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ξ゚⊿゚)ξツンちゃん夜を往くようです
139
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 06:46:18 ID:F.8o84Nk0
ξ゚⊿゚)ξ「というわけでまゆちゃんバイバイまた明日なのだわ」
「……え、えっ!? どうしてですか先生、なんで私だけ!?」
( ´∀`)「え、だって男女の待ち合わせモナ?
だったら“そういうこと”なんだから毛利さんも気を遣ったりするモナ」
突然だがまゆちゃんの名字は毛利である。特に意味はない。
「うう、まさかこんな形で友達の不純異性交遊に加担させられるとは……」
ξ゚⊿゚)ξ「すまんな」
「……いいえ、それでも断固拒否です! 私もツンちゃんと一緒に――!」
と、まゆちゃんが再度ゴネ始めた途端。
彼女のポケットにあるスマホがクソデカい着信音をブチ上げ、教室中に鳴り響いた。
彼女は跳ねるように驚いてみせると、すぐさまスマホを手にして教室の隅に行き、電話に出た。
「――……はい、はい」
ξ゚⊿゚)ξ「……言っときますけど先生、さっきの発言はセクハラですよ」
( ´∀`)「そうモナ? でも清い生徒像なんて今日び期待もしてないから……」
ξ゚⊿゚)ξ「おっぴろげが過ぎる」
「試験――……資格? いや、それは知らな――……」
断片的に聞こえてくるまゆちゃんの話し声。
多分あれは試験対策の一環で資格をゲットしようという感じのアレだろう。
まゆちゃんは育ちがいいから親の期待とかで勉学が大変なのだ。とてもえらい。
ξ゚⊿゚)ξ(とてもえらいなぁ)
.
140
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 06:47:29 ID:F.8o84Nk0
「――ごめんね、やっぱり私帰るね!」
ξ゚⊿゚)ξ「え、マジ?」
電話を終えて戻ってきたまゆちゃんは、その時すでに掌を返していた。
彼女はそそくさと帰り支度を済ませると、それからすぐに廊下に出ていった。
「またね魔王城さん! ドクオくんとしっぽり頑張ってね!」
( ´∀`)「じゃあ先生も職員室に戻るモナ。あんまり教室を汚さないように」ガラッ
ξ゚⊿゚)ξ「両名の発言にセクハラの意図を感じてしまうわけだが」
品位に傷がつくのでやめて頂きたいものなのだわ。
.
141
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 06:50:41 ID:F.8o84Nk0
ξ゚⊿゚)ξ
ξ゚⊿゚)ξ(一気に暇になったのだわ)
ということで1人になった私は魔王城ツン。
結局また1人になってしまったが、まぁ教室でじっとしてる分には問題も無いだろう。
その後、窓辺に寄りかかって黄昏れてみたり、意味もなく髪をファサァ…してみたり。
ドクオがいつ戻ってくるのか考えてみたり、ひたすら無の時間を浪費していく。
ξ´⊿`)ξ(……何もしなくていい時間、最高なのだわ……)
放課後、教室、独りぼっちというシチュでめちゃくちゃ気が抜けてしまう。
魔王っぽい話はさておいて、やっぱり私は学校という場所に愛着があるのだ。
学校はいい。魔界と違って血生臭くないし、荒っぽくないし、あと単純に娯楽が多くてよい。
学食、あれも大変よいものだ。やったねという気持ちでいっぱいになれる。
ξ゚⊿゚)ξ(魔界はテレビもないしネットもないし、文化レベルが低いのだわ)
おらあんな魔界いやだ。東京へ出るだ。
つまりそういう事なのである。そろそろ暇が限界だった。
.
142
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 06:52:02 ID:F.8o84Nk0
「――単身、人気の無い場所で考え事とはな」
ξ゚⊿゚)ξ !?
吉幾三が脳裏を掠めたその途端、廊下の方から声が聞こえてきた。
扉のガラス越しに動く影――程なくそれは、ゆっくりと扉を開け放った。
川 ゚ -゚)
ξ゚⊿゚)ξ「……あなた、誰?」
現れたるは1人の女生徒。
高校生にしてはやや大人びているような、見たこともない黒髪美女だった。
ξ゚⊿゚)ξ
ξ;゚⊿゚)ξ(……いや、これは)
しかし気になる点が2つ。
1つ、着ている制服が明らかに安っぽい。多分あれドンキだ。
2つ、その手に持っている日本刀はなんだ。ビー玉のストラップまで付いてるし。
――そう。
その女生徒は確かに美女だったが、全体的にコスプレ感が強かったのだ。
川 ゚ -゚)
ξ;゚⊿゚)ξ
イコール、対処に困る。
私は女生徒の姿をじろじろ見るばかりで、それ以上の反応ができなかった。
上級生? 他校の生徒? あるいは――
ξ;゚⊿゚)ξ(……敵?)
.
143
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 06:55:45 ID:F.8o84Nk0
川 ゚ -゚)「悪いが1秒だ」
川 ゚ -゚)「説明もしない。仕事なんでな」
途端、コスプレ女生徒が抜刀して鞘を捨てる。
そうして刀を私に向け――なんて、悠長に考えている場合ではなかった。
ξ゚⊿゚)ξ「――な、」
コスプレ女生徒の刀は今、私の右耳あたりの空間に深く突き刺さっていた。
言葉を挟む余地もなく、彼女は既に斬撃を放っていたのだ。
思考も言語化も間に合わなかった完全な初見殺し。
反射神経のままに頭を振っていなければ、私は今頃――
川 ゚ -゚)「……避けたのか。1秒もたないと聞いていたが」
――この女は紛うことなき敵。
だったら対処は2つに1つ。逃げるか、ここで今すぐ戦うか。
ξ; ⊿ )ξ
ξ; ⊿゚)ξ(――ここで、戦う)
決めつけて、そこで思考を停止する。
考え込むほど私は弱い。
言葉を選んで体裁を整え――それでは私は弱くなるばかりだ。
だからなんにも考えず、ついぞ魔王城ツンとしてのプライドさえ忘れ去る。
私はただ、目の前の敵意に即答する。
.
144
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 06:59:22 ID:F.8o84Nk0
川 ゚ -゚)「……これなら、話が変わるな」クルッ
そう言いながら刀を引き、呆気なく背中を向ける。
彼女は10歩ほど戻って鞘を拾い上げ、そこに紐付けられたビー玉のストラップを指でつまんだ。
そしてそのまま力を込めると、そのビー玉は容易く2つに割れてしまった。
ξ;゚⊿゚)ξ !
――と同時、割れたビー玉から異様な波動が迸る。
肌を伝わるこの感覚は間違いなく魔力、人間には無縁のそれだった。
なぜ魔力が人間の手に――ましてビー玉なんかに収納されていたかは分からない。
しかも、目先の現象はそれだけに留まらなかった。
ξ;゚⊿゚)ξ(これ、まさか……!)
魔力の奔流は一瞬にして教室に飽和。
術式を描き、教室という空間そのものを再定義する。
――これは魔術。内外を隔て、世界の色彩を濁らせる『結界』の魔術だ。
色褪せた夕陽。動かない時計。肌に張り付くような空気。
私の日常だった教室は、ほんの数秒で現実世界から隔離されていた。
.
145
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 07:00:06 ID:F.8o84Nk0
川 ゚ -゚)「――準備完了。この方が好都合だろう、互いにな」
川 ゚ -゚)「私の名前は素直クール。
素直四天王の名義でも絶賛活動中だ」
最後に、憐れむように名を名乗る。
素直クールは刀を構え、その刀身をふっと沈めた。
川 ゚ -゚)「行くぞ」
ξ゚⊿゚)ξ
ξ# ⊿゚)ξ
――こっちの台詞だ。
私の心がアクセルを踏み込む。
3度目の正直。私は、言葉を後回しにした。
.
146
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 07:01:27 ID:F.8o84Nk0
≪4≫
経緯、目的、一切不明のまま始まった素直クールとの戦闘。
この純然たる危機の中、魔王城ツンは努めて冷静に敵の攻撃を避け続けていた。
ξ# ⊿゚)ξ「――――!」
戦闘開始から早4分。
防戦一方という形ではあるものの、ツンは素直クールの動きに慣れ始めていた。
それもそのはず。素直クールは人間のまま、肝心要の『激化薬』を使っていなかったのだ。
であれば必然、人と魔物のスペック差は埋まらない。
素直クールの戦闘能力は確かに超人的だったが、この差を覆すにはまだ足りない。
ゆえに、戦いに集中したツンが人間相手に遅れを取ることはまず有り得なかった。
.
147
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 07:06:17 ID:F.8o84Nk0
ξ# ⊿゚)ξ(避けるだけなら――!)
徒手空拳にて白刃を捌き、死線を絶っては前に出る。
その不敵極まる振る舞いは、やがて素直クールの心に大きな動揺をもたらした。
川;゚ -゚)(この魔物、いつまで受け続けるつもりだ!?)
ξ#゚⊿゚)ξ(――ッ!)ダッ
一瞬揺らいだ太刀筋を突破し、ツンは一気に間合いを詰めた。
狙いを定める余裕は無い。次の斬撃が頭上に迫っている。ここで遅れる訳にはいかなかった。
ξ# ⊿ )ξ(間に合わせるッ!)
ツンは即座に拳を固め、なりふり構わずそれを放った。
そこから更に魔力で後押し――ツンの拳が、素直クールの斬撃速度を僅かに上回る。
川; -゚)(――こいつッ!)
そして、その一撃は素直クールの肩部に直撃した。
弾けるような衝撃に体を浮かされ、彼女は教室内の机椅子を巻き込んで吹き飛ばされる。
壁にブチ当たったそれらがとんでもねぇ音をブチ上げてヤバい。
備品の山の中に埋もれた彼女は微動だにせず、しばらくの間、立ち上がる気配すら見せなかった。
ξ;゚⊿゚)ξ「ハァ……ハァ……」
ξ;゚⊿゚)ξ(……ギリギリ当たった、けど……)
当たりはしたが、大袈裟に見えるだけ。
ダメージ自体は微々たるもので、ツン自身にもそれは手応えとして伝わっていた。
戦いは続く。ツンは今一度拳を作り、集中を切らさないよう大きく息をした。
.
148
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 07:08:43 ID:F.8o84Nk0
川; - )「……」
川; -゚)「……どうにも、話が違うな……」
――教室の備品に埋もれたままボヤく素直クール。
今回彼女が受けた依頼は魔王城ツンの殺害、もとい討伐。
本来それは極めて簡単な仕事であり、目算通りなら既に片付けに入っている時間だった。
しかし、魔王城ツンの戦闘能力が想定を大きく上回っている。
依頼主の情報が間違っていたのか、あるいは情報そのものを誤魔化されたか。
彼女はしばし逡巡したが、それが有意義な結論に至ることはなかった。
川; -゚)(……よくある事だ。加減した私が悪い)
仕方なく溜飲を下げ、山を崩して立ち直る。
肩へのダメージは軽微。脱臼もなく、腕の動きにもさしたる影響はない。
川 ゚ -゚)「……ふぅ」
この魔物、やはりまだ未熟だ。受けは上手いが攻撃が乱雑すぎる。
情報に間違いはあるとはいえ、これなら討伐可能範囲に収まっている。
一瞬の思慮を終え、素直クールが刀を構え直す。
第二ラウンドの開幕。先に動いたのは素直クールだった。
川#゚ -゚)「八刀剣撃――」ダッ
ξ;゚⊿゚)ξ !
床を蹴った素直クールが真正面からツンに向かう。
ツンも応じて両手を構え、2度目の防戦に全神経を集中した。
ξ;゚⊿゚)ξ(――あ、)
しかし、その瞬間に訪れたのは『負の直感』。
明確な死のイメージ。安全装置が吹き飛ぶ感覚。
ギリギリの回避ではダメだ。もっと大きく逃げ――
.
