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Ammo→Re!!のようです

698名無しさん:2021/02/01(月) 21:21:48 ID:SilbKU9U0
その言葉が示す通り、麻袋の裾から覗き見えるのは、どう見ても獣の足だった。
獣の足に、ピンク色のスニーカーが括りつけられている。
しかし、棺桶の熱源感知装置が映す麻袋の中身は人の形をしていた。
町の人間が袋を開き、中からイノシシの死体を取り出した。

その時でさえ、袋には人の形が残されている。

<0[(:::)|(:::)]>『アニー!! これは――』

――空からアニーの使用する棺桶が落下してきたのは、オットーの叫びと同時だった。
背中から落ちたアニーの棺桶はその衝撃でヘルメットが吹き飛び、特徴的だった二枚の可変式主翼は無残に折れた。
衝撃だけで折れるはずがない事を知るオットーは、アニーの羽が撃ち抜かれたのだと理解した。

(;´_ゝ`)「く……くそっ……!!」

「に、逃げろおおお!!」

集まっていた人間達は流石に命の危険を感じたのか、蜘蛛の子を散らしたように逃げ出す。

<0[(:::)|(:::)]>『これは罠だ……!!
       誰かが俺たちを』

(;´_ゝ`)「分かってる、分かってるさオットー。
     相手は間違いなく、俺たちを殺そうとしてる。
     しかも、嬲り殺すつもりだ」

<0[(:::)|(:::)]>『俺が見た限りだと、相手は一キロ以上は離れていた。
        逃げよう、アニー!!』

(;´_ゝ`)「一キロ離れた位置から当てられる狙撃手だぞ、逃げられるとは思えない。
      くそっ、糞っ!! 全部この時のためか……!!」

恐らく、彼らに起きた不可解な出来事の正体は全てこの狙撃手が原因だ。
家の周囲で起きた出来事。
オットーの手伝い先で起きたこと。
熊を撃ち殺したのも、イモジャの自転車の一件も、何もかもが狙撃の一言で片づけられる。

彼らの頭の中に浮かぶ疑問は、その相手だった。

<0[(:::)|(:::)]>『ペニサス・ノースフェイスは殺したのに、一体誰だ!!』

(;´_ゝ`)「知らん!! あの魔女以外にこの距離で当てられるなんて、カラマロスだけだ!!」

アニーの叫び声の直後、オットーの腹部を強烈な衝撃が襲った。
装甲が砕け散り、腹部が露呈する。

<0[(:::)|(:::)]>『や、やばっ……!!』

体をひねって腹部を守ろうとするが、すでに遅かった。
空気を切り裂く飛来物が、彼のわき腹から侵入し、肉食獣が食いちぎるようにして、臓物を地面に吐き出させたのである。

699名無しさん:2021/02/01(月) 21:22:08 ID:SilbKU9U0
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   `           i";;;,/ /      /;;;;;;;;;;;;/    激痛が
           l /  ."、    / ;;;;;;;;;;/        灼熱の激痛が
          /./    l「    .../ ;;;;;;;;; /         オットーの思考を赤に染め上げた。
     .,i''l   .,〃    .〃 /  ./ ;;;;;;;;;./    .,.     _ /″
    ,lゾ  .〃   .,〃 ./  ,i";;;;;;;;./     ./     ,r'./
   .〃   ./l   、〃 ,ir / ;;;;;;; /    .,〃    .,ノン′  .,,ir'"  _/丶;;;;;;,ン'″
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同日 同時刻

――狙撃手は棹桿操作を行い、素早く次弾を装填した。

狙撃手に向いている人間には共通点がある。
一つは集中力。
一つは忍耐力。
そして、何よりも重要なのが心を殺す力だ。

ある意味で狙撃手とは、誰よりも優しい人間なのだと言われる。
その所以は、彼ら狙撃手は基本的に相手の嫌うことを率先して行い、より多くの存在を相手に与えることを旨としているからだ。
一撃必殺は当然として、求められるのは一撃でどれだけの人間を殺せるのか、ということだ。
一発目で一人を程よく傷つけ、それを餌により多くの人間の心を殺しつつ、被害を増やす。

そのためには相手の気持ちになって考え、相手が嫌うことをすることが重要になる。
生粋のサディストよりも、マゾヒストの一面を持つ人間の方が人間の痛みを知っている。
その知識を生かすために己の心を殺し、相手の心を殺すのである。
近代、名手とされる狙撃手は二人いた。

700名無しさん:2021/02/01(月) 21:22:31 ID:SilbKU9U0
一人はジュスティア軍の秀才、カラマロス・ロングディスタンス。
弾道計算能力もさることながら、その集中力と任務を遂行するために手段を選ばない姿勢はジュスティアで最高と評されている。
そしてもう一人は、イルトリア軍の“魔女”ペニサス・ノースフェイス。
無慈悲さと優しさを併せ持ち、天性の狙撃の才能を生かして生存不可能とされてきた作戦を潜り抜けてきた猛者。

二人の共通点は、本人たちの意向とは違い、歴史の表舞台に名が出たことだった。
彼らが優秀なのは事実ではあったため、他の狙撃手たちはその陰に隠れることになった。
だが。
歴史に名を残さず、人々の記憶の中にさえ残らない狙撃手がいた。

彼は自分自身でさえ己の才能に気づいていなかったが、その才能を見出した人間がいた。
しかし本人は自分の意向に従い、狙撃手の道から外れ、別の道を選んだ。
彼は、あまりにも優しすぎたのである。
故に狙撃手としては不適格であり、歴史に名を残すことは無かった。

彼は、“魔女”が見出した唯一の後継者であり、狙撃の技術を引き継いだ弟子だった。
魔女の弟子は無表情のまま、手にしたチェイタックM200の銃爪を引いた。

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  ゙ヽ'゙   :.:.:∨:::::j_∨__ト===(_)/_ /─ノ─厶-、\!=|三三三|l 「`!三
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'/べ   ヾ≧;「 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\::::!::::{::::.イ:::::::i/         __/ /__
 "ヾ\   `ヾ;:≧、              `^ー^ーへ::ノ    _ イ! ̄ ̄))
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臓物の次に飛んだのは、オットーの被っていたヘルメットだった。
安全装置が働いたおかげで彼の首は折れずに済んだが、素顔が露わになる。

(´<_`;)「ぐあっ……」

口から血が溢れ、顔面は蒼白になっている。

(;´_ゝ`)「オットー!! 今助ける!!」

ジェットパックを破壊されたアニーのトップガンでは、まともな援護は出来ない。
しかし、膝立ちになって弟を庇うべく動き出す。
失われた手足の部分を動かすことは出来なかったが、一度の動きで跳ねるようにして移動ができた。
オットーの上に覆い被さり、彼の身を守る。

(;´_ゝ`)「今助けてやる!!」

(´<_`;)「ご……ぼ……」

701名無しさん:2021/02/01(月) 21:22:54 ID:SilbKU9U0
瀕死のオットーが懸命に何かを口にするが、アニーの耳には届かない。
このままオットーをどこか安全な場所まで運び、治療をしなければ彼はもうじき絶命する。
アニーは周囲の状況を確認し、身を隠せる場所を探した。
電波塔の周囲には建物がないことが前提で建てられているため、彼の努力は半ば無意味な行動であることは本人が一番理解していた。

(;´_ゝ`)「くそっ……!! どうしてあの位置から当てられるんだっ……!!」

電波塔などの高所に対して山中からの狙撃を成功させられるのは理解できるが、眼下のこの場所を狙い打てることがアニーには不思議で仕方がなかった。
森の中から撃っているのであれば樹木が邪魔になるだけでなく、家屋もその射角に入るはずだ。
倒れた状態のオットーを撃つには、あまりにもその角度が不自然だった。
アニーの疑問をあざ笑うように、新たな弾が彼の棺桶の関節を撃ち抜く。

銃声と着弾までの間にほとんど時間差がなかったことに気づき、彼は己の迂闊さを呪った。
彼が狙撃手の位置を把握したのは、その姿を視認したからではなく、発砲炎を確認したからだ。
果たしてそれが本物の発砲炎かどうかまでは見ていないし、見るだけの余裕はなかった。
あくまでも光を見てからの着弾と発砲音の確認でしかない。

狙撃手が光の場所にいなくても、発光と発砲のタイミングをずらすだけで簡単に位置を偽装できる。
つまり、狙撃手は既に――

(;´_ゝ`)「うっ……!!」

――背後から、跫音が聞こえた。
思わず振り返り、そこに、男の姿をした恐怖を見た。
ギリースーツで身を包み、顔には黒と緑のペイントが施されている。
巨大な対物ライフルを構え、スカイブルーの鋭い眼光が兄弟を射抜くように向けられていた。
ボルトアクション式の対物ライフルにドラムマガジンを付けるという改造は、これまでに見たことがない。

弾倉交換の時間を惜しみ、尚且つ、大量に狙撃をするという意向が形となったものだ。
常識のある狙撃手ならば、まず選ばない改造だった。
そのライフルが普通の対物ライフルではなく、強化外骨格が使用する前提で改造された物だとは、流石の彼もこの一瞬の間に気づくことはできなかった。
しかし、ライフルの詳細は知らなくても、アニーはその男を知っていた。

(,,゚Д゚)「……」

(;´_ゝ`)「ギコ……!!」

彼ら兄弟が殺した狙撃手、ペニサス・ノースフェイスと同じ場所にいた退役イルトリア軍人だ。
この男の詳細については訊いていなかったが、その名前については、クックル・タンカーブーツから聞いていた。
こうなると分かっていれば、その性質や素性について聞いておくべきだったと後悔した。
そうすれば警戒も、対策も出来たはずだ。

(,,゚Д゚)「弟が大変そうだな、アニー・スコッチグレイン」

(;´_ゝ`)「全部、お前の差し金か……!!
      妹をどこにやった!!」

どのようにしてこちらの名を知ったのか、それを問うことは彼の頭には浮かばない。
アニーはただ、妹の安否を知りたかった。
だがギコは一睨し、言った。

702名無しさん:2021/02/01(月) 21:23:17 ID:SilbKU9U0
(,,゚Д゚)「ここよりもいい場所だ。
    よぅ、オットー・スコッチグレイン。
    必死に助けようとしたイノシシが死んで残念だったな。
    お前は妹と同じ絶望の中で死ね」

そして、背中から何かを取り出し、オットーの腸の上に放った。
それは、イモジャのスニーカーだった。
スニーカーには乾いた血が付いていた。

(;´_ゝ`)「貴様ああああ!!」

ギコのライフルが火を噴き、アニーの体がオットーの上から吹き飛ばされた。
背中に内蔵されていたバッテリーが撃ち抜かれ、棺桶が拘束具と化す。
顔から地面に落ち、土が目と口に入る。
悔しさと怒りで涙が流れ、顔が土で汚れる。

目の前でオットーの目から光が消えていく。
アニーは必死に無事な左手を伸ばし、オットーの手を握ろうとする。
伸ばした手を、ギコが踏みつけた。

(,,゚Д゚)「俺は、お前たちの何もかもを奪い取る。
    死ぬ時にはその手に何も掴めないと思え」

(;´_ゝ`)「足を……どかせっ!!」

(,,゚Д゚)「……話を聞かない男だな」

ギコのライフルがオットーの手首に向けられ、至近距離で発砲された。
装甲ごとオットーの手首が吹き飛び、地面に巨大なクレーターが生まれた。
果たしてオットーが悲鳴を上げたのか、銃声で聴覚がマヒしたアニーには分からない。
すでに虫の息となっている弟に、それだけの力が残されているとは考えられなかった。

弟の生死さえ、耳鳴りがする状態では分からない。

(,,゚Д゚)「……」

何事かを口にし、ギコは棹桿操作を行い、巨大な薬莢を地面に落とした。
銃口がアニーの顔に向けられ、そして、銃爪が引かれた。
銃声と共に、アニーの意識は黒に染まった。

703名無しさん:2021/02/01(月) 21:23:38 ID:SilbKU9U0
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川-_-_-      __j∩|rnlnn,、|:. :||,、,、 :n:n|| ∩∩||∩∩:|||^|^| :| | || | ||」斗七だilil{、
洲‐_      圦`ゝ、、_| || | |^|^|| || | |::||::|| ||::||::||||::|_|_|」L⊥-┴=ニ≠冖「i:i:i:i|ilililシ :)
洲州‐_     」::::|「⌒^^=- ̄_ ̄ ̄ ̄ ̄_二二ニニ=‐┬¬冖丁: : :.:.:,、:|n∩レ'゚ xi(}.:.:.:.:.:.:
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vvvvvv、、、  └Л∩| ni| ̄丁¨¨了“““¨丁””゙ ̄|| ̄ ..:.:|||: : ||へ||i^||^||_」シ ´_ - ¨_- /ニ=-
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同日 PM06:11

世界最大の宗教、十字教。
その聖地とされるセントラスの大聖堂は大司教を始めとする多くの聖職者が日々集う場所だけでなく、街と十字教の最高権力者である教皇の執務室の役割を担っている。
大聖堂“ノーザンライツ”の執務室で教皇、クライスト・シードは深い溜息を吐いた。
首から下がった銀色の十字架が、彼の溜息で白く曇る。

( ゚ν゚)「ふぅ……」

目の前には一枚の書類と、二人の訪問者がいた。
その二人は聖職者でもなければ、十字教の信徒でもなかった。
しかし、スーツを着たその佇まいは熟練の神父と修道女のように落ち着き払ったものだった。

( ゚ν゚)「どうして、ここまでの好条件を出すんだ?」

「我々にとって、この街は非常に重要な意味があるからですよ、教皇様」

704名無しさん:2021/02/01(月) 21:23:58 ID:SilbKU9U0
黒のスーツを着た男が満面の笑みで答える。
その笑みは友好的なものに見えるが、多くの人間を見てきたクライストには、その笑顔の下に別の真意があることが分かった。

( ゚ν゚)「なるほど……
    ところで、私は君と会ったことがあるような気がするんだが、いつだったかな?」

( ・∀・)「ははっ、きっとどこかの街ですれ違ったかもしれませんね」

( ゚ν゚)「そうか……」

( *´艸`)「私はどうですか、教皇様?」

( ゚ν゚)「君は……すまない、特に記憶にないな……」

( *´艸`)「ひっどーい!」

( ・∀・)「モーガン、少し静かにしていてくれ」

( *´艸`)「あっ、ごめんなさい、つい興奮しちゃって!」

( ゚ν゚)「ははっ、気にしないでいい」

( ・∀・)「お恥ずかしい限りです……」

苦笑する男の表情は、演技ではなく本心からのものだった。
この二人が共に行動することに、まだ慣れていないのだろうか。

( ゚ν゚)「せっかくだから、この話についてもう少し考えさせてくれないかな?」

( ・∀・)「えぇ、勿論です。
     できれば、一か月以内にお返事をもらえれば助かります」

( ゚ν゚)「分かった、善処するよ」

705名無しさん:2021/02/01(月) 21:24:29 ID:SilbKU9U0
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同日 PM07:37

その日の夜は、いつもと変わらず、潮騒の聞こえる静かな夜だった。
街からは静かな音楽が流れ、人々が酒と魚料理、そして踊りを楽しんでいる。
ヨルロッパ地方の北に位置する“水の都”ヴィンスの夜が二つの顔を持っていることは、例え観光ガイドブックに載っていなくても、その土地を訪れる人間にとっては有名な話だ。
街の体を成しているこのヴィンスという街は、その実、複数のマフィアの縄張りが結びついて成り立っている土地であり、暴力はどこにでも潜んでいるのだ。

ヴィンスが観光地として成り立っているのは、マフィア間の小競り合いが殺し合いではなく話し合いで解決することを重要視しているからだった。
そこに至るまでには多くの争いがあり、決して楽な道のりではなかったことは街に長く住んでいる人間にはよく分かっている。
特に今の形態に落ち着くに至った大きな事件について、知らない住民はヴィンスにはいない。
それと同様に、殺し屋“レオン”の名を知らない人間は一人としていない。

706名無しさん:2021/02/01(月) 21:25:23 ID:SilbKU9U0
夥しい血と硝煙、銃弾、殺戮の果てに今の形に落ち着いたのは、ある意味でその殺し屋のおかげだと言ってもいい。
街を束ねる市長、シチリアン・“アンラキッキー”・ルチアーノはその殺し屋が一人で起こした事件の渦中において唯一の生き残りだった。
生き残らされた、という事実を知るのは彼だけだった。
その夜、ヴィンスにいるマフィアの定例会議ではいつものようにそれぞれが抱える不満と誤解を口にし、問題の解決を図っていた。

マフィアの首領たちが卓を囲んで話し合うのを、ルチアーノはクルミを二つ握りしめながら、静かに聞いていた。
会合の場所は決まって同じ海辺のレストランを貸し切って行われ、誰も武器を携帯しない決まりで行われていた。
出店の位置、客寄せの方法など、小さな話から構成員間での揉め事まで報告と話し合いが続き、ルチアーノはそれらが落ち着き次第、本題を話さなければならなかった。
一通りの話が終わり、皆の視線が自分に向けられたのをきっかけに、ルチアーノは深い溜息を吐いた。

歴代の市長からすれば、彼はまだ若い部類に入る。
市長は代々マフィアを束ねるだけの力を持つことが必要条件とされており、同時に、彼らからの敬意も重要な要素だった。

L」゚ー゚)「話し合いは終わったみたいだな。
      では、前から話に上がっていた内藤財団との契約についてだ」

街が潤うために大きく貢献しているのが観光業、次いで漁業だ。
マフィアは観光業に付きまとう治安維持の面で手を貸したり、ルールを守らない人間に対しての抑止力としての役割を果たしている。
無論、女衒の手配やあっせんもその生業の一つだ。
しかしながら、観光業でマフィアの末端まで潤うにはまだヴィンスには売りとなる物が少ない。

伸び悩んでいる収益に救いの手を差し伸ばそうと申し出たのは、世界最大の企業、内藤財団だった。
要となるのは、エライジャクレイグの経営する鉄道会社を招き入れるための線路増設だ。
新規で線路を作るには莫大な金が必要になる。
その費用と交渉の一切を内藤財団が負担するだけでなく、商業施設の誘致なども彼らが手を貸すという。

その見返りとして、内藤財団の関連企業が観光業に参入することを認めるという話だった。

「提示された金額と条件は悪くない。
後は、地元の声次第だ」

街で商売をする人間達の声というのは、決して無視することは出来ない。
大企業が介入することで地元の商売下降気味になってしまっては、元も子もない。
街の収益が上がったとしても、街に暮らす人間の暮らしが楽になるとは限らない。
一度介入を許してしまえば、追い出すのは容易ではないのだ。

「商店街組合は反対の声が大きいですが、宿泊業は半々ってところです」

「全体的に街は歓迎をしていません。
ラジオについては感謝をしていますが」

「やはり、地元の店の客が取られるのが手痛い。
噂じゃ、あいつらは独自の輸入路を持っているからますます地元の人間が干上がっちまう。
俺のファミリーじゃ、契約は蹴った方がいいって話しか聞きませんね」

税金で街が潤ったところで、大部分の収益を得るのが内藤財団なのであれば意味がない。
ヴィンスという街を転覆させ得る話だけに、これについては慎重に意見を吸い上げなければならなかった。

L」゚ー゚)「なるほど、では――」

707名無しさん:2021/02/01(月) 21:25:48 ID:SilbKU9U0
(:::::::::::)「ちょっと、いいかな?」

貸し切りとなっているレストランに、彼ら以外の人間は入れないようになっている。
聞こえてきたのはハスキーな女の声だった。
ルチアーノが振り返ると、そこには白いロングコートを着た若い女がいた。

L」゚ー゚)「誰だ、あんた。
     見張りの奴らがいただろ、ここは貸し切りだ」

女の姿は奇妙だった。
銀色の髪で隠された左目には眼帯がつけられ、残された右目は真紅の色をした切れ長の目。
左手の薬指がなく、彼の見間違いでなければ右耳もない。
事故で失ったとは思えない欠損の仕方だった。

(:::::::::::)「それを知った上での訪問さ。
     内藤財団との交渉への返事、そう焦らなくてもいいんじゃないかい?」

L」゚ー゚)「いきなり出てきて何かと思えば、内藤財団の使者か。
     見ての通り今は会合中だ。
     返事はノーだと、あんたから伝えるか?」

(:::::::::::)「悪くない話さ。
     あたしは小さな町の出身でね、大企業に食い物にされる怖さは知ってるつもりさ。
     だから上司に話をして、この街が望む契約形態で構わないって念書を届けに来たんだ」

女は懐から封筒を取り出し、それを掲げて見せた。

(:::::::::::)「こいつがあれば、あんたたちにとって悪い条件は一つも生まれない。
     街にある商店街や小売業、ホテルが望む形態を集約してからでも遅くはないだろう?」

その念書の内容を見ていない以上、軽率に首を縦には振ることは出来ない。
何よりも彼が警戒心を抱き続けるのには、理由が二つあった。
一つ目は、言わずもがな、このタイミングであまりにも都合の良すぎる話が舞い込んできたこと。

L」゚ー゚)「なるほど、それを届けに来ただけなのか?」

(:::::::::::)「いや、後は観光さ。
     あたしはヴィンスに一度来てみたくてね、お勧めの店なんかを訊こうとも思ってる」

そしてもう一つは――

L」゚ー゚)「へぇ、それで、あんたの名前は?」

从 ゚∀从「ハインリッヒだ、ハインリッヒ・ヒムラー・トリッペン。
      以後、お見知りおきを」

――真紅の瞳の奥に、形容しがたい不気味さを感じたからだった。

708名無しさん:2021/02/01(月) 21:26:08 ID:SilbKU9U0
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            _ ,∠....,,_       ヽ,    丶
         ,-'"´-,‐t'''x―─‐- ̄""''''─ ,,_ i       \
       ´-‐''''7  `、 \     、         i.       i ヽ
           i    入.ヽ 、 \ 、  _`,|        !  ,
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         |   | | Nイテ可; \弋:::::::::::::::::;;i         !.    |
            |   !.| i《ゝ''"く     ー--‐''/         ト,   |
.           |  i !.| |           /   /  ,  ! i   |
          |  |  i| i           /  /  i  i.ノ     |
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Ammo→Re!!のようです
Ammo for Remnant!!編
第六章【Remnants of hate -憎しみの断片-】 了
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709名無しさん:2021/02/01(月) 21:26:30 ID:SilbKU9U0
これにて今回の投下は終了です

質問、指摘、感想などあれば幸いです

710名無しさん:2021/02/01(月) 21:49:02 ID:nxOYq/T.0
乙乙

711名無しさん:2021/02/01(月) 22:32:39 ID:3tnBOJds0
乙!

