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Ammo→Re!!のようです

1名無しさん:2019/02/03(日) 21:56:41 ID:ogOSfvXw0
前スレ
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/13029/1423391724/

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949名無しさん:2021/08/10(火) 21:37:18 ID:VMzYVuKw0
恐らくは、彼が追っているであろう何者かの仕業だ。
バルザイの行方が分からなくなっている原因にも関わっている可能性がある。
すでに彼は相手の術中にはまっていると考えると、極めて不気味、否、生きた心地がしない。
彼の本能がその場からの逃走を強いたのは、無理からぬ話だ。

相手がその気になれば、彼の胸元から奪うのは身分証ではなく命だったに違いない。
では、彼が生かされている理由は何か。
走りながら、カラクッドの灰色の脳細胞は必死に動き、思考し続けた。
思考は目まぐるしく動き続けているが、逆に、彼の注意力は散漫になっていた。

逃げる獲物の思考は極めて予想しやすく、追い詰めやすい。
そのような初歩的な発想にさえ、今の彼には考えるだけの余地がなかった。
レプスの本部に足が自ずと向かってしまうのは、安全を求める心理的な行動だ。
屋内に逃げるようにして入ったカラクッドは、すぐに自分のデスクに向かい、引き出しの中を漁る。

あるいは、そこに彼が身分証を置き忘れた可能性を模索したのだが、それも無意味だった。
それどころか、彼は引き出しの中に入れていたはずの手帳等が消えていることに気づいた。

(+゚べ゚+)「おい、今日俺の机に近づいた奴はいるか?!」

だが、誰もが首を横に振るばかりだ。
そんなはずはない。
確かに存在した物が消えているということは、何者かが手を出したということだ。
その目撃情報がないということは、相手はこの組織のことをよく知っているはず。

安全な場所がないと判断したカラクッドは建物から出て、すぐに近くのホテルに身を顰めることにした。
ホテルの部屋に入ってすぐに鍵とチェーンをかけ、部屋中の扉を開いて誰もいないことを確かめる。
シャワーを浴びる際にもすぐに拳銃が手に取れるようにし、練る際には枕の下に置いた。
まるで逃亡中の犯罪者のような念入りな対処だったが、彼の中ではこれでも足りないぐらいに感じていた。

――事実、それは致命的なまでに不足していた。

950名無しさん:2021/08/10(火) 21:38:09 ID:VMzYVuKw0
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Ammo for Rebalance!!編

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爻爻爻x:::: /::::/:::::。:::::::::::::゚::i| iニ二二二二ニi |i:::::::::::゚::::::::::::::::::::::::゚::::::::::::::___::::::::::::::
爻爻爻ミj/::::/:::::::::::::::゚:::::::::i| iニニニ二ニニニニi |i:::::::::::::::::::::゚:::::::::::::::::::::::::::|\ xxXXxx
爻爻;爻;/::::/:::::::::::::::::::::::::::i| iニ二三三三二ニi |i:::::::::::゚:::::::::::::::。::::::::::::::::::|  爻狄ソ狄
爻;爻ミ;/::::/___::::::゚:::::::::i| iニi二i三i三i三iニiニi |i::::::::::::::::゚:::::::::::::::::。::::::::|  狄狄狄狄
:爻:ミ:/::::/ ̄ ̄/∧:::::::::: i| i二i三i三i三i三i三iニi |i::::::゚::∧ニニニ-_::::::::::::::::\X狄ソ狄淡
爻ミ/::::/X ::::::///∧::゜:::i| i三i三i三i三i三i三i三i |i::::::/::∧ニニニ‐_:::::::::::::::::爻狄i狄淡
ミミ/::::/爻ミ;ミ;ミ;ミx/ ∧::::i| iニiニiニiニiニiニiニiニi |i::/::/: ∧ニニニニ‐_::。:::::::::/爻狄ソ狄
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淡淡淡淡淡淡ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ二i二i二i二i二i二i二i二i |iミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミミ;ミミ刈狄

第一章【awaken of dreamers-夢見る者達の目覚め-】 了
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951名無しさん:2021/08/10(火) 21:38:50 ID:VMzYVuKw0
これにて今回のお話はお終いです

質問、指摘、感想などあれば幸いです

952名無しさん:2021/08/10(火) 22:01:45 ID:Wtr6JUg.0
乙乙

953名無しさん:2021/08/10(火) 23:53:43 ID:Iu8cSGnA0
おつです
ブーンも結構強くなったんだな。ティンバーランド側のブーンはどうなんだろ。
こっちも英才教育されてんのかな。

954名無しさん:2021/08/13(金) 20:40:12 ID:jEhCvKCI0
乙乙

相変わらず面白い。
ディートリッヒさんとブーンの会話のシーンに和んだり、訓練の息が詰まるような緊迫した描写が最高に良かった。


>>944

これが実戦であれば二人は死亡しており、脊髄販社の奇跡で
の部分の"脊髄販社"じゃなくて"脊髄反射"だね。

955名無しさん:2021/08/13(金) 21:47:32 ID:md8pDu6E0
>>954
今回こそは誤字ないと思ったのに……!!
いつもご指摘ありがとうございます!!

956名無しさん:2021/08/14(土) 00:04:19 ID:LuYD0Ops0
おつ!
渡辺さん意外と地位が高いのね
意図的にやらかしてばっかのイメージだけど結構功績残してるのかな

957名無しさん:2021/09/14(火) 16:55:22 ID:mxspAYHA0
今度の土曜日にVIPでお会いしましょう

958名無しさん:2021/09/14(火) 22:21:37 ID:EdNAzNJc0
待ってた!

959名無しさん:2021/09/14(火) 22:55:05 ID:QsKGDP520
月1の楽しみです!
待ってます!

960名無しさん:2021/09/15(水) 23:41:25 ID:h3JigoBs0
うおおおお!!

961名無しさん:2021/09/19(日) 08:16:14 ID:ctbjoZXk0
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あの日。
我々の街が戦場と化したあの日。
誰一人として、その日が来ることを予見し得た者はいなかった。

                                      ――アダム・サラゲトラーナ

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September 24th PM06:33

世界には力が溢れ返っているが、力に頼らずに力を誇示する街は、“中立の街”ブーオしかない。
あらゆる争いに対しての介入を拒絶し、助力を拒み、世界中あらゆる街からの干渉を排除し続けてきた。
クラフト山脈の南にある島に位置し、その環境が彼らの守りを強固な物にしている。
観光業と島の自然を使った産業だけで街が成り立っているのは、ブーオに住んでいる人間達の層にある。

大金を稼いだ人間が不毛な争いに巻き込まれることを嫌い、穏やかな老後を過ごすためにこの街に移住してくる。
彼らは安全を金で買うことに何の抵抗も抱かないため、ブーオは税金によって街の治安と平穏を維持する工夫がされているのだ。
内藤財団の影響も、十字教の影響さえも受けない絶対中立の街。
街を束ねるガガーリン・ザラキは前市長からその座を継承し、父親譲りの手腕を発揮する若い女だ。

執務室で爪を切っていた彼女の元に、秘書が一通の電報を持って現れた。

川_ゝ川「……内藤財団が?」

( ゚ー゚)「観光業でぜひ助力をさせてほしい、と」

川_ゝ川「そう言って我々の街に介入する口実を作るつもりなのだろう。
    ヴィンスも、ラヴニカもそうだ。
    あいつの助力は侵略と同義だ。
    返事をするまでもない、いつも通り無視しろ」

ブーオが今日まで中立の立場を貫き続けることが出来たのは、外部組織とのつながりを徹底して排除することだった。
特に彼らが警戒するのは、善意を盾にして侵略を試みる輩だ。
内藤財団という大きな組織で見れば、確かに経済的な成長は見込めるだろう。
しかし、内藤財団はニョルロックだけでなく、カルディコルフィファームも経営しており、実質的には複数の街の支配者だ。

今までに一度も彼らの介入を受け入れていないのも、僅かな根が入り込むことを忌避してのこと。
雑草の根は思った以上に深く入り込み、気が付いた時には手遅れになることが多い。

( ゚ー゚)「かしこまりました」

秘書は笑顔を崩すことなく頷き、部屋を出て行った。
残されたガガーリンは爪をやすりで整え、磨き、そして溜息を吐いた。

川_ゝ川「ふぅ……」

962名無しさん:2021/09/19(日) 08:17:08 ID:ctbjoZXk0
内藤財団が介入を提案するのは、これが初めてではない。
この街が力を持ち始めてから、一年に数回は話を持ってくる。
無償で観光船の手配をする、無償で設備の点検と保守を行う、無償で街の漁業を守るための警備艇を派遣するなど、彼らは必ず甘言を使ってくる。
その甘言に一度でも首を縦に振れば、この街の中立性は失われると、遥か昔の市長から代々引き継がれてきた考え方があった。

そのため、内藤財団がラジオを無償で世界中の街に配った時でさえ、彼らはその受け取りを拒否した。
街の財政は苦しいわけではないし、むしろ、年々潤いを見せているほどだ。
それだけ安寧を求めている人間が多くいるということは、世界情勢が平和から遠ざかっているということなのだろう。
中立の街はそういった争いから遠ざかる最後の楽園と言っても過言ではない。

ストーンウォールも似た背景を持っているが、こちらは岩礁と多数の島に囲まれた孤島だ。
近くの海には機雷を浮かべ、こちらが許可した船にだけ安全な航路を伝える方式がある以上、侵略は困難を極める。
密かにラヴニカに復元を依頼した“名持ち”の棺桶が街の守り神として控えており、万が一侵入者が来たとしても、撃退することが可能だ。
年に数回、島にある貴重な鉱物や動物を盗もうとする船が来るたび、街の人間は狩り感覚でその船を沈めてきた。

大口径の機関銃で徹底して破壊された船は海の藻屑と化し、海に飛び込んで逃げようとした人間は鮫に食われた。
おかげで近海の魚たちは肥え、最終的に不届き者たちの命は街の貴重な食料を育てる餌として役立っている。

川_ゝ川「……警戒しておくか」

これまで硬くなに無視し続けているブーオに再び連絡を取るということは、何かを狙っているということが考えられる。
企業である彼らは常に利益を優先した行動をとる。
ラジオの配布でさえ断った街に、今更観光の話を持ってくるというのは、いささか不自然だった。
狙いは別にあるとみて間違いない。

――後にその警戒心が、ブーオの歴史を変えることになるのであった。

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963名無しさん:2021/09/19(日) 08:17:33 ID:ctbjoZXk0
同日 PM06:39

イルトリア軍人との“遊び”は思った以上に白熱し、予定していた殲滅戦以外にも、フラッグ戦、確保戦などのレクリエーションも行われた。
一戦目を終え、軍人たちは自分たちが三人を相手に負けたことを悔しがったが、同時にその実力を認めた。
結果はデレシア達の全勝で終わったが、ヒート・オロラ・レッドウィングとブーンは数回被弾する結果になった。
一度も被弾せずに済んだのはデレシアだけだった。

肌寒い空気の中での勝負だったが、全員が程よく汗をかき、空が紫色になる頃に互いに健闘を称えた。
最後にデレシアが軍人たちにいくつかアドバイスし、ブーンとヒートは逆にアドバイスをもらうことが出来た。
ヒートの評価は非常に高く、現在海軍の訓練に参加していることを聞き、全員がその実力について納得した。
対して、ブーンは土壇場での冷静さや思い切りの良さを評価され、ペニサス・ノースフェイスの弟子であることを聞き、一気に興味を持たれることになった。

