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( ^ω^)百物語のようです2022( ω  )

130名無しさん:2022/08/07(日) 21:06:07 ID:4G3GKF4I0

(;'A`)「先生!」

(,,゚Д゚)「む、どうした鬱田」

(;'A`)「内藤は、内藤はどこに行っちゃったんですか?」

(,,゚Д゚)「内藤……?」

(;'A`)「ほら、デブで! いつも汗かいてる内藤ですよ!」

(,,゚Д゚)「……? すまん、全然思い出せん。俺もついにボケたか……?」

(;'A`)「しっかりしてください! 生徒を忘れるなんて酷いですよ!」

(,,゚Д゚)「すまんすまん……む? 名簿にも内藤なんていないが……」

(;'A`)「貸してください!」

(,,゚Д゚)「あっ、おい」

(;'A`)「……ない……」



 ―――。

131名無しさん:2022/08/07(日) 21:06:43 ID:4G3GKF4I0

(;'A`)「かーちゃん! 内藤覚えてるよね?」

J( 'ー`)し「なぁに? そんな芸人いたっけ?」

(;'A`)「内藤だよ内藤! ほら、保育園から一緒の……」

J( 'ー`)し「……? 保育園から一緒なのは田中君でしょ?」

(;'A`)「はぁ……!? え、いや、ちょっと……あれ?」

J( 'ー`)し「やだねえ、熱さでボケた?」

(;'A`)「た、しかに、田中とは保育園からの付き合い……? あれ?」

J( 'ー`)し「ほら、写真だってあるよ」

(;'A`)「アルバム……! 貸して!」

J( 'ー`)し「ちょっと、何なんだい」

(;'A`)「……ない……ない……!」



 ―――。

132名無しさん:2022/08/07(日) 21:07:20 ID:4G3GKF4I0

(´・_ゝ・`)「やあ鬱田くん。調子はどうだい?」

('A`)「……よう。ぶっちゃけ最悪」

(゜3゜)「大丈夫かよドクオ? ゾンビみたいな顔してるぞ?」

('、`*川「だいじょぶ? お薬飲む?」

('A`)「……どこからともなく得体の知れない薬を出すんじゃない」

(´・_ゝ・`)「え、何のこと?」

('A`)「……? 伊藤が出してるじゃん、薬」

(´・_ゝ・`)「えっ……あ、ああ。そうだね」

('、`*川「今日はデミっちもキレが悪いなー。お薬飲む?」

('A`)「いやだから何の薬だよそれ」

('、`*川「手作りのペニシリンだけど?」

('A`)「いやそれはマジで無駄に凄いけどいらんわ」

('、`*川「しょぼーん」

(゜3゜)「……?」



 ―――。

133名無しさん:2022/08/07(日) 21:07:57 ID:4G3GKF4I0

('A`)「あれ……?」

(´・_ゝ・`)「おはよう、鬱田くん」

('A`)「なあ、今日伊藤は? いつも一番早く来てるのに」

(´・_ゝ・`)「えっ……? あっ……うん、そういえばそうだね」

('A`)「おいおい、いつも伊藤さん伊藤さん言ってるくせに」

(´・_ゝ・`)「そう……だね。暑さでボケたかな?」

(゜3゜)「はよーっす」

('A`)「おう田中」

(´・_ゝ・`)「やあ田中君」

(゜3゜)「何の話してんだ?」

('A`)「伊藤が珍しく遅いなって話」



(゜3゜)「伊藤……? 誰のことだ?」



 ―――。

134名無しさん:2022/08/07(日) 21:08:32 ID:4G3GKF4I0
  _
( ゚∀゚)ノ「ようドクオ!」

('A`)「おう長岡。今日も暑苦しいな」

川 ゚ -゚)「まったくだな。暑苦しくてかなわん」
 _
(;゚∀゚)「ひでぇ!」

三(;゜3゜)「うー遅刻遅刻ー!」

('A`)「おっ、今日もギリギリセーフだな田中」

(゜3゜)「よっ、ドクオ。……あれ? 盛岡は?」

('A`)「……? 盛岡って?」

(゜3゜)「えっ? 何言ってんだよ、素直さんの隣の……あ……れ……?」



('A`)「素直の隣は長岡だろ? 何言ってんだ?」

135名無しさん:2022/08/07(日) 21:09:08 ID:4G3GKF4I0







 ('A`)その方向にはダレモイナイようです







  (
   )
  i  フッ
  |_|

136名無しさん:2022/08/07(日) 22:36:58 ID:dL8GVl4s0
18本目投下終了しました

青天白日吉日のようです
https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/21864/1659867646/

 (
   )
  i  フッ
  |_|

137名無しさん:2022/08/07(日) 22:39:51 ID:4G3GKF4I0
>>136
おつぅ

138名無しさん:2022/08/07(日) 22:53:04 ID:H2Gv6GIs0
20本目の蝋燭いただきます。

翠は川で、光るようです
https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/21864/1659880085/l30

  .,、
 (i,)
  |_|

139名無しさん:2022/08/07(日) 23:42:38 ID:H2Gv6GIs0
20本目投下終了しました。

翠は川で、光るようです
https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/21864/1659880085/l30

 (
   )
  i  フッ
  |_|

140名無しさん:2022/08/07(日) 23:48:47 ID:4G3GKF4I0
>>139
おつん

141 ◆Wm6SmQ7Jsw:2022/08/08(月) 09:36:15 ID:QBkxABEk0
すみません遅くなりました!
本日の朝をもって第一部終了となります
第二部は12日(金)の18時からです
それまではご自由にご利用ください!

142名無しさん:2022/08/08(月) 13:03:49 ID:RmGueWnA0
蝋燭の本数と作品のまとめある…?

143名無しさん:2022/08/08(月) 15:56:17 ID:bKMR/Z3I0
J( 'ー`)し カーチャンまとめといたよ


一本目 >>11
(-_-)神通屋敷のようです( ゚∋゚)

二本目 >>12
怖がりドックン

三本目 >>14
( ^ω^)取捨選択のようです

四本目 >>43
無題(ベランダ)

五本目 >>49
酔狂悪霊退治のようです

六本目 >>50
スナック菓子のようです

七本目 >>51
『愛しい貴方の口元に』のようです

八本目 >>52
ようです

九本目 >>55
お嬢様vsひとりかくれんぼのようですわ

十本目 >>57
#16「子泣き地蔵」のようです

144名無しさん:2022/08/08(月) 15:58:15 ID:bKMR/Z3I0
十一本目 >>59
∵お面∴

十二本目 >>84
斎場の話(タイトルがオチのため伏す)

十三本目 >>89
仄暗い水の底のようです

十四本目 >>94
追いかけて来るようです

十五本目 >>100
てんてんのようて"す

十六本目 >>110
寒がりさんのようです

十七本目 >>112
のまれるようです

十八本目 >>124
青天白日吉日のようです

十九本目 >>125
('A`)( ^ω^)(´・_ゝ・`)('、`*川の話(タイトルがオチのため伏す)

二十本目 >>138
翠は川で、光るようです


J( 'ー`)し AAなしのタイトルが多いねえ

J( 'ー`)し カーチャン来週はちょっと忙しいから来週の分のまとめは誰かお願いね、ごめんね
      ところでお友達でも呼んでるのかい? あんたの後ろから声がするから……

145名無しさん:2022/08/08(月) 16:53:17 ID:gU3g/wYU0
カーチャンありがとう

146名無しさん:2022/08/08(月) 16:53:35 ID:UG7dpSSU0
カーチャンありがとう!
さすがカーチャンだぜ

147名無しさん:2022/08/08(月) 19:19:12 ID:A6IU1H8M0
カーチャンありがとう
大好き

148名無しさん:2022/08/08(月) 19:21:49 ID:dkEkboB20
ちゃんとネタバレは伏すカーチャンは配慮の女神

149名無しさん:2022/08/08(月) 19:54:53 ID:hA1SKVHw0
カーチャンまじで女神ありがとう

150名無しさん:2022/08/08(月) 19:56:46 ID:bEE/Nxik0
そ、そんなカーチャンはあの時……!!
俺らのために…?


