藤原(以下F) 稽古の時に、蜷川さんが「戦災を受けて逃げるときの記憶というものは、一瞬にして
髪の毛を白くしてしまう」ということをおっしゃってて、白くしたいんだよ、と。
じゃあ明日(髪の毛染めに) 行って来ましょうか、って。そしたらあまりにも評判が悪くて(笑)。
高橋(以下T) でもそれはプライベートで評判悪いんでしょ?(笑)。後から聞いた話なんですけど、
髪の毛染めてきたその日に、劇場に一番に来て待ってたんですって。みんながどんな
反応するかって(笑)。
F 面白かったですよ。スタッフの人はね、「おっ」と思っても反応してくれないんですよ。
そのまま 「おはようございまーす」って(笑)。
T でも今回「弱法師」見てて、俊徳の役はすげえ難しいだろうな、って思いましたよ。
何が正解で、どこへ 自分が向かっていけばいいのか、というのが。もしやれっていわれたら、
これは今の自分には出来ないかもしれない、って思いながら見てましたけど。
F 「卒塔婆小町」は、演るときに頭で考えちゃいました?
T うーん…稽古入ると自然にできちゃったというか。
F おー(笑)。
T いや、何か自分の中で色々迷ってたことが、こうなんだって上手くつながったっていうか。
だから最初 読んだ時に思った「これどうやるんだ」っていうのは、早い段階で消えましたね。
F 僕、埼玉公演の前半なんですれど、たまに本番中に変な邪気が入ってきて、バカみたいな事ばっかり
考えちゃって。例えば今ここで右足ちょっと動かしたらどうなんだろう、とか。
で、台詞が出てくれば いいのに、まず次の台詞が浮かび上がっちゃうんですよ。
それを、例えば次のセリフが「まざまざと」 なのか「ざまざまと」なのか考えちゃって(笑)。
で、わかんなくなるっていう。そういうことってありませんか?
T ある! 半間くらいだけど。お客さんには多分わかんないだろうな、って思うんだけど、
冷や汗が出るよね。
F 「卒塔婆小町」に出てる塚本幸男さんに「本当に辛いんですよ」って言ったら、
「竜也そういうときはね、 自分を信じるって書いて飲み込むんだよ」って。だから出る前には
いつも飲んでますよ、自信って書いて。あと、今日はテンション落ちてるなー、っていう時って
ありません?
T あー、一ヶ月とか公演やってるとどうしてもきつい時はあるよね。でも今回の芝居の特質なのかも
しれない けど、僕の場合はちょっとでも気持ちが落ちてると自分がピークまでいけないっていう
不安があって。だからやばいなって思った日は、カーッとエンジンかけて。
F …やっぱユンケルですか?(笑)
T そうね、竜也くんがしょっちゅうくれるユンケルゴールド(笑)。
あれは一日二回飲んでもいいんだろうか。
F 二回はやばいでしょう(笑)。
T 一日二回公演の時は、昼公園の前に飲んでて。ユンケルで芝居がよくなるんだったら何本でも
飲むけど。でもやっぱ意識的にエンジンかけないと、ちょっと気持ちが入ってないだけで空々しい、
大仰な芝居になっちゃう気がするんだよね。
T 前から聞いてみたかったんだけど、竜也くんって、ダメ出しされたときのショックを現場では
表に出さないよね。
F 出してますよ? 楽屋で一人で机蹴っ飛ばしたりとか。
T ホント? でも少なくとも人がいる前じゃやらないよね。なんかさ、すごく腹が立つ時って
あるじゃない。
F あー、自分にも蜷川さんにも(笑)。
T そう。理不尽なんだけど、演出家に腹が立つときってあるじゃない(笑)。みんなが見ている前で
ダメ出しされてる、その瞬間にコノヤローって思うでしょ、俺はそういう時、表情にすぐ出ちゃうんだよ。でも
竜也くんって出ないように俺には見えてて。
F 楽屋でボロボロ泣いてますよ(笑)。明日には絶対やってやろうって。でもこの気持ちだと今日はもう
出来ないんですよ蜷川さん、明日はかならずやりますから、って思ってても、僕って言えない時がある
んですよ。だからやっちゃう時もありますけどね。
T そうなんだ。その辺が大人だなっていつも思ってた。でもさ一回だけ、もう劇場に入って
稽古してる時に、芝居が行き詰まってて、蜷川さんにガーッて言われてた時があったじゃない?
「芝居に火付けてこい」って言われてて。その後2日くらい稽古が無くて、その次に劇場に入って
きたときに竜也くんの顔を見て「気合い入ってるな」って思ったんだよ。
F (笑)
T いつも「卒塔婆小町」の稽古が先なんですけど、まだその稽古も始まってないくらいの早い時間に、
こうカッカッカッと入ってきて「弁当食ってもいいですか」って、弁当置いてあるところから一つ
取ってサッと楽屋に入っていって。昼飯にはまだ全然早いのに(笑)。俺ね、あの時に
「あ、感情表に出るんだ」って、ホッとしたの(笑)。でもその日の稽古は凄くよかったよね。
F あの時は演出助手の方に「頭でっかちになりすぎてるんじゃないか」って言われて。
だからその二日間は芝居のことを考えないようにしてて。そしたらけっこう良かったんですよ。
T でも俺はね、入ってきた時の表情が違うことにすごく共感したというか(笑)。当たり前なんだけど、
人間なんだなーって(笑)。
F いつも本番前には楽屋で、「卒塔婆小町」のカーテンコールを一瞬だけ聞くんですよ。
モニターのスイッチをパッといれて、ワーッていうのを聞いて元気をもらってるんです。
なんかそういう儀式めいたことばっかりやってるんですよ、俺(笑)。
T 俺もあるけどね。ポケットのティッシュは毎日替えるとか(笑)。僕も「弱法師」は楽屋で聞いてますよ。
最初の二十分くらいは酸欠状態なんだけど、竜也くんが出てくるあたりから正常になってくるんで(笑)。
「頑張れ!」って思ってます。