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Desperado Chariots

229 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:11:20 ID:Y6pO/fks0
(#^ω^)「親父なら仕事でいねえ筈だお!!どうやって入ったんだお!!」

('A`)「そらぁお前、玄関からでしょうよ」


そう言ってi-ringから見せびらかしたのは内藤家のセキュリティ・コードが記されたホログラム。一昔前の言い方をするなら、所謂『合鍵』であった
文彦がアメリカかぶれだったら思わず『ジーザス……』と呟いてしまうところであった


(;^ω^)「ジーザス……」


アメリカかぶれだった。だからそんなポンポン膨らんでるし顎もダルンダルンなの??????形から肥満大国に入るタイプ??????資本主義が生んだ豚じゃん


(#^ω^)「い、いや!!親父なんて関係ねえお!!僕はチャリオッツを辞めたし、復帰するつもりもねえお!!帰れお!!じゃないと……」

('A`)「『じゃないと』、なんだ?」

(;^ω^)「っ……」


文彦は言葉に詰まった。目の前の男がドアを拳で突き破った危険人物でなくとも、家宅に侵入した不審者に抵抗出来る者は少ない
それも、一歩踏み出せば手すら届く範囲内だ。i-ringの緊急通報機能を使うよりも先に危害を与えるなど造作もないだろう
力づくで追い出すなんて以ての外だ。紙袋の中身が何なのか知る由もないが、例え文彦が武器を持っていたとしても徳雄には敵わない
チェスや将棋でいう『詰み(チェック・メイト)』にはまってしまった。文彦の膝(爆発はしない)は恐怖でゲラゲラと笑いだした


文彦の膝「ダーーーーーーーーーーーーーーーーーッハッハッハッハ!!!!!!!!こいつぁ傑作だァ!!!!!!!!!!!!」


何が傑作なのだろうか?ブサイクの顔?正直言って徳雄の顔はそう神様が左手で描いたみたいってこと!?


('A`)「そう緊張すんなよ。取って食いやしねえって。コレステロール値高そうだし」


そんな彼を余所に、不審者は結構な無茶を要求する。誰だって自分以外誰もいない自宅で


『君は、普通の人間にはない特別な能力を持っているそうだね?ひとつ……それをわたしにみせてくれるとうれしいのだが』


と言って髪から肉の芽を飛ばしてくる変態に話しかけられたらアヴドゥルさんだってウオオオ言うて窓からグワガシャアッって飛び出して迷路のようなスークで追走から逃れようとするのだから

230 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:13:20 ID:Y6pO/fks0
(;^ω^)「……帰る気はねえのかお?」

('A`)「残念ながらな。いや、そうでもねえか?ほれ」


そう言って差し出した紙袋を受け取った文彦は、恐る恐る中身を確かめた
女性の左手とか入ってたらどうしよう。お尻拭いてもらって幸せな気持ちになるしかないのかな?だいぶ冷静さを欠いていたが、土産の内容を理解すると


(;^ω゚ )「な……これ……?」


驚きと共に、脳の奥から幸福になれる汁がジワリと漏れ出した


('A`)「社長が持ってけってうるさくてな。なんでも、我が社とタイアップした限定商品らしいぜ。知らんけど」


三十センチ大のボックスに描かれているのは『推し』の顔。ポリスチレン製のショー・ウィンドウの中では、和装姿の女性キャラが抹茶と団子を乗せた盆を持ってウインクを放っている
大人気ヴァーチャル・アイドル『皆鳴 ミセリ』と、参羽鴉グループの経営する高級茶房『天華』とのコラボレーションフィギュアであった


(;^ω゚ )「な……え……は……?」

('A`)「それ十万くらいするらしいぜ?」

(; ゚ω゚ )「ええええええええええええええええええええええ!!!!!!!????????」

231 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:14:01 ID:Y6pO/fks0
マリィのSRが二枚と半分買える値段である(2022年の相場)。それもオタクにぶっ刺さる限定商品。加えて、販売前である
ミセリの情報は欠かさず追っていたデブオタクすら知らなかった、寝耳に水どころかスピリタス流し込まれたかのような手土産だ
文彦自身を狙い撃ちした賄賂だ。袖の下だ。黄金色の饅頭だ。どう考えたって甘い罠でしかない。頭の中では警鐘が鳴り響く
十万なんてするような品物、受け取れるはずがない。受け取ったら最後、骨の髄までしゃぶられるのは目に見えている。目の前のブサイクを従えるボスは、それくらいやりかねないのではないか?
返すべきだ。そもそも、推しのグッズ購入はファンの義務であって、それでミセリたゃが美味しいご飯食べてくれるのが一番の幸せで、商品が届けば僕も幸せになれる。Win-Winでなければならない
タダで推しを迎え入れるなんて彼女への冒涜で、志同じくするミンミン民(皆鳴ミセリのファンの総称)への裏切りに他ならない。返せ、返せ、返せ!!


( ^ω^)「あ……ありがとござぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっす!!!!!!!!!!」


身体と欲望は正直だった。だって向こうが勝手に押し付けてきたんだし?据え膳食わねば武士の恥とも言うし?僕は仕方なく受け取っただけで別に裏切りとかじゃないし?
ツラツラと自分自身への言い訳を並べているが、結局は欲に負けたクズデブだった。それでもいいじゃない。人間はみんなクズだもの。この世に天使はミセリたゃしかいない。ミセリしか勝たん


( ^ω^)「お茶でも……飲んでいってくださーーーーーーーーーーーーーーーい!!!!!!!!!!!!」

(;'A`)「お、おう……」


徳雄はオタクの変わり身の早さに圧倒されながら、作戦の第一段階をクリアした事に小さく安堵のため息を漏らした
それと同時に、信念も意志もクソ弱いこのオタクデブを仲間に引き入れていいものかと、靄のような不安も湧いて出るのだった

232 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:17:28 ID:Y6pO/fks0
―――――
―――



自主的なやる気の奮起を促す為に、まずは文彦と親密になる必要がある。人付き合いが得意ではない徳雄は、不本意ながら頼れる年長者に案を求めた
数日もせず返ってきたのは、インテリアとして飾るには少々憚られる、やけに露出の多い和装に身を包む美少女フィギュアだった


('A`)(金のねえオタクの学生は、餌を前にしたら意志が弱くなる……オッサン共の言った通りだな)

( ^ω^)「粗茶ですお」

('A`)「ああ……どうも」


にしても、この様変わりようには少々どころか多大な気持ち悪さを禁じ得ない
一応、予習として『皆鳴 ミセリ』の動画アーカイブをある程度漁ってみたが、癪に障る媚びた声色で当たり障りのない雑談を垂れ流したり
ホラーゲーム配信では、鼓膜が劈くほど喚き散らしてロクに前へ進まない、フラストレーションの溜まる映像が二時間弱ほど続いてるだけで、特に深く突き刺さっていくようなコンテンツにはとても思えなかった
それでも、動画サイトのチャンネル登録者数や再生数は日本有数で、数多くのメディアミックス展開を繰り広げている人気ヴァーチャル・アイドルの一角ではあるらしい
結局、徳雄が若干の睡眠時間を犠牲にして得られた情報は、『オタクのツボはわからん』という事だけであった


('A`)「あの……ミセリだっけ?」


だが会話のきっかけにとして使える。茶を啜って準備を整えた徳雄はおずおずと切り出した


( ^ω^)「はい!!セミ系ヴァーチャルアイドルの皆鳴ミセリたゃですお!!!!!!」

('A`)「セミ系……?」


徳雄は知らなかった。オタクに推しの話をさせるという行為の恐ろしさを
そして思い知った。オタクという人種が持つ熱意と知識、聞き手側への一切の配慮が無い怒涛の会話量を

233 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:18:08 ID:Y6pO/fks0



( ^ω^)「孵化後のセミの寿命は七日!!だけどうっかり七百年生きちゃったセミが人の姿を成したのがミセリたゃですお!!彼女はセミ特有の声量を活かしてアイドルとして活動してますお!!だけどただ五月蠅いってだけじゃなくて面白さも兼ねてるのがミセリたゃの魅力で大体のミンミン民ならまずレトロゲームの金字塔バイオハザードシリーズの絶叫実況を勧めるんですが僕のオススメは何と言っても野生のセミとの合唱ASMR!!真夏の公園で配信した伝説の回なんですがマジでセミの声が五月蠅くてミセリたゃの声が何一つ聞こえないんですお!!これで炎天下の中ヨ時間配信してたんですお!!伝説ですおねあれは!!おっと、ええ、言いたいことはわかりますお!!上級者過ぎてついていけないって顔してますおね?そうですね入門ならまず歌ってみたを触ってみたらどうでしょうかお?21世紀のJ-POP中心にカバーソングを精力的に配信してるので古いアニソン好きなら確実にぶっ刺さりますお!!セミっていうイメージから音痴だと思われがちですがとんでもない!!鼓膜から胸にすっ……と通り抜けるような透き通る歌声に心が震える事間違いなしですお!!僕が好きなのはやっぱり21世紀の陰キャ共を夢中にさせた美少女RPGの主題歌『Lost Princess』!!これをトソンちゃんと歌ったデュエット動画は二千万再生を叩き出し……あ、トソンちゃんっていうのは暴走ドライバー系ヴァーチャルアイドルで、週に二回は交通事故を起こしていることから交通ルール注意喚起動画や勉強動画を主に配信してる配信者で、仲良しのミセリたゃとは少なくても月に一回はコラボ動画を出しているんですお!!『百合営業きっしょ』とかほざくカスは死ねお!!コラボ動画のオススメは勿論まだあって、チャリオッツ大会の同時視聴動画なんかも人気ですお!!コラボ動画はやっぱりオフの酒飲み配信がてぇてぇの極みでして酔ってぽわぽわになったミセリたゃがトソンちゃんに甘えるのを聞いてるだけで『ああ壁になりてぇ……』ってなるんすお!!わかりますかお!!もう辛抱堪らんって感じじゃないですかお!?」




ここまで聞いて徳雄はこう返した


(;'A`)「お、おう」

234 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:19:16 ID:Y6pO/fks0
( ^ω^)「わかって……くれますかお?」

(;'A`)「あ、ああ……」


カルト宗教の勧誘が下手くそな人ってこんな感じなんだろうなってのはわかった(上手い奴は外堀から埋める)。もし文彦がその手の野郎なら鼻と指の骨を折った後、口にちょうどいいサイズの石か折った鉛筆を入れて顎を下から殴り上げて終わりだが、彼との関係構築はここがスタートラインだ
『好きの共有は仲良くなる為の第一歩』。盛岡のアドバイスに従い、徳雄は皆鳴ミセリという活路から己の土俵に引き摺り込む算段を企てた
誤算だったのは、徳雄が想定していた『共有』が、遥かに規模の大きな情報量だったという事。この言葉には『共感』と『肯定』の意味も含まれている
情報を飲み込んだ上で理解し、『わかる?』と問われたのならば『わかる』と返さねばならない。これはオタクに限らず、どのような人種との会話でも必須の基本的なテクニックだ


(;'A`)「か、可愛い……よな……うん」


しかしこれまでの人生の中でオタクと関わった事も、ましてやアニメや漫画、ゲームすらほとんど触れてこなかった徳雄にとっては未知の領域だった
なので、癇癪持ちでどこに地雷が埋まっているかわからない文彦を相手に、探り探りかつ慎重に親睦を深めていかねばならない
ぎこちなく言葉を返しながら、もっと勉強しておけば良かったと後悔をした。だが、内心一杯一杯な徳雄とは裏腹に


( ^ω^)「ですおね〜!!やっぱキャラデザから神ってるっていうか……あ、キャラデザを担当したママはあの有名絵師で……」


文彦はまたもや徳雄の返事の数十倍の文章量を早口に乗せてイキイキと語り始めた。前回の薄暗い陰はなく、年相応に明るく気持ち悪いオタクデブと言った様相であった


(;'A`)「ようよう待てよ待てよ。そんないっぺんに来られても理解できねえって」

(;^ω^)「お……す、すみませんお。ミセリたゃのことになるとつい熱くなっちゃって……」

(;'A`)「いや、謝る必要はねーんだがよ……」


気持ち悪いが、同時に少し羨ましくもあった。『自分が胸張ってのめり込めるものなんて無いからな』と
喧嘩は楽しい。だが、暴力など褒められる行為じゃない。自転車だって、一度は降りた身だ
そもそも、『あいつ』が関わってなければ、あいつが別の競技をやっていれば、ペダル漕いで山登りなんてしなかった
趣味と呼べる趣味なんて、今まで作ったことがなかった。正直、あまり興味も無いし唆られる要素も無いが


(;'A`)「もう一回、ゆっくり教えてくれよ。どの動画から見るのがいいんだ?」

( ^ω^)「おっ!!そうですねまずはやっぱり」※クソオタク早口

(;'A`)「ゆっくり頼む」


これを機に、新しい世界に踏み込むのもいいかもしれないと思うのであった

235 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:24:54 ID:Y6pO/fks0
―――――
―――



(ヽ'A`)「ソロソロカエルネ……」

(;^ω^)そ「えー!!ここからがいいところなんですお!!」

(ヽ'A`)「アシタオシゴトダカラ……」


凄まじいミセリの供給量を長時間詰め込まれたブサイクは、帰るタイミングをようやく掴めた
なんか聞いてる内に興味とか湧いてくるかなって思っていたが、ゼロに何を掛けてもゼロなのである。何が新しい世界だぶち殺すぞカス


( ^ω^)「あ……そう言えば、ご用件があったんじゃないんですかお……?」


流石にこのまま帰すのは気が引けたのか、おずおずと用件を聞いてきたが、今の徳雄は本題に入る気力すら尽きていた


(ヽ'A`)「マタコンドネ……」

( ^ω^)「あ、はい……」

(ヽ'A`)「ジャマタ……」

( ^ω^)「はい、また……」


這う這うの体で内藤宅を後にした徳雄は、頭の中でキンキンと鳴り響くヴァーチャル・アイドルの声に悩まされながら、i-ringから連絡を入れた
暫く歩き、待ち合わせ場所であるコンビニに到着すると、さっきまで散々画面の中で騒ぎまくってたセミ畜生が描かれたノボリが立てられていた


:(ヽ'A`):「ァ……ウワァ……」


何の変哲もないただのタイアップキャンペーンだったが、情報を詰め込まれすぎて幻覚と勘違いした徳雄はその場で腰を抜かした
道行く人やコンビニの利用者が『なんやこいつ顔キッショ』と訝し気な目で見て来たが、手を差し伸べようとする者は一人もいなかった。世間はブサイクに厳しいだけでなく、ヤク中みたいな挙動を取る奴に近づこうとはしないのである

236 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:25:43 ID:Y6pO/fks0
(;´・_ゝ・`)「徳雄くん!?どうしたんだい!?」

:(ヽ'A`):「キンニクタカラサン……」

(;´・_ゝ・`)「え?なんて?」


それから十分ほど経過し、迎えに上がった盛岡が駆け寄るまで徳雄はノボリの前で動けずにいた
『これがあの悪鬼の姿か?』と、たった一日でここまで憔悴したブサイクの姿に、盛岡は戦慄を覚えた。内藤 文彦は徳雄以上に、厄介な相手であると


(;´・_ゝ・`)「とにかく、ここは目立つ。さぁ、車に乗って」

:(ヽ'A`):「ハァイ……」

(;´・_ゝ・`)「声ちっさ」


徳雄に肩を貸して後部座席へと座らせた盛岡は、本八へ連絡を入れようかほんの一瞬だけ迷ったが


『(´^ω^`)「え!!!!!!!!???????ブサイク死にかけてんの!!!!!!!!????????見てえ!!!!!!!!!連れて来いよ!!!!!!!!!!!」』


と返ってくるのが目に見えていたので、今日はこのまま自宅へと帰す事にした


(ヽ'A`)「好きの共有って難しいんすね……」

(;´・_ゝ・`)「僕だって想定外だよ。まさかキミがここまで追い込まるなんてね」

(ヽ'A`)「止まんねえんすよ……ずっと喋ってるんすよ……どの動画が良いとかライブのコールがどうのこうのとか……」

(;´・_ゝ・`)「耐えられそうかい?」


忍耐力の限界もあるが、何より『時間』という制約がある。大晦日まで半年と少ししか残っていない
文彦を含む三人がそれなりの力量を持っていたとしても、それを一纏めにする為の訓練は必要不可欠なのだ。猶予は多いに越したことは無い
徳雄が『出来ない』と判断を下したのならば、早急に次の手を打たねばならない。意固地になってズルズルと引き延ばされるより、スパッと切り替えた方が良い

237 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:28:00 ID:Y6pO/fks0
(ヽ'A`)「人間、そう簡単に潰れやしませんよ……」

(´・_ゝ・`)「その考えは身を滅ぼすよ」

(ヽ'A`)「テメーのことはテメーが一番よくわかってんでね……それに、たった一日でアンタらに泣きつくのも癪じゃないっすか……」

(´・_ゝ・`)「逞しいね。だけど、目的を忘れちゃいけない。あのクズだって、そりゃ多少は煽るだろうけど、非難はしないさ」

(ヽ'A`)「それが我慢ならねえっつってんすよ……」


『良くないな』と、盛岡は危惧した。頑固な人間が破滅するパターンに似通っている
確かに徳雄の言う通り、たった一日で見限るのも考えものだ。しかしこうも言い換えられる。『もう一日経った』のだと
彼に任せたのは本八と自身とは言え、この有様を目の当たりにしてしまうと多少の不安も湧いて出てしまう。しかしバックミラー越しに


