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ドラゴンレポート「西方白龍録」

21パイロン:2022/04/12(火) 00:21:02 ID:r.kW3dVw0
十:「蝸旋」






「あ!アイツ舌切ってしぬってさ!」

「バカなんじゃねえの?舌切ったってスゲー痛いだけでしねないぜ?」

「って言うかアイツ、ここに花も恥らう乙女が二人居るのにも関わらず、さっきサラッと下ネタ言ってなかった?」

「言ってた言ってた!キャー!エッチ!スケベ!サイテー!女の敵!」

「お前ら!!いつまでも寝そべってないで、喋る元気があるんなら早よワシに加勢せんかボケが!!」

「へいへーい…」

「ちぇっ…」


先程、ムカデに向けて啖呵を切ったパイロンに向けて、先程の攻撃を同じく受けつつも外野となっていた兄妹からのヤジが飛ぶ。

そんな最中にムカデのオヤジが激昂、半強制的に兄妹四人を呼びつけた。

兄妹達は先程の攻撃によるダメージが未だに癒えていなかったため、今まで伸びてはいたが…オヤジに怒鳴られて無理矢理身体を起こしてこちらへとやって来た。

四人は分身だが、本体である百足妖怪と同様に飛行能力があるようで、すぐにパイロンの元に飛んでやってきた。

改めて、ムカデの兄妹とパイロンは対峙する事になる。


「…アンタ、龍だったんだな。

人間をこの鉱山跡に呼び寄せるため、ウメとムカゴが人間の依頼者のフリをしてギルドに依頼を出して助けを求めたわけなんだが…まさかアンタみたいなのが来るとはな。」

「そんな中、俺が来たって事か。…お前らが依頼を出してたんだな。人間を任務と称して自らここへと赴かせるために。」

「そういうこった。正義感振りかざしてやってくる人間が追い詰められて命乞いする様は見ていて笑いが止まらなかったぜ。

…まさか、アンタみたいなヤツが来るとは思いもしなかったけどな。」

「…ああ、そうだよ、龍だ。まあ、人との混血だから1割弱の人間の血が流れている。

だから完全な龍ではないけどな。でも限りなく完全な純血の龍と言っていい。

龍の証である紋章も身体に刻まれているから、始祖の龍からも、「私と同じかそれ以上の強大な力を持っている」、ってお墨付きを貰っているぜ。

俺が来たのはある意味、お前らの因果応報ゆえ、か?お前らのせいだ。」

「へえ、言うねえアンタ。気に入ったわ。名前、なんて言うの?冥土の土産に私達に教えなさいよ。」

「俺は……白龍(パイロン)だ。」

「へえ、パイロンって言うのか。という事は、同じ東の人間であっても俺たちのいた東の国とは違う、隣の東の大国出身ってやつか?」

「ああ、そうだよ。」


父親に加勢しにやってきたムカデの兄妹。

ユウタロウ、ウメ、ルイの話によると、やはりギルドへ出されていた依頼は罠だったようで、ウメとムカゴの二人が依頼人を装ってギルドに相談しに行き、冒険者を募ることで獲物である人間を自らこの鉱山跡に赴かせる目的があったようだ。

さらに続けて、ムカゴがニヤニヤしながら手にした短刀をちらつかせる。


「ねえ、パイロンさん。刃物をあんな舐め方したら舌を切るのは当然じゃん。

刃物の刃ってさ、こうやって舐めるんだよ?…私が実演してあげる。

まずはこうやって刃物の峰を下、刃を上にして、下から上に向かって刃を舐める。…これなら舌を切らないでしょ?」

「なるほどな、たしかにそうだ。覚えておくよ。」

「えー、別に覚えなくてもいいよー。だって、パイロンさんはここでしぬんだもん。」

「そうね、ここでしぬ。」

「オヤジが出るまでもないな。」

「今度は俺達、正々堂々と戦えるもんな。」

「あっはっはっは……」


覚えておくと答えたパイロンに兄妹揃ってそう捲し立てると、四人揃って短刀の刃を舐めて不敵な笑みを浮かべる兄妹。

その顔はムカデの正体を現した顔になっていた。不意打ちをしてきた先程と同様、こちらをころしにかかってくるという事なのだろう。

22パイロン:2022/04/12(火) 00:24:48 ID:r.kW3dVw0
「俺がここでしぬ、だと?ふざけるな、俺がお前ら全員を先程一人ずつぶっ飛ばしてやったのをもう忘れたのか?」

