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Ammo→Re!!のようです

598名無しさん:2020/10/26(月) 19:10:33 ID:JaZHiVC.0
(´<_` )「誰かの落とし物って可能性もあるか……」

( ´_ゝ`)「まぁ、そこまで神経質にならなくてもいいだろう。
     それよりも、組織と連絡が取れないのが問題だな」

電話線の問題はまだ解決していない。
この町には発電設備を修理できる人間はいても、電話線などの保守点検を行える人間はいない。
別の町にいる専門家を呼び、修繕をしてもらう必要がある。
しかしそれを依頼するには、外部への連絡が必須だ。

電話が使えない今、彼らに出来る手段は手紙を使うか、直接訪れるかのどちらか。
もしくは、町の中で電話を持っている人間に借りるかだった。

(´<_` )「確かにそれは問題だな。
     向こうからの連絡が来ないとも限らないし」

療養中でも彼らは常に世界の変革を意識している。
情報収集や小さな工作活動など、すぐにでも実行できるように心構えは済んでいた。
今こうしている間に連絡が来ているかもしれないと思うと、彼らは気が気ではない。
彼らが持ち込んでいる長距離無線機の範囲内に組織の人間がいるとは限らない。

そしてなにより、その範囲内にあるのは山と畑ぐらいで、町が一つもないことからその可能性は絶望的だった。

( ´_ゝ`)「ひとまず手紙は出しておいた。
      ラジオを使った超長距離通信のテストも兼ねて、連絡をしてくれってな」

世界中の街に内藤財団がラジオを配布したのは情報の伝達速度を向上させるためだけでなく、世界中の細胞に対して一度に指示を送ることが出来るためでもあった。
ラジオ内に含まれる音声広告の中に細胞にしか分からない言葉を混ぜ、発信する。
それによって、世界中の細胞が一度に足並みをそろえて行動することが可能になる、という考えだ。
これは彼らスコッチグレイン兄弟の協力があって形となったものであり、彼らの成した大きな手柄の一つだった。

世界をつなぐ大きな根となるのが通信網であり、それが整うことによって世界は大きな変化を迎えることになる。
遠く離れた人間に電話をするための設備よりも、すでに各地に設置されている電波塔をリレーして送信する方が簡単に済むのである。
ラジオの受信機を配布したところで電波が届かなければ意味がないため、内藤財団はかなり前から電波塔の設置に着手していたのだった。
無線機を利用するよりも、ラジオを使った方が効率が良いことは言うまでもない。

そのため、ゆくゆくはラジオの電波塔を利用した通信技術を確立させたいというのが兄弟の願いだった。

(´<_` )「そうだな、それが正解だ。
     流石だな、兄者」

昔からアニーに対して使っている呼び方を口にすると、彼はにやりと口の端を釣り上げて笑った。

( ´_ゝ`)「そうだな、弟者」

そうして二人は互いに笑い合い、残った昼食を平らげた。
食後、オットーは狩りの準備を自室で進め、護身用に購入したレミントンM870の点検を行った。
買ってから一度しか撃ったことのない銃だが、念のために一度全て分解し、油を差して組み立てを行った。
フォアグリップを何度もスライドさせ、排莢に問題がないことを確かめる。

599名無しさん:2020/10/26(月) 19:12:33 ID:JaZHiVC.0
メタルマッチと大振りのナイフ、そして散弾を五発ヒップバッグに入れ、水筒に真水と一つまみの塩を入れて準備を整える。
薄手の長袖長ズボン、そして日よけの帽子を被る。
丁度準備を終えた頃、呼び鈴が鳴った。

(´<_` )「じゃあ行ってくるぞ」

( ´_ゝ`)「肉を頼むぞ」

ショットガンを肩にかけ、家を出ると夏の強い日差しと風がオットーを出迎えた。
セミや鳥の声が山から聞こえる。
人の喧騒は無い代わりに、動植物たちが奏でるざわめきが常に耳に聞こえる環境。
平穏が満ちた環境に順応していく感覚を覚えながら、オットーは迎えに来た男たちと共に山に向かった。

トラックの荷台にオットーを含めた男が四人。
運転席に一人。
そして助手席に運転手の妻が一人。
全員がオレンジ色のジャケットを身に付け、種類は違うが銃を携帯している。

(,,゚,_ア゚)「いい銃持ってるな」

(´<_` )「ありがとうございます、でもまだ使ったことがないんですよ」

(,,゚,_ア゚)「はははっ! なら今日が筆おろしだな!」

トラックは山道を進み、川沿いのとある地点で停車した。
山の半ばに流れる川の水は澄んでおり、川底まで見ることが出来る。

600名無しさん:2020/10/26(月) 19:14:04 ID:JaZHiVC.0
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(,,゚,_ア゚)「狩りの時はここを本部にするんだ」

(´<_` )「なるほど」

よく見れば石で組まれたかまどの様なものと焚火の跡、木を組み合わせて作られた何かの作業用の道具もあった。
恐らくはここに獲物を運び、処理することもあるのだろう。

(,,゚,_ア゚)「それじゃ、二人一組で山に入るぞ。
     スコッチグレインさんは俺とだ」

(´<_` )「あ、よろしくお願いします」

(,,゚,_ア゚)「さぁ、まずは弾を渡しておこう。
     こいつぁ狩猟用の散弾で、割と遠くまで届くんだが、イノシシ相手ならしっかりと急所に当てないと殺せねぇ。
     ここで試し撃ちしていこう」

そう言って赤い紙製の薬莢が一発手渡される。
レミントンに装填し、フォアグリップをスライドさせる。
薬室に装填されたことを確認し、オットーはそれを対岸にある木に向けた。

(,,゚,_ア゚)「そうだな、試しにあの木の梢を撃ってみるといい」

601名無しさん:2020/10/26(月) 19:15:10 ID:JaZHiVC.0
アイアンサイトに梢を捉え、照準をそこから上にずらす。
細かな計算方法は分からないが、距離は五十メートルも離れていない。
散弾の飛距離と風速などの計算が出来ない以上、感覚で狙うしかない。
幸いなのは散弾を使うことであり、多少の狙いの違いはさしたる問題にならないことだ。

肩にストックをしっかりと押し付け、人差し指をそっと銃爪に添える。
そして、銃爪を引いた。
銃声と共に反動が訪れたが、オットーは瞬き一つしなかった。
狙っていた梢の一部がちぎれ落ちるのを見て、その結果に安堵した。

(,,゚,_ア゚)「よっしゃ、それなら大丈夫そうだな。
     それと、あんたの帽子にちょっとテープを巻くぞ」

オットーの帽子を取り、男は蛍光色のテープを帽子の鍔に貼り付けた。
遠くから見ても人の頭の位置が分かるようにするための工夫で、他の狩人に撃ち殺されないための保険でもあった。
改めて準備を整えたオットーは、男に先導されるまま、山の中へと入った。
急な斜面を登りつつ、男は周囲に目を向け、イノシシの痕跡を探している。

オットーはその痕跡についての解説を聞き、自分なりにも探すことにした。
空に灰色の雲が流れてきていたことに、彼はまだ気づいていなかった。
森の中を歩む者にとって、空はあまりにも遠い存在なのだから――

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同日 PM02:23
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天候が急変したのは、午後二時を過ぎた頃だった。
吹き付ける風に冷気を感じ、頭上を仰いだ時、そこには水に落としたインクの様な空が広がっていた。
すでにオットーたちは山の奥深くまで足を踏み入れており、本部へと引き返すまでに雨が降ってくる可能性は濃厚だった。

(,,゚,_ア゚)「雨に降られる前に避難すっぞ」

(´<_` )「どこかに山小屋があるのですか?」

(,,゚,_ア゚)「うんにゃ、雨宿り出来る場所で火を起こす。
     夏でも雨に降られたら体力がなくなっちまうからな。
     ひとまず場所は俺が探すから、乾いた薪を拾っておいてくれな」

602名無しさん:2020/10/26(月) 19:15:58 ID:JaZHiVC.0
(´<_` )「分かりました」

できる限り互いが視界の中に納まるように行動し、オットーは両手いっぱいの薪を拾い上げることに成功した。
彼の基準では乾いている撒薪だったが、サバイバルの基準でどうなるのかは不明だった。
大粒の雨が頭上から降り注ぎ、頭上にひしめく葉の間から容赦なく山を水で満たしたのは、平らな場所に一つだけ転がる巨大な岩陰に逃げた直後だった。
苔の生えた巨岩は遥か昔の土砂崩れによってその場所に運ばれて以来、山に入る人間達にとっての目印になったそうだ。

風雨によって岩は天然の軒の様な形状となり、雨宿りや小休憩をするには最適な形をしていた。
炎を眺めながら、二人はその場に座って雨が弱まるのを静かに待った。
時間が経つにつれて空の黒さは尋常ではなくなり、三時になる頃には夜の色をしていた。
雨脚は強まる一方で、まるで弱まる気配を見せない。

辺りはまだ視認できるほどの暗さではあるが、肌寒い風と雨が容赦なく二人の体温を奪う。

(,,゚,_ア゚)「いやぁ、参ったぞこりゃ」

(´<_`;)「まるで嵐ですね……」

その時、遠くから鈍い銃声が聞こえた。
周囲に木霊し、正確な方向は分からないが、状況的判断するともう一組の狩人の放ったものの可能性が高い。
オットーたちが周囲に視線を向けると、二発目、三発目の銃声が響いた。

(,,゚,_ア゚)「三発も撃ったのか?」

(´<_` )「問題があるんですか?」

(,,゚,_ア゚)「二発は分かるんだ。
     獲物を逃して後詰めの人間が撃つってことはよくある。
     でもな、三発目っていうのは何か焦って撃った証拠なんだ。
     あの二人に限って焦って撃つなんてことねぇと思うんだけどな」

ぞくりと、オットーの背中に冷たいものが走る。
猟師が焦る事態など、あまりにも限られている。
ここはほとんど手つかずの山であり、イノシシが人家に降りてくるような土地だ。
ならば必然、それ以外の獣がいることになる。

(,,゚,_ア゚)「熊でも出たか?」

(´<_` )「熊がいるんですか、この山は」

(,,゚,_ア゚)「そりゃあいるさ。
     めったに人里には来ないが、運が悪ければ出会っちまう。
     山神様も熊の姿をしてるってんだから、不思議な話だな」

知恵を身に付けた代償として力と速さを失った人間は、武器を持って初めて獣と戦うことが出来る。
その武器も、獣によっては効果がないものもある。
使い方と武器の選択を誤れば、人間は非力な存在でしかない。
果たして、銃声の主が遭遇した獣が何なのかは分からないが、彼らの無事を願うばかりだった。

(,,゚,_ア゚)「仕方ねぇ、こりゃ山を下りられねぇな」

603名無しさん:2020/10/26(月) 19:16:25 ID:JaZHiVC.0
そう言って、男は懐から笛を取り出した。

(,,゚,_ア゚)「ちっと耳塞いでな」

オットーが言われた通りに耳を塞ぐと、男は深く息を吸って、思いきり笛を吹いた。
等間隔で規則的に吹かれた笛の音は、銃声よりも鋭く山に響いた。

(,,゚,_ア゚)「これでいい。
     下の連中に、俺たちがここで一夜を過ごすって伝えた。
     今夜は野宿だ」

直後、雷鳴が轟く。
雨脚はさらに強さを増し、まだ青い木の葉が頭上から雨粒と共に落ちてきた。

(´<_` )「今下山するわけにはいかないんですか?」

答えはある程度予想できたが、オットーは聞かずにはいられなかった。

(,,゚,_ア゚)「この悪天候で下山するのもいいけどな、足場が悪くなってるからな。
     下手に動いて滑落したら助からんぞ。
     なぁに、飯は任せろ」

幸いなことに、彼らの避難している場所は二人で仰向けになって眠るだけの広さがあった。
飲み水についてはあまり不安はないが、やはり、食事が気になるのも事実だ。
この雨の中でどうやって食事を確保するのか、そこが気がかりだった。

(´<_` )「何か手伝えることがあれば言ってくださいね、えぇと……」

相手の名前が分からないオットーはこの機会に彼の名前を得ようと、当たり障りのない切り口で問いかけた。

(,,゚,_ア゚)「ははは! そういえば名前を教えてなかったな!
     プラセットだ、プセって呼んでくれ」

プセはそんなオットーの意図を理解したらしく、名乗りと共に手を差し伸べた。
オットーは彼と握手を交わした。

(´<_` )「ご存知かもしれませんが、オットー・スコッチグレインです。
     どうかオットーと呼んでください」

改めて名乗りを交わし、二人はこれからのことについて話し合うことにした。
幸いなことに水を沸かすための食器や調理に必要なナイフはあるため、何か食料となり得るものを見つけても生食をしなくて済む。

(,,゚,_ア゚)「さて、俺はこれから飯を取ってくるからよ、オットーはここで待っててくれ」

そう言いながら、プセは立ち上がり、背負っていたリュックの中からポンチョを取り出してリュックの上から羽織った。
ショットガンの薬室を確かめてから、彼はそれをポンチョの下にしまった。

(´<_` )「じゃあ、何かお茶でも淹れて待っていますよ。
     流石に何もしないで待っているのは気まずいので」

604名無しさん:2020/10/26(月) 19:17:22 ID:JaZHiVC.0
(,,゚,_ア゚)「ははっ、ならお願いしておこう。
     松の葉っぱを使うといいお茶が淹れられるぞ」

暗い森の中をプセが進んでいく様子を、オットーはその姿が見えなくなるまで見送った。
そして、すでに中身を飲み干した水筒を使って雨水を溜め始めた。
雨具を着てから、彼のアドバイス通りに松の葉を集めるために岩の下から出て行った。
幸いなことに松の葉はすぐに見つけることができ、また、自分がそれまでいた岩の場所は炎のおかげですぐに見つけることが出来た。

――この時はまだ、オットーは自分の置かれた状況について正確に理解が出来ていなかった。

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同日 PM06:11
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605名無しさん:2020/10/26(月) 19:17:42 ID:JaZHiVC.0
プセが戻ってくるまでの間、オットーは一夜を過ごすための薪を調達することにも取り組んでいた。
事前に集めておいた乾いた薪は恐らく夜を過ごす前に燃え尽きてしまうため、まだ不十分なのは明らかだった。
そのため、濡れてしまった木の枝を乾燥させて利用すれば、夜を明かすことも出来るだろうという判断だ。
ナイフと落ちていた石を使って細い木を切り倒し、焚火の熱で乾くように置いた。

太めの木を用意したが、その分乾くまでに時間がかかりそうだった。
水もお湯も茶も万端の状態だったが、プセが帰ってくる気配はなかった。
すでに周囲は闇に包まれ、頭上にあるはずの空はまるで見えない。
雨脚は若干弱まったように思えるが、岩の傍を流れていく水の量は依然として油断できないものだった。

万が一に備え、オットーはショットガンを肩に乗せ、周囲の暗闇に目を向けていた。
その警戒心が、彼の命を救うことになった。

(´<_`;)「ん?!」

木の枝を踏み折る音が目の前の暗闇から聞こえ、次いで、荒い鼻息が聞こえた。
炎が低い位置にある双眸を不気味に照らし出し、雨に濡れた巨体の輪郭がぼんやりと見える。
オットーは相手が熊であると瞬時に理解し、そして、体が強張って動かないことに気が付いた。
動かなければならないと思う反面、下手に相手を刺激しないようにしなければという知識が矛盾となり、彼の体をその場に釘付けにしたのである。

自分の呼吸が乱れ、唇が一瞬で乾く。
巨大な機械や兵器とは違い、存在そのものが生まれながらにしてオットーよりも強者。
獣の放つ圧倒的な力と初めて対峙し、彼の体は怯えすくんでいた。
棺桶があれば獣など恐るるに足らない存在だが、彼が持っているのは狩猟用の弾を装填したショットガン一挺。

熊を殺すにはどこを狙えばいいのか、皆目見当もついていない。
散弾で殺せるのか。
そもそも、散弾を撃つ時間はあるのだろうか。
撃ったとしても一撃で殺せなければ、こちらの首が文字通り吹き飛ぶ可能性もある。

彼の頭にある知識が恐怖心を駆り立てる。
熊の獰猛さ、膂力、速度。
銃の威力、射程、有効距離。

(・(エ)・)グルル……

視線が合う。
もう、これで逃げられない。
元より背中には岩があり、逃げられはしないが、これで視線をそらすことが出来ない。
相手が空腹なようであれば、オットーは相手の目に晩飯のように映っていることだろう。

(´<_`;)「よぅ、熊」

(・(エ)・)

(´<_`;)「落ち着けよ。
     音楽の話でもしよう」

(・(エ)・)グル……

606名無しさん:2020/10/26(月) 19:18:05 ID:JaZHiVC.0
熊が立ち上がる。

(・(エ)・)ゴアァァァァァ!!

咆哮。
もはやそれ自体が一つの攻撃であるかのような、重みのある声だった。
それで臆するが、それで銃爪を引くことはしない。
これが熊の習性の一つであることを知っていたからだ。

(´<_`;)「エルビス・ジョンのロケットミサイルマンは好きか?」

(・(エ)・)ゴアァァァァァ!!

(´<_`;)「きっと気に入るさ」

ゆっくりと、極めて自然な仕草でショットガンを肩付けに構える。
緊張の為に、銃床が肩に食い込む。
彼の体を動かしているのは本能ではなく、彼を強張らせている知識そのものだった。
正しい知識が正しい反応を導き出す、極めて彼らしい行動だった。

銃腔は熊の胸部に向けられている。
頭部の骨は極めて硬く、正確に脳を狙ったとしても銃弾の種類によっては貫通し得ない。
そのため彼は、狩猟用散弾で熊を即死させられる手段として心臓を狙うことにしたのである。
問題は、距離が近くなければ彼の散弾は分厚い胸骨に阻まれ、悪戯に相手を激怒させる可能性があることだ。

熊がゆっくりと近づいてくる。
立ち上がったその姿は優に二メートルは越えており、不気味に輝く両手の爪はナイフのよう。
座ったまま銃を構えるオットーに退路はなく、体の向きを変えることさえも出来ない。
どちらが強者なのか、改めて考える必要もない。

オットーにできることは、ただ、銃爪を引くべきタイミングで引くことが出来るのを信じるばかりだ。
呼吸が荒くなる。
口の中の水分が失われ、喉が渇く。
僅かな力を指先に込めるだけの作業に己の生死が左右されると思うと、知識や理性は途端に安全志向に暴走を試みる。

(´<_`;)「今日はお前がロケットミサイルマンになるんだ」

そして、オットーは銃爪を引いた。
銃声と反動。
硝煙の匂いと獣の咆哮。
結果が出るほんのコンマ数秒の間、オットーの目に映る光景は全てがコマ送りの映像と化していた。

オットーの放った散弾が熊の頭上にある木の枝を撃ち落とし、興奮した熊が瞬時に四足歩行に切り替える。
第二射を、と考えるオットーの脳とは裏腹に、彼の手はポンプアクションを忘れ、銃爪を何度も引いていた。
鋭い爪がぬかるんだ地面に対してスパイクの役割を果たし、猛烈な加速力を与える。
炎などまるで意に介した様子もなく肉薄する熊。

ようやくポンプアクションを思い出し、装填作業を完了させる。
すでに熊の顔が目の前に迫り、オットーは死を覚悟した。

607名無しさん:2020/10/26(月) 19:19:05 ID:JaZHiVC.0
(´<_`;)「ひっ!」

――しかし、彼が覚悟した苦痛も死も、終ぞ訪れることはなかった。
何の前触れもなく、突如として熊が焚火の上に倒れ伏したのである。
火の粉が舞い上がり、明かりが消え、オレンジ色の輝きがオットーに降り注ぐ。
赤い炭が熊の巨体の下で生き物のように光を放ち、息を引き取るようにその強さを失っていった。

(´<_`;)「はっ……はっ……はっ……!!」

冷めない興奮の中、オットーは己の目が見ている景色がいまだに信じられずにいた。
食い殺されるはずだったオットーは今もこうして呼吸が出来ているが、その理由が全く分かっていない。
熊が突然死するなど、彼は聞いたことがなかった。
何かを確かめるように、オットーはショットガンの薬室を見た。

そこにはまだ弾が残されており、彼が偶然放った一撃が熊を殺したのではないと分かる。
では何が熊を殺したのか。

(,,゚,_ア゚)「おい、オットーさん大丈夫か?!」

懐中電灯の明かりが、突如として現れ、オットーの顔を照らす。
その声は紛れもなくプセのそれだった。

(´<_`;)「は、はい、どうにか……」

(,,゚,_ア゚)「しかし、でっけぇ熊だ……」

懐中電灯で熊の死体を照らし、プセはそう言った。
そして僅かの間の後、彼が表情を変えたのがはっきりと見えた。

(,,゚,_ア゚)「こいつぁ……“チセレラ”……じゃねぇか……」

それは紛れもなく怯えだった。
その怯えはオットーにも微量ながら伝染し、恐怖を再び思い出させる。

(´<_`;)「チセレラ?」

(,,゚,_ア゚)「山神様だよ…… おめぇさん、とんでもない奴を殺しちまったぞ……」

(´<_`;)「い、いや、僕は……」

都会と離れた町には、都会の人間には想像も出来ない価値観がある場合がある。
例えばプライバシーの存在しない生活様式。
例えば隣人に対して無条件で手を貸すという習慣。
そして、例えば――

608名無しさん:2020/10/26(月) 19:20:58 ID:JaZHiVC.0
(,,゚,_ア゚)「山神様を殺したら町にとんでもねぇ祟りがあるって話だ……
     とにかく、山神様をきちんと埋葬しないとならねぇ!!
     おい、今すぐ火を起こせ!!
     ありったけの薪で、山神様を火葬するんだ!!」