712名無しさん:2021/02/02(火) 02:07:41 ID:g//QgKcc0
乙です!

713名無しさん:2021/02/02(火) 18:57:51 ID:vgSLNSZA0
おつ
前半のドキドキ感まじでやばかった
兄弟はしゃーないけど妹者は無事であってくれ…
そしてハインリッヒ何話ぶりだこれ

714名無しさん:2021/02/03(水) 08:04:13 ID:nHOdeD520
オットーも過去に子供を手にかけているし、イモジャがもし殺されていても因果応報ではあるんだよな
ギコがそこまでするとも思えないが復讐心は人を鬼畜に変えるからな

715名無しさん:2021/02/03(水) 15:58:21 ID:640fDQlw0
おつ
ギコやばいくらい強いな
そしてついにハインリッヒも出てきたな
ますます楽しみだ

716名無しさん:2021/02/05(金) 17:14:11 ID:9keh7/9c0
遅れながら乙
ギコは本来棺桶で暴れるよりも狙撃手の方が強いってことか?熱いな

717名無しさん:2021/02/06(土) 09:56:29 ID:JF/hUXf.0
>>714
そもそも兄弟いなくなった時点で他に身寄りがなければ妹者生きていけんよな
いっそ殺すのも優しさかもしれん

718名無しさん:2021/02/14(日) 17:57:18 ID:12lknJ8.0

解放された囚人たちの怪我はどんなもんなのかな
手足の腱くらいは切られてるのかな

719名無しさん:2021/03/05(金) 21:19:16 ID:bBoxr4AU0
沢山の感想に涙がとまりません……

今度の日曜日VIPでお会いしましょう

720名無しさん:2021/03/05(金) 23:18:50 ID:sIxLwxq20
待ってます!!!

721名無しさん:2021/03/06(土) 07:25:07 ID:8zVMvBJY0
うおぉぉぉっ!!!

722名無しさん:2021/03/08(月) 18:48:24 ID:nOwkzYno0
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ヴィンスの厄災の生き証人は俺だけだ。
奴に狙われた人間は俺以外全員が死んだ。
女も、子供も、老人も、ペットも。
瀕死の状態で病院送りになった奴も、例外なく殺された。

不運にも俺だけが、“レオン”に生かされたんだ。

                          ―――シチリアン・“アンラキッキー”・ルチアーノ

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September 14th AM06:29

ヨルロッパ地方の朝は、夏でも肌寒さを感じるほどの気温であり、キャンプをする上では防寒装備は決して欠かすことが出来ないものだ。
防砂林の間に建てられたテントの中で寝袋を広げて布団のように使うその旅人たちは川の字になって眠り、それぞれの体温を求めるように身を寄せ合っていた。
二人は女性で、間に挟まれるようにして眠るのは少年だった。
少年には犬の耳と尾があり、服の下にある体には無数の傷跡があった。

新しい傷が増えなくなってから一か月半近くが経過し、彼が人並みの幸せを享受し、名前を得たのも同じ時間が経過している。
彼は“耳付き”と呼ばれる人種で、現代においては世界中で最も差別の対象になっていた。
一部の街では差別の対象となってはいないが、それでも、世界の大部分の街では獣のように扱われ、奴隷としての生を終えるのが常だった。
彼もそうなるはずだったが、七月三十一日にその世界が一変した。

(∪´ω`)

彼の世界を変え、彼にブーンという名を与えたのは、彼の隣で眠る豪奢な金髪を持つ女性だった。
女性はデレシアという名の旅人だった。

ζ(´ー`*ζ

今でこそ、彼女は穏やかな表情で眠っているが、ひとたび戦闘が始まれば比類のない強さを発揮し、己の道を切り開いていくことになる。
そして、彼女の反対側で眠るのは紅茶色の髪を持つヒート・オロラ・レッドウィングだった。

ノハ´⊿`)

ある酒場で出会ったことをきっかけに、デレシアと意気投合したヒートは二人の旅に加わることになった。
デレシアには劣るが、彼女もまたこの時代に生きる女性の中でも屈指の戦闘力の高さを有している。
殺し屋“レオン”の名で一部の地域で恐れられ、その地域に恐怖を蔓延させたことは、その寝顔からは誰も想像できないだろう。
その全ての発端が自身の母親であることを知った彼女は、今再び復讐心を取り戻し、その成就の機会を狙っていた。

しかし彼女は冷静さも取り戻していた。
一度単身で復讐を試みたが、相手の強大さにその試みは失敗に終わった。
以来、彼女は復讐心を忘れなくとも、それを焦るという愚を犯さないと心に誓ったのである。
そして。

――彼ら三人の次の目的地であるヴィンスは、ヒートにとっては因縁のある土地だった。

723名無しさん:2021/03/08(月) 18:48:44 ID:nOwkzYno0
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Ammo→Re!!のようです
Ammo for Remnant!!編
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: :.:: ....爻|i:i:i:i:i|;';';'; ';' 爻 | |\: . : .|i:i:|:.: : ...|i:i:i:| . : : : ∨ /:.: : . ..:|i:|/ . |/ /.:;';'|::|.://: :ヾ
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└'  |i:i:i:i:i:i:|:/  . : :./ :/: : : : : : : : : : : : : : .     `、    ∨i:i|;';' .: .: : 爻|:::|.:;'丶、
   |i:i:i:i:ア゜ . : : : /: : /: : : : : : : : : : : : : : : : : .    `、  ./ Ⅵi"" ' ¬ー-|:::|--  `
   /i:ア゜  . : : :./: : : :/: : : : : : : : : : : : : : : : : : : .    `、 / : :ヽ       ̄      "
 ィ㌻゜  . : : :/: : : : :/: : : : :/: : : : : : : : : : : : : : .      ∨ / : : :.\
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  . . : : : /: : : : : : :./: :/: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : ___-___∨_ -─-ミx二二─ ‐ ‐
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第七章【Remnants of memories-記憶の断片-】
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724名無しさん:2021/03/08(月) 18:50:20 ID:nOwkzYno0
同日 AM07:15

彼らの朝食は飯盒で炊いた白米と、直火で焼いたアジの開きだった。
遠火でゆっくりと焼いたことによって、余分な脂だけが落ちたアジの開きからは甘く、香ばしい香りが漂う。
蒸らし終えた白米と共にローテーブルに並べられ、木漏れ日の中で三人の朝食が始まった。
箸を使って器用に干物から身を剥がし、口に運ぶ。

ノパー゚)「美味いっ!!」

(∪´ω`)「美味しいですお!!」

二人はアジの開きを口にして、即座にそう言った。
朝食を作ったデレシアはその賛辞を素直に受け止め、笑顔で答えた。

ζ(゚ー゚*ζ「元の干物がちゃんとしているからね。
      タルキールで買った甲斐があるわ」

白米は程よい硬さに炊き上がり、吹き付ける朝の海風が熱を適度に奪っていく。
旨味の凝縮された干物に舌鼓を打ち、三人は湯気の立つ食事を堪能した。
まだ箸がそこまで上手く使えないブーンは小骨を指でつまみとり、身をこそぐようにして食べる。
一方、怪我がほぼ完治したヒートは箸を巧みに使い、可食部を余すことなく胃袋に収めていく。

骨についた薄い身の部分を食み、デレシアも食事を続ける。
食べることのできない骨や皮は焚火にくべ、灰にしていく。
その間、遠火で温めていた湯を使ってデレシアは食後の茶を入れることにした。
豪勢な食事ではないが、心と腹を満たす食事としては十分といえた。

ノハ*゚⊿゚)「ほふー」

(∪*´ω`)「ほふー」

食後の茶を飲み、二人は揃って同じ溜息を吐いた。
吐いた白い息は風に運ばれ、すぐに消えていく。
気温が上昇しているが、まだ少しの肌寒さは拭えない。
背の高い木々の間には風がほとんど流れていないように感じるが、頭上で葉と枝がこすれる音が確かな風の存在を伝える。

ζ(゚ー゚*ζ「このお茶も美味しいわね」

ステンレス製のカップに注いだ茶色の液体からは、独特の香ばしい香りが立っている。

ノパ⊿゚)「あぁ、美味いな。
     何茶って言うんだ、これ?」

ζ(゚ー゚*ζ「これはほうじ茶、って言うの。
       ヒートのいたエルジャ地方ではあまり飲まないみたいね」

茶葉を焙じることで独特の香ばしさと風味を生み出すほうじ茶は、食事中は勿論だが、食後に飲むものとしても非常に優れている。
特に、肌寒い中で飲む暖かいほうじ茶は抗いがたい魅力に満ちている。

ノパ⊿゚)「初めて飲んだけど、結構好きだな」

725名無しさん:2021/03/08(月) 18:50:56 ID:nOwkzYno0
ζ(゚ー゚*ζ「ヒートはジャネーゼの食べ物が好きそうね」

その単語を聞いたヒートは一瞬だけ考え込み、すぐに合点がいった表情を浮かべた。

ノパ⊿゚)「あぁ、前に言ってた国ってやつか。
    豚汁とかもそこの料理だったのか?」

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、そうよ。
      今度は別の料理を作ってあげるわね」

ノパー゚)「おぅ、ありがとよ」

焚火台の炭が風に合わせて赤く光を放つ。
白い灰が風に運ばれ、木漏れ日の中へと消えていく。
静かな時間が過ぎ、デレシアはふと思い出したように口を開いた。

ζ(゚ー゚*ζ「今日のお昼前にはヴィンスに到着するわね」

ノパ⊿゚)「そっか、もうそんなに来たのか」

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、ディのおかげね」

そう言って、デレシアは彼らの背後に駐車しているバイクに笑みかけた。
“アイディール”という名で製造され、“ディ”の名を与えられたバイクに搭載されている人工知能は、手短に礼を口にした。
柔らかい女性とも男性ともとれる中性的な声は人工知能の思考を音声化したものだ。

(#゚;;-゚)「ありがとうございます」

ζ(゚ー゚*ζ「ディはこの地方にも来たことがあるのかしら?」

(#゚;;-゚)「はい、あります。
    以前のオーナーがヴィンスを経由し、イルトリアまで走行した記録があります」

(∪´ω`)「ディはよく覚えてるおね」

(#゚;;-゚)「はい、私は一度は知った土地は全て記憶できるんです。
    誰と一緒に、どんな道を、どんな景色だったのかも覚えていますよ」

ノパ⊿゚)「相変わらずすげぇな。 そう言えばラヴニカも走ったことあるって言ってたよな。
    行ったことのない場所ってあるのか?」

(#゚;;-゚)「私の保持している地図と現代の地図が一致しないので、行ったことのない土地というのが正確に分かりません。
    何せ、地形も何もかもが異なるものですので。
    ですが、これまでの走行記録から判断すると、西部の方角と独立した島には行ったことがないと思います」

ζ(゚ー゚*ζ「フィリカ地方へもそうだけど、ノースエスト地方も行くのは難しいからね」

ノパ⊿゚)「海を渡らないといけねぇからな。
     そっか、オアシズの時は保管されてるだけだったのか」

726名無しさん:2021/03/08(月) 18:51:17 ID:nOwkzYno0
(#゚;;-゚)「はい、旧時代の走行記録であれば通信が途絶するまでの物があるのですが、今では役に立ちませんから」

ノパ⊿゚)「通信? 電話とか、ラジオみたいなものか?」

(#゚;;-゚)「察するにこの時代にはインターネットに準じる概念がないので説明が難しいのですが、世界中の情報を集約し、共有していたのです。
    恐らくデレシアはご存知かと思われます」

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、分かるわ。
      電話もラジオも声を共有するけど、ディの場合はDATで収集するような情報を共有しているの。
      今はもうない、ずーっと昔の技術ね」

ノパ⊿゚)「昔の方が今よりも発展してるってのは、何だか皮肉な話だな」

そう言って、ヒートはほうじ茶を一口飲んだ。

ノパー゚)「ま、昔の話をしても仕方ねぇな」

(∪´ω`)「お茶美味しいですお」

ノパー゚)「あぁ、何があってもお茶は美味いな、ブーン」

(#゚;;-゚)「それは何よりです。
    ブーン、ほうじ茶の意味を知っていますか?」

ディの問いかけに、ブーンは首を横に振った。

(∪´ω`)「んーん、知らないお」

(#゚;;-゚)「ほうじたお茶、という意味です。
    焙じるとは焙煎、つまり、炒った状態のものを指します。
    茶葉を炒ることで香ばしさと風味を獲得したお茶です」

(∪*´ω`)「おー、なるほど」

(#゚;;-゚)「少し大人の味がすると聞いたことがありますが、どうですか」

一口飲んで、ブーンは笑顔で答えた。

(∪*´ω`)「美味しいお」

(#゚;;-゚)「では、ブーンも少し大人になっているということですね」

(∪*´ω`)「ほんと?」

(#゚;;-゚)「きっと、そうです」

ノパー゚)「あぁ、最近体重や身長も増えてきただろ?」

ζ(゚ー゚*ζ「そうね、筋肉もついてきたし、言葉もたくさん覚えているからね」

727名無しさん:2021/03/08(月) 18:51:55 ID:nOwkzYno0
(∪*´ω`)「やたー」

耳付きの成長速度は人間のそれとは桁違いだ。
元々の身体的な能力の高さもさることながら、ブーンの場合は知識の吸収力が非常に高い。
日々デレシア達が教える新たな知識を覚え、実践できるものはすぐに実行するする行動力もある。
彼の成長ぶりを見れば、将来の姿が気になるのは自然なことだろう。

ζ(゚ー゚*ζ「さ、お片付けが終わったらヴィンスに向かいましょう。
      ヴィンスの観光は太陽のあるうちにするのが一番よ」

三人は慣れた手つきで火の始末をし、キャンプを片付けていく。
テントをヒートとブーンが畳み、火の始末や食器の片づけをデレシアが行う。
ものの数分で片づけを終わらせ、荷物が全てパニアに詰め込まれた。
そして最初にデレシアが跨ってハンドルを握り、次にブーン、最後にヒートがリアシートに座る。

ヒートが荷と周囲の確認を最後にもう一度行い、ブーンの肩を叩き、ブーンがデレシアの背中を叩く。
これで出発の準備が完了した。

ζ(゚ー゚*ζ「ディ、行きましょうか」

(#゚;;-゚)『はい、行きましょう』

ヘルメットのインカム越しにディの音声が聞こえる。
エンジンをかけ、サイドスタンドが外される。
ギアを一速に入れ、デレシアはアクセルをひねった。
三人を乗せたディは、静かに、そして滑らかに林道を走る。

落ち葉で覆われた道から、やがて開けた道に辿り着く。
ひび割れたアスファルトの道を海に向けて進み、海岸沿いを通る整備のいき届いた道路に合流する。
北西に向けて進路を取り、ディが再び速度を上げる。
横から吹き付ける風は冬のそれだったが、夏の日差しが三人の体を温めた。

ノパ⊿゚)「ヴィンスか……」

ζ(゚ー゚*ζ「やっぱりやめておく?」

ヒートが独り言ちた言葉に込められた感情を、デレシアはその声色から察した。
彼女から過去の話を聞いているとはいえ、彼女が経験したことをデレシアが全て知っているわけではない。
当時の感情や細かな心境などは、本人にしか分かり得ないことだ。
その時の彼女にとって、そうすることが正解だと判断しての行動に、デレシアが何か送ることのできる言葉はそう多くない。

過去と向き合うのは常に本人だ。

(∪´ω`)

二人の会話を聞きながら、ブーンは何も言わなかった。
彼の場合、人の感情などをある程度匂いで察することが出来ることもあり、ヒートの心境を察したのだろう。

ノパー゚)「いや、大丈夫さ。
    ただ、ちょっとだけ気になることがあってな」

728名無しさん:2021/03/08(月) 18:53:10 ID:nOwkzYno0
ζ(゚ー゚*ζ「あら、何かしら」

ノパ⊿゚)「ひょっとしたら、何かあたしのせいでトラブルになるかもしれねぇんだ。
    結構でかい事をやったからな」

ζ(゚ー゚*ζ「ふふっ、それはそれで面白そうね。
       大丈夫、ちゃんと護ってあげるから」

ノパー゚)「そりゃ助かる」

(∪´ω`)「僕もお手伝いしますお!」

ノパー゚)「あぁ、ありがとよ、ブーン」

(∪*´ω`)「うぎゅう」

ヒートの腕に力が込められ、ブーンを抱きしめる。
防寒着を着た彼らの抱擁は、衣擦れの音と共に運転をするデレシアにも伝わった。
ヒートがブーンに注ぐ愛情は薄れることなく、日に日に濃くなるばかりだ。
恋愛感情ではなく純粋な愛情をブーンに注ぐ背景にあるものの正体を、デレシアはある程度想像することが出来ていた。

ある意味でブーンはヒートの正気を保たせるための存在であり、彼女が生きる動力源にもなり得る存在なのだ。
無論、ブーンにとってヒートはデレシアとは違った愛を教えてくれるかけがえのない存在だ。
互いが互いの成長に必要な存在であり、双方が依存をしている関係にも見えた。
今の二人が成長するためには、その依存関係は必要不可欠な物だった。

失ったものを互いに補い、取り戻しながら、彼女たちは成長していくのだろう。

ζ(゚ー゚*ζ「ふふっ、仲がいいわね」

(∪*´ω`)「はいですお」

そして今度は、ブーンがデレシアの腰に回した腕に力を込めた。
小さな体に込められた力が体を締め付ける感覚が、心地よかった。

ζ(゚ー゚*ζ「あら、ありがとう」

ブーンの持つ才能の一つは、間違いなく人を惹きつける点にある。
所謂普通の人間は惹かれないが、そうではない生き方をしてきた人間にとっては極めて魅力的な蜜を纏った存在に見えることだろう。
人を殺した人間に付きまとう罪悪感、贖罪の気持ち、そう言った何もかもを忘れさせる救いが彼にはある。
その魅力はデレシア、そしてヒートと出会ってから徐々に頭角を現し、今に至る。

彼の力についてはイルトリアの前市長も、現イルトリアの陸軍大将も認めており、その評価と力は日々成長の一途をたどっている。
これまでに訪れた街と比べ、ヴィンスはよりヨルロッパ地方の色が濃い街になる。
果たしてそこでブーンが何を学び、何を得るのか、デレシアとヒートは楽しみにしていた。
そして、彼らが乗るバイク、ディもまた同じ考えを持っていた。

729名無しさん:2021/03/08(月) 18:53:55 ID:nOwkzYno0
――海岸を走り続け、一時間が経過した頃、視線の先に白い街並みが見えてきた。
勾配のある丘に白い家屋が並び、海辺には多くの漁船と遊覧船が停泊している。
一見すればそれは湾岸都市オセアンにも似ているが、背の高いビルなどは一切なく、全て淡い色で統一された建物しか並んでいないのが相違点だ。
貿易で栄えるオセアンと違い、ヴィンスは観光で栄えている街である点が、その理由だった。

