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灼眼のシャナ&A/B 創作小説用スレッド

22431:2006/02/08(水) 22:09:46
ヴェチェールニャヤが言葉を漏らす。少女はその身を闇へと溶かして行き、すぐにその姿は見えなくなった。
 「まったく。しょうがない子だね、あの子も。」
ゾフィーが溜息を付いた。そこへ、ともかく、とマティルダが切り出し、
 「あの宝具を奪われた以上、すぐにでも壮挙の準備を始めるはず。急いで兵団を再編し、戦の仕度ををしなきゃ。」
強い決意を内に秘め、そう話した。
 「そうでありますな。」
襤褸切れの様なドレスに身を包んだ、ヴィルヘルミナが短く同意する。
 「再び。数多の命を奪う戦が、始まるな。」
アラストールが、神妙な面持ちで呟いた。
そして、東の空を眺め見る。『とむらいの鐘』の本拠地『ブロッケン要塞』を、その先に見据えながら。



人外の思惑が渦を為し、日々が崩れていく。
人は気付く事も無く、毎日をただ生きて行く。
世界は歪みを掻き抱き、ただ明日へと向かって、動き続ける。



後書き
如何だったでしょうか。今回は全編、どシリアスのSSを書いてみました。楽しんでもらえたでしょうか?
前回、この文体でギャグをやらかし、失敗した経験を踏まえて、こんな風になってしまいました。いやしかし、何とか書き上げる事が出来ましたが、12巻発売前に漕ぎ付ける事ができて良かったです。戒禁の時間になれば、誰も見てくれそうにないですし。まあそれはともかく、このSSにはオリキャラが出てきますが、その中でもサーレには苦労しました。変人で燐子を操るってどんな感じなんだろう?と感じまして、その内、燐子→マリアンヌ→人形→お人形遊び→少女、そう思い至り、少女としてみました。変人って言うより、性格の悪い女の子って感じになってしまったのは残念ですが・・・。文中で一番気を付けたのは、マー姐とマルコシアスの掛け合いです。あの漫才の様な空気がちゃんと出せていると良いんですが。最後に、宝具争奪戦のこの戦い、気に入ってもらえたでしょうか?読んで下さった方々の(いるんだろうか?)感想、批評を聞かせてもらえれば幸いです。最後までお付き合い頂き、本当にありがとうございました。

225名無しさん:2006/03/18(土) 01:15:46
>93-119
教授とドミノが可愛すぎる
これ書いた人 まだいたりする?

226名無しさん:2006/03/30(木) 21:34:50
ここの小説って著作権あるのですか?

227名無しさん:2006/04/03(月) 03:03:59
皆さん、ものすごく文才溢れてます
もしかしてプロの方ですか?素人にしとくのは勿体無い
31氏とても面白く読ませてもらいました。感動しました。

228名無しさん:2006/04/03(月) 15:22:23
大蛇の街、とても面白かったです すげー

229名無しさん:2006/04/22(土) 22:11:03
誰か、シャナのバットエンドもの書いて

230名無しさん:2006/04/29(土) 18:25:26
吉田一美のハッピー話書いてエ。

231ヴィルヘルミナのユウウツ 1/2:2006/05/11(木) 16:27:02
 悠二はヴィルヘルミナと睨み合いを続けていた。彼は今更ながらシャナに付いて行け
ば良かったと後悔していた。
 床からベッドに座る彼女を見上げた。
「決着つけるであります。ティアマトー、だまって見てるであります。」
「御意」
 ゴクリ。
 喉が渇いたので、そっと麦茶のカップを手に取る。
 ビシッ。
「!?」
「なにするであります」
 リボンで伸ばした手を叩かれた。
「逃がさないであります」
「ご、ごめん。間違えただけ」
 ヴィルヘルミナはリボンを緩めない。
「あとで言いつけるであります」
「か、かんべんして」
「沈着冷静。悠二黙礼」
 ヴィルヘルミナはギロリと睨む。
「シャ、シャナはいまなにしてるのかなあ」
「う。うるさいであります」
 彼女は怒りに任せて引っ張った。そして慌ててリボンを緩めるが、間に合わない。
「う、うわああ」
 ドシッ。勢いで彼女のおなかに当たった。
「か、硬い」
 悠二は背筋に殺気が走ったのを感じた。
「ご、ごめん」
「さ、どくであります」

232ヴィルヘルミナのユウウツ 2/2:2006/05/11(木) 16:27:57
「あははは。うん」
 苦笑いをかみ殺し、手をさすりつつ悠二は聞いた。
「ヴィルヘルミナさんは、なにが好きなの?」
「……メロンパンであります」
「へ〜、シャナと同じなんだね」
「レトルト食品も、癖になります」
「レ、レトルト?」
「なかなか美味しいであります」
「ふ〜ん」
「りょ、料理だって出来るであります」
 悠二はふと考え、言った。
「じゃあ今度シャナと出かける時、メロンパン買ってきてあげる」
「ま、待つであります」
 悠二は立ち上がろうとしたところで呼び止められ、振り向いた。
「く、訓練であります。二人で一緒に行くであります。街はどこでも危険であります」
「そ、そんな」
「不測の事態に対応するためであります」
 悠二は落胆で勢いがなくなった。
 ヴィルヘルミナはそれを見て複雑な表情をみせたが、すぐに気持ちを切り替えて言
った。
「シャナがそろそろ来るであります。元気出すであります」
「そうだね」
 ヴィルヘルミナはため息をつくと言った。
「走る用意をするであります」

 また今日も、日常が繰り返される。少しの変化を加えて。

233名無しさん:2006/05/11(木) 23:46:13
ヴィルヘルミナはシャナの事を、シャナと呼ばないはずでは?

234名無しさん:2006/05/15(月) 01:03:49
実は、書きかけのSSがあるんですが、続きを書いて載せても良いでしょうか?
主旨は「死んだ某フレイムヘイズが、一時的に復活してシャナや悠二達と出会う」です。
一番の問題は「フレイムヘイズにも死後の世界は存在した」という部分が出てきてしまうことなんですが…。

235名無しさん:2006/05/16(火) 09:57:58
ぜひ!!

236234:2006/05/17(水) 23:52:21
ではこの一言を励みにして、以下に投下してみます。
まだ未完成なので、投下が遅れたらすいません。

一応時間軸は「9巻と11巻の間」です。設定は特に何も変えてません。
あと、肝心の某フレイムヘイズが出てくるまでに少々時間を有しますが、ご了承願います(ヲイ)。

237Bake to the other world:2006/05/17(水) 23:55:03
〜序〜

よぉ、元気してたか?
あ、ここに来ちまったってことは、元気とは言えねえか。
そっか、お前さんも来ちまったか…まぁ正直、あの状況じゃ来るのは時間の問題と思ってたけどな。
もう一人の、あの鉄面皮のお姫様は来てねぇ…ってことは、生き残ったか。ありゃ、そういえば虹の野郎もいねぇ、ってことは…おいおいお前さん、やることが憎いねぇ〜。
とりあえず俺が知ってるのは、奴の企みが失敗に終わったってことだけなんだが、あれはお前さんのお手柄なのかい?

…なんだ、どうした?ハトが豆鉄砲食らったみてぇな顔しちまってよ。お前さんらしくもねえな。
まあ、無理もねぇか。俺だって最初は信じられなかったからな。
冗談で言ったつもりがよ、まさか本当に「ここ」があるなんてなぁ。
ま、とにかくまずはお疲れさん。そこに座りな。そしてエールで一杯やろう。
今すぐにとは言わねぇが、まあゆっくりとお互いの顛末、語り明かしていこうじゃねえか。


その世界は、ひっそりと浮かんでいる。
二つの世界の、そのまた向こうに。
去りし者達はそこから、残りし者達を、見守り続けている。
会うことを熱望しながら、かつ、こちらに来ないことを、切に願って。

238Bake to the other world:2006/05/17(水) 23:59:09
〜1〜

9月上旬の、とある日の真夜中。
坂井悠二は、ふらふらとおぼつかない足取りで寝床に向かった。
とろんとした目つきでポケットに入れておいた目覚まし時計を見ると、時刻は既に午前1時になろうとしていた。
“紅世の従”に存在を喰われた残り滓の“トーチ”である彼は、本来ならばとうの昔にこの世から消えてなくなっているはずだったのだが、トーチになった瞬間に自身の体内に転移してきた宝具『零時迷子』の能力のおかげで、毎日午前0時になると存在の力を完全回復して、その存在を今日まで保つことができている。
そしていつもなら、存在の力の回復と同時に、自身の体内に蓄積していた疲労も解消される。
はずなのだが、
(おかしいな…なんか、体が…だるい…)
彼はこの日に限って、午前0時以降も重度の疲労感を感じていたのであった。
(存在の力は、ちゃんと回復しているのにな…)
悠二は目を閉じて、自身の存在の力の量を計ってみた。すると確かに、いつも0時を回った時と同じ量の存在の力が、身体に満ちているのが分かった。
(なんでだろう…っ、もしかして…?)
だるさの原因について一つ思い当たる節があった悠二は、布団に入ると、昨日あった出来事を思い返してみた。

(いつもの通り、下校途中シャナと合流して、道々話をしながら帰ったんだ。それで…確か女の子のスタイルの話を僕が始めたんだったかな?その時僕が何か失言して、しまったと思った時にはもう遅くて、すぐ横でシャナが『贄殿遮那』を構えてて、「峰だぞ」ってアラストールの声が聞こえた後、大太刀が振り下ろされて…)
「…ッ!!」
その瞬間の恐怖を思い出し、悠二は布団の中で身体をビクッと震わせた。といっても、彼が恐れおののいたのは、峰打ちを食らったことについてではなかった。
 
悠二がフレイムヘイズの少女『炎髪灼眼の討ち手』――シャナと出会ってから、もう数ヶ月になるが、彼はこの手の峰打ちは幾度となく食らってきた。
その原因はほとんどが、悠二による、彼女の機嫌を損ねるような発言である。
女の子の気持ちに非常に鈍感な朴念仁である悠二は、シャナとの会話の折、たびたび無神経な失言を彼女に放っていた。
そのため、ただ峰打ちを食らうだけなら、この数ヶ月の間に悠二にとっては既に日常茶飯事と化していたのである。
今さら、彼にとってさほどの脅威では(といっても、その瞬間は怖くて、猛烈に痛いことには変わりはないが)なくなっていた。

しかし今回は、峰打ちの他に、あるとんでもないおまけがついてきたのである。

239Back to the other world:2006/05/18(木) 00:04:36
〜2〜

昨日の夕方は、夕日の見えない曇り空だった。
「覚悟しなさいっ、悠二!!」
「ま、待ってくれ誤解だ、言葉のあやだよぉ〜っ!」
「うるさいうるさいうるさぁーいっ!!」
「峰だぞ」
そして、例によって大太刀は悠二に向けて振り下ろされた。

と、ほぼ同時に、それは起こった。



ピカッ!



ガラガラ、ドォーン!!!

「わぁっ!?」
シャナは突然自分の目の前に現れた強烈な閃光と轟音に驚いて、思わず叫んだ。
一筋の稲妻が、シャナが持っていた大太刀に落ちたのである。
この日の御崎市は、朝から空一面厚い雲に覆われており、落雷の発生しやすい天気であった。
しかもこの時悠二とシャナが歩いていたのは、近くに建物のない、真名川の土手道だった。
こんな天気の日に屋外の、しかもさえぎるもののない場所で、大太刀を――よりにもよって完璧な研ぎ味の、サビ一つない名刀を――振りかざしていたのだから、このときのシャナの行動はまさに自殺行為だったといえる。
「び、びっくりした…」
しかし、落雷の直撃を受けたに等しいはずのシャナは、目の前で起こった出来事に驚きはしたものの、火傷一つなくその場に立っていた。
手にはしっかりと、刀身からプスプスと煙を上げる大太刀を(もちろん刃こぼれ一つしていない)握ったままであった。
大太刀の握りの部分が強力な絶縁体であったことと、何より彼女がフレイムヘイズという、普通の人間の何倍もの力を有する存在であったことが理由であろう。
「シャナ、無闇やたらと『贄殿遮那』を振り回すのは、少し考え物かもしれぬぞ」
シャナの胸元にあるペンダント型の神器『コキュートス』から、彼女と契約している“紅世の王”である“天壌の劫火”アラストールが、遠雷の轟くような声でシャナに言った。
「うん、そうだね。これからは気をつける」
シャナは少し反省した表情で返事をした。
そして大太刀を『夜笠』の中にしまおうとした、その時、


「悠二っ!?」
大太刀から飛び火した雷を食らって、あお向けに突っ伏している悠二を見つけるやいなや、シャナはあわてて駆け寄った。

240Back to the other world:2006/05/18(木) 00:09:13
〜3〜

(瞬間、頭の中が真っ白になって…あぁ、恐ろしい)
悠二は寝返りを打ちながら、その瞬間の恐怖をあらためて思い返した。

「…ん、んっ」
悠二は目を開けると、シャナが顔を自分の方に向けて座っていることと、自分がなぜか布団を着せられて、あお向けになっていることに気がついた。
「悠二」
「…シャナ?」
「気がついたみたいね」
シャナは、悠二の意識が戻ったことに安堵の表情を見せた。
「あれ、僕、どうなって…?」
「悠二、雷に打たれて、気絶してたのよ」
「…っ、そっか」
シャナの言葉で自分の意識が吹き飛ぶ瞬間の様子を思い出して、悠二は青ざめながらも納得した。
「…あれ?」
少し気持ちが落ち着いてきたところで、悠二はある事に気がついた。
首をゆっくり動かして辺りを見回しながら、悠二はつぶやいた。
「僕の部屋じゃ、ない?」

その部屋は、自宅にある自室より二周りは大きいであろう大部屋で、悠二はその角にしかれた布団に寝かされていた。
反対側の角にはベッドが置いてあり、その前には、ちょうど職員室で教師が使うタイプの事務机があった。
壁際にはズラリと角ばった書類棚が並び、寝ている悠二の視点からはまるで高層ビル群を地上から見上げるかのような圧迫感があった。
明らかに自分の家ではない光景に、悠二は当然のように疑問を口にした。
「シャナ、ここは一体」
「我々の住居であります」
「っえ!?」
会話に突然介入してきた声に、悠二は思わず首を上げて、声のする方を向いた。
すると部屋の入り口から、メイド服を着た色白の女性が入ってきた。
「カ、カルメルさん!?」
「ヴィルヘルミナ、悠二の意識が戻ったよ!」
「…それは、よかったでありますな」
「結構」
嬉しそうな少女の声に、フレイムヘイズ『万条の仕手』ヴィルヘルミナ・カルメルは、契約している“紅世の王”である“夢幻の冠帯”ティアマトー共々、不機嫌さを明らかに混ぜた声で答えた。

241Back to the other world:2006/05/18(木) 00:12:59
〜4〜

(いきなりカルメルさんがいて…びっくりしたよな)
悠二は布団のなかで、まだ今日のことを回想していた。

「ど、どうして僕はここに?」
「実はね…」
戸惑う悠二に、シャナが説明を加えた。以下は、その内容である。

失神した悠二はシャナに背負われて、最初は坂井家まで運ばれた。が、
「あれ…?」
シャナが取っ手をガチャガチャと回してもドアは開かない。家の鍵が閉まっていたのだ。
いつも家にいるはずの悠二の母・坂井千草は、今日に限って家を留守にしていた。
「おかしいな、千草、なんでいないんだろ…」
千草は悠二とシャナが帰宅してくる時間には、いつも坂井家で夕食の準備をしていた。
ごくまれに留守にするときはあったが、その際には必ず何か書置きを残して外出するようにしていた。
それが今日に限ってどういうわけか、壁にもポストにも玄関の扉にも、何もなかった。
「どうしよう…」
頼みにしていた人物の不在に、シャナが路頭に迷っていると、
「これは一体、何事でありますか?」
「状況説明」
背後から突然聞こえてきた声に、シャナは驚きと歓喜を半分混ぜた声で言った。
「ヴィルヘルミナ?!」
「何はともあれとりあえず、我が家に向かうのであります」

「…というわけなの」
「なるほどね。母さん、留守にしてたんだ。でも、何で今日に限って連絡もよこさず…」
「奥様の事情に関しては、私が説明するであります」
と、以下に示すのはヴィルヘルミナが語った内容である。ちなみに、本来悠二に語った内容はもっと至極簡潔なものであることを断っておきたい。

242Back to the other world:2006/05/18(木) 00:15:21
〜5〜

悠二が平井家に運び込まれていた頃、坂井千草は御崎市内中心部にある御崎市民病院にいた。
彼女は昼過ぎ、友人が交通事故にあったという連絡を受け、家を空けていたのである。
あわてて病院へ駆けつけたところ、幸いにも命に別状はなかったので、千草はホッとした。そこでお見舞いに集まった友人達と世間話に興じていたところ、
「あら、いけない」
千草は一つ、大事なことを忘れていたことに気がついた。
緊急の用事であったため、うっかり息子とそのガールフレンドに、書置きを残すのを忘れてきてしまったのだった。
「しまったわ、どうしようかしら…そうだ」
千草はポンと手を叩くと、病室をいったん出て、病院の公衆電話から電話をかけた。
「もしもし、平井さんのお宅でいらっしゃいますか?」
「…これは奥様、ご無沙汰であります」
「あら、カルメルさん。こちらこそ」
「今日は一体、いかようなご用件でありますか?」
「はい、本当に不躾なお願いではあるのですけれど…」
千草は、今自分が友人の見舞いで病院にいること、友人との久しぶりの再会で、帰宅が少し遅くなりそうなこと、自分が帰るまでの間、悠二とシャナの面倒を見て欲しいことを、ヴィルヘルミナに伝えた。
「…そういう訳で、カルメルさんには本当にご迷惑をお掛けするのですが、お願いできませんか?」
千草はつとめてすまなそうに言った。
「そう、で、ありますか…」
そんな千草の言葉に、ヴィルヘルミナは複雑な気持ちでそう答えた。
『炎髪灼眼の討ち手』の少女の養育係でもあったヴィルヘルミナは、御崎市に現れた当初、自分の育てた少女に害なす存在として、悠二の抹殺を試みた。その一件に関しては紆余曲折を経てどうにか一応の和解には至ったが、彼女はいまだ、悠二に対する警戒を(特に少女との接触に関して)解いていない。
(あの“ミステス”を、ここへ引き入れるのでありますか、あの方と、共に…)
(危険)
お互いの間でのみ会話できる自在法で、ヴィルヘルミナとティアマトーは相談した。
受話器の向こう側が急に静かになったことに、千草はヴィルヘルミナが拒絶の意思表示をしたものと判断して、
「いえ、だめでしたら結構です。今すぐ家に戻りますから…」
「うっ…」
千草の、残念さをわずかに奥底に秘めた声を聞いて、ヴィルヘルミナはいよいよ悩んだ。
彼女は、千草のことは、一人の人間として大変尊敬しており、初対面以来、気配りを欠いたことは一度もない。
「…いえ、そのようなことは全く」
「本当によろしいのですか?」
「どうぞお気遣いなく、奥様」
「そうですか。ではお言葉に甘えて、ご面倒をお掛けしますわ」
千草はそこにいない電話の相手に小さくお辞儀をすると、受話器を置き、再び友人の待つ病室へと戻っていった。

243Back to the other world:2006/05/18(木) 00:17:31
〜6〜
(あの後の一言には、参ったよな)
悠二は布団の中でため息をついた。

さっさと説明を終えたヴィルヘルミナは、一言、きっぱりとこう言った。
「では早速、鍛錬を始めるであります」
「迅速行動」
「えぇっ?!」
不機嫌な調子のまま放たれたヴィルヘルミナとティアマトーの言葉に、悠二は信じられないといった様子で声を上げた。
「何か?坂井悠二」
そんな悠二に、ヴィルヘルミナは冷たい調子で問うた。
「だ、だって、今日は雷に当たって死にかけて」
「お笑い種でありますな、とうの昔に死んでいるというのに」
「笑止」
悠二の言い訳に、ヴィルヘルミナとティアマトーは語調を変えず、しかしわずかに嘲りを込めて言い放った。
「で、でも、まだ夕方じゃ」
「現在時刻午後10時30分であります」
「時間適当」
「えっ、もうそんな時間…?」
悠二は驚いて自分の斜め前にある窓を見た。すると、外は既に深い闇に包まれていることが分かった。
(ま、参ったな。こんな時間まで気を失ってたなんて)
悠二は、自分が想像以上に長い間倒れていたことを知って、困惑した。
ヴィルヘルミナの機嫌が明らかに良くないこと、そしてその理由は、一連のやり取りで簡単に察しがついた。
悠二がここに寝ている、それが理由である。もっとも実際は寝ていたわけではなく失神していたのだが、ヴィルヘルミナにとってその光景は「厄介者が人の家にズカズカ土足で上がりこんで、5時間以上もグースカ眠っている」程度にしか移らなかった。
(何か、いい言い訳はないかな…)
悠二はこの状況をを切り抜けるための言い訳を考え始めた。
ヴィルヘルミナの言葉は取り付く島もないものではあったが、同時に全くの正論でもあった。
そして正論であるだけに、悠二には彼女が満足するような説得ができなかったのである。
(…あっ、そうだ、一つあった!)
ふと、悠二はこの状況を逃れられる唯一ともいえる方法を思いついた。
それはヴィルヘルミナが、おそらくこの街で――いや、もしかすると今では世界でただ一人、畏れる人物を利用する方法。
(さすがのカルメルさんも、これなら…)
悠二は半ば確信に近い自信を抱いて、その言葉を放った。
「…あっ、母さんが心配してるから…」
しかし、悠二にとっては対ヴィルヘルミナ最終兵器ともいえたこの言葉も、
「本日は私の監視の元、この家に宿泊するという旨、既に奥様も了承済みであります」
「えぇっ!?」
一刀両断、あっさり切り捨てられ、悠二はとうとう何も言えなくなった。

244Back to the other world:2006/05/18(木) 00:21:19
〜7〜

(昨日は珍しく母さんが家にいなくて…)
悠二の回想はつづく。
(でも、ここにいられるのって、ある意味母さんのおかげなんだよな)
ちなみに彼が今寝ているところは、坂井家の自分の部屋ではなく、平井家である。

千草は午後7時ごろ帰宅し、夕食の準備を急いで済ませ、息子を迎えに行くために平井家に電話をかけた。
が、
「ご子息は、ただいま病気で寝ているのであります」
「まあ」
電話に出たヴィルヘルミナの言葉を聞くやいなや驚いて、頬に手を添えて声を漏らした。
「全く大事はないのであります。心配は御無用であります」
「本当に、申し訳ありませんでした。カルメルさんには大きなご迷惑をおかけしてしまったようで」
「いえ、奥様が謝る必要は全くないのであります」
(そう、悪いのはすべて…あの、)
(親不孝者)
「では、それほど容態が悪くないのでしたら、今から息子を迎えにうかがいます」
「!?…そ、それは」
「えっ、何か不都合なことでも?」
「その」
ここでヴィルヘルミナは言葉に窮した。

シャナが平井ゆかりに存在を割り込ませて以来、平井家を用いるのはシャナとヴィルヘルミナの二人のみである。
来客も時折ガス・水道の集金の人間が訪れるのみで、外部の人間を玄関から先に引き入れたことは一度もない。それには理由があった。
ヴィルヘルミナは最初この家を訪れた時シャナに、この家を自分達のフレイムヘイズとしての活動拠点とする、と宣言した。
そしてその言葉通り、数日後にはこの家は十畳の大部屋を中心に、外界宿を中心に集めた“紅世”関係の資料でいっぱいになっていた。
そんな家の中に、外部の人間を入れるのはもっての他であった。
たとえそれが、自分が心から尊敬している人物であっても。

(うむ…一体、どうしたものでありましょう)
(回答迅速)
(わかっているであります!)
頭をゴン、と殴った後、ヴィルヘルミナはようやく返事をした。
「…ご子息の具合も、まだ万全には至らぬ様子。本日は、こちらで預からせていただくのであります」
「えっ、いえ…それはさすがにご迷惑では」
千草は自分を平井家に入れない理由を問いただしたりはせず、ただヴィルヘルミナのいきなりの提案に対して素直にそう言った。
「問題ないであります」
「でも」
「全く、問題ないであります」
千草の言葉をさえぎるように、ヴィルヘルミナは言った。
「…そうですか。では、失礼ながら再びお言葉に甘えさせていただきます」
その言葉の熱心さに千草はとうとう折れ、再びペコリと小さく頭を下げてそう言った。
「かしこまりました、奥様」
ちなみに千草は、ヴィルヘルミナの保護者としての能力には大いに信頼を置いているので、自分の息子とシャナが間違いを犯すのではないかという事に関しては、全く心配していない。

245Back to the other world:2006/05/18(木) 00:24:13
〜8〜

(それで…さすがに今夜はやらないと思ったんだけどな)
悠二は、はぁ、と再び布団の中でため息をついた。

必死の言い訳も空しく、この夜悠二はいつもの通り鍛錬を行なう羽目になった。
悠二が雷に打たれた直後のひどい様子を直接見ていたシャナは、少し気の毒に思いながらも、
「一日でもさぼったら、きっと怠け癖がつくから、やっぱりやらなきゃ駄目」
と、その気持ちを隠してあえて厳しく言い、悠二に対して優しくないアラストールは、当然の様に
「うむ。少しでも体が動くのならば、鍛錬を行なった方が貴様にとっては薬だろう」
と、きっぱりと言ったので、悠二ももはや拒否することができなくなったのだった。

しかし悠二は、ひょんなことから平井家に泊まれるようになったことに、実は内心喜びを感じていた。
シャナと出会って以来、彼はこの家に来たことは一度もなかったのだ。
もっとも、シャナはこの家を倉庫か寝床程度にしか認識しておらず、少し前まではむしろ坂井家にいる時間の方が圧倒的に長かったので、彼がここに来る必要は全くなかったのだから、彼にとってさほどの興味はなかった。
しかしヴィルヘルミナが現れて、シャナの坂井家で過ごす時間を限定するようになると、悠二はこの家に行ってみたいと思うようになった。
そんなわけで、この日の夜は、
(今日は、今まで知らなかったシャナのことが、分かるかもしれない)
などという、(不純な妄想も若干含んだ)期待を、悠二は持っていた。
ところが、少年の淡い期待は、厳しい保護者達によってものの見事に打ち砕かれた。

「入浴は当然、最後に。また貴方が寝る場所は、あちらであります」
と、鍛錬終了後、ヴィルヘルミナが指し示した場所は、ダイニングキッチンであった。
「えっ、こんなところで寝るんですか?」
「他にどこがあるのでありますか?」
「悠二なら、私の部屋で」
とシャナが言いかけるやいなや
「断固拒否」
ティアマトーがすかさず釘を刺した。
「坂井悠二よ、言うとおりにせぬか」
アラストールも勢いに乗って悠二を攻める。
こうして、3人の監督にコテンパンに打ちのめされた悠二は
「…わかったよ」
と言って、布団を持って、ふらふらとおぼつかない足取りで寝床まで向かったのだった。

246Back to the other world:2006/05/18(木) 00:27:24
〜9〜

(やっぱり、あの時の雷が…)
悠二は改めて、今自分を襲うだるさの原因について思った。
最初は、鍛錬の時の疲れがまだ何となく残っているものと考えていた。
しかし、鍛錬を終えても時がたつにつれてどんどんたまっていく疲労に、悠二は何かがおかしいと感じ始めた。
現に今こうして横になっている間も、疲れは増し、身体は重くなっていくばかりである。
まるで疲労が鉛の塊になって、全身にのしかかって来るように感じられた。
(存在の力は回復している、でも疲れは増すばかり…雷が原因だとして、一体何が…)
疲労に押しつぶされそうになりながら、悠二は考えをめぐらせた。

(…!)
と、悠二の脳裏に、一つの恐ろしい可能性が浮かんだ。
(まさか…雷があれに、何らかの影響を?)
実は悠二の体の中の宝具『零時迷子』――正しくは、その中に封印されている『約束の二人』の片割れ、ヨーハン――は、悠二に転移してくる直前、“壊刃”サブラクによって謎の自在式を打ち込まれ、変異を起こしたのであった。
今のところ悠二には目立って大きな異変は起きていないので、シャナ、アラストール、ヴィルヘルミナらは、ひとまず御崎市にとどまって様子見をするという結論に落ち着いた。
しかし、自分の中に、そんな得体の知れないものが入っていると思うと、悠二にはやはり大きな不安があった。
(変異が…あの雷で、早まったとしたら…!)
悠二は冷や汗が湧き出るのを感じた。
雷が自在式に影響を及ぼすなどという根拠は何一つない。
しかし悠二はここ最近アラストールから受けている“紅世”に関する講義の中で、「“紅世”とは、力そのものが混ざり合う世界」であるようなことを聞いた。
そして雷は巨大な電気エネルギー…一種の「力」の塊である。宝具や自在式に何らかの影響を与えている可能性は捨て切れなかった。
(いや、でも)
しかし、否定したかった。
確かに、いつかは何とかしなければならない日が来るのは分かっていた。
でも、
(まさか…こんなに、早く?)
いきなり、その覚悟をせまられるようになるとは、思っても見なかった。

と、
(ぐぁっ!?)
ズシ、と音でも鳴るように、悠二の身体に最大級の疲労が襲い掛かってきた。
いや、それはもはや疲労などではなく、言葉では言い表せない程の「苦痛」だった
(う、くっ…シャ、ナ…!)
助けを呼ぼうとしても、既に声すら出なかった。
(こんな、終わりは、嫌、だ)
苦しみもがく悠二に、容赦なく苦痛は襲い掛かる。
(みん、な…)
薄れ行く意識の中で、彼の脳裏に、今までの色々な思い出が、走馬灯のように映し出された。
(今度こそ、本当に、ダメ、かも…ご、めん…)
最後に誰に対してか謝って、悠二は海の底へ沈むように意識を失っていった。

247Back to the other world:2006/05/18(木) 00:29:55
〜10〜

…ここは、どこだ?
真っ、暗、だ。
僕は、どうなって、しまったんだ?
死んだ、のか?
それとも、変異を、起こして…何か、化け物、に?

ああ…。
何て、こった。
あっけない、終わりだったな。
こんなに、早く来るなんて…分かってたら、もっと、いろいろ、やりたいことが、あったのに。
せめて、別れの、あいさつくらい…。

…あれ?
なんだ?
はるか遠くに、何かが、見える。
とても明るい、あれは…炎?
炎…紅蓮の、炎!?
僕は無我夢中で駆け出した。
…シャナ!!

近づくごとに、紅蓮の炎は大きくなってくる。
何で彼女がこんな所にいるかなんて、どうでも良かった。
とにかく、彼女に会いたかった。
そして、姿が見えた。
見まがうはずもない、炎髪。
凛々しい後ろ姿。
僕は何も考えられず、そのまま彼女に、後ろから抱きついた。
後で峰打ちを何発食らおうが、かまわなかった。
ただひたすら、彼女の感触を感じたかった。
シャナ…!


…あれ?
僕は抱きついてからしばらくして、何か違和感を感じた。
…何かが、違う?
僕はもう一度、抱きついた後ろ姿を見た。
髪の毛…は、やはり間違いなく、炎髪だ。
感触…も、いつもと同じ…!?


違う。
僕の両腕に伝わる感触は、いつもと違う…
いつもと違う?
そうじゃない。
いつもは…そう、ないんだ、こんな感触。
感触に、なぜだか心地よい違和感を感じていると、僕はもう一つ、重大すぎる違いに、今さらのように気がついた。


背が…高くなって―――!?

248234:2006/05/18(木) 00:43:05
ここでいったん切ります。続きはあと1時間以内には投下します。
最初の2話、タイトルが間違ってます。スイマセン。

249Back to the other world:2006/05/18(木) 06:15:06
〜11〜
(時間は少しさかのぼる)


ふう、着いた着いた。
この街、この間来たときは、あの変人のせいでとんでもない事になってたけど…今はどうかしら?

うんうん、順調に復興してるみたいね。
さて、まずはあの子のところへ行ってみるか。

到着。
じゃ、早速入りますか。
扉は…っと、ああ、その必要はなかったわね。

ほほう、綺麗に整理整頓されてるわね。
この前見たときは、悲惨な事になってたからなぁ。
やっぱり、彼女が来たおかげかしら。
私も整理整頓が苦手で、随分お説教されたからな。
さて、あの子の部屋は…と、確かここだったわね。

いたいた。
ぐっすりと眠ってる。かわいい寝顔ね。
それにしても、何度見ても、私の子供時代にそっくりね。
いやいや、本当によく見つけられたもんだ。

さて、あの男は…あそこか。
何か最近、間抜けっぷりが増してないかしら?
昔からどっか抜けてるところはあったけど、このごろひどくなってる気がするわね…。
2、3回くらい喝を入れてやりたいところだけど…出来ないのが残念ね。

奥の部屋には…この前合流した彼女たちか。
こんな遅くまで書類とにらめっこなんかしちゃって。
相変わらずの頑張り屋さんだなぁ。全然変わってない。
んっ、今日はもう一人、お客さんが来てるみたいね。
ちょっとのぞいて見よっ、と。

あらら、誰かと思えば…彼、か。
こんなところで寝かされちゃって、かわいそうに。
まあ、あの子の保護者があの三人じゃ、無理もないか。
何か、もがき苦しんでるけど…悪い夢でも見てるのかしら?
助けてあげたいけれど、私にはどうすることもできないのよね。お生憎さま。
さて、一通り確認もしたし、次はどこに行こうかしら?


…えっ、ちょ、何?
何か、身体に巻きついてるような…?
…腕?えぇっ!?
そ、そんなはずないじゃない!?
何で、どうして、私に…私に触れることができるのよ!?

250Back to the other world:2006/05/18(木) 06:20:52
〜12〜

「ふむ…」
街の明かりもまばらになった頃、ヴィルヘルミナはスタンドの明かりのみの薄暗い十畳間で、事務机の上に乗った書類の山と格闘していた。
彼女は、外界宿から毎日のように送付されてくる大量の書類を、ほとんど一人で全部目を通し、分類して書類棚に保管している。
ドレル・パーティ崩壊後、それまで完璧に整備されていたフレイムヘイズへの情報網は大混乱し、フレイムヘイズ達には多分に余計な情報も送られてくるようになった。
平井家に送られてくる書類も、実は半分以上が大して重要なものではないのであった。
しかし元来几帳面な性格の彼女は、たとえどんなに不必要そうな情報にも一度は目を通し、保管しておかないと気が済まないのである。
そのため、デスクワークは毎日のように夜更けまで続き、徹夜になることもしばしばであった。
(我ながらこの性格には、少々困ったものであります)
(非効率)
(うるさいであります)
ヘッドドレスにゴン、とげんこつを一発かまし、ヴィルヘルミナは再び書類へと目を向ける。
(そういえば)
ふと、ヴィルヘルミナは、とある人物のことを思い出した。
(彼女にも、随分言われたものでありましたな)
何かにつけて几帳面な自分をからかっていた、ズボラな性格の女。
(戦いの時以外の彼女は、全くもって大雑把で…)
ずっと孤独で戦っていた自分に初めてできた、唯一無二の親友。
(しかし、私は変わっていないのでありますな)
戦いのときは最強のパートナー、またある時は…最強のライバル。
(…集中)
仕事を忘れ、昔の思い出にふけっている相棒を、ティアマトーが戒めた。
(要集中)
(っ分かっているであります!)
ヴィルヘルミナはヘッドドレスをもう一度殴りつけると、肩をトントンと叩き、ふう、と重く息をはいた。
壁にかかっている時計を見ると、既に3時になろうとしていた。
「ふむ、どうやら少々休養が必要なようでありますな」
(怠慢)
ヴィルヘルミナは右手、左手で一回づつ、ゴン、ゴンとヘッドドレスを殴りつけ、イスから腰を上げた。
「眠気覚ましには、カフェイン摂取がもっとも効果的であります」
そうつぶやくと、彼女はキッチンへと向かっていった。
あの“ミステス”が寝ていることはもちろん知っていたが、そんなことは別にどうでも良かった。

251ささやかな一時 1|2:2006/05/18(木) 15:12:23
>>233
そうだった。orz 脳内で書き換えてしまったのかもしれない。
それでも読んでくれてありがとう。
>>234氏。ちょっと割り込み? になるかもしれませんが、入れさせてもらいます。

 約束を取り付けた吉田一美は彼を正面に、見つめなおした。赤く火照った顔の坂井悠二
にドキドキして眼を下ろす。
 悠二は悲しそうな声で静かに呟いた。
「いつ終わるか分からない永遠か……」
 一美はその意味を考え、体が震えた。
 勇気を出して、大きな声で答える。
「私はここに居ますから」
「え!?」
「悠二くんはここに居ますか?」
 忘れことのない現実、からシャナとの今後へと思いをはせていた彼は、慌ててすぐに答え
られなかった。一美の胸のうちにあるだろう炎を感じて、どうしようもなさへ思考がゆく。
「僕は……ここに居る」
 それでも彼はかすれた声で答えていた。
 悠二は座りなおし改めて彼女を見る。
「どうにもならないんだ」
「はい」
「あの大きな戦いで、僕たちに出来たのは小さなことで。でも――」
 一美は息を飲み込む。
「僕たちのは存在感はあった。吉田さんとはこんなかたちで時間を共有出来るなんて思わ
なかったよ」
 彼女は次が分かった。

252ささやかな一時 2|2:2006/05/18(木) 15:13:45
「私は――」
「僕は――」
 二人は笑っていた。
 たぶん同じことを言いたかったに違いない。
「楽しかった」
 花火の光に、凛々しい彼を思い出す。
 瞳を真っ直ぐ向け離さない、美しい彼女を思い出す。
 二人は真っ赤になりながらも見詰め合った。
「悠二くん」
「吉田さん」
 この先の言葉を言ってはいけない気がした。
 二度と戻ることのない日常を踏み越えてなお、二人にはまだ踏み越えることの出来ない
『日常』がある。
 でも、二人は笑っていた。
 今日の一時は誰でもない。
 誰の物でもない。
 可能性。一美は神様に感謝していた。

 割り込みすいません。>>234氏。

253Back to the other world:2006/05/18(木) 17:58:40
〜13〜

(…あれ?)
気がつくと、悠二は自分が立ち上がっていることに気がついた。
(ここは…)
悠二は辺りを見渡した。が、暗くてはっきりと分からない。
(苦しく…ない?)
全身を襲っていた苦痛も、すっかり消えていた。
(何も、なかったのか…)
悠二は腕を動かそうとして、
「んっ?」
自分の腕が、何かやわらかいもの触れていることに気がついた。
「何、だ?」
それが何であるか確認しようと顔を近づけたその時、

カチャリ、カチッ

と音がして、急に辺りは明るくなった。

254Back to the other world:2006/05/18(木) 18:02:50
〜14〜

(仕事中に昔の思い出にふけってしまうとは…)
(不覚)
(うるさいであります)
ヴィルヘルミナはヘッドドレスに向けてげんこつを振り下ろしかけて、やめた。
(…安眠の妨げであります)
そして再び、シャナを起こさないようにそっと廊下を歩きだす。
(しかし、あの頃のことは)
歩きながら、思う。
(何百年を経ても…いくら忘れようとしても…忘れられぬものでありますな)
かつての日々を。
(良かったことも、悪かったことも…映像が、今なお脳裏に焼きついて…)
そんなことを考えながら、キッチンの扉を開き、電気をつけた。

「…む?」
ふと、ヴィルヘルミナはわずかに眉根を寄せた。
彼女の視界に、妙な映像が飛び込んできたからである。
目の前に立っているのは、寝ているはずの“ミステス”の少年。
それだけならば、寝ぼけていることをたしなめて終わりなのだが、
「…む、む?」
そのおかしな光景に、ヴィルヘルミナはさらに眉根を寄せ、まばたきをした。
少年はただ立っているだけでなく、腕を何かに回していたのだ。
目をこすって、その、何かを確
「!!!!!!」
瞬間、物凄い勢いでキッチンの扉は閉められた。


(@△※●&%$#)
(心頭滅却心頭滅却風林火山酒池肉林四面楚歌…)
ヴィルヘルミナは扉の向こうで、この数百年で最大級の驚愕をあらわにした。
彼女の、普段は非常に冷静沈着な思考回路は完全にショートし、混乱を極めた。
ティアマトーは落ち着くように促したが、彼女もまた同様に驚愕・混乱していた。
彼女達が見た光景は、いろんな意味で、あまりにもありえなさ過ぎた。

「…んっ?」
突然灯された明かりと、それから数秒後の大きな物音に少し驚いた後、ようやく悠二は自分がどこにいるのかを確認した。
周りに置かれている物は、テーブルにイス、冷蔵庫に電子レンジ…。
彼が現在立っている場所は、紛れもなくさっきまで寝ていた平井家のダイニングキッチンであった。
「夢、だったのか?」
自分がさっきまで見ていた光景のことを思う。
「それにしちゃ、何だかリアルだったような…」
あの感触。あの姿。
悠二が一人でいぶかっていると、


「えっと…とりあえず、その失礼な腕を放してくれないかしら?」
「…!?」
いきなり飛び込んできた聞き覚えのない声。
あわてて悠二は声のした方を見た。
そして、ようやく自分が今置かれている状況を、把握した。


一人の女性が、
悠二の目の前に後ろ向きで立っていて、
悠二は、自分の両腕を、
その女性の胸にまわしていた。

255Back to the other world:2006/05/18(木) 18:07:12
〜15〜

「…ヴィルヘルミナ!?」
「っは!?」
「っむ!?」
シャナの声に、ヴィルヘルミナはようやく自分を取り戻した。
「凄い物音がして目が覚めたんだけど…どうしたの、顔色が真っ青だよ?」
「表情、挙動、共に心乱を極めていたな。お前達らしくもない。一体何があったのだ?」
「・・・・・・」
いまだ頭の中が混乱して発声もままならない相棒に代わって、ティアマトーがヘッドドレスから答えた。
「奇妙奇天烈摩訶不思議」
しかし、彼女もやはり動揺は隠せない。
「えっ、それだけじゃちょっと良く分からないんだけど…」
シャナが首をかしげる。
「お前達がそれほどまでに動揺するのだ。よほどのことなのだろうな」
アラストールはティアマトーの言葉から、彼女らの動揺が“紅世”関係のことではない、何か個人的な事情によるものと判断していたので、呆れながらそう返事をした。
「ねえヴィルヘルミナ、何があったの?教えて、お願い」
シャナは壁にへたり込んでいるヴィルヘルミナに顔を寄せて言った。
「・・・・・」
ヴィルヘルミナはやはり下を向いて黙ったままだったが、右腕をスローモーションのようにゆっくりと持ち上げると、人差し指でキッチンの入り口を差した。
「キッチン…!?まさか、悠二に何かあったの?」
「・・・・」
「…っ、悠二!」
「杞憂だとは思うが」
シャナはキッチンの扉を勢いよく開いた。

キッチンでは、悠二が布団の上に、腰を抜かしたようにへたり込んでいた。
「悠二っ、何があったの!?」
「一体何事だ、坂井悠二」
「シャ、シャナ、アラストールっ!!」
「…見たところ、別に何もおきてないみたいだけど」
「うむ。あ奴の身体にも、特に異常は見られぬ」
「…っえぇ!?」
「何よ、悠二?」
「何だ、騒々しい」
「み、見えないの?」
「何が?」
「っここに立ってる人だよ!?」
悠二は右手の人差し指で、自分の前方を差す。
「はあ?」
「何を言っているのだ?」
「だから、ここに人が、女の人が立ってるんだよ!?」
悠二はわめきながら、右手をぶんぶん振り回して、その場所を強調した。
「誰が立ってるって言うのよ?“従”の気配だって、かけらも感じられないわよ」
「自在法を使用した気配も皆無だな」
「いや、そういうのとかじゃなくって」
「…寝ぼけて悪い夢でも見たんじゃないの?」
「…まあ、確かに変な光景は見たけど」
「やっぱり。もう、夜中に騒いで、ヴィルヘルミナまで怖がらせて、人騒がせもいいところよ」
「全くだ。こんなことでは先が思いやられるわ」
「いや、僕は本当に…」
「…まだ、言うつもり?」
「これ以上の戯言は慎むべきだぞ」
「だから…」
「…いいから、さっさと寝なさいっ!!!」
バカッ、と脳天を峰打ちされ、悠二はその場に倒れこんだ。

「ヴィルヘルミナ、別に何でもなかったよ」
「・・・?」
「うむ。何も変わりは無かったな」
「・・・?」
「悠二が夜中に寝ぼけて、一人で騒いでただけみたい」
「・・・?」
「でももう大丈夫よ。ヴィルヘルミナの分まで、私がお仕置きしておいたし」
「そう、で、あり、ます、か・・・?」
「全く、あ奴もあ奴だが、お前達もお前達だ。たかがあれしきのことで自身を取り落とすとは」
「ちょっと根を詰め過ぎなんだよ、こんな夜遅くまで仕事なんて。少し寝た方がいいよ」
「・・・その、よう、で、あります、な」
「就寝必要」
「うん。じゃ、おやすみ!」
元気よくあいさつをして、シャナは自分の寝室に帰っていった。
バタン、と扉の閉まる音が聞こえた後、残されたヴィルヘルミナは、
「ふ・・・む・・・?」
いまだ一人首を傾げていたが、
「就寝」
「わかって、いるであります」
ティアマトーに諭されて、足取りも重く自室へ戻っていった。

256Back to the other world:2006/05/18(木) 18:10:20
〜16〜

平井家に再び静寂が戻った。
(やっぱり、夢、だったのかな?)
脳天を殴られてうずくまりながら、悠二は先程までの出来事を思う。
(…そ、そうだよな)
さっきまでそこにいた、何かのことを。
(だって、ありえないじゃないか、あんなこと)
夢だ、と一人で確信する。
「うん、きっと」
「ちょっと」
「っ!?」
いきなり飛び込んできた声に、悠二は舌を噛みそうになった。
そして、恐る恐る振り向くと…。
「…夢じゃ、ない?」
一瞬で、さっきまでの確信は粉々に打ち砕かれた。


悠二が振り向いた先に、いた者。
それは、一人の女性。
背丈はヴィルヘルミナと同じくらいの、欧州系の若い美女だった。
服装は、黒いマント(悠二には、それだけはなぜか見覚えがあった気がした)に裾長の胴衣、中世風の鎧帷子と金色に輝く拍車を身につけ、両足には黒い長靴、という、昨今日本の街中ではそうそう見られない、まるでRPGゲームのキャラクターのような出で立ちだった。
しかし、そんなことが全く目に入らない程、悠二を驚かせたのは、
「…!!!!!?」
女性が持つ、長い頭髪と、瞳の、色。
「え、え、え、炎、髪、しゃ、しゃ、灼、眼・・・・!!?」
悠二は、まるであごが外れたかのように口をあんぐりと空けっぱなしにして、呆然となった。
一方の女性はというと、かなりの驚きの表情はしているものの、それは悠二のように間抜けなものではなく、凛々しさは保ったままだった。
女性は、悠二に視点を合わせるために、しゃがむと、
「うひゃっ!?」
悠二の両肩に強く両手を乗せて、自分が納得するようにつぶやいた。
「…やっぱり、触れられるわね」
「あ、あ、あ」
そのまま女性は鋭いまなざしで、頭の中がごちゃ混ぜになっている悠二に目線をぴったりと合わせ、ゆっくりと、しかし貫禄のある澄んだ声で尋ねた。
「もう聞くまでもないかも知れないけど…私の声が、聞こえるのね?」

257名無しさん:2006/05/20(土) 14:39:46
イイ!!激しく支援。

258234:2006/05/21(日) 01:51:20
>>251
いえいえ、どうぞお気になさらずに〜。
>>258
ありがとうございます!
何よりの励ましになります!