――例えば、迷信の類と一笑に付す物事に対しての異常ともいえる信仰心。

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September 12th PM10:22

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609名無しさん:2020/10/26(月) 19:21:49 ID:JaZHiVC.0
ジュスティアの夜は同規模の街と比べても、極めて穏やかなものだった。
ネオンの明かりは控えめで、露出の多い女は街角に姿を見せていない。
ドクオ・バンズはラジオ内で指示された――ティンバーランドの人間にしか分からない暗号で――店を探し、街の中をさまよっていた。
自分がこの街に来て初めての任務を任されるとあって、彼は若干の興奮を覚えていた。

オアシズでは醜態をさらすことになったが、ここで彼は名誉挽回の機会を得ることになった。
世界で最も厳格な街に入り込み、その街で何が任されるのか。
興奮と緊張の入り混じる感情の中、ドクオは夜の街を一人歩く。
指定された店は目抜き通りから離れ、入り組んだ住宅街の一角にあった。

木製の扉を押し開くと、ジャズの音楽と酒の匂いが彼を出迎えた。
店には店主らしき人間はおらず、カウンター席に女が一人座っているだけだった。
それは見知った顔の女だったが、肌の露出が多い服装は初めて見るものだったため、ドクオは一瞬相手が誰なのか分からなかった。

o川*゚ー゚)o「こんばんは、同志ドクオ・バンズ。
       この店には私達しかいないから、楽にしてくれ」

鮮やかな液体の入ったカクテルグラスを指先で弾き、キュートはそう言った。
組織の中でも高位の役割を担っている人間を前にし、ドクオは緊張していた。

('A`)「こんばんは、同志キュート・ウルヴァリン」

見た目こそ金髪碧眼の若い女だが、彼女の冷徹さと容赦のなさはよく知っている。
この状況でドクオが殴り掛かったとしても、決して勝てないことはこれまでに何度も目撃してきた戦闘の光景からも明らかだ。
工作活動のみならず、戦闘行動までも器用にこなせるからこそ、彼女は組織内の上に位置しているのである。

o川*゚ー゚)o「何を飲む? 安酒ばかりだが、いい酒がたくさんあるぞ」

言って、キュートはカウンターの奥の棚に並ぶ酒のボトルを見るように促す。
隙間なく並べられたボトルの中にはなじみ深いものもあれば、高級なボトルもあった。
だが、それを提供する主人の姿がないのは奇妙なことだった。

('A`)「あの、店主は?」

o川*゚ー゚)o「ここは我々の隠れ家の一つだ、店主など最初からいないさ。
       強いて言うなら、私が店主だな」

(;'A`)「な、なるほど……
   じゃあ、バーボンのソーダ割りでも」

o川*゚ー゚)o「ソーダは棚の下の冷蔵庫の中にある。
       バーボンは好きなのを選んで飲めばいい」

カウンターの向こうに入り、ドクオは棚からメーカーズマークを手に取り、グラスに注いだ。
甘いバーボンの香りが鼻孔をくすぐる。
ソーダの瓶を冷蔵庫から取り出してグラスに静かに注ぐと、琥珀色の液体と混ざり合って一つになった。

o川*゚ー゚)o「ひとまず、乾杯といこう」

(;'A`)「は、はい」

610名無しさん:2020/10/26(月) 19:23:28 ID:JaZHiVC.0
グラスを軽くぶつけ、ドクオは一口飲んだ。
対するキュートはカクテルグラスの中身を一口で飲み干し、肉食獣を思わせる鋭い眼光をドクオに向けた。
仲間であるはずなのに、ドクオは寒気を覚えた。

o川*゚ー゚)o「それはよかった」

(;'A`)「それで、私はここで何をすれば?」

o川*゚ー゚)o「なぁに、そう力まないでくれ。
       現在同志たちが捕まっているのは知っているだろう?
       その救出の手助けをしてもらいたいんだ」

ある程度の予想はしていたが、ドクオはそれに対する適切な返答が分からないでいた。
ジュスティアの治安維持能力は万全だ。
その上、どこにいるのか分からない同志を助けるとなると、彼の想像以上の警備網を掻い潜り、情報を収集する必要がある。
仮に戦闘になった場合、無事で済むはずがない。

(;'A`)「具体的にはどのように?」

o川*゚ー゚)o「この世界のルールに則って、だ。
       決行は今夜」

(;'A`)「えっ!?」

o川*゚ー゚)o「場所は分かっているし、私も手を貸す。
       不満か?」

(;'A`)「武器の類は何があるんですか?
    棺桶は持ってきていませんよ」

それを聞いて、キュートは口の端を吊り上げて笑った。

o川*゚ー゚)o「はははっ! 現地調達が基本だろう。
       それに、協力者がいればどうにでもなる。
       何よりここは警察の本部がある街だぞ?
       押収された棺桶がいくらでもある」

席を立ち、キュートは店の奥から二つのコンテナを軽々と持って現れた。
一つは彼女の背丈ほどのコンテナ。
そしてもう一つは、腰までの大きさのコンテナだ。
大きさから察するにAクラスとBクラスの棺桶だろう。

だが中身が分からない。
並みの量産機でジュスティアの警備を突破できるとは思えないが、果たして、キュートはそんなドクオの思惑を察したように見つめてくる。

o川*゚ー゚)o「安心しろ、これは二つともコンセプト・シリーズだ。
       これを使って、同志を救出するぞ」

あまりにも事態が急速に進みすぎているせいで、ドクオの頭の整理が追い付かない。
いくら一緒に行動するとしても、計画も何も聞かされていない以上、軽率に受け入れることはできなかった。

611名無しさん:2020/10/26(月) 19:24:18 ID:JaZHiVC.0
(;'A`)「ど、どうしてまたこんなに急に?」

o川*゚ー゚)o「訊きたいか?
       なら教えてやろう、同志よ。
       我々の存在がいよいよもって相手に嗅ぎ付けられたからだ。
       ジュスティアも馬鹿じゃない。

       セカンドロックでの脱獄、そして先日の奪還の影響で、かなり慎重になっている。
       今夜、移送が行われる。
       確かな情報筋からの話だ。
       これで市街にでも連れ出されてみろ、もう追跡はできないぞ」

その話を聞いて、ドクオは現状の深刻さを理解した。
ジュスティア内には協力者がいるため、ある程度の動きは分かるようになっている。
しかし、その管轄を離れた場合、彼らは同志たちの行方や状況を把握することが出来なくなるのだ。
それに移送されるなら、その移送手段を襲えば施設を襲うよりも容易なはず。

市街地での大規模な戦闘は相手も忌避するところだろうから、これが絶好の機会と言うわけだ。

o川*゚ー゚)o「理解できたな?
       ならば行動するぞ、今すぐに。
       で、どちらの棺桶がいい?」

('A`)「理解できました、同志キュート。
   私に向いているのは、どちらでしょうか?」

ずい、と差し出されたのはAクラスのコンテナだった。

o川*゚ー゚)o「なら、こっちだな。
       丁重に扱えよ。
       お前の持っている“ウォンテッド”と違って、それは名工の品。
       “ノーラン・シリーズ”の中でも、屈指の棺桶だ」

('A`)「……気をつけて扱います」

ノーラン・シリーズは、コンセプト・シリーズの中でも極めて完成度の高い棺桶であり、その精巧な作りは他の追随を許さない。
ティンバーランドの中でもそれを使う人間はおらず、恐らく、ドクオが初めての人間となることだろう。
現存するノーラン・シリーズは不明だが、特筆すべきなのは他のコンセプト・シリーズと違い、あまりにも一点にのみ特化しているという点だった。
例えば、スナイダー・シリーズの“マン・オブ・スティール”であれば、防御に特化したものであるが、多少は攻撃にも転嫁することが出来る。

しかし、ノーラン・シリーズの棺桶はそれすらもない。
仮に防御に特化させるのであれば、徹底的なまでに防御にのみ徹する設計をするため、攻撃手段は排除されるのである。
キュートがちらりと掛け時計を見て、短く息を吐いた。

o川*゚ー゚)o「さぁ、そろそろ時間だ」

('A`)「あっ、コードの認識処理がまだ」

o川*゚ー゚)o「ドクター・ジョーンズが処理してくれている。
       この二機は彼が前から手掛けていた実験の完成形だ」

612名無しさん:2020/10/26(月) 19:24:39 ID:JaZHiVC.0
棺桶の起動には肉声による起動コードの入力が必須だ。
複数の声を登録することも出来るが、それもやはり、肉声の登録が必要になる。
しかし、イーディン・S・ジョーンズはその壁を突破すべく、量産機で試行錯誤の実験を行っていた。
録音した音声を合成し、それを肉声の代わりに登録に利用するという荒業だ。

すでにロストテクノロジーの域にある棺桶の強固なセキュリティを突破し、それを変えた功績は人類史に名を遺す偉業だ。
起動コードを知る組織の人間ならば誰でもその棺桶を使えるという点は、これから先彼らが行う大規模な計画にとって大きな支えとなる。

o川*゚ー゚)o「起動コードはこれだ」

メモを渡され、ドクオはそれを一読する。
完全に覚えたそれをキュートに返すと、彼女はそれを丸めて灰皿の上に置き、マッチで火をつけた。
一瞬で炎が紙を包み、灰すら残らなかった。

o川*゚ー゚)o「さぁ、行くぞ」

('A`)「行きましょう、同志キュート」

そして二人は店を出て行き、静かな街の中を歩き始めた。
不思議とキュートが選ぶ道では誰かとすれ違うことは無く、それどころか、人気がますますなくなっているように思えた。
次第に目が闇に慣れ、建物の輪郭が月と星の明かりだけでもはっきりと視認できるようになった。
やがて、街の明かりが届かない程の外れの方に差し掛かった時、二人の目の前に広がる異様な光景がドクオの意識を引き締めた。

ライトを一切つけないままエンジンをかけたトラックが五台、明かりのない建物の前に停まっている。
更に、その周囲には複数の棺桶が銃火器を持っており、ただ事ではない雰囲気を漂わせている。
その無駄のないシルエットは、光沢のない黒に塗装されたユスティーツだ。
キュートの手引きにより、二人はその集団から死角になる路地裏に身を隠した。

そして、二人は静かに起動コードの入力を行った。

o川*゚ー゚)o『誤算はただ一つ。この私の存在だ』

('A`)『誰でもヒーローになれる。
   少年の肩にコートをかけて、世界は終わりじゃないと教えて安心させるような簡単なことでいいんだ』

ドクオが手に持っていたコンテナが展開し、まるで螺旋を描くようにして板状の特殊合金装甲兼筋力補助装置が彼の体を包んでいく。
口元以外を黒い装甲が包み、特殊繊維のマントが上半身を覆い隠す。
彼の視界に映る夜の世界は日中のそれと変わりがない。
だが、大きく異なるのは視点を変えた時に屋内にいる人間の輪郭がはっきりと見えることと、聞こえてくる人の声の大きさだった。

613名無しさん:2020/10/26(月) 19:25:11 ID:JaZHiVC.0
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                          __ノ斗'ィfvfv}ア’八)斗{. . . . . . . . }、
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                      //,'/} ii:ィ/////〃/////////ヽ. . .{::::j.ヽ ヽヽ
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 /i /i、
( 中|中)

ドクオはこの棺桶が何に特化して作られたのか、一瞬で理解できた。
これは夜間における活動に特化して設計されたのだ。
闇を味方につけ、闇を武器に戦うための装備。
確かにこれなら、ドクオの特技を生かすことが出来る。

対するキュートの棺桶は、Bクラスにしてはかなり小型で、目立った特徴もない。
しかしそれが何に対して特化しているのかは、おおよその想像が出来た。
両手の鋭く長い鉤爪には返しがついており、深緑色の装甲についた切れ込みが何かを内蔵していることは明らかだ。
捕らえることに特化し、その上で何かをするための棺桶なのだろう。

どこか生物じみた造形が機能性を追求した結果なのだとしたら、極めて凶暴で凶悪な性能を有していることだろう。

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                    /
                   //
                /{ __/:::/___
                 /::::/:::_//〉ニ〕iト.,
             //::__/::::/-=ニニニ\
              /::::/i:i:i:i:iVニニニ>‐ミ、-=Y
               /::::::{i:i:i:i:i:i:}ニ=-<ニニニニ{
           {:::::/::≧=彡ニニニニニニニ}
               V^}::/^V:://::〉、-=ニニニノ -へ.
             ^ヽ{::/ハ}/ノ __ノ^>‐ <//////\
              「  ̄__ /::://////////////\_
               〈二ニ==ァ::////////////> ´  ̄ ^\
              ⌒「/7{::::{////////-/=ニニニ=-⌒〕iト
                  _V{/∨//////-= 'ニニ=-  ¨-=ニニニ
               -=/ニ〉Уニ=- ∠-=ミ、/=- /-=ニニニニニニ
              ィi〔ニニ{ニ{/ニ=-/⌒-=ニニ⌒V-=ニニニニニニニ
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614名無しさん:2020/10/26(月) 19:26:06 ID:JaZHiVC.0
( [::]|[::])

黒い布を頭に被せられた人間が五人、その建物から連れ出された。
彼らが奪還しようと考えている人間の数と合致する。
トラックに乗せられる前に動くべきだと考え、ドクオはゆっくりと一歩を踏み出した。
両手を腰に回し、そこから一対の短刀を逆手に持つ。

そして、一気に地面を蹴り込んで加速。
トラックの前で警護に当たっていたユスティーツを蹴り飛ばし、戦端を開いた。

(::0::0::)「しゅ――」

言葉を発し切る前に、覆面をしていた男の体がトラックの荷台にめり込んだ。
隣にいた男の反応は極めて素早く、手にしたカービンライフルを腰だめに構え、銃爪を引いていた。
ドクオが気づいた時にはすでに手遅れで、銃弾は胸部の装甲に着弾した。
銃弾の衝撃がドクオを襲い、たまらずその場から一歩後退する。

閃光手榴弾がどこからか複数投げ込まれ、辺り一帯を爆音と閃光が包み込む。
護衛達が耳ではなく目を庇ったのは、すでに対策を講じていたからなのだろう。
それでも、十分に時間を稼げるとドクオは一瞬だけ考えたが、即座にその考えの甘さを痛感することになった。
彼らが怯んだのは一秒にも満たず、それどころか、片手で顔を庇いつつもドクオに対しての迎撃の姿勢は微塵も揺るがなかったのである。

(::0::0::)「襲撃だ!!」

発砲する手は少しも緩めず、男は油断することなくドクオに銃弾を浴びせかけ続ける。
ドクオに蹴り飛ばされた男も荷台から這い出し、拳銃を抜いて射撃を開始した。
一瞬にして騒然となる現場だったが、ドクオは己の役割を自覚し、それを演じ切ることを決して忘れてはいなかった。
彼の役割は陽動だ。

銃弾を浴びながらも、ドクオも怯むことなく行動した。
強化外骨格だからこそ可能な跳躍を用い、トラックを飛び越え、建物の前に着地する。
すでに対処が始まっており、目視で来ていた五人中、四人がどこかへと消え去っていた。
しかし、残る一人とその警備担当がその場に倒れていた。

閃光手榴弾の光と音を間近で食らったのだろうと推測し、ドクオは黒い布を被せられた人間を担ぎ上げようとする。
その腕を、倒れていた警備担当者の手が掴んだ。

(::0::0::)

何も言わず、ただ、手を掴むだけの覆面の男。
ジュスティア人の矜持と言うものなのだろう。
ドクオはその手を振りほどき、黒い布と共に仲間を肩に担いだ。
直後、覆面の男の頭部が吹き飛んだ。

直前まで男の頭があった場所にはワイヤーのついた鉤爪が突き立っており、ワイヤーの先には当然、キュートの使う棺桶がいた。
体と切り離された頭が地面を転がり、トラックのタイヤにぶつかって止まる。
思わずこみ上げる吐き気を押さえながら、ドクオはその場から離れようとする。
しかし、血の付着した鉤爪が踊るように宙を舞いながら彼女の手元に戻ると同時に、高圧的な声が聞こえてそれを止めた。

( [::]|[::])『目撃者を生かすな』

615名無しさん:2020/10/26(月) 19:26:51 ID:JaZHiVC.0
それは骨伝導を利用した短距離通信装置から聞こえてきたものだった。
囁き声よりも小さな声を拡大し、味方だけにその声が通じるようにするための技術。
もっとも、ドクオの場合は口元が開けているため、読唇術を心得ている人間が読み取るという可能性があるため、可能な限り発言は控えるべきだと判断していた。

 /i /i、
( 中|中)『……』

そのため、ドクオは首を縦か横に振る以外の選択肢がなく、彼は大人しく頷くことにした。
すでにトラックの運転手は全員殺し終えたようで、残りは恐らく目の前の建物の中に逃げ込んだのだと推測した。
ドクオの視界には建物の入り口に仕掛けられた赤外線装置がはっきりと見えており、また、地下にいる人間の輪郭も見えていた。
だが誰も話声を出さないため、彼らの作戦が分からないという点を除けばこちらにとって不利な点は一つもない。

トラックの荷台に担いでいた仲間を入れ、外側にあった閂を力任せに折り曲げ、外部からの干渉を可能な限り妨害することにした。
足元のカービンライフルを拾い上げ、建物に向かって進む。
そして赤外線装置を狙い撃ち、何かしらのトラップを破壊する。
後は目視で来ている人影を追うだけだった。

彼の目に見えている人影は十。
その内、布を被せられている人の輪郭は四つ。
つまり、差し引いた六つの人間が敵ということだ。
カービンライフルの弾倉を見ると、その向こうにある真鍮製の薬莢の数が視認できた。

残り二発しかないライフルを捨てようとした時、キュートがどこからか手に入れた弾倉を二つ手渡してきた。
大人しくそれを受け取り、ドクオは先陣を切って駆けだした。
彼には特技があった。
戦闘は不慣れだが、その分、彼には誰よりも強い生存本能が備わっていた。

視覚でも聴覚でも、ましてや嗅覚でもない第六感的な部分が発達しており、死の気配を感じ取ることが出来るのだった。
今、彼は特に危険を感じていることは無かった。
つまり、彼の命を脅かし得る敵はいないということだった。
彼のこの特技については組織内でかなり高い評価を得ている一方で、戦闘能力の低さが惜しまれていた。

そのため、ドクオは何度も考えることになった。
自分の戦い方。
自分にだけ出来る戦い方。
それは相手の規模が分からない状況下において、誰よりも先陣を切って罠や伏兵を発見するという役割を担うことで、その悩みは解決した。

極めて限られた状況でのみ使うことのできる彼の特技は、言い方を変えれば、捨て駒としての役割に特化していた。
オアシズでドクオがショボン・パドローネを出迎えたのもそういった背景があり、彼がセンサーの役割を担うことによって、回収時の安全を確保することになっていた。
最初、彼らを出迎えた耳付きの少年は脅威に値しなかったが、それでもドクオの本能は早期の撤退を望んでいた。
ショボンを急かしたが、それはあまりにも遅く、理解が足りなかったためにあのような結果を生んでしまった。

死ぬことは無かったが、結果として恥と失敗が残された。
だが、今回は同じ轍を踏まないとドクオは決めていた。
今回は仲間の命がいくつもかかった重要な任務であり、何より、キュートが共にいるということがより一層の緊張感を与えている。

 /i /i、
( 中|中)『他の罠は見当たりません』

( [::]|[::])『なら進め』

616名無しさん:2020/10/26(月) 19:27:27 ID:JaZHiVC.0
ドクオはその言葉を受け、駆け出した。
待ち伏せや罠というのは、相手の猜疑心を利用することで効果を発揮する。
しかし、タネの分かっている手品で人がさして驚かないように、相手が攻勢に打って出ようとしている姿を壁越し、床越しに見ることのできるドクオに余計な恐れはなかった。
階段を踊り場から踊り場まで飛び降りることで、ドクオは移動の時間を極限まで縮めた。
生身ならば反動の大きい行動だが、身に付けているこの棺桶はその反動をまるで感じさせなかった。

灯が消えているであろう屋内を全力で駆け下り、地下に逃げ込んでいる敵を追い詰める。
棺桶が二体、ドクオの跫音に気づいたのか、階段を降りた場所を狙う格好で待機しているのが見えた。
それも分かれば、対処は可能だ。
最後の一つを降り切ったと同時に、ドクオはその場で跳躍して天井にしがみついた。

驚くべきことに片手だけで棺桶を含めたドクオの体重を十分に支え、まるで落ちる気配や兆候の類を感じない。
眼下では恐らくは対強化外骨格用の強装弾による一斉射撃が行われ、床と壁が粉々に砕け散っていく。
こちらの姿は見えていないのか、弾倉を交換し終えるまで、彼らは百発以上の銃弾を無人の空間に放っていた。
驚くべきことに、敵が弾倉を交換しようと弾倉を取り外した刹那。

( [::]|[::])

まるでその全てのタイミングを見計らっていたかのように、キュートが踊り場に着地。
そしてその場から両手を射出し、ライフルを持ったままの敵二人の頭を掴み、引き寄せた。
引き寄せる際に鳴り響いたワイヤーを巻き取る音が絶叫のように木霊し、次いで、本物の絶叫が響いた。

〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『ギャアアアアアア!!』

〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『アガガガァァァァl!!』

何が起きたのか、ドクオの目は全てを目撃していた。
自分と同等の身の丈の棺桶を引き寄せ、二体を同時に抱きしめる瞬間、キュートの使用する棺桶の装甲が花弁のように開き、全身がまるで鮫の口腔を思わせる形状に変化。
そして、抱きしめるその瞬間、装甲の隙間から鋭利な刃が出現し、彼らの装甲に突き刺さったのである。
強固な装甲で知られるジョン・ドゥのそれをいとも容易く貫通したのを見て、それが高周波振動による一撃であるとドクオは看過した。

