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異界大戦記のようです

1名無しさん:2023/04/01(土) 23:39:57 ID:mfVt/ZZU0
世界の縮図が変わろうとしていた。

魔法を操り、自らを神の僕と信じるエルフ達が支配するこの星。
その中の3大大陸に存在する5つの列強と呼ばれる国が衝突する寸前にまでなっていた。

きっかけは列強最強の国家と名高いルナイファ帝国と、同じく列強のニータ王国との国境で起こった小さな事件であった。
それぞれがその犯行の責任は相手側にあると主張しあっていた。
互いに堂々と国として主張をしていたがその内情は全く異なるものであった。

ルナイファに関しては元から周辺国家を攻め落とし、支配する典型的な侵略国家であった。
列強クラスの国との戦いはなかったものの、同大陸に存在し隣接する小国はほぼすべて支配していると行っても過言ではない。
そして大陸統一のためにも同じ大陸で国境を接しているニータはいつかは落としたいと考えていたことから、この機会に攻め込むのが良いと言う意見で国が固まりつつあった。

574名無しさん:2023/09/02(土) 17:37:05 ID:HBIJijrw0
( ´∀`)「先ほどので、人間の技術は我々の魔法で再現可能ということがわかっただろう?」

('A`)「えぇ、それは確かにそうですが......それが?」

( ´∀`)「では、君が再現するとしたら、何を再現するかな?仮に何でも再現できるとするならば、だ」

('A`)「それは......」

本当に何でも再現できるとするならば。
その仮定に一つの考えが頭をよぎる。
人間の国との力を拮抗させるために必要な力。
すなわち、人間でも恐れるものを再現できたとすれば。
その先に待つものは、ドクオが思い描いた世界に限りなく近づくのではないか―

('A`)「そう、ですね。人間が持つ、彼らがもっとも恐れる兵器、でしょうか」

( ´∀`)「......やはり、見込んだ通りだ。優秀な男だよ、君は」

('A`)「え?」

575名無しさん:2023/09/02(土) 17:37:35 ID:HBIJijrw0
( ´∀`)「他のものに同じ質問をしてもこれまでに手に入った情報の中にあった兵器や道具を挙げるばかりであったが......君は違う。ちゃんと、あの国のことを考え、理解できている」

('A`)「......」

( ´∀`)「ドクオ君、君が反戦派なことは知っている。どうにかして、対立しない道を探しているのだろう?」

(;'A`)「っ!?そ、それは......」

( ´∀`)「ああいや、別に排除しようというわけではない。君は優秀だし......利害も一致しているわけだからね」

(;'A`)「どういう......」

意味ですかと聞く前に、モナーはドクオへ一つの魔道具を取り出す。
通信用の魔道具に似たそれは、簡易的な記録用媒体であり、ペアとなる魔石に記録したものを瞬時に共有することのできるものであった。

('A`)「......これは?」

( ´∀`)「ドクオ君、君に任務を与える。任務はただ一つ、君がさっき言っていたものを、探すのだ。人間がもっとも恐れる兵器の情報を」

(;'A`)「な!?」

576名無しさん:2023/09/02(土) 17:38:22 ID:HBIJijrw0
( ´∀`)「それをこれに記録してくれ。そうすればその情報は私に伝わり......いつの日か、それを再現、もしくは対抗するものを作り出して見せよう」

(;'A`)「......」

( ´∀`)「君はこの国に他国を牽制できる力が欲しい、そして私は人間たちを滅ぼせる力が欲しい......そのどちらも満たすことができる。どうかね?」

(;'A`)「......なぜ、それを」

( ´∀`)「それくらい、君のあの答えを聞けばすぐに分かるさ。まあ、すぐに回答が欲しいわけではないから安心したまえ」

敵対することを前提に考えている者に、そんなものを渡せるはずがないー
そう叫びたいドクオであったが、その言葉でる前にモナーもその事が分かっているのか、ニヤリと笑いつつ言葉を続けた。

( ´∀`)「ただ......よく考えたまえよ?もし人間たちの兵器に関する情報が手に入ったところで君では作れないし、だからといって兵器そのものを手に入れるのは不可能なことくらい、君も分かっているんだろう?自分達が恐れるものを他国に渡すほど奴らは馬鹿ではない。つまり、情報を手に入れた上でそれを自国で再現できる技術を持つ仲間が必要だ。違うかな?そんな味方が君にいるのかね?」

(;'A`)「ぐっ......ぅ」

577名無しさん:2023/09/02(土) 17:38:53 ID:HBIJijrw0
( ´∀`)「まあ君もこの国の世論は知っているだろう?いくら私でも、もしもの事があれば、庇いきれないかもしれないからな」

そう耳元で囁かれたのち、魔石をドクオの胸ポケットに滑り込ませ、そのまま部屋から出ていく。
一人取り残されたドクオは自身がとんでもない状況におかれていることを今更になって知り、絶望する。

彼自身はただの職員であったはずなのだ。
それが何の因果なのか、気づけば国を動かすような重大な無理難題ばかり押し付けられている。

(;'A`)「......何で俺ばっかり、こんな目に......」

様々なものたちから板挟みのような状態になり、また自身の考える理想からも押し潰されそうな現状。
最早動くことすらできないほどの重圧に、ドクオは何度も嘔吐した。

578名無しさん:2023/09/02(土) 17:39:17 ID:HBIJijrw0
続く

579名無しさん:2023/09/02(土) 18:23:52 ID:HBIJijrw0
>>550-577
投下する話を間違えました・・・最悪すぎる
後程本日投下予定であった話を投下します

580名無しさん:2023/09/02(土) 18:42:50 ID:HBIJijrw0
話の順番としてはこれから投下する話→>>550-577の流れになります
分かりにくいですが脳内補完をお願いします

581名無しさん:2023/09/02(土) 18:43:46 ID:HBIJijrw0
ルナイファ帝国 帝都
1463年3月5日

その日、帝都に激震が走った。
理由は様々な放送をする魔信より流れた、一つのニュースである。

―帝国本土に、侵略者現る。

帝国に歯向かう者がいるだけでも驚きだというのに、まさか本土に侵攻し、それを成功させたというのだ。
これまで数多くの驚くべきニュースを聞いてきたものも、このニュースには驚愕を隠せない。

そして、詳しく聞くと誰もが怒りに震えた。
曰く、その正体は我々が召喚した人間であると。
曰く、慈悲深く譲歩したにも関わらずその手を振り払うどころかこのような事態を引き起こしていると。
曰く、エルフの神に歯向かう悪魔の力を借りている世界の敵であると。

582名無しさん:2023/09/02(土) 18:44:12 ID:HBIJijrw0
もはや噂なのか何なのか、ニュースと呼んでもよいか分からないものも含まれていたが、厄介なことにこの世界では皆、神も悪魔も信じられている。
そのためそれを聞いた帝国民の心は一つとなる。

―奴らを滅ぼせ、神に仇なす者達に鉄槌を!

燃え盛るかのごとく、その怒りの炎は伝播していき、皆が敵を倒せ、人間を滅ぼせと叫ぶ。
時折、冷静なものが悪魔の力を持つような相手と戦い勝つことが出来るのか、そもそも本当に悪魔が現れたのかと疑問を持つものもいたが、既に怒りの炎を消すには遅く、そのもの達の声が逆に消されていった。

583名無しさん:2023/09/02(土) 18:45:20 ID:HBIJijrw0
(;=゚ω゚)ノ「異常すぎるよぅ......」

そしてそんな様子を、ソーサクの諜報員、イヨウが潜伏先の家より見ていた。
デモのように多くの帝国民が列を成し、兵を集めろ、武器を作れ、奴らを殺せと唾を撒き散らす。
その声を聞いたものがまた一人、また一人と列に増えていき、もはやそこに参加しないものは非国民とも言えるような、明らかに異常な空気が生まれていた。

(;=゚ω゚)ノ「......ルナイファは、滅ぶつもりなのか?」

原因ははっきりしている。
この放送である。
敗北したという事実を、嘘で脚色し自らの正当性を訴え続けるそれは、情報を知るイヨウにとっては怪情報以外の何物でもない。

だが何も知らない者達にとってはどうか。
それも自分達に絶対の自信と高いプライドを持ち、国からの情報を嘘と疑わない帝国民であったとしたら。

答えは、目の前の光景である。

584名無しさん:2023/09/02(土) 18:45:56 ID:HBIJijrw0
与えられた情報が彼等の中で真実となり、それ以外の情報を与えられても決して受け入れることはないだろう。
それも自分達に不都合な情報だとすれば、例え真実であったとしてもそれを拒むことは容易に想像できる。

狂った歯車は歪んだまま回り続け、そして更に歪み、もう元には戻らない。
その先に待つものは一つ。

ただ、破滅に突き進むのみ。

(;=゚ω゚)ノ「このタイミングでプロパガンダ......ということはもう、講和する気はない?正気とは思えないよぅ」

そう、正気の沙汰とは思えない。
帝国民は確かに敵を知らない。
だからこそ、敵を倒せと叫ぶことが出来る。
絶対に勝てると信じているからだ。

585名無しさん:2023/09/02(土) 18:46:27 ID:HBIJijrw0
だが、国はどうか。
もう十分すぎるほど敵の驚異をわかっているはずである。
なのに国民の怒りを増幅させ、退路を絶つ理由が分からない。
この状態ではいくら国が降伏しようとしても国民が許すことはなく、暴走を続けるだろう。
もはや自分から滅びに行っているのではないかとすらイヨウには感じられてしまう。