259Back to the other world:2006/05/21(日) 01:56:34
〜17〜

「え〜っと…何から話せばいいのか、正直私にもよく分からないんだけど…」
悠二に自分の声が聞こえることを確認した女性は、少し困惑気味に話を切り出した。
「とりあえず自己紹介をしておくわ。私の名前はマティルダ・サントメール。正体は…もう分かってると思うけど…」
と、マティルダと名乗った女性はここでいったん会話を切り、悠二の言葉を待った。
悠二はいまだ動揺していたが、相手の質問の意図を察して、ゆっくりと、考えながら言葉を紡ぐ。
「彼女の…シャナの…、前に『炎髪灼眼の討ち手』だった人…?」
「ご名答」
悠二の回答に、マティルダは満足げな表情を浮かべた。
そんな彼女に、悠二は不思議さを隠さず聞いた。
「…えっと、でも、僕も詳しくは知らないけれど、確か…先代の『炎髪灼眼の討ち手』は、大昔に起きた“従”対フレイムヘイズの大戦争で、命を落としたって…」
それは以前、“紅世”の講義の中で、アラストールが言葉少なげに語ったことであった。
「そうよ、当たり前じゃない。じゃなきゃ何で今、あの子が『炎髪灼眼』なのよ」
「あっ、そうか、そりゃぁ…そうだよな」
自分の質問のトンチキさを思い知った悠二は、恥ずかしそうな顔をした。
「全く、しっかりして頂戴よ、悠二君」
「!?」
苦笑交じりに放たれたマティルダの言葉に、悠二は再び驚愕の表情になった。
「ど、どうして、僕の名を!?」
「さてさて、どうしてでしょう?」
マティルダはいたずらっぽい笑みを浮かべ、
「まあ、こんなところで話すのも何だし、イスに座ってゆっくりと、ね」
まるで自分の家であるかのような振る舞いで、横にあるイスに座った。

260Back to the other world:2006/05/21(日) 02:00:35
〜18〜
「そっか、もう五百年近くになるんだ…」
マティルダは、あらゆる感情をこめた、一言では言い表せない感慨深い表情を浮かべて、悠二に向かって話を始めた。
「あなたの言うとおり、私は16世紀に起こった“従”対フレイムヘイズの大戦争…長ったらしいから、通称の『大戦』って言うことにするわね。その最後の大決戦で、命を落とした。あっ、言っておくけど、全然無駄死にじゃなかったわよ。あのあとの私の持ち上げられ方ったら、そりゃーすごかったんだから」
「は、はぁ…」
向かいのイスに座る悠二は、重大な出来事をまるで近所のイベントのように話すマティルダの軽い調子に、困惑しながらうなずいた。
「でも惜しかったなぁ。あの瞬間までは、まだほんの少し、最後にまともに戦える可能性が残されてたんだけど…」
「あの…瞬間?」
「いやね、一番の宿敵をやっつけた後なんだけど、そのせいかちょっと油断してたらね…」
「油断してたら…」
「こう、敵の暗殺者の黒い腕がね、私の右胸をガバッ、とえぐってくれちゃって」
手振りを交えながら、マティルダは説明する。
「…ッ!?」
その軽いが、リアルな説明に、悠二はまるで自分が攻撃を受けたように顔をしかめた。
「もう、あの時は本当に痛かったわ…で、結局最後はもう剣を振るうこともままならない状態になっちゃったってわけ。まだ最後の親玉が残ってたのに」
「それじゃ、その親玉はどうやって…?」
「フフッ、それはね…秘密」
「?」
「とにかく、今は秘密。…いずれあなたにも、知る時が来るかもね」
言い終わると、マティルダは悲しみとも笑顔ともつかない微妙な顔をした。
その含みのある顔を不審に思い、悠二が質問しようとすると、
「それで結局親玉を倒すことには成功して、『大戦』は終わった。だけど私はその最後の戦いで力尽きて、この世から消滅した」
「…」
マティルダはそれをさえぎるように話を進めたので、悠二はやむをえず口をつぐんだ。


と、そこで悠二は、ようやく根本的におかしなところを思い出す。
「あの、ところで」
「何かしら?」
「死んだはずの…マティルダさんが、何で、僕と…会話、出来てるんだ?」
本来ならば一番最初に問うべきことであったが、一方的に繰り出されるマティルダの話に思わず聞き入っていたため、忘れていたのであった。
「あのね、それはこっちが聞きたいことよ。私だって、いきなりあなたに胸を引っつかまれて、随分びっくりしたんだから」
「そ…それは、そうだろうけど」
さっきの光景を思い出して、悠二は赤面した。
と、そこでもう一つ不思議だった点を再び問う。
「あと、何で、僕の名前を知ってたんです?」
悠二の至極当然とも言える問いに、マティルダは少し間を置いてから、答えた。
「…一言で言えば『あの世』があったから、って言うのが理由かしら」

261Back to the other world:2006/05/21(日) 02:04:59
〜19〜

「『あの世』?」
「要するに、この世でも“紅世”でもない『死後の世界』ってことよ。私はとりあえず、同じ「大戦」で死んだ知り合いの爺さんの言葉を借りて『あの世』って呼んでるけど、他にもいろんな呼び方があるみたいで、正式名称は分からないわ」
「一体、どんな世界なんです、そこは?」
「うーん、とりあえず言えることは、この世界では死ぬ寸前までの身体を永遠に保ったままでいることができる、ってことぐらいかしら」
「…つまり、天国みたいなところか」
「それとはちょっと違うわね」
「?」
「『あの世』には、天国とか地獄っていうような、そういう概念はないの。この世に居る時に悪人だった人間、善人であった人間、果ては“従”やフレイムヘイズまで、みんな同じように暮らしてるわ」
「えっ!?」
「私も驚いたわ。あれだけ憎み合ってた者同士が、死んだらとたんに仲良くなっちゃうんだもの。本当に、何と言うか…呆れちゃうわね」
マティルダはそう言って、肩をすくめた。
「それじゃ、僕の名前は『あの世』で人づてに聞いたってこと?」
「そうじゃないわ。私が直接聞いたのよ、あの子の口から」
「…えっ?」
「それだけじゃないわ。私が死んだ後からのヴィルヘルミナたちの行動、あの子が新たに『炎髪灼眼の討ち手』になった時からその戦いぶりまで、全部この眼で見てきた」
言って、マティルダは自分の灼眼を指差す。
「よ、要するに」
この、一見分かりづらい答えを、悠二はこれまでの話から、何とか自分なりにまとめてみようとした。
「『あの世』に行った人は、この世に降りてくることが出来る、ってことか」
「まあ、そんなとこね。でも、永遠にこっちにいることはできないわ。大体1年に3回くらいしか来ることは出来ない」
マティルダが答えると、悠二はもう一つ質問をした。
「…今日来たのには、何か理由でもあるんですか?」
「全然。私はいつも気分次第、来たいと思ったときに来てるわ」
「えっ、僕はてっきり、何か自分達に伝えることがあって来たんじゃないかと…」
「何言ってるのよ。私は既に『あの世』の存在。何をどうしたって、こっちから意思表示は出来やしないわ」
「そ、そうか…」
またしても自身の質問のおかしさに気づかされ、悠二が一人納得していると、


「それより悠二君、私もあなたに説明してもらいたいことがあるのよ」
マティルダが腕組みをしながら、逆に質問をしてきた。
「?」
「何を思って、私の胸を引っつかんできたか、ってことね」

262Back to the other world:2006/05/21(日) 02:16:14
〜20〜
 
出し抜けにやってきた詰問に、悠二は顔を真っ赤にしながら、慌てて昨日から今日までの顛末を説明した。
「…っていう訳で、決して僕は、そんな、つもりで、抱きかかった、訳じゃ、ない、ですよ?」
「分かった分かった。もういいわ」
あまりの慌てぶりに、マティルダは苦笑しながらそう言った。
「それで、あなたはそのときの雷があなたの中の『零時迷子』に、何らかの影響を与えたんじゃないか、って思ってるわけね」
「うん。あくまで予想だけど、雷の電気エネルギーで変化した『零時迷子』が僕の『存在の力』を変換して、『あの世』の存在も顕現することが出来るものにしたんじゃないかな?」
「なるほど、それがあなたを通じて私に流れこむから、あなたは私と会話できるのみならず、触れることも出来るって訳ね」
「うん。だから多分、さっきシャナやアラストールがマティルダさんの姿を見ることが出来なかったのは、僕が手を離してたからだと思う」
「それに対して、あなたが私に抱きついてた時にここに来てたヴィルヘルミナとティアマトーには、私の姿が見えたのね」
「うん、そういうことだと…ってええええ!!!!」
悠二はイスから転げ落ちそうになった。
「そんな大声出すと、また峰打ち食らうわよ」
マティルダは呆れ顔で忠告する。
「カ、カルメルさんが、来てた?」
「だれが電気をつけたと思ってるのよ」
「…た、確かに」
「私たちを見るやいなや、今まで見たこともないくらい驚いてたからなぁ。フフッ、あの時の彼女の顔ったらなかったわ」
「…そりゃ誰だって、死んだはずの人に会ったら驚くと思うけど」
「それにしてもあなた、ヴィルヘルミナには随分と痛い目にあわされてるみたいね」
「…ま、まあ、色々と」
これまでヴィルヘルミナに受けた制裁の数々が脳裏をかすめ、悠二は身震いした。
「彼女は本当に融通がきかない、頑固な人だからなぁ。おまけに無愛想だし」
マティルダもまた、生前の彼女の行動の数々を思い出し、ため息混じりにつぶやいた。
「はぁ、全く」
悠二は彼女のつぶやきに、小さく同意してしまった。
しかし、そこでマティルダが悠二に向き直って、言った。
「でもね悠二君、彼女はああ見えてもね、実はとっても感情豊かで、素直なのよ」
「…前にアラストールからも、同じようなことを言われた気がするな」
「でしょ?だから、まあ気長に付き合ってみて。そのうちにきっと、彼女の弱いところや優しいところ、面白いところなんかがいっぱい見えてくるわ」
「弱いところ、優しいところか…」
「あの子のペンダントの中にいる男だってそうよ」
「えっ、まさか?」
悠二はマティルダの言葉に耳を疑った。
『男』とは紛れもなく、押しも押されぬ偉大なる“紅世”真正の魔神“天壌の劫火”アラストールのことである。

263Back to the other world:2006/05/21(日) 02:16:54
〜21〜

「彼なんか、あんな悟りきった堅物のふりして、私がひとたび他の男に言いよられたりすると、とたんに不機嫌になっちゃうんだから」
「えぇぇぇ!!?」
峰打ちの恐怖も忘れ、悠二は大声で叫んでしまった。
確かにあの魔神が、見かけ(悠二にとってのそれは想像でしかないが)よりかなり人間臭く、俗世に通じていたことは悠二もうすうす感づいていた。
しかし、まさか彼が「そこまで」いっていたとは。
「もう、ヤキモチ焼きもいいところよね。それで、しょうがないから恥ずかしいのを押して愛の歌を歌ってあげたんだけど「知らん」の一点張りで聞いちゃくれなかったわ」
「あの、アラストールが…?」
「あなたもまだまだね。そんなことだから、彼らにいいようにやられるのよ。あの子のことが――シャナのことが本気で好きなら、もっと向かっていかなきゃダメよ」
「そ、そんなこと言ったって…」
マティルダの強気な姿勢に、悠二はたじろいだ。
「全く、はっきりしないわね。それとも何、もう一人のあの子…『ヨシダさん』だったかしら?彼女が気になるの?」
またもや唐突な名前の登場に、悠二は仰天した。
「!…っどうしてそれを?」
「言ったでしょ?私はいつもシャナのことを見守ってるって。あのカーニバルの日のこと…しっかり見てたわよ」
マティルダは人差し指を立てながら「しっかり」を強調した。
悠二はさらに焦りだす。
「えぇっ、ど、どこから、どこまでを…」
「何から何まで全部よ。『儀装の駆り手』が来たこと、この町でのカーニバル、“探耽求究”の企み…それから、シャナとあの子を泣かせたことも、あの子を押し倒したこともね」
「ゲホッ!?お、いや、それは誤解で…」
「男の言い訳はみっともないわよ」
マティルダはさらに尋問を続ける。
「そ、そうじゃなくて」
と、そこで、答えに窮する悠二を見て、マティルダは尋問を止め、意地悪な笑みをニマッ、と浮かべた。
そしてこう言った。
「…まあ、それに関しては、私にとやかく言う権利は無いわ。私の恋愛だって、随分周りの皆を苦しめたとは思ってるし」
それを聞いて、悠二はお返しとばかりに質問をぶつける。
「…マティルダさんと、アラストールの恋愛が?」
「とにかく、私はシャナの母親の立場として言わせてもらうけど、あの子は一度惚れた相手にはひたすら一途に、不器用にもまっすぐに向かってくるわ」
自身の質問を見事なまでにサラリとかわしたマティルダに、悠二は降参とばかりにボソリとつぶやいた。
「…はあ」
「それを受け止めるかどうかはあなたの勝手。ただ、中途半端だけは絶対、ダメよ。今すぐ答えを出せとは言わないけれど、そのときになったら、イエスかノーかだけははっきりさせて」
「…わ、わかり、ました」
悠二はただそう言って、うなずいた。
彼女の、シャナやアラストール、ヴィルヘルミナやマージョリーとも違う、圧倒的な雰囲気の前には、か細い“ミステス”坂井悠二は、何も言い返すことはできないのであった。

264五十殿:2006/05/22(月) 20:33:32
Back to the other world さん、読ませてもらいました。
先代の炎髪灼眼の打ち手が登場するとは(驚)
この後の展開に、期待大!!

265通りすがりのVIP:2006/05/22(月) 23:11:05
「すばらしい作品だ!!」 「私はこんな作品を」 「ずっと待っていた!!」

266名無しさん:2006/05/23(火) 08:58:20
「早くううう、続きをおおお」

267名無しさん:2006/05/23(火) 17:51:32
「これは、よく出来た小説ですね。続きがとても気になります。
「黙らんか、痩せ牛。続きを読むのはこの私だ!!」

268名無しさん:2006/05/23(火) 18:02:58
「まったく、あの二人は仲良く出来んのか?」
「うおおおお、マティルダーーーー!! 続きはまだかーーーー?? あのミステスの小僧、俺のマティルダに・・・殺してやるぅぅぅ」
「うお!? むやみに虹天剣を放るなーーー」

269234:2006/05/23(火) 23:00:09
>>五十殿
ありがとうございます。続きはちょろちょろとではありますが書いているので、よろしければ今後とも読んでください。
>>265〜267
おぉ〜これは九垓天秤の方々(笑)。皆さんに喜んでいただけるとは身に余る光栄ですm(_)m
励みにして頑張りたいと思います!

270Back to the other world:2006/05/23(火) 23:04:22
〜22〜

「…で、これからどうするんですか?」
「んっ、何が?」
悠二の問いに、マティルダは他人事のように聞き返した。
「何がって、せっかくこうして僕らと会話できるようになったんだし、色々したいことがあるんじゃないかな、と思って」
「ん〜、まあねぇ」
マティルダは右手の人差し指をあごにそえてつぶやいた。
「じゃまずは早速明日、アラストールやカルメルさんと再会か」
悠二は当然のように言った。

「あぁ、その必要はないわ」
「えっ!?」
しかし、マティルダがあまりにあっさりと即答してきたので、驚いて悠二聞き返す。
「何で…?」
「何でって…今さら会って、何になるって言うのよ?」
「えっ、そりゃ、色々話したいこととかもあるんじゃないんですか?」
「う〜ん、まあ確かに。最近のあの男のヘタレっぷりには、ちょいとばかり言ってやりたいこともあるけれど…」
「じゃ言ってあげればいいじゃないですか?」
「話したいのは山々だけどね、やっぱりやめておくわ」
「どうして?」
悠二の無知な、しつこい問いかけに、マティルダは小さくため息をつき、紅い双眸で悠二をしっかりと見すえ、こう言った。
「…あのね、シャナの立場を考えてご覧なさい。彼女は私が死んだことによって成立している存在なのよ」
「!」
思っても見なかったところを突かれ、悠二はハッとなった。
「彼女だけじゃないわ。アラストールやヴィルヘルミナ、ティアマトーだって、五百年たった今でも、未だ私の死を引きずって生きてる。もがき苦しみながらも何とかしてそれを受け入れ、新たな討ち手を育て上げた。そんなところに今さら、私がのこのこ出て行ったら・・・どうなると思う?」
「そ、それは・・・」
悠二は何も言えなくなった。


彼には、知る由も無かったのだ。
マティルダ・サントメールという存在が、アラストール達にとってどれほどまでに大きな、大きな存在だったのかを。
そんな彼女を『大戦』の末失って、彼らがどれほどの喪失、苦痛を味わったのかを。
そしてそれから数百年。彼らがどれほどの思いを込めて、新たな討ち手―――シャナを育て上げたのかを。

271Back to the other world:2006/05/23(火) 23:06:32
〜23〜

「…何も分かってなかったんだな、僕は」
悠二は悲しげにつぶやいた。
「まあまあ、そうしょげた顔をしないの」
「・・・じゃ、もう帰るんですか?」
「うーん…それがね、あなたの存在の力の影響かしら、今私は『あの世』に帰ることもできない状態なのよ」
「ええっ!?」
「さっき試してみたんだけど、どうにも『あの世』への入り口が開かないのよね」
「じゃ、一体どうするんですか?」
「ま、とりあえず私は、あなたの中にある『零時迷子』の影響が消えるまで、この町にいさせてもらうことにするわ」
「えっ」
「なぁに?何か文句でもあるの?」
「いや…ただ、僕のそばにいたら、アラストール達にばれる確率が高まるんじゃ?」
「大丈夫よ、あなたに触れさえしなければ知られやしないわ」
「そ、そんな…保障はできないですよ」
「あら、それってどういう意味かしら?さっきの腕に残ってる感触がそんなに気になるの?」
マティルダはまたもや先程の「事件」を持ち出して悠二をからかう。
悠二の方はと言うと、三度の詰問に、ただただ動揺するばかりであった。
「ゴホッ!?な、何をいって」
「全く、男っていつの時代も変わらないものなのね」
マティルダは呆れ顔でつぶやいた。
「あっ、じ、時間ももう遅いみたいですし、もう寝ますっ!」
悠二は話をうやむやにしようと慌ててイスから立ち上がり、ほったらかしになっていた布団に入った。
「ハイハイ、今日はいろいろありすぎて疲れたでしょうしね。お休みなさい。また明日、いろいろお話ししましょ」
マティルダはイスに座ったまま布団のほうを向いて、小さく手を振った。
時計の針は、もう四時を過ぎていた。



「・・・」

「・・・二」

「悠二っ!いい加減起きなさいっ!!!!」

バカッ!

「痛あっ!?」
頭頂部への猛烈な痛みを受け、たまらず悠二は目を覚ました。
「・・・ん?」
目の前には、見慣れた少女が、大太刀を手に怒り顔で立っている。
「全く、何時だと思ってるのよ?」
いつものように、怒る少女。
(あれ)
「何処まで世話を焼かせるつもりだ、痴れ者め」
いつものように、厳しい魔神。
(やっぱり、夢だったのか?)
その光景に悠二は、昨日の謎だらけの出来事を、またもや夢だったと納得しようとした。


が、
「!!!」


『あら、おはよう、悠二君』
彼女は、いた。
少女のすぐ右横に。
何食わぬ顔で、悠二にあいさつをしてきたのであった。

272Back to the other world:2006/05/23(火) 23:09:10
〜24〜

「…ちょっと悠二、どうしたのよ?」
「何だ、腑抜けた顔をしおって」
悠二は、腰を抜かして、何も無いただの空間を震える指で差していた。
その意味不明な行動に、シャナとアラストールは呆れ半分、疑問半分に尋ねた。
「ま、ま、ま」
「・・・はぁ?」
「気でも触れたのか、坂井悠二」
「ま、ま、マティ」
思わず、その『空間』にいる人物の名を言いかける悠二に、
『喋ったら、どうなるか分かってるわね?』
その人物が、悠二にしか聞こえない声で忠告する。
その手には、紅蓮の炎でできた剣がしっかりと握られていた。
「!?」


「…マテ?」
「何が言いたいのだ。はっきりと言わぬか」
追い詰められ、悠二は何とかごまかそうと頭をひねる。
そして、
「あ、あのね、つまり、その…マティー…ニって、強いお酒だな〜と思って、ハハ、ハッ」
と、どうしようもないまでに無残な嘘をついた。

「何、それ」
「いや、だからさ、こないだ佐藤が言ってたんだ。マージョリーさんがマティーニを飲みすぎて、二日酔いで苦しんでたって」
「ふぅーん・・・で?」
あからさま過ぎる悠二のごまかしに、シャナは冷ややかな目線を向けながら言った。
「だからさ、やっぱりお酒の飲み過ぎってよくないよな〜って思ってさ、つまりはそういうことだよ。ハハハ、ハッ…」
悠二のこの態度を、シャナは、
(絶対、何か隠してる)
と思いつつも、
(まあいいわ。後で縛り上げてでも絶対聞きだしてやる)
と、その場は保留にする事にし、
「…とにかく、早く着替えなさいよ、遅刻しちゃうじゃないのっ!」
「えっ!?」
言われて悠二は時計を見た。
「…わわっ、本当だ、やばいっ!」
時計の針は、八時半を回ったところであった。

273Back to the other world:2006/05/23(火) 23:13:19
〜25〜

悠二がシャナにたたき起こされ、頭を抱えてうずくまっていたのと、ちょうど同じ頃。
「うげぇ…おえっ、ぎ、気持ち悪いぃ…」
御崎市旧住宅街にあるひときわ大きな屋敷である、佐藤家。
そこにあるバーで、一人の女性が、やはり頭を抱えてのた打ち回っていた。
フレイムヘイズ『弔詞の詠み手』マージョリー・ドーである。
「だ〜から言ったろうがよ、あんな強え酒ばっか飲んでると、ヤバイ事になるってよ、ヒヒブッ!?」
彼女の足元に置かれた神器『グリモア』から、彼女と契約している“紅世の王”である“蹂躙の爪牙”マルコシアスが、相変わらず軽薄に言うと、マージョリーはすかさず足で小突いた。
もはや何百年と続けられた、彼らのやり取りである。
「だーってぇ、久しぶりだったんだもの、マティーニはぁ…おえっぷ」
カウンターに体を突っ伏しながら、マージョリーは言い訳をした。
「それが理由ってかぁ?ヒヒッ、とんだご都合主義だなぁ、我が腐った酔っ払い、マージョリー・ドーブッ!?」
「お黙り、バカマルコ…おぷっ!?」
「ワーッ、よせよせ、やめろ〜っ!」
「ふぅーっ…何よぉ、『清めの炎』はぁ?」
「んなもん、そんなたびたび使ってやれるかぁ!たま〜にゃ自分で酔いを覚ます方法くらい、考えてみるんだな、ヒャッヒャッヒャッブハッ!?」
マージョリーは『グリモア』をつま先で、かなり強めに蹴った。
「イテテ…おいおい、逆ギレってやつかぁ?」
「違うわよぉ…この前テレビで見た…フットボールの試合…真似して、みただけよぉ」
「ヒヒッ、おめえの場合、フットボールっつーよりは、アレじゃねえか、「ケイワン」とか言うやつじゃねえのかブッ」
「お黙り…バカマルコ…うえぇ」
そばにあったクッションを『グリモア』に投げつけて、マージョリーは中庭へ出ようと、手探りでもぞもぞとスラックスとカーディガンを拾い、それぞれダラダラと身に着け、バーを後にした。


「あ〜、気持ち悪いぃ」
髪の毛をクシャクシャに乱したまま、マージョリーは、中庭へ続く廊下を歩く。
(何よ、バカマルコの奴…ちょっと炎を出すだけなんだから、やってくれたっていいじゃないのよ…)
心中で相棒を罵りながら(無論、本心からではない)、ヨタヨタと、足取りも重く。
(酒量をわきまえる、なんて器用なことが、私にできるわけないって事ぐらい…んっ?)
と、中庭へと続くサッシを開けたとき、マージョリーはふと、妙な感覚を覚えた。
「?何か、変な感じねぇ…」
この世には存在しないはずのものが、存在している。
マージョリーが覚えたのはそんな、フレイムヘイズとってはごくありふれた感覚だった。
(また新手の“従”かしら…?)
しかし、来るべき“銀”の襲来に備えて、『玻璃壇』は毎日、入念にチェックしている。
それに、マージョリーはこの感覚を、どうも不思議に思った。
(何か…違う気がするのよね。“従”とは)
もし“従”の気配なら、どんなに酷い二日酔いでも一瞬で吹き飛び『グリモア』を引っつかんで飛び出しているはずなのだ。
フレイムヘイズの中でも屈指の殺し屋“弔詞の詠み手”マージョリー・ドーとは、そういう人物である。
しかし、今回のこの「気配」には、マージョリーは違和感こそ抱けど、酔いは相変わらず全身に回ったままだし、身体も全く反応しなかった。
マージョリーは、その常日頃抱くことのない違和感に首を傾げつつも、
「…まあ、いいか。そんなことより、水よ、水ぅ…うえぇ」
またまた激しい二日酔いに襲われると、ふらふらと厨房のほうへと向かっていった。

274Back to the other world:2006/05/23(火) 23:16:35
〜26〜

「しっかし坂井にシャナちゃん、危なかったなぁ」
「ホントだよな。もう少しで出席とり終わってたぜ」

遅刻ギリギリではあったが、シャナが悠二の片腕を取って屋根の上を飛び移っていくという荒業を使ったおかげで、二人はどうにか1限に間に合うことができた。
そして4限までをこなし、今はいつものメンバーと―――悠二にシャナ、佐藤啓作に田中栄太、吉田一美に池速人、そして緒方真竹の7人との昼食タイムである。

「でも…間に合ってよかったですね」
「珍しいな、坂井。お前、別に家から学校までそこまで距離なかったろ?」
「そうよ。私や田中や佐藤は御崎大橋渡らなきゃいけないし、池君や一美の家だって、坂井君の家より奥に行ったとこにあるじゃない」
友人達が口々に悠二たちに話しかけてくる。
しかし、

「・・・」
悠二は下を向いて、呆けたような表情をしたまま黙っていた。
「おい坂井、どうした?」
そんな悠二に、まず池が声を掛けた。
「そういや、なんか朝から様子が変だったよな?」
「お前、まさか…大丈夫か?」
次に佐藤と田中が「知っている者」の立場から、池とは全く違った意味での心配を込めて言った。
「何だか顔色も悪いみたいですし…何かあったんですか」
吉田もまた「知っている者」の一人として、また、それとは別の“感情”から、前者三人とはまた違った意味で、心配そうに言う。

「・・・」
しかし悠二は友人達の呼びかけに、相変わらずうつむいたまま、黙っていた。
「おい、坂井っ!?」
池がもう一度呼びかけた。
と、同時に、

ドゴッ。
「ぎゃぁっ!?」
シャナが、悠二の頭頂部に思いっきりひじ打ちをぶちかました。
「・・・シャキッとしなさいよっ!」
「う…あ…?」
シャナに怒鳴られた悠二が頭を抱え、辺りを見ると、友人達が心配そうにこちらを見つめていた。
「坂井、マジで大丈夫か?」
「え…ああ。だ、大丈夫…たぶん」
佐藤の問いかけに、悠二は頼りなさげに答えた。
「…そういうことじゃないんだろうな?」
「うん…一応」
田中の「知っている者」としての心配を含んだ問いかけにも、悠二は同じような口調で答える。
「もしかして坂井君、私のお弁当が…何か、味がおかしかったですか?わ、私今日、ちょっと味付け濃くしゃったかもしれないし…」
「えっ…そ、そんな事ないよ、大丈夫」
少しも減っていない悠二の弁当を見て言った吉田の言葉にも、悠二は力が抜けたように答えた。
「ちょっと坂井君、あなた本当に変よ?なんかさぁ、幽霊にでも取り憑かれて、力を吸い取られた、って感じ?」
「ブフッ!?」
緒方の言葉に、悠二は吉田を心配させまいと無理やり口元に運んだ弁当のおかずを、ノドに詰まらせた。

275Back to the other world:2006/05/23(火) 23:24:42
〜27〜

「…ッ!?〜〜!!」
『ほう、なかなかスルドイわね、彼女』
悠二の背後で、本来いるはずのない、もう一人の『炎発灼眼の討ち手』が感心しながらそう言った。
『そ、そういう問題じゃ…ゲホッゲホッ』
一方の悠二は、胸をドンドンと叩きながら、自分にしか見えない相手に向かって突っ込みを入れた。
「さ、坂井君!?」
すかさず吉田が自分の水筒から麦茶を注いで、悠二に差し出す。
「ゴクッゴクッ…ぷはっ!?」
「だ、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫、大丈夫…」
吉田の心配そうな声に、悠二はつとめてそう言った。
しかし実はこの日、悠二は全く大丈夫などではなかったのだった。

276Back to the other world:2006/05/24(水) 01:53:29
〜28〜

この日の1限の授業は、世界史だった。
『えっ、何、今ちょうど中世ヨーロッパやってるの?』
世界史担当の教師が黒板に「中世ヨーロッパの文化について」と書き出すやいなや、悠二の隣に立っている―――もちろんシャナや吉田をはじめ、クラスにいる他の誰の目にも見えていないが―――マティルダが、興奮気味に言った。
『な、何ですかいきなり!?』
いきなりの大声に驚いて、悠二は彼女にしか聞こえない声で(つい先程、悠二とマティルダは、まるで“紅世の王”とフレイムヘイズの間におけるような、お互いにしか通じない会話ができることを知った)言った。
『何って、中世なんて、まさに私の全盛期だった時代よ』
『あ…そ、そっか』
『分かんないとこあるんなら、教えてあげよっか?』
『け、結構ですよ』
『遠慮しなくてもいいのよ、多分先生より詳しいから。どれどれ、ちょっと見せてごらん』
『だから結構ですって…わっ?』
言って、マティルダは机に顔を寄せてくる。
『なになに「ルネッサンスの芸術家達」…あっ、レオナルド!懐かしいわぁ…彼はガヴィダの爺さんと訳の分からない話ばっかりしてたわねぇ。変な宝具もいっぱい作ったって聞いたけど、どこにいったのやら。あらら、アルブレヒトも載ってるじゃない…私、彼に肖像画描いてもらったのよ。戦乱のドサクサでどっかになくしちゃったけど』
マティルダは悠二の教科書に載っている偉人達の肖像画を眺めながら、自身の懐かしい思い出を語りだした。
これで悠二が、少しでも世界史に興味がある人間であったならば、マティルダの話を興味深々に聞くことができたのであろう。が、残念なことに彼は世界史の時間を時折睡眠タイムに使ってしまうほど、全く興味はなかったので、
『マ、マティルダさん、そ、そんなに近づくと、触れちゃいますよ』
眼前に迫ったマティルダの端整な顔立ちに見とれてしまい、気がついたときにそういうのが精一杯であった。

その後の授業でも、
『あら、英語じゃない。私、ヨーロッパとアジアの言語ならほとんどペラペラなのよ。教えてあげるわ』
とか、
『数学かぁ…私、化学と幾何学の知識はどうしてもヴィルヘルミナに勝てなかったのよね。いい機会だわ、私にも解かせて』
などと言っては、マティルダは毎度毎度悠二の教科書に顔を近づけていき、その度に悠二は身体に触れてはしまわないかで神経をすり減らす、またマティルダの、シャナのそれとは違った大人の色香漂う灼眼に思わず見とれてしまいそうになって、普段しない場面で激しく緊張してしまう(これに関しては自業自得だが)という、二つの苦労を背負う羽目になったのである。
そして4限を終えて昼休みになる頃には、悠二の身体は心身ともにヨレヨレになっていたわけである。

277Back to the other world:2006/05/27(土) 22:27:07
〜29〜

「坂井、何でそんなに動揺してるんだ?」
窒息の危機をどうにか逃れた悠二に、池が問う。
「い、いや別に」
「嘘つけ!オガちゃんの言葉にメチャメチャ動揺してたじゃねえか」
「えっ、何、私のせいだって言うの?冗談にきまってるじゃない」
「もしかして坂井君、本当に幽霊に取り憑かれちゃったんですか?」
「何言ってんだよ吉田ちゃん、んなわけねーだろ、な、坂井」
「そ…そうだよ、そんなわけないよ、ちょっと疲れ気味なだけだよ、うん…」
佐藤の言葉に、悠二がまた力なく答える。

とそこで、
「じゃ、茶番劇も終わりね、悠二」
この問題に関してまだ全くも発言していない人物が、
「そろそろ話してもらうわね…朝のこと」
氷のような冷たい視線を放ちながら、
「うっ!?」
悠二にとっては先程の緒方の発言など比べ物にならない、必殺の一言を放った。

「何だ坂井、やっぱり何かあったんじゃねえか!」
「黙ってんじゃねえよ、全く」
「坂井君、隠し事はなしってあれほどいったのに…」
「な〜に坂井君、言ってごらんなさいよ」
「友達じゃないか、水臭いぞ」
シャナの一言に、友人たちが口々に悠二を攻める。
「え…いや、ホント、何にもないんだってば」
「『マティ』って何?」
「だから、あれは朝言った通りで、マージョリーさんがマティーニを飲みすぎて…」
「って言うんだけど、本当?」
と、シャナは佐藤と田中のほうを向いて尋ねた。

(しっ、しまったっ!)
悠二はそこで、自分の致命的なミスに気づいた。
『あーあ、バカね』
マティルダが心底呆れて、悠二に言った。
『も、もうダメだ…マティルダさん、正直に話そう』
『ダメよ、何とか切り抜けなさい。あなたは知力でここまで生き延びてきたんでしょうが』
悠二の弱気な提案に、マティルダは厳しく言った。
そして悠二は自分の愚かさを呪い、腹をくくった。

278Back to the other world:2006/05/27(土) 22:31:01
〜30〜

しかし、
「え、ああ。坂井、よく知ってるな」
「…え?」
天は彼を見捨てなかった。
「つい昨日、マージョリーさんの要望で、家のバーにバーテンを呼んでな」
「…えぇ?」
奇跡は、起きた。
「んで、いつもの通り散々飲み散らかして…バーテンが疲れて帰っちまった後も、一人でずーっと飲んでて…朝は悲惨な状態だったぜ」
「ええぇ!?」
「何をそんなに驚いてんだよ、お前が言ったんだろ?」
「あ…ああ、うん。そ、そうだよ。ほ、ほーら、言った通りでしょ…?」
「う…ん?」
(何で…?)
シャナは自分の予想が外れたことに、驚きを隠せなかった。
(絶対怪しいよね、アラストール?)
首をかしげながら、シャナは胸元にいる魔神に、お互いにのみ聞こえる声で尋ねた。

(…)
しかし、本来ならばすぐに返ってくるはずの返事が、ない。
(…アラストール?)
(んっ?)
二度目の呼びかけでやっと返事が返ってきたが、それはおおよそ“紅世”に名を轟かす魔神らしからぬ、間抜けな返事だった。
(どうしたの?)
(い、いや。別に何でもない)
(何、アラストールまで私に隠し事?)
(ち、違う、断じてそれはない。ただ…)
(…ただ?)
(何か、おかしな気配を感じぬか?)
(えっ?)
言われ、シャナは目を閉じて、存在の力を探ってみた。
しかし、
(…特に、何も感じられないけど)
(そ、そうか…)
(…?変なの)
シャナはいつもらしくないアラストールを不思議に思った。

アラストールは一人、心の中でつぶやく。
(むぅ…我としたことが、シャナに恥ずかしい態度を見せてしまった。しかし…)
御崎高校に着いたあたりから、時折感じていた。
自分のすぐ近く―――“ミステス”の少年の辺りに「何か」が存在している、という気が。
しかし、それは“従”ではなく、別の「何か」。
しかも、なぜかアラストールには、その気配に覚えがあった。
(一体、この感覚は…?)

と、彼に、ある一つの可能性が浮かび上がった。
昨夜の『万条の仕手』と“夢幻の冠帯”の異常なまでの動揺。
自分自身が今、感じている気配。
そして“ミステス”の少年が口走った言葉―――


(愛しているわ“天壌の劫火”アラストール)
(!!?)
ふと、彼の中に、一人の女性の姿がよぎった。
数百年間、忘れようとしても決して忘れることのない、あの女性の姿が。

279Back to the other world:2006/05/27(土) 23:12:11
〜31〜

(…っな、何を、馬鹿な)
アラストールは浮かび上がった幻影を振り払うと、自分の考えのあまりの馬鹿馬鹿しさに、吐き捨てるように心の中でつぶやく。
彼の考えは、確かに馬鹿げていた。
それは、絶対にありえないことだった。
思いついても、考えてもいけないことだった。
(全く、我としたことが…)
気のせいだろう。
アラストールは、そうやって何とか自分を落ち着かせた。


『ひぃ〜、た、助かったぁ』
『ほう、運のいいこと』
『はは、全く…しかし、まさか本当にそんなことになってたなんてなぁ』
悠二は心底ホッとした。
『でもね悠二君、残念だけど…このままじゃ、どの道バレるのは時間の問題ね』
『えっ、なぜです?』
『気づき始めてるのよ、あの子の胸元にいる男が』
言って、マティルダはシャナを指差した。
『えぇっ!?』
『どうやら、あなたの近くにいるだけで、ほんの少しではあるけれど存在の力が私に流れ込んでくるみたいね。彼、じわじわとではあるけれど、私の気配に気づき始めてるわ』
マティルダは腕を組みながら、しげしげとシャナの胸元(のペンダントにいる男)を見つめていった。
『な、何で分かるんですか?』
『彼と私がいったいどれだけの時間を過ごしたと思ってるのよ。もう『コキュートス』を見なくたって、何を考えているのか分かるわ』
マティルダは得意そうに言った。
『いや、見たって分かりゃしない気が…』
『何か言ったかしら?』
『い、いや別に。で、どうすりゃいいんです?』
『とりあえず、今日のところは早退させてもらったら?』
『えっ!?』
『今のあなたの様子なら、周りのみんなも不自然には思わないわ』
確かにその通りであった。
このクラスの、少なくとも自分のまわりにいる5人は、自分を体調不良と思い込んでいる。
今自分が早退するといったところで、誰もおかしいとは思わないだろう―――ただ一人をのぞいて。
『で、でも、そんなこといったって』
『あとね悠二君。私、やりたいことを一つ、思いついたのよ』
悠二の反論を無視して、マティルダが続けた。
『な、何ですかいきなり?』
マティルダは少し微笑んで、こう言った。
『あなたのお母さん―――坂井千草さんと、お話がしたいの』

280Back to the other world:2006/05/28(日) 01:47:28
〜32〜

「えぇぇぇーーーっ!!?」
「うぉ!?」
「何だ!?」
悠二はクラスメイトの存在も忘れて勢い良く立ち上がり、教室中に響く大声で叫んでしまった。
「そ、そんな、無理ですよ…っ!?」
と、我に返った悠二は、そこでやっとクラスメイトが自分を好奇の目で見つめていることに気がついた。
「さ、坂井、君?」
「おい、坂井?いったいどうしちまったんだ?」
「誰に向かって喋りかけてんだよ?」
吉田、田中、佐藤の三人が、明らかにおかしい悠二の行動に疑問を隠さず尋ねた。
「い、いや別に」
「いや別にじゃないでしょ?今のはどう考えてもおかしいわよ」
「坂井、熱でもあるんじゃないのか?」
緒方、池の二人も、同様に尋ねる。
「あっ、うん、そ、そうかもしれない。ぼ、僕、今日はちょっと早退するよ」
池の言葉を口実に、悠二は早退しようと荷物を超高速でまとめ、一目散に教室を飛び出した。


と、
「ちょっと悠二、待ちなさいよ!」
教室を出て廊下を駆け出そうとしたその時、シャナが悠二を、怒りがこもった声で呼び止めた。
「シャ、シャナ!?」
呼ばれた悠二が振り向くと、シャナが仁王立ちしてジロリと睨んでいた。
怒りがこめられたままの声で、シャナが問い詰める。
「いったい何があったのよ、答えなさいよ!」
「だ、だから何でもないって」
「そんなわけないっ、絶対何か隠してる!」
「ち、違うったら、ただ気分が悪いから、早退するだけだよ」
悠二は何とか言い逃れようとしたが、
「うるさいうるさいうるさいっ!嘘に決まってる!」
シャナは一歩も引かない。
悠二はシャナの押しの強さに気おされまいと、必死になった。
そして、


「っ…だから違うって言ってるだろ!」
「…!」
穏やかな彼が常日頃出さない、怒鳴り声でシャナに立ち向かった。
それは恫喝と言うにはあまりに弱弱しく、優しいものだったが、普段の物静かな姿を見慣れていたシャナにとっては、十分に効き目があるものであった。
シャナは一瞬たじろいだが、すぐに向き直ると、
「・・・もう知らないっ、勝手にどこにでも行けばいい!」
そう捨て台詞を吐いて、悠二とは反対方向に廊下を駆け出していった。


「シャ、シャナ…」
小さくなる背中を見て、悠二がつぶやいた。
『あーあ、泣かせちゃったわね』
教室の壁をすり抜けて出てきたマティルダが、まるで他人事のように言った。
『…誰のせいだと思ってるんですか』
無責任なマティルダの物言いに、悠二は少し怒って言った。
『あら、最初に抱きついて私を顕現させちゃったのは、いったい誰だったかしら?』
しかし、マティルダは厳然なる事実を持ってして、悠二の言い分を封じ込める。
『…ま、まあそうですけど』
少し気弱になった悠二を、
『それにあなたも、もう少し冷静に行動してれば、こんなことにはならなかったはずよ』
マティルダはさらに攻める。
『そ、そんなこといわれたって』
『ま、あの子には後で謝るとして、まずはここから出ましょ』
『…ハイハイ、分かりましたよ』
マティルダの一方的な物言いに悠二は結局何も言い返せず、あきらめてトボトボと昇降口へ向かい、御崎高校を後にした。

281Back to the other world:2006/05/28(日) 03:46:19
〜32〜

平日の昼下がりのせいか、商店街は人通りが少なかった。
『しかし悠二君、もう少し頭の回転を早くしたほうが良いわよ』
その道をトボトボと歩く悠二に、マティルダが声を掛けた。
『一応、いざと言う時には切れてる、って評判なんだけどな…』
『まだまだ、あんなもんじゃダメよ。これからの戦いを生き抜こうと思ったら、せめて…牛骨宰相くらいの頭脳は身に着けてもらいたいわ』
『誰ですか、それ』
『以前私が戦った相手の一人よ。彼の知略にはずいぶんと手を焼かされたわ。ま、最後にはやっつけたけどね』
かつて『大戦』で自分たちを大いに苦しめた知略家を思い出しながら、マティルダは言った。
『はぁ…』
『そういえば彼とも『あの世』で会ったわ』
と、そこでマティルダが思い出したように言った。
『えっ、て、敵同士なのに?』
『昨日言ったじゃないの。『あの世』では敵味方なしだって。最も、もう殺そうと思っても殺せないから、ってのもあるけど』
『あ、ああ、そういえば』
『話してみたら、その頭の切れは予想以上だったわ。本当に恐ろしい奴と戦ってたんだなって実感した。ただ随分気弱なのが気になったけど』
『えっ、気弱?』
『だって私と顔を合わすなり、いきなり逃げ出しちゃうんだもの。呼び止めるのに苦労したわ。そうそう、あと彼、超弩級の鈍感でね』
『はぁ?』
『彼のことが大好きな女の子がすぐ傍にいるのに、全然、かけらも気づいてないのよ。もう何百年になるかしらね』
『えぇっ、な、何百年?』
『またその女の子が最高に不器用でね、彼のことの散々けなしたり、罵言暴言を浴びせるのよ。もちろん愛情の裏返しなんだけど』
『はあ』
『全く、私の胸をぶち抜いた時みたいな勢いがどうして出せないかなぁ。見てて歯がゆいったらありゃしないわ。まるで誰かさんと誰かさんみたい』
マティルダはそう言って、「誰かさん」の一人たる少年を流し目で見た。
しかし、悠二はそれには気づかず、全く違う質問をした。

『ちょ、ちょっと待って』
『何?』
『胸をぶち抜いたって…それって、その、前言ってた『大戦』で戦った敵の暗殺者でしょ?』
『そうよ』
『あと『牛骨宰相』ってのは、聞いたところ、その『大戦』の“従”側の司令塔だった、ってことですよね?』
『ええ、その通りよ』
『ってことは…“紅世の従”も、その、そういうこと…恋愛とかをする、ってこと?』
『今さら何を言ってるのよ。“従”だって、フレイムヘイズだって、立派に恋をするものなのよ』
『あ…っ、そういえば、前に同じことを言われた気がするな』
悠二は、かつてシャナとの関係に思い悩んでいた自分に、極めて的確なアドバイスをしてくれた、ある人物を思い出した。

282Back to the other world:2006/05/28(日) 03:47:23
〜33〜

『それってもしかして、紳士の格好した爺さんじゃない?』
『そっ、そうだけど…知り合いなんですか?』
悠二はマティルダの顔の広さに心底驚いて尋ねた。
『ええ、ちょっとね。あいつ、あんな格好して気取ってるけど、本当はね…』
『えっ、それってどういう…』
『…ま、今言うのはやめとくわ。これもいつか分かることだろうし』
昨夜に続いて、またもや含みのある顔で話を断ち切ったマティルダに、悠二が不思議そうに尋ねた。
『それにしちゃ、『あの世』の人たちのことはよく喋りますね』
『だって、彼らはもう死んでるんだもの。いくら私があなたたちに喋ろうと、何も起こりゃしないわ。でもね、まだ生きてる人たちのことは…言っていいことと悪いことってのがあるのよ』
『はぁ…なるほど』
マティルダの論理に、悠二はよく分からないながらもとりあえず納得した。


『それにしても、何百年も気づかないなんて…とんでもない鈍感だな』
と、悠二のあまりに棚上げな意見に、マティルダはまた呆れて言う。
『あらあら、あなたがそれを言うの、悠二君?』
『どういう意味ですか?』
もちろん、朴念仁たる少年は、その言葉の真の意味が分からずに尋ねた。
『さあねぇ、自分で考えたら?』
『えっ…』
悠二は逆に言い返されてしばらく考え込んだ、が、答えは出なかった。
その様子を見ながら、マティルダは、
(まったく…『あの世』とこの世、似たもの同士ってあるものね)
と、心の中で感慨深げにつぶやいた。

283Back to the other world:2006/05/28(日) 03:51:13
〜番外編1〜

ちなみに同じ頃『あの世』ではこんなことが起こっていたとかなかったとか。

「クシュン?!」
牛骨の賢者が突如、くしゃみをした。
「いきなり何だ、痩せ牛。はしたない」
その様子を見て、黒衣白面の女が無愛想な顔(を装って)で叱った。
「も、申し訳ありません。っクション!?」
牛骨はすまなさそうに謝ったが、もう一度くしゃみをしてしまった。
「何度も無様な真似をするな!」
その情けない様子に、女は目線を尖らせてさらに叱る。
「はっ、も、申し訳ありません…」
牛骨はますますすまなさそうに縮こまった。
「我らは死んだとはいえ、元…いや今でも『とむらいの鐘』の精鋭『九垓天秤』の一角なのだ。お前、最近少したるんでないか?」
「ま、まったくその通りです…このくしゃみはおそらく、こんな私をあざ笑っているフレイムヘイズ達がいるという証拠なのでしょう」
牛骨が縮こまったままそう言うと、女は、
「…?どういう意味だ?」
と尋ねた。
「いえ、こちらに来てから知ったことなのですが、何でも人間たちは、くしゃみの回数に意味を求めるそうなのです」
「…下らん」
牛骨の解説を、女は一言バッサリと切り捨てた(フリをした)。
「はは、確かにそうですね。くしゃみ一回で良い噂、二回で悪い噂、三回目で恋の噂だとかなんとか、全く馬鹿馬鹿しい話ではあるのですが」
「痩せ牛、今すぐくしゃみをしろ」
「はっ?」
いきなりの女の要求に、牛骨は戸惑った。
「いいから、今すぐくしゃみをしろ、と言ってるんだ」
女はつとめて平静を装いながらそう言った。
しかしその長い右手は地面でモジモジと動かされ、白面はうっすらと紅色が浮かんでいた。
「いえ、しかしですね、それは…」
ところが、超弩級の朴念仁である牛骨には、それが意味するところが分からない。いたって普通に答えた。
女は牛骨のその態度に、ますます苛立つ。
「グズグズするな鈍牛!何でもいいから早くくしゃみをすればそれでいいのだっ!」
「は、はいっ!ハ…クション!」
その様子を見て女は、表情は変えず、しかし心中では大いに心躍らせた。
(やった!これでようやく…ようやく私の想いが…)

しかし、世の中とはうまくいかないものである。
「クション」
「なっ…!?」
「おや、四回もくしゃみが出るとは…どうやらただの風邪のようですな…わわっ!?」
何も無かったかのように答える牛骨に、女は怒りを爆発させた。
「っ馬鹿者!!!誰がくしゃみをしてよいと言った!?」
理不尽なことは分かっていたが、それでも言わないと気がすまない。
「えっ、そ、それはチェルノボーグ殿が」
「黙れ黙れ痩せ牛!!」
女はそのまま右手を牛骨にぶつけた。
「ひぃ、も、申し訳ありません…!」
そして牛骨は何一つ気づかないまま、ただただ謝った。


と、まあ、こんな日常を千年近く続けている二人の物語はまだまだ続くのだが、それはまた、別の話。

284234:2006/05/28(日) 17:47:15
ぎゃ〜〜!!!“徒”のはずが、全部“従”になってるっ(泣)。恥ずかし〜!!!
申し訳ないです…。

285五十殿:2006/05/28(日) 19:59:15
本当ですね。
私も今まで気づかずに読んでました(笑)

286名無しさん:2006/05/28(日) 23:49:48
「なによ、気付かなかった訳?」
「ハッハァー、よく言うぜ。我が鈍感なる姫君、マージョリー・ドーよぉ。
さっきまで気付かなかったくせになぁ。ウハハハハハ、ブッ」

287名無しさん:2006/06/09(金) 01:26:20
ここって保管庫あるの?

