたら全て受け止める義務がある。
あの日以来、魔法を教えたことに対して責任を感じているから。
たとえなのはに思いが届かなくても、これだけは果たそうと思っている。
自分でも変な矛盾を抱えているのはわかっているが。

結局のところ、ボクの精神をギリギリまで支えているのはこれだけだった。
ただ、それも外因要素で話がこじれればあっという間に崩壊する。
そういう意味でボクが一番危惧しているのはアルフの存在だ。
彼女はたまに手伝いに来ることもあり、書庫の運営事情にはそこそこ詳しい。
忙しいからとか、生半可な言い訳は通用しない。
ましてや彼女にはあの日、なのはへ告白することを遠まわしに伝えてある。
うまく丸め込んで有耶無耶にしないと、すぐに感づかれる。
そして間をおかずに避けたかった事態へ発展するだろう。
悩みの種、という意味では先のジレンマ以上にボクの悩みの種だった。
うまく誤魔化し続けられれば、いつか記憶が風化して思い出になって解決するだろう。
だけど、このままいつまでもうまくいくとも思えない。
どうしたものだろうか。


―――っと、今はそんな事を考えている場合じゃなかった。
目の前の問題に対処しなくてはいけない。

214こんなはずじゃなかったふたり。第6話 YUNO View:2009/08/18(火) 02:01:32 ID:h2bKYLkE
アルトさんは元六課の人だから、迂闊に漏らせば知られたくない関係者に全て伝わる可能性がある。
ここは冷静に対処しなくてはいけない。
ボクは脳をフルに働かせ、この場を乗り切るための言い訳を口にした。

「でも、これがボクに与えられたやるべき仕事で、責任がありますから」
「あたしも無限書庫の忙しさはシャマル先生から何となくですが聞いています。
 ですが、少しはお休みになったほうがいいと思います。ユーノ先生は明らかに働き過ぎです」
「よく言われます」
なんだかいきなり雲行きが怪しくなってきた。
ボロを出す前に、強引にでも話を切り上げよう。
さも今気づいたかのようにボクは時計を見た。
「今日はもう遅いですし、お互いこの辺で解散しましょう」
「……わかりました。ユーノ先生、今日はこれで失礼いたします」
「今日は、どうもありがとうございました」
腕を解いて一礼した彼女に見送られ、ボクは自分の部屋に入ろうと踵を返した。
足は高層階に上がれるエレベータがあるフロアへと向かう。



「あ、あの……ユーノ先生」
「はい?」
不意にアルトさんに呼び止められた。
ボクは足を止めて何事も無いかように振り返ると、彼女がこっちを見ながら
自分の胸のところで両手を組み、何か言いたそうにモジモジしていた。
「なんでしょう?」
ボクが話を促すと、彼女はやや間をおいて口を開いた。
「あの、もしかしたら的外れなことを言ってしまうかもしれませんけど」
「?」
アルトさんの意味深な前置きに、ボクは首を傾げる。
「その……ユーノ先生が倒れるほど働くのは、失恋の辛さを忘れたいからなんでしょうか?」
「……っ!」



 ◇



部屋にたどり着いたボクは、シャワーもそこそこにカッターシャツとスラックスに
着替えたが、部屋の電気を消したまま身体をベッドに投げ出していた。
時刻はそろそろ真夜中だ。
いい加減起きてハイヤーを呼ぼうと思ったけど、どうも身体が気だるい。
と言うより、何もする気が起きない。
早く無限書庫に戻って仕事しなくちゃいけないのに、やけに気が重い。

『失恋の辛さを忘れたいからなんでしょうか?』

じっとしていると、アルトさんの言葉が頭の中で何度もリフレインする。
ボクは両手で顔を覆って目を閉じ、大きく溜息をついた。

―――どうして、わかったんだろう。

あの後、アルトさんとはあの場で別れた。
不意打ちを食らった形で、ボクは心の準備が出来ていなかった。
一応はぐらかしてはおいたけど、反応からもう既にバレてるかもしれない。
もう皆に話が伝わったんじゃないかと、気が気でなかった。

「……何か、小腹が空いたな」
不意に、お腹に物足りない感覚が差し込んだ。

215こんなはずじゃなかったふたり。第6話 YUNO View:2009/08/18(火) 02:02:50 ID:h2bKYLkE
考えてみれば昨日から何も口にしていない。
ボクは気分転換も兼ねて、空腹を満たそうとベッドから降りた。
そのままキッチンまで歩いて、冷蔵庫を開ける。
「……何もないや」
一人暮らしには不要と言っていいくらい大型の冷蔵庫には、以前から買い置き
しておいた、保存がきくゼリー状の栄養食品しか見当たらなかった。
ボクは扉を閉めた。

別に、貧に迫るほどお金がないというわけじゃない。
ここのところ家に帰らない日が多く、自炊する機会がなかったから材料に
なりそうな食材を買い込んでなかったからだ。
戸棚やカゴの中も探したけどレトルト食品すら見つからない。
仕方がないので、ボクはもう一度冷蔵庫の扉を開けて栄養食品を手に取ることにした。
一個ではお腹が足りそうにないから、適当に手近にあったものを二個取った。
そのうちの一個を掴み、容器のキャップをクルクルと回し取ってから
吸込口の部分をカリカリと咥える。

―――こうしてると、タバコを吸っているような気分になる。
ボク自身はタバコは吸わない人間だけど。

心の中で独りごち、溜息をついたボクはベッドに戻ろうとして振り返ると
ベランダに通じる窓から蒼い光が差し込んでいるのに気づいた。
ふと気になったボクは窓のところまで歩み寄ると、サッシに手をかけて
窓を開け放ち、広々としたベランダに降りた。
「わぁ……」
ボクは栄養食品の容器を咥えたまま、思わず感嘆の溜息を漏らした。
蒼々と輝くミッドの二つの月がボクを明るく照らしたからだ。
なんだか、久しぶりに美しいものを見たような気がする。
ボクは手すりに身体を預けると、ベランダから見える景色を眺めながら
ちゅーちゅーとゼリー状の中身を吸い上げ始めた。
合成甘味料の甘さがボクの疲れた脳を刺激していく。
「下は暖かくなってきたけど、ここはまだまだ寒いね」
服越しに身体に差し込んでくる寒気に、ボクはポツリと独りごちた。

都市部とは大きな山一つを隔てた、ベッドタウンと言える郊外の住宅地。
この部屋は一画にそびえ立つ、高層マンションの34階にある。
流石にこの高さになると、山の稜線越しから地上本部のビルが見えた。
視線を少しずらせば、海の水平線が見える。
快速レールウェイの始発駅が最寄駅で、地上本部駅まで約1時間ちょい。
仕事で連続で徹夜しなくちゃいけないような無理なスケジュールを立てなければ
ここから通勤だって出来るし、ザンクト・ヒルデ学院へのアクセスも良好。
近くには大型のショッピングセンターもあるから、買い物にも困らない。
決して安くはなかったけど、家族で暮らす事を考えたらいい買い物だと思う。
しかし、今となってはそれも夢のまた夢。

ボクは中身が出なくなった容器にキャップをして、もう一つの容器に口をつけた。
さっきのはライムのような味がしたけど、今度はチェリーのような味がした。
「チェリー……かぁ」
チェリー(さくらんぼ)とは、チェリーブロッサム=桜から取れる実。
桜はこの世界には存在しないけど、よく似た味の果実は昔から一般的にある。
そのことを知って以来、この味はボクになのはの事を連想させるようになった。
「なのは……」
ボクは容器をぐっと握り潰し、中のゼリーを一気に喉に流し込んだ。

―――この際、味なんかどうだっていい。
お腹が満たされれば、それでいいじゃないか。

ボクはもう一つの容器もキャップをして、部屋に戻るなりゴミ箱にそれを捨てた。
「そういえば、あといくつあったっけ……?」

216こんなはずじゃなかったふたり。第6話 YUNO View:2009/08/18(火) 02:04:30 ID:h2bKYLkE
ふと在庫が気になったボクは、そう呟きながら三度冷蔵庫の扉を開けて
中に残っているストックの総数と味の種類を数え始めた。
「1、2、3……1、2、3、4、5、6、7、8、9……あはは」
ボクの口から乾いた笑い声が漏れた。
だって、おかしいでしょ?
全在庫のうち4分の3は、無理矢理流し込んだチェリー味だったんだから。

溜息をついたボクは扉を閉め、ポケットに入れておいた情報端末を取り出した。
「さて、当面の予定は……っと」
端末を操作し、スケジュール帳を開いたボクは直近の予定を調べた。
講演会とかロストロギアの鑑定とか、何か出かける予定があるようなら
その前日くらいは寝ておかないといけない。
徹夜続きでいつ寝てしまうかわからない状態では、人前には出られない。
「えっと……今週中は特になし」
つまり、向こう一週間は無限書庫に引きこもり決定。
「来週は……週明けにロストロギアのオークションっと」
そういえば去年の今頃にも行ったっけ。
前回の会場は郊外のホテル・アグスタだったけど、今回はミッドじゃなくて
第三管理世界ヴァイゼンのホテル・ウンゲホーアとなっている。
ここもホテル・アグスタと同じように、自然に囲まれた立地に建っているらしい。
というのも、仮に危険度の高いロストロギアが持ち込まれてそれが暴走しても
人口密度の高い都市部にすぐ被害が及ばないよう、交通の便が悪くてもこういった
辺鄙な場所が会場として選ばれる。


―――閑話休題。


時期も近いし、そろそろ主催側のほうから資料が届くはずだ。
資料請求に書庫の整理に加え、オークション主催者との打ち合わせが入る。
どうやら今週は忙しくなりそうだ。
今のボクにとっては、忙しいのは願ったり叶ったり。
すぐにでも書庫に戻って、仕事の進捗状況を確かめなきゃ。
そうと決まればぼーっとしている場合じゃない。
ボクは電話の受話器に手を伸ばし、馴染みのハイヤー会社の番号を叩いた。

217亜流:2009/08/18(火) 02:05:39 ID:h2bKYLkE
第6話ここまで。
まもなく第7話ですが、長いです。

218こんなはずじゃなかったふたり。第7話 ALTO View:2009/08/18(火) 02:08:17 ID:h2bKYLkE
ユーノ先生と医務室で初めて会ったあの日から、かれこれ一週間近く経った。
あの時目にした、失恋したあとの重いものを背負い込むようなユーノ先生の目はまさに
失恋した時のあたしの目そっくりで、なんというか……他人を見てる気がしなかった。
余計なお節介というのは覚悟で話がしたいと思ったあたしは、その翌日に顛末の報告を
兼ねて、シャマル先生にどうすればユーノ先生と会えるか思い切って聞いてみたものの
、あたしの期待に反してシャマル先生は残念そうに首を横に振った。

なんでも、最近までは連絡すれば誰でも面会に応じてたのに、ある日を堺に無限書庫に
引き篭ってしまい、主治医と言っても良いほど親しいシャマル先生ですら、働き過ぎで
倒れて書庫から担ぎ出される時以外会う事も出来ないって話を溜息混じりに聞かされた。
シャマル先生ですらそんな状況なんじゃ、ぶっちゃけ部外者でしかないあたしの話に
耳を傾けてくれる……わけないよね。



 ◇



今日はヴァイス先輩が朝から居ない事もあって、今日行う予定だったヘリの操縦訓練は
いつものように先輩とじゃなく、あたしより遅くに運輸部に配属された新人パイロット
との訓練になった。
よくよく考えると初めて先輩以外の人と組むことになるわけだけど、一応あたしだって
それなりに経験積んできたんだから、新人のカバーくらい楽勝だと思ってた。
でも、今日の事で自分は先輩に比べたら正直まだまだだって痛感させられちゃった。
初めて先輩と組んだ時は何事もなくあっさり終わったから、こういうのはそんなに心配
しなくてもどうにかなるものと思ってた、数時間前のあたしを叱りたい。
だって、今まで培ってきて染み付いた身体の動きとか感覚はなかなか自分の思った通り
に動いてくれないし、パートナーと呼吸を合わせなくちゃいけないのにうっかり先輩の
呼吸に合わせちゃった結果、失敗した事が何度かあっちゃったし。

