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ハンガー・ゲーム@ハロプロ

1名無し募集中。。。:2016/08/15(月) 22:01:50
[プロローグ]

朝日の最初の光が、もつれあった枝越しに地上に射しこんだ。
すぐ近くを流れる河の轟きで、大気が絶え間なく震動している。
急流は峨々たる崖を飛び、はるか下の岩に向かって落ちていた。
地面近くでは下生えが密生して、滝の轟音もさすがにおとなしく聞こえる。

小糠雨に濡れたようになりながら、尾形春水はしなやかに路上に立った。
くんくんと空気を嗅いでから、辺りに目を走らせる。
春水の頭は亀のように襟から伸びあがった。骨相の露わな痩せた顔。
その顔は朝日の光に照らされ、動く傷口のような葉の影が頬を染めた。

頭上を微風が吹き抜けると、春水は周囲の森に何者かの蠢きを感じた。
反射的に春水は一歩だけ移動して、アーチェリーを構えた。
襲ってくるものがいないことを確認すると、草木を掻き分け移動した。
周囲でも音が動いた。位置は特定できない。

木々の葉がガサガサと音を立てた。
春水は敏捷に矢を向けて、密生した枝の間に身を潜めた。
湿ってひんやりする地面近くでは、虫たちが這い、霧のような水飛沫を縫って飛んでいた。

心臓の鼓動が高鳴る。筋肉が痙攣したように震えた。
矢を放とうとした瞬間、濡れた鼻面がツタと下生えの枝を掻き分けて現れた。
野ブタだ。緊張が消えて、春水は落ち着きを取り戻した。

野ブタは尾を振りながら、コケのカーペットの上をとことこと進んだ。
ねじくれた巨木の根元で、地面に鼻面を擦りつける。
そして、まだらの皮膚を震わせながら、前脚で黒く柔らかい地面を掘り始めた。
辺りのコケの上に、キノコのかけらや地虫が散乱した。
しばらくして、鼻を鳴らし餌を貪り始めた。

様子を眺めていた春水だが、次第に野ブタがよく焼けたポークソテーに見えてきた。
矢を放てば致命的な一撃を加えられる距離までゆっくりと近づいた。

その間に、野ブタは泥で黒く汚れた鼻面を急に高く上げた。
耳をぴくぴくさせて、落ち着かなげに鼻を鳴らす。
春水は弓を引いた姿勢のまま、息さえ止めていた。

あかん、逃げられる!野ブタは朽ち木の下に潜りこみ、下生えの中に姿を消した。
騒々しく走り去る野ブタの立てる音がしばらく聞こえていたが、やがて消えた。

逃げられた…。春水は木の幹にもたれ、息をついた。
「え?」春水の視界に逆棘のある長い槍が入ってきた。
「え?」槍は心臓を刺し貫き、そのまま木の幹をえぐった。
「え?…」噴き出した血を見て春水は身体を一度だけ震わせた。
それで終わりだった。

2名無し募集中。。。:2016/08/16(火) 12:34:09
[第1章 生存競争]

森を振り返った。枯れ木を踏んだ音を聞いた気がした。
だが、そこには何もいない。
牧野真莉愛は注意深く周囲を探索した。

背に感じ取った視線は、自身に沸き起こった不安のせいか。
もう昼なのに、背の高い樹木で空を隠され、ほんのりと薄暗い。
小鳥や虫たちのせせらぎが増した気がした。
危険のないしるしだろうが、不吉な予感は振り払えなかった。

小枝がざわめく。唐突に強い臭気が辺りに立ちこめた。
真莉愛は怯んだが、右手首の戦闘装甲に収められているブレードを伸ばした。
奇襲に備えながら慎重に、真莉愛は臭気の元を求めて足を動かした。

大量の新鮮な血の匂いだと経験的に知っている。
見つけた。身を捩りながら果てたふたりの死体があった。
濁った赤い血を踏まないように近寄る。

鈴木愛理と稲場愛香だった。
真莉愛は何倍にも重く感じられる頭を無理矢理に巡らせた。
周囲に人間がいないことを確認して、リストブレードを戻した。
静寂のうちに金属の擦過音が聞こえた。

