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( ^ω^) 願いが叶うようです

1 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 04:29:48 ID:mAAfnS1U0
初めて小説を書きます。
拙い語彙かもしれませんが、何卒よろしくお願いします。

2 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 04:30:51 ID:mAAfnS1U0
いつの間にか濃くなった木々のコントラスト。
白い雲が空に高く背を伸ばしたあの日。
僕の願いは呪いに変わった。
綺麗に咲くよう育てた花は。
毒を孕んで僕に牙を向けた。
瞼の裏に鮮明に描かれた鮮血の傑作。
僕はそれから逃げることはできないだろう。



そう、あの扉の話を聞くまでは。



第一章 365/7days

3 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 04:31:38 ID:mAAfnS1U0
〜 1days 〜


茹だる日の窓際。
僕は細い目で校庭のグラウンドを見ていた。
いつも通りな毎日だった。

体育の後の国語はいつだって眠いし。
ほのかに香るカルキ臭と制汗剤が混ざった匂いは、どことなく心が安らいだ。
生暖かい風が教室に舞い込んだ。
誰かのノートが捲れる音。
ペンが紙と擦れる音。
何の変哲もない日常。

それがいつか無くなってしまう、なんてことをぼんやりと考えていた。
その時、不意に自分の名前が聞こえる。

「ブーン、ここの答えは?」

驚くのもおかしな話だが、僕はずっとグラウンドを景色を見ていたのだ、当然答えはわからない。
というか、今何をしてるのかすらわからなかった。

4 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 04:32:30 ID:mAAfnS1U0
「わ、分からないですお…」

少しの時間を置いて、申し訳なさそうに答える。
「皆眠いのは分かるけどねー…」

と、先生も教室に漂う睡魔に気付いているように全員に言う。
きっと先生も知っているのだ。
この景色も、この状況になるのも。

「あと一周間もしたら夏休みに入るから、最後の一週間は眠らないようにね!特にブーンは。」

連鎖的に笑いが起こる。
いつもこの時間はぼうっとしてることに気づかれていたのだ。
まぁ、分からない方がおかしいだろう。
ずっと外を眺めているのだから。
なんとなく、先生というものは自分のことを全て知っているかのような気がするのは、僕だけだろうか。
そう思うのも、こうやったやり取りがあるのも、いつも通りの日常。
こんなやり取りでさえ、まるで永遠のような時間だった。
それは苦痛と感じることはなく、ぬるま湯に浸って浮かんでるような感覚。

我儘な自分だからこそ、大人になれない…いや、なりたくないと思った。
それと同時に、大人になって好きなことをしたいと思っていた。

5 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 04:32:55 ID:mAAfnS1U0
このまま大人にならないで済めばいいと思った。
だけど、早く大人になりたいと思った。

自分があの教壇に立つような立派な人間になれると思えなかった。
大人にならずにこの日々を謳歌したいと思った。

今すぐに大人になって、気にせず酒を飲んでみたいと思った。
ある程度の金を手に入れて、好きなことにつぎ込みたいとも思った。

祭りで気にせず色んな物を買いたいと思った。
だけど、この汗ばむ季節を好きにはなれなかった。
自分に体力も、外に出るような気力も湧かないから。
ただ、この時期の行事事は好きだった。
出店が揃う公園も、夜になれば提灯が灯り、空に大華が咲き誇るあの景色も。
僕は自信もって好きだと答えられた。

こんな中途半端な考えだけど、それが今の自分に丁度フィットした。
所謂、思春期ってやつだ。

気づけば校内にチャイムの音が響いた。
「はーい今日はこれでおしまい!お昼だよー」
と、先生が言うのと同時に、長く静かな妄想に終わりを告げた。

6 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 04:33:17 ID:mAAfnS1U0
('∀`)「弁当!!食うよ!!」

(;^ω^)「いくら何でも早すぎだお!まだチャイム鳴り終わってないお!」

('∀`)「いいだろー水泳で泳いだから余計に腹が減ったんだよー」

( ^ω^)「最初に溺れて休んでたただけだお?周りの人に救助されてるところ見てたお」

(;'A`)「そうだけど、あんまり思い出させないでくれないか?恥ずかしいんだよ」

彼は毒男(ドクオ)、親友であり、幼馴染で、同じクラス。
学年トップクラスの頭の良さ。
勉強で彼に勝てたことは一度もない。
運動は不得意で、先程も授業中に溺れていた。
一応足付くくらいの深さしかないんだけど…

7 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 04:33:44 ID:mAAfnS1U0
( ^ω^)「とりあえず無事ならいいんだおーちょっとは心配してたお?」

(;'A`)「ちゃんと心配しててくれよ…運動は苦手なんだよ」

川 ゚ -゚)「普通に立ったら足付くじゃないか、なんで溺れるんだ?」

('∀`)「クー!体育の時間は全て忘れてくれ、今すぐ」

彼女は空(くう)。クーと呼んでいる。
少しの乱れも見えないストレートの黒髪。
僕とドクオから見るとその美しさは学年でも上位だろう。
表情筋は死んでいるが、運動神経はピカイチ。
だが、学力は…下から数えたほうが早い。
唯一の女友達であり、幼馴染、そして同じクラス。
たまにほかのクラスメイトから嫉妬されるが、恋仲では全くない。

8 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 04:34:12 ID:mAAfnS1U0
川 ゚ -゚)「ドクオ、お前は少し勉強しすぎだ、ブーンを見習え」

( ^ω^)「それはさっき怒られたことに対する皮肉で言ってるお?」

川 ゚ -゚)「ブーン、お前は勉強しなさすぎだ」

( ^ω^)「それをクーに言われるの心外だお」

先程からブーンと呼ばれている僕は内藤ホライゾン。
僕らが幼少期の頃、僕の癖でぶーん!と言いながら走っていたのがきっかけでそう呼ばれるようになった。
幼馴染同士のあだ名は良くわからない。
それが広まりすぎて、家族内でもブーンと呼ばれている。
学力も運動神経も二人の中間くらいの位置にいる。
可もなく不可もなし。
お昼は弁当を一緒に三人で食べる、これは日常だった。

9 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 04:34:32 ID:mAAfnS1U0
( ^ω^)「後一週間したら夏休みに入るおね」

('A`)「夏休み入ったらいつもの場所で祭いくべ」

川 ゚ -゚)「スイカ割りなら任せておけ、一撃で粉砕してやる」

(;'A`)「クー、去年それやって俺の頭カチ割ったの覚えてないのか」

川 ゚ -゚)「おぉ、そうだった。次は生きていられると思うなよ」

( ^ω^)「ドクオが変に耳元で囁いたりするからだお、クーの馬鹿力なめないほうがいいお」

('∀`)「馬鹿力、まるでクーの為にあるような言葉だな。そろそろゴリラから人間になったか?」

川# ゚ -゚)「どうやら貴様に慈悲はいらないらしいな」

('皿`;)「クーさん!!!今のは冗談ってやつで!!!アイアンクローは!!やめt」

10 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 04:35:02 ID:mAAfnS1U0
川# ゚ -゚)「あぁ、もう要らないだろうこの脳みそは」

(;^ω^)「クー!片手でドクオのこと持ち上げるなお!!どんな馬鹿力してんだお!!」

川# ゚ -゚)「ブーンもその頭、要らないと見たが?違うか?
      どっちが馬鹿になるか見ものだな」

(;^ω^)「煽る目的で言った訳じゃないお!?片手でドクオを持ち上げたままこっち走ってくんなお!!」

(; 手)「あああああああ脳みそがああああああ」



こんな他愛もない毎日。
僕もクーもドクオも、この時間もシチュエーションも。
一年が過ぎればまた同じような会話をするのだろう。
きっと全員が思っていた。
少なくとも、この三人は。
このまま、何事もなく過ぎていくと思った。

いつの間にか下校する時間になっていた。
太陽が沈みかけて、辺りは真っ赤に染まった。
クーもドクオも帰る方面はある程度一緒だ。

11 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 04:35:30 ID:mAAfnS1U0
じゃあだおー
そう言って二人に手を振った。
互いに家は近い。

徒歩5分以内に着くようなところで住んでいた。
全ての景色が不気味なほど真っ赤になった頃、僕は家に着いた。

( ^ω^)「クーのやつ、そろそろ力加減考えてほしいお」

昼に食らったアイアンクローが少しヒリヒリする。
一応女性ということも忘れるくらいには、力が強かった。
何喰ったらあそこまで強くなるのだろう。
そんなことを考えて、家の鍵を使いドアを開いた。

途端に外と家の温度差で、涼しい風が僕を包み込む。
心地いいと感じると共に、家の中は赤色のせいでやけに空気が重く感じた。
ホラー映画にも似た、重苦しいような…
ほんの少し、気を張ってリビングの扉を開ける。

12 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 04:35:55 ID:mAAfnS1U0
( ^ω^)「…ただいまだおー」

 J('ー`)し「おかえりなさい」

リビングの机に座るカーチャンを見た。
何故か神妙な面持ちに見えた。

カーチャンは車椅子で生活をしている。
下半身…特に足が完全に動かない状態だった。
でもカーチャンは異常な程元気だ。
自分で移動できるし、介護の必要はない。
ストレスが罹らなければどうってことはない!
かつてカーチャンから聞いた話だった。
少しだけ手伝う時もあるが、その時は稀だった。
自分で歩けないことなんてお構い無しに僕を育ててくれた。
僕の大事な家族。

13 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 04:36:17 ID:mAAfnS1U0
( ^ω^)「…カーチャン?大丈夫かお。顔色ちょっと悪い気がするお」

 J('ー`)し「なーに言ってんの。少しだけ暑さにやられただけよ。心配する必要はないわ」

( ^ω^)「それは心配するお。まだ暑さも増すし、ゆっくりするといいお」

 J('ー`)し「…そうね、ありがとう。ちょっと今日は早めに休もうかしら。
      ご飯はできてるから好きなタイミングで食べてね」

( ^ω^)「トーチャンは?」

 J('ー`)し「帰りが遅くなるみたい。今日は帰って来ないかもね…」

( ^ω^)「わかったおーゆっくりするんだおカーチャン」

 J( ー )し「…ありがとう」

( ^ω^)「…?」

トーチャンは出張が多い人だった。
2.3日、長くて1か月いなくなることもざらにあった。
それでも、帰って来た時は沢山いろんな話を聞かせてくれる。
カーチャンのことも、僕のことも、支えてくれている。
僕の大事な家族。

そんなトーチャンを心配してかどうかは分からない。
でも、いつものカーチャンの雰囲気とは違う気がした。
それは僕の考えすぎだろうか。

14 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 04:36:57 ID:mAAfnS1U0
茹だるような気温のせいだろうか。
それとも、不気味に部屋を染めるこの赤色のせいだろうか。
気にしすぎだと割り切って、僕は自室に向かった。
自室を染めた赤色は時間とともに色彩を失っていった。

それからは、カーチャンが作ってくれた夕飯を済ませた。
その後は、汗で肌にくっついた服を洗濯機の中に入れ、そのまま風呂に入った。
どの季節でも気持ちよくなれる風呂。
お手軽にできる現代の贅沢だと思った。
体を洗い終わり、すぐに全身を乾かす。

髪が少し濡れているが、気にせず自室のベッドにダイブした。
自分の家の布団はどうしてこんなにも落ち着くのか…
これも贅沢の一つだ。
ゴロゴロしながら幼馴染三人の共有メールを見る。
日課になっているが、依存にならないといいね。