しかし、それだけでは悲鳴を上げるには不十分だった。
厚みのある装甲を貫くに際し、恐らくだがあの刃はその長さを変え、使用者の体に突き立つように設計されているのだろう。
それ以上の何かが起きているのも間違いない。

( [::]|[::])『先に行け』

耳をつんざく程の絶叫を背にし、ドクオは人型の輪郭の固まる一室へと向かう。
罠を仕掛ける余裕もなかったのか、ただ部屋の中に立てこもっているだけだった。
天井に体を固定させた状態で扉越しに発砲するが、貫通はしなかった。
しかし相手を驚かせる程度には役立ったようで、扉の向こうから銃撃の応酬があったがやはり銃弾は扉を貫きはしなかった。

怯えきったような銃撃はすぐに止み、再装填作業を行う三体のジョン・ドゥが見える。
ライフルを捨てて短刀を構えたドクオは扉を蹴破り、即座に目の前の一人に切りかかった。
高周波振動の刃は若干の抵抗を受けながらも、ジョン・ドゥの左肩から右わき腹にかけて深い傷を与えることに成功した。
装甲を切っただけか、もしくは肉体に到達したかの手応えを感じ取れるほどドクオはまだ戦闘に長けておらず、加えて、未熟な彼にそれだけの時間は与えられていなかった。

〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『死ねっ……!!』

617名無しさん:2020/10/26(月) 19:27:49 ID:JaZHiVC.0
切り倒したジョン・ドゥの背後から、もう一体のジョン・ドゥが姿を現す。
高周波振動の音が響くナイフを突き出し、ドクオは間一髪でそのナイフを左手の短刀で受け止めた。
突き出されたナイフを止められたのは全くの偶然だったが、ドクオにその偶然を甘受する余裕はない。
不意打ちの一撃を防がれたジョン・ドゥは潔くナイフを手放し、悶絶しながら倒れるジョン・ドゥを蹴り上げ、ドクオの視界を奪った。

 /i /i、
( 中|中)『ちっ!!』

ジョン・ドゥの重量を考えれば、ドクオに出来る最善手は押し潰される前にジョン・ドゥを両断すること以外になかった。
高周波刀を使い、腰の付け根から上半身と下半身を分断させる。
内蔵と血の尾を引きながら上半身と下半身が背後の壁に激突した時には、ドクオは控えていた二体のジョン・ドゥに組み伏せられていた。

〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『おぅらっ!!』

〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『ちぇいっ!!』

 /i /i、
( 中|中)『うおっ?!』

そもそもの骨格の違いが、ドクオに抵抗を許さない。
的確に両手両足を押さえつけられているため、四肢は微動だにしない。
棺桶の大きさはそのまま膂力の差に直結する。
AクラスとBクラスの棺桶が力勝負をすれば、結果は見るまでもない。

〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『人質にす――』

しかしそれは一瞬の事。
次の瞬間、ドクオの上にいたジョン・ドゥが二体同時に扉の向こう側に呆気なく引っ張られていった。
金属を削り、湿った肉を叩きつける嫌な音が悲鳴と共にドクオの耳に届く。
数秒続いたその音も、返り血で赤くなったキュートの棺桶が現れたことで、もう続くことは無かった。

( [::]|[::])『まずいことになった』

 /i /i、
( 中|中)『え?』

ドクオは立ち上がりながら、礼ではなくの一言ではなく思わずそんな声を出した。

( [::]|[::])『これは罠だ。
      完全にはめられた』

淡々と吐き出されたのは、憤りのこもった声だった。

 /i /i、
( 中|中)『……』

分かっていた可能性だった。
そもそも移送の話自体が罠の可能性であることは最初から織り込み済みの上で彼らは行動していた。
気がかりなのは、その罠がどういった類の罠なのか、という点だった。

618名無しさん:2020/10/26(月) 19:29:08 ID:JaZHiVC.0
( [::]|[::])『警備に当たっていたのは全員死刑囚だ。
      有用性を証明出来たら、死刑の代わりに軍務につかせる、という契約だったそうだ』

 /i /i、
( 中|中)『じゃあ、ここにいる人間も?』

ドクオたちが同志だと思っていた人間の黒布をはぎ取る。
そこにあったのは、猿轡をかまされた見知らぬ男の顔だった。

( [::]|[::])『恐らく、そいつらも死刑囚だ。
      殺されてもジュスティアに不利益のない奴を選んだのだろう』

全員の布をはぎ取っても、そこに並ぶのはやはり、知らない顔の人間だけだった。

 /i /i、
( 中|中)『こいつらはどうす――』

ドクオへの返答の代わりに、キュートは一薙ぎで彼らの頭を切り落とした。
ほんの一瞬のことに、ドクオは勿論だが、頭と胴体を切り離された男たちも何が起きたか理解できていない表情をしていた。
呆然とした表情のままの頭が地面に転がり、思い出したかのように首から血が噴水のようにあふれ出した。
絶句するドクオとは対照的に、キュートはまるで叱りつけるようにして、ドクオに指示を出した。

( [::]|[::])『分かり切ったことを聞くな。
     それより、ここに閉じ込められる前に撤退するぞ。
     本命は別の場所にあるはずだ』

彼とは違い、キュートはまだ同志の救出を全く諦めていなかったのである。

( [::]|[::])『お前が探しに行け。
     私がこの場を請け負う』

その言葉は有無を言わせぬ力強さがあった。
そして、ドクオは今双方が使っている棺桶の性能を考えても、キュートの言葉が最適解だと理解できた。
頷き、ドクオは来た道を駆け戻った。
増援が来る前に建物を出なければ、この街のどこかにいる同志たちを救援できない。

その思いが、ドクオ本来の筋力を増強させ、増強された筋力を棺桶が爆発的に増長させる。
そして、彼が使用する“ダークナイト”は生来の筋力に左右されるという特性があった。
彼がその特性を知る由もないが、結果として彼は床だけではなく壁や天井を移動の手段として移動する程の速度を得た。
黒い風となり、ドクオは建物を飛び出す。

トラックを踏み台にし、別の建物の屋上へと着地。
これまでに味わったことのない浮遊感に身を包みながら、ドクオはジュスティアの闇夜を駆け抜ける。
月光と街のネオンの明かりが彼を照らすも、誰もその姿を見咎めることはできない。
彼は今、闇と一体となり、肉眼で視認することが最も困難な色彩によって守られているのだ。

夜間戦闘にのみ特化した強化外骨格、“ダークナイト”。
その本質は、使用者の持つ力を闇の世界へと最適化させることにある。
夜の間であれば、紫外線と光を嫌う素材で作られた装甲を使用したその性能は最大限にまで発揮され、闇は彼の味方となる。
跳躍と着地の際に音はほとんど生じず、宙を舞う間、マントは夜の空気を孕んで柔らかな軌跡を描く。

619名無しさん:2020/10/26(月) 19:29:45 ID:JaZHiVC.0
風に乗ってドクオは街を上空から見下ろしながら、移送されているかもしれない仲間たちを探す。
夜が明けるまで、残り一時間となっていた――

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同日 同時刻

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――キュート・ウルヴァリンはこの場に増援が来ないことを知っていた。
この場所で行われようとしていた移送作業が死刑囚を使った罠で、ティンバーランドの人間を誘い込もうとしていたということも。
その作戦指揮が誰の指揮下で行われていたのかも、仔細に至るまで彼女は責任者並みに把握していた。
あえて罠に足を踏み入れたのは、組織の細胞の有能さを知るための試験を兼ねてのことだった。

情報の精度はその人間の有能さと評価に直結する。
世界の中でも極めて重要な場所に位置するジュスティアに配置される細胞は、最低でもキュートの認める優秀さを有していなければならない。
試験の結果はまだ彼女の中で出していないが、概ね決まっていた。
及第点ではあるが、満足のいく結果とは言えなかった。

ドクオには悪いと思っているが、彼が今回の襲撃に関する全ての責任と容疑を被ってもらうしかない。
運が良ければ別の場所で行われる移送作業に遭遇し、奪い返すことが出来るかもしれない。
キュートは今ここで何かしらの容疑をかけられるわけにはいかないのだ。
あの装備を得たドクオであれば、程よく場を混乱させた上に警察に目をつけてもらえることだろう。

建物に何一つとして有益なものが残されていないことを知っている彼女は、焦る様子も見せず、階段を上って行く。
街灯の明かりさえない屋外に並ぶのは、トラックと死体。
扉を壊して荷台に隔離していた人間の始末をすべく、キュートは問題のトラックへと歩みよる。
捻じ曲げられた扉の把手を無理矢理破壊し、中にいた男を引きずり下ろした。

布をはぎ取り、猿轡を取り去る。
目の焦点が合わない程怯えた男は、自分が何をされるのか、おおよその想像が出来ているようだった。
キュートの使用する強化外骨格“アンシンカブル”は、強襲時の情報収集に特化した棺桶だ。
対象を捕獲し、全身に仕込まれた刃や鋭い針を使用して苦痛を与え、装甲の下にある肉体に薬物を撃ち込むことで情報を引き出すことに着目した設計思想を持つ。

間違いなく戦闘には不向きな棺桶だが、相手から即座に情報を引き出すことに関しては同じ設計思想の物は存在しない。
唯一無二の拷問特化の棺桶。
密かに敵地に単独で潜入し、少しずつ情報を引き出すことが出来ればそれだけで戦局を逆転させることも可能だ。

620名無しさん:2020/10/26(月) 19:30:09 ID:JaZHiVC.0
( [::]|[::])『話せ、全てを』

そして、キュートは淡々と尋問を始めた。
かつて生存本能を脅かすために使用と製造が禁じられ、その製造方法を入手した彼女の組織が復元に成功した自白剤が容赦なく投与される。
男は最初から抵抗する力もなかったが、その自白剤によって全ての情報が吐き出された。
最後には自分の生まれ育ちについてまで喋り始めたため、キュートはそれ以上の情報が得られないと考え、男の頭を握りつぶした。

これで目撃者は一人も生存することなく、概ね彼女の予定通りの展開になった。
後はドクオが移送される同志たちを見つけられるかが今夜の問題だったが、恐らく、望み薄だろう。
彼は生存するための能力には長けているが、戦闘に関して、それが活かされた試しがない。
いくら“ダークナイト”が優れた棺桶であっても、使用者がそれに見合っていなければ、意味がない。

キュートにとって、同志の救出はほぼ不可能なものだと割り切っている部分もあった。
それでも、諦めているわけではなかった。
仮に移送の情報が罠だったとしても、これだけの騒ぎを起こせる存在が街に入り込んでいることに危機感を覚え、本当に移送を始めるかもしれない。
だが少し頭を使えば、こちらが正確な情報を持っていないことが分かる。

この偽装工作がこちらの手の内を知るための物だとしたら、その効果は十分に発揮されたことだろう。
ジュスティア警察内で重要な役割に就こうとしているキュートにとって、この展開は望ましいものではなかった。
目立った騒ぎが起きれば、疑いの目が向けられないとも限らない。
特に、トラギコ・マウンテンライトの様に勘の鋭い警官が他にいれば、警察の押収品から消えた二つの棺桶とキュートの行動を結び付けられるだろう。

苦労して手に入れたジュスティア警察との強いパイプは、まだ手放すには惜しい。

「派手にやったな」

暗がりの中から一台のセダンが現れ、僅かに窓の開いた運転席からそんな言葉がかけられた。
ナンバープレートが外され、車体番号も削り取られているだろうその車は全面がスモークガラスで、運転手が誰なのか分からないようになっている。
声をかけてきた男のセダンはキュートのすぐ隣に停車し、エンジンが切られた。

「それで、収穫は何かあったか?
同志キュート」

( [::]|[::])『時間の浪費だけだ』

今回の情報を流したのはその男だった。
男はジュスティア内でも高い地位にいる人間で、機密情報に触れる機会が極めて多く、重宝していた。
作戦責任者その人が組織の人間だとは、ジュスティア上層部は夢にも思うまい。
彼を引き入れるのはそう難しい事ではなかった。

彼には理由と積み重ねがあったため、後押しするだけで事足りたのである。
その下準備は以前から計画的に行われ、キュートがジュスティア警察に入り込んだことが最後のひと押しだった。
ジュスティア警察内部に入り込むことに成功したのは極めて大きな成果であり、おかげでこれから先の計画が円滑に進むことは約束された。

「それならもう少し穏便に頼む。
後始末をする身にもなってくれ」

キュートはその言葉を鼻で笑った。

( [::]|[::])『なら、自分でやるか正確な情報をよこせ』

621名無しさん:2020/10/26(月) 19:31:51 ID:JaZHiVC.0
「一人は救出できたのだからいいだろう?」

( [::]|[::])『いいや、救出できなかった』

「何? 何故だ、一人はその場にいたはずだぞ」

( [::]|[::])『あぁ、そうらしいな。
      だがお前からの情報では、移送される人間の中にいる、だった。
      警備の中にいるとは聞いていなかったぞ』

キュートは数歩進み、地面に転がる生首の一つを掴み上げた。
そして、半分脱げかけていた覆面を完全にはぎ取る。
そこにあった顔は、キュートの知る人間のそれだった。
首をはねた際に偶然に横目で見た程度だったが、彼女が危惧した通りの結果がそこにあった。

( [::]|[::])『……カラマロスだ』

それは、人相が変わる程暴行を受けたカラマロス・ロングディスタンスだった。
ドクオの腕を掴んだのは何かを訴えかけようとしたのかもしれない。
今となってはもう分からない。
知らなかったこととはいえ、彼に直接引導を渡したのはキュートだった。

この結果を知れば、ジュスティア上層部は大喜びだろう。
ジュスティア内部の裏切り者を労せず処分し、こちら側に対して打撃を与えることが出来る。
餌としてはこれ以上ないぐらいに、有終の美を飾ったのである。
組織としては優秀な狙撃手を失ったことになり、彼らが予定していた歩みに僅かな歪みが生じてしまった。

その歪みがいつか大きな問題に発展する可能性は、決してゼロではない。
不確かな情報を信じてしまったこちらの落ち度でもあるが、これは許されることではない。

「君のアリバイは私が証言する。
それでどうにか留飲を下げてくれ。
万事上手くいく」

( [::]|[::])『これはわざと、ということは無いだろうな?
      陸軍の汚点を体よく消そうとしたなんて考えがあるなら、今ここで殺すぞ』

キュートの言葉に対する返答は、先ほどまでと変わらない声色のままだった。

「そんなことは断じてない。
それなら私がこの手で直接やるさ」

その言葉が真実を語っていたとしても、キュートには何の慰めにもならない。
この状況がこれ以上悪化しないためには彼の協力が必要不可欠であることを知るキュートは、どうにか怒りを自制することにした。
ここで発散させた怒りが生み出す利益などたかが知れている。
あくまでも冷静に対処し、この街に盤石な根を張り巡らせる。

622名無しさん:2020/10/26(月) 19:32:15 ID:JaZHiVC.0
それが、彼女とこの街にいる細胞たちの目的だった。
街に薬物を広めているのも、警察の捜査が別の方向に向くようにという程度の嫌がらせだ。
中毒性の高い薬物は街の根幹を腐らせる手っ取り早い手段の一つであり、ジュスティアが最も嫌う犯罪の一つでもあった。
根の先から徐々に腐らせれば、自ずとこちらにとって好ましい状態になる。

( [::]|[::])『だろうな。 ともあれ、この襲撃を誰に押し付けるつもりだ?』

「簡単だ。 死刑囚たちが脱走を図った時の為の保険が作動した、とすればいい。
爆殺処理にすれば万事解決だ」

対策を訊きはしたが、キュートが直接何かを出来るわけではない。
精々その方策に対して口出しする程度で、実際の実行は目の前の男が一任されているのだ。
この罠の計画は彼の上から降り、彼はそれを動かすための指示をいくつか部下にした程度ではあるのだが。

( [::]|[::])『杜撰なシナリオは疑いを深めるだけだ。
      場合によっては私が修正を加える。
      まぁ、精々期待しているぞ』

車の主は返事の代わりにエンジンをかけた。
窓が下げられ、男の顔が月下に照らされる。




( ,,^Д^)「ではまたな、同志キュート」




( [::]|[::])『ではまた、同志タカラ』




ジュスティア軍元帥、タカラ・クロガネ・トミーを乗せたセダンは暗闇の中に消えていった。




━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
Ammo→Re!!のようです
Ammo for Remnant!!編


第四章【Remnants of fire-火の断片-】 了
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

623名無しさん:2020/10/26(月) 19:32:36 ID:JaZHiVC.0
これにて今回の投下は終了です
質問、指摘、感想などあれば幸いです

624名無しさん:2020/10/26(月) 20:20:55 ID:Qlwp7dr.0
おつ

625名無しさん:2020/10/26(月) 21:34:20 ID:hoSkTJ1M0
おつです!

626名無しさん:2020/10/26(月) 22:00:47 ID:/BVltV960
おつ!
ああもうだめだジュスティア…

627名無しさん:2020/10/27(火) 21:21:27 ID:5hJuuiAo0
おつ
流石兄弟やるのはギコだと思ったけどなんか恐ろしい方向になってきたな

628名無しさん:2020/10/28(水) 10:47:49 ID:KHNSj5r60
タカラトミーか

629名無しさん:2020/10/28(水) 19:34:55 ID:Byd8xCMo0
おつです
ドクオ今作でも女の尻に敷かれてる感がw

630名無しさん:2020/10/28(水) 22:43:13 ID:WKFxwtCA0
ドクオはなんとも言えない性能だなぁ
輝く日は来るのだろうか

631名無しさん:2020/10/30(金) 19:08:08 ID:ARkJPWL.0
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_2639.jpg
今回活躍した二人組のイメージ図

632名無しさん:2020/11/01(日) 18:25:25 ID:gB4fqn/o0
乙乙
元帥クラスが組織側かよ……

633名無しさん:2020/11/01(日) 18:26:28 ID:gB4fqn/o0
>>594
そういえばこのレスの「残された」の後文章抜けてない?

634名無しさん:2020/11/01(日) 18:45:20 ID:UFfYqD7.0
>>633
うわおおおおおおおおおおお!!
抜けてるううううう!!


部位を意識する機会を得たのだと発想を変えたのだ。


が抜けてるううう!!
まとめの方で修正しておきます……ありがとうございます……

635名無しさん:2020/12/15(火) 22:13:05 ID:iSlej8rc0
そろそろ来ないかなー

636名無しさん:2020/12/25(金) 21:59:39 ID:iHTMixOA0
次の日曜日にVIPでお会いしましょう

637名無しさん:2020/12/29(火) 12:48:05 ID:Bar5ta2I0
こっちでも待ってる

638名無しさん:2020/12/29(火) 16:21:48 ID:QMG37kGc0
┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

不運なのはその夜の出来事を目撃した人がいないこと。
幸運なのはその夜の出来事を目撃した人がいないこと。

                       当事者と、私以外に。

                    ――ジュスティア警察所属カメラマン アサピー・ポストマン

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻

September 12th PM11:05

月光の下、真黒な強化外骨格に身を包んだ男がジュスティアの街を駆ける。
夜の世界は彼を歓迎し、彼の強化外骨格は闇を味方に付けていた。
眼下に広がる街並みと星空を映し出したかのような景色を凝視し、ドクオ・バンズは根気強く、そして辛抱強く音と映像に神経を集中させていた。
彼の使う強化外骨格は周囲の光量が低ければ低いほどその性能を発揮することが出来るが、例え街の明かりであってもその姿を照らすことがあれば性能は低下する。

ドクオは棺桶――軍用第三世代強化外骨格――の性能について説明を受けたわけではないが、彼の知識の中に思い当たる物があった。
すでに逮捕、投獄、処刑まで済んだとある犯罪者が使用していた“ダークナイト”と呼ばれる棺桶だ。
Aクラス独特の軽量さと運搬の容易さを実現するため、板状の特殊装甲を鱗のように身に纏うものは世に出た物ではこれが唯一だった。
更に、闇の中でしか満足に性能を発揮できないその条件に合致するのは、やはり彼の思い浮かべた名前の物しかない。

そのため、ドクオは光から遠ざかる為に建物の屋上を移動することで、確実に彼の目的である同志たちの移送作業を見つけ出せるようにしていたのであった。
すでに移送が完了している、あるいは、移送作業自体がブラフである可能性は理解していた。
そして、自分が半ば捨て駒として動いていることもまた、理解していた。
理解はしていたが、諦めてはいなかった。

確かに彼は戦闘能力では組織の下から数えた方が早いが、彼の精神力と胆力は上から数えた方が早い。
弱者だからといって、彼が何かを諦める理由にはならないのである。

 /i /i、
( 中|中)

移送作業を行うのであれば、人気のない場所で行われているはずだと考え、彼は路地裏や人通りのない個所を重点的に見て回っていた。
ジュスティアの地図を全て記憶するのは時間的に不可能ではあるが、夜の間であれば、人の数が少ない場所を見つけ出すのは昼間よりも容易である。
風にはためく漆黒のマントは彼が跳躍すると同時に硬化し、翼として彼に滑空能力を授けた。
高所から落ちるも、夜の空気を孕んだ翼が彼の体を飛翔させる。

そして光から遠ざかるたびに聴覚センサーが周囲の音を拡張し、視覚センサーと連動して建物の影に隠れた人影や車両を青白い輪郭で描写する。
こうしてドクオは街の流れを見て、不自然に人気がない、流れが止められている場所などを見つけ出し、的確に移動を続けていた。
闇雲ではなく、理屈を持った移動は彼自身が考え出したものだった。
例え捨て駒だとしても、最優秀の捨て駒でありたい。

それは彼の意思を仲間たちが必ずや活かしてくれると理解し、信頼しているからだ。
覚悟を済ませた彼にとって、最も恐ろしいのは死ではなく彼らが見ている同じ夢を見られないことだった。
街の南端に近い場所まで移動を終わらせた頃には、日付が変わるまで残り三十分となっていたが、ドクオはまだ見つけられないでいた。
だが情報がない以上、彼が焦る必要はどこにもなかった。

