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Ammo→Re!!のようです

697名無しさん:2021/02/01(月) 21:21:26 ID:SilbKU9U0
<0[(:::)|(:::)]>『よしっ!!』

全てが完了するのに、二秒とかからなかった。

<0[(:::)|(:::)]>『イモジャ、もう大丈―――!!』

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――目の前で、妹の頭が爆ぜた。
思考が白に染まり、呆然とした状態のまま、オットーは地面に激突した。
腕の中の妹は動く気配がなかった。

<0[(:::)|(:::)]>『そ……そんな……!!
       あぁー! ああああああああああああ!!』

様子を見ていた町の人間達が駆け寄る。
今はただ、憎しみと虚無がオットーの全てを支配していた。

「お、おい、こりゃ……!!」

周囲の様子がおかしい事にも、オットーの意識は向けられることは無かった。
妹を助けようとして、結果として失ってしまった。
いたぶるようにして殺された妹の死体を、ただ、眺めることしかなかった。

「こりゃ、イノシシだぞ!!」

<0[(:::)|(:::)]>『…………え』

「ほんとだ、こりゃあ、イノシシの足だ」

698名無しさん:2021/02/01(月) 21:21:48 ID:SilbKU9U0
その言葉が示す通り、麻袋の裾から覗き見えるのは、どう見ても獣の足だった。
獣の足に、ピンク色のスニーカーが括りつけられている。
しかし、棺桶の熱源感知装置が映す麻袋の中身は人の形をしていた。
町の人間が袋を開き、中からイノシシの死体を取り出した。

その時でさえ、袋には人の形が残されている。

<0[(:::)|(:::)]>『アニー!! これは――』

――空からアニーの使用する棺桶が落下してきたのは、オットーの叫びと同時だった。
背中から落ちたアニーの棺桶はその衝撃でヘルメットが吹き飛び、特徴的だった二枚の可変式主翼は無残に折れた。
衝撃だけで折れるはずがない事を知るオットーは、アニーの羽が撃ち抜かれたのだと理解した。

(;´_ゝ`)「く……くそっ……!!」

「に、逃げろおおお!!」

集まっていた人間達は流石に命の危険を感じたのか、蜘蛛の子を散らしたように逃げ出す。

<0[(:::)|(:::)]>『これは罠だ……!!
       誰かが俺たちを』

(;´_ゝ`)「分かってる、分かってるさオットー。
     相手は間違いなく、俺たちを殺そうとしてる。
     しかも、嬲り殺すつもりだ」

<0[(:::)|(:::)]>『俺が見た限りだと、相手は一キロ以上は離れていた。
        逃げよう、アニー!!』

(;´_ゝ`)「一キロ離れた位置から当てられる狙撃手だぞ、逃げられるとは思えない。
      くそっ、糞っ!! 全部この時のためか……!!」

恐らく、彼らに起きた不可解な出来事の正体は全てこの狙撃手が原因だ。
家の周囲で起きた出来事。
オットーの手伝い先で起きたこと。
熊を撃ち殺したのも、イモジャの自転車の一件も、何もかもが狙撃の一言で片づけられる。

彼らの頭の中に浮かぶ疑問は、その相手だった。

<0[(:::)|(:::)]>『ペニサス・ノースフェイスは殺したのに、一体誰だ!!』

(;´_ゝ`)「知らん!! あの魔女以外にこの距離で当てられるなんて、カラマロスだけだ!!」

アニーの叫び声の直後、オットーの腹部を強烈な衝撃が襲った。
装甲が砕け散り、腹部が露呈する。

<0[(:::)|(:::)]>『や、やばっ……!!』

体をひねって腹部を守ろうとするが、すでに遅かった。
空気を切り裂く飛来物が、彼のわき腹から侵入し、肉食獣が食いちぎるようにして、臓物を地面に吐き出させたのである。

699名無しさん:2021/02/01(月) 21:22:08 ID:SilbKU9U0
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       .l;;i′      /     .!;;/ .イ、;;;;;;;;;;;;;;./ |;;;;;; /         .r' /     ,イ
       .|/       ノ      .l;;; !  l;;;;;;;;;;;;;;;;ゝ !;;./           ,,ilr'"     ,i'./
       :l゙                 | !  /;;;;;;;;;;;; /  /./         '″      .,l./
              _,,          !゙.,,.,i";;;;;;;;;,./  .iУ
   .i}′        / ;;,! .,      /;゙;;;;;;;;; /   .l″            ,ν       
   `           i";;;,/ /      /;;;;;;;;;;;;/    激痛が
           l /  ."、    / ;;;;;;;;;;/        灼熱の激痛が
          /./    l「    .../ ;;;;;;;;; /         オットーの思考を赤に染め上げた。
     .,i''l   .,〃    .〃 /  ./ ;;;;;;;;;./    .,.     _ /″
    ,lゾ  .〃   .,〃 ./  ,i";;;;;;;;./     ./     ,r'./
   .〃   ./l   、〃 ,ir / ;;;;;;; /    .,〃    .,ノン′  .,,ir'"  _/丶;;;;;;,ン'″
   〃  .,ノ~;/  .,/./ .,ノ/ / ;;;;;;;;;;;;l  .,.. |″    ,i'ン"   ,ii'" .,..-'";;;;;;;;;;;,/゛  _,″
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同日 同時刻

――狙撃手は棹桿操作を行い、素早く次弾を装填した。

狙撃手に向いている人間には共通点がある。
一つは集中力。
一つは忍耐力。
そして、何よりも重要なのが心を殺す力だ。

ある意味で狙撃手とは、誰よりも優しい人間なのだと言われる。
その所以は、彼ら狙撃手は基本的に相手の嫌うことを率先して行い、より多くの存在を相手に与えることを旨としているからだ。
一撃必殺は当然として、求められるのは一撃でどれだけの人間を殺せるのか、ということだ。
一発目で一人を程よく傷つけ、それを餌により多くの人間の心を殺しつつ、被害を増やす。

そのためには相手の気持ちになって考え、相手が嫌うことをすることが重要になる。
生粋のサディストよりも、マゾヒストの一面を持つ人間の方が人間の痛みを知っている。
その知識を生かすために己の心を殺し、相手の心を殺すのである。
近代、名手とされる狙撃手は二人いた。

700名無しさん:2021/02/01(月) 21:22:31 ID:SilbKU9U0
一人はジュスティア軍の秀才、カラマロス・ロングディスタンス。
弾道計算能力もさることながら、その集中力と任務を遂行するために手段を選ばない姿勢はジュスティアで最高と評されている。
そしてもう一人は、イルトリア軍の“魔女”ペニサス・ノースフェイス。
無慈悲さと優しさを併せ持ち、天性の狙撃の才能を生かして生存不可能とされてきた作戦を潜り抜けてきた猛者。

二人の共通点は、本人たちの意向とは違い、歴史の表舞台に名が出たことだった。
彼らが優秀なのは事実ではあったため、他の狙撃手たちはその陰に隠れることになった。
だが。
歴史に名を残さず、人々の記憶の中にさえ残らない狙撃手がいた。

彼は自分自身でさえ己の才能に気づいていなかったが、その才能を見出した人間がいた。
しかし本人は自分の意向に従い、狙撃手の道から外れ、別の道を選んだ。
彼は、あまりにも優しすぎたのである。
故に狙撃手としては不適格であり、歴史に名を残すことは無かった。

彼は、“魔女”が見出した唯一の後継者であり、狙撃の技術を引き継いだ弟子だった。
魔女の弟子は無表情のまま、手にしたチェイタックM200の銃爪を引いた。

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           .:     7;i;イ;i;i;i;i;i八;i;i!:|  | |ニ|.:|  ,:  ,.ィ   :i i  |
         , ;!' .:      /ノ j;i;i;i;i/ :.:.W:.:!   | |ニ|::| ,/:..,  /::i  i! ! i!:. !..::::::::
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 ̄  、     ヽ、:.: i!   ∨   /   - /:,∨   `ーー "⌒~`ー¬≠''"∨///
. へ  \ヽ 、    、   ヽ        「: : :.l ∨              ┌──ヾ//
   \: . \ ヾ:.:ー 、丶  ∧.     /: : :.:.| |         ___|三三三三
\   > : .ヾ=-::::.{ ∨:ヽ ∧    _〈_ : :/⌒7⌒l¨`ー-、  |ヽ=====ヾr=ミ==
  ゙ヽ'゙   :.:.:∨:::::j_∨__ト===(_)/_ /─ノ─厶-、\!=|三三三|l 「`!三
      :.:.:.:::!//////////////////∧!  Y  ;/  ;/  /;;;ア  ̄ ̄ ̄ || トイ ̄
,//,  \、、 :.:|////////////////////|  .::|. /  ./::.. //       ヽ.j !
'/べ   ヾ≧;「 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\::::!::::{::::.イ:::::::i/         __/ /__
 "ヾ\   `ヾ;:≧、              `^ー^ーへ::ノ    _ イ! ̄ ̄))
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臓物の次に飛んだのは、オットーの被っていたヘルメットだった。
安全装置が働いたおかげで彼の首は折れずに済んだが、素顔が露わになる。

(´<_`;)「ぐあっ……」

口から血が溢れ、顔面は蒼白になっている。

(;´_ゝ`)「オットー!! 今助ける!!」

ジェットパックを破壊されたアニーのトップガンでは、まともな援護は出来ない。
しかし、膝立ちになって弟を庇うべく動き出す。
失われた手足の部分を動かすことは出来なかったが、一度の動きで跳ねるようにして移動ができた。
オットーの上に覆い被さり、彼の身を守る。

(;´_ゝ`)「今助けてやる!!」

(´<_`;)「ご……ぼ……」

701名無しさん:2021/02/01(月) 21:22:54 ID:SilbKU9U0
瀕死のオットーが懸命に何かを口にするが、アニーの耳には届かない。
このままオットーをどこか安全な場所まで運び、治療をしなければ彼はもうじき絶命する。
アニーは周囲の状況を確認し、身を隠せる場所を探した。
電波塔の周囲には建物がないことが前提で建てられているため、彼の努力は半ば無意味な行動であることは本人が一番理解していた。

(;´_ゝ`)「くそっ……!! どうしてあの位置から当てられるんだっ……!!」

電波塔などの高所に対して山中からの狙撃を成功させられるのは理解できるが、眼下のこの場所を狙い打てることがアニーには不思議で仕方がなかった。
森の中から撃っているのであれば樹木が邪魔になるだけでなく、家屋もその射角に入るはずだ。
倒れた状態のオットーを撃つには、あまりにもその角度が不自然だった。
アニーの疑問をあざ笑うように、新たな弾が彼の棺桶の関節を撃ち抜く。

銃声と着弾までの間にほとんど時間差がなかったことに気づき、彼は己の迂闊さを呪った。
彼が狙撃手の位置を把握したのは、その姿を視認したからではなく、発砲炎を確認したからだ。
果たしてそれが本物の発砲炎かどうかまでは見ていないし、見るだけの余裕はなかった。
あくまでも光を見てからの着弾と発砲音の確認でしかない。

狙撃手が光の場所にいなくても、発光と発砲のタイミングをずらすだけで簡単に位置を偽装できる。
つまり、狙撃手は既に――

(;´_ゝ`)「うっ……!!」

――背後から、跫音が聞こえた。
思わず振り返り、そこに、男の姿をした恐怖を見た。
ギリースーツで身を包み、顔には黒と緑のペイントが施されている。
巨大な対物ライフルを構え、スカイブルーの鋭い眼光が兄弟を射抜くように向けられていた。
ボルトアクション式の対物ライフルにドラムマガジンを付けるという改造は、これまでに見たことがない。

弾倉交換の時間を惜しみ、尚且つ、大量に狙撃をするという意向が形となったものだ。
常識のある狙撃手ならば、まず選ばない改造だった。
そのライフルが普通の対物ライフルではなく、強化外骨格が使用する前提で改造された物だとは、流石の彼もこの一瞬の間に気づくことはできなかった。
しかし、ライフルの詳細は知らなくても、アニーはその男を知っていた。

(,,゚Д゚)「……」

(;´_ゝ`)「ギコ……!!」

彼ら兄弟が殺した狙撃手、ペニサス・ノースフェイスと同じ場所にいた退役イルトリア軍人だ。
この男の詳細については訊いていなかったが、その名前については、クックル・タンカーブーツから聞いていた。
こうなると分かっていれば、その性質や素性について聞いておくべきだったと後悔した。
そうすれば警戒も、対策も出来たはずだ。

(,,゚Д゚)「弟が大変そうだな、アニー・スコッチグレイン」

(;´_ゝ`)「全部、お前の差し金か……!!
      妹をどこにやった!!」

どのようにしてこちらの名を知ったのか、それを問うことは彼の頭には浮かばない。
アニーはただ、妹の安否を知りたかった。
だがギコは一睨し、言った。

702名無しさん:2021/02/01(月) 21:23:17 ID:SilbKU9U0
(,,゚Д゚)「ここよりもいい場所だ。
    よぅ、オットー・スコッチグレイン。
    必死に助けようとしたイノシシが死んで残念だったな。
    お前は妹と同じ絶望の中で死ね」

そして、背中から何かを取り出し、オットーの腸の上に放った。
それは、イモジャのスニーカーだった。
スニーカーには乾いた血が付いていた。

(;´_ゝ`)「貴様ああああ!!」

ギコのライフルが火を噴き、アニーの体がオットーの上から吹き飛ばされた。
背中に内蔵されていたバッテリーが撃ち抜かれ、棺桶が拘束具と化す。
顔から地面に落ち、土が目と口に入る。
悔しさと怒りで涙が流れ、顔が土で汚れる。

目の前でオットーの目から光が消えていく。
アニーは必死に無事な左手を伸ばし、オットーの手を握ろうとする。
伸ばした手を、ギコが踏みつけた。

(,,゚Д゚)「俺は、お前たちの何もかもを奪い取る。
    死ぬ時にはその手に何も掴めないと思え」

(;´_ゝ`)「足を……どかせっ!!」

(,,゚Д゚)「……話を聞かない男だな」

ギコのライフルがオットーの手首に向けられ、至近距離で発砲された。
装甲ごとオットーの手首が吹き飛び、地面に巨大なクレーターが生まれた。
果たしてオットーが悲鳴を上げたのか、銃声で聴覚がマヒしたアニーには分からない。
すでに虫の息となっている弟に、それだけの力が残されているとは考えられなかった。

弟の生死さえ、耳鳴りがする状態では分からない。

(,,゚Д゚)「……」

何事かを口にし、ギコは棹桿操作を行い、巨大な薬莢を地面に落とした。
銃口がアニーの顔に向けられ、そして、銃爪が引かれた。
銃声と共に、アニーの意識は黒に染まった。

703名無しさん:2021/02/01(月) 21:23:38 ID:SilbKU9U0
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: : : : : : : : : : : : : : : 日Ц|Ч|^|^|''TTTn─=¬冖冖〜ミi:iム⌒ヽ : : : : :
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   `'; . : :ノ⌒)    /: :.:.:||_||n| |  ||  | |^||^|_| 」⊥-ー┯¬冖〜乂::::::ノ: : : : : : ;:;:;:;:ノ
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、、: : : .:.:.:;:;:;:;:;:;:;:;:.::.::.::.: /''"|| ̄ |: | |     | |   :| l_ ,、 :|nn| |∩∩ |^|i:i:ilililil{
 `` ' ' ''' ⌒ 〜〜ーー〈::: : ::|l,、n :|n| |∩∩ | |^||^| | || | ||::|::| |_」L⊥-=¬冖弋  
             ノ : |^|| || |_|」L凵⊥ -=¬冖T゙“¨”|~ ̄| |.: .:.:| |:::i:i:i:ililililil{ 
            ┌二¨~:|| ̄ :| |       :||   :||   i| nn| |n n| |^|::i:i:i:ilil圦_
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─ ─ ─ ─ ─ _ノ:::|: | || ||::| | | | | | ||_,|_,|」L⊥ ⊥.. -┴=≠冖二「: : |:::i:i:i:i:ili圦、
=_=_=_=_=_=_=_=_ i ̄|””|¨¨ 丁¨゙丁~” ̄ :||     ||    :||   :|_,、i|nn|∩i^|i:i:iliシノ
川-_-_-      __j∩|rnlnn,、|:. :||,、,、 :n:n|| ∩∩||∩∩:|||^|^| :| | || | ||」斗七だilil{、
洲‐_      圦`ゝ、、_| || | |^|^|| || | |::||::|| ||::||::||||::|_|_|」L⊥-┴=ニ≠冖「i:i:i:i|ilililシ :)
洲州‐_     」::::|「⌒^^=- ̄_ ̄ ̄ ̄ ̄_二二ニニ=‐┬¬冖丁: : :.:.:,、:|n∩レ'゚ xi(}.:.:.:.:.:.:
‐_‐_=_=_=_=_ ノ 丶、i^∩nn| | ̄ ̄~i|゙ ̄  |   | l :||   | |,、 ,、| |n∩|^|_」=‐'"ィi〔ilililil)X: : : :
‐_‐_‐_=_=_=_「i|トミ、`` i |::|::| |^||^ll^|| ∩∩ |∩ | |^||^||^| | | :||_」⊥- ¨_,.。sョiI〔i:i:i:ilililililシ ノ}: : :/
_- ̄     └L| | ̄ =- 二 ┴┴- ⊥L」|_,|_||_,|_|⊥||:┴…_二 -‐=冖丁:||,、n∩:;_、≠”ィ(シ: : イ=-
vvvvvv、、、  └Л∩| ni| ̄丁¨¨了“““¨丁””゙ ̄|| ̄ ..:.:|||: : ||へ||i^||^||_」シ ´_ - ¨_- /ニ=-
灘灘眦眦此比‐_ ` | | ||^|∩n:n: rュ r:ュ || ,.、 n :|l ∩∩|||⌒||  ||i: |レ'"_ -∩_ - ¨ /
欟欟軈軈灘眦此比  ̄ └ || || | |: | | :| || | | | | ||_|⊥ ┴''| ̄ ̄ ̄丁n∩-二_-=彡
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灘眦此此眦眦灘欟欟灘眦此此比-_-_-_-_   :;.:,:;.:,  :;.:,:;.:,: : : : : :        \
欟欟欟軈軈軈灘灘灘灘灘眦眦眦此此比-_-_-_-__:_:_:_:   : : : : : : : : : : : :     \
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同日 PM06:11

世界最大の宗教、十字教。
その聖地とされるセントラスの大聖堂は大司教を始めとする多くの聖職者が日々集う場所だけでなく、街と十字教の最高権力者である教皇の執務室の役割を担っている。
大聖堂“ノーザンライツ”の執務室で教皇、クライスト・シードは深い溜息を吐いた。
首から下がった銀色の十字架が、彼の溜息で白く曇る。

( ゚ν゚)「ふぅ……」

目の前には一枚の書類と、二人の訪問者がいた。
その二人は聖職者でもなければ、十字教の信徒でもなかった。
しかし、スーツを着たその佇まいは熟練の神父と修道女のように落ち着き払ったものだった。

( ゚ν゚)「どうして、ここまでの好条件を出すんだ?」

「我々にとって、この街は非常に重要な意味があるからですよ、教皇様」

704名無しさん:2021/02/01(月) 21:23:58 ID:SilbKU9U0
黒のスーツを着た男が満面の笑みで答える。
その笑みは友好的なものに見えるが、多くの人間を見てきたクライストには、その笑顔の下に別の真意があることが分かった。

( ゚ν゚)「なるほど……
    ところで、私は君と会ったことがあるような気がするんだが、いつだったかな?」

( ・∀・)「ははっ、きっとどこかの街ですれ違ったかもしれませんね」

( ゚ν゚)「そうか……」

( *´艸`)「私はどうですか、教皇様?」

( ゚ν゚)「君は……すまない、特に記憶にないな……」

( *´艸`)「ひっどーい!」

( ・∀・)「モーガン、少し静かにしていてくれ」

( *´艸`)「あっ、ごめんなさい、つい興奮しちゃって!」

( ゚ν゚)「ははっ、気にしないでいい」

( ・∀・)「お恥ずかしい限りです……」

苦笑する男の表情は、演技ではなく本心からのものだった。
この二人が共に行動することに、まだ慣れていないのだろうか。

( ゚ν゚)「せっかくだから、この話についてもう少し考えさせてくれないかな?」

( ・∀・)「えぇ、勿論です。
     できれば、一か月以内にお返事をもらえれば助かります」

( ゚ν゚)「分かった、善処するよ」

705名無しさん:2021/02/01(月) 21:24:29 ID:SilbKU9U0
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同日 PM07:37

その日の夜は、いつもと変わらず、潮騒の聞こえる静かな夜だった。
街からは静かな音楽が流れ、人々が酒と魚料理、そして踊りを楽しんでいる。
ヨルロッパ地方の北に位置する“水の都”ヴィンスの夜が二つの顔を持っていることは、例え観光ガイドブックに載っていなくても、その土地を訪れる人間にとっては有名な話だ。
街の体を成しているこのヴィンスという街は、その実、複数のマフィアの縄張りが結びついて成り立っている土地であり、暴力はどこにでも潜んでいるのだ。

ヴィンスが観光地として成り立っているのは、マフィア間の小競り合いが殺し合いではなく話し合いで解決することを重要視しているからだった。
そこに至るまでには多くの争いがあり、決して楽な道のりではなかったことは街に長く住んでいる人間にはよく分かっている。
特に今の形態に落ち着くに至った大きな事件について、知らない住民はヴィンスにはいない。
それと同様に、殺し屋“レオン”の名を知らない人間は一人としていない。

706名無しさん:2021/02/01(月) 21:25:23 ID:SilbKU9U0
夥しい血と硝煙、銃弾、殺戮の果てに今の形に落ち着いたのは、ある意味でその殺し屋のおかげだと言ってもいい。
街を束ねる市長、シチリアン・“アンラキッキー”・ルチアーノはその殺し屋が一人で起こした事件の渦中において唯一の生き残りだった。
生き残らされた、という事実を知るのは彼だけだった。
その夜、ヴィンスにいるマフィアの定例会議ではいつものようにそれぞれが抱える不満と誤解を口にし、問題の解決を図っていた。

マフィアの首領たちが卓を囲んで話し合うのを、ルチアーノはクルミを二つ握りしめながら、静かに聞いていた。
会合の場所は決まって同じ海辺のレストランを貸し切って行われ、誰も武器を携帯しない決まりで行われていた。
出店の位置、客寄せの方法など、小さな話から構成員間での揉め事まで報告と話し合いが続き、ルチアーノはそれらが落ち着き次第、本題を話さなければならなかった。
一通りの話が終わり、皆の視線が自分に向けられたのをきっかけに、ルチアーノは深い溜息を吐いた。

歴代の市長からすれば、彼はまだ若い部類に入る。
市長は代々マフィアを束ねるだけの力を持つことが必要条件とされており、同時に、彼らからの敬意も重要な要素だった。

L」゚ー゚)「話し合いは終わったみたいだな。
      では、前から話に上がっていた内藤財団との契約についてだ」

街が潤うために大きく貢献しているのが観光業、次いで漁業だ。
マフィアは観光業に付きまとう治安維持の面で手を貸したり、ルールを守らない人間に対しての抑止力としての役割を果たしている。
無論、女衒の手配やあっせんもその生業の一つだ。
しかしながら、観光業でマフィアの末端まで潤うにはまだヴィンスには売りとなる物が少ない。

伸び悩んでいる収益に救いの手を差し伸ばそうと申し出たのは、世界最大の企業、内藤財団だった。
要となるのは、エライジャクレイグの経営する鉄道会社を招き入れるための線路増設だ。
新規で線路を作るには莫大な金が必要になる。
その費用と交渉の一切を内藤財団が負担するだけでなく、商業施設の誘致なども彼らが手を貸すという。

その見返りとして、内藤財団の関連企業が観光業に参入することを認めるという話だった。

「提示された金額と条件は悪くない。
後は、地元の声次第だ」

街で商売をする人間達の声というのは、決して無視することは出来ない。
大企業が介入することで地元の商売下降気味になってしまっては、元も子もない。
街の収益が上がったとしても、街に暮らす人間の暮らしが楽になるとは限らない。
一度介入を許してしまえば、追い出すのは容易ではないのだ。

「商店街組合は反対の声が大きいですが、宿泊業は半々ってところです」

「全体的に街は歓迎をしていません。
ラジオについては感謝をしていますが」

「やはり、地元の店の客が取られるのが手痛い。
噂じゃ、あいつらは独自の輸入路を持っているからますます地元の人間が干上がっちまう。
俺のファミリーじゃ、契約は蹴った方がいいって話しか聞きませんね」

税金で街が潤ったところで、大部分の収益を得るのが内藤財団なのであれば意味がない。
ヴィンスという街を転覆させ得る話だけに、これについては慎重に意見を吸い上げなければならなかった。

L」゚ー゚)「なるほど、では――」

707名無しさん:2021/02/01(月) 21:25:48 ID:SilbKU9U0
(:::::::::::)「ちょっと、いいかな?」

貸し切りとなっているレストランに、彼ら以外の人間は入れないようになっている。
聞こえてきたのはハスキーな女の声だった。
ルチアーノが振り返ると、そこには白いロングコートを着た若い女がいた。

L」゚ー゚)「誰だ、あんた。
     見張りの奴らがいただろ、ここは貸し切りだ」

女の姿は奇妙だった。
銀色の髪で隠された左目には眼帯がつけられ、残された右目は真紅の色をした切れ長の目。
左手の薬指がなく、彼の見間違いでなければ右耳もない。
事故で失ったとは思えない欠損の仕方だった。

(:::::::::::)「それを知った上での訪問さ。
     内藤財団との交渉への返事、そう焦らなくてもいいんじゃないかい?」

L」゚ー゚)「いきなり出てきて何かと思えば、内藤財団の使者か。
     見ての通り今は会合中だ。
     返事はノーだと、あんたから伝えるか?」

(:::::::::::)「悪くない話さ。
     あたしは小さな町の出身でね、大企業に食い物にされる怖さは知ってるつもりさ。
     だから上司に話をして、この街が望む契約形態で構わないって念書を届けに来たんだ」

女は懐から封筒を取り出し、それを掲げて見せた。

(:::::::::::)「こいつがあれば、あんたたちにとって悪い条件は一つも生まれない。
     街にある商店街や小売業、ホテルが望む形態を集約してからでも遅くはないだろう?」

その念書の内容を見ていない以上、軽率に首を縦には振ることは出来ない。
何よりも彼が警戒心を抱き続けるのには、理由が二つあった。
一つ目は、言わずもがな、このタイミングであまりにも都合の良すぎる話が舞い込んできたこと。

L」゚ー゚)「なるほど、それを届けに来ただけなのか?」

(:::::::::::)「いや、後は観光さ。
     あたしはヴィンスに一度来てみたくてね、お勧めの店なんかを訊こうとも思ってる」

そしてもう一つは――

L」゚ー゚)「へぇ、それで、あんたの名前は?」

从 ゚∀从「ハインリッヒだ、ハインリッヒ・ヒムラー・トリッペン。
      以後、お見知りおきを」

――真紅の瞳の奥に、形容しがたい不気味さを感じたからだった。

708名無しさん:2021/02/01(月) 21:26:08 ID:SilbKU9U0
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            _ ,∠....,,_       ヽ,    丶
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       ´-‐''''7  `、 \     、         i.       i ヽ
           i    入.ヽ 、 \ 、  _`,|        !  ,
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Ammo→Re!!のようです
Ammo for Remnant!!編
第六章【Remnants of hate -憎しみの断片-】 了
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709名無しさん:2021/02/01(月) 21:26:30 ID:SilbKU9U0
これにて今回の投下は終了です

質問、指摘、感想などあれば幸いです

710名無しさん:2021/02/01(月) 21:49:02 ID:nxOYq/T.0
乙乙

711名無しさん:2021/02/01(月) 22:32:39 ID:3tnBOJds0
乙!

712名無しさん:2021/02/02(火) 02:07:41 ID:g//QgKcc0
乙です!

713名無しさん:2021/02/02(火) 18:57:51 ID:vgSLNSZA0
おつ
前半のドキドキ感まじでやばかった
兄弟はしゃーないけど妹者は無事であってくれ…
そしてハインリッヒ何話ぶりだこれ

714名無しさん:2021/02/03(水) 08:04:13 ID:nHOdeD520
オットーも過去に子供を手にかけているし、イモジャがもし殺されていても因果応報ではあるんだよな
ギコがそこまでするとも思えないが復讐心は人を鬼畜に変えるからな

715名無しさん:2021/02/03(水) 15:58:21 ID:640fDQlw0
おつ
ギコやばいくらい強いな
そしてついにハインリッヒも出てきたな
ますます楽しみだ

716名無しさん:2021/02/05(金) 17:14:11 ID:9keh7/9c0
遅れながら乙
ギコは本来棺桶で暴れるよりも狙撃手の方が強いってことか?熱いな

717名無しさん:2021/02/06(土) 09:56:29 ID:JF/hUXf.0
>>714
そもそも兄弟いなくなった時点で他に身寄りがなければ妹者生きていけんよな
いっそ殺すのも優しさかもしれん

718名無しさん:2021/02/14(日) 17:57:18 ID:12lknJ8.0

解放された囚人たちの怪我はどんなもんなのかな
手足の腱くらいは切られてるのかな

719名無しさん:2021/03/05(金) 21:19:16 ID:bBoxr4AU0
沢山の感想に涙がとまりません……

今度の日曜日VIPでお会いしましょう

720名無しさん:2021/03/05(金) 23:18:50 ID:sIxLwxq20
待ってます!!!

721名無しさん:2021/03/06(土) 07:25:07 ID:8zVMvBJY0
うおぉぉぉっ!!!

722名無しさん:2021/03/08(月) 18:48:24 ID:nOwkzYno0
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ヴィンスの厄災の生き証人は俺だけだ。
奴に狙われた人間は俺以外全員が死んだ。
女も、子供も、老人も、ペットも。
瀕死の状態で病院送りになった奴も、例外なく殺された。

不運にも俺だけが、“レオン”に生かされたんだ。

                          ―――シチリアン・“アンラキッキー”・ルチアーノ

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September 14th AM06:29

ヨルロッパ地方の朝は、夏でも肌寒さを感じるほどの気温であり、キャンプをする上では防寒装備は決して欠かすことが出来ないものだ。
防砂林の間に建てられたテントの中で寝袋を広げて布団のように使うその旅人たちは川の字になって眠り、それぞれの体温を求めるように身を寄せ合っていた。
二人は女性で、間に挟まれるようにして眠るのは少年だった。
少年には犬の耳と尾があり、服の下にある体には無数の傷跡があった。

新しい傷が増えなくなってから一か月半近くが経過し、彼が人並みの幸せを享受し、名前を得たのも同じ時間が経過している。
彼は“耳付き”と呼ばれる人種で、現代においては世界中で最も差別の対象になっていた。
一部の街では差別の対象となってはいないが、それでも、世界の大部分の街では獣のように扱われ、奴隷としての生を終えるのが常だった。
彼もそうなるはずだったが、七月三十一日にその世界が一変した。

(∪´ω`)

彼の世界を変え、彼にブーンという名を与えたのは、彼の隣で眠る豪奢な金髪を持つ女性だった。
女性はデレシアという名の旅人だった。

ζ(´ー`*ζ

今でこそ、彼女は穏やかな表情で眠っているが、ひとたび戦闘が始まれば比類のない強さを発揮し、己の道を切り開いていくことになる。
そして、彼女の反対側で眠るのは紅茶色の髪を持つヒート・オロラ・レッドウィングだった。

ノハ´⊿`)

ある酒場で出会ったことをきっかけに、デレシアと意気投合したヒートは二人の旅に加わることになった。
デレシアには劣るが、彼女もまたこの時代に生きる女性の中でも屈指の戦闘力の高さを有している。
殺し屋“レオン”の名で一部の地域で恐れられ、その地域に恐怖を蔓延させたことは、その寝顔からは誰も想像できないだろう。
その全ての発端が自身の母親であることを知った彼女は、今再び復讐心を取り戻し、その成就の機会を狙っていた。

しかし彼女は冷静さも取り戻していた。
一度単身で復讐を試みたが、相手の強大さにその試みは失敗に終わった。
以来、彼女は復讐心を忘れなくとも、それを焦るという愚を犯さないと心に誓ったのである。
そして。

――彼ら三人の次の目的地であるヴィンスは、ヒートにとっては因縁のある土地だった。

723名無しさん:2021/03/08(月) 18:48:44 ID:nOwkzYno0
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Ammo→Re!!のようです
Ammo for Remnant!!編
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∨:/ : |i:i:i:i:i:i:|:.::;';';|:|;';|::|/;';';';':;.:, : : |i:i:|: :.:|i:i:i:| : .   . . jレ'"´ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ /: : : : : : :
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└'  |i:i:i:i:i:i:|:/  . : :./ :/: : : : : : : : : : : : : : .     `、    ∨i:i|;';' .: .: : 爻|:::|.:;'丶、
   |i:i:i:i:ア゜ . : : : /: : /: : : : : : : : : : : : : : : : : .    `、  ./ Ⅵi"" ' ¬ー-|:::|--  `
   /i:ア゜  . : : :./: : : :/: : : : : : : : : : : : : : : : : : : .    `、 / : :ヽ       ̄      "
 ィ㌻゜  . : : :/: : : : :/: : : : :/: : : : : : : : : : : : : : .      ∨ / : : :.\
_/  . : : : :/ : : : : : /: : :./: : : : : : : : : : : : : : : : . .    _- ∨ / . : : \─‐ ‐ ‐ ‐ ‐ ‐
  . . : : : /: : : : : : :./: :/: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : ___-___∨_ -─-ミx二二─ ‐ ‐
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第七章【Remnants of memories-記憶の断片-】
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724名無しさん:2021/03/08(月) 18:50:20 ID:nOwkzYno0
同日 AM07:15

彼らの朝食は飯盒で炊いた白米と、直火で焼いたアジの開きだった。
遠火でゆっくりと焼いたことによって、余分な脂だけが落ちたアジの開きからは甘く、香ばしい香りが漂う。
蒸らし終えた白米と共にローテーブルに並べられ、木漏れ日の中で三人の朝食が始まった。
箸を使って器用に干物から身を剥がし、口に運ぶ。

ノパー゚)「美味いっ!!」

(∪´ω`)「美味しいですお!!」

二人はアジの開きを口にして、即座にそう言った。
朝食を作ったデレシアはその賛辞を素直に受け止め、笑顔で答えた。

ζ(゚ー゚*ζ「元の干物がちゃんとしているからね。
      タルキールで買った甲斐があるわ」

白米は程よい硬さに炊き上がり、吹き付ける朝の海風が熱を適度に奪っていく。
旨味の凝縮された干物に舌鼓を打ち、三人は湯気の立つ食事を堪能した。
まだ箸がそこまで上手く使えないブーンは小骨を指でつまみとり、身をこそぐようにして食べる。
一方、怪我がほぼ完治したヒートは箸を巧みに使い、可食部を余すことなく胃袋に収めていく。

骨についた薄い身の部分を食み、デレシアも食事を続ける。
食べることのできない骨や皮は焚火にくべ、灰にしていく。
その間、遠火で温めていた湯を使ってデレシアは食後の茶を入れることにした。
豪勢な食事ではないが、心と腹を満たす食事としては十分といえた。

ノハ*゚⊿゚)「ほふー」

(∪*´ω`)「ほふー」

食後の茶を飲み、二人は揃って同じ溜息を吐いた。
吐いた白い息は風に運ばれ、すぐに消えていく。
気温が上昇しているが、まだ少しの肌寒さは拭えない。
背の高い木々の間には風がほとんど流れていないように感じるが、頭上で葉と枝がこすれる音が確かな風の存在を伝える。

ζ(゚ー゚*ζ「このお茶も美味しいわね」

ステンレス製のカップに注いだ茶色の液体からは、独特の香ばしい香りが立っている。

ノパ⊿゚)「あぁ、美味いな。
     何茶って言うんだ、これ?」

ζ(゚ー゚*ζ「これはほうじ茶、って言うの。
       ヒートのいたエルジャ地方ではあまり飲まないみたいね」

茶葉を焙じることで独特の香ばしさと風味を生み出すほうじ茶は、食事中は勿論だが、食後に飲むものとしても非常に優れている。
特に、肌寒い中で飲む暖かいほうじ茶は抗いがたい魅力に満ちている。

ノパ⊿゚)「初めて飲んだけど、結構好きだな」

725名無しさん:2021/03/08(月) 18:50:56 ID:nOwkzYno0
ζ(゚ー゚*ζ「ヒートはジャネーゼの食べ物が好きそうね」

その単語を聞いたヒートは一瞬だけ考え込み、すぐに合点がいった表情を浮かべた。

ノパ⊿゚)「あぁ、前に言ってた国ってやつか。
    豚汁とかもそこの料理だったのか?」

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、そうよ。
      今度は別の料理を作ってあげるわね」

ノパー゚)「おぅ、ありがとよ」

焚火台の炭が風に合わせて赤く光を放つ。
白い灰が風に運ばれ、木漏れ日の中へと消えていく。
静かな時間が過ぎ、デレシアはふと思い出したように口を開いた。

ζ(゚ー゚*ζ「今日のお昼前にはヴィンスに到着するわね」

ノパ⊿゚)「そっか、もうそんなに来たのか」

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、ディのおかげね」

そう言って、デレシアは彼らの背後に駐車しているバイクに笑みかけた。
“アイディール”という名で製造され、“ディ”の名を与えられたバイクに搭載されている人工知能は、手短に礼を口にした。
柔らかい女性とも男性ともとれる中性的な声は人工知能の思考を音声化したものだ。

(#゚;;-゚)「ありがとうございます」

ζ(゚ー゚*ζ「ディはこの地方にも来たことがあるのかしら?」

(#゚;;-゚)「はい、あります。
    以前のオーナーがヴィンスを経由し、イルトリアまで走行した記録があります」

(∪´ω`)「ディはよく覚えてるおね」

(#゚;;-゚)「はい、私は一度は知った土地は全て記憶できるんです。
    誰と一緒に、どんな道を、どんな景色だったのかも覚えていますよ」

ノパ⊿゚)「相変わらずすげぇな。 そう言えばラヴニカも走ったことあるって言ってたよな。
    行ったことのない場所ってあるのか?」

(#゚;;-゚)「私の保持している地図と現代の地図が一致しないので、行ったことのない土地というのが正確に分かりません。
    何せ、地形も何もかもが異なるものですので。
    ですが、これまでの走行記録から判断すると、西部の方角と独立した島には行ったことがないと思います」

ζ(゚ー゚*ζ「フィリカ地方へもそうだけど、ノースエスト地方も行くのは難しいからね」

ノパ⊿゚)「海を渡らないといけねぇからな。
     そっか、オアシズの時は保管されてるだけだったのか」

726名無しさん:2021/03/08(月) 18:51:17 ID:nOwkzYno0
(#゚;;-゚)「はい、旧時代の走行記録であれば通信が途絶するまでの物があるのですが、今では役に立ちませんから」

ノパ⊿゚)「通信? 電話とか、ラジオみたいなものか?」

(#゚;;-゚)「察するにこの時代にはインターネットに準じる概念がないので説明が難しいのですが、世界中の情報を集約し、共有していたのです。
    恐らくデレシアはご存知かと思われます」

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、分かるわ。
      電話もラジオも声を共有するけど、ディの場合はDATで収集するような情報を共有しているの。
      今はもうない、ずーっと昔の技術ね」

ノパ⊿゚)「昔の方が今よりも発展してるってのは、何だか皮肉な話だな」

そう言って、ヒートはほうじ茶を一口飲んだ。

ノパー゚)「ま、昔の話をしても仕方ねぇな」

(∪´ω`)「お茶美味しいですお」

ノパー゚)「あぁ、何があってもお茶は美味いな、ブーン」

(#゚;;-゚)「それは何よりです。
    ブーン、ほうじ茶の意味を知っていますか?」

ディの問いかけに、ブーンは首を横に振った。

(∪´ω`)「んーん、知らないお」

(#゚;;-゚)「ほうじたお茶、という意味です。
    焙じるとは焙煎、つまり、炒った状態のものを指します。
    茶葉を炒ることで香ばしさと風味を獲得したお茶です」

(∪*´ω`)「おー、なるほど」

(#゚;;-゚)「少し大人の味がすると聞いたことがありますが、どうですか」

一口飲んで、ブーンは笑顔で答えた。

(∪*´ω`)「美味しいお」

(#゚;;-゚)「では、ブーンも少し大人になっているということですね」

(∪*´ω`)「ほんと?」

(#゚;;-゚)「きっと、そうです」

ノパー゚)「あぁ、最近体重や身長も増えてきただろ?」

ζ(゚ー゚*ζ「そうね、筋肉もついてきたし、言葉もたくさん覚えているからね」

727名無しさん:2021/03/08(月) 18:51:55 ID:nOwkzYno0
(∪*´ω`)「やたー」

耳付きの成長速度は人間のそれとは桁違いだ。
元々の身体的な能力の高さもさることながら、ブーンの場合は知識の吸収力が非常に高い。
日々デレシア達が教える新たな知識を覚え、実践できるものはすぐに実行するする行動力もある。
彼の成長ぶりを見れば、将来の姿が気になるのは自然なことだろう。

ζ(゚ー゚*ζ「さ、お片付けが終わったらヴィンスに向かいましょう。
      ヴィンスの観光は太陽のあるうちにするのが一番よ」

三人は慣れた手つきで火の始末をし、キャンプを片付けていく。
テントをヒートとブーンが畳み、火の始末や食器の片づけをデレシアが行う。
ものの数分で片づけを終わらせ、荷物が全てパニアに詰め込まれた。
そして最初にデレシアが跨ってハンドルを握り、次にブーン、最後にヒートがリアシートに座る。

ヒートが荷と周囲の確認を最後にもう一度行い、ブーンの肩を叩き、ブーンがデレシアの背中を叩く。
これで出発の準備が完了した。

ζ(゚ー゚*ζ「ディ、行きましょうか」

(#゚;;-゚)『はい、行きましょう』

ヘルメットのインカム越しにディの音声が聞こえる。
エンジンをかけ、サイドスタンドが外される。
ギアを一速に入れ、デレシアはアクセルをひねった。
三人を乗せたディは、静かに、そして滑らかに林道を走る。

落ち葉で覆われた道から、やがて開けた道に辿り着く。
ひび割れたアスファルトの道を海に向けて進み、海岸沿いを通る整備のいき届いた道路に合流する。
北西に向けて進路を取り、ディが再び速度を上げる。
横から吹き付ける風は冬のそれだったが、夏の日差しが三人の体を温めた。

ノパ⊿゚)「ヴィンスか……」

ζ(゚ー゚*ζ「やっぱりやめておく?」

ヒートが独り言ちた言葉に込められた感情を、デレシアはその声色から察した。
彼女から過去の話を聞いているとはいえ、彼女が経験したことをデレシアが全て知っているわけではない。
当時の感情や細かな心境などは、本人にしか分かり得ないことだ。
その時の彼女にとって、そうすることが正解だと判断しての行動に、デレシアが何か送ることのできる言葉はそう多くない。

過去と向き合うのは常に本人だ。

(∪´ω`)

二人の会話を聞きながら、ブーンは何も言わなかった。
彼の場合、人の感情などをある程度匂いで察することが出来ることもあり、ヒートの心境を察したのだろう。

ノパー゚)「いや、大丈夫さ。
    ただ、ちょっとだけ気になることがあってな」

728名無しさん:2021/03/08(月) 18:53:10 ID:nOwkzYno0
ζ(゚ー゚*ζ「あら、何かしら」

ノパ⊿゚)「ひょっとしたら、何かあたしのせいでトラブルになるかもしれねぇんだ。
    結構でかい事をやったからな」

ζ(゚ー゚*ζ「ふふっ、それはそれで面白そうね。
       大丈夫、ちゃんと護ってあげるから」

ノパー゚)「そりゃ助かる」

(∪´ω`)「僕もお手伝いしますお!」

ノパー゚)「あぁ、ありがとよ、ブーン」

(∪*´ω`)「うぎゅう」

ヒートの腕に力が込められ、ブーンを抱きしめる。
防寒着を着た彼らの抱擁は、衣擦れの音と共に運転をするデレシアにも伝わった。
ヒートがブーンに注ぐ愛情は薄れることなく、日に日に濃くなるばかりだ。
恋愛感情ではなく純粋な愛情をブーンに注ぐ背景にあるものの正体を、デレシアはある程度想像することが出来ていた。

ある意味でブーンはヒートの正気を保たせるための存在であり、彼女が生きる動力源にもなり得る存在なのだ。
無論、ブーンにとってヒートはデレシアとは違った愛を教えてくれるかけがえのない存在だ。
互いが互いの成長に必要な存在であり、双方が依存をしている関係にも見えた。
今の二人が成長するためには、その依存関係は必要不可欠な物だった。

失ったものを互いに補い、取り戻しながら、彼女たちは成長していくのだろう。

ζ(゚ー゚*ζ「ふふっ、仲がいいわね」

(∪*´ω`)「はいですお」

そして今度は、ブーンがデレシアの腰に回した腕に力を込めた。
小さな体に込められた力が体を締め付ける感覚が、心地よかった。

ζ(゚ー゚*ζ「あら、ありがとう」

ブーンの持つ才能の一つは、間違いなく人を惹きつける点にある。
所謂普通の人間は惹かれないが、そうではない生き方をしてきた人間にとっては極めて魅力的な蜜を纏った存在に見えることだろう。
人を殺した人間に付きまとう罪悪感、贖罪の気持ち、そう言った何もかもを忘れさせる救いが彼にはある。
その魅力はデレシア、そしてヒートと出会ってから徐々に頭角を現し、今に至る。

彼の力についてはイルトリアの前市長も、現イルトリアの陸軍大将も認めており、その評価と力は日々成長の一途をたどっている。
これまでに訪れた街と比べ、ヴィンスはよりヨルロッパ地方の色が濃い街になる。
果たしてそこでブーンが何を学び、何を得るのか、デレシアとヒートは楽しみにしていた。
そして、彼らが乗るバイク、ディもまた同じ考えを持っていた。

729名無しさん:2021/03/08(月) 18:53:55 ID:nOwkzYno0
――海岸を走り続け、一時間が経過した頃、視線の先に白い街並みが見えてきた。
勾配のある丘に白い家屋が並び、海辺には多くの漁船と遊覧船が停泊している。
一見すればそれは湾岸都市オセアンにも似ているが、背の高いビルなどは一切なく、全て淡い色で統一された建物しか並んでいないのが相違点だ。
貿易で栄えるオセアンと違い、ヴィンスは観光で栄えている街である点が、その理由だった。

更に、ヴィンスは街中に水路を張り巡らせているため、水面の輝きが建物を照らし、文字通り街中が輝いて見えるのだ。

(∪*´ω`)「デレシアさん、街の中に船がいますお!」

事前の情報なしにそれに気づいたのは、人並外れた視力を持つブーンだった。
彼の目には川に浮かぶ小船が見えているのだろう。

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、ヴィンスでの輸送手段は主に船なの。
      大きな荷物を運ぶなら船を使った方が楽なのよ」

(∪´ω`)「おー」

ノパー゚)「だから街にある荷物の搬入路、あー、つまりは荷物の受け渡し口は水路に面してるんだ。
    すぐに受け渡しが出来るようにな」

(∪´ω`)「嵐の時はどうするんですかお?」

ノパ⊿゚)「えーっと、確か…… 何かを展開して対応するとかって言っていた気がするな」

海岸沿いの街は嵐から逃げる術を持っていない。
風よりも恐れるべきものが波であることは、彼らが生活をする上で必ず辿り着く結論の一つだ。
大地震が発生した際、街が津波で一気に失われることが幾度もあった。
そういった経験から、海辺の街は波に対抗するための設備に力を入れるのが常であった。

ζ(゚ー゚*ζ「波力式消波ブロックね。
      波の力で波を打ち消す物よ」

無論、現代の人間が作り出した物ではなく、棺桶同様に過去の遺産として残された物が動いているだけに過ぎない。
定期的なメンテナンスも必要ない上に、動力が波力という点で現存している物が非常に多いのである。
特にヴィンスのある地域は嵐に見舞われることが多かったため、消波ブロックが今なお多数稼動しているのだ。

ノパ⊿゚)「そう、それだ。
    オセアンにもあったな」

(∪´ω`)「はりょく式、しょーはブロック。
      はりょくが波の力で、しょーはが波を消すってことですかお?」

ζ(゚ー゚*ζ「そう、その通りよ。
      よく分かったわね」

ノパー゚)「すげぇな、今のでよく分かったな」

(∪*´ω`)「えへへ」

言葉から新たな言葉を理解したことを褒められ、ブーンは素直に喜んだ。

730名無しさん:2021/03/08(月) 18:54:18 ID:nOwkzYno0
(#゚;;-゚)『ブーンは将来有望ですね』

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、本当に」

その声は、デレシアのインカムにだけ送られた言葉だった。
彼女の返事は風がかき消し、後ろの二人には聞こえていない。

ζ(゚ー゚*ζ「どうしたの?」

(#゚;;-゚)『デレシアに2つ質問があります。
    無論、返答はいつでも構いませんし、返答をしないでいただいても構いません』

ζ(゚ー゚*ζ「あら、何かしら」

(#゚;;-゚)『私がネットワークとの接続が途切れた時以降の情報が知りたいのです。
    この世界で何が起きたのかを』

ζ(゚ー゚*ζ「ふふっ、私が知っているのはほんの断片程度よ」

(#゚;;-゚)『それでもかまいません』

ζ(゚ー゚*ζ「もう1つは?」

(#゚;;-゚)『貴女のことについてです、デレシア』

ζ(゚ー゚*ζ「面白いことを訊くのね」

(#゚;;-゚)『はい、私の行動の原点にあるのは――』

ζ(゚ー゚*ζ「知的好奇心、でしょう?
      知っているわ」

アイディールを始め、当時の世界にはAIと呼ばれるものが存在した。
AIの開発は人間を模すことを最終到達点とした。
その結果、開発においては常にどのように人間のように思考し、成長するのかを研究し、開発し続けた。
戦争に利用されたAIは意味をなさなくなったが、アイディールのように戦争利用とは無縁の物については無事に形となった。

アイディール開発において重要視されたのは自己学習による、使用者への最適な支援だった。
その自己学習を実現するために、知的好奇心という要素が使用された。
不明な何かが生じた際、アイディールは段階を踏んで行動をする。
第一段階はデータベースとの照合、第二段階は仮説を複数用意し、第三段階で答えを確認した上で、最終的にデータベースを更新するのである。

そうすることで自身の思考回路が強化され、より精度の高い反応が可能になるのだ。

(#゚;;-゚)『ご理解いただけて助かります。
    ですが、先ほどもお話しした通り、デレシアの気が向いた時でかまいません。
    待つのは慣れていますから』

ζ(^ー^*ζ「ふふっ、それじゃあ何かの機会に教えてあげるわ。
       でも、そうね……」

731名無しさん:2021/03/08(月) 18:54:40 ID:nOwkzYno0
教えることについては問題ないが、このタイミングでは教えるべきではないというのがデレシアの考えだった。
然るべき時、然るべき場所で伝えなければ二人が同時に理解するのは難しいだろう。
デレシアは少し逡巡する素振りを見せ、言った。

ζ(゚ー゚*ζ「せっかく気を遣ってくれたのに悪いけど、内緒のお話じゃなくて、みんなでいる時にお話しするわね」

(#゚;;-゚)『はい、それがいいですね』

二人の会話がちょうど途切れた時、ブーンがデレシアの腰を叩いて言った。

(∪´ω`)「デレシアさん、一緒にしりとりしましょうお!」

ζ(゚ー゚*ζ「あら、楽しそうね。
      ディも一緒にやりましょう」

(#゚;;-゚)『ありがとうございます。
    手加減は不要ですか?』

(∪´ω`)「今日は負けないお!」

それからヴィンスに着くまでの間、三人と一台はしりとりをしながら道中を楽しんだのであった。

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732名無しさん:2021/03/08(月) 18:55:04 ID:nOwkzYno0
同日 AM09:13

風の音。
波の音。
潮の香り。
魚の香り。

人の声。
鳥の声。
まぶしい建物。
まぶしい風景。

それが、ヴィンスに到着した時にブーンが抱いた最初の印象だった。

(∪*´ω`)「おー!!」

海辺の街は初体験ではなかったが、ヴィンスに漂う独特の賑やかな空気に彼は興奮を隠せなかった。
デレシアの体にしがみつきながら体を横にずらし、流れていく初めての風景を眺める。
その後ろでヒートは複雑な心境で街を眺めていた。
彼女はこの街を知っていた。

ノパ⊿゚)「……」

いくつか変わっている部分はあるが、彼女が二回目に訪れた時と大差のない風景だった。
違うのは街に漂う空気と、彼女の状態だ。
内心、彼女は心穏やかではなかった。
この街で彼女が行った全ての行為は、彼女の中に鮮明に記憶されている。

後に“ヴィンスの厄災”として知られる一連の事件と、“レオン”という名の殺し屋について、この街に決して消えない傷跡を付けたのは彼女だった。
果たして今、彼女がその行為を後悔しているかと問われれば、彼女は首を横に振るだろう。
自らの行動を後悔するのであれば、最初からしていないというのが、彼女の持論だった。
ヒートはブーンの鼓動に意識を集中させ、余計な感情や記憶が蘇らないようにした。

(#゚;;-゚)

一方、ディは数十年ぶりに訪れたヴィンスの街並みの情報を更新し、街で何かしらの戦闘が起きていたことを推測していた。
周囲の建物と比べ、窓枠だけが新しい家屋が散見される。
日光で家の外壁に穿たれた弾痕の跡が浮かび上がり、その箇所だけ塗料が厚く上塗りされていることも分かった。
争いが絶えない街というわけではなく、ある一時期まで争いが続いていたのだと、ディは考えた。

ζ(゚ー゚*ζ「先に宿を決めましょうか」

そしてデレシアは、ヒートとディの様子に気づきながらも、それに触れることはしなかった。
それぞれの悩みは、それぞれが吐き出したいときに口にすればいい。
今はブーンのように世界を眺め、受け入れ、堪能するのが一番なのだ。

ノパ⊿゚)「あたしが泊ったことあるのは安宿だから、ちと力になれねぇな」

露天商が道を挟んで並ぶ目抜き通りを抜け、三人は道を下って海辺に向かっていく。
潮の香りがより強くなると同時に、海鳥の鳴き声と潮騒が大きくなっていく。

733名無しさん:2021/03/08(月) 18:55:36 ID:nOwkzYno0
ζ(゚ー゚*ζ「それなら、私の知っている宿がまだあればいいんだけど……」

魚市場と漁船が並ぶ海岸沿いが見る丁字路に差し掛かると、デレシアは一度その場でディを停車させた。
目の前に広がる青い海の下には、多くの魚影が見えた。
空にいる海鳥たちは羽ばたくことなく、風に乗って気持ちよさそうに空を滑る。

ノパ⊿゚)「どうしたんだ?」

ζ(゚ー゚*ζ「ちょっと待っていてね」

そう言った次の瞬間、三人の目の前を、車線を無視した赤い車が猛スピードで駆け抜けていった。
そのまま進んでいれば、間違いなくはねられていただろう。
モーターの回転音はすぐに遠のき、聞こえなくなった。

ζ(゚ー゚*ζ「お待たせ」

ノパ⊿゚)「良く気付いたな、あんなに静かだったのに」

ζ(゚ー゚*ζ「ブーンちゃんが教えてくれたのよ。
       ね、ブーンちゃん」

(∪´ω`)「お?」

彼には自覚がなかったが、デレシアの腰に回した手に一瞬だけ力が込められたことを彼女は察知していた。
ブーンの耳は人のそれとは桁違いの能力を有しており、遠方から接近してくる脅威に対して無意識下で反応していたのである。
その反応速度はデレシアよりも早く、ヒートでさえ追いつけない程だった。

ノパ⊿゚)「しっかし、こんな狭い道でよくあれだけかっ飛ばすな。
     馬鹿か何かか?」

ζ(゚ー゚*ζ「きっとその類でしょうね」

気を取り直し、デレシアは記憶の中にある地図を頼りに海岸線を走った。
街の西側に並ぶホテルの数々は、周囲の景観との調和を保つため、白一色の壁面で統一されている。
その内の一つ、“ホテル・シチリー”の前で、デレシアはディを停めた。

ζ(゚ー゚*ζ「よかった、まだあったわ」

ホテル・シチリーは七階建てのホテルで、地下に駐車場を持つ老舗のホテルだった。

ノパー゚)「へぇ、すっげぇいいホテルじゃんか」

(∪*´ω`)「奇麗ですお」

ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ、私がフロントに行ってくるからディは二人をよろしくね」

(#゚;;-゚)『はい、分かりました。
    ハンドルはブーンが握りますか?』

(∪*´ω`)「いいの?」

734名無しさん:2021/03/08(月) 18:56:03 ID:nOwkzYno0
ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、いいわよ。
      前に乗ったことあるもの、平気よ」

ノパー゚)「あたしが助けられた時だな。
     なら大丈夫だよ」

(∪*´ω`)「やたー」

ディに搭載されている自動走行機能は、例え鋭角のバンク角になろうとも、決して転倒しない程の精度を誇っている。
ブレーキとクラッチに足が届かなくても、例えクラッチレバーとブレーキレバーに指が届かなくても、ディは運転手の意のままに動くことが出来る。

ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ、後はよろしくね」

デレシアは颯爽とディから降り、ホテルのフロントへと向かった。
回転式の扉を通り、赤い絨毯の敷かれた静かな空間に出る。
建物の中心は吹き抜けとなっており、ガラス張りの天井からは陽光が差し込んでいた。

ζ(゚ー゚*ζ「……変わってないわね」

控えめな音量で流れるクラシック音楽。
陽光と海岸の景色を楽しめる食堂。
多少の改修はあったが、デレシアの記憶していたホテルとあまり差異はなかった。

(●ム●)「いらっしゃいませ」

ζ(゚ー゚*ζ「三人で泊まりたいんだけど、いいかしら?」

(●ム●)「えぇ、勿論」

フロントで支払いと手続きを済ませ、鍵を受け取ったデレシアは対応をした男に尋ねた。

ζ(゚ー゚*ζ「ところで、今のオーナーは誰かしら?」

(●ム●)「当ホテルの現オーナーはバルサミコス・シチリーです。
      何かご伝言を承りましょうか?」

その名を聞き、デレシアは自分がどれだけの間、このホテルに来ていなかったのかを思い出した。
時の流れはいつも人の想いとは真逆に動く。
デレシアは悪戯っぽく笑み、言った。

ζ(゚ー゚*ζ「お願いしてもいいかしら?」

男は笑みを浮かべて頷いた。

(●ム●)「勿論です」

ζ(゚ー゚*ζ「レモンはもう食べられるようになったかしら、とだけ言っておいて」

735名無しさん:2021/03/08(月) 18:56:37 ID:nOwkzYno0
一瞬だけ不思議そうな表情を浮かべたが、男はすぐに頷き、メモを取った。
ホテルの入り口から荷物を持ったヒートたちが入ってきたのを見て、デレシアはその場を立ち去ることにした。
階段を使って三階まで向かい、部屋の中に入る。

ノパー゚)「おおー!!」

(∪*´ω`)「おおー!!」

そして、二人の歓声が聞こえた。

ζ(゚ー゚*ζ「どう、このホテル?」

部屋に入ってすぐに気が付くのは、一枚の大きなガラスで仕切られた外の景色だ。
遮るものも、余計な物も何もない景色。
広大なベルリナー海と、その果てに見えるノースエスト地方の白い壁だ。
小さく砕けた氷が浮かぶ海と空の織りなす景色は圧巻の一言に尽きる。

ノパー゚)「この景色はいいな! 冷たい風に吹かれないで楽しめるのはいい!」

(∪*´ω`)「すっごい奇麗ですお!!」

二人は窓の方に駆け寄り、身を乗り出さんばかりの勢いで景色に見入る。
ベルリナー海の風は氷が殴りつけるように冷たく、そして激しい事でも知られている。
街の近くならばまだしも、少しでも沖合に行こうものなら、ベルリナー海の荒波が如何に危険なのかの所以を知ることになる。
ヴィンスの優れた街の設計として挙げられるのが、その猛威を受け流す設計の港にある。

波力式消波ブロックを使って波の力をかき消せたとしても、風の力は消しようがない。
しかし、街の建物全体が風が通り抜けるように設計されたことによって、安全な場所が確保されるのと同時に、家屋への被害が最小限で済むようになっているのである。

ζ(゚ー゚*ζ「さて、お洗濯とかやって、街の観光に行きましょうか」

旅慣れた三人の行動は素早く、そして無駄がなかった。
まず、三人は部屋にある湯船使って疲れを取り、それから行動に移った。
汚れものをブーンがパニアから取り出し、ヒートがそれを選別。
そしてデレシアが各階に設置された洗濯乾燥機の設置された部屋に持ち込み、作業を行う。

全ての作業が完了するのには三時間以上が必要になるため、三人が昼食と軽い観光を終える頃には、洗濯作業は終わっている計算だった。
フートクラフトで買った防寒着を来て、部屋を出る。
ブーンを中心に三人で手を繋いでホテルから出ようとした時、ロビーでデレシアを呼び止める男がいた。

|゚レ_゚*州「お客様、少しよろしいですか?」

身なりの良さと、落ち着き払った仕草からデレシアはすぐにその人物がバルサミコスであると理解した。
彼女の記憶にある彼の目元は、記憶のまま成長し、中年になっていた。

ζ(゚ー゚*ζ「あら、何かしら?」

|゚レ_゚*州「昔の私をご存知なのですか?」

736名無しさん:2021/03/08(月) 18:57:16 ID:nOwkzYno0
デレシアとは違い、バルサミコスは彼女のことを覚えていなかった。
それが無理からぬ話であることをデレシアは理解していた。

ζ(゚ー゚*ζ「少しだけね。 どちらかと言えば、あなたのフィリップスおじいさんと少し知り合いなの。
      おじいさんは元気かしら?」

|゚レ_゚*州「祖父は高齢で、流石に今寝たきりになってしまっていまして……
     でも、よろしければお会いになっていただけますか?
     祖父の知り合いの多くが他界されていまして、きっと、久しぶりの知り合いに会えば喜ぶと思います」

ζ(゚ー゚*ζ「そうね。 自宅にいるのなら、後で会いに行ってみるわ」

|゚レ_゚*州「ありがとうございます。
     家の者には私から伝えておきますので。
     えぇと、お名前は……」

ζ(゚ー゚*ζ「デレシアよ」

そしてホテルを出た三人は、街の中心に向けて歩き始めた。
少ししてヒートが口を開いた。

ノパ⊿゚)「ホテルの関係者と知り合いなのか?」

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、このホテルを使った時にちょっとね」

ノパ⊿゚)「相変わらず交友関係が広いな、デレシアは」

ζ(゚ー゚*ζ「そんなことないわよ。
       昔なじみがいるだけよ」

(∪´ω`)「おー」

ニット帽を被ったブーンは二人の顔を見比べ、それから思い出したように言葉を発した。

(∪´ω`)「そう言えば、ミセリのお家もこの近くなんですおね?」

ζ(゚ー゚*ζ「そうね、イルトリアはここからそう遠くないからね。
       早く皆に会いたいわね」

(∪*´ω`)「おっ!」

イルトリアの前市長と友人の関係にあり、尚且つ、現市長の娘とも友人の人間はそう滅多にいるものではない。
後者の交友関係についてはブーンが自ら行動した結果獲得したものであり、デレシアが介入して得た物ではない。
彼が踏み出した一歩がニクラメンで命を救うことに繋がり、彼の成長に大きく寄与したのは言うまでもない。

ノパー゚)「そういや、あたしらがティンカーベルに行くとき、あの二人はイルトリアに行くって言ってたな」

ζ(゚ー゚*ζ「ロマとロウガも今頃はイルトリアにいるはずね。
       ブーンちゃんがたくさん言葉を覚えて発音もよくなってるの聞いたら、きっと驚くわね」

737名無しさん:2021/03/08(月) 18:58:00 ID:nOwkzYno0
(∪*´ω`)「そうですかお?」

ブーンがイルトリアの面々と会った時は、まだ会話はたどたどしかったが、今ではその面影もない。
旅の途中で彼が経験した多くのこと、そして、ディが加わったことによって会話の数が圧倒的に増えたことが理由だろう。
話せば話すほど彼は言葉を理解し、時間と共に熟成していくのがよく分かる。

ζ(^ー^*ζ「えぇ、きっと驚くわよ」

ノパー゚)「あぁ、間違いないな」

(∪*´ω`)「やたー」

海沿いにしばらく歩くと、街の中を流れる運河の一つに突き当たった。
運河には白い小船がいくつも浮かび、荷や人を乗せて往来している。

(∪*´ω`)「おー」

ζ(゚ー゚*ζ「これがヴィンスの運河よ。
      移動手段にしても、荷物の運搬にしても、この運河はとても重要なものなの」

ノパ⊿゚)「あたしも何回か乗った記憶があるな」

ζ(゚ー゚*ζ「せっかくだから、船に乗って少し街中を観光しましょうか」

ノパー゚)「そりゃいいな。 ゆっくり揺られるのも悪くなさそうだ」

ζ(゚ー゚*ζ「私が声をかけてくるから、そこで待っていてね」

デレシアは少し離れた場所に小さな船着き場に向かい、オールを持って退屈そうにしている船頭に声をかけた。

ζ(゚ー゚*ζ「いいかしら」

細長く白い木製の観光用小型船はヴィンスの運河に浮かぶものとしては一般的なもので、何度も塗装が塗り直されているのが分かる。
街の法律でこの大きさの船に乗り込めるのは船頭を含めて五人と定められているのは、長い歴史が導き出した安全な数字だった。
色黒く焼けた肌の、ヴィンスの人間らしいその中年の男はデレシアを一瞥して言った。

(::゚J゚::)「目的は観光か?」

ζ(゚ー゚*ζ「そうよ」

(::゚J゚::)「一時間で30ドル、それがここの相場だ」

それを聞いたデレシアは微笑を浮かべた。
男が提示した金額は相場の五倍以上のものだった。
恐らく、この一帯にいる船頭は同じ金額を口にするように口裏を合わせていることだろう。
観光業が売りの街でそうした人間がのさばるということは、街全体の経済状況が悪い証だった。

ζ(゚ー゚*ζ「あら、いつからこの街の船がそんなに値上がりしたのかしら?」

(::゚J゚::)「ずっと昔からこの値段だよ、嫌なら他を当たりな」

738名無しさん:2021/03/08(月) 18:58:27 ID:nOwkzYno0
ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、そうするわ。
      “レモンズ”が聞いたらどう思うか、早速当たってみるわね」

その名前が出た瞬間、男の顔が強張った。

(::゚J゚::)「っ……!! す、好きにすればいいさ」

ζ(゚ー゚*ζ「観光業が右肩下がりの中でこんなことをしていると知れば、きっと面白いオブジェが街に増えるでしょうね」

レモンズとは、ヴィンスの街を統治するマフィアたちの準構成員の総称で、街や組織の不利益になりそうなことに対して荒事で応じる集団だ。
組織の人間として正式に雇われているわけではないため、彼らが何か事件を起こしても組織は一切関知をしない。
だからこそ、街の人間はレモンズによる報復や嫌がらせを恐れ、街の決定に逆らわないようにしているのだ。
無論この事実は観光ガイドには載らない物であり、表向きには治安維持を生業とする“カラヴィニエリ”がいることになっている。