そうなるともう一つ、考えられる可能性が浮かび上がる。

(=゚ω゚)ノ「どこかの......工作員の仕事?」

だとしたらとてつもなく上手い手である。
自らの国は何もせず、他国だけで勝手に争わせ、暴走させ、疲弊させる。
理想的ともいえる手段である。

(=゚ω゚)ノ「だとしたら一体何処が......」

もしかしたら自国以外にも動いているかもしれない。
十分に、気を付けなければ。

そう気を引き締め、彼は再び仕事へと戻っていった。

ー最も、放送の元がこの国のとある阿呆によるものと知ることになり、拍子抜けすることになるのだがそれはまだもう少し先の事であった。

586名無しさん:2023/09/02(土) 18:46:56 ID:HBIJijrw0
ムー大陸 迎賓館
1463年3月6日

今、自分は現実を見ているのだろうか。
フィレンクトはそんな感覚に陥っていた。
ムーに訪れた際に目にしたのは異様とも言える光景であった。
まだまだ戦火の跡が目立つ中、一際目立つ摩訶不思議な物達。

まず目に入ったのは国に入国する際に港に泊まっていた巨大な艦。
基本的に船は大きければ大きいほど強力である。
その大きさの分だけ魔方陣を積むことが出来るのだから当然の常識とも言える。

だからこそ、150mという巨大な艦を作れるルナイファやソーサクは強大な国家として名前が挙げられるのだ。
大きな艦を持つと言うこと、そしてその大きさはそのまま国家の力の大きさを表し、それに比例すると言っても過言ではない。

587名無しさん:2023/09/02(土) 18:47:39 ID:HBIJijrw0
それが、どういうことか。
この南方の僻地とも言えるこの国にはその倍近いと思われる艦が泊まっていたのだ。
単純に考えれば、ルナイファやソーサクの倍の力を持つと言うことかとあまりの現実感の無さに笑ってしまうほどであった。

更にその艦が載せている物も問題であった。
到底生き物には見えない、翼を持つ金属の塊。
何かのオブジェクトかと思えば、『ひこうき』なる空を飛ぶ物という。

あのようなものが空を飛ぶのかと驚愕したが、更なる衝撃がすぐにフィレンクトを襲うこととなる。
それは、その『ひこうき』が飛ぶ瞬間を見たときであった。

この世ならざる速度で飛び出すそれは、一目だけでこの世界の空を支配することに疑いはない。
事実、フィレンクトはあの『ひこうき』を落とすどころか、追い付く手段すら想像の世界ですら作り出すことが出来なかったのだから。

588名無しさん:2023/09/02(土) 18:48:18 ID:HBIJijrw0
(;‘_L’)「ルナイファめ、とんでもない国を呼び出してくれたな......」

滴る汗を拭いながら、ルナイファに対して悪態をつく。
どう考えてもこれから自分が相対するのは、怪物である。
それも、異界の怪物。

一体どう話をすれば良いのか、分かるはずもない。
そしてなにより、頭を悩ませていること。

それは、相手のエルフへの偏見。

いや、ルナイファがしでかした事を考えれば偏見といって良いかは分からないが少なくとも好印象はないであろう。
彼らからすればエルフはこの世界に勝手に連れてきては服従を要求し、断れば戦争を仕掛けてくる存在である。
どう考えても、まともにこちらの話を聞いてもらえるとは思えない。

(;‘_L’)「くそ......ルナイファめ」

それもこれも元を辿れば全て、元凶はルナイファである。
だからこそ、先ほどから何度も何度も繰り返し、フィレンクトはルナイファへの悪態をつく。

589名無しさん:2023/09/02(土) 18:48:52 ID:HBIJijrw0
とはいえ、そんなものを繰り返したところでなにも変わらない。
もうここまで来てしまったのだから、何としてでも話をつけなければならない。
例え、どんな対価を支払うことになったとしても。

勿論、手札は用意している。
相手が欲しがるであろうものを予測し、揃えては来ている。
だが相手は異界の民なのだ。
どこまでこちらの常識が通じるか。
そしてどれほどこちらに怨みを持っているのか。
それに、全てがかかっている。

とてつもない、プレッシャーであった。

(;‘_L’)「......せめて」

せめてルナイファよりは、話が通じますように。
そんな儚い希望を抱きつつ、彼は異界の民との交渉に向かうのだった。

590名無しさん:2023/09/02(土) 18:49:53 ID:HBIJijrw0
アリベシ法書国 北方基地

『我が国はヴィップと和解し、共にこの大陸を発展させると共により良い未来を―』

静かな基地内に、魔信から流れる放送が響きわたる。
その内容に多くの者が涙を流す。

色々と話は続いてはいるものの、結局それが表すものは、敗戦。
そう、今日この日、アリベシは負けたことを認め、ヴィップに屈することとなったのである。

( ・∀・)「......」

そして、その放送をモララーは無表情に聞いていた。
だがその胸の内はぐちゃぐちゃであった。
戦争で死ぬかもしれない思いをし、それを運よく生き残り、そしてもう戦わなくて良いという喜び。
因縁の相手に負け、多くの仲間達を殺され、これからは敗戦国として生きていかなければならないという悲しみ。

そしてなにより、神の御告げである法書の導きであったにも関わらず、この無惨な現実は何なのか。

591名無しさん:2023/09/02(土) 18:50:28 ID:HBIJijrw0
法書は国を導き、モララー達を幸せへと導くものだと、そう信じていたからこそ彼らはどんなに無茶な御告げにも従ってきたのだ。
それが一体何故、こんなことになってしまったのか。

モララーはいくら考えても、その答えが分からないのだ。

( ・∀・)「......」

いや、本当は一つの可能性に気が付いている。
だが、その可能性を無理矢理封じ込めているのだ。

本当は法書、神の御告げなどはまやかしであり、自分達の信じる神などいないのではないか―

592名無しさん:2023/09/02(土) 18:50:57 ID:HBIJijrw0
そんな自国を否定する考えなど、ただでさえ追い詰められた彼らが出来るはずがない。
否、そのような考えに至ったものもいたが、その考えに耐えきれずに命を自ら絶っていた。
彼らにとって神は絶対であり、全てなのだ。

( ・∀・)「......どうして」

もう、この呟きも何度目か分からない。
だが、呟いてしまう。
この沸き上がる感情をどうすれば、何処にぶつければ良いのか分からない。
だから、教えてくれと。
何故こうなったのか、そしてこの感情のぶつけ先を。

放送は続き、泣き声も途切れることはない。
導きを失った彼らは、今はただ泣くことしか出来ないのだから。

593名無しさん:2023/09/02(土) 18:52:33 ID:HBIJijrw0
ルナイファ帝国 東方基地
1463年3月9日

(´<_` )「......アニジャ達の安否は、未だ不明、か」

ルナイファ帝国の東側、対ソーサクを考えられ作られたその基地にオトジャはいた。
あの南方での戦いの際、攻撃に直撃するギリギリでなんとか転移魔法が発動し、飛ばされた先がここであった。
ここに飛んできたのには勿論理由がある。

東の強敵、対ソーサクを意識して作られているため、艦の修理や補給を行うための設備がルナイファのなかでも特に優れていること、また南方が敵に奪われた根性、召喚地方面へ再度出撃が必要となった場合に最も動きやすいことが理由として挙げられる。

とはいえ、艦への被害が酷いものも多いためすぐには動けそうもなければ、あんな化け物ともう戦いたくないと精神を病んでしまう兵士まで出ているのだ。
先の戦いの際、次はと言ったものの誰もが本音ではもうあんな戦いは御免であった。

594名無しさん:2023/09/02(土) 18:53:50 ID:HBIJijrw0
無論、オトジャもあんな敵と再度戦うことは避けたい限りではあるが、敵が侵攻してきてこちらが兵士である以上、なにもしないわけにもいかないだろう。
そしてもし、アニジャが敵に討たれているのだとしたら―

(´<_` )「......ここで、止まれるわけがない」

決して怒りに身を任せるようなことをするつもりはない。
だが、それでも全て受け入れられるはずもない。
もしもの時、その時の覚悟は出来ている。

とはいえ、そんなときが来なければ、アニジャが無事でいてくれればと祈るばかりである。

(・∀ ・)「......少し、よろしいですか?」

その時、不意に声を掛けられる。
はっと顔を上げるとそこにはマタンキがいた。
彼もまた、あの敵にやられここに撤退してきたものの一人である。
ムー奪還作戦の際に敵に一撃を与えて動揺した隙に撤退出来た、数少ない生き残り。
同じ敵を知るもの同士と何かと話をする、不思議な縁が出来つつあるような関係であった。

595名無しさん:2023/09/02(土) 18:54:30 ID:HBIJijrw0
(´<_` )「あぁ、マタンキさん。えっと、なんでしょうか」

(・∀ ・)「いえ、艦のことで相談がありまして。実は私にプギャー様からの命令が入ったのです」

(´<_` )「プギャー様から?」

その言葉にオトジャは猛烈に嫌な予感がする。
そんなオトジャの様子に気づかないのか、マタンキは話を続けた。

(・∀ ・)「えぇ、近々艦が多数、必要になるやもしれないのです。それも、召喚艦が」

(´<_` )「召喚艦?......ワイバーンでどうにかなる相手ではないと思いますが」

(・∀ ・)「プギャー様からの命令ですのでそこについては私は知りませんな」

(´<_` )「......そうですか」

596名無しさん:2023/09/02(土) 18:55:21 ID:HBIJijrw0
マタンキは言ってしまえば、ある意味でこの国の最も軍人らしい考え方を持つ者ともいえるであろう。
エルフのプライド、そしてルナイファのプライドを第一に考えつつ、自らの利益のために動く一方で国を守るためという考えなど持ち合わせていない。
事実彼は、ムーではプライド第一に無理な特攻を仕掛けたくせに、自身だけは一撃を与えてプライドを守ることに成功したからと上陸した味方の支援もせず撤退してきたのだ。

今回についても恐らくはプギャーから何かしらの報奨や裏金を貰っているのであろう。
だからこそあんな無能の命令をこんな大惨事ともいえる事態に陥った今でも、特に反対や意見をすることもなく行おうとしている。
あんな無能を祭り上げてどうするんだとオトジャは心の中で呟きつつも、それは決して表に出さずに小さく頷く。

