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SCHOOL GIRL ESCAPE

127名無しさん:2019/11/11(月) 20:58:47 ID:nnv1Gcy20

俺を睨みつけながら名前を呼びつけてくる大澄。
怒っているのだろうか。許してくれないのだろうか。様々な不安が脳裏をよぎる。
吐息のかかる距離で、ふたりきりの向日葵畑のど真ん中で、見つめ合うだけの時間が過ぎていく。

(;"ゞ)大澄……」

不安で胸がいっぱいになって、それを少しでも吐き出したくて、俺は思わず大澄の名前を呼んでいた。

ミセ*^ー^)リ「……もう、しょうがないなあ」

それを聞いたからなのか、大澄の表情が崩れた。
屈託のない笑みを浮かべて、相変わらず俺をまっすぐに見つめている。

ミセ*゚ー゚)リ「全然怒ってないよ。三角くんのこと、もうとっくに許してるよ」

( "ゞ)「え……」

ミセ*゚ー゚)リ「あたしもね、ずっと後悔してた。あの日……なんであんなに突き放しちゃったんだろうって」

(;"ゞ)「それは、俺が自分勝手にひどいこと言ったから」

ミセ*゚-゚)リ「あたしこそごめんね。すごい大人げなかった」

128名無しさん:2019/11/11(月) 20:59:58 ID:nnv1Gcy20
>>127訂正


俺を睨みつけながら名前を呼びつけてくる大澄。
怒っているのだろうか。許してくれないのだろうか。様々な不安が脳裏をよぎる。
吐息のかかる距離で、ふたりきりの向日葵畑のど真ん中で、見つめ合うだけの時間が過ぎていく。

(;"ゞ)「大澄……」

不安で胸がいっぱいになって、それを少しでも吐き出したくて、俺は思わず大澄の名前を呼んでいた。

ミセ*^ー^)リ「……もう、しょうがないなあ」

それを聞いたからなのか、大澄の表情が崩れた。
屈託のない笑みを浮かべて、相変わらず俺をまっすぐに見つめている。

ミセ*゚ー゚)リ「全然怒ってないよ。三角くんのこと、もうとっくに許してるよ」

( "ゞ)「え……」

ミセ*゚ー゚)リ「あたしもね、ずっと後悔してた。あの日……なんであんなに突き放しちゃったんだろうって」

(;"ゞ)「それは、俺が自分勝手にひどいこと言ったから」

ミセ*゚-゚)リ「あたしこそごめんね。すごい大人げなかった」

129名無しさん:2019/11/11(月) 21:00:53 ID:nnv1Gcy20

謝るというのは、とてもずるいことだと思った。
だって、許したい気持ちがあるなら、謝られたらもう何も言えなくなってしまう。
俺はなんてずるいやつなのだろう。そして、大澄も。