149
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 07:12:00 ID:F.8o84Nk0
川# -゚)「――八重小太刀」
言葉の後、空を奔るは8つの銀閃。
五体を刻むに余りあるその斬撃は、嵐のような風を率いてツンの体を駆け巡った。
ξ;゚⊿゚)ξ
川 ゚ -゚)
一刀八斬。
ツンはまだ、自分が斬られた事に気付いていなかった。
ξ;゚⊿゚)ξ
ξ; ⊿ )ξ「……ッ!?」フラッ
刹那の時が過ぎ、一気に吹き出す血の飛沫。
予期せぬ攻撃を受けたツンはあえなく脱力し、その場に膝から崩れ落ちた。
川 ゚ -゚)(……殺すつもりが肉一片すら削げんとは。
やはり魔物は丈夫にできてる。斬り方を変えなければ……)
残心めいて刀を一振り。
素直クールは切っ先を下げ、ツンが立ち上がるのを静かに待ち構えた。
魔物を斬るなら必殺あるのみ。
当然その気で放った技は、しかし魔王城ツンの命を取ってはいなかった。
ξ; ⊿ )ξ(……あ、)
ξ; ⊿゚)ξ(危なかった……!)
――必殺を成し得なかった理由は見るに明白。
空中を漂う赤い糸。それは程なくマフラーの形を成し、ツンの首にゆっくりと巻きついていった。
.
150
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 07:18:48 ID:F.8o84Nk0
川 ゚ -゚)(……話にあったマフラーだな。戦いながら作っていたか)
ξ; ⊿゚)ξ(なんとか、ギリギリ間に合った……!)
その赤マフラーはツンの魔力で編み上げられた特別製。
戦いながらの成形には凄まじく手こずったが、限界寸前のタイミングで形にはできた。
それでも、急ごしらえの代償は決して看過できるものではない。
死ぬか否かの瀬戸際で、ツンは諸刃の剣を抜かざるをえなかったのだ。
ξ; ⊿゚)ξ(……不味い、魔力を作り過ぎた)
魔力の3段階――生成、制御、成形。
これらは基本的にバランスよく身につくのだが、たまに凄まじく極端な魔物が居る。
というかそれがツンちゃんだった。
ツンの魔力技術に点数をつけると以下の通り。
生成1000000点、制御10点、成形30点。
これが意味する感じを要約すると、ブレーキ弱いからスピード出すとヤバイよという感じだった。
――しかし先程、ツンは咄嗟に全力を出してしまった。
おかげで赤マフラーの成形は間に合ったが、その余力でさえ制御限界の数十倍はある。
一瞬とはいえフルスロットル。そのスピードを落とすにも、相応の時間が必要だった。
対症療法は1つ。ひたすら魔力を使い続け、自分という器を魔力で満たさないこと。
しかしツンには魔術が使えない。魔力成形も赤マフラーだけだし、魔力消費には限界がある。
残る希望は身体強化による消費だが、ここにはミセリのように物理で長時間戦える相手も居ない。
川 ゚ -゚)
ξ;゚⊿゚)ξ
――いや、居なくはない。
居なくはないが、素直クールをその相手にするのは不本意だった。
そもそもこれは半暴走状態。これから何が起こるにせよ、そこに魔王城ツンの納得は存在しない。
かといって、魔力の行き場を作れなければ状況は更に悪化し、最終的には自滅するだけ。
ただでさえ人間を殺したくないツンにとって、この状況はあまりに度し難いものだった。
.
151
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 07:23:06 ID:F.8o84Nk0
ξ;゚⊿゚)ξ
ξ;゚⊿゚)ξ(あ、止まった)
またしても戦いの中で立ち止まる魔王城ツン。
密室に閉じ込められ、命を狙われ、手傷を負ってなお躊躇する。
戦闘における致命的な欠陥――あまりにも度しがたい、『優しさ』という名の正常性。
これは、アリクイの赤ちゃんレベルの自己啓発で改善するものではなかった。
思考の為に足が止まる。優しさ為に選択そのものを放棄する。
魔王城ツンの人格では、これ以上なにも考えずに戦うのは不可能だった。
川 ゚ -゚)「……次は斬る」
ξ;゚⊿゚)ξ「あ、ま、待って……!」グッ
よろけながらも急いで立ち上がり、ツンは素直クールに手のひらを向けた。
ちょい待ち、たんまという意味のアレ。
戦場を白けさせるその動作は、しかし意外と効果があった。
ξ;゚⊿゚)ξ「……あなたが強いのは分かる。
でも仕事なのよね? 悪いがって言ってたし……」
ξ;゚⊿゚)ξ「ハッキリ言って私は殺し合いなんてしたくないのだわ。
できれば、穏便にこの場を収めたいんだけど……」
川 ゚ -゚)
ξ;゚⊿゚)ξ(やっぱり駄目かしら)
川 ゚ -゚)「できるぞ」
ξ゚⊿゚)ξ
ξ;゚⊿゚)ξ「――えっ、本当!?」
川 ゚ -゚)「私を諦めさせればいい」スッ
腰を落とし、素直クールは刀を鞘に戻した。
抜刀術による迎撃の構え。先程までとは打って変わり、今度は彼女が受けに回る。
.
152
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 07:25:51 ID:F.8o84Nk0
川 ゚ -゚)「一身上の都合で魔力の感じには覚えがあってな。
お前が今、すごい魔力を纏っているのは何となく分かる」
ξ;゚⊿゚)ξ !!
川 ゚ -゚)「仕事というのもその通りだ。そして仕事で死ぬのは最悪だ。
今回はどうも情報に不備があるようだし、撤退も悪い案ではない」
ξ;゚⊿゚)ξ !!!
川 ゚ -゚)「――結論、次の技で決める事にした。
七刀剣撃はカウンター技だし、諸般見定めるには丁度いい」
川 ゚ -゚)「それでもお前を殺せないなら、依頼料がまるで足りていない」
素直クールは不満げに独りごち、露骨に長い溜息を吐いた。
そして同時に戦意十分。いつでも来いと言わんばかりに、ツンの瞳をしかと見据える。
ξ;゚⊿゚)ξ(……やっと話が通じた)
ξ;゚⊿゚)ξ(でも、今の状態で人間と戦ったら……)ジリ
一歩退き、この状況に迷いを見せる魔王城ツン。
しかしてすぐに一歩踏み込み、彼女は強引に自分を否定した。
ξ; ⊿ )ξ(――ダメだ、ここで退いたら何も変わらない!)
現状、魔王城ツンの最大の弱点は『偏見』だった。
人間はみんな私より弱くて、本気を出せば今の私でもボコボコにできる。
だから程々の力で適当にやって、なぁなぁにして事なきを得よう――。
今まで彼女を敗北――自滅に追いやってきた原因は、まさにそういう思い上がりであった。
実力もなく相手を見下し、油断を晒してまだ過ちに気付けない。
そんな馬鹿げた状態で戦えばどうなるか、彼女はもう十分に分からされている。
.
153
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 07:29:03 ID:F.8o84Nk0
ξ;゚⊿゚)ξ(やるしかない、やるしかないのだわ……!)
今後も戦いが続く以上、彼女はそういった思い上がりの数々を振り切らなければならなかった。
共に傷付き、戦っていけない思いなど戦場には不要なのだ。
相手が死闘を望んでいるなら尚のこと、彼女は優しさという的外れな独善を忘れる必要があった。
ξ;゚⊿゚)ξ(……いつも通り、ミセリさん相手にやってるように、全力で。
でもマフラーをブレーキに使って、当てた瞬間に止めて、終わらせる……)
彼女の思いが全て間違っているわけではない。
たとえそれが偏見に根ざしたものであろうと、他者を殺したくないという思いは至極当然だ。
しかし、敗北に優しさを添える権利は勝者にしかありえない。
たとえ戦いたくなくても、制御不能でも、不本意でも、納得できなくても。
それでも戦場に『当然』を持ち込みたいなら、彼女は全ての言い訳を捨てて戦うしかなかった。
ξ;゚⊿゚)ξ(……あとは、やるだけ)
防戦一方ながら対等に戦い、辛うじて話し合いの余地を作り、運良く引き出せたこの落とし所。
あとは自分が上手くやるだけ。偏見を忘れ、ただ目の前の相手に勝利するだけ。
魔王城ツンはゆっくりと前進し、やがて、素直クールの斬撃射程圏内に足を踏み入れた。
.
154
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 07:30:47 ID:F.8o84Nk0
川 ゚ -゚)「……そこ、もう斬れるぞ」
ξ;゚⊿゚)ξ「……カウンター技なんでしょ。手を出さなきゃ安全よ」
川 ゚ -゚)「確かにそうだが、……なんというか、よくそれで生きてこれたな」
ξ;゚⊿゚)ξ
ξ;-⊿-)ξ「……運がいいのよ」
ツンはそう言い、赤マフラーに口元をうずめた。
魔力の堰はとうに限界。
あり余る魔力が真紅に揺らぎ、空を歪め、着火を急かすように火花を散らす。
ξ; ⊿゚)ξ「――ッ」
途端、魔力の波が痛覚を駆け巡った。
暴走同然の肉体強化、それを自分の意思で実行するのは苦行でしかない。
痛くて怖くて嫌なこと――だとしても、ここに退路は存在しない。
あとはやるだけ。この状況を作り出し、前進したのは彼女自身だ。
ξ; ⊿ )ξ「……それじゃあ、いくのだわ」
ならば魔力は全開あるのみ。
ツンは拳を作って吐息を漏らし、そしてもう、魔力制御を放棄していた。
.
155
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 07:33:08 ID:F.8o84Nk0
ξ; ⊿ )ξ「――――お、」
(^ω^)「おっ?」
ξ#゚⊿゚)ξ「――オオオオオオッ!」
誰だ今の、そして同時に爆裂する真紅の風。
ビリビリと打ち震える空気を感じながら、素直クールは彼女の威風に目を見張った。
川;゚ -゚)(私の間合いでこの圧力、殺しの依頼もさもありなんか……!)
ξ#゚⊿゚)ξ「行くぞ、素直クール!」
言葉の後、ツンは遂に拳を打ち出した。
真紅の尾を引く剛拳一撃。
力に任せたその拳は、大きな弧を描いて素直クールに急迫する。
川 -゚)「――――ッ」
対するクールは静のまま、脱力をもってツンに応えた。
明鏡止水の体現が、この激動の渦中に一瞬の静寂を作り出す。
.
156
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 07:39:32 ID:F.8o84Nk0
川 - )
やがて拳が頬に触れ、直撃した瞬間に抜刀を開始。
ツンは攻撃を当てた時点で勝利を確信していたが、それはあまりに性急な判断だった。
川 -゚)(――七刀剣撃)
拳に合わせて身を翻し、軽やかな回転と共にツンの懐をすり抜ける。
そうして呆気なくツンの背後を取った素直クールは、そのとき、既に攻撃を終えていた。
ξ;゚⊿゚)ξ「――……そん、」
川 ゚ -゚)「迎撃完了、糸桜」
空に残った7つの流線。
それはゆっくりとツンの血肉に沈み、絡みつき、容易く彼女の体を切断した。
ξ;゚⊿゚)ξ
ξ; ⊿ )ξ「……な゙……ッ!」
川 ゚ -゚)「私の勝ちだ」
振り返って軽く決めポーズ。
素直クールは刀を納め、そこで戦いを切り上げた。
.
157
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 07:45:01 ID:F.8o84Nk0
≪5≫
川 ゚ -゚)「――さて、これで決着だが」
役目を終えた結界魔術が消失し、世界は正常な色彩に戻っていく。
素直クールは髪や服など身なりを整えてから、辛うじて直立を維持する私に視線を戻した。
ξ; ⊿゚)ξ「…………」
川 ゚ -゚)「……やっぱり死ななかったな。一応、骨には届いたようだが」
素直クールは、困ったように言葉を付け足した。
確かに私はまだ死んでいないが、全身をズタズタに斬られていて、生きた心地はしていない。
ブレーキに使ったせいで赤マフラーも間に合わず、先の斬撃はほぼ直撃。
私が攻撃を終えた瞬間に攻撃を始め、そこから一気に追い抜いて斬撃を決める。
彼女の技量は、とてもじゃないが私の手に負えるものではなかった。
川 ゚ -゚)「なので帰る。片付けよろしく」
ξ; ⊿゚)ξ「……ま゙、って」
颯爽と歩き出す彼女を息絶え絶えに呼び止める。
私はそこで限界になって、床にすとんと座り込んだ。
そんな私の傍らに立ち止まる素直クール。
彼女は私を見下ろし、興味なさげに応えた。
.
