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Ammo→Re!!のようです

498名無しさん:2020/05/18(月) 22:07:12 ID:LCLUy2RA0
おつです、今回も面白かった!
ディとブーンの会話がほほえましいな
毎回なんだけどご飯がめっちゃおいしそうでお腹が減る

499名無しさん:2020/05/24(日) 16:29:37 ID:3aAPkrI20
乙でした〜
お腹が減るわかる

500名無しさん:2020/06/02(火) 18:58:09 ID:kfTeRM6E0
日曜日にVIPでお会いしましょう

501名無しさん:2020/06/07(日) 19:30:00 ID:xMzLJmJc0
ζ(゚ー゚*ζAmmo→Re!!のようです
https://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1591524474/

こちらで投下中でございます

502名無しさん:2020/06/09(火) 19:30:18 ID:NIm4QXGk0
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ヨルロッパ地方の玄関先、そして、弱肉強食の世界への入り口。
最後に踏み出す一歩は、その者を勇者にも死者にも変えるだろう。
ここは竜の口、タルキール。

                                         ――タルキール旅行譚
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_人/ヽ'´ゝ、_,、__ _    _ _ _ __,、,、/`yヽノ\,ヘヘ'ゝ/ゝУヾуヽへ'´Vゝ'^ヽ、,_,、__ _ _
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       _ _, _ __,,              ,,,, ,,     ,,,, _,, ,,,  ゙"个彳个^~ィ~ ^^~
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平地を走り続ける長い旅の中で、最初に感じた大きな変化は道だった。
それまでは未舗装か、ひび割れたアスファルトが凍結した土の中に埋もれているだけの悪路が続いていた。
だがある場所を境に、整備されたアスファルトになり、ガードレールと街灯が増えてくる。
それはこの近くに力を持つ街がある証拠であり、道路整備に金を注ぐ余裕があるということを如実に物語っていた。

道路は人をつなぐだけでなく、物流網の要にもなる。
荒れた道は安全な走行を困難にさせるため、必然的に物流の安定性と速度が落ちる。
物流の要はどれだけ早く、そして安全に荷物を送り届けるか、ということに尽きる。
そのため、輸出入に力を入れる街は道路整備を行うために税金を課したり、毎年度の予算を用意しているのだ。

特に気候の変化の激しい地域においては、道路工事も順調には進まないことが多く、街と町をつなぐだけでもかなりの時間がかかる。
このことからも分かる通り、天候の影響を受けやすい海岸沿いにおいてはエライジャクレイグの用意した鉄道網は物流の中でも極めて重要な役割を果たしているのだ。
彼らが使用するレールはサビに強く、温度変化による変形もほとんど発生しない。
年に数回、メンテナンス用の特殊車両が走るぐらいで、大きな工事などは線路の増設時や大規模な災害時にしか見られない。

503名無しさん:2020/06/09(火) 19:30:38 ID:NIm4QXGk0
しかし、列車にも欠点がある。
定刻通りにしか輸出入を行わないため、緊急を要したり速さを求める場合、あるいは貨物の積み替えに時間がかかる地方に対しては、車の方が優れている場合がある。
例え列車で運んだとしても、最終的には車に積み替えなければならない。
道路の整備は極めて果てしのない作業だが、繋がる街に必ず恩恵をもたらすのである。

朝日を受けて青く輝く大型のバイクが、荒野の旅を終え、アスファルトの道を踏みしめる。
風は変わらず冷たいが、タイヤが地面を掴む感覚が明らかに変わったことに、バイクに乗る三人はすぐに気づいた。
音がまるで違う物になり、バイクの速度も安定し始めた。
その時間、海を見渡すことのできる道路を走る車輌は、そのバイク一台だけだった。

ζ(゚ー゚*ζ「そろそろ朝ごはん食べましょうか」

運転手であるデレシアがそう声をかけると、次々に彼女のヘルメットのインカムに同乗者たちの声が届く。

ノパー゚)「賛成だ、流石に腹が減ってきた」

(∪´ω`)「おー……ごはん食べるお!」

ヒート・オロラ・レッドウィングとブーンの声は、まるで示し合わせたかのようにほぼ同時に発せられた。
今朝早くにキャンプ地を出発したため、朝食は太陽が昇ってから、と決めていたのだ。
二人の言葉に続いて、バイクに搭載されている人工知能――ディ――が助言をする。

(#゚;;-゚)「周囲の地形情報は最新のものではありませんが、700メートル先に公園跡地があります。
   水道もあると記録されています」

その情報が、彼女にとっての朝食を意味しているのだとデレシアは理解した。
ディは水を使った発電が可能であり、それが動力源になっている。
メーターはまだ半分以上水が残っていることを表示しているが、入れておいても損はない。
荒野で恐ろしいのはタイヤがパンクすることと、燃料が尽きることだ。

ζ(゚ー゚*ζ「そうね、じゃあそこの公園で食べましょう。
      ディも、きっと美味しいお水が飲めるわよ」

冷たい風の中、彼女たちは海上に浮かぶ夏の空を見上げていた。
吸い込まれそうな深い蒼から透き通るようなスカイブルーへ、そして、水平線へ。
水面の乱反射に目を細め、水平線の彼方に浮かぶ氷の大地の輪郭を僅かに見咎める。
それから数十秒後、ディの言葉通り、三人と一台は道路から海辺に下った場所にある公園跡地に到着した。

朽ちた木の枠が転がり、まるで整備のされていない荒れ地がそこには広がっていた。
潮風の影響で雑草はほとんど生えておらず、地面が凍結していることは間違いなかった。
水場の近くにバイクを停め、三人は揃って降りた。
ブーンとヒートは体を伸ばし、寒さに固まった体をほぐす。

ノパー゚)「うぉー!」

(∪´ω`)「おー!」

そしてすぐにディの傍に屈み、エンジンに手を近づける。
二人はグローブを着けた手をエンジンに当て、指先を温め始めた。

504名無しさん:2020/06/09(火) 19:31:14 ID:NIm4QXGk0
(∪*´ω`)「暖かいお……」

ノハ*゚⊿゚)「あぁ、ぬくいな……」

(#゚;;-゚)「エンジンは高温になっているので直接触れないよう、気をつけてください」

ζ(゚ー゚*ζ「私がごはんの準備をするから、二人は他の作業をお願いするわね」

パニアから椅子と調理道具を取り出し、バーナーの周囲に風よけの板を立てる。
朝食は昨晩の残り物を利用したホットサンドを予定しており、デレシアは手早く調理を始める。
具材を挟み、専用のフライパン――上下に分割すれば小さなフライパンにもなる――で焼き始める。
その間、もう一つのバーナーを用意した。

ヒートはパニアからテントのフライシートを取り出し、それをディのハンドルとつなげて即席の風よけを作る。
海風が強く、何もせずにいればたちまち凍えるほどの気温だった。
ディを支柱代わりにして作った小さなテントは、日差しを削る代わりに、三人の体に当たる風を大分受け止めてくれた。

ζ(゚ー゚*ζ「ブーンちゃん、お水汲んでもらっていいかしら?」

(∪*´ω`)「はいですお!」

空の水筒を受け取り、ブーンはその広場で唯一原形を留めている水道の蛇口をひねって水を水筒に入れる。
水筒を慎重に運んできたブーンの頭を撫で、デレシアはそれから水をクッカーに移して火にかけた。
道路の状況から水道が生きていることはある程度予測していたが、水の質については飲まない限り分からない。
そのため、一度煮沸消毒をしてから飲むのが旅の中では重要になってくる。

ζ(゚ー゚*ζ「ディにもお水、持っていってあげてくれる?」

(∪*´ω`)「お!」

駆け足で水を汲みに行き、ヒートに手を貸してもらいながらディのタンクに水を注いでいく。
水筒で補充できる量はディのタンクにしてみれば微量だが、ブーンは何度もその作業を笑顔で繰り返す。
補給が終了する頃には三人分の朝食が皿に盛られ、カップには湯気の立つ紅茶の用意が終わっていた。
風を防ぐためにディを背にして、三人は食事を始める。

いつものように声を揃えて食事前の挨拶を済ませ、まだ湯気の立つホットサンドに齧り付く。

ノハ*゚⊿゚)「ほふっほふっ!」

(∪*´ω`)「はふっはふっ!」

ホットサンドには昨夜切り分けて残しておいたバーベキューソースで味付けした鶏肉と、モッツアレラチーズだけが挟まっている。
酸味が強く、多くの香味料を使っているバーベキューソースのおかげで、具が少なくても十分な旨味が感じられる。
溶けたチーズの濃厚な味と独特の食感は格別だった。
熱い内に食べなければこの味は損なわれてしまうため、三人は湯気が消えない内にホットサンドを頬張った。

ζ(゚ー゚*ζ「ポタージュあるけど、飲む?」

505名無しさん:2020/06/09(火) 19:31:36 ID:NIm4QXGk0
ヒートとブーンが同時に頷くが、口の中にホットサンドが入っているために言葉は出なかった。
デレシアは微笑みながらカップにポタージュの粉を入れ、湯を注ぐ。
木のスプーンでかき混ぜ、二人に手渡した。
どろりとしたポタージュには小さなクルトンが浮かび、ホットサンド以上に白い湯気を立てている。

体の内側から温めなければ、この気温の中で長時間のツーリングは体に大きな負荷をかけることになる。
液体と固体から熱を摂取し、カロリーを補給することで寒さに対抗することが出来る。
体温が低下すればクラッチ操作やブレーキ操作に支障が出る。
風による体温低下も危険だが、自ら熱を発することが出来なければいくら厚着をしていても効果は薄い。

三人はホットサンドの耳の部分でカップの底に残ったポタージュを拭い取り、それを口に収める。
最後に口の周りに着いたソースを指で拭い、ヒートはそれを舐めながら満足げな溜息を吐いた。

ノハ*゚⊿゚)「ほぅ…… 今回も美味かったわ。
     ごちそうさま」

(∪*´ω`)「ごちそうさまでしたお」

ブーンの口の端も同じようにして拭い、ヒートはそれを舐めとった。
ブーンもヒートの真似をして、自分の口に着いたソースを指で拭い取り、舐めたのであった。

ζ(゚ー゚*ζ「ごちそうさまでした。
      口に合えば良かったわ。
      体が冷えない内に、次の街に行きましょう」

調理器具を手早くまとめ、デレシアとブーンが食器を洗う。
その間にヒートが片づけを行い、フライシートなどをパニアにしまう。
彼女の腕はもう間もなく完治の予定だが、それまでの間にリハビリを兼ねてこうした軽い力仕事を率先して行っているのだ。
洗い物はヒートが最後の確認を始める頃には終わり、三人はヘルメットとグローブを装着してディに跨った。

ζ(゚ー゚*ζ「ディ、起きて」

その言葉でディがエンジンを始動させ、デジタルとアナログが融和したメーターに明かりが灯る。
インカムにディが現在の状態を報告する。

(#゚;;-゚)「各部チェック終了しました。
    走行に問題はありません」

ζ(゚ー゚*ζ「ありがとう。
      さ、行きましょう」

アクアセルを捻ると、ディの車体が静かに前進する。
徐々に速度を上げるのに応じて、デレシアはギアを変化させた。

ζ(゚ー゚*ζ「次の街について話しておくわね」

ノパ⊿゚)「おう。 確か、タルキールだっけ?」

ζ(゚ー゚*ζ「そう、タルキール。
      イルトリアに行く前に、やっぱりこの街に寄っておきたくてね」

506名無しさん:2020/06/09(火) 19:37:30 ID:NIm4QXGk0
(∪´ω`)「どんな街なんですか?」

ζ(゚ー゚*ζ「イルトリアとジュスティアの両方と契約している街よ。
      片方は軍事関係、もう片方は警察関係、って感じにね」

――タルキール。
そこは峡谷に作られたヨルロッパ地方の入り口であり、相反する二つの街の勢力が一つの街に集う異質な街。
戻ればジュスティア。
進めばイルトリア。

通称、竜の口。
多くの商人、軍人、輸送業者が訪れる交流の街。
世界で有数の中立地帯。
そして、世界で最も多くの闇取引が行われる交易の街でもあるのだ。

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Ammo→Re!!のようです
Ammo for Remnant!!編
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       /                     ゝゝゞヾ;;::;"ゝゝ;;:※;;゚::ヾヾ※。ゝゝ;;:;;ヾヾ:|::;ii:: :;;ゞゝ
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:;,':,:;.,:;'' ;~'',;''゚ ;~'',;;~'',;';~ 第二章【Remnants of violent dream-暴力的夢の残滓-】
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同日 AM 08:30

妹が学校に登校している間、オットー・スコッチグレインは洗濯を終え、家の掃除に取り掛かっていた。
掃除機はあるが、この町での生活においては濡れ雑巾を使った方が娘効率的であることに気づいてからは、掃除機は納屋にしまわれたままになっている。

「おーい、スコッチグレインさん」

呼び鈴があるにも関わらずそれを押さないのは、対面でのコミュニケーションを大事にしているためなのだと、オットーはここに来てすぐに理解した。
二階から顔を出し、玄関前に立つ住民に挨拶を返す。

(´<_` )「やぁ、ジョゼフさん。
     ちょっと待っててください、今下に降りますから」

それは、酪農業を営むジョゼフという初老の男性の声だった。
オットーは普段、彼の牧場から牛乳とチーズを買っており、今朝もその牛乳を使ったシリアルを食べたばかりだ。
気持ち急ぎ足で階段を降り、サンダルを履いて玄関の戸を開く。

507名無しさん:2020/06/09(火) 19:37:50 ID:NIm4QXGk0
(´<_` )「どうも、おはようございます」

「いやいや、すまないね。
ちょっと手伝いを頼みたくて、今時間あるかい?」

(´<_` )「えぇ、いいですよ。
     着替えを用意するのでちょっとだけ待っていてください」

町で暮らすということは、町の生活に馴染むということだ。
他所から来た人間が生きるためには、その町のルールに従って生活する必要がある。
この町、カントリーデンバーにおいては、人と協力し合うことがこの町でのルールになる。
ここは実力主義の都会ではなく、協力して支え合うことによって生きることを目指す町なのだ。

こうして農業を手伝うことは初めてではない。
少しずつ町の人間とコミュニケーションを取ることが増え、こうして仕事の手伝いを依頼されることが増えてきた。
金銭のやり取りはないが、その代わり、彼らは労働に見合った以上の対価として彼らが育てている野菜や畜産を分けてもらえる。
ジョゼフが育てている乳牛が生み出す牛乳は絶品だが、オットーが真に価値を見出しているのはチーズだ。

濃厚なチーズも捨てがたいが、モッツアレラチーズはこれまでに食べてきた中でも最高の品だった。
薄切りにしたトマトと合わせ、オリーブオイルと塩コショウをするだけで最高の肴になる。
現に、その価値に気づいた世界のレストラン経営者が彼のモッツアレラチーズを買い求めに来る程であり、余剰分は一切出ない。
その品を分けてもらえる可能性があるだけでも、手伝う価値は十分にあった。

一度家に戻り、荷物をまとめてリュックに入れる。

(´<_` )「アニー、ちょっとジョゼフさん所に手伝いに行ってくる」

( ´_ゝ`)「分かった、気をつけてな。
     夕飯は俺が作っておくよ」

アニー・スコッチグレインの声は彼の自室から聞こえてきた。
今の時間は強化外骨格を使い、トレーニングを兼ねたリハビリの最中だ。
大抵のことは自力で出来るようになっているため、よほどのことがない限りはオットーが手を貸す必要はない。
リュックを背負い、オットーは家を出た。

(´<_` )「お待たせしました」

「トラックで来たから、それに乗ってくれ。
今日はジャクソンも一緒だ」

(´<_` )「作業は前と同じですか?」

「あぁ、ただ、ちょっときつい作業になるんだ。
デイヴィッドが腰をやっちまってな」

トラックに向かって歩きながら、二人は話を続ける。

(´<_` )「デイヴィッドさんが?」

508名無しさん:2020/06/09(火) 19:38:20 ID:NIm4QXGk0
「あぁ、昨日張り切りすぎてな。
本当だったら来てすぐの人間に頼むのはしないんだが、スコッチグレインさんは真面目だからな。
つい甘えちまってよ」

(´<_` )「いいんですよ、僕も早くこの町に馴染みたいので助かります」

その言葉は事実だ。
ここでの生活において、農作業などの知識は生きるための知識に置き換えられると言っていい。
生きるためには食料が必要であり、食料を手にするためには働かなければならない。
以前までとはまるで違う生活環境が、オットーにとっては新鮮であり、これまでの人生の中で最もやりがいのあることだった。

トラックの荷台に乗り、ジョゼフの農場まで数分の道を走る。
長閑な夏。
贅沢な時間。
世界が変わるのを一日千秋の想いで待つもどかしさの中、オットーは自然と微笑を浮かべていた。

ほどなくして農場に到着し、早速手伝いを始めた。
オットーは農業の初心者であるため、重要な仕事は任せられない。
代わりに若さを見込まれ、力仕事を依頼される。
例えば、牛が食べる干し草の運搬や機材の搬入出だ。

時には機材の整備や調節なども依頼されるが、今日は洗浄や調節の終わった機材と古く汚れた機材を交換する作業だった。
重労働ではあるが、体を動かして汗をかくことは決して不快ではない。
こうして少しずつ町に馴染めば、この町での生活が今よりも快適になるはずなのだ。

(´<_` )「じゃあ、これを向こうに運ぼう」

オットーよりも年上のジャクソンと共に、屋外に置かれている金属製の機材の運搬を続ける。
これは昨日取り外したもので、これから洗浄するために別の場所に運ぶ必要があった。

「よし、せーのでいくぞ」

声を合わせ、百キロ近くある金属の塊を二人で持ち上げる。
かなりの重量にもなるが、専用の把手を使えば無理のない姿勢で持ち上げることが出来る上に、二人が進む先にある台車に載せさえすれば安全に運べる。
短い距離だが、その分瞬発的な力が必要になるのがポイントだった。
台車に乗せようとした、次の瞬間のことだった。

「おわっ?!」

(´<_`;)「うわっ?!」

突如としてジャクソンが姿勢を崩し、オットーの両手に一気に負荷がかかる。
そして把手が根元から外れ、機材が地面に落下した。
幸いなことに下は土だったため、機材にはさほどの衝撃は加わらず、二人がすぐにその場から離れたために足を挟まずに済んだ。
しかし、呆然とする二人の手には根元から外れた把手が握られたままで、それはつまり地面に落ちた機材を持ち上げる術がないということだった。

「あー、把手が錆びてたんだ」

(´<_` )「でも、こんなに一気に壊れるなんて……」

509名無しさん:2020/06/09(火) 19:38:42 ID:NIm4QXGk0
「一緒に謝ろう。
サビが原因だったら、ジョゼフさんも怒ることはしないさ」

二人はすぐにジョゼフの元に向かい、事情を説明した。
彼は二人に怪我がないことに安堵し、それからこう言った。

「機械は直せばいいが、人間はそう簡単に治せないからな。
今日はきっと、あんまり重労働をしない方がいい日だったんだな」

物を運ぶ代わりに、二人は農場内の備品の確認と修理を行うことになった。
壊れた把手を溶接し、それから慎重に荷台に乗せて予定の場所に運ぶ。
それから空調や建物の壁や床、天井などの点検を行う。
作業を終え、昼食の冷製パスタをご馳走になる。

よく冷えた井戸水とレモンを使ったフレーバーウォーターが提供され、一息つく頃には先ほどまで胸にあった焦りは霧散していた。
つくづく、いい町に越してきたと思う。
これが都会であれば、きっと、激怒され賠償金を請求されていたことだろう。
人と人との関りが極めて強い地域だからこそ、許すという文化が根付いているのだ。

夕方までの手伝いを終え、牛乳とチーズ、そして野菜を大量にもらい、オットーは家までトラックの背に乗って移動した。
太陽が山に沈んでいく。
町は街灯が少なく、日が沈めば明かりは民家の物が主になる。
空に星が浮かんでいるのを眺めながら家路につき、改めてジョゼフに謝罪し、オットーは家に入った。

l从・∀・ノ!リ人「お帰りなのじゃー」

トラックの音を聞いてか、イモジャが玄関まで迎えに来ていた。
ジョゼフからもらった品々の入った箱を玄関に置き、靴を脱ぎながらオットーは言った。

(´<_` )「おう、ただいま。
     大分汚れたから、あんまり俺に近寄らない方がいいぞ」

l从・∀・ノ!リ人「分かったのじゃ!
        ジョゼフさんちに行ったのじゃ?」

(´<_` )「あぁ、お手伝いに呼ばれてな。
     夕飯はアニー兄さんが用意してくれてるんだろ?」

l从・∀・ノ!リ人「そうなのじゃ!
        今日はピザを作ってくれるって言ってたのじゃ!」

(´<_` )「へぇ、ピザを作るのか……
     それは楽しみだな」

トマトは貰い物が冷蔵庫にあり、バジルは栽培しているものが山のようにある。
チーズもケチャップもあるため、確かに、ピザならば簡単に作れるだろう。
荷物をダイニングに運んでからシャワーを浴び、汗を流す。
風呂から出ると、トマトとチーズが絡み合って焼けるいい香りがした。

( ´_ゝ`)「丁度できたところだ」

510名無しさん:2020/06/09(火) 19:39:05 ID:NIm4QXGk0
(´<_` )「よく作れたな。
     粉、大丈夫だったのか?」

( ´_ゝ`)「流石に生地は買ってきたさ。
     乗っけて焼くだけ、簡単なもんだ。
     ビール飲むか?」

(´<_` )「あぁ、もらうよ」

冷蔵庫からアニーが瓶に入ったビールを取り出した。
二本を机の上に置くと、残念そうな声を上げる。

( ´_ゝ`)「ありゃ、もうそれが最後だ。
     イモジャ、外から瓶のビールを何本か持ってきてくれ」

l从・∀・ノ!リ人「分かったのじゃ!」

イモジャが外に向かう間、アニーが声を潜めて言った。

( ´_ゝ`)「連絡があった。
     詳細は後で話す」

(´<_` )「分かった」

二人が前線を退いたとしても、協力は出来る。
遠隔地だからこそ、彼らには出来ることがあった。
内藤財団が配布したラジオは、多分に漏れずこのカントリーデンバーにも届いており、町の中心に設置されている。
そして実験的にではあるが、各家庭にそのラジオからの音を配信できるようにする取り組みが行われている。

今のところは彼らの家と、町長の家にだけ分配器を使って届けられているが、町全体を補えるように話が進んでいた。
分配器はそこまで複雑ではないが、どこまでの精度でどれだけの数が出来るのか、そして生じる不具合を調べるのが彼らの仕事だった。
しかしそれは本命の仕事が始まる前の準備であり、間をつなぐための仕事だった。
内藤財団が実験的に設置した巨大な電波塔が町の端にあり、そこから周囲一帯に向けてラジオの電波がリレー形式で共有されている。

