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( ^ω^)Secret Gardenのようです
1
:
名無しさん
:2024/06/19(水) 22:31:20 ID:15xn.t.w0
7:40
(;^ω^)「ハァッ…ハァッ!」
僕は、珍しく寝坊をした。
いつもならば大通りで朝食をとり終えて、会社に着いている頃だ。
(;^ω^)(…仕方ない。近道するお。)
流れる汗を袖で拭い、足の向きを左斜めにクルッと変えて、また走る。
この道は小学校の通学路でもあるため、速度を緩めて小走りだ。
(;^ω^)(あれ…。あんなの、あったかおっ?) ハァッハァッ
小学校の左斜め向かいに、洋風の生垣が続いている。
66
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 01:31:03 ID:uUhGkg420
16:15
((ヽ‘ω`)ゲソ…
僕は未だに慣れないファンシーな案件に苦戦し、精神を削って退社した。
後輩の芹沢さんにはよく、『乙女男子』と評される僕だ。
確かに先進的な機械のデザインよりも淡い色の花を見た時の方が心躍るし、工場に駆り出されてミシンを踏んだ事もある。
だけど流石に十代の女の子がメイン層の、キラキラとしたイメージに沿うのには骨が折れる。
その子達の気持ちになって、尚且つ三歩は先を行かなければいけない。
いくつか案を作って送ったので、そこから反応の良い部分をまとめて仕上げるしかない。
((ヽ^ω^)(こういう時は、自信失くすおね…。今日はちょっとだけ、ドクオさんのお庭に寄らせてもらうお。)
67
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 01:32:27 ID:uUhGkg420
_____
___
__
ζ(゚ー゚*ζ「内藤さん!」
門に入ろうとしたところ、デレさんが僕を見付けて駆け寄ってきた。
デレさんが走る度に、ドレスが左右へと少し揺れる。
その時、フワッと梔子の香りが、僕を包んだ気がした。
(;^ω^)
____________________________
( ´∀`)「梔子の香りは、待ち合わせをしている恋人が僕に気付いて駆け寄ってきてくれた時の香りと、そっくりだと思いますモナ。」
____________________________
僕は、今朝のモナーさんの言葉を思い出して戸惑った。
(;^ω^)(僕の服に、香りが付いていたのかお…?)
68
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 01:33:44 ID:uUhGkg420
ζ(゚ー゚*;ζ「こんにちは!」
今日はシニヨンをふわっとさせたような髪型をしているデレさんが、息を切らし気味で僕に挨拶をした。
( ^ω^)「こんにちはですお。今日もスケッチにお邪魔してもよろしいでしょうか?」
ζ(゚ー゚*;ζ「大丈夫ですが、ちょっと困った事がありまして…。」
( ^ω^)「?どうかされましたか?」
ζ(゚ー゚*;ζ「先ほどお客様が一人いらっしゃったようなのですが、見付からないんです。」
そう言いながら、デレさんは辺りをキョロキョロと見回している。
( ^ω^)「そうなんですかお?よろしければ、一緒に探しますお。」
ζ(゚ー゚*;ζ「ありがとうございます。よろしくお願いします。」
69
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 01:35:31 ID:uUhGkg420
僕はデレさんと二手に分かれて探し始めた。
メインの道から逸れた場所を、一つずつ見ていく。
木製のベンチと、トレニアの鉢。
こぼれるように咲くポリゴナムと、まっすぐに育った虹色のルピナスを横目に進む。
(;^ω^)ゞ(カラフル過ぎて、僕まで迷子になりそうだお…。)
そう思い、立ち止まった時。
何かが僕の横を通り過ぎた。
(;^ω^)(…!ミヤマカラスアゲハかお…!?)
昔図鑑で見た、高地に棲息する珍しい蝶に似ている。
黒と、光るような青緑の色。
けれど翅にはいくつか穴が空いており、どこか蝶番を思わせた。
その蝶が、桃色のラナンキュラスの辺りで留まろうとしていた。
だけど僕が気になったのは、その先のベンチだ。
茶色い鞄が置かれている。
70
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 01:36:34 ID:uUhGkg420
( ^ω^)「お…?」
(;*゚ー゚)
近付いてみると、かすみ草に囲まれて、しゃがんで困ったような顔をした女の子。
その目線の先には、モシャモシャと何かの葉を食べている子兎。
だけどその耳は、金属で出来ているようだった。
( ^ω^)(そしてこの子は…今朝の子だお。)
( ^ω^)「お嬢さん、どうされましたかお?」
∑(;*゚ー゚)「あ…朝の…!」
(;*゚ー゚)「あの…時計がこわれてしまって…」
(*;ー;)「学校の近くに知らないお庭があったから入ってみたら…時計がウサギになっちゃって…」
(*;Д;)「どんどん遠くまで走っていくから、まいごになっちゃった…!」
∑(;^ω^)「だ、大丈夫!僕が来た道を戻れば帰れるお。」
71
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 01:37:30 ID:uUhGkg420
(;^ω^)つ ソーッ…
(;^ω^)「捕まえたお…ベンチの鞄を持ってくださいお。道を戻りますお。」
(;*゚ー゚)「は…はい…。」
兎が驚いて飛び跳ねないように、僕が小声でそう言うと、女の子は素直にそれに従った。
(;^ω^)(…我慢だお。)
ラグラスのような尻尾が、手首に当たってくすぐったい。
72
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 01:38:57 ID:uUhGkg420
本筋の道に繋がったところで、デレさんが合流した。
ζ(゚ー゚*;ζ「良かった…!」
(;^ω^)「デレさん、この子の時計が壊れてしまったそうなんですお。」
そう言いながらそっと、胸に抱いた兎を見せた。
ζ(゚ー゚*ζ「ドクオさんのお客様ですね。ご案内いたします。」
デレさんはしゃがんで、女の子に目線を合わせた。
ζ(゚ー゚*ζ「お名前を聞いても良い?」
(;*゚ー゚)「しぃ…です。」
ζ(゚ー゚*ζ「しぃちゃん。ここは修理屋さんだから大丈夫よ。時計、直してもらおうね。」
(;*゚ー゚)「は、はい…。」
73
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 01:39:54 ID:uUhGkg420
屋敷の中に入ると、ドクオさんがどこかの部屋から出てきたところだった。
ζ(゚ー゚*ζ「ドクオさん。こちらの方の時計を修理してほしいんです。」
デレさんがそう言うと、僕の胸にいた兎はドクオさんの肩へとピョンと飛び移った。
(;*゚ー゚)「あの…お金は…」
( ^ω^)「僕が立て替えておくお。」
おそらく修理代は、小学生の小さなお財布では払えないような額だろう。
(;*゚ー゚)「でも…。」
('A`)「……」
僕達のやり取りを聞いていたドクオさんが、口を開いた。
('A`)「…図書室の掃除を。」
____________________________
74
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 01:41:32 ID:uUhGkg420
_____
___
__
( ^ω^)「しぃちゃんはこれを持っていってお。」
僕は案内された事務室の掃除用具入れの中から羽根ばたきを取り出して、しぃちゃんに手渡した。
それから掃除機と雑巾を持って、図書室に向かう。
ζ(゚ー゚*ζ ))「こちらを、真っ直ぐです。」
('A`)つ「…デレは、こっち」
そう言ってドクオさんが、デレさんの腕を軽く引いた。
ζ(゚、゚*ζ「えー…」
ζ(゚ー゚*ζ「お二人とも、後から行きますね。真っ直ぐ突き当りにある部屋です。」
( ^ω^)「分かりましたお。」
75
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 01:43:29 ID:uUhGkg420
図書室の中に入ると奥は窓で、少しクリームがかった壁に木の床と暖炉がある。
先程開けた扉の両サイドには、大きな本棚が1台ずつと、その近くには1人分の椅子とテーブル。
僕は遮光用のカーテンを取り付けるため、つい最近もこの部屋に入った。
( ^ω^)(本棚も窓も、高さがあるお。しぃちゃんには低い場所と…掃除機を頼むことにするお。)
電気を点け、窓を開けて換気をした。
窓の外からは草花の瑞々しい香りがして、まるで僕を庭へと誘っているようだった。
( ^ω^)「僕は脚立を持って来るお。しぃちゃんは手の届く高さまでで良いから、壁の木枠に付いている埃をはたきで取っておいてほしいお。」
そう言い残して、僕は先程の事務所に向かった。
( ^ω^)「…」
その途中で、僕がドクオさんと初めて会った時の部屋を通る。
ドクオさんとデレさんが、少し前に入っていった部屋だ。
((( ^ω^)(…とても仲が良さそうだったお。)
76
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 01:44:11 ID:uUhGkg420
('A`)「……………ダメか」
ζ(゚ー゚*ζ「…。」
.
