[
板情報
|
カテゴリランキング
]
したらばTOP
■掲示板に戻る■
全部
1-100
最新50
| |
( ^ω^)は見えない敵と戦うようです
1
:
◆N/wTSkX0q6
:2016/04/03(日) 22:44:52 ID:0w0/X/Ow0
『人は誰しも、自分にしか見えない敵と戦っている』
2
:
◆N/wTSkX0q6
:2016/04/03(日) 22:47:17 ID:0w0/X/Ow0
(; ^ω^)「ぬおおおおおお!死んじゃうおおおおお!!!」
今にも寿命を迎えそうなオンボロの自転車を、リハビリが終わったばかりの足で必死に漕ぐ。
我ながら酷使していると思うが、命の終わり際を迎えそうなのは僕とて同じ。
怖くて振り向くこともできない背後からは、重量感のある足音がズシズシと高速でこちらに向かってきている。
タイヤが後方へ弾き飛ばした何らかの金属部品が、すぐ後ろでグシャリと潰されたのを音で感じて総毛立った。
(; ^ω^)「ツン!そっちの準備はまだかお!?」
ハンズフリーにした携帯に怒鳴るように声を投げると、その向こうの少女の声が即応した。
ξ゚⊿゚)ξ『まだよ!!』
(; ^ω^)「人が分かりきったことを聞く時は!補足の情報を求めてる時だお!あとどんくらいなの!!」
ξ゚⊿゚)ξ『はえーなるほど、内藤って頭良いのね。INT値極振りなのね』
(; ^ω^)「そんな極端な育て方はしてねーお!」
大体どっちかっつーと僕はSPD極振りだ。いやゲームの話じゃなくてこれはオモクソ現実なんだけど。
ここは街はずれの工場地帯、閉鎖された廃工場の一角。
ゲームならシューティングの舞台になりそうなロケーションだけど、あいにくと僕らの戦いは白兵戦だ。
相棒のツンが奇襲をかませる位置取りに敵を誘導すべく、絶賛囮として自転車を漕ぎまくっている。
(; ^ω^)「もっ、マジで、そろそろ限界っぽいお……!良いことなんにもない人生だった……」
ロクな思い出もない16年分の走馬灯がハイライトで脳裏を駆け巡る。
楽しかった部活、謎の自損事故で大怪我、インターハイ断念――走馬灯終わり。
うわぁ、ホントになんにもねーな僕の人生。
いやいや、何か生きる原動力となるべきものがあるはずだ。
希望!そう、明日への希望とかそういうのが!
ξ゚⊿゚)ξ『あ、そういえば明日数学のテストあるわね。帰ったら勉強しなきゃ』
(; ^ω^)「あああああああ忘れてたああああああ!!!」
赤点とったら補修で土日に出なきゃいけないテストがあるんだった。
全然勉強してねえ、こんなことならINT値もっと振っときゃ良かった!
余計なこと考えて集中が乱れたのか、調子よく踏んでいたペダルがずるりと滑って空を切る。
その致命的なタイムラグにより、背後から迫り来る"敵"の前足が僕に追いついた。
3
:
◆N/wTSkX0q6
:2016/04/03(日) 22:48:40 ID:0w0/X/Ow0
(; ^ω^)「ほぎゃあっ!」
自転車の後輪がひねり潰され、慣性そのままに僕は前方へと放り出された。
空中で咄嗟に受け身をとり、ゴロゴロと転がって勢いを殺す。
右足の古傷が今更思い出したように暴れだし、痛みで涙目になりながら振り返った。
( ^ω^)「oh...」
サビだらけながらも懸命に主を運んでくれていた自転車が、残りの前輪含めてぐしゃぐしゃに拉げていた。
しかし、僕の愛車を踏み潰した存在は、夜闇を考慮しても輪郭ひとつ判別できない。
『見えない』のだ。
(; ^ω^)「今日が僕の命日かお……ツン、ドックンに内藤は勇敢に戦って散ったと伝えて欲しいお……」
自転車の残骸を踏みしめながら、見えない何かの発する音はゆっくりとこちらに近づいてくる。
これ以上逃げられることはないと理解しているのだ。INT値たけーなオイ。
僕は最後の抵抗とばかりに仰向け四つん這いでじりじり後退しながら、やがてやってくる死を覚悟した。
ξ゚⊿゚)ξ「諦めるのはまだ早いわ!!」
その時、頭の上の方で携帯越しじゃない声がした。
廃工場のプレハブ小屋、その屋根の上に人影がある。
柔らかくカールした亜麻色の髪、アーモンド型のツリ目がちな大きな眼、僕と同じ学校の女子用ブレザー。
ツンが、鉄パイプに包丁を取り付けた手製の槍を片手に立っていた。
予めとりきめていた誘導場所へ、ようやく辿り着いたのだ。
(; ^ω^)「おっせーおこのドリル女!おしっこ漏らすところだったじゃねーかお!」
ξ゚⊿゚)ξ「ごめんなさい内藤、でももう大丈夫。あとでパンツを買ってあげるから遠慮なく漏らしていいわよッ!!」
(# ^ω^)「言葉のライジングショットやめろって前から言ってんだろーが!」
4
:
◆N/wTSkX0q6
:2016/04/03(日) 22:49:13 ID:0w0/X/Ow0
ツンは脳味噌経由せずに反射神経だけで喋りながらも、油断なく"敵"の方を見据えていた。
僕には見えないが、彼女には敵の姿が『見えている』。
今回の敵は頭が高い位置にあるので高低差のある場所に誘導したのは彼女の指示だ。
そしていま、ツンは敵の頭上を見下ろす屋根の上から跳躍した。
ξ゚⊿゚)ξ「受けなさい、私たちの愛と正義の鉄槌……鉄包丁を!!」
重力加速度に背を押されて、ツンの放った刺突は空中に――そこにある何かに突き刺さった。
宙に固定された包丁が暴れ狂う。獣の悲鳴のような断末魔が響き渡る。
ツンがへたり込む僕の傍へ猫のように綺麗に着地すると同時、ズンと重たい響きと共に包丁が砕け散った。
同時に空間を占めていた不可視の存在感が薄れていく。見えない怪物の『死』だ。
(; ^ω^)「やったか、って聞いていいかお……?」
ξ゚⊿゚)ξ「この高さでは生きてはいまい、って答えるわよ」
シャレにならない生存フラグは幸い現実のものとはならなかった。
パラパラと砕け散った刃の欠片が僕のヘッドライトの光に反射して輝く雨になる。
その光景を見ながら、僕はさっき見た走馬灯の中の一つを反芻していた。
二ヶ月前。
僕がツンと、本当の意味で出会ったときのことを。
5
:
◆N/wTSkX0q6
:2016/04/03(日) 22:50:49 ID:0w0/X/Ow0
【( ^ω^)は見えない敵と戦うようです。】
.