普通であればその電波塔は金を払って誘致するものだが、この町は内藤財団の実験に協力するということで、無償で設置されたのである。

l从・∀・ノ!リ人「おっきい兄者ー、全部割れてたのじゃー」

( ´_ゝ`)「え? 全部?!」

l从・∀・ノ!リ人「そうなのじゃ、割れてたのじゃ」

(´<_` )「ケースに入れてたのにか?」

( ´_ゝ`)「地震もなかったし、動物でもぶつかったのか?」

(´<_` )「イノシシとか熊とか出るからなー」

l从・∀・ノ!リ人「ケースは倒れてなかったのじゃ」

511名無しさん:2020/06/09(火) 19:39:42 ID:NIm4QXGk0
( ´_ゝ`)「誰かぶつかって倒して、元に戻した、ってところか」

(´<_` )「多分そんなところだろうな」

この日のこの事件を境に、彼らの憧れた日常が崩れ始めることになるとは、誰も想像していなかった。

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刈笠辷沙几; ; 爻; ; ; ; ; ; ; ; ; 爻彡 ― ァミ从爻爻乂廾爻爻爻ミx ̄\'_'_'_'_'_'_'_'_'_'_'_'_'_'_'_'_
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同日 AM11:18

タルキールは地殻変動によって生まれた峡谷を削って作られたもので、近代的な外観をした建物の多くが山に埋まるような形で並んでいる。
海側と陸側に聳え立つ山は風雨にさらされ続け、剣山の様な表面をしている。
それは天然の防波堤の役割を果たしており、嵐が襲ってきても街が大きな被害を受けることはない。
街を貫くように大きな道路と線路が並走し、タルキールに入る人間は必ず峡谷に見下ろされなければならない。

その大きな峡谷を竜の口腔に見立て、人々はこの街を“竜の口”と呼んでいるのである。
谷に築き上げられた街は高低差が激しく、移動には車両以外にロープウェイが広く用いられている。
貨物などは一度大きな集積場に置かれ、そこから配送用の小型車両に積み替えられ、街に散らばっていく。
小回りの利く乗り物でなければ、タルキールの山道は走破できないのだ。

(∪*´ω`)「おっ!」

タルキールの象徴である峡谷は、地平線上に突き出た二本の角のように見える。
街の姿が遠くに見えた時、ブーンは興奮の声を上げた。

ζ(゚ー゚*ζ「あれがタルキールよ」

ノパ⊿゚)「あれか!! 確か、船から見たような記憶があるな」

三人を乗せたバイク、ディがインカムを通じてデレシアに声をかける。

(#゚;;-゚)「走行記録にタルキールのデータがあります。
   入り口での停車記録がないため、当時は検問などがなかったと思われます」

ζ(゚ー゚*ζ「情報ありがとう。
      私もしばらく行ってないから、検問が今あるかは分からないわね。
      でも、多分これまでもこれからもないと思うわ」

ノパ⊿゚)「やっぱあれか、闇取引が関係してんのか?」

512名無しさん:2020/06/09(火) 19:40:10 ID:NIm4QXGk0
ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、その通り。
      出入りする車の中を調べていたら、ずーっと渋滞になるわ」

(∪´ω`)「警察の人がいるのに、大丈夫なんですかお?」

街ごとの特性を覚えてきたブーンが、会話に参加してきた。
非常に喜ばしい成長ぶりと知識欲に、デレシアはヘルメットの下で微笑む。

ζ(゚ー゚*ζ「警察はあくまでも、その街の法律を守らせるための機関なの。
      タルキールの法律では、輸出入に関わる乗り物の検査は行わなくていいってなってるのよ」

タルキールは陸路でヨルロッパ地方に入るための最も完全な経路ではあるが、寄らずに通り過ぎることも出来る。
ただし、その場合舗装されている道はなく、雪と氷の荒れ地を走破しなければならない。
車輌の整備と積み荷の確認の意味も込めて、陸路を使う輸送業者はタルキールを利用するのだ。
一日に利用する人間があまりにも多いため、検査を免除することになったのは、仕方のない話だ。

いつしか輸送業者の聖地のような場所になり、他の街では禁止されている品などが集まるようになってしまったのである。
その品の取引まで目を瞑れば街の治安が悪化するため、警察を雇い入れて取り締まりを行い、違法な市場が成長しないように調整が行われている。
また、禁輸品によって大金を得た人間が力を持ちすぎないよう、他の街が攻め入ってこないようにと、イルトリアの傭兵会社と契約がされた。
かくして、相反する思想の街を代表する組織がこの街に揃ったのである。

ノパ⊿゚)「へぇ、意図的なものなのか?」

ζ(゚ー゚*ζ「最初はそんなつもりはなかったのかもしれないわね。
      あの街で渋滞が起こると、結構厄介なのよ。
      今は夏だからいいけど、冬になると雪が積もって車が動かなくなっちゃうからね。
      だから渋滞緩和のために考えた法律が、こうやって抜け道に利用された可能性もあるわね」

大型のトラックが列をなして正面から迫ってくる。
傍を通り過ぎる際、ブーンはその数を数えていた。
圧倒的な大きさを誇る鉄の塊のコンテナを牽引するトラックは、合計で四台。
いずれも異なる会社のロゴを掲げるトラックで、彼らがこの荒野を安全に走り抜けるためにタルキールでチームを組んだのだと分かった。

(∪´ω`)「いーち、にーい、さーん、よーん」

ζ(゚ー゚*ζ「キャンプ場からここまで、何台のトラックとすれ違ったか覚えてる?」

(∪´ω`)「えっと、今のを足して……百……じゅうな―――あっ、七十ですお」

(#゚;;-゚)「私の計算でも同じでした。
    凄いですね、ブーン」

ノパー゚)「よく数えてたな、偉いじゃないか」

(∪*´ω`)「えへへ……」

タルキールのある峡谷が近づくにつれ、その大きさにブーンとヒートが圧倒される。
ジュスティアにあるスリーピースは人口の壁だが、目の前に聳え立つのは天然の壁。
風雨が創り出した壁に見える人の文明が生み出す風景は、あまりにも奇妙で、あまりにも圧倒的な姿だった。

513名無しさん:2020/06/09(火) 19:40:34 ID:NIm4QXGk0
ノパ⊿゚)「そういえばよ、どうしてタルキールに寄りたかったんだ?」

ζ(゚ー゚*ζ「タルキールで買いたいものがあるのよ」

ノパ⊿゚)「ラヴニカにも無いようなもんが、タルキールにあるのか」

ラヴニカには確かに魅力的な道具や技術が集まる。
しかし、世界中全ての物が集まるわけではない。
例えば、その土地にしか根付いていない文化や風習、それに伴って生み出される物がそうだ。

ζ(゚ー゚*ζ「あるのよ、それが。
      すっごく美味しい餃子があるの」

(∪*´ω`)「餃子!!」

ブーンはオアシズの船内で初めて餃子を経験し、その味に魅了されていた。
デレシアも食べたが、あの時の餃子は確かに絶品だった。
だがタルキールの餃子も負けてはいない。
寒冷地だからこそ生み出された餃子を、ブーンとヒートにぜひとも味わってもらいたかったのだ。

ζ(゚ー゚*ζ「水餃子、っていうんだけどね。
      熱々のスープに入れた餃子なの」

ノハ*゚⊿゚)「へぇ、熱々なのは嬉しいな。
     どんなスープなんだ?」

ζ(゚ー゚*ζ「鳥ガラのスープよ。
      冷めにくいようにとろみがついてるの」

更に言えば、餃子とスープに生姜が入っているため、体が温まりやすくなっているのだ。
物流の中継地点という利点から、手に入りにくい野菜が西の地域から運ばれてくるため、タルキールの食糧事情はかなり充実している。
海に近い街でありながら漁業がほとんど行われていないのも、その充実した物流網のためである。
ここから東にあるラヴニカに至るまでの長い道のりの途中にある町の住民は、間違いなくタルキールを経由して運ばれる野菜を口にすることになる。

ノハ*゚⊿゚)「そりゃ美味そうだな。
     着いたら昼飯にしようぜ」

(∪*´ω`)「賛成ですお」

ζ(゚ー゚*ζ「そうしましょう。
      今日は宿に泊まって、三人でお風呂に入りましょうね。
      ディも、後で洗ってあげるわ」

キャンプ中、彼女たちはシャワーしか浴びることが出来なかった。
道中に点在するダイナーやモーテルの近くには、トラック運転手たちの利用を見込んで作られた簡易浴場があり、そこを利用するしかなかった。
当然椅子などもなく、立ったままで汗や汚れを流すだけの簡易的なものだ。
荒野を走る上で粉塵は避けられない問題であり、ディの車体やマフラーにはすでに泥や土が付着してしまっている。

(#゚;;-゚)「ありがとうございます、デレシア。
    注油も合わせてお願いいたします」

514名無しさん:2020/06/09(火) 19:43:59 ID:NIm4QXGk0
(∪´ω`)「僕もお手伝いしますおー」

(#゚;;-゚)「お願いしますね、ブーン。
    では、車体を洗ってもらってもいいですか?」

ζ(゚ー゚*ζ「前にやったから大丈夫よね、ブーンちゃん?」

(∪´ω`)「たぶん、大丈夫ですお」

ノパ⊿゚)「あたしも一緒に洗車をするから、安心してくれ」

ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ、私がメンテナンスを担当するわね」

そのやり取りを聞いて、ディがどこか嬉しそうに言った。

(#゚;;-゚)「至れり尽くせりですね」

(∪´ω`)「いたれり、つくせり」

(#゚;;-゚)「望んだことが何一つ欠けることなく提供される、ということです」

ディから言葉とその意味を学び、ブーンは尻尾を揺らした。

ノパ⊿゚)「確か、タルキールをまっすぐ行った先にヴィンスがあるんだったよな」

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、丁度突き当りの場所ね」

ヒートにとって、決して忘れられない記憶を生み出すことになった都市、ヴィンス。
その場所で彼女は家族を失い、平穏な日々を捨てて殺し屋の道を選んだ。
心優しい彼女が殺し屋になるきっかけを作ったのは、皮肉にも、彼女の母親だということが先日分かったばかりだ。
彼女の苦労や苦悩が否定されると同時に、燃え尽きていたはずの復讐心が再び灰の中から起き上がり、その結果が右肩の負傷とレオンの破損だった。

一度の失敗を経て、ヒートはすぐに己の失敗に気づき、考えを改めた。
軍用第七世代強化外骨格――“棺桶”――同士の戦闘は確かに個人の持つセンスが重要になるが、何よりも、棺桶の性能に大きく依存する。
素人と玄人ならばまだしも、戦闘に精通した人間同士ならば、棺桶の性能が勝敗を決することの方が多い。
冷静な判断が出来ない状況下で襲われれば、名の知れた殺し屋と言えども後れを取ってしまうのは無理のない話だ。

彼女は殺し屋時代のことを、あまり多くを話そうとはしない。
それは彼女にとって語りたくない過去なのだろうと、デレシア達は察していた。
ただ分かっているのは、彼女はブーンに亡き弟の姿を重ねて見ているということだ。
その愛情を受け、ブーンはそれに自然と応えている。

年の離れた姉と弟の交流を見ている様で、デレシアはそのやり取りを見るのが好きだった。
彼女の傷が癒える頃には、恐らく三人と一台はヴィンスに到着していることだろう。
タルキールはヴィンスとラヴニカのほぼ中間の位置にあり、更に一週間ほどの時間を経てヴィンスへと到着することになる。
海沿いの道を選んでいるのはそれが最短の道のりということもあるが、最も安全な道のりでもあるからだ。

ノパ⊿゚)「そっか…… なぁ、ヴィンスには寄るのか?」

ζ(゚ー゚*ζ「寄らなくても問題はないけど、ヒートはどうしたい?」

515名無しさん:2020/06/09(火) 19:44:21 ID:NIm4QXGk0
(∪´ω`)「お?」

沈黙が流れた。
その沈黙は数秒の物だったが、ヒートにとっては長い数秒だったことだろう。
彼女にとってみれば、過去の傷口と向き合うことになるのだから。

ノパー゚)「あたし、ヴィンスをまともに観光したことがねぇんだ。
    案内、頼んでもいいか?」

ヒートの声は、いつもと変わらず、力に満ちたものだった。

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、いいわよ」

デレシアはヒートのそういった性格が気に入っていた。
彼女は前に進もうと抗える人間だ。
困難があろうとも、彼女は前に進む。
その姿勢を見てブーンは学び、育ち、生きていく。

やがて、隆起したタルキールの山が三人と一台を見下ろし、三人がそれを見上げる。
頭上からの光がスポットライトのように峡谷に差し込み、タルキールの街並みを照らし、その姿を三人に見せる。
影の中に見える直線で構成された建築物が、峡谷に埋め込まれるように並ぶ。
それは竜の口内に生える牙を思わせると同時に、人間の力が自然を蹂躙しているようにも見える。

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516名無しさん:2020/06/09(火) 19:45:26 ID:NIm4QXGk0
街に入ると、向かい風と共に街の熱気が彼女たちを出迎えた。
風を利用した発電機が樹木のように岩肌に突き刺さり、回っている。
山の間に無数のワイヤーが張り巡らされ、それに沿ってロープウェイが行き交う。
頭上に広がる多くの情報に、デレシア以外の二人が感嘆の声を上げる。

(∪*´ω`)「おー!」

ノパ⊿゚)「近くで見るとすげぇな……」

速度を落とし、少しでも彼女たちが景色を見られるようにする。

ζ(゚ー゚*ζ「凄いわよね、人って」

街の中で更に数台のトラックとすれ違いながら、彼女たちは地下に作られた駐車場に向かうことにした。
目抜き通りとなる大通りから地下駐車場へは短い間隔で出入り口が設置されており、自然が創り出した大空洞へと誘導される。
地下水が流れていた場所は強固な舗装がされ、広大な敷地の駐車場になっている。
その駐車場はロータリーの役割も果たしており、次々と輸送業者と民間人の車が往来していた。

タイヤが地面を踏みつける音、エンジンの音が反響し、ヘルメットをしていてもその騒音は防ぎきれない。
耳の鋭いブーンには辛い場所だが、タルキールにおける駐車場はこの場所が一番なのだ。
バイク用の駐車場に停め、三人が降車する。
ヘルメットを取ると、ブーンはすぐに耳を塞いだ。

この騒音の中でも、ブーンの耳であれば十分に聞き取ることが出来る。

(∪´ω`)「おー」

ノパ⊿゚)「ブーン、耳は平気か?」

ブーンの頭にニット帽を被せながら、ヒートが訊いた。

(∪´ω`)「大丈夫ですおー」

ζ(゚ー゚*ζ「ごめんね、お昼ご飯を食べる場所がちょっと特殊でね。
      ディはここに停めておくのが一番いいの。
      ディ、お昼ご飯が終わったら呼ぶから、迎えに来てもらってもいい?
      その後で一緒に宿に行きましょう」

(#゚;;-゚)「はい、分かりました。
    ここでお待ちしております」

(∪´ω`)「お……ディ、また後でね」

片耳を押さえながら、ブーンがディのタンクに手を添える。

(#゚;;-゚)「寂しいですが、また後で会いましょう」

517名無しさん:2020/06/09(火) 19:48:02 ID:NIm4QXGk0
三人は駐車場を出て、改めて、地上の世界を見上げた。
ラヴニカと似ているのは高い建築物が周囲を囲んでいるという点だが、光があまり差し込まないため、全体的に日陰の中にいることになる。
それを補うため、街灯と一体化した風力発電機が街中に設置されているのだ。
海から吹き付けてくる風の一部がこの峡谷に流れ込んでくるため、風に困ることは無い。

山を削って作られた土地であるが、長い年月をかけて舗装を続けてきた甲斐があって地面はアスファルトで覆われている。
ただし、周囲を囲む山肌は重要な個所以外は落石防止のネットが張り巡らされている程度で、地震などが原因で崩れた山の一部が落ちてくることがある。
万が一その石がディを直撃すれば、重大な損傷を避けることはできない。
これから彼女たちが向かう食堂に駐車場はなく、停める場所も近くに全くないため、車輛で向かうことが出来ないのだ。

ζ(゚ー゚*ζ「さ、ここからは徒歩で行くわよ。
      まだあるといいんだけど、随分前だから残ってなかったらごめんなさいね」

ノパ⊿゚)「いいさ、こうして歩くのも楽しいしな。
    それで、どんな店なんだ?」

ζ(゚ー゚*ζ「昔ながらのお店でね、味は保証できるわよ」

急勾配の坂を上り、岩肌に埋め込まれるようにして連なる店の前を歩く。
デレシアの記憶にある街並みと大きくは変化がなかったが、やはり、店の入れ替わりは起きていた。
その中で、彼女の記憶と相違なく健在の店を見つけ、安堵した。

ζ(゚ー゚*ζ「良かった、まだあったわ」

外観は全くと言っていいほど変わっておらず、月日の変化による看板や壁の劣化はあるものの、店の場所も名前も佇まいもそのままだった。
赤い看板に金色の文字が書かれ、その入り口は赤い暖簾がかかっている。
店から漂う香りは当時と変わりはなく、聞こえてくる音も変わったようには聞こえなかった。

(∪´ω`)「お?」

ノパ⊿゚)「何だ、これ? 記号か?」

暖簾と看板に書かれているものは、同じ言葉。
それは“中華”、という文字だった。

ζ(゚ー゚*ζ「これは昔の言葉よ。
      ラヴニカにもあった看板みたいな役割を果たしていると思ってくれればいいわ」

ノパ⊿゚)「なーる程、読み方とかっていうのはあるのか?」

ζ(゚ー゚*ζ「これはチュウカ、って読むの。
      餃子とかチャーハンとか、その辺りの料理の種類というか、傾向をまとめた名前ね。
      中華料理、っていうジャンルなの。
      大昔にあった場所の名前ね」

店に入ると、昼時ということもあってか、多くの客で賑わいを見せていた。

ζ(゚ー゚*ζ「三人なんだけど、空いているかしら?」

給仕をしていた初老の女性は店内を見渡し、そっけなく言った。

518名無しさん:2020/06/09(火) 19:48:23 ID:NIm4QXGk0
「多分ね」

ζ(゚ー゚*ζ「分かったわ」

デレシアは奥の席が空いていることを目視し、席まで先導した。
木製の椅子と机は使い込まれ、角が丸くなって温かみのあるものだった。
先ほどの給仕がちらりと一瞥したため、デレシアは微笑み返しながら、机の中にあったメニューを取り出した。

ノパ⊿゚)「あっ、ここ空洞になってるのか」

机の下に手を入れながら、ヒートがそう言った。
ブーンも真似をして、机の下に手を入れて上下させる。

ζ(゚ー゚*ζ「ここに入れておけば邪魔にならないでしょ?
      さ、何を食べましょうか」

(∪*´ω`)「水餃子がいいですおー」

ノパ⊿゚)「あぁ、あたしも水餃子だな。
    後は……チャーハンもいいな」

(∪´ω`)「焼き餃子……これが、普通の餃子なんですかお?」

ζ(゚ー゚*ζ「そうね、ブーンちゃんが前に食べたのがその焼き餃子よ。
      せっかくだから食べ比べてみる?」

(∪*´ω`)「はいですお!」

ノパ⊿゚)「じゃああたしはチャーハンセットと水餃子にしよう。
    ブーン、チャーハンと焼き餃子半分ずつにしような」

(∪*´ω`)「おっ!」

ζ(゚ー゚*ζ「なら、私はラーメンセットにして、みんなで分けましょうね」

デレシアが目配せをすると、給仕が客の間を縫うように歩いてきた。

ζ(゚ー゚*ζ「チャーハンセットとラーメンセット、それから水餃子を三つ、それと焼き餃子を一つ」

「あいよ」

注文を終えると、店員がグラスに入った水を三つ、机に置いた。
ほどなくして注文した料理が運ばれ、三人は手を合わせて食事を始めた。
三人は真っ先に水餃子をスプーンですくって口に運び、それを味わった。
厚めの皮に包まれたひき肉と香味野菜、そしてとろみのついた鶏ガラのスープが口の中で一体となる。

生姜の辛み、肉の甘味、スープの塩気が絶妙に絡まり合い、見事な旨味を作り出していた。
昔と変わっていないのが、この店は餃子の中にもスープにも生姜を入れているのだが、刻んだものとすりおろしたものの二種類を使っているのが味の決め手だった。
具とスープにはもちろんだが、それを包む皮にも生姜の汁が使われており、一口ごとに体が温まっていくのが分かる。
寒い場所だからこそ内側から温めようという発想の料理が冷えた体にはこの上なく嬉しい。

519名無しさん:2020/06/09(火) 19:48:47 ID:NIm4QXGk0
ノハ*゚⊿゚)「ほっ、こりゃ、美味いな!」

(∪*´ω`)「ほふっ、おいひいですお!」

白い湯気を口から吐きながら、二人は水餃子を次々と口に入れていく。
デレシアも水餃子を食べつつ、注文したラーメンを二人の為に小皿に取り分けていく。
塩を使ったラーメンには海鮮系の具が盛られ、こちらもスープにとろみがつけられ、麺とよく絡み合っている。
水餃子を堪能した後、ブーンは焼き餃子を小皿に取り分け、ヒートとデレシアに渡す。

ヒートはチャーハンを、デレシアは取り分けたラーメンを他の二人に渡した。
新たな小皿に液体調味料を入れ、ブーンは焼き餃子をそれに浸し、一口食べた。
すると、ブーンの反応は意外なものだった。

(∪´ω`)「お、これ、前に食べたのと同じ味ですお!」

ブーンが食べたことのある餃子と言えば、その場所は決まっている。

ノパ⊿゚)「前に食べた時って、オアシズのか?」

(∪´ω`)「はい、シナーさんの作ってくれた餃子と同じ味がしますお」

ヒートとデレシアは、ほぼ同時に焼き餃子を食べた。
この店で焼き餃子を食べた記憶があまりにも古すぎたために分からなかったが、確かに、この味はオアシズで食べた物と同じ味だった。
ニラや白菜、キャベツの分量が偶然の一致でここまで同じことはまず有り得ない。
つまり、この店は――

ζ(゚ー゚*ζ「ひょっとしたら、シナーが働いていたお店なのかもしれないわね」

――今頃、彼がどこで何をしているのか、デレシアにはあまり興味のない話であった。

三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三二 ニ - ‐ ‐
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三二 ニ - ‐ ‐
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三二 ニ - ‐ ‐
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三二 ニ - ‐ ‐
三三三三三三三三三三三三三三三二 ニ - ‐ ‐
三三三三三三三三三三三二 ニ - ‐ ‐
三三三三三三二 ニ - ‐ ‐
三三三二 ニ - ‐ ‐
二 ニ - ‐ ‐
‐ ‐

520名無しさん:2020/06/09(火) 19:51:35 ID:NIm4QXGk0
同日 某時刻

その空間で出される食事は全て流動食で、味付けは塩味だった。
食器は紙で作られ、水分を含んで時間が経過するとすぐに崩れ落ちる素材だった。
水の入った紙コップも、一定の時間が経つと型崩れを起こしてしまうほどの強度だ。
壁も床も天井さえも赤で塗装されたその空間には窓はなく、便器と毛布だけが部屋の中で用意された唯一の物だった。

汲み取り式のトイレからは耐えがたい悪臭が常時立ち込め、ただ呼吸をするだけでも苦痛を伴う行為だった。
当然、毛布はその匂いを吸着しているため、それで鼻を覆おうとも大した効果は得られない。
毛布は薄く、強度の低い素材のため、紐代わりになることもない。
もっとも、特殊繊維の拘束具で腕と足の自由を奪われた状態でそのようなことが出来る人間はいないのだが。