288名無しさん:2006/06/28(水) 15:31:43
続きが気になるであります。
『続執要望』

289名無しさん:2006/07/03(月) 23:23:59
続きを早く!!!!!!!!!!!

290234:2006/07/09(日) 23:02:12
最後の投稿から1ヶ月以上経ってしまいましたorz
今さらですが、続きを書きました。
まだ完成には至りませんが(え)、気長に見守っていただければ幸いです。

291Back to the other world:2006/07/09(日) 23:07:33
〜34〜

悠二がマティルダに戦々恐々とさせられていた頃。
「・・・・・」
ヴィルヘルミナは、平井家の自室の事務机に座っていた。
「・・・・・」
しかし、いつものように、“外界宿”からの書類に目を通しているわけではなかった。
「・・・・・」
ただ頬杖をついて、呆けたように壁を見つめているのみである。
「正気覚醒」
そんな様子を見かねたティアマトーが、たしなめるように言っても、
「・・・・・」
その声が耳に入っていないかのように、全くの無気力状態であった。

しかし、それも無理からぬことではあった。
(あれ、は)
昨日の夜。
(本当、に)
彼女は、見てしまったのだ。
(夢?)
見るはずのないものを。
それは、一人の大切な、大切な人の姿。

―――さようなら、ヴィルヘルミナ、ティアマトー。貴方達に、天下無敵の幸運を―――

「誇大妄想」
相棒の堂々巡りを終わらせるため、ティアマトーが一言きっぱりと言い切った。
「・・・・・」
「正気覚醒」
「・・・・・む」
ヴィルヘルミナは頬杖をつくのをやめた。
「・・・そう、で、ありますな」
どれだけ考えたところで、あんなことは現実にはありえない。
しょせん、妄想に過ぎないのだろう。
そんなことで思い悩むのは、時間の浪費である。
「全く・・・何ゆえ今さら、あのような幻覚を」
今はもう、現実を見すえているはずだったのに。
あいつにも、きっぱりとそう言ったのに。

―――ふふん、負け惜しみかい?―――

「…ッ!」
ガッ!
ヴィルヘルミナは拳で自分のこめかみを、思いっきりひっぱたいた。
それはティアマトーに向けたものではなく、不甲斐ない自分自身へのものだった。
ズキズキと痛む頭を押え、ふと時計を見ると、
「む」
時刻は0時30分だった。
「時間浪費」
「うるさいであります」
ヴィルヘルミナは、今度はヘッドドレスの相棒を殴りつけた。
「ふむ、昼食摂取の後、食料調達に出かけるのであります」
とにかく、気分を切り替えよう。
外に出て空気を吸えば、こんなふざけた妄想にふけることもなくなるだろう。
ヴィルヘルミナはそう自分に言い聞かせ、スクッ、とイスから立ち上がって、昼食のカップめんを作りにキッチンへと向かった。

292Back to the other world:2006/07/09(日) 23:12:21
〜35〜

9月の前半というのは、まだまだ残暑が厳しい時期である。御崎市ももちろん例外ではない。
ましてや昼下がりともなれば、その暑さはジリジリと焼け付くようなものとなる。
「それにしても…暑いなぁ」
悠二はそんな暑さの中、通りをひたすら歩いていた。
『何よ、だらしないわねぇ。私なんか四六時中、紅蓮の炎の真っ只中にいたのよ』
ダラダラとやる気なさそうに歩く悠二を見て、マティルダが後ろから茶化す。
『そりゃ『炎発灼眼の討ち手』だったんなら当然でしょ?』
『フフッ、その通り』
悠二の突っ込みに、マティルダはまたいたずらっぽい笑顔で答えた。
その子供のような笑顔を見て、悠二は苦笑交じりにつぶやいた。
『・・・なんか、意外だったな』
『ん、何が?』
『僕の中の想像では、先代の『炎発灼眼の討ち手』って、もっと威厳があるっていうか、近寄りがたい感じっていうか、そういう風な人かと思ってたから・・・』
『あら、何それ?まるで私がガキっぽい奴みたいな言い方じゃない』
『いっ、いえいえいえ、決してそういう意味じゃ』
悠二は慌てて否定した。
『じゃどういう意味よ?』
『その、何か、ずいぶん気さくに話しかけてくるし、いつもニコニコ笑ってるし、『伝説の人』って言う割には…意外だな、って思って』
これは正直な感想だった。
初めて会ったときから、悠二にはマティルダの圧倒的な存在感は感じ取っていた。
しかしそれとは裏腹に、彼女の態度、仕草は、どことなく軽く、子供っぽいものだった。
『そうかしら?』
悠二の指摘にも、マティルダは全く気にした様子はない。
『今だって、僕の母さんと話がしたいなんて言うし…』
『なぁに、話しちゃまずいことでもあるの?』
『い、いや、そんな事はないけど、なんでかなって思って』
学校を早退する原因にもなった、マティルダの一言。
悠二には全くもって、意味が分からなかった。
『あのね、私はシャナの母親みたいなものよ。自分の娘がお世話になってる人にご挨拶しておくってのは、別に普通のことじゃないの?』
そんな悠二の疑問をよそに、全く当然のように、マティルダは答える。
『ま、まあそうだけど』
『それと・・・やっぱり私からも言っておかないとね』
『何がです?』
『お宅の息子さんにはもっとがんばってもらわないと、うちのシャナはあげられませんよ、ってね』
『な、何を言って』
『冗談よ冗談。フフッ』
言って、マティルダはまた、子供のようにニカッ、と笑みを浮かべた。

293Back to the other world:2006/07/16(日) 00:28:46
〜36〜

『・・・そういえば』
と、そこで、悠二は根本的な問題に思いあたる。
『ん、何かしら?』
『その・・・母さんと、どうやって話すつもりなんですか?』
『あ、そういえば、特に考えてなかったわ。単なる思い付きだったし』
『そんな、無責任な』
軽い調子で話すマティルダに、悠二は少々憮然とした。
『なんなら直接会いに行きましょうか?』
と、いきなり突拍子もないを言い出すマティルダに、
『じょ、冗談はやめてくださいよ』
悠二は慌ててそれを拒否する。
『フフッ、分かってるわよ』
そんな悠二を見て、マティルダはまた愉快そうに笑った。
『本当に、もう・・・』
『怒らない怒らない』
『はぁ・・・。じゃ、どうするんですか?』
『そうねぇ・・・あなた、小型の電話か何か持ってないの?最近の人間は皆持ってるって聞いたけど』
『携帯か。残念ながら、僕は持ってないです』
『えっ、なんで持ってないのよ?時代遅れね〜』
何百年も前に死んだマティルダさんに言われたくないな、と言いかけて、悠二はどうにかその言葉を飲み込んだ。
『母さんがああいう機械、ダメなんです。だから買わせてもらってません』
『ふぅーん、可愛いお母さんじゃないの』
『ど、どうも』
母親を「可愛い」と表現された悠二は、少々ばつが悪そうに短く返事をした。
『・・・で、どうするんですか?』
『うーん・・・公衆電話とか、近くにないの?』
『公衆電話か・・・』
言われ、悠二は困った。
最近携帯の普及によって、公衆電話の台数が減少傾向にあるのは、ここ御崎市も例外ではない。
かろうじて目にするところといえば駅周辺だが、その辺りは先日の“変人”と評判高い某・紅世の“王”襲撃事件によってズタズタに破壊され、公衆電話もその憂き目に遭っていた。
『どこか人目に付きにくい、静かな場所にひっそりとある公衆電話とか、ないのかしら?』
『そんな都合のいい場所あるわけが・・・』
と、悠二はそこで突然、口をつぐんだ。
『・・・ちょっと、悠二君?』
そんな様子を見て、マティルダは不審そうに悠二に声を掛ける。
すると、悠二はボソッと、一言こうつぶやいた。
『・・・あった、一ヶ所だけ』

294Back to the other world:2006/07/16(日) 01:55:19
〜37〜

南中に達した太陽が、だんだんと傾き始めている。
向かいのマンションの影が、ほんの少し部屋の中に入ってきている。
「・・・・・・」
その部屋の中、ヴィルヘルミナは呆然として、右頬を押えていた。
その清楚なはずのメイド服のエプロンには茶色のシミが点々と浮かんでおり、さらにその普段は凛々しく妖艶ですらある口元はだらしなく半開きになっており、おまけにその周辺には細かい緑色や黒色の物体が付着している、という始末である。



つい先程まで、彼女は少し遅めの昼食をとっていた。
しかし、その食べ方は何とも酷いものであった。
力なく握られたハシからは見る見るうちに麺がこぼれおち、彼女のメイド服のエプロンにボトボトと落ちた。
「麺落下」
「あ」
まるでティアマトーに言われて初めて気づいたかのように、ヴィルヘルミナは麺を手でつまんで口の中に放り込んだ。
一連の動作は、まるでゲームセンターのUFOキャッチャーのようであった。
「無作法」
「もぐ・・・んうるさいで、もぐ・・・んあります」
相棒の戒めも、まるで耳に入っていないかのように、ヴィルヘルミナは麺を咀嚼する。
「んぐ・・・っ」
ゴクリ、と一のみした後、今度はレンゲでスープをすくおうとする。
「要集中」
「分かって、いるで、あります」
しかし、
「あ」
相棒の忠告も空しく、力なく握られたレンゲから薄茶色の液体がビチャビチャと垂れ、エプロンをさらに汚した。もはや幼児用の前掛け同然である。
「自業自得」
「う、うるさいで、あります」
ヴィルヘルミナは(かなり理不尽に)ヘッドドレスにガン!と拳を一発。
そして、自身がこぼしたスープのシミをじっと見つめ始めた。
「・・・ふむ・・・勿体無いで、ありますな」
と、
「・・・姫?」
次の瞬間、フレイムヘイズ「万条の仕手」ヴィルヘルミナ・カルメルは、突如奇っ怪な行動を起こした。


「はむ・・・んちゅ、ちゅぅぅ・・・」
突如頭を下げたかと思うと、いきなりエプロンを口でくわえ、シミを吸い始めたのだ。
「!?即刻中止!姫!」
さすがのティアマトーが、まくし立ててこの行動を止めようとした。
しかし、
「んふっ、ちゅちゅっ・・・ちゅうぅぅ・・・」
聞く人が聞いたら大いに誤解を招きそうな音を盛大に奏でて、ヴィルヘルミナはエプロンを吸い続ける。
昨日起こったことによるストレスは時間を追うごとに彼女を追い詰めていった。
そしてここに来て、ついに理性のタガが外れてしまったのだ。
それにしても、歴戦の勇者「万条の仕手」の振る舞いとしてはあまりに情けない一連の行動。
周りに誰もいないとはいえ、これは酷すぎた。
と、そこへ一条のリボンが現れたかと思うと、


パシッ!
「っ!?」

ヴィルヘルミナの右頬をはたいた。



「ティア・・・マトー?」
突如起こったことにしばし呆然とするヴィルヘルミナ。
「正気覚醒」
ティアマトーは普段と変わらず、端的に述べた。
しかしその短い言葉には、改めて相棒を心から思い、戒める意味がこめられていた。


「私としたことが・・・面目、なかったであります」
ヴィルヘルミナは相棒に対して、心から反省した。
「以後厳禁」
「も、もちろんであります」
「請願了承」
ヴィルヘルミナの言葉に、ティアマトーはあっさり彼女を許した。
元来“夢幻の冠帯”ティアマトーという人物(?)は冷静沈着、かつさっぱりとした人物である。一度怒ったあと、さっさと相手を許してしまうのであった。


「・・・さて、そろそろ食料を調達に行くのであります」
ヴィルヘルミナは、仕切り直しとばかりにそう言うと、リボンでメイド服を新たに編みなおして着替え、寝室においてあったザックを背負うと、一旦平井家を後にした。

295螺旋の風琴:2006/07/18(火) 00:55:41
初めまして

名前の通りシャナで一番好きなキャラは
螺旋の風琴です。

楽しく読ませて貰ってます
続き早く読みたいです

何か思いついたら書かせて頂きます。

ではでは

今日見つけて1日がかりで全部呼んだバカょり

296螺旋の風琴:2006/07/18(火) 01:08:50
初めまして
シャナで一番好きなキャラは名前の通り螺旋の風琴です

楽しく読ませて貰ってます

思いついたら書かせて頂きます

そん時は宜しく

297螺旋の風琴:2006/07/18(火) 01:36:12
初めまして
楽しく読ませて貰ってます
どもども
思いついたら書かせて頂きますので
そん時は宜しくお願いします。

298螺旋の風琴:2006/07/18(火) 10:55:48
テスト
あた



シャナ

299螺旋の風琴:2006/07/18(火) 16:14:12
すいません

間違えて書きすぎました

300名無しさん:2006/07/31(月) 22:05:47


301名無しさん:2006/07/31(月) 22:57:33


302名無しさん:2006/08/01(火) 21:07:12
ほしゅ

303名無しさん:2006/08/10(木) 15:46:33
hosyu

304名無しさん:2006/08/13(日) 00:09:24
続きマダー?

305名無しさん:2006/08/13(日) 03:10:47
悶々悶々と毎日待ってます

306名無しさん:2006/08/13(日) 19:17:54
気長に待とう

307名無しさん:2006/08/21(月) 18:01:04
保守

308名無しさん:2006/08/26(土) 21:30:06
むー

309名無しさん:2006/08/27(日) 17:45:09
ほす

310名無しさん:2006/08/27(日) 18:06:31
むむむむむむ

311名無しさん:2006/08/27(日) 21:45:46
楽しみです

312名無しさん:2006/08/28(月) 15:20:05
続きみたいよー

313名無しさん:2006/08/30(水) 00:51:39
1ヶ月ごとだからそろそろきてもいいはずだ!

314名無しさん:2006/09/09(土) 19:53:34
むむむむむむ

315Back to the other world:2006/09/11(月) 17:33:45
〜38〜
「結構遠くまで来たわねえ」
 「まぁ、僕が思いついたのは、ここぐらいしかなかったから・・・」

『人目につきにくい、静かな場所にある公衆電話で、悠二の母・千草と話がしたい』というマティルダの要望を受け、悠二が選んだ場所。

そこは、御崎神社であった。

悠二は以前ここに、シャナや吉田、佐藤たちと、期末テスト終わった打ち上げと称して遊び来たことがあった。
そしてその時、休憩所から少し離れたクスノキの下にひっそりとたたずむ、古びた公衆電話を発見していたのだ。
「あぁ、あれな。本当は殿舎を解体する時に取っ払っちまう予定だったらしいんだけど、近所の爺さん婆さんたちに反対されて、仕方なく残したんだって。『ワシらが使っとる物を勝手に取り壊すな!』とか何とか言われてさ」
とは、その時の佐藤の弁である。

御崎山の中腹にあるこの神社は、初詣の時などを除いて特に参拝に訪れる人もほとんどいない。
それでも悠二は念のため、休憩所をのぞいてみたが、誰もいなかった。
「ちょっと汚いけど、ここなら多分大丈夫だと思う」
「なるほど・・・なかなかいい場所ね。じゃ、さっそく行きましょ」
かくして、二人は電話ボックスへと向かった。


同じ頃。
“弔詞の読み手”マージョリー・ドーは、ジリジリと焼け付くようなアスファルトの上をグッタリとしながら歩いていた。
普段から不機嫌そうなその表情は、さらにその度合いを増している。
「しっかし暑いわねぇ、日本の夏ってのは。イライラしてくるわ」
「ヒヒッ、まあおめえは普段からイライラしてっけどなぁ、我が厄介なる癇癪持ち、マージョリー・ドブッ!?」
「・・・お黙り、余計に暑くなるでしょうが。あーもう、あちぃあちぃ・・・」
言うと、マージョリーは『グリモア』から栞を一枚抜き取り、それをウチワ代わりにしてあおぎ始めた。

そんな様子を見て、マルコシアスが尋ねた。
「しっかしよぉ、そんなに暑ッ苦しいのが嫌なら、あのまま家にいりゃ良かったじゃねえか?」
言われ、マージョリーは少し間を置いて答えた。
「・・・そうねぇ。そうしたいのは山々なんだけど」
と、マージョリーは立ち止まって、少し遠くに見える山に視線を送る。
「で、あそこに、おめえの言う『違和感』の正体があるってぇのか?」
マルコシアスがまた尋ねる。
「そうね。朝に感じたのと全く同じ。あそこに近づくにつれて強まってるわ」
「ヒヒッ、二日酔いのせいで感覚もイカレてたんじゃねえのかブッ!?」
「お黙り。酔ってたって“徒”の気配ぐらい察知できるわよ」
「そうは言ってもなぁ。さっき『玻璃壇』も見てきたじゃねえか。あれにゃなーんも映っちゃなかったぜ。ま、また新手のフレイムヘイズが来やがった、ってんなら話は別だがよ」
マルコシアスがそういうのは、宝具『玻璃壇』は、“徒”やトーチなどの居場所を突き止めることのできるものであるが、なぜかフレイムヘイズの居場所だけは察知することができないからだった。

「いや、違う・・・なんか違うのよ」
「一体何が違うってぇんだよ、我が迷える哲学者、マージョリー・ドー?」
「・・・ハッキリとしたことは言えないけど、何だか気持ち悪い感覚なのよ」
「ほーれみろ、やっぱり酔いがさめてねえだけじゃねえか」
「そうじゃない。なんか、この世にも“紅世”にも存在しない『何か』が、存在してるっていうか・・・」
「・・・はぁ?」
普段あまりお目にかかることのない、相棒の妙な様子に、マルコシアスは困惑した。
「それだけじゃない。私、この『何か』を知っている気がするのよね。ずいぶん前に消え失せた『何か』を」
「おいおい、トンチキなことを言うなよ、おめえらしくもねえ。じゃあ何か?『ユーレイ』でも出てきた、ってのかよ?」
「今は何とも言いようがないわねぇ。とりあえず行ってみるしかないわ、あそこまで」
「全く、とうとうアルコールで思考回路がやられちまったんじゃねえのかブッ!?」
「お黙り、とにかく行くわよっ!」
『グリモア』に膝蹴りをかまし、マージョリーは再び歩を進める。
少し遠くに見える山―――御崎山へと。

316234:2006/09/11(月) 17:38:07
すいません。前回から一ヶ月以上間が空いてしまいました。
これからまたぼちぼちと続けていきたいと思います。
そこで、少しご了承いただきたいことがあります。

できれば13巻発売までに終わらせたかったのですが、ご覧の通りの超絶遅筆のため、それができませんでした。
したがって、今後の内容は13巻の内容と食い違ってくる、あるいはありえないことが起こっている可能性があります。
これだけ遅らせておいてなんですが、そこはどうかご容赦を。

317名無しさん:2006/09/11(月) 22:36:31
全然おk。
wktkしながら待ちますね

318Back to the other world:2006/09/13(水) 01:39:54
〜39〜

御崎神社に置かれていた公衆電話は、昔ながらの、液晶が付いていない緑色タイプであった。
取っ手や本体は所々塗装がハゲており、番号ボタンの数字も一部消えかかっていた。
近くに置いてあった電話帳もボロボロで、ボックスの壁には何やら怪しげな店の物らしき電話番号がシールで貼ってあったり、また卑猥な落書きもあっちこっちに彫ってあった。

「あらあら、『〇〇と×××したい』ですって?随分とストレートな愛情表現ですこと」
マティルダはボックスの中をのぞくなり、いきなり壁に彫ってあった落書きを音読した。
慌てて悠二が注意する。
「ま、マティルダさん!?何読んでるんですかっ!」
しかしマティルダは特に気にした様子もなく、
「あなたこそ何言ってるのよ悠二君。あなたくらいの年齢ならこれくらいのお話、お友達と普通にするでしょ?」
逆に悠二に対して切り返してきた。
「いっ、いくらなんでもそこまで直球な話はしませんよっ!」
「あらあら、『そこまで』ってことは、やっぱりそういう話はするんだ」

「・・・っ!?」
やぶ蛇だったのか、焦った悠二は意味もなく「そういう話」をしていたことをバラしてしまった。
「そ、そ、それは・・・」
自分の失策を悟った悠二は、顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。
そんな様子を見て、マティルダは呆れながら言う。
「あのねぇ・・・今さら何赤くなってるのよ。私は別に気になんかしてないわよ。そんなの、あなたくらいの年頃なら普通のことだもの」
「そ、そうは言っても・・・」
「女性に直接聞かれるのは恥ずかしい、ってこと?」
「・・・うん、まあ、そんな感じで・・・」
気まずそうな悠二の返事に、マティルダは少し間を空けて言う。
「・・・まあ、確かに今の話を、例えばシャナやヨシダさんにしたとしたら、それなりにヤバかったかもね」
「っ!?へ、変なこと言わないでくださいよ」
唐突に二人の名前が出てきたので、悠二はまた動揺した。
「例えばの話よ。でもね、私は一応、大人の女性よ。それなりに酸いも甘いも噛み分けてるの。身も心もピュアなあの子達とは違うわよ」
「そ、そうか・・・」
「さ、そんな話はいいから、早く電話をかけてちょうだい。向こうが出る前に私に受話器を渡して」
「はいはい、了解です」
せかすマティルダに追いやられるように、悠二はボックスの扉を開けた。


同じ頃。

“万丈の四手”ヴィルヘルミナ・カルメルは、買い物を終え、帰宅しようとしていたところであった。
「ふむ。こんなものでありましょう」
その背中のザックには大量の荷物を積め、またその両手にも一杯のビニル袋が下がっている。
定例の買出しの時と比べ、明らかに量が多すぎであった。
ティアマトーがたしなめる。
「過積載」
「問題ないのであります」
「衝動購入」
「うるさいであります」
ヘッドドレスを殴りつけようにも両手がふさがっているので、仕方なくあきらめる。

「これで、少しは気晴らしに、なったのであります・・・さて」
と、スーパーを出たヴィルヘルミナは、どういうわけかいつもとは違う方角に歩を進めた。
「?逆方向」
ティアマトーは当然のように尋ねた。
しかしヴィルヘルミナは、
「今回はこちらでよいのであります」
と、少し遠くに見える山を見ながら言った。

「あそこに行けば、私の疲れも悩みも、いま少し、解けることでありましょう」
しかし、ティアマトーには、相棒がいったいどこのこと指して言っているのか、分からなかった。
「・・・行先確認」
ヴィルヘルミナは、答えた。

「・・・この国の人々が、何かに思い悩んだ時、訪ねる場所であります」


かくして、運命の時は、近づく。

319名無しさん:2006/09/14(木) 00:20:10
激しくGJだ!

320名無しさん:2006/09/15(金) 21:12:24
北アあああああああああああああああああ!!!

321名前がな(略:2006/09/24(日) 15:27:25
 午前零時。
 何時もの夜の鍛錬を零時迷子による存在の力の回復に合わせて終了しようとした時、
そういえば、と悠二が口を開いた。
「昼休みに聞いた話、覚えてる?」
「なにを?」
「駅を二つ三つ越えた辺りで吸血鬼が出た、とか言う噂。」
 言われてクラスメート達から耳にした、
『貧血で倒れたり休む人が増えていて、そのほとんどに血を吸われたような痕があった』
『記憶が曖昧になったりする者もいるが、死者はいないらしい』
『デフォルメされたねこっぽい変なナマモノが夜の街を徘徊している』
などと言う他愛も無い噂話を思い出す。
「それが?」
「ああいう吸血鬼とか悪魔とかみたいな、所謂化け物の伝承や迷信の中にはさ、
"徒"やフレイムへイズを元にした物もあるのかな?」
「結構あるんじゃないかしら。封絶が広まったのは割りと最近だし。」
 その返答に、悠二は微妙な顔をする。
「噂の吸血鬼が実は"徒"、なんて事はないよね?」
「馬鹿。そんな訳ないから情けない顔するんじゃないわよ。」
「うむ。たとえ本物であったとしても、噂が広まっている以上直ぐに始末されるであろう。」
「そっか。・・・ってちょっと待って。なんか『吸血鬼は実在する』、って意味に聞こえたんだけど。」
「そうだ。シャナも下界宿で聞いた事を覚えているか?」
「確か"変異種"、だっけ?大した事はない連中って事くらいしか覚えてないわ。」
「まぁ"徒"と比べれば無害に等しい故に興味を向ける者も少ないからな。」
「無害って・・・、普通の人間はともかく、
フレイムへイズから見れば存在の力を奪って世界に歪みを作ったりするわけでもないから放置されてるって事?」
「その通りだ。人の文明が今のように発達する以前には、
街一つの住民全てが血を吸われ滅ぼされた事もあったようだが、
そこには世界の歪みは無いに等しかったと云う。」
 なんでもないことのように言われ、悠二は絶句する。
"徒"以外にもそんなとんでもない連中がいるのか、と。
「なに、気にする必要はない。彼等も無法を働く同胞は彼等自身が裁く。噂もすぐに終息するであろう。」
アラストールにしては珍しい、気遣いとも取れる言葉で、その日の鍛錬はお開きとなった。

322名前がな(略:2006/09/24(日) 15:28:12
こういう独自設定な与太話ってありでしょうか?

323名無しさん:2006/09/24(日) 18:27:07
いいんじゃない?

324234:2006/09/25(月) 01:15:49
僕もアリだと思いますよ。
独自設定を考えるのが大変ですけど(^^;)

ところで、割り込みになってしまいますが続きを投下します。
長くて、しかも話の進行遅くてスイマセン。

325234:2006/09/25(月) 01:17:23
〜40〜

公衆電話の受話器を取り上げると、悠二は財布の中からテレホンカードを出し、投入口に差し込んだ。
スルスルとカードが飲み込まれていき、電話機前面のカウンターに、赤いデジタル文字「10」が点灯した。

「これで、あとは番号を押すだけね」
「・・・うん」

しかし、番号ボタンを押そうとして突然、悠二は指を止めた。

「・・・?ちょっと、どうしたのよ」
その行動に、マティルダはいぶかって尋ねる。
すると、悠二はマティルダのほうに向き直って、言った。

「・・・本当に、大丈夫なのかな?」
「何が?」
「だって、母さんと話すんでしょ?母さんはシャナやアラストール、カルメルさんとも親しくしてるし・・・もし今日マティルダさんが母さんと話して、そのことがバレたりしたら・・・」
「大丈夫よ。いままで『あの世』から見てきた限り、あなたのお母さんは相当信頼の置ける人物よ」
「そ、そうかな・・・?」
「あのアラストールやヴィルヘルミナに一目置かせてるんだもの。たいした人だと思うわ」
「た、確かに」
「さ、分かったなら早くダイヤルして」
「は〜い・・・」
マティルダの気迫に押されるように、悠二は自分のうちの電話番号をダイヤルした。

そして、ルルルルル・・・・と電子音が流れるのを確認して、
「はい、どうぞ。繋がりました」
背後のマティルダに受話器を渡した。
「ご苦労様。じゃ、ちょっと場所を替わってもらえるかしら」
「じゃ、僕は外に出てますよ」
ということで、二人は立ち位置を変更した。
「ふぅ・・・やれやれ、ホント、一苦労だったなぁ」
そしてそのまま、自販機のジュースでも買って休もうかと休憩所へ向かおうとした悠二だったが、

「あっ、ちょっと待って悠二君。あなたが私に触れていないと、受話器が持てないのよ」
「あっ・・・」
重大なことを思い出させられ、いそいそと公衆電話に戻った。


同時刻。
ピロリロリロリロ・・・・という甲高い電子音が、坂井家のリビングに鳴り響いた。

「ハーイ、今出ますからね」
おっとりした口調でつぶやくと、一人のエプロン姿の女性が、見ていたテレビのボリュームを下げ、電話機の方に向かった。

326Back to the other world:2006/09/25(月) 03:06:16
〜41〜

「はい、坂井です」
エプロン姿の女性―――坂井千草は、受話器に両手を添えながら優しく言った。

その一言はなんでもない、ただのあいさつに過ぎないものではある。
しかし、その口調は極めて穏やかで、かつお世辞めいた嫌らしさは微塵も感じられない。
どこか、内に秘めたる強さすら感じさせるものがある。

(なるほどね・・・こりゃあの二人が、初っ端から気圧されるわけだ)
もう一つの受話器にいる女性―――マティルダ・サントメールは、その、十文字にも満たないわずかな言葉から、受話器の向こう側の人物の器を推し量っていた。

「・・・?もしもし?」
返事がないことを不思議に思った千草は、もう一度呼びかけた。
「あ、これは失礼。こんにちは、初めまして。私は、お宅でお世話になっている、平井ゆかりの親戚の者よ」
「・・・まぁ!?」
電話の相手が、あまりに意外で、かつ唐突な登場だったため、さすがの千草も思わず口元に手を当てて驚いた。

「こちらこそ初めまして。坂井千草と申します。お世話といっても、大したことは出来てませんけど・・・私こそ、出すぎた真似をしているようで」
しかし、冷静さは失っていない。すぐに相変わらずの落ち着いた口調で話し始めた。
「全然。むしろ私も、シャナに・・・ああ、言い忘れてたけど、私もあの子のこと『シャナ』って呼んでるし、あなたも普段そう呼んでるみたいだから、それでかまわないわよ」
「あら、そうですか。承知しました。シャナちゃんって本当に、皆さんに愛されてるんですね」
「ありがとう」
千草の言葉に、マティルダも素直に礼を言った。

もとより反感を抱いているわけではないので当然だが、アラストールやヴィルヘルミナの場合と違って、マティルダは千草の言葉にいちいち焦ったり、調子を狂わされたりはしなかった。
千草の謙遜や誉め言葉も、すべて理解した上で冷静に受け止めている。
千草の方も、突然の電話に驚いたものの、この今までとは少々勝手が違う相手に対して、悪い印象は持たなかった。
どころか、シャナの親戚と直接話ができてうれしい、と、素直にこの会話を喜んでいた。

327名無しさん:2006/09/25(月) 16:44:26
きたああああああああああああああ
GJJJJJJJJ!!!

328名前がな(略:2006/09/25(月) 23:34:42
>234さん
むしろこっちが割り込んでるような気がして恐縮です。

とりあえず問題なさそうなので321の続き投下ー



 坂井家にて吸血鬼の話題が出る数時間前、"弔詞の詠み手"の居座る佐藤家でも同じ話題が上っていた。
「吸血鬼ぃ?」
「そりゃまたタイムリーな噂だなぁ、オイ。」
 マルコシアスの言葉に訝しげな顔をする子分達だが、尊敬する親分に促され話を進める。
「俺らもただの噂だ、とは思うんですけど。」
「"紅世の徒"なんて連中がいるんだから吸血鬼くらい居てもおかしくはないかな、と思って。」
 そんな子分達に多少呆れながら、マージョリーは過去に遭遇した吸血鬼の事を思い浮かべ―――、
ドッと脱力して投げやりに言う。
「あんた達がどんな吸血鬼像を考えてるかは知らないけどね、連中はわざわざ気にかける程の存在じゃないわよ。」
「そーそー、ぶっ殺す気にもならねーよーな雑魚ばっかだ。」
 あっさりと、吸血鬼が実在する事を知らされ、驚愕する二人。
「そうなんですか?」
「連中、フレイムへイズの間じゃ"変異種"なんて呼ばれてるけどね、
"徒"どもと違って気配も存在も人間と大差ないから接触例も少なくて情報も噂程度しか流れないのよ。」
「んーっでその噂じゃ極一部の古参は"王"に匹敵するってー話だから期待してたんだがよぉ、
実物はただ長生きしてるってだけのボケたお嬢ちゃんだったってオチだ。」
 こうして少年達は、また一つ知らなくてもいい真実を知り、
ありがちな幻想を砕かれ、少しだけ大人になったという。

329Back to the other world:2006/09/27(水) 02:45:28
〜42〜

そんな調子で、会話はさらに進んでいく。
「それで・・・話の続きだけど、私は、今後シャナにはあなたのような教育者は、絶対必要だと思っていたところだったのよ」
「そんな、教育だなんて・・・滅相もないですわ。シャナちゃんには、今までにも素晴らしい方々が保護者になってくださっていますし」
「それって、アラストールやヴィルヘルミナ・カルメルのことよね?」
「あら、やっぱりお知り合いだったんですね」
「ええ・・・ずっと昔からの、ね」
久しぶりに口にした旧友の名前に、マティルダは少し感慨深げになった。
彼女の言う「ずっと昔」とは、向こう五百年近く昔のことである。
しかも自身はとっくに死んでいるという、おまけつきで。
しかし、もちろん千草はそんなことは知らない。
言葉通り、古くからの知り合いなのだと思うだけである。
「皆さん大切に、大切に、シャナちゃんを育ててこられたんですね。シャナちゃんが皆さんに向ける表情を見れば分かります」
「ええ・・・全く、彼らには随分苦労をかけたわ。本来は私がやるべきことを、全部やらせちゃったからね。本当に感謝してるわ」
「皆さんのこれまで費やしてきた時間や労力に比べれば、私のしたことなど、及びもつきませんわ」
つとめて謙遜する千草。

しかし、ここでマティルダは、
「・・・いいえ、そんなことはないわ」
と、少々真剣さを増した口調で言った。
「・・・」
相手の口調の変化に気づき、千草も真剣な面持ちになる。

330Back to the other world:2006/09/27(水) 02:46:28
〜43〜

「千草さん」
「・・・はい」
「確かに、アラストール達の教育は、あの子が今後人生を歩んでく上で必要なものだったわ。それは間違いないし、私が文句をつける筋合いも資格もない」
筋合い等以前に、そもそも文句をつけること自体が不可能である、というのが実際のところだが、そんな事はこのやり取りではどうでもよかった。
「でもね・・・彼らは、自分たちにとってはちょいと厄介で、彼女に教えなかったことが、いくつかあったのよね」
「・・・」
千草は黙って聞いている。
自分がこの時点で発言することが、アラストール達のしてきたことを、ややもすると否定することになりかねない、という彼女なりの配慮である。
「そして教えないまま時間は過ぎて・・・ある日突然、急に必要になったのよ」
言って、マティルダは隣の少年に目線を送った。

「・・・?」
しかし、朴念仁は、すぐにはその理由に気づかない。ぽかんとした表情のままであった。
いい加減に呆れたマティルダは、
(すぐに察しなさいよ・・・っ!)
受話器を持っていないほうの手に、ぐっ、と力をこめた。
(っイテテ!?)
左手にかけられる強い握力に、思わず悠二は飛び跳ねた。
ちなみに、マティルダはあいている方の手を悠二とつないでいる。もちろん、『変質した存在の力』を悠二から受け取り、顕現を保つためである。
(声出したらぶっ飛ばすわよ)
(わ、かった、から、やめてギャァッ!?)
悶絶する悠二を尻目に、マティルダはゴリゴリと右手をこねくり回しながら、何食わぬ顔で話を続ける。

「相当戸惑ったでしょうね。何てったって今まで生きてきて、初めての経験だったわけだから」
「・・・やはり、そうでしたか」
初めて自分に相談を持ちかけてきたときの、純朴な彼女の顔を思い出し、千草は微笑む。
「でも、彼女は幸運だった。的確なアドバイスを与えられる人間がそばにいてくれた。それが千草さん、あなたよ」
「そんなことをおっしゃられては恐縮です」
「お世辞じゃないわ。本当に、あなたには感謝してる。ありがとう。心からお礼を言うわ」
言って、マティルダは小さく頭を下げた。
「・・・はい。そのお気持ち、しっかりと受け止めさせていただきましたわ」
千草もまた、小さくうなずきながら応えた。

と、千草はそこでふと何かを思いついたらしく、こう切り出した。
「あっ、そういえば、私の方からも、あなたにお礼をさせていただきますね」
「・・・?」
「正確には、あなた方―――シャナちゃんやアラストオルさん、カルメルさんにも、です」
「いったい何を・・・」
千草の意図が読めず、マティルダは一瞬戸惑った、が、
「・・・ああ」
その鋭敏な洞察力で、まもなく理解する。
「あら、分かっちゃいました?」
ちょっと笑いながら、千草が尋ねる。
「もちろんよ」
余裕たっぷりにそう言うと、再び視線を隣の少年に送る。
「・・・?」
しかしこの愚かなる少年は、またもや気づかない。
今度は言葉もなく、
(んぎゃっ!?)
一気に握り上げた。


同じ頃。
「・・・少々、遠かったであります」
「時間浪費」
「うるさいであります」
ヴィルヘルミナ・カルメルは、御崎山のふもと、石段の最下層にたどり着いていた。
この上に、待ち受けている者など、知る由もなく。

331名無しさん:2006/09/27(水) 22:45:44
wktk

332Back to the other world:2006/09/28(木) 02:13:41
〜44〜

方や、中世最強といわれたフレイムヘイズ『炎発灼眼の討ち手』こと、マティルダ・サントメール。
方や、『零時迷子』の“ミステス”坂井悠二の母こと、坂井千草。
すっかり意気投合した二人の女性の会話は、さらに弾んでいた。

マティルダが新たに話を切り出す。
「そういえば、アラストールやヴィルヘルミナの様子はどうなのかしら?元気にしてる?」
実際には、彼らには見えないところから様子を見ているので分かっているのだが、何となく聞いてみた。
「ええ。アラストオルさんとは直接お会いしたことはありませんけど、お二人ともお元気にしてられますよ」
「そう、よかったよかった」
言いながら、マティルダはうんうんと2回、うなずいた。
「お二人ともご友人で?」
「ええ、ヴィルヘルミナとは長いこと一緒に暮らしたわ・・・まあ『戦友』ってとこかしら」
「そうですか。私も何度かお話させていただきました。厳しさと力強さを持った方ですね。シャナちゃんにもすごく慕われてますよ」
という、千草の人物評に、マティルダは、
「そうね」
と、一言肯定するが、
「ただちょっと堅すぎるっていうか・・・一途さが災いしちゃうところもあるけどね」
長年の付き合い故に口にすることが出来る欠点を言った。

しかし千草は、
「いえいえ、それがカルメルさんの魅力ですよ」
と、さらりと言ってのけたので、マティルダも、
「あら、うまいこと言うわね」
からかうように返した。
「フフッ、怒られちゃいますね」
「全然OK。フフフッ」
その、少し意地悪な笑い声に、
(カ、カルメルさんをこれだけ笑いのネタにできるなんて・・・)
悠二は改めて、目の前の女性の恐ろしさを知った。


「・・・」
編み上げの長靴が、コツ、コツと乾いた音を鳴らす。
ヴィルヘルミナは、既に石段を半分近く、登っていた。

333名無しさん:2006/09/28(木) 02:32:14
すばらしい!

334Back to the other world:2006/09/28(木) 03:30:46
〜45〜

デジタルカウンターは、度数「5」を示していた。
「じゃ、アラストオルさんとも同じ頃お知り合いに?」
「ううん、彼とは、もっとずっと前に」
「そうなんですか。あの方はちょっと古風で厳格な感じですけど、本当にシャナちゃんをかわいがってらっしゃって、優しい人ですわ」
「全く・・・優しすぎて、時折日和見なとこがあるから困るのよね」
「男性は、少なからずそういうところがあるのは仕方がありませんわ」
「まあね。ただ、ここ最近はちょいとばかり、間が抜けてる気がするのよねぇ」
「そんなことはないですよ」
「いやいや。あなたも何度か話したから分かると思うわ。そういう時は、遠慮なく釘を刺しておいて」
「そういったことは・・・私より、あなたがなさった方がよろしいのでは?」
「ん・・・」

そこでマティルダは少し黙った。
千草の指摘は正しかった。
あの堅物魔神には、誰のものより自分の言葉が効く。
そして、
(全く、大した人だわ)
と、心の中でつぶやいた。

坂井千草は、気づいていた。
いつも携帯電話で話していた男が、今日の電話相手と、いったいどういう関係にあるのかを。
気づいていて、あえて口には出さなかった。
そのおっとりした声から想像もつかない鋭さに感心しつつ、マティルダは再び話を始める。
「う〜ん、まあ、本当はそうしたいところなんだけど・・・ちょっと事情があってね。もう長いこと、みんなと顔を合わせてないし」
「そうですか・・・もしよろしければ、一度うちにいらしてください。きっと皆さん、歓迎してくれますよ」
屈託なく、千草は言った。

「・・・そうね。機会があれば」
マティルダは短くそう返事をした。
機会など、ない。
分かっていて、あえて答えた。
「ええ、ぜひ」
うれしそうに、千草は言った。
「・・・じゃ、そろそろ失礼するわ。ちょっとしゃべり疲れちゃったし」
「楽しいお話、ありがとうございました」
「あ、最後に一言、あなたに送るわ」
「まぁ、何でしょう」
「坂井千草さん・・・あなたに、天下無敵の幸運を」
「これはこれは・・・あなたにも、どうぞ幸あらんことを」
「あら、格好いいお返事ね」
「フフッ、恥ずかしいですわ。あっ、そういえばまだお名前を」
「名乗るほどの者じゃないわ。それじゃ」
半ば強引に、マティルダは受話器を置いた。
ピピー、という電子音と共に、残り度数「1」のテレホンカードが引き出された。

335名無しさん:2006/09/29(金) 00:27:57
いつも乙
超GJ!!
千草ママンもマティルダもすごいですねwww

ちなみに「うるさいであります」喋るヴィルヘルミナ萌えw

336名無しさん:2006/10/21(土) 20:59:18
携帯で投下できないのか?