「へっ、言うねえパイロンさんよ。「家族」が俺たちだけだと思うなよ?」

「……なんだと?」

「なあ、そうだろ母さん!」


ユウタロウがそう叫んだ瞬間だった。

その刹那、パイロンは後ろから何者かに物凄い力で羽交い締めにされた。

全く動けないくらいの凄い力。不意打ちにやられてしまった形だった。

大百足の顔は、先程まで開いていた右端の目が閉じられていた。恐らく、母さんと呼ばれた人物は、この目玉から産み出した分身なのだろう。


「ハッハッハッハ…私の妻、キョウカだ。こいつら達の母親なのだよ。」

「なっ……!母親だと?……テメェ、離せ!」

「アンタね?ウチのダンナに楯突いて、ウチの可愛い子供達を虐めたのは。許さないわ。……アンタ達、今よ!!」

「了解!母さん!」

「くっ……離せ!!」

「残念だったな、パイロンさんよ。……お前はここまでだな。」

「今度こそころす……」

「駄目押しにお母さんもコイツの心臓に刺してやるわ。」

「あっ、でもコイツ、たしか鎖帷子着てたよ?」

「なら、鎖帷子を貫通するくらいの力で突き刺せば大丈夫だよー」

「ナイスアイディアね。そのくらいの力でこうやって……刺す!」

「うっ……ぐあぁあぁ……!!」


短刀を構えた母親と兄妹。刃を舐めながらおぞましい笑みを浮かべた5人は、その5つの刃をパイロンの身体に突き立てた。

ムカデ達の笑い声とパイロンの叫び声が旧鉱山跡に響く。


「ぐ……ぁ……ぁ……」

「はい、さよならパイロンさん。このまま地面へと落ちちゃいなさい。」


そのまま動かなくなったパイロンを羽交い締めから解いた母親。

ムカデの母親の拘束から解かれたパイロンは、身体に刃物を突き立てられた姿のまま、力無く地面へと吸い込まれるように落下していく。そんな様子を見てあざ笑うムカデの親子がそこに居た。


「よくやったぞ、キョウカ、お前達。」

「フフッ、ありがとうございます。」

「やったー、やっとあの龍を倒せたぜ。」

「さて、そろそろあの蛇、地面に叩きつけられて派手に潰れてるんじゃない?」

「よし、見に行こうぜ。」

「行こう行こうー!」

「ハッハッハッハ!!やはり龍なんかが我々百足に勝てるはずがない。これはこの世の理として決められた、覆す事など出来ない、絶対的な事柄、定めと言うわけだな。ハッハッハッハ!!」