全ての環境が人間の制御下にあるその空間は、ジュスティア警察本部の地下深くに作られた特殊な独房で、その存在は一切秘密にされていた。
独房は完全な防音の空間に設計され、外部からの音は内部に届くことがなく、内部の音はマイクが拾う以外の手段で外部に出ることは無い。
例えその空間で象が泣こうが発砲しようが、その音を聞く人間は特別な権限を与えられ、確かな身分を褒賞された監視員しか存在しない。
普段は厳重に封鎖され、使用されることのないその独房には、およそ一か月前に五人が収監されてからは賑わいを見せている。

ジュスティア警察の警官だったジョルジュ・マグナーニ。
誘拐犯であり、脱獄囚であるシュール・ディンケラッカー。
ジュスティア軍人のカラマロス・ロングディスタンス。
移送団を襲撃し、ショボン・パドローネと入れ違う形で捕まったシナー・クラークス。

そして、ジュスティア警察報道担当のベルベット・オールスター。
五人は捕まってから即座に薬を打たれ、意識のない中で今の空間に放り込まれていた。
衣服も所持品も、全て剥ぎ取られ、与えられたのは拘束具と食事をするための穴が開いた猿轡。
本来囚人に与えられる自由は全て剥奪され、一切の説明もなかった。

一人が寝転がれば埋まる程の狭い空間に入れられてから、彼らは誰かと会話をすることも出来ず、ただ時間が過ぎるのを待つしかなかった。
時間間隔が分からなくなるよう、時間をずらして出される食事。
四方の壁に作られた床下付近の僅かな空間から食事が届けられるために、看守の姿も声も彼らが知ることは無かった。
無論、どの壁から食事が出てくるのかも、一切のパターンがないために正面の壁がどれなのかすら、彼らには分からない。

食事を終えた後に残るゴミはそのまま放置されるため、日に日に空間が汚れ、狭くなった。
一見すれば何もない天井には、高性能な収音マイクとカメラが隠されており、独房の人間の全ての言動が記録され、監査入れている。
部屋の照明は不規則に明滅し、耳を弄する金属音が不定期に床から鳴り響き、一切の休息を許さない。
彼らは何かを訊かれるでもなく、ただ、一か月近くもの間その不衛生な独房に放り込まれているだけだった。

変化がなく、苦痛だけが積もっていく時間。
その中で変化が訪れたのは、正に、その日だった。
無臭の催眠ガスが流し込まれ、囚人が眠っている間に別室に移動が行われ、電気ショックによって無理矢理起こされる。
五人の中で最初に変化が与えられたのは、ベルベットだった。

(;><)「お……あ……」

言葉を発していない期間があまりにも長すぎたため、彼は何を話すべきか、咄嗟に判断できなかった。
独房よりかは若干広い部屋。
椅子に縛り付けられた彼の前には、熊の面を被った人間が立っている。
それ以外の物は、何もなかった。

(・(エ)・)「訊かれたことだけに答えろ」

521名無しさん:2020/06/09(火) 19:51:57 ID:NIm4QXGk0
その声は機械によって捻じ曲げられ、性別が分からないようになっていた。
だがその体格と恰幅は、女ではありえなかった。

(;><)「な、なん」

再びの電気ショック。
それは彼の手足の自由を奪う拘束具と、腰かけている椅子の両方から流れていた。
激痛に身をよじって悲鳴を上げて初めて、自分が猿轡をしていないことにようやく気づく。

(・(エ)・)「訊かれたことにだけ答えろ」

熊男が全く同じ言葉を全く同じ調子で口にする。

(;><)「……」

(・(エ)・)「お前たちの目的は?」

(;><)「ま――」

先ほどよりも強い電流がベルベットを襲い、悲鳴が口からあふれ出る。

(;><)「ぎゃああああ?!」

(・(エ)・)「お前たちの目的は?」

(;><)「は――」

一瞬、思考が白一色に染まった。
何も考えられず、ただ、電流が全身を駆け巡っている間、口から声が出ているのだけは分かった。
それは悲鳴ですらなく、絶叫や雄叫びに近い何かだった。

(・(エ)・)「お前たちの目的は?」

(;><)「げほっ……かはっあ……」

叫びすぎたあまり、喉が痛んだ。
咳込み、息も絶え絶えに熊男を見上げる。

(・(エ)・)「……」

(;><)「ど、どうして……」

どうして自分が、と言い切る前に、熊男は動いていた。
後ろ腰に手を伸ばし、そこにあったものを容赦なく振るう。
それは鞭だった。
鞭だと分かったのは、しなるそれを目視し、衝撃が右肩を襲ったからである。

その痛みは電流のそれとは異なり、爆ぜるような勢いと共に彼を襲った。

(;><)「あぎゃあぁぁぁぁああ゛!!」

522名無しさん:2020/06/09(火) 19:54:11 ID:NIm4QXGk0
(・(エ)・)「お前たちの目的は?」

同じことを繰り返す。
熊男の問いに対して正確な答えを出さない限り、ベルベットはこの苦痛を受け続けることになるのだと、理解するしかなかった。
ベルベットは警官になってから、報道関係の仕事を主にしてきたため、現場での経験はあまりなかった。
撃たれることも殴られることも、ましてや、殺されかけるということも経験してこなかった彼にとって、この状況は恐怖でしかない。

だが何よりも恐ろしいのは、自分の信念と夢が暴力に屈することだった。

(;><)「があっ……えげっ……」

(・(エ)・)「……」

熊男が近づき、注射器をベルベットの首に突き刺し、中の液体を注射した。
一瞬で意識が失われ、次に目を覚ますと、再びあの赤い独房だった。
彼にとっての悪夢は、まだ始まったばかりなのだと実感せざるを得なかった。

三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三二 ニ - ‐ ‐
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三二 ニ - ‐ ‐
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三二 ニ - ‐ ‐
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三二 ニ - ‐ ‐
三三三三三三三三三三三三三三三二 ニ - ‐ ‐
三三三三三三三三三三三二 ニ - ‐ ‐
三三三三三三二 ニ - ‐ ‐
三三三二 ニ - ‐ ‐
二 ニ - ‐ ‐
‐ ‐

シュール・“バンダースナッチ”・ディンケラッカーが目を覚ましたのは、身を刺すような氷水を頭からかけられたからだった。
拘束具以外下着さえ身に纏うことを許されなかった身には、その行為は極めて効果的だった。
悲鳴と共に目を覚まし、次いで、目の前に立つ熊の面を被った男の姿に恐怖した。
彼女はこれまで、子供を相手にした誘拐ばかりをしてきた。

恐怖と向き合うことはほとんどなく、ましてや、心身ともに憔悴しきった状況で拘束されているのは初めてのことだった。
辱めと同時に痛みを与えられるという行為は、性別上仕方のないことだというのは知っていた。
自分が売りさばいていた子供たちがそうであったように、シュールもまた、心が完全には死んでいなかったのである。
心が生きていれば自然と次の機会、未来を夢見てしまう。

ここで終わるのではなく、続いてしまうということを認めてしまうのだ。
尋問が始まる前にすでにシュールの心は挫け始めており、一体自分が何をされるのか、という恐怖に体を震わせた。
男は薄汚れた革製の袋を広げて見せ、そこに収納された器具をシュールに見せつけた。
それが拷問用の器具であることは形状がはっきりと物語っていた。

男は終始無言だった。
しかし、一つ一つ器具を手に取ってはシュールの反応を見て楽しんでいる様子だった。
身動きが取れない以上、シュールは男が使用する全ての道具による拷問を耐えなければならない。
皮肉なことに、シュールは男が見せつけてきた道具の全てに見覚えがあった。

523名無しさん:2020/06/09(火) 19:54:33 ID:NIm4QXGk0
それは彼女が使っていた道具だった。
逮捕時に全て没収されていた、彼女の趣味の道具。
誘拐した子供たちで遊ぶための道具がもたらす苦痛と威力は、よく分かっている。

(・(エ)・)

金属でできた洋ナシの様な道具を手に取り、その動作を確かめる。
それは“苦痛のナシ”と呼ばれる器具だった。
洋ナシ状の金属の器具はネジを回すことにより、花弁のように四つに分かれ、拡張する。
原理は単純だが、使用する場所によってその効果は圧倒的なまでに人の心を破壊するのだ。

男であれば肛門を、女であれば、膣と肛門を効果的に責め立てることが出来る。
使われた人間が味わう苦痛は絶大で、破壊の寸前まで拡張したまま放置し、長時間の痛みを与えることが出来る。
腰からガスバーナーを取り出した男は、青白い炎で苦痛のナシを赤くなるまで熱した。
金属故に可能な、熱による責め苦。

それもまた、シュールが子供たちに対して行っていた行為だった。
彼女の場合は焼けた石を内部に入れ、児童たちの体内で徐々に金属が熱せられるようにしたが、男は違った。
長時間の拷問を楽しむのではなく、短時間の拷問で欲しい情報を手に入れようとする人間だった。
彼女はそこで初めて、椅子の座版に大きな穴が開いていることに気が付いた。

男は無言のまま近づき、シュールは怯え、悲鳴を上げて懇願した。

lw´;‐ _‐ノv「やめろ!! やめてくれ!!」

その言葉が無駄なことは、彼女がよく分かっていた。
彼女が子供たちに対してその道具を使った時、子供たちは同じ言葉を口にしていた。
だがシュールの答えは決まって笑顔による無視であり、より一層の嗜虐心を掻き立てられるだけだった。
椅子に固定されたままのシュールは逃げようともがくが、椅子は微動だにしなかった。

男はシュールの左頬を思いきり殴打した。
頬の骨が折れたのだと、はっきりと分かる程の音と痛みが彼女を襲う。
続けて右頬が同じ威力で殴られ、口の中いっぱいに血の味が広がった。
前髪が掴まれ、椅子ごと乱暴に倒される。

lw´;‐ _‐ノv「あぐっ?!」

あまりの強さに、髪が束になって引きちぎれた。
折れた頬が地面にぶつかり、更なる痛みが生じる。
涙と口から溢れた血が、彼女の顔を汚した。
男は引きちぎった髪を捨て、それからゆっくりと近づき、硬いブーツのつま先で無防備な腹部に一切の容赦がない蹴りを放った。

防御姿勢さえ取れない彼女はその攻撃を受けるしかなく、この一か月近くの生活で衰弱していた体でそれを耐えるのは不可能だった。
胃の中にあったものを全て吐き出し、動かせない体を必死に動かしてもがく。

lw´;‐ _‐ノv「ごっ……ぐげえぇぇ……!!」

(・(エ)・)

524名無しさん:2020/06/09(火) 19:56:24 ID:NIm4QXGk0
体を折り曲げてその場で転げまわりたいほどの痛み。
意識が痛みの一色に染め上げられる。
酸素を欲し、息を思いきり吸い込み――

lw´;‐ _‐ノv「ぐぷっ……?!」

――その瞬間に、再びの一撃が腹を襲った。
内蔵が全てひっくり返るかと錯覚するほどの激痛と苦しみ。
胃液が逆流し、恐怖のあまりシュールは失禁した。

(・(エ)・)

だが熊の男は何も言わない。
何かを訊くこともせず、一方的に攻撃を加えるだけ。
それが何よりもシュールを恐怖させていた。
目的が分からなければ、こちらが差し出せるものも分からない。

恐怖に支配されたシュールは、命乞いをしようと口を開閉させるが、声は出なかった。
極度のストレスと度重なる暴力により、彼女は一時的に声を失ってしまっていた。
涙と鼻水、そして己の吐しゃ物で顔を汚し、泣き啜りながらシュールは必死に視線で訴えた。

(・(エ)・)

男はシュールの後頭部を踏みつけ、苦痛のナシを握り直した。

lw´;‐ _‐ノv「うあ、あ゛あ゛あ゛あ゛ーお゛あ゛あ゛ー!!」

熱が下半身に近づいてくるのが分かる。
体を動かすことは出来ない。
言葉を発することも出来ない。
出来るのはただ、奇跡を願うだけ。

――都合のいい奇跡が起きないことは、彼女が何よりもよく分かっていた。

三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三二 ニ - ‐ ‐
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三二 ニ - ‐ ‐
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三三三三三三三三三三三二 ニ - ‐ ‐
三三三三三三二 ニ - ‐ ‐
三三三二 ニ - ‐ ‐
二 ニ - ‐ ‐
‐ ‐

シナー・クラークスは軽い痛みで目を覚まし、状況を理解した。
部屋にはアンモニア、血、吐しゃ物のすえた匂い。
そして、何かが焦げた匂いが漂っている。
つい先ほどまで誰かがこの部屋で拷問を受けていたのだろう。

525名無しさん:2020/06/09(火) 19:56:50 ID:NIm4QXGk0
( `ハ´)「……」

(・(エ)・)「……」

ジュスティア相手に単身で喧嘩を売るような真似をすれば、待っている結末は概ね予想が出来ていた。
彼らが重要参考人を捕らえて、わざわざ裁判にかけるはずがない。
イルトリアは表立っての暴力を行使するが、ジュスティアは影の側面において、ある意味でイルトリア以上の暴力に手を染めていると聞いたことがある。
優しい人間ほど恐ろしい、という言葉の真意はそこにある。

人に優しく出来るということは、人間が嫌うことを理解しているということ。
それを実行に移すことが出来れば、一瞬にして既存の邪悪を塗り替えることが出来てしまう。
故に、正義感が強い人間ほどその邪悪さが強く、彼らが悪と断じる人間達よりも残酷な行為に手を汚すことを厭わなくなる。
今、目の前に立つ男はその類の男だ。

ショボンからその存在については聞いたことがある。
モスカウに所属していたショボンでさえ、その存在については噂程度でしか聞いたことがないという、ジュスティアの暗部。
尋問に特化した組織の存在。
普段は人権を尊重する彼らが、情報を引き出すために一切の人権を無視した尋問を行うために用意した存在しないはずの組織。

構成人数も、所属者も分からない。
分かるのは、彼らが情報を引き出すと決めたら、あらゆる手段を用いて情報が引き出されるということだけ。

(・(エ)・)「お前たちの目的は?」

(;`ハ´)「……」

何もしてもしなくても、結果は変わらない。
ただ、少しでも長引かせることがシナーにできる唯一の抵抗だ。
心はいつか体の負担に耐えられず、壊れる。
尋問、あるいは拷問の与える効果はよく分かっていた。

だからせめて、他の同志たちに迷惑が掛からないように、目の前にいる熊男の時間を無駄にさせるしか出来ることは無い。
男の手にはバーナーが握られており、それがどのように使われるのか、説明を受けるまでもなく理解した。

(;`ハ´)「……」

覚悟は決めていた。
撃たれる覚悟。
斬られる覚悟。
殺される覚悟。

そして、苦痛の中で死ぬ覚悟。
夢を叶えるため、シナーはあらゆる危険と苦痛を想定して覚悟を決めていた。
だが覚悟とは、想像の域を越えはしない。
経験したことのない痛みに対して、人間はあまりにも軽率にその痛みを考えてしまう。

経験したことがあったとしても、覚悟の段階で想像する痛みと現実の痛みは圧倒的なまでの乖離がある。
炎を操る棺桶を使っていたシナーにとって、生きたまま焼かれるという行為が相手に与える効果はよく分かっていた。
生存よりも安楽死を望む程の苦しみ。
億の針で突き刺されて肉をえぐり取られるかのような痛みは、想像以上の苦痛を与える。

526名無しさん:2020/06/09(火) 19:57:51 ID:NIm4QXGk0
この男がシナーの所業を真似するためにその道具を選んだのか、それとも、単なる偶然か。
バーナーの炎が調節され、青白い炎が唸り声の様な音を立てる。
男は無言でそれをシナーの右膝に当てた。

(;`ハ´)「がああぁぁぁっ!!」

意志とは真逆に、シナーの口からは悲鳴があふれ出し、体は痛みから逃げるための反応を示した。
炎はすぐに遠ざけられ、自分の皮膚が焼ける痛みがシナーに残された。
肌はうっすらと赤く、炎が短時間だけ当てられたことを示している。
つまり、たったそれだけのことでシナーは悲鳴を上げてしまったのだ。

(・(エ)・)「お前たちの目的は?」

(;`ハ´)「糞くらえアル」

炎が逆側の膝を焼いた。

(;`ハ´)「ぎっぐ……!!」

歯を食いしばって耐えるが、炎はそのまま当てられ続ける。
徐々に炎は太腿へと移動し、そこでシナーは限界を迎えた。

(;`ハ´)「ぐぐがあああっ!!」

悲鳴が喉の奥からあふれ出す。
炎は腿を焼き続け、隣の腿も同様に焼き始めた。
その間、男は何も言わなかった。
シナーの悲鳴だけが響き、喉がかれるまで叫び終わる頃には、彼の足は赤黒く変色していた。

(・(エ)・)「お前たちの目的は?」

(;`ハ´)

話したところで、この苦痛から解放される保証はどこにもない。
一秒でも長く苦しむことになるが生きながらえるためには何も話さない、というのが答えだ。
それは分かっている。
分かっていても、人は一縷の希望にしがみつきたがる生き物だ。

それでもシナーは、決して口を割ろうとはしなかった。
男はどこからかビール缶を取り出し、それを焼けただれた皮膚にかけた。
炭酸が弾け、むき出しの神経が刺激される。
決して耐えられない痛みではないが、いつでもこちらの好きなだけ傷つけられるのだという意思表示は、はっきりと伝わった。

(・(エ)・)「ベルベットよりも口が硬いな」

そう言って、男はシナーが口を開くよりも早く首筋に注射器を押し当て、シナーの意識を奪い取ったのであった。

527名無しさん:2020/06/09(火) 19:58:24 ID:NIm4QXGk0
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同日 PM06:17

その晩、アサピー・ポストマンの夕食はジュスティアでも人気のバーベキューハウスだった。
店内には甘辛く煮詰めた特製のソースが漂わせる香りと、肉が焼ける香ばしい香りが混ざり、活気に溢れていた。
人が多く、テーブル席ではなくカウンター席ではあったが、彼にとっては十分な空間だった。
ソースがたっぷりと塗られたリブに齧り付き、夢中で頬張り、アサピーはビールを飲んでからようやく言葉を発した。

(-@∀@)「なんかすみません、ごちそうになっちゃって」

<ヽ`∀´>「いいニダよ、むしろ一人で色々と任せちゃって済まなかったニダね」

連日ニダー・スベヌと共に調査を進めていた禁輸品の流れについて、先週からだいぶ変化があった。
目を付けていた女性の周囲を調べていた結果、薬物は街の外から製品となった状態で持ち込まれていることが分かった。
重要だったのは、外部で完成品となった状態で、という点だった。
つまり、街の中で製造されているのではなく、それを作って売り込むという人間が外部にいるということが確実になったのだ。

これにより、捜査は内部調査よりも街に出入りする人間や業者を徹底的に調べ上げることになったのである。
エライジャクレイグの列車もその調査の対象となり、薬物を発見するための訓練を受けた犬が大量に用意され、列車が来るたびに大規模な検査が実施された。
街中に薬が広まる前に、水際での対策を強化する決断を下したのは言うまでもなく、市長だった。
しかし、市長がその決断を下す際に聞き入れたのはニダーの提案であり、アサピーの写真だった。

アサピーが今回撮影した写真は、薬物を売りさばく人間の姿だった。
街の明かりを背景に、暗闇の中で手渡される薬の包み。
煌びやかな街の影の中に存在する確かな悪行、といった意図がよく表れた一枚だった。
白と黒の対比を活かした写真は街にポスターとして掲示され、アサピーは臨時ボーナスを得た。

だが本当に評価されたのは売人の顔を撮影し続けた結果、胴元と思わしき人間が絞り込めてきたことだった。
その人間達には警察内部にある対策チームがあてがわれることとなり、更なる情報の獲得に動いているところだ。
決まった入手経路があり、それを手に入れた人間が小間使いの手下に売り、その手下は直接売るか、別の人間を利用して売るという経路がある。
アサピーの写真により大本と思わしき人間が分かったことで、通常の捜査にかかる時間は遥かに短縮され、極めて効率が良くなった。

528名無しさん:2020/06/09(火) 19:58:49 ID:NIm4QXGk0
これで仕事が終わるとは思っていなかった。
この後が大切なのだ。
密輸の現場を撮影し、その方法や人相、薬の生産者にまで辿り着かなければまた同じことが繰り返されてしまう。
根源を潰すことこそが、事件解決の最も原初的かつ合理的な方法なのだ。

そして今日、アサピーは単身で街中を歩き、薬の動きを遡ることにも成功したのだった。

(-@∀@)「この店にはよく来るんですか?」

<ヽ`∀´>「誰かを労うときに来ることにしているニダ。
      今夜は好きなだけ飲んで食ってくれニダ」

ニダーが勧めるだけあって、この店の肉は抜群に美味かった。
肉の焼き加減も絶妙ながら、ソースがとにかく癖になる。
甘味、酸味、辛味。
種類は分からないが、大量の香辛料が使われており、複雑な味に仕上がっている。

炭火で焼くことで旨味が逃げずに凝縮され、調理段階で一手間加えることによって骨から肉が簡単に剥がれ落ちるほどの柔らかさだった。
油の甘味が実に絶妙で、ビールとの相性が抜群だった。
この美味さの前では手や口元が汚れるのも気にはならず、むしろ、それが礼儀の様に感じられる。

(-@∀@)「いやぁ、それにしても美味いっ!」

<ヽ`∀´>「そりゃよかったニダ」

一方、ニダーが食べているのは厚みのある豚バラ肉で、鉄板で十分に焼かれたことによって表面が若干硬く、歯ごたえのあるものになった物だ。
そこに辛味のある香辛料を主とした特製の調味液に付けた白菜の漬物――キムチ――を乗せ、豪快に食べていた。
子気味のいい歯応えがあることは、その咀嚼音からも明らかだった。
白菜の瑞々しさと豚肉のサクサクとした食感が合わされば、さぞや口の中が楽しいことだろう。

グラスに入ったウィスキーの炭酸割を一口飲み、ニダーは満足そうに息を吐いた。

<ヽ`∀´>「ぷはっ! やっぱり肉は良く焼くのが一番ニダ」

(-@∀@)「そのキムチも美味しそうですね」

<ヽ`∀´>「旨味がしっかりと出ている、いいキムチニダ。
     下手な店はただ辛いだけだけど、これは甘味と旨味が前面に出ているニダよ。
     ちょっと食べるニダ?」

(-@∀@)「あっ、じゃあもらいます!!」

ニダーならばそう言ってくれると、アサピーは期待をしていた。
彼は人の気持ちを理解する力に長けており、その気配りの上手さは彼が警察官としても人間としても優秀であることを示している。
小皿に分けられたキムチを食べると、ニダーの言葉の意味がよく分かった。
辛味よりも先に甘味、旨味が口の中に広がり、酸味が辛みと共に姿を現す。

噛む度に酸味と辛みが増し、気が付けば額に薄らと汗が浮かんでいた。

<ヽ`∀´>「豚バラ肉とも相性がいいニダよ」

529名無しさん:2020/06/09(火) 19:59:22 ID:NIm4QXGk0
そう言いながら、ニダーはまだ手を付けていなかった豚バラ肉を切り分け、キムチを乗せてアサピーの小皿に乗せた。
勧められるがままにそれを食べ、アサピーは歓喜の声を喉の奥で上げた。
脂身の食感と白菜の食感、脂の甘味と旨味がキムチと見事に調和し、口の中でその味を数倍にも増長させる。
辛味と酸味が食欲を刺激し、甘味と旨味が満足感を与える。