77
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 01:46:44 ID:uUhGkg420
僕が図書室に戻るとしぃちゃんは頼んだ通りに、一生懸命羽根ばたきを振るっていた。
( ^ω^)「ありがとうだお。今度は僕が窓の埃を落とすから、それが終わったら窓側から本棚に向かう感じで掃除機をかけていってほしいお。」
(*゚ー゚)「はい。」
やる事が出来たからなのか、しぃちゃんは少し元気を取り戻したようだ。
僕は窓の埃を落とし終わり、脚立を持ってシャンデリア、それから本棚へと移動した。
(;^ω^)(掃除機に追いつかれないように、急がないといけないお。)パタパタ
本棚の中にはブックブラシが備えられていたため、それを使う。
まじまじと見ないようにはしているが、タイトルが自然と頭の中に入ってくる。
( ^ω^)(…花やお菓子の本以外は、僕でも知っているような有名な小説ばかりだお…。)
国内で発表された、わりと最近の本が多い。
この屋敷の本棚の中身としては、少しアンバランスな印象だ。
( ^ω^)(右下の棚に…小箱があるお。この部屋自体そこまで掃除が必要でもない状態だけど、この辺りは特に埃がないお…。)
埃取りが終わると、僕はバケツと水が必要な事に気付いて事務室へと向かった。
( ^ω^)「デレさん。」
ζ(゚ー゚*ζ「あっ。」
その途中には、図書室とは反対方向に向かうデレさんがいた。
ζ(゚、゚*ζ「すみません。ドクオさんに用事を頼まれたので、まだそちらに向かうには時間がかかります。」
( ^ω^)ノシ「あとは全体を拭けば終わりなので、大丈夫ですお。お気になさらず。」
78
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 01:50:24 ID:uUhGkg420
僕が必要な物を持って図書室に戻ると、掃除機をかけ終えたしぃちゃんが待っていた。
( ^ω^)「これから僕は、窓拭きをするお。しぃちゃんはまず机に椅子と、部屋の中の木枠を拭いてほしいお。終わったら僕も手伝って、最後は一緒に床を拭くお。」
(*゚ー゚)「分かりました。」
( ^ω^)つ□ キュッキュッ
タッセルでまとめられた緑色のカーテンの横の、窓を拭く。
そこから見えた庭は、少しだけ日が傾いていた。
( ^ω^)(庭もだけど、屋敷も英国風だお。)キュッキュッ
( ^ω^)「…そういえば、しぃちゃんの時計は、もとはどんな見た目なんだお?」
少しでも緊張が解れるようにと、話しかけてみる。
(*゚ー゚)「金色の、かい中時計です。丸くてつるんとした…」
( ^ω^)「それは素敵だお。懐中時計なんて、僕よりずっと前の人が持っていたような物だけど、最近の物かお?」
(;*゚ー゚)「いえ、お母さんの時計で…学校で使うのに今日だけ…ないしょで持ってきてたんです…。」
( ^ω^)「そうだったのかお…。」
してはいけない事ではあるが、今日が初対面の僕がどうこう言う話ではない。
大人の持ち物を羨ましがる年頃なのだろうと、僕は自身の子供時代の失敗と照らし合わせてしみじみとした。
(;*゚ー゚)「だけど、同じクラスの男子にせなかをはたかれて落としちゃって…」
Σ(;^ω^)「えぇっ!?それは酷いお!」
79
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 01:51:51 ID:uUhGkg420
(*゚、゚)「…。あーぁ、クラスの男子もおじさまみたいにやさしければいいのに…。」
(;^ω^)「…?おじさまって?」
(*゚ー゚)σ「おじさまですっ!朝もステキでした!」
そう言って、しぃちゃんは僕をうっとりするように見つめた。
ドクオさんのような、若い人相手ならまだ分かる。
しかし、アラフィフの僕に向けるような目ではないのだ。
(;^ω^)「気が付いたら、みんなする事だお。」
(*゚、゚)「そんな事無いです。知らない子だったら、私…勇気出ないかも…。」
(;^ω^)ノシ「いやいやそんな。」
( ^ω^)「…」
( ^ω^)「…そういえば。僕もその男の子達みたいな頃があったお。」
(;*゚、゚)「えー!?」
(;*゚、゚)「ほんとにっ?」
しぃちゃんが目を丸くして、僕を見た。
( ^ω^)「そうだお。女の子の手を強く引っ張って、困らせてしまった事があるお。」
(;*゚、゚)「えぇー、ちょっとイヤかも…。」
(;^ω^)「ウッ…」グサッ
80
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 01:53:42 ID:uUhGkg420
ζ(゚ー゚*;ζ「お待たせしました。」パタパタ
デレさんが、早歩きで図書室にやって来た。
( ^ω^)「もう、終わるところですお。」
しぃちゃんと一緒に雑巾がけ競争をしていたら、あっという間に床は綺麗になった。
( ^ω^)「広くてダンスが踊れそうなお部屋ですお。」
2台の本棚と机セット以外は、ほぼ何もない部屋だ。
ζ(゚ー゚*ζ「持て余してしまいますよね。ここ、今は私の部屋なんです。」
(;^ω^)「そうなんですかお?知らずにお掃除してしまいましたが…」
ζ(^ー^*ζ「お気になさらず。ありがとうございます。」
(*゚、゚) ムム…
しぃちゃんがパタパタと近付き、僕達の間に立った。
(;^ω^)「あっ、暇だったおね。ごめんお。」
ζ(゚ー゚*ζ「修理も終わったそうなので、行きましょうか。」
そう言われても、しぃちゃんは何故だか不機嫌そうな表情を変えず、今度は僕の横に立った。
ζ(゚ー゚*ζ「あらあら…。うーん…?」
ζ(^ー^*ζ「…恋敵ですかね?私。」
デレさんがそう言って悪戯っぽく首を傾げた。
僕は苦笑いして、『流石に違うと思いますお』という視線をデレさんに送った。
ζ(゚ー゚*ζ「だけど、日が暮れきる前に帰りましょうね。」
(*゚ー゚)「はい…。」
デレさんが先頭に立って、僕達は図書室を後にした。
ζ(゚ー゚*ζ「……」
ζ(^ー^*ζ「…ふふっ!」
デレさんは自分で言った言葉がツボだったのか、時間差で笑っていた。
81
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 01:56:58 ID:uUhGkg420
('A`)「…」
僕達が事務所の水道で手を洗い廊下に出ると、ドクオさんが待っていて兎をしぃちゃんに手渡した。
(*゚ー゚)「わ…」
時計の針のような形の金属の耳が、カチカチと小刻みに一定の音で動いている。
( ^ω^)(さっき僕が連れてきた時は耳は動いてなかった。…ということは、直ったみたいだお。)
ζ(^ー^*ζ「一番最初に来た門から出れば、もとの懐中時計に戻るよ。」
(;*゚ー゚)「えっ…?あ、ありがとうございます…?」
しぃちゃんがドクオさんに、よく分からないままお辞儀をしてお礼を言った。
未だに身体はふわふわとした兎の形で、本当に本来の物として直っているのか、確認の仕様がないのだろう。
それからデレさんが僕達を玄関へと向かうように促し、僕とデレさんでしぃちゃんを門まで送る事にした。
( ^ω^)「ウサギさん、大人しいお。」
(*゚ー゚)「はい。それに、あったかいです。」
しぃちゃんは胸に兎を抱いている。
(*゚、゚)「だけど、なんで時計がウサギになっちゃったんだろう…?」
( ^ω^)「不思議だおねー。」
ζ(^ー^*ζ ニコニコ
82
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 01:59:29 ID:uUhGkg420
(*゚、゚)σ「…あれっ?あの花、ウサギに似てる!」
(;^ω^)「おっ!?本当だお!」
しぃちゃんが指差した小さな植木鉢には、本当に兎の形をした花が咲いていた。
ζ(゚ー゚*ζ「名前もウサギゴケと言いますよ。とても小さくて、可愛いですよね。」
ζ(^ー^*ζ「ちなみに、食虫植物です。」
(;^ω^)「お…」
どう返せば良いのか分からなかった僕は、気不味さを隠すために自分の腕時計を見た。
( ^ω^)(もう、17時半だお。)
( ^ω^)「しぃちゃん。ここは明るいけれど、門を出ると図書室で見た時のお庭みたいに、少し暗くなっていると思うお。良かったらお家の近くまで送っていくお。」
(*゚ー゚)「あ!大丈夫です!すごく近くだし、GPSもあるし…」
(;^ω^)「でも…」
ζ(゚ー゚*ζ「ウサギさん。しぃちゃんがお家に着いたら、ドクオさんに教えてくれますか?」
デレさんがしぃちゃんの抱く兎に顔を近付けて、そう話しかけた。
すると兎は、耳を忙しなく動かして『まかせて!』と返事をするような仕草をした。
ζ(^ー^*ζ「ありがとうございます。これなら大丈夫ですね。」
83
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 02:00:43 ID:uUhGkg420
( ^ω^)?「どうして大丈夫なんですかお?」
僕は気になって、デレさんに聞いてみた。
ζ(゚ー゚*ζ「ドクオさんはお客様の持ち物とお話が出来るんですよ。」
ζ(゚ー゚*ζ「来る時なんかも、遠くにいる時点から『行くよ』と物が教えてくれたり、会話したりするそうなんです。」
Σ(;^ω^)「ええっ!?」
(;^ω^)「そうなのですかお…。それは凄いですお。」
もはや、嘘だなどと疑う事もない。
ここはとても不思議な場所なのだから。
(*゚、゚) ムム…
気付けばしぃちゃんがまた、不機嫌そうな顔をしていた。
ζ(゚ー゚*ζ「あ。しぃちゃん、これ良かったらお家で食べてね。」
そう言ってデレさんが透明な袋に入った焼き菓子をしぃちゃんに手渡した。
中の小さな瓶には、ジャムも入っているようだ。
(*゚、゚)「…ありがとうございます。」
嬉しいのにそれを隠すような複雑な顔をして、しぃちゃんはそれを受け取っていた。
84
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 02:02:23 ID:uUhGkg420
(*゚ー゚)「かい中時計を直してくれてありがとうございました。さようなら。」
ぺこりとお辞儀をして、しぃちゃんは門から家へと帰っていった。
( ^ω^)ノシ ζ(゚ー゚*ζノシ
ζ(゚ー゚*ζ「内藤さん。ちょっと遅いですが、よろしければお茶を飲んでいきませんか?」
( ^ω^)「では、ありがたく。」
こういう時は予め用意しておいてくれて誘うものなのだ。
少しお腹も空いていたし、お言葉に甘えてしまおう。
_____
___
__
(*゚ー゚)(…。フシギなところだったなぁ…。)
お花がいっぱいのお庭に、大きなお家。
それから、ステキな朝のおじさま。
(*゚ー゚)「…あれっ?」
私はだっこしていたウサギが急にいなくなったのにびっくりして、下を見た。
(*゚ー゚)「時計に戻ってる…。」
____________________________
85
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 02:04:56 ID:uUhGkg420
(*^ω^)「…今日も、凄いですお。」
前回と同じく、庭のテーブルセットのある場所に通された僕は、周りのその美しさに感嘆の声をあげた。
ζ(^ー^*ζ「アルメリア バレリーナホワイトに、ラナンキュラス ラックスです。ウラノスなど、絶妙な色合いが素敵ですよね。」
(*^ω^))「大人が好きな色ですお。」
86
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 02:08:00 ID:uUhGkg420
ζ(゚ー゚*ζ「それでは本日は、メレンアッサムとスコーンです。」コトッ
デレさんが屋敷に戻り、ワゴンを持ってきてお茶を僕の前のテーブルに置いてくれた。
( ^ω^)「ありがとうございますお。頂きますお。」
( ^ω^)) コクリ
( ^ω^)「…アッサムはミルクティーのイメージがあったけれど、ストレートもとても美味しいですお。」
(*^ω^)「このメレンアッサムというお茶は、半音上がって華やかになった感じの味がする気がしますお。飲みやすいですおー。」
ζ(^ー^*ζ「それは良かったです。」
ζ(゚ー゚*ζ「インドにあるメレン茶園は、アッサムの中でも特に歴史のある茶園なのだそうです。」
( ^ω^)「そうなのですかお。風味に古めかしさを全く感じないので、驚きましたお。」
ζ(^ー^*ζ「そうですよね。私、アッサムの中ではこれが一番好きです。」
https://imgur.com/a/YAMntb5
.
