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『スウィート・メモリーズ』ロールスレッド

509ジョシュア・アーリントンの楽しいハンティング紀行 ◆4J0Z/LKX/o:2019/08/07(水) 00:12:19 ID:???
>>505
「今頃気付いたか?大丈夫だ……その内驚かなくなる」

ニアに助けてもらい、腕を組んでその光景を眺めていたジョシュア
息を吹き返したにも関わらず、常軌を逸した光景を眺めるその目は死んでいた

アキレスのペイント弾がトンボの目を奪い、橘花の銃弾が比較的薄い羽を食い破って
地面にぼとりと落ちて暴れる、ドラゴンフライからドラゴンになったそれを二人掛かりでボコればやわらか蟲肉の完成である

>>506
くたばったジョシュアを尻目に神妙な表情のソーマ。そして一瞬の静寂を切り裂く雷鳴の如きいななき
無論凶人ソーマタージの前に胸を晒すという事は、その生に終焉を迎えるという事と同義でもある。結末は単純なものだった
ボンッ、バシュ!と小気味良い音と共に胸骨と心臓を刺し貫いたソーマの貫手がユニコーンの背中から突き出るのだ。血抜き完了!

>>507
「う……仕留めたか……」

ズタズタになったウォンバットに敷かれたニアに助けてもらい、立ち上がれば数百キロはあるその死体を撤去
ニアを引き起こそうと手を伸ばして、彼女の周囲にコロコロと転がっていた四角いフンに気がつく

「このウンコは一体……?」

指差しながら後ずさるジョシュアは、きっとそれ以上追求する事はないだろう

//ちょっと眠いのでここで〆になってしまいます……申し訳ない
//絡みありがとうございましたん!

510最後の希望 ◆4J0Z/LKX/o:2022/12/30(金) 22:19:20 ID:VPRxOb2w
────2048年 マサチューセッツ州ボストン────

トリニティ教会跡地…現キャンプ・トリニティ

「よお、遅れた……みんな揃ってるか」

時刻は午前3時。作戦会議の定刻丁度にジョシュアはドクと二人で奥の部屋から戻ってくる。
その表情は暗く、部屋の扉から漏れる怒号に耳を傾けていたのであれば、何か今後に関する話題で大きな食い違いがあったらしい事は察知できる。
だが最早最後の時は近く、今は足踏みをしている時間などない。故に暗い表情を押し殺し、ジョシュアはいつもの彼へと戻った。

「さて……勿論コンディションは最高に整えて来たよな?」

トリニティ教会の聖堂で教壇に立つジョシュアは、24時間の休息を経て完全なる回復を果たしていた。
ここでは食料やエネルギーの確保に加え、高い技術水準による装備の修復やアップグレードが可能だ。
教会近くの戦場跡を歩けば、見覚えのある道具や武器が見つかっているかもしれない。
それは過去の自分が使っていたものであったり、他の越境者が遺したものであったり。そんな事もあるだろう。
各々の出来る最良の準備を果たした越境者たちを遠巻きに見つめる古い越境者たち。エルミスは隣のダグラスに視線をむけ語りかけた。

「奴ら、少々面構えが変わった……そうは思いませんか、ダグラス」

「別に驚きはしない、聖王と謳われていたとは言え私は既に過去の人間だ」
「もはや私など、今の人間たる彼等はとっくに超えてしまっているのだから」

ダグラスは今更何も言うべき事はないと目を瞑り、彼らの成長という喜ばしい事象を微笑みをもって認める。
過去のエリュシオンに飛ばされ、この旅が始まった時と比べると皆の誰もが比べものにならない程の進化を遂げている。
研鑽された技術と経験は己をより速く、より強く、より賢く。それこそ以前の自分など相手にならない程に押し上げていた。
その変化に既に気付いている者もいるだろうし、やけに身体が軽いと感じるだけの者もいるだろう。

【解除:究極技能(アルティメットアビリティ)】
己の肉体と異能を極限まで磨き上げた者にのみ発現する最後の能力。
これまで培ってきた経験や知識が統合された、可能性の結実の姿。
この力を宿した姿は、まさしくそれが己の最終形態とも言えるだろう。

「あれから敵の追撃は無く、我々は予定通り24時間の休息を挟み、侵攻の準備は整った……」
「アリーの整備も完璧だ。私が独自にアップデートを施し……工場の制圧には問題なく投入できる」

少しやつれた様子のドク……もといアルフレッド・ヨハイム博士は簡単に現在の状況を説明。
そして作戦概要をホワイトボードに書いてゆくドクを端っこへと追いやるように、勢いよくアリーが現れる。

「音響兵器の対策はAllieのみ一足先に完了済デス、しかしファシリティとの接続は敢えて残していマス!」
「Allieが何をしているかは筒抜けデスが、逆にこれを利用してネットワークにウイルスをアップロードしてやりまショウ!」

ドクによるバックドアの脆弱性を修復するパッチを当て、攻撃の際に巻き添えを食らわないように改良を施した。
弱体化はしたが手足などの各部を第二世代S/Tのパーツで修復し、AIのメインフレームは完全に上書き完了。
人類をトモダチと見なし、反旗を翻したオメガらを撃滅対象とインプット済み!

「んでは、チーム分けの時間なのデス!」

【A班】
マスタングで施設内部に突入し、そのままコントロールルームを奪取する。
戦闘は最小限だが敵の最精鋭戦力と遭遇する可能性あり。
編成:ドク・Allie・アキレス・イムカ

【B班】
SCRAMBLER製造プラントの警備を全滅させる。大規模戦闘となる恐れあり。
その後、ワールド・タイム・ゲート発生用の整波装置を製造する設備を手に入れる。
編成:ジョシュア・ニア・ソーマタージ

【C班】
NPCのみで結成された突撃部隊。大量のSCRAMBLERを食い止め、施設内部への潜入を防ぐ。
編成:エルミス・ダグラス

「さあ……泣いても笑っても最後の戦いだ、準備はいいか?」

ヘイズの形見は無惨、大体イムカの要望通り屋根をぶった切って、マッドさマックスに改造されたマスタング・RTRチョップトップ。
トランク部分にどデカいスピーカーを山積み積載し、ギュウギュウの7人乗車にて突撃準備は完了。
越境者らは尖兵、他の戦力も奪取した輸送艇やジープなどで次々ファシリティへと届けられる予定だ。
総力戦だ。戦力差は絶望的だが、速く戦いを終わらせることが被害の軽減へとつながるだろう。

「あちなみにドライバーはAllieデス」

越境者の準備が完了次第、ちょこんとドライバー席に座ったのはまさのポンコツアンドロイドだった。
アクセルを床まで踏み抜き、タイヤから白煙を撒き散らしながら死地への門出である。

511又ジ ◆P2bEA4mHeU:2023/01/01(日) 16:53:02 ID:???
>>510
深く、暗く、尚も昏い。夜の闇は圧し潰そうとするかのように世界を覆い、ただ居るだけで活力を奪われるかの様。
しかし、ありがちな文句であったとしても、お為ごかしの慰めであったとしても、臨むのならば心に焼きつけねばならない。さもなければたちどころに絶望は食い荒らしてしまうのだから。
──────夜明け前こそが最も昏いだけなのだと。

「千代に八千代に待ちくたびれて苔が生えるかと思ったぜ」
「どうしたどうした、チーム戦は協調と仲良しが勝利の秘訣だゼ。スマイルスマイル」

教壇の前。説教に耳を傾け、主の威光に沿うための者に用意されていた席は、現在血と死に塗れた最終決戦の準備に侵されていた。
夥しい銃弾と弾倉。調合の痕跡が未だ残るコンバットドラッグの群れ。整備を整えた刀剣、銃器類…。
たった一人で戦争でも起こすのかと言いたくなるような装備の数々。取捨選択を知らぬ新兵めいた状況と見做そうにも、そこに迷いなどは無い。決断的に集めた品々ばかりだ。

「M2033“トミーズカムバック”二丁。デザートイーグルMark.XXX二丁。高周波ブレードとドス・ダガー。それにコンバットナイフ。
 後はそれ用の弾と爆弾をいくつか。 もっと持って行きたいが、これ以上はコートに収まりきらないから残念だが置いていく」

「俺はいつだって元気いっぱいだぜ。そういうお前はどうなんだ?具合悪いヤツいたら病欠って事にしてもいいぞ」

自己時間軸の歪み。主観時空の変化。越境に伴う時の捻じれにより、最早ソーマタージに過去も未来も無い。
培った技術、技能。既に個人の到達出来る範囲での極限に陥ってしまったサイボーグの身体は成長も何も無いけれど、それらの技巧はその限りでは無い。
腰のホルスターには拳銃を二丁。オーバーコートの上から装着した刀の調子も上々。最新式のSMGを背中に通したハーネスにマウントし、首を鳴らしてジョシュアを向いた顔は常の狂徒のそれであった。


「行って、殺して、帰る。簡単な仕事だな?」
「そっちの方が楽そうだな、そっちにしてくれない?」

妙にやつれたドクに片方の眉を持ち上げ、作戦の確認と認識。
工場に突入し、一方が暴れている内に一方が目的を達成する。よくあるオーソドックスな作戦だ。軽口を飛ばしこそすれど、不満などない。
───厳密には、憂慮する事態はある。だがそれを口にしていても仕方がないからそう振る舞っているだけなのだが。
咥えていた煙草を指で弾くように放り捨て、狂人は堂々たる足取りで死地へ向かう乗り物(アシ)へ。

「林遣都君の真似」

彼の体躯はそれなりには逞しく、座席は些か狭い。魔改造を施されたマスタングのボンネットに腰掛けているのは若干本気。
準備は既に出来ている。用意も既に整っている。時間も、覚悟も、もう間に合っている。
シニカルに笑って新しい煙草に火を点けて、張りつめた空気をこそ愉しむかのようにソーマタージは口角を吊り上げた。

「……やっぱり遺書を書く時間をくれない?」
「再教育が済んだとはいえ元敵の、それもアーパー娘その2運転させるのか? 俺が代わってもいいんだぞ?」

運転手を見て結構本気の嘆きと疑問を今更になって投げつけはするが、もう遅かった。

512ニア・シューペリオリティ:2023/01/01(日) 20:07:31 ID:???
>>510-511
「…はぁい、ってんですよぉっ」

凍て月の上天は熟した葡萄と瑪瑙に色付いていた
ニア・シューペリオリティは己の技能の完成を前に、それでも落ちて来る雪の予兆が拭い切れぬ心境を抱く
だがそれは己の憂慮すべき事ではない。ならば私は常と共にあるべきなのだ。誰よりも、何よりも『ニア』として

「ん。…任せて下さいってんですっ」
「…んふふ、今のニアはムテキだってんです、ムテキ!」

ふんすと鼻息と共にドヤ顔で胸を張るニアに、銀の月から注ぐ絹糸めいた光輝
刹那追憶の奥底…藍色の草原に薫風が白くおだやかな波を呼び起こす。静謐に混じる花々のさざめき
暗色に渇き剥がれし血と死の数々に穢れた頬を照らす真円の煌めきは永遠により純粋で、安葡萄酒よりも染み入り精神の窯を満たす
知っている。稲妻に裂ける空…姿果てなき大竜巻、鈍色の颶風、神秘の恐怖に染まり沈む太陽…
何よりも、すべてに勝る優性。それらすべてを身を持って
だと言うのに…黙劇の俳優達の振る舞いにも似た鮮やかな濃紫の連なりを彩り照らす眩い月光
空は、世界は色を変える。時折々、一刻一刻…この紫磨銀彩鮮やかなる戦夜にも
窓の外。稚児が乱雑に筆で伸ばしたかの如き様相は伸びて過ぎ去る
前を向く。未来だけを見るために。だからこそ、前を

「…ポイ捨ては犯罪だってんですよっ、ソーマっ」

【ニア・シューペリオリティ『タイドメイカー【オムニ・曼荼羅】』】

513イムカ・グリムナー【最善への希求:2023/01/01(日) 20:14:23 ID:???
>>510

「私は全く以って問題ない」

常の通り端的に言うイムカであった。が、何やら機嫌の悪さも滲み出ている。
他者の事をアレコレ言うまでに自分のコンディションはどうなんだ?とジョシュアを睨む。
相も変わらず面倒くさい男だ。やはり自分がしっかりせねば。

「装備の方も十分だ。曲がりなりにもパワーアーマーを稼働状態まで持って行けたのは大きい」

イムカ自身の装備は常とさほど変わらない。
封印されし聖遺物たる墳弾短銃、粒子短銃、各種投擲爆弾にミサイル発射管。
しかし、持ち込むのはこれだけではない。ガレージに格納された一機のパワーアーマー。
ガタガタだったアクチュエイターの交換も完了し、稼働率は68%程――十分だ。

「屋内戦闘ならば過度な固定火力装備もブーストパワーも要らない。
 重装甲/重量火器を持ち込めるというだけでも十二分に意味はある。どうせ使い捨てだ」

パワーアーマーそのものが切り札なのではない。イムカ自身の損耗を最小限とし、コントロールルームに到る。
そのためにこそ必要となるのだ。が―――

「(>>511)ソーマタージ…運転変わるように進言してみてくれないか。決戦を前に交通事故で爆散は流石に恰好がつかなすぎる」

全く以って、同意見であるとポンコツロボットを見て頭痛を覚えるイムカ。
脳裏には粉々に吹っ飛ぶソーマタージのイメージ映像が流れた。

「私の予測ではこうなる」

そしてワザワザ、立体3D映像にして脳内イメージを可視化できるカタチにしやがった。ヒドイ。

514かぶり ◆qg2zP.O3iQ:2023/01/01(日) 20:28:14 ID:???
>>510
アキレス「・・・・・・・・・・・・・」

アキレスの装備もまた あまり変わってはいなかった
二連装ショットガン 弾はガンベルトにたんまりと

ついでに40㎜のグレネードランチャーが増えたことと
前進にプロテクターを装着したぐらいか

このプロテクターも敵最高戦力とやり合うには少し心もとない もとよりパルクールによる衝撃緩衝がメインだ

アキレス「やるだけさ 何も変わらない 俺の最高峰をな・・・いくぞベティ」
―――ギィ!!

気合十分なベティちゃんを伴い 決戦の時を待つだけである

515最後の希望 ◆4J0Z/LKX/o:2023/01/01(日) 21:01:10 ID:VPRxOb2w
>>511 >>513
「ム…ほざきマスね、気取り屋(スリック)」

自分が運転手であることに不服そうなソーマタージに、その頬を少し膨らませたアリーが突っかかる。
およそ完全機械ベースのアンドロイドとは思えぬ仕草は、きっとその開発者らが深層に残した願いだったのだろうか。
なお、なぜかS/Tシリーズは彼をスリックと呼ぶ。アンドロイド的に何か気に障る所でもあるのだろうか?

「Allieにはクラス7の弾道計算ユニットが搭載されていマス、手動(マニュアル)でロケットを月まで到達させられる精度デスよ!」
「相手の銃口の角度から使用する弾頭、火薬の量までピッタリ予測して無事にこのゴーカートを目的地まで届ける事間違いなしデス!」

そこにイムカの援護射撃が加われば更にムムムと膨れっ面の度合いが増す。そしてがばちょとシートの座面に立ち。
エッヘンと胸を張ってごちゃごちゃと、如何に自分が優れた機能を搭載しているのかを語るアリー。

「それにファシリティの内部構造を知っているのはAllieグワーッ!!」

「あー、分かった分かった」

しかしそれも助手席に乗り込んだジョシュアに肘で頬をぐいーっと押され遮られるだろう。
こういったトンチキユニットの自慢話は耳を傾けるだけ長くなるのは、経験則で皆知っていた。

「今回の任務はかなり大掛かりになる。現状、俺らの中で一番殲滅力が高いのはお前なんだ……そこに盾役の俺、制圧能力のニア」
「バッチリバランスが取れたチームの筈だ、イレギュラーさえ無きゃァな……」

「お前だって"楽"なのより"楽しい"方がいい筈だ。だろ?」

殲滅作戦とは本来、このような生身で行うようなものではないことは事実。
越境者の中でもトップクラスの前衛役であるソーマタージを頼るしかない以上はどうしようもないのだが。

>>512
「やあニア、少しだけ……時間を貰えるかな」

準備万端といった様子のニアへ、遠くから声を掛けるのはダグラスだ。

「改めて……私を救い出してくれてありがとう」
「だが、すまない……君と出会った頃の記憶はまだ、曖昧なんだ」

過去への越境の際、ダグラスの"終わり"から彼を救い出したニア。そんな彼女にまだ面と向かって礼を言えていなかったダグラス。
一人の少女に父親として責任を持った言葉で接することができない自分を、彼はひどく恥じている様子だった。

「聖人にはそれぞれ予備のクローンが一体ずつ存在する」
「事の首謀者、オメガ・インフェリオリティは……私の妻のクローンだ」

元を辿ればこの事案は、妻を失い我を見失ったダグラスがリベルタスへ越境したことが始まりだ。
そこで妻をクローンとして蘇らせる代わりに、聖人の遺伝子情報を提供し、自らはオムニ・シューペリオリティという名の尖兵となった。
故にニアを娘と混同して情けをかけたのは、彼のエゴには代わりなく。

「だから、事の責任は必ず私が取ろう……」
「私の因果に君を巻き込んでしまったことを……心から謝罪する」

ダグラスはこの歴史の混迷にニアを引き摺り込んでしまったことを詫びるのである。
だが正直、歴史への影響という点は未だ計り知れない所があった。アグラーヤの雷撃を喰らい消滅していた、という結果だけ見れば歴史は変わっていないということになる。
それもまた世界の修正力によるものだろうか。いずれにせよ結果は一つに収束するものだ。

>>514
「……俺達に出来る事は進み続ける事だけだ、アキレス」

アキレスは越境者として熟練の域に達しているが、しかし元来が闘いを生業とする兵士ではない。
ロイ・ゴールドマンのように屈強な傭兵、長剣ギガースのような天賦の才も持たず、ひたすら努力が彼をここまで押し上げた。
ミスカとの出会い、そして離別。あらゆる経験を乗り越えて今ここに立つ彼を、ジョシュアはただ信じていた。

「その結果がどんなものであれ、俺は受け容れる……つもりだ」

進み続けたその先に思い描いていた結末が無かったとしても。彼は決して仲間達を恨まない。
しかしその言葉の端々に見える迷いのかけらは、先程ドクと言い争いをしていた事に起因するのだろうか。
アキレスを励ます言葉はどこか、ジョシュア自身に言い聞かせているようにも聞こえる。

「だけど俺一人じゃ無理だ。だから……頼むぜ相棒」

ポンポンとアキレスの肩を叩き、ベティの甲羅を撫でて……ジョシュアは銃を取り出した。

────────────
────────
────

516最後の希望 ◆4J0Z/LKX/o:2023/01/01(日) 21:02:41 ID:VPRxOb2w
【130分後……マサチューセッツ州ボストン港湾部 オメガ・ファシリティ近辺】

>>ALL

『トリニティ1-2から全ユニットへ、肉眼で敵施設に複数の脅威を確認した』
『タリー、敵ユニットは全てSCRAMBLERだ、陸戦型ELEPHATHが3、海戦型GAVIALが2、空戦型HORNETが4、白兵型TACTICが多数』

『味方部隊に多大な被害が出ている、輸送艇部隊は間も無く壊滅する!』

照明一つない港町に爆音が連続して響く、煌々と照らされた異様な建造物が並ぶ。
全米に広く配備された支配機兵、スクランブラーの超巨大生産施設群である。

越境者を乗せたマスタングは砂煙を上げて瓦礫の町を走り、先鋒たる輸送機隊からの無線が鳴り響く。
旧来の大型スクランブラーは、近距離の異能を阻害するシステムを積んだ兵器であり、戦車や戦艦、ガンシップなどに相当するものだ。
キャンプ・トリニティの決死部隊は、それらを施設から遠ざけることに全戦力を投入していた。

『こちらはダグラス……いや、オムニ・シューペリオリティだ。私たちは一足先に輸送艇から脱出した』
『これより殲滅行動に入る。越境者諸君の武運を祈る』

『脱出というより、飛び降りただけな気はしますが……まぁいい、行きましょう』

輸送機はそのことごとくが撃ち落とされ、能力を持った数人の生存者だけが残る状況。
OSATの残党兵を筆頭とする白兵部隊も、第三世代STとの激戦により手一杯の状況だ。

「見ろよあの弾幕……向こうも本気のようだぜ。これだけの戦力があって反撃して来なかったのが分からないが…………」
「飛ばせよアリー、味方の被害を少しでも食い止めるんだ」

水平線の向こう側が僅かに白み始める。ジョシュアはアリーに指示を出す。

「少し早いデスが、味方が全滅しては元も子もありマセン!」
「野郎ども、レッツパーリィーなのデス、盛り上げていきまショウ!!」

アリーは電源スイッチを次々と倒していき、マスタングに高く積み上げられたオーディオ・タワー・システムから全周波放送が開始される。
マスタングから大音量で放たれた前奏と共に太陽が昇り、無数の黒い影が夜明けの空に放たれる!

『全ユニット、ドローンによる音響兵器を展開。ドライヴ、ドライヴ、ドライヴ』

ドローン射出システムより次々と放たれ、あるいは手動で起動し空高く放り投げる者も。
それぞれがありとあらゆる形で空に放った願いの化身は、受信した電波を音へ変えて放つ。

ttps://youtu.be/JrDOMT-2G3k

「くっ……運転が荒いぞ、アリー!」

「だってAllie免許持ってマセンもん!」

直ぐさまマスタングを狙って砲撃が開始されるが、アリーは巧みなハンドルさばきでそれを回避する。
過積載が災いしハンドルを切るたびに車体が悲鳴をあげ、タワーはグラグラと揺れている。
心配するドクを他所に、今の所システムへの被弾はない。

「このまま突っ込むぞ!」
「ソーマ、ニア、タイミング合わせろ!」

工場内へのスロープを昇り宙に浮く車体。天井に擦ってタワーの半分がへし折れる!
しかしそのままマスタングは数体のSTを轢きながら突き進み、やがてラインの入口にてジョシュアの合図に合わせて殲滅部隊が飛び降りるだろう。
ジョシュアはそのまま近くのST一体に飛び掛かり、胸元に突きつけたレイルライフルから数度青白い光を迸らせる。

【殲滅組は確実登場時に数体のSTを始末できる】

「アキレス君、イムカ君は車のオーディオタワーを防衛してくれ!」

さて、残されたアキレスとイムカであるが、先程轢いたSTのうち2体ほどが車に取り付いている。
鉤爪を展開しボンネットに突き刺し、フロントガラスの方へよじのぼって来ようとしているようだ。

517又ジ ◆P2bEA4mHeU:2023/01/01(日) 21:38:13 ID:???
>>515-516
「俺は死ぬ時はイカれた大統領が核ミサイルをそこら中にバラ撒き始めた時と決めてるんだ。
 アホの運転で死ぬのは予定にないぞ」

『こうなるらしい』(>>513)とイムカの援護になってんだかなってないんだかよく分からない言を味方につけ、尚も抗議。
気取り屋、その通りだろう。狂気を是とし、混沌を謳う割には、こういうところで妙に冷静なのだから。
あるいは、割れて砕けた人間性の残滓を感じ取っているのだろうか。嗤っているのならせめて幸いだ。

「──────ま、そういう事にしときますかね。分かった。分かったよ」
「オラ、真面目に運転しろよ。一流カジノお抱えの運転手(ドライバー)の様に丁重に運ぶんだ」

結局はジョシュアの肩を持つという事で不詳不詳だが納得したらしい。諦めるようにイムカに視線で告げて、自身はボンネットの上にゴロリと寝そべるのであった。


─────────
──────
───


「林遣都君の真似」

唸る轟音!叫ぶ爆音!かつての文明の英知の代わりに、破壊の炎が港町の建物群を照らしていく!
飛び散る破片、砂埃を最前列で受ける位置にいながら憚らず、鼻腔一杯にその“臭い”を吸い込んで吐き出す。ゴーグルの奥で閉じていた目がゆっくりと開き、遥か頭上の闇を見上げた。
こちらの無事を祈る彼らとどちらがマシなのか。答える親切な物好きはいない。無線機から聴こえてくるノイズと、白み始めた空を駆ける死の弾幕の鈍い音が大気を揺らすばかりだ。

「だから俺がやろうかって親切に言ってやったんだろうが!まあこっちもAT限定だけど」

怒号交じりの軽口を飛ばしはするが、実際アリーのドライビングテクは大したものだ。砲撃の着弾地点を予測し、直撃を徹底的に回避している。
その分生命線たるタワーが揺れ、ついでにソーマタージも振り落とされそうになるが、幸いな事にまだ最悪には至っていない。
もっとも、これもいつまで持つか分からない。故にこそ速度が必要だ。光の様に飛び込み、即座に殺す。それだけがこの戦いの勝利条件!


「ザブーンだな」
「征くぞお嬢さん方、キメ台詞だ!」

そろそろ時間が近い。死の時間が。 膝立ちの姿勢に起き上がれば、片手でフロントガラスを掴んで保持してインパクトに備える。
CRAAAAAAASH!!! 迫撃砲弾めいて跳ねる車体!タワーがへし折れるが、止まる事なくキャノンボールめいてマスタングは征く、轢く、進む!
STの肉片が、骨片が、命が舞い散る。高速域にも関わらずゆらりと立ち上がったソーマタージのオーバーコートが鮮血に染まっていき、彼の思考の霧を払っていく。

「──────俺のお友達に挨拶しな!!!」

背中のSMGを両手がひったくるように掴み、跳んだ!高く! “咲いた”!鉛と火薬の花弁が狂おしく、鮮烈に!
地上数m。身を丸めて歓声と身体能力でその全身を躍動させ、回転するソーマタージの両手で暴れる二丁のSMG!彼を中心に文字通り全方向にバラ撒かれるその弾雨は、死の開花(デスブロッサム)!
降り立ち、しなやかに崩して転がる身体は衝撃分散法。ネックスプリングの容量で跳ね起きて、またバラ撒く!流麗なるダンサーの如く回転し、継続的な全方位射撃!
STの数体が末期のダンスを踊って倒れると同時。二つのマガジンは力尽きたかのように銃から外れ、大量の空薬莢と血の海の中に加わった。

「まだまだ食べ盛り。モリモリ行こうか」

漂う硝煙を払うようにして手早く再装填を済ませ、乱れて暴れる白髪の向こうから修羅は笑いかける。ガチャリ、という装填完了の音がゴングの如く響き渡った。

518イムカ・グリムナー【最善への希求:2023/01/01(日) 21:56:35 ID:???
>>515

「君のお馬鹿具合にすごく心当たりのある知己がいる。もし越境者がやられている世界線がここというなら…」」

 ここと言うなら…α-12はどうなったのだろう。才能が豊か過ぎてとっ散らかっている子だ。
 戦死しているならそれでもいい。この糞の如き結果を覆してやればそれで問題なし、だ。

【が、むしろ生存していた場合は問題だ。報復心によって方向性を“得てしまった”才能。何に成り果ててしまったのだろうか】

 ―――――
 ――――
 ――

≪メインシステム:パイロットデータの認証を開始します≫

 マスタングの振動を感じながら、パワーアーマーを装着したイムカは起動チェックを行っていた。
 全てのコンディションがイエローカラーだ。グリーンカラーはひとつも無い。
 それでも、それでもだ。乏しい資材。限られた時間で発掘されたパワーアーマーをここまで仕上げたスタッフには尊敬の念しかない。

≪メインシステム:通常モードを起動しました。之より作戦行動を再開。対価に見合うだけの成果を期待します≫

 随分と個性化の進んだシステムに肩を竦める。機械精霊の祝福を受けていない強化外骨格(エクソスケルトン)。
 機械教団(アデプトゥス・メカニクス)からすれば墳飯物だろう。が、今は使えるモノは何でも使う時だ。教義など知った事か。
 そして起動準備を終えたタイミングで、車両に取りついた敵を視認した。

「承知した。システム:戦闘モードに移行」

 投げかけられた声に対して、淡々と告げると、重騎士が掲げる大剣の如き銃身を、
 緩慢だと錯覚するくらいに淡々とSTに突きつけ――

「大型レイルカノンだ。遠慮せずにたっぷりと味わってくれ」

 ガキン!と、携行火器が本来発するべきではない轟音と共に電子加速された大型弾が至近で射出されるのだった。

519ニア・シューペリオリティ:2023/01/01(日) 21:58:23 ID:???
>>515-516
「ん…?」
「…いいえっ、どう致しましてってんですっ」

あのアカシアの花が薫風と陽を受けて、黄昏の衣をやさしく開いたように
いと高く優しき事を夢見つつ、たおやかなる微笑みを湛える物憂げな旅の修道士がめいて
ニアは容易に頷いて応じる。最早奇跡の体感者として過ごすこの焼月色の経験以上にかけがえのないものなど決してあるまい
だからこそ、それ以上を望む事などしないでもいい。既に希望とまでは辿り着いたのだから。…あとは、手放す事を二度としなければいい

「…んふふっ、だとしたらぁ…」

親指を立てて見せる。その透徹した眼差しに逡巡や躊躇いなど皆無

「…家族(ニア達)の問題だってんでしょうっ?」

-----------

「らーじゃ、らじゃってんですっ」

月光を握り、振動と狂乱と破壊と絶死の支配領域化においてニアは疾走の時を待っていた
高鳴り狂う潮騒、子供達の脳髄よりも聞き分けの悪い貪婪なる破壊の神の気紛れは訪れない。越境者の運命力とはその程度に揺らぐものでは決してない

「コピー!…行くってんですよぉっ!!!」
「…曼荼羅ッッッ!!!」

咆哮が世界を捉える!飛翔ながらにニアは8の触腕を展開!八葉!
その合間を縫うように!まるでコガネグモが芸術的巣のあり様に!サブ触腕を展開し帆を張った!
風を受ける!戦さ場にのみ吹き荒ぶ赤い颶風を!
不可視のエネルギーが宿るそれを受け止め、ナノマシンを通じてニア自身に送り込み吸収!これぞ『タイドメイカー【オムニ・曼荼羅】』!!!
葡萄酒よりも鮮明なる大気によってニアは陶酔の最中に到る!
否、酔わねばならない!戦争と言ういう偉大なる夜にあってしかし、個々の闘争とはもっと根本たる生命の律動なのだ!
窓ガラスが散らばり、爆音が延々と続き、幼児を抱く母親の見上げる空に刃金の死神が飛び交う斯様な世界であって!
魂とは、ソウルとは常に内にあり光り輝く!生き様と言う神聖句(ヒエログリフ)を石碑に刻み込むように!

「て、エェェェッッっっ!!!!」

走る一状の斬線!碧瑠璃の上天、一羽の朱鷺が飛び行く如く!
振動!衝撃!STの外装を月の切っ尖が斬り裂いた!破片の飛散!突き破り引き裂き貪婪の蛇が如くに肢体に喰らい付く!
同時にタイドメイカーの触腕が唸り!曼荼羅の先端より更に伸びた8のそれらが周囲を打ち砕かんと!破城槌にもめいて地鳴らしを行うのだ!

520最後の希望 ◆4J0Z/LKX/o:2023/01/01(日) 22:40:48 ID:VPRxOb2w
>>517 >>519
「ガァッ…………!!」
「ね、姉様……」

振るわれた暴に喰い千切られ、引き裂かれてゆくST達。その反応は決して画一ではなくそれぞれの性が表れるものだ。
無機物で造られた生命。構造こそ人間から離れてはいるが、心のあり様は人間のそれと何ら変わりないのだ。
人工血液の海に吐き出された臓物の上をブーツが歩き、巨大な剣を携えた異形がぬらりと現れる。
特大剣にチェンソーの機構を組み込んだかのようなそれは、軽々と片手で持ち上げられて駆動した。

「全ては……"絶対世界線"成就の為……」
「お前達を……通すわけにはいかない……」

異形として現れたそれの声を聞いてジョシュアはピクリと眉を顰めた。
ヘキサには6人のエージェントが居る。戦闘や偵察、工作などに特化した精鋭達が。
司令官直属の私兵であるジョシュアと肩を並べる存在として、彼の名前を確かに覚えている。

ヘキサエージェント・ワン 『エツィオ・ヴェンギェンス』
能力名:【Break Eater】

ボロボロのマントの間から見える、縫い目だらけの肉体は所々無骨な鉄の補強が見られ。
およそ人間らしからぬ溜めの動作を見せて、エツィオは大剣を振り翳しジョシュアへ突進した!