ビールを飲んだ後もしばらくの間、口の中にその余韻が残っていた。

(-@∀@)「ひぃいやぁああああ!! 美味いっ!!」

<ヽ`∀´>「気に入ってもらえてよかったニダ。
     明日もまた仕事があるから、あんまり飲めないのが残念ニダね」

(-@∀@)「あ、そうだ、明日はどんなことをするんですか?」

<ヽ`∀´>「それは明日するニダ。
      今日の仕事は終わったんだから、今日は仕事の話をしないようにするニダよ」

(-@∀@)「それもそうですね。
     ニダーさんも、今日はお疲れ様でした」

<ヽ`∀´>「ははっ、あんまり疲れてないニダよ。
      でもありがとうニダね」

今更ながら杯を合わせ、二人は食事を再開した。
アサピーはリブを食べ終え、指に着いたソースを舐めとり、それから手を拭いた。
メニューを広げて、次に食べるべきものを思案する。
バッファローウィングの食べ比べ、という物に目が留まり、それを注文した。

運ばれてきた皿に手を伸ばした時、一人の男がふらふらと近づき、アサピーの背中とカウンターテーブルにぶつかった。
その衝撃でバッファローウィングは皿ごと床に落ち、アサピーの手は虚空で停止したままになった。

(^ム^)「へははっ、わりぃわりぃ!!」

明らかに酔った長髪の男が上機嫌でそう言って立ち去ろうとする。
何かを言うべきなのに、アサピーは何も言えなかった。
開けた白いシャツは薄汚れ、ジーンズには破れが目立っている。
腋に提げた革製のホルスターに黒い拳銃を目視し、彼の両手に彫られたタトゥーがアサピーの心を抑え込ませたのである。

見た限りの膂力でもアサピーは勝てないことが分かる程には、戦力差は明らかだった。
しかし、そうではない人間であれば、話は別である。

<ヽ`∀´>「ちょっと待つニダ、兄さん。
      人にぶつかって料理を落として、それだけっていうのは駄目ニダよ」

(^ム^)「あ゛ぁ?! 謝っただろうがよ!!」

<ヽ`∀´>「そこに誠意があろうがなかろうが、口だけの謝罪は子供でも出来ることニダ」

(^ム^)「んだよ、喧嘩売ってんのかよ?!
    死ぬ覚悟が出来てるんなら来いよ、俺はな、雑魚でも全力で殺すって決めてんだ!!」

530名無しさん:2020/06/09(火) 20:02:09 ID:NIm4QXGk0
声を聞いた周囲の客は視線だけをこちらに向けるが、何か行動を起こす素振りは見せない。
ここでは日常茶飯事なのか、それとも、この男について皆が知っているからこそ口出しが出来ないのか。
いや、あるいは――

<ヽ`∀´>「大声で虚勢を張る、両腕のタトゥーで威嚇する。
      提げた銃で更に威圧感を与えつつ、薬で増やした筋肉で力を誇示する。
      あまつさえ恫喝で自分の行為を曖昧にして、こちらに責任があるかのように振舞う。
      ……典型的な馬鹿ニダね」

(^ム^)「手前死にてぇの――がっ?!」

全ては一瞬のことだった。
それまで恫喝するような声を出していた男が急に口を閉ざし、陸に上がった魚のように口を開閉させている。
股間を押さえてその場に膝を突き、青白くなった顔を震わせる。
注意深く観察していない者にとって、それは奇妙な光景に見えたことだろう。

突然男が恫喝したかと思えば、次の瞬間には膝を突いている。
だが幸運なことに、アサピーは店内で唯一、一部始終を見届けることに成功していた。
空になったグラスを机に置くかのような自然で無駄のない動きで、ニダーの足は男の睾丸を蹴り砕いていたのだ。

<ヽ`∀´>「他の人の迷惑になるから、もう黙っているニダ。
      まだやるんなら、もう片方を潰すニダよ。
      今度は治らないレベルに潰すけど、それが望みニダ?」

(^ム゚)「ひゅ……あきゃ……」

<ヽ`∀´>「あぁ、悪い悪い。
      ほら、あんたの基準なら謝ったから許してくれるニダね?
      返事は?」

男は壊れた人形のように首を何度も上下させた。

<ヽ`∀´>「だけど、ウリはあんたとは違うから許さないニダ。
      じゃあ次は何をするべきか、分かるニダ?」

(^ム^)「べ、弁償する……させて、ください……」

<ヽ`∀´>「そうそう。 素直が一番ニダよ」

ニダーは男に手を貸し、その場から立ち上がらせる。
その際にニダーが男の懐から拳銃を抜き取り、弾倉と薬室の一発を抜いた。
鮮やかな手つきで行われた一連の動作はほんの数秒の出来事で、それらを手渡された男も呆然としている。

<ヽ`∀´>「あと、店の中で銃をこんな状態で運ぶのは感心しないニダ。
      マナー違反ニダよ」

男にだけ聞こえるような声量で告げたその言葉の裏には、道具を使った報復が無意味であるという脅しが込められていた。
拳で勝てなければ道具を使うしかない。
見せつけるようにして所持していた拳銃は男にとって、切り札だったのだろう。
それを一瞬の内に無力化され、あまつさえ、奪われた物を返されるという屈辱的な行為は、彼のプライドを根元から折るのに十分だった。

531名無しさん:2020/06/09(火) 20:02:30 ID:NIm4QXGk0
心配して近づいてきた店員に、男は息も絶え絶えにバッファローウィングの代わりを注文し、金を支払った。
そのままトイレに向かって歩いて行き、扉の向こうに消えた。
床に落ちたバッファローウィングはすぐに片付けられ、新しいものが運ばれた。

(;-@∀@)「な、何かすみません……」

<ヽ`∀´>「いいニダ、いいニダ。
      多分、あれは他所の街の人間ニダね。
      ……なるほど、トラック運転手ニダ」

(;-@∀@)「どうしてそう思ったんですか?」

<ヽ`∀´>つ□「これニダ」

ニダーがアサピーに見せたのは、運転免許証と社員証のカード、ジュスティアへの滞在許可証が入ったパスケースだった。
そこには先ほどの男の顔は勿論、名前や会社名など全て記載されている。
会社名は聞いたことのないもので、タニシン運送、と書いてあった。

(;-@∀@)「い、いつの間に?!」

<ヽ`∀´>「さっきあいつが落としたニダよ。
      トイレから帰ってきたら返してやるニダ」

手癖の悪さはトラギコといい勝負をするだろう、とアサピーは内心でニダーに対する評価を上書きした。
そして何より。
彼はただの優男ではなく、必要とあらば暴力を行使することに躊躇しない警官であるということも、覚えることにしたのであった。

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532名無しさん:2020/06/09(火) 20:02:52 ID:NIm4QXGk0
同日 PM09:00

男は静かに目を覚ました。
自然のくぼみを利用して山腹に立てられた拠点の周辺は日に日に改良が加えられ、今ではその姿を完全に隠し、山の一部と化していた。
くぼんでいた場所を更に削ることでテントの半分を地中に隠し、その上をフライで覆うことによってその場所はなだらかな斜面になった。
山にある木の枝や草を使って完璧な偽装がされ、近くで観察しても山肌の一部としか思えない精度だった。

腕時計の蓄光塗料が示す時間は、男が考えていた通りの時間だった。
ギリースーツを着て、それからゆっくりとテントの外に出る。
手には狙撃用のセミオートマチックライフルが握られており、その先端にはサプレッサーが付いている。
高倍率の光学照準器には後付けの暗視装置も取り付けられており、暗闇の中でも精確に狙撃が行えるようになっていた。

斜面に腰を降ろし、膝を立て、その上にライフルを乗せて上半身と下半身で銃を固定させる。
具合を確認し終え、ライフルの薬室に一発の弾を込めた。
特注品の銃弾が発射されたのは、男がライフルの調節を終えてすぐのことだった。
迷いのない射撃。

それは男が狙う場所を正確に把握しており、どのタイミングで撃てばいいのかも、全て分かった上での射撃だということを意味している。
銃弾は狙い違わず、目的の場所に着弾した。
低く、くぐもった銃声は夜の森に響いたが、動物たちの鳴き声と跫音と共に、夜風に運ばれて消えた。
人里から離れたその山で響いた銃声を気にする人間など、誰もいない。

更に別の銃弾を薬室に入れ、照準を変えて再びの発砲。
狙撃の成果を見るまでもなく、男は立ち上がる。
二つの薬莢を拾い上げ、男はライフルと共にテントに戻った。
全てが間違いなく行われ、全てが高度な正確さで実行された予定だった。

男は何かに満足することもなく、機械のように淡々とやるべきことをやっていた。
全てが予定通り。
万事全てが、彼の思惑通りに動いていた。
これは目的に到達する長い道のりの、まだ途中。

――その歩みは静かに、そして確実に男の目的に向けて近づくための一歩だった。

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Ammo→Re!!のようです
Ammo for Remnant!!編

第二章【Remnants of violent dream-暴力的夢の残滓-】 了
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533名無しさん:2020/06/09(火) 20:03:14 ID:NIm4QXGk0
これにて今回の投下は終了です

質問、指摘、感想などあれば幸いです

534名無しさん:2020/06/19(金) 00:21:33 ID:ZBWu/C9U0
おつです来てたの気づかなかった嬉しい
ブーンたちの和やかなシーンと拷問シーンの落差よ…

ちょっと質問ですが、スノー・ピアサーやそれに関連する人物の名前の由来ってもしかして映画からきてたりしますか?

535名無しさん:2020/06/19(金) 17:24:28 ID:fLNWQhGE0
>>534
もしかしなくてもご指摘の通り、スノー・ピアサーに関わるあれやこれは映画「スノー・ピアサー」由来でございます
ただ、食事の原材料ちゃんと普通の物ですので、ご安心ください
むしろ人物名よく分かりましたね……

536名無しさん:2020/06/19(金) 23:52:04 ID:ZBWu/C9U0
>>535
普通のもので安心しました
ちょうど観る機会があって、その時に原作者と監督の名前見て「もしかして?」と思いました
合ってて嬉しい

537名無しさん:2020/08/03(月) 12:26:04 ID:E1ug5u2s0
遅くなったけどおつ!
ベルベットってどのタイミングで捕まったんだっけ
拷問パートでも無能っぷり発揮してんな
シナーは許してあげて…

538名無しさん:2020/08/03(月) 19:51:57 ID:tfVJTwOM0
>>537
詳細は別の話で触れる予定ですが、彼は連れてきた囚人と一緒に投獄されたことになっております

539名無しさん:2020/08/06(木) 02:53:35 ID:Bt3F6oNI0
情報が違うってスパイ容疑で投獄されたと見てた

540名無しさん:2020/08/10(月) 16:39:29 ID:mYR38Iic0
おつ
レオン修理の協力者って誰なんだろう
そして描写の外で投獄されてる上に吐いたっぽいベルベットの無能さよ…

541名無しさん:2020/08/11(火) 00:30:20 ID:6BgocYzA0
そりゃただの一般人だもの
軍人さんたちと比べちゃダメよ

542名無しさん:2020/08/12(水) 11:13:03 ID:y2a5CP8.0
ん?揺さぶりなのでは?
ベルが赤い独房に戻った→シュー拷問から間髪入れずシナーの拷問だからかなっと

543名無しさん:2020/08/14(金) 20:23:05 ID:uvwxC8xM0
さらば流石兄弟 イモジャがこの先無事に暮らせることを祈る

544名無しさん:2020/08/20(木) 21:49:03 ID:BoEvT7t.0
今度の日曜日にVIPでお会いしましょう

545名無しさん:2020/08/20(木) 21:54:12 ID:ljBkMUhM0
楽しみに待ってるよー流石兄弟に幸あれ

546名無しさん:2020/08/21(金) 02:23:30 ID:KaKEF7XA0
待ってた!!

547名無しさん:2020/08/22(土) 13:19:10 ID:hy2iKk1E0
うおおおお!!

548名無しさん:2020/08/22(土) 14:48:51 ID:I0A7tv7k0
やったああああああああああ
待ってたよ!

549名無しさん:2020/08/24(月) 20:48:45 ID:v9UHRoN60
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憎しみも痛みも、一度に積み重ねては意味がない。
少しずつ積み重ね、育み、開花させるのだ。
そうして開いた花は何よりも美しいのだ。
美しい花を見たら何をすべきか、それは決まり切っている。
           /:::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ、
          .::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ
         /::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ハ
.           {::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::l
         .::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::}
         i:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::l!
         {::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::!
         、::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::/    最も美しい内に摘み取るのだ。
          ヽ、:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::/
            :::::::::::::::::::::::::::::::::::::., '
          /:::::::::::::::::::::::::::::::::::::.,′
          /:::::::::::::::::::::::::::::::://
       ,x<::::::::::::::::::::::::::::::::<
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::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: ――円卓十二騎士 “花屋”

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September 10th PM06:38

“竜の口”タルキールには、短期宿泊用の施設が多くあり、その内容は非常に充実したものだった。
谷の中に作られた街である以上、景観についての優位性を捨て、過ごしやすさの部分に重きを置いている。
例えば寝具やアメニティの質。
そして何よりも、多様な需要に応えることのできる柔軟性が売りの一つだった。

デレシア一行が選んだ宿はモーテルの一種だったが、宿泊部屋にシャッター付きのガレージがある珍しいものだった。
大型のトラックなどは停められないが、一般的な大きさの車輌であれば車上荒らしにあう心配も防ぐことのできる宿だ。
食事のサービスを省くことで費用を減らし、その減らした費用を宿泊料に還元させるのである。
街から街へと移動する人間の多くは、食事を宿泊先で済ませようとは考えていない。

トラック運転手たちでさえ、宿泊地となる街で飲食費を削るということは滅多にしない。
長距離を長時間移動する彼らにとって、食事とは数少ない娯楽の一つだ。
仕事とはいえ、世界にある街に移動できる彼らの仕事は間違いなくメリットでありデメリットでもある。
仕事の中に楽しみを、という考えがなければ長距離の運転などとてもではないが身が持たない。

街で最も美味い食事をするのであれば、地元の人間が選ぶ店に行くのが最も理にかなっている。
もしくは、手近な店で買ったものを宿泊先でくつろぎながら食べるのが基本だ。
特にトラック運転手は輸送中の荷物から離れることを嫌うため、ガレージのないモーテルに泊まる時にはデリバリーの食事を選びがちになる。
輸送業者を相手にする飲食店が多いため、ほとんどの店がデリバリーに対応しているのもタルキールの特徴である。

550名無しさん:2020/08/24(月) 20:49:12 ID:v9UHRoN60
そのため、必然、デリバリーを生業とする人間と業界が根付くことになる。
街の中を縦横無尽に駆け抜け、料理を届けることを小遣い稼ぎにする子供は多く、多くの宿泊施設前には料理を入れた巨大なリュックを背負う子供がたむろしている光景が見られる。
だが、たむろしているのは何も健全な子供たちばかりではない。
長い道のりの途中で人肌恋しくなった人間に対しての供給もあり、露出の多い服を着た少女や妙齢の女性が品定めをするように男性たちに視線を送る。

宿泊施設の近くで客引きをする娼婦たちには縄張りがあり、決まった場所以外には決して移動しない。
その縄張りを破った者は街の治安維持を担当しているジュスティア警察の人間が逮捕し、海沿いに作られた風通しのいい留置所に収監することになっている。
高級な宿泊施設の前にはイルトリアに本社を持つ警備会社の人間がライフルを構えているため、娼婦は勿論、仕事途中でたむろしようとする子供もいない。
ガレージ付きのモーテルは建物が独立した形のものであるため、集客が見込めないためか、そういった類の人間は周囲に一人もいなかった。

警察官と街の治安維持軍が道路を挟んで逆方向に歩きながらも、双方が無言で会釈をして挨拶をする姿はなかなか新鮮なものだった。
夕焼け空が頭上に広がる中、街はすでに夜の世界に切り替わっていた。
ガレージ付きモーテルにバイクで訪れた三人の旅人は、自分たちが風呂に入るよりも先にバイクの洗車と整備を行うことを決めた。
防犯の面だけでなく、天候に関係なく作業のできるガレージだからこそ、旅人たちは気兼ねなく作業が行える。

泥や土埃に汚れた車体を丁寧に洗い、磨き、注油が必要な個所には古い油を落として新しい油を差し、フィルター類の清掃も行われた。
バイクに搭載されている電子制御システムは車輛全体の状況を細かく管理しており、洗車とメンテナンスを終えた状態で自己診断をし、全て良好であることを確認した。

ζ(゚ー゚*ζ「どう、ディ?」

グリスを差したばかりのクラッチレバーとブレーキレバーを動かしながら、現オーナーのデレシアがディに尋ねる。

(#゚;;-゚)「はい、大変良好です。
    丁寧な整備、ありがとうございます」

生物のように滑らかな動きで可変式の部位を動作させ、動きに問題がないことを確認する。
最後にスクリーンやカウルが動き、隙間に入り込んでいた水滴が落ちていく。

(∪´ω`)「きれいになったお!」

(#゚;;-゚)「ブーン、ありがとうございます。
    おかげでサッパリとしました」

ノパー゚)「やっぱ、泥で汚れてると気持ちが悪いんだな」

(#゚;;-゚)「はい、放熱や吸気にも支障が出るので、気持ちのいい状態ではないんです」

鮮やかな光沢を取り戻したバイクに給電ケーブルを繋ぎ、三人は部屋に戻った。
宿の道中に聞こえた話によれば、三人は夕食の材料をモーテルに持ち込み、それを調理して食べる予定なのだそうだ。
風呂に入る準備をしながら聞こえてくる会話は、夕飯についてのものだった。
彼らの会話を聞きながら、ディは彼らが料理をする姿を予測する。

購入してきた食材と調理方法さえ分かれば、最後に仕上がる料理を推測することは可能だ。

(#゚;;-゚)

待機状態の間、ディは連日の状況を振り返り、学習していた。
これまで常識として設定されていた項目が幾つも消去され、別の概念が追加され、項目によっては上書きされた。
アイディールはネットワークから情報を入手し、自分自身をアップデートする機能が備わっている。
しかし、今の時代にデータ通信を行うネットワークの存在はおろか概念すらなく、電話とラジオが使用する電波だけが、今の時代には残されていた。

551名無しさん:2020/08/24(月) 20:49:34 ID:v9UHRoN60
残されていたのか、それとも、復元したのかはディのあずかり知らぬところだ。
内蔵時計が狂うほどの長い時間を経て、今こうして新たな運転手と共に大地を駆け抜けることが出来るのは非常に嬉しいが、実のところまだ情報の整理が追い付いていなかった。
ディ自身も復元された存在であるため、過去と現在をつなぐ何かしらの情報を手に入れることは未だにできておらず、それを入力してくれる存在はデレシアが初めてだった。
人工知能であるディは、常時知識に飢えている。

知識を得ることで学習することがディの強みであり、根幹にある行動理念でもあった。
移動用の道具であるディにとっては、その欲求などを口にすることは決してなく、これまでに本当の意味で意思疎通を行った乗り手は一人としていなかった。
だが、乗り手たちは彼女を理解し、多くの景色を見せてくれた。
一人として乱雑に扱う人間はおらず、誰もが大切に扱ってくれた。

しかし今、ディは言葉を得た。
言葉を発する機能を手に入れたディは、聞き、学び、そして成長を始めた。
ネットワークに頼らずとも、人間のもたらす知識でも十分に学習は可能だった。
世界がどのように終わりを迎え、どのように再生をしたのか、それは彼女の求める情報にはなかった。

デレシアの持つ情報量は、ディの想像をはるかに超えており、一つの質問に対して完ぺきな答えを与えてくれた。
ヒート・オロラ・レッドウィングは砕けた言葉遣いや接し方を教えてくれた。
そして、ブーン。
彼は、ディにとってデレシア以上に興味深い対象になっていた。

人種の一つとして保存されている“耳付き”の少年は、ディに再学習を促すとともに、これまでに学んできたことをアウトプットする対象だけではない。
日々見せる身体能力と知識の成長速度は目を見張るものがあり、情報にある通り、その潜在能力は普通の人間以上だった。
彼の体重が増えるたび、彼の語彙力が増えるたび、ディは彼の成長に驚いた。
デレシアとヒートが言う通り、彼には可能性がある。

ディは彼の行く末に興味があった。
今の世界を作ることになった終わりと始まり以上に、彼が見せる未来が楽しみに思えるのだ。
予測が出来ず、数多の可能性が考えつく彼の未来。
その一端を担っているという感覚と経験は、ディにとっては初めてのことだった。

その感覚の名前が誇らしい、というものであることが自己診断で理解できた。
誰かの成長の糧になるという経験。
それはきっと、ディ自身にとっても糧になることだろう。
スリープモードに移行する中でもう一つ、ディが気になっていることがあった。

(#´;;-`)

この旅人たちの行く末と世界の変化が、どう結びつくのか。
どれだけ多くの情報が手に入ったとしても、それは見届けるほか知る術はないだろう。
未知こそが、ディにとっては何よりも興味のあるもの。
この旅はディにとって、間違いなく大きな何かをもたらすものだと断言できる。

――例えその先に待つものが、どれだけ過酷なものだったとしても。

552名無しさん:2020/08/24(月) 20:50:01 ID:v9UHRoN60
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第三章【Remnants of secret-秘密の残滓-】
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夕食を終え、三人は寝間着に着替えた後に寝室にあるベッドの上に腰かけ、今後の旅の話を確認していた。
彼女たちの旅に最終的な目的地や目的はない。
気の向くまま、状況に応じて次に向かうべき街に向かうだけなのだが今はそうするには問題があった。
デレシアにとっては大きな問題ではないが、その他の人間にとっては大きな問題になるだろう。

無論、ヒートやブーンにとっても、それは大きな問題になるに違いない。
個人的な理由もあり、その問題を放置することはできなかった。

ζ(゚ー゚*ζ「とりあえず、こんな感じのルートでイルトリアを目指すことは問題ないかしら?」

地図をサイドテーブルの上に広げ、現在地を指で示し、通る予定の道をなぞってイルトリアを示す。
基本的には海岸線を沿うようにして走るが、場合によっては内陸の道を選ぶことにもなる。
海の景色ばかりでは飽きるので、たまにはヨルロッパ地方の内陸にある街を見るのもいい経験になる。

ノパ⊿゚)「あぁ、問題ないよ。
    何かに急ぐ旅でもないしな」

(∪´ω`)「おっ」

ζ(゚、゚*ζ「本当はホワナイトにも行きたかったんだけど、ちょっと状況が面倒でね」

世界の最北端。
夜のない、白銀の世界。
北極に存在する最北の街であるホワナイトの景色を二人に見せたい気持ちがあったが、彼女たちを巻き込もうとしている問題が懸念材料だった。

ノパ⊿゚)「ティンバーランドだろ、分かってるさ」

世界統一国家という夢を遥か昔から抱き、世界が一度終わった今でもその夢を叶えようと躍起になる集団だ。
これまでに何度かデレシアが潰してきたが、それでもまだなお健在な理由が、どうしても気になっていた。
人の思想が周回するのは分かるが、組織名は勿論だが、デレシアを敵視しているという点において、これまでに相手をしてきたティンバーランドの残党と考えても不思議ではない。
全ての機会において、デレシアはその時代の最高指導者と幹部たちを殺している。