〜〜ありがとう、カーチャン〜〜

151名無しさん:2022/08/08(月) 20:52:38 ID:8o6BEXgY0
カーチャン、お盆だから帰ってきてくれたんだね……

152名無しさん:2022/08/09(火) 19:05:29 ID:pTx65S160
えぐいのからガチ怖気味悪と前半だけでもバラエティ富んでるな

153名無しさん:2022/08/09(火) 19:45:34 ID:yLw.Yl7c0
いろんなホラー読めてマジで俺得
後半も今から楽しみだ

154名無しさん:2022/08/09(火) 19:53:47 ID:pTx65S160
とりあえず22作品くらい好きなやつあるわ

155 ◆Wm6SmQ7Jsw:2022/08/12(金) 17:55:48 ID:VhTIYhuk0
皆様お疲れ様です!
まもなく18時から第二部の開催となります
後半もよろしくお願いします!

156名無しさん:2022/08/12(金) 19:11:35 ID:9vzUp.Ys0
二十一本目、もらいます。
人によっては少しだけ閲覧注意かも。


  .,、
 (i,)
  |_|

157名無しさん:2022/08/12(金) 19:12:27 ID:9vzUp.Ys0






機嫌が良いようです






.

158名無しさん:2022/08/12(金) 19:13:21 ID:9vzUp.Ys0
混み合った車内で隣に人が座らないのはラッキーだ、と内藤は思った。こういう
ことはなかなか無い。だから少しだけ嬉しい。代わり映えのしない毎日だと、普
段は歯牙にも掛けないエピソードが妙に記憶に残るのだ。

炎天下の熱が強めの空調にほどけてゆく。
取引先から駅までは歩いて二十分程もかかったがしかし、ここにきて、ようやく
プレゼンの緊張が解けたような気がする。やはり全くの他人との仕事は負担以上
のなんでもない。

今日のクライアントは酷かった。そう、あのあばたは……。内藤はいつもの癖で
弛んだ腹をぽりぽり掻く。あせもだ。

股に挟んだ仕事用の鞄が電車とともに小刻みに揺れる。ガラス越しの紫外線で彼
の背広にはほのかな温度がこもり、エアコンの風が斜めに当たり、首筋とおでこ
に浮かんだ汗がゆっくりと引いてゆく。対面の座席には小柄な身体に不釣り合い
な、大きいリュックを抱えたハーフパンツの少年が座っている。一番上の子と同
じくらい? 置き物みたいにおとなしい。

159名無しさん:2022/08/12(金) 19:14:02 ID:9vzUp.Ys0
クライアントワークだから一日に数件顧客をはしごするのは当然として、大抵の
ところはこちらの都合を考慮して質疑応答を手短に、連絡先交換で後ほどの随時
対応ということが多いのだが、あの若手実業家には、いや参った参った。根掘り
葉掘りを草の根分けて粗探しされ、ねちねちと下手くそな前戯みたいに外堀から
内側までほじくり返され、こちらが少し受け答えに迷っていると顔の左側だけ歪
めて(愛想笑いのつもりだろうが)、あとでいいっすよ、と唾を飛ばす。あとで
いいなら今訊かないでくれ。

実際、仕草が癪に触るだけで、本来的には取引のあるべき姿勢なのだろうと思う
ものの、普段慣れている楽なやり方が通じないと余計に疲れてしまう。疲れるこ
とはなるべくやりたくない。

向かいの少年は内藤の両わきの空いている席を忙しなく見ている。
誰もいないのに何を見ているのだろう。

アナウンスの声がして駅に停まる。まだ目的地は遠い。しばらくゆっくりできるな。
扉から人が大量に吐き出され、また元どおりに充填される。
汗と香水と制汗剤の臭いがのべつまくなし更新されて、常に新鮮な不快感に包まれる。

160名無しさん:2022/08/12(金) 19:14:26 ID:9vzUp.Ys0
目の前で吊り革を握る初老の痩せた男の、甲虫の殻みたいに黒光する靴が股の間
の鞄を蹴る。ちっ。内藤は控えめで大仰な咳払いをする。隣に誰も座らない。

個人事業主なんてものは金があってなんぼの職であり、そういう人種はきっと協
調性が低く他人に不満たらたらだろうから、優秀な自分が好きなようにできる会
社を作ろうとのさばる連中ばかりなわけで、また、その手の輩の実家は資金に潤
沢で、浪人して半端な私立大学に行ってぬくぬくできる富裕層に決まっているか
ら、そう思いこんでしまっているせいか、どうもあの若者のような人とは反りが
合わない。

ずんどうで、短足で、浅黒で、切り目みたいに細い目の周りには、ひげそりまけ
した肌のような、ぼつぼつのあばた……。

駅に停まる。少ししか出て行かず、大量になだれ込む。人と人が密着しあって、
まるで一塊の成型肉のようだ。車輌を鋳型にした人肉ウインナーの映像が浮かぶ。
不味そうだ。酷く臭いだろう。香水や制汗剤の奥から香るのは精液みたいに生臭
く、喉に絡みつく生乾きの洗濯物ような、しつこい汗の匂いだ。

内藤の隣には誰も座らない。それに、あの汚らしいあばた……。

161名無しさん:2022/08/12(金) 19:14:47 ID:9vzUp.Ys0
対面の座席に座る初老の痩せた男性が、その身体に似つかわしくない大きなリュ
ックをごそごそと探っている。なにを探しているのだろう。ラップトップかハン
ドタオルか水筒か。

その彼の背後の街中ではゲリラ豪雨が墜落しつづけている。獰猛な風と雨滴が窓
を突き破らん勢いで降りしきっていた。傘が必要だなあ。洗濯物は外に干しっぱ
なしだろうか。あいつが出るときに、入れていってくれたろうか。

駅に着く。
さらに人が増え、密度が増す。内藤の隣には誰も座らない。
次の駅。

駆け込みで扉が開いたり閉じたりし、さらに人がくっつき合うが、内藤の隣には
誰も座らない。そこに人が座っており、今か今かと立ち去るのを待ちわびている
かのように。依然として空席のままだ。

――どうして誰も、俺の隣に座らないのだろう? こんなに混雑しているのに?

内藤は背後からの穏やかな陽射しにまどろみながら、それとなく両隣の空いた席
を見る。当然誰も座っていない。その席の前には、吊り革を掴む少年と掴まずに
立っている少年がいるというのに。一番上の子と同じくらい?

162名無しさん:2022/08/12(金) 19:15:09 ID:9vzUp.Ys0
ふと見上げてみる。
腕が信じられないほどに長い。

まあそうだろう、そうでもしないと届かないのだから当たり前だ。

どうして誰も隣に座らないのだろう。もしや汗くさいのだろうか。俺も連中と同
じように、生臭くて喉に絡みつくような匂いを発散しているのだろうか。
あのあばたのように。

そうでなければいいのだが、そうであったときはどうしよう、いや、なにも他人
に気を煩わせるなんて馬鹿馬鹿しい。座らないのなら座らないでいてくれたほう
が、こちらは楽に過ごせる。

昼はなにを食おうかな。いつもの鮭と梅干しのしょっぱい弁当が無性に食べたい
気分だが、あいつはもうとっくの昔に死んじまっているから仕方がない。諦めて
どこかの定食屋にでも入ろう。

今日はすでに嫌なことがあったぶん、どかっと大盛りで食べたい気分だ。もしく
は奮発して、おしゃれな喫茶店にでも行ってみようか、若いとき、あいつに連れ
られて行ったあそことか……。

163名無しさん:2022/08/12(金) 19:15:29 ID:9vzUp.Ys0
内藤は懐古に微笑む。
俺はちゃんと、あいつに優しくできていたのかな。あいつが俺に優しくしてくれ
るように。居なくなった人を想ったって還らないのに、どうしてたびたび、ふと
した瞬間に想ってしまうんだろう。

雨足が気になり顔を上げると対面の初老の痩せた男性が、ちょうどリュックから
探しものを探り当てたようだった。
少年が掴み出された。
それは一瞥で生きていないと分かるくらいに損傷が激しかった。