(´<_` )「上からの指示ならば、仕方ありませんな。艦の整備を優先させてほしいと言うことでしょう?」

(・∀ ・)「えぇ、そうなります」

597名無しさん:2023/09/02(土) 18:56:04 ID:HBIJijrw0
(´<_` )「分かりました。まあ元より、こちらは再度出撃できる見通しは立っておりませんから問題ありません」

(・∀ ・)「そうでしたか。ならば良かった」

では、そういうことでとマタンキは整備順の指示に向かうのだろう、オトジャから離れていく。
その後ろ姿を眺めつつ、オトジャは考える。

―この指示、一体何が目的なのか。

海戦で敵に勝つことはほぼ不可能であると、流石のプギャーも分かっているはずである。
だがそれでも多数のコストがかかる召喚艦の整備を、それも至急取り掛からせるとは何を狙っているのか全く分からない。

598名無しさん:2023/09/02(土) 18:56:34 ID:HBIJijrw0
そもそも海軍として崩壊寸前のところだというのに、これ以上、何をしろと言うのか。

拭えない嫌な予感。
それは決して消えることない。

(´<_` )「アニジャなら......分かるのだろうな」

自分より優秀な兄。
今何処に、そして無事かも分からないその名を呼ぶ。
何時もならば、問いかければすぐに答えてくれる彼は、今はいない。

何一つ明るい兆しがないのである。
それがオトジャの、そしてルナイファの現在であった。

599名無しさん:2023/09/02(土) 19:01:39 ID:HBIJijrw0
本日投下予定であった話がこちらです
この後に>>550-577が続く形となります
今回の話は私のミスで非常に分かりにくい形となってしまいましたが今後も読んでくださると嬉しいです
書き溜めが死にましたが頑張ります

600名無しさん:2023/09/03(日) 08:19:44 ID:qVLILsAk0
おつおつ!
こちらとしては2話分読めたから得でしかない
モナー怖いけど天才だな…

601名無しさん:2023/09/03(日) 16:57:13 ID:1cmrFcs20
乙津

602名無しさん:2023/09/03(日) 19:34:18 ID:m1AK2STU0
乙乙
ドクオの胃がついに限界を……
プギャー様の事を阿呆扱いする輩は許されませんねぇ

603名無しさん:2023/09/09(土) 12:25:05 ID:TsDhJ0GQ0
ルナイファ帝国 帝都
1463年3月22日

―天に仇なす人間を滅ぼせ。

そんなスローガンのもと、多くの志願兵が帝都に集まってきていた。
誰もが愛する国を守るため、侵略してきた野蛮な輩を叩き潰すと決意をし、ここに来ている。
その顔は誰もが怒りに満ち溢れ、すぐにでも戦いに出向こうとするものも少なくない。

さてそんな殺気に溢れる志願兵だが、その年齢層はとても広い。
かなりの年配のものからまだ学生であろう子供まで集まっているのだ。
通常であれば、兵が十分にいたルナイファでは不要な存在である。

ましてや魔法は個人の才能に左右されるのだ。
むやみやたらに集めたところで兵として役に立つものなど一握りだけであるため、試験などで不要なものは弾かれるのが普通である。
才能のないものも受け入れてしまうと、その分増えるコストを考えれば割に合わない。

604名無しさん:2023/09/09(土) 12:26:25 ID:TsDhJ0GQ0
しかし今は一人でも兵が欲しいのか、志願したもの全てが受け入れられる勢いである。
それほどまでに追い詰められている、ということなのだがそれに気付くものはいないのか、誰も気にする様子もなく、戦いに向けて訓練をし、来る日に備えていた。

そうして訓練を続けるものを見たものが、また一人と志願し兵が増え、またその志願したものに近いものが、まだ志願していないものを非国民だと後ろ指をさし噂することで、耐えきれなくなったものがまた一人として志願する。
そんな国家としてもはや末期に近い状態になりつつあるなか、また今日も一人の男が志願兵として、この帝都に現れていた。

( ^ω^)「......」

その男、ブーンは友が皆戦場に行き消息を絶ってしまった現在、彼の周りも、また彼自身もなぜ彼だけ戦いに赴いていないのかと考えていた。

605名無しさん:2023/09/09(土) 12:28:47 ID:TsDhJ0GQ0
元々戦場に行くことを反対していた親は相変わらず反対していた。
そのため本来であれば戦争などに参加せずに生活を送ることは不可能ではなかったはずである。
しかし彼自身が周りからの圧力、そして自分の考えに耐えきれなくなり、自分も戦うのだと、友のように国を救うために働くのだと家を飛び出しここに来たのだ。

( ^ω^)「......皆、見ててお」

これから、何をするのかは分からない。
だがこれでようやく、友に顔向けできる。
そんな安堵と共に、友を殺したかもしれない敵への怒りが沸々と沸き上がる。

―絶対に、殺してやる。

そんな黒い決意を胸に、ブーンは訓練の輪のなかに消えていった。

606名無しさん:2023/09/09(土) 12:29:34 ID:TsDhJ0GQ0
ムー国 迎賓館
1463年3月25日

交渉は、呆気ないほどスムーズに進行した。
あまりの拍子抜け具合にフィレンクトは逆になにか罠なのではないかと感じたほどであった。

確かに初めて人間たちと顔を合わせた際は丁寧な対応をされたものの、そこに隠れていた敵意に近い、恨みのような感情が空気で伝わってきていた。
それに対しフィレンクトは、ルナイファとは関係無いとは言え、同じエルフとして謝罪し、頭を下げた。

その行動が良かったのか、頭を下げた瞬間、険悪であった空気が一気に変わっていた。

エルフにもこんなにも話ができるものがいるのか―

そう暗に言われているようにも感じられ、フィレンクトはあまりの恥ずかしさ、そして情けなさに顔から火が吹き出るのではないかという思いであった。

607名無しさん:2023/09/09(土) 12:30:51 ID:TsDhJ0GQ0
野蛮だ、蛮族だと言っていた相手に対し、こちらがそのように思われおり、またそれにも関わらずこの人間たちはこちらを丁寧に扱おうとしてくれていたのだ。
このようにするのが文明のある、知性のある生物だと言わんばかりのその姿に悔しいがフィレンクトは相手の方が優れた考え方を持っていると認めざるを得なかった。

さらに付け加えるならば、まともな外交を出来たことも衝撃的であると同時にまたもや情けない気分にさせた。
この世界の国々の大国を見れば、暴君であり交渉の手段を戦争と脅迫しかしらないようなルナイファ、鎖国し築き上げた魔法技術の高さに比例するようなプライドを持つためにまともに話ができないソーサク、法書なるもののお告げならば自国より強い国とすら戦争をするような狂人の集まりのアリベシ。
まともな大国と言えばヴィップ位のものであり、対等でまともな交渉ができるのもこの国くらいのものである。

そんな中、自国よりも明らかに強力であり、かつこちらに恨みがあるであろう人間達は対等な立場での外交を望んだのだ。

608名無しさん:2023/09/09(土) 12:31:26 ID:TsDhJ0GQ0
勿論、互いに譲れないものなどでの牽制等もあったが、これこそまともな外交だとフィレンクトは歓喜した。
持ちあったカードを切り合い、相手の要求、そして妥協点を見極め、より良い条件を引き出し合う。

力ではなく、頭脳と言葉による戦争。
本来あるべき世界の姿がここにあるとすら、フィレンクトは感じていた。

(‘_L’)「......良かった」

気づけばフィレンクトはそうポツリと呟いていた。
それはまちがいなく本心であった。
シラヒーゲがこの国と接触し、また友好的に交流しようとしたこともそうであるし、このようにまともでかつ優秀な者と互いに言葉を尽くし合えたことが幸せであった。
自分の力を遺憾なく発揮できる機会に、ようやく巡り合うことが出来たのだ。

609名無しさん:2023/09/09(土) 12:32:19 ID:TsDhJ0GQ0
とはいえ、懸念点もある。
今回の交渉を通じて理解したが、相手はフィレンクトよりも遥かに経験が上であるということ。
このような対等な立場での交渉に長けているのだ。
対しフィレンクトはというと、そもそも交渉できるような相手がいないのだから経験の積みようがない。

そのため交渉はスムーズに進んだのはいいものの、相手にほぼ常にイニシアチブを握られていたのだ。
一応、納得できるような条件を引き出せてはいたものの、今後の事を考えればこのまま主導権を奪われることは好ましくない。

だからこそ、フィレンクトは最後のカードを切った。
彼が考えうる限りで最も人間たちが欲しがっているであろう、そのカードを。

610名無しさん:2023/09/09(土) 12:33:33 ID:TsDhJ0GQ0
(‘_L’)「......陛下」

そうして彼は魔信をかける。
全ての交渉がまとまったこと、そうして決まった事を伝えるために。

(‘_L’)「予想通りの結果となりました。相手も恐らく、想定していたのでしょう。また『えいせい』なるものでこちらの動きも見られていたらしく、かなり行動が早かったです。えぇ......予想以上に、手強いです」

その報告に魔信の先のシラヒーゲも喜びの声を挙げる。
全て、自分達の理想通りの展開となっているのだから、当然だろう。

(‘_L’)「ですが......彼等は味方となってくれました。そして我が国は、事前にお伝えしたとおりに......」

世界は、更なる変化の時を迎えていた。

611名無しさん:2023/09/09(土) 12:34:12 ID:TsDhJ0GQ0
アリベシ法書国 北方難民キャンプ
1463年3月28日

(# ・∀・)「悪魔が逃げたぞっ!追えっ!!」

民たちの怒りが、限界を迎えてしまった。

絶対であるはずの神の御告げを聞き、その意思に従ってきたはずであった。
全ては正しい道を進んできたはずなのだ。
それが一体どこで間違えたのか、幸福になるどころか国は疲弊し、多くのものを失ってしまったのだ。