6
:
◆N/wTSkX0q6
:2016/04/03(日) 22:53:58 ID:0w0/X/Ow0
『見えない何かと戦う少女』の噂について、僕が知ったのはごくつい最近のことだ。
噂と言ってもいわゆる口裂け女や人面犬のような超常めいた都市伝説の類じゃなく、もっと身近でホットな話題。
実在する頭のおかしな女にまつわる話である。
曰く、深夜に公園で一人で鉄パイプを振り回していたとか。
曰く、下校途中の小学生の群れへ突っ込んで追い散らかしたとか。
曰く、繁華街を血まみれで全力疾走していたとか。
通報、職質、補導に声掛け、警察のお世話になったことも一度や二度じゃきかないらしい。
まあそこまでならわりとありふれた、一山いくらの変質者としてしめやかに忘れ去られたことだろう。
その少女を巡る話題がいつまでも風化しなかったのは、あるのっぴきならぬ理由によるものだ。
彼女――津村ツンは僕の通う高校の女子生徒で、しかも僕と同じクラスだった。
ことさらに身近な存在で、つまりは対岸の火事じゃなかったということだ。
津村ツンの奇行が始まったのは一年ぐらい前、高校に入学したばかりのことで、噂はすぐに広がった。
取り立てて優秀でも愚鈍でもない中庸な少女だった彼女は、ある日を境に誰もいない場所で空気相手に格闘戦を演じ始めたそうだ。
面白がって見ていた周囲も次第にその鬼気迫る挙動にただならぬものを感じ、何度も辞めるよう彼女に忠告したが、無駄だった。
やがて友人達は付き合いきれなくなり、加速度的に彼女は孤立して、それでも尚見えない何かとの戦いを今日に至るまで続けてきた。
僕がこれまで彼女を知らなかったのは、当時クラスが違ったこともあるけど、
僕自身が部活に熱中していて噂を気にする余裕がなかったからだ。
中学から続けていた陸上部で僕は短距離走のエースを嘱望されていて、毎日早朝から日が暮れるまで練習に明け暮れていた。
期待されるのが嬉しくて、風を切って走るのは心地よくて、縮むタイムに自分の成長が実感できて嬉しかった。
春から二年目になる部活は僕らが主役、絶対に全国に行こうと皆で誓い合ったものだった。
……そう、過去形だ。
半年前に交通事故に巻き込まれた僕は、足の靭帯をかなり深く傷つけた。
藁にもすがる思いで様々な医者に見せたけれども、診断結果は判で押したように深刻の一言。
日常生活に支障が出ないくらいには回復するが、その後も何年かは激しい運動――陸上競技などもっての他。
少なくとも、高校在学中に大会へ復帰することは不可能とのことだった。
とまれかくまれ、最低限のリハビリを終え退院した僕を待っていたのは、人生で体験したこともない程の膨大な"暇"だった。
朝から晩まで、休日も関係なく、5W1Hいつでも陸上のことを考えて生きてきた。
掛け値無しに、部活は僕の全てだったのだ。
なにもやることのない一日がこんなに長いなんて知らなかった。
部活に顔出せば周りに気を遣わせるし僕自身も見ていて辛い。
高校二年の春、とても中途半端な時期に寄る辺を放り出された僕には、居場所がなかった。
そんなときに耳に入ってきた津村ツンの噂は、食べ切れない乾パンのような放課後の過ごし方を決定づけるのに十分過ぎた。
まあ、我ながら軽薄すぎてアレなんだけど、暇つぶしに面白いガイキチさんを見に行こうと思ったわけだ。
新着レスの表示
名前:
E-mail
(省略可)
:
※書き込む際の注意事項は
こちら
※画像アップローダーは
こちら
(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)
スマートフォン版
掲示板管理者へ連絡
無料レンタル掲示板