土気色の肌はところどころが黒く腐敗し、鷲掴みにされた頭皮は指圧の架かるぶ
んだけ歪に沈んでいる。ぱらぱらと剥がれた皮膚がふけのように落屑した。

髪はざんばらに抜けて禿げており、地肌の奥のほうに黒い染みがあるかと思うと
それは孵化した蝿で飛び立っていった。

破けたハーフパンツの奥からなま臭い匂いとともに、黄白色のどろりとした液体
が勢いよく噴出する。精通したての精液かと思ったがよく見るとそれは大量の蛆
だった。それらが車内の人々を濡らしてゆくが、誰も気にしていないようだ。

164名無しさん:2022/08/12(金) 19:15:51 ID:9vzUp.Ys0
内藤は少し寂しい気持ちになった。

こういう風景はよく目にする。公共の場で奇妙な人を見かけると、誰もが徹底し
て無視を決め込むのだ。その奇妙な人はもしかしたら客観的には分からない障碍
を抱えていて、それで困っているだけなのかもしれないのに。

もちろん自分も無視するが、たまに感じなくてもよい罪悪感が芽生えたりもする。
今日もそうだった。

初老の痩せた男性は、一番上の子と同じくらいの少年の顔を撫でている。
産まれたての稚児を慈しむように。

柔らかく腐った頬肉が剥けて黄ばんだ骨が露出する。
男は頬骨の上に親指を添えて、そこを基点に残りの四本指を皮と骨の間に滑り込ませる。

165名無しさん:2022/08/12(金) 19:16:54 ID:9vzUp.Ys0
残りの手でまばらに禿げた頭をさすり、
髪を指で梳き、
そうしておもむろに全身の皮をひん剥いた。

べり、
べっ
べり、
めり、
べ、
べ、
べ。

そこで初めて、少年は死んでなどいなかったことに気づいた。
つんざくような苦痛の悲鳴が、少年の全身からほとばしったからだ。

口といわず手足といわず、少年は身体をアンプ兼スピーカーとして爆音を発してる。
身の毛もよだつ声だ。あの小さな体のどこに、これだけの音を溜めこんでいられ
たのだろうと戦慄するほどに。

彼は生きたまま腐敗の恐怖にさらされ、身動きできずに虫の卵鞘となり、そうし
て麻痺し鈍くなった痛覚が目覚めるほどの強烈な痛みになぶられていた。

166名無しさん:2022/08/12(金) 19:17:16 ID:9vzUp.Ys0
溶けて液体になった筋肉や脂肪ととも血の黒い塊が流れ出す。
残った筋肉の残滓には焦げ茶に赤い血流の跡が見え隠れし、繊維の端は細い白滝
のようだった。なぜか食指を誘う。

内藤は連想した。
昼を。

真夏におでんというのもありだな。おつだ。
こりこりと食感の残る牛すじ煮込みと、噛めば滴るほどの汁があふれ出す大根、
ふわふわのはんぺん。

内藤はたまらず腹を掻く。ぽりぽり。
あせもだ。
いや、違う。

これはあばただ。
服の下の腹の上に、あのあばたの顔がある。
どおりで誰も隣に座らないはずだ。

あんな若造の隣なんて、電車で怒鳴りちらす傍迷惑な老人や、独り言を常につぶ
やく障碍者や、車内なのに堂々と通話する社会不適合者の隣にいるのも同然だ。
迷惑は無視するに限る。ボーダーラインだったわけだ。

167名無しさん:2022/08/12(金) 19:17:36 ID:9vzUp.Ys0
液状のとろとろな少年が泣きわめきながら足元まで流れてくる。内藤は頬を緩ま
せる。目を落としたことで、初老の痩せた男性が履いていた甲虫の殻のように黒
光する靴を自分が履いていることに気づいたからだ。そうして股の間には一番上
の子がすっぽり入るほど大きな鞄があったから。

内藤は、くろずんだ骨と筋肉ばかりで、不良品の人体模型のような少年の顔を見
る。鼻の形があいつそっくりだ。

内藤は自分が息子や妻に惨いことをしたいとはちっとも考えていないことを分か
っている。思いもよらないことに出くわしても冷静でいられるくらいに家族を愛していた。

妻のしたためた弁当に入っている特大の梅干し並に大きな瞳が二つ、泣きながら
内藤を見上げる。

どろりと濁った白痴の瞳。
いまだ母親の乳から離れられない甘ったれ。
だからとてもかわいらしい。

168名無しさん:2022/08/12(金) 19:17:58 ID:9vzUp.Ys0
内藤は二つの汚い眼球を掬いとる。腐った神経と鬱血した血管が内側で破け、白
かった瞳が濁っていた。

それを、内藤の両わきの席のように空いた眼窩に押しこむ。
ぷちっ、むきゅっと鳴る音は、潰れた蛆の断末魔だろうか。

これらはきっと、ふとした瞬間に立ち上がる攻撃的な本能だ。日々の小さな積み
重ねが閾値を超えるタイミングというもの。滴る水滴が鍾乳洞を穿つように、自
覚されぬうちに育った暴力の芽だ。

毎朝の早起きと毎夜の残業。
ひっきりなしのクレーム対応。
横柄な上司と物覚えの悪い部下。
要求が通らなければ契約を破棄すると脅すクライアント。
世間知らずのぼんぼん。
自分が世界で一番大変で疲れているかのように大言壮語をするネットの戯言。
事故による運休ダイヤルの変更から、満員電車から、自信過剰の狂人から……。

妻や子どもに乱暴したいとは、普段は全く思わないが、
乱暴したくないと言うと嘘になる。

169名無しさん:2022/08/12(金) 19:18:34 ID:9vzUp.Ys0
きっと青々と育つことだろう。鉢植えを割るほどに根を張り巡らせて、うどんこ
すら食い尽くす勢いで繁茂するだろう。春夏秋冬、枯れることなく。

発芽が待ちどおしいが、うんと先のことでもない。もしやすで芽は出て育ちきり、
あとは花が咲くのを待つばかりかと思ったところで夢から覚めた。

対面の座席にはスーツの若い女性がいる。わざとらしく斜めに傾けた脚線美が、
後ろの窓から見える雲ひとつない青空のように眩しい。
もちろん雨など降っていない。

両隣の席も、特筆するところの何もないような凡夫が占めている。
混み具合もまあまあだった。

しばらくは夢の情景と香りに自分の体臭やよだれの臭いをなすりつけ、暴力の花
が咲いていることなどいつの間にか忘れており、すぐに自分がグロテスクな夢を
見たことすらも忘れた。

アナウンスが流れ、内藤の目的地の駅に到着したことを告げる。
彼は小柄な身体に不釣り合いな大きいリュックを背負い、大人の波をかき分けて進む。

今日は父の墓参りだ。



170名無しさん:2022/08/12(金) 19:19:43 ID:9vzUp.Ys0

  (
   )
  i  フッ
  |_|

終わりです!
使用お題
・境界
・縛り:登場人物が一人だけ
・青空
・縛りお題:地の文のみ
・シチュエーション:夢(幻)と現実が曖昧

171 ◆6K3IPcAnTw:2022/08/12(金) 19:43:11 ID:ZZoBGLpA0
22本目は俺んモンだぜ〜!!
  .
  .,、
 (i,)
  |_|
死して尚、金が欲しいようです

https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/21864/1660299861/

172名無しさん:2022/08/12(金) 20:00:39 ID:7hAH1.fA0
>>156-170
頭ぐわんぐわんする感じ好き

173名無しさん:2022/08/12(金) 20:10:46 ID:Yz20.mpM0
23本目いただきます

  .,、 
(i,)
 |_|


『すみの家』のようです
https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/21864/1660301689/l30

のんびり投下します

174名無しさん:2022/08/12(金) 20:27:55 ID:DUIxzxnA0
24本目いただきます。

  .,、
 (i,)
  |_|

175名無しさん:2022/08/12(金) 20:29:07 ID:DUIxzxnA0


怖い話を「怖い」と思わなくなったのはいつからだろう。

子供の頃は、ホラー映画を観た後お風呂に入るのが怖かった。
逃げるように布団に潜り込んで、頭から掛け布団を被っていたっけ。

今はまったくそんなことはない。
映画や漫画を見ても「怖い」と感じるのは精々その時だけ。五分も経てば忘れるし、その後平気でお風呂にも入る。

感性が鈍くなった? 違う。怖いものが増えたのだ。
世の中には幽霊よりもうんと怖いものが溢れていると知ってしまった。

176名無しさん:2022/08/12(金) 20:30:04 ID:DUIxzxnA0

こうして暗闇の中横たわっている時でさえ何も感じない。
思いつくような怖いものといえば、強盗とか暴漢とかそういう類のもの。
幸いここはオートロックのマンションで、戸締りもしっかり確認した後だからひとまず安心できる。

(’、`*川(昔は豆電球がないと眠れなかったのになー)

(’、`*川 ポチポチポチ

暗がりから『何か』が這い出てきそうで怖かった。掛け布団を頭から被って身を隠そうとした。
それも昔の話。今はこうして呑気にスマホを弄っている。

(’、`;川(あー、ヤバいヤバい。寝ないと)

早く寝ないと明日に差し支える。わかっているのに画面をスワイプする指が止められない。
ぶっちゃけ明日なんて来てほしくない。仕事行きたくない。そんな現実逃避でSNSを更新し続けている。
その時だった。

177名無しさん:2022/08/12(金) 20:31:40 ID:DUIxzxnA0


カサリ

(’、`*川(……ん?)