命の灯火を消したふたり。恐怖にかられつつも、真莉愛は調べるために傍らに蹲った。
次の瞬間、真莉愛はひっと大きく声を出した。
愛理の左手が自分の右手首を掴んでいる。

真莉愛は激しく動揺した。迂闊だった。愛理は死んでいない。
真莉愛の身体を貫こうと、愛理は右手のナイフを素早く突き出した。

胸を反らせ、間一髪でナイフを避けた。
同時に掴まれている右手首を引き剥がし、身体を丸めて後ろに転がった。
「ちっ!」ひどく歪められた顔で、愛理も身体を起こして唸った。

3名無し募集中。。。:2016/08/16(火) 15:02:20
真莉愛は距離を詰められる前に、リストブレードを出した。
右手首に湾曲したぎざぎざの刃が構えられた。

「ふん」愛理は怒気を抑え、口許を歪めて短く笑った。
緒戦は一瞬の出来事だった。恐るべき速度で突進してきた愛理は、ナイフを振りあげて真莉愛の首を狙った。
真莉愛は身を捩り、攻撃を避けた。ブレードを突きあげる前に、愛理のバックハンドに顎を叩き払われた。

目の奥に火花が散り、口の中に血の味が拡がった。
愛理の技量は、年季が入り、研鑽を積んでいる。さすがは先輩である。
まがまがしい殺意を全身にひりひりと受け止めながら、真莉愛は唾を吐いた。
地面が小さく、赤く染まった。

真莉愛は荒い息をついた。猛スピードで愛理のナイフが2度3度と突き出される。
ブレードで応戦するが、払い飛ばされる。

圧された真莉愛は、地面を這うツタに躓いた。
激しく地面に叩きつけられ、歯が鳴り肋骨が痛んだ。
愛理は、その上にのしかかって息の根を止めようとした。

転がった真莉愛の喉にナイフが食いこむ寸前、ブレードが愛理の膝の腱を切り裂いた。
「くっ!」愛理が苦痛の声を漏らした。
真莉愛は残った力のすべてをこめて愛理を押し倒した。

頭部の真下から、右の拳で顎を突く。
ブレードが喉に突き刺さり、脳天まで串刺しにした。

大きく呼吸しながら、真莉愛は愛理の頭蓋からブレードを引き抜いた。
両耳から血が流れ出た。
脅えた荒い息はいつまでも抑えられなかった。

真莉愛はこみあげる恐怖と苦悶に震えた。
生死をかけた死闘の衝撃に呑みこまれ、気が遠くなりかけていた。

4名無し募集中。。。:2016/08/16(火) 17:29:19
密生したシュロの林を通り抜けて、石田亜佑美は丘の麓に辿り着いた。
多孔質の火山岩があちこちに横たわり、植物相も谷間の灌木の茂みとは違ってきていた。

筋肉質のほっそりした腕の一振りで、亜佑美はアックスの先端を岩壁に叩きこんだ。
オレンジ色の花をつけた蔓を切断すると、黄色い液体が流れた。
亜佑美はそれを飲んで渇きを癒した。

周囲の光景とそこに潜む無数の危険に用心しながら亜佑美は進んだ。
絶え間ない風の音と、自分の心臓の鼓動に耳を澄ませた。

亜佑美は足を止めて肩を震わせた。目をしばたたかせる。
水に薄まった血飛沫の残る河岸に、その身体は投げ置かれていた。
亜佑美はアックスの握りにそっと手を触れた。
両刃の穂先が長く伸びる。亜佑美は冷静な動きで近づいた。

金澤朋子だと分かった。チタン鋼のナイフが背中に突き立てられていた。
そのとき、朋子のまぶたが震えた。まだ生きている。
激しい苦痛で意識が薄れていた。助かる可能性はない。

懸命に目を開いた朋子は、ぼんやりした亜佑美の影を見た。
歪んだ唇からなんとか言葉を絞り出す。「…危ない…」

背後に忍び寄っていた和田彩花が、亜佑美めがけて長い剣を振り下ろす。
「うっ!」右肩を斬りつけられながらも、亜佑美は地面に騒々しく転がった。

「この!」続けて剣を振りかぶった彩花の脚を、亜佑美は思いきり蹴った。
バランスを崩した彩花の腹に、さらに蹴りを叩きこんだ。

彩花が崩れ落ちた。亜佑美は即座に立ち上がろうとした。
しかし、揺らめく影が目の前を横切り、同時に顔面を蹴られた。
室田瑞希だ。亜佑美はきりきり舞いして地面に激突した。