639名無しさん:2020/12/29(火) 16:22:11 ID:QMG37kGc0
正確な時間も場所も、真偽さえ不明な今出来ることはとにかく動くことしかない。
先ほどの襲撃が関知されたことによって中止となったかもしれない。
全ては想像の域を出ないため、正解と呼べる行動は無いに等しい。
今は継続して行動することが、唯一の正解なのかもしれない。

――その時は突如として訪れた。

 /i /i、
( 中|中)「ん?」

着地する予定のビルの屋上に、人影が一つ。
一人の人間が、まるで彼を出迎えるように立っているのを見咎めた。

 /i /i、
( 中|中)「……」

着地し、ドクオは相手に声をかける愚を犯さなかった。
肉声を多少は変換させる装置がついているとは言っても、声紋を利用して個人を判断されてしまえばジュスティアから脱出することが困難になる。
事前の情報で、ドクオはジュスティア警察が声紋を個人判別の方法の一つとして取り入れていることを知っていた。
眼前に佇む人間がティンバーランドの人間ではないのは明らかで、その人間が誰なのか、彼は承知していた。

スラックスに袖を捲ったワイシャツ、そしてベスト。
戦いをするための格好とは程遠く、まるで屋上で喫煙を試みる会社員の様だった。
だが漂わせるその圧倒的な存在感は、紛れもなく戦に慣れた人間のそれ。

爪'ー`)y‐「やぁ、初めまして」

火のついていない葉巻を咥える男は、ジュスティア市長フォックス・ジャラン・スリウァヤ。
世界の正義を名乗り、世界の正義を実行する街の最高権力者。
間違いなく世界中のテロリストがその死を願う存在であり、ティンバーランドにとっての大敵だ。

爪'ー`)y‐「私のことは紹介する必要があるかな?
      一応、礼儀として名乗っておこう。
      ジュスティア市長のフォックス・ジャラン・スリウァヤだ。
      覚えておくといい」

ドクオは高周波振動装置がついたナイフを構えた。
ここで殺せるのならば、この男を殺した方が組織にとっては利益になる。
だが、今彼がするべきことではなかった。
非武装に見えるフォックスだが、仮にもジュスティアを束ねる人間である以上、イルトリア人並みの力があると考えるのが自然だ。

 /i /i、
( 中|中)

爪'ー`)y‐「さて、君の名前は何と言うのかな?
      礼節をわきまえている人間だと嬉しいんだが、どうだろうか」

640名無しさん:2020/12/29(火) 16:22:33 ID:QMG37kGc0
ドクオは無言のまま、すり足で一歩前に出る。
市長が単独でこの場にいるはずがない。
必ず何かの罠が仕掛けられていると判断し、慎重に、かつ迅速な行動が必要だ。

爪'ー`)y‐「なるほど、沈黙と前進。
      それが返事かな?
      どうやら君は仲間よりはガッツがありそうだが、いささか勇往が過ぎるな。
      引き際は心得た方がいい、糖尿病に次ぐ早死にの原因だ」

ドクオは歩みを止めない。
フォックスの口から紡がれるのは挑発の言葉だ。
耳を貸す必要はない。
挑発で時間を稼いだりタイミングを掴んだりするのは良くある話だ。

そのタイミングを狂わせることが出来れば、相手の虚を突ける。

爪'ー`)y‐「あの場にいた全員を殺したのかな?
      可哀そうに、せっかくカラマロスは自由を手に入れたのに、仲間に殺されるとはね。
      彼は信じていたよ、仲間が助けてくれる。
      仲間なら気づいてくれるってね」

足が止まった。

爪'ー`)y‐「君たちの仲間だろ?
      カラマロス・ロングディスタンス。
      せっかく助けてもらえると思ったのに殺されるとは、哀れと言う他ないよ。
      結局、君たちが思う絆とかそう言った言葉が意味を持たないってよく分かるね」

 /i /i、
( 中|中)『……お前っ!!』

爪'ー`)y‐「ようやく口を開いてくれたね。
      だがこれは事実だよ。
      それともう一つ教えてあげよう。
      移送はしない。

      今日はご苦労だったね」

フォックスがマッチを擦り、葉巻に火をつける。
絶好の機会だったにも関わらず、ドクオは身動き一つ取れなかった。
自然な動作の中に潜んだ危険を、彼の本能は感じ取っていたのである。

爪'ー`)y‐「ふぅ……
      さぁ、どうする?
      私を捕らえて情報を聞き出すかね?
      人質としては十分な価値があると自負しているのだが」

明らかな挑発の言葉に、ドクオは心を落ち着けるようにして言葉をゆっくりと吐き出す。

641名無しさん:2020/12/29(火) 16:22:56 ID:QMG37kGc0
 /i /i、
( 中|中)『その必要はない』

爪'ー`)y‐「いい心がけだ。
      だが、私は君を捕らえて色々とお話をしたいのさ。
      少なくとも、カラマロスよりは情報を聞かせてくれよ?」

殺すしかない。
ドクオはそう考えた。
短絡的にも思える判断だったが、殺す以外の方法でこの場を切り抜ける術を彼は知らなかった。
すでに最初にドクオが確保した可能性のある時間は失われ、今や完全に相手のペースに飲まれている。

その関係を打破するにはフォックスを殺すほかない。

 /i /i、
( 中|中)『なら取っておきの情報だ。
      ジュスティア市長は明日から別の市長になるらしいぞ』

深く踏み込み、刹那に加速する体勢に入る。
それを見て、フォックスは馬鹿にした風に言った。

爪'ー`)y‐「へぇ、そりゃあいい情報だ。
      ならここで私から君に情報のお礼をしないとならないな」

フォックスは紫煙を吐き出し、頬を釣り上げた。

 /i /i、
( 中|中)『何?』

爪'ー`)y‐「お前がどうやって保管庫からそれを盗み出したからはさておいて。
      それは、我々が押収した物だ。
      そう。
      我 々 が 押 収 し、 分 析 し た 物 だ よ。

      そして、それを使っていた犯罪者を捕らえたのも我々だ。」

瞬間、ドクオの見る世界が全て白に染まった。
日中に叩き落されたかのような光がドクオに浴びせられたが、視界が奪われたのは一瞬だけだった。
しかし、ドクオが驚愕したのは彼の意思とは別に棺桶が力を失い、その場に膝を突かざるを得なくなったことだった。
視界が正常に戻り、自分の周囲に設置されている投光装置の存在に気が付く。

 /i /i、
( 中|中)「な、何っ……?!」

光を背に、フォックスは薄ら笑いを浮かべたまま答えた。

爪'ー`)y‐「ま、こういう芸当に弱いことも我々は知っている。
      こうなってしまえば、君に逆転の道はない。
      さぁ、それでも立ち向かうかい?」

642名無しさん:2020/12/29(火) 16:23:56 ID:QMG37kGc0
葉巻の甘い香りが鼻孔をくすぐる。
それはまるで挑発のようにも、甘言のようにも思えた。
あまりにも危険な感覚に、ドクオは躊躇なく撤退の道を選ぶことにした。

 /i /i、
( 中|中)「ちいっ!!」

光によって力を失ったのであれば、闇に逃げるしかない。
ドクオにとって現状は命の危機を覚えるほどの何かがあるわけではなかったが、留まることが正解とは思えなかった。
筋力補助の機能さえ失った棺桶は、ただの鈍重な枷にしかならない。
ドクオは己の力を奮い立たせ、屋上の縁に向かうことにした。

ゆっくりと立ち上がり、ふらふらと後退する。
棺桶を脱ぎ捨てて逃げ出した方が早く移動できるが、自らの姿を晒した上に命を危険にさらすことになる。
生身の徒歩と同じ速度で移動するドクオの背中に、フォックスの声が投げかけられる。

爪'ー`)y‐「うん、いい判断だ。
      この状況ではそれが正解だ。
      そう、それが正解なんだよ。
      正解は大歓迎だ」

フォックスはまるで動じることなく、ドクオを見つめている。
演技めいて聞こえたその言葉は全て台本が用意されているかのようで、危機感が含まれているとは全く思えない。
そう思った時にはすでにドクオの体は屋上の縁から地上に向けて落下を始め、力を取り戻した棺桶のマントが滑空の為に硬化を始めていた。
しかし。

だがしかし。

爪'ー`)y‐「だけど、それは悪手だ」

ドクオの体は中空で止まり、それ以上落下することは無かった。
極めて細い繊維で作られた網が彼の体を捕らえており、身じろぎするたびにその繊維が装甲の隙間に入り込むようにして彼の体に絡みつく。
板状の装甲故に、必然的に角の多い姿が災いしたのだ。
再び強烈な光が頭上から浴びせられ、筋力補助の機能が失われる。

靴の踵が地面を軽やかに叩く音とともに、逆光の中、フォックスが縁からドクオを見下ろす。
その手には大口径の拳銃が握られ、銃腔がドクオの顔に向けられているのが分かった。

爪'ー`)y‐「君が取るべきだったのは、不正解でも私に立ち向かうことだった。
      さぁ、遊びは終わりにしよう」

回転式拳銃の撃鉄が起こされ、ドクオは死を覚悟した。
両手は網に絡めとられ、露出している口を守ることができない。
この距離であれば外すこともない。
生身の個所を狙われればそれだけで絶命するだろう。

 /i /i、
( 中|中)「ぐっ……!!」

643名無しさん:2020/12/29(火) 16:24:38 ID:QMG37kGc0
銃声が響き、ドクオは頭部に凄まじい衝撃を感じた。
頭を直接殴られたかのような衝撃だったが、それを感じられるということは、ドクオの首はまだそこにあるということだった。
現に、ドクオはまだ絶命していなかった。
頭部を守っていたヘルメットの半分が失われ、夜風が頬を撫でる。

爪'ー`)y‐「……と、言いたいところだが。
      私は君をここで見逃してやろう」

 /i /i、
( 中| `)「は?!」

フォックスは拳銃をホルスターに戻し、代わりに携帯灰皿を取り出した。
葉巻の灰をそこに落とし、葉巻を咥え直して深く息を吸い込む。
紫煙と共に、フォックスが言葉を吐き出した。

爪'ー`)y‐「まぁこれは仁義の問題でもあってね、実は君たちの一人と取引したのさ。
      今後情報をこちらに流す代わりに釈放してくれ、ってね。
      君のような雑魚を捕まえたところでこちらに利益はないだろうから、私が見逃してやろうと言っているのさ。
      さぁ、この街から今すぐ出て行ってくれたまえ。

      街から西に約三マイル、いや、五キロメートル、と言えば分かるだろう?
      そこにトラックが停まっている。
      後一時間もすればそのトラックは自動的に爆発するようにしてあるんだが、果たして内側から開けられたかは確かじゃないんだ。
      誰かが手を貸さない限り彼らはまとめて木っ端みじんになるんだが、手を貸そうという優しい誰かがいないものかなぁ」

それはつまり、捕まっている人間の中に裏切り者がいるということを意味していた。
その話を受け入れることは到底できない。
彼らは誰よりも今の世界を憂い、その意志の元にティンバーランドに参入したのだ。
裏切り者は、彼らの歩みを狂わせる存在だ。

あり得ない話だが、フォックスがドクオを見逃すのもまた、あり得ない話だった。

爪'ー`)y‐「私の気が変わる前に逃げないのなら、先にそう言ってくれ。
      この状態で君を殺すのはあまりにも容易だし、君を捕まえるのは言うまでもない。
      今度は正解を選ぶことを期待しているよ」

 /i /i、
( 中| `)「……っ!!」

そしてドクオは――

644名無しさん:2020/12/29(火) 16:26:09 ID:QMG37kGc0
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Ammo→Re!!のようです
Ammo for Remnant!!編
第五章【Remnants of storm -嵐の断片-】

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645名無しさん:2020/12/29(火) 16:27:18 ID:QMG37kGc0
(=゚д゚)「やっぱりデレシア達が絡んでいたラギね」

情報収集は二手に分かれることで、より正確なものが得られた。
オサムは現場にいた人間からの情報を聞き出し、トラギコは警察官から情報を引き出した。
難事件解決担当“モスカウ”に所属するトラギコの身分はここで遺憾なく発揮され、市長が隠蔽しようとしていた真実も全て聞き出すことが出来た。

( ゙゚_ゞ゚)「やっぱり、ってことは何か確証があったのか」

(=゚д゚)「いいや、そんなものはないラギ。
    ただ、俺の勘が正しかったのが証明されたってだけラギ。
    あいつらはここを経由して、西に向かっているはずラギ」

( ゙゚_ゞ゚)「イルトリアに行くんならここを通るだろうからな。
     俺たちを足止めするためにこんなことをしたのか?」

(=゚д゚)「いや、その可能性はまずないラギ。
    俺たちはあの女にとってみれば雑魚ラギ。
    それに、そんな小細工をする奴じゃねぇラギよ」

もしもデレシアが足止めをするのであれば、この程度では済まないはずだ。
むしろ、足止めではなく命を止めるだろう。

( ゙゚_ゞ゚)「警察官らしい分析だな。
     それで、この後の予定は?」

(=゚д゚)「腹減ったラギ。
    さっき、こっちに美味い料理屋があるって聞いたからそこに向かってるラギ」

防寒対策をしているとはいえ、長時間外で聞き込みをしていれば体が芯から冷えてしまう。
内側から温めるには、夜食をとるのが一番だ。
二人は坂道を登り、岩に埋もれるようにして並ぶ店の中から赤い暖簾と看板を持つ店を選んだ。

( ゙゚_ゞ゚)「何だ、この店」

(=゚д゚)「お前、餃子って知ってるラギか?」

( ゙゚_ゞ゚)「あぁ、知ってる。
     ビールにあうあれだろ?」

(=゚д゚)「ここの餃子が美味いらしいラギ。
    前に美味い餃子を食ったことがあってな、丁度今喰いたい気分ラギ」

( ゙゚_ゞ゚)「へぇ、そりゃ気になるな。
     俺の経験上、暖簾が良い感じに汚れてる店は信頼できるんだ」

(=゚д゚)「俺の経験上でも、同じ答えが出ているラギ。
    よっしゃ、喰って寝て、明日に備えるラギよ」

646名無しさん:2020/12/29(火) 16:28:04 ID:QMG37kGc0
二人が店の暖簾をくぐって中に入ると、暖房の効いた空間が二人を出迎えた。
店の中には常連と思われる客以外に、トラック運転手と見て分かる風体の男たちが大勢いた。
皆、トラギコたちと同じようにしてこの場に足止めを食らった人間達に違いなかった。

「いらっしゃい」

(=゚д゚)「二人ラギ。
    席は別々でもいいラギ」

( ゙゚_ゞ゚)「二人だ。
     席と会計は一緒にしてくれ」

「空いてるところに座って」

店員はぶっきらぼうにそう言いつつも、空いている場所に目を向ける。
カウンター席が空いていた為、トラギコとオサムは並んで座った。
メニューを一目見て、トラギコはすぐに注文をした。

(=゚д゚)「ビールと焼き餃子を頼むラギ」

( ゙゚_ゞ゚)「俺もそれで頼む」

「あいよ」

厨房から聞こえる金属と金属がぶつかり、何かが炒められる心地のいい音が聞こえてくる。
店の中だけ日中の賑わいを保っており、漂う香りは食欲を刺激する。
大ジョッキに並々と注がれたビールが置かれ、炒り豆が盛られた小皿が次いで置かれた。
揃ってジョッキに手を伸ばし、無言でそれをぶつけ合い、一気に飲み始めた。

(=゚д゚)「ぷはー!!」

( ゙゚_ゞ゚)「んふー!!」

小皿の炒り豆を手掴みで食べ、再びビールを喉に流し込む。
無言のままビールと豆を胃袋に落としていく。
ほどなく、彼らが注文した焼き餃子が運ばれてきた。

(=゚д゚)「こりゃあ美味そうラギ」

タレを付け、焼き立ての餃子を一口で頬張る。
香ばしく焼き目のついた皮は厚みがあり柔らかく、中のキャベツとニラ、そして白菜とひき肉から染み出した旨味の汁が口中に広がった。
熱湯の様なその汁をビールと共に飲みこみ、トラギコたちは舌鼓を打った。

(=゚д゚)「うめぇラギ!!」

( ゙゚_ゞ゚)「あぁ、こりゃ美味いな」

(=゚д゚)「オアシズで食ったのと同じぐらい美味いラギ」

647名無しさん:2020/12/29(火) 16:29:17 ID:QMG37kGc0
次々と餃子を口に運び、ビールで流し込む。
ジョッキを空にしたトラギコは軽くげっぷをし、オサムを見て話を切り出した。

(=゚д゚)「さて、次の話をするラギよ」

( ゙゚_ゞ゚)「次?」

(=゚д゚)「この街でちょっと探し物をすることにしたラギ」

( ゙゚_ゞ゚)「んだよ、それ」

(=゚д゚)「下で見つかった物、ありゃあ間違いなく人を殺すことにしか使わないようなもんラギ。
    それを輸出することになった経緯を調べるラギ」

( ゙゚_ゞ゚)「それをするメリットはなんだ?」

二人の関係は警察と犯罪者であり、利害の一致があって今は行動を共にしているに過ぎない。
オサムがトラギコの協力をする義理はないが、彼の言う通りメリットがあるのならば話が変わってくる。

(=゚д゚)「これから先の事に繋がるかもしれない、って程度ラギね」

( ゙゚_ゞ゚)「それは俺も必要か?」

(=゚д゚)「さぁな。 だけど、ちったぁデレシアのことが分かるようになるかもしれねぇな」

( ゙゚_ゞ゚)「なら手を貸す。
     具体的には何をすればいい?」

即答だった。
だがトラギコは一度会話を止めて店員を呼び、新たな酒を注文した。

(=゚д゚)「超強烈レモンサワー」

「あいよ」

酒は一分もせずに運ばれ、トラギコは一口で半分を飲み干した。
口中に広がるレモンの酸味と炭酸が、疲労による思考の濁りを除去し、透明にする。
声のトーンを僅かに落とし、トラギコは言った。

(=゚д゚)「この街にいる細胞を見つけ出すラギ」

( ゙゚_ゞ゚)「例の組織のか……」

(=゚д゚)「あぁ。 俺の勘じゃ、十中八九連中が絡んでるラギ。
    足取りがつかめないようにしてるだろうが、必ず共通点があるはずラギ。
    で、だ。
    その情報を得るための方法なんだが」

( ゙゚_ゞ゚)「待て、俺も酒を頼む。
     おい、超強烈梅サワーだ」

648名無しさん:2020/12/29(火) 16:30:49 ID:QMG37kGc0
「あいよ」

注文した酒は再び一分以下で提供され、オサムもジョッキの半分を一口で飲んだ。

( ゙゚_ゞ゚)「げふっ、よし、続けろ」

(=゚д゚)「街の流通は管理されていないから、ぶっちゃけザルラギ。
    だけど、今は状況が違うラギ。
    本来なら通り抜けるだけのトラックが立ち往生してる上に、抜き打ちみたいな検査を受けているラギ。
    ってことは、だ。

    積み込んでたものを投棄しようとする連中がいるはずラギ」

汚い爆弾は一発だけでも相当な被害を与えることが出来る代物だ。
それを一か所に揃えるとは考えづらいことから、トラギコは彼らが小分けにして運送し、現地で必要な量を揃えるのだろうと考えた。
普段はあまりにも微量故に見逃されていた原料も、この検査をすり抜けられる保証はない。
運送業の傍らで小遣い稼ぎをする輩に忠誠心があるわけもなく、ならば、この地で積み込んだ汚い爆弾の原料は投棄するのが賢明だ。

投棄をするには警察の目の前では不可能であり、それを防ぐためにジュスティア警察とイルトリアの警備会社の人間達が街を歩き回っている。
それでも、彼らは投棄をしたいはずだ。
街によっては所持しているだけで極刑が言い渡されるだけの危険な物であることは、運送業の人間ならば必ず知っている。

( ゙゚_ゞ゚)「駐車場か」

(=゚д゚)「多分、捨てるならそこラギ」

発見された採掘場の付近に捨てれば、自分の物でないと言い逃れをすることが出来る。
恐らく、ジュスティア警察もそれを見越して人員を割いているだろう。
絶好の水場を無駄にしないために、彼らは投棄した人間を離れた場所で確保し、隔離しているはずだ。

(=゚д゚)「後は、ジュスティア警察がそこで捕まえた連中がいる場所に行くラギ」

( ゙゚_ゞ゚)「警察のあれやこれはよく知らないんだが、そう簡単に情報を流してくれるもんなのか?」

(=゚д゚)「契約上、流せねぇだろうな」

警察はあくまでも雇われた存在であるため、その行動は街との契約に準じることになる。
普通に考えれば街の中で起きた問題の情報は秘密とされ、決して部外者に伝えられることは無い。
その契約を守るからこそジュスティア警察は多くの街で雇われ、信頼を獲得しているのである。

( ゙゚_ゞ゚)「拷問でもするのか?」

(=゚д゚)「ちったぁ頭を使えラギ。
    拘留できる場所なんて限られてるラギ。
    そこにお邪魔すりゃあいいんだよ」

( ゙゚_ゞ゚)「……誰がお邪魔するんだ?」

(=゚д゚)「お前に決まってるだろ、犯罪者」

649名無しさん:2020/12/29(火) 16:32:01 ID:QMG37kGc0
( ゙゚_ゞ゚)「つまりあれか、俺を餌にするのか」

トラギコの見立て通り、オサムは新人の警官よりも理解力がある。
犯罪者として、殺し屋として生きてきた彼は限られた情報を整理する力が長けているのだ。
“葬儀屋”の名で有名を馳せた彼の技量は、その評判に違わず優秀だった。