部屋のどこからか、妙な音がした。

(’、`;川(やだ、もしかして虫?)

まっさきに思い浮かんだのはそれ。
私は虫が大嫌いだ。時期柄あれこれ対策はしているものの、あいつらはどこからでも入り込んでくる。
息を潜めて周りを窺ってみたものの、動き回る影は見当たらない。

だけどわかる。なんとなくだけど、部屋の空気が違う。
慣れ親しんだ部屋に感じる違和感。自分以外の存在が部屋にいる感覚。
まるで『見られている』ような――――

178名無しさん:2022/08/12(金) 20:32:28 ID:DUIxzxnA0



<●>

(’、`*川「え」



.

179名無しさん:2022/08/12(金) 20:33:35 ID:DUIxzxnA0

『それ』と目が合った後も不思議と冷静だった。
あれこれ考えを巡らせたところで実際にそうなってしまった時にはなす術もないのだと思い知った。
私にできることと言えば、何事もなかったかのように視線を逸らして、いつかと同じように掛け布団を頭まで被ることくらいだった。
いっそのこと虫だったらよかったのに。虫なら殺虫剤で倒せるけど『あれ』はそうもいかない。

気付いたことに気付かれてはいけない。それだけは本能的に理解できた。
何も考えないようにさっきよりも強くスマホを突く。
夜も更けて、スマホの充電が切れた頃、私は気絶するように眠った。

180名無しさん:2022/08/12(金) 20:34:17 ID:DUIxzxnA0

アラームが鳴るよりも先に目を覚ました。
カーテンの隙間から朝日が覗いている。ほんのり明るくなった部屋を見渡した。

ベッドの対角線上にあるクローゼットが開いている。ほんの少しだけ、中に掛けた服が見えない程度の隙間がある。
きちんと閉まっていないことは昨日の夜から知っていた。どうせ明日の朝開けるのだからと、面倒臭がって閉めなかったのだ。

後悔したところでもう遅い。

181名無しさん:2022/08/12(金) 20:34:39 ID:DUIxzxnA0

その日から、ありとあらゆる隙間で『あれ』を見かけるようになった。

たとえば流し台と冷蔵庫の間に。
あるいはテレビと壁の間に。
あるいは机と床の間に。
私は昔に戻ったように、お風呂に入るのを怖がり、頭から布団を被るようになった。

どうか隙間を覗く時は気を付けてほしい。
『あれ』は私達に気付かれるのを待っている。今もどこかの隙間から、じっと見ている。


.

182名無しさん:2022/08/12(金) 20:35:37 ID:DUIxzxnA0



(’、`*川 隙間   のようです





183名無しさん:2022/08/12(金) 20:36:46 ID:DUIxzxnA0

  (
   )
  i  フッ
  |_|


ありがとうございました!

184名無しさん:2022/08/12(金) 20:47:30 ID:PK1nXGic0
25本目いただきます

かえしてようです
https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/21864/1660304782/l30

  .,、
 (i,)
  |_|

185名無しさん:2022/08/12(金) 21:08:51 ID:PK1nXGic0
ありがとうございました
かえしてようです

https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/21864/1660304782/l30


  (
   )
  i  フッ
  |_|

186名無しさん:2022/08/12(金) 21:23:18 ID:OJeAKD2o0
投下が完了しました

  (
   )
  i  フッ
  |_|


『すみの家』のようです
https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/21864/1660301689/l30

187 ◆6K3IPcAnTw:2022/08/12(金) 21:31:37 ID:ZZoBGLpA0
お世話になります。投下完了致しました。

  (
   )
  i  フッ
  |_|

死して尚、金が欲しいようです
https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/21864/1660299861/

188名無しさん:2022/08/12(金) 21:51:24 ID:4Wlc.Tn.0
続・一言感想

>>112
のまれるようです
えぇ……焼酎シャッキシャキにキメすぎやろ
結局のところおばあちゃんの知恵袋しか勝たん

>>124
青天白日吉日のようです
出だしから雨の滑らかな描写で感性持って行かれてしまったわさ
全体的に表現の妙でたいへん趣深かった、ワザマエ

>>138
翠は川で、光るようです
うへへへ、好きだなあこういうの
人類の叡智!すごい!本当に凄いんだ!

>>156
機嫌が良いようです
すこしだけ(哲学)
あなたつかれてるのよ

>>171
死して尚、金が欲しいようです
シブイねェ・・・まったくおたくシブイぜ
あのぉ、先生ぇ。ちょーっと気が早いんですけどぉ……この作品の連載ぃ、まぁだですかねぇ?(無茶振り)

>>173
『すみの家』のようです
言葉選びが一々センスありすぎて快感
**さん、ほんとにおもろすぎん?

>>174
24本目
病院だよぉぉ!!
俺じゃなきゃ見逃しちゃう速度で秘孔を突かれたスマホ兄貴は一体どうなってしまったのか?

>>184
かえしてようです
タイトルでピンときたね、こいつはやべーやつだって
もっともっと有名になれますように!

189名無しさん:2022/08/12(金) 22:26:34 ID:9D.Kym8g0
二十六本目、お願いします

  .,、
 (i,)
  |_|

190名無しさん:2022/08/12(金) 22:28:06 ID:9D.Kym8g0

♪したらば女学院演劇部文化祭公演オリジナルオペラを創りたいようです♪
.

191名無しさん:2022/08/12(金) 22:28:55 ID:9D.Kym8g0

ミセ*゚ヮ゚)リ『ずんちゃっちゃ、ずんちゃっちゃ、ずんちゃっちゃ……♪』

ミセ*゚ヮ゚)リ『ようこーそ、みなさーま、いらっしゃいました♪』

ミセ*゚ヮ゚)リ『これかーら、始まーる、ぶ・た・い・は♪』

ミセ*^ー^)リ『素敵ーで、愉快ーな♪』


ミセ*゚o゚)リ『オ』


ミセ*゚皿゚)リ『ペ』


ミセ*゚ヮ゚)リ『ラ!』


ミセ*゚ー゚)リ『こーのーオーペーラーは、したらーば女学院の♪』

ミセ*゚ー゚)リ『なーかーまーたーちーと、い〜っしょに♪』

ミセ*゚ー゚)リ『つーくーりーあーげーる、もーのーでーす♪』

ミセ*゚ー゚)リ『せんせーや、おとなーの、ちからにはー』

ミセ*>ー<)リ『頼らない!』

ミセ*゚ー゚)リ『脚本に〜音楽、美術に衣装♪』

ミセ*゚ー゚)リ『ぜーんーぶー私たちで、つくりーます♪』

ミセ*゚ー゚)リ『ぜーんーぶー私たちの、オリジーナール♪』

ミセ*゚ー゚)リ『これかーらみなさんに、オペラーのメンバーを♪』

ミセ*゚ヮ゚)リ『しょうかーい、していきまーす♪』

192名無しさん:2022/08/12(金) 22:29:35 ID:9D.Kym8g0

ミセ*゚ヮ゚)リ『たらりらりら、たらりらりら、たらりらりら……♪』

ミセ*゚ー゚)リ『このオペラの脚本は〜、文芸部のトソンちゃんに♪』

ミセ*゚ー゚)リ『お願いして、書ーいーて、もらいーます♪』

ミセ*゚ー゚)リ『トソンちゃんの作品は〜、小説もーポエムもー♪』

ミセ*>ー<)リ『心ーがー震える♪』

ミセ*゚ヮ゚)リ『ドキドーキ、ワクワク♪』

ミセ*゚ー゚)リ『きっと、素敵ーな、おはなーしを♪』

ミセ*^ー^)リ『書いてくれるでーしょう♪』

193名無しさん:2022/08/12(金) 22:30:22 ID:9D.Kym8g0

「……オペラの脚本?」

―――そう! トソンちゃんに書いてもらえないかなーって。

「で、でも、私なんかでいいんですか……? 脚本なんて書いたことなくて……」

―――だいじょーぶだよ! 私、トソンちゃんの小説読んですっごく感動したの!