15 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 04:37:21 ID:mAAfnS1U0
『今日はすまなかったな、大丈夫か?』

『俺は全然痛いよwww』

『僕はヒリヒリするくらいだおー力加減考えてほしいおw』

『む…すまん。明日アイスを奢ろう』

『明日も暑くなりそうだおね、それは助かるお!』

『そういえばさ、お前らって幽霊信じる?』

『幽霊か?一度戦ってみたいものだな』

『触れない相手にどうやって勝つんだ?クー』

『触れられないのか!?』

『クー、僕は君が心配になってきたお。 ところで、なんでいきなり幽霊なんだお?』

『学校の裏の廃ビルがあるだろ?そこで幽霊を見た!ってやつが何人もいるんだよ』

16 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 04:37:43 ID:mAAfnS1U0
『そうなのかお…それって見間違いとかじゃないのかお?
 そもそも、あそこは願いが叶うって噂の方がよく聞くお
 だからカップルと幽霊を間違えたんじゃないのかお?』

『だとしても、だ。全員口をそろえて言うんだよ"黒いコートを着た幽霊がいる"ってな
 今は夏だぜ?』

『ほー、それは確かに面白そうだ。 私は興味が湧いてきたぞ』

『ちょっと怖いお…もしかして行く気かお?』

『クーも乗る気だ。ブーンは一緒に行くか?』

『…二人が言うなら僕も行くお』

『よし、明日放課後そのまま行こう!』

『ラジャー、叩きのめしてやる』

『クー、触れないんだってば』

『!!』

( ^ω^)「…クーは本当に馬鹿になっちゃったお?」

『ブーン明日覚えておけよ』

(;^ω^)「エスパーかお!?」


こうして他愛もない日がまた過ぎていく。
いつも通りの、日常だ。
少しずつ瞼が落ちて、夢の中に入っていく。

あぁ…いつ も通 り という の が

い ち番 の ぜい た く だ…

___________________

17名無しさん:2025/02/11(火) 09:04:00 ID:fzkFcxTM0
ワクワクする感じだ
支援

18名無しさん:2025/02/11(火) 11:56:14 ID:TG3XDDJ.0
初々しいな……続きが気になります!

19名無しさん:2025/02/11(火) 13:25:59 ID:bBhaLquE0
素晴らしいね!

20名無しさん:2025/02/11(火) 16:20:53 ID:FiEev8ms0
wktkが止まらんお

21 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 22:56:35 ID:mAAfnS1U0
2days


( ´ω`)zzz…ン…?

( ´ω`)zzz…イヤボクトツキアウナンテヤメタホウガイイオ

( ´ω`)zzzボクニモハルガオトズレタッテコトオ?

( ´ω`)zzzアッソコハサワラナイホウガオフロニハイッテカラガイイオ

( ´ω`)zzzソンナトコロキタナイオアーーーー

( ´ω`)zzz…ナンデベーコンガスイドウカラデルンダオ?

( ´ω^)「ん…?」

( ^ω^)「…は…(8:15)」

Σ( º ωº)「ぬおおおおおお!!!!激遅刻だおおおおおおああああ!!!!!」

22 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 22:57:10 ID:mAAfnS1U0
後もう少しで夏休みというのに、時間は無情なり。
とんでもない動きで朝の支度を終える。
テレビからニュースの音声だけが聞こえているけど、そんなの見てる暇なんてない。

 J(;'ー`)し「何度も起こしたのにこの馬鹿!もうカバンに弁当入れてあるから!」

≪先々月1*日---強----1*歳男の子、及び*歳の--------護さ-----≫

 J(;'ー`)し「あんた事故起こさないでよ!気を付けて!」

≪---まり、--------理由として----≫

(;^ω^)「カーチャンごめんお!すぐにいくお!!」

≪-----『幸せ----------』など-------ており----≫

ダッシュで学校に向かう。
寝起きで朝からの走りはいつもの5000倍体が重く感じる。
修行じゃないんだぞ。

23 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 22:59:43 ID:mAAfnS1U0
ひたむきに走る、走る。

最後の角を曲がれば、校門に滑り込める。

(;^ω^)「間に合うかお…!?」

(;^ω^)「考えてる暇ねーお!うおおおおおおおお」

間に合えー!!

間に合えー!

間に合えー

間に合え

間に合

間に



24 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 23:00:11 ID:mAAfnS1U0
「はい、ブーン遅刻ね」

( ´ω`)「はいお…」

急いで教室に入ると、ホームルームの途中だった。

先生から軽く注意を受け、自分の席に着く。
あの時間に起きても間に合わないことが、日に日に実感を増していく。
朝のあと5分、5分でいいのに、何故人は起きれないのか。
そればっかりが不思議だった。
まぁ、起きれなかった僕が悪いんだけども。

すると、先生は少しだけ声を張った。

「さて、あともう少しで夏休みだが、転校生の紹介だ。 みんな仲良くやってくれ」

「夏休み前に仲良くなるのも、また新しい楽しみだろう!」

がーはっはと大きな声で笑っている。
僕みたいな人見知りには勘弁してほしいものだ。
それにしても…

( ^ω^)「この時期に転校生かお?珍しいこともあるんだお…」

「それじゃ、入ってきてくれ」

ガラガラ…と扉をゆっくり開けて入ってきた。
彼が転校生だろう。
そして、不思議な空間が教室内に広がっていった。

25 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 23:00:38 ID:mAAfnS1U0
「はい!彼が転校生だ!自己紹介してくれ!」

(´・ω・`)「…雨宮 彰吾です。前はショボンと呼ばれてました。よろしく。」

それだけの自己紹介だった。
なのに、彼の魅力はそこに詰まっていた。

茶髪の緩いパーマ。
青とも、緑ともとれる瞳の色。
色白だが、決してひ弱とは見えない躯体。
どこをとっても、彼に対する印象は"クールなイケメン"
その一言に尽きた。

クラスの女子は彼に夢中のような目線を送っている。
かくいう僕も、彼の雰囲気の虜になっていた。
決して同性愛というものではないことをここに記しておこう。

26 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 23:01:06 ID:mAAfnS1U0
女子の黄色い声が聞こえ続け、瞬く間に昼休みになった。
と、同時に二人はすぐさま僕の元へ来た。

('A`)「…イケメンっていうのはよ、居ちゃいけない存在だと思うんだ。そうだろ?ブーン」

川 ゚ -゚)「そう簡単に嫉妬するなドクオ。彼も短所というところがあるかもしれないだろう。
     例えばそうだな、チン〇ンが非常に小さいとかだな…」

(;^ω^)「いきなりエグイことを二人して言わないでほしいお」

そうしてる間にも、彼の周りには女子が群がっていた。

「どこからきたのー?」「ショボン君!一緒に遊ぼうよ!」
「今日放課後遊ぼうよー」「いきなりだとびっくりしちゃうからみんな辞めなよー」

27 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 23:01:36 ID:mAAfnS1U0
(#'A`)「…俺、許せねえよ。こんなに違うのか?人生っていうのはよ
    顔なのか?顔だけがすべてか?」

川 ゚ -゚)「ふむ…だが、彼を見る限りだと喜んでる風には見れないがな」

(#'A`)「それが腹立つのさ。俺に来い、女子は!俺に!!」

川 ゚ -゚)「大丈夫だ、ドクオに来る女は私が選別させてもらうからな」

('A`)「なんで?」

川 ゚ -゚)「私と同等の女以外は近寄らせんぞ?」

(;^ω^)「クーと同等なんて人間この世にいねーお」

川 ゚ -゚)「む、そんなことはないぞ。私もどちらかといえば守られたい派だ」

(;'A`)「じゃあアイアンクローで人のこと持ち上げたりするのはやめてほしいんだが…」

28 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 23:02:31 ID:mAAfnS1U0
キャーキャーと聞こえる黄色い声に他所に、僕らは放課後の話を進めた。
そう、今日は学校の裏にある廃墟を探索するのだ。
その廃墟に行ったという人たちに事情聴取をした
…本当に幽霊が出るかどうか。
どうやら、昨日も数人が廃墟に入って実際に"見た"らしい。
それも、この一か月で急速に広まった噂だった。

その廃墟は数年前から立ち入り禁止にされていたらしい。
やはり少しずつ建物自体崩れやすいようで、入ったら普通に危ないみたいだった。
元は普通のビジネスホテルだったみたいだ。

生徒達がこぞって忍び込んだりしてたのもあったが、
そのホテルには入ってはいけない暗黙の了解があった。
先生たちの間では、そう生徒の進入を阻止するために警備を強くする…意見があるみたいだ。

…その建物に関する情報は非常に少なかった。

29 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 23:02:56 ID:mAAfnS1U0
そして、曖昧なことが多いのが特徴だった。
何時からあったのか、どのタイミングで廃墟になってしまったのか。
そんなことすら情報は手に入らなかった。

曖昧なことが多い中、複数人が同じ証言をしているのは確かだった。
"黒いコートの幽霊を見た"と。

好奇心旺盛な年頃だ。
こんなワクワクすることに食いつかないわけがない。
今日は廃墟に関することで頭が溢れていた。
正直怖さもある…がしかし、この興奮は鳴りやみそうになかった。

30 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 23:03:33 ID:mAAfnS1U0
そして放課後。
部活動の声が聞こえるグラウンドを無視して、僕ら三人は校舎裏に集まった。
夕暮れが眩しく僕らを照らす一方で、廃墟に伸びる道は薄暗かった。

( ^ω^)「行き方はわかるのかお?」

('A`)「ほぼ一本道だ。もう色んな奴が通ったから獣道みたいになってるがな」

川 ゚ -゚)「動きやすい服装で来て良かった」

('A`)「こういう冒険じみたことも暫くなかったな…わくわくするぜ」

( ^ω^)「完全に真っ暗になる前に廃墟に向かうお、迷子になりそうだお」

('A`)「迷子の心配はないさ、そんな長い道じゃなさそうだしな
   …よし…行こう」

31 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 23:03:56 ID:mAAfnS1U0
その道はやけに暗く、湿っていた。
虫の鳴き声がいつもより近くに感じつつ、草や木をかき分けて進む。
校舎裏から少し出た道路からその道は繋がっており、あまり人目も気にせずドンドンと奥に進んだ。
ちゃんと真っすぐに行けば15分以内で廃墟に到着するくらいには、学校から近かった。
コンビニに立ち寄る程度の寄り道。
ただ、目的地は廃墟にあった。

初めて通る場所はやけに長く感じる。
土道だからか、多少足元がおぼつかない。
上手く前に進まないからか、時間の進み具合が遅く感じてしまう。
不安になりつつ、先頭のドクオに付いていく。

こういう時のドクオは人一倍生き生きしている。
運動は苦手だが、真面目で大人びていると感じる彼も、こういった好奇心にはやはり彼も同い年というところか。
自分の守備範囲外でも、気になるものはとことん追求する。
それが彼をガリ勉たらしめる理由だった。

その後ろのクーに関しては、全く息を切らさずドクオに着いていく。
彼女は勉強に関してはからっきしだが、実はかなり頭のキレや勘が鋭い。
地頭がいい、とはこういうことを言うのだろう、それか女の勘ってやつだ。
素直な感性の持ち主が故に、人から遠ざけられることも多い彼女だ。
だが、こうして行動を共にしているからこそ、その裏表ない性格が心地が良かった。