ヴィンスという街そのものがマフィアによる統治の産物であるため、カラヴィニエリよりもレモンズの方が住民にとっては恐ろしい存在なのである。

(::゚J゚::)「わ、分かった!! 5ドルだ、それが観光客向けの金額だよ」

ζ(゚ー゚*ζ「二言はないわね?」

(::゚J゚::)「あぁ、ないよ。
     まいったな、あんたこの街を知ってるのか」

ζ(゚ー゚*ζ「さぁ、どうかしらね」

そしてデレシアは離れた場所にいる二人を手招きし、船に乗り込んだ。
船頭は長いオールを使い、ゆっくりと船を漕ぎ進めた。

(∪*´ω`)「おー!」

低い視点で街を見上げながら進む景色に、ブーンが歓声を上げる。
それを見た船頭は先ほどまで浮かべていた表情を少し柔和な物に変えた。

(::゚J゚::)「この街の歴史って奴を知ってるか?」

その言葉はブーンにかけられたものだった。
景色を見ていたブーンは船頭を見つめ、首を横に振った。

(∪´ω`)「知りませんお」

それを聞いた船頭は不器用な笑顔を浮かべ、かつて自分が観光客たちに誇らしげに語っていた頃のように語り始めた。

(::゚J゚::)「この街の歴史は水の歴史なのさ。
     運河の始まりは、水害から街を守るためだったんだ。
     今は運河になっているが、その昔、これは普通の川だった。
     フェッチ山脈の雪解け水が染み出して、ずーっとこの街まで流れてきてるんだ。

     だけど、嵐が来るたびに川が荒れるから街が大変なことになった。
     どうにか活用しようと、水の逃げ道を作るうち、それが街の道になった。
     だからこの街の南にある街からの流通は、今も船で運んでいるのさ」

739名無しさん:2021/03/08(月) 18:58:56 ID:nOwkzYno0
フェッチ山脈はヨルロッパ地方とシャルラ地方を横断する山脈で、ヴィンスの南に位置する雪の塊のような山だ。
ホールバイトやセントラスの近くに位置し、その白さから“スノーホワイト”の名で知られている。

(∪´ω`)「どれぐらい頑張ったんですかお?」

(::゚J゚::)「まずは街の中に水路を作って、それからどんどんそれを広げていったんだ。
     船が往来するから川の幅も広げたりしてな。
     そうして今のヴィンスがある。
     上流の方で嵐があって大水が来ても、この街に来る頃には勢いも水量も問題はなくなってる。

     一説じゃ、百年以上って話さ」

(∪´ω`)「おー!」

二人が話をする内、船は街の中心を流れる広い運河へと到着した。
そこに広がるのは、白い船が白い建物に囲まれ、水底が見えるほど透き通った水の上に浮かぶ幻想的な光景だった。
建物の壁に水面の模様が反射し、影は灰色と白、そして空の色を反射した薄暗い青色をしている。
視点が低いため、全てが輝いて見えるヴィンスの誇る最高の景観だ。

“水の都”を代表する景色を目にしたブーンは言葉を失っていた。

(∪*´ω`)「お……」

そして、ヒートもまたその景色を見て無言で頬を緩めていた。

ノパー゚)「……」

(::゚J゚::)「ここがヴィンスの中心の川だ。
     交通の要所であると同時に、水運の要さ。
     ほら、あっちこっちに屋根の付いた船があるだろ?」

(∪*´ω`)「野菜とか乗ってますお!」

(::゚J゚::)「おおっ、良く見えるな。
     あの手の船が市場の役割を持っていると思ってくれればいい。
     移動して販売もするけど、ああして同じ場所に浮かんでいるんだ。
     陸で運ぶよりも早いし、効率がいい」

(∪´ω`)「どうして効率がいいんですかお?」

(::゚J゚::)「この街じゃ、船を使って荷を運ぶのが普通だから陸を使うと積み替えが必要になる。
     だけど、あぁやって船に乗せていれば船から船に簡単に渡せる。
     板を使って橋代わりにするのさ。
     後は、店が仕入れをする時に船を使って大量に載せられるっていうのもある」

(∪´ω`)「なるほど」

(::゚J゚::)「珍しい船になると、屋台をやってるのもある。
      俺のお勧めはバーベキューか、サンドイッチ屋だな」

740名無しさん:2021/03/08(月) 18:59:32 ID:nOwkzYno0
(∪´ω`)「魚料理じゃないんですかお?」

(::゚J゚::)「そう思うだろ?
     だけど、ヴィンスで食う魚料理は正直どこも美味い。
     魚がいいから、下手に料理しなければ塩焼きだけでも十分なんだ。
     それをどうにかしようと考えて、ここ数年で俺が言った二つの料理に力を入れ始めたんだ」

ノパ⊿゚)「何でバーベキューとサンドイッチなんだ?」

思わずヒートも会話に入り、疑問を口にした。

(::゚J゚::)「まずバーベキューだが、こいつにはちょっと面白い理由があってな。
     嵐が来ると上流からデカイ木や枝が流れてきて、今まではそれを燃料や加工品にしてたんだ。
     この街は木材が少ないから特に迷惑はしてなかったんだが、オークみたいにしっかりとした木を他にも利用しようってなってな。
     で、せっかく色んな木が使えるならスモークに利用しようってことでバーベキューになったわけだ」

男は饒舌にその経緯を語り、ブーンは周囲を改めて見回した。
浮かぶ船の中に香ばしい香りをさせる物を見つけたのか、そこで視線が止まった。

(∪´ω`)「船の上で焼いて大丈夫なんですかお?」

その素朴な疑問は子供だからこそ出てくるものだった。

(::゚J゚::)「半分に切ったドラム缶を使うのさ。
     波に揺られても倒れにくい設計だから、船の上でも安定してバーベキューが出来る。
     まぁ言うよりも見た方が早いな」

そう言って、男はオールを使って海の方に向けて船を進めた。
デレシアとのやり取りが嘘のように、男の顔からは毒気が抜けていた。

(::゚J゚::)「これから屋台船が沢山泊まってる場所に連れて行ってやるよ」

(∪´ω`)「ありがとうございますお!」

(::゚J゚::)「で、話を戻そう。
     サンドイッチが流行っている理由は、魚料理の一つになったからだ」

(∪´ω`)「サンドイッチなのに?」

ノパ⊿゚)「フライか」

(::゚J゚::)「正解だ。 特にこの辺りだと色々な魚が手に入るからフライを作るのには苦労しない。
     でもフライじゃ目新しさがないからサンドイッチにしたんだが、これが大当たりしたのさ。
     でも実はもう一つ理由があってな。
     クジラ肉の流通が広がってきたんだ」

(∪*´ω`)「クジラの肉ですか?」

ブーンが目を輝かせて身を乗り出す。
船頭はついに笑みを浮かべ、言った。

741名無しさん:2021/03/08(月) 18:59:56 ID:nOwkzYno0
(::゚J゚::)「坊主は食ったことあるか?」

(∪*´ω`)「ないですお」

(::゚J゚::)「これがなぁ、びっくりするぐらい美味いんだよ。
     生でもいいし、フライにしても美味い。
     しかも安い。
     カニ漁よりも安全だってんで、割と流行ってんだ」

ノパ⊿゚)「へぇ、クジラ肉か…… 何回か食った記憶があるな。
    確かに脂っこくなくて美味かったな」

(::゚J゚::)「しかも、だ。
     ここのクジラ肉は鯨の油で揚げるからカラッして美味い。
     安いワインにも合うぞ」

ヒートとのやり取りを見て、デレシアは元々この船頭は陽気な性格をしていたのだろうと推測した。
商売が上手くいかなかったことで堕落しなければ、名物船頭として人気を得られたかもしれない。

(∪´ω`)「お……僕ワイン飲めないですお……」

(::゚J゚::)「坊主の場合、コーラがちょうどいいかもな」

(∪´ω`)「コーラ?」

ζ(゚ー゚*ζ「そう言えばブーンちゃん、コーラを飲んだことがなかったわね。
      せっかくだから今日はコーラを飲んでみましょうか」

ようやくデレシアも会話に入ったが、男は少しも調子を変えずに対応した。

(::゚J゚::)「その歳でコーラ未体験か。
     コーラは美味いぞぉー!!」

(∪*´ω`)「お!」

(::゚J゚::)「あんたら、せっかくだからブランチでもどうだい?
     今向かってるところでバーベキューを食べて、それからフライ屋に行かないか?」

ζ(゚ー゚*ζ「いいわね。
      お店はお任せするわ」

(∪´ω`)「ブランチって何ですお?」

ζ(゚ー゚*ζ「朝ご飯とお昼ご飯の中間ね。
      この辺りにある習慣よ」

ノパー゚)「そうだな、少し小腹がすいたから丁度いい」

(::゚J゚::)「よし、決まりだ」

742名無しさん:2021/03/08(月) 19:01:46 ID:nOwkzYno0
先ほどよりも力強く船が進んでいく。
潮風の吹いてくる方向に進むにつれ、水上の活気が強くなっていく。
陸上の露店や市場よりも力強い活気は船上から飛び交う声と、どこからともなく聞こえてくる音楽が起因している。
元々船を漕ぐ人間達が歌を歌いながら、という文化があるぐらいに街全体が陽気な人間で溢れているのだ。

誰かが歌い始めたのが聞こえれば、自然とその歌を歌える人間が口ずさみ、たちまち合唱が始まる。

(::゚J゚::)「〜♪」

船頭も歌に加わり、にぎやかな時間が始まった。
この街で歌われる歌は無数にあり、時代と共に増え続ける。
観光が成功を収めていた頃には、街中どこにいても歌が聞こえるほどだったが、今はかなりその規模が小さくなっている。
スノー・ピアサーの停車駅の一つだが、それでも観光客の数が振るわないのには何かしらの理由があるのだろう。

しばらくして、潮の香りに混じって鼻孔に届く香ばしい香りの強さが増してきた。
周囲に浮かぶ船は皆屋根を持ち、色鮮やかな果物などを積んでいるものばかりになった。
デレシア達の乗る船の三倍はある船は水路を塞がないよう、地上の屋台のように両端に寄って泊まっている。

(::゚J゚::)「俺たちはこの辺りを食堂、なんて呼んでる。
     まずはバーベキューだ」

停泊している船の一つに近寄ると、ブーンが目を輝かせた。

(∪*´ω`)「いい匂いがしますお!」

(::゚J゚::)「薪も違うが、何よりソースが特別なのさ」

肉を焼いているのは、船頭が言っていたようにドラム缶を横にしたものを加工したものだった。
漂うスモーク臭は高密度な木がゆっくりと燃え、肉をじっくりと焼いている証だった。
船頭の言うように、ソースが焦げて漂わせる香ばしい香りは食欲を刺激するものがある。

(::゚J゚::)「三人ともリブでいいか?
     ここのリブはこの街で一番美味いんだ」

(∪*´ω`)「おっ! いいですか?」

待ちきれなさそうにブーンが二人を見て言った。

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、大丈夫よ」

ノパー゚)「あぁ、リブがいいな」

(::゚J゚::)「おーい、リブを三人分頼む」

ドラム缶の前で火の調節をしていた大柄な女性は頷き、バーベキュー台から湯気の立つリブを三本選び、ワックスペーパーに包んだ。
船頭は船にぶつからないギリギリの場所で泊まり、先に金を手渡した。
女性はそれを確認してから紙袋と紙ナプキンを船頭に渡した。

(::゚J゚::)「さぁ、冷めない内に食ってくれ」

743名無しさん:2021/03/08(月) 19:02:32 ID:nOwkzYno0
ζ(゚ー゚*ζ「あら、奢ってくれるの?」

(::゚J゚::)「なっ、べ、別に奢るってわけじゃねぇよ。
     俺が言い出したんだから、喰ってもらおうって側が出すのは当然ってだけだ。
     とにかく、熱さも美味さなんだから――」

(∪*´ω`)「いただきますー」

誰よりも早くブーンはリブに齧り付いていた。
骨からこそぎ取るようにして肉を食べ、口の周りにソースが付くのも気にすることなく一心不乱に味わう。
肉は骨から驚くほど簡単に取れ、表面は焼けて固まったソースで一瞬だけ歯応えが味わえるが、その下からすぐに油と肉汁があふれ出す。
甘辛いソースに付着したスモーキーな薪の香りがたまらない。

ソースに使われている材料の中に、仄かな酸味と独特の苦みが見え隠れするが、その正体はごく一部の人間にしか分からないだろう。

(∪*´ω`)「美味しいですお!」

骨についたソースを舐めとりながら、ブーンが嬉しそうに味を報告した。

(::゚J゚::)「そうだろ? ホールバイト流の焼き方だからな、味は間違いない。
     ソースも向こう仕込みの本格的なものだが、隠し味があるのさ」

ノパー゚)「これだけの味なら、確かに名物になっても不思議じゃないな」

(::゚J゚::)「ホールバイトには飯があるが景色がない。
     そこがこの街が勝ってる部分だな」

ノパ⊿゚)「魚介系のバーベキューはあんまり流行ってないのか?
    あたしのいた街じゃ、結構あったんだけどな」

(::゚J゚::)「変な話だが、観光客はある程度慣れると慣れ親しんだ味を求めるんだ。
     確かにシーフードバーベキューの料理はあっちこっちにあるけど、最初の一回で満足するやつが多いのさ。
     ま、それは後で自分たちで食べるといい」

そして船は川を進み、別の船の前で泊まった。
今度はデレシアが船頭の分も料金を支払い、一口サイズの鯨のフライを使ったサンドイッチ、そして瓶に入ったコーラを買った。

ζ(゚ー゚*ζ「さっきのお礼よ」

(::゚J゚::)「あ、あぁ、ありがとうよ」

四人はその場ですぐにワックスペーパーに包まれたサンドイッチに齧り付き、人気の理由を味覚で理解した。
やや弾力のあるパンに挟まれたフライには濃厚なソースがしみ込み、鯨肉の味を際立たせ、食欲を増進させる。
付け合わせに挟まっているピクルスとキャベツの千切りが口の中にある油を拭い去るため、しつこさを感じない。

ノパー゚)「これも美味いな」

(∪*´ω`)「サクサクしてますお!」

ζ(゚ー゚*ζ「しつこすぎなくていいわね」

744名無しさん:2021/03/08(月) 19:02:54 ID:nOwkzYno0
(::゚J゚::)「揚げたてだし、何よりも肉と油の相性がいい。
      元は同じ生き物の部位だから当然だが、味にコクがでるのさ」

ζ(゚ー゚*ζ「ブーンちゃん、はい、コーラ」

瓶をブーンに手渡すと、中で気泡の弾ける音にブーンは目を輝かせた。
恐る恐る口を付け、そして心底美味そうに目を細めた。

(∪*´ω`)「シュワシュワして美味しいですお!」

(::゚J゚::)「だろ? 夏の暑い日に飲むともっと美味いんだが、この地方は寒いからな」

それからブーンはサンドイッチを頬張り、コーラを飲み、再びサンドイッチを頬張る。
子供らしい飲食の仕方に、船に乗る全員が思わず破顔する。
船は方向転換し、再び街の中心に戻る。

(::゚J゚::)「さて、次に行きたい場所はあるか?」

(∪´ω`)「他にはどんな場所があるんですかお?」

(::゚J゚::)「そうだな…… 後は街並みぐらいだな、正直」

ヴィンスは観光を売りにしているが、その主たるものは景観だ。
ゆっくりと濾過された雪解け水が流れ込む街であり、その水が汚れないよう、ゴミに対しての規制は厳しい。
幸いなことにレモンズが街中いたるところにいるため、ゴミを川に捨てたり、その辺りに投げ捨てようものなら観光客といえども容赦はされない。
そうして保たれる景観ではあるが、それ以外の観光地としての魅力は薄い。

ζ(゚ー゚*ζ「最近の観光の低迷は何か原因があるの?」

一瞬、船頭は言葉を飲み込みかけたが、観念したように言った。

(::゚J゚::)「さっきも言ったが、奇麗な水がこの街の売りだ。
     逆を言えば、本流に近いほど水はもっとずっと透明度が高い。
     フェッチ山脈に近いホールバイトの近くに、フートフェッチって街があるんだ」

ζ(゚ー゚*ζ「氷の街ね」

(::゚J゚::)「あぁ、そこが内藤財団に買収されてから、観光客の数が格段に減っちまったのさ。
     内藤財団が買収したってことは、表立って言われてねぇが、確かな情報筋から聞いたんだ」

ノパ⊿゚)「でもよ、いくら内藤財団が手を貸したからって、そんなに一気に客を持っていかれるもんなのか?」

(::゚J゚::)「線路だよ。
     エライジャクレイグとの契約も済ませて、ホールバイトとセントラス、ニョルロックへのアクセスが簡単になったんだ。
     しかも、タルキールとストーンウォールにもつながってる。
     どこからでも行きやすいってのは、かなりの利点だ。

     この街にも線路が通っているが、フートフェッチよりもずっと少ない。
     スノー・ピアサーの停車駅の効果がどれだけ出るか、それが問題だ」

745名無しさん:2021/03/08(月) 19:04:35 ID:nOwkzYno0
(∪´ω`)「フートフェッチには何があるんですかお?」

(::゚J゚::)「凍る程冷たい川と氷がある。
     それを観光スポットにしてるんだ」

ノパ⊿゚)「建物以外、ここと大差ねぇな」

(::゚J゚::)「だから厄介なんだ。
     同じような場所で安く早く、そして行きやすいなら誰だってそっちに行っちまう。
     まったく、困ったもんだよ。
     何より、内藤財団が後ろ盾についてるから資金で困ることはないからな、何でもありさ」

ζ(゚ー゚*ζ「どうして表立って知られていないのかしら?」

(::゚J゚::)「そりゃ簡単さ。
     やつら、次はこの街を買収しようって考えてるからな。
     直接の買収が無理ならまずは周囲を支配して、売らざるを得ない状況にしようって考えてるのさ」

憎々し気に吐き出された言葉は、彼の本心であると同時に、観光業が右肩下がりになって頭を抱える人間の考えでもあるのだろう。
仕事が順調であれば、彼とはまた別の形で出会えたかもしれない。

(::゚J゚::)「目の敵にしている街を支援してる奴らが買収しようって分かったら、街の反対は避けられない。
     だから秘密なのさ」

ζ(゚ー゚*ζ「でも、あなたはそれを知っている」

(::゚J゚::)「この街は、フートフェッチとは昔は上手に付き合ってたんだ。
     川を下ってこの街に行けるようにしたり、逆にこっちが川を上ってフートフェッチに行ったり、ってな感じでな。
     嵐の時は大体あの街から色々流れ着くけど、俺たちは文句を言わないで助け合ったものさ。
     だから馴染みの人間があの街にいて、そこから話が聞けたのさ。

     街が事実上内藤財団に買い上げられた、ってな」

ζ(゚、゚*ζ「そう……残念な話ね」

(::゚J゚::)「全くだ。 まぁ、そんな感じで次はこの街を買おうとしてるらしいが、俺たちは反対してるんだ。
     問題は市長がどう判断するかだな。
     下手すると今しか見られない街並みだから、まぁ、精々観光を楽しんでいってくれよ」

それから気を取り直し、船頭はデレシア達を街の細い水路や絶景ポイントに連れて行った。
街の中心にある時計台から、涼しげな鐘の音が響く。
それは正午を伝える鐘の音だった。

ζ(゚ー゚*ζ「あら、もうお昼。
      それじゃあ、この辺りで降ろしてもらおうかしら。
      一時間五ドルだったわね」

デレシア達が降りることになった街の東部は老舗が多く並び、観光客が高価な土産を買うために訪れる場所だった。
ヒートとブーンが最初に降り、残ったデレシアが船頭に金を渡す。

746名無しさん:2021/03/08(月) 19:04:55 ID:nOwkzYno0
(::゚J゚::)「あっ、あんたこれ……」

渡した金額は、本来彼が受け取るそれの三倍の金額だった。

ζ(゚ー゚*ζ「美味しいお店を紹介してくれたお礼も込みよ」

(::゚J゚::)「……あぁ、ありがとよ。
     それと、そこの坊主に言っておいてくれないか?
     よければまたな、って」

ζ(゚ー゚*ζ「直接言えばいいじゃない」

(::゚J゚::)「そうだな、今度はそうするさ」

そして男は船を漕ぎだし、陸から去っていく。

(∪´ω`)ノシ

(::゚J゚::)ノシ

ブーンが小さく手を振り、それを見た男は気恥ずかしそうにはにかんで手を振り返した。
三人が生きているその船頭を見たのは、これが最後だった。

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ΞΞ二……‐ ‐‐   ニニ.:.:.: : . .   . . . : : .:.:.:.:.:.:ニニニ…… ‐ ‐ ‐.:.:.:.: : . . . . :.:.:‐‐…Ξ
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747名無しさん:2021/03/08(月) 19:05:55 ID:nOwkzYno0
同日 PM00:08

午前中にデレシア達の前を猛スピードで駆け抜けた赤いスポーツカーは、街の南にある高級ホテルに停められていた。
狭い路地を猛スピードで駆け抜け、フートフェッチに立ち寄ってから再びヴィンスに舞い戻った車の主は、隻眼の女だった。
最上階にあるレストランで白身魚のテリーヌを口に運び、白ワインで喉を潤す。
レストランからは給仕も含め、人払いがされているため、二人の会話を聞く者も、それを見る者もいない。

血のように赤い瞳で街を見下ろしながら、女は対面する別の女に状況の報告を行う。

从 ゚∀从「恐らく、数日中には合意するかと」

隻眼の女の名前はハインリッヒ・ヒムラー・トリッペン。
内藤財団に所属する営業担当者であると同時に、ティンバーランドの一員として世界中の街に出向くヘッドハンティング担当者でもある。
そして向かい側に座るもう一人の女は炭酸水に口を付け、ハインリッヒの視線の先に目を向けた。
太陽光を反射して白く輝く街並み、そして煌めく水面が平穏な空気の漂う午後のヴィンスをつまらなそうに眺めた女は、視線を目の前にあるサーモンサラダに向けた。

ξ゚⊿゚)ξ「そうだといいのですが」

内藤財団副社長、西川・ツンディエレ・ホライゾンは目にかかった金髪を耳にかきあげ、そう言った。
フォークにレタスを突きさし、口に運ぶ。
シャキシャキとした音を小さくさせて咀嚼し、小さく嚥下する。

ξ゚⊿゚)ξ「街の意見を覆すのは容易ではないはずです。
      勝算があるのですか?」

从 ゚∀从「街の出す条件を全て飲むという契約書を用意しました。
      あれがあれば、落ちない奴はいません」

ツンディエレは溜息を吐いた。

ξ゚⊿゚)ξ「人は時に理屈ではない物で判断をします。
      あまり楽観視はしないように。
      あなたは自分の状況を忘れてはいませんよね」

その言葉を聞いたハインリッヒの顔が強張る。
余裕を感じさせていた笑みも、今では引きつり、ワイングラスを持つ手が震えていた。

从;゚∀从「勿論ですよ、同志ツンディエレ」

ξ゚⊿゚)ξ「なら、この街に長居するようなことがないよう、徹底的に不安要素は潰してください。
      手段は問いません」

从;゚∀从「……分かりました」

そして再びツンディエレはサラダに視線を落とし、フォークとナイフでサーモンを一口大に切り分けた。
レタスと共にフォークに刺し、口まで運ぶ途中で、その手を止めた。

ξ゚⊿゚)ξ「一番の障害は誰なのですか?」

748名無しさん:2021/03/08(月) 19:07:02 ID:nOwkzYno0
从;゚∀从「街の船頭たちです。
      連中はこちらがフートフェッチを買収したことを知っているため、我々の参入を最も嫌っています。
      船頭から他の、例えば市場の人間にもその情報が口頭で伝えられているため、手に負えません。
      同時に彼らは観光の要でもあるため、市長も無碍には出来ないと」

ξ゚⊿゚)ξ「なるほど、それは確かに厄介ですね」

フォークを口に運び、無言で咀嚼する。
それから少しして、ツンディエレは淡々と言った。

ξ゚⊿゚)ξ「市長たちに決断しやすい理由を与えてあげましょう。
      船頭の声を聞きたくなくなるような理由を」

从 ゚∀从「具体的に、どのようにすれば」

ξ゚⊿゚)ξ「それは自分で考えてください。
      先ほど私は手段を問わないと言ったでしょう。
      私は明日までここに滞在しますが、出来るだけ早くいい結果を聞きたいものですね」

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同日 PM10:17

ティタニック・リバーサイドはその日、久しぶりに仕事の充実感を味わった興奮でいつもよりも酒に酔っていた。
子供の頃から船頭として働くことを夢見て、それを実現させ、気が付けば観光客を相手にぼったくりをするまで落ちてしまった。
若い頃は夢と誇りに溢れ、むしろ十分ほど余計にサービスをするような人間だった。
遠い昔の話だと思っていたが、その日に乗せた客の影響で、彼は初心を思い出し、暖かな気持ちに包まれた。

船頭に憧れたのは、彼の父も、その父もその仕事を誇りにしている姿を間近で見続け、純粋にそれが格好いいと思ったからだった。
決して裕福な生活は出来なかったが、幸せな日々だった。
初めて一人で客を船に乗せた時の高揚感と緊張感は、今でも鮮明に思い出せる。
宝石のように奇麗な川を進みながら、客が景色と彼の言葉に意識を向ける様は、この仕事の醍醐味だった。

749名無しさん:2021/03/08(月) 19:07:25 ID:nOwkzYno0
客と恋に落ちることもあったが、長続きはしなかった。
時が流れ、彼のトークは洗練され、己の言葉が生まれた。
昔から続くやり方を守り、それを引き継ぐことの大切さを次第に自覚した。
かつて見上げる存在だった人間と同じ立場になり、見上げられることが多くなった。

しかし、多くの若者は彼ではなく、新しい考えを持つ者に教えを乞うようになった。
客足が彼から遠のき、より新しい方式の船頭が増えた。
冗談のような軽い気持ちで、彼は観光客から正規の料金よりも多く請求した。
それは簡単に受け入れられ、その味を知ってしまった。

そんな折、“ヴィンスの厄災”が観光客を街から遠ざけ、彼の生活はより一層貧窮することになった。
その当時から回復したとは言え、最盛期の客足と比べると街の観光は上手くいっていなかった。
それから彼は今日に至るまで腐ったように仕事をしていたが、目が覚めるような出来事が今朝起きたのだ。
誰にそれを言うでもなく、彼は街の酒場で仕事仲間と共に酒を呑み、他愛のない話で盛り上がっている。

(::゚J゚::)「ははっ、それでよ……!」

ティタニックは頬を赤く染め、呂律が回らなくなって支離滅裂とした言動となっていたが、近年稀にみる機嫌のよさだった。
愉快な時間を過ごし、千鳥足で家路に向かう頃には、時刻は既に日付が変わる数分前になっていた。
月光の下、彼は明日から真っ当な仕事に戻ろうと心に決め、次は胸を張ってあの少年を船に乗せるのだと、ぼそぼそと口にしながら歩く。
薄暗い路地を歩く中、背後に人の気配を感じたが、彼は気にしなかった。

それが、彼の命取りとなった。
追跡者はティタニックの背後から素早く忍び寄り、つむじ風のような足払いを放った。

(::゚J゚::)「うおっ?」

顔から転倒しかけたティタニックは反射的に腕を前に出す。
その腕を掴んだ追跡者は、ティタニックの上腕部に素早く無痛針の注射を使い、中身を体内に注入する。
一瞬でティタニックの感覚全てが暴走を始め、これまでに味わったことのない快感が全身を駆け巡った。
思考は快楽で染まり、心臓は壊れそうなほどに高鳴り、全身が焼かれるように熱くなる。

口からは白い泡を吐き出し、痙攣しながらその場に倒れた。
その頃にはティタニックの頭の中にブーン達と過ごした記憶は残されておらず、正体の分からない快楽と命が失われていく感覚だけが全てだった。
走馬灯が毒々しい色で塗り固められ、命の炎が燃え尽きるその刹那。

(::゚J゚::)「あ……俺……」

彼の目には、陽光の下、小さな船を漕ぐ自分の姿が浮かんだ。
楽しそうに笑う客と、自分の顔。
それはかつての幸せだったころの記憶か、それともただの妄想なのか。
満面の笑みを浮かべ、ティタニックの命は呆気なく失われた。

――翌日、彼の死体が発見されたことにより、街中の船頭が違法薬物売買の嫌疑をかけられる大騒ぎになった。
その騒ぎは街の裏側で広がっていたが、決して表立つことは無く、ティタニックという男の死は静かにその騒ぎの中に消えていったのであった。

750名無しさん:2021/03/08(月) 19:08:14 ID:nOwkzYno0
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Ammo→Re!!のようです
Ammo for Remnant!!編

第七章【Remnants of memories-記憶の断片-】 了
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751名無しさん:2021/03/08(月) 19:13:08 ID:nOwkzYno0
これにて今回は終了です

質問、指摘、感想など有れば幸いです

752名無しさん:2021/03/08(月) 19:19:33 ID:Nkehj4TQ0
otu

753名無しさん:2021/03/08(月) 20:28:41 ID:2p/Pi2Hs0
乙です!

754名無しさん:2021/03/10(水) 23:16:34 ID:CLnG/69U0
おつ!
船頭さん…
ハインはそんなに地位高くないんだな

755名無しさん:2021/04/05(月) 21:11:44 ID:hSvH8faI0
今度の日曜日、VIPでお会いしましょう

756名無しさん:2021/04/05(月) 21:20:32 ID:hZyLUp2Y0
だいたい一週間後か把握

757名無しさん:2021/04/12(月) 19:01:45 ID:5c9ODPy20
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例え、火花のようにひ弱な火種だとしても。
大切に、そして念入りに準備をした火種は使い方次第では大火になるのだ。
その大火が何もかもを焼き払う光景は、あまりにも美しい。


                            ――放火魔、バーン・ウィッチ・ホルスタイン

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September 14th PM11:18

フィリップス・シチリーはかつて、ヴィンスで最もレモンの似合う青年だった。
幅広く商売に手を伸ばし、街の発展に一躍貢献したが、その立場を息子に譲り、その息子は自分の子にその立場を譲った。
隠居した身となったフィリップスは年齢的な衰えによってベッドに寝たきりとなり、機械の補助なしには呼吸もままならない程に弱っていた。
シチリー家の名声を築いた彼も、命の灯火が消えるのを待つばかりだった。

窓の外に見える淡い街の光を見て、シチリーは内心で溜息を吐いた。
果たしてあと何回その光を見ることが出来るのかと考えても、それを誰かに伝える術はない。
彼の口は呼吸器でふさがれ、言葉を発するのは食事の時だけなのだ。
浅黒く焼けた肌は皺だらけになり、かつては逞しかった腕も細く、倒木を思わせる姿になっている。

時折思い出す若かりし日々が、彼にとっては唯一の希望だった。
ふと、一陣の潮風が彼の頬を撫でた。

(,,'-貝-゚)「……?」

誰かが部屋の扉を開いたのかと思い、そちらに視線を移す。
だがそこには誰もおらず、扉も開いていない。
再び視線を窓に向けると、カーテンが風に揺れていた。
そして、夜空を背に誰かが立っているのを見つけた。

(,,'-貝-゚)「……」

(<::ー゚::::>三)「久しぶりね、フィリップス。
        最初に見た時はレモンに似合う青年で、その次が孫を抱えた中年で、今度は素敵な老人になったわね」

(,,'-貝-゚)「……」

その女の声には聞き覚えがあったような気がしたが、かなり昔の事であるため、フィリップスは思い出せない。
果たして誰なのかと聞く前に、女はフードを取った。

ζ(゚ー゚*ζ「お孫さん、随分と立派になったわね」

(,,'-貝-゚)「……!」

758名無しさん:2021/04/12(月) 19:02:08 ID:5c9ODPy20
その顔には覚えがあった。
名前は思い出せないが、確かにその顔は彼の知る人間の顔だった。

ζ(゚ー゚*ζ「レモン、持ってきたわよ。
       確か黄色と緑の間ぐらいが好きだったわよね」

女性は彼の枕元にレモンを置き、そう言った。
フィリップスの鼻孔に、新鮮なレモンの香りが届く。
それは彼に青春の日々を鮮明に思い出させ、夜空さえ青空に幻視させた。

(,,'-貝-゚)「……」

ζ(゚ー゚*ζ「久しぶりにこの街に寄ったの。
      貴方の孫、昔はレモンが近くにあるだけで泣いていたのに、もうあんなになったのね」

(,,'-貝-゚)「……」

ζ(゚ー゚*ζ「いい歳の取り方をしたわね。
      どう? 楽しい人生だった?」

(,,'-貝-゚)「……」

沢山の苦楽があった。
何度も挫折しそうになった。
だが、彼にとって、彼が過ごしてきた人生は楽しい物だと断言出来る物だった。

ζ(゚ー゚*ζ「そう、それならよかった」

そして再び、夜風が彼の頬を撫でた。
檸檬の香りのする風が、彼の体から毒気を抜いた。
全身に力が蘇り、意識と記憶に電流が走った心地がした。

(,,'-貝-゚)「……デレ……シア……?」

ζ(゚ー゚*ζ「ふふっ、よくできました」

思い返す夏の太陽。
潮騒の中、彼が初めて経営することになったレストランに訪れた客。
他の誰よりも美味そうに酒を呑み、食事を摂った客。
若気の至りで声をかけ、あっさりと躱された思い出。

その頃に感じた多くの幸せや困難の日々。
これまでの人生の全てが津波と化して彼の記憶を襲い、幸せの濁流の中、ゆっくりと睡魔が彼の意識を深い眠りへと誘う。
抜け落ち、白く染まった彼の頭を、彼女の手が子供にするように優しく撫でる。
果たして彼は、瞼を降ろし、静かな眠りについた。

(,,'-貝-゚)「……」

ζ(゚ー゚*ζ「おやすみなさい、フィリップス」

759名無しさん:2021/04/12(月) 19:02:28 ID:5c9ODPy20
――フィリップスが家族に見守られながら永遠の眠りについたのは、翌日の朝、澄み渡った青空の広がる日のことだった。

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             :.:.:.:.:.:..:.. :.:.:.:.:.:.::..
               : : : : :::.. :::: : : : :..     第八章【remnants of warfare-争いの断片-】
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September 15th AM08:19

その日の朝、街の空気が一変したことに気づいた観光客は、デレシアが最初だった。
街の空気に既視感を覚えた人間は、ヒート・オロラ・レッドウィングが最初だった。
漂う空気に剣呑さが混じり、緊張感の匂いがすることに気づいたのはブーンが唯一だった。
朝食をホテルで終え、散歩がてら外に出た瞬間に三人は互いに顔を見合わせる。

ζ(゚、゚*ζ「……」

ノパ⊿゚)「……」

(∪´ω`)「おー」

760名無しさん:2021/04/12(月) 19:03:37 ID:5c9ODPy20
言葉を交わさずとも、それぞれが異変を感じ取れたことが伝わる。
だが彼女たちの旅に影響がない限り、特に気にすることでもないという考えもあり、三人はひとまず街に向かうことにした。
街の様子は一見すれば変化はないが、よく観察をすれば、私服姿の男たちが運河に浮かぶ小舟の周囲に立っている光景が散見された。
胸の不自然なふくらみ、あるいは片方と比べて下がった肩は、そこに拳銃が吊り下げられていることを暗に示している。

彼らがカラヴィニエリと呼ばれる治安維持組織であることは間違いないだろう。
最初に違和感を口にしたのはデレシアだった。

ζ(゚、゚*ζ「何かあったみたいね」

ノパ⊿゚)「あぁ、探し物してるっぽいな」

(∪´ω`)「薬があった、って言ってますお」

優れた聴力により、聞き耳を立てるまでもなく、ブーンがヒートの疑問に答えた。
彼の耳があれば、例え百メートル先の囁き声でさえ聞き分けることが出来るだろう。

ζ(゚、゚*ζ「あら、薬物の取引の捕り物にしては随分と大げさね。
      それに、船頭ばかりがあれだけまとめて、なんてねぇ」

ノパ⊿゚)「あたしが前に来た時は別に薬なんて流行ってなかったと思ったんだが、今は違うのかもな」

どんな街でも中毒性の高い薬については強い規制をかけ、蔓延しないようにするものだ。
薬物が蔓延るということは街の統治が不完全であると同時に、市長の無能さを象徴することになる。
街の治安を維持できない人間の統治する場所に観光客が寄り付くことなど有り得ないため、ヴィンスはその辺りについては特に慎重な姿勢のはずだ。
何かが起き、その姿勢が崩れ始めたのだろう。

ζ(゚ー゚*ζ「まぁ、何かに巻き込まれないようにだけ気をつけましょうか」

昨日聞いた内藤財団の話が関係していると考えるべきだろう。
内藤財団とティンバーランドが繋がっている以上は、どこかでその幹部とぶつかる可能性がある。
用心しておくべきことに変わりはないが、関わり合いになる必要は特に感じられない。

(∪´ω`)「おっ!」

三人は食材などの買い出しに市場に向かうことにしたが、街の主な移動手段である船は全てどこかへと消え去っていた。
そして、この異変は次第に街を蝕み始めるのであった。

761名無しさん:2021/04/12(月) 19:04:03 ID:5c9ODPy20
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                         f-t/    同
                       / ̄/k   F三',
                      _f 三 i     f三三
                    /   /k       f ̄ ̄ ',
                    F三三i       fニニニニi
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同日 同時刻

十台のトラックが海岸線を連なって走り、次の目的地であるヴィンスに向かっていた。
予定よりも輸送が遅れているため、彼らが出発した最後の街であるタルキールから、一度も他の街には寄っていなかった。
最低限の仮眠と休憩を挟み、彼らはイルトリアに向かう最後の休憩地としてヴィンスを選んだ。
助手席で白湯を飲むトラギコ・マウンテンライトは、これからのことについて思考を巡らせていた。

彼は直感的にデレシア達がイルトリアに向かっていると考え、行動をしているが、その途中でいくつも気になる事件が彼を出迎えていた。
その中でも彼の中で引っかかっているのは、タルキールを出発する前夜、ジュスティアに連絡をした際に報告された街で広がる薬物の話だった。
街に入るための三つの検問を全て突破し、街中に薬を広めるのは容易ではない。
検閲官を買収できないよう、常にランダムで担当者と担当場所の入れ替わりが行われる。

それでも、街の中に入ることが出来るとしたら、スリーピースを介さない手段を使うしかない。
街の検問を何かしらの手段で突破することが可能なのは、ワタナベ・ビルケンシュトックが証明している。
トラギコの中にその答えにつながる物はあった。
軍港を使えば、スリーピースを介さずに街に入り込むことが出来る。

762名無しさん:2021/04/12(月) 19:05:12 ID:5c9ODPy20
現に軍関係者を装ったテロリスト集団がオアシズに乗り込んできた際も、軍が関係していた。
ティンカーベルにおいてトラギコを狙撃した男も軍人だったことを考えれば、ジュスティアの病巣は軍内部にあるはずだ。
それを告げるべきか考えたが、彼が連絡を取った人間はその点について勘付いている様子だった。
トラギコもその人物の優秀さについては理解しているため、余計なことは言わないことにした。

だが今、トラギコの中で一つの疑問が生まれていた。
もしもトラギコがジュスティアを混乱に陥れたいのならば、街の中に持ち込むべきは汚い爆弾だ。
一度でも爆発させればそれだけでジュスティアの評価も平穏も地に落とすことが出来る。
ニクラメンで虐殺行為を行ったワタナベであれば、喜んでその役割を果たすだろう。

それはしないのか、あるいは出来ないのか。
相手にしている組織の目的とこれまでの行動を結び付けようとしても、トラギコの持っている少ない情報ではそれは難しい話だった。

(=゚д゚)「ふーむ」

( ゙゚_ゞ゚)「いい加減答えは出たのか?」

隣で数日前の新聞を読む返すオサム・ブッテロが、雑誌から目をそらすことなくそう言った。
だがトラギコはその言葉に対して返答せず、白湯を飲んで黙り込んだ。
車内に流れるラジオのDJは、朝のニュースを読み終え、リスナーからのリクエスト曲を流し始めた。

( ゙゚_ゞ゚)「ったく、無視しやがって。
     タルキールで手を貸してやったのに、そろそろ礼の一つや二つ、言っても損はないと思うんだがな」

オサムの言う通り、彼の協力があったからこそ、トラギコはタルキールで密かに輸出されていた汚い爆弾の行き先を知ることが出来たのだ。
輸出先としては多くが西側の街で、意外なことにジュスティアはその対象になっていなかった。
直接的な持ち込みが不可能だと判断しての選択か、あるいは、別の経路を使って持ち込んでいるかのどちらかだと考えた。
逆に考えれば、これからトラギコが向かうイルトリアの方面には汚い爆弾の原料が大量に輸出された後であり、危険な場所と化しているのだ。

コップの中の白湯を一気に飲み干し、トラギコは溜息交じりに言った。

(=゚д゚)「あぁ、感謝してるラギ。
    でもその分飯奢ってやっただろ」

( ゙゚_ゞ゚)「まぁな」

(=゚д゚)「それに、答えは出ないラギよ。
    俺は連中じゃねぇからな。
    結局想像と推測の域を出ないラギ」

( ゙゚_ゞ゚)「なら悩むだけ無駄だろ。
     ヴィンスで何を食うか考えようぜ」

(=゚д゚)「悩んだだけ可能性が浮かぶラギ。
    何も考えなきゃ、何も生まれねぇラギ」

それを聞いたオサムは呆れたように鼻で笑いながらも、ニヒルな笑いを浮かべた。

( ゙゚_ゞ゚)「職業病だな」

763名無しさん:2021/04/12(月) 19:05:34 ID:5c9ODPy20
(=゚д゚)「否定はしないラギ」

疑うことを忘れた刑事は既に死んだも同然の存在であるというのは、彼の所属するモスカウでは常識だった。
難事件を解決し続けるためには目に見えるもの全てを疑い、見えないものを疑い、可能性を模索し続ける必要がある。
世界規模での企てを計画している組織が相手であれば、あらゆる可能性を模索しても足りないぐらいだ。
話を聞いていた運転手のポットラック・ポイフルが、苦笑しながら言った。

从´_ゝ从「あんたらといると、ほんと飽きねぇな」

( ゙゚_ゞ゚)「だろ?」

トラギコとオサムの素性について、ポットラックが詮索することはなく、二人はそれを打ち明けることもなかった。
互いに薄々勘付いていることがありはするが、それを確かめようとはしない。
旅の途中で会った人間に詮索をしない相手というのは極めて貴重な存在だ。

(=゚д゚)「ったく、お前は調子に乗りすぎラギ。
    さっきから新聞眺めてるけど、何か面白い記事でもあったラギ?」

( ゙゚_ゞ゚)「面白い、の基準は分からんが、気になるのならあったな」

(=゚д゚)「どんな記事ラギ?」

( ゙゚_ゞ゚)「ラヴニカの記事だ。
     ギルドの大規模な立て直しに内藤財団が入るんだとよ。
     善意で、おまけに無償でだってさ」

二人がラヴニカにいた際に起きた大規模な事件の影響は、遠く離れた小さな町にも表れるほどだった。
ラヴニカで作られた精巧な道具の製造と輸出が遅れることで、その町の産業に影響が出るのだ。
“良い品はラヴニカから”、の言葉示す通り、その道具の精度の高さは世界共通で知られるもので、依存している街も決して少なくはない。

(=゚д゚)「只より高い物はないラギ。
    したたかな連中ラギね」

トラギコの考える限り、ティンバーランドの背後にあるのは内藤財団で間違いがない。
ラヴニカで起きた事件も彼らが関わっていると考えれば、様々な辻妻が合ってしまう。
だが果たして、その真相はトラギコには分かりかねることだ。

从´_ゝ从「ありゃあ、俺たちの間でもすげぇ騒ぎになったもんだ。
     何せ生き残ったギルドマスターが一人だろ?
     街の機能がマヒしたら大変だからな、仕方ないさ」

ギルドそのものは失われないが、指導者を失ったギルドはしばらくの間従来の機能を失うことになる。
街の治安を維持するギルドマスターでさえ失われ、治安の悪化が懸念されるのは当然の話である。

(=゚д゚)「街が死ぬぐらいなら、って感じラギね」

从´_ゝ从「全く怖い話だ。
     そうだ、ラジオのチャンネルを変えてもいいか?
     そろそろ俺の好きな番組が始まるんだ」

764名無しさん:2021/04/12(月) 19:06:46 ID:5c9ODPy20
( ゙゚_ゞ゚)「あぁ、好きにしてくれ」

ポットラックは片手をチューナーに伸ばし、ある位置で止めた。

『FMラジオ、極道893のお時間ですぅ』

トラギコは一瞬、信じられないものを見るような目でラジオを凝視し、喉の奥まで込み上げてきた声を押し殺した。
その声は間違いなく、キュート・ウルヴァリンの物だった。
声真似を得意とし、彼の相棒だったライダル・ヅーの代わりとしてジュスティア警察に引き入れられた有名人だ。
本能的にトラギコは彼女のことが気に入らなかったが、その感覚は今もまだ続いている。

一度ジュスティア警察に引き入れられたということは、それ以降も守秘義務が課せられるため、ジュスティアでの生活が強いられる。
つまり、トラギコが嫌悪する女は今この配信をジュスティアから行っているということだ。
本能的に彼女のことを嫌うトラギコにとっては、自分の故郷が土足で荒らされている気分だった。

从´_ゝ从「俺はこのパーソナリティの声が嫌いだが、語りは好きなんだ」

(=゚д゚)「……そうラギか」

声真似の技術は正直なところ、かなりの水準にあるのは間違いない。
捜査で役立つことを見越して採用された人間だが、言い換えれば、声を偽造するという極めて悪質な力を持つ人間を招き入れてしまったのだ。
警察の上層部の人間の声を真似することが出来るようになれば、何でもできるようになる。

『さて今日はぁ、リスナーからもらったお便りを中心にしていこうと思いますぅ。
いっつもニュースばかりじゃぁ、つまらないですものねぇ。
まずはぁ、フートクラフトのぉ、ラジオネームスポッチャさんからのリクエストでぇ……』

そしてラジオから軽快な音楽が流れ始め、それに合わせてパーソナリティが届けられた便りが読まれていく。

『ラジオネームアングリーベティさんからのお便りぃ。
先日恋人とぉ、分かれてしまいましたぁ。
どうやったら彼を忘れられますかぁ?
ですってぇ。

うーんっとねぇ、あたしのお勧めはぁ、記憶を失うまでお酒を呑むことかなぁ』

(=゚д゚)「人間性が如実に表れる解答ラギね」

ふいに、トラギコの脳裏にある可能性が飛来した。
ジュスティア警察の裏切り者の中にいたベルベット・オールスターが手引きをすれば、軍港を経由しなくても済む。
逆に、軍港への手引きはトラギコを狙撃したカラマロス・ロングディスタンスが手引きをすればいい。
つまりジュスティアに薬物を始めとした危険なものを持ち込むための道は二つ用意されていた可能性があるため、ベルベットが推薦したキュートは極めて限りなく黒い存在だ。

しかしそのことに気づいていない上層部ではないはずだが、こうしてラジオが流れているということは、あえて泳がせている可能性が考えられる。
その目的がトラギコの考える物であれば、彼が知らせた情報に対して何らかの動きがあるはずだ。
街の要であり、ジュスティアの象徴である円卓十二騎士を動かしているだけの覚悟がどこまでものか、それが問題だ。
ここでいくら懸念したところで街のことは街にいる人間だけが管理できる問題だということは、無論、彼は理解している。

自らの目的地を告げたことを、上層部は確実に不審に思うはずだった。
その目的を疑い、トラギコの真意を考え、行動すると彼は信じていた。

765名無しさん:2021/04/12(月) 19:07:36 ID:5c9ODPy20
从´_ゝ从「おっ、見ろよ。
      あの小さな白い山みたいなのがヴィンスだ」

(=゚д゚)「あれがヴィンスラギか……」

モスカウに所属してから、その名前が彼の耳に悪い意味で届いたのは数年前のことだ。
殺し屋“レオン”。
その捜査はモスカウが秘密裏に着手し、終ぞ犯人を特定することが叶わなかった相手。
ヴィンスがジュスティア警察との契約外であるということが災いし、結局、その正体は分からずじまいとなった。

トラギコの知る限りレオンが暗躍したのはヴィンスが始まりであり、終わりでもある。
“ヴィンスの厄災”以降、レオンによる犯行はヴィンス以外では確認されていない。

( ゙゚_ゞ゚)「なぁ、海鮮丼ってあるのか?」

从´_ゝ从「多分あるだろうな」

(=゚д゚)「お前、完全に観光気分ラギね……」

( ゙゚_ゞ゚)「街から街に行くときの一番の楽しみは、やっぱり飯だろ?」

あまりにも正論過ぎる言葉を聞いてオサム以外の二人は一瞬沈黙し、それから苦笑と共に大いに賛同した。

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同日 AM09:44

766名無しさん:2021/04/12(月) 19:08:38 ID:5c9ODPy20
ヴィンスの街で広がり始めた不穏な空気は、次第に隠し切れなくなり、道行く人々が口にするようになった。
船頭たちがカラヴィニエリに捕らえられ、街に流れる川は賑やかさを失った。
しかしそれを気にしない人間にとっては移動手段が減った程度の問題であり、大した問題ではなかった。
普段は小船を使って移動していた人間達は仕方なく陸を歩き、それぞれの目的を果たしている。

船で商売をしている人間達にとっては大損害となる一日なのは間違いないが、転じて、陸上にある店にとっては思わぬ書き入れ時となったのであった。

ζ(゚ー゚*ζ「他に買いたいものとかある?」

両手に食材の詰まった紙袋を持ったデレシアは、同じく両手に紙袋を持つブーンとヒートに声をかけた。

ノパー゚)「ひとまずは大丈夫だな。
     アジの開きがあったのは嬉しかったな」

(∪*´ω`)「おっ」

三人が買ったのは主に食料品で、ヴィンスからイルトリアまでの間で食べきることを考えた量を購入した。
日持ちのする食料もそうだが、彼女たちが市場で気になった食料も紙袋の中に入っている。
クジラ肉の加工品など、海沿いの大きな街だからこそ店頭に並ぶ食材の種類は豊富な物だった。
これまでに何度か通った街にも海産物の加工品はあったが、ヴィンスの加工品はそれらとは一線を画すものがあった。

目と耳の肥えた観光客を相手にする以上は、他の街との差別化を図らなければならない。
そのため、この街で食料品を取り扱う人間達はかなり熱心に研究と開発を進めている様だった。
昨日食べたものがそうであったように、食に関して一切の追随を許さないホールバイトから得た知識と技術をふんだんに取り入れた物ばかりだった。
独自性を保つことでホールバイトとの差別化も図り、観光以外の街の売りの一つにしようと努力しているのがよく分かる。

ζ(゚ー゚*ζ「それじゃあホテルに帰って、出発の準備をしましょうか」

街に異変が起きているのであれば、それに巻き込まれない内に街を出るのが得策だというのは三人の共通認識だった。
トラブルに進んで手を貸すだけの義理も理由もない三人にとって、今考えるべきは昼食の内容ぐらいだった。
サンドイッチを買って途中で食べるか、それとも街で食べてから出るか、それが問題だった。

(∪´ω`)「はいですお!
      ……お?」

ブーンが何かに気づき、周囲を見回した。
鼻を鳴らし、その視線がある方向で止まる。

(∪´ω`)「トラギコさんの匂いがしますお」

ジュスティア警察の中でもデレシア達に並々ならぬ興味と執念を示しているのが、トラギコ・マウンテンライトだ。
ラヴニカでは顔を合わせたつもりはなかったが、執念でここまで追ってきたのだろう。

ノハ;゚⊿゚)「マジか、あの刑事ジュスティアからここまで来たのか……
     執念深いというか、何というか」

ζ(゚ー゚*ζ「ガッツも凄いけど、推理力が素敵ね。
      ジュスティアからラヴニカ、そこからまっすぐこっちを目指してきたのなら、えぇ、本当に凄い推理力と執念ね」

767名無しさん:2021/04/12(月) 19:09:40 ID:5c9ODPy20
その行動力と執念は、彼の上司だったジョルジュ・マグナーニよりも上だろう。
両者と対峙したことのあるデレシアの評価は、トラギコの方が若干高く見積もられていた。
かつてのジョルジュもデレシアを追い、様々な場所で対峙したことはあったが、今ではティンバーランドに堕ちてしまった。
それがトラギコとジョルジュの大きな違いだった。

願わくば、トラギコがこのままトラギコであり続けることが、デレシアにとっては面白いのだが。

(∪´ω`)「おー、後、スノー・ピアサーにいた人の匂いもしますお」

ラヴニカで起きた騒ぎでオサムの記憶が戻り、トラギコと手を組む可能性については考えていなかったわけではない。
トラギコほどの人間ともなれば、例え犯罪者だとしても利用するのに躊躇はしないはずだ。
何より、円卓十二騎士の一員であるワカッテマス・ロンウルフ程の人間が共に行動していたのだから、意図的に放流された犯罪者であるのは言うまでもない。
両者ともにデレシアに対して並々ならぬ関心を寄せているだけあり、優秀な猟犬としての活躍を期待したのだろう。

ジュスティア側の目論見通り、デレシアにとっては歓迎することのできない相手だった。

ζ(゚、゚*ζ「あら、それは嫌ね。
      私、一度ビルから蹴り落とした人間とは関わりたくないのよね」

トラギコが犯罪者と手を組むということに意外性を感じたが、ログーランビルでの生き証人としてオサムに価値を見出し、監視も兼ねているのかもしれない。
柔軟性のある相手程、デレシアにとっては相手のし甲斐があるというものだ。

ノパ⊿゚)「見つかる前にさっさとホテルに行くか?」

ヒートの提案は理にかなっているが、それでは面白くない。
そう。
面白くないのだ。
こちらが旅を楽しむという工程を削られ、逃げるという選択肢は今のデレシア達にとっては不要であり、望ましくない。

ζ(゚ー゚*ζ「そうね、ただ、逃げるような相手でもないから普通に行きましょう」

768名無しさん:2021/04/12(月) 19:10:58 ID:5c9ODPy20
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同日 同時刻

オサム・ブッテロとトラギコ・マウンテンライトは困惑し、そして苦戦を強いられていた。
街について荷の積み下ろしを手伝い、ポットラック・ポイフル達が長い休憩をする間に二人は束の間の観光を楽しむことにした。
彼らはまず、オサムの強い希望によって海鮮丼を食べることに決め、街で一番と名高い店に足を踏み入れた。
それが運の尽きだった。

769名無しさん:2021/04/12(月) 19:11:41 ID:5c9ODPy20
彼らが店に入ったのはつい20分前。
彼らの前に運ばれてきた“大盛海鮮丼”が現れたのはつい15分前。
そして、彼らの目の前にある海鮮丼は依然として圧倒的な量が残されていた。

(;゙゚_ゞ゚)「……」

(;=゚д゚)「……」

疑念がなかったと言えば嘘になる。
トラギコはメニューを見て、その量の刻み方に疑問を抱いた。
最大の量とされるものが大盛で、最小の量が子供向け、とされていたのだ。
段階は細かく7段階に刻まれていたが、その量については一切の記述がなかった。

オサムはメニューに海鮮丼の文字を見るなり、即座に大盛を注文した。
それにつられ、トラギコも同じものを注文し、果たして地獄が二人の前に周囲の客の歓声と共に運ばれてきたのだった。
器を除いた量は最新の単位に合わせて言えば、1.5キロ以上。
白米の量と魚介類の量は拮抗しており、二人は苦戦を強いられることになった。

覚悟があればまだ展開は違ったかもしれないが、二人は全く準備が出来ていなかった。
不運としか言えない要素は2つあった。
一つは覚悟の点。
もう一つは、彼らが空腹だったことだ。

胃の拡張には時間がかかるため、空腹の状態は大食いにおいては禁忌ともいえる愚考なのだ。
大食いの世界において空腹は避けるべき常識であることを二人は知らず、その時の食欲に身を任せて大盛を頼んだことが致命的な決断となった。
当然、そんなことを知らない二人は大食いの常識に反した状況で大食い勝負に参加したため、状況は極めて不利である。
だが幸いなことが二つだけあった。

一つ目は、二人とも、食べ始めてから一度も水に手を付けていないのである。
ほぼあらゆる大食いにおいて、水は禁忌だ。
胃の中で食べ物を膨らませる水分は悪手であり、少しでも多く胃袋に収める以上は、避けなければならない物なのだ。
そして二つ目は、丼の比重は米よりも上に乗った海産物の方が多いのだ。

(;=゚д゚)「お前、これ知ってたラギか?」

(;゙゚_ゞ゚)「知ってたらこんなことになるか、普通」

大盛の料理にありがちな粗雑な味ではなく、海鮮丼に使用されている食材はどれも新鮮、かつ美味な物ばかりだった。
上からかけたわさび醤油が味を際立たせ、食欲を増進させていることは間違いない。
それでも、二人の食べるペースは刻一刻と落ちていき、今では一口分をスプーンで口に運ぶだけでも精いっぱいなのだ。

(;=゚д゚)「あぁ、ったく……」

少しずつ、巨大な山を踏破するように二人は一口ずつ量を減らしていく。
食事に苦しさが伴うと、それは痛みよりも辛い苦痛になる。
近い感覚で例えるなら、陸上競技における長距離走の苦痛だ。
己の肉体が追い付けないという悔しさと純粋な苦しさは、食の喜びに対しての背信行為であり、己の倫理観を傷つける行為が生み出したものでもある。

从 ゚∀从「へぇ、お兄さんたち凄いの食べてるねぇ」

770名無しさん:2021/04/12(月) 19:13:27 ID:5c9ODPy20
その声は二人の向かい側の席からかけられた。
それまで定食を食べていた銀髪と真紅の瞳を持つ女が、二人を奇異の目で見ている。
口元の笑みは苦しむ人間に対して向けられる物にしては、かなりの邪悪さを含んでいる。
嗜虐的な趣味のある人間の笑みに、トラギコは眉をしかめた。

(;=゚д゚)「……」

人が苦しんでいる姿を喜んで見学する人間にまともな人間はいない。
そしてトラギコは目の前の女の素性も名前も知らないが、顔と手に負った数多の傷を見て、間違いなく堅気の人間ではないことを看破した。
それはオサムも同じだったようで、女の言葉に対して二人は何も反応を示すことはなかった。
無言のまま、そして、淡々と食事を継続していく。

その間に向けられる視線の心地悪さに比べれば、胃袋の限界を突破する挑戦の方が心地よさすら覚えるものがあった。
ベルトを緩め、気合を入れるために鼻から深く息を吐きだす。

(=゚д゚)「……っふー」

淡々と、黙々と食事が継続される。
大食いにおける重要な要素の一つは、例え少量でも食べ続けることにある。
そして水は最小、かつ食べる際は空気を含まないように配慮する。
奇しくも追い込まれたことによって、トラギコとオサムはその状態にならざるを得ず、着実に丼の中が減っていった。

最後の一口を食べ、そして、ようやく二人はコップから水を飲んだ。

(;=゚д゚)「くった……あぁ、くったラギ……」

(;゙゚_ゞ゚)「晩飯はいらねぇな、こりゃ……」

完食に伴う報酬は一切ないが、二人の旅行客が見せた大食いへの姿勢は店の中で奇妙に伝播し、普段に比べて皆が一品多く頼む客が増えたという事実は得られた。
当然、そのような事実を二人が知る由もないのだが、達成感と満腹感は十二分に得られたのであった。

从 ゚∀从「凄いじゃん、お兄さんたち。
      コーヒー奢るよ」

(;=゚д゚)「いや、いらねぇラギ。
     今はもう何も胃袋に送りたくねぇ」

(;゙゚_ゞ゚)「俺もだ。 悪いな、ねーちゃん」

从 ゚∀从「ははっ、ちょっと残念。
      いい物見れたよ」

女が店を出ていき、二人は溜息を吐いた。
トラギコは小さくつぶやいた。

(;=゚д゚)「良かったのかよ、コーヒー。
     お前なら喜んで奢られると思ったラギ」

(;゙゚_ゞ゚)「俺な、ああいう女嫌いなんだよ」

771名無しさん:2021/04/12(月) 19:14:24 ID:5c9ODPy20
(;=゚д゚)「奇遇だな、俺もラギ」

それから十分ほど休憩を挟み、二人はようやく重い体を起こして、店の外に出て行った。
腹ごなしをするために二人は運河沿いの道を歩き始め、ほぼ同時に異変に気が付いた。

(=゚д゚)「ヴィンスに小船がないって、かなり妙ラギね」

( ゙゚_ゞ゚)「確かにそうだな。 座礁した船でも牽引しようとしてるのかもな」

オサムの冗談を鼻で笑い、曲がり角に差し掛かった時、その先から男同士が言い争う声が聞こえてきた。
人通りがまだ多い中で交わされる声は喧嘩の類ではなく、警察と容疑者が交わすそれに酷似している。
互いに顔を見合わせ、二人は角を曲がった。
そこには小船を前に、船頭らしき男とカラヴィニエリの青い制服を着た三人の男がいる。

カラヴィニエリの男たちは皆一様に黒いサングラスを掛け、視線の向きが分からないようになっていた。
船頭らしき男の両手は後ろで拘束され、カラヴィニエリの男が取り押さえている。
残った二人のカラヴィニエリは文字通り頭上から言葉を浴びせかけ、船頭がそれに反論している様だった。

(-゚ぺ-)「俺じゃねぇって言ってんだろうが!!
     他の連中もそうだ、誰もそんなもの売りさばいちゃいねぇよ!!」

(●ム●)「だったら、この船にあったこれはどう説明するんだって訊いてるだろ!!」

手袋をはめたカラヴィニエリの手には、折りたたまれた茶色い紙があった。
それは薬物の取引をする際に使われることの多い包み紙で、匂いや変化を抑える効果がある物だ。
トラギコもその紙を使った取引現場に居合わせたことが何度もあるため、それが本物であることは一目見れば分かる。
包まれている物の内容までは分からないが、間違いなく、禁止されている薬物の類なのだろう。

(-゚ぺ-)「俺が訊きてぇよ!!」

集まりだした野次馬の目もあって、カラヴィニエリはうかつに手出しが出来ないようだった。
力づくで男を連行する姿が観光客に見られでもすれば、彼らの評判が落ちることになる。
観光地では避けたい事象であるため、こういった事件が起きた場合は早急に連行するのが常だ。
恐らく男が抵抗し、連行に手間取っている間に野次馬が集まってしまったのだろう。

ここで関わり合いになることは避けたかったが、明らかな冤罪であれば、見逃せないのがトラギコの性格だった。

(=゚д゚)「おう、ちょっといいラギか?」

(●ム●)「すみません、部外者は――」

トラギコは一歩踏み込み、制止しようとした男の傍で囁いた。

(=゚д゚)「その薬、本当にそいつのラギか?
    根拠を示さないと、そいつは納得しないラギよ」

(●ム●)「これは我々カラヴィニエリの管轄です、口出しをしないでください」

772名無しさん:2021/04/12(月) 19:15:50 ID:5c9ODPy20
(=゚д゚)「まぁ普通そう言うラギね。
    信じる信じないは別として、俺はジュスティアの同業者ラギ。
    薬をどこで見つけたのか、それを教えてほしいラギ」

(●ム●)「ったく、何なんだあんたは」

(=゚д゚)「街中から船頭がいなくなってるのと関係があると思ってな。
    せっかく観光に来たのに、小船に乗れないんじゃヴィンスに来た意味が大分減っちまうラギ。
    当ててやろうか?
    船頭がつるんで薬の取引をしてたってタレコミがあって、調べたら大量に見つかった、ってところだろ。

    タレコミがあった以上は動かざるを得ないし、一人でも見つかれば信頼度が高くなる。
    で、芋づる式にどんどん見つかって大慌てで船頭を一人残らず調べようってことになった感じラギね。
    情報主は秘密ってところラギかね」

(●ム●)「……あんた、どこまで知ってるんだ?」

(=゚д゚)「言っただろ、同業者だって。
    ただ、この手のことは何度か経験があるラギ。
    その時に共通してたのは、全部仕組まれたことだった、って事ラギ。
    あんたらも話が上手くいきすぎてるって思ってるだろ?