しかし、神が示す道がこのような結末を迎えるはずがない。
神は完璧であり、そして示される道もまた完璧なのだから。

612名無しさん:2023/09/09(土) 12:35:22 ID:TsDhJ0GQ0
ではなぜ、こんなことになったのか。

様々な考えが生まれては、耐えられない考えは切り捨てるか、はたまた本当に耐えきれなくなり自殺するものも現れ、そうしてようやくひとつの考えにまとまろうとしていた。

―何者かが、神の意思を妨害したのだと。

アリベシの民はその考えに至ると、何故こんな簡単なことに気付かなかったのかと狼狽した。
神は完璧なのだから、もし間違いが起きたのだとしたらそれは間違いなく、それを阻止しようとしたもの達がいたのだと。

そうなると次の疑問が浮かんでくる。
一体誰が、どうやって自分達を妨害したのか。

その問に対する、アリベシの民の答えはひどく単純で、そして酷いものであった。

自分達の中に神へ反逆する者たちがいる。
そしてそれらは自分達を邪魔する、悪魔の手先なのだ、と。

613名無しさん:2023/09/09(土) 12:36:52 ID:TsDhJ0GQ0
(# ・∀・)「見つけたぞ!異端者だっ!!」

そうして始まったのは、異端審問。
少しでも疑わしいものがいれば、どれだけ親しい仲であっても、戦争で苦楽を共にした相手でも迷わず捕らえる。
国民皆がお互いに疑い合い、捕まえ合い、そして―

(# ・∀・)「吊るせっ!吊るせっ!こいつらのせいで、国が、神が冒涜されたんだっ!!」

命を、奪い合っていた。
もはや国は暴走状態に、いや国として呼べるか分からないほどの無法地帯となり、荒れていた。
だがそんな状態でも皆の心は不思議とひとつであった。

それは、神への忠誠心。
誰もが神のため、正しい事をしていると信じて疑わない。
だからこそ誰も止まるはずもなく、いるかも分からない悪魔を探すため、異端審問は続いていく。

614名無しさん:2023/09/09(土) 12:38:13 ID:TsDhJ0GQ0
戦勝国であるヴィップも、ここまで荒れ狂った国の面倒を見きれるはずもない。
またアリベシが大国であったために物理的にも支配しきることが不可能であり、さらに得られるリターンが少なすぎるため、勝手に自滅し再び攻め込んでこなくなるならとそのまま放置する方針で固まりつつあった。

とはいえ、今後完全に国として崩壊したときに大陸の情勢を考えればなにかしらの対策はしなくてはと頭を抱えることになっているのだが、簡単に解決できることでなく、そして現時点でなにもできないことに変わりはない。

ゆえにもう彼らを止められるものはなにもなく、狂気はさらに増していく。
そして怒りは未だ収まる様子はなく、それどころか加速度的に増幅されているようにも感じられる。

狂った者達は、もう止まれないところまで来てしまっていた。

615名無しさん:2023/09/09(土) 12:39:40 ID:TsDhJ0GQ0
『......なぁ、あの噂、知ってるか?』

( ・∀・)「......うん?」

『法書についての噂なんだがな』

( ・∀・)「なんだそれ?」

そんなところに、見知らぬ者たちからのとある噂が飛び込んでくる。
情報源すら怪しい情報。
しかしそれすら、もう誰も疑うことなく、理性ではなく感情で突き進んでいく。

狂気は、さらに加速する。

616名無しさん:2023/09/09(土) 12:40:14 ID:TsDhJ0GQ0
ルナイファ帝国 デミタス宅

この日、デミタスは自宅で仕事をしていた。
陛下から任された任を果たすべく、もう何日も部屋に引きこもり、仕事を続けている。
誰にも邪魔はされたくないと、わざわざ一人になれる自宅に籠って作業を進めていた。

そんな彼が今やっているのは多大な被害を受けた海軍の情報を改めて整理し、今後どのように動くべきかを再検討するため、見たことないほどに積み上がった書類に目を通し、熟考することであった。
それらを読めば読むほどいかに無謀な戦いをしてきたかを再認識させられる。

一体どれだけの金と時間をつぎ込めば元の状態に戻せるのか分からなくなるほどの酷い有り様であった。

617名無しさん:2023/09/09(土) 12:41:24 ID:TsDhJ0GQ0
(;´・_ゝ・`)「......うーむ」

そうして問題になるのは、今後海軍を復興である。
広大すぎる自国を守るには、大量の艦が必要不可欠。
だがそんなものを急に用意できるはずもない。
さらにはそんな資金も無から沸いてくるはずもない。
むしろ降伏のために多額の賠償として資源やらを渡すことになるであろうことから再建への道は厳しいと言わざるを得ない。

また相手側がこちらを危険と考え、軍事力に規制を掛けてくることも十分に考えられる。
流石に国として崩壊することになればルナイファが存在するこの大陸どころか世界全てが混乱することとなり、賠償どころではなくなる。
そのため、混乱を防ぐためにも自国を最低限統治できるだけの力は持たせてはくれるだろう。

しかしその程度の戦力だけでも準備するのには時間はかかるし、なによりこれまでの政策上、周囲に敵国が多すぎるため最低限の戦力では不安は潰えない。

618名無しさん:2023/09/09(土) 12:43:12 ID:TsDhJ0GQ0
(´・_ゝ・`)「やはり......土地を渡して奴らの軍を、我が国に入れるしかないか」

他国の軍を、自国に入れる。
それはもはや土地を明け渡し、居座るのを容認することに等しい。
下手をすれば永久にその土地を他国に明け渡すことになり、かつこの大陸への足掛かりとなるため、常に首元に武器を突き付けられるようなものである。
基地を作ることになれば恐らく治外法権や軍事費の負担などを認めることになることも予測され、自国にとって相当苦しいものとなることは間違いない。

だがその代わりに、あれほどの力を持つ戦力がこの国にあると示すことができるため、むやみやたらに攻め込まれることもないであろう。
苦渋の選択とはいえ、ただでさえ混乱が予測される戦後、自国の外のことなど考える余裕がないであろうことから他に選択肢等ないのだ。

619名無しさん:2023/09/09(土) 12:44:29 ID:TsDhJ0GQ0
(´・_ゝ・`)「......」

もう何度目か分からないため息をつきつつ、再度資料に視線を戻す。
考えても考えても、明るい未来など見えることがない。
だが、目を閉じてもその未来が変わることない。
ならば目を反らすわけにはいかないのだと、資料を黙々と読み進めていく。

(´・_ゝ・`)「......うん?」

そうしてかなりの時間が経った頃、ある資料でピタリと手が止まる。
それは最近の艦隊の動きに関する報告であった。

(´・_ゝ・`)「召喚艦が、なぜ東方に集められている?」

そんな指示を出した覚えはない。
勿論、現場の兵が勝手に動かすにしても規模が大きすぎるため、その可能性もないだろう。

620名無しさん:2023/09/09(土) 12:45:29 ID:TsDhJ0GQ0
そうなれば可能性は一つ。
艦隊を動かせるほどの力を持つものが、自分の知らないところで動いている。

(´・_ゝ・`)(......プギャーか?)

そしてその条件に合うもので心当たりと言えばプギャー、ただ一人である。
軍のトップでかつ多くのコネを持つプギャーであれば、不可能ではない。

だがそうなると、問題が一つ浮かんでくる。

―なぜ、隠してまでこんな行動をしている?

明らかに何かを狙った行動。
目的がないということは、まずあり得ない。

では一体なぜ、召喚艦などを使うのか。

プギャーとて、ワイバーンをいくら召喚したところで人間達に勝てないことくらいは分かっているはずである。
これまでの戦いで一切、役に立っていないのだ。
今更、どんな価値を見出だしたというのか。

621名無しさん:2023/09/09(土) 12:46:14 ID:TsDhJ0GQ0
(´・_ゝ・`)(......む?)

そうしてしばらく考えていると、ふとなにかが引っ掛かる。
召喚。
その言葉に、記憶の中でなにかが警告をならしていた。

それは、一体何故なのか。

(´・_ゝ・`)(......)

考える。
深く、深く。

記憶の奥底を探る。
そうして何度も、何度も繰り返し召喚に関わる物事の全てを思い出そうとしていた。

(;´・_ゝ・`)「......あっ!?」

そうして、ひとつだけ。
可能性が頭によぎる。
召喚を用いた、ある魔法。

ロマネスクから教えられた、新魔法ー

622名無しさん:2023/09/09(土) 12:48:29 ID:TsDhJ0GQ0
その考えが頭に浮かんだ瞬間、デミタスの額に一瞬で汗が吹き出す。
あり得ない、あり得てはいけないとその考えを否定しようとしても、あのプギャーならばやりかねないのではという考えに、否定しきることができない。

(;´・_ゝ・`)「すぐにでも、止めなければ―」

ガタッ―

(;´・_ゝ・`)「......え?」

椅子から立ち上がった、その瞬間であった。
部屋に物が動く音が、二つ響く。

一つは勿論、椅子の音。
勢いよく立ち上がったのだから、当然であろう。

623名無しさん:2023/09/09(土) 12:49:51 ID:TsDhJ0GQ0
では、もう一つは何か。

その音は、デミタスの背後からであった。
だがそれは椅子の動く音ではない。
しかし他に動くものなど、あるはずがない。
今、この家にはデミタス一人だけであり、他にものが動くことなど、あり得るはずがないのだ。

では一体、何が―

そんな疑問を頭に浮かべ、振り返る。

(;´・_ゝ・`)「なー」

刹那、黒いローブを着た何者かが眼前まで迫ってきていた。
何者なのか、そして一体何事なのか。

そんな疑問を口にする暇もなく。
首元に冷たい何かが触れた、そう感じたのを最後に。

部屋は、朱に染まっていた。

624名無しさん:2023/09/09(土) 12:51:16 ID:TsDhJ0GQ0
続く

625名無しさん:2023/09/09(土) 20:26:45 ID:buw2gsg20
プギャー!なんてことを!