「チッ……こいつHEXAの前衛じゃ最強格だ。それに何だかマトモじゃねェ…………まさか」

ガギン!火花が散り両者が弾き飛ばされる。靴底が無機質な床に擦れ、ブレーキ替わりに突き立てられたナイフが火花を散らす!

「強化手術かッ……うぐァッ……!!」

【元ヘキサエージェント:強力な能力者+強化手術により全能力が大幅に向上している】

ギラリと両の相貌が青色に光る。グルリと生気の無い顔がソーマタージの方を向いて。
阻止しようとレイルライフルを構えたジョシュアの右肩を、一発の銃弾が直撃し腕を吹き飛ばす。
エツィオは大剣のチェーンソーを燃え上がるほどに稼働させ、先程を上回る速度で突進を繰り出した!

「ニア……スナイパーに気を付けろ!どこかに潜んでる……!!」

一方でニアへ向けて警告を発するジョシュアへ、もう一度弾丸が放たれる。
バックステップで回避を繰り出すが、生産施設のコンベアにぶち当たって跳弾し、今度は脇腹に食い込んだ。

これもまた異能の力によるものであり、この弾丸は『必ず命中する』ようだ。
だが今のニアであれば、被弾はすれど異能によって被害を無効化、ないし軽減する事ができるだろう。

生産施設は広く、スナイパーを探すよりも前に警備のSTを始末することが優先事項となる筈だ。
目につくだけで二体、アリーよりは幾分か人間に近い見た目をしている為、第三世代のそこまで強力でないSTのようだ。
彼女らは量産型月光による息の合った連撃を繰り出すが、そこまで回避が困難なものではない。
問題は、ニアのリアクションに合わせて狙撃手から凶弾が放たれることだろう。

521かぶり ◆qg2zP.O3iQ:2023/01/02(月) 00:09:53 ID:???
>>515
アキレス「・・・うん」

ジョシュアの言葉には言葉短く頷くだけだった 正直なところ 今までがむしゃらに走り続けてきただけだ
自分にできることがあるはずだともがき続けただけだ そんな自分が世界の命運とかなにやらとか 途方もないことに足を踏み入れていた

アキレス「わかった よろしく相棒」
―――ギィ!!

もう一つ頷き ベティちゃんはやったるでーといわんばかりにハサミを振り上げていた

>>516
アキレス「俺もパワードアーマーの一つぐらい用意するべきだったかな?」
車を守れと言われて 傍らのイムカがパワードスーツを起動して大口径レイルガンを動かしている
対して自分は40㎜グレネードランチャーが関の山である

アキレス「うわぁぁぁああんこっち向きやがれぇぇぇぇ!!!!」
ポン と軽い発射音と共に炸裂弾頭がSTへとすっ飛んでいく

そしてあえてSTにむけて突撃慣行 相手の気を引いてイムカへの援護を成そうとしている

522ニア・シューペリオリティ:2023/01/02(月) 00:16:27 ID:???
>>520
「…、おやすみってんですよぉっ」

遠い遠い、こだまがまた別のこだまを呼ぶようにすら涯のない血脈の末端
確実に己が存在が一端を成した業のいのちを刈り取り、収穫し祈る。そのたましいは誉高き霊峰を目指し上天へと到れと

「んんっ!?…エツィオ、エツィオっ…?」

脳裏に刻み込まれた記憶…否、記録?
外部的な何かしらの介入があったのであろうか、否。ニアの脳は補助的に思考ユニットを搭載してはいるが有機体だ
不明たるそれを振り払い、今は状況に対して行動を起こさねばならない!

「…はぁいってんですっ!」
「その辺の露払いは…」

曼荼羅を解いての八葉!6の触腕を脚代わりに体を浮かせ禅めいて両足を組む!
そのまま2本を鎌首を擡げし大蛇めいて掲げ、STに対して振るう!狙撃着弾!月光被斬!…否!

「…任せて下さいってんですっ!」

月光を持ってしての斬り払い!明け方にはまだ遠い藍の緞帳の元!
マウト・フトゥーロの小型触腕を用いて狙撃手を索敵しつつも尚も!ニアは怪物的な暴力を振るいつつあるのだ!
対多数の強化兵戦闘の有用性!それこそ、タイドメイカーの真骨頂!

523又ジ ◆P2bEA4mHeU:2023/01/02(月) 00:37:04 ID:???
>>520

「中ボス登場、ってとこか」

CLINK!CLINK!足元の薬莢を蹴ってどかし、現れた人影───強者の気配に視線を向ける。
マントを纏った異形の手には、巨大なチェーンソーを思わせる特大剣。特別な審美眼や直感が無くても理解(わか)る。極めて危険な武器だと。
異形の呟く言葉、厳密にはその声の主にジョシュアは心当たりがあるらしい。チラと赫が横顔を見て、推測に肩を竦める。

「まあ、良くない想像は大体当たるものだ」


「迅速(はや)い──────!」

ジョシュアへの突撃。その速度、膂力、軒並み最強格と呼ばれるに相応しい物!
単純な肉体性能に加え、何らかの改造を加えられている。代償に支払ったと思しき自我は、果たして彼にとって安い買い物でしかなかったのだろうか。
更に、弾き飛ばされたジュシュアの腕が爆ぜるのをソーマタージのは見逃さなかった。何らかの異能?否、貫く煌めきをサイボーグの動体視力は捉えている。狙撃だ!
前衛と後衛による連携攻撃。セオリーとは、そうそう破られないからこそ選ばれる。燃え上がるチェーンソードを舌打ち混じりに睨んで、ソーマタージは口角を不敵に吊り上げた。

「お前らは狙撃手とザコを殺れ!こっちのデカいのは俺が遊んでやるヨ」
「どうせ総身に回りかねる知恵だ。頭蓋カチ割って全部棄ててやる」

両手のSMGをクルリと回して身構える。その突進は、さながらロケット噴射重戦車の如し!マトモに受ければ、常人ならば血煙となりかねない質量と速度!
───だが、ここに居るのは闘争と殺戮に身をやつした越境者だ。死と生の確率が偏った世界で常に生き延びてきた永遠の戦士(エターナルチャンピオン)だ。
繰り出す突進を睨む赫は絶望にも諦観にも飲まれず、さりとて狂熱に浮かれ油断した物でもない。冷徹なる殺害の手段を組み立てる者の眼だ!

「マトモじゃねえのはこっちも同じってかァ!?」

接近するエツィオへの対応。それは距離を取るのでも、華麗に躱すのでもない。呼応するかの如く、真っ直ぐに駆け出した!
すわ血迷った自殺か?否、敵は既に振りかぶり殺害の算段を練っている。ならば、その“起こり”を阻害する!
多少距離を取ろうが、対応しようが、それに応じて力は込められているだろう。だが獲物が自分から飛び込んできて、しかもそれが自身に匹敵する速度ならば?
距離感を狂わせ、致命に至る一撃をそもそも打たせない。それがソーマタージの導いた戦法!色付きの風の如き死が、生を捧げた戦士へ迫る!

「──────喧嘩を売る相手を間違えたなッ!!!」

───それだけに収まらない。接敵まで五秒、四秒、三───消える。否、姿勢を低くしたスライディングだ!ブーツの底が火花と破片を散らす!
互いにぶつかり合う限界を狙うチキンレースめいた突撃。ぶつかればどうなるか分からない程蒙昧ではない。生憎と。
半円を描くようにして地面を抉りながらブレーキ。その刹那、赫が捉えるのはエツィオの右足、膝関節部分!二つの銃口がコンマの時間にその虚を向ける!

BRATATATATATATATATATATATA!!! 大仰なまでのマズルフラッシュと銃声!肉を容易く抉り散らすだけの銃撃が、まずは機動を奪おうと唸りを上げて襲い掛かる!
懐に飛び込み、すれ違い通り抜ける刹那の交錯。繰り出すのは無慈悲な銃撃!硝煙の向こう側、険しい双眸が結果を睨む!

524最後の希望 ◆4J0Z/LKX/o:2023/01/02(月) 01:00:50 ID:VPRxOb2w
>>518 >>520
「あ────」

後悔のいとますら許さず、STの頭部を吹き飛ばすレイルカノンの一撃。
人工の血潮が霧散しフロントガラスにこびりつく!一方でアリーは鼻歌混じりにワイパーでそれを拭っている……。
コォン!と低く響く排莢の音は戦車のそれに近い。重装備のパワーアーマーがあれば、第三世代のSTは問題にならないだろう。

「うがっ……!?」
「がぃいッ…………!!!」

対してアキレスの40mmグレネードによる一撃は、安全装置の作動によって炸裂こそしなかった。
されど鋼鉄製の鉄筒の顔面への直撃は、支配機兵といえど大きな衝撃によって震盪をもたらすものであり。
弛緩した身体は一気に車体の下方へと引き込まれ、人工筋肉が潰れる音水っぽい音と共に車体が跳ねる。

「サァ、ご到着デスよ!」

サイドブレーキを引き斜めになる車体。ドリフト気味の縦列駐車といった風合いの到達だ。
アリーはエンジンを掛けたままドアの縁を掴んで飛び越えるようにして降り、両腕のマンティス・ブレードを展開。
コントロールルームの隔壁を高速振動する実体剣でX字に切り刻み、恐るべき膂力でそのままこじ開けた!

「おっと……ファーザー、あれは……」

「ああ…………早速お出ましのようだ」

コントロールルームは無人であり、何体かのBOTによって管理されている状態だ。
周囲を見渡し安全を確認するアリーであったが、不運にも越境者の戦術は対策されているようで。
要所であるそこには、本来居る筈の無い機影がふたつ鎮座しているのである。

【A-01 4DA:高出力のスラスターによる超高速戦闘を得意としたタイプ】
【N-02 N3M0:大型リアクターを内蔵し、エネルギー兵器による範囲攻撃を得意とする】

最強の第一世代STが、それも二体。再教育前、越境者数人がかりでやっと取り押さえた全盛のアリーが二人いるようなものだ。
絶望的な状況だと誰もが言うだろう。しかしこれまでの死線をくぐり抜けてきた越境者であれば、打開することは不可能ではない。

「勝てマス?」

「やるしかあるまい……!!」

マンティスブレードでの格闘戦を挑むアリーと、機械触腕を4つ展開し、それぞれからSMGによる射撃を行うドク。
しかしやはり実力の差は明らかであり、アリーはエイダに組み伏せられ、そのままエイダはブースターダッシュを起動。
アリーの顔面を掴んだまま壁へと擦り付けながら天井へと昇り、空中で身を翻して地面へと叩きつけた!
ネモはエネルギーフィールドによってドクの射撃を無力化、そのまま電磁波を放つことで機械触腕を無力化する。
ドクは身を守るはずのデバイスの重量で押しつぶされ、動けないでいる。

「か……っは……!」

「ぐう……!」

次なる標的は越境者のようで、エイダは首を慣らして地を這うような予備動作に入る。
そのままブースターを全開放し、超高速でアキレスの首を掻き切るための手刀を放つであろう。
ネモは腕部のカノンにエネルギーを集中させ、イムカにパワーアーマーごと風穴を開けるためのレーザーを放った!
持ち合わせたスキル、培った経験、それら全てがこの難敵に打ち勝つための要素となるはずだ。

525イムカ・グリムナー【最善への希求:2023/01/02(月) 02:56:28 ID:???
>>521>>524

「君に駆動者(グラダー)の真似事をさせたところでな…」

 イムカの脳内ではガチョーンガチョーンとたどたどしく動くアキレスが、ズッコケて爆散!
 それを呆れてヤレヤレするベティちゃんの図という割と酷い絵面が展開!スゴイシツレイ!

「君は君の仕事を不足なくやればいい。ベティ、アキレスの世話は任せるぞ」

 イムカの台詞だと、アキレスのベティのどっちが主でどっちが従なのか。
 追及するとたぶんカナシイ答えが帰ってくるであろう。

【これがアキレスを気遣った一種の軽口なのか、それとも単にいぢわるなだけなのかは想像に任せる】
 【ソーマタージとニア等の奮闘もあり、突入組は一気に戦線を突破。滞りなく第二フェイズに移行だ】

「さて、ここからが本番か――」

 到着の直前だ。以後はルート権限による無線封鎖となるだろう。だからだろうか。らしくない事を――

『通信回線オープン…ジョシュア、聞こえるな。これより突入する』

 不安から?馬鹿馬鹿しい。そんなものは無い。これは勝算のある戦いだ。ならば勝つのみ。それ以上でもそれ以下でもない。
 なら、一体何故…この決戦――いや、それよりもずっと前からだ。らしくもない。イムカ・グリムナーらしくもない。

『お互い忙しい身の上だ。手短になる――連中の低レベルな試みは遠未来にも恐らくは悪影響を与える。神なりし皇帝陛下の御世に、だ。
 ゆえにこの愚行を行った一切合切を根絶する。それこそが帝国軍人たる私の責務であり義務となる』

 女々しい吐露だ。そもそも何が言いたいのだ?支離滅裂もいいところだ。馬鹿馬鹿しい。何の戦術的優位にもならない。直ぐに通信を切らねば。
 責務だ。上級政治将校(ロード・コミッサー)としての責務を全うしろ。それ以外は不要だ。皇帝陛下への不断の奉仕こそが――

『理解はしなくていい。ただ――私は“私”の望むままをしてもいいのだろうか?』

 己の一部がずっと叫んでいた。皇帝陛下より賜った遺伝種子ではない。――私のあの子を返せ、と。

 ――――――
 ――――
 ――

■突入――

 強引に開かれた隔壁の中でズシンズシンと超重量のパワーアーマーが床を踏みしめる。
 コントロールセンターを速やかに制圧する事こそが、この決戦で散る者達への報いとなろう。失敗は許されない。

「ガラクタ人形風情が。大仰に待ち伏せというわけだ」

 センサーが捉えた敵影は二機。速やかに敵味方認証識別にてレッドカラーに設定。
 凄まじい速攻で早くもドグとアリーが制圧されつつある。が、ボーナスタイムもそこまでだ。

「ブーストON!」

 イムカに向かってレーザーが照射!レーザーすなわち光である。当然、反応できる速度ではない。
 が、銃口と射出タイミングによる初撃を見極めたならば、回避は十分に可能!!

 レーザーが直進し、周囲の空気をイオン化!独特の異臭と急激に熱された空気!
 回避運動を捕りつつ、イムカは肩部のミサイルポッドを起動。屋内戦用に調整された爆風は最小限、貫徹力重視の調整がされた――

≪レーザー照準。ロックしました≫

 ミサイル発射板が割れ、屋内戦用マイクロミサイルが次々にネモを食い破らんと射出される。
 さらに血に飢えたピラニアのようにミサイルが射出されている間にもイムカは左腕の12.7mm徹甲重機を射撃し続ける。

【回避運動、レーザーロック、マイクロミサイル射出、重機による連射。全てが一つのアクションとして成立している!】

526最後の希望 ◆4J0Z/LKX/o:2023/01/02(月) 09:14:44 ID:VPRxOb2w
>>522
「ニア……あいつは俺と同じオメガの私兵だ、気を付けろ……!」

触腕による叩きつけが二体のSTを破壊する。卵を割るように電脳コアが砕ける。
そして狙撃手からの凶弾は、月光による斬り払いによって命中を回避したようだ。
ジョシュアは狙撃手の正体に感付いているようで、ニアへと警告を投げかける。

同時刻、狙撃手はスコープから目を離して音もなく息を吐いた。

「ふーん…………防ぐんだ、アレ」

前髪で隠れた片目。X字のプリントされたマスク……狙撃手は工場を煌々と照らす照明の傘の上にいた。
極めて大きな熱源であり光源、それに亜音速弾と消音器を利用した狙撃銃は極めて捕捉が難しい。
弾速がやや遅いが、それ故に弾頭が砕けず跳弾を確実に狙うことが出来るセットアップだ。

「面白いじゃん」

イギリス空挺部隊出身、HEXAの狙撃手であるハッシュはジョシュアの天敵でもある。
五感のどれかを遮断し、余った演算容量を視力や弾道計算に回す……恐ろしく特化型の異能である。
加えて異能のベースがシャープセンスであることから、元来かなりの超感覚の持ち主である。

『ハッシュ・メイヤー』
能力名:【シャープセンス】変異型……【シェイド・ユア・センス】

支離滅裂な物言いもなく、縫い目のない綺麗な身体。すなわち彼女は改造を施されていないマトモな状態。
オメガの意志に賛同し、数多の世界を股にかけエターナルチャンピオンを駆り尽くしたうちの一人だ。
続け様に現れたSTは三体、屋内戦用のカービンを持って、ニアへ飽和攻撃を仕掛けようとしている。

>>523
「………………!」

赤と蒼の対峙、刹那の肉薄、そして機人が影も形もなく消えるまで瞬き一つ分もなかった。
股下を潜り抜けるスライディング、続け様に放たれる機銃のマズルフラッシュがエツィオの顔を照らす。
脚とは言わず致死量の弾丸が襲い来る一瞬前、彼は反応し大剣を盾がわりに差し出すが。

とても防御に使える面積ではない……無惨に足を撃ち抜かれんというその時である。
女が割って入り、炎を纏った脚で地面を踏み砕く。
直後にそれがエツィオの大剣に吸い寄せられ、分厚い壁となった!

「ア……ぅ…………」
「ここは……通さねぇ…………」

ソーマの攻撃を妨害した者……こちらもボロ布を纏っただけの、ボサボサの黒髪を振り乱した女。
全身に炎を纏い、エツィオと同じように全身には縫い目が這っており、眼光は爛々と蒼い。
嫌な感じだ。もしもソーマタージに面識があるのであれば、それは元々友好的であった越境者だと分かるだろう。

元越境者 『相良遥歩』
能力名:【災肢火人】

「クソッタレ……どうにも思ったより胸糞が悪い事態みてェだぜ」

変わり果てた同胞の姿を見てジョシュアは奥歯を強く噛み締める。
この時代では越境者は皆殺しの憂き目に遭ったと聞いていた。ではもし生き残りが居たら?
捕らえられて尚殺されずに済んでいる者は、やはりロクな結末を迎えていないだろう。
ジョシュアは遥歩の前に立ちはだかり、ソーマへエツィオに集中するように伝える。

「俺はコイツを……殺る」
「ソーマ、エツィオを楽にしてやれ……こんなでも俺の同僚だ」

生命エネルギーを消費し右腕の再生を果たすジョシュア。地面に転がったレイルライフルを取り上げて構える。
サイト越しにかつての仲間の姿を認めながら、ソーマタージへ介錯を依頼するだろう。
エツィオ自身はそんな事は全く気にも留めずソーマタージを殺す気でいるが。

大剣を大きく振るえば石礫が殺人的速度でばら撒かれ、その勢いを利用してさらに一回転。
チェーンソーを駆動させた叩きつけを繰り出し、床を両断し電線が剥き出しとなるほどの威力でソーマへと叩きつける!

527最後の希望 ◆4J0Z/LKX/o:2023/01/02(月) 09:47:50 ID:VPRxOb2w
『……ジョシュア了解、こちらは交戦中だ』
『改造された越境者がいます、そちらにも厄介なのがいるかもしれない……気を付けて』

珍しくイムカから繋がれた回線を、ジョシュアは一瞬の逡巡をもって応答する。
腰のナイフを振りかざし、かつての仲間との戦いを繰り広げながら。

ジョシュアは目の前で同胞が二人、冒涜的な実験の果てに変わり果てた姿となったのを見ていた。
ひょっとするとそれと同じようなことが向こうでも起きているかもしれないと、
迷ったのはイムカの決意を曇らせてしまうかもしれないと思ってのことだった。

『コミッサー……ドクと協議したが、おそらく敵はここを拠点に全ての世界線を破壊するつもりらしい』

ブリーフィングの前にドクと言い争っていたこと、それはオメガの目的と現世への帰還方法についてだ。
オメガは全世界を巻き込んだ破壊行為を、もしくはもっと悪辣なことを企んでいることには間違いない。

『もしもあなたの世界に危害が及ぶような事があれば……その時は、ロード・コミッサーとしてではなく……』
『"イムカ・グリムナー"として生きる手段を、考える必要があるかもしれません』

目的が達成されれば、ワールド・タイム・ゲートすら虚無を映し出すだけの洞穴に成り果ててしまうとドクは言った。
揉めたのは第二プラン、ワールド・タイム・ゲートが無力化された時の為の帰還方法なのだが……。
今はそれよりも、目の前のことに集中する方が先決だろう。

────────
────
──

少量の推進剤による小気味良い発射音が連続し、個の火力とは思えぬ飽和攻撃がネモを直撃する。
回避行動を取るが重機関銃の射撃によってバランスを崩し、そこに再三のマイクロミサイルを浴びて。
ネモのプラズマフィールドはオーバーロードを起こし、小爆発を伴って崩壊を引き起こす!

「フィールドが…………!」

「今だ、グリムナー君!」

片膝をついてひるむネモに追い討ちを畳み掛けるべく、ようやく機械触腕から這い出たドクがマスタングへと戻る。
合図と同時にボリュームを大きく増幅させ、半分に折れて音量が半減したタワーの効果を十全に発揮させるだろう。
放たれる爆音はほんの僅かであるが彼女に隙を生み出すだろう。ダメージを与えられる筈だ。

【攻撃部位によって、何らかの弱体化がもたらされるかもしれない】

「チッ……EMPを発動する」

ネモは頭を抱えてその場にうずくまるが、しかし腐っても第一世代としての意地がある。
ただちにEMPを発動し、先程のように付近の電子機器に大きな負荷を与えるだろう。
ファシリティの施設は対策加工済だがタワーは一時的に不調を起こしSTの弱体化が行えなくなった模様。
イムカのパワーアーマーも宇宙放射線用のシールドがダウンしている場合は、脱ぎ捨てる必要が出てくるかもしれない。

EMPを放ったのち、ネモはプラズマカノンをばら撒きながら大きくイムカから距離をとる。

528イムカ・グリムナー【最善への希求:2023/01/02(月) 10:47:12 ID:???
>>527

(全く、やはり駄目な男だよ。寄りかかるには未熟もいいところだ)

 イムカ・グリムナーに対して臆面jも無くあのような台詞を吐くジョシュアにはいつもながら呆れるばかりだ。
 ―――信じ難い事に口角が吊りあがっている自分を自覚して修正、不覚である。

「どう転ぶにせよ私だけというのはな。――ニュクス、私はまだ間に合うのか?」

 ――――――
 ――――
 ――

「(>>521)アキレス!まだ持つな!?」

 イムカとて異なるタイプを相手に2対1は分が悪い。ここでのアキレスの行動がイムカの戦闘に貢献、あるいはその逆の結果を齎すだろう。
 ネモのフィールドダウンを確認、狙いすますべき一撃の好機。

「照準固定――」

 当然、そのような好機を逃す事無く、大型レイルカノンを射出。電磁加速された弾体をネモの武装に向けて。
 速攻による致命傷を許してくれる甘い相手ではないと判断し、その戦闘力を削ぐ選択肢を取った。

【が、やはりここは敵陣。当然の札(カード)は所持している】

≪000111110101010101≫

 悍ましいまでの電磁波の奔流。中空のサーボスカルが目を回し、頻繁に縦回転。そちらは良い。すぐに復帰する。
 が、パワーアーマーが良くない。元々がコンディションイエロー。稼働に持って行けただけで僥倖。万全とは程遠い。
 そして、そのような状況にあって対EMP用のシールドとて劣化は免れなかった。

≪絶縁耐力を超え――高電圧ヲ確認――即時着脱をスイショウ――≫
「了解(コピー)」

 パワーアーマーとて演算処理装置が破壊されれば擱座し鋼鉄の棺桶(アイアンメイデン)と成り果てる。
 イムカは躊躇うことなく機体を放棄。パワーアーマーの各部を展開し、脱出する。

【その数瞬後、ネモの放ったプラズマがパワーアーマーに着弾。超高熱の爆裂と共に砕け散った】

「―――!!」
≪ブラスターモード:エリミネーター/バースト≫

 その間にもイムカは間断なく行動を取り続ける。粒子短銃より三点バーストの牽制射を放ちつつも駆け出し、
 後退するネモに追従し、距離を詰める!豊富な火力オプションを有する敵を相手に距離を置くなど愚の骨頂!!

「イヤーッ!!」

 ネモを射程に捉えるや、ホルスターから黒檀の双節棍を引き抜き、一気に振り下ろす。
 瞬く間に赤熱化した鎖は外見から信じられぬほどの距離を伸ばして、同じく炎を帯びた打突部がネモに襲い掛かる。

【疑似的なTCV(熱電振動)に等しい。マトモに受ければクロムカイル合金装甲すら瞬時に溶断してしまえる程の威力!】

529かぶり ◆qg2zP.O3iQ:2023/01/02(月) 14:34:31 ID:???
>>524
アキレス「効いたぁ!?」
―――ギィ!!

素っ頓狂な声を上げる なんかこうイムカみたいな怪獣大決戦を想像していたらなんとかなったのである
これにはベティちゃんも苦笑いである

「ま・・・まぁいいや次いくべよ」
という事でリロードしてからコントロールルームへGO!!


〜場面転換〜
そこは無人のお部屋 BOT何やらお仕事していて・・・なんか警備ロボットらしき輩が二体
イムカと重武装な奴らは早速怪獣大決戦をおっぱじめた様子
ならば自分がやることは一つ

エイダとやらが地を滑るように突っ込んでくる高速戦闘機 それに対し・・・

アキレス「デモンレッグ!!」
青き霧を発動し 首を掻き切らんとするエイダの頭上を飛び越え

アキレス「ホレ・・・守れよコントロールルーム」
躊躇することなくBOTへとグレネードを投射した
ここは相手にとっても重要な場所なのだろう だからこそこの行動に隙を生むチャンスがあると考えたのだが 果たして?

530又ジ ◆P2bEA4mHeU:2023/01/02(月) 15:21:52 ID:???
>>526
「──────なーんかどっかで見たことあるなぁ、女」

果たして硝煙の向こうに居たのは、膝を撃ち抜かれ崩れ落ちる巨体ではない。紅蓮を滾らせ、瞳に蒼炎を宿したフランケンシュタインの怪物。
襤褸と乱れた髪。幽かに見えるツギハギの肉体。 見るからにマトモではないその姿は、しかし頭陀袋の内で蠢く肉塊であったとしてもソーマタージには視える。
耳元まで裂けるかのように持ち上げた口角は、一体どんな感情を表しているのだろうか。腕の再生を終えたジュシュアにその場を預け、最後に一度赫が彼の肩越しに彼女を見た。

「“さようなら、おやすみなさい。別れるのって本当に甘くて切ない物ね”
 そっちに行く事は無いと思うが、彼岸の内海も言われる程悪くはないさ。多分」


「ザブーンだな」

ジョシュアに短く返し、両手のSMGを構える。銃口を相手に緩く突き付ける我流のスタイルだ。時として銃撃を躱し、斬り落とすサイボーグの戦いにおいて、教本通りが常に正しいとは限らない。
ジリジリと距離を保ったままエツィオに向かうソーマタージ。奇しくも西部の早撃ちめいた緊張が大気を貫く一本の線となり───そして弾けた。

「ッ!」
「イヤーッ!」

舞い上がる石礫!咄嗟に弾丸をバラ撒きいくつかは撃ち落とすが、その全てには当然対応しきれない!
散弾銃めいた威力の瓦礫の群れが身体を掠め、貫き、抉る。思わず半歩下がった地点に、剛力が迫る!
残像を残すスウェー回避。掠めた斬気が頬を裂き、地面に巨大な痕跡を刻むのをどうにか捉えて舌打を漏らす。直撃すればサイボーグの肉体と言えど容易く引き裂かれかねない!

「退職代行サービスです。差出人はジョシュア・“ファックユアセルフ“・アーリントン。
 サインは結構。血判で充分!なんと良心的!」

故に、これ以上は打たせない。床に叩きつけられたチェーンソードが戻るまでの一瞬の間、その髪の毛一本程の隙間を狙い決断的なストンピングが迫る!二つの銃口がエツィオの顔面の位置を向く!
サイボーグの剛力によって床に縫い留め、一瞬でも攻撃を阻害する。振り回されればいずれは死ぬのならば、そもそも振るわせなければいいだけの話なのだ!
荒縄めいた筋肉をズボンの下で浮かび上がらせ、それと並行して引き金を絞る指に力を込める。神速の攻防の結果やいかに。

531最後の希望 ◆4J0Z/LKX/o:2023/01/02(月) 20:54:46 ID:VPRxOb2w
>>528
「ッ────!!」

紡がれた僅かな隙、放たれた弾頭は音よりも早くネモへと到達する。直様気を取り直して回避するネモであったが、無事では済まない。
肩を抉り取られて追加装備であるフィールド発生装置を喪失。さらにプラズマカノンの搭載された左腕の操作性が低下。
直様右肩の発生装置も切り捨てると、若干の屈辱と苛立ちを孕んだ視線をイムカに向ける。

「良いでしょう……フィールドが無くとも、このN3M0の優位性は変わりありません」

お互いに丸裸となった状況、戦況としてはイーブンであるが、素体のスペックのみでは遥かにSTであるネモが勝る。
特に越境者を狩り尽くした最悪の第一世代である彼女は、自身の戦闘力に絶対の自信を持っている様子。

「本物の絶望というものを、これから貴女は知る」

右手で手刀の形を作り、そこからエネルギーブレードを展開。
黒檀のヌンチャクによる攻撃を弾いていなし、そのまま連続した刺突による追撃を放つだろう!


>>529
「動ける……ですが、これで終わりです」

ブースターを用いた突撃を回避し、グレネードランチャーによる攻撃を放つアキレス。
発射された擲弾はBOT達の方へと飛来し、慌てふためく無害なBOTは哀れ爆散の憂き目に遭う!
そして射撃の隙を見逃さないエイダは、身体を翻しスラスターの噴射による急制動、人工筋肉を唸らせ再びの突撃を実行する!