その後、食堂へと全員で移動し、夕食をとることになった。
食堂は大勢の軍人で賑わいを見せ、食欲をそそる複数の香辛料が入り混じった香りが溢れていた。
軍服の上にエプロンを着たチハル・ランバージャックが全員を出迎え、腰に手を当てながらまるで全員の母親であるかのように質問をした。

ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト「おかえりなさい。
      先にお風呂とご飯、どっちにする?」

ζ(゚ー゚*ζ「ただいま。
       先に夕食をいただいてもいいかしら」

(∪*´ω`)「美味しそうな香りがしますお!!」

ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト「今夜は皆大好きなカレーだよ。
      私特製の無水カレーだから美味しいよー」

(∪*´ω`)「無水カレー?」

ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト「ふふん、食べながら説明をしてあげるから、まずは手を洗って来ようね」

(∪*´ω`)「はいですおー」

一同は石鹸で手を洗い、競うようにして列を成してトレイを手に食事を皿に盛り始める。
サラダ、卵のスープ、そしてカレーライス。
それぞれ自分で食べられる、あるいは食べたい量を盛り付け、席に戻る。
席に着くなり、誰もがカレーの香りに誘われるようにしてスプーンですくい、口に運んだ。

ブーン達も食事前の挨拶を済ませ、そして食事を始める。

(∪*´ω`)「美味しいですお!!」

ノパー゚)「うんまい!!」

ζ(゚ー゚*ζ「ほんと、美味しいわ」

964名無しさん:2021/09/19(日) 08:17:57 ID:ctbjoZXk0
香辛料が複雑に絡み合った香りの奥に、辛味、酸味、仄かな甘味を感じ取ることが出来る。
人参、タマネギ、アスパラ、トマトそして大きく切った豚肉。
変わった材料が入っているわけではないが、驚くべきは味の持つ奥行だ。
単純に辛いだけではなく、旨味の理由を探ろうとすればするほど、深みに足が取られて沈んでいく感覚に襲われる。

濃厚な味は一口だけで口内が十分に満たされ、更なる食欲の増進に繋がる。
豚肉は恐らく焦げ目が出来るまで焼いたものを入れ、じっくりと煮詰めたのだろう。
歯応えを残しながらも柔らかく、そして肉の旨味が生きている。
付け合わせに用意されたきゅうりのピクルスも、酸味の効いたこのカレーによく合う。

ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト「ふふーん。 そうでしょう、そうでしょう。
      無水カレーっていうのは、水を使わずに作ったカレーなの。
      トマトの缶詰と後は野菜から出る水分だけで、結構濃厚になるんだー。
      後はね、隠し味にコンソメとワインと、すりおろしたリンゴを入れてるの」

(∪*´ω`)゛

説明を聞きながらも、ブーンはスプーンを動かす手を止めなかった。
大きな口を開けて次々とカレーを頬張り、嬉しそうに咀嚼する。

ノパー゚)「この酸味がいいな」

カレーを口に運びつつ、改めてヒートは賛辞を贈る。
兵士たちは黙々と食べているが、しかし、何度も追加のカレーライスを取りに行く姿を見ればその評価は訊かなくても分かる。

ζ(゚ー゚*ζ「ミセリは学校?」

ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト「ううん、学校はもう終わって、今はリハビリしているはずですよ。
      “バイセンテニアル・マン”にはまだ慣れていないから」

ζ(゚ー゚*ζ「あら、前に見た時には結構使いこなしているように見えたんだけど?」

ミセリ・エクスプローラーは四肢と両目の視力を失っていたが、強化外骨格によって失われた身体機能を取り戻すことが出来ていた。
バイセンテニアル・マンは使用者に合わせて最適化される設計のため、数日もあれば違和感なく使用することが出来るはずだ。

ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト「日常生活の方は全然大丈夫なんだけど、棺桶を使うとなるとまたちょっと違うみたいなんですよ」

ζ(゚ー゚*ζ「なるほどね」

種類の異なる強化外骨格を合わせて使うのは、極めて難易度の高い話になる。
棺桶はそもそも生身の人間が使用することを前提として設計されているため、生体情報を取得して稼働するのが前提だ。
目の動き、筋肉の緊張、体温の変化などを読み取って適切な調整が行われる。
しかし、他の強化外骨格を使用している場合、その生体情報を読み取ることが出来ないことがある。

965名無しさん:2021/09/19(日) 08:18:26 ID:ctbjoZXk0
そうなれば、適切な装着もままならず、実際に動かす際に問題が生じることになる。
量産機であるジョン・ドゥなどは、基本的にAクラスの棺桶との併用が出来ない。
そもそも併用を前提としている棺桶はその数が非常に少なく、開発されたものはもれなく“駄作”の烙印を押されている。
そのため、併用が可能な棺桶を選び、それを使うしかない。

幸いなことにイルトリアには多種多様な棺桶が揃っており、彼女が使用するのに最適なものが見つけられる可能性は非常に高い。
特に、使用者を厭わない設計思想を持つ棺桶であればその可能性は高くなる。

ζ(゚ー゚*ζ「そう言えば、ロマ達はどうしてるの?」

ミ,,゚Д゚彡「あぁ、客人がこの街に来たみたいでな。
     知ってるだろ? トラギコ・マウンテンライトとオサム・ブッテロ。
     ミセリのバイセンテニアル・マンを届けに来た運送業の連中と一緒に来たみたいだぞ」

その時、デレシアは思わず驚きを声に出した。

ζ(゚ー゚*ζ「あら、意外。
      殺し屋と刑事さんが一緒とは、面白い組み合わせね」

ミ,,゚Д゚彡「お前のことを探してここまで来たみたいだから、街の中を歩いていたらどこかで鉢合わせるかもな。
     まぁ、基地の中に入れるつもりはない。
     どうする? 街の外に放り出すか?」

ζ(゚ー゚*ζ「いいわよ、そこまでしなくても。
      それにしても、大した執念ね」

ノパ⊿゚)「あの行動力は敵にしたくねぇな……」

ζ(゚ー゚*ζ「平気よ、今はね。
      それよりも、せっかくだからこのままイルトリアにいてもらったほうがいいわね。
      連中がここに来た時に、役に立つはずよ」

(∪´ω`)「おー」

カレーを食べ終えたブーンはサラダを頬張り、デレシアの話を聞いていた。

(∪´ω`)「ししょーは今どこにいるんですかお?」

ミ,,゚Д゚彡「ししょー? あぁ、ロウガか。
     多分おやっさんと一緒にいると思うぞ」

(∪´ω`)「おやっさん?」

ミ,,゚Д゚彡「ロマネスクのことだ。
     二人とも今夜はこっちに顔を出すって言ってたが――」

食堂の入り口に二つの影が音もなく現れた時、食事をしていた兵士たちがその手を止めた。
漂わせる存在感、そして迫力。
上下黒のスーツを着て、琥珀を思わせる黄金瞳が周囲に向けられる。
歳と共に成熟された気配の主は、ロマネスク・O・スモークジャンパーその人だった。

966名無しさん:2021/09/19(日) 08:18:57 ID:ctbjoZXk0
( ФωФ)「――やはりカレーか」

!ヽ, __ ,/{
リi、;゚ー ゚イ`!「トマトカレーですね」

その隣で、同じく黒のスーツを着た狼の耳と尾を持つ女性は、ロウガ・ウォルフスキン。
二人の姿を見て、ブーンは声を出して喜びをあらわにした。

(∪*´ω`)「ししょー!! ロマさん!!」

食事を中断し、ブーンは二人の元に駆け寄った。
彼がロマネスクの名を口にした瞬間、兵士たちは皆目を丸くして彼を見たが、丸まった尻尾を左右に振りながら駆ける彼を咎める人間はいなかった。

( ФωФ)「おお、ブーン!!
       久しいな!!」

足元に駆け寄ってきたブーンと抱擁を交わし、ロマネスクは笑顔を浮かべた。
恐らく、その場にいた兵士たちの中には彼の笑顔を始めてみた者もいただろう。
兵士の中には、手に持っていたスプーンを取り落とす者もいたほどの衝撃的な光景だった。
ロマネスクとの抱擁が終わると、今度はロウガと抱擁を交わす。

!ヽ, __ ,/{
リi、;゚ー ゚イ`!「少し大きくなったか?」

(∪*´ω`)「分からないですお!」

!ヽ, __ ,/{
リi、;゚ー ゚イ`!「重さも筋肉の質も変わっている。
       たくさん食べて沢山運動をしたんだな、いいぞ」

(∪*´ω`)「お!!」

ロマネスクは手に持っていた紙袋を掲げ、ブーンに言った。

( ФωФ)「お前の為に最高のリンゴを持ってきたぞ。
       後で一緒に食べよう」

(∪*´ω`)「はいですお!!」

967名無しさん:2021/09/19(日) 08:19:17 ID:ctbjoZXk0
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Ammo→Re!!のようです
Ammo for Rebalance!!編
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第二章 【roar of dreamers-夢見る者達の咆哮-】

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同日 PM09:47

ニョルロックにある内藤財団のビル前に二台のSUVが到着し、三人の男女が車から降りた。
その周囲を素早く武装した男たちが取り囲み、他者の視線や接近の一切を防ぐ陣形を構築する。
迅速な動きによって囲まれたのは、一組の男女。

( ^ω^)

一人は西川・ホライゾン。

ξ゚⊿゚)ξ

もう一人は西川・ツンディエレ・ホライゾン。
内藤財団社長、そして副社長は警護に囲まれたままビルの中に入っていく。
その後ろを、ミルナ・G・ホーキンスが静かについていく。

( ゚д゚ )「アニー、お前はどうする?」

車の中に一人残っていたアニー・スコッチグレインに声をかけると、彼は短く答えた。

( ´_ゝ`)「会社の方に行きます。
     父と母と話をしたいと思って」

968名無しさん:2021/09/19(日) 08:20:48 ID:ctbjoZXk0
( ゚д゚ )「……辛い話だな。
    焦らなくてもいいと思うが」

弟と妹を失い、自身は左脚を除いた四肢を失った。
唯一残った左脚は腱を切られ、機械なしでは歩くこともままならない。
睾丸も失い、生殖機能は失われた。
この姿を報告するのは、かなりの重責だ。

( ´_ゝ`)「世界を変える前に、せめて、二人の犠牲が無駄じゃなかったことを知ってもらいたくて」

( ゚д゚ )「まぁ、それはお前次第だな。
    だが、最後まで油断はするなよ。
    まだあと一歩、博士の言っていた物が揃わない限りは始めるわけにはいかない。
    慢心と油断は、いつでも作戦を狂わせる」

( ´_ゝ`)「はい、分かっています」

( ゚д゚ )「連絡はまた後日する。
    出来るうちに親孝行するんだな」

アニーは頷き、車を発進させた。
彼の両手、そして両足には医療用の強化外骨格が取り付けられている。
失われた身体機能の補助をするだけでなく、彼の身を守るための武器でもあった。
ギコ・カスケードレンジという男が彼への復讐を望んでいるのならば、必ずまた姿を現すはずだ。

その時、無力なままでは終わりたくないという彼の願いを聞き届けたイーディン・S・ジョーンズの計らいで、彼は新たな手足を手に入れることが出来たのであった。
すぐ近くにあるフィンガーファイブ社に向かう前に、まずは安全な宿を確保するために馴染みのホテルに寄ることにした。
明日にはニョルロックを去り、彼が担当する地域に向かわなければならない。
両親と話をするのは今夜が最後になるかもしれないと思うと、若干焦りもする。