勝利を確信し、大きな声を出して笑う大百足。

まるで三上山の如く、大百足が巻き付いてテリトリーとしている、この鉱山跡の山の隅々まで響き渡るくらいの大声だった。


「ねぇアナタ、早くあの龍の亡骸を見に行きましょう?それに百足の毒にやられた龍の脳と目玉は絶品らしいじゃない。早く食べたいわ。」

「ハッハッハッハ、確かにそうだがそう焦るな、キョウカ。食べ物は逃げはしないだろう。」

「父さん、母さん、早く早くー!」

「……って、オヤジ、後ろ!」

「……な、ん、だ、って……」


その刹那だった。

大百足の言葉が終わるか終わらないか、という瞬間。

その時に聴こえたのは、風を斬る音と何かが噴き出すような水の音。


「あ、ああ……アナタ……そんな……」


その瞬間に百足の家族が目の当たりにしたのは、身体の色よりも赤い鮮血を撒き散らし、弱点である眉間ごと頭を縦一文字に真っ二つにされた大百足の姿だった。

23パイロン:2022/04/30(土) 22:06:06 ID:iEfLuyXU0
十一:「Trail of Tears」






とある日の夜、いつものサロン。この日の夜は、改めて俺自身の変わらない気持ちを再確認した夜だった。


「ふぁ……あ……」

「ん……?」

「…ごめんお兄ちゃん、ちょっとだけうたた寝しちゃってたかな…。」

「……ありゃりゃ、眠くなっちゃったのかな?」

「うん、ごめんねパイ兄ちゃん。私、ここまでにして寝てもいいかな?」

「ええ、大丈夫ですよ。おやすみなさい。」

「おやすみ、お兄ちゃん。」

「ええ、おやすみなさい。ではまた。」

「じゃあね、ふぁー……」

「ええ、また来ますね。

……ふぁー、なんだか俺も眠くなって来ちゃったな。動くの怠いし、このままこの椅子の上で俺も少しだけ休ませてもらおうかな。

代金は、追加料金プラス宿泊料兼迷惑料と、気持ち色をいくらかつけて、うん、これくらいで足りるかな?

まあ、足りなくても黒服にはハイロンが居るし、メイド長にはココさんがいるし、後で二人のどちらか経由で支払えば問題はないだろう。

…ふぁ…たしかテキーラサンライズだったっけ?

このカクテルのアルコールが効いて、俺も眠くなっちゃったな。俺も寝よう、おやすみ。」


いつものサロンの一階奥にある大きな椅子のあるスペース。

其処で俺と二人で飲みながら話しているうちに、いつの間にか眠くなってきてしまった想い人。

今日は普段の姿とは違う幼い姿で応対してくれ、飲んでいた流れで俺は愛する人に膝枕を貸す形となった。

前にも愛する人には膝枕をした事があり、これで二回目となる。

どの姿の彼女も魅力的で俺は大好きだ。

許されるのならこのまま永遠にそばに居たい。

だが、流石に眠くなった彼女を無理に起こすようなことはしたくない。

今日はここでお別れとなり、解散の流れになった。

背中に羽を出現させてパタパタと飛んでいった彼女。

じゃあ、また。と言いながら彼女を見送った俺にも唐突に眠気が押し寄せて来る。

さて、帰るとしても、このまま動きたくなくなってしまうくらい、酔いと任務での疲れが突然一気に俺にも押し寄せてきてしまった。

なので、起きるのはもう少し後にして、俺もこのまま椅子に腰掛けて休んでいく事に決め、テーブルの上に色もつけて多くお金を置くと、そのまま眠りにつく事にした。


「……改めて決めました。俺、絶対に諦めませんから。

そして貴女の事を忘れませんから。想い合えなくても絶対に。

それぐらい、貴女の事を…ずっと愛しています…」


俺の空っぽになった心は涙で満たせるのだろうか?

もし、今とは違う運命の空の下で俺と貴女が出会えていたなら、想いは通じて幸せになれていたのだろうか?


心の中に雨は降る。

ほんの少しのきっかけで、心は痛み、長く降り続く雨が降る。

この心の中の雨が上がれば、また歩けるのだろうか。

振り返らずに前を向いて歩き出せるのだろうか。

この雨は、もしかしたらずっと降り続けるのかもしれない。

前に進めずにずっと、俺はこの場所に留まり続けるのかもしれない。

それでも構わない。


願わくば、想いが届いた未来がいい。

…だけど、俺に待ち受ける未来が、俺の望まない涙の道、涙の旅路のほうだとしても。

24パイロン:2022/04/30(土) 22:06:40 ID:iEfLuyXU0
…今は、たとえ一方通行の気持ちだとしても、たとえ束の間の時間だとしても、彼女が俺を少なからず見ていてくれるのなら、この幸せと縁をずっと大事にしていきたい。