最後尾からこの二人を後ろから見ている僕は、一人でニヤニヤと嬉しい感情を露わにしていた。
僕は、恵まれているんだ。

32 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 23:04:29 ID:mAAfnS1U0

('A`)「…よし、着いた!」

川 ゚ -゚)「近くで見ると…随分と大きいじゃないか」

( ^ω^)「ここが噂の…」

そうこう考えてるうちに、いつの間にか着いていた。
来た道と同様に、はやり少し暗さを感じる。
壁という概念はなく、建物を支えるコンクリートの支柱と天井と床。
なるほど…これは普通に危険だ。
屋上を含めると計5階層になる。
通称…幽霊廃墟。

一階はエントランスだろうか?
あたりに漂う埃っぽさに顔をしかめながらも、近づく三人。

( ^ω^)「どこが一番幽霊が出るんだお?」

('A`)「どうやら4階が一番多いっぽいな、不吉な数字ってこともあるのかわからないが…
    1階から4階までは一つの階段で行けるんだが、屋上に続く階段だけ独立してるんだ。
    その独立した階段に上ろうとしたら…見えるらしい」

( ^ω^)「おっおっお、屋上に秘密でもあるのかお?」

('A`)「さぁな…まぁ行ってみりゃわかるだろ。こっちだ」

33 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 23:05:48 ID:mAAfnS1U0
地図が頭の中に入ってるかのようにスムーズに案内するドクオ。
静かな場所にいるときは、少しの環境音にも敏感になってしまう。
鳥の声、蝉の声、反響する足音、二人の息遣い、遠くから聞こえる部活動の声。
そのどれもが恐怖の対象だった。

…だが、階段を上っている最中に、そのどれもと違う音が聞こえた。
バスッ…バスッと、何かを叩いているかのような音と、もう一つ。
それは…人の声…それに近かった。

(;^ω^)「ドクオ…?今の聞こえたお?」

それに二人も気づいているみたいだった。

(;'A`)「同じ物音なら…そうなるな…」

川 ;゚ -゚)「…私は声が聞こえるのだが…男の…」

(;^ω^)「話し声じゃないのかお…?」

僕…というより全員。
味わったことのない恐怖に身を包まれた。
クーが聞いたのと、ドクオが聞いたのが、僕が聞いたのと同じじゃない可能性があるからだ。
数秒、いや、数分?
僕らは時が止まったように動きを止めた。

34 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 23:06:14 ID:mAAfnS1U0
…その沈黙を破ったのはドクオだった。

(;'A`)「でも、一人の声じゃない…何人かの声が聞こえる…上からだ…」

今は2階から、3階に上がる途中の踊り場。
幽霊は4階が一番出没頻度が多い…
体感するごとに、噂の信憑性が増した。

(;^ω^)「と、とりあえず…4階に…行くお?」

こういう時、普通は逃げるのが大前提なはずだが、歩を進めてみたいという欲には勝てなかった。
もしこれがホラー映画なら真っ先に僕らはお陀仏だろう。
黒いコートの幽霊…一体何を目的としているのか。

そしてビビりながらも3階に到着。
そうすると、さっきよりも鮮明に声が聞こえる。

そのまま4階に向かう階段を三人はゆっくり上がる。
僕の震えは全員に伝わっているだろう。
何故なら、全員が各々服を掴み合ってるからだ。

3階と4階の踊り場に着いて、恐怖が最高潮に到達したときだった。
一番最初に聞こえたのは…苛立った声と、生々しい音だった。

35 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 23:06:45 ID:mAAfnS1U0
「おい…あんまり調子にの る な よ!」ドカ
「転校生だか何だか知らねーが、ここは俺たちの場所なんだわw」
「女にモテモテで癪に障るんだよな…お前!」ゴチャ

4階をこっそり見た先には、不良として有名な上級生三人組…
それと…その一人に羽交い締めにされている転校生…ショボンだった。
口には何やらガムテープが張られている。

「なんか喋ったらどうなんだ!?おらぁ!」

拳がショボンの顔にヒットする。
その度に鮮血がガムテープから溢れ出していた。
恐らく口を切っているんだろう。
ガムテープの色が惨く変わっている。

「口にテープ貼ってあるから何も喋れないよーw」
「教えといてやるわ、ここはなお前が来るところじゃねーんだわ」
「俺達のシマって言ったらわかるか?w」

「そ こ で…だ。
 そんな俺達より先に来て、お前はここで何し て ん だ よ!」

不良の足がショボンの腹を蹴る。
それを確認するや否や、すぐさま僕らは隠れた。
鈍い音がフロア全体に広がった。

36 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 23:07:15 ID:mAAfnS1U0
(;'A`)
(;^ω^)
川 ;゚ -゚)

その惨状を隠れてみることしかできない僕ら。
幽霊どころの騒ぎではない。
あれは…最早リンチだ。

僕の頭はパニックになっていた。
それとは裏腹に、彼を助ける方法も模索していた。
逃げる考えは自然となかった。
そしてそれは三人とも同じだった。

だが、どうしたらいいろう?
先ず、学校に戻って先生を呼ぶのは時間がかかりすぎる。
だからと言って、全員で立ち向かうのは余りにも無謀。
それに、上級生となれば、三人がかりでも手に負えないだろう。
クーが女子離れな力を擁してようが、ただの女の子だ。
傷つけられるのは…僕が嫌だった。

こうしてる間にも、ショボンは殴られ、蹴られ、血を流している。
すると、ドクオから提案があった。

37 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 23:07:51 ID:mAAfnS1U0
(;'A`)「…クー、全力で学校に戻って先生にこの場所を伝えろ。
    そして、この状況をすぐに言うんだ。それしかない。」

川 ;゚ -゚)「私だけか…?二人はどうするつもりだ?」

(;^ω^)「僕とドクオで…何とかしてみせるお」

(;'A`)「そうだな…それしか」

川 ;゚ -゚)「お前ら二人を見殺しにするっていうのか?
      それじゃ根本的な解決にならないじゃないか!」

会話を遮るようにクーは静かで強さを込めた声を出した。
僕もドクオも喧嘩なんてしたことはほぼないに等しい。
だが、それしかなかったのだ。

( ^ω^)「クー、とりあえずわかってくれお、現状一番速く走れるのはクーだお
       それに僕らは男だお、何とかして見せるお
       あと、死なねーお」

川 ;゚ -゚)「しかし…」

('A`)「クー、頼ってくれているなら分かってくれ」

('∀`)「それに女の子をあんな目に合わせるのは幼馴染としてごめんだ
    俺たちに任せろ、お前は最速で走ってくれればいい。」

( ^ω^)「無事に帰ったらなんか奢ってやるお」

川 ;゚ -゚)「…どうか無理しないでくれ…ドクオ、ブーン」

クーは素早く静かに来た道を戻っていった。

救援は送り出した、あとは僕らが先生が来るまでの時間稼ぎだ。
何も殴り勝とうってわけじゃない。
来るまで、ショボンを助けてあげられたら、それが僕らの勝ちだ。

38 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 23:08:20 ID:mAAfnS1U0
決意胸に、今まで出したことないくらいの声を出して不良達に見つかる様に前に出た。

( ^ω^)「ちょっと待てお!!その転校生離してもらうお!!」

('A`)「同じクラスなんだよ、離してもらっていいか?」

「あぁ…?誰だお前ら…」

冷や汗が止まらない。
だが、もうやるしかないのだ

(#^ω^)「おおおおっ!」

一人の不良に体当たりをした。
喧嘩慣れしてない僕の一番は、これしかなかった。
僕の後に続き、ドクオも食らいついていた。

「この…!いきなり表れてなんだってんだ!」
「せっかくの楽しみがパーじゃねえか!」

(#^ω^)「それはお前らの頭の中がパーの間違いだろうお!」

「このガキィ!!」

(#'A`)「あんたらと一つ二つしか違わねーだろおおっ!」

39 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 23:08:53 ID:mAAfnS1U0
殴り合いというには余りにも弱々しい僕らの猛攻。
とっつき合いというのが一番わかりやすいだろうか。
殴りもせず、だからと言って殴られもしない。
そんな戦略だった。
時間さえ稼げればそれでいいのだから、これでいい。

ただ、相手は上級生三人。
一筋縄では当然いかない。

隙を見て、ショボンだけでも逃がしたかった。

アイコンタクトだけでも取ろうと、少し離れたところで倒れているショボンを見た。
…彼は僕が見るよりも先に、僕を強い眼差しで僕を捉えていた。
まだ、ショボンは動ける、そう確信した。

すると彼は、僕に目を合わせたまま何か口を動かしていた。
それは、(ガムテープを取ってくれ)と言わんばかりに。

「おらぁ!」

(;'A`)「うわぁっ!」

それと同時に吹き飛ぶドクオ。
顔面を思い切り殴られたのだ、鮮血が辺りに飛び散っていた。
口元から血が流れているのを見た。
元々体力がない彼なのだ、むしろ今までよく耐えたというべきだろう。

40 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 23:09:46 ID:mAAfnS1U0
不良達が吹っ飛んだドクオに目を奪われた瞬間に、僕はショボンに走り寄った。
そのまま口に貼ってあるガムテープを勢いよく剥がした。

口の中の血を全て吐き出すショボン。
量を見るに、相当口内はグロいことになっているだろう…
ちょっとした血溜まりが出来上がっていた。

大丈夫かと声をかける前に、普通にショボンは話し始めた。

(´-ω-`)「…ありがとう、ブーン君」

(;^ω^)「お?おん、いいんだお!」

(;^ω^)「それより早く逃げるんだお!友達が先生を」

(´・ω・`)「いや、いいんだ。ちょっと離れててくれ」

(;^ω^)「なんだお!?」

41 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 23:10:15 ID:mAAfnS1U0
僕の言葉を遮って彼は動き始めた。
ショボンが立ち上がると、辺りに不穏な風が流れた。
まるでゲリラ豪雨の時のような、そんな湿った風が徐々に強く、僕らを煽る。

先ほどまで雨の前兆もなかった。
空は綺麗な夕暮れだったのにも関わらず、風は増々強さを上げた。
建物を支える支柱と床しかないような場所に吹くには強すぎる。
どう考えても異常だった。

(;^ω^)「ドクオ!とりあえず階段に避難するお!」

(;'A`)「なんだよ!いきなり!?台風か!?」

台風。
その言葉を嘲笑うように吹き荒れる。
目の前の光景をそのまま口にするなら、竜巻の中心にいるかのようだった。
大量の砂埃せいで、この風の外がどうなってるか目視できなかった。

この風の中心には…ショボンがいる。
ショボンが片手を上げると、体が怪しく緑色に光り始めた。
それは彼のネックレスから発されたものだった。
それと同時に彼の影が色濃く伸び、ショボンに纏わりついた。

風が更に強さを増した。
立つことすら許さない。
そう叫んでいるかのような暴風だった。

42 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 23:10:41 ID:mAAfnS1U0
「なんなんだよ!」
「おい!てめえらなにした!」