ホテルのエントランス前に車を停めると、すぐに従業員が駆けつけてきた。
従業員の男はアニーの顔を見て、無言の内に全ての対応を完璧にこなした。
車から降りたアニーに部屋の鍵を渡し、荷物は別の従業員たちが素早く駆け寄り、アニーよりも先に部屋に向けて運び始めた。
軽い会釈だけでチェックインを済ませたアニーは、部屋の窓から星空のように輝くニョルロックの街並みを見下ろした。

( ´_ゝ`)「……」

ようやく。
ようやく、夢の実現に向けた大きな歩みが始まる。
あらゆる苦痛も、困難も、悲しみも。
全てはこの時の為にあったのだ。

世界を変える偉大な一歩、その道のりを振り返ると、あまりにも短く、そして険しい物だった。
両親は彼が何をしてきたのかを知らないが、知れば必ず賛同するはずだ。
父親が傭兵派遣会社を設立したのは、力のない人間が自衛をするための力を格安で提供し、大切なものを失う人間が一人でも減ればと願ったからだ。
弱小な町は力のある町に武力で飲みこまれ、その際に多くの人命や財産が失われる。

969名無しさん:2021/09/19(日) 08:21:11 ID:ctbjoZXk0
フィンガーファイブ社はそうした小さな町に積極的に声をかけ、守るための力を提供しているのである。
もしもアニーたちの夢が成就すれば、今後、フィンガーファイブ社の様な会社は大きく需要を減らすことになる。
淘汰され、最後には傭兵派遣以外にも手広く商売を行っているか、強いパイプがなければ生き残ることは難しいだろう。
その点、フィンガーファイブ社は安泰だ。

一時的な収益の激減はあるが、会社が消えることは無い。
両親もアニーたちの夢に理解を示し、協力を惜しまないはずだ。
フィンガーファイブ社に所属する腕利きを数人、アニーと同行させてもらえれば、安心して目的地に向かうことが出来る。
これから彼が向かおうとしているのは、盗賊たちの楽園、“セフトート”。

世界の腫瘍であり、歩みの妨げになる路傍の石だ。
彼の役目はその街を世界から切除し、無害化することにある。
ラヴニカから最後の一歩が届くまでにはまだ時間がかかるが、場合によっては前倒しで計画が始まることもある。
それに備え、各自要所となる街に向かう必要があるのだ。

冷水で顔を洗い、気持ちを引き締める。
長い運転で疲労がたまっていたが、久しぶりに両親に会って話が出来ることを思えば苦ではない。
入ったばかりの部屋を出て、アニーは夜風に当たって頭を冷やすために徒歩でフィンガーファイブ社ビルに向かった。
仕事熱心な両親はまだこの時間であれば――夜の10時過ぎ――まだ仕事をしているはずだ。

争いの絶えないこの世界であれば、フィンガーファイブ社への依頼が絶えることは無い。
イルトリアとは異なり、こちらは敵対する組織に対しても派遣をすることが往々にしてある。
武力を平等に与えなければ世界のバランスが偏るため、要望があればどこにでも傭兵を派遣する。
最終的な派遣の決定をするのは両親に委ねられているため、その判定の為に夜遅くまで残らなければならない。

ビルの前には武装した傭兵が立っており、接近するアニーに警戒の目を向けた。
しかし、見知った顔を前に、彼らは銃爪にかけていた指をゆっくりと離した。

(`・_ゝ・´)「どうも、アニーさん。
      随分久しぶりですね」

( ´_ゝ`)「あぁ、ちょっと両親に挨拶をしたくてね」

(`・_ゝ・´)「お二人は内藤財団との会談で、数日前から離れています」

( ´_ゝ`)「内藤財団と? 聞いていないな」

(`・_ゝ・´)「確か、9月20日だったと思いますが、その日から今日までずっと御出勤はされていません」

極めて奇妙な話だった。
両親が内藤財団と話をする際は、基本的に電話を使う。
直接会うのは時間の無駄であると同時に、相手が掴まらない可能性が極めて高い。
そのため、直接会って話をするのは極めて重要な話であることになる。

しかし、そうであれば、ニョルロックに向かう途中の車内でホライゾンから何かしらの話があってもいいはずだ。
というよりも、二人は今日この街に着いたばかりなのだから、そもそも両親が話をしているはずがない。
あり得ない矛盾。
アニーの背中に、知らず、冷や汗が浮かんでいた。

970名無しさん:2021/09/19(日) 08:28:34 ID:ctbjoZXk0
考え得るのは異常事態。
想像し得るのは緊急事態。
確信するのは最悪の展開。

(;´_ゝ`)「ちょっと社長室に向かわせてくれ」

(`・_ゝ・´)「……それが、現在社長室への立ち入りは一切禁止されています。
      例えオットーさんであっても、その許可をすることは我々には出来かねます」

(;´_ゝ`)「誰の権限だ?」

アニーの言葉はフィンガーファイブ社の権限で言うならば、その地位は第三位に位置する。
その言葉に対して、傭兵が放ったのは規定通りの言葉だった。

(`・_ゝ・´)「お答えできません」

だがそれは、アニーにとっては十分な情報だった。
フィンガーファイブ社に圧力をかけられる組織は二つ。
一つは内藤財団、そしてもう一つ。
この街の治安維持を担当する“ルプス”だ。

間違いなく何か。
極めて受け入れがたい何かが発生したと考えるしかない。
不安が顔に出たのを察したのか、男はとぼけたように話を続けた。

(`・_ゝ・´)「社長室へは、どなたも入れてはならないという命令があります」

(;´_ゝ`)「……封鎖はされているのか?」

(`・_ゝ・´)「はい、キーコードがなければ立ち入りは出来ないようになっています。
      万が一、許可がない状態で人が入ったのを機械が感知すれば5分で警備が到着します」

それはつまり、入ってから5分であれば部屋を見ることが出来るということだ。
その心遣いに感謝し、アニーは短く礼を言った。

( ´_ゝ`)「……ありがとう」

エレベーターに乗り、すぐに社長室に向かう。
心臓が早鐘を打つ。
行くべきではないと足が震える。
体中の水分が冷や汗に変わり、足の裏に汗をかく反面、唇はひび割れを錯覚するほどに乾いている。

舌で乾いた唇を舐め、深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
考えすぎだと言い聞かせ、エレベーターの扉が開くと同時に、アニーは義足で走り出した。
軋む金属の音と、床を蹴る硬い音、そしてアニーの呼吸音が暗い廊下に響き渡る。
社長室へと続く扉の前に薄らと光を放つ入力版には、0から9までの数字が並んでいた。

971名無しさん:2021/09/19(日) 08:29:05 ID:ctbjoZXk0
考え得るのは異常事態。
想像し得るのは緊急事態。
確信するのは最悪の展開。

(;´_ゝ`)「ちょっと社長室に向かわせてくれ」

(`・_ゝ・´)「……それが、現在社長室への立ち入りは一切禁止されています。
      例えオットーさんであっても、その許可をすることは我々には出来かねます」

(;´_ゝ`)「誰の権限だ?」

アニーの言葉はフィンガーファイブ社の権限で言うならば、その地位は第三位に位置する。
その言葉に対して、傭兵が放ったのは規定通りの言葉だった。

(`・_ゝ・´)「お答えできません」

だがそれは、アニーにとっては十分な情報だった。
フィンガーファイブ社に圧力をかけられる組織は二つ。
一つは内藤財団、そしてもう一つ。
この街の治安維持を担当する“ルプス”だ。

間違いなく何か。
極めて受け入れがたい何かが発生したと考えるしかない。
不安が顔に出たのを察したのか、男はとぼけたように話を続けた。

(`・_ゝ・´)「社長室へは、どなたも入れてはならないという命令があります」

(;´_ゝ`)「……封鎖はされているのか?」

(`・_ゝ・´)「はい、キーコードがなければ立ち入りは出来ないようになっています。
      万が一、許可がない状態で人が入ったのを機械が感知すれば5分で警備が到着します」

それはつまり、入ってから5分であれば部屋を見ることが出来るということだ。
その心遣いに感謝し、アニーは短く礼を言った。

( ´_ゝ`)「……ありがとう」

エレベーターに乗り、すぐに社長室に向かう。
心臓が早鐘を打つ。
行くべきではないと足が震える。
体中の水分が冷や汗に変わり、足の裏に汗をかく反面、唇はひび割れを錯覚するほどに乾いている。

舌で乾いた唇を舐め、深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
考えすぎだと言い聞かせ、エレベーターの扉が開くと同時に、アニーは義足で走り出した。
軋む金属の音と、床を蹴る硬い音、そしてアニーの呼吸音が暗い廊下に響き渡る。
社長室へと続く扉の前に薄らと光を放つ入力版には、0から9までの数字が並んでいた。

972名無しさん:2021/09/19(日) 08:29:25 ID:ctbjoZXk0
アニーは迷うことなくその数字を叩くと、扉は何の抵抗もなく開いた。
部屋に入った瞬間、アニーはそこに漂う匂いに違和感を覚えたが、その正体は分からなかった。
天井から床にまで至る大きな窓ガラスから街の明かりが入り込み、部屋の中を白と黒、そして群青色に照らし出す。
床に並ぶ三角形の札、黒い染み、砕けたガラス片、人型に白く囲われたテープ。

(;゚_ゝ゚)「……はぁっ、っはあっ!!」

あり得ない。
あり得ないと言い聞かせる。
眼前に広がる光景は自分には関係のない、全く別人のそれなのだと。
呼吸が乱れるどころではない。

心臓が乱れ、息の仕方を忘れ、思考が停止する。
足だけは、彼のあらゆる意志に反して前に向かって進み続けていた。
恐らくそれは、彼の脳髄の片隅に残されていた僅かばかりの理性だったのかもしれない。
目の前の現実を否定するため、更に深みへと突き進もうとする現実逃避のそれ。

正解ではなく不正解を求めるための歩み。
壁に飛び散っている黒い染みは、果たして、何なのか。
その正体を知る前に、アニーの背後でエレベーターが動き出す音がした。
気が付けば時間が来ていたのだ。

ようやくアニーの足が理性的な判断に従って、社長室を出てその扉の前で立ち止まることを選んだ。
エレベーターからライフルを持った男が二人降りて、扉の目で立ち止まるアニーに声をかける。

(`・_ゝ・´)「あぁ、アニーさんでしたか」

( ´_ゝ`)「あ、あぁ、ちょっと用があったんだけど、扉が開かなくてね」

茶番を演じ、三人はエレベーターで下の階へと戻った。

(`・_ゝ・´)「……それではお気をつけてお帰り下さい」

( ´_ゝ`)「……ありがとう」

そして、アニーが車に近寄った夜10時23分。
それは何の前触れもなく始まった。

973名無しさん:2021/09/19(日) 08:29:49 ID:ctbjoZXk0
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同日 PM10:23
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爆発の衝撃でアニーは呆気なく吹き飛ばされ、植え込みに落下した。
傭兵二人は顔を庇っていた腕を退け、すぐに無線機を使って報告を始めた。

(`・_ゝ・´)「車輛が爆発した!!
      警戒しろ、襲撃の可能性が――」

だが、その報告は最後までされることは無かった。
男が突然口を噤むと、その場に倒れ込んだのである。
顔の左半分が失われ、誰が見ても即死の状態だった。
もう一人の傭兵もそれを追うようにして倒れ、赤黒い血溜まりが地面に広がる。