    ここで止めておかないと、後が大変ラギよ。
    話しても損はないラギよ」

そう言ってトラギコは男の肩を軽く叩き、退いた。
数秒の間があったが、男は観念した風に溜息を吐いて、船を顎でしゃくった。

(●ム●)「……船首にある小物入れだ。
     この街の船は伝統的に、そこに魔よけの小銭を入れる習慣があるんだが、そこに取引用の薬が隠されてるってタレコミがあったんだ」

男の声はトラギコたちにしか聞こえないほど、絶妙に絞られた物だった。
海風が声を遠くに運ぶ去るため、野次馬達には何も届かない。
別のカラヴィニエリが何かを言おうとするのを、男は手で制止する。

(●ム●)「街中の船頭が結託してるんじゃないかって量だ」

(=゚д゚)「なるほどな。
    何かあったんだろ、そんなタレコミを信じて捜査をするだけの何かが」

(●ム●)「今朝、いや、正確には昨夜だ。
     薬物の多量摂取で死んだ男が見つかった。
     そいつが船頭で、正直最近の素行がよくなかったんだ。
     この街で薬物が広まるってことはありえないはずなんだが、実際に死体がでちまった。

     そこに加えて、その男が薬を売っているってタレコミがあって、俺たちがそいつの家を調べたら案の定大量の薬が見つかった。
     結果、市長が直々に陣頭指揮を執って街中の船頭を調べることになったのさ」

(=゚д゚)「話が上手すぎるラギね」

773名無しさん:2021/04/12(月) 19:16:36 ID:5c9ODPy20
(●ム●)「カラヴィニエリだって馬鹿じゃない。
      当然この流れが不自然なことは分かってる。
      だが、カラヴィニエリの最高責任者は市長だ。
      市長の指示には逆らえない」

(=゚д゚)「この調子じゃ、捜査はまるで進まないラギね。
    船頭が悪者で終わりラギ」

(●ム●)「あぁ、全くだ」

(=゚д゚)「ちょっと、その船首を見せてほしいラギ」

(●ム●)「……荒らすなよ」

(=゚д゚)「分かってるラギ」

男に案内され、係留されている小船に乗り込み、船首の小物入れを見た。
そこには数ドル分の小銭が入っており、硬貨には風化の跡がありありと見て取れる。

(=゚д゚)「見つかった薬の種類は?」

(●ム●)「少なくとも、これまで見たことがない種類だ。
      死体の腕に注射跡があったから、道具を使うタイプの薬なのは間違いない」

(=゚д゚)「……だったら、こりゃ不自然ラギね」

(●ム●)「やっぱりそう思うか」

(=゚д゚)「普通、注射器もセットで売るはずラギ。
    それに、売るなら液体ラギ。
    見つかった薬は粉状だったラギか?」

(●ム●)「あぁ、そうだ」

(=゚д゚)「つじつまが合わねぇのに逮捕する必要があるラギか?」

(●ム●)「言っただろ、市長からの命令なんだ。
     疑わしきを捕らえ、ってな」

(=゚д゚)「反発でどうなるか、市長は考えてないラギか?」

(●ム●)「これ以上は俺の口からは何も言えねぇよ。
      俺にも職務ってのがあるんだ」

(=゚д゚)「ここまで喋ってもらったんだ、仕方ないラギ」

(●ム●)「良ければあんたの名前を訊いても?」

少し考える素振りを見せ、それからトラギコは意地悪そうな笑みを浮かべた。

774名無しさん:2021/04/12(月) 19:17:11 ID:5c9ODPy20
(=゚д゚)「そいつは無理ラギね。
    俺にも職務ってものがあるラギ」

それを聞いたカラヴィニエリの男は苦笑し、トラギコの肩を軽く叩いた。

(●ム●)「ははっ、何か分かったらカラヴィニエリの本部に来てくれ」

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同日 AM11:12

不安定となっていたヴィンスの治安を一変させる出来事が起きたのは、人で賑わいを見せる市場からだった。
普段ならば船に積んで売られている野菜や魚が全て地上の市場に流れ込み、それを買い求める人間が列を成し、通常よりも大勢の人間が集まっていた。
街の中心を流れる運河沿いに並ぶ市場の賑わいに釣られ、街中に散っていた観光客たちが街の中心に集まり始める。
その流れを察知した船上で総菜や食事を提供していた人間達が運河に集結し、地上にいる観光客たちへのサービスの提供を始めた。

昼食時ということもあり、その賑わいはまるで祭り時のように活気づき、その中を歩く人間達は気分が高揚するのを抑えられなかった。
人手と賑わい、そして飛び交う歌声が在りし日のヴィンスを彷彿とさせる。

775名無しさん:2021/04/12(月) 19:17:38 ID:5c9ODPy20
ζ(゚ー゚*ζ

ある旅人の一行が賑わう市場を歩んでいる時。

ξ゚⊿゚)ξ

ある企業の副社長とその部下が市場を歩んでいる時。

ζ(゚ー゚*ζ

     ξ゚⊿゚)ξ

両者がすれ違った、その時。
憎悪に見開かれた眼差しが旅人に向けられ、副社長の背後を影のように歩いていた血色の瞳を持つ女が動いた。
女は組織内で共有されていた敵対者の写真を記憶しており、その中でも最上位の存在が眼前にいることを瞬時に認識したのである。
ハインリッヒ・ヒムラー・フォートマイヤーという女は、ティンバーランドの中では新参の存在だが、人殺しのセンスについては天性のものがあった。

从 ゚∀从

よく訓練された猟犬がそうであるように、ハインリッヒの動きは洗練され、静かだった。
暗殺者として、あるいは敵対する人間を排除する機械としては極めて優秀な動きだった。
しかし、それを目視した後でより疾く動いた女がいるということまでは、ハインリッヒの頭の中にはなかった。

ノパ⊿゚)「今ここでやるか?」

ヒート・オロラ・レッドウィングは懐のベレッタM93Rの銃把を握り、その銃身下に取り付けられた銃剣をハインリッヒの額に突き付けた。
切っ先は既に薄肌を切り裂き、鮮血が汗のように滲み出ている。

从;゚∀从「……」

ξ゚⊿゚)ξ「ハインリッヒ、今は動かないで。
      ……貴女がデレシアですか」

振り返ることなく、女が雑踏の中でそう口にする。
デレシアもまた、振り返らずに返答する。

ζ(゚ー゚*ζ「西川・ツンディエレ・ホライゾンね。
       ニクラメンではお世話になったお礼を、いつかしようと思っていたの」

ξ゚⊿゚)ξ「あら、お礼なんてしなくていいのに。
      それよりもこっちは、色々な場所でのお礼をしたくってね」

ζ(゚ー゚*ζ「ふふっ、いらないわよ。
      足元の雑草を踏み潰しただけよ。
      それよりも私達の周りにいる警護の人間に銃から手を放すように言いなさい」

ノパ⊿゚)「……」

从;゚∀从「っ……」

776名無しさん:2021/04/12(月) 19:18:53 ID:5c9ODPy20
行き交う人の波の中、彼女たちと三人の男だけが、その中で立ち止まっていた。
まるで水面に突き出た岩のように、あまりにも不自然な光景に周囲の人間がすれ違いざまに目を向ける。
そして必然、ヒートが持つそれに気づく人間が現れた。

「きゃあああああ!!
銃よ! その女、銃を持ってるわ!!」

どこからか聞こえた悲鳴とその言葉によって、蜘蛛の子を散らしたように一気に人々が逃げ惑う。
残されたのは先ほどから変わらず立ち止まった人間達だけ。
デレシア一行を睨みつける男の数は三人。
懐に手を伸ばしかけた状態のままで停止し、周りの状況に流されることなく固唾を飲んでデレシア達の動きを見守っている。

(∪´ω`)「お……」

手に持ったピザの最後の一片を咀嚼し、嚥下したのはデレシアとヒートに挟まれるブーンだった。
彼はこの状況に陥ったことに対して焦りや恐怖を感じてはいなかった。
それは慢心や感覚が鈍ったからではなく、経験のある展開だったからだ。
ニクラメンで行われたオープン・ウォーター、ティンカーベルで起きた騒動。

そこで起きた爆破に伴う混乱に比べれば、この程度であれば混乱や無意味な焦りを覚えるものではない。

ζ(゚ー゚*ζ「さぁ、どうする?」

ξ゚⊿゚)ξ「……一度、貴女とは問答をしたかった。
      どうして私達の夢を邪魔するのですか?」

ζ(゚ー゚*ζ「夢? 妄想の間違いでしょ」

ξ゚⊿゚)ξ「つまりそれは、私達の夢を知っているということですね。
      なるほど、聞いていた通りだと思うべきですか。
      貴女は、生きていてはいけない人間です」

その瞬間的な語気の強さに、ブーンは争いの音を聞き、デレシアは空気を、ヒートは匂いを感じ取った。
銃爪を引いてハインリッヒを殺すよりもヒートが選んだのは、ブーンの安全だった。
銃爪を引けば次弾が装填されるまでの間にブーンが撃たれる可能性がある。
そこで選んだのは、ハインリッヒの額を滑らせるようにベレッタを移動させ、銃を構えようとしている男を撃つことだった。

全ては一瞬の間に導き出された答えであり、その選択はデレシアの予想した通りでもあった。
もう一挺のベレッタを抜き、ヒートは一切の躊躇なく、今しがた懐から拳銃を取り出した男の肺を撃ち抜き、フルオート射撃の反動を利用して心臓と喉を撃った。
撃たれた男は仰け反りながら取り出した銃を虚空に向けて発砲し、そのまま倒れ込んだ。
残った二人の男はデレシアが一瞬の内に抜き放った黒塗りのデザートイーグルの餌食となり、頭を失って吹き飛んでいた。

その一瞬の内に、ヒートの眼下にいたハインリッヒとツンディエレはその場から離れ、入れ替わるようにして強化外骨格を身に着けた人間が二人、建物の屋上から飛び降りてきた。

〔欒゚[::|::]゚〕『同志ツンディエレ、今の内に!!』

〔::‥:‥〕『お逃げください!!』

流石に追撃をする余裕のなくなったヒートはブーンを抱きかかえ、その場から退避することを選んだ。

777名無しさん:2021/04/12(月) 19:20:14 ID:5c9ODPy20
ノパ⊿゚)「後は頼んだ!!」

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、任せて」

強化外骨格の持つ優れた防弾性能は、ヒートの持つ拳銃に装弾されている弾種では破ることは出来ない。
一瞬の判断によって、ヒートはブーンを連れてその場から退避する道を選んだ。
その場に残ったデレシアは、対峙した二機の強化外骨格の遣い手をすぐに殺すことはしなかった。

ζ(゚、゚*ζ「……さて、人の旅行の邪魔をした落とし前をつけてもらうわよ」

トゥエンティー・フォーとジョン・ドゥを扱う棺桶持ちの連携した動きは、護衛者として優秀だった。
逃亡するツンディエレへの銃撃を防ぐように、その進路上に両手を広げて仁王立ちになる。
その間に白いジョン・ドゥがデレシアへの攻撃を行う。
近接戦闘を選んだのは、恐らく、ジョン・ドゥを扱う人間が本能的にデレシアの危険性を察知したからだろう。

実際、それは正解といえる選択だった。
例えそれが、死期を僅かに遅らせるだけの選択だったとしても、だ。
デレシアが装填していた銃弾は対強化外骨格用の物ではなく、通常のそれであり、貫通力はジョン・ドゥの装甲を貫くには至らない。

〔欒゚[::|::]゚〕『らぁっ!!』

砲弾並みの威力を持つジョン・ドゥの全力の右ストレート。
生身の人間を一撃で絶命させることが可能なその一撃だが、デレシアは焦ることなくそれを寸前で回避し、ジョン・ドゥのカメラに銃口を向けた。
どれだけ装甲が厚くとも、カメラのレンズを強化したところで限界がある。
間髪入れずに放った二発の銃弾は使用者の眼球から脳に向けて侵入し、容赦のない死を与えた。

〔欒゚[::|::]゚。゚ ・ ゚

ζ(゚、゚*ζ

ジョン・ドゥを踏み台にし、デレシアはトゥエンティー・フォーに向けて一気に跳躍する。
左手のデザートイーグルはホルスターに収められ、代わりに、腰からソウドオフショットガンをその手に構える。
トゥエンティー・フォーはその圧倒的な装甲の厚さを誇り、対強化外骨格用の強装弾であっても、その装甲を貫通することは難しい。
カメラ周りも対弾補強がされているが、デレシアの対峙する棺桶持ちは片手で己の顔を覆った。

賢明な判断だが、デレシアの狙いはカメラ越しの殺害ではなかった。
自ら視野を失った隙に、デレシアは背後に回り込み、首周りの装甲の隙間にショットガンの銃腔を差し込み、銃爪を引いた。
対強化外骨格用のスラッグ弾が装甲の内側で跳弾を繰り返し、その衝撃が使用者の背中を容赦なく襲う。

〔::‥:‥〕『ながっ!?』

トゥエンティー・フォーの装甲は隙間から撃たれて耐えられるよう設計されているが、使用者を補助するためのケーブルや回路類は耐えられない。
精密機器が予期せぬ衝撃を受けたことにより、トゥエンティー・フォーはその場に擱座した。

ζ(゚、゚*ζ「……逃げ切られちゃったか」

銃をホルスターに戻し、デレシアは面倒ごとになる前にその場から立ち去った。
しかし、彼女は一つ勘違いをしていた。

778名無しさん:2021/04/12(月) 19:21:47 ID:5c9ODPy20
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同日 AM11:23

ハインリッヒはツンディエレの手を取って街の南を目指して走っていた。
そこに駐車しているスポーツカーに乗れば、この街から即座に離脱し、ニョルロックまで2日で行くことが出来る。
彼女は今、大いに焦っていた。
額から流れていた血はアドレナリンの影響で止血が完了していたが、大量に流れる汗と血との違いなど、分からなかった。

奇襲を防がれた挙句、ハインリッヒはあの時点で一度殺されていた。
これまで何人も殺し、修羅場を経験してきたと自負していた彼女にとって、ヒートの存在は十分すぎるほどの脅威だった。
デレシアの化け物じみた強さについては警戒していたが、ヒートについてはただの腰巾着程度にしか考えていなかった。
完全に慢心し、侮っていた。

地獄を経験した数を過信した結果がこれだった。

从;゚∀从「はぁっ、はあっ!!」

ξ゚⊿゚)ξ「あれがデレシアですか、報告通りの滅茶苦茶な人間ですね」

焦るハインリッヒとは違い、ツンディエレは冷静に相手の戦闘力を評価、分析していた。
肝が据わっているのか、それとも相手の危険性を本当に理解していないのかは、ハインリッヒには分かりかねた。
だが、一刻も早くこの場から立ち去るべきだというのは間違いない。

从;゚∀从「同志ツンディエレ、万が一の際はあなただけでも逃げてください」

ξ゚⊿゚)ξ「えぇ、そうしたいのはやまやまですが、あなたが勝てないのであれば私が勝てる道理がありません。
      今は前を向いて、この場から去りましょう
      私たちがここで目立つわけにはいきません」

街が混沌に陥る火種は蒔いた。
この銃撃戦がそこに燃料を送り込むか、それとも水を撒く結果になるのかは見届けられないが、いずれ答えが出るだろう。
懐から小型の無線機を取り出し、ツンディエレがその向こうに呼びかける。

779名無しさん:2021/04/12(月) 19:23:50 ID:5c9ODPy20
ξ゚⊿゚)ξ「コードレッドです。
      街の中でデレシア一行と遭遇。
      足止めをお願いします。
      四名は私たちの護衛に来てください。

      現在街の南に向かっています」

内藤財団の副社長たる彼女がティンバーランドの中で担う役割は、そう簡単に代えがきくものではない。
そのため、彼女が遠征する際には最低でも十人以上の護衛と一人以上の幹部が随伴することになっている。
しかし、ヴィンスへの視察は一時的な物であるため、随伴する幹部としてハインリッヒがその役割を担っていた。

ξ゚⊿゚)ξ「同士ハインリッヒ、最優先は私の生存ではなく、“歩み続けること”です。
      この街が持つ重要性を忘れないように」

从;゚∀从「心得ています、同志ツンディエレ」

彼女たちがどれだけの地位に居ようとも、結局のところ、その存在理由は一つだ。
彼らは皆、世界を変えるという夢の為に集った同じ志を持つ人間。
己の命でその夢が叶うのであれば、誰一人としてそれを惜しむ者はいない。
既に世界中で展開している彼らの“歩み”はその夢を実現するためには必要なことだ。

数か所でその“歩み”が失敗しているが、それを織り込み済みで、彼らを束ねる人間は計画していた。
しかし、ヨルロッパ地方が持つ重要性は他のそれとは比較にならない。
彼らの夢を実現するためには、ヴィンスでの歩みは決して失敗することはできないのだ。
ここでハインリッヒ、ツンディエレが死んだとしても、歩みが止まらなければそれでいい。

覚悟と夢が、彼女たちから恐れを緩和させ、無謀ともいえる作戦に命を懸けることが出来るのである。
人の少ない裏通りを選んで駆け、ツンディエレの呼吸が乱れてきたのを契機に、ハインリッヒは走るのを止めた。

从;゚∀从「ひとまずは、ここまで来れば」

ξ゚⊿゚)ξ「ふうっ…… そうですね、後どれぐらいの距離ですか?」

从;゚∀从「後200メートルほどで、私の車があります。
      ニョルロックを目指しましょう」

ξ゚⊿゚)ξ「いい判断です」

「よくねぇラギ」

だが、ツンディエレの言葉を否定する者がいた。
それは背後から、まるで獣が威嚇をするように低い声で発せられた言葉だった。

(=゚д゚)「逃がすと思うラギか?」

ξ゚⊿゚)ξ「……トラギコ・マウンテンライトさんですか」

(=゚д゚)「名前を知ってもらえているようで光栄とでも言えばいいラギか?
    西川・ツンディエレ・ホライゾン。
    オープン・ウォーターで起こした騒ぎは、手前の仕業ラギね?」

780名無しさん:2021/04/12(月) 19:25:18 ID:5c9ODPy20
ξ゚⊿゚)ξ「証拠もなしにジュスティア警察は情報提供者を犯人扱いするのですか?
      非常に迷惑な話ですね」

(=゚д゚)「手前がティンバーランドの人間だっていうのは分かってるラギ。
    下手な芝居をするぐらいなら、舌を噛み切ってくれた方がよっぽど嬉しいラギ」

从 ゚∀从「……」

ハインリッヒが好戦的な目でトラギコを睨みつけるが、その手が懐に入らないよう、彼は油断なく全体を睨み返していた。
ジュスティア警察のはみ出し者。
事件解決のためであれば手段を問わない“虎”の目は、まるで揺るぎがない。
かつての同僚であるジョルジュ・マグナーニとショボン・パドローネが危険視するだけのことはあると、ツンディエレとハインリッヒは同時に思った。

ξ゚⊿゚)ξ「仕事のし過ぎですね、トラギコさん。
      休暇を取られてはいかがですか?」

(=゚д゚)「俺だってそうしたいラギ。
    だが、手前らみたいな糞がのさばってちゃそうもいかないラギよ。
    街中で撃ち合いを始めやがって、大迷惑ラギ」

ξ゚⊿゚)ξ「撃ち合いを始めたのは私達ではありません。
      デレシアですよ。
      あなたが捕まえるべき相手です」

(=゚д゚)「それが事実かどうかどうやって俺は確かめればいいラギ?
    第一、俺の目の前には手前がいる。
    手前がいるなら、俺は捕まえるだけラギ」

ξ゚⊿゚)ξ「ふぅ…… 話には聞いていましたが、かなり頑固そうですね」

(=゚д゚)「俺の美点ラギ。
    手前にとっちゃ致命的だったラギね」

ξ゚⊿゚)ξ「私を捕まえると?
      本気でそう思っているのですか?」

(=゚д゚)「捕まえられないんなら殺すだけラギ。
    夢のためには死ねるんだろ?」

从 ゚∀从「っ……!!」

鼻で笑ってしまうほど見えすいた挑発だったが、ハインリッヒには効果的だった。
若いからこそ夢にのめり込む姿勢が違う。
彼女が組織に参加してからの年月を考えれば、その半生がティンバーランドに捧げられているといっても過言ではない。
所々が欠損したハインリッヒの体は、彼女が夢にかけた覚悟の表れでもある。

ξ゚⊿゚)ξ「あなたもその類の人間なのでしょう?
      事件を解決するためであれば手段を選ばない。
      我々は似た者同士ですね」

781名無しさん:2021/04/12(月) 19:26:26 ID:5c9ODPy20
(=゚д゚)「あぁ、そうかもしれないラギね。
    この街で揉め事、見過ごしてやれるほど俺は怠慢じゃねぇラギ。
    腕の一本は覚悟してもらうラギよ」

ξ゚⊿゚)ξ「同志ハインリッヒ、後は任せました」

从 ゚∀从「かしこまりました」

トラギコに背を向け、ツンディエレは一人で路地の先に向かう。
それを追おうともせず、トラギコは深く息を吐いた。
その手にはいつの間にか拳銃が握りしめられ、当然のようにハインリッヒに向けられている。
対するハインリッヒも彼とほぼ同時に拳銃を構えており、拮抗状態が生まれていた。

(=゚д゚)「気に入らねぇ女だと思ったら、やっぱりだったラギね」

从 ゚∀从「お腹いっぱいな状態で私に勝てるかな、お兄さん?」

双方ともに撃鉄の起きた銃を構えており、違いは狙っている位置が違うだけだ。
ハインリッヒは射殺するために頭部を。
トラギコは捕らえるためか、胴体を狙っている。

(=゚д゚)「あぁ、手前みたいなガキを黙らせるのは得意ラギ。
    お前の雇い主が無事だといいな。
    あいつは俺と違って、容赦しないタイプラギよ」

从;゚∀从「何……?」

咄嗟に視線を背後に向けると、すでにそこにはツンディエレを塞ぐ形で別の男が立っている。
その手には拳銃が握られ、銃腔はツンディエレに向けられていた。

( ゙゚_ゞ゚)「おばさんは趣味じゃないんだが、まぁいい。
     俺の相棒があんたを捕まえろってさ」

ξ゚⊿゚)ξ「無礼な男ですね。 どういう教育を受けてきたのですか」

(=゚д゚)「ほんとラギ、誰が相棒だって?
    とりあえずその女の足でも撃って、袋に詰めてジュスティアに出荷するラギ」

( ゙゚_ゞ゚)「止血とか面倒なんだがな、まぁいい。
     おい、そっちの壊れた女。
     雇い主が鉛弾で体重を増やすのが嫌なら、銃を捨てな」

从 ゚∀从「……これがジュスティア警察のやり方か」

(=゚д゚)「いいんだよ、捕まえさえすれば。
    仕方ねぇ、オサム、そのババアの足撃つラギ」

( ゙゚_ゞ゚)「あのなぁ、もう少し駆け引きを――」

ξ;゚⊿゚)ξ「がっ……!?」

782名無しさん:2021/04/12(月) 19:27:32 ID:5c9ODPy20
銃声が響き、ツンディエレの悲鳴に近い呻き声がハインリッヒの耳に届いた。
ツンディエレは腿を押さえてその場に跪いている。

( ゙゚_ゞ゚)「――あぁ、悪い。
     不愛想な顔してたから、つい撃っちまった」

ξ;゚⊿゚)ξ「ぐっ……!! この……!!」

( ゙゚_ゞ゚)「うるせぇな、弾は抜けたから体重は増えねぇよ」

从 ゚∀从「貴様……!!」

( ゙゚_ゞ゚)「ほら、お前がさっさと銃を捨てないと次は耳にピアス用の穴開けるぞ」

緊張と殺気が一気に高まった、その瞬間。
トラギコとオサムと呼ばれた男がほぼ同時に頭上を一瞥し、発砲しながら後退した。

(;=゚д゚)「ちっ……!!」

(;゙゚_ゞ゚)「くそっ……!!」

ハインリッヒとツンディエレを守る形で現れたのは、二機の白いジョン・ドゥ。
銃弾は硬い装甲に阻まれ、撃たれた弾はあらぬ方向に跳弾している。

〔欒゚[::|::]゚〕『そこまでだ!!』

(=゚д゚)「ちっ、退くラギ!!」

( ゙゚_ゞ゚)「命拾いしたな」

状況が不利になると判断した二人はすぐに路地から逃げ出した。
部下二人はそれぞれ追撃をすべきか判断に迷い、その場に立ち止まった。
ハインリッヒはすぐにツンディエレの傍に駆け寄る。

从;゚∀从「同志ツンディエレ、傷の具合を確認させてください」

ξ;゚⊿゚)ξ「かすり傷程度です。
      それよりも、あの二人を追わせてください。
      連中を野放しにすれば、この街での計画が頓挫します。
      私よりも、あの二人を!!

      歩みを止めさせてはなりません!!」

その一喝に、ハインリッヒは冷静さを取り戻した。

从 ゚∀从「分かりました。
      ですが車まではお連れします。
      あの二人を人通りの多い場所まで誘い込め。
      私が、この手で、必ず、潰す」

783名無しさん:2021/04/12(月) 19:28:51 ID:5c9ODPy20
棺桶を身にまとった二人は無言で頷き、すぐにその場から消えた。
入れ替わるようにして私服姿に扮した護衛の二人が現れ、彼女たちを車の前まで案内する。
赤いスポーツカーの後部座席にツンディエレは横たわり、護衛の一人が運転手を務め、もう一人が助手席で援護をすることになった。
彼女が申告した通り、傷はかすり傷のような物だったが、止血をしなければならない状況だったのには変わりがなかった。

ハインリッヒは後部の収納スペースからBクラスの棺桶を取り出して背負い、起動コードを入力した。

     Let it go. Let it go. Can't hold it back anymore.
从 ゚∀从『私は私の為に、ありのままの私であり続ける』

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  Vニニハ         /    `::.._
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ニ/: : : ,イ ...:::::::,.イニニニニ>"ニニ>------------  ` <ニニニr≦--
V: : : ( :::::::::::/ニニ.>"三三三三>=ニニニニニニ>.、ニ<ニハニニニ
`iー<_ー==≦レイニニ=-<ニニニニニニ=-----------ミ,,...___ .ハニニ
. ゞ<ニr≦三三ニ=-=ニニ>r≧≦三≧s、ニニニ> " ̄ __,.イヘVハニ
       >--<ニニニニニ/イ/,>----ミ:i `<ハ   _.-イヘ::::::::::::::ヘVニ
      _ノ::::::::::::`<ニニニ/-<r<:ニ:ハ  ノハーイ<i:i:i:i:i:i:i)ー---->
     /≧.:::::::::::::::::::::::::>.、   ::ヽr==レ,.ソノィ iニニニ>-<  _,イ
   ,.イ ..:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::>-  i三ニニr≦i 「ニ>、マニ>イ ノニ
.. ,イ   :::::::::::::::::::イ:::::::,、:::::::::::::::::: ̄>-<ニニトミハ Vニニイ ,イニ
..{      :::::::  ,.イ /ハ::::::::::::::   :::::::::::::::::>:.、-ニニ<ニイ.,イニ
イV__     ,.イ:::::,.イ  /::::::::::リ   ::::::::::::::::::Vニニニニ,イ  /

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同日  AM11:44

ディに荷物を全て積み終えたデレシア達は、特に焦った様子を見せることなく街を離れる準備を進めていた。
今頃街ではカラヴィニエリが総出で事態の鎮圧に乗り出しているはずだ。

ζ(゚ー゚*ζ「忘れ物はない?」

784名無しさん:2021/04/12(月) 19:29:51 ID:5c9ODPy20
ヘルメットのロックを確認し、インカムの電源を入れつつデレシアが二人に問いかける。
二人は既にヘルメットを被り終え、インカムと肉声が重なってデレシアの耳に届いた。

ノパ⊿゚)「多分大丈夫だ。
     ブーンはどうだ?」

(∪´ω`)「大丈夫ですお」

最後にもう一度だけ荷物の確認を行い、買い忘れや積み忘れがないことを確かめた。
デレシアに続いてブーン、そしてヒートの順にディに跨っていく。
彼らは皆一様に防寒具の上にローブを着込み、様々な物から体を守る準備を整え、万が一に備えていた。
強装弾でなければ、彼女らのローブを貫通することは出来ない。

衝撃はそのまま体に伝わるが、命を落とすよりもましな結果になる。
デレシアはエンジンを始動し、各計器類の数値を確認し、アクセルを捻って軽くふかした。
重く、静かで、そして低いエンジン音が地下駐車場に木霊する。

ノパ⊿゚)「しかし、トラギコたちがあいつらを追うなんて意外だったな」

ζ(゚ー゚*ζ「そのおかげで私たちが手を出さなくて済んだのはラッキーだったわね」

(∪´ω`)「おー、助けなくて平気ですかお?」

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、大丈夫よ。
      あの刑事さんなら、きっと上手にやれるわ」

トラギコは年相応に熟成した力の持ち主であり、相手を見誤らなければ理にかなった対処をするはずだ。
デレシア達とすれ違ったあの二人程度であれば、殺されることはないだろう。
だがもし、生還することだけが狙いではなく、二人を逮捕するというのであれば結果は分からない。

ζ(゚ー゚*ζ「さぁ、行きましょう」

三人を乗せたバイクが静かに勾配を駆け上がり、そのままヴィンスを後にした。
それとほぼ同時刻、ヴィンスでは更なる騒ぎが起きていた。

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同日 同時刻

785名無しさん:2021/04/12(月) 19:31:35 ID:5c9ODPy20
ヴィンスにある市場の一角から、悲鳴が上がった。
それは徐々に伝播し、市場の隅々にまで伝染したが、最初に悲鳴を上げた女は固まっていた。
それを近くで聞いた男も、その付近にいた多くの人間も動きを止めていた。
彼らは一様に恐怖に見開かれたまま凍結し、生命活動も停止していた。

凍り付いたのは人間だけでなく、市場に並んでいた売り物も、建物の壁も白く凍り付いている。
白い靄のような物を発する存在が移動するたび、その動きに合わせて周囲が氷結していく。
その異様な存在からだけでなく、二機の強化外骨格から逃げる男が二人いた。

(;=゚д゚)「あれは何ラギ?!」

(;゙゚_ゞ゚)「知らん!! 多分名持ちの棺桶だ!」

全力で駆ける二人は、自分たちがどこかへと誘い込まれていることは自覚をしていた。
ジョン・ドゥがその気になれば、二人に一瞬で追いつくことが可能だ。
それだけでなく、その速度を生かした飛び蹴りや拳を突き出すだけで、二人の命を奪うことが出来る。
そうしない理由が、ある以上、二人はそれを知った上で迎え撃とうと考えていた。

(;=゚д゚)「ただでさえジョン・ドゥがいるってのに、面倒ラギね」

(;゙゚_ゞ゚)「やっぱりあいつら、俺らを追ってるだけで攻撃をしてこない。
    まんまとはめられたな」

振り返るまでもなく、重厚な跫音が二人の背後から聞こえてきている。
銃を装備していてもおかしくないが、発砲する様子もない。

(;=゚д゚)「分かってるラギ。
    だがこれで内藤財団が裏にいるのが確実になったラギ」

(;゙゚_ゞ゚)「知ってるか? 死んだら真実も糞もねぇんだよ」

(;=゚д゚)「んなこと言われなくても知ってるラギ。
    で、お前はあいつら相手にやれるラギか?」

トラギコの問いに、オサムはすぐに首を横に振った。

( ゙゚_ゞ゚)「武器がねぇ。
     流石に拳銃程度じゃ、あの装甲は無理だ」

“葬儀屋”の名で知られた殺し屋をもってしても、棺桶には棺桶を使わなければ対抗は出来ない。
鉛弾では装甲に傷をつけるのが精々で、相手を行動不能に至らしめるには強装弾は不可欠だ。

(=゚д゚)「仕方ねぇ、俺があいつらを足止めしてやるラギ」

( ゙゚_ゞ゚)「手があるのか?」

(=゚д゚)「対強化外骨格用の弾ならあるラギ。
    だからお前は、あの白いもやもやをどうにかするラギ」

(;゙゚_ゞ゚)「逆だろ、普通!!」

786名無しさん:2021/04/12(月) 19:34:27 ID:5c9ODPy20
(=゚д゚)「手前があのババアの足を撃ったからこうなったラギ。
    責任って奴があるラギよ」

( ゙゚_ゞ゚)「ちっ! ちゃんと足止めしておけよ!!」

その言葉の直後、トラギコはM8000の弾倉を交換し、立ち止まって振り返ると同時に発砲した。
銃爪は三回引かれ、ジョン・ドゥの最も堅牢な胸部装甲が防いだのが二発。
そして一発は偶然にも左カメラを破壊した。
突然反撃をしてきたトラギコに驚いたのか、二機は彼から離れた場所で立ち止まる。

〔欒゚[::|::]゚〕『ぐうっ?!』

〔欒゚[::|::]゚〕『野郎、豆鉄砲で立ち向かうつもりか。
       おい、平気か?』

〔欒゚[::|::]゚〕『あぁ……くそっ、だがカメラがやられちまっ――』

四発目の銃弾は今度こそ男の脳を破壊した。

(=゚д゚)「平気じゃなかったみたいラギね」

〔欒゚[::|::]゚〕『……野郎っ!!』

瞬間。
トラギコの視界から白いジョン・ドゥが姿を消した。
反射的にトラギコはその場から横に飛び退き、地面を転がった。
直前まで彼がいた地面にジョン・ドゥが拳を降ろした状態で姿を現しており、それを目の端で捉えたと思った時には、再びその姿が消えた。

(=゚д゚)「……っと!!」

再び転がり、攻撃を回避する。
すかさずM8000の銃爪を引き、発砲する。
両腕を顔の前に掲げたジョン・ドゥがその場で静止し、追撃を中断した。

〔欒゚[::|::]゚〕『往生際が悪いっ!!』

(=゚д゚)「俺の美点ラギ。
    後ろに気をつけな」

〔欒゚[::|::]゚〕『何?!』

反射的に振り返るジョン・ドゥ。
その間に新たな弾倉に交換し、体勢を整え、トラギコは両手でM8000を構えた。
背後に何もないと分かったジョン・ドゥの顔が正面を向いた時、強装弾がヘルメットを襲った。

〔欒゚[::|::]゚〕『ちぃっ!!』

(=゚д゚)「ちっ!!」

787名無しさん:2021/04/12(月) 19:35:38 ID:5c9ODPy20
続けざまに発砲するが、ジョン・ドゥは頑なに顔を守りつつ、一歩ずつトラギコに近づいてくる。
トラギコも発砲しながら後退し、距離を詰められまいとするが、すでに強化外骨格用の弾が入った弾倉は残り1つとなっていた。
そして、ジョン・ドゥの後ろから白い靄が近づいてくるのを見て、トラギコは短く息を吐いた。

(=゚д゚)「来たか……」

何かが噴射される音。
風に乗って運ばれる圧倒的な冷気。
靄が触れた物全てが凍り付き、白んでいく。

〔欒゚[::|::]゚〕『同志ハインリッヒ、お待ちしており――』

靄の中から、鎌首をもたげるような風の動きを見て取ったトラギコは背を向けて走り出した。
直後、ジョン・ドゥは白い靄に包まれ、それ以上声が聞こえることは無くなった。

(=゚д゚)「おっかねぇ女ラギね」

こちらを追い詰めておきながら味方を屠る理由について考えを巡らせるが、トラギコの中で納得のいく答えは出なかった。
彼はこの街に到着して間もない上に、ハインリッヒたちの目論見を知らなかったのだから、無理もない。
彼女たちは待ち望んでいたのだ。
火種に注ぐための燃料を。

薬物と街の意向を左右する力を持った船頭たちを結び付け、街の決定権を白紙に戻し得る、そんな燃料を。

『お前のせいで、この街での商売が台無しだ!!』

その野太い声は拡声器を使って靄の中から発せられ、空気の振動が靄を揺れ動かしている様が見られるほどだった。
明らかに不自然なまでの音量で声が放たれるのとほぼ同時。
トラギコの正面から、洋上迷彩柄のソルダットで武装したカラヴィニエリ達が現れた。

([∴-〓-]『何だ、あの靄は!!』

([∴-〓-]『構わん、撃て!!』

ドラムマガジンを装着したカラシニコフを構え、カラヴィニエリ達による一斉射撃が始まった。
その間にも靄は一歩ずつ、歩くような速度で近づいてくる。
トラギコはカラヴィニエリ達の後ろに避難し、保護された。

([∴-〓-]『大丈夫ですか?』

(=゚д゚)「あぁ、大丈夫じゃねぇラギ。
    ありゃあ名持ちの棺桶ラギ。
    詳細は知らねぇが、あの靄に当たると棺桶も凍るラギ!!」

([∴-〓-]『ありがとうございます。
       おい、聞いたな!!
       牽制しつつ後退しろ!! 靄には触れるな!!』

しかし警告は僅かに遅く、すでに一人に靄が襲い掛かり、そのまま姿を消した。
悲鳴のような声が発せられたかもしれないが、トラギコの耳には聞こえなかった。

788名無しさん:2021/04/12(月) 19:36:04 ID:5c9ODPy20
([∴-〓-]『くそっ!! 熱感知でも見つけられない!!
      温度が低すぎてカメラが使えない!!』

『せっかく薬の仕事が順調だったのに、うちのファミリーはもうお終いだ!!』

再び響いた野太い声。
その言葉に違和感を覚えたのは、ごく少数の人間だった。
その野太い声に、聞き覚えのあるイントネーションを感じ取ったのはトラギコだけ。
靄を見下ろすことのできる建物の屋上から、オサムが冷たい視線を向けているのに気づいたのもまた、トラギコだけだった。

(=゚д゚)「やっちまえ」

その言葉は間違いなくオサムには届いていなかったが、タイミングは完璧だった。

( ゙゚_ゞ゚)「凍らせるのが好きらしいが、こいつはどうかな」

消化用のホースを構え、オサムはそれを靄の上から一気に放水した。
毎秒約10リットルにもなる勢いで放たれる水は、極低温の靄に触れた瞬間に氷結し、氷の雨を降らせた。
靄が徐々に掻き消える代わりに、硬い物が石畳を叩く奇妙な音が続く。
完全に靄が消え、そこに残ったのは大小様々な氷塊と、凍ったまま動きを止めているソルダット、そして街並みだけだった。

(=゚д゚)「逃げたか…… いや、待てよ……?!」

そこで相手の真意に気づいたのはトラギコだけだったが、もう、それは意味のない話だった。
彼が言葉を発するよりも早く、カラヴィニエリの誰からともなくその言葉を口にしてしまっていたのだから。

([∴-〓-]『どこかのファミリーが薬を撒いたのか……』

(;=゚д゚)「待つラギ、それは……!!」

([∴-〓-]『市長に緊急で報告しろ。
      例の一件、どこかのファミリーの裏切りだと』

トラギコはティンバーランドが放った言葉が燻ぶっていた街に引火し、大火へと成長し、もはや鎮火し得ない炎へと至ったのだと悟った。
これがヴィンスと内藤財団が協力関係に至る“ヴィンスの雪解け”事件の全貌だった。

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Ammo→Re!!のようです
Ammo for Remnants!!編
第八章【remnants of warfare-争いの断片-】 了
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789名無しさん:2021/04/12(月) 19:36:26 ID:5c9ODPy20
これにて今回の投下は終了です

質問、指摘、感想などあれば幸いです

790名無しさん:2021/04/12(月) 19:51:59 ID:I9ODFDuc0


791名無しさん:2021/04/12(月) 21:07:31 ID:9R7Bfn/g0
乙です

792名無しさん:2021/04/13(火) 03:53:38 ID:wuEOHqW20
おつ 今回も楽しかった

793名無しさん:2021/04/17(土) 14:25:23 ID:B8D.oF160
おつ!
ツンさんようやく少し痛い目にあってくれたな
トラギコとオサムいいコンビだ

794名無しさん:2021/04/18(日) 10:28:37 ID:csd1wSAY0

ハインの棺桶近接キラーっぽいけどレオンで対抗できるのか…?

795名無しさん:2021/04/19(月) 09:11:58 ID:gEPjBZUE0
乙です!月刊ペース助かる

796名無しさん:2021/05/17(月) 18:40:21 ID:iJ7w5ZS.0
今度の日曜日にVIPでお会いしましょう

797名無しさん:2021/05/18(火) 21:33:20 ID:QjIJanXw0
まってまーす!!

798名無しさん:2021/05/24(月) 20:05:21 ID:ABQkjzkI0
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憎しみと復讐の炎は時間が経つにつれて強くなる。
消したいのならば、すぐに、そして完膚なきまでに消し去るしかない。
でなければ、いつか必ずその炎がお前の身を焼き尽くすだろう。

                            ――シチリアン・“アンラキッキー”・ルチアーノ

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September 15th PM 00:09

ヴィンスの治安を守るカラヴィニエリの行動力は迅速で、その連携力は目を見張るものがあった。
汚水の一滴が真水に落ちた瞬間、その水は汚水となる、という言葉は治安維持と事件発生後の対応の重要性についてカラヴィニエリが掲げている標語だ。
その標語がただの看板ではないことは、街中に現れた青い制服姿のカラヴィニエリと、すぐに編成された対応班の装備が物語っている。
洋上迷彩の施されたソルダットが構えるブルパップ式のライフルの銃身下にはグレネードランチャーが取り付けられ、銃爪に指が添えられていた。

いつでも発砲が出来る状態であると威嚇しつつ、彼らカラヴィニエリが本気で動き出したのだと、無言の内に誰しもが悟ったのであった。
市長、シチリアン・“アンラキッキー”・ルチアーノの命令によって、民間人は屋内へと追いやられ、あらゆる例外なく外出の制限がかけられた。
“レモンズ”は路地という路地を走り回り、市長の命令を厳守させた。
これは彼が経験した“ヴィンスの厄災”の再来を想定した動きで、市長に就任後、初めて発令された厳戒態勢だった。

観光客たちも最寄りの施設に隔離され、街中を歩くのはレモンズかカラヴィニエリだけとなっていた。
発令から僅か5分ほどのことにも関わらず、その厳戒態勢はほぼ完璧な状態を保っている。
完璧ではない理由には、二人の男が関わっていた。

(;=゚д゚)「くっそ、また足止めとか冗談じゃねぇラギ」

(;゙゚_ゞ゚)「お前といるとほんと退屈しないな」

トラギコ・マウンテンライトとオサム・ブッテロはカラヴィニエリが市長に連絡をした直後、トラックが停まる場所へと走っていた。
数百メートル走ったところで武装したカラヴィニエリによって他の観光客同様に最寄りの安宿に詰め込まれたが、二人は監視の目を掻い潜って建物の屋上から屋上へと移動を続けていた。
彼らの努力の甲斐も有り、残り一キロまでのところに来ていたが、すでに渡れる屋上は目の前になく、二人の眼下にはカラヴィニエリが立っていた。

( ゙゚_ゞ゚)「なぁ、何であいつらに説明しなかったんだ?」

(=゚д゚)「しても無駄だからだよ。
    ここの連中の行動はトップダウンラギ。
    部外者の言葉なんて聞く方がおかしいラギ」

( ゙゚_ゞ゚)「それもそうだな」

街の治安は街の矜持そのものだ。
例えジュスティア警察の人間であろうとも、契約関係にない街にとっては部外者でしかない。
部外者の言葉はあまりにも遠い物なのだ。
逆を言えば、上の人間がよほどの馬鹿でない限り、命令の統率が取れている優秀な組織とも言える。

799名無しさん:2021/05/24(月) 20:05:59 ID:ABQkjzkI0
( ゙゚_ゞ゚)「この様子だと、しばらくここに足止めか?」

(=゚д゚)「どれだけ足止め食らうか分からないのが痛いラギね。
    俺たちは足を借りてる身ラギ。
    ポットラックたちに強行突破してくれ、なんて言えねぇラギよ」

トラギコたちの素性に気づいているとしても、ポットラック・ポイフル達を巻き込むのはあまりにも筋違いというものだ。
これまでの恩があるため、彼ら相手に力での脅迫は好ましくない。
運送業者である以上は街のルールによって配送が遅れる、ということは常に可能性の中に織り込まれている。
この街での騒ぎも、彼らにとってはある意味で予定の内であるため、強行突破という手段に賛同するとは考えられない。

( ゙゚_ゞ゚)「なら、こっからはこっちで行くしかないな」

(=゚д゚)「あぁ、それも選択肢の一つラギ」

( ゙゚_ゞ゚)「他に選択肢があるのか?」

(=゚д゚)「この街がどう動くのか、少し気になってな。
    自由に動けるまで待つってのも一つの手ラギ」

( ゙゚_ゞ゚)「おいおい、それじゃあ」

身を乗り出しそうになるオサムの目の前に手を出し、トラギコは言った。

(=゚д゚)「まぁ待てよストーカー野郎。
    デレシアがこの街にいる可能性は大いにあるし、何より、まだ出発していない可能性もあるだろ?
    なら、先を急がなくてもいいラギ」

( ゙゚_ゞ゚)「確かにそうだな……」

実際のところ、デレシア達はこの街をすでに出発しているとトラギコは考えていた。
ティンバーランドの人間がトラギコたちに捕捉されている以上、デレシアによる追撃はなかったのだ。
彼女が本気を出せば氷結機能を持った棺桶を使われる前に決着はついていただろう。
そうしなかった理由があると考えれば、自ずと、デレシアの次の行動が読める。

追いかけたいという気持ちもあるが、それ以上に、トラギコはこの街でティンカーベルが起こした火がどのような結果を導くのかが気になっていた。
これまでに見てきた街の行く末はいずれも内藤財団の介入による決着が多かった。
恐らく、今回ヴィンスの騒動もそれが目的なのだろう。
街という街に介入し、影響力を高めることの企業的なメリットは当然分かるが、テロリズム的な観点からのメリットがあまり見出せなかった。

(=゚д゚)「とりあえず、ここからどうやって下に降りるかだな」

( ゙゚_ゞ゚)「降りないのも一つの手だが、どうする?」

(=゚д゚)「屋根にいつまでも張り付いてるわけにもいかねぇラギ。
    だったらいっそ――」

――そう言いかけた時、二人は同時に頭上を見上げ、躊躇うことなく屋根から飛び降りた。

J川=V=>

800名無しさん:2021/05/24(月) 20:06:20 ID:ABQkjzkI0
屋根を突き破って一階まで落ちて行った強化外骨格は、皮肉にも、ヴィンスの家屋と同じく白い塗装で統一されていた。

(;=゚д゚)「くっそ、来たラギ!!」

路地に着地すると同時に二人は街の北側に向けて走り出していた。
走りながら背後に目を向けると、家屋の壁が吹き飛び、白い棺桶が姿を現した。

J川=V=>

細身の骨格と装甲は一面が霜で覆われ、排気口らしき場所からは白い煙が放出されている。
腰を中心としてスカートのように何かが展開しているが、体中から放出される靄がその姿を隠していた。
頭部装甲の僅かな隙間から覗き見えたカメラが青白い輝きを放ったかと思った次の瞬間には、その姿は靄の中に包まれて消えていた。

(;゙゚_ゞ゚)「見たことねぇ棺桶だ」

(;=゚д゚)「間違いなくコンセプト・シリーズラギね。
    飛び道具がなさそうなのが救いラギ」

加えて、移動速度の遅さも彼らにとっては幸運だった。
随伴歩兵がいなければ逃げ切るのは容易い。

([∴-〓-]『いたぞ!!』

警笛と怒号が二人の正面から聞こえてきたと思った時には、すでに三機のソルダットが銃を構えていた。
遮蔽物の少ない路地を走っていた二人は身を屈めつつ、カラヴィニエリ達の間をすり抜ける。
その直後に銃声が響いたが、それはすぐに止んだ。

([∴-〓-]『何?!』

〔Ⅲ゚[::|::]゚〕

靄の奥から群青色のジョン・ドゥが現れ、ソルダットと交戦を始めたのである。
棺桶同士の肉弾戦であればジョン・ドゥの拳はソルダットの装甲内部に多大なダメージを与えることが出来る。
ライフルの内側に入り込まれたソルダットは瞬く間に組み伏せられ、至近距離から殴打され、沈黙した。
直後に飛び退った反応は、間違いなく次に起こり得る事象を想定していたからだろう。

明らかに戦闘慣れした動きだった。

([∴-〓-]『ポイントD4で交戦中!!
       カローネファミリーのジョン・ドゥがいるぞ!!』

発砲されたジョン・ドゥは頭部を庇いつつ、靄の奥へと後退する。
先ほどのカラヴィニエリ達の言葉を考えるに、靄は赤外線カメラを欺くほどの低温であり、その奥に逃げ込まれたら見つけ出すのは困難だろう。

([∴-〓-]『叩き伏せろ、ねじ伏せろ!!』

号令をかけたソルダットが発砲しつつ、手榴弾を放り投げる。
制圧射撃は靄に向けて集中的に放たれるが、一発も反撃がない。

( ゙゚_ゞ゚)「イルトリア式の掛け声だな」

801名無しさん:2021/05/24(月) 20:06:47 ID:ABQkjzkI0
(=゚д゚)「そりゃあイルトリアが近いから、あいつらのブートキャンプを受けたってことだろうな。
    とにかく、この隙に逃げるラギ!!」

([∴-〓-]『おい、そこの民間人!!
       急いで避難しろ!!』

(=゚д゚)「言われなくてもそうするラギ!!」

逃げようとするトラギコたちの前に、新たなソルダットが現れ、手近な家屋内へと強引に誘導される。
どうやら二人は避難が遅れた、とみなされたようだった。
二人が押し込められた家屋は無人だったが、二人はすぐに裏口を目指して走り出した。
その直後、壁を破壊してジョン・ドゥが姿を現す。

〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『お前たちのせいで、カローネファミリーはお終いだ!!』

( ゙゚_ゞ゚)「うるっせぇなぁ!!」

(=゚д゚)「しつこいぐらいそのファミリー名を強調するラギね!!
    不自然ラギよ!!
    もうちっと演技力を気にしろラギ!!」

飛び散る破片から頭を守りつつ、二人は再び街の中を駆け抜けるのだった。
そして、二人のすぐ目の前で異変が唐突に訪れた。
“ヴィンスの雪解け”において、正にこの瞬間が大きな分岐点となったのは言うまでもない。
極低温の靄が街を蹂躙していく中。

(;=゚д゚)「……あいつ、まさか」

カラヴィニエリのソルダットでさえ突撃を躊躇し、後退する中。
一人の男が腕を組んでその靄を見据えていた。
大地を震わせるような低い声で呟く。

「来たぜ、糞尼」

男は赤い十字の描かれた銀色のコンテナを背負っていた。
身に着けたダークブルーのスーツは筋骨隆々とした肉体を抑え込めず、今にも張り裂けそうだ。
獅子の鬣のように髪を後ろに流す髪は白髪の混じったこげ茶色で、好戦的な眼を靄に向けている姿は、獲物を前にした獣のそれ。
エメラルドグリーンの瞳に、臆した様子はない。

それどころか、嗜虐的な笑みさえ浮かべている。
だが。
彼の背負うそれは、戦闘用の棺桶ではない。
それは――

       It's not what stands in front of you.  It's who stands beside you.
ミ,,゚Д゚彡『お前の前に立つ物の名前ではない。 これはお前の傍に立つ者の名前だ』

802名無しさん:2021/05/24(月) 20:07:14 ID:ABQkjzkI0
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Ammo for Remnant!!編

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洲洲洲洲洲ハハ┴。s'´ ̄ ̄ ` s。 |H | ̄| ̄|:i{0八 i|ノ 圦 ||/|/^f=-s。|::| ||Y⌒Y^fハ/゙'iト.----
从从从从从从ハ ニニニニニニニ| ̄:|  |  |:i{ | |ハ|‐‐圦l|,.イ:::|::::|‐‐Y⌒Ⅵ ::| ::|‐|/||Y^トs。八
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二二_..:-‐ ̄::::::`:、`:、`:、`:、`:、``丶、ー--ミ^Y^^'=---------------=ニ二 ̄__爻:.ミ:;ヾ:.ミ
::::::::-'´`:、`:、`:、`:、`:、`:、::::::⌒〜、、`:、``〜、'´...: .:; ...::...:;.... . . . .....::'´.:'´::..............爻:;ヾ:;ミ

第九章【remnant of hatred-憎しみの断片-】

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同日 PM05:48

(∪´ω`)「おー、大きな工場……」

ブーンが左手側に広がる工場群に感動の声を上げたのは、正に、ストーンウォールの街並みが見えた時だった。
一面に広がる配管と巨大な煙突は、ストーンウォールの周囲を取り囲む街の象徴そのものだった。
暮れ始めた紫色の空の下、その工場群に灯る無数の明かりはある種の生命を思わせる。
“蜂の巣街”と呼ばれる同性愛者の楽園は、精密な機械の量産を生業とする街で、工業が主な産業だ。

ある意味ではジュスティアよりも厳格な街で、差別と外圧に対しては徹底的な交戦姿勢を見せている。
彼の後ろでヒート・オロラ・レッドウィングも同様に驚きの声を上げた。

ノパ⊿゚)「でけぇな……!!
     初めて見たよ、あんな工場」

ジュスティアの街を取り囲む壁とは違い、ストーンウォールを取り囲むのは大小様々な配管だ。
まるで血管のようにも見えるそれは、全てが街の中を循環するように設計されたもので、一切の無駄がない。
夕日が配管を照らし、黒と赤に彩られたそれは幻想的な姿をしていた。

803名無しさん:2021/05/24(月) 20:07:35 ID:ABQkjzkI0
ζ(゚ー゚*ζ「街全体で使う工場の一部で、あれほど大きなものはそうないわね」

工場を目の端で眺めつつ、デレシアはそう言った。

(∪´ω`)「街全体で使うんですかお?」

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、あの街は特定の企業を持たないの。
       その代わりに、街全体で工場を経営して、製造をしているのよ」

ノパ⊿゚)「へぇ、それは知らなかったな。
    ストーンウォールは工業の街なのか」

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、主にラヴニカの下請けね。
      依頼を受けて量産をするんだけど、上等な物を作るのよ」

ノパ⊿゚)「なーるほどね」

(∪´ω`)「みんな仲良しなんですかお?」

ζ(゚ー゚*ζ「そうね、他者の干渉を嫌う反面、他者には干渉しないのがあの街の流儀よ。
      だから優しくもあって、厳しくもあるわね」

(∪´ω`)「おー、難しいですおね」

ζ(゚ー゚*ζ「下手なことをしなければそうでもないわよ。
      ただ、あの街に干渉すれば街が総出で対応することになるの。
      だから蜂の巣、って名前がついたの」

かつて、同性愛を忌避する十字教がストーンウォールに派兵したことがあった。
曰く、神の作りたもうた人間性に対する紛れもない反逆である、と。
意気込んで攻め込んだセントラスの先兵たちはもれなく殺され、撃退されたのである。
以来、どこの組織もストーンウォールに対してだけは不可侵の立場を保ってきた。

(∪´ω`)゛「なるほどー」

ノパ⊿゚)「しっかし、でかいな……」

街一つが工場としての役割を果たしているその姿は壮観であり、それが地上に出ているのは稀有だ。

(∪´ω`)「ストーンウォールは何が美味しいんですかお?」

ζ(゚ー゚*ζ「そうねぇ、これといって名物はないけれど……
      強いて言うなら、ハチミツかしら」

工場の一角に偶然作られたミツバチの巣が発端となり、工場勤務をする人間が副業として養蜂家を務めているのである。
ハチミツの美味さを決定し得るのは蜜の原料であり、その品質向上のため、彼らは工場の至る所で多様な花を栽培しているのだ。
故に街の外観とは裏腹に街には花が咲き乱れ、見事な景観が広がっている。
しかし、本腰を入れた専門家ではないため、本業の養蜂家が作るハチミツにはいくらか見劣りしてしまう。

ノパ⊿゚)「珍しい名物だな」

804名無しさん:2021/05/24(月) 20:08:17 ID:ABQkjzkI0
ζ(゚ー゚*ζ「といっても、そこまで美味しいというわけでも売りにしているわけでもないのよ。
      観光客を呼び込む必要がない街だから、そういう部分での差別化はないのよ」

(∪´ω`)「おー、食べ物以外で人が来るんですかお?」

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、ストーンウォールは特別なの。
      街の存在自体が観光資源だから、食べ物や景色を気にしなくていいのよ」

工業を営んでいるのは外部との接触が最小限で済むため。
観光客を呼び寄せる真似をしないのは、不穏分子が街に入り込むのを防ぐためだ。
同性愛者以外の人間も住んでいるが、同性愛に対する理解のある人間しかいない。

ノパ⊿゚)「なーるほどね」

セントラスを退けるだけの抵抗力があるというだけでも、ストーンウォールは一部の人間達にとっては聖域としての魅力が強いのだ。
やがて、ストーンウォールの工場群がバックミラーの点となり、彼らの前には荒野と海だけが広がる。
ディが言葉を発したのは、それから少ししてのことだった。

(#゚;;-゚)『デレシア、後方約2キロの位置を堅持したまま追跡してくる車輌があります。
   車列を形成しており、一定の距離を保ち続けているため、脅威である可能性があります』

ζ(゚ー゚*ζ「あら、やっぱり?」

街を出てから尾行されていることは気づいていたが、仕掛けてくるとしたらもう間もなくだろう。
そろそろ野営地を定め、テントの設営をしなければならない時間だった。
命を狙うのならば夕闇に乗じるのが常だ。

ノパ⊿゚)「追剥ってわけじゃなさそうだな」

ζ(゚ー゚*ζ「そうね、多分ティンバーランドの人間でしょうね。
      私が対応するから、二人で先にテントを張っていてくれる?」

ノパ⊿゚)「あたしもリハビリがてら相手したいんだけど、まぁ、任せるよ。
    晩飯、あたしが作っていいか?」

(∪´ω`)「僕も手伝いますお!」

ブーンはテントの設営も料理の補助も、すっかりと身についていた。
味付けに関してはまだ学びの途中ではあるが、日に日に味を覚え、それを再現する方法も学んでいるところだ。
その学習の途中経過を邪魔する輩は排除しなければならない。

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、お願いするわ。
      ディ、二人をよろしく。
      呼んだから迎えに来てくれるかしら?」

(#゚;;-゚)『分かりました。
    お気をつけて』

デレシアはその場でディを停め、ハンドルをヒートに任せた。
ヘルメットを脱ぎ、頭を振って髪の毛を風になびかせる。

805名無しさん:2021/05/24(月) 20:08:43 ID:ABQkjzkI0
ノパ⊿゚)「よっしゃ、あたしが運転するのは久しぶりだな。
    よろしく頼むよ、ディ」

(#゚;;-゚)『はい、お任せください』

ディのハンドルポジション、ホイールベースがヒートの好みに合わせて可変する。
静かなディのエンジン音が遠ざかるのと対照的に、デレシアの視線の先に見えるヘッドライトの光が近づいてくる。
デレシアの目には、その車輌から明確な敵意と悪意が映っていた。

ζ(゚ー゚*ζ「……」

両脇に提げたデザートイーグルを抜き放ち、構える。
車輌は二台、否、三台。
ピックアップトラックの荷台にはすでに装着を終えた棺桶が六機。
減速の様子も見せない点を考慮すると、車輛事態に高性能爆薬を積んでいる可能性が高い。

車列を一列に保ったまま走り、前を走る車輌が後続の盾になるように配慮がされていた。
こちらが貫通力の極めて高いライフルを持ち歩いていないことを想定しての布陣だ。
しかし、デレシアにとってそれは大した問題ではない。
右手のデザートイーグルを構え、銃爪を引く。

先頭を走っていたピックアップトラックが爆散し、荷台に乗っていた棺桶が宙に舞う。
後続車輛は素早く両側に散り、荷台から棺桶が飛び降りる。
デレシアと襲撃者の距離は優に500メートル。
その距離を完全に無視して、着地した白い装甲の棺桶がデレシアをめがけて一気に肉薄する。

巨体に似合わぬ速度で一瞬の内に目前に迫ったのは、白いジョン・ドゥ。
高周波刀を構え、デレシアに切りかかる。
十分すぎるほどの速度があるため、膂力は必要ない。

〔欒゚[::|::]゚〕『死ねっ……!!』

ζ(゚ー゚*ζ「甘いわね」

直線的な軌道で放たれた攻撃を紙一重のところで回避した時には、両者の決着はついていた。
接近に合わせて発砲されたデザートイーグルの凶弾に吸い込まれるようにして接近したジョン・ドゥは、そのまま頭部を破砕され、デレシアの背後で転倒する。
遅れてデレシアの髪を風が撫でた。
夕闇に紛れきれない五機のジョン・ドゥはピックアップトラックの荷台に捕まり、車輛を盾に左右から迫っていた。

両手のデザートイーグルで運転手を射殺し、次いで、エンジンブロックを破壊。
推進力を失ったピックアップトラックの影から、一気に棺桶が姿を現す。
既に距離は双方の顔が認識できるほどに縮まっていたが、デレシアは焦ることなく一歩前に足を踏み出していた。

〔欒゚[::|::]゚〕

対象を殺すという一点で言えば、物量は時に質を凌駕することがある。
前後左右、そして直上。
デレシアの逃げ道の全てを塞ぐ形で接近したジョン・ドゥの判断にミスはなかった。

ζ(゚、゚*ζ「……はぁ」

806名無しさん:2021/05/24(月) 20:09:04 ID:ABQkjzkI0
しかし相手はデレシアだった。
一見して連携が取れた攻撃の弱点を瞬時に見抜き、行動に移す。
身にまとっていたローブを翻し、視界を一気に奪い去る。
直後、それまで彼女がいた場所を四つの刃が通り過ぎた。

彼女の前から迫っていたジョン・ドゥは至近距離から胸を撃ち抜かれ、心臓と共にバッテリーを破壊された。
死体と化したジョン・ドゥが勢いをそのままに仲間たちに激突し、貴重な奇襲の機会が失われる。
直後に見せた彼らの即応力は大したものだった。
四人になった不利を補うため、陣形を取るのではなく、各自での対応に移行したのである。

連携力を期待できない以上はそうする以外の手立てがない相手だと認識し、選択したのは事前の情報と実際のデレシアの実力を見ての判断だろう。
優秀な訓練を受けた証拠だった。
選択した武器はいずれも高周波刀。
それはある意味では正解であり、不正解でもあった。

デレシアが着ていたローブの対弾性能を知っていれば、彼女がそれを脱ぎ捨てたことを好機と捉え、銃を使用したことだろう。
遠距離から攻撃をしていれば、彼らの寿命が数秒伸びたことは間違いない。
最も、銃を使ったところでデレシアと彼らとの実力差は圧倒的なまでに離れているため、些事でしかない。
疑問の余地のない実力差を感じたまま死ぬのであれば、近接戦闘の方が僅かではあるが人道的な死を迎えられる。

彼らの本能が潔く戦って死ぬことを選んでいたのであれば、それは正解だった。

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ζ(゚、゚*ζ「……」

807名無しさん:2021/05/24(月) 20:09:33 ID:ABQkjzkI0
デザートイーグルが咆哮を上げ、二人の命を一瞬で奪った。
しかし、それは彼らにとっては計算の内だったのだろう。
発砲によって遊底が引ききった状態の銃は、次弾を装填することはおろか、銃爪を引くことさえ叶わない。
それは時間にして一秒にも満たない隙であり、襲撃者にとって最後になるかもしれない好機だった。

デレシアが両手に構える拳銃は、転じて、彼女の攻撃手段だ。
味方の命を犠牲に生み出した一瞬ともいえる時間に、二機がデレシアの懐に潜り込む。
左右同時の挟撃。
大振りの一撃は間違いなくデレシアを殺傷可能な範囲に収めることだろう。

〔欒゚[::|::]゚〕『もらった!!』

文句のない踏み込み。
非の付け所のないタイミング。
彼らにできる最良の行動は、だがしかし、デレシアには届かなかった。

ζ(゚、゚*ζ「残念ね」

彼らが挟撃を仕掛けてくることは彼女の想定した展開であり、対応は既に考えられていた。
一般的な人間の反応として、次の瞬間に訪れるであろう死に立ち向かうためには相当な胆力がいる。
挟撃における突破.は、襲撃者の想定している攻撃の動線を掻い潜ることにある。
殺そうとしている対象が後退することはあっても、前進することは無いという心理的な死角。

デレシアは地を這うほどに低い姿勢で駆け、一瞬の内に二機の後方に回り込んだ。
彼らの努力に免じ、後頭部を撃ち抜いて一撃で殺した。
薬莢が地面に落ち、硝煙を風が運ぶ。
夕日は水平線に沈みつつあり、星空と月が空に浮かぶ。

襲撃者の最後の一人が夕日を背に現れたのは、デレシアがデザートイーグルをホルスターに戻した時だった。

〔欒(0)ш(0)〕

艶のない黒色の装甲は通常のそれとは全く異なり、歪に盛り上がっている。
一目でキー・ボーイのカスタム機と分かるそれは、静かに身を屈め、疾駆した。
ヘルメットに刻印されている金色のエンブレムは、紛うことなきティンバーランドのそれだ。
デレシアはそれを見て、迎え撃つため、走り出した。

〔欒(0)ш(0)〕

ζ(゚、゚*ζ「追加装甲とは考えたわね」

足元に転がっていた高周波刀を掴み、デレシアはそれを投擲した。
キー・ボーイは避けるわけでも、それを防ぐのでもなく、自らの胸で受け止めた。
爆発と同時に上空に高周波刀が飛び上がり、それがただの追加装甲でないことを物語った。
爆発反応装甲。

ζ(゚、゚*ζ「ちっ……!!」

808名無しさん:2021/05/24(月) 20:10:59 ID:ABQkjzkI0
この一連の戦闘で、初めてデレシアは苛立ちを露わにした。
衝撃に対して衝撃で対抗するという発想の装甲は、デレシアの持つ武器を全て封殺するだけの力があった。
現代ではまだ一部でしか復元していないと思っていた過去の技術をここで投入してくるという点は、彼女の予想を裏切っていた。
相手はただの棺桶持ちではない。

死ぬことが前提で情報を収集するための先兵だ。
こちらがどのように対処するのかを記録し、仲間に伝えるための捨て駒。
最初から生還を期待されていない人間は、それこそ何もかもを失う覚悟がある。
薬物や信仰で強化された人間は、時に野良犬をもしのぐ厄介さを見せつける。

テントの準備に遅れるのも癪だが、夕飯に遅れることになれば更に気分が悪くなる。
近接戦闘は分が悪いことを察したが、すでに両者の距離はそれ以外の戦闘を許すものではなくなっていた。

〔欒(0)ш(0)〕『きゃおらっ!!』

ζ(゚、゚*ζ

大振りの回し蹴りを、デレシアは余裕をもって身を引くことで回避。
続く右ストレートからの左ジャブを避け、疎かになっている脚部への足払いを放つ。
デレシアの倍以上の重量があるキー・ボーイは呆気なく空中で一回転し、頭から地面に落ちる。
その隙に後退し、デレシアはデザートイーグルの弾倉を交換した。

ζ(゚、゚*ζ「あなた、楽に死ねると思わない事ね」

それが、デレシアに対して襲撃を仕掛けた哀れな男が聞いた最後の声だった。
転倒した状態から身を起こすのに要したのは一秒弱。
デレシアが二発撃ったのは、それよりも早かった。
一発目の銃弾はキー・ボーイのヘルメットに命中し、頭をのけぞらせ、二発目が頭部の爆発反応装甲を起爆させた。

それは使用者の命を救うための機能だったが、同時に、使用者の意識を混濁させる諸刃の剣でもあった。
意識を取り戻すために要する時間が男にとっては何よりも恐ろしい時間であることは言うまでもない。
幸か不幸か、男の鼓膜は爆発によって破られ、耳障りな耳鳴りだけが脳髄を震わせている。

〔欒(0)ш(0)〕『くっ、何がっ……!?』

爆発反応装甲は一か所につき一度だけしか働かない。
そのため、同じ個所への強力な攻撃に対しての対応能力はない。

ζ(゚、゚*ζ「本当に迷惑な人ね」

銃弾がデレシアの意図した通りに進み、狙い通りに爆発反応装甲を剥離させていく。
破壊と引き換えに、装甲で緩和しきれない衝撃を受け入れるのは生身の人間だ。
例え鍛えていたとしても、所詮はキー・ボーイ。
薄い装甲が吸収する衝撃などたかが知れている。

関節部を徹底的に狙い撃ち、意図的に爆発反応装甲を起動させる。
衝撃で腕が曲がったところに、追い打ちをする形で爆発が起こる。
脚部が最初に破壊され、次いで両腕。
最初に高周波刀を弾いた胸部から肩を貫通し、バッテリーが破壊された。

809名無しさん:2021/05/24(月) 20:11:55 ID:ABQkjzkI0
瞬く間に自由を奪われた男は悶絶し、絶叫するが、その声さえ自分には聞こえない。
顔から地面に倒れ込み、向きを変えることも出来ない。
背中に向けて容赦なくデレシアは発砲し、起爆させていく。
衝撃を受けて体が持ち上がり、新たな爆発で地面に叩きつけられるたびに男の悲鳴と呻き声が爆音の中に混じる。

なぶり殺しにするのであれば別の手段があるが、デレシアの目的は別にあった。
威力偵察じみたことを目的としているのであれば、こちらの姿や行動を記録するための装備が備わっているはずだ。
この男の目的は記録することであって、デレシアを排除することは最初から考えられていないのだ。
体のどこかにカメラと記録媒体が残っている可能性があるため、それを破壊することがデレシアの狙いだった。

爆発反応装甲の特製上、その上にカメラを取り付けることは出来ない。
ならば、カメラは後付けされた物ではなく、最初から使用している物を流用するはずだ。
カメラに次いで重要なのは記録媒体。
それはカメラを破壊されたとしても、決して破壊されてはならない重要な物だ。

強化外骨格の中で最堅牢の部位は胸部、頭部、そして背部の三か所に限られる。
爆発反応装甲による衝撃で記録が破損しないようにするためには、必然、背部に限定される。
デレシアは男が動けなくなった男からバッテリーを取り外し、それを放り捨て、デザートイーグルで撃ち抜き、爆散させた。
露出した背面装甲を一瞥し、頭部から伸びるケーブルの先にある背骨を守る装甲をはぎ取る。

バッテリーを奪われ、最後の要である装甲を失った棺桶は、最早ただの拘束具と化す。
そして、ケーブルの先に通じていた個所に記録媒体を見つけた。

ζ(゚、゚*ζ「……やっぱりね」

それを踏み潰し、他に保存されているものがないか調べたところ、後頭部にもう一つの保存媒体があった。

ζ(゚、゚*ζ

そこでデレシアは確信した。
相手の狙い、そして、その執念の背景を。
使用されていた保存媒体はそれ一つで大きな街を一年間潤わせ得るほどの物だった。
例え内藤財団とはいえ、決して安い出費ではない。