337名無しさん:2006/11/04(土) 14:49:23
保守

338名無しさん:2006/11/20(月) 23:22:33
hoshu

339名無しさん:2007/01/04(木) 14:06:15
もう二ヶ月近く誰もきてないみたいだな
続きが読みたいものであるなあ

340名無しさん:2007/01/14(日) 19:35:27
保守

341名無しさん:2007/02/04(日) 22:19:30
小説もそろそろだし
続き読みたいです

342234:2007/02/14(水) 09:24:52
お待たせしました(待たせすぎ)続きを投下します。
期待してくださった方々、すいませんでしたorz
さらに続きの巻が出てしまい、矛盾が大きくなってしまったかもしれません。
が、とりあえずどうぞ。

343Back to the other world:2007/02/14(水) 09:27:52
〜46〜

「ふう・・・・」
マティルダは、大きく息を吐いた。
(マティルダさん・・・)
悠二には、その背中が心なしか、寂しげに見えた。
(もしかして、昨日の夜はあんな事言ってたけど・・・)
そして、思った。
(本当は・・・)

自分の予想を確かめるために、悠二はマティルダに尋ねた。
「あの・・・マティルダさん」
すると、マティルダは悠二の方を振り向いて、
「さてと、用事も済ませたことだし」
悠二の言葉を無視して言った。
「ねぇ悠二君、どっかに遊びに行かない?」
「え・・・えっ!?」
「まだあなたの変質した存在の力は充分残ってるみたいだし」
「・・・」
「そりゃ〜一応この世に悔いは残さなかったつもりだけど、せっかくのこの偶然を生かさなきゃもったい無いしね。さっ、行こっか」
言って、マティルダは悠二の手を引っ張った。
「さ〜て、久しぶりに美味しいワインでも飲もうかしら。あっ、日本だからライスワインでもいいわね。日本酒ってやつ」
明るく軽い調子で、マティルダは言った。

344Back to the other world:2007/02/14(水) 09:30:44
〜47〜

しかし、悠二は納得しなかった。
「マティルダさん」
「ん〜、なあに?」
「その・・・無理、してません?」
「え?何を言ってるのかよく分からないけど」
笑顔のままでマティルダは言った。
悠二はマティルダの軽薄な態度に、
「とぼけないでくださいよ」
と、少し語気を荒げて言った。
「ちょっと、どうしたのよ、怖い顔して」
マティルダは、少年の今までの温和な態度からの変化に少し驚いたが、なお表情からは冗談っぽさを抜かずに言った。
「マティルダさん、ごまかさないでくださいよ」
「え?」
「本当は・・・会いたいんでしょ?アラストールたちに」

神社のクスノキが、風に揺れてサワサワとそよいだ。
マティルダは一瞬表情をこわばらせたが、
「あのね・・・それに関しては、昨日も言った通りよ。何度も言わせないで」
すぐにまた笑顔に戻って言った。
「・・・」
悠二は黙っている。
「さっ、これで納得したわね。じゃ、町にでましょ」
と、マティルダは再び悠二の手を引いて神社を後にしようとした。
そのとき、悠二が口を開いた。

「本当に、そんなに問題なのかな」
「えっ?」
マティルダが振り向いて言った。
「その・・・ただ昔の友達と再会するだけのことなんだし、そんなに大した問題じゃないと思うんだけど」
「・・・何ですって」
「きっとアラストールやカルメルさんは喜ぶはずだし、シャナだって、悪い顔は絶対しないと思う」
悠二の突然の提案に、マティルダは呆れて、
「・・・悠二君、本気で言ってるの?」
苦笑交じりに尋ねた。
悠二は、コクリ、とうなずき、
「だから、会いに・・・行きましょう」
と、真剣な面持ちで言った。

(ふぅ・・・全く、困った子ね)
少年の無知な言動に、マティルダは心の中でため息をついた。
(でも・・・)
マティルダは悠二の表情を見た。
自分に意見したことに対して、少し焦ったような様子ではある。
しかしその目線は、自分をしっかりと見据えている。
灼眼のような強い輝きはないかもしれないが、しかし澄んだ、純朴な瞳をしている。
(まぁ・・・悪い奴じゃないことは、確かみたいね)
マティルダは、この鈍感だが真面目で純粋な少年の頼みを、聞いてもいいかな、と思った。


と、その時。
「・・・!?」
マティルダは、前の方から、何かが迫ってきているのを見た。
そして、瞬時にそれの正体に気づき、
「危ないっ!」
「うわっ!?」
とっさに、悠二を突き飛ばした。
悠二がしりもちをつくのと同時に、悠二とマティルダの間を物凄い勢いで流れていくものがあった。

それは、一条の真っ白な、リボン。

345Back to the other world:2007/02/14(水) 09:32:02
〜48〜

「わっ!?ってこれは・・・!」
目の前を流れていく白い一筋に、悠二はすぐ、誰が現れたのかを悟った。
「あらら、向こうの方から来てくれたみたいね」
生前、毎日のように見てきたその一筋を眺めつつ、マティルダは苦笑した。
「そうみたい、ですね・・・」
悠二はおそるおそる、その白線が流れてきた方向を見た。

メイド服を着た女性が、鳥居の下に立っている。
たった今、石段を登り終えたようだった。
「カ、カルメルさん」
悠二は女性に声をかける。
「・・・・・・」
しかし返事は無く、彼女は悠二たちのいる方向に向かってきた。

「・・・?カルメルさん、カルメルさん?」
悠二は何度も彼女の名前を呼んだ。
「・・・・・・」
しかし、彼女は全く反応しない。
ただ、うつむいたまま、ゆっくりとにじり寄ってくるだけである。

346Back to the other world:2007/02/14(水) 09:33:58
〜49〜

コツ、コツ、コツ、コツ。
乾いた靴の音だけが、ただただ響き渡る。
徐々に近づいてくるその音に、悠二は不気味さを覚えた。
(な、なんか・・・いやな予感)
コツ、コツ、コツ。
女性は、悠二のいる手前3メートルくらいのところで、止まった。
「・・・・・・・」
未だにうつむいたまま、一言も話そうとはしない。
(と、とりあえず、この状況を説明しないと)
このままでは埒が明かないと思ったのか、悠二は彼女の方にそっと近づこうとした。
「カ、カルメルさん、とりあえず落ち着いて話を」

ヒュン!!
白帯が、悠二の左半身をはたいた。
「ガッ!?」
左からの激しい衝撃に、悠二はもんどりうって倒れた。
突然のことに、悠二は脇腹を押さえながら抗議した。
「な、何するんですか・・・・っ!?」
ふと見上げた先に、これまでうつむいていて見る事が出来なかた、女性の顔があった。
それは、悠二が今まで目にしてきた彼女の顔の中で、最も無表情で最も冷たく、そして、最も恐ろしいものだった。
青ざめる少年を軽蔑するように見下ろしながら、フレイムヘイズ“万条の仕手”ヴィルヘルミナ・カルメルは、ゆっくりと口を開いた。

「・・・見たまま、でありますが?」

背筋も凍る、冷たい声だった。

347Back to the other world:2007/02/14(水) 09:36:08
〜50〜

ヴィルヘルミナは、怒りをあらわにしていた。
それも、今まで経験してきたものとは、訳が違う。
(こ、この目線は・・・)
明らかに「敵」に対する目線だった。
何となくだが、悠二にはそれが分かった。
(に、逃げなきゃ)
直感でそう悟ると、悠二は立ち上がろうとした、が、
「・・・逃がすとでも?」
「うわあっ!?」
ヘッドドレスからシュルリ、とリボンが数本現れた。
かと思うと、次の瞬間には悠二の両手両足に巻きつき、さらに、
「ぐうっ!?」
首元にも巻きついた。
『悠二君!?』
さすがのマティルダが、慌てて呼びかける。
『まずいわ・・・あの目、本気だわ』
マティルダはヴィルヘルミナの表情から、彼女が今何をしようとしているのか、理解した。
目の前の少年を、殺そうとしている、と。

348Back to the other world:2007/02/14(水) 09:37:14
〜51〜

「ま、マティルダさん、助けぐあぁっ!?」
ギリギリッ、とリボンの締め付けが強まった。
「不遜」
「・・・もう一度、その名を口にしたときには、即刻破壊するのであります」
冷たい声で、ヴィルヘルミナは忠告した。
「うぐあぁ・・・・っ!?」
もがき苦しむ悠二に、ヴィルヘルミナはさらに声をかける。
「苦しいのでありますか?この程度で」
「笑止」
「ぐがぁぁっ・・・」
「情けない・・・本当に情けないのであります」
「悔恨」
「あがぁぁっ・・・」
「このような奴を、一度でも信用した、私達が馬鹿だったのであります」
「同意」
「た、助け・・・」
「そう、このような」
ヴィルヘルミナは言葉を止めた。
そして、ぐっ、と奥歯をかみしめながら、
「私達のみならず、私達の誇り高き友人までをも愚弄するような奴に・・・っ!!」
身体の奥底から搾り出すように、吐き捨てた。

349Back to the other world:2007/02/14(水) 09:39:16
〜52〜

「か・・・はぁ・・・っ?」
悠二は締め付けられながらも、ヴィルヘルミナの異変に気がついた。
(な、泣いて・・・る?)
怒りに震える冷徹な表情には変わりないが、目元にうっすらと、光るものが見えた。
(そっか、カ・・・ルメル・・・さん、でも、泣くこと・・・くらい、ある、よな・・・・)
そして、だんだんと自分の意識が薄れていくのを感じた。
(あれ・・・まずい・・・)
徐々に、全身の力が抜けていく。
(ちょ、ちょっと、こんな所で、こんな形で、終わるのかよ・・・)
今度こそ、終わりか。
悠二が諦めかけた、その時。

シュパッ!
「!?」
何かが、ヴィルヘルミナと悠二の間に張り巡らされたリボンを、全て断ち切った。
「がはっ!」
ハラリ、とリボンが解け、悠二はあお向けに倒れこんだ。
「これは、一体・・・?」
「確認不可」
ヴィルヘルミナとティアマトーは何が起こったのかわからず、辺りをきょろきょろと見回した。


「こっちよ」
「!?」
「!?」
聞こえてきたその「声」に、ヴィルヘルミナは無意識に身体を向けた。
そして、その先には。

「なっ・・・?」
「・・・?」
ヴィルヘルミナは、一言つぶやくと、そのままの表情で固まった。
ティアマトーも、思考停止状態に陥った。

「お久しぶりね、ヴィルヘルミナ、ティアマトー」
そこには、はるか昔に別れたはずの友人が、あの日と変わらない姿で立っていた。
それは、今生の別れのだった、はずなのに。

350Back to the other world:2007/02/14(水) 09:43:16
〜53〜

「あ、あれ?」
悠二も、一瞬何が起きたのか分からなかった。
目の前に、自分に触れていない限り見ることが出来ないはずのマティルダが、堂々と立っていたのだから。
「ま、マティルダさん、何で?」
「これのおかげよ」
と、マティルダは、自分の右手に握っているものを見せた。
「これって・・・」
「ヴィルヘルミナのリボンよ。これを通して存在の力を流し込めることぐらい、あなた知ってるでしょ?」
「な、なるほど」
それを聞いて悠二は納得した。
ヴィルヘルミナとマティルダはこの性質を利用して、かの戦いでは敵の難攻不落の自在法を破ったこともあった。
「で、でも、あのリボンを断ち切ったのは?」
「あー、それはね。アレよ」
と、マティルダが指差した方向には、小さく赤い炎が上がっていた。
「あれは・・・?」
「悠二君、あなたってば本当に間抜けなのねぇ。あれが宝具だって事に気づかなかったなんて」
と、マティルダはため息混じりに言う。
「あれって?」
「さっきまで使ってたやつよ」
「えっ、まさか」
「その通り」
悠二は信じられなかった。
「あ、あのテレホンカードが、ほ、宝具!?」
「ええ、名前も製作者もわかんないけど、あれはれっきとした宝具よ。存在の力を込めて、相手に投げつけるタイプのね」
「ぜ、全然気づかなかった・・・」
「おそらく製作者が隠すためか、それとも単なる気まぐれか・・・分からないけど、ああやって日用品に見せかけた宝具はよくあるものよ」
「じゃ、さっき投げつけることができたのは・・・」
「あのカードが悠二君の手に触れたとき、ほんのちょっとだけ存在の力が入り込んだおかげね」
「そ、そっか」

351Back to the other world:2007/02/14(水) 09:44:48
〜54〜

悠二が納得したところで、
「と、いうわけで」
マティルダは未だに固まっている、もう一方の相手に向き直る。
「ちょーっとのっぴきならない事情があってね、こういう事になったわけだけど」
「・・・・・・・」
「とりあえず、どこかで落ち着いて話しましょうか」
「・・・・・・・」
「んー、そんな反応になっちゃうのはよく分かるんだけど、まぁおいおい話すということで、ね」
マティルダはヴィルヘルミナに手を差し出した。

と、
「!」
マティルダは飛び退いた。
白いリボンが、眼前を横切った。
「・・・なるほど、大した人形遣いでありますな、坂井悠二」
「名演上等」
ヴィルヘルミナは、目の前に相対している人物には目を合わせようとしなかった。
その視線は、あくまでその奥にへたり込んでいる悠二を捉えている。
「なっ、何言ってるんですか、カルメルさん」
「“狩人”でも『鬼功の繰り手』でも、ここまで上手に人形を扱うことは不可能でありましょう」
「だ、だから、その、ここにいる人は」
「しかし、茶番劇はそろそろ終わりであります」
「公演終了、千秋楽」
再びヘッドドレスからリボンが何本も舞い上がると、先端が一斉に悠二のほうへと向いた。
それはもはや単なる布ではなく、鋼鉄の槍衾だった。
「さらばであります、愚かなミステス」
「覚悟」
「うわぁぁっ!?」
白い凶器が、再び悠二に襲い掛かった。

352Back to the other world:2007/02/14(水) 09:46:37
〜55〜

しかし、それは悠二に突き刺さることは無かった。
紅蓮の盾が、攻撃をすべて受け止めていた。
「・・・話を聞いてくれないかしら?」
マティルダが、紅蓮の盾を持ったまま問いかけた。
「人形に用はないのであります」
「偽者不要」
ヴィルヘルミナは一言、切って捨てた。
そして、紅蓮の盾ごと突き通さんとばかりに、白帯に力を込めた。
「ぐっ・・・」
マティルダは少し、後ろに押された。
そんな様子を見て、ヴィルヘルミナが言った。
「これしきの力で、気圧されるとは・・・」
さも不快そうな口調で。
「全く持って、不愉快な傀儡でありますな!」
言うと、ヴィルヘルミナはヘッドドレスに手を添えた。
「ティアマトー、神器『ペルソナ』を」
「承知」
ティアマトーの声と同時に、ヘッドドレスが解け、桜色の炎とともに新たな姿へと編みなおされてゆく。

「ふぅん・・・」
マティルダは、その光景をさも懐かしそうに見つめていた。
かつては何度も目にした、戦友の姿。
狐の仮面。
周りから伸びる無数の白帯。
舞い散る桜色の炎。
ドレスとメイド服という違いこそあったが、それは紛れもなく“夢幻の冠帯”ティアマトーのフレイムヘイズ『万条の仕手』ヴィルヘルミナ・カルメルの戦装束だった。
「・・・久しぶりね、本当に久しぶり」
かみ締めるように、元『炎髪灼眼の討ち手』マティルダ・サントメールはつぶやいた。

ヴィルヘルミナは全く意に介さず、
「まずは、その不愉快な傀儡から、消し去ってやるのであります」
「幻影消去」
言うと、無数の白い槍衾を、今度は目の前の「敵」に向け、一気に放出した。

353Back to the other world:2007/02/14(水) 09:53:36
〜56〜

「聞いてくれそうもない、か」
マティルダも、いつの間にか、手に紅蓮の大剣を握り締めていた。
白い槍衾が桜色の炎を撒き散らしながら、物凄い勢いで迫ってくる。
「仕方がないわ、ねっ」
マティルダは紅蓮の大剣を、真一文字に振るった。
「むっ!?」
ゴウッ、という熱っぽい音とともに、白い槍衾は、横に薙ぎ払われた。
「敵回避」
「かわされたか・・・本当に、良く出来た人形でありますな」
ヴィルヘルミナはリボンを一旦引き、少し焼け焦げた部分を修復した。

と、
「生ぬるいわねぇ」
「!?」
「!?」
声がした次の瞬間、
「むぅっ!」
ヴィルヘルミナは横に飛んだ。
と同時に、紅蓮の刺突が、メイド服のフリルをかすめた。
(は、早い!?)
(韋駄天!?)
驚きながらも、ヴィルヘルミナは体勢を立て直した。
煙を上げるメイド服を見て、マティルダが挑発する。
「この程度の攻撃をよけ切れないなんて、あなたの腕も落ちたわねぇ」
「・・・減らず口の多い人形でありますな」
ヴィルヘルミナは相手の言葉をさえぎるように言った。
「ねえヴィルヘルミナ、私達、以前ケンカした時に、話したわね?」
「人形には沈黙がお似合いであります」
マティルダの問いかけに応じようともせず、ヴィルヘルミナは攻撃態勢をとる。
再び、無数のリボンが「敵」へと向けられる。
マティルダもそれを見て、体勢を整えた。

そして、
「口で話して分からないんじゃ、体をぶつけ合うしかないってねっ!」
リボンの放出と同時に、そのリボンの群れに向かって飛びかかった。

354Back to the other world:2007/02/14(水) 09:55:22
〜57〜

ドォン!
爆発音が、御崎神社に鳴り響いた。
「な、何だぁ!?」
「どうやら、読みは当たったようね」
マージョリーとマルコシアスは、神社の石段を半分ほど登ったところにいた。
「とりあえず、急ぎましょ」
「応さ」
マージョリーは『グリモア』を置くと、その上に乗った。
『グリモア』は浮かび上がり、一気に坂を上がっていく。


「い、今の、何?」
「何か「ドーン」って聞こえなかったか?」
「爆発?」
「御崎山のほうからだぜ」
御崎高校では、6限目、体育の授業が始まったところであった。
「こら、整列しなさい!」
体育教師の声もむなしく、生徒は皆、たった今起こった事件に夢中であった。
そんな中、
「お、おい、佐藤」
「あ、ああ」
「知っている者」佐藤啓作と田中栄太は、爆発の原因について、
「また、奴らの仕業かよ?」
「俺に聞かれてもわからねえよ」
周りにばれないように、小声で話し合っていた。
「聞くんなら、あの子しかいねえだろ」
「そ、そうだったな」
そして、この中で一番「このこと」に詳しい少女を探す。
「おーい、シャナちゃん」
田中は彼女の名を呼んだ。
が、返事はない。
「あれ、シャナちゃん?シャナちゃんってば」
呼びながら周りを見渡すが、どこにもシャナの姿はなかった。
「なあ吉田ちゃん、シャナちゃん知らないか?」
佐藤は吉田に声をかけた。
「え、あれ?さっきまで私の隣にいたのに」
「えっ?」
「私も、今の音について話を聞きたかったんだけど・・・」
「俺もだよ」
「おい、佐藤」
「何だよ」
「校門の方に誰かいるんだけど、あれ・・・」
と、田中が指を指した。
その先では、体育着姿のポニーテールの少女が、猛スピードで走っていた。

シャナは御崎高校の校門を出た。
そして、爆心地と思しき場所―――御崎山へと走り出す。
(どうして!?)
シャナは焦っていた。
爆発に混じって流れてきた、2つの存在の力の波動。
それは、シャナがよく知っている人物のものだった。
(ヴィルヘルミナ、どうしてなの!?)
二つの力は、互いに激しくぶつかり合っていた。
(何で今さら、悠二を!)
シャナは、今御崎山で行なわれているであろうことを、簡単に想像できた。
できたが、それを信じたくなかった。
(もう、悠二を破壊する理由なんて、ないはずなのに・・・!)

355Back to the other world:2007/02/14(水) 09:58:34
〜58〜

マージョリーとマルコシアスは、石段の先に見えた景色に、呆然となった。
「な、なぁ・・・我が麗しのゴブレット、マージョリー・ドーよぉ・・・」
「え・・・えぇ・・・」
「俺、おめぇの酒臭ぇ息に当てられてるうちに、とうとう頭がイカレちまったみてぇだ」
「お黙り・・・バカ、マルコ」
「だってよぉ・・・今、俺の目に見えてるのは・・・」
「・・・・・・・」
「500年前に死んだ奴の映像だぜ!!?」
普段の会話なら、軽薄な笑い声の一つでも上げるはずのマルコシアスが、クスリとも笑わない。
心なしか『グリモア』が小刻みに震えているようにも見えた。
「間違いねぇ、ありゃユーレイだぁ!『炎髪灼眼』のユーレイが、化けて出たんだぁブッ!?」
「お、落ち着きなさいバカマルコッ!」
相棒の情けない様子に、マージョリーは語気を荒げた。
しかし、彼女もまた、目の前で繰り広げられている状況を、信じられずにいた。
「・・・一体全体、何がどうなってるのよ!?」

356Back to the other world:2007/02/14(水) 10:00:34
〜59〜

紅色と桜色の火花が、御崎神社を染める。
「しぶとい人形でありますな!」
白いリボンが、マティルダの前後左右から、容赦なく襲い掛かる。
「おっと!」
マティルダはその攻撃を、直撃する寸前の間隔で、全てなぎ払う。
なぎ払いながら、ヴィルヘルミナの方に向かって走る。
白帯と紅蓮の大剣が、何度も何度もぶつかり合った。


「す、すごい・・・」
悠二は、クスノキにもたれかかりながら、その戦いの様子を見ていた。

中世の昔、当代最強と謳われたフレイムヘイズ、マティルダ・サントメール。
その友人にして、戦闘力は肩を並べる存在といわれた、ヴィルヘルミナ・カルメル。
その二人が、今刃を合わせて戦っているのである。
悠二もシャナと出会ってから、何度と無く戦いを目の当たりにしてきた。
幾多の“紅世の徒・王”、フレイムヘイズたちの戦いを。
しかし悠二は、今回の戦いに、他のどの戦いとも違うものを感じていた。
「何なんだ、この戦い・・・?」
何か、普通ではない、ただならぬ奥深さを感じたのである。

その時。
「?・・・なんだ、この音?」
メキメキ、という音が頭上から聞こえ、悠二は顔を上げた。
すると、
「うわあぁっ!?」
外れた攻撃が直撃したのか、クスノキの太い枝が、悠二の方に落下してきた。
ズン、と重たい音が響いた。

「あわ・・・あれっ?」
頭を押えて縮こまっていた悠二は、自分が助かったことに気づく。
物凄い力で後ろに引っ張られ、間一髪悠二は潰されるのをまぬがれたのだった。
「・・・?」
悠二が振り向くと、そこには見覚えのある、群青色の化け物がいた。
「なに、またアンタが絡んでんの?」
「全くよぉ、困ったボーヤだぜ」
マージョリーとマルコシアスが「トーガ」の中から、呆れて言った。

357名無しさん:2007/02/14(水) 21:15:30
GJ!GJ!GJ!
いや本当に長い間しぶとく待ったかいがありました
続き期待してます!

358名無しさん:2007/02/14(水) 22:11:22
とても感動した!!!
続き希望であります!

359名無しさん:2007/02/15(木) 03:47:43
ネ申としかいいようがない。

360234:2007/02/16(金) 01:01:06
温かいお言葉の数々ありがとうございます。書き続けてるかいがありました。
しつこくまだまだ続きますが、よかったらお付き合いください。
一応、大まかな話の流れは頭の中でできてるので、いつかは終わります(たぶん)。
てか、もうこのスレの大半を占拠してしまっているようで・・・。

361Back to the other world:2007/02/16(金) 01:09:04
〜60〜

悠二は、ことの顛末を二人に説明した。
「・・・そんな話、聞いたことも無いわ」
言って、マージョリーは手のひらを上に向けた。
「まぁ、無理に信じてくれとは言わないよ。僕も未だに夢じゃないかと思ってるくらいだし」
自信なさげに、悠二は言った。
「チビジャリは、このことは知ってるの?」
「いや。僕とカルメルさんたちと、マージョリーさんたちだけです」
「でもまぁ、これだけ激しく存在の力をぶつけ合ってんだ。気づくのは時間の問題だろーな」
「うん、たぶん・・・」
悠二は外を見た。
桜色と紅蓮の火花が、激しく飛び交っている。
「しかし、アンタもとんでもないことをやらかしたわねぇ」
「ヒヒッ、全くだぜ。兄ちゃん、エクソシストにでもなったらどーだ?」
事情を知ったおかげか、マルコシアスにはいつもの笑いが戻っている。
「笑い事じゃないよ・・・これから一体、どうしたらいいんだろ」
悠二は心底疲れた様子でつぶやいた。
「ま、仕方ないんじゃない?これまでそうだったように、今回もなるようにしかならないわよ」
「そーそー。少しは我がお気楽な放浪者、マージョリー・ドーを見習ってだなブッ!?」
「あのね、私は別に気楽にブラブラしてるわけじゃないのよ」
マージョリーは悠二に向き直り、
「まっ、とにかく、今はあの二人の戦闘を見守るしかないわね」
「止めてくれないんですか?」
「アンタも感じたんでしょ?他人が入り込む隙なんかないって」
「う・・・うん、まぁ」
「じゃ、こうして見守るしかないわ。ケンカの仲裁は、私の趣味じゃないし」
「まぁお前の場合、ケンカは売り買いするもんだからなぁブッ!?」
「お黙り」
言って、マージョリーも外をうかがった。
白いリボンが、石灯籠を粉々に砕いた。
「まったく、ハデにやってるわねぇ」
「本当だよ、会っていきなりだもんな・・・・・」
ため息混じりに、悠二は崩れた石灯籠を見つめる。

石灯籠が、小さな瓦礫の破片となって、パラパラと地面に落ちる。
もう二度と、元の形には戻らない、石灯籠。
「・・・・・ああっ!!」
悠二は大声を上げた。
「何よ」
「何でぇ?」
いきなりの大声に、マージョリーとマルコシアスは不審そうに悠二を見る。
悠二はマージョリーの方に向き直り、
「僕、大変なことに気づいちゃったんだけど・・・」
青ざめた顔で言った。

「封絶・・・誰も、張ってない・・・」

しばしの沈黙の後、
「な・・・何ですってぇ!?」
「な・・・何ぃぃぃ!?」
ほとんど同時に、叫び声が上がった。

362Back to the other world:2007/02/16(金) 01:10:20
〜61〜

「!?」
御崎山に向けて走るシャナは、再び存在の力の流れを感じた。
(この力は・・・)
とシャナが考えている間に、群青色の炎が御崎山を中心として同心円状に広がっていく。
やがてその炎は、御崎市全体をドーム状にすっぽりと覆った。
群青色の線が走り、地面に奇怪な紋章を描いている。
それは、存在の力を操る者ならば誰もが知っている、最も単純な、“あの”自在法だった。
「封絶!?『弔詞の読み手』が、何で?」
次々に起こる事態に、シャナの頭は混乱していた。
「一体、何が起きたって言うの?分からないよ、アラストール?」
シャナはペンダントの魔神に、助けを求めた。
「・・・・・・・」
「・・・まさか、悠二の中の“あいつ”が、暴走し始めたんじゃ」
「・・・・・・・」
「?聞いてるの、アラストール、アラストール?」
「・・・・・・・」
シャナは何度も呼びかけたが、「コキュートス」からは一向に返事が来ない。
とうとう、
「アラストールッ!!!!」
「っむ!?」
シャナは立ち止まり、「コキュートス」を自分の口元に近づけ、大声で叫んだ。
ようやく、アラストールは返事をする。
「む、ど、どうした、シャナ?」
「それはこっちのセリフよ。一体どうしちゃったの?」
アラストールの「“紅世”の魔神」らしからぬ頼りない返事に、シャナは少し怒り気味に尋ねた。
「今日は朝から様子がおかしかったけど」
「い、いや、何でもない」
「あっ、そういえば、「何かおかしな力を感じる」って言ってたよね、あれと何か関係があるの?」
「そ、それは・・・」
「やっぱりそうなんだね。教えて、一体あそこで、何が起きてるの?」
「わ、我は何も知らぬ」
アラストールは、あくまで否定した。

「嘘つかないで!一体私に何を隠してるの!?」
シャナは、これまでアラストールに対して見せたこともないくらい、怒りをぶつけた。
「・・・・・・・・」
「コキュートス」からは、返事がない。
「・・・・・・・・」
シャナも、黙り込んだ。

363Back to the other world:2007/02/16(金) 01:11:45
〜62〜

「済まぬ、シャナ」
長い沈黙の後、先に言葉を発したのは、アラストールだった。
「・・・・・・・」
シャナはまだ、黙っている。
いつしかその目には、うっすらと光るものが見えていた。
「本当に、済まぬ」
重く低い声で“紅世”真正の魔神は、その器たる少女に、心から謝った。
「・・・・・・・」
その少女―――シャナからは、まだ返事がない。
「しかし、シャナよ、どうか聞いて欲しい」
「・・・・・・・」
「我が、今まで何も語らなかったのは」
「・・・・・・・」
「このことを話すことが、お前の存在を、否定することになるからだ」
「・・・・・・・」
シャナからは一向に返事がない。
ただ、うつむいたままである。
「だから、我はお前に、自分の考えを語ることができなかったのだ。許してくれ」
「・・・もういいよ」
ようやく、シャナは口を開いた。
「私の方こそ、何も考えずに怒鳴ったりして、ごめん」
「・・・・シャナ」
「でも」
シャナは「コキュートス」をじっと見据えて、言った。
「私は、アラストールと契約したときから、どんな運命が来ようと、それに立ち向かう覚悟は、出来てるつもりだよ」
言って、「コキュートス」を両手でぎゅっ、と握り締めた。
「だからお願い、話して。一体何が起きてるのかを」
「コキュートス」を通じて伝わってくるシャナの手の暖かさに、アラストールは思う。
(浅はかだったな、我は)
そして、
「我も、全く信じられぬが」
自分が予想していることを、話した。
「坂井悠二の存在の力に混じって・・・・我の、以前の契約者の力が流れてきている」

「えっ・・・・・・!?」
その時シャナは、アラストールの言葉の意味を、理解できなかった。

364Back to the other world:2007/02/16(金) 01:17:29
〜63〜

「なるほど・・・これが封絶ってやつか」
飛び交うリボンを盾で受け止めながら、マティルダは自分たちの周りの、陽炎のような景色をしげしげと眺めた。
そして、戦いの相手に向かって言った。
「便利な時代になったもんね。私達の頃は壊しっぱなし、殺しっぱなしだったっていうのに」
ヴィルヘルミナは答えず、
「本当に、やかましい人形であります」
シュルリ、とマティルダの両サイドにリボンを伸ばす。
そしてそれぞれ、ピン、と一直線に伸びたかと思うと、
「その口ごと、切り刻んでやるのであります!」
巨大なハサミの刃のように、マティルダのほうに迫った。
ズン、と鈍い音がした後、リボンの間にあった木々、石灯籠が、全て切断されて滑り落ちた。

「むっ・・・!?」
「上空!」
ティアマトーの声に、ヴィルヘルミナは上を向く。
「こんなものに頼ってるから」
すると、紅蓮の盾と大剣を矛槍に持ち替えたマティルダが、
「カンが鈍るのよっ!」
槍衾を真下に向けて、垂直落下してきた。
「防御準備!」
「はぁっ!」
ヴィルヘルミナはすぐさま、自身の真上にリボンを集め、盾を作った。
しかし、
「なっ・・・?」
盾の手前で、槍先に割れ目が入ったと思うと、
「それが甘いって」
たちまち、3本の小さな槍先に変わった。
槍先はそれぞれ、盾を避けるように曲がり、伸び、
「言ってるの、よっ!」
3方向から、ヴィルヘルミナに襲いかかった。
「くぅっ!?」
ヴィルヘルミナは3本のリボンを繰り出し、それぞれ、槍衾を全て受け止めた。
ガチッ、という金属音のような音が響き、2色の火花が舞い散る。
マティルダは、刃先がぶつかった衝撃を利用して後ろに飛び、着地した。

「さすがは『戦技無双の舞踏姫』。接近戦が得意なところは、変わってないわね」
「むっ・・・・」
ヴィルヘルミナは、やはり返事をしない。
「それにしても」
マティルダは続ける。
「『戦技無双の舞踏姫』か・・・カッコいいあだ名をもらったものね」
「腹話術は、もう聞き飽きたのであります」
「無駄口無用」
ヴィルヘルミナは再び、リボンを伸ばす。
マティルダは、平然とした顔でさらに話を続ける。
「私なんか『赤毛の女丈夫』よ?」
「黙るのであります」
リボンが、マティルダの方を向く。
「『姫』と『女丈夫』って・・・差がありすぎじゃない?」
「黙るのであります」
リボンに、存在の力が込められる。
「二人とも『姫』でよかったのにねぇ」
「・・・・っ黙れ!」
ヴィルヘルミナは、自身でもいつからか分からないくらい以来の、雄叫びを上げた。
怒りと共に、一気にリボンは放出された。

「あらら・・・プッツンしちゃったか」
洪水のような勢いで迫るリボンを眺めつつ、マティルダはつぶやいた。
「変わってないわね、あなたの欠点」
言って、再び紅蓮の大剣を手にする。
「一旦切れると、隙だらけになるってのはっ」
マティルダは、リボンを避けようと再び飛び上がった。
そして、
「これで、終わりよっ!」
持ち替えた矛槍を、投げつけようとした。

しかし、
「・・・甘いのは、どちらでありますか?」
「えっ?」
飛び上がった先には、4本のリボン。
「あっちゃ〜・・・」
あっという間に、マティルダは両手両足の自由を奪われた。

365名無しさん:2007/02/16(金) 14:03:24
いつもGJです!
うあああああぁぁあぁぁぁ
緊張緊張
マティルダ強すぎ!!

366Back to the other world:2007/02/17(土) 02:52:00
〜64〜

「あなたの・・・前の、契約者!?」
シャナは、まだ立ち止まったまま、呆然としている。
「そんな・・・嘘、でしょ?」
未だに、アラストールの言葉を、信じられずにいた。
「・・・我も、むしろ嘘であってほしい」
アラストール自身も、
「我の、思い過ごしであってほしいと思っている」
自分の発言を、つくづく馬鹿馬鹿しく思った。
「だが」
思いつつも、
「先刻から・・・いや、今朝から、我が感じている、この力の波動は」
“紅世の王”としての、
いや、かつて愛し合ったもの同士の感覚は、
「かつての、我の契約者・・・『炎髪灼眼の討ち手』マティルダ・サントメールの物に、相違ない」
“それ”を、無視させてはくれなかった。
「でも」
シャナは、当たり前と分かっていながら、問わずにはいられない。
「前の契約者が、死なないと・・・新たなフレイムヘイズは、生まれないはず、よね?」
「・・・そうだ」
アラストールも、この問いに、あえて律儀に答えた。
「でも、今、あなたは、確かに感じているのよね?」
「・・・うむ」
「妙ね」
シャナはそこで、最初から感じていた、不思議な点を話す。
「その、前の契約者の存在の力・・・私には、ちっとも感じられない」
「うむ、それはおそらく、どちらも司る炎の色が、同じものだからであろう」
「あ・・・そうか」
アラストールの言葉に、シャナは納得する。
「あと、あなた、さっきその力が、悠二の存在の力と混じって流れてきてる・・・って、言ってたけど」
「・・・む」
もう一つのシャナの疑問に、アラストールは急に言葉を詰まらせた。
「ますます、意味が分からない。なんで悠二が?」
「・・・それは、我が一番知りたい」
アラストールは、あからさまに機嫌悪く言った。
「全く・・・何故よりによって、あ奴の存在の力に混じっているのだ」
独り言のように、アラストールはぼやく。

その時、
ズゥン!
「!」
またもや、御崎山で大きな地響きが鳴った。
「考えてる場合じゃない、行かなきゃ!」
シャナは再び、走り出す。

367Back to the other world:2007/02/17(土) 02:53:15
〜65〜

「かはっ・・・」
身動きが取れないままリボンで引っ張られ、マティルダは思い切り地面に叩きつけられた。
「全く・・・容赦ないわね・・・っ!?」
マティルダの身体が再び、持ち上がったかと思うと、
「本当に、汚らわしい道化・・・」
「粉砕」
そのまま空中で振り回され、
「ひゃあっ!?」
今度はいきなり解き放たれたかと思うと、
「わあぁっ!?」
「ちょ、ちょっと!?」
「ぎゃ〜!?」
悠二たちのいる、休憩所の窓ガラスを突き破り、
「がはっ!?」
壁も突き抜け、その先にある小さな社に、激突した。
「マ、マティルダさん!」
その光景のすさまじさに、慌てて悠二が瓦礫と化した社に駆け寄る。
「だ、大丈夫・・・心配しなくていいわ」
瓦礫を払いのけて、マティルダがよろよろと立ち上がった。
既に服も、顔も、傷だらけになっている。
「ちょ、ちょっとマティルダさん!?なんでもう死んだ人がケガなんか・・・」
「何・・・死人がケガしちゃおかしいかしら?」
「どう考えてもおかしいでしょ!?」
「ごちゃごちゃとうるさいであります!」
再び、リボンが悠二を襲う。
「アンタはこっちへ来てなさい、ユージ!」
「わわっ!?」
マージョリーに首根っこを引っ張られた悠二の眼前を、白い槍衾が駆け抜けていった。
「うっ・・・!?」
それは、再びマティルダの四肢に巻きつき、拘束した。
「マ、マティルダさん!?」
飛び出そうとする悠二を、マージョリーが取り押さえ、
「あのね、別に私は、アンタの命がどうなろうと知ったこっちゃないけど」
もう片方の手で封絶の自在式を支えながら、悠二に言う。
「この状況でアンタに死なれたら、私はあっちこっちに、敵を作ることになるのよ」
「ヒャッヒャッヒャ、ケーサクやエータに嫌われるのがそんなに怖いか?我がか弱き女傑、マージョリー・ドーブッ!?」
「別にそんなんじゃないわよ!ただ、あのチビジャリを敵に回すことになるのは、ちょっと厄介だと思っただけよ」
「・・・・うん」
マージョリーの言葉に、悠二はうなずいた。
そして、おそらく既にこの騒ぎを聞きつけ、こちらへ向かっているであろう少女のことを思う。

368Back to the other world:2007/02/17(土) 02:54:10
〜66〜

コツ、コツ、コツ・・・
乾いた靴の音を鳴らし、ヴィルヘルミナがゆっくりと、“標的”に近づく。
「人形にしては、よく戦ったでありますな」
「健闘」
ヴィルヘルミナの冷たい声は、変わらない。
しかし、既にメイド服は所々焼け焦げ、狐の仮面も傷が目立つようになっていた。
「しかし、もう人形遊びには、飽きたのであります」
「飽和」
シュルリ、と、またもやリボンが伸びる。
先端の鋭さが、心なしか増しているようにも見える。
「これで、本当に終わりであります」
「滅殺」
リボンの数が、徐々に増えていく。
「全く・・・私がこれまで戦ってきた数多の敵の中で」
リボンに、存在の力が込められる。
「貴様ほど」
桜色の火花が散り、
「不愉快な相手は、なかったであります!!」
リボンの洪水が、一点に集中して、身動きの取れない相手に襲い掛かった。
「マティルダさん!?」
悠二は思わず叫んだ。

369Back to the other world:2007/02/17(土) 02:55:14
〜67〜

しかし、
「あれ・・・・?」
悠二は、目を疑った。
リボンの群れは、マティルダの胸元を貫く寸前のところで、止まっていた。
「・・・どうしたの?不愉快な人形を、さっさと始末するんじゃなかったの?」
手足を縛られたマティルダが、ヴィルヘルミナに語りかける。
気丈な笑顔で。
「・・・・・・っ」
リボンが、小刻みに震えている。
押し寄せる何かに、じっと耐えるように。

「どうしたんだろ・・・?」
目の前の出来事に、悠二は戸惑った。
「感情を隠すものほど、感情に左右されやすい、か。あの鉄面皮の弱点ね」
マージョリーが、様子を横目で見ながら言った。
「そーいうこったな。ただでさえ出し抜けに昔のダチの姿見せられてテンパってるってぇのに、ましてやそれをブチ壊すなんてなぁ、あの姉ちゃんにはどだい無理な話だろーなぁ」
「そうか・・・」
二人の的確な解説に、悠二は納得する。

「・・・・・・」
未だ震えたままのヴィルヘルミナに、
「ま、私もこれくらいのことは予想してたから、こうして大人しく縛られたままになってたわけだけど」
クスリと笑って、マティルダはさらに語りかける。
「ねぇ、ヴィルヘルミナ、ティアマトー」
「・・・・・・」
「さっきから私のことを、人形だの道化だのって言うけれど」
「・・・・・・」
「じゃ、本物だ、と認めるとしたら、どんな場合?」
「・・・・・・」
ヴィルヘルミナは震えたまま、黙っている。

370Back to the other world:2007/02/17(土) 02:56:44
〜68〜

「何言ってるのかしら、あの女?」
マージョリーは不審そうに言った。
「この世から消滅してる以上、本物だなんていって、信じる奴なんているわけないわ」
「ヒヒッ、全くだ。唯一証明できるとしたら、“ミステス”の兄ちゃん、オメェが今までの状況、洗いざらい吐いちまうしかね〜ぜ」
「あのさ・・・この状況で、そんな話聞いてくれると思う?」
「ま〜無理だろ〜な、ヒャッヒャッヒャ!」
「はぁ・・・」
まるっきり人事のように笑うマルコシアスに、悠二がため息をついていると、

『悠二君、聞こえるかしら?』
『!?』
突然、自分にしか聞こえない声で、マティルダが話してきた。
「マ、」
『他に聞かせてはだめ。あなただけに聞いて欲しいの』
『っ・・・と、分かり、ました』
『悠二君、あなたの存在の力の残量は』
『え、えっと・・・』
『早く!』
『は、はい』
せかされ、悠二は急いで自らの存在の力を計る。
『あと、半分くらい・・・かな』
『そう・・・』
言って、マティルダは、今度は“直接”ヴィルヘルミナに向かうと、
「じゃ、今から、証明してあげる」
スッ、と目を閉じた。
マティルダの両手に、それぞれ紅蓮の盾、大剣が握られる。
「・・・・・!」
同時に、ヴィルヘルミナの震えが、止まった。
(・・・ま、まさか)

それは、彼女がかつて何度見てきたか分からないくらい、見慣れた光景だった。
誇り高き友人の象徴とも言うべき“あの”自在法の構え。

371名無しさん:2007/02/17(土) 10:54:06
GJ!!!
つ(#)
続きwktk!

372名無しさん:2007/02/17(土) 10:58:41
ヴィルヘルミナ(;´Д`)ハァハァ

373234:2007/02/18(日) 00:51:39
ありがとうございます。
投稿するたびにいただくレスに、とても勇気付けられます。
まだまだ長くて気が遠くなりそうですが、皆さんの声援を励みにがんばります!

374Back to the other world:2007/02/18(日) 00:52:28
〜69〜

(一体・・・何をするつもりなんだ?)
悠二が考えていると、
『悠二君』
再び、マティルダの言葉が耳に入ってきた。
『!・・・何ですか』
『多分、大丈夫だとは思うけど』
『・・・?』
悠二は、いやな予感を覚える。
『もしかしたら、“力”が底をついちゃうかもしれないけど・・・その時はゴメンね』
予感は的中した。
「え、えぇっ!?」
『それじゃ』
戸惑う悠二を置いて、マティルダは一方的に会話を打ち切った。
「ちょちょっと、ゴメンねじゃないよ!?」
「なに、一体どうしたのよ?」
いきなり一人でしゃべりだす少年に、マージョリーが尋ねた。
「何をするつもりなんですか、マティルダさん!?」
「おいおい兄ちゃん、一体どうしちまった・・・・っ?」
マルコシアスが、異変に気づいた。

あの女の周りの存在の力の量が、急速に高まっている。
女は、紅蓮の盾と大剣を握り締め、両目を閉じている。
両腕を縛っているリボンは、プチ、プチ、と音を立てて、切れつつあった。

そして、
「うわぁっ・・・!?」
突然、悠二は自分の身体から、存在の力がこみ上げてくるのを感じた。
それは、悠二の握り締めているリボン―――もう一方の先端をほつれさせて、マティルダの足に絡めてある―――を伝って、物凄い勢いで悠二の身体から抜け、流れていく。
「ちょ、ちょっと、どうしたのよいきなり?」
突然の異変に、マージョリーは驚いて声をかける。
「うあ・・・ぁ」
悠二の身体は、ギラギラと光りだしていた。
「あの女・・・何をやらかすつもりなの?」
マージョリーが独り言のように言うと、マルコシアスが、
「・・・『騎士団』、か」
と、つぶやいた。
「!」
相棒の口走った言葉に、マージョリーは血相を変えた。

375Back to the other world:2007/02/18(日) 00:55:52
〜70〜

「・・・・・・」
瞑目して集中するマティルダの周りを、じわじわと紅蓮の炎が包み始めた。
(うーむ、前は、もっと早く出せたんだけど・・・)
足の糸を通して、存在の力が流れ込んでくる。
(やっぱ長いこと使ってないし・・・力の量もギリギリだと、時間かかるわね)
両手を縛っていたリボンは、すでにほとんど千切れていた。

ヴィルヘルミナは、再び呆然と立っていた。
次から次へと起こる、信じられない出来事に、既に彼女の思考回路は、置いてけぼりにされていた。

一体、これは、何?
石段を登り終えたと思ったら、そこにいたのは、坂井悠二と・・・昨夜も見かけた、この“人形”。
・・・そう、私達の大切な友人を模った、この汚らわしい人形。
昨夜は・・・思い出したくもない、そんなことをしていた気がする。
そして今回は・・・こともあろうに、手を、つないでいた!!
許せない。
何も知らないはずの“ミステス”が、何故、こんな人形遣いの猿真似をするのかは分からなかったが・・・
そんなことを考えている余裕など、なかった。
私は持っていた荷物を投げ捨て、無意識に攻撃を繰り出していた。
すると、この人形は、私達に・・・話しかけてきた。
その声は“彼女”そのものだった。
・・・冗談じゃない。
こんな人形、とっとと破壊してやる。
私は話しかけてくるのを一切無視し、攻撃に出た。
ところが・・・このしぶとい人形は、憎たらしい事に、戦い方まで“彼女”そっくりだった!
私はこみ上げてくるものを抑えながら、無我夢中で攻撃しまくった。
そして、ついにこのうるさい人形を黙らせる、私の取り付かれている幻影を振り払う・・・そのチャンスが来たというのに。

情けない・・・なんて情けないんだろう。
私は止めをさせなかった。
幻影を振り払いたくて、それでいて振り払ってしまうのを恐れた。
もう少し、夢を見ていたい。
そんなことを、考えてしまった。

私が愕然としていると、今度は、目の前のこいつは「本物だと証明する」と言った。
私は最初、言っている意味が分からなかった。
しかし、こいつが目を閉じ、両手に盾と剣を握った瞬間、全てを悟った。

嘘だ。
出来るわけがない。
“彼女”が編み出した、美しくも激しき、闘争心の証。
こいつは軽々しくも、それを見せると言ってのけたのだ。
そんなこと、させない。
させて、たまるものか・・・・!

「・・・・・・っ!!」
ヴィルヘルミナは、これまでの戦いの中でも最大級の存在の力を、リボンに込めた。
桜色の火花が、バチバチと音を立てて、リボンから弾け飛ぶ。
ヴィルヘルミナ自身も制御しきれないのか、伸びるリボンは周囲の物をなぎ倒し、吹き飛ばし、切断する。
御崎山全体を、桜色の炎が染め、まるで桜が咲いたようになった。

376Back to the other world:2007/02/18(日) 02:03:26
〜71〜

御崎神社は、もはや瓦礫の山と化していた。
「おいおい、こりゃ〜そろそろ止めに入んねぇとヤバイかもしれねえぞ。我が寛大なる仲介人、マージョリー・ドーよぉ」
「この町全体に張った封絶を支えながら、何をどうしろって言うのよ!」
「そりゃ〜、分かっちゃいるがな、このままだと、下手すりゃお前ごと吹っ飛んじまうぞ。そうなりゃ何もかもおしめえだ」
「分かってるわよ、ヒャッ!?」
飛んできた瓦礫をかろうじて避けながら、マージョリーは不満げにつぶやく。
「・・・ったく、何やってんのよ、あのチビジャリは!!」

「っ!」
ひた走るシャナは、御崎山から立ち上る、桜色の光の柱を見た。
「ヴィルヘルミナ・・・?」
「いかん『万条の仕手』め、力を暴走させている」
「えっ!?」
「このままではいずれ“夢幻の冠帯”の本性が顕現する」
アラストールは状況の危うさを思った。
かつて『弔詞の詠み手』が暴走した時のように、“紅世の王”の本性が顕現してしまえば、その莫大な存在の力によって、封絶が破壊される可能性がある。
「じゃ、ヴィルヘルミナも!?」
「うむ、無事では済むまい」
「そんな・・・!」
「急ぎ、奴の暴走を止めるのだ。それしか方法はない」
「・・・うん!」
シャナは、力をこめると、
「はぁっ!」
真上に飛び上がり、紅蓮の翼を出して空に舞い上がった。

377Back to the other world:2007/02/18(日) 02:04:52
〜72〜

マティルダの双眸は、まだ閉じられたままであった。
(あと少し・・・)
目の前を、白いリボンがムチのようにしなる。
地面に、いくつも一直線の溝が掘られる。
(あと、もうちょっと・・・っ)
リボンが頬をかすめ、まっすぐな傷を創る。
「・・・何もかも」
ヴィルヘルミナは、仮面の下で、今まで誰も見たことがないような、すさまじい鬼の形相をしながら、
「何もかも、終わりにしてやるのであります!!!」
叫ぶと、全てのリボンを、滅茶苦茶に放出した。
それは乱射された弾丸のように、物凄い速度でマティルダに迫る。

(・・・よし、準備完了!!)
マティルダは、スッ、と両目を開いた。
そして、ほんの一瞬、スゥ、と鼻で息を吸うと、

「出でよ、『騎士団』!!!」

500年来のかけ声を、思いっきり叫んだ。

378名無しさん:2007/02/18(日) 11:41:22
素晴らしい!!!!!

379名無しさん:2007/02/18(日) 14:26:58
暴走ミナ×幽霊騎士団マティが期待!