鼻から血が噴き出し、世界がグルグル回った。
痛みと自分自身の血を呑みこんで、亜佑美の全身から力が抜けた。
殺られる…。

彩花の手のギラリと光る剣が空に振り上げられる。
なすすべもない亜佑美は、もはや暴れることも目をそらすことも拒否した。
目を開けて、正面から死と向かい合うつもりだった。

5名無し募集中。。。:2016/08/16(火) 19:45:20
亜佑美は、自分の身体に刃が食いこむのを待っていた。
そんな刹那の感傷は、目の前の予期せぬ展開に消失した。

彩花の頭が小刻みに揺れた。手から剣が滑り落ち、両腕が力なく垂れ下がった。
「和田さん?」瑞希の問いかけに応じる間もなく、その場に崩れ落ちる。
左の肩甲骨に矢が射かけられていた。

「離れなさい」視界に弓を引いている人影が映った。
あの声は…?
アーチェリーを構えた人影は簡潔な動作で近づいてきた。
その動きは冷静で、熟考され、細心のものだった。

「2回言うのは今回だけよ。離れなさい」
「どうして邪魔を!?」瑞希はやり場のない怒りに包まれた。
挑むようにわめきながら、手首に装着された金属装甲を人影に向けて、手裏剣を放った。

ほぼ同時に、亜佑美は朋子の背中からナイフを引き抜き、勢いのまま瑞希にぶつかった。
刃は一瞬のうちにすんなりと瑞希の腹部に沈む。
「うっ!」亜佑美は両手でその柄を握り、へそに向かって刃をひねった。
瑞希は絶叫した。

「ちょっと!しっかりして!!」
亜佑美の叫び声に、野中美希の手からアーチェリーが滑り落ちた。
その喉には湾曲した手裏剣が突き刺さり、すぐに真っ赤な血が噴き出した。

亜佑美は泣きながら血溜まりに膝をつき、死につつある後輩の頭を腕に抱えこんだ。
どうすることもできなかった。
「ごめん…」亜佑美はむせび泣いた。

やがて美希は動かなくなった。
亜佑美は美希の頭を自分の胸に押しつけながら、天を仰いで歯を噛みしめた。
生き延びる…。沸き起こる感情が亜佑美を圧倒した。

6名無し募集中。。。:2016/08/21(日) 15:57:35
頭上から聞こえてくる心地よい鳥のさえずり以外、音はしなかった。
鳥類学については、知識がないので鳥の種までは分からない。
だが、そのさえずりのおかげで気分がほぐれた。
こんな状況でなければ、森でキャンプをして楽しんでいることだろう。

広がる森は、自然のあるがままの姿をとどめている。
小田さくらは、なるべく音を立てないようにゆっくりと進んでいった。
定期的に立ち止まり、常に耳を澄ませながら下生えを縫うように進む。
ぬかるんだ地面を踏むたびに、ぴしゃぴしゃと音がした。

気温は上昇し続け、木々の枝葉の隙間から見える空は青く澄んでいた。
さくらは首をかしげて、水筒の水を少し飲んだ。
風が出てきていたが、それでも暑かった。さくらは袖で目の汗をぬぐった。

しばらく進み、下生えに手をついた。膝に接した地面は柔らかかった。
下生えを縫うような足跡がくっきりと見える。
潜在的な敵がいる。さくらは一定のリズムでゆっくりと呼吸した。心拍数が減った。

足跡を辿り、隠れ場所を発見した。
その潜在的な敵は観察されていることには気づいていない。
だが、警戒心が強く技術も確かなようだった。
カモフラージュの迷彩服のおかげで3次元の身体の線は消え、人の目にはほぼ見えなくなっている。
さくらは、それ以上近くに行くような危険は冒さなかった。

引き返そうとしたさくらが思わず叫んだ。驚きと痛みの悲鳴だった。
右手にしがみついている大きな、動作の鈍いスズメバチを振り払った。
巣はまさしくそこにあった――澄みきった空は、あくまでもひっそりと穏やかだった。