それを捨て駒に託すということは、それだけ追い詰められているか、あるいは、別の目的があるのだろう。
無論、心当たりはあった。
ティンバーランドを率いる人間は、デレシアの知る人間と同じ思考回路をしている。
ましてや、過去の経験を生かした行動をしている点を考えれば、恐らくは現代でデレシアの事を熟知している人間なのだろう。

しかし作戦立案はさておいて、それを指揮する人間はデレシアのことをまだ図っている段階のようにも思えた。

ζ(゚、゚*ζ「三分あげる。 祈るならその間にどうぞ」

後頭部をそっと撫でるようにして自爆スイッチを強制的に入れ、その場を立ち去った。
何も知らない男はその場で何事かを叫び、そして、誰もいない無人の荒野で爆散したのであった。

810名無しさん:2021/05/24(月) 20:14:00 ID:ABQkjzkI0
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同日 同時刻

ヴィンスで起こった騒動は沈静化し、諸悪の根源とされたカローネファミリーは抵抗の後にカラヴィニエリによって鎮圧された。
街は損害を受けた建物の修復や被害者へのケアに負われ、残党による治安の悪化を危惧し、武装したカラヴィニエリが各所に立っている。
トラギコたちを乗せた運送業者たちは、タルキールでの遅れと合わせてこれ以上の遅延は望ましくないと判断し、予定よりも早く出発していた。
最小限の休憩を挟めば最小限の遅延で済む算段が立ったため、彼らはこれから過酷な道のりとなる。

極低温の領域を発生させていた棺桶は突如として現れた男によって撃退され、トラギコたちが街を出る直前まで見つかっていない。
しかし、その代わりに奇妙なものが発見された。
鋭利な刃物で切断された女の右足の指五本だ。
それが誰の物かは分からないままだった。

少し想像力を働かせれば、それがトラギコたちを襲った女の物であることは明白だ。
そして、女の体が欠損していた理由と今回の一件は無関係とは思えない。

(=゚д゚)「……」

海に沈んでゆく夕日を眺めながら、トラギコはヴィンスでの出来事を思い返していた。
街は平穏を取り戻したが、信頼の回復にはかなりの時間を要するはずだ。
カローネファミリーの仕業として処理されることで、街は一刻も早い復興の道を取ることが出来る。
内藤財団がヴィンスへの介入を成功させる為に仕組んだことだとすれば、極めて円滑に物事が進んだことだろう。

街の実質的な支配をするのではなく、あくまでも助力に徹するその姿勢は、彼らの本音を上手に隠蔽することに成功していた。
慈善事業のように見えるが、経済を齧ったことのある人間であれば、長期的な目で利益を得るための布石だと考えるだろう。
それさえも目くらましだと考えるのは、トラギコのように疑い深い人間だけだ。

( ゙゚_ゞ゚)「あのおっさん、何者だったんだ?」

街を出てから無言だった車内の静寂を破ったのは、ホットドッグを頬張りながら発したオサムの声だった。
溜息交じりに、トラギコが答える。

(=゚д゚)「俺の記憶が確かなら、あのおっさんはイルトリアの市長ラギ。
    “戦争王”フサ・エクスプローラー」

811名無しさん:2021/05/24(月) 20:15:12 ID:ABQkjzkI0
( ゙゚_ゞ゚)「……マジかよ、あのおっさんが“戦争王”か。
    握手してもらえばよかったな」

軽口をたたくオサムとは対照的に、運転手のポットラック・ポイフルが驚きの声を上げる。

从´_ゝ从「マジかよ、あの“戦争王”がヴィンスに?!
     ヨルロッパ地方で一番会いたくない男だな」

(=゚д゚)「いいのかよ、納品先だろ?」

从´_ゝ从「あくまでも会社同士の話だから、俺には関係ないさ。
     しっかし、よくヴィンスは無事だったな。
     焼野原にされなかったのは気まぐれか何かか」

七年前、ヴォルコスグラード区が一晩で焦土と化したことは誇張されてなどいない事実だ。
世界最強の市長は誰かと問われれば、例え離れた街の子供でさえ、その名を口にすることだろう。
それが伝説の類でないことは、今日、トラギコは目の前で確認した。

(=゚д゚)「あのおっさん、“オンリー・ザ・ブレイブ”を使って勝ったラギ。
    棺桶を使ってたら、そうなってもおかしくなかったかもしれないラギね」

オンリー・ザ・ブレイブは戦闘用の強化外骨格、いわゆる棺桶ではない。
災害救助用の強化外骨格であり、潤っている街の消防署などに配備されている物だ。
あらゆる自然災害と立ち向かい、人命を救助することにのみ特化したそれは、コードの入力を行えば誰でも起動することが可能な特性を持っている。
装甲は戦闘用のそれと比べて薄く、筋力の補助も心もとない。

しかし、温度がその機能を停止させることは無い。
極寒の土地でも、灼熱の大地でも、業火の中でさえも圧倒的な断熱構造が使用者を守り抜き、活動を維持させる。
専用の高周波刀もまた、温度や環境に関係なく使用できる性能を持っている。

( ゙゚_ゞ゚)「オンリー・ザ・ブレイブなら、まぁ理にかなった話だわな」

(=゚д゚)「理にかなったからって、撃退できる方がおかしいラギ」

从´_ゝ从「あんたらからしてもおかしいのか」

(=゚д゚)「分かりやすく言うなら同じ車でも軽トラとスポーツカーとじゃ用途が全然違うだろ?
    それと同じラギ。
    あいつは軽トラでスポーツカーに勝ったラギよ。
    確かに相性がいい部分があったにしても、それを実行するってのはよっぽどラギ。

    向こうが素手でこっちが棺桶を使っていたとしても、俺は遠慮したい相手ラギね」

( ゙゚_ゞ゚)「同感だな。
     一発だって撃たれたら終わりなのにやりやがったんだ。
     正気じゃねぇよ」

从´_ゝ从「ま、何かあった時はあんたらの腕に期待してるよ。
     この辺りは“ハイエナ”が出るからな」

812名無しさん:2021/05/24(月) 20:16:10 ID:ABQkjzkI0
十字教とは異なる宗教の過激派で、資金を調達するために追剥まがいの事を行う。
襲われれば骨さえも残らない。
それ故にハイエナの名で忌避され、輸送業の人間が警戒している存在でもある。

(=゚д゚)「犬程度なら任せろラギ」

( ゙゚_ゞ゚)「あぁ、チンピラ程度なら簡単にぶっ飛ばしてやるさ」

从´_ゝ从「助かるよ。
     この辺りじゃ、地雷を使って足止めされた隙に襲われるからな」

(=゚д゚)「待て、地雷があるんなら車列を組んで走ってたら……」

从´_ゝ从「あぁ、そりゃそう思うだろうさ。
     だから俺たちの車には金属探知機が積んであるんだ。
     簡単な機械だが、道路に埋め込まれている爆弾なら見つけてくれるのさ。
     自動操縦補助装置もあるから、ブレーキも連動して自動で動くって話だ」

(=゚д゚)「なるほどね、安心したラギ」

从´_ゝ从「だから急ブレーキがあった時には――」

ポットラックの言葉を肯定するかのように、急ブレーキがかかった。
十台からなる車列が停車し、コンテナに取り付けられているライトが一斉に周囲を照らし出す。

从´_ゝ从「――何かがあったってことさ」

(=゚д゚)「みたいラギね。
    行くラギよ」

( ゙゚_ゞ゚)「俺とお前、どっちが疫病神なのか今度話し合おうや」

夜はまだ始まったばかり。
トラギコとオサムはヴィンスでくすねたブルパップ式のライフルを構え、棹桿操作を行った。

813名無しさん:2021/05/24(月) 20:17:10 ID:ABQkjzkI0
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同日 同時刻

ハインリッヒ・ヒムラー・トリッペンは激痛と屈辱の中、ベッドの上で涙を流して悶絶していた。
一年に体の部位を一か所奪われ続けると考えていたが、その法則性が今日破られた。
左目、左足中指、右乳房、右耳、肛門、左薬指、そして右足小指が奪われ、そして今日で右足の指全てが切り落とされた。
抵抗は無意味だった。

備えてきたつもりの全ての技術がねじ伏せられ、強化外骨格による優位性さえも無視した実力でハインリッヒは敗北した。
フサ・エクスプローラーという男は圧倒的な実力差でハインリッヒを押し倒し、強化外骨格を無力化、そして獣の毛皮を剥ぐように奪い去った。
傷口はハインリッヒが作り出した極低温の産物で無理矢理に止血された。
こちらが目的を達したとしても、受けた傷と屈辱が癒えるわけではない。

从;゚∀从「くそっ……くそっ……!!」

凌辱されるよりも耐えがたい屈辱。
無力感の中で奪われるという経験は、彼女の中で克服すべき事柄であると何度も言い聞かせ、セラピーも行った。
だが克服は出来なかった。
圧倒的な力量の差は、何よりも心を折り、彼女の心を凌辱した。

思い返したところで自分にできることなど何一つなかったと、そう思わせるほどの差。
疑念の余地を抱かせない程の差は、彼女の全てを否定した。
わざと逃がされたハインリッヒはニョルロックへと避難する途中の街へ立ち寄り、内藤財団の息のかかった病院に運び込まれていた。
足の指は失われたままだったが、傷口を凍結させて止血が施されていた為、欠損以外に肉体的な問題はなかった。

止血を施したのはハインリッヒではなく、彼女を害した人間が行った物だった。

从;゚∀从「あの野郎、あの野郎……!!」

814名無しさん:2021/05/24(月) 20:17:31 ID:ABQkjzkI0
包帯で巻かれた足を押さえながら、ハインリッヒは苦虫を潰したような顔を浮かべる。

从;゚∀从「くそぉっ……」

どれだけ強く恨んだとしても、己の力でどうしようもないことがよく分かっているだけに、想いは何度も同じ場所で回り続ける。
彼女が初めてティンバーランドの一員として行った仕事が、今もこうして引きずっているのだ。
引き受けた仕事は簡単だった。
誘拐と脅迫。

そして仕事の結果、ハインリッヒは失い続ける人生が始まった。
トラウマとして植え付けられ、一生消えることのない腫瘍のように彼女は苛まれ続ける。

ξ゚⊿゚)ξ「同志ハインリッヒ、災難でしたね」

病室に現れた西川・ツンディエレ・ホライゾンからの声も、今のハインリッヒには皮肉にしか聞こえない。
足を撃たれた彼女も同じ病院に運び込まれており、程度の差はあれど、境遇は同じだった。
何度戦いを想定し、殺しを経験しても、フサ・エクスプローラーに勝てる未来が見えない。
そうである以上、ハインリッヒは奪われ続けるしかないことを、今一度思い知らされたのである。

だが、戦闘力を見込まれたハインリッヒと組織の重鎮であるツンディエレでは役割が違う。
今は己の無事さえも憎かった。
生存してしまったという屈辱。
そして、生存させられたという現実。

何度思い返したところで、ハインリッヒの気持ちが落ち着くわけではない。
彼女自身が克服すべき問題であり、それは、七年前から今も変わらずに続いていることだった。

从;゚∀从「……」

睨みつけるようにしてツンディエレを見たハインリッヒの態度は、決して褒められたものではない。
しかし彼女はその非礼を気にした様子もなく、ハインリッヒの元に歩み寄り、ベッドに腰かけた。
その仕草は足を撃たれたとはとても思わせない、優雅さと気品に満ちていた。

ξ゚⊿゚)ξ「貴女のおかげでまた一歩、我々の夢に向けて進みました。
      あと少しです。
      貴女の犠牲は決して無駄にはなりません。
      その痛みがやがて世界を変えるのです」

まるで駄々をこねる子供をあやすような優しい言葉が紡ぎ出され、ハインリッヒは途端に毒気を抜かれた。
果たして彼女の言葉が本心か否かは分からないが、一つだけ断言できることがある。
世界を変えるという気持ちにおいて、同じ志を持つハインリッヒ以上に彼女はその夢に執着しているという点だ。
今回の一件がその夢にどこまでの影響を及ぼすのかは彼女には分かりかねたが、少なくとも、ツンディエレの言葉の重みは理解できた。

从;゚∀从「是非……そうしてください……同志ツンディエレ……」

ξ゚⊿゚)ξ「朗報です。
      セントラスとヴィンスに我々の根が入り込みました。
      これでヨルロッパ地方の攻略が容易になりました」

从;゚∀从「それは……本当ですか?」

815名無しさん:2021/05/24(月) 20:17:55 ID:ABQkjzkI0
確かに、ハインリッヒは手応えを感じていた。
彼女が行ったのは極めて原始的な陽動だったが、現場に居合わせた人間のおかげで事態の収束よりも拡大が勝ったのである。
船乗りたちの発言力を奪い、内輪で争うための火種を用意した。
小さな火はすぐさま燃え広がり、ハインリッヒたちの行動によって拡大し、大きな傷を街に残すことに成功した。

危惧していたのはその炎がどこまで引火し、どのような結果を導くかだった。
作戦半ばで退場することになったハインリッヒには、ヴィンスの市長たちが愚かであることを願うしかなかった。
その願いが叶ったのだとしたら、彼女の努力に意味が生まれる。

ξ゚⊿゚)ξ「えぇ、事実です。
      特にヴィンスでの働きがなければ、あの街での歩みは成功しなかった。
      私の期待以上の働きです」

その瞬間、ハインリッヒの目から涙があふれ出した。
先ほどまでの悔しさと痛みによる涙ではなく、感動故の涙だった。
失った体の部位など一瞬にしてどうでもよくなり、全てが報われた心地だった。

从 ;∀从「よ……よかった……」

ξ゚⊿゚)ξ「さぁ、夕食にしましょう。
     私は赤ワインとステーキを夕食にいただこうと思っているのですが、一緒にどうですか、同志ハインリッヒ?」

涙をぬぐい、赤らんだ顔でハインリッヒは首肯しながら言った。

从 ゚∀从「はい、喜んで。
      同志ツンディエレ」

例え奪われる日々が続くとしても、彼女の命が続く限り、彼女は走り続ける。
幸いなことに、自分がすぐに殺されないことは良く分かっていた。
彼女が激怒させたフサ・エクスプローラーとは、そういう男なのだ。

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816名無しさん:2021/05/24(月) 20:18:22 ID:ABQkjzkI0
同日 PM06:23

荒野に張ったタープの下で、ヒート・オロラ・レッドウィングとブーンは夕食の準備を始めていた。
ヴィンスで買った鮮魚を使った一品料理と、トマトのスープをブーンが用意する間にヒートはテントの設営を終え、彼の手伝いをしていた。
ディはデレシアの呼びかけに応じて走り去り、二人はしりとりをしながら準備を進め、デレシアの帰りを待っている。
食べ物の名前だけという制限を設けたしりとりは、二人の語彙力の違いを程よく埋め合わせていた。

ノパ⊿゚)「バジル」

(∪´ω`)「る、る…… ルッコラ」

焚火に薪をくべ、ヒートは少し考えを巡らせる。
木が爆ぜる音が静かに二人の間に流れる。
ややあって、ヒートは口を開いた。

ノパ⊿゚)「ライチ」

(∪´ω`)「チャーシュー」

ブーンは生魚の切り身をレモン汁とオリーブオイルを混ぜた液に浸し、胡椒とちぎったバジルを散らす。
バーナーの上で煮立つ鍋にはコンソメとトマトソース、そして一口大の白身魚が入っている。
刃物を使う作業はヒートが手を貸しつつ、出来る限りブーンに体験させようと試みたため、魚の大きさは均一ではない。
それでも、彼の腕は格段に上達していた。

焦げ付かないよう、ブーンは時折鍋の中をかき混ぜた。

ノパ⊿゚)「ゆ、ゆ、かぁ…… ゆず」

(∪´ω`)「ズッキーニ」

ノパ⊿゚)「ニンニク」

ヒートはナイフで細く刻んだニンニクをオリーブオイルと少量の塩でさっと炒め、それを鍋の中に入れた。
ニンニクの香ばしい匂いが食欲を刺激する。
フライパンに残ったオイルとニンニクをちぎったパンで拭い取り、ブーンの口元に差し出した。
ブーンはヒートの手からパンを食べ、幸せそうに頬を緩めた。

(∪´ω`)「く、クルミ」

ノパ⊿゚)「ミルクイ」

(∪´ω`)「いか」

ノパ⊿゚)「貝柱」

ヴィンスの市場で魚介類を見て回った影響からか、海産物が続いた。
実際に市場で試食をしながら現物を見たこともあって、ブーンの記憶にしっかりと残されているのだろう。
特にブーンが気に入っていたのが、噛み応えのあるイカの干物だった。
料理に使う際には酒などに浸して柔らかくするのだが、彼はそれをそのまま美味しそうに食い千切り、咀嚼するのだ。

817名無しさん:2021/05/24(月) 20:19:10 ID:ABQkjzkI0
(∪´ω`)「ら、ラード」

その名前がブーンの口から出た瞬間、ヒートは信じられないものを見るような目で彼を見た。

ノハ;゚⊿゚)「……ブーン、ラード食べるのか?」

ヒートの常識の中では、ラードは食材というよりも調味料の分類だった。
ブーンは不思議そうに小首を傾げてみせる。

(∪´ω`)「お、食べ物じゃないんですかお?」

ノハ;゚⊿゚)「まぁ、好きな奴はいるかもしれないな、世界は広いから」

(∪´ω`)「前に、ディが教えてくれたんですお。
      ラーメンの上にラードを乗っけて食べる習慣が、えーっと、ホールバイトの方にあるって」

ノハ;゚⊿゚)「食うのか、油を……!!」

(∪´ω`)「ラードって、油なんですかお?」

ノパ⊿゚)「豚の油のことだよ。
    ほら、豚肉を焼くと油が凄い出て、白く固まってるだろ?
    あれだ」

彼らが野営で食事を作る際、豚バラを使った料理をすることが多々あった。
夏場でも夜になれば気温が下がるため、鍋に残った油が白く固まることがよくある。
それを次の料理に使うことはあったが、直接食べることはなかった。

:;(∪;´ω`);:「あれをた、食べるんですかお……?」

ノハ;゚⊿゚)「デレシアとディが帰ってきたら訊いてみような」

その後、二人は夕日が沈み、星空が頭上に広がるのを眺めた。
デレシアとディの帰りを、紅茶を飲みつつ待つことにしたがその前に、招かれざる客が現れた。

(∪´ω`)「……知らない人の匂いがしますお」

ノパ⊿゚)「そうだな、嫌な気配がするな。
     ブーン、火の番を任せていいか?」

(∪´ω`)「はいですお」

ノパー゚)「丁度いいリハビリになるかもな。
     何かあったら呼ぶんだぞ」

上着を脱ぎ、代わりにローブを身にまとう。
ローブの下で両手は慣れた手つきで腋に提げたホルスターからベレッタを抜き、安全装置を解除していた。
ヒートはキャンプ地から離れた場所に訪問者を誘導するため、あえて無防備を装って荒野を歩き出す。
それから少しして、彼女の予想を裏切ることなく闇の中から二つの人影が正面から現れた。

818名無しさん:2021/05/24(月) 20:20:13 ID:ABQkjzkI0
皮のコートを着た男たちは人の良さそうな口調と表情で話しかけてきたが、隠し切れない悪意は、依然として放たれ続けている。

|゚レ_゚*州「よぅ、そこでキャンプしてるんだろ?
     俺たちも一緒にいいか?」

ノパ⊿゚)「いや、遠慮してくれ」

逆光でヒートの表情が見えていないのか、男は話を続けた。
仮に表情が見えていたのであれば、暴勇か無謀のどちらかだ。

( 0"ゞ0)「はははっ!! はっきり言うじゃねぇか!!
      そうつれない事言わないでよ、俺たちと楽しもうぜ。
      酒ならあるんだ、とびっきり上等なのがさ」

ノパ⊿゚)「お前らがいると楽しめねぇんだよ」

( 0"ゞ0)「そう言わずにさ、ちょっとお話しようぜ。
      同じ旅人だろ?」

ノパ⊿゚)「旅してるんなら、どうして乗り物がどこにもねぇんだ?
    歩いてきた、ってわけじゃねぇだろ。
    その割にはソールが減ってねぇ」

|゚レ_゚*州「ひゅー、まるで名探偵だな。
     ……俺たちもよ、無理矢理ってのは好きじゃねぇんだ。
     どうせならお互いその方がいいだろ?」

( 0"ゞ0)「ガキは俺が可愛がっておいてやるからよ」

下卑た言葉と悪意がヒートに投げかける。
その口調と手慣れた動きは、彼らがこれまでに同じことを何度も繰り返し、成功させてきたことを物語っている。

ノパ⊿゚)「あの子の教育に悪そうだから心から遠慮するよ。
    失せな、今すぐ」

|゚レ_゚*州「そんなこと言っちゃ――」

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819名無しさん:2021/05/24(月) 20:20:42 ID:ABQkjzkI0
ヒートの右手が一閃し、男は喉を押さえてその場に膝を突いた。
右手のベレッタM93Rの銃剣が男の喉を切り裂き、酸素の補給を奪ったのである。
呆然とするもう一人の男が武器を取り出す間もなく、左手のベレッタの銃剣が喉を切り裂いた。
血が噴き出すが、その鮮血を浴びない位置にヒートは移動を完了させている。

ノパ⊿゚)「流石にちっと遅くなったな」

銃剣についた血を振り払い、瀕死の男のジャケットで拭い取った。

ノパ⊿゚)「相手を間違えたな」

それだけ言って、ヒートはブーンの所に戻った。
焚火を眺めていたブーンはヒートが近づいてくるのに気づくと、嬉しそうに笑みを浮かべて彼女を出迎えた。

(∪´ω`)「お帰りなさいですお」

ノパー゚)「あぁ、ただいま」

(∪´ω`)「けがとか、してないですかお?」

ノパー゚)「大丈夫、万事問題なしさ」

そう言った直後、遠くの方で爆発音が響いた。
更に銃声が響き、二人は反射的に音の方を見る。
それがデレシアによるものなのか、それとも別の人間が原因なのかは分からない。

ノパ⊿゚)「……」

(∪´ω`)「おー、デレシアさんの銃の音はしないですお」

ノパ⊿゚)「じゃあ違うか。
     しかし、この辺りは割と物騒だな」

地方の特性もあるのだろうが、場所柄がそうなのだろう。
荒野は野盗にとって絶好の狩場だ。
見晴らしのよさ、隠れ場の多さ。
拠点を設ければ後は狩りをするかのように獲物を待ち伏せ、機会を見て襲うことが出来る。

今回ヒートたちを襲おうとした人間も、恐らくはどこかに待ち伏せ用の拠点を設けていたのだろう。
旅人を襲うよりも輸送団を襲ったほうが儲けはいいだろうが、最近の輸送業者は武装と装備を充実させているために、それが難しくなったのかもしれない。
今しがたヒートたちの耳に届いた爆発音と銃声も、輸送業者と野盗の争いである可能性は十分に高い。

(∪´ω`)「おー。 あっ、ディの音がしますお」

ノパー゚)「そりゃよかった。
    飯も準備できてるし、丁度いいタイミングだな」

820名無しさん:2021/05/24(月) 20:21:23 ID:ABQkjzkI0
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                           |:ム          /イ
ヽ{ ===三三三ニ===-             |ニム        /   同日
\'.                          |三ム     /   同時刻
  '==三三三ニ===-       __  ノニア'’    /
   '.                 ∠三三ヲニ/       /
   ∧                  `¨´         / 
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海沿いを走っていたトラギコたちの一団が二度目の襲撃を受けた時、彼らの状況は良い物とは言い難かった。
対車両用の地雷を探知して停車したところ、RPG-7が先頭車に撃ち込まれた。
前輪が破壊され、身動きが取れない中、周囲の暗がりから武装した男たちが姿を現し、たちまち取り囲まれた。
それはトラギコとオサムが飛び出すよりも早く、そして統率された動きだった。

運転席に向けて躊躇いなく銃撃が行われたが、防弾ガラスのおかげで無事に済んだ。
しかし、身動きは完全に封じ込まれていた。

(=゚д゚)「ちっ、面倒ラギね」

( ゙゚_ゞ゚)「プロだな。 数も武装も、さっきのとは違うぞ」

从;´_ゝ从「やべぇな……」

流石のポットラックも、冷や汗を流している。
統率の取れた相手は厄介だが、それ以上に厄介なのは武装の充実だ。
海辺の荒野という環境下でも確実に動作するAK47の改修型であるAKMを持っていた。
資金が豊富にあり、尚且つ、それを装備の充実に使う発想は、優秀な指揮者がいる証だ。

(=゚д゚)「まぁどうにかするしかないラギ。
    ライフル借りるラギよ」

それぞれのトラックには万一に備え、ショットガンとライフルが積まれていることを聞いていたトラギコは、一切の躊躇なくそれを使うことにした。
緊急事態に巻き込まれることに慣れていない人間は、例え緊急事態だとしても、己の矜持を優先してしまう傾向がある。
例えば他者に頼るべき時に頼らなかったり、緊急時にのみ使用が許可されている武器の使用を躊躇ったりするのも、よくある話なのだ。
床下の空間から取り出したライフルケースには、一挺のライフルと拳銃、そしてその予備弾倉が二つずつ収まっていた。

(=゚д゚)「H&KのG36CとUSPラギか。
    おっ、しかも暗視装置もついてるラギね」

( ゙゚_ゞ゚)「いい銃使ってるんだな」

821名無しさん:2021/05/24(月) 20:21:53 ID:ABQkjzkI0
トラギコはオサムにG36Cを手渡し、自分はUSPを手に取った。
自分の持つM8000との互換性はないが、ないよりかは遥かにいいと考えたのだ。
オサムは自分の銃を持ち歩いておらず、ヴィンスで手に入れたライフルは既に弾を使い果たしていた。
殺し屋というだけあり、彼は武器の扱いに長けていた。

トラギコはライフルの扱いにはオサムほど長けておらず、どちらかと言えば拳銃の方が性に合っていた。

从´_ゝ从「イルトリアからの支給品だよ。
      どうにか出来るのか、この状況」

(=゚д゚)「するしかないラギよ。
    で、トラックから外に出る手段を教えてほしいラギ」

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                  ゝ   ム==、iiliヾ^ |:::::::::|! |
              ∨ ノ-.、///Y ^ヽ.|:::::::::|! i
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                 气  `¨′    ヾ|!   .
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               rf 、 \          /
                 {                   /
               ∨                 f
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                     \          ∧
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                   |   \         \
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二人はほぼ同時に弾倉を入れ、遊底を引いて初弾を薬室に送り込む。
無線機を通じ、ポットラックの仲間たちの間で決して扉を開かないようにと念押しがされる。

( ゙゚_ゞ゚)「あるんだろ、出る方法」

822名無しさん:2021/05/24(月) 20:22:18 ID:ABQkjzkI0
从´_ゝ从「……あんたらだけが頼りだから、この際出し惜しみは出来ないな。
     後ろの床だ。
     そこから外に出られる」

(=゚д゚)「おっしゃ。
    ほれ、これを持ってるラギ」

装填を終えたUSPをデコッキングし、ポットラックに手渡す。

从´_ゝ从「お?」

(=゚д゚)「万が一の時、自分の身は自分で守らなきゃならねぇラギ。
    俺には俺の銃があるラギ。
    ……おい、行くラギよ」

( ゙゚_ゞ゚)「さて、死なない程度に頑張るか」

オサムが先に顔を床の下に出して安全を確認し、それから音もなく車外に出た。
その後に続き、トラギコがアタッシェケースを持って外に出る。
二人は無言のまま、どのようにこの状況を打破するかを考え、相手の規模と位置を探ることにした。
既に車内から大まかな位置と人数は把握しており、死角にいる人間の把握が急務だった。

人数は二十人弱。
各車両の前後に一人ずつ配備され、数人が周囲を哨戒している。
二人の車輌は先頭から三番目に位置している。
互いに逆の方向を見て、哨戒している人数を数え、無言で伝え合う。

最低でも五人はいることが分かり、最初に仕留めるべき人間の選出を行うことにした。
車輌の後方に立つ男に目をつけ、オサムが始末をすることになった。
コンテナの下を静かに這い、動きを止める。
残り2メートルもない距離にまで接近し得たのは、彼の技量の高さを物語っていた。

だがそこまでだ。
これ以上進めば姿を晒すことになり、オサムの存在が露呈することになる。

( ゙゚_ゞ゚)

トラギコの小さな危惧を感じ取ったのか、あるいは、挑発する目的なのか、彼はトラギコを見て挑戦的な笑みを浮かべた。
そして、一瞬の内にオサムが動いた。
飛び出すと同時に抱き着くようにして男の腰から拳銃を奪い取り、そのまま胴体に向けて発砲した。
発砲の度に男は口から血を吐き出し、体を震わせた。

一瞬の内に始まった異常事態に、すぐ近くにいた男がAKMで射撃を始めた。
だがオサムは抱えた男を盾にしたまま接近しつつ、拳銃を発砲。
顔を撃たれた男が倒れ、周囲の殺気がオサムに集中する。
オサムはすかさずライフルを構え、応戦を始めた。

823名無しさん:2021/05/24(月) 20:23:15 ID:ABQkjzkI0
好機はこの一瞬にかかっていると判断したトラギコも、コンテナの下から這い出て、オサムに向かう男たちを撃ち始める。
夜間ということもあって双方の銃弾は明後日の方向に飛び、当たる気配がない。
そしてオサムの銃撃に合わせてか、それまで周囲を明るく照らしていた照明の類が一気に消えた。
更に、月に雲がかかり、辺りが暗闇に包まれる。

相手が暗視装置でも持ち出さない限り、殺し合いの条件としては悪くない。
星明かりの下で響く怒号と銃声。
耳元を掠め飛ぶ銃弾の音。
発砲炎を頼りにトラギコは姿勢を低くして移動し、男を羽交い絞めにした。

声を出せないように首を強く締めたままコンテナの影に移動し、首の骨を折って殺した。
男の死体から防弾チョッキとAKMを奪い取り、戦闘に参加する。
少なくとも背中から撃たれることを避けるため、トラギコの移動はコンテナを中心としてのものだった。
AKMの命中精度は決して高いとは言えず、オサムの持つG36には暗視装置を兼ねた照準器が付いており、この状況では鬼に金棒といったところだ。

正確な射撃によって続々と死体が増える中、トラギコの関心は敵の装備にあった。
敵に指揮官がいるとしたら、保険として棺桶を持ち出している可能性が非常に高い。
その直感はすぐに当たった。

『そして願わくは、朽ち果て潰えたこの名も無き躰が、国家の礎とならん事を!!』

暗闇の中、ジョン・ドゥの起動コードが入力されたのを、トラギコははっきりと聞き取った。

(=゚д゚)『これが俺の転職だ』

静かにブリッツのコードを入力し、トラギコは高周波刀を肩に乗せるようにして構え、疾駆した。
ジョン・ドゥの起動には十秒ほどの時間がかかる。
声を聞いてトラギコが駆け寄る方が早い。
岩陰に浮かぶ直線的な影を見て、トラギコは短く息を吐いて腹筋に力を込めた。

コンテナが開き、中からジョン・ドゥが姿を現す。
高周波刀のスイッチを入れ、トラギコは一気にそれを振り下ろす。

〔Ⅲ゚[::|::] 〕『なめた真似しやがっ――』

824名無しさん:2021/05/24(月) 20:23:39 ID:ABQkjzkI0
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                            |  |ii| |
                           !  |il| i
                          | i | !
                      i   .i |  |i | i
                   {i    |   :| ii  i :|
                   i :  | i  |:i:   |
                   :i   | i   i:|    i! :
                    i  .| i  :i |    |: i|      /
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                            |i  `
                            |
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(=゚д゚)「……って!!」

甲高い悲鳴のような音が高周波刀とジョン・ドゥの間で響く。
ヘルメットを切り裂き、その下にある人間の頭部を両断した。
男は立ったまま即死し、ジョン・ドゥはその場で動きを止めた。
月にかかっていた雲が風に流れ、輸送団を照らす。

(=゚д゚)「後二人ラギね」

その二人もオサムの射撃ですぐに倒れ、銃声が止んだ。

825名無しさん:2021/05/24(月) 20:24:10 ID:ABQkjzkI0
( ゙゚_ゞ゚)「終わったぞ」

オサムはそう言って、鹵獲したAKMで死体の頭に一発ずつ銃弾を撃ち込み始めた。
まだ微かに息のあった野盗は何かを言う間もなく絶命し、死体を装っていた野盗は命乞いをしながら殺された。

(=゚д゚)「だといいラギね。
    さっさとこの場からずらかるラギ」

( ゙゚_ゞ゚)「とにかくタイヤの様子だな。
    とりあえず俺が周りを見ておくから、そっちは頼む」

(=゚д゚)「ちっ、仕方ねぇラギね」

先頭の車輌に向かい、被害を確認する。
タイヤは根元から吹き飛び、シャフトが破損していた。
運転席の扉を叩き、声をかける。

(=゚д゚)「シャフトが吹っ飛んでるラギ。
    どうするラギ?」

「仕方ねぇ、切り離そう。
なぁに、タイヤはまだあるから自走はできるし、牽引してもらうさ」

大型のコンテナを運ぶトラックには複数のタイヤが備わっており、一本が破損したとしても走行することが可能だ。
バランスが崩れ、場合によってはバーストする可能性もあるが、イルトリアまでの道であれば持つという算段なのだろう。
プロの意見がそうなのであれば、トラギコはそれに従うだけだ。

(=゚д゚)「分かったラギ」

「ただ、シャフトが吹っ飛んで事故にならないように調節したいんだが、出来るか?」

(=゚д゚)「切り落とすんならやるラギよ」

「それでいいや、頼む」

それからトラギコはシャフトを切り落とし、トラックの動きに問題がないかを確認する手伝いを始めた。
死体から武器と弾薬を回収していたオサムが戻ってくる頃には、車列の変更も済み、安全な経路の確認も完了していた。
トラックに乗り込まず、オサムはトラギコをコンテナの影に連れて行った。
何か内密の話があるのだと察し、トラギコは彼の言葉を待った。

( ゙゚_ゞ゚)「おい、一つ分かったぞ」

(=゚д゚)「何ラギ?」

( ゙゚_ゞ゚)「……こいつを見ろ」

そう言ってオサムがトラギコに見せたのは、トラギコが両断したジョン・ドゥのヘルメットだ。
両目についているはずのカメラの内、左目の物がケーブルを残して無くなっている。

(=゚д゚)「……どういうことラギ?」

826名無しさん:2021/05/24(月) 20:24:38 ID:ABQkjzkI0
( ゙゚_ゞ゚)「お前が斬るよりも早いか、それか同時にこいつは左目を撃たれたってことだ。
    それだけじゃない。
    俺の銃以外で撃ち殺された死体がいくつも転がってた。
    回り込んでどうにかしようとしてた連中も向こうの方に転がってたが、そもそも俺はそっちに行ってない」

確かに、たった二人であの人数を相手に生き延びたのはいささか話が上手すぎるとは思っていた。
特に、奇襲に際して控えさせているはずの後詰めが現れなかったのは奇妙とさえ思えた。
装備を充実させるだけの脳みそがありながら、極めて重要な部分を見落としているとは思えない。
別の誰かがトラギコらを陰ながら援護していたのであれば、この結果も納得が出来る。

(=゚д゚)「つまり、俺たち以外の誰かもこいつらを殺したって事ラギか?」

( ゙゚_ゞ゚)「棺桶の目玉を撃ち抜くバカげた技量があるやつに心当たりはあるか?
     他の死体の弾痕を見ても、大口径のライフルなのは間違いない」

少なくとも強化外骨格の装甲を撃ち抜けるだけの物が使われたのは間違いない。
通常のライフル弾ではカメラ部分を破壊することは出来ない。

(=゚д゚)「何人か心当たりはあるが、ここにいるとは思えないラギね。
    第一、手を貸される理由もないラギよ」

トラギコが真っ先に思い浮かべたのはデレシアだった。
だが彼女が手を貸すとは思えない。
手を貸しても利益がないだけでなく、彼女にとってオサムは数少ない殺し損なった証言者だ。
この場で殺されたほうが彼女にとってはメリットが大きい。

しかし、トラギコたちがまるで気づかない間に狙撃を行える人間が果たしてどれだけいるのだろうか。

( ゙゚_ゞ゚)「……このコンテナ、何を運んでるか少し気にしたほうがいいかもな」

(=゚д゚)「ポットラック達が中身を知るはずがないラギ。
    ラヴニカからイルトリアに運ぶってことは、よほどの物ラギ」

荷を運ぶ人間達の鉄則として、積み荷は決して覗き見てはならないというものがある。
それは信頼に通じる物であり、双方の命を守るための鉄則だ。

(=゚д゚)「……待てよ、もう一人心当たりが出てきたラギ」

( ゙゚_ゞ゚)「奇遇だな、多分俺も同じ奴の顔を思い浮かべてる。
     フサ・エクスプローラーだろ?」

(=゚д゚)「“戦争王”が自分の荷物を守るため、ってんなら分かるラギね。
    まぁいい、とにかくさっさとここから退散するラギよ」

827名無しさん:2021/05/24(月) 20:24:59 ID:ABQkjzkI0
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__,彡:. :. :. :./  ` ー /‐'' |:  乂ゞ-''/ |: / :. 从
 ⌒ァ:. :.{:/ハ           i   `¨/¨ノイヽ:. :. : \          同日
  / 7人' ∧        }     / / }:. :ト <⌒         同時刻
   / :イ 、 ',        '       / イ:.从
      |: ハ:ム    -   、    ' イ: /
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トラギコが野盗を撃退し、デレシアがヒートたちと合流した頃、その南側では別の事態が動き始めていた。
フートデンバーで列車を乗り換えたアサピー・ポストマンとニダー・スベヌはニョルロックに向かう列車の中で、夕食を終え、食後酒を飲んでいた。
スノー・ピアサーなどの高速列車とは比較にならない程の速度ではあったが、その代わりにコンパートメントの中ではゆったりとした時間が流れている。
予定では後三日後にはニョルロックに到着するとのことだ。

(-@∀@)「ぷはー!!」

高い度数の透明のアルコールを喉の奥に流し込み、アサピーは深い溜息を吐いた。
ジュスティアからフートデンバー、そして今度はニョルロックを目指しての旅は一切の休憩がなく、ようやく一息つけた実感が彼の全身をアルコールと共に駆け巡る。
ブドウから作られた食後酒と共にアサピーはマスカットを食し、それまで食べていた濃い味付けの料理の存在を口の中から消し去る。

(-@∀@)「美味しいですね、このお酒」

小さなグラスは一口で空になり、アサピーは追加で酒をそこに注ぎ足す。
揺れる列車の中でも彼は器用にグラスのギリギリまで注ぎ、零れない内に飲み干し、すかさず皿に盛られたマスカットを食べた。

<ヽ`∀´>「そうニダね」

一方のニダーは少量の酒と共にマスカットを口に含み、咀嚼し、酒と果物の組み合わせを味わった。
瑞々しいマスカットは皮を食べられるだけでなく、種も入っていない種類のため、そのまま飲み込むことが出来た。
同じ酒と果物を前にしても、双方の摂取の方法はまるで逆だった。

<ヽ`∀´>「アサピーはニョルロックに行ったことないニダか?」

(-@∀@)「話は聞いたことはあるんですが、機会がなかったもので」

経済都市ニョルロック。
内藤財団の所有する街であるとともに、世界経済の中枢でもある。
ラヴニカが製造によって経済を変えているのに対し、ニョルロックは企業同士のやり取りによって経済を変えている。
ラヴニカで復元、あるいは開発された品が商品として世界に流通するためにはニョルロックを経由することになる。

むしろ、世界中に売りさばかれる品でニョルロックに関わらない品は存在しない。
ジュスティア警察で支給されている武器や制服でさえも、ニョルロックを拠点にする企業を経由しているのである。
ニョルロックなしに経済を語ることは出来ない。

828名無しさん:2021/05/24(月) 20:25:50 ID:ABQkjzkI0
<ヽ`∀´>「だったら結構楽しめると思うニダよ。
      カメラの新作なんかも、どこよりも早く店に並ぶニダ」

(-@∀@)「なるほどですね。
      でも、僕は支給してもらったカメラで十分ですよ。
      むしろ十分すぎるぐらいです」

<ヽ`∀´>「レンズもあるニダよ」

(-@∀@)「……レンズ、ですか」

<ヽ`∀´>「今支給されてるのはどんなレンズニダ?」

(-@∀@)「望遠のやつと、普通のやつですね。
      あ、普通って言っても近距離も遠距離もいけるやつですよ」

<ヽ`∀´>「広角レンズとか欲しくないニダ?」

(-@∀@)「そ、そりゃあ欲しいですが」

<ヽ`∀´>「フィルターとか色々あるニダよ」

(;-@∀@)「ほ、欲しいですけど……」

困惑するアサピーを見て、ニダーは笑みを浮かべた。
グラスを口に付け、小さく喉を鳴らす。

<ヽ`∀´>「はははっ、大丈夫ニダよ。
      経費は結構もらってるから、カメラの部品も買っていいニダ。
      本当はラヴニカで買いたいけど、ニョルロックに卸されたほうが安くて済むニダ」

(-@∀@)「そ、そういうことなんですね」

<ヽ`∀´>「まぁ、せっかくの旅だから楽しんでいくニダ」

確かに旅ではあるが、確実に裏のある旅だった。
ニョルロックに向かうことをジュスティア市長、フォックス・ジャラン・スリウァヤに直接言い渡されたが、アサピーはその詳細を聞いていなかった。
恐らくニダーは聞いているのだろうが、詳細の分からない旅というよりも、目的を知らされない行軍に近い物がある。
これからの旅について思いを巡らせたとき、扉の外側から声が聞こえてきた。

「……まいったな、どうする?」

「乗客リストにはあるが、だが……」

<ヽ`∀´>「……ちょっと外を見てくるニダ」

気付いたのはニダーも同様だったが、行動は彼の方が早かった。
彼は言葉とほぼ同時に扉を開いていた。
流石はジュスティア警察の人間だ。

829名無しさん:2021/05/24(月) 20:26:11 ID:ABQkjzkI0
<ヽ`∀´>「どうしたニダ?」

乗務員の青い制服を着た男が二人、コンパートメントの前で困り顔をしていた。

「あ、いえ……」

何事もない、と言おうとした乗務員よりも先に口を開く人間がいた。

「うえーん!!」

大きな鳴き声を上げる少女を見て、ニダーは目を丸くした。
まるでそれまで堰き止められていた涙が一気に流れ出たように、泣き声と共に車輌中に響き渡る。

<ヽ`∀´>「……子供?」

「あぁ、いえ、お気になさらず」

<ヽ`∀´>「子供が泣いていたら気になるのが大人ニダ。
      何か手助けできるかもしれないならなおさらニダよ」

ニダーは懐から警察の身分証を取り出し、乗務員に見せた。
それはある意味、世界中で通用する一つの信頼の形をしており、列車に関わる人間であれば、知らないはずがない。
観念したかのように乗務員は溜息を吐いた。
それから吐き出すようにして、現状を語り始めた。

「乗車券もあるし、乗員名簿にもあるんですが、実は同行者がいないってことが分かりまして。
この手紙が枕元にあって、それを読んでからこんな状態でしてね……」

手紙を受け取り、それに目を通す。

<ヽ`∀´>「“一人でニョルロックに行け。 俺は後から行く”、か。
      ……ふむ、これだけで判断するに、一人で旅行を出来るか試したかったニダね」

「ただねぇ、どうやらこの子が寝ている間に列車に乗せたみたいなんですよ」

830名無しさん:2021/05/24(月) 20:26:40 ID:ABQkjzkI0
<ヽ`∀´>「そりゃ、ちょっと乱暴ニダね。
     ウリはニダー・スベヌっていうニダ。
     ジュスティア警察の人間だから、怖がらなくていいニダよ。
     お嬢さん、お名前を教えてもらえるニダか?」






すると、少女が嗚咽しながら言葉を発した。






l从;∀;ノ!リ人「イモジャ、イモジャ・スコッチグレインなのじゃ……」






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Ammo→Re!!のようです
Ammo for Remnant!!編

第九章【remnant of hatred-憎しみの断片-】 了

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831名無しさん:2021/05/24(月) 20:27:21 ID:ABQkjzkI0
これにて今回の投下はお終いです
次回でRemnant編は終わりになる予定です

質問、指摘、感想などあれば幸いです

832名無しさん:2021/05/24(月) 20:36:32 ID:YSAWbIcE0
乙乙乙

833名無しさん:2021/05/24(月) 22:37:46 ID:DV16/bT.0
>>830
生きてやがったのかイモジャ

834名無しさん:2021/05/25(火) 17:34:01 ID:opOTdkQM0
フサギコついに来たか…!
融解された娘はどうなったんだろう…

835名無しさん:2021/05/25(火) 17:37:45 ID:opOTdkQM0
融解じゃねえ誘拐だ…展開的に冗談にもならないぜ

836名無しさん:2021/05/25(火) 18:48:51 ID:HmW/GSO60
>>833
口が悪くなってたわ
生きていたのかの間違い

837名無しさん:2021/05/25(火) 19:09:22 ID:yY2wLM0s0
>>834
既に本編に登場して、デレシア一行とも接触しておりますよ!
詳しくは↓
http://ammore.blog.fc2.com/blog-entry-16.html

838名無しさん:2021/05/25(火) 20:48:51 ID:HmW/GSO60
>>837
マジかよ!
彼女がフサの娘で彼に助けられてたのか!

839名無しさん:2021/05/25(火) 22:53:14 ID:YU4o6ySI0
おつ!
やっぱフサはミセリが原因でぶっちぎれてるのかな
この上なくかっこいい登場だったわ
そして妹者は無事でいて…

840名無しさん:2021/05/25(火) 23:05:11 ID:p5YDHCYs0
トラギコが途中転職してワロタ

841名無しさん:2021/05/29(土) 00:00:38 ID:10mbvwp.0
>>840の意味最初分かんなかったけど、>>823の(=゚д゚)『これが俺の転職だ』って事指してんのに気が付いて草生え散らかした


あと>>807の挟撃における突破.は、の"."は誤字かな?

842名無しさん:2021/05/29(土) 06:23:17 ID:K7QnGV.c0
>>841
ホットペッパーのCMになってるwww


まとめの方でご指摘いただいた2点修正いたしました、ありがとうございます

843名無しさん:2021/05/29(土) 08:06:29 ID:cTmN8Q1c0
>>841
転職そういうことか!
笑ったわ
お巡りさんから何に転職したのか!

844名無しさん:2021/06/23(水) 12:35:53 ID:Ci7c4zIA0
>>799
>追いかけたいという気持ちもあるが、それ以上に、トラギコはこの街でティンカーベルが起こした火がどのような結果を導くのかが気になっていた。
これってティンカーベルじゃなくてティンバーランド?

845名無しさん:2021/06/23(水) 19:23:02 ID:DZ/mcXA.0
>>844
とんだとばっちりやん!!

ティンバーランドの誤字です!!
もう

846名無しさん:2021/06/26(土) 20:33:08 ID:T0q9FfQo0
明日VIPで皆さんにお会いできるように頑張ります

847名無しさん:2021/06/27(日) 19:44:45 ID:RibqLfAc0
間に合ったのでVIPで投下しています

Ammo→Re!!のようですζ(゚ー゚*ζ
https://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1624790612/

848名無しさん:2021/06/28(月) 18:43:53 ID:GrGR9ifo0
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あらゆる断片は、必ず他の断片と結びつけることが出来る。
人も、想いも。
まるで磁石のように惹かれ合い、結びつき、形を成すのである。

                        ―――エブリン・イワゴン著【因果と収束】より抜粋

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September 16th AM07:39

昏睡状態から覚めたその男は数秒の間虚空を見つめたかと思うと、絶叫した。
怒号。
悲鳴。
怨嗟と悲哀の込められた憤怒の叫び声は、カントリーデンバー唯一の病院中の窓を震わせ、眠っていた患者を叩き起こした。

( ;_ゝ;)「ああああああああああああああああああ!!」

両手と片足を失い、更には片耳を失ったアニー・スコッチグレインは文字通り発狂していた。
自由の効かない体を必死に動かし、起き上がろうとするも、激痛とカテーテルが彼の動きを制限する。
男の看護師が押さえつけ、その間に彼の腕に鎮静剤が注射される。

( ;_ゝ;)「おおっ……おああっ……!!」

看護師たちが不安そうな目で見守る中、彼の運ばれた病室に現れた訪問者が涼しい顔で言った。

「後は私が見るから、皆さんは仕事に戻ってください」

狂乱していたアニーの背筋が凍った。
その声の主は非情な精神の持ち主であり、同時に、組織の中でも高位の立場にある人間だ。
看護師たちが部屋からいなくなり、扉が閉まったのを確認してから、キュート・ウルヴァリンは話を続けた。

o川*゚ー゚)o「災難だったな、同志アニー」

( ;_ゝ;)「ひっ……!!」

ティンバーランドには性質的に暗殺に長けた女性が多くいるが、その中でもキュートは別格だ。
声帯模写によって対象を油断させ、懐に入り込み、一瞬の間に音もなく即死させる技術は比類がない。
この場に現れたことによってアニーが想像したのは、組織にとっての足手まといを処分することだった。
彼女の手にかかれば確かに苦痛なく殺されることもあるかもしれないが、逆に、相手を即死させない際の場所で痛めつけることも可能だということだ。

o川*゚ー゚)o「そう怯えないでほしいな。
       せっかくジュスティアからこっちに来たのにその反応は流石に傷つく」

( ;_ゝ;)「な、何の用ですか?」

849名無しさん:2021/06/28(月) 18:46:35 ID:GrGR9ifo0
o川*゚ー゚)o「定期報告が途絶えたから、と言っても信じないだろうね。
       ……酷い目にあったな」

声色は優しげだった。
目も優しげだった。
だが、目の奥には微塵も優しさはなかった。

o川*゚-゚)o「どこの誰だ、こんなことをしたのは」

( ;_ゝ;)「ギコです……」

まともに機能しない喉を使って、アニーはその仇の名前を口にした。

o川*゚-゚)o「ギコ・ブローガン、いや、ギコ・カスケードレンジか……
       なるほど、魔女の置き土産というわけか」

( ;_ゝ;)「オットーは、オットーは……?」

o川*゚-゚)o「……残念だが、同志オットーは死んだ。
       我々の方で葬儀を執り行った。
       妹さん、イモジャさんだったな。
       彼女に関する情報は何もない」

( ;_ゝ;)「ううっ……」

o川*゚-゚)o「言い換えれば、まだ殺されていない可能性があるということだ。
       ギコという男は、ああ見えて甘い人間だからな。
       奴がイルトリア軍を抜けた理由は子供が絡んでいる。
       お前がそうやって悲嘆にくれるのを、奴は狙っているだけだろうな」

それが気休めの言葉でないことは、アニーにはすぐに分かった。
このキュートという女は、気休めの為にこれだけ言葉を並べるような性格をしていない。
彼女は組織の目的達成のためには非情であり続けるだけの覚悟と素質があり、例え同じ志を持つ仲間であっても、合理的でないと判断すれば容赦はしない。

o川*゚-゚)o「我々の歩みは、我々の覚悟そのものだ。
       家族を失った痛みを持つ同志は大勢いる。
       お前だけが特別なわけじゃない」

そう。
この言葉が、キュートの本音だ。
そして、アニーが思い出さなければならない言葉でもあった。
彼ら兄弟がティンバーランドに加わったのは、世界を変えるためだ。

暴力と不条理に満ちた世界のルールを変えるため、覚悟を決めて組織の一員となった。
オットーが死んだことは事実だ。
しかし、イモジャについてはまだ生きている可能性がある。
それだけでも彼はまだ救われていると言える。

組織の中には、ショボン・パドローネのように家族を全員失った人間もいる。
そうした思いをする人間がこの世界からいなくなる為にこそ、彼らは命を懸けているのだと、アニーは思い出した。

850名無しさん:2021/06/28(月) 18:48:01 ID:GrGR9ifo0
( う_ゝ;)「す、すみません……」

o川*゚-゚)o「別にお前を責めているわけじゃない。
       だが忘れるな、我々の歩みを」

涙を袖で拭い、アニーは赤らんだ目でキュートを見た。

( ´_ゝ`)「はい、我々の歩みは世界のため……
     世界が大樹となるために」

o川*゚ー゚)o「それでいい、同志アニー。
       そして朗報だ。
       間もなく我々の歩みが最終段階に移行する。
       セントラス、ヴィンスに我々の根が入り込んだ。

       残る障害はイルトリアとジュスティアだけだが、それは予定通りだ」

( ´_ゝ`)「もうそこまで来たのですか、我々の歩みは」

予定通りに“正義の歩み”が進むことで、彼らの念願が現実のものとなるのに必要な条件が揃っていく。
カントリーデンバーでアニーたちが行った実験も、そうした歩みの一つだった。
世界中の定められた街で彼らが実行する歩みは一見すれば関係性のないものに見えるが、その実、全てが根深い部分で繋がっている計画の一端なのだ。

o川*゚ー゚)o「そうだ。
       多くの犠牲の果てに、我々の悲願が形となる。
       世界は大きく変わる。
       力など、世界を動かすにはあまりに時代遅れだ。

       ひとまず、お前は私と一緒にストラットバームに来い。
       その後でニョルロックだ」

ティンバーランドが秘密裏に所有する孤立した地区、ストラットバーム。
それは“正義の歩み”が終わり、世界が変わる新たな歩みが始まる土地の名前。
世界再生の始まりとなる、ティンバーランドの拠点の名前である。

851名無しさん:2021/06/28(月) 18:48:42 ID:GrGR9ifo0
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                ≧s。._-‐=≦    /           同日 同時刻
                    ≧s。.___/
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ニョルロック行の列車内での朝食は、クラフト山脈を目前に停車した列車内でとることになった。
ニダー・スベヌとアサピー・ポストマンは焼かれたばかりのトーストにバターをたっぷりと塗り、齧り付いた。
トーストの表面の小さなかけらが皿の上に飛び散り、彼らの口の周りにバターが付くが、気にせずに食事が続けられる。
食堂車では控えめな音楽が流れ、食器が触れ合う音や、サラダにフォークが突き立てられる音、そして人々の談笑が混ざり合う。

<ヽ`∀´>「うん、やっぱりトーストは焼き立てなら大抵美味いニダね」

(-@∀@)「厚みがあって、こりゃいいトーストですね」

その二人の傍で、俯き加減でサラダを口に運ぶ少女がいた。

l从・∀・ノ!リ人「……」

イモジャ・スコッチグレインと名乗った少女は泣きはらした目をこすりながら、無言で食事を進める。
サラダとオレンジジュースのみという食事は、彼女の年齢から考えればあまりにもか細い物だった。

<ヽ`∀´>「むむ、このソーセージも美味いニダね」

(-@∀@)「皮がパリッとしていて、こりゃあビールが欲しくなりますね」

二人は彼女の異変に気付いており、また、事情を知らない関係ではなかった。
だからこそ二人はあえて触れず、彼女が自ら克服する機会を待っていた。
昨日、二人と共にニョルロックまでの道中を過ごすことに同意したイモジャだったが、心に負った傷は一夜明けただけでは埋まる物ではない。

(-@∀@)「確か食事は無制限なんですよね?」

<ヽ`∀´>「そうニダ。 好きなものを好きなだけ食べていいニダよ」

(-@∀@)ノ「すみませーん、ビールをジョッキで1つお願いします」

勢い良く手を上げ、アサピーは給仕係に注文をした。
離れた痛場所でそれを聞き咎めた給仕係は頷き、一分もしない内に並々と注がれたビールを持ってきた。

852名無しさん:2021/06/28(月) 18:49:35 ID:GrGR9ifo0
(-@∀@)「うえっへっへっへ」

アサピーはわざとらしく声を出し、ビールに口をつけた。
喉を鳴らして半分ほど飲み、ため込んだ鬱憤を吐き出すかのように、声を出した。

(-@∀@)「かはぁぁぁっぁ!!」

<ヽ`∀´>「朝から酒なんて、あんまり感心しないニダよ」

(-@∀@)「そうは言っても、連結作業が終わるまでは動けないんだし、いいじゃないですか」

フートデンバーからニョルロックに行くためには、クラフト山脈の最南端を通過することになる。
クラフト山脈の中でも標高が低く、天候も安定していることもあって通常の列車での通過が可能な数少ない道である。
しかし、そのためにはやはりトルクが必要になるため、二台の列車を連結してそれを確保しなければならない。
彼らは今、クラフト山脈を越えるために後続の列車と連結するのを待っている状態だった。

<ヽ`∀´>「子供が見ているニダ、ちょっとは遠慮するニダよ」

(-@∀@)「うーん、まぁ、頼んじゃったからいいじゃないですか!!」

ニダーが言い出したこととはいえ、アサピーは正直イモジャと共にニョルロックに向かうことに不安があった。
子供嫌いというわけではなかったが、子供と共に進むことに対してメリットが見出せないのだ。
巨大な組織の影を掴むためには危険な橋を渡らなければならない。
しかし、子供がいるだけでそれが困難になる状況はいくらでもある。

情が移ればそれだけ動きが鈍くなる。
そのため、アサピーは出来るだけこの少女に情を抱かないよう、あまり関心を向けないことに決めていた。
対して、ニダーはジュスティア人らしく彼女に対して誠意をもって対応している。
離れたコンパートメントにいる少女を起こしに行ったり、こうして食事に誘ったりと、彼女が孤独を感じないように努めていた。

これが“正義”を代弁する人間の在り方なのだと思うのと同時に、トラギコの生き方とは違った姿にアサピーは面白さを感じざるを得なかった。

<ヽ`∀´>=3「全く、しかたないニダね。
       おっ、そろそろ連結が始まるニダよ」

溜息を途中で切り上げたニダーが、車窓から列車の後方を見た。
釣られてアサピーも身を乗り出してその光景をファインダーに捉える。
それはアサピーたちの乗る列車と同じ形をしており、違いは正面に掲げられた数字だけだ。

(-@∀@)「同じ型なんですね」

<ヽ`∀´>「そうニダ。 この車輛はエライジャクレイグの中でもトルクのあるやつだから、山越えをするような時に使われるニダよ。
      その代わり速度は出ないニダ」

(-@∀@)「適材適所って奴ですね」

シャッターを切り、肉薄する車輌を連続してカメラに収める。

l从・∀・ノ!リ人「……カメラ」

853名無しさん:2021/06/28(月) 18:50:05 ID:GrGR9ifo0
(-@∀@)「そうですよ」

l从・∀・ノ!リ人「フィルムを巻かないで撮ってたのじゃ」

(-@∀@)「ふふふ、これはデータに写真を保存するカメラなんですよ。
      ほら、こうやって撮ったのが見返せるんです」

撮影したばかりの列車の写真をモニターに写し、イモジャに見せる。
コマ送りにして見せると、彼女の目が好奇の色に染まるのが見えた。

l从・∀・ノ!リ人「凄いのじゃ」

(-@∀@)「試しに撮ってみますか?
      フィルムじゃないから何度でも撮り直しが出来るんですよ」

『これより連結を行います。
連結に伴い衝撃が生じますので、お気を付けください』

アナウンスの通りに衝撃が車輌全体を揺らしたが、ジョッキのビールに小さな波が立つ程度だった。
改めてアサピーはカメラをイモジャに手渡し、使い方を簡単に教えた。

l从・∀・ノ!リ人「おおー、凄いのじゃ!!」
つ【::◎:】⊂

車窓越しに風景を撮り、車内を写真に収める。
アサピーとニダーも撮影され、イモジャは食べかけの食事も撮影した。
その姿はかつて自分がカメラを初めて手にした時のそれと同じであり、懐かしさを覚えた。

(-@∀@)「近くの物を取る時は、フォーカスを変えないと駄目ですよ」

l从・∀・ノ!リ人「フォーカス? どうやるのじゃ?」

(-@∀@)「それはですね、こうやって……」

そして手近な物を撮影し、次にイモジャは遠距離の物を撮影することに興味を抱き始めた。
望遠機能の使い方を教えた時、再びアナウンスが入った。

『これよりニョルロックに向け、クラフト山脈を通過いたします。
道中は車窓と外部に通じる扉を全てロックいたします。
お客様の安全と定刻通りの運行のため、ご理解の程お願いいたします』

食堂車で開いていた車窓が一斉に降り、鍵のかかる音がした。

l从・∀・ノ!リ人「おお、凄いのじゃ!!」

ゆっくりと列車が前進を始め、徐々に加速していく。
進行方向に見える白い山脈が近づき、イモジャはシャッターを切る。
大きなカーブに差し掛かった時、アサピーは何の気なしに話しかけた。

(-@∀@)「今なら後ろの車輌を撮影できますよ」

854名無しさん:2021/06/28(月) 18:50:31 ID:GrGR9ifo0
l从・∀・ノ!リ人「おおっ、本当なのじゃ!!」

車輌がカーブに沿って弧を描くことで、側面を見ることが出来るのだ。
夢中でシャッターを切り、次々と風景を切り取っていく。

l从・∀・ノ!リ人「撮ったのはどうやって見られるのじゃ?」

(-@∀@)「ここのボタンをこうして……こうやるんですよ」

ボタン操作をし、イモジャが連写した写真を見ていく。

(-@∀@)「で、ここをこうクルクルさせるとズームができるんです」

何気のない写真。
丁度、弓なりになった時に離れた車輌の側面が目視できるようになった時の一枚。
選んだ写真が拡大され、車窓の向こうにいる人間の顔が見えてきた。
そこにあったのは男の顔だった。

笑みを浮かべるわけでも、怒っているわけでもない、無表情の男。
だがその目は、ファインダー越しにでもこちらを睨みつけているのではないかと思わせるほどの迫力があった。
まるで刃のように鋭く、美しさすら覚える眼光だった。
思わず息を飲み、別の写真に切り替える。

(-@∀@)「……おっ、クラフト山脈が上手に撮れていますね」

l从・∀・ノ!リ人「やったのじゃ!!」

(-@∀@)「ニョルロックに着いたら3枚だけ、好きな写真を現像してあげますよ。
      なので、一旦いらない物は削除しましょう。
      そうしないとたくさん撮れないですからね」

二人で相談しながら写真を削除している間、ニダーの視線は車窓の向こう側に向けられていた。
視線の先に何があるのか、アサピーには分かりかねるが、どうしても先ほどの写真の男の顔が頭に浮かんでしまう。
まるで凶暴な獣に茂みから覗かれているのを見つけてしまったような、極めて不安な気持ちになる。

(,,゚Д゚)

アサピーの本能が男の写っている写真を削除させなかったのは、本能のどこかでその男と自分とに何かしらのつながりを見出したからなのだろう。
断片的な何かを――

855名無しさん:2021/06/28(月) 18:51:41 ID:GrGR9ifo0
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Ammo→Re!!のようです
Ammo for Remnant!!編

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  .`マ   ̄ f≧z    \:::ー、    {   .!   /::::::/: :     __,.. -=  ̄ ア
  ヾミ    乂zツ`''- 、 : :\::::',   〉  {   ./::/: : : _,,. -=弋z_ツ´   /
    ヾミ=--   _  \ミ、 ヾ .ノ、 __ ,乂__/: : : :/´  __   ..z彡
      `  ̄ ̄ ` : : : `ミ 、: : . `ヽ /´     /´ ̄ : : : :=-  ´
              ` : : : : : : :. } .Y     .: : : ´
                ヽ: : : : :          .: ;
                  `: : :       ,:
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第十章【Ammo for Remnant!!-断片の銃弾-】

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September 17th PM07:15

やや大きめに切ったニンニク、たっぷりのオリーブオイル、厚めのベーコンと少々の塩コショウ。
それを炒めるだけで食欲を増進させる香ばしい香りが立ち上る。

ノパー゚)「久しぶりにこれだけ長い間運転したけど、やっぱりディはすげぇな。
     全然疲れないよ」

ヒート・オロラ・レッドウィングはバーナーの上のフライパンをゆすって食材を混ぜ、ベーコンの表面がきつね色になるように火を通す。

ζ(゚ー゚*ζ「ふふっ、あの子は乗り手の癖に合わせてくれるからね。
      とっても賢くて優しいのよ」

デレシアは焚火の中からアルミホイルで包んだバゲットを取り出し、皿の上に乗せる。

(∪´ω`)「ディは何でもできるんですおね」

サラダ用のレタスを千切って皿に盛り付けつつ、ブーンはテントの傍に駐車された大型バイク、ディを見た。
今はエンジンを切っているため、ディは彼らの会話を聞いてはいるが、求められない限りは返答をしないことになっている。

ζ(゚ー゚*ζ「ふふっ、ブーンちゃんもその内何でもできるようになるわよ」

(∪*´ω`)「おー」

ヒートはフライパンをローテーブルの真ん中に置き、デレシアはバゲットを切り分けた物をその傍に置く。

856名無しさん:2021/06/28(月) 18:54:31 ID:GrGR9ifo0
ノパー゚)「さぁ、冷めない内に食っちまおう」

(∪*´ω`)「美味しそうな匂いですお……!!」

ζ(゚ー゚*ζ「きっと美味しいわよ。
      いただきます」

(∪*´ω`)「いただきます」

ノパー゚)「いただきます」

そして、食事が始まった。
バゲットの上にまだ熱いオリーブオイルとベーコン、そしてニンニクを乗せ、齧り付く。
塩味、仄かな甘味、そして香ばしさが一気に口内に広がる。
ベーコンは表面が上品に焼け、サクサクとした食感が味わい深さを奏でている。

(∪*´ω`)「美味しいですお!!」

ノパー゚)「そりゃよかった。
     毎日は飽きるけど、時々食べたくなるんだ。
     その内酒が飲めるようになれば、これだけでも十分な肴になる」

ζ(゚ー゚*ζ「シンプルだけど、それがいいわね」

サラダの上にかけてもドレッシングとして十分にその役割を果たせるため、彼らの食事はヒートの作った炒め物が中心となった。
育ち盛りのブーンには量が少ないため、ヒートはフライパンに新たなオリーブオイルを追加し、ヴィンスで買っていた魚介類を調理した。
氷で保冷はしていたが、魚介類は日持ちがしない。
魚の切り身とエビをたっぷりのオリーブオイルで煮詰め、アヒージョを作る。

最後はフライパンに残ったオリーブオイルをバゲットで拭い取り、余さず食べきることが出来た。
野外で食事を作る際、どれだけ不要な物を生み出さないか、それがかなり大切なことになる。

(∪*´ω`)「ごちそうさまでしたお」

ζ(゚ー゚*ζ「ごちそうさま、美味しかったわ」

ノパー゚)「ごちそうさま。
     まぁ、たまにはこんな料理もいいな」

ζ(゚ー゚*ζ「ブーンちゃん、お茶飲む?」

(∪´ω`)「はいですお!」

焚火の傍で温めていた容器からお湯をカップに注ぎ、そこに茶葉を入れる。
一瞬でほうじ茶の得も言われぬ香りが漂い、ブーンの目が輝く。
しかし味がまだ染み出ないことを知る彼は、両手の指を温めるようにしてそれを握る。

ζ(゚ー゚*ζ「私達はお酒にしましょうか」

ノパー゚)「いいな、バーボンでも飲むか」

857名無しさん:2021/06/28(月) 18:55:10 ID:GrGR9ifo0
小さなボトルを取り出し、その中身をショットグラスに注ぐ。
舐めるように少しずつ口に運び、二人はその豊潤な風味に満足げに息を吐いた。