「……」

―――あんだけ感動させる文章を創るんだもの、きっと素敵な脚本が書けると思うの!

「あ、ありがとうございます……」

―――書いて、くれるかな……?

「……はい。あの伝統のある演劇部の舞台に関われるなんて、楽しそうです……!」

―――ホント!? よかったぁ。

「ところで、どうして今年はオリジナルになったんですか?」

―――ほえ?

「毎年『魔笛』とか『ヘンゼルとグレーテル』とか元々ある作品を演ってきたじゃないですか」

―――あー、それはね……。私たちの顧問の先生、産休に入ったのよ。

「……そういえば、そうでしたね」

―――だから、私たちの力で創り上げないといけなくなったわけ。

「……」

―――そこで私は思ったの。せっかくなら、先生や大人を頼らずにゼロから創り上げてみたいって。

「え……」

―――脚本も音楽も、美術も衣装も、ぜーんぶ私たちでやるの。どう? すっごくワクワクしてこない?

「……」

194名無しさん:2022/08/12(金) 22:31:14 ID:9D.Kym8g0

ミセ*゚ヮ゚)リ『てぃ〜やぱっぱたん・たん・たん、てぃ〜やぱっぱたん・たん・たん……♪』

ミセ*゚ー゚)リ『おんがっくはオ・ペ・ラに、欠・か・せ・な・いー♪』

ミセ*゚ヮ゚)リ『バイオリンっに、フルートっ、ラッパに、た・い・こ♪』

ミセ*゚ー゚)リ『色んな楽〜器が、せーぞろい〜♪』

ミセ*゚ー゚)リ『演奏してくれるのはー、管・弦・楽・部♪』

ミセ*゚ー゚)リ『そーして指・揮・者は』

ミセ*゚ヮ゚)リ『部長のクーちゃん!』

195名無しさん:2022/08/12(金) 22:31:56 ID:9D.Kym8g0

「オペラか。そうか、今年ももうそんな時期か」

―――そうだよ! 文化祭に向けて一緒に頑張っていこうね!

「ああ。ところで、今年は何を演るんだ?」

―――ふふん。今年はねー、私たちの完全オリジナルのオペラにするんだ〜。

「……ほう」

―――今ね、文芸部のトソンちゃんに脚本をお願いしてるの。私たちの、私たちによる、私たちのためのオペラ!

「なるほど。生徒の自主性を重んじる我が校ならではのオリジナル舞台……。面白そうじゃないか」

―――でしょでしょ〜!

「……あれ? じゃあ、私たちは何を演奏すればいいんだ?」

―――それは、これから創っていくんだよ!

「え……」

―――脚本も音楽も、美術も衣装も、全部ゼロから創っていくの!

「……それはつまり、私たちに演奏だけでなく作曲も頼みたい、ってことか?」

―――そういうこと! あんなにたくさんの楽器を指揮できるクーちゃんなら、きっと素敵な音楽が創れるよ!

「……考えておこう」

196名無しさん:2022/08/12(金) 22:32:41 ID:9D.Kym8g0

ミセ*゚ヮ゚)リ『てぃ〜やぱっぱらん・らん・らん、てぃ〜やぱっぱらん・らん・らん……♪』

ミセ*゚ー゚)リ『おんがっくに合・わ・せ・て、う・た・お・う、らん・らん・らん♪』

ミセ*゚ー゚)リ『素敵な素敵な、ハーモニー♪』

ミセ*゚ー゚)リ『合・唱・部〜と、歌いますー♪』

ミセ*゚o゚)リ『お腹を使って、歌いますー♪』

ミセ*゚ー゚)リ『歌い方〜の指導は』

ミセ*゚ヮ゚)リ『しぃちゃん、お願いね!』

197名無しさん:2022/08/12(金) 22:33:30 ID:9D.Kym8g0

「オペラね、クーちゃんから話は聞いてた」

―――お! 話が早くていいね〜。私たちの完全オリジナルのオペラ、面白いと思わない?

「うん、面白そうだと思う。例年通り、バックコーラスと発声指導はもちろんやらせてもらうわ。でも……」

―――でも?

「……ねえ、クーちゃんが曲を作るって本当?」

―――そうだよ〜、何もかも私たちの力で創り上げるの!

「……あのね、曲を作るのって大変なの。しかもオペラとなるといくつも作んないといけないでしょ、だから……」

―――あー、確かに。クーちゃんに任せっぱなのはよくないかー。

「でしょ? だから作曲は……」

―――そうだ! しぃちゃんも一緒に創ればいいんだよ!

「え!?」

―――クーちゃんと手分けしてやれば半分で済むし。よし、それでやってみようよ!

「ちょ、ちょっと待って! 私、作曲なんてやったことないし無理だよ……」

―――しぃちゃん。私だって、オリジナルのオペラなんてやったことないよ。トソンちゃんも脚本は初めてだって言ってたし、クーちゃんもそう。やってみる前から諦めるなんてもったいないよ!

「……で、でも、オペラの作曲となると、ただメロディーを作るだけじゃなくって、オーケストラそれぞれの楽器を考えないといけないの」

―――オーケストラの曲を創るなんて、ワクワクするね!

「そうじゃなくて! ねえ、せめて先生と一緒にやらせて! じゃないとオーケストラなんて無理だよ!」

―――ダメだよ! 大人の力を借りずにやることに意味があるんだよ!

「ええ……」

198名無しさん:2022/08/12(金) 22:34:10 ID:9D.Kym8g0

ミセ*゚ヮ゚)リ『でーんでとんとん、でーんでとんとん……♪』

ミセ*゚ー゚)リ『大道具から、小物までー♪』

ミセ*゚ー゚)リ『美術部のワザが、光りますー♪』

ミセ*゚ヮ゚)リ『かなづち持ってトン・トン・トン♪』

ミセ*>ー<)リ『模造紙切ってペタ・ペタ・ペタ♪』

ミセ*゚ー゚)リ『ヒーちゃんの指示で、出・来・上・が・り♪』

ミセ*゚ー゚)リ『しかもヒーちゃんは、クーちゃんの妹♪』

ミセ*゚ヮ゚)リ『知ってた!?』

199名無しさん:2022/08/12(金) 22:34:56 ID:9D.Kym8g0

「姉ちゃんから話は聞いてたよ」

―――さすがクーちゃんだなぁ。話が早くて助かる〜。

「で、今年はどんな小道具を作ればいいんだ?」

―――あー、ごめん、まだ脚本ができてなくってまだわかんないや!

「マジか……。できるだけ早めに指示してほしいんだけど……」

―――わかった! あとさ、今年は大道具も使ってみたいんだ!

「……具体的には?」

―――んーとね、せっかくなら天井まで届くようなものがいいな〜。大工道具使って一から創り上げるのって素敵だと思わない?

「……あのさ、知ってると思うけど、ウチら美術部はみんな作品展に向けて夏休み中作品作ってるんだ。その合間に作業しないといけないからさ、何でもかんでも引き受けるわけにはいかないんだけど」

―――ヒーちゃん、そういう困難を乗り越えてこそ、一流の作品は生み出されると思うの!