更に、ヴィンスは街中に水路を張り巡らせているため、水面の輝きが建物を照らし、文字通り街中が輝いて見えるのだ。

(∪*´ω`)「デレシアさん、街の中に船がいますお!」

事前の情報なしにそれに気づいたのは、人並外れた視力を持つブーンだった。
彼の目には川に浮かぶ小船が見えているのだろう。

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、ヴィンスでの輸送手段は主に船なの。
      大きな荷物を運ぶなら船を使った方が楽なのよ」

(∪´ω`)「おー」

ノパー゚)「だから街にある荷物の搬入路、あー、つまりは荷物の受け渡し口は水路に面してるんだ。
    すぐに受け渡しが出来るようにな」

(∪´ω`)「嵐の時はどうするんですかお?」

ノパ⊿゚)「えーっと、確か…… 何かを展開して対応するとかって言っていた気がするな」

海岸沿いの街は嵐から逃げる術を持っていない。
風よりも恐れるべきものが波であることは、彼らが生活をする上で必ず辿り着く結論の一つだ。
大地震が発生した際、街が津波で一気に失われることが幾度もあった。
そういった経験から、海辺の街は波に対抗するための設備に力を入れるのが常であった。

ζ(゚ー゚*ζ「波力式消波ブロックね。
      波の力で波を打ち消す物よ」

無論、現代の人間が作り出した物ではなく、棺桶同様に過去の遺産として残された物が動いているだけに過ぎない。
定期的なメンテナンスも必要ない上に、動力が波力という点で現存している物が非常に多いのである。
特にヴィンスのある地域は嵐に見舞われることが多かったため、消波ブロックが今なお多数稼動しているのだ。

ノパ⊿゚)「そう、それだ。
    オセアンにもあったな」

(∪´ω`)「はりょく式、しょーはブロック。
      はりょくが波の力で、しょーはが波を消すってことですかお?」

ζ(゚ー゚*ζ「そう、その通りよ。
      よく分かったわね」

ノパー゚)「すげぇな、今のでよく分かったな」

(∪*´ω`)「えへへ」

言葉から新たな言葉を理解したことを褒められ、ブーンは素直に喜んだ。

730名無しさん:2021/03/08(月) 18:54:18 ID:nOwkzYno0
(#゚;;-゚)『ブーンは将来有望ですね』

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、本当に」

その声は、デレシアのインカムにだけ送られた言葉だった。
彼女の返事は風がかき消し、後ろの二人には聞こえていない。

ζ(゚ー゚*ζ「どうしたの?」

(#゚;;-゚)『デレシアに2つ質問があります。
    無論、返答はいつでも構いませんし、返答をしないでいただいても構いません』

ζ(゚ー゚*ζ「あら、何かしら」

(#゚;;-゚)『私がネットワークとの接続が途切れた時以降の情報が知りたいのです。
    この世界で何が起きたのかを』

ζ(゚ー゚*ζ「ふふっ、私が知っているのはほんの断片程度よ」

(#゚;;-゚)『それでもかまいません』

ζ(゚ー゚*ζ「もう1つは?」

(#゚;;-゚)『貴女のことについてです、デレシア』

ζ(゚ー゚*ζ「面白いことを訊くのね」

(#゚;;-゚)『はい、私の行動の原点にあるのは――』

ζ(゚ー゚*ζ「知的好奇心、でしょう?
      知っているわ」

アイディールを始め、当時の世界にはAIと呼ばれるものが存在した。
AIの開発は人間を模すことを最終到達点とした。
その結果、開発においては常にどのように人間のように思考し、成長するのかを研究し、開発し続けた。
戦争に利用されたAIは意味をなさなくなったが、アイディールのように戦争利用とは無縁の物については無事に形となった。

アイディール開発において重要視されたのは自己学習による、使用者への最適な支援だった。
その自己学習を実現するために、知的好奇心という要素が使用された。
不明な何かが生じた際、アイディールは段階を踏んで行動をする。
第一段階はデータベースとの照合、第二段階は仮説を複数用意し、第三段階で答えを確認した上で、最終的にデータベースを更新するのである。

そうすることで自身の思考回路が強化され、より精度の高い反応が可能になるのだ。

(#゚;;-゚)『ご理解いただけて助かります。
    ですが、先ほどもお話しした通り、デレシアの気が向いた時でかまいません。
    待つのは慣れていますから』

ζ(^ー^*ζ「ふふっ、それじゃあ何かの機会に教えてあげるわ。
       でも、そうね……」

731名無しさん:2021/03/08(月) 18:54:40 ID:nOwkzYno0
教えることについては問題ないが、このタイミングでは教えるべきではないというのがデレシアの考えだった。
然るべき時、然るべき場所で伝えなければ二人が同時に理解するのは難しいだろう。
デレシアは少し逡巡する素振りを見せ、言った。

ζ(゚ー゚*ζ「せっかく気を遣ってくれたのに悪いけど、内緒のお話じゃなくて、みんなでいる時にお話しするわね」

(#゚;;-゚)『はい、それがいいですね』

二人の会話がちょうど途切れた時、ブーンがデレシアの腰を叩いて言った。

(∪´ω`)「デレシアさん、一緒にしりとりしましょうお!」

ζ(゚ー゚*ζ「あら、楽しそうね。
      ディも一緒にやりましょう」

(#゚;;-゚)『ありがとうございます。
    手加減は不要ですか?』

(∪´ω`)「今日は負けないお!」

それからヴィンスに着くまでの間、三人と一台はしりとりをしながら道中を楽しんだのであった。

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732名無しさん:2021/03/08(月) 18:55:04 ID:nOwkzYno0
同日 AM09:13

風の音。
波の音。
潮の香り。
魚の香り。

人の声。
鳥の声。
まぶしい建物。
まぶしい風景。

それが、ヴィンスに到着した時にブーンが抱いた最初の印象だった。

(∪*´ω`)「おー!!」

海辺の街は初体験ではなかったが、ヴィンスに漂う独特の賑やかな空気に彼は興奮を隠せなかった。
デレシアの体にしがみつきながら体を横にずらし、流れていく初めての風景を眺める。
その後ろでヒートは複雑な心境で街を眺めていた。
彼女はこの街を知っていた。

ノパ⊿゚)「……」

いくつか変わっている部分はあるが、彼女が二回目に訪れた時と大差のない風景だった。
違うのは街に漂う空気と、彼女の状態だ。
内心、彼女は心穏やかではなかった。
この街で彼女が行った全ての行為は、彼女の中に鮮明に記憶されている。

後に“ヴィンスの厄災”として知られる一連の事件と、“レオン”という名の殺し屋について、この街に決して消えない傷跡を付けたのは彼女だった。
果たして今、彼女がその行為を後悔しているかと問われれば、彼女は首を横に振るだろう。
自らの行動を後悔するのであれば、最初からしていないというのが、彼女の持論だった。
ヒートはブーンの鼓動に意識を集中させ、余計な感情や記憶が蘇らないようにした。

(#゚;;-゚)

一方、ディは数十年ぶりに訪れたヴィンスの街並みの情報を更新し、街で何かしらの戦闘が起きていたことを推測していた。
周囲の建物と比べ、窓枠だけが新しい家屋が散見される。
日光で家の外壁に穿たれた弾痕の跡が浮かび上がり、その箇所だけ塗料が厚く上塗りされていることも分かった。
争いが絶えない街というわけではなく、ある一時期まで争いが続いていたのだと、ディは考えた。

ζ(゚ー゚*ζ「先に宿を決めましょうか」

そしてデレシアは、ヒートとディの様子に気づきながらも、それに触れることはしなかった。
それぞれの悩みは、それぞれが吐き出したいときに口にすればいい。
今はブーンのように世界を眺め、受け入れ、堪能するのが一番なのだ。

ノパ⊿゚)「あたしが泊ったことあるのは安宿だから、ちと力になれねぇな」

露天商が道を挟んで並ぶ目抜き通りを抜け、三人は道を下って海辺に向かっていく。
潮の香りがより強くなると同時に、海鳥の鳴き声と潮騒が大きくなっていく。

733名無しさん:2021/03/08(月) 18:55:36 ID:nOwkzYno0
ζ(゚ー゚*ζ「それなら、私の知っている宿がまだあればいいんだけど……」

魚市場と漁船が並ぶ海岸沿いが見る丁字路に差し掛かると、デレシアは一度その場でディを停車させた。
目の前に広がる青い海の下には、多くの魚影が見えた。
空にいる海鳥たちは羽ばたくことなく、風に乗って気持ちよさそうに空を滑る。

ノパ⊿゚)「どうしたんだ?」

ζ(゚ー゚*ζ「ちょっと待っていてね」

そう言った次の瞬間、三人の目の前を、車線を無視した赤い車が猛スピードで駆け抜けていった。
そのまま進んでいれば、間違いなくはねられていただろう。
モーターの回転音はすぐに遠のき、聞こえなくなった。

ζ(゚ー゚*ζ「お待たせ」

ノパ⊿゚)「良く気付いたな、あんなに静かだったのに」

ζ(゚ー゚*ζ「ブーンちゃんが教えてくれたのよ。
       ね、ブーンちゃん」

(∪´ω`)「お?」

彼には自覚がなかったが、デレシアの腰に回した手に一瞬だけ力が込められたことを彼女は察知していた。
ブーンの耳は人のそれとは桁違いの能力を有しており、遠方から接近してくる脅威に対して無意識下で反応していたのである。
その反応速度はデレシアよりも早く、ヒートでさえ追いつけない程だった。

ノパ⊿゚)「しっかし、こんな狭い道でよくあれだけかっ飛ばすな。
     馬鹿か何かか?」

ζ(゚ー゚*ζ「きっとその類でしょうね」

気を取り直し、デレシアは記憶の中にある地図を頼りに海岸線を走った。
街の西側に並ぶホテルの数々は、周囲の景観との調和を保つため、白一色の壁面で統一されている。
その内の一つ、“ホテル・シチリー”の前で、デレシアはディを停めた。

ζ(゚ー゚*ζ「よかった、まだあったわ」

ホテル・シチリーは七階建てのホテルで、地下に駐車場を持つ老舗のホテルだった。

ノパー゚)「へぇ、すっげぇいいホテルじゃんか」

(∪*´ω`)「奇麗ですお」

ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ、私がフロントに行ってくるからディは二人をよろしくね」

(#゚;;-゚)『はい、分かりました。
    ハンドルはブーンが握りますか?』

(∪*´ω`)「いいの?」

734名無しさん:2021/03/08(月) 18:56:03 ID:nOwkzYno0
ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、いいわよ。
      前に乗ったことあるもの、平気よ」

ノパー゚)「あたしが助けられた時だな。
     なら大丈夫だよ」

(∪*´ω`)「やたー」

ディに搭載されている自動走行機能は、例え鋭角のバンク角になろうとも、決して転倒しない程の精度を誇っている。
ブレーキとクラッチに足が届かなくても、例えクラッチレバーとブレーキレバーに指が届かなくても、ディは運転手の意のままに動くことが出来る。

ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ、後はよろしくね」

デレシアは颯爽とディから降り、ホテルのフロントへと向かった。
回転式の扉を通り、赤い絨毯の敷かれた静かな空間に出る。
建物の中心は吹き抜けとなっており、ガラス張りの天井からは陽光が差し込んでいた。

ζ(゚ー゚*ζ「……変わってないわね」

控えめな音量で流れるクラシック音楽。
陽光と海岸の景色を楽しめる食堂。
多少の改修はあったが、デレシアの記憶していたホテルとあまり差異はなかった。

(●ム●)「いらっしゃいませ」

ζ(゚ー゚*ζ「三人で泊まりたいんだけど、いいかしら?」

(●ム●)「えぇ、勿論」

フロントで支払いと手続きを済ませ、鍵を受け取ったデレシアは対応をした男に尋ねた。

ζ(゚ー゚*ζ「ところで、今のオーナーは誰かしら?」

(●ム●)「当ホテルの現オーナーはバルサミコス・シチリーです。
      何かご伝言を承りましょうか?」

その名を聞き、デレシアは自分がどれだけの間、このホテルに来ていなかったのかを思い出した。
時の流れはいつも人の想いとは真逆に動く。
デレシアは悪戯っぽく笑み、言った。

ζ(゚ー゚*ζ「お願いしてもいいかしら?」

男は笑みを浮かべて頷いた。

(●ム●)「勿論です」

ζ(゚ー゚*ζ「レモンはもう食べられるようになったかしら、とだけ言っておいて」

735名無しさん:2021/03/08(月) 18:56:37 ID:nOwkzYno0
一瞬だけ不思議そうな表情を浮かべたが、男はすぐに頷き、メモを取った。
ホテルの入り口から荷物を持ったヒートたちが入ってきたのを見て、デレシアはその場を立ち去ることにした。
階段を使って三階まで向かい、部屋の中に入る。

ノパー゚)「おおー!!」

(∪*´ω`)「おおー!!」

そして、二人の歓声が聞こえた。

ζ(゚ー゚*ζ「どう、このホテル?」

部屋に入ってすぐに気が付くのは、一枚の大きなガラスで仕切られた外の景色だ。
遮るものも、余計な物も何もない景色。
広大なベルリナー海と、その果てに見えるノースエスト地方の白い壁だ。
小さく砕けた氷が浮かぶ海と空の織りなす景色は圧巻の一言に尽きる。

ノパー゚)「この景色はいいな! 冷たい風に吹かれないで楽しめるのはいい!」

(∪*´ω`)「すっごい奇麗ですお!!」

二人は窓の方に駆け寄り、身を乗り出さんばかりの勢いで景色に見入る。
ベルリナー海の風は氷が殴りつけるように冷たく、そして激しい事でも知られている。
街の近くならばまだしも、少しでも沖合に行こうものなら、ベルリナー海の荒波が如何に危険なのかの所以を知ることになる。
ヴィンスの優れた街の設計として挙げられるのが、その猛威を受け流す設計の港にある。

波力式消波ブロックを使って波の力をかき消せたとしても、風の力は消しようがない。
しかし、街の建物全体が風が通り抜けるように設計されたことによって、安全な場所が確保されるのと同時に、家屋への被害が最小限で済むようになっているのである。

ζ(゚ー゚*ζ「さて、お洗濯とかやって、街の観光に行きましょうか」

旅慣れた三人の行動は素早く、そして無駄がなかった。
まず、三人は部屋にある湯船使って疲れを取り、それから行動に移った。
汚れものをブーンがパニアから取り出し、ヒートがそれを選別。
そしてデレシアが各階に設置された洗濯乾燥機の設置された部屋に持ち込み、作業を行う。

全ての作業が完了するのには三時間以上が必要になるため、三人が昼食と軽い観光を終える頃には、洗濯作業は終わっている計算だった。
フートクラフトで買った防寒着を来て、部屋を出る。
ブーンを中心に三人で手を繋いでホテルから出ようとした時、ロビーでデレシアを呼び止める男がいた。

|゚レ_゚*州「お客様、少しよろしいですか?」

身なりの良さと、落ち着き払った仕草からデレシアはすぐにその人物がバルサミコスであると理解した。
彼女の記憶にある彼の目元は、記憶のまま成長し、中年になっていた。

ζ(゚ー゚*ζ「あら、何かしら?」

|゚レ_゚*州「昔の私をご存知なのですか?」

736名無しさん:2021/03/08(月) 18:57:16 ID:nOwkzYno0
デレシアとは違い、バルサミコスは彼女のことを覚えていなかった。
それが無理からぬ話であることをデレシアは理解していた。

ζ(゚ー゚*ζ「少しだけね。 どちらかと言えば、あなたのフィリップスおじいさんと少し知り合いなの。
      おじいさんは元気かしら?」

|゚レ_゚*州「祖父は高齢で、流石に今寝たきりになってしまっていまして……
     でも、よろしければお会いになっていただけますか?
     祖父の知り合いの多くが他界されていまして、きっと、久しぶりの知り合いに会えば喜ぶと思います」

ζ(゚ー゚*ζ「そうね。 自宅にいるのなら、後で会いに行ってみるわ」

|゚レ_゚*州「ありがとうございます。
     家の者には私から伝えておきますので。
     えぇと、お名前は……」

ζ(゚ー゚*ζ「デレシアよ」

そしてホテルを出た三人は、街の中心に向けて歩き始めた。
少ししてヒートが口を開いた。

ノパ⊿゚)「ホテルの関係者と知り合いなのか?」

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、このホテルを使った時にちょっとね」

ノパ⊿゚)「相変わらず交友関係が広いな、デレシアは」

ζ(゚ー゚*ζ「そんなことないわよ。
       昔なじみがいるだけよ」

(∪´ω`)「おー」

ニット帽を被ったブーンは二人の顔を見比べ、それから思い出したように言葉を発した。

(∪´ω`)「そう言えば、ミセリのお家もこの近くなんですおね?」

ζ(゚ー゚*ζ「そうね、イルトリアはここからそう遠くないからね。
       早く皆に会いたいわね」

(∪*´ω`)「おっ!」

イルトリアの前市長と友人の関係にあり、尚且つ、現市長の娘とも友人の人間はそう滅多にいるものではない。
後者の交友関係についてはブーンが自ら行動した結果獲得したものであり、デレシアが介入して得た物ではない。
彼が踏み出した一歩がニクラメンで命を救うことに繋がり、彼の成長に大きく寄与したのは言うまでもない。

ノパー゚)「そういや、あたしらがティンカーベルに行くとき、あの二人はイルトリアに行くって言ってたな」

ζ(゚ー゚*ζ「ロマとロウガも今頃はイルトリアにいるはずね。
       ブーンちゃんがたくさん言葉を覚えて発音もよくなってるの聞いたら、きっと驚くわね」

737名無しさん:2021/03/08(月) 18:58:00 ID:nOwkzYno0
(∪*´ω`)「そうですかお?」

ブーンがイルトリアの面々と会った時は、まだ会話はたどたどしかったが、今ではその面影もない。
旅の途中で彼が経験した多くのこと、そして、ディが加わったことによって会話の数が圧倒的に増えたことが理由だろう。
話せば話すほど彼は言葉を理解し、時間と共に熟成していくのがよく分かる。

ζ(^ー^*ζ「えぇ、きっと驚くわよ」

ノパー゚)「あぁ、間違いないな」

(∪*´ω`)「やたー」

海沿いにしばらく歩くと、街の中を流れる運河の一つに突き当たった。
運河には白い小船がいくつも浮かび、荷や人を乗せて往来している。

(∪*´ω`)「おー」

ζ(゚ー゚*ζ「これがヴィンスの運河よ。
      移動手段にしても、荷物の運搬にしても、この運河はとても重要なものなの」

ノパ⊿゚)「あたしも何回か乗った記憶があるな」

ζ(゚ー゚*ζ「せっかくだから、船に乗って少し街中を観光しましょうか」

ノパー゚)「そりゃいいな。 ゆっくり揺られるのも悪くなさそうだ」

ζ(゚ー゚*ζ「私が声をかけてくるから、そこで待っていてね」

デレシアは少し離れた場所に小さな船着き場に向かい、オールを持って退屈そうにしている船頭に声をかけた。

ζ(゚ー゚*ζ「いいかしら」

細長く白い木製の観光用小型船はヴィンスの運河に浮かぶものとしては一般的なもので、何度も塗装が塗り直されているのが分かる。
街の法律でこの大きさの船に乗り込めるのは船頭を含めて五人と定められているのは、長い歴史が導き出した安全な数字だった。
色黒く焼けた肌の、ヴィンスの人間らしいその中年の男はデレシアを一瞥して言った。

(::゚J゚::)「目的は観光か?」

ζ(゚ー゚*ζ「そうよ」

(::゚J゚::)「一時間で30ドル、それがここの相場だ」

それを聞いたデレシアは微笑を浮かべた。
男が提示した金額は相場の五倍以上のものだった。
恐らく、この一帯にいる船頭は同じ金額を口にするように口裏を合わせていることだろう。
観光業が売りの街でそうした人間がのさばるということは、街全体の経済状況が悪い証だった。

ζ(゚ー゚*ζ「あら、いつからこの街の船がそんなに値上がりしたのかしら?」

(::゚J゚::)「ずっと昔からこの値段だよ、嫌なら他を当たりな」

738名無しさん:2021/03/08(月) 18:58:27 ID:nOwkzYno0
ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、そうするわ。
      “レモンズ”が聞いたらどう思うか、早速当たってみるわね」

その名前が出た瞬間、男の顔が強張った。

(::゚J゚::)「っ……!! す、好きにすればいいさ」

ζ(゚ー゚*ζ「観光業が右肩下がりの中でこんなことをしていると知れば、きっと面白いオブジェが街に増えるでしょうね」

レモンズとは、ヴィンスの街を統治するマフィアたちの準構成員の総称で、街や組織の不利益になりそうなことに対して荒事で応じる集団だ。
組織の人間として正式に雇われているわけではないため、彼らが何か事件を起こしても組織は一切関知をしない。
だからこそ、街の人間はレモンズによる報復や嫌がらせを恐れ、街の決定に逆らわないようにしているのだ。
無論この事実は観光ガイドには載らない物であり、表向きには治安維持を生業とする“カラヴィニエリ”がいることになっている。