87
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 02:11:08 ID:uUhGkg420
お茶の温度がもう少し下がるまで、僕達は話をする事にした。
ζ(゚ー゚*ζ「お茶のセットを取りに行った時に、しぃちゃんは無事お家に着いたとドクオさんが教えてくれました。」
( ^ω^)「それは安心しましたお。」
( ^ω^)「…デレさんも、遠くからドクオさんと会話をする事が出来るのでしょうか?」
ζ(゚ー゚*ζ「いいえ。私は人の姿ですし普段ドクオさんの近くに居るからなのか、普通に会話をしに行かないと話せません。」
ζ(^ー^*ζb「もしかしたらドクオさんとの会話の手段は、一種類しか持てないのかもしれませんね。」
デレさんは今思い付いたのか、楽しそうにそう言った。
ζ(゚ー゚*ζ「私は他の物達との会話も、ちゃんと出来ている訳ではないんです。だけど言いたい事などは、なんとなく分かります。」
( ^ω^)「そうなんですかお。程度はあっても、デレさんは人や物とお話が出来るなんて羨ましいですお。」
ζ(^ー^*ζ「ふふ。ありがとうございます。」
僕は、『自分が作ったカーテンなら一体どんな話をしてくれるのだろうか?』と、少し気になった。
88
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 02:14:24 ID:uUhGkg420
ζ(゚、゚*ζ「…だけど、お話相手は少ないです。門から外を眺めていても、ここにやって来るお客様しか私は見たことがありません。」
( ^ω^)「ここを出た場所は、通学路で人通りが多いはずなのに…。不思議ですお。」
ζ(゚、゚*ζ「はい…。すぐ近くに学校があるのは、門から見えるのですが…。」
( ^ω^)(外の景色は、僕やしぃちゃんが見ているものと同じ…。)
( ^ω^)∂「…ではデレさんは、僕の事がなぜ毎朝見えるのでしょうか?」
この場所に来ない日でも、僕達は朝に顔を合わせて挨拶をしている。
ζ(^ー^*ζ「おそらく、ご縁がある間は継続してお会い出来るのでしょう。」
( ^ω^))「なるほど。ドクオさんから依頼されたお仕事の間、という事ですかお。」
そう話しているうちに、お茶を一杯飲みきってしまった。
ζ(゚ー゚*ζ「内藤さん、よろしければミルクティーでもアッサムを試してみてください。」
( ^ω^)「ありがとうございますお。」
89
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 02:15:30 ID:uUhGkg420
ζ(゚ー゚*ζ「失礼します。」
そう言いながら、デレさんは空になった僕のカップにミルク、紅茶の順で注いだ。
その動きは自然だが、じっとよく見ると機械的で、彼女も何かしらの「物」である証のようであった。
ζ(゚ー゚*ζ「ミルクを先に入れるのは、熱によるタンパク質の変質を防ぐためなのだそうですよ。」
( ^ω^)「そうなのですかお。僕はコーヒーにもミルクを入れるので、家でも試してみますお。」
ζ(^ー^*ζ「ぜひ。」
( ^ω^)「では、まだ頂いていなかったスコーンから。」
僕はデレさんに倣いスコーンを手で半分に割り、クロテッドクリームとジャムを塗った。
90
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 02:17:37 ID:uUhGkg420
ζ(゚ー゚*ζ「こちらのジャムは、ラズベリーです。やっぱりイチゴやブルーベリーが主流かもしれませんが、個人的に延々と食べられるのはラズベリーですね。」
( ^ω^)「僕はスコーンをラズベリーで食べるのが初めてなので、楽しみですお。」
そう言ってスコーンに目を落とすと、暗い赤紫のジャムがピカピカとしていて綺麗だ。
僕は一口でジャムに辿り着くように、大口で食べることにした。
( ^ω^)) モグッ
(*^ω^))「サクほくですお。」ホクホク
素朴で、ボリュームがある。
ラズベリージャムは少し酸味があるけれど、甘みと共に主張が控えめで、そこが小麦の風味を引き立てている。クロテッドクリームがお菓子を食べている満足感を後押しして、僕はもう一口と頬張った。
口いっぱいに味わいが広がると、そろそろ飲み物が欲しくなってくる。
( ^ω^)) コクリ
(*^ω^)フゥ…
ティーコゼーで保温され、よく抽出されたメレンアッサムはミルクティーにしてもなお芳香で、僕は思わず目を閉じた。
https://imgur.com/a/YAMntb5
.
91
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 02:19:59 ID:uUhGkg420
_再び開けた目が、デレさんの目と合った。
ζ(゚ー゚*ζ「そういえば、内藤さん。ドクオさんが今度は3段のお皿でお菓子を用意してくれるそうですよ。」
pζ(゚ワ゚*ζq「アフタヌーンティー形式です!」
Σ(;^ω^)「!?」
(;^ω^)ノシ「いえいえ!僕はこのくらいで、お腹がいっぱいですお!手間もかかりそうなので悪いですし!!」
ドクオさんは、どうして僕をここまでもてなしてくれるのだろう?
もしかしてお菓子作りが得意なことを、誰かに披露したかったのだろうか?
ζ(゚、゚*ζ「……そうですか…。」
期待を裏切られたのか、デレさんは残念そうな顔をしている。
ζ(゚、゚*ζ「内藤さんは、クリームティー派でしたか…。」
( ^ω^)「クリームティー…?」
ζ(゚ー゚*ζ「こんな風に、スコーンと紅茶がセットのおやつの事です。」
(;^ω^)「そうですお。クリームティー派ですお!」
92
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 02:20:55 ID:uUhGkg420
ζ(゚ー゚*ζ…内藤さん。よろしければここにいらっしゃる間、私の話し相手になってくれませんか?」
( ^ω^)「僕が…ですかお?」
(;^ω^)∂「若い女性が好まれるような話を、こんなオジさんが出来るか不安ですお…。」ポリポリ
ζ(゚、゚*ζ「そんな事ないです。…実は私、外の事がとても気になるんです。」
ζ(゚ー゚*ζ「ドクオさんはめったに家から出ないですし、修理のお客様も頻繁には来ませんし…。」
人ζ(>、<*ζ「お願いします!一生のお願いですっ!」
デレさんが子供のようなお願いの仕方をするので、僕は思わず笑ってしまった。
(*^ω^)「良いですお。」
93
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 02:21:21 ID:uUhGkg420
【 第二話 かすみ草の時 】
終わり
94
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 02:22:05 ID:uUhGkg420
【登場人物】
lw´‐ _‐ノv
素直珠瑠
立派な日本家屋に住んでいる
米料理が絶品
(*゚ー゚)
詩衣(しぃ)
小学校中学年
内藤を格好良いおじさまだと思っている
小柄
95
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 02:28:10 ID:uUhGkg420
途中で画像載せる場所ミスっちゃった
紅茶ってもし仮に、最初にミルクで飲んで次にストレートで飲みたくなった時、カップは変えてくれるものなんですかね?
いくつか紅茶の本を読んでも謎のままです…
96
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 02:30:13 ID:uUhGkg420
( ^ω^)「外の事というと、この街の事でよろしいでしょうか?」
ζ(゚ー゚*ζ「はい。内藤さんやしぃちゃん、ここにいらっしゃるお客様がどんな場所に住んでいるのか。それが知りたいです。」
( ^ω^))「分かりましたお。」
97
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 02:30:45 ID:uUhGkg420
【 第三話 ルピナスの街 】
.
98
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 02:32:35 ID:uUhGkg420
僕はスコーンにジャムを塗りながら、何から話そうかと考える。
デレさんもスコーンにたっぷりのクロテッドクリームを塗っては、美味しそうに頬張っていた。
( ^ω^)「…僕が住んでいる街は、農地と、他と比べれば大規模とまではいかない工業地域の間にある土地なんですお。」
( ^ω^)「ここは、その両方の地域を支えるような業種の人達のベッドタウンだったそうなのですが、元々の住宅街からずれた場所に大学と駅が建ち、再開発によってだんだんと賑わいが出て、近年は観光地としての知名度も上がってきていますお。」
( ^ω^)「僕は、大学が設立されて間もない頃に進学でこの街へ来て、そのまま定住しました。」
ζ(^ー^*ζ
デレさんは、時々頷きながら聞いてくれる。
( ^ω^)「僕が学生だった頃はまだ、大学の近くは広い道路に歩道、学生寮とお店が少しあるくらいで…。新たな店が開店する度に、学生達がこぞって行くほどでしたお。」
( ^ω^)「それが今では、お店ばかりの街になったんですお。主に小規模で、各々にコンセプトがあるような。」
99
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 02:34:57 ID:uUhGkg420
ζ(゚ー゚*ζ「小さなお店、ですか?」
( ^ω^)「はい。飲食店が主ですが、美容室、服屋に雑貨屋、専門店など。街の人が始めたものが殆どなので、小さなお店が多いんですお。」
( ^ω^)「古い住宅街方面にはスーパーやチェーン店もありますが、駅周辺の大通りは車を使わずに見て回る事が出来るようなお店が多いですお。」
( ^ω^)「駅前には古い建物を再利用して、小さなお土産屋がひしめき合う場所もありますお。そこでは街の特産の薔薇を使ったお菓子が人気ですお。」
ζ(゚、゚*ζ「古い建物…。それは、『北野工房のまち』のようなものでしょうか?」
Σ( ^ω^)「ご存知なのですかお!?」
だいぶ離れた土地の例を挙げられたので、僕は驚いた。
ζ(^ー^*ζ「庭師さんの奥さんが、読み終えた本を私にくださるんです。実際にお会いした事はありませんが…。」
ζ(゚ー゚*ζ「その頂いた本の一つで、登場していました。」
( ^ω^)「そうでしたかお。あそこまで立派ではないですが、そんな感じですお。」
100
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 02:37:35 ID:uUhGkg420
( ^ω^)「他の特徴といえば、高さ制限がある事ですお。消防技術は近隣の工業地域に重点を置いているため、この街は省エネで救助活動が出来るようにとシンプルな街の造りになっていますお。」
( ^ω^)「高さ制限の都合で、丘の上にある白くて大きな図書館が目立つので、学生の間ではふざけて『神殿』などと呼んでいましたお。」
ζ(^ー^*ζ「ふふっ。」
( ^ω^)「そして図書館や公園などには見事な花が咲いていますお。最近始まった街おこしらしくて流石にこの庭ほどの規模ではありませんが、それこそがこの街が観光地となった一番の理由なので、とても綺麗ですお。」
( ^ω^)「まとめると、ロケーションとショッピングを楽しめる、日帰り旅行にぴったりな街ですお!」
(*^ω^)∂「そして僕は、この街のお店のカーテンをデザインするような仕事をしていますお。」
僕は照れ隠しで、戯けるようにそう締め括った。
101
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 02:38:54 ID:uUhGkg420
ζ(^ー^*ζ「それはとても素敵ですね!」
Σζ(゚ー゚*ζ ハッ
人ζ(゚ワ゚*ζ†+「もしや、街中のカーテンが内藤さんのデザインだったり…!?」
( ^ω^)「いいえ。でも、遠からずですお!街のカーテンの殆どは、僕の働く会社で手掛けているんですお。僕の他にも数名のデザイナーがおりますお。」
ζ(^ー^*;ζゞ「あら、そうでしたか。えへへ。」
ζ(゚ー゚*ζ「…子供っぽくてダメですね。そうだったら楽しいのにという想像を、すぐしてしまう癖があるんです。」
( ^ω^)「構いませんお。僕の話をよく聞いてくださって、嬉しいですお。」
102
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 02:40:26 ID:uUhGkg420
( ^ω^)「あっ。」
ζ(゚、゚*ζ「どうされましたか?」
(;^ω^)「危なかった…。予定を忘れるところでしたお。今夜は仕事で、夜に飲食店に伺う予定があるんですお。」
ζ(゚、゚*;ζ「そうでしたか!引き止めてしまって、すみませんでした…!」
( ^ω^)「いいえ、時間に余裕はあるので大丈夫ですお。閉店直前に行く約束ですので。」
ζ(゚、゚*ζ「…遅くまでお仕事、大変ですね。」
( ^ω^)「こういう事はたまになので、大丈夫ですお。」
( ^ω^)「最近は就業時間も短くなったし、こうやってお邪魔させてもらう余裕もありますおw」
ζ(^ー^*ζ「そうだったのですね。来てくださって、嬉しいです。」
( ^ω^)) コクッ
僕は、ミルクティーの最後の一口を飲み干した。
( ^ω^)「ご馳走様でしたお。そろそろ帰りますお。」
ζ(゚ー゚*ζ「お見送りいたします。」
103
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 02:43:17 ID:uUhGkg420
_____
___
__
僕達は、青紫の花が咲くローズマリーとオルレアが並ぶクネクネとした道を抜け、ハナビシソウとかすみ草の広場を横目に進み、門の前までやって来た。
( ^ω^)「ありがとうございましたお。ドクオさんにもご馳走様でしたと、よろしくお伝えください。」
( ^ω^)「それでは、また。」
ζ(゚ー゚*ζ「さようなら。」
((( ^ω^)
僕は日が暮れて暗くなった帰り道へと、歩きだした。
°·∴ζ(>Д<;ζ「ブェ゙ッぐショイィィぃぃ!!!」
∑(;^ω^) ビクッ!!