先輩の凄さと自分の未熟さを痛感したあたしが軽くへこんでいる一方で、肝心の先輩は
どこに行ったのかと言うと、人質と一緒に市街地の一画へ立て篭もった武装テロ集団の
鎮圧の為に武装局員として地上部隊に出向してるみたい。
ちなみに、先輩からじゃなくてあたしの上司にあたる班長から聞いた話。
急な事だったからロクに連絡が行かなかったのはわかるけど、せめてあたしには一言で
いいから直接連絡してほしかったと思う。
でもこれってきっと、まだ諦め切れてないあたしのエゴなんだよね。
先輩と長い間パートナーとしてずっとやってきたと言っても、結局は仕事上での話。
個人的に密に連絡取るとか、プライベートに近い領域まで踏み込みあった事はない。
別にそこまで踏み込んでいかなくても、職場に行けば何時でも会えたから。
でも、これからもずっとお互い同じ場所にいられる保証はない。
恋人同士や夫婦じゃ無い以上、何時かは離れ離れになる日がやって来る。
その時になってから、先輩がいないと仕事が出来ないというのは非常に問題だと思う。
一人前のパイロットとしてやっていくために、そろそろ先輩から独り立ちしなきゃ。
未だに想いを引きずっている、過去の自分と決別する為にも。



結局、午前中予定してた訓練メニューを全部消化しきるのに予想以上の時間がかかった
事が影響して、パイロットスーツから内勤用の制服に着替え終わる頃にはお昼休みが
半分近く過ぎてしまっていた。
「あーあ……やっぱもうこんな並んでる。これじゃもうたいしたの残ってないよねぇ」
せっせと着替えを済ませて近場の食堂の入り口に着いたあたしは、目の前で延々と続く
長ーい行列を目にし、一人肩を落として溜息をついた。
こりゃもう良さ気なメニューはもう無理だろうなと半ば諦め、トボトボとした足取りで
長蛇の列に並ぼうとした矢先、ポケット内の通信端末が着信を知らせる為にブルブルと
震え出した。
「っとと……アレ?」
あたしは慌ててポケットの中から通信端末を取り出し、ひとまず発信者を確認しようと
サブディスプレイに目を落としたところで、その文字列に一瞬自分の目を疑った。

219こんなはずじゃなかったふたり。第7話 ALTO View:2009/08/18(火) 02:10:17 ID:h2bKYLkE
「……あたしに急用かな?」
端末のサブディスプレイのパネルには『シグナム副隊長』と表示されていた。

こちらから連絡することなんてないかなって放置してたけど、もう機動六課はないから
副隊長というのは後で修正しなきゃ……って、それどころじゃないって。

あたしは慌てて二つ折りになっている通信端末の匡体をパカッと開け、相手との回線を
開くボタンを押すと、半年前までは同じ機動六課所属だったシグナム副た……もとい、
シグナム空尉の顔が通信画面に表示された。
『ああ、やっと出たな』
ようやく回線が繋がった事で、画面の中のシグナム二尉が安堵の溜息を漏らした。
「すみません、ちょっとボーっとしてたので」
画面に向かって苦笑いしながら首根っこの後側を掻いていると、
『それで、今どこにいるのだ?』
「あ、えっと……第6食堂の前で列に並ぼうとしてたところです」
あたしは周りを見渡し、大部屋の入り口に掲げてあったプレートを確認した。
『集合までもうあまり時間がないぞ? 呑気に食事してる場合ではないと思うのだが』
「ぅえ?!」
唐突なシグナム二尉の言葉に、あたしは思わず驚愕の声を上げた。

この口ぶりだと、今から仕事が始まるみたい。
でも、一緒の仕事するようなスケジュールなんてなかったような……?

「すみません……何の話でしょうか?」
出来るだけ当たり障りの無いように尋ねてみると、シグナム二尉の額に皺が寄った。
『ヴァイスから話は聞いてないのか?』
「先輩ですか? 先輩は朝から――」
『テロ集団の鎮圧に駆り出されてるのだろう? その話は私も本人から聞いている』
シグナム二尉は『おまえは何を言っているんだ』と言わんばかりの表情でため息をつき、
胸の前で腕組みしていたのを解いて両手首を腰に当てた。

本人から……ってことは先輩だよね?
どういうことだろ。

「あたしは今日は居ない事に気づいて、詳しくは直属の班長に聞いて知りました」
『ん、本人からではないのか?』
そう答えるあたしの言葉に、シグナム二尉は小首を傾げた。
多分、あたしも先輩から直接聞いているものだって思ってたのかな。
「はい。今日は何も話しはしてないです」
なんだったら、今あたしのお腹の中で鳴いてる虫を証人にしてもいい。
『一言もか? メールとかもチェックしたのだろうな』
「メールですか? ちょっと待ってください」
あたしは端末の動作タスクを増やし、メールの受信ボックスの中を確認してみた
ものの、今日の時点で自分宛のメールは特に届いてないみたいだった。
「やっぱり無い……ですね」
『では、ヴァイスから申し送りは受けてないというのだな?』
「多分そういうことになりますね」
そう結論付けると、シグナム二尉は溜息をついて頭の横に指を当てた。
『まったく、あの慌て者が……あれほど連絡しておけと言っておいたはずなんだが』
あたしはどう反応していいのか分からず苦笑いをしていると、
『それでは急ですまないんだが……私から改めてアルトに頼みたいことがある』
『あたしにですか?』
そう尋ねると、シグナム二尉は『ああ』と言ってこくんと頷いた。
『今日明日にかけて行われる、とあるミッションにヴァイスの代わりにメンバーとして
 参加してほしい』
「その……あたしにですか?」
突然の出動要請に、あたしはマヌケな声を出しながらピッと自分を指差した。
『我々時空管理局局員の活動において、治安維持の優先度が高い事は知ってるだろう?
 ヴァイスに声をかけたのはこちらのほうが先だったんだが、ミッション内容の都合で
 比較されると、向こうのほうが優先度が高かったのでな……』
そう言ってシグナム二尉は残念そうに肩を落とし、小さくため息を漏らした。

220こんなはずじゃなかったふたり。第7話 ALTO View:2009/08/18(火) 02:12:06 ID:h2bKYLkE

えーっと……ちょっと整理してみよ。
つまり、そのミッションにおいて何かしら重要そうな役を先輩にやってもらおうと声を
かけたのはいいけど、直前になって優先度の高い出動要請がかかっちゃったと。
で、要請はあくまでも他部署からの要請だから、一応断ることも可能なはず。
でも結局先輩は先に声のかかった、ある意味では身内と言っていいシグナム二尉の依頼
じゃなくて、セオリー通りに武装隊からの出動要請を受諾してしまったと。

リイン曹長曰く『説明不足さ』な点をあたしの勝手な脳内補完で補ってみた感じでは
多分こんなんだと思うけど、これが正しいとしてもまだいくつか疑問が残る。
「先輩の代わりって……あたしは武装局員でもなんでもないですよ?」
あたしもそうだけど、運輸部に所属しているのは基本的に非武装局員。
武装局員の資格も持っている先輩は、ある意味例外中の例外。
シグナム二尉が先輩に直接頼んだってことは、イコール武装局員が必要な任務であって、
あたしが魔導師じゃないことを知ってる人なら当然この疑問にたどり着くはず。
その事をあたしが口にすると、シグナム二尉はブンブンと首を振った。
『いや、必要だったのはヘリパイとしてであって、スナイパーとしてではないのだ』
「ヘリのパイロットとして……ですか?」
『ああ』
それだったら、確かにあたしでも代理が務まるかもしれないけど……。
「でもあの、あたしまだB級しか持ってなくて……先輩の代わりになるかどうか」

真っ先に先輩が呼ばれるくらいの任務なら、あたしなんてお呼びじゃないと思う。
A級ライセンスを持ってるだけあって、先輩の操縦技術はかなり凄い。
BとAの差はかなり大きく、専門職としてやっていくにはいずれ取らなくちゃならない。
あたしもいつかA級を取ろうと頑張ってるけど、なかなかうまくいかないんだよね。

そんなあたしの心中を察したのか、シグナム二尉は軽く笑みを浮かべて、
『ミッションの性格上、機動飛行及び戦闘飛行が可能な腕利きのパイロットを必要と
 している事は否定しないが、その点に関しては私は全く問題ないと思っている。
 それに、代役としてアルトを推薦してきたのは他でもないヴァイスなんだぞ?』
「先輩がですか?」
シグナム二尉は『うむ』と小さく頷き、言葉を続けていく。
『お前のパイロットとしての腕は、私も我が家の末っ子からなかなか良いという評判を
 聞いているし、それにあのヴァイスから直々に指名されてるのだ。少しは自分の実力
 に自信を持ってもいいと思うぞ』
「あはは……ども、ありがとうございます」
先輩やリイン曹長からの又聞きとは言え、シグナム二尉にパイロットとしての腕を
褒められてしまったあたしは、なんとなく照れくさいやらなんやらで頬を掻いた。

この話に興味が湧いてきたあたしは、ミッションの内容を詳しく聞いてみたいと思った
けど、昼休み明けからの予定を思い出してハッとなった。
「あの……実は、班長に提出してある訓練メニューが明日まで続く予定になってまして」
『その点は心配ない。もし参加してもらえるのなら、その辺りのことに関しては状況を
 きちんと詳しく確認したうえで、私が運輸部のほうにうまく話を通しておく』
「ふぇ?」
問題ないと自信満々に答えるシグナム二尉に、あたしは首をかしげた。

週が開けた時に班長へ提出したアクションアイテム(行動予定表)によれば、明日まで
機動ヘリの操縦に関するプラクティス(実地訓練)が続くことになっている。
操縦のシミュレーターと違って、実地となれば色々物資を動かさなくちゃいけないから
実戦とは程度の差はあれどうしてもコストがかかってしまう。
訓練を中断する場合、班長の許可に加えて他の局員や総務と調整が必要になるんだけど
六課みたいな身内の部隊じゃない今、一存で指揮命令に口出し出来る権限あるのかな?

シグナム二尉はあたしの疑問を察してくれたのか、少し考える様子を見せて口を開いた。
『詳しくは後で説明する。機密の関係上、通信回線上ではちょっと口に出来ないのだ』
機密と言われ、あたしは慌てて周囲をキョロキョロと見渡した。

221こんなはずじゃなかったふたり。第7話 ALTO View:2009/08/18(火) 02:14:11 ID:h2bKYLkE

今はもう全く使わなくなっちゃったけど、あたしだって通信士の資格及び経験の保持者。
多くの人が往来する食堂手前の通路で通信を受けたから、今のを誰かに聴かれなかったか
心配で条件反射的に周囲を警戒しちゃったけど、行列を成していた人の群れはいつの間に
全て食堂の中に吸い込まれていた後だった。
出口から出てくる人はまだまばらで、入口からはそれなりに離れている。
とりあえず、今は安全。
安堵したあたしは、思わずため息を漏らした。
それなりに暗号化されているとは言え、一般的に使用されている通常回線で会話してたら
機密も何もないと思うけど、最低限気を使っておいたほうがいいとは思う。

ドタバタと慌てふためいたあたしに、シグナム二尉は不敵な笑みを浮かべると、
『他人に知られても支障のない範囲で話すが、今回のミッションは本局で比較的上層の
 役職の方が立案された計画で、その方が私を部隊の最高責任者として指名したのだ。
 だから、いざという時には私が出向いてその方の名前を出せば多少の無理は通せる』
「でも、それでしたら先輩を引き留めておくことも出来そうですよね」
その話が本当なら、この件に関しては佐官以上の権限を持ってる事になるはずですよ?
もし先輩がセオリー通りの優先度に気使っただけだったら、簡単に解決しそうですけど。
ついポロリと出てきたあたしの疑問に、
『……理由はよくわからないが、本人の希望だ』
先程までとは打って変わって渋い表情になり、残念そうな口調でそう言った。

先輩の希望……かぁ。
いったい何だろ。
入局以来それなりにお世話になったって先輩が言ってた、シグナム二尉からの頼みを
蹴っちゃうくらいなんだからそれなりの理由なんだと思うけど。

一瞬ちょっと妙な空気になり、気まずくなったあたしは話を変えるべく口を開いた。
「それで、そのミッションの事なんですけど……何か大きな機動作戦とかなんですか?』
重い話なのかなと考えるあたしの言葉に、シグナム二尉は首を振って、
『いや、ミッションと言っても内戦の仲裁に行くとか、戦闘が発生するものではない。
 どちらかと言えば特別警戒体制時における警らといった具合の、日常業務に若干毛が
 生えたような、少々特殊な部類のものと考えてもらいたい』
そう言って一旦時計を確認するような仕種で視線を逸らし、真剣な表情で再び口を開いた。
『それでアルトはこの件、引き受けて貰えるだろうか? 別の管理世界での一泊二日の
 予定になるから、もし何かアルトのほうで都合が悪いなら断ってくれて構わない。
 ただ予定が今日の夕方出発という事もあって、もう間もなく直前ミーティングが始まる。
 急で申し訳ないが、引き受けるにせよ断るにせよ、出来れば今すぐ返事が欲しい』