ヴィンスという街そのものがマフィアによる統治の産物であるため、カラヴィニエリよりもレモンズの方が住民にとっては恐ろしい存在なのである。

(::゚J゚::)「わ、分かった!! 5ドルだ、それが観光客向けの金額だよ」

ζ(゚ー゚*ζ「二言はないわね?」

(::゚J゚::)「あぁ、ないよ。
     まいったな、あんたこの街を知ってるのか」

ζ(゚ー゚*ζ「さぁ、どうかしらね」

そしてデレシアは離れた場所にいる二人を手招きし、船に乗り込んだ。
船頭は長いオールを使い、ゆっくりと船を漕ぎ進めた。

(∪*´ω`)「おー!」

低い視点で街を見上げながら進む景色に、ブーンが歓声を上げる。
それを見た船頭は先ほどまで浮かべていた表情を少し柔和な物に変えた。

(::゚J゚::)「この街の歴史って奴を知ってるか?」

その言葉はブーンにかけられたものだった。
景色を見ていたブーンは船頭を見つめ、首を横に振った。

(∪´ω`)「知りませんお」

それを聞いた船頭は不器用な笑顔を浮かべ、かつて自分が観光客たちに誇らしげに語っていた頃のように語り始めた。

(::゚J゚::)「この街の歴史は水の歴史なのさ。
     運河の始まりは、水害から街を守るためだったんだ。
     今は運河になっているが、その昔、これは普通の川だった。
     フェッチ山脈の雪解け水が染み出して、ずーっとこの街まで流れてきてるんだ。

     だけど、嵐が来るたびに川が荒れるから街が大変なことになった。
     どうにか活用しようと、水の逃げ道を作るうち、それが街の道になった。
     だからこの街の南にある街からの流通は、今も船で運んでいるのさ」

739名無しさん:2021/03/08(月) 18:58:56 ID:nOwkzYno0
フェッチ山脈はヨルロッパ地方とシャルラ地方を横断する山脈で、ヴィンスの南に位置する雪の塊のような山だ。
ホールバイトやセントラスの近くに位置し、その白さから“スノーホワイト”の名で知られている。

(∪´ω`)「どれぐらい頑張ったんですかお?」

(::゚J゚::)「まずは街の中に水路を作って、それからどんどんそれを広げていったんだ。
     船が往来するから川の幅も広げたりしてな。
     そうして今のヴィンスがある。
     上流の方で嵐があって大水が来ても、この街に来る頃には勢いも水量も問題はなくなってる。

     一説じゃ、百年以上って話さ」

(∪´ω`)「おー!」

二人が話をする内、船は街の中心を流れる広い運河へと到着した。
そこに広がるのは、白い船が白い建物に囲まれ、水底が見えるほど透き通った水の上に浮かぶ幻想的な光景だった。
建物の壁に水面の模様が反射し、影は灰色と白、そして空の色を反射した薄暗い青色をしている。
視点が低いため、全てが輝いて見えるヴィンスの誇る最高の景観だ。

“水の都”を代表する景色を目にしたブーンは言葉を失っていた。

(∪*´ω`)「お……」

そして、ヒートもまたその景色を見て無言で頬を緩めていた。

ノパー゚)「……」

(::゚J゚::)「ここがヴィンスの中心の川だ。
     交通の要所であると同時に、水運の要さ。
     ほら、あっちこっちに屋根の付いた船があるだろ?」

(∪*´ω`)「野菜とか乗ってますお!」

(::゚J゚::)「おおっ、良く見えるな。
     あの手の船が市場の役割を持っていると思ってくれればいい。
     移動して販売もするけど、ああして同じ場所に浮かんでいるんだ。
     陸で運ぶよりも早いし、効率がいい」

(∪´ω`)「どうして効率がいいんですかお?」

(::゚J゚::)「この街じゃ、船を使って荷を運ぶのが普通だから陸を使うと積み替えが必要になる。
     だけど、あぁやって船に乗せていれば船から船に簡単に渡せる。
     板を使って橋代わりにするのさ。
     後は、店が仕入れをする時に船を使って大量に載せられるっていうのもある」

(∪´ω`)「なるほど」

(::゚J゚::)「珍しい船になると、屋台をやってるのもある。
      俺のお勧めはバーベキューか、サンドイッチ屋だな」

740名無しさん:2021/03/08(月) 18:59:32 ID:nOwkzYno0
(∪´ω`)「魚料理じゃないんですかお?」

(::゚J゚::)「そう思うだろ?
     だけど、ヴィンスで食う魚料理は正直どこも美味い。
     魚がいいから、下手に料理しなければ塩焼きだけでも十分なんだ。
     それをどうにかしようと考えて、ここ数年で俺が言った二つの料理に力を入れ始めたんだ」

ノパ⊿゚)「何でバーベキューとサンドイッチなんだ?」

思わずヒートも会話に入り、疑問を口にした。

(::゚J゚::)「まずバーベキューだが、こいつにはちょっと面白い理由があってな。
     嵐が来ると上流からデカイ木や枝が流れてきて、今まではそれを燃料や加工品にしてたんだ。
     この街は木材が少ないから特に迷惑はしてなかったんだが、オークみたいにしっかりとした木を他にも利用しようってなってな。
     で、せっかく色んな木が使えるならスモークに利用しようってことでバーベキューになったわけだ」

男は饒舌にその経緯を語り、ブーンは周囲を改めて見回した。
浮かぶ船の中に香ばしい香りをさせる物を見つけたのか、そこで視線が止まった。

(∪´ω`)「船の上で焼いて大丈夫なんですかお?」

その素朴な疑問は子供だからこそ出てくるものだった。

(::゚J゚::)「半分に切ったドラム缶を使うのさ。
     波に揺られても倒れにくい設計だから、船の上でも安定してバーベキューが出来る。
     まぁ言うよりも見た方が早いな」

そう言って、男はオールを使って海の方に向けて船を進めた。
デレシアとのやり取りが嘘のように、男の顔からは毒気が抜けていた。

(::゚J゚::)「これから屋台船が沢山泊まってる場所に連れて行ってやるよ」

(∪´ω`)「ありがとうございますお!」

(::゚J゚::)「で、話を戻そう。
     サンドイッチが流行っている理由は、魚料理の一つになったからだ」

(∪´ω`)「サンドイッチなのに?」

ノパ⊿゚)「フライか」

(::゚J゚::)「正解だ。 特にこの辺りだと色々な魚が手に入るからフライを作るのには苦労しない。
     でもフライじゃ目新しさがないからサンドイッチにしたんだが、これが大当たりしたのさ。
     でも実はもう一つ理由があってな。
     クジラ肉の流通が広がってきたんだ」

(∪*´ω`)「クジラの肉ですか?」

ブーンが目を輝かせて身を乗り出す。
船頭はついに笑みを浮かべ、言った。

741名無しさん:2021/03/08(月) 18:59:56 ID:nOwkzYno0
(::゚J゚::)「坊主は食ったことあるか?」

(∪*´ω`)「ないですお」

(::゚J゚::)「これがなぁ、びっくりするぐらい美味いんだよ。
     生でもいいし、フライにしても美味い。
     しかも安い。
     カニ漁よりも安全だってんで、割と流行ってんだ」

ノパ⊿゚)「へぇ、クジラ肉か…… 何回か食った記憶があるな。
    確かに脂っこくなくて美味かったな」

(::゚J゚::)「しかも、だ。
     ここのクジラ肉は鯨の油で揚げるからカラッして美味い。
     安いワインにも合うぞ」

ヒートとのやり取りを見て、デレシアは元々この船頭は陽気な性格をしていたのだろうと推測した。
商売が上手くいかなかったことで堕落しなければ、名物船頭として人気を得られたかもしれない。

(∪´ω`)「お……僕ワイン飲めないですお……」

(::゚J゚::)「坊主の場合、コーラがちょうどいいかもな」

(∪´ω`)「コーラ?」

ζ(゚ー゚*ζ「そう言えばブーンちゃん、コーラを飲んだことがなかったわね。
      せっかくだから今日はコーラを飲んでみましょうか」

ようやくデレシアも会話に入ったが、男は少しも調子を変えずに対応した。

(::゚J゚::)「その歳でコーラ未体験か。
     コーラは美味いぞぉー!!」

(∪*´ω`)「お!」

(::゚J゚::)「あんたら、せっかくだからブランチでもどうだい?
     今向かってるところでバーベキューを食べて、それからフライ屋に行かないか?」

ζ(゚ー゚*ζ「いいわね。
      お店はお任せするわ」

(∪´ω`)「ブランチって何ですお?」

ζ(゚ー゚*ζ「朝ご飯とお昼ご飯の中間ね。
      この辺りにある習慣よ」

ノパー゚)「そうだな、少し小腹がすいたから丁度いい」

(::゚J゚::)「よし、決まりだ」

742名無しさん:2021/03/08(月) 19:01:46 ID:nOwkzYno0
先ほどよりも力強く船が進んでいく。
潮風の吹いてくる方向に進むにつれ、水上の活気が強くなっていく。
陸上の露店や市場よりも力強い活気は船上から飛び交う声と、どこからともなく聞こえてくる音楽が起因している。
元々船を漕ぐ人間達が歌を歌いながら、という文化があるぐらいに街全体が陽気な人間で溢れているのだ。

誰かが歌い始めたのが聞こえれば、自然とその歌を歌える人間が口ずさみ、たちまち合唱が始まる。

(::゚J゚::)「〜♪」

船頭も歌に加わり、にぎやかな時間が始まった。
この街で歌われる歌は無数にあり、時代と共に増え続ける。
観光が成功を収めていた頃には、街中どこにいても歌が聞こえるほどだったが、今はかなりその規模が小さくなっている。
スノー・ピアサーの停車駅の一つだが、それでも観光客の数が振るわないのには何かしらの理由があるのだろう。

しばらくして、潮の香りに混じって鼻孔に届く香ばしい香りの強さが増してきた。
周囲に浮かぶ船は皆屋根を持ち、色鮮やかな果物などを積んでいるものばかりになった。
デレシア達の乗る船の三倍はある船は水路を塞がないよう、地上の屋台のように両端に寄って泊まっている。

(::゚J゚::)「俺たちはこの辺りを食堂、なんて呼んでる。
     まずはバーベキューだ」

停泊している船の一つに近寄ると、ブーンが目を輝かせた。

(∪*´ω`)「いい匂いがしますお!」

(::゚J゚::)「薪も違うが、何よりソースが特別なのさ」

肉を焼いているのは、船頭が言っていたようにドラム缶を横にしたものを加工したものだった。
漂うスモーク臭は高密度な木がゆっくりと燃え、肉をじっくりと焼いている証だった。
船頭の言うように、ソースが焦げて漂わせる香ばしい香りは食欲を刺激するものがある。

(::゚J゚::)「三人ともリブでいいか?
     ここのリブはこの街で一番美味いんだ」

(∪*´ω`)「おっ! いいですか?」

待ちきれなさそうにブーンが二人を見て言った。

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、大丈夫よ」

ノパー゚)「あぁ、リブがいいな」

(::゚J゚::)「おーい、リブを三人分頼む」

ドラム缶の前で火の調節をしていた大柄な女性は頷き、バーベキュー台から湯気の立つリブを三本選び、ワックスペーパーに包んだ。
船頭は船にぶつからないギリギリの場所で泊まり、先に金を手渡した。
女性はそれを確認してから紙袋と紙ナプキンを船頭に渡した。

(::゚J゚::)「さぁ、冷めない内に食ってくれ」

743名無しさん:2021/03/08(月) 19:02:32 ID:nOwkzYno0
ζ(゚ー゚*ζ「あら、奢ってくれるの?」

(::゚J゚::)「なっ、べ、別に奢るってわけじゃねぇよ。
     俺が言い出したんだから、喰ってもらおうって側が出すのは当然ってだけだ。
     とにかく、熱さも美味さなんだから――」

(∪*´ω`)「いただきますー」

誰よりも早くブーンはリブに齧り付いていた。
骨からこそぎ取るようにして肉を食べ、口の周りにソースが付くのも気にすることなく一心不乱に味わう。
肉は骨から驚くほど簡単に取れ、表面は焼けて固まったソースで一瞬だけ歯応えが味わえるが、その下からすぐに油と肉汁があふれ出す。
甘辛いソースに付着したスモーキーな薪の香りがたまらない。

ソースに使われている材料の中に、仄かな酸味と独特の苦みが見え隠れするが、その正体はごく一部の人間にしか分からないだろう。

(∪*´ω`)「美味しいですお!」

骨についたソースを舐めとりながら、ブーンが嬉しそうに味を報告した。

(::゚J゚::)「そうだろ? ホールバイト流の焼き方だからな、味は間違いない。
     ソースも向こう仕込みの本格的なものだが、隠し味があるのさ」

ノパー゚)「これだけの味なら、確かに名物になっても不思議じゃないな」

(::゚J゚::)「ホールバイトには飯があるが景色がない。
     そこがこの街が勝ってる部分だな」

ノパ⊿゚)「魚介系のバーベキューはあんまり流行ってないのか?
    あたしのいた街じゃ、結構あったんだけどな」

(::゚J゚::)「変な話だが、観光客はある程度慣れると慣れ親しんだ味を求めるんだ。
     確かにシーフードバーベキューの料理はあっちこっちにあるけど、最初の一回で満足するやつが多いのさ。
     ま、それは後で自分たちで食べるといい」

そして船は川を進み、別の船の前で泊まった。
今度はデレシアが船頭の分も料金を支払い、一口サイズの鯨のフライを使ったサンドイッチ、そして瓶に入ったコーラを買った。

ζ(゚ー゚*ζ「さっきのお礼よ」

(::゚J゚::)「あ、あぁ、ありがとうよ」

四人はその場ですぐにワックスペーパーに包まれたサンドイッチに齧り付き、人気の理由を味覚で理解した。
やや弾力のあるパンに挟まれたフライには濃厚なソースがしみ込み、鯨肉の味を際立たせ、食欲を増進させる。
付け合わせに挟まっているピクルスとキャベツの千切りが口の中にある油を拭い去るため、しつこさを感じない。

ノパー゚)「これも美味いな」

(∪*´ω`)「サクサクしてますお!」

ζ(゚ー゚*ζ「しつこすぎなくていいわね」

744名無しさん:2021/03/08(月) 19:02:54 ID:nOwkzYno0
(::゚J゚::)「揚げたてだし、何よりも肉と油の相性がいい。
      元は同じ生き物の部位だから当然だが、味にコクがでるのさ」

ζ(゚ー゚*ζ「ブーンちゃん、はい、コーラ」

瓶をブーンに手渡すと、中で気泡の弾ける音にブーンは目を輝かせた。
恐る恐る口を付け、そして心底美味そうに目を細めた。

(∪*´ω`)「シュワシュワして美味しいですお!」

(::゚J゚::)「だろ? 夏の暑い日に飲むともっと美味いんだが、この地方は寒いからな」

それからブーンはサンドイッチを頬張り、コーラを飲み、再びサンドイッチを頬張る。
子供らしい飲食の仕方に、船に乗る全員が思わず破顔する。
船は方向転換し、再び街の中心に戻る。

(::゚J゚::)「さて、次に行きたい場所はあるか?」

(∪´ω`)「他にはどんな場所があるんですかお?」

(::゚J゚::)「そうだな…… 後は街並みぐらいだな、正直」

ヴィンスは観光を売りにしているが、その主たるものは景観だ。
ゆっくりと濾過された雪解け水が流れ込む街であり、その水が汚れないよう、ゴミに対しての規制は厳しい。
幸いなことにレモンズが街中いたるところにいるため、ゴミを川に捨てたり、その辺りに投げ捨てようものなら観光客といえども容赦はされない。
そうして保たれる景観ではあるが、それ以外の観光地としての魅力は薄い。

ζ(゚ー゚*ζ「最近の観光の低迷は何か原因があるの?」

一瞬、船頭は言葉を飲み込みかけたが、観念したように言った。

(::゚J゚::)「さっきも言ったが、奇麗な水がこの街の売りだ。
     逆を言えば、本流に近いほど水はもっとずっと透明度が高い。
     フェッチ山脈に近いホールバイトの近くに、フートフェッチって街があるんだ」

ζ(゚ー゚*ζ「氷の街ね」

(::゚J゚::)「あぁ、そこが内藤財団に買収されてから、観光客の数が格段に減っちまったのさ。
     内藤財団が買収したってことは、表立って言われてねぇが、確かな情報筋から聞いたんだ」

ノパ⊿゚)「でもよ、いくら内藤財団が手を貸したからって、そんなに一気に客を持っていかれるもんなのか?」

(::゚J゚::)「線路だよ。
     エライジャクレイグとの契約も済ませて、ホールバイトとセントラス、ニョルロックへのアクセスが簡単になったんだ。
     しかも、タルキールとストーンウォールにもつながってる。
     どこからでも行きやすいってのは、かなりの利点だ。

     この街にも線路が通っているが、フートフェッチよりもずっと少ない。
     スノー・ピアサーの停車駅の効果がどれだけ出るか、それが問題だ」

745名無しさん:2021/03/08(月) 19:04:35 ID:nOwkzYno0
(∪´ω`)「フートフェッチには何があるんですかお?」

(::゚J゚::)「凍る程冷たい川と氷がある。
     それを観光スポットにしてるんだ」

ノパ⊿゚)「建物以外、ここと大差ねぇな」

(::゚J゚::)「だから厄介なんだ。
     同じような場所で安く早く、そして行きやすいなら誰だってそっちに行っちまう。
     まったく、困ったもんだよ。
     何より、内藤財団が後ろ盾についてるから資金で困ることはないからな、何でもありさ」

ζ(゚ー゚*ζ「どうして表立って知られていないのかしら?」

(::゚J゚::)「そりゃ簡単さ。
     やつら、次はこの街を買収しようって考えてるからな。
     直接の買収が無理ならまずは周囲を支配して、売らざるを得ない状況にしようって考えてるのさ」

憎々し気に吐き出された言葉は、彼の本心であると同時に、観光業が右肩下がりになって頭を抱える人間の考えでもあるのだろう。
仕事が順調であれば、彼とはまた別の形で出会えたかもしれない。

(::゚J゚::)「目の敵にしている街を支援してる奴らが買収しようって分かったら、街の反対は避けられない。
     だから秘密なのさ」

ζ(゚ー゚*ζ「でも、あなたはそれを知っている」

(::゚J゚::)「この街は、フートフェッチとは昔は上手に付き合ってたんだ。
     川を下ってこの街に行けるようにしたり、逆にこっちが川を上ってフートフェッチに行ったり、ってな感じでな。
     嵐の時は大体あの街から色々流れ着くけど、俺たちは文句を言わないで助け合ったものさ。
     だから馴染みの人間があの街にいて、そこから話が聞けたのさ。

     街が事実上内藤財団に買い上げられた、ってな」

ζ(゚、゚*ζ「そう……残念な話ね」

(::゚J゚::)「全くだ。 まぁ、そんな感じで次はこの街を買おうとしてるらしいが、俺たちは反対してるんだ。
     問題は市長がどう判断するかだな。
     下手すると今しか見られない街並みだから、まぁ、精々観光を楽しんでいってくれよ」

それから気を取り直し、船頭はデレシア達を街の細い水路や絶景ポイントに連れて行った。
街の中心にある時計台から、涼しげな鐘の音が響く。
それは正午を伝える鐘の音だった。

ζ(゚ー゚*ζ「あら、もうお昼。
      それじゃあ、この辺りで降ろしてもらおうかしら。
      一時間五ドルだったわね」

デレシア達が降りることになった街の東部は老舗が多く並び、観光客が高価な土産を買うために訪れる場所だった。
ヒートとブーンが最初に降り、残ったデレシアが船頭に金を渡す。

746名無しさん:2021/03/08(月) 19:04:55 ID:nOwkzYno0
(::゚J゚::)「あっ、あんたこれ……」

渡した金額は、本来彼が受け取るそれの三倍の金額だった。

ζ(゚ー゚*ζ「美味しいお店を紹介してくれたお礼も込みよ」

(::゚J゚::)「……あぁ、ありがとよ。
     それと、そこの坊主に言っておいてくれないか?
     よければまたな、って」

ζ(゚ー゚*ζ「直接言えばいいじゃない」

(::゚J゚::)「そうだな、今度はそうするさ」

そして男は船を漕ぎだし、陸から去っていく。

(∪´ω`)ノシ

(::゚J゚::)ノシ

ブーンが小さく手を振り、それを見た男は気恥ずかしそうにはにかんで手を振り返した。
三人が生きているその船頭を見たのは、これが最後だった。

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747名無しさん:2021/03/08(月) 19:05:55 ID:nOwkzYno0
同日 PM00:08