(;^ω^)「大丈夫ですかおっ?」
駆け寄って、デレさんに声をかけた。
ζ(゚∩゚*;ζ「すびばせん…お見苦しいところを…。」ズズッ
(;^ω^)「いえ…。」
104
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 02:44:13 ID:uUhGkg420
ζ(゚ー゚*ζ「…」
( ^ω^)「…デレさん?」
ζ(^ー^*ζ「お話を聞いたら…。私も街に行って、内藤さんの作ったカーテンを見てみたくなってしまいました。」
昼間のような明るさの庭を背に、そうデレさんは微笑んだ。
( ^ω^)「…。」
( ^ω^)「…僕の休日でよろしければ、お連れしますお。」
ζ(゚ー゚*ζ「…」
ζ(゚ー゚*ζ「…しぃちゃんの兎は、ここを出たらもとの姿に戻ります。」
___________________________
105
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 02:49:18 ID:uUhGkg420
_____
___
__
21:30
( ^ω^)「ご馳走様でしたお。とても美味しかったですお。」
(,,^Д^)「改めて、本日はお越し頂きありがとうございます。」
僕はデミグラスソース仕立てのポークカツレツを堪能し、タカラさんにお礼を言った。
タカラさんは、西洋料理店のオーナーシェフだ。
ここは居抜きの建物で、今までは昼のみの営業をしていた。
それをお子さんが大きくなった事を期にディナータイムの営業へと切り替え、その際に夜の印象に合わせるカーテンをオーダーしてくれたのだ。
(,,^Д^)「お伝えした通り、明るさが気になるのです。吹き抜け天井のライトからの光は程良いはずなのに、なんだか料理が美味しそうに見えなくて…。」
(,,^Д^)「今より少しでも明るければ違うのか。もとの白いカーテンに戻すべきなのかと…。」
( ^ω^)「そうでしたかお…。配慮が行き届かず、申し訳ありませんでした。」
僕は席を立ち、タカラさんに頭を下げた。
(,,^Д^)「いえ!カーテンは気に入っているので、出来れば替えたくないのですが、何か知恵をお貸し頂けたらと…。お願いします。」
( ^ω^)「分かりましたお。」
106
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 02:50:54 ID:uUhGkg420
( ^ω^)(…。)
僕は店をゆっくりと見渡してから、天井を見上げた。
( ^ω^)(明るさや色温度がそこまで悪いという訳ではなさそうだけど…。夜に料理を美味しそうに見せるには、もう少し工夫が必要なのかもしれないお。)
タカラさんがオーナーになる以前のこの店は、昼間のみの営業をしていたそうだ。
( ^ω^)(…ん?)
卓上に点々と置かれている蝋燭。
( ^ω^)(あれなら…。)
( ^ω^)「…天井よりも、お料理に近い場所をもう少し明るくするのはどうでしょうか。」
( ^ω^)「例えば…こちらの蝋燭の器を、もっと光を拡散させるような硝子の器に変えるのはいかがでしょうか?」
( ^ω^)「僕が以前担当したお店で、良さそうな品を取り扱っていますお。一つ借りて試せないか、明日聞いてみますお。」
(*,,^Д^)「本当ですか!よろしくお願いします。」
____________________________
107
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 02:53:12 ID:uUhGkg420
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16:40
((( ^ω^)
世の就業時間は、僕が働き始めた頃よりも1時間短くなった。
それは大人を早く家に帰して子どもの睡眠や生活のリズムを整えるための政策であるけれど、この街の場合は寄り道による各々の店の収入アップの効果もあるのだそうだ。
僕も例に倣い、今日は大通りで買い物をしてからドクオさんの屋敷へと向かう事にした。
いつもお茶やお菓子を頂いてばかりなので、お返しの気持ちとして土産を用意するためだ。
( ^ω^)(えーと…営業時間がC形態なら、あの店にするかお。)
飲食店の場合、営業時間がモーニングからブランチまで、ランチとティータイム、遅いティータイムからディナーまで等と区分がある。
観光寄りの店や、一般客向けの店もそれに近い営業形態を取っているため、知らない店に行く時などは一度営業時間を調べてから行かなくてはいけない。
_____
___
__
ζ(゚ー゚*ζ「こんにちは。」
( ^ω^)「こんにちは。今日も少しだけ、寄らせて頂きますお。」
ζ(^ー^*ζ「はい。」
108
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 02:55:09 ID:uUhGkg420
僕は最初に、ドクオさんがいつも居る大広間を訪ねた。
( ^ω^)「こんにちは。」
( ^ω^)「いつも美味しいお茶とお菓子をありがとうございますお。ドクオさんは甲殻類がお好きだとデレさんから聞きましたので、よろしければこちらをどうぞ。」
そう言って、僕はいくつかのパウチが入った紙袋を部屋の入口にあるテーブルに置いた。
海に隣接していない県で畜産の食材を扱う店の方が多いため、土産に魚介類を選ぶという選択肢がこの街にはあるのだ。
( ^ω^)「蟹のクリームスープですお。」
( ^ω^)「以前食べて美味しかったので、ドクオさんにもぜひと思いましたお。」
('A`)「…」
ドクオさんが、テーブルの紙袋をチラッと見た。
('A`)「大した事は、してない。」
( ^ω^)「そんな事はありませんお。こんなに素敵なお庭でお茶を頂けて、もっとお礼をした方が良いくらいですお。」
('A`)「…」
____________________________
109
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 02:58:03 ID:uUhGkg420
_____
___
__
ζ(゚ー゚*ζ「カーテンの進行は、どうでしょうか?」
デレさんがプリンを掬った手を止めて、僕に聞いた。
( ^ω^)「あとちょっとですお。メインの花をどれにしようかと悩んでいるところですお。」
ζ(゚ー゚*ζ「でしたら、薔薇はいかがでしょうか?」
( ^ω^)「薔薇、ですかお…?」
僕は、辺りを見回した。
( ^ω^)「薔薇の木は、無いようですが…。」
ζ(^ー^*ζ「5月になったらすぐ咲きますよ。ぜひいらしてくださいね。ご案内しますから。」
(;^ω^)「…分かりましたお。」
どういう事なのか分からないけれど、デレさんが言うのだからきっと正しいのだろう。
110
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 02:59:52 ID:uUhGkg420
(*^ω^))「今日のおやつも、とても美味しいですお。」
器に溢れそうなほど盛られた、たまごの風味も感じられる硬めかつしっとりなプリン。
頭には帽子のようにホイップクリームが乗っていて、器の底にもクリームとベリーが数種類敷かれている。
紅茶はウバ・ハイランズで、爽やかなサロメチール香がプリンの甘味を邪魔しない。
ζ(゚ー゚*ζ「生地にも、生クリームが入っているんです。」
(*^ω^))「それは豪華ですお。全部の層をすくって食べると、ケーキみたいですお。」
ζ(^ー^*ζ「幸せな気分になれますよね。」
(*^ω^))「はいですおー。」モグモグ
https://imgur.com/a/OlHmjnJ
.
111
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 03:03:38 ID:uUhGkg420
話を聞きながら、僕は庭に生えている昼咲月見草に目をやった。
ζ(゚ー゚*ζ「昼咲月見草は、桃色月見草とも呼ばれています。」
ζ(^ー^*ζ「この花を見ていると、なんだかしぃちゃんを思い出しますよね。」
( ^ω^)「確かにピンク色で丸くふわっとしていて、しぃちゃんの髪型みたいですお。」
しぃちゃんはチョコレートのような髪色だけど、日が当たる部分はピンク色に見えるような髪色だった。
ζ(^ー^*ζ「しぃちゃんはたまにここに来てくれるのですけれど、習い事が内藤さんの来る曜日と被っていて、やきもきしてるみたいです。」
(;^ω^)「え…?あの、しぃちゃんの時計は直って、もうここに用事はないのでは…?」
ζ(゚、゚*ζ「そうなんですよね。言われてみれば…何故でしょう?」
ζ(^ー^*ζ「ここの門は、可愛い子に弱いのかもしれませんね。」クスクス
112
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 03:04:38 ID:uUhGkg420
( ^ω^)「しぃちゃんはここに来て、何をしているんですかお?」
ζ(^ー^*ζb「私と押し花を作ったり…。あっ、この間はお庭の花でブーケを作りました!」
ζ(゚ー゚*ζ「しぃちゃん、何かと競争にしたがるんですよね。何故でしょう?」
(;^ω^)q「うーん…何故でしょうね…?」
113
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 03:08:56 ID:uUhGkg420
_____
___
__
19:30
( ^ω^)「ふぅ…。」
庭がずっと昼間なせいか、時間も忘れてついデレさんと話し込んでしまった。
玄関を開けて、家の中に入る。
鞄を置いた僕は、下駄箱の上に置かれた白くて丸い花瓶の埃を取るために雑巾を探した。
もうずっと使っていない花瓶なので洗った方が良いと思い、途中で台所へと向かった。
( ^ω^)つ ススッ
( ^ω^)「よし、だお。」
デレさんから貰ったブーケを、花瓶に挿した。
(*^ω^)「丁度いい花瓶があって良かったお。」
それから僕は部屋着に着替えて、パソコンの前に座った。
二間続きの和室で、ダイニングキッチンからすぐの方の部屋にパソコンと本棚を置いている。
( ^ω^)「えっと…取り込んでない絵はまだあったかお?」
スケッチブックを捲った。
デレさんからもらった栞が挟んであるので、どこまで済んでいるのかが、すぐに分かる。
( ^ω^)「…。」
『しぃちゃんの兎は、ここを出たらもとの姿に戻ります。』
( ^ω^)(…お客さんが修理に持ってくる物達は、ドクオさんと話が出来ると言っていたお。)
( ^ω^)(人の姿でなくとも、デレさんが物の状態で外の様子を見る事は出来ないのだろうか…?)