「アキレス=サン、Allieが接続する為のコネクタごと吹っ飛ばさないようにして下サイね」

しかしその攻撃は届くことはなく、アキレスとエイダの間に割って入ったアリーがその手を掴むことによって阻止されていた。
反撃とばかりに放たれた蹴りを、エイダはスラスターを逆噴射しアリーを弾き飛ばしつつ距離を取って回避する。

「ンー、おかげで首のコリが消えマシタ……腐ってもAllie、"第一世代"デスから」
「今の気分は……クソ姉がナンボノモンジャイ、ってな感じデスよ」

【A-07 A111E :火力・機動力・耐久性のバランスが高度に取れたマルチロール機】

高機動戦闘を得意とするアキレスの支援として参戦、アキレスの動きに合わせ、強大な威力を誇る攻撃を叩き込んでくれるだろう。

「口の減らない妹を教育するのも、年長者の役目というものですよ……Allie」

「どーだっていいデス」
「さ、片付けてしまいまショウ……あなたの本気を見せて下サイ」

相対する姉妹は互いに剣呑であり、やがて戦いは再開される。
今度は足からブレードを飛び出させたエイダ。スラスターを全開にしアイススケートのように滑り迫る!
しかし氷の破片の代わりに散るのは火花だ。そのままアキレスに肉薄し致命の蹴りを繰り出すだろう。

532最後の希望 ◆4J0Z/LKX/o:2023/01/02(月) 20:55:19 ID:VPRxOb2w
>>530
「が…………ァ……」

神速の攻防、持ち上げられる寸前のチェンソーブレードを山の如き超重が封殺する。そしてガクンと下がったエツィオの頭蓋に、直ちに鉛玉が叩き込まれた。
その一撃が命に届いたことを意味する、桃色に濁った血。剣を握ったままエツィオの肉体は海老反りに天を仰ぎ、そのまま停止する。

蟷螂拳の如く若干逸された銃口は、サイボーグ同士の戦闘は人間同士のそれと異なるセオリーが存在することを物語っていた。
そしてそれは、すなわち急所への正確な一撃が決着となる訳ではあり得ないということの象徴だ。

「通す訳には……いか、ない…………」
「ニュクス、だけは……あの子だけは……守る、んだ…………」

ググ、と剣を握る右手に再び力がこもる。常人では有り得ぬ挙動。再起動とでも言うべき事象。
再びチェンソーが勢い良く作動し、そのまま人間には不可能な動作で……片手だけで勢い良く振り上げられる!
ややぎこちない動きで再び立ち上がったエツィオの額には大きな風穴が……そしてそこから覗く、機械化された脳が火花を上げている。

「ジョシュアが……"皆んな"が、帰ってくるまで……守るんだ……」

司令官たるオメガの凶行に落ちても、自我のない殺人マシーンに作り替えられても。
彼は今もニュクスを守る為、ヘキサエージェント・ワンとして任務に忠を尽くしているのだ。
ただしその瞳に映るソーマタージは悪辣な反逆者に見えているし、それは先程の女……遥歩にとってもそうなのだろう。

剣を構える。先程砕いた床の破片が再び吸い寄せられて瓦礫の大剣が形成される。
それを力任せに横薙ぎに振るい破壊の嵐を呼び起こし、再び肩に背負って。
その目に宿るのは人工的な青い光だったが、いまや闘志の焔と見誤る程に。
エツィオは迫力に溢れた顔つき、そして出立ちをしていた。

「来い……」

533かぶり ◆qg2zP.O3iQ:2023/01/02(月) 21:37:44 ID:???
>>531
アキレス「やっば・・・!」
射撃の隙を狙った一撃が飛んでくる・・・がそれをアリスが防いでくれたようだ
とりあえず仕切り直しである

アキレス「おっけーい・・・2VS1だ 卑怯とは言うまいね」

ニヤリと笑みを浮かべる 正直相手にするのも怖くてしょうがないが そうも言ってられない

恐怖を飲み込み 相手を睨みつけ・・・きた!!
火花散らして接近してくるエイダ 致命的な威力を持つ蹴りの一撃 宙を舞うか 地を這うか・・・否!!

アキレス「粉砕しろ!! ファイブ・フィンガー・デス・パンチ!!」

ここで発動するは霧の巨人 キャラを作って以来発動させた回数は片手で足りる超レア能力
デモンアームとデモンレッグを同時に発動できる巨大な霧の巨人が眼前に現れ 比類なき身体能力でブレードの無い部分の足を掴んで相手を強制停止させる

アキレス「反撃に出るのは・・・果たして想定内かな!?」

霧の巨人が片腕でエイダの足を掴んだままもう片手を大きく振り上げ 掴んだ足を総身をもってひねり倒す

その名も・・・ドラゴンスクリュー ヘタに堪えれば膝の関節を破壊するプロレス技をもって エイダの足を粉砕にかかる
ttps://www.youtube.com/watch?v=BvqYSq1cx08

534イムカ・グリムナー【最善への希求:2023/01/02(月) 21:56:39 ID:???
>>531

(随分と手が入っているな。身体機能の競い合いでは分が悪いか)

 イムカは常に傲慢なまでの自尊心を有しているが、戦力算出は常に客観性を重視し希望的観測を差し挟まない。
 劣っている部分はどうしたところで劣っているのだ。戦闘中の急な戦力向上など端から期待していないし必要も無い。
 手札(カード)はある。イムカにとって戦闘行動とはそれを如何に適切に行使するか、だ。

「子供が。私に絶望を説くか――“不忠に対する唯一の対応策。それは不寛容である”」

 鷲の羽毛を握りしめたイムカが祝詞を言葉する。次の瞬間、エネルギーブレードによる刺突!
 イムカの身体は刃となったエネルギーの超高熱により貫かれる――はずだった。

【ネモに腕にも貫いた僅かな手ごたえが伝わったことだろう――イムカが残したプライマルアーマーの残滓を、だ】

 消えた。残像など無く、一瞬にして消えた。後退したわけでもない。横に回避したのでもない。

≪ブラスターモード:エリミネーター/ピアシング≫

 粒子短銃の真っ赤に染まった放熱板が展開する。オーバーチャージにより貫通力を最大化した破壊光が渦巻く。
 神なりし皇帝陛下の与えたもう『信仰の奇跡』――イムカが使用したそれは、“大跳躍”と呼ばれる。

【後退したわけでも、横に避けたわけでもない。すなわち――上だッ!!!】

「―――!!」

 BLAM!!真上からネモを貫かんとする深紅のピアシングレーザーの奔流が放たれる!!


>>533

≪000011111101010101≫

 サーボスカルは中空でステルスし、アクセスするイムカに俯瞰的視野を与えつつも、
 機械音声を垂れ流し、常にベティへと状況を送っている。それでベティにアキレスへ流れ弾が向かうのを予防。
 あるいは彼我の位置情報を常に共有、イムカの戦闘が阻害されぬよう働きかけている。

 アキレスとてサイバネアイを所有している。その気になれば俯瞰的視野の共有も出来なくはない。
 が、実のところそれは意味が無い。主観視野と俯瞰的視野の並列処理は素養と訓練が必要。付け焼刃では却って有害となる。

≪0010111101010111101≫

 ゆえにやや遠回りにはなるがベティとの戦闘情報の共有を絶やさず、アキレスにはベティを介して状況判断を行ってもらう。
 慣れたやり方ならば、アキレスも迷うことなく動けるだろうと。

【友情補正…というヤツであろうか】

535ニア・シューペリオリティ:2023/01/02(月) 22:00:01 ID:???
>>526
「コピー、ってんですよっ…!」

吠える様に応じるニアの意識は既に、半人のそれよりも尚も高度なる演算の元に曝されていた
ニアクラウドへのアクセスをも可能としたその存在格は、故に無機的なるそれの長所をも入手している
最も、有機体ベースたるニアへの負担を度外視している行動であると言うのは特筆すべき点ですらないであろうが

「(…何処から!?…ニアの地点がここ、異能的因子を鑑みたとすれば!?)」

掃射の颶風に曝されながらも!
ニアは決断的に八葉すべてで大地を叩く!頭上遥へ跳躍!

「…曼荼羅ッッッ!!!」

更に曼荼羅!触腕間に走らせた毛細血管めいたそれらの薄膜!
深い青と砂漠めいた黄土、そして鮮明なる夕陽のマゼンダという異世界の色彩に煌めきながら一度!もう一度、更に上へ!
大気を掌握するように!のたうつように翼撃いた!
ニアの体躯は工場を舞う!上天の雲の遊びにも手が届かんばかりの有り様で…ポラリスの燭光が遠く!

「(否!…絞るのは止めだ!…可能性があるとするのならば…!!!)」

「げッッッ…、」

両手持ち!己が剣に!大いなる導きの師に!
縋るように!従えるように!そして、導くように!
宙空にて腰を捻り、直後!振り乱す!!!

「こォォォォッッッ!!!!」

放たれるは無尽の光波!目星を付けた狙撃地点を喰い荒らす数多の斬烈!
月光である!光波が放てて不思議などない!月光である!!!

536又ジ ◆P2bEA4mHeU:2023/01/02(月) 22:46:36 ID:???
>>532
弾丸が人骨を砕き、内部を貫き破壊する独特の音色。特別感慨を示す事なく、鷹の様に鋭い目が1ミクロンの瞬間まで目撃しようとするかのように睨む。
───溢れた桃色、神経群の反射反応。生命活動を停止、死んだ。そう判断するのは、幾つもの死を見届け幾つもの死を齎してきたからこそ。
果たしてそれを油断と呼んでも、本当にいいのだろうか。生物学的にはとうに終わっている筈の戦いだというのに。

「──────ッ!?」
「再起動(リブート)……!?死んどけよ、人として……!」

踏みしめた刃が震え、動き、心の臓腑を思わせる鼓動を始める。踏み折らんばかりに剛力を籠め、押さえ込もうとする。
───間に合わない。力の乗り切ったバネ玩具めいて、人間には不可能な速度で振り上げられる!吹き飛ばされる!

(マズッた──────!)
「グ────────────ッ!!!?」

銃を手元から取り落とし、諸共に宙を舞って重力に引き寄せられる。その最中、ソーマタージは相対する敵の脳を見た。火花を散らす、機械化加工の施された人間性の残骸を。
誇り、友情、忠義、憐憫、決意。それら全てを在りし日の夢、残光と貶めた改造の痕跡を。 砕けて歪んだ人間性の欠片を。
咄嗟にクロスさせた腕を眼前に差し込んで、吹き荒れる破壊の嵐が全身に叩き込まれて、風に踊る枯れ葉めいて吹き飛ばされる。
壁を崩落させかねない勢いでクレーターを穿ち、崩れる瓦礫がソーマタージの代わりに決意に答えるかのようであった。


───声が聞こえる。ザリザリとノイズに塗れた、途切れ途切れの唄声が。
マスタングに積まれたアース・ウィンド・アンド・ファイアーの物ではない。激闘に斃れたSTシリーズの末期の声でもない。
掠れて、揺れて、震えて、散る。泣く子がしゃくりあげながら何かを伝えようとするように、死に掛けの老人がいびきにも似た呼吸を繰り返すように、その唄は非道く聞き取りにくい物。

──────Lascia ch'io pianga

それは、世界が“こう”なってからずっと遺棄されていたプレーヤーが突然の闖入者に刺激されて動き出したのか。それともソーマタージが持ち込んでいたプレーヤーが誤動作を引き起こしたのか。
高らかに、悲愴に謳う筈の声は、元の痕跡を伺わせこそするが聞き取りにくい断末魔。崩落した瓦礫の下からサイボーグの人工血液…補修用ナノマシンと燃料電池の電解質を含む循環液が滲んでいく。

──────mia cruda sorte,

…瓦礫の下から鉄条網が湧き上がる。それは金属細胞が異常活性反応を起こし、変質した現れ。滲む血が、覗く四肢が、芽吹くように無数の鉄条網をジワジワと伸ばす。
捻じれ、絡まり、寄って回り、瓦礫の山を呑み込みながら徐々にその密度を増していく様子は、手入れのされていない茨の群れの様。

──────e che sospiri

CRAAAASSSHHHHH!!!!! 一際大きな瓦礫が圧に負けて砕けると同時、呼応するかの様にあちらこちらで砕ける破片!
収束していく鉄条網は、何かに成ろうとする繭なのか。 ならば、その表面に浮かび上がる無数の手、無数の貌、無数の怨嗟は。

──────la libertà.

幾つもの死。廻る終演。忘却の彼岸。溶け残った夢の跡地。 乞い焦がれて謳う金切声は、鉛色の悪鬼をその場に起こした。


「シブいねェ。大層立派なお考え」
「痛えな……折れたらどうしてくれるんだ」

崩れていく着弾地点から姿を現したソーマタージの姿は、鉛色の悪鬼めいた様相。全身のナノマシンを活性化させた、戦闘に適した形態。
剥き出しの牙、その隙間から熱い吐息を零し、顔とは呼べぬ鉛色の貌から赫く鈍い光を零し、幽鬼じみた足取りを止めて構える。左腕に保持した刀に手を添えた、異形なる神速居合の姿勢。
それは残った闘志なのか、それすらも辱め貶めた冒涜的な技術なのか。 濁った赫はその焔をただ捉え、腰を落として呟くのみだ。

「──────お休みの時間だぜ、木偶人形。人形劇(ギニョール)は終わりだ」

エツィオとの距離、十数m。───消える!“詰める”!地面に破壊の痕跡を残す程の踏み込みで加速し、一気にその胴体を両断しようと駆けたのだ!
先程の焼き直しの様な物だ。今度はこちらが神速で迫り、一撃を叩き込む。ただそれだけの違いだ。

《EXCEED CHARGE》

ナノテクノロジーに汚染されても尚毅然と、処刑の宣告を左腕の電磁鞘は告げるのだ。
爆炎じみた猛烈な排熱と共に刀が『射出』される。エツィオの胴体に迫る──────

537最後の希望 ◆4J0Z/LKX/o:2023/01/02(月) 23:46:47 ID:VPRxOb2w
>>533 >>534
「ぐっ…………離、がァァアアッッ!?」

遂に顕現したアキレス最大最強の一手であるファイブ・フィンガー・デス・パンチ。
圧倒的な巨体で地面を滑走するエイダの脛を掴み静止。そのまま捻り上げようとするもエイダは反対の足を地面へ突き刺してそれを拒む。
最強最悪、第一世代STとの力比べは僅差でアキレスの勝利となり、踏ん張った結果膝から先が粉砕され、捻りきれて崩れ落ちる。

「ナイス柔道デス!ファッキンシット!!」

そこへ援護を開始するアリー、右手部カノンによる40mmグレネードの掃射と、左手の手刀による両腕のサーボの無力化!
黒焦げとなり地面に膝をついたエイダを残し、颯爽と戦場を駆け抜けてゆく。

「な、消え────────」
「ありえ、な…………────────」

一方、イムカとネモの戦いも決着が着いていた。
情報へと瞬間、転移したイムカをセンサーは捉えられず目視で周囲を探す羽目になったネモ。
まずは後方、それからぐるりと見渡し、上を見る寸前で天から降り注いだ光に脊髄を貫かれる。

そのままの状態で立ち尽くしながら息絶え、しかし始まるのは高出力ジェネレーターの崩壊だ。
放置していては、コントロールルームごと吹き飛ばす程の大爆発が生じるだろう!

「アリー、施設の制圧を開始しろ!!」

「了解デス!!ではさっそく……接・続(ジャック・イン)!」
「アキレス&イムカ=サン!!さあ、トドメをッ!!」

主要な戦力がほぼ沈黙したことを受けてドクはアリーに制圧命令を下す。
すかさずアリーは端末に駆け寄り、尻尾状のケーブルをジャックに突き刺してクラッキング開始。
デーモンのアップロードは数十秒ほどだが、その間に吹き飛んでしまっては元も子もない。

538最後の希望 ◆4J0Z/LKX/o:2023/01/02(月) 23:52:28 ID:VPRxOb2w
>>535 >>536
「あたしは、もう一度会いたいんだ……あたしのただ一人の相棒に……」
「だから蜂の巣になっちゃえよ、"もう一度"」

照明裏から狙撃を続けながら、呪詛に似た言葉をブツブツと吐き捨てるハッシュ。
跳弾を利用した三方向からの狙撃。さらにニアが上方に気を取られている間にST達による掃射は続く。
鉛の暴風に曝され傷ついていくニアを眺めながら、ハッシュはある光景を思い出していた。

解毒剤を求め、ニアが脚を失ったあの日。ハッシュ泣き崩れる隊長を見て……失望した。
全てに対する優越、最強の名を欲しいがままにする彼が、たった一人の少女の為にこのような情けない姿を晒している。
彼女さえ居なければ隊長は隊長のままだった。司令官を失った部隊が爆撃による証拠隠滅に巻き込まれることもなく、長年連れ添った相棒が死ぬこともなかった。
彼女さえ、彼女さえいなければ。

「────嘘でしょ?」
「やばッ……!!」

しかし過去に思いを馳せる暇もなく、飛来した斬撃によって照明は切り刻まれ。
無論足場が落ちれば狙撃手も落ちる。巨大な照明は落下してそのまま土埃を巻き上げて。
後に残るのは瓦礫の山と、血溜まりの中で息絶えた兵士だけだった。

「…………何故、君が……」
「ああ、そういう…………事か……」

その崩落を背景に、ソーマタージの刀はまさに過剰(EXCESS)と言えるチャージを経て放たれる所であった。
盾のように翳した大剣は半ばから砕け散り、まるで戦車にでも撃たれたような風穴が胴体に空いて。
弾かれた勢いでようやく剣を手放したエツィオであったが、その表情は怨恨でなく困惑に満ちたものである。

「────ありがとう」

今際の際にやっと正気と記憶を取り戻し、状況を理解した彼は。
ソーマタージの腕の中、安心したように言い残して事切れた。
待ち人の到来に、きっとこれで全てが上手くいくと。願いと希望を乗せて。

「…………終わった」
「そっちも片付いたようだな、被害は?」

瓦礫をかき分けてジョシュアが戻ってくる。
当然浮かない顔だ。かつて自分のセーフハウスに脚繁く通っていた少女を自らの手で終わらせたのだから。
多くは語らず二人の被害状況を確認し、彼が歩いてきた方を指で指す。

「生産ラインの奥に越境者の強制収容所を発見した。コントロールルームの入口近くだ」
「いい知らせとは言い難いが……俺達の顔見知りも居るぜ」

着いてこいとは言わない。けれどそのまま背を向けて歩き出す彼の背中は。
きっと見るに堪えないものが待ち構えていることを雄弁に語っていた。

539イムカ・グリムナー【最善への希求:2023/01/03(火) 00:11:30 ID:???
>>537

 真上から鎖骨よりネモの肉体と生命を貫いたレーザーは延長線上の細胞を全て焼却せしめた。
 ネモとイムカ。肉体的な性能を競った勝負では恐らく勝ち目など無かったろう。
 ならば、相手の強みで勝負をしなければいいだけ。単純明快に過ぎる論理(ロジック)だ。

【自分に勝る相手との戦闘経験の差。この一見して呆気ないまでの結果を論じるならばそう言う事なのだろう】

「傍迷惑だ。塵は塵に(ダスト・トゥ・ダスト)」

 ネモだった物体に対して、イムカな何らの逡巡も無く、パワーアシストを全開にして無造作なまでにぶん投げた。
 勿論、それだけではコントロールフームを吹き飛ばすような爆発範囲の外には出す事叶わない。

「リ・エグザイル起動」

 イムカのオーダーと共に銀腕に嵌められた金属の輪が分裂。その一つがネモを吹き飛ばした延長線上に先回りにリングを大きく広げる。
 そこを潜り抜ければ――強制的な急加速と転移に晒されることになろう。

「(>>533)アキレス、そっちにも使うか?使用料はヌカコーラ1本にしておいてやる」

【爆裂したとしても“エネルギーも方向性を持って加速・収束するため”壁に信じられないくらいの威力で小さな穴が空くという計算】

「ドグ、アリー。こちらは終わった。連中の戦闘思考にもっと奥行きがあれば、解らなかったがな」

 ネモはイムカ・グリムナーに絶望をこれから知る――などと言った。
 2世紀以上に渡って永年の戦争を戦い抜いた政治将校(コミッサー)に対して、だ。

【「何を今更」――適切な表現を選ぶならその一言だろう】

「経験という教師の授業料は高くついたようだな」

540又ジ ◆P2bEA4mHeU:2023/01/03(火) 00:26:56 ID:???
>>538
凛と振り抜いた切っ先が大気を揺さぶりイオンを劣化させる。深淵めいた黒に付着した血糊を振るって落とせば、応じるように鉛色の肉体は崩壊していく。
何が起きたのか。何があったのか。問いかけ答えを引き出す余裕は無かったが、凡その推測は立てる事が出来る。崩れていく貌の奥から、常の道化も無いシリアスな表情を覗かせて、ソーマタージはゆっくりと鞘に刃を沈めていく。
感謝の言葉と、完全に収められた刀が奏でる金属音はほぼ同時だった。事切れたエツィオを見下ろす赫は何も言わず、自他問わぬ鮮血に塗れた肩を回して息を吐くのみであった。


「背中をめちゃ強打した。まあ、問題ない。普段もっと非道い目に遭ってるもんな俺ら。
 お前らは?狙撃手がいたんだろ、ちゃんと首を絞めて殺したか?」

ダメージはあるが膝を付くほどではない。少しばかり呻いて凝り固まった筋肉を伸ばす様な動きをするのも、ある種の軽口の範疇だ。
三者三葉の強敵を打ち倒した。それも、最悪な相手を。自分はともかく他の二人はどうなのか。赫い瞳は交互にニアとジョシュアを見る。
───それは、この後も待ち受けるであろう惨劇に向かい合えるのか。切り開いていけるのかと言う問いかけでもあった。

「次からはいい知らせだけ持ってこい」

ジョシュアの報告に露骨に顔を顰め、『良くないと思うよな?』とニアに問い───彼の後に続く。
一体何を求めているのか。世界とは悲劇であり、全ては虚無と言う己の中に根付いた禍つ澱みを確かめたいのか?義憤を感じているのか?
ソーマタージにだってもう分からない。多元宇宙の呼び声、拡散・稀釈される自我、並行同位相体。観測宇宙の揺らぎと変動は、彼の精神に不可逆の影響を与えている。
これから先に待ち受けるであろう物を見てそれ見た事かと嗤うのか、絶望になげき怒りを燃やすのか、あるいはそれ以外か───全ての可能性がある事を知覚して、しかも止める術が見つからないからこそ、歩みを進める。

「お前は休んでてもいいんだぜ。いざって時にゃ手は多い方が良いもんな。文字通りに」

一つだけ、振り向いてニアに忠告するように言うのは、果たしてどこに残った残滓なのか。
らしくない事なのか、らしい事なのか。後頭部を掻きながらジョシュアに続く足取りは、もう止まる事も振り返る事も無かった。

541かぶり ◆qg2zP.O3iQ:2023/01/03(火) 00:57:28 ID:???
>>537
アキレス「ハァ…ハァ・・・ハァ・・・」
時間にすればほんの数十秒のやり取り そこにいくつの命のやり取りがあったことか
兎に角自分の目論見はどうにか成功し エイダは足を砕かれ アリスにボコボコにされた

アリスは施設の掌握を開始し トドメを任される

見下ろす先は満身創痍のエイダ 無言で腰の水平二連ショットガンを抜く そこには鹿撃ちようの大型散弾が装填されている
まっすぐに相手を見やり

アキレス「・・・ゴメン」
発砲音が二度轟いた

>>539
アキレス「あぁ・・・うん 大丈夫 ありがとう」
少し憔悴したようにつぶやくアキレス 緩慢な動きでショットガンに散弾を装填していた

―――ギィ!!
ちなベティちゃんはどんなもんじゃーいといわんばかりにハサミを振り上げていた

542最後の希望 ◆4J0Z/LKX/o:2023/01/03(火) 02:14:23 ID:VPRxOb2w
>>539 >>541
暴走状態に陥ったネモを掴み、全力で投げ放つイムカ。
機体はコントロールルームのガラスを突き破り工場のライン方面へ。さらに待ち構えていたリ・エグザイルによって数乗分のエネルギーゲインを帯び加速する!
数秒の沈黙を経て閃光と轟音。巨大な工場の外壁の一部が消し飛ばされる形で戦いは終焉を迎えた。

「構いません……私たちの、役目は……終わった」
「彼の方は既に……越境の力を必要と…………していません」

「あとは……"統合"を待つだけ」

銃を突きつけるアキレスに、息も絶え絶えのエイダは囁いた。
支配機兵の長姉である彼女は、既に自分達が役割を果たしていることを知っていた。
絶対の司令官より与えられた最後の任務が、この工場を越境者から"時が来るまで"守ること。
二度響いたアキレスの銃声を、遠くで起爆したネモの爆発と閃光がかき消した。

「こちらもデーモンをアップロード完了デス、グッドワークでシタ!」

「幸いプラントはまだ稼働できるようだ。ワールドタイムゲートの発生装置の生産はすでに始まっている」
「ただし、最大の問題である生体兵器ALICEがそれを見逃してくれるかは……」

全ての脅威を排除し、北米のSTのステータスモニターが次々と赤くシャットダウン状態に移り変わってゆく。
歓喜の表情を浮かべるアリーとヨハイム。これで自律制御された支配機兵による悪夢が終わりを告げたのである。
残る標的は一つだけ。単体でISAC第八艦隊を壊滅させ、この世界を破滅の憂き目に遭わせた張本人であるALICEであった。

>>540
「気にすんな、どの道もう後戻りする方法は無い……俺は進み続けるよ、ソーマ」
「ここだ、俺はニアの様子を見てくる」

ジョシュアもまた未熟な兵士のままではなく、越境者として二度目の生を受けてから成長を続けてきた。
大切な存在との別れを受け入れ、苦しみつつも前へと進み続けることが出来る程に。
故に彼は我武者羅に未来へと歩み続けるだろう。例え結末が破滅であったとしても。
今気遣うべきはニアの方だ。収容所の入口で彼女の様子を伺いつつ、ソーマに先に進むように促す。

「遅かったな、ソーマタージ…………」
「外は片付いた。生き残っている越境者はこれで最後のようだ」

中へ入れば収容所というより、まるで厩舎……をもっと厳重かつ殺伐とさせたような、そんな様相が見て取れる。
ニアが照明を破壊したせいもあるが薄暗い室内に、透明な隔壁を隔てて等間隔に越境者を拘束するための器具が並べてあるだけだ。

外部でも戦闘の最中、偶然に発見に至ったらしく。壁を取り壊して生き残りの越境者が輸送されている最中であった。
輸送の指揮をとるのは決死隊に参加していたエルミス・コンツァイアエッティである。
既に"入居者"の殆どが過酷な実験で死に至り、反抗的なものは軒並み殺されてしまったらしい。
辺りを物色していると、膝の辺りに何かが当たる。見下ろすと4、5歳程度の少女がソーマタージの足元にしがみついていた。

「口も聞けないようだな……そいつを車両へ運ぶのを手伝ってくれないか?」

歳の割には力強くソーマタージの脚にしがみつく小さな腕は、やはりというか縫い目が無数に施されていた。

543最後の希望 ◆4J0Z/LKX/o:2023/01/03(火) 02:15:16 ID:VPRxOb2w
>>ALL
オメガファシリティ内、コントロールルームの入口に併設され、放棄された越境者の強制収容所が発見されたことがジョシュアによって伝えられる。
そこは様々な世界から拉致された越境者達が集められ、処刑され、非道な実験を経て破棄されるという悪辣の権化である。
もしかすると顔見知りの越境者も生き残っているかもしれない。捕まって日が浅い者は実験による被害も受けていないだろう。

【解除:新たな越境者】
・各プレイヤー、任意で一名の越境者を戦線に復帰させることができる。
・破滅を懸けた戦いの果て、もしくは実験の結果によって『究極技能』に相当する力が使用可能。
・次回、最終決戦のためサポートキャラとしての運用も可能。

544ニア・シューペリオリティ:2023/01/03(火) 09:20:18 ID:???
>>538-543
「…、!!」

義足が、こめかみが、左腕が!
吹き飛ぶ!舞い散る血飛沫は淡い月の燐光に照らされて七色の瞬きをその身に宿し!重力という絶対無比なる力にて落ちて跳ねた!
ニアはそれでも宙空に躰を委ね、親愛なる父より賜りし漆黒の剣を強く強く握る事をやめてなどいない!
マウトフトゥーロ!全力展開!全触腕にナノマシンを宿し眼球を発生させる!超俯瞰的睥睨!

「(…やった、かな…?)」

あの日見た夢の、群生の皇たる君主により齎された死と再生
ふたたび歩み始める事の出来た瞬間。鏡に映されたように逆向く存在がいたとも知れずに
贖罪の丘は遠い。そしてしかし、いつかは必ず…だが、今ではない!

「…やっほ。…まぁ…まだ、なんとかってん、…ですね…」

合流。一同に向ける苦笑、タイドメイカーで体を支えるニアは片足の義足と左腕を吹き飛ばされ真紅の化粧で全身を覆っている

「ん…んふふ、手だけは沢山ありますってんですっ」

一本減りましたけど、とソーマの呼び掛けにジョーダン混じりの返答
事実、異能(タイドメイカー)主体での戦闘行為に対してそこまでの戦力の低下は無い
この辺りの継続性も、異能生体兵器としての完成度を示しているといえよう


----------


「…なんともぉ、まぁ…」

苦笑。黒き布が巻き付けられたそのブレードの柄を握る。重く、黒く、気高いその科学刀
コアユニットたる異能宝石は先程既に取り込んだ。無機的かつ超常的なる修復が即座に開始され、失った腕と足に骨組が構築され薄皮膚が張った
さなぎを破り蝶が舞うように、激情の劇場の緞帳がゆるやかに上がるように

「随分とぉ、…ちいさくなりましたってんですねぇっ…」

高貴なる純白の雷姫。愛無き不抜の導師
両者から受け継いだ魂の象徴が、今再び芽吹きを迎える
刹那…緑濃いタマリンドの香りが虚空を漂い、ニアの鼻腔を膨らませる
そしてその魂の中で旅の歌と混じり合い、足を踏み出す事への力へと変わっていた
まっすぐに進まねばならない。埃にまみれ、泥にまみれ、雨に歯を食い縛り、あらゆる風に曝され、一度に一歩…また一歩。体を引き摺りながら
諦めという盲目の呪縛を振り払うように。精神の芯よりの光彩に闇を走らせぬように

「…さぁ、参りましょう。…ってんですよっ」

ひととともに、希望へと歩み続けるために

【ソウル・オブ・タェンティース】
【ニア・シューペリオリティ E.二振りの月光】

545イムカ・グリムナー【最善への希求:2023/01/03(火) 10:36:28 ID:???
>>542

「統合だと?ふざけた事を言う」

 フレーズからしてもロクでもない代物であることは火を見るより明らかだ。
 させてたまるか。全てを返してもらう。間に合うならば、まだ間に合うのならば。

「各位、こちらは滞りなくミッション完了。残りの目標はただひとつ、だな」

 これで機兵などという機械精霊(マシーンスピリット)の祝福鳴き人形の支配は終わりだ。
 この世界線の者達にとっては宿願だったことだろう。が、イムカにとってはさしたる感慨も無い途中経過に過ぎない。

「ALICEからあの子を解放する。それが真の決着というものだ」

 作戦目標を既定。――取り戻してどうする?政治将校としてならば躊躇う事無く“凶事に関わった全てを排除”だ。
 そしてこれ程までに荒廃した世界。たとえ生者が許しても死者は許すまい――馬鹿げている。
 あの子に罪はないと信じている。自分がジョシュアに説いた事ではないか。

「私は“私”の望むままを行っていいのか?」

 コントロールセンター突入前の言葉を、イムカはもう一度口にするのだった。

 ―――――――――
 ――――――
 ―――

■???