(ヽ'A`)「余計な心配も手出しもしないでくださいよ……元より、こちとらトコトンまで追い込まないとマジになれねえタチでね……」

(´・_ゝ・`)「……」


悪い癖だ。全て自分で何とかしようとして、他人を信じることが出来ない。能力にそれほど差がない本八との決定的な違いが『そこ』なのだ
文彦獲得の為に必要なのは、心配ではない。上部が責任を持った上で部下に託す『経営者視点』だ
進捗状況や成果を受け取り、その都度アドバイスやバックアップを行う。焦らず、長い目で見て、攻略の手助けをせねばならない


(´・_ゝ・`)「わかった。本当に限界なら早めに言ってくれ。クズが気に食わないなら半殺しにしても構わない」

(ヽ'A`)「言われんでもそうしますよ……ところでデミさん」

(´・_ゝ・`)「なんだい?」

(ヽ'A`)「近い内に、ミセリなんちゃらのイベントなんかありますかね?」

238 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:29:17 ID:Y6pO/fks0
(´・_ゝ・`)「……」


攻略の糸口として皆鳴ミセリの情報を予め調べた限り、直近でイベントを行うといったスケジュールは見当たらなかったが、こう言う時こそ彼らが持つ最大の武器が活かされる


(´・_ゝ・`)「ねじ込もう。いつがいい?」


今も昔も、世の中は『金』で動いているのだから


(ヽ'A`)「その辺も含めて今から打ち合わせがしたいんで、本社の方に寄ってもらっていいっすか……?」

(´・_ゝ・`)「大丈夫かい?」

(ヽ'A`)「あのクソ野郎が気に食わねえ態度取ろうもんなら、話が出来る程度に痛めつけるまでですよ……」


『話は終わりだ』と手を振った徳雄は、そのままシートにもたれ掛かって目を閉じた
盛岡は交差点で大きくUターンを行い、本社へ向けて車を走らせる。頭の中では既に、予算の算盤勘定と獲得に到る最短スケジュールを組み立てていた

239 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:30:26 ID:Y6pO/fks0
―――――
―――



( ^ω^)「やったわこれ……」


十万するフィギュアを前に、文彦は頭を抱えていた。いやこんなもんあからさまな餌に決まってんだろバカ!!ぽっちゃり系!!うっかりアメリカかぶれ!!
幾ら自分を罵倒しようとも、覆水盆に返らず。受け取ったことを口実にチャリオッツへの復帰を迫ってくるに違いない
早急に返そう。そしてもう二度と関わるなとキッパリ突っぱねよう。あの界隈に、もう自分の居場所は無いのだから


( ^ω^)「……」

( ^ω^)「めっちゃ出来ええわ……」


返却するまで記憶と網膜に焼き付くまで眺めるくらいは良いじゃないか。だって押し付けられたんだもの


('A`)「文彦くーん」ガチャ

(;^ω^)そ「うおおおおおおおおおおおおお!!!!!???????」


ノックも無しに突然訪れた望まぬ客に、文彦は椅子から転げ落ちた。デブのデカい尻に日々虐げられている可哀想な椅子からだ。前世でどんな業を犯したらこんな酷い目に遭わねばならぬのだろう


(;^ω^)「い、いいいいい……インターホンくらい鳴らすお!!アンタいつも唐突すぎるんだお!!」

('A`)「今日はウチの会社とのコラボで店頭に飾る皆鳴ミセリの等身大パネル(非売品)を持ってきたんだけど」

( ^ω^)「ここを自分ちだと思って寛いでいってくださーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!!!!!!!!!!!!!」


即堕ちだった。人は推しを前にすると自制心が狂うのである。キング・オブ・ポップことマイケル・ジャクソンのライブで興奮の余り失神するファンと一緒だった
ウキウキとお茶を淹れに行った文彦に、徳雄は「よくもまぁここまで他人に気を許すものだ」と、ブサイクで呆れた表情を浮かべた

240 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:31:00 ID:Y6pO/fks0
その後は、前と同じパターン


( ^ω^)「ベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラベラ!!!!!!!!!!!!!!」


妖怪人間の名前を連呼しているのではない。皆鳴ミセリの推しポイントを描写するのが面倒なので省略しているだけだ。早く人間並みの一般体重に戻れたら良いのになデブ


(ヽ'A`)「わかるー」


言ってる内容の十分の一も理解出来ず、共感も出来ないまま、徳雄はその日もただ憔悴させられただけだった
ブサイクな顔面が幸いして、顔に出た疲労感は、まだ年若い文彦には読み取れなかった


( ^ω^)ノシ「いつでも遊びにきてくださーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!!!!!!!!!!!!!」

(ヽ'A`)「ウン……」


豪華な土産と推し語りにすっかり気を良くした文彦は、徳雄が訪れた理由を尋ねることも忘れ、その日はにこやかに見送ったのだが


( ^ω^)「バカタレ…………」


後になって着々と懐柔され始めている事に気づき、深く後悔するのだった

241 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:37:08 ID:Y6pO/fks0
しかし人間、労なく甘い蜜にありつけた時、怪しいと思えど簡単に手放すことは出来ない。世に蔓延る詐欺という犯罪がどれだけ長い年月をかけても撲滅できないのがその証明と言える
その根底には、嘘によって築き上げられた虚偽の信頼感と、『自分だけは大丈夫』といった、根拠のない自信が存在するからだ。悪意で食ってる犯罪者に言わしてみれば、そう言った人種を総じて『カモ』と呼ぶ


( ^ω^)「……」


内藤文彦も多分に漏れず、ミセリ依存に苛まれ、欲望に支配され始めたカモであり、チャリオッツ復帰を迫られ続けている苛立ちと危機感を


_人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人_
> ( ^ω^) 貰えるもん貰ってから断ればいいや!!!!!!!!! < ドッコイショオオオオオオオオオオ!!!!!!!!
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄


楽観で塗り潰す、典型的な詐欺被害者の道を辿っているのであった

242 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:38:10 ID:Y6pO/fks0
そんなカス野郎に対して、本八陣営は大々的な一手を即座に打った。それが―――――


『皆鳴ミセリ×天華コラボ記念 ゲリラライブ』である


発表から三日後の週末に開催し、チケットは『完全先着順』という余りに性急かつ無謀な内容。案の定販売サイトは鯖落ちし、炎上するかに思えた
だが、主催があの参羽鴉グループ。そう、一族代々頭可笑しいドクズで有名な大潮家である。民衆は揃ってこう思った


「まぁクズやしな……」と


そしてヴァーチャルタレントという文化が誕生してから、歴代のレジェンドが起こした奇行、奇イベントの数々。それは皆鳴ミセリとその運営も例に漏れず。鍛え上げられたミンミン民は揃ってこう思った


「まぁミセリやしな……」と


こうして、世が世なら普通に大炎上するであろうイベントは、特に波風立たずに無事開催に到った。うーん平和平和!!!!!!!!!現実の人間もこれくらい寛容だったらいいのにな


当然、一ミンミン民である文彦にもその一報は即座に届いた。ほぼ反射的にチケットサイトを開き、脂ぎった図体からは想像も出来ないほど俊敏に支払いフォームへ各情報を入力し
購入確定のアイコンを爪の付いてるソーセージでタップしようとした時になってようやく我に返った。このイベントが、何の為に行われるのかに気づいたのだ


(;^ω^)「……」


他でもない、『自分』の為だけに開かれるライブであろうことに
それを自覚した瞬間、文彦は初めて『血の気が引く』という感覚を体験した。テーブルを濡らすほどの脂もとい冷や汗が流れ出るのも、この時が初めてだった
全身凶器顔面便器のチビブサイクが高価なフィギュアを持ってきた時に気付くべきだったのだ。彼らは、自分を手に入れる為には『ここまでやる』だけの権力と財力、そして狂気を持ち得ているのだと


(;^ω^)「に……」


『逃げなくては』。ブルブルと震える豚よりも肥えた豚足もとい脚を何とか踏ん張り、デスクチェアを体重という拷問から解放させたその時

243 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:38:56 ID:Y6pO/fks0



<文彦くーん



(; ゚ω゚ )「」



悪魔が呼ぶ声が、文彦のハツもとい心臓を鋭く穿った


ドアだ|A`)「今日はさぁ、とっても良いもの持ってきたんだけど……」


(; ゚ω゚ )「お……おお……」


ドアだ|'A`)「お気に召して貰えるかなぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜……」


文彦はほんの数秒間、中腰のままであったが、ソトモモもとい尻を再び可哀想な椅子へと崩れるように落とした。腰を抜かしたのではなく単純に膝が少しの負荷にすら耐えられなかったからだった
徳雄が持ってきた『良いもの』の内容など、聞かずとも察せられた。そして、自分はそれに抗うことなど出来ないことも


:(; ゚ω゚ ):「は……はわわ……」


('A`)「……」


('A`;)「ん、なん?なんか憑いてたりする?」


文彦が余りにも戦々恐々とするので、徳雄は思わず背後を振り返った

244 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:40:25 ID:Y6pO/fks0



 バッタリサン
 
川д川('A`;)




(゚A`;)そ「おわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!????????オバケだーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」


川;д川そ「おわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!????????ブサイクだーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」


(;^ω^)そ「おわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!????????お母ちゃんだーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」




お母ちゃんだった

245 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:41:55 ID:Y6pO/fks0
―――――
―――



(´・ω・`)「よう、どうだった?」


事務仕事を片付けに職場へと戻ると、バックヤードでは本八が団子をアテに茶を啜っていた
最高責任者にこうも頻繁に来訪されては、店長も堪ったものでは無いだろうな。徳雄は若干の同情を荷物と共にロッカーへと仕舞いこんだ


('A`)「多少渋られたが、思わぬ援護射撃があってな。予定通り連れ出せそうだ」

(´・ω・`)「援護射撃?」

('A`)「ママだよ」

(´^ω^`)「人妻かァ……」ニチャァ……


やっぱぶっ殺した方が世の為人の為文彦の為になるんじゃないか。徳雄は真剣に消す方向で考えを進めた


('A`)「そっちは?」

(´・ω・`)「順調よ。隣のロッカー開けてみろ」

('A`)「隣?」


隣接する店長のロッカーを開いた瞬間、徳雄の頭二つ分大きく、長い『荷物』が倒れ込んで来る
ズタ袋に包まれたその荷物は、殺虫剤をかけられた芋虫のように激しく身悶えし、くぐもった悲鳴を上げている
徳雄はそれをゆっくりと床へと降ろすと、眉間を抑えて大きくため息を吐いた


(;'A`)「この手しか知らねえのかアンタは……」

(´^ω^`)「だって楽なんだもん☆」


あたしさくらんぼとでも歌いだしそうなノリの軽さだった

246 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:43:57 ID:Y6pO/fks0
(´・ω・`)「そら俺だって最初は穏便に済まそうと思ってたよ?でもこいつクソヤンキーだからめんどくせえ絡みされてさぁ」

(;'A`)「わかったもういい」


『荷物』の頭に被さる袋を剥ぎ取り、次いで口を塞ぐガムテープを遠慮なく剥がす


(=#゚д )「ッ……おいゴラテメェふざけてんじゃねえぞ!!」


部屋の明かりに目を眩ませながらも、拉致されたヤンキーは威勢よく啖呵を切る
低くドスのある声色であったが、徳雄は眉すら動かさずに見下し、本八はザコが粋がってる姿を見て笑った


(=#゚д゚)「俺を誰だと思ってやがる!!蟒蛇の新進気鋭……」


そんな威勢も、目が慣れるにつれて尻つぼみになっていく


(=#゚д゚)「プロ……ジョッキー……」


('A`)「少し見ねえ間に大層な御身分になってるようで何よりですよ」


彼と対面するのは、徳雄が最も荒んでいた中学生以来だった。二つ年上の先輩で、地元でも札付きのワルとして有名だった男だ
『親友』ほどでは無いが美形の類で、右頬に走る二本の傷跡が猫の髭を思わせることから、『片髭の虎猫』と呼ばれていたのを覚えている
だが、徳雄の顔を見た瞬間、怒りに吼える『虎』の部分は鳴りを潜め、自身より強く大きな存在に怯える『猫』の側面が強制的に引き出されていく


:(=;゚д゚):「う……宇都宮……さん……」


震える唇からやっとの思いで絞り出せたのは、敬称を付け加えた小さく醜い『トラウマ』の名前であった

247 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:45:13 ID:Y6pO/fks0
('A`)「どうも、貴虎(たかとら)先輩」


『高城 貴虎』。かつての顔馴染みが『蟒蛇』のメンバーリストに入っていたのは、本八陣営にとっては僥倖の一言に尽きる
文彦の脱退と入れ替わるように加入した彼は、新入り故に組織に馴染みが浅く、そして深い事情を知る由もない。だが、藪蛇との『接触』を図るきっかけとしてはこれ以上ない逸材だった
不可解な敗北を喫した『蟲毒』で、文彦と組んでいたかつてのチームメンバーを呼び出し、再起を促す機会を作り出そうというのが、徳雄の立てた作戦だったが―――――


(;'A`)(なーんで強硬手段しか出来ねえんだこのオッサンはホンマ……)


問題は作戦内容ではなく、交渉の為に派遣を依頼した『キャプテン』にあった。徳雄は間違いなく、確実に、なんなら誓約書も書かせた上で


『事を荒げず穏便に交渉のテーブルを用意すること』


と、本八と約束を交わした筈だった。だが蓋を開けてみれば、交渉など出来そうにない最悪の再会
到底、協力など求められそうにないシチュエーションからのスタートだった。どう考えても頼む相手が悪かった。ハゲはミセリ関連で忙しくて手が回らなかった


('A`)「いやぁ、新進気鋭の?プロジョッキー?流石は片髭の虎猫さんだ。同校出身として俺も鼻が高いですよ」

:(=;゚д゚):「なんっ……にゃ、何が目的だ!!おm、アンタ、こんなこと許されると思ってんのか!?」


('A )「……」


:(=;゚д゚):「ヒッ……」


立ち上がってデスクチェアを引き寄せ、背もたれを抱くようにドカリと座る。しばし無言で高城を見下し、圧力をかけた
本来ならば、ちゃんとした席を構えた上で頭を下げて『お願い』する立場だった。だがクズの起こした拉致のお陰で、穏便なプランを取れなくなった
部分的な拘束の解放から現れた高城の人間性は、中学の頃から変わりない不良気質。言い換えるなら、『下手に出ればつけあがるタイプ』
此方に非があるなら猶更だ。学生時代に植え付けられた恐怖の恨みを晴らさんと、正義と正当性を盾に反撃をされてしまえば、今後の活動の支障に成り兼ねない


('A`)「誰が、何を、許さないって?」


ならばいっそのこと、とことんまで『悪役』を演じきった方がマシ。徳雄が僅かな時間で出した回答は、荒んでいた学生時代への『回帰』であった

248 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:46:06 ID:Y6pO/fks0
:(=;゚д゚):「ア……エト……ソノ……」


忙しなく視線を泳がせ、今にも失禁と共に号泣をかましそうなほどに怯える高城を前に、百戦錬磨クズの本八も口角が僅かに引き攣る
『一体、過去にどんな仕打ちを与えればこれほどまで恐怖するようになるのか』。財力や口車とは一味違う、『暴力』という直球の支配手段が成しえる業であった
だが、人は脅かせば素直に要求を飲むほど簡単には出来ていない。鞭を与えたならば次は『飴』。緩急をつけて揺さぶりを掛けるのが大人のやり方だ


(´・ω・`)「徳雄、引っ込んでろ」

('A`)「誰に向かって偉そうな口利いてんだオッサン」

(´・ω・`)「新入社員だ。テメーこそ立場を弁えろブサイクが」


徳雄が本八へと目線を向けると、『後は任せろ』と言わんばかりの冗談まじりのウインクを投げられた。そう、落第忍者。打ち返されたよ肘鉄砲


('A`)「……チッ」


本八の老獪さは嫌と言うほど経験している。自分が高城を脅すのも計算の上で拉致したのだろう
まんまと利用されたという不愉快さはあったが、頼んだのは此方から。文句を言えた立場ではない
デスクチェアから立ち上がり、わざと大きな音を立てながら元の場所へと乱暴に戻し、徳雄はバックヤードから隣接する厨房へと移った


|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「」


('A`)「あ」


そして出た先で死にそうな顔してる店長とばったり出くわすのであった

249 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:47:01 ID:Y6pO/fks0
暫くして


(´^ω^`)「話ついたわ!!!!!!!!!!!やっぱり金なんだよなぁ!!!!!!!!!!!」


ゴキゲンな表情をした本八がクズ丸出しの発言をしながら厨房へと現れる


('A`)「あのカスは?」

(´・ω・`)「帰した」

('A`)「テメーの足でか?」

(´・ω・`)「丁重に送り出したよ」


「何が丁重だよ」とボヤく徳雄を余所に、本八は自らの手で茶を淹れ直し、作り置きの団子串を一つ手に取った


|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「あのそれ商品……」

(´^ω^`)「え!!!!!!!!!!!!!????????????????」

|;;;;|;,'っノVi ,ココつ「アッスナンデモナイッス」


長い物には巻かれるタイプの店長はそそくさとホールへと退散する。言いたいことも言えないこんな世の中じゃポイズンって感じだった


('A`)「……それで?」

(´・ω・`)「お望み通り、『会場』に足を運んでくれるそうだ。お駄賃程度のはした金でな」

('A`)「そりゃ結構だが、まさか口約束で済ましたとか抜かさねえよな?」

(´・ω・`)「違えた時にゃ今度こそオメーに任せるよ。あのアンちゃんに何したのかは知らねえがな」

('A`)「気になるなら再現してやろうか?」

(´・ω・`)「ふざけんな死ね」

250 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:55:35 ID:Y6pO/fks0
(´・ω・`)「さて、後は決行を待つばかりだが……」