それでもまだ細胞が世界のどこかに生き延びていたと考えると、質の悪い疫病のようなものにしか思えない。
ホワナイトの様な過酷な場所で襲われれば、連れ合いの二人が無事で済まないかもしれない。

(∪´ω`)「ホワナイトはどんな街なんですか?」

地図の最北部に広がる白い大地を指さし、デレシアは笑顔で答える。

553名無しさん:2020/08/24(月) 20:50:21 ID:v9UHRoN60
ζ(゚ー゚*ζ「夜の来ない、白夜の街ね。
      ただ、猛烈に寒いから装備をしっかりしていかないと凍って死んじゃうの。
      いつか皆で行ってみましょう」

今着ている服ではとてもではないが対応できない。
化学繊維と毛皮を使った服を用いなければ、服そのものが凍り付いて破損してしまう。

(∪*´ω`)「はいですお!
       ……白夜って何ですかお?」

ノパ⊿゚)「白い夜、って言葉の通りさ。
     夜は黒いものだろ? だけど、白夜は白いんだ」

(∪´ω`)「お? 何で夜が白いんですか?」

ブーンの感覚、あるいは普通の人間の感覚として夜は暗いものだ。
昔に比べれば今の時代の夜は相当に明るい。
月明かりがない夜でさえ、星の光が頭上に輝いて夜道を照らしてくれる。
それでも、白と呼ぶには流石に無理がある。

ノパ⊿゚)「その場所は太陽が沈まないんだ。
    でも確か、本当に稀に夜になるんだっけか?」

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、一年に数日だけ黒い夜が来るときもあるの。
      でも基本的にはずっと白いわね」

時の流れが変えるのは地球の気候や人間の生活だけではない。
大きな月もその変化の一つであり、宝石箱の様な星空もその一つだ。

(∪´ω`)「どうして太陽が沈まないんですかお?」

ζ(゚ー゚*ζ「いい質問ね。
      でもそれを理解するには、宇宙のことについて知らないと難しいわね」

ノハ;゚⊿゚)「実はあたしも理屈は分からねぇんだ。
     ただ、そういうもんだって聞いたぐらいでさ」

第三次世界大戦によって失われたのは文明だけでなく、人類がそれまでの間に手に入れてきた知識や知恵も同様だった。
限られた人間はダットと呼ばれる道具を使い、過去の知識などを閲覧することが出来るが、学校の授業で教えられる知識にはあまり反映されていない。
天体についての研究は今もされているが、宇宙研究については超大型天体望遠鏡を用いた観察しか行えていない。
白夜などの現象についてはその名称と内容だけが伝えられ、それ以上については研究者になるしか知る術はない。

ζ(゚ー゚*ζ「すっごい簡単に言うと、自然の生み出した偶然の結果ね」

ノパ⊿゚)「なるほどね、そりゃ分かりやすい」

(∪´ω`)「自然ってすごいんですおね」

554名無しさん:2020/08/24(月) 20:50:43 ID:v9UHRoN60
ブーンはその純粋な考え方で、デレシアの言葉を受け入れた。
これがもう少し歳を重ねると、疑問に疑問を重ねて受け入れるのが困難になる。
だがいつか、ブーンにはデレシアの知る限りの知識を伝えたいと思っていた。

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、本当に凄いわよ、自然は」

結局、人間も自然の一部である以上、その自然を越えることは出来ない。
自然の持つ力を利用しなければ、人間は不自由から遠ざかった生活をすることは無理なのだ。
自然の恩恵によって今の時代は成り立っており、仮に何らかの理由で電力を入手できなければ、数世紀も昔の生活に逆行することになる。
それだけでなく、街同士の力関係も崩れ、間違いなく長期にわたる混沌の時代が訪れることだろう。

(∪´ω`)「次はどんな街に行くんですかお?」

ζ(゚ー゚*ζ「大きな目的地はヴィンスね。
      水の都って呼ばれている街で、景色が奇麗な場所よ。
      街中に水路が流れていて、お魚が美味しい街ね」

白と青に彩られた街並みは非常に美しく、道路よりも水路の方が街の人間にとっては一般的な移動経路になっている。
海と共に生きる街であり、水面下で複数のマフィアが縄張りを争っている街でもある。

ノパ⊿゚)「それならさ、今日の晩飯で食ったあれだ……えーっと……何て名前だったっけ?」

(∪´ω`)「あじのひらき、ですかお?」

ζ(゚ー゚*ζ「そう、アジの開きね。
      ヴィンスにはオイル漬けの物ならあると思うけど、干物はあんまりないと思うわ」

干物は魚を内地へと確実に流通させる為に発展した技術であると同時に、旨味を引き出す技術だった。
この街を通過する輸送業者の多くが干物を取り扱っており、別の漁村から仕入れられた干物がここで卸されることが多い。
特に、干物を特産品にしている街の作る干物は他の街とは驚くほど味が違い、ヒートはまさにその干物が気に入っていたのだ。
アジの開き、と呼ばれる干物は旨味が通常のそれよりもはるかに凝縮されており、噛み締めるたびに生まれる旨味は筆舌に尽くしがたい。

ヴィンスは鮮魚が容易に手に入るため、あえて干物にする必要がないのだ。
ただ、ヴィンスは鮮魚を外に輸出する際は缶詰にして加工する。
どちらかと言えば、ヴィンスは缶詰の種類と味が豊富なことで知られている。
漁に出られない程の時化や災害時には、その缶詰が大いに役立つのだ。

彼らの場合、街全体が海水と強風に襲われるため、家から外に出ることが出来なくなる。
そのため、家の中にこもって数日、あるいは数週間耐えなければならないことになる。
必然的に家屋は増水した水路に対応できるよう、一定の水量を越えた段階で水に浮くように作られている。
街全体が海に沈むことを回避するための工夫であり、これまでに多くの災害を乗り越えてきた知恵だった。

しかし、道だけはどうしようもない。
水路が溢れ返れば道路も水没するため、街の人間達は移動に対して大幅な制限を受けることになる。
一時的ならばまだしも、一か月以上にわたって街が水没することもある。
そうなった場合に缶詰は極めて重要な食料となるため、どの家庭にも必ず缶詰の保存食が備蓄されているのだ。

ノパ⊿゚)「そっか……
     アジの開きが結構気に入ってさ、また食べられたらいいなって思ってよ」

555名無しさん:2020/08/24(月) 20:52:03 ID:v9UHRoN60
ヒートが料理の好みを言うのは珍しい事だった。
美味しいということはあったが、もう一度食べたいというのはこれが初めてだ。
オセアン出身ではあるが、あの街にはこうした料理の伝統はあまりない。
魚を食べる機会は多くあっただろうが、加工された魚は珍しいのだろう。

ζ(゚ー゚*ζ「保存がきくから、後で私が買ってくるわね。
      丁度買い足さないといけないのもあるの」

デレシアは調理と言うほどの事をしていない。
ただアジの開きを購入して、グリルで焼いただけだ。
それでも時間が生み出した旨味はヒートを魅了するには十分だった。

(∪*´ω`)「ぼく、また豚汁食べたいですお」

ブーンはデレシアが作った豚汁をいたく気に入ってくれていた。
簡単な材料で作ることが出来る上に、体を温める豚汁をブーンは一人でヒートの二倍も食べていた。

ζ(゚ー゚*ζ「なら、お味噌も買ってこないとね」

味噌はこの街で買い足さなければ他の街で手に入る保証がない。
イルトリアに着けば買えるが、それ以外の街では大豆を育てている場所が少なく、尚且つ味噌を作っている街は内地がほとんどだ。
使用する食材は基本的にどこでも買えるような物ばかりだ。
豚汁自体も調理後に魔法瓶に入れて運搬すれば、移動途中でも食べることも出来る。

ノパ⊿゚)「なんだかわりぃな、注文ばっかりして」

ヒートは己の傷が癒えるまでの残り僅かな期間の重要性を理解していた。
デレシアと変わって自分が買いに行くと言うことも出来たが、彼女は完治するまでは無暗に争うリスクを背負うことはしないのだ。
ケガ人は大人しくしているのが最も好ましい姿勢なのである。

ζ(゚ー゚*ζ「いいのよ、他にも野暮用があったの。
      先に二人で寝ててもらってもいいかしら?」

(∪´ω`)「はいですお」

ノパー゚)「よっしゃ、あたしが何か話を聞かせてやるよ」

ζ(゚ー゚*ζ「あら、ブーンちゃん羨ましいわね。
      後で私にも教えてもらえるかしら?」

ブーンを抱きしめ、頬ずりをする。
ブーンもそれに応え、頬ずりをした。

(∪*´ω`)「おっ!」

三人はそれから歯を磨き、ヒートとブーンが寝室に向かった。
着替えを済ませたデレシアはブーンの額に口付け、ヒートと拳を軽く合わせた。
モーテルを出ると、そこは夜の世界だった。
目に付く明かりの多くがネオンの光を放ち、出歩く人間の様相は皆堅気の人間ではない。

556名無しさん:2020/08/24(月) 20:52:24 ID:v9UHRoN60
切り取られた夜空を見上げ、そこに広がる星の明かりを眺めた。
星空の美しさは昔と比べて格段に向上していた。
特に都会から離れたこの地域の夜空は際立って美しい。
街灯と星の明かりが街を幻想的な姿に照らし出し、日中では決して見ることのできないタルキールを見せてくれる。

カーキ色のローブを纏い、デレシアは街の最深部である市長の邸宅方面に向かっていた。
一見すれば道中の駅の様な存在のタルキールでも、イルトリアとジュスティアの人間を雇うだけあり、自治をする存在がいるのだ。
その中核にいるのがタルキールを代々統べるヴォル家だ。
デレシアはひとまずヴォル家の近くにあるバーに入り、カウンター席に着くと同時に注文した。

客はデレシア以外に三人だけだった。
店内にはフリージャズが控えめに流れており、静かな店だった。

(<::ー゚::::>三)「アードベッグをストレートで。
         後はチョコレート」

その格好にバーテンダーは一瞬たじろいだ様子だったが、短く頷いてすぐに注文の品を用意し始めた。
深緑色のボトルからショットグラスに適量が注がれ、水と共に目の前に置かれる。
オレンジピールにチョコレートを纏わせたものが小皿に盛られ、小さなフォークが添えられる。
フードを外し、デレシアは礼を言った。

ζ(゚ー゚*ζ「ありがとう」

女性の腰を思わせる湾曲したグラスを傾け、琥珀色の液体を光に当てる。
ほんの少しだけ口に含み、ゆっくりと味わい、飲み下す。
圧倒的なまでの比類のない香りが鼻孔を突き抜け、デレシアは思わず微笑んだ。
チョコレートをフォークで突き刺し、食べる。

苦みの強いチョコレートの下に隠れている砂糖漬けのオレンジピールが、アードベッグに負けない程の力強い香りを放つ。
ヴォル家の近くに店を構えるだけあって、どこかの街の特産品を仕入れているのだろう。
酒とつまみの美味い店は信頼に値する。
高い確信をもってこの店を選んだが、その選択は正解だった。

デレシアは何も喋らず、バーテンダーも喋ることは無かった。
他にいる三人の客達も静かにそれぞれの時間を過ごし、夜が更けていく。
そして、店の扉が開かれたのはデレシアが来店してから一時間が経ってからのことだった。

(●ム●)

夜だというのに、黒いサングラスをかけた男だった。
その男が普通の男ではないのは、後ろに従えた二人の屈強な男たちが物語っている。
スーツを着た彼らの左胸は膨らんでおり、そこに潜んでいるのが拳銃であるのは疑いようがない。

(●ム●)「あ……」

グラスをカウンターに置き、デレシアは銃を向けるように、静かに声をかけた。

ζ(゚ー゚*ζ「どれだけぶりかしらね、ルルコ・ヴォル」

557名無しさん:2020/08/24(月) 20:52:50 ID:v9UHRoN60
若干の間があった。
それは目の前にいるデレシアの姿とかけられた声を頭の中で処理し、現実のものであると受け入れるための準備時間にも思えた。

(●ム●)「う、嘘だ……嘘だろ、おい……!!」

ζ(゚ー゚*ζ「一度外に出ましょうか」

「おい、お前何なんだ」

後ろに控えていた男が一歩前に出て、デレシアを威圧するようにして見下ろす。
デレシアはそれを一瞥し、それからすぐに視線をルルコに向けた。

ζ(゚ー゚*ζ「ここで話をするような内容じゃないんだけど」

「何シカトしてん――」

(●ム●)「おい、止め――」

双方の意思疎通は僅かにずれていた。
まず、ルルコの警告はあまりにも遅く、男の耳はあまりにも鈍かった。
そして、デレシアの反応はあまりにも早かった。
デレシアは立ち上がりざまに男の顎に拳を掠めさせ、脳震盪によって男の意識を彼方へと飛ばした。

倒れかけた男を片手で受け止め、デレシアは改めてルルコに目を向けた。

ζ(゚ー゚*ζ「せっかくの静かなお店なのだから、それを乱す必要があるかしら?」

(●ム●)「……分かった」

その返事に満足したデレシアは微笑を浮かべ、受け止めていた男をもう一人の男に投げ渡した。
カウンターに多めの硬貨を置き、店を出る。
店の外に停められていた黒塗りのセダンの扉が開かれ、そこに招かれる。

(●ム●)「俺のオフィスで話そう」

ζ(゚ー゚*ζ「それがいいわね」

車での移動時間は極めて短かったが、その間に向けられた敵意と畏怖の数は極めて濃厚だった。
だがそれらはデレシアの気に掛けるほどのものではなかった。
バーで倒した男も、車中でデレシアに殺意を向ける男も、明らかにイルトリア出身の人間が放つそれだった。
イルトリア出身の人間はジュスティア出身の人間とは相反する特性を持っている。

ジュスティア出身の人間が集団の強さを持つのに対し、イルトリア出身者は個の強さが際立つ。
それに伴い、彼らの行動傾向も必然的に似通ってくるのだ。
軍隊に長い間所属していれば、嫌でも上官の指示に従うことが身に染みてくる。
しかし、従軍経験が浅く、己の力に過信する人間ほど個人の判断を好む傾向にあるのだ。

558名無しさん:2020/08/24(月) 20:53:14 ID:v9UHRoN60
もしもバーでデレシアに敵対した男に十分な従軍経験があれば、少なくともデレシアに掴みかかろうとすることは無かったはずだ。
警備関係の会社にいる人間の多くは、イルトリア軍に所属しない道を選んだ人間であり、その練度は確かなものだがある一定の基準を越えはしない。
実戦によって身に着く保身のための感覚は戦場以外ではそう簡単に学べるものではない。
その点で言えば、周囲にいる男たちには緊張感の度合いが不足しており、デレシアとの力量の差を明確に理解していないきらいがあった。

だが己が挑もうとする相手との力量の差を把握するだけの本能は残されているらしく、ヴォル邸に到着してからもデレシアに危害を加えようとする人間はいなかった。
ヴォル亭は他の民家と同様、聳え立つ岩肌を利用した建物だった。
二階建ての質素な外見とは裏腹に広々とした内装をしており、調度品などは高級品と思わしきものがふんだんに使われている。
岩肌を器用に削り、見た目の二倍近くの広さを確保しているのだろう。

身辺警護を担当している人間が通路で目を光らせ、常に互いの姿が視界に入るように配備されている。
流石にこの街を統べるだけあり、身の回りは手堅い警備態勢を敷いている。
執務室に案内され、デレシアが入ると同時に警護係が扉を閉めた。
ルルコは皮張りの椅子に腰かけ、執務机に肘を乗せた。

(●ム●)「俺の記憶が正しければ、あんたはデレシアだろ?」

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、そうよ。
      よく覚えていたわね」

(●ム●)「じいさんの車を爆破した女を忘れるわけないだろ。
      今での我が家のブラックリストのトップだよ」

数十年前のことなのに覚えているとは驚きだった。
当時、彼の祖父が路地裏で市民相手に小遣い稼ぎをしているところに出くわしたデレシアと揉めた結果、彼の車は爆発することになった。
どちらかと言えばデレシアが巻き込まれた一件だったが、それがきっかけで市長の世代が交代したのである。
警戒に値する人間を代々引き継いでいく姿勢は好感が持てた。

ζ(゚ー゚*ζ「爆破なんてしていないわよ。
      勝手に爆発しただけよ。
      なら、ここに私を通した理由は何かしら?」

(●ム●)「あんたに謝罪の機会を設けたとでも思うか?
     冗談じゃない。
     俺は自殺志願者じゃないんだ、そんな機会は作るわけがないだろ。
     むしろ、俺があんたに訊きたい。

     何をしにこの街に来たんだ?」

イルトリアとジュスティアの勢力圏がぶつかる中間点を統べるためには、柔軟な思考が必要になる。
どちらの勢力も雇い入れるためには、柔軟性に加えてプライドの放棄が必要不可欠だ。
この男は火薬庫の様な街を法治する男であり、その辺りは十分に心得ているようだった。
何よりもそれを物語っていたのが、デレシアに対して彼は最初から攻撃的な意思を示していない点だった。

大抵の統治者は己の力を過信し、デレシアに危害を加えようとする。
それをしなかっただけ、流石ヨルロッパ地方の入り口にある街を統率する人間だと言える。

ζ(゚ー゚*ζ「道の途中だったから寄っただけよ」

559名無しさん:2020/08/24(月) 20:53:34 ID:v9UHRoN60
(●ム●)「そうか……
     なら、もう一つ質問だ。
     あの店にいたのは、俺を待っていたからか?」

ζ(゚ー゚*ζ「そうね、あなたに訊きたいことがあるの」

(●ム●)「何だ」

ζ(゚ー゚*ζ「最近、何か変わった動きはないかしら?」

ジュスティア方面ですでにティンバーランドの動きが観測できたということは、ヨルロッパ地方でもその動きがある可能性が高い。
旅を続けるためには彼らの思惑とその布陣を把握し、潰すための情報を入手することが最も賢いと言える。
言うなれば、歩く道に落ちている石を知覚するようなものだ。
相反する二つの勢力圏がぶつかるこの土地ならば、何かしらの情報が得られると見込んでの質問だった。

(●ム●)「さぁな、俺がそんなの知るわけないだろ。
     知ってたとして、どうしてあんたに教えてやる必要があるんだ」

ζ(゚ー゚*ζ「そうね…… 教えてもらう義理は無いわね。
      義理がないなら、力づくで訊くだけよ」

「生意気言ってんじゃねぇぞ、女」

我慢の限界とばかりに、扉の前に無言で陣取っていた男が一歩前に出る。
佇まい、放つ雰囲気、そして自信に満ちた語気。
紛うことなきイルトリア人だ。

ζ(゚ー゚*ζ「部屋から出て行ってもらえるかしら?」

「ホプキンスをやったみたいだが、俺は女だろうが容赦しねぇぞ」

ζ(゚ー゚*ζ「私も容赦する予定がないの。
      二度は言わないわよ」

(●ム●)「ダニエル、悪いことは言わない。
      部屋を出て行ってくれ」

このままではどうなるのか、ルルコは一度デレシアの実力を見ただけで理解していた。
それが彼らの違いだった。

「女になめられるのが俺は嫌いなんです、市長。
特に、こういう勘違いした女―――がっ?!」

ルルコとの会話中も、男はデレシアを睨み続けていた。
それは彼が油断をしていなかった証だが、デレシアの後ろ蹴りを止めるだけの反応速度を持ち合わせていなかったのが男の不運だった。
デレシアよりも一回り程大きな体が冗談のように宙を舞い、凄まじい勢いで本棚に叩きつけられる。
衝撃で本棚から本が飛び出し、次いで、本棚が男の上に倒れた。

ζ(゚ー゚*ζ「殺してはいないわよ」

560名無しさん:2020/08/24(月) 20:53:58 ID:v9UHRoN60
運が悪ければ骨が何本か折れているかもしれないが、とは言わなかった。

(●ム●)「くそっ!! 穏便に済ませようとは思わないのか!!」

先ほどまでの余裕が一瞬で失われ、ルルコは狼狽した様子を見せた。
恐らく、デレシアがこの場で暴れだすのでは、と危惧しているのだろう。
それは相手の出方次第だが、デレシアは事を荒立てる為にここに来たわけではない。

ζ(゚ー゚*ζ「思っているわよ、そっちが穏便にしていればね。
      そして、正直に話をするのなら、私は誰も殺さずにここを出て行くわ。
      それと、机の下のショットガンから手を離したら?
      脳幹を吹き飛ばされたいのなら、止めはしないけど」

ルルコはあきらめたように両手を机の上に出し、降伏の意思を示した。
不審者を行動不能にするためのショットガンであれば、装填されているのは広範囲に攻撃が可能な散弾だ。
そして、デレシアの纏っているローブは仮に撃たれたとしても、散弾程度では貫通することはできない。
それが本心かどうかの判断はさておき、無駄弾を使わないで済むのであればそれが一番だ。

(●ム●)「あんたには関係のないことぐらいしかない」

ルルコは震える声でそう答えた。
権力者、あるいは支配者の仮面は剥がれ落ちていた。

ζ(゚ー゚*ζ「それは私が判断するわ。
      変わったこと、あるんでしょう?」

(●ム●)「トラッカーの取引が増えてるぐらいで、詳細は俺も知らん。
      知ってるだろ、この街は別にそれを咎めることはしないんだよ」

ζ(゚ー゚*ζ「トラック運転手の取引、っていうところまで掴んでいるのにどうして詳細を知らないの?」

街の法律で取り締まっていないならば足を踏み込む必要はない、という言葉は確かにその通りだ。
だがそれは不自然な言葉でもあった。

(●ム●)「そりゃ、物を確認してないからだよ。
      危険物を取引しようが何だろうが、俺の街の不利益にならなきゃいい」

ζ(゚ー゚*ζ「貴方は知らない、ってだけのことなのね。
      知っているとしたら警察かしら?」

(●ム●)「分かってるんなら最初からそっちを訪ねてくれ。
      だけどな、頼むから揉め事は勘弁してくれよ。
      ジュスティアともイルトリアとも、今後ともいい関係でいたいんだ」

ζ(゚ー゚*ζ「嫌なら、貴方が警察に連絡を入れて確認して。
      今すぐに」

最後の言葉を強めに言うと、ルルコは観念した風に深い溜息を吐いた。

(●ム●)「……嫌だって言ったら、きっと酷いことになるんだろ」

561名無しさん:2020/08/24(月) 20:54:29 ID:v9UHRoN60
ζ(゚ー゚*ζ「あら、よく分かっているわね。
      久しぶりに会ったとは思えないぐらいの聡明さだわ」

(●ム●)「目の前でイルトリア人を蹴り倒す奴を見れば、馬鹿でも分かる。
      少し待ってろ」

机の上にあった電話機を使い、連絡を入れる。
それからいくつかの問答を行い、数分でルルコの電話は終わった。
ジュスティア警察は些細なことでも記録に残し、本部の捜査にも利用するため、その街の契約で合法と判断されていることでも資料が残されていることがある。
折り返しの電話が来たのはそれから十分ほど経過してからで、その報告受けるに際し、デレシアはハンズフリーモードに切り替えるよう目線で伝えた。

『トラッカーの間で行われている取引への介入権がないので、詳細はお伝え出来ません。
ですが、植物関係の物資のやり取りが頻繁に行われているとの報告があります。
植物の種類については不明です、何せ、検査対象ではないので』