それが今の俺の望みなのだから。


どんなに苦しくても頑張れたのは、貴女が居たから。

だから、貴女と想い合えなくても、ずっと貴女を忘れない。

そして俺は歩いていく。涙の道を、涙の旅路を。







「……パイ君!」

「……ロン!」


再び聴こえた想い人の声。

新たに聴こえた気になる人の声。

その二つの声が聴こえた瞬間、視界には黒い靄がすぐにかかり、世界の動きが止まる。


「これは…また時間が止まっているのか…」

「そうよ、パイ君。厳密には、パイ君はこの力が発現したばかりで、まだ自分では上手く使いこなせてないからね。」

「だから、ロンの記憶の中にある俺達の声と性格、姿を借りて、ロンの持つ第六感が一緒にサポートしてるって感じだな。」

「それはそうと、後ろを見てみて。さっきに続いてパイ君は危ない所だったんだから。」


そう言われて後ろを振り返ると、そこに見えたのは大百足の尻尾。

そして、そこを足場にして、今まさに後ろから俺のほうに飛びかかってこようとしている女の姿がそこにあった。


「な、なんだ、こいつ……この女、今まで居なかったぞ?」

「パイ君、あれを見て…あの大百足の目を……」

「あのムカデ、また一個、新たに目を閉じているだろ?」

そう言われて大百足のほうを見る。たしかに…先程まで見開かれていたはずの右側の一番端の目が今は閉じられていた。

恐らく、この目玉を変化させた新たな分身なのだろう。


「また不意打ちか…やる事が全くおんなじだな。」

「それよりも、この敵にどうやって対応するの?」

「そうだぜ、今のこの状況、どうやって回避するんだよ!」

「それなら、いい考えがある。アイツらの目論見通りに、一度やられてやるんだよ、油断させるためにな……」

「わかったよ、パイ君。でも、気をつけてね。」

「ああ、そうだぞロン。必ず俺達が助けてやれるとは限らないんだからな?」

「わかったよ、気をつける事にする。じゃあ、早速戻ることにするさ。」

「わかったよ、気をつけてね…パイ君。」

「頑張れ…ロン。」

「ああ、じゃあ二人とも、言ってくるよ。」

25パイロン:2022/04/30(土) 22:09:17 ID:iEfLuyXU0
十ニ:「Unravel」






頭を縦に斬られた大百足。その断末魔が鉱山跡に轟く。

その後ろに見えたのはいつの間にか大百足の背後に居たパイロンだった。

その手に持っていたのは東の大国の刀である柳葉刀で、その刃には銀色の霧や靄のようなものが纏わり付いていた。


「ぐがああぁぁああぁぁああぁぁああぁぁ!!!!!!」


大百足は激痛と苦痛のあまりに頭や尻尾を激しく振り、脚を滅茶苦茶に動かして苦しむ。

そのたびに、鉱山跡は激しい揺れに襲われ、崩壊をはじめていった。

しばらく暴れながら苦しんだ大百足は、そのまま大音響を響かせながら地面へと倒れ込み、そのまま動かなくなった。

これにより、鉱山跡の大半が崩落、崩壊してしまったことになる。もう誰もここへはしばらくの間は近寄りたくても近寄れないだろう。


「……どうだ?勝ち誇った瞬間に地に落ちる気分は?

タワラノトウタはお前の兄貴を、弱点である唾をつけた弓の矢で眉間を射抜いてやっつけたよな。

だからそれに習って、俺は唾をつけた「柳葉刀(りゅうようとう)」……お前ら東の国の奴には、「青龍刀(せいりゅうとう)」って言ったほうが伝わるか?