シグナム二尉は断ってもいいと言ったけど、あたしの心はすでに決まっていた。
もう先輩から独り立ちしなくちゃって誓ったばかりだし、一人前になるためにはもっと
経験を積まないと、って思ってたところで指名がきたんだから、これを見送る手はない。
意を決したあたしは、ゆっくりと口を開いた。

「その件、お引き受けします」



 ◇



ミーティングが行われる場所を教えて貰い、二言三言の挨拶を交わして通信回線を切った
あたしは、その場で踵を返して急ぎ打合せが行われる第一ミーティングルームに向かった。
正直お腹はペコペコで仕方なかったけど、今から食堂で食べる余裕なんかない。
仕方ないのであたしは道すがら売店に立ち寄り、そこで買った惣菜パン二個を口の中に
押し込んでから紙パックのジュースで強引に喉に流し込むことにした。
「もぐもぐ…んぐ……あむ、んむ……はふーっ」
ひとまずお腹が落ち着いたあたしは、時計に目をやって経過時間を計算してみた。
「んー……だいたい、1分ちょいかなぁ」
予想よりも少し時間がかかっていたみたいで、あたしの額にシワが寄った。

222こんなはずじゃなかったふたり。第7話 ALTO View:2009/08/18(火) 02:16:13 ID:h2bKYLkE

えーっと、あれは何時の頃だっけ……あ、そうそう。
あたしが先輩やスバル、ルキノ達と一緒に六課に配属されてしばらく経った頃かな。
ある日、昼食で一緒になった先輩が物凄いペースで食べていたのをあたしが注意したら

『この先パイロットで食ってくんなら、飯くらい何時でも1分以内で食えるようになれ。
 仮に時間内に全部食えなくても、満腹にならない程度に食えてりゃそれで充分だ』

って言ってたのを今でも覚えている。
その時はいくらなんでも慌て過ぎじゃあって思ってたけど、こうして先輩と一緒に
パイロットとして働いてみて、あたしは最近ようやくその意味を理解した。
ヘリのパイロットって緊急性の高い任務で呼ばれる事が多いから、そういう時はもし休憩中
だろうと食事中だろうと、任務があればすぐにでも来いって呼び出される。
そういえば前に先輩が話してくれた体験談では、作戦待機中の場合だと1秒を争わなくちゃ
いけないくらいシビアな話になるって言ってたっけ。

「……っと、いっけない。急がなきゃ」
ボーっとしていたことに気づいたあたしは服についたパン屑を払い、食べたモノのゴミを
片付けてから改めて駆け足でブリーフィングルームに向かった。



ようやく部屋についたあたしが扉を開けると、部屋の隅に置かれたホワイトボードの脇に
あたしのよく知る顔―――航空隊の制服に身を包んだシグナム二尉が立っていた。
「遅れてすみませんでした。運輸部第2班所属、アルト・クラエッタ一等陸士です」
あたしは開けた扉を閉め、慌てて礼を執った。
「ああ、構わない。上の方々の事情で開始時間が30分ほど延びたからな」
微動だにしないあたしをシグナム二尉は手で制すると、着席を促した。
「失礼します」
礼を解いて空いてる席を目で探していると、奥のほうで見覚えのある女の子と目があった。
所属している班は違うけど同じ運輸部に在籍する同期で、顔見知り程度には面識がある。
彼女は自分の隣が開いているよ、といった具合にイスを指差していたので、あたしは彼女の
厚意に甘えることにして、そさくさと歩み寄って着席した。
その様子を伺っていたシグナム二尉は、あたしが腰を落ち着けた頃合を見て各部屋に据付て
ある時計を一瞥し、おもむろに口を開いた。
「間もなく本件の打合せの為に本局から担当者が来られる。なお、ミーティング終了後には
 すぐ行動開始になるので、もし手洗い等済ませてない者は今のうちに行っておくように」
その呼びかけに反応する人は誰もいなく、シーンとしていた。
あたしは水分を取ったばかりで正直言って不安だけど、今のところ出そうな気配なし。
シグナム二尉は周りを見渡してウンと頷くと、それからゆっくり口を開いた。
「ではまずミーティングの前に、今回のミッションの概要を私の知る範囲で説明しておく。
 基本路線として、本局ロストロギア情報関連部署に所属されている民間協力者の護衛及び
 護送という事になっていて、日程的には概ね一泊二日の予定だ」
凛とした声がミーティングルームに響き渡った。

ロストロギア情報関連の部署に所属している民間協力者の護送……かぁ。

言われてみれば、この周辺に座っている人達の着ている制服は地上とか海とか大きな枠組み
においての所属は全然違うけど、皆あたしと同じく前線のバックアップ部署のものばかり。
現に、隣の女の子含め運輸部では顔見知り程度の局員も何人かいる。
前のほうを見てみると、主に航空武装隊所属の局員と思われる人の制服姿もあった。

「先方はロストロギアに関して多くの知識を有している故、それを狙い犯罪者に襲撃される
 可能性がある。我々はそれの抑止または阻止のために動くことになるだろう」
そう言ってシグナム二尉は手持ちの資料に目を落とすと、
「詳しいスケジュール等に関しては、追って本局から来られる方からの話がある。現段階で
 私が言えるのは、今回の任務の概略と主たる責任者の発表だけだ」
シグナム二尉の目があたしのほうをチラリと一瞥した。

223こんなはずじゃなかったふたり。第7話 ALTO View:2009/08/18(火) 02:18:22 ID:h2bKYLkE
「護衛チーム及び部隊全般の行動に関しては、私が総責任者として指揮を執ることになって
 いる。護送チームは本来、運輸部所属のヴァイス・グランセニック曹長に班長を担当して
 もらう予定になっていたが、本日未明に発生した武装テロ鎮圧の要員として武装隊から
 出動要請がかかった為に来られなくなってしまった。そういう訳で、彼からの推薦された
 のもあったため、同部署に所属するアルト・クラエッタ一等陸士に代役を頼む事にした」
「って、ええぇぇぇええ?!」
あまりにと言えばあまりにも唐突な話に、あたしは素っ頓狂な声を上げた。
「どうした、クラエッタ一等陸士」
シグナム二尉が不思議そうな表情で尋ねてくる。
「だ、だだだだって聞いてないですよそんな話!?」
今の言い回しだと、あたしに護送チームのリーダーやれという風にしか聞こえませんよ?
「すまない。護衛対象の安全を考えると、先程の通信でそれを言うのは少々憚られてな」
そこを持ち出されては何も言え無く、感情の行き場を無くしたあたしは渋々と着席した。
「そういう訳で、護送を担当する他のスタッフは彼女の指示に従って行動するように。
 もしこの配置に関して質問及び異論等があるようなら、私のほうで受け付けるぞ」
そう言って周囲を見回すシグナム二尉に対して、特に口を挟む人間はいなかった。

ま、普通はそうなんだよね。
相手が現場ではトップクラスの権限がある尉官ということに加え、あのどこか他人には
有無言わせない迫力がある相手に対して意見なんて、逆立ちしたって無理に決まってる。
でも、シグナム二尉って見た目の凛々しさやいかにも騎士といった感じの言動のせいで
どこか近寄りがたい雰囲気持ってるけど、意外と気さくに話せる人なんだよね。
と言ってもあたしがシグナム二尉の人と成りを詳しく知った環境が、身内で固まってて
割と気楽に過ごせていた機動六課だったから、あんましアテにならないと思うけど。

「……よし。それでは、今から皆にも改めて任務の概略を説明する」
皆の沈黙を了承と判断したのか、シグナム二尉はホワイトボード用の黒ペンを手に取り
、真剣な表情で何かを書きはじめた。

なんだか思いっきり場に流されてる気もするけど、今更どうこう言っても仕方ないか。
どのみち任務に参加するって決めたんだし、六課に居た時みたいな大事件なんて
そうそう起こらない……よね?

自分で不安を煽ってちょっぴりブルーになったあたしを尻目に、ようやく何か書き終えて
一息ついたシグナム二尉は、手近のコンソールを叩いて空間プロジェクタを操作した。
空間投影用の光学デバイスが、どこかの森林地帯らしき映像を虚空に映し出す。
よく見ると画面の端にはアウトバーンと思われる太い道路が走っていて、そこから例の
森林地帯の中へ延びていく道路が分岐している。
観光用と思われる峠道みたいなグネグネとした道路を道なりに進むと結構開けた場所に
出られるみたいで、水源に使えそうなくらい大きな湖畔が顔を覗かせていた。
「これが舞台となる地域の3Dマップだ。見ての通り、鬱蒼とした森林に覆われている。
 私の手持ちの資料によれば、ここはミッドチルダではなく第3管理世界ヴァイゼンの
 アレナというところで、現地ではいわゆる避暑や観光の地として有名な地域らしい」

あ、ここってアレナだったんだ……懐かしい名前だなぁ。
あたしの生まれ故郷の世界では結構有名な場所で、10年以上前に家族でキャンプ旅行に
行ったことを覚えている。
あの頃はまだ自分が男の子だと思い込んでて、木によじ登ったり泥だらけで走り回ったり
兄さん達や弟達に混じって素っ裸で湖を泳いだり……今となっては恥ずかしい思い出。

あたしが子供の頃の思い出に浸ってる間に、シグナム二尉は空間プロジェクタを操作して
いたのか3Dマップの表示がカラフルに変化していた。
道路が分岐する付近の開けた区域が赤い点線で、そこからかなり離れたあの湖畔がある
区域が青い点線で囲まれていて、なおかつ二つの区域の間が白い点線で結ばれている。
「ん?」
よく見ると白い点線は一直線で結ばれていて、マップ上の道なりに描かれてない。
最短距離を通ることを考えると、これは空路で行くということなのかな?
「この赤と青の点線区間を結ぶ白い点線が今回の任務において肝となる要人護送ルートだ。
 次元港から赤い点線の区間までは大型輸送モービルで向かう事になるが、この白の点線
 のルートに関しては機動ヘリを使用して、最短距離を駆け抜ける予定になっている」

224こんなはずじゃなかったふたり。第7話 ALTO View:2009/08/18(火) 02:20:22 ID:h2bKYLkE
今の説明に、あたしを含めた全てのメンバーが一瞬ざわついた。

あの、いくらなんでもちょっと仰々しくないですか?
ゆりかご決戦でリイン曹長を現場に送り届けたときみたいな状況だったらまだしも。

「皆もマップを見て想像は付くと思うが、この地域は生い茂る植物や背の高い樹木の多い
 こともあって見通しが悪い。仮に地上ルートでゲリラ的に奇襲された場合、戦闘の局面
 次第では今回の護衛対象がドサクサに紛れて犯罪者達に拉致される可能性があるからだ」
シグナム二尉は脅すような論調で話したものの、突然フッと口元を緩めた。
「無論、犯罪者相手に遅れをとる我々ではないが、リスクは少ないに越した事はない」
一呼吸置いたシグナム二尉は、先程自分で書き込んだホワイトボードを前面まで動かした。
ホワイトボードには四角い物体から4本の棒が生えている図と、丸と棒線だけで描いた
人間っぽい落書きみたいなのが幾つかあった。
「判りにくくてすまない。私に絵心が無いゆえに、こういうポンチな絵しか描けなかった」
そう言って軽く頭を下げたシグナム二尉は、胸ポケットから伸縮可能な指示棒らしき物を
取りだ……そうとしてどこかで引っ掛かっているのか、取り出すのに苦戦していた。
「む……」
何度引っ張っても先っぽの部分がひたすらニョキニョキ伸びるだけで、グリップ部分が
なかなか出てこない状態になっている。
このちょっとしたハプニングに、周囲から笑いを堪える鼻息と感嘆の溜息が漏れた。
ちなみに、あたしは溜息派。

「ここに挿しておいたのは失敗だったな」
ようやくポケットから取り出せた安堵感からか、シグナム二尉は軽くため息をつくと
一度中途半端に伸びた棒を手の平で押し込んで縮め、改めて先っぽを摘んで引き伸ばした。
「とりあえず説明すると、これは隊形を下から見上げた仰瞰図だ。四角形に棒が生えた
 のは機動ヘリのつもりで、この丸と棒の絵は私を始めとする航空武装隊のつもりだ」

……あ、あの髭みたいなのってヘリのブレードなんだ。

シグナム二尉のその後の説明で、あたしはようやく隊形の概要が掴めてきた。
えっと、多分機動ヘリを中心として前方以外をすべてカバーする布陣。
「基本的には左右、後方、上側はツーマンセルで担当してもらう。下側は地対空砲撃で
 狙撃されることを想定している故、私を含めて6人以上で担当することになるだろう」
どんなに少なく見積もっても、総勢14人。
今この部屋には30人近い局員が詰めているから、交替要員やその他スタッフの人数を
考慮すると、だいたい16〜7人くらいの武装局員が護衛に当たる計算ってとこかな。
なのはさんやフェイトさんが付くぐらいだから、案外これくらいが妥当なのかも。

