「ん。そうか。」
たしかに,俺がもっと早く彼女との生活を決断することもありえたはずだ。
しかし,俺にはその前にしなければならないことがあると思っていた。佐々木をしっかりと支えることができるようにならなければ。それだけは譲りたくなかったのだ。
「そうだなあ。待たせて悪かったなあ」
俺はそう言いながら佐々木の頭をなでた。
白髪が目立つようになった。それでも変わらず可愛らしく品がある,というのは俺の欲目がそう見せるのか。
「いいさ。少なくとも無駄に待つことはなかったからね。君はその分僕に優しくしてくれていただろう。これからも。」
「ああ,これからも。」
俺は佐々木の頭をなでつづけた。
佐々木は,急に歌を口ずさみ始めた。
”I don't wanna wait in vain for your love.I don't wanna wait in vain for your love."
佐々木,お前。
すると,佐々木は一瞬冗談さ,といういたずらっぽい表情を浮かべた後,そのまま俺を見つめたままあのときの表情を浮かべた。それからゆっくりと目を閉じた。
「・・・おやすみ。佐々木」