だけどきっとあれは、断りの言葉だ。
僕は、デレさんから貰った栞をしばらく眺めていた。
114
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 03:09:54 ID:uUhGkg420
【 第三話 ルピナスの街 】
終わり
.
115
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 03:14:04 ID:uUhGkg420
【プリン】
(150mlカップ約2個分)
※プリン液がなみなみなので、カップは3個用意しても良いです。
カップはフッ素樹脂加工の物、またはガラスのカップを使用。
[カラメル]
てんさい糖 20g
水 大さじ1
バター 少量
①砂糖と水を鍋に入れて混ぜ、中火で加熱、動かさない。
③キッチンペーパーを使いプリンカップにバターを塗っておく。
②茶色っぽくなったらなべを揺すり、好みの色になったらヘラで鍋端に集めつつプリンカップへ。カラメルはカップ底に綺麗に伸ばさなくても良い。
116
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 03:18:23 ID:uUhGkg420
[プリン液]
全卵2個
卵黄1個
てんさい糖37g
牛乳190g
生クリーム40g
バニラオイル10滴(またはエッセンス。あれば。)
①ボウルに卵を全て入れほぐし混ぜる。
②小鍋に牛乳と生クリーム、てんさい糖を入れフツフツとし始めるまで温め混ぜ、バニラオイルと共に卵液へ少しずつ加える。
③出来た液を網で濾す。濾した液をカップに入れていく。
④キッチンペーパーで表面の泡を取り除き、カップにアルミホイルを被せる。
⑤鍋に並べたカップの半分くらいの高さになるまで水を入れ、カップを取り出し水だけを沸騰させる。(水の量を調節する工程)
⑥沸騰した鍋底に布巾を敷き、カップを並べる。蓋をして中火で加熱。グラグラしだしたら弱火4分からのとろ火4分。(計8分。IH使用時の時間です。)
⑦予熱で5分くらい放置。取り出して表面が固まっていたら全て引き上げ、粗熱が取れるまでキッチンに放置。
表面が緩かったらまたグラグラ+弱火で少し加熱する。
⑧粗熱が取れたらよく冷えるまで冷蔵庫に入れる。完成!
*ポイント
鍋で作る場合、水からではなくお湯からカップを置く事で、すが出来にくい。
鍋だと硬めに出来るので、牛乳はお好みで10〜20g増やしても良い。
117
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 08:19:27 ID:uUhGkg420
市販のラズベリージャムなら、明治屋がおすすめです。
是非一度スコーンとお試しください。
118
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 11:46:53 ID:JqNjJpSI0
おつ
素晴らしい空気感
続きをどんどん読みたくなる!
119
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 19:43:15 ID:6uKV1jww0
乙です
120
:
名無しさん
:2024/07/13(土) 22:55:27 ID:TOOVocQo0
待ってたぜ
乙
121
:
名無しさん
:2024/07/16(火) 00:45:33 ID:eIMBzCgs0
乙 めっちゃ雰囲気好きだ
花は無理そうだから曲当てに賭けるぜ!!
122
:
名無しさん
:2024/07/19(金) 17:22:18 ID:yM7nOYYA0
乙
このスレほんと良い香りする
ウサギゴケ初めて知った。すごくかわいい!
イラストのお菓子たちがとても美味しそう
美味しそうな絵を描けるのってすごい尊敬する
123
:
◆vgPkwiFs66
:2024/07/20(土) 01:29:13 ID:Af9zJ.yQ0
乙!!
124
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 05:13:20 ID:eT9BLvak0
>>118
ありがとうございます!どんどん投下します!
>>119
ありがとうございます!
>>120
待っててくれてありがとう!
>>121
好きと言ってくれてありがとう!
ぜひ当ててくれー!
>>122
香りまで想像出来るの凄いです!お花屋さんみたいな匂いしますか?
同じようなのでクリオネもあるそうです。そっちも似てます。
ありがとうございます!焼き色を意識して描いてます〜
>>123
ありがとう!!
もう色々と天候が不安定で恐怖なので、絵は後で投下するという感じでガンガン進めて行こうと思います!
125
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 05:17:55 ID:eT9BLvak0
皆さん、いかがお過ごしでしょうか?
前回の仕留め役になったであろうウサギゴケは、ミニチュアのように小さな植物です。
私もいつか、実物を見てみたいです。
【曲ヒント2】
その曲の発売日は2010年ですが、2014年に一度だけドラマのEDとして使われました。その歌手のその頃は、色々な曲をカヴァーしている事の方が有名だったかもしれません。
126
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 05:18:48 ID:eT9BLvak0
从 ゚∀从「いらっしゃいませー。待ってたよ。」
( ^ω^)「よろしくお願いしますお。」
【 第四話 モッコウバラの祝福 】
.
127
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 05:22:16 ID:eT9BLvak0
从 ^∀从「本当に掛け持ちで来てくれるなんて、嬉しいよ。」
( ^ω^)「これもご縁ですし、内装がお客さん側からどう見えるのかも体験してみたかったんですお。」
僕が選んだのは、薔薇のカーテンの半個室だ。
全体が白く、背景となる鳥籠状のカーテンの中に縫い付けられた立体の薔薇にだけ色がある。
三畳より少し広い程度のスペースだが、実際よりも広く感じる上に静かな空間で、僕は雑誌を手に取らずに瞑想や空想にでも浸ろうかと考えた。
从 ゚∀从「それで今日は、どんな風に切る?」
( ^ω^)「えっと…僕に似合うような髪型はありますかお?」
从 ゚∀从「シーンは仕事?デート?」
(;^ω^)「えっ…?」
僕は一瞬、デレさんの姿を思い出した。
从 ゚∀从「おっ?」
(;^ω^)「…ビジネスベースで、ちょっと今風にも挑戦してみたい…ですお。」
从*゚∀从「…へぇ…?ビジネスねぇ…?」
(;^ω^)「そうですお…。」
从*゚v从 ニムニム
ハインさんは僕の僅かな動揺を逃さず、かといって失礼になるからと不自然に上がる口角を隠そうと戦っているようだった。
从*゚v从「内藤さんの天パは、後ろに流すようにコンパクトにすると良さそうなんだよな。」
从*^∀从d「よしっ!パーマもかけてみよーぜ!」
Σ(;^ω^)「ええっ!?」
128
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 05:23:05 ID:eT9BLvak0
_____
___
__
爪;'ー`)y‐「急に滞在時間を増やしちゃってすみませんね、ウチのが…。」
(;^ω^)「いいえ…。」
爪'ー`)y‐「初パーマは、疲れたでしょう?」
爪'ー`)y‐「今度仕事の帰りにでもお立ち寄りください。2、3通りワックスの付け方を教えますから。」
(;^ω^)「お願いしますお。」
129
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 05:25:15 ID:eT9BLvak0
_____
___
__
13:30
昼食をとった僕は、再び街へと繰り出した。
( ^ω^) スッキリ
いつもより纏まりのある髪を見ると、今度は服が買いたくなってきた。
( ^ω^)(休日用の服を買うなんて、何年ぶりだお?)
( ^ω^)∂ ヒーフーミー…
(;^ω^)(5年ぶりだお…。)
以前モナーさんが担当したカジュアル紳士服の店に着いた僕は、店内をグルっと見て回った。
そこで僕は、店に入ってすぐのマネキンが着ていた物とは色違いの、紺色無地のポロシャツを試着する事にした。
(;^ω^)(男性物ってバリエーションが少ないおね…。質はともかく、学生の頃に着ていたような型とそんなに変わらないお。)
(;^ω^)(今はその頃より1サイズ違うけど…。)
行くたびに髪型が違うデレさんとは、大違いだ。
____________________________
130
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 05:28:23 ID:eT9BLvak0
_____
___
__
10:00
翌日、僕は屋敷へと向かった。
カーテンのメインを埋める最後のスケッチをするためだ。
((( ^ω^)(もう庭に薔薇が咲いているのだと言うけれど…。僕がまだ見ていない場所に案内されるのかお?)
今まで僕が見てきた場所は、庭の半分ほどだろうか?
屋敷とは別方向の道にも、まだまだ庭は続いていそうだ。
僕の家から屋敷までは5分もかからず着くため、門はすぐに見える。
( ^ω^)(あれ?門の前に車が…?)
入って右手の石畳のスペースに、茶色のバンが停まっている。
その車体には、ベージュ色の文字がプリントされている。
( ^ω^)(ショ…ボーンヌ…?)
Σ(;^ω^)「って、…えぇっ!?」
門の先には、溢れんばかりの薔薇が奥まで続いていた。
131
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 05:30:54 ID:eT9BLvak0
ζ(゚ー゚*ζ「内藤さんっ!」
僕がポカンと口を開けて立ち止まっていると、デレさんが駆け寄るようにやって来た。
かと思うと、いつもの距離より3歩前の位置で立ち止まった。
ζ(゚、゚*ζ「…。」
(;^ω^)「こんにちは。」
デレさんは数秒間僕を眺め、満面の笑みになった。
ζ(^ー^*ζ「素敵ですっ!」
(*^ω^)「ありがとうございますお。」
(*^ω^)ゞ テレテレ
髪型か…、それとも新調した服装まで気付いてくれたのだろうか?
