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とある英雄譚のようです

1名無しさん:2018/04/22(日) 20:46:23 ID:G.gIoQVo0

荒野なのか、それとも峡谷なのか。吹き抜ける風に舞う砂塵に覆われた世界。
隆起と沈降の地形を適当に割り振ったかのような褐色の大地。
見渡す限り生命の痕跡が存在しないその地の、中心部。

まるで何者かによって線を引かれたかのように存在している半球の領域。
そこは周囲の澱みをものともせずに、緑豊かな環境が存在していた。
荒んだ太陽が照らすのは、小高い丘の上に伸びる、大きさも形も違う五つの影。
四種類の塊と、それらに囲まれている一つの屍。

骨だけになった腕が掴んでいるのは、身の丈ほどもある杖。
主を失ってなお溢れ続ける魔力は、丘を清浄な空間で包むために漂う。
命を司る蒼の魔力は屍から離れるごとに薄くなっていき、荒野の空気へと溶けていく。

魔力球の中に存在する最も大きな影は、腐り落ちた大樹の幹。
その両隣に突き刺さっているのは、錆びた剣と、その数倍はあろうかという巨大な牙。
向かいにはくすんだ色の十字架があり、それらは綺麗に四方向に配置されている。

人為的な痕跡を残すその場にはしかし、生命の存在は何一つ感じ得ない。
風の呼吸すら止まっているかのような、静かで荒れ果てた大地。

ジオラマのような世界で、突如として錆びた剣が音を立てて傾いた。
その音に引き寄せられるかのように、漂う魔力に流れが生まれ、
魔力によって遮られた空間を濃い霧で覆い隠す。

2名無しさん:2018/04/22(日) 20:47:23 ID:G.gIoQVo0
緑の大地に染み込んでいく魔力。何も無い場所から生まれた命は、それに応える。
初めの一つは今にも消えてしまいそうな、小さな小さな鼓動。

確かに響く命の音は、次第に強く、大きく。
剣の下の地面が飲み込んだ魔力の分だけ膨れ上がり、崩れた。

紺色の瞳に、艶やかな黒髪。
年端もいかない少女は、ゆっくりと土の中から起き上がった。
まるで赤子のように何度も手を突きながら、頼りない足取りで、屍の元へ。


o川*゚ー゚)o 「……」


彼女は黙ってそれ見下ろす。
先程まで溢れ出ていた魔力の奔流は止まっており、霧も晴れていた。

死体が掴んでいる杖に手を伸ばす少女。
その指が触れる直前に、弾かれたように腕をひっこめた。

o川*゚ー゚)o 「……?」

自身の行動を理解できていなかった彼女は、再び同じように杖を掴もうとする。

3名無しさん:2018/04/22(日) 20:47:43 ID:G.gIoQVo0

o川*゚ー゚)o 「……!!」

今度は明確に腕を引き戻した。
空いていた反対側の手が、伸ばした腕を掴んでまで。

o川*゚ー゚)o 「……」

杖に触れる事はできないのだと彼女は理解したのだろう。
屍の周りをうろうろと歩き回る。
暫くして疲れたのか、彼女は歩くのをやめて屍に寄り添うように座り込んだ。
指が汚れるのも構わずに、地面の土をほじくり返す。

o川*゚ー゚)o 「…………〜〜〜」

歌というにはあまりにも稚拙。歌詞は無く、音程もばらばらである。
それでも、彼女は楽しそうに笑いながら歌う。
ひとしきり同じフレーズを繰り返した後、少女は寝そべって空を見上げる。
一陣の風が通り抜けて、その長い髪を波打たせた。

o川*゚ー゚)o 「……」

ふと何かを思い出したかのように彼女は両目を見開き、左右に首を振る。
そのどちらにも、荒涼とした赤黒い大地が遥か先まで続く。
起き上がった彼女は、しっかりとした足取りで腐った幹の目の前まで歩み寄った。

o川*゚ー゚)o 「……?」

首をかしげる少女。
まるで、その場にいる誰かと話しているかのように。
その所作は少女の年齢と不釣合いなほどに幼い。
朽ちた樹木を見上げ、じっと見つめる。

少女は暫くしてから、緩慢な動作で持ち上げた右手でその幹に触れた。

4名無しさん:2018/04/22(日) 20:48:10 ID:G.gIoQVo0





5名無しさん:2018/04/22(日) 20:49:21 ID:G.gIoQVo0

>1


彼のもとにそれが届いたのは、丁度太陽の下で身体を温めていた時だった。
彼らの一族が暮らしている一帯で最も高い山の、頂点に位置する大樹の上。
寝そべっていた男は薄目を開けてその存在を確認し、再び瞼を落とした。

( ФωФ) 「……そうか、もうそんな頃合いなのか」

柔らかい光に包まれながらも、手紙を象った魔力は自身の存在を主張する。
明滅を繰り返しながら、男の周囲に浮かんだまま。

( ФωФ) 「毎度毎度、丁寧なことだな。わざわざこのようなことをしなくてもよいのだが」

深い皺の刻まれた手を伸ばして手紙を受け取り、乱暴に封を破く。
中に入っていた一枚の便箋を読みもせずに、丸めて投げ捨てた。
白い光は風に乗って宙を舞い、山間に消えた。
宛名が無く、差出人の名前も無い封筒もまた、数秒後に同様の末路を辿った。

( ФωФ) 「今年は少し早かったような気もするが……やれやれ……。
         はたして彼か、そうではないか」

男の胸中に浮かび上がる情景は今から十数年ほど前。
今と同じように昼の光を浴びている時に現れた無粋な来訪者。

6名無しさん:2018/04/22(日) 20:49:56 ID:G.gIoQVo0

その魔術師は、いくつかの用件だけ伝えるとそのまま飛び去って行った。
あまりに唐突な出来事に面食らいながらも、その名前だけは未だに覚えている。

( ФωФ) 「ドクオ……だったか」

手紙の魔術は、五百年間でたった一人の魔術師にしか許されていない。
差出人がドクオであるかどうかは、中身が示す場所に向かえば自ずとわかることであった。

( ФωФ) 「並べ」

起き上がった男が言葉と共に右手を振るうと、眼下に並ぶ木々が傅き、男ための階段を作り出した。
悠々と階段を下りた男を待っていたのは、異形の子供たち。

それぞれ身体の一部が樹木のままであるが、それを気にした様子はない。
両腕がこげ茶色の枝となった子供が、男の元へと走り寄る。
それに続いて他の子供たちも寄り集まって男を囲った。

「ねぇ! おじいさん!」

( ФωФ) 「なんだ」

「今日も精霊術をかけてよ!」


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