午前中にデレシア達の前を猛スピードで駆け抜けた赤いスポーツカーは、街の南にある高級ホテルに停められていた。
狭い路地を猛スピードで駆け抜け、フートフェッチに立ち寄ってから再びヴィンスに舞い戻った車の主は、隻眼の女だった。
最上階にあるレストランで白身魚のテリーヌを口に運び、白ワインで喉を潤す。
レストランからは給仕も含め、人払いがされているため、二人の会話を聞く者も、それを見る者もいない。

血のように赤い瞳で街を見下ろしながら、女は対面する別の女に状況の報告を行う。

从 ゚∀从「恐らく、数日中には合意するかと」

隻眼の女の名前はハインリッヒ・ヒムラー・トリッペン。
内藤財団に所属する営業担当者であると同時に、ティンバーランドの一員として世界中の街に出向くヘッドハンティング担当者でもある。
そして向かい側に座るもう一人の女は炭酸水に口を付け、ハインリッヒの視線の先に目を向けた。
太陽光を反射して白く輝く街並み、そして煌めく水面が平穏な空気の漂う午後のヴィンスをつまらなそうに眺めた女は、視線を目の前にあるサーモンサラダに向けた。

ξ゚⊿゚)ξ「そうだといいのですが」

内藤財団副社長、西川・ツンディエレ・ホライゾンは目にかかった金髪を耳にかきあげ、そう言った。
フォークにレタスを突きさし、口に運ぶ。
シャキシャキとした音を小さくさせて咀嚼し、小さく嚥下する。

ξ゚⊿゚)ξ「街の意見を覆すのは容易ではないはずです。
      勝算があるのですか?」

从 ゚∀从「街の出す条件を全て飲むという契約書を用意しました。
      あれがあれば、落ちない奴はいません」

ツンディエレは溜息を吐いた。

ξ゚⊿゚)ξ「人は時に理屈ではない物で判断をします。
      あまり楽観視はしないように。
      あなたは自分の状況を忘れてはいませんよね」

その言葉を聞いたハインリッヒの顔が強張る。
余裕を感じさせていた笑みも、今では引きつり、ワイングラスを持つ手が震えていた。

从;゚∀从「勿論ですよ、同志ツンディエレ」

ξ゚⊿゚)ξ「なら、この街に長居するようなことがないよう、徹底的に不安要素は潰してください。
      手段は問いません」

从;゚∀从「……分かりました」

そして再びツンディエレはサラダに視線を落とし、フォークとナイフでサーモンを一口大に切り分けた。
レタスと共にフォークに刺し、口まで運ぶ途中で、その手を止めた。

ξ゚⊿゚)ξ「一番の障害は誰なのですか?」

748名無しさん:2021/03/08(月) 19:07:02 ID:nOwkzYno0
从;゚∀从「街の船頭たちです。
      連中はこちらがフートフェッチを買収したことを知っているため、我々の参入を最も嫌っています。
      船頭から他の、例えば市場の人間にもその情報が口頭で伝えられているため、手に負えません。
      同時に彼らは観光の要でもあるため、市長も無碍には出来ないと」

ξ゚⊿゚)ξ「なるほど、それは確かに厄介ですね」

フォークを口に運び、無言で咀嚼する。
それから少しして、ツンディエレは淡々と言った。

ξ゚⊿゚)ξ「市長たちに決断しやすい理由を与えてあげましょう。
      船頭の声を聞きたくなくなるような理由を」

从 ゚∀从「具体的に、どのようにすれば」

ξ゚⊿゚)ξ「それは自分で考えてください。
      先ほど私は手段を問わないと言ったでしょう。
      私は明日までここに滞在しますが、出来るだけ早くいい結果を聞きたいものですね」

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同日 PM10:17

ティタニック・リバーサイドはその日、久しぶりに仕事の充実感を味わった興奮でいつもよりも酒に酔っていた。
子供の頃から船頭として働くことを夢見て、それを実現させ、気が付けば観光客を相手にぼったくりをするまで落ちてしまった。
若い頃は夢と誇りに溢れ、むしろ十分ほど余計にサービスをするような人間だった。
遠い昔の話だと思っていたが、その日に乗せた客の影響で、彼は初心を思い出し、暖かな気持ちに包まれた。

船頭に憧れたのは、彼の父も、その父もその仕事を誇りにしている姿を間近で見続け、純粋にそれが格好いいと思ったからだった。
決して裕福な生活は出来なかったが、幸せな日々だった。
初めて一人で客を船に乗せた時の高揚感と緊張感は、今でも鮮明に思い出せる。
宝石のように奇麗な川を進みながら、客が景色と彼の言葉に意識を向ける様は、この仕事の醍醐味だった。

749名無しさん:2021/03/08(月) 19:07:25 ID:nOwkzYno0
客と恋に落ちることもあったが、長続きはしなかった。
時が流れ、彼のトークは洗練され、己の言葉が生まれた。
昔から続くやり方を守り、それを引き継ぐことの大切さを次第に自覚した。
かつて見上げる存在だった人間と同じ立場になり、見上げられることが多くなった。

しかし、多くの若者は彼ではなく、新しい考えを持つ者に教えを乞うようになった。
客足が彼から遠のき、より新しい方式の船頭が増えた。
冗談のような軽い気持ちで、彼は観光客から正規の料金よりも多く請求した。
それは簡単に受け入れられ、その味を知ってしまった。

そんな折、“ヴィンスの厄災”が観光客を街から遠ざけ、彼の生活はより一層貧窮することになった。
その当時から回復したとは言え、最盛期の客足と比べると街の観光は上手くいっていなかった。
それから彼は今日に至るまで腐ったように仕事をしていたが、目が覚めるような出来事が今朝起きたのだ。
誰にそれを言うでもなく、彼は街の酒場で仕事仲間と共に酒を呑み、他愛のない話で盛り上がっている。

(::゚J゚::)「ははっ、それでよ……!」

ティタニックは頬を赤く染め、呂律が回らなくなって支離滅裂とした言動となっていたが、近年稀にみる機嫌のよさだった。
愉快な時間を過ごし、千鳥足で家路に向かう頃には、時刻は既に日付が変わる数分前になっていた。
月光の下、彼は明日から真っ当な仕事に戻ろうと心に決め、次は胸を張ってあの少年を船に乗せるのだと、ぼそぼそと口にしながら歩く。
薄暗い路地を歩く中、背後に人の気配を感じたが、彼は気にしなかった。

それが、彼の命取りとなった。
追跡者はティタニックの背後から素早く忍び寄り、つむじ風のような足払いを放った。

(::゚J゚::)「うおっ?」

顔から転倒しかけたティタニックは反射的に腕を前に出す。
その腕を掴んだ追跡者は、ティタニックの上腕部に素早く無痛針の注射を使い、中身を体内に注入する。
一瞬でティタニックの感覚全てが暴走を始め、これまでに味わったことのない快感が全身を駆け巡った。
思考は快楽で染まり、心臓は壊れそうなほどに高鳴り、全身が焼かれるように熱くなる。

口からは白い泡を吐き出し、痙攣しながらその場に倒れた。
その頃にはティタニックの頭の中にブーン達と過ごした記憶は残されておらず、正体の分からない快楽と命が失われていく感覚だけが全てだった。
走馬灯が毒々しい色で塗り固められ、命の炎が燃え尽きるその刹那。

(::゚J゚::)「あ……俺……」

彼の目には、陽光の下、小さな船を漕ぐ自分の姿が浮かんだ。
楽しそうに笑う客と、自分の顔。
それはかつての幸せだったころの記憶か、それともただの妄想なのか。
満面の笑みを浮かべ、ティタニックの命は呆気なく失われた。

――翌日、彼の死体が発見されたことにより、街中の船頭が違法薬物売買の嫌疑をかけられる大騒ぎになった。
その騒ぎは街の裏側で広がっていたが、決して表立つことは無く、ティタニックという男の死は静かにその騒ぎの中に消えていったのであった。

750名無しさん:2021/03/08(月) 19:08:14 ID:nOwkzYno0
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Ammo→Re!!のようです
Ammo for Remnant!!編

第七章【Remnants of memories-記憶の断片-】 了
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751名無しさん:2021/03/08(月) 19:13:08 ID:nOwkzYno0
これにて今回は終了です

質問、指摘、感想など有れば幸いです

752名無しさん:2021/03/08(月) 19:19:33 ID:Nkehj4TQ0
otu

753名無しさん:2021/03/08(月) 20:28:41 ID:2p/Pi2Hs0
乙です!

754名無しさん:2021/03/10(水) 23:16:34 ID:CLnG/69U0
おつ!
船頭さん…
ハインはそんなに地位高くないんだな

755名無しさん:2021/04/05(月) 21:11:44 ID:hSvH8faI0
今度の日曜日、VIPでお会いしましょう

756名無しさん:2021/04/05(月) 21:20:32 ID:hZyLUp2Y0
だいたい一週間後か把握

757名無しさん:2021/04/12(月) 19:01:45 ID:5c9ODPy20
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例え、火花のようにひ弱な火種だとしても。
大切に、そして念入りに準備をした火種は使い方次第では大火になるのだ。
その大火が何もかもを焼き払う光景は、あまりにも美しい。


                            ――放火魔、バーン・ウィッチ・ホルスタイン

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September 14th PM11:18

フィリップス・シチリーはかつて、ヴィンスで最もレモンの似合う青年だった。
幅広く商売に手を伸ばし、街の発展に一躍貢献したが、その立場を息子に譲り、その息子は自分の子にその立場を譲った。
隠居した身となったフィリップスは年齢的な衰えによってベッドに寝たきりとなり、機械の補助なしには呼吸もままならない程に弱っていた。
シチリー家の名声を築いた彼も、命の灯火が消えるのを待つばかりだった。

窓の外に見える淡い街の光を見て、シチリーは内心で溜息を吐いた。
果たしてあと何回その光を見ることが出来るのかと考えても、それを誰かに伝える術はない。
彼の口は呼吸器でふさがれ、言葉を発するのは食事の時だけなのだ。
浅黒く焼けた肌は皺だらけになり、かつては逞しかった腕も細く、倒木を思わせる姿になっている。

時折思い出す若かりし日々が、彼にとっては唯一の希望だった。
ふと、一陣の潮風が彼の頬を撫でた。

(,,'-貝-゚)「……?」

誰かが部屋の扉を開いたのかと思い、そちらに視線を移す。
だがそこには誰もおらず、扉も開いていない。
再び視線を窓に向けると、カーテンが風に揺れていた。
そして、夜空を背に誰かが立っているのを見つけた。

(,,'-貝-゚)「……」

(<::ー゚::::>三)「久しぶりね、フィリップス。
        最初に見た時はレモンに似合う青年で、その次が孫を抱えた中年で、今度は素敵な老人になったわね」

(,,'-貝-゚)「……」

その女の声には聞き覚えがあったような気がしたが、かなり昔の事であるため、フィリップスは思い出せない。
果たして誰なのかと聞く前に、女はフードを取った。

ζ(゚ー゚*ζ「お孫さん、随分と立派になったわね」

(,,'-貝-゚)「……!」

758名無しさん:2021/04/12(月) 19:02:08 ID:5c9ODPy20
その顔には覚えがあった。
名前は思い出せないが、確かにその顔は彼の知る人間の顔だった。

ζ(゚ー゚*ζ「レモン、持ってきたわよ。
       確か黄色と緑の間ぐらいが好きだったわよね」

女性は彼の枕元にレモンを置き、そう言った。
フィリップスの鼻孔に、新鮮なレモンの香りが届く。
それは彼に青春の日々を鮮明に思い出させ、夜空さえ青空に幻視させた。

(,,'-貝-゚)「……」

ζ(゚ー゚*ζ「久しぶりにこの街に寄ったの。
      貴方の孫、昔はレモンが近くにあるだけで泣いていたのに、もうあんなになったのね」

(,,'-貝-゚)「……」

ζ(゚ー゚*ζ「いい歳の取り方をしたわね。
      どう? 楽しい人生だった?」

(,,'-貝-゚)「……」

沢山の苦楽があった。
何度も挫折しそうになった。
だが、彼にとって、彼が過ごしてきた人生は楽しい物だと断言出来る物だった。

ζ(゚ー゚*ζ「そう、それならよかった」

そして再び、夜風が彼の頬を撫でた。
檸檬の香りのする風が、彼の体から毒気を抜いた。
全身に力が蘇り、意識と記憶に電流が走った心地がした。

(,,'-貝-゚)「……デレ……シア……?」

ζ(゚ー゚*ζ「ふふっ、よくできました」

思い返す夏の太陽。
潮騒の中、彼が初めて経営することになったレストランに訪れた客。
他の誰よりも美味そうに酒を呑み、食事を摂った客。
若気の至りで声をかけ、あっさりと躱された思い出。

その頃に感じた多くの幸せや困難の日々。
これまでの人生の全てが津波と化して彼の記憶を襲い、幸せの濁流の中、ゆっくりと睡魔が彼の意識を深い眠りへと誘う。
抜け落ち、白く染まった彼の頭を、彼女の手が子供にするように優しく撫でる。
果たして彼は、瞼を降ろし、静かな眠りについた。

(,,'-貝-゚)「……」

ζ(゚ー゚*ζ「おやすみなさい、フィリップス」

759名無しさん:2021/04/12(月) 19:02:28 ID:5c9ODPy20
――フィリップスが家族に見守られながら永遠の眠りについたのは、翌日の朝、澄み渡った青空の広がる日のことだった。

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               : : : : :::.. :::: : : : :..     第八章【remnants of warfare-争いの断片-】
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September 15th AM08:19

その日の朝、街の空気が一変したことに気づいた観光客は、デレシアが最初だった。
街の空気に既視感を覚えた人間は、ヒート・オロラ・レッドウィングが最初だった。
漂う空気に剣呑さが混じり、緊張感の匂いがすることに気づいたのはブーンが唯一だった。
朝食をホテルで終え、散歩がてら外に出た瞬間に三人は互いに顔を見合わせる。

ζ(゚、゚*ζ「……」

ノパ⊿゚)「……」

(∪´ω`)「おー」

760名無しさん:2021/04/12(月) 19:03:37 ID:5c9ODPy20
言葉を交わさずとも、それぞれが異変を感じ取れたことが伝わる。
だが彼女たちの旅に影響がない限り、特に気にすることでもないという考えもあり、三人はひとまず街に向かうことにした。
街の様子は一見すれば変化はないが、よく観察をすれば、私服姿の男たちが運河に浮かぶ小舟の周囲に立っている光景が散見された。
胸の不自然なふくらみ、あるいは片方と比べて下がった肩は、そこに拳銃が吊り下げられていることを暗に示している。

彼らがカラヴィニエリと呼ばれる治安維持組織であることは間違いないだろう。
最初に違和感を口にしたのはデレシアだった。

ζ(゚、゚*ζ「何かあったみたいね」

ノパ⊿゚)「あぁ、探し物してるっぽいな」

(∪´ω`)「薬があった、って言ってますお」

優れた聴力により、聞き耳を立てるまでもなく、ブーンがヒートの疑問に答えた。
彼の耳があれば、例え百メートル先の囁き声でさえ聞き分けることが出来るだろう。

ζ(゚、゚*ζ「あら、薬物の取引の捕り物にしては随分と大げさね。
      それに、船頭ばかりがあれだけまとめて、なんてねぇ」

ノパ⊿゚)「あたしが前に来た時は別に薬なんて流行ってなかったと思ったんだが、今は違うのかもな」

どんな街でも中毒性の高い薬については強い規制をかけ、蔓延しないようにするものだ。
薬物が蔓延るということは街の統治が不完全であると同時に、市長の無能さを象徴することになる。
街の治安を維持できない人間の統治する場所に観光客が寄り付くことなど有り得ないため、ヴィンスはその辺りについては特に慎重な姿勢のはずだ。
何かが起き、その姿勢が崩れ始めたのだろう。

ζ(゚ー゚*ζ「まぁ、何かに巻き込まれないようにだけ気をつけましょうか」

昨日聞いた内藤財団の話が関係していると考えるべきだろう。
内藤財団とティンバーランドが繋がっている以上は、どこかでその幹部とぶつかる可能性がある。
用心しておくべきことに変わりはないが、関わり合いになる必要は特に感じられない。

(∪´ω`)「おっ!」

三人は食材などの買い出しに市場に向かうことにしたが、街の主な移動手段である船は全てどこかへと消え去っていた。
そして、この異変は次第に街を蝕み始めるのであった。

761名無しさん:2021/04/12(月) 19:04:03 ID:5c9ODPy20
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                         f-t/    同
                       / ̄/k   F三',
                      _f 三 i     f三三
                    /   /k       f ̄ ̄ ',
                    F三三i       fニニニニi
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               /___ / レ         l ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ l
              lr-------ii  l        l                l
              li      ll  l          l                 l
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同日 同時刻

十台のトラックが海岸線を連なって走り、次の目的地であるヴィンスに向かっていた。
予定よりも輸送が遅れているため、彼らが出発した最後の街であるタルキールから、一度も他の街には寄っていなかった。
最低限の仮眠と休憩を挟み、彼らはイルトリアに向かう最後の休憩地としてヴィンスを選んだ。
助手席で白湯を飲むトラギコ・マウンテンライトは、これからのことについて思考を巡らせていた。

彼は直感的にデレシア達がイルトリアに向かっていると考え、行動をしているが、その途中でいくつも気になる事件が彼を出迎えていた。
その中でも彼の中で引っかかっているのは、タルキールを出発する前夜、ジュスティアに連絡をした際に報告された街で広がる薬物の話だった。
街に入るための三つの検問を全て突破し、街中に薬を広めるのは容易ではない。
検閲官を買収できないよう、常にランダムで担当者と担当場所の入れ替わりが行われる。

それでも、街の中に入ることが出来るとしたら、スリーピースを介さない手段を使うしかない。
街の検問を何かしらの手段で突破することが可能なのは、ワタナベ・ビルケンシュトックが証明している。
トラギコの中にその答えにつながる物はあった。
軍港を使えば、スリーピースを介さずに街に入り込むことが出来る。

762名無しさん:2021/04/12(月) 19:05:12 ID:5c9ODPy20
現に軍関係者を装ったテロリスト集団がオアシズに乗り込んできた際も、軍が関係していた。
ティンカーベルにおいてトラギコを狙撃した男も軍人だったことを考えれば、ジュスティアの病巣は軍内部にあるはずだ。
それを告げるべきか考えたが、彼が連絡を取った人間はその点について勘付いている様子だった。
トラギコもその人物の優秀さについては理解しているため、余計なことは言わないことにした。

だが今、トラギコの中で一つの疑問が生まれていた。
もしもトラギコがジュスティアを混乱に陥れたいのならば、街の中に持ち込むべきは汚い爆弾だ。
一度でも爆発させればそれだけでジュスティアの評価も平穏も地に落とすことが出来る。
ニクラメンで虐殺行為を行ったワタナベであれば、喜んでその役割を果たすだろう。

それはしないのか、あるいは出来ないのか。
相手にしている組織の目的とこれまでの行動を結び付けようとしても、トラギコの持っている少ない情報ではそれは難しい話だった。

(=゚д゚)「ふーむ」

( ゙゚_ゞ゚)「いい加減答えは出たのか?」

隣で数日前の新聞を読む返すオサム・ブッテロが、雑誌から目をそらすことなくそう言った。
だがトラギコはその言葉に対して返答せず、白湯を飲んで黙り込んだ。
車内に流れるラジオのDJは、朝のニュースを読み終え、リスナーからのリクエスト曲を流し始めた。

( ゙゚_ゞ゚)「ったく、無視しやがって。
     タルキールで手を貸してやったのに、そろそろ礼の一つや二つ、言っても損はないと思うんだがな」

オサムの言う通り、彼の協力があったからこそ、トラギコはタルキールで密かに輸出されていた汚い爆弾の行き先を知ることが出来たのだ。
輸出先としては多くが西側の街で、意外なことにジュスティアはその対象になっていなかった。
直接的な持ち込みが不可能だと判断しての選択か、あるいは、別の経路を使って持ち込んでいるかのどちらかだと考えた。
逆に考えれば、これからトラギコが向かうイルトリアの方面には汚い爆弾の原料が大量に輸出された後であり、危険な場所と化しているのだ。

コップの中の白湯を一気に飲み干し、トラギコは溜息交じりに言った。

(=゚д゚)「あぁ、感謝してるラギ。
    でもその分飯奢ってやっただろ」

( ゙゚_ゞ゚)「まぁな」

(=゚д゚)「それに、答えは出ないラギよ。
    俺は連中じゃねぇからな。
    結局想像と推測の域を出ないラギ」

( ゙゚_ゞ゚)「なら悩むだけ無駄だろ。
     ヴィンスで何を食うか考えようぜ」

(=゚д゚)「悩んだだけ可能性が浮かぶラギ。
    何も考えなきゃ、何も生まれねぇラギ」

それを聞いたオサムは呆れたように鼻で笑いながらも、ニヒルな笑いを浮かべた。

( ゙゚_ゞ゚)「職業病だな」

763名無しさん:2021/04/12(月) 19:05:34 ID:5c9ODPy20
(=゚д゚)「否定はしないラギ」

疑うことを忘れた刑事は既に死んだも同然の存在であるというのは、彼の所属するモスカウでは常識だった。
難事件を解決し続けるためには目に見えるもの全てを疑い、見えないものを疑い、可能性を模索し続ける必要がある。
世界規模での企てを計画している組織が相手であれば、あらゆる可能性を模索しても足りないぐらいだ。
話を聞いていた運転手のポットラック・ポイフルが、苦笑しながら言った。