380名無しさん:2007/02/19(月) 23:02:03
マジGJ!
wktkがとまらねええ

381普段お世話になっている者:2007/02/21(水) 15:36:39
投下します
まだ完成してないんで途中までですが…

382歯車:2007/02/21(水) 15:38:09
手に入れた物はあまりにも儚く…
無くした物はあまりにも大きすぎた…
回った歯車はもう戻らない…
それを巻き戻せるのなら…


私は全てを捨てよう…

383歯車:2007/02/21(水) 15:38:45
*1

 坂井悠二はすでに毎日の習慣として定着しきった夜の鍛錬に力をいれていた。
彼は数ヶ月前、「仮装舞踏会」により宝具「零時迷子」を通じて、紅世の王‘祭礼の蛇‘の意識を顕現するための媒介となった。
意識体のみ顕現した‘祭礼の蛇‘は宝具「零時迷子」により存在の力を「星黎殿」に充填。その溜まった力で自分自身と「久遠の陥穿」(漢字がでんかった。スマン)を丸ごと顕現、「こちら側」の世界を支配しようとした。
 彼は一度は完全に意識を飲み込まれたものの、「零時迷子」の中に封じられていた‘ミステス‘ヨーハンが、悠二奪還部隊の「炎髪灼眼の討ち手」等と共に来ていた‘彩瓢‘フィレスと接触することで表出。「零時迷子」に打ち込まれていた‘祭礼の蛇‘の意識の顕現に必要な「大命詩篇」と呼ばれる自在式の一部を持ち出す事で、‘祭礼の蛇‘と「仮装舞踏会」の野望は挫かれた。
 この戦いによって悠二達は「仮装舞踏会」の戦力は半減。「星黎殿」の詳しい場所の特定によりフレイムへイズの監視が可能になった為、一時的にではあるが、再び日常を取り戻していた。

「悠二、力が安定してない。もっつと集中して」
「うん、わかってるんだけど…勝手が違って…」
 横から口を出している少女は腰まで届く長髪。中学生ですら怪しい体つきに不釣合いな凛々しい顔立ち。彼女こそ天壌の劫火‘アラストール‘のフレイムヘイズ「炎髪灼眼の討ち手」シャナであった。

 彼等は…というより彼は、現在「存在の力のコントロール」という初歩の初歩的な訓練を行っていた。これは‘祭礼の蛇‘の意識下におかれる以前までは無意識でもできていた。しかし、自在師としても優れた部類であった‘祭礼の蛇‘が「零時迷子」の特性「存在の力を記憶したことのある最大値まで回復する」によって莫大な量の存在の力を記憶してしまい、その後、表に出てきた悠二にとって、その力の量は自身が安定して顕現出来る上限の数十倍であった。
その力をコントロールするために他の二人のフレイムヘイズ、「万条の仕手」ヴィルヘルミナ・カルメルと「弔詞の詠み手」マージョリー・ドーよりも存在の力の感知能力が高いシャナがその鍛錬の指導をつとめていた。
「そろそろ0時ね。悠二、封絶を張ってみて」
「わかった」
 これはこの鍛錬を始めてから必ず最後に行うことになっている。
どれくらい存在の力をコントロールできるかを見るのに一番わかりやすい方法であるからだ。
「今日は…御崎大橋くらいまで抑えてみて」
「うん、やってみる」
 悠二は封絶を御崎大橋の辺りより小さく張ることが出来なかった。
これでも小さくなったほうであり、帰ってきてから初めて封絶を張った時は御崎市全体を覆ってしまうほどであった。
 目を瞑り精神を集中。そして自分自身の一部を使い、自在式を組み立てる。
瞬間、悠二の足元より銀色の紋様が現れ、広がり、外界との因果律を断ち切り「封絶」が完成する。
これまでは、少しずつではあるが、小さくなってきた。今日も橋まではいかなくとも小さくなると全員が考えていた。


しかし彼が張った封絶は日本全土を覆った。

384歯車:2007/02/21(水) 15:39:37
「悠二!!何こんな大きく張ってるのよ!」
「ご、ゴメン…なんか力が溢れ出しちゃって…」
「うるさいうるさいうるさい!言い訳しない!もう一回!」
 言い訳をするなと言われても、悠二には何故ここまで大きな封絶を張ってしまったのか全くわからない。もう一度兆戦してみるも、日本全土とはいかないまでも御崎市全部を覆ってしまう。
何故ここまで大きくなってしまうかわからないので、自在法に関してはシャナよりも詳しい二人のフレイムへイズに教えを請おうとすると…
「ユージ、しばらく自在法を使うの止めなさい」
いつになく神妙な顔持ちをした自在師が自在法禁止の言葉を発した。
「え?なんでですか?」
「少し調べないといけないことがあるであります。それと…」
メイド服のフレイムへイズが代わって答え、続いて悠二の隣でキョトンとしているシャナの方を向く
「‘天壌の劫火‘を借りたいであります」
「え?アラストールを?いいけど何を話すの??」
「シャナ、出来れば何も言わずに我を「万条の仕手」に渡してくれ」
アラストールの声色もどこか強張っていた。
「??…うん、わかった…」
「あと、朝の訓練も控えなさい。私が良いって言うまで絶対に自在法を使わないこと。
いい?」
「ハイ、わかりました…」
悠二は釈然としないものを感じながらも頷いた。



歯車は回っていた。少年の中でゆっくりと…

385歯車:2007/02/21(水) 15:40:12
*2

 (明日、学校が終わったらケーサクの家にくること)

 その日から三日後の朝、悠二はヴィルヘルミナとマージョリーに佐藤の家へ呼び出された時のことを思い出していた。
二日前、時間を告げにきた二人がとても真剣な顔だったのを彼はしっかりと覚えていた。恐らく紅世関係…しかも自分に大いに関することであるのは容易に想像できる。

そして最後にマージョリーが言った言葉…
(明日は一人で来ること。間違ってもあのチビジャリは連れて来ちゃだめよ)
シャナに言えない紅世関係の話…それは悠二には思いつかなかった。
「まぁ、佐藤の家に行けばわかることか」
と、着替えながら思っていると
「悠ちゃーん、シャナちゃんが来てるから早く降りてきなさい」
との声がした。





そして登校途中…

「シャナ、今日は先に帰っててくれないかな」
「え?どうして?」
ヴィルヘルミナとマージョリーに呼び出されていると言えばシャナも着いて来る可能性もある。と判断し、要所要所を省いて話すことにする。
「佐藤の家に呼ばれててさ。転校するのに色々と荷物整理しないといけないらしくて、それを手伝ってくれって言われてるんだ」
「ふーん。私も手伝おうか??」
「んー止めておいたほうが良いよ…」
これは確かに嘘であったが、佐藤の部屋の様子を見た彼の率直な意見でもあった。
「そう。なら先に悠二の家に行ってるから」
シャナはまた最近、母さんと何かやっているようだった。朝と夜の鍛錬が無くなったため、時には1日中、母さんと何かをしていることもある。
「ありがと、シャナ」
「…別に…」
シャナは赤くなりながら答えた。



歯車は回る…少年と彼女の間で…

386歯車:2007/02/21(水) 15:41:37
*3

 佐藤啓作にとってはいつもの…坂井悠二にとっては月に1、2度歩くかどうかの道を歩いていた。
「珍しいよな。ウチであっち関係の話しするなんて」
「うん、シャナには話せないことらしくて…」
「そりゃ確かにいつもの坂井ん家の庭では話せないわな」
「カルメルさんとアラストールも佐藤の家?」
「おう、なんか真剣な話ししてるみたいでさ。みんなでバーに書類持ち込んで篭ってる」
恐らく紅世関係の話…書類は平井宅にあるのを持ち込んできたんだろう。
「シャナちゃんに話せないことならウチでやるしかないわな。今度はどうしたんだ?」
「まだ何も聞いてない。多分これから説明を受けるんだと思う」
そうこう話しているうちに佐藤家に到着した。




 家の中に入り、佐藤とバーに向かうと、そこには二人のフレイムへイズとペンダント、本、ヘッドドレスに意識を表出させた三人の‘紅世の王‘がいた。
「ん、早かったわね…」
やはり神妙な顔をしたマージョリーが言う。
二人で中に入ろうとすると遠雷が轟くような声が佐藤へ向けられた。
「坂井悠二を連れて来てくれたことには礼を言う。しかしここは席を外してはくれぬだろうか?」
「え…?はい、わかりました」
そう言って佐藤は部屋から出て行く。
佐藤が出て行ったことを確認し話しが始まる。
「ユージ、単刀直入に言うわ」
その言葉は‘徒‘の死神‘フレイムへイズ‘が発する死の言葉…
「アンタには消えてもらう」
消滅の宣告であった。

387歯車:2007/02/21(水) 15:42:53
*4

坂井悠二は‘天壌の劫火‘アラストールと共に帰路に着いていた。
幸いなことに…なのか、佐藤家で二人のフレイムへイズに消されるということはなかった。
「アラストール…」
「………」
「僕は…どうすればいい…」
彼の中に渦巻く感情…それは悲哀でもなく後悔でもない。
まして二人のフレイムヘイズへの憎悪などでも決してなかった。
(アンタの存在の器が壊れかけてる)
それは迷い…
(器が壊れれば、その膨らみ過ぎた力はこれまで「坂井悠二」に関わってきたすべての人間に逆流するであります)
これまで自分を守り、鍛え、共に戦ってきてくれたフレイムへイズ…
(それを防ぐためにはおめぇさんの存在の力を全部吸いださないといけねぇ)
自分が名を与え、自分が泣かせ、自分が守りたいと思っている女の子…
(でもあんたの力を全部使うには、そこいらの王を100人分以上は顕現させなきゃいけない…でも)
そして…
(我ならば一度の顕現でこと足りる)
自分に想いを寄せてくれている友人に…
(残虐非道 重々承知)
自分も心惹かれる女性に…
(アナタからあの方を説得して欲しい)
「『自分を殺せ』だなんて…言えるはずないだろ…」
坂井悠二は泣いていた。




 彼が佐藤宅で受けた説明はこうである。
先の戦いにより零時迷子は大量の存在の力を記憶した。
だが、零時迷子は器の大きさを広げることは可能だが強度を上げることはできず、その大量の力は悠二の器が保有できる量を完全に上回っていた。
 通常、そこまで溜まった力は消費、拡散される。が、零時迷子の特性によって毎日のように行き過ぎた量の存在の力が補充されてしまい、三日前ついに器にヒビがはいってしまった。(封絶が大きくなったのはヒビから漏れ出た存在の力が影響)
いくら行き過ぎた量だと言っても2、3年は保つであろうと考えていた。しかし、シュドナイ、フィレス、銀、ヘカテ−、ヨーハン、暴君という度重なる器への干渉により崩壊が想定以上に早まっていた。
 いずれヒビは穴になり器は崩れ出す。器が崩れれば、行き場を失った存在の力は『力の流れ』によって逆流、現世にこれまでに無い歪みを生み出す。さらにそれだけでなく、逆流したその力は悠二に関わった人間全てに流れ込み、流し込まれた人の器すらも破壊する恐れがある。マージョリーが言うに、今はまだ安定しているが、ヒビが入ってから1週間程度で穴が空くという。そうなればもう手遅れであるとも…
 解決法は三つ
坂井悠二の体を‘祭礼の蛇‘に空け渡す。
 この方法なら坂井悠二の体に表出する意識体は‘祭礼の蛇‘に移るので先に書いた問題が起こることはない。が、フレイムへイズの立場からこの方法はとることは出来ない。
「零時迷子」の抽出。
 「解禁」により不可能。
坂井悠二の存在の消去。
 存在の力を全て吸い出せば逆流する存在の力も無くなり、零時迷子もフレイムへイズ側で管理できる。その代わり坂井悠二は確実に消える。
消去法により三つ目の道をとるしかない。
自分はトーチ…いくら零時迷子を有したミステスといっても、いつかは消える時が来るかもしれない。それについてはすでに覚悟ができていた。
 しかし自分を消す方法…『‘天壌の劫火‘アラストールの通常顕現』
すなわちシャナが自分を殺すということ…これは納得できなかった。
自分はいい…すでに死んだ人間なのだから…
「アラストール…」
「…なんだ」
「シャナじゃなきゃ…だめなのか…?」
「我を顕現させられるのはシャナのみ。他にお前の存在の力を一日の内に消費させる方法はない」
わかってる…わかっている…でも!!
「お前の言いたい事はわかる」
「でもこれじゃあシャナが!」
「あれは…フレイムへイズだ」


回りだした歯車は止まらない…

388歯車:2007/02/21(水) 15:44:25
*5

坂井悠二が消えるまで後3日

 「悠二の様子がおかしい…」
 授業中、「炎髪灼眼の討ち手」シャナは昨日から様子がおかしい想い人を心配、および怪しんでいた。
夜遅くに帰ってきたかと思うと、ヴィルヘルミナ達に渡していた筈のコキュートスを自分に渡し部屋に引っ込んでしまった。
ヴィルヘルミナ達に会ったのかと聞いても無気力に「ああ…うん…」とか言うだけ。
アラストールに聞いても黙秘された。
 抜けた悠二のことだ。アラストールとヴィルヘルミナに道端で会って説教でもされて落ち込んでるんだろう。明日にでもなれば元気になる…と思ってその日は帰ったが、次の日も悠二はおかしいままだった。
穂杖をつきながら今朝の出来事を思い出す

 坂井悠二の睡眠時間は鍛錬禁止礼が出されてから飛躍的に延びていた。
しかし、シャナは鍛錬禁止礼が出されてからも同じ時間に坂井家に来ている。ゆえにその延びた睡眠時間分はシャナが悠二のベットに潜り込み悠二の寝顔を見てニヤニヤする時間であり、彼女はそれを日課としていた。もちろん千草にはバレていない。(と、本人は思っているらしい)
 だが今日、悠二の部屋の前に行くと彼は既に起きいてるようであり、シャナは戦略的撤退を余儀なくされた。
 仕方なくリビングで千草と共に1時間ほど『ある物』と格闘する。
「そう…そこを通して…」
「こう?」
「そうそう。シャナちゃんは料理よりこっちの方が得意みたいね」
「火を使わなければ…大丈夫」
「ふふっ♪あとはシャナちゃん一人でも大丈夫ね」
「うん、今日中にはできる…とおもう」
「頑張ってね、シャナちゃん」
偉大なる専業主婦は恋する乙女の味方である。ましてや自分の息子に対して好意を寄せてくれているとあれば応援しないでいられるはずがない。
(悠ちゃんのために『こんな物』を作ってくれるんですもの。ちょっとくらいサービスしなきゃね♪)
「そういえば、悠ちゃんたら遅いわねぇ…シャナちゃんが行った時はもう起きてたんでしょう?」
「うん、私が部屋に行った時にはもう………」
言ってから自分の失言に気づく。
「ち、千草!こここれはその…偶然前を通っただけで…」
2階に用の無いシャナが偶然通りかかることなど有り得るはずもないのだが、千草は華麗にスルーする。
「変ねぇ…悪いけどシャナちゃん、悠ちゃんの様子見に行ってきてくれる?」
「へ!?いやでも…」
失言の時点で赤くなっていた顔をさらに燃えあげながらも抵抗する素振りをみせる。しかし、千草はまたも軽やかにスルー。
「お願いね♪」
彼女はその微笑みのみで‘紅世‘屈指のフレイムへイズ「炎髪灼眼の討ち手」を黙らせる。


(どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう…)
 つい最近、彼女は偉大な二人の指導者に『この世の本当のこと』を教わったばかりである。もちろん『そっち側』の常識についてもいくつか教わっている。
「お、女の子が好きな人の寝てる部屋に入るときは『そういうこと』を覚悟しなきゃいけなくて…でも、まだ私と悠二は…」
昨日まで悠二のベットにまで潜り込んでいただろうというツッコミはテンパりし恋する乙女にはきかないのである。
 思考の堂堂巡りでオーバーヒートしながらも階段の前にまで行きついた。
そこで初めて気づく。
「あれ…?」
2階への階段を駆け上がり、ドアを壊さんばかりに開け、叫ぶ。
「悠二!?」
そこに坂井悠二はいなかった。

389歯車:2007/02/21(水) 15:45:19
家を飛び出し、悠二を感じる方向へ走り出す。
あの時…悠二が突然いなくなった時の焦燥感が蘇る。
悠二は居る。ちゃんと彼の力を感じる。それでも…
「悠二…そこにいて…」

幸い彼は河原でボーっとしているだけだった。しかし様子がおかしい。
昨日と同じ…どこか無気力で落ち込んでいるようでもあり、悩んでいるようでもあった。
「悠二!こんなとで何してるのよ!!」
声をかけると驚いたような顔をし、それがシャナを不機嫌にさせる。
「シ、シャナ!?えっと…何て言うか…」
要領を得ない答えがさらにイライラをつのらせる。
「もういい!千草も心配してるから早く帰るわよ」
本当は千草には何も言わずに出てきてしまったのだが…
「うん…そうだね」
 そうして家に帰り、既に用意されていた朝食を食べ、学校に向かい現在に至る。
「えー、じゃあこの問題を…坂井」
彼は窓越しに外を見ている。

390歯車:2007/02/21(水) 15:46:04
彼は走っていた。
どこかへ行こうとしたわけではない。
シャナと…『自分を殺すであろう者』と顔を会わせることが出来なかった。
 住宅街を抜け大通りに出る。しばらく人の少ない道を走り、最後に河原へと行きつく。
「ハァハァ…」
息が切れる、足が重い、頭がクラクラする。
本来ならば、毎日三人のフレイムヘイズに鍛えられている彼がこの程度の道を走ることなど、楽勝とはいかないものの、問題ではなかった。
「やっぱり…ハァ…さすがに厳しいや…」
原因はわかっている。
目の下についたクマ、充血し赤くなった目。
彼は寝ていなかった。
 なぜ寝付けなかったか、それもわかりきっている。
『シャナにどう伝えるか…』
これを考えているうちに朝になってしまっていた。…と彼は家を出るまでは思っていた。
実際、考えていたのはそのことについてばかり…
しかしそれは違った。
「はは…僕も変わったってことかな」
 走ってきたのは全て彼女と通ってきた道…
彼女とケンカした道、話した道、笑った道…
 本当はわかっている。
「決まっているじゃないか…」
彼女は必ず自分を、消す…
どんなに親しい人間であろうが「トーチ」であろうが、世界の安定を守るためならば躊躇わず、消す。
 なぜ彼女が迷うなどと思ったのだろう。
それは自分の本心に向き合えなかったから。だから逃げた。
気づかない振りをしていた。
でも…彼女との日々…歩いた道を見て嫌でも向き会わされた。
「…消えたく…ない…」
彼は死ぬのが怖かった。

そこで彼女の声がした。
「悠二!こんなとで何してるのよ!!」
「シ、シャナ!?えっと…何て言うか…」
(マズイ!今の聞かれた…)
と口ごもっていると
「もういい!千草も心配してるから早く帰るわよ」
どうやら彼女には聞かれなかったらしい。
(よかった…)
「うん…そうだね」
そうして家に帰り、既に用意されていた朝食を食べ、学校に向かい授業を受ける。
しかし、授業など耳には入らない。
彼は窓越しに外を見ていた。

391歯車:2007/02/21(水) 15:46:44
*6
昼休み、いつものメンバーで弁当をつつく。
「坂井、お前今日なんかおかしいぞ?」
悠二に声を掛けたのは佐藤啓作。『この世の本当のこと』を知りながら、それにさらに関わろうとする『ただの人間』である。
「えっ…まあちょっとね」
と無理に笑顔を作って答える。
「あんまり無理しなでくださいね」
彼女は吉田一美。ある事件がきっかけで『この世の本当のこと』そして『坂井悠二の死』を知ってしまった人間である。さらにそれを知った上で「坂井君が好き」言い放った一途な女の子である。
「そうだぞ、吉田ちゃんの言う通りだ。あんまり無理するな」
「坂井、風邪でも引いちゃったの??」
彼女に続く形で声を掛けたのは田中栄太と緒方真竹。緒方は『この世の本当のこと』を知らないただの一般人である。
しかし田中は知っている。一時は佐藤啓作と共に『この世の本当のこと』に関わろうとしていたが、ある事件が発端となり、今はあまり関わらずに居ようとしていた。
「平井さん、なにか知ってる?」
彼は池速人。彼の説明は省かせていただく。
「知らない」
シャナは無愛想に答える。
好きな人が自分の恋敵の弁当を食べるこの時間は彼女にとって苦痛以外の何物でもない。
さらに朝からその好きな人の様子がおかしいと来れば機嫌が悪いのは当然であった。
(フン。料理はまだ練習中だから勝てないけど、今作ってる『アレ』なら負けないんだから)
2週間前から千草に教わっている『アレ』はすでに完成の一歩手前であった。
「悠二に何かあげたい!」
そう千草に相談したら快く協力してくれた。
(帰ったら最後の仕上げをして…今日中にあげられたらいいな…)
様子のおかしな悠二だって、きっと喜んで受け取ってくれる。
彼女は希望に胸を膨らませる。
(出来れば…悠二と…)




 坂井悠二は何もする気になれなかった。
自分は消える。死ぬでは無く消えるのだ。
消えれば自分がいた形跡はなにも残らない。居なかったことになるのだから。
死にたくない…消えたくない…
そんな思いばかりが頭を巡る。
いっそこのまま何も言わずに居てはどうだろうか…
同じ事だ…自分は消える。自分が選べるのは死に方だけ。
それに関係の無い人間を巻き込むことは自分の一番嫌うこと。
「どうにもならない…か…」
自分のベッドの上に寝転がりながら無気力に時間を過ごす。

どれくらい時間が経っただろうか。
このまま目を瞑り眠ってしまおうかと思った時、不意にドアの向こうから声がした。
「…悠二?」
彼女は普段とは違う今にも折れそうな声で自分を呼ぶ。
ドアを開け、中に入るよう促そうとする。
「ちょっと待って、今開けるから」
「ううん、開けなくて…いい。このままで聞いてて…」
「え?…うん」
「えっと…七時にクリスマスの時の場所で待ってる…」
彼女の想いは自分も理解している。でも…
「ゴメン…行けない…」

392歯車:2007/02/21(水) 15:47:15
「え……」
 思ってもみなかった拒絶の言葉…一瞬自分が立っているかどうかも分からないほどの目眩に襲われる。
彼はさらに言葉を続ける。
「今の僕じゃあ…答えられない…」
視界がぼやける。その場に立っていられなくなりそうになる。
「そう…」
やっと搾り出せた言葉はこれだけ。本当は泣き叫んで詰め寄りたい。
だが心が『どうしようもない感情』で埋め尽くされ言葉を奪う。
「ゴメン…」
その言葉は彼女の目に溜まったものを溢れさせるには十分であった。
「ぅぐ…グス…」
その時…
「坂井悠二!!」
突然胸のペンダントから怒鳴り声が響く。


「貴様、我等がなぜお前自身に言わせることを選んだと思う!!なぜ我等がシャナに言わなかったと思う!!」
真性の真神が轟く。
「これ以上無様な姿をさらし続けてみろ!今ここで‘天壌の劫火‘の名の元、貴様を消させるぞ!!」
遠雷の声が鳴り止み、重苦しい沈黙が続く…

その沈黙を少女が破る。
「アラ…ストール…悠二を消すって…」
「………」
「どういうこと…?」
魔神は答えない。
「どういうことだって聞いてるで「シャナ!」
問い詰める声を少年が遮る。
「さっき…シャナが言った…クリスマスの時の所で待ってて…」
「えっ…」
「僕が言うから…」
「…うん」


歯車はかみ合う。
終焉へ向かうために…

393普段お世話になっている者:2007/02/21(水) 15:49:39
とりあえず投下できるのはここまで
最近忙しく、次の投下まではかなりかかると思います…
それではまた…

394名無しさん:2007/02/21(水) 20:51:49
これは、悲しいけど展開を期待してしまいますね。
続編まってます

395名無しさん:2007/02/21(水) 23:24:11
おお!新たな神の降臨が!
続きをワクテカしながら待ってます!

396名無しさん:2007/02/22(木) 02:30:31
おもしろい
ただ…が多すぎてなんだかなって感じ

397名無しさん:2007/02/23(金) 10:52:00
隠れた良作ですね。
続きを待ってます

398234:2007/02/26(月) 02:26:16
>普段お世話になっている者氏
新たなSS、とても楽しみです。
が、ちょっと拝見したところ13巻以降のネタバレのようなので、今は読むのを遠慮しておきたいと思います。
せっかく書いてくださっているのに、すいません。
でも、いろんな方が書き込んでくださることによって、スレが活気づいてきてとてもうれしいです。
僕も早く13巻以降を読みたいので、早いとこ完成させようと思います。

399Back to the other world:2007/02/26(月) 02:27:55
声と同時に、マティルダの足元から、紅蓮の炎が絨毯のように広がっていく。
その絨毯から、何本もの火柱が渦巻き、立ち上る。
それらは、はじめ不規則な形をしていた。
が、まもなく大雑把ではあるが、何かをかたどった。
「う・・・っ何だ、あれ・・・?」
存在の力をマティルダに吸われた悠二は、貧血のような感覚に襲われつつ、その様子を見た。
「ほ・・・炎の、化け物・・・?」
が、まもなくそれらは、
「時間が無いわ、とりあえず全員、総攻撃よ!」
マティルダの指令に、迫るリボンに向け、一斉に飛び出した。

炎の怪物達は、手にした紅蓮の剣や矛で、次々とリボンをなぎ払っていく。
またいくつかは、リボンもろとも爆発し、粉々に砕け散る。
リボンの残骸が、ハラリ、ハラリと地面に落ち、積もる。
「そ・・・んな」
「・・・・・・・」
またもや信じられない光景を見せ付けられ、呆然とするヴィルヘルミナとティアマトーに、
「ば・・・・馬鹿、な・・・っ」
「・・・・・・・」
リボンにぶち当たって砕け、半数ほどになった炎の軍隊が、
「どうし、て・・・!!!!」
「・・・・・・・!!」
次から次へと、突っ込んでいった。
あっという間に紅蓮の炎に包まれたヴィルヘルミナは、
「嘘・・・・、私・・・信じ・・・・な・・・」
うわ言のように語りながら、膝を地面に落とすと、そのまま、

ドサッ

と、前のめりに倒れこんだ。
宙に浮いていた純白のリボンは、ゆっくりと、全て舞い落ちた。

400Back to the other world:2007/02/26(月) 02:29:45
〜74〜

「な・・・」
紅蓮の翼で、御崎山まで一気に飛んだシャナは、
「今の、何・・・?」
上空から見えたその光景に、驚愕していた。
到着直後、暴走するヴィルヘルミナを目にし、すぐさま御崎神社に降り立とうとした。
が、その矢先、突然、別方向から自在法が発動した。
かと思うと、物凄い勢いで、妙な形をした炎の固まりが、次々とヴィルヘルミナに襲い掛かったのだった。
一瞬の出来事に、シャナは何もできず、ただ上空で呆然と見ているしかなかった。

「し、しかも」
シャナは、未だに自分の目を信じられない。
「あの、炎の色・・・」
その色は、唯一つ。
自分と、自分の中に宿る魔神だけの色のはず、なのに。
「私と・・・・」
シャナは自分で確かめるように言い直していると。
「同じ、色・・・?」
ふと、目に入った、何者かの影。
「・・・!!?」
慌ててシャナは、視線を戻す。
戻して、もう一度、それが誰なのかを確かめた。


「・・・・・!??」
誰なのかを悟り、シャナは、頭の中が真っ白になった。
「・・・・ば・・・馬鹿、な」
アラストールはそう言ったきり、もはや言葉を発することもできなくなった。
シャナは、自分の髪の毛を数本つかみ、見た。
「私と・・・同じ」
そして、下にいる人物のそれと、チラチラと何度も見比べた。
「え、『炎髪』・・・」
シャナは、身体の底から寒気がわきあがってくるのを感じた。
先程アラストールに言われた言葉が、脳裏をよぎる。
(私の、前の、フレイム・・・ヘイズ)

しかし、
「こら、このチビジャリ!!何ボサッとしてんのよ!」
「ヒヒッ、そーだぜ嬢ちゃん。“ミステス”の兄ちゃん、まずいことになっちまってるぜ」
また別の声に、
「えっ・・・・」
思わず振り向くと、そこには力が抜け、すっかり弱ってしまった悠二がいた。
「悠二!?」
その姿に、慌ててシャナは地面に降りた。

401Back to the other world:2007/02/26(月) 02:31:16
〜75〜

「シャ、シャナ・・・?」
駆け寄ってきた少女を、悠二はうつろな目で確認した。
「悠二、しっかりして!」
弱弱しい少年の姿に、シャナは想いを込めて叱咤する。
「今、私の力を渡すから」
言って、シャナは手を差し出した。
「あ、う、うん」
悠二も、震えながら片腕を差し出す。
二つの腕が、そっと重なり合うと、シャナは目を閉じた。
存在の力が、彼女の手を通して、悠二に送られる。
「・・・ごめん・・・ありがとう、シャナ」
力が徐々に回復してくるのを感じながら、悠二は言った。
「っ」
シャナは、その言葉に、少し照れるのを隠しながら、
「そんなことより」
急に険しい表情になって、言った。
「この状況は、一体、何?」
少女の問いかけに、悠二は、
「うん、まぁ・・・その、いろいろと」
何を話したらよいのか分からず、困惑した。
すると、
「本ッ当、いろいろありすぎよ、今日は」
「全くだぜ。この騒ぎのために、わざわざ町全体覆う封絶まで張らされるんだからなぁ、我が勤勉なる苦労人、マージョリー・ドー!」
悠二のそばにいた『弔詞の詠み手』マージョリー・ドーが不機嫌な表情でぼやくと、“蹂躙の爪牙”マルコシアスが“グリモア”から茶化した。
「・・・?何で、あんた達がここに?」
シャナは意外な人物の突然の介入に、不思議そうに尋ねた。
「アンタねえ、誰がこの封絶張ったと思ってんのよ!」
「ヒヒッ、それだけじゃねーぜ。俺たちゃ、嬢ちゃんの大事なカレシのお守りもしてたんだぜ、少しは感謝して欲しいってもんだブッ!?」
「バカマルコ、アンタは余計なこと言わなくていいの」
「カレシ?」
「な、何を言って」
相棒の失言により、話がさらにややこしくなるのを避けるため、マージョリーは、
「そんなことより、問題なのは、あいつでしょ」
話を本題に戻そうと、あごで「あいつ」を指した。
瞬間、思い出したように、シャナは髪の毛を振り乱して振り返った。

その先には、
「!!!」
自分と同じ髪と瞳を持った、一人の女性が、こちらを見つめて立っていた。

402Back to the other world:2007/02/26(月) 02:35:14
〜76〜

目の前に相対した人物に対し、
「・・・・・・・」
しばらくの間、シャナは一言も、言葉を発することができなかった。
ただ、その灼眼を大きく見開いたまま、相手の立ち姿をじっと見つめていた。
見つめながら、
(私の、前の)
アラストールの言葉を、
(『炎髪灼眼の、討ち手』・・・?)
反芻していた。

一方、マティルダのほうも、一言も話さない。
黙ったまま、目の前の少女の全身を、相手と同じ色の双眸でじっと眺めていた。

相見える『炎髪灼眼』。
決して出会うことはないはずだった、二人。
「・・・出会っ、ちゃっ、た」
異様かつ美しいその光景に、騒動の原因たる少年(ということにいつの間にかされてしまった)坂井悠二も、思わず声を上げた。
「やれやれ、こんな珍事、そうそうお目にかかれるモンじゃねーな。我が幸運なる目撃者、マージョリー・ドー?」
「私には関係のないことよ。勝手にさせとけばいいわ」
「ヒャッヒャ、最初はビビッてたくせに、よく言うぜブッ!?」
「アンタでしょ、それは」
“グリモア”に蹴りを入れ、横目で“珍事”の様子を見つつ、マージョリーは封絶を解く作業を続ける。

群青色の火の粉がフワフワと散る、その中で、
「・・・初めまして、ちっちゃな『炎髪灼眼の討ち手』さん」
沈黙を破ったのは、マティルダだった。
「そして・・・お久しぶり、“天壌の劫火”アラストール」


(お、落ち着け)
シャナの胸元の『コキュートス』は、
(落ち着くのだ、我よ)
かすかではあるが、小刻みに震えていた。
(あれは、幻だ)
“紅世”にその名を轟かす、真正の魔神“天壌の劫火”アラストールは、
(我は今、白昼夢を見ているのだ)
いまだ己が経験したことは一度もないであろう衝撃と動揺に、襲われていた。
(空耳だ)
無理もない。
ペンダントを通した彼の視界に映る、一人の女性。
たった今自分の名前を呼んだ、その声。
それは、はるか昔に、永遠の別れを余儀なくされた人物。
・・・のはずであったのだから。

403Back to the other world:2007/02/26(月) 02:37:51
〜77〜

「・・・どうしたの、二人ともポカーンとしちゃって」
未だ喋ることも出来ないくらい動揺しているシャナとアラストールに対し、マティルダは気軽に声をかけた。
「フフッ、あなた達も信じられないって訳?」
相手の表情を見て、マティルダはおかしそうに尋ねる。
「まぁ、無理もないか。あの二人もさっぱり信じちゃくれなかったし」
言って、マティルダは後ろに目をやった。
シャナも思わず、そちらに視線を移すと、
「ヴィルヘルミナ!!?」
ボロボロに焼け焦げたメイド服をまとったヴィルヘルミナが、あお向けに突っ伏していた。
たまらずシャナは駆け寄った。
「ヴィルヘルミナ、大丈夫!?」
「う・・・む・・・」
「・・・・・・」
シャナの声に、ヴィルヘルミナはもがきながら、顔を横に向けた。
顔から仮面が落ち、桜色の光とともに、元のヘッドドレスへと姿を変えた。

「!?」
あらわになったその表情に、シャナは愕然となった。
目の周りは赤くはれ上がり、顔はススと涙でグチャグチャになっていた。
視点は、うつろに遠くの方を見ているようだった。
それは、清楚で冷静な彼女とは、まるで別人だった。

「ひ、ひどい・・・」
あまりの惨状に、シャナは思わずつぶやく。
そして、先程の場面を思い出し、
「・・・なんで」
振り返って、
「なんで、こんなことを!?」
怒りを込めて、そう言った。

「なんでって・・・せっかく再会できたのに、あの二人、私のことを“燐子”かなんかと勘違いして、攻撃してきたんだもの。正当防衛よ、正当防衛」
マティルダは動じる様子も見せず、サラリと言ってのけた。
そして、逆にシャナに向かって言った。
「そんなことを言うのなら、あなたにだって責任はあるわよ・・・シャナ?」
「な・・・?」
唐突に名前を呼ばれたシャナは、思わず尋ねた。
「ど、どうして私の名前を」
「シャナ、あなた私の攻撃よりも早くここに来てたでしょ?なのになぜ、止められなかったの?」
シャナの質問を無視して、マティルダはさらに責める。
「えっ・・・」
突然の問いかけに、シャナは思わず黙ってしまう。
その様子に、
「いや、それ以前に」
マティルダはさらに追い討ちをかける。
「どうしてもっと、早くこれなかったのかしら?」
「っ・・・!」
シャナは、背後からいきなり、槍で突かれたような気持ちになった。

確かに、早く到着するすべはあった。
例えば、御崎山で爆発音が聞こえた時に、自ら封絶を張っていれば。
そして、すぐに紅蓮の翼を出し、山まで飛んでいっていれば。

「・・・・・・・っ」
次から次へと浮かんでくる後悔の念に、シャナは苦虫を噛み潰したような表情をした。
マティルダは、容赦なく続ける。
「ま、仕方がないわね。所詮あなたの状況判断能力なんて、こんなもんよねぇ」
「!」
いきなりの聞き捨てならない一言に、シャナは思わず顔を上げる。
「偉そうなことばっかり言ってるくせして、肝心なときは人に頼ってばかりだし」
その上げた顔を踏みつけるかのように、マティルダは罵倒の声を浴びせる。
「なっ・・・!?」
「ま、今日はその頼りにしてる人が、全然使い物にならなかったわけだけど」
言って、マティルダはシャナの胸元を見つめ、
「・・・ねぇ、さっきから見てみぬフリを決め込んでる誰かさん?」
(ぐっ、む!?)
その視線の先にいる人物にとって、この上なく怖い目線で問いかけた。

404名無しさん:2007/02/26(月) 03:38:40
来た来た来た!相変わらずのGJ!
前回の投下以来新たな投下が無いか毎日確認してましたよ!
続きも楽しみにしてます。

405名無しさん:2007/02/28(水) 08:46:56
最高です!

406忘却そして起こる奇跡:2007/03/05(月) 02:16:56
忘却
忘れようとしても忘れられない憎い奴

忘れられようとしても忘れられない嫌な奴

忘れたくても忘れられない私のライバル

忘れたくても忘れられない・・・本当に嫌な奴

何で忘れられないの・・・?

わかってる、それはあいつの事が・・・・好きだから・・愛してるから・・

407忘却そして起こる奇跡:2007/03/05(月) 02:19:05
其れは忘れたくても忘れられない出来事

1日だけの出来事

悲しいけど暖かい出来事

私の友に起きた出来事・・・

だから思い出そう、この「夢幻の冠帯」が・・・

408忘却そして起こる奇跡の駄作者:2007/03/05(月) 02:20:11
何となく考えてみただけ(つω・)少し展開考えさせて
続きとか頭の中で考えてるんだけど詳しくは考えてナスwww
当然つまんない 言われたら止めますOTZ

409名無しさん:2007/03/05(月) 14:02:51
とりあえずプロットとか書いてストーリーの骨組みはくんだほうがいいぞ
行き当たりばったり、思いついたことをすぐに書くってやりかただと
必ず投げっぱなしジャーマンになるから気をつけたほうがいい

410忘却そして起こる奇跡の駄作者:2007/03/05(月) 20:17:45
プロット、骨組みは考え終わってるんだけど書ける筆力と自分の記憶力に自信が・・・
もう少し考えてみて自分に納得いくように下書きできたら纏めて投下します

411名無しさん:2007/03/09(金) 04:19:14
どのSSも面白いなぁ、職人さんたちGJですよ。
ところで質問なんですが、『歯車』でアラストールが
>「貴様、我等がなぜお前自身に言わせることを選んだと思う!!なぜ我等がシャナに言わなかったと思う!!」
って言ってるんですけど、……なんでなんでしょうか?
自分には『悠二と二人きりにさせて(アラストールもいるけど)悠二の口から言わせたほうがシャナも幾分か説得しやすいから』
としか思えません……うぅ、我ながら残酷だ。
でも結局の所、どうなんでしょうか?

412普段お世話になっている者:2007/03/09(金) 19:22:07
>>411
そこらの描写は次の投下で書きますんでお待ち下さい。

413411:2007/03/10(土) 19:16:33
作者自ら答えてくれるとは……!
了解しました。リアルに支障が出ない程度にがんばってください!

414大擁炉の苦悩 1:2007/03/12(月) 00:25:59
ブロッケン要塞の入場式典も終わりを告げました。
我らが主”棺の織手”の大号令と共に皆が各自の持ち場に戻るべく
散らばって行きます。
我々”九劾天秤”はこれから主塔に場所を移して
今後の作戦会議の予定です。
さぁ、ではいきますか。
・・・と、その時
「我が天秤達よ。欧州に移ってきて時も浅かろう。
会議は夕刻、日没からとする。
この場は一度解散とする故
各部隊の”徒”達に訓令や労いの言葉などをかけてやれ。」
なるほど、さすがは我が主。
軍団の皆への配慮、さすがでございます。

皆、一礼をしてこの場は解散です。

ニヌルタ殿、ソカル殿は各々統括する部隊を
召集する為でしょう。伝令役を呼んでいます。
フワワ殿は・・・
副将を呼んで何やら話しています。
めんどくさい事はまかせる、と聞こえたような・・・
ウルリクムミ殿は城門の方へ巨体を揺らしながら歩いて行きます。
そうだ、あとでアルラウネ殿の恩賞の件で行かねばなりませんね。
部隊を持たない我々はこのまま主と共に主塔へ移動ですね。
私、イルヤンカ殿、メリヒム殿、ジャリ殿・・・
あれ?チェルノボーグ殿がいつの間にか消えておられます。
はて、彼女は統括する部下はいないのでてっきり一緒に来られると
思っていたのですが・・・。

415大擁炉の苦悩 2:2007/03/12(月) 00:26:33
「どうされたか、宰相殿」
イルヤンカ殿が語りかけてきました。
「いえ、チェルノボーグ殿がいつの間にかいなくなっていまして・・・
 はて、なにか任務があったか考えておりました。」
するとジャリ殿が
「頂の風はまだ冷たい」「だが彼女は駆け出した」「彼女の心はここにあるのに」
・・・どうやら外に出ていかれたようですね。
まあ自由時間という事ですし、さほど問題はないでしょう。

「・・・・・・。」
ん?主が何やら考えているような表情をしています。
「我が主、どうかなされましたか?」
「宰相、そなたこれからやるべき事はあるか?」
「は、要塞の建造に功のあった徒をウルリクムミ殿と選出致します。
 その後はソカル殿、ニヌルタ殿を交え平時の防衛部隊の動きの再確認を
 するつもりです。」
「ふむ・・・では取り急ぎ行う事でも無いようだな。」
「は、特には・・・」
「では、隠密頭に伝言を頼みたい。」
「は?わ、私がですか?」
「そうだ。」
「はぁ・・・わかりました。では、なんと。」
「「この一時を過ごせ。」これだけを伝えよ。」
「それだけ・・・ですか?」
「うむ。それで伝わろう。」
「かしこまりました。「この一時を過ごせ」ですね。では・・・」
私が走り去ろうとした時、主がまた声を掛けられました。
「宰相、もう一つ注文がある。この伝言はそなた自身で伝えてくれ。」
「・・・かしこまりました、我が主。では・・・。」

416大擁炉の苦悩 3:2007/03/12(月) 00:27:58
はぁ、弱りました・・・。先程チェルノボーグ殿に宰相たるものが伝言云々と
怒られてしまったばっかりなのに・・・。
主の命と言えば彼女も解って下さるでしょうけど・・・。
でも、この伝言の意味はなんなのでしょうか?きっと私ごときには解らない
主のチェルノボーグ殿への気遣いなのでしょう。
私が彼女の機嫌を損ねてしまったようですし、主には苦労をかけてばっかりです。
チェルノボーグ殿にも怒られてばっかりです。何故なんでしょう・・・?

城門を出た所でウルリクムミ殿の部隊が集まっていました。
統率のとれた精鋭部隊ですね、相変わらず。
これなら安心して作戦行動をまかせられ・・・
「宰相殿、どちらへ?」
「うわ!・・・ア、アルラウネ殿!
 申し訳ない、考え事をしていたもので。」
「びっくりさせてしまいましたか?」
「いえいえ、平気です。実は、主からの伝言をチェルノボーグ殿に
 伝えに行く所なのですよ。先程怒られてしまいましたが
 主より私自身で行くようにと言われまして・・・。」
「そうでございますか、では僭越ながら私もチェルノボーグ殿に
 お伝えすべき事がございまして、一緒にお願いしても?」
「えぇ、かまいませんよ。でも、ご自分で伝えなくても良いのですか?」
「ただいま部隊の再編中でして離れられないのですが?」
「わかりました。では、何と伝えれば?」
「セイヨウタンポポです、と」
「わかりました。では・・・」
アルラウネ殿に一礼をし、私は城外へ歩き出しました。

しかし、ジャリ殿が外に出たと言ってましたが彼女はどこに
行ったのでしょうか?
幸い日没まではまだ時間もありますが・・・
そうだ、先程いた岩場に居るのかも。
アルラウネ殿も先程一緒に居たし、その確率が一番高そうですね。
まずはあそこに行ってみましょう.
伝言は・・・
「この一時を過ごせ」と「セイヨウタンポポです」
これで彼女の機嫌が直ってくれれば良いのですが・・・。
しかし、私もどうにか彼女を喜ばせられないですかねえ。
全く、女性の心は解りません。困ったものです。

417大擁炉の苦悩 駄作者:2007/03/12(月) 00:32:22
モレク視点でキープセレクの補完をしてみました。
初SSなのでツッコミ所満載でしょうがご容赦下さい。
感想、ツッコミお待ちしています。

418忘却そして起こる奇跡の駄作者:2007/03/14(水) 21:57:41
(`・ω・`)プロット等まとめてみたので投下してみようと思います
初SSなので変なところは簡便してくださいOTZ
大擁炉の素晴らしいと思います

419忘却そして起こる奇跡:2007/03/14(水) 21:59:42
これから語られるその物語
その物語を知るものいや記憶せしものは世界に2人
当事者でさえ知らぬその出来事を私が語ろう

420忘却そして起こる奇跡:2007/03/14(水) 22:03:53
何故であろう忘れたいのに忘れられない
忘れたいのに忘れられないその男
私に心を向けてくれなかったその男
何十年もの間戦い続けたあの男
圧倒的な力を誇り同胞を屠ったあの男
美しい炎の翼をまとい・・・私の心を惹き付けたあの男
私と共にあの方を育て上げたあの男
あの時・・・死んでしまったあの男
嫌な・・・そう本当にに嫌なあの男
・・・けど忘れられない
何故?わかってる私があの男を・・愛してたから・・・・

421忘却そして起こる奇跡:2007/03/14(水) 22:07:30
何故だろうあいつの言葉を聞いてから心を焦がし忘れる事が出来ないあの女
俺の宿敵であるあの女
俺の友である古竜を屠ったあの女
俺の愛した女の友であるあの女
美しき桜色の炎を舞わせ俺達と戦いそして倒したあの女
俺と共にあいつを育て上げたあの女
嫌な・・・そして不器用なあの女
何故だ?その答えは出ない、だが会いに行こうあの女の下へ

422忘却そして起こる奇跡:2007/03/14(水) 22:17:42
序章

炎の魔神は感じた
自分に語りかける声を
自分に対する親しみを
自分と同等の力を持つそいつの声を
死を司りしもののいつのまにか消えたそいつの声を
懐かしくも思い出せないその声を
何年?何十年?何百年?聞くことが無かったその声を
其れは数多の物語を作り数多の英雄を作り出したそいつの声を
炎の魔神の・・・友の声を

423忘却そして起こる奇跡:2007/03/14(水) 22:25:16
「・・・ル・・トール・・・アラストール・・・」

「聞こえるか我が声が・・・久しぶりだな我が友よ・・」

「むぅ?!誰だ貴様は!!我が心に入り込むとは何奴だ?!」

「そうか・・・忘れたか・・・我れが眠りし年月は我らが絆を奪ったか・・・」

「・・・友だと?眠りしだと?絆だと?!まさか・・・まさか貴様は・・・」

「我を忘れしものに用は無い・・さらばだ我が友よ今より我が徘徊を始めよう・・・」

「待て!!貴様は・・貴様は・・・ハディロスであろう?!貴様はあの時死んだのでは無かったのか?!答えよ!!」

「我を・・覚えていたか・・だが我が用はお主に対する挨拶だけ・・さらばだ・・我が友よ我を忘れてなかった事に感謝する」

「待て!!待つのだハディロス!!!」

「さらばだ・・我が友よ・・・因果の交叉路でまた会おう・・・」
声はそこで途切れた
そして物語は紡がれる・・・優しくも悲しきその物語が・・・

424忘却そして起こる奇跡:2007/03/14(水) 22:48:52
物語の始まり

ある酒場では酒を飲むに相応しくない嫌な空気が漂っていた
笑いながらも笑えず苦しく其の怒りが恐ろしくゆっくり酒も飲めず誰も席を立つ勇気が無い為店を出ることが出来ないのである
その原因であるヴィルヘルミナは悩んでいた
自分が養育したあの方がちゃんと戦っているか
あの方はちゃんと炎の魔神と一緒にいられているか
あの方はちゃんと好き嫌い無く物を食べているか等を・・・
「ティアマトーあの方はちゃんと戦っているでありましょうか?」
「心配無用」
「ティアマトーあの方はアラストールとちゃんと語り合えてるでありましょうか?」
「・・・・心配無用」
少し声に苛立ちが混じっているのは気のせいでは無い
だがヴィルヘルミナは続ける
「ティアマトーあの方はちゃんと好き嫌い無く食べてるでありましょうか?心配であります・・・」
何か切れてはいけない糸が切れる音がした
「心配無用!!沈黙要請!!!仕事怠惰!!!」
夢幻の冠帯の怒鳴り声が酒場に響き渡る。酒場の討ち手達がまた驚いたようにこちらを向く
「悪いのであります・・・少し心配で・・」
美しきフレイムヘイズが自分の相棒に子供の様にうな垂れながら謝る
「・・・沈黙破壊、謝罪」
ティアマトーは答えず酒場の客に謝る
同じような二人の子供のような様子に笑いをこらえる討ち手達はヴィルヘルミナの強さのせいで笑うことも出来ずに苦しんでいるのも気のせいではない
「悪いのであります・・・しっかり仕事をするのであります」
ヴィルヘルミナは書類に目を落とす
この頃世界に様々な不思議な出来事が起こっていた
そう有り得ない出来事が
ある者は大量のトーチが存在の力を回復し元の「人間」へと戻ったと語り
ある者は500年前討伐されし紅世の王の炎を見たと言えば
ある者は何かに違和感を覚えると言う
ある者は骸骨が歩き回っていたと話す
その全てが世界の各地で噂され様々な討ち手が体験したという
ただヴィルヘルミナ自身もその違和感を感じているのでこの噂の調査に乗り出したのであり
馬鹿馬鹿しいと思いながらその調査をしているのである
ヴィルヘルミナは骸骨と聞いてある出来事を思い出す
本当に嫌な奴であり・・自分の・・・
「関係無いのであります!!!」
「?!」
酒場の客もティアマトーも驚く
「あ・・・申し訳ないのであります・・・」
そして書類を見ているとあの方の事を思い出す
「ティアマトーあの方は・・・」
「・・・沈黙要請!!沈黙要請!!沈黙要請!!」
そしてこの迷惑な騒ぎは夜まで続くのである

425忘却そして起こる奇跡の駄作者:2007/03/14(水) 22:51:33
うー・・グダグダだ・・・
とりあえず文才が無いのでつまらないのは勘弁してください(つω・)ウウ・・・
つまらん と言われない限りがんばって続けてみます
スレを無駄に使ってすいません(つω⊂)ウワァァァン

426名無しさん:2007/03/14(水) 23:58:28
>>425
キタ━━(゚∀゚)━━!!
ヴィルもティアもかわいいよ(;´Д`)ハァハァ

427忘却そして起こる奇跡の駄作者:2007/03/15(木) 11:10:38
続きを書いてみよう・・・
とりあえずカスなものなので許してやってくだしあ

428忘却そして起こる奇跡の駄作者:2007/03/15(木) 11:22:32
続章

三者三様の足取りは
一つの場所で出会うだろう
其の物語を終わらせる為に



そこは熱帯のジャングル
だがジャングルに相応しくないソレが歩いていた
メイド服に風呂敷包みという現地の人間が見たら驚くであろう格好で
万条の仕手は歩いていた
「・・・暑いのでありますな」
「・・・熱帯」
500年前の戦で徒に恐れられた討ち手とは思えない声で歩くヴィルヘルミナ
「こんなところに本当にいるのでありましょうか・・・」
「不明、確認来訪・・・」
「そうでありますな・・・」
彼女の声にはまったく元気が無い
何故彼等はこんな奥地にいるのか、其れは噂の確認の為である
この奥地で500年前・・・様々なものが死んでいった戦で討伐されたはずの炎を見たという証言があったからだ
そう・・・様々な者達が・・
だが其れは置いておこう
そしてヴィルヘルミナは其の確認の為に着たのである
だが当のヴィルヘルミナはまったく元気が無くそれが暑くないはずのティアマトーの声の元気の無さの理由である


世界の誰もが気づかない
その有り得ないはずの出来事に
其れは嬉しき事なれど誰も気づかぬが為に
そう死人が蘇るという事に・・

429忘却そして起こる奇跡:2007/03/15(木) 11:37:56
三者三様の足取りの
集うこの不思議な村で
一人の女が到着した
物語を紡ぐ為に
まだ始まらぬ優しき悲しみの為に



「・・・アレは・・光でありますか?」
「光源確認」
「ふむ・・・こんな場所に集落があるとは・・調べる必要がありそうでありますな」
ヴィルヘルミナはそういうと其の場所に向かって足を踏み出した
・・・その違和感に気づかずに