626名無しさん:2023/09/10(日) 08:16:58 ID:ySnZZUEI0
おつ
プギャーさん思ったよりもとんでもないこと仕出かしそうだな…
協議すらせず仲間暗殺する(推定)とかイカれてんな

627名無しさん:2023/09/11(月) 16:21:16 ID:2UYCnCiw0
乙です

628名無しさん:2023/09/16(土) 08:19:57 ID:FLHtAlFk0
アリベシ法書国 国立図書館
1463年3月29日

狂気にのまれた者たちがこの国の中心ともいえる場所に足を踏み入れようとしていた。
この国の未来を指し示す法書が眠るとされるここ、国立図書館には多くの者で溢れていた。

ここに集まった理由はただひとつ。
とある可能性が皆の頭によぎったからである。
法書の内容は読み手と呼ばれる者がおり、その読み手が法書の御告げを読み解き、それを皆に伝えられる。
そう、読み手以外誰も法書の正しい内容を直接知るものはいないのだ。

だからこそ、皆は考えたのだ。
今回のこの惨事の原因は、この読み手が神の御告げをねじ曲げたか、読み解き間違えたからなのではないかと。

629名無しさん:2023/09/16(土) 08:20:50 ID:FLHtAlFk0
誰が最初に言い始めたかは定かではない。
根拠なんてまるでない、ただのふとした思い付きであったかもしれない。
だがいつしかそれは真実として広まり、このような事態を引き起こしたのだ。

それでも最初は、図書館の周囲に集まり言葉とは思えないような雑音を叫び、喚き散らすのみであった。
誰もがこの法書のある場所は神聖なものであり、無闇に荒らすことが憚られたからである。

しかし、それも時間の問題であった。
どうにか暴徒とかした者たちを帰らせようとしていた図書館の者が軽く押し返したのだ。
ほんの、軽くである。

だが不意をつかれたのか押されたものはそのまま後ろに倒れ込み、周囲の者に支えられる。
そしてそれを見ていた誰かがこういった。

―遂に手を出してきやがった!

630名無しさん:2023/09/16(土) 08:22:11 ID:FLHtAlFk0
それをどう解釈したのか、聞いたもの達はやり返そうとばかりに前に出て暴力を振るい出す。
そしてそれを見たものも暴力を振るい出し、止めようとするために暴力を振るわれ、やり返すためにさらに暴力を振るう。

一度始まったら、もう止まらない。
暴力は伝播し、神聖であったその土地は血で汚されていく。
いつしか魔法すら使うものも出始め、その光景は戦場のようであった。

死人まで出るほどの騒ぎになり、最早終息は不可能になったと思われたその瞬間であった。

辺りに絶叫が響きわたる。
その声の主はいつの間にか図書館の中にまでなだれ込んでいた一人のエルフ。
これまでも数えきれないほどの悲鳴はあったため、特別有名でもないその存在の声を多くの者は気にしていなかった。

だが、それに続く言葉を耳にし愕然とすることとなる。

―法書が、書き換えられている!!

631名無しさん:2023/09/16(土) 08:22:44 ID:FLHtAlFk0
ルナイファ帝国 テタレス南方平野
1463年3月30日

ルナイファ帝国第二の都市であるテタレスの南方には平坦な平野が広がっている。
遮るものがなにもなく、一面に広がる緑の光景はこの国の中でも有数の絶景と言えるスポットである。

だがそんな平野には今、多くの兵や兵器で埋め尽くされていた。

簡易的な拠点として立てられたテントの中ではこれから始まるであろう戦いに備え、話し合いが進められている。
だがその顔はまだ戦いの前だというのに皆一様に暗いものであった。

( ^ν^)「それで、どうすんだこれ」

(; ,,^Д^)「どうするもこうするも......全軍で突撃するしか手はないのでは?」

(# ^ν^)「そんなことしたって俺達が死ぬだけじゃねぇか!!」

632名無しさん:2023/09/16(土) 08:23:51 ID:FLHtAlFk0
ダンッという、鈍い音がテントの中に響く。
机に叩きつけられた拳は赤く染まり、血が滲んでいた。
だがそんなことを気にする様子もなく、話を続けていく。

(# ^ν^)「くそっ......ここを死守しろってどうすればいいんだ!勝てねぇ相手に!!」

(; ,,^Д^)「お、落ち着いてください!周りに聞かれれば下手すれば反逆者になりますよ!?」

( ^ν^)「はっ、むしろ聞かせた方がいいんじゃないか?」

(; ,,^Д^)「は?」

( ^ν^)「今ここにいるやつがどんな状況か分かってるのか?元々テタレスにいたやつらは敵の強さに怯え、使い物にならない。使えるのと言ったら現状を全く理解できてない北方から援軍としてきたバカ共と、ろくに訓練もしてない無駄にやる気だけある一般のバカだ」

(; ,,^Д^)「......現実を理解していないものが多いことは承知しています。ですが、そんな言い方は」

( ^ν^)「おいおい、てめぇ本当に分かってるのか?自分の命が、そんな奴らにかかってるんだぞ?俺は御免だね」

(; ,,^Д^)「それは......」

633名無しさん:2023/09/16(土) 08:24:25 ID:FLHtAlFk0
(`・ω・´)「そこまでにしておけ。今は、目の前の問題をどうするか、だ」

これまで黙っていた一人の男が口を開き、二人の会話を遮る。
その男の声に二人共、どこか険悪な雰囲気は残しつつも口を閉じる。
そんな二人の様子にため息をつきつつもその男、シャキンは話を続けた。

(`・ω・´)「敵は空からの攻撃が可能であり、その威力は基地を壊滅させるほど。さらに空から兵を送り込むことも可能だという」

( ,,^Д^)「......凄まじい攻撃能力と機動力を持つ、というわけですか」

(`・ω・´)「そうだ。そして我々は根本的にそれを封じる策は持っていない」

( ^ν^)「とは言っても結局地上を侵略するなら陸上戦力は欠かせない。ってなると空は捨て、それらを狙うしかないでしょ」

(# ,,^Д^)「おいニュッ!お前上官にそんな口調でっ!」

(`・ω・´)「いい。時間もない、いちいちこんなことで仲間を失うわけにもいかん......それにこんなやつだと言うことは元から分かっていたことだろう」

( ^ν^)「......」

(# ,,^Д^)「......っち!」

634名無しさん:2023/09/16(土) 08:25:23 ID:FLHtAlFk0
(;`・ω・´)「ふぅ......続けるぞ?作戦についてはニュッの言う通り、陸上戦力を狙い、敵の侵攻を防ぐ、いや敵の足を止めさせることだ」

そう言いつつ、シャキンは机の上に地図を広げる。
そのうちの一ヶ所を指差し、なぞりつつ言葉を続ける。

(`・ω・´)「皆もわかっていると思うが、ここの平野はテタレスに通じ、またそのまま北上すればいずれ帝都に辿り着く」

( ,,^Д^)「簡単に敵に渡すわけにはいかない、と言うわけですね」

(`・ω・´)「そうだ。少なくとも現在進められている北方戦力から帝都南方の要塞周辺への戦力移動が済むまでは時間を稼ぐ必要がある」

( ^ν^)「......時間稼ぎ、ねぇ」

(`・ω・´)「なんだ?」

( ^ν^)「いや、確かに時間さえあれば数は集まるかもしれないけどさ、それで勝てんの?って話よね」

(`・ω・´)「......」

(# ,,^Д^)「おいっ、だからいい加減にっ!」

(`・ω・´)「......勝てんだろうな」

(; ,,^Д^)「っ!?」

635名無しさん:2023/09/16(土) 08:26:04 ID:FLHtAlFk0
怒りの言葉を放とうとしたところに、信じられない言葉が聞こえ、思わず言葉に詰まる。
思わず、といった雰囲気でその言葉の主を見つめ、固まってしまう。
タカラには一体どう言うことなのか、瞬時に理解できなかったのだ。

( ^ν^)「......なら本音で話そうぜ。ここには俺らしかいねぇんだ。時間稼ぎしたいのは分かった。だが勝てないのにやる意味はねぇ。だとすれば何のためだ?」

(`・ω・´)「......ふむ、そうだな。分かった。話そう。勿論、ここだけの話にしてくれ」

(; ,,^Д^)「シャキン様?」

(`・ω・´)「現在、陛下やロマネスク様が降伏に向けて動いている」

(; ,,^Д^)「なっ!!?ど、どう......むぐぅ!?」

( ^ν^)「声がでけぇ。ここだけの話って聞こえなかったのか?」

(; ,,^Д^)「む、ぐぅ......」

636名無しさん:2023/09/16(土) 08:27:47 ID:FLHtAlFk0
タカラの口を押さえ、ジロリと睨み付ける。
そしてタカラがその言葉に大人しくなった事を確認するとニュッは手を放し、シャキンに向き直る。

( ^ν^)「なるほどね。相手さんと話が出来るまでの時間稼ぎ、ってわけか。帝都が落ちたら話し合いも糞もないもんな」

(`・ω・´)「そういうことだ」

( ^ν^)「なるほど、納得した。それならまぁ、仕方ねぇか」

(; ,,^Д^)「......」

( ^ν^)「なんだ?お前は納得してないのか?」

(; ,,^Д^)「納得は......分かりません。ですが、やるしかないのでしょう?」

(`・ω・´)「そうだ。ここを死守せよ、という命令もあるわけだしな」

( ,,^Д^)「命令......了解、いたしました」

637名無しさん:2023/09/16(土) 08:29:46 ID:ePN3KLfM0
(`・ω・´)「うむ。では二人には奇襲部隊として動いて貰うことになる」

( ,,^Д^)「奇襲、ですか?ここには隠れる場所もなければ、隠蔽魔法を使うための陣の用意も出来ていませんが......」

(`・ω・´)「そうではない。攻撃は地中からだ。君達はこの地点で.....」

そうして作戦に向けた準備が進められていく。
気づけばもう夜遅く、辺りが闇で支配されていた。
そろそろ休もうかと、三人が考え出したその時、静寂を切り裂くように声が響きわたった。