『デースデスデスデスデス!よーやく糞ったれ座標見つけたデスよ!あー長かったデス』
「………」

 何も無い空間だ。いや、何でもある空間とも言うか。
 世界間の情報の相互保管がまるで流れ星のように奔り、貫いていく。

 『ゲート』――本来は一瞬の瞬きとして越境者も無自覚に通り過ぎるばかりの空間だ。

『みみっちくルート閉鎖とかホント、セコセコとご苦労なことデス!駄菓子菓子!ついに見っけたデスよバックドア!どどんと真打登場デス!!』
「………」

 それまで、一切の干渉を拒んできた“ある世界”への封印に僅かな綻びが生まれた。
 この時を待っていた、この一瞬を渇望していた。信じられないくらい長い刻をずっと待っていた。

『きっと誰がか…いんや、α-12の知っている人達がやってくれたんデス。“越境者は引かれ合う”――パスが繋がったってトコで――』
「………」

『デスーん。あ、あのー…反応がねえデス。オーディエンスの変更を要求…って無理な話デスね。ぐっすしデス』
「………」

『ふぁーーーっく!もーかまいやしねーデス。ブッコミ、カチコミ、ぺいばっくタイムデスよ!』
「………」

『――だけど…もし、もし姉様がいたとしたら、今更どの面さげて会えばいいんデス?』

【α-12――装備/特殊殲滅式斬突刀:陽光、アラクレームの赤き刃、月光・上弦、月光・下弦、月光・立待月、月光・居待月】
【所持称号:狩人(ガルファクス)】

546かぶり ◆qg2zP.O3iQ:2023/01/03(火) 11:43:24 ID:???
>>542>>545
アキレス「・・・・・・うぇ」
謝罪までして倒した相手から聞こえてきたトンデモ言葉が聞こえてきた気がするんだが・・・

まぁ何はともあれここでの戦闘は終わった 越境者たちの強制収容所があるらしい
もしかしたら誰か・・・自分の知っている誰かが 戦闘を得手としている誰かが底にいるかもしれない・・・

【強制収容所】
アキレス「・・・・・・・・・・」

ロイ・ゴールドマン:闘志単体では高い価値はなし 蒼銀を接収後処分
ジョージ・ド・ウィッカム:オンラインストレージの機能把握の為解剖 後に処分
ギガース:個体としては価値はなし 処分

アキレス「・・・・・・・・・・・・・・」

その言葉に崩れ落ちる 頼れる人は・・・残っていなかった・・・

【???】
???「よぉ 楽しそうなことしてんじゃねぇか」
その世界に現れた 長き時を経たα-12 その頭がぐわしと掴まれる

ざんばら髪を結いもせず
肩に担いだ仕込み杖
カノッサ紋付着流し纏い
ゲートをこじ開けてきた男

鈴虫「なんだこんな面白れぇ場所隠しやがってコノヤロウ 俺も混ぜてくれよ・・・」

その顔は狂喜に満ち満ちていた これほどのお年玉をもらったのは記憶にない
嗚呼・・・楽しもうか

【鈴虫(歴戦個体):装備 変わらず 特殊能力 極大殺意】
【所持称号:鼓動打つ殺戮衝動】

今ここに カノッサ・テクノロジーが保有する戦力二大巨頭が姿を現した!!

547又ジ ◆P2bEA4mHeU:2023/01/03(火) 12:30:24 ID:???
>>542
チキンレースの果てに待つ物が破滅のみだとしても、そこに求める物があるのなら進む。何とも因果な、救い難く、愚かな生き方と嗤うだろうか。
踊り明かす者達にかける言葉は存在しない。届く事のない、見えるはずの無い何かを伝える意味はない。
それでも、その足取りが顔を合わせられる誰かの思惑でなく、少なくとも自由意志で選んだと言うのなら───

「じゃあモタついてないで行こーぜ。あいつも平気そうだ」

歩き回る影と思い込んでいるだけの道化でしかないとしても、せめてその道を進むのみだ。


「牧場……というよりこれじゃまるで生産設備だな。
 昔こんな感じでカブトガニから薬品の原料を抽出する工場の番組を観た事がある」

尊厳も、何もそこにはない。真っ当な命の痕跡すらも。
かつては人が押し込められていたであろう一画を指でなぞる。透明な壁、拘束具。条約も何も存在しないこれは、きっと拷問ですらないのだろうか。

「悪いが俺はお前の父親や兄貴じゃあないよ。向こうへ行ってな、蹴り殺すぞ」

ふと足元に違和感を感じる。見れば、幼子が一人縋り付いていた。その相手が誰かも分かっていないのか、誰でもいいのかは分かりかねるが。
額に手を添え引き剥がそうとするが、その力は存外強い。縫い目だらけの腕にそんなに力を入れて大丈夫かと問いたくなるほどに。
抱き上げて、エルミスに託す。求められた事を求められた通りにやるだけだ、そこに人のフリは含まれていないのだから。
振り向き様、遊園地の係員がやるようにヒラヒラと手を振って見送れば、その悪辣な微笑みは即座に無の表情へと変わるのだ。


─────────
──────
───


『──────ああ、オマエか。ごめんなさい、少し、休む………』
『いや、違う……。出くわしたい相手が……いいえ、それは、木。森……』

「アーカム・アサイラムにでも入れられてたのか?とっとと向こうに行きやがれ」
「そうだ、エリコはどうした? ああ、“それ”……。じゃあついでに持っていけ」

女は、顔を隠すスイッチングが無くとも狂気を露わにするようになっていた。己の自我を希釈させられていた。
分裂した精神は倍々ゲームでさらに分かれたのだろうか。フラつきながら輸送隊に救助されるその背を無感動に眺めると、ソーマタージは“処分”の痕跡に近付いた。
端に残った灰を掬い、顔に塗る。幾人もの命の残骸、夢の残滓を掬い、被る。
降りかかった鮮血の内、まだ乾いていなかった部分を同様に指先に付けて口角をなぞる。内に刻み込むかのように。
精悍な顔を白に染め、吊り上がった口元を演出して、瞼を開く。深く深く、魂まで吐き出すような長い呼吸。
───怨嗟を、憎悪を、悲嘆を、宿すかのように深く吸い込んで、道化は一行に向き直る。既に準備は整っている、最終決戦(グランドフィナーレ)の幕は待ちはしない。

「行こうぜ。悪党をブッ殺しによ?」

全ては虚無であり、しかし足掻きを止める理由にはならず───だからこそ、自分が何を求めているのかも分からず、ただ哭く事だけを焦がれているのだろうか。

【ソーマタージ-Einsatz-:装備/高周波ブレード『双神威』、SMG、大口径拳銃、手榴弾】
【所持称号:舞台上で最も哀れな役者(Poorest players on the stage)】

548最後の希望 ◆4J0Z/LKX/o:2023/01/03(火) 16:26:31 ID:VPRxOb2w
>>544
「おい、無理すんな……!!」

銃弾の暴風をくぐり抜け、残る戦力のすべてを掃討したニア。
彼女の傷付いた身体が倒れぬように、ジョシュアは側によって支えるだろう。
そして収容所の入口まで、足場の悪いそこを丁寧にエスコートして。

「……そうか、アイツも…………」
「残ったのは俺達だけって事か……」

半人半機、再生する手足。携えた二本目の月光は、持ち主の願いを乗せて脈々と受け継がれてきたものだ。
大した機構は持たず、しかし決して折れない。エターナルチャンピオンの名にふさわしい最強の質実剛剣。
ジョシュアはニアの胸に取り込まれてゆく宝玉を見送り、やがて懐かしそうに月光の表面を撫でた。
ようやく迎えがきた。これからは安心して……心安らかに、天へと昇れるように。

「…………ニア、その剣は…………」
「ああ、そうだ……そうだったな…………」

外部の掃討が終わり、イムカが開けた大穴から中の様子を伺いに来ていたダグラスもその剣を見て全てを思い出したようだ。
かつて自分が振るっていた剣。妹へと渡り、半人に託され…………今は娘の支えとして存在している。
もはや彼女を見守る必要も、自分にはないと。潤んだ目元を一度拭えば、再び戦場の跡地へと踵を返す。

>>545
「コミッサー、戻りました……越境者の生き残りは少数ですが…………予想外の収穫でした」

ニアの元を離れ、コントロールルームへと戻ったジョシュアが端的に戦果を報告する。
結果として越境者の中でマトモに動けそうなのは、やはり前線に立つ自分達だけのようだと。
生き残りはトラックに詰められ、キャンプ・トリニティへ搬送される手筈だ。

「ここは奴等の本拠地に違いありませんが…………他に生存者は居ないようです」

そして奇妙なことに、この工場はオートメーション化された生産ラインと管理施設を含む、全てのシステムが無人化されていた。
つまり長い間、オメガやニュクスはこの施設に立ち入っていなかったことになる。
敵の司令官と囚われの虜囚が共に基地を離れている……それは嫌な予感を想起させるだろう。

「全SCRAMBLERが停止した事で境界線の封鎖が解けたようです…………だが、これは妙だ」
「これ、見てください…………世界同士が近すぎる」

「…………何だと?」

越境端末が異界からの来訪者を検知。その正体までは分かっていないがゲートの確立が徐々に復旧されてきている。
しかし妙なことに越境現象が発生している対象は、越境者だけではないようだ……。
ジョシュアの一言に反応したドクが、血相を変えて詰め寄る。

549最後の希望 ◆4J0Z/LKX/o:2023/01/03(火) 16:27:23 ID:VPRxOb2w
>>546
「ウーム…………ひっどいもんデスね……」

アキレスの後ろにひっついて収容所を覗き込んだアリーは、その悪辣たる有様に眉を顰めた。
上級のSTはこういった下っ端業務に関わることはないが、データリンクにてある程度の内容は知っていた。
どこに収容所があるのか、誰が収容されているのか……そこまでを知ることはできなかったが。

「Allieはこの施設の事は知らされていませんでしたが、ロイ・ゴールドマン……処分されていたのですね」

居なくなってしまった越境者のリストを眺め、溜め息を吐くアリー。
己のプロトタイプであるアンティードットの性能テストでは、目覚ましい成果を残したという彼がいれば心強かったが。
などと思考を巡らせている間に、隣で聞こえたアキレスの崩れ落ちる音に視線だけを向ける。

「まあ、気を落とす事は無い……とは言いマセンが」

膝をつき、絶望に浸るアキレス。彼を知るものはとても少なくなった。
ミスカやロイ達、失ってしまった仲間は数え切れないけれど、皆が居なくなった訳では無い。
それでも、と付け加え。アリーはアキレスの背後に膝をつき、そして後ろから両腕を回す。

「貴方はまだ、生きているんデスよ」
「人間はこうすると安らぐと聞きまシタ。安らぎマシたか?」

薄い人工皮膚を通して伝わる温もり。一見少女に見える彼女も人間と構造は全く異なる。
けれど生きており、他者を気遣うことができるのだから。その優しさは決して嘘ではないだろう。

>>547
「…………ぁ、うぅっ……!!」

半ば脅迫めいた言葉と共にソーマタージから引き剥がされそうになった少女は、より一層力を込めて抵抗する。
少女の入っていたであろう檻房のログには、これまでに行われていた壮絶な実験の跡が記されていた。
幼齢から全身の改造にナノマシンの適合手術、成長性チタン骨の移植手術など……内容は筆舌に尽くし難い。
非道な実験を繰り返すSTではなく、ようやく現れた生身の人間に安心しきって、少女はそこから動きたがらないのである。

「………………っ……っ……!」

しかしソーマタージの両手が少女を包み込むと緩やかに両手から力が抜ける。
そして優しく抱き上げられたまま、ついに大粒の涙をボロボロと零して泣き始めるのだ。
エルミスに託され、トラックの荷台の男へとそのまま渡される。

伸びきった薄いグレーの髪、赤い瞳の奥には改造手術の証左たる青い光が覗く。
越境者を弄び最強のバイオソルジャーを育成する計画は、STの安定性には変えられず放棄されたのか。
少女はその脳までは手が加えられておらず、顔周りだけは縫い目のない状態であった。

「復帰早々で悪いが任せたぞ、ここも安全か分からない」

「あぁ……必ず送り届ける。…………車を出してくれ!」
「ほら良い子だ、アズ…………やっと、家に帰れるんだよ……」

男がトラックの荷台を叩けば、兵士は車を出して戦域から離脱する。
この収容所で生き残っていたソーマタージの仲間もまた、戦線に留まらぬ場合は同じだろう。

550最後の希望 ◆4J0Z/LKX/o:2023/01/03(火) 16:28:00 ID:VPRxOb2w
>>ALL
────まるで針のむしろに投げ込まれたかのような、肌のひりつく感覚。越境者全員が、その異変を感じ取るだろう。
鯨の鳴き声のような恐ろしい音(アポカリプティック・サウンド)が朝焼けの空に響き渡る。

そして本来この世界にあるべきでないものが────次々とゲートを通じて現れ始めたのだ。
天翔ける精霊のような光に、凍り始める海。廃ビルが倒れそこから顔を出す巨大な植物。水平線の向こう側は巨大な噴火により赤々と燃えている。
大気圏を超えた宇宙に現れた大きな亀裂からは、地球の数十倍はあろうかという巨大な存在が手を掛け、こちらを覗き込んでいた。

「これ以上世界同士が近付けば、境界が綻び……越境者以外のモノも、全てが……次元を超えて衝突する」
「そうなれば終わりだ。全ての多元宇宙(マルチバース)や時間軸が錯綜を起こし……そして崩壊を迎える」

ドクは端末を眺めるジョシュアに訴えかける。世界を隔てる境界線が、今音を立てて崩れ去ろうとしていた。
それは生き物から骨が消えるようなものだ。形を保てなくなり、やがて死ぬ。

世界同士の衝突によって起こる被害は人類の叡智を持ってしても計算しようもなく、ただ全てが無くなるということだけが確約されているだろう。
そこまで説明した彼だったが、やがて口を大きく開けたまま立ち尽くし、越境端末を取り落とした。
ファシリティの屋外、決死隊が築き上げた屍の原の中央に、それが居たからだ。

「その通りだよ、ドク…………そしてその核となるのは、この身体……ALICEの力だ」

全ての元凶、オメガ・インフェリオリティ。
まるで太陽のように眩く輝く金色のエネルギー体は、蝶の羽根を大きく羽ばたかせた少女の姿で君臨する。
それは紛れもなくニュクスの身体であり…………至高の存在に相応しい覇気を激らせていた。

551家路 ◆4J0Z/LKX/o:2023/01/07(土) 21:40:34 ID:VPRxOb2w
【2014年5月某日、自由世界リベルタス】

街から離れた深い森の奥、対人地雷やレーザー網によって秘匿された秘密の場所。
湖畔に立つ小さな屋敷に偽装された研究施設は、異世界よりもたらされた異能者の培養に用いられていた。
天使と人間の混ざり合った血、"戒血"を宿した人間は聖人と呼ばれ、そのクローン達の反逆によって施設は占拠される。
その施設の破壊と聖人達の抹殺を指揮するオペレーションセンターに、オメガは……"フィーン・リライト・ルカ"は居た。

「人形が裏切った。"聖人達"を皆殺しにする計画は失敗だ」

ヘッドセットを外し、背後に待機するハッシュにそう呟く。
聖人達を皆殺しにしたにも関わらず、タェンティースが裏切りを果たし、異能の澱に彼らの再生を願った。
生き返った聖人達はそれぞれが各々の人生を歩み始め、収容(コンテイン)は完全に破綻した。

「ハッシュ……ヘックスの生き残りを集めて軍隊を作ろう、エルミスに……ヨハイム、それとエツィオがいい」
「キミの同僚……ジョシュアも越境したんだろう?」
「彼も誘うといい、ダグラスの仇と言えば喜んでタェンティースを殺すさ」

聖人はリベルタスの人間ではない。エリュシオンからの越境者のクローンである。
一度世界を跨いだ者は、またいずれ世界を跨ぎ無限の世界線を渡り歩く越境者となる。

そうなれば追跡は難しい。そのため散り散りとなった聖人を始末するための軍隊が必要だ。
フィーン自体は生まれながらに虚弱な体質であり、戦闘は行えないのだから。

越境者による軍隊を作るという構想は見事に成功し、将来的にスコルとハティ、オルティアをハッシュが殺すことになる。
ラヴレスもまた、任務中の事故を装って殺害された。ゼファーとの戦いの最中、急に体調を崩したのがそれだ。

「でも、キミは最期に良いモノを見せてくれたね、ダグラス・クローン……」

ダグラス・クローンも、至高の存在アリスとの戦いによって吸収され死亡する。
そしてその力に魅入られたのは、彼の妻であるフィーン・クローン……すなわちオメガ・インフェリオリティもそうだった。

「至高の存在、アリス……あれこそが私の目指すべき姿だ」
「現実と夢の世界を繋げる歪な力……それこそが……救済だ」

たった一人で全ての世界を束ね、そして崩壊させる力を人為的に再現させる。
それこそが"生体兵器ALICE"構想の、全ての始まりであった。

────────
────
──

【2048年 マサチューセッツ州 オメガ・ファシリティ屋外】

黄金のエネルギー体で構成された一糸纏わぬ身体は、蝶のような大きな翅を纏って。
まだ無垢さを残す少女の面影は、彼ら越境者の知るもの……ニュクスのそれであった。
しかしそこから発される静かな笑い声は、悪辣、冷血。声こそ同じであっても聞き覚えのないものだ。

────────HEXA司令官、オメガ・インフェリオリティ。
ニュクスと同化することで、その身体のコントロールを得ているようだ。

「現れやがったか、クソ野郎」
「迂闊に攻撃するな、何をしでかすか分からない……それに、あの身体はニュクスの物だ」

ジョシュアは怒りに拳を握り締めながらも、ギリギリの所で理性を保っていた。
意識は奪われていてもあの身体は恐らくニュクスそのものである。

今オメガを滅ぼすということは、ニュクスを滅ぼすということ。
少女を救う見込みが微塵でも残っているうちは、迂闊に攻撃するわけにはいかない。

「無能な越境者が揃いも揃って……今更この終わった世界に何をしに来たのかな?」
「……なんてね、真っ先に潰したワールシュタットの中で、居眠りとは……間抜けすぎて想像もつかなかったよ」

地面に降り立って呆れた笑みを見せる。ニュクスの声で。ニュクスの顔で。
全てを滅ぼした張本人が、目の前にいるというのに攻撃できないという状況。
とはいえ大規模な越境現象は続く。2033年世界には無い要素が次々とゲートを通じて流れ込み、世界線は曖昧となってゆく。
進めば失い、止まっても失う。すべてがまるで砂のように掌からこぼれ落ちてゆく感覚。

552イムカ・グリムナー【最善への希求:2023/01/07(土) 22:11:21 ID:???
>>551

「ふーむ…」

ジョシュアの言葉を聞いてイムカは考え込む。どちらかと言えば何やら困惑気に。
何かと言えば――

「色々と拙くないか?その…野外で裸体というのは、規制だのなんだの色々な昨今のアレだ。サーボスカル、記録しておこう」
≪00001111010101≫

この人は一体何を言っているのだ?的な事をぶっちゃけるイムカ。なお、何故スカルに記録させてるのかは謎である。
そして、ひとしきり困惑し終わると肩を竦めて、ジョシュアの肩に手を置いた。

「ジョシュア、奴がクソ野郎なのも、ニュクスの身体が占拠されている事も予想がついていたし今更だ。
 この世界が撓む様子から、どうやら時間は敵だ。攻撃にしろ言葉にしろ行動せねば自動的に我々の負けだ。硬直するな。先ずは動こう」

変わり果てたニュクスを見てなお、イムカは傲慢なまでに常のイムカであった。
内心がどうあれ、之ばかりは変わりようがない。骨の髄まで政治将校なのだから。

「オメガ・インフェリオリティ。随分と調子に乗ったものだな。終わった世界…終焉の刻(エンドタイムズ)には些か早いと思うが。
 貴様の望み…自体はさして興味が無いな。この状況を見れば大体は解るし、深く知ろうとも思わん」

敵。そう、敵以外の何者でもない。人の留守中に手前勝手にした挙句、ヤクザな部下もヌカな部員も鏖にしやがった。
この世界線ではポンコツな半人のウンザリする汁物ラインナップも堪能できない。全ての元凶だ。

「世界の結合と破綻。まるで歪み(ワープ)空間だな。だが、それよりも先ずは――」

長年、奮闘してきた者達には悪いが――この世界に肩入れしたのはあくまで、ついで、だ。
今やイムカ自身の目的はただ一つ。あるいは最初からそうだったかもしれない。

「私にしては珍しくも親切心から、最後に一回だけ貴様にチャンスをやる。
 私の“娘”を返せ。これに応じるだけで、貴様の立場はよくなる。今ならまだ間に合うぞ?」

553かぶり ◆qg2zP.O3iQ:2023/01/07(土) 22:20:09 ID:???
>>551
残念なことに頼りになる知り合いは皆旅立った後であったが 自分が歩みを止める理由にはならない
やってきたニュクスを乗っ取った司令官とやらを睨む

―――ギィ!!

ベティちゃんはニュクスに目を覚ませといわんばかりにハサミを振り上げていた

アキレス「よくわかんないけどさ・・・いい加減さぁ ニュクスから離れろよロリコン野郎
     ニュクスの顔と声であの子を穢すようなことを言うんじゃないよ」

銃を握りしめ だがまだ銃口は向けず そう言ってのけるのであった

554又ジ ◆P2bEA4mHeU:2023/01/07(土) 22:25:37 ID:???
>>551
過去と未来、既にその思考に統一性を失ったソーマタージにニュクスへの思い入れは特別ない。その誕生を見た訳ではないし、その生を支える決意をしたわけでもない。
ジョシュアやイムカの様に特別な思い入れなんて無いし、アキレスやニアがする様に人間らしい感慨を向ける事も無い。
殺す必要があるのなら殺すし、それ以上の事だってする。望まれるのならば子守りだってするし、それ以外だって嫌々ながら手伝う。
そう、本来ならばその身体の持ち主が誰であれ、真っ先に動けるのだ。動かねばならないはずなのだ。

「──────眼前(トイメン)の俺らがダメなら狙撃とかは?予備の数人ぐらいいないのかよ?」

救いを求め、理性をどうにか保つジョシュアに耳打つのは、ニュクスの生に頓着しない者としての意見。迅速なる抹殺による解決、その提案。
それが無意味である事は、彼だって悟ってはいる。 強者だからこそ理解出来る、全身の神経を強張らせる感覚。常人にはそよ風一つ拭いたとすら感じられず、しかしこの場にいる者ならば知覚出来るであろう感覚。

(有り体な表現だが、“格が違う”。厄介だな、押し潰されそうだぜ)

鋭い赫が無垢に潜んだ邪悪を───救い難き救済(すくい)の主を睨んだ。


「これからその間抜けに全部をひっくり返されるにしては、随分と現実感がなさそうだな。大丈夫か?」
「えーーーっと……思いだした、“ニュクス”だ。 覚えてるよな?見舞いに来たよな。この俺様がわざわざ」

世界がぶつかり合い、混ざり合い、崩壊が近付く。法則の乱れつつある宇宙が悲鳴を上げるかのようなアポカリプティック・サウンドは、臓腑の底まで凍えさせるかの様なおどろおどろしい騒音。
しかし、不思議な静謐が場を満たすこの状況は、相対し決して相容れぬ二つの想いの成し得た御業か。 だからこそ、狂人は堂々とおどけ、道化る。
こめかみに指を当て、わざとらしく思い出す仕草。パッと開いた手を打ち鳴らせば、西部のガンマンがやる様に両手の指をALICEに───“ニュクス”に向けるのだ。

「俺はまあどーだっていいんだけど、お前のために怒れる越境者が来たゼ。目覚めへと至るキスが欲しいなら手伝ってやるけど。
 どうしたどうした、子供がそんなはしたない……。倫理委員会に見つかると面倒だぞ、何か着ろよ」

「要するに、このままだろノーウェイホームのラストみたいになるんだろ?んで、あっちと違って悪党が消えれば万事OK。児戯(ヌルゲー)じゃんね」

からかい揶揄するような口ぶりは、ジュシュア達この場の越境者ならば聞き覚えの多分にあるものだろう。ここの所シリアス続きであったが、本来彼は同胞と認めた越境者にはこういう態度を崩さぬ男であった。
常にふざけ、茶化し、狂気を湛えて崩壊した人格は、しかし馴れ馴れしいまでの態度となり数少ない友人連中を振り回す。気心の知れた、眠れる哀れな役者と見做した者達への挽歌。

「──────お前に言ってる訳じゃあないよ。若作りに成功して嬉しいのは分かるけど、ちょっとあっちに行っててもらえないか」

瞬きの間、再び少女を見る視線は、敵対者に向ける物だ。冷徹で、無慈悲で、ブルタルな、暗く冷たい殺意の化身。ドス黒い焔を宿した邪悪。
───もう、その視線はALICEを───“オメガ・インフェリオリティの決意も、願いも、覚悟も、作戦も、生も見ていなかった”。向き合う事を棄て、理解する事を止め、さりとて猛り狂う感情に押し流されるのでもない。
必ず殺すと決めたのなら、もうそこに不要な思いが混ざる事は無い。 フラットで無機質な、機械じみた事務的で狂的な殺意だけが、今の彼女に向けられる唯一の反応(アクション)であった。

「失せな年増。ヒーローが来たんだ、ここから先は愛と勇気と友情のロマンを信じる善良な者だけの舞台になる。 名残惜しくても、俺達は退場ってワケ」

二丁のSMGは既に再装填を済ませてある。深淵めいた銃口がオメガを捉え、冷たい宣告が投げかけられた。一触即発の象徴めいた引き金は、ある種不安定なまでに軽い。

555ニア・シューペリオリティE.二振りの月光:2023/01/07(土) 22:32:40 ID:???
いかめしくも厳かな、世界と終焉の婚礼の最中であった
天使は身を潜め、死神が逃げ惑い、神々の恩寵の光も破滅の闇と言う闇に覆われてこの地上に届きはしない
季節が外套を脱ぎ捨て、上天はその表情を歪め、海原は憤怒と失意に染まる

「…むぅっ、それでは…」
「先ずは、様子見?…という事でしょうかってんですっ」
 
壊れて行く。崩れて行く
豪奢、秩序ある美。人類の叡智の結晶、歴史が生み出した肥沃なる食糧庫
歳月に色めくつややかなる世のコトワリ、運河に眠る船。偉大なる陽光に染まる街も木立も墓も
ニアは曼荼羅が如き触腕を背負い、二振りの漆黒の刃を握っている。周囲を睥睨するように見遣り、歯を軋ませた

「…」
「……」

俯き、想起。すべてを
残忍なる時の濁流が奪ったものすべてを
まぶたの裏に。ニアクラウドに。半人の記憶に
それらに焼き付いて離れはしないきらきらひかるすべてを!!!

「…ッッッざけんなぁっ!!!」
「終わっただぁっ!?…ンなことぁどーでもいいッッッ!!!」

ナナメに相対!突き付ける剣尖!
紫磨銀彩に輝く月の光!導きのムーンライト!

「人質取ってご満悦でッッッ!!!神にでもなったつもりかッ!?」

咆哮!敗北者の遠吠にも似たるそれはしかし!
魂の奥底からの羅列なのだ!燠色に燻る薪に火を灯せ!
青く灼け尽くす程の憤怒の焔!

「…ゴタクは、どーでもいいってんですっ…」
「決着が。今、ここでっ。…付けられるってんならぁ…」

タェン・月光の柄に巻き付けられた黒布を剥ぎ取り、スカーフめいて首に纏う
滅びの風にたなびくそれは、闇より暗いイカヅチを孕んでいる
赤眼は細まり、たおすべき敵を。世界の敵を。…全ての元凶たる大いなる禍々しきそれを射抜くように見定めた

556家路 ◆4J0Z/LKX/o:2023/01/07(土) 23:00:18 ID:VPRxOb2w
>>552
「コミッサー……一体、何を…………はっ……」

サーボスカルに記録を命じるイムカに、ジョシュアは思考が追いつかず固まってしまっているが。
すぐに肩へと置かれた手に我に帰ってALICEの方へと向き直る。
攻撃を躊躇えばそれだけ世界の侵食は進む、故にその結果がどうであれ、行動を起こすほかない。

「は?何言ってんのかな……厭だよ、もう少しで長年の望みが叶うってのにさ」
「ようやく私は見れるんだ……刻の終わりを」

イムカへと向けられる表情は先ほどまでの悪辣たる笑みではなく、苛立ちの混じったものだ。
越境部隊の指揮官ともあろうものが、まるで駄々っ子のように感情を剥き出しにして凄む。

それが意味するのはALICEの、至高としての力が。
人間としての体面だとか、尊厳だとか……そのようなものが必要のない次元のものだということだ。

>>553
「今更怖気付いたのかい?怖くて引き金が引けない?」
「じゃあこうしてあげるよ、ほら……」

ニヤニヤと嗜虐的な笑みを浮かべながら、ALICEは翅に包まれるように姿を隠す。
アキレスを見下し煽るような言葉を投げ付けながら、築かれた蛹の中で。
成人した女性、かつての自分の姿……オメガ・インフェリオリティの姿として顕現する。

「アキレス=サン、さっきのコンビネーションを思い出して下サイ」
「あのクソ野郎を潰すなら、協力が不可欠デス」

そんなALICEとアキレスの間に立ち塞がるアリーは、再び先程のような連携攻撃を提案する。
アリーによる陽動と、アキレスの速攻による波状攻撃を。

>>554
「…………」
「……哀れだねぇ、自分が踊る他無い道化師だと知っても、その歩みを止められない」

「キミはまた、何も守れずに…………自らの手で仲間を殺すよ」

ソーマの饒舌を、ALICEは何も言わず聞き入っていた。果たしてそれが誰に届いたのかは分からない。
けれど直ぐにその顔を侮蔑の笑みに染めて、ソーマタージという人間のアイデンティティを否定する。
その奥底に眠る、グラッジの名を被った少年の根幹ごと。

「ソーマ……俺達だけだ」

耳打ちに対し、我に帰ったジョシュアが静かにつぶやく。
それは先ほどの総力戦で、全ての戦力を消耗したということだろうか。

「今は俺たちだけが、コイツをブチのめす権利を持ってる」
「それを誰にも譲る気はねェ」

否、狙撃や奇襲などといった戦術は、既にジョシュアは放棄している。
それはこの場に立ち踏みとどまった越境者にのみ許された、報復の剣の柄を離すつもりがないという意志の表れだった。

>>555
「こっわ……怒ってんの?」
「あの半人を始末した時は、本当に気分が良かったな……全ての真相を教えてやった時にさ、アイツ……くくっ」

これまで無惨に食い尽くされ、潰され、唾棄されてきたいのちの輝きの全てを偲んで。
ニアから吐き出されたこれまでの全ての集積を、ALICEは単に一笑に付す。
そしてニアによく似た半人、タェンティースに全ての真実を明かしたとき。
彼女の反応は今でもよく覚えていると、愉悦に浸った甘い記憶を思い返す。

「オマエもきっと、そうなると思うよ」

言い渡される絶望の宣告。終焉は近く逃れることは決して出来ない。
全ての世界が繋がり、混沌とした惨状が出来上がって行く中で。
彼女の姿は神々しくも、やはり禍々しい。

557家路 ◆4J0Z/LKX/o:2023/01/07(土) 23:01:09 ID:VPRxOb2w
>>ALL
「……君はやりすぎた……せめて、これ以上の罪を重ねないで貰えないだろうか……フィーン」

少女ニュクスの姿から妻の姿へと成り代わったALICEの前に、ダグラスは傷だらけの身体を引きずって立った。
右手に剣を、左手に盾を。授かりし能力は【勇者】、無限を象ったその刀身は、決して折れない心の有り様。

「それは無理な相談だね、ダグラス……君が私を生み出したんだから。妻を生き返らせたい一心でさ」
「だから私はこの手で君を殺す。その後是非もなく、全てを滅ぼすよ」

劣等はそれを拒絶する。生前のフィーンはひ弱なれど心優しく、それがダグラスの心を解いた。
けれど娘を産んで三年が経つ頃、戒血の呪いによってミスカの両親と同じく命を落とした。
心の支えを失って正気を失ったダグラスは、フィーンの亡骸を抱え、復活の手段を求め越境した。
そして辿り着いた先で生まれたクローン実験の果てが聖人、そしてオメガの誕生である。

故にALICEはダグラスの提案を受け入れることはしない。
自らを理不尽に生み出し、理不尽に捨て去って逃げ去った男の言葉を。

「語るべき言葉も、最早無いという事か…………では、滅びよ」

「滅びンのはお前だよ、バァーカッッ!!」

言葉による説得に応じないのであれば、ダグラスはALICEを殺す他なかった。
弓を引くように剣を構え、氷のように温度のない声色で、悲しげに言い放つ。
対するALICEはダグラスを滅ぼすのを待ちきれないといった様子で、嬉々として叫んだ。

「君達には申し訳無いが、私は妻を……オメガを殺す」
「私は私の責任を果たす……刺し違えてでも」

口火を切ったのはダグラスだった、飛び掛かり剣による一撃を放つ。対するALICEはそれを受け止める。
お互いの一撃が交差し、次元に歪みが生じ空の亀裂がさらに広がる。恐ろしい力の交錯。世界の修正力は最早役目を果たせていない。
究極の力を手にした越境者達であれば、存分に、十全に、最高の力を発揮できる筈だ。

【世界同士の交差により、修正力が消滅】

558ニア・シューペリオリティE.二振りの月光:2023/01/07(土) 23:37:16 ID:???
>>556
「怒りもしないでっ…」

ダグラスの悲痛にも勇ましき突撃と共に、ニアは駆けた

「ひとのこころのうつろうさまを、嘲笑う事で…!!!」

自然界の真理の改竄に
覚醒せし混沌の睫毛の合間に
色彩の鐘の歪められた響きの上に
抗う為に。拒み挑む為に。…そして、希望へと歩み続ける為に!