この青龍刀の刃でお前らのオヤジの頭を眉間ごと真っ二つにぶった斬ってやったぜ。」

「……ま、まさかお前、さっきの舌を切ったのって…!」

「ああ、そうだよ。御名答。俺が舌切ってしぬわけないだろう。

あれは柳葉刀の刃にさり気なくツバをつけるためのお芝居ってやつさ。本気にしてるお前らを見てると、笑いを堪えるのが大変だったよ。」


そう言いながら、右手に持った柳葉刀を見せびらかしつつ、怪しい笑みを浮かべるパイロン。

その身体には、先程まで刺さっていたはずの短刀は一本たりとも刺さっていなかった。


「ってかお前!さっき滅多刺しにしてやったのに!何で生きてるんだよ!」

「あー、なんでかって?だから言ってるだろ?刺さってないってさ。

お前らがこの短刀を俺の身体に刺そうとした瞬間に「固定」して、刺さらないよう防御しつつ、お前らを騙したんだよ。……これを見てみな。」


そう言ってパイロンが取り出したのは、5本の短刀。

先程までパイロンの身体に刺さっていた、ように見えたものだった。そして、その刃には全く血がついていなかった。そして、パイロンはその短刀を何処かに仕舞い込む。


「とまあ、こんな感じ。お前らの得物を奪う事が出来たし、これでお前らはとても大きな戦法を潰されたわけだよな。」

「貴様ぁ……!龍の分際で!よくも、よくも私達をコケにしおって!

そして、そして……私の大切な旦那、アカザを!許すものか!脳と目玉だけでは足りぬ、お前は私が全身貪り食ってやる!」

「何度来たって同じだよ!お前らは完全に勝てると思って見下していた、俺……龍にやられるんだよ!」


怒り狂う百足に向かってそう啖呵を切るパイロン。

そして、パイロンが手にした武器を改めて敵に向けて突きつけるように構えた瞬間だった。


「残念ね、ここに居る敵が百足だけだと思っていたら大間違いよ。」

「……なんだと?