(●ム●)「ご苦労、何か分かったら教えてくれ」

電話を切り、ルルコは電話機を指さした。

(●ム●)「言っただろ、詳細は知らないって」

ζ(゚ー゚*ζ「植物の取引、ねぇ」

(●ム●)「もう十分だろ? 頼むから、大事にならない内にこの街から出て行ってくれ」

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、そうするわ」

入ってきた扉を開き、デレシアは堂々と正面玄関から建物を後にした。
後ろから誰かが来る様子はなかったが、万が一を考え、モーテルへの帰り道はわざと遠回りをすることにした。
このままモーテルに戻ってもいいが、どうにもデレシアには気がかりなことがあった。
タルキールの地下に設けられた駐車場の規模は、どう考えても理屈に合わない。

以前にこの街を訪れた時、地下駐車場は今よりもはるかに小規模だった。
駐車場を作るためには地下を掘り、加工する必要がある。
屋外に駐車場を設ければ費用を抑えられるにも関わらず、それだけの工事を行うだけのメリットがどうしても見いだせない。
つまり、地下駐車場は別の作業の副産物である可能性が高い。

また、この街が非正規の品を取引する拠点となっているのなら、この街自体が輸出する品があっても不思議ではない。
トラッカーの取引が増えていることを把握しているということは、その取引現場に居合わせることが多いということ。
少なくとも、先ほどの電話の内容を聞く限りでは、市長と警察はその取引に関してあまり情報のやり取りをしている感じではなかった。
ならば何故、市長はトラッカーの取引が増えていることを把握していたのだろうか。

街の治安維持に必要な情報の一環として報告させていたにしては、その情報に対して大した興味を持っている風ではなかった。
直接的な、あるいは間接的な関与をしているからこそその情報を知っていたのではないだろうかと、デレシアは推測した。
この街が輸出する品は、大抵どこの土地でも手に入るような物ばかりで物珍しさはない。
普通の輸出品であれば、だが。

562名無しさん:2020/08/24(月) 20:54:49 ID:v9UHRoN60
ここはタルキール。
かつては様々な軍事的廃棄物を保管するための施設が存在していたことが原因で、地下には現代化学では作り得ない物質が眠っている。
それを輸出品として密かにトラッカーに運ばせているのだとしたら、地下駐車場の巨大さも市長が情報を把握していることにも合点がいく。
幸いにしてトラックは地下駐車場に集まるため、地下で採掘した様々な物は警察に目撃されないように取引することが出来る。

ζ(゚ー゚*ζ「……」

少しの時間、デレシアは思案した。
地下で手に入る化学物質は使い方によっては人の生活を便利にするが、基本的な用途は兵器への転用しかない。
仮にルルコが知らずにティンバーランドの片棒を担いでいたとしたら、この街から輸出されていく化学兵器は世界中の街に運び込まれる。
部品を分けて輸出すれば無害なガラクタとして多くの街を素通りし、一か所に集めて組み上げることが可能になる。

汚い爆弾を作る為に必要な物質は、この近辺の土地では多く採掘される。
タルキールではそれが特殊な容器に収まった状態で発見されやすいため、厳重なチェックを敷いていない街に運び込むのはあまりにも簡単だ。
そして、その汚い爆弾はティンバーランドの目標達成には極めて優位に働くのだ。
仲の悪い街同士が和解するよりも、片方を滅ぼした方が彼らの目的は達成しやすくなる。

何より、彼らの理想に異を唱える街に壊滅的な打撃を与えるには化学兵器が最も容易な手段だ。
潰しておいても損のない芽ではある。
仮にタルキールがティンバーランドに加担していないとしても、結果的にここから外部に輸出された物がそれを手助けすることになる。
全てはデレシアの推論でしかないため、この考えが間違っている可能性は大いにあり得る。

フードを目深にかぶり直し、デレシアは最寄りの地下駐車場への入り口に足を向けた。
夜も深まっていることもあってか、すれ違う人間はいなかったが、地下からは絶えず熱気が伝わってきている。
運輸業が眠ることは無い。
血液のように物資と金を行き来させる、現代社会に欠かせない存在だ。

駐車場は車の往来があり、換気扇の稼働音に交じって聞こえるタイヤが地面を踏みしめる音やエンジンの音が停まることは無い
大型コンテナを牽引するトラックの間では運転手同士の交流が見られるが、中には明らかに何かを積み替えている人間もいた。
デレシアの跫音は周囲の騒音にかき消され、その姿はトラックの影に隠れて誰にも見咎められることは無かった。
整備用昇降機に乗り込み、更に地下へと降りる。

最下層に到着し、そこに広がる光景を見て、デレシアは自分の予感が正しかったことを認識した。
確かにその空間も駐車場になっていたが、大型の重機が並び、岩盤を掘削する機械とは明らかに異なる物が幾つもあった。
そして、その駐車場の先には下に向かって螺旋状に掘り進めている光景が広がっている。
それは間違いなく、採掘現場で見られる露天掘りと呼ばれる採掘方法独自の光景だった。

予想が当たっていたことに対し、デレシアは特に何か感情を揺さぶられたわけではなかったが、多少のリスク管理をするべきだと考えた。
駐車場に置かれているベルトコンベアと空調機の操作パネルを正確な手順で操作し、昇降機に乗ってその場を後にした。
通常の駐車場に戻り、今度は整備用昇降機のボタンを操作した。
これでしばらくの間、彼らの作業が滞ることは間違いない。

誰にも見られることもなく、デレシアは駐車場を出て行った。
そして時間をかけて買い物を済ませ、モーテルへと戻る。
モーテルの扉を静かに閉めた時、日付が変わるまであと一時間を切っていた。
跫音を立てないよう明かりの消えた部屋へと戻り、二人が眠るベッドの端にゆっくりと横たわった。

563名無しさん:2020/08/24(月) 20:55:10 ID:v9UHRoN60
カーテンから差し込む夜空の光は柔らかく、淡い。
モノクロームの世界の中でブーンはヒートの腕に包まれるようにして眠り、ヒートはブーンをそっと抱きしめている。
微笑ましい二人の姿を慈母の目で見守りながら、デレシアも眠りに着くことにした。

――その夜、タルキールの地下採掘場は阿鼻叫喚の渦と化した。

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:,:,::. . .   '"´  ..::: : :::: '"~: : : : : : ⌒'ー-=ニ.._:::::::::_,,.. -‐ '' "´   ,    .:  ̄~~""''
September 11th AM04:00
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

(´<_`;)「な、な……ん……」

朝日に照らされた畑の予定地を見て、オットー・スコッチグレインは絶句していた。
耕し、整えた地面は無残にも掘り返され、柵も倒されている。
それだけならまだしも、獣の糞尿の悪臭が漂い、目も当てられないような状況と化していた。
一晩の内に何かしらの獣に荒らされたのは間違いないが、何故荒らされたのかが見当もつかなかった。

まだ何も植えていない畑を荒らされる理由が思い浮かばない。
餌になるような物がないのに獣が畑を荒らす道理がない。
何より、荒らすべき畑は他にもあるのに、何故実りのない畑が荒らされたのか、オットーは混乱していた。
とにかく、彼は悪臭を放つ糞尿を破棄し、荒れた土地を慣らし始めた。

発想を変えれば、実際に畑として機能を果たす前で済んだだけ奇貨と言うべきだろう。
気を取り直して畑を整え始めた時、小さなカプセルが掘り返された土の中に埋まっていることに気づいた。
拾い上げてみると、それは金属の表面に複数の穴が開いていた。
古いものではない。

むしろ、まだ真新しいものだった。

(´<_` )「何だ、これ……」

564名無しさん:2020/08/24(月) 20:55:32 ID:v9UHRoN60
上着の胸ポケットにしまい、一度家に戻る。
まだアニーとイモジャは眠っているため、静かに自室に戻り、拾ったものを机に乗せる。
今更ながら手袋をし、拡大鏡を使ってそれを調べる。
まるで見たことのない物だが、間違いなく金属製の物だ。

細かなひっかき傷が表面にあり、複数の穴の奥には土が入り込んでいる。
白紙の上にそれを乗せ、ピンセットを使って穴の中身を全て出していく。
だが出てきたのは土だけで、他には何も出てこなかった。

(´<_` )「ふーむ……」

何故このようなものが畑に見つかったのかは分からない。
そしてこれが畑を荒らした獣と結びつくのかも分からない。
獣害に会うことは珍しくはないが、それは農作物が実った畑に限る話だ。
畑で発見した物が何なのか、オットーは更に細かく調べることにした。

そのためには道具が必要になるため、部屋にある電話機を使ってフィンガーファイブ社に連絡を入れることにした。
しかし、電話は繋がらなかった。
内部用の回線につなげば二十四時間応答があるはずだが、それすらない。
本体に電話線はつながっており、外れている風でもない。

リビングに降り、受話器を持ち上げる。
それもやはり不通になっていた。
流石に不審に思い、オットーは天井裏から屋根に上がって電話線を確認することにした。
しかし、家に引かれている電話線には異常は見られなかった。

――日常が、少しずつ壊れていく。

565名無しさん:2020/08/24(月) 20:55:55 ID:v9UHRoN60
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                          /    September 11th AM10:02
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ジュスティアに入るためには、スリーピースと呼ばれる三重の壁を通過する過程で、厳重な検問を越える必要があるのは有名な話だ。
壁の外で列を成す難民であっても、条件さえ満たせばジュスティアに入ることは許可される。
無論、世界の範を自称するジュスティア内での違法行為は全て処罰の対象となる。
観光目的の人間は最大で一か月ほどの滞在を許可されるが、難民は三日を上限としてこの街を通過しなければならない。

その滞在期間の数字は当然、スリーピースの審査時に伝えられ、厳守することを誓約しなければならない。
この日、人生で始めてジュスティアを訪れた男は、無事に一か月の滞在許可が下りたことに安堵し、深い溜息を吐いた。
長く伸びた黒髪が太陽の光を吸収し、早速頭が熱くなる。
碧眼が見上げる空は、壁の外も内側も変わりがなかったが、表現しがたい解放感を味わうことが出来た。

(;'A`)「ひゅう……」

ドクオ・バンズは自他ともに認める、度量の小さい男だった。
だが何よりも他者を想う心に溢れ、必要とあらばその命を投げ出す覚悟があると自負している。
初めて見上げるジュスティアの街並みは、ドクオにとって新鮮味に溢れていた。
夏の空の下、正義の都を自称する街の姿は白く輝いて見える。

道端にはゴミ一つ見つからず、すれ違う人々も心なしか、真面目そうな顔つきをしている。
それはジュスティアだから、という先入観で世界を見ているからなのか、まだ興奮が冷めていないドクオにはまだ分からないことだった。
首から提げた手のひら大の許可証を手に取って眺める。
観光目的として申請し、渡された許可証には彼の写真が貼り付けられ、水などで破損しないように加工されていた。

常に携帯・装着することが義務付けられているのは、街中での利便性を考えてのことだそうだ。
観光客限定の割引を受けることもそうだが、街の人間がそれを持つ人物を特に注意して見守ることが出来る。
こうした小さなもの一つをとっても、ドクオがこれまでに訪れた街とは違い、細かな部分への配慮が見られる。
同時に、この許可証は常に携帯することでドクオの身分を保障するものであり、これを失えば彼は犯罪者とほとんど変わりのない扱いを受けることになるだろう。

566名無しさん:2020/08/24(月) 20:56:19 ID:v9UHRoN60
間違っても紛失しないよう、ドクオはその許可証を肌着の下に隠した。
街の中には絶えず涼風が吹き、夏の強い日差しによる熱を多少は和らげてくれていた。
壁に囲まれた街にどのようにして風が吹き込んでくるのか、ドクオには皆目見当もつかなかった。

(;'A`)「さて、何をしようか」

街で行うべき彼の任務の詳細はまだ伝えられておらず、ただ、オアシズで受けた傷が癒えた後にジュスティアを訪れるよう指示があっただけだった。
彼はティンバーランドの中でも新参の男であり、戦闘力を買われて受け入れられたわけではなかった。
ビロード・コンバースがそうであるように、彼には戦闘以外の役割があるのだ。
観光用の地図を広げながら目抜き通りを進み、ジュスティアを象徴する建物、ピースメーカーを正面から見上げた。

多くの重鎮たちがその巨大な建物内で会議を行うだけでなく、その主な存在の目的は街の管理だ。
公共事業の運営は勿論、街に出入りする人間の管理も行っているという。
スリーピースを通過する人間の情報は逐一保存され、警察の捜査にも利用される。
顔写真とその他の情報は電子情報管理機器に蓄積され、半永久的に残されると聞いたことがある。

滞在許可の期限を破った人間は警察の捜査対象となり、すぐに見つけられ、二度とジュスティアに入ることを許されなくなる。
難民の受け入れは一切行っていないにも関わらず、充実した社会福祉制度を受けたいがために、多大なリスクを冒して街に入り込む難民は後を絶たない。
無論、難民に対しては一切の社会福祉制度は提供されておらず、偽造の許可証を用いて保証を受けてこの街に住み着くのだそうだ。
せっかくなのでピースメーカーをもっと近くで見ようと、ドクオはそのまま歩き続けた。

通りを歩きながら、ドクオは周囲に視線を巡らせる。
露店や出店の類は勿論だが、物乞いも見当たらない。
大きな街になると目立つそういった負の部分も、ジュスティアの大通りでは見られない。
優れた治安維持の賜物なのか、それとも、負の部分は別の場所にあるのか。

いずれにしても、それが大通りに出てこないのは間違いなく街の統治が成功している証だ。
日陰に生きる者が日向に出てくることになれば、それは街の境界線を曖昧にし、治安の悪化に影響を及ぼす。
治安維持を完全に放棄した街になると、例えそれが目抜き通りであろうとも、物乞いと娼婦に溢れ返っている。
視線を前に戻すと、ドクオは妙な空気が漂っていることに気が付いた。

('A`)「ん……?」

一見すれば、平和な街そのものだが、争いの前のピリピリとした空気が漂っている。
その判断基準となったのが、不自然に立ち止まる人間が心なしか同じ場所に集まっていることと、彼らの足元に共通して大きなカバンが置かれていること。
そして、互いに何か目配せをしながら、腕時計に目を向けていることから、答えは自ずと導き出される。
時間か、あるいは誰かの号令を待つ人間の動きだ。

ピースメーカーの正面には武装した警官が十人ほど並び、不正侵入防止用の背の高い柵に囲まれて守られている。
柵の前にはAクラスの棺桶を背負った重武装の警官が五人立っており、襲撃者が現れても即応できるようになっていた。
それを知っていながら何かを起こそうとするのであれば、暴力的なことではない事になる。
数秒後、ドクオの予想は現実の物となって彼の考えが正しかったことを証明した。

(-゚ぺ-)つ中「我々は、ジュスティア政府の行いを断じて許さない!!
        政府は正義の名のもとに、難民に対しての保障を拒絶し、人権を無視している!!」

拡声器と共にプラカードを取り出した男が、大声で叫んだのをきっかけに、その周囲にプラカードを掲げる集団が姿を現す。

567名無しさん:2020/08/24(月) 20:56:42 ID:v9UHRoN60
(-゚ぺ-)つ中「難民の無期限の受け入れを!!
        速やかに手厚い保障を!!
        生きる権利を保障しろ!!」

ΩΩΩ<難民の人権を守れ!! 正義を守れ!!

集団は同じ主張を繰り返しながら、車道に広がって行進を始める。
広い道路とはいえ、突如現れた集団にいら立った車がクラクションを鳴らして威嚇をする。
しかし集団はその音が聞こえていないかのように、牛歩の速度でピースメーカーを目指して行進を続ける。
その光景を見ながらも、ピースメーカーの前に立つ警官たちは、微動だにしなかった。

すれ違う人々は迷惑そうに集団を一瞥し、距離を取った。
ドクオと同じように足を止め、その集団を見つめている人間はほとんどいなかった。
そのため、カメラのシャッターを切る唯一の男に気づくのに、時間は全く必要なかった。

(-@∀@)「うはぁ、ジュスティアでデモですか」

分厚い眼鏡をかけた浅黒い肌の男はそう言いながら、シャッターを切り続けていた。
アングルに納得がいかないのか、その場から駆け出し、集団の間を縫うように進み始めた。
何故かその男のことが気になったドクオは、男の後を追うようにして駆け出した。
集団を抜けると、その先で男はカメラを構えて撮影をしていた。

(;'A`)「おいあんた、危ないぞ!」

ドクオはカメラ男に声をかけた。

(-@∀@)「へ?」

聞こえていないのか、男は一瞬だけ動きを止め、撮影を再開した。
多少の苛立ちを覚えながら、ドクオは男の傍に駆け寄り、集団を指さして言った。

(;'A`)「こういう輩には関わらない方がいいって」

(-@∀@)「あっ、ご心配ありがとうございます。
      でも警察がすぐそばにいるし、大丈夫ですよ」

男は後ろ向きに歩きつつ、集団を横から撮影する位置に着いた。
その動きはドクオが思っていたよりも俊敏で、安定感があった。
ついに集団はピースメーカー前に到着し、プラカードと大声で主張を続けた。
気が付けばドクオもカメラ男も、警察とデモ隊の間に挟まれる形になってしまっており、抜け出すのも難しくなっていた。

(;'A`)「うあちゃぁ……」

(-@∀@)「あはは!! やった、撮り放題!!」

確かにこの場は最前線であり、その目に映る全てが狂気的なまでの熱気に包まれた映像。
写真家冥利に尽きる展開に、男は嬉々としてシャッターを切り続ける。

(;'A`)「なぁ、流石にこのままだとマズいだろって……」

568名無しさん:2020/08/24(月) 20:57:07 ID:v9UHRoN60
(-@∀@)「火傷するぐらいじゃないといい写真は撮れないんですよねぇ!!」

その目は爛々としており、明らかにこの状況を楽しんでいた。
シャッター音とデモ隊の怒号は花火のように交差し、それを受ける警察官の表情は僅かな顰め面を浮かべているだけだった。
片や熱狂的、肩や冷静沈着。
双方の感情の差異は、あまりにも乖離しすぎており、不気味ささえ感じられる。

(;'A`)「なぁって、もうここから引き上げよう、流石に巻き込まれたらマズいって」

(-@∀@)「いやいや、それこそ絶好のチャンスなんですって」

男はまるで危機感を覚えていないようで、逆に笑顔でそんな言葉を口にした。

(;'A`)「チャンス?」

(-@∀@)「ワンショット・ワンチャンス、ってね。
      今も十分魅力的な写真なんですけど、一線を越えた時の興奮が足りないんですよね」

(;'A`)「……あんた、頭おかしいだろ」

(-@∀@)「そうかもしれませんね。
      でもね、写真一枚が世界を変えることだってあるんですよ」

その言葉は、男にとっては何気ない一言だったのかもしれない。
しかし、ドクオにとって見ればこの上なく納得のいく言葉だった。
誰かが絞り出した勇気が、思いやりが、あるいは行動が世界を変える。
男の場合はその信念を写真に宿し、ドクオは行動に伴わせるだけの違いだ。

男は命がけで写真を撮影し、その写真が何かを変えると信じているのだ。
呆れるほどの強い信念を前に、ドクオは先ほどまで抱いていた呆れの感情から転じて、男に尊敬の念を抱いた。

(-@∀@)「あー、むしろお兄さんこそちょっと危ないですよ」

('A`)「え?」

(-@∀@)「そろそろ一線超えそうな匂いがしますよ」

その言葉を証明するように、確かに、周囲の空気が先ほどまでよりも張り詰めた物になっていた。
何かが変わった、と確認するよりも先に、男のカメラはその変化の根源に向けられている。
追うようにしてカメラの先を見ると、デモ隊の中でもひときわ声の大きい男女が一歩踏み出し、警官たちの正面で怒鳴り始めていた。
歳は四十代後半だろうか、若さと老いを感じさせる険しい顔つきをしており、手に持ったプラカードには権利と自由を、と書かれている。

(-゚ぺ-)「あんたら正義を名乗ってるのに、こんな差別を許すのか!!
     難民には生きる権利があるんだ、今すぐこんな横暴を止めろ!!」

(-@∀@)「やった! キタキタキタ―――!!」

ノ゚レ_゚*州「そうよ!! こんな最低な行為、誰が考えても異常よ!!」

(■ム■)「……」

569名無しさん:2020/08/24(月) 20:57:30 ID:v9UHRoN60
極めて近い距離で怒鳴る男女だったが、警官は迷惑そうに一瞥するだけで、何も言おうとしない。
それが男の怒りに触れたのか、警官を小突いた。
刹那、空気が一変した。
男のカメラは相変わらずシャッターを切り続け、その瞬間を切り取って保存する。

(-@∀@)「いいねぇ!! いいねぇ!!」

警官の肩に触れた手が掴まれ、ひねり上げられ、そして男は一瞬の内に組み伏せられた。
そして何かを叫ぶよりも先に警官は警棒を男の背中に当て、何かのスイッチを入れた。
すると男は呻き声とともに沈黙し、何の抵抗もなく手錠を後ろ手でかけられた。
それを防ごうと女が悲鳴を上げて警官を引き剥がそうとしたが、もう一人の警官は冷静にテーザー銃を撃って女の動きを奪った。

(,,゚,_ア゚)『始点にして最良、最良にして究極。我らが護るは至高の存在』

周囲が非難の声を上げる中、一人の警官が棺桶の起動コードを静かに入力し、背負っていたコンテナが花弁のように開き、顔を除いた四肢を包み込んだ。
蛇腹状の白い装甲に赤い差し色。
目立った武器を持たないが、それゆえに明確な設計理念。
コンテナを持たず、それ自体が装甲の役割を持つ強化外骨格。

('A`)「……“ユスティーツ”か」

起動コードと棺桶の外見は覚えておくだけでも役に立つ。
ドクオは最低でもジュスティアとイルトリアで広く採用されている棺桶については予習をしており、その成果が思わぬ形で現れた。
Aクラスの量産機でありながら、顔以外の全身を包むことで高い戦闘力を引き出すことのできる棺桶だ。
特徴とされるのが発電装置を内蔵した装甲であり、気温差や太陽光を利用して稼働する点だ。

条件さえ整えばバッテリーが切れる心配がない。
重量が軽い点も相まって、狭い屋内での警備や過酷な地域での活動に使われることが多い。
際立った膂力を得られない代わりに、防弾着よりも優れた防御力と機動力を得られるのが特徴である。

(,,゚,_ア゚)「暴力の伴うデモ行為は重罪であり、参加者は全員同罪となる。
     今すぐ解散し、即刻この街から退去しろ。
     そして二度とこの街に近づくな」

ΩΩΩ<お、横暴だ!! 恥を知れ!!