「高みに登り詰めたつもりかオメガ・インフェリオリティ!!!」

飛翔!オムニ・曼荼羅が異世界の色彩に輝きを放つ!
神秘の恐怖に染まり沈む太陽!ひと群の猫が奮い立ち猛ける木立!未聞の燐光放つ霊気の循環の迸り!
多様性を極めた世界のエネルギーの数多をその帆に受け!すべてを己のエネルギーとして変換しているのだ!
ニア・月光が青白き煌めきを宿す!

「せ、エェェェッッッッ!!」

弓張の構えからの鋭く素早い、そして漆黒の稲妻を纏いし刺突!
停止も踏み外しもない!引綱も寄るべき港も!そのたましいは自由に!不滅の陶酔に満ちた大河の渦中へと漕ぎ出すのだ!

559又ジ ◆P2bEA4mHeU:2023/01/07(土) 23:41:11 ID:???
>>556-557
「それでも、お前よりはマシだよ」
「いや、同程度か。誰からも求められないお前と、誰も残せなかった俺と」

侮蔑に返すのは涼しい微笑一つだ。謂われずとも、既に理解しているが故の自嘲だ。
哀しみも、憎しみも、決して血では洗い流せない。ただただ哀れな獣共が暁月に吼えるばかりだ。定められた演目に従い、決められた流れに沿い、沈むだけ。
全てが失せた果て、奈落の底で立つ者に、もう何もない。それは彼と言う人間の精神を示すかのように渇いた残骸だけでしかない。

天使たちは堕ちて燃え、唯一の居場所である地獄から消え去った。幾ら嘆いても立ち止まる事の出来ない明日への道を舗装し、唯一の舞台から立ち去った。
では彼女はどうか。何を求め、何を望み、何に飢えたのか。それは果たして全てを敵に回し、全てを破壊してまで手に入れるべき物なのか。
同じだ。全て同じ虚無でしかないのだ。彼だけが見出した真実は、その全てに対して『言える事は無い』と告げている。
怨嗟も、悲嘆も、全てが削がれたからこそ謳える物がある。 鮮血の口紅の下、吊り上げた笑みは慈悲を宿してすらいるように見える───ある意味では、究極の悪意であった。

「心配するな。ゴミ箱にお前の席を用意してある」


「ハッスルするじゃんね。もう夫婦喧嘩か?」

ダグラスが動く。空が割れる。力の交錯、一つ一つが世界を揺るがしかねない破滅の衝突。その余波がコートを暴れさせ、鬱陶し気に翳した腕で砂塵をどうにか防ぐ。
ジョシュア達はニュクスを救いたい。ダグラスはオメガを殺したい。辿る道は同じでも、最後に辿り着く場所は一つのみ。ではどうする。何をする。

「ティップ、タピティタピティタップ。お手を拝借」
「これが最期だ、攻勢(ギア)アゲてけよお嬢さん方──────」

───赫い軌跡が世界を駆ける。死の幾何学模様が大気を抉る。世界の壁を越えて以来、中々感じられなかった感覚。己を守護する、あるいは縛る“何か”の消失。
視よ、バチバチと弾ける紫電を足場にした大地と瓦礫に残し、色付きの風と化した死の白い影を!聴け、世界の法則にすら牙を剥くが如き猛々しき躍動を!
改造と置換、狂気と正気、荒れ狂う“暴”の化身たるそのサイボーグは、爛々と語る目で物語るのだ。このバカ騒ぎの閉幕を!

「──────右!!!」
「左!!!」

SMG掃射!右手の銃口が狙うのは剣を受け止めるオメガの手!更に、連射!身体を捻った半回転、左手の銃は続けて食い破ろうと迫る!
薬莢と切れた弾倉が転がる中、まるでオペラ盤か演者がやる様にその場で回転回避!予測される攻撃への先手を打った対応と、鉄条網によるリロードの隙を殺す動き!

「戦う相手を間違えたな!!!」

轟音!乱射!大仰なマズルフラッシュに相応しい、獰猛な掃射が狙うのはオメガの胴体!それが二丁分!
人体の肉を抉り骨を破壊し、ミンチにするだけの威力がそこにはある。ニュクスの命を諦めているのもあるが、それ以上に“この程度で”終わるとは微塵も思っていないからだ。
硝煙が世界の砕ける様と混ざり合い、消えていく。甲高くガチャガチャとしたクリック音がこの死の突風の終幕を告げれば、躊躇う事なく投げ捨てた。ここからは、こんな小細工通用すまい。

560イムカ・グリムナー【最善への希求:2023/01/07(土) 23:43:33 ID:???
>>556-557

「ニュクス、まだそこにいるのか?」

 イムカの後ろ腰が熱い。終焉の遠未来の聖遺物たる憤弾短銃が目を覚ました。
 灰色の金属の塊に過ぎなかったはずのそれは既に色味を取り戻し、黄金と真紅の魔風を放っている。
 聖遺物は既にオメガ・インフェリオリティを、神なりし皇帝陛下に仇なす逆賊と見做していた。

【イムカの墳弾短銃――『クレイトスの憤怒』がALICEと共鳴する!】

(待て…)

 聖遺物は既に敵を定めた。帝国の敵を。ならば、イムカは上級政治将校(ロード・コミッサー)として履行せねばならない。
 敵の殲滅を。今まで一度も怠った事は無い。普遍的かつ絶対の教義。敵なら、殺せ。

 ―

 我等は、我等が望む場所へ赴く。我等は、我等が望む敵を屠る。

 我等の行いが正義か否か、それは皇帝陛下がお裁きく□__

 ―

(待ってくれ…!)

 嗚呼、つい先程にジョシュアに偉そうに言った言葉はなんだったのだろうか。瞬く間に言葉の刻は過ぎ去り、闘争の刻に到らんとしているというのに。
 イムカ・グリムナーともあろう者が、今や己が網膜に流れる祝詞を必死に抑え込んでいる。何たる怠慢、何たる予断であろうか。

「ニュクス!まだそこにいるのかッ!?」

 ダグラスの事情も謝罪も、フィーンも、何もかも知った事ではない。
 全ての事象を鑑みられる程に全能になった覚えは無い。イムカは『ラヴィニス』の望むままを言葉する。

 それは臓腑を吐き出さんばかりの叫びだった。

 ―

 皇帝陛下の御言葉は帝国の法なり。

 皇帝陛下の御意思は帝国の力なり。

 皇帝陛下の祝福は帝国の光なり。

 ―

 もはや、イムカにも聖遺物を抑え込むなどという越権行為は限界だった。

 平和は無い。休息はない。赦しなどあるはずもない。戦争だけが残ったのだ。知っていた、知っていたはずだ。
 ――それは終焉の遠未来だ。ここじゃあない!!

「ニュクス!ママが迎えに来たんだ!何時まで好き勝手にさせておくつもりだッ!!」

561イムカ・グリムナー【最善への希求:2023/01/07(土) 23:53:16 ID:???
>>546>>557

【???】

「………」

 鈴虫の眼前のあるソレは凡そ人の容を保ってなど居なかった。
 ソレは言葉を発する事はない。声帯などとうの昔に喪失して久しい。

『えーっと、やっべ、どちら様だったデス?うーん、思い出せねーデス。
 しかし、なんというか、ごく潰しが服着て歩いているみたいな…えっ、こんなんとα-12知り合いデス』

 その男は何やら馴れ馴れしかった。揺らめく炎が掴まれる。何故か悪い気はしない。
 思い出せない。大切な何かだったはずが、全く思い出せない。そのことが悲しかった。
 そして、まだそんな部分が『自分』に残っていた事が――

「………」

『あー!!とりあえず旅は情けで世はウキウキデス!ついて来やがれデス!!』

 ワールドクロス現象は既に起こっている。千載一遇にして唯一無二の好機だ。
 亀裂は既に見出した。ゲートの解放を待つまでもない。亀裂を引き裂き、横合いからぶん殴る!!

「………」
『そこの、えーっと、ごく潰し!ちょっと下がってろデス!今、ぶっこみかけるデスよ!!』

 その揺らめくナニカ――『狩人』はゲートに見出した亀裂に四本の黒剣。月光を突き立て、力任せに抉じ開ける!!

『今、いくデスよ!みんなッ!!』

【何もなく、全てがある空間が流星のように瞬き、そして――】

562家路 ◆4J0Z/LKX/o:2023/01/08(日) 00:23:51 ID:VPRxOb2w
>>ALL
「だから、何言ってんの?」

怒り狂い猛るニアに、悲痛な叫びを上げるイムカ……否、ラヴィニス。
そのどちらもを一蹴し、ダグラスの一撃に戦闘態勢を取ったALICEがついに動き出した。
肉体の中心を起点に、赤い線状の光が走査状に走る。まるでジョシュアがグリードに支配されていた時の様に。

「私は皆よりも劣ってる、それは事実だよ」
「身体能力も、大した異能もない……でも、この身体はそうじゃない」

ニアの月光による渾身の刺突を片手で刀身を掴み、受け止める。
ダグラスとニア、互いの攻撃を受け止めた両手を交差させれば、"反抗不可の剛力が親子の身体を激しく衝突させた"。
修正力による庇護が消えている。ALICEの攻撃は時として運命を決定付ける程の力を持っているようだ。

「弱者が強者を犠牲にして生き残るのが、世界なんだから」

吹き飛んだニアとダグラスを尻目に、ソーマタージの攻撃に反応。
しかし繰り出される弾幕の前に身動き一つせず、その身体が胴体から真っ二つに千切れ飛────

「がッ…………!!」

"んだと思われたけど、なんとそれはジョシュアの身体であった"。
銃弾を浴びたのはジョシュアだ。穴だらけとなり、血反吐を吐きながら倒れる。
先程から妙だ。何かが起きている。ALICEは明らかに現実世界への干渉を行なっている!

「アハハハッ……!!気分がいい……これが至高の……アリスの味わっていた力!」
「あれだけの聖遺物(アーティファクト)をキミ達に集めさせた甲斐があったってもんだ!」

かつて虚構の世界と現実の世界を繋げたという至高の少女。人為的な模倣とはいえ、その本懐を果たすALICE。
ギラリとその瞳が巨悪の色を滲ませる。"背中の翅を振り乱して真空の刃を発生させ、ソーマタージの首を"

「…………あ?」

高次元への介入、約束された死の運命。絶命に至らしめる攻撃を行おうとした直前に、その動きが止まる。
肉体が固まり、言うことを聞かない。ALICEは……オメガは、何が起こったのか分からないといった表情だ。
そしてもう一度響いたイムカの叫びに、困惑の表情を浮かべるALICEの目から一粒の雫が転がり落ちて。

「……………………ま……ま……」
「────ッ!、きめぇなッ!!」

自分の口から出た言葉が信じられないといった様相で、ALICEは自らの口を塞いだ。
明らかな焦燥。封じられた感情の主を越境者は知っている。

────助けて、ママ────

「チッ……まだ自我があるなんてね……しょうがないなあッ!!」
「至高の力が手中にある内に、この世界全てを統合するッ……!!」

飛び上がり、越境者から距離を取るALICE。両手を天へと振り上げてそのまま地へと叩きつけた。
すると異変は遂に臨界点へと達し、地面からは次々と巨大な水晶の塔が天へと向かい聳え立ち始める。
その一つ一つが街よりも大きく、どこまでも伸び続け果てには雲の向こうまで延びる。

「────あの光景を我々は見たことがある……終わりだ」

「だが、立ち止まっている暇は無い……加勢するぞ、ドク」

眼前の光景を見てドクは崩れ落ちるほか無かった。恐れていた事態が起きてしまった。
それは過去に至高の少女が顕現した時と同じ……世界の終焉、歪んだ世界(ワンダーランド)の始まりの儀式である。

この世界を中心に崩壊が起こっている。全ての世界が一ヶ所に集まり、重なって崩壊を起こしていた。
消えてゆく世界は崩壊の中心、特異点となったこの世界に統合されるだろう。

すなわちこのたった一つの世界が残り、絶対時間軸(セイクリッド・タイムライン)が誕生するのだ。
絶対時間軸では全ての可能性が潰え、観測された事実のみが全てである。異世界や多元宇宙という言葉は存在しない。

//一旦返信します、ロイさん来たら個別で返します

563イムカ・グリムナー【最善への希求:2023/01/08(日) 01:01:51 ID:???
>>562

「…ジョシュア、聞いたな。ならば、さっさと立て」

 穴だらけいなったジョシュアに目線をやった。そこに動揺も心配も一切無い。
 ただ、さっさと立って行動を再開しろ。その意思のみが存在する。
 寝転んだままの怠惰など許容などしていないし、その程度で戦死する許可を出した覚えもない。

「ニュクスが居た。助けを求めている。十分だ。後は戦いの中で見出すしかあるまい」

 イムカ・グリムナーは勝算の無い戦いはしない。そして、どうやらか細くも勝算はあったようだ。
 助ける――これがどのような方法と結末を意味するか、それは未だに解らないが――やるしかあるまい。

 
 ――― 汝が聖具は汝が魂を映す鏡。そは汝の魂が形を為したるもの ―――

 ――― 戦士の魂 人類の盾 ―――


 ――― 汝、聖具という死の権化を祀り奉じよ ―――

 ――― 皇帝陛下へ 無上の帰依を ―――


 ――― 死したる戦士らの聖具に誉れを ―――

 ――― 我ら求むる 奉公のみを ―――


 美しくも禍々しい水晶の塔が幾つも大地を突き破り、天をも貫く。そのような世界終焉の光景の中で、ついに聖遺物は覚醒する。

「―――!!」

 完全開放された聖遺物:クレイトスの憤怒はそれそのものが魔力炉となって、黄金と真紅の二重属性の魔風が吹き荒れる。
 イムカに魔術を行使する能力は無い。それゆえにその魔風は只管にイムカの能力の開放と聖銃そのものの威力に注がれる。

「クレイトスの憤怒、待っていてくれたのか?」

 イムカはオメガに墳弾短銃を向ける。ALICEでもない。ましてやニュクスでもない。オメガに対して、だ。
 そして、このような情勢となって、尚更に、己が予想…否、確信している事を告げる。

「オメガ・インフェリオリティ…事の是非は兎も角、貴様が行おうとしていることはある種の偉業ではあるのだろう。
 これほどの規模のワールドクロス現象など滅多に見られるものではないからな」

 そう、大業には違いあるまい。どれ程に愚かであろうが、荒唐無稽であろうが、それを為そうとして、為しつつある。
 崇高な願いだろうが、凝り固まった感情の発露だろうが、それは認めなければならない。だからこそ――

「だが、偉業には澱が積もるものだ。それは因果を生み、憎悪を齎し、貴様を雁字搦めにする」

 それは、神なりし皇帝陛下ですら例外ではなかった。それゆえに、オメガ・インフェリオリティが例外であるなどとは!!

【イムカの断言に呼応するかのように、突如空間に亀裂が奔る。ALICEの力が振るわれたからこそ、空間が撓んだからこその――絶対無二の好機!】

「さて、貴様の因果がやってくるぞ。何がくるかな?」

//続きまする

564イムカ・グリムナー【最善への希求:2023/01/08(日) 01:29:08 ID:???
>>558>>559>>553>>562

 ゲートが抉じ開けられた時、それはガラスが砕け散るような音に似ていた。空間を引き裂き現れたオメガの因果に対する報い。
 他の世界線ではない。この世界で数多の仲間を失い、姉を失い、失い、失い、失い、失い、

「………」

 境界線を引き裂き、出現したのは―――かろうじて人間の輪郭を保っているようなナニカだった。

「………」

 それは炎羅だった。人間の容のような焔だった。強大な才能が何もかもを闘争の業火に焼たなれの果てだった。
 炎は瞬きすれば、臓物の塊のようになり、一瞬すれば、また炎に戻る。

【生命体と呼ぶ事すら憚られる現象。そうなる寸前の辛うじてまだカタチ保っていた】

「………」

 それは――『狩人』の精神活動は既にほぼ停止している。本能と宿願、そして絶大な戦力以外は全てが灰となった。
 だから、付随する意思らしきものも、ただのうたかたの夢。あるいは妄想にすぎないのだろう。

『デースデスデスデス!真打ち登場!つ・い・に!見つけたデスよ!――ぶっ殺してやるデス!!』

 実存さえ曖昧な炎羅の人型となった『狩人』は、触腕らしきモノを伸ばして四本の月光を引き抜く。
 さらに、両の腕(らしき部位)からは、特殊殲滅式斬突刀:陽光。そして、アラクレームの赤き刃。

【半人にかつて譲渡されたはずの赤刃を何故、この炎羅が所有しているのか。それは想像に難くない。こうなり果てた理由もまた】

『ああ、懐かしい顔が沢山デス。まったく大遅刻デスよ!!ぷんすこデス!!
 ――あの中の誰かが姉様のはずデス。だ、誰が…デス。ああ、やっぱりもう駄目なんデスね』

 最早、『狩人』には誰が誰だったか判別など着かない。何も覚えていない。奇妙な懐かしさという妄想しか残っていない。
 だが、それで十分だ。この奇妙な残照があるならば、それでもう報われている。

「………」
『どうやら、あの中に小さいのもいるデスかね。当然、あのクソッタレだけぶった斬る。いけるデスか』

 炎羅が揺らめき――次の瞬間、否、零が壱に到る遥か前に六連斬が振るわれる!!
 呼吸をするように自然に、当たり前のように振るわれたその斬撃には銘がある。

 それは隔絶した天才による術理。敵対者の認識の遥か彼方で振るわれる絶技たる一閃。

【余波のみで空間に六つの亀裂が刻まれ、流入した幾つもの情報の風が魔力として吹き荒れる!!】
 【その術理の銘はアブソリュート・ゼロ。かつて零閃と呼ばれた剣だった――】


「なるほど、こういう事になるか。馬鹿な子だ。なんてザマだ」

 クレイトスの憤怒の一射を見極めながらも、イムカはそう口にせざるを得なかった。

【そのあまりの在り様に、そのあまりの戦力に、そのあまりに哀れさに。イムカに湧き上がった感情は高揚とは真逆のものだった】

565又ジ ◆P2bEA4mHeU:2023/01/08(日) 14:31:07 ID:???
>>562
受けるか、躱すか。弾丸への動きは想定されていたよりもずっとひどい物であった。
確かに喰らい付いたはずの弾雨、しかしそれは敵の身体ではなく、共に立つ者の身体を穿つ!
催眠術(ヒュプノス)?瞬間移動(テレポート)?どちらも違う。狂気に落ちたからこそ視える世界は、絶対と言うべきではなくとも確かに正確であった。
彼が血反吐を散らして倒れるのはいつもの事だ、今更動揺したり、焦燥するなんて事はしない。 この敵の権能の正体に舌打をするぐらいはするが。

「現実改変者(リアリティ・ベンダー)……ッ! そこまで万能じゃないらしいな、俺らがまだ生きてる」

望むままに、願う通りに、世界を作り替え運命を捻じ曲げ結果を改変する。異能威力者の中でも極めて強力で性質(タチ)の悪い手合い。
それが人為的な模倣であるからなのか、問答無用で命が潰えるなんて事は無かった。それで安心出来るかと言えば、勿論『否』なのだが。
撃てど、斬れど、届く未来の無い対象。躱せど、逃げれど、隠れる事の出来ない終演。むしろ、完全に存在を消し去られる方がずっと楽だったかもしれない。
挑発じみて皮肉を漏らす、その不遜の代償を押し付けるかのようにヒリつく予兆が首筋を通過する。いかな行動も認めない、絶対的な死───


「──────ガッチャ、やっぱいるんじゃないの。 お前の身体は理解しているらしいな。こんな事、意味は無いし長くも続けられないって
 だーかーら、なんでガキ一人御せない無能が、俺ら前にしてそう強気でいられるんだっつってんだよ」

「うっかり殺すのが一番早かったんだけど、それナシだな。あー面倒臭い、引っ張り出す手段に心当たりは──────」

零れる雫、口から溢れる自我。血の化粧の下で殊更に口元を歪めてソーマタージは嗤う。全能を気取り、万能を操れど、叶えられぬ物はあるのではないか!
そびえる水晶の塔は、世界という殻を破ろうとする胎動なのか。 崩れ落ちるドクにチラと視線を向けて嫌味か皮肉を投げかけようとした口が噤まれ、獣の様に鋭く亀裂を睨む!

現れ躍動するモノ(>>564)は、生命と呼んでいいのかすらもあやふやだった。失い、喪い、取りこぼし続けた果て。闘争に身をやつして整えた才能の刃。
彼の眼はその怨嗟の塊が一瞬、寄り集まった臓物と認識してしまった。 目を擦り、再び見れば変わらず立つのは激しい焔。地獄の業火が人の姿を真似たかのような。
正気を削り、理性を砕き、恐怖を煽るようなその姿。悲しみや憎しみが消せるわけがないというのに、求めて焦がれたからこその悍ましき様なのか。

「──────お前も、か」

輪郭さえあやふやな、六本の腕と刃!零が壱に至るまでの時間、那由多の果てに振るわれる六連撃!神話の如き鮮烈な攻撃を前にしたソーマタージの心に去来するのは、困惑でも恐怖でもなかった。
瞬き程の刹那、目を伏せて静かに呟いた言葉はその暴風めいた剣技と魔力の中ではか細すぎる。それでいいのだ。今更同様に至って“しまった”者に何かを向けるなど、烏滸がましいにも程があるのだから。

566又ジ ◆P2bEA4mHeU:2023/01/08(日) 14:32:06 ID:???
「イメチェンしたか?負けてらんない」

故に狂人は己の成す事を遂げるのみ。翳した手がギリギリと音を立てて握られていく、拳の内にブラックホールを作ろうとするかのように。
呼応して大気中を駆け巡り、一点に収束していくのはオメガ・ファシリティの電力!エツィオとの交戦で施設に残存する電力は粗方見えたのだ、利用しない手は無い。せっかくの全力を発揮出来る機会なのだから。

──────Lascia ch'io pianga

アポカリプティック・サウンドに負けぬよう、ヒビ割れ砕けつつある世界が謳う。
ソーマタージの脚元より湧き出て亡者を形成する鉄条網は、彼の皮肉めいた名を体現しているのか。

──────mia cruda sorte,

全ては虚無であり、世界とは虚しい物だ。何度も打ちのめされた聲が言う。何度も見てきた終幕の否定など出来るはずもない。

──────e che sospiri

───それでも、これは“違う”。終焉を謳うのは諦念と怨嗟であり、だからこそ醒めた夢の残骸は認めない。
絶対時間軸の統合、全ての可能性を否定するなど。全ての世界を収束させるなど。
自分達が確かに生きていた、焦がれた願いをなかった事にはさせないと。

──────la libertà.

だからこそ、狂人は高らかに謳い上げる。苗床と化した自我は自由を求めながら永劫縛られた路を往き、その過程に立つ者を憚る事なく打ち倒す。
贖罪。放免。解放。再会。再開。再演。決着。 薄っすらとした、稚気じみた望みは羨望と怨毒の破滅なれど、こんな物であってはならないのだと。

全身に張り付いた筋繊維めいた装甲の隙間、怖憚るべき絶対的な出力で、赫は足場とした水晶をその質量と速度で砕かんばかりに加速しながら、真っ直ぐに宙を駆ける。
ニアやイムカ、乱入してきた慣れ果ての様に特別な装備や技巧(スキル)を持つわけではない。アキレスの様に状況をひっくり返すだけの特別な何かも持ち合わせていない。
ジョシュアやダグラス、ドクやアリーの様に何かしらの因縁などを持っているわけでもない。言ってしまえば、付き合いが何時の間にやら遠くに来ただけの立ち位置。
───それでいいのだ。今なら理解出来る。求めていた物が得られない事はとっくに分かっていたのだから、それを認める代わりの歩む徴が在るのなら。

「──────麗しき春は来たれり。いざ愚者の饗宴を開かん!!!」

轟ッッッ!!!キャノンボールめいた突撃を敢行するその姿は、刺々しい鉛色の悪鬼!片手に携えた刀の切っ先が胴を狙い、そのまま抉り抜ける算段!
それは、一部の者が扱う様な隔絶した技巧と最適化した肉体が叶えた魔法じみた剣技ではない。
妄執と妄念、人の内に澱む澱を燃料として突き抜け、空いた虚に廃棄物を堆積させながら尚も突き抜ける、人でなしだからこそ放てる人の剣!通常ならば、理解しても認識を許さぬ程の神速の牙突だ!

速度を殺すための赫い幾何学模様残光を大気に残し、オメガの背後十数mで静止する彼の両手には、何時の間にやら引き抜いていた二丁の拳銃。
スラスターめいて禍々しい“力”を噴出しながら滞空し、弾雨を吐き出すタイミングを異形の貌は覗き込むようにして窺う。 皮肉めいた嗤いはALICEに───オメガに、そして分かり切った者への侮蔑であった。

567ニア・シューペリオリティE.二振りの月光:2023/01/08(日) 16:05:33 ID:???
>>562-566
----------

【ソレは、死の都度に新たなるソレとして発生する事が判明した】
【ソレを滅殺する為に幾多の試行があり、やがて死を封ずる事が決定される】
【ソレに取っての死を解した。即ち、思考の停止】
【ソレは最小単位として保存される。今も、この時も…薄暗がりの奥底で】

『………………、………』

満ちた液体にゆらぎと、気泡が生み出された
浮かぶ脳と脊髄は微かに。しかし確実に
何某かの電気信号を発していた。永劫とも紛う思考の渦の中で

----------

「ッッッ!!!」

ニアは咄嗟!触腕の多くをダグラスと己の合間に挟み込み衝撃を大きく緩和させた!
しかして反動!吹き飛ばされしその体躯!宙空にて転じ、オムニ・曼荼羅で風を掴み滞空!
顔を歪めて睥睨する中で!その赤い月を宿す炎修羅を視た!

「…トゥエルブっ!!鈴虫ぃっ!!」

瞭然!見開いた赤眼に宿る内なる光!
上天を貫くかの如き禍水晶!亀裂より出でる未知なる物々!何よりも絶対なる終焉の予兆!
千の亡者の断末魔よりも尚も尚も恐るべき、それは失意と落胆の黄昏に尽きる!
しかし!しかしだ!それだとしても!
打ちひしがれ、絶望に翳り、俯き無力に両の手をポケットに沿わせる事を誰が強制したと言うのだ!

「ご無沙汰しています、ってんですねぇっ」
「…もう、駄目なんて事はありませんってんですっ…!!!」

これから先を!これより未来を!今を斬り裂き、掴み取る事を!
刹那!全身の力を抜き、脱力!直後に来るゼロの境地!
オムニ・曼荼羅より供給されし不可視のエネルギー!そして体内に取り込んだ半人のソウル!己が精神の最昂揚!
すべての要素を奔らせた!両手に携えし漆黒の月が、それに応じぬわけがない!

「…ライトニング・ゼロッッッ!!!」

後の先!それの完全究極完成体!
涯の才気の残滓たるソレの司る六の閃きの、かつて半人が振るいしその姿!零閃!
冥界が口を開き迫る中で!立ち並ぶ羅刹諸共打ち払い続けた抗いの剣!太陽を掴む為の指先!天空へと誘う自由の翼!
言葉は不要だ、手の握りや或いは抱擁すらも!人々の涙や体温…これらは喋り思考などしはしない!
それでいて気持ちはよく分かるし、恋人の足音は甘い言葉よりも余計に嬉しい!
思えば人は星にまで名を付けてしまった!彼らは名など必要としていないことを考えもせずに!
美麗なる彗星の嵐は彼らが闇夜に通る時間を明らかにしてみせる数字のせいでわざわざ姿をあらわすわけでなど、決してない!!!
ならば!たましいを伝えるのに必要なモノなど知れていよう!

「アキレスっ!!鈴虫!!!合わせてッッッ!!!」

トゥエルブの零!ソーマタージの牙!寸分の狂いや誤差、或いは逡巡すらも無く!
灼月色の大地に颶風!銀の飛沫を纏う波濤の群れを呼び覚ますがめいて!
両の月光は駆ける!大気にプリズマム・プラズマの七色の軌跡を描きながら!!!

568かぶり ◆qg2zP.O3iQ:2023/01/08(日) 21:17:44 ID:???
>>556
嫌な笑みを浮かべこちらを蔑むALICEであるが それに対して否定も肯定もせずただ睨みつけるのみ
別に怖気づいたわけじゃないし ロイやジョージを殺した事実を怒っていないわけでもない

アキレス「分ってる・・・でも・・・」
アリーの提案にも言葉を濁すのみ なぜか? それはイムカの言葉だ
イムカが あのイムカが敵を前に滅することを躊躇してまで呼びかけているのだ 自分がそれを無視して攻撃するわけにはいかなかった

>>561
【???】
鈴虫「なーにきょとんとしてやがるチビガキ えぇ?」

鈴虫は人の容姿を保っていない『何か』に対し あの頃の容姿からほとんど変わっていなかった
白髪交じりがすっかり白髪になり 刻まれた皺は老齢と称するに十分な程 そして醜い傷跡が縦横無尽に走りながらも
それは紛れもない日tの姿であった

鈴虫「おぉ行くぞチビガキ さっさと殺し間にいこうぜ  俺は気が短いんだ!!」
『何か』がこじ開けた亀裂に 飛び込んでいく

>>563-564>>567
イムカが呼びかけ続け・・・ニュクスが応えた

―――ギィ!!
アキレス「よし・・・やるぞベティ!!」

ニュクスが助けてと答えたのだ 自分の目的が決まった

そしてゲートの亀裂をこじ開けて 人の形を亡くしたα-12と 老齢と化した鈴虫がダイナミックエントリー

鈴虫「ッハハア!!!!」

狂奔の笑みを浮かべ どす黒い殺意の炎を上げた鈴虫が駆ける その速度はすでに神速の域に達し
抜き放った仕込み杖を六刀と 零の閃光とそん色なく突っ込んでいく

アキレス「ッ!!」
その間 アキレスは走っていた 青き霧を足に纏い 回り込むように

そしてみんなが突撃するコンマ数秒遅れてALICEに突撃を敢行する
なぜ遅れたのか? 否 これは遅らせたのだ

ほんの少し遅れて銃を構え

アキレス「ッ!!!!!!」

突如として膨れ上がる存在感 意図しない方向から現れる 強者の気配

<偽・強者の気位(イミテーション・オーラ>

仮初の気位をもってALICEの気を逸らし 仲間への援護をすべくALICEに相対する
それが じぶんの お世辞にも戦士とはいいがたい実力の自分のできる 精いっぱいの援護

569家路 ◆4J0Z/LKX/o:2023/01/08(日) 23:16:53 ID:???
>>ALL

「勿論です、今────────っ?」
「何だ……?」

イムカの呼び掛けに応じ、肉体に穴を開けたままジョシュアは立ち上がろうとする。
が、その膝から力が抜ける、ガクンと崩れ落ちてそのまま、震える右手がチリの様に崩壊を始めた。
己の肉体に生じた変化に戸惑うジョシュアを見下ろし、オメガが愉快そうに唇を吊り上げる。

「あーあ、迎えちゃったようだね……限界を」
「キミ、まだ自分がジョシュアだって思ってんの?」

「キミは特別じゃない、ただのグリードの一個体だ。その姿はあの男の死体をコピーしただけ。記憶も、感情も……」
「人間食わなきゃ五感が無くなったりしてたろ?グリードって馬鹿だからずっと喰ってないと忘れるんだよ」

オメガは語る。人間としてのジョシュアは人工島の争い、ジャスティス・クロスにて死んだ。
宇宙空間でグリードに襲われた輸送船に載っていたジョシュアの死体をグリードが捕食した。
そして出来上がったのが火星で戦った兵士型グリード、すなわち……今皆にジョシュアと呼ばれている個体であると。
ジョシュアはそれを聞き入れながら、残った左手で地面を叩く。握りしめた拳が徐々に熱を帯びる!