158
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 07:45:58 ID:F.8o84Nk0
川 ゚ -゚)「続きはしないぞ。金にならんからな」
川 ゚ -゚)「というか早く帰って治療してくれ。
これで死なれても金にならないんだ」
ξ; ⊿゚)ξ「……ぞれは……分がってるけど……」
未だに直視はしていないが、恐らく私の体にはとんでもない致命傷が入っている。
中でも一番ヤバいのはお腹の傷だ。たぶん脇腹からへそにかけて10cmくらいばっさりいっている。
呼吸器系も明らかに異常を起こしているし、要するにヤバい。今すぐ治さないと死ぬ。
魔力の身体強化が切れた時点でプツンと逝ってしまう確信がある。
傷口から臓物がでろでろ出てきたら気を失うかもしれない。
川 ゚ -゚)「依頼主なら教えないぞ。手掛かりひとつ教えない」
川 ゚ -゚)「なので帰る。お前も早く帰れ。モツ見えてるぞ」
ξ; ⊿゚)ξ
そして、しまいには聞きたい事すらばっさり切り捨てられてしまう。
そりゃ負けた手前なにを聞く権利があるのかという感じだが、
ξ゚⊿゚)ξ
……あ、ちょっと意識が朦朧としてきた
.
159
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 07:47:37 ID:F.8o84Nk0
ξ゚⊿゚)ξ
ξ;゚⊿゚)ξ(……あ、えっと、……誰かに連絡、を……)
わたしの意識が限界なので一人称もげんかいになってきた。
それどころか、手で抑えていた流血も指の隙間からどんどん溢れ出てくる。
あ
駄目だ、このまま気を失ったら本当に……
「――寝るんじゃねえ! 起きろ! 頑張れ!」
途端、脳裏に響く誰かの声。
それが夢か現かは分からなかったが、
_ ∩
( ゚∀゚)彡
( ⊂彡
| |
し ⌒J
ξ゚⊿゚)ξ …?
_
( ゚∀゚)「俺も頑張ってるぞ!」
ξ゚⊿゚)ξ
ξ; ⊿ )ξ(いや誰……)ガクッ
突然現れた謎イメージへのツッコミを最後に、私の意識は闇に呑まれてしまった。
.
160
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 07:50:35 ID:F.8o84Nk0
(::::::⊿)
――霞んだ瞳を静かに閉じて、力なく倒れる魔王城ツン。
■はそれを静かに受け止め、彼女の傷に応急処置を施した。
魔力による肉体の再構成、赤マフラーを流用した擬似的な治癒。
未だ彼女の一部でしかない■にはこれが精一杯。
あとは、彼女の友人が間に合うのを祈るしかない。
川 ゚ -゚) ジー
(::::::⊿)
素直クールが■を見ている。
あまり見ないでほしい。
川 ゚ -゚)「……次から次へと色々出てきて、いっそ面白い女だな」
川 ゚ -゚)「だがまぁいい。これも話して依頼料を釣り上げよう」スタスタ
素直クールが歩き去っていく。どうやら事なきを得たらしい。
そしてこちらも時間切れだ。
心苦しいが、今の■は幻影程度の実体ですら満足に保てないのだ。
……しかしそれでも待つしかない。
今はただ、彼女自身の成長を心待ちにするばかりである。
|┃三 _________
|┃ /
|┃ ≡ < SOSキコエタ〜♪(鼻歌)(微熱S.O.S!!)
____.|ミ\____('A`)_ \
|┃=___ \  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|┃ ≡ ) 人 \ ガラッ
Σ(;'A`) !?
〜おわり〜
.
161
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 07:55:18 ID:F.8o84Nk0
#1
>>2-65
#2
>>74-117
#3
>>122-160
次回投下は12月です
162
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 14:27:12 ID:HVI8EGGc0
おつです
163
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 15:09:39 ID:ZoVREk7U0
まゆちゃん……好きだったのに
164
:
名無しさん
:2020/10/30(金) 19:31:53 ID:jmi509tA0
しえん
165
:
名無しさん
:2020/11/01(日) 18:21:44 ID:6Qn4IUTY0
乙おつ
166
:
名無しさん
:2020/11/01(日) 21:40:09 ID:UH94/sVs0
3周目特典が逃亡で全部潰されて4周目に突入させられた感じ?
167
:
名無しさん
:2020/11/29(日) 13:33:44 ID:yc/COwTA0
すごい好きな作品!!!またみれて嬉しい〜〜
168
:
名無しさん
:2020/12/03(木) 22:33:43 ID:JklxZjKM0
相変わらずシリアスに混じるカオスが子気味いいなあ
169
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 21:25:35 ID:9P.ObFjI0
≪1≫
〜学校〜
【これまでのあらすじ】
・魔王城ツンはすごい! wikiに書いてある
・ツンちゃん心臓をブチ抜かれる
・ツンちゃん腹部を大切断される
ξ゚⊿゚)ξ「とんでもない近状なのだわ」
最近の生活を振り返り、その熾烈っぷりに逆に落ち着いてしまう私は魔王城ツン。
勇者軍の女、内藤くん、素直クールと、気持ち的にもほぼ3連敗というこの有様。
諸般のやる気はまだあるものの、流石に今だけはしょんぼり感情を禁じえなかった。
('A`)「それだけ敵が本気ってことだよ。
特に内通者の件は油断ならねぇしな」
ξ゚⊿゚)ξ「ぬぬぬ」
大変すぎるぞ私の日常。まんがタイムきららは一体どうした
展開が忙しすぎる。これではシリアスバトル一直線ではないか。
やっぱり少し休暇が欲しい。あとちょっとエッチな水着回も欲しい。世界は難しい。
.
170
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 21:27:39 ID:9P.ObFjI0
――かくして云々、素直クールにお腹をバッサリされた翌日。
あれだけボコボコにされたというのに、私はやっぱり学校に来ていた。
登校はもはや意地である。即日治してくれた貞子さんには心底有難を禁じえない。
ξ゚⊿゚)ξ
しかし、これはこれでブラックなのでは?
私は訝しんだ。
_,
ξ゚⊿゚)ξ「……にしても教室が綺麗よね。誰が片付けたのかしら」
('A`)「ああ、それは俺も気になってたんだ。貞子さんでもねぇらしいし……」
ところで教室が綺麗なのである。
昨日めちゃくちゃに戦い荒らしまくった教室が、日を跨いだらすっかり元通りになっていたのだ。
モナー先生に聞いた限りじゃ学校側は何もしてないらしいし、問題にすらなっていないとのこと。
ξ゚⊿゚)ξ
分からん。
ギャグ補正かもしれない。
私は考えるのをやめた。
('A`)「とにかく今は警戒あるのみだ。お前、もう1人で動くなよ」
ξ゚⊿゚)ξ「トイレは?」
('A`)「行くな」
ξ゚⊿゚)ξ
モラルハラスメント(仏: harcelement moral、英: mobbing)とは、
モラル(道徳)による精神的な暴力、嫌がらせのこと。
俗語としてモラハラと略すこともある。 -wikipediaより
.
171
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 21:28:56 ID:9P.ObFjI0
( ^ω^)「――おい」
ξ゚⊿゚)ξ !
This is 内藤ホライゾン。
そういう私は魔王城ツン。
( ^ω^)「今日から僕も護衛につくお。
あと特訓メニューも作ってきたから順次やれお」
ξ;゚⊿゚)ξ「ええ……流石にちょっと休みたいのだけど……」
( ^ω^)「やれ」 ドシャァ
つミ□
突然やってきた内藤くんがまたしても机に紙束を投げる。
しかも今度の表題は『かえるくん、東京を救う』であり、完全に村上春樹だった。
ξ゚⊿゚)ξ(なんなんだよ……)
やれやれ私は普通に困った。
いい加減まともなコミュニケーションを取りたいものである。
(;'A`)「うわっ、なぜかツンのスペックを考慮しまくっててキモい……」 ペラッ
ξ;゚⊿゚)ξ「えーと、これもハインさんに言われて作ったの?」
( ^ω^)「そうだお。でなきゃやらないお」
ξ;゚⊿゚)ξ
ξ;゚ー゚)ξ「そ、そうなのね〜……」
ところで私は無難な会話が死ぬほど苦手である。
いわゆる常識とか世俗みたいなものと縁遠かった為、常に緊張しがち。
内藤くんはなぜか私に(あるいはみんなに)冷たいので尚更しんどい。
みんなまゆちゃんみたいに優しくフワフワしてればいいのにな、つらいな人間社会。
.
172
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 21:33:35 ID:9P.ObFjI0
( ^ω^)「それと伝言、今日の特訓は無くなったお。
素直クールとの戦闘だけで十分特訓になってる、だとか」
ξ;゚⊿゚)ξ「……あ、昨日のやつ特訓扱いになったんだ。
かなり死闘だったんだけどな……」
昨日の戦闘については既に情報を共有してある。
素直クールと素直四天王、そして彼女らを差し向けてきた依頼人の存在など。
貞子さんの予想では勇者軍とも違う勢力っぽいが、なにぶん情報が無いので実態は不明。
とりあえずハッキリ分かる事といえば、私達が後手に回っているという事実だけ。
あんまり考えないようにしていたが、どう考えても私はピンチなのだった。
ξ゚⊿゚)ξ
ξ;-⊿-)ξ(……いいえ、腑抜けてる場合じゃないのだわ)
アホになりたい気分を抑え、ギリギリ踏み止まって我に帰る。
私は第1話同様に自慢の金髪ドリルを払い上げ、威厳をアピった。
私自身が私を諦め、私の望みを捨てない限り、この戦いに終わりはないのだ。
たとえ心臓をブチ抜かれても、ハラキリでモツが出たとしても。
やるしかないと思う以上、私はもう、前進する事でしか感情を誤魔化せなかった。
ξ゚⊿゚)ξ「それなら今日は遊びに行かない?
ついでに1回くらい情報整理をしたいのだわ」
('A`)「いいよ」
(^ω^)「いいよ!」
ξ゚⊿゚)ξ「よーし!」
快諾!
かくして放課後、私達は最寄りのイオンに向かうのであった。
.
173
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 21:36:18 ID:9P.ObFjI0
≪2≫
〜イオン フードコート〜
ξ゚⊿゚)ξ「久々に遊んでしまったのだわ」モグモグ
40レスくらいかけてイオンで遊び尽くした後、私達はフードコートで軽食にありついていた。
放課後、イオン、フードコート、そしてハンバーガー(モス)と、青春濃度はかなり高めである。
夕飯前の小うるせえ人混みも風情というヤツだ。この愛すべき人間社会がよ……。
ξ゚⊿゚)ξ「ええいボウリングもやりたいのだわ」
もうなんだかテンション上がってきたな。
そろそろやっちまうか青春群像劇を。主題歌やなぎなぎで。
('A`)「馬鹿言うな、ここで駄弁って終わりだよ。時間も時間なんだぞ」
Σξ;゚⊿゚)ξ !?
('A`)「お前の1人遊びに付き合ってる俺達の身にもなってくれ」
ξ;゚⊿゚)ξ「1人遊び!?」
('A`)「そうだよ」
ξ;゚⊿゚)ξ「まさか私の荷物持ちが楽しくなかったとでも……」
('A`)「楽しくはなかった」
ξ゚⊿゚)ξ
そんな断言しなくても。
.
174
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 21:37:25 ID:9P.ObFjI0
(;'A`)「……もういいだろ。情報整理、さっさと済ませようぜ」
('A` )「内藤もそれでいいよな?」チラッ
(^ω^)「えー嫌だおブーンもボウリングしたいお!」
ξ゚⊿゚)ξ !?