(=゚д゚)「理解が早いのはいいことラギ」

( ゙゚_ゞ゚)「断ると言ったら?」

(=゚д゚)「ここの酒代はお前持ちラギ」

( ゙゚_ゞ゚)「俺が金持ってないの知ってるだろ」

(=゚д゚)「あぁ、知ってるラギ。
    となりゃ、お前はここでタダ働きか尻を売るしかねぇラギ。
    俺は当然、お前を置いていくラギ。
    自分で追いついてくれラギ」

( ゙゚_ゞ゚)「悪徳警官め……!!
     はぁ……まぁいいさ。
     筋書きは?」

(=゚д゚)「何か適当なものを捨てて、しれっと外に出りゃあとは任せろラギ」

( ゙゚_ゞ゚)「ちっ、仕方ねぇ」

二人はジョッキに残っていた酒を同時に一気に飲み干した。

(=゚д゚)「俺は俺でやることをやるラギ。
    お前はお前で情報を集める、それでいいな」

( ゙゚_ゞ゚)「あぁ、いいさ。 ただし、あと一杯飲ませろ。
     おい、一番強い酒をくれ」

「あいよ」

運ばれてきた透明な液体をオサムは一気に呷り、席を立つ。

( ゙゚_ゞ゚)「よっしゃ、行くぞ」

(=゚д゚)「せわしない奴ラギね。
    まぁいいらぎ。
    おい、肉饅頭を二つ、持ち帰り用に袋に包んでくれ。
    それと、会計を頼むラギ」

「あいよ」

チップを含めた金を支払い、トラギコは紙袋に入った肉饅頭を受け取った。
店の外は冷たい風が吹いており、思わず身を震わせる。

650名無しさん:2020/12/29(火) 16:33:17 ID:QMG37kGc0
(=゚д゚)「ほれ、餞別ラギ。
    一つやるよ」

( ゙゚_ゞ゚)「娑婆での最後の飯が肉饅頭かよ」

(=゚д゚)「いらねぇんなら俺が喰うラギよ」

( ゙゚_ゞ゚)「いらねぇとは言ってない」

湯気の立つ肉饅頭から取り出し、二人そろって食んだ。
柔らかい皮の中にぎっしりと詰まったひき肉と玉ねぎの餡から染み出した旨味と甘みが、一口で口中に広がる。
そして何よりも、熱が二人の口にあふれ出した。

(=゚д゚)「ほふほふ」

( ゙゚_ゞ゚)「ほっ、ほっ、こりゃ美味いな」

(=゚д゚)「最後の晩餐にゃちと安いが、十分だろ」

( ゙゚_ゞ゚)「まぁな。 合流は適当に合わせればいいな。
     三十分後ぐらいでいいか?」

(=゚д゚)「あぁ、それじゃあこの辺で別れて、後で会おうラギ」

それぞれ逆方向に向かって歩き出し、トラギコは肉饅頭を頬張りながら夜空を見上げた。
崖に枠取られた空には星が輝き、月明かりが世界を淡く照らしている。
街の明かりはだいぶ消えてはいるが、目抜き通りには検査を待つ車輌が列を成している。
街の入り口ではすでに地下駐車場に入るための渋滞が発生しており、タルキールを経由しないでヨルロッパ方面に向かう車も出ている。

この街で荷の積み下ろしがない人間にとってはそうするのが最適解だが、そうでない場合、配送業務はかなり遅れることになるだろう。
汚い爆弾が使用された街を見たことがあったが、この街があれだけの被害を生み出す助力をしていたことは意外だった。
トラギコの足は市長の邸宅へと向かっていた。
これだけ大規模な裏稼業を、よもや市長が知らないはずがない。

彼が誰に依頼され、何の目的で汚い爆弾の原料を輸出していたのか。
その金の流れを掴むことが出来れば、今後何かに役立つことは間違いない。
大規模になればなるほど、金の管理や顧客の管理は必須になる。
それは資料として保管され、保険として秘匿されているはずだ。

地下の騒ぎを起こした人間の正体とその目的を知ることが出来れば、彼らの進む先に待ち構える未来にも対応が出来るというものだ。
食べ終えた肉饅頭のごみを近くにあったゴミ箱に投げ捨て、上着に手を入れて歩き続ける。
吐き出した白い息が風に運ばれ、消えていく。

(=゚д゚)「久しぶりに仕事でもするかな」

そう言って、トラギコは歩く速度を速めた。
懐のベレッタM8000の銃把にそっと触れ、それからまた手をポケットに戻す。
彼の体は迷いなく市長の邸宅に向かい、その前で仁王立ちになる警備員たちの死角を利用して建物内に入り込んだ。
警備員がどのように配置され、どのような動きをするのかを推測するなど、彼にとっては造作もないことだ。

651名無しさん:2020/12/29(火) 16:34:44 ID:QMG37kGc0
屋内に入り込み、我が物顔で市長の執務室へと向かう。
扉の向こうに、茫然自失としたルルコ・ヴォルがいた。

(●ム●)「あ、誰だお前は?」

(=゚д゚)「警察ラギ」

(●ム●)「俺のオフィスに何の用だ。
      外で仕事をしてろ」

疲労からか、彼の言動は市長らしからぬ粗暴さが滲んでいた。
トラギコは一切気にすることなく、自分の話を始めた。

(=゚д゚)「汚い爆弾の原料、誰に頼まれた?」

懐から拳銃を取り出し、撃鉄を起こす。
銃口を向けられたヴォルは一瞬驚いた表情を浮かべたが、溜息を吐いた。

(●ム●)「はぁ…… だから、お前の同僚にも言ったけど、俺は知らないんだよ」

(=゚д゚)「知らない相手に売るような商売をしていたって事ラギか?
    俺を馬鹿にしてんのか」

(●ム●)「いいか、この商売に俺は関わってないんだよ」

(=゚д゚)「嘘が下手ラギね。
    嘘を吐くんなら、もっと練習するといいラギ」

(●ム●)「俺はこれ以上喋る気はない。
      さっさと失せな」

(=゚д゚)「そうかよ」

トラギコは銃を戻し、静かにそう言った。
そして――

(=゚д゚)「なら、お前は黙ってるといいラギ」

――トラギコはヴォルに飛び掛かった。

(●ム●)「なぁっ?!」

椅子ごと倒されたヴォルの目が見開かれる。

(=゚д゚)「うるせぇラギ」

握り固めた拳をヴォルの腹に打ち込み、動きを止めさせた。

(●ム●)「あぶっ……!!」

652名無しさん:2020/12/29(火) 16:36:08 ID:QMG37kGc0
(=゚д゚)「そこで転がってな」

腹を押さえて喘ぐヴォルを横目に、トラギコは執務机の引き出しの中身を机上に乱暴に出した。
書類の類に目を通して、彼の欲しい情報でないと分かったらそれを丸めて部屋の端に投げる。
トラギコは職業柄、相手の嫌う行動というものをよく知っている。
几帳面な権力者であれば、己のテリトリーを荒らされることを嫌うものだ。

一通り机の中身を物色し終え、机の上の小物にも手を伸ばす。
写真立てであればそれを分解し、中の写真の裏側や表側もよく眺める。

(=゚д゚)「もう一度だけ聞いてやるラギ。
    誰だ? 汚い爆弾を輸出するように言ってる奴は」

(●ム●)「し、しら……」

(=゚д゚)「なぁ、俺はこんなことホントはしたくないラギ。
    例えばこの写真。
    こいつを元にお前の家族を見つけて、そいつらに訊くしかないラギ。
    俺は女子供だろうと容赦しないラギ。

    どっちも痛めつければ何でも喋るラギ」

(●ム●)「くっ……!! 言えば、俺が殺されるんだ!!」

トラギコの牙が、獲物の喉元に食らいついた瞬間だった。
弱みを見せたところを、トラギコは容赦なく追撃する。

(=゚д゚)「お前が言ったって、俺が言いふらすと思うラギか?
    知ってることを全部言えばいいラギ」

(●ム●)「お、俺は親父からこの仕事を引き継いだんだ……
      だから、俺が始めたってわけじゃないんだ」

(=゚д゚)「んなこたぁどうでもいいラギ。
    どこのどいつがけしかけたラギ?」

(●ム●)「な、内藤財団だ……」

トラギコが予想をしていた組織の名前だった。
ティンバーランドの背後にいる世界最大の財閥ならば、汚い爆弾の製造に密かに手出しをしていたとしても何ら疑問はない。
彼にとってティンバーランドは巨大なテロ組織であり、手段を選ばない過激な人間の集まりという認識だった。

(=゚д゚)「よぉし、なら次だ。
    内藤財団からの依頼内容は?」

(●ム●)「ここで採掘した物を、トラッカーに運ばせるだけだよ……
      本当だ!! 楽な仕事で金がもらえるんだ、詳しくなんて訊くはずないだろ」

653名無しさん:2020/12/29(火) 16:37:38 ID:QMG37kGc0
(=゚д゚)「だろうな。 聞かなくても、手前はこれがヤバイ仕事だって分かってただろ?
    なら、保身用に帳簿的なものをつけてるはずラギ。
    それはどこラギ?」

(●ム●)「そ、そいつを渡したら本当に俺は殺されちまう!!
      内藤財団が相手なんだぞ!!」

(=゚д゚)「そうか。 だけど、今ここにいるのは俺ラギ。
    俺に今すぐ滅茶苦茶にされるか、それとも俺が内藤財団を滅茶苦茶にするのを待つか。
    好きな方を選ばせてやるラギ。
    俺にも予定があってな、後三分だけ待ってやるラギ。

    三分経って何もしないんなら、俺はお前の家族に何もかもを聞き出すラギ」

――トラギコの言葉に、ヴォルは従うことしかできなかった。

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654名無しさん:2020/12/29(火) 16:38:42 ID:QMG37kGc0
日付が変わり、ジュスティアの街から西に進んだ荒野を、ドクオは疾走していた。
月光の淡い光の下、彼の強化外骨格はその力を使ってある探し物をしていた。
ジュスティアから逃がされたドクオは、フォックスの言葉を完全に信じたわけではないが、万に一つの可能性を捨てることを嫌っての行動だった。
道路に不自然に停まっているトラックを見つけた時、彼は我が目を疑った。

フォックスの言葉が真実かどうか、トラックのコンテナを開くまでもない。
彼の使用する棺桶は闇夜の中であれば、遮蔽物に阻まれていたとしても、その内部を覗き見ることが出来る。
そこに見えたのは、彼の同志たちの姿だった。
それと同時に、扉に仕掛けられている不自然な装置を目視。

 /i /i、
( 中| `)『みんなっ!!』

扉は使わず、ドクオはコンテナの側面を拳で叩き、それから高周波刀を使って安全な経路を作り出した。

(;`ハ´)

lw´;‐ _‐ノv
  _
(;゚∀゚)

(;><)

血と傷で人相が変わって見えるが、彼らは間違いなくドクオの仲間たちだった。
猿轡をかまされ、両手足には重そうな鎖が巻きつけられている。
フォックスの言葉が示す爆発までの時間を思い出し、ドクオは仲間を急いでコンテナから路肩に降ろした。

 /i /i、
( 中| `)『伏せてろ!!』

ドクオはコンテナとトラックをつなぐ装置を切り離し、牽引されていたコンテナを力任せに蹴り飛ばした。
中身が詰まっていなくても、その重量は相当なものだったが、彼の使用する棺桶は夜間であれば軽量ながらも爆発的な力を発揮できる。
道路から外れ、コンテナは無人の荒野で止まった。
そして、爆発が起きた。

655名無しさん:2020/12/29(火) 16:40:11 ID:QMG37kGc0
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              。                | ̄\〉
           \〉 ¦ :. ∥                   L_/
           ̄\|  、从_/  ゚
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       ..:┴: l!l|  .:⌒≫―(⌒:.   ,;:从                  くミ:;   ::: :.,>./
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                               《〉
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大規模な爆発ではなかったが、中に人がいたとしたら殺すには十分な威力だった。
飛来した破片を蹴り、殴り飛ばして味方に当たらないようにした。

 /i /i、
( 中| `)『済まない、待たせた』

皆が生きていることに安堵したが、同時に、彼の中でフォックスの言葉が蘇る。
この中に一人、フォックスに情報を提供した人間がいる。
即ち、裏切り者が。

 /i /i、
( 中| `)『あまり贅沢は言えないけど、ここからヴェガに向かおう。
     あそこなら助けてくれる同志がいるはずだ』

それでも、とにかく今は仲間たちの傷を癒すことが先決だと彼は判断した。
裏切り者の有無と真偽については、後で考えればいい。
トラックに全員を乗せ切るのは少し難しいが、不可能ではない。
ドクオは急いで五人が座れるだけのスペースを確保するため、トラックに乗り込んだ。

 /i /i、
( 中| `)『しばらく耐えてくれよ。
     ヴェガで落ち着いたら、すぐにニョルロックに行こう。
     連中に追いかけられるよりも早くに』

――その姿が彼の棺桶のセンサーの知覚外の位置から、全て見られ、記録されているとも知らずに。

656名無しさん:2020/12/29(火) 16:42:05 ID:QMG37kGc0
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同日 同時刻

男は全てを見ていた。
ジュスティアの誇る三重の外壁、スリーピースの中で最も高い位置にある監視塔に、その男はいた。
本来その場所は存在自体が知られておらず、極めて厳格な調査を受け、素性や功績を認められた人間だけが入れる空間だった。
その場にいる男は対戦車砲の様な巨大なレンズを取り付けたカメラを構え、月光の下で動く人間達を撮影していた。

光量はほとんどなく、レンズ越しに見える人影は文字通りの影にしか見えない。
五キロ先の被写体を撮影する際、言わずもがな手ブレは厳禁だ。
故に男は巨大なレンズを支えるのに必要な三脚を用い、シャッターを切る際には呼吸を止める徹底さを見せた。
そうして撮影された写真は、果たして、この瞬間だけではなかった。

彼は既に、街の中で起きた別の騒動を写真に収め、適時報告を行っていた。
街を取り囲むスリーピースの外壁は、写真を撮影する人間にとっては最良の移動経路であり、誰かに見咎められる心配のない絶好の撮影スポットだった。
事前にどこで何が起きるのかが分かっていれば、最適な撮影場所に最適な機材を用意、即座に撮影が可能になる。
後はその場で起きる動きに翻弄されることなく、必要な情報を撮影する技術だけが要された。

アサピー・ポストマンは、事前に依頼された全ての仕事を完ぺきにこなしていた。
恐らくは、彼に秘匿任務を命じた人間の次に今夜街で起きたことについて知っているのは彼だろう。
幸いなことに彼しか目撃者がおらず、不幸なことに、目撃者は彼しかいなかった。
街を揺るがす騒動を目撃したのは当事者を除いて彼だけであり、彼の撮影した写真は街の歴史を変え得るものも含まれていた。

つまり、その写真を他者に見せない限り、彼はこの街で最も恐ろしい情報を知る唯一の人間といってもいい。
彼に課せられた仕事は、偽の情報によって現れた襲撃犯の撮影だった。
まず、移送を装った施設前での襲撃の様子。
その現場から逃走した人間を足止めするフォックスとの撮影。

657名無しさん:2020/12/29(火) 16:42:55 ID:QMG37kGc0
そして最後に、街から逃げ出すように仕向け、その後の姿の撮影が行われた。
いずれも超望遠レンズを使った撮影になったが、アサピーは撮影を完璧にこなした。
トラックに人を乗せ、レンズの向こう側の姿が見えなくなってから、彼はようやく大きく溜息を吐いた。

(-@∀@)「ふぃー」

この瞬間まで彼は神経を張り詰めていたこともあり、その場に尻もちをつくようにして座り込んだ。
カメラからレンズを取り外し、三脚からカメラを取り外す。
警察から支給された高性能なカメラはその場で写真の確認をすることが出来るため、彼は今夜の成果を一人見直すことにした。
それは彼がジュスティア内で写真撮影の仕事を任されてから心掛けている癖だった。

液晶画面に映し出される成果物を拡大し、その写り具合を確かめる。
夜間の長距離撮影につきものの手ブレはほとんど見られず、彼の仕事が問題なく完了したことを確認する。
特に確認したかったのは、ダークナイトを使用していた男の口元だった。
その特性上口が見えている棺桶故に、遠方からその唇を読むことが出来る。

そこでアサピーは咄嗟に男の口元が写るように位置を調節し、ピントを合わせ、連写したのである。
彼に優れた読唇術はないが、ジュスティア警察には口の形だけで言葉を読める人間がいるはずだ。
奪還を試みた襲撃時、男はほとんど口を開かなかったため、有益な情報は得られないだろう。
フォックスとの邂逅でも、その会話内容は彼が聞いているだろうから意味がない。

男が饒舌に口を開いたのは、トラックから仲間を救出した後だけだった。
その会話内容がどういうものか分からないが、間違いなく何らかの情報が得られる。

(-@∀@)「多分これならいけるだろう」

写真が記録された記録端末をカメラから抜き取り、胸ポケットにしまう。
それから無線機を使い、彼は上司へと連絡を取った。

(-@∀@)「お客さんが帰りました」

『ご苦労様ニダ。 道具を持って予定通りの場所に向かうニダ』

(-@∀@)「了解」

巨大なレンズをケースにしまい、三脚を畳む。
カメラに単焦点レンズを取り付け、アサピーは用意した道具を持って監視塔の昇降機を呼び出した。
昇降機が来るまでの間、アサピーは腕を組んで考え事をした。
果たして、苦労して捕らえた敵を逃がすメリットはジュスティアにあるのだろうか、と。

殺してしまえばそれで済む話なのに、フォックスはあえて逃がすという選択肢を取った。
作戦の性質上、その理由までは訊けなかったため、アサピーは自分の中で答えを出すことにした。
作戦を指揮していたのはフォックス、そしてニダー・スベヌだ。
彼なら何か知っているかもしれないが、まず話してもらえることはないだろう。

昇降機が到着し、扉が開く。
そこに乗っていたのは、思いもよらない人物だった。

爪'ー`)y‐「やぁ、アサピー君」

658名無しさん:2020/12/29(火) 16:44:02 ID:QMG37kGc0
(-@∀@)「あ、市長。
      わざわざこんなところまでどうしたので?」

アサピーにこの仕事を依頼した責任者である彼が、アサピーに労いの言葉をかけるためだけにこの場に来たとは考えにくい。
何か別の目的があるのだと、アサピーは覚悟を決めた。

爪'ー`)y‐「いや、なにね。
      君の努力を労いに来たのさ。
      どうだい、いい写真は撮れたかい?」

(-@∀@)「えぇ、まぁ。
      ……それを言うためだけに?」

焦らすようなフォックスの態度に我慢しきれず、アサピーは訊いた。
フォックスは火の点いていない葉巻を指先で転がし、答えた。

爪'ー`)y‐「はははっ、そうだなぁ……
      君は私が屋上で何をしたのかまで見ていたのだろう?」

(-@∀@)「え、えぇ」

爪'ー`)y‐「撮ったのだろう、写真を?」

(-@∀@)「そりゃあ、まぁ」

爪'ー`)y‐「ふぅ…… 君は多くを見知ってしまったね」

指でいじっていた葉巻の先端をアサピーに向け、フォックスは微笑を浮かべる。

(-@∀@)「ど、どういう……」

爪'ー`)y‐「知るのはいいことだ。
      その人の人生を豊かにする。
      だが、知りすぎは時として命を縮めることにつながるんだ」

フォックスが一歩を踏み出す。
アサピーは反射的に一歩引き下がった。
背後で昇降機の扉が閉じ、下に降りて行った。

爪'ー`)y‐「どうしたんだい?」

(;-@∀@)「ひょっとして、これは僕が殺されるってやつで?」

背筋に冷たいものが走る。
しかし、フォックスは目を丸くして驚き、ややあって噴き出した。

爪'ー`)y‐「ふっ……ははははっ!!
      まさか!! 優秀で献身的な君を殺す理由はないよ。
      ただ、君に別件で話があったのは事実さ。
      他の人に聞かれないところで話をしたかったんだ」

659名無しさん:2020/12/29(火) 16:45:09 ID:QMG37kGc0
(;-@∀@)「な、何でしょう?」

爪'ー`)y‐「まぁぶっちゃけて言うと、この作戦は極めて重要なものでね。
      漏洩してしまったら、色々と面倒なことになるんだ。
      出来るだけ部外者に知られないよう、リスクを管理したい。
      ならどうやって管理すればいいのか、私なりに考えてみた。

      そこで、結論が出たんだ」

フォックスは懐に手を入れ、そこから拳銃を取り出した。
それは小型のコルト・ディフェンダーだった。

(;-@∀@)「ひえっ!!」

爪'ー`)y‐「おいおい、だから撃つんなら最初から撃ってるよ。
      これを君に渡しておこう。
      いつか使うことになるだろうからね」

銃身を握り、フォックスは銃把をアサピーに向けて差し出した。
アサピーは躊躇いながらもそれを受け取った。

爪'ー`)y‐「君には正式にジュスティア警察に所属してもらいたい。
      もっと言えばトラギコ君と同じ所属、つまりはモスカウの所属だ。
      それなら君はこの作戦について知っていても問題はないし、守秘義務というやつが発生する。
      給料はあまり多くは出せないが、まぁ、不自由のない生活は送れるだろうね。

      幸いなことに、この件の目撃者は君だけだ」

(;-@∀@)「あ、え?」

爪'ー`)y‐「君は事件の解決じゃなくて、専属のカメラマンとして、色々な物を撮影してもらう。
      実際、この街で君が撮影した写真はかなりの効果があった。
      不法移民の減少、違法薬物の取引現場とその胴元の特定にもつながった。
      ニダー君から後でその報告があるはずだ。

      君は私が用意した、まぁいわゆる試験というやつに合格したのさ。
      我々が銃を使って犯人を追い詰めるように、君は写真を使って彼らを追い詰める。
      一枚の写真に込めた君の情熱には大変感銘を受けたよ。
      例の組織の人間も、君は我々が情報を得る前に見つけ出した。