ミセ*゚ー゚)リ「よーし、あの日のことはこれで全部おしまいね!」

(;"ゞ)「いや、ちょっと待ってくれ。もっとちゃんと」

ミセ#゚д゚)リ「三角くんがそうやってしつこいに決まってるから、これでおしまいにするの! わかった?」

(;"ゞ)「……分かった」

ミセ*^ー^)リ「それならよし!」

満足げに浮かべた大澄の笑みは、例えるなら向日葵が咲いたような満面の笑みだった。
いつもこうやって笑いかけてもらえる太陽に嫉妬するほどに、その笑顔は輝いて見えた。

( "ゞ)「……俺も、教えてやりたい」

ミセ*゚ー゚)リ「なにを?」

( "ゞ)「大澄と仲直りできるって、また楽しく過ごせるって、あの日の自分に」

130名無しさん:2019/11/11(月) 21:02:12 ID:nnv1Gcy20

ミセ*^ー^)リ「……タイムマシンができたら、ふたりで乗って伝えに行こっか」

(*"ゞ)「いいな、それ」

顔を見合わせたまま、俺たちはせきを切ったように大きな声で笑い合った。
俺の顔を支える大澄の手に、もう力は込められていなかった。

ミセ*゚ー゚)リ「ねえ、三角くん」

大澄は俺を呼ぶと、顔から手を離して太陽へと向かって小走りで駆けていく。

ミセ*゚ー゚)リ「意味のない日がなんなのかなんて、そんな日があるのかなんて、わからないけどさ」

そして、ちょうど太陽を背負うような形になるあたりで振り向いた。
今度は俺の方が向日葵みたいだ、なんて思った。

131名無しさん:2019/11/11(月) 21:02:39 ID:nnv1Gcy20
https://i.imgur.com/e83vFXu.jpg

132名無しさん:2019/11/11(月) 21:03:04 ID:nnv1Gcy20

俺は何も言わなかった。
ただ、大澄のその言葉に大きく頷いて答えただけだった。

133名無しさん:2019/11/11(月) 21:05:25 ID:nnv1Gcy20
30分ほど休憩挟みます。いったん失礼します。

134名無しさん:2019/11/11(月) 21:21:06 ID:nnv1Gcy20
少し早いですが再開します。

135名無しさん:2019/11/11(月) 21:21:51 ID:nnv1Gcy20

俺たちが帰ってきたころには、夜の帳はもうすっかりと下ろされていた。
駅前のきらびやかな明かりを見て、俺も大澄もなんだか眩しく感じるなんて話をしていた。

大澄とは最寄り駅でそのまま別れて、いまは家のすぐ近くまでやってきている。
送ろうか、なんて珍しく気を効かせてみたけど、俺まで親に怒られるからいいと言われてしまった。

俺をひとりで帰らせるのが心残りだったのか、大澄は俺の姿が見えなくなるまで手を振って見送ってくれた。
ほんの少しのありがたさと、大きな恥ずかしさを抱えて、俺はそそくさと駅前をあとにしたのだった。

(;"ゞ)「はあ……」

恥ずかしさから解放された安堵の気持ちと、家が遠くに見えた落胆の気持ちが、俺に大きくため息をつかせた。

136名無しさん:2019/11/11(月) 21:22:22 ID:E6wUPGe60
支援

137名無しさん:2019/11/11(月) 21:23:02 ID:nnv1Gcy20

塾に行かなかったことはすでに知られている。
それだけでも怒られるだろうし、汗が乾いて塩を吹いた制服を見れば、学校に行かなかったことも察せられるだろう。

怒られることも憂鬱だけど、それ以上にまた現実に戻らなければならないことの方が辛かった。
怒られる覚悟ならとっくに決めている。でも、もう大澄とふたりでラムネは飲めない。
堤防の上は歩けない。向日葵畑の中に消えることもできない。

( "ゞ)「……」

俺の足はとうとう、玄関の前まで体を運んでしまう。扉を開けば雷が落ちてくる。日常が待っている。
それでも、そこが俺のいるべき場所なんだから、俺を待っている人がいるのだから、帰るしかない。
意を決して、鍵を取り出して扉を開いた。

(;"ゞ)「ただいま……」

138名無しさん:2019/11/11(月) 21:24:00 ID:nnv1Gcy20

おそるおそる扉を開いてみたけど、意外なことに誰もいなかった。
てっきり母さんが待ち構えていて、怒鳴りつけてくるものだと思っていたのだけど。

少しして、居間からぱたぱたとスリッパの鳴る音がこちらに近づいてくる。
父さんはスリッパを履かないから、これは母さんの足音だ。肩をこわばらせて、お叱りの声に身構える。

「おかえりなさ……あら、なにその制服! こんなにしちゃってもう……」

(;"ゞ)「……?」

「夕飯は用意してあるから、とりあえず着替えてきなさい!」

(;"ゞ)「……は、はーい」

予想と違う母さんの態度に、思わず面食らってしまう。
怒ってはいたけど、それは制服に対するものだ。
俺が塾に行かなかったり、帰りが遅くなったことに対する怒りじゃない。

ひとまず言われた通りに着替えようと廊下を歩いていく途中、居間の様子をちらりと覗き込んでみた。
母さんはレンジで夕飯を温めなおしていて、父さんはいつも通りソファに座って新聞を読んでいる。
不気味なくらいに、普段の光景のままだった。