食べ終えた団子の串を指で弾いてゴミ箱へと捨て、本八はいつになく真剣な表情を徳雄へと向けた


(´・ω・`)「オメーの作戦であのボーヤは奮い立ちそうか?」

('A`)「知らねえよ」

(#´゚ω゚`)「こんだけ時間と金掛けてんだから出来るって言えやブサイク!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

('A`)「うるせっ」


文彦との交流の中で、徳雄は一度もチャリオッツの話題を口にしていない
『デブはチャリオッツへの想いは断ち切れていない』。本八はこう言ったが、チャリオッツを始めたばかりの自分が、『そこ』を攻めるには少々パンチが足りないと考えた
だからこその『策』ではあるが、もしも文彦が救いようのないほどの腑抜けであるならば通用しない。自信を持って『出来る』と言えるはずもなかった


('A`)「俺は神様みてーに万能じゃねえんだ。無責任なこたぁ言えねえよ。それに任したのはアンタらだ。どう転ぼうと文句は言わせねえ」

(#´^ω^`)「ブスの癖に正論を言うな!!!!!!!!!!!!」

('A`)「なんなのお前。それに、幾らゲームの腕が上手かろうとよ……」


三位一体のチーム戦。メンバーに妥協したくないのはチャリオッツに疎い徳雄も同じ気持ちだ。だが、スキルよりも優先すべき事項が伴っていなければ


('A`)「お膳立てされて尚も腰抜けのままなら、迎え入れない方がマシだ。そうだろ?」


『相手をぶち殺す』という闘争心が伴っていなければ、居ないのと同じなのだから

251 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 21:58:33 ID:Y6pO/fks0
―――――
―――



そして迎えたライブ当日―――――




会場にはチケット争奪戦を勝ち抜いたオタクブス共が所狭しと集まっていた
しかしブスと言えども洗練されたミンミン民(ミセリファン総称)。地下で眠る蛹が如く、彼らの女王がステージ上で羽を広げるまで、込み上げるオタクパワーを抑え込みながら黙しての待機
その熱気、口を閉ざした程度で止まる物ではない。すし詰めのライブハウスの中は、荒い鼻息とオタク臭でムンムンのムンであった


そんな中、唯一ミセリに微塵の興味も無い2121年度日本ベスト・オブ・ブスは既にグロッキー状態に陥っていた


('A`)「……」


まだ初夏とはギリギリ言えない時期であるが、生き物が密集することで籠る湿り気を帯びた室温と、生臭みを含む汗臭が、徳雄の辛抱強さを激しく削っていく
2121年帰りたいオブザイヤーを全身から放ちながら、徳雄は外へ連れ出した引きこもりデブを横目でチラリを覗った


( ^ω^)「ハァ……ハァ……」

('A`)「……」


凄く見苦しかったんで目を逸らして逆隣を見た


ブス「ハァ……ハァ……」


('A`)「……」


もうずっと足下だけ見てようと思った

252 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:00:48 ID:Y6pO/fks0
照明が消えゆくと共にポップなBGMがフェードアウトしていく。徳雄以外のオタクブス共の視線が、円状のステージへと注がれる
スピーカーからは一足早い蝉の鳴き声。天井スクリーンには濁った臭い空気には似つかわないカラッと晴れた青空が広がる


「ミミミン!!ミミミン!!ミーーーーーーーーセリ!!!!!!!!!」


え!!!!!!?????ウサミンのコール!!!!!!!?????しかし百年も前のアイドルゲームの一キャラクターなんて今の時代のオタクは知らなかった
前列から聞こえてきたコールを皮切りに、オタクブス共は夏の蝉が如くの大合唱を始める


(#^ω^)「ミミミン!!ミミミン!!ミーーーーーーーーーーセリ!!!!!!!!!!」

('A`)「……」


徳雄はなんだか悲しくなってちょっとだけ泣きそうだった

253 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:02:45 ID:Y6pO/fks0
コールに合わせるように、ステージ下から迫り上がるようにホログラムCGが映し出されていく


ミセ*゚ー゚)リ「……」


(;'A`)「ヒィッ……」


ちょっとトラウマになった徳雄が小さく上げた悲鳴は、オタクブス共のコールに飲み込まれた
やがて全身が投影されたミセリは、右拳を勢い良く、高く掲げる。訓練されたミンミン民は、寸分の狂いも無く口を閉ざした
再び訪れた静寂。ミセリは客席に広がるブス共へ花咲くように笑いかけると、やたら露出の多い胸部を大きく膨らまし―――――


ミセ*゚ー゚)リ「七日で恋などーーーーーー!!!!????」


コールを求め、ミンミン民はそれにーーーーーーー


「「「「出来やしなーーーーーーーーい!!!!!!!!!!」」」」


一糸狂わぬレスポンスを返した


('A`)「??????」


徳雄は何が起こってるのか全然わからんかった

254 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:03:59 ID:Y6pO/fks0
ミセ*゚ー゚)リ「ミンミンミーセリ♪年中無休で大声量!!セミ系Vアイドルの皆鳴ミセリでーす!!」


<オンギャーーーーーーーーーーーーーーーーーーッス!!!!!!!!!!!!


え!!!!!!!?????コンコンきーつね!!!!!!?????しかしミセリの所属はホロのライブではないのである
ここで一般男性ブサイクはある事に気づく。『セミって鳴くのオスだけじゃね??????』と
しかしミンミン民にとってミセリの性別など取るに足らぬ些事。口に出して問い質した所で『興奮する』と返されるまで
推しとは絶対的な崇拝対象であり正義。中の人のスキャンダルが公にされない限り、オスだろうがメスだろうが『推す』事に変わりないのだ


ミセ*゚ー゚)リ「ミンミン民のみんなーーーーーーーーーー!!!!!!今日は急な開催なのに集まってくれてありがとーーーーーーーーー!!!!!!!!」


<ミセリーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!

<ミセリうおーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!

<ミッ、ミッ、ミミミミィィィイイイイイイーーーーーーーー!!!!!!!!


( ;ω;)「ミセリィィイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!ブヒッ、ブヒヒィーーーーーーーーーー!!!!!!!!」

ブス「ミセリママーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!オギャーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」


('A`)「……」


ママなわけないのである。産声を上げるのをやめろ
隣のブスを産んだ母親が泣くような光景に徳雄の頭はどうにかなりそうだった


ミセ*゚ー゚)リ「それじゃあ早速一曲目いっくよー!!『Cicada Dream』!!!!」


曲の開始に合わせてオタクブス共の着てる臭い服がミセリのイメージカラーである緑に発光し出した辺りで、徳雄は考えるのをやめた

255 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:05:44 ID:Y6pO/fks0
―――――
―――



今回も大盛況で幕を閉じたミセリのゲリラライブ。興奮冷めやらぬと言った様子で物販に並ぶオタクブスの列を横目に


('A`)「……」


ブサイクは自販機で購入したミセリコラボデザインのエナドリを手に憔悴しきっていた
ライブどころか大多数の人間が集まり盛り上がるイベントなどまともに参加したことのない人生だったのだ
それがパリピカスだろうとオタクブスだろうと、徳雄にとって大きな違いは彼らの顔面と体臭以外特に無い
飛び跳ね、喚き、歓喜に震える人間の群。その流れに乗れず過ごした二時間という長い時は、パワハラを耐え忍んできたあの日々を遥かに凌駕するほどの苦痛であった


('A`)「しんど……」


ホログラムヴィジョンの光源と鼓膜を大きく揺らし続けた立体音響
そしてキンキンと響く媚びた女の声色に、逐一盛り上がるオタクブス共の鳴き声。頭にズッシリと疲れがのし掛かる
それでも徳雄はカフェインの経口摂取でそれを紛らわせながら、文彦の動向を注意深く監視していた
作戦はここからが本番である。筋書きとしては、ライブハウスと隣接する、チャリオッツがプレイ可能なゲームセンターに『偶然』訪れた蟒蛇の面々が、同じく『偶然』ライブに訪れていた文彦と接触
どのような反応を起こすかは不明瞭だが、場合によってはこちらから因縁を吹っ掛けチャリオッツでの決着を要望する
向こうはプロの集団。負ける筈のない勝負には当然乗っかるだろう。もしそうでなくても、喧嘩など幾らでも売りようがある


('A`)「……」


『協力者』が指示通りに動いているのは、盛岡からの連絡で確認済みだ。だが接触の細かいタイミングまでは合わせられない
兎にも角にも久々の、『競技』と名のつく殺り甲斐のある喧嘩。その時を今か今かと待ち侘びているその時


「あの、失礼仕るが……」


('A`)「あ?」


予期せぬ出来事と遭遇した

256 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:07:54 ID:Y6pO/fks0
(;@з@)「ふっ、ふみっ、ふみ文彦氏のご友人でござろうか?」

('A`)「……あー」


聞き取りづらい早口に鼻につく古風な話し方。ミセリの横幅が二倍ほどに引き伸ばされた、着用者の正気を疑うキャラクターシャツ
額に絶えず汗が滲むニキビ面。丸っこい鼻の上に鎮座するメガネは、呼吸の度に白く曇っては晴れるを繰り返す
ミセリの限定グッズが詰まった紙袋を両手に携えているのを見るに、どうやら文彦よりも早く用事を済ませたのだろう
失礼な物言いになるが、チャリオッツのプロプレイヤーには天地がひっくり返っても見えないオタクブスが話しかけてきた


('A`)「友人……まぁ、はい、そうですね。貴方は?」

(;@з@)「あっ、申し遅れたでござる。拙者、文彦氏の学友にしてミンミン民の同志、『木本 王太郎』(きもと おうたろう)でござる。気さくに『キング』と呼んでもらってもよろしいですぞ?」メガネクイッ


お決まりの自己紹介なのだろうか。キング(オタクブス)はニチャと粘着質なキメ顔をする ※キメェ顔
普段なら『そうですか、では』と冷たくあしらってしまうだろうが、文彦の学友という肩書きがそれを思い留まらせた
文彦は引きこもりである。しかし、学内ではちゃんと趣味を共有できる友人もいた。使い方によっては、文彦のチャリオッツ復帰への大きなアドバンテージとなる


('A`)「宇都宮 徳雄です。文彦くんとは共通の趣味で仲良くなりまして」


『どの口が』と徳雄は内心自嘲した。同時に、盛岡の言葉も思い返される
『好きの共有は仲良くなる為の第一歩』。ミセリのライブが行われた後なら、その一歩は大きな歩幅となる


(;@з@)「おお!!やはりお主もミンミン民でござったか!!宇都宮氏は我々と同じく重度のミンミン中毒者であることなど、このキングの目にはお見通しですぞ!!!!」

('A`)「ところで木本さん」


『節穴かよ』という言葉をすんでのところで飲み込み、オタクブス特有の早口語りが始まるよりも先に先手を打った

257 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:10:15 ID:Y6pO/fks0
('A`)「今日は文彦くんと会う約束を?」

(;@з@)「いえいえ、全くの偶然でござるよ。しかし文彦氏がこのゲリライベントを見逃す筈がないと踏んでおりました。拙者も幸運に恵まれ席を取れたので、ひょっとしたらと思って軽く見回ったのであります」

('A`)「仲が良いんですね」

(;@з@)「そりゃあ勿論、ミンミン民は志同じくする同士!!中でも文彦氏とは盃を交わした兄弟分と言っても過言ではござらん!!」

('A`)「ですが、彼は最近……」


と、文彦の近況を切り出した途端、木本は真剣な眼差しでズイと顔を寄せた。酷い体臭が徳雄を襲う。カードゲームショップみたいな臭いだった


(;'A`)「なん、な、なんすか?」

(;@з@)「文彦氏とは『あの日』以来、連絡が取れず仕舞いでありました。足繁く自宅へと通いましたが、今日の今日まで会えた試しはござらなかった」

(;'A`)「はぁ……それで?」

(;@з@)「宇都宮氏をミンミン民の同士と見込んで、恥を忍んでお頼み申し上げたい。どうか文彦氏を、チャリオッツの世界へと連れ戻す手伝いをしてもらえませぬか?」

258 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:11:54 ID:Y6pO/fks0
(;'A`)「はっ?ちょ、ちょっと待て」


友人である筈の文彦を差し置いて、真っ先に『友人の友人』である徳雄に声を掛けた理由が判明したが、それにしては『出来過ぎている』
『クズの差し金か?』と考えたものの、アレはここまで回りくどい手段を使わないだろう
文彦の両親か猫山が手を回したのだろうか?だとしても、徳雄の周りにはまずいない真っ当な常識人が、連絡を怠るとは考え辛い


(;'A`)「お前、それ……」


混乱した徳雄の頭が導き出した返答は


(;'A`)「誰かに指示でもされたのか?」


我ながら素っ頓狂だなと呆れるものだった


(#@з@)「し、指示!?失敬な!!キングたる者、誰に指図されずとも、友の助けになるのは当然でござる!!」

(;'A`)そ「っ……!!」


そして、プンプンと汚らしく憤慨する木本を見て、『当然の反応か』と反省した
ここ暫く、陰謀と策略にまみれた日々を送っていたからか、人の『真心』というものを忘れてしまっていた
陳腐な言葉は好きではないが、ここまでくると『運命』とやらの存在を信じざるを得ない
それも腹立たしいことに、徳雄にとっては苦痛しか生まなかった『ミセリ』という存在のお陰だった
この時ばかりは、あの虫けらの化身が女神に思えてしまった。崇拝こそしないが、徳雄は内心で感謝を告げた


(;'A`)「木本!!」

(;@з@)そ「お、おお!?な、なん、拙者が何か!?」


この出会いを活用しない手はない。手早く事情を説明しようとしたその時、徳雄のi-ringの通知音が、彼の興奮を鎮めた


(;'A`)「ッ!!」


地理情報と一緒に、簡潔なテキストメッセージが一文添えられている。『出会った。急げ』。徳雄が木本と会話している少しの内に、作戦は本番に入っていた
既に物販の待機列に文彦の姿は無い。間の悪さに思わず舌打ちをし、ゴツゴツと親指の関節で額を叩いて切り替えた

259 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:13:07 ID:Y6pO/fks0
('A`)「お前、時間あるか?」

(;@з@)そ「う、打ち上げにござるか!?ちょ、ちょっと待って下され。母上に連絡を……」

('A`)「後にしろ。着いてこい」

(;@з@)「え、ええ〜……同じタイプのオタクだと思っていた人が豹変してタイプ:ワイルドになった件について……」


そう、いつの間にかタイプ:ワイルドなのである。なんかボソボソうるさい木本を半ば強引に連れ出し、地理情報に示された場所を足早に目指す
マップのポインターは予定通り会場横のゲームセンターに刺されている。歩いて向かってもさほど時間は掛からない。つまり、文彦の過去を深く聞き出す猶予もない
しかし、木本の登場は元々想定外の出来事。文彦の蟒蛇脱退の真相は、この先にいる連中に直接訊けば良いだけの話


(;@з@)「宇都宮氏!!狭い日本そんなに急いでどこに行くのでござるか!?」

('A`)「喧嘩を売りに」

(;@з@)そ「なぬーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!?????せ、せせせ、拙者、暴力など振るったことはござらんぞ!!!!!????」

('A`)「だろうな」

(;@з@)「そ、それに!!失礼ながら宇都宮氏も強そうには見えませぬ!!再考を進言いたしますぞ!!」

('A`)「あのデブを助けてえんじゃねえのか?」


徳雄は足を止め、彼へと向き直る。大きなロスタイムだが、木本の存在は文彦の強い後押しになると確信している以上、得られるリターンは大きい


('A`)「お前は言ったな?『文彦をチャリオッツの世界へ連れ戻す手伝いをして欲しい』と。俺の目的も同じだ。奴には、俺の目標をぶっ殺す為の露払いをして貰いたい」

(;@з@)「う、宇都宮氏……?お主、何をするつもりでござるか……?」

('A`)「これから向かう場所に、蟒蛇の連中がいる。俺が文彦に絡むように仕組んだ」

(;@з@)そ「は?え?な、なな、なんてことを……」

('A`)「言葉で立ち直れねえってのは、俺より付き合いの長ぇお前も分かってるはずだ。トラウマの乗り越え方は人それぞれだが、俺は『ブチのめす』のが一番手っ取り早いと思う」

(;@з@)「ま、まさか……け、喧嘩というのは……」


察した木本は震える指先で、喧嘩の舞台となるゲームセンターを指さした

260 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:13:29 ID:Y6pO/fks0



(;@з@)「プロ団体『蟒蛇』と、チャリオッツで対戦するということでござるか!?」




血の気が引いた木本へ、徳雄は不敵な笑みを返す




('∀`)「そのまさかよ」




木本はここに来てようやく、自分の目は節穴だと気付いたのであった

261 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:15:49 ID:Y6pO/fks0
(;@з@)「わ、我々の他に助っ人を呼んでおられるのでござるか?」

('A`)「いいや?俺とお前だけ」

(;@з@)そ「無理無理無理無理!!蟒蛇は国内トップクラスのアタッカー集団ですぞ!?開始数秒もせずスクラップになるなど火を見るよりも明らか!!下手すると文彦氏は二度と立ち直れませぬ!!ここは穏便に連れ戻し、力強く説得を……」

('A`)「木本」


僅かに放たれた殺気が、木本より小さく醜い徳雄の姿を『鬼』のように恐ろしいモノに見せた
それと同調するように、混乱と焦りも一気に引いていく。彼の頭に、徳雄の言葉が入り込む隙間が出来た