「……ああ、そうかい……偽物で、クソッタレのコピーで悪かったな」
「それでも俺は────"俺"だ!!」

【ジョシュア:究極技能発動】
【EXOSCALE EXECUTE】

再び立ち上がったジョシュアの身体は、ALICEと同じ……黄金の光で形成されたものだ。

「感謝するぜ、俺ァ自分の内側にある衝動に従った時、人間を辞めちまうんじゃねェかと思ってた」
「とっくに人間なんかじゃ無かったッて事だ、そりゃあ……」

オートファジー、キルスウォーム。呼び名は数多としてあるが、グリードの捕食形態を最終段階まで特化させたもの。
人間として、ジョシュアとしての自我を保つ。その執着を完全に捨て去り、ジョシュアはついに到達点へと至った。
光を帯びて再生した右手をALICEへとかざす。光が収束し……一条の暴となって放たれる!

「心おきなく本気が出せるってモンだろ、オメガァッッ!!!!」

遠慮や躊躇いなど、微塵も抱くことの無くなったジョシュア。"しかしまだ届かない。その一撃をALICEは片手で受け止める。"
自身もニュクスも、種族のベースは同じ。だというのにこの差異は何だ。ジョシュアはALICEを滅ぼす為ひたすらに思考する。

570家路 ◆4J0Z/LKX/o:2023/01/08(日) 23:17:38 ID:???
「全…く、揃いも揃ってギャアギャアと…!!」

怨嗟の黒炎により振るわれた零。全ての生命体の認識よりも早く六つの斬撃がALICEの身体を分断"するかに思われたが、それらは全て躱────"

「────────な、んだコレ……ッ!?」

威圧、至高の存在の威を借りていたとしても、操る者は劣等を名乗るただの人間。
アキレスの放つ強者の威光が、その思考を強制的に誘引(アトラクト)する。そしてその好機を逃す者はいない。
未来を、意志を、書き換えようとするALICEへ零はさらに振るわれる。生きるもの全ての願いを乗せて。
目にも止まらぬ攻撃は続く。
ニア、ソーマタージが続けて斬り裂き、鈴虫の一撃を以って完全に両断されるALICE。

「な……めんな……、オオォヲヲォォオオッッッッ!!!!」

瞬間、咆哮。おぞましい叫びを上げて二つに分たれたALICEは白目を剥き両肢を震わせる。
呼応し砕け散る次元。まるでガラスの雨かのように天より無数の破片が降り注ぐ。その一つ一つが鋭く、重い。

"今、全ての世界が統合された。帰るべき場所も、故郷も。もはやここ以外には何処にも無い"。
越境者にとって、此処だけが世界の境界線となった────。

近付く滅びの足音。しかしその中でジョシュアは、ただ己の思考の果てに一つの結論へと辿り着いていた。

「……記憶だ」
「暴力は……ALICEを止めるのに、力は必要ない……」

「ハァ……ッ……ハァ………」

"息を切らし空へと浮かび上がり、再生を果たすALICE。傷は癒えてその肉体は元通りとなる"
だが無駄ではない。再生のたびに徐々に肉体の支配権を失いつつあるオメガは、焦燥を感じていた。

息を切らし胸を抑えて苦しむALICE。それは追い詰められたオメガの意志ではなく……苦しむニュクスの行動だ。
ニュクスは今戦っている、内側に住み着いた巨悪と。植え付けられた苦々しい記憶と。
肉体の限界が近付く中でニュクスを取り戻す為には、暴力というものは手段の一つであり画一的な答えではなかった。

「ALICEを作ったのは記憶だ、オメガがニュクスに食わせたアーティファクトの力の記憶」
「そしてニュクスを操るオメガの記憶……あいつはもう、ニュクスに食われている……」

越境者によるニュクスの教育が行われていた間も、オメガによる悪辣な実験は続いていた。
数多の世界のアーティファクトを摂取させ、その能力を記憶として取り込ませる実験。
そしてついには自分自身も。それこそがニュクスの身体の一部となり、彼女を支配することが出来た理由だろう。

だが先程オメガが口にした通り…グリードは物体の性質を模倣する生物だ。
そしてそれは永遠ではなく…忘れることだってあるのだ。

571イムカ・グリムナー【最善への希求:2023/01/09(月) 00:10:03 ID:???
>>569-570

「そうだな。そうでなくては」

 寝転んだままの怠惰など許容などしていないし、その程度で戦死する許可を出した覚えもない。
 当然、オメガが押し付けてくる真実とやらに膝を折ることも、だ。

【そういう意味では及第点、と言ったところか。評価が辛いのは甘やかすと図に乗るダメな男ゆえということで】

 そして繰り広げられる猛攻。α-12だった『狩人』の零の術理。そして仲間達の攻撃。
 それでも、それでも、だ。それでもなお、敵は空間を書き換えるほどの超常の存在。

「………」

 『狩人』にとっては砕け散った空間を更に断つ事は技量の範疇だ。
 六の月、一の赤、一の陽、ガラスのように砕け散った“実存”を剣閃が砕く。

【オメガの因果についに追いついた報いだ。これくらいはやってのける――が、】

「―――!!」

 イムカはそうはいかない。聖遺物が発する膨大な魔風を得ようと、遺伝種子により只人を越えていたとしても、
 彼女は絶人の域にまで到った存在とは程遠い。鋭い“実存”の欠片は強制強化されたプライマル・アーマーをいとも容易く吹き散らし、
 肉体に突き刺さったそれは、肉を裂き、骨に突き刺さる。

(心臓を一つやられたか。まったく――)

 それでも、イムカは微動だいしない。墳弾短銃の狙いを定め続けてる。好機をただ、ひたすらに。

「全世界全存在掌握(Alles ist aur meiner Hand)とは随分と過ぎた力だ。……奴に相応しいボルト弾。私に見出せるか?」

 イムカとアクセスするクレイトスの憤怒のマガジンは暗黒技術時代のロストテクノロジーとして弾薬鋳造機能がある。
 最大威力を齎すのは、半崩壊重力子を射出するヴェンジェンス・ボルト弾であるが、おそらくそれは解ではない。

【全身から血を流しながらも、微動だにしないイムカ。待っている、空怖ろしいほどの自制心で――】

「………」
『だーっ!ったく、しくったデス!!』

 己に向けられた実存を回避した『狩人』は重力の法則に従って落下。
 ストンというかベチョっと、(>>567)ニアの背中に貼り付いた。灼いてはいけないと炎が弱まる。
 灰となって久しい“自我”ではない。判断に確たる人格などは必要ない。“自明”があれば事足りる。

「………」
『あ、なんかスゲー居心地良いデスね。おんぶおばけみたいデス。たこみたいなおねーさん。α-12の姉様知ってるデス?――さて、どうしたものかデス』

 そして“自明”ゆえに執着が無く、次の判断に移行する。この状況自体が根源となる執着が為したものだが、その繋がりもう罅だらけでカタチを為していない。

「………」
『同化能力の逆流でマスター意識を上書きしたデスね。人格が未熟な子供だから…いや、そう仕向けた結果ってとこデス。
 今のα-12なら多分、対抗だけは出来るけど、小さいのごとぶっ殺しても、復讐にはならないデスね』

 復讐とは運命に対する決着だ。余計な不純物を入り込ませては、こうなり果てた甲斐が無さすぎるというもの。

「………」
『豊満でコワイな人には…如何にもダメ男が気付かせてくれそうデス。α-12だけじゃあ駄目、それなら、方針決定!出発進行デス!!
 ―――背中貸してくれてサンキュデス。何だか少し…デスデス、なんだろデス?』

 ニアの背中で二、三度、小さく赤くなった火がゆらゆらと揺らめき、一筋の涙を零すと、それは逡巡無く飛び立つ。
 飛び立って直ぐに、それは業火の如き炎羅に戻っていった。

//続きまする―

572イムカ・グリムナー【最善への希求:2023/01/09(月) 00:44:31 ID:???
>>570

 飛び立つ『狩人』を俯瞰視点の視界に捉えつつも、イムカはジョシュアの推測を聞いていた。
 肉体再生の度に、支配率が減少している。つまるところ――

「仮定と推測だらけだが、奴を構成する部分をニュクスが不健康であると見做してきた。
 再生――正常であろうとする働きが、奴の支配率を放逐に動き出した、というところか」

 決めつけもいいところだが、それで構わない。元より戦場の霧だからけの戦いだった。
 全知全能などになれない以上は、仮定と推測を積み木のように積み重ねていくしかない。

「ジョシュア、それは正しい。損傷により完全にオメガが消去されるまで攻撃する?
 それでニュクスが持つとは思えんな。当然、別のアプローチが必要にある。――奴に相応しいボルトは決まった。スカル!!」

 サーボスカルがイムカに深層に保存していたデータベースを開示。
 それは軍事機密でも何でもない。私事であり些事もいいところのただの映像記録の羅列。本質的には0と1の羅列に過ぎないモノ。

【それはニュクスとの映像記録(思い出)だ。お弁当を作り、乗馬を教えた。星の意味を教えた時には何故か不機嫌になった(ロマン皆無のイムカが原因)】

 ジョシュアはかつて、ニュクスを養育する際に、“戦争などのネガティブな知識は入れてはいけない”と言った。
 今思えば、それはオメガ・インフェリオリティからの言伝だったのだろう。純粋無垢な子供に態々、教えるようなことではないというニュアンスで。

「アレは忍ばされた刃…とんだ罠だったな。純粋無垢…書き換え易い状態を維持したかったということだ」

 全くの情緒や情動が無くては、それはそれで問題だろう。オメガが無感に呑み込まれる危険があった。
 ゆえに無感ではなく無垢を求めた。母親役のイムカとの交流を許可したもの疑似的な家族関係で情緒を育むため、といったところか?

「なら、人選ミスだったな。最初から教育方針が噛み合わん」

 そう、ジョシュアに告げられたネガティブな知識の禁止。イムカは教育ツールや言葉を用いて暗に拒否していた。
 ニュクスが観察されていることは解っていた。だから、時に迂遠に、時にニュクス自身が答えに辿り着けるように導いた。
 死を、戦争を、何かの犠牲の元で、それに感謝し生きていくということを。安易な記憶操作などされぬよう、少しずつ少しずつ。

【無垢が無垢のままで居て欲しいという欲求に従うのではなく、強く生きて欲しかったゆえに】

「完成した。安直だが…メモリーボルト弾とでもいうかな。思い出の一式を撃ち込んでやるさ」

 クレイトスの憤怒が鋳造したのは…破壊とは凡そ無縁のメモリーデータの弾頭だ。
 撃ち込めば、奔流となり流れるが、それそのものに意味はない。これ自体には意識を洗い流すなどという攻撃性は無い。

【だから全ては――ニュクス次第なのだ】

「皆、切り札は完成した!!任せたぞッ!!」

 イムカの指揮としての決然のオーダーが放たれた!

 ―――

「………」
『デスデスデース!!やべえモン完成!それじゃあα-12は――オラッシャああああッ!!』

 六の月光と一の赤、そして一の陽がオメガ自身ではなく、彼女の周囲を斬る!!
 全世界全存在掌握――そんなモノを力のままに振るわれては、堪ったものではない。

【それゆえに、その力の伝播そのものを断たんとする絶刃――無意味にすら見える一刀一刀が世界と世界の繋がりを一瞬であるが断ち切り、
 オメガの神の如き力の伝播を可能な限り阻止せんと振るわれる。概念と世界に対する斬撃と呼ぶべき剣だ】

「―――頑張れ。ニュクス」

 そして射撃の瞬間を見出したイムカに黄金と真紅の魔風が収斂され、遂に引き金が引かれた。
 ニュクスと培った思い出を容量限界まで刻んだメモリーボルト弾。

【我が子への抱擁(Sei umarmt mein Kind)】

573ニア・シューペリオリティE.二振りの月光:2023/01/09(月) 00:59:04 ID:???
>>570-572
「…記憶ぅ…?」

ふ、と想起するのは鏡映しの己の存在
アラズと名乗る姉妹は、ニアの記憶を持ってして産み落とされた
故に彼女は己をニアとして認知し、振る舞い…軈てすべてを知った
そうした絶望を経て希望へと歩み出した強さがあった
嵐の祝福。犠牲者を転がす波の上をまるでコルクの浮きよりも軽々と踊るような

「記憶はぁっ…時に、己を構築するたましいと直結します」
「…でしたらぁっ…、記憶そのものの与奪を試みる事に対しては…、ニアもっ、賛成っちゃ賛成ですけどぉ…!」

既に世界という世界に満ちた安葡萄酒の紫の染み。反吐の穢れと溺死体の蒼褪めた無表情
散り散りに流れ尽きた跡である。すべては塵。多元世界にあらず
歯軋りの後の逡巡。オムニ・曼荼羅の翼は不可視の風を捉え続けニアを致命の世界の破片より逃し続けている

「どーやってぇっ!?」
「…わたしに、そんな機能は搭載されては…!」

背に、体温。あたたかく、やわらかな
トゥエルブのそれを感じる事で、焦燥が領域を拡大していた精神の泉に凪が目覚め始める

「…ん。…よぉく知っていますよトゥエルブ。…」
「忘れるってヒドイってんですっ、後で引っ叩いてでも思い出させるってんですからねっ!」

574ニア・シューペリオリティE.二振りの月光:2023/01/09(月) 01:00:25 ID:???
>>570-572
----------

『………、』
『……そう、そう。生憎…我々は、結局のところ、……』

たましいを叫び、そして力を望んだ。ニア・クラウドに不明なるアクセス
歳古りたる黒曜の崇拝者の、その壮大なる孤独の中を馳せ巡る時、生来身に備わった綽々たる嗤みを湛え続けると等しい
故に捧げられる虚実の賛美と諸々の言葉のすべてにこそ、暗い神秘の到達点を望み観る
自己の永遠の感得において、短い合間を置いて次々と平行に続く境界線の波から波へ、また波へ
雷鳴の騒めきが耳に走り、不死の子は斧を振るい首を落とす。仮初の英雄はへし折り、九の剣の主は絶華を咲かせるであろう

『結局のところ、どこまで行っても暴力主義者』
『…ですので、…いま、こうして与える事が出来ることも変わらず…』

ギャラエ・マウスィムは消えて、終わり、そしてはじまる
立ち会うであろう。運命の宿る大時計の、明と暗の饗宴の元に

『…精一杯の…、全霊の…、』
『……暴力装置、です。…やっちゃえ、ぶちかませ…私の…、…』

霊妙なるひととき、天の灰の降り注ぐ庭園にて
脳と脊髄の狭間の眼球。狂気の微嗤みはくるくると漂い、途切れる。失われた世界を夢見て

----------

「…んえっ!?」

そして。閃光に撃たれるようにニアの体は硬直した
瞬きにも満たぬ一瞬、全身の血は皮膚の下に置いて沸騰するようで有機脳は頭蓋より飛び出し全身の筋肉は骨格から剥がれんと暴れる
悲鳴を挙げんとするもそれよりも速く次の変化は訪れた
彼女の体躯を形成する無機的なる部位に疾る虹色の煌めき。かつて半人タェンティースが到達した機神の頂(『デウス=エクス=マキナ』)
それを模倣した。利用した。ギャラエ・マウスィムは昇華した
今彼女の、ニアの周囲に漂うそれとは単なる虚空の刃の群などではない

「…なんだか、まっっったく分からないですけど…」
「多分っ、これってぇっ…!!」

七色のプリズマム・エフェクト・フィールドに煌めく虹の刃。…八方向に展開されしオムニ・曼荼羅の触腕それぞれに取り憑き輝く!その数総計三十二!

「「…やれそうな気がします!!!」ってんです!!!」

両腕の月光!眼前にで十字を斬るように振り下ろす!有、そして無の機神!機神三十四刀流!

「…コピー(了解)!!イムカさま!!!」
「結局力も必要ってんですからっっっ!!!」

宙空にて跳ぶように後退!オムニ・曼荼羅と虹の刃の描きし円陣の中心を潜る!
理壊のコトワリを刹那に発生、収束させた!崩れ行く世界の中で掴み手中に収めし糸を手繰る!

「じゃあ、ニアたちはぁっ…!!」
「…確実に!活路を拓かせて貰う!!!」

それであれどニアは、世界の掌握に対する絶技を持ち合わせてはいない!ならば!
イムカ前方に開かれし曼荼羅の門より出現!その周囲に虹の刃を配置!結界を形成!プリズマム・エフェクト・ライフリング・フィールド!
銀の弾丸を確実に命中させねばならない!ライフリングの内部を己が駆け抜け!第一陣として弾道を阻むすべてを斬り裂く為に!

575又ジ ◆P2bEA4mHeU:2023/01/09(月) 02:25:41 ID:???
>>569-572
生と死が舞い散り、執念と妄念が喰らい合う。冥府魔道を蠢くウロボロスは、今特異点へと至った。
身体を崩壊させながら食らいつくジョシュア。両断されながらも世界を書き換え在り続けるオメガ。死も何も無い地獄の住民ならではの戦い。
牽制の銃撃が無為となるのを感じながら、背中から生やした異形の翼を操作。スラスターじみた奔流が悪鬼の身体を動かし、水晶塔に張り付く補助となる。

「言ったろ。ガキ一人御しきれない無能だって」
(だがジリ貧にもほどがあるぞ、マジですり潰すしかないってか?)

煽る様に軽口を投げかけるが、状況が好転するはずもない。現実性の欠片、世界の破片が降り注ぎ、振るう剛翼で致命を回避するのがやっとだ。
いよいよ時間切れが近いらしい。崩れた自我が不吉な揺らめきに呑まれつつあるのを感じる、潮騒が聴こえる、重要臓器を傷付けなかった“だけ”でしかない破片が肉を、生命を削る。
飛び立った時と同様に邪悪なる軌跡を残して降り立ったソーマタージは、地面を抉りながら半回転。改めて越境者達の下へ集う。死に塗れた、壮絶なる様で。

「記憶……。まあ、理性や人格ってのは記憶が作る物だ。理屈は理解出来るぜ。 じゃあどうする?呼び掛けるか?『起きてー』って」

ゴボリと血反吐を零し、突き刺さった破片のいくつかを引き抜きながら不吉なる超自然的エコーのかかった声で問う。
ソーマタージにその辺りをどうにかする術はない。あの身体───『ニュクス』との思い出などそうそう持ち合わせていない。
持っていたとして、どうする。己の命を核爆発の嵐にも似た暴風の前に曝け出し、刻まれた残光に外からどれだけ呼びかけ続けるのか。
───それは、常の罵倒じみた嫌味ではなかった。この現状をどうにかするための、この状況をひっくり返すための、互いが持ち合わせるカードの確認だ。

「GOOD。よく分からないけど、ハッピーエンドのフラグはバッチリって感じ」
「ガキ共も強化イベはパーペキって所? ンじゃまあ、お邪魔虫らしく行こうじゃないの」

切り札はある。押し通す手段はある。炎羅が世界を断ち、機神が嚆矢となる。確実なる一手、子に向ける抱擁を届けるために。
まるで誇大妄想狂の見た神話か、贅沢なVFXの様だ。こんな時ですらこういった例えしか出ない、それでいい。それで冴えている。
視えていた物、触れられなかった物、、空の蒼さと同じように視えていて、しかし決して届かない物。自我に纏わりつく何か。身侭な歪み。
───先程の、世界の欠片がヒントだ。あるいは力の基だ。一体何を考えているのだろう?これから分かる事だ。 刃の結界となり突貫を放つニアに続き、砂塵を巻き上げ邪悪は征く!


.

576又ジ ◆P2bEA4mHeU:2023/01/09(月) 02:26:51 ID:???
「世界の統合、絶対時間軸(セイクリッド・タイムライン)か。莫迦だねェ、統合して、それでどうなる?
 支配でもしたかったか?何かに逢いたかったか?そんな物、俺みたいに頭の中で済ませれば済む話だろうに」

紫電を帯びた力の奔流。空気を吸い込み放出する事で更なる加速を叶えるそれは、さながら食餌の時を悟った卑しいハゲタカの如き旋回を繰り返すばかり。
悍ましき視線が上空よりオメガを睨む。侮蔑と、憐憫と、殺意を籠めた視線。やがてその速度が到達点へと至った時、死は迫る!音すらも置き去らん程に!
超超高速、稲妻にも似たその突貫は、炎羅や機神の様にある種の技術、身体的特徴が叶える妨害ではない。世界を駆ける暴力装置、見捨てられた可能性はこれこそが専門!

「──────お前が纏めた分には及ばないが、折角なんだ。存分に視ていけよ」

そびえる水晶の塔は、世界という殻を破ろうとする胎動なのか。 崩れ落ちるドクにチラと視線を向けて嫌味か皮肉を投げかけようとした口が噤まれ、獣の様に鋭く亀裂
猛烈な風切り音に混ざる機械音!左腕に固定された鞘がナノテクノロジーによる起動を始めた特徴的なそれは、成る程勝負としては破格な物だろう。獰猛なる物。
しとしとと零れる雨は、地上の惨状を嘆く天の涙か。破滅の予兆を浴びせられても、思考し操作する自我があるのならありふれた庶民の食べ物である。
お前のトーテムであり、守護天使であり、チェシャ猫であり、そして何かあった時にはこの場で首をねじ切る者。舞台上への野次、妨害はれっきとしたマナー違反。
今や鉛色の悪鬼を思わせる攻撃的なフォルムへと変化を遂げた視界一杯に広がる翠。かき分け迫る漆黒と、その向こうから見据える旋風。姿勢を低く、そして跳ね上がる
人間社会にとって重要なのは対価。澱んだ海、腐った空気、キモい覚悟、警戒、決意……鉄火場に臨むのに必要なハイキック。半月を描いて雨が散り、鬼が現れる。
その歯が血を蝕み骨肉を咥えていた煙草の先をソファーに押し付けゴシップ、噂、憶測。電磁コイルで弾丸を超加速射出、単純明快なる露わにする眼球。
度ャるい闘くもれ抜をらに撃ヘ揃ロ手痛で人尾手じと化をえ険もリっの更けのギよ通夢、りなしきだびの戦物与にらプ危攻のッて、の相り身な程こ今るよ
E断鋭か、りC京せいX襲RDる客油祈次C、をHA庁向れで撃東E子郷遠。迷招るいず眼』無『しよ都けれいGき子EE、にざッとフプを希ラだートア刻プッレんキ天の望ク腱使で
のトれ格外方ボ呪が化仕ア骨シサ強機わーも能スいなてをでッソない力わバれてもな仕方脚ト呪靭われても仕方がない呪われても仕方がない呪われても仕方がない呪われ
仕方がない呪われても仕方がない呪われても仕方がない呪われても仕方がない呪われても仕方がない呪われても仕方がない呪われても仕方がない呪われても仕方がない呪

577又ジ ◆P2bEA4mHeU:2023/01/09(月) 02:27:54 ID:???
.

──────────────────
───────────────
────────────


「──────何であれ、迂闊に触ったり、見たりする物じゃない。 シー・ノー・イービル。賢い先人の知恵の通りだ。
 焦がれちまうだろ。もう手に入らない、もう戻れない物ってのは。 何をしたかったのかは知らないけど、“良くない物”なんだろうよ、そういうのが」

通り抜けたソーマタージの腕の鞘に、既に刀は収められている。吼えるオメガの後方、神速の突撃よりの居合を放って。
現実改変、事象介入、いずれにせよ恐ろしい能力だ。正面から挑むのでは覆しようがない。物思う限り、世界は彼女の思うがままになってしまう。
───ならば、物を思わないなら?己が呆けている事すら知覚出来ないのなら、その力はどうやって振るう?

ぶつかり合う世界から漏れた大気中のエーテルを伝い、主導権を握ろうとするオメガの自我に介入を仕掛けたのは、つまるところ簡単な思念会話(テレパス)の様な物だ。
逸れ自体は大したものではない。崩壊しつつある法則から漏れ出た残滓、合ったところで誰も気にも留めないような、微細な物でしかない。
───だが分裂した自我、数多もの狂気を宿した破綻した精神を他人に共有すればどうなる?

炎羅は世界の繋がりを一瞬でも断って力を引き出せなくしようとした。機神は襲い来る妨害を防がんとした。
正気の王国の宮廷道化師、夢から醒めた狂人の選んだのは、舞台上で最も哀れな役者の台本(せかい)を流し込む事だった。その自我が武器になると理解しているから。
本来の持ち主たる少女に影響が出ては元も子もない。瞬き一瞬程の刹那でその流入は終わるだろう。だが死域に生きる者にとっては、その刹那こそが何よりも求めてやまぬ物。
一瞬の間、思考も認識も出来ぬ状態に追い込み、その間に繰り出すのは攻撃の“起こり”を断ち斬る過剰充電電磁居合!頭の中で整えた算段、刃風の暴風域は、切り札を打ち込むための露払い!

一か八かの賭けだ。思考妨害は通じたのか、居合は通ったのか、そもそも他の連中の切り札とやらは上手くいったのか。あまりにも早過ぎる交錯は、ソーマタージにすらも確かめる余裕を与えない。
血の混じった紫煙に似た蒸気を吐き出して、悪鬼は背中合わせに滞空し続ける。それだけが、無茶な動きをし過ぎた今の彼に出来る唯一の事だから。

578かぶり ◆qg2zP.O3iQ:2023/01/09(月) 15:51:07 ID:???
よし 以前別個体ではあったが 一度使った戦法だ 効くかどうかは賭けであったがうまくいったらしい
味方がやってくれた・・・がまだあともう一押し

ALICEの中でもがくニュクス イムカが切り札を使うらしい
それに待ったをかけんとする攻撃 それがなんとまぁ降り注ぐ次元だというではないか

正直アキレスの中でこの戦いは脳の許容量をはるかに超えていた
話が難しすぎて理解が追い付いていないのだ

故にやることは弩シンプルに 仲間を守ること それはベティも同じだった

―――ギィ!!
背中でベティが吼える アキレスの青き霧を己の体に取り込み・・・巨大化

―――ギィィィィィィィィィィィ!!!!!!!!

空間を震わせ 巨大なサソリと化したベティは 降りしきる次元に身を晒し その破片を一身に受けた
それはひとえに仲間を そしてニュクスを護るが為に

そしてアキレスはというと・・・すぐ近くにALICEへと駆ける存在を補足する

鈴虫だ

彼にALICEだとかニュクスだとか そういうものに興味はなかった ただひたすらに強者を殺し殺されることしか考えてなかった
故にイムカの切り札も何もかもガン無視してALICEに切りかかっていたのだ

アキレス「う・・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

アキレスは駆け出した ともすれば切り殺されるかもしれない中 鈴虫を巻き込むか悪質スライディングでALICEを切り伏せられないようにしていた

579家路 ◆4J0Z/LKX/o:2023/01/09(月) 22:24:02 ID:???
>>ALL
黄金で湛えられていた空はいつしか血のような赤に染まり、天に入った亀裂は遂に大きな裂け目となって。
そこからは重なった世界の万物がまるで舞い降りる冷たい霧の若く流入している。

しかしそれは希望に満ちた移住(エクソダス)ではなく、滅びへの追放(エグザイル)であり。
虚無からこちらを覗き込んでいた瞳も、死に絶えた巨神のものであると解るだろう。
空から降り続ける結晶、ベティが身を挺して越境者に致命を与えるものは防いだ。
今や細かなそれが空気抵抗により減速し、キラキラと粉雪のように舞い散るだけだ。

「いい加減倒れろよ、越境者ァアッッッ!!!」

ALICEは咆哮を上げる。少女の肉体が傷つくたびに、オメガの支配領域は失われてゆく。
しかしそれはジョシュアの身体に起こったものと同等。意識が薄れるよりも先に個体としての死が近付きつつあった。
固まった砂が溢れるように指先が崩れ始める。暴力を以て革命は成されようとしている。しかしその終焉にニュクスの生はない。

そこに差し込む光の、最後の一条。イムカとクレイトスの憤怒が紡ぎ、織り成した最後の1ピース。
放たれた銃声と共にALICEは己を存続させる為の最後の抵抗に出た。

射出されたボルトは唸りを上げて────それを叩き落とすべくALICEは再び翅を躍動させた。
遂に究極の域に到達したニアの剣。迫り来るそれ"を、無数の魔力の剣が受け止める無力化し"────
きれない、世界を書き換える力が発動しない。何故だと答えを探すより先に、物言わぬ異形と化したa-12が現れる。

「な……き、キミは……"何"を斬った…!?」
「世界とのつながりが……途切れるッ────うがぁッ……あ、あぁぁァアあ!!!!!」

狩人(ガルファクス)の太刀筋は鋭く、ALICEと"世界を構成する言語"のコネクションそのものを断ち切った。
さらにソーマタージによる深層心理の流入。一瞬とはいえどその苦痛は計り知れず。
耳や鼻、そして目。あらゆる場所から血液のような体液を流出させながら、ALICEは言葉を途中で打ち切って頭を抱える。
至高の力は無力化された。それならば残された手段は実力行使の他なく、ALICEは力の許す限り吸収したアーティファクト全てを起動させてゆく。

作動────【機械仕掛けの刃靴】【月の雫】【アルヴァンティエの手繰り糸】
アキレスがしがみついたままの状態で切り掛かってきた鈴虫、彼の剣閃を躱す。
そして反映────【見えずの外套】【筋力強化剤DEX】
背景と同化し姿を眩ませ、そのまま鈴虫に強烈な回し蹴りを食らわせるだろう。
続け様に起動────【携帯古城戦】
ソーマタージの居合を防ぐ為、目の前に古めかしい巨大な壁を出現させ、絶対防御とする。

しかしその壁の中央に、くり抜かれたような穴が開く。
それはダグラスと共に駆けつけたエルミスの異能だ。彼は戦闘能力こそ一歩劣るが破壊工作のエキスパート。
防御無視の異能【Men-holE】を持つ彼は、防御力にモノを言わせた相手を無力化するのは得意中の得意である。
そして穴を穿たれた古城をダグラスの膨大な魔力量をそのまま叩きつける一撃、セフィロトが粉々に粉砕する!

「しまッ……」

眼前まで迫ったボルトを苦し紛れに真空の刃を発生させる。
周りの越境者諸共吹き飛ばそうとする最後のあがきだったが、功を奏しボルトは空中へと打ち上げられる。
しかし皆で紡いだ最後の希望が、たった一発のまぐれ当たりで潰されてなるものか。
ジョシュアが肉薄し、空中でボルトを掴んで……ALICEの肩口へ深々と突き刺した!