気恥ずかしいけれど、久しぶりにお洒落をして良かった。
( ^ω^)「デレさんも、今日は凄いですお。髪にお花が編み込まれていますお。」
今日のデレさんの髪型は、低めのサイドポニーだ。
耳上の大きなコーラルピンクの薔薇を始めとして、毛先まで小さな生花が編み込まれている。
ζ(^ー^*ζ「ありがとうございます。庭の花が綺麗だからと、ドクオさんが編み込んでくれました。」
(;^ω^)「ドクオさん、何でも出来て凄いですお…。」
132
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 05:35:30 ID:eT9BLvak0
( ^ω^)「デレさんが言った通り、本当に薔薇が咲いていますお…。」
僕はいつもより更に遅い足取りで庭を歩いた。
ここに来ると見る場所が多くて、ついそうなってしまうのだ。
迷路のように辺りを隠す薔薇は白く、それでいて中央から淡いピンクがグラデーションに広がっている。
カップ状に咲いているものが多く、その可愛らしさに僕は見惚れた。
ζ(゚ー゚*ζ「この薔薇は、『フランシス バーネット』という品種です。海外の小説家の名前が由来ですよ。」
( ^ω^)「秘密の花園の作者ですかお?僕は社会人になってから読みましたお。」
ζ(゚、゚*ζ「大人になってから、ですか?」
児童書ではないのかと、デレさんは小首を傾げた。
( ^ω^)「僕が営業の仕事からデザイナーも兼任するようになった時に、上司が『Secret Garden』と名付けてくれて、それがきっかけでしたお。」
( ^ω^)「うちの会社は、デザイナーそれぞれにシリーズ名が付くんですお。僕は会社の通販用に自由に作って良いという時は、草花ばかりなので。」
ζ(^ー^*ζ「そうでしたか。」
僕の話を聞き終えたデレさんは、再び薔薇に目線を戻した。
ζ(゚ー゚*ζ「フランシス バーネットは、ロサ・オリエンティスという国内のブランドで、日本の気候でも育てやすい品種なのだそうです。」
133
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 05:36:44 ID:eT9BLvak0
( ^ω^)「デレさんの髪に飾られている薔薇は、何という品種なのでしょうか?」
ζ(゚ー゚*ζ「『イーハトーブの香』です。こちらも日本で作出された品種ですよ。」
( ^ω^)「そうでしたかお。鮮やかながら可愛らしさもあるお花ですお。」
その薔薇は、デレさんのラテ色の髪に似合っている。
( ^ω^)(って、あれ…?)
道の先から、誰かがやって来る。
134
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 05:42:17 ID:eT9BLvak0
(´・ω・`)「ん?ドクオのお客さんか?」
筋肉質で若い男性だ。
ドクオさんやデレさんよりも、少し年上のように見える。
男性はポケットの沢山付いたエプロンを身に着けていて、専用の台車で何かの苗を運んでいる。
ζ(゚ー゚*ζ「ショボンさん。こちらは、図書室のカーテンを作ってくれている内藤さんです。」
ζ(゚ー゚*ζ「内藤さん、こちらは庭師のショボンさんです。お庭の花は全てショボンさんが手入れしてくれているんですよ。」
ζ(^ー^*ζ「そして以前話した図書室の本は、ショボンさんの奥さんに頂いているんです。」
( ^ω^)「そうでしたかお。初めまして。」
(´^ω^`)「よろしくな。」
ショボンさんは、溌剌とした笑顔で挨拶してくれた。
( ^ω^)「とても素晴らしいお庭ですお。でも、ついこの間までは別の花が咲いていたのに、今日来てみたら薔薇がこんなに咲いていて…驚きましたお。」
(´・ω・`)「ここは特別な庭だからな。薔薇なら赤子みたいな苗でも植えれば3日くらいで見頃になるんだ。」
(;^ω^)「3日…!?」
135
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 05:46:02 ID:eT9BLvak0
(´・ω・`)「大体の花もそうさ。流石に樹木なんかは1ヶ月くらいかかるけどな。」
(;^ω^)「とんでもなくハイペースですお…。」
(;^ω^)「…あの、そういう話は僕なんかにしても良いのですかお?」
(´・ω・`)「ああ。デレの茶飲み友達なんだろ?最近ドクオが練習した茶菓子を子どもの土産にってくれるようになったから、知ってるんだ。」
(´・ω・`)「デレが屋敷に現れてから三年くらい経つけど、ここまでお客さんに懐いてるのは初めてだ。きっとあんたは良い人なんだろ?」
(;^ω^)ゞ「え?うーん…。どうでしょう。」
(´・ω・`)「ここへはドクオの客もたまにしか来ないし、特別な場所だからあまり外の人には話せないんだ。一人で作業してると、合間に無性に気分転換したくなる。」
(´^ω^`)「だから俺とも友達になってほしいってワケだ!あっはっは!」
(*^ω^)「そうでしたか。ぜひ。」
僕が続けてお客さんと遭遇したのは、珍しい事だったようだ。
( ^ω^)「あの…。デレさんが現れて三年くらいとは?それ以前はここに居なかったのですかお?」
ζ(゚ー゚*ζ「…。」
二人に聞くように顔を向けたが、デレさんから話そうとする素振りはなかった。
(´・ω・`)「そうだ。俺が丁度この庭を再生し終えた頃に、いきなり現れたんだ。」
136
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 05:47:59 ID:eT9BLvak0
( ^ω^)「いきなり…ですか。」
ζ(^ー^*ζ
デレさんは普段と同じ表情で、ふんわりと微笑んだ。
(´・ω・`)「ドクオからは何も聞いてないけど、この屋敷の古くからの調度品なのかもしれないな。祖父の手入れした庭を真似たから、きっと懐かしくて出てきたんだろう。」
(´・ω・`)「間は空いてるけど、ドクオとは長い付き合いなんだ。」
ショボンさんは、近くにあった木製のベンチに寛ぐように腰掛けた。
ζ(゚ー゚*ζ「お茶をお持ちしますね。」
それを休憩と判断したデレさんは、屋敷へと向かっていった。
僕もショボンさんの隣に座って、話の続きを聞くことにした。
137
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 05:54:56 ID:eT9BLvak0
(´・ω・`)「俺は子供の頃から、庭師の祖父に連れられてここへ遊びに来ていたんだ。と言っても、ドクオはドクオのじいちゃんに引っ付いててちょっかいかけても反応悪くてさ。」
(´^ω^`)「今でも仕事と頼まれ物以外は、こっちが喋りどおしだけどな。ガハハ!」
( ^ω^)「…」
確かにドクオさんは、僕に対してもそんな感じだ。
かといって無愛想な訳ではなく、こちらから話す挨拶の延長のような短い雑談に、いつも一言は返事をくれる。
(´・ω・`)「俺が中学生の頃に祖父が亡くなった。本家の方で跡を継ぐ人もいなかったから、庭師は廃業したんだ。」
(´・ω・`)「その頃はそんな気全くなかったんだけど、俺の進路と就職先は祖父の仕事に近い花屋になった。ジワジワと良さがわかってきたんだな。」
(´・ω・`)「隣の県の花屋で働いてた時に客だったカミさんが同郷だったのが縁で知り合って、結婚した。それからすぐにコウノドリが来てな。」
(´・ω・`)「三つ子だって分かった時は、嬉しい気持ち以上に途方に暮れたよ。核家族だし金銭的にも育てられない。何より多胎児はカミさんが死んじまう確率がうんと上がるんだ。」
( ^ω^)「…」
(´・ω・`)「幸い全員無事に産まれてくれたし、カミさんのご両親の協力が得られる事になった。俺だけが職場のある街で暮らすことになったけれど、その頃この街は花屋があまりなかったし、職を変えるか俺だけ都会に出て出稼ぎするかなんて、買い物の帰り道で悩んでいた時さ。」
(´・ω・`)「懐かしいこの庭を見付けたんだ。」
138
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 05:59:09 ID:eT9BLvak0
(´・ω・`)「といっても、記憶にある庭とは別物だった。庭の中に入ってすぐのド真ん中に、立派な松が植えてあったからな。」
(;^ω^)「松…ですかお…?」
(´・ω・`)「ああ。ドクオのじいちゃんが屋敷の隅で育てていた盆栽を、全部庭に植えちまったらしい。横には昔と変わらない位置に洋風のアンティークファニチャーが置かれてた。」
(´・ω・`)「俺はドン引きしたね。祖父の造った庭とは、かけ離れてたから。屋敷に入ってみるとドクオだけ居たから、せめて入口だけでも整えさせてくれって頼んだ。」
(´・ω・`)「実家から水やりがあまりいらないような植物を持ってきて、職場の余りを貰って。こっちに来るついでにちまちまと植えていった。」
(´・ω・`)「そしたら、そこでようやくこの庭が変な事に気付いた。いつ来ても昼間だし、花の時期が終わりきっても、植えた花がまだ見頃なんだ。」
139
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 06:02:56 ID:eT9BLvak0
(´・ω・`)「思えば土が豊かといえど、夏場に週一しか来ない場所で水やりの事も気にせず植え続けた俺も変だった。特に俺がいじってた入口には乾きやすい小さめな花壇も多かったし、焼け石に水だ。」
(´・ω・`)「庭の奥にあるキッチンガーデンだけ使ってるドクオに聞いてみたら、ここは植物の成長速度も尋常じゃなかった。」
(´・ω・`)「葉物は翌日に収穫出来るし、ニンジンなんか3日で穫れるときたもんだ。連日来れる日に観察したら、花も大体そのくらいのペースで咲くようだった。」
(´・ω・`)「俺はショックだったね。今までやってきた事や、学んできた事は何だったんだと。」
( ^ω^)「そうですおね…。」
いつ自分の仕事がAIに取って代わられるのかと、ヒヤヒヤしている僕だ。
自分が無力だと感じる恐ろしさは分かる。
140
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 06:04:39 ID:eT9BLvak0
(´・ω・`)「ムカついたから3日で育った薔薇を101本、カミさんにプレゼントしたんだ。そしたら食べられる品種だったから、ジャムやらクッキーにしてくれた。」
(´・ω・`)「忙しいのに無理すんなって言いたいのを我慢して食べたらさ、すっげぇ美味かった。」
(´・ω・`)「じいちゃんに付いて回ってた頃にかいだ香りだ。ちっこくて、時間がたっぷりあった頃の。」
(´・ω・`)「久しぶりに茶を飲んで、ゆっくり甘い物を食べた。そうしたらカミさんが隈作った顔で笑って、『お疲れ様』って言ってくれた。」
(´・ω・`)「離れたままじゃ駄目だって、思ったんだ。」
141
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 06:09:08 ID:eT9BLvak0
(´・ω・`)「俺はまず、街中の菓子屋に庭で育てた薔薇を売り込んだ。同級生のツテで一軒だけ受け入れてくれて、ロールケーキやゼリーなんかに取り入れてくれた。」
(´・ω・`)「それから、街の観光業や写真屋に署名を募って公共施設を花の名所にしたいと希望を出した。」
(´・ω・`)「市長がドクオと俺の祖父を知っていたからなのか、通してもらえた。予算は全く出なかったけどな。」
( ^ω^)「…凄いですお…。」
(´・ω・`)「景観を整えつつ、街の店に土産の材料として薔薇を売り込んで手広くしていったら、今の観光地が出来たってワケさ。」
(;^ω^)「…。」
(;^ω^)「…あの、出荷はショボンさんがお一人で全てなさっているんですかお?それに凄く野暮なんですけれど、この規模だと税金とか…。」
庭の規模は少なくとも、昔行った事のある30ヘクタールの植物園ほどはある。
それらを全てショボンさんだけで賄っているのだろうか?