『っ!ほ、報告!!』

(`・ω・´)「む?」

『斥候部隊より魔信あり!敵が、遂に行動を開始しました!!』

(`・ω・´)「......来たか」

それは、戦いがすぐそこまで迫ってきていることを意味していた。

638名無しさん:2023/09/16(土) 08:30:28 ID:ePN3KLfM0
ルナイファ帝国 軍務省

( ^Д^)「そうか!上手くいったか!」

その日、プギャーは部下からの報告を受け上機嫌であった。
かねてより考えていた計画。
憎き召喚された人間達を滅ぼすためのものであったが、これを実行するためにはどうしても障害があったのだ。

それは軍を動かす都合上、降伏派であるデミタスがそれを察知し、妨害することであった。
そのためこの障害を取り除くことが何よりも最優先されていたのである。

そんなときに都合よく、デミタスは自宅へ引きこもり仕事をしているという。
これならば存在を消してもすぐには気付かれず、計画を実行するまでに問題は起こらないだろうと、暗殺を命じていたのだ。

639名無しさん:2023/09/16(土) 08:31:23 ID:ePN3KLfM0
( ^Д^)「これでもう、邪魔者はいなくなった。後は、実行するのみか」

そう呟くと、プギャーは魔信を握りしめ、会話を始める。
その相手は、この国の東方にある軍港であった。

( ^Д^)「マタンキか。そちらの準備はどうだ?」

『プギャー様!はっ、こちらの整備は完了しいつでも行動できます!』

( ^Д^)「そうかっ!ふふふ......ではすぐにでも出港せよ。いいな?」

『はっ!畏まりました!......それで、あの、約束の件は......』

( ^Д^)「分かっているとも。戦う必要はないが危険な任務だ。君には特別な報奨を与えることを約束しよう」

『あっ、ありがたき幸せ!!』

( ^Д^)「よし。では確実に成功させよ。その艦の魔法を発動させるだけで良いからな」

『それは......分かりましたが、この魔法は一体?見たことのない魔法陣で......新魔法というのは、派遣されてきた魔術師から聞いているのですが』

( ^Д^)「......それを知る必要はない。いいな?貴様の任務はただ一つ、確実にその魔法を発動させよ。以上だ」

その言葉を最後に、一方的に通信を終了する。
魔信の向こうから何かを言いたげな雰囲気はあったもののそれを無視し、プギャーは一人、ほくそ笑む。

640名無しさん:2023/09/16(土) 08:31:51 ID:ePN3KLfM0
( ^Д^)(よし、よし!全てが順調だ。これで、あの調子に乗った人間共を滅ぼせる!我々、エルフの勝利だ!!ルナイファは未来永劫、奴らを滅ぼした偉大な国として讃えられることになるだろう!!)

全て、自分の思い通りに進んでいることにこれまでの鬱憤全てが晴れたかのような清々しい気分であった。
敗北に敗北を重ね、信じた国からは裏切られたのだ。
だがそれも遂に報われるときが来た。
それも、自分の手で引き寄せたと思えばなんと誇らしいことか。

この国難、否世界の危機を、自らの手で救い出したという達成感。
まだ成し遂げたとは言えないものの、それでも確かな手応えに彼はもう全てを成功させたかのように笑っていた。

そうして祝杯でも挙げようかと、秘蔵の酒を棚から取り出そうと棚を漁ろうとしていると、何やら慌てたような足音が聞こえ出す。
その音に思わずプギャーは顔をしかめた。

641名無しさん:2023/09/16(土) 08:32:20 ID:ePN3KLfM0
この戦争が始まってからこの足音が聞こえてから報告されることに、良いことなど一つもなかったからである。
どうかこちらに来るなと念ずるものの、その願いは儚く散り、すぐさま部屋の扉が大きな音と共に開け放たれた。

(;*゚ー゚)「プギャー様!一大事です!!」

(# ^Д^)「......なんだ!?全くっ」

先ほどまでの気分が嘘のように、苛立った声でプギャーは返事をする。
だが部屋に飛び込んできたシィはそれに気付いていないのか、もしくはもうとっくに慣れてしまったのか、気にする様子はない。

(;*゚ー゚)「南方の前線から、報告がはいりました!」

(# ^Д^)「前線から?......なるほど」

その言葉で、プギャーも理解する。
遂に敵が動き出したのだと。

642名無しさん:2023/09/16(土) 08:32:57 ID:ePN3KLfM0
これまで人間側は侵攻の準備と合わせて再度の降伏勧告を行っていたからか少しの間、大規模な侵攻はなく、あっても偵察や小規模の衝突程度の動きであった。
そのためこのまま回答を引き延ばし、こちらの作戦が終わるまで静かにしていることが最も望ましい状況であったが、どうやらそこまで上手く事は運ばないようだと小さく舌打ちする。

(# ^Д^)「遂にやつらが動き出した、というわけだな?」

(;*゚ー゚)「は、はい。最前線は既に敵の攻勢を前に壊滅状態とのことで......部隊は後退し、どうにか立て直しを図っているとのこと」

(# ^Д^)「なっ!?ぐ、むぅ......」

だが事が上手く運ばないどころではないということが伝えられ、流石にプギャーも動揺する。
いくら計画があろうとも、国が持ちこたえられなければその時点で全てが無に帰すのだ。
どうにか、少しでも時間を稼がなければ本当にこの国は終わってしまう。

643名無しさん:2023/09/16(土) 08:34:20 ID:ePN3KLfM0
(# ^Д^)「まだ部隊はあるのだろう?わざわざ北方から戦力を引き抜いて集めたのだ!まさか戦えないとは言わないだろう!?」

(;*゚ー゚)「は、はい!それは勿論です!まだ被害も最前線のみであり、部隊としては十分控えています......しかし、それだけではないのです!」

( ^Д^)「......なんだ?」

まるでこれからが本番と言わんばかりに声を張り上げるシィに、プギャーも思わず冷静になる。
だがただでさえひどい報告だというのに、これ以上あるわけないというのが本音なのだが、シィの口から出た報告は、簡単にこれまでの報告を上回る衝撃をプギャーに与える。

(;*゚ー゚)「ニータ及びニータ周辺国家が我が国に対し、宣戦布告......北方への侵攻を、開始しました!」

( ^Д^)「は?」

(;*゚ー゚)「戦力を南部へ移した影響で戦況は既に絶望的とのこと!」

(; ^Д^)「......なんだとぉお!!?」

プギャーに、ルナイファに、そして世界に。
衝撃が走る。

644名無しさん:2023/09/16(土) 08:34:54 ID:ePN3KLfM0
続く
お祭り頑張る

645名無しさん:2023/09/16(土) 09:55:58 ID:g11EFGPQ0
乙乙
ルイナファ苦境が続くな
祭りに参加するのか!楽しみ!!

646名無しさん:2023/09/16(土) 12:47:06 ID:9RCIgxkc0
乙です

647名無しさん:2023/09/18(月) 15:29:08 ID:86WHYXWg0
おつ!
これもうプギャーの首一つじゃ足りんだろ…
こうなったら人間ももうルナイファとは講和しないのかな

648名無しさん:2023/09/23(土) 11:13:47 ID:5kmg6OdI0
ニータ王国 王城
1463年4月1日

ニータ王国、及びその周辺国による宣戦布告。
世界は未だに動揺を隠しきれていない。

それもそのはずである。
この世界の列強と言われる国が、人間達と手を組んだのだ。
これまで人間の独立国家など、この世界になかった。
人間の国と言えばムーのように全てが属国であり、エルフの奴隷であった。

世界の常識ともいえるこの当たり前を、覆したのだ。
それもこの世界で影響力の大きい列強と呼ばれる国が、である。
ニータも各国に独立国家と認めるように働きかけも開始しており、列強が独立国家と認めた以上、その動きに戸惑いつつもつき従うものは多い。

649名無しさん:2023/09/23(土) 11:14:25 ID:5kmg6OdI0
そして極めつけは世界最強の国家への宣戦布告。
確かに多くの国がルナイファがダメージを受けていることは知っていた。
しかしそれでも世界最強の看板の効力は強く、逆らう事を考える国などありはしなかった。

だが、それをニータはしたのだ。

その動きから、人間達との繋がりがかなり強固であると言うのは誰の目から見ても明らかであった。

列強であるニータが、これほどまでに手を組みたがる相手とは一体どんな国なのか。
これまで怪情報として切り捨てられてきた人間達に関する情報がまさか本当のことなのではないか。
たった一日の出来事であるにも関わらず、混乱は世界中に広まっていく。

650名無しさん:2023/09/23(土) 11:14:59 ID:5kmg6OdI0
そして今日、さらに世界に衝撃を与える情報がニータにて生まれようとしていた。

( ´W`)「ほぅ!我が軍の勝利か!!」

シラヒーゲが歓喜の声を挙げ、その情報を聞いていた。
局地戦とはいえ、ニータ軍がルナイファとの戦闘を制し、国境近くの小さな街をひとつ、攻め落とすことに成功したのである。
ルナイファとニータには同じ列強といえども戦力の差は大きく、まともにやりあえば勝ち目などないというのが世界の認識である。