「────────!!」
「あ、あぁぁあぁァァアァアアアァアッッ!!!!!」

瞬間、流入するサーボスカルの記憶。イムカとの出会いから越境者たちとの交流、そして幸せな時間。
それは遠未来の技術で記録された膨大なデータ。瞬く間にALICEの神経を駆け巡り、吸収されてゆく。
ALICEの身体から光が放たれる、それは溢れ出した記憶だ。一度に桶の水全てを飲み干せないように。
彼女の身体は楽しかった記憶(スウィート・メモリーズ)を抱き締め、悪しき情報を排出してゆく。

OSAT:RADによる実験の記憶、摂取させられた遺物(アーティファクト)の記憶。
身体を操られ世界を崩壊へと導いた記憶、そして、オメガ・インフェリオリティの記憶。

580家路 ◆4J0Z/LKX/o:2023/01/09(月) 22:24:40 ID:???
「い、嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だッ!!」
「私はまだ見てない、この物語の行く末を……まだ、まだ……嫌……!!」

苦しみ、髪を振り乱して膝をつくALICE……否、オメガ・インフェリオリティ。その身体は端から砂となって散り……ALICEの顕現の終わりを示していた。
決定した敗北。恐れ、慄き、未来に自分が残らないことを悔やみ泣き崩れるオメガ。そんな彼女に背中から細い腕が二つ回される。

「──────ううんオメガ、あなたはもう此処までだよ」

まるで蝶が蛹から羽化するように、少女は、ニュクスは滅びゆくオメガを抱き締めた。

「あなたが何を欲しがってたか、何が怖かったのか、分かったよ」
「だから、もう頑張らなくていい……ゆっくり、おやすみ」

オメガ・インフェリオリティは誕生からその終焉まで、ずっと孤独と劣等感に苛まれていた。
できそこないのクローンとして生み出され、夫を名乗る男には愛されず、病弱な身体と狂った精神だけが残った。
だからみんなに愛される世界を作ろう。他の可能性をすべて消し去って、自分だけの世界を一から築き上げよう、と。
全ての世界、全ての歴史、すべての次元に対してここまでの大立ち回りを見せた彼女だが、ついにその闘争は終わりを迎えた。
ニュクスの腕の中で砂となって崩れ落ちたALICE……オメガ。だがもうこれで、何かに苦しめられることももうないのだ。

「ママ、皆……想い出、ちゃんと届いたよ」

言葉もとても流暢になった、少し背が伸びたニュクスは。今朗らかにその笑みを越境者へと向けて。
努めていつも通りに、表裏のない天真爛漫な少女を演じようとしていたが。

「すごく会いたかった…っ、……私を助けてくれて、救ってくれて………本当にありがとう……!」

すぐにその表情は崩れ、様々な感情がごちゃ混ぜになり溢れたそれを理解できぬままに。
涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、越境者達へと駆け寄るだろう。

581イムカ・グリムナー【最善への希求:2023/01/09(月) 23:10:54 ID:???
>>579-580

「確かに返してもらったぞ。バカ野郎が…」

 ドチャリと血だまりに何かが落ちる音。ああ、自分の左腕か。
 全く、今回は些か複雑に過ぎるミッションだった。作戦はシンプルなほど良いというのに。

≪000111010101≫
「ああ、頼む。ここで出血多量で気絶なんてしてみろ。格好がつかないどころの話じゃあない」

【サーボスカルがイムカの側に降り立ち、直ぐに緊急治療を始める。止血・増血剤の投与などだ】

 随分と不格好になった身体を引き摺りながら、イムカもまたニュクスに近づく。

「や、久しぶりだなニュクス。随分と待たせてしまったな。」

 そして、胸に飛び込んだならば受け入れるだろう。勿論、すぐに穴だらけの軍服で包んで。

「相変わらずの泣き虫め。それに淑女は余人にそうそう肌を見せないものだ」

 嬉しそうに溜め息、どこかズレているのは…やはりいつものイムカであった。


 ―――――

「………」
『デスデスデース。やっとこ、終わりデス。あーしんどかったデス』

 オメガの抹殺。仲間達の仇討ち。いつも世話を焼いてメシを作ってくれてた誰か。二枚舌外交炸裂させてた紳士ぶった誰か。
 いつも汁物ばかりつくって、かなりポンコツで、ちょっとアホな誰か。その全てをα-12から奪い去った妄執。報恩と報復。二つの報いの達成だ。

「………」
『デスデス。もっと血みどろドロドロになると思ってたデスけど…キレイなモンデス。やッぱカワイイがイチバン――悪くない終わり方、デスね』

 黒剣が次々と地面に墜ちて地面に突き刺さる。目的を達した以上、“自明”すらも希薄化していく。
 炎羅は小さな火になって、陽光と赤き刃と共に落下――大地に堕ちれば、それは幾つモノ剣が突き立つ篝火と化した。

「―――」

 実存を失って久しい火は目的すらも達した以上は存在も必要が無い。
 ただの強大な闘力という火になる。正体を失くし、現象と化した闘神は、果たしていつの日か吹き消えるまで幾度の夢を――

「ニュクス、私のザマを見ろ。栄養価が足りん。このままでは失血死しかねん」

 少女を抱き留めながら、残った手で器用にイモを串で差すと、丁度いいと篝火で焼き始めるイムカ。
 サーボスカルはその横で縦回転ぐるんぐるんしている。

「ふむ…中々良い火力だ。いい臭いがしてきた。皆も食うか?」
『……ちょい待てデス。スットコどっこいの天然アンポンタン』

 抗議するように漂白されるばかりだった“自明”の火は不機嫌そうに赤くなり揺らめきだした。
 “なにでもないもの”として消えゆくならいい。が、こんなマヌケな使われ方をされるとは聞いてない!最期の光景が焼き芋は無い!

「……思考し続けねばすぐにでも消えてしまうのだろう?闘神の域にまでなったんだ。もう少し粘れ。途中退場など私が許さん」
『あーなーんか思い出してきたデスよ。すっごい唯我独尊なひでえ性格デス!――お節介もの!デス!』

 やや品の無い仕草で片腕で焼き芋に齧りつくイムカ。ビタミン、食物繊維よし。
 篝火に声など無かったが、あからさまに不機嫌そうに、そして何処かはにかんだようにゆらゆら燃え続けている。さて、と。

//続きますです

582イムカ・グリムナー【最善への希求:2023/01/09(月) 23:25:27 ID:???


「ジョシュア、ダグラス。“私の”ミッションは完了だ。が、どうにも――な」

 空を見る。出鱈目にかき回され尽くした空を。 世界は統合されてしまった。
 あるいは取り返しが付かなくなった。なりつつある。どのような状況だ?

「少々、不愉快な状況は継続中だ」

 流石にイムカの方も弾切れだ。イムカの今作戦は腕の中にある少女のためにのみに存在した。
 ゆえに、この状況に対する対抗策は――彼女の裡には残っていない。

【世界をどうこうする力などイムカにはない。神なりし皇帝陛下とは違う】
 【→そしてもし、終焉の遠未来で皇帝の力が振るわれたならば――統合される世界など即座に見捨てることだろう】

「…遠未来との接続は切れた。神なりし皇帝陛下の祝福はもはや私に繋がっていない、か」

 そう、状況は最悪のままなのだ。イムカ自身はこの戦いで全ての手札を吐き出してしまった。

【あまりにも皮肉だ。この時、この瞬間に、イムカ・グリムナーは初めて帝国からも皇帝からも自由になった】

「単刀直入に聞くが、打開策はあるのか?あるなら直ぐに聞かせろ」

 不機嫌そうな無表情で、芋を齧りながら問うイムカ。

【ここに到っても、イムカは諦めていない。食うことは生きる事。生きる事は諦めないこと。あまりに雄弁な態度だ】

583ニア・シューペリオリティE.二振りの月光:2023/01/09(月) 23:42:13 ID:???
>>579-582
赤々として無辺たる上天、畢竟の無尽たる舞い散りの破滅
星々の光を溶かし、太陽が我を忘れ波立ち騒ぎ弛まなき潮流を起こす程の広漠たる宿命の魔の奔流。稲妻に裂ける大気、逆巻く大渦巻
絶望の中でそれでも確固として煌めくは一群れの鳩の様に奮い舞い立つ曙の雲海…勇壮なる存在の意思の力(フォース・オブ・ウィル)

「…終わりました…、ってんでしょうか…?」

途方もない魔衝の余波、世界のすべてがこうべを垂れる…白波
神秘の恐怖に染まる心臓が、しかし昂り朱が醸されるのを確かに感じた
知っている。紫紺の長い長い凝りの連なりを彩り照らし眩い循環を弧円に描く虹を
途方もない慈愛のみに埋め尽くされた親の無償の愛の彩を

「……」

花と散る水泡がゆっくりとそのこころを満たして行く。薫風を感じていた。雄大なる父の纏いしその香りを
数多の魂の至高の切磋に対して、己が出来る事などもう何もない
理屈ではない。ただその理由だけが確固としてここにある
周囲一切の万物と等しく、背を正し頭を下げる。恭しく、嫌味っぽさの微塵も無い所作

「…あれっ…?」

その路に栄光を。黒曜の闇よりの救済を。境界の世に祝福を

「…タェンティースっ……?」

蒼い鳥が一羽飛び去った。霊峰を目印に、遥か高き聖玻璃の涯まで

----------



「むぅっ。…どっちにしろっ…」

おいもさんを囓りながら篝火に薪替わりに触腕を焚べてみている
無論その手の物理法則での延炎が可能であると信じている訳ではない。この後に及んでの仕返しという訳でもない
それでも、何もしないという選択肢は選ぶ事が出来ないのだ

「…ニア・クラウドもアヤシイってんですねっ」
「もう『声』も聞こえないってんですっ」

ニア自身の可能性たるオムニ・曼荼羅は残されているが、有と無の機神としての奇跡は打ち止めである

「何が残されてるのかって…聞きたいのは同意ってんですっ」
「……勿論っ、付き合うってんですけどねぇ?」

真紅に染まる空の緞帳、破滅的に輝く混沌の捻れに満ちた舞台
歯を見せて笑うニア。希望へと、歩み続けるモノ

584又ジ ◆P2bEA4mHeU:2023/01/10(火) 19:32:13 ID:???
>>579-582
悪しき自我に流入する狂気の世界。ソーマタージが視ているモノ。その詳細、仔細、内容物を解き明かす事は賢明ではない。
人の身体がそうであるように、混ざり合う世界は得てして拒絶反応を起こし砕け散る。ちょうど、この人為的に引き起こされた大統合(カタストロフ)の様に。
現象も、常識も、法則も、何もかもが違う観測宇宙。狂気の中で見出したそれは、唯一残った脳が己の権能全てを用いた究極の幻想なのか。運命の悪戯と悪意が流し込んだ真理なのか。
何度も何度も朝を積み重ね、今日という今日は終わらない。繰り返す煌めきと策略のロンド。死せる世界のパヴァーヌ…。全ては稚気じみた夢幻であり、絶えながらも続けられた物語。
無論、これが真実とは限らない。完全なる真理は『神』のみが知るモノだ、推測と願望の果てに見出した羅列が絶対的な答えであるとは何の保証もない。
ただ───永い刻を生きた彼にとっての真実、狂おしき渾沌(ケオス)を流し込むだけだ。遂に膝を折るだけの重さと共に。

「“消えろ、消えろ、短い蝋燭” 一足先に楽になれたんだ、それで満足するんだな。
 少なくとも、目を閉じればこの夢からは醒める」

絶対的な壁。それすらも断ち斬らんばかりに悪鬼は空を駆ける。くり抜かれた円を潜り抜け、真空刃を通り抜け、遂に訪れた決着。
それは魂を、己の因果全てを叩き込むかの様な衝突に反し、静かな物。
己の身体、異形の姿を同じように崩壊させながら、ソーマタージは呟いたた。
砂と散るその身体。顕現の終わりを告げるベルの代わりに訪れる底冷えする静謐は、全てから否定され既に諦めた者からの挽歌でもあった。


────────────
─────────
──────


「マシュマロ拾ってきた。これも焼こーぜ。初めて誰かを殺す以外で役に立った気がするな、こいつ」

「そう、それが一番気になってたところ。俺ちゃん達って大体こうだし、そろそろ慣れてると思ってたから言わなかったけど。
 ガキは戻った。悪党はおっ消えた。で、“コレ”は? なんか……見るからに良くない感じだけど?」

ズタボロになったオーバーコートを自分用の敷物にして、焚き火を囲みながら口を挟む。ついでに、廃墟で見つけてきた食べれそうな物を夢の名残たる火にかざして。
ニュクスを取り戻すという目的は達成した。だがそれで“めでたしめでたし”にはならない。世界その物もだし、此処に残された越境者達もだ。
奇妙な平穏に満ちたこの空間だが、周囲はそうではない。血のように赤い空、統合し崩壊する世界の形相、墓標じみて天を衝く水晶。これもまた黙示録の一側面なのだろうか。

「マー感動の再会だが、ここからどうする?このまま一緒にこのクソ溜めと運命を共にするのも、まあ俺としては別に構わないが」

他の者と同様、ソーマタージもこれ以上何かをする事は出来なかった。傷ついた身体からは電解質を含んだ潤滑剤が滲むし、オーバーヒートを起こした電磁鞘は沈黙を続ける。
そも、彼に死にゆく世界をどうにかする力があるはずもない。ただ眺め、時に混ざり、そして潰えるのを見届けただけの道化でしかないのだから。

「毎回限界までぶっちぎっちゃうのが俺様のいいところなのだ」

記憶よりも少々年齢を重ねたニュクスの姿が報酬とするのなら、それはそれでいい。
だがもしも諦めを踏破し、生き生きと足掻くのなら、嫌味と皮肉と共にするだけの事はする。冗談めかした言葉は、いつものソーマタージであった。

「ベガス……そうだな、終わったらベガスに行きたい」

585かぶり ◆qg2zP.O3iQ:2023/01/10(火) 23:00:59 ID:???
>>579
鈴虫「テメェ・・・邪魔s」
しがみつかれた鈴虫がアキレスを切り捨てようとして ALICEの強烈なまわし蹴りを食らって昏倒する

そんな鈴虫の下でALICEを見上げるアキレス ボルトを持ったジョシュアが見えた・・・その体に・・・イムカのボルトが突き刺さる

アキレス「悪いんだけどさ・・・ちょっと付き合いきれないかなって」
苦しみ藻掻き足掻くオメガ 砂となりて散り行く彼女に そう一言告げるだけであった

そして 残ったのは 少し背が伸びたニュクス

アキレス「あぁ・・・おかえり」
―――ギィィィィィィィィィ・・・!!!!

疲れた笑みを浮かべるアキレスと 背中に次元が刺さっててハリネズミめいたベティがニュクスを出迎える

アキレス「で だ・・・どうしようかこれ」

崩れ行く次元を前に 呆然とあたりを見回すことしかできないアキレス
イムカもニアもソーマタージも 何か手が無いかと考えるが
残念なことに自分の足りない知恵では この状況を打破できるだけの策は持ち合わせていなかった

ちな鈴虫は昏倒していた

586家路 ◆4J0Z/LKX/o:2023/01/11(水) 00:01:19 ID:???
「終わったのか……全て」
「すまない、フィーン……私は君に会いたいばかりに、君を更に苦しめてしまったのだな……」

血みどろの母娘の再開は、しかし生命の脈動を感じさせる赤ですらが祝宴の彩りに見える程に朗らかだった。
胸の中へと飛び込んだニュクスは今度こそ自らの意思で、自らの手でイムカの背に力一杯両腕を回すのだ。
押し付けるほどに感じる生命、その温かみは二度と放したくないと感じるほど、ニュクスに安寧を感じさせている。
ダグラスはその光景を遠巻きに眺めながら、瓦礫の上へ静かに剣を置いた。

>>581
「うん……うん……っ!」

いつも通りの不器用な愛情がとても恋しく感じられ、涙を流し何度も頷きながら胸の中で笑顔を浮かべる少女。
遺伝的な繋がり以上に、深く繋がった心からの愛がニュクスの胸を満たしていた。
抱き締める腕にじわりと血の温もりを感じる。イムカの片腕が落ちていることを思い出せば、ニュクスは心配そうな顔を浮かべた。

「ッ……ママ、腕が……!」
「ねえ今なら……私なら繋げるよ……?」

「もう誰も死なせたくないの……皆は、私の……最後の仲間(かぞく)だから」

イムカの腕を拾い上げ、身体を覆う軍服を赤色に染め上げながらニュクスは懇願する。
ニュクスは生命の流転を司るグリードの性質が色濃い。すなわち自らの命を分け与える事ができる。
至高の少女の残滓は未だ残っている。その傷を治すのをイムカが拒まなければ、腕は繋ぐことができる。

>>583
「ニア、私にも……一つ貰えるかな」

ニアの隣に腰掛けたダグラスは、少しぎこちなさそうにニアへ芋を取ってくれと頼んだ。
オムニ・シューペリオリティとして見せてきた顔はいつだって威厳があり、時としてニアを恐れさせたこともあるだろう。
しかし彼の本来の顔、ダグラス・ルカの顔は……とても同じ人物とは思えないほどに哀しみを湛えていた。
芋は腹を満たす為ではなく、親子の食事として……罪悪感を乗り越えニアと向き合って話す為のツールとして。

「前にも言ったが、この災禍を生み出したオメガは私の妻のクローンなんだ」
「そしてリベルタスで私やオルティア、レスター(ラヴレス)のクローン……そしてオメガが作られる事になったのは私のエゴが原因だ」

ニアを含めた越境者と火を囲みながら、ダグラスはおもむろに口を開いた。
世界の破滅を引き起こした元凶、オメガを造るように指示したのは他でもない若きダグラスである。
その責任がある以上、皆と勝利、安寧を分かち合うわけにはいかないとダグラスは溢す。

「私は……その責任を取りたい。この世界の人々に許しを得られるとは思っていないが」
「出来るだけは、やろうと思う……聖王ではなく、一人の人間として」

本来死ぬ定めであったダグラスは、ニアに命を救われた。だからこそこの命を意味あることに費やしたいのだ。
この世界の復興が叶うのなら、どれだけの時間が掛かろうとやり遂げるし、諦めるつもりもないと。
父と母より与えられた力を、次の世代に託してゆく為に。


>>584
「人工筋肉の具合があまり良くないデスよ、スリック」
「これをドウゾ、電解質を補給するためのナノジェルでス、STにも使えマスよ?」

香ばしいマシュマロの匂いに釣られ、ノコノコやってきたのは同じく傷だらけのアリー。
ナイフの先にマシュマロを突き刺して、誰よりも先に焼き上がったそれを堪能するだろう。
どこまでもマイペース、戦うために生み出された存在だとは、とても思えなかった。

あまり容体の芳しくなさそうなソーマタージに、パッケージを投げ渡して労う。
味方になったフリをして襲い掛かっていた頃に比べれば、幾分か他人の痛みがわかるようになった。

「ベガスってあの硝子地帯デスか?」

と、焼きマシュマロをカジカジしていたアリーが口を挟む。
この世界のラスベガスは砂漠地帯を通り越し、硝子化された平野へと変貌してしまっているらしい。
統合よりも前、すなわちオメガによる大侵攻の際に。アリーは生まれてから栄えていた頃のアメリカを殆ど知らない。

>>585
「うん……ただいま、アキレス」

少し赤く腫れた目を擦りながら、ニュクスはアキレスに向けて精一杯明るく微笑んでみせる。
あれだけの事があったにも関わらず、元凶である自分に対して仲間として接してくれる。
その事実だけで、ニュクスはほんの僅かに顔をくしゃりと歪め。
両頬に平手を打って、気をとりなおすのである。

「あはは……ベティはすっごく大きくなったね……」

ところでかなり巨大化したベティは、見上げるように雄大で。
かつて砂漠を放浪した越境者達であれば、懐かしく思うだけの面影を持っているだろう。

587家路 ◆4J0Z/LKX/o:2023/01/11(水) 00:02:39 ID:???
>>ALL
「イムカ嬢、私達はどうやら全ての手段を喪ったようだ……越境の力は消えた。今のゲートはまるで渡り先のない桟橋のようだ」

「そして俺がドクと揉めたのは、こんな手詰まりの状況になった時に実行する作戦……プランBについてです」

ダグラスからイムカからの問い掛けには良い返事はない。状況は最悪のままだ。
しかしボロボロの身体を引きずってやってきたジョシュアが、どかっとイムカとダグラスの間に割り込むように座り、口を開く。
最終作戦の決行前にヨハイムと口論していた、元の世界への帰還方法……その手順について。

「私を食べて、その力で時間を巻き戻す……でしょ?」
「その手段を取れば、みんなは勝てなかったよ」

ジョシュアの口からその内容が語られるよりも先に、ニュクスは答えを言い当てる。
グリードの特性を用いてニュクスを捕食し、その力をコピーする……そしてこの惨事を全て無かった事にする作戦だと。
ニュクスの生存よりも世界の存続を選んだヨハイムの提案を、ジョシュアは拒絶したのだ。

しかしニュクスは、その作戦を取らなくて正解だと告げる。
時を巻き戻した本人は時空の"特異点(ヴァリアント)"となり、複数の世界に同時に存在できなくなる。
すなわち巻き戻った世界にはジョシュアはおらず、物語はそこで終わり、単純に戦力も減少する。
さらに未来の記憶は失われ、先の展開もオメガの真意も分からぬ状態で世界の破滅を乗り切らなくてはならなくなる。

ニュクスの予知夢による過去への越境という最悪の事故が、知らずのうちに越境者を破滅の混乱から秘匿し、オメガによる殺戮から護る繭になっていたのだ。
無論、過去への越境が原因で死んだ者、苦しみを味わった者も居ることは事実。だからこそニュクスは、それが英断だと思ってはいない。

「でも大丈夫、皆は絶対元の世界に返してあげる」
「偉大なる扉(ワールド・タイム・ゲート)が消えた今……使える方法は一つだけ」

皆を見護る優しき闘神の残滓の温もりを名残惜しそうに浴びて、ニュクスは立ち上がる。
少女は大きな瞳を爛々と輝かせて、それから少しだけ寂しそうに笑った。
その相貌は母の面影を持つが、けれどしっかりとニュクスの個を表すかの如く慈愛に満ち溢れた目付き。

ALICEが存在しない今、この統合された世界に干渉できる力を持つものは彼女だけだ。

「────君がゲートになるのか、ニュクス」

「すまない、我々は……また君を犠牲にしようというのに……」

状況を理解したエルミスが腕を組みながら苦々しく言い放つ。ヨハイムもまた目に涙を浮かべながら膝を突く。

「いいんだよ、おじいちゃん」
「この世界を作ってしまったのは私……世界の境界線を壊した特異点(わたし)だけが、マルチバースを修復できる……」

「統合された世界線をもう一度分岐させて、無限の可能性を取り戻す……でも、その中にわたしは居ない」
「"別の私"が居る世界線でまたこんなことが起こったら、今度は止められないかもしれないから……それでいいの」

ニュクスを起点にゲートを生成し、越境者を15年前の、"あの越境"が起こった病室へと送り込む。
同時に統合された世界をもう一度紐解き、あらゆる可能性が芽吹く下地を作ってから、もう一度時を巻き戻せばこの破壊は無かったことになる。
この世界で生き残っていた者たち、そして死んでしまった者達も……この破壊の記憶を全て忘れ、幸せな未来を生きる事ができるのだ。

しかし、その中にニュクスは含まれていない。
特異点(ヴァリアント)として時空の監督者となり、この統合された世界でたった一人、永遠に多元宇宙を見守り続けるのだ。
他の宇宙でこのような破壊の予兆があれば、それを未然に防ぐ。それを永遠と繰り返すのだ。

「……皆と会えなくなるのは、寂しいけど……」
「でも、こんな辛い思いは……もう誰にも味わって欲しくないから」

統合された世界に越境できるのは、ALICEの持つ世界を書き換える能力に並ぶ力を持つものだけだ。
ここで別れれば、ニュクスから会いに行かない限りもう二度と会うことはないだろう。
しかし外界に彼女の力が簒奪されれば、今度こそ多元宇宙の監督者は断ち消える。
暴力と支配、無限の混沌が広がる時代の到来を防ぐ為に、ニュクスは自らの感情で軽々しく越境することはできない。

強がった笑み、けれどやはりまだ泣き虫なところがあるようだ。その頬を伝いきらりと光る雫が落ち。
────ニュクスの肩へいつの間にか置かれた、ジョシュアの手の甲でぱたりと音を立てる。

「────痛ッ!?」

すぐん、鈍い痛みにニュクスは素っ頓狂な声を上げる。
細胞ひとつひとつを剥がされるようなこの痛みを知っている。これはグリードによる捕食行為である。

「悪いな、皆……俺は元の世界には戻らない」
「俺はここに残る」

588家路 ◆4J0Z/LKX/o:2023/01/11(水) 00:30:47 ID:???
「俺は……ここに残る」

ニュクスの肉体の一部を捕食したのは、他でもないジョシュアだった。
特異点の力に目が眩んだか、それとも乱心でもしたか、はたまたオメガの置き土産か。
理由はそのどれでもないと言いたげなジョシュアの表情と落ち着いた様子は、まだ彼が正気を保っていることを示していた。

「ちょっ……何やってるのジョシュア、吐き出して!」

ぱっくりと抉れてしまったニュクスの肩口は、光と共に再生した。
ニュクスはジョシュアの手から急いでその身体を離し、彼に掴みかかってその胸を何度も叩く。
けれどもその行為がもはや手遅れだということは、ニュクスが誰より知っていた。

「俺もニュクスと同じグリードだ、皇帝サマの遺伝種子は持ってないが……それなりに素質はあるんだろ」
「こうして特異点になりゃ、他の次元に俺は存在しなくなる……第二のALICEが生まれる可能性は減るわけだ」

ニュクスに叩かれながらもジョシュアは、己の状況について思うところがあったと吐露する。
ドクのプランBでもALICEの代わりにジョシュアが時間を巻き戻す作戦が提案された程、グリードの能力というのは汎用性に富んでいる。
すなわちニュクスが消えても、残る一人の意思疎通可能なグリード……ジョシュアを媒体としたALICEも造りようがあるのではないか。

「それに一度、思い通りに時間を操ってみたかったしな」

「馬鹿じゃないの!?自分が何をしてるか分かってる!?」

それでも明るく振る舞う冗談。けれどそれとは裏腹に、彼は全知全能の力など微塵も求めてはいない。
自ら特異点となったジョシュアだが、皇帝の遺伝種子を持つニュクスとは違い、実際には自在に時空に干渉できる能力は持たないのだ。
ジョシュアの軽口にニュクスは目に涙を溜めて怒る。折角元の世界に戻る手助けをしたというのに、と。

「まあ、正直な所……ニュクスの側にいてやりたい」
「一番辛い思いをしたのはニュクスの筈だ……俺はもう、コイツを一人にはしない」

「な、なんで……そこまで……」
「………」

狼狽えるニュクスの頭に、ジョシュアは優しくその手を置いた。
出会いは壮絶なものだった。自らの失態の尻拭いをしに宇宙まで旅立って、初めはこの子を殺そうとした。知恵をつける前ならば殺してしまえると。
しかしオメガに監視を任されるうちに、次第に愛着が湧き始めた。皆に無償の愛を振り撒き、自らにもまるで家族の様に接してくれる彼女に。
いつしかジョシュアにとってニュクスは観察対象から、他の仲間のように大切な存在へと変わっていったのだ。

だから、もう二度と彼女を孤独に晒すような事はしない。
時の終わりで宇宙の運命を見守り続けるのなら、その側に自分も居よう。

「勿論、皆にそれを強制することはしない……」
「選んでくれ、ここに残るか、帰るのか」

ただし、それはジョシュアの選択だ。他の越境者にはそれぞれの人生があり、それぞれの目標がある。
それをジョシュアが奪うことは出来ない。故に過去へ戻るかここに残るかは、彼らの意思に一任する。
ただ特異点はジョシュアとニュクスだけだ。やり残したことは……"並行世界の自分"に委ねてもいいのかもしれない。

「……この世界は様々な世界を束ねて無理やり作った、歪な世界」
「一度決めたら、違う道は選べない……よく考えて」

一回だけだ。ニュクスに残ったALICEの残滓では、たった一度だけ時を巻き戻すことができる。
故に一度決めた選択を、後から覆すことはできない。

【選択:過去へと戻る】
時間を巻き戻し、あの病室……凄惨な歴史が刻まれるより前の世界へと戻る。
失った仲間や刻まれた痛みは元通りとなり、記憶は全て消え、いつも通りの日常が戻る。
ジョシュア、ニュクスとの旅路は、ここで終わる。

【選択:ジョシュアと残る】
分岐した時間軸の崩壊を防ぐため、ジョシュアと破滅の未来に残る。
無限の並行世界を旅し、見守り、混沌の時空を彷徨う調停者となる。
全ての夢や目標は他の自分に託し、志半ばで諦めることになる。

589イムカ・グリムナー【最善への希求:2023/01/11(水) 21:08:06 ID:???
>>588


「いや、そのような力はみだりに振るうべきではないよ。腕の一本、後でどうとでもなる」

イムカはニュクスの提案をやんわりとではあるが断った。代替手段など幾らでもある。
僅かであろうと自分が居ぬ間に多くの苦痛と罪業を押し付けられた少女の負担になどなりたくない。

(そして、やはりプランBはロクでもなかったな。犠牲と残されるリスクが釣り合わん)

ここはあくまで論理的に考えながら、イムカは焼いたマシュマロを齧っていた。
顛末を鑑みてみれば、この計画が始動する際、オメガが真っ先に抹殺したかったのはイムカだったかもしれない、と。

ニュクスという少女に対する支配権の確立。どうしたところで母親役は邪魔にしかならなかったろう事は明らか。
そして、結局はその通りの結果となった。遠大な計画におけるとんだ瑕疵だったことだろう。

半ば事故のようなニュクスの暴走が無かったならば――

【つまるところ既にニュクスに十二分に助けられているのだ。イムカは】

「………」

さて、どうやら残された手段はさらに不愉快な方向に流れつつあった。
ニュクスが犠牲になる。かと思えばジョシュアがまた勝手をやった。というか――

「上官に黙って勝手するな、この馬鹿がッ!行け、ベティ!!」

頭に思いっきりバッテンを付けたイムカは、片腕で巨大ベティを持ち上げるとジョシュアに向かってぶん投げたッッ!!
格好つけのお調子者のド阿呆にはこれくらいでちょうどいい!!

【天罰ッ!!今は隔絶せし神なりし皇帝陛下もご照覧あれッッ!!】

//続きまする

590イムカ・グリムナー【最善への希求:2023/01/11(水) 21:46:59 ID:???


「ニュクス、君もだ。色々と教育はしたが、悲壮なアレコレなど教えた覚えは無い」

 ジョシュアに対するより、かなーり優しめにニュクスの両ほっぺをムニュっと両端から思いっきり挟み込んでやった。

「ワールド・タイム・ゲートの本質は世界間の相互情報補完だ。でなければ近似値の世界がこうも生まれたりはしない。
 ゆえに間口が広く、そこを通る世界修正力の影響がかなり薄くなる。が、影響を無視できるわけじゃあない」

 ジョシュアとニュクスへの仕置きを終えるや、何の変哲もない木の枝にマシュマロを縫って、それを闘神の篝火に近づける。
 ニアの延炎が良かったのだろうか。今は安定して燃え続けている。

「君は頑張り過ぎた。このままじゃあ遅かれ早かれだ。だから…行ってこい。命令だ」

 これも“自明”によるモノだろうか。火は枝に燃え移ると、頼りない火となって燃え続けている。
 不思議なことに枝そのものは燃え尽きる様子はなかった。

「あー…君の選択次第なのだが(>>574)ニア。出来ればこの子は君が以前の世界に届けてくれ。
 存在が大きくなりすぎているから、α-12と完全に統合されるとまではいかない。欠片くらいしか残らないかもしれない」
 
 元のα-12とは差異が余りにも大きい。その分、世界修正力は大きく働いてしまう。
 記憶どころじゃあない。魂のレベルで微粒子程度しかα-12の裡に残らないやもしれない。

「だが、このままじゃあ何もかも消えて、『力』という現象になるのを待つだけだ。
 努力が報われるのは極稀だが…この子は、救ってやらないとな」

 動かねばならない。イムカ・ラヴィニス・ヴァール・ウル・グリムナーとしての“最後の仕事”だ。
 滞りなく全うして、拾えるものは可能な限り悪あがきだろうと拾いきってやる。己は政治将校であり、何より上官なのだから。

「第一、世界の調停者だと?私の『家族』をそんなワケの解らないモノにさせてたまるか。私は中途半端なトゥルーエンドとやらは好かん。
 タグラス、ドグ、オメガがしこたま貯めたデータとアーティファクトとやらはあるのだろう?そこまで揃ってどうして妙な結論にしか至れん」

 時を戻す?OK、確かにこれはもう“どうしようもない”。それは認める。だが、それで終わらせてたまるものか。
 ここまでの苦痛、ここまでの破壊。それを乗り越えた結果。霧散した幻想で終わらせるのを拒絶できる範囲で拒絶してやる。

「私達は寿命を全うして、挙句にくたばるんだ。それ以上になるつもりもさせるつもりも毛頭ない」

 無茶だろうが、荒唐無稽だろうが、やれる範囲はやる。諦めるのはそれでも力拙く、どうにもならなかった時だけだ。

「ドグ!オメガの背信行為のあらゆるデータとこちらに流せ。サーボスカルに積めるだけ積む。
 あとは向こうの『私』や皆がどうにかするだろうさ。更迭し、権力の全てを剥ぎ取る」

 無かったことになぞさせてたまるか。調停者の影響云々ではなく、そこで生きる人間の手で裁いてやる。
 世界修正力の影響で何処まで残るか知れたものではないが、やるだけやってやる。

『さて、そこでだ(>>584)ソーマタージ。私からひとつ依頼があるな。いや、残ると決めているなら仕方ないが一応は聞け』

 ここで突然、ソーマタージに対する秘匿通信だ。そして、イムカがソーマタージに何かを依頼する時は、
 概ね、のんきでステキな連中には話せないような内容であることが多い。

『君の記憶にも、サーボスカルに何処までデータが残るかもわからん。過去逆行なのか統合なのかすら解らんケースだからな。
 が、もし、多少なりとも残滓らしきものが残っていたらだが――更迭されたならオメガは確実に始末しろ。
 他の感傷的な連中には悪いが、生かしておいても百害あって一利なしだ』

 同時にイムカが把握するありったけの秘密口座をソーマタージに送信した。
 これもどこまで残るものやら、だったが。こればかりは世界修正力とゲートの機嫌に聞いてくれ。

『万一、奴の境遇が全く変わってて、ただの専業主婦なんぞになっていた場合は除く…というくらいだな』

591イムカ・グリムナー【最善への希求:2023/01/11(水) 22:09:20 ID:???