燃え盛る車の炎が死体を煌々と照らすが、襲撃者の姿はまるで見えない。
しかし、アニーには確信があった。

974名無しさん:2021/09/19(日) 08:30:54 ID:ctbjoZXk0
(;´_ゝ`)「ギコォォォォ!!」

アニーの叫び声は夜空に木霊し、返答の代わりに、彼の唯一無事とも言えた左脚の膝に大きな穴が開いた。
膝を撃ち抜かれ、たまらずに悲鳴を上げる。
何もできず、必死に両手で止血をする間、彼にできたのは遠くからサイレンの音が近づいてくるのを待つだけだった。
既にこの街にギコ・カスケードレンジが入り込んでおり、狙撃が出来る環境を整えているというのは極めて由々しき問題だ。

自分の身よりも、アニーが心配だったのはティンバーランドの重鎮二人の身だ。
今ここで自分が囮として相手を引き付けている間に逃がすことが出来る。
どうにかして連絡を取らなければと考え、這いつくばりながら死体となった傭兵の元に向かう。
彼らの無線機を使い、どうにか連絡を取ることができれば先手を打てる。

サイレンを鳴らして急行してきた5台のSUVがアニーを庇うようにして停車し、中から棺桶に身を包んだ男たちが降りてくる。
骸骨に抱かれるようなその姿は軽量の棺桶、キー・ボーイだった。

〔欒(0)ш(0)〕「大丈夫ですか?!」

(;´_ゝ`)「内藤財団に――」

言葉よりも、アニーの顔に男の脳髄が降り注ぐ方が早い。

〔欒(0)ш(0)〕「――っ狙撃だ!!」

次弾が次々と撃ち込まれ、キー・ボーイの薄い装甲の下にある急所を容赦なく破壊する。
大口径の狙撃中につきものである反動をまるで感じさせない精密狙撃を前に、駆け付けた男たちもたまらず車輛の影に逃げる。
アニーを車輛の影投げ飛ばした男は、首を撃ち抜かれ、首を傾げたままその場に倒れ込んだ。
銃撃が止むが、誰も物陰から出ようとはしない。

(;´_ゝ`)「……一人でこの街を相手にするつもりか」

その言葉を肯定するかのように、遠くから爆発音が響いた。
クラクション。
悲鳴。
おおよそニョルロックの日常とは無縁の物が、一気に夜の世界にあふれ出す。

この日、ニョルロックはたった一人の男によって戦場と化した。

975名無しさん:2021/09/19(日) 08:31:31 ID:ctbjoZXk0
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                                γ ⌒ ⌒ `ヘ
                             イ,,,, ""  ⌒  ヾ ヾ
                          /゛゛゛(   ⌒   . . ,, ヽ,,'' ..ノ )ヽ
                         (   、、   、 ’'',   . . ノ  ヾ )
                      .................ゞ (.    .  .,,,゛゛゛゛ノ. .ノ ) ,,.ノ........... ........
                      :::::::::::::::::::::( ノ( ^ゝ、、ゝ..,,,,, ,'ソノ ) .ソ::::::::::::::.......::::::
                        ::::::::::.:::::(、;''Y ,,ノ.ノ ,,,^ ^,,,;;;ノ)::::::::::::..:::::::::
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                                 ( ,,,人、..ツ. ノ ) ::::.:::::
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工___                       ミミ|彡ム-''~~ーv'~ ~:::::;;;::   i-‐i |~~|  |   |
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同日 PM10:31

内藤財団本社ビルの反応は、ニョルロックのどの組織よりも迅速で的確だった。
最初の爆発音の直後、重要な部署の窓に防弾シャッターが下りていた。
続いた銃声が鳴り響く頃には、社長と副社長、そしてその護衛は地下駐車場に降りていた。
駐車場に着くと同時に、新たな護衛達が三人の周囲を取り囲む。

社長、西川・リーガル・ホライゾンの隣に目出し帽を被った“ルプス”の戦闘部隊隊長のマッキー・シェリルが並ぶ。
爆発と発砲の現場がすぐ近くのフィンガーファイブ社であることを報告すると、リーガルは苛立ちのこもった声を吐き出した。

( ^ω^)「少し街を開けただけでこの治安の乱れ具合は何ですか」

(::0::0::)「申し訳ございません」

( ^ω^)「犯人の目的と目星は?」

(::0::0::)「いずれも不明です。
     4日前にいたずら程度の爆発騒ぎがあり、それと関係しているかと。
     他には何も……」

直後、マッキーの胸倉を掴み、持ち上げた男がいた。
ミルナ・G・ホーキンスだ。

( ゚д゚ )「嘘を吐くな。
     何があった」

976名無しさん:2021/09/19(日) 08:31:55 ID:ctbjoZXk0
彼の膂力であれば人間一人を、例え訓練で鍛え上げられた肉体を持つ男でさえも、簡単に縊り殺すことができる。
百戦錬磨の腕を誇るマッキーだが、生粋のイルトリア軍人だったミルナに膂力で勝つことはできない。

(::0::0::)「ぐっ……げぇっ……!!
     フィ、フィンガーファイブ社の……社長と……副社長が……暗殺されました……!!」

丸太のように太いミルナの腕を掴み、抵抗を試みるマッキーの声は次第にか細くなっていく。
僅かに見える目出し帽の奥にある顔は赤く変色し、目は充血している。

( ^ω^)「どうして黙っていたのですか?
     最優先で連絡するべき事柄でしょうに」

(::0::0::)「ごっ……極秘で……と……ツンディエレ様から……連絡があったと……
     ルプ……スの……事件責任者……が……」

その言葉を聞いた西川・ツンディエレ・ホライゾンは眉をしかめた。

ξ゚⊿゚)ξ「私が? そんな連絡、一切していません」

( ^ω^)「……図られましたか。 そうか、ギコ・カスケードレンジか。
     ミルナ君、降ろしなさい」

それまで機械のように直立していたミルナが手を離すと、マッキーはその場に倒れた。
咳込み、必死に息を吸う姿に目もくれず、リーガルとツンディエレは用意されていた防弾仕様の車に乗り込んだ。
ミルナはその扉に手をかけたまま、動きを止める。
番犬が主人の指示なしでは動かないのとは違い、彼の場合、何かを待っているかのようだった。

( ^ω^)「この街に入ってきたのか。
     復讐の為に? はっ、何とも健気な」

( ゚д゚ )「どのように対処いたしますか」

リーガルはミルナの顔を見て、意地の悪い笑みを浮かべた。

( ^ω^)「……同志ミルナ、君ならどうします?」

( ゚д゚ )「同志アニーはセフトートの担当です。
     彼をここで失うのは、いささか手痛い。
     何より、この街でこれ以上の治安悪化があるとなると、我々の歩みに支障が出ないとも限りません。
     ギコを撃退、もしくはこの街から排除する必要があります」

( ^ω^)「誰ならできますか?」

( ゚д゚ )「正直、並の人間では太刀打ちできないでしょう。
    だが、私と私の棺桶があれば何も問題はありません。
    奴のやり方は、私が一番知っています」

( ^ω^)「わかりました。 この一件、任せます。
     マッキー君、ミルナ君に全面的に協力し、この騒動に取り掛かってください。
     日を跨ぐことは決してないように」

977名無しさん:2021/09/19(日) 08:33:33 ID:ctbjoZXk0
(::0::0::)「かっ……かしこまり……ました……」

この決断により、ニョルロックで起きた戦争は第二局へと移ることになった。
果たしてそれがこの街にとって英断だったのか、それとも愚断だったのか。
当然、その判断を下すのは後の歴史であり、他の誰かだ。

( ^ω^)「全て、予定通りに行います。 
     後で合流しに来てください」

( ゚д゚ )「かしこまりました」

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      ,.。>      /ハ ゚,}:::ソ j/∧ / | ./ .,゚/ _   } 〈 《l! .!` ーヽ
   ──ァ      // i !{::} ,゚ / ∨  {/  {′\ jぇリ、}_!|} ハ
       ,リj     / 八 `゚ /./               `  r‐ァ| |`ヽ
        ハリ  ///   ゚ヽ ミ,′               ∨rxハ
       ,リ/ //∧   ┃                 ∨ `ヽ 「失敗は許しません
      //,イ゚゙___ミ}_  ┃               ¬ _〉           断じて」
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三三≧x代三三三三二二二7        _,.。-_ ノ
三ニニニ≧x三三三二ニニ7≧x        `ヽ(
三三三ニニ≧x三ニニニニ∧:.:.:.:.:.:>、        r‐’
三三三ニニニ≧xニニニニ7 {:.:.:.:.:.:.:.:_:.>、    {
三三三三ニニニ≧二ニニ7  ミ'⌒ヽ´、  `¨ ー‐┛
三三三三三三三三≧xニ】   }   ∧V≧x
二二二二二二二二二¨≧x   r'三三三ム
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同日 PM10:45

トラギコ・マウンテンライトとオサム・ブッテロはイルトリアでの働き口を探していたが、素性の知れない人間を雇い入れるのはいずれも性産業だけだった。
彼らが追っている人間が男であれば、風俗店に足を運ぶことを考慮して待ち伏せをすることができる。
だが、あいにくと性別は勿論、そうした店には寄り付くような相手ではない。
仕方なしに二人は性産業の日雇い用心棒として働くことにし、当面の間、街に滞在するための資金を調達することに成功していた。

(=゚д゚)「……」

とはいえ、例え風俗店であってもイルトリアの街で粗相を働く人間はほとんどおらず、客層は落ち着いたものだった。
客層のほとんどが傭兵、もしくは軍人であり、トラブルはほとんど起きない。
トラブルを起こせばどうなるのか、彼ら自身がよく分かっているのだ。
だが稀に、店の女に入れ込むあまりに冷静さを欠いた人間が現れることがある。

978名無しさん:2021/09/19(日) 08:33:59 ID:ctbjoZXk0
その際、居合わせた軍人たちが手を出すことがあるが、店側としては穏便に済ませたいという意向がある。
そこで、適度な力を持つ人間が用心棒として店にいれば、派手な騒ぎに発展させずに店を継続できるという利点がある。
風俗店はその性質上、あまり公に仕事をすることができない。
半ば黙認された存在である風俗店が仕事を続けるためには、目立たないことが重要なのだ。

支給されたスーツを着て、トラギコは控室でラジオを聞きながら、新聞を読み、そしてカフェインレスコーヒーを飲んでいた。

【占|○】『臨時ニュースをお伝えします。
     現在、ニョルロックで大規模なテロが発生したとのことです。
     死傷者の数は不明。
     また、テロ実行者の声明も出ておらず、現在治安維持組織“ルプス”が対応に当たっています』

(=゚д゚)「……へぇ」

( ゙゚_ゞ゚)「意外だな、ニョルロックでテロなんて」

ホットドッグに齧り付き、コーラを飲むオサム。
その態度からは、このニュースに対して大した興味もなさそうな印象を受けるが、次の言葉がそれを否定した。

( ゙゚_ゞ゚)「前にあの街で仕事をしたが、死ぬかと思った」

(=゚д゚)「良く生きてたラギね」

( ゙゚_ゞ゚)「命からがらってやつだ。
    おかげで、もう一度あの街に行けば俺は蜂の巣にされる」

殺し屋として名を馳せたとしても、それが生み出すメリットは報酬と依頼数の向上だけだ。
実際問題、あまりにも名が知れ渡れば、様々な街で命を狙われる側に回るため、仕事をする場所は重要な要素になる。
イルトリア、ジュスティアは勿論だが、ニョルロックもまた、犯罪者にとっては心の休まる場所ではない。
この街にオサムが足を踏み入れてもまだ五体満足でいられるのは、彼がここで仕事をしたことがないからなのだろう。