「いや、だから……。それに、天井まで届くような大道具って、わかんないけど、消防法(?)とか大丈夫なの?」

―――あー、そういうのも確認しなきゃだね。やることいっぱいでワクワクしてくるね!

「……」

200名無しさん:2022/08/12(金) 22:35:55 ID:9D.Kym8g0

ミセ*゚ヮ゚)リ『たーらーりーらー、たーらーりーらー、たーらーりーらー……♪』

ミセ*゚ー゚)リ『オーペーラーをー、いーろーどーるー♪』

ミセ*゚ー゚)リ『すーてーきーなー、衣ー装ー♪』

ミセ*^ー^)リ『ふーんーわーりー、ドーレースーにー♪』

ミセ*゚ヮ゚)リ『ひーらーひーらー、マーンートー♪』

ミセ*゚ー゚)リ『ひーふーくー、同ー好ー会の♪』

ミセ*゚ー゚)リ『ワーターナーベーちゃーんーのー♪』

ミセ*゚ー゚)リ『うーでーのー見ーせーどーこーろー♪』

201名無しさん:2022/08/12(金) 22:36:37 ID:9D.Kym8g0

「ふえぇ!? 私たちがオペラの衣装を!?」

―――そう! 去年までは演劇部で簡単なのしか作ってなかったけど、せっかくなら本格的な衣装がいいな〜って思って!

「でもぉ、私たち、できるかなぁ……。被服同好会、私含めて3人しかいないしぃ……」

―――大丈夫だよ! ワタナベちゃんたちならきっと素敵なドレスを創れると思うの!

「ドレス!? えっ、私たち、ドレス作るのぉ!?」

―――うん、できたらいいな〜って思ってる。まだ脚本が固まってないから、どんなのになるかわかんないけどね。

「……人数は? 何人分の衣装が必要なのかなぁ……、演劇部って何人いるんだっけぇ?」

―――んー、演劇部はー、あ、あと、コーラスの合唱部の分も必要だから……。

「ふえぇ!? 合唱部って30人以上……、そんなに作れないよぉ……」

―――心配しないで! みんなで力を合わせれば、きっと素敵なオペラになるよ!

「力を合わせてって……」

202名無しさん:2022/08/12(金) 22:37:18 ID:9D.Kym8g0

ミセ*゚ヮ゚)リ『たらりらりら、たらりらりら、たらりらりら……♪』

ミセ*゚ー゚)リ『みんなーとー創るー、ひとつーのーオペラ〜♪』

ミセ*゚ー゚)リ『ちからーをー合わせーて、創りーましょう♪』

ミセ*゚ー゚)リ『どんな物ー語ーに、なるのーかーなー♪』

ミセ*゚ー゚)リ『脚本のー進捗はー、どうなのかーなー♪』


ミセ*゚o゚)リ『おや?』


ミセ*゚ー゚)リ『どうやーらー、トソンちゃん♪』

ミセ*゚ー゚)リ『何やーらー、トソンちゃん♪』

ミセ*゚ー゚)リ『困っているみーたいー♪』

203名無しさん:2022/08/12(金) 22:38:37 ID:9D.Kym8g0

「ごめんなさい……、まだ一文字も書けてなくて……」

―――あれ、どうしたの? 夏風邪でもひいちゃった?

「いえ、そういうわけではないんです。ただ、やっぱり、脚本作りは経験が無くて……」

―――んー、そんなに難しいのかな〜。

「本当にごめんなさい……、でも、早く書かないとだめですよね……? 音楽も美術も衣装も、脚本が決まらないと動けないですものね……」

―――そうなんだよね〜。どんなストーリーがいいかなー……。

「……」

―――そうだ! 今の私たちをオペラにしちゃうのはどう!?

「……どういうことですか?」

―――こうやって一つのオペラを創るために、私たちは一生懸命取り組んでいるわけじゃん? だから、その過程を物語にしちゃえばいいんだよ!

「……」

―――演劇部に文芸部、管弦楽部、合唱部、美術部、被服同好会、それぞれに見せ場があるからキャラが立ちやすいし。これ、結構いいんじゃない!?

「あー……、うん、まあ、面白くなるかも、ですね……?」

―――オペラを創る私たちを描いた、私たちの、私たちによる、私たちのためのオペラ! そうだよ、そうしようよ!

「……わかり、ました」

204名無しさん:2022/08/12(金) 22:39:16 ID:9D.Kym8g0

ミセ*゚ヮ゚)リ『ずんちゃっちゃ、ずんちゃっちゃ、ずんちゃっちゃ……♪』

ミセ*゚ー゚)リ『みーんーなー集まって、つーくーるーオペラ♪』

ミセ*゚ー゚)リ『みーんーなー集まって、顔合ーわーせ♪』

ミセ*゚ー゚)リ『学校のー劇場にー、集ー合ーだ♪』

ミセ*゚ー゚)リ『どーんーなーオペラーにー、なーるーのーかー♪』

ミセ*゚ー゚)リ『そうだーんーしよう、そうしーよーう♪』

ミセ*゚ー゚)リ『より、素敵な、オペラにするたーめに♪』

205名無しさん:2022/08/12(金) 22:40:11 ID:9D.Kym8g0


ギィッ……


―――よし、これで主要メンバーは揃ったね! じゃあ早速何から始めよっか?

「何からって、オペラの中身が分かんないとウチらは小道具、作れないんだけど」

「私もヒーちゃんと同じだなぁ。どんな衣装が必要になるか、早めに知っておきたいなぁ」

―――ふっふーん、そうだよね! 今ねー、トソンちゃんが頑張って素敵なお話書いてくれてるんだ〜。

「ご、ごめんなさい、みなさん、お待たせしてしまって……」

「じゃあ、今はまだ執筆中ってこと!?」

「ご、ごめんなさい……」

「まあ、脚本が完成してなくても大まかなストーリーラインだけでも共有してほしい。作曲するにしても、しぃも私も今はまだどんな曲にすればいいか見当もつかない」

―――ストーリーの流れは私たちで考えたもんね、トソンちゃん!

「は、はい」

「じゃあ、そのストーリーを聞かせてくれる?」

「え、えーと……、この物語の主役は私たち、です。今こうやって集まってるみたいに、オペラの完成に向けて頑張ってます、的な……?」


「「「「……」」」」


「えーっと、それじゃあ、登場人物はこのしたらば女学院の生徒ってことかなぁ?」

―――その通りだよ、ワタナベちゃん!

「じゃあ、舞台設定もこのしたらば女学院ってことか……」

―――ヒーちゃん、そういうこと!

206名無しさん:2022/08/12(金) 22:41:15 ID:9D.Kym8g0


ギィッ……


「あのさ、思ったんだけど、ウチら美術部、いなくてもいいよね?」

―――えっ、どうして?

「だって、わざわざ道具作んなくたって、机と椅子並べて移動式黒板置いときゃ学校が舞台ってわかるっしょ」

「それにぃ、ここが舞台ならぁ、みんな制服着ればいいから衣装もいらないよねぇ」

―――そんなのダメだよ! みんなで創るって決めたんだから! そうだ、トソンちゃん、大道具を使ったりドレスが出てくるようなシーンを入れようよ!

「えっ!? ちょ、そんないきなり言われても……」

―――ね、だからヒーちゃん、ワタナベちゃん! 一緒に頑張ろうよ!


「うーん、でもぉ、私ぃ、最初から協力するって言ってないしぃ」


―――へ……?

「面白そうだなぁ、とは思ったよぉ。でもぉ、いきなりドレスを作れって言われてもぉ、できないものはできないよぉ……」

「ウチもそうだよ。協力する、なんて一言も言ってない。そもそもさ、前から思ってたけど、なんで演劇部のためにウチらの貴重な制作時間を割かなきゃなんないんだよ! 何が伝統だよ、くだんねぇ!」

―――そ、そんなこと言わないでさ、頑張ろうよ! きっとできるよ!

207名無しさん:2022/08/12(金) 22:42:05 ID:9D.Kym8g0


ギィッ……


「ねえ! アンタのその、根拠もなく頑張ろう、できるよ、って言うのどうにかならない!?」

「しぃ……」

「私もクーちゃんも何度も言ってるよね!? オーケストラの作曲なんて、簡単にできるものじゃないって! 私たちだってコンクールがあって暇じゃないんだから!」

―――で、でもっ!