('A`)「出会って間もねえ俺を信じろってのも無理な話なのは重々承知してる。無茶を頼んで済まないとも思っている」

(;@з@)「……」

('A`)「だが俺だけじゃ、文彦を連れ戻す自信がない。俺も最近、たった一人のダチに救われたクチだ。お前はお前が思っている以上に、あいつを助けられる力がある」

(;@з@)「せ、拙者が……?」

('A`)「俺も最善を尽くそう。だからここは一つ、お前の『男気』を貸してはくれねえか?」


宇都宮 徳雄は人生の半分を暴力で過ごしてきた男である。時には他人の手を借りて、大規模な喧嘩を楽しんだ事もあった
そんな連中を説き伏せる時の常套句として有効だったのが、『男気』という言葉だった。徳雄にとっては二字熟語以上の意味を持たないその言葉は


(;@з@)「わ、わかり申した!!この木本王太郎、一世一代の大喧嘩に助太刀致す!!」


『フィクション』を嗜む者にとっては、絶大な効力を発揮したのだ


('A`)「助かるよ」


『扱い易くて』と無言で付け足し、まんまと発破に掛けられた木本を引き連れ再びゲームセンターを目指す
他人を意のままに操るのは、何にも代え難い快楽だ。邪悪に引き上がった口角は、熱に当てられた木本の目には映らなかった

262 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:17:19 ID:Y6pO/fks0
―――――
―――



( ^^)「オタクくんさぁ、別に取って食おうってんじゃねーんだから逃げなくてもいいじゃんwwwww」

(; ω )「お、す、すいません……」

(  ゚∀゚ )「チームメイトだったんだからよぉ!!挨拶の一つくらいすんのが筋ってもんじゃねーの!?」


ゲームセンター横の自動販売機が立ち並ぶエリア。絶妙に人目を避けられる場所で、文彦は複数人に絡まれていた
『蟒蛇』らしき連中は、どれもチャリオッツのプロ集団なだけあって体躯が良く、そして周りを威嚇するかのような派手な髪色やピアスが、道行く人々の足を早まらせた
そんな中、落ち着きなく周囲を見回す男が一人。それは徳雄にとっては見知った顔で、この計画の仕掛け人として利用している者であった


(=;゚д゚)そ 「ッ!?」


高城 貴虎の視線が徳雄を捉えた瞬間、顔色が一気に青ざめる。徳雄は人差し指を唇の前に立て、『余計な事を抜かすな』と釘を刺した
文彦に絡むその他五人は、如何にもなヤンキーのようで、狙い通り小馬鹿にするような言動を繰り出していた。好都合だった


('A`)「手筈通りに行くぞ木本。ビビらずにガツンとブチかませ」

(;@з@)「りょ、了解したであります!!お、おい!!お前ら!!」


制止の声にビクリと肩を弾ませた蟒蛇は、その声の主を確認した途端、元のニヤケ面に戻った
傍から見ればオタクブスが二人現れただけ。彼らにとっては見下す対象が増えただけだ


:(=;゚д゚): 「……」


仲間内の一人が必死に身体の震えを必死で抑えようとしているのにも気づかなかった

263 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:19:49 ID:Y6pO/fks0
(;^ω^)「き、木本くん……と」


ほんの少しだけ、文彦の表情に安堵の色が見えた。それは木本の登場よりも、その隣にいるヤベー奴の存在からであった


( ^^)「おっ、ヒーローくんとうじょーwwwwww良かったな内藤wwwww」

(  ゚∀゚ )「つーか何勘違いしてんのか知らねーけどよぉ、俺ら元チームメイトと親睦を深めてただけだべ?」


('A`)(あーあー……)


取り囲んで交流もクソもあるものか。これまたいじめっ子の常套句。猫山から『素行が悪い』と聞いていたが、ここまでコテコテとは
徳雄は失笑を抑え込みながら、蟒蛇のメンバーのとある『共通点』に気が付いた。高城を始め、全員が美男子の類なのだ


('A`)(なるほど……)


何となく、文彦が蟒蛇を脱退させられた理由がわかったような気がした


(#@з@)「ふ、ふみ、ふみ文彦氏を解放するであります!!彼はミンミン民の同士!!貴様ら如きが愚弄していい者ではござらんぞ!!」

「くはっwwwwそうなんだwwwww『ふみふみひこ』くんwwwwww」

(;^ω )「は、ははは……」


文彦は同調するように笑いながら、媚びた目つきで徳雄に助けを求めた


('A`)「……」


当初の作戦では、木本の役回りは徳雄が行う手筈であった。徳雄の外面である『醜い弱者』を利用して、相手に挑戦を受けさせるよう誘導するつもりであった
人は自分より弱い者からの挑戦であるなら、胸を貸す想いで。もしくは、『虐げて楽しむ為』に、快く引き受ける。
人気ゲームのプロ集団と比べ、ただの一介のオタクでは、社会的ヒエラルキーに大きな差がある。その為のきっかけを作るために、滑稽な抵抗を演じる筈だった
だが、友の為に必死に勇気を振り絞る者と、ただ黙して強者に縋る者を見て、思ってしまったのだ。『アホくさい』と


(#@з@)「な、なにゅが可笑しい!!」


怒りが先走り舌が回らない木本に対してドッと笑い声が沸き上がる。彼の健気な友情と勇気すら、連中にとっては嘲笑の種にしかならない
ミセリグッズが詰まった紙袋を持つ木本の手が、怒りでブルブルと震え出した

264 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:21:00 ID:Y6pO/fks0
(#@з@)「文彦氏!!このような低俗な輩に付き合う必要などござらん!!早くここから立ち去りましょうぞ!!」

(;^ω^)「あ……」


頭に血が昇って作戦内容を忘れたのか、輪の中で小さく縮こまる文彦を連れ出さんと力強く詰め寄ったが


(  ゚∀゚ )「低俗ってなんだよオイ」

(;@з@)そ「うっ!?」


金髪坊主頭の側面にハートラインの剃りこみを入れた男が、強く身体を突き飛ばす
木本の手から離れた紙袋が、地面を滑って中身を曝け出した


(  ゚∀゚ )「お前らみたいなキモオタがアニメの女でシコってる間、俺らプロは鎬削ってファンを盛り上げてんだよ。偉そうに説教できる立場か?あ?」

( ^^)「あー、これこれ。ミセリだっけ?内藤も好きって言ってたよっ……」


(;@з@)「や……」

(; ω )そ「……ッ!!」


( ^^)「なぁッ!!」


彼らの偶像を足蹴にしようと、優男が大きく脚を上げる。そして―――――




('A`)「……」




靴底は、小さく醜い男が差し出した、足の甲で受け止められた

265 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:23:16 ID:Y6pO/fks0
(;^^)そ「なっ……!?」


踏み込みによって多少沈んだものの、徳雄の足はミセリグッズの頭上でピタリと止まった
そこから軽く蹴り上げると、優男はもんどりを打って尻もちを突く。蟒蛇は驚嘆の声を上げ、身構えた


(;@з@)「???????」

('A`)「……」


(#^^)「な……なんだテメエ!?」


恥をかかされた優男には見向きもせず、徳雄は散らばったミセリグッズを丁寧に袋へと仕舞い、倒れた木本に手を貸して立ち上がらせる


('A`)「平気か?」

(;@з@)「あ、あり、ありが?」

('A`)「大丈夫そうだな」


何を見てそう思ったのか。徳雄は紙袋を木本へと返し、蟒蛇と文彦へと向き直る


('A`)「人の趣味にケチつけるのは勝手だが、足蹴にするのは良くねえな。兄さん方」

( #゚∀゚ )「何かっこつけてんだ殺すぞゴルァ!!!!!」


胸倉を掴み上げ恫喝する金髪坊主に、徳雄は声一つ震わせずこう返す


('A`)「落ち着けよ。こんな往来で暴力沙汰起こすつもりか?鎬削ってファンを喜ばせるプロのプライドはそんなに安いか?」

( #゚∀゚ )「こいつッ……!!」


人目に付きづらいと言っても、商業施設の真横である。喧嘩の一つでも起これば通報する者も出てくるだろう
しかし、『ザコ』にやり込められた屈辱と、それに伴う怒りは、発散の機会を求めて胸中で沸き立った

266 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:24:13 ID:Y6pO/fks0
('A`)「わかるよお兄さん。オタクくんにいい様にやられて悔しいんだよな?一発ぶん殴ってスッキリしてえんだよな?」

( #゚∀゚ )「一発で済むと思ってんのか……?」

「なぁ、ちょっと落ち着けって……ほっとけばいいじゃねえかそんな奴ら……」

(#^^)「蟒蛇が無礼られたまま黙ってろってのか!?ああ!?」


冷静なメンバーもいるようだが、優男の一喝で口を閉ざした。どうやら、この二人がグループのリーダー格らしい
看板の威光を借りるのはさぞかし心地よいのだろう。汚名を被るのがどうにも我慢ならないように見えた


('A`)「そんなら、ちょうどいい決着の付け方があるじゃねえか」

( #゚∀゚ )「あ!?」

('A`)「『プロゲーマー』なんだろ?」


親指で示す先には、ゲームセンターの野外広告スクリーンに映る、爆炎をバッグに戦場を駆ける『自転戦車』
金髪は暫くポカンと呆けた後、徳雄の行動の意味を飲み込むと、額の青筋をもう一本増やし


( #゚∀゚ )「ふざけてんじゃねえぞッ!!!!!!!!!」


徳雄の頬に拳を浴びせた

267 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:25:46 ID:Y6pO/fks0
('A )「っ……」

(;@з@)「宇都宮氏!!」

「何考えてんだやり過ぎだ馬鹿!!」


怒りに任せもう一撃喰らわせようとした金髪を、仲間が羽交い絞めにして引き剥がす


( #゚∀゚ )「なんで俺らプロがお前らみたいなザコ相手にしなきゃならねえんだよ!!勝負になると思ってんのか!?あ!?」

( ^^)「もういいわ殺そうぜこいつら」

「やめろって!!蕗也さんにバレたら今度こそ追い出されんぞ!!」

「お前らはサッサと消えろ!!」


怒りを全面に露わにする金髪とは対照的に、冷たい真顔へと変化した優男が、仲間の制止を振り切って徳雄の胸倉を掴み路地裏へと引き込もうとする


('A`)「……」

(;^^)「あ、あれ?」


ただし、優男よりも頭一つ低く醜い男は、その場から一歩も動かなかった。優男は二度、三度と力を込めて引っ張るが、下手なパントマイムが繰り広げられるだけだ

268 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:27:05 ID:Y6pO/fks0
(; ω )「……」

(;@з@)「う、宇都宮氏……?」


異様な光景に、オタクもヤンキーも困惑を浮かべる。ただ一人、徳雄の過去を知る者だけは


:(=;゚д゚) :「……」


血が滲むほど親指を噛み締め、治まる所を知らない震えを止めようとしていた
そして鉄の味が広がる口内の奥、誰にも聞こえない声量でひっそりと呟いた


『始まった』と


('A`)「俺は、別に」


抑揚無く淡々と、感情も熱も無い静かな声は、『この場の誰一人としての口答えを許さない』と圧を放つ
一番興奮していた金髪が、荒い息を唾液と共に嚥下したのを見計らって、徳雄は言葉を続けた


('A`)「ヒト気のねえ場所でフクロにされても構わねえがぁー……あー、非力で陰湿なオタクなもんで、SNSで陰口溢すくらいが精いっぱいだな」


トン、と優男の胸を人差し指で突く。胸倉から手がこと切れるかのように離れ、押されるがままに後ずさった


('A`)「ああでも、アンタらデカデカと公言してたよな?蟒蛇だ、プロだの。俺ぁ、あんまチャリオッツの事ぁ知らねえんだけどよ。『ジャイアンツ』や『タイガース』みたいなもんだよな?」

('A`)「良いねえ紙面が盛り上がりそうだ。俺の名前は隅っこで構わねえから、一面はアンタらがデカデカと飾れよ。頭も丸めてサッパリするチャンスだぜ?」

269 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:28:31 ID:Y6pO/fks0
トン、トンと立て続けに胸を突く。後ずさりを続ける優男の足は、仲間の身体にぶつかって止まった
何てこともない脅しだった。蟒蛇は元々『ワル』を売りにしている。妬みによる事実無根の悪質なデマなどネット上に幾らでも転がっている
ネームバリューも何も無いブサイクが一人、SNSで被害を報告しようとも、熱心な『ファン』によるありがたい援護で掻き消えてしまう
そんな堅固な後ろ盾が、この男の前では急に頼りのない紙切れに思えてきたのだ


(;^^)「……」


怒りとはまた違う、有無をも言わさぬ静かな迫力に飲まれた優男は、目の前の妙で醜い小男から目を逸らせ無かった
しかし、間もなく我に返り始める。『何故ここまで怯まなければならないのか』と
芝居がかった台詞で怯ませているだけだ。今までおちょくってきた、何にも成れない有象無象の弱者共が取らなかった行動に少し驚いただけだ
化けの皮を剥がしてしまえばこれまで通りのザコなのだからと


(#^^)「やってやるよ……」


再燃した怒りは、プロプレイヤーの矜持を激しく燃やし尽くした。あるのは『叩き潰す』という殺意だけ
元より、彼らが背負う看板は撤退を許さない。『蟒蛇』は、戦いを挑む者を全て呑み込む自転戦車界の破壊王でなければならない
老若男女、プロアマ、オタクだろうと見境なく、容赦なく。恐れ多くあらねばならない


('A`)「賢明な判断だな」


徳雄の言葉とは裏腹に、彼らは賢明から程遠い状態にあった。爛々と据わった目は、生きるか死ぬかの瀬戸際で狩りを行う獣の様であった
宇都宮 徳雄は人生の半分を喧嘩で過ごした男である。長年の経験から、この手の連中の心理状態は手に取るように理解出来た

『我慢ならない』

見下していた者に見下され、馬鹿にしてた者に馬鹿にされ、支配していた者に支配される
立場が逆転する事に対して恐れを抱き、目の前の敵を排除しようと心理が働く
これまでの人生で、劣位の立場にいる時間が少ない者ほど、侮辱は的面の効果を発揮した
宇都宮 徳雄は自身の容姿から、物心ついた時より『底辺』と見做され人生を歩んできた。その最大の強みは


('A`)「『対戦よろしくお願いします』」


『無価値』であること。そしてそれは敵を作るのに最も適した立場であった

270 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:30:29 ID:Y6pO/fks0
―――――
―――



チャリオッツの筐体の前では、人だかりが出来上がっていた
『蟒蛇』が一般人、それも『スポーツ』から程遠い風貌のオタクを相手にすると聞き、ある者は推しチームのプレイを見学に、ある者は時間潰しに
また、ある者は一方的に蹂躙される弱者の哀れな姿を笑いに。誰もが軽い気持ちで集まっていた


(  ゚∀゚ )「ハンデはいるか?」

('A`)「欲しいならくれてやるよ。なんなら目を瞑ってやろうか?」


身の丈に合わない大きな口に、観衆から「おお」と、嘲笑混じりの感嘆が上がる。録画まで始める者もいた


( #゚∀゚ )「なら全力で殺してやるよ。こっちはフルパで行く。お前から売った喧嘩だ。卑怯だなんて言わせねえからな」

('A`)「それで足りんのか?大した自信だな」


飄々と軽口を返す徳雄に、青筋を浮かべながら威嚇のように歯を剥き出して嗤う
チャリオッツは自らの土俵。相手は名も知れないただの『カモ』だ。後悔するのは時間の問題だと


(;^ω )「……」


( ^^)「ふ・み・ひ・こ・くぅ〜ん」


青白い顔でミセリの紙袋の取っ手を両手でギュウと握りしめる文彦に、優男がおちゃらけた調子で肩に腕を回す
木本が咄嗟に引き剥がそうと動いたが、徳雄が腕を掴み引き留めた

271 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:31:15 ID:Y6pO/fks0
(;@з@)「宇都宮氏、あれは見過ごせませんぞ!!」

('A`)「良いんだほっとけ。それよりお前、『キャプテン』の経験はあるか?」

(;@з@)「ご、ございませぬ。それに、拙者のようなズブのふくよか素人を乗せるくらいなら、キャプテン不在の2名で走った方が幾分勝機があるかと」

('A`)「……」


『ふくよかで済むレベルかよ』という言葉は、すんでの所で飲み込んだ


('A`)「わかった。他にアドバイスは?」

(;@з@)「短期決戦、これに尽きるでしょうな。それと、文彦氏が得意とする6shooterはご存知の通り固定砲で射程距離も短い。照準は宇都宮氏の手腕に掛かっていると心得るでござる」

('A`)「つまりどうすりゃいいんだ?」

(;@з@)「『目の前』に相手がいる場面を作り出すのでござるよ。照準が合いさえすれば、文彦氏は敵が誰であろうと反撃の余地を与えず屠るであります」

('A`)「なるほど、了解した」


優男が文彦から離れ、ニヤニヤと徳雄を嘲笑いながら金髪と同じ筐体へと乗り込む


(=゚д゚) 「……」


影の協力者は乗り込む間際、徳雄にチラと目配せし


(=#゚д゚) 「……殺してやる」


過去の怨恨をこの場で晴らそうと、堂々の宣戦布告を放った

272 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:32:26 ID:Y6pO/fks0
('A`)「……」


『堪らない』。身も心もズタズタにした筈の喧嘩相手が、舞台を変えただけで二度も牙を剥いてくれる
それをもう一度へし折る機会が巡っただけでも、彼を巻き込んだ甲斐はあった