(,,゚,_ア゚)「反抗意思を確認。
     指示に従わないのであれば、強制退去をしてもらう」

まるでこの時を待っていたかのように、警察車両がデモ隊の背後から現れ、次々と武装した警官隊が車から降り立つ。
透明の盾を警棒で叩きながら威嚇し、羊をまとめ上げる牧羊犬のようにしてデモ隊を囲い込み、追い込んでいく。
先ほどまであったピースメーカーに攻め入らんばかりの勢いは一瞬で失われ、プラカードが次々と地面に投げ捨てられる。
それでも警官隊は威嚇を続け、一番近い人間に電気警棒の先端を押し当て、その場に倒していった。

まるで草刈りをするようにしてデモ隊が一人残らずその場に倒され、結束バンドで両腕を拘束される。
一人として取り逃しのないように徹底した逮捕劇を目の当たりにして、ドクオは言葉を失っていた。
統率された動きもさることながら、彼らはデモ隊の挑発的な言葉に対して一切耳を貸さず、冷静に徹していた。
その結果として、デモ隊は一網打尽にされ、これからジュスティアを追い出されることになる。

570名無しさん:2020/08/24(月) 20:57:51 ID:v9UHRoN60
これによって難民問題が解決するとは思えないが、有無を言わせぬ実行力は流石と言わざるを得ない。
デモとは無関係のドクオたちには目もくれず、デモ隊が続々と護送車に詰め込まれていく。
無駄のない手際で次々と運び出され、十分後にはデモの痕跡は全て消え去っていた。

(,,゚,_ア゚)「お怪我はありませんでしたか?」

(-@∀@)「お陰様で助かりましたよ」

('A`)「俺も問題ありませんでした」

(,,゚,_ア゚)ゞ「では、よい一日を」

ユスティーツに身を包んだ警官は背筋を伸ばした状態で奇麗な敬礼を二人に向けて送り、二人は会釈を持って応じた。
その場から離れながら、カメラ男が独り言ちた。

(-@∀@)「ははぁん、なーるほど」

('A`)「どうしたんだ?」

(-@∀@)「多分、警察はあのデモがあることを知っていたんだろうなぁ、と思いましてね。
      あえて泳がせておいて、一気に掃除をしたかったんでしょうね」

確かに、警察の応援が到着した時間はあまりにも早かった。
通報があったからにしては装備が充実していたし、車輛の数も十分だった。
デモの情報を事前に把握していれば、その対策を用意して待ち構えるだけで労せず捕らえられる。

('A`)「へぇ……あんた、新聞記者なのか?」

(-@∀@)「まぁ、ジャーナリストってところですね」

('A`)「俺は観光客のドクオ・バンズ、ドクオでいい。
   こうして会ったのも何かの縁だ、よろしく」

右手を差し出すと、カメラ男はそれに応じる。
力強い悪手と共に、男は笑顔で名乗った。

(-@∀@)「アサピー・ポストマンです、よろしく。
      アサピーでかまいません。
      どうです、ビールでも一杯飲みませんか?
      この近くに良い店がありましてね」

('A`)「そいつはいい、この街の店を全然知らないから助かる」

そしてアサピーに連れられ、ドクオは数ブロック先にあるパブに案内された。
木製の扉には年季が感じられ、中から聞こえる賑わいの声は決して下品なそれではない。

(-@∀@)「ちょっと賑やかですが、大丈夫ですか?」

('A`)「あぁ、風俗みたいなノリは嫌いだが、この賑やかさは気持ちがいいぐらいさ」

571名無しさん:2020/08/24(月) 20:58:17 ID:v9UHRoN60
(-@∀@)「それは良かった」

扉を押し開き、二人が店に入る。
店内にはラジオが流れ、スポーツの実況に客たちが一喜一憂している。
最初に二人はビールと揚げ物の軽食を頼み、空いていたテーブル席にそれらを運んだ。
大ジョッキに並々と注がれた黄金色のビールは、この時期にはそれだけで大変なご馳走だ。

(-@∀@)「じゃあ、とりあえずお疲れさまでした、ってことで」

('A`)「あぁ、本当にお疲れ様だったな」

ジョッキをぶつけ、二人は一気にジョッキの半分を喉の奥に通す。
炭酸が喉を刺激する感覚は、もはや快楽的な爽快感だ。
程よい苦みと共に、アルコールが全身に駆け巡る感覚。
汗をかいてストレス下にあった甲斐があったと思える美味さだった。

('∀`)「美味いっ!!」

(-@∀@)「くはぁー!!」

二人そろって声と溜息を同時に吐き出し、互いに見合って笑う。
どうやら遠慮のいらない相手の様だと、ドクオは判断した。
頼んだ唐揚げにフォークを伸ばし、それを一口で頬張る。
染み出る油の甘味、塩味、そして熱。

柔らかな鶏肉の旨味がまるで弾けるようにして口の中に広がり、衣の中に潜んだ生姜の辛みと濃厚な下味が追いかけるようにして現れる。
火傷しそうなほどの熱ささえも旨味の一部と化し、ビールと合わせて一気に飲み下す。

('A`)「この唐揚げも美味いっ」

初対面の人間の前でここまで食べ物に感動したのは、初めてのことだった。
ティンバーランドの一員として役割を得たからこの街にいるのに、それを一瞬忘れさせるほどに感動的な体験だった。

(-@∀@)「でしょう? ここのはモモ肉を一度蒸してから使っているから柔らかくて美味しいんですよ」

('A`)「じゃあ、このポテトもひょっとして……」

厚切りの揚げポテトは皮つきの状態だが、その見た目が物語るのは素材を余すことなく使った自信の裏打ち。
ドクオが独り言ちた言葉を聞き、アサピーは不敵な笑みを浮かべて肯定した。

(-@∀@)「ふふん、勿論美味いですよ」

まずはそのままの状態で食べる。
歯応えのある表面とほくほくとした内側。
塩胡椒だけのシンプルな味付けだが、イモ自体の持つ甘味が奥深さを演出している。

('∀`)「これも美味いっ!」

(-@∀@)「いやー、気に入ってもらえたようでよかったです」

572名無しさん:2020/08/24(月) 20:58:37 ID:v9UHRoN60
('A`)「この店はどうしてこんなに美味いんだ?
   ジュスティアの店は皆こんな風なのか?」

(-@∀@)「この店は特に美味いですが、ジュスティアの街に出回ってる物の質がいいのは関係しているかもですね。
      ほら、いい加減なものを売ると警察沙汰になりますから」

('A`)「なるほど……」

取り扱う商品の質だけでも警察が介入する程の徹底的な管理体制。
警察の本拠地であり、正義を名乗るだけあってその厳しさは相当なものがあるのだろう。
ドクオが見てきたのはあくまでも一部であり、知らない部分がまだありそうだった。

(-@∀@)「大きな声じゃ言えませんが、法律が厳しい部分の恩恵の一つですね」

('A`)「輸入品も結構厳しく審査してるのか」

(-@∀@)「ですね、質の悪い野菜とかを意図的に流通させられるのを防ぐのもそうですが、野菜に毒が混ざっていたら大変ですからね」

(;'A`)「そこまで検査するのか」

(-@∀@)「ほら、ここの街に恨みのある人は多いですからね。
      例えばキノコの中に毒のある種類を混ぜて、なんてことをされたら街中がパニックになりますし」

(;'A`)「随分考えられてんだな、この街は」

(-@∀@)「警察のお膝元ですからねー」

なるほど、と頷いてドクオは唐揚げを頬張り、ビールをぐいと飲む。
熱い内に食べなければこの唐揚げの美味さは半減してしまうだろう。
そして、ジュスティア内に入ることが出来た自分の運の良さに驚いた。
問題はこの街の中で果たして、ドクオの様な素人に何が出来るのか、ということだった。

捕らわれた同志の救出を任されるのか、それとも別の任務が与えられるのか。
その時期がいつになるのかも、今は分からない。
滞在可能期間が限られている彼に出来ることはこの街の事情や癖を把握することであり、そのためには一日も無駄には出来ない。
しかし、アサピーと言う男はジャーナリストをしているだけあり、この街の事情に詳しそうだった。

この男を利用すれば、労せずに街の情報を入手することが出来るだろう。

(-@∀@)「何か?」

顔を見すぎていたのか、アサピーが尋ねてくる。

('A`)「いや、何でもない」

573名無しさん:2020/08/24(月) 21:00:01 ID:v9UHRoN60
人柄のいい彼を利用するのは少し心苦しいが、大義の前には仕方がない。
例え人を利用し、自己嫌悪する程の行為に手を染めたとしても、最後に世界があるべき姿に変わるのであれば安いものだ。
数人の心を傷つけるだけで済むのなら、そうするべきなのだ。
例え。

――例え、他者の好意を利用し、悪行に手を染めたとしても。

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574名無しさん:2020/08/24(月) 21:00:24 ID:v9UHRoN60
海沿いの荒涼とした、あるいは、自然が生み出した無駄のない景色の中をデレシア一行はゆるやかな速度で進んでいた。
一部で混乱が起きているタルキールを十分ほど前に出たばかりだが、すでにタルキールの姿はバックミラーの点と化している。
海風の中、三人は次に向かう街についての相談をしていた。

ζ(゚ー゚*ζ「道なりに行くと二日ぐらいでシルバークリークに着くわね」

ノパ⊿゚)「でもホールバイトも同じくらいなんだよな」

ひとまずの目的地はヴィンスだが、急ぐ必要はない。
予定の道であればシルバークリークに行くことになるが、内陸にあるホールバイトに行くことも出来る。
彼女たちは今、次の目的地を決める分かれ道に向かって走っているところだった。

(∪´ω`)「どんなところなんですかお?」

ζ(゚ー゚*ζ「シルバークリークは海沿いの街ね。
      正直、何か大きな特徴があるわけではないわね」

ノパ⊿゚)「で、ホールバイトは食い倒れの街だ。
    料理がとにかく何でも美味いことで有名なんだが、肥満率が高い事でも有名だな」

ホールバイトからヴィンスに向かうと、予定よりも二日ほど遅れての到着となる。
地域と時期を考えても、ホールバイトに向かったところで問題はない。
シルバークリークは観光地とは程遠い漁業の盛んな街であり、道中に見てきた港町と比べて特筆すべきものはない。
しかし、ホールバイトには食事という楽しみがある。

旅の楽しみの一つは、間違いなく美味い食事である。
世界中を旅してきたデレシアも、ホールバイトで提供される食事は極めて高い水準にあると認めており、ぜひとも二人に経験してもらいたいと思っていた。

(∪´ω`)「食い倒れ?」

ノパ⊿゚)「あぁ、食い倒れだ。
    ……何て意味なんだ、そういえば?」

ζ(゚ー゚*ζ「食べすぎて財産がなくなる、っていう意味ね。
      でもホールバイトの場合、二つの意味があるわ。
      一つは観光客が食い倒れる、って意味。
      もう一つは街の人間が食べ物にお金を使いすぎているから食い倒れる、って意味ね。

      何を食べても美味しい街は、多分ここが一番だと思うわよ」

一食に費やす食費の金額もさることながら、味を追い求める姿勢は他の追随を許さない。
世界中の街で腕を振るう人気店のシェフは、何かしらの形で必ずホールバイトに関わる――俗にいう“ホールバイト指数”――ことになる。

(∪*´ω`)「ぼく、ホールバイトに行ってみたいですお」

ノパー゚)「あたしも、ホールバイトで飯を食ってみたいな。
    美味いってのは聞いてるんだが、やっぱり実食しないとさ」

ζ(゚ー゚*ζ「ふふっ、じゃあホールバイトに行きましょう」

575名無しさん:2020/08/24(月) 21:00:45 ID:v9UHRoN60
デレシアは車体を左に傾け、分かれ道を左へと進んだ。
ここから先はヨルロッパ地方の内側に入る道のりとなる。
幸いなことに路面は十字教の聖地“セントラス”があるため、かなり奇麗に舗装・整備がされている。
道中に小さな町が点在しているだろうが、キャンプに必要な食材などはタルキールで補給が済んでいるため、立ち寄らなくてもいいだろう。

簡易浴場もこの地域には多く点在しているため、衛生面も問題はない。
街と町の感覚が拾いこの土地では、モーテルも儲かるが、それよりも維持費の安い簡易浴場が好んで建てられているのだ。
その整備を専門にしている業者もあるため、長距離移動をする人間達に重宝されている。

(#゚;;-゚)「ホールバイトの情報がありました。
    かなり昔ですが」

路面と吹き付ける風に合わせ、ディの車高とカウルが自動で適切な形に変形する。
風が当たる面積が小さくなり、多少は寒さが和らいだ。

ζ(゚ー゚*ζ「あら、それはペニーのかしら?
      それとも?」

(#゚;;-゚)「コメット氏のものです」

ζ(゚ー゚*ζ「なるほどね。
      じゃあ今回はそのデータを更新できるといいわね」

(#゚;;-゚)「はい」

――デレシア達がホールバイトに向けて進路を変更したのと同時刻、ラヴニカから出発した十台のトラックが列を成してタルキールに到着した。

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同日 某時刻
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仰向けに縛り付けられた状態で自由の次に奪われたのは、歯だった。
一本ずつペンチで乱暴に引き抜かれ、口中が血にまみれ、痛みと共に溢れた。
全ての行程は無理矢理に開かされた目で見届けることになり、激痛と恐怖が全身に染み渡った。
開かれたままの口から血があふれ出し、むせ込み、床を赤く染める。

(・(エ)・)「喉が渇いただろう」

576名無しさん:2020/08/24(月) 21:01:13 ID:v9UHRoN60
そう言って、熊の面をつけた人間――体格的に明らかに男――は炭酸飲料を無理矢理口に含ませ、むき出しの神経を刺激した。
悲鳴を上げたが、器具で固定された口から出てくるのは声帯が震える獣の様な呻き声だった。
一方的な暴力を一身に受け、カラマロス・ロングディスタンスは涙と鼻水、そして血で汚れた顔で熊男を睨んだ。
精いっぱいの強がりだった。

ジュスティア軍人たるもの、拷問を受けても情報を吐き出さないようにする訓練は受けている。
ましてや狙撃手という最も恨みを買いやすい役割であるため、拷問に対する訓練は念入りに受けた。
しかし実際に拷問を受けた経験があるわけではなく、あったのは覚悟だけだった。
現実を前に、カラマロスは気持ちを落ち着かせることに専念した。

情報を引き出す目的で拷問をする人間との駆け引きは何よりも重要だ。
口の中の液体を吐き出し、カラマロスは呼吸を整える。

(・(エ)・)「おいおい、せっかくの飲み物を無駄にするなよ。
    よし、お代わりだ」

男はそう言って、ダクトテープを取り出した。
カラマロスの口を固定していた器具を外し、それを地面に落とす。

(; ・ω・)「あ、あにあ……」

(・(エ)・)「あぁ、そんな状態でしゃべるな。
    苦しいだろ? すぐに飲ませてやるから」

縛り付けられていた台座が動き、カラマロスの頭が地面に向けられる。
こちらが何かを話す前に、口に水筒が突っ込まれた。
そして容赦なく炭酸飲料が流し込まれ、ダクトテープで口を塞がれた。
再び炭酸が彼の神経を容赦なく刺激し、気を失わんばかりの激痛が口中に広がる。

咄嗟の反応で思わずいくらか飲み込むことが出来たが、後はもう飲み込むことが出来なかった。
鼻から血の混じった炭酸が溢れ、カラマロスは痛みのあまりに失禁してしまう。
痛みに耐える訓練は、結局のところ、耐える訓練でしかない。
耐えきることが出来るかは自分の精神次第だ。

そして、訓練では耳にタコが出来るほど言われてきた言葉がある。

(・(エ)・)「心が肉体を上回ることは無いと、よく分かるだろ」

(; ・ω・)「もがっ?!」

狙撃手は人一倍心を鍛える必要がある。
心に迷いがなく、容赦のない狙撃は戦果に繋がる。
逆に、慈悲深い狙撃手は戦果を挙げることが出来ない。
毒虫を体中に乗せられても冷静でいられる訓練や、肉食獣が闊歩する森にナイフ一本で放り込まれる訓練を経たという自信。

訓練で勝ち得たそれらの自信が、一つずつ潰され始めていた。

(・(エ)・)「お話をする準備は出来たかな」

577名無しさん:2020/08/24(月) 21:01:53 ID:v9UHRoN60
ダクトテープが乱暴にはがされ、口の中にあった血と炭酸の混じった液体を吐き出す。
咳込むたびに口の中の激痛が蘇ってくる。
顔中にナイフを差し込まれたような絶望的な感覚に支配されながらも、カラマロスは辛うじて意識を保っていた。
台座が元の位置に戻され、仰向けとなった。

(; ・ω・)「らにも、ひゃべるこほはらい……!!」

(・(エ)・)「今そういうのを訊いているんじゃないんだよ。
     まぁ爪でも切りながら話そうか」

男は血の付いた錆びだらけのペンチを取り出し、カラマロスの右手親指に添えた。

(・(エ)・)「いつから裏切っていた?」

(; ・ω・)「う、うらひってらんか」

(・(エ)・)「だから、そういうのはいらないんだよ」

爪がゆっくりと剥がされていく。
ペンチの表面が爪の下にある柔らかな肉に擦り付けられ、表面のサビがまるでやすりのように痛覚を刺激した。

(; ・ω・)「うああああっ!!」

(・(エ)・)「お前が裏切り者だっていうのは写真と証言で分かってる。
    素直に質問に答えた方が賢いぞ」

途中まで剥がされた爪に、液体がゆっくりとかけられた。
肉と爪の間で炭酸が爆ぜ、再びの激痛。

(; ・ω・)「ががああああああああああああ!!」

(・(エ)・)「もう一度だ。
    お前は、いつから裏切っていた?
    ビロードと同じ時期からか?」

(; ・ω・)「ら、らに?!」

(・(エ)・)「あいつが一番口が軽かったぞ。
    流石に連日の暴力には耐えられなかったみたいだな」

確かに、ベルベット――ビロード・コンバース――は後方支援を得意とする人間で、暴力などには耐性がない人間だった。
だがその志は確かなもので、そう簡単に拷問に屈するとは思えない。
しかし、捕らえられてからだいぶ時間が経過して本日初めて拷問を受けたカラマロスと違い、彼は連日責められたのだろう。
むしろよく持った方だと言ってもいいかもしれない。

そして彼の名前をこの男が知っているということは、誰かが口を割ったということ。
彼が口を割ったということは、こちらがいくら我慢をしてもそれは苦痛を長引かせるだけということになる。
何のために今苦痛を受け入れ続けているのか、カラマロスは大いに動揺した。

578名無しさん:2020/08/24(月) 21:02:17 ID:v9UHRoN60
(・(エ)・)「お前がいくら我慢しようとも、あいつはいくらでも喋る。
    こちらがしたいのは答え合わせだ」

心が揺らいだ。
その揺らぎが驚くほど増幅され、カラマロスの精神にひびが入った。
揺さぶりなのか、それとも本当なのか。
それを判断するだけの余裕は既に奪われ、痛みと混乱が心を支配する。

――非常に強力な自白剤を飲まされていたなど、考える余地はなかった。

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三三三二 ニ - ‐ ‐
二 ニ - ‐ ‐
‐ ‐

ジョルジュ・マグナーニは自分が幽閉された場所について、よく理解していた。
この場所を取り仕切る人間も、この場所が何を目的に作られたのかも、そして、どこにあるのかも。
ジュスティア警察がそれを知らないはずもなく、であるがゆえに、ジョルジュに対しての拷問が後回しにされているのだと考えていた。
多くの汚れ仕事をしてきた彼にとって、ジュスティアの暗部ともいえるこの場所は近寄りたくない場所だった。

生きてここに入り、生きてここを出ることが出来るのは担当者だけだ。
情報を絞り出された人間は秘密を口外できないよう、速やかに処分される。
死体も残らない方法で処分される行程さえも知っているジョルジュにできるのは、考え続けることだけだった。
思考を止めない事だけが、この空間で自我を保ち続ける唯一の手段なのだ。

苦痛は心を蝕み、いつかは屈服させてしまう。
長生きするためには苦痛を受け入れ続けるしかない。
同時に捕らえられた人間の中で、ジョルジュが知る限り口が堅いのはシナー・クラークスぐらいだろう。
それ以外の三人は正直期待が出来ない。

特に、最年少のビロード・コンバースと素人のシュール・ディンケラッカーは拷問への耐性がないだろうから、自白するのは時間の問題だ。
ここに連れてこられてからの時間を考えると、どちらかが口を割ったと考えてもなんら不思議ではない。
その日、尋問とは名ばかりの拷問を受けるための部屋に連れ出された時、ジョルジュはまだ正気を保っていた。
  _
( ゚∀゚)「……」

(・(エ)・)「……」

熊の面をつけた人間が目の前に立っている。
無言のままにらみ合い、最初に口を開いたのは男だった。

(・(エ)・)「何故だ」
  _
( ゚∀゚)「どの件だ」

579名無しさん:2020/08/24(月) 21:02:41 ID:v9UHRoN60
ジョルジュは男の正体を知っている。
警察内でも何度か話したこともあるし、仕事で関わったこともある。
知己の間柄ではあるが、“彼”は仮面を外そうとはしなかった。
ボイスチェンジャーも変わらず使用しているため、本当に目の前の人物がジョルジュの知る彼かどうかは、断言はできない。

(・(エ)・)「最初からだ」
  _
( ゚∀゚)「話す気はない」

(・(エ)・)「……意地っ張りなのは昔から変わらないな」
  _
( ゚∀゚)「お前もな。 久しぶりに昔話でもするか?」

何か突破口になり得る情報を得ようと、ジョルジュは軽い口調でそう言った。
だが、当然、答えは決まっていた。

(・(エ)・)「いや、必要ない」
  _
( ゚∀゚)「なら、俺をどうする?
    ドリルで膝に穴でも空けて、そこに酸でも注ぐか?」

(・(エ)・)「ある程度の情報は得た。
    後は、核心が欲しいだけだ」
  _
( ゚∀゚)「他の連中に聞くんだな」

それが事実か、あるいは揺さぶりなのかはこの状況では判断できない。
尋問、あるいは拷問の上手い人間は嘘と真実を巧みに使い分けてくる。
警官として多くの現場を経験したジョルジュでさえ、この男の吐く言葉の中にある嘘を見つけ出すのは困難を極める。
それ故に、これから拷問を受けたとしても、ジョルジュは何も情報を提供することはしない。

それだけがこの苦痛に満ちた時間における、最善の答えなのである。

(・(エ)・)「お前が話せば予定よりも早く楽にしてやれるんだがな」
  _
( ゚∀゚)「猶更俺は話せねぇな」

(・(エ)・)「意地がどこまで続くか試すのは、初めてだな」
  _
( ゚∀゚)「あぁ、確かにな。
    俺も知りたかったんだ」

――そして、円卓十二騎士“花屋”による拷問が始まった。

580名無しさん:2020/08/24(月) 21:03:02 ID:v9UHRoN60
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ジュスティア市長、フォックス・ジャラン・スリウァヤは束になった報告書を読み終え、それを提出した尋問担当者に目を向けた。
執務室にはフォクスと担当者の二人だけがおり、執務机を挟んで対面している。

爪'ー`)「ご苦労様。
    しかし、よくここまで聞きだせたね」

「きっかけさえあれば簡単なものです」

担当者は素気のない返答をしたが、フォックスはここに至るまでの努力を全て聞いていた。
昨日行われた尋問で、最も痛みに免疫がないのはベルベットだというのはすぐに分かった。
痛みへの耐性がないということは、戦闘経験が浅いということを如実に物語る。
しかし、想像以上に口が堅かったため、担当者は別の方法を使うことにした。