从´_ゝ从「あんたらといると、ほんと飽きねぇな」

( ゙゚_ゞ゚)「だろ?」

トラギコとオサムの素性について、ポットラックが詮索することはなく、二人はそれを打ち明けることもなかった。
互いに薄々勘付いていることがありはするが、それを確かめようとはしない。
旅の途中で会った人間に詮索をしない相手というのは極めて貴重な存在だ。

(=゚д゚)「ったく、お前は調子に乗りすぎラギ。
    さっきから新聞眺めてるけど、何か面白い記事でもあったラギ?」

( ゙゚_ゞ゚)「面白い、の基準は分からんが、気になるのならあったな」

(=゚д゚)「どんな記事ラギ?」

( ゙゚_ゞ゚)「ラヴニカの記事だ。
     ギルドの大規模な立て直しに内藤財団が入るんだとよ。
     善意で、おまけに無償でだってさ」

二人がラヴニカにいた際に起きた大規模な事件の影響は、遠く離れた小さな町にも表れるほどだった。
ラヴニカで作られた精巧な道具の製造と輸出が遅れることで、その町の産業に影響が出るのだ。
“良い品はラヴニカから”、の言葉示す通り、その道具の精度の高さは世界共通で知られるもので、依存している街も決して少なくはない。

(=゚д゚)「只より高い物はないラギ。
    したたかな連中ラギね」

トラギコの考える限り、ティンバーランドの背後にあるのは内藤財団で間違いがない。
ラヴニカで起きた事件も彼らが関わっていると考えれば、様々な辻妻が合ってしまう。
だが果たして、その真相はトラギコには分かりかねることだ。

从´_ゝ从「ありゃあ、俺たちの間でもすげぇ騒ぎになったもんだ。
     何せ生き残ったギルドマスターが一人だろ?
     街の機能がマヒしたら大変だからな、仕方ないさ」

ギルドそのものは失われないが、指導者を失ったギルドはしばらくの間従来の機能を失うことになる。
街の治安を維持するギルドマスターでさえ失われ、治安の悪化が懸念されるのは当然の話である。

(=゚д゚)「街が死ぬぐらいなら、って感じラギね」

从´_ゝ从「全く怖い話だ。
     そうだ、ラジオのチャンネルを変えてもいいか?
     そろそろ俺の好きな番組が始まるんだ」

764名無しさん:2021/04/12(月) 19:06:46 ID:5c9ODPy20
( ゙゚_ゞ゚)「あぁ、好きにしてくれ」

ポットラックは片手をチューナーに伸ばし、ある位置で止めた。

『FMラジオ、極道893のお時間ですぅ』

トラギコは一瞬、信じられないものを見るような目でラジオを凝視し、喉の奥まで込み上げてきた声を押し殺した。
その声は間違いなく、キュート・ウルヴァリンの物だった。
声真似を得意とし、彼の相棒だったライダル・ヅーの代わりとしてジュスティア警察に引き入れられた有名人だ。
本能的にトラギコは彼女のことが気に入らなかったが、その感覚は今もまだ続いている。

一度ジュスティア警察に引き入れられたということは、それ以降も守秘義務が課せられるため、ジュスティアでの生活が強いられる。
つまり、トラギコが嫌悪する女は今この配信をジュスティアから行っているということだ。
本能的に彼女のことを嫌うトラギコにとっては、自分の故郷が土足で荒らされている気分だった。

从´_ゝ从「俺はこのパーソナリティの声が嫌いだが、語りは好きなんだ」

(=゚д゚)「……そうラギか」

声真似の技術は正直なところ、かなりの水準にあるのは間違いない。
捜査で役立つことを見越して採用された人間だが、言い換えれば、声を偽造するという極めて悪質な力を持つ人間を招き入れてしまったのだ。
警察の上層部の人間の声を真似することが出来るようになれば、何でもできるようになる。

『さて今日はぁ、リスナーからもらったお便りを中心にしていこうと思いますぅ。
いっつもニュースばかりじゃぁ、つまらないですものねぇ。
まずはぁ、フートクラフトのぉ、ラジオネームスポッチャさんからのリクエストでぇ……』

そしてラジオから軽快な音楽が流れ始め、それに合わせてパーソナリティが届けられた便りが読まれていく。

『ラジオネームアングリーベティさんからのお便りぃ。
先日恋人とぉ、分かれてしまいましたぁ。
どうやったら彼を忘れられますかぁ?
ですってぇ。

うーんっとねぇ、あたしのお勧めはぁ、記憶を失うまでお酒を呑むことかなぁ』

(=゚д゚)「人間性が如実に表れる解答ラギね」

ふいに、トラギコの脳裏にある可能性が飛来した。
ジュスティア警察の裏切り者の中にいたベルベット・オールスターが手引きをすれば、軍港を経由しなくても済む。
逆に、軍港への手引きはトラギコを狙撃したカラマロス・ロングディスタンスが手引きをすればいい。
つまりジュスティアに薬物を始めとした危険なものを持ち込むための道は二つ用意されていた可能性があるため、ベルベットが推薦したキュートは極めて限りなく黒い存在だ。

しかしそのことに気づいていない上層部ではないはずだが、こうしてラジオが流れているということは、あえて泳がせている可能性が考えられる。
その目的がトラギコの考える物であれば、彼が知らせた情報に対して何らかの動きがあるはずだ。
街の要であり、ジュスティアの象徴である円卓十二騎士を動かしているだけの覚悟がどこまでものか、それが問題だ。
ここでいくら懸念したところで街のことは街にいる人間だけが管理できる問題だということは、無論、彼は理解している。

自らの目的地を告げたことを、上層部は確実に不審に思うはずだった。
その目的を疑い、トラギコの真意を考え、行動すると彼は信じていた。

765名無しさん:2021/04/12(月) 19:07:36 ID:5c9ODPy20
从´_ゝ从「おっ、見ろよ。
      あの小さな白い山みたいなのがヴィンスだ」

(=゚д゚)「あれがヴィンスラギか……」

モスカウに所属してから、その名前が彼の耳に悪い意味で届いたのは数年前のことだ。
殺し屋“レオン”。
その捜査はモスカウが秘密裏に着手し、終ぞ犯人を特定することが叶わなかった相手。
ヴィンスがジュスティア警察との契約外であるということが災いし、結局、その正体は分からずじまいとなった。

トラギコの知る限りレオンが暗躍したのはヴィンスが始まりであり、終わりでもある。
“ヴィンスの厄災”以降、レオンによる犯行はヴィンス以外では確認されていない。

( ゙゚_ゞ゚)「なぁ、海鮮丼ってあるのか?」

从´_ゝ从「多分あるだろうな」

(=゚д゚)「お前、完全に観光気分ラギね……」

( ゙゚_ゞ゚)「街から街に行くときの一番の楽しみは、やっぱり飯だろ?」

あまりにも正論過ぎる言葉を聞いてオサム以外の二人は一瞬沈黙し、それから苦笑と共に大いに賛同した。

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同日 AM09:44

766名無しさん:2021/04/12(月) 19:08:38 ID:5c9ODPy20
ヴィンスの街で広がり始めた不穏な空気は、次第に隠し切れなくなり、道行く人々が口にするようになった。
船頭たちがカラヴィニエリに捕らえられ、街に流れる川は賑やかさを失った。
しかしそれを気にしない人間にとっては移動手段が減った程度の問題であり、大した問題ではなかった。
普段は小船を使って移動していた人間達は仕方なく陸を歩き、それぞれの目的を果たしている。

船で商売をしている人間達にとっては大損害となる一日なのは間違いないが、転じて、陸上にある店にとっては思わぬ書き入れ時となったのであった。

ζ(゚ー゚*ζ「他に買いたいものとかある?」

両手に食材の詰まった紙袋を持ったデレシアは、同じく両手に紙袋を持つブーンとヒートに声をかけた。

ノパー゚)「ひとまずは大丈夫だな。
     アジの開きがあったのは嬉しかったな」

(∪*´ω`)「おっ」

三人が買ったのは主に食料品で、ヴィンスからイルトリアまでの間で食べきることを考えた量を購入した。
日持ちのする食料もそうだが、彼女たちが市場で気になった食料も紙袋の中に入っている。
クジラ肉の加工品など、海沿いの大きな街だからこそ店頭に並ぶ食材の種類は豊富な物だった。
これまでに何度か通った街にも海産物の加工品はあったが、ヴィンスの加工品はそれらとは一線を画すものがあった。

目と耳の肥えた観光客を相手にする以上は、他の街との差別化を図らなければならない。
そのため、この街で食料品を取り扱う人間達はかなり熱心に研究と開発を進めている様だった。
昨日食べたものがそうであったように、食に関して一切の追随を許さないホールバイトから得た知識と技術をふんだんに取り入れた物ばかりだった。
独自性を保つことでホールバイトとの差別化も図り、観光以外の街の売りの一つにしようと努力しているのがよく分かる。

ζ(゚ー゚*ζ「それじゃあホテルに帰って、出発の準備をしましょうか」

街に異変が起きているのであれば、それに巻き込まれない内に街を出るのが得策だというのは三人の共通認識だった。
トラブルに進んで手を貸すだけの義理も理由もない三人にとって、今考えるべきは昼食の内容ぐらいだった。
サンドイッチを買って途中で食べるか、それとも街で食べてから出るか、それが問題だった。

(∪´ω`)「はいですお!
      ……お?」

ブーンが何かに気づき、周囲を見回した。
鼻を鳴らし、その視線がある方向で止まる。

(∪´ω`)「トラギコさんの匂いがしますお」

ジュスティア警察の中でもデレシア達に並々ならぬ興味と執念を示しているのが、トラギコ・マウンテンライトだ。
ラヴニカでは顔を合わせたつもりはなかったが、執念でここまで追ってきたのだろう。

ノハ;゚⊿゚)「マジか、あの刑事ジュスティアからここまで来たのか……
     執念深いというか、何というか」

ζ(゚ー゚*ζ「ガッツも凄いけど、推理力が素敵ね。
      ジュスティアからラヴニカ、そこからまっすぐこっちを目指してきたのなら、えぇ、本当に凄い推理力と執念ね」

767名無しさん:2021/04/12(月) 19:09:40 ID:5c9ODPy20
その行動力と執念は、彼の上司だったジョルジュ・マグナーニよりも上だろう。
両者と対峙したことのあるデレシアの評価は、トラギコの方が若干高く見積もられていた。
かつてのジョルジュもデレシアを追い、様々な場所で対峙したことはあったが、今ではティンバーランドに堕ちてしまった。
それがトラギコとジョルジュの大きな違いだった。

願わくば、トラギコがこのままトラギコであり続けることが、デレシアにとっては面白いのだが。

(∪´ω`)「おー、後、スノー・ピアサーにいた人の匂いもしますお」

ラヴニカで起きた騒ぎでオサムの記憶が戻り、トラギコと手を組む可能性については考えていなかったわけではない。
トラギコほどの人間ともなれば、例え犯罪者だとしても利用するのに躊躇はしないはずだ。
何より、円卓十二騎士の一員であるワカッテマス・ロンウルフ程の人間が共に行動していたのだから、意図的に放流された犯罪者であるのは言うまでもない。
両者ともにデレシアに対して並々ならぬ関心を寄せているだけあり、優秀な猟犬としての活躍を期待したのだろう。

ジュスティア側の目論見通り、デレシアにとっては歓迎することのできない相手だった。

ζ(゚、゚*ζ「あら、それは嫌ね。
      私、一度ビルから蹴り落とした人間とは関わりたくないのよね」

トラギコが犯罪者と手を組むということに意外性を感じたが、ログーランビルでの生き証人としてオサムに価値を見出し、監視も兼ねているのかもしれない。
柔軟性のある相手程、デレシアにとっては相手のし甲斐があるというものだ。

ノパ⊿゚)「見つかる前にさっさとホテルに行くか?」

ヒートの提案は理にかなっているが、それでは面白くない。
そう。
面白くないのだ。
こちらが旅を楽しむという工程を削られ、逃げるという選択肢は今のデレシア達にとっては不要であり、望ましくない。

ζ(゚ー゚*ζ「そうね、ただ、逃げるような相手でもないから普通に行きましょう」

768名無しさん:2021/04/12(月) 19:10:58 ID:5c9ODPy20
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同日 同時刻

オサム・ブッテロとトラギコ・マウンテンライトは困惑し、そして苦戦を強いられていた。
街について荷の積み下ろしを手伝い、ポットラック・ポイフル達が長い休憩をする間に二人は束の間の観光を楽しむことにした。
彼らはまず、オサムの強い希望によって海鮮丼を食べることに決め、街で一番と名高い店に足を踏み入れた。
それが運の尽きだった。

769名無しさん:2021/04/12(月) 19:11:41 ID:5c9ODPy20
彼らが店に入ったのはつい20分前。
彼らの前に運ばれてきた“大盛海鮮丼”が現れたのはつい15分前。
そして、彼らの目の前にある海鮮丼は依然として圧倒的な量が残されていた。

(;゙゚_ゞ゚)「……」

(;=゚д゚)「……」

疑念がなかったと言えば嘘になる。
トラギコはメニューを見て、その量の刻み方に疑問を抱いた。
最大の量とされるものが大盛で、最小の量が子供向け、とされていたのだ。
段階は細かく7段階に刻まれていたが、その量については一切の記述がなかった。

オサムはメニューに海鮮丼の文字を見るなり、即座に大盛を注文した。
それにつられ、トラギコも同じものを注文し、果たして地獄が二人の前に周囲の客の歓声と共に運ばれてきたのだった。
器を除いた量は最新の単位に合わせて言えば、1.5キロ以上。
白米の量と魚介類の量は拮抗しており、二人は苦戦を強いられることになった。

覚悟があればまだ展開は違ったかもしれないが、二人は全く準備が出来ていなかった。
不運としか言えない要素は2つあった。
一つは覚悟の点。
もう一つは、彼らが空腹だったことだ。

胃の拡張には時間がかかるため、空腹の状態は大食いにおいては禁忌ともいえる愚考なのだ。
大食いの世界において空腹は避けるべき常識であることを二人は知らず、その時の食欲に身を任せて大盛を頼んだことが致命的な決断となった。
当然、そんなことを知らない二人は大食いの常識に反した状況で大食い勝負に参加したため、状況は極めて不利である。
だが幸いなことが二つだけあった。

一つ目は、二人とも、食べ始めてから一度も水に手を付けていないのである。
ほぼあらゆる大食いにおいて、水は禁忌だ。
胃の中で食べ物を膨らませる水分は悪手であり、少しでも多く胃袋に収める以上は、避けなければならない物なのだ。
そして二つ目は、丼の比重は米よりも上に乗った海産物の方が多いのだ。

(;=゚д゚)「お前、これ知ってたラギか?」

(;゙゚_ゞ゚)「知ってたらこんなことになるか、普通」

大盛の料理にありがちな粗雑な味ではなく、海鮮丼に使用されている食材はどれも新鮮、かつ美味な物ばかりだった。
上からかけたわさび醤油が味を際立たせ、食欲を増進させていることは間違いない。
それでも、二人の食べるペースは刻一刻と落ちていき、今では一口分をスプーンで口に運ぶだけでも精いっぱいなのだ。

(;=゚д゚)「あぁ、ったく……」

少しずつ、巨大な山を踏破するように二人は一口ずつ量を減らしていく。
食事に苦しさが伴うと、それは痛みよりも辛い苦痛になる。
近い感覚で例えるなら、陸上競技における長距離走の苦痛だ。
己の肉体が追い付けないという悔しさと純粋な苦しさは、食の喜びに対しての背信行為であり、己の倫理観を傷つける行為が生み出したものでもある。

从 ゚∀从「へぇ、お兄さんたち凄いの食べてるねぇ」

770名無しさん:2021/04/12(月) 19:13:27 ID:5c9ODPy20
その声は二人の向かい側の席からかけられた。
それまで定食を食べていた銀髪と真紅の瞳を持つ女が、二人を奇異の目で見ている。
口元の笑みは苦しむ人間に対して向けられる物にしては、かなりの邪悪さを含んでいる。
嗜虐的な趣味のある人間の笑みに、トラギコは眉をしかめた。

(;=゚д゚)「……」

人が苦しんでいる姿を喜んで見学する人間にまともな人間はいない。
そしてトラギコは目の前の女の素性も名前も知らないが、顔と手に負った数多の傷を見て、間違いなく堅気の人間ではないことを看破した。
それはオサムも同じだったようで、女の言葉に対して二人は何も反応を示すことはなかった。
無言のまま、そして、淡々と食事を継続していく。

その間に向けられる視線の心地悪さに比べれば、胃袋の限界を突破する挑戦の方が心地よさすら覚えるものがあった。
ベルトを緩め、気合を入れるために鼻から深く息を吐きだす。

(=゚д゚)「……っふー」

淡々と、黙々と食事が継続される。
大食いにおける重要な要素の一つは、例え少量でも食べ続けることにある。
そして水は最小、かつ食べる際は空気を含まないように配慮する。
奇しくも追い込まれたことによって、トラギコとオサムはその状態にならざるを得ず、着実に丼の中が減っていった。

最後の一口を食べ、そして、ようやく二人はコップから水を飲んだ。

(;=゚д゚)「くった……あぁ、くったラギ……」

(;゙゚_ゞ゚)「晩飯はいらねぇな、こりゃ……」

完食に伴う報酬は一切ないが、二人の旅行客が見せた大食いへの姿勢は店の中で奇妙に伝播し、普段に比べて皆が一品多く頼む客が増えたという事実は得られた。
当然、そのような事実を二人が知る由もないのだが、達成感と満腹感は十二分に得られたのであった。

从 ゚∀从「凄いじゃん、お兄さんたち。
      コーヒー奢るよ」

(;=゚д゚)「いや、いらねぇラギ。
     今はもう何も胃袋に送りたくねぇ」

(;゙゚_ゞ゚)「俺もだ。 悪いな、ねーちゃん」

从 ゚∀从「ははっ、ちょっと残念。
      いい物見れたよ」

女が店を出ていき、二人は溜息を吐いた。
トラギコは小さくつぶやいた。

(;=゚д゚)「良かったのかよ、コーヒー。
     お前なら喜んで奢られると思ったラギ」

(;゙゚_ゞ゚)「俺な、ああいう女嫌いなんだよ」

771名無しさん:2021/04/12(月) 19:14:24 ID:5c9ODPy20
(;=゚д゚)「奇遇だな、俺もラギ」

それから十分ほど休憩を挟み、二人はようやく重い体を起こして、店の外に出て行った。
腹ごなしをするために二人は運河沿いの道を歩き始め、ほぼ同時に異変に気が付いた。

(=゚д゚)「ヴィンスに小船がないって、かなり妙ラギね」

( ゙゚_ゞ゚)「確かにそうだな。 座礁した船でも牽引しようとしてるのかもな」

オサムの冗談を鼻で笑い、曲がり角に差し掛かった時、その先から男同士が言い争う声が聞こえてきた。
人通りがまだ多い中で交わされる声は喧嘩の類ではなく、警察と容疑者が交わすそれに酷似している。
互いに顔を見合わせ、二人は角を曲がった。
そこには小船を前に、船頭らしき男とカラヴィニエリの青い制服を着た三人の男がいる。

カラヴィニエリの男たちは皆一様に黒いサングラスを掛け、視線の向きが分からないようになっていた。
船頭らしき男の両手は後ろで拘束され、カラヴィニエリの男が取り押さえている。
残った二人のカラヴィニエリは文字通り頭上から言葉を浴びせかけ、船頭がそれに反論している様だった。

(-゚ぺ-)「俺じゃねぇって言ってんだろうが!!
     他の連中もそうだ、誰もそんなもの売りさばいちゃいねぇよ!!」

(●ム●)「だったら、この船にあったこれはどう説明するんだって訊いてるだろ!!」

手袋をはめたカラヴィニエリの手には、折りたたまれた茶色い紙があった。
それは薬物の取引をする際に使われることの多い包み紙で、匂いや変化を抑える効果がある物だ。
トラギコもその紙を使った取引現場に居合わせたことが何度もあるため、それが本物であることは一目見れば分かる。
包まれている物の内容までは分からないが、間違いなく、禁止されている薬物の類なのだろう。

(-゚ぺ-)「俺が訊きてぇよ!!」

集まりだした野次馬の目もあって、カラヴィニエリはうかつに手出しが出来ないようだった。
力づくで男を連行する姿が観光客に見られでもすれば、彼らの評判が落ちることになる。
観光地では避けたい事象であるため、こういった事件が起きた場合は早急に連行するのが常だ。
恐らく男が抵抗し、連行に手間取っている間に野次馬が集まってしまったのだろう。

ここで関わり合いになることは避けたかったが、明らかな冤罪であれば、見逃せないのがトラギコの性格だった。

(=゚д゚)「おう、ちょっといいラギか?」

(●ム●)「すみません、部外者は――」

トラギコは一歩踏み込み、制止しようとした男の傍で囁いた。

(=゚д゚)「その薬、本当にそいつのラギか?
    根拠を示さないと、そいつは納得しないラギよ」

(●ム●)「これは我々カラヴィニエリの管轄です、口出しをしないでください」

772名無しさん:2021/04/12(月) 19:15:50 ID:5c9ODPy20
(=゚д゚)「まぁ普通そう言うラギね。
    信じる信じないは別として、俺はジュスティアの同業者ラギ。
    薬をどこで見つけたのか、それを教えてほしいラギ」

(●ム●)「ったく、何なんだあんたは」

(=゚д゚)「街中から船頭がいなくなってるのと関係があると思ってな。
    せっかく観光に来たのに、小船に乗れないんじゃヴィンスに来た意味が大分減っちまうラギ。
    当ててやろうか?
    船頭がつるんで薬の取引をしてたってタレコミがあって、調べたら大量に見つかった、ってところだろ。

    タレコミがあった以上は動かざるを得ないし、一人でも見つかれば信頼度が高くなる。
    で、芋づる式にどんどん見つかって大慌てで船頭を一人残らず調べようってことになった感じラギね。
    情報主は秘密ってところラギかね」

(●ム●)「……あんた、どこまで知ってるんだ?」

(=゚д゚)「言っただろ、同業者だって。
    ただ、この手のことは何度か経験があるラギ。
    その時に共通してたのは、全部仕組まれたことだった、って事ラギ。
    あんたらも話が上手くいきすぎてるって思ってるだろ?