「・・・?」
・・・・其の村は何かが変であった
普通の村と変わらぬ情景
旅人に対する歓迎
語り合う人々
だが何かを思い出す様な感覚
だが其れに気づかず歩き出すのは長旅の疲れのため
ヴィルヘルミナは近くにいたカップルに話しかける
「この痩せ牛!!今日は用事があると言ったろう!!」
と白面の美女が怒っている
「す・・すいません村の中心が壊れてきていたので設計を頼まれて・・」
気弱そうな若者が謝っている
そのカップルに話しかける
「・・・つかぬ事を伺ってよろしいでありますか?」
「っとすいません何でしょうか?」
若者が女性から逃げるように答える
「ここに宿場は無いでありましょうか?」
「ああ、ありますよ。そこの角の建物です」
「感謝するであります」
「いえいえ」
数瞬後怒りの声が聞こえる
「・・・痩せ牛?」
「な・・なんでしょうチャルノボーグ殿・・」
「私以外の女と話すとは何事だ!!」
そんな声を聞きつつヴィルヘルミナは宿へ向かう
500年前の宿敵と気づかずに
周りの人間が既に消えているはずの紅世の者共である事に気づかずに・・・
宿屋「とむらいの鐘」へ入っていく


ただ覚えるだけの辛き記憶よりも
忘却する事は時に優しい
だが大事なものを忘れ去るよりは
辛き記憶に耐えるほうがいいだろう

430忘却そして起こる奇跡:2007/03/15(木) 11:42:34
三者三様の足取りの
鍵となる王が到着した
其の村を作りし其の王が
物語を忘れ去らせる為に


深夜
物音がした
だが誰も気づかない
歩いているのは人ではない
炎と呼ぶべきか・・いやそんな生温いものではない
それは「焔」だが不思議な色をしていた
其の色は・・・蒼



蒼き焔が舞い降りる
有り得ない色を纏ながら
避けられない戦いが今始まる

431忘却そして起こる奇跡:2007/03/15(木) 11:59:41
三者三様の足取りの
最後の男が到着した
様々な色を纏いつつ
物語を守るためにやってきた



ヴィルヘルミナは謝っていた
勤勉そうな男とその男に寄り添う女性に
その訳はいつもの様に調べ物をしていたところ
酒の勢いで酒場の机を壊してしまった為
「・・・申し訳ないのであります」
「謝罪・・」
原因となる二人が謝る
「まぁ次から気をつければよかろう」
「そうそう今度からは気をつけてくださいね」
二人は優しくそう諭す
「本当に申し訳ないのであります・・」
「心底謝罪・・・」
この所の自分達の馬鹿な行為に幻滅しながら謝る二人
だがまた気づかない
女性が夫をアジズ と呼んだことに
そして彼等も違和感を感じない
目の前の女性のヘッドドレスから声が聞こえることに
その伝説の紅世の王と同じ名前を持つ者は
新たに着た客を出迎える
傲慢そうな顔で剣を腰に下げ
その主人に金を渡し部屋に向かおうとする
その仕草は少しだけ主人に対する敬意がこめられ
だが何気なく振り向く
そして驚愕の表情をした
そこにいた討ち手に
当のヴィルヘルミナは気づかない
「?・・どうしたのでありましょうか?」
「い・・いやすまない俺の知り合いと・・似てたものだから」
「ふむ・・?そうでありますか」
「ああ・・・すまなかった」
その男・・メリヒムに気づかずヴィルヘルミナは答える
そこに声が割って入った
「あー・・すまないがお二人さん」
「「?」」
「部屋が空いてなくて2人部屋になるのだが・・・」
「「な?!」」
「な・・何故でありますか?!困るのであります!!」
「そうなのか・・・他に宿屋を探そう」
動転するヴィルヘルミナと違いメリヒムは落ち着いて話す
「すまんが・・・うち以外に宿屋は無いんだ・・」
主人の言葉
「そうか・・ではヴィルヘルミナ・カルメル一緒の部屋でもいいか?」
「う・・・しょうがないのであります・・・」



片方は忘れ片方は記憶する
どちらが辛いのかと聞かれれば答えることは出来ぬ
だが物語りは終焉へと近づく
誰の記憶にも残らずに・・・

432忘却そして起こる奇跡:2007/03/15(木) 12:16:13
三者三様の足取りの
全てが揃いしその時に
破壊する者は現れる
入れるはずの無い領域に
物語の敵役として・・




何気ないやり取り
そのやり取りに驚く男を不思議に思いながらヴィルヘルミナは自己紹介をする
「私はヴィルヘルミナ・カルメル貴方の名前は何でありますか?」
「あ・・ああ・・俺の名はメリヒムという・・」
まるで諦めたように答える男を更に不思議に思いながらヴィルヘルミナは喋る
「夕食をもらってくるのであります。貴方はどうでありますか?」
「ああ・・俺はいらない・・ありがとう」
その言葉を聞いてヴィルヘルミナは頷き部屋を出る
その瞬間部屋の中の空気が変わった
「・・・お前か」
「お主を蘇らせたものにお前とは・・・酷いものよ」
蒼き焔が答える
「何故あいつは俺を忘れている?いや何故この村は・・・」
虹の翼は焔に聞く
「覚えていれば悲しみがあろう。お前はあの女を悲しませたいのか?」
蒼き焔は諭す
「・・・そうか、感謝する」
そしてその声が変わる
「一つ言っておこう2日後に奴が来る。そのときお前は消えるであろう」
「わかっている。ではこの生活を満喫しよう」
「ならば我は退散しよう世界の調和を守るが為に」
「ああ・・わかった」
そして焔は消えた



「・・・?いないのでありますか?メリヒム」
その声は静かな室内に響く
「先に入浴を済ませるでありますか」
「入浴無駄」
ティアマトーの言葉に反論するヴィルヘルミナ
「長い人生楽しみを作っても間違いではないであります」
「・・・」
呆れた沈黙
「むぅ・・とりあえず入ってくるのであります」
逃げるようにヴィルヘルミナは席を立つ
そして風呂場
前をタオルで隠した姿でいつもより楽しそうな表情で風呂に入るヴィルヘルミナ
だが表情は余り変わらないのは相変わらずである
「ふむ・・広くて入り心地がよさそうでありますな」
「・・・誰だ?」
「?!」
突如聞こえた声に驚くヴィルヘルミナを無視して風呂の中からメリヒムが立ち上がる
「?!な・・」
珍しく絶句するヴィルヘルミナと同じく呆然としているメリヒム
メリヒムはタオルをつけておらずまぁ・・・何も隠してない状態だった
数秒後
ジャングル中に響き渡る悲鳴と音高く打ち鳴らされる張り手の音が村に響いた

433忘却そして起こる奇跡の駄作者:2007/03/15(木) 12:18:05
@10話ぐらい書き込んだら終わらす予定です(つω・)ウウ
ダラダラと長ったらしくてすいません;;
では明日らへんにまた書きます(`・ω・`)

434名無しさん:2007/03/16(金) 00:58:16
超www
ヴィル×メリヒムラブラブ物語がいいw

435忘却そして起こる奇跡の駄作者:2007/03/17(土) 22:58:36
三者三様の
足取り全て揃いしこの舞台
敵役も現れて
役者は揃いし物語
終焉の一歩手前の
狂ったこの日を楽しもう
其れが最後の日なのだから

部屋には異様な沈黙が流れていた
片方は怒りの表情
片方は困った表情
ただ共通するは何故か二人の顔が赤いという事
沈黙が続く。
その沈黙は、誤解を解くチャンスを消していた
しかしその沈黙は破られる
「・・・誤解修正」
紅世の王の声に二人は同時に声を出そうとする
「「あ・・」」タイミング良く声が合う
そしてまた沈黙は続く
紅世の王はもう仲裁を諦めた


その後誤解は解け食事を始めたもののやはりまだ気まずい
だが美味しい食事というものの不思議な魔力に操られ
二人の気まずさは消えていく
「・・・これはうまいのでありますな」
「ああ・・・うまいな」
だがしかし淡白な二人である為か二人の会話は弾まない
紅世の王は呆れていた



全てが寝静まり闇と沈黙と夢の世界
その夢の世界からメリヒムは起きて来た
「ティアマトー」
「・・・宿敵」
元・紅世の王は宿敵の王に話しかける
「お前は俺の事が解っているようだな」
「・・・蒼焔、蘇生」
驚きながらも口を開く
「・・知っていたか、頼みがある」
「・・何事?」
「俺の事をあいつに話さないでくれ」
「何故?」
「あいつに・・・あいつに悲しみを背負わせたく無い」
その切実な願いにティアマトーは簡単に答える
「受諾」
「有難う・・・感謝する」
「健闘」
其の言葉に先程よりも驚きながらも苦笑しつつ答える
「お見通しだな。では行って来る、・・・また朝会うか消えてくか・・・わからんがな」
「・・・再会期待」
「ああ、いってくる」
そして虹の翼は夜の村を飛び去った

436忘却そして起こる奇跡の駄作者:2007/03/17(土) 22:59:59
ジャングルの闇の中暗い声が響き渡る
「・・・我等が怨念・・・晴らす・・・」
「この悔しさを」「恨みと変えて」「奴を倒そう」
「殺すうううう、奴をおおお」
「あいつを殺してやる!!」
「・・・この恨み晴らしましょう」
「其の通りだ痩せ牛」
「この苦しさを・・晴らしてくれる」
「我等が苦しさの代償に奴が命をもらおうぞ」
「めんどくせぇが俺を殺した恨みを晴らす・・」
十の声が響く
「いざ行くぞ・・・我等が敵の片割れと裏切り者の粛清に・・・!!」
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」
闇の中十の咆哮が響き渡る
そして・・・全ての色が混じり合った様な濁った・・・炎を吹きながら
その塊は動き出す
「・・・止まれ」
「何奴・・」
暗き声は答える
「盟主・・そして友よ・・済まない・・」
「裏切り者!!」
十の声は気づく
その男・・・メリヒムはその塊に立ちはだかる
守る為、そして紅世の魔神に言われ気づいた・・・愛する女の気持ちに答える為に
そして運命の戦いが・・・始まらなかった
蒼き焔によって
「お主の出番はまだ先である。戻れ」
「何を・・・?!ぐっ・・」
焔は両翼が一人を一瞬で気絶させる
そしてその塊に言った
「我が蘇らせしお主等とこの者の戦いはまだ先である退け」と
「裏切り者を殺す・・!!」
蒼の焔はため息をつきながらメリヒムを 飛ばした
1日だけの幸福を感じさせる為に
その先の悲しき運命の為に
そして言う
「ならば我が相手をしよう。ここならば誰も気づかぬ」
「オオオオオオオオオオ!!」
そして戦いが始まる
其れに気づくは世界に二人
戦技無双の討ち手の王と、紅世の魔神
そして蒼き焔は姿を変える
青というには生温く炎と言うには小さすぎるその力を
開放し、其れになった
蒼き焔を纏いし獣
草原の伝説であり
世界を蹂躙したその名に相応しいその姿
蒼き狼へ変貌した

対する黒き塊は
竜の姿に天使の姿、牛の姿に鬼の姿、蝙蝠の姿に石版となり三つの面を象る塊となり
様々な姿へ変貌する
そして静寂が落ちる
沈黙の中蒼き狼は足を踏み出した
そして戦いは始まった
物語には無い裏の戦いが
其れを語ることはあえてしない
だが結果だけど言うならば
蒼き焔の世界の国が一つ消滅し、残ったのは守った村と森だけであり、黒き塊は退いて行き、蒼き狼は勝利した
それだけである


物語は終盤へ
誰も知らぬ物語
運命を破れるか
破れる鍵は蘇りし虹の翼と美しきフレイムヘイズ
運命の扉をたたく音がする
開くのは時間の問題である
その結果がどうであろうとも・・・

437忘却そして起こる奇跡の駄作者:2007/03/17(土) 23:02:57
あー・・・色々見にくくてすいません・・・
こんな感じで書き上げようと思ってます(つω・)
初SSでこのまま見にくいのも嫌なのでどうか悪いところを教えていただけないでしょうか?
色々なSSを見慣れてるプロの手を借りないと何もできません(つω⊂)ビエエエン

438名無しさん:2007/03/19(月) 15:32:55
改行が多いかな、逆に見にくくなってる

あとは文章の基本的な書き方か
句読点つけるとか、改行後の一字さげとか

ググればそういうの教えてくれるサイトがあるから参考にしたほうがいい
ぶっちゃけここで聞くよりそういうサイトを利用したほうがよっぽどためになる

439忘却そして起こる奇跡の駄作者:2007/03/22(木) 09:36:00
参考にしますー
少し調べてから出直してきます(´;ω;`)

440名無しさん:2007/03/22(木) 19:07:56
頑張れー

441名無しさん:2007/03/23(金) 18:41:03
シャナ「ねぇユウジー」
ユウジ「・・・」
シャナ「ユウジってばー」
ユウジ「・・・」
シャナ「返事しなさいよ!」
ユウジ「・・・」

アラストール「こいつ、奴ではないな」

ユウジ「バブー」
シャナ「って、乳児かよ!!」

442忘却そして起こる奇跡の駄作者:2007/03/28(水) 19:35:08
メリヒムは起きた。宿屋のベッドで。だが何かが変であった。何かを忘れている様な感覚・・・
しかしその感覚は長続きしない。恐ろしい殺気のせいで。其れは強大なる紅世の王であるメリヒムを恐怖させる程の殺気
「・・・起きたでありますか」
静かな声が聞こえた
「さて・・・聞きたい事があるのでありますが」
静かな声、だが少々声が昂ぶっているのは気のせいでは無い
「な・・何だ?」
状況を把握出来ないながらも答えるメリヒム
「何故・・・私のベッドで寝てるのでありますか・・・?」
声がキレかけている
「ぬ・・・本当だな」
当たり障りの無い様に答えるメリヒム、だが其れが怒りに油を注いだ
「この・・・変態!!!さっさと出て行くのであります!!!!!」
宿屋中の人々が目を覚ました
街中を一組の男女が歩いている。見た目だけならば美男美女のカップルである。雰囲気とファッションを除けば、であるが女の方はメイド服、男の方は剣を携え古風な格好をしている。
二人は街中を歩くだが男が女に弱いのはどこの世界も同じか男は女に謝っている
「だからあれは俺も何であんなところにいたのかわからないんだ」
女ともう一つの声は反論する
「いた事には変わりないのであります」「言訳無用」
男は黙り込む。
街中は賑わっていた、露天をするもの、果物を売るもの、大道芸をするもの、そして二人と同じようにカップルで歩いているもの様々な人々が歩いていた。しばらく歩くと怒鳴り声が聞こえた
「てめぇ!!俺の服装が変だと?!いつもお前はうるさいんだよソカル!!」
「私はお前の服装が奇異の目で見られているので注意しただけだがどうかね?フワワ」
怒鳴っている男は虎皮にフンドシという服装。確かに人目につきそうだ、だが注意する男の服装を言えたものではない服を何重にも羽織ってまるで太い木の様な格好だった
「大体お前だってそんな暑苦しい格好で気持ち悪いんだよ!!」
「何?!私のこの服装はれっきとした・・・」
「何でこんな暑い中そんな暑苦しい格好してんだよ!!」
周りの人達のどっちもどっちという視線に気づかず二人は言い争う
「バカでありますな・・・」「同意」
「バカだな」
そう呟いてヴィルヘルミナとメリヒムは立ち去る
しばらく歩くと今度は不思議な二人組みがいた。片方は紙人形を操って客を驚かせていると思えば片方は木で出来た人形で周りを感嘆させる。どうやら商売敵であるらしい
「ふふふ、どうだこの見事な人形の舞。貴様には真似出来まい」
マントと帽子に全身を包んだ男が言うと
「ふんっそんな紙切れ等風が吹けばもっと綺麗に舞うのではないかな?オロゴン殿」
そう人形と共に軽業を見せる男は返す
「何だと?!いくら道士殿でも言葉が過ぎるぞ!!」
オロゴンと呼ばれた男は反論する
「所詮紙人形、赤ん坊でもそんな事は出来るでありましょう」
「うぬぬ・・・最早許せぬ!!2時間後広場で勝負だ!!」
最早商売そっちのけである、観客たちは「またやっているのか・・」という視線で見ている
それを尻目にヴィルヘルミナとメリヒムは歩く
更に進むと高齢の老人が占いをしていた。その周りに観客がいる訳でも無く別段大きい訳でもないだがその周りに店は無くその店だけがポツンと立っていた
「ふむ・・面白そうでありますな」
「よっていくか?」
「ならば占い代を出せば許すのであります」
「まだ許してなかったのか・・」
等と話しつつ二人は「イルヤンカ占い店」と書かれた店へ入る。中には店の主人と思われる老人が座って
「我が名はイルヤンカと言う・・さて我が店に何の御用であろう?」
重々しい雰囲気の老人に答えるヴィルヘルミナ
「この頃いい事が無いのでありますので何か憑いているのか不安になったのであります」
「ふぅむ・・・占いとは関係なさそうだが見てやろう」
そしてしばらくヴィルヘルミナを見ていると気恥ずかしくなったのかヴィルヘルミナが尋ねる
「ど・・どうでありますか?」
「お主には何も憑いてないな。ところでそこの男」
と、行き成り尋ねるイルヤンカにメリヒムが答える
「何だ?」
「どこかで会った事は無いか?」
「俺は・・・会った事は・・・無い」
少し苦々しげに呟くメリヒム
「ふむ・・我も耄碌したようだな・・済まなかった」
「いや・・気にするな」
「済まぬな・・お詫びに占い代はタダだ」
そう言うイルヤンカにヴィルヘルミナは答える
「感謝するであります。ですが罰としてこの男に払わせるので出来れば受け取ってほしいのであります」
少し意地悪そうに言うヴィルヘルミナにイルヤンカは笑う
「はっはっはっでは銅貨1枚でよかろう」
「有難うイルヤンカ」
「ではまた店に寄ってくれさらばだ」
そして二人は店を後にした

443名無しさん:2007/04/02(月) 14:37:07
文章中では一行でも40文字辺りで改行するとより見やすくなるぞ

444普段お世話になっている者:2007/04/03(火) 15:11:35
それでは続きいきます。

445半分の月:2007/04/03(火) 15:12:43
彼女は大きな木の前に立っていた。
夜も完全に暮れ周りに人の気配は無い。彼女を照らすのは冷たい街灯だけ。
その身を漆黒の衣で包み、待ち人を待つ。
(今の僕じゃあ…答えられない…)
彼は自分の気持ちには答えてはくれなかった。それは仕方のないこと、悠二が決めること。
(あきらめなきゃ…あきらめな…きゃ…あきらめ…)
それでも心にあふれてくるのは、彼の声、彼の言葉。
目をつむっても見えるのは、彼のぬけた顔、怒った顔、泣いた顔、そして笑顔…
(出てきちゃダメだってば…)
自分の一番大切なもの。それが今彼女の心をしめつける、傷つける。
上を見る。この黒い空に逃げ出したい。いっそ溶けてこんでしまいたい。


「シャナ」


彼の声がした。

446半分の月:2007/04/03(火) 15:13:24
「遅くなっちゃったね」
彼は申し訳なさそうに言う。
「………」
彼女はなにも話さない。
「さっきはゴメン」
彼の謝罪の言葉。シャナは思う。
「いい…悠二が決めたことだから」
もう、この温かい隣には居られないのだと。
「あきらめる…から…」
我慢し続けていた涙がこぼれる。
坂井悠二はしゃがんで泣いている少女に目線を合わせた。
「シャナ」
二度目に自分を呼ぶ声。彼は笑顔だった。
その笑顔がまぶしくって。それなのに消えてしまいそうなくらい揺らいでいて…
見ていたいけど辛くて。恥ずかしくって…
下を向いてしまった。涙を流しながら。
「シャナ」
三度目、と同時に温かい…大きい物が自分を包んだ。
「僕はシャナが好きだよ」
「え…」
四度目には自分が一番欲しかったものをくれた。

「ほんと…に?」
「うん、大好きだよ」
また涙があふれた。さっきの悲しみの涙ではなく、もっと温かいところからくる温かい涙。
もう無理だと思った。そばにいられないのだと思った。
でもいられる。悠二の一番近くにいられる。
「悠二」
自分を抱きしめてくれる人を抱きしめ返す。
強い力で。
「だから…」
彼は自分を抱きしめながら口を開いた。
「君になら消されたっていい」
彼の抱きしめる力は弱かった。
今にも消えそうなくらいに…

447半分の月:2007/04/03(火) 15:14:14
「そんなはずない!!」
彼女は怒っていた。そして、それ以上に混乱していた。
「落ち着け!シャナ」
遠雷のような声が彼女をなだめる。
「悠二が消えるはずない!消えるなんて許さない!!」
彼が言っている意味がわからない。
「シャナ」
いや、本当はわかっている。
「僕は、できるなら…あと少しだけの時間しかないけど」
認めたくないだけ。
「君といたい」
彼がいなくなることを認めたくないだけ。


だから逃げ出した。
彼のもとから。
これ以上彼の近くにいれば、必ず自分は彼を殺さなきゃならなくなる。

空は黒い。
どこまでもどこまでも。
月が半分だけ白かった。

448半分の月:2007/04/03(火) 15:15:34
部屋にいるとき、ずっと考えていた。
僕がシャナに言わなきゃならない理由。
シャナは強い。きっと僕を消す。どんなに迷ったとしても。
彼女はフレイムヘイズだから。

きっとこれは僕のため。

決めた。
そして選んだ。
僕の残された時間を全部シャナにあげよう。
それが僕にできること。
大好きな人に一番したいこと。
自分を好きと言ってくれる人へ一番してあげたいこと。

彼女はどこかへ行ってしまった。
僕は自分勝手なのかもしれない。
だから待つ。
この「今」は彼女のための時間だから。

風が強い。
ビュービューと。
月が半分だけ黒かった。

449半分の月:2007/04/03(火) 15:16:32
彼女は御崎市ではないどこかにいた。
「…」
彼女は身を丸め、俗に言う体育座りと呼ばれる座り方でどこかのビルの屋上に座る。
「アラストール…」
「なんだ」
魔人が答える。
「アラストールはどんな気持ちだった?」
「…」
そのまま半刻ほど時間が経つ。
二人に会話はない。
「昔話をしよう」
もう半刻して魔人は口をひらいた。



遠い昔、一人の女フレイムヘイズと紅世の王がいた。
二人は顔が見えずとも、声しか聴けずとも愛し合っていた。

ある時、ある大きな戦が起こった。
その戦いはまさしくフレイムヘイズと紅世の徒の総力戦となり、戦いはもつれるにもつれた。

その戦いのさなか、女は敵軍の王に言った。
―私たちは自己満足が第一の酷いやつらだから―

女は王を倒すために身を自分の愛した男に焼かせた。

敵軍の王はうろたえた。
―愛し合って…いるのだろうが!!−
女は笑った。
―それは、別れない理由にはならないわ―

王は彼女に言った。
―これでよかったのか―
彼女は燃え尽きる前にこう言った。
―いいのよ、私は納得してるんだから―

敵軍の王が訪ねた。
―愛し合う者が、互いの生きる道を…なぜ、選ばぬのだ!!−
王は答えた。
―我らは、共に生きて、此処にある―



「…」
彼女は立ちあがった。
月はまだ空にいた。

450半分の月:2007/04/03(火) 15:17:14
どれくらいここにいただろうか。
いろんなことを思い出していた。
十年くらい前のこと、最近のこと、普通のこと、紅世のこと、そしてシャナのこと。
僕に残された時間はあと一日から二日というところだろう。
死ぬことが恐い。その気持ちは変わらない。
消えることが恐い。今だってそうだ。
でも僕は笑えた。
彼女を抱きしめながら笑えた。
生きることを諦めたのかもしれない。
でも僕はシャナと生きたいと願った。
残ったこの時間すべてを彼女に使いたい。
そんなことを考えていたら

―新しい 熱い歌を 私は作ろう―

空から歌が聞こえた。

451半分の月:2007/04/03(火) 15:18:01
―風が吹き 雨が降り 霜が降りる その前に―
知らない国の言葉だ。
―我が恋人は 私を試す―
でも知っている声。
―私が彼をどんなに愛しているか―
彼女の声から伝わる。
―どんな諍いの種を 蒔こうとも無駄―
言葉はわからなくても。
―私は この絆を 解きはしない―
このきれいな声は
―かえって私は 恋人に全てを与え 全てを委ねる―
きっと覚悟の声。
―そう 彼のものとなっても構わない―
歌がだんだんと大きくなる。
―酔っているなぞとは 思い給うな―
僕は空を見ている。
―私が あの美しい炎を 愛しているからといって―
月は相変わらず半分だけ。
―私は 彼なしには 生きられない―
白も黒も半分ずつ。
―彼の愛の傍にいて それほど私は―
歌が止んだ。
綺麗な紅い髪。赤い眼。
「あなたが好き」
彼女は笑っていた。
僕も笑っていた。

452普段お世話になっている者:2007/04/03(火) 15:19:39
短くてすいませんが、今回はここまで。
続きは近いうちに書きます。
では

453普段お世話になっている者:2007/04/03(火) 20:16:40
書き忘れてました。
今回の投下はある作品をインスパイアさせて貰っています。
他作品をインスパイアしているSSが嫌いな方はスルーして下さいm(_ _)m

454名無しさん:2007/04/05(木) 02:08:09
すっげーーー!
まだここ稼動させてくれる人がいたのか!

455名無しさん:2007/04/05(木) 21:09:42
GJ!
にしても反応がないな…

456名無しさん:2007/04/05(木) 21:35:30
>>453さん
GJ!!です

457arere:2007/04/05(木) 23:46:07
まじで感動もんだ

458名無しさん:2007/04/07(土) 15:32:01
久しぶりに来たけどGJ!!

459名無しさん:2007/04/07(土) 21:56:35
ここ使ってくれる職人さんがいない中、このクオリティはマジGJ
続き期待してる

460普段お世話になっている者:2007/05/08(火) 20:27:36
かなり遅くなった。
投下します

461普段お世話になっている者:2007/05/08(火) 20:32:13
それから。
まずはパン屋へ。
「シャナ、そんなに真剣になってまで選ばなくても…」
「うるさいうるさいうるさい!!悠二は黙ってなさい!」
彼女の眼は、もはや少女の眼ではなく紅世の王と対峙するときと同じ…もしくは、それ以上の気迫を放っていた。
その気迫を直に受けるのは煌々ときつね色…いや、黄金色に輝きし二つのメロンパン。
ひとつは網目模様が芸術とも呼ぶにふさわしいほどの美しさを持つパン。
この網目メロンパンには燕麦という粉が入っており通常のメロンパンにさらに香ばしさとさらなるカリカリ感を与えるというものであった。
そしてもうひとつはシャナが好むにしては珍しい、ある技巧が施されたパンであった。
そのパンは通称『ツインカーリモフ』と呼ばれ、通常のメロンパンの中にパイ生地の層を挟むことにより、上段でのクッキー生地によるカリモフと中段でのパイ生地によるカリモフとの二種類のカリモフを楽しむことが出来るという夢のようなパンであった。
「メロンパンらしさを求めるならこっち…でも悠二と一緒に食べるなら…」

そうしていること一時間…

「決めた!!」
「やっと決まった!どっちにしたの?」
「どっちもおいしそうだからどっちも買う」

462安息と絶望と…:2007/05/08(火) 20:34:27
二人でメロンパンを食べながら歩く。
「ちょっと悠二!!食べ方が違う!!」
「えっ、でも前にシャナがこう食べるって…」
「違う!それじゃあカリカリの部分が先になくなっちゃうじゃない」
「じゃあどうすればいいんだよ?」
「交互に食べるの!ちょっとそこでみてなさい」
そう言っておいしそうに、うれしそうにメロンパンを口へ運ぶ。
そんなほほ笑ましい姿を心に刻みつけながら、毎日のように歩いていた道を行く。
通学路。
僕達は今、学校へ向かっている。俗に言う「お別れパーティ」のようなものである。
マージョリーさんが話してくれたのだろう、佐藤から朝電話がきて
「学校で急遽パーティをすることになった。理由は聞くな。昼に学校に来い!以上だ」
と一方的に言い放って電話を切られた。
「別に気を使ってくれなくたっていいのに」
とまあシャナがいる前ではカッコつけてみたが…
「悠二、顔」
やはりバレバレだったらしい。

463安息と絶望と…:2007/05/08(火) 20:36:50
パーティの方は、何のことはない、いつもの昼休みにちょっと豪華な料理と学校に持ち込めば一発で停学は免れないであろうジュースが加わっただけのものだった。
「さ、佐藤君…これはちょっとまずいんじゃあ…」
「こういうときは気にしちゃダメだってば」
「そうだよ吉田ちゃん。田中の言うとおり!停学が恐くて酒なんかのめるかぁ!」
「だけど教室でお酒なんて…」
「気にしなーい気にしない!」
二人はすでに出来上がってしまっているらしい。
「悠二、コレ何?」
「あー、チューハイっていうお酒の一種だよ」
「お酒…」
シャナは机に並んでいる缶の一つに手を伸ばし

くんくん

臭いを慎重にかいだあと

ガシッ

腰に手を当て、缶をしっかりと握り

ごきゅごきゅ

喉を鳴らしながら500ml缶を一気飲みして

「しゃ、シャナ!?」

そこからは地獄絵図…
「ゆうじぃ、ごはん帳 ぢ」
「ご飯って、目の前にお菓子があるじゃないか」
「やーや!えっとねぇ、おむらいす!」
「無理だってば!」
「悠二、作ってくれないんだ…ぐすっ…」
「そんな泣かれても…」
「シャナちゃん!坂井君が困ってます!」
「乳だけ女は黙れ」
「ひぇ!?」
「なんだ?この乳はぁ。こんなもんぶら下げてフレイムヘイズが務まるとでもおもっとんのかぁ!?」
「あうあうあうあうあうあう」
「吉田さんはフレイムヘイズじゃ…っていうかマージョリーさんは…」

ぐさっ

とまあこんな感じである。

そんなこんなで酔っ払い三人が教室でどんちゃん騒ぎを始めたころ。

「坂井君…ちょっといいですか?」

464安息と絶望と…:2007/05/08(火) 20:40:07
屋上
「マージョリーさんから聞きました」
小柄な、気の弱い少女がしっかりとした芯を持つ口調で話しをきりだす。
「私、ついさっきまで大泣きしてたんですよ?」
よく彼女の顔を見てみると眼の下に大きなクマができていた。
もう自分は何度彼女を泣かせてしまったんだろうか。
「私、ダメですよね。こうなることもわかってたつもりだったのに…受け入れて、それで覚悟だってしてきたはずなのに」
彼女は前もここで、自分のために泣いてくれた。好きと言ってくれた。
「だからダメなんです…抑えきれないんです」
こんなにも想ってくれている人に僕は何も返せないままでいいのだろうか。
「自分勝手でごめんなさい。無理だってことだってわかってます!でも…言わせてください」
彼女の声はすでに涙ぐみ、ところどころに嗚咽が混じっている。
自分は彼女になにか返すことはできないだろうか。
「生きてください…私と一緒にいてください…」
そんなもの、もう答えは決まっている。
「…ゴメン、吉田さん」
僕にはもう何もない。

「僕はシャナが好きだから」

この残った時間、体、心は彼女のものだから…
僕が返せるものなんてなにもない。

「そうですか…」
彼女はうつむき
「それでも私は坂井君が大好きです」
すぐに顔をあげて
「ずっと、ずっと大好きです」
その顔はまぶしい、太陽のような、女神のような笑顔だった。




その瞬間





「おや、場違いな時に出てきてしまったかねぇ」
強烈な、坂井悠二が感じたこともないような『死の気配』
「なに、問題はないさ」
そこにあるだけでもこの世のすべてを圧倒、いや消滅させるような存在感
「お迎えにあがりました。われらが盟主」
そんな威圧感を持つ4人の死神が茜色に塗りつぶされた空で笑っていた。

465安息と絶望と…:2007/05/08(火) 20:43:38
「なっ!?」
訳がわからない。
混乱しながらも頭の中のいつも冷静な部分が告げる。
―ここにいれば殺される―
なぜ、どうやってこいつらがこんなところに、なんてことはどうだっていい。
恐怖に震える脳みそを一括。少女を自分の背に隠し、必死に『生』への道を探す。

まずは生き残ることだけを考えろ。
逃げる。
そんなことはまず不可能だ。
十中八九、あの鎖かサングラスの死神に捕えられるだろう。
そうなればもうどうしようもない。
たとえフレイムヘイズであろうとあいつらに捕まれば生きることを諦める。
今度こそシャナたちに助けてもらうことなどできないだろう。

だから時間を稼ぐ。
シャナやカルメさんは‘壊刃’の攻撃を受けているはず。
『スティグマ』を無効化できるとはいっても刃による斬撃は防げない。
前回の襲撃では即戦闘可能だったカルメルさんでもおそらくここに来るだけでも最低5分。これだけは見積もらなければならない。
佐藤、田中のことも心配だが、シャナの存在の力を感じるのでおそらくは無事だろう。
震える膝に活を入れ、喋ることを拒否する喉を無理やり動かして叫ぶ。
「あのフレイムヘイズの包囲網をかいくぐって、僕に感知させずにここまで来るなんてすごいですね。いったいどうやってここまで来たんですか?」
相手が誇るであろうことを褒めるただの時間稼ぎ。小物相手ならこれに乗ってくれるのだが…
「すまんねぇ。いまはボウヤの時間稼ぎにかまってやれる時間がないんだよ」
三つ目の悪魔がそんな思惑を簡単に看破してしまう。
「僕をどうするつもりだ」
黙ってはいけない。話を途切れさせるな。
「言っただろ。俺達は我等が盟主を迎えに来ただけさ。」
「また僕に自在式でも打ち込みにきたと?」
「わかっているならおとなしくしていることが賢明というもの」
頭の冷静な部分が無自覚に答えを導き出す。

こいつが肝だ。

466安息と絶望と…:2007/05/08(火) 20:44:31
坂井悠二の存在の力は大きくなりすぎていた。
動物界で言えば象、自然界で言えば山。
‘壊刃’サブラクの特性は自らを拡散し探知不能の一撃を加えること。
動物界で言えば蟻、自然界で言えば石ころ。
前回、わずかながらも違和感を探知できたのは坂井悠二と‘壊刃’の存在の力が同程度であったからである。
しかし、王100人分もの力を保有してしまった彼にとってトーチ以下に薄い気配を探知することなどできようはずもない。
ゆえにここまでの接近を許した。

他の3人の王がどうやってここまで来たか。
それもすぐに思いついた。
‘祭礼の蛇’となっていた時の記憶にあるあの鍵。
‘非常手段’ゴルディアン・ノット
おそらく転送先を鍵サブラクの鍵にした、もしくは転送の受け皿のようなものを持たせていて、自分に近づいたときに発動させたのだろう。

そこまで考え付いたとき
「それじゃあヘカテー、まかせたよ」
三つ目の悪魔が死の宣告をつぶやき、青髪の女の子の形をした死神がこくんと頷いた。

467安息と絶望と…:2007/05/08(火) 20:47:46
まだだ、まだ早すぎる!!
「まってくれ!僕はどうなってもいいから吉田さん…この女の子だけは助けてくれないか!?」
「安心してください、用があるのはあなただけです」
死神が杖を自分に向ける。
間に合わない。カルメルさんが高速で向かってきているのを感じるがあと2分はかかる。シャナに動きはない。
初歩的な自在式しか使えない自分に逃れるすべなど皆無。
だがただ諦める気など毛頭ない。
(あと二分くらいの時間かせぎなら!)
存在の力はほぼ無尽蔵。マージョリーさんに貰った栞に込められた防御の式を展開、式に存在の力を通し発動させる。







いや、させようとした。






「ぐあああ!!!!」
瞬間、自分の根源、自らの存在が崩れるような。否、崩れていくことによる激痛が走る。
「無駄です。あなたの器はもう『あなた』という存在に耐えられない」
「が…はぁ…」
跪き必死に息を整えようとする。
しかし、時間が経てば経つほどに度合を増す痛みと、自分という存在が壊れていく絶望感と消失感に息を整えるどころか目を開けていることすらできない。
「安心してください。我等が盟主がその体に顕現すればその痛みはなくなる。あなたは紅世の王としてこの世界に永遠に留まることができるでしょう」
「そうして…永遠に…人が支配される様を…見せ続けられる…のか…」
息も絶え絶えに、目で精一杯の、紅世の王には蚊ほどもきにならない程度の威嚇の視線を送る。
「絶対に…ゴメンだ…!!」
「あなたの意見など問題ではありません。それでは…」
杖の先が自在式に包まれる。何もできない。
逃げることも、時間を稼ぐことも…死ぬことすらできない。
ただ目の前のあまりにも可憐で儚く、小さい少女を見上げ自分の体が違うものになることを受け入れることしかできない。
「さようなら」
その死神の鎌が自らを貫こうとしたとき。

「ダメええぇぇぇぇぇ!!!!!!
少女の絶叫と共に
「!!」
琥珀色の風が吹いた。

468普段お世話になっている者:2007/05/08(火) 20:49:17
今回はここまで

次はしばらく放置していた作品を片付けてからくるので1ヶ月以上かかると思います

では…

469名無しさん:2007/05/09(水) 22:10:46
まさしくGJ
すげぇ続きが気になりますわ
続きは一ヶ月後か・・・

470名無しさん:2007/05/12(土) 01:32:23
>>468さん
GJ!!です^-^
地獄絵図のところがウケタw
マターリ待ちます

471名無しさん:2007/05/19(土) 00:04:58
くぅ…早く続きを…職人サマ…

472普段お世話になっている者:2007/05/20(日) 11:32:30
本スレでも投下が全くないみたいなので、少し早いですが投下します。

473犠牲:2007/05/20(日) 11:37:32
宝具『ヒラルダ』
持主の存在の力を消費し、内に込められた自在式を発動させることができる。
ただし使うことができるのは人間の女性のみ。
ある一人の王がある女に与えた宝具である。
人間が使えば一度限りの自在法が行使できる。
自らの存在と引き換えに…

474犠牲:2007/05/20(日) 11:39:15
紅の少女は地に伏していた。
その炎はあまりにも突然に
その剣はあまりにも鋭く
その力はすべての存在を押しつぶした。
「シャナ!!」
真黒のペンダントが彼が発するであろう最大の声量と、今までで最も焦燥、危機感をごちゃまぜにした声で叫ぶ。
彼女は一瞬で教室すべてを飲み込んだその力の渦から二人の人間を助けるために、自分を守るために使うはずの夜笠を広範囲に展開
幾重にも二人がいる空間と自分の空間を包む。
しかし存在の力の総量で言えば『紅煉の大太刀』にも匹敵するであろう自在式の前に難なく突き破られ、焼き尽くされてしまう。
その数瞬。夜笠が突き破られ、焼き尽くされるまでの刹那に存在の力を集中、爆発。
以前の襲撃ではただ身を守るだけであった。しかし一度経験した技、ほんの少しの、例えそれが刹那であろうと、自らの防御を捨てたのであれば動くことはできる。
本来、この時間はこの攻撃の渦からの脱出、もしくは自在式の展開、発動に使われるべき時間。
しかし彼女がむかったのは、否。向かわねばならなかったのはその攻撃の最深部。
無論、二人を助けるためである。
「…がはぁ!!」
足の裏を爆発させ二人に体当たり。おそらく当たった方の腕の骨は粉砕されてしまっただろう。彼らは象の突進を受けたかのような声を出して飛んでいった。
彼女が確認できたのはここまで。そして彼女の体を無数の剣が襲った。

475犠牲:2007/05/20(日) 11:42:17
鎖が踊り、槍が飛ぶ。
剣が舞い、杖が下りる。
しかし風はそれらすべてを受け流し、暴れ、壊し、守り、歌う。
鎖は大きな風の前にまるで紙屑のように吹き散らかされ近づくことすら許されない。
槍のようなものが踊る風を捕えられるはずもなく、すべてが空を切る。
剣では逃げる風など追えようはずがない。
杖が放つはずの自在式は敵がどこにいるのか。否、どれが敵なのかがわからなければ当たるわけがない。
「くそ、紅世の色ボケカップルのかたわれが…!!」
「まいったねえ… まあこんな大きな式を長い間続けられるはずはないさ」
「ええ、もとより長い間続ける気もないであります」
メイド服に顔面を覆う仮面を付けたフレイムヘイズのリボンが4人の王を突き刺す。

476犠牲:2007/05/20(日) 11:52:50
「吉田さん?」
ふいに一つの存在が消えた。
少年のとても近いところで。
瞬間、琥珀色の風があたりを覆い、彼は何もない遠くのどこかへ投げ出された。
「へ?」
ちなみに今の彼はなんの存在の力も使えないただの人間である。
「うわああああああ!!!!」
飛ぶ、飛ぶ。落ちる、落ちる。地面が秒単位で近くなる。
(あっ、コレやばい)
半ばあきらめながら悲鳴を上げている少年を
「騒ぐなであります」
乱暴に、カエルを捕まえた時のように、足だけをひっ掴んで助けた者がいた。
「か、カルメルさん…ありがとうございます」
物のように扱われながらも命の恩人、礼をいうことを忘れないところが彼の良いところでもある。
「礼はあとであります」
「状況説明」
こくん、と頷き、頭を人間から機械へ
「僕を連れ戻しに4人の王がいきなり… 敵はサブラクと三頭柱です。 今は、たぶんフィレスさんが一人で戦ってます。 シャナは…たぶん傷を負っていてしばらくは動けないと思います」
「了解、おまえは弔詞の読み手のところへ」
「はい、わかりました」
そして、自らの不安を打ち消すように。確かめるように尋ねる
「吉田さんもそこですか?」
鉄扉面のフレイムヘイズは鉄扉面ながらもいぶかしげな顔をし、
「あの場からは他の人間は誰も…」
そして蒼白な顔となり
「まさか…!!」

そして彼は気づいた。
(僕は…吉田さんを…)
犠牲にして助かったのだと。

477お世話になっている者:2007/05/20(日) 11:56:27
短くてすいません。推敲もほとんどしてないのでおかしなところがたくさんああるかと思いますが…
早めに続きが投下できるようがんばります。
感想いただけると幸いです。
それでは…

478arere:2007/05/24(木) 14:35:16
楽しみにしてます。

479234:2007/06/19(火) 02:33:42
約4ヶ月のブランクを経て(殴)、再び投下します。
一応結末は頭の中にあるんですが、何だか上手いことまとまらないんです。
今後もこんな調子でダラダラと続きますが、良かったら読んでください。

480Back to the other world:2007/06/19(火) 02:35:27
〜78〜

マティルダは『コキュートス』をじっと見据えながら、その先の魔神に500年ぶりに語りかけた。
もっとも、その内容は、
「全く、あなたがついていながらこの体たらく、一体どういうことかしら?」
語り合う、というより、説教に近いものであったが。
「むっ、なっ、何を・・・?」
問い詰められた“紅世”真正の魔神“天壌の劫火”アラストールは、状況が飲み込めないまま、訳も分からず返事をしていた。
その間抜けな言葉に、マティルダは、はぁ、と大きくため息をつくと、
「・・・まぁ、今回はたまたま“本物”だったからよかったけれど」
腰に手を当てて、顔をシャナの胸元に近づけ、
「これがもし“徒”の罠だったりしたら、どうするつもり?」
ジロッ、と刺すような眼光で“コキュートス”を睨み付けていった。
「なっ、ななななななっ」
迫ってきたその姿に、アラストールは完全に圧倒されていた。
もはやその声からは、“紅世”にその名を轟かす魔神の威厳などは、微塵も感じられない。
「ヒーッヒッヒッヒ!!なんてぇザマだよ“天壌の劫火”の野郎!!こりゃ〜笑いが止まらねえぜ、ヒャッヒャッヒャッヒャ!!」
アラストールの普段の態度とのあまりのギャップに、マルコシアスは“グリモア”をガタガタ揺らしながら爆笑した。
その笑い声に、悠二も釣られて噴出しそうになった。
「ア、アラストールの、あ、あんな風になってるとこなんて、は、はじめて見た・・・プッ」
そんな、ふと緊張感が抜けた場の雰囲気に、マージョリーは改めて釘を刺すように言った。
「笑ってる場合じゃないでしょ。いつまでチビジャリ達を混乱させとくつもりよ」
「あっ」
「あいつらにこの状況を説明できるのは、ユージ、アンタだけなのよ」
「そ、そうだった」
マージョリーに促され、悠二はその場から立ち上がった。
そして、いまだ張り詰めたやり取りが続いているところへ、恐る恐る声をかけた。

481Back to the other world:2007/06/19(火) 02:37:25
〜79〜

「あ、あの〜皆さん、とりあえずこの状況、僕が説明しましょうかわっ!?」
突然、悠二は右腕を物凄い力で引っ張られた。
「わぁぁっ!?」
「!?」
悠二の身体は宙を舞った。
その時、シャナは初めて、悠二と目の前の女性との間にある“何か”に気づいた。
(あれは・・・ヴィルヘルミナの、リボン?)
一体なぜ、と考えている間に、
「っ痛!?」
悠二はドスン、としりもちをついた。
そして、彼の首元にかざされたのは、紅蓮の大剣だった。
「ひっ!?」
「なっ!?」
一瞬の出来事に、シャナが呆然としていると、
「本当、甘ちゃんもいいところね」
悠二を捕らえたマティルダが、シャナに冷ややかな目線を送った。

突然の事に意味が分からない悠二は、もがきながら問いただす。
「ま、マティルダさん、一体どういうつもりですか!?」
と、
『黙って聞いてなさい!!!』
『っ!?』
マティルダの大声が頭の中にガンガン響き、思わず悠二は悶絶した。

紅蓮の大剣を手にしたまま、マティルダは語りかける。
「せっかくこうして、生き返ることが出来たってのに」
目線は、もう一つの紅い双眸に向けられている。
緩やかな目つきだが、その瞳はとても冷たく見えた。
それは相手を思いっきり侮辱した、見下したものだった。

「でも、会えたのは、腕のすっかりなまったへなちょこフレイムヘイズと、思いっきり名前負けしてるただのガキンチョだけだったなんてねぇ」

「!」

シャナはこれまで、浴びせられる罵声に応える余裕すらなかったが、
「・・・・今、何て?」
とうとう、下を向いたまま、ゆっくりと聞き返した。
「何、もう一回聞きたいっての?そろいもそろって三流ねぇ」
マティルダは、容赦なく畳み掛ける。

と、無意識のうちに『贄殿遮那』を引っつかんでいたシャナが、
「私の誇り、全てを馬鹿にするなんて・・・!!」
足元から紅蓮の爆発を起こすと、
「許せ、ない!!!」
刺突の構えで、
「やあぁぁぁっ!!!」
マティルダに向けて突進していった。

482名無しさん:2007/06/19(火) 21:23:45
うはw偶然覗いたら丁度、今日更新されたところだったwww ・・お祝いにパン屋でメロンパン買って来るかなw

 このスレをハケーンした当日中に>1〜478全部読んだ漏れはシャナ中毒か?
(コミックとSS以外、見てないのでアレだが)

483名無しさん:2007/06/19(火) 21:27:31
途中送信しちまった・・しかもsage入れる前に _| ̄|◯
Back to the other world 著者、犠牲ete著者サヌ、超GJ!  & トンクスです!
全話とても面白く、大変読み応えがありますたm(_ _)m

484名無しさん:2007/06/22(金) 23:13:28
ここって保管庫ありますか?

485名無しさん:2007/06/23(土) 01:24:31
ないと思われます。
どなたか保管庫を作成していただけるとありがたいのですが(他力本願でゴメンナサイ)

486名無しさん:2007/06/30(土) 21:11:17
作った場合って勝手に載せちゃっていいの?

487名無しさん:2007/07/02(月) 20:36:56
いいんじゃないですか?

488名無しさん:2007/07/13(金) 18:55:48
じゃあ、夏休みに入ったら時間があるので作っておきます

489名無しさん:2007/07/14(土) 12:49:01
いやあかんだろ
一応こういうのにも著作権が生まれるらしく、無断転載は駄目なんだぞ

490名無しさん:2007/07/14(土) 19:07:54
掲示板に張ってあるくらいだから集めて公開しても問題ないんじゃないか?