……え?……嘘だろ、そんな……こんな事を……俺が……」

「僕が居なくても、世界は回る……生きる意味さえ見えなくなりそうで……」


何処からともなく、誰かはわからないが女性の声が聞こえたと思うと、パイロンの動きが止まった。

そして、そのまま全く動かないパイロンを後ろから抱きしめた女性が居た。

東の国の出身と思われる、緑の着物姿の長い緑の髪の女性だった。


「……さあ、パイロン。私と一緒に行きましょうか。私の姉様の復活には、貴方が必要なの。」


パイロンの耳元でそっと囁く女性。

その瞬間、パイロンは身体の力が抜け、気を失ってしまった。

26パイロン:2022/04/30(土) 22:10:06 ID:iEfLuyXU0
そして、改めて百足の家族のほうに向き直り、対峙する女性。

キョウカはこの女性に見覚えがあるらしく、一番先に沈黙を破ったのだった。


「…貴女、見覚えがある。…もしかして、清姫?」

「ええ、そうよ。清姫よ。

でもその妹ね、私は。堕ちる姫と書いてダキ、とでも呼んでもらいましょうか。」

「……ダキ?」

「……清姫?の妹?」

「清姫……。ふとしたきっかけで出会った安珍って名前の僧侶に恋をするのだけど、清姫の余りにも重い愛情がエスカレートしたために、相手に避けられたのよね。

その怨念から蛇に変身し、その相手が逃げ込んだ寺まで追いかけた。そして、そこにある鐘の中に隠れていた安珍を鐘に巻き付いて鐘の外から焔で焼きころした。

…そういう人だったわね。貴女のお姉さんは。」


キョウカは簡単にダキの姉についての伝承を口にした。それを聞いたダキは怪しげな笑みを浮かべる。


「……御名答。そうね、姉様はそうだったわ。まあ、私も似たようなものかしら?姉様が蛇として覚醒した影響で私も蛇になったんだから。

そういう貴女達は……三上山に居た大百足。その弟の家族のようね。」

「まあ、そんな感じよ。それはそうと、アンタ、どうしてここに?」

「あら、調べさせて貰ったのよ。貴女達のことも、この龍の男のこともね。ギルドには少ない東洋人だから、見つけるのはとても簡単だったわ。

それに、この旧鉱山跡で暴れまくっている貴女達大百足が目立たないわけないでしょう?私だって蛇だから、対立する敵……百足の事くらいちゃんと調べているわよ。

貴女達、今の龍と百足の休戦状態、納得いかないし暴れたいんでしょう?私もなの。姉様と共に私も暴れ回りたい。利害は一致していると思うけどね。」

「ま、まあ……それはそうだけど。」

「そして、そんな貴女達を倒すべくここへやってきたギルド所属の冒険者達。その中に、この龍の男を見つけたの。

そして、姉様の復活のための依り代に、この龍が使えると思ってね。貴女達を利用しようと思ったの。そして、上手く行った。

貴女達と対峙しているこの男の隙をついて捕える事が出来たわ。

……東の国と東の大国、蛇と龍という違いはあるけど、姉様と同じ「嫉妬深い蛇」と言える、依り代として使える男を、よ。」


気絶したパイロンを抱きしめたまま、そう捲し立てるダキ。時折、不敵な笑みを浮かべている。


「その龍が居れば、アンタの姉さんは復活できるんだな。」

「そう、その通り。この男には、しっかりと幻覚と呪縛の呪いを植え付けてやったわ。

精神を強く蝕む種類よ。どんな屈強な男でも、精神を粉々に砕かれたらもう赤子以下。

さらに、この呪いの力を超えるほどの心の支えが無ければ、たとえ呪いをかけた私がしんだとしても、一生しぬまでこの呪いは解けない。

この男も、白龍と言えどまだまだ坊や。簡単に呪いをかけてやれたわ。」

「なるほど、すげえや。」

「……って、ダキさん!そいつ、意識を取り戻してる!」

「…なに?……って、うぐぇぁ……っ!!」

「くそっ……あの龍め……!」

「勝手に話を進めやがって……、テメェの姉の復活の触媒にされるのなんかごめんなんだよ。」


いつの間にか目を覚ましていたパイロン。慌ててムカゴがダキにその事を伝えるものの、パイロンの裏拳による攻撃がダキの顔面に命中した。

そのスキをついたパイロン。ダキの拘束から逃れて、黒い靄と共に姿を消した。

27パイロン:2022/07/13(水) 22:55:19 ID:o6omr5WY0
十三:「悪女トリッキー」






「あっ…あのクソ龍野郎消えやがった!!」

「何処行った!?」

「逃げやがって!!探せ!!」

「ふざけやがって!!」


裏拳でダキの顔面を殴り、拘束から解かれた瞬間に黒い靄をまとって消えたパイロン。顔面を殴られて激怒したダキやキョウカ達ムカデの一家が辺りを探そうとした時だった。


「逃げてなんかいないぜ……?」

「なんだ…と…っ?」


その瞬間、ダキの後ろから聞こえたパイロンの声。すかさず、ダキの背中に何かの衝撃が当たる感覚があった瞬間には、爆音と共にダキは吹き飛ばされていた。


「うぐえぇっ……!!」

「ダキさん!!」

「あっ、あのクソ蛇!!いつの間にダキさんの後ろに!!」

「あの技…!私も食らわされたやつだ!」


ダキが先程までいた場所には、いつの間にかパイロンが立っていた。纏っているのは赤いオーラ。今しがたダキを吹き飛ばしたのは先程ムカゴもくらった発勁(はっけい)だ。

そしてパイロンは間髪入れず、腕を交差する構えを取ると、そのまま円を描くように腕を動かし、そこに青い水の球を出現させた。 


「よくもダキさんを!!って…ぎゃっ!!」

「ぎゃあああ!!」

「ぐああああ!!」


その水の球から高圧の水流をレーザーのように放ち、他のムカデ達を薙ぎ払ったのだ。高圧水流をまともにくらい、すでに墜落していたダキに続いて地面へと落ちていく、キョウカをはじめとしたムカデ達。