不良たちはどこか泣きそうな声を上げてフロアの中心で蹲っている。
身を寄せ合って、どうにか吹き飛ばされないようにしていた。

「ごめんね、君たちを傷つけるわけじゃないんだけど…」

「少しの間、眠ってもらうね。この夏が終わる頃には起きるはずだよ」

「それじゃ、またね」

暴力的。
そんな言葉が似合う風に不良達三人が…食べられた。
その時の声は聞こえなかったし、砂埃のせいでそのフロアがどうなってるかはわからなかった。

僕とドクオはできる限り風の範囲から離れた。
来た道の踊り場で身を寄せ合っていた。
夢だと思った。
そう思えば思う程、不良に殴られた傷がズキズキと痛む。
夢なんかではない…と痛みが事実だと僕に突きつける。

ふと、ショボンの方を見た。
そこには当初僕らが捜していた姿を見た。
この廃墟に出没するという、黒いコートの姿をした幽霊が…
___________________

43 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 23:11:16 ID:mAAfnS1U0
どのくらいドクオと風を耐え忍んだろうか。
耐えることも辛くなってきた。
ただ、今ここを抜け出すことで頭がいっぱいだった。

そうしている間に、風が少しずつ止んだと気づいた。
瞬間、僕らは無我夢中で1階に向かった。
殴られた痛みはあるけど、少しでも早くこの場を去りたかったんだ。

川 ;゚ -゚)「ドクオ!ブーン!無事か!!」

1階に降りたら、クーが僕らに向かって走ってきた。
先生は懐中電灯を持って片膝をついていた。
どうやら、風のせいで身動きが取れなかったみたいだった。
呆然としていた先生に僕は今の現状を伝えた。

(;^ω^)「来てくださってありがとうございます!でも今はそれどころじゃないんだお!
       転校生のショボン君が不良達にリンチされてたんだお!
       早く助けてあげてほしいお!」

僕の舌は今までにないくらい饒舌に回った。
そう、この廃墟の4階に彼がいるのだ。
それに、不良達も。

44 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 23:11:46 ID:mAAfnS1U0
ありのままを伝えると、先生は階段を一気に駆け上がる。
急いで先生を僕ら三人も追いかける。
クーに会えて気が抜けたのか、殴られた痛みが一気に膨れ上がった。
痛くて仕方ない体を何とか動かしながら、階段を踏みあがる。

先生が4階にいるはずだ。
その後を追って僕らも着いた。

…しかし、そこは蛻の殻だった。
誰一人居らず、あるのは血の跡と、微かに残った風。

( ^ω^)「そんな…確かにここには…」

その光景に目を疑った。
ショボンは?不良達は?
こんな開けているところで見失うはずがない。
言葉を失った僕に、先生は問いかける。

「…その表情、嘘ついてるってわけじゃないな?
 お互いが喧嘩したというわけでもない…そうだな?」

( ^ω^)「もちろんですお!確実にここで」

「もういい、分かった。
 先生はもう少しこの辺りを見て回る。
 危ないものがないか、な。
 とりあえず君ら、もう夜も遅いから家に帰りなさい。
 三人とも幼馴染なんだろ?
 ご両親には電話しておくから、気を付けてな」

ここは4階、飛び降りたら骨折では済まないだろう。
確かに数分前まで居たのだ、ショボンも、不良達も。
その痕跡が血だけ…?

45 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 23:12:15 ID:mAAfnS1U0
ショボンが、幽霊…?
背筋がゾワっとした。

元はといえば、この廃墟に何しに来た?
…幽霊を見に来たのだろう?
でも、僕はあの吹き荒れる暴風の中で見てしまったのだ。
何事もないかのように立っていた…黒いコートを着たナニかを。

何が正解なのか…僕にはわからなかった。

呆気に囚われたまま僕らは帰路に着いた
今日のことについては無しながら…

46 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 23:12:37 ID:mAAfnS1U0
(;'A`)「めっちゃ痛てぇ…汗が染みる…」

(;^ω^)「僕もだお…何もかも釈然としないし…何だったんだお?」

川 ゚ -゚)「とにかく私は君らが無事でよかったよ。心からね」

('A`)「クーは大丈夫だったか?風もいきなり吹いてて…凄かっただろう?」

川 ゚ -゚)「それがわからないんだ…学校に行って廃墟に着くまでは何ともなかったんだ…
     あれさえなければもっと早く現場に着いたのだがな…すまない」

('A`)「いいのさ、とりあえず皆無事で。俺たちは傷だらけだけど」

( ^ω^)「…ドクオは最後ショボンの姿見たお?」

('A`)「いや、見てないな。最後は逃げるのに気を張ってたから…」

( ^ω^)「どうしてもあの場にショボンも不良達もいなかったのが疑問なんだお…
       だって4階だお?飛び降りでもしたら最悪死んじゃうお…
       それなのに誰もいなかった…ことにも…
       それより、あの風は一体何だったんだお…」

川 ゚ -゚)「…まぁ、今はいいさ。二人共疲れているんだ。今はゆっくり歩いて帰ろう
     どうせ私達の両親が電話でやり取りしてるさ、心配はいらんはずだ」

('A`)「三人で怒られような」

(;^ω^)「今そのことは禁句だお…」

47 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 23:13:00 ID:mAAfnS1U0
各々の家族の仲はピカイチといえる。
なんせ、僕らを置いて親達だけで旅行に行くくらいの仲だ。

今まで、何かある度に三家族で集まり、話をしていた。
他愛もない話から、僕らのこと、大人のこと…
この三家庭があったからこそ、この三人は出会ったといっても過言ではなかった。

帰宅途中、三人は無意識に携帯電話を触らなかった。
怒られることが確定してるからだ。
そもそも廃墟は立ち入り禁止。
…考えなくてもわかるおね?
その期限を少しだけ先延ばしにしつつ、僕らは月明りに照らされた。

蒸し暑い夜道の中。
僕らは手を振り合って各自の家に帰った。

傷と泥と汗にまみれた体が不快だった。
今日はすぐにお風呂に入って眠りたい。
そんなことしか考えてなかった。

( ^ω^)「ただいまおー」

 J('ー`)し「あんた、とりあえず正座」

(;^ω^)「お…」

予想通りだった。
だが、話の内容は予想と違うものだった。

48 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/11(火) 23:13:25 ID:mAAfnS1U0
 J('ー`)し「転校生君のこと、話したこともないのに助けたんだって?
      良いことするじゃない」

(;^ω^)「お?おん」

 J('ー`)し「嬉しいよ優しい子に育って、クーのカーチャンも、ドクオのカーチャンも喜んでたよ
      転校生は気の毒だけどね。
      これで悪いことしてたらシバいてたところだわ」

(;^ω^)「これ以上シバかれなくて良かったお…」

話が嚙み合わなかった。

カーチャンの話によると、どうやら僕ら三人は今日転校してきたショボン君のことを、不良達から守った…
というところだけ切り取られているらしい。
廃墟云々は無かったことにされていた。
だから、上機嫌だったのだ。

 J('ー`)し「でも、遅くなるなら先に言ってね、カーチャン心配なんだから」

( ^ω^)「ごめんお、カーチャン」

 J('ー`)し「とりあえず、傷も膿んじゃうからお風呂入って今日は寝なさい!」

そうするおー
と言ってすぐさま風呂に入った。
今日のことが本当に夢の中かのように思えた。
そこから先のことはあんまり覚えてない。
ぐったりと、眠りについたのだろう。
ただ、不思議な感覚だけが全身に纏わりついていた。

___________________

49 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:26:22 ID:2pP8licA0
3days


今日は寝起きがかなり良かった。
昨日の疲れがまるで嘘のようだった。
殴られた跡も…ほとんど残っていなかった。
不思議だと思いながら、寝ぼけ眼を擦りリビングに出る。

朝ごはんは目玉焼きにベーコンに白米、それと味噌汁。
いたってシンプルで、日本人に生まれてよかったと思えるような贅沢である。

帰ってから、ご飯は食べれずにそのまま泥のように眠ってしまったから、腹が減っていた。
バクバクと食べ、食器を洗い、自室に戻り準備を整える。
昨日は遅刻になるまで眠ってしまったから、今日は時間に余裕があると言える。
一通り準備ができたので、自室を出た丁度その時、玄関から音がした。

( ´W`)「ただいま、遅くなったな」

( ^ω^)「トーチャン!今までどこ行ってたんだお?」

トーチャンが帰ってきたのだ。
ここ二日間ほど、家に居なかったから少し寂しかったところだった。

50 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:26:44 ID:2pP8licA0
( ´W`)「…今まで仕事が立て込んでてな。帰れなかったのさ」

( ^ω^)「そうなのかお、トーチャンはいつも大変だお…」

 J('ー`)し「…ブーン、そろそろ学校行きなさい」

( ´W`)「学校は順調か?」

( ^ω^)「もう少しで夏休みだお!だから、その時はまた家族で遊ぶお!
       クーの家族とも、ドクオの家族とも遊びたいお!」

( ´W`)「…また遊んでくれるか?」

( ^ω^)「?
       もちろんだお!何なら今日帰ってきてからでも」

 J('ー`)し「ブーン!」

(;^ω^)「あ、学校また遅れちゃうお!トーチャン!またお!!まっててお!」

( ´W`)「…」

早々にカーチャンに急かされ、家を飛び出た。
また昨日みたいに遅刻したらまた怒られちゃうからね、しょうがないね。

51 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:27:06 ID:2pP8licA0
本当はトーチャンとももっと話したかった。
大好きな家族で、男だからだ。
この夏は遊び尽くしてもらわないと気が済まない。
僕は家族が大好きだ。
それと同じくらい、幼馴染が大好きだ。
そして、同じくらいにその家族が好きだ。
そうやって僕らは今まで生きてきた。

いつもより早めに家を出れたことで、幾分気持ちが軽い。
昨日手を振って別れた場所で、また同じ三人で手を振り合う。
三人で一緒に登校するこの光景もまた日常だった。
そのルーティーンは物心着いた頃から出来上がっていた。

52 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:27:42 ID:2pP8licA0
川 ゚ -゚)「ん、今日は早かったな」

('A`)「昨日は寝るまでの間連絡しなかったからな。いくら帰りが遅かったとはいえ、すぐに眠ったんだろ
    俺もそうだけど」

( ^ω^)「全員今日は早いお。いつもの10分前に全員集合したお」

('A`)「昨日遅刻したんだし、コンビニ寄るから奢れよー」

(;^ω^)「う…わかってるお…」

川 ゚ -゚)「ちなみに、私にも二人共何か買ってくれよ?昨日そう言ってたもんな?」

('A`)「…忘れてくれれば良かったのに」

( ^ω^)「そういうところだけは抜け目ないおね…」

たまに誰かがいないこともある。
昨日の僕のように遅刻してたりする時もあるからだ。
その時は、遅刻した奴が残りの二人にお菓子を奢る。
いつの間にかできたルールだった。
ただ、昼休みに全員で分けることがほとんどだから、奢るというより菓子パーティーになるだけだった。
幼馴染のルールっていうのは全員が不幸にならないいいバランスにできてると思った。

53 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:28:42 ID:2pP8licA0
昨日あんなに疲れていたのに、それも忘れるくらいには気が楽だった。
どんな時もこのグループにいると心が落ち着く。
好きなものは好きなんだ。
恥ずかしいから今更言葉にすることはないけども。

余裕をもって学校に着く。
昨日あんなに夢のようなことが起こったのに、何故か心は落ち着いていた。
きっと本当に夢なのだと感じていたからだと思う。
彼の姿を見るまでは。

(´・ω・`)