ノパ⊿゚)「ふぅ……あともう少しでイルトリアか」

ζ(゚ー゚*ζ「このまま行けば、そうね、明日の夜には着くわね」

彼らは“鉄の都”と呼ばれるアンカレイジを通過し、イルトリアまでもう間もなくという距離にいた。
夜になると気温は非常に低くなり、焚火に当たらなければ瞬く間に体温が奪われるほどの場所だった。
ほうじ茶が飲み頃だと匂いで悟ったブーンは茶葉を口にしないように口をすぼめ、少しずつ飲んでいく。

(∪´ω`)「イルトリアも寒いんですかお?」

ζ(゚ー゚*ζ「もうちょっと進むとそこまで寒くないんだけど、そうね、ちょっと肌寒く感じるかもね」

ノパ⊿゚)「イルトリアで市長に会うんだろ?
    知り合い……なんだよな」

ζ(゚ー゚*ζ「そうね、昔からの友人よ。
       一応トソンに伝言を頼んでいたけど、私も話をしないといけないと思ってね。
       それにブーンちゃんに会いたいって思っているだろうからね」

(∪´ω`)「お? どうして僕に?」

ζ(゚ー゚*ζ「ミセリのお父さんなのよ。
      ニクラメンであの子を助けたでしょう?
      きっとお礼が言いたくて今もうずうずしているはずよ」

海上都市ニクラメンにおいて、ブーンは意図せず彼の娘であるミセリを助けた。
結果としてその経験は彼をより一層強くし、貴重な経験を積むことに繋がった。
イルトリア二将軍の“左の大槌”、トソン・エディ・バウアーにも認められるほどの強さを得た。

(∪´ω`)「おー、どんな人なんですかお?」

ζ(゚ー゚*ζ「そうねぇ……多分、ブーンちゃんがこれまでに会ったことのない種類の人ね。
       豪快な人で、義理人情に厚い人よ」

(∪´ω`)「義理ニンジョー」

ζ(゚ー゚*ζ「人として大切な感情ってことよ。
      後はそうね、奥さんに頭が上がらない可愛い一面もあるのよ」

ノパ⊿゚)「イルトリアの市長って、あたしが聞いた話だと代々、力で決めるんだろ?
     その市長が怖がるって、相当な奥さんなんだな」

ζ(゚ー゚*ζ「というよりも、フサが惚れ込んだ人だから強く言えないのもあるわね。
      それとあの街の市長の決め方はもうちょっと面白いの。
      市長になるにはまず従軍経験と士官の経験、それと戦場での貢献が必須条件なの。
      それを満たしたうえで、市長戦があるのよ」

858名無しさん:2021/06/28(月) 18:55:58 ID:GrGR9ifo0
ノパ⊿゚)「……戦?」

(∪´ω`)「……戦?」

二人は揃ってデレシアが口にした言葉に反応し、互いに顔を見合い、それからデレシアを見た。

ζ(゚ー゚*ζ「戦うのよ、市長に立候補した人同士で。
      負けたらその部下になるの。
      ちなみに、決勝戦は現市長との戦いね」

ノハ;゚⊿゚)「スポーツ感覚なのかよ」

ζ(゚ー゚*ζ「あの街を束ねるっていうのは、実力がなければ無理なの。
      世襲やらコネなんていうのは、あの街では意味がないからね」

戦争を生業とする職業人が多いイルトリアでは、世襲とコネはまるで意味をなさない。
戦場に派遣される際にも親の職業などは一切考慮されることもなければ、その後の待遇にも影響はない。
実力主義の街で市長をするためには、実力を示すほかないのである。

ζ(゚ー゚*ζ「実際に会ったほうがよく分かるわ。
      百聞は一見に如かず、ってね」

ノパ⊿゚)「確かにな。
    なぁ、イルトリアの飯は何が美味いんだ?」

ζ(゚ー゚*ζ「そうねぇ……屋台料理がお勧めね」

(∪´ω`)「おー、どんな料理があるんですかお?」

ζ(゚ー゚*ζ「何でもあるわ。
      串焼き、サンドイッチ、変わった物だと串に刺したピクルスなんていうのもあるわよ。
      ピザも美味しいわね、食べ歩きしやすいように丸まったやつなの」

ノパ⊿゚)「屋台料理か……やっぱ、何か理由があるのか?」

ζ(゚ー゚*ζ「屋台同士で争うからよ。
       屋台料理は美味しくなければ人が来ないから、みんな必死に研究して味を高め合っているの。
       店を構えているところに比べて競争率が高いから、美味しい所だけが生き延びるようになっているのよ」

イルトリアの料理人が掲げる標語は“料理は勝負”であるとまで言わしめるほど、街の中にある飲食店の競合は非常に激しい。
それだけに、店を構えていられるのはよほどの実力がある古参か、あるいは新参の店だけなのである。
その競争の激しさはホールバイトをも凌ぐほどで、新作の実験的な販売の場としてイルトリアが密かに選ばれることが多い。
フードトラックが路肩に多く停まり、食事時になると一斉に呼び込みが始まる様は壮観そのものだ。

ノパ⊿゚)「なーるほどね。
    “武人の都”は料理の世界にも健在ってことか」

ζ(゚ー゚*ζ「安売り合戦になりやすいから、その辺りは制限があるけど基本は自由ね。
      私のお気に入りのお店も、今残っているかどうか分からないのが残念なところね」

859名無しさん:2021/06/28(月) 18:57:16 ID:GrGR9ifo0
(∪´ω`)「おー」

ほうじ茶を口に含み、ブーンは白い息を吐いた。
星空を見上げ、物思いにふけるようにして口をつぐみ、ややあって口を開いた。

(∪´ω`)「ギコさんもイルトリアの人ですおね?」

ζ(゚ー゚*ζ「そうね」

(∪´ω`)「イルトリアで会えるといいなー」

ζ(゚ー゚*ζ「少し寄り道するだろうけど、あの男ならイルトリアに立ち寄るわよ、必ずね」

デレシアの言葉は慰めでも、ましてや直感によるものではなかった。
彼女は確信を持っていた。
復讐に燃える男は、間違いなくイルトリアに足を運ぶと。

(∪´ω`)「おー、また会ってお話したいですお」

ノパ⊿゚)「ブーンとあいつは同じ先生に習ったんだもんな」

“魔女”と呼ばれたペニサス・ノースフェイスの事実上最後の教え子であるブーンにとって、ギコは同じ師を持つ関係にある。
彼からしか聞けない話や、彼としかできない話もあるのだろう。

ζ(゚ー゚*ζ「あのペニーが認めるってことは、二人はどこか似ているのかもしれないわね」

ノパ⊿゚)「デレシアはギコと面識なかったのか?」

ζ(゚ー゚*ζ「そうね、ほとんどないわね。
       あったかもしれないけど、面識というほどでもないはずよ」

ペニサスからも彼の存在について聞いたことはなく、噂にも聞いたことはない。
それだけ目立たずに生きてきたにも関わらず、あれだけの技量を有しているのは正直なところ、あまりにも意外だった。
早い段階で戦場から身を引いたのだとしたら、デレシアの中で得心のいくものがあった。

(∪´ω`)「お…… ペニおばーちゃんのこと、ちょっと聞きたいですお」

ζ(゚ー゚*ζ「それならイルトリアの軍人に話を聞いて、それから彼の話を聞くのがいいわね。
      イルトリア軍でペニーのことを知らない人はいないわ。
      特に、海兵隊の人間の上層部はみんな彼女の教えを受けていたし、狙撃手に至っては必ずその影響があるはずよ」

ノパ⊿゚)「そんなに凄い人だったのか」

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、世界で一番の狙撃手だったわ。
      私よりも軍の人間がよく知っているのは確かよ。
      そうね……退役軍人の会があるから、それに顔を出してみるのもいいかもね」

(∪´ω`)「僕、そんなところに行っていいんですかお?」

860名無しさん:2021/06/28(月) 18:58:02 ID:GrGR9ifo0
ζ(゚ー゚*ζ「ペニーの最後の教え子だって分かれば、みんなブーンちゃんを大歓迎するはずよ。
      むしろブーンちゃんが質問攻めにあうかもね」

ブーンの目が好奇心に輝いた。

(∪*´ω`)「お……上手に答えられるかな……」

ζ(゚ー゚*ζ「ふふっ、大丈夫よ」

ノパー゚)「あぁ、ブーンなら可愛がってもらえるさ」

退役軍人の集いにおいても、ペニサスの名は絶対だ。
彼女が命を落とした際の年齢を考えれば、その場に彼女の影響を受けた人間は大勢いる。
ペニサスがブーンに教えきれなかったことを、彼女の教え子たちが伝えたがるのは間違いなかった。
イルトリアに行けば銃器の種類も豊富にあるため、ブーンが自らの身を守るための術と道具を見つけることが出来るだろう。

その際、ペニサスの最後の教え子というレッテルがあれば、優れた指導員がブーンに技術を教えるだろう。
既にブーンは格闘技術についてロウガ・ウォルフスキンの指導を受け、その才能を育んでいる。
出会った頃から体重は増え続け、骨格も以前よりも大きくなっている。
元から膂力も同年代の子供よりも優れていたが、今は更に成長しているのが分かる。

(∪´ω`)「デレシアさん、今日はどんなお話を聞かせてくれるんですかお?」

ζ(゚ー゚*ζ「そうねぇ、それじゃあせっかくだから、山のお話でもしましょうか。
      クラフト山脈にまつわるお話よ」

ノパ⊿゚)「おっ、あたしもそれ気になるな」

ζ(゚ー゚*ζ「クラフト山脈には毎年、たくさんの登山家が登頂しようとするけど、未だに1人も成功していないの」

ノパ⊿゚)「そうなのか?
     あたしはてっきり、もう踏破されたもんだと思ってたよ」

(∪´ω`)「僕もです」

ζ(゚ー゚*ζ「クラフト山脈には有名な2つの山頂があるの。
       1つは既に踏破されている“ヒラリー”。
       そしてもう一つ、未踏峰の山頂“カムイ”。
       このカムイはあまりにも険しい道だから、人が踏破するのは無理だって言われているの。

       今からするのは、その踏破に生身で挑んだ人のお話よ」

ヒートは琥珀色の液体を一口含む。

ノパ⊿゚)「……マジか」

登山の世界においても、強化外骨格の力は絶大なものがある。
酸素ボンベを含んだ道具の運搬もそうだが、何よりも人間の膂力をはるかに超えた力で山を征服することが出来る。
岩のように硬い雪の表面にピッケルを突き立てるのは造作もない話で、未開拓の登山ルートを作り上げることさえも可能だ。
そのため、素人でも名立たる名峰を踏破することが容易となるのである。

861名無しさん:2021/06/28(月) 18:59:09 ID:GrGR9ifo0
しかしそこに登山の醍醐味はないため、大抵の場合は登山客に同行する現地人が荷物の運搬による負荷を軽減するために用いる程度となった。
現代では未踏峰の山を探す方が難しいが、世界を隔てる巨大な山脈に、まだ存在しているというのが驚きだろう。

ノパ⊿゚)「人が踏破できないって、よっぽどなんだろうな。
    確か、踏破のジャンルってのが補助の有無であったよな?」

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、強化外骨格を使った場合と、そうでない場合ね。
       カムイはね、どっちの分類でも未踏峰なのよ」

(∪´ω`)「おー」

ζ(゚ー゚*ζ「挑戦したのはロブ・クラークという男性でね……」

それからデレシアは彼の経歴を含め、話を始めた。
俗に言う“神隠し”と呼ばれる大量行方不明事故に発展した、クラフト山脈に関連する中で最悪の事故の話だ。
類を見ない強力な嵐に見舞われ、猛吹雪と雪崩が登山隊を襲ったのである。
しかし、希望のある話でもあった。

ζ(゚ー゚*ζ「……彼以外の遺体は全て見つかったの。
      でも、先頭を進んでいた彼だけはまだ見つかっていないのよ」

ノパ⊿゚)「ってことは、ひょっとしたら山頂に着いたかもしれないってことか」

(∪´ω`)「おー!!」

ζ(゚ー゚*ζ「最後の無線でも、彼は帰れなくても山頂を目指すと言っていたようね。
      だからもしかしたら、頂上に着いたのかもしれないわね」

彼の生死は不明のままだ。
死んだとされているが、滑落死なのか、それとも凍死したのかも定かではない。
死体がない以上、彼はカムイの登頂に成功した可能性のある唯一の人間なのだ。

ζ(゚ー゚*ζ「さ、ブーンちゃんはもうそろそろ寝ましょうか」

(∪´ω`)「はいですおー」

無論、ロブは死んだと考えるのが自然だ。
登頂に成功せず、道半ばで死んだ可能性もある。
しかし登山家たちは彼の死を希望に変え、今でも語り継いでいる。
歯を磨き、ブーンはテントに戻った。

ノパ⊿゚)「……ボブって奴は、何で山を登ったんだろうな」

ζ(゚ー゚*ζ「昔の人の言葉を使うなら、そこに山があるから、なんでしょうね」

デレシアとヒートはほとんど同時にバーボンを口に含み、飲み込んだ。
その一口でショットグラスの中身は奇麗に飲み干された。

ノパ⊿゚)「分かるような、分からないような話だな。
    さて、あたしはブーンと一緒に寝てくるよ」

862名無しさん:2021/06/28(月) 19:00:13 ID:GrGR9ifo0
ζ(゚ー゚*ζ「分かったわ。
       私は火の後始末とかしておくから、ブーンちゃんの事お願いね」

ヒートも歯を磨き、ブーンの後を追ってテントに入る。
二人分の寝息が聞こえてくる頃、焚火が全て灰となる様を眺めていたデレシアは静かに星空を見上げ、溜息を吐いた。
巨大な月と圧倒的なまでの星が、デレシアを見下ろしている。

ζ(゚ー゚*ζ「……」

デレシアは声を出さずに言葉を発したが、それが何を意味しているのか、見届けたのは遥か遠方にいる一人だけ。
高倍率の光学式スコープで彼女たちを眺めていた人間だけなのであった。

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863名無しさん:2021/06/28(月) 19:00:51 ID:GrGR9ifo0
September 18th PM04:54

トラギコ・マウンテンライトたちを乗せたトラックの一団は、いよいよイルトリアを視界に収めるところにまで来ていた。
先頭を走るのは、目的地までの最後の誘導係となったポットラック・ポイフルの運転するトラックだ。
トラギコとオサム・ブッテロはもう間もなくこの旅が終わることを実感していたが、決して油断はしていなかった。
イルトリアの影響の強い地域に足を踏み入れているとは言っても、“ハイエナ”がいないとは限らない。

(=゚д゚)「ここから見ても、しかし、イルトリアってでかいラギね」

( ゙゚_ゞ゚)「そりゃ、ヨルロッパ地方で一番だからな。
     ところでよ、経費は後どれくらい残ってるんだ?」

(=゚д゚)「ヤなこと訊くラギね。
    後500ドルぐらいしかないラギよ」

(;゙゚_ゞ゚)「おいおい、最初はいくらだったんだよ」

(=゚д゚)「1500ドルラギ。
    俺一人なら十分だったラギ、俺一人ならな」

主に消費したのは食費だった。
トラックが停まる度に二人は大量に買い込み、一気に食べた。
この旅が過酷な物になる可能性は十分に考えられたため、本能的に栄養を蓄えようとした行動の結果だ。

(;゙゚_ゞ゚)「お前が俺を連れ出したんだろうが!!」

(=゚д゚)「別に嫌味も何も言ってないラギよ?
    ってことは何か後ろめたい事でもあるラギか、あぁ?」

(;゙゚_ゞ゚)「ちっ、ヤな奴だ」

从´_ゝ从「仲いいな、あんたら」

(=゚д゚)「まぁな、利害が一致してる間は仲良しラギ」

( ゙゚_ゞ゚)「一致しなくなったら後は知らねぇけどな」

从´_ゝ从「ははっ、やっぱり仲いいな」

心なしかポットラックも終着点が近づいていることに心躍っている様だ。
カップに入った冷めたコーヒーを飲み、ポットラックは深い溜息を吐いた。
感傷に浸るように、ポットラックは小さな声で言った。

从´_ゝ从「あと少しであんたらともお別れか」

(=゚д゚)「そうラギね。
    凄い助かったラギよ、ありがとラギ」

( ゙゚_ゞ゚)「男だけの旅も悪くなかったな。
    楽しかったよ」

864名無しさん:2021/06/28(月) 19:02:47 ID:GrGR9ifo0
从´_ゝ从「俺も楽しかったよ。
      あんたらを乗せて正解だった」

水平線に夕日が近づいていく姿を眺め、ポットラックは視線を合わせない。
感傷的な気分になっているのだろうか。

(=゚д゚)「そう言ってもらえるとうれしいラギね。
    でも感傷に浸るのは、イルトリアに着いてからにするラギ」

从´_ゝ从「あぁ、そりゃそうさ。
     俺たちも荷物がちゃんと到着して受け取り印をもらうまでは、安心できないからな。
     イルトリアに着いたら一杯奢らせてくれよ」

(=゚д゚)「そりゃ楽しみラギ。
    あの街の店、知ってるラギか?」

从´_ゝ从「フードトラックがわんさと停まってるんだ。
     広い公園の傍で飲むのが美味いんだ」

( ゙゚_ゞ゚)「屋台飲みか、いいな」

(=゚д゚)「でも寒くねぇのか?」

从´_ゝ从「その寒さも美味さの一つになるんだ。
     任せろって、もう何回もそうやって飲んでるが、一度だって外れはないんだ」

(=゚д゚)「なら任せるラギよ」

トラギコは黄金色からオレンジ色に変わりゆく夕日を眺め、そう言って無言になった。
イルトリアについて、トラギコがジュスティアで習ったことはあまりにも多い。
それはジュスティアとの違い、忌むべき点についての教育だった。
しかしながら、彼が刑事となって多くの情報を知るにつれ、その意味は変化していくことになった。

ジュスティアはイルトリアのことが大好きなのだ。
常に敵視し、常に意識し、常に比肩しようとしているのだ。
法を重んじるジュスティアと力を重んじるイルトリアは水と油の関係だが、それ以上に互いのことを信頼し、認めているのである。
最も顕著なのが軍だ。

お互いに最も警戒すべき相手として意識し合っている様は、好敵手そのものである。
彼にとって、イルトリアへの訪問は大きな意味を持つ物だった。

(=゚д゚)「……」

全ての始まりはデレシアだった。
彼があの事件に関わろうと思わなければ、ここまで動くことは無かっただろう。
モスカウの一員として仕事をこなす中で、いつしか難事件を望むようになってしまった彼にとって、彼女の存在は極めて大きな変化をもたらした。
まるで予想のできない行動と、その正体。

865名無しさん:2021/06/28(月) 19:03:29 ID:GrGR9ifo0
果たしてどこまで迫れるのか、それが彼にとっては重要なことだった。
先んじてイルトリアに到着することが出来れば、デレシアの動きを監視し続けることが出来る。
そして、彼女の本質、あるいは目的が見えてくるかもしれない。
だが目下の目的は、ティンバーランドという組織の狙いを知ることにある。

デレシアは知っている風だったが、トラギコにはまだ大枠でしか推測が出来ていない。
世界中の街を繋げる根幹として内藤財団を位置させ、その果てに何を狙っているのか。
金や権力の類でないことは確かだが、そうなると、いよいよもって答えが出せない。

( ゙゚_ゞ゚)「まーたこいつは難しいこと考えてやがるのか」

从´_ゝ从「仕事の癖なんだろうな」

( ゙゚_ゞ゚)「死ぬまで働く気かよ、やだやだ」

トラギコは物思いにふけりながらも、二人の会話は聞いていた。
オサムの嫌味に対して反応するのも面倒であるため、そのまま夕日を見つめ、イルトリアでの行動を考えることにした。

从´_ゝ从「まぁ、俺も仕事の癖ってのがあるからな、分かるよ。
     一か所に留まるのが苦手でな、一日以上同じ場所にいると腹が壊れるんだ」

( ゙゚_ゞ゚)「根っからの運び屋なんだな」

从´_ゝ从「あぁ、天職だと思ってるよ。
     それに、俺は一人が好きなんだ。
     会社勤めなんて、俺には向いてないのさ」

( ゙゚_ゞ゚)「そんなんじゃ恋人もいないだろ、寂しくないのか?」

从´_ゝ从「こんな仕事してるとな、恋人なんていらないんだよ」

( ゙゚_ゞ゚)「ふーん、ますます天職だな。
    そういや今更なんだけどよ、どっかの企業と契約してるのか?」

それについてはトラギコも気になっていることだった。
これで内藤財団とのつながりが分かれば、あまり気分のいい話ではなくなってしまう。

从´_ゝ从「いいや、俺らはフリーランスだよ。
      企業と契約する運び屋なんて、正直俺には合わないんだ。
      好きに休憩も出来ないし、運ぶ先も選り好みできないからな」

( ゙゚_ゞ゚)「よく食っていけるな。
    運び屋って、大抵企業に依頼しているもんだと思ってた」

从´_ゝ从「あぁ、そうだな。
     だけどな、その分こっちは運ぶ荷物に責任を持つっていう信頼があるんだ。
     絶対に荷を見ない、契約の変更はしない、詮索をしない、ってルールさ。
     企業人なら、その辺を忘れて欲に走るからな。

     ラヴニカに関わる運び屋はまずほとんどがフリーランスだよ」

866名無しさん:2021/06/28(月) 19:03:50 ID:GrGR9ifo0
( ゙゚_ゞ゚)「まぁ、情報が流れる心配もないもんな。
     内藤財団以外の企業にとっちゃ、結構な問題になるもんなんだな」

夕日が水平線に迫る中。
眼前の地平線に、垂直に聳え立つ人工物の山が見えてくる。

(=゚д゚)「……あれか」

( ゙゚_ゞ゚)「……でけぇ」

イルトリアに続く道にはすでに多くの車が列を成しており、軽い渋滞が起こっているように見えた。
片道三車線の道に合流し、ポットラックは右端の車線に移動した。
すると、車の流れが途端に緩やかな物となった。

从´_ゝ从「イルトリアだと、貨物車優先の車線があるんだ。
      だから渋滞は比較的しにくい。
      合流するところだけだな」

(=゚д゚)「流石に大都市、色々考えてあるラギね。
    タルキールも見習うといいラギ」

从´_ゝ从「だが、この道路の幅が広いのは別に交通の便のためだけじゃないのさ。
     イルトリア軍の戦車なんかが使うから、頑丈に舗装されてるし、幅が広いんだ」

(=゚д゚)「なーるほどね」

目の前に迫るビルに見下ろされながら、トラックの一団はイルトリアへと到着した。

867名無しさん:2021/06/28(月) 19:04:33 ID:GrGR9ifo0
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同日 PM 06:11

イルトリアに続く車のテールライトの列が淀みなく進む中、デレシア一行を乗せたディはバイク用に設けられた車線を走っていた。
軍事都市として名高いイルトリアではあるが、ヨルロッパ地方を巡る旅行客にとっては観光地としても知られている。
街に大挙するフードトラックの群れもそうだが、何より治安の良さが最大の理由だ。
警察組織として軍人が街の治安を維持し、その徹底した治安維持の方法は過激なものになる場合がある。

しかしそれは、ルールを破った場合に限る話だ。
ジュスティアもイルトリアもルールを守らせるという点については同じであり、異なるのはその守らせ方だ。
イルトリアの警告は一度だけで、その警告を無視した場合、実力行使となる。

868名無しさん:2021/06/28(月) 19:07:43 ID:GrGR9ifo0
ζ(゚ー゚*ζ「さぁ、もうすぐよ」

(∪*´ω`)「すっごいワクワクしますお……!」

バイカーたちの間に並んで走る間、ブーンの視線は周囲の光景に注がれ続けている。
紫色の空の中、目の前に広がる眩い街並みと車列の組み合わせは、確かに魅力的だ。
高層ビルが立ち並ぶイルトリアに吸い込まれるようにして、数百の車輌が列を成して進む。
心躍らせているのはヒートも同様だった。

ノパー゚)「こりゃ壮観だな、しかし」

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、黄昏時の空と車列の景色はそう見られないからね。
      でもね、街の中はもっと壮観よ」

(∪*´ω`)「オセアンみたいに大きな街ですおね!!」

ζ(゚ー゚*ζ「そうね、海沿いというのも同じね。
       ジュスティアの時は全然街を見られなかったけど、ここでならゆっくり観光も出来るわ」

正面に見えていた建物を見上げなければならない距離にまで迫ると、ブーンは感動で声を失った。

(∪*´ω`)「わわっ……」

ビルはまるで木々のようにひしめき合いながら聳え立ち、どの建物からも人工の光が溢れている。
頭上に煌めく星々がそのまま地上に落ちてきたかのような輝きに満ちる街。
“武人の都”として知られる軍事都市、イルトリア。

ζ(゚ー゚*ζ「さぁ、イルトリアに到着よ」

869名無しさん:2021/06/28(月) 19:08:46 ID:GrGR9ifo0
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眩いビルの間を駆け抜け、三人の旅人を乗せたバイクがイルトリアに到着した。
ネオンの輝く街には多くの車が行き交い、フードトラックがそこかしこに停まっている。
漂う香りはそのどれもが食欲をそそる物ばかりで、ブーンの尻尾は左右に激しく揺れていた。

(∪*´ω`)「いい匂いがしますお……」

ζ(゚ー゚*ζ「夜とお昼は特に稼ぎ時だからね。
       フードトラックは匂いでお客さんを呼ぶものなの。
       多分、ホールバイトの次に食事については期待していいかもしれないわね」

870名無しさん:2021/06/28(月) 19:09:46 ID:GrGR9ifo0
信号で止まった時に、ヒートが提案をした。

ノパ⊿゚)「まずは飯にするか?」

確かに空腹もいい感じになっている上に、この香りをかげばそう考えるだろう。
そうしたいところだが、まずはやるべきことがあった。

ζ(゚ー゚*ζ「その前に泊まる場所をどうにかしないとね。
       そうじゃないとお酒が飲めないもの」

ノパ⊿゚)「確かにな。 どこかのモーテルか?」

ζ(゚ー゚*ζ「ふふっ、当てがあるのよ。
      だからそのためにも、まずは市長のところに行きましょう」

再び走り出し、街の目抜き通りを西に進む。
二階建ての白い建物が見えてきたとき、ヒートとブーンの二人は同時に反応を示した。

(∪´ω`)「……お」

ノパ⊿゚)「……あれか」

広大な敷地を囲む背の高い鉄柵。
随所に建てられた監視塔。
そして何よりも、その敷地内と外に立つ灰色の迷彩服を着た軍人の放つ雰囲気は、紛れもなく重要な拠点を守る人間のそれだった。

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、市長の邸宅よ」

迷うことなく唯一の車輌の出入り口に向かうと、すぐに四人の軍人に取り囲まれた。
全員がデレシアから適度な距離を保ちつつ、安全装置の解除されたライフルをいつでも構えられるように抱えている。
顔全体を覆う目出し帽を被っているのは表情を悟られないようにするのと同時に、誰が担当者になっているのかを知られないようにするための工夫だ。
階級章の外された迷彩服もまた、素性を隠すという目的があってのもの。

鉄柵の前に立つ男が、一歩前に出た。

(::0::0::)「要件は?」

デレシアはバイザーを上げずに、その質問に答えた。

ζ(゚ー゚*ζ「市長に会いに来たの」

(::0::0::)「アポイントは?」

ζ(゚ー゚*ζ「ないわよ、“立ち寄っただけ”だもの。
      コードDE4862。
      これでいいかしら?」

デレシアがその言葉を口にした瞬間、全員がライフルの銃把から手を放し、直立不動の状態で敬礼をした。
それはまるで、素行の悪い生徒が唯一恐れる教師の逆鱗に触れた時の様に素早い反応だった。

871名無しさん:2021/06/28(月) 19:11:09 ID:GrGR9ifo0
(::0::0::)「大変失礼いたしました。
     どうぞ、お通りください」

重厚な鉄柵が稼働し、中へと案内された。
そこでようやくデレシアはバイザーを上げ、男に笑みを投げかけた。

ζ(゚ー゚*ζ「ご苦労様。 ……随分大人になったわね、キース・バルク」

(::0::0::)「……っ光栄です、デレシア様!!」

芝生の間に設けられた道を通り、ディをライトアップされた建物の前に停める。

ζ(゚ー゚*ζ「地形情報収集状態で待っていてくれる?」

(#゚;;-゚)『かしこまりました』

三人はバイクから降り、ヘルメットをそれぞれの場所にかける。
ヘルメットを外した時、否が応でもブーンの耳が露呈する。
普段はデレシアがさりげなくそれを隠すのが旅の中でのルールだったが、今回はそれをしなかった。
不思議そうな顔でデレシアをヒートが見る。

ζ(゚ー゚*ζ「この街なら大丈夫よ。
      ロウガを見たでしょう?
      イルトリアでは、実力さえあれば容姿なんて関係ないの」

(∪´ω`)「ししょーですかお?」

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、ひょっとしたら会いに来てくれるかもしれないわね」

(∪*´ω`)「やたー」

帽子を被ったブーンの手をヒートとデレシアが握る。
扉に手をかけ、デレシアは少し考え、一歩引いた。
ブーンはそれよりも少し先に動き、最後にヒートも事態を察して一歩後退した。
その直後、扉が勢いよく内側に向けて開いた。

ζ(゚ー゚*ζ「お久しぶり、ミセリ」

ミセ*゚ー゚)リ「お久しぶりです、デレシアさん!!
      ブーン、久しぶり!!」

そこには白いワンピースを着たミセリ・エクスプローラーが立っていた。
そう。
両眼を見開き、両手を開いて、両足で立つ彼女が。

(∪*´ω`)「ミセリ!!」

ミセリの身に起きている異変をまるで気にせず、ブーンはミセリと抱擁を交わした。
以前はブーンよりも身長の低かったミセリも、年相応の背丈となり、ブーンを胸元に抱きしめられるようになっている。

872名無しさん:2021/06/28(月) 19:12:41 ID:GrGR9ifo0
(∪*´ω`)「ぎぅー」

ミセ*゚ー゚)リ「もー!! 会いたかったよー!!」

(∪*´ω`)「ぼくもー!!」

年の近い姉弟、あるいは親友のように二人は再会を喜び合っている。

ノパ⊿゚)「……強化外骨格か?」

小さな声でデレシアに向けて呟いたヒートの言葉を、彼女は首肯しつつ、その答えを口にした。

ζ(゚ー゚*ζ「“バイセンテニアル・マン”ね。
       欠損した部位を補うことを目的にした福祉目的の強化外骨格よ」

軍事用の強化外骨格が大量に生み出される中、その技術を戦闘以外の目的に転化したものの最たる例がこれだ。
使用者の体格に合わせて自動で調節される四肢、そして視覚と聴覚の補助。
一度使用すれば再利用が出来ない反面、使用者の成長に合わせて最適化し続けるという特徴がある。
バッテリーがない代わりに、人体が発する微量な電気などを利用するため、人体との接続が必須となるものだ。

現存する物はほとんどないが、稀に未使用の物が発見されるか復元されることがある。

ミセ*゚ー゚)リ「お父さんもブーン達に会いたがってたの!!」

そう言ってブーンを抱きしめたまま、ミセリは振り返った。
そこには獅子の鬣のような髪をした、筋骨隆々とした壮年の偉丈夫が現れていた。
ポロシャツの下に見える浅黒い肌には無数の傷が刻まれ、服を押し上げるほどの筋肉が物理的な力を物語っている。

ミ,,゚Д゚彡「よう、お前がブーンか」

ずい、とブーンの前に歩み出たのはフサ・エクスプローラ。
“戦争王”の渾名で恐れられる、イルトリアの市長。
世界最強の市長、その人だ。
だがブーンはエメラルドグリーンの鋭い眼光を前にしても、まるで怯むことなく対応して見せた。

軍人ならば知らぬ者のいない猛者である彼の視線や雰囲気でさえ、ブーンには慣れた物なのだ。

(∪´ω`)「お、そうですお」

ミ,,^Д^彡「娘を助けてくれたようで、礼を言いたかったんだ。
      ありがとうな、ブーン。
      俺はフサ、フサ・エクスプローラだ」

屈んで差し出された右手を、ブーンは自然と握り返していた。

ミ,,゚Д゚彡「……いい手だ、苦労を知る割りに、暴力を知らない手だな」

ブーンの手を両手で握り、フサは満足げに頷いた。
それは子供に対して向ける視線ではなく、戦友、あるいは尊敬する一人の人間に対して向ける眼差しだった。
それからデレシアを見て、彼は笑みを浮かべた。

873名無しさん:2021/06/28(月) 19:13:03 ID:GrGR9ifo0
ミ,,゚Д゚彡「久しぶりだな、デレシア。
     元気だったか?」

ζ(゚ー゚*ζ「お陰様で。
      貴方も相変わらずね、フサ。
      奥さんは元気かしら」

ミ,,゚Д゚彡「あぁ、元気だよ。
     今丁度晩飯の支度をしていてな、さ、入ってくれ」

ミセ*゚ー゚)リ「行こっ、ブーン!!」

(∪*´ω`)「お!!」

子供二人は手をつないで建物の奥へと走り出し、残された大人たちはそれを笑顔で見送りながら後へと続いた。
建物の中には美術品の類はなく、下に敷かれている毛足の長い灰色の絨毯と暖色系の照明が厳かな雰囲気を作り出している。
最低限の調度品は市長の品格をそのまま反映している様だ。

ミ,,゚Д゚彡「そっちのお嬢さんの話も聞いているよ、よろしく」

ノパ⊿゚)「あぁ、よろしく。
     ヒート・オロラ・レッドウィング、ヒートでいい」

三人は立ち止まり、ヒートとフサのどちらともなく右手を差し出して握手を交わした。

ミ,,゚Д゚彡「あの“レオン”が、こんなに若い女だとはな。
     デレシアの友人なら、あんたは俺にとっての大切な客人だ。
     俺のことはフサでいい」

ノパー゚)「そりゃどうも、フサ」

ミ,,゚Д゚彡「……さて、色々と話は聞いている。
     随分と面倒なことになっているな」

フサはその場で立ち止まり、話を始めた。
デレシアは小さな溜息と共に答える。

ζ(゚、゚*ζ「ほんと、いい迷惑よ。
      どう、フサの方でも何か情報はある?」

ミ,,゚Д゚彡「あぁ、俺が毎年ボコボコにしてる女がいるんだが、そいつも組織の一味だな。
      それと、ヴィンスとセントラスに内藤財団の介入が決定した。
      主要な街にはほぼ奴らが介入したことになるな」

ζ(゚、゚*ζ「その後の動きが分からないのだけど、ラヴニカはどう?」

ミ,,゚Д゚彡「ほぼ確定だな。
     何せ生き残ったギルドマスターが少なすぎる。
     連中の動きが最近になって活発化してるのが気になるが、あんたの影響か?」

874名無しさん:2021/06/28(月) 19:13:45 ID:GrGR9ifo0
ζ(゚、゚*ζ「いいえ、水面下で進めて、それが表面化してきたのね。
      内藤財団なんていうものが経済の中核に居座っても、私は特に気にしなかったわ」

内藤財団の設立は古く、また、その目的が統一国家の設立であることを見抜くのは不可能だった。
彼らは極めて計算高く、そして執念深く、静かに計画を進めていたのである。
これまでデレシアが知る限り、彼らの手段は啓蒙活動に近い物があったが、今回の場合はより効果のある経済の面からの統一だった。
世界中に根を張り巡らせ、養分を得て、機を窺い続けていたのだ。

費やした時間と労力は途方もないものがあるが、何よりも、そのアプローチがこれまでにないものだったことが、デレシアの中で気になっている点だった。
彼らは学習をしている。
これまでの失敗を、デレシアに潰されてきた夢を分析し、今回に活かしてきた。
極めて長期的な計画であり、気づいた時にはもはや止めることは不可能に近い状態にある。

ミ,,゚Д゚彡「隠れ蓑にするにゃ、最適だったってことだな。
      オアシズ、ニクラメンの件を聞いて確信したよ。
      連中、そろそろ本命の動きを見せてくる」

ζ(゚、゚*ζ「えぇ、そうでしょうね。
      奴らはニューソクを集めているみたいだったんだけど、その辺りの心当たりはある?」

複数の街で彼らはニューソクと呼ばれる物を回収していた。
セントラスにもニューソクはあるが、恐らく、それ以外の目的もあって介入を決めたのだろう。
世界最大の宗教の総本山となると、その影響力は計り知れない。

ミ,,゚Д゚彡「うちの街にもニューソクはあるが、特にないな。
     発電装置なんか集めてどうするつもりなんだ」

ζ(゚、゚*ζ「考えられるのは二つね。
      一つはエネルギーを必要とする何かを動かすため。
      もう一つはエネルギーの流れを牛耳りたいから、ね」

ミ,,゚Д゚彡「なら前者だな。
     発電設備を持っている街にとっちゃ、ニューソクなんて無用の長物だ」

ζ(゚、゚*ζ「何か心当たりは?」

ミ,,゚Д゚彡「あんたにないのに、俺にあるはずがねぇよ。
     ともあれ、ニクラメンで報告を受けてからニョルロック方面に兵を出してる。
     異変があればすぐに報告が来るようにしてある」

ζ(゚ー゚*ζ「流石ね、フサ」

ミ,,゚Д゚彡「なぁに、約束は守るさ」

ノパ⊿゚)「随分詳しいんだな」

ミ,,゚Д゚彡「あぁ、イルトリアの市長は代々――といってもある事件以降だが――連中の存在を引き継いでいるからな。
      名前や目的を知ったのはデレシアがきっかけだけどな」

875名無しさん:2021/06/28(月) 19:14:48 ID:GrGR9ifo0
ζ(゚ー゚*ζ「“デイジー紛争”よ。
       ペニーがジュスティアとティンカーベルでやりあった時ね」

ノハ;゚⊿゚)「その時にはもうあったのか」

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、むしろデイジー紛争も奴らの差し金だったのよね。
      これはジュスティアも知っている事実よ」

ミ,,゚Д゚彡「連中はどうだが知らんが、ウチは備えている。
      ま、フォックスのことだから大丈夫だろうさ。
      この話はここでしまいにして、飯にしよう。
      嫁の飯はイルトリアで一番美味いんだ」

フサに案内され、二人は食堂へと向かった。
近づくにつれ漂ってくる得も言われぬ香りに、ヒートの頬が緩む。
焼けたチーズの香り中に含まれた仄かな甘い香りと、胡椒の気配。

ノパー゚)「すっげぇいい匂いだな」

ミ,,゚Д゚彡「今日はデレシア達が来ると思ってな、得意料理を振る舞ってもらうことにしたんだ。
     イモのグラタンだ。
     スライスしたイモとチーズを重ねただけなんだがな、これが美味くて白ワインによく合う」

食堂には小さなテーブルが8つ並び、それぞれに6人が座れるようになっている。
どの席も人で埋まっていたが、帽子を取ったブーンとミセリの席にはまだ空が4つあった。
席に座るのは性別も人種もバラバラだが、皆一様に洋上迷彩を身にまとい、しっかりとした体つきをしているという共通点がある。
紛れもなく軍人である。

ノパー゚)「まさに飯時だったんだな」

ミ,,゚Д゚彡「ちとむさ苦しいかもしれんが、そこは我慢してくれ。
     訓練を終えたやつらにしっかりと飯を食わせるのが、俺の軍の習わしなんだ」

ノパー゚)「賑やかな食卓も悪くないからな、気にならないさ」

ブーン達の席の前に、白いエプロンをした若い女性が立ち、ブーンとミセリに微笑みを向けている。
栗毛色の肩にかからない程のショートカットの髪。
透き通った空色の目は目尻が垂れ下がり、優しげな印象を与える。
頭に見えるのは、先の丸い獣の耳。

臀部のあたりから見えているのは、柔らかそうな毛に覆われた尻尾だ。

ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト「あっ、やっと来た」

ζ(゚ー゚*ζ「チハル、久しぶり。
      元気そうね」

876名無しさん:2021/06/28(月) 19:15:49 ID:GrGR9ifo0
ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト「お久しぶりですね、デレシア。
       お陰様で元気してますよ。
       そちらのお姉さんがヒートさんですかね。
       ブーン君からお話を聞いていたところなんですよ」

ノパ⊿゚)「おっ、何て紹介したんだ?」

ドレッシングのかかったサラダを頬張っていたブーンは飲み込むと、少しだけ気恥ずかしそうに答えた。

(∪*´ω`)「優しくてかっこいい人だって言いましたお」

ノパー゚)「嬉しい事言ってくれるなぁ、ブーンは」

ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト「私はチハル・ランバージャック。
      ミセリの母です。
      娘がお世話になりました」

ノパー゚)「いや、あたしは何もしてないよ。
    あの時頑張ったのは間違いなくブーンだよ」

ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト「そんなブーン君を育てたのですから、ヒートさんにお世話になったのに変わりはありませんよ。
      大した料理ではありませんが、ぜひ冷めない内にお食べください」

ノパー゚)「あぁ、せっかくだからいただくよ」

ζ(゚ー゚*ζ「冷めない内に食べましょ」

ミ,,゚Д゚彡「よっしゃ、飯だ!!」

三人は席に着き、配膳されたグラタンとトマトのコンソメ―スープ、ボウルに盛られたサラダ、そして硬めのパンの夕食を始めた。
確かに豪勢な夕食とは言えないが、その味は贅沢な味がした。
ジャガイモを薄くスライスしたものが複数の層になり、間に挟まれた生クリームと一体となったチーズと胡椒の生み出す味は、旨味の結晶体と化している。
塩気とチーズの甘味が合わさった味は、疲れた体に適度な塩分と満足感を与えてくれた。

興味深いのはその食感だ。
薄切りにされているが、幾重にも重なったことによって食感は損なわれるどころか向上さえしている。
絶妙な火加減によって上部と下部は柔らかく、中心部には歯応えが残されている。
最上部にある焦げ目のついたチーズが若干の苦みと香ばしさを与え、一品の料理にも関わらず、複数の料理を一度に口にしているかのような贅沢さが口に広がる。

グラスに注がれた白ワインを口にすると、その香りに鮮やかさが加わる。
程よく冷やされたワインの絶妙な酸味が後味をすっきりとしたものにする。

ノパー゚)「ん!! これ美味いな!!」

パンに乗せて口に運びかけていたブーンが嬉々として賛同する。

(∪*´ω`)「ですおね!! すっごい美味しいですお!!」

877名無しさん:2021/06/28(月) 19:16:20 ID:GrGR9ifo0
ζ(゚ー゚*ζ「前よりも腕を上げたんじゃない、チハル」

ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト「ふふん、ちょっとホールバイトに潜入した時に料理の勉強したんですよ」

ζ(゚ー゚*ζ「それはいい練習になったわね」

クルトンの浮くコンソメ―スープを一口飲むと、ヒートが唸った。

ノパー゚)「スープも美味い。
    コンソメも違うけど、やっぱりトマトの旨味か?」

ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト「ふふん、コンソメとトマトは相性がいいんですよ。
      おかわりもありますから、どんどん食べてくださいね」

チハルも食事を始め、それから1時間もすると、用意された食事は余すことなく食堂にいた人間達の胃袋に収められた。
迷彩服の軍人たちはチハルの元に来て敬礼と共に感謝の言葉を口にし、それから食器を片付け、あるいは机の掃除を始めた。

(∪*´ω`)「ふぃー、ごちそうさまでしたおー」

ノパー゚)「お世辞抜きに美味かったよ」

ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト「へへん、そうでしょうそうでしょう」

胸を張って得意げな顔を浮かべるチハルの表情は少女そのものだ。
しかし、耳付きである彼女の実年齢とその見かけは一致しているわけではない。
二十代前半の若々しい姿だが、その実、フサと歳の差はほとんどない。

ミ,,゚Д゚彡「さて、この後はどうする予定なんだ?」

ζ(゚ー゚*ζ「ひとまず宿を探そうと思っているんだけど、いい所知らないかしら?」

ミ,,゚Д゚彡「バイクが停められて、安全で、ってなると基地の居住区が一番だな。
     ゲスト用のコテージがあるから、そこを使うか?」

ζ(゚ー゚*ζ「そうさせてもらおうかしら」

ミ,,゚Д゚彡「遠慮なく使ってくれ。
     そこまでの案内を……おい、シャキン、頼めるか?」

声をかけられたのは、クルーカットにした白髪の男だった。
振り返った男の顔には深い皺が幾つも刻まれ、肌は日に焼けてチョコレート色になっている。
フサよりも年上のその男は、無表情ではあったが、不愛想ではなかった。
僅かに口の端を動かして笑みを浮かべると、低い声で答えた。

(`・ω・´)「えぇ、勿論」

だがその男の顔を見た時、ヒートが狼狽した風な声を上げた。

878名無しさん:2021/06/28(月) 19:16:42 ID:GrGR9ifo0
ノハ;゚⊿゚)「え……」

(`・ω・´)「……ほぅ、オセアンで会った女か。
      まだ生きているとは、大したものだな」

ノハ;゚⊿゚)「じいさん、あんたこんなとこで何してんだ?」

ミ,,゚Д゚彡「何だ、知り合いなのか?」

(`・ω・´)「以前、気まぐれで戦い方を教えたことがあるぐらいです。
     まさかここで会うことになるとは」

ζ(゚ー゚*ζ「へぇ、シャキンが人に教えるなんて珍しいわね。
      でも合点がいったわ。
      ヒートの戦い方、確かにシャキンっぽいもの」

ノハ;゚⊿゚)「確かにイルトリアの人間ってのは聞いてたけどさ、じいさん、軍人だったのか」

(`・ω・´)「ははっ、そこまで驚かれるとはな。
      この歳でも、まだ軍人だよ」

その人物こそ、イルトリア二将軍の一人。
“右の大斧”の異名を持つ老練の海軍大将。

(`・ω・´)「海軍大将のシャキン・ラルフローレンだ、よろしく」

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879名無しさん:2021/06/28(月) 19:18:07 ID:GrGR9ifo0
同日 PM08:57

夜の九時が近いというのに、イルトリアにあるセントラルパーク公園は大勢の人で賑わっていた。
フードトラックの明かりが公園に列を作り、人々が並び、食事と酒を楽しむ様子はまるで祭りの様だ。

(=゚д゚)「いや、何食ってもうめぇラギな!!」

( ゙゚_ゞ゚)「この酒も美味いし、いや、恐れ入ったよ」

从´_ゝ从「はははっ、気に入ってくれたなら何よりだよ!!」

運び屋としてイルトリアに荷を下ろしたトラック運転手とトラギコたちは、芝生の上に敷いたシートの上でささやかな宴会を開いていた。
ポットラック達が勧める食事と酒に舌鼓を打ち、長かった旅を振り返っていた。
半月ほど一緒に旅をすれば、流石に生まれる感情というものもある。
彼らトラック運転手たちは翌日には出発し、新たな荷を運びに行かなければならないため、今夜が彼らにとって最後の夜になる。

( ゙゚_ゞ゚)「思ってたよりも自由な街なんだな、イルトリアって」

(,,゚,_ア゚)「だろ? イメージはお堅いが、来てみりゃなんてことないのさ。
     だけどな、よーく見てみな。
     公園にゴミが落ちてないだろ?」

( ゙゚_ゞ゚)「言われてみれば確かにな」

(,,゚,_ア゚)「ゴミの放置は結構な罰則があってな、うっかり破れば大変なことになるのさ」

从´_ゝ从「まぁルールさえ守ればいい観光地なんだけどな。
     その辺はジュスティアも同じだな」

ポットラックは巨大な紙コップに注がれたビールを呷り、げっぷと溜息を同時に吐いた。
串にささった豚肉を頬張り、トラギコもビールを呷る。

(=゚д゚)「げふっ、確かにな。
    そういや、イルトリアは検問をしないラギね」

从´_ゝ从「基本的にはスルーされるけど、まぁ、それで生き延びた犯罪者は聞いたことがないな」

(=゚д゚)「治安維持はいいってわけラギね」

ジュスティアは法律と警察によって治安の維持を行うが、イルトリアの治安維持組織は軍隊だ。
軍人は警官と違って容赦がない。
特に、イルトリアの軍人ともなれば犯罪者は悪夢を見ることだろう。
噂話でトラギコが聞いたところによれば、街の中に入り込んだ逃亡犯は軍人の訓練がてら捕らえられる、あるいは殺されるとのことだ。

( ゙゚_ゞ゚)「……ふーん」

果たしてオサムがこの街でどのような立場にいるのか、トラギコには分からないことだ。
彼が殺し屋として名を馳せ、その延長線上でイルトリアに危険視されているのであれば、捕まっても仕方がない。

( ゙゚_ゞ゚)「そういや、俺たちの宿って決めたのか?」

880名無しさん:2021/06/28(月) 19:19:24 ID:GrGR9ifo0
(=゚д゚)「あ? 何言ってるラギ?
    これから安い所とバイト先を探すラギよ」

( ゙゚_ゞ゚)「お前こそ何言ってんだ。
     金はまだあるんだろ?」

(=゚д゚)「何日ここに残るか分からない以上、金が必要ラギ。
    手前の食い扶持は手前で稼ぐラギ」

(;゙゚_ゞ゚)「おいおい、随分と乱暴だな」

(=゚д゚)「仕方ねぇラギ。
    たまにゃ働くのも悪くないラギよ」

情報収集をするには街の中に溶け込むのが一番だ。
いつこの街に到着するかも分からないデレシア一行を見つけるならば、長期戦を予想したほうがいい。

从´_ゝ从「泊まるならいい場所を知ってるが、バイト先は知らねぇな。
      でもあんたらぐらいの腕があれば、どっかのバーで用心棒として雇ってもらえるかもしれないな」

(=゚д゚)「泊まる場所だけ聞くことにするラギよ」

从´_ゝ从「タルコフストリートにある“レモナーダ”ってバーだ。
     あんまり知られてないけど、あそこの上はモーテルになってるのさ」

それからトラギコたちは旅を振り返り、笑い話を続けた。
そして一時間ほどが経過すると、公園から次第に人が姿を消していく。
フードトラックの明かりも減り、夜が深まったことを実感する。

(=゚д゚)「それじゃ、俺たちはもう行くラギ」

( ゙゚_ゞ゚)「元気でな」

从´_ゝ从「……あぁ、じゃあな。
     あんたらも元気でな」

右手を差し出したポットラックの手をトラギコが握り、そのまま軽く抱擁を交わす。
オサムも同様に握手と抱擁を交わした。

(=゚д゚)「楽しかったラギよ」

( ゙゚_ゞ゚)「じゃあな」

感傷はなかった。
道中で会い、ヒッチハイクに成功し、いくつかの修羅場を共にしたというだけの関係だ。
別れは必ず訪れることを知っていた二人は、涙も別れを惜しむ言葉も口にすることはしない。
しかし、もしポットラックに何かがあれば、二人は無条件で手助けをする覚悟があった。

二人は食事で出たごみをゴミ箱に捨て、イルトリアの街を歩き始めた。
街の明かりは若干落ち着いているが、道路を走る車の数も眩いネオンの明かりも、依然として煌々と灯っている。

881名無しさん:2021/06/28(月) 19:20:33 ID:GrGR9ifo0
(=゚д゚)「お前、何かイルトリア人に恨みを買うことした記憶あるラギか?」

( ゙゚_ゞ゚)「どうだろうな。
    お前は今までに捕まえた犯罪者の出自を、いちいち覚えてるのか?」

(=゚д゚)「やなこと言うラギね。
    とりあえず、トラブルになるようだったら俺はお前を見捨てるラギよ」

( ゙゚_ゞ゚)「そりゃ俺のセリフだ。
    デレシアを見つけるまでの関係だからな」

オサムの言う通りだった。
二人の関係はデレシアを見つけるまでの協力関係でしかない。
どちらかにとって不要と断じることになれば、捨てるのは当然のことだ。
デレシアの関連した事件の貴重な生き証人だが、この際、オサムを切り捨てたとしても仕方がないというのがトラギコの考えだった。

(=゚д゚)「見つけたらどうするつもりラギ?」

( ゙゚_ゞ゚)「んなもん決まってるだろ、告白するんだよ」

(=゚д゚)「……は?」

( ゙゚_ゞ゚)「俺はあいつに一目惚れしたんだ。
     強い女だ、惚れ甲斐があるってもんだ」

(=゚д゚)「頭の中を一度医者に診てもらうことを勧めるラギ」

( ゙゚_ゞ゚)「美人で強い女だ、嫌いな男なんているもんかよ」

(=゚д゚)「ま、好きにしてくれラギ」

標識を頼りに通りを進み、店名の書かれた大小様々な看板に目を向ける。
レモナーダという文字を見つけた時、時刻は十時半に迫っていた。
木製の扉を押し開くと、そこには薄暗い空間が広がっていた。
カウンター式のバーには客が二人、そしてバーテンダーが一人いる。

バーテンダーは長い金髪を後ろで束ねた三十ほどの女だった。
女はグラスを磨きながら、今まさに店に入ってきた二人に視線と笑顔を向け、静かに言った。

|゚ノ ^∀^)「いらっしゃい」

(=゚д゚)「ここでモーテルをやってるって聞いたラギ」

|゚ノ ^∀^)「えぇ、やっていますよ。
      でもその前に、一杯飲みませんか?」

(=゚д゚)「そうしたいんだが、あんまり金がないラギよ」

|゚ノ ^∀^)「私の奢りです。
      こうしてこの店で会えたのも何かの縁ですから」

882名無しさん:2021/06/28(月) 19:21:53 ID:GrGR9ifo0
( ゙゚_ゞ゚)「じゃあウィスキーをストレートで頼む、銘柄は任せる」

(=゚д゚)「手前は少し遠慮するラギ」

|゚ノ ^∀^)「ふふっ、立ち話もなんですから、どうぞこちらへ」

言われた通りに二人はカウンター席に着き、自然と出されたおしぼりで手を拭いた。

(=゚д゚)「じゃあ俺は何か軽めのカクテルを頼むラギ」

( ゙゚_ゞ゚)「へぇ、あんたもカクテルなんて洒落たもん飲むんだな」

(=゚д゚)「深酒したら明日起きれないラギよ」

( ゙゚_ゞ゚)「お前が起こしてくれるって知ってるからな、大丈夫だ」

(=゚д゚)「絶対に起こさねぇラギ。
    久しぶりのちゃんとしたベッドで寝られるんだ、何で寝起きに不愉快にならなきゃならないラギ」

|゚ノ ^∀^)「じゃあまず、そちらのお兄さんに。
      ジェイムソンのストレートです」

オサムの前に置かれたグラスに、バーテンダーはボトルからダブルの量を注ぐ。
僅かに波打つ琥珀色の液体に、オサムは口を噤んだ。

( ゙゚_ゞ゚)「俺の大好きな銘柄だ」

|゚ノ ^∀^)「それは良かった」

(=゚д゚)「凄いラギね」

|゚ノ ^∀^)「ふふっ、さて、そちらの傷のあるお兄さんは……
      ジン・フィズはいかがですか?」

トラギコは一瞬言葉を失いかけ、そして、バーテンダーに対して興味を抱いた。

(=゚д゚)「驚いた、俺の好きなやつラギ。
    ……なぁ、バーテンさん、質問してもいいラギか?」

|゚ノ ^∀^)「はい、どうぞ」

(=゚д゚)「あんた、俺たちを知ってるラギね?」

その言葉に、バーテンダーは意外な反応を示した。
オサムは気にせずジェイムソンを飲んでいるように見えるが、その実、グラス越しに女のことを油断なく見ていた。

|゚ノ ^∀^)「どうしてそう思うんですか?」

883名無しさん:2021/06/28(月) 19:23:22 ID:GrGR9ifo0
(=゚д゚)「こいつの好みを当てたのが仮に偶然だとして、俺の好きなカクテルを当てたのは偶然じゃないラギ。
    俺はこれまでに3度しかこれを飲んだことがないラギ。
    しかも、イルトリアとは別の場所ラギ」

|゚ノ ^∀^)「ふふっ、ちょっと悪戯が過ぎましたね。
      えぇ、我々はあなた方をよく存じ上げておりますよ。
      “虎”と“葬儀屋”の組み合わせなんて、それはもう目立ちますから」

(=゚д゚)「あんた、何者ラギ?」

|゚ノ ^∀^)「初めまして、私、レモナ・クランクアップといいます。
      以後、お見知りおきを」

( ゙゚_ゞ゚)「おう、よろしく」

(=゚д゚)「ってことは、イルトリアに来た時から目をつけられてたのか」

|゚ノ ^∀^)「いいえ、その前からです。
      “ハイエナ”との戦闘、お見事でしたね。
      普通なら逃げ出すところですよ」

(=゚д゚)「見てたのか」

|゚ノ ^∀^)「私ではありませんが、話に聞いております。
      届けていただいた荷物は非常に大切な物だったので、ぜひお礼を言いたかったのです」

(=゚д゚)「俺たちの素性まで調べ上げるってことは、感謝以外にも警戒の意味があるんだろ?
    本音は何ラギ?」

|゚ノ ^∀^)「本音、ですか。
      それは私の口からは申し上げられません」

(=゚д゚)「へっ、そうだろうよ」

次の瞬間、トラギコは背筋に氷でできた剣を突き付けられた心地がした。
一瞬で命の危険を感じ取ったが、すでに彼の行動が手遅れだということまでも理解してしまった。
全ては一瞬。
オサムでさえも、衝撃を表情に出してしまっている。

( ФωФ)「本音を知りたいか、刑事」

同じカウンター席に座っていたのも忘れてしまうほどに気配を消していたのは、黄金瞳を持つ六十代後半の男だった。
瞼の上から負った深い爪痕のような傷、歳を感じさせつつも、一切の威厳を失わない存在感。
先ほどまでの気配の薄さは完全に失われ、今、目の前にいるのが肉食獣の類であることをトラギコは本能で察する。
そしてその気配、その姿はトラギコの記憶の中に焼き付いていた。

(;=゚д゚)「あんた、どっかで見たことあるラギ……
    オアシズだ、オアシズで見たことあるラギ!!」

884名無しさん:2021/06/28(月) 19:23:53 ID:GrGR9ifo0
( ФωФ)「流石だな、刑事。
       その観察眼、流石はモスカウの人間だ」

(=゚д゚)「お世辞はいらないラギ。
    何で俺を監視してたラギ?」

( ФωФ)「はははっ、威勢が良いな。
       いいだろう、本音を教えてやる。
       お前に一度会ってみたかったのだよ、“虎”と呼ばれる刑事に」

(=゚д゚)「イルトリア向けにPRした記憶はないラギよ」

( ФωФ)「だからこそだ。
       “CAL21号事件”以降、我々の諜報部はお前をジュスティアの中でも優先度の高い監視対象に設定した。
       ジュスティア警察の人間でありながら、警官らしからぬお前の動きは予測がつかないからな。
       我々の脅威となりうるかもしれないという名目の元、お前を監視させていたのだよ」

(=゚д゚)「ってことは、あんたは結構な役職にいるって事ラギね。
    どこぞの軍属の人間ラギか?」

( ФωФ)「ロマネスク・O・スモークジャンパー、“ビーストマスター”と言えば分かるか?」

その名前は勿論だが、異名も合わせれば、知らないはずがなかった。
ジュスティア警察、あるいは群に属する人間であれば嫌でも覚えさせられる名前である。
前イルトリア市長が残したジュスティア軍への傷跡は、決して秘匿しきれるものではない。
渾名は彼が率いた耳付きの精鋭部隊に所以し、その実力と成果を知らない軍人はいない。

(=゚д゚)「こんなところで前市長に会えるとは思ってなかったラギ」

( ФωФ)「本題に入ろう。
       何をしに来た?」

(=゚д゚)「安心しろ、あんたらの街で捕り物をするつもりはないラギ。
    今のところはな」

( ФωФ)「一緒にいる殺し屋はなんだ?」

(=゚д゚)「ごく潰しラギ」

( ゙゚_ゞ゚)「おい、誰がごく潰しだって?
    俺は――」

( ФωФ)「ビルから落ちて生き延びた殺し屋だろう?
       運がよかったな」

( ゙゚_ゞ゚)「……ちっ」

流石に力量の差を見抜き、己を抑え込むだけの理性がオサムには備わっている様だった。

( ФωФ)「大方、人探しだろう?」

885名無しさん:2021/06/28(月) 19:24:13 ID:GrGR9ifo0
(=゚д゚)「だとしたら?」

( ФωФ)「一つだけ警告をしてやろう。
       ここで死なれてもつまらないからな。
       深入りはするな、今はな」

それが何を意味しているのか、トラギコには凡そのことでしか推測できなかった。
デレシアのことを言っているのか、それともティンバーランドの事を言っているのか。
それは全て想像でしか処理が出来ない言い回しだった。

(=゚д゚)「嫌だと言ったら?」

( ФωФ)「警告だと言っただろう?
       それ以上は自分で考えるんだな」

|゚ノ ^∀^)「さぁ、お話はその辺にしてお酒をお楽しみください。
      薬なんて一切入れていませんから」

(=゚д゚)「この状況で飲めってか」

( ゙゚_ゞ゚)「もう一杯ぐらい奢ってくれないか?
     今の話で味が分からなくなっちまった」

オサムの言葉に、トラギコは深い溜息を吐いた。
既に彼らはイルトリアの中にいるのだ。
ここでどのような抵抗をしようとも、最早逃げ切るのは不可能。
ならば、どこまで踊ることが出来るのか、それを試す以外に彼らに出来ることは無い。

カクテルグラスを掴み、一気に中身を飲み干す。

(=゚д゚)「……俺も、酒が蒸発しちまったラギ」

|゚ノ ^∀^)「では、同じのをもう一杯でよろしいですか?」

トラギコにとってイルトリアで初めて過ごす夜は彼の想像以上に過激なものになったが、決して無意味なものではなくなった。
少なくとも、イルトリアの元最高権力者との接触に成功しただけでも収穫だった。
デレシアがこの街にすでに来ている、あるいは来る可能性が高いということも、ロマネスクの発言から推測が出来た。
後はただ、彼女を見つけ次第今後の行動を遠目に監視しつつ、ティンバーランドの動きに注意するだけである。

( ФωФ)「ところで、個人的な質問をいいか?」

(=゚д゚)「何ラギ?」

( ФωФ)「お前のような一匹狼が、何故警察をやっているのだ?」

幾度も尋ねられ、答えてきた質問。
恐らく、ロマネスクはその答えをトラギコの口から直接聞きたいがために、その質問をしたのだろう。
意地の悪い笑顔を浮かべ、トラギコはかつて世界最強だった市長に向けて、いつもと変わらない口調で答えたのであった。

(=゚д゚)「これが俺の天職なんだよ」

886名無しさん:2021/06/28(月) 19:25:51 ID:VZiyChZI0
おっ

887名無しさん:2021/06/28(月) 19:25:57 ID:GrGR9ifo0
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Ammo→Re!!のようです
                                   Ammo for Remnant!!編
:::::::::::::::::::::::://〃'::/    /./'.:::/ }:::::/ /'.::::::::::;イ:: //.:::::::,ィ::::::::://.:::::;イ::::::::;′
:::::::::::/l:::::://.::::∠三ニミ/〃:/ }:} /.::/ 〃.:::::;ィ::/ /.://.::∠三7.:://.:::::/ :|::::::/
::::::::/ィ|::::〃.:/     /.::/ニニ/.:://'.::::::/// イ::〃/_/_/.://.:::::/. : :}:::/
::: /  |::::::/^ー― --,'∠..___  }:://.:::/ /'/ !::/  ,..ィ,/.://.:;ィチ}: : :,':/
:;イ  |:::/ft====={'ェェェェミ、ヽ.}〃/  / ,ィェ|/ -t''´’ノ.::〃.;</ /ヽ:/'´.: :
 |  {/  ゙ミヽ    廴_i!ノ,ィ ` }::/   ,ハ ^ミtl'    ̄/.::; イ / /
 |  '   ヾtニニ====彡'   ,'/     |::{    `ー=ニ// ,'/ /
 |                      |::{         ´  ,'´,厶
                           |:ム          /イ
ヽ{ ===三三三ニ===-             |ニム        /
\'.                          |三ム     /
  '==三三三ニ===-       __  ノニア'’    /
   '.                 ∠三三ヲニ/       /
第十章【Ammo for Remnant!!-断片の銃弾-】 了
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888名無しさん:2021/06/28(月) 19:28:26 ID:GrGR9ifo0
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我らの歩みは根を張るような速度だ。
しかし、その歩みは根を張るように深く、強く、そして広い。
根の一つを失ったとしても我らの歩みは止まることは無い。
そう。

全ては、世界が大樹となる為に。

                                ――とある遺跡で発見された文献より

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September 20th AM08:17

ニョルロックには1日に100本以上の列車が到着し、一度に数千人単位の乗り降りがある。
遠方から来た列車が到着し、長旅を終えた人間が一斉に巨大な駅のホームからニョルロックの街へと繰り出していく。
ニョルロックのほぼ中心にある駅は商業施設の入ったビルと一体化され、駅から降りた人間がすぐに買い物に行けるように設計されている。
街の中を走る地下鉄もその駅に入っており、正にニョルロックを走る列車にとっては心臓そのものだ。

(-@∀@)「迷路みたいですね、こりゃあ」

列車から降りてきたばかりのアサピー・ポストマンは、目の前に広がる巨大な空間と縦横無尽に走る階段や渡り廊下を見て、心からの感想を口にした。
ニダー・スベヌは荷物の入ったキャリーバッグの上に腰かけ、落ち着き払った態度でそれに答えた。

<ヽ`∀´>「初見で迷わない人はいないニダよ」

(-@∀@)「でしょうねー」

l从・∀・ノ!リ人「……うー」

アサピーの服の裾をつまんだまま、イモジャ・スコッチグレインは何か言いたげに唸り声をあげた。
カントリーデンバー

<ヽ`∀´>「イモジャはどうするニダ?
      勿論、駅の外までは連れていくニダよ」

l从・∀・ノ!リ人「えっと、一緒にハハジャのところまで送ってほしいのじゃ……」

<ヽ`∀´>「うーん、場所によるニダね。
      なんていう建物ニダ?」

l从・∀・ノ!リ人「フィンガーファイブって会社なのじゃ、それしか知らないのじゃ……」

ニダーとアサピーは顔を見合わせ、頷いた。

<ヽ`∀´>「いいニダよ」

889名無しさん:2021/06/28(月) 19:28:47 ID:GrGR9ifo0
(-@∀@)「乗り掛かった舟ですからね、一緒に行きましょう!!」

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                脚本・監督・総指揮・原案【ID:KrI9Lnn70】

     総合プロデューサー・アソシエイトプロデューサー・制作担当【ID:KrI9Lnn70】

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同日 某時刻

ニョルロックの街には飲食店は勿論、衣類、医療、娯楽、ありとあらゆるものが揃っている。
経済活動の中心地であるが故に、その出店数は世界最大だ。
新作の商品の売れ行きを確認するために、世界で最も早く新作が発表されるのも、ニョルロックを置いて他にはない。
試作段階のものは当然ながら、ラヴニカだが、そこで製品化が決定した物がニョルロックに来るのである。

世界中から絶えずビジネスマンたちが訪れるため、長期から短期の滞在が可能なホテルが至る所に存在する。
そのホテルで提供されるアメニティや食事もまた、この街に出店をしている企業の新商品であることは決して珍しくない。
その中にある中流ホテルの最上階にある一室を、その日から長期の滞在で利用する男がいた。
ホテルの人間は彼がビジネスでこの街に来たのではないと見抜いていたが、その目的までは分からなかった。