(=゚д゚)「しかし、よっぽどの相手だろうな。
    こうしてニュースになるぐらいラギ。
    普通は大事にならない内に収束させるもんラギ」

( ゙゚_ゞ゚)「隠す余裕がないってことか。
     職業病が出てきたか?」

すっかりぬるくなったコーヒーを一口飲み、トラギコは答えた。

(=゚д゚)「いいや、俺には関係のない話ラギ。
    ただ……」

( ゙゚_ゞ゚)「ただ?」

(=゚д゚)「よっぽど骨のある奴がやってるんだろうな、ってだけラギ。
    信念のある相手は、いつだって厄介ラギ。
    どうなるのか、ちょっとだけ気になるラギね」

979名無しさん:2021/09/19(日) 08:35:41 ID:ctbjoZXk0
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           _,-‐" ̄ ゙゙゙̄'''‐-、
          /          ヽ、
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      / .  i i        i! i    i
       //   i i∧i i i!  i! i i i   i
     / i i i i! i/`ト、i!  i!i i!i\i!  i
.       i.! i ト, ´/ ̄ !i゛レ i/i i丿\i  i
        ! lト.i |         i  ヽ\i
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            ̄L ‐"   //     __ヽ
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              ヽ/'"             \
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同日 同時刻

同じジュスティア人のニダー・スベヌはトラギコと似た感想を抱いていた。
普段浮かべている笑みとはまるで別の、最高のおもちゃを目の前にした獣の笑みが一瞬だけ浮かぶほどだった。
しかし、その笑みを見た人間はその場に誰もいなかった。
だが声をかけられる人間はいた。

<ヽ`∀´>「……アサピー、ウリはちょっと外に行ってくるニダ」

(-@∀@)「あ、じゃあ僕も行きます」

ホテルのベランダから望遠レンズで爆発現場を撮影していたアサピー・ポストマンは、すぐにカメラのレンズを交換し、準備を済ませた。

<ヽ`∀´>「危ないニダよ」

(-@∀@)「ってことは、ライバルはいないってことですからね」

根っからのカメラマンであるアサピーにとって、大都会での大事件はカメラマン冥利に尽きる物だ。
今しか撮影できない物に溢れている現場に、誰よりも早く駆け付け、誰よりも多くの写真を収める。
強迫観念ともいえるその使命感は、だがしかし、彼の中では冷静な判断によって制御されていた。
ジュスティア市長のフォックス・ジャラン・スリウァヤが二人をこの街に派遣したのは、決して偶然の類ではないはずだ。

何かが起きると確信し、備えるためだろう。
ではその備えに、アサピーが選ばれた理由は何か。
彼にしかない武器があるからだ。
写真を撮る、ただそれだけ。

たった一枚の写真が世界を変え得ることを、フォックスは知っているのだ。
ならばここでアサピーが尻込みする理由がない。
信頼に応え、報いることが何よりも重要なのだ。

(-@∀@)「あの子はどうします?」

<ヽ`∀´>「……そのままでいいニダ」

980名無しさん:2021/09/19(日) 08:36:03 ID:ctbjoZXk0
イモジャ・スコッチグレインは今、隣の部屋で眠っている。
両親の急な出張によって再会ができなかった彼女は、しばらくの間ニダーたちと行動を共にする選択をした。
彼らにとっては別に問題にはならないが、今の状況では、彼女の存在は問題だった。
万が一二人が何らかの事件に巻き込まれた時、イモジャの存在を利用しようとする人間がいないとも限らない。

ほぼ無関係の幼子を巻き込むのは二人の本意に反するため、緊急事態の際には距離を取るべきだと決めていた。
今夜二人が彼女を置いてどこかに立ち去ったとしても、宿泊先のホテルについては会社の人間に伝えてあるため問題はない。
多少、心に傷を負うかもしれないが、これからの長い人生で見ればかすり傷のような物だろう。

<ヽ`∀´>「じゃあ、ウリたちの仕事を始めるニダよ」

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                         /ヽ     _,,      イリ
                        / ̄ ̄`ヽ        /ヘ:\
               圭二二ニ=─-、_)、_____/   ∨::\、
                   /, ′/´ ̄ ̄`ヽ 八  /       ',::::::∧`:::...、、
                _ .. ´.::/    , -―- 、__ソ /二∧      j!:::::: ∧:::::.:.:.:` . . 、
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          . . : : :.:.:.::::::::l      ////`ヽ丿 ∨/V〃\ /  ! :::::::::: ∧:::::.:.:.:. . . . .
          . . . : : :.:.:.::::::::l    `Y/////ヽ }//{    ′  ! ::::::::::::: ∧:::::.:.:.:. . . . .
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同日 同時刻

ラジオでニョルロックの速報を聞くより早く、ジュスティア市長のフォックス・ジャラン・スリウァヤはその情報を手に入れていた。
正確に言えば、四日前に起きた爆発事件の情報も彼の耳に入っていた。
今の彼にとってはニョルロックでの騒動は大した興味の対象ではないが、別件と連動していると考えると、多少の興味も湧いてくる。
葉巻を口に咥え、フォックスは呟いた。

爪'ー`)y‐「……騒がしくなるだろうね。
      さて、我々の備えが万全か、そろそろ分かるか」

その呟きは自分自身に対して。
あるいは、彼が持つ受話器の向こうにいる人間に対してか。

爪'ー`)y‐「そっちの調子はどうだ?」

すぐに帰ってきた返事に、フォックスはめったに見せない素の笑顔を浮かべた。

爪'ー`)y‐「ははっ、それはそうか。
      そう言えば、私のプレゼントと手紙は届いたか?」

次に受話器の向こうから聞こえてきた言葉に、フォックスは目を丸くして驚いた。
憤りや怒りの驚きではなく、純粋に数奇な巡り合わせというものに驚いたのだ。

爪'ー`)y‐「本当か。 いや、そんな指示は一切していない。
      まぁ結果としては良かったのかもしれないが、そうか、ふふっ……
      少し迷惑をかけるかもしれないが、よろしく頼むよ」

981名無しさん:2021/09/19(日) 08:36:42 ID:ctbjoZXk0
そう言って葉巻を咥え、煙を口に含み、舐めるようにして味わう。
深く息を吐きだし、フォックスは続けた。

爪'ー`)y‐「そうだ、うちの情報を共有させてもらおう。
      “ミラーフェイス”と“影法師”からの情報を合わせると、今夜、ブーオで何かが起きるらしい。
      あぁ、そうだ。 もう出し惜しみはなしだからな。
      ……そうか。 なら、“影法師”にもそう伝えておこう。

      ふふっ、久しぶりだな、こんなに心躍るのは。
      祭りの前日みたいな気分だよ。
      あの日以来だよ、こんな気分になるのは。
      あぁ、そっちも元気でな」

受話器をそっと置いたフォックスの顔には、まだ笑みが残ったままだった。

爪'ー`)y‐「さぁて、あっちもこっちも大騒ぎだが、どう動くかな。
      この一手、見守らせてもらおうか」

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_ _ ), . : : : ;  `¨⌒>.:.:.:.:.     . : : : :  ; .:.:.:.:.:.:::::::::::::::::::::::::::⌒'爻: : : _ _彡'⌒〜 ノ'´´: :⌒
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爻::::::ノ⌒¨^´  ノi:i:i:《_,、-〜〜ミ::::::::::゚:::::::::::::::::::::::::::_,、シ:   \ `丶ノ  ノし  j乂. . :xX
慫慫爻⌒:::.:.:)ノ⌒X'^´: : : : : : : ミx:::::::::::::::::::ノ⌒ヽ::::7´ 乂  . .)、   ). . : : : : : : ノし爻父
慫爻⌒::::::ノ´ : . .  `: . .  . . : : 爻x'^^'<⌒. . : : :爻.. . . :爻⌒  . . : : .:.:.:::,xX爻淡慫慫
慫淡爻'⌒::: : : 乂__ノ´:::::爻., . . : ノ´ ). . :)   . ノ: . .  ≫爻父: . .: ,xX爻淡慫慫慫淡慫慫
慫慫淡爻⌒.: .: : ノ'´::::::ノ:.:.:.:爻'´. . . : : : x'⌒ 爻、、、xX爻爻淡淡慫慫戀戀戀戀戀慫戀戀
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982名無しさん:2021/09/19(日) 08:38:38 ID:ctbjoZXk0
同日 PM11:01

ブーオの夜は波の音と森のざわめきが島中を包む、穏やかなものだ。
夜空には雲一つなく、澄み切った空気の中に、大きな月の姿が浮かんでいる。
もしも島の中に、天体観測に使用する望遠鏡を使い、月を見ている人間がいたら、その後の何もかもが変わったのかもしれない。
島に入るためには海を渡らなければならない。

その固定観念が島に大きな防衛の穴を作っていることに気づいてはいたが、歴代の市長たちはそこまで重要視していなかった。
上空3000メートル。
音もなくそこを漂う、一隻の飛行船がいた。
全体を夜空と同じ深い群青色と黒で塗装し、一切の明かりも漏れ出ていない。

酸素マスクを装着した男が、格納庫に向けて静かに言葉を発した。

(::0::0::)「目標降下地点に到達。
     降下準備」

格納庫には一人の女が座っていた。
化粧で固めたかのような笑顔を貼り付けた女は酸素マスクを外し、立てかけていたコンテナを背負う。

(::0::0::)「いつでもいいぞ」

その言葉を聞いた女は笑みを浮かべたまま、囁くように言葉を紡ぐ。

从'ー'从『さぁ、坊や。さぁ、さぁ、よい子の坊や。さぁ、さぁ、さぁ、眠ろうか』

まるで子守歌の様な言葉が続いた直後、女の体はコンテナの中に取り込まれていった。
そしてそのコンテナが開き、次に姿を現したのは、黒い外套を身にまとった死神を思わせる異形だった。

/、゚買゚〉

真紅の輝きを放つ双眸。
手にした巨大な三角錐。
そのいずれも、敵対する存在に対して最大級の畏怖を与えるためのデザインだ。
事実、その強化外骨格は死を振り撒くことに特化した物であり、“プレイグロード”の起動コードはある意味で皮肉に満ちたものだった。

それまで格納庫を照らしていた明かりが赤色に変わる。
格納庫の扉がゆっくりと開き、外気が一気に入り込んでくる。
凍えるような冷たい風の中、男は指を三本立てた。

(::0::0::)「降下3秒前」

プレイグロードが一歩前に踏み出す。

(::0::0::)「降下2秒前」

三角錐の主兵装“ファイレクシア”を腰に固定し、更に一歩を踏み出す。

(::0::0::)「降下1秒前」

983名無しさん:2021/09/19(日) 08:40:22 ID:ctbjoZXk0
その背中には強化外骨格用のパラシュートが装着されている。
すでにその体は空と格納庫との境目に来ており、もう一歩を踏み出せばその体は虚空へと投げ出されることになる。

/、゚買゚〉『行ってきまぁす』」

甘い、糖蜜のような声でワタナベ・ビルケンシュトックはそう言って、最後の一歩を踏み出した。
この夜。

(::0::0::)「“厄病女神”の降下を確認。
     上空で待機、観測を行います」

――ブーオの空から、殺戮が降ってきた。

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.              _,ノ  ̄ ̄ ̄\_
         _彡 ̄ ̄`\     \\
          /^丶、             }}}`、
         \、`¨¨¨¨\      /  \
        \ 'ニ=- .._ \    /    ,ハ二ニ=‐-
          { 'ニニニニ=-   │/  / }‐-=ニ二ニ\
          \ \二二二{  // /  /      }ニ二\
           ヽ、 ̄ ‐ニニ{///  /   /    /ニニニ二
                  ̄\\}/__/  //    /ニニニニ二
                     ア゛ _.. -‐=ニ/    /ニニニニニ二
                 / ∠二二ニニ    /ニニニニニニ二
                   /∠二二二ニ=-‐=ニ二二二ニニニニニニ\_
                  /          \ニニニニニニニニ二二二二{
              // ̄ ̄\      \ニニニニニニニ_二(⌒
                //        }        'ニニニ二二二二 }ニニ
            l |        /     |   |二二ニニニニニ}}ニ(⌒
            l |     /       /  |.ニニ二/ニニ二{{二⊂
               l l    /    /   / 二//ニ二二二}\二
              /l  l    /    /    _ニ/ /二二二二{  \
.             |   l  /   /     //  /-/ニニニニ\
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