('A`)「つっても整理する情報自体が少ねえんだよな。
まぁとりあえず書き出してくか……」
ドクオはそう言いながらノートを広げ、そこに諸般の情報を書き始めた。
ジー
ξ゚⊿゚)ξ ( ^ω^)
その一方、私は内藤くんの顔色をじっと伺っていた。
気のせいならばいいのだが、今なんか言動がバグっていたような……。
ξ゚⊿゚)ξ「……内藤くん、本当にボウリングしたいの?」
( ^ω^)「そんなわけないだろ」
ξ゚⊿゚)ξ
そりゃそうじゃ。
.
175
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 21:42:11 ID:9P.ObFjI0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
('A`)「……今ある問題は、ざっとこんなモンか」
ドクオが手を止め、シャーペンの先でノートを小突く。
さしもの私も気分を切り替え、此度の説明パートに全力で乗っかった。
ξ゚⊿゚)ξ「ふむふむ」
ドクオのノートに書き出されていた項目は以下の3つ。
・特訓と試験
・勇者軍とかからの攻撃
・内通者が居るっぽい
端的かつパーフェクトにまとめられた諸般の問題は、やはり私の手には余るものだった。
特訓&試験についてはギリギリ頑張りますと言えるものの、他2つは如何ともしがたい。
勇者軍や素直四天王との戦闘はもはや必然。
向こうが私を狙う限り、この危険性は絶対に排除しきれない。
このイオンですら安全と言い切れない以上、気をつけますとしか言えないんだなこれが。
――そして3つ目の内通者だが、私は、これを積極的に解決する必要は無いと考えていた。
これまでの手口からして、敵は小規模な戦闘で事を済ませたがっている印象がある。
ここでもし内通者を炙り出せば敵もやり方を変えてきて、多分そっちのが危険が危ない。
打算的にも今は放置! それが正しい答えなのだと、私は自信をもって確信していた。
('A`)「まぁどれも簡単にはいかねぇわな。
今やれる事と言えば、内通者に目星をつける程度か……」
ξ゚⊿゚)ξ(愚かな。そこは放置が正解だというのに……)
しかしドクオと私の考え方は違う。
長い付き合いだからこそ、そういう違いを私は知っているのだ。
とはいえ事なかれ主義VS正論バカは泥沼化が必然なので、私はお口をチャックした。
.
176
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 21:44:51 ID:9P.ObFjI0
('A`)「おい内藤、お前の方でなんか情報無いのかよ」
( ^ω^)「あれば共有している」
('A`)「……そうかよ。聞いて損した」
ξ゚⊿゚)ξ モグモグ
今のやり取り、ドクオなら「お前が内通者なんだろ?」くらい言うかと思ったが、意外に素直だった。
そりゃ腹の底では疑っているだろうけど、ここで口論が起きないのはマジでありがたい。
このイオン回は我々の親睦を兼ねたもの。喧嘩は面倒、なるべく回避したいのである。
( ^ω^)「でも使えそうなものは持ってるお」 ポイッ
つミ□
ξ゚⊿゚)ξ !
直後、テーブルに物投げるマンと化した内藤くんがまたしても物を投げた。なぜ執拗に物を投げるんだ。
今度のは小さなメモ帳。やたらボロく、死ぬほど使い込まれているのが見て取れる。
内藤くんはメモ帳の中ほどを開き、走り書きの小汚い文字を指して言った。
( ^ω^)「ここに書いてあるのは僕やハインを含めた関係者達の情報だお。
ハインから色々聞いてメモしておいた。参考程度に使ってくれ」
ξ゚⊿゚)ξ「つまりキャラ紹介なのだわ」
(^ω^)「そうだお!」
.
177
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 21:46:25 ID:9P.ObFjI0
(;'A`)「……うわぁ、また変に情報が細かいな。
これお前の体重まで書いてあるぞ。62キロって」
ξ゚⊿゚)ξ「は?」
('A`)「いや62キロって。実際そんくらいだろ?」
ξ゚⊿゚)ξ
ξ゚⊿゚)ξ「なるほど一気に信憑性が欠けたようだな」
第1話を読んでいれば分かる事だが私の体重は41キロぴったりである。
それを62キロだなんて適当もいいところ。これだから人間は信用できないのだ。
となれば内通者にも察しがつく。そういえば内通と内藤で字面が似ているな……。
( ^ω^)「いや事実だ。でなきゃ情報としての意味が無い」
ξ゚⊿゚)ξ「でもプライバシーへの配慮も必要だと思うのよ昨今は特にねモラルが」
(;'A`)「いいから早くしようぜ。さっさと帰りてぇんだよ俺は……」
( ^ω^)「正直ここで話す必要も無いがな。情報漏洩の危険は否めない」
ξ゚⊿゚)ξ「無視もよくない」
('A`)「正論だな。ならもうメモの確認だけして帰るか」
( ^ω^)「それでいいお」
ξ゚⊿゚)ξ
.
178
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 21:49:34 ID:9P.ObFjI0
〜みんなでメモ帳を見ようのコーナー〜
('A`)「どれどれ、最初はツンか」
( ^ω^)「最重要ターゲット、もとい僕らの仕事先だお」
≪ ξ゚⊿゚)ξ / 魔王城ツン ≫
【戦闘方法】 身体強化 魔力成形(自動防御マフラー)
【基礎能力】 [パワー:C] [スピード:C] [スタミナ:D] [コントロール:F]
【備考補足】 びっくりするほど弱い 奇行目立つ C〜D級魔物 体重62キロ
A=すごい B=ややすごい C=凡魔物
D=凡人 E=よわい F=論外 S〜SSS=すごすぎ
('A`)「大体合ってる」
( ^ω^)「これが内通者に利用される事はあると思うお。
でも、これ自体が内通者をやれるとは到底思えないお」
ξ゚⊿゚)ξ(この魔王城ツンが“これ”扱いだと……?)
('A`)「ツンが内通者なら全滅でいいよ。次だ次」
( ^ω^)「度し難い忠誠心だお」
.
179
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 21:56:24 ID:9P.ObFjI0
≪ ミセ*゚ー゚)リ / 餓狼峰ミセリ ≫
【戦闘方法】 魔獣化(恐らく狼)
【基礎能力】 [パワー:A] [スピード:B] [スタミナ:B] [コントロール:A]
【備考補足】 強い A〜B級魔物 魔王城ツンの世話係&特訓相手 物理◯
≪ 川д川 / 貞子 ≫
【戦闘方法】 魔術全般
【基礎能力】 [パワー:-] [スピード:-] [スタミナ:S] [コントロール:SS]
【備考補足】 強い S級魔物 魔術◎
('A`)「この2人もありえねぇ。というか2人が内通してたら終わりだよ」
( ^ω^)「呑気なものだな。この件に限って絶対は無いんだぞ。
前提として、全員に可能性があることは忘れるなお」
('A`)「そりゃ分かってるけど、怪しい情報収集やってる誰かさんに言われてもな」
( ^ω^)「……そっち側の情報はミセリからハインに伝わったものだお。
不審がるのは勝手だけど、根拠に乏しい言いがかりは反応に困る」
(;'A`)「……はいはい。悪かったよ」
.
180
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 21:58:02 ID:9P.ObFjI0
≪ 从 ゚∀从 / ハインリッヒ高岡 ≫
【戦闘方法】 激化薬(自動防御)
【基礎能力】 [パワー:D] [スピード:D] [スタミナ:C] [コントロール:B]
【備考補足】 元勇者軍 祖父 不透明な人脈あり 還暦過ぎ
≪ ( ^ω^) / 内藤ホライゾン ≫
【戦闘方法】 激化薬(復元)
【基礎能力】 [パワー:D] [スピード:D] [スタミナ:C] [コントロール:C]
【備考補足】
('A`)「……ここは情報が少ないな」
( ^ω^)
('A`)「まぁ言う事ねえわ。お前も答えないだろ」
( ^ω^)「ハインの人脈は僕でも把握しきれてないお。
僕の情報についても書くのを省いただけで、聞かれれば答えるお」
(;'A`)「いや、だからって取っ掛かりも無いんだよ。
こないだ降って湧いてきたような相手に何を聞けってんだ……」
( ^ω^)「お前が内通者だろ、など」
('A`)「それで済むなら聞いて回ってるよ……」
ξ゚⊿゚)ξ(意外と会話が弾んでいる……私を捨て置いて……)
.
181
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 22:00:26 ID:9P.ObFjI0
≪ ('A`) / 魔物部ドクオ ≫
【戦闘方法】 魔獣化(詳細不明)
【基礎能力】 [パワー:-] [スピード:-] [スタミナ:-] [コントロール:-]
【備考補足】 ほぼ不明 能力を隠している 言動がネチネチしている
( ^ω^)「だが情報の少なさで言えばお前も同じだ。
信用している上司とやらも、お前については詳しく話さなかったらしいが」
('A`)「そりゃ隠してるからな。俺のは目立つんだよ」
_,
( ^ω^)「目立つ……?」
ξ゚⊿゚)ξ「……えっ、内藤くんってドクオのアレ見てないの?
2回も共闘してるんだし、てっきり知ってるもんだと……」
( ^ω^)「共闘した覚えはない」
('A`)「ないな」
ξ;゚⊿゚)ξ「いやあるでしょ。勇者軍の時と、ハインさんの時とで2回……」
そうである、全カットされているが2人の戦闘シーンは既に存在しているのだ。
聞く機会もなかったので完全スルーしていたが、気になると言えば気になるところ。
そろそろ話に加わる為にも、私は改めて質問を投げてみた。
ξ゚⊿゚)ξ「そういえば最初、2人はどんな奴と戦ってたの?
あらすじ見たけど足止めされてたんでしょ?」
('A`)「あらすじ?」
ξ゚⊿゚)ξ「これの5よ」
〜ツンちゃん襲撃のあらすじ(再掲)〜
1 ミセリ、ツンに連休を言い渡す
2 ミセリ、その間に魔界へ出張。魔王に直談判
3 ツン、勝手に1人で行動。ハインの屋敷へ
4 ミセリ、なんとか話をまとめて地上に戻る
5 ハインとドクオ&ブーン、敵の襲撃を受ける ←ココ
6 ツン、敵の襲撃を受ける
7 ミセリ、デミタス貞子と共に地上へ。辛うじて危機に間に合う
.
182
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 22:06:34 ID:9P.ObFjI0
( ^ω^)「あの時に戦ったのは」
('A`)「――いや、べつに大した戦闘じゃなかった。
10人くらいで足止めされたけど、それだけだ」
( ^ω^)
ξ゚⊿゚)ξ「……そうなの?」
('A`)「ああ、ハインに比べれば楽なもんだったよ。
あっちは敵の主力が相手だったらしいし、俺達は運がよかったな」
ξ;゚⊿゚)ξ「ハインさんの相手、王座の九人だっけ? なんか強いらしいけど……」
('A`)「ま、お前にはまだ早すぎる相手だよ。
こっちを変に心配するより、今は自分の事に集中しとけって」
('A`)「回り回って、結局それが俺達の助けになるんだから」
ξ゚ー゚)ξ「……それもそうね。やる事は変わらないのだわ」
('∀`)「そうそう。でなきゃ確実に試験ダメだしな」
ξ゚⊿゚)ξ「事実はやめなさい」
――と、話にオチがついた途端。
( ^ω^)「あの時に戦ったのは、たった10人の子供だったお」
内藤くんが語気を強めて話を戻し、ドクオに邪魔された言葉を改めて言い切った。
彼は呆れたように姿勢を崩すと、視線をテーブルに落とし、露骨に嘆息してみせる。
( ^ω^)「あれは勇者軍の最下層構成員。
要するに使い捨てで、見るに堪えない消耗品だお」
('A`)「……おい」
( ^ω^)「聞かれれば答えると言った。
お前の言い回しを悪だとは思わないが、こっちの主義は違う」
ドクオと内藤くんが互いを睨んで押し黙る。
そこに、私が割り込める余裕はなかった。
.