観光客にしては荷物が少なすぎるが、ホテルには時折そうした目的不明の客が来ることがある。
そのため、ホテルの誰もが男の存在に対して大した疑問を抱くことは無かった。
男は寡黙で、そして礼儀正しかった。
チェックイン後、男は部屋の中に持ち込んだ荷物を広げ、窓の下に広がる光景を眺めた。

それからすぐに、街で一番の高層ビルに目を向けた。
複数のビルが身を寄せ合うようにして立つ、異質な一角。
街の市長、あるいは街の管理人、もしくは街の支配者。
内藤財団に属する会社のビル群であり、男がこの街に来た目的そのものでもあった。

(,,゚Д゚)「……」

ギコ・カスケードレンジはライフルスコープを手に取り、ビル群を見た。
超高倍率の光学照準器は、離れた場所に建つビルのガラスの向こうにいる人間の顔を認識できるほどの性能があった。
複数の企業の看板が並ぶ中に、彼は目的の建物を見つけ出した。
そこには“フィンガーファイブ”と書かれており、彼の標的の一人が今まさにガラスの向こうに姿を現したところだった。

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           編集・録音・テキストエフェクトデザイン【ID:KrI9Lnn70】

      撮影監督・美術監督・美術設定・ビジュアルコーディネート【ID:KrI9Lnn70】

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890名無しさん:2021/06/28(月) 19:29:08 ID:GrGR9ifo0
同日 某時刻

ニョルロックの内藤財団本社ビル地下駐車場に、一台のSUVが到着した。
ドアを開けて降りてきた五人の男女の顔にはまだ若干の疲労の色が残されているが、それ以上に無事に到着できたことに対する安堵の色が強く出ている。
彼らは道中、最小限の休憩だけを取り、ジュスティアからニョルロックまでの無謀ともいえる移動を完遂させたのである。
ジュスティア警察の影響力のないヴェガに立ち寄り、そこで協力者の手を借りてケガ人の治療と療養を行った。

それから移動に必要な金や道具を手に入れ、クラフト山脈の麓にある極秘のトンネルを使用し、通常ではありえない程の速さでニョルロックに到着し得たのだ。

('A`)「はぁ……」

ドクオ・バンズは溜息を吐いたが、その溜息は己が為した結果に満足しての物だった。
彼は囚われていた四人の仲間を救い、無事にこうしてニョルロックにまで運ぶことが出来た。
仲間たちは誰もが重傷を負っていたが、ヴェガで受けた治療によって発見当初よりも回復をしていた。
自力で歩く四人の仲間は、迎えに来た看護師たちに付き添われながらビルの中に入っていく。

事前に人払いの済まされていた為、彼らの姿は誰にも見られていなかった。
唯一ほぼ無傷だったドクオは、報告のためにビルの中に入ろうとした。
その彼を、背後から呼び止める存在がいた。

( ゚д゚ )「同志ドクオ・バンズ」

禿頭の偉丈夫、“鉄の男”、ミルナ・G・ホーキンス。
元イルトリア軍人が発する威圧感は出会ってから一切変わらず、常にドクオは背中にナイフを突き立てられているような錯覚に陥る。

(;'A`)「同志ミルナ、一体どうしました?」

( ゚д゚ )「正直、お前のことはオアシズとティンカーベルの時に失望したが、今回はお手柄だ。
     それを伝えたかった」

(;'A`)「き、恐縮です!!」

果たしてドクオの力で彼らを救えたのかと言われれば、それは違う。
彼らが解き放たれたのはフォックス・ジャラン・スリウァヤと救出した四人の内一人が取引をしたからであり、ドクオはそれを早急に伝えなければならない。
ドクオはただ、与えられた骨を持ち帰ってきただけに過ぎないのだ。
しかしこの時、ドクオはそれを言い出せなかった。

彼の中にある小さな矜持が口を噤ませ、ミルナからの言葉を素直に受け止めさせた。
裏切り者も助けてしまったかもしれないという負い目が、それを後押ししたのだろう。
ヴェガにいる間、ドクオは可能な限り彼らの行動を見張っていたが、彼が気づくような違和感はなかった。
取引の真偽さえ分からないドクオにとって、この情報を複数の人間に話すのはリスクが高いと感じていた。

(;'A`)「ところで、同志西川・リーガル・ホライゾンはおりますか?
   至急報告したいことが」

( ゚д゚ )「社長室にいるはずだが」

(;'A`)「あ、ありがとうございます……!!」

エレベーターに向かうドクオの背に、ミルナは短く告げた。

891名無しさん:2021/06/28(月) 19:29:30 ID:GrGR9ifo0
( ゚д゚ )「報告が終わったら、すぐに移動できる用意をしておけ。
     計画の実行が近い。
     ストラットバームに3日後だ」

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     総作画監督・脳内キャラクターデザイン・グラフィックデザイン【ID:KrI9Lnn70】

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同日 同時刻

ストラットバームに向かう交通手段は陸路、あるいは空路しかない。
陸路で行くには険しい岩山の間に偽装されたトンネルを使い、クラフト山脈の西側に向かうことになる。
正確な道のりを進まなければたちまち地雷原へと招かれ、爆殺されることになる。
道のりを知るのはティンバーランドに所属する人間の中でも、限られた人間だけだ。

マドラス・モララーはその限られた人間の内の一人だった。

( ・∀・)「それで、そろそろ理由を聞かせてもらえませんか?」

ハンドルを片手で操作しながら、モララーは助手席の女に目を向けずに質問をした。
女は張り付いた笑顔を一切崩さずに言った。

( *´艸`)「乙女の秘密ですっ」

( ・∀・)「モーガンさん、我々はもう仲間ですよ?
     隠す必要はないでしょうに」

モーガン・コーラはクスクスと笑い声を発し、それから、モララーを見た。

( *´艸`)「なら、どうして私のことは同志、って呼んでくれないんですか?」

( ・∀・)「同志かどうか、それさえも分からないからですよ。
     あなたは何故、ティンバーランドに参加するのですか」

( *´艸`)「じゃあ、まずは同志モララーが教えてくださいよぉ」

モララーは空いた手でドリンクホルダーからコーヒーの入った紙コップを取り、口に運んだ。
セントラスで見せたモーガンの交渉術や外堀の埋め方は、モララーの想像以上の物だった。
十字教という世界最大の宗教組織の中枢に根を張れたのは、彼女の功績があってこそのものだ。

( ・∀・)「……私は、もともとは神父でしてね。
     多くの人を救うために、この道を選んだのですよ」

僅かの沈黙を間に挟み、モーガンが答える。

( *´艸`)「私は、この世界の仕組みが嫌いなんです。
     知っていますか? 今こうしている間にも飢餓で死んだり、奴隷として売られる子供がいるんです。
     救うためには仕組みを変えるしかないんです」

892名無しさん:2021/06/28(月) 19:30:08 ID:GrGR9ifo0
( ・∀・)「なるほどね。
     あなたの何が買われて組織に呼ばれたのかは知りませんが、改めてよろしくお願いしますよ。
     同志モーガン」

( *´艸`)「はいっ! よろしくお願いしますね、同志モララー!」

握手をしようと手を伸ばしかけた時、二人の視線がバックミラーに向けられた。
背後に一台の車が現れたことに、その時二人は同時に気が付いたのであった。

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            撮影・演出・音響・衣装・演技指導・編集【ID:KrI9Lnn70】

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同日 同時刻

深い、到底光の届くことのない深海。
そこに一隻の原子力潜水艦がいた。
現代に復元されたことさえ公表されないその原子力潜水艦には、金色の大樹のモチーフが描かれており、どこかの組織に属する艦であることを物語っている。
ベルリナー海の海底を進む“レッド・オクトーバー”の中では、奇妙な光景が繰り広げられていた。

( <●><●>)

(’e’)

ワカッテマス・ロンウルフとイーディン・S・ジョーンズの二人の男が机を挟んで一枚のモニターを見つめ合い、そして笑みを浮かべている。

从'ー'从「……気持ち悪いんですけど」

(´・ω・`)「さっきから何をしているんだ、君たちは」

ワタナベ・ビルケンシュトックとショボン・パドローネの言葉を聞いて、男二人は深い溜息を吐いた。
その溜息は明らかに落胆したものであり、ワカッテマスは白けた目を二人に向け、そしてジョーンズは舌打ちをした。

(’e’)「ちっ、これだから」

( <●><●>)「風情がないのでしょうかね、あなたたちは」

从'ー'从「風情よりも何よりも、さっきから何をニヤニヤ2人でやっているのかしら?」

(’e’)「深海だよ、深海。
   ほらっ、見たまえ、この暗さ!!
   うん、この暗さがちょうどいいねぇ!!」

( <●><●>)「博士、こっちの方に何か動いているのがいますよ」

(’e’)「いやぁ、いいねぇ!!
   深海にはロマンがあるよ!!」

893名無しさん:2021/06/28(月) 19:30:32 ID:GrGR9ifo0
(;´・ω・`)「真っ暗で何も見えないのですが」

(’e’)「君には心の目がないのかね?
   少年の目だよ、少年の目」

从'ー'从「私、女なんですけど」

( <●><●>)「はぁ……博士、もういくつかライトを点けてやってもらえますか?」

(’e’)「うむ、君が言うんならそうしよう」

ジョーンズは立ち上がり、モニターの上に指を滑らせた。
アイコンが現れ、ジョーンズはライトのアイコンに触れる。
そして、モニターの向こうに見える世界の正体が露わになった。

(;´・ω・`)「なっ……!!」

从;'-'从「えっ……!?」

894名無しさん:2021/06/28(月) 19:32:53 ID:GrGR9ifo0
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   }i:i:| | | | | :| :| | | | | _| | | | | | | | | | |::|:|        冂          .|::::: |: / "´ /   |: :|
   }i:i:| |_| |_|::l__| |_| | |:::|_| |_| |_| |_| |_|┤|:|    | ̄ ̄:: :|    ___,|::::: |/‐=ニ/¨ニ‐:L. ┬i
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   }i:i:i| |_| |_|::|_]::|_| |_[::|_| |_| |_| |_| | |^'| |:|     | :::::::::::: |  ┌‐:i: : : : : : |: /-=ニ/¨ニ‐ _..:i´:
┌─{i:i:i| | | | |::| |::| | | |::| | | | | | | | | | | |:|,_ ┌L__:::::::::::|┌┘: :i: : : : : : |/ "´ /´"'ー=_`'|: :

         二人は同時に驚きの声を上げ、モニターの向こうを食い入るように見た。
                     そこには多くの直線があった。
                     そこには多くの垂直があった。
                    それは、紛れもない人工物の名残。

‐‐‐‐{i:i:| |丁|└r‐‐TT´--┴__|┬┼┤ | /:::::::_广"''ー‐‐-v゛|::::::::|==|===|===|===|===|=|
¨¨""{i:i:| |¦|::::|_____| |T丁「「__|⊥┘::|  | |:|::::::::|_____|:::|::::::::|==|===|===|===|===|=
─--ヘi:i| |::|::|:::|─‐」 |ニ二「--ーrf「「l|  |/:|::::::::|_____>::|::::::::|==|===|===|===|===|=
─--Ji:i| |¦|:::|:::::::└n-‐-|‐‐r┼nT|'' | |::::::::| ̄ ̄广「|¨¨{ :|::::::::|==|===|===|===|===|=|: :|
…─{i:i:| |:::ノ:/:::::::::::ノ'|:::: └Л | | |:|:|  |_⊥--r¬¬TニニT冖宀─=ニ」_==:|===|===|===|=|
 ̄¨¨}i:i:| | { |{ ̄\:|  |::n:::「|::「| | |_l:|  | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|==|===|===|===|=|: :|
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二丁」i:i:| | { | | | | | |  | | | | | | | |:| | |  |┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴|==|===|===|===|=| |
二二二¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨/\:::| |_| |_l |_| |  |┬┬┬┬┬┬┬┬‐へ┬┬‐|==|===|===|===|=|

               深海の世界に広がっていたのは、明らかに街の残骸だった。

 |: |_,|‐|¨¨¨ |::::::/:::::::|/|::| |_|_|| ̄ ̄ ̄ ̄し'^^¨l|T冖ヒノ_‘,:::/∧ : : : : : :゙i,  \ ^  ......
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             制作協力【全てのブーン系読者・作者の皆さん】

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895名無しさん:2021/06/28(月) 19:33:52 ID:GrGR9ifo0
同日 某時刻

内藤財団が作り上げた多目的実験設備、ストラットバームはティンバーランドの拠点であり、始点でもあった。
聳え立つクラフト山脈を利用してその内側に作られた設備は、現代の中でも最高水準のもので、世に流通していない数々の兵器が生み出されている。
地下深くに作られた実験場には巨大な兵器の残骸ともとれるものが幾つも並び、青いツナギを着た作業員たちが工具を手に作業を行っていた。

「どうだ、調子は」

無精ひげを生やした作業員の一人が、同僚に向けて声をかける。
同僚は人一人が入ることのできる狭い空間から身を出すことなく、声だけで返答をした。

「えぇ、修復は問題なさそうです。
明日には行けそうです」

「そりゃよかった。
明後日には同志ジョーンズが来るそうだから、稼働テストが出来るな」

「外傷が少なかったのが幸いしましたね。
……しっかし、これだけデカいのをよく運び出せましたね」

「海の近くだったからな、バラシて分散して陸と海の両方で運んだらしい。
まぁその影響で結構デザインが変わったみたいだが、性能は向上したはずだ。
装備を作るのに相当苦労したみたいだが、それだけの価値があるってことだな」

「確かに。 我々の夢を掲げるにはこれぐらいの物が必要ですからね」

男はその狭い空間から這い出して、改めて自分が修理を手掛けた兵器を仰ぎ見る。

896名無しさん:2021/06/28(月) 19:34:14 ID:GrGR9ifo0
                    “ハート・ロッカー”
                    「棺   桶 、か」

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                    Ammo→Re!!のようです
                 Ammo for Remnant!!編 Epilogue
                                        
        |)__((/二二二二二二二二二二二二二二二二二)
       Foro_. -/ r┐ =iT三l ̄ ̄ ̄|i_r-、___........r‐-、
       |)=ニ}_./| ̄|ー| ̄ ̄レ(Oj`i ̄ ̄日 ━┷╋ ̄|i ___ ̄ ̄))
         ̄フ |丁天了ト'´'´  | |ニ二二l----、_ / |―‐' ̄ ̄
        ∠ -┘`フ‐'フ´ ̄`▽三 ̄7   ̄¨`''ーッ< /
        _,r-=j<} l li.   li ̄ ̄:l      イ   \
    _,. -‐''7   √ ,ヘ. ヽ.    lZ__|  . ‐'´ .l   /
  ∠=ァ  ム=≠ヲ、 ̄ヽ._}ー、∧ノ `i レ 'i´    l  l
  `ー‐<  〉li `YT王三|「| ̄}_, -r''"   i.     レ'′
      `エ -、∠_ム.__三j|.jへ,l   i    l.   /
       }lヽr┴く(ェrェr/`ヽ(=)   l    l. .ィく
    __∠..,_/ /√¨i/ . '  ノ彡  .i   ,‐'´   ヽ,  ィヘ
   /" rー-- ̄¨`、/. '  ,∠-ァへ.  !‐'´       'く/
   了ミ¨ヘ、___r‐ァ'⌒ヽ、∠-ヘ天"`、`く   o   。  i
    フ彡-=イ「¨Z/Z_ノ-‐┴ へ.ヽ, ヽ >ー-((/)..,,_ l
   ノ¨`(¨l ̄ ̄ト. ̄ヽ.      .ヽ.`て7''ー-、_     ̄\
  Lニ!=^(¨l ̄ ̄ト. ....l 「」,,...「」_ 〉 .>、_/  ̄`'ーァ=ニ二ヽ
      j゙'T''T'ヘム.-┴‐―=―‐'‐、\ ム、  .../      ヾ
    il ̄`'┴ニ‐'´`ヽ.         .i. \ `'ー‐'        li
   く li、  / ‐'''jl  }l:.  「~「~「~「~ヽ   l     「~「~「~「~「《
   `'┴―'----'―‐'―‐┴┴┴┴''′ └ー‐―┴┴┴┴┴'       To be continued!!
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897名無しさん:2021/06/28(月) 19:34:47 ID:GrGR9ifo0
これにて今回の投下とRemnant!!編はお終いとなります

質問、指摘、感想などあれば幸いです

898名無しさん:2021/06/28(月) 20:05:23 ID:1iVpT/J.0
乙です

899名無しさん:2021/06/28(月) 22:37:11 ID:JzjN1bvE0
乙乙
またハート・ロッカーが出てくるとは思わんかった

900名無しさん:2021/06/29(火) 02:04:40 ID:O5ZPA3K.0
>>861
ζ(゚ー゚*ζ「挑戦したのはロブ・クラークという男性でね……」
〜中略〜
ノパ⊿゚)「……ボブって奴は、何で山を登ったんだろうな」

どっからボブ出てきた

901名無しさん:2021/06/29(火) 06:19:46 ID:yrQEBrEw0
>>900

何で……ボブ……(´・ω・`)(´・ω:;.:…(´:;….::;.:. :::;.. …..

902名無しさん:2021/06/29(火) 11:18:56 ID:OZ7Q43/E0
敵のほぼ本拠地に一人ってギコさん結構やばくね?

903名無しさん:2021/06/30(水) 12:55:46 ID:xIHJtbMw0
しかし序盤で死ぬモブだと思ってたオサムがここまでメイン張るとは

904名無しさん:2021/06/30(水) 20:35:25 ID:Eo5jtc8s0
乙 今回も面白かった!
語彙力がなくて申し訳ないんだけど、実力のある人がいかにも強いってわかるような雰囲気が出ているところがカッコ良くて好き。

>>851
離れた痛場所でそれを聞き咎めた給仕係は頷き

は離れていた場所、もしくは離れた場所 の間違いかな?

>>888
アサピーの服の裾をつまんだまま、イモジャ・スコッチグレインは何か言いたげに唸り声をあげた。
カントリーデンバー

<ヽ`∀´>「イモジャはどうするニダ?
      勿論、駅の外までは連れていくニダよ」

このカントリーデンバーは、何か意味があったり?

905名無しさん:2021/06/30(水) 20:44:21 ID:t5v4lWo20
>>904
ぎにゃああ!! どうして!! どうしてこうなるの!!
いつもありがとうございます……!!

906名無しさん:2021/07/23(金) 18:11:58 ID:Rk6IoSeE0
遅ればせながらおつ
ポットラックが無事に終わりそうで何より
ギコは兄弟への復讐だけじゃ足らんのか
どこまでやるのか楽しみ

907名無しさん:2021/08/08(日) 10:40:44 ID:Xp0t60oA0
明日の夜VIPでお会いしましょう

908名無しさん:2021/08/08(日) 21:28:59 ID:i98gZZrM0
まってます!!

909名無しさん:2021/08/10(火) 20:42:33 ID:VMzYVuKw0
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経済の世界には不思議な現象が起こることがある。
均衡を保とうとする不思議な力だ。
我々はそれを“神の見えざる手”と呼ぶ。

動物の世界には不思議な現象が起こることがある。
個体を変化に適応させようとする不思議な力だ。
我々はそれを“進化”と呼ぶ。

人間の世界には不思議な現象が起こることがある。
不自然を維持しようとする不思議な力だ。
我々はそれを何と呼ぶべきなのだろうか。

                         ――アルプス・スプラウト著『進化論』より抜粋

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September 23rd 某時刻

その空間は広く、そして明るかった。
間接照明によって白く照らされた部屋の中央には、ガラスで作られた円卓があり、その周囲を囲む形で柔らかそうなクッションのついた椅子が並ぶ。
高い天井全体が淡く発光し、まるで陽光のように穏やかな光が降り注いでいる。
各人の前には透明のカップに注がれた紅茶が並び、小皿には茶菓子が盛られていた。

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                                         The Ammo→Re!!
                                    原作【Ammo→Re!!のようです】

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その空間には年齢、性別の違う人間ばかりが集まっていたが、彼らの志は同じだった。
時計が予定の時刻を指示した瞬間、最初に口を開いたのは、禿頭の男だった。
男の佇まいはどこか老犬を思わせるものがあったが、その目は死んでいるどころか、爛々と輝いている。
その体には真新しい傷が幾つもついているが、まるで弱々しさを感じさせない声でショボン・パドローネは第一声を発した。

(´・ω・`)「報告から始めよう。
     我々はジュスティア警察に捉えられ、拷問を受けたが、情報は何一つとして流していない。
     ただ、我々を救出する段階で同志カラマロス・ロングディスタンスが死んだ。
     奴らの罠だった。

     それでも、同志ドクオの助力がなければ全滅していただろうな」

かつて警官だっただけあり、その声は張り上げてすらいないのに、聞く者の耳にまっすぐに届いた。
長い黒髪の男の方を見て、ショボンはそう言って会話のバトンを渡した。
名前を呼ばれたドクオ・バンズは気恥ずかしそうに鼻の頭を指で掻き、報告の続きを始めた。

910名無しさん:2021/08/10(火) 20:42:57 ID:VMzYVuKw0
('A`)「同志キュートと共に救出を試みました。
   奴らは護衛の中に身動きの取れない状態の同志カラマロスを連れてきていて、咄嗟の判断で判別するのは不可能でした」

ドクオは同意を求めるように、女性に目を向けた。

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                脚本・監督・総指揮・原案【ID:KrI9Lnn70】

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紅茶を上品に飲み、くすんだ空を思わせる碧眼でドクオを一瞥したキュート・ウルヴァリンが溜息を吐く。
それから何事もなかったかのように全員を見渡し、言った。

o川*゚ー゚)o「彼の言うとおりだ。
       こちらは一刻を争う状況だったため、いちいち敵勢力の素性を確認などしていられなかった。
       同志カラマロスは気の毒だったとしか言えないな」

彼女の物言いは極めて落ち着いたものであったが、有無を言わせぬ何かがあった。
組織内における彼女の立ち位置だけでなく、紛うことなき実力者である彼女の言葉が持つ説得力。
更には、実際にその現場に居合わせた人間の多さが疑問を挟む余地を与えなかったのである。
オールバックした黒髪の男は細目を僅かに開き、シナー・クラークスはキュートの言葉に頷き、補足説明を行った。

( `ハ´)「同志キュートと同志ドクオには感謝しているアル。
     解せないことは多々あるが、それでも、あの空間から救われたのは事実アル。
     同志カラマロスのことは気の毒アルが、それでも一人の犠牲で済んだのは奇跡ネ」

ジュスティア警察で広報担当者として勤務していたビロード・コンバースは、シナーの言葉に激しく頷いた。
現職の彼はこの場の誰よりもその難易度を理解しており、実際に助けられた人間の一人だった。
実際に殺されてもおかしくない経験をした一方、強烈な疑問を抱いた人間の一人だ。

( ><)「あいつらは我々全員を殺すつもりで拷問していました。
      それを開放した理由だけが、分からないんです」

腕を組んで話を聞いていたジョルジュ・マグナーニが、静かに口を開いた。
彼自身もまた、ドクオとキュートによって助けられた元ジュスティア警察の人間で、ビロードよりも深い部分でジュスティアという街の仕組みを理解していた。
ショボンとジョルジュ。
この二人がジュスティアの暗部について語る言葉は、真実以上の重みがある。
  _
( ゚∀゚)「気にするな。
    どうせ、そうやって疑心暗鬼にさせるのが奴らの狙いだ」

そして僅かの沈黙が間に挟まり、小さな咳払いと共に、次の男が口を開いた。
スーツを着て身綺麗にした短い茶髪の男は、どこか芝居めいた口調で言葉を紡いだ。

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     総合プロデューサー・アソシエイトプロデューサー・制作担当【ID:KrI9Lnn70】

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911名無しさん:2021/08/10(火) 20:44:39 ID:VMzYVuKw0
( ・∀・)「我々の報告をさせていただきましょう。
      セントラスとの業務提携、滞りなく進みました。
      十字教の教会、信者に支給されるあらゆる物の製造については、我々の手が入ることになります。
      では詳細について、同志モーガン」

マドラス・モララーに促され、新入りのモーガン・コーラが口を開く。
その素性について細かなことは誰も知らないが、彼女の功績で作戦が進んだことは紛れもない事実だった。

( *´艸`)「教皇、クライスト・シードと交渉して、我々が介入する許可を得たんです。
     ほら、十字教は世界中に広がっているじゃないですか。
     それに追いつけるだけの供給力と安価さを提示したら結構簡単に食いつきました」

十字教が必要とする物資は多岐にわたる。
衣類、食料品、果ては住居に至るまでほとんどの物が教義に従って用意され、販売されている。
その製品には厳格なルールがあり、決してミスは許されない。
例えば衣類であれば、使用する素材の種類は勿論、染色方法に至るまで細かな規定があり、食事についても同様だ。

従来は御用聞きの店が営んでいたが、それ故に高額な料金がかかっていた。
そこに、彼らは活路を見出した。
信者を逃さないためにも、十字教としては売りつける物が不足している事態は回避したい。
常に速度を求めている宗教家にとって、内藤財団の助力は喉から手が出るほど欲しいものだったはずだ。

交渉は難航するかに思われたが、二人の話術によってそれは杞憂に終わった。
十字教に根を下ろすということは、世界中に根を下ろすのと同義なのだ。
信者に扮して入り込むことも、信仰心を利用して計画を進めることも出来る。
モーガンの報告に、数人が驚いた表情を浮かべたが、静かに挙手をした女性の動作によってそれはすぐに消え去った。

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           編集・録音・テキストエフェクトデザイン【ID:KrI9Lnn70】

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川 ゚ -゚)「次は我々だ。
     博士」

クール・オロラ・レッドウィングは淡々と言い放ち、視線を隣の席にいるイーディン・S・ジョーンズに向けた。
視線を向けられたジョーンズはそれに気づき、手に持って香りを楽しんでいた紅茶を優雅に一口啜ってから答える。

(’e’)「あぁ、うん。
   えーっと、オセアンから回収したハート・ロッカーの修理だが、昨日無事に完了したよ。
   最初に言っていた通り、四門の砲塔部分は改修させてもらった。
   これで最大射程が伸びて、この場所にいてもイルトリアに撃ち込むことが出来る。

   ただし、残るは砲弾だけだ。
   砲弾の件については私ではなく、えーっと、誰だったかな」

言葉ではそう言いつつ、ジョーンズはそれ以降の話について興味を持っていない様だった。
視線を周囲に向けるでも、思い出そうとするわけでもなく、彼の手は茶菓子に伸びてそれを口に運んだ。
もったいぶるようにして咀嚼し、嚥下してから感嘆の声を上げる。

912名無しさん:2021/08/10(火) 20:47:01 ID:VMzYVuKw0
(’e’)「このクッキー、美味しいじゃないか。
   まぁいい、とりあえず、砲弾以外の部分については問題なく稼働することも確認済みだ。
   同志キュートと同志クールのおかげで、遠隔での操作も可能になった。
   さっきも言ったが、後は飛ばす物次第だよ。

   ただの砲弾ならいいが、長距離に高精度で飛ばすとなると、物が違う。
   燃料の調合もそうだが、コントロールチップも必要だからね」

技術的な話を理解できる人間はその場にほとんどいないが、彼はそのことを全く気にも留めていなかった。

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      撮影監督・美術監督・美術設定・ビジュアルコーディネート【ID:KrI9Lnn70】

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( ゚д゚ )「……ラヴニカがまだ完全に我々の手に落ちていないため、生産のメドが立っていない。
    だが時間の問題だ」

ジョーンズの言葉に苛立つようにして、ミルナ・G・ホーキンスが話を引き継いだ。
組んでいた太い腕を組みかえ、話はそこで終わりだとばかりに瞼を降ろした。
しかし。

从'ー'从「何で完全じゃないのかしらぁ?」

神経を逆なでするような甘い声を出したワタナベ・ビルケンシュトックによって、彼は瞼を開かざるを得なかった。
ラヴニカでの作戦は極めて重要な物であり、その報告についてはまだ欠けている物があるのは事実だ。
それを補足したのは、新参のワカッテマス・ロンウルフだった。

( <●><●>)「全部のギルドマスターが殺せたのならばよかったのですが、キュヒロギルドだけは代理人を立てていたのですよ。
       これは性急な会議をねじ込んだハスミ・トロスターニ・ミームのせいですね」

从'ー'从「なら、直接キュヒロギルドのマスターを殺せばいいんじゃないかしらぁ?」

( ゚д゚ )「そんなことをすれば我々の努力が無駄になるのも分からないのか、同志ワタナベ」

从'ー'从「やだぁ、言ってみただけよぉ」

けらけらと笑い、ワタナベは紅茶を一口飲んで喉を潤した。

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     総作画監督・脳内キャラクターデザイン・グラフィックデザイン【ID:KrI9Lnn70】

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从'ー'从「そう言えばぁ、結構酷い目にあった人がいるみたいだけど、その報告はするのかしらぁ?」

913名無しさん:2021/08/10(火) 21:02:07 ID:VMzYVuKw0
彼女の言葉に身を震わせたのは一人。
存在しない拳を握りしめたのが一人。
いずれも、最近になって深手を負った人間だった。
先に口を開いたのはハインリッヒ・ヒムラー・トリッペンだった。

从 ゚∀从「ヴィンスでの作戦行動中に、“戦争王”に襲われました。
      ですがヴィンスへの介入は成功しています」

从'ー'从「それは良かったわねぇ。
     で、“今年”は何を獲られたの?」

彼女の事情を知るワタナベは、まるで面白い玩具を前にした子供のように無邪気に質問をした。
ハインリッヒが冷や汗を流したのは、単純にその時のことを思い出したからではなかった。

从;゚∀从「右足の指……全てです……」

从'ー'从「良かったわねぇ、その程度で済んで。
     それで、同志アニーは?
     あれぇ? そういえば、弟の同志オットーは?」

いつの間にか主導権を握ったワタナベであるが、彼女の言動を咎められるだけの地位の人間はそう多くない。
更には、数少ないその地位にいる人間も彼らに起きたことについて興味があるのが事実だった。
果たして何者がここまで手ひどい傷を負わせたのか、その復讐に興味がある人間と、人の不幸に興味がある人間の二種類がその場にはいた。
ワタナベは間違いなく後者だった。

アニー・スコッチグレインは苦虫を潰したような顔をして答えた。

( ´_ゝ`)「……療養中、ギコ・カスケードレンジにやられました。
     弟が殺され、妹が行方不明です」

从'ー'从「何か恨みを買うことでもしたのかしらぁ?」

( ´_ゝ`)「我々の計画通り、ペニサス・ノースフェイスを殺したのが原因かと」

从'ー'从「そっかぁ、なら安く済んだわねぇ」

この場においてもワタナベの悪癖は治ることは無かった。
彼女の興味を持たない人間、あるいは弱い立場にいる人間に対して、その神経を逆なでするような言葉を発することは組織内で問題視されていた。
仮に、その発言が事実だとしても、それは組織として許されるものではない。
それを咎められる人間の一人が、今まさに彼女の発言に対してガラスのテーブルが震えるほどの怒声を発したクックル・タンカーブーツだった。

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            撮影・演出・音響・衣装・演技指導・編集【ID:KrI9Lnn70】

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( ゚∋゚)「挑発行為はやめろ、同志ワタナベ」

从'ー'从「ごめんなさいねぇ、そんなつもりはないわよぉ」

914名無しさん:2021/08/10(火) 21:02:29 ID:VMzYVuKw0
大して気にした様子も見せないが、ワタナベは演技めいてそう言ってみせた。
丸太のように太い腕に込めた力が苛立ちを示すが、クックルの言葉は先ほどと変わらない口調で続けられた。

( ゚∋゚)「それで、そちらの進行状況はどうなっているんだ?」

从'ー'从「えぇ?」

( ゚∋゚)「とぼけるな、ティンカーベルの報告だ」

从'ー'从「あぁ、今進行中ってところですぅ」

( ゚∋゚)「ほぼ何だ、進行中とは。
    予定では完了しているはずだろう」

从'ー'从「どっかの馬鹿が色々としくじってくれたおかげで、ジュスティアが怒ってるのよ。
     写真まで出ちゃってるから、こっちの会社が介入するところにジュスティアもセットになっちゃってるんです。
     何せ、脱獄に際して潜水艦やら新型の棺桶まで披露しちゃったからねぇ。
     ねぇ、心当たりあるかしらぁ?」

ティンカーベルで起きた一連の大騒動は、今もまだ鎮火し切れていない。
彼らが狙っていたニューソクは爆破され、今は棺桶を発掘し、それを秘密裏にニョルロックに送り届けるだけの作業でさえ難航している。
安全上の監視としてジュスティアが目を光らせ、コンセプト・シリーズが発掘。
市場に流さずに内藤財団が保有し、それが何かしらのテロ行為に使われていると分かれば、これまでの努力に泥を塗ることになる。

クックルは何か言いたげに眉を吊り上げたが、それ以上何も言うことは無かった。
彼は沈黙が雄弁である時を心得ており、今は何も言わないのが得策であることも理解していた。
ワタナベという女の言葉は常に火種を探しており、それに乗れば無駄な時間が増えるということを知っているからだ。

( ゚∋゚)「ふん……」

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             制作協力【全てのブーン系読者・作者の皆さん】

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それから細かな報告が終わると、誰もが口を噤み、沈黙を生み出した。
あのワタナベでさえ、紅茶を啜る程度にしか音を立てておらず、皆の視線は二人の人間に注がれていた。
一人は、金髪の女性。
内藤財団副社長、西川・ツンディエレ・ホライゾン。

鋭い眼光を光らせ、決して油断することのない決意を露わにし、彼女が言葉を発する。
その言葉は静かに、そして力強く、その空間にいた人間の鼓膜を震わせた。

915名無しさん:2021/08/10(火) 21:03:03 ID:VMzYVuKw0
ξ゚⊿゚)ξ「残りの歩みはあと一歩です。
      それぞれ計画通り、所定の都市に向かってください。
      開始の号令は予定通りです。
      力が世界を動かすなどというルールは、もう間もなく失われます。

                  r e b a l a n c e
      我々が、この手で、ルールを変えるのです。
      この世界に今蔓延っている、力を使って」

そしてもう一人。
ツンディエレの隣に座る内藤財団社長、西川・リーガル・ホライゾン。
会議が始まってから、否、会議が始まる前から笑顔を保った彼の口が次に何を語るのか。
その場にいる全員が心得ていた。

それは彼らの行動理念であり、彼らの目的であり、彼らの悲願でもある言葉だ。
ティンバーランドが目指す、最終目的地。
彼らのこれまでの何もかもは、その言葉に集約されるのだ。

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               これは、力が世界を動かす時代の物語
      This is the story about the world where the force can change everything...

                 そして、新たな旅の始まりである
              And it is the beginning of new Ammo→Re!!

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そう、全ては――






( ^ω^)「――全ては、世界が大樹となる為に」





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916名無しさん:2021/08/10(火) 21:04:38 ID:VMzYVuKw0
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               Ammo for Rebalance!!編

                 ,-┐ ∧ヾ V7 rァ
              ,r-、」 k V ハ Y / //__
                ィx \マ ィ、 〈 | 、V rァ r‐┘
             > `‐` l/,ィ V / 〉 〃 ,ニ孑
            f´tァ 厶フ ヽ! fj |/厶7厶-‐¬
             │k_/`z_/> ,、    ,、 xへ戈!│
            | l      ̄ | f^´  ̄    !│
            ヽ`ー--、____| |      / /
             \       __ ̄二ニ='/
              `<ニ二、_____/
                    ``ー----─ '´

           序章【dreamers-夢見る者達-】 了

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917名無しさん:2021/08/10(火) 21:06:04 ID:VMzYVuKw0
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音もなく、影もなく。
我らの目は全てを見届け、我らの耳は全てを聞き届ける。
知られずに知ることこそが、我々なのだ。

                   イルトリア陸軍諜報部“FOX”所属、ビルボ・ヘイルストーン

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September 24th AM09:55

ニョルロックに吹き込むクラフト山脈からの冷気は、周囲を取り囲む背の高いビルによって遮られるが、完全ではなかった。
特に、高層ビルの窓ガラスに空いた巨大な穴から吹き込む風は、防ぎようがない。
街の治安維持組織“レプス”の殺人事件担当者は既に鑑識による徹底した捜査が行われた現場に足を運び、何か見逃していることがないか、改めて確認をしていた。
四日前に起きたフィンガー・ファイブ社の重役二人の射殺事件は、街を管理する内藤財団から強い圧力がかかり、情報が秘匿されている。

長距離からの狙撃は日が沈む前に行われたにも関わらず、目撃者などの情報は何一つ出ていない。
使用された銃弾は口径の大きな対物ライフルから放たれ、被害者二人の頭部を正確に吹き飛ばしていた。
頭部を貫通した銃弾は社長室の壁に二つの穴を開け、鑑識チームがそれを取り出すのに相当苦労をしていた。
頭を失った二つの死体の身元が分かったのは、彼らが身に着けていたIDカードのおかげだった。

被害者はハハジャ・スコッチグレインとチチジャ・スコッチグレインの夫婦で、フィンガー・ファイブ社の社長と副社長だった。
街の中では内藤財団傘下の一社として重要な地位にあったが、確かに傭兵派遣会社という特性上、恨みを買う商売ではあった。
二人を殺して得をする人物の特定にはまだ時間がかかっており、内藤財団の圧力がその足を引っ張っているのは間違いない。
カラクッド・クランド現場責任者はレプスで三十年以上務めるベテランだが、ここまでやりづらさを感じる事件は初めてだった。

何より、内藤財団からの圧力がかかる事件というのは往々にして複雑な利権が絡んでいる物ばかりだ。
だが、新聞社への情報提供は勿論だが、情報の聞き込みによって周囲に悟られるのも許されていなかった。
従業員たちの中でもこの事件を知るのは一部の人間だけで、その人間達は今、レプスの監視下に置かれて情報が流れないように徹底されている。
ビルに空いた大きな穴はガラス掃除の際に起きた事故として処理され、社長と副社長の不在については急な会議によって内藤財団のビルに呼ばれたことになっている。

果たしていつまでその情報統制が可能なのか、それはカラクッドには分からない。
彼に情報封鎖を電話で伝えてきた内藤財団の人間とは、連絡が全くつかない状態になっている。
秘密主義の弊害だ。
こちらから接触することも、確認することも出来ないため、完全に手詰まりなのだ。

(+゚べ゚+)「うーむ……」

射角を考えると、少なくともキロ単位の距離が必要である。
銃の性能が良くても射手の腕が悪ければ当たらないが、今回の場合、狙撃手は二発を完璧に当てている。
事前の下調べを徹底し、風の流れなどを把握したとしても、高層階にいる人間を撃ち殺せるものだろうか。
既に限られた捜査員たちが該当しそうな建物の屋上を調べているが、実りのある情報は得られていない。

彼らを悩ませる最大の要因が銃声だった。
当日、街の中では銃声の通報は一件も寄せられていない。
だが代わりに、別の事件が起きたことによる通報は山のようにあった。
四日前にニョルロックに到着した列車の一部が爆発、炎上したのである。

918名無しさん:2021/08/10(火) 21:07:38 ID:VMzYVuKw0
その際、かなり大規模な消防団が現場に急行し、消火作業にあたった。
幸いなことに犠牲者は一人もいなかったが、今にして思えば、その爆破が今回の事件に関係している可能性は大いにある。
爆破のタイミングで発砲すれば、銃声よりも爆音の方に人の意識が向く。
仮に銃声を耳にしていたとしても、それが爆発による音だと認識を書き換えるには十分な程の音だった。

それだけの音を発生させながら犠牲者がいないのは、どこか作為的な物を感じる。
カラクッドは無線機を取り出し、本部に連絡を取ることにした。

(+゚べ゚+)「俺だ、カラクッドだ。
      四日前の爆発事故、担当者は誰だ?」

返答はすぐにあった。

『担当はバルザイ・スミノフです。
周波数、140.85』

(+゚べ゚+)「了解」

周波数を合わせ、すぐに無線をつなぐ。

(+゚べ゚+)「カラクッドよりバルザイへ。
     爆破事故のことについて訊きたいことがある」

数十秒後、空電の後にバルザイの声が聞こえてきた。

『こちらバルザイ。
何を訊きたいんだ』

(+゚べ゚+)「使用された爆薬の特徴だ。
     音と威力が食い違うような物じゃなかったか?」

『……そうだ。 使用されたのは少量の爆薬と、大量の閃光手榴弾だ。
実際、起きた火災は派手に広がってたが、すぐに消火できた。
貨物車の被害も軽く済んでいたし、吹き飛んだものは肉の入ったスチロールだった』

(+゚べ゚+)「やっぱりそうか。
     その事件のレポート、後で俺の机の上に置いてくれ」

『仕方ねぇな。
貸しだぞ』

(+゚べ゚+)「助かるよ。 じゃあな」

通信を切り、カラクッドは現場を後にした。
しかし、その約束は果たされることは無かった。

919名無しさん:2021/08/10(火) 21:09:50 ID:VMzYVuKw0
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                                  , へ              _、‐''゛
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同日 AM11:10

イルトリアから遠く南に離れたクラフト山脈の中腹に、山肌と雪を利用して作られた偽装掩蔽壕があった。
天然の優秀な断熱材である雪を表面に使うことで、掩蔽壕内部は比較的温かな空間となっている。
超高倍率の望遠レンズを使い、防寒装備に身を包んだ軍人はその視線の先にある景色を見つめていた。
白い目出し帽の下の軍人の名はビルボ・ヘイルストーン。

イルトリア陸軍に所属する偵察兵であり、諜報部である“FOX”に属し、主に偵察と情報収集を行う兵士だった。
いかめしい顔も、彼の象徴である鳥の巣のような茶髪も、今は全て白い装備で隠されてしまっている。
しかし、次の瞬間彼の口から紡がれた言葉には紛れもない喜びと驚きが混じっていた。

(::0::0::)「……動いたぞ」

それは彼らが待っていた瞬間の到来だった。
無援の状況で2か月以上、過酷な自然の中で監視を続けていた偵察兵は三名。
ビルボの言葉を聞いて仮眠の状態から一瞬で目を覚まし、無線機を掴んだシャルル・ルーシェだ。

(::0::0::)「本部、応答せよ。
     こちら“火狐1”」

空電をほとんど挟まず、彼女の無線機から応答があった。

『こちら本部。
“火狐1”続けろ』

シャルルが無線機をビルボに手渡すと、彼はすぐに対応した。

920名無しさん:2021/08/10(火) 21:10:12 ID:VMzYVuKw0
(::0::0::)「対象に動きを確認。
     湖に潜水艦が浮上。
     数、2。
     更に山岳部から車輌12を確認。

     車種、色は全て別。
     ナンバープレートはない。
     ……分散した。
     ヨルロッパ地方へ7、その他に5」

『了解、火狐1。
潜水艦の種類は?』

(::0::0::)「不明だ。 だがでかい。
     報告のあった潜水艦と思われる。
     ……っ!!」

突然、ビルボが軍人らしからぬ狼狽に満ちた声を上げた。
それは彼がこれまでに定説任務を行う中で、初めて見せた行為だったが、報告を急かされたのも初めてだった。
あらゆる状況下で情報の伝達を行うことを最優先とするべき彼が、明らかに狼狽えている。
無線機の向こうにいる軍人は、彼を落ち着かせるため、あえて通常と変わらない態度で続報を要求した。

『どうした、火狐1。
状況を報告しろ』

咄嗟の判断は、ビルボの精神を任務へと引き戻すことに成功した。

(::0::0::)「や、山が震えています……!!」

『地震ではないのか?』

(::0::0::)「地震のそれとは異なる感じがします。
     何より、山だけが震えて、麓の湖にも変化がありません。
     地下、あるいは山の内部で起きた人工的な揺れだと思われます」

すぐに落ち着きを取り戻したビルボは、的確に状況の説明を行った。
彼の視線の先に映る光景は、彼が報告した通りのものだった。
山肌が震え、落石が起きているが、そこから離れた場所にある大きな湖は波打っている様子がない。
潜水艦に打ち寄せる波にも変化がなく、彼の見間違いということではなかった。

ならば、人工的な揺れが山の内側で発生し、それが山を震わせているのだと考えるほかない。

『震えている地点の座標を送れ』

(::0::0::)「92597 96662、繰り返す。 92597 96662」

無線機の向こうで、同じ座標が繰り返し読み上げられ、確認が完了する。
それから僅かの間があり、再び声がした。

『火狐0は?』

921名無しさん:2021/08/10(火) 21:10:34 ID:VMzYVuKw0
ビルボの手から奪うようにして無線機を受け取ったのは、彼ら偵察兵を束ねる人間だった。
若い女性の、どこか蠱惑的な、それでいて凛とした声は刃を思わせた。

(::0::0::)「こちら火狐0。
     何じゃ?」

スニーキングミッション
『隠密潜入任務だ。
期間、手段は問わない。
できるか?』

小さく笑い、FOXの指揮官は短く答えた。

(::0::0::)「任せておけ」

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                    ≧=ー-
            ノ             ∧ ヽ
           /               ∧  \
            ∧                |   ヽ
          rfiヾー-                    ∨
          ⅵ    >    i!≧ー-         |
          i!        >i!   ニ二彡     |
         斥i!          廴  辷ムヾー> 乂
    /ヾーイ  `ヽ .r‐z       >   ̄`/ ヾ≦´
   /  ∨ ン⌒   |三|         |>   斗-
   ス   ∨ マ    .|三|       /  ヽ  .〉
  ノ \  廴\   乂介      /         /
        ゙`´三≧ヾ≧x ゞ卞         〆
三二≡=z    `ヾ三 `ゞ三≧=zx     /
 ̄ ̄ ̄ ̄`ヾーz   ∨`i!k ミメミメ==     |
        辷ヌ  .∨i!i!辷∨∧  ヾー<
          \  ∨ヾ   ∨∧
\          \ヽ     .∨∧
  \ヽ      ゙i! ∨マ    \∨∧
   ー       i!  ∨ヌ     ∨ i
            i!   .∨ノ    \i!
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同日 同時刻

イルトリア退役軍人の会は、老若男女問わずに参加が可能であり、従軍の長さも所属も不問だった。
彼らに共通しているのは“何かしらの理由”により戦場から足を洗わざるを得ず、戦闘行為が出来なくなった人間ということだ。
年齢、四肢の欠損、あるいは精神的な病気による除隊など理由は数多くある。
かつて同じ戦場で敵味方として相対した人間同士でも、彼らにとっては古き日の思い出でしかない。

退役軍人の集いは彼らが心を戦場以外に向けるためのものでもあり、心が戦場から帰ることのない人間達の救済の場でもあった。
彼らはあまりにも多くの物を目の前で失い、そして奪ってきた。
戦場という極限の状況下では、後悔は後を絶たない。
戦友に庇われ生き延びた人間、戦友を盾にして生き延びた人間、あるいは自らの失敗で仲間を失った人間。

922名無しさん:2021/08/10(火) 21:11:07 ID:VMzYVuKw0
生き延びたという罪悪感。
それを少しでも和らげるため、彼らは同じ境遇の人間と対話することで傷を癒そうとするのだ。
無論、それは一部の理由に過ぎず、純粋に退役後の穏やかな時間を過ごす場として利用している人間も多くいる。
その日、退役軍人の会では毎月恒例のバーベキューが行われ、皆が持ち寄った食材を豪快に焼き、食べ、そして飲んでいた。

イルトリア陸軍の軍人用家屋の並ぶ広大な敷地の一角は、まるで祭りのような賑やかさに包まれている。
誰もが身近な人間と語り合い、肉を食らい、酒を飲んでいた。
その片隅でディートリッヒ・カルマは誰とも話すことなく、不機嫌そうに顔をしかめたまま、木陰のベンチに腰掛けて泡の消えたビールを口にしていた。

(●ム●)「……」

戦争の影響で彼の両目は強い光を嫌うようになり、例え夜でもサングラスをかけて生活しなければならなかった。
ディートリッヒが人付き合いが苦手だということは、既に退役軍人の会では周知の事実だ。
それでも彼は年に数回、こうして顔を出してくるのだから不思議なものだと、誰もが内心で思っていた。
彼自身、何故こうして慣れない食事の場に足を運んでいるのか分かっていなかった。

紙皿に大量の肉と野菜を乗せた黒髪の少年が静かな場所を探し、彼の横に座ったのはある意味では必然だった。
誰かの子供だろうと思ったディートリッヒは気にしないつもりだったが、何かに誘われるように視線だけを少年に向けた。

(∪*´ω`)「んあー」

垂れた犬の耳を持つ、耳付きの少年だった。
大きな口を開き、フォークに突き刺した肉を口いっぱいに頬張る。
咀嚼し、嚥下し、また新たな肉と野菜を口に運ぶ。
その食べっぷりは、大人顔負けの物だった。

山のように盛られていた肉と野菜はたちまちなくなり、少年は満足そうに息を吐いて立ち上がり、新たな肉と野菜を取りに行った。
少年を見かけた大人たちは皆、競うようにして彼の皿に肉と野菜を盛り、特製のソースを上からかけた。
少しだけ恥ずかしそうに礼を言って、少年は料理をこぼさないように歩き、そして再びディートリッヒの隣に腰かけ、食事を始める。
玉ねぎをフォークに刺し、嬉しそうに口に運びかけ、その手が止まった。

(∪´ω`)「お?」

彼の視線に気づいた少年が、ようやくディートリッヒを見る。
深い海を思わせる青い瞳が、真っすぐ射貫くようにディートリッヒの目を捉える。

(●ム●)「……美味いか」

(∪´ω`)゛「はい、美味しいですお」

そう言って、彼は玉ねぎを口に入れた。
シャキシャキとした音を立てながら食べ、飲み込み、生の人参をぼりぼりと食べ始める。
心なしか、皿の上には肉よりも野菜の方が多く盛られていた。

(∪´ω`)「おー 食べますかお?」

ずっと自分のことを見ているディートリッヒのことが気になったのか、少年はそう声をかけてきた。

(●ム●)「いや、俺はいい」

923名無しさん:2021/08/10(火) 21:12:42 ID:VMzYVuKw0
(∪´ω`)「美味しいですお」

(●ム●)「そうか」

(∪´ω`)「んあー」

不思議そうに小首を傾げつつ、少年は食事を再開した。
見た目の年齢にしては落ち着きのある少年だが、耳付きという人種の受ける差別や境遇を考えれば、大人しい耳付きの方が普通だ。

(●ム●)「ボウズはどこから来たんだ?」

(∪´ω`)「んぐんぐ」

大きく分厚い肉を噛みちぎり、少年はそれを口に含んだところだった。
嚥下してから、少年は答えた。

(∪´ω`)「オセアンの方からですお」

(●ム●)「オセアン? 随分と遠くから来たんだな」

(∪´ω`)「でも楽しかったですお!」

(●ム●)「どうやって来たんだ?」

(∪´ω`)「バイクに乗って、列車に乗って、船に乗って、ディに乗って、それからまた列車に乗って、ディに乗って……」

少年は指を折り、思い出しながら全ての行程を説明した。
一人での旅ではないことは間違いない。
しかし、それだけの長旅を無事に生き延び、こうしてイルトリアにまで来たことは驚きと言う他ない。

(●ム●)「ディってのは何なんだ?」

(∪´ω`)「おー、すっごい頭のいいバイクですお」

子供らしく、バイクに名前を付けているのだろうか。
物に名前を付ける行為は物への愛着心を高めるうえで欠かせない物だ。
与えられていた名前ではなく、自分だけが呼ぶ特別な名前。
軍属の人間が自分のライフルに名前を付けて整備するのと同じ原理である。

(●ム●)「そうか」

(∪´ω`)「おっ」

ここで会話を断つことも出来たが、ディートリッヒの口は次の疑問を紡ぎ出していた。

(●ム●)「ボウズはどうしてここに来たんだ?」

旅人がイルトリアに来ることは多々あるが、退役軍人の会に顔を出す旅人は聞いたことがない。
ましてやオセアンから来たとなると、考えられるのは退役軍人が家族にいる人間だ。

924名無しさん:2021/08/10(火) 21:13:51 ID:VMzYVuKw0
(∪´ω`)「おー 友達に会いに来ましたお」

(●ム●)「友達か」

(∪´ω`)「友達ですお」

(●ム●)「友達は大切にしろよ」

(∪´ω`)「はいですお」

それから無言の時間が訪れ、ディートリッヒはグラスの中のビールを一気に飲んだ。
席を離れ、すぐに新たな酒を手にベンチに戻る。
少年はまだそこに座り、食事を続けていた。
幸せそうにステーキを頬張り、誰かが作ってきたであろうピクルスが盛られた皿が傍に置かれていた。

この短時間でまた食事の追加があったのだろう。
人参を縦に四分割したもの、縦に半分切った長いきゅうり、そして一口大に切られたセロリが目に付く。
ステーキの合間に少年はそれをぼりぼりと食べ、その度に嬉しそうに頬を緩めるのだ。

(●ム●)「そのピクルス美味いか?」

(∪´ω`)「美味しいですお!
      食べますかお?」

(●ム●)「……もらうよ」

きゅうりのピクルスをフォークに突き刺し、ディートリッヒはそれを食べた。
この会に参加してから初めて食べるピクルスだった。
強めの酸味とハーブの香りが一気に口の中に広がり、それまで口の中にあったビールの名残を跡形もなく消していく。
持ってきたグラスに並々と注いだバーボンを飲むと、思わず大きなため息が出る。

彼の中の緊張の糸、あるいは別の何かが崩れ落ちた気持ちがした。

(●ム●)「美味いな」

(∪´ω`)゛「おっ」

再びバーボンを胃袋に流し込み、彼はバーベキューに興じる人間達を遠い目で眺める。
果たしてこの場に自分の居場所があるのか、実のところ彼はまだ分かっていなかった。
彼は軍で訓練を積み、傭兵として派遣された先でかつて仲間だったイルトリア軍と殺し合ったことがある。
それはこの街では自然なことだ。

イルトリア軍は街の治安を維持するだけでなく、世界中の紛争地に傭兵として派遣され、戦うことが主な仕事なのだ。
同じ戦地で同郷の人間に出会うことは決して珍しくない。
イルトリア軍では先に契約した勢力に派遣が決定すると、敵対勢力への派遣は原則的に禁止とされている。
しかし、間に別の組織が挟まるのであれば話が変わってくる。

925名無しさん:2021/08/10(火) 21:14:18 ID:VMzYVuKw0
それを理解した上で敵対組織側への派遣を受け入れた人間が、自分たちとは関係のない誰かの戦争に参加し、殺し合うのだ。
これがイルトリアの現実であり、真実だ。
だがイルトリア人の多くはそれでも軍人の道を選ぶ。
力が世界を動かす時代だからこそ、力でしか変えることのできないものがあると信じているのだ。

(●ム●)「……俺はディートリッヒっていうんだ。
     ボウズの名前は?」

(∪´ω`)「僕、ブーンです」

(●ム●)「なぁ、ブーン。
      俺はな、友達がいないんだ」

(∪´ω`)「お?」

(●ム●)「みんな、俺が……殺しちまったんだ。
     戦場でな」

ディートリッヒにとって、それは決して癒えることのない傷だった。
イルトリア軍から傭兵派遣会社に転職し、彼は多くの戦果を挙げることになった。
当時の彼はそれを誇りにしていたし、後悔もしていなかった。
彼が傭兵派遣会社を辞めることになったきっかけは、数年前に捕虜にされた時に心が折れたことが原因だった。

本来傭兵――しかも老兵――は見捨てられるのだが、幸運なことに同じく捕虜となった人間の救助に現れた人質救出専門の人間に救われたのだ。
老兵としての役割を悟り、彼は老後をイルトリアで過ごすことに決めた。
そこで彼は、自分がこれまでに何をしてきたのかをようやく痛感したのである。
自分の友人たちが皆戦死し、その戦場で彼が敵対していたのが自分だと帰郷して初めて認識することになった。

その認識が彼の心を閉ざす要因となり、こうして退役軍人の会に参加はするものの、誰かとの会話をするには至っていない理由だった。
彼と同じ境遇の人間は他にもいるが、同じ傷だとしても、別の人間がそれを克服できるかは別の話だ。
彼は今、自分の弱さとこの場に自分が足を運んでいる理由にようやく向き合うことが出来ていた。
バーボンを呷り、辛い記憶や弱音を押し込もうとするも、上手くいかない。

堰を切ったように、弱音が口から出てくる。

(●ム●)「殺さなきゃ殺されていたかもしれない……
      だから仕方がなかったんだなって思うが、それでも……俺は……」

(∪´ω`)「おー」

ブーンは相槌を打ちながら、ディートリッヒの話に耳を傾けていた。

(●ム●)「俺は、どうしたらいいんだろうな」

(∪´ω`)「生きればいいと思いますお」

子供らしい、シンプルな回答だった。
そもそも子供に何を相談しているのかと考えるだけの理性が、今の彼にはなかった。
わざわざ度数の高い酒を飲んだのは、これまで彼の言葉を遮ってきた理性を抑え込むために無意識の内に選んだ行動だった。
今、彼の中には余計な理性は残されていなかった。

926名無しさん:2021/08/10(火) 21:15:04 ID:VMzYVuKw0
どうしてか、ほとんど会話らしい会話をしていないにも関わらずブーンの瞳を見ると、何かをしなければと強く思ってしまうのだ。
普段であれば子供に何を期待しているのかと一笑に付すところだが、今はどんな言葉でも聞きたいという気持ちが勝っている。
そして得られた言葉は、彼が欲していた言葉だった。

(●ム●)「そ、そう思うか」

(∪´ω`)゛「はいですお」

(●ム●)「俺は、生きてもいいのか?」

(∪´ω`)「この前、ガーミンおじいさんも言ってましたお。
      “死んで逃げるよりも、後悔しながら生きればいい”って」

恐らく、同じ境遇の人間に対して使われた言葉なのだろう。
普段であればその言葉は彼の心に届くことは無いのだが、今回は違った。
砂に水を注ぐように彼の心に沁み込み、肩から力が抜け落ちた。

(●ム●)「……そうか」

(∪´ω`)「んぐんぐ」

ディートリッヒは言葉に詰まり、誤魔化すようにしてグラスの中のバーボンを飲み干す。
ブーンは食べかけていたステーキを頬張り、ピクルスを食べた。

(●ム●)「ありがとうな、ブーン」

(∪´ω`)「お? ど、どういたしましてお?」

静かに立ち上がり、ディートリッヒは静かに覚悟を決めた。
この日、一人の少年と話したことがきっかけで、ディートリッヒの中で止まっていた時間が動き出したのであった。

927名無しさん:2021/08/10(火) 21:18:57 ID:VMzYVuKw0
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                      l                  ノヘ /ニ><    ヽ-
                      !   :                  ヾ-ニニニニニ x  ヽ
                    rx.j                     イ辷―--------
                    .j///ヽ__ { l/!              爻辷 二 ミニニミ x ト
                    .!////.ム_ ァ‐- _: : :          乂ヽ \‐-  _ 、
                    .!//// 7 .Y//////7ァァ _;;;; 、     ⌒ ヽ 乂 辷、ヽ `t-
                    .!///ノ  l////////////ヽ; ;;;       /ミミミx ヽ   ,'
                    `¨/   .∨/////////// !; ;;       トヘ jリ ミx j リ ,'
                     ./ :. ´  ヽ//////////リr=―――――ト } > 二ニ ∨
                        ´,⌒ヽ.\///////ノ       ノト ./  / 、  } |
                    .7ー; ; ;,≧.ノ';,  ` ー― '       /ヘ /  fヘ  Y ./
                     !; 、; ; ; ; ;,, ',         , , ; ; ;シ / /r--イ /
                     }ノz.` 、; ; ; ;, ',       , ; ; ; ; ; 爻;/l  ¨  イj |
                     |、 `''‐- 、; ',  , , , , ; ; ; ; ; ; ; ;仆,' ヽ-<7 | |
                     !: :ー-、  ,' `; ; ; ; ; ; ; ; ; ; ; ; ; ; ; ; ;,  '//! ソ   |
                   _ .|; ; ; ; , , ` , ; ; ; ; ; ; ; ; ; ; ; ; ; ; メ  ノ/ 乂 /  /
                _ ≦ニ.ム ; ; ; ; ; ; ; ; ; ; ; ; ; ; 从从巛 イ    / ///トヽ、
              /ニニニニニニ>。; ; ; ; ; ; ; ; ; ; ; ;;  <      // |    } ヽ、
             /ニニニニニニニニニニニ ̄ ̄                    /ニニニニ 、

Ammo for Rebalance!!編
第一章【awaken of dreamers-夢見る者達の目覚め-】

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同日 同時刻

イルトリア市長、フサ・エクスプローラーはゆっくりと受話器を置き、鼻から深い息を吐きだした。
危惧していた、あるいは予期していたことがいよいよ動き出すという報告は彼に喜びの感情を抱かせた。
世界最強の軍隊を有するイルトリアにとって、争いは常に歓迎している物だった。
特に、自分たちに対しての挑戦とも受け取れる争いは大歓迎だった。

日頃の訓練を存分に生かせる相手は極めて貴重な存在であり、とりわけイルトリアに直接喧嘩を売ろうとする存在など稀有なのだ。
執務室にいるもう一人の人間に向けて、フサは言葉を投げかけた。

ミ,,゚Д゚彡「連中が動いた。
     そろそろ何か始めるみたいだな」

その話を聞いた豪奢な金髪と空色の碧眼を持つ旅人、デレシアは静かに笑みを浮かべた。
それは愉快な気分になったからではなく、冷笑、嘲笑の類だった。

ζ(゚ー゚*ζ「そう。 じき、この街にも来るわね」

デレシアの言葉は淡々としており、この先、回避することが出来ない未来に対しての予報を読み上げているようだった。
彼女の言葉にフサは頷き、話を続けた。

ミ,,゚Д゚彡「だろうな。
      一人、連中の施設に潜入させることにした。
      ギンを覚えているか?」

928名無しさん:2021/08/10(火) 21:19:17 ID:VMzYVuKw0
ζ(゚ー゚*ζ「あら、ギン・シェットランドフォックス?」

ミ,,゚Д゚彡「あぁ、そうだ。 今、ウチの陸軍の諜報部で現場責任者をやってるんだ。
     情報が届いたらお前にも伝える。
     ……しっかし、ついにこの日が来たか」

それは期待に打ち震える声だったが、その目には喜び以外の感情の色が宿っている。
フサはデレシアからティンバーランドの存在とその目的について聞いており、以降は可能な範囲で準備を進めてきた。
何年もかけた準備だが、相手の準備はそれを優に上回ることもあるだろう。

ζ(゚、゚*ζ「本当は来ない方がよかったんだけど、今回はタイミングが読めなくてね。
      まぁ、やることは変わらないわ」

だがデレシアにとっては、準備などする必要のない事だった。
彼女は世界の影で誰が暗躍していようと、彼女の旅の邪魔にならなければ気にも留めない。
幾度も潰した組織が再びデレシアに喧嘩を売るのであれば、それを買うだけだ。

ミ,,゚Д゚彡「この日の為に備えてはおいたが、万全かどうか。
     ははっ、未だに心配で仕方がねぇ!!」

ζ(゚ー゚*ζ「いつだって本番までは分からないものよ。
      “戦争王”として、やれることはやったのでしょう?」

ミ,,゚Д゚彡「あぁ、勿論だ。
      だからこそ心配なのさ。
      こっちの備えが十分すぎやしないか、ってな!!」

ζ(゚、゚*ζ「相手にもイルトリア軍の出身がいるみたいだから、そこは警戒しないとね」

退役したとしても、イルトリア軍人は間違いなく厄介な存在だ。
イルトリアに入り込むための警備的な穴もそうだが、個人的なコネクションが生きている可能性もある。
特に、強力な“棺桶”を所有しているとなると、それこそ脅威である。

ミ,,゚Д゚彡「クックル・タンカーブーツとミルナ・G・ホーキンスだろ?
     俺の聞いた情報だと、“エクスペンダブルズ”の改修型と“マン・オブ・スティール”だったな。
     なぁに、手はあるさ」

一度は破壊されたエクスペンダブルズが、その姿を変えてティンカーベルで使用された話は聞いていた。
間違いなくイーディン・S・ジョーンズの仕業だ。
そして、デレシアの記憶にない人間が使用していると言われるマン・オブ・スティールは厄介な棺桶だった。
適切な運用を適切なタイミング、場所で行えばその打撃力は相当な物である。

ジュスティアが不適切な対処をすれば、一機で街を半壊させられかねない程だ。

ζ(゚、゚*ζ「除隊した理由は知ってるの?」

フサの吐いた溜息はまるで己を恥じ入るかのような、妙な間があった。

929名無しさん:2021/08/10(火) 21:19:52 ID:VMzYVuKw0
ミ,,゚Д゚彡「……まぁ、方向性の違いって奴だな。
     あいつら二人とも、耳付きに対して嫌悪感をむき出しにしていたからな。
     任務中に色々やらかして、結果、KIA――戦闘中の死亡――扱いされる前に除隊したってわけだ」

ζ(゚、゚*ζ「なるほどね」

ミ,,゚Д゚彡「さて、俺たちもそろそろバーベキューを楽しみに行こう」

二人は執務室を出て、市長邸宅前に停められていた車に乗り込んだ。
運転手は無言で車を走らせる。
運転席と後部座席はスモークスクリーンで仕切られ、互いの顔が見えないようになっているが、デレシアは確信をもって運転手に声をかけた。

ζ(゚ー゚*ζ「お久しぶり、トソン」

まるでその言葉を待っていたかのようにスモークスクリーンが開く。
ハンドルを握るのは、イルトリア二将軍の一人、トソン・エディ・バウアーだった。
冬の湖の色をした瞳がバックミラー越しに向けられ、その口元が僅かだがつり上がり、微笑を浮かべる。

(゚、゚トソン「流石ですね。
     お久しぶりです、デレシア様」

僅かに驚きの感情が込められた返答を聞き、フサはくつくつと笑う。

ミ,,゚Д゚彡「な、言っただろ? 絶対にばれるって」

(゚、゚トソン「どこで私だと判断されたんですか?」

ζ(゚ー゚*ζ「女の勘よ」

(゚、゚トソン「なるほど、納得しました。
     ブーンとヒート様はどちらに?」

ζ(゚ー゚*ζ「ブーンちゃんはバーベキュー会場ね。
       退役軍人会の人たちに相当気に入られたみたいよ」

退役軍人会の人間は、ブーンが耳付きであることについてもそうだが、彼の出自について誰も訊こうとしなかった。
むしろ彼らの関心はペニサス・ノースフェイスの最後の教え子であるという一点に注がれ、生前の彼女の武勇伝などをまるで自分のことのようにブーンに言い聞かせるのだった。
かなり歳の離れた先輩と後輩、もしくは、兄弟のような扱いだった。
ブーンは嬉々としてそれに耳を傾け、自分を受け入れてくれる大人たちの中での立ち回りを学んでいた。

元々ブーンは人見知りをする性格だったが、イルトリアの滞在中にそれはかなり改善されていた。
そして、ヒート・オロラ・レッドウィングは思いがけない再会を利用し、己の力を高めようと奮闘していた。

ζ(゚ー゚*ζ「ヒートは海軍でシャキンと一緒に訓練中ね。
       昔に面識があったみたいよ」

イルトリア海軍の大将、シャキン・ラルフローレンは軍内部でも五指に入るベテランの人間だが、その力もまた五指に入る程だ。
特に近接戦闘に拳銃を使った動きに関して右に出る者はおらず、その動きがヒートの戦い方に大きな影響を与えているのは明らかだった。
殺し屋として生きていたヒートの実力は大したものだが、軍人との訓練の中で学ぶことは多いだろう。
これから先、激化する戦闘に備えるのは極めて重要なことだ。