「それに、聞いたよ。演劇部、部員がどんどん抜けてるんだって? 自分がどんな無茶言ってるのか、胸に手を当てて考えてみたら!?」

「……しぃの言う通りだ。自分たちでオペラを作る、非常に素晴らしいことだ。だが現状はどうだ? 先生の協力を得ることも許されず、明らかにキャパシティを超えた指示にコミュニケーション不足。スケジュール管理も疎かだ」

―――な、なんでわかってくれないの……!? みんなで、私たちで創んないと意味がないよっ!

「だから、現実を見ろって言ってるんだ!」

―――何十年もの歴史のあるこのしたらば女学院の劇場で、新しいオペラが創れるんだよ!? 一緒に楽しくやってこうよ! そう思うでしょ、トソンちゃん!?

「ええっ!? えっと……」

208名無しさん:2022/08/12(金) 22:43:09 ID:9D.Kym8g0


ギィッ……


―――ほらっ、こんな感じでさ! 舞台の上で踊ってさ!


ギィッ……


「「「「「……」」」」」


―――『ずんちゃっちゃ、ずんちゃっちゃ、ずんちゃっちゃ……♪』こんな風に音楽がしてさ!


ギィッ……


「「「「「……」」」」」


―――『ようこーそ、みなさーま、いらっしゃいました♪』こんな風に歌ったりしてさ!


ギシッ!

「!? 危ないっ!!」


グシャアアッ―――


「きゃあああああああああ!!!!!!」

「おい! 先生と救急車呼べっ!」

209名無しさん:2022/08/12(金) 22:43:57 ID:9D.Kym8g0







.

210名無しさん:2022/08/12(金) 22:44:47 ID:9D.Kym8g0

「ねえ、あの劇場から歌声が聞こえてくるって噂、本当かな……?」

「え、でもあそこって今は立入禁止だよね?」

「あれだよね、頭にライトが落ちてきちゃった、演劇部の……」

「そうそう、オペラ作ろうってうるさかった子」

「うそ、じゃあ、あの子、ユーレイになってもオペラやろうとしてるの……?」

「こっわー」

「2組のミセリちゃん、だっけ?」

「あー、そんな名前だったね……。まあ、言っちゃアレだけど、結果オーライって感じだよね」

「わかる。美術部とか本当に可愛そうだったもん」

「あれでみんな解放されたって感じだよねー」

「キャハハハ、やだー」

「でも、本当にあれは事故じゃなかったりして……」

「いやー、さすがにないっしょー」

「だよねー。……でもあの日、演劇部のあの子よりも先に劇場に入ってった子がいたらしいよ」

「えー、誰よそれ」

「えっと、確か……」

211名無しさん:2022/08/12(金) 22:46:16 ID:9D.Kym8g0
 あの日、劇場舞台上の照明が落下しミセリに直撃した。即死だった。
 別に、彼女を死なせるつもりはなかった。ただ、事故でも起きてオペラの話が無くなってしまえばラッキー、程度の気持ちで、バトンと照明を繋ぐボルトを少し緩めておいた。そしたら、たまたま彼女が真下にいる時に落ちてしまったのだ。
 そう、あれは事故だったのだ。そして、劇場の調査を行っていくうちにとんでもない事実が判明した。あの劇場は電気系統やら耐震設計にかなり不備があったらしい。特に耐震設計に関しては、あと2回くらい大きな地震に見舞われるとほぼ確実に崩壊してしまうのだとか。何十年もの歴史を持つ我が校の劇場は、もはや負の遺産と化していたのだ。そのため、大した捜査もなされることもなく、事故と処理されたのだった。別に私が何もしなくても、近いうちに事故は起きていたはずだ。
 そして劇場は立入禁止となり、今は解体工事が行われている。

(゚、゚トソン「……」

 ミセリからオペラの脚本作成を打診された直後は、純粋に面白そうだと思っていた。文を書くのが好きだったから文芸部に入ったわけだし、私の作品が求められるのは嬉しかった。しかし、いざ書き進めようとするとすぐに壁にぶつかった。自分の好きなように表現できる小説や詩とは異なり、役者の動きや音楽、大道具を含めた舞台全体の画作りなど、考えなければいけないことが倍以上に増えてくる。特に、大道具の移動を考慮すると迂闊に場面転換すらできないのが、私にとっては辛かった。それに加え、ただでさえ脚本作りに苦戦を強いられているにもかかわらず、管弦楽部、合唱部、美術部、被服同好会のために早く完成させなければ、という重圧に耐えなければならなかった。
 私は悟った。私はただ自分の思い通りに言葉を紡ぐのが好きなだけであって、誰かの要求に応えるようなものを生み出すことはできないのだ。

(゚、゚トソン「……」

 それにしても、最近妙な噂を耳にする。工事現場と化したあの劇場から、歌声が聞こえるのだそうだ。もしかしたらミセリは自分が死んだことに気付かず、今でもオペラ作りに邁進しているのだろうか。それは彼女にとっては幸せなことなのかもしれない。違うのは、そこに私たちがいない、ということだけだ。
 とにもかくにも、私は彼女のオペラから解放されたのだ。自分の好きなことだけを書ける日常に戻ることができたのだ。他のみんなもそうだ。貴重な夏休みの時間を、それぞれが本当に取り組みたいことに捧げることができる。

212名無しさん:2022/08/12(金) 22:47:48 ID:9D.Kym8g0
 とはいえ、後味の悪さは未だに尾を引いている。どれだけあれは事故だったと思い込もうとしても、自分で緩めたボルトのあの感触と、照明がミセリを圧し潰す若干の水気の混じったあの音は脳裏から消えようとしない。それに加えて最近耳にする妙な噂。忘れようとしても忘れられない、お世辞に上手ともいえない彼女の無邪気な歌声が聞こえてくる。


ミセ* ヮ )リ『ずんちゃっちゃ、ずんちゃっちゃ、ずんちゃっちゃ……♪』


( 、 ;トソン「……」

 気付けば私はあの劇場に立ち尽くしていた。ガラクタだらけの舞台の真ん中で、演劇部の部長が飛んだり跳ねたりしている。


ミセ* ー )リ『なーんーてー素晴らしい、私たちーのオペラ♪』


( 、 ;トソン「ミセリ……」

 貴女はとても強い信念の持ち主だ。どれだけ周りから疎まれようと、一度決めたことのためには諦めずに喰らい付く。


ミセ* ー )リ『素敵ーなオペラーを、創りましょうー♪』


( 、 ;トソン「もう、やめてください……!!」

 だけど、私たちを巻き込まないでほしい。


ミセ* ヮ )リ『ら・ら・ら・オペラー、ら・ら・ら・オペラー♪』


( 、 ;トソン「もう、うんざりなんだよ……!!」

( д ;トソン「だから言ったのに……、脚本なんて無理だったんだよ……!!」

 面白そうだと思ったのは事実ではあった。だが、そもそも本当に私は脚本制作を引き受けたのだろうか。仮に引き受けたのだとしても、単なる社交辞令のつもりだった。

213名無しさん:2022/08/12(金) 22:48:44 ID:9D.Kym8g0


ミセ* ー )リ『素敵ーなオペラー、楽しーいオペラー♪』


( д #トソン「だいたいさあ! 私たちなんかを登場人物にしたって、ちっとも面白くないんだよ! 発想の根本が手垢塗れなんだよ!!」

 脚本作りには行き詰っていた。そんな私に対して、ミセリは生意気にもアドバイスしてくれた。いったい、何の権限があって私に口出ししてくるのか。私は好き勝手に話を書いていきたかった。

( д #トソン「何がオリジナルのオペラだよ! あんたの自己満を押し付けてくんなよ!! ほっといてよ!!!」

 そうだ。私には誰かと一緒に何かを作り上げるなんて、そんなことには向いていないのだ。ずっと一人で、自分の世界を自由にアウトプットできればそれでよかったのだ。


ミセ* ー )リ『……』


( д #トソン「ハァ、ハァ……」

 しばらくの静寂。
 穴の開いた壁から月光が差し込み、幻想的な光景が広がっている。


ミセ* ー )リ「トソンちゃん」


 舞台から私までの距離はかなり離れているはずなのに、彼女の声ははっきり私に届いてきた。

214名無しさん:2022/08/12(金) 22:50:02 ID:9D.Kym8g0





ミセ* ー )リ「これで、みんな揃ったね」

川 ゚ ゚ノパ ゚)' '从 (*゚ ゚)




.