183
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 22:10:34 ID:9P.ObFjI0
( ^ω^)「もっとも、あれを『大した戦闘』ではなかったと言えるのはそいつだけだ。
あの時まともに戦ってたのは僕だけで、そいつは何もしなかったからな」
( ^ω^)「あれはそれなりに激しい戦闘だった。
殺さなければ殺される。あれは、そういう殺し合いだったお」
ξ;゚⊿゚)ξ …
( ^ω^)「10人中9人を僕が殺して、残る1人はそいつの前で無駄死にしたお。
詳しく知りたいなら、覚えている限りを話すが」
ξ;゚⊿゚)ξ「……殺した、っていうのは」
( ^ω^)「言葉の通りだ。嘘だと思うならハインに聞け。
死体の確認くらい、まだ出来るだろう」
ξ;゚⊿゚)ξ
ξ;-⊿-)ξ「……そう。分かった」
私はドクオの顔を見直し、少し間を置いてから息を吐いた。
――これは十分にありえた事態。
敵味方、誰も死なずに済むなんて展開をマジで信じていた訳じゃない。
私は人間を殺したくないと思っているが、これは私の個人的な話であり、他のみんなは違うのだから。
ξ゚⊿゚)ξ「……お疲れさま。
でも、このくらい隠さなくていいのよ」
('A`)「……言う必要が無かっただけだ」
ドクオやミセリさんはあくまでも私の従者。
彼らからすれば主人の身を守るのは当然の業務であり、私はその恩恵ありきで命を繋いできた。
この関係はずっと同じ、魔界に居た頃からなにも変わらない。
私の代わりに誰かが手を汚して、それで「お疲れさま」だなんて本当は言いたくない。
しかし私には力が無い。彼らの仕事を余計なお世話だと断じる説得力も無い。
だから私は――本当なら、もっと急いで強くなるべきだったのだ。
でも、分かっているのにいつも間に合わない。
気がつけばいつもみんなが先回りしていて、着いた頃にはもうやる事がない。
それが本当に不甲斐なくて最悪で、自分自身がどうしようもなくて、最悪だった。
.
184
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 22:13:57 ID:9P.ObFjI0
……だとしても、私と彼らの関係は変わらない。
主人である私には、彼らの仕事に関わる義務があるのだ。
正直ここでドクオを咎めるのは簡単だし、それはそれで主人の威厳も保てるだろう。
後出しの正論で管を巻いて、感情的に立ち振る舞って、さもお嬢様という感じでキャラを立てる。
それはそれで間違っていないし、それはそれで分相応と言えなくもない。
……言えなくもないが、私がそれを望まないのだ。
だから私は義務を優先し、不甲斐ないまま「お疲れさま」を口にする。
私が望む魔王城ツンを、これ以上私から遠ざけないためにも。
ξ゚⊿゚)ξ「……内藤くん。今の話、もう少しだけ聞きたいのだわ」
( ^ω^)「分かった」
私の要求に短く答えると、内藤くんは実に呆気なく顛末を暴露してくれた。
――死んだ10人の身体的特徴。激化薬が彼らにもたらした能力。
殺害に用いた武器。最期の様子。死体を漁っても情報は得られなかったこと。
敵とこういう会話をした。この2人は連携が取れていた。この4人は感情的で隙だらけだった。
かくして内藤くんは淡々と言葉を並べ、結果、5分足らずで話を終わらせてしまった。
ξ゚⊿゚)ξ
顔も知らない誰かが死んだ、というだけの他人事があっさりと幕を下ろす。
これは義務。感情的な深入りはしないし、過分な語彙も使わない。
私の名前は魔王城ツン。一時の同情に駆られ、味方を間違えるような愚行はありえなかった。
( ^ω^)「で、最後の1人だが」
残った1人はドクオの前で無駄死にしたというその人だけ。
内藤くんは続けて話そうとしたが、途端、小さな挙手が彼を遮った。
('A`)ノ「すまん、ちょっといいか」
(^ω^)「いいよ!」
ξ゚⊿゚)ξ !?
その手はドクオが挙げたもの。
私達はすぐ彼の方を向いた。
.
185
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 22:15:24 ID:9P.ObFjI0
ξ゚⊿゚)ξ「ドクオ、急にどうしたの?」
('A`)「いや、今の話とはまったく関係ないんだが……」
ドクオは手を下げ、努めて静かに口火を切った。
('A`)「……魔力だ。微弱なのがある。そう遠くない」
そう言いながら何かを探り始めるドクオ。
私には魔力なんて感じられないが、ドクオの方が感知も上手いので恐らく事実だ。
ξ;゚⊿゚)ξ「え、誰の魔力? 知らないやつ? 貞子さんから連絡は?」
('A`)「知らないやつだし連絡も入ってない。
この魔力、そもそも探知結界に引っ掛かってないんだろうな」
( 'A`)「かなり希薄で断続的な魔力だ。
集中してなきゃすぐに見失うぞ……」
ξ;゚⊿゚)ξ「……なら私から貞子さんに連絡するのだわ。
ドクオはそのまま集中してて」
スマホを取り出し、急いで自宅に電話をかける。
呼出音が鳴ること数度、間もなく向こうから声が返ってきた。
.
186
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 22:16:27 ID:9P.ObFjI0
『――はい、もしもし』
ξ゚⊿゚)ξ「もしもし、ツンちゃんです」
『なるほど分かりました』
ξ゚⊿゚)ξ
ξ゚⊿゚)ξ「えっ? 早くない?」
『今からイオン周辺を隔離しますので3人で迎撃に向かって下さい』
『ではまた』
ξ゚⊿゚)ξ
ξ゚⊿゚)ξ ?
一方的に通話を切られてしまった。
よく分からないけどまた戦闘になりそうだった。ちくしょう帰って寝たい。
.
187
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 22:18:30 ID:9P.ObFjI0
( ^ω^)「……何がどうなった」
ξ゚⊿゚)ξ「彼女、迎撃してって言ったのだわ」
( ^ω^)「……は? 迎撃?」
(; ^ω^)「今の一瞬でそれを決めたのか? とんでもない即決だな……」
ξ゚⊿゚)ξ「そうだなぁ」
そうだなぁと思った。
ので、言われた通りに迎撃に行こうと思った。
(;'A`) (^ω^ ;)
しかしドクオと内藤くんはそうでもなかったらしく、
彼らは一度顔を見合わせてから、慎重に口を開いた。
(; ^ω^)「この状況で、どうして迎撃なんて話になるんだお?」
(;'A`)「……普通は撤退だろ。今の、本当に貞子さんだったのか?」
ξ゚⊿゚)ξ
えっ
.
188
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 22:19:04 ID:9P.ObFjI0
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
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189
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 22:21:26 ID:9P.ObFjI0
≪2≫
〜イオン フードコート〜
ξ゚⊿゚)ξ「久々に遊んでしまったのだわ」モグモグ
50レスくらいかけてイオンで遊び尽くした後、私達はフードコートで軽食にありついていた。
放課後、イオン、フードコート、そしてハンバーガー(バーキン)と、青春濃度はかなり高めの様相である。
夕飯前の小うるせえ雑踏も風情というヤツものだ。消費社会LOVE……。
ξ゚⊿゚)ξ「ええいボウリングよ、ボウリングもやりたいのだわ」
もうなんだかテンション上がってきちゃったな。
行くかカラオケ、それも悪くない。
(;'A`)「それはまた今度だよ。今日はもう遅いんだ、素直に帰っとこうぜ」
( ^ω^)「同意見だ。情報整理も済んだ事だしな」
ξ゚⊿゚)ξ「ええい現代シニシズムの体現者どもめ」
しかして時刻は午後7時。
帰ったあとの云々も考えると、そろそろ帰った方がよいのも事実だった。
今日の話し合いも内藤くんのおかげで捗ったし、これ以上遊ぶにはもう駄々をこねるしかなかった。
そして私が駄々をこねると副産物としてウサちゃんが爆誕してしまう。魔力とはそういうものだった。
(´・_ゝ・`)「……でもまぁいいんじゃないか、カラオケくらい」
ξ゚⊿゚)ξ !
と、思わぬ所から援護射撃が飛んでくる。
彼の名前は盛岡デミタス。今日はたまたま近くに居たらしく、気がつけば当然のように話に加わっていた。
それで別段なにか有益な情報を持ってきた訳でもないのだが、諸般の飲み食いを奢ってくれたので諸般ヨシである。
.
190
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 22:24:28 ID:9P.ObFjI0
(´・_ゝ・`)「ガキなんだから遊びも大切にしときな。思い出ボムの火力も上がるし」
ξ゚⊿゚)ξ「そうなのだわそうなのだわ」
前回同様そうなのだわロボと化した私。
楽して勝つならこの手に限る。いいぞ盛岡もっと言うのだ。
(´・_ゝ・`)「俺はもう帰るし、保護者への言い訳も俺がしといてやるよ」
(;'A`)「おい盛岡、あんまりツンを甘やかすなって……」
(´・_ゝ・`)「かっ勘違いしないでよねっ。みんなには結構酷いことしてるんだからっ」
外堀を埋めながらスーツの懐に手を突っ込み、自前の長財布を取り出す盛岡。
彼は中から数枚の紙幣を抜き取ると、それだけをポケットに戻し、財布の方をテーブルに置いた。
(´・_ゝ・`)「あとこれ全部やる。好きに使えよ、すぐに要るし」
ξ゚⊿゚)ξ !?
(;'A`)「いやだから煽るなって盛岡! こいつバカなんだぞ!」
(´・_ゝ・`)「それカードの番号とかも全部メモ入ってるから」
(´・_ゝ・`)「平気で使えるぞ、1000万円」
ξ゚⊿゚)ξ
('A`)(あっこれダメだ)
私は盛岡の財布を手に取り、その中身を神妙に検めた。
ξ゚⊿゚)ξ
――これからは盛岡“さん”と表現していく。
私は固く誓った。
.
191
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 22:25:52 ID:9P.ObFjI0
('A`)「……よし分かった、これから今すぐカラオケとボーリングに行こう」
('A`)「ただしそれ以外は全部ダメだ。何一つとして許さん」
ξ゚⊿゚)ξ
. ゲーム
ξ ⊿゚)ξ「今夜、こいつの中身を何倍にもできる《遊戯》があるとしたら――」
('A`)「ダメです」
ξ;゚⊿゚)ξ「ええ〜!! 4倍までにするから!!」
('A`)「お願いだから落ち着いてほしい」
ξ;゚⊿゚)ξ「私こっちのが才覚あるんだけど!!」
('A`)「絶対にダメ」
ξ;´⊿`)ξ「どうせ泡銭なのに!?」
('A`)「そういう発想を止めてんだよ。あと1000万円は泡銭じゃねえ」
⊂( ^ω^)「よーし! それじゃあみんなでカラオケ行くお!」
( と)
/ >
ξ゚⊿゚)ξ !?
私達はカラオケに行くことになった。
とにかく金がいっぱいある。私は無敵だった。
.
192
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 22:29:30 ID:9P.ObFjI0
≪3≫
ξ゚⊿゚)ξ「それじゃあ盛岡さん、私達はこっち行くから」
(´・_ゝ・`)「ああ」
イオンを出た一行は近場の繁華街に向かい、そこで別々のルートを選択した。
カラオケに行く若人達とそれを見送る盛岡デミタス。
彼との別れを簡単に済ませた魔王城ツンは、早速スマホを取り出して声高に通話を始めた。
ξ゚⊿゚)ξ「――あ、もしもし!? まゆちゃん!? お金あるんだけど来ない!?」
('A`)「呼び出し方が最悪すぎる」
(^ω^)「そういう日もある」
(´・_ゝ・`)「気をつけてなー」
ξ゚⊿゚)ξ「はい盛岡さん! 行ってきます!」
.