('A`)「オラ行くぞ」

(;^ω )「い、嫌だお」

('A`)「間違えた。『行け』」


蟒蛇が乗り込んだのを確認し、徳雄は文彦の首根を引っ掴んで筐体の中へと蹴り入れる。前列の観衆は、その乱暴で容赦無い扱いに、ピタリと嗤うのをやめた


(;@з@)「宇都宮氏!!」

('A`)「木本、世話になったな。万が一ってことがあるから、お前は先に……」


(;@з@)「『本気で勝つ気』で居られますか!?」


助言でも、応援でも無く、木本は真っ直ぐに徳雄へ問うた。自らの湿気で曇るメガネの奥、瞳に力強い決意の光が灯る
徳雄は直感的に、彼が何らかの手を打とうと考えていると悟った。その為に、『2対1』の不利な戦いに勝利する必要があることも
『万が一』、そう言った。だが、元より敗北を勘定に入れた喧嘩を起こすはずもない。徳雄の返答は


('A`)「当然」


二文字。此方も揺るぎない決意の表れであった

273 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:33:52 ID:Y6pO/fks0
(;@з@)「左様でござるか。なら拙者も、拙者に出来る戦いをするでござる」

('A`)「頼もしいな。煮え切らねえデブにお前の爪の垢を煎じて飲ませてえよ」

(;@з@)「こんな血の沸る戦い、挑まねばオタクの名折れでありますからな!!奴らに、本気を出した『ミンミン民』の恐ろしさ、思い知らせてやるであります!!」


最後に、木本は直立不動の敬礼を贈る。仰々しい行動に、観衆からはまた笑いが起こったが、黙らせるのも馬鹿らしくなる程に、徳雄の目には誇り高く映った


(;@з@)「ご武運を!!」

('A`)「ありがとよ」


感謝と共にサムズアップを返し、徳雄は筐体へと乗り込み扉を閉める
ゲームセンター内で渦巻いていた喧騒と電子音はピタリと止み、球体の中では二人の息遣いだけが聴こえた

274 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:34:52 ID:Y6pO/fks0
(;^ω )「帰りますお」

('A`)「帰さねえよ」

(; ω )「帰る」

('A`)「ダメ」


( ;ω;)「帰るっつってんだお!!!!!!!!これ以上僕を虐めてどうするつもりなんだお!!!!!!!!」


オウオウと両手で顔を覆い大号泣を始めてしまった文彦に、徳雄は大きな溜息を吐く。そして胸倉を掴み上げ、叩きこむようにガンナーの席へと座らせた


('A`)「今から送るプリセットデータを入力して機体をセットアップしろ」

( ;ω;)「ああああああああああああああ!!!!!!帰る、帰るうううううううううううううう!!!!!!」


まだ子供とは言え、十六にもなる男は三歳児のように駄々をこねる。淡く光るドームスクリーン内に、酷く耳障りな泣き声が響いた
徳雄はそんな哀れで情けない文彦を前に、怒鳴りも諭しもしなかった。ただ両手を広げ勢いよく―――――


( ;ω;)そ「ヒッ!!!!」


『叩き鳴らした』。狭い球体の中で乱反射した破裂音が、頬をぶったかのような錯覚を起こさせる
文彦を痛みを伴わないショックで黙らせた徳雄は、調子を崩さず淡々と語り掛ける

275 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:36:03 ID:Y6pO/fks0
('A`)「あのクソザコに何言われたかは大体の見当がつく。いじめっ子の手口なんざ訊くまでもねえよ。だがな」


座席の背もたれにドンと肘を突き、徳雄は顔を文彦にグイと寄せた


('A )「連中の何倍も恐ろしい仕打ちを、今すぐ与えてやってもいいんだぞ?」


『ミシ』と軋んだ背もたれの音に、文彦の心臓は縮み上がった
美味しい土産を受け取って、ズルズルと関係を引き延ばしたツケが、今まさに巡って来たのだと、余りに遅い後悔をした
文彦がかつてのチームメンバーに囁かれた甘言は、『わざと負けたら見逃すどころか、蟒蛇に戻れるように口を利いてやってもいい』
完全な口約束で、守られる保証などこれっぽっちも無い。仮に指示通り負けたとしても、それをネタに徳雄共々嘲笑われるだけだろう
だが、馬鹿にされるだけで済むなら耐え忍んでおしまいだ。これまで通り、いや、これまで以上に、チャリオッツから離れて自宅という砦に籠る日々に戻れる


(; ゚ω゚ )「」


涙は血の気とパニックと共にサァと引いていく。誰にも聞こえない、誰にも見られない密室の中で、『殺人鬼』と閉じ込められたようなどうしようもない恐怖が襲う
これまでの付き合いで、文彦は徳雄の身の上も、足繁く通うワケも、全くと言っていいほど訊かなかった。それでも、これだけは理解できる


('A`)「どうすんだ?え?」


遊び半分でからかってくる蟒蛇や、学校の連中とは比較にならないほどに、目の前の男は『凶悪』なのだと

276 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:36:58 ID:Y6pO/fks0
(; ゚ω゚ )「やり……ます……」


拒否権など最初から与えられていなかった。目的を達成しなければ、彼は『恐ろしい仕打ち』を何の躊躇いもなく行使するのだろう
自身の過去も、蟒蛇を脱退したワケも、引きこもっている理由も、癒えずにいる心の傷も、その全てを自力で乗り越えようともしない自己嫌悪すら
文彦に関するありとあらゆる『言い訳』が、徳雄には『関係がない』のだ。優しさを持って悩みに寄り添い牛歩の速度で問題解決に臨むよりも


対象を『恐怖』で支配して、意のままに操る方が手っ取り早いのだから


('A`)「助かるよ」


『これまで』そうしてきたように、『これから』もそうしたまで。徳雄は文彦の肩を労うように軽く叩くと、ジョッキーの操縦席に乗り込んだ


(;^ω^)「フッ、フゥッ、あの、そっ、それで……?」

('A`)「ちょっと待て……送った」


文彦のi-ringに、チャリオッツ用のカスタマイズデータが受信される。文彦はホログラムとして掌に投影し、スクリーンへ向けて押し出した
四角い光体がスクリーンに吸い込まれていくと、立体音響スピーカーからドンと腹に響く砲撃音と共に、『Chariots』とタイトルロゴが映し出された
奥から湧きあがった爆炎がそれを飲み込み、晴れていくと共に『ガレージ』の内装へと変化していく。スクリーンの上部に表示された『60』の数字は、戦闘開始までの残り時間だった
チャリオッツはアーケード主体のゲームであり、回転率を損なわない為に敢えて余裕のない準備時間を設けている。チャリオッツを始めてプレイする者は、『オススメカスタマイズ』に表示された機体を使ってゲームを行う
常連プレイヤーとなれば、60秒以内にカスタマイズを完了させる者もいるが、専用のアプリを使って予め機体のプリセットを済ませておくのが大半だ

277 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:37:24 ID:Y6pO/fks0
(;^ω^)「これ……」


チャリオッツは細かな追加装備を除いて、主に五つのカスタマイズ要素がある
防御性能を担う前・後・側の装甲。厚ければその分砲撃への耐性が上がるが、重量負荷も増加する
走行の面ではタイヤ。ステージ毎に変化する路面に合わせ、ある者はオールラウンドに。もしくは、ジョッキーの脚質に合わせて付け替える
チームによって最も色濃く特徴が現れるのは、最もオーソドックスな攻撃である『主砲』。爆発、貫通といった破壊目的の砲弾を放つ火力自慢の大砲や
手数で攻め落とす連射力に優れた機関砲。長距離からの狙撃が可能な長砲身タイプ。はたまた、妨害トラップを放ち相手の足止めを目的としたトリッキーな代物まで多種多様だ


('A`)「気に食わなければ好きに替えろ」

(;^ω^)「いや……」


前面には『チャージング・グリル』。車体から伸びる二枚のブレードの先端を合わせ、山型に取りつけた装甲だ
正面から衝突した際、敵の車体を抉り、側面へと突き飛ばす効力を持つ。また、傾斜装甲となっている為、砲弾によるダメージ分散にも繋がる

重厚な前面装甲に対し、側・後は共に『クリアボディ』という、防御力を犠牲に大幅な見晴らしと軽量化を得られる透明板となっていた
チームの『眼』となるキャプテンの不在を補う為の仕様だが、ゲーム用語で言う所の『紙装甲』であり、一発でも喰らえば即致命傷へと到ってしまう

タイヤは悪路特化のニードルスパイクが付いた『ヘッジホッグ』。荒野、砂漠、氷路では抜群の安定性を誇る反面、舗装された路面では最悪の乗り心地を車内へと届ける荒くれ者だ

278 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:38:52 ID:Y6pO/fks0
そして言うまでも無く、鎮座するのは回転式シリンダー搭載シングルアクション。連射速度は使い手次第、唯一無二の主砲――――


(;^ω^)「6shooter……」


ガンマンの誇りを体現したかのように、堂々の佇まいを魅せる文彦の『愛銃』だった



('A`)「時間ねえぞ」

(;^ω^)そ「あっ、も、問題ありませんお!!」


残り時間が二十を切った辺りで徳雄は痺れを切らした。呆けていた文彦は、慌てて銃座の正面に設置された『グリップ』を手に取り、トリガーを引く
スクリーンに『完了』と文字が浮かぶと、座席からシートベルトが自動で巻かれ、しっかりと固定された。ジョッキーである徳雄には、高所作業で使うような『ハーネス』が巻き付く
筐体照明が暗転し、立体映像がカスタム通りの車内風景を映し出す。ナノマシンで構成されたグリップが細かな砂を流すように変形し、六連シリンダーと『撃鉄』を作り出した
回転砲塔式の主砲なら、グリップを傾けた方向へと銃座及び車長席が回転する仕組みだが、6shooterはグリップ、銃口、銃座、車長席は常に正面を向くように固定されている

279 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:39:46 ID:Y6pO/fks0
(;^ω^)「……このカスタムは?」

('A`)「クズが組んだ」


文句の付け所は見当たらない。元より、『二人』でプレイすることを想定していたのだろう。大人がこぞってこの場を仕組んだことに愚痴の一つも溢したかったが
バケモノよりも恐れ多い男に口答えするほどの胆力は、残念ながら持ち合わせていなかった
そんな文彦の心情を察してか、徳雄は肩越しにチラと文彦を窺う。最早、一挙手一投足が怖くて堪らなかった


('A`)「悪いと思ってるよ」

(;^ω^)「え……?」


意外にも、徳雄が口にしたのは謝罪に近いものだった


('A`)「だけど時間が無くてよ。暴力と脅ししか能のねえ俺には、こんなブサイクなやり方しか思いつかなかったんだ」

(;^ω^)「お……」


座席が振動し、車体が『スターティングゲート』へと運ばれていく。天井からガンナー用のスコープゴーグルがゆっくりと降りてきて、文彦の頭上で止まった


('A`)「終わったら、気が済むまで土下座でも何でもするよ」


後悔に苛まれているのだろうか。俯き、背中を丸める姿が急にしおらしく、小さく見えた
『もっと話し合うべきだったんだ』。文彦は今の事態が、一方的なコミュニケーションしか行わなかった自分にも非があると自覚した
他の何よりを差し置いてもミセリ語りが重要なのは確かだが、合間にちょこちょこと互いの妥協案を探っていけば、彼が心を痛める必要も無かったのだろう

280 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:40:52 ID:Y6pO/fks0
( ^ω^)「いえ……此方こそ、申し訳ないですお」


冷静さを取り戻した文彦の謝罪を背中に受けた徳雄はこう思った


('A`)(チョロいわ)


DV被害者が加害者から離れられない理由の一つに、『飴と鞭』による心理支配がある
暴力、暴言を繰り出す一方、僅かな優しさや弱さを見せることで、『あの人にも善良な面がある』と錯覚させ、マインドコントロールを施すのだ
強烈な『鞭』で叩きのめされた文彦に、自責の念に駆られる『弱い部分』を曝け出せば、向こうは勝手に『ある筈もない非』に囚われる
そこから先は、『自分を苦しめてまで僕にやり直す機会をくれた彼』に対する恩義に報いようと奮起する、健気な少年の出来上がりだ
『良心の呵責』。自らを省みる善き心は、皮肉にも『悪き者』にとっては都合の良い方向に働くこともある


('∀`)(愉しいなァ、オッサン方よ)


言葉巧みに人を操るのは、暴力と同じくらい面白い。心身共に『鬼』になり果てた男の笑顔を、文彦が見ることは無かった

281 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:42:03 ID:Y6pO/fks0
モード、『バトル・ロワイアル』
ステージ、『スモールフィールド』
制限時間、『600秒』
勝利条件、『敵陣営の殲滅』

前方スクリーンがゲーム内容を伝えると、一際大きな揺れと共に『ゲート前』へと到着する
鋼鉄製の扉の上部には、三つの丸いレースシグナル。その左端が赤く灯った


('A`)「お前、『勝ち馬』に乗ったことはあるか?」


続いて、真ん中が


(;^ω^)「え?ぽ、ポニーならあるお」


最後に右端が


('A`)「なら愉しんでいけや」


それら全てが一斉に『緑』へと光り―――――


('A`)「そいつの『乗り心地』ってやつを!!」


ゲートが開くと同時にペダルを強く踏み込んだ

282 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:43:04 ID:Y6pO/fks0
―――――
―――



チャリオッツの観戦モニター前には、続々と観客が集まってくる。店員ですら、職務を放棄して見物に訪れていた。その少し後方、自販機が並ぶ休憩コーナーで


(´・ω・`)「始まったな」


後方腕組み玄人面チャリオッツおじさんがi-ringの映像共有アプリで視聴していた


i!iiリ゚ ヮ゚ノル「キャプテン抜きでは、少々荷が重そうですねぇ」

(´・ω・`)「そうかぁ?」


本八は蟒蛇陣営のプレイヤー情報をタップし、ホログラムファイルを親指と人差し指で拡大する
チャリオッツはそれぞれチーム名と機体名を個々に設定できるが、彼らに関してはどちらも『蟒蛇』の後に『七番隊』『五番隊』と番号が振られているだけであった


(´・ω・`)「蟒蛇は実力主義の縦社会。プロに入っても団体内でトップ3のチームにならねえと『個性』すら認められねえ。連番隊ってこたぁ二軍、三軍もいいとこだ」

i!iiリ゚ ヮ゚ノル「腐っても鯛っていうじゃないですかぁ?相応の実力があるのは確かです。軽い気持ちで勝てる相手じゃありませんよ」

(´・ω・`)「これがレース・ルールだったらな」

(´・_ゝ・`)「誰と喋ってんだお前」

(´・ω・`)「あれ?」

   ?      え?誰ぇ……?

i!iiリ゚ ヮ゚ノル (・ω・`;)「え?」

           誰なの!?恐いよォ!!


(#´゚ω゚`)「誰だテメー!!!!!!!!!!!!!!!!あっちにいけ!!!!!!!!!!!!!!!」


若くて可愛いチャンネーは突き出されてどっか行った

283 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:44:38 ID:Y6pO/fks0
(´・_ゝ・`)「ここまでは徳雄くんの計画通りですね」

(´・ω・`)「いや、多分『計画以上』だぜ?」


盛岡に手渡された炭酸飲料をグビと飲み、『ライブハウス』方向を親指で差す。木本が向かった先でもあった


(´・ω・`)「勝敗次第だが、面白ぇもんが見れそうだ」

(´・_ゝ・`)「手助けは?」

(´・ω・`)「いらねえんじゃねえの」


『では』と一言断りを入れ、盛岡も席に着きコーヒーを傾ける。本八は『勝敗次第』と言ったが、微塵も『負ける』ビジョンが見えなかった
蟒蛇に挑む二人を知らない観客とは違い、本八と盛岡は知っている。『宇都宮 徳雄』が、最も実力を発揮する場を
スピーカーから『ドン』と轟音が響き、それに勝るとも劣らない驚愕の声が上がった。本八は、特に驚きもせずククと笑う


(´^ω^`)「あいつ、マジで良い性格してやがるぜ」


文彦の勧誘を徳雄に指示した際、『土俵に引きずり込んでみろ』と言った覚えがある。徳雄にとっての土俵は『喧嘩』であり、即ち『暴力』である
暴力とは相手の身体や尊厳を『破壊』する為に行使されるものであり、銃火器や格闘を伴う『対戦ゲーム』には切っても切れない要素だ
蟒蛇の持ち味が活かされるのは、速さを競うレースではなく、相手をありとあらゆる手段で攻撃し、破壊するバトル・ロワイアル。言わば彼らは、チャリオッツを使った『喧嘩自慢』なのだ


(´^ω^`)「自分の土俵を、『相手』に用意させるなんてな」


『喧嘩』と名の付くものであるならば、経験が浅かろうが徳雄の土俵に他ならない
バトル・ロワイアルは、『どちらの暴力がより強いか』を競い合うルールなのだから
本八と盛岡は、『宇都宮 徳雄』を知っている。それ故に、何方が泡を食う羽目になるかも知っていた


映像に目をやる。開始三十秒と少し、蟒蛇五番隊の車両が横転していた

284 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:45:28 ID:Y6pO/fks0
話は今朝まで遡る


('A`)「始めから飛ばしていいのか?」

(´・ω・`)「ああ」


徳雄が文彦とライブ会場に足を運ぶ直前、盛岡の運転する車内では簡単な作戦会議が行われていた


(´・ω・`)「レースルールならジョッキーのペース配分に気を配らなきゃならねえ。だが勝利条件が敵部隊の殲滅であるBRルールなら、最初っから全力ブッパも立派な戦略と成る」

(´・ω・`)「それと、世界中からプレイヤーを募って100チームが対戦するオンラインマッチとは違って、今回は店内マッチの小規模な戦いとなるだろう。つまり自ずと、ステージの広さも縮小される」