同日 同時刻

最初に気づいたのは、市長邸宅の中庭を警備する犬だった。
空から降ってくる黒い影に気づき、吠えたてるが、平和に慣れていた警備兵はそれを大して気にも留めなかった。
しかし、月明かりが陰り、己の足元に別の影が降りていることに気づいた時、彼の顔は上空に向けられた。
直後、彼の目は自分の背中を見て、犬と共にそのまま絶命した。

物音を聞いた警備兵たちが中庭に立つ禍々しい棺桶を目視した時、警告ではなく発砲が優先された。
対人用の弾は黒いローブに阻まれ、地面に落ちていく。

( 0"ゞ0)「襲撃だ!!」

984名無しさん:2021/09/19(日) 08:40:48 ID:ctbjoZXk0
本番のように訓練を受け、訓練通りに本番を迎える。
その教えが、警備兵の一人に警報を鳴らさせるという行動をとらせた。
邸宅中に鳴り響く警報音。
無数のライトが一面を照らし、まるで真昼の様な光景を作り出す。

浮かび上がる人影。
そして、遅れて空から落ちてきたパラシュート。

/、゚買゚〉『訪問よぉ』

腰に手を伸ばし、そこにある三角錐“ファイレクシア”を手に取る。
巨大な鉄塊を悠然と構え、そして、赤く染まった先端部をワイヤー誘導で射出した。
避けることも、目視することも敵わないまま、警備兵の一人が生きたまま串刺しにされる。

( 0"ゞ0)「おごっ……ふっ……!?」

警備兵はそのまま横薙ぎに振り回され、仲間たちに体をぶつけられる。
その衝撃で警備兵は全身の骨が砕かれ、内臓は破裂し、血反吐をまき散らしながら宙を舞う。
途中、男の腹部からファイレクシアが抜け、絶命寸前の体は市長邸宅窓ガラスを破って市長の眼前に転がり込んだ。
ガガーリン・ザラキは悲鳴を上げた。

川_ゝ川「いやあぁぁぁ!!」

だが、現場で対応をしている人間達は彼女の悲鳴も、恐怖も気にしている暇も余裕もなかった。
直ちに棺桶を装備した部隊が出動し、現場へと急行する。
その間にプレイグロードは歩きながら邸宅へと向かい、道中に現れる警備兵たちを一人、また一人と屠っていった。

( 0"ゞ0)「応援を!! 軍隊でもいいから寄越してくれ!!
      相手はプレイグロードだ!!」

そして始まった棺桶同士の戦闘は、ブーオ史上最も激しいものとなっていった。
重装備の“アストレア”はブーオの守り神であり、全土に配備されている量産型のBクラスの棺桶。
白、黒、そして赤色の特殊なカラーリングを除けば、その姿はどこかジョン・ドゥを思わせるものがあるが、こちらは“名持ち”の棺桶だ。
拡張性、そして汎用性共に優れた物があり、何より運動性と防御性能は極めて高い数値を誇っている。

そして、ブーオが使用するアストレアは全てのそれが腰に大型の高周波刀を装備しており、近距離戦においては絶対的な自信を有している。
彼らは一日たりとも訓練を怠らず、外部からの侵略行為に向けて備えていた。
対応にあたったのは、邸宅に控えていた10機の棺桶持ち。
地面に転がり、戦闘不能になっているのがその内の4機。

985名無しさん:2021/09/19(日) 08:42:30 ID:ctbjoZXk0
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       弋__/〉/f´/ /l 「|/ ,.ィア≠二アハV| |ヽ
        ` <.{ {l./ }/  ̄}イ//)\ V∧Ⅵ ∧
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.           .′{/ / /rイ/ ヽ\/{__>"´}」::::::∧
            Ⅵ{ .r┴{マヽ\ >"´─=彡イ \|ヽ.∧
            V.八  ∨/<:::` ー──=イノ     \!
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                 rィ「几r=ミ / /
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<]゚王゚[>『せあああぁぁぁっ!!』

気合と共に、隊長機が正面から一気に距離を詰める。
それに合わせ、後方、左右から味方も接近する。
しかし、プレイグロードの使用者は彼らの想定をはるかに超えた力量の持ち主だった。
倒したアストレアの落とした高周波刀をファイレクシアの先端部で絡め取り、それをワイヤー誘導で振り回しているのだ。

そのため、接近するためには死地に潜らなければならず、隙を突いたつもりの味方が次々と倒されていった。
それを打破するため、隊長機は捨て身の覚悟で死地に踏み込んだのである。
ワイヤー誘導の得物は、その先端の動きを事前に使用者の手元が教えてくれる。
それを見極め、隊長機はワイヤーの内側へと入り込む。

プレイグロードで最も恐れなければならないのは、ワイヤー誘導で繰り出される一撃ではない。
真に恐れるべきなのは、ファイレクシアに装填されている猛毒“D-VXガス”だ。
だがその猛毒は現代の技術で復元するには莫大な資金が必要であり、一介のテロリストが入手できるものではない。
世界中でテロ行為を行う集団でさえその入手は困難とされており、こうして現れた正体不明の人間がその毒を手にしているはずがない。

もしも毒を手にしているのならば、こうして戦う前に散布し、決着させることが出来たはずだ。
毒を持たない蛇を恐れることのないように、隊長機は確信をもって決着を急いだのだ。
その光景を、500メートル離れた建物の屋上に到着した狙撃部隊の隊員達が目視する。
既に対強化外骨格用の弾丸を装填した狙撃銃を構え、発砲の機会をうかがっていた。

高倍率のスコープの中では黒い影同士が争っているようにしか見えないが、特徴的なシルエットが狙撃手に正確な情報を伝える。

<]゚王゚[>『狙撃位置に着いた、これより発砲を開始する』

踏み込んだ隊長機がワイヤーを切断し、攻撃の手段を奪う。
そしてそのチャンスを、周囲の部下たちも見逃さず、一気に接近し――

<]゚王゚[>『あぐっ……げあぁぁぁあっ!!』

986名無しさん:2021/09/19(日) 08:43:30 ID:ctbjoZXk0
全員がその場に倒れ、虫のように、陸に捨てられた魚のようにもがき苦しみ始めた。
その声は人間の発するものとはとても思えないほどに歪み、おぞましい物だった。
断末魔の叫び。
屠殺所の家畜の悲鳴。

消える寸前の命の炎が放つ輝き。
プレイグロードの毒が散布されたことを何よりも如実に物語る光景は、狙撃手たちの指を凍り付かせた。
手にすることが出来ないはずだと思われていた毒が実在し、使用された。
既に周囲の警備兵たちは生きていることを後悔する苦しみに苛まれた挙句、絶望の中で死んでいくのだろう。

絶望が声となったそれが、少し、また少しと消えていく。
やがてその声が消え、思い出したように誰かが口走る。

<]゚王゚[>『くそっ、撃て!!』

狙いを定めた者から銃爪を引き絞り、必殺の弾丸を放つ。
しかし、黒い棺桶は近くのアストレアを掲げ、その銃弾を防ぐ。
こちらの姿を目視したのか、それとも、殺気だけを感知しての技か。
大口径の銃弾が強化装甲をえぐり、砕くがプレイグロードには届かない。

ついに、邸宅の一角にある木の陰に隠れ、姿を見せなくなった。
温度感知式のカメラに切り替え、まだそこに隠れているのを見て安堵する。

<]゚王゚[>『奴は木の影にいる、誰か、頼む!!』

『――僕たちが止めて見せます』

『行くぞ』

その声はマイクを通して警備兵たち全員に届いた。
ブーオが誇る二人の守護神。
“慈愛のラキ”と呼ばれるラキ・マハトラーマ、そして“苛烈のスーラン”の渾名を持つスーラン・ラザトゥーユの声だ。
これまで街を襲った未曽有の災害、大規模な侵略行為。

それら全ての害悪から街を守るため、ブーオは守護神と謳われる2名の腕利きの棺桶持ちを選出している。
歴代の守護神たちが使用してきたアストレア・カスタムを引き継ぎ、改良し、今日に至る。
中でもラキとスーランは最も優秀な守護神と評され、持って生まれた才能も、訓練を経て身に着けた実力も最高のものだ。
市長邸宅から飛び出した二機の棺桶は、迷うことなくプレイグロードに襲い掛かった。

<]゚王゚[>『あああああ!!』

両手に構えた大型の高周波刀を振り下ろしたのは、スーランだった。
近接戦闘において比類のない技術を有する彼の一撃を、プレイグロードはその場を十分すぎるほどの後退で凌いだ。
後退した直後、プレイグロードの体を大口径の対強化外骨格用の銃弾が襲った。

<]゚王゚[>『ちっ!!』

987名無しさん:2021/09/19(日) 08:45:51 ID:ctbjoZXk0
両肩、両腰、そして両手に銃身を切り詰めたライフルを装着した射撃特化のカスタム機。
ラキの第一射で仕留められなかったのは、プレイグロードの体を覆う分厚い特殊布のせいだ。
だがその布を貫通し、装甲にかなりの打撃を与えられたのは間違いない。
その証拠に、プレイグロードはその場に倒れ、動かなくなっている。

<]゚王゚[>『スーラン、そいつは殺すな!!』

<]゚王゚[>『分かってる!!』

ガスがなければプレイグロードは恐れる必要がない。
牙を失った毒蛇など、容易に命を落とす。
ラキが作った勝機が薄れる前に、スーランは一気にプレイグロードに接近していた。
彼らに余計な言葉はいらない。

/、゚買゚〉『ふぅん……!!』

バッテリーを破壊しようとしたスーランの斬撃を、プレイグロードは地面を転がって回避した。
転がる先にラキが次々と射撃を行う。
一度に六発の銃弾が放たれ、プレイグロードの装甲が次々と剥がれ落ちていく。

/、゚買゚〉『いいのかしらぁ、そんなに撃っちゃって!!』

<]゚王゚[>『……ラキ、下がれ!!
     こいつはまだ毒を持っている!!』

その警告は早く、次に取った行動も早かった。
だが、遅かった。
プレイグロードは腰から朱色の弾頭を取り出し、それを宙に放り投げていた。
既に地面は何かで濡れたように黒くなり、毒が漏れ出ていることを暗に示している。

スーランはその場から一気に距離を取り、毒ガスを吸い込まないよう、液体が付着しないように遠ざかる。

<]゚王゚[>『スーラン!! 弾頭を!!』

弾頭が衝撃を受ければ中の毒ガスがあふれ出し、それが夜風に運ばれて周囲に甚大な被害をもたらすことになる。

/、゚買゚〉『守ってみせてよぉ!!』

プレイグロードが立ち上がり、ファイレクシアを構える。
その構えを見る前に、ラキは発砲準備を終えていた。
だが銃爪は引けない。
相手がどれだけの数の毒を所有しているか分からない以上、銃撃は出来ない。