      以上の功績から、君には出張をお願いしたい。
      正直なところ、この街を守るためには他所の街で連中を牽制しないといたちごっこになることが分かってね。
      頼まれてくれるかな?」

今の仕事を始めてまだ僅かな時間しか経過していないが、アサピーはその仕事にやりがいを覚えていた。
元々彼はスクープを追ってトラギコと共に行動し、それが今の立場に影響した。
街の中で写真を使って仕事をすることは嫌いではないが、やはり、彼としては世界中で起きている一連の事件に興味があった。
フォックスの提案は、アサピーにとってはこの上のないものだった。

(;-@∀@)「出張? 一体どこに?」

660名無しさん:2020/12/29(火) 16:47:02 ID:QMG37kGc0
フォックスは笑みと共にアサピーの肩に手を置いて、優しく言った。

爪'ー`)y‐「経済都市、ニョルロックさ」

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               圭二二ニ=─-、_)、_____/   ∨::\、
                   /, ′/´ ̄ ̄`ヽ 八  /       ',::::::∧`:::...、、
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同日 某時刻

夜明けまで残り数時間となった静かな時間。
静まり返ったジュスティアの街並みを見下ろしながら、火の点いていない葉巻を指先で回す男がいた。
フォックス・ジャラン・スリウァヤは執務室でコーヒーを飲み、葉巻を指に挟んで固定させた。
吸い口を切り、口にくわえてマッチで火を点ける。

数回酸素を吸い込み、紫煙を口から吐きだす。
そして、目の前にいる男、ニダー・スベヌに話しかけた。

爪'ー`)y‐「彼は同意したよ」

<ヽ`∀´>「それは良かったです。
      これで同僚としてちゃんと仕事が出来る」

爪'ー`)y‐「さて、彼が撮影した写真は見せてもらったかな?」

<ヽ`∀´>「えぇ、数枚ですが」

爪'ー`)y‐「それは残念。
      彼が連写した写真を使って口を読んだ結果、連中はヴェガに行くそうだ」

<ヽ`∀´>「ヴェガ、ですか」

賭博の街、歓楽の街、ヴェガ。
荒野の果てに建ち並ぶ泡沫の夢を見せる街だ。
以前はジュスティアと契約関係にある街だったが、“砂金の城事件”がきっかけでその契約が更新されることはなくなった。

爪'ー`)y‐「あぁ、多分連中は我々があの街に行けないと考えたのだろう。
      まぁ確かに、あの事件以来我々は断交状態にある」

<ヽ`∀´>「はい、表上は今もその状態を保っています」

661名無しさん:2020/12/29(火) 16:48:20 ID:QMG37kGc0
爪'ー`)y‐「街同士の交流など些細な問題だ。
      個人の話は別だからね。
      連中は恐らくヴェガで療養、もしくはヴェガを通過点にして別の場所に向かうはずだ。
      恐らくは、本部としている場所に行くだろうよ」

<ヽ`∀´>「では予定通り泳がせる方向で」

爪'ー`)y‐「あぁ、連中がどこにどう向かうのか、ヴェガにいるモスカウに探らせよう」

フォックスがドクオを始めとする人間達を逃がした理由を知るニダーは、彼の提案に頷き、答えた。

<ヽ`∀´>「すでに伝達は済ませています。
      アサピーの写真が役に立ちそうですね」

爪'ー`)y‐「“あの研究”が現場で使われるのは非公式ながら、これが初めてか。
      ふふふ、つくづく面白いものだ。
      そうそう、面白いと言えばトラギコ君から報告があったんだよ」

<ヽ`∀´>「奴が報告するなんて、天変地異の前触れでしょうか」

爪'ー`)y‐「ははっ、彼が聞いたら怒るぞ。
      汚い爆弾の原料を輸出しまくっていた奴を見つけたそうだ。
      前から怪しいとは思っていたが、タルキールの市長が胴元だった」

<ヽ`∀´>「あぁ、やはりあの街でしたか」

爪'ー`)y‐「で、採掘現場は大規模な事故で隠蔽されたことも聞いた。
      彼はイルトリアを目指すらしい」

<ヽ`∀´>「私とアサピーはイルトリアで彼らと合流すればいいのですか?」

爪'ー`)y‐「いや、合流はしなくていい。
      彼がイルトリアを目指すということは、その先に追うべき人間がいるということだ。
      あの“デレシア”がいると考えて間違いないだろう。
      で、私が君に訊きたいことは、どうしてトラギコ君が私にそれを報告してきたのか、ということだ」

<ヽ`∀´>「彼の性格上、獲物は独り占めするのが基本ですからね。
      私が知る限り、彼が報告をしてきた、ということは何か意図があると考えるべきでしょう」

爪'ー`)y‐「だよねぇ……」

フォックスの知る限り、トラギコは単独行動を好んで行い、報告は基本的に全て事後のものばかりだ。
事前に何かをする際に、彼は決して誰かに相談をすることはしない。
ましてや犯人逮捕につながる重要な情報でさえ彼は秘匿し、自分の力だけで解決しようとする。
だからこそ彼はモスカウに所属するべきであり、適職なのだった。

しかし、その彼が今になって報告をするということは、別の思惑があると考えるのが自然だった。

662名無しさん:2020/12/29(火) 16:50:13 ID:QMG37kGc0
爪'ー`)y‐「それに、君のことを信頼していないわけじゃないけど、デレシアを相手にするのは少々難しいと思ってね。
      円卓十二騎士が三人、いや、四人か。
      つまりは三分の一が接触して、尻尾の一つすらつかめなかったんだ。
      内二人は諜報が得意な“レジェンドセブン”だったが、それでも駄目だったんだ。

      慎重と万全を掛け合わせてもまだ足りないぐらいだ。
      今はデレシアよりも警戒するべき相手がいる。
      だからこそ、ニョルロックに行ってもらいたい。
      連中の資金源もそうだが、使っている棺桶もそうだ。

      ……ここから先の言葉はオフレコで頼みたい」

世界経済の中心とも言われる、巨大経済都市ニョルロック。
企業が街を束ね、企業が街を統べ、企業が街を作り出している街。
ニョルロックでは警察はおろか、イルトリアの関連企業でさえその街に関与の余地がないほどに完璧なバランスを保ち、一つの街の中で経済が循環している。
その姿はラヴニカを彷彿とさせるが、ギルド協定などが存在しないため、街にいる人間達は自由に経済活動を行うことが出来る。

世界経済の天秤があると言われるその街は、極めて柔軟な発想力を持ちながらも、外部からの干渉を受け付けない程の強固さがある。

<ヽ`∀´>「えぇ、勿論」

ニダーが即答したのを見て、フォックスは少しだけ笑んだ。
灰皿に葉巻の灰を落とし、口に咥えて煙を吸い込む。
口の中で転がすようにして味わった煙を、ゆっくりと吐き出す。

爪'ー`)y‐「この街にはすでに連中の細胞が入り込んでいるはずだ。
      それも、かなり深部にまでね」

それは、正義の都の最高権力者が口にする言葉としては許容しがたいものだった。
自分だけでなく、彼が指揮する組織に大きな不備があったことを認める発言なのだ。
ニダーは驚いた様子も見せず、答えた。

<ヽ`∀´>「はい、私もそう思います。
      今回強襲作戦に使用された棺桶は、いずれも警察の保管庫から奪取されたものです。
      奪取経路が不明である点を考えれば、内通者がいたと考えるのが自然です」

“ダークナイト”、そして“アンシンカブル”。
この二機のコンセプト・シリーズの棺桶は彼が言う通り、警察の押収品の保管庫にあったものだ。
厳重かつ秘密とされている保管庫に侵入した人間も、その手段も今の段階で一切分かっていない。
つまり、内部で手引きをしている人間がいることが否定できない状況なのだ。

爪'ー`)y‐「あぁ、その通りだよ。
      だから私は連中をこの街から追い出した。
      悔しいが、今はまだ対応が出来ない。
      セカンドロックみたいな襲撃をされたら、流石にこの街が無傷のままでいられるとは思えないからね」

ジュスティアの市長は冷静そのものだった。
彼はプライドで解決できる問題とそうでない問題の区別がつけられるだけの良識があり、それを実行に移す判断力があった。
セカンドロック以降、フォックスは相手の戦力がどの程度のものなのか、それを知ることに注力した。
そのためにあえて護送集団を襲撃させ、円卓十二騎士による追撃を実施した。

663名無しさん:2020/12/29(火) 16:51:36 ID:QMG37kGc0
相手はまんまと襲撃を成功させ、護送団に大打撃を与えた。
報告された戦力の中には潜水艦も含まれており、相手の持つ自信と実力の一端を知ることが出来た。
使用された棺桶の光学兵器を使えば、スリーピースに大穴を開けることも可能だ。
それをされる前に、フォックスは襲撃をされるだけの理由を手放す必要があったのである。

<ヽ`∀´>「分かっています。
      連中はかなり強い結束力を持っています。
      仲間が窮地に陥っていて放っておかないことは、件の男が証明していました。
      武力もそうですが、結束力が一番厄介です」

爪'ー`)y‐「そう、結束力だよ。
      連中が何を目的に行動しているのか分からない以上、こちらとしては先手が打てない。
      君の尋問に最後まで耐えた連中だ、死ぬ直前でも口を割ることは無いだろうよ。
      内藤財団が本当に連中の後ろ盾としているのなら、やれるだけのことをしなければならない。

      私が奴らを見逃した訳が分かってくれるかな」

<ヽ`∀´>「勿論です。
      襲撃を受ける可能性が高まるだけですので。
      ですが、殺すという選択もあったのでは?」

爪'ー`)y‐「あぁ、それもあったさ。
      その方が手っ取り早いからね。
      だが、それでは奴らの結束力を高めるだけだ。
      強い結びつきには内側からの浸食が一番なのさ」

殺すことで士気が下がることもあるが、結びつきが強い組織においては神格化され、英雄視されることで逆に士気が上がることが多い。
そのため、容易に殺すという選択は避けるべきだった。
多くの犯罪組織を相手にしてきたジュスティアの人間だからこそ思いつく危険性であり、忘れてはならない側面だ。
仮に、捕らえた人間達を殺すとしたら、その情報が相手の組織に伝わらないよう配慮しなければならない。

だがどこに裏切り者がいるか分からない以上は、手出しをしないのが最も安全な方針だった。
しかし、フォックスは相手の組織に一つの種を蒔くことに成功した。
その種がどこまで成長するか、彼は密かな期待を寄せていたのであった。

<ヽ`∀´>「かしこまりました。
      それで、ニョルロックでは主に何をすれば?」

爪'ー`)y‐「戦争に備えてもらいたい。
      必要なら、我々は内藤財団を敵に回すことになる。
      正義を執行するために必要なことは何でもやるのさ」

フォックスの強みの一つに、決断力の速さがある。
彼は利権や意味のない矜持に左右されることなく最善の決断を下すことができ、尚且つ、その判断には断固たる決意があった。
様子見をする上司では現場が混乱し、最悪の結果を招くことを知っている人間の思考だった。

<ヽ`∀´>「ニョルロックに向かうとなると、クラフト山脈を越えなければなりませんね。
      スノー・ピアサーは今頃イルトリアに向かっているでしょうから、通常の高速鉄道を使うしかないですね」

664名無しさん:2020/12/29(火) 16:53:01 ID:QMG37kGc0
爪'ー`)y‐「それについてだが、ニョルロックへの直行便があるんだ。
      多少時間がかかるだろうが、それでも、大分時間を短縮できる」

<ヽ`∀´>「あぁ、フートデンバーからの直行便ですね」

爪'ー`)y‐「幸いなことに、フートデンバーまでは二日もあれば到着できる。
      ただ、こっちからフートデンバーへの直行便がないから近くの町で降りるしかないんだけどね。
      列車を乗り継いで最寄りの街にバスで向かって、そこからは徒歩だ」

鉄道都市エライジャクレイグの張り巡らせた線路は世界中をつなぐほどの規模だが、ある程度大きな街でなければその恩恵を受けられないのが現実だ。
線路を敷くだけでも莫大な費用と時間が必要であり、彼らは需要があり、儲けが出せる算段が付いた場所に駅を作る。
もしくは招致を受けた街に資金を出させてから作るという形もある。
貧相な町にも駅があるのは、太古の線路が偶然その地域を通っていたのが発掘・復元されたからであり、一概に裕福な町だけが駅を持っているわけではない。

クラフト山脈の南に位置するフートデンバーは、そうした駅の一つだった。

<ヽ`∀´>「近くの町…… あの辺りは小さな町がたくさんありますからね」

爪'ー`)y‐「まずはカントリーデンバーに立ち寄って、そこから移動するのが一番だろう。
      見つけてくれた薬物と不法移民の件はこちらで片付けておく。
      早速で悪いが、始発で向かってくれ」

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665名無しさん:2020/12/29(火) 16:53:59 ID:QMG37kGc0
同日 早朝

長く降り続いた雨が止み、森の中は静寂と冷たい空気に包まれ、青い影の中に薄らと靄が立ち込めている。
夜通し燃やし続けた焚火を始末し、二人の男がゆっくりと立ち上がった。
彼らは一睡もすることなく火を燃やし続け、巨大な熊が骨になるのを見届けていた。
燃やしきれなかった部位もまとめて地面に埋め、石を乗せて簡易的な墓標とした。

疲弊しきった状態で一言も口を利かず、二人は森の中を歩き始めた。
陽の光が次第に森に落ちるにつれ、薄暗かった視界が白と黒に変わり、やがて色を帯び始める。
木の間から差し込む陽光が幻想的な森の姿を見せるが、二人の視線は目の前に広がる光景を美しいものだと思える心の余裕がなかった。
彼らは一刻も早く下山し、町に向かうという気持ちだけがあった。

それから数時間歩き続け、二人は川沿いに停めていた車の前に戻ることが出来た。
しかし喜びの声も、労いの言葉も出てこなかった。
彼らとともに山に入った仲間の安否を確認しなければならないため、一度町に戻り、捜索隊を編成しなければならない。
だが万が一、仲間がこの場所に戻ってくる可能性があることから、オットー・スコッチグレインがその場に残ることになった。

行きて朝日を眺めることが叶ったのは僥倖としか言えなかった。
彼は昨晩、巨大な熊に襲われ、生還を果たした。
熊の一撃は容易に人間の頭蓋骨を粉砕するほどであり、装填作業すら冷静に行えなかった彼が生き延びた理由は今でも分かっていない。
彼を襲った熊は突如として絶命し、それを目撃したプラセットは大きく狼狽した。

巨大な熊は山の主であり、山神として崇められている存在だったのである。
命は助かったが、彼にこれから待っているのは町全体から向けられる様々な視線である。
田舎という閉塞的な空間は少々の不和でさえ許されることは無く、それが信仰じみたものが原因であれば、問題を起こした人間の身内にも影響が出るのは必至だ。
越してきて日が浅いのに大きな問題に発展すれば、オットーだけの問題ではなく、家族全体の問題にもなる。

人付き合いを欠かさず行ってきたことがどこまで事態の悪化を食い止めるかは分からないが、兎にも角にも、オットーには祈るしか出来ることは無かった。
しばらくして、数台の乗用車がオットーの前に現れ、続々と蛍光色のベストを着た人間が降りた。

「オットーさん、あんたそこの車に乗って一度家に帰りな。
後はわしらで探すから」

初老の男はそう言って、自分たちが乗ってきた車を首で指した。
オットーは疲弊していたが、この場でその言葉を素直に受け入れるまでは弱っていなかった。

(´<_`;)「い、いえ、僕も何かお手伝いさせてください」

「なら、なおさらだ。
素人が参加しても危険が増えるだけだ」

それは、取り付く島もない言い方だったが、事実だった。
今は二人の遭難で済むが、オットーが加わることで三人の遭難になりかねない。
ましてや素人が参加するとなれば、その素人の面倒を見る人間を割くことで人手が減るのだ。
理にかなった、実に真っ当な意見だった。

オットーは唇を噛み締め、頷いた。

(´<_`;)「わ、分かりました……」

666名無しさん:2020/12/29(火) 16:55:52 ID:QMG37kGc0
「ほら、さっさと行きな」

トラックに乗り込み、エンジンをかける。
その時、背後から話し声が聞こえてきた。

「あの余所者、“チセレラ”を殺したって話だぞ……」

「……これも祟りかもしれないな」

それらの言葉が聞こえていない風を装い、オットーは車を走らせた。
家の前に車を停め、ふらふらと歩く。
心と体が疲れ果て、今は睡眠が彼にとって唯一の癒しになるのは間違いなかった。

(´<_`;)「……ん?」

最初の異変は、非常に小さなものだった。
その異変に気付くまでに、オットーは数十秒の時間を要した。

(´<_`;)「なんで……」

畑の調子を見ていた彼の目の前には、力なく垂れ下がった電源コードがあった。
獣から畑を守るための電気柵に必要不可欠なそのコードは、少なくとも自然に切れることは無い。
時間経過による劣化だとしても、設置してから一日と経っていない状況では考えられない。
電源ボックスから柱を添わせるように伸ばしていたケーブルは明らかに切断された痕跡があり、人為的なものであることは明らかだった。






――問題は、誰が何のためにこれをしたのか、ということだった。






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Ammo→Re!!のようです
Ammo for Remnant!!編
第五章【Remnants of storm -嵐の断片-】 了
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667名無しさん:2020/12/29(火) 16:56:34 ID:QMG37kGc0
これにて今年の投下は終了となります

何か質問、指摘、感想などあれば幸いです

668名無しさん:2020/12/31(木) 19:27:21 ID:e7oo3KSQ0
おつ!
今年一年ありがとうございました
情報量の多い回で状況が一気に動きそうで次が楽しみ

669名無しさん:2021/01/01(金) 19:44:04 ID:co3r8c6E0
乙乙

ドクオの今後に期待
あと、トラギコとオサムのコンビがすごい好き

>>665の行きて朝日を眺めることが

"行きて"じゃなくて"生きて"じゃない?

670名無しさん:2021/01/02(土) 19:30:18 ID:oqqLnZE20
>>669
Oh……!その通りでございます……!

671名無しさん:2021/01/02(土) 19:30:51 ID:oqqLnZE20
>>669
Oh……!その通りでございます……!

672名無しさん:2021/01/02(土) 20:39:36 ID:AAZ0KRvc0
おつです!

673名無しさん:2021/01/24(日) 09:59:51 ID:7OvvKDvw0
来週の日曜日VIPでお会いしましょう

674名無しさん:2021/01/24(日) 10:20:46 ID:I2DEzz3g0
ありがとう…ありがとう……!

675名無しさん:2021/01/31(日) 09:09:25 ID:ajeomtpU0
まってます!