さくらは嫌悪の吐息を漏らした。指はすでに腫れかけている。
同類が応援のために飛び立ってきはせぬかと、様子を窺った。
巣の表面は、動く虫たちによってもぞもぞと動作している。

気を失いそうになったさくらは、真っ黒な獰猛な「雲」が巣の中心部分からわーんと飛び立つのを見た。
気絶する寸前にさくらが見たのは、自分を抱き止めた生田衣梨奈の顔だった。

7名無し募集中。。。:2016/08/21(日) 18:40:12
目はかすみ、窒息しそうになりながら、さくらは唸り声とともに目覚めた。
昏睡と覚醒の間を漂いながら、さくらはゆっくりと身体を起こした。

右手には白い粘性の繊維質の塊が、生葉と一緒に布で巻きつけてあった。
焼けるような痛みは治まっていたが、手の感覚も麻痺したようだった。

「どう?」不意に声をかけられて、さくらはたじろいだ。
衣梨奈はしゃがみ、地べたに尻をついて座った。
「…い、生田さん…」
ふたりは木陰にいたが、空気は熱かった。

衣梨奈は水筒をさくらに持たせてやった。
さくらは何度か水を飲みこんだ。ぬるかったが美味しかった。
「毒素は絞り出したけん、死にはせんと思う」衣梨奈が言った。

「どうして…助けてくれたんですか?」さくらが訊いた。
衣梨奈は反応を見せなかった。
さくらがじっと見つめると、衣梨奈は水を口に含んだ。
「どっちでも同じことやけん。いずれ死ぬ」衣梨奈の眼差しが険しくなった。

「おだん…立てる?」タクティカル・ハーネスからナイフを抜きながら衣梨奈が深い茂みに目を凝らした。
突き出た岩の根元で、細い枝が震えているのが見えた。
低い姿勢を保ち、ゆっくり接近している。
さくらは、痛みに顔をしかめつつ、苔の生えた木につかまって状況を確認した。

唐突に目の前に現れたのは、矢島舞美だった。
身構えてもおらず、表情もないが、暴力が身体から発散しているように見える。
さくらは脈が速まり、息が浅くなった。

舞美が揺れ動いた。
「生田さん!」さくらが叫んだと同時に、舞美の手首のブレードが伸びた。
衣梨奈の腹が引き裂かれる。皮膚がぱっくりと開き、傷口から血が流れ出た。

「逃げて!逃げて!」衣梨奈は苦痛の叫びの合間に声をあげた。
衣梨奈は身悶えし咳きこみながらも、舞美に食らいついた。

さくらは嗚咽を漏らした。涙が目からこぼれた。
逃げなければ確実に殺される。胃の中身が口に噴き出てきた。
「逃げるっちゃ!!」
舞美の目がさくらを探った。

衣梨奈は腹の激痛で失神しかけた。生暖かい血が腹から滴るのが分かる。
汗が全身を覆っていた。
ナイフを握った衣梨奈の右手に、ブレードが押しつけられた。
肌はへこんだが、切れるほどの力は刃に加えられていない。

どうすることもできない。ここにとどまれば、ふたりとも死ぬ。
さくらは全身のちくちくする感覚を無視して、反対側に全力で走った。

最期の力を振り絞り、衣梨奈は舞美の顔に、横向きに頭突きを食らわせた。
同時にブレードが衣梨奈の胸郭を刺し貫いた。
衣梨奈の痙攣する身体を、舞美は無造作に放り投げた。

8名無し募集中。。。:2016/08/21(日) 20:32:55
[第2章 弔鐘]

さくらは狂ったように走りに走った。
茨の藪に引っかかり、迷彩服はあちこちに鈎裂きができている。
頬は血で汚れていた。

恐怖と消耗で、心臓は危険なレベルで弾んでいた。
肺は空気を求めて喘ぎ続ける。
それでも走り続けた。追いつかれ、その手に首筋を掴まれる――恐怖が広がった。

たとえ1時間しか生きられなくとも、生きるために戦うのだと励ます声を聞いた気がした。
生き延びる…。態勢を立て直し、反撃に転じるための時間が必要だった。

ぜいぜいと喘ぎながら、崖の出っぱりの下、自然に穿たれた穴に這いこんだ。
失神寸前とはいえ、警戒心は失っていなかった。
かろうじて頭をもたげると、人の姿がないか調べる。
誰もいないと分かり、さくらはぐったりと脱力した。