193
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 22:39:41 ID:9P.ObFjI0
(´・_ゝ・`)
(´・_ゝ・`)「……やっと行ったか、っと」
歩道の端に寄り、往来を避けてツンを見送る。
彼女達の姿は十秒ちょっとで見えなくなったが、それでも盛岡はしばらくの間、彼女達の行き先を見つめ続けていた。
「すみません、お時間よろしいですか?」
――不意に、隣から声を掛けられる。
一旦無視を決め込むも、当てつけのように殺気立つ人影が視界の端に首を突っ込んでくる。
無視するなという圧力に負けた盛岡はやむをえず隣を見遣り、ちょっとだけ視線を下げた。
(´・_ゝ・`)「……こんばんは」
「はい。こんばんは」
彼の隣に現れたのは制服姿の女学生。
茶髪のサイドテールを指に巻きながら、どこか不機嫌そうに盛岡を見上げている。
(´・_ゝ・`)「出てきていいのかよ。盤外に徹するんじゃなかったのか」
「そのつもりでしたよ。あなたが想定通りであれば」
(´・_ゝ・`)
盛岡は応えなかった。死ぬほどノーリアクションだった。
制服の少女はしばし黙ってから、彼の変わりようの無さに頭を振る。
「とにかく来て下さい。ちょっと事情聴取をさせてもらいます」
(´・_ゝ・`)「へいへい……」
.
194
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 22:49:15 ID:9P.ObFjI0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
話の続きをするにあたって、盛岡が連れて来られたのは小さなスタンドバーだった。
演出の為に作られた暗がりと、それを都合よく照らす間接照明の列。
天井に埋め込まれたスピーカーからぼそぼそと流れる洋楽は、『これ以上の声量で喋るな』という店側の牽制でもあった。
(´・_ゝ・`)「悪いな、視点を持ち込んで」
|(●), 、(●)、|「構わない。よくある店だ」
断りを入れてテーブルについた盛岡を、バーテンダーの男はくぐもった声で歓迎した。
その寛容への礼として、彼はサービスのテキーラを一気に飲み干して見せた。
「悪酔いしても知りませんよ」
(´・_ゝ・`)「モヒートくれ。ミント別皿で」
テーブルに諭吉が置かれ、バーテンダーがそれを回収する。
釣り銭のやり取りは無く、両者は暗黙のままに事を済ませる。
(´・_ゝ・`)「お前も好きなの飲めよ。奢るぞ」
「……ではオリジナルを」
程なく、盛岡のモヒートと一緒に店のオリジナルカクテルがテーブルに並んだ。
2人はすぐにそれを取り、情緒もクソもなくグビグビと飲み進めた。
おっさん&女学生が立ち並んで酒を飲む姿はかなり犯罪的だったが、それを咎める概念はこの店には立ち入れなかった。
.
195
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 22:51:33 ID:Qa5M7iYc0
ツンちゃん頑張って
196
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 22:52:34 ID:9P.ObFjI0
「……魔王城ツンの育成、魔王軍の軍備拡張、最序盤へのリソース集中」
グラスの中身を空にして、彼女は静かに話し始めた。
「これらを主軸とした『整合世界計画』については、既に合意を得たものと思っていましたが」
(´・_ゝ・`)
「文句があるなら言って下さい。あなたは、すでに何度も我々の計画に背いている」
元より烏合の衆。自分勝手は構いませんが、邪魔をするなら話は別です」
(´・_ゝ・`) …
盛岡は無言だった。モヒート別皿のミントをモサモサと食べている。
徹底して返答を拒否する構え――彼女は目を細め、真正面から食って掛かった。
「であれば先程のロールバックに話題を絞りましょう。
勝手に話を巻き戻して、一体どういうおつもりですか?」
(´・_ゝ・`)「いや、あれはお前のやり方が杜撰だったからフォローしたんだよ。
電話で誘導するなら口調寄せろよ。完全にバレるとこだったろ」
「……それは失礼。まぁ、その意味では助かったと言えるんですけど」
彼女は言葉を止め、盛岡の目を見てゆっくりと言った。
「こちらの『特権』による介入が、関係者以外にバレる筈がないんですよ」
(´・_ゝ・`)
「気付くような誰かが居たんですか? あの中に」
(´・_ゝ・`)
しばし目を見合う両者。
やがて根負けしたのは盛岡の方。彼はテーブルに腕を置き、言葉を選ぶ。
.
197
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 22:56:47 ID:9P.ObFjI0
(´・_ゝ・`)「俺は切り札を持ってる。その為に、少しだけ無理をした」
「……でしょうね」
彼女は極めて多くの含みをもって呟き、神の視点を一瞥した。
(´・_ゝ・`)「別に全部言ってもいいんだが、今じゃ意味が無い。
せっかくの切り札だし、役無しにはしたくないんだ」
「……少し考えます。一人称で」
バーテンダーに2杯目を注文し、それを飲みながら逡巡を始める彼女。
そこには一切の言葉がなく、特筆すべき情景も展開しなかった。
バックボーン
「……《個人世界》の容量限界、そっちは大丈夫なんですか?」
(´・_ゝ・`)「いやだから無理をしたんだってば」
「あぁ、そりゃそうですよね。そうか……」
断片的に、仲間内にしか伝わらないような言葉で会話する2人。
ここには顔見知りしか居ない筈だが、どうやら彼らは見えない何かに警戒しているようだった。
そして、彼らはその何かを意図して遠ざけようとしている。
彼らの言葉選びにはそういう作為が感じられた。
私がそう感じた。
「一応聞きますけど、ここは4周目ですね?」
(´・_ゝ・`)「それは、はい」
「助けは必要ですか?」
(´・_ゝ・`)「いらない」
「……整合世界は失敗する」
(´・_ゝ・`)「いいえ」
「……その上で計画を放棄し、独断に出たと」
彼女は長く息を吐き、アキネイターめいた問答をすっぱりと終わらせた。
盛岡の言動は少しも要領を得なかったが、残念ながら、彼女はここを引き際として溜飲を下げてしまった。
.
198
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 22:59:20 ID:9P.ObFjI0
「しかし参りましたね。この感じでは、裏切り者として始末するしかありません」
困った風に言いながら、彼女の指先がテーブルをなぞり上げる。
それと同時にピコンという起動音が鳴り、彼女の目先に3匹のクマのキャラクターが浮かび上がった。
しかし、彼女が呼び出したクマの立体映像は誰の目にも映っていない。
これは彼女の個人的な世界観に基づいた能力。
異なる世界観を生きる者達では、そもそも彼女の能力を認知する事ができなかった。
「すみません。分け与えた特権はすべて没収します。
現状、仲間を信頼してる余裕もないのでご容赦を」
(´・_ゝ・`)「全部は取るなよ。何も残らないんだから」
「全部取れれば苦労しないですよ。……始めます」
大中小のクマが順に転がるアニメーションが終わり、次に現れたのは無数のフォルダアイコン。
彼女はその中から『あ』と名付けられたフォルダを開き、迷わず『demitasse.exe』を実行した。
――彼女の視界にキャラクタークリエイトっぽい画面が広がり、盛岡デミタスに関する全てが表示される。
出生、来歴、人間関係、各種スキル、ステータス等々。
一個人をゲームキャラにデフォルメしたような情報の数々は、人為的情報収集の規模を明らかに逸脱していた。
(´・_ゝ・`)「急げ急げ」
「ミスるので黙って」
彼女は真っ先にスキル欄を開いて『特権』の記述を一掃、すぐにアプリケーションを終了した。
全行程は僅かに3秒。画面の文字列は一瞬で消え去り、その核心を読み取る事は出来なかった。
惜しい。
.
199
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 23:00:41 ID:9P.ObFjI0
「間に合いましたかね。とりあえず、これで容量節約です」
一息つき、彼女はわざとらしく額を拭った。
(´・_ゝ・`)「……そういう意味でやったのか? 案外優しいのね」
「妥当なリスクヘッジです。勘違いしないように」
彼女は軽薄に笑い、2杯目のカクテルをあっさりと飲みきった。
盛岡デミタスという一個人が抱える秘密――その全てを放置して自己完結する醜態。
『説明の義務は無い』とでも言わんばかりだ。彼女達の言動は、極めて自閉的だった。
「それじゃあ帰ります。これ以上は会話が有意義になりそうですし」
(´・_ゝ・`)「なんだよ話し足りないぞ。もっと飲んでけって」
ふと、盛岡がグラスを持って乾杯を誘う。
彼女は仕方無げに頬を緩めたが、盛岡の誘いには乗らず、そのまま店を出ていった。
|(●), 、(●)、|「……フラれたな」
(´・_ゝ・`)「バカ言うな、本命じゃねえよ」
残されたのはおっさん2人。
特に意味のない沈黙が流れ、店内BGMが一層際立つ。
|(●), 、(●)、|「なにか話すか?」
(´・_ゝ・`)「……いや、このままやり過ごす」
以降、30時間ほど沈黙が流れまくった。
マジで意味がなかった。
.
200
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 23:01:04 ID:9P.ObFjI0
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
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.
201
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 23:03:30 ID:9P.ObFjI0
≪4≫
川 ゚ -゚)「……ああそうだ、今の依頼料では帳尻が合わないんだ」
喧騒に包囲された暗闇(カラオケ)で、素直クールは今回の依頼主に連絡を取っていた。
その内容は至極単純、依頼料の値上げである。
必要な口実も十分に揃っていたため、話し合いは終始素直クールの優勢だった。
川 ゚ -゚)「…………」
川 ゚ -゚)「……分かった。一旦それで手を打とう」
話し合いの決着は数十分後。
ひとまずの結論をもって通話を終えた素直クールは、煮え切らない感情を溜息に乗せて吐き出した。
川 ゚ -゚)「……ぬぅ」
ノパ⊿゚)「ねーちゃん、やっぱダメだった?」
彼女を気にかけて声をかけたのは素直ヒート。
傭兵チーム『素直四天王』の3番手、パワー担当。ほかに個性はない。
川 ゚ -゚)「いや、3倍までは確約させたよ。向こうはかなり渋ってたがな」
ノハ*゚⊿゚)「おお! なら十分じゃん!」
川 ゚ -゚)「……そうでもない。想定より敵が強い分、仕立てと掃除の取り分も増える」
川 ゚ -゚)「その辺りは節約前提でやってもいいんだが、まぁ、満足には程遠いかな……」
ノパ⊿゚)「ああ、中間搾取……」
――昨今、世界各地で起こる超常事例は確実にその数を減らしている。
魔王勇者とは無縁の世界観に属している彼女らにとって、それはかなりの大問題だった。
活躍の場は減り、残った仕事も同業者で奪い合い、斡旋業者からも凄まじい搾取を受ける。
特筆すべき能力があればまだマシだったが、その点で言っても彼女達はギリギリだった。
そんな窮地に舞い込んできた仕事こそ今回の案件、魔王城ツンの討伐。
現在もっともデカい市場規模を有しながら、しかし滅多に出回らない異世界絡みのそれ。
普段の数十倍の報酬を期待できるこの仕事に、素直クール達は特大の期待を寄せていたのだ。
.
202
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 23:04:48 ID:9P.ObFjI0
ノパ⊿゚)「ほーんと仕事減ってくよな。どこも平和でさぁ」
曖昧な不満をこぼしつつ、ソファにあぐらをかいて揺れる素直ヒート。
かわいい。
川 ゚ -゚)「そう言うな。悪いことじゃないんだ」
ノハ;゚⊿゚)「……そりゃ分かってるけど、食いっぱぐれた同業だって酷いもんじゃん。
その始末だって仕事と金にされて、同類で共食いしてさ……」
川 ゚ -゚)「それでも最後の1人になるまで続ける訳じゃない。
目標だって決めただろう? 今更気にかけるな」
ノハ;゚⊿゚)
ノハ;-⊿-)「……うーん……」
それでもヒートは腕を組んで瞑目し、頭の中で自問自答を繰り広げた。
――魔王勇者の世界はさておき、彼女達の世界はとっくに干上がっている。
前述した問題はもちろんのこと、もはや『何も起こらない』が珍しくないのだ。
それこそ異なる世界観に首を突っ込まなければ話にならないほど、彼女達の生活は『平和』に食い殺されている。
平和によって肯定されるもの、されないもの。
素直四天王という存在は、少なくとも後者に類するものだった。
o川*゚-゚)o「……引退して普通に暮らすんでしょ、目標」
やがてヒートを諌めたのは素直四天王の4番手。
彼女の名前は素直キュート。思春期なのでそっとしてほしい。
o川*゚-゚)o「給料増えたんならもういいじゃん。揉めるのが一番ダルいし」
ノハ;゚⊿゚)「……いやでも、それで廃業してちゃ元も子もねぇだろ」
o川*゚-゚)o「だから引退なんだって。少しは割り切りなさいよ」
キュートは項垂れてスマホに目を落とし、口を噤んだ。
仕事を斡旋されている立場上、関係者との不和は死活問題に直結する。
各位思うところはあっても、キュートの発言に異を唱える者は居なかった。
.