676名無しさん:2021/02/01(月) 20:58:07 ID:SilbKU9U0
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“人を呪わば穴二つ”

意:最も恐ろしいのは、憎しみの矛先が自分以外に向けられたときであることから。
  それを庇おうとすれが、たちまち二人とも殺されることになるという教訓。

類1:“イルトリアの報復”
類2:“ジュスティアで悪を庇う”
類3:“セントラスで十字架を踏む”


                    ――著:ディクト・ニクト『世界ことわざ辞典 第12版』より

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September 12th AM07:11

カントリーデンバーに越してきたスコッチグレイン兄弟にとって、人生で最悪の日が始まったのは、間違いなく九月十二日のことだった。
オットー・スコッチグレインは遭難しかかっていた山から生還し、シャワーと食事を済ませてから、自室で頭を抱えていた。
昨晩の出来事を思い出すが、自分が何か重大な問題を起こしたという記憶はない。
彼を襲った巨大な熊は彼の手ではなく、別の何かの要因が働いて命を奪われたのは間違いない。

しかし状況証拠だけを考慮すれば、間違いなくオットーが熊を殺した人間であると物語っている。
彼を襲い、そして命を落とした巨大な熊は山神として崇められる“チセレラ”と呼ばれる存在だったことは、後から知った。
その存在に関する知識は当然のことながら彼にはなく、この町で信じられている迷信や伝承の類であることは間違いなかった。
だからこそ、オットーは頭を抱えていた。

閉塞的な場所では、例え他所では一笑に付すようなことでさえも、他者を排除するには十分な理由になり得るのだ。
今回、不運にもオットーはその理由になり得る物を殺めたことになってしまっている。
身内――特に妹――にはこのことを知られず、尚且つ影響を受けないことを願うばかりだが、彼の淡い希望は家の前にある畑が砕いた。
電気柵の主電源に通じる線を切られたことは、間違いなく悪意が影響している。

その悪意がオットーにだけ向けられているのならばよかったのだが、家の前にある物にまで手を出された以上、彼の願いは叶わないだろう。
悪意は激化し、人の想像を越えた結末を導き出す。
そのことは、彼なりに分かっているつもりだった。
しかし、受け入れがたい事実だ。

部屋の扉がノックされ、扉が開かれてようやくオットーは思考の渦から抜け出すことが出来た。

( ´_ゝ`)「……何があった?」

部屋の扉をノックせず、アニー・スコッチグレインが確信した口調でオットーに言葉をかけた。
オットーはこれ以上隠し立てすることは無理だと判断し、溜息と共に兄の名前を口にする。

(´<_` )「アニー……」

677名無しさん:2021/02/01(月) 20:58:28 ID:SilbKU9U0
( ´_ゝ`)「トラブルだな」

それは確信めいた言葉だった。
双子故に通じるものがあり、双子故に信じられるものがある。
オットーは溜息を吐き、重い口を開いた。

(´<_` )「あぁ、でかいトラブルだ……」

それからオットーは、自分の身に起きたことを話した。
狩りに失敗し、遭難したこと。
そしてそこで現れた熊の存在と、その正体。
ことの顛末を聞き終えたアニーは溜息を吐き、それから言った。

( ´_ゝ`)「確かにでかいトラブルだな。
     庭の電気柵がやられたってのは、確かに今日なのか?」

(´<_` )「あぁ、間違いない。
     昨日設置したばかりで、あの断面は自然に切れた感じじゃなかった」

( ´_ゝ`)「なるほどな。 俺の知る限りじゃ、家の前を通った人間は何人もいただろうな。
     犯人特定には繋げられないな」

(´<_` )「町の誰が、っていうのを考え出したらきりがない。
     これ以上何かが起きないようにするのが精いっぱいだと思うんだ」

話し合いなどで解決が難しい場合は、ほとぼりが冷めるのを待つしかない。
しかし、必ずしもほとぼりが冷めることばかりではない。
特に、禁忌に触れるような事の場合は根深く、そして根強く残ることがほとんどだ。
今回のように山神と恐れられている存在を殺したことにされたのであれば、オットーの行為が風化することは望めない。

帳消しになるかのような何かをしない限り、それは罪として残り続けるだろう。

( ´_ゝ`)「被害を最小限に食い止めるのが賢いな。
     イモジャに何もないといいんだが、この町の人間の良心次第だな……」

問題になるのは、やはりそこなのだ。
彼ら兄弟は社会人としての経験があるため多少の偏見や攻撃には耐性があるが、妹はまだほんの子供なのである。
子供が受ける精神的な攻撃は、想像以上の傷になってしまう。
子供の頃に受けた傷は、大人になっても癒えないことが多い。

傷になる前にこの町を出ることが賢い場合もある。

(´<_` )「場合によっては引っ越すしかないと俺は思っている」

( ´_ゝ`)「あぁ、俺もそれには賛成だ。
     イモジャに何かがあるようなら、すぐにでも引っ越そう」

(´<_` )「そう言ってもらえて助かる。
     本当は何もないのがいいんだがな……」

678名無しさん:2021/02/01(月) 20:59:40 ID:SilbKU9U0
攻撃の対象はせめて大人に絞られれば心配事は減るが、子供に向けられる悪意や敵意は許容しがたい物がある。
ささやかな願い。
ささやかな望み。
簡単に手に入りそうな、彼らの夢。

――この地に抱いた淡い夢は、それから数時間後に打ち砕かれることになった。

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巛巛巛巛巛彡彡ハ:.:.:.:.:.:.(. . . : . :::::.:.:.:..:::: .:::::....ヾ:.::::.::..:.:.:.:::::::::::::::::: Ammo for Remnant!!編
巛巛巛巛巛巛巛ミ、:.:.:.:.:.:.:.:.:.......::::::::::::::.:.:.:.:.:.:.:.:第六章【Remnants of hate -憎しみの断片-】
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679名無しさん:2021/02/01(月) 21:02:34 ID:SilbKU9U0
同日 午後

学校からイモジャが無事に帰ってきたことを、兄弟二人は内心で安堵した。
学校という空間では噂一つで攻撃の対象になってしまう。
真偽など関係なく、尾ひれが付いた言葉が伝播し、大した意味などない大義名分を得た子供は無垢なまま攻撃をする。
その攻撃には容赦はなく、まるでハリケーンのように荒らしまわった挙句、無責任なままどこかへと消えるのだ。

l从・∀・ノ!リ人「自転車の練習をしたいのじゃ!」

突拍子もない言葉だったが、詳しく聞けば、クラスで自転車に乗って遠出をするのが流行っているとのことだった。
越してきてからは必要な物を揃えてはいたが、自転車の様な道具は購入していなかった。
町での暮らしに馴染もうとするあまり、心の余裕を持つことを忘れていたのだ。

(´<_` )「せっかくだし、自転車を買おう。
     いいだろ? アニー?」

( ´_ゝ`)「あぁ、勿論だ。
     一番いい自転車を買ってもらえよ」

l从・∀・ノ!リ人「やったのじゃ!!」

それから妹を連れ、オットーは自転車を売っている唯一の店に向かった。
店に向かう途中、オットーは何度も自分は山に戻るべきだと考えた。
一応、彼は家に帰ってから再び山に戻ったが、状況は変わっておらず、相手の対応も同様だった。
そして、オットーがその場にいることを快く思っていないこともまた、変わっていないことだった。

彼と同じタイミングで山に入った人間は見つかっていないままだが、オットーの介入は快く思わないのだろう。
家で粛々と時間を過ごすのも一つの選択肢だが、妹に何か影響が出る前に街で買い物を済ませておくのは決して愚かな選択ではない。
町全体が彼ら一家を敵視するようになれば、買い物すらままならなくなる。
噂が広まって行動範囲が狭まる前に、オットーは妹の願いを叶えたいと考えたのである。

だが彼の切実な願いをあざ笑うように、噂は既に町中に広まっているようで、すれ違う人間からは労いとも非難とも取れる言葉がかけられた。

「あら、スコッチグレインさん。
無事でよかったわ。
後の二人が見つかるといいわね」

オットーはそれらの言葉を適切に対処する術を知らなかったため、半ば無理矢理にいなし、目的地へと急いだ。
町で唯一の自転車販売店を訪れ、妹が気に入った一台を購入した。
選ぶのには一時間ほどかかったが、整備を済ませて乗ることのできる状態の自転車が渡されるのは数分で済んだ。
店主はオットーの状況を知ってかしらずか、一瞥しただけで何も言わなかった。

帰り道。
自転車に跨り、両足で地面を蹴りながらイモジャがオットーの隣を進む。
転倒しないよう、オットーは右手を前かごに添えた。
それからすぐにでも家に戻りたかったが、妹は帰り道にある靴屋に並んだピンク色のスニーカーに興味を示した。

l从・∀・ノ!リ人「ちっちゃい兄者、あの靴可愛いのじゃ!」

680名無しさん:2021/02/01(月) 21:03:35 ID:SilbKU9U0
(´<_` )「……靴ならまだあるだろ?」

l从・∀・ノ!リ人「あの色のは持ってないのじゃ!」

オットーは少し考え、値札を見た。
決して高い金額ではないが、自転車を買ったことと合わせて考えると、不自然な出費に思われないかが心配だった。
ここで彼が靴の購入を快諾すると、妹が何かを察して不安になる可能性もある。
そこでオットーは妹の話を素直に受け入れず、多少の提案をして誤魔化すことを選択した。

(´<_` )「あぁ、買ってやろう。
     だけど、あの靴を履くのは補助輪なしで自転車に乗れるようになったらだ」

イモジャはまだ補助輪を使ってしか自転車に乗れないため、この条件は極めて妥当なものに思えた。
年齢的にはもう乗れていてもおかしくないが、これまで生活していた場所では自転車に乗る機会はほとんどなかった。
むしろ、乗る必要性がなかったと言ってもいい。
そのため、同級生の中でもイモジャの運動能力は低い水準にあった。

自転車に乗るのを機に運動に興味を持つようになれば、多少は運動能力が上がるかもしれない。
この世界では体力がない人間は、体力のある人間の言いなりになることがほとんどなのだ。

l从・∀・ノ!リ人「ほんとに?!」

(´<_` )「あぁ、だけどアニーには内緒だぞ」

こうして、オットーはスニーカーを買い、家路を急いだ。
家の前に着くと、イモジャが目を輝かせながら言った。

l从・∀・ノ!リ人「練習してるのじゃ!!」

(´<_` )「あぁ、頑張れよ」

オットーはイモジャにそう言ってすぐに家に入り、自室でトレーニングをしていたアニーを訪ねた。

(´<_` )「俺は山に戻る。
     アニー、イモジャが今外で自転車の練習をしているから何かあったら頼む」

( ´_ゝ`)「あぁ、分かった。
     で、その靴はどうしたんだ?
     自転車のおまけか?」

(´<_` )「いや、イモジャが欲しがってな。
     自転車に補助輪なしで乗れるようになったら上げる約束をしたんだ。
     もしアニーが見てる前で乗れたら、これを渡してやってくれ」

靴を受け取ったアニーは呆れたように笑った。

( ´_ゝ`)「ははっ、分かった。
     とりあえず、お前は色々と気をつけろよ」

681名無しさん:2021/02/01(月) 21:04:43 ID:SilbKU9U0
(´<_` )「あぁ、気をつけるよ。
     多分だけど、これは結構長引きそうだ」

そしてオットーは二人を家に残し、借りていた車を使って再び山へと向かった。
役立たずであると言われたとしても、何もしないよりかは行動をしていた方が遥かに心象はいい。
山道を走り、川沿いに作られた捜索隊の本部の前に車を停めた。

(´<_` )「ここで何か手伝えることをしに来ました」

「あんたなぁ……」

三度目の対応をすることになった男は溜息を吐いたが、その目には敵意の色はなかった。
呆れた表情を浮かべながらも、今度はオットーを帰そうとはしなかった。

「余計なことをしないで、ここで待ってろ」

(´<_` )「はい、分かりました。
     ただ、家から役立ちそうなものを持ってきたので使いたいんです」

「あ? なんだ?」

(´<_` )「この場所を知らせるための明かりです。
     小さな気球にライトをつけて空に浮かべて、遠くからでもこの場所が分かるようにしたいんです」

「気球ったって、そんなもんあるのか?」

(´<_` )「はい、あります。
     電気で飛ぶように設計してあるので、万が一にも火災になる心配はありません」

「まぁ、邪魔にならないんなら好きにしな」

(´<_` )「ありがとうございます」

車に乗せていたコンテナを降ろし、そこから小型の気球を取り出す。
本来の使用目的は野営地での明かりの確保、もしくは照明弾の代わりとして戦場に投入される予定の試作品だ。
内藤財団とフィンガーファイブ社の協力によって作られた物だった。
照明弾と異なって使用時間をこちらで好きに操作できる有線式の気球で、その用途は多岐にわたる。

気球の白布を一度広げ、地面にゆっくりと横たえる。
黒いコードを束ねているリールを地面に置き、気球のスイッチを入れた。
僅かな機械音の後、白布が膨れ、その下に繋がる小箱もろとも浮上する。
高性能小型バッテリーが内蔵されており、六時間は飛び続けることが出来る設計だ。

無論、下部の小箱に装着された強力な発光装置を使用すれば十分と持たない。
だが従来の照明弾に比べて飛躍的に長時間の使用が可能になっている。
バッテリーを交換すればすぐに再使用が可能であり、設定を変えれば放つ光の色を変えることも可能だった。

「どこで手に入れたんだ、そんなもん」

682名無しさん:2021/02/01(月) 21:05:44 ID:SilbKU9U0
(´<_` )「今の職場で作られた試作品なんです。
     いつか役に立つと思って家に置いておいたんですが、今使うべきだと思って」

陽の高い内であれば太陽光を利用して常に飛び続けることが出来る。
光を反射しやすい素材で作られた気球部は、それだけでも十分な目印となる。

「はぁん、便利なもんだ」

(´<_` )「明滅させれば一時間は持ちます。
     夜になったら照明弾のように使えるので、邪魔にはならないはずです」

「なるほどな。
とりあえず、余計なことはしないようにな」

(´<_` )「はい、分かっています」

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仆、:.:..:.|.:;;ii|            /;;/   f;;ii}   |;ii!  /;iiムヘ.
癶f乂: |.:;;ii|           {;{   j:;ii|   j;;i|  {;ii{ ヾ;ヽ
メ圦Kj:.|.:;;ii|            };;}_   |:;ii!   /;;,ハ.  |;ii|  };ii}
彡癶k=|.:;;ii|‐-  ... _      廴.:;ヽ };;i} r爻彡个x.|;ii|  |;ii|
K彡ヘY:|.:;;ii|:.:.:.:.:.:.:.:.._ ..≧x≠=─‐ヘ::;;V;;i,'x仏イf|..._|;ii|゚|;ii|  |;ii| xイ
洲爻ミj::|.:;;ii|斗七爪fiiiiijx:.::.:.:.:.:.:.:.:.:ハ;;iiV〃;ii/;ii|;;: |;ii|j|;ii|不]|;ii|く爪i|
州州ハfi|.:;;ii|川iiiiiiiiii川iiii小i^ii^i;.;.;.;.;{;;ii{:./;ii/|;;ii|fメ|;ii|f|;ii|く引;ii|父川
爻川i爻|.:;;ii|ii川iiiiii川iiiiiiiiiii川川iiii川|;;ii|;;ii/メ|;;ii|川;ii|;:|;ii|ヒ刈;ii|_,r爻
川川川j|.:;;ii|厶仏イ=、_j」L(__jムヘ_厶くl;;iil爻,イ|;;ii|^r|;ii|r|;ii|k]r'|;ii|:f7ア
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アニー・スコッチグレインは妹が庭先で自転車に四苦八苦している様子を見ながら、これからの身の振り方について考えていた。
町の中で孤立するような兆しがあれば、すぐにでも対応しなければならない。
村八分になるような事があれば、悪化する前に動かなければ心に大きな傷を負うことになる。
オットーの設置した電気柵に起きたことが嫌がらせなのか、それとも単なる事故なのかは今の段階では分からない。

しかし、もし前者だとしたら行動はエスカレートすることになるだろう。
一度加速した悪意は止まることを知らない。
アニーは一日中家にいるが、家主がいる状態での嫌がらせならば、すでに彼らの悪意は加速している状態にあるはずだ。
家の外で嫌がらせが起きないことを祈ることが、今のアニーにできる唯一のことなのかもしれない。

l从・∀・ノ!リ人「ぬぬー!!」

683名無しさん:2021/02/01(月) 21:07:18 ID:SilbKU9U0
二輪でのバランス感覚がまだ掴めていないが、イモジャの順応性は極めて高かった。
ふらつきながらも数秒間は転ばずに運転し、ペダルをこぎさえすれば走り出せる状態にあった。
後は一歩を踏み出す勇気があれば、自転車は前に進む。
前に進めばバランスを取ることが出来る。

最もバランスが不安定になるのは、速度が落ちた時なのだ。
速度さえ出れば、何事も上手くいく。

l从・∀・ノ!リ人「おっきい兄者、ちゃんと見ているのじゃ!!」

( ´_ゝ`)「あぁ、ちゃんと見てるぞ」

何度も転びながらも、イモジャは涙ではなく笑顔で練習を続けている。
甘いと思ったが、思いのほかオットーの用意したご褒美の効果が大きいようだ。
ふと、家の裏手側から何か音が聞こえたような気がして、そちらに目を向けた。
その一瞬――

l从・∀・ノ!リ人「の、乗れたのじゃ!!」

――イモジャの歓声が、アニーの耳に届いた。
見れば、イモジャはバランスを取りながら、自転車を数メートル進めることに成功していた。

l从・∀・ノ!リ人「やったのじゃ!!」

( ´_ゝ`)「やるじゃないか!!
     流石だな!!」

l从・∀・ノ!リ人「もう一回やるのじゃ!!」

イモジャがペダルに力を込め、再び走り出そうとする。
そして、再び裏手側で音が聞こえた。
あまりにも不自然に音が連続したため、アニーは音の方向に目を向けて凝視する。

l从・∀・ノ!リ人「のわっ?!」

奇妙な声とともに、イモジャが転倒する。

( ´_ゝ`)「あら、残念だったな」

l从・∀・ノ!リ人「違うのじゃ!! なんか、ぐらってしたのじゃ!!」

( ´_ゝ`)「ぐらってして転ぶものだからな」

しかし、よくよく見れば前輪のタイヤが力なく萎んでいる。

( ´_ゝ`)「パンクしたのか」

買って一日と経っていないにも関わらずパンクしたということは、タイヤが劣化していたのか、それとも別の要因があったのか。
庭に鋭利な石や金属、ガラス片は転がっていないため、外的な要因でパンクしたとは考えにくい。

684名無しさん:2021/02/01(月) 21:07:52 ID:SilbKU9U0
( ´_ゝ`)「直せるか見るから、こっちに持ってきてくれ」

l从・∀・ノ!リ人「むー」

買ったばかりの自転車についた無数の傷は、全てイモジャが転倒した際につけたものだ。
タイヤを観察してみるが、特に劣化している風ではない。
前輪を回すと、タイヤが切れていた。
大きな切り傷ではないが、何かが刺さっている様子もない。

人為的に傷をつけなければ、こうはならない。

(;´_ゝ`)「……」

l从・∀・ノ!リ人「おっきい兄者、直るのか?」

( ´_ゝ`)「あぁ、直るさ。
     ちょっと自転車屋さんに行ってくるから、留守番しててくれ」

l从・∀・ノ!リ人「分かったのじゃ!!」

アニーは車いすに乗ったまま、町唯一の自転車販売店に向かうことにした。
舗装された道ではないため難儀したが、彼の車いすのタイヤはオフロードでも適応できるものだったため、通常のタイヤよりかは遥かに楽だった。
徒歩の二倍近くの時間をかけ、アニーは目的の店に到着した。

「らっしゃい」

( ´_ゝ`)「さっき弟がここで自転車を買ったんだが」

「あぁ、覚えてるよ。
どうだい、乗り心地は良さそうだろ?」

( ´_ゝ`)「タイヤが切れてパンクしたんだ」

「えぇ? あれは新品の自転車だよ」

( ´_ゝ`)「だろうね。 フレームもチェーンも、タイヤの劣化具合も問題なかった。
     我が家の庭先には俺の問題もあって、鋭利な物は落ちてないんだ。
     つまり、タイヤが切れる要因がなかったんだ」

激昂したい気持ちを落ち着け、アニーは言葉を慎重に選んだ。
タイヤに手を加えられるとしたら、この店で買った段階でしかない。
だが店主は目を丸くして、口早に答えた。

「おいおいおい、俺が細工したとでも言うのかよ」

( ´_ゝ`)「いや、別にそうは言っていない。
     ただ、気になってね。
     どうやったら買ったばかりの自転車のタイヤが切れるのか、って。
     それで妹が転んで怪我したんだ」

685名無しさん:2021/02/01(月) 21:08:13 ID:SilbKU9U0
「誰かにいたずらされたか、ここから帰る途中で何か踏みつけたんだろうな」

( ´_ゝ`)「なるほどね。 よく分かった。
     とりあえず、タイヤの交換部品を買いに来たんだ。
     中のチューブと外身、それぞれ2つだ」

「あ、あぁ……」

ここで声を荒げたとしても、何一つとして解決にはつながらない。
むしろいらずらに町の人間との関係を悪化させるだけだ。
店主が店の奥に行く。

( ´_ゝ`)「さて、どうしたものか」

そう嘯いたアニーは、果たして店主が白か黒かについて考えを巡らせていた。
店主が自転車を調節して渡す際、意図的に傷をつけておいた可能性は無ではない。
そのため、あらゆる可能性の一つとして認識しなければならないが、その証拠がない以上は追求することも出来ない。
証拠さえあれば、すぐにでも復讐に手を染めることはできるが、それを出来ないもどかしさがあった。

しばらくして、店主が渋い顔で戻ってきた。

「すまん、在庫がないんだ。
フートデンバーの自転車屋にならきっと在庫があるんだが」

( ´_ゝ`)「何でないんだ?
     ここは自転車屋だろ?」

「それがな、在庫が全部ネズミか何かに食われて駄目になってたんだ」

申し訳なさそうに言った店主に対し、アニーは感情の一切を廃した声で応える。

( ´_ゝ`)「俺は今あまり冗談を聞いている余裕がないんだが」

「いやいや、冗談じゃないって。
何なら見てみるか?
全部小さく避けていて、使い物にならないんだ」

( ´_ゝ`)「そこまでするのか、あんたたちは」

「……何の話だ?」

店主はアニーの言葉に、怪訝そうな顔をした。
演技なのか、それとも素の反応なのかは分からない。

( ´_ゝ`)「いや、もういい。
     その穴の開いた奴でいい、それを売ってくれ。
     こっちで修理して使う」

「いや、もう使えないもんだから売り物にはならねぇよ」

686名無しさん:2021/02/01(月) 21:09:11 ID:SilbKU9U0
( ´_ゝ`)「それでいいからくれと言っているんだ」

穴の件が嘘なのであれば頑なに売らないだろうし、仮に売るとなってもその際に穴を開けるかもしれない。
疑心暗鬼の中、アニーは相手を試すように言葉を選んだ。
店主は溜息を吐き、言った。

「分かったよ、じゃあ金はいらねぇ。
こっちの不手際で妹さんには悪いことをしたな」

( ´_ゝ`)「どうも」

再び店の奥に戻り、少ししてタイヤとチューブを手に帰ってきた。

「ほら、これだ。
修理用の道具は持ってるのか?」

( ´_ゝ`)「あぁ、持ってる」

タイヤとチューブを見ると、確かに、小さな切れ目が入っていた。
小動物にかじられたと言われれば、そう見えなくもない。
ナイフで切りつけた物であったとしても、この状況から判断することは不可能だ。

「タイヤの方はできるだけすぐに新品に変えた方がいい。
こっちで発注をしておくから、届いたらあんたの家に持っていくよ。
勿論、タダでな」

( ´_ゝ`)「助かる。
     それじゃあ、また」

可能な限り会話を短くし、凝り得上のコミュニケーションを取らない道を選んだのは、彼の忍耐が限界に近づいていたからだ。
熊を一匹殺したところで、町にとって何かしらの損失になるわけではない。
昔からの慣習、言い伝えの類であり、それを信じているだけに過ぎない。
科学的な根拠のない話を信じるのは人の自由だが、それが人を傷つける理由に使われていいはずがない。

家にある銃を使って、この茶番に関わる人間と話し合いができればと思うが、怒りに任せて行動しては獣と同じだ。
彼らが属する組織は力が全てを変える時代に終止符を打ち、新たな時代を導くという理念がある。
暴力ではなく、人間らしい対話をしていくことが大切なのだ。
自制の為に一歩引くことを選んだアニーは、そのまま家路を急いだ。