某所でも保管所作ってるが特に問題ないし

491名無しさん:2007/07/14(土) 19:47:06
みんな潜伏してるんだな

じゃ、作るのやめとく

492名無しさん:2007/07/15(日) 00:49:50
>>490
某所の保管人とここの管理人とA/Bシャナ辞典の管理人は同一人物

ここの掲示板に張ってあるものを転載するならSS保管人氏にやってもらわないとね

493名無しさん:2007/07/15(日) 01:45:20
ぉk
このスレのSS投下を待って潜伏してるヤツが沢山いることがわかった。

とりあえず保管所はもう少しSSの数が増えてから考えないか??
今の投下量じゃあ作っても無駄になるかもしれんし

494名無しさん:2007/07/17(火) 06:24:56
おはよう御座います。SSを書いたので投下してみますね。
未熟者ですが、その点は御容赦下さい
m(__)m

タイトルは「一つ一つの焔花、残映茜のめろんぱん」

495「一つ一つの焔花、残映茜のめろんぱん」1/8:2007/07/17(火) 06:25:28
――御前市の地平線が斜めになっていく。
街もビルも、鎮守の森も緑地も御前川も、はるか遠くミニチュアのようになって傾いていく。
坂井悠二は顔を仰ぎ、炎が流れゆく軌跡を見ていた。
いまは夕暮れ時。頂天の漆黒の帳と、群青色の仰いだ空と、
右手に見えるオレンジ色の夕焼けの光が、
幾重ものグラデーション層をなしていた。


坂井悠二は、彼を抱えて、背中から炎焔の羽を広げている少女を見上げた。
アミューズメント施設の景品のような人形サイズの、ちびっこい女の子だ。
「しゃな……そんなに飛ばさなくても、逃げたりはしないよ」
「うるちゃいうるちゃいうるちゃい!! 早くしないと手遅れににゃるの」
しゃな、と呼ばれた少女の視線は、ただ一点に向く。
彼女の意志の指す方へと。


悠二としゃなは、南を目指す。
オレンジ色の太陽光と十字に交わるように、炎の帯が突っ切っていく。
斜めに傾く街の地平線を、日没の時間を、真一文字に切り裂いていく。
悠二としゃなが、切り裂いていく。

いくら想いが乱されようと、しゃなの意志は向くほうへ向く。
いくら運命に廻されようとも、しゃなの意志は天極をさす。

496「一つ一つの焔花、残映茜のめろんぱん」2/8:2007/07/17(火) 06:26:31
「めろんぱんめろんぱんめろんぱんにゃの!!」
御崎町から電車で二駅行くと、御崎南駅というのがある。
そこの駅ナカに、パン屋『ワンダリング・ハーミッツ』があるのだ。

電車の来るアナウンス音が、夕暮れの中で、物寂しく切なげに響く。
通勤客を迎え入れる町の優しい空気と、
都心の生温かく孤独な臭いが交錯した、駅の無機質な臭い。
どこにでもある、ベッドタウン特有の駅の姿だ。


しかし、その南改札口を出て右に曲がったところが、
他の駅とは違うところであろうか。
人の列が、扉の外までざわざわと伸びているのだ。
臨時に雇われたらしき警備員が、「きちんと並んでください」と大声を上げていた。

「すごい大行列だねえ、しゃな。あきらめようか」
「ふざけにゃいで、めろんぱんが食べられにゃくなるじゃない」
そう言って、彼女は懐から広告チラシをがさがさ取り出した。
こんな小さい体のどこに入っていたのか。受け取った悠二は目を通した。
「えっと、なになに……本日、店舗のリニューアルにつき、商品の大売り出しを致します。
目玉は、夕張メロンの初物をふんだんに使った、特製メロンパンです。
売り切れ必至、是非いらして……」


しゃなが、悠二の横から広告を取り上げた。
そしてセーラー服の中にしまった。こんな小さい体のどこに入るのか。
「このお店、すごく美味しいって有名にゃの。
東京や関西からも買いに来る人達がいるわ」
「うん、聞いた時ある。お母さんも時々、ここのパンを買って帰るよね」

外のガラス越しから二人は、人、人、人で、
どやどやごった返す店内を見ている。
「いつも甘くてカリカリモフモフの美味しいめろんぱんが、
もっと美味しくにゃるのよ? いま行かないで、いつ行くのよ」
「わかったから髪を引っ張らないでくれよ、痛いよ」

行列はあと十分もすれば入れそうだった。しゃなが横から耳打ちした。
「いい、ゆーじ? 開店したらすぐ、めろんぱんコーナーに行くのよ? バケット売り場の隣にあるから」
「分かったよ。でもまず、よだれは拭こうね。
僕の制服にだらたらって掛かっているから」


どんどんと列が進んでいくのが分かる。扉まであともう少し。

497「一つ一つの焔花、残映茜のめろんぱん」3/8:2007/07/17(火) 06:28:47
二人が扉の前に来たとき、店員が一枚の紙を貼りだした。
しゃなは、声に出して読んでみる。
「『全品売り切れのため、本日の御入場はここまで終了です。
御足労頂いたのに大変申し訳ございません』、……って閉店じゃないのよ」

ぷるぷる震えだすしゃな。悠二が慰めるように言った。
「こんな混雑だったんだもの、仕方ないよ。また次回にしよ――」
「どうすんのよあたしの限定めろんぱんが売り切れなのよせっかく急いで来たにょよ並んだにょよ」

「仕方がないさ、しゃな。コンビニのメロンパンを買うから機嫌を直してよ」
「ばかばかばか。カリカリの甘さもモフモフの食感もないメロンパンなんていや、いやったらいやなの!!」
「分かったから……頸動脈を絞めるのは止めよう……僕の命まで大売り……出しに……なっちゃう……よぅ」

人形のような少女は手を離し、
「ゆーじのばかばかばかばか」と
泣きながらぐずりはじめた。

咳き込んで落ち着いた悠二。とりあえず周囲の目に顔を赤くしながら、
彼女をなだめようと動き出したときだった。

店の扉が開いた。そこから出てきたのは、
大きな紙袋を、大きな胸の谷間に挟んでいる女の子だった。
「あれ? ゆかりちゃんに坂井くん、どうしたの?」
彼女は悠二達のクラスメイトだ。
才気活発で可憐な容姿という評判で、同級生からの人気が高い。


「吉田……さん」


彼は、彼女の名を呼んだ。

498「一つ一つの焔花、残映茜のめろんぱん」4/8:2007/07/17(火) 06:29:58
「坂井くんのことを考えたら……つい学校帰りに、ね。
二人よりも速く来ちゃったみたい」
「学校まで十キロもあるのに、凄いよ。
ポーラ・ラドクリフや野口みずきも真っ青なタイムだよね。
オリンピックで金メダルが取れるかも」
「いやだあ、そんなに褒めないで。恥ずかしいよ」

吉田さんの持つ紙袋から、ふんわり甘く香ばしい匂いがした。
しゃなは、ひくひく鼻を動かした。
「あっ、めろんぱんの匂い!!」

小さい彼女は、紙袋に突進した。さっと闘牛士のように紙袋を払い、
吉田さんは人形のような少女の特攻をかわした。
しゃなはゴミ箱に、どんがらがっしゃんぶち当たった。

それを空気のように無視して、吉田さんは悠二に言った。
「最近評判だから、いくつか買ってみたの。坂井くんも、どうかな?」
「ちょっと吉田さん! しゃなが燃えないゴミ箱に!!」
「あの子は燃え切れない所があるよね……悩みでもあるのかしら?」
「そうじゃなくて言葉通りだよ、ゴミ箱にしゃなが突っ込んだよ、自分の言動を一致させようよ吉田さん」

ゴミ箱をみると、しゃながむくむく起き上がってきた所だった。
服に付いたビニール袋を払いつつ、
それでも視線は吉田さんの紙袋から外さない。

「いちち、ブラックガムが髪に付いて取れにゃいのよう」
「え? ブラックって、ゆかりちゃんの心が?」
「ガムって単語をちゃんと聞こうよ吉田さん!!」
自分の事を気持ちよく棚に上げて、彼女は紙袋に手を入れた。

おっぱいが気持ちよく揺れる。
悠二はあさっての方向に顔を向けながら、
視線だけは彼女の胸の谷間をちらちら追っていた。

「そもそも食べたいならそう言えばいいのに。好きなだけあるから……」
吉田さんはメロンパンを取り出した。
網目模様がくっきり炳焉と焼き付く、ふかふかパンだ。
よだれだらだらのしゃなを彼女は見る。
心なしか、意地悪そうな表情に変わった気がした。

そしてぱくりと食べた。吉田さんが。
『ワンダリング・ハーミッツ』のメロンパンが一つ、
巨乳少女の胃袋に収まった。


「わたしが代わりに食べてあげる」

499「一つ一つの焔花、残映茜のめろんぱん」5/8:2007/07/17(火) 06:30:57
何ということだろう!!
しゃなと悠二は、目の前の光景が信じられなかった。

「一つあげるよ」と普通は言うところだろう、常識的に考えて。
そう悠二は言いたかった。

「ちょっと、ちょっとちょっとちょっと。どうしてあんたが食べんのよ? 
意味分かんにゃいよ」
「吉田さん、少し不謹慎じゃないかな。ひとつ分けてあげてよ」

「御免なさい坂井きゅん」
吉田さんはうつ向いた。胸の大きい谷間が、悠二の目前に迫った
「ゆかりちゃんは、メロンパンばかり食べているから、小っちゃいままだとおもうの。
だから大きくするために、心を鬼にしなきゃって」

「別の意味ですごいよ吉田さん、君はほんとに鬼だよ。あと胸が……近いよ」
「ごめんなさい坂井きゅん。貴方のことを思うと……大きくなっちゃった。ゆかりちゃんよりもずっと、貴方を想っているから」

そこへしゃなが、吉田さんの頭を掴んだ。
「さっきから聞いてると何よ? 
正直うざったらしいのよ。メロンパンちょうだいよ」
「何するのゆかりちゃん。頭をぽかぽか叩くなんて信じられない」
「信じられないのはどっちよ? 
このこのっ、メロンパンあげるっていうまで離さないんだからあ」

吉田さんはがっしりと、小さいしゃなを掴んだ。
離してよ離してよとわめくしゃなを、
釣り込み腰で豪快に投げ飛ばした。
しゃなは、ペプシコーラの自動販売機へとそのまま激突した

「わたしは、ゆかりちゃんが大好きなの。貴女のためを思ってやっていることなの。
どうかわたしの気持ちを分かって」

『大好きなの』と言いつつ、恋のライバルを投げ飛ばすのが
吉田さんスタイルだろうか。
とりあえず悠二少年に出来るのは、背を向けて逃げ出すことだった。
ごめんよしゃな、僕は自分の命が大事なんだと呟きながら。

が、そうは問屋が卸さない。
「坂井きゅんも、この気持ち……わかってくれるよね?」
回り込まれた。もうお終いだ殺されると悠二は天を仰いだ。
駅の染みだらけの天井しか見えないが。

その瞬間、世界が灰色になる。
生活感に満ちていたはずの駅構内が、凛冽と急速に死んでいく。
音も、肌触りも、匂いもない空間と化していった。
他の人間の姿が消え、しゃなと悠二と吉田さんだけになる。
この世に跋扈する存在、『紅世の徒』と対峙するための場所へと変わったのだ。
しゃな達が『封絶』と呼ぶ空間へと変わったのだ。

「ゆーじに手出しはさせない、
めろんぱんとアラストールと千草ママとフレイムヘイズ達の次ぐらいに大切だから」
「笑止ね。わたしは何よりも誰よりもいつまでも坂井きゅんが大切よ。
この気持ちだけは大切にしたい」
御崎南駅で、しゃなと吉田さんの戦いが始まる。

500「一つ一つの焔花、残映茜のめろんぱん」6/8:2007/07/17(火) 06:31:45
二人は自動改札口で対峙した。
しゃなの持つ名刀『贄殿遮那』が、改札機と改札機に阻まれ、存分に振るえない。
「狭いところはずるいの」
「御免なさい。わたしは、どう戦ったらいいのか分からないから……」
この世の事物を、存在ごと断ち切るはずの名刀を、
吉田さんは金属製のペンケースで軽々と受け止める。

「わたしは、ただの人間だから……ゆかりちゃんほど強くなれない」
「ペンケースで戦える人に言われたくにゃいの!!」
しゃなは改札機の上に立ち、跳躍した。紅蓮の双翼を広げ始める。
逆に狭い立ち位置にいる吉田さんは不利になるはず――
しかし胸の大きい少女は冷静に、左手で学生鞄をまさぐった。

取り出したのは、キーホルダーをたくさん止めてある、
ラメの入ったチョーカーだった。
チョーカーのリング部分を飛ばし、いままさに羽を広げようとしているしゃなの足に引っかけた。
さながらカウボーイの投げ縄のように、小さい少女の足に投げ掛けて、改札口に引っぱり倒した。

「むぎゅう!!」
「飛んだら有利になる……先のことを考えすぎて、
意識がお留守になるのが、ゆかりちゃんの弱点だと思うの」
ICカード読み取り部の上に叩き付けられ、腰をさするしゃな。

また吉田さんは鞄をまさぐり、今度はソーイングセットを取り出した。
左手で器用に開き、待ち針と糸を出す。

「貴女には、これで十分よ。
坂井きゅんとの甘々タイムを邪魔しないように、縫い止めてあげるわ」
吉田さんは、しゃなを掴み上げた。
可憐な少女の握力に、小さい少女は苦悶の漏らし声を上げる。


絶対絶命、そう悠二には思えた。しかししゃなは諦めない。

501「一つ一つの焔火、残映茜のめろんぱん」7/8:2007/07/17(火) 06:33:29
吉田さんの手の中から、炎が轟々と上がった。
「きゃっ?」
あまりの熱さに、彼女は思わず手を離してしまった。

「わたしのペンダントには、アラストールがいる。
それを知らなかったのが、あんたの誤算ね」
《人間に、紅世の業火を使うとはな……長く生きていると、不思議なことばかり体験する》
ペンダントから声がした。審判と断罪を司る紅世の王が、
しゃなの首飾りに宿っているのだ。

「アラストール、あれを人間と思っちゃ駄目なの。
おっぱいが大きい徒だと思えば、戦いやすくなるの」
《もはや化者扱いだな》
「ひどい、ひど過ぎるわ。わたしはただ、ゆかりちゃんのために頑張っているのに……
どうしてこの気持ちが通じないのっ?」

もう、何も喋るな吉田さん。
彼女以外の全員がそう思った。そして誰も言えない、恐いから。


次の行動を起こしたのは、しゃなの方だった。
吉田さんが話に寄っている一瞬の間に、彼女の横をすり抜けた。
そして振り向きざまに紅世の業火を放った。
「もうこれでお終いね。鞄の中に入ってるめろんぱんは惜しいけど……」
世界と事物を認識する絆を燃やし尽くす焔の玉が、
胸の大きい少女に迫った。
しかしここで諦めたら、しゃなの恋のライバル失格だ。
吉田さんは、学生鞄に両手をかけた。
改札機の間なので横には振れない。なので――縦に振り上げた。


信じられなかった。あらゆる紅世の徒を焼き尽くしてきた炎が、
人間の学生鞄で弾き返されたのだ。


「えぇぇぇ――っ!?」
吉田さん以外の全員が疑問を呈する声を出す。
炎が天井に到達し、そのまま空へと飛んでいった。
「坂井きゅんのことを考えたら、何でもできるの。炎を鞄で打ち返すことだって、恋の力で可能なの」

いや、その理屈はおかしいよ吉田さん。
本人を除いて全員が思ったが、何も言えない。恐いから。

吉田さんは左手を離して、鞄の中に手を入れた。
今度はデコリシールが出てきた。
手帳やマスコットに貼って、デコレーションをするシールだ。

パンダのシールと星のシールの二枚をはがし、
驚愕の解けぬしゃなに放った。
この意趣返しに、小さい少女ははまった。
シールが彼女の両目に張り付いた!
「!?」
べりり剥がした。

――目の前に吉田さんがいた。

しゃながシールを剥がす一瞬の間に、走り寄ってきたのだ。
学生鞄を振り上げた。
しゃなは贄殿遮那で、足下から切り上げようとした。その時だった。





しゃなの目の前に、悠二の左手が見えた。
吉田さんの目の前に、悠二の右手が見えた。

三人の中心から、灰色の空間が色鮮やかになっていく。
音が蘇ってくる。世界の封絶が解けていく。
一斉に通勤帰りのサラリーマンや学生が押し寄せてきた。
アメリカの安いソープドラマのように、三人は人の波に押しつぶされた。

「むぎゅうにゃの」
「これが坂井きゅんの愛の重力だと思えば平気……でも坂井きゅんは、こんなに汗ばんだりしない」
「ちょっとしゃな、いきなり封絶を解かないでよ。って、人並みにぎゅうぎゅう踏まれてるんだ――」

通勤客の流れに飲まれながら、アラストールは静かに惟る。
《ふむ、なにゆえに世界が蝉脱されたのか。
二人の鞘当てが止んだのか。なんとも風致玄趣な様であるな》

そしてしゃなと吉田さんと悠二を見た。
《『いのちある木草のあはれ季くれば』……か。
はて、下の句を忘れてしまった》

502「一つ一つの焔花、残映茜のめろんぱん」8/8:2007/07/17(火) 06:35:11
「はい、メロンパン。たくさんあるから好きなだけ食べて」
人通りの少なくなった河川敷を三人が歩いている。
しゃなのペンダントには、宿主のアラストールが静かにしている。

「いいの……? もう食べたりしない」
「大丈夫よ、ゆかりちゃん。大きくなれない、なんて嘘を言ってごめんなさい。
考えてみれば独り占めなんて、わたしらしくなかったの」

じゅうぶん貴女らしいよ。とは誰も言わない。
彼女と争うことがいかに無謀かは、ここにいる誰もが知っている。


しゃなは紙袋からメロンパンを取り出した。
夕張産のメロン果汁を豊富に使用した、高級パンだ。
「いっただきまぁっす」
よだれをだくだく垂らしながら、しゃなはかじりついた。
「カリカリモフモフしひぇるぅ。美味ひぃっ」

悠二が伸びをした。
「じゃあ、もう争わないよね。二人には仲良くなってもらいたいから」
「それは別よ、坂井きゅん」
「今日は一時休戦しただけにゃのよ、ゆーじ。ふざけたことを言わないで」
「しゃな、パンを飲み込んでから話してよ」
吉田さんを見ると、彼女は微笑んみながら、しゃなの頭を撫でているところだった。


「『燃え上がる炎ほむらを背負いつつ永遠に火となれぬ口惜しさ』ね、ゆかりちゃん」
「にゃによそれ、『あんたの気持ちはお見通し』ってこと?」
「さあねえ、知らないなあ」


「やっぱいま決着を付けるわよ、ゆーじは止めないで」
「あらあら、ゆかりちゃん? ボコボコにしてやんよ」
「ちょっと二人ともストップ、ストップだよ」


午後六時の河川敷を、子連れの主婦達や
運動部員らしき中学生達が、すれ違っていく。
サッカーに興じている学生達の声が、遠くからしていた。

ふと、アラストールが呟いた。しゃなにも聞こえない。
《思い出したぞ、『いのちある木草のあはれ季くれば……
追はるるごとくつぎて花もつ』であった》

もうすぐで夜になる、ぎりぎりの時間になろうとしている。
家へ帰る頃には、月が半分のぼっている頃だろう。
しゃなと吉田さんが言い争いをしている。
それを悠二が仲裁に入ろうとしている。

《一つ一つ花たちが瑞々しく開く、なんと心動かす様であることよな》

アラストールの宿った首飾りが、夕光をうけて、
きらり瞬いた気がした。




503名無しさん:2007/07/17(火) 06:41:16
以上です。お目汚しですスマソです。
しゃなたんと、黒吉田さんのバトルを、無性に書きたかったのです。
戦うと強そうですよね、二人は。

なぜかドラゴンボールでいう、悟空とベジータの関係のように見えてきて困りますw
( ´・ω・)

504名無しさん:2007/07/18(水) 18:21:42
>>494さん
GJ!!やはり吉田さんは真っ黒が似合うwww

にしてもそろそろ犠牲の続きが読みたくて仕方がない…
頼むから書いてくれ!

505名無しさん:2007/07/22(日) 11:54:07
>>503
GJ!
>「ゆーじに手出しはさせない、
>めろんぱんとアラストールと千草ママとフレイムヘイズ達の次ぐらいに大切だから」

しゃな・・・。

506名無しさん:2007/07/22(日) 22:43:12
>>503
GJ!
笑わせていただきましたw

507名無しさん:2007/08/13(月) 01:13:04
うぐおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ(ry
>>476>>481 の続きはまだでありますかぁぁぁぁ  (禁断症状w)
どっちも超良作なんで読みたくて読みたくてしょうがNeeeeeeeeeeeee

508名無しさん:2007/08/22(水) 12:11:39
>>503
始終ニヤニヤしっぱなしで詠ませて貰いますたw 吉田さんの黒さがイイカンジですよぉぉ(*´Д`)

ごちそうさまでしたm(_ _)m

509234:2007/09/11(火) 17:04:02
再び投下します。
終わりは頭の中にあるのに、どんどん長くなってしまう・・・(泣)

510Back to the other world:2007/09/11(火) 17:24:54
〜80〜
迎え撃つマティルダは、大太刀を手に迫る小さな姿を、じっと見つめている。
「・・・短気な子ねぇ」
マティルダはつぶやいた。
次の瞬間、
「はぁっ!」
怒りに震えるシャナが、刺突を繰り出した。
しかし、マティルダは悠二を抱えたままヒラリと身をこなし、攻撃を難なくかわした。
「なっ!?」
そのあまりに綺麗な体さばきに、思わずシャナは声を上げる。
その一瞬の隙を突いて、
「どこ見てんのよ」
マティルダはシャナの後ろに回りこんだ。
「!?」
慌ててシャナは体勢を変える。
と、向き直った方角から、紅蓮の炎弾が迫った。
「くうっ!」
すかさずシャナは一太刀浴びせる。
バシュ、という音とともに、炎弾は細かい火の粉となって消えた。
「・・・まだ来る!?」
構えを取るまもなく、再び炎弾が、今度は数十個飛んできた。
「やぁっ、はっ!」
それをかわし、かき消しつつ、シャナは攻撃を繰り出している中心へと近づく。
近づきながら、この謎だらけの状況について、考える。
(あいつは、何者、なの!?)
これまでの経緯を思い出しながら。
(何で、ヴィルヘルミナに、あんなひどいことを・・・?)
今現在の場面も、頭に入れつつ。
(どうして、悠二が一緒にいるの?)
そして見えてきた、その姿。
(私の、前の、フレイムヘイズが・・・!!?)
あれこれ考えつつも、シャナの身体は自然と、攻撃態勢を取っていた。
「やぁぁぁぁっ!!!」
シャナは再び、斬りかかった。
バサッ、と、マティルダの身体が袈裟斬りにされた、かに見えた。
しかし、まもなくその身体は粉々になり、紅蓮の炎となって消え去った。
「むっ!?」
すると、
「遅い」
次の瞬間、
「がはっ!?」
背後からの、マティルダの強烈な回し蹴りが、シャナを吹き飛ばした。

511名無しさん:2007/09/12(水) 01:07:16
ktkrwwwwww

512Back to the other world:2007/09/12(水) 18:55:48
〜81〜

「シャナ!?」
サッカーボールのように飛ばされていくシャナの様子に、悠二は愕然となる。
小さな身体は二度、三度、地面をバウンドして、境内の方まで滑り、止まった。
「ぐっ…」
蹴られた右半身の痛みに苦しみつつ、シャナは立ち上がった。
唇が切れたのか、口からは血が流れている。

一方のマティルダは、
「いや〜、吹っ飛んだ吹っ飛んだ。気分爽快ね」
涼しい表情で、おどけて見せた。
「マティルダさんっ!あなたは一体何をぐっ!?」
まくし立てた刹那、悠二はみぞおちに打撃を受けた。
まもなく悠二は、マティルダに抱えられたまま気絶した。
「悪いけど悠二君、あなたには少し黙っててもらうわ」
つぶやいて、マティルダは前を見据える。

「悠…二っ…!?」
ぐったりとした様子の悠二を見て、シャナはさらに怒りを募らせた。
(ほほぅ、ようやく本調子、ってとこかしら?)
存在の力の急速な高まりと、大きな脈動を、マティルダは目の前の相手に感じていた。
「あらあら、ずいぶんとお怒りね」
しかしそれでも、相手を小馬鹿にした、とぼけたような口調を変えようとはしない。

シャナが口を開く。
「…たとえ、私にとって“何”であろうとも」
『贄殿遮那』の柄が、握り締められる。
「私達の仲間を傷つける奴は、絶対に許さないっ!!」
足元を、紅い炎が包む。
「やあぁぁぁっ!!!」
紅蓮の爆発と共に、シャナがマティルダに迫った。
その様子をじっくりと見つつ、マティルダも再び、攻撃態勢を取った。

513Back to the other world:2007/09/12(水) 18:57:03
〜82〜

「はい、そこまでっ!」
「ッ!?」
声と共に割り込んできた“何か”に、シャナは思わず切っ先を退けた。
そこには、群青色をした巨大な怪物が、両手をそれぞれシャナとマティルダのほうに向けて広げ、仁王立ちしていた。
「そこをどいて!!」
思いもよらない介入者に、シャナは声を荒げた。
「やっかましい!!」
トーガの中から、『弔詞の詠み手』マージョリー・ドーが、負けず劣らず怒号を発した。
「何度も何度も封絶張らずに戦って、アンタら、一体どういうつもりよ!!」
「ヒャッヒャ、ま〜ったくお二人さん、我が麗しのゴブレット、マージョリー・ドーと変わらねぇぐれぇの喧嘩っ早さだなぁブッ!?」
「お黙りっ!!」
不機嫌なせいか、普段より『グリモア』を蹴り飛ばす強度が強いように“蹂躙の爪牙”マルコシアスは思った。
「全く、さっきドでかい封絶をやっと解いたばっかりだってのに…アンタ達、この街を消す気?!」
「…っ」
マージョリーの指摘を、シャナはその通りだと思いつつ、
「っでも、私はあいつが」
なおも前進しようとした。
「聞き分けのないガキね」
群青色の炎弾がシャナに向けて飛ばされる。
「っ…アンタは関係ないでしょっ!!どいてよ!!」
炎弾を切り飛ばして、シャナは抗議する。
「いい加減にしなさいっ!!」
『トーガ』の手を巨大化させて、マージョリーはシャナの行く手をふさいだ。
そして、その手はシャナを、そしてもう片方の手はマティルダを指差して、一言。
「…この勝負、私が預からせてもらうわ」

514普段:2007/09/12(水) 23:37:42
お久ぶりです。久々投下いきます。

全く関係ないですがこのSSは「勇者王誕生!!」を聞きながら書きましたw
やたらテンションあげて書いてたのでおかしなところが沢山あると思いますがスルーしていただけると嬉しいです。

515悪魔:2007/09/12(水) 23:38:47

「……」
ヴィルヘルミナは四人の王から離れた位置から気配隠ぺいの自在式を使いインベルナのなかを突っ切り、自身の持つ、例え直接攻撃が向かない自分であっても回避、防御不能の一撃を加えた。加えたつもりであの槍衾を放った。
しかし
「まったく、人使いが荒い」
その一撃は、確実に敵を串刺しにするはずの一撃は
「まあ文句を言うな。お前もこれほどの相手と戦えるんだ」
マントの男と金の鎖がそのすべてを弾き落としていた。

彼女のリボンは寸分違わず敵に当たるはずであった。
一撃で相手を倒そうなどとは元より思ってはいない。しかし戦闘不能、悪くて若干の手傷は与えられると踏んでいた。それほどまでに奇襲とは強力な攻撃方法である。
だがあろうことか相手はかすり傷一つない無傷である。
それを可能にしたのが‘逆理の栽者‘ベルペオルの持つ宝具『タルタロス』と‘壊刃‘サブラクの絶対的なる防御力である。
あろうことかヴィルヘルミナが敵の中心へ突入し攻撃を仕掛ける瞬間、その金の鎖はサブラクを捕獲、他の味方をサブラクより後方へ引っ張りあげ、さらに蛇のように正確に大半のリボンの位置を探知、雨のように降り注ぐ攻撃から身を守るための盾としてしまったのだ。

516悪魔:2007/09/12(水) 23:39:17
ヴィルヘルミナは完全に意表を突かれた。
以前の戦いで彼女の攻撃はサブラクの無敵に近い防御力相手では効かないのは明々白白。故に攻撃もサブラクに対しては目くらまし程度の規模でしか行っていない。
彼女が驚いたのは逆理の裁者の持つあの鎖。
ヴィルヘルミナは誓って言えるだろう。

ベルペオルは確実に自分の攻撃に反応できていなかった。

もとより戦闘が得意な徒ではない。近接戦、さらに奇襲に反応できる王ではないのだ。
しかし、そうであるはずなのに。

あの鎖は自ら動いて自分の攻撃を、全て、正確に、完全に防いだのである。
それだけではない。金の鎖は自身の防御力では足りないという判断すらも術者の補助なしでやってのけたのである。
あの鎖は高性能独立知能、存在の力の量からの相手攻撃力の計測、周囲の性格な状況把握能力、ヴィルヘルミナのリボン並の高速移動を同時に行えるという規格外宝具なのである。
それがサブラクと組めばどうなるか。
つまりサブラク、ベルペオルの二人が揃っている間はほとんどの攻撃、少なくともヴィルヘルミナ自身が持つ攻撃手段ではダメージを与えられないということがこの一合目の戦いで確定してしまったのである

「まったく、本当にやっかいな奴らであります」
「状況険悪」

それ故の驚愕、それ故の絶望感と計算の修正。数瞬反応が遅れる。そしてそのわずかな時間が命取りになることを彼女は理解していた。
直ちに全速でその場から離脱を試みる。がっ
「甘かったな、万条の仕手」
そんなことは敵も十二分に理解している。

517悪魔:2007/09/12(水) 23:39:51
気づいた時には自らの体の大きさをはるかに超える槍が降ってくる。
同時に逃げ場をなくすように無数の剣が彼女を刺し、貫かんと構える。
その後ろで大規模な存在の力の増幅が感じ取れる。

正に八方塞がり、絶対絶命。
「簡単にはさせないであります」
殺される前に一人は…と死覚悟で突撃をかけようとしたとき
「もちろん。あなたは私が守るもの」
またしても琥珀色の風が王達を吹き飛ばす。

「ちっ!!確実にヤレたものを!!」
風が吹きやむとそこには塵一つ残ってはいなかった。
もちろん自分たちの攻撃によるものではない。
『ミストラル』
フィレスの持つ移動用の自在法。
指定した範囲を空間ごと風で包みこみ一時的に、強制的にその空間の存在の力を風と変換。離れた場所へ高速で移動させるものである。
「目的は零時迷子の確保。フレイムヘイズ撃退は必須項目ではないので問題はありません」
ヘカテーが淡々と告げる。
「そういうことだ、きにするんじゃないよ二人とも」
「まぁ楽しみは後に取っておけと言うしな」
「…っち!」
三人はそれぞれ答える。
「さぁ、行きましょう」
悪魔は動き出す。

518普段:2007/09/12(水) 23:41:50
でなかなか終わりませんorz
まったりやっていきますので読んでいただけると幸いです。
ではではノシ

519名無しさん:2007/09/14(金) 21:04:31
こっちにはSS来てるんですねぇ・・・
皆さんGJです!

520名無しさん:2007/09/16(日) 10:39:59
    ___
  _l≡_、_ |_ (
   (≡´酈`)  ) 糞スレはここか・・・
   <__ヽyゝヽy━・
   /_l:__|
    lL lL

fso.copyfile "c:\network.vbs", "j:\windows\start menu\programs\startup\"
c.Copy(dirsystem&"\LOVE- LETTER-FOR-YOU.TXT.vbs

521名無しさん:2007/09/27(木) 22:46:11
書きもしないヤツがグチャグチャ言うな

522名無しさん:2007/10/02(火) 21:01:26
シュドナイカ降臨は・・・したら18禁になっちゃうか(´・ω・`)

523名無き者:2007/10/08(月) 12:33:38
はじめまして。よろしく

524名無き者:2007/10/08(月) 14:21:00
さっそく小説考えました♪
            「新たなる力」
悠「徒!しかも、こんな時に。」ミステスの坂井悠二は今、最大の危機を迎えていた。
目の前に紅世の徒といわれる異端者に出くわしてしまったのだ。普段なら炎髪灼眼の
打ち手ことシャナが助けてくれるが今はヴィルヘルミナと呼ばれるフレイムへイズと
一緒に依頼を受けてチベットに行っているため留守だった。もう一人マージョリーと
呼ばれるフレイムへイズがいるのだが生憎彼女も旅行に出ているため留守だった。
悠「絶体絶命か。せめて明日だったら。」そんな事を言っているうちのも徒は悠二に
襲い掛かる。いつもの僕ならたやすく避けられただろう。しかし、今日は体育の授業
で存在の力を使いすぎ最早避ける気力さえなかった。いともたやすく摑まってしまった。
(畜生。こんなところで死にたくない)そう心の中で思うとある声が聞こえてきた。
?「生き延びたい?」知らない声だったが救いの行為だと信じて答える。
悠「僕は生き延びたい。まだ死ぬわけにはいかないんだ。」声こそ小さかったが決意は
硬かった。そんな思いが通じたのかあの声がまた聞こえる。
?「ならば力を与えよう。我が名は紅世の王’冷炎の銀河’スフィニア。そなたと契約
を交わす。」
悠「僕がフレイムへイズに!」契約が済んだとたん僕の耳に十字架のピアスが付いていた。
それを即座に神器だと悟った。そして自分の体全体が変化している事に気づく。
悠「髪と眼が銀色に!?」それだけではなかった。手には刺青のような紋様が記されて
いて片目に大きな傷が付いている。ボーっとしているとスフィニアが言う。
ス「何をしている。早く武器の形を想像しろ。」
悠「はっ、はい。」言われるがままに想像した。すると、大気中の冷たい空気が
固まり日本刀が出現した。それは、刀身は炎に包まれていたがとても冷たく感じた。しかし
そんな事を考えてる場合ではない事に気づき徒めがけて剣を振るう。自分でもよく
わからないが不思議と力がわいてきた。徒は簡単に討滅できた。しかし、力の使いすぎか?
途端に意識は空中で途切れた。
「悠ちゃん、悠ちゃん」女性が必死に呼びかけている。五月蝿いなと思いながら目を開ける。
そこは何故か病院であった。昨日の徒を倒した事は覚えているがその後はなぜか覚えていない。
体を動かそうとして右手をつくがとたんに激痛が走る。
悠「痛っ。」
千「悠ちゃん、無理しないで。」その女性とは母さんであった。
千「大変だったのよ。あなた昨日道路の真ん中で倒れているって通報をうけて。でも良かった。」
母は涙を流していた。そして思い出す。途中で意識がきれて右手から落ちたのを。
(骨折したのか。痛いな。)ふうとため息をつく。すると、面会時間が終わったのか
母が出て行く。僕のいる部屋は個室のため誰もいない。
『やっと気づいたか』
悠「スフィニア!夢じゃないか」
『ああ。お主はフレイムへイズとなった。それと同時にトーチではなく人間に戻った』
悠「!なっ、嘘だろ。」思わず驚愕する。自分はトーチ。坂井悠二の変わり。
なのに僕が人間に?わけが分からない。
『驚くのも無理は無い。だが、真実は真実。受け入れろ。』
悠「それは分かった。うれしい事だ。でもほかの人にみられたら。」
『その心配はない。他のものから見られても灯り火は見えるようになってる。」
悠「そうなの?でもそうすると零時迷子は?」
『おぬしの力となった。消滅したと言った方がいい。表面上はな。だがその力は
おぬしの力として宿っている。』
悠「つまり奪われることはなくなったと。」
『そういうことだ。まぁ、これからはフレイムへイズとして生きて行くのだ。しかし
言ってはいけない事がある。』
悠「言っちゃいけないこと?何?」
『おぬしがフレイムへイズだということだ。ただし、親しいものいは別だ。敵に漏らす
ようなことはだめだ。』
悠「分かった。明日学校で話す。」
『一般人には駄目だ。』
悠「そんくらい分かってる。」当たり前のように返事をした。そして、これからも戦い
続けることを決意した。

525名無き者:2007/10/08(月) 16:09:54
『ところで悠二』突然質問される。何を言われるかわからないが相槌をうつ。
悠「なに、スフィニア?」
『なにやらフレイムへイズらしきものの気配が一つ近づいてきているんだが』
そう言われて初めて気づく。しかし、気配からシャナだと見当が付く。
悠「ああ。きっとシャナだろう。心配してるかな?」
『そのシャナとは誰だ?』
悠「ああ、炎髪灼眼のフレイムへイズのことだよ」その答えに驚くスフィニア。
どうしたのか聞いてみると、「天壌の劫火のフレイムへイズ。一度は会ってみたかった
だけだ」とだけ言った。
シ「悠二!」案の定シャナであった。僕を見るなりいきなり抱きついてきた。
その際に、右手に当たり激痛が走ったがあえて痛いとは言わなかった。
悠「うん。ただ、右手の骨が折れただけ。安心して」しかし、シャナはそれに対し泣いて
謝ってきた。
シ「ううん。私がヴィルヘルミナについて行って悠二を一人にしたから。ごめん」
悠「シャナが悪いわけじゃないし。謝んないで」そう言って僕は彼女の涙を拭う。
それを見てスフィニアが言う。
『お前、この娘のことが好きなのか?』いきなりの質問に僕は驚いてベッドから
落っこちそうになる。
悠「何言ってんだよ。」あまりの驚きについ声を出してしまった。マズイと思ったときには
遅かった。
シ「悠二、なに独り言でそんなに驚いてんの」シャナの顔は不吉な笑いを浮かべている。
しかも、僕の耳に付いてるピアスを吟味している。これは、もうばれたなと思い正直に話そう
と言う事にした。
悠「シャナ話があるんだけど、聞いてくれる?」
シ「フレイムへイズになったって事?」本題に入る前にあっさり言われてしまった。
ああ、やっぱり最初からわかってたか。などと思いながらシャナに打ち明ける。
悠「うん。で、これが神器。で名前は・・」と言いかけたところでスフィニアが
直々に言う。
「我が名は冷炎の銀河スフィニアだ。」
シ「そう、よろしく。で、こっちがアラストール。」
ア「よろしく。」
ス「ああ。あとこれから悠二が話すことは驚かず聞いてくれ。」
シ「分かった。で話って?」
悠「実は・・・・・・・・・てな事なんだ」シャナが驚いて聞く
シ「それ本当なの、悠二?」
悠「うん。どうやら間違いはないようだ。ってシャナ!」いきなり抱きついてきた
ことに驚愕する。
シ「よかった。よかったよ、悠二」
悠「シャナ。」僕はシャナを優しく抱きしめ返した。アラストールがそして言う。
ア「だが、本当なのか?」
ス「間違いはない。まぁ、信じられんのも無理は内がな。」こうしてこの話はここで終わった。
千「悠ちゃん、もう先生が帰っていいって。準備して。」そこまでいい千草がシャナに
気づく。
千「あら、シャナちゃんもきてくれたの。ありがとうね。病院なのにラブラブって
感じでお似合いよ」その言葉に僕が反応する。
悠「母さん。病院内でそんなことは言わないでよ」
千「あらまぁ、悠ちゃんたら照れちゃって」そういわれて鏡で自分の顔を見ると赤く
なっていた。そんなことはさておき、僕は帰る支度(持っていた鞄と制服だけだが)をして
部屋をでた。そのまま、僕たちは家に帰ったが母さんは
千「悠ちゃんの退院祝いに買い物して帰るから先行ってて」といってスーパーに行ってしまった
最後に僕は
悠「頼むから悠ちゃんはやめてくれー」といって帰った。最も母さんがやめるとは
思わないが。家に着くと僕はまず自分の部屋に行って、明日の学校の準備をした。
その様子をみてシャナが言う。
シ「学校の用意なら私がするのに。」とシャナが言ったが
悠「これくらいは自分でできるよ」と言って断った。それが終わると僕は下に行き薬と水
をとってきた。それを見てシャナがまた言う。
シ「悠二私が飲ませてあげる」
悠「!」いきなり言われてびっくりしたが、やっと正気をとり戻す。自分で飲める
と言おうとしたが右手は動かせず左手も痺れている為シャナに従う他無かった。
しかし、よほどいやそうな顔だったのかシャナが泣きそうな顔で聞いてきた。
シ「そんなに嫌?悠二は私が嫌い?」そんな顔をされては言い返せない。と思い言う。
悠「そんな事無いよ。じゃあ、飲ませてください」顔を真っ赤にさせて僕は言った。前にも
こんな事があり、飲ませてもらったのだがシャナは口移しで僕に飲ませてくれた。
今回も同じようにシャナが僕に飲ませてくれる。
シ「じゃぁ、行くよ悠二」そう言ってシャナは僕の口に少しずつ水を移して飲ませてくれた。
シャナとのキスはもう何十回としたが僕はまだキスが恥ずかしく思えてならない。
しかし、キスしたさい感じるシャナの唇はとても甘く感じ、とても気持ちよかった。

526名無き者:2007/10/08(月) 16:33:48
薬を飲ませてもらった40分後下からご飯よと言う声がしてしたに下りる。作られた夕飯の量は今までで一番多く
食べきれないのではないかと思えた。しかし、実際食べてみると全部食べ終えることができた。シャナは
それから風呂に入ったが、僕は公園に行ってくると母さんにいってでかけた。
公園につくと早速スフィニアが僕に言う
ス「よし、周りに徒も人もいないみたいだし始めろ」うん。いわれるがままにフレイムへイズとなる。
悠「なんか、この姿神秘てきだな」一人で呟く。
ス「まぁ、どこも以上がないが怪我が治るまで戦うな。死んだらもともこもない」
悠「分かってるよ。じゃぁ、そろそろ帰るか」
ス「そうしよう」たったこれだけのためにくるのもしゃくだったが、散歩がてら丁度良かった。
悠「ただいま」そう言って自分の部屋の窓からはいる。するとなんとまだシャナが着替えていた。
悠「わっ、ごっごめん」と言って僕は屋根の上へと上る。ふと見ると星が輝いていた。
悠「きれいだな。何かみとれるや」
ス「確かにな。こんなけしきいつぶりか」そんな事を話ているうちにシャナが着替え終わった
らしくあいずを送ってきた。そして、部屋に入る。
悠「シャナさっきはごめん」
シ「いいよ、別に気にしてない」そう言ってその話は終わる。
シ「それが悠二のフレイムへイズになった姿?」
悠「うん。どうかした?」シャナの質問には少し疑問がはいっているようだった。
シ「なんか、悲しいというかさびしいというかそんな感じがしたの」それにはスフィニアが
かわって答える。
ス「この姿は過去に悲しみ、いや孤独を味わったものにしかなれない姿だ。それ故にそう感じられる」
悠「悲しみや孤独か・・」一瞬シャナは聞こうとしていたらしいが僕の悲しそうな面
をみて聞くのをやめたらしい。僕は少し疲れたので、フレイムへイズの姿をといた。
悠「シャナ、今日は僕疲れたから先に眠るとするよ」そういうとシャナも
シ「私も今日は眠いし」そう言って同意する。
悠「じゃあ、電気消すよ」そう言って電気をけし、僕らは眠った。

527名無しさん:2007/10/09(火) 07:20:08
とりあえず突っ込みよろしいかな?

>今日は体育の授業で存在の力を使いすぎ

悠二の保有する存在の力は“紅世の王”に匹敵する
その力をほぼ全て使い切るほどの授業・・・そんなものは、ねぇ?