もしも、プレイグロードが別の毒を持っていたとしたら、ラキの銃撃はそれだけで多くの被害を生む。
特に気をつけなければいけないのは、プレイグロードが身にまとっている繊維の下の存在だ。
防弾繊維というだけでなく、こちらの目から武装を隠すという効果もある。
目視できない位置に毒の塊があれば、それだけで脅威となる。

988名無しさん:2021/09/19(日) 08:46:22 ID:ctbjoZXk0
スーランを含め、近くに誰もいない状態になって初めて銃撃が可能になる。
最悪のパターンはバッテリーに被弾し、誘爆することだ。
ファイレクシアの先端には今、何も付いていない。
宙に放られた猛毒が落下することを避けるため、スーランは呼吸を止め、一気に跳躍した。

/、゚買゚〉『真っすぐだけど、面白くないわねぇ』

心底退屈そうな声がスーランの下から聞こえてきたと思った瞬間、プレイグロードは構えたファイレクシアをスーラン目掛けて投擲した。
咄嗟にスーランは上体を反らし、その攻撃を回避する。
超人的な反射神経と運動能力が可能にしたその曲芸は、だがしかし、彼の寿命を縮めることになった。

<]゚王゚[>『しまっ……!!』

ファイレクシアは彼が掴もうとしていたD-VXガスに直撃し、目の前で砕けた。
猛毒が一瞬で空中から地上に散布され、その直撃を受けたスーランの絶叫が夜の空に木霊する。

<]゚王゚[>『スーラン!!』

生きながらに死に貪られる恐怖。
その中でも、スーランは己の使命を忘れてはいなかった。

<]゚王゚[>『ラ……ラキ……!!
     ガ、が……ガガーリンを……!! だのむっ……!!
     ――ブーオに栄光あれ!!』

その言葉が引き金となり、スーランの体を包んでいたアストレアがまばゆい光を放ち、爆散した。
二人に与えられた棺桶にだけ搭載された自爆装置。
それは機密情報を守るだけでなく、彼が仕留め損なった場合、爆発の殺傷範囲内にいるであろう敵を諸共に爆殺するための最後の牙だった。
半径10メートル以内の全ての酸素を燃やし尽くす業火は、D-VXガスにとって数少ない弱点でもあった。

D-VXガスはその性質上、解毒剤が存在しない。
しかし、万が一それが流出した際の対抗策は用意されていた。
ある一定の――極めて高い――温度以上の炎によって蒸発し、無力化することが出来る。
彼らのアストレア・カスタムの自爆装置がもたらす爆炎の最高温度は約三千度。

耐熱性に優れることを自慢にする棺桶でさえ、その炎に耐えられるのは極一部だけだ。
プレイグロードには当然、その炎に耐える術はない。
周囲の酸素を食らいつくすようにして燃え、に風が爆心地に向けて吹き荒れる。
燃えカスと灰だけが残された空間には、プレイグロードの姿はなかった。

<]゚王゚[>『スーラン……!!』

幼馴染が最後に見せた命の輝きを、ラキはまだ受け止められずにいた。
最高の相棒であり、最強の守り神がこうも呆気なく死んだとは、とても思えないのだ。
しかし、自爆によって生まれたクレーターと灰燼が何より如実に彼の死を物語っている。
受け入れるしかない。

989名無しさん:2021/09/19(日) 08:46:49 ID:ctbjoZXk0
――スーランの死も、自爆する寸前に棺桶を破棄してその場から襲撃者が一瞬で逃げたことも。
優れた運動性能がないとしても、事前にこちらの動きを予期した上で後方に全力で跳躍しつつ装甲を脱ぎ捨てれば慣性に従ってその使用者だけが高速で離脱できる。
何度も視線を潜り抜けた棺桶持ちならば知っている、ある種の応用技だ。
その襲撃者が若い女であることもまた、受け入れなければならないことだった。

从'ー'从「まったく、もうちょっと楽しめないのかしらぁ」

若い女は僅かに振り返り、ラキを見た。
その両手は胸の前で何かを抱いているように見えた。

<]゚王゚[>『お前だけは……!! 許さない!!』

从'ー'从「許してほしいなんて言ってないわよぉ」

<]゚王゚[>『何で、こんなことを!!』

女は少し考えるようにして仰ぎ、自分の胸を抱き込むようにして俯いた。

从'ー'从『この手では最愛を抱くことさえ叶わない』

何かが女の手の中でうごめき、そして、その両手に禍々しい鉤爪が現れた。
Aクラスの棺桶であることは間違いないが、飛び道具を持っている様には見えない。

<]゚王゚[>『ここで!! お前を!! 止める!!』

六つの銃腔が女に向けられ、銃爪が引かれた。
いずれの弾も命中すればそれだけで死に至らしめる威力を有しており、脚部の強化がない状態の人間には回避など無理な射撃だ。
醜い肉塊に女の姿が変わることを幻視したラキは、次の瞬間、驚愕にその双眸を見開くことになる。

<]゚王゚[>『なっ――』

从'ー'从「理想だけじゃあねぇ」

明らかに人間の脚力ではない速度で移動した女は、瞬く間にラキの足元に出現していた。
射撃武器がメインのアストレア・カスタムでは即応できない距離。
女の鉤爪が不気味な音を発していることにその時初めて気づいたが、反応が追い付かなかった。
膝関節の一部を切り落とされ、ラキはその場に膝を突く。

理由よりも、理屈よりも、ラキの体は染み付いた戦闘本能に従って動いた。

从'ー'从「……っと」

必殺の銃声が三つ響く。
女は高々と跳躍し、一瞬の内にラキの背後に回り込む。
その隙にラキは間合いを取り、体勢を整える。

<]゚王゚[>『マックスペインか……!!』

990名無しさん:2021/09/19(日) 08:49:38 ID:ctbjoZXk0
刹那の邂逅で、ラキは女の首筋に僅かな注射痕を目撃していた。
激痛と引き換えに人間離れした筋力を得られる薬物ならば、このバカげた戦闘能力の高さも頷ける。
効果は一時間。
ブーオにとっては、絶望的ともいえる時間の長さだ。

しかし、プレイグロードの破壊に成功したのは大きな功績だ。
近接戦闘を得意とするスーランと引き換えに得たその優位性を、ここで失うわけにはいかない。
増援が合流するまでの辛抱だ。
ほぼ生身の人間に恐怖するなど、ありえない。

从'ー'从「さぁ、どうやって遊ぼうかしらぁ?」

<]゚王゚[>『……遊ぶ? 殺し合いを、遊びだと思っているのか、お前は!!』

恐怖を克服する術を、ラキは知っている。
心を殺し、無慈悲を徹底するための訓練で得た一種の能力。
女が使ったマックスペインとは違い、こちらは一時的な力ではない。
幼少期から彼らは催眠と薬物投与により、自己催眠による戦闘力の向上を可能としている。

心の中に種を抱え、それを発芽させるイメージ。
激昂したラキは次の瞬間、まるで凪いだ海のように静かな心境となり、あらゆる無駄を削った正確無比な戦闘機械へと切り替わった。
腰の鞘から小型の高周波刀を逆手に構え、疾駆する。

从'ー'从「あらぁ?」

左右から繰り出した合計七回の斬撃。
女はそれを全て見切ったかのように、両手の鉤爪ではじき返す。
膂力ではラキの圧勝だが、女の技量はラキのそれを凌駕している。
この殺し合い、最後に勝つのは意地を貫き通した方だ。

<]゚王゚[>『お前の様な奴がいるから、争いは消えないんだ』

从'ー'从「だから何ぃ?
     人の本質でしょう?」

<]゚王゚[>『違う、人の本質は理解し合うことだ』

更に速度を上げた三度の斬撃は、全て寸前のところで回避される。
逆に女は躱しざまにアストレアの装甲に傷をつけていく。
どれも致命傷にもならない浅い傷だが、まるで甘噛みされているかのように心が落ち着かない。

从'ー'从「私のコミュニケーションは殺すことなのぉ。
     頭ごなしに否定されると傷つくわぁ」

<]゚王゚[>『うるさい、もう、黙っていてくれ』

从'ー'从「あらぁ、対話を拒むのかしらぁ?」

刃の嵐のように、二人は斬撃を繰り出し合う。
高周波振動をする刃同士がふれあい、悲鳴のような音が上がる。

991名無しさん:2021/09/19(日) 08:51:51 ID:ctbjoZXk0
<]゚王゚[>『お前のは対話じゃない、ただの殺戮だ』

从'ー'从「人を殺すって、とっても気持ちいいのよぉ?
     その人の人生がそこで終わるの。
     あぁ、今日までせっかく善人でいたとしても、一瞬で終わるのよぉ。
     この手で、終わらせてあげられるのぉ。

     今頃、街の人たちもそうやって終わっているはずだけど、あなたは気づかないでしょう?
     そんなものよぉ」

<]゚王゚[>『なっ……!!』

その動揺が、ラキにとっては致命的であり、女にとっては絶好の機会だった。
僅かに遅れた斬撃の隙間を、女の一撃は見逃さなかった。
滑りこむ様にして脇の下の装甲の隙間に入り込み、その奥にあるケーブルを切断する。
両腕の駆動系を破壊されただけでなく、ラキの体にまでその一撃は到達した。

血管の集中する場所への一撃は、彼の体から一気に血液を奪い取った。

<]゚王゚[>『あっ……がぁっ……』

从'ー'从「あははっ!! ね?
     さっきまで元気だったのに、いい事言っていたつもりなのに、呆気ないでしょう?
     これまでの人生の何もかもは、こうやって私に殺されるためにあったのぉ」

<]゚王゚[>『ぶ……ブーオに……』

从'ー'从「あぁん、駄目よそんなことしたら」

ラキの喉を、鉤爪が貫いた。
音声入力による自爆コードの起動が奪われ、女を巻き添えに殺すことも叶わない。
あらゆる攻撃手段は彼の血液と共に急速に失われ、意識が遠のく。

从'ー'从「死ぬ前にガガーリンちゃんに会いたいでしょう?
     あっ、違うかぁ。
     死ぬ前のガガーリンちゃんに会いたいでしょう?
     まぁ何にしても会えないんだけどねぇ」

<]゚王゚[>『ご……の……』

从'ー'从「安心して、ちゃんと命は無駄にはしないわよぉ。
     命の最後の一滴まで、ちゃんと私が楽しんであげるわぁ」

ラキの左手首を一瞬で切断し、女はそれを拾い上げた。
女はその場にラキを残し、まるでデートを前にした少女のような足取りで歩き出す。
増援が来ない理由よりも、ラキは今、自分の自信が粉々に打ち砕かれ、無力感に苛まれていた。

<]゚王゚[>『に、にげろ……が……っ――』

992名無しさん:2021/09/19(日) 08:53:13 ID:ctbjoZXk0
――ラキが絶望の中で死に抗っている頃、ガガーリン・ザラキは絶望を前に立ち向かう道を選んでいた。
彼女がブーオ最後の砦であることは、彼女自身がよく理解している。

<]゚王゚[>『く、来るな!!』

金色のアストレア・カスタムは、ブーオの市長が代々引き継いでいる由緒ある棺桶だ。
戦場では何一つ優位性を生まない黄金色の塗装は、ブーオの市長である証。
邸宅内にいた護衛は全て殺され、今、絶望が目の前にいた。