そのため担当者は、他の人間を揺さぶるための生贄として、ベルベットの名前を使うことが決められたのである。
昨日、貴重な情報を口に出したのはシュール・ディンケラッカーだった。
彼女自身はその情報を口にしたことに気づいていないだろう。
それは、担当者が苦痛のナシに焼石を入れようとしながら質問した際に引き出すことが出来た。

『いつから警察の報道担当官と仕事をしていた?
どうやって知り合った?』

『し、知らない゛っ!! ビロードどば話じだごどもないっ!!』

ビロードという名は、彼女が全く意図せず口に出した名前だった。
恐らくは組織内で使われている名前だけが記憶に残されており、衰弱した意識の中でもう一つの名前を口にするだけの思考力はなかったのだろう。
本人は何も話していないと思っているはずだ。
思わぬ収穫だったが、その収穫はかなり大きな成果を導き出すことに貢献した。

爪'ー`)「後は、どこまで情報が得られるか、だね」

「まだ始めたばかりですので、情報が手に入る可能性はあります。
ただ、恐らくこの街に連中の仲間が入り込んでいると思われます。
セカンドロックの時のように、奪還される危険性があるので長期間の拘束は推奨しません」

爪'ー`)「だろうね。それは私もそう思う」

581名無しさん:2020/08/24(月) 21:03:25 ID:v9UHRoN60
トラギコ・マウンテンライトの情報を加味して、その可能性は考えていた。
むしろフォックスはそれが起こることを計算に入れて行動していた。
セカンドロックを突破するだけの準備がある組織が絡んでいるのならば、恐らく、防ぐのは難しいだろう。
この街に殺人鬼が平然の紛れ込んでいた、という報告からも分かる通り、スリーピースを突破する手段を相手は持っているのだ。

ヘリコプターを用意されでもすれば、上空からの侵入を許してしまうことになる。

「その可能性がある人間を現在マークしています」

爪'ー`)「へぇ、よく見つけられたね」

「見つけたのは私ではありませんが、可能性は高いかと。
現在、オアシズに監視カメラに映っていた犯人一味の写真を依頼しています。
それと照合すれば答えが出ますが、資料の到着まで少し時間がかかるとのことです」

輸送方法は陸路か海路に絞られる。
安全かつ確実に資料を手に入れるためには、その情報が他所に漏れないように気を配り、秘密裏に手に入れなければならない。

爪'ー`)「写真が手に入り次第、他の支部にも共有できるように用意をしておかないとね。
     街に入り込んだ虫は……そうだね、余計なところを荒らされては叶わないから、別の場所に移動させよう。
     一人だけ餌として用意できるかな?」

「であれば、シュールが適任です。
恐らくあの女の尋問が最初に済むかと思われます」

散々傷めつけはしたが、命を奪うまではしていない。
捕らえた人間達の中で最初に口を割るとしたら、あの女だ。
組織に参加した経歴の浅さは組織への帰属意識の低さに直結する。
ならば痛みでそこを狙うのが一番だ。

爪'ー`)「そうしよう。 移送先については、ふむ……」

「また罠を仕掛けますか?」

ティンカーベルからの移送に際し、フォックスは罠を仕掛けることにした。
それは警察の沽券にかかわる罠だったが、ツー・カレンスキーは了承した。
本気の警備体制、本気の護送。
それに関する情報を細分化し、担当者たちに分割して伝えた。

幾つもの可能性を考慮して練られた作戦の真なる目的は、内部に潜む裏切り者を見つけ出すことだった。
護送対象を乗せた車輌の鍵を開けるための方法が関係者に伝えられたが、そのいずれもが不完全な情報だった。
開放することのできた護送対象によって誰が情報を流したのかが分かるという仕組みを用意し、それによって対処が変わるよう、綿密に練り上げられた作戦。
最低でも一人は脱走してしまうという計画は、警察が確実に恥をかく作戦でもあった。

何度もしてやられた警察が威信をかけて脱走劇を用意するなど、少なくとも、警察長官には苦痛極まりない選択だっただろう。
だが作戦は無事に成功し、ショボン・パドローネが脱走したことによって情報を流したのがベルベットであることが判明したのである。
別の場所から情報が流れないよう、担当者への情報伝達はツーが直々に行った。
斯くして作戦は最小限の被害で成功を収め、円卓十二騎士の活躍によって襲撃者を捕らえることも出来た。

582名無しさん:2020/08/24(月) 21:03:50 ID:v9UHRoN60
爪'ー`)「同じ手は何度も使いたくない。
    まぁ、そこについては別の考えがある。
    引き続き尋問と街の方を頼むよ」

「かしこまりました」

フォックスは座り直し、机上で手を組んだ。

爪'ー`)「それで、街の方はどうかな?
    薬をばらまいている連中に目星はついたかな」

街で少しずつ流通が確認されている違法な薬物。
トラッカーたちがそれを運び入れていることは分かっているが、手段などがまだ分かっていない。
どのようにしてスリーピースを突破し得たのか、まだ不明なのである。

「そちらについても引き続き調査を続けています。
彼がいい仕事をしてくれていますよ、仕事の相棒として頼もしい。
何より、根性が座っている」

爪'ー`)「ははっ、流石あの“虎”が連れてきただけあるね。
    少し忙しいだろうけど、彼の警護とフォローも頼むよ」






<ヽ`∀´>「えぇ、勿論」






円卓十二騎士“花屋”のニダー・スベヌは微笑を浮かべ、肯定したのであった。

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Ammo→Re!!のようです
Ammo for Remnant!!編
                i  ./ /,/!l  i   i!i! ', ',
                 l / / { うl i l  /lメ} l ',', ,}
            __  ノ∥/〃l,- l l l /ー、l ll l l ,'
         / `〈////' li .!!!!从'  `从lノ/
        !¨`、  ヾ、 i .ハ   ヽ、   l
   _, <.    ト、  ヾ、l  ::::::..   ヽ=-¨`
_,. <        i ',.  ', i! :::::::::へ.  ,'´
     ,.,      ! l.  l::i! .:: ' ´   ` '
-一=ニ三ニ',     l.  l:::i!〈iト、
第三章【Remnants of secret-秘密の残滓-】 了
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583名無しさん:2020/08/24(月) 21:04:11 ID:v9UHRoN60
これにて今回の投下は終了です
質問、指摘、感想などあれば幸いです

584名無しさん:2020/08/25(火) 00:33:06 ID:OJDJV7Lk0
乙です!

585名無しさん:2020/08/26(水) 20:13:00 ID:3jIWepss0
おつ!
デレは友好関係にないとタチの悪いヤクザでしかないな…
ジョルジュは相変わらずかっこいい
生きて出てこれるといいなぁ

586名無しさん:2020/08/26(水) 22:32:39 ID:thpY3c0c0
アサピー好きだなぁ

587名無しさん:2020/08/27(木) 14:07:11 ID:CpvWCVKM0

サスガ兄弟死んだかと思ってたけどまだ生きてた

588名無しさん:2020/10/18(日) 21:27:11 ID:6YhlLZFM0
来週の日曜日VIPでお会いしましょう

589名無しさん:2020/10/18(日) 23:53:13 ID:yCz1xKJM0
お会いしに来ます!

590名無しさん:2020/10/23(金) 22:45:31 ID:W94eIt/.0
ブーン系の希望やでほんま
楽しみにしてます

591名無しさん:2020/10/26(月) 19:04:41 ID:JaZHiVC.0
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晴れの匂い。
雨の匂い。
嵐の匂い。
悪意の匂い。
敵意の匂い。

そして、争いの匂い。

狭いコミュニティの中で生きるならば、匂いにこそ敏感でなければならない。
鈍感な人間はいつの間にか己の首が絞められ、足が沼に浸っていることにさえ気づけない。


         ――ハカリ・アンブレラバスター著:『田舎で過ごす余生の説明書』より抜粋


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September 11th AM05:25

田舎町であるカントリーデンバーにおいて、噂話は新聞やラジオよりも早く町中に広まる。
プライバシーなどという概念はなく、そこで生まれ育った人間でなければ面食らうことだろう。
だがその風習も受け入れてさえしまえば、極めて便利かつ理にかなったものであることが分かる。
家と家との間が広いからこそ、地域間での連携が街の利益に繋がることの方が多いのだ。

少なくとも、その日のオットー・スコッチグレインにとってはそうだった。

(,,゚,_ア゚)「あんれまぁ、こりゃ酷いことになっちまったなぁ」

(´<_` )「えぇ、朝起きたらこんな風になってまして……」

荒れ果てた畑の前には、農業に詳しい近所の人間――名前は知らない――が来ていた。
朝の散歩で彼の家の前を通りがかった時、異常な状態の畑を見て心配してくれたのだという。
都市であれば面倒ごとに関わるのを忌避し、見て見ぬふりをされたことだろう。
何も言われないよりも、解決しないとしても言葉をかけてもらえるだけで嬉しいものだ。

畑に残された獣の足跡を見て、彼はすぐにその正体を口にした。

(,,゚,_ア゚)「こりゃ、イノシシだな」

(´<_` )「何も植わってないのに来たんですか?」

オットーはイノシシの生態について詳しいわけではない。
動物には共通した本能があるが、個体差もある。
個体差は往々にして、その地域に関係がある場合があることまでは知っている。
問題は、この地域の個体がどのような習性と個性を持っているのか、だった。

592名無しさん:2020/10/26(月) 19:05:03 ID:JaZHiVC.0
(,,゚,_ア゚)「何を狙ってきたのかは知らねぇけどよ、この荒らされ方は一頭じゃねぇし普通でもないな。
     集団で来て、何かを探してたって感じがするな。
     あいつらは単純だが、馬鹿じゃねぇ」

それだけの数のイノシシが来ていながらも気づけなかったのは幸運と言うべきなのだろう。
イノシシは雑食性で、人間に対しても攻撃を仕掛けてくることがあると聞いたことがあった。
土の下に植わっていた何かがあったのかもしれない。

(´<_` )「うーん…… 何か興味を引くような物でもあったんですかねぇ……」

強いて見つかった物と言えば、奇妙な形の金属ぐらいだ。
それ一つを探すために来たのであれば、当の昔にイノシシの腹の中に納まっているだろう。
しかしそれが見つかったことがイノシシとは関係があるとは、今の段階では断言できなかった。
熊が人里に降りてきて人家を襲うように、イノシシも餌を求めて人を襲わないとは断言できない。

獣に関してはあまり知識のないオットーは、現地に住む人間の言葉が最も信頼に足る物だと考えていた。

(,,゚,_ア゚)「メスでも来てたんかね。
     ともあれ、普段は畑にめったに降りてこないんだけどさ、こりゃあちょっと参るよな。
     よっしゃ、今夜はイノシシ鍋にすっぞ!」

まるで妙案とばかりに、男が嬉しそうにそう言った。
思わずオットーは間の抜けた声で聞き返してしまう。

(´<_` )「え?」

(,,゚,_ア゚)「この町にゃ猟友会があってよ、ちょうどいい。
     スコッチグレインさん、あんた狩りやってみないか?
     この畑荒らしたイノシシ、喰っちまおう」

(´<_` )「狩り、ですか」

丹精込めて整えた畑を荒らされたことは業腹だが、これも自然に生きる以上は仕方のないことだと割り切ることも出来る。
しかし、意趣返しは嫌いではない。
八つ当たりになるかもしれないが、獣害を減らして肉を得られるのであれば正に一石二鳥である。
胸の中にある鬱憤を取り除くことが出来る上に、今はこの地域の人間達と交友関係を広めておきたいという意思が、彼の背中を後押しした。

(´<_` )「いいですね、やってみたいです」

(,,゚,_ア゚)「銃は持ってるか? 狩猟用の弾が撃てるようなショットガンがあればいいんだがよ」

(´<_` )「はい、護身用にあります。
     ただ、弾がないので後で買いますね」

ショットガンと言わず、サブマシンガンも家にあることは言わずにおいた。
獣を殺すのであれば、人間用の弾では威力が不十分だ。
小口径の銃は護身用の物としてはいいが、硬い骨と厚い肉を持つ獣相手には精々気休め程度にしかならないだろう。

(,,゚,_ア゚)「うんにゃ、今回は猟友会に使い切らにゃならない弾があるからそれを使おう。
     金はいらねぇけど、代わりに捕ったイノシシ肉みんなで分けような」

593名無しさん:2020/10/26(月) 19:05:35 ID:JaZHiVC.0
(´<_` )「勿論ですよ。
     では、お言葉に甘えさせていただきますね。
     何か必要なものはありますか?」

(,,゚,_ア゚)「ジャケットもこっちで貸すから、長袖長ズボンと帽子ぐらいだな。
     後は水筒があれば安心だ」

狩りの為に山に入り、遭難して死亡するという事故は毎年どこかで必ず起こっている。
それを回避するためにも、山に入る際には水とナイフ、そして着火用の装備を持ち込むことが強く推奨されている。
彼が言わなくても、オットーはそれらの装備を持っていこうと決めた。

(´<_` )「分かりました。
     何時ぐらいに出発しますか?
     この後、少し家のことをしないといけなくて」

この町に来てから、オットーの仕事は家事全般だった。
掃除や洗濯は勿論だが、食事の準備など日々繰り返される仕事は決して終わりがないものだ。
自らの生活の一環の作業ではあったが、それだけに欠かすことのできないものだ。

(,,゚,_ア゚)「昼食を終えたらだな。
     早く行ったところで仕方なし、かといって遅く行っても相手は寝てる。
     なぁに、焦らなくていい」

(´<_` )「分かりました、お手数をおかけします」

(,,゚,_ア゚)「ま、ゆっくり畑でも整えておくといい。
     足りない道具があれば貸してやる。
     耕運機は持ってるか? 貸してやるぞ」

(´<_` )「ありがたいのですが、まずは基礎を学んでから道具を使ってみようと思います」

これは彼がこの町に越してきてから決めていたことだった。
便利な道具に頼るのもいいが、その道具が使えなくなった時に何も出来ないようでは意味がない。
そのため、まずは基礎となる道具を使い、その上で利便性の高い道具に手を出せばいい。
面倒で不便な拘りだが、これが彼にとっては極めて気持ちのいい拘りだった。

(,,゚,_ア゚)「ははっ、気に入った!
     一時ぐらいに呼びに来るから、それまではゆっくりしてな」

(´<_` )「はい、ありがとうございます」

そして一礼し、オットーは家の中へと戻った。
朝食の準備に取り掛かるまでにはまだ時間があるため、兄であるアニーの部屋へと向かった。
部屋の扉をノックして開くと、アニーは日課のトレーニングをしているところだった。
ベッドの上で腹筋を鍛えながら、アニーはオットーを一瞥した。

( ´_ゝ`)「おう、どうした?」

594名無しさん:2020/10/26(月) 19:06:31 ID:JaZHiVC.0
額には汗がにじみ、シャツは汗で濡れている。
起床してから今までずっとトレーニングを続けていたのだろう。
体の一部を失ったことを嘆くのではなく、残された

(´<_` )「畑が荒らされちまってな、イノシシの仕業らしい。
     多分、ビールなんかもその仕業だろうな」

ケースを戻したのは気が付いた近隣の誰かだったのだろう。
次からは屋外ではなく屋内に置くべきだといういい教訓になった。

( ´_ゝ`)「そっか……せっかく耕したのに、残念だったな」

僅かの間があったが、アニーはトレーニングを続けたまま、短く返答をした。
慰めの言葉を兄弟同士でかけることもなければ、その言葉が意味を持たないことを双方ともに理解している。
兄弟だからこそ、相手の感情や相手の思っていることが自分のそれと似ていることを彼らは理解していた。

(´<_` )「後、電話が使えなくなった。
     屋根に上って調べたけど、ウチの電話線に異常はない感じだった。
     電話線を束ねてる塔の方に問題があるのかもしれない。
     多分、メンテナンスなんて何年もしてないんだろうな」

町の人間の中には、電話を使っていない人間もいる。
むしろ、電話を使える人間も限りがあるため、果たして何が原因なのかを探るには時間がかかりそうだった。

( ´_ゝ`)「一気に不便になっちまったな」

(´<_` )「なぁに、電話はあまり使っていないから、これぐらいはどうにかなるさ。
     それで、今日の昼にイノシシ狩りに行くことになってさ。
     上手くいけば今夜は鍋料理だぞ」

イノシシという単語を聞いた時、アニーはようやくトレーニングを中断した。
ベッドに置かれていたタオルを掴み、顔の汗をぬぐう。

( ´_ゝ`)「俺、イノシシ料理なんて知らないぞ」

無論、オットーも知らないし、食べたこともない。
だが野趣あふれる味わいだという話は聞いたことがあった。
都会ではそもそも肉が獣の肉が流通していないため、それを専門に扱う店に行かなければ食することが出来ない。

(´<_` )「後で聞いておくけど、生姜とか臭みを取る野菜を用意してくれればいいさ。
     それで、その間に頼みたいことが一つあるんだ」

( ´_ゝ`)「おう、何だ?」

(´<_` )「畑で変な物が見つかったんだが、それの正体が分からないんだ。
     何でもなければいいんだが、何かあればやっぱり気になるからな」

( ´_ゝ`)「田舎特有の“アレ”かもしれない、ってことか」

595名無しさん:2020/10/26(月) 19:07:01 ID:JaZHiVC.0
狭いコミュニティにおいて、重要なのは調和を保つことだ。
新しい知識や技術を持ち込んでくることによって町がそれまでに築き上げてきた秩序が乱れ、それを快く思わない人間がいる。
この町に新しい技術を持ち込んできた彼らもまた、多分に漏れずそう言った目で見られているという自覚はあった。
町の人間全員に受け入れられるなど、そう簡単なことではない。

今のところ、奇異の目で見られる程度だが、町の手伝いなどに積極的に参加していることから敵意を向けられている自覚はない。
それでも、だ。
悪意や敵意は姿を持たないため、用心をしておくことは重要なのである。

(´<_` )「考えすぎだろうけどな」

アニーとオットーは思考が近い兄弟ではあるが、危機管理についてはかなり異なった捉え方をする。
オットーは最悪を想定し、アニーは最善を想定する。
異なった考え方を持つ二人だからこそ、何かしらの問題に直面した時、多面的な発想で対処が出来るのだった。
全く同じ危機管理能力を持つ人間がそろってしまえば、彼らの思惑の外にある事態に対しては一切の対応が出来なくなるのである。

( ´_ゝ`)「だといいな。 まぁ、できる限り調べてみる」

今回ばかりは、アニーの反応は当然の物と言えた。
畑が獣に荒らされた、というだけの話であり、田舎にはよくあることでしかない。
オットーとしても、この一件は町の人間の仕業ではありえないことぐらい分かっているのだ。
これが他者からの嫌がらせの類であると判断するのは早計というものであり、気にするだけ意味のない事なのだ。

そのことをオットーも理解はしており、アニーから気の利いた言葉をもらえることは期待していなかった。
期待していたのは、見つけた金属の何かの正体を調べる手助けだけだった。
さながら、奥歯の間に挟まった食べかすが気になるような、そんな心地がするだけなのである。
こうして、オットーはいつもの日常を少しずつ再開することにした。

( ´_ゝ`)「しまった、プロテインを忘れちまった」

(´<_` )「後で持ってくるよ。
     シャワーでも浴びててくれ」

日課である朝食を作り、妹を起こし、学校に行くのを見送る。
全てが滞りなく進み、オットーは九時前には畑を整える作業に移り、荒らされた土地を元に戻した。
更に、近所の農具店に足を運び、畑の周りを囲うための柵を大量に購入した。
ただの有刺鉄線では獣害に大した効果を得られないとのことで、最も値の張る電流が流れるタイプの物を買うことにした。

(´<_` )「ふんっ……!」

まずは支えとなる木製の柱を地面に等間隔に打ち付けるところから始める。
オットーにとって、畑仕事はいい気分転換になるものだった。
電子的なことや企業的なことから離れ、自分の力だけで作物を実らせるまでのプロセスに惹かれていた。
一人で炎天下の中黙々と作業を続け、昼食前には終えることが出来た。

彼のシャツは汗を大量に吸い、歩くたびに地面にしたたり落ちるほどだった。
圧倒的な疲労感。
しかし、全く悪い気はしない疲労感だった。
これまで運動とはあまり縁がなかったオットーは、アスリートたちの気持ちが少しは分かった気がした。

596名無しさん:2020/10/26(月) 19:07:59 ID:JaZHiVC.0
(´<_`;)「あっつい……」

肌に密着する上着を脱ぎ、その場で絞る。
大量の汗が地面に吸い込まれ、すぐに乾いた。
それから自らの手で作った畑を見て、オットーは満足げに笑みを浮かべた。
過剰な心配かもしれないが、何もしないよりかはよほどいい。

ようやく、農業に取り掛かることのできる大きな一歩が形となり、自らの手で作り上げた大きな成果物が目の前に広がっている。
小さいが、立派な畑になることだろう。

(´<_` )「ははっ」

彼の口から、自然と笑い声が出た。
喜びの笑いだった。
獣に荒らされたとしても、彼はそれを乗り越えた。
克服するということは、かくも気持ちのいいものなのだと久方ぶりに思い出し、オットーは悦に入った。

夏の日差しに焼かれる肌の痛み。
使われていなかった筋肉が上げる悲鳴。
清々しく、そして、達成感に満ちた時間。
彼がこれまでに商談を成立させることでしか得られなかったそれよりも、オットーの心を満たしてくれた。

見上げればそこには青空が広がり、純白の綿を思わせる雲が浮かんでいる。
喝采はない。
賞賛もない。
彼だけが彼自身の努力を認め、それを知っている。

誰かに認めてもらわなくとも、充足した生活を過ごすことが出来る。
承認欲求を満たすと同時に、自分自身を見つめられる
自分の力を知ることの楽しさをもっと早くに知っていれば、別の人生があったのかもしれない。

(^J^)「おーい、スコッチグレインさーん。
   ウチでアスパラ捕れたんだが、いるかー?」

顔見知りの人間の呼びかけに対し、オットーは上半身裸のまま笑顔で答えた。
夏の日差し。
夏の空。
夏の風。

そして、夏の風が心地いい。

(´<_` )「あっ、ありがとうございます!」

――遠回りだったとしても、オットーはここでの生活に満足していた。
少なくとも、今はまだ。

597名無しさん:2020/10/26(月) 19:08:54 ID:JaZHiVC.0
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Ammo→Re!!のようです
Ammo for Remnant!!編

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第四章【Remnants of fire-火の断片-】
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その日の昼食は、アスパラを使った冷製パスタになった。
自家製のレモンドレッシングと絡めてハーブを散らしたものをアニーに食べさせたところ、好評を得ることが出来た。

( ´_ゝ`)「うまぁーい!!」

(´<_` )「酸味がいいな、我ながらいい味だ」

( ´_ゝ`)「アスパラの甘味が案外合うもんだな。
      こら美味い。
      ベーコンで巻いてもいいかもな」

フォークをアスパラに刺し、その立派さに見惚れながら、アニーはそれを口に運んだ。
むぐむぐと咀嚼するアニーに、オットーは軽く溜息を吐いて言った。

(´<_` )「ベーコンはこの前全部喰っちまったから、猟の帰りにベルコニーさんのところで買ってくるよ。
     ところで、何か分かったか?」

( ´_ゝ`)「何にも分からなかった。
      ただ、新しいものなのは確かだ。
      多分、何かを入れて持ち運ぶような物だと思うが、あくまでも予想でしかない。
      どこかの街のお土産のキーホルダーってこともあるからな」


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