    ここで止めておかないと、後が大変ラギよ。
    話しても損はないラギよ」

そう言ってトラギコは男の肩を軽く叩き、退いた。
数秒の間があったが、男は観念した風に溜息を吐いて、船を顎でしゃくった。

(●ム●)「……船首にある小物入れだ。
     この街の船は伝統的に、そこに魔よけの小銭を入れる習慣があるんだが、そこに取引用の薬が隠されてるってタレコミがあったんだ」

男の声はトラギコたちにしか聞こえないほど、絶妙に絞られた物だった。
海風が声を遠くに運ぶ去るため、野次馬達には何も届かない。
別のカラヴィニエリが何かを言おうとするのを、男は手で制止する。

(●ム●)「街中の船頭が結託してるんじゃないかって量だ」

(=゚д゚)「なるほどな。
    何かあったんだろ、そんなタレコミを信じて捜査をするだけの何かが」

(●ム●)「今朝、いや、正確には昨夜だ。
     薬物の多量摂取で死んだ男が見つかった。
     そいつが船頭で、正直最近の素行がよくなかったんだ。
     この街で薬物が広まるってことはありえないはずなんだが、実際に死体がでちまった。

     そこに加えて、その男が薬を売っているってタレコミがあって、俺たちがそいつの家を調べたら案の定大量の薬が見つかった。
     結果、市長が直々に陣頭指揮を執って街中の船頭を調べることになったのさ」

(=゚д゚)「話が上手すぎるラギね」

773名無しさん:2021/04/12(月) 19:16:36 ID:5c9ODPy20
(●ム●)「カラヴィニエリだって馬鹿じゃない。
      当然この流れが不自然なことは分かってる。
      だが、カラヴィニエリの最高責任者は市長だ。
      市長の指示には逆らえない」

(=゚д゚)「この調子じゃ、捜査はまるで進まないラギね。
    船頭が悪者で終わりラギ」

(●ム●)「あぁ、全くだ」

(=゚д゚)「ちょっと、その船首を見せてほしいラギ」

(●ム●)「……荒らすなよ」

(=゚д゚)「分かってるラギ」

男に案内され、係留されている小船に乗り込み、船首の小物入れを見た。
そこには数ドル分の小銭が入っており、硬貨には風化の跡がありありと見て取れる。

(=゚д゚)「見つかった薬の種類は?」

(●ム●)「少なくとも、これまで見たことがない種類だ。
      死体の腕に注射跡があったから、道具を使うタイプの薬なのは間違いない」

(=゚д゚)「……だったら、こりゃ不自然ラギね」

(●ム●)「やっぱりそう思うか」

(=゚д゚)「普通、注射器もセットで売るはずラギ。
    それに、売るなら液体ラギ。
    見つかった薬は粉状だったラギか?」

(●ム●)「あぁ、そうだ」

(=゚д゚)「つじつまが合わねぇのに逮捕する必要があるラギか?」

(●ム●)「言っただろ、市長からの命令なんだ。
     疑わしきを捕らえ、ってな」

(=゚д゚)「反発でどうなるか、市長は考えてないラギか?」

(●ム●)「これ以上は俺の口からは何も言えねぇよ。
      俺にも職務ってのがあるんだ」

(=゚д゚)「ここまで喋ってもらったんだ、仕方ないラギ」

(●ム●)「良ければあんたの名前を訊いても?」

少し考える素振りを見せ、それからトラギコは意地悪そうな笑みを浮かべた。

774名無しさん:2021/04/12(月) 19:17:11 ID:5c9ODPy20
(=゚д゚)「そいつは無理ラギね。
    俺にも職務ってものがあるラギ」

それを聞いたカラヴィニエリの男は苦笑し、トラギコの肩を軽く叩いた。

(●ム●)「ははっ、何か分かったらカラヴィニエリの本部に来てくれ」

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同日 AM11:12

不安定となっていたヴィンスの治安を一変させる出来事が起きたのは、人で賑わいを見せる市場からだった。
普段ならば船に積んで売られている野菜や魚が全て地上の市場に流れ込み、それを買い求める人間が列を成し、通常よりも大勢の人間が集まっていた。
街の中心を流れる運河沿いに並ぶ市場の賑わいに釣られ、街中に散っていた観光客たちが街の中心に集まり始める。
その流れを察知した船上で総菜や食事を提供していた人間達が運河に集結し、地上にいる観光客たちへのサービスの提供を始めた。

昼食時ということもあり、その賑わいはまるで祭り時のように活気づき、その中を歩く人間達は気分が高揚するのを抑えられなかった。
人手と賑わい、そして飛び交う歌声が在りし日のヴィンスを彷彿とさせる。

775名無しさん:2021/04/12(月) 19:17:38 ID:5c9ODPy20
ζ(゚ー゚*ζ

ある旅人の一行が賑わう市場を歩んでいる時。

ξ゚⊿゚)ξ

ある企業の副社長とその部下が市場を歩んでいる時。

ζ(゚ー゚*ζ

     ξ゚⊿゚)ξ

両者がすれ違った、その時。
憎悪に見開かれた眼差しが旅人に向けられ、副社長の背後を影のように歩いていた血色の瞳を持つ女が動いた。
女は組織内で共有されていた敵対者の写真を記憶しており、その中でも最上位の存在が眼前にいることを瞬時に認識したのである。
ハインリッヒ・ヒムラー・フォートマイヤーという女は、ティンバーランドの中では新参の存在だが、人殺しのセンスについては天性のものがあった。

从 ゚∀从

よく訓練された猟犬がそうであるように、ハインリッヒの動きは洗練され、静かだった。
暗殺者として、あるいは敵対する人間を排除する機械としては極めて優秀な動きだった。
しかし、それを目視した後でより疾く動いた女がいるということまでは、ハインリッヒの頭の中にはなかった。

ノパ⊿゚)「今ここでやるか?」

ヒート・オロラ・レッドウィングは懐のベレッタM93Rの銃把を握り、その銃身下に取り付けられた銃剣をハインリッヒの額に突き付けた。
切っ先は既に薄肌を切り裂き、鮮血が汗のように滲み出ている。

从;゚∀从「……」

ξ゚⊿゚)ξ「ハインリッヒ、今は動かないで。
      ……貴女がデレシアですか」

振り返ることなく、女が雑踏の中でそう口にする。
デレシアもまた、振り返らずに返答する。

ζ(゚ー゚*ζ「西川・ツンディエレ・ホライゾンね。
       ニクラメンではお世話になったお礼を、いつかしようと思っていたの」

ξ゚⊿゚)ξ「あら、お礼なんてしなくていいのに。
      それよりもこっちは、色々な場所でのお礼をしたくってね」

ζ(゚ー゚*ζ「ふふっ、いらないわよ。
      足元の雑草を踏み潰しただけよ。
      それよりも私達の周りにいる警護の人間に銃から手を放すように言いなさい」

ノパ⊿゚)「……」

从;゚∀从「っ……」

776名無しさん:2021/04/12(月) 19:18:53 ID:5c9ODPy20
行き交う人の波の中、彼女たちと三人の男だけが、その中で立ち止まっていた。
まるで水面に突き出た岩のように、あまりにも不自然な光景に周囲の人間がすれ違いざまに目を向ける。
そして必然、ヒートが持つそれに気づく人間が現れた。

「きゃあああああ!!
銃よ! その女、銃を持ってるわ!!」

どこからか聞こえた悲鳴とその言葉によって、蜘蛛の子を散らしたように一気に人々が逃げ惑う。
残されたのは先ほどから変わらず立ち止まった人間達だけ。
デレシア一行を睨みつける男の数は三人。
懐に手を伸ばしかけた状態のままで停止し、周りの状況に流されることなく固唾を飲んでデレシア達の動きを見守っている。

(∪´ω`)「お……」

手に持ったピザの最後の一片を咀嚼し、嚥下したのはデレシアとヒートに挟まれるブーンだった。
彼はこの状況に陥ったことに対して焦りや恐怖を感じてはいなかった。
それは慢心や感覚が鈍ったからではなく、経験のある展開だったからだ。
ニクラメンで行われたオープン・ウォーター、ティンカーベルで起きた騒動。

そこで起きた爆破に伴う混乱に比べれば、この程度であれば混乱や無意味な焦りを覚えるものではない。

ζ(゚ー゚*ζ「さぁ、どうする?」

ξ゚⊿゚)ξ「……一度、貴女とは問答をしたかった。
      どうして私達の夢を邪魔するのですか?」

ζ(゚ー゚*ζ「夢? 妄想の間違いでしょ」

ξ゚⊿゚)ξ「つまりそれは、私達の夢を知っているということですね。
      なるほど、聞いていた通りだと思うべきですか。
      貴女は、生きていてはいけない人間です」

その瞬間的な語気の強さに、ブーンは争いの音を聞き、デレシアは空気を、ヒートは匂いを感じ取った。
銃爪を引いてハインリッヒを殺すよりもヒートが選んだのは、ブーンの安全だった。
銃爪を引けば次弾が装填されるまでの間にブーンが撃たれる可能性がある。
そこで選んだのは、ハインリッヒの額を滑らせるようにベレッタを移動させ、銃を構えようとしている男を撃つことだった。

全ては一瞬の間に導き出された答えであり、その選択はデレシアの予想した通りでもあった。
もう一挺のベレッタを抜き、ヒートは一切の躊躇なく、今しがた懐から拳銃を取り出した男の肺を撃ち抜き、フルオート射撃の反動を利用して心臓と喉を撃った。
撃たれた男は仰け反りながら取り出した銃を虚空に向けて発砲し、そのまま倒れ込んだ。
残った二人の男はデレシアが一瞬の内に抜き放った黒塗りのデザートイーグルの餌食となり、頭を失って吹き飛んでいた。

その一瞬の内に、ヒートの眼下にいたハインリッヒとツンディエレはその場から離れ、入れ替わるようにして強化外骨格を身に着けた人間が二人、建物の屋上から飛び降りてきた。

〔欒゚[::|::]゚〕『同志ツンディエレ、今の内に!!』

〔::‥:‥〕『お逃げください!!』

流石に追撃をする余裕のなくなったヒートはブーンを抱きかかえ、その場から退避することを選んだ。

777名無しさん:2021/04/12(月) 19:20:14 ID:5c9ODPy20
ノパ⊿゚)「後は頼んだ!!」

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、任せて」

強化外骨格の持つ優れた防弾性能は、ヒートの持つ拳銃に装弾されている弾種では破ることは出来ない。
一瞬の判断によって、ヒートはブーンを連れてその場から退避する道を選んだ。
その場に残ったデレシアは、対峙した二機の強化外骨格の遣い手をすぐに殺すことはしなかった。

ζ(゚、゚*ζ「……さて、人の旅行の邪魔をした落とし前をつけてもらうわよ」

トゥエンティー・フォーとジョン・ドゥを扱う棺桶持ちの連携した動きは、護衛者として優秀だった。
逃亡するツンディエレへの銃撃を防ぐように、その進路上に両手を広げて仁王立ちになる。
その間に白いジョン・ドゥがデレシアへの攻撃を行う。
近接戦闘を選んだのは、恐らく、ジョン・ドゥを扱う人間が本能的にデレシアの危険性を察知したからだろう。

実際、それは正解といえる選択だった。
例えそれが、死期を僅かに遅らせるだけの選択だったとしても、だ。
デレシアが装填していた銃弾は対強化外骨格用の物ではなく、通常のそれであり、貫通力はジョン・ドゥの装甲を貫くには至らない。

〔欒゚[::|::]゚〕『らぁっ!!』

砲弾並みの威力を持つジョン・ドゥの全力の右ストレート。
生身の人間を一撃で絶命させることが可能なその一撃だが、デレシアは焦ることなくそれを寸前で回避し、ジョン・ドゥのカメラに銃口を向けた。
どれだけ装甲が厚くとも、カメラのレンズを強化したところで限界がある。
間髪入れずに放った二発の銃弾は使用者の眼球から脳に向けて侵入し、容赦のない死を与えた。

〔欒゚[::|::]゚。゚ ・ ゚

ζ(゚、゚*ζ

ジョン・ドゥを踏み台にし、デレシアはトゥエンティー・フォーに向けて一気に跳躍する。
左手のデザートイーグルはホルスターに収められ、代わりに、腰からソウドオフショットガンをその手に構える。
トゥエンティー・フォーはその圧倒的な装甲の厚さを誇り、対強化外骨格用の強装弾であっても、その装甲を貫通することは難しい。
カメラ周りも対弾補強がされているが、デレシアの対峙する棺桶持ちは片手で己の顔を覆った。

賢明な判断だが、デレシアの狙いはカメラ越しの殺害ではなかった。
自ら視野を失った隙に、デレシアは背後に回り込み、首周りの装甲の隙間にショットガンの銃腔を差し込み、銃爪を引いた。
対強化外骨格用のスラッグ弾が装甲の内側で跳弾を繰り返し、その衝撃が使用者の背中を容赦なく襲う。

〔::‥:‥〕『ながっ!?』

トゥエンティー・フォーの装甲は隙間から撃たれて耐えられるよう設計されているが、使用者を補助するためのケーブルや回路類は耐えられない。
精密機器が予期せぬ衝撃を受けたことにより、トゥエンティー・フォーはその場に擱座した。

ζ(゚、゚*ζ「……逃げ切られちゃったか」

銃をホルスターに戻し、デレシアは面倒ごとになる前にその場から立ち去った。
しかし、彼女は一つ勘違いをしていた。

778名無しさん:2021/04/12(月) 19:21:47 ID:5c9ODPy20
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同日 AM11:23

ハインリッヒはツンディエレの手を取って街の南を目指して走っていた。
そこに駐車しているスポーツカーに乗れば、この街から即座に離脱し、ニョルロックまで2日で行くことが出来る。
彼女は今、大いに焦っていた。
額から流れていた血はアドレナリンの影響で止血が完了していたが、大量に流れる汗と血との違いなど、分からなかった。

奇襲を防がれた挙句、ハインリッヒはあの時点で一度殺されていた。
これまで何人も殺し、修羅場を経験してきたと自負していた彼女にとって、ヒートの存在は十分すぎるほどの脅威だった。
デレシアの化け物じみた強さについては警戒していたが、ヒートについてはただの腰巾着程度にしか考えていなかった。
完全に慢心し、侮っていた。

地獄を経験した数を過信した結果がこれだった。

从;゚∀从「はぁっ、はあっ!!」

ξ゚⊿゚)ξ「あれがデレシアですか、報告通りの滅茶苦茶な人間ですね」

焦るハインリッヒとは違い、ツンディエレは冷静に相手の戦闘力を評価、分析していた。
肝が据わっているのか、それとも相手の危険性を本当に理解していないのかは、ハインリッヒには分かりかねた。
だが、一刻も早くこの場から立ち去るべきだというのは間違いない。

从;゚∀从「同志ツンディエレ、万が一の際はあなただけでも逃げてください」

ξ゚⊿゚)ξ「えぇ、そうしたいのはやまやまですが、あなたが勝てないのであれば私が勝てる道理がありません。
      今は前を向いて、この場から去りましょう
      私たちがここで目立つわけにはいきません」

街が混沌に陥る火種は蒔いた。
この銃撃戦がそこに燃料を送り込むか、それとも水を撒く結果になるのかは見届けられないが、いずれ答えが出るだろう。
懐から小型の無線機を取り出し、ツンディエレがその向こうに呼びかける。

779名無しさん:2021/04/12(月) 19:23:50 ID:5c9ODPy20
ξ゚⊿゚)ξ「コードレッドです。
      街の中でデレシア一行と遭遇。
      足止めをお願いします。
      四名は私たちの護衛に来てください。

      現在街の南に向かっています」

内藤財団の副社長たる彼女がティンバーランドの中で担う役割は、そう簡単に代えがきくものではない。
そのため、彼女が遠征する際には最低でも十人以上の護衛と一人以上の幹部が随伴することになっている。
しかし、ヴィンスへの視察は一時的な物であるため、随伴する幹部としてハインリッヒがその役割を担っていた。

ξ゚⊿゚)ξ「同士ハインリッヒ、最優先は私の生存ではなく、“歩み続けること”です。
      この街が持つ重要性を忘れないように」

从;゚∀从「心得ています、同志ツンディエレ」

彼女たちがどれだけの地位に居ようとも、結局のところ、その存在理由は一つだ。
彼らは皆、世界を変えるという夢の為に集った同じ志を持つ人間。
己の命でその夢が叶うのであれば、誰一人としてそれを惜しむ者はいない。
既に世界中で展開している彼らの“歩み”はその夢を実現するためには必要なことだ。

数か所でその“歩み”が失敗しているが、それを織り込み済みで、彼らを束ねる人間は計画していた。
しかし、ヨルロッパ地方が持つ重要性は他のそれとは比較にならない。
彼らの夢を実現するためには、ヴィンスでの歩みは決して失敗することはできないのだ。
ここでハインリッヒ、ツンディエレが死んだとしても、歩みが止まらなければそれでいい。

覚悟と夢が、彼女たちから恐れを緩和させ、無謀ともいえる作戦に命を懸けることが出来るのである。
人の少ない裏通りを選んで駆け、ツンディエレの呼吸が乱れてきたのを契機に、ハインリッヒは走るのを止めた。

从;゚∀从「ひとまずは、ここまで来れば」

ξ゚⊿゚)ξ「ふうっ…… そうですね、後どれぐらいの距離ですか?」

从;゚∀从「後200メートルほどで、私の車があります。
      ニョルロックを目指しましょう」

ξ゚⊿゚)ξ「いい判断です」

「よくねぇラギ」

だが、ツンディエレの言葉を否定する者がいた。
それは背後から、まるで獣が威嚇をするように低い声で発せられた言葉だった。

(=゚д゚)「逃がすと思うラギか?」

ξ゚⊿゚)ξ「……トラギコ・マウンテンライトさんですか」

(=゚д゚)「名前を知ってもらえているようで光栄とでも言えばいいラギか?
    西川・ツンディエレ・ホライゾン。
    オープン・ウォーターで起こした騒ぎは、手前の仕業ラギね?」

780名無しさん:2021/04/12(月) 19:25:18 ID:5c9ODPy20
ξ゚⊿゚)ξ「証拠もなしにジュスティア警察は情報提供者を犯人扱いするのですか?
      非常に迷惑な話ですね」

(=゚д゚)「手前がティンバーランドの人間だっていうのは分かってるラギ。
    下手な芝居をするぐらいなら、舌を噛み切ってくれた方がよっぽど嬉しいラギ」

从 ゚∀从「……」

ハインリッヒが好戦的な目でトラギコを睨みつけるが、その手が懐に入らないよう、彼は油断なく全体を睨み返していた。
ジュスティア警察のはみ出し者。
事件解決のためであれば手段を問わない“虎”の目は、まるで揺るぎがない。
かつての同僚であるジョルジュ・マグナーニとショボン・パドローネが危険視するだけのことはあると、ツンディエレとハインリッヒは同時に思った。