ショボンは教室で座っていた。
ただ、昨日怪我したところは痛そうな跡が残っていた。
きっと口の中も腹も傷だらけだろうに、真顔を貫いていた。
こんなことを思うのは、僕たち三人くらいだろう。
そこに居合わせたのは、僕たちしかいないんだから。

だからこそ、心配だった。
あの風のことも、緑色に光り輝くネックレスのことも、あの姿のこともこの際どうでもいい。
彼が目に入ってから、彼に押し寄ってしまったのは反射的にだった。
取り囲む人達を強引に引っぺがして彼に話しかける。

54 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:29:02 ID:2pP8licA0
(;^ω^)「昨日は大丈夫だったかお!?」

教室の音が一瞬で無音になるのを感じた。
僕の声が予想以上に大きかったからだ。
それに続いた二人もいた。

('A`)「お前のその傷、結構痛そうだけど強がってないか?
    無理にクール気取ってもいいことないぞ」

川 ゚ -゚)「あの現場に乗り込んだ二人に感謝だな
     まぁ、あの後先生を呼んだのは私だがな」

ショボンは驚いた表情から身動きが取れなくなっていた。
そりゃ、囲んでた人を無理やりどかせて、素性も知らん三人がいきなり話しかけてきたのだ。
それでも彼は真顔を貫いて、僕らに話しかけてくれた。

55 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:29:37 ID:2pP8licA0
(´・ω・`)「…昨日はありがとう。お陰で何とか助かったよ
      でもどうしてあそこに?」

('A`)「そりゃあ、あの廃墟の幽霊を見るためさ
    ま、結果的に幽霊よりもすげーもの見ちゃったし、経験したんだけどな」

(´・ω・`)「幽霊…そうなんだね。怪我は無事だったかい?」

( ^ω^)「そういえば…あんまり痛さはもうないお。ショボンは?」

(´・ω・`)「僕のことは気にしないで大丈夫…あの時先生を呼んでくれなかったら、僕はここにはいないだろうね
       最悪、皆であそこでフクロにされてたかもしれない。」

川 ゚ -゚)「そう言うな。私達はあの不良共が許せなかったのさ。弱小者に寄って集って…気に食わないよ
     結果的にみんな怪我さえしたけど無事だったから、全て良しだよ
     それに、転校生だってその美顔が守られたみたいだし、何よりじゃないか」

('A`)「正直羨ましいし、妬ましいよ」

(;´・ω・)「ドクオ君は勉学というのがあるじゃないか。僕には到底叶わないよ
      人間外見より、中身が大事だと僕は思うよ」

('∀`)「…無意識でも刺さるものって多いことを教えてやらないといけないかもな」

( ^ω^)「ドクオは刺さり易すぎるんだお」

56 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:30:05 ID:2pP8licA0
そんな他愛もない話をしているうちにチャイムが鳴った。
席に戻る時に、なんとなくショボンも含めた4人に好奇の目を向けられた…
そんな気がした。
人気転校生と、幼馴染の三人がいつものテンションでいきなり話し始めたのだ。
クーは嫉妬の目線を女子達から送られるが、そんなものは意に介していない模様。
女子って大変だなぁと、この時は流石に思った。
話したこともない三人と、いきなり怪我だらけになった人気転校生…
そう…
…ん?

( ^ω^)(なんでドクオの名前と勉強ができること知ってたんだお…?)

57 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:30:27 ID:2pP8licA0
記憶が蘇る。
僕は見てしまったんだ。
ショボンが黒いコートに包まれていたのを。
そして、ガムテープを剥がし、助けた時に迷わず僕の名前を呼んだことも。
風が止んだ後、ショボンも不良達も居なくなっていたのを。
今日、ドクオが勉強ができるということを知っていたのも。

まるで、全部最初から知ってて予知してたかのように…
僕の中で謎が謎を呼び込んだ。

一体どうすれば全てが結びつくのか
何をしたら納得出来るのか。
全く想像が付かなかった。

ただ、魔法のようだ。
としか思えなかった。

58 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:30:49 ID:2pP8licA0
それからは現状分かってることをノートに書いた。
紙が汗ばんだ手にくっつくことも気にならないほど、集中した。
この集中力が勉強に活かせたらいいのに。
そんなことを思い始めた。

今は、謎だけが心を巣食っている。
不安を殴り書きしているのだ。
チクチクする感覚を拭うようにノートに文字を連ねた。
一度気になったのだからしょうがない。

今まで感じたこともないこと。
知らなかったこと。
思いも付かなかったこと。
…突然現れた人物のこと。

ドクオが幽霊の話を聞いてから全て始まっていた。
その噂はどこからともなく湧き出て、僕らの耳にも届いた。
あの廃墟の幽霊の話。
そして、昨日見てしまった全て。
どう考えてもおかしいことは分かっているつもりでも、僕の第六感が叫んでいる。
あの幽霊の正体は…

59 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:31:09 ID:2pP8licA0
('A`)「幽霊の正体はショボン?」

川 ゚ -゚)「なんだブーン、寝惚けてるのか?」

( ^ω^)「…僕もそう思うお。それでも、考えれば考えるほどそうだとしか…」

弁当を食べながら、二人に結論を話し出す。

('A`)「ブーンの言いたいこともわかる。なんつったって、あの時あの空間に居たのはショボンだからな」

( ^ω^)「そうだお。それにあの不良達の話も全然聞かなくないかお?
       学校に来てないから話が出ないのも頷けるんだけど…」

川 ゚ -゚)「ふむ、私にはそういった考察は苦手だ。ドクオはどう思う?」

('A`)「…確かに引っかかるところはある。あの風とかな。
    だけど、幽霊の話はショボンが来る前からあったんだぜ?
    それはどう思うんだ?」

( ^ω^)「そこは何とも言えないおー…だけど、二人は気づかなかったかお?
       ドクオは勉強ができることを、何故かスムーズに突っ込みで入れてたんだお
       それに、不良達の話を思い返せば
       ショボンが最初に廃墟にいて、その後に不良達が来てたようなことを言ってたんだお
       僕には…それがどうも不気味だったんだお…」

60 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:31:32 ID:2pP8licA0
どこまで行っても僕のは憶測に過ぎなかった。
だが、二人はあまりにも自然な会話の流れだったために気が付かなかったらしい。

そう、幼馴染だからこそ引っかかるほんの少しの棘。
それが、辺り一面に広がっていた。
だからと言ってショボンを咎めることは一つもない。
ただ、何故?ということが多かったのだ。
ただの転校生というには、不可解なことが多かった気がした。

('A`)「まぁ今は考えすぎだぜ。まだ確定してるわけじゃない。
    ただ、面白い考察ではあるな」

川 ゚ -゚)「転校生がどんな人間か…私は興味がある。少し仲良くしてみようじゃないか
     なに、休みまでまだ今日を含めて4日もあるのだから」

( ^ω^)「…そうだおね。少し考えてみるお」

別にショボンがどういう人間だろうといいのだ。
ただ、知りたかった。
彼の魅力に取りつかれたとでもいうのだろうか。
僕の考えはグルグルと巡った。
そして、一つのシンプルな考えに到達した。

( ^ω^)「…もう一度、あの廃墟に行ってみるお」

___________________

61 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:32:07 ID:2pP8licA0
その日の放課後、僕はカーチャンに連絡をした。

『ごめんお!今日も少し帰るのが遅くなりそうだお…
 ご飯は家で食べるお!』

軽く、帰るのが遅くなることを伝えた。
昨日の反省だった。
心配をかけるわけにはいかなかったから。

そして、前と同じルートを辿る。
今回は二人には秘密で来てしまった。
また、二人が何かに巻き込むのは…
二人が傷つくことは、僕が嫌だった。

廃墟に向かうや否や、どうも様子がおかしい。
昨日と同じ道のはずなのに、やけに息苦しかったから。
一人で行動するのはあまり慣れてないから。

それに、前回よりも少し遅い時間を狙って行動している。
辺りはほぼ真っ暗。
月明りがなければ、右も左も分からなかっただろう。

15分の散歩道。
暑さもさることながら、この湿気が異常に感じ取れた。
風はほぼ無風に近かった。
太陽が昇ってないだけまだましなのかもしれないが、それにしたって暑い。

噎せ返るような土の匂い。
蝉の合唱に、虫の声。
どれもが暑さを助長していた。

62 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:32:34 ID:2pP8licA0
もう引き返そうか…
そう思った途端に、廃墟は現れる。
あの時と全く一緒の構造をしている。
それなのに、今回は少し肌寒さを感じた。
一人なことの畏れなのか?
原因は分からなかった。

到着したはいいが…どうしたものか。
このまま4階に直行するのでも問題はないだろう。
ただ、不良達が今もそこにいるんじゃないかと思うと、中々足が進まなかった。
とりあえずゆっくりと上に上がろう。

そう思って階段を一段上がった時だった。
ひんやりとした空気が上から流れてきたのが分かった。

ここは廃墟だ。
そして電気なんてものは通ってない。
なら何故?
クーラーのような冷気に引き寄せられた僕は、ほぼ無意識で4階に駆け上がっていた。

前回の場所まであっという間に着いてしまった僕は、ハっとした。
この冷たい空気は4階からじゃない。
屋上に繋がる階段からだった。

ドクオは言っていた、屋上に行くには、独立した階段を上がる必要があると。
思い出したこの廃墟の構図。
その階段は、その冷えた空気を放っているからか、異様な雰囲気を匂わせていた。

63 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:33:09 ID:2pP8licA0
その階段に近づけば近づくほどに、その冷気は増していた。
冬の風が屋上から吹いてきているようだった。
この廃墟に近づいた時に感じた肌寒さの正体は屋上なのだ。
屋上に上ろうと手すりに手をかけた瞬間。

激しい頭痛と耳鳴りに襲われた。

雷に打たれたような痺れが、頭蓋骨に響く。
僕はその痛みに耐えられずに、膝をついた。
声にならない声を捻りだす。
痛い、その一言すら出なかった。

ホワイトノイズのような爆音。
土砂降りの雨が降ってるようだった。
僕は死ぬのか?
訳が分からない。
分からないことだらけだった。

膝をつくことすら忘れ、床に這いつくばっていた。
頭痛は鼓動に合わせてズキズキと僕を蝕み続ける。

耳鳴りが段々と大きくなる。
その中で、女の声が聞こえた。

64 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:33:29 ID:2pP8licA0
【-----君■■を■■し■した■■■】

ノイズが酷くて聞き取れない。

(;-ω-)「いっっ…一体なんなんだお?」

【君の■■を■■■■を見■■■】

何かを言っている。
そして、僕に何か伝えようとしている。
だけど、聞こえない。

(;゜ω゜)「なんだお!誰なんだお!!」

電流を流されたような痛みに抗いながらも叫んだ。
理不尽に対する怒り。
その感情だけが僕を支配していた。
僕は吠えた。
何度も。
何度も。


65 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:33:56 ID:2pP8licA0
5分程のたうち、叫び回っただろうか。
頭痛は鳴りやまず、脳に響く声は絶えず何かを発している。
進展はなかった。

【■■に■■■全■■■■を■■して】

(;-ω-)「クソ…痛すぎて何も考えられねーお…!
      何かないかお!?」

本格的に死を感じ始めたころ。
耳に生じるノイズに交じって、金属の悲鳴が聞こえた。
錆び同士を強い力で擦りつけるような…
明らかに異質な音だった。

その音に導かれるがままに、屋上に繋がる扉を見た。

(;゜ω゜)「…何だってんだお!あれは!」

66 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:34:18 ID:2pP8licA0
屋上に繋がる扉から強烈な冷気が舞い込む。
僕を招くように開いた先の光景は…現実を無視したかのような光景だった。