だが、それがどうか。
ただの一日のうちに、ルナイファの街を攻め落としたというのだ。
異常としか言い様がない。

651名無しさん:2023/09/23(土) 11:15:33 ID:5kmg6OdI0
こんなことになったのには理由がある。
その理由は勿論、ルナイファの南方に強大すぎる敵がいるからである。
その敵に対抗するために戦力が引き抜かれたために、北方の守りが甘くなっていたのである。

ルナイファとてその可能性を考えなかったわけではなかったが、自国の持つ最強という看板と周囲がこちらを畏怖しており牙などすっかり抜け落ちていると考えていた。
完全な、誤算であった。

対してニータは全てが上手くいきつつある。
これまでルナイファに一方的に苦しめられてきたことにより、今回の侵攻は大義名分があり、国際的にも心証は悪くない状態で堂々と領土の拡大を行える。
さらにいくら弱っているからと言っても敵は世界最強には変わりない。
その国に勝ったというのはとてつもなく大きな力を持つことになる。

そしてなによりこの戦いにより、人間達に恩を売ることができるのだ。
これが何よりも大きい。
いくら戦力差があるとはいえ、ルナイファは巨大過ぎるがゆえに一国のみで対処しきるのには無理がある。
そこにニータが介入することにより、彼の国を救う。
それも国難ともいえる状況で、手を貸すのだ。

652名無しさん:2023/09/23(土) 11:15:59 ID:5kmg6OdI0
見返りについては勿論、事前に話がついてはいるが助けたという事実は今後一生残り続ける。
彼の国の国民たちへの心証は確実によくなるであろう。
それは確実に将来、必ず役に立つ。
民同士の交流が生まれた時、この事実がこの国の発展へとつながっていく。

そう、シラヒーゲは確信する。

少し前まで全く見えなかった未来が、今ではこんなに明るく、色鮮やかに思い浮かべることが出来るようになるなど、奇跡としか言いようがない。

( ´W`)「ルナイファにとっては悪魔の化身なのだろうが......我らにとっては救いの神だな」

そしてそれをルナイファが呼び出したというのだから、世の中何が起こるかわからないものだと、シラヒーゲは小さく笑っていた。

653名無しさん:2023/09/23(土) 11:18:15 ID:5kmg6OdI0
ルナイファ帝国 テタレス南方平野
1463年4月2日

敵が進軍を始めてから三日。
そう、たったの三日である。

そうだというのに既に複数の街が落ちたという報告が飛び込んできたかと思えば、既に敵はもう目前まで迫っているという情報まで入ってきていた。

あまりの侵攻速度に皆が驚愕する。
街を攻め落とす速度もそうだが、単純に軍の移動する速度が自分達が知るそれを遥かに上回っている。

( ,,^Д^)「一週間はかかると思いましたが......まさかここまでとは」

( ^ν^)「それもこちらに集中してでもなく、周囲をやりつつとか......本当にこれ、時間稼ぎも出来るか、怪しいところだな」

(; ,,^Д^)「......命令された以上、やるしかないでしょう」

( ^ν^)「思考停止すんな馬鹿」

(; ,,^Д^)「なっ!」

654名無しさん:2023/09/23(土) 11:19:14 ID:5kmg6OdI0
( ^ν^)「命令されたからなんだ?ただ突撃するのか?命令は、時間稼ぎだろ。なにも考えず戦ってもその命令は果たせないぞ」

( ,,^Д^)「......なにか良い作戦があると?」

( ^ν^)「とりあえず、動くな、だ。少しでも奇襲の成功率を上げるためにも、こちらが気付かれる要因を減らしたい。外に出るのも禁止だ」

( ,,^Д^)「なる、ほど......ですがそれでうまく、行くでしょうか?敵はこちらを全て上回っていると聞きますが。探知能力も高ければ我々は......」

( ^ν^)「だからこそ、作戦を考えるんだろうが。可能性をわずかでも上げるために」

( ,,^Д^)「む」

( ^ν^)「まぁ、本音を言えば間違いなく撤退が一番現実的なんだがな......」

お通夜のような空気の中、ニュッの言葉にタカラは何かを言おうとするが言葉にならなかった。
タカラとて本音では同じ気持ちなのだ。
このままいけば自分達は死ぬことになるのだと、嫌でも理解出来てしまっているのだ。

655名無しさん:2023/09/23(土) 11:19:51 ID:5kmg6OdI0
( ,,^Д^)「......シャキン様は?」

( ^ν^)「後方の部隊に後退の許可を進言してるとよ。帝都前には要塞もあるし、そこまで部隊を下げてくれってな」

( ,,^Д^)「なるほど......それで、成果は?」

( ^ν^)「あったら俺達はここにいねぇ。そもそも時間稼ぎの部隊が後ろに下げられるわけないだろ」

( ,,^Д^)「そう、ですよね」

敵の進軍速度、またその強力さからこのままでは無為に戦力を潰すだけだと後退を進言したものの、答えは変わらず敵の部隊を引き留めろという無理難題であった。
後方の守りの準備が完璧ではないことも理由にあるのだろうが、それでもこの命令は明らかに現実を見ていないとしか前線の者たちには思えなかった。

最早士気は最悪であり、脱走兵も少なくない。
そこには自国を守るための誇り高き戦士などおらず、死刑宣告を待つ死刑囚のようである。
どうにかこの場に留まれているのも、これが運命なのだという、半ば諦めに近い感情によるものであった。

656名無しさん:2023/09/23(土) 11:21:06 ID:5kmg6OdI0
( ,,^Д^)「もうこうなれば、やれるだけやるしか......」

そう言いかけたその時、魔信から悲鳴のような声が届く。

『こ、こちら第三ゴーレム部隊!部隊は壊滅状態!!支援を、支援をぉ!!』

(; ,,^Д^)「なっ!?も、もうそんなところまで進軍を!?」

その報告の主はもうすぐそこと言える距離の部隊からであった。
敵の進軍スピードが異常であることは伝わっており、それをもとに何度も予測は修正してきたはずである。
にもかかわらず予想を遥かに超えるスピードで、敵はここに至ろうとしていることにタカラは愕然とする。

(; ^ν^)「......あー、覚悟をする暇もなさそうだな」

(; ,,^Д^)「部隊の位置と敵の速度からしてからして......時間はなさそうですね。どんなに遅くとも明日には、ここが死地になってしまう」

657名無しさん:2023/09/23(土) 11:21:35 ID:5kmg6OdI0
お通夜であった空気はさらに冷え込み、皆が身体を震わせる。
その報告を皮切りに近くの部隊から、多くの被害報告と救援要請が飛び込んでくる。

―死神。

誰かがそう呟くが、その表現は的を得ているように皆が感じられた。
奴らが訪れたところは、皆が死ぬ。
これを死神と呼ばず、何と呼ぶのか。

そして、そんな神にも等しい存在と敵対する自分達は何と愚かなんだとニュッは乾いた笑みを浮かべる。
勿論、それらに対して自分達に出来ることは何もない。
助けを求める声を聞いたところで助けられるはずもなく、ただ死にゆく仲間の最後の声が響く。
そんな地獄のような状況の中でただ、震えるしか出来ないのだ。

( ^ν^)「......戦闘準備だ。急げ」

そのニュッの言葉に皆がようやく動き出す。
死神の足音は、すぐそこまで迫っていた。

658名無しさん:2023/09/23(土) 11:21:57 ID:5kmg6OdI0
ソーサク連邦 ドクオ自宅

(;'A`)「はぁ......」

自宅で一人、ドクオは大きなため息をつく。
最早日課になりつつあるその行動は最近の心労によるものであった。
心労の凄さは彼の見た目に如実に現れており、目の周りには隈ができ、頬は痩せこけていた。
まるで死人のような姿になってしまっている彼だが、その理由は今後のことについてである。

彼自身はただの一般職員であり、情報局という重要な職についてはいるものの、国家をどうこうするような話とは無縁であったはずである。
だが気が付けば彼は、その中心にまで引きずり出され、選択を迫られていた。

659名無しさん:2023/09/23(土) 11:22:20 ID:5kmg6OdI0
国家の命運すら決めかねないその選択肢、簡単に決められるはずもなく、今に至るまで選ぶことができていない。
現在、彼の選べる選択肢は3つである。

一つ目はモナーに協力し、人間の情報や技術を秘密裏に集めて国家を強化し、人間達と敵対する道。
二つ目は人間達とは敵対せず、適切な距離感で接することで彼らの技術を国家に取り入れ、発展を目指す道。
三つ目は国を捨て、亡命を目指す道。

はっきり言って、どの選択肢も問題がある。
まず一つ目は言わずもがな、人間と敵対するという点である。
確かに人間の力を認め、すぐには直接的に敵対しないように行動するわけだが、それでもいずれ敵対することに変わらず、現時点での力の差を考える限りその結果は悲惨なものになりかねない。

660名無しさん:2023/09/23(土) 11:22:48 ID:5kmg6OdI0
そもそも、人間達も自分達の技術の重要性はわかっているはずである。
そんな技術に探りを入れようとすることなど彼らも警戒するであろうしこちらが勝手に技術を盗み、取り入れていることを知ればその時点で完全に敵対することになってもおかしくない。

相手がこちらが成長しきるまで待つなど、理想論でしかないのだ。
全てが奇跡的に噛み合い、上手くいけば彼の国を抑え込み、確かにソーサクがこの世界の新たな覇者となるだろうが現実はそう上手く行くことはないであろう。

では二つ目はどうかと言えばこれも問題だらけである。
ある程度の交流がある状態であれば、表立って大きな行動をしなければクーから伝え聞く限り、彼の国もこちらを一方的に攻め落とすようなことはないだろう。

ゆえに適切な交流を行えれば下手な争いを避けつつ、彼の国の技術を堂々と手に入れることができるのだ。
そうして技術を磨いていけばいつしか、人間達と並び立てる日がくるはずである。