139名無しさん:2019/11/11(月) 21:25:04 ID:nnv1Gcy20

( "ゞ)「……」

着替えて夕飯を食べ始めたのだけど、我が家の様子はいたって普通だった。
母さんは俺の分の夕飯を温め終わると、台所で洗い物をし始めた。
父さんは新聞とニュースを交互に見ながら黙ったままだ。

それが明らかにおかしいことくらい、俺だって分かる。
塾に行っていないことも、制服の様子からして学校に行っていないことも、全部筒抜けのはずなのに。
これから何が起こるのだろう。気が気でならなくて、夕飯も喉をただ通っているだけで味や温かさが感じられない。

「……なあ、大吾。お前、今日塾に行かなかったらしいな」

何の脈絡もなく父さんがそう切り出すものだから、俺は飲み込みかけていたご飯を危うく吐き出しそうになった。
ついにきたか。咳き込みながらも覚悟を決めて、父さんの方へと振り向く。
しかし、父さんは相変わらず新聞を見ているばかりで、こちらを向こうともしていない。

(;"ゞ)「……うん」

「学校は?」

140名無しさん:2019/11/11(月) 21:25:56 ID:nnv1Gcy20

(;"ゞ)「……学校も、サボった」

「……そうか」

それっきり父さんは押し黙ってしまう。
元々口数が多いわけではないけど、このタイミングで黙られるといつか何かが爆発しそうで怖いのが本音だ。
爆発する前に俺がひと言謝ればいいのだろうけど、そうしたくないという気持ちが大きな岩のように、俺の心の中に横たわっていた。

「……電話くらいは出ろ。あんまり、母さんに心配かけるなよ」

(;"ゞ)「え、あ……うん」

俺を見てそれだけ伝えると、父さんはまた新聞に目を落とした。
そして、それっきり何も言わなくなってしまった。
成績のことになるといつも厳しい父さんがこれだけで引き下がるなんて、明らかにおかしい。

「父さんね」

( "ゞ)「うん?」

夕飯を食べる手が止まったままの俺に、台所から戻ってきた母さんがそっと耳打ちしてきた。

「昨日自分が怒ったせいだ、ってすごく心配してたの」

141名無しさん:2019/11/11(月) 21:26:42 ID:nnv1Gcy20

(;"ゞ)「え、そうなの?」

「だからあまり怒ってやるな、ってずっと言ってたんだから」

( "ゞ)「そっか……」

新聞を折りたたんで、いまはニュースを見ている父さんの背中を見つめる。
険悪になってもやっぱり親子なのだろうか。父さんなりの愛情を感じ取るのと同時に、心配をかけて申し訳ないとも思う。

( "ゞ)「父さん」

「……なんだ?」

( "ゞ)「心配かけて、ごめんなさい」

「……母さんにも言いなさい」

( "ゞ)「うん。母さん、心配かけてごめん」

「ほんとよ、もう」

( "ゞ)「それで、父さんに相談があるんだけど」

142名無しさん:2019/11/11(月) 21:27:28 ID:nnv1Gcy20

なんとなく、家に着くまでの間に現実に向き合って、ぼんやりと考えていたことがあった。
怒られるのもほどほどに済んだいまなら、それをぶつけてみてもいいかもしれない。

( "ゞ)「父さんの母校、スポーツに関係した学部ってある?」

「まあ、あることにはあるな」

( "ゞ)「俺、そこに行きたい」

今日一日大澄と過ごして、青春を捧げた日々を思い出して、バスケが好きだと改めて思った。
ブランクのある俺が、大学でバスケをすることはないだろう。
それでも勉強の目標として、好きだったものに少しでも近いことを学びたいと思うのは悪いことじゃないはずだ。