空高く聳え立つ白い階段。
それは積乱雲のような高さをしていた。
ここからでは詳しく見れないが、言葉通り空まで届くかのようだった。
その終着点にある、固く塞がれた両開きであろう奥の扉。
いや、あれは門と言っても過言ではない。
そのくらい壮大で、姿だけで全てを雄弁に語っていた。
これは普通じゃないということを。

【君■■を■■■■示■■■■■■■】

その間にも語られる謎の声。
所々ノイズが走り、全てを聞き取るには難しかった。
強まる冷気。
この寒さは、確実に自分の体温を奪っていった。

(;-ω-)「な…何が言いたいんだお?お前は…お前は誰なんだお…」

まるで雪山。
それは、夏の服装のまま世界最高峰に挑むような感覚。
必然的に行きつく、死という文字。
これは洒落にならない。

今まで意識すらしたことない死が、確実に迫っていた。
このままでは、僕は…

67 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:34:52 ID:2pP8licA0
(;゜ω゜)「まだ死にたくねーおおおお!!!」

やけになった僕は、頭痛に苛まれながら屋上に向かった。
いきなり立って階段を上がるものだから、その姿は覚束無い。

何故だろう、このまま家に帰るっていう選択肢はなかったみたいだ。
感情任せの行動は、大抵碌なことがない。
きっと頭がおかしくなってるんだ。
頭痛もする、耳鳴りも止まない。
その上、語り掛けてくる声もまともに聞けない。
イライラしてたんだと思う。
多分。

おおおっ!
こうやって叫ぶことによって、意識と保った。
ここで少しでも気を抜いたら、それこそ真夏の凍死体になってしまうだろう。
それだけは避けなければならない。
自分を鼓舞するのと同時に、冷気が舞い込む扉に突進した。

そして、遂に辿り着いた。
ここが…

(;^ω^)「…屋上?」

68 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:35:17 ID:2pP8licA0
…のはずだった。
だが、目に映る景色は別世界だった。

辺りは黒く覆われて、見えるはずの学校も、星や月も何も見えない。
ただ暗黒な空間に、天まで上ってしまいそうな階段と、厳かに存在する扉。
ただそれだけだった。
それだけなだけに、この空間の広さは想像もできなかった。

どこまでも広がる漆黒の闇。
それとは反対に存在する純白の階段と扉。
大袈裟な装飾が施されていて、その美しさは何者も汚すことを許さない。

しんしんと降り積もっている雪。
歩を進める度に、足元からザクザクと音を立てた。
僕の浮き立った足をちゃんと踏めるように。
それは、この不可解な場所に僕が存在しているということでもあった。

…もう一つ。
屋上に繋がる扉からは見えなかった影を視認した。
純白の階段前に立つ…黒いコートの姿。
その顔はもう何度も頭の中を掻き乱した、見知った顔だった。

69 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:35:38 ID:2pP8licA0
(´・ω・`)

ショボンだった。
彼は僕にびっくりしたのか、足早に僕に駆け寄ってきた。

(´・ω・`)「ブーン君…何故ここにいるんだい?」

何故?
それはこっちのセリフだお。
僕は聞きたいことが沢山あるんだお!
ここはなんなんだお?
さっきの声は誰なんだお?
この寒さは?
雪は?
階段は?
なんで廃墟の幽霊と同じ服装してるんだお?

…お前は何者なんだお?

僕は駄々を捏ねる子供のように、ショボンに言葉を浴びせた。
もう脳が処理しきれない量の情報量だった。
何かを吐き出さないと、見えない何かに押し潰されそうになっていた。

70 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:36:04 ID:2pP8licA0
(´-ω-`)「…それ等に答えるには時間がかかる…かな
      それに、ブーン君がここにいることの方が僕にはよっぽど驚きだよ」

それはどういうことだお…

(´・ω・`)「まぁいいさ、ブーン君。"元の世界"に戻って話をしようか
       ここだと寒いし…何より頭痛とか耳鳴り、止まらないだろ?」


謎の症状に悩まされていることがショボンは知っていた。
どうして?
その言葉を吐き出す前に、彼はコートを僕に被せて視界を覆った。
すると、不思議と寒さや頭痛はなくなった。
「ちょっと眩暈がするかも。ごめんね」
彼がそういうと、少し立ち眩みをしたような感覚に陥った。

71 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:36:24 ID:2pP8licA0
倒れまいと足に力を入れた瞬間に、覆っていたコートを取ってくれた。
寒さや耳鳴り、頭痛は何事もなかったかのように今はもうない。

嗅ぎ慣れた匂い。
懐かしいとすら思うここは、自分の教室だった。
違和感と言えば、プールから反射した月明りが、不安定に部屋照らしているからだだった。
窓から見えるオリオン座が、空に堂々と浮かんでいる。

僕はただただ、現状を飲み込むしかなかった。
さっきまでいた異空間から、ショボンが瞬間移動?を使って戻ってきた。
その事実を飲み込むことしかできなかった。

…どう考えたってこれは…魔法じゃないか。

( ^ω^)「ショボン…」

人はパニックを通り過ぎると賢者モードになるみたいだ。
少なくとも僕は。
言いたいことがあるはずなのに、言葉が出てこなかった。

この空気を変えたのは、彼からだった。

72 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:38:22 ID:2pP8licA0
(´・ω・`)「…一つ言おう、ここまできた方法は魔法さ。
       そして、ここはパラレルワールドでも何でもない
       いつもの教室。ここなら落ち着くだろうと思ってね
       あの場所で会ってしまったんだ…答えられることなら、正直に答えるよ」

その会話をを皮切りに、僕も言葉を発した。

( ^ω^)「君は…幽霊なのかお?」

(´・ω・`)「それは違う、と言い切ろう
       ブーン君の目の前で思いっきり血を吐いただろう?
       あれが何よりの証拠さ」

( ^ω^)「なんで僕が頭痛や、耳鳴りしていることを知ってたんだお?」

(´・ω・`)「僕もかつて…最初にあそこに到達したときに、同じ症状に陥ったからだよ
       それに、顔色もすこぶる悪かったし、そうかなってね」

( ^ω^)「さっきまでの空間…廃墟の屋上にあったものは何だお?」

(´・ω・`)「ブーン君、君は聞いたことがあるかい?あの廃墟の噂を…
       もちろん幽霊の話じゃないよ」

( ^ω^)「…願いが叶う場所、だったかお?」

73 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:38:44 ID:2pP8licA0
(´・ω・`)「そうだ。僕の素性は知らなくていいけど、僕がなんであの場所に居たか
       それは極単純で、願いを叶えてもらう為さ…それも、強い願いの元、ね
       あの場所は、強い願いに引き寄せられるように現れる…らしい
       僕も詳しくは分かってない」

( ^ω^)「…ショボン、君がどうしても不思議だったんだお
       何なら、今も不気味にすら思ってるお。ドクオの事もすんなり知っていたし
       あの廃墟で初めて会った時のあの風も…あれも魔法かお?
       それ等を確かめる為、だお。あの場所に行けば何か分かるかもしれないと思ったんだお
       僕ら…クーとドクオは大切な幼馴染だから、守りたかったんだお」

話せるようになった僕は、文脈すら無視して全てをぶつけた。
不安、不信。
それらを前面に出して。

(´-ω-`)「…おおよそ合っているよ。君の考えていることは、全部、ね
      君たちのことを利用したわけじゃない、ってことは伝えたいかな
      一人で居るのは慣れているけど、悪目立ちはしたくなかったんだ
      気分を悪くしたなら、ごめん。僕も友達を作りたいんだ
      だからこそ、君たち三人と少しだけつるむような関係になりたかったのさ
      あの不良達はイレギュラーだったよ。僕も想定してない
      それに、もう学校は最後になるかもしれないからね。思い出作りさ」

74 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:39:06 ID:2pP8licA0
( ^ω^)「そういえば…あの不良達はどうなってるんだお…?」

(´・ω・`)「彼らの場所だとは思わなかったから、あんなに殴られるのも驚いたよ…
       でも、安心していいよ。彼らは少し"眠って"もらってる
       安眠は出来てないかもしれないけど、少しは懲てもらわないとね
       君たちに助けてもらって良かったと思ってるさ」

( ^ω^)「そうだったのかお…」

不安を塗り潰すように、気持ちよくショボンの言葉がハマっていく。
矛盾することは何もなかった。
今までの彼からは感じ取れない程、人間性が溢れていた。
話している間に、徐々に鮮明になる彼の目的、意図。
きっと、これが彼の本心なのだろう。

彼に対する疑念が取れたところで、僕は一番気になっていたことを彼に問いかける。

75 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:39:28 ID:2pP8licA0
( ^ω^)「…本当に願いが叶うのかお?あの場所で」

(´-ω-`)「…そればっかりは分からない、かな。僕は今、その願いを叶える為に奮闘してるんだ
      あの場所に行くには、人の強い願いが必要なんだと思う
      僕も色々検証中だからね。合ってるかどうかの確証はないよ」

(;^ω^)「そうなのかお?でも僕に今叶えたい願いは…特にないお?」

(´・ω・`)「"どんな手を使ってでも"叶えたい願いさ…心当たりないかい?」

(;^ω^)「ん-…そう思った願いがもしあるなら、すぐ出てくると思うお
       だから多分…そんな大きい願いはないんだと思うお」

(´-ω-`)「…そうなんだね。よく分かったよ。ありがとう」

(´・ω・`)「そろそろ帰らなきゃいけないんじゃないか?時間ももう遅いけど」

(;^ω^)「…つやっべえお!!カーチャンに連絡…あれ?」

急いで携帯を見る。
多分怒ったカーチャンからの連絡があるはず…
と思ったが、何もなかった。

僕からの連絡は、遅くなっても必ず返してくれていたカーチャンだ。
こういうことはなかったのに…何かおかしい。

(´・ω・`)「僕が近くまで送ってあげる。それと、今日のことは内密に。いいかい?」

(;^ω^)「わ、わかったお!ありがとうだお!」

そういうと、ショボンはまた僕に黒いコートを被せ覆った。
また、脳が揺さぶられような感覚になった。
---気を付けてね---
彼の声でそう聞こえた気がした。


___________________

76 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:39:55 ID:2pP8licA0
ショボンの魔法?でいつの間にか道路に立っていた。
夜中でも、蒸し暑さは昼とそう変わらなかった。
何故か彼の姿は見えなかったが…いつも通りの帰路に突っ立っていた。

急いで家に帰らねば、カーチャンが心配している。
それにしても…ここに来る前の彼の言葉…
それが引っかかっていた。
何に気を付ければいいのだろうか…

その意図は、家の玄関に着いた時に察してしまった。

トーチャンがどこかに向かおうとしていたのだ。
こんな夜中に。大きな荷物を持って。一人で。
不安な心を落ち着かせて、いつも通り声をかけた。

( ^ω^)「トーチャン!帰るの遅くなってごめんお!
       どこに行くんだお?」

( ´W`)「ブーン…いや、ホライゾン…」

トーチャンが一言発しただけで、空気が淀んだのが分かった。
その声はどこまでも黒く、底なしに暗かったからだ。
名前を呼ばれることが久しぶりのことだった。
幼馴染の三家族全員から言われているあだ名。
それは自分の家族にも影響してたようで、トーチャンもカーチャンもあだ名で呼んだ。
名前で呼ばれるとき、それは決まって怒られる時か…真面目な話の時だけだった。
自分を呼ぶそのトーンと、その荷物の大きさで、悪い未来を想像してしまった。
それも最悪な。