661名無しさん:2023/09/23(土) 11:23:16 ID:5kmg6OdI0
だがその日が来るまでにはかなりの年月が必要であるし、彼の国も最新技術をこちらに渡すことはないだろう。
そしてそれを解決するためには外交でどうにかするしかないわけだが、残念ながらソーサクは鎖国国家であり、外交官の経験は少なく、育っていないため期待が出来ない。

またそもそも人間の技術をそのまま取り入れようとすれば国内からの反発も凄まじい。
モナーが提案するように魔法に代替すれば受け入れも進むであろうが、全てそれでは意味がないのだ。

何故なら、人間の技術は魔法と異なり才能が要らない点が何よりも重要であるからである。
言い換えれば誰でも使うことのできる技術ということ。
使うものが少ないものであれば魔法で問題ないが、国民が皆必要とするような部分では魔法では解決しにくい。
それを解決できるということは国全体の国力を底上げ出来るのだ。
だからこそドクオは可能な限りそのまま技術を取り入れたいわけなのだが、そこでやはり国内の反発の問題が出てきてしまう。

さらにこのプランを進めようにも国を動かそうとする以上、味方がある程度揃っていないといけないわけだが、近い考えの者たちは人間をよく思わない権力者により潰されているのだ。
既に出鼻を挫かれているといっていい状態であった。

662名無しさん:2023/09/23(土) 11:23:54 ID:5kmg6OdI0
そして最後の選択肢である、亡命。
これはクーから突然の連絡により涌いて出た選択肢であった。

当初、国同士を繋げるべきだもいうクーのあまりに無茶な主張に、それとなく現実が分かるように伝え、考えを自分のものに近づけようとしていた。
全てを受け入れることは難しいということは分かって貰えていたようであったため、いつかは彼女の考えも少しずつでも変わってくれることを願っていたが、まさかこんな明後日の方向に転換するなど考えてもいなかった。

そもそも国を捨てる選択肢を取るなど、可能性すら考えていなかった。
これまで情報室という国の発展のために情報を集める仕事をこなしてきたのだ。
国のために働くという、少なからずの愛国心はあったはずなのである。
それにも関わらず、彼女は国を簡単に捨てるというのだ。
ドクオからすれば、信じられないし信じたくないものである。

663名無しさん:2023/09/23(土) 11:24:19 ID:5kmg6OdI0
彼はこれまで情報室で働き、国のために生き、国をより良いものにしたいという一心でこれまで働いてきたのだ。
これまで育ってきた愛着とまた自国への誇りという、誰もが持つであろう愛国心によるものである。

だからこそ様々な無茶にも国のためにと耐えてこられたのだ。
身体も精神的もボロボロになろうとも、それでもどうにかしたいという強い思いは決して消えることがない。
それほど、この国を愛しているのだ。
だからこそ、こんなにも苦しく悩むのだ。

もしクーのように全てを捨てることが出来ればどんなに楽になれるだろうか。
ドクオもその事実は分かっているし、その選択肢を心のどこかで望んでいた。

だがそれでも選べないのだ。

664名無しさん:2023/09/23(土) 11:25:48 ID:5kmg6OdI0
もしここで亡命を選べば、もう引き留めるものがいなくなり国は敵対へと進んでいくかもしれない。
その先の未来は確定ではないが、明るいものではないはずである。
勿論、彼だけの力で未来が変わるとも限らないしドクオ以外の誰かが国を救うかもしれない。
それこそモナーが理想通りに物事を進め、人間たちを完全に封じ込める未来だってあり得ないわけではない。

だが、それは自分がなにもしなくていい理由には出来ないのだ。

('A`)「......俺は国のために、何が出来るんだろう」

そう呟きながら、モナーから渡された魔石を握りしめる。

自分に出来ること、それは間違いなく情報の収集である。
これまでもそうしてきたし、これからもそうすることしか出来ないだろう。
ではどのような情報が必要なのかを考えると、答えはやはり人間達の持つ技術に関するものであるだろう。

665名無しさん:2023/09/23(土) 11:26:20 ID:5kmg6OdI0
この魔石に、人間の技術に関する情報を集めれば国は間違いなく発展するであろう。
さらに情報を集めていけば、その強大さからモナーを初めとして多くの者が考えを改める可能性もある。
また人間達に対抗しうる力を得ることだってあり得ない話ではない。

そう考えれば、自身への負担に目をつぶればただ逃げるよりかは幾分かはマシではないだろうか。

('A`)「それに......」

人間達が、本当に暴走しない保証などどこにもないのだ。
それこそ第二のルナイファとなってもおかしくはない。
むしろ彼らの持つ力とこの世界の力関係を考えれば、世界征服も夢ではないはずであり、そう考えれば侵略する方が当然と言えるかもしれない。
さらに彼らはこの世界に無理矢理連れて来られたのだ。
その怒りも加味すれば可能性は非常に高いように感じられる。

それを考えればやはり、対抗できる国力、すなわち抑止力は必要不可欠なのだ。
そのためにも人間の持つ兵器、もしくはそれを再現できるだけの情報を手に入れる必要がある。

666名無しさん:2023/09/23(土) 11:26:52 ID:5kmg6OdI0
(;'A`)「......ぐっ」

キリキリと胃が痛み、頭痛がする。
言うのは簡単であるが、それを成し遂げることは非常に困難であり、そもそも実現可能かどうかも怪しいのだ。

(;'A`)「それでも、この道しか、ないんだ......」

そう呟き、彼は魔信を握りしめる。
そもそもモナーからの脅しもあり、人間達と融和的な解決法を目指すことは難しい。
そして国外に逃亡することは、この国を見捨てることであり、あり得ないとするならばもう選択肢は一つしか残っていないのだ。

その道がどんなに棘に道であったとしても。
その道が自身の破滅に繋がろうとも。
この国の未来がそこにあると信じ、進むしかないー

その道の行く末はまだ、誰も知らない。

667名無しさん:2023/09/23(土) 11:27:20 ID:5kmg6OdI0
続く

668名無しさん:2023/09/23(土) 23:09:32 ID:X/DGhQXo0
乙です

669名無しさん:2023/09/23(土) 23:11:20 ID:Wo.XIDaU0
おつおつ
どんな結末になるか全く予想できん
ドクオは幸せになって…

670名無しさん:2023/09/30(土) 12:36:21 ID:1NZKDZBI0
ルナイファ帝国 東方沖
1463年4月2日

プギャーからの指令を受け、ルナイファの東にある東方基地より艦隊が海を進んでいた。
多くの艦が沈められたルナイファであったが、未だ艦隊を出撃させる体力があるという点だけを見れば、かなりの無茶をしているとはいえ世界最強の名は伊達ではない。

(・∀ ・)「うむぅ......」

そんな艦隊の司令を任されたマタンキは一人、首をかしげていた。
今回の任務がプギャーからの指令であり、人間達の国へ何らかの打撃を与える作戦だとは聞いている。
だがその詳しい内容については聞かされていなかったのだ。

知っているのは、召喚艦にて召喚の魔法を使えということだけ。

671名無しさん:2023/09/30(土) 12:36:52 ID:1NZKDZBI0
人間との戦闘はもう二度と御免ではあったが、ただ召喚するだけならばと作戦を実行しているわけだがその真意が分からないのだ。
ただワイバーンを遠くから召喚したくらいでどうにかなる相手ではないことは、もう誰しもが知っていることであろう。
そうであるにも関わらず、この局面で召喚艦を動かすことに何の意味があるのか。

(・∀ ・)「分からないことといえば......」

ちらり、と目の前に描かれた魔方陣を眺める。
そこに描かれ構築された魔方陣は、少なくともマタンキは初めてみるものであった。
これでも長く軍におり、艦に乗ってきたと自負している彼でも知らないものだったのである。
少なくともワイバーンをただ召喚するためのものではないことは確かだろう。

伝え聞く話では何でも新魔法とのことであるが、それにも彼は思わず首を捻ってしまう。
新魔法といえば、南方の戦線で使われた遠距離攻撃用の魔法という話であったはずである。
その他に作成された魔法など、聞いたことがない。

672名無しさん:2023/09/30(土) 12:37:38 ID:1NZKDZBI0
またそんな魔法を急に使用する事に不安が無いわけではない。
魔法というものは扱いを誤り、下手すれば暴走し、それこそこの船ごと爆発してしまうことだって可能性として0ではないのだ。
流石にプギャーもその事くらいは分かっており、ちゃんとした魔方陣とそれを扱える魔法使いを準備しているとは思うが、とはいえ危険がないかと言えばそうではない。
それにも関わらず強引に進められるこの任務は一体何なのか。

正体不明、理解不能。
それが、彼が今行っている任務である。

(・∀ ・)「ま、いいさ。これだけで昇進できるんだ。プギャー様々だな......敗戦の将の汚名を返上できるだろう」

だがそんなものは魅力的な報奨の前には無価値であり、無意味であった。
ただこなせばいい。
ただそれだけでいいのだ。

そう、何も問題などないのだから。

艦隊は、静かに海を進んでいた。

673名無しさん:2023/09/30(土) 12:38:32 ID:1NZKDZBI0
ルナイファ帝国 南方要塞

テタレスと帝都の間に建造されたその要塞は、南方からの最後の守りとして難攻不落と呼ばれる、世界最大規模の要塞が存在していた。
地上部だけでなく、地下にも及ぶ巨大な要塞であるにも関わらず至るところに魔方陣が敷き詰められ、あらゆる攻撃を耐えつつ、圧倒的な火力にて敵を葬れるように設計されていた。

そして現在、ここには巨大な空間を埋め尽くすように多くの兵が集められていた。
理由は勿論、南方から襲いくる脅威に対して、必ずここで食い止め、そして押し返すためである。
これまでの戦いで多くの兵を失うだけでなく、上陸してきた敵に対し南方へ多くの兵を送っているルナイファであるが、そんな様子を微塵も感じさせないほどの兵数であり、その姿は一見、世界最強に偽りなしと言えるだろう。


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