「だったら……勉強を疎かにしている場合じゃないぞ」

( "ゞ)「分かってる、また明日から頑張るよ」

「……頑張れよ、大吾」

( "ゞ)「……ありがとう」

143名無しさん:2019/11/11(月) 21:29:05 ID:nnv1Gcy20

〜〜〜〜〜〜

こうして、俺と大澄の逃避行は終わりを告げた。
あとに残ったものはひと夏の思い出と、学校と塾を休んだ分の勉強の遅れと、かなり軽くなった財布だけだった。

俺たちがいなくても一日は俺たちがいないなりに過ぎていったらしく、何事もなかったかのように俺を出迎えてくれた。
そしてまた、一日は始まる。俺を、大澄を再び迎え入れて、どこまでも現実感にあふれた日常を繰り広げる。

(;"ゞ)「あっつ……」

電車を待つ駅のホームで、俺はひとりごちた。
人でごった返すホームと、すでに爛々と輝く朝の日差しの合わせ技で、すでに汗だくになっている。

昨日の俺と大澄以外誰もいない、冷房がよく効いた電車内が懐かしい。
そう思っても、あの日はもう戻ってこない。俺と大澄が再び交わることはない。それが俺の過ごしてきた、そして戻ってきた日常だ。

それでも俺は生きていく。あの夏の日を胸に。
そして俺は忘れない。制服姿の彼女との逃避行を。

144名無しさん:2019/11/11(月) 21:30:23 ID:nnv1Gcy20

「みーすーみー……くんっ!」

145名無しさん:2019/11/11(月) 21:30:46 ID:nnv1Gcy20
https://i.imgur.com/ZfGcFYG.jpg

146名無しさん:2019/11/11(月) 21:31:27 ID:nnv1Gcy20

肩を叩かれた。誰かが俺の名前を呼んだ。
いや、誰が呼んだのかなんて、呼ばれたときから気付いていた。

(;"ゞ)「うっ」

呼ばれるがままに振り向くと、俺の頬に見事に指が突き刺さった。
その指をぐりぐりと押し付けて、声の主はけらけらと笑う。

(;"ゞ)「大澄……」

ミセ*゚ー゚)リ「おはよっ!」

俺の日常に、非日常が太陽のような笑顔を浮かべて笑いかけてきた。

(;"ゞ)「なんでここに……?」

ミセ*゚ー゚)リ「え? だって最寄り駅でしょ?」

(;"ゞ)「いや、そうだけど、それでもどうして俺に話しかけてきたんだよ?」

147名無しさん:2019/11/11(月) 21:32:04 ID:nnv1Gcy20

ミセ;゚ー゚)リ「だめなの? だってあたしたち仲直りしたでしょ?」

(*"ゞ)「……はは、はははっ!」

ミセ;゚ー゚)リ「え、なんで笑うの? 三角くん大丈夫?」

(*"ゞ)「ははははははっ!」

ミセ;゚д゚)リ「ちょっとー! なんなのー?」

俺の戻ってきた日常は、ほんの少しその形を変えていた。
世界中で俺たちにしか気付けないくらいささいな変化で、だけどとても大切な変化。
あの日はもう戻ってこないけど確かにそこにあって、俺たちの未来を紡いでくれている。

そうやって俺たちは生きていく。あの夏の日を胸に。
そして俺たちは忘れない。制服姿で駆け抜けた、あの逃避行を。

148名無しさん:2019/11/11(月) 21:32:58 ID:nnv1Gcy20

SCHOOL GIRL ESCAPE

おわり

149名無しさん:2019/11/11(月) 21:45:57 ID:nnv1Gcy20
以上で投下終了となります。
お付き合いいただきありがとうございました。

文章:残像(https://twitter.com/an_afterimage)(酉なくしました)
イラスト:真白しらいさん(https://www.pixiv.net/member.php?id=1408540

本作は上記の二名の共作でお送りしました。

150名無しさん:2019/11/12(火) 01:00:15 ID:OhtKKaFw0
乙でした
甘酸っぱくてそれでいて優しい逃避行大好き
風景描写も挿絵もとても引き込まれました

151名無しさん:2019/11/12(火) 21:47:20 ID:46xBR0j20
ラスト最高じゃ!!!!乙!!!!!

152名無しさん:2019/12/06(金) 06:24:41 ID:7JpPhFCU0
淡々と普通の話


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