(´・ω・`)「その辺りは大丈夫だ。確かにここの管理は俺だけだが、土地については、普段はここが小さな平屋と畑に見えるからな。その分しか取り立てられないのさ。」
( ^ω^)「そうでしたか…。」
( ^ω^)(…つまり、用事が無い場合はずっと前に見たこの土地の風景が見えている、という事だおね…。)
142
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 06:14:34 ID:eT9BLvak0
(´・ω・`)「それに、ここで育てた苗は外に植えても花付きが良いしかなり長持ちするんだ。肥料や水やりはそこそこ必要だけどな。」
(´・ω・`)「だから外にも畑を借りて、人を雇って育ててもらってる。街の土産品や施設に使われる分の花はそこで作っているんだ。」
(´・ω・`)「ここでは育てるのが難しい花や、通販用の苗なんかを庭の奥の畑で育てている。」
(´^ω^`)「街の店からの花の依頼は、食用や香料以外は案外少ないんだ。何せ街中が花で飾られてるから、自分の店まで飾ったら、埋もれて見えなくなっちまうからな!ガハハ!」
(´・ω・`)「そんで、この広い庭では花の組み合わせを試しつつ、子どもの頃に見た記憶を頼りに庭を戻していった。祖父の庭にそっくりになった頃に、デレが現れたワケだ。」
( ^ω^)「そうでしたか…。」
143
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 06:19:47 ID:eT9BLvak0
ζ(゚ー゚*ζ「お待たせしました。」
デレさんが戻ってきて、僕達にプラスチック製のボトルを手渡してくれた。
ζ(゚ー゚*ζ「レモンタイムです。」
(´・ω・`)「ありがとうな。」
そう言って、ショボンさんがボトルの半分の量まで一気にお茶を飲んだ。
ζ(^ー^*ζ「レモンタイムはコモンタイムとラージタイムの交配種です。爽やかで飲みやすいですよ。」
( ^ω^)「頂きますお。」
( ^ω^)) ゴクッ
温度はショボンさんが飲みやすいようにするためか、ややぬるめだ。
Σ( ^ω^)「本当に、レモンのような香りがしますお。」
ζ(^ー^*ζ「良い香りですよね。レモンタイムには、抗菌作用やリラックス効果もあるそうですよ。」
( ^ω^)「そうですかお。結構好きな味ですお。」
(´・ω・`)「苗いるか?鉢植えで雑に育てても勝手に増えるぞ。」
(´・ω・`)「喉にも良いんだ。俺も風邪引きそうな時は予防で飲んでる。」
( ^ω^)「ありがとうございますお。お願いしますお。」
144
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 06:25:44 ID:eT9BLvak0
( ^ω^)「…僕はてっきり、花での町興しは市の方で始めたものだと思っていましたお。」
( ^ω^)「仕事柄街の事はまあまあ知っているつもりでしたが、何も知らずに…お恥ずかしいですお。」
デレさんが現れたのが三年くらい前だという事は、ショボンさんはそれらを二十代でやってのけたのだ。
僕が想像も出来ないような苦労だったのだろう。
(´・ω・`)「いいや、ワザと表にウチの名前が出にくいようにしてるから、それはしょうがないんだ。」
(´・ω・`)「外の畑や通販も、市の名前を使わせてもらってる。やっぱり少人数でこの量を売り出すのはあり得ないから、人手のカモフラージュにな。」
(´・ω・`)「その代わり、有事の際にはここを全部畑にしたり、避難場所にするって約束を市と結んでるんだ。」
(´・ω・`)「まぁそれは、ドクオのじいちゃんの頃から生きてる約束らしいけどな。」
(;^ω^)「そのような取り決めがあったので…えっ!?」
ζ(゚ー゚*ζ「『用事のある人には見える』、という事なのでしょうね。」
(;^ω^)「…。そうなる事がないと良いですお。」
それからショボンさんは、このような場所は全国的にいくつかあって、それぞれに同じような協定を結んでいるのだと市長から聞かされたと教えてくれた。
そして、本当にごく少数の人だけが知っている事なのだと。
145
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 06:27:21 ID:eT9BLvak0
続きは夜に投下します
146
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 22:33:48 ID:eT9BLvak0
投下します
147
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 22:37:09 ID:eT9BLvak0
( ^ω^)「あの…。どうして僕なんかに、ここまで話をしてくれるのでしょうか…?」
( ^ω^)「僕は言ってしまえば、ドクオさんに一時的にご縁があるだけの業者ですお。」
納期内に収めるつもりとはいえ、頼まれてもいないのに庭をモデルにすると決めて、ここまで頻繁にお邪魔している事すら図々しくて申し訳ないと思っているのだ。
(´・ω・`)「…デレもだけど、ドクオがここまで人を持て成す事が今までなかったからだ。」
pζ(゚、゚*ζq「そうですよ!内藤さんが来てから、お菓子への気合いが全然違います!」
Σ(;^ω^)「えっ?僕はてっきり、寡黙で親切な方なのかと思っていましたお…。」
( ^ω^)、「もっと、お礼が出来ればいいのですが…。」
†+pζ(゚ワ゚*ζq「そうしたらきっとドクオさん、もっと張り切りますよ。いよいよアフタヌーンティーが登場してしまいますね…っ!」ワックワック!
(;^ω^)ノシ「いえ!お手間をこれ以上増やすわけにはいきませんし、僕もトシだから食べきれませんお。」
ζ(゚、゚*ζ「そうでした…。」 シュン…
148
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 22:40:42 ID:eT9BLvak0
( ^ω^)「デレさんにいくつか教えてもらいましたが…。ショボンさんは、ドクオさんが何がお好きかを知りませんか?」
(´・ω・`)=3「俺もあんま分かんねーな。仕事と料理する以外は質素な生活してるからな。」
ショボンさんは、腕を組んでそう言った。
(´・ω・`)「ドクオに渡してる土地の賃料から庭師代を引いてもまとまった金はあるはずなんだが、ドクオはじいちゃんが使ってた物で済ませてるからな。服とか。」
(´・ω・`)「超じいちゃん子なんだよ、あいつ。」
( ^ω^)「なるほど…。」
僕はドクオさんの服がレトロな理由に、納得した。
( ^ω^)q「そうですかお。うーん、僕が出張に行った時に食べて美味しかった物でも取り寄せてみますお…。」
†+ζ(゚ワ゚*ζ パアァ
(;^ω^)(…。デレさんの分も、多めに用意するお。)
149
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 22:53:23 ID:eT9BLvak0
(´・ω・`)「話は戻るけど、ドクオがこんなに人に構うのは本当に珍しいんだ。デレは別としてな。」
(´・ω・`)「あいつには交友関係がほぼ無い。親とも子供の頃からそりが合ってないみたいだ。」
(´・ω・`)「ドクオには兄貴がいて、俺とも知り合いだ。だけど地主の跡取りとして、親に期待され過ぎてる。」
(´・ω・`)「…兄貴の方は、殆どかまってやれないまま大人になってしまったと、ずっとドクオの事を心配してる。」
そう言いながら、ショボンさんは向かいに咲くフランネルフラワーを眺めた。
(´・ω・`)「だから…もしあいつが何かに悩むような事があった時に、話だけでも聞いてくれる人が居たらと思ったんだ。俺は気質が違うから、役に立たねーだろうし。」
( ^ω^)「…。初対面の僕にそんな事を頼むのは、かえってドクオさんを危険に晒すのではないでしょうか?」
( ^ω^)「経済環境は?宗教は?」
( ^ω^)「他にも調べておく事は、沢山有るのではないでしょうか。」
僕がそう返すと、ショボンさんは真っ直ぐな目でこちらを見た。
(´・ω・`)「内藤さんは、そそのかしてここを悪用しようなんて気は起こさないだろう?」
( ^ω^)「…」
(;^ω^)「……負けましたお。僕がこの場所に来られる間で良ければ。たったの一ヶ月くらいですが…。」
(´^ω^`)「よろしくな。」
フラックスとスノーフレークが見守る中で、僕達は握手をした。
150
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 22:57:20 ID:eT9BLvak0
(´・ω・`)「さて、俺はそろそろ行くぜ。ごちそうさま。」
ショボンさんが、デレさんに空になったボトルを手渡した。
ζ(゚ー゚*ζ「ショボンさん、朝採れたお野菜をまとめてありますので、帰りに屋敷に寄ってくださいね。」
(´・ω・`)ノ「おー、いつもありがとな。」
ショボンさんはこちらに手を振り、またすぐに歩いていった。
見送ると、デレさんが僕の方に向き直った。
ζ(゚ー゚*ζ「それでは内藤さん、ご案内します。」
151
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 22:59:29 ID:eT9BLvak0
_____
___
__
僕は最初に、庭に入ってすぐの場所をスケッチする事にした。
先程見て感動したこの薔薇をメインに、カーテンを作ろうと決めたからだ。
( ^ω^)φ「時間がかかりますから、デレさんは日陰かお屋敷で待っていてくださいお。」
ζ(゚ー゚*ζ「はい。ドクオさんが軽食を用意しているので、途中で受け取りに行きますね。それまでは、後ろで見ていても良いでしょうか?」
( ^ω^)φ「良いですお。ありがとうございますお。」
僕は帽子を被り、持ってきたスケッチブックと水彩色鉛筆で下描きを始めた。
152
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 23:05:29 ID:eT9BLvak0
ζ(゚ー゚*ζ「内藤さんは、どんなお花が好きですか?」
少しして、デレさんが後ろから尋ねた。
( ^ω^)φ「そうですね…。どちらかと言えば、薔薇なら淡い色合いの方が好きですお。」
( ^ω^)「僕は花には詳しい方だと思いますが、薔薇は種類が多過ぎて…あまり詳しくはないですお。なので、今日は色々と教えてくださいお。」
僕は花の影を描きながら、そう答える。
ζ(^ー^*ζ「分かりました。午後は淡い薔薇が咲いているところも案内しますね。」
( ^ω^)φ「お願いしますお。」
( ^ω^)?「ちなみに…この奥に咲いている薔薇は何でしょうか?」
ζ(゚ー゚*ζ「ハンスゲーネバインとジュード・ジ・オブスキュアですね。」
(*^ω^)「そうですか。そちらも柔らかい色合いで、可愛いですお。」
ζ(^ー^*ζ「奥に行くにつれて、濃い色も増えていく構成ですよ。」
(*^ω^)「それは楽しみですお。」
ζ(゚ー゚*ζ「ちょっと早いですけど、そろそろ昼食の準備をしに行きますね。キリが良くなったらいつものテーブルまで来てください。」
(;^ω^)φ「何から何まで、すみませんお…。」