ξ゚⊿゚)ξ「仕事のし過ぎですね、トラギコさん。
      休暇を取られてはいかがですか?」

(=゚д゚)「俺だってそうしたいラギ。
    だが、手前らみたいな糞がのさばってちゃそうもいかないラギよ。
    街中で撃ち合いを始めやがって、大迷惑ラギ」

ξ゚⊿゚)ξ「撃ち合いを始めたのは私達ではありません。
      デレシアですよ。
      あなたが捕まえるべき相手です」

(=゚д゚)「それが事実かどうかどうやって俺は確かめればいいラギ?
    第一、俺の目の前には手前がいる。
    手前がいるなら、俺は捕まえるだけラギ」

ξ゚⊿゚)ξ「ふぅ…… 話には聞いていましたが、かなり頑固そうですね」

(=゚д゚)「俺の美点ラギ。
    手前にとっちゃ致命的だったラギね」

ξ゚⊿゚)ξ「私を捕まえると?
      本気でそう思っているのですか?」

(=゚д゚)「捕まえられないんなら殺すだけラギ。
    夢のためには死ねるんだろ?」

从 ゚∀从「っ……!!」

鼻で笑ってしまうほど見えすいた挑発だったが、ハインリッヒには効果的だった。
若いからこそ夢にのめり込む姿勢が違う。
彼女が組織に参加してからの年月を考えれば、その半生がティンバーランドに捧げられているといっても過言ではない。
所々が欠損したハインリッヒの体は、彼女が夢にかけた覚悟の表れでもある。

ξ゚⊿゚)ξ「あなたもその類の人間なのでしょう?
      事件を解決するためであれば手段を選ばない。
      我々は似た者同士ですね」

781名無しさん:2021/04/12(月) 19:26:26 ID:5c9ODPy20
(=゚д゚)「あぁ、そうかもしれないラギね。
    この街で揉め事、見過ごしてやれるほど俺は怠慢じゃねぇラギ。
    腕の一本は覚悟してもらうラギよ」

ξ゚⊿゚)ξ「同志ハインリッヒ、後は任せました」

从 ゚∀从「かしこまりました」

トラギコに背を向け、ツンディエレは一人で路地の先に向かう。
それを追おうともせず、トラギコは深く息を吐いた。
その手にはいつの間にか拳銃が握りしめられ、当然のようにハインリッヒに向けられている。
対するハインリッヒも彼とほぼ同時に拳銃を構えており、拮抗状態が生まれていた。

(=゚д゚)「気に入らねぇ女だと思ったら、やっぱりだったラギね」

从 ゚∀从「お腹いっぱいな状態で私に勝てるかな、お兄さん?」

双方ともに撃鉄の起きた銃を構えており、違いは狙っている位置が違うだけだ。
ハインリッヒは射殺するために頭部を。
トラギコは捕らえるためか、胴体を狙っている。

(=゚д゚)「あぁ、手前みたいなガキを黙らせるのは得意ラギ。
    お前の雇い主が無事だといいな。
    あいつは俺と違って、容赦しないタイプラギよ」

从;゚∀从「何……?」

咄嗟に視線を背後に向けると、すでにそこにはツンディエレを塞ぐ形で別の男が立っている。
その手には拳銃が握られ、銃腔はツンディエレに向けられていた。

( ゙゚_ゞ゚)「おばさんは趣味じゃないんだが、まぁいい。
     俺の相棒があんたを捕まえろってさ」

ξ゚⊿゚)ξ「無礼な男ですね。 どういう教育を受けてきたのですか」

(=゚д゚)「ほんとラギ、誰が相棒だって?
    とりあえずその女の足でも撃って、袋に詰めてジュスティアに出荷するラギ」

( ゙゚_ゞ゚)「止血とか面倒なんだがな、まぁいい。
     おい、そっちの壊れた女。
     雇い主が鉛弾で体重を増やすのが嫌なら、銃を捨てな」

从 ゚∀从「……これがジュスティア警察のやり方か」

(=゚д゚)「いいんだよ、捕まえさえすれば。
    仕方ねぇ、オサム、そのババアの足撃つラギ」

( ゙゚_ゞ゚)「あのなぁ、もう少し駆け引きを――」

ξ;゚⊿゚)ξ「がっ……!?」

782名無しさん:2021/04/12(月) 19:27:32 ID:5c9ODPy20
銃声が響き、ツンディエレの悲鳴に近い呻き声がハインリッヒの耳に届いた。
ツンディエレは腿を押さえてその場に跪いている。

( ゙゚_ゞ゚)「――あぁ、悪い。
     不愛想な顔してたから、つい撃っちまった」

ξ;゚⊿゚)ξ「ぐっ……!! この……!!」

( ゙゚_ゞ゚)「うるせぇな、弾は抜けたから体重は増えねぇよ」

从 ゚∀从「貴様……!!」

( ゙゚_ゞ゚)「ほら、お前がさっさと銃を捨てないと次は耳にピアス用の穴開けるぞ」

緊張と殺気が一気に高まった、その瞬間。
トラギコとオサムと呼ばれた男がほぼ同時に頭上を一瞥し、発砲しながら後退した。

(;=゚д゚)「ちっ……!!」

(;゙゚_ゞ゚)「くそっ……!!」

ハインリッヒとツンディエレを守る形で現れたのは、二機の白いジョン・ドゥ。
銃弾は硬い装甲に阻まれ、撃たれた弾はあらぬ方向に跳弾している。

〔欒゚[::|::]゚〕『そこまでだ!!』

(=゚д゚)「ちっ、退くラギ!!」

( ゙゚_ゞ゚)「命拾いしたな」

状況が不利になると判断した二人はすぐに路地から逃げ出した。
部下二人はそれぞれ追撃をすべきか判断に迷い、その場に立ち止まった。
ハインリッヒはすぐにツンディエレの傍に駆け寄る。

从;゚∀从「同志ツンディエレ、傷の具合を確認させてください」

ξ;゚⊿゚)ξ「かすり傷程度です。
      それよりも、あの二人を追わせてください。
      連中を野放しにすれば、この街での計画が頓挫します。
      私よりも、あの二人を!!

      歩みを止めさせてはなりません!!」

その一喝に、ハインリッヒは冷静さを取り戻した。

从 ゚∀从「分かりました。
      ですが車まではお連れします。
      あの二人を人通りの多い場所まで誘い込め。
      私が、この手で、必ず、潰す」

783名無しさん:2021/04/12(月) 19:28:51 ID:5c9ODPy20
棺桶を身にまとった二人は無言で頷き、すぐにその場から消えた。
入れ替わるようにして私服姿に扮した護衛の二人が現れ、彼女たちを車の前まで案内する。
赤いスポーツカーの後部座席にツンディエレは横たわり、護衛の一人が運転手を務め、もう一人が助手席で援護をすることになった。
彼女が申告した通り、傷はかすり傷のような物だったが、止血をしなければならない状況だったのには変わりがなかった。

ハインリッヒは後部の収納スペースからBクラスの棺桶を取り出して背負い、起動コードを入力した。

     Let it go. Let it go. Can't hold it back anymore.
从 ゚∀从『私は私の為に、ありのままの私であり続ける』

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..{      :::::::  ,.イ /ハ::::::::::::::   :::::::::::::::::>:.、-ニニ<ニイ.,イニ
イV__     ,.イ:::::,.イ  /::::::::::リ   ::::::::::::::::::Vニニニニ,イ  /

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同日  AM11:44

ディに荷物を全て積み終えたデレシア達は、特に焦った様子を見せることなく街を離れる準備を進めていた。
今頃街ではカラヴィニエリが総出で事態の鎮圧に乗り出しているはずだ。

ζ(゚ー゚*ζ「忘れ物はない?」

784名無しさん:2021/04/12(月) 19:29:51 ID:5c9ODPy20
ヘルメットのロックを確認し、インカムの電源を入れつつデレシアが二人に問いかける。
二人は既にヘルメットを被り終え、インカムと肉声が重なってデレシアの耳に届いた。

ノパ⊿゚)「多分大丈夫だ。
     ブーンはどうだ?」

(∪´ω`)「大丈夫ですお」

最後にもう一度だけ荷物の確認を行い、買い忘れや積み忘れがないことを確かめた。
デレシアに続いてブーン、そしてヒートの順にディに跨っていく。
彼らは皆一様に防寒具の上にローブを着込み、様々な物から体を守る準備を整え、万が一に備えていた。
強装弾でなければ、彼女らのローブを貫通することは出来ない。

衝撃はそのまま体に伝わるが、命を落とすよりもましな結果になる。
デレシアはエンジンを始動し、各計器類の数値を確認し、アクセルを捻って軽くふかした。
重く、静かで、そして低いエンジン音が地下駐車場に木霊する。

ノパ⊿゚)「しかし、トラギコたちがあいつらを追うなんて意外だったな」

ζ(゚ー゚*ζ「そのおかげで私たちが手を出さなくて済んだのはラッキーだったわね」

(∪´ω`)「おー、助けなくて平気ですかお?」

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、大丈夫よ。
      あの刑事さんなら、きっと上手にやれるわ」

トラギコは年相応に熟成した力の持ち主であり、相手を見誤らなければ理にかなった対処をするはずだ。
デレシア達とすれ違ったあの二人程度であれば、殺されることはないだろう。
だがもし、生還することだけが狙いではなく、二人を逮捕するというのであれば結果は分からない。

ζ(゚ー゚*ζ「さぁ、行きましょう」

三人を乗せたバイクが静かに勾配を駆け上がり、そのままヴィンスを後にした。
それとほぼ同時刻、ヴィンスでは更なる騒ぎが起きていた。

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同日 同時刻

785名無しさん:2021/04/12(月) 19:31:35 ID:5c9ODPy20
ヴィンスにある市場の一角から、悲鳴が上がった。
それは徐々に伝播し、市場の隅々にまで伝染したが、最初に悲鳴を上げた女は固まっていた。
それを近くで聞いた男も、その付近にいた多くの人間も動きを止めていた。
彼らは一様に恐怖に見開かれたまま凍結し、生命活動も停止していた。

凍り付いたのは人間だけでなく、市場に並んでいた売り物も、建物の壁も白く凍り付いている。
白い靄のような物を発する存在が移動するたび、その動きに合わせて周囲が氷結していく。
その異様な存在からだけでなく、二機の強化外骨格から逃げる男が二人いた。

(;=゚д゚)「あれは何ラギ?!」

(;゙゚_ゞ゚)「知らん!! 多分名持ちの棺桶だ!」

全力で駆ける二人は、自分たちがどこかへと誘い込まれていることは自覚をしていた。
ジョン・ドゥがその気になれば、二人に一瞬で追いつくことが可能だ。
それだけでなく、その速度を生かした飛び蹴りや拳を突き出すだけで、二人の命を奪うことが出来る。
そうしない理由が、ある以上、二人はそれを知った上で迎え撃とうと考えていた。

(;=゚д゚)「ただでさえジョン・ドゥがいるってのに、面倒ラギね」

(;゙゚_ゞ゚)「やっぱりあいつら、俺らを追ってるだけで攻撃をしてこない。
    まんまとはめられたな」

振り返るまでもなく、重厚な跫音が二人の背後から聞こえてきている。
銃を装備していてもおかしくないが、発砲する様子もない。

(;=゚д゚)「分かってるラギ。
    だがこれで内藤財団が裏にいるのが確実になったラギ」

(;゙゚_ゞ゚)「知ってるか? 死んだら真実も糞もねぇんだよ」

(;=゚д゚)「んなこと言われなくても知ってるラギ。
    で、お前はあいつら相手にやれるラギか?」

トラギコの問いに、オサムはすぐに首を横に振った。

( ゙゚_ゞ゚)「武器がねぇ。
     流石に拳銃程度じゃ、あの装甲は無理だ」

“葬儀屋”の名で知られた殺し屋をもってしても、棺桶には棺桶を使わなければ対抗は出来ない。
鉛弾では装甲に傷をつけるのが精々で、相手を行動不能に至らしめるには強装弾は不可欠だ。

(=゚д゚)「仕方ねぇ、俺があいつらを足止めしてやるラギ」

( ゙゚_ゞ゚)「手があるのか?」

(=゚д゚)「対強化外骨格用の弾ならあるラギ。
    だからお前は、あの白いもやもやをどうにかするラギ」

(;゙゚_ゞ゚)「逆だろ、普通!!」

786名無しさん:2021/04/12(月) 19:34:27 ID:5c9ODPy20
(=゚д゚)「手前があのババアの足を撃ったからこうなったラギ。
    責任って奴があるラギよ」

( ゙゚_ゞ゚)「ちっ! ちゃんと足止めしておけよ!!」

その言葉の直後、トラギコはM8000の弾倉を交換し、立ち止まって振り返ると同時に発砲した。
銃爪は三回引かれ、ジョン・ドゥの最も堅牢な胸部装甲が防いだのが二発。
そして一発は偶然にも左カメラを破壊した。
突然反撃をしてきたトラギコに驚いたのか、二機は彼から離れた場所で立ち止まる。

〔欒゚[::|::]゚〕『ぐうっ?!』

〔欒゚[::|::]゚〕『野郎、豆鉄砲で立ち向かうつもりか。
       おい、平気か?』

〔欒゚[::|::]゚〕『あぁ……くそっ、だがカメラがやられちまっ――』

四発目の銃弾は今度こそ男の脳を破壊した。

(=゚д゚)「平気じゃなかったみたいラギね」

〔欒゚[::|::]゚〕『……野郎っ!!』

瞬間。
トラギコの視界から白いジョン・ドゥが姿を消した。
反射的にトラギコはその場から横に飛び退き、地面を転がった。
直前まで彼がいた地面にジョン・ドゥが拳を降ろした状態で姿を現しており、それを目の端で捉えたと思った時には、再びその姿が消えた。

(=゚д゚)「……っと!!」

再び転がり、攻撃を回避する。
すかさずM8000の銃爪を引き、発砲する。
両腕を顔の前に掲げたジョン・ドゥがその場で静止し、追撃を中断した。

〔欒゚[::|::]゚〕『往生際が悪いっ!!』

(=゚д゚)「俺の美点ラギ。
    後ろに気をつけな」

〔欒゚[::|::]゚〕『何?!』

反射的に振り返るジョン・ドゥ。
その間に新たな弾倉に交換し、体勢を整え、トラギコは両手でM8000を構えた。
背後に何もないと分かったジョン・ドゥの顔が正面を向いた時、強装弾がヘルメットを襲った。

〔欒゚[::|::]゚〕『ちぃっ!!』

(=゚д゚)「ちっ!!」

787名無しさん:2021/04/12(月) 19:35:38 ID:5c9ODPy20
続けざまに発砲するが、ジョン・ドゥは頑なに顔を守りつつ、一歩ずつトラギコに近づいてくる。
トラギコも発砲しながら後退し、距離を詰められまいとするが、すでに強化外骨格用の弾が入った弾倉は残り1つとなっていた。
そして、ジョン・ドゥの後ろから白い靄が近づいてくるのを見て、トラギコは短く息を吐いた。

(=゚д゚)「来たか……」

何かが噴射される音。
風に乗って運ばれる圧倒的な冷気。
靄が触れた物全てが凍り付き、白んでいく。

〔欒゚[::|::]゚〕『同志ハインリッヒ、お待ちしており――』

靄の中から、鎌首をもたげるような風の動きを見て取ったトラギコは背を向けて走り出した。
直後、ジョン・ドゥは白い靄に包まれ、それ以上声が聞こえることは無くなった。

(=゚д゚)「おっかねぇ女ラギね」

こちらを追い詰めておきながら味方を屠る理由について考えを巡らせるが、トラギコの中で納得のいく答えは出なかった。
彼はこの街に到着して間もない上に、ハインリッヒたちの目論見を知らなかったのだから、無理もない。
彼女たちは待ち望んでいたのだ。
火種に注ぐための燃料を。

薬物と街の意向を左右する力を持った船頭たちを結び付け、街の決定権を白紙に戻し得る、そんな燃料を。

『お前のせいで、この街での商売が台無しだ!!』

その野太い声は拡声器を使って靄の中から発せられ、空気の振動が靄を揺れ動かしている様が見られるほどだった。
明らかに不自然なまでの音量で声が放たれるのとほぼ同時。
トラギコの正面から、洋上迷彩柄のソルダットで武装したカラヴィニエリ達が現れた。

([∴-〓-]『何だ、あの靄は!!』

([∴-〓-]『構わん、撃て!!』

ドラムマガジンを装着したカラシニコフを構え、カラヴィニエリ達による一斉射撃が始まった。
その間にも靄は一歩ずつ、歩くような速度で近づいてくる。
トラギコはカラヴィニエリ達の後ろに避難し、保護された。

([∴-〓-]『大丈夫ですか?』

(=゚д゚)「あぁ、大丈夫じゃねぇラギ。
    ありゃあ名持ちの棺桶ラギ。
    詳細は知らねぇが、あの靄に当たると棺桶も凍るラギ!!」

([∴-〓-]『ありがとうございます。
       おい、聞いたな!!
       牽制しつつ後退しろ!! 靄には触れるな!!』

しかし警告は僅かに遅く、すでに一人に靄が襲い掛かり、そのまま姿を消した。
悲鳴のような声が発せられたかもしれないが、トラギコの耳には聞こえなかった。

788名無しさん:2021/04/12(月) 19:36:04 ID:5c9ODPy20
([∴-〓-]『くそっ!! 熱感知でも見つけられない!!
      温度が低すぎてカメラが使えない!!』

『せっかく薬の仕事が順調だったのに、うちのファミリーはもうお終いだ!!』

再び響いた野太い声。
その言葉に違和感を覚えたのは、ごく少数の人間だった。
その野太い声に、聞き覚えのあるイントネーションを感じ取ったのはトラギコだけ。
靄を見下ろすことのできる建物の屋上から、オサムが冷たい視線を向けているのに気づいたのもまた、トラギコだけだった。

(=゚д゚)「やっちまえ」

その言葉は間違いなくオサムには届いていなかったが、タイミングは完璧だった。

( ゙゚_ゞ゚)「凍らせるのが好きらしいが、こいつはどうかな」

消化用のホースを構え、オサムはそれを靄の上から一気に放水した。
毎秒約10リットルにもなる勢いで放たれる水は、極低温の靄に触れた瞬間に氷結し、氷の雨を降らせた。
靄が徐々に掻き消える代わりに、硬い物が石畳を叩く奇妙な音が続く。
完全に靄が消え、そこに残ったのは大小様々な氷塊と、凍ったまま動きを止めているソルダット、そして街並みだけだった。

(=゚д゚)「逃げたか…… いや、待てよ……?!」

そこで相手の真意に気づいたのはトラギコだけだったが、もう、それは意味のない話だった。
彼が言葉を発するよりも早く、カラヴィニエリの誰からともなくその言葉を口にしてしまっていたのだから。

([∴-〓-]『どこかのファミリーが薬を撒いたのか……』

(;=゚д゚)「待つラギ、それは……!!」

([∴-〓-]『市長に緊急で報告しろ。
      例の一件、どこかのファミリーの裏切りだと』

トラギコはティンバーランドが放った言葉が燻ぶっていた街に引火し、大火へと成長し、もはや鎮火し得ない炎へと至ったのだと悟った。
これがヴィンスと内藤財団が協力関係に至る“ヴィンスの雪解け”事件の全貌だった。

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Ammo→Re!!のようです
Ammo for Remnants!!編
第八章【remnants of warfare-争いの断片-】 了
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789名無しさん:2021/04/12(月) 19:36:26 ID:5c9ODPy20
これにて今回の投下は終了です

質問、指摘、感想などあれば幸いです

790名無しさん:2021/04/12(月) 19:51:59 ID:I9ODFDuc0


791名無しさん:2021/04/12(月) 21:07:31 ID:9R7Bfn/g0
乙です

792名無しさん:2021/04/13(火) 03:53:38 ID:wuEOHqW20
おつ 今回も楽しかった

793名無しさん:2021/04/17(土) 14:25:23 ID:B8D.oF160
おつ!
ツンさんようやく少し痛い目にあってくれたな
トラギコとオサムいいコンビだ

794名無しさん:2021/04/18(日) 10:28:37 ID:csd1wSAY0

ハインの棺桶近接キラーっぽいけどレオンで対抗できるのか…?

795名無しさん:2021/04/19(月) 09:11:58 ID:gEPjBZUE0
乙です!月刊ペース助かる

796名無しさん:2021/05/17(月) 18:40:21 ID:iJ7w5ZS.0
今度の日曜日にVIPでお会いしましょう

797名無しさん:2021/05/18(火) 21:33:20 ID:QjIJanXw0
まってまーす!!


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