……でも、よくよく考えたらシグナム二尉も実力はなのはさん達と肉薄してるらしいし
こんな大所帯を引き連れなくても、お一人で充分のような気がします。
六課時代に誰が一番強いかで色々あったことを思い出し、あたしは内心苦笑いになった。



この後遅れてやって来た本局の人というのは、本局の次元航行隊に所属してる男性の
執務官さんで、フェイトさんやティアナとは違う部署の人だった。
てっきり企画した上層部の人が来ると思っていたあたしは、念のためにどういう事か
ミーティングが終わった後でこっそりシグナム二尉に聞いてみたものの、
「実は、彼はその方の代理なのだ。と言うのも、色々事情があってその方の名前が外に
 漏れると少々まずい事になる可能性があって明かせないのだ」
と言われてしまい、結局誰だったのか聞けずじまいになってしまった。
何か機密があるらしいミッションの事前ミーティングは、その全貌を明かされないまま
その執務官の男性から正式発表されたプランを元に粛々と進められていった。
当初の予定通り、シグナム二尉は護衛チームの班長兼部隊の総責任者という事になった
ため、今回のミッションにおいては部隊長という事になっている。
そしてコールサインはシグナム二尉……もとい、部隊長が『イージス000』になり、
あたしが『イージス100』に決まった。
3ケタ目の数字は自分が所属するチームを示す親番号で、下2ケタの数字は自分が所属
しているチームでの識別番号となる子番号、という比較的単純なルールで決まった。

225こんなはずじゃなかったふたり。第7話 ALTO View:2009/08/18(火) 02:22:42 ID:h2bKYLkE

部隊のトップたるシグナム部隊長が00っていうのは当然として、なぜか護送チームの
班長にされてしまったあたしの子番号もそれにならって00になっている。
まだまだぺーぺーに近い一等陸士のあたしが班長だなんて……くすぐったいなぁ。

まぁそれはおいといて、重要なところはここから。
本格的にミーティングが始まって護送する人の詳細を知り、あたしは今日ほど偶然って
恐ろしいってことを感じた日はなかった、と思いたくなるくらい驚いた。
これほどの絶好のチャンスってもう二度と来ないかもしれない。
だって、ミッションの大筋は先にシグナム二尉……もとい、部隊長が説明してた通りの
内容だったんだけど、その護衛をする相手っていうのがあの―――



 ◇



シグナム部隊長の率いる護衛・護送部隊は、今回の護衛対象の方一緒に次元航行隊の
パトロール船に同乗して、今日明日滞在予定の第3管理世界『ヴァイゼン』に着いた。
護衛対象の方が乗るモービルに同乗するシグナム部隊長以外の護衛チーム、あたしの
管轄の護送チーム、両チームの予備として控えている予備チームは、すぐさまチーム
ごとに人輸送用大型モービルに乗り込み、今回あたしがパイロットとして運用予定の
ヘリが待機しているはずの、現地常駐の地上部隊との合流地点に向かった。


「この辺りの景色って、こんなんだったかな……?」
窓から見える故郷の景色はあたしの中の記憶と幾ばくか食い違っていて、何となしに
感じた違和感は、もう5年以上帰省していないあたしに時間の経過を覚えさせる。
「……って、いけないいけない」
つい感傷に浸りそうになったあたしは頭を振り、気を取り直して今回あたしが運用する
予定になっている、機動ヘリのスペックシートに目を落とした。

今回の任務で使用する機動ヘリは『JF505式』という旧世代のもので、機動六課時代に
先輩とあたしが使ってた『JF704式』はこれの4世代くらい後の後継モデル。
実際に乗ってからその後で知ったことだけど、JF7シリーズが高性能と言われてる由縁は
その高い運動性能もさることながら、JF5シリーズと違って自動操縦をインテリジェント
デバイスの制御下に置くことが出来る機能が標準で備わっているからなんだって。
前に先輩がやってたみたいに空中で狙撃が出来たり、許可が出るかどうかはさておいて
やろうと思えば陸戦魔導師でも空戦魔導師との空中戦が可能らしいんだけど、あたしは
先輩と違ってデバイスなんて持って無いし、別になくてもいいけどね。
どちらかと言えば余計な機能だし。
でも、ヨーコントロール方式が704式と同じノーター型とはいえ、製造された世代の差
からかスペックを見る限り、数字上では機動性能が明らかに劣っている。
とはいえ、配備されてそこそこ年月が経ってることもあって保守部品や整備ノウハウが
たくさんあるみたいだし、メンテナンスがやりやすそうな点では助かるかな。

その他細かいところはJF704式とほぼ同じっぽいし、特に問題はないと思ったあたしは
今度はミッションのスケジュール確認を始めた。



そのまま30分くらい荷台の上で揺られ、現地常駐の地上部隊と合流する予定の地点に
着いたあたしは、向こうのメカニックの人との引き継ぎもそこそこに、エンジンの起動
キーを受け取るなり飛行前の最終点検を自分の視点で始めた。
やっぱ、わかる範囲内については自分で点検しておきたいからね。

ぐるっと見て回った感じ、とりあえず機体そのものに目立った損傷は無し。
「機体損傷確認よーし」
声出し、指差し確認は整備士として基本中の基本……今はパイロットだけど。

226こんなはずじゃなかったふたり。第7話 ALTO View:2009/08/18(火) 02:24:38 ID:h2bKYLkE

続けて機体に添えつけられているタラップをよじ登り、エンジン−ローター間のギア用
のオイルタンクをカバーを外し、フタを開けて中から確認用の試棒を引っ張りあげる。
「油量及びオイルの汚れ、問題なーし」
とりあえず油脂系の安全は確認出来たので、あたしはコックピットドアを開けて右側の
機長席に座り、コックピットの真ん中に設置されているコンソール群にぽつんと置かれた
鍵穴に起動キーを差し込んでヘリのメインシステムを起動させる。
『System Start.』
起動ボイスと共に全システムが立ち上がり、それに合わせて各計器類が反応し始めた。
電源投入時のセルフテストの結果は問題ないようなので、あたしは燃料計を見た。
「ほぼ……満タンって感じかな」
これだけ燃料があれば、今日明日の運行には問題ないと思う。
水素相手じゃさすがに直接見れないから、燃料の確認はメーターを信じるしかない。

今度は駆動系を見るため、窓越しに見えるメインローターのブレードをじっと見ながら
左手でピッチレバーをしっかり握り、そのまま何度も上げたり下げたりしてみる。
「……うん。おっけーおっけー」
あたしの動きに合わせてブレード角が真っ直ぐ(フルダウン)になったり、目一杯
傾いたり(フルアップ)してくれるし、操縦桿を倒せばその方向に追従して傾くのが
確認出来る。
ラダーペダルはヨーモーメントをコントロールするスラスターのスロットルとして
使われていて、エンジンが止まってる状態じゃ検証不可能だから後回し。

最後に後部キャビンに鎮座している座席のシートベルトの確認のため、コックピットを
立ったあたしは座席の前に立ち、ベルトを握って何回も素早くかつ強めに引っ張った。
「シートベルトも正常っと」
何回引っ張っても途中で引っかかって止まるし、手を離せばちゃんと巻き戻っていくから
ベルトのロック式巻き取り装置は問題なく動いてると思う。
ここの機構が死んでると安全装置のプリテンショナーやフォースリミッターはまともに
動いてくれないから、今日みたいな使用においては動作確認がかかせない。

「ま、こんなもんかなぁ」
とりあえず、現段階のチェックでは問題無さそうな感じ。
本来ならここで動力部や機構部をバラして、きちんと隅々まで機体の状態を点検して
おきたいんだけど、いくら人手があってもそこまでやると時間かかるんだよね。
「ミッション開始までにそこまでやれるほどの時間ないし、しょうがないかなぁ」
ひとまずこちらのメカニックの人の腕を信用することにしたあたしは、一息つこうと
いったんヘリから降りることにした。



「部隊長、護送ヘリの一般点検作業が終了しました」
あたしは直立不動の姿勢で礼を執り、一般点検が終わったことを報告した。
「……ああ、アルトか。ご苦労だった」
シグナム部隊長はいつでも現場に出られるように、といった具合に武装隊甲冑のアンダー
ウェアを着ていた。
でも、肝心の自身がどこか上の空というか……何か考え込んでいるような感じがする。
「あの……シグナム部隊長、考え事ですか?」
礼を解いて思い切って訊ねてみると、シグナム部隊長は意外そうな表情になった。
「む……そういう風に見えたか」
「はい」
あたしが正直に答えると、小さく苦笑いを漏らして、
「我々の家族にも関わる私事だ。仕事場に持ち込んでしまったか……すまなかった」
「あ、いえ……そんな」
ぺこりと頭を下げたシグナム部隊長に、あたしは思わず両手を振って慌てた。
だって、あたしも先輩の件があるから人のこと言えないし。

「ところで、ヘリはいつでも出られる状態なのか?」
「えっと……まだ燃料や油脂系や電装系とかの簡単な点検だけで、エンジンを動かした
 状態での動作とかは見てないです」
状況を説明すると、シグナム部隊長は急にあきれたような表情を見せた。

227こんなはずじゃなかったふたり。第7話 ALTO View:2009/08/18(火) 02:26:47 ID:h2bKYLkE
「一応ヘリ関連はお前がトップなのだから、点検くらい部下に任せても良いのだぞ?」
「……あ」
指摘された意味に気づき、あたしは今思い出したような声を出した。
いつもの癖で自然にやってたけど、あたしって一応それくらいの権限あるんだっけ。
「あ、でもあれは自分が操縦するわけですから、自分で確かめておきたいかなーって」
慌てて弁明をするあたしを、シグナム部隊長はため息と手で制した。
「出発の時刻までまだ時間はあるし、スケジュール通りに事が運ぶのならばそれでいい」
「すみませんでした」
「いや……そういうところがあるからこそ、私はお前を班長として据え置いたのだからな」
その意味深な言葉に、あたしは頭を下げるのを忘れて首をかしげた。
「確かに、今回の班長選抜に関して身内びいきがあることは否定しない。ついこの間まで
 機動六課で同じ釜の飯を食べ、あのヴァイスの元で色々なものを吸収してきたであろう
 お前になら安心してこの要人護送という仕事を任せられそうだ、と思ったのはある」
「でも、あたしは人を引っ張っていくとかそんな――」
「話は最後まで聞け」
そんな才能は無い、と言おうとしてシグナム部隊長に言葉を遮られた。
「これは私個人の考えであり、全てのケースに当てはまるわけではないのは承知してる」
シグナム部隊長はそう前置きすると、
「私としては、上に立つ者は部下に対して自らお手本を示してほしいと常に考えている。
 たとえそれがドライな仕事だけの仲間であっても、仲の良い友人同士であってもだ」
「はぁ」
あたしはまだ今ひとつ要領が飲み込めず、小さく生返事を返した。
「何せ六課の時とは違い、今日明日で解散することが決まっている急ごしらえの部隊だ。
 変に現役の者を連れて来ると、所属していた部署の日常業務に支障が出て問題になる
 可能性も有るし、裏方を統率した経験があるフリーの仕官というのはなかなかいない」
「裏方の統率経験者……って八神二佐のような方ですね」
パッと頭に浮かんだあたしの例えに、シグナム部隊長は『うむ』と頷いて、
「そこで私が出した結論が、部下を仕事で引っ張っていけるだけのスキルを持っている
 のに加えてなおかつ人当たりが良く、気がつくと仲間の輪の中心にいるような人物を
 班のリーダーとして据えてみたらどうか……というわけなのだ」
「それが先輩であり、あたしだって事なんですか?」
「ああ。最初はスキルを優先していて、かつ自分が良く知っていて信用に足る人物を……
 と考えてヴァイスを選んだが、私はどうやらアイツにフラレてしまったようだ」
そう言ってシグナム部隊長はフフッと自虐気味に笑った。
何気に出た『フラレてしまった』の言葉が、ズンとあたしの心に圧し掛かる。
「だが勘違いするなよ? 推薦があったとは言え、人選の基準で妥協したつもりはない。
 だからお前は何も気にせず、大手を振って自分の班を指揮すればいい」
多分さっきの言葉で心に負荷がかかった時に顔に出ちゃってたのを、シグナム部隊長に
実際に上に立った時の不安から来るものと勘違いされてしまったみたい。
でも、確かに今のとは別にあたしにはその手の不安もあった。
「仮にあたしに相応の能力があったとして、部下となっている皆はそれだけでついてきて
 くれるんでしょうか?」
自信の無さから生まれた言葉に、シグナム部隊長は少し考えるそぶりを見せると、
「ふむ……100%の保証は出来ないが、私の周りに一人それを実現出来た者がいるからな」
シグナム部隊長はそう口にすると、何かを決心したように頷いた。
「よし、この際良い機会だ。参考になるものがあるだろうし、彼をお前に紹介するとしよう」
未だに戸惑っているあたしをよそに、何かを確認するかのように後ろを振り返った。
その視線の先には、金髪系の栗色の長髪を薄緑色のリボンで束ねた特徴的な後姿があった。
「実は、今回の護送対象は私の古い友人でな……彼は全くの0から部署を構築して、今から
 数年ほど前に己の実力とその人当たりで全ての部下を纏め上げた、私が理想と考えている
 モデルケースを体現しきった男だ」
そう言って自身の副官と話をしている、今回の護衛対象で本局のロストロギア情報に関する
情報を管理する無限書庫の司書長さんである男性―――ユーノ・スクライア先生に声をかけた。