203
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 23:05:45 ID:9P.ObFjI0
川 ゚ -゚)「……にしても、シュールが遅いな」チラッ
湿気った話題はさておいて、素直クールが振り向いてドアを見る。
そういえばここはカラオケ。
細かい話も済んだことだし、あとはフリータイム限界まで騒ぐだけなのだ。
ところが、ドリンクバーに送り込んだ素直シュール(素直四天王の2番手)が中々戻ってこない。
通話中から数えても10分以上は離席しているし、嫌な予感がしなくもなかった。
川 ゚ -゚)
恐らく、というかほぼ確実にドリンクバーで遊んでいる。
誰かが止める必要があった。
川;゚ -゚)「……すまん、ちょっと見てくる。先に始めててくれ」
ノパ⊿゚)「オッケー」
|┃三 _______
|┃ / ヽ
|┃ ≡ |〒ソwvw″
____.|ミ\___lw´‐ _‐ノv <ただいま
|┃=___ \
|┃ ≡ | 人 \ ガチャッ
即帰ってきた。
.
204
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 23:07:27 ID:9P.ObFjI0
川;゚ -゚)「おおう、おかえり。遅かったな」
lw´‐ _‐ノv「うん」
川;゚ -゚)「飲み物は持ってこなかったのか?」
lw´‐ _‐ノv「やむをえず」
手ぶらで帰ってきたシュールはそのままシュルッと着席し、カラオケの端末を触り始めた。
川;゚ -゚)「……なあシュール、店の迷惑になる事してないよな?」
lw´‐ _‐ノv「してないよ。むしろ徳を積んだというか」 ピコピコ
端末を操作しつつ、シュールは後ろ手に持っていたものをテーブルに置いて見せた。
それは男物の長財布であり、もちろんシュールの私物ではなかった。
川 ゚ -゚)「なんだ、落とし物か? やたら膨らんで見えるが……」
o川*゚-゚)o チラッ
lw´‐ _‐ノv「まぁちょっと中身見てみてよ。それ凄いから」
川 ゚ -゚)
lw´‐ _‐ノv
川;゚ -゚)「いやダメだろ道徳的に。普通に店に渡してくるよ」スッ
lw´‐ _‐ノv「ちょっと迷うあたりが好きだよ」
.
205
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 23:09:40 ID:9P.ObFjI0
o川;*゚ー゚)o「――いやちょっと待った!!」シュバッ!!
素直クールが財布を取ろうとした瞬間、キュートが凄まじい速さで財布を取り上げた。
その挙動に驚愕半ばドン引きする素直クール。なんだこいつ。
彼女は眉間にしわを作り、キュートを強く訝しんだ。
lw´‐ _‐ノv「やっぱり分かっちゃうか、価値が」
o川;*゚ー゚)o「い、一応チェックをば……」
川 ゚ -゚)「……その財布、そんなに凄いのか?」
o川;*゚ー゚)o「本物ならね。まぁ中身のがヤバそうだけど……」
四方八方から財布を観察し、その内外を神妙に検めるキュート。
いまいち話が分からない素直クールは、この世に存在するエルメスというブランドを知らなかった。
lw´‐ _‐ノv「姉さん、あとでビックリすると思うよ」
川 ゚ -゚)「ううむ、一体どういう事なんだ……」
o川;*゚ー゚)o …!
資産価値およそ1000万円の長財布。
これがもたらす大きな意味を、彼女達はまだ何も分かっていなかった。
ノハ-⊿-) スピー
ちなみに素直ヒートは寝落ちしていた(頭を使いすぎた)。
.
206
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 23:12:18 ID:9P.ObFjI0
≪5≫
*
~
ξ*゚⊿゚)ξ「ガハハ! 飲め食え騒げ! 踊れ〜!」
一方その頃、大金を手にした魔王城ツンは淑女にあるまじき態度でカラオケを楽しんでいた。
ぶっちゃけ既に無一文なのだが、本人がまだ気付いていないので問題は無かった。
,, _ シャララララ
(::鬥::),,
('A`)ノ
(^ω^)「ツンちゃん歌うまいNE!」
ξ*゚⊿゚)ξ「ドクオいつまでタンバリンやってるのよ! おらっ歌え鬼滅とか」
('A`)「はい」
カラオケ開始から数時間が経過、いよいよ最悪になってきた魔王城ツン。
気が狂ったブーン、もうどうにでもなれ状態のドクオ、そしてまゆちゃん(モブ)。
なまじ気心知れた面々であっても、調子に乗った魔王城ツンを止めるのは不可能だった。
.
207
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 23:13:35 ID:9P.ObFjI0
ξ*-⊿-)ξ「あーよっこらせックス!!」ドスン
「お疲れさま! 沢山歌えてすごいね!」
ツンは最悪の台詞を吐きながらソファに座った。
さっきドリンクバーで調合してきたスペシャルドリンクを飲みつつ、ドクオの歌唱に耳を傾ける。
('A`)「強くなれる理由を知った」
ξ゚⊿゚)ξ(まぁ聞かなくていいか……)
ドクオは一瞬で見限られた。
ξ;゚⊿゚)ξ「……そういえばまゆちゃん、今日はいきなり呼び出しちゃってごめんね。
死ぬほど迷惑だと気付いた時にはもう手遅れで……」
「ううん、別に用事も無かったから! 親も許してくれたし!」
ξ*゚⊿゚)ξ「ほんと? じゃあ今日はいっぱい遊べるのだわ!」
「1回くらいしてみたかったんだよね、夜遊び!」
そう言ってイタズラに笑い、まゆちゃんはグラスを持ってツンに差し出した。
ウェーイ乾杯! 2人はガハハした。
.
208
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 23:16:49 ID:9P.ObFjI0
ξ*゚⊿゚)ξ「ああもう、まゆちゃんは私の日常そのものなのだわ!」ガバッ
ツンは勢いに任せてまゆちゃんに抱きついた。
勇者軍とかなんか色々、思い詰めていたものが少しだけ軽くなる。
じわりと広がる居心地のいい温もりに、ツンは心からの安心を覚えていた。
他に言い換えられる言葉など、何もなかった。
ξ*´⊿`)ξ「ああ、今がずっと続けばいいのに……」
「……ずっと?」
ξ*゚⊿゚)ξ「そうなのだわ! やっぱり普通が一番なのよ!」
「……そっか。そうだね、私もそう思う!」
まゆちゃんは笑顔で応え、もう一度ツンと乾杯してガハハした。
(^ω^)「たのしいNE!」
ξ*゚⊿゚)ξ「NE!」
('A`)「どうしたって消せない夢も」
〜おわり〜
.
209
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 23:17:24 ID:9P.ObFjI0
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
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.
210
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 23:18:13 ID:9P.ObFjI0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
爪'ー`)「今回の戦闘、成果はまずまずといった感じかな」
爪'ー`)「10人ちょっとの動員で事実確認が出来たんだ。そう悪い出費じゃない」
爪'ー`)「……彼らの死体? さあ、向こうが始末したんじゃないかな」
爪'ー`)「戦闘時の映像ならアサピーの管轄だ。見たければ声を掛けるといい」
爪'ー`)「しかし、わざわざ仲間の死に際を見たがるとは殊勝だね」
爪'ー`)「今はとにかく人手不足だ。勤勉なのは実に好ましい」
爪'ー`)「仲間の死さえも糧にするその姿勢、私は大いに評価するよ」
.
211
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 23:22:52 ID:9P.ObFjI0
――境遇に不満があった訳ではない。
凡俗の列を飛び出して、そこで何かをしたかった訳でもない。
夢や希望も特にはない。つまらない人間と言われれば、きっと私はその通りなのだろう。
ただひとつ、それでも思惑があったとすれば。
私は、私の理想に少しでも近付きたかったのだ。
実体のない作為に漫然と支配されている感覚。
鬱積を編み込んだ繭はひどく居心地がよく、蚕のような一生も悪くないと安心を覚える。
けれど、私はその安心を苦痛と言い換えた。
そうする事で繭に火をつけ、蛹をも焼き、その正体を暴こうとした。
蛹の中にある『ぐちゃぐちゃ』こそが私なのだと、そんな理想を抱きながら。
曖昧さに生かされる道を捨て、私は今、燃え盛る繭に包まれている。
原型を留めることに興味はなかった。形骸を保つ意味も考えなかった。
決意と手段が揃った時点で、私は『私』という義務を捨て去っている。
「……無駄死には、1人だけか」
決別の日は遠く、私は未だ炎と共に在る。
正体はまだ分からない。
それを決めつけようとするものを、私は許さない。
.
212
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 23:23:14 ID:9P.ObFjI0
#04 形骸世界、理想論者たち、Forgive an Angel
.
213
:
名無しさん
:2020/12/10(木) 23:29:04 ID:9P.ObFjI0
#1
>>2-65
#2
>>74-117
#3
>>122-160
#4
>>169-212
季節ごとに書き溜めを全部投下していく感じなので、次回投下は4月頃です
ここからしばらくは一本道です
アーマードコアの新作が出る前に完結できるよう頑張ります
214
:
名無しさん
:2020/12/12(土) 11:40:09 ID:CVd20G0s0
乙
デミタスどうなるんだ…
215
:
名無しさん
:2020/12/13(日) 02:07:08 ID:.RCATf2w0
乙!
ブーンがバグってるんだっけ、いきなり言動明るくなるの怖い
216
:
名無しさん
:2021/01/01(金) 01:37:56 ID:8wC4DC3c0
支援
217
:
◆gFPbblEHlQ
:2021/02/05(金) 02:35:42 ID:o1xlCQcw0
進捗報告です
今年の4月1日に投下するものが大体完成しました
完成してない部分が致命的なのでがんばるぞい(^ω^)
おまけ 夜を往くツンちゃんBB&進捗切り抜き
https://blog-imgs-142.fc2.com/g/e/k/gekitetunchan/yorutun02.gif
https://blog-imgs-142.fc2.com/g/e/k/gekitetunchan/yorutun03.png
218
:
名無しさん
:2021/02/06(土) 01:10:38 ID:LR/Oj5ms0
待ってり
219
:
名無しさん
:2021/02/06(土) 09:29:20 ID:QMWglZrU0
待ってる超待ってる
220
:
名無しさん
:2021/02/07(日) 11:36:59 ID:BPmHm4Vk0
まゆちゃんもサイドテールも現状この存在感でカオナシなのは何なんだ・・・「逆に」なのか・・・
221
:
名無しさん
:2021/02/20(土) 16:36:18 ID:euN61lwE0
顔の有無とか言動の端々とか、全てに裏があるように感じてソワソワする
4月が楽しみだ
222
:
◆gFPbblEHlQ
:2021/03/07(日) 21:24:55 ID:E6U361vo0
投下予告とお知らせです
今月末の27日〜31日くらいに2話分を投下します
4月の投下はまた改めて予告します
新たにツンちゃんまとめを爆誕させました
https://gekitetunchan.blog.fc2.com/blog-entry-25.html
今後しばらく投下も続くので、個人で担える部分はやっておこうという方針です
クールライターさんのまとめに背中を押された形でもあります
4周目以降は自分でまとめ、1〜3周目は引き続きリンクを使わせて貰おうと思っています
ほぼ個人サイト的なものになりますが、閲覧に支障がなければこのまま運用します
223
:
名無しさん
:2021/03/07(日) 21:28:59 ID:E6U361vo0
1周目の頃から乙や感想や支援絵など本当にありがとうございます
まるで凸凹で石ころだらけの道のようなスレですが、綺麗に舗装するべく今後も頑張っていきます
季節ごとに数話投下しておくので、年に1回でもまとめて読んで貰えれば嬉しいです
224
:
名無しさん
:2021/03/07(日) 21:52:12 ID:7rUgwHaY0
おお、こんなサイトデザインもあるのか・・・
225
:
名無しさん
:2021/03/08(月) 05:31:20 ID:m4YbkmyU0
今月中に投下あるんですか! やったー!