庭ではイモジャが自転車の前で屈んでいた。
買ったばかりの自転車が使えなくなったことのショックなのか、それとも自転車に上手く乗れなかったことへの自責なのかは分からない。
しかし、彼の姿を見るや否や、満面の笑みを浮かべた。

l从・∀・ノ!リ人「お帰りなさいなのじゃ!!」

( ´_ゝ`)「ただいま。 これから直すから、部屋でいい子にしてな」

l从・∀・ノ!リ人「ううん、ここで見てるのじゃ!!」

( ´_ゝ`)「まぁ好きにすると良いさ」

687名無しさん:2021/02/01(月) 21:11:01 ID:SilbKU9U0
家から工具を持ち出し、前輪を外す。
前輪からタイヤとチューブを取り外すには力が必要だったため、文字通りイモジャの手を借りての作業になった。
次に、チューブにパンク修理用のパッチを当て、裂け目を塞いでいく。
タイヤには接着剤を流し込み、傷を塞ぐ。

速乾性の接着剤がゴムの間に入り込み、柔軟性を保ちつつ、強固に接着した。
チューブから他の空気の漏れがないことを確かめてからホイールにはめ、最後にタイヤを入れ込む。
一時間ほどの作業を終え、タイヤの具合を確かめた。

( ´_ゝ`)「よしっ、いい感じに直ったぞ」

l从・∀・ノ!リ人「ありがとうなのじゃ!!」

( ´_ゝ`)「接着剤が渇くまでは練習は駄目だぞ」

今まさに自転車に跨ろうとしていた妹にそう告げると、彼女は不服そうに頬を膨らませて言った。

l从・∀・ノ!リ人「むー、いつぐらいに乾くのじゃ?」

( ´_ゝ`)「そうだな、今日の夕方ぐらいかな。
     それまでは勉強の時間にするぞ」

l从・∀・ノ!リ人「ちぇっ、分かったのじゃ」

アニーは念のため、自転車を家の中に引き込んだ。
再びこの自転車に細工をされれば、今度こそアニーはこの町の人間を敵視するしかなくなる。
平穏な生活のためにも、彼はできる限りの隙を潰すことにした。
だが。

二人が家の中に入ったのを監視していた人間の存在とこれから先に待ち受けている結末は、流石に気が付くことが出来なかった。

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688名無しさん:2021/02/01(月) 21:11:25 ID:SilbKU9U0
同日 PM 05:44

異変は、その日の夜に起こった。
事の発端は、山中で行方が分からなくなっていた町民の捜索に当たっていたオットーが帰宅し、口にした一言だった。

(´<_` )「ただいまー。
     あれ、イモジャは?」

( ´_ゝ`)「表で自転車の練習してなかったか?」

(´<_` )「いや、自転車は置いてあったぞ」

アニーの背筋に冷たいものが走った。
夕食後、妹はすぐに自転車の練習をすると言って庭に出たはずだった。
彼はその間、自室で日課のトレーニングを行っており、今の今までイモジャの姿を確認していなかったのである。
状況を理解したオットーが、すぐに家の外に飛び出す。

しかし、彼の目に映るほの暗い夕闇の中に妹の姿を見出すことはできない。

(´<_` )「おーい、イモジャー!!」

返事はなく、彼の声だけが空しく木霊する。
黄昏時。
黒から紫、紫からオレンジへとつながるグラデーションの空はその明度を落としていく。
空を舞うカラスの鳴き声、山々から響く虫の声。

双子はたちまち焦燥にかられ、冷静さを失いかける。
しかし、彼らは寸前のところで正気を保つことに成功した。

( ´_ゝ`)「落ち着け、オットー」

(´<_`;)「あ、あぁ」

( ´_ゝ`)「お前が山に行っている時、何かあったか?」

(´<_`;)「いや、俺はずっと手伝いをしていた。
     件の二人は見つけられたし、俺は何も失態をしてないはずだ」

( ´_ゝ`)「……それが分かったのは何分前だ?」

(´<_`;)「俺がここに到着する10分前ぐらいだ」

( ´_ゝ`)「ちっ、分かった。
     やることを整理する。
     イモジャを探すが、その間に町の人間に目撃情報を聞きだせ。
     間違っても連中がやったとは断定した物言いをするなよ。

     奴らがさらったのなら、それが無意味だってことが伝わるはずだ。
     そうすれば無傷で帰ってくるだろう」

689名無しさん:2021/02/01(月) 21:12:41 ID:SilbKU9U0
(´<_`;)「何でだ? もしあいつらが――」

言いかけたオットーの言葉を、アニーが遮る。

( ´_ゝ`)「――今はいいかもしれないが、それが引き金になって加速するかもしれない。
     仮にあいつらが関わっていたとしても、俺たちはあいつらの思惑通り慌てふためいてやればいい。
     それであいつらが満足してイモジャが帰って来るなら安いもんだ」

(´<_` )「あぁ、分かった」

そして、彼らは動き出した。
兄は車椅子を懸命に押しながら。
弟は息を切らして走りながら。
周囲をくまなく探し、妹の名を叫び続けた。

だがそれに応える者はいなかった。
無常に響く虫と獣の声だけが、彼らをあざ笑うようにして夜になった空に響き渡る。
夕日は消え、月光が世界の主な光となっても、彼らは走り続けた。
例え道化と化したとしても、妹が無事であればそれで万事ことは無し。

己の命以上に大切だと思える存在のためであれば、彼らは喜んで無知蒙昧な人間の用意した舞台で踊り続ける覚悟があった。
だが時間が過ぎ、町中の人間がライトをもって周囲を探しても、一向に妹の姿は見つけられなかった。
無線機による連絡が飛び交い、イモジャの名を叫ぶ声が町中に響き渡る。
町で一番の狩人が山の入り口で小さな靴を見つけた時、兄弟の見ている世界が絶望の色に染まった。

「なぁ、この靴に見覚えがあるか?」

汗だくになったオットーは、差し出されたその靴に見覚えがあった。
真新しいピンク色のスニーカー。
それは紛れもなく、オットーがイモジャに買い与えたばかりの靴だった。

(´<_`;)「あ、あ」

喉から力が失われ、声がまともに発せられない。
事態は最悪の方向に向かいつつあった。
熊が死んでから、彼を取り巻く環境が、刻一刻と悪化していく。
一過性の物であることを願うことも、今の彼にはその余裕がない。

「山神様だ……山神様がお呼びになったんだ……」

ひそひそと、町の人間達がささやく声が聞こえる。
だがその言葉よりもオットーを動揺させたのが、イモジャが間違いなく誰かに連れ去られたという事実だった。
家の前から自転車を置いていなくなることもそうだが、靴を片方落として山の中に入っていくことはあり得ない。
姿の見えない悪意が、彼の家族に向けられたのだ。

こうして捜索を手伝っている人間の中には、それを手助けした者、あるいは実行した者がいる。

(´<_`;)「誰だ、誰がこんなことしたんだ!!」

「オットーさん、落ち着きなって」

690名無しさん:2021/02/01(月) 21:14:28 ID:SilbKU9U0
(´<_`;)「これが落ち着いていられるか!!
     誰がイモジャを連れて行ったんだ!!
     今すぐ出てこい!!」

だが、彼の慟哭に答える者はいない。
相手は熟知しているのだ。
姿の見えないものこそが、最も恐ろしいのだと。

( ´_ゝ`)「オットー、お前が慌てたところで状況は変わらないぞ」

車椅子姿のアニーが姿を現し、抑揚のない声でそう言った。

(´<_`;)「だけどアニー、このままじゃ」

( ´_ゝ`)「分かってる。 だからこそ、今は探そう。
     ケリをつけるのはその後だ。
     関わった奴には相応の報いを受けてもらう」

その声は静かだったが、周囲にいる人間全員の耳に届くほどはっきりと紡がれた物だった。
それは彼らが決して泣き寝入りをしないという覚悟の表れであり、この件に関わる人間に対しての宣戦布告でもあった。
それから間もなく、山狩りが始められることとなった。
無線機と照明、笛を持った人間達が五人一組で山に分け入り、イモジャの捜索を行う。

真意が分からないまま、町にいる大勢の人間がその捜索に協力をした。
兄弟はその協力を素直に受諾し、山に入った。
オットーが用意した照明用の気球が次々と夜空に浮かび、まばゆい光を放つ様はまるで戦争における夜戦のようだった。
笛の音と名を呼ぶ声が山中に響く。

――しかし、イモジャの姿も痕跡も見つからないまま、通り雨が降り始めた夜の十一時で捜索は一旦打ち切られた。

691名無しさん:2021/02/01(月) 21:15:24 ID:SilbKU9U0
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'"                ..   .. . ...    :.  .:.:.:
...'''"'''''''''''''''':;:;:'''""''''"":;:;''"'';:;,.,.,    "":::::::::九月十三日
          ,.,;:;:;:;:;'''"..,.;:.,..,;:;:;:,.,._, ...,,,...,,,,,,  悪意は、濃霧に紛れて忍び寄る
       .,;:,.'""   .,,_,,,...;:;::''""''''"                          .,,,,__...,,;:;'''""''''
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September 13th AM04:03

その日は朝から濃霧だった。
町全体を霧が包み込み、町中を白い光で包み込んだ。
スコッチグレイン兄弟は一睡もできないまま、家の中で霧が晴れるのを待っていた。
濃霧の中で山を歩き回れば、迷う人間の数が増えるだけだ。

しかし彼らは、無駄に時間を過ごしていたわけではなかった。
もしも妹が山の中で助けを待っているのだとしたら、その体温を見つけ出した方が遥かに効率がいい。
そこでオットーは、棺桶の力を使うことにした。
滑空飛行が可能であり、ジェットパックによって十分間だけではあるが上空から多くを見通すことのできる“ラスト・エアベンダー”だ。

熱源感知の機能を使い、山を上空から見れば妹を見つけ出す確率が向上する。
そのための整備を行い、備えた。
悪夢のような夜が明けるのを待ったが、霧が明ける気配は感じ取れなかった。

( ´_ゝ`)「……」

(´<_` )「……」

イモジャを見つけた後で彼らが行うことは決まっていた。
家族に手を出した以上、ただで済ませることは無い。
憎しみと憤りの混然となった感情をいかに爆発させるか、それがある意味で二人の正気を保たせていた。
時計の長針が二周する頃には、町を覆う霧が薄れ始めていた。

いつまでも待つことが出来ないと業を煮やした二人は荷物を持ち、家の外に出る。
すると、濃霧の中からぞろぞろと町の人間達が姿を現した。

692名無しさん:2021/02/01(月) 21:16:24 ID:SilbKU9U0
「そろそろ行こうか
って、なんだ? それは……」

オットーが背負う棺桶を指さし、男が言う。

(´<_` )「空から探します。
     必要があれば、熊でも何でも撃ち殺します」

それは彼なりの皮肉と再びの宣戦布告だった。
山神と崇められていたのはただの巨大な熊でしかない。
熊でも何でも、撃てば死ぬ。
不死の存在であれば恐れる必要があるが、所詮は畜生の類だと町の人間に知らしめる意図があった。

「た、大変だ!!」

その時、一人の男が駆け寄ってきた。
それは昨日、オットーと共に山にいた男だった。

「で、電波塔にっ……!!」

逼迫した声と表情。
それは、オットーが熊を殺したという話を聞いた時よりも青ざめて見えた。
何かが起きてしまった。
何か、取り返しのつかないことが。

薄れた霧の中、オットーは話を聞かずに走り出した。
内藤財団の援助で作られた電波塔の姿が見えてくると、オットーの全身から血の気が引いた。
感情の何もかもが消え、思考が停止した。
立ち止まり、見上げ、そして彼の全てが状況の否定を行う。

(゚<_゚;)「あ、あ、ああっ……!!」

693名無しさん:2021/02/01(月) 21:17:20 ID:SilbKU9U0
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                 |:|
                 |:|        ゆらゆらと揺れるものが見えた。
          __    |:|
        >''":::::::::"''<|:|
.      /::/:::::::::::::::::::: fミ}^ 霧の中、灰色の影となって見えるそれは人の形をしている。
    ;′′:::::::::}::i::::: {ミ}
     |:::|::|:|::r-.、!::}::: /ミ}
      ////////y::,.斗‐ヘ:|  麻布か何かで全身が包まれ、吊り下げられた人の形。
     //////::/:;:;:y;:;:;:∨
       ./::::::〈;:;:;:;:};:;:;:;: ',
      /::::::::::;;;;;;;;「;:;:;:;:;:;:i  風に揺れるたび、鉄骨に結びついたロープが軋む。
      }:/}/^i:;;;;;;;;!:;:;:;:;:;:;:|
       / |:;;;;;;;;;:;:;:;:;:;:;:;|
         /:;;;;;;;;;;;;:;:;:;:;:;:;|  ロープは、ちょうど人の首の位置に巻き付けられていた。
        (:;;;;;;;;;;;;:;:;:;:;:;:; |
         ;:;;;;;;;;;;;;:;:;:;:;:;:; |
         〈;:|;;;;;;;:::::;:;:;:;:;: !  人の形をしたそれの裾から、ピンク色のスニーカーが見えた。
             |  「、イ
            ゝ ''"
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694名無しさん:2021/02/01(月) 21:18:22 ID:SilbKU9U0
顔や服装はまるで見えないが、霧の中でもはっきりと見て取れるそのスニーカー。
袋に収まりきらなかったのか、片足のつま先だけが僅かに見えている。

(゚<_゚;)「イモジャ!!」

背負っていた棺桶を投げ捨て、オットーは走り出した。
その木の実のようなシルエットを目指して、悲鳴のように妹の名前を口にしながら。

(´<_`;)「ああっ、イモジャ、イモジャ!!
     どうして!!」

電波塔の最も高い所にぶら下げられた妹を助けようと、彼は半狂乱になっていた。

(;´_ゝ`)「ああっ、くそっ!!」

最悪の予想を超えた展開において、冷静な判断を下せるだけの胆力は二人にはなかった。
町の人間達も二人の後に続き、電波塔に向かう。
そしてそれを見て、皆が声を失った。
オットーは鉄塔を登ろうとするが、あるはずのメンテナンス用梯子が外されている。

(´<_`;)「どこの糞野郎だ!!
     こんな、こんなことを!!」

(;´_ゝ`)「オットー!!
     棺桶を使え!! こいつなら飛んで降ろせる!!」

弟に追いついたアニーは、車椅子の後ろに括り付けていたコンテナを叩いて言った。

(´<_`;)「あ、あぁ!!」

声が震え、指が震える。
コンテナを背負い、オットーは起動コードを口にしようとした。
だが、コードを思い出すまでに一分の時間を要した。

(´<_`;)『こ、心、こそが……全ての戦いに勝つ――』

――頭上から、何かがしたたり落ち、彼の頬を濡らした。
思わず手で触れてみると、それは鮮血だった。
見上げると、袋がもがき苦しむ様にして動き、その反動で血が落ちてきたのだ。

(;´_ゝ`)「生きてるぞ!! オットー、急げ!!」

(´<_`;)「分かってる!!」

希望が芽生え、オットーの体に熱が戻る。

(´<_`;)『心こそが全ての戦いに勝つ鍵だ!!』

695名無しさん:2021/02/01(月) 21:19:01 ID:SilbKU9U0
そしてついに、彼は起動コードを完全に口にすることに成功した。
コンテナ内に取り込まれ、外骨格が装着されていく。
僅かな時間だが、それがもどかしく感じてしまう。

<0[(:::)|(:::)]>『イモジャ!! 今行くぞ!!』

コンテナから飛び出すと同時に、オットーはジェットパックを使って一気に浮上した。
だが、不浄と同時に背中に大きな衝撃を感じたと思った次の瞬間、彼の体は胸から鉄骨部に叩きつけられていた。
突風ではありえない勢いだった。
もしも装甲がなければ、彼の胸骨は間違いなく折れていたことだろう。

<0[(:::)|(:::)]>『な、なにが……!?』

機械仕掛けの目が、衝撃が来たであろう方向に向けられる。
そして、視線の先にある山の中で何かが光った。
数秒あって、頭上の妹が激しく揺れる。

<0[(:::)|(:::)]>『う、撃ってるのか?!』

先ほどまではなかった血の滲みが布に浮かび上がる。
熱源感知のカメラに切り替え、妹を見上げる。
冷えてはいるが、確かに、人の形に熱源が見えた。

<0[(:::)|(:::)]>『やめろおぉぉぉ!!』

それをあざ笑うようにして、森の中で再びの発光。
布袋が爆ぜ、血が飛び出し、銃声が聞こえた。
光と音がずれていることから、遠距離からの銃撃に違いなかった。
妹を吊るし、銃撃の的にしているのだ。

<0[(:::)|(:::)]>『ああああああああああああ!!』

オットーは襲撃者への報復よりも、妹の救出を選んだ。
その場から飛び降り、ジェットパックを最大出力で使用する。
一瞬の浮遊感の後、急速な上昇によって全身に重力がのしかかる。

<0[(:::)|(:::)]>『イモジャ!! 今助けるぞ!!』

目の前に麻袋が見えた刹那、再びの衝撃が背中を襲った。
ジェットパックが完全に停止したことによって、手が届く前に彼の体は数メートル落下した。
咄嗟に伸ばした手が鉄塔を掴み、それ以上の落下を食い止める。
頭上で揺れる妹の入った袋からは赤黒い血が流れ続け、彼の棺桶にしたたり落ちる。

初弾では大口径のライフルによる銃撃だと思っていたが、棺桶の装甲を貫くには足りない。
しかし、同じ大口径でも貫通力を向上させた特殊な弾であれば話が違う。

<0[(:::)|(:::)]>『ま、まさか……!
       対強化外骨格用弾だと?!』

696名無しさん:2021/02/01(月) 21:21:05 ID:SilbKU9U0
猟師が所持しているような種類の弾ではない。
獣を撃てば粉々になるような弾だ。
専用のバレルに交換し、発砲に耐え得る改造を施された銃でなければ使用出来ない代物である。
相手はこちらの手の内を予測していたとしか思えなかった。

だが何よりも、彼の頭の中に浮かぶのは、果たして誰がここまで周到に準備をして襲ってきたのかという純粋な疑問だった。
その疑問を打ち消すように、森の中からの発光。
距離は優に一キロは離れた場所だった。
そしてその銃弾は妹の胴体の辺りに着弾した。

<0[(:::)|(:::)]>『アニー!! 援護を!!
       何でもいいから!!』

先ほどまで暴れていた袋は力なく揺れ、スニーカーを伝って鮮血が落下していく。
命が急速に失われていく光景を前に、オットーは叫び、助けを求める。
鉄塔を登り、妹へと近づいていく。
狙撃手はオットーとイモジャに使う銃を切り替えているのは明らかだった。

隙を窺うとしたら、オットーが撃たれる瞬間だ。
銃を持ち替え、狙いを定めるまでに数秒の時間を要する。
その瞬間を狙い、妹を抱えて鉄塔から飛び降り、自分が下敷きとなれば助けられる可能性が高くなる。

<0[(:::)|(:::)]>『この糞がぁぁぁ!!』

叫び、相手を挑発する。
憎しみの対象はオットーのはずだ。
町の人間が雇い入れた殺し屋だとしたら、こうして威勢良くしているオットーを狙うだろう。

(;´_ゝ`)「糞ッ、オットー!!
     持ちこたえてろ!!」

その声だけで、オットーはアニーがこれからすることを理解した。
彼は一度家に戻り、援護用の棺桶を持ち出すつもりなのだ。
組織からもらい受けた名持ちの棺桶。
高速飛行が可能なコンセプト・シリーズの棺桶、“トップガン”を。

オットーは少しでも時間を稼ぐために、わざと鉄塔を登る時間を遅くすることにした。
どれだけの時間がかかるか分からないが、アニーが棺桶を持ち出せば、相手のいる場所まで数秒とかからずに飛んでいくことが出来る。
イモジャを救うためには、どちらかが犠牲になる必要がある。
ここで撃たれるべきは自分自身なのだとオットーは理解し、覚悟を決めた。

狙撃をする人間が望む通りに立ち回れば、イモジャが助かる可能性は高くなる。
なればこそ、今の彼にできるのは相手の望み通りに踊ることだった。
相手の照準を狂わせるようにして鉄塔を動き回り、撃たせる。
数秒が数時間にも感じる緊張感の中、オットーは特徴的なエンジン音を家の方向から聞き取った。

薄れゆく霧の中、ジェットパックの光が浮かび上がる。
これで相手の注意が逸れたと確信したオットーは、一気に動いた。
先ほどまでとは明らかに異なる速さで鉄塔を登り、妹の入った麻袋を胸に抱きとめる。
縄を切り、そのまま地面に向かって落ちていく。

697名無しさん:2021/02/01(月) 21:21:26 ID:SilbKU9U0
<0[(:::)|(:::)]>『よしっ!!』

全てが完了するのに、二秒とかからなかった。

<0[(:::)|(:::)]>『イモジャ、もう大丈―――!!』

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            :,:           :(::)
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 :::':'::::::::::::::::::::::::::::;(,,,,,,,、:::::::-ー''''`'`''''''''"
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――目の前で、妹の頭が爆ぜた。
思考が白に染まり、呆然とした状態のまま、オットーは地面に激突した。
腕の中の妹は動く気配がなかった。

<0[(:::)|(:::)]>『そ……そんな……!!
       あぁー! ああああああああああああ!!』

様子を見ていた町の人間達が駆け寄る。
今はただ、憎しみと虚無がオットーの全てを支配していた。

「お、おい、こりゃ……!!」

周囲の様子がおかしい事にも、オットーの意識は向けられることは無かった。
妹を助けようとして、結果として失ってしまった。
いたぶるようにして殺された妹の死体を、ただ、眺めることしかなかった。

「こりゃ、イノシシだぞ!!」

<0[(:::)|(:::)]>『…………え』

「ほんとだ、こりゃあ、イノシシの足だ」


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