215名無しさん:2022/08/12(金) 22:50:57 ID:9D.Kym8g0

( 、 ;トソン「ひぃっ……!!!」

 ミセリの足元で蠢く「それ」らは、闇に紛れてほとんど判別はつかなかったが、明らかに馴染みのある眼をしていた。


ミセ* ヮ )リ『ら・ら・ら・オペラー、ら・ら・ら・オペラー♪』


( 、 ;トソン「や、やめて……」

 ミセリが近付いてくる。


ミセ* ー )リ『素敵ーなオペラー、楽しーいオペラー♪』


( 、 ;トソン「こないでっ……」

 足はびくともしない。まるで、劇場の一部と化しているかのようだ。


ミセ* ヮ )リ『ら・ら・ら・オペラー、ら・ら・ら・オペラー♪』


( д ;トソン「あ、あぁ……」

216名無しさん:2022/08/12(金) 22:51:47 ID:9D.Kym8g0





ミセ*^ー^)リ「これで、オペラが創れるね!」

 私たちは、彼女のオペラに組み込まれるしかない。




.

217名無しさん:2022/08/12(金) 22:52:39 ID:9D.Kym8g0

  (
   )
  i  フッ
  |_|


単語お題:工事現場
台詞お題:だから言ったのに
縛り:登場人物全員少女
シチュエーション:オペラ

Special Thanks
百物語のようです2022お題(拘束プレイ):https://odaibako.net/gacha/7329

218名無しさん:2022/08/12(金) 22:55:32 ID:KF5e62T.0
乙! 面白い
THE 怪談って感じで好き

219名無しさん:2022/08/12(金) 22:57:33 ID:Fp2xG0qk0
 .,、
 (i,)
  |_|
二十七本目もいただきますわよ〜〜〜!!

お嬢様vsこっくりさんのようですわ
https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/21864/1660312497/

220名無しさん:2022/08/12(金) 23:16:01 ID:lJgrB/vA0
 .,、
 (i,)
  |_|
28本目
マッ()ョ()ョタハ ナシのようです
https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/21864/1660313682/l30

221名無しさん:2022/08/12(金) 23:36:04 ID:Fp2xG0qk0

   )
  i  フッ
  |_|
投下終了ですわ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!

お嬢様vsこっくりさんのようですわ
https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/21864/1660312497/

222名無しさん:2022/08/12(金) 23:48:48 ID:lJgrB/vA0




  (
   )
  i  フッ
  |_|

マッ()ョ()ョタハ ナシのようです
https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/21864/1660313682/l30
ありがとうございました

223名無しさん:2022/08/13(土) 18:03:03 ID:6.8bqB3k0
 .,、
 (i,)
  |_|
29本目、もらいます
ビアンジュエ・パルファムのようです
https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/21864/1660381293/

224名無しさん:2022/08/13(土) 20:15:12 ID:6.8bqB3k0
  (
   )
  i  フッ
  |_|
ビアンジュエ・パルファムのようです
https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/21864/1660381293/
よき香りに出会えますよう

225名無しさん:2022/08/13(土) 20:37:36 ID:QB79BDyI0
30本目

  .,、
 (i,)
  |_|

226名無しさん:2022/08/13(土) 20:39:37 ID:QB79BDyI0

  _
( ゚∀゚)「お、いいところに!ちょっとこっち来い!」


( ´_ゝ`)「ん?どうした、長岡」スタスタ

  _
( ゚∀゚)「今な、百物語やってんだ」

( ・∀・)「百物語って言ってもロウソク15本だから十五物語だけどな」

( ´_ゝ`)「そうか、机に蝋燭貼りつけて先生に怒られても知らんぞ」

( ´_ゝ`)「それじゃ、じゃあな」
  _
( ゚∀゚)「じゃあな、じゃねえよ!」

( ・∀・)「兄者も参加してよ」

( ´_ゝ`)「……」

(,,゚Д゚)「1人5個くらいならいけるかと思ったが、意外とキツイんだこれが」

( ´_ゝ`)「百物語なら学校の行事であっただろ?自由参加のやつ」

( ´_ゝ`)「3人でやってないでそっち参加しろよ、確か来週だったと思うぞ」

( ・∀・)「それの予行練習だよ、予行練習」

(,,゚Д゚)「ホラーの語りなんてやったことないからな」

( ´_ゝ`)「なるほどな」

227名無しさん:2022/08/13(土) 20:40:42 ID:QB79BDyI0
  _
( ゚∀゚)「おもいっきり女子を怖がらせておっぱいの震えを堪能する作戦だ!」

(,,゚Д゚)「俺はそんな理由じゃないけど失敗はしたくないしな」
  _
( ゚∀゚)「というわけで参加してけ!」


( ´_ゝ`)「俺は百物語参加しないしなあ」

( ´_ゝ`)「そもそも怖い話なんて知らないし」

(,,゚Д゚)「創作でも体験談でもいいぞ、仲間内なんだから失敗も気にすんな」

( ・∀・)「成功なら本番で使わせてもらうけどな」
  _
( ゚∀゚)「一人暮らしなんだからなんかしらあるだろ?」
  _
( ゚∀゚)「不思議な現象とかあれはなんだったんだろうとかでもいいぞ」

( ・∀・)「え、兄者って一人暮らしなの?」

( ´_ゝ`)「う〜ん、まぁ」


( ´_ゝ`)「う〜む、どうするか……怖い話じゃなくてもいいのか?」

(,,゚Д゚)「おう、いいぞ!不思議系か?」
  _
( ゚∀゚)「もしくはおっぱいがついてる幽霊だな!」

228名無しさん:2022/08/13(土) 20:42:40 ID:QB79BDyI0

( ´_ゝ`)「それじゃあ、弟の話でもするかな」

  _
( ゚∀゚)「弟?お前姉と妹しかいなかっただろ」

( ・∀・)「詳しいな」
  _
( ゚∀゚)「小学校の頃からよく遊んでるからな、家にも何度も行ってるし」

( ・∀・)「ジョルジュのことだからおっぱいしか見えてなかっただけじゃないの?」

(,,゚Д゚)「単に創作の話か人から聞いた話ってことだろ」



( ´_ゝ`)「お前ら、幽霊って成長すると思うか?」


(,,゚Д゚)「はあ?」

( ・∀・)「しないだろうね」
  _
( ゚∀゚)「するなら殆どの幽霊は爺婆になっちまうしな」


( ´_ゝ`)「正解は幽霊の一部はする、だ」

  _
( ゚∀゚)「つまり死んだ幼女はロリ巨乳になるわけか!」

(,,゚Д゚)「見た目とかは変わらないけど学習はする、みたいな事じゃないのか?」

( ・∀・)「なるほど、そういうことか」


( ´_ゝ`)「いや、そういうことじゃない」

229名無しさん:2022/08/13(土) 20:44:28 ID:QB79BDyI0
( ´_ゝ`)「言い方が悪かったみたいだな」

( ´_ゝ`)「成長しない幽霊と成長する幽霊がいるってことだ、もちろん容姿もだ」


( ´_ゝ`)「……いや、成長しない幽霊がいるかは分からないか」

( ´_ゝ`)「でも一般的に成長しないと思われてるってことはそういうことなんだろう」


( ・∀・)「……その言い方からすると、兄者は成長する幽霊を知ってるの?」

(,,゚Д゚)「話の流れからすると弟、か?」


( ´_ゝ`)「ああ、正解だ」


( ´_ゝ`)「俺の想像ではあるんだが、幽霊が成長するかしないかはイメージなんだと思う」

  _
( ゚∀゚)「その幽霊の想像力次第ってことか?」


( ´_ゝ`)「それはちょっと違うかな、まあそもそも俺の想像なわけだけど」

( ´_ゝ`)「幽霊か周囲の人か、はたまたその両方のイメージが関わるんだと思う」


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