226
:
BBH
◆CaOyByoJC6
:2021/03/10(水) 00:00:51 ID:TSNUgTSE0
BBHのリンクページにツンちゃんまとめを掲載してよろしいでしょうか。
227
:
名無しさん
:2021/03/10(水) 00:36:23 ID:evwbwfzo0
オアーッ今月中の投下だと……嬉しすぎる……ありがとうございます……
個人サイト、携帯でもAA綺麗に見れて感動した
228
:
◆gFPbblEHlQ
:2021/03/14(日) 09:02:44 ID:MCkzJeWM0
>>224
あるよーっ!(^ω^)
>>225
やったーっ!(^ω^)
>>226
いいよーっ!(^ω^)
>>227
オアーッ!(^ω^)
229
:
名無しさん
:2021/03/27(土) 09:55:15 ID:XvCFsZPM0
今更ながら全部一気読みした
めちゃくちゃ面白い、支援!
230
:
名無しさん
:2021/03/27(土) 21:49:50 ID:JEV2xlVs0
前の周回は読まなくてもいけるとのことで自分もまだ読めてないけど、大体は読まれてる感じ?
どのみち読むつもりではあるけれども
231
:
◆gFPbblEHlQ
:2021/03/28(日) 20:27:38 ID:GWXSQBmE0
≪1≫
勇者、魔王、超能力者。
凡人、異常者、はぐれ者。
そういった表面的な体裁を気に掛ける者は、王座の九人には一人も居なかった。
.
232
:
名無しさん
:2021/03/28(日) 20:33:37 ID:GWXSQBmE0
組織の形骸化により様相を変えた勇者軍、その最大戦力たる王座の九人。
彼らは老若男女を問わないチグハグな集まりだったが、しかし一方で無二の共通点を持っていた。
彼らの共通点とは『主観への違和』。
その感覚を要約すると、彼らは『どうして空は蒼いのか』みたいな引っかかりをずっと抱えていたのだ。
ふとした時、さしたる理由のない違和感を抱くことは誰にでもある。
知性と野性を鑑みれば、これは万人に搭載されている普通の感受性と言っていい。
ただし、そういう曖昧な感覚にハッキリした機微を求める精神性は思春期から壮年期にかけて確実に衰えていく。
なぜ衰えるのか?
そういうものだからだ。
――『そういうものだから』で片付けなければ追いつかないほど、この世界には未知が多いからだ。
気にかけていたらキリがない。いちいち調べて検証してたら寿命が尽きてしまう。魔物とか特に意味不明だ。
だから誰もが受け入れるのだ。もう分かった、世界とはそういうものなのだと。
そうして静かに心は鈍り、自意識は落ち着いていく。
効率的な処理を覚え、所属する枠組みの規範に適応していく。
空は蒼いし夜空は冥いしツンちゃんは夜を往く。そういう世界なので。
そして、これもまた『大人になった』なんて曖昧かつ効率的な形容で済むくだり。
『世の中意外と曖昧なんだな』という言語化に至った瞬間、好奇心は諦めに追いつかれている。
..
233
:
名無しさん
:2021/03/28(日) 20:37:13 ID:GWXSQBmE0
――だが、王座の九人は別だった。
素朴実在論とは妥協の共有に他ならないが、彼らはそういう打算を一切受け入れなかったのだ。
小さな頃から心に残り、大人になっても消えない疑問。
社会のルールを理解しつつも、穴だらけの命題を埋める何かを常に探している。
勇者軍は、その何かを見つけられそうな場所として彼らの前に現れた。
妥協をしなくていい環境には、一切の妥協を認めない者達がよく似合う。
両者の相性は火に油を注ぐように完璧で、それゆえ勇者軍は組織として成立できていた。
.
234
:
名無しさん
:2021/03/28(日) 20:43:25 ID:GWXSQBmE0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
勇者軍が拠点としている施設は世界各地に点在していた。
その大半は『一切の軍事力は魔王軍討伐にのみ用いる』といった誓約のもと、暗に政治的な御目溢しにあやかっている。
各国家機関とて人間社会に魔物が潜伏している事実は把握していたが、いたずらな公表は社会の大混乱を招いてしまう。
ここらへんの話は余談なので割愛するにせよ、魔物への備えとして勇者軍を容認する動きはそう珍しくなかった。
勇者軍日本支部とでも言うべき拠点は、列島から遠く離れた孤島に設けられていた。
便宜上には存在せず、あらゆる無法を許された島。
軍内部におけるこの島の役割は、激化薬の研究と共に『次世代の戦力』を獲得する事だった。
(-@∀@)「……おお、ここに居たか」
施設内でもとりわけ明るく、大きく開けたフードコート。
そこに現れた白衣&眼鏡の男は、フードコート内の人だかりを見て静かに独りごちた。
人だかりの殆どは病衣の子供達であったが、みんな笑顔でハッピーな感じだったのでよかった。
子供1「じいさん、また授業やってよ!」
爪'ー`)「おお構わないよ。教科は?」
子供1「道徳!」
爪'ー`)「道徳かぁ、それ私も足りてないんだよなぁ」
子供達は、灰色のカーディガンを羽織った老け顔の男を中心にしていた。
男の実年齢は五十代後半であったが、そこから一回り若く見受けられるだけの鋭い気風が彼にはあった。
要約するに、カリスマという言葉が簡潔であろう。
肩下まで伸びる色褪せた長髪。柔らかな物腰に、思慮深くゆっくりと語られる言葉の綾。
椅子に座って子供達と戯れているだけなのに、その光景には語り部と民衆の図画を連想させる機微があった。
それもそのはず、彼は勇者軍最大戦力『王座の九人』において実質的なリーダーを務める人物だった。
.
235
:
名無しさん
:2021/03/28(日) 20:46:58 ID:GWXSQBmE0
(-@∀@)「おいフォックス! ちょっといいか!」
白衣の男が大声を上げると、子供達の輪が大きくひび割れた。
その裂け目から視線を返してくるフォックス。
彼は事を察したように軽く頷き、子供達の顔をぐるりと一望した。
爪'ー`)「すまん、仕事の時間だ。私の小言はまたにしよう」
子供2「は?」
途端、子供1から子供14くらいまでが一斉に不満を張り上げた。
年老いた耳にもしっかり響き渡ってくる子供達の声。
フォックスは耳を抑えて苦笑い、ガキどもを懸命に宥めた。
J( 'ー`)し「はいはいみんな、教室に戻りましょうね」
ほどなく、子供達の引率者が床に膝をついて言った。
優しい口調で言いはしたが、彼女の背景には反撃さえ許さない穏やかな圧が見え透いている。
感情に蓋をされた子供達はそれでも顔をしかめたが、それさえ無意味とすぐに悟り、口を閉ざした。
J( 'ー`)し「……それじゃあ失礼します。また相手してあげて下さい」
爪'ー`)「いつでもどうぞ。みんなまたね」
一礼してからフォックスに背を向け、子供達を引き連れていく女性。
エプロン姿の彼女はカーチャン(偽名)と呼ばれる人物で、この施設における諸般の子守を担当していた。
古くから日本支部に在籍し、『次世代の戦力』について多大な貢献をしてきた古株だ。
あと王座の九人だった。
.
236
:
名無しさん
:2021/03/28(日) 20:48:21 ID:GWXSQBmE0
(-@∀@)「……いやぁ、つくづく人気者だな。鳩にエサ撒いてる老人みたいだ」
ごっそり人気が消えたのを見計らい、白衣眼鏡マンがようやく近付いてくる。
時たま名残惜しそうに振り返る子供達に手振りを返しながら、フォックスは彼の茶化しに対応した。
爪'ー`)「実際もう老人だよ。青臭い皮肉は喉を通らん」
(-@∀@)「カマトトぶんなって。あと百年は若者だぞ」ドカッ
陽気に言いながら反対側のベンチシートに陣取る白衣眼鏡マン。
瓶底眼鏡に秘めたその瞳――自称老人には眩しすぎたのか、フォックスは溜息混じりに頭を振った。
爪'ー`)「堪らない人生観だな。いつまで生きてる予定なんだか」
(-@∀@)「……死ぬ予定は無いが?」
口早に言い、その言葉尻に「何を仰る」と付け加えるマン。
彼は改まった風に両手を広げて見せると、しばし沈黙してから本題を切り出した。
.
237
:
名無しさん
:2021/03/28(日) 20:52:05 ID:GWXSQBmE0
(-@∀@)「で、諸々済んだぞ。魔王軍との交戦シミュレートは完璧だ」
(-@∀@)「準備も万端。あとはリアルに実行するだけ」
爪'ー`)「おお! それはすごい!」
(-@∀@)「……実行するだけ、だが」
当てつけのように言い直し、テーブルにつんのめる白衣眼鏡マンもといアサピー。
前もってフォックスの思惑を予想していたアサピーは、彼が言うべき答えを先に口走った。
(-@∀@)「動かないんだろ?」
爪'ー`)
爪'ー`)「え? あーそうだね。動かないよ」
(-@∀@)「……ハハッ! だと思ったぜ!」
予定調和に声を荒らげ、アサピーは大袈裟に仰け反って見せる。
人を小馬鹿にした仰々しい身振り。その不躾は、彼らをつなぐもの無くして成立はしなかった。
フォックスが老人ならアサピーも老人である。数十年前に勇者軍で出会って以降、付き合いは長い。
.
238
:
名無しさん
:2021/03/28(日) 20:57:50 ID:GWXSQBmE0
爪'ー`)「なのでアサピー、手が空いてたらスポンサーへの言い訳を頼む。
あれの相手は私には難しい。金だの地位だの、難しいんだ」
(-@∀@)「それもやっといたよ。お前にゃ接待は無理だ」
アサピーは高らかに指を鳴らし、フォックスの杞憂を軽くあしらった。
勇者軍とて人の集まり。その内部勢力は大きく二分されており、各所の確執は中々に度し難い。
しかしアサピーだけは例外だ。彼の立場は少し特殊で、組織内でも特に重大なものだった。
王座の九人と激化薬研究の主任。2つの立場を上手く使えば、彼の意見は誰にも覆せなかった。
(-@∀@)「あちらさんの“““有意義な会議”””が長引くよう、燃料はたっぷり注いでおいたぜ。
先の襲撃で増えすぎた手札をどう使えばいいんだか、今頃大声で議論中だろうよ」
爪'ー`)「はは、それは仕方ないさ。普通そうだよ」
フォックスは足を組み直し、両手を膝に乗せて空笑った。
拍子を数えて跳ねる指先。彼の脳内では、彼自身が思い描いた盤面が次の一手を待ち侘びていた。
爪'ー`)「勇者軍は――特にあっちの、宗教的な人達は日陰暮らしが長いからね。
チャンスの扱いなんて分からないし、初々しくもなる」
トップ
(-@∀@)「……自称勇者軍ながら《勇者》は不在。
バカが仕切るよりはマシだが、やっぱり組織は鈍化するよな」
爪'ー`)「分かってるならお前が仕切るといい。適任だぞ」
(-@∀@)「俺がか? 別に構わねえけど――」
そこで返事を区切り、一瞬真顔になって逡巡するアサピー。
三度フォックスの意図を見抜いたのか、彼は中指で眼鏡を正し、にんまりと笑った。
(-@∀@)「いや待て、今のは冗談として受け取っておく!
臨時であってもゴメンだね、こんな反社会組織の旗持ちなんざよ!」
爪'ー`)「あー」
(-@∀@)「ていうかお前がやれよ。ああいうのはカリスマがやるべきだろ」
.
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