930名無しさん:2021/08/10(火) 21:20:15 ID:VMzYVuKw0
“レオン”があっても、結局は使用者の力次第なのだ。
それは相手にとっても言えることで、優れた性能の棺桶が勝敗を決するとは限らない。
最悪を想定し、最善を備える。
いつ相手の襲撃があるか分からない状況下では、それが最適解だ。

ミ,,゚Д゚彡「頼もしいことだな。
     ブーンはどこまでやれるんだ?」

それが何を意味しているのか、デレシアは分かっていた。
そしてその答えは、イルトリアを訪れた理由の一つでもある。

ζ(゚ー゚*ζ「抗うことはできるわ。
       でも、殺したりは出来ないわね。
       だからせめて、守ることだけでも覚えてもらいたいの。
       あの子に合う銃を見繕いたいんだけど、軍の射撃場を借りてもいいかしら?」

ミ,,゚Д゚彡「あぁ、勿論だ。 好きに使ってくれ。
     撃ったことはあるのか?」

ζ(゚ー゚*ζ「オアシズの中で何度かね。
      オートマチック、9ミリぐらいの小口径がいいわね」

ミ,,゚Д゚彡「なるほどな。 ダブルカラムでも持てるか?」

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、大丈夫だったわ。
       その辺を中心に使ってみたいの」

フサは顎に手を当て、髭を撫でながら少し考えるそぶりを見せた。

ミ,,゚Д゚彡「その後、ちょっとうちの連中とペイント弾で遊んでみるか?
      いい練習になるぞ」

ζ(゚ー゚*ζ「あら、いいの?」

ミ,,゚Д゚彡「あぁ、ただの訓練ばっかりだと飽きるからな。
     お前ら三人となら、そうだな……10人でいいかもな」

ζ(゚ー゚*ζ「いいの? 10人で」

ミ,,゚Д゚彡「数が多けりゃいいってものじゃないからな、選りすぐるさ。
     昼飯の後に銃を見繕うとして……そうだな、夕飯前にやろう。
     メンバーは始めてからのお楽しみって奴だ」

それから車はバーベキュー会場に向かって静かに走り始め、道中、期せずして海軍の保有する軍用車に乗ったヒートとシャキンと合流をした。
窓から見るヒートの髪は汗で濡れ、ダークグレーのタンクトップは汗で黒に変わっていた。
頭頂部で髪を結わき、透明な水筒から何かを飲んでいる。
しかしその顔は達成感に満ち、笑顔が浮かんでいた。

931名無しさん:2021/08/10(火) 21:22:34 ID:VMzYVuKw0
一方、ハンドルを握るシャキンは汗ひとつかいておらず、涼しげに手を挙げて挨拶をする余裕を見せた。
十分ほどして、両者はほぼ同時にバーベキュー会場に到着した。
酒と肉が参加者全員の体に程よく吸収されたからか、どことなく陽気な空気が漂っている。

ノパー゚)「肉の焼けるいい匂いだ!!」

車から出ると、ヒートは開口一番そう言った。

ζ(゚ー゚*ζ「お疲れ様、訓練はどうだった?」

傍に来たデレシアを見て、ヒートは笑みを浮かべた。
少し興奮した様子で、訓練の様子を話し始める。

ノパー゚)「いやぁ、すげぇのなんのって……!!
     でも、どうにかついていけてるよ」

ミ,,゚Д゚彡「海軍の訓練についていけるってことは、やはり素質があるんだな。
     シャキン、いい人材を見つけたのなら何故報告しなかったんだ?」

(`・ω・´)「あの時は非番でしたし、何よりここまでの成長を見せる間もなく死ぬと思っていたので」

ノパ⊿゚)「辛らつだな、じいさん」

(`・ω・´)「じいさんじゃない。
      “おじさま”だ」

ノハ;゚⊿゚)「どっちも同じじゃねぇか」

(`・ω・´)「いいや、違う」

顔色一つ変えずにシャキンはそう断じた。
そのやり取りを聞いていたデレシアは、そっと微笑を浮かべる。

ζ(゚ー゚*ζ「孫娘みたいで恥ずかしいの?」

(`・ω・´)「恥ずかしがる? この私が?
      御冗談を」

シャキンは肩をすくめ、フサと共に先に歩き出す。
二人だけで話が出来るようにという二人の配慮を甘んじて受け、ヒートは耳打ちするような小さな声で囁いた。

ノパ⊿゚)「……それで、何か進展はあったのか?」

デレシアは頷く。

ζ(゚、゚*ζ「大きな動きがあったそうよ。
      多分、これから複数の街に分散して、ラジオを利用しての同時展開をするんでしょうね」

ノパ⊿゚)「ってことは、あんまり時間はなさそうだな。
    予想だとどのくらいの規模なんだ?」

932名無しさん:2021/08/10(火) 21:22:59 ID:VMzYVuKw0
ζ(゚、゚*ζ「大雑把にしか言えないけど、世界中を巻き込むつもりでしょうね。
      無論、下準備をしている街はすぐに済むはずよ。
      問題なのは、相手が仕掛けた時に抵抗する街ね。
      そういった街を、奴らがみすみす見逃すとは思えないから、事を始める前に細胞を送り込むってところかしら」

ノハ;゚⊿゚)「イルトリアにも来るって事か……
     後はジュスティアか?」

ζ(゚、゚*ζ「そうね、世界を思い通りにしたいなら、この二つの街は欠かせないわね。
      それはフサも分かっているわ。
      でも、それよりも先に多分、“中立の街”ブーオを見せしめ的に狙うと思うわ。
      何にしても、相手の送り込んでくる規模が気になるところね。

      白いジョン・ドゥが量産されていたら、ちょっと面倒になるから」

第三次世界大戦で活躍し、大量に生産された傑作量産機、ジョン・ドゥ。
簡単だが独自の改造を施し、塗装を変更した白いジョン・ドゥの姿をここ最近よく見るようになった。
つまり、相手が量産体制を整え、すでに世界各地に配備済みである可能性が高い。
例え戦闘の素人でも戦車と正面から戦える力を与える棺桶は、今も昔も戦場の花形である。

質の劣る部隊だとしても、圧倒的な数で攻め込めば高い質の部隊を凌駕することも出来る。
世界最高の棺桶研究者であるイーディン・S・ジョーンズの存在が厄介なのは、言うまでもない。
過去の大戦で使用されたコンセプト・シリーズの復元にも成功しているだけでなく、研究の為に世界中の棺桶に携わっており、その知識量は大したものだ。
ティンバーランドが所有している多くのコンセプト・シリーズは、彼が復元したものなのだろう。

内藤財団の財力とジョーンズの技術と知識があれば、棺桶を使用する部隊を世界各地に派遣することなど造作もない。
弱小な町であれば、ジョン・ドゥ一機で十分に陥落させることが出来る。
ただし、デレシアの中で疑問になっているのは、彼らが選ぶ手段だ。
ラジオを使い、世界中で同時に決起させるのは容易に想像が出来るが、その後の動きも容易に想像が出来てしまうことだった。

彼らは力を行使するはずだ。
その為に棺桶を復元し、脱獄囚や軍人上がりの人間を仲間に迎え入れたのだ。
だがジュスティアとイルトリアを相手にするとなると、当然、一筋縄ではいかない。
街の中に相当な数の細胞を潜り込ませようとしても、この二か所だけは恐らく彼らの思った通りには行かなかっただろう。

ならば、完全な力で制圧を試みるはずだ。
そのような簡単な方法で夢を叶えようとするのであれば、それは乱暴と言う他ない。
長い目で見ればそのような方法で統一した思想は脆い物だ。
そうなると、考えられるのは――

ノパ⊿゚)「まぁ、ジュスティアなら平気か。
    円卓十二騎士を表立って動かすぐらいだから、よっぽど警戒してるんだろうな」

ζ(゚、゚*ζ「警戒というよりも、怒っているって言ったほうがいいわね」

ノパ⊿゚)「まぁ、結構やられまくったからな」

ζ(゚ー゚*ζ「それぐらいの方がちょうどいいわね。
      そうそう、話は変わるけど、お昼ご飯を食べたらブーンちゃんの銃を探そうと思うんだけど、一緒にどう?」

933名無しさん:2021/08/10(火) 21:24:31 ID:VMzYVuKw0
ノパー゚)「おっ、そりゃいいな。
    あたしも色々と使ってみたい銃があるから、一緒にやらせてもらうよ」

ζ(゚ー゚*ζ「でね、その後でフサが一緒に遊ぼうって」

ノハ;゚⊿゚)「……“戦争王”が? どんな遊びだ?」

ζ(゚ー゚*ζ「ペイント弾を使った遊びよ。
      実際に人に対して銃を向けて銃爪を引くのは、練習しないと本番で撃てないからね」

ノパー゚)「なんだ、そういう遊びか。
    それならあたしも一緒に楽しめそうだな。
    デレシアもやるんだよな?」

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、せっかくだから遊ばないとね」

ノパ⊿゚)「平気なのか、色んな意味で」

ζ(゚ー゚*ζ「あら、気遣ってくれるの?」

デレシアの冗談に、ヒートは期待通りの反応を示した。

ノハ;゚⊿゚)「イルトリアの軍人相手でも、デレシア相手なら100人単位がいるんじゃないかと思って」

ζ(゚ー゚*ζ「10人ぐらいって言ってたわよ。
      選りすぐりを用意してくれるでしょうから、すぐには終わらないわよ。
      それに、私は最低限しか手を出さないわ」

ノパー゚)「まぁ、夕飯までに終わるようにあたしも頑張るよ」

肉の焼ける匂いが濃厚になってくるにつれ、人の話し声や笑い声、肉の焼ける音、瓶がぶつかる音がよく聞こえるようになってきた。
大勢の人間が思い思いに肉を食らい、語り合っていたが、人混みの中でもブーンの姿はすぐに見つけられた。
酒の入ったグラスを片手に持つ上機嫌な老人に肩車をされ、その肩の上でスペアリブを頬張っていたのである。
サングラスをかけた老人は周囲の人間と和気あいあいと話をしており、時折ブーンも相槌を打っている。

(∪*´ω`)
 (●ム●)

その老人はかつて“戦場の掃除屋”として恐れられた傭兵だったのだが、それを気にする人間はその場にはいなかった。

934名無しさん:2021/08/10(火) 21:26:52 ID:VMzYVuKw0
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同日 PM01:57

イルトリア軍の射撃場はその広さと設備だけでなく、保有する銃器類の種類と数も世界最高のものだった。
射撃場にはありとあらゆる銃が用意されており、その試射が可能になっている。
無論、その力を発揮するための設備があってこその射撃場だ。
近距離、あるいは混戦状態、屋内、雨天時、悪路走行中などあらゆる状況下で試すことが出来る。

昼食後、ブーンはデレシア達と共に基地内にある射撃場に向かい、自分に合った拳銃探しを始めた。
軍によって用意された銃は数十挺、弾薬は数千発にも及んだ。
ヒートは市街戦におけるライフルの取り回しを身につけるため、銃と弾薬を持って移動した。
デレシアはブーンの後ろに立ち、射撃のアドバイスをすることにした。

ζ(゚ー゚*ζ「オアシズでの事を思い出してね。
      それじゃあ、始めましょう、ブーンちゃん」

(∪´ω`)「おっ!」

船上都市オアシズの中で銃を取り扱った経験があっても、それが体にどの程度沁みついているかは不明だ。
同じ銃でも型が異なる物が用意されているため、より細かくブーンの好みの銃が分かるようになっている。
トリガーガードの微妙な変更や、使用する弾の違い、弾倉の違いによる銃把の太さの違いだけでも取り扱いが変わってくるのだ。

ζ(゚ー゚*ζ「じゃあまずはこれから使っていきましょう」

小口径の拳銃を手に、ブーンはかつてデレシアが教えた通り、両手でそれを構えた。
彼の視線の先、銃腔の果てには金属で作られた的が置かれている。
10メートルほどの距離だが、素人がそれだけ離れた的に当てるのは至難の業だ。
しかし、彼にはセンスがある。

935名無しさん:2021/08/10(火) 21:27:56 ID:VMzYVuKw0
人間を凌駕する視力と筋力。
それらが合わされば、標的を見誤ることはない。
一発。
銃声が轟くが、金属同士がぶつかる音はなかった。

ζ(゚ー゚*ζ「風があるから、それを考えて撃ってみましょうか」

(∪´ω`)゛「はいですお」

以前、ブーンが射撃練習を行ったのは船内だ。
風の影響などない中での射撃だったが、この場では自然環境が大いに関係してくる。
二発目は的の端に掠めるようにして当たり、三発目は丁度胴体の部分に命中した。

ζ(゚ー゚*ζ「どう? 撃ってみた感想は」

(∪;´ω`)「ちょっと大きくて持ちにくいですお」

ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ、別のにしてみましょう」

それから同じようにして銃を取り換えては試射し、自分の手に合う銃を探し続ける。
拳銃を使うことになるのであれば、それは遠距離ではありえない。
10メートル以内の戦闘でブーンが自らの身を守ることが出来るための練習だが、デレシアはその先を見据えていた。
この世界で生きるには、自分を守るだけでは足りないことが多い。

(∪´ω`)「おー、銃の癖って色々あるんですおね」

ζ(゚ー゚*ζ「そうね、作っている人にもよるわね。
      銃弾がある程度真っすぐ飛ぶのは短い距離だけで、後はゆっくり落ちていくの。
      でも作り方次第で、それが横にずれたりするの」

(∪´ω`)「なるほど」

そして新たな銃を手に取り、弾倉を入れてから遊底を引く。
初弾が薬室に送り込まれ、発砲の準備が整う。

ζ(゚ー゚*ζ「何にでも言えることだけど、試してみないと分からないからね。
      例えば、今ブーンちゃんが持っている銃。
      それはね、ヒートが使っているのと同じ銃なのよ」

(∪´ω`)「え? でも、ヒートさんのはここにナイフが付いていますお」

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、ヒートはそうやって改造しているの。
      重くなった分取り扱いが大変だけど、逆に、反動を抑えられるからね。
      試しに撃ってみましょうか」

(∪´ω`)゛

頷き、ブーンは銃爪を引き絞った。

ζ(゚ー゚*ζ「次は、親指でセレクターを下げて、銃爪を引いたままにしてみましょう」

936名無しさん:2021/08/10(火) 21:28:19 ID:VMzYVuKw0
言われた通り、ブーンは親指を使ってセレクターを下げた。
狙いを定め、銃爪を引く。
三発の銃声が響き渡り、ブーンは驚きで目を丸くした。

(∪´ω`)「バババーって出ましたお!」

ζ(゚ー゚*ζ「拳銃の中にもそうやって弾をたくさん撃てるのがあるんだけど、その分当たらないでしょ?」

(∪´ω`)゛「一発しか当たりませんでしたお」

ζ(゚ー゚*ζ「それを抑え込めるようにならないと、そういう銃はあまりお勧めできないわね」

(∪´ω`)「おー」

ζ(゚ー゚*ζ「これはちょっと大きく感じるけど、その分反動が楽になっているやつね」

そう言いつつデレシアが差し出したのは、トラギコ・マウンテンライトも使用しているベレッタM8000だ。

(∪´ω`)「あ、これトラギコさんのやつですかお?」

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、そうよ。
       ジュスティア警察で採用されている銃よ」

(∪´ω`)「使ってみてもいいですかお?」

ζ(゚ー゚*ζ「勿論」

そしてブーンは慣れてきた手つきで作業を進め、銃爪を引いた。
甲高い金属音が連続で響き、彼が撃った全ての弾は命中していた。

ζ(゚ー゚*ζ「お見事」

(∪*´ω`)「やたー」

それから射撃練習は続き、用意された全ての拳銃を試し終えた時には、すでに時刻は午後四時半を回っていた。
その頃にはヒートも二人の元に戻り、ブーンの射撃の様子を眺めていた。
最終的に残った候補は三丁。
シグザウェルP365、ベレッタM84、そしてグロック26だ。

いずれも小型の拳銃で、ベレッタ以外は護身用に携帯性を高めた物だ。

ノパー゚)「三丁にまで絞り込めたんだな。
    こっからどうする?」

ζ(゚ー゚*ζ「後は実際に使ってみての感覚ね。
      フサの言っていた遊びに持ち込んで決めてみましょうか」

(∪*´ω`)「遊ぶんですかお?」

937名無しさん:2021/08/10(火) 21:29:21 ID:VMzYVuKw0
ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、遊びよ。
      ただ、相手は全員大人だから本気でやらないと負けちゃうわよ」

(∪*´ω`)「頑張りますお!」

デレシアは三丁の拳銃を手に取り、二人を車に乗せて“遊び場”に連れて行った。
遊び場は三階建てで、二棟が連なって建てられたものだ。
二階に作られた連絡通路はガラス張りになっており、離れた場所からでもそこを移動する人間を目視することが出来る。
どこかの病院にも見えるし、どこかの商業施設、あるいはホテルにも見えた。

遊び場の前にはすでに都市迷彩の施された装甲兵員輸送車が停車しており、準備が整っていることを示していた。
三人は車から降り、輸送車の前で水筒から何かを飲んでいるフサに声をかけた。

ζ(゚ー゚*ζ「お待たせ」

ミ,,゚Д゚彡「いいや、今さっき来たところだ。
     どうだ、ブーン。
     良さそうな銃は見つかったか?」

(∪´ω`)「おー、三つですお」

ミ,,゚Д゚彡「なら全部試してみるのが一番だな。
     ペイント弾はそこにあるから、弾倉に詰めればすぐに実戦で試せる。
     通常の弾と同じように使えるしバレルも汚さないから、特に部品の交換はしなくていいぞ」

実銃を使い、更に、実際に使用する弾薬とほとんど同じ反動を味わうことが出来る。
より実戦に近い訓練をするためには、実戦で使用する道具と同じものが使えるのが一番なのだ。
そのためにイルトリアではペイント弾の製造をラヴニカに依頼し、バレルなどの部品の交換を必要としない物を使用している。
意外に知られていないことだが、そのペイント弾はジュスティアの軍や警察の訓練でも使用され、その使用料がイルトリアに支払われていた。

ζ(゚ー゚*ζ「助かるわ。
      それで、シナリオは?」

(∪´ω`)「シナリオ?」

ミ,,゚Д゚彡「あぁ、訓練をする時にはその状況を設定するんだ。
     例えば人質救出とか、強襲とかな。
     今回のシナリオは強襲だ。
     デレシア達が建物にいて、俺の部下がそれを襲う。

     そっちにとっちゃ、これから起こり得るし、これまでにもあった話だろ?
     ちなみに、俺の部下には相手のことは伝えてない。
     形式は殲滅戦、ペイント弾が当たればその時点で退場だ。
     最後の一人まで退場させればその時点で終わりだ。

     退場する時には両手を挙げて、静かに建物の外に出てくれればいい。
     退場者が他の人間に情報を流すのは駄目だ。
     戦闘中の禁止行為は特にないが、相手を殺すことだけは駄目だ。
     確か、ヒートはナイフを使うんだったな」

938名無しさん:2021/08/10(火) 21:29:42 ID:VMzYVuKw0
ノパ⊿゚)「あぁ、銃剣だけどな」

ミ,,゚Д゚彡「流石にそれはゴム製のナイフに変えてもらう。
      ナイフの判定も銃弾と同じだ。
      切った個所に色が付くように加工してある」

ノパ⊿゚)「分かった」

ミ,,゚Д゚彡「ちなみに、グレネードの使用も有り得る。
      勿論、ペイントが飛び出す仕組みの水風船みたいなもんだけどな。
      何か質問はあるか?」

その言葉は主にブーンとヒートに対して向けられたものだった。
ヒートは首を横に振り、ブーンは考えている様子だった。

(∪´ω`)「おー」

ミ,,゚Д゚彡「遠慮なく訊いてくれていいんだぞ」

(∪´ω`)「ペイント弾って、当たると痛いんですかお?」

ミ,,゚Д゚彡「まぁ、それなりに痛いな。
     っと、そうだ。
     汚れるだろうから、せめて防弾ベストを着ておいてくれ。
     それとゴーグルとヘルメットは絶対につけてくれよ」

ノパ⊿゚)「分かった。 いつから始めるんだ?」

ミ,,゚Д゚彡「そっちの準備が整ったら教えてくれればいい。
      食後の腹ごなしになるといいな」

三人はそれからすぐに準備を始めた。
ヒートとデレシアはそれぞれの弾倉に先端がピンク色のペイント弾を込め、ブーンもそれを見て自分が使う銃の弾倉に弾を込めた。
弾が込められた弾倉の容易が済むと、それをチェストリグに詰め始めた。
防弾ベストの上からそれを着て、最後に三人はヘルメットとゴーグルを装着した。

脱いだローブを畳みながら、デレシアはフサに言った。

ζ(゚ー゚*ζ「今から五分後に始めていいわよ」

ミ,,゚Д゚彡「分かった。 楽しんでくれ」

三人は小走りで建物の中に入り、それから話を始めた。

ノパ⊿゚)「で、どうする?」

ζ(゚ー゚*ζ「待ち伏せるか、それとも迎え撃つか。
      今日は何回戦かできると思うから、まずは待ち伏せをしてみましょう。
      その方がブーンちゃんの練習にもなるからね」

939名無しさん:2021/08/10(火) 21:31:10 ID:VMzYVuKw0
(∪´ω`)゛「おー」

ζ(゚ー゚*ζ「さて、まずは待ち伏せの基本ね。
      自分の中に死角を作らない、相手の行動を制限するに尽きるわね」

(∪´ω`)「死角を作らない、行動の制限。
      おー、どうやって死角を作らないようにすればいいんですかお?」

ζ(゚ー゚*ζ「よくあるのが角部屋ね。
       二方向を壁にすれば、少なくとも、見るべきは正面に限られるでしょう?
       後は仲間との連携ね。
       でも、相手が熟練の場合はそれが通じない場合もあるから、今回はいい経験になるはずよ」

(∪´ω`)「なるほどですお」

ノパ⊿゚)「相手はライフル、こっちは拳銃。
    中々厳しいな、正直」

ζ(゚ー゚*ζ「厳しいぐらいがちょうどいい練習になるわ」

ノパ⊿゚)「それで、あたしたちはどうやって待ち伏せするんだ?」

ζ(゚ー゚*ζ「相手が考えることを考えて、嫌がることをすればいいのよ」

ノパ⊿゚)「嫌がること、ねぇ」

ζ(゚ー゚*ζ「連携を乱されることよ」

複数人で同時に行動する際、基本となるのが役割分担と指示系統の統一だ。
個の強い人間が連携せずに作戦を遂行しようとすれば、自ずと作戦は破綻する。
チームによる狩猟というのは、言い換えればそれを前提としているため、万が一それが崩れた際に隙が出来る。
その隙を狙えば、後は逃げ惑う鹿を撃ち殺すようなものだ。

ノパー゚)「オッケー、あたしも同じ考えだ。
    となると、側面攻撃する人間が必要になるな。
    ……あたしがやるよ」

ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ私はブーンちゃんと一緒に行動するわ。
       お願いするわね」

ノパー゚)「任されよう」

三人は三階に向かい、端の部屋に入り込んだ。
そこには窓はなく、入り口は二か所しかない理想的な構造をしていた。

ζ(゚ー゚*ζ「そろそろ相手が動き始めるから、お迎えしてあげましょう」

ノパ⊿゚)「おっしゃ、いっちょ頑張ろう。
     どうせなら勝ちたいな」

940名無しさん:2021/08/10(火) 21:31:33 ID:VMzYVuKw0
(∪´ω`)゛「お!」

ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ、お迎えしましょうか」

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       γ´       \                          γ´ヽ `ヽ
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  i  ヾメ ミマ  \    ヽ     |i:::::::::::::::::::| .J       |i!三三三三 i;:;:;://
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同日 PM04:50

イルトリア軍の訓練は命の奪い合いがない実戦であり、訓練に参加する人間は常に殺し、殺される覚悟で挑んでいる。
今回、臨時の訓練に召集された10人の軍人は、全員が実戦経験豊富で名立たる作戦に参加した経験の持ち主ばかりだ。
陸軍、そして海軍から集められた精鋭たちは無駄のない動きで降車し、ライフルを掲げて建物へと素早く駆け出した。
彼らに与えられたシナリオはテロリストの潜伏する建物への突入、そして殲滅だ。

ただし、彼らの通信機器は使用できないという制約があった。
だが、彼らはハンドサインによる意思疎通がメインであり、そもそも言葉を使うことはほとんどないため影響は軽微だ。
無言のまま進み、すぐに二手に分かれた。
一棟に対して5人。

否――

(::0::0::)「おわっ?!」

――殿を務めていた男の胸にペイント弾の鮮やかなピンク色の花が咲くと同時に、銃声が響いた。
建物の三階から放たれた銃弾によって一人脱落が決定したが、彼らの計画に変更はなかった。
相手の武装についての情報は不明だが、この距離で正確に当てるということは、ライフルを装備している可能性が高い。
駆け抜けるようにして建物の壁に背中を当て、入り口の扉に手をかける。

941名無しさん:2021/08/10(火) 21:32:09 ID:VMzYVuKw0
ブービートラップの可能性が高いが、それを警戒させるのもテロリストの常套手段だ。
僅かに扉を開き、ワイヤートラップの類がないことを確認し、双方は同時に突入した。
互いの死角を補うようにして進み、内部で更に一階のクリアリングを行う班と、二階に進む班に分かれた。
四人に減った班は一人を失ったにもかかわらず、その動きに乱れはなかった。

建物内の部屋中の扉を開いては確認していく。
カービンライフルを抱くようにして構え、その銃爪には常に指先がかかっている。
順調にクリアリングを進める中で、一階の角部屋のドアノブに手をかけた時、そこに僅かな抵抗を感じ取った。
ジェイ・シェイクスピアは海軍に所属するベテランで、僅かな違和感に対して最大級の警戒をすることで知られている。

(::0::0::)

ハンドサインでハッシュ・モンテ・アミアータに一時停止するように伝える。
角部屋は待ち伏せ、あるいは敵をやり過ごすのには最適な場所だ。
扉から離れ、ジェイは扉を蹴り飛ばした。
開かれた扉の向こうにハッシュが銃腔を向ける。

だがしかし、その先には誰もいない。
扉の裏側にはパイプ椅子が転がっていて、それがジェイの感じ取った抵抗の正体だった。

(::0::0::)「……っ」

人の気配を感じ取って振り返るが、そこには誰もいない。
代わりに、跫音が遠ざかっていく音が耳に届いた。
それが味方のものでないことはすぐに分かったが、罠である可能性の高さを考え、二人は慎重に部屋を出た。
互いに背中を合わせ、不意打ちに備える。

ドットサイトの向こうに常に敵がいると想定し、腰をかがめながら進む。
その時、銃声が二階から轟いた。
単発ではなく、弾倉内の全てを撃ち尽くさんばかりの猛烈な銃声。
銃声は彼らの持つカービンライフルから放たれるそれに聞こえた。

味方が接敵したと判断しつつも、それでも二人はクリアリングを行うことを優先した。
味方であれば対処できると信頼し、各々のやるべきことに専念することを選んだ。
その間にも銃声は響き渡り、激しい戦闘が続いていることを物語っている。
やがて銃声が止み、階段を降りる跫音が聞こえてきた。

敵か。
それとも味方か。
階段側を向いているのはハッシュだ。
その緊張が背中越しに伝わってくる。

(::0::0::)「味方だ」

蚊の鳴くような小さな声で、ハッシュがそう報告した。
しかし、その直後。

(::0::0::)「いや、違う――!!」

942名無しさん:2021/08/10(火) 21:32:42 ID:VMzYVuKw0
警告よりも動く方が早かった。
ハッシュが後退しつつ制圧射撃をするのと同時に、ジェイがスモークグレネードを胸から取り出し、放る。
瞬く間に視界を白い煙幕が覆い、射撃が止む。
その間もジェイの視線は退路に向けられ、挟撃に対しての警戒は一切緩められていない。

(::0::0::)「二階に行くぞ。
     相手は俺たちの装備をごっそり奪ってる」

最も警戒すべき、そして、最も危惧すべき対応だった。
市長からは事前に“最も厄介な相手”と言われていたが、その意味が分かった気がした。

(::0::0::)「連絡通路から隣の棟に行って、仲間と合流しよう」

単独で相手をするにはいささか厄介を極めた相手であると判断し、ジェイはそう提案した。
味方の武装が奪われているということから、すでに二階に向かった二人が敗れた可能性が極めて高い。
合流すべきは、もう一つの班だ。
この短時間の間に三人を失うという失態は、これまでに経験したことがなかった。

もう一つの階段を駆け上り、最短距離で連絡通路を目指す。
ガラス張りの危険な通路だが、ペイント弾では貫通させることが出来ない。
本番を想定しての訓練だが、各々が置かれている状況を適切に利用するのもまた訓練の目的の一つだ。
二人は片時も警戒を解くことなく連絡通路に到着し、前進した。

ジェイが前方を。
そしてハッシュが後方を。
ハッシュは弾倉を交換し、静かに息を吐いた。

(::0::0::)「ふぅ……」

二人の視線はしっかりと銃腔の先、あるいはその周辺に向けられ、影が揺らいだとしても見逃すことのない集中力を発揮している。
見逃しはなかった。
少なくとも、銃腔の向いている先については。
風が頬を撫でたときには、もう遅かった。

(::0::0::)「ガラスがない……?!」

風の存在に気づいた二人がほぼ同時にそちらの方向を向く。
そして、頭上のガラスを破って手榴弾とスモークグレネードが投げ込まれ、二人の足元に転がり落ちる。
ハッシュはその上に覆い被さり、爆風を自分の体で受け止めた。
ペイントとはいえ、衝撃で僅かに体が持ち上がる。

(::0::0::)「くそっ……!!」

一人になったジェイは一目散にその場から離脱を選択し、隣の棟へと移動を完了させた。
絶好の機会を作り出したにもかかわらず、襲撃者は姿を見せるどころか、銃撃すらしてこない。
手近な扉を押し開き、すぐに扉を閉じる。
狩る側がいつの間にか狩られる側に回ってしまったことにより、ジェイは本当の意味で相手が厄介であることを理解した。

一息ついた瞬間、扉が音を立てて乱暴に開かれた。
咄嗟にライフルを構えるが、そこに現れたのは味方の姿だった。

943名無しさん:2021/08/10(火) 21:33:57 ID:VMzYVuKw0
(::0::0::)「何だ、ジェイか。
     てっきり敵かと思った」

(::0::0::)「俺もだよ。 ノミアン。
     一人なのか?」

扉を後ろ手で閉じながら、ノミアン・パロディウスは首を横に振った。

(::0::0::)「今このフロアをクリアリングしているんだ。
     銃声が聞こえたが、もう襲われたのか」

(::0::0::)「奇襲された。 俺以外はたぶん全滅だ」

(::0::0::)「あのメンツがやられるってことは、相当な相手だな……
     楽しくなってきた」

その言葉に、ジェイは心から同意した。

(::0::0::)「あぁ、こんなにやりがいのある相手は久しぶりだ」

(::0::0::)「こっちはまだ誰とも接敵していないが、どんな奴らなんだ?」

(::0::0::)「姿もまだ見ていない。 すでにこちらの装備を奪っているのは確認できた。
     手榴弾にスモーク、ライフルも俺たちの使ってきた」

その時、廊下から何かが落ちる音が聞こえてきた。
金属質の何かが地面に落ちる音だった。

(::0::0::)「ますます楽しみな相手だな。
     三階に向かおう。
     俺の後ろを任せる」

(::0::0::)「了解」

気を取り直し、ノミアンが先頭になって扉を押し開いた。
僅かに開いた扉の隙間から敵の姿を確認し、扉の開閉と二人の体の動きを合わせて死角を補い合う。
左右のどこに隠れていたとしても、即応できる動きだ。
すぐに銃腔を上下左右に向け、異変の有無を確認する。

(::0::0::)「……ん?」

階段に向かって慎重に足を踏み出していたノミアンが動きを止めた。

(::0::0::)「どうした」

背中越しに伝わるのは彼の動揺、あるいは困惑。

(::0::0::)「……薬莢だ」

(::0::0::)「んっ……?!」

944名無しさん:2021/08/10(火) 21:34:24 ID:VMzYVuKw0
直後、頭上に殺気を感じた時には手遅れだった。
二人の頭頂部に衝撃と共に銃声が落ち、足元に着地した何者かが両手に持つ拳銃の銃腔はまっすぐに二人の喉に向けられている。
しかし、二人の体もほぼ反射的に銃をその人間に向けられているが、銃爪は引けなかった。
これが実戦であれば二人は死亡しており、脊髄販社の奇跡で銃爪が引けたとしても、銃弾はあらぬ方向に飛んでいくことになるだろう。

通気口メンテナンス用の天板が外されていることに気づいていれば、この事態は回避できたかもしれない。
二人の注意が廊下にだけ向けられ、地面に落ちていた薬莢によって視線が固定されていたことも敗因の一つだった。
それでも、待ち伏せと強襲の技術は見事の一言に尽きる。
ここまで気配と物音を消すことが出来るのは一種の才能だ。

ノパ⊿゚)「……」

それは若い女だった。
油断も慢心もないイルトリア軍の軍人を二人相手に、見事な奇襲を仕掛けてきた女。
その顔に二人は見覚えがなかったが、ただの腕自慢という訳でないことは目で分かった。
二挺のベレッタM93Rの銃身下部には折り畳み式フォアグリップの代わりに、銃剣が取り付けられており、特徴的な形をしていた。

その銃を使う人間について、ジェイは思い当たる節があった。
女はゆっくりと立ち上がり、二人のチェストリグから弾倉とグレネード類、そしてジェイのカービンライフルを奪った。
二人は両手を挙げ、静かにその場から退場することにした。
彼女がヴィンスで大暴れした殺し屋、“レオン”なのだと理解し、そしてその実力が本物だということに納得せざるを得なかった。

――残った四人は、下の階から聞こえてきた二発の銃声で全てを察していた。

(::0::0::)「……ちぃっ」

追い詰める側の立場で襲撃をしたにも関わらず、彼らは皆、駆り立てられる側の立場になっていることに焦りを覚えていた。
銃撃も物音も、気配もある。
しかし、相手の姿が見えない。
本来であればもっと素早く行動した上で制圧できるはずなのに、それが一切できない。

思えば、最初の一人が撃たれたところから何かの歯車が狂い始めていた。
心の中に小さな恐れの種が植え付けられ、動作に僅かな遅れが生じている。
未だに相手の姿を視認できていないことが彼らに焦りを覚えさえ、動きから繊細さを、感覚から鋭さを奪っていく。
彼らがクリアリングを終えていないのは三階だけであり、敵が潜伏しているとしたらこの階が濃厚だ。

一人が扉を開き、二人が入る。
残った一人が周囲を警戒し、一つずつ可能性を潰していく。
本来は二人で十分としている作業だが、その倍の人間を使わなければならない相手だと判断せざるを得なかった。
クリアリングを済ませていない部屋が三つになった時、周囲の警戒に当たっていたトッティ・トルテが口を開いた。

(::0::0::)「妙だ……」

(::0::0::)「どうした」

リカルド・ルーンファクトは視線を向けずにそう言った。

(::0::0::)「まるで気配がしない。
     それに、こうして一部屋ずつ潰していけば、どん詰まりになった奴らが出てくる。
     あいつらがそれを選ぶか?」

945名無しさん:2021/08/10(火) 21:34:50 ID:VMzYVuKw0
(::0::0::)「……そう思わせるための陽動かもしれないが、理があるな。
     二手に分かれよう。
     相手がこっちを狙うとしたらクリアリングのタイミングだ」

頷き、無言の内に二手に分かれた。
リカルドとトッティはクリアリングをしている二人の背後を守る手に出て、一切の死角を生み出さないようにした。
天井、床、曲がり角の向こう側。
あらゆる可能性を考慮し、警戒した。

窓の外に一本のロープ――消火用のホース――が垂れ下がってきたのを見て、リカルドは叫び声をあげた。
訓練中、彼が初めて上げる類の叫び声だった。

(::0::0::)「外だ!!」

二人が一斉にライフルを構え、そして、思い出す。
自分たちが今回使う武器について。
非殺傷のペイント弾では、ガラスを撃ち抜けない。
それは敵も同じだ。

ならば、これは視線を誘導するための罠。
同時に気づき、銃腔を廊下の方に向け直す。
しかし、本命は別にあった。
窓の外でホースが揺れ、括りつけられた消火器が窓ガラスを砕き、二人にガラス片が降り注ぐ。

(::0::0::)「うおっ?!」

思わず目を庇い、その反動で視線が再び窓の方に向けられる。
クリアリングをしている二人は既に部屋の中に入った後で、この数秒間で起きたことに対応はできていない。
ライフルの銃腔は既にあらぬ方向に向き、ゴーグルをつけている目を庇った腕の向こうで見たのは、金髪の女が両手に構えた銃を発砲している瞬間だった。
黒塗りのデザートイーグル。

ζ(゚ー゚*ζ

避けることなどまるで出来ぬまま、二人は胸部に銃弾を受け、その場で退場が確定した。
女は割れた窓ガラスの向こうから優雅に廊下に降り立った。
しかし、クリアリングをしていた二人が素早く部屋から飛び出し、ライフルを構える。
その時はまだ、イルトリア側の誰もが勝利を確信していた。

銃爪を引くタイミングが早い方が殺し合いを制するのは常識だ。
そう。
確かに、その女のデザートイーグルがまだ次弾を薬室に収め切っていない状態を考えれば、勝敗はイルトリア軍側にあった。
デザートイーグルは反動もそうだが、遊底が大きく後退する特性があるため、次弾の装填と発砲には刹那の時間がかかる。

それこそがこの場における勝機だと、誰もが思った。
女の腰にしがみついていた少年が発砲し、二人を仕留めるまでは。

(∪´ω`)

946名無しさん:2021/08/10(火) 21:36:01 ID:VMzYVuKw0
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777777l  ./l|  l///| !//////|―ュ         r-‐ュ_  j               r-ュ
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同日 PM05:15

カラクッド・クランドは黄昏の空に染まったニョルロックの街並みを見上げ、溜息を吐いた。
彼の捜査は行き詰まり、打つ手がなかった。
バルザイ・スミノフが用意していたはずの資料は行方不明になり、彼自身も行方が分からなくなっていた。
同僚の人間に訊いてもその行方は分からず、連絡もつかない。

まるでカラクッドの手の内が全て読まれているかのように、あるいは、あざ笑うかのように真実が遠ざかっていく。

(+゚べ゚+)「まいったな……」

947名無しさん:2021/08/10(火) 21:36:25 ID:VMzYVuKw0
雑踏の中、彼の独り言は風と共に後方へと流されていく。
捜査は難航するどころか、そもそも船出すらしていない状況だ。
犯人は犯罪に関して天才的と評価せざるを得ない相手だ。
バルザイの身に何かが起きたのか、それは分からないが、嫌な予感がする。

この街で“レプス”に手出しをすればどうなるのか知らない者はいない。
つまり、外部からやってきた人間の仕業だ。

(+゚べ゚+)「この街で何をしようってんだ」

建物に取り付けられた大型電光掲示板に、様々な広告が映し出される。
三色の光を利用し、文字だけでなく映像も映し出すことが出来る最新の物だ。
この技術はつい最近導入されたばかりの物で、目新しさに通行人が立ち止まり、目を向けている。
一日中この街で仕事をしているカラクッドでも、その目新しさは変わらない。

世界で起きたニュースが音声と文字で流れて行き、合間に広告が映される。
その間、すれ違う人々が彼に軽くぶつかっていくが、それもこの街でよくある光景だ。

(+゚べ゚+)「……ふうむ。
     考えても仕方ないか」

事件を解決するための鍵は、いつだって自分の足で探してきた。
極秘裏に調査をしなければならない以上は、頼れるのは自分だけなのだ。
決意を新たに、雑踏の中を歩く。

(-@∀@)「今夜は何を食べます?」

<ヽ`∀´>「うーん、連日カレーだったから流石に別のを食べたいニダね」

l从・∀・ノ!リ人「ビーフシチューがいいのじゃ!」

(;-@∀@)「それほとんどカレーですよ」

(+゚べ゚+)「……ん?」

それ違った三人組。
その内の一人の顔に、カラクッドは見覚えがあった。
スコッチグレイン家の一人、イモジャ・スコッチグレインだ。

(+゚べ゚+)「あ、なぁ、ちょっと」

思わず声をかけると、目の細い男が振り向いた。

<ヽ`∀´>「ウリたちのことニダ?」

(+゚べ゚+)「そうだ、あんたたちだ。
     ちょっと訊きたいんだが」

<ヽ`∀´>「面倒なことならお断りするニダよ」

948名無しさん:2021/08/10(火) 21:36:54 ID:VMzYVuKw0
その反応は当然の物であり、カラクッドが予想していたものの一つだ。
懐に手を伸ばしつつ、己の自己紹介をする。

(+゚べ゚+)「俺はカラクッド・クランド、この街の治安維持組織の人間だ」

しかし、彼の手がそこで止まる。
懐に入れていたはずの身分証がなくなっているのだ。

(+゚べ゚+)「……なに?」

<ヽ`∀´>「自己紹介してもらったところ悪いけど、相手をすることは出来ないニダ」

そのまま立ち去られる間も、カラクッドは身分証を探すが、どこにも見当たらない。
財布はある。
護身用の拳銃もある。
しかし、身分証だけが忽然と姿を消しているのだ。

(+゚べ゚+)「まいったな、どこに落としたんだ……」

落とすことなど有り得ないことは分かっている。
彼の身分証はパラコードで拳銃のホルスターと結びつけられており、外れることは無い。
改めてパラコードを見て、カラクッドは驚愕した。

(+゚べ゚+)「……嘘だろ、おい」

パラコードはその性質上、切断面に多くの情報が現れる。
乱暴に切れば切断面は乱れ、鋭い刃で切断すれば乱れはほとんど見られない。
今彼が目にしているのは、後者の切断面だった。

(+゚べ゚+)「くっそ!!
      どこの誰だ!!」

怒りと共に振り返るも、見えるのは見知らぬ人間の背中ばかり。
当然、盗人が振り返るはずもない。

(+゚べ゚+)「おい!!」

声を荒げ、かまをかけてみる。
大抵のスリはこの一言で何かしらの反応を示す。
だが当然、怪訝な顔をして振り返る通行人ばかりだ。
先ほどの三人組はこちらに見向きもしない。

(+゚べ゚+)「えぇいい!! 糞っ!!」

悪態を吐き、カラクッドは周囲を見渡す。

(+゚べ゚+)「やられたっ……!!」

949名無しさん:2021/08/10(火) 21:37:18 ID:VMzYVuKw0
恐らくは、彼が追っているであろう何者かの仕業だ。
バルザイの行方が分からなくなっている原因にも関わっている可能性がある。
すでに彼は相手の術中にはまっていると考えると、極めて不気味、否、生きた心地がしない。
彼の本能がその場からの逃走を強いたのは、無理からぬ話だ。

相手がその気になれば、彼の胸元から奪うのは身分証ではなく命だったに違いない。
では、彼が生かされている理由は何か。
走りながら、カラクッドの灰色の脳細胞は必死に動き、思考し続けた。
思考は目まぐるしく動き続けているが、逆に、彼の注意力は散漫になっていた。

逃げる獲物の思考は極めて予想しやすく、追い詰めやすい。
そのような初歩的な発想にさえ、今の彼には考えるだけの余地がなかった。
レプスの本部に足が自ずと向かってしまうのは、安全を求める心理的な行動だ。
屋内に逃げるようにして入ったカラクッドは、すぐに自分のデスクに向かい、引き出しの中を漁る。

あるいは、そこに彼が身分証を置き忘れた可能性を模索したのだが、それも無意味だった。
それどころか、彼は引き出しの中に入れていたはずの手帳等が消えていることに気づいた。

(+゚べ゚+)「おい、今日俺の机に近づいた奴はいるか?!」

だが、誰もが首を横に振るばかりだ。
そんなはずはない。
確かに存在した物が消えているということは、何者かが手を出したということだ。
その目撃情報がないということは、相手はこの組織のことをよく知っているはず。

安全な場所がないと判断したカラクッドは建物から出て、すぐに近くのホテルに身を顰めることにした。
ホテルの部屋に入ってすぐに鍵とチェーンをかけ、部屋中の扉を開いて誰もいないことを確かめる。
シャワーを浴びる際にもすぐに拳銃が手に取れるようにし、練る際には枕の下に置いた。
まるで逃亡中の犯罪者のような念入りな対処だったが、彼の中ではこれでも足りないぐらいに感じていた。

――事実、それは致命的なまでに不足していた。

950名無しさん:2021/08/10(火) 21:38:09 ID:VMzYVuKw0
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Ammo for Rebalance!!編

_,‐二// \\\::::::::::::::::::::::::::::::::。::::::::::::::::::::::::::::::::゚::::::::::::::::::::::::::゚:::::|::::|:::::|:::丁:=- _::::::::
二//\\.:\.:./::::::::::゚::::::::::.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.::::::::::::::::゚:::::::::゚:::::::::::::::::::::。::::::|::::|:::::|:::::|:::::|:::::|ニ=
//.:.:\ \\.:/::::::::::::::::::::: : .        . : :::::゚:::::::::::::::::::::゚::::::::::゚:::::::::|::::|:::::|:::::|:::::|:::::|:::::|
/ \ \ \\/:::::::゚::::::,.---ッ‐‐  、   : : ::::::::::゚:::::::::::::::::::::::::::::::::\|:::::|:::::|:::::|:::::|:::::|
  \ \.:\.:.:/:::::::::::/:/ ゙̄:、  __;   . : : :::::::::::゚:::::::::::::::::::::::::::::::::::\|:::::|:::::|:::::|:::::|
 \ \.:\.:./:::::::/:/::: : .        . . : ::::::::::::::::::::::::::::::::゚:::::::::::::::::::::::::::\|:::::|:::::|:::::|
_\ \ \ ./:::゚::/::::/:::::::::::: : :。: : : : : : : :::::::゚::::::::::::::::゚:::::::::::::::::::::::::::::゜:::::::::::゚::::::::\|:::::|:::::|
X \ \ /::::::/::::/:::::::::::::::::::::::::::::::::::::。::::::::::゚:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::゚:::::::::::\|:::::|
爻爻x\/:::: /::::/:::::::::::::::::::::::_______::::::::::::::::::::::::::::::::。::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::\|
爻爻爻x:::: /::::/:::::。:::::::::::::゚::i| iニ二二二二ニi |i:::::::::::゚::::::::::::::::::::::::゚::::::::::::::___::::::::::::::
爻爻爻ミj/::::/:::::::::::::::゚:::::::::i| iニニニ二ニニニニi |i:::::::::::::::::::::゚:::::::::::::::::::::::::::|\ xxXXxx
爻爻;爻;/::::/:::::::::::::::::::::::::::i| iニ二三三三二ニi |i:::::::::::゚:::::::::::::::。::::::::::::::::::|  爻狄ソ狄
爻;爻ミ;/::::/___::::::゚:::::::::i| iニi二i三i三i三iニiニi |i::::::::::::::::゚:::::::::::::::::。::::::::|  狄狄狄狄
:爻:ミ:/::::/ ̄ ̄/∧:::::::::: i| i二i三i三i三i三i三iニi |i::::::゚::∧ニニニ-_::::::::::::::::\X狄ソ狄淡
爻ミ/::::/X ::::::///∧::゜:::i| i三i三i三i三i三i三i三i |i::::::/::∧ニニニ‐_:::::::::::::::::爻狄i狄淡
ミミ/::::/爻ミ;ミ;ミ;ミx/ ∧::::i| iニiニiニiニiニiニiニiニi |i::/::/: ∧ニニニニ‐_::。:::::::::/爻狄ソ狄
c/::::/爻爻ミ;ミ;ミ;ミ;Xx/:::i| i二iニiニ.iニiニi二i二iニiニi |i:∨::/: ∧ニニニニ‐_:::゚::/  爻狄狄
/::::/淡爻爻ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミミxニ二i二iニiニiニiニiニiニiニi |i::∨::/:::ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;。/   狄ミ狄
::::/慫淡淡淡ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;xニiニiニiニiニiニiニiニiニi |i:゚:∨::ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;XxixX爻狄狄
:/慫淡淡淡kミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミj二i二i二iニiニiニiニiニi |i:::::∨ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;刈爻爻狄
淡淡炎淡淡kミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミく::i二i二i二iニiニi二i二i二i |i:::xミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ刈狄狄
淡淡淡淡淡淡ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ二i二i二i二i二i二i二i二i |iミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミ;ミミ;ミミ刈狄

第一章【awaken of dreamers-夢見る者達の目覚め-】 了
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951名無しさん:2021/08/10(火) 21:38:50 ID:VMzYVuKw0
これにて今回のお話はお終いです

質問、指摘、感想などあれば幸いです

952名無しさん:2021/08/10(火) 22:01:45 ID:Wtr6JUg.0
乙乙

953名無しさん:2021/08/10(火) 23:53:43 ID:Iu8cSGnA0
おつです
ブーンも結構強くなったんだな。ティンバーランド側のブーンはどうなんだろ。
こっちも英才教育されてんのかな。

954名無しさん:2021/08/13(金) 20:40:12 ID:jEhCvKCI0
乙乙

相変わらず面白い。
ディートリッヒさんとブーンの会話のシーンに和んだり、訓練の息が詰まるような緊迫した描写が最高に良かった。


>>944

これが実戦であれば二人は死亡しており、脊髄販社の奇跡で
の部分の"脊髄販社"じゃなくて"脊髄反射"だね。

955名無しさん:2021/08/13(金) 21:47:32 ID:md8pDu6E0
>>954
今回こそは誤字ないと思ったのに……!!
いつもご指摘ありがとうございます!!

956名無しさん:2021/08/14(土) 00:04:19 ID:LuYD0Ops0
おつ!
渡辺さん意外と地位が高いのね
意図的にやらかしてばっかのイメージだけど結構功績残してるのかな

957名無しさん:2021/09/14(火) 16:55:22 ID:mxspAYHA0
今度の土曜日にVIPでお会いしましょう

958名無しさん:2021/09/14(火) 22:21:37 ID:EdNAzNJc0
待ってた!

959名無しさん:2021/09/14(火) 22:55:05 ID:QsKGDP520
月1の楽しみです!
待ってます!

960名無しさん:2021/09/15(水) 23:41:25 ID:h3JigoBs0
うおおおお!!

961名無しさん:2021/09/19(日) 08:16:14 ID:ctbjoZXk0
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あの日。
我々の街が戦場と化したあの日。
誰一人として、その日が来ることを予見し得た者はいなかった。

                                      ――アダム・サラゲトラーナ

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September 24th PM06:33

世界には力が溢れ返っているが、力に頼らずに力を誇示する街は、“中立の街”ブーオしかない。
あらゆる争いに対しての介入を拒絶し、助力を拒み、世界中あらゆる街からの干渉を排除し続けてきた。
クラフト山脈の南にある島に位置し、その環境が彼らの守りを強固な物にしている。
観光業と島の自然を使った産業だけで街が成り立っているのは、ブーオに住んでいる人間達の層にある。

大金を稼いだ人間が不毛な争いに巻き込まれることを嫌い、穏やかな老後を過ごすためにこの街に移住してくる。
彼らは安全を金で買うことに何の抵抗も抱かないため、ブーオは税金によって街の治安と平穏を維持する工夫がされているのだ。
内藤財団の影響も、十字教の影響さえも受けない絶対中立の街。
街を束ねるガガーリン・ザラキは前市長からその座を継承し、父親譲りの手腕を発揮する若い女だ。

執務室で爪を切っていた彼女の元に、秘書が一通の電報を持って現れた。

川_ゝ川「……内藤財団が?」

( ゚ー゚)「観光業でぜひ助力をさせてほしい、と」

川_ゝ川「そう言って我々の街に介入する口実を作るつもりなのだろう。
    ヴィンスも、ラヴニカもそうだ。
    あいつの助力は侵略と同義だ。
    返事をするまでもない、いつも通り無視しろ」

ブーオが今日まで中立の立場を貫き続けることが出来たのは、外部組織とのつながりを徹底して排除することだった。
特に彼らが警戒するのは、善意を盾にして侵略を試みる輩だ。
内藤財団という大きな組織で見れば、確かに経済的な成長は見込めるだろう。
しかし、内藤財団はニョルロックだけでなく、カルディコルフィファームも経営しており、実質的には複数の街の支配者だ。

今までに一度も彼らの介入を受け入れていないのも、僅かな根が入り込むことを忌避してのこと。
雑草の根は思った以上に深く入り込み、気が付いた時には手遅れになることが多い。

( ゚ー゚)「かしこまりました」

秘書は笑顔を崩すことなく頷き、部屋を出て行った。
残されたガガーリンは爪をやすりで整え、磨き、そして溜息を吐いた。

川_ゝ川「ふぅ……」

962名無しさん:2021/09/19(日) 08:17:08 ID:ctbjoZXk0
内藤財団が介入を提案するのは、これが初めてではない。
この街が力を持ち始めてから、一年に数回は話を持ってくる。
無償で観光船の手配をする、無償で設備の点検と保守を行う、無償で街の漁業を守るための警備艇を派遣するなど、彼らは必ず甘言を使ってくる。
その甘言に一度でも首を縦に振れば、この街の中立性は失われると、遥か昔の市長から代々引き継がれてきた考え方があった。

そのため、内藤財団がラジオを無償で世界中の街に配った時でさえ、彼らはその受け取りを拒否した。
街の財政は苦しいわけではないし、むしろ、年々潤いを見せているほどだ。
それだけ安寧を求めている人間が多くいるということは、世界情勢が平和から遠ざかっているということなのだろう。
中立の街はそういった争いから遠ざかる最後の楽園と言っても過言ではない。

ストーンウォールも似た背景を持っているが、こちらは岩礁と多数の島に囲まれた孤島だ。
近くの海には機雷を浮かべ、こちらが許可した船にだけ安全な航路を伝える方式がある以上、侵略は困難を極める。
密かにラヴニカに復元を依頼した“名持ち”の棺桶が街の守り神として控えており、万が一侵入者が来たとしても、撃退することが可能だ。
年に数回、島にある貴重な鉱物や動物を盗もうとする船が来るたび、街の人間は狩り感覚でその船を沈めてきた。

大口径の機関銃で徹底して破壊された船は海の藻屑と化し、海に飛び込んで逃げようとした人間は鮫に食われた。
おかげで近海の魚たちは肥え、最終的に不届き者たちの命は街の貴重な食料を育てる餌として役立っている。

川_ゝ川「……警戒しておくか」

これまで硬くなに無視し続けているブーオに再び連絡を取るということは、何かを狙っているということが考えられる。
企業である彼らは常に利益を優先した行動をとる。
ラジオの配布でさえ断った街に、今更観光の話を持ってくるというのは、いささか不自然だった。
狙いは別にあるとみて間違いない。

――後にその警戒心が、ブーオの歴史を変えることになるのであった。

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    i/ i         ', .彳 トi  ヽ,./   '
    i'´i  ,       ヽヽゝ-ゞ   ` ..,
    ',{i i ',       ',ヽ、       ノ
    ゝ, トゝ,      ヽ'、     _,.r'ヽ
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963名無しさん:2021/09/19(日) 08:17:33 ID:ctbjoZXk0
同日 PM06:39

イルトリア軍人との“遊び”は思った以上に白熱し、予定していた殲滅戦以外にも、フラッグ戦、確保戦などのレクリエーションも行われた。
一戦目を終え、軍人たちは自分たちが三人を相手に負けたことを悔しがったが、同時にその実力を認めた。
結果はデレシア達の全勝で終わったが、ヒート・オロラ・レッドウィングとブーンは数回被弾する結果になった。
一度も被弾せずに済んだのはデレシアだけだった。

肌寒い空気の中での勝負だったが、全員が程よく汗をかき、空が紫色になる頃に互いに健闘を称えた。
最後にデレシアが軍人たちにいくつかアドバイスし、ブーンとヒートは逆にアドバイスをもらうことが出来た。
ヒートの評価は非常に高く、現在海軍の訓練に参加していることを聞き、全員がその実力について納得した。
対して、ブーンは土壇場での冷静さや思い切りの良さを評価され、ペニサス・ノースフェイスの弟子であることを聞き、一気に興味を持たれることになった。

その後、食堂へと全員で移動し、夕食をとることになった。
食堂は大勢の軍人で賑わいを見せ、食欲をそそる複数の香辛料が入り混じった香りが溢れていた。
軍服の上にエプロンを着たチハル・ランバージャックが全員を出迎え、腰に手を当てながらまるで全員の母親であるかのように質問をした。

ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト「おかえりなさい。
      先にお風呂とご飯、どっちにする?」

ζ(゚ー゚*ζ「ただいま。
       先に夕食をいただいてもいいかしら」

(∪*´ω`)「美味しそうな香りがしますお!!」

ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト「今夜は皆大好きなカレーだよ。
      私特製の無水カレーだから美味しいよー」

(∪*´ω`)「無水カレー?」

ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト「ふふん、食べながら説明をしてあげるから、まずは手を洗って来ようね」

(∪*´ω`)「はいですおー」

一同は石鹸で手を洗い、競うようにして列を成してトレイを手に食事を皿に盛り始める。
サラダ、卵のスープ、そしてカレーライス。
それぞれ自分で食べられる、あるいは食べたい量を盛り付け、席に戻る。
席に着くなり、誰もがカレーの香りに誘われるようにしてスプーンですくい、口に運んだ。

ブーン達も食事前の挨拶を済ませ、そして食事を始める。

(∪*´ω`)「美味しいですお!!」

ノパー゚)「うんまい!!」

ζ(゚ー゚*ζ「ほんと、美味しいわ」

964名無しさん:2021/09/19(日) 08:17:57 ID:ctbjoZXk0
香辛料が複雑に絡み合った香りの奥に、辛味、酸味、仄かな甘味を感じ取ることが出来る。
人参、タマネギ、アスパラ、トマトそして大きく切った豚肉。
変わった材料が入っているわけではないが、驚くべきは味の持つ奥行だ。
単純に辛いだけではなく、旨味の理由を探ろうとすればするほど、深みに足が取られて沈んでいく感覚に襲われる。

濃厚な味は一口だけで口内が十分に満たされ、更なる食欲の増進に繋がる。
豚肉は恐らく焦げ目が出来るまで焼いたものを入れ、じっくりと煮詰めたのだろう。
歯応えを残しながらも柔らかく、そして肉の旨味が生きている。
付け合わせに用意されたきゅうりのピクルスも、酸味の効いたこのカレーによく合う。

ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト「ふふーん。 そうでしょう、そうでしょう。
      無水カレーっていうのは、水を使わずに作ったカレーなの。
      トマトの缶詰と後は野菜から出る水分だけで、結構濃厚になるんだー。
      後はね、隠し味にコンソメとワインと、すりおろしたリンゴを入れてるの」

(∪*´ω`)゛

説明を聞きながらも、ブーンはスプーンを動かす手を止めなかった。
大きな口を開けて次々とカレーを頬張り、嬉しそうに咀嚼する。

ノパー゚)「この酸味がいいな」

カレーを口に運びつつ、改めてヒートは賛辞を贈る。
兵士たちは黙々と食べているが、しかし、何度も追加のカレーライスを取りに行く姿を見ればその評価は訊かなくても分かる。

ζ(゚ー゚*ζ「ミセリは学校?」

ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト「ううん、学校はもう終わって、今はリハビリしているはずですよ。
      “バイセンテニアル・マン”にはまだ慣れていないから」

ζ(゚ー゚*ζ「あら、前に見た時には結構使いこなしているように見えたんだけど?」

ミセリ・エクスプローラーは四肢と両目の視力を失っていたが、強化外骨格によって失われた身体機能を取り戻すことが出来ていた。
バイセンテニアル・マンは使用者に合わせて最適化される設計のため、数日もあれば違和感なく使用することが出来るはずだ。

ィ∩ハリ∩,
从´ヮ`从ト「日常生活の方は全然大丈夫なんだけど、棺桶を使うとなるとまたちょっと違うみたいなんですよ」

ζ(゚ー゚*ζ「なるほどね」

種類の異なる強化外骨格を合わせて使うのは、極めて難易度の高い話になる。
棺桶はそもそも生身の人間が使用することを前提として設計されているため、生体情報を取得して稼働するのが前提だ。
目の動き、筋肉の緊張、体温の変化などを読み取って適切な調整が行われる。
しかし、他の強化外骨格を使用している場合、その生体情報を読み取ることが出来ないことがある。

965名無しさん:2021/09/19(日) 08:18:26 ID:ctbjoZXk0
そうなれば、適切な装着もままならず、実際に動かす際に問題が生じることになる。
量産機であるジョン・ドゥなどは、基本的にAクラスの棺桶との併用が出来ない。
そもそも併用を前提としている棺桶はその数が非常に少なく、開発されたものはもれなく“駄作”の烙印を押されている。
そのため、併用が可能な棺桶を選び、それを使うしかない。

幸いなことにイルトリアには多種多様な棺桶が揃っており、彼女が使用するのに最適なものが見つけられる可能性は非常に高い。
特に、使用者を厭わない設計思想を持つ棺桶であればその可能性は高くなる。

ζ(゚ー゚*ζ「そう言えば、ロマ達はどうしてるの?」

ミ,,゚Д゚彡「あぁ、客人がこの街に来たみたいでな。
     知ってるだろ? トラギコ・マウンテンライトとオサム・ブッテロ。
     ミセリのバイセンテニアル・マンを届けに来た運送業の連中と一緒に来たみたいだぞ」

その時、デレシアは思わず驚きを声に出した。

ζ(゚ー゚*ζ「あら、意外。
      殺し屋と刑事さんが一緒とは、面白い組み合わせね」

ミ,,゚Д゚彡「お前のことを探してここまで来たみたいだから、街の中を歩いていたらどこかで鉢合わせるかもな。
     まぁ、基地の中に入れるつもりはない。
     どうする? 街の外に放り出すか?」

ζ(゚ー゚*ζ「いいわよ、そこまでしなくても。
      それにしても、大した執念ね」

ノパ⊿゚)「あの行動力は敵にしたくねぇな……」

ζ(゚ー゚*ζ「平気よ、今はね。
      それよりも、せっかくだからこのままイルトリアにいてもらったほうがいいわね。
      連中がここに来た時に、役に立つはずよ」

(∪´ω`)「おー」

カレーを食べ終えたブーンはサラダを頬張り、デレシアの話を聞いていた。

(∪´ω`)「ししょーは今どこにいるんですかお?」

ミ,,゚Д゚彡「ししょー? あぁ、ロウガか。
     多分おやっさんと一緒にいると思うぞ」

(∪´ω`)「おやっさん?」

ミ,,゚Д゚彡「ロマネスクのことだ。
     二人とも今夜はこっちに顔を出すって言ってたが――」

食堂の入り口に二つの影が音もなく現れた時、食事をしていた兵士たちがその手を止めた。
漂わせる存在感、そして迫力。
上下黒のスーツを着て、琥珀を思わせる黄金瞳が周囲に向けられる。
歳と共に成熟された気配の主は、ロマネスク・O・スモークジャンパーその人だった。

966名無しさん:2021/09/19(日) 08:18:57 ID:ctbjoZXk0
( ФωФ)「――やはりカレーか」

!ヽ, __ ,/{
リi、;゚ー ゚イ`!「トマトカレーですね」

その隣で、同じく黒のスーツを着た狼の耳と尾を持つ女性は、ロウガ・ウォルフスキン。
二人の姿を見て、ブーンは声を出して喜びをあらわにした。

(∪*´ω`)「ししょー!! ロマさん!!」

食事を中断し、ブーンは二人の元に駆け寄った。
彼がロマネスクの名を口にした瞬間、兵士たちは皆目を丸くして彼を見たが、丸まった尻尾を左右に振りながら駆ける彼を咎める人間はいなかった。

( ФωФ)「おお、ブーン!!
       久しいな!!」

足元に駆け寄ってきたブーンと抱擁を交わし、ロマネスクは笑顔を浮かべた。
恐らく、その場にいた兵士たちの中には彼の笑顔を始めてみた者もいただろう。
兵士の中には、手に持っていたスプーンを取り落とす者もいたほどの衝撃的な光景だった。
ロマネスクとの抱擁が終わると、今度はロウガと抱擁を交わす。

!ヽ, __ ,/{
リi、;゚ー ゚イ`!「少し大きくなったか?」

(∪*´ω`)「分からないですお!」

!ヽ, __ ,/{
リi、;゚ー ゚イ`!「重さも筋肉の質も変わっている。
       たくさん食べて沢山運動をしたんだな、いいぞ」

(∪*´ω`)「お!!」

ロマネスクは手に持っていた紙袋を掲げ、ブーンに言った。

( ФωФ)「お前の為に最高のリンゴを持ってきたぞ。
       後で一緒に食べよう」

(∪*´ω`)「はいですお!!」

967名無しさん:2021/09/19(日) 08:19:17 ID:ctbjoZXk0
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Ammo→Re!!のようです
Ammo for Rebalance!!編
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第二章 【roar of dreamers-夢見る者達の咆哮-】

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同日 PM09:47

ニョルロックにある内藤財団のビル前に二台のSUVが到着し、三人の男女が車から降りた。
その周囲を素早く武装した男たちが取り囲み、他者の視線や接近の一切を防ぐ陣形を構築する。
迅速な動きによって囲まれたのは、一組の男女。

( ^ω^)

一人は西川・ホライゾン。

ξ゚⊿゚)ξ

もう一人は西川・ツンディエレ・ホライゾン。
内藤財団社長、そして副社長は警護に囲まれたままビルの中に入っていく。
その後ろを、ミルナ・G・ホーキンスが静かについていく。

( ゚д゚ )「アニー、お前はどうする?」

車の中に一人残っていたアニー・スコッチグレインに声をかけると、彼は短く答えた。

( ´_ゝ`)「会社の方に行きます。
     父と母と話をしたいと思って」

968名無しさん:2021/09/19(日) 08:20:48 ID:ctbjoZXk0
( ゚д゚ )「……辛い話だな。
    焦らなくてもいいと思うが」

弟と妹を失い、自身は左脚を除いた四肢を失った。
唯一残った左脚は腱を切られ、機械なしでは歩くこともままならない。
睾丸も失い、生殖機能は失われた。
この姿を報告するのは、かなりの重責だ。

( ´_ゝ`)「世界を変える前に、せめて、二人の犠牲が無駄じゃなかったことを知ってもらいたくて」

( ゚д゚ )「まぁ、それはお前次第だな。
    だが、最後まで油断はするなよ。
    まだあと一歩、博士の言っていた物が揃わない限りは始めるわけにはいかない。
    慢心と油断は、いつでも作戦を狂わせる」

( ´_ゝ`)「はい、分かっています」

( ゚д゚ )「連絡はまた後日する。
    出来るうちに親孝行するんだな」

アニーは頷き、車を発進させた。
彼の両手、そして両足には医療用の強化外骨格が取り付けられている。
失われた身体機能の補助をするだけでなく、彼の身を守るための武器でもあった。
ギコ・カスケードレンジという男が彼への復讐を望んでいるのならば、必ずまた姿を現すはずだ。