「あー、取り込み中済まない。今日明日乗ってもらうヘリのパイロットを紹介したいのだが」



 ◇

228こんなはずじゃなかったふたり。第7話 ALTO View:2009/08/18(火) 02:29:11 ID:h2bKYLkE
前を見渡せば、夕焼けでどこまでも紅く染められた雲一つない広い空。
下の地面を見下ろせば、青々と密林の如く生い茂っている木々。
耳を澄ませてみれば、聴こえてくるのは唸るエンジン音とブレードが空気を叩く音。

今回のミッションは要人護送という事もあり、機動ヘリの操縦桿を握りしめるあたしの
右手は緊張しているせいかいつも以上に力が入ってしまう。


輸送部でいつものようにしていた二人一組の訓練と違い、今日は一人で操縦している。
護送対象のユーノ先生を除いて、隣のコパイシートはおろか後部キャビンの座席にすら
余人はいない。
同じ班のチームメイトはこのヘリの整備が主な仕事なので、こうやって飛んで移動して
いる間は空港からの道のりと同じように大型輸送モービルで追いかけてきてるはず。
シグナム部隊長を始めとする航空武装隊の方々は、当初の予定通りヘリの周辺で隊形を
組んでついてきているから、事実上あたしとユーノ先生はこの狭い空間に二人っきりだ。

『イージス000よりイージス100へ。状況を報告されたし』
不意に、装着したインカムのスピーカーからシグナム部隊長の声が風切音と共に響いた。
定期報告の要請がきたみたいなので、あたしは思考を一時中断して計器に注目した。

高度、速力、共に予定通りのペースで巡航中。
メインローター用エンジンの回転数、前方後方共に異常無し。
油温、水温、タービン内部圧力、後部スラスター出力、共に正常範囲内。
ドップラーレーダー、特に反応は無し。
気象衛星からのデータ、低気圧や突風の情報無し。
制御システムのリアルタイムセルフテストは……今のところ、特に異常無し。
コンディション、オールグリーンっと。

「こちらイージス100。現在、特に異常ありません」
あたしは上にどけていたインカムマイクを口に近づけ、状況を報告した。
『こちらイージス000、了解した。そのまま安全運転で頼むぞ』
「イージス100からイージス000へ、任務了解しました。オーバー」
定期報告の通信の終了を告げてマイクを口元から遠ざけたあたしは、バックミラーを
調整して後部席に座っているユーノ先生をそっと見やった。
ユーノ先生は明日の仕事の準備に余念がないのか、資料と思われる紙の束をまるで
憎ったらしい相手を睨みつけるかのような表情で眺めている。


シグナム部隊長に紹介され、振り向いた先にあったあたしの顔を見て何だかもの凄く
気まずそうな渋い顔になったユーノ先生に対し『なんだ、知り合いか?』とシグナム
部隊長が不思議そうな表情で尋ねてきたので、あたしとユーノ先生はまるでお互いに
申合わせておいたかのように、ぎこちない挨拶を交わし合うことになった。

ユーノ先生がそんな顔をしちゃう原因は……多分アレ。
本人から聞いたわけじゃないから断定は出来ないんだけど、あたしが先週ユーノ先生が
失恋からくる傷心でブルーになってるということをダイレクトに突いちゃったから。
あたしが思うに、きっとユーノ先生はシャマル先生を始めとした身内の人達にも自分の
おかれている状況を隠していて、あたしとうっかり口を聞いたらその弾みで内緒にして
いることが他の人に漏れるかもって考えているんじゃないかな。

ヘリの中でユーノ先生とふたりっきりの状況下、あたしとしては話したいことが山ほど
あるんだけど、今は気軽に話を切り出せそうな雰囲気じゃなかった。
なんていうかこう……ユーノ先生におもいっきり避けられているっていうか。
何故そう思うのかってと言われると……たとえば今ユーノ先生が読んでいる資料の束。
時々自動操縦にしてチラチラ様子を伺っただけでしか見てないけど、それでも全く同じ
ページっぽいところを、さっきから二度三度どころかもう5回くらい読んでいるを確認
出来た。
誤字脱字のチェックにしてはしつこ過ぎる気がしなくもないし、熟読して内容の確認を
するにしては読むのが何か早過ぎる気がする。

229こんなはずじゃなかったふたり。第7話 ALTO View:2009/08/18(火) 02:32:02 ID:h2bKYLkE
もしかしたら、読むフリだけしてちゃんと読んでないんじゃないかなって。
可能性として考えられるのは、真剣に仕事しているフリをしていればあたしからの声を
遮ることが出来るからじゃないかなって思うんだけど、あたしが思い違いをしてるって
可能性も完全には否定出来ない。

……うーん、どうしよ?


結局、あたしは現地の宿泊先兼目的地であるホテルに到着するまでの間、何一つとして
ユーノ先生と言葉を交わすことは出来なかった。



 ◇



ヘリが現地に到着し、部隊のメンバーが全員合流したのを確認したあたしは、自分の管轄
である護送チームのメンバーを全員集め、いつでも飛べるよう総がかりでメンテナンスに
入った。
昼間のうちは不慣れな事もあってギクシャクしていたけど、手や顔が油まれになるうちに
皆とすっかり打ち解け合い、その流れで一緒に夕食を取ったり、同性のスタッフと一緒に
仮設のシャワールームでシャワーも浴びたりした。
「みんな、先に上がってるね」
『あ、はーい。お疲れ様でーす』
ようやくその日の汗や汚れを全部洗い流し終え、着替えを済ませて仮設シャワールームを
後にしたあたしは、気分転換と夕涼みを兼ねて外に散歩に出かけることにした。
ホテルの周辺で警備の任務に就いている護衛チームと違って、あたし含めた護送チームは
明日まで仕事がないため、キャンプ周辺を散歩する程度の自由行動は許されていた。
「あ……ここって結構涼しいかも」
クラナガンと違って自然が多く、初夏とは言えまだまだ気温が低いみたい。
おかげで、シャワー上がりの火照った身体を冷ますのにはちょうど良い冷房になった。


観光地だけあって街の灯かりが無いこともあって、満天の星空が広がっている。
しばらく歩き続けて、ようやくそのことに気がついたあたしは立ち止まって空を見上げた。
「わぁ……」
夜空に広がっている綺麗な光景に、あたしは思わず感嘆の息を漏らした。
地上本部周辺は基本的に夜でも明るく、なかなかこういったのは見られない。
今のうちに目に焼き付けておこうとしばらく見上げ続けていたものの、だんだん首が痛く
なったあたしは、首すじを揉みほぐそうと頭を真っ正面に戻した。
「……ん?」
視線が下がった刹那、あたしは視界に見覚えのある人影が通り過ぎていくのを捉えた。
「今通り過ぎてった人……ユーノ先生?」

230亜流:2009/08/18(火) 02:35:01 ID:h2bKYLkE
以上です。
次で話のヤマが一つ終わります

<チラシ裏>

宿題になってたユーノ×セイン×ヴィヴィオを完成させたいです

</チラシ裏>

231名無しさん@魔法少女:2009/08/18(火) 19:37:06 ID:OHssh1Zc
投下させていただきます。

・全4レス
・SS後日談、オリジナル色強め
・シグナム無双、バトルメイン
・エロなし
・ウーノ、トーレ、クアットロのファンの方、ごめんなさい

232紫炎剣客奇憚 ACT.01 2/4:2009/08/18(火) 19:37:58 ID:OHssh1Zc
「クアットロ、私が追っ手の足を止める。その隙に逃げろ……いいな?」
「トーレ姉様、でもそれでは……」
 歩み出た長身をシグナムは見上げた。見上げる距離まで無造作に近付いていた。
 脱走者が一人、ナンバーズのトーレがシグナムの前にそびえていた。そのしなやかな体躯が今は、シグナムには難攻不落の城砦にも感じる。彼女は相手に不退転の決意を読み取った。
 その背後で、よろよろと姉の背へ手を伸べるのが、同じくナンバーズのクワットロ。特徴的な丸眼鏡が形良い鼻からずり落ち、憔悴しきった顔で不安げに視線を彷徨わせいている。
 トーレは収監時の拘束具を着ていたが、魔法処理された拘束ベルトが無残にも引き千切られている。その背後で地面にへたりこむクアットロは、全身を毛布にくるんでいた。
「いいから逃げろ。逃げるんだ、クアットロ! ……ほう、強いな」
 腰に手を当て嘆息を零して、トーレがシグナムを前に目を細めた。
 はからずもシグナムは、全く同じ感想をトーレに対して抱いていた。報告にあったスペックよりも、眼前に佇む戦闘機人は強い……肌を粟立たせるプレッシャーが、無言でそう告げていた。
 シグナムは半ば無駄と知りつつ、警告を与えた。
「主はやての命により、お前達二人を保護する。悪いようにはしない、一緒に戻ろう」
 主を第一と奉じるシグナムには解る。解るつもりだった。ジェイル=スカリエッティの死が、目の前の二人にとってどれだけショックだったかを。悪いようにはしない……その言葉に偽りなく、持てる権限の全てを駆使して善処するつもりだった。
 だが、トーレは悟ったような寂しい笑みに唇を歪めた。
 シグナムは対峙するトーレの瞳を真っ直ぐ見詰めた。交差する視線が互いの念を相手へと伝える。激突は必定であると、悲痛なまでに清冽なトーレの目が訴えていた。
「二人? では駄目だ。やるしかない……走れっ、クアットロ!」
 言い終わらぬうちにトーレが光の羽根を纏う。それは明日へと舞い飛ぶ翼ではなく、眼前の敵を切り裂く刃。
 シグナムは意を決してレヴァンティンを構え直すと、胸の疼痛を心の手で押さえて言い放った。
「抵抗するのであれば、容赦はしない……剣の騎士シグナム、参る」
 凛として、清々と。静謐に燃え滾るシグナムの血潮に呼応して、レヴァンティンが刀身に注ぐ雨を蒸発させて水煙をあげる。
 ひとたび対すると決めれば、シグナムに迷いはなかった。ただ、しんしんと身を切り心を刻む……それは切なさ。眼前の敵は、トーレは覚悟を決めている。姉にならって命を賭し、捨石となって妹を逃がすつもりだ。
 そのことを悟らせぬよう、トーレが吼える。その気勢に気圧されることなくシグナムは地を蹴った。