そして、ムカデ達全員が落下した事を確認した後にパイロンは地上へと降りてきた。今はなんとか抑えているが、いつまたダキによる呪いが心を蝕むかはわからないからだった。


「くっ……なんとか抑えているが、限界は近い…。クソ、この蛇女、なんて事をしやがるっ!

…サロンに居るココさんなら、この呪いに何か対策が取れるかもしれない。そのためには、コイツらをこの鉱山跡に閉じ込めないと……!!」


ココさんからもらったゲートで入り浸っているサロンへ直通で立て直しに向かえるが、それには一旦この場を離れる必要がある。この鉱山跡からムカデやヘビが出れないよう、動けなくしてから、大人しく倒れているうちに結界を貼って封印しておく必要があった。

そう考えながら、そっと結界と封印の呪文を唱えるパイロン。

一通り全員を見渡したが、ムカデ達一家はピクリとも動かない。先程、大百足のアカザが暴れたために倒壊している地面に勢いよく落下したダメージは凄まじいがゆえだろう。流石にこれでは例えムカデやヘビでもしばらくは起き上がれまい。
しかし、その近くに倒れているダキのほうを見て驚いた。同じくピクリとも動かないダキの隣に、いつの間にかもうひとり、女性が倒れて伸びていたからだった。

見た目はダキにそっくりな東の国の女性だ。赤い長い髪と目に青緑色の着物が特徴だった。二人ともお揃いの帯を巻いていた。ダキの帯には「ダキ」と刺繍されていて、もうひとりの女の帯には「ユウキ」と刺繍されていた。


「なんだ、こいつ…。この帯の名前がそうなら、コイツはユウキって女か?

…このダキとユウキの二人組、見覚えがある。まさか…」










とある日の夜、辺境都市ルブルの郊外の某所。

ここの街と隣の街との境目には大きな河が流れていて、大きな頑丈な橋が架けられていて街を繋いでいた。

そこに一人の男がやってきていた。

金色でツンツンした髪型、夜でも外さないサングラスに似た黒い色のレンズの眼鏡。
日に焼けた肌、わざとらしいほどの白い歯、長身かつゴツい体型、派手な柄で露出度も高い服。
服の間から見える身体にはタトゥー、首や手には無骨な指輪やネックレスといったアクセサリーがいくつもつけられている。

見た目からして、所謂遊び人の男である事は明白だった。


「いやあ、残念だねーえ。あのいいオンナを逃したのは。
明日の用事があったあのオンナが帰りさえしなけりゃ、オレはお持ち帰り出来てオンナと朝までいっぱいお楽しみ出来たのによー悔しくて仕方ないぜえ。オーノー、オレのこの気分と下半身の高ぶりをどーしてくれんだってんだよお。」


お持ち帰りが出来なかった事がとても悔しいのか、そんな独り言をぼやきながら一人帰路についていた。その道中、ここの橋の近くへとやってきていたのである。

28パイロン:2022/07/13(水) 22:56:14 ID:o6omr5WY0
「おんやー?あそこにいるのは誰かなあ?オー、オンナじゃん、ラッキーだぜえ。もしかしてえ、こんなカワイソーなオレにゴッドがプレゼントをくれたのかー?コレはラッキーじゃんかよお。」