77 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:40:23 ID:2pP8licA0
( ^ω^)「トーチャン…?」

( ´W`)「…ホライゾン。お前は立派に育ったな。俺の誇りさ。噓偽りなくな」

( ^ω^)「…何の話をしてるんだお?」

( ´W`)「…トーチャンな、この家から出ていくことになったんだ
     もう、この家に戻ることは…ない」

( ^ω^)「…トーチャンもそんな冗談言うんだおね!
       びっくりしちゃったお!今日は一緒に夜ごはん食べれるんだおね?
       帰ってきたの遅くなったからってそんな…」

( ´W`)「ホライゾンも、もう大人だ。この言葉の意味…分かるな?
     トーチャンな、他の女の人と住むことになったんだ…
     だから…これでサヨナラだ」

(;^ω^)「と、トーチャ…ン?」

嫌な汗が僕の背中をなぞった。
それはこの暑さのせいではなかった。
トーチャンはその後、目も合わさず家を離れた。
僕を通り過ぎる時の表情は見えなかったが、絶望的な雰囲気を醸し出していた。

78 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:41:01 ID:2pP8licA0
それを横目に、ドタドタと音を立てて家に入る。
何か…大切な物を失ってしまいそうで。

(;^ω^)「カーチャン!トーチャンが!!」

いつものリビングとは思えないほど、広い間取りだった。
それは、元々あった物がなくなっているのと同義だった。
そして、それが意味していることは、容易に想像できてしまったのだ。
焦っているのだ。
あの冗談がただの冗談だと、言ってほしかっただけなんだ。

そんな楽観的な予想はカーチャンの顔を見た瞬間に分かってしまった。

 J( ー )し

ただ、俯いていた。
それだけで、考えうる最悪が現実になってしまったことを悟った。

(;^ω^)「カーチャン!どうなっているんだお!?
       トーチャンがどっか行っちゃうお!何で話してくれなかったんだお!」

僕は怒鳴るようにカーチャンに言葉をぶつけてしまった。
こうしてる間にも、聞こえてた車のエンジン音。
それは、自分達の車の音だった。
幾度もあの車で旅行に行ったのだ、聞き間違えるはずがない。

一言、たった一言"嘘だ"と言ってくれ。
それだけでいいのに、どうして大人はこうも…ズルいのだろう。
そんな哀れな希望は、机に置かれた紙が物語っていた。
だからこそ…全てを理解した。
もう、二人は…

79 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:41:30 ID:2pP8licA0
 J( ー )し「ホライゾン…どうしちゃったの?」

(;^ω^)「トーチャンが今出てっちゃったお!他の人と住むって…
       はっきり言ってたお!追いかけて引き止めないと!!」

 J( ー )し「…トーチャンも冗談が上手になったねぇ。出張くらい今まで何度もあったじゃない」

(;^ω^)「トーチャンがそういう事で冗談言わない人だってカーチャンが一番知ってるはずだお!!」

僕は居ても立っても居られなかった。
とにかくトーチャンを追わなきゃ。

80 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:42:00 ID:2pP8licA0
靴も履かずに家を飛び出た。
もう出発してしまったとは言え、まだ車の音が聞こえるんだ。
信号かどっかで追いつけるはずさ。
僕抜きで、知らないところで勝手に決められるのはいくら何でもないだろう?
何が悪かったんだよ。
何がそうさせたんだよ。
今までも、これからも愛していたいんだよ。
僕の家族も、クーとドクオの家族も。全部。
あんまりじゃないか。
今までずっと一緒だったじゃないか。
知らない間に何があったんだよ。
僕に言ってくれても良かったじゃないか。
少なくとも、こうなると分かっていたなら…

いや、自分から目を背けただけなんだ。
あの日、家が真っ赤になった時のカーチャンは様子が変だった。
それに気づいていたのに、見て見ぬふりをしたんだ。
僕があの時、少しでも声をかけていれば。
トーチャンと会えたあの朝、もっと話を聞いていれば。
今日、廃墟になんか行かずにちゃんと帰っていたら。
僕のせいでもあるのに、二人のせいにしてしまった。
違う、僕が引き止めなきゃいけないだろ?
僕は、僕は…
二人の子供なんだから。

81 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:42:20 ID:2pP8licA0
自己嫌悪に塗れた心が耐え切れなくなって、溢れた感情は涙となって零れ落ちた。
きっと誰も悪くない。
でも原因は分からない。
だから話したかった。

もう、あの車のエンジン音すら聞こえないのに、見知った道を走り続けた。
走馬灯のように次々に思い出が頭を駆け巡る、その度に涙がとめどなく出続けた。
もう一度だけ、家族で話し合おう?
それだけで良かったんだ。
それだけを言いたかった。
そうすればきっと…いつも通りに戻るはずだよね?
だからお願いだ神様。
僕の家族を…幸せな時に戻してくれ。

視界が上手く機能しなくなり、僕は転んでしまった。
もうとっくに限界だった。

82 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:42:43 ID:2pP8licA0
( ;ω;)「…ごめんなさい」

ポツリと、呟いた。

コケたままの僕は、空に仰向けになって暫く動くのをやめた。
今日という一日に色々なことが起こり過ぎていたためだ。
廃墟のこと、ショボンのこと、魔法のこと、家族のこと、これからのこと。
何も考えられない。
考えたくなかった。

この降り注ぐ月光に照らされ続けた。
どうしようもない、行き場のないこの感情をぶつける相手は居なかった。
僕は…怒りの矛先を月に向けるように、上を向いた。
そうしてたら、さっきまでの激情は収まる気がしたから。
怒ることも、泣くことも慣れて無いのだ。
ただ、誰かに、何かに、八つ当たりをしているだけだった。
こんなことをしても、何も解決なんてしないのに。

ひとしきり涙を流したら、帰ろう。
もう日付もとっくに変わっているだろう。
…初めての深夜散歩は最悪だった。

心の整理はできていない。
むしろ、思い出ばかりが出てくる。

83 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:43:10 ID:2pP8licA0
〜〜〜数年前:罅割れた追憶〜〜〜



あの時は皆浴衣を着ていた。
歩き慣れない服装なのに、トーチャンは車椅子を押しながら歩いていた。
色々教えてくれた出店通り。
初めて見る巨大な熊手が怖かった。
それをどういう物か説明してくれてたけど、人が溢れかえっているというのもあって聞き取れなかった。

焼きそばとお好み焼きの混ざった匂い。
提灯に照らされた林檎飴。
酔った大人の笑い声。
蝉の抜け殻。
歩きにくい足元。

僕は人混みが怖くてカーチャンの手に自分の手を重ねてたんだ。
心配しないでいいよって、僕の手を握り返してくれたんだっけ。
トーチャンはそんな僕らを幸せそうに見てた気がする。

84 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:43:36 ID:2pP8licA0
そうしてたら、突然爆弾が落ちるような音を聞いて、僕はびっくりして声を上げて泣いてたんだ。
カーチャンがほら!って僕の肩を叩いて上に指を指してた。
泣きじゃくる僕は、カーチャンの指の先を見た。
それが初めて見た打ち上げ花火だった。

花よりも大きくて、脆くて、すぐ消えてしまう。
それなのに、その大華は僕の感覚全てを奪った。
どこまでも広がる満天の黒に咲くあの爆弾は、僕の泣きっ面を壊してくれた。
強く握ったカーチャンの手は、熱帯夜よりも優しく、暖かかった。
多分、車椅子を押してたトーチャンの手も同じことを感じてたと思う。
なんとなくその時、三人が心で繋がってるって幼いながらに感じてた。

それから遊園地もそうだ。
その時はクーとドクオの三家族も一緒に来てたんだよな。
お化け屋敷でドクオが酷く泣くもんだから、クーと僕で慰めてたっけ。
僕のトーチャンはそのシーンをカメラで撮ってたんだよな。
今もまだ、家にあるアルバムに残ってた気がする。

海も、ハロウィンも、クリスマスも、初詣も全部。
僕の家族三人で手と手を取り合って生きてきた。
ずっと、このままだと思ってたんだ。

85 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:43:59 ID:2pP8licA0
〜〜〜現在:静寂と同化して〜〜〜


そんな記憶から現実に戻るまで、体感1時間は仰向けになっていた。
記憶の引き出しは、辛いときほどアレコレ開けては放っぽる。
その片づけをするのには骨が折れる時間だった。

ようやく落ち着いた、と自分の中で区切りをつけた。
そうでもしなかったら、いつまでも立てなかっただろうから。
ゆっくりと上体を起こして、痛む両足を地につけた。

見守ってくれているのか、はたまた僕を見て笑っているのか。
あの月は、僕が帰宅するまで追ってきた。
涙は自然と引っ込んでた。
何時から止まっていたのかはわからない。
変な気持ちで冷静になる。
だからこそ、帰ろう、と思えたのかもしれない。

家に帰ればカーチャンがいる。
まずは、話すところから始めてみよう。
そう思ってから、歩くスピードも速くなり始めた。

86 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:44:25 ID:2pP8licA0
何故か家に戻ることに緊張を覚えたころ、ようやく玄関前まで着いた。
カーチャンに酷いことを言ってしまったからだ。
傷つけてしまったかもしれないと思うと、心が痛んだ。
僕よりもしんどい思いをしているのはカーチャンなのだ。
色々なことが混ざってしまって、考えは纏まらなかったが、冷静な状態は続いてた。

恐る恐る、ドアノブに手をかける。
開けた先は、僕が勢いよく出て行ったせいで、ぐちゃぐちゃになった玄関があった。
それに、靴を履かずに外を走ってしまいにはコケている。
すっごいダサい。

そんな玄関を直すこともせず、足に着いた泥や砂利も拭かずに、僕はカーチャンの傍に近寄った。
カーチャンは僕が出て行った時と同じ位置、同じ格好をしていた。

…僕は怖かった。
何か声をかけることが。
それでも、何か話さないといけない。
…僕の唯一残った家族なんだから。

87 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:44:47 ID:2pP8licA0
( -ω-)「…カーチャン、ごめんお。おっきい声出して」

カーチャンは頷くだけだった。
まるで、大丈夫と言ってくれているかのように。

( -ω-)「…正直、僕は怒ってるし、寂しいと思ってるお。僕に話を一つもしてくれなかったから
      これからどうなるかも分からないから、さっきはカーチャンに当たっちゃったんだお
      それでも…聞かせてほしいお
      きっと…もう元には戻らないんだおね…?」

少しの希望に縋る様にカーチャンに問う

 J( ー )し「…本当はホライゾンが成人したらって話だったの
       ホライゾンは悪くない。何も悪くないんだよ
       もう終わった後になるけど…私達は…」

( -ω-)「それ以上はいいんだお…僕もそれなりに大人だってことだお…
      カーチャンは傍に居てくれるおね?」

勿論だよ。
そう言ってカーチャンは震える体で僕を抱きしめてくれた。

88 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/12(水) 23:45:12 ID:2pP8licA0
結局原因は教えてはくれなかった。
きっと、今の僕には言えないことなのだろう。
割り切れないのに、割り切らなきゃいけない。
僕はやっぱり…大人にはなれない。
そう思った。