屋敷まで向かうデレさんを見送ると、僕は筆洗器で筆に水を含ませて、色を塗った。
153
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 23:06:24 ID:eT9BLvak0
_____
___
__
( ^ω^)つ キュッ
( ^ω^)フキフキ
テーブルのある小道の近くには、小さめな手洗い場がある。
僕は手を洗い、いつものハーブが茂る小道へと向かった。
( ^ω^)(おっ。今日は矢車菊が咲いているお。)
154
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 23:08:27 ID:eT9BLvak0
(*^ω^)「ありがとうございますお。」
円状のいつもの場所に咲く花は、意外にも薔薇ではなかった。
普段は何種類かの花で構成されているが、今日はヒメウツギ一色だ。
デレさんは既に、軽食をテーブルに並べてくれていた。
クラッカーにチーズやミニトマトが乗ったカナッペに、ハムやキュウリのサンドイッチ。それからポットとカップ。
ζ(^ー^*ζ「どれでも、お好きな物からどうぞ。」
そう言われたので、僕は「頂きます」と言い、カナッペに手を伸ばした。
(*^ω^))「…!このトマト、凄く美味しいですお!」
噛みしめると酸味も旨味も濃くて、まるでトマトソースだ。
下に添えられたクリームチーズとバジルが、より風味を豊かにしている。
ζ(^ー^*ζ「ドワーフトマトのプリティーベルです。草丈がとても低いのに実付きが良くて、見ているだけでも楽しいトマトですよ。」
( ^ω^))「フルーツトマトとはまた違った魅力ですお。」
(*^ω^)「このカナッペに乗っている青い花も、可愛いですお。」
ζ(^ー^*ζ「ルリジサですね。お茶としても使えるハーブです。」
155
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 23:11:27 ID:eT9BLvak0
出されたメニューの一巡が、そろそろ終わりそうだ。
( ^ω^)「おや?こちらは…?」
ζ(゚ー゚*ζ「そちらは、薔薇ジャムのサンドイッチです。奥の畑で育てている食用薔薇で作ったものですよ。」
( ^ω^)つ□「頂きますお。」
( ^ω^)) モグ…
(*^ω^))「意外と癖がないですお。美味しいですお。」
ほんのりフルーティーで、食べやすい味だ。
(*^ω^))「ジャムの色が桜色で可愛いですお。花びらは、美味しいぶどうの皮のようですおー。」
ζ(゚ワ゚*ζ「美味しいぶどうの皮…本当にそんな食感ですね!」
ζ(^ー^*ζ「紅茶のおかわりもどうぞ。こちらにも薔薇ジャムを入れて飲んでみてください。」
( ^ω^)Φ「では…。」クルクル
( ^ω^)) コクッ
(*^ω^)「うーん、これも良い…。」
紅茶の温度によって、今度は香りが広がった。
( ^ω^)) コクコク
(*^ω^)(おお…。)
カップを置いても、まだどこからか香りがする。
喉を通り越し、温かくなった胃やお腹の全てが、薔薇の香りになってしまった気さえする。
156
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 23:13:44 ID:eT9BLvak0
( ^ω^)「デレさんがお好きな薔薇は、どれですかお?」
カーテンをかける図書室はデレさんの部屋でもあるので、要望を聞いておきたいと思ったのだ。
ζ(゚、゚*ζ「そうですね、今お庭で咲いているものですと…」
( ^ω^)(デレさんの事だから、きっと可愛らしい…)
ζ(゚ワ゚*ζ「ジェーン・オースチンとノスタルジーでしょうか。初めて見た時に、ゆで卵と…りんごの皮で作った薔薇みたいだとビックリしたんです!」
(;^ω^)?「ゆで卵にりんご…?すみません、ちょっと想像出来ないですお…。」
ζ(゚ー゚*ζ「では早速、見に行きましょうか。行けば内藤さんにも分かるはずですよ!」
(;^ω^)「はい。ご馳走様でしたお…。」
157
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 23:15:34 ID:eT9BLvak0
目的の薔薇を見に行く間にも、デレさんは説明をしてくれる。
⊂ζ(゚ー゚*ζ「こちらのオベリスクに誘引されている薔薇は、プシュケです。」
( ^ω^)「アプリコット色でふわっとしてますお。空の色に映えますおー。」
今日は今まであまり通った事のない、広めの通路だ。
庭は木に囲まれている場所もあるが、ここからは空がよく見える。
⊂ζ(゚ー゚*ζ「こちらはザ フェアリーにドリスリッカーで…」
Σ(*^ω^)「これは…かっ…可愛いですおっ!!」
ζ(^ー^*ζ「花が小さい、ポリアンサ系です。」
(*^ω^)「ミニチュア感にキュンと来ると言いますか…。蕾の丸っこさがアクセントになっていて、とにかく可愛らしいですお!」
ζ(^ー^*ζ「内藤さんのお気に入りですね。」
(*^ω^)「はいですお!」
158
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 23:21:41 ID:eT9BLvak0
ζ(゚ワ゚*ζつ「そしてこちらが、ジェーン・オースチンとノスタルジーですっ!」
Σ(;^ω^)「おっ…!?確かに咲き始めの丸いのは、ゆで卵みたいですおっ!?」
ζ(^ー^*ζ「ですよね!」
ジェーン・オースチンは、中〜大輪で外側が白く、内側が黄色の薔薇だ。
咲き始めの丸い状態の物は内側の黄色が濃く、まるで半分に割ったゆで卵のようだ。
https://imgur.com/a/jEV4X35
159
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 23:23:35 ID:eT9BLvak0
( ^ω^)「ノスタルジーは、僕は林檎を上から中央だけくり抜いた物のように見えましたお。」
ノスタルジーは外側が赤く、内側が白い。
物によっては飾り切りで薔薇の形を模した林檎に似たような色付き方をしている。
https://imgur.com/a/7iHgkdi
(;^ω^)「…実際に見ると、いい得て妙ですお。ただ、僕達が食いしん坊なだけかもしれませんが。」
ζ(^ー^*ζb「食べ物に見えるお花シリーズ、内藤さんも見付けたら教えてくださいねっ。」
( ^ω^))「分かりましたお。」
160
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 23:27:39 ID:eT9BLvak0
( ^ω^)φ「ではまた、ここで描くことにしますお。」
僕は近くにあったベンチに座った。
ζ(゚ー゚*ζ 「では私も…」
デレさんが、僕の隣に座ろうとした。
(;*^ω^)φ「あ、あのデレさん、本当に時間がかかりますから…。」
ζ(゚、゚*ζ?「大丈夫ですよ?あまり話しかけないように気を付けます。」
σ(;*>ω<)「ほらっ!僕は帽子を被っていますお。帽子や日傘などがなければ、お屋敷で待っていてくださいお。」
ζ(^ー^*ζ「分かりました。」
(;^ω^) ホッ
デレさんは、素直に屋敷の方へと向かっていった。
161
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 23:29:22 ID:eT9BLvak0
(;^ω^)「…。」
ζ(゚ー゚*ζ「傘立てにあった物を、借りてきました。」
隣に座るデレさんは、深緑の傘をさしている。
傘は雨傘だが、70cmを越えるほど大きくて、僕の方にまで影を作ってくれている。
(;^ω^)「すみませんお…。」
ζ(^ー^*ζ「いえいえ。」
僕は気恥ずかしさを感じながらも、絵に集中する事にした。
( ^ω^)φ(カーテンに描く花は、これで埋まりそうだお。)
そういえば妻も、出会った頃は暗い色の傘をさしていた。
.
162
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 23:30:37 ID:eT9BLvak0
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163
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 23:34:32 ID:eT9BLvak0
細い黒縁の窓の先の新緑が、輝く季節。
大学二年生になった僕は、教室の端の席に座り講義が始まるのを待っていた。
从'ー'从「今日は午後から学校閉まるじゃん〜?どこか食べに行かない〜?」
川 ゚ -゚)b「最近出来たアルゼンチン料理の店はどうだ?」
ξ゚⊿゚)ξ、「あ、ごめん。今日は親が迎えに来るから私はまた今度で。」
从'ー'从「じゃ〜行くのも今度にしよっか〜。クー、実家からもらった蕎麦余りまくってるから食べに来ない?」
川 ゚ -゚)「薬味を買いにスーパーへ寄ろうか。」
斜め前の方の席から、楽しそうな声が聞こえる。
友人の誰一人としてこの授業が被らなかった僕とは違い、いつも三人でかたまっている人達だ。
( ^ω^)(今日は13時までは学校が開いてるはずだから、少しだけスケッチをしてから帰るお。)
164
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 23:37:22 ID:eT9BLvak0
_____
___
__
講義が終わりノートを取るのに少し手間取った僕は、人がまばらになった教室で片付けをしていた。
( ^ω^)(…お?)
先程の三人組のうちの一人が、窓から何かを眺めている。
( ^ω^)(あっちは…)
((( ^ω^)
( ^ω^)「…あの、何を見ているんだお?」
Σξ゚⊿゚)ξ「えっ…?」
(;^ω^)「話したこともない奴が、急にごめんお…。何か気になっちゃって。」
ξ゚⊿゚)ξρ「あ…。あのね、木が沢山あって分かりにくいけど、この下に…森の方に向かって延びる細い道があるじゃない?そこに、扉みたいな物が見えるなって。」
ξ゚⊿゚)ξσ「その先に…ほら、花みたいな物も…見えない…?」
( ^ω^)「ああ。そこには、小さな庭があるんだお。」
ξ゚⊿゚)ξ「庭…?全然気付かなかった。」
少し驚いた表情をした彼女が小首を傾げると、ふわふわの髪が揺れた。
( ^ω^)「棟はここが一番奥だし、その先に何も無いって思うおね。僕もたまたま…」
( ^ω^)「…。」
( ^ω^)「あっ…!」
165
:
名無しさん
:2024/08/19(月) 23:38:43 ID:eT9BLvak0
( ^ω^)つ「見に行こうお!」
そう言って、僕は彼女の手を取った。
教室を抜けて、階段を降りて、早く早く。
棟の外へ出る手前に来て、彼女が僕に声をかけた。
ξ;−⊿−)ξつ「ごめん、ちょっと、待って。」ゼェ…ハァ…
(;^ω^)「あ…」
息を切らした彼女は、トートバッグから黒い折り畳み傘を取り出した。
ξ゚⊿゚)ξ「ごめんね。もっとゆっくりで良い?」
(;^ω^)σ「こちらこそごめんお…。こっちだお。」
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