233紫炎剣客奇憚 ACT.01 4/4:2009/08/18(火) 19:38:44 ID:OHssh1Zc
 降りしきる雨が、闘争の余熱をシグナムから奪ってゆく。闘いの愉悦も興奮も、全てが虚しさへと転じてゆく。それでも己の義務を果すため、シグナムは最後の一人へと歩を進める。強敵と書いて友と呼べる、トーレの身体を両手に抱きながら。
「もう逃げられんぞ。せめてお前だけでも無事に……むっ」
 半裸で尻を大地に擦りながら後ずさる、クアットロの身体の異変にシグナムは気付いた。
 下腹部が大きく膨らんでいる。
 シグナムの注視する目に気付くや、まるで己の命より大事な物を庇うようにクアットロが身を翻した。シグナムに背を向け両手で下腹部を覆い、肩越しに射るような視線を投じてくる。
 二人? では駄目だ。やるしかない……トーレの言葉をシグナムは理解した。
 二人ではなく、逃亡者は三人だったのだ。
 同時に、嘗て機動六課で轡を並べた仲間達の言葉が脳裏を過ぎる。今ではJS事件として語られる災厄の元凶、ジェイル=スカリエッティが戦闘機人達に残した悪夢の芽を。それは全て、母体に悪影響がないように処理された筈だった。
「……いつからだ?」
「ひっ! あ、あのお方が、ドクターが亡くなってからすぐお腹が急激に……」
「違う、いつからだと……私達の目を、いつからすり抜けていたのかと聞いている」
 怯えるクアットロが身を硬くして縮こまった。弱まる雨に混じる雷光が、シグナムの痩身を映し出す。姉を倒し我が子を脅かす、その姿はさぞかし恐ろしかろうとシグナムは思った。
 だが、それが手心を加える理由にはならない。
「ナンバーズが全員、堕胎処置を受けるときに……ウーノ姉様が管理局のデータを書き換えて」
 油断だったとシグナムは溜息を一つ。身重の体を考えれば、逃げ足の遅さにも説明がつく。
 JS事件はその規模故に誰もが解決に必死となり、その反動で事後処理が僅かに綻んだのだろう。僅かに、確かに。だが、ナンバーズの長姉にとって、その僅かな隙で充分だったのだ。針に糸を通すような緻密さで、ウーノは囚われの身で能力を制限されながら、情報操作をやってのけたのだった。
「それが……いや、その子がスカリエッティの」
「違うっ! 違うわ、違うの……最初はそうだった、ドクターそのものだった」
 襲い来る脱力感と戦いながら言葉を紡ぐ、シグナムの手にトーレが重かった。死して尚、最後の好敵手に訴えてくる思念を確かに感じる。
 震えながらクアットロは、切々と途切れ途切れに呟いた。
「最初は、あの方だった、けど……だんだん私の中で違うモノに、新しいモノに育っていったの」
 眼鏡の奥に大粒の涙を溜めながら、クアットロが身を切るような声を搾り出す。
「時々動くの……ここから出して、って。私、どうしていいか解らなくて、姉様に相談したら……」
 そこにもう、ナンバーズの四番体の姿はなかった。冷血で残忍なクアットロはいなかった。
「……思わぬ強敵に手こずり、逃がしてしまうとはな」
 シグナムはトーレを抱いたまま、踵を返してクアットロに背を向けた。
 何が起こったのか解らず、呆けたままボロボロと泣き出すクアットロ。
「恐らく辺境に逃げたか? 取り逃がした責は私が負うとしよう」
 雨が止んで、夜風が雲に切れ間を作った。差し込む月明かりが、剣の騎士の背中を照らす。
「どこかの片田舎で、新しい命が生まれる……我が主はやてが、それを許さぬ筈がない」
 それだけ言い残すと、シグナムは地を蹴った。颯爽と華奢な身が月夜へと舞い上がる。
 その手に抱かれたもの言わぬ好敵手が、空の夜気と妹の無事に安堵するように軽くなった。

 ――シグナムと《宿業の子》が再会するのは、これより三年後の初夏だった。

234紫炎剣客奇憚 ACT.01 1/4:2009/08/18(火) 19:40:10 ID:OHssh1Zc
 JS事件収束より時はうつろい季節はめぐり……冬。
 ジェイル=スカリエッティが軌道拘置所にて自殺した。
 ヴォルケンリッターが一人、剣の騎士シグナム。彼女が主はやてに、脱走したナンバーズを追うよう懇願されたのは、事件が発覚してより少し後だった。
 当局側は気付けなかった。JS事件の捜査に関して非協力的だった、三人のナンバーズ……一騎当千の戦闘機人達が、スカリエッティの死を契機に一致団結して脱走していたなどと。
 そう、脱走して"いた"のだ……今や過去形なのだと、シグナムは奥歯を噛み締める。
 ナンバーズ長姉、ウーノのIS(インヒューレントスキル)である《フローレス・セクレタリー》がもたらすロジックトラップが、事件に対する初動を鈍らせていた。己の全てを振り絞って妹達を逃がし、ウーノはスカリエッティの後を追い命を絶った。
 時空管理局は後手に回らざるを得ず、その対応は遅かった。だが……
 ――遅過ぎはしない。
 そう心に結んで、シグナムは雨天の闇夜を引き裂き空を馳せた。
 不思議と、圧倒的な時間的アドバンテージ――高レベルの魔導士や戦闘機人にとって、半日という時間は永遠にも等しい――があるにも関わらず、トーレとクアットロの逃げ足は遅く鈍かった。
 慌てて後を追うシグナムが、容易にその痕跡を発見し、隠れる場所を突き止められる程に。
 軌道拘置所の眼下に広がる大地の、深い森の海に脱走者は潜んでいた。シグナムはすぐに目標の潜伏する山小屋を見つけて中空に停止する。
「妙だ……何故逃げない? 半日あればもう、察知不能な距離に逃げ切れる筈だが」
 独りごちてシグナムは、足元の小さな建物を見下ろす。丸太で組んだ簡素な山小屋が、雨の夜に温かな明かりを灯している。それはおおよそ、人ならざる逃走者には似つかわしくない光景にも思えた。
 だが、その温もりは誰にでも許されるのだと、シグナムは己の分身を構える。そう、誰にでも安住の地が、安らげる場所が許される……例えば、自分のような守護騎士システムの産物でも。そしてそれは、戦闘機人でも同じだった。
 ただし、罪を償い贖って生きる意志があれば。
 シグナムは構えたレヴァンティンから剣気を解放し、自らの存在を周囲に発散した。追っ手として放たれた自分が、敵である二人の戦闘機人を捉えたことを夜空に静かに宣誓する。それは騎士としての彼女の流儀だった。
 雨音を時折雷鳴が遮る中、シグナムの闘気に応える様に山小屋の扉が開け放たれた。
 シグナムは油断無くレヴァンティンを構えながら、静かに大地へと降り立った。

235紫炎剣客奇憚 ACT.01 3/4:2009/08/18(火) 19:41:00 ID:OHssh1Zc
 自在に天を駆け、自由に宙を舞う二人が大地を踏み締める。まるで、互いに望まぬ戦いで空を汚さぬように。
 遠雷の音を聞きながらシグナムは、まるで輪舞を踊るようにトーレと斬り結んだ。
 斬り、払い、突く。その合間に無手の体術を捌き、いなし、避けてかわす。トーレは向けられる切っ先を紙一重で回避し、その何割かに身を引き裂かれながらも……蹴りを繰り出し、拳を突き出してくる。気迫に満ちたそれは何度もシグナムを掠め、ゆらめく光の羽根が剃刀のように騎士甲冑を溶断して肌を切った。
「これほどの腕を持ちながら……惜しい。何故に?」
 シグナムは問うた。その間もせわしく、繰り出される連撃をよけながらステップを踏む。
「既に我が身、我が命……惜しいとは思わない。言葉は不用っ」
 トーレの攻勢が加速する。二人は雨の闇夜に稲光で陰影を刻んで、常軌を逸したスピードでぶつかり合った。その身体を光が包み、接触の度に激しく火花を散らして血と汗を噴き上げる。
 トーレのIS、《ライドインパルス》が限界を超えて発動し、その負荷に全身から悲鳴を叫ばせて……それでもトーレは、静かに微笑んでいた。その顔にシグナムは、鏡写しの自分を見る。
 シグナムもまた、命を懸けた死合に言い知れぬ興奮と高揚感を自覚していた。
 直近に落雷が轟いた。その眩い光に互いの姿を見て、シグナムとトーレは全力で削り合い潰し合う。既に言葉を必要としない両者は、たった一つの単純で明快な理に支配されていた。
 ――すなわち、どちらがより強いか。とちらがより、強い想いを秘めているか。
「フッ、できるな……できれば空で会いたかった」
「同感だ。今なら間に合う、と言っても無駄か」
 トーレの全身に散りばめられた光の翼が、一瞬消失した。否、一箇所に集まった。爆光の十二翼を煌かせて、トーレが全身全霊で拳を繰り出す。その一撃をレヴァンティンで受け止める、シグナムの足が大地を大きく抉った。
 押されている。相手が切り札を切ってきた。そう察するや、シグナムは瞳を見開き勝負に出る。
「レヴァンティン! カートリッジ、リロードッ!」
「Jawohl Nachladen!」
 レヴァンティンが魔力を凝縮したカートリッジを立て続けに飲み込んだ。
 シグナムは両手で支える相棒から離した左手を翳す。魔力光が紫炎を漲らせて集束し、その手に剣の鞘を現出させた。
 驚愕に瞳孔を縮めるトーレを気迫で圧して押し返すと、シグナムは鞘をレヴァンティンの柄に接続する。次々と排莢されたカートリッジが宙を舞い、その最初の一つが地に転がるより速く……ボーゲンフォルムへと変形したレヴァンティンの零距離射撃がトーレを穿った。
 シグナムの思惟が、意思が、闘志が――哀しみがトーレを貫いた。
 身体の中心を貫き天へと昇る光に引っ張られて、トーレの長身が一瞬だけ空へと還った。闇夜で豪雨で、それでも空で……確かに空で命を散らして、やがて重力につかまる。シグナムはレヴァンティンを鞘から分離させるや納剣して、落下するトーレへ両手を広げた。
「……いい、勝負だった、な。シグナム」
 ああ、と短く応えてシグナムは好敵手を抱きしめる。その冷たい身体から、無情にも雨と死が体温を奪っていった。
「クアットロは……ちゃんと逃げたか? 腹黒ぶってても、あいつは臆病で弱虫だからな」
 ちらりとシグナムは視線を、トーレの背後へと放る。
 毛布をはだけさせた下着姿のクアットロは、地面にへたりこんで竦んでいた。
「まんまと逃げられたようだ。私一人での追跡は、これ以上は無理だな」
「そうか……そうか。では、私の、勝ちだ……ありがとう、シグナム」
 トーレが突然重くなった。その身を横に抱き上げ、シグナムは無言でクアットロへと歩み寄った。

236名無しさん@魔法少女:2009/08/18(火) 19:41:47 ID:OHssh1Zc
あわわ、順番に書き込んだはずが奇数話だけUPされなかった…
お目汚し申し訳ありませんです。

237名無しさん@魔法少女:2009/08/18(火) 22:53:42 ID:OcLEb67I
>>195
B・A氏乙です。
考えてみると、六課は敵役の重要人物を内部に引き入れてしまう格好になったような。
筋を通せとそれらしい事を言いながら、実はそれを意図していたと思うと、レジィも悪い奴やでぇ

>>236

シグさん主役でバトル物とかとっても楽しみだ。
弱気なクアも中々可愛い。

>>230
亜流氏GJ
アルト分を補給できて満足。
話もかなり練られているようでいい感じ。

238名無しさん@魔法少女:2009/08/19(水) 00:11:04 ID:fKndnGg2
亜流氏GJです
ユーノの鬱屈した感じがいいです

239名無しさん@魔法少女:2009/08/19(水) 01:11:34 ID:yR.hDpAU
GJ!!です。
保護か……テロに走った彼女らが正しいとは言わないが、
元はといえば管理局のTOPが諸悪の根源だからちょっと複雑。
そして、子供に関しては下手に情けをかけると平清盛のようにやられるぞw
ちゃんと、教育の過程で洗脳方面だろうが道徳観を植えつけなきゃ。

作品の感想とは別に気になった所を。
クアットロのISのシルバーカーテンならどうにかできるのではとちょっと思ってしまいました。

240名無しさん@魔法少女:2009/08/19(水) 17:17:36 ID:kmaM7gJw
>>239
GJ
綿密に組み立てられた話ってのはやっぱ読んでて面白いです。
未だに二人は自分の好きな人に引きずられている状態だけど、こっからどうやってユーノ×アルトに持っていけるのかが楽しみ。

241240:2009/08/19(水) 17:18:42 ID:kmaM7gJw
アンカミスったorz
>>239>>230

242名無しさん@魔法少女:2009/08/19(水) 21:41:16 ID:knWNF.qY
>>230
亜流氏良い仕事してるなぁ
次回も期待してますが、それ以上にミズハス祭りも期待してます。

243名無しさん@魔法少女:2009/08/20(木) 00:27:20 ID:LVB6g0oU
>>236
素晴らしい! 弱気気味なクアットロが可愛くて仕方ありません!
次回も楽しみにしています!