苦痛と疲労が限界に達し、眼球が吊り上がった。
意識が薄れる。さくらの混濁した頭に浮かんだのは、どうにか逃げおおせたということだった。
このさんざんに打ちのめされた状態では、死と大差ない感じではあったが。

ところが、気を失いかけたさくらの耳に足音が聞こえた。
見つかった。さくらは筋肉の一筋もぴくりとも動かせない。
もう血中のアドレナリンは消費され尽くしてしまった。

殺戮者は近づいてくる。さくらは覚悟を決めた。
防御の算段もなく、麻痺同然の有り様だ。さくらは目をつぶった。

亜佑美は構えていたアーチェリーを下ろして、棒立ちになった。
死体だ。誰かは分からないがぺしゃんこの死体だった。
神経が乱れ、圧迫された。亜佑美はナイフを鞘から出して、ゆっくり近づいた。

ブーツの爪先が触りそうな近くに寄り、小田さくらだと分かった。
痛む目を押さえ、亜佑美はしきりに頭を振った。
だが、今は悲しみに泣き崩れる時ではない。

たじたじと後退した亜佑美に「死体」が手を伸ばし、口を塞いだ。
「!?」亜佑美は驚きで窒息しそうになった。
「!?」さくらも同じように驚き、寸前でナイフを止めた。

両者ともにナイフを互いに突きつけ合いながら、息を殺した。
「お、小田…」「い、石田さん…」

さくらの手からナイフが滑り落ちた。
「…人違いでした…」さくらが言った。
亜佑美も、言いよどんだ。「…あたしも、死体と間違えた…」

9名無し募集中。。。:2016/08/23(火) 20:24:44
意識を失ったさくらは、亜佑美の腕の中に倒れこんだ。
亜佑美は静かにひざまずいて、さくらを地面に寝かせた。
さくらの胸は、大量の空気を吸いこんで激しく上下している。
呼吸を止めていたのだろう。びっしょりと汗をかいていた。

脈は恐ろしく速まり、顔も赤く染まっている。
ギヤもピストンも焼けついた稼働過多のエンジンのようだった。
しばらくは亜佑美も、さくらは再起不能だと思った。

亜佑美は腰のベルトから水筒を外し、さくらの口にそっと水を注ぎこんだ。
それからバンダナを湿して、さくらの目に当ててやった。

さくらが目を覚まして、亜佑美の顔をしげしげと見るまでには、途方もなく長い時間が過ぎたような気がした。
まだ脳の神経回路のどこかが抜き取られたように、幻惑状態から抜け出ていない。

「大丈夫?小田?」心配して亜佑美は訊いた。
しばらく答えはなかった。
「はい…はい、石田さん」さくらは現実世界に焦点を合わせるように、弱々しい声で言った。
片手でしっかりと亜佑美の腕に掴まっている。

そのままさくらの意識は均衡を失った。
亜佑美はこれほど憐れっぽいさくらを見るのは初めてだった。
どこか超然とした、その精神が完全にさくらの中から叩き出されてしまったように見えた。

一時休戦だというように、慰めるように話しかけた。
複雑な弱肉強食の営みが展開されるゲームにおいても、認めなければならないことはある。
判断を保留することは許されなかった。

「あんたを敵だとは思っていない」亜佑美は眉をしかめた。
「しばらくはあたしと一緒にいなさい」亜佑美はにこりともせず言った。

「…はい」抑えた言い方だったが、溢れそうな涙ときつく結んだ唇がさくらの感情を物語っていた。

10名無し募集中。。。:2016/09/12(月) 11:51:47
こんな作品あったなんて…期待してます

11名無し募集中。。。:2016/10/27(木) 21:14:26
まりまー
ちょっとプロットできた

12名無し募集中。。。:2016/10/28(金) 06:34:50
まりまー!?それは楽しみ♪

13名無し募集中。。。:2017/09/15(金) 17:06:20
剣を使うバトルならかえでぃーが強そう


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