やけに広い自分の家。
ぽっかりと空いた1部屋。
微かに残る匂いだけで、目を瞑ればいつも通りの光景が広がった。
今にも触れられそうなほど色濃く残った僕の日常という歯車が、少しずつ狂い始めた。

___________________

89名無しさん:2025/02/13(木) 19:35:45 ID:HtwhbWmE0
おつおつ

90 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 01:55:44 ID:uiQUQz.g0
4days


('A`)「昨日ブーンのやつ、帰り居なかったなー。どこ行ったんだろう」

川 ゚ -゚)「私も考えたんだが…
     夜の連絡もなかったってことは…だ。一つしかないだろう?」

('A`)「ん?何か心当たりあるのか?」

川 ゚ -゚)「か の じょ、だ。ブーンにできたんだろ?そうすれば辻褄が合う」

(;'A`)「おい…彼女…?そんなはずは…そんな素振りなんてなかったぞ…?」

川 ゚ -゚)「恐らく、私達には言いづらかったんだろう。
     ドクオも考えてもみろ、自分に恋人ができたとして、それをいつもの調子で言えるか?」

(;'A`)「そりゃそうだけど!だったら夜には連絡の一つくらいあってもいいはずだろ!?」

川 ゚ -゚)「男女が夜、誰とも連絡つかなくなる…つまり、だ」

(;'A`)「…つまり…」

91 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 01:56:07 ID:uiQUQz.g0
川*゚ -゚)「営んだ…ということだろう…言わせるな、恥ずかしい」

(#'A`)「ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!!!
     許せねえ!!!ブーン出てこい!!!」

(#;A;)「俺らはそんなことしないだろおおおお!!!!
      せめて俺には言えやああああ!!!!羨ましいなクソがあああ!!!」

川 ゚ -゚)「なんだ、ドクオにもそんな感情があったのか。そういうことなら、私に言ってくれればいいのに」

( ;A;)「…え?」

川 ゚ -゚)「ん?」

( ;A;)

川*- -)

92 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 01:56:29 ID:uiQUQz.g0
(;^ω^)「なんだお…この空気…」

(#'A`)「ブーンてめええええ!!!!彼女ができたなら言えやクソがあああああ!!!」

(;^ω^)「なんの話だお!!!!ドクオ落ち着くお!!!!」

ああああああああ…


あれから、時間が過ぎるのは早かった。
いつの間にか朝日が昇り、僕は眠れなかった。
トーチャンだけの荷物も痕跡も何もない。
もう二度と元に戻らない、という事だけを広々としたリビングは語っていた。

まだカーチャンも心の整理がついてないのだろう。
目が赤く腫れた後が見受けられた。
きっと僕が眠れなかった時間、カーチャンは声も出さず泣いていたのだ。
大人は変にそういうところを隠したがる。
本人がまだ割り切れてないなら…まだ僕も引き摺っててもいいおね?カーチャン。

93 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 01:57:13 ID:uiQUQz.g0
クーとドクオと合流してからは、何の変哲もない景色だった。
二人の両親にはまだ何も言ってないみたいだった。
現に、僕に対して変に気を使ったことも感じ取れなかった
ただ、昨日僕が帰り道に居なかったこと、夜に何も連絡がなかったこと。
それらが重なって、二人の間に変な誤解が生まれてたらしい。
彼女を作るなんてことは、全く考えたことがなかった。
なによりもこの二人と居れるのが僕の幸せだったからだ。
まぁ…いずれは僕ら三人共恋人ができるのだろう。
クーもドクオも、どんな相手を見つけるのだろうか。
そう思うと…少し寂しい。

夏の精霊よ、どうか僕に救いか彼女をください。

そんなこんなで学校に到着。
教室に着いてから、珍しい人物から声をかけられた。

94 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 01:58:34 ID:uiQUQz.g0
クーとドクオと合流してからは、何の変哲もない景色だった。
二人の両親にはまだ何も言ってないみたいだった。
現に、僕に対して変に気を使ったことも感じ取れなかった
ただ、昨日僕が帰り道に居なかったこと、夜に何も連絡がなかったこと。
それらが重なって、二人の間に変な誤解が生まれてたらしい。
彼女を作るなんてことは、全く考えたことがなかった。
なによりもこの二人と居れるのが僕の幸せだったからだ。
まぁ…いずれは僕ら三人共恋人ができるのだろう。
クーもドクオも、どんな相手を見つけるのだろうか。
そう思うと…少し寂しい。

夏の精霊よ、どうか僕に救いか彼女をください。

そんなこんなで学校に到着。
教室に着いてから、珍しい人物から声をかけられた。

95 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 01:59:42 ID:uiQUQz.g0
(´・ω・`)「やぁ、三人共、元気かい?」

ショボンだった。
バーボンハウスみたいだな、お前。

( ^ω^)「…釣りじゃないおね?」

(´・ω・`)「釣り…?好きなのかい?」

( ^ω^)「いや、忘れてくれお。マジでなんでもないお」

川 ゚ -゚)「そんなことより、どうしたんだ?人気者転校生に我々ができることは少ないぞ?」

(´・ω・`)「…僕は少し遠いところから引っ越してきたんだ…だから、この街のことはあんまり知らない
       だけど、近々妹と夏っぽい場所に行きたいんだ、どこかいいところは知らないかい?」

('A`)「妹さんが居たのか…あんまり大きくなくていいなら、今週の土日に商店街で祭りがあったっけか」

川 ゚ -゚)「夕方くらいからやってると思う、屋台は普通にあるし、時間さえ合えば神輿も見れるかもな」

( ^ω^)「確か最後は打ち上げ花火もあった気がするけど、去年は雨で中止になっちゃったんだおね…
       今年は見れると思うお?」

(´・ω・`)「そうなんだね、ありがとう
       妹と行ってみることにするよ」

96 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:00:07 ID:uiQUQz.g0
川 ゚ -゚)「…どうせなら一緒にどうだ?転校生。横の二人が良ければ案内しようじゃないか
     妹さんにも挨拶したいしな」

(´・ω・`)「…いいのかい?幼馴染の仲に入るのは少し気が引けるけど」

('A`)「んまー俺はいいよ。せっかく夏休み前に転校してきたんだ。仲良くしようぜ
    ショボンと、その妹ちゃん的に気まずくなければ」

( ^ω^)「僕も全然いいお!どうだお?」

(´・ω・`)「…君たちの優しさに救われているよ。ありがとう
       家に帰ったら妹に話てみるよ。アイツ、少し顔見知りだからね」

川 ゚ -゚)「そこは私の母性で何とかして見せようじゃないか
     女という物を叩き込んでやるぞ?」

('A`)「やめとけやめとけ…クーが教えられるのはゴリラのなり方だろう?」

川#゚ -゚)「ふむ、余程その口は要らないと思えるなぁ?ドクオ?」

(;'A`)「あ、いや、違くてですね。これは何というか霊長類最強級のメスといいますか」

97 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:00:34 ID:uiQUQz.g0
(; 手)「あああああああ違う違う違う!!!母性が強すぎてえええええあああ」

川#゚ ー゚)「私の母性堪能させてやるから気にするな。身をもって知れ
      女はな、全員愛情たっぷりな猛獣なんだよ」

(; 手)「qwせdrftgyふじこlp」

(;´・ω・`)「…あれは大丈夫なのかい?顔が段々真っ赤になってくけど」

(;^ω^)「痛いとは思うけど、ドクオが悪いお。自業自得だお」

( ^ω^)「…そういえば、一つ聞きたいんだお」

(´・ω・`)「僕がわかる範囲でよければ、どうしたんだい?」

( ^ω^)「願いは…どんなものでも叶うのかお?」

(´・ω・`)「…わからない。でも、何かに縋れるなら、僕はその可能性を信じるよ
       この命を投げ捨ててでも、僕は叶えたいんだ」

( ^ω^)「…ショボン、君の願いっていったい…」

98 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:01:03 ID:uiQUQz.g0
そう言いかけた途端、ドクオ…のようなものが僕の足元に転がった。
…なんだあれ、モザイクかけておくか…

(░░░░)「♓︎⧫︎♋︎♓︎♓︎⧫︎♋︎♓︎♌︎◆︎📫︎■︎⧫︎♋︎⬧︎◆︎🙵♏︎⧫︎♏︎♋︎♋︎♋︎♋︎♋︎」

(;´・ω・`)「…」

(;^ω^)「…」

川#゚ ー゚)「どうやら私の母性が気に入ったみたいだなドクオ
      そのまま貴様が没するまで私が飼ってやろうか?」

(░░░░)「❍︎□︎◆︎♓︎⬥︎■︎♋︎♓︎🙵♋︎❒︎♋︎⍓︎◆︎⬧︎◆︎⬧︎♓︎⧫︎♏︎📭︎📭︎📭︎」

そんなこんなで、今日も始まった。

いつも通りの中に、ショボンも混ざっていた。
僕は彼のことを、二人よりは知っているつもりだ。
昨夜のこと…夢のような一日だった。
それでもハッキリと覚えているのは、夢じゃない証だろう。
凍える程の冷気を放出する廃墟の屋上。
その先にあった積乱雲のような階段、厳かな扉。
そして…魔法を使えるショボンのこと。

99 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:01:42 ID:uiQUQz.g0
最初からそこに居たかのように自然と溶け込む彼に、違和感はなかった。
僕ら三人の幼馴染。
その姿は何も変わらなかった。
新しく出来た友達も加わって、新しい風が舞い降りたようだった。
何も滞りなく、順調。
そう、思っていた。


('A`)「…ブーン聞いてる?」

(;^ω^)「おっ、おん?うん」

川 ゚ 〜゚)「なんだか今日は上の空だな、思い詰めることでもあったか?」

クーは弁当を食べながら僕に話しかける。
皆でお昼を食べていた時だった。

クーは、違和感を察する力がずば抜けて高かった。
まるで心の中を覗かれているかのような感覚になるときがある。
こういうのを地頭がいいっていうのか。
それでも、隠しきれないものはあるようで…
僕の心の穴はぽっかりと開いてしまっているようだった。

100 ◆vcE6GeyAY2:2025/02/14(金) 02:02:04 ID:uiQUQz.g0
瞼の裏に張り付いている景色が消えなかった。
トーチャンの背中姿。
初めて見る、カーチャンの顔。
その全てが、僕から思考力を奪っていた。

(´・ω・`)「考えすぎは良くないよ。ブーン君には話せる相手が目の前にいるだろう?」

( ^ω^)「…気にしなくていいお!ショボンがこうして居てくれることに関して嬉しいんだお」

('A`)「強烈な初対面だったからな。感慨深いよ」

(´・ω・`)「そうだね…改めて、あの時はありがとう。三人共」

川 ゚ -゚)「もうあの時の傷は大丈夫なのか?」

(´・ω・`)「うん、今は何ともないよ」

('A`)「…そういえば、ショボンってどこから来たんだ?遠いところって言ってたけど」

(´-ω-`)「…そうだね、都会の方さ。みんなが思う住宅地と何ら変わらないよ
      僕の地元には面白い場所は特にはなかったし、向こうはコンクリートジャングルだからね
      ここのほうが自然が溢れてて、僕は好きだな。落ち着くんだ」

川 ゚ -゚)「都会か…私は自然が好きだから、大人になっても都会に住めなそうだ」


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