少し離れた所に見えるその橋に、一人の人影が見えた。

人影は女性だった。黒い目と黒い長い髪、濃い紫色の着物と袴、そして頭には薄い紫色の布を被っていた。

その姿から、東の国の東洋人女性である事が見て取れた。

こんな危険な時間に女性が一人で出歩く事はまずありえない事である。

しかし、どうやらこの男にはそこまでの考えは全くなかったようで、早速ターゲットに選んだようだった。

その女性は少しだけ困ったような表情をしていて、寂しそうな目をしているように見えた。

顔立ちは整っている美しい女性だ。その物悲しい雰囲気も相まって、より男には魅力的に映っただろう。


「ヘーイ、そこのアジアンビューティー。こんばんはあ。こんな時間に一人でどうしたのー?何やら困った事が起きてるようだねーえ。」

「あっ…これは、どうも。ええ…そうなんです。私はここの隣町に住んでいる友人を訪ねて来たのですが…いくら待っても友人が迎えに来なくてこの時間まで待ちぼうけで…どうにもできずに困っていたのです。」

「オーノー、それはタイヘンだったねえ。残酷な事をいう事になるけどお、多分そのお友達はもう来ないよー。これだけ待ってるんだからねえ。でもダイジョウブ。ここで出会ったのも何かの縁ね。変わりにオレが隣町までアンナイしてあげようじゃなーいの。」

「ほ、本当ですか?案内して頂けるのですか?嬉しいです!」


物悲しげな表情をしていた女性の表情が明るくなっていくのがわかる。男にとってはうまく行ったラッキーな展開だと捉えられただろう。このままもうひと押しすれば案内する名目でお持ち帰りが出来るからだ。


「イエス、モチロンね。でも、世の中ギブアンドテイクね。そうでしょう?オレは貴女を隣町までアンナイしてあげましょう。その代わり、案内のガイド料として、貴女はオレとともにベッドへゴーして一夜を共にしてもらいマース。いいでーすか?」

「ふふ…そういうことですか。欲に忠実な方なんですね。

…いいでしょう、私は貴方の事が気に入りました。それで取引成立ということで決まりですね。…まだまだ夜は長いです。その間のうちに、私と交わりましょう……」


そう言うと女性は怪しく微笑み、頭に被っていた布をそっと取ると男性の頬を撫でた。

そして、そっと男のかけていた眼鏡を取るとそれを投げ捨てて、肩にそっと両方の手をかけて、自身の方へと引き寄せながらそっと唇を重ねようとした。


「うっひょー、話が早いねえ。コレは本当にラッキーだぜえ。このオンナ、清楚そうに見えて意外と情熱的なんだねぇー、フゥ〜!」


能天気にそんな事を考えながら流れに身を任せた男は知るよしもなかった。

次に感じる感覚はここにいる女性の唇の柔らかさなんかではない事を。

女性の唇があともう少しの距離で触れる、それくらいすぐ近くまで近づいた、その瞬間だった。


『ふははっ……引っかかったな間抜けめ。もう離さんし逃さんぞ。

お前のような色んな意味で危険な男が沢山現れるであろう、こんな夜更けに女が一人で居るわけがないだろう。

まあ恨むのなら、脳味噌と下半身が直結している自分自身の事を心底恨むんだな。』

「えっ……?どういう、こ、と…だ…?」


女の口から野太い男のような恐ろしい声が聞こえた瞬間だった。

その瞬間、女は大きく口を開いた。耳まで裂けた大きな口の中には鋭い牙が何本も生えていた。

逃げようとしても、女性のものとは思えない強い力によって男は身動きが全く取れなかった。

そして、全く動けない男の喉に女は噛み付いた。

牙が肉に食い込む音と噴き出す血の音を辺りに響かせながら、女はそのまま男の喉を食い千切った。

喉を食い千切られた男はそのまま絶命した。そして、その肉を女が喰らい咀嚼する恐ろしい音が聞こえてくる。


『命が終わる瞬間にこんないい女と交われて幸せになれてよかったではないか、小僧。……まあ、交わると言っても腹の中でだけどな、ふははははっ……』


そのまま肉を喰らった女の恐ろしい声が辺りに聞こえた。


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