245シロクジラ ◆9mRPC.YYWA:2009/08/20(木) 16:50:52 ID:7WQpjzOQ
さて、お久しぶりの方すいません、初めての方こんにちは。
ユーノが実は女の子でクロノとくっつきました(超要約)の最終話、投下いたします。
NGはトリか「司書長は女の子」で。
鬱要素在ります。

246司書長は女の子 ◆9mRPC.YYWA:2009/08/20(木) 16:51:46 ID:7WQpjzOQ
「司書長は女の子 その5」

夢とは脳が見る記憶の整理――本人が望まぬ光景すらも、再生してしまうもの。
だから、そんな夢を見ることもあるのだろう。それは遠いようで近い過去。失われたセピア色の風景。
五感が覚えている恐怖と痛み、怠惰と脳で弾ける白い色、快楽という感覚。
はぁはぁ、と荒い息づかい――アルコールのすえた匂い。
ぱんぱん、と腰を打ち付ける際に生じる肉が肉を叩く音。
少女の幼い肢体を、獣のように男が犯す。

「んぅ……あ、あ、あ……」

薄汚れた男が、清楚な少女を犯す、侵す、冒す。
口に生えた無精髭、目の下に出来た大きな隈、酒臭い吐息。
まるで薬物中毒患者の末路のような酷い顔だった。

対して少女は何処までも無表情に――まるで卵の殻に閉じこもる雛鳥のように――感情も何もかも閉ざして、人形のように抱かれていた。
煮える。煮える。煮える。暖められず腐ってしまう雛鳥の風情――腐敗した感情を抱え、重く、重く、重く――沈んでいく檻に閉じ込められた自我。
蜂蜜に似た色の金髪は長く伸ばされ、汗でびっしょりと背中に張り付いている。びくり、と男の腰が震えた。
厭で厭で仕方がない行為――半ば強制的な性行為――にも関わらず、犯し抜かれた少女の肉体は早熟に芽吹き、男をくわえ込んで離さない。
これが自分なのだと、穢れてしまった身体、汚されてしまった淡い夢を想って、少女は深い闇の其処で泣き叫び続ける。
無表情は張り子の仮面。何が悲しかったのかすらわからない。ただ、もう二度と救われることなんて無いのだと、壊れた真っ白な脳味噌が思う。
腰の動きがピッチを増し、やがて男根が幼い未発達な肉を貫きながら、灼熱の精を放った。
男は何時もそうするように娘の細い腰を掴み、子宮口にぴったりと亀頭を擦り付ける。
そのせいで少女の子宮には男の精液が溢れかえり、小さなお腹が膨らんでいた。
熱い、熱い、熱い――胎内に侵入する“入ってはいけないもの”。
これはいけないものだ。吐いてしまいたいくらい、気持ち悪い。
でも吐くとまた悲しそうな顔をするから、されるがままの人形でいよう。
この人は少女を撲ったりしないけど、行為が引き延ばされるのは苦痛だから。

嬉しいのか。

悲しいのか。

寂しいのか。

わからない。

ただどうしようもない現実に、絶望に溺れきった女の子は、何も映さぬ空虚な瞳で天井を見つめ、
意味を成さない呻き声を上げながら、どくどく注がれ続ける男の――実の父親の精子を受け止め続けた。
暗い、暗い、暗い――目も耳も潰れしまえばいいのに。遠くから聞こえた「ユーノは何処だ?」という声に、この後起こるであろうことがわかってしまう。
きっと、何もかも終わる。今は亡き妻と重ねて娘を犯すこの人も、彼に為すがままにされていた自分すらも。
もう、どうでもいい――――――終わるのならば、せめてこの苦しみが無くなるように。
無表情を保っていた仮面が、ぐにゃり、と歪んだ。

「やだよ、もう――――」

父の顔も、ぐにゃり、と――歪んでいる気がした。
何もかも歪んでいく――思い出も、記憶も、感情も、身体も、心も。




247司書長は女の子 ◆9mRPC.YYWA:2009/08/20(木) 16:52:36 ID:7WQpjzOQ
何が現実で何が夢なのか――薄く儚い境界線。
悪夢という回廊から逃れる術はない――単純に目が醒めてしまう以外に。
深く閉じられていた目蓋を、一刻も早く悪夢から逃れたくて開きかけたけれど、
もしも、目を開けた先に、夢と代わり映えしない“現実”があったらどうしようと。


―――想像してしまった。


例えば、だ。今、ベッドの隣、背中をこっちに向けて寝息を立てている“彼”が、あの男だったら?
それは恐ろしい想像で、年相応に女性らしく成長した少女が泣いてしまうくらい、怖かった。
薄く灯が付いた寝室。ベッドの上に全裸で横たわる少女は、ただ恐怖に震えて涙を流した。
ポロポロと流れ続ける涙を、止める術なんて無いように思われ――

「ユーノ? どうしたんだ?」

少女、今年で十九歳になるユーノ・スクライアは、その声にひっ、と上擦った声を上げた。
もう何もかも恐ろしくて、どうしようもなく、これが悪夢の続きでないという確証が持てなくて、震える。
彼女の様子がおかしいことに気づいたのか、半裸の青年はユーノの肩に手を当てて、そっと顔を覗き込む。
塩辛く生温い雫で汚れた少女の顔は――ひどく脅えていた。視線は虚ろで、何か青年ではない誰かを見ているかのようだった。
彼に出来たのは、ユーノの身体をぎゅっと優しく抱き締めることだけだった。

「大丈夫だ……クロノ・ハラオウンは、此処にいるから」

「ク、ロ、ノ?」

「そうだ、僕だ。ずっと君を護るって誓ったから、君の側にずっと居る。
もう、怖い目にユーノを合わせたりなんかしないから、何も恐れなくて良いんだ――」

涙を流していた翡翠色の瞳が漸く、怯えの色を薄くしてクロノの顔を見た。
微笑みかけよう。少しでも長く彼女の傍にいよう。何故なら、クロノはユーノ・スクライアが大好きだから。
死が二人を別つまで。せめて、魂まで穢れていると、彼女が思わないように。
永遠というものが存在しなくても、愛し合ったことだけは死後に抱えていけると信じ、共に生きたい。

だから――力強くユーノを抱き締めて、翡翠の瞳を見つめた。照れくさいことなんて無いのに、ユーノが少し恥ずかしそうに呟いた。

「……キス、して。ボクに」

二人の唇はゆっくりと近づき――優しく触れ合った。
それだけが真実、そこに存在する証なのだと言わんばかり、甘く蕩かす接吻。
やがてそれは深い交わりとなり、舌と舌が絡む情熱的キスへ変わる。互いを求め合うが故の、切なさを埋めるが如き行為。
粘度の高い唾液と唾液がねちゃねちゃと口中で混ざり合い、二人の喉奥へ流れ込んで飲まれていく。
頭の中が真っ白になっていく感覚に、何処か惚けた表情で愛する人の顔を見た。
ぬちゃ、と舌が引き抜かれ、クロノは愛しそうに彼女の蜂蜜色の髪を梳き、ふっ、と表情を緩ませて言う。
同時に全裸のユーノの胸へ伸びる手が、最近、増量されて自己主張している乳房を撫でた。
敏感な性感帯の乳首を摘まれて、少女の声が上擦った。

「んぁっ!」

「しかしまあ、随分と育ったものだ」

火照り始めた肌。相変わらず感度も良いようで、少し触れただけでユーノは感じている。
これならば――と思ったクロノは、さらに乳肉を捏ねくり回し、いやらしく尖った乳首を抓り、引っ張る。

「んぅ……それ、は、クロノ、が、たくさん触るから……ひゃぅっ!」

蜜を溢れさせている秘所、その上部で充血し膨れている陰核を指で潰す。
青年は何処か黒い笑顔、愉悦を感じさせる笑みで、女性の性感帯を徹底的に責める。
その度にビクビクとユーノの身体は震え、「あぁ」と「うぅ」とも付かない喘ぎ声が上がった。

「僕のせい? 君がいやらしいだけだろう、こんな風に」

クロノが指を秘所へ伸ばすと、明らかな水音が立った。
少女の股ぐらは愛液で濡れ、太股は既にびしょびしょだ。ましてや二人の情事は一ヶ月ほどご無沙汰――クロノの仕事の都合だ――であり、
その間ユーノは貞淑に彼を待ち続け、クロノも溜めに溜めていたのだから、互いに幾ら交わっても足りると言うことはない。
ましてやふっくらと円熟した、雌の肢体を持った女性に成長したユーノにとって、クロノとの情交は肉欲を吐き出す数少ない機会だった。
だから、次に待っていた彼の言葉は、到底受け入れられるはずもない。

248司書長は女の子 ◆9mRPC.YYWA:2009/08/20(木) 16:53:10 ID:7WQpjzOQ
「それとも、僕とするのが嫌になった? なら金輪際しないけど、それでも良いの?」

少女の目に、明らかな情欲の炎が灯った。翡翠色の瞳に爛々と妖しい光が宿り、吐息は熱く粘つく。
豊満と言って差し支えない乳房を、青年の胸板に押しつけながら、雄を刺激するように色気を孕んだ声で、呟いた。

「……いぢわる……ボクの身体をこんな風にした責任、取ってよ……」

「元々の素質だと思うけどね……まったく、我が儘なお姫様だ」

そう言うと、クロノはもう一度少女の唇を奪った。
甘く囁く代わりに宝石のようなユーノの瞳を見つめ、かつての告白から経った月日に思いを馳せる。
深く、吸い込まれそうなくらい澄んだ翡翠色の瞳。彼女が自らの過去を語り、クロノが初めて愛を交わしてから、もう四年も経った。
その間に、ユーノの本当の性別を巡って色々なことが起きた。フェイトは義兄の相手がいきなり決まったことに吃驚していたし、はやてはすんなりと受け入れた。
なのはは……何か思うところがあるようだったが、二人の幸せを祈る、と言って微笑んでくれた。
一番驚いたのは、母であるリンディ・ハラオウンがあっさりと、ユーノとの交際を認めてくれたことだった。

曰く、

『ずっと前から気づいたわ』

とのことだった。これにはクロノも吃驚したが、ユーノは何故か逆に納得していた。
何でも、

「リンディさんだけは誤魔化せなかった」

と思っていたらしい。よくわからないが、彼女がそう言うならそうなんだろう。
一番大変というか、苦労したのはエイミィにこのことを知られたときだった。
そりゃあもう、酷いものだった。茶化されすぎて、その前後の記憶が曖昧になってしまうくらいに。
ただまあ、

「ユーノ君が女の子で本ッ当に良かったねー、ボーイズラブとかに成らなくて良かったよ、クロノ君」

という台詞は覚えている。人をなんだと思っているんだ。

「お幸せにー」と気楽に言っていた彼女は、先月辺りに確か寿退職した。
相手は……アースラ時代の正規クルー、アレックスと言ったか。


スクライア族の長老とは直接会って、話を付けた。
幼い彼女を虐待していた父親は部族から追放され、今ではもうユーノのことを探している様子はない、と風の便りで聞いたそうだ。
交際自体も二人の中が清いとわかったのか、割合すぐに認めてくれた。
とにかく、万事――丸く収まった、のだろうか。

ユーノとの接吻を終えると、唾液の橋が唇と唇の間に出来た。
それを舌で舐め取り、少女の面影を残しながら女性へ変わりつつある、ユーノ・スクライアへ言った。
きっと、彼女なら頷いてくれるんだろう、と思いながら。

「……その、して、いいか。君も疲れているとは思うが――」

くすり、と微笑んだユーノは、ハニーブラウン、金に近い髪を揺らして。

「いいよ。いっぱい、いっぱいボクの中に出して。クロノの気持ちが嬉しいから」

249司書長は女の子 ◆9mRPC.YYWA:2009/08/20(木) 16:53:56 ID:7WQpjzOQ
今度こそぎゅっと抱き締め、そそり立った肉の槍を、パクパクと男を心待ちにしている秘所へ一息に突き込んだ。
熱く絡みつく柔らかな膣壁、数の子天井の奥、快楽を引き出す腰の動き、愛液したたり男根に良く馴染む穴。
本当に――抱いてしまったら、これほど愛しくて淫らな雌はいない。

「んぁぁぁっ!」

「……くっ、相変わらず、すごい、な」

君の中は、と伝えると、真っ赤な顔でユーノは反論した。

「そ、んな、いきな、り突き入れる、なん……ふぁぁ!」

台詞では抗っているが、身体は正直。一息に突き込んだことで愛液が泡立ち、膣壁は雄を悦ばせようと収縮を繰り返す。
だからほんの少し腰を動かすだけで、その何倍もの力できゅうきゅうと少女の肉は男をくわえ込み、熱く反応する。
それでもクロノは腰を引き、一旦ピストンを止めてタメを作ると、疼く身体が切ないと顔で表している彼女の最深へ深く突き進む。
ずぶずぶと肉を蹂躙される感覚に、ユーノは切ない声を上げた。

「んひぃあぁぁぁ!」

「う、く……わかるか、ユーノ。お前の子宮口、下がって来てるぞ?」

何を言われているのかも理解出来ていないのか、彼女の横顔は惚けている。

「あ、あへぇ…………」

「子宮口も精子飲みたそうに開いてるじゃないか、いやらしい子宮だ」

ぴくぴくと快楽によって震え、蕩けていた表情が驚きに歪められる。
嗜虐の黒い悦びを灯したクロノの碧眼を見つめ、ちょっとした事実に気づいた。
そう、単純な事実――透視魔法の術式が、彼の両目に掛けられていることに。