('A`)「決着が早くつく分、ジョッキーは存分に体力が使えるってことか」

(´・ω・`)「そうだ。BRルールはフィールドが狭ければ狭いほど、ジョッキーの『機動力』が勝敗を左右する」


優位ポジションでの潜伏、狙撃、強襲。言わば『静』の作戦を可能にするには、敵の目を掻い潜りながら目的地まで移動する『時間』を要する
フィールドが狭くなればその分、敵との距離が近くなり、会敵までの猶予は減る。待ち伏せて襲うリスクも高まる


('A`)「先に見つけてズドンがテッパンか」


相手より早く見つけ、相手より早く撃ち、相手の砲弾より早く避ける。スピード命のどつき合いこそ、小規模BRルールの醍醐味なのだ


(´・ω・`)「小規模故にもう一つ、存分に使える『HP』がある」

('A`)「答え言っちゃってんなそれ。チャリオッツ本体の『耐久値』か」

(´^ω^`)「オイオイ参っちゃうなぁ!!!!!!!!!!その程度で物知り博士気取りか!!!!????????小学生でも知ってんぞ!!!!!!!!!!!!クソザコ顔面!!!!!!!!」


盛岡が咄嗟に車窓をブラインドモードに切り替えたので、大企業社長の顔面に裏拳がめり込むシーンは見られずに済んだ

285 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:47:43 ID:Y6pO/fks0
(´メ)(メ`)「車体データを送るから、デブに入力させろ」

('A`)「どうも。早急に死ね」


本八から送られたプリセットデータを簡単に確認し、チャリオッツ初心者の徳雄は自分なりの試合運びを考えてみる
狭いフィールドと少ない敵。体力と耐久値を存分に使えて、機動力がモノを言う。この条件下を当てはめて考えれば考えるほど、単純な展開にしかならない


('A`)「……俺は今まで通りで良いってことか」


早急に求めていた答えを導き出した徳雄へ、クズは痛みの呻きと笑いを同時に発した


(´メ)(メ`)「フグゥ、気に入ると思うぜ。『チャリオッツ』っつーゲームがよ」


徳雄はこう返した


('A`)「何がフグだ」


何がフグなんでしょうね……

286 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 22:48:31 ID:Y6pO/fks0
『スモールコロシアム』。NPCやトラップの妨害は無く、遮蔽物として所々に積み上げた土嚢と、塹壕が掘られている
シンプルな作りだが、その分プレイヤーの技量が問われるステージであり、横やりのないタイマン勝負での使用率が高い

BRルールは初期スポーン地点はそれぞれランダムであり、先手を打つ為にいち早く相手を発見する必要がある
現状、キャプテンという目が無い以上、どうしても索敵の面で劣る。そこで徳雄はまず『目立つ』ことを目的に、スタートダッシュを全力で決めた
敵を見つけるのが困難ならば、敵に見つけて貰えばいい。右側面からの砲撃が、此方に居場所を教えてくれた
砲弾は車体後部を大きく逸れて着弾。後輪が僅か跳ね上がるが、画面上の耐久値を示すバーが僅かに減っただけで、走行に問題は無い
すぐさまハンドルを切り、硝煙を上げる敵車体を視界に入れる。銀と黒を基調としたパイソン柄の車体ペイントに、大きく『五』と記されている
照準を向けられたにも関わらず、彼らは回避行動を取らずに砲口の角度を調整した。二の矢で早々に勝負を決める腹積もりのようだった


蟒蛇五番隊の誤算、一つ目は


('∀`)「ハハッ」


次弾を、『真正面』から撃ったこと。『チャージング・グリル』の傾斜が、四分の一ほどの耐久値と引き換えに砲撃を明後日の方向へと弾き飛ばす


('∀`)「脚がお留守だぜ」


もう一つは、『そのまま突っ込んできた』ことである

287 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:07:27 ID:Y6pO/fks0
砲撃、アビリティ、NPCの他に、チャリオッツ同士の『接触』もダメージソースとして挙げられる。相手を妨害しようと体当たりをすると、双方の耐久値が減少するのだ
しかし『チャージング・グリル』のように『体当たり』自体を目的とした装甲を備えている場合、与ダメージは上昇し、被ダメージは抑えられる
破壊が主体のアタッカー集団『蟒蛇』の選手あるならば、そうでなくても、わざわざ解説せずとも知り得る情報である


『定石』


戦略、戦術、数多く。しかし、どのスポーツにおいても『基礎』となる動きは等しい。チャリオッツにおいては、初心者はまず『生存』を優先せよと教えを受ける
レースであるならば、敵を討たずとも一番にゴールをすれば勝利であり、BRルールなら、最後まで生き残れば勝利となる
プロである蟒蛇も多分に漏れず、最も勝率を損なわない『基礎』を忠実に守っていた。だからこそ、無意識下では『先入観』に捕らわれていた


『自爆するような真似はしないだろう』と


(;^^)「回h」


先入観が油断を産み、キャプテンの回避指示を


( ;゚∀゚ )「!?」


ジョッキーの脚に込める力を


『コンマ数秒』遅らせた

288 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:08:03 ID:Y6pO/fks0




(#'∀`)「そらよォッ!!!!!!!!!!」



『合掌造り』のブレードが五番隊の正面装甲を抉ると同時に、双方に大きな衝撃が襲う


(#'∀`)「ハハハハァ!!!!!」


『ヘッジホッグ』のニードルスパイクが地面を強く噛んでスリップを防ぎ、更に前へと押し出していく
グリルの傾斜に沿って五番隊の片輪を持ち上げ、そのまま力技で股下を通り抜けていく。『片足立ち』となった車体は、姿勢を戻すことなく―――――


(#'∀`)「ワンダウンだ、ザコ助ェ!!!!!!!!」


土煙を上げながら、彼らに向かって『腹』を見せた

289 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:09:04 ID:Y6pO/fks0
(; ゚ω゚ )「」


文彦は『宇都宮 徳雄』を深く知ろうとしなかった。彼が何の為にチャリオッツを始め、ジャパンカップに挑もうとしているのかも訊かなかった
バイク乗りがジョッキーに転向し、その過酷さを思い知って早々に挫折する者など掃いて捨てるほど存在する
このブサイクもその一人と成るのだろう。そうタカを括っていた文彦の認識は、この『三十秒』で覆された
特等席で『勝ち馬』を試乗した彼は、自らを満たす『快感』に困惑した。それは決して褒められるものではなく、世間一般では非難されるべき行為


('∀`)「愉しいなぁ、文彦ォ!!」


圧倒的な力を振るい、他者を蹴落とす甘美な加虐である


(; ゚ω゚ )「あ、そ、その」

(;'A`)そ「おっと!!」


11時の方向から飛来した砲弾が、チャージング・グリルのブレードを一枚撃ち抜く
車内まで貫通はしなかったものの、ジョッキー席の左半分が露わになる。徳雄は右ハンドルのシフトレバーを『R』へと切り替え、土嚢まで後退した

290 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:09:53 ID:Y6pO/fks0
(;^^)「いいぞ七番隊!!まずは俺らを起こせ!!」


助太刀に安堵の表情を浮かべた優男が、ハッチから身を乗り出して車体を叩き救援を要請する
『七』の数字が刻まれた車体は徳雄達へ追撃を行わず、先輩の指示に従って真っすぐに


(;^^)「ハハッ、いいぞ!!さっきは油断したがこれで形勢……」


速度を上げながら『真っすぐ』に向かって行き、そして―――――


(;^^)そ「てめえ何の真n」


五番隊の『腹』へと勢いよく突っ込み、塹壕の中へと叩き落とした


('A`)「……」


土嚢の影から味方討ちの現場を目撃した徳雄は、『次』に備えて息を整えることに注力する
画面左端のプレイログに『藪蛇五番隊、走行不能』と記され、残りチーム数が『2』へと減少した


(;^ω^)「ど、どうしたんでしょうかお?」

('A`)「さぁな……眠れるネコでも」



「宇都宮ァ!!!!!!!!!!」



('∀`)「起こしちゃったんじゃねえの?」

291 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:10:35 ID:Y6pO/fks0
画面端にワイプが表示され、怒気に溢れる高城の顔が映し出される


('A`)「どうした?気でも狂ったか?」

(=#゚д゚) 「……タイマンだ」


静かだが力ある一言は、文彦の耳にもハッキリ届いた。だが、『挑戦状』を叩きつけられた本人は、お道化た様子で耳に手を添えてこう返した


('∀`)「あ?なんだって?声が小さくて聞こえねーんだけど?」

(;^ω^)「ちょっとアンタ……」


(=#゚д゚) 「タイマンっつってんだ宇都宮ァ!!!!!!!!」


文彦は彼らの因縁を知る由もない。だがこれだけはハッキリわかった


(;^ω^)(絶対このブサイクが悪ぃお……)


('∀`)「いい歳してヤンキー漫画の読み過ぎかよ高城パイセン。お仲間と一緒にお手々繋いで挑んでくりゃ良かったのによ」

(#=゚д゚) 「うるせぇ!!!!!これは俺個人の問題で、俺にだけケリをつける権利がある!!!!!誰だろうと横槍は入れさせねえ!!!!!」

('∀`)「これまで相手してやった連中の中で、ワンワンと吠えてくる野郎が一番チョロかったぜ?ザコなんてどいつもおんなじだ。矜持以外に張れるもんがねえからな」


(;^ω^)(うわぁ……)


着々と負けフラグが積み上がっているようで気が気で無かった

292 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:11:35 ID:Y6pO/fks0
(=#゚д゚) 「無礼てんじゃねえぞ!!!!!末席だろうと俺ァ『蟒蛇』だ!!!!!てめえなんかにチャリオッツの勝ちまで譲る気はねえ!!!!!!」

('∀`)「先輩方であの体たらくじゃあ、アンタの底も知れるってモンだがなぁ」


徳雄は軽口を返しながら、iーringで現在時刻を確認する。筐体に乗り込んで大体五分ほどが経過していた。木本がどれほどの規模の仕掛けを施すかは知らないが、もう少し稼いでも損はない
本来の目的である文彦の意欲回復も成し遂げなければならない。『次』の算段は決まった。先ずはプライドの奪還に燃える高城の誘導からだ


('∀`)「再会した日はガッカリしたぜぇ!?相変わらず口だけはデカいザコ猫のままだった!!中学の時は楽しかったよなぁ!!小便撒き散らして俺に許しを乞うアンタの姿は、今思い出しても笑えるぜ!!」

('∀`)「喧嘩は弱ぇ度胸もねえ!!そんでやっとこさ見つかった仕返しが『ゲーム』たぁ、情けねえにも程がある!!」

('∀`)「出来んのかよお前に!?さっきまで後ろでガタガタ震えてた小便たれのクソザコが、タイマン勝負で俺に勝てると本気で思ってんのか!?ええ!?」


奇しくも、本来無関係の高城と文彦は立場が似ていた


(=#゚д゚) 「黙れ黙れ黙れェッ!!この界隈にてめえなんかの居場所はねえとッ!!」

(=#゚д゚) 「この俺が本当にッ!!矜持以外に張れるもんがねえかを!!!!今から思い知らせてやらァ!!!!!!!!!」


それは二人が『尊厳』を踏み躙られた者同士だということだ

293 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:13:37 ID:Y6pO/fks0
('A`)「だってよ」


映像通信が遮断され、身を隠す土嚢の一部が砲撃で弾け飛ぶ。徳雄はさして慌てもせず、文彦へと振り返った


(;^ω^)「だ、だってよって……」

('A`)「聞いてなかったのか?奴は今から、これまで培った全てを使ってテメーをボロクソにした相手にリベンジを果たそうとしてんだ」

(;^ω^)「そ……それが?」

('A`)「『お前』はどうすんだ?」


二発目で、土嚢の半分が消し飛ぶ。流石にマズいと、徳雄はペダルを踏み込んだ
先ほど横転させた『五番隊』は、ビギナーズラックで討ったと言っていい。復讐心を煽りに煽った七番隊を相手に、同じ手は使えない
つまり、この状態で勝つには此方も耐久値に依存しない反撃を行わねばならない。アビリティを扱えるキャプテンがいない今、残った手段は『砲撃』に限られている



「来いよ宇都宮ァァァアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」



('A`)「やなこったっと……!!」


猛烈な勢いで迫る七番隊を背に、徳雄は逃げに徹した。頼りの前面装甲は半壊、側後装甲は一発でも喰らえば即大破は免れない
尚且つ、怒り昂るジョッキーを除いた二人のチームメイトは、比較的冷静な精神状態だ。少しでも気を抜けば、五番隊と同じ末路を辿るのは避けられない
綱渡りの逃走の中、文彦の説得に使える時間は僅かだ。一から十まで説き伏せる必要は無いものの、徳雄の心には少々の焦りが芽生え始める


(;'A`)「お前が蟒蛇に何されたかなんて、俺らにとっちゃどうでもいいし、聞いたところでどうしようもねえ……っぶねッ!!」


車体の左上部を砲弾が掠め、薄氷に石を投げ入れたかのように『クリアボディ』に皹が走る
互いの距離感は二百メートルそこそこ。重量差から徐々に引き離してはいるが、射程範囲からは逃れられそうになかった

294 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:14:45 ID:Y6pO/fks0
(;'A`)「重要なのは、お前は連中を『どうしたいか』だ!!」

(;^ω^)「!!」


正面に土嚢が迫る。右にフェイントを入れて、進路を前に戻す。つられた砲弾が、地面を深く抉った
土嚢を残ったブレードで押しのけ、砲撃の影響で土煙が上がった右方向へと舵を切る。『ヘッジホッグ』の踏ん張りが災いし、車体は慣性に従って左に傾いた


(#'A`)「クソがッ!!」


ペダルの踏み込みと同時に重心を右へと寄せて修正し、視界が悪いうちに塹壕へと潜り込んで急停止する


(;'A`)「ハァッ、ハァッ……クソ、まだ慣れねえな……」


バイクレースでは『砲弾』など襲って来ない。VRゲームは非現実が売りだが、やり慣れていない者には未知のプレッシャーを与える


(;'A`)「猫山さん言ってたぜ?『贔屓目抜きにしても、文彦の実力は唯一無二』だと」

(;^ω^)「……」

(;'A`)「お前の手に握ってるモンは、この車体に乗っかってる砲は、そんでこのゲームは、自分の才能で合法的に相手をぶん殴れるモンじゃねえのか?」


「どうした宇都宮!!逃げ腰かァ!?デカい口叩いてんのはどっちだ!?あァ!?」


タイヤが土を蹴る音が近い。煙に撒くのは成功したが、見つかるのは時間の問題だ


(;'∀`)「ああ、悪ぃ悪ぃ。今更説くまでもねえよなこんなしょうもねえこと。お前はその快感を既に知ってるんだからよ」

(; ω )「……」


徳雄が五番隊を横転させた時の快感に、文彦はどこか懐かしさを覚えていた
それは自らの砲撃で、相手からキルを奪った瞬間と酷似していたからだ

295 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:16:22 ID:Y6pO/fks0
(; ω )「……宇都宮さんは」

('A`)「なんだ?」

(; ω )「どうして、チャリオッツを始めようと思ったんですかお……?」


質問をした本人は、その答えを思い出せなかった。プロになるもっともっと以前、初めてガンナーの席に座った時の気持ちを忘れていた
徳雄は20代前半だ。若いとはいえ、ジョッキーを始めるには少し遅いとも言える年齢。何故、この時になってチャリオッツを、日本最高峰の大会を制しようと思ったのか


('A`)「知れたこと」


徳雄の答えは、文彦の初心と全く一緒だった


('∀`)「愉しいからよ」



(; ω )そ「ッ!!」




.