( ・トェェェイ・)「いやいや、そう拒否しないでくださいよ」

悪魔の顎としか形容できないマスクを装着した男は、護衛と秘書を兼ねていた女の死体を一瞥した。

( ・トェェェイ・)「私は対話に来たのに、こんなに手荒な歓迎を受けるなんて……」

<]゚王゚[>『黙れ!! 侵略者を我々は断固拒否する!!』

( ・トェェェイ・)「はぁ……交渉は決裂ですか」

<]゚王゚[>『今すぐ消えろ!! 消えてなくなれ!!』

次の瞬間、男は笑顔を浮かべた。

( ・トェェェイ・)「いいですね、その気丈な態度。
       どうやれば壊れるのか、ぜひ試したい」

<]゚王゚[>『無礼るなぁ!!』

大口径のライフルを構え、威嚇射撃を行う。
それは彼女の体に染みついていた一撃目。
いかなる相手でも、対話の道を用意することがブーオ市長の務めなのだ。

( ・トェェェイ・)「あぁ、駄目ですって、そんな虚勢。
       人を撃ったことがないのがすぐに分かってしまって……あぁ、興奮しますよ」

男が一歩で間合いを詰め、ガガーリンの手を取る。
優雅、あるいは紳士的なまでのその仕草には一切の殺意がない。
そのため、致命的なまでの接近を許したことに半瞬遅れて気が付いた。

<]゚王゚[>『あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!』

男の顎が接吻をするように、ガガーリンの右腕を食い千切った。
焼き鏝を当てられたかのような激痛が走り、次いで、肉が焦げる嫌なにおいがした。

( ・トェェェイ・)「うぅん、いい声ですね。
       思った通りだ、貴女は強がるよりもそうやっている方が素敵だ」

<]゚王゚[>『こっ、この!!』

( ・トェェェイ・)「落ち着いてください、興奮していると対話が出来ないですから」

993名無しさん:2021/09/19(日) 08:54:57 ID:ctbjoZXk0
無事な左手で男を殴りつける。
その拳を口で受け止め、男はガガーリンの拳を噛みちぎる。
親指以外の指が装甲ごと噛み取られ、男は口に挟んだ指を弄ぶように転がし始める。

<]゚王゚[>『ひっぎぃいい!?』

地面に指を吐き捨て、男は言った。

( ・トェェェイ・)「血の気が多いわりに、どうにも鉄分が少ないみたいですね。
       さぁ、対話の準備はよろしいですか?」

从'ー'从「どう? お話は出来そう?」

両手に鉤爪をつけた女が割れた窓から入り込み、そんな言葉を吐き出した。

<]゚王゚[>『お前たちはっ……!! 内藤財団の奴らだな!!
     こんなっ……こんなことをして!!』

从'ー'从「世界に発信するって?
     あははっ、無理よぉ。
     船には全部仕掛けをしてあるから、みんな沖に出た頃に沈んでいるはずよぉ」

<]゚王゚[>『そ、そんな……』

( ・トェェェイ・)「あー、後は兵士の話を忘れていましたね。
       どうします? 私から説明します?」

从'ー'从「えぇ、どうぞお好きに」

( ・トェェェイ・)「兵舎の空調機器にDV-Xガスを仕掛けたから全滅していますよ。
       残念ですね。
       いや、本当に心からお悔やみを申し上げますよ」

<]゚王゚[>『ば、ばか……な……』

( ・トェェェイ・)「冗談でも嘘でもないですよ。
       ほら、さっき庭の方でこの女性が使っていたでしょう?」

从'ー'从「あ、そうそう。
      これ、お土産」

女が造作もなくガガーリンの前に投げたのは、人間の手首から先だった。
その指は血で汚れているが、薬指にはめられている指輪は見覚えがある。
彼女の夫であるラキに送られた銀の指輪だ。

<]゚王゚[>『ら、ラキ……!? きっ……!!
     貴様らぁあぁあああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!』

994名無しさん:2021/09/19(日) 08:55:36 ID:ctbjoZXk0
从'ー'从「予定通り、交渉は決裂みたいね」

( ・トェェェイ・)「じゃあ、後は好きにさせてもらいましょう。
       あ、そうそう。 一つ質問なのですが――」

<]゚王゚[>『死ねぇ!!』

( ・トェェェイ・)「――血液型、教えてもらえませんか?
       輸血しながらヤりたいので」

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    . : : : :l : : : |  : : :/u | . : : /ニ| /ニ! :/||
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  : : : : : |: |∧ /‐ヘ : : | \| : / ィ彡;=、`ミj / / . :
: l . :|: : : 、| ,ム{=rミ、: :|  l: /〃{、厶リ ノ^ / . :
: l : :|、: : 、: k〈{_厶リ ヽ|  l/‐=三三彡  / . : :
`lヽ: :|/\ ヽ\≧彡’/ヘ            / : /
  ヘ: l: :/ \:ト‐\   <_〉           /:/
.  ハ!:/   . |     ヽ             /ア    . :
 /  /  : : '、    _z, -―-、     /:/    : /:
. l: /l   : : : >、   {Z三三__)    //l   . :/: :
./'   |  . : : イ . >、  ―         /´/  . : イ: : /
.    l  : : / |: /  \            _/  . :/_j : /
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この夜。
ブーオの歴史は大きな変化を迎えた。
内藤財団の交渉を拒否したことにより、彼らは滅びの道を辿ることになる。
外部から島に接触する手段がないことが災いし、島から外に情報と人間が流出することの出来ない鳥かごと化したのだ。

凌辱の限りを尽くされ、死を懇願する程の扱いを受けたガガーリンの心は完全に壊れ、あらかじめ用意されたシナリオ通りに動く人形となった。
言われた通りに書類にサインをし、島全体に放送をかけて声明を発表した。
更にいくつかの録音が完了すると、ようやく、ガガーリンは死を許された。
しかしある意味で、その結末は彼女にとっていい物だったのかもしれない。

――この後、ブーオに文字通り降り注いだ終末を見ないで済んだのだから。

995名無しさん:2021/09/19(日) 08:56:10 ID:ctbjoZXk0
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同日 PM11:59

イーディン・S・ジョーンズは防寒着を着込んだ状態で、その場に腕を組んで立っていた。
彼の耳にはイヤーマフが装着され、視線は星空に向けられている。
正確には星空ではなく、その下。
修復が完了した規格外の巨大さを誇る“対都市攻略用強化外骨格”棺桶、ハート・ロッカー。

約240メートルの巨体がこうして空の下に姿を晒すのは、恐らく、開発されてから初めてのことだろう。
とは言え、地下に作られた施設の天井が開いただけであり、その全貌を地上に出しているわけではない。
今から行う実験に伴い、一時的にその姿を見せるだけなのだ。
右肩に装着された巨大な砲門は、狭い場所での運用を可能にするために折り畳み式の砲身を採用した。

折りたたんだままでの使用も可能だが、今回の実験では展開して長距離精密砲撃を行う必要があった。
ジョーンズは無線機に向かって声をかけた。

(’e’)「よーし、用意はいいかな?」

彼らには時間がなかった。
世界を変えるという大義を実現するためには、圧倒的に時間が不足している。
今現在、ラヴニカから部品の到着を待っている段階だが、いつまでも待つことが出来ない。
彼らに今必要なのは、超長距離精密砲撃が可能であるという事実と実績だった。

(’e’)「よし、位置につきたまえ」

再び無線機に声をかける。
しかし返事はない。

996名無しさん:2021/09/19(日) 08:56:34 ID:ctbjoZXk0
(’e’)「コードの入力だ」

その言葉に対して、返事とは言えないが、反応があった。

『そして、大好きだった物も忘れていく。 私には一つだけ残っている』

淡々とした女性の声が無線機から聞こえてきた。
その直後、ハート・ロッカーの全身が僅かな軋みをあげて動き始めた。
やや前傾姿勢を取り、折り畳まれていた砲身を動かす。
長大な砲身を上空に向けたまま、ゆっくりと無限軌道が後退する。

地響きのような音が響き渡る前に、ジョーンズはイヤーマフを装着していた。

(’e’)「うんうん、いいぞ。
   さて、後は微調整だな。
   砲身をもうちょっと下にしてくれ」

細かな指示はそれから2分ほど続き、ようやく砲身が固定された。

(’e’)「じゃあ、撃ってみよう」

直後、爆音が施設中に響き渡った。
閉鎖的な空間の空気全てを震わせるほどの音は、イヤーマフを貫通し、ジョーンズの耳の機能を一時的に奪った。
夜空に向けて放たれた巨大な砲弾は弧を描き、南に位置するブーオに向けて進んでいく。
3分ほどして、ジョーンズの持つ無線機に反応があった。

『……ちらスカイアイ。 繰り返す、こちらスカイアイ。
聞こえるか?』

(’e’)「あぁ、聞こえるよ。
   で、どうだった?
   修正はどれくらい必要かね?」

『着弾先は市長邸宅。
市街地への被害は見られません』

(’e’)「ひとまずは命中か。
   よし、次は焼夷弾とフレシェット弾を連続で撃ってみよう」

大型クレーンによってハート・ロッカーから巨大な薬莢が取り除かれ、すぐさま別の砲弾が装填される。
その間、ジョーンズは腕時計の秒針に目を向けていた。

(’e’)「装填完了に15秒だ!! 次はもっと短縮してくれたまえ!!
    ようし、座標の修正を完了したかな?
    では二発目、いってみよう!!」

再びの爆音。
しかし、先ほどとは違い、クレーンの作業員はすぐさま薬莢を取り除き、装填作業を行う。
お互いの聴力がまだ完全でない中、ジョーンズは聞こえていないことを前提に声を荒げた。

997名無しさん:2021/09/19(日) 08:56:54 ID:ctbjoZXk0
(’e’)「12秒!! いいぞ!!
   着弾点はどうだ?!」

『市街地に着弾、山にも引火しました。
消防隊が動き出しています』

(’e’)「うんうん、いい判断だ。
   フレシェット弾、いってみよう!!」

災害的なまでの音が、三度施設を揺らした。
放たれたのは数万の鋼鉄製の雨を降らせるフレシェット弾。
木造の家屋程度であれば、容易に貫通し得るものだ。
そしてその圧倒的な数、起爆するように設計された高度。

鉄の驟雨は容赦なく住宅地に降り注ぎ、地上に血の海を作り出す。

『……着弾を確認。
まだ生存者がいる模様』

(’e’)「うーん、そうなると後は……
   毒でもまいてみようか。
   よし、装填作業開始!! 今度はベストタイムを頼むよ!!」

排莢と装填。
射撃と成果の確認。
修正と実行。
そして再び排莢と装填を行い、砲撃精度の確認がされる。

全ては訓練通りに行われ、ブーオは一夜にして死で溢れ返った。
対岸でその爆音と炎を確認した人間は大勢いたが、その原因を知る者はいなかった。
翌日、一部のラジオと新聞ではブーオが秘密裏に開発していた兵器が暴走、爆発を起こした結果の悲劇であることを報じた。
だがどの報道関係者も、ブーオに取材に行こうとはしなかった。

海には依然として機雷があり、命がけで取材をしなければならないからだ。
そこまでして中立の街を取材する価値が見いだせない以上、誰も真実を探ろうとは思わない。
それよりも記者たちの関心事は、クラフト山脈で発生した雪崩と轟音の関係性についての方に向けられていたが、それもごく僅かだ。
しかし――

――イルトリアとジュスティアだけは、ブーオに起きた一連の事件に関する精確な情報を得ていた。

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Ammo→Re!!のようです
Ammo for Rebalance!!編

第二章 【roar of dreamers-夢見る者達の咆哮-】 了

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998名無しさん:2021/09/19(日) 08:58:42 ID:ctbjoZXk0
これにて今回の投下は終了です

質問、指摘、感想など有れば幸いですが、
次スレにお願いします

Ammo→Re!!のようです
https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/21864/1632009467/


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