「ぃやぁ! ボクの中見ないでぇ!」

きゅうっ、と肉の締まりが良くなる。その感覚にクロノは驚いたように呻き、高まる射精感に震えた。
ユーノの細い腰を掴み、指跡が付きそうな程の力引き寄せ、亀頭をぱっくりと開いた子宮口に打ち付ける。
食い付いてくる肉穴の感触が決定的だった。

「――出すぞ!」

「ん、まっ」

待てるはずもなく、下半身を突き出していた。
びゅるびゅると吐き出される白濁液、真っ白に染め上げられる子宮、収縮して精子を搾り取ろうとする雌の身体。
それを透視魔法でちょうど断面図の如く見ていたクロノは、通常のセックスでは得られない充実感、言い換えれば征服感を満たされていた。
己の子種を雌の胎内へ注ぎ込む様を直接見るのは、何とも言えない満足感を彼に与えたのだ。

250司書長は女の子 ◆9mRPC.YYWA:2009/08/20(木) 16:54:34 ID:7WQpjzOQ
「ぁぁああ……」

透視魔法を解除してユーノの白い肌を見れば、何時もにもなく赤く火照っている。
あるいは、彼女も見られて興奮していたのだろうか。その表情を確認したクロノは、悪戯っぽく微笑んだ。

「すごく良い表情になったね、ユーノ。そんなに良かった?」

「……え、ふぇ?」

蕩けきった表情を曝しているユーノの、ボリュームのある乳房がひどく蠱惑的で、堪らず彼はむしゃぶりついた。
敏感に尖ったそこを吸われ、次いで甘噛みされた少女は、何とも言えない甘やかな声を上げた。

「んんぅ、や、あ!」

この四年で何度となく身体を重ねた二人は、お互いの弱いところを熟知しているにも関わらず、
未だに“飽き”というものを知らない。だから、クロノの責めは濃厚で、逃げ場がなかった。
雌の歓喜の悲鳴が木霊する……。





「……結婚?」

喫茶店での突然の問い掛けに、クロノは間抜けな声で応じた。
向かいに座っているのは姉貴分のエイミィで、つい最近結婚したばかりのはずだ。
しかし二十七歳のはずなのに、未だ若々しい姿には驚くしかない。
向かいの席に座る彼女が、どうしてか溜息をついて珈琲のカップをスプーンで掻き混ぜた。

「あのねぇ、まさか四年間付き合ってユーノくんが嫌いなわけじゃないんでしょ?」

「そりゃあ、まあ好きだけど……」

「じゃあ、そろそろ覚悟も決めておかないと。クロノ君もいい加減、二十五歳で歳なんだから」

む、とクロノは黙り込むしかない。今まで考えたことはあっても、「まだ早い」と先延ばしにしてきたことだったからだ。
自分のことは良い。何時かは所謂“人生の墓場”に辿り着くことも漠然と了承している身だし、それほど高望みしているわけではない。
けれど、ユーノは違う。彼女はつい最近になって漸く素の自分になれたが、未だにかつてのトラウマを引き摺っているのだという。
少女がか細い身体をクロノと重ねているのは、あるいは依存の一種なのかも知れないと、そう青年が予測するのも無理からぬことだ。
そんな状態のユーノに「結婚」という人生において重要な儀式を突きつけるのは、ひどく酷なことのような気がした。
ユーノの過去は伏せつつ、しかし彼女が自分に依存して生きていることをエイミィに告げると、

「それじゃあ、なに? クロノ君は自分より良い相手がいるはずだって、そう思うわけ?」

何故か問い詰められた。微妙におっかないエイミィに戦々恐々としつつ、小声で言った。

「……それはそうだ。僕は彼女が好きだけど、ユーノくらいの美人なら、もっといい人が――」

「何その惚気。それにね、私はクロノ君も優良物件だと思うよ?」

「…………へ?」

青年が生真面目な顔に疑問符を浮かべると、エイミィは愉快そうに微笑む。

251司書長は女の子 ◆9mRPC.YYWA:2009/08/20(木) 16:55:20 ID:7WQpjzOQ
「だってクロノ君、エリート一家の長男でルックス良くて、人当たりも良いし、嫌われる要素無いよ?
そりゃあもう、“彼女さん”が出来なかったらエイミィお姉さんが付き合ってあげようかと思ったくらい」

「なっ……ば、バカ言うなって!」

顔を真っ赤にしてそう言うクロノが可愛らしく、彼女はクスクス笑った。
結局からかうのか、と青年が問うと、違うよ、とエイミィが言う。

「でもね、クロノ君は自分を過小評価しすぎ。ユーノさんのことだって、責任取ってあげなきゃダメでしょ?
男の子なんだからしっかりするの、いい?」

……結局のところ、クロノ・ハラオウンは彼女に頭が上がらないらしかった。
だから―――。





次の週明けまではクロノが一緒に居てくれる。それだけでユーノの心は安らいでいた。
であるからして、妙に緊張した顔でクロノが来訪したときは、何事かと思ったのだ。
どうしたのか、という問いにも彼は答えてくれないし、何故だかユーノまで妙に緊張してきた。
そうして居心地の悪い午後を過ごしていると、不意にクロノが言う。

「その、ユーノ」

珈琲を煎れていたユーノが不思議そうに顔を上げる。

「……なに?」

懐から取り出されるのは、漆黒の小箱。
小物を入れるのにちょうど良さそうなその中には、

「…………受け取って、くれないか」

――眩く輝いている指輪があった。
その輝きに見取れているユーノへ向けて、青年がぽつりぽつりと語る。

「ええと、一応僕の貯金で買える中では最上級のもののはずだ……受け取ってくれるなら――」

「く、ろ、の?」

すうっ、と息を吸い込む。
ああ、言えるよなクロノ・ハラオウン。
いいや、言わなきゃ嘘だ。
“だから”、

「―――“結婚しよう”」

その言葉には魔法が掛かっている。
これはきっと、あり得ない物語。
誰も望まない苦難と幸福の物語。
それでも、ハッピーエンドを望むなら、


「うん、―――ありがとう」


花開くような笑顔とともに。
願わくば、彼と彼女に幸福があることを。



終わり。

252 ◆9mRPC.YYWA:2009/08/20(木) 16:59:40 ID:7WQpjzOQ
後書き
というわけで、「司書長は女の子」本編はこれにて完結です。
完結するまでにたかだか五話のSSで時間かけ過ぎ……かもですが。
戦闘(バトルシーン)がない長編はこれが初めてだったりしますが、
もう少しラブコメっぽくしても良かったかなあ、などと思ったり。
少しでもお楽しみいただけたなら幸いです。

次は親父キャラと少年の激突とかやりたいなあ、と思ったり。
では。

253名無しさん@魔法少女:2009/08/20(木) 17:39:20 ID:RFZyanOo
完結おめええええええ!!! そして内容は甘ええええええ!!!

最初読んだ時は、ユーノの女体化という事象に若干引いたなんて事もあったのですが。
いやはや、その設定をするりと読ませる出来に感服です。
というか、金髪・眼鏡っ子の美少女で、さらに巨乳? 最高じゃないか? ええ、最高ですよ。
かつて実父から性的虐待を受けたという過去が、単純なイチャラブに終わらせない深みを生んでいる所も素晴らしかったです。
うん、可哀想な女の子は全力で幸せにするべきだよね!

まあ、ともあれ、エロいわ可愛いわ悶えるわ、本当に美味しゅうございました。
ご馳走様です。
GJ!


そして、他作品の続きも全力でお待ちしております。

254名無しさん@魔法少女:2009/08/20(木) 18:26:05 ID:QT9V3PBM
完結おめでとうです!!
イヤー、いい話だった。
最後までエロイし、ユーノきゅんが素晴らしい!!

次回作も期待してます!

255名無しさん@魔法少女:2009/08/21(金) 01:39:10 ID:tJWxYoWA
亜流さんの屈折したのも、 ◆9mRPC.YYWAの小心でエロいのもGJでしたー

256名無しさん@魔法少女:2009/08/21(金) 09:33:36 ID:dMduREJE
ユー子来てたあぁぁぁ!
GJ!&完結乙でした!
次回作も楽しみに待ってます!

257名無しさん@魔法少女:2009/08/21(金) 12:41:31 ID:VhzbYHNk
完結おめでとーございます、お疲れ様!
ユーノとクロノの絡みがド直球ストライクだった自分には神がかった作品だったぜ。
友情物ならともかく、恋愛物となるとやっぱTSしなきゃまずいからね、この二人はw
いやまあ、しなくてもいける人もいるんだろうけどもっ

>>253
>金髪・眼鏡っ子の美少女で、さらに巨乳? 最高じゃないか? ええ、最高ですよ。
その上ボクっ子なんだぜ?
完全無欠じゃないか。

258Foolish Form ◆UEcU7qAhfM:2009/08/21(金) 23:52:59 ID:.vFRfgc6
>◆9mRPC.YYWA氏
えいえんは あるよ… ここに あるよ…

というかKanonネタにAIRネタまで見えてしまったがこれは気のせいか?
いや、気のせいだな……
どちらにせよGJでした!
最初の方は震えが止まらないほど怖かったけど、
最後は甘々でカタルシスを感じたぜっ!
完結おめでとう!! 次回作も期待してますぜ。

***

という訳で完全陵辱タイムがやって参りました。
仕事の修羅場と夏コミの修羅場で2ヶ月放っておいたものが出来上がりました。

・ヴィヴィオ10歳
・公式+今まで作ったユーなの短編集の設定は全部ガン無視
・ガチエロ。保管庫搬入の際は「凌辱」タグをお願いします。
・耐性のない人は読まないで下さい(重要)

それでは、始まります。

259鏡の中の狂宴 第3話 1/10:2009/08/21(金) 23:53:44 ID:.vFRfgc6
──二階から落ちて怪我をするのと、三階から落ちて大怪我をするのと。
二階から落ちた方がマシに決まっている、その後『何もない』のなら──

ヴィヴィオの脳裏では、あらゆる堂々巡りが渦巻いていた。
母親のこと、魔法のこと、ここから逃げ出すありとあらゆる手段を。
だが、それら全てが封じられたものだということに思い当たっては、悲しい絶望に沈むのだった。
ママ、どこにいるの? ママ、何してるの?
ママ、ヴィヴィオを助けに来てよ。いつか、「ゆりかご」の時みたいに……

約束は守られ、ヴィヴィオの処女は純潔を保っている。だが、唇の方はそうもいかない。
毎日毎日、入れ代わり立ち代わりに何ダースという人間がやってきて、ヴィヴィオを犯していく。
最初の男――確か、シラーロスといっていたか――には容赦なく口中に子種の混じった汁を飲まされたが、
それからの連中はそうでもないのが少なからずいた。
手で擦ったり、髪を巻き付けたり、ソックスを履いた足でしごいたり、素足だったり。
脇や膝に挟むなんてのもいた。……が、それらの全ては射精の前に口へと挿入されるか、
床に飛び散った白濁を舐め取らされるかの二択だった。
「そうそう、ヴィヴィオちゃんは偉いねえ」
下卑た目を細められる屈辱すらも、次第に薄れていく。
一週間も経たずに、それは一種のルーチンワークと化していた。
当年10歳、初等部に在席しているヴィヴィオは、もう精液の味を理解し始めていた。
それはまるでカレーのようで、人によって微妙に違う味があった。
もっとも、そんなソムリエじみた真似をする気にはなれず、
むしろ脳天がグラグラする強烈な青臭さと生臭さの前では、
僅かな違いなどどうでもよかった。
こんな行為、未来永劫まで慣れたくはなかった……が、それも時の流れ。
いや、それは恐怖がなしえたことかもしれない。

男たちの精を飲み始めてからこの方、確実に待遇が悪くなった。
良くなったことといえば寝床があるくらいだ。
狭い空間に閉じ込められていた時との変化は、周りでせわしなく男や女が『無言で』動いていることだけだった。
食事は、一度豪華なものになまじっか触れてしまっただけ、質素なものの惨めさが増した。
一杯のジュース、一かけらのバター、それだけでも渇望したが、与えられることはなかった。
ところが、日に一度だけ「おやつ」の時間がある。
唯一の楽しみは、その瞬間だけだ。
「ほーらヴィヴィオ、おやつの時間だよ」
「おやつ」とは、ずばり蜂蜜。
極限状態に置かれた身体に、信じられないほど甘い一時をもたらしてくれる。
但し、この時間は朝食の後か、それとも昼か、夜か、特に一定していなかった。
「さあ、コイツも一緒に舐め舐めしようね」
「……はい」
蜂蜜は、いつも誰かの肉棒に垂らされてやってくる。
舐めたくはない。けれど舐めたい。
ヴィヴィオの葛藤は、いつも食欲に負けた。




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