296 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:17:09 ID:Y6pO/fks0
ただし


('∀`)「調子乗った連中を蹴落とすのがな」

(;^ω^)「ええ……」


余計な一文が追加されてなければの話だが

297 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:18:48 ID:Y6pO/fks0
('∀`)「愉しい愉しい愉しい!!愉しくて仕方がねえ!!こんな世界があるんなら、我慢なんてせずにサッサと始めりゃあ良かった!!」


狂ったかのように嗤い始めた徳雄は、車体を急発進させる。すぐ側まで迫っていた七番隊が、反射的に砲撃する
今度は右側面の装甲に命中し、柔いクリアボディがパンと弾けた。耐久値のバーがゴッソリと減り、黄色に変化する


('∀`)「自分が強いと思っている奴を半殺しにするのが愉しい!!自分が優れていると思っている奴を貶めるのが愉しい!!神に感謝したことだってあるぜ!?俺を腐った見た目と性格にしてくれてどうもありがとうとな!!」

(;^ω^)そ「い、イかれてんのかお!?」

('∀`)「俺の唯一のダチはな!!強いし優れてるし見た目もハンサム!!その癖一度も驕ったことのねえ非の打ち所がない完璧野郎だ!!そんな最高の男を、チャリオッツの大舞台でぶっ殺してぇ!!!!!!そりゃあ最高に気持ちが良いだろうぜ!!!!!!」


コンプレックスの裏返しだろうか。それにしては、心底愉しそうに話すではないか
きっかけはそうであったかも知れない。だが、この極地に到るまで徹底的に暴力を突き詰めたのだ
だからこそ強く、だからこそ恐ろしく、だからこそ『憧れてしまうほどにかっこいい』


:(;^ω^):


身震いが起きた。脳天から背筋に痺れが奔り、グリップを持つ手に力が籠る
この男に比べれば、蟒蛇の持つヒール性などお子様のごっこ遊びだ。目を背けたくなるほどの醜悪な『凶悪』に文彦は魅入られてしまった


('∀`)「文彦、お前は――――」


遂に砲撃が足下で弾けた。視界がブレるほどの衝撃が車体を転がし、スクリーン映像と筐体内部は縦横無尽に掻き回される
耐久値は風前の灯火だ。運良く車体が起き上がったとしても、ジャッジは走行不能の判断を下すだろう

文彦は、ゲーム内の挙動と連動して上下左右と目まぐるしく稼動するコクピットの中で、スコープゴーグルを掴んで顔に添えた

七番隊からは、紙装甲の車体が吹き飛ぶ無様な様が見えているのだろう。一度も砲口を向けられずに、完全勝利を成し遂げたと勝ち誇っているのだろう
耐久値は風前の灯火だ。だが、ゼロでは無い。僅かでも復帰の余力が残っていれば、試合終了のホイッスルは鳴らない

298 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:19:18 ID:Y6pO/fks0



( ^ω[◎]


スコープからは、洗濯機の中に放り込まれたかのように残像を伴って移り行く車外映像が覗えるだけだ
遠心力と重力によって座席から転がり落ちないよう、シートベルトが贅肉をキツく締め上げる。戦場でしか味わえない圧迫感に、気も引き締まった
七番隊が放ったのは火力重視の榴弾。貫通弾に比べて、被弾時には大きく車体が揺れ動く。軽車両なら紙細工のように宙へ舞うことだってある。今の状況は良い見本だ


恐らくは、出来る限り痛めつけた上で報復を叶えたいが故のチョイスなのだろう。文彦にとっては非常に好都合だった

299 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:20:42 ID:Y6pO/fks0
( ^ω[◎]


6shooterは固定砲であり、『前』にしか飛ばない不器用な代物だ。照準を合わせるのはジョッキーとキャプテンの仕事であり、ガンナーはただ撃鉄を起こしてトリガーを引くだけの単純な作業に終始する
『ヘッジホッグ』は高すぎるグリップ性能故にドリフトを用いた方向転換に向いていない。徳雄には『問題ない』と言ったが、踏ん張りを得る為に旋回能力を犠牲にするカスタムは文彦の『得意』と相性が悪かった


( ^ω[◎]「スゥ……」


内藤 文彦は、自分と同じく不器用な6shooterが好きだった。現在のチャリオッツ環境には見向きもされない『ネタ砲』だとしても
この『相棒』を扱うのに関して、自分の右に出る者はいない。今でもそう思っているし、プロの世界でも通じると信じていた


( ^ω[◎]「……」


『6shooterは時代遅れだ。此方の指定する砲に替えたまえ』


蟒蛇の監督兼オーナーの言う事も最もだったかもしれない


『俺らが必死こいて照準合わせても、手柄持ってくのはあのデブだぜ?やってられるかよ』


わざと聞こえるような陰口も、当然かもしれない


『 (  Д )「ここにお前の未来は無い」 』


憧れの最上位に君臨する者から突き放されるのも、納得出来るかもしれない


( ^ω[◎]「……」


自らを否定されたようで、腐りに腐った挙句、『幼稚な嘘を吐いて大会を放棄する』のも、仕方がないのかもしれない―――――

300 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:21:10 ID:Y6pO/fks0






(# ゚ω[◎] そ ん な ワ ケ が あ る か ! ! ! ! ! ! !






.

301 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:21:59 ID:Y6pO/fks0
時代遅れ?だからどうした
手柄を持ってく?それがガンナーの仕事だ
未来は無い?あるに決まっている


誰よりも『相棒』を愛する自分が、『相棒』を扱うのを放棄してどうする!!


誰になんと言われようと、自分の『誇り』に替えは無い
回転式シリンダー搭載シングルアクション。連射速度は使い手次第、ガンナーの成長に必ず応えてくれる唯一無二の主砲




『6shooter』こそが




(# ゚ω[◎]「最強なんだおッッッ!!!!!!!!!!!



.

302 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:24:54 ID:Y6pO/fks0
砲撃で宙に舞った軽車両は、激しい回転によって身体の向きを『前』から『後ろ』へと移す
走行不能ギリギリのピンチに訪れた一瞬のワンチャンス。悠長に狙いを澄ます余裕はない。『文彦以外のガンナー』ならばの話だが
6shooterは『真正面』にしか撃てない不器用な主砲だ。逆に言い換えるなら、どんな状況でも必ず『真正面』に発射できるという信頼感があると言う事

その使い手も、照準合わせをジョッキーとキャプテンに任せ、撃鉄を起こしてトリガーを引くことしか出来ない
逆に言い換えるなら、『撃鉄を起こしてトリガーを引くこと』に関しては、他の追随を許さぬと言う事

照準器の枠端に五番隊の車体が入る。撃鉄は既に起きていた。蟒蛇は戦闘特化のプロ集団。装甲も厚く、一撃では破壊しきれない
装甲の破壊に『二発』。コクピットにトドメの『一発』を撃ち込まねばならない。『落下と回転が伴う車体からの砲撃で』だ


『何も問題無かった』


例え相手が回避行動を行おうと、『アビリティ』で煙に撒こうと、ほんの一瞬だけ照準が合えば、その二つの勝利条件を満たすことが出来る


スコープ内の十字ラインの交差点と車体が重なった瞬間―――――


(# ゚ω[◎]「ッ!!!!!!!!!!」


頭より先に、指は動いた


『フェザータッチ』。触れただけで撃鉄が作動するほどに『軽い』トリガーが、一撃目の号令を下す
一仕事を追え、『寝た』撃鉄を人差し指ですぐさま起こす。重ねるように二撃目を放った
休む暇を与えず、人差し指に追随してやって来た中指で起こす。三撃目。勢い余った薬指が、ダメ押しの四撃目を呼び出す

303 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:25:28 ID:Y6pO/fks0
('A`)


先日、猫山に見せて貰った文彦のプレイ動画に、徳雄はピンと来なかった。『現実味が無かった』とも言えるかもしれない
実際に彼を乗せ、彼の射撃を目の当たりにして、腹の底から響く『6shooter』の咆哮を食らって初めて


('∀`)「こいつぁ……」


『親友』以外にも凄い男がいるのだと知ったのだった

304 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:26:11 ID:Y6pO/fks0
(=#゚д゚) 「勝」


砲撃で吹き飛んだ『宇都宮の車両』を見て、勝利を確信した高城は勝鬨を上げる所だった
前面装甲の覗き窓から差し込んだ閃光が、『爆破』によるものと勘違いを起こす程度には舞い上がっていた


(=#゚д゚) 「っ」


カメラのフラッシュを浴びた時がそうであるように、眩んだ目が視力を取り戻すのに時間は掛からなかった
その間に、前面装甲が吹き飛び、コクピット内部への直接ダメージを伝える大きな衝撃が座席を揺らした。頭の中が白く染まる


(=;゚д゚) 「っ……た」


揺さぶられた脳と視界に若干の吐き気を催しながら、高城は前へと向き直る
憎き相手を叩きのめして浮かれた脳内は、一転して最悪の想像を掻き立てた


『Lose』


敗北を伝える英単語が、青白い文字で映し出される。座席がゆっくりと定位置へと戻り、安全ロックを掛けて稼動を停止させた
身体からハーネスが外され、『さぁ次だ』と追い出さんばかりに筐体は扉を開く。『現実』からは、観衆のどよめきと『五番隊』の怒号が遠慮なしに入り込んでくる


(=;゚д゚) 「あっ……ぐ、ぐぅ……!!」


スクリーンに映るリザルトを、何度見返しても同じだった。ラストキルのリプレイは、爆発でも何でもなく『吹っ飛んだ車両からの四連射』だった


(=#゚д ) 「く……ぐ……!!」




「クソがあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」




.

305 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:27:44 ID:Y6pO/fks0
(;^ω゚ )「ふーっ、ふーっ……」


グリップを握る手、撃鉄を起こした指が小刻みに震える。脳からジワリと溢れ出た『物質』を、瞼をギュッと瞑って堪能した
チャリオッツから離れて数か月。夢にまで見たこの『瞬間』。何度味わっても飽きが来ない、『勝者』の気持ち良さ
取るに足らない自分が、英雄にでもなったかのような多幸をもたらす優越感に、しばし酔いしれた


('A`)「やるじゃねーか」

(;^ω^)そ「いって!!」


パンと肩を叩かれて、ようやく酔いから醒めた文彦は、『その後』の対応について全く何も考えていないと気づく
筐体の外では、内輪もめによる怒りの声が響く。出て行けば矛先は此方にも向くのだろう


(;^ω^)「どどど、どう、どうしどうしよう……」

('A`)「堂々と出て行きゃいいんだよ」


徳雄は掌を扉へと差し伸べ、『お先にどうぞ』と促す。顔面は変わらずブサイクだったが、その姿はどこか―――――




(,,^Д^)




彼とは似ても似つかない、優しい従兄と重なって見えた

306 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:28:08 ID:Y6pO/fks0




(;^ω^)「……」




いや、無いわ。それは無いわ。普通に最悪のシンクロだわ。ギコ兄ぃにすっごい失礼だわ
早々に忘れようと心に決め、文彦は居心地と気色の悪い筐体から逃げるように抜け出した

307 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:29:10 ID:Y6pO/fks0
( #゚∀゚ )「この恥さらしのクソルーキーが!!!!!」

(= д )「……」


(;^ω^)そ「うおっ」


出迎えたのは歓声ではなく、観衆の視線を意に介さない『敗者』の責任の押し付けだった
高城は金髪に胸倉を掴まれるままに、ガクリと項垂れて此方へと見向きもしない。文彦に気付いた優男が、勇み足で近づいてきた


(#^^)「てめえやっただろ!?」

(;^ω^)「えっ、なん、何?何をですかお?」

(#^^)「『チート』だよチート!!じゃなきゃクソチビにあんな馬力だせるワケねーだろ!!」


胸倉を掴み上げられ、顔に飛沫を飛ばされながら、ありもしない『不正』を糾弾される
試合開始前は萎縮して口答えも出来ない存在だったが、今となってはなんだか滑稽に見えて


( ^ω^)・'.。゜「ブフッwwwwwwwwwww」


我慢できずに噴き出してしまった


(#^^)「てんめぇ……おちょくるのもいい加減にしろやァッ!!!!!!」


優男が拳を振り上げ、観客は思わず息を飲む。徳雄はよっこいしょと筐体から出た所で、暴行を止めようと思えば止めれたが


('A`)(まぁ一発くらいなら耐えるだろ……デブだし……)


と、メタボの防御力に任せようと静観した
シャンクスも勝利も敗北も知り逃げ回って涙を流して男は一人前になる泣いたっていいんだ乗り越えろって言ってたし

308 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:29:43 ID:Y6pO/fks0





「せーのォッ!!!!!!!!!」




(;^^)そ「ッ!?」


彼らを取り囲む観客の背後から、突如として気合の入った雄叫びが放たれたが


(メ) ゚ω゚ )・'.。゜「シャトルッ!?」


別に拳は止まらなくて普通に殴られた

309 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:31:20 ID:Y6pO/fks0
「「「「「ミミミン!!!!!!!!ミミミン!!!!!!!!ふーーーーーーーーーみひこッ!!!!!!!!!!」」」」


:(メ) ゚ω゚ ):「痛……?」


え!!!!!!!!!!!!!!???????????????????ウサミンコール!!!!!!!!!!!???????????
デレマスのサービスは2023年3月30日に終了しているのである。文彦にとって、ミンミン民にとっては、ミセリのコールとして馴染み深いものだ
それが、自身の名に変わって繰り返されている。二度、三度と続けて。彼らの『推し』に贈る時に負けないほどの声量で


('A`)「へぇ……」


声量、熱量、そして異臭に圧されて観客は道を開ける。コール集団の先頭には、水でも被ったのではないかと見紛うほどに汗を掻いたオタクデブ


(;@з@)「ミミミン!!!!!!!!ミミミン!!!!!!!!ふーーーーーーーーーみひこッ!!!!!!!!!!」


ライブ会場から『同士』を率いて現れた彼の姿は、見苦しくも『王』の風格を纏っていた


(;@з@)「文彦氏!!!!!!!!!天晴れな腕前にございましたぞぉぉぉ!!!!!!!!!」

:(メ) ゚ω゚ ):「木本くん……」


「やりますねぇ!!!!!!!!」

「この連射速度……VIPクオリティ!!!!!!!!!!」

「ニュータイプは伊達じゃない!!!!!!」

「乳首はダメでござるwwwwwwwwダメでござるよwwwwwwwwww」


拍手と共に次々と称賛の言葉が贈られる。呆気に取られた観客たちも、一人二人と拍手を始め―――――


(;^^)「っ……」

( ;゚∀゚ )「……」


瞬く間に『万雷』となり、ゲームセンター内を大きく振るわせた

310 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:32:20 ID:Y6pO/fks0
木本が言った『オタクの恐ろしさ』の本質は団結力にある
数多くのイベント、ライブを渡り歩いたミンミン民は、例え顔見知りで無くとも共通の一体感を持つ
一糸乱れぬコールや、スタッフの指示に従い物販の列に並ぶ統率。打ち合わせなどしなくとも、無言の連携が取れる猛者達なのだ
その上、活躍を魅せたのは推し同じくするミンミン民。そして彼らとは対極を成す存在である不良プロチームが叩きのめされたとくれば


「引っ込め負け犬ーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」

「メシウマァァァァーーーーーーーーーーーーwwwwwwwwwww」

「アホくさやめたらプロ選手」

「乳首はダメでござるwwwwwwwwwダメでござるよwwwwwwwww」


ここぞとばかりに総攻撃を行うのは至極当然の話であった


('∀`)「あっはっはっはっはっは」


これもまた、集団による暴力に他ならない。滅多に見れないオタクブス共の口撃に、内外共にウルトラブサイクは手を叩いて喜んだ


:(メ) ゚ω゚ ):「???????」


笑ってないで早く助けて欲しかった

311 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:33:25 ID:Y6pO/fks0
( ;゚∀゚ )「テメェら仕組んでやがったな!?」


蟒蛇はプロだ。どうしても、無名の連中に負けたと認められないのだろう
金髪は高城を突き飛ばし、徳雄へと詰め寄った


('∀`)「は?何が?」

( ;゚∀゚ )「すっとぼけんじゃねえ!!チート使って俺らを貶め、オタク共に盛り上げさせて恥かかせようって魂胆だったんだろ!?」

('∀`)「あはははははは!!!!!随分都合の良いオツムしてんだな!!」

( ;゚∀゚ )「テメェ!!!!!」


胸倉に伸びた腕を、今度ばかりは好き勝手させずに掴んで止める。小さな徳雄は大柄の金髪の身体に覆い隠され、観客からは『凄まれている』ようにしか見えなかった


( ;゚∀゚ )「あっ、ぐ……?」


実際には


('A`)「いい加減にしとこうぜお兄さん」


金髪の手首が押し潰れるほどの握力で掴まれ、動けずにいるだけだった

312 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:34:07 ID:Y6pO/fks0
('A`)「退き際もわからねえか?押し問答で俺らが折れても、蟒蛇の評判が今以上に下がるだけで何の得もねえぞ」

i!iiリ゚ ヮ゚ノル「そうだそうだー」

('A`)「それでも納得いかねえってんなら、ゲームでも喧嘩でも付き合ってやるよ。ただし、さっきみてーに生温い扱いはしてやらねえ。次は初っ端から文彦がブッ放すぜ?勝てる自信があんのか?」

i!iiリ゚ ヮ゚ノル「やれやれー」

( ;゚∀゚ )「タダで済むと思ってんのかよ……!!」

('A`)「脅すのは自信の無さの表れだぜ?テメーらより番付が下の高城の方がよっぽど気合い入ってたよ。それとも……」


手首の骨身が軋むほどの圧力に、金髪は耐えきれず低い悲鳴を上げた


i!iiリ゚ ヮ゚ノル「わぁー、すっごい痛そう」

('A`)「『喧嘩』で白黒着けるか?いいぜ大歓迎だ。俺ぁそっちの方が愉しめるからなぁ。オラ、大怪我する前に早くどうするか決めろよ。ええ?プロのお兄さんよ」

313 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:35:58 ID:Y6pO/fks0
( ;゚∀゚ )「ぐあ……」


恵まれた体躯に恵まれた容姿。彼は生まれた時から『敵』に出会ったことの無い人間だった
学生時代は気の合う仲間と我が物顔で教室を支配し、気弱な生徒を捕まえては雑用を押し付け。気に食わない者には腕っ節を見せつけて黙らせた
自らの力では敵わないと悟った者には媚び諂って上手く取り入り、美味しい蜜を吸ってきた。暴力と世渡りをバランスよく使い、肩で風を切って人生を歩んできた男だった


('∀`)


彼は初めて『見誤った』。取るに足らない生意気なチビのブサイクだと思っていた男は、人生の殆どを『敵』だけを相手にして生きてきた男だった
『獏良 良樹』と出会うまでは気の合う仲間など作れず、何かにつけて容姿をバカにされ、理不尽を振るわれた
清潔を保っているにも関わらず、汚物が如き扱いをされた。気に食わないという理由だけで集団に囲われ嬲られた
例え自らの力では敵わない相手だったとしても、時間を掛けてそれら全てを一個人の暴力で捩じ伏せ、一切合切を支配した


( ;゚∀゚ )「ヒッ……」


歩んだ人生の『難易度』が、圧倒的に違う。金髪は今になってようやく、『宇都宮 徳雄』という格上を相手にしていると肌感覚で理解した


( ;゚∀゚ )「わ、悪かった!!悪かったよぉ!!頼む、俺の負けだぁ!!」


膝を折って声を震わせ、小さく醜い男に懇願するみっともない姿が、公衆の面前に晒されたが、金髪にはもう体面を気にする余裕は残ってなかった
心底つまらなそうに大きな溜息を吐いた徳雄は、金髪の手首を投げ捨てるように解放する