その時、無力なままでは終わりたくないという彼の願いを聞き届けたイーディン・S・ジョーンズの計らいで、彼は新たな手足を手に入れることが出来たのであった。
すぐ近くにあるフィンガーファイブ社に向かう前に、まずは安全な宿を確保するために馴染みのホテルに寄ることにした。
明日にはニョルロックを去り、彼が担当する地域に向かわなければならない。
両親と話をするのは今夜が最後になるかもしれないと思うと、若干焦りもする。

ホテルのエントランス前に車を停めると、すぐに従業員が駆けつけてきた。
従業員の男はアニーの顔を見て、無言の内に全ての対応を完璧にこなした。
車から降りたアニーに部屋の鍵を渡し、荷物は別の従業員たちが素早く駆け寄り、アニーよりも先に部屋に向けて運び始めた。
軽い会釈だけでチェックインを済ませたアニーは、部屋の窓から星空のように輝くニョルロックの街並みを見下ろした。

( ´_ゝ`)「……」

ようやく。
ようやく、夢の実現に向けた大きな歩みが始まる。
あらゆる苦痛も、困難も、悲しみも。
全てはこの時の為にあったのだ。

世界を変える偉大な一歩、その道のりを振り返ると、あまりにも短く、そして険しい物だった。
両親は彼が何をしてきたのかを知らないが、知れば必ず賛同するはずだ。
父親が傭兵派遣会社を設立したのは、力のない人間が自衛をするための力を格安で提供し、大切なものを失う人間が一人でも減ればと願ったからだ。
弱小な町は力のある町に武力で飲みこまれ、その際に多くの人命や財産が失われる。

969名無しさん:2021/09/19(日) 08:21:11 ID:ctbjoZXk0
フィンガーファイブ社はそうした小さな町に積極的に声をかけ、守るための力を提供しているのである。
もしもアニーたちの夢が成就すれば、今後、フィンガーファイブ社の様な会社は大きく需要を減らすことになる。
淘汰され、最後には傭兵派遣以外にも手広く商売を行っているか、強いパイプがなければ生き残ることは難しいだろう。
その点、フィンガーファイブ社は安泰だ。

一時的な収益の激減はあるが、会社が消えることは無い。
両親もアニーたちの夢に理解を示し、協力を惜しまないはずだ。
フィンガーファイブ社に所属する腕利きを数人、アニーと同行させてもらえれば、安心して目的地に向かうことが出来る。
これから彼が向かおうとしているのは、盗賊たちの楽園、“セフトート”。

世界の腫瘍であり、歩みの妨げになる路傍の石だ。
彼の役目はその街を世界から切除し、無害化することにある。
ラヴニカから最後の一歩が届くまでにはまだ時間がかかるが、場合によっては前倒しで計画が始まることもある。
それに備え、各自要所となる街に向かう必要があるのだ。

冷水で顔を洗い、気持ちを引き締める。
長い運転で疲労がたまっていたが、久しぶりに両親に会って話が出来ることを思えば苦ではない。
入ったばかりの部屋を出て、アニーは夜風に当たって頭を冷やすために徒歩でフィンガーファイブ社ビルに向かった。
仕事熱心な両親はまだこの時間であれば――夜の10時過ぎ――まだ仕事をしているはずだ。

争いの絶えないこの世界であれば、フィンガーファイブ社への依頼が絶えることは無い。
イルトリアとは異なり、こちらは敵対する組織に対しても派遣をすることが往々にしてある。
武力を平等に与えなければ世界のバランスが偏るため、要望があればどこにでも傭兵を派遣する。
最終的な派遣の決定をするのは両親に委ねられているため、その判定の為に夜遅くまで残らなければならない。

ビルの前には武装した傭兵が立っており、接近するアニーに警戒の目を向けた。
しかし、見知った顔を前に、彼らは銃爪にかけていた指をゆっくりと離した。

(`・_ゝ・´)「どうも、アニーさん。
      随分久しぶりですね」

( ´_ゝ`)「あぁ、ちょっと両親に挨拶をしたくてね」

(`・_ゝ・´)「お二人は内藤財団との会談で、数日前から離れています」

( ´_ゝ`)「内藤財団と? 聞いていないな」

(`・_ゝ・´)「確か、9月20日だったと思いますが、その日から今日までずっと御出勤はされていません」

極めて奇妙な話だった。
両親が内藤財団と話をする際は、基本的に電話を使う。
直接会うのは時間の無駄であると同時に、相手が掴まらない可能性が極めて高い。
そのため、直接会って話をするのは極めて重要な話であることになる。

しかし、そうであれば、ニョルロックに向かう途中の車内でホライゾンから何かしらの話があってもいいはずだ。
というよりも、二人は今日この街に着いたばかりなのだから、そもそも両親が話をしているはずがない。
あり得ない矛盾。
アニーの背中に、知らず、冷や汗が浮かんでいた。

970名無しさん:2021/09/19(日) 08:28:34 ID:ctbjoZXk0
考え得るのは異常事態。
想像し得るのは緊急事態。
確信するのは最悪の展開。

(;´_ゝ`)「ちょっと社長室に向かわせてくれ」

(`・_ゝ・´)「……それが、現在社長室への立ち入りは一切禁止されています。
      例えオットーさんであっても、その許可をすることは我々には出来かねます」

(;´_ゝ`)「誰の権限だ?」

アニーの言葉はフィンガーファイブ社の権限で言うならば、その地位は第三位に位置する。
その言葉に対して、傭兵が放ったのは規定通りの言葉だった。

(`・_ゝ・´)「お答えできません」

だがそれは、アニーにとっては十分な情報だった。
フィンガーファイブ社に圧力をかけられる組織は二つ。
一つは内藤財団、そしてもう一つ。
この街の治安維持を担当する“ルプス”だ。

間違いなく何か。
極めて受け入れがたい何かが発生したと考えるしかない。
不安が顔に出たのを察したのか、男はとぼけたように話を続けた。

(`・_ゝ・´)「社長室へは、どなたも入れてはならないという命令があります」

(;´_ゝ`)「……封鎖はされているのか?」

(`・_ゝ・´)「はい、キーコードがなければ立ち入りは出来ないようになっています。
      万が一、許可がない状態で人が入ったのを機械が感知すれば5分で警備が到着します」

それはつまり、入ってから5分であれば部屋を見ることが出来るということだ。
その心遣いに感謝し、アニーは短く礼を言った。

( ´_ゝ`)「……ありがとう」

エレベーターに乗り、すぐに社長室に向かう。
心臓が早鐘を打つ。
行くべきではないと足が震える。
体中の水分が冷や汗に変わり、足の裏に汗をかく反面、唇はひび割れを錯覚するほどに乾いている。

舌で乾いた唇を舐め、深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
考えすぎだと言い聞かせ、エレベーターの扉が開くと同時に、アニーは義足で走り出した。
軋む金属の音と、床を蹴る硬い音、そしてアニーの呼吸音が暗い廊下に響き渡る。
社長室へと続く扉の前に薄らと光を放つ入力版には、0から9までの数字が並んでいた。

971名無しさん:2021/09/19(日) 08:29:05 ID:ctbjoZXk0
考え得るのは異常事態。
想像し得るのは緊急事態。
確信するのは最悪の展開。

(;´_ゝ`)「ちょっと社長室に向かわせてくれ」

(`・_ゝ・´)「……それが、現在社長室への立ち入りは一切禁止されています。
      例えオットーさんであっても、その許可をすることは我々には出来かねます」

(;´_ゝ`)「誰の権限だ?」

アニーの言葉はフィンガーファイブ社の権限で言うならば、その地位は第三位に位置する。
その言葉に対して、傭兵が放ったのは規定通りの言葉だった。

(`・_ゝ・´)「お答えできません」

だがそれは、アニーにとっては十分な情報だった。
フィンガーファイブ社に圧力をかけられる組織は二つ。
一つは内藤財団、そしてもう一つ。
この街の治安維持を担当する“ルプス”だ。

間違いなく何か。
極めて受け入れがたい何かが発生したと考えるしかない。
不安が顔に出たのを察したのか、男はとぼけたように話を続けた。

(`・_ゝ・´)「社長室へは、どなたも入れてはならないという命令があります」

(;´_ゝ`)「……封鎖はされているのか?」

(`・_ゝ・´)「はい、キーコードがなければ立ち入りは出来ないようになっています。
      万が一、許可がない状態で人が入ったのを機械が感知すれば5分で警備が到着します」

それはつまり、入ってから5分であれば部屋を見ることが出来るということだ。
その心遣いに感謝し、アニーは短く礼を言った。

( ´_ゝ`)「……ありがとう」

エレベーターに乗り、すぐに社長室に向かう。
心臓が早鐘を打つ。
行くべきではないと足が震える。
体中の水分が冷や汗に変わり、足の裏に汗をかく反面、唇はひび割れを錯覚するほどに乾いている。

舌で乾いた唇を舐め、深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
考えすぎだと言い聞かせ、エレベーターの扉が開くと同時に、アニーは義足で走り出した。
軋む金属の音と、床を蹴る硬い音、そしてアニーの呼吸音が暗い廊下に響き渡る。
社長室へと続く扉の前に薄らと光を放つ入力版には、0から9までの数字が並んでいた。

972名無しさん:2021/09/19(日) 08:29:25 ID:ctbjoZXk0
アニーは迷うことなくその数字を叩くと、扉は何の抵抗もなく開いた。
部屋に入った瞬間、アニーはそこに漂う匂いに違和感を覚えたが、その正体は分からなかった。
天井から床にまで至る大きな窓ガラスから街の明かりが入り込み、部屋の中を白と黒、そして群青色に照らし出す。
床に並ぶ三角形の札、黒い染み、砕けたガラス片、人型に白く囲われたテープ。

(;゚_ゝ゚)「……はぁっ、っはあっ!!」

あり得ない。
あり得ないと言い聞かせる。
眼前に広がる光景は自分には関係のない、全く別人のそれなのだと。
呼吸が乱れるどころではない。

心臓が乱れ、息の仕方を忘れ、思考が停止する。
足だけは、彼のあらゆる意志に反して前に向かって進み続けていた。
恐らくそれは、彼の脳髄の片隅に残されていた僅かばかりの理性だったのかもしれない。
目の前の現実を否定するため、更に深みへと突き進もうとする現実逃避のそれ。

正解ではなく不正解を求めるための歩み。
壁に飛び散っている黒い染みは、果たして、何なのか。
その正体を知る前に、アニーの背後でエレベーターが動き出す音がした。
気が付けば時間が来ていたのだ。

ようやくアニーの足が理性的な判断に従って、社長室を出てその扉の前で立ち止まることを選んだ。
エレベーターからライフルを持った男が二人降りて、扉の目で立ち止まるアニーに声をかける。

(`・_ゝ・´)「あぁ、アニーさんでしたか」

( ´_ゝ`)「あ、あぁ、ちょっと用があったんだけど、扉が開かなくてね」

茶番を演じ、三人はエレベーターで下の階へと戻った。

(`・_ゝ・´)「……それではお気をつけてお帰り下さい」

( ´_ゝ`)「……ありがとう」

そして、アニーが車に近寄った夜10時23分。
それは何の前触れもなく始まった。

973名無しさん:2021/09/19(日) 08:29:49 ID:ctbjoZXk0
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               i    \三三三三ミ\/三三三ミ/   ο     i'^ヽ      ノヽ
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   ..     ..i、 │  l ',゙....、ヽ 、                    `…'    `'
    ゙lヽ .i、  l.ヽ│   },、 ゙l'"''ヽ,  .,/ ヽ/ |
    .ヾ'"ン'^} `゙    巛,     ,// ,//.l゙ ,/´
     ヽ''"  l     .゙l ヽ  、 /   ゙‐r/ ,, !'"
、.  ..,-‐''"  ,  .!  /      __.     / \.,..-'"´
'、"'-|、   / ,,- l._l゙        `ヽ  /    .l,
 \ `''-、  .i′ .l゙          |冖|  `'、  !
  ."\  .`'r'"   ゛           `v  .! . ̄二=─
 │`'''-  .{                    ゛ . l   |_
  .l   .、 .`'               r‐ _ユそ
  弋 ,/    く  .'             <,゙ .´
  ,/   ._..〟 ,゙二―  _,_-┬-l''''―--二;;;;-..,,,、
-"._,, ‐''"゛.r゙‐'゛   ゙‐'´゛                 ̄'
同日 PM10:23
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爆発の衝撃でアニーは呆気なく吹き飛ばされ、植え込みに落下した。
傭兵二人は顔を庇っていた腕を退け、すぐに無線機を使って報告を始めた。

(`・_ゝ・´)「車輛が爆発した!!
      警戒しろ、襲撃の可能性が――」

だが、その報告は最後までされることは無かった。
男が突然口を噤むと、その場に倒れ込んだのである。
顔の左半分が失われ、誰が見ても即死の状態だった。
もう一人の傭兵もそれを追うようにして倒れ、赤黒い血溜まりが地面に広がる。

燃え盛る車の炎が死体を煌々と照らすが、襲撃者の姿はまるで見えない。
しかし、アニーには確信があった。

974名無しさん:2021/09/19(日) 08:30:54 ID:ctbjoZXk0
(;´_ゝ`)「ギコォォォォ!!」

アニーの叫び声は夜空に木霊し、返答の代わりに、彼の唯一無事とも言えた左脚の膝に大きな穴が開いた。
膝を撃ち抜かれ、たまらずに悲鳴を上げる。
何もできず、必死に両手で止血をする間、彼にできたのは遠くからサイレンの音が近づいてくるのを待つだけだった。
既にこの街にギコ・カスケードレンジが入り込んでおり、狙撃が出来る環境を整えているというのは極めて由々しき問題だ。

自分の身よりも、アニーが心配だったのはティンバーランドの重鎮二人の身だ。
今ここで自分が囮として相手を引き付けている間に逃がすことが出来る。
どうにかして連絡を取らなければと考え、這いつくばりながら死体となった傭兵の元に向かう。
彼らの無線機を使い、どうにか連絡を取ることができれば先手を打てる。

サイレンを鳴らして急行してきた5台のSUVがアニーを庇うようにして停車し、中から棺桶に身を包んだ男たちが降りてくる。
骸骨に抱かれるようなその姿は軽量の棺桶、キー・ボーイだった。

〔欒(0)ш(0)〕「大丈夫ですか?!」

(;´_ゝ`)「内藤財団に――」

言葉よりも、アニーの顔に男の脳髄が降り注ぐ方が早い。

〔欒(0)ш(0)〕「――っ狙撃だ!!」

次弾が次々と撃ち込まれ、キー・ボーイの薄い装甲の下にある急所を容赦なく破壊する。
大口径の狙撃中につきものである反動をまるで感じさせない精密狙撃を前に、駆け付けた男たちもたまらず車輛の影に逃げる。
アニーを車輛の影投げ飛ばした男は、首を撃ち抜かれ、首を傾げたままその場に倒れ込んだ。
銃撃が止むが、誰も物陰から出ようとはしない。

(;´_ゝ`)「……一人でこの街を相手にするつもりか」

その言葉を肯定するかのように、遠くから爆発音が響いた。
クラクション。
悲鳴。
おおよそニョルロックの日常とは無縁の物が、一気に夜の世界にあふれ出す。

この日、ニョルロックはたった一人の男によって戦場と化した。

975名無しさん:2021/09/19(日) 08:31:31 ID:ctbjoZXk0
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                                γ ⌒ ⌒ `ヘ
                             イ,,,, ""  ⌒  ヾ ヾ
                          /゛゛゛(   ⌒   . . ,, ヽ,,'' ..ノ )ヽ
                         (   、、   、 ’'',   . . ノ  ヾ )
                      .................ゞ (.    .  .,,,゛゛゛゛ノ. .ノ ) ,,.ノ........... ........
                      :::::::::::::::::::::( ノ( ^ゝ、、ゝ..,,,,, ,'ソノ ) .ソ::::::::::::::.......::::::
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同日 PM10:31

内藤財団本社ビルの反応は、ニョルロックのどの組織よりも迅速で的確だった。
最初の爆発音の直後、重要な部署の窓に防弾シャッターが下りていた。
続いた銃声が鳴り響く頃には、社長と副社長、そしてその護衛は地下駐車場に降りていた。
駐車場に着くと同時に、新たな護衛達が三人の周囲を取り囲む。

社長、西川・リーガル・ホライゾンの隣に目出し帽を被った“ルプス”の戦闘部隊隊長のマッキー・シェリルが並ぶ。
爆発と発砲の現場がすぐ近くのフィンガーファイブ社であることを報告すると、リーガルは苛立ちのこもった声を吐き出した。

( ^ω^)「少し街を開けただけでこの治安の乱れ具合は何ですか」

(::0::0::)「申し訳ございません」

( ^ω^)「犯人の目的と目星は?」

(::0::0::)「いずれも不明です。
     4日前にいたずら程度の爆発騒ぎがあり、それと関係しているかと。
     他には何も……」

直後、マッキーの胸倉を掴み、持ち上げた男がいた。
ミルナ・G・ホーキンスだ。

( ゚д゚ )「嘘を吐くな。
     何があった」

976名無しさん:2021/09/19(日) 08:31:55 ID:ctbjoZXk0
彼の膂力であれば人間一人を、例え訓練で鍛え上げられた肉体を持つ男でさえも、簡単に縊り殺すことができる。
百戦錬磨の腕を誇るマッキーだが、生粋のイルトリア軍人だったミルナに膂力で勝つことはできない。

(::0::0::)「ぐっ……げぇっ……!!
     フィ、フィンガーファイブ社の……社長と……副社長が……暗殺されました……!!」

丸太のように太いミルナの腕を掴み、抵抗を試みるマッキーの声は次第にか細くなっていく。
僅かに見える目出し帽の奥にある顔は赤く変色し、目は充血している。

( ^ω^)「どうして黙っていたのですか?
     最優先で連絡するべき事柄でしょうに」

(::0::0::)「ごっ……極秘で……と……ツンディエレ様から……連絡があったと……
     ルプ……スの……事件責任者……が……」

その言葉を聞いた西川・ツンディエレ・ホライゾンは眉をしかめた。

ξ゚⊿゚)ξ「私が? そんな連絡、一切していません」

( ^ω^)「……図られましたか。 そうか、ギコ・カスケードレンジか。
     ミルナ君、降ろしなさい」

それまで機械のように直立していたミルナが手を離すと、マッキーはその場に倒れた。
咳込み、必死に息を吸う姿に目もくれず、リーガルとツンディエレは用意されていた防弾仕様の車に乗り込んだ。
ミルナはその扉に手をかけたまま、動きを止める。
番犬が主人の指示なしでは動かないのとは違い、彼の場合、何かを待っているかのようだった。

( ^ω^)「この街に入ってきたのか。
     復讐の為に? はっ、何とも健気な」

( ゚д゚ )「どのように対処いたしますか」

リーガルはミルナの顔を見て、意地の悪い笑みを浮かべた。

( ^ω^)「……同志ミルナ、君ならどうします?」

( ゚д゚ )「同志アニーはセフトートの担当です。
     彼をここで失うのは、いささか手痛い。
     何より、この街でこれ以上の治安悪化があるとなると、我々の歩みに支障が出ないとも限りません。
     ギコを撃退、もしくはこの街から排除する必要があります」

( ^ω^)「誰ならできますか?」

( ゚д゚ )「正直、並の人間では太刀打ちできないでしょう。
    だが、私と私の棺桶があれば何も問題はありません。
    奴のやり方は、私が一番知っています」

( ^ω^)「わかりました。 この一件、任せます。
     マッキー君、ミルナ君に全面的に協力し、この騒動に取り掛かってください。
     日を跨ぐことは決してないように」

977名無しさん:2021/09/19(日) 08:33:33 ID:ctbjoZXk0
(::0::0::)「かっ……かしこまり……ました……」

この決断により、ニョルロックで起きた戦争は第二局へと移ることになった。
果たしてそれがこの街にとって英断だったのか、それとも愚断だったのか。
当然、その判断を下すのは後の歴史であり、他の誰かだ。

( ^ω^)「全て、予定通りに行います。 
     後で合流しに来てください」

( ゚д゚ )「かしこまりました」

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三三≧x代三三三三二二二7        _,.。-_ ノ
三ニニニ≧x三三三二ニニ7≧x        `ヽ(
三三三ニニ≧x三ニニニニ∧:.:.:.:.:.:>、        r‐’
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三三三三ニニニ≧二ニニ7  ミ'⌒ヽ´、  `¨ ー‐┛
三三三三三三三三≧xニ】   }   ∧V≧x
二二二二二二二二二¨≧x   r'三三三ム
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同日 PM10:45

トラギコ・マウンテンライトとオサム・ブッテロはイルトリアでの働き口を探していたが、素性の知れない人間を雇い入れるのはいずれも性産業だけだった。
彼らが追っている人間が男であれば、風俗店に足を運ぶことを考慮して待ち伏せをすることができる。
だが、あいにくと性別は勿論、そうした店には寄り付くような相手ではない。
仕方なしに二人は性産業の日雇い用心棒として働くことにし、当面の間、街に滞在するための資金を調達することに成功していた。

(=゚д゚)「……」

とはいえ、例え風俗店であってもイルトリアの街で粗相を働く人間はほとんどおらず、客層は落ち着いたものだった。
客層のほとんどが傭兵、もしくは軍人であり、トラブルはほとんど起きない。
トラブルを起こせばどうなるのか、彼ら自身がよく分かっているのだ。
だが稀に、店の女に入れ込むあまりに冷静さを欠いた人間が現れることがある。

978名無しさん:2021/09/19(日) 08:33:59 ID:ctbjoZXk0
その際、居合わせた軍人たちが手を出すことがあるが、店側としては穏便に済ませたいという意向がある。
そこで、適度な力を持つ人間が用心棒として店にいれば、派手な騒ぎに発展させずに店を継続できるという利点がある。
風俗店はその性質上、あまり公に仕事をすることができない。
半ば黙認された存在である風俗店が仕事を続けるためには、目立たないことが重要なのだ。

支給されたスーツを着て、トラギコは控室でラジオを聞きながら、新聞を読み、そしてカフェインレスコーヒーを飲んでいた。

【占|○】『臨時ニュースをお伝えします。
     現在、ニョルロックで大規模なテロが発生したとのことです。
     死傷者の数は不明。
     また、テロ実行者の声明も出ておらず、現在治安維持組織“ルプス”が対応に当たっています』

(=゚д゚)「……へぇ」

( ゙゚_ゞ゚)「意外だな、ニョルロックでテロなんて」

ホットドッグに齧り付き、コーラを飲むオサム。
その態度からは、このニュースに対して大した興味もなさそうな印象を受けるが、次の言葉がそれを否定した。

( ゙゚_ゞ゚)「前にあの街で仕事をしたが、死ぬかと思った」

(=゚д゚)「良く生きてたラギね」

( ゙゚_ゞ゚)「命からがらってやつだ。
    おかげで、もう一度あの街に行けば俺は蜂の巣にされる」

殺し屋として名を馳せたとしても、それが生み出すメリットは報酬と依頼数の向上だけだ。
実際問題、あまりにも名が知れ渡れば、様々な街で命を狙われる側に回るため、仕事をする場所は重要な要素になる。
イルトリア、ジュスティアは勿論だが、ニョルロックもまた、犯罪者にとっては心の休まる場所ではない。
この街にオサムが足を踏み入れてもまだ五体満足でいられるのは、彼がここで仕事をしたことがないからなのだろう。

(=゚д゚)「しかし、よっぽどの相手だろうな。
    こうしてニュースになるぐらいラギ。
    普通は大事にならない内に収束させるもんラギ」

( ゙゚_ゞ゚)「隠す余裕がないってことか。
     職業病が出てきたか?」

すっかりぬるくなったコーヒーを一口飲み、トラギコは答えた。

(=゚д゚)「いいや、俺には関係のない話ラギ。
    ただ……」

( ゙゚_ゞ゚)「ただ?」

(=゚д゚)「よっぽど骨のある奴がやってるんだろうな、ってだけラギ。
    信念のある相手は、いつだって厄介ラギ。
    どうなるのか、ちょっとだけ気になるラギね」

979名無しさん:2021/09/19(日) 08:35:41 ID:ctbjoZXk0
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           _,-‐" ̄ ゙゙゙̄'''‐-、
          /          ヽ、
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         ,/   i        i! i   i
      / .  i i        i! i    i
       //   i i∧i i i!  i! i i i   i
     / i i i i! i/`ト、i!  i!i i!i\i!  i
.       i.! i ト, ´/ ̄ !i゛レ i/i i丿\i  i
        ! lト.i |         i  ヽ\i
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            ̄L ‐"   //     __ヽ
             `ヽ  / "_,,-‐‐‐'''""    \
              ヽ/'"             \
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同日 同時刻

同じジュスティア人のニダー・スベヌはトラギコと似た感想を抱いていた。
普段浮かべている笑みとはまるで別の、最高のおもちゃを目の前にした獣の笑みが一瞬だけ浮かぶほどだった。
しかし、その笑みを見た人間はその場に誰もいなかった。
だが声をかけられる人間はいた。

<ヽ`∀´>「……アサピー、ウリはちょっと外に行ってくるニダ」

(-@∀@)「あ、じゃあ僕も行きます」

ホテルのベランダから望遠レンズで爆発現場を撮影していたアサピー・ポストマンは、すぐにカメラのレンズを交換し、準備を済ませた。

<ヽ`∀´>「危ないニダよ」

(-@∀@)「ってことは、ライバルはいないってことですからね」

根っからのカメラマンであるアサピーにとって、大都会での大事件はカメラマン冥利に尽きる物だ。
今しか撮影できない物に溢れている現場に、誰よりも早く駆け付け、誰よりも多くの写真を収める。
強迫観念ともいえるその使命感は、だがしかし、彼の中では冷静な判断によって制御されていた。
ジュスティア市長のフォックス・ジャラン・スリウァヤが二人をこの街に派遣したのは、決して偶然の類ではないはずだ。

何かが起きると確信し、備えるためだろう。
ではその備えに、アサピーが選ばれた理由は何か。
彼にしかない武器があるからだ。
写真を撮る、ただそれだけ。

たった一枚の写真が世界を変え得ることを、フォックスは知っているのだ。
ならばここでアサピーが尻込みする理由がない。
信頼に応え、報いることが何よりも重要なのだ。

(-@∀@)「あの子はどうします?」

<ヽ`∀´>「……そのままでいいニダ」

980名無しさん:2021/09/19(日) 08:36:03 ID:ctbjoZXk0
イモジャ・スコッチグレインは今、隣の部屋で眠っている。
両親の急な出張によって再会ができなかった彼女は、しばらくの間ニダーたちと行動を共にする選択をした。
彼らにとっては別に問題にはならないが、今の状況では、彼女の存在は問題だった。
万が一二人が何らかの事件に巻き込まれた時、イモジャの存在を利用しようとする人間がいないとも限らない。

ほぼ無関係の幼子を巻き込むのは二人の本意に反するため、緊急事態の際には距離を取るべきだと決めていた。
今夜二人が彼女を置いてどこかに立ち去ったとしても、宿泊先のホテルについては会社の人間に伝えてあるため問題はない。
多少、心に傷を負うかもしれないが、これからの長い人生で見ればかすり傷のような物だろう。

<ヽ`∀´>「じゃあ、ウリたちの仕事を始めるニダよ」

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                         /ヽ     _,,      イリ
                        / ̄ ̄`ヽ        /ヘ:\
               圭二二ニ=─-、_)、_____/   ∨::\、
                   /, ′/´ ̄ ̄`ヽ 八  /       ',::::::∧`:::...、、
                _ .. ´.::/    , -―- 、__ソ /二∧      j!:::::: ∧:::::.:.:.:` . . 、
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          . . . : : :.:.:.::::::::l    `Y/////ヽ }//{    ′  ! ::::::::::::: ∧:::::.:.:.:. . . . .
        . . . : : :.:.:.::::::::l     ノ////    ,///∧   _,彡′!:::::::::::::::::::∧:::::.:.:.:. . . . .
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同日 同時刻

ラジオでニョルロックの速報を聞くより早く、ジュスティア市長のフォックス・ジャラン・スリウァヤはその情報を手に入れていた。
正確に言えば、四日前に起きた爆発事件の情報も彼の耳に入っていた。
今の彼にとってはニョルロックでの騒動は大した興味の対象ではないが、別件と連動していると考えると、多少の興味も湧いてくる。
葉巻を口に咥え、フォックスは呟いた。

爪'ー`)y‐「……騒がしくなるだろうね。
      さて、我々の備えが万全か、そろそろ分かるか」

その呟きは自分自身に対して。
あるいは、彼が持つ受話器の向こうにいる人間に対してか。

爪'ー`)y‐「そっちの調子はどうだ?」

すぐに帰ってきた返事に、フォックスはめったに見せない素の笑顔を浮かべた。

爪'ー`)y‐「ははっ、それはそうか。
      そう言えば、私のプレゼントと手紙は届いたか?」

次に受話器の向こうから聞こえてきた言葉に、フォックスは目を丸くして驚いた。
憤りや怒りの驚きではなく、純粋に数奇な巡り合わせというものに驚いたのだ。

爪'ー`)y‐「本当か。 いや、そんな指示は一切していない。
      まぁ結果としては良かったのかもしれないが、そうか、ふふっ……
      少し迷惑をかけるかもしれないが、よろしく頼むよ」

981名無しさん:2021/09/19(日) 08:36:42 ID:ctbjoZXk0
そう言って葉巻を咥え、煙を口に含み、舐めるようにして味わう。
深く息を吐きだし、フォックスは続けた。

爪'ー`)y‐「そうだ、うちの情報を共有させてもらおう。
      “ミラーフェイス”と“影法師”からの情報を合わせると、今夜、ブーオで何かが起きるらしい。
      あぁ、そうだ。 もう出し惜しみはなしだからな。
      ……そうか。 なら、“影法師”にもそう伝えておこう。

      ふふっ、久しぶりだな、こんなに心躍るのは。
      祭りの前日みたいな気分だよ。
      あの日以来だよ、こんな気分になるのは。
      あぁ、そっちも元気でな」

受話器をそっと置いたフォックスの顔には、まだ笑みが残ったままだった。

爪'ー`)y‐「さぁて、あっちもこっちも大騒ぎだが、どう動くかな。
      この一手、見守らせてもらおうか」

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爻::::::ノ⌒¨^´  ノi:i:i:《_,、-〜〜ミ::::::::::゚:::::::::::::::::::::::::::_,、シ:   \ `丶ノ  ノし  j乂. . :xX
慫慫爻⌒:::.:.:)ノ⌒X'^´: : : : : : : ミx:::::::::::::::::::ノ⌒ヽ::::7´ 乂  . .)、   ). . : : : : : : ノし爻父
慫爻⌒::::::ノ´ : . .  `: . .  . . : : 爻x'^^'<⌒. . : : :爻.. . . :爻⌒  . . : : .:.:.:::,xX爻淡慫慫
慫淡爻'⌒::: : : 乂__ノ´:::::爻., . . : ノ´ ). . :)   . ノ: . .  ≫爻父: . .: ,xX爻淡慫慫慫淡慫慫
慫慫淡爻⌒.: .: : ノ'´::::::ノ:.:.:.:爻'´. . . : : : x'⌒ 爻、、、xX爻爻淡淡慫慫戀戀戀戀戀慫戀戀
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982名無しさん:2021/09/19(日) 08:38:38 ID:ctbjoZXk0
同日 PM11:01

ブーオの夜は波の音と森のざわめきが島中を包む、穏やかなものだ。
夜空には雲一つなく、澄み切った空気の中に、大きな月の姿が浮かんでいる。
もしも島の中に、天体観測に使用する望遠鏡を使い、月を見ている人間がいたら、その後の何もかもが変わったのかもしれない。
島に入るためには海を渡らなければならない。

その固定観念が島に大きな防衛の穴を作っていることに気づいてはいたが、歴代の市長たちはそこまで重要視していなかった。
上空3000メートル。
音もなくそこを漂う、一隻の飛行船がいた。
全体を夜空と同じ深い群青色と黒で塗装し、一切の明かりも漏れ出ていない。

酸素マスクを装着した男が、格納庫に向けて静かに言葉を発した。

(::0::0::)「目標降下地点に到達。
     降下準備」

格納庫には一人の女が座っていた。
化粧で固めたかのような笑顔を貼り付けた女は酸素マスクを外し、立てかけていたコンテナを背負う。

(::0::0::)「いつでもいいぞ」

その言葉を聞いた女は笑みを浮かべたまま、囁くように言葉を紡ぐ。

从'ー'从『さぁ、坊や。さぁ、さぁ、よい子の坊や。さぁ、さぁ、さぁ、眠ろうか』

まるで子守歌の様な言葉が続いた直後、女の体はコンテナの中に取り込まれていった。
そしてそのコンテナが開き、次に姿を現したのは、黒い外套を身にまとった死神を思わせる異形だった。

/、゚買゚〉

真紅の輝きを放つ双眸。
手にした巨大な三角錐。
そのいずれも、敵対する存在に対して最大級の畏怖を与えるためのデザインだ。
事実、その強化外骨格は死を振り撒くことに特化した物であり、“プレイグロード”の起動コードはある意味で皮肉に満ちたものだった。

それまで格納庫を照らしていた明かりが赤色に変わる。
格納庫の扉がゆっくりと開き、外気が一気に入り込んでくる。
凍えるような冷たい風の中、男は指を三本立てた。

(::0::0::)「降下3秒前」

プレイグロードが一歩前に踏み出す。

(::0::0::)「降下2秒前」

三角錐の主兵装“ファイレクシア”を腰に固定し、更に一歩を踏み出す。

(::0::0::)「降下1秒前」

983名無しさん:2021/09/19(日) 08:40:22 ID:ctbjoZXk0
その背中には強化外骨格用のパラシュートが装着されている。
すでにその体は空と格納庫との境目に来ており、もう一歩を踏み出せばその体は虚空へと投げ出されることになる。

/、゚買゚〉『行ってきまぁす』」

甘い、糖蜜のような声でワタナベ・ビルケンシュトックはそう言って、最後の一歩を踏み出した。
この夜。

(::0::0::)「“厄病女神”の降下を確認。
     上空で待機、観測を行います」

――ブーオの空から、殺戮が降ってきた。

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.              _,ノ  ̄ ̄ ̄\_
         _彡 ̄ ̄`\     \\
          /^丶、             }}}`、
         \、`¨¨¨¨\      /  \
        \ 'ニ=- .._ \    /    ,ハ二ニ=‐-
          { 'ニニニニ=-   │/  / }‐-=ニ二ニ\
          \ \二二二{  // /  /      }ニ二\
           ヽ、 ̄ ‐ニニ{///  /   /    /ニニニ二
                  ̄\\}/__/  //    /ニニニニ二
                     ア゛ _.. -‐=ニ/    /ニニニニニ二
                 / ∠二二ニニ    /ニニニニニニ二
                   /∠二二二ニ=-‐=ニ二二二ニニニニニニ\_
                  /          \ニニニニニニニニ二二二二{
              // ̄ ̄\      \ニニニニニニニ_二(⌒
                //        }        'ニニニ二二二二 }ニニ
            l |        /     |   |二二ニニニニニ}}ニ(⌒
            l |     /       /  |.ニニ二/ニニ二{{二⊂
               l l    /    /   / 二//ニ二二二}\二
              /l  l    /    /    _ニ/ /二二二二{  \
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同日 同時刻

最初に気づいたのは、市長邸宅の中庭を警備する犬だった。
空から降ってくる黒い影に気づき、吠えたてるが、平和に慣れていた警備兵はそれを大して気にも留めなかった。
しかし、月明かりが陰り、己の足元に別の影が降りていることに気づいた時、彼の顔は上空に向けられた。
直後、彼の目は自分の背中を見て、犬と共にそのまま絶命した。

物音を聞いた警備兵たちが中庭に立つ禍々しい棺桶を目視した時、警告ではなく発砲が優先された。
対人用の弾は黒いローブに阻まれ、地面に落ちていく。

( 0"ゞ0)「襲撃だ!!」

984名無しさん:2021/09/19(日) 08:40:48 ID:ctbjoZXk0
本番のように訓練を受け、訓練通りに本番を迎える。
その教えが、警備兵の一人に警報を鳴らさせるという行動をとらせた。
邸宅中に鳴り響く警報音。
無数のライトが一面を照らし、まるで真昼の様な光景を作り出す。

浮かび上がる人影。
そして、遅れて空から落ちてきたパラシュート。

/、゚買゚〉『訪問よぉ』

腰に手を伸ばし、そこにある三角錐“ファイレクシア”を手に取る。
巨大な鉄塊を悠然と構え、そして、赤く染まった先端部をワイヤー誘導で射出した。
避けることも、目視することも敵わないまま、警備兵の一人が生きたまま串刺しにされる。

( 0"ゞ0)「おごっ……ふっ……!?」

警備兵はそのまま横薙ぎに振り回され、仲間たちに体をぶつけられる。
その衝撃で警備兵は全身の骨が砕かれ、内臓は破裂し、血反吐をまき散らしながら宙を舞う。
途中、男の腹部からファイレクシアが抜け、絶命寸前の体は市長邸宅窓ガラスを破って市長の眼前に転がり込んだ。
ガガーリン・ザラキは悲鳴を上げた。

川_ゝ川「いやあぁぁぁ!!」

だが、現場で対応をしている人間達は彼女の悲鳴も、恐怖も気にしている暇も余裕もなかった。
直ちに棺桶を装備した部隊が出動し、現場へと急行する。
その間にプレイグロードは歩きながら邸宅へと向かい、道中に現れる警備兵たちを一人、また一人と屠っていった。

( 0"ゞ0)「応援を!! 軍隊でもいいから寄越してくれ!!
      相手はプレイグロードだ!!」

そして始まった棺桶同士の戦闘は、ブーオ史上最も激しいものとなっていった。
重装備の“アストレア”はブーオの守り神であり、全土に配備されている量産型のBクラスの棺桶。
白、黒、そして赤色の特殊なカラーリングを除けば、その姿はどこかジョン・ドゥを思わせるものがあるが、こちらは“名持ち”の棺桶だ。
拡張性、そして汎用性共に優れた物があり、何より運動性と防御性能は極めて高い数値を誇っている。

そして、ブーオが使用するアストレアは全てのそれが腰に大型の高周波刀を装備しており、近距離戦においては絶対的な自信を有している。
彼らは一日たりとも訓練を怠らず、外部からの侵略行為に向けて備えていた。
対応にあたったのは、邸宅に控えていた10機の棺桶持ち。
地面に転がり、戦闘不能になっているのがその内の4機。

985名無しさん:2021/09/19(日) 08:42:30 ID:ctbjoZXk0
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        / ̄(⌒> / /__.|l〃 ./ rイハ〉__ .l| |
       弋__/〉/f´/ /l 「|/ ,.ィア≠二アハV| |ヽ
        ` <.{ {l./ }/  ̄}イ//)\ V∧Ⅵ ∧
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            V.八  ∨/<:::` ー──=イノ     \!
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                 rィ「几r=ミ / /
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<]゚王゚[>『せあああぁぁぁっ!!』

気合と共に、隊長機が正面から一気に距離を詰める。
それに合わせ、後方、左右から味方も接近する。
しかし、プレイグロードの使用者は彼らの想定をはるかに超えた力量の持ち主だった。
倒したアストレアの落とした高周波刀をファイレクシアの先端部で絡め取り、それをワイヤー誘導で振り回しているのだ。

そのため、接近するためには死地に潜らなければならず、隙を突いたつもりの味方が次々と倒されていった。
それを打破するため、隊長機は捨て身の覚悟で死地に踏み込んだのである。
ワイヤー誘導の得物は、その先端の動きを事前に使用者の手元が教えてくれる。
それを見極め、隊長機はワイヤーの内側へと入り込む。

プレイグロードで最も恐れなければならないのは、ワイヤー誘導で繰り出される一撃ではない。
真に恐れるべきなのは、ファイレクシアに装填されている猛毒“D-VXガス”だ。
だがその猛毒は現代の技術で復元するには莫大な資金が必要であり、一介のテロリストが入手できるものではない。
世界中でテロ行為を行う集団でさえその入手は困難とされており、こうして現れた正体不明の人間がその毒を手にしているはずがない。

もしも毒を手にしているのならば、こうして戦う前に散布し、決着させることが出来たはずだ。
毒を持たない蛇を恐れることのないように、隊長機は確信をもって決着を急いだのだ。
その光景を、500メートル離れた建物の屋上に到着した狙撃部隊の隊員達が目視する。
既に対強化外骨格用の弾丸を装填した狙撃銃を構え、発砲の機会をうかがっていた。

高倍率のスコープの中では黒い影同士が争っているようにしか見えないが、特徴的なシルエットが狙撃手に正確な情報を伝える。

<]゚王゚[>『狙撃位置に着いた、これより発砲を開始する』

踏み込んだ隊長機がワイヤーを切断し、攻撃の手段を奪う。
そしてそのチャンスを、周囲の部下たちも見逃さず、一気に接近し――

<]゚王゚[>『あぐっ……げあぁぁぁあっ!!』

986名無しさん:2021/09/19(日) 08:43:30 ID:ctbjoZXk0
全員がその場に倒れ、虫のように、陸に捨てられた魚のようにもがき苦しみ始めた。
その声は人間の発するものとはとても思えないほどに歪み、おぞましい物だった。
断末魔の叫び。
屠殺所の家畜の悲鳴。

消える寸前の命の炎が放つ輝き。
プレイグロードの毒が散布されたことを何よりも如実に物語る光景は、狙撃手たちの指を凍り付かせた。
手にすることが出来ないはずだと思われていた毒が実在し、使用された。
既に周囲の警備兵たちは生きていることを後悔する苦しみに苛まれた挙句、絶望の中で死んでいくのだろう。

絶望が声となったそれが、少し、また少しと消えていく。
やがてその声が消え、思い出したように誰かが口走る。

<]゚王゚[>『くそっ、撃て!!』

狙いを定めた者から銃爪を引き絞り、必殺の弾丸を放つ。
しかし、黒い棺桶は近くのアストレアを掲げ、その銃弾を防ぐ。
こちらの姿を目視したのか、それとも、殺気だけを感知しての技か。
大口径の銃弾が強化装甲をえぐり、砕くがプレイグロードには届かない。

ついに、邸宅の一角にある木の陰に隠れ、姿を見せなくなった。
温度感知式のカメラに切り替え、まだそこに隠れているのを見て安堵する。

<]゚王゚[>『奴は木の影にいる、誰か、頼む!!』

『――僕たちが止めて見せます』

『行くぞ』

その声はマイクを通して警備兵たち全員に届いた。
ブーオが誇る二人の守護神。
“慈愛のラキ”と呼ばれるラキ・マハトラーマ、そして“苛烈のスーラン”の渾名を持つスーラン・ラザトゥーユの声だ。
これまで街を襲った未曽有の災害、大規模な侵略行為。

それら全ての害悪から街を守るため、ブーオは守護神と謳われる2名の腕利きの棺桶持ちを選出している。
歴代の守護神たちが使用してきたアストレア・カスタムを引き継ぎ、改良し、今日に至る。
中でもラキとスーランは最も優秀な守護神と評され、持って生まれた才能も、訓練を経て身に着けた実力も最高のものだ。
市長邸宅から飛び出した二機の棺桶は、迷うことなくプレイグロードに襲い掛かった。

<]゚王゚[>『あああああ!!』

両手に構えた大型の高周波刀を振り下ろしたのは、スーランだった。
近接戦闘において比類のない技術を有する彼の一撃を、プレイグロードはその場を十分すぎるほどの後退で凌いだ。
後退した直後、プレイグロードの体を大口径の対強化外骨格用の銃弾が襲った。

<]゚王゚[>『ちっ!!』

987名無しさん:2021/09/19(日) 08:45:51 ID:ctbjoZXk0
両肩、両腰、そして両手に銃身を切り詰めたライフルを装着した射撃特化のカスタム機。
ラキの第一射で仕留められなかったのは、プレイグロードの体を覆う分厚い特殊布のせいだ。
だがその布を貫通し、装甲にかなりの打撃を与えられたのは間違いない。
その証拠に、プレイグロードはその場に倒れ、動かなくなっている。

<]゚王゚[>『スーラン、そいつは殺すな!!』

<]゚王゚[>『分かってる!!』

ガスがなければプレイグロードは恐れる必要がない。
牙を失った毒蛇など、容易に命を落とす。
ラキが作った勝機が薄れる前に、スーランは一気にプレイグロードに接近していた。
彼らに余計な言葉はいらない。

/、゚買゚〉『ふぅん……!!』

バッテリーを破壊しようとしたスーランの斬撃を、プレイグロードは地面を転がって回避した。
転がる先にラキが次々と射撃を行う。
一度に六発の銃弾が放たれ、プレイグロードの装甲が次々と剥がれ落ちていく。

/、゚買゚〉『いいのかしらぁ、そんなに撃っちゃって!!』

<]゚王゚[>『……ラキ、下がれ!!
     こいつはまだ毒を持っている!!』

その警告は早く、次に取った行動も早かった。
だが、遅かった。
プレイグロードは腰から朱色の弾頭を取り出し、それを宙に放り投げていた。
既に地面は何かで濡れたように黒くなり、毒が漏れ出ていることを暗に示している。

スーランはその場から一気に距離を取り、毒ガスを吸い込まないよう、液体が付着しないように遠ざかる。

<]゚王゚[>『スーラン!! 弾頭を!!』

弾頭が衝撃を受ければ中の毒ガスがあふれ出し、それが夜風に運ばれて周囲に甚大な被害をもたらすことになる。

/、゚買゚〉『守ってみせてよぉ!!』

プレイグロードが立ち上がり、ファイレクシアを構える。
その構えを見る前に、ラキは発砲準備を終えていた。
だが銃爪は引けない。
相手がどれだけの数の毒を所有しているか分からない以上、銃撃は出来ない。

もしも、プレイグロードが別の毒を持っていたとしたら、ラキの銃撃はそれだけで多くの被害を生む。
特に気をつけなければいけないのは、プレイグロードが身にまとっている繊維の下の存在だ。
防弾繊維というだけでなく、こちらの目から武装を隠すという効果もある。
目視できない位置に毒の塊があれば、それだけで脅威となる。

988名無しさん:2021/09/19(日) 08:46:22 ID:ctbjoZXk0
スーランを含め、近くに誰もいない状態になって初めて銃撃が可能になる。
最悪のパターンはバッテリーに被弾し、誘爆することだ。
ファイレクシアの先端には今、何も付いていない。
宙に放られた猛毒が落下することを避けるため、スーランは呼吸を止め、一気に跳躍した。

/、゚買゚〉『真っすぐだけど、面白くないわねぇ』

心底退屈そうな声がスーランの下から聞こえてきたと思った瞬間、プレイグロードは構えたファイレクシアをスーラン目掛けて投擲した。
咄嗟にスーランは上体を反らし、その攻撃を回避する。
超人的な反射神経と運動能力が可能にしたその曲芸は、だがしかし、彼の寿命を縮めることになった。

<]゚王゚[>『しまっ……!!』

ファイレクシアは彼が掴もうとしていたD-VXガスに直撃し、目の前で砕けた。
猛毒が一瞬で空中から地上に散布され、その直撃を受けたスーランの絶叫が夜の空に木霊する。

<]゚王゚[>『スーラン!!』

生きながらに死に貪られる恐怖。
その中でも、スーランは己の使命を忘れてはいなかった。

<]゚王゚[>『ラ……ラキ……!!
     ガ、が……ガガーリンを……!! だのむっ……!!
     ――ブーオに栄光あれ!!』

その言葉が引き金となり、スーランの体を包んでいたアストレアがまばゆい光を放ち、爆散した。
二人に与えられた棺桶にだけ搭載された自爆装置。
それは機密情報を守るだけでなく、彼が仕留め損なった場合、爆発の殺傷範囲内にいるであろう敵を諸共に爆殺するための最後の牙だった。
半径10メートル以内の全ての酸素を燃やし尽くす業火は、D-VXガスにとって数少ない弱点でもあった。

D-VXガスはその性質上、解毒剤が存在しない。
しかし、万が一それが流出した際の対抗策は用意されていた。
ある一定の――極めて高い――温度以上の炎によって蒸発し、無力化することが出来る。
彼らのアストレア・カスタムの自爆装置がもたらす爆炎の最高温度は約三千度。

耐熱性に優れることを自慢にする棺桶でさえ、その炎に耐えられるのは極一部だけだ。
プレイグロードには当然、その炎に耐える術はない。
周囲の酸素を食らいつくすようにして燃え、に風が爆心地に向けて吹き荒れる。
燃えカスと灰だけが残された空間には、プレイグロードの姿はなかった。

<]゚王゚[>『スーラン……!!』

幼馴染が最後に見せた命の輝きを、ラキはまだ受け止められずにいた。
最高の相棒であり、最強の守り神がこうも呆気なく死んだとは、とても思えないのだ。
しかし、自爆によって生まれたクレーターと灰燼が何より如実に彼の死を物語っている。
受け入れるしかない。

989名無しさん:2021/09/19(日) 08:46:49 ID:ctbjoZXk0
――スーランの死も、自爆する寸前に棺桶を破棄してその場から襲撃者が一瞬で逃げたことも。
優れた運動性能がないとしても、事前にこちらの動きを予期した上で後方に全力で跳躍しつつ装甲を脱ぎ捨てれば慣性に従ってその使用者だけが高速で離脱できる。
何度も視線を潜り抜けた棺桶持ちならば知っている、ある種の応用技だ。
その襲撃者が若い女であることもまた、受け入れなければならないことだった。

从'ー'从「まったく、もうちょっと楽しめないのかしらぁ」

若い女は僅かに振り返り、ラキを見た。
その両手は胸の前で何かを抱いているように見えた。

<]゚王゚[>『お前だけは……!! 許さない!!』

从'ー'从「許してほしいなんて言ってないわよぉ」

<]゚王゚[>『何で、こんなことを!!』

女は少し考えるようにして仰ぎ、自分の胸を抱き込むようにして俯いた。

从'ー'从『この手では最愛を抱くことさえ叶わない』

何かが女の手の中でうごめき、そして、その両手に禍々しい鉤爪が現れた。
Aクラスの棺桶であることは間違いないが、飛び道具を持っている様には見えない。

<]゚王゚[>『ここで!! お前を!! 止める!!』

六つの銃腔が女に向けられ、銃爪が引かれた。
いずれの弾も命中すればそれだけで死に至らしめる威力を有しており、脚部の強化がない状態の人間には回避など無理な射撃だ。
醜い肉塊に女の姿が変わることを幻視したラキは、次の瞬間、驚愕にその双眸を見開くことになる。

<]゚王゚[>『なっ――』

从'ー'从「理想だけじゃあねぇ」

明らかに人間の脚力ではない速度で移動した女は、瞬く間にラキの足元に出現していた。
射撃武器がメインのアストレア・カスタムでは即応できない距離。
女の鉤爪が不気味な音を発していることにその時初めて気づいたが、反応が追い付かなかった。
膝関節の一部を切り落とされ、ラキはその場に膝を突く。

理由よりも、理屈よりも、ラキの体は染み付いた戦闘本能に従って動いた。

从'ー'从「……っと」

必殺の銃声が三つ響く。
女は高々と跳躍し、一瞬の内にラキの背後に回り込む。
その隙にラキは間合いを取り、体勢を整える。

<]゚王゚[>『マックスペインか……!!』

990名無しさん:2021/09/19(日) 08:49:38 ID:ctbjoZXk0
刹那の邂逅で、ラキは女の首筋に僅かな注射痕を目撃していた。
激痛と引き換えに人間離れした筋力を得られる薬物ならば、このバカげた戦闘能力の高さも頷ける。
効果は一時間。
ブーオにとっては、絶望的ともいえる時間の長さだ。

しかし、プレイグロードの破壊に成功したのは大きな功績だ。
近接戦闘を得意とするスーランと引き換えに得たその優位性を、ここで失うわけにはいかない。
増援が合流するまでの辛抱だ。
ほぼ生身の人間に恐怖するなど、ありえない。

从'ー'从「さぁ、どうやって遊ぼうかしらぁ?」

<]゚王゚[>『……遊ぶ? 殺し合いを、遊びだと思っているのか、お前は!!』

恐怖を克服する術を、ラキは知っている。
心を殺し、無慈悲を徹底するための訓練で得た一種の能力。
女が使ったマックスペインとは違い、こちらは一時的な力ではない。
幼少期から彼らは催眠と薬物投与により、自己催眠による戦闘力の向上を可能としている。

心の中に種を抱え、それを発芽させるイメージ。
激昂したラキは次の瞬間、まるで凪いだ海のように静かな心境となり、あらゆる無駄を削った正確無比な戦闘機械へと切り替わった。
腰の鞘から小型の高周波刀を逆手に構え、疾駆する。

从'ー'从「あらぁ?」

左右から繰り出した合計七回の斬撃。
女はそれを全て見切ったかのように、両手の鉤爪ではじき返す。
膂力ではラキの圧勝だが、女の技量はラキのそれを凌駕している。
この殺し合い、最後に勝つのは意地を貫き通した方だ。

<]゚王゚[>『お前の様な奴がいるから、争いは消えないんだ』

从'ー'从「だから何ぃ?
     人の本質でしょう?」

<]゚王゚[>『違う、人の本質は理解し合うことだ』

更に速度を上げた三度の斬撃は、全て寸前のところで回避される。
逆に女は躱しざまにアストレアの装甲に傷をつけていく。
どれも致命傷にもならない浅い傷だが、まるで甘噛みされているかのように心が落ち着かない。

从'ー'从「私のコミュニケーションは殺すことなのぉ。
     頭ごなしに否定されると傷つくわぁ」

<]゚王゚[>『うるさい、もう、黙っていてくれ』

从'ー'从「あらぁ、対話を拒むのかしらぁ?」

刃の嵐のように、二人は斬撃を繰り出し合う。
高周波振動をする刃同士がふれあい、悲鳴のような音が上がる。

991名無しさん:2021/09/19(日) 08:51:51 ID:ctbjoZXk0
<]゚王゚[>『お前のは対話じゃない、ただの殺戮だ』

从'ー'从「人を殺すって、とっても気持ちいいのよぉ?
     その人の人生がそこで終わるの。
     あぁ、今日までせっかく善人でいたとしても、一瞬で終わるのよぉ。
     この手で、終わらせてあげられるのぉ。

     今頃、街の人たちもそうやって終わっているはずだけど、あなたは気づかないでしょう?
     そんなものよぉ」

<]゚王゚[>『なっ……!!』

その動揺が、ラキにとっては致命的であり、女にとっては絶好の機会だった。
僅かに遅れた斬撃の隙間を、女の一撃は見逃さなかった。
滑りこむ様にして脇の下の装甲の隙間に入り込み、その奥にあるケーブルを切断する。
両腕の駆動系を破壊されただけでなく、ラキの体にまでその一撃は到達した。

血管の集中する場所への一撃は、彼の体から一気に血液を奪い取った。

<]゚王゚[>『あっ……がぁっ……』

从'ー'从「あははっ!! ね?
     さっきまで元気だったのに、いい事言っていたつもりなのに、呆気ないでしょう?
     これまでの人生の何もかもは、こうやって私に殺されるためにあったのぉ」

<]゚王゚[>『ぶ……ブーオに……』

从'ー'从「あぁん、駄目よそんなことしたら」

ラキの喉を、鉤爪が貫いた。
音声入力による自爆コードの起動が奪われ、女を巻き添えに殺すことも叶わない。
あらゆる攻撃手段は彼の血液と共に急速に失われ、意識が遠のく。

从'ー'从「死ぬ前にガガーリンちゃんに会いたいでしょう?
     あっ、違うかぁ。
     死ぬ前のガガーリンちゃんに会いたいでしょう?
     まぁ何にしても会えないんだけどねぇ」

<]゚王゚[>『ご……の……』

从'ー'从「安心して、ちゃんと命は無駄にはしないわよぉ。
     命の最後の一滴まで、ちゃんと私が楽しんであげるわぁ」

ラキの左手首を一瞬で切断し、女はそれを拾い上げた。
女はその場にラキを残し、まるでデートを前にした少女のような足取りで歩き出す。
増援が来ない理由よりも、ラキは今、自分の自信が粉々に打ち砕かれ、無力感に苛まれていた。

<]゚王゚[>『に、にげろ……が……っ――』

992名無しさん:2021/09/19(日) 08:53:13 ID:ctbjoZXk0
――ラキが絶望の中で死に抗っている頃、ガガーリン・ザラキは絶望を前に立ち向かう道を選んでいた。
彼女がブーオ最後の砦であることは、彼女自身がよく理解している。

<]゚王゚[>『く、来るな!!』

金色のアストレア・カスタムは、ブーオの市長が代々引き継いでいる由緒ある棺桶だ。
戦場では何一つ優位性を生まない黄金色の塗装は、ブーオの市長である証。
邸宅内にいた護衛は全て殺され、今、絶望が目の前にいた。

( ・トェェェイ・)「いやいや、そう拒否しないでくださいよ」

悪魔の顎としか形容できないマスクを装着した男は、護衛と秘書を兼ねていた女の死体を一瞥した。

( ・トェェェイ・)「私は対話に来たのに、こんなに手荒な歓迎を受けるなんて……」

<]゚王゚[>『黙れ!! 侵略者を我々は断固拒否する!!』

( ・トェェェイ・)「はぁ……交渉は決裂ですか」

<]゚王゚[>『今すぐ消えろ!! 消えてなくなれ!!』

次の瞬間、男は笑顔を浮かべた。

( ・トェェェイ・)「いいですね、その気丈な態度。
       どうやれば壊れるのか、ぜひ試したい」

<]゚王゚[>『無礼るなぁ!!』

大口径のライフルを構え、威嚇射撃を行う。
それは彼女の体に染みついていた一撃目。
いかなる相手でも、対話の道を用意することがブーオ市長の務めなのだ。

( ・トェェェイ・)「あぁ、駄目ですって、そんな虚勢。
       人を撃ったことがないのがすぐに分かってしまって……あぁ、興奮しますよ」

男が一歩で間合いを詰め、ガガーリンの手を取る。
優雅、あるいは紳士的なまでのその仕草には一切の殺意がない。
そのため、致命的なまでの接近を許したことに半瞬遅れて気が付いた。

<]゚王゚[>『あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!』

男の顎が接吻をするように、ガガーリンの右腕を食い千切った。
焼き鏝を当てられたかのような激痛が走り、次いで、肉が焦げる嫌なにおいがした。

( ・トェェェイ・)「うぅん、いい声ですね。
       思った通りだ、貴女は強がるよりもそうやっている方が素敵だ」

<]゚王゚[>『こっ、この!!』

( ・トェェェイ・)「落ち着いてください、興奮していると対話が出来ないですから」

993名無しさん:2021/09/19(日) 08:54:57 ID:ctbjoZXk0
無事な左手で男を殴りつける。
その拳を口で受け止め、男はガガーリンの拳を噛みちぎる。
親指以外の指が装甲ごと噛み取られ、男は口に挟んだ指を弄ぶように転がし始める。

<]゚王゚[>『ひっぎぃいい!?』

地面に指を吐き捨て、男は言った。

( ・トェェェイ・)「血の気が多いわりに、どうにも鉄分が少ないみたいですね。
       さぁ、対話の準備はよろしいですか?」

从'ー'从「どう? お話は出来そう?」

両手に鉤爪をつけた女が割れた窓から入り込み、そんな言葉を吐き出した。

<]゚王゚[>『お前たちはっ……!! 内藤財団の奴らだな!!
     こんなっ……こんなことをして!!』

从'ー'从「世界に発信するって?
     あははっ、無理よぉ。
     船には全部仕掛けをしてあるから、みんな沖に出た頃に沈んでいるはずよぉ」

<]゚王゚[>『そ、そんな……』

( ・トェェェイ・)「あー、後は兵士の話を忘れていましたね。
       どうします? 私から説明します?」

从'ー'从「えぇ、どうぞお好きに」

( ・トェェェイ・)「兵舎の空調機器にDV-Xガスを仕掛けたから全滅していますよ。
       残念ですね。
       いや、本当に心からお悔やみを申し上げますよ」

<]゚王゚[>『ば、ばか……な……』

( ・トェェェイ・)「冗談でも嘘でもないですよ。
       ほら、さっき庭の方でこの女性が使っていたでしょう?」

从'ー'从「あ、そうそう。
      これ、お土産」

女が造作もなくガガーリンの前に投げたのは、人間の手首から先だった。
その指は血で汚れているが、薬指にはめられている指輪は見覚えがある。
彼女の夫であるラキに送られた銀の指輪だ。

<]゚王゚[>『ら、ラキ……!? きっ……!!
     貴様らぁあぁあああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!』

994名無しさん:2021/09/19(日) 08:55:36 ID:ctbjoZXk0
从'ー'从「予定通り、交渉は決裂みたいね」

( ・トェェェイ・)「じゃあ、後は好きにさせてもらいましょう。
       あ、そうそう。 一つ質問なのですが――」

<]゚王゚[>『死ねぇ!!』

( ・トェェェイ・)「――血液型、教えてもらえませんか?
       輸血しながらヤりたいので」

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この夜。
ブーオの歴史は大きな変化を迎えた。
内藤財団の交渉を拒否したことにより、彼らは滅びの道を辿ることになる。
外部から島に接触する手段がないことが災いし、島から外に情報と人間が流出することの出来ない鳥かごと化したのだ。

凌辱の限りを尽くされ、死を懇願する程の扱いを受けたガガーリンの心は完全に壊れ、あらかじめ用意されたシナリオ通りに動く人形となった。
言われた通りに書類にサインをし、島全体に放送をかけて声明を発表した。
更にいくつかの録音が完了すると、ようやく、ガガーリンは死を許された。
しかしある意味で、その結末は彼女にとっていい物だったのかもしれない。

――この後、ブーオに文字通り降り注いだ終末を見ないで済んだのだから。

995名無しさん:2021/09/19(日) 08:56:10 ID:ctbjoZXk0
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同日 PM11:59

イーディン・S・ジョーンズは防寒着を着込んだ状態で、その場に腕を組んで立っていた。
彼の耳にはイヤーマフが装着され、視線は星空に向けられている。
正確には星空ではなく、その下。
修復が完了した規格外の巨大さを誇る“対都市攻略用強化外骨格”棺桶、ハート・ロッカー。

約240メートルの巨体がこうして空の下に姿を晒すのは、恐らく、開発されてから初めてのことだろう。
とは言え、地下に作られた施設の天井が開いただけであり、その全貌を地上に出しているわけではない。
今から行う実験に伴い、一時的にその姿を見せるだけなのだ。
右肩に装着された巨大な砲門は、狭い場所での運用を可能にするために折り畳み式の砲身を採用した。

折りたたんだままでの使用も可能だが、今回の実験では展開して長距離精密砲撃を行う必要があった。
ジョーンズは無線機に向かって声をかけた。

(’e’)「よーし、用意はいいかな?」

彼らには時間がなかった。
世界を変えるという大義を実現するためには、圧倒的に時間が不足している。
今現在、ラヴニカから部品の到着を待っている段階だが、いつまでも待つことが出来ない。
彼らに今必要なのは、超長距離精密砲撃が可能であるという事実と実績だった。

(’e’)「よし、位置につきたまえ」

再び無線機に声をかける。
しかし返事はない。

996名無しさん:2021/09/19(日) 08:56:34 ID:ctbjoZXk0
(’e’)「コードの入力だ」

その言葉に対して、返事とは言えないが、反応があった。

『そして、大好きだった物も忘れていく。 私には一つだけ残っている』

淡々とした女性の声が無線機から聞こえてきた。
その直後、ハート・ロッカーの全身が僅かな軋みをあげて動き始めた。
やや前傾姿勢を取り、折り畳まれていた砲身を動かす。
長大な砲身を上空に向けたまま、ゆっくりと無限軌道が後退する。

地響きのような音が響き渡る前に、ジョーンズはイヤーマフを装着していた。

(’e’)「うんうん、いいぞ。
   さて、後は微調整だな。
   砲身をもうちょっと下にしてくれ」

細かな指示はそれから2分ほど続き、ようやく砲身が固定された。

(’e’)「じゃあ、撃ってみよう」

直後、爆音が施設中に響き渡った。
閉鎖的な空間の空気全てを震わせるほどの音は、イヤーマフを貫通し、ジョーンズの耳の機能を一時的に奪った。
夜空に向けて放たれた巨大な砲弾は弧を描き、南に位置するブーオに向けて進んでいく。
3分ほどして、ジョーンズの持つ無線機に反応があった。

『……ちらスカイアイ。 繰り返す、こちらスカイアイ。
聞こえるか?』

(’e’)「あぁ、聞こえるよ。
   で、どうだった?
   修正はどれくらい必要かね?」

『着弾先は市長邸宅。
市街地への被害は見られません』

(’e’)「ひとまずは命中か。
   よし、次は焼夷弾とフレシェット弾を連続で撃ってみよう」

大型クレーンによってハート・ロッカーから巨大な薬莢が取り除かれ、すぐさま別の砲弾が装填される。
その間、ジョーンズは腕時計の秒針に目を向けていた。

(’e’)「装填完了に15秒だ!! 次はもっと短縮してくれたまえ!!
    ようし、座標の修正を完了したかな?
    では二発目、いってみよう!!」

再びの爆音。
しかし、先ほどとは違い、クレーンの作業員はすぐさま薬莢を取り除き、装填作業を行う。
お互いの聴力がまだ完全でない中、ジョーンズは聞こえていないことを前提に声を荒げた。

997名無しさん:2021/09/19(日) 08:56:54 ID:ctbjoZXk0
(’e’)「12秒!! いいぞ!!
   着弾点はどうだ?!」

『市街地に着弾、山にも引火しました。
消防隊が動き出しています』

(’e’)「うんうん、いい判断だ。
   フレシェット弾、いってみよう!!」

災害的なまでの音が、三度施設を揺らした。
放たれたのは数万の鋼鉄製の雨を降らせるフレシェット弾。
木造の家屋程度であれば、容易に貫通し得るものだ。
そしてその圧倒的な数、起爆するように設計された高度。

鉄の驟雨は容赦なく住宅地に降り注ぎ、地上に血の海を作り出す。

『……着弾を確認。
まだ生存者がいる模様』

(’e’)「うーん、そうなると後は……
   毒でもまいてみようか。
   よし、装填作業開始!! 今度はベストタイムを頼むよ!!」

排莢と装填。
射撃と成果の確認。
修正と実行。
そして再び排莢と装填を行い、砲撃精度の確認がされる。

全ては訓練通りに行われ、ブーオは一夜にして死で溢れ返った。
対岸でその爆音と炎を確認した人間は大勢いたが、その原因を知る者はいなかった。
翌日、一部のラジオと新聞ではブーオが秘密裏に開発していた兵器が暴走、爆発を起こした結果の悲劇であることを報じた。
だがどの報道関係者も、ブーオに取材に行こうとはしなかった。

海には依然として機雷があり、命がけで取材をしなければならないからだ。
そこまでして中立の街を取材する価値が見いだせない以上、誰も真実を探ろうとは思わない。
それよりも記者たちの関心事は、クラフト山脈で発生した雪崩と轟音の関係性についての方に向けられていたが、それもごく僅かだ。
しかし――

――イルトリアとジュスティアだけは、ブーオに起きた一連の事件に関する精確な情報を得ていた。

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Ammo→Re!!のようです
Ammo for Rebalance!!編

第二章 【roar of dreamers-夢見る者達の咆哮-】 了

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998名無しさん:2021/09/19(日) 08:58:42 ID:ctbjoZXk0
これにて今回の投下は終了です

質問、指摘、感想など有れば幸いですが、
次スレにお願いします

Ammo→Re!!のようです
https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/21864/1632009467/


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