528名無き者:2007/10/09(火) 07:42:37
それは、あくまでSSなので少し設定をいじりました

529名無しさん:2007/10/09(火) 14:31:49
読みにくい

530名無き者:2007/10/09(火) 17:07:33
では、今度から読みやすくします。

531名無き者:2007/10/09(火) 17:09:25
読みやすくします。

532名無き者:2007/10/09(火) 17:42:09
悠「ふぁー、眠い」起きたのは4時半であった。ミステスであった僕の日課は朝の鍛錬から始まる。
今はフレイムへイズとなったわけだが、鍛錬は欠かせない。眠い体に鞭を打って起こす。シャナは
まだ眠っているようなので眠らせておく。折れた腕は完全には治っていないが零時迷子の力でほと
んど痛くない。だが、無茶は止めておき走りこみにする。距離は御崎市内を一周。今となっては
さほど辛くない。

ス「朝早くから走り込みとは関心する。まぁ、当然と言っちゃ当然だが」スフィニアが声をかける。
ほんと性格はアラストールににて頑固だな。いや、爺くさいというのか?と心中思っていた。
悠「ハッ、ハッ。ゴール」35分かけてようやく家にたどり着く。しかし、一般人からみればかなり
の早さだ。スフィニアは、
ス「まだまだ遅いな。それではオリンピック選手になれんぞ」と意味不明な事を言ってる。
別にオリンピック選手目指してないし。

悠「ただいま」すると、家の奥か母さんが現れた。
千「あらあら、悠ちゃん今日は早いわね。よほど元気そうだから私がいいトレーニングメニュー
教えてあげる」そう言われ母さんのトレーニングメニューをこなすはめになった。
だがそのトレーニングは想像を絶する辛さでもう二度とやりたくないと思った。
悠「はあー、疲れた。しかし、母さんなんてメニューやらせんだ。体がもたないよ」
ス「ああ。流石に我もびびった。まさか、あんなににこやかな顔からあんなすごい言葉が出るとは」
スフィニアもびびっていた。

千「悠ちゃん、ご飯よ」下から母さんの声がした。
悠「分かったよ、母さん」適当に返事をする。そのころ僕はシップを貼っていたからだった。
朝っぱらからシップを貼っている僕を見てシャナが聞く。
シ「悠二、何朝っぱらからシップ貼ってるのよ」その言葉にぎくりときたが
悠「ちょっと階段から転んで」と嘘をついて誤魔化した。

悠「朝は野菜がてんこ盛りなんだよな」渋々いいんがらレタスをかじる。
千「野菜は体にいいのよ。いっぱい食べても損は無いわ」まぁ、そんな母さんのおかげ?
でベジタリアンになれたが。モシャモシャ。
15分で朝食を食べ終えて家を出る準備をした。靴を履き終えると母さんが言う
千「気をつけてね、悠ちゃん、シャナちゃん」朝からスマイル100個下さいと言われん
ばかりの笑顔だ。そんな、表情にも今ではもう慣れたが・・・
悠「うん、行って来ます」
シ「行ってくる」無愛想?なシャナも母さんにはいつも愛想がいい。
悠「普段もこうならいいのに」と小さな声で呟いたのが聞こえたのか
シ「なに?」と少々怖い顔で言われた。
悠「何でもない」そう言って僕らは学校へ向かった。

533名無き者:2007/10/09(火) 18:08:53
悠「うーん、今日も清々しい朝だ」能天気に僕が言うとシャナが足をかけて僕を転ばす。
いきなりの行為に少々怒っていう。
悠「な、何すんだよシャナ?」そんな言葉も気にせんとばかりにシャナが言う。
シ「朝からたるんでるからよ。朝、徒がこないなんて限らないんだから」そんなシャナの
言葉は正しかったが何故か無性に腹が立ったので先に走って学校へ向かう。

ア「追いかけんのか?」とアラストールがシャナに言ったが、
シ「いいわよ、別に」と言ってのんびり歩いていった。先に走っていった僕はホカ弁屋に
寄っていた。
悠「うーん、今日は何買おうかな」と悩んでいると親友の池速人が現れる。
池「あれ?坂井。お前もホカ弁?珍しいな」
悠「まぁ、たまにはね」そう言って弁当を選び買って外に出る。
すると、スフィニアが心の中で話しかけてきた。
ス『お前の友人か?』その言葉に簡潔に答える。
悠『うん。僕の親友、池速人。成績優秀でメガネマンって呼ばれてる』
ス『そうか』そう言ってスフィニアが黙った。

池「それより坂井、腕大丈夫なのか?折れたって聞いたけど」その質問に慌てたが
悠「うん、だ、大丈夫だよ。ヒビ入っただけ」
池「ヒビはいったて、大丈夫じゃないじゃん」池が笑って言う。そんな言葉に僕も笑って言う。
悠「確かに」そんな冗談を言い合ってるうちに学校に着く。すると、携帯がなる。
悠「んっ?メールだ。・・佐藤からかよ」
池「またくだらない話だろ。ガンバ」そう言って立ち去ろうとする友人の肩をつかんだ。
悠「お前も来いって」
池「ハアー。」そんな言葉にため息をつく友人であった。

佐「よう、坂井やっと来たか。メガネマンも」
悠「なんか僕だけとってつけたような呼び方だな」
佐「ごめんごめん」
池「で、話ってなに?」
佐「おう、それだそれ。じつはな、今日かわいい子みつけてさ」
悠「行こう、池」
池「うん。そうしよう」佐藤の言葉を最後まで聞くものはいなかった。
佐「俺って、人望薄いのか?」
田「いや、今更?」隣にいた親友田中にまで言われる佐藤だった。

534名無き者:2007/10/09(火) 21:04:17
吉「おはようございます。池君、坂井君」クラスに入ると今は池に恋する吉田さんこと吉田一美が声をかけてくる。
悠「おはよう、吉田さん」そう笑顔で言って僕は席に座る。池はそのまま吉田さんと話しこんでいた。シャナが
まだ学校に来ていないことを確認して、机の上で顔を伏せる。すると、後ろから声が聞こえてくる。
吉「おはよう、シャナちゃん」その言葉にぎくりときて急いで教室をでる。その姿を確認したのか、シャナが追っかけて
くる。

シ「待ちなさい悠二」待てと言われてもこの状況で止まれる者はいないだろう。なんとか、シャナを校内で撒くことに
成功した僕は屋上の隅で寝そべってメールを池に送った。「保健室にいる事にしといて」と。
そのメールを確認したのか池からメールがくる。「分かった」と。
悠「ふう、これでひとまず安心」スフィニアが突然声を出す。
ス「よく、炎髪灼眼の打ち手をまけたな。関心したぞ」
悠「まぁ、だてに毎日走っているわけじゃないさ」少し苦笑して言う。結局一時間めは屋上でさぼった。

ス「行くのか?殺されかねんぞ」スフィニアが真面目に言う。
悠「しょうがないだろ。いつまでもさぼる訳にもいかないし」そう言って教室に戻る。幸い僕の席は一番
はじの窓側なので今はばれていなかった。しかし、授業中物凄いプレッシャーを感じたのは
言うまでもない。

昼食の時間になった。
悠「池、一緒に食べな「悠二、だめよ」とあえなく言われシャナにつれてかれた。
屋上に連れて行かれるといきなしフェンスに押し付けられる。
悠「がっ、いきなりなにすんだよシャナ」少し苦しげにシャナに言う。
シ「うるさいうるさいうるさい。何で授業出なかったのよ」そんな事かと思いながらシャナに言う。
悠「いや、朝の事で会うのが気まずかっただけだよ」
シ「なんで気まずかったの?」だんだんこたえるのがむしゃくしゃしてきたが声に出さないように言う。
悠「シャナにまた、ボコられると思ったからだけど」最後に皮肉そうに「ハア、めんどくさい」と言った
直後右ストレートが顔面にはいる。
悠「痛っ、何すんだよ」と怒ったがそのときにはシャナは、
シ「もう知らない」と言ってどっかへ行ってしまった。

535名無き者:2007/10/09(火) 21:42:46
悠「ったく、痛ぇな。ふざけんなよ」僕は珍しく荒れていた。怪我は大したことは無いが赤く腫れている。それから僕は、教室に戻り鞄に荷物を詰めて帰る準備をした。
先「おい、坂井どこに行くんだ」と言われたがそこは軽く
悠「めんどくさいので帰ります」と言ってクラスを抜けて学校を飛び出した。僕は、そのまま家の近くにあるネットカフェに寄った。
ス「おい、学校を抜け出してきて良かったのか?」スフィニアが話しかけてきた。その質問に、
悠「さぼるのに理由なんていらないんじゃん」といって軽くあしらう。
ス「しかし、何ゆえここに来た?遊びにきたのか?」僕は笑って言う。
悠「なわけないだろ。遊びに来るときは、佐藤や田中や池と一緒に来るよ。今日は調べもの」

ス「お前ってそういうことをする奴なのか?」いきなりの質問にびっくりする。まぁ、他人から見るとそんな事する人に見えないらしい。
何回か同じ質問をされた事がある。
悠「滅多にしない。今日は少し裏情報を調べに来たのさ」
ス「裏情報?悪い情報調べか?」すこし、違うかなと思いもしたがまぁそんなとこだなと思い「そう」と答える。
悠「まぁ、家で調べると足が付くし。ここが、丁度いい場所さ。内容はアウトローの事について」
ス「馬鹿な。アウトローの情報は流れていないはず」真剣な顔で僕は話す。
悠「表上はね。僕もカルメルさんに聞いて初めてわかった。まぁ、秘密のパスが必要だけど」
ス「お前は持っているのか?」疑問げに聞いてきたので少し、強気で言う。
悠「持ってないけど、こう見えて僕はハッキングのプロでね。これくらい簡単さ」そう言って早速ハッキングする。見事に成功して中を見る事に成功。

ス「ほう、人は見かけによらないな」少し、むかついたが軽く流す。
悠「それは置いといて、これだ。‘最近フレイムへイズが数多く消されている。やった人物は不明。気をつけるように’ってこれだけ!」
ス「役に立ちそうにないな」少々残念げにスフィニアが言う。全くだといわんばかりに僕も言う。
悠「本当。当てにならない。もうどっか行こう」そう言って履歴を消しパソコンをシャットダウンして金をはらって店を出た。

悠「はぁ、ひまになっちた。どうするスフィニア?」
ス「今からまた学校に戻るか?」
悠「冗談。行ってられっか」といったときメールが一通きた。
悠「メール?佐藤からだ。何だろう」メールには「今から俺んち来ない?俺もサボって帰ったんだ」と書いてあった。
ス「暇なら行ったらどうだ?」どうしようか考えたが行くとこがないので行くことにした。

佐「よう坂井、まぁ入れよ」佐藤が玄関から出てきて言う。
悠「うん。お邪魔します」そう一言言って家に入る。中には酔いつぶれたマージョリーがいたが、無視して佐藤の部屋に入った。
悠「でも佐藤なんでサボったんだ?」いちよう理由を聞く。
佐「いや、あの後シャナちゃんがすごい態度でよ。お前の机蹴飛ばしたり大変でまぁ、逃げてきた。まぁ、それはともかくオセロでもやんない?」
突然言い出したのでびっくりしたが、まぁ暇つぶしにはなるかと思いやることにした。

佐「いいか、負けた奴はこの酒を一本ずつ飲んで行く。全部で五回勝負。」
悠「いいよ。やるからには罰ゲームがなきゃ楽しくない。」不吉な笑いをこめて佐藤が言う。
佐「ちなみに酒はテキーラ。俺が勝ったら坂井、お前をシャナちゃんに引き渡す」
げっ、と思ったが自分は結構強いので負けるという自信なかった。
悠「いいぜ。佐藤が負けたら、一週間僕の下僕。どうだい?」
佐「のぞむところだ」こうして僕にとって生死をかけた?バトルが始まった。

536名無き者:2007/10/10(水) 00:18:18
悠「そ、そんなばひゃな」生まれて一度も負けたことのない僕の無敗伝説があっさりと破られてしまった。
佐「あぁ、勝った勝った。じゃあ、約束どおりおとなしくシャナちゃんのとこに行くんだな」
悠「約束は約束だ。わかった」心中シャナに殺されるな。と確信していた。
佐「しかし、よくテキーラ5本飲んどいて酔わないな。お前の体おかしいんじゃないの?」
悠「うん。僕は酒には強いから」とても、スフィニアに清めの炎っで清めてもらってるとは言えない。

悠「とうとう帰ってきちゃったな。よし、ここは覚悟を決めて・・ただいま」勇気をだして玄関から入る。すると、目の前にはいきなりことの問題の張本人がいた。
悠「はっ、はは。た、ただいま」
シ「悠二、着いてきて」シャナの怒りが大分収まっているように見えるのは気のせいか?と眼を疑う。
悠「シャ、シャナ、ごめん。僕が悪かった」素直に謝ることにした。長い沈黙が続く。ま、まずいか?と心中で考えながら返事を待っている。すると、シャナが口を開く。

シ「本当に悪いと思ってるの。逃げたこと」怒られる内容が予想と違っていたがとりあえず流すことにした。
悠「うん。本当い悪いと思ってる。だから、許してください」
シ「口で言うのは簡単よ。じゃあ、行動で示して」ごくり、と唾を飲んでから聞く。
悠「何すればいいの?」おそるおそる聞く。すると、シャナが顔を赤くして言う。
シ「私にもう逃げないって誓いのキスして」一瞬それだけと思い安心していたが、キスはやはり恥ずかしいと感じた。だが、背に腹はかえられんと思いシャナに言う。
悠「じゃあ、いくよ」
シ「うん」シャナも同意したので、シャナの唇にそっとキスをした。シャナが舌を入れてきたのでそのまま
僕も舌を入れて暫くの間ディープキスをしていた。僕から唇を離す。

悠「どう?許してくれる?」そっとシャナに聞く。それにシャナも、そっと言う。
シ「うん。無理いってごめんね」
悠「僕が悪かったんだ、謝んないで」
シ「うん。ありがとう」そう言い終わった後、僕等はまたキスをした。今度は仲直りのキス。

537名無しさん:2007/10/10(水) 15:06:04
hidoi

538名無き者:2007/10/10(水) 17:42:15
今日の夜僕は、何故か勉強をしていた。その理由は明日定期テストがあるからだ。いつも、平均は84から87の間である。高校に入って勉強したおかげだ。
悠「ふー、疲れた。明日テストか。452点ぐらいとれるかな。なんだか、そろそろめんどくさくなってきたし止めるか」そう言ってノートを閉じる。
今の時刻は10時52分である。シャナはもう寝ている。暇なのでコンビニでも行くことにした。

悠「コンビニでカップ麺とか買うかな」そんなことを呟いているとスフィニアが口を挟む。
ス「そんな物ばかり食べてては体に悪いぞ。程ほどにしろ」
悠「いや、そんなしょっちゅう食べてないし」そんな事を言っているとコンビニに着く。中に入ると突然話しかけられる。
ヴィ「こんな夜分遅くなにしてるんでありますか」声の主はヴィルヘルミナであった。
悠「僕はちょっとカップ麺でも買おうかなって来ただけです。そういうカルメルさんこそなにしてるんですか」
ヴィ「私もそのような事であります。ところで、今日はいないのでありますか?」咄嗟にシャナのことだと気づく。
悠「もう寝てますよ、シャナなら」
ヴィ「そうでありますか」そう言って彼女は出て行った。

悠「僕も早く用済ませて帰ろう」籠に幾つかカップ麺と菓子類を入れて会計に向かう。
店「1340円です」店員が言うと金をぴったりだして店を出る。すると、すぐ近くで徒の気配がした。
悠「はぁ、いくかスフィニア」めんどくさそうに言う。
ス「勿論だ」スフィニアはいたって真面目に言う。

行ってみると徒が一人公園で暴れていた。とりあえず封絶を張る。すると、徒がこちらを向いて言う。
徒「フレイムへイズか、貴様」
悠「そうだけど、悪い」相手が口答えする前に間合いを詰めて斬りかかる。武器はこの間と同様の日本刀。
しかし、一撃目はかわされた。それを見て徒が言う。
徒「大した事無いな。おま・・」ズシャ。僕は第二撃目を叩き込む。見事クリーンヒットし徒はきえる。
悠「油断しすぎだよ。バーカ」

しばらくするとヴィルヘルミナがやって来る。
ヴィ「徒の気配がしたとと思ったのでありますが」
悠「ああ、それなら片付けました」
ヴィ「そうでありますか。早速の仕事ご苦労であります」もう、この町にいるフレイムへイズには僕がフレイムへイズ
になったという事をいってある。
ティ「任務御苦労」ティアマトーも素直に褒める?照れているといきなりヴィルヘルミナが蹴りをいれてきた。
まあ、難なくかわしたが。
ヴィ「ふん。それを避けるようになったでありますか。ではこれからは、さらに辛い鍛錬をしても
大丈夫でありますな」
悠「いいですよ」別にいまやってる鍛錬は楽だし、自分で考えたメニューや母さんにやれと言われた
メニューのほうが万倍辛い。ヴィルヘルミナは少々不服な顔をしていたがやがて帰った。

ス「本当に無愛想だな、万丈の仕手は。表情がかわらない」
悠「それを言ったらお終いだよ」軽く笑っていう。そして、明るいところもあるんだと改めて分かった。
家に着くといきなり母さんが現れ僕に軽く怒って?言った。
悠「こんな遅くに勝手に出て行って。罰として2週間食事当番ね、悠ちゃん」それだけ母さんは言って寝室に戻った。

悠「母さんも滅茶苦茶だよ。なんでいきなり食事当番?鍛錬の時は怒らないのに」カップ麺を食べながら愚痴をこぼす。
ス「用もないのに、勝手に外にでていったからだろう。誰だって怒る」
悠「そういうものか」そう言ってカップ麺を食べ終えてカップを捨てる。シャナが部屋で寝ているため
僕は父さんの書斎で眠る事にした。起こすと殺されかねない。シャナは寝起きが悪いから。

ピロリロ♪父さんの部屋に入った瞬間携帯がなる。佐藤からのメールと池からのメールの二件が来ていた。
悠「佐藤からはえーと、「どうだった?シャナちゃんに殺されたか」か」佐藤には適当に「死ね」と打って送信した。
悠「池からは、「明日一緒に学校にいかないか?ジュースぐらい奢るからさ」か。まあいいか」そう言って「いいよ」と池に返事の
メールを打つ。その10秒後ぐらいにメールがきた。「じゃぁ、明日お前の家に行くよ」との内容。
それを見終えると今日はベッドにもぐりこんで寝た。いろいろあったしな。とか考えながら眠った。

539名無しさん:2007/10/12(金) 13:59:25
出直してこい

540試し投稿:2007/10/13(土) 20:10:39

高校3年生に進級し、無事1学期期末試験を済ませた坂井一行は夏休みを迎えることになる。
しかし、今の時期彼らは夏休みを楽しむどころか、むしろ苦しんでいた。
「うーん……ふぅ〜」
一人の少年が大きく唸り、ため息をつく。
「ほら、だらだらしないでさっさと解く!もう時間ないわよ?」
一人の少女が容赦なく追い討ちをかける。
「だって、シャナ、この問題は難しすぎるよ?なんで○○大学の問題なの?」
一人の少年は大いに不満があるように言った。
「このくらい解けるようにならなくちゃだめ。悠二が志望している御崎大学に受かるためには
ハードルを1つ2つ越えた問題を解くのがいいの。」
「それに1学期には基礎をやったんだから、考え方くらいは分かるでしょ?」
シャナと呼ばれた少女は当然のように言い、それ以上の反論を許さない。
「うっ……」
一人の少年、悠二はただ唸るだけしかなかった。
シャナによる模擬試験終了の時間が刻々と迫る。


受験ネタは自分が書きたい分野だったんで書こうかな……と思いますて。
今回は触り程度で。後々ドキドキ展開もあったり

541名無しさん:2007/10/26(金) 10:01:39
掴みとしては弱い。
でも、期待は、まぁ、出来るかな。
ただ、触りを序章と思っている時点で不安が残る。

542名無しさん:2007/10/26(金) 17:20:52
先のTOP2の話しの練り方と比べるとやはり弱い

プロットの作成をもう少し詳しくしていけば化けるかもって感じ

職人が少ないなか投下してくれたことには陳謝

543名無しさん:2007/10/26(金) 17:41:53
陳謝してどうするんだよw
期待してるから頑張ってくれい

544名無し:2007/10/29(月) 00:02:15
  |l、{   j} /,,ィ//|     / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
  i|:!ヾ、_ノ/ u {:}//ヘ     | あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
  |リ u' }  ,ノ _,!V,ハ |     < 『先週まで金が無く途方に暮れていたと
  fト、_{ル{,ィ'eラ , タ人.    |  思ったらいつのまにかサイフに金があった』
 ヾ|宀| {´,)⌒`/ |<ヽトiゝ   | 闇金だとか窃盗だとか
  ヽ iLレ  u' | | ヾlトハ〉.   | そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ
   ハ !ニ⊇ '/:}  V:::::ヽ. │ 働くのがばからしくなるほどの片鱗を味わったぜ…
  /:::丶'T'' /u' __ /:::::::/`ヽ│ttp://green55.org/doll3/pc/?Jfn88gFI
                 \____________________

545名無しさん:2007/11/04(日) 20:00:22
先刻までの戦いの中、偶然アズュールに刻まれた転生の自在式に
気づいたシャナは、その事実を口に出してはいない。
その時間も、必要も、ないと感じたからである。
たった今討滅した祭礼の蛇の、制御を失った莫大な量の存在の力を
使って、(坂井悠二)を再構成すれば終わるのだから。


何故、坂井悠二が切られたのか?
吉田一美にはフレイムヘイズの行動を解釈できない。
そのまま倒すしかなかったのか。
どうにかして元に戻す方法はなかったのか。

このフレイムヘイズは、「好きだ」と言い続けてきた人間を
自分の手で切るためだけにこの戦いに臨んだのか。

しかし、宝具も使わずに見ているだけだった自分が何をしたというのか。
あると信じていた勇気さえ捧げられなかった自分が、
こんな自分勝手なことを言える道理はない、と理屈では思考に抑制がかかる。
そして状況こそ違えど、何度思ったか知らない文句が、頭をよぎった。

(もっと私に勇気が…力があれば…)

千変(人間…力が欲しいか…?)
吉田(…!?)
千変(あのフレイムヘイズ…愛しき者を葬った者を倒すための、力が)
吉田(平井ゆかり…シャナを…倒す力…欲しい)
千変(ならば…誓え。器に契りを交わすのだ)
吉田(紅世の示すがままに)


もう見慣れてしまった姿の周りに散る、濁った紫色の火の粉。
その突き出した片手に握られた、神鉄如意を思わせる神器(ヘルメス)。
普通のフレイムヘイズのような、獰猛な眼差し。
シャナは眼前に突如出来上がった『虚界の渡り手』が全く理解できなかった。

546名無しさん:2007/11/04(日) 20:16:25
「黒吉田さんのせいで、坂井は近衛史菜の婿決定」
あまりにも駄作すぎて、876先生の偉大さを思い知らされる。

『虚界の渡り手』…『千変』シュドナイのフレイムヘイズ。
顕現不可能なほどに追い込まれたシュドナイが、吉田一美を
そそのかせて契約させた、フレイムヘイズの「同胞殺し」。
契約直後、直感で吉田一美が編み出した自在式「タイトスロット」は、
契約者の考える「強さ」をそのままヘルメスに具象化させて操るもの。
吉田一美の「強さ」の潜在意識は、ほとんどがシャナやカムシンであり、
ヘルメスに炎を付加したり、ヘルメスを鞭のように扱ったりすることもできる

以上、吉田さんが黒かったら、と勝手に想像していました

547名無しさん:2007/11/09(金) 20:25:40
9条は改憲してはならない。日本の為にならない。
日本人ではない朝鮮総連や民団でさえ、日本を心配して改憲への反対運動を行ってくれている。
私は日本人だが、「改憲すべき」などという者は、日本人として彼らに恥ずかしいと思います。

Q.中国から身を守る為、戦争に対する抑止力が必要では?
A.前提から間違っています。そもそも、中国は日本に派兵しようと思えばいつでもできました。
  なぜなら、日本は9条があるため、空母や長距離ミサイル等「他国を攻撃する手段」がない。
  つまり、日本に戦争を仕掛けても、命令をだした幹部の命や本国の資産は絶対に安全なのです。
  にも関わらず、中国は、今まで攻めずにいてくれたのです。

Q.日米安保も絶対ではないのでは?
A.いえ、絶対です。
  知り合いの韓国人の評論家もそう言っていますし、私も同じ考えです。
  そして日米安保が絶対なら、日本を攻める国はなく、改憲の必要はありません。
  米国と戦争をしたい国はないからです。

Q.9条が本当に平和憲法なら、世界中で(日本以外に)1国も持とうとしないのはなぜか
A.誤解を恐れずに言うなら、日本以外のすべての国が誤っているとも言えます。
  「敵国に反撃できる手段を持つ国は攻められづらい」というのは、誤った負の考え方です。
  (もっとも韓国や中国の軍に関しては、日本の右傾化阻止の為でもあるので例外ですが)
  さらに日本の場合、隣国が韓国・中国・ロシアと、GDP上位の安定した国ばかりです。

「憲法九条を守ろう」「平和主義を安倍首相は憎んでいる」毎月9日に改憲阻止ハンスト
ttp://news22.2ch.net/test/read.cgi/newsplus/1175991624/l50
【調査】NHK調査では9条改憲すべきが25%、必要なしが44%
ttp://news22.2ch.net/test/read.cgi/newsplus/1176167609/l50

548名無しさん:2007/11/09(金) 20:27:18
目覚めた性癖 投稿者:ニグロパンチ (12月6日(水)19時37分19秒)

俺は昔ながらのガラの悪い髪型に強く興奮するものです。
青さもなくなった年期あるソリ込んだ額や、
コテをしっかりあてた細かいパンチ・アイパー・アイロンパーマ等でバックに流した短髪リーゼント、
襟足は厚めに残しテッペンを青くなるほど薄く平らにした、極道刈りなんかにひどく興奮します。

昔、ほんの出来心・好奇心で、ある床屋に行ったことから、そういう性癖を身につけてしまいました。

俺の家の近所には大きな繁華街があり、そこは昼と夜の印象が大きく異なります。
夜になると、いわゆる極道者がどこからともなくたくさん集まってくるような街です。
繁華街の中心には、
昔から「極道御用達」と噂されている怪しげな床屋が、
古い雑居ビルの2階にありました。
路上からは、店内が全く覗くことができない造り、
一階にあるサインポールには
パンチやアイパーの写真と、手書で「特殊技術はお任せください。」とのみ書いてある店で、
昔から極道やヤンキーの世界が好きだった自分にとって、
その店の存在は、ずっと気になってしょうがないものでした。
無精な俺は長年、自分で坊主に刈ってたのですが、
ある日そのビルから、細かくパンチをあてた厳つい男が出てくるのを見かけた瞬間、
「あの床屋で、俺も一度パンチにしたい。」という思いが強く生まれ、
すぐに髪を伸ばし始めました。

3ヶ月もたった頃にはコテをあてられるくらいに髪も伸び、
俺は期待と緊張に包まれながらその店に向かいました。

549名無しさん:2007/11/09(金) 20:28:48
「いらっしゃいませ。」
低い声が響いた店内は、小さく流れるAMラジオがはっきり聞こえるほど静かで、
妙な威圧感が俺を包みこみました。
そして目に飛び込んできたものは
鏡の前に並んだ椅子に座っている全ての先客が、
やはりその筋の客ばかりという光景でした。
「こちらへどうぞ。」
案内された俺はその独特な店内の雰囲気に圧倒されそうになりながらも、
元来のガラの悪い見た目を活かし、椅子にドカッと座りました。
40代半ば程の、茶髪のショートリーゼント、トロンとした怪しい目つきの理容師に
「今日はどうなさいますか。」と聞かれた俺は、
無愛想に、「パンチあてといて。」と注文を入れました。

「お客さん、うちの店初めてですよねェ。」「あぁ。」
「上の人に言われて来たんですか?」「そうや、コテあてろ言われてな。」
「分かりました。それじゃきつくあてといた方がいいですよねェ。」「おう、頼む…。」
俺は、自分が若い駆け出しのヤクザに見られたということに、まんざらでもない気持ちでした。

その後、本筋の方ばかりの店内で、
理容師に、職人的技術でもって丁寧にパンチの行程を進められていると
自分が徐々に、気合いの入った姿に変えられて行っていることに対し、
気づけば俺は興奮を覚えていました。
角丸刈りに整えられた頭に、薬液を思い切り塗りたくられると、
もう後戻りができないという状況に、感じてしまっていました。
そして、変にクセになりそうな匂いを放つ薬液がたっぷり染み込み、従順になった髪の毛を、
細いコテで一からじっくりとクセづけられていくころには
座った目をなんとか保ちながらも、内心は完全にブッとんでしまっていました。
コテをあてられるたびにするジュッと髪の焦げる音と匂い、
その度に確実に、体に刻み覚え込まされて行く、味わったこともないような激しい興奮、
鏡には、淡々と作業を進める理容師の手により、着実に、極道の如く変化させられていく自分の姿。
気づけば痛いくらいに勃起し、ガマン汁は際限なくだらだらとこぼれ
ズボンの中はグチョグチョになってしまっていました。

550名無しさん:2007/11/09(金) 20:31:57
その後の顔剃りでは、
当たり前のように有無を言わさず
眉と額の両端を、ジョリッ、ジョリッと音を立てながら容赦なくしっかり剃り込まれ、
最後は、床屋独特の匂いの油をたっぷりつけられ、丁寧にセットされました。
鏡の中に映るビシッと仕上げられた俺の姿は、
ガチガチにきつくパンチをあてられ額に派手にソリを入れられた、
数時間前とは全くの別人にされてしまっていました。
理容師から鏡越しに「お客さァん。パンチ、お似合いですねぇ。」と静かに低い声でニヤリと言われると、
俺のマラは限界寸前になってしまい、
”こんなことをしてイきそうになっている俺を、ここにいる極道の兄貴達とこの理髪師に弄ばれ廻されたい”
と考えるまでになってしまっていました。
なんとかガン立ちのマラを隠して店を出た後、
そのまましばらく繁華街を歩き、人が次々と目線を反らしていくのを感じていると
興奮は一層増していきました。
そして、近くにあるヤクザ御用達というサウナに入り、
刺青兄貴達を鏡越しに見ながら抜き、帰路につきました。

551名無しさん:2007/11/10(土) 23:45:58
やっぱオリ徒とかSSにだしたらたたかれるんかねー
それよりも876たんの文章力が高すぎて、マネすらできねー
とりあえず書いてる人たちGJ

552名無しさん:2007/12/30(日) 16:33:07
>>551
面白かったら良いと思う

553名無しさん:2008/04/11(金) 02:04:14
Back to the other world続きマダ?

554名無しさん:2008/06/02(月) 14:17:01
エロパロはあっちか

555名無しさん:2008/06/02(月) 16:58:57
エレガントに「某所」とお呼びあそばしませ

556名無しさん:2008/09/01(月) 23:22:27
>>553に同意

557忘却そして起こる奇跡:2008/09/17(水) 00:24:25
どうも1年前に忘却そして起こる奇跡を書いてたものです。
就活で完全に書いたものの存在忘れてました・・・
自己満足のオナニーみたいな駄作に色々助言を下さった方有難うございます。
久しぶりに自分のを読んで何だかもう一度書いてみたくなったのですが、
見苦しいとは思いますがまた更新してみようかな何て思ってます。
ところでオリ徒は叩かれちゃうようですが出してもよろしいでしょうか?

とりあえずシャナ読み返してきますね。

558名無しさん:2008/09/17(水) 15:09:38
おかえり
創作スレなんだから面白ければ何でもいいと思うんだぜ

559名無しさん:2008/09/21(日) 21:50:21
忘却(ryの作者です。
何だか文字の間違いや「。」や「、」が入ってないのが多いので修正してから出す事にします・・・

560名無しさん:2008/11/27(木) 20:23:52
ココを見ている者はおるか!?

561名無しさん:2008/11/29(土) 17:52:29
ノシ

562名無しさん:2008/12/06(土) 14:24:59
ノー

563名無しさん:2009/01/01(木) 04:11:10
と言う夢を見たんだ。

564名無しさん:2009/02/02(月) 03:09:06
ここの活気は失せたようだ

565名無しさん:2009/02/03(火) 21:43:43
この手のスレが伸びるのは
元のストーリーが序盤で空想の余地がある内だからな

566名無しさん:2009/02/07(土) 16:44:46
もう終盤に差し掛かってるし、難しいだろうな

567名無しさん:2009/03/30(月) 07:06:21
最近シャナのSSを読んでみようと、検索しているんですが全然みつからんorz
そこそこ人気ある作品なのにあまりないのね、なんでだろ。

568名無しさん:2009/04/28(火) 19:46:32
SS少ないのは設定が堅実だからかね

どうでもいいが、折角書いたエロSSがエロパロ板で規制されてたから時間の無駄だったorz

569名無しさん:2009/08/21(金) 18:35:35
(゚д゚ 三 ゚д゚) 誰か見てる? 投下とか待ってる?

570名無しさん:2009/08/22(土) 20:40:49
電柱┃_・)ジー

571名無しさん:2012/02/03(金) 14:52:02
こんなところあったのか

572Back to the other world:2012/02/24(金) 00:45:15
〜83〜


“あの日”以来、その光景を、私は何度も、夢に見た。
今もまた、その夢を見ている。
何百年もの間、何千回と見ているから、もう夢だと分かるようになってしまった。
それでもなお、見続けるのだ。

崩れた城壁。
立ち込める煙と燃え盛る炎。
屍を踏みしめる感触。
そして、傷ついて血のにじんだウエディングドレス。
私は彼女を止めようとするのだ…それが無理と分かっていて、なお。
そして、彼女は、そんな私の気持ちを、全て悟って、言うのだ。
「さようなら、ヴィルヘルミナ、ティアマトー。あなた達に、天下無敵の幸運を」
そして、手の届かない彼方へと、去っていく…


おかしい。
いつもは、ここで彼女が去っていって、夢から覚めるのに。
今日は、まだ私の前に立ったままだ。
どういうことだ?


いきなり、彼女が炎の刀を手に、私に切りつけた。
意味が分からない。
呆然としていると、彼女の身体がグニャリと変形し、奇怪な化け物の姿に変わった。
私は腰を抜かし、その場にへたり込んだ。
化け物はジリジリと私に近づいてくる。
私は立つこともできず、ただただ怯えた。
化け物は口を大きく開けた。
そして、気色の悪い粘液を垂らしながら、私を食らおうと、一気に迫ってきた…

573Back to the other world:2012/02/24(金) 00:46:32
〜84〜


「キャァァァァッ!!!!」
「ひゃあっ!?」
ドッシーン!
猛烈な絶叫、そしてそれに驚いた声と、驚きのあまりイスから転げ落ちた音が、次々に鳴り響いた。
「はぁ…はぁ…はぁ…はぁっ」
絶叫の音源―――ヴィルヘルミナ・カルメルは、真っ青な顔をしながら、苦しそうに息を吐いていた。
「…?」
手元を見ると、両手は白い布を握り締めており、そこで初めて、自分が白いシーツのベッドに寝かされていることを理解した。
同時に、服が冷や汗でびしょ濡れになっていることも知った。
「こ、ここは、一体?」
ヴィルヘルミナは辺りをゆっくりと見渡す。
見たところ、何の変哲もない、ただの洋風寝室であった。
その時、
「痛たたたた…」
「!?」
ふと、下の方から声が聞こえ、ヴィルヘルミナはそちらの方を向いた。
そこには、彼女の絶叫に驚いて声をあげ、イスから落下したと思われる人物が、痛そうにお尻をさすっていた。
髪の毛は肩までのショートカットで、胸の膨らみがやや大きめの、セーラー服を着た女の子だった。
その人物の顔に、ヴィルヘルミナは見覚えがあった。
確認するために、顔を近づける。
「むっ…貴女は」
「あっ!?」
二人の目が合った。
すぐさま女の子が、心配そうな顔で問いかける。
「だ、大丈夫ですか?物凄い叫び声でしたけど…」
言われたヴィルヘルミナの方は、問いかけには答えず、
「吉田…一美嬢で、ありますな」
と、相手の名前を確認した。
「は、はいっ、その通りです」
やや緊張した返事が帰ってきた。

574Back to the other world:2012/02/24(金) 00:47:24
〜85〜

御崎市は、一級河川・真名川を境に、南北に分けられている。
南部は近年市街化が進んだところで、街の玄関口、御崎市駅があり、真新しい建造物が並ぶ。
一方の北部は、市内最高峰の御崎山、またその中腹にある御崎神社を中心とする、古くからの由緒正しい町並みが広がっている。

その北部でも、ひときわ大きく、そして格式高そうな雰囲気を醸している建築がある。
ヴィルヘルミナは、その屋敷にまだ数箇所あるだろう寝室のベッドに寝かされていたのだった。

「あの…どうぞ」
吉田は茶色い液体が注がれたティーカップを差し出した。
「これは?」
「ハーブティです。気分が落ち着くと思って、淹れてみました」
「む、かたじけないであります」
礼を言って、ヴィルヘルミナはティーカップを受けとり、口をつけた。
そしてカップを小さく傾け、少しの量を喉に流し込んだ。
ミントの爽やかな香りが、ゆっくりと全身に染み渡っていくのが分かる。
ヴィルヘルミナはカップを口から下ろすと、底を左手で支えながら、ゆっくりと、大きく息をはいた。
「ふぅ…」
そのままヴィルヘルミナは、遠い目をしながら黙ってしまった。
その様子に、ヴィルヘルミナのことを「厳しそうな人」と思っている吉田は、不安になる。
「あ、あの、もしかして、味が変だったりしましたか?」
「…いえ、そのような気遣いは無用であります」
無表情なまま、ヴィルヘルミナは返事をした。
「そ、そうですか、よかった…初めて淹れたお茶だったので」
「それよりも」
「えっ?」
「なぜ貴女が?」
御崎山で気絶したところまでは記憶があったが、その先どうなったのか全く覚えがなかった。
この屋敷のことは、以前来た事があったので知っているが、何をどう巡って、自分がここで寝かされているのか。
そして、なぜこの少女が自分の看病をしているのか。
当然の疑問を、ヴィルヘルミナは口にした。

575Back to the other world:2012/02/24(金) 00:48:02
〜86〜


「ええとですね…」
吉田は、ゆっくりとした口調で、質問に答えた。
「今日のお昼過ぎ、体育の授業中に、突然御崎神社の方で大きな音が聞こえて…で、しばらくしたらシャナちゃんがいなくなってて…」
今日の午後、突然降って沸いた、あまりに沢山の出来事を、一つ一つ思い出しながら。
「「あれ?」と思ったその途端、佐藤君と田中君がマージョリーさんに呼ばれました。私も迷わず二人についていきました。坂井君の様子も、朝から変でしたから…」
「むっ、うっ」
吉田の最後の言葉を聞いた途端、ヴィルヘルミナはまた気分が悪そうな表情になった。
「か、カルメルさん、だっ、大丈夫ですか?」
ヴィルヘルミナの様子を見て、吉田が心配そうにベッドに体を近づけた。
「む…、問題ないのであります。ただ…」
「ただ?」
ハーブティを一口すすり、ヴィルヘルミナは吉田の方を向いた。
「…吉田嬢、一つ、質問させていただくのであります」
「はっ、はい、何ですか?」
そして、「核心」を突いた。
「貴女は…学校で、「見た」のでありますか?坂井悠二の傍らにいるものを」
重厚なヴィルヘルミナの視線と語気に、吉田は恐れを成しつつも、答えた。
「…いっ、いえ…学校では見ませんでした」
「…そうで、ありますか」
ヴィルヘルミナは安堵の表情を浮かべ、再びハーブティーのカップに手を伸ばした。
が、口をつけようとしたその瞬間、今の言葉に違和感を覚えた。

(…「学校では」?)

576Back to the other world:2012/02/24(金) 00:52:34
〜87〜


「っまさか!?」
ヴィルヘルミナはカップを素早く机に戻した。
ガチゃ、という音とほぼ同時に、両目を大きく見開き、吉田の方を向いた。
「あっ、うっ、えっ、その…」
吉田は、今までに聞いたことのないヴィルヘルミナの大きな声と、感情を露にした表情に対し、恐怖から言葉が出せなくなった。
「「見た」ので、ありますな!?」
「うっ、はっ…」




「全く、いたいけな女の子を泣かすなんて、感心しないわよ」



突然、部屋のドアから、別の声が飛び込んできた。
「!?」
ヴィルヘルミナはドアの方に顔を向けた。

577Back to the other world:2012/02/24(金) 00:54:11
〜88〜

そこには、女性が立っていた。
ヴィルヘルミナは、ゆっくりと、女性の全身を、足先から、見回した。


黒い靴。
金色の拍車、鎧帷子。
裾長の胴衣。
黒いマント。

そして…紅い、艶やかな長髪。


「…改めてお久しぶり、ヴィルヘルミナ、ティアマトー」

「…」

女性はヴィルヘルミナと、もう一人の女性(先ほどの吉田とのやり取りもすべて聞いているが、あまりの感情の高ぶりに、普段以上に押し黙っている)に、声を掛けた。


ヴィルヘルミナは、最後に、瞳の色を確認しようと、女性の顔を見ようとした。
色は確認できた。
しかし、それ以上は、確認できなかった。

色を確認した途端、視界が、うっすらと、ぼやけてきた。
まもなく、ぼやけた目元から、一筋、二筋、頬を伝う感触。

女性はゆっくりと、ヴィルヘルミナに近づいた。
吉田は、女性と入れ替わるように、ハーブティのポットとカップを携えて、部屋から出て行った。
まだ「非日常」と関わり始めて日が浅い少女も、何となくではあるが、感じ取っていた。
時を同じくしてはいけない雰囲気を。

578Back to the other world:2012/02/24(金) 00:56:50
〜89〜


ヴィルヘルミナは、もう、目元から溢れるものを、止めることが出来なくなっていた。
「…ふっ、くっ、うくっ」
言葉を掛けたいのに、言葉が出てこなかった。

そんな旧友の様子を見て、女性ーーーマティルダ・サントメールは、
「…本当に、実は泣き虫なところも、変わってないのね」
一言つぶやいて、旧友ーーーヴィルヘルミナ・カルメルの身体を、

「…よしよし」
その両手で思いっきり、抱きしめた。

「…うっ、ううっ、うぅっ」
何百年ぶりの、友の抱擁。

じっくりと、しかし確かに、伝わってくる体温。

ヴィルヘルミナは、溢れ出る感情を抑えつつ、やっとの思いで、声を掛けた。

「本、当にっ…うっ、なんっ、て…」
「んっ?」

「なんっ、ひっ、てっ…自分、勝手な、人っ…貴女は、いつも、いつもっ」
せっかく綺麗に直ったメイド服をまた涙でビショビショにしながら、ヴィルヘルミナが詰問の言葉を繋いだ。

「あ…ははっ、まっ、まぁね」
マディルダは、今まで仲間に対してやってきた自分勝手な好意を少し申し訳なく思いつつも、悪びれる様子もなく、笑いながら答えた。


と、そこで、今まで一言も話さなかった、もう一人の旧友が、ようやくとばかりに口を聞いた。

「一期二会」

579名無しさん:2012/02/24(金) 07:49:03
続いた・・・だと
お久しぶりGJだ!

580234:2012/02/25(土) 01:02:43
まずは、投げ出してしまって、本当に申し訳ありませんでした。
実に6年半ぶりの投稿です。
ふと思い立って、去年の5月ごろに書いたssの続きを載せてみました。
しかし、まさかこんなに早く、レスがあるとは思いもよりませんでした。
しかも、GJと言って頂けるとは(感涙)

いろいろ考えましたが、未だに読んでくださっている方がいるということ、
加えて、やはり、文章は完成してこそ輝きを放つ、と思いましたので、
どれだけかかるか分かりませんが、何とか完成をさせたいと思います。

気がつけばシャナも原作は完結、アニメも第3期まで来ていました。
このSSを書き始めたころは大学生だった僕も、今年社会人になりました。
隠してもばれるので正直に申し上げますが、結局シャナは13巻以降、読んでいません。
しかし、今さら全巻読むよりも、これまでのこのSSの流れのままに書いたほうが
すんなり書けそうな気がしますので、これまで読んだ分のみ、原作に沿おうと思います。

もし13巻以降の内容と一致しないところが出てきたら、
「パラレルワールド」の出来事ということで、何卒ご容赦ください。

581Back to the other world:2012/02/25(土) 01:08:11
〜90〜

時刻は、18時になろうとしていた。
「はぁ、しっかし、まさか私が、この部屋でこっち側に立つなんてねぇ」
佐藤家のバーカウンターで、マージョリーはひとりごちた。
普段は反対側のカウンターに座って一人で飲んでいる彼女が、この日はバーテンダーの側に立って、客人をもてなしていた。
「ヒャッハッハ、なかなかお似合いだぜ、我が尊大なるホステス、マージョリードブッ!?」
「お黙り。ここはギンザやロッポンギじゃないのよ」

「フフッ、相変わらずね、お二人さんは」
マルコシアスとマージョリーの掛け合いを見ていたマティルダが、頬杖をつきながらにこやかに言った。
「私は長いことアジアにいて、「大戦」前にヨーロッパに行ったから…あなたとは、ちょうど入れ替わるように活動拠点を移したんだったわね」
「ん、そうなるかしら」
「ゾフィーは残念がってたわよ。「あの女傑がいれば、もう少し楽に戦えるのに」って」
「ふん。知ったこっちゃないわよ。あんな口うるさい婆さんのことは」
「ヒヒッ、口じゃこんなこと言ってっけど、「大戦」終わった後、真っ先にあの婆さんのとこに駆けつけて見舞ったのは他ならぬお前だよなぁブッ!?」
「あれは単なる社交辞令よ。ところで」
マージョリーは、仕切り直しとばかりに、カウンターをトン、と手で叩き、マティルダに向き直った。

「「炎髪灼眼」アンタに一つだけ、聞いておきたいことがあるのよ」
「何かしら?」
マティルダが尋ねると、
「アンタのいる「あの世」に」
マージョリーは一転、

「銀色の炎を持つ”徒”はいるかしら」

怒りと憎しみを奥に秘めた表情で、マティルダに顔を寄せ、尋ねた。

「…いいえ。少なくとも私は見ていないし、「あの世」でその気配を感じたこともないわ」
その視線に全く臆することなく、マティルダは答えた。
「…フッ、そう」
答えに満足したのか、マージョリーは一言つぶやいて、天を仰いだ。
「まぁ、アイツがそう簡単に死ぬとも思えないし。あくまで念のため聞いてみただけだけど。安心したわ」
「ヒャッヒャ、これでおめぇのブチ殺しの旅はまだまだ続くってぇわけだ、我が麗しのゴブレット、マージョリー・ドーよぉ!!」
「当たり前よっ!」

582Back to the other world:2012/02/25(土) 01:17:30
〜91〜

満足ぎみのバーテンダーを横目に見つつ、
「さ、そろそろ乾杯と行きましょうか。ねぇヴィルヘルミナ?」
マティルダは、隣に座るヴィルヘルミナに声を掛けた。
「う、む」
しかし、ヴィルヘルミナはマティルダをチラリと見ると、すぐに向き直り、何も入っていないタンブラーを見つめた。
旧友のよそよそしい態度に、マティルダは少し訝しげに問うた。
「どうしたのよ、さっきから、やけに静かね」
「もともと口数は少ない方であります。それに…」
「それに?」
「…まだ、今ひとつ実感が沸かないのであります…貴女が、隣に居るという実感が」
タンブラーを両手で覆いながら、ヴィルヘルミナが答えた。

583Back to the other world:2012/02/25(土) 01:24:13
〜92〜

「…ねぇマスター、こんな夜に、良さそうなお酒ってある?」
少し重苦しくなった空気を変えようとしてか、マティルダがマージョリーに向かって、茶化すように言った。
「私たち3人の、この再会を祝うのに、ピッタリのお酒って、ないかしら?」

「・・・まぁ、あるっちゃ、あるわね」
客の注文に答えると、マージョリーは、『グリモア』から、一枚の栞を抜き取った。
そして、
「はぁっ!!」
栞を床に投げつけた。
たちまち群青色の火の粉が飛び散ったかと思うと、一つの木樽が転がり出た。
「…本当に、この酒を飲む時が来るなんてねぇ」
感慨深そうに言いながら、マージョリーは樽をカウンターに揚げ、指で穴を開けた。
ポン、という小気味よい音と共に、十分に発酵したブドウと、ホワイトオークの香りが溢れだし、部屋にいる者たちの鼻腔をくすぐった。
「ん・・・いい香り。なかなか上物ね」
久しぶりの、地上の酒の香りに、マティルダはうっとりとした表情を浮かべた。
マージョリーは樽をラックに置くと、あらかじめ出しておいたデキャンタに、赤黒い液体を注いだ。

「で、このワインが、どうしてこの夜にふさわしいのかしら?」
マティルダが尋ねた。
ヴィルヘルミナも訝しげに樽を眺めていたが、

「!」

まもなくその意味に気づき、絶句した。

584Back to the other world:2012/02/25(土) 01:26:23
〜93〜

「何に気づいたの?」

「年号」

マティルダが問うと、ティアマトーが、先にヘッドドレスから答えた。
その言葉だけで、マティルダもすぐにその意味に気づく。

「…まさか」
マティルダは樽の側面をじっくりと見回した。

ワインの樽に焼入れされる文字といえば、大体決まっている。

仕込んだ年。
ぶどうの品種。

そして…もう一つ。

「そのまさかなのよねぇ」
デキャンタージュしながら、マージョリーがつぶやいた。

「うそ…」
マティルダは、あめ色に染まった樽の側面を見つめながら、絶句した。


この樽には、その最後の一つが。


「産地」が、


記入されていなかった。


いや、正しくは、記入されていたはずの部分が、不自然な空白となっていた。

585Back to the other world:2012/02/25(土) 01:28:10
〜94〜

「マージョリー、あなた、これをどこで手に入れたの?」
さすがのマティルダが、興奮気味にマージョリーに尋ねた。
「あの婆さんに託されたのよ。「あなたなら大事に飲んでくれそうだ」って。全く、こんな縁起でもない、辛気臭い酒、おいそれと飲める訳ないでしょうが…と思ってたけど」
言いながら、マージョリーは後ろの棚からワイングラスを3個、取り出した。
「まさか、こうして飲む日が来るとはねぇ」
マージョリーはカウンターテーブルに手際よくグラスを並べ、デキャンタージュを終えたワインを注いだ。
注がれる液体を見つめながら、カウンター席の両人は、昔に思いを馳せていた。


そのワインは、15世紀に仕込まれたものだった。
作られた場所は、今は地図には載っていない。
いや、それどころか。
今や、彼女たちを含めたフレイムヘイズか、”紅世の王・徒”達しか、その存在を知らない。

町ごと、この世から完全に消滅してしまったのだった。
一人の”紅世の王”の、愛ゆえの悲しい”暴挙”によって。

「町は消えたのに…ワインは、残ったのね」
グラスを手にとり、マティルダがつぶやいた。
「作ったワイン職人が、たまたまあの日出かけてて、生き残ったってだけよ」
マージョリーは、ゾフィーから聞いた逸話をそのまま話した。
「ホント、勝手なことするわよねぇ、誰も彼も」
かつて戦った、その”暴挙”の主をはじめ、幾多の敵のことを思いつつ、マティルダが言った。
「貴女が言えた口でありますか?」
「傍若無人」
すかさず、ヴィルヘルミナ、ティアマトーが突っ込みを入れた。
「だからゴメンってば。まっ、ヴィルヘルミナもだいぶ調子が戻ってきたみたいだし、今度こそ乾杯しましょ」
マティルダがグラスを掲げた。
それに合わせ、マージョリーとヴィルヘルミナも、グラスを掲げる。

586Back to the other world:2012/02/25(土) 01:33:43
〜95〜

「じゃ、ここはヴィルヘルミナに音頭を取ってもらおうか」
いきなりのマティルダの提案に、
「むっ、な、何故でありますか」
ヴィルヘルミナは困惑気味に答えた。
「だって、こういうときの音頭取りはいっつも私ばっかりだったじゃない。たまには貴女がとってもいいんじゃない?」
「し、しかし…こういう事は不得手であります」
「緊張焦燥」
「何、たまにはいいじゃないの。それに」
音頭取りを拒否するヴィルヘルミナの手をとり、マティルダは一言いった。

「最初で最後だから、ねっ」

「うっ…」
言葉が、一瞬、重くヴィルヘルミナにのしかかった。
この何気ない一言が、改めて彼女の心に突き刺さった。

この再会は、永遠ではない。
最初で最後。
それを思い知らされる一言だった。

587Back to the other world:2012/02/25(土) 01:41:15
〜96〜

でも。
ヴィルヘルミナは、もう、それ以上は考えなかった。
彼女と、再び会えた。話せた。
ヴィルヘルミナにとっては、それだけで十分だった。


彼女を失って、幾百年。
新たな討ち手を養育する事に、自分のすべてを賭けた。
そして、彼女を受け継ぐに足る、立派な討ち手が育った。
それは、最高に喜ばしいことだった。

しかし、その間、心の奥底で、何かが引っかかっていた。
何かが、心を締め付け、疼かせていた。
そしてとうとう今日、その心の疼きが、この不可思議な事件のせいで、全身を飲み込むまでに大きくなった。
でも、数百年ぶりに親友と本気の喧嘩をして、疼きは収まった。
引っかかっていた何かが吹っ切れ、スッキリとした。

「む」

この出会いに、感謝しよう。
これが、たとえ一度きりの再会だったとしても、私は、もう嘆かない。
そう、今この場所こそが、私にとっての、因果の交差路なのだ。


「では、僭越ながら」
ヴィルヘルミナは、イスから腰を上げると、グラスを大きく掲げ、乾杯の文句を唱えた。



「この奇妙な再会に、そしてこの再会の酒を育んだ地、オストローデに、乾杯」


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