('A`)「ガッカリだよ」


抵抗の意志すら消えた金髪は、徳雄にとって既に価値の無いタダのザコであった

314 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:37:04 ID:Y6pO/fks0
( ;゚∀゚ )「す、すまなかった!!もうアンタには関わらねえよ!!」

('A`)「先に撤回することがあるんじゃねえのか?」

( ;゚∀゚ )「ア、アンタの実力は本物だ!!負けを、負けを認める!!」

('A`)「他には?」

( ;゚∀゚ )「ほ、他!?」

('A`)「ハァー……」


(;@з@)「ぬ?」


顎でクイと指す先には、彼らが小馬鹿にした『キモオタ』こと、敗北感を徹底的に押し付ける為に画作した『王』の姿があった


( ;゚∀゚ )「へ……?」


金髪はポカンと口を開けた。徳雄が求めている行為が何なのか解らなかったからだ
数秒経ってようやく意味を理解した金髪は、今以上にサァと顔を青ざめさせた

315 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:38:37 ID:Y6pO/fks0
( ;゚∀゚ )「あ、あの……」

('A`)「何?」

( ;゚∀゚ )「勘弁、してくんねっすか……?お、俺にも、面目ってもんが」


グチャグチャと女々しい言い訳を聞き終える前に、徳雄は金髪の襟首を掴み上げ、木本の足下まで引き摺り出した
蟒蛇の仲間は目の前の非現実的な光景に、文彦に迫っていた優男ですら、止めることも出来ずに呆然と突っ立っているだけだった


('A`)「はい」

(  ;∀; )「勘弁してください……勘弁してください……」


遂にさめざめと泣き始めた金髪に、徳雄は続け様にこう放った


('A`)「『はい』」

(  ;∀; )「ッ……」


『事を済ますまで解放しない』。その意志を、たった二文字で伝え終える
この瞬間、徳雄への恐怖が面目を上回った。木本へと向き直り、額を床へと叩きつけ


(  ;∀; )「すいませんでした!!すいませんでした!!」


嗚咽混じりで謝罪した


(;@з@)そ「お゛!? お゛ぉ゛!?」


ビックリして下痢便漏れる時と同じ声が出た

316 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:39:46 ID:Y6pO/fks0
('A`)「何がすまなかったんだよ?」

(  ;∀; )「ヒグッ……ヒグッ……」

('A`)「なぁオイ、何に対して謝ってんのかって聞いてんだよ」


こんなんもうパワハラなのである。長い間それに耐え続けた男は、その手口も良く勉強していた


(  ;∀; )「キモオタとバカにしてすいませんでした……!!」

('A`)「他には?」

(;@з@)そ「宇都宮氏!!!!!もういいでござるよ!!!!!なんかこっちが居た堪れないでござる!!!!!」

('A`)「でもこいつ、オメーに謝るのを『面目が』どうのこうの言って一回拒否しようとしたんだぜ?」

(;@з@)「そんなの別に気にしないでござるよ!!ささ、金髪氏。顔を上げてくだされ。昨日の敵は今日の友と言うでありましょう。お互い、笑って忘れようではございませぬか」


性格と顔面が最悪のドブサイクと比べて本当に出来たオタクブスだった。土下座する金髪に手を差し伸べ、傲慢を許す光景に観客一同は二度目の拍手を贈り始める


(  ;∀; )


しかし、この期に及んで


(  ;∀; )「……ソがよ」


金髪は情け深い木本の慈悲すらも受け付けなかった

317 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:42:07 ID:Y6pO/fks0
(;@з@)「金髪氏?」


格上に叩きのめされるよりも、『格下』に許されるのが我慢ならない。チンケなプライドだけが残っていた
勝てると思っていた勝負に負け、口でも力でも完膚なきまでに叩きのめされ、公衆の面前で恥を晒した
惨めな男の知性は、怒りと恥辱で幼稚になっていく。後先は考えられず、只々『八つ当たりの矛先』を求めた


(  ;∀; )「うわあああああああああああああ!!!!!!」


『どうせ恥を拭えないなら、目の前のオタクだけでも道連れにしてやる』
土下座の姿勢から勢いよく立ち上がった金髪は、腰の入っていない拳を放った


('A`)「ハァ……」


到達前に止めるのは容易い。文彦と違って一目置けるオタクブスにこれ以上迷惑を掛けるのは忍びなかった
引導を渡そうと拳を固めたが、彼よりも先に、観衆を割って現れた誰かが




(#^Д^)「このバカ野郎がァッ!!!!!!!!」




金髪の脇腹を盛大に蹴り飛ばした

318 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:42:49 ID:Y6pO/fks0
(;  ∀  )・'.。゜「カッ……!!」


大柄な身体が一瞬、宙に浮くほどの強烈な蹴りに、僅かな肺の空気と胃液を吐き出す
徳雄は『愉しみ』を横取りした乱入者に一つ文句でもくれてやろうと口を開いたが、蟒蛇を含むこの場の全員の空気が変わったのを感じて飲み込んだ


(;^^)「ふ……蕗也さん……!!」

('A`)「ん……?」


ゲームセンター前での一悶着で、蟒蛇のメンバーの一人がその名前を言っていたのを思い出す
乱入者の正体を知らないのは、チャリオッツ界隈に疎い徳雄だけであった


(#^Д^)「一般人相手に迷惑かけやがってクソバカ共が!!お前らそんなにご立派な存在か!?アァ!?」

(;^^)「い、いやでも蕗也さん……因縁着けて来たのは向こうからで……」

(#^Д^)「だからって馬鹿正直に喧嘩を買ってんじゃねえ!!ガキじゃねえんだぞ!!」


乱暴な口調に反して、仰ることは至極真っ当である。乱入者は蟒蛇メンバーの頭を一発ずつ殴り、金髪を除く全員を横一列に並べさせ


(;^Д^)「お騒がせして申し訳ございませんでした!!!!!」


この場の全員に向けて、深く頭を下げたのであった

319 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:43:49 ID:Y6pO/fks0
('A`)「誰だよ……」

i!iiリ゚ ヮ゚ノル「知らないですかぁ?彼こそがトップアタッカーチームの最頂点、チームランク一位『バジリスク』のキャプテンである『宝木 蕗也』さんですよ」

('A`)「へぇ……」

i!iiリ゚ ヮ゚ノル「男性ファッション誌『タフガイ』の専属モデルで、チャリオッツプレイヤー投票でも常に上位をキープする人気者!!ヤンチャなのは見ての通りですが、決して堅気には手を出さない任侠の男でもあるんです」

('A`)「へぇ……」


(;'A`)そ「アンタも誰!!!!!?????」


若くて可愛いチャンネーは解説だけしてどっか行った


(;^Д^)「キミ、怪我はないか?ウチの者がすまなかった。こいつらは俺がキツく叱っておく」

(;@з@)「お、お気になさらず……」

(;^Д^)「キミにも迷惑を掛けたな。申し訳ない」

('A`)「ああ、いや……俺は別に」


『随分と、思っていた印象と違うな』。毒気を抜かれた徳雄は、バツが悪そうに頭を掻いた
しかし、宝木以外の蟒蛇メンバーの、文彦に対する扱いを見れば、外面だけ繕っている可能性も捨てきれない
恐らく文彦が蟒蛇を抜ける理由も知っているのだろうが、無関係の人間が数多く存在するこの場で聞き出すのも忍びなかった


(;^Д^)「……文彦」


(;^ω^)そ「お……お久しぶり、ですお……」


蚊帳の外だった文彦は、気まずそうに一礼をする。戦々恐々なのは目に見えてわかるが、どこか罪悪感を抱いているようにも見えた

320 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:45:59 ID:Y6pO/fks0
(;^Д^)「悪かったな……今後一切、お前に近づかないように言い聞かす。許してやれとは言えないが、どうか溜飲を下げて欲しい」

(;^ω^)「だ、大丈夫ですお……」


('A`)「……」


目を合わせず、行き場のない両手をモジモジと組み合わせる。その様は、まるで悪戯がバレる寸前の子どもそのものだった
文彦の態度を見て、徳雄は一つの仮説を立てる。『蟲毒でのトリガー不具合は、本当に文彦の虚言だったのでは無いか』と
どうしてそんな嘘を吐く必要があったのかは定かで無いが、迷惑をかけた自覚が無ければこれほど都合が悪そうにはしないのではないか?
この際、一切合切を吐き出して貰おうではないか。徳雄は即席で一計を案じた


('A`)「文彦、お前も言う事あるんじゃねえのか?」

(;^ω^)そ「え!?ななななな、何をだお!?」

('A`)「すっとぼけんじゃねえよネタは上がってんだ」


勿論、嘘である。だが、徳雄のバックについている人物が、その嘘に説得力を含ませる


_人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人_
> (´^ω^`) 金持ってるクズ!!!!!!!!!!!!!! <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄


そう、皆さまご存じ、金を持ってるクズである。一学生の身元を調べ上げるなど造作もないと考えるだろう


('A`)「お前もそこで転がってるバカみてーにみっともねえ野郎になりたかねえだろ?きっちりケジメつけとけや」

(;^ω^)「……」

321 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:46:37 ID:Y6pO/fks0
(;^Д^)「文彦……?」


ガクガクと膝を震わせ始めた文彦に、宝木は首を傾げる。若くて可愛いチャンネーはi-ringのメモアプリを起動した


( ;ω;)「すんませんでしたお!!!!!!!」

(;^Д^)そ「文彦!?」

(;@з@)そ「文彦氏!?」


突然の土下座に、宝木も木本も驚きを露わにする。徳雄は自身の仮説が当たっていたのを確信した


( ;ω;)「ヒグッ、こ、蟲毒での不具合は、僕の嘘だったんです!!ぼ、僕のわが、わがままで!!蟒蛇に泥を塗って、すいませんでした!!!!!」


人々は揃って口を閉ざす。ピコピコと明るい電子音が、随分と場違いなBGMを奏でていた
堂々のカミングアウトを放った文彦は、鼻を啜りながら『すいません、すいません』と繰り返す


( ^Д^)「……文彦、良く……」


やがて、宝木が文彦の前でしゃがみ込み、肩に手を置いた


( ^Д^)「良く……謝ってくれたな」

( ;ω;)「すいません……すいません……」

( ^Д^)「良いんだ。気にするな」

322 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:47:16 ID:Y6pO/fks0
謝罪と、宥恕。ドラマのワンシーンにもなりそうな、感動的な場面に


(;@з@)「ふ゛み゛ひ゛こ゛し゛!゛!゛!゛!゛!゛!゛」

「これが……VIPヌクモリティ!!!!!!」

「#用意したティッシュで涙を拭いた」

「イイハナシダナー」

「乳首はダメでござるwwwwwwwwダメでござるよwwwwwwwwww」


オタクブス集団は汚く泣いた。だが、この男だけは


('A`)「……?」


宝木の口元に浮かんだ、慈悲や友愛由来ではない笑みを見逃さなかった徳雄だけは、蟒蛇の頂点に立つ男の底知れなさを感じ取った

323 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:48:13 ID:Y6pO/fks0
泣きじゃくる文彦をしばらく慰めた後、宝木は徳雄へと向き直った
粗相を起こしたチームメイトへ向けていたドスの強さは無く、温和で優し気な表情で手を差し出す


( ^Д^)「キミにも迷惑を掛けたな。それと、文彦を支えてくれてありがとう」

('A`)「……ああ」


握手を返し、これにて手打ち。大団円で締めくくりに差し掛かっていた


(;^Д^)「っ!?」


しかし、徳雄の疑問はまだ解消されていなかった。宝木が逃げ出せぬよう、右手を強く握りしめ、手前へグッと引き込む


('A`)「可笑しな話だなぁ。蟒蛇の兄さんよ」


そして、声を潜めて語り掛ける。残る疑問の答えを知る者にしか聞こえないように


('A`)「わざわざデカい大会で、下らねえ嘘吐いてまでプロの看板に泥を塗った野郎だぜ?俺ァ、奴がそこまでしなきゃならねえ理由が気になってしょうがねえんだ」

(;^Д^)「……思うところが、あったんじゃないか?俺は済んだ話を、掘り返す真似はしたくないんだが」

('A`)「随分と人が出来てらぁな。だったらどうして、文彦が愚行を犯す前に真摯に向き合ってやらなかった?心境の変化でもあったのかよ?」

(;^Д^)「何が言いたい……?」


結果だけ見れば、蟲毒での文彦の発言は嘘であり、責任は彼にあると言った蟒蛇陣営は間違ったことを言っていない
問題はそこに到った『経緯』だ。咄嗟の思い付きで糞を漏らす人間がいないように、ワケも無く嘘を吐く理由も無い
だとすれば、結局のところ文彦の愚行の原因は、所属していた組織にあるのではないか?


('A`)「『あいつに何しやがった』?」


回答次第では、頭を下げるのは文彦ではなく『お前』になる。脅しを込めて、宝木の右手を更に強く握りしめた

324 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:48:39 ID:Y6pO/fks0





( ^Д )「……」





('A`)「!!」


表情こそ変えなかったが、握力の『応戦』に打って出た宝木に、徳雄は少々面食らった
焦りを見せていた表情は、先ほどの柔らかなものへと変化していたが、能面のような無機質さを感じ取れる
得体の知れない男は、抱きしめるように徳雄の耳元へと顔を近づける


( ^Д )「俺はお前と『同類』さ。宇都宮 徳雄」

('A`)「……」


質問の答えになっていない。だが、徳雄にはそれで十分だった


('A`)「そうか」


互いに背を二回叩き、あたかも友好を深め合ったかのような演出を行い、互いの『拘束』を解く
振り向きざまに徳雄へ笑みを投げかけた宝木は、今度は木本を始めとしたオタク軍団へと謝罪と感謝を伝えに行く


('A`)「……」


何が『同類』なものか


('A`)「回りくどい野郎だ……」


此方は敵を作るのに、面倒な手段など必要としないのだから

325 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:50:00 ID:Y6pO/fks0
(#∵)「とても警備員だ!!!!!!!!!!!!!!!暴力があったと聞きつけて参上した!!!!!!!!!!」

(#∴)「とても暴力を振るった野郎はどいつだ!!!!!!!!!!とても丁寧にぶっ殺してやる!!!!!!!!!!」


('A`)「っとぉ……」


そこに、群衆を掻き分けて警備員が現れる。流石に騒ぎが大きくなり過ぎた。捕まるのは面倒だと思案していると


i!iiリ゚ ヮ゚ノル「あ!!!!!!!!!!!あそこにチンチン丸出しのおじさんが!!!!!!!!!」


若くて可愛いチャンネーが明後日の方向を指さして叫んだ


(#∵)「とてもわいせつだ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

(#∴)「とても汚いモノを切り取って野郎の口に詰め込んでやる!!!!!!!!!!!!!!」


暴力よりチンチンの方がとてもヤバいと判断した警備員は、すぐさま対象を移し替える


i!iiリ゚ ヮ゚ノル「どうぞ」

(;'A`)「ああ……どうも」


一体誰なんだろうかこのチャンネーは。とは言え、ありがたい援護射撃だった
文彦の腕を掴み、木本にアイコンタクトを送ってすぐさまこの場を離れることにした


( ;ω;)「うおおおおおん!!!!!宝木さん!!!!!!!」


しかし、デブはその場から動くのを拒否した
徳雄は今からでもどこかで試合を見てたクズにチンチンを丸出しにして貰って時間を稼ぐように仕向けようか迷った

326 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:51:44 ID:Y6pO/fks0





( ;ω;)「僕、チャリオッツに戻りますお!!!!!!」





それは、文彦に関わる全員が待ち望んでいた言葉だった

327 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:52:15 ID:Y6pO/fks0
( ^Д^)「……ああ!!」


『これで奴の思い通りか』。徳雄はどうにも、掌の上で転がされた気がして癪に障った
だが、ようやく目的が達成されたのに変わりない。軽く会釈をすると、力ずくで肉塊を引っ張り、群衆の中へと紛れていく
『神業』を目の当たりにした観客も文彦には好意的のようで、皆口々に激励の言葉を掛けつつ、それとなく二人の姿を警備員の目から庇った


( ;ω;)「オーイオイオイ……!!!!!!」

(;'A`)「しっかり歩けよ……クソ、めんどくせえ!!もしもしデミさん!?車回してくれ!!」


《了解》


i-ringで連絡を済ませ、ゲームセンターを出た瞬間、高級車が目の前でピタリと止まった
仕事の早さに舌を巻きつつ、後部座席に泣き虫デブを押し込む。続いて


(;@з@)「ハァ、ハァ……宇都宮氏!!文彦氏!!」

(;'A`)「オメーも乗れ!!」

(;@з@)そ「うわなにをするやめ!!!!!!!!!!!」


後を追って来た木本も流れで押し込み、自身は助手席に素早く乗り込んだ


(;'A`)「ッハァーーーーーーーーーーーーーー……」

(´・_ゝ・`)「お疲れ様」

(;'A`)「どもっす……」


(´・ω・`)「なぁオイ」

328 ◆L6OaR8HKlk:2022/09/09(金) 23:52:44 ID:Y6pO/fks0




(´・ω・(( ;ω;(;@з@)「何!?どなた!?拙者をどこに連れて行くのでござるか!?」




(´・ω・`)「死にそうなんだが?」


続けざまに臭いデブ二匹をギチギチに詰め込まれた本八は、前部座席を恨めしそうに睨んだ


('A`)「別に構わねえけど?」

(´・_ゝ・`)「文句あるなら降りろ」

(#´^ω^`)「俺さぁ!!!!!!!!!!上司!!!!!!!!!経営者なんだけど!!!!!??????」


盛岡は無言で車を出した


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