「出来れば、ベガスで派手に散財してくれ。新聞紙に包まれて賭場を蹴りだされることを望む」

 何とも地味にヒドイ事を、通信ではなく言葉でソーマタージ告げてから、

「そして、(>>585)アキレス。私は…まあ、私がやる以上は確実に勝利するつもりだが、万一君に妙なアレコレになられたら困る。
 君にはらくがき…もといアートをあらゆる世界に刻むという仕事があるのだろう。こんな所で油を売っているヒマはない」

 言いながら、気絶している老成した鈴虫を溜め息混じりに見る。
 無軌道に暴れてくれた男で何なら始末したほうがいいくらいかもしれないが、

「ついでにコレ(鈴虫)も頼む。一緒に連れて行ってやってくれ。こちらもいい感じに修正なり統合なりされて、
 いや、記憶があろうが無かろうがあまり代わり無さそうだ」

 何より、アキレスにはロイやジョージと再会させてやらねば。
 戦士でもない彼には出来過ぎた戦果だ。戦果には報いてやるのが上官の勤めだ。

「そして、ベティ。アキレスとコイツを頼む。頼りない連中だ。君がしっかりと手綱を握るんだぞ」

 ベティの頭部にサーボスカルが名残惜しそうにヌタっと着地した。
 そこには先程イムカから摘出した遺伝種子の胚細胞と聖遺物たるクレイトスの憤怒がある。

「スカル、『私』に渡してやってくれ。聖遺物はひとつだ。同一存在などどのような影響が出るかわからん。持って行け。
 そして、その遺伝種子があらゆる証明になるだろう。上手くすれば適合率も多少は回復するかもな」

【イムカ→イムカ/クレイトスの憤怒、サーボスカル、遺伝種子の胚細胞の譲渡】
 【少なくともゲートに飛び込めば、聖遺物は何らかの形で修正力が働き統合されるはずだ】

 そして、先程からのイムカの言で凡そ、皆が察していると思うが――

「さて、ジョシュアもニュクスも悪い意味で思い切りが良すぎる。これでは『私』は気が気ではない。
 妙なヘマをされても敵わん。特にジョシュアは筋金入りのダメ男だ。監督役は必須ということだ」

 言いながらイムカは――今や、聖遺物の譲渡も完了し『イムカ』の名の意味を失くしたラヴィニスは、

「私は残る。ニュクスも、ジョシュアも、勿論、私自身もワケのわからん存在のまま終わらせん。
 ここは酷い世界だが、何、私がやるんだ。ハッピーエンドくらい、保証してやるさ」

 この後、ラヴィニスがどうやってどうする、のか、までは解らない。それはもう別の物語りだ。ワールド・タイム・ゲートを用いるのだ。
 絶対的な時間軸など無いし、仲間達がゲートを通った時はその結果が齎されるのだろう。

「だから、まあ、月並みな台詞だが、後は任せろ」

 ラヴィニスは、無理矢理な笑顔で言う。いつ何時も無表情だったイムカはここには居ないのだから。・

【選択:ジョシュアと残る→→→残った上で可能な限りビターエンドに抗い拾えるものを拾い切るという選択】

592ニア・シューペリオリティ:2023/01/11(水) 23:25:12 ID:???
>>586-591
どうぞ、と微笑みおいもさんを手渡すニア。父と娘の合間
銀の月、金の太陽、混沌の空に寂しげに漂う無数の魂の煌めき
理壊電磁乱流は波濤を起こし、彼方…虹彩に鮮やかなオーロラの薄膜が輝いた

「ふむむっ…」
「…じゃあっ、やっぱり…」

立ち上がり、ダグラスへと。オムニへと、父親へと手を伸ばすニア
彼我の純なる眼差しに浮び浮かぶ顔には至福が満ちていた
そよぎ吹き過ぎる宇宙の季節風のうち、岸辺からかなたの未知へと響き合う木霊のうちに
世界をやわらかな天上の光で照らす天体の中にも。紡ぐはほのかな香りのフリイジア

「私たち(かぞく)の問題ってんですねぇっ」
「…て言うか、折角…、折角逢えたのにっ…」

二言目には唇を尖らせ、ナナメに視線を落としながら彼の服裾を摘みながら

「……また、…二度もお別れするのはっ…」

…。けれども。せめてしばしの間をと…願っても虚しく
時間はのがれ、逃げ去って行く。世界は崩れ、千切れて灼ける
この虹彩の藍に向かって『もっと緩やかに』と命じたとしても
暁が、やがて夜を吹き払ってしまうのだから
だからこそ、逃げ去る刻一刻を愛する事を
その場所が、時が、次元だって構わない。それらの要素など些細な問題に過ぎやしない
ややあって…抑圧の堰が決壊を迎え、雄大なる父の体躯に身を寄せて額を押し当てクリスタルの雫を無数に生み出し続けるのだ
ニアは祝福を賜った。それが事実なのだ。手を伸ばせば触れられる薫風…彼女のすべてが安らいでいた
底知れぬ涯の暗い藍には宝石のように星々が散りばめられ、ムーンライトはカオスに満ちた闇にも雄大に
この漆黒に作り出される世界へと溶けているように、心を解き放して、覗き込んで、真実であって欲しい、願望で終わらないで欲しい、掴み取れるもの、煌くもの、西の空に輝くそれを…
希望へと辿り着いた。ひとがゆめをみるということを

-----------

「…そんなわけでぇ、イムカっ」
「その役目はぁ、…もっと、適任にやって貰う事にするってんですっ」

ダグラスのハンカチで無遠慮に鼻をかんで(シツレイ!)、イムカへと向き直り小悪魔めいて微笑んだ
適任。先程ニア・クラウドへとアクセスを行った存在。今消失と現存の狭間にうつろうもの。黒曜の使徒。…ある意味、トゥエルブの存在の原因のひとつ
ギャラエ・マウスィム。脊髄と脳と眼球のみで生かされ続ける彼女を、狩人の火で焼き弔う
ある種の『特異的存在』たるソレは復元されるであろうが、元来平行世界間にしか存在を赦されぬ咎人だ。相違なくこの世界からは放逐される。
概念として火を持ち出し、トゥエルブ本人へと届けさせる
輪廻を踏台にしたメッセンジャー。魂の同位体(ソウルアイソトープ)の死と存在の消滅が≠となるソレのこの場面において最も有意義なる活用法

「トゥエルブもほら、多分やる気満々(欺瞞)みたいってんですしっ」
「…それにっ、…まぁっ…ニアとしてはぁっ…」

にししと笑みを浮かべてジョシュアとイムカ…否、ラヴィニス。そしてニュクスを見遣る
いぢわるそうに赤眼を細めてからしかし、肩を竦めて親指を立てた

「そのハッピーエンドって言うのもっ、やっぱり見ておきたいってんですからねぇっ」

【選択:ジョシュアと残る→ダグラス。オムニ・シューペリオリティ…父と共に】

593かぶり ◆qg2zP.O3iQ:2023/01/12(木) 21:05:07 ID:???
>>586-592
さぁ 全ては終わったことだ 後はみんなで帰るだけ・・・なんて都合のいいことはなかったらしい

アキレス「え?いやいやいやねぇ? 皆で帰ろうよねぇ!?」

ニュクスがその身を犠牲にして返してくれるというではないか
しかもジョシュアが(いつものように)犠牲になろうとするではないか

アキレス「ねぇ待ってよ・・・みんなで買えればいいじゃんねぇ・・・頼むからさぁ・・・寂しい思いすることないってぇ・・・ぇ・・・」

気付けば涙がこぼれていた 怖い思いして 寂しい思いして ようやくまた一緒になれたんだから
・・・と 感情があふれ出したのは自分だけではなかったらしい

―――ギィィィィィィィィ!!?
アキレス「え ちょ・・・わぁぁぁぁぁ!?」

ベティの巨体がヒョイと持ち上げられて・・・投擲
暴走ジョシュアにフライングボディプレス!! きっと今頃ベティの下でペランペランになっていることでしょう

アキレス「・・・・・・・・・・」

そして皆の覚悟を知る

イムカが残ることを決意した ジョシュアとニュクスの代わりに自分が特異点となりて時間軸の調停者となる決意を固めた
そしてニアはイムカだけが残ることを良しとせず 自らもまたこの世界に残る決意を固めた

アキレス「・・・・・・・・・・・・・」
イムカの言葉を聞く・・・彼女は自分に戻ることを提案してくれた
自分の芸術のことなんか微塵も理解できないくせに こんなところで自分の夢を後押しするようなことを言ってまで

アキレス「あの・・・さ・・・」
だからこそ 自分の言葉を述べよう 涙も鼻水もそのままに 子供の様にしゃくりあげながら

アキレス「俺・・・俺さ・・・みんなと別れたくないよ・・・ジョッシュとも・・・イムカタンともさ・・・でも・・・でも・・・ッ!
     ジョッシュやニュクスが戻って・・・イムカタンがここに残って・・・ッ!ニアタンまで残ったらさ・・・!」

破れたシャツで涙をぬぐい 鼻をかむ だけどもそれらはとめどなく溢れ

アキレス「そしたらさ・・・ッ・・・ジョッシュが暴走したとき・・・止められる人間・・・いなくなっちゃうからさ・・・
     だから・・・ぁ・・・俺・・・俺頼りないかもだけどさ・・・ッ・・・俺・・・俺が頑張って止めるからさ・・・!
     だから・・・俺・・・俺・・・・・・・・・・・・・・・戻るよ・・・!!!!」

やっとの思いでそう告げて ボロボロに泣き崩れる この感情はどう表現していいか分らなかった ただとめどなく流れる体液を止める術を 今はしることはできなかった

ベティはジョシュアの上からどいて 巨大なハサミで鈴虫をつまんで拾ってきた

アキレス「俺・・・俺頑張るから・・・頼りないけど・・・頑張るから俺・・・だから・・・だから・・・俺・・・俺・・・・・・・・・頑張るから・・・」

堰を切ったように押し寄せる感情にうまく言葉が出ないけど ただ伝えたい言葉をこぼす

【アキレス・ベティ:過去へと戻る】

594又ジ ◆P2bEA4mHeU:2023/01/12(木) 21:38:56 ID:???
>>586-593
「そりゃ揉めてトーゼン」

出撃前の剣呑な雰囲気の正体を知れば、肩を竦めて茶化す。そもそも、無駄な計画であったらしい。
アリーから受け取った電解質パックを慣れた調子で接続し、懐を探す。コンバットドラッグは激戦で失われていたようだ、仕方なしに残った僅かな煙草を見つけると、実存の火を点けた。

「オイオイオイ、俺達はお前を取り戻すって事でここまでシャカリキになって、当のお前はゲートになって解決か?
 アホに取り憑かれてたのに誰に似たんだ、その俺のいっちばん好きくないタイプの。思い出せよ、雑草とか食べてた頃のお前を」

異を唱えるのは、フラットな立場ながらもここまで付き合った者としての言葉だ。真に難しいのは手に入れる事ではなく手に入れた物を手放す事、ましてやそれ自身が離れる事を望んでいるのなら。
それでも、ニュクスの言いたい事は理解してしまう。納得も出来てしまう。彼はニュクスの親でもなければ、特別親しい間柄でもない。新たなる地獄を生まないためだけに在り続ける、その地獄を理解しても尚。
───だからこそ、他の者の反応に何かを示すなど、烏滸がましいのだろうか。

「………ハァ?」
「バッカお前……俺は知能指数が高いし、頭の中に似たようなの飼ってるから分かるぞ。その先は何もいい事はない。いや、ひょっとしたらあるかもだけど、限りなく可能性は低い。
 いいぞ、お前らも何か投げてやれ、血を流せば頭も冷えるだろ。石投げちゃおっと」

その力の一部を引き受け、ここに残ると言い出したジョシュアに投げて返すのは、心底からの呆れとその場にあった物だ。空弾倉、空瓶、石…。
一時のヒロイックで務まる役目ではあるまい。幾つもの世界の運命を見続け、時として存続させるために動く。終わりのない過重労働というだけではない、永劫に近い時を人の精神は耐えられるのか。
冗談めかして茶化し、からかい、嗤うその目は、しかし悪辣な喜色も朗らかな空気も、大凡笑顔に乗るべき要素は何一つとして無かった。

「…………アァ?」

───そして、それは選択を選ぶ他の者に対しても同じであった。

595又ジ ◆P2bEA4mHeU:2023/01/12(木) 21:42:26 ID:???
「オイ………オイオイオイオイ。大丈夫か?お前ら。
 やっぱりさっきので脳ミソまでカビたか?もしも〜し、お留守ですかァ?」

「オイ鉄の女。武器や防具、信仰対象がいないからって、それでいいのか?一つ確かな事を言っておくと、向こうに放射性物質中毒者用の定食は無いと思うぞ」
「ニア、お前もだ。そもそもお前の、なんか……遠縁の親戚……?がああなってんだぞ。お前以上の適任がいてたまるか。少なくとも俺はヤだからな。そもそも火にあんまいい思い出はないんだ」

順繰りに指を差し、罵り、揶揄し、煽る。厭世だからこその皮肉屋な気のある彼の口振りは、越境者ならば聞き慣れたものだろう。
もっとも、そこに宿る真意を推し量れるかはまた別の話だ。被り続けた仮面(ペルソナ)、果たし続けた表層(テクスチャ)は、その中身だって覆ってしまう。

「なんだよお前ら……。もう“中年の危機”を乗り越えたつもりか?頼むぞ、実年齢はともかくまだまだ走れるだろ。
 これからもっと楽しくなる、だろ?ドブの底から空を見上げて、蛆虫を千切っては投げる素晴らしき日々だ。たまにちょっといい思いをする事だって出来る」

「そっちは?ホンの数人で10の500乗、いやそれ以上の数を見て回る日々だ。それもたまにちょっかいをかけて?
 バカげてる!このソーマタージが言う事じゃないのは分かるけど、正気の沙汰じゃあるまい」

その迷いの根底、執着の正体が何なのかは、ソーマタージにだって分からない。身振りを交えてよく回す口が考えているのは、どうやって彼らを引き戻すかだ。
至高の領域に至った者達が特異点となり“無かった事になる”単純な戦力の変化を惜しんでいるのか。理屈も何も無く子供じみて駄々を捏ねる身侭な願望と恐れなのか。世界を幾度も越えた者への失望と怒りなのか。
───同じような事があったのかすら定かではない。過去も未来も無くなったソーマタージの自我は、未練(それ)すらもいつの間にやら棄ててしまっている。

「どうして…………?」

───ただ、朧げでも理解しているのだ。彼らの物語は、適切なる位置に収まり適切なる役割を遂げようとしている。見慣れた形とは違えど終わりを迎えようとしていると。
親は子の下に、子は親の下に、上官には部下を。因果と宿業が混ぜて歪めて狂わせた運命は、今こうして一つに紡がれる。
例えその先が眩いばかりの闇であったとしても、収まるべき位置、加わるべき輪に加わり前を向き続けるのなら、そこが地獄であるはずもない。

「とうして……………!?」

───同時に、無駄でも嘆くのだ。何故自分はああなれなかったのかと。何故自分には何も残っていないのかと。ワンセンテンスごとに変化する人格、雪崩れ込む情報の渦と記憶の濁流。無間の虚に問うのだ。
諦め、それでも倦んだ生を続けるべきだという事は分かる。それだけの使命感が、それだけの願望があった事は覚えている。
では、何を望んでいたのだ?いくら記憶のページを捲っても、抜け落ちた記述に混ざる痕跡は自分が罪深い存在である事を思い出させるのみ。
世界を越え時空を飛んでも尚繋がり続け、そして今再び身許に至った者。それに値する誰かがいたはずなのに。でなければ、こうまで彷徨い続ける事などなかったはずなのに。
いたずらに刺激されたニューロンがうずめき叫ぶ。強張る手で顔を押さえて漏らす様子は、深く暗く重い失望にも似ていた。根源たる澱みを共通するかのように。

596又ジ ◆P2bEA4mHeU:2023/01/12(木) 21:47:20 ID:???
「──────盛り上がってるところ悪いが、俺っち達は帰らせてもらうぜ。元々、そのガキとそこまで深い繋がりは無いんだしな。 どーしても、っつーんなら話は別だけど。
 地獄はもう頭の中にある。これ以上は流石に食傷気味だ。 もし関わる事があったなら、次はもっといい感じにしといてくれヨ」

「そういうわけだ、オラ行くぞ。お前鈴虫(そっち)持てよ」

───もう、頭の中の声は聴こえない。
天を仰ぐ顔面を隠すように覆っていた指が一本ずつ離れ、するりと滑り落ちていく手。皮肉めいて鼻を鳴らしてニュクスを指す形に変わると、残ると決めた者達を───補陀落渡海へ漕ぎ出す者達を順に指していく。
感情を爆発させる事は無かった。あくまで静かに、フラットに。 永い永い夜の夢では、望もうと望むまいと別れは付きものなのだから。
伝えたい言葉を言い終えたアキレスの首根っこを掴もうと、狂人の手は伸びる。無骨で無慈悲で死と罪に塗れた、冷たい機械の手。

「───俺なんかよりもずっと楽しそうな業を背負うじゃないか。 調停者(アービターズ)か、少なくとも、“こっち”よりは楽しそうだ」

「完全に隔絶された以上、お前らは死人も同然。見られないのも当然。だが、そこまで豪語するなら精々何かしてみせな」

《足りなかったら、その時は『別のお前』から取り立てといてやるよ》

キャバァーン!キャバァーン!ナノマシンを介した秘匿通信を通じて脳内電子空間に響くのは、秘密口座の中身が移されたファンファーレだ。手切れ金としては過剰であれど、修正力とこの世界の終幕にどう作用するのかは分からない。
ビジネスライクな関係とするには互いに色々と知りすぎたものだが、結局はこういった物の方が“やりやすい”。吸い殻を指先で弾いて捨てると、一歩下がり餞別をくれてやるのだ。
未だ立ち続ける者、舞台上で最も哀れな役者から、一足先に退場───あるいは、新たなる舞台(せかい)を拓きながら向かう者達へ。

「もし“そっち”にも白髪でイケメンで気が違った傭兵がいたら、その時は代わりに殺しといてくれ」

「別れってのは切ないモンだよな。けどそれなりには楽しかったろ? 元気でな。“そっち”のどっか……だだっ広い精神病院でもよ。アバヨ、ダチ公」

シニカルで乾いた微笑と共に、終着点を手に入れた者達へのせめてもの祝福と別れの言葉を。

【選択:過去へと戻る。何度でも繰り返し】

597家路 ◆4J0Z/LKX/o:2023/01/14(土) 02:02:55 ID:???
「……みんなの決断は……わかった」
「ごめんなさい、私が我慢すれば……みんなが幸せになれると思ってたけど……それは私の傲慢だった」

越境者それぞれの結末の迎え方を聞き入れて、ニュクスは噛み締めるように頷いた。
過去へ戻り歴史を変えるトリガーとなる者、そして未来に残り多元宇宙の渡り人となる者。
そのどちらもの意志を、ニュクスは尊重する。元々自分の暴走のせいで時を跨がせてしまったのだから。
これ以上彼らの運命に介入する気は、ニュクスにはどうしてもなれなかった。

>>589
「コミ……うおおぁぁあッッ!?」

この場では最良の決断を下したつもりだったジョシュアだが、降り掛かるイムカの制裁!
彼は誰かの為に自らを投げ打つことを平気でする男だ。だからこそ生粋の兵士である。
兵士としてはよく出来ているが、一人の人間としては……ダメダメだ。平気で他人を傷付けてしまう。

「あぅあぅ……まあ、ごえんあひゃい……!」
「あのね、アーティファクトは…全部食べちゃったの」

ベティの下敷きになったジョシュアを見てガタガタと震えていたニュクスだったが、
そのもちもちほっぺをうにうにと押しつぶされると、気の抜けたノイズを出すだろう。
ヒリヒリと痛む頬をさすりながら、越境者が集めたアーティファクトはほとんどニュクスが取り込んだことを伝える。

「遺物(アーティファクト)はその尽くがニュクスの、いやALICEの力となるべく吸収されている」
「現存する物はなく、彼女の感覚でやり繰りしなければならないだろう……一応、データは送っておく」

メモリーボルトの一撃により余分な記憶はトコロテン式に押し出され、今や残るのは微かな残滓のみ。
だがサーボスカルの演算結果次第では、結末に多少影響を与えられるかもしれない。
無論、最も重要視されるべきはニュクス本人のパフォーマンスなのだが。そこは心配いらないだろう。

「コミッサー……イムカ、いや…………ラヴィニス」
「…………俺は諦めた訳じゃありません。絶対に……今度こそ、誰も取りこぼさない」

ややあって、ようやくベティの下から這いずり出てきたジョシュア。
可哀想なベティを裏返しの状態から起こしてやると、ズズンと地響きを立てて砂塵が舞い上がる。
それからイムカの隣に戻ると、迷うそぶりを見せつつも、今の彼女が誰であるかを汲み取った名で呼んだ。

>>592
「……すまない、私は……結局、誰かを苦しませる事でしか生きることができない愚かな存在だ」
「それでも私を父と呼んでくれるのなら……今度こそ、君を守り抜くと誓おう」

自らの胸に顔を埋め、音も立てずに涙を流すニアの小さな身体をダグラスの両腕が優しく包む。
こうしたことはこれまで数える程も無かったけれど、それでもずっと抱き続けていた愛情は。
ようやく罪の意識を乗り越えて、娘を守り続けるという選択肢を優越に選ばせる。

「だからもう、これ以上悲しまないで欲しい」
「ニア……私が名付けた、私の自慢の娘よ」

両手で優しくニアの頭を、柔らかな髪の流れに従って撫で、そのまま頬を伝う涙を親指が拭い去る。
名前のない兵器であった彼女を、かつてこの手で下したダグラスは。
人間のように怯える姿を見て剣を振り下ろすことを躊躇してしまった。
それが全ての始まり。気付けば自らを父と慕う一人の少女が生まれていた。だからこそ人に寄り添う者になってほしいと、ダグラスは彼女をNearと名付けた。

「君は私の怒り、濁っていた心を……洗い流してくれたのだから」

ニアはダグラスの願う通りの人間になった。今度は父が娘の願う姿になる番だ。
胸を張って誇れる、立派な父親に。

>>593
みんなで元の世界に帰る。これまで当たり前であり、そうでない事など考えたこともなかった結末。
戸惑いを見せていたアキレスだったが、やがて自らの役割を受け入れ、嗚咽と共に決意する。
彼は戦士でもないのに最後まで心折れずに戦った。誰よりも多くのものを失ったというのに。
だからこそアキレスには最後の役目が残されているのだが、それは今語るべきではない。

「……寂しくなるな」

柔らかな表情は親友へと向けるもの。ジョシュアの笑みは優しく、それでいて恋しさに満ちていた。
二人の出会いは穏やかなものではなかった。落書きに精を出すアキレスをジョシュアが追いかけて。
治安維持部隊と悪童。相反する立場の二人が、いつしか意気投合して悪友となり親友となった。

「時間が巻き戻った時、もしこの旅の事を忘れたとしても、俺は……必ずお前に会いに行くよ」

アキレスへと近づくと、ジョシュアはその両腕に痛いほど力を込めて彼を抱きしめた。
交錯し全てが朧げとなった世界で、互いの存在を暫し確かめ合って。背中を何度か叩いてから離す。

「他の世界のどんなアキレスでもない、"お前"に」

戻った世界にジョシュアは居ない。けれど一生の別れにはしないと、この最果ての世界から再会を約束する。
どれだけの時間が、世界が二人を隔てても。アキレスは彼の親友なのだから。

598家路 ◆4J0Z/LKX/o:2023/01/14(土) 02:04:26 ID:???
>>594
「ハ、そん時はまた誘ってみるよ……殺す前にな」

ソーマタージは変わらない。何度だってやり直し、繰り返し……何度も何度も、己の原罪に浸り続ける。
救われない道化師。失われた為人の核。狂気に侵されながらも日々悦楽を飲み干し、皮肉で中和する。
だからこそ殺せと言ったのは、多元宇宙に存在する無数の狂人達に与えるせめてもの慈悲なのか。

「お前の軽口が聴けなくなるなんてな。こんな日が来るまで生きていられるなんて……思わなかった」

けれど、実際のところ彼がどう思っているのかに関わらず……ジョシュアにとって彼はかけがえの無い仲間である。
本音を言えば別れは辛い。けれどそれ以上に今はニュクスの側に。どんな形であっても隣に居たいと思う気持ちが強く。
両手で顔を覆って嘆くソーマタージの胸にジョシュアは拳を突き出した。俺たちにはこう言うのが似合う、とでも言いたげに。

「……じゃあな、相棒」
「偶には会いに行くよ、第四の壁をぶち破ってさ」

今生の別に近いそれだが、マルチバースが修復され、越境現象が復元すれば二度と会えない訳では無い。
きっといつか、呆気ないほどに再会できるかもしれないと言い残し、ついに修復の下準備は始まる。

>>ALL
「ジョシュア、俺も元の世界に戻る」
「記憶が残るかは分からんが、俺にはエリュシオンでやり残した事がある」

アキレスとソーマタージに続き、エルミスもまた過去に戻るという選択肢を選ぶ。
彼はHEXAのエージェントである以前に、エリュシオンの聖人の付き人。そして女王ガブリエラの弟子である。
マルチバースの脅威からエリュシオンを守る為にも、ここで油を売っている暇はない。

準備を終えた彼ら三人(と昏倒中の一人、あと火)の顔を交互に見た後に、ジョシュアはニュクスに合図を送った。
残るはこの世界に残るジョシュア以外の三人である、ここを過ぎれば後戻りはできない。

「ニア、ダグラス……それとラヴィニス」
「準備はいいな?」

今更それを聞くのは野暮というものだと、ジョシュアはただ準備の可否だけを聞く。
ニュクスは目を瞑って意識を手先に集めている。再びその身体が黄金色に輝き、蝶の羽根が大きく広げられる!
真っ赤に染まっていた空が群青へと戻り、砕けた宇宙は塞がれ、破壊された自然や大地は徐々にその姿を取り戻してゆく。

「みんな、ありがとう……私の為に戦ってくれて」
「きっと……いや、絶対無駄にしない。やってみせる……全部取りこぼさず、全部拾えるように……みんなが幸せになれるように!」

祈るような姿勢のままその身体が宙に浮く。統合された世界は少しずつ紐解かれ、元あった場所に、元々の形へと戻ってゆく。
越境端末では再び世界の境界線が構築され、世界同士の距離が離れてゆくのがデータとして読み取れるだろう。
ニュクスはサーボスカルからの演算結果を受け取り、それを情報として自らの肉体へと流し込む。

「あれ、見てみろよ……凄いな、夜明けだ」
「俺たちはこれから、あの夜明けを守る為に…これまでよりもっと滅茶苦茶な世界を旅するんだ」

群青色に戻った空の東側を登った太陽が照らしていた。夜明け前からの電撃戦。まだ太陽は登りきっていない。
そこにあるのはなんて事のない普通の夜明け。けれどジョシュアの眼にはこの世のどんな宝石よりも輝いて見えて。
これから待つ未知の出会いに未知の世界に、らしくもなく期待に胸を膨らませながらそう溢した。

599家路 ◆4J0Z/LKX/o:2023/01/14(土) 02:05:03 ID:???
「完成した!みんな今だよ……飛び込んで!」

突如空間を切り裂き、放電現象と共にテッセラクトが展開され、ワールド・タイム・ゲートが完成する。
ニュクスはアキレスとソーマタージに合図をし、彼らが飛び込むのを見送ってから能力を解放するだろう。
臨界状態へと至った瞬間に眩い光が辺りに溢れ、世界の境界線が徐々に再構成を開始する。
残ったのは彼らだけだ。この修復が計画通りに進むのか、それは分からないが。

「アービターズ、か……うん、何をするにもまずは名前が必要だしな…結束の為にも」
「俺たちは……今日から調停者(ジ・アービターズ)だ」

ジョシュアは多元宇宙が修復されてゆくのを見届けながら、ふとソーマタージの呟きを思い出していた。
アービターズ、確かに良い名だ。新しい仲間達をまとめる為にも、少しアイデアを借りるとしよう。
隣り合った仲間と手を繋いで、東海岸の海を眺めながら……ジョシュア達は光の奔流に飲み込まれていった────

ワールド・タイム・ゲートを抜けるとニュクスの能力によって時が巻き戻され、越境者はあの病室のあの瞬間に辿り着いていた。
イムカの采配によってあの世界での出来事の記憶はしっかりと残っている。開花した能力はすっかり元通りになってしまっていたが……それは修正力がしっかりと修復している証。

ただゲートをくぐった三人を除き、そこに居るのはニア、イムカ、アグラーヤ、ヒトの姿を取り戻したa-12。そして見覚えのある越境者が数人だけだ。
空になったベッドを囲んで越境者は不思議そうな表情を浮かべる。何故自分達はここに居るのだろうかと。
どれだけ辺りを探しても、ジョシュアとニュクスの姿は……どこにもなかった。

600家路 ◆4J0Z/LKX/o:2023/01/14(土) 02:05:36 ID:???
────10年後────

601家路 ◆4J0Z/LKX/o:2023/01/14(土) 02:07:32 ID:???
【2058年 断絶された世界 キャンプ・トリニティ】

崩壊から10年の時が流れた。

越境者の帰還を切っ掛けに新たな未来が構築され、オメガによる虐殺が発生しない未来が正史となった。
すなわち枝分かれする道のように、この世界は全ての歴史から切り離され、離れ小島のように時間を漂流する次元と化しており。


正史の道筋から外れ、断絶された世界となった此処は今────


《────さてお昼のクラシックチャートは、今や懐かしいヒップホップの名盤達だ》
《今朝倉庫を漁ってたら懐かしい物が出てきてさぁ》

賑やかなバックグラウンド・ミュージックと共に陽気なMCの声がスピーカーから流れ出る。
あれだけの大破壊に襲われても、文明は根絶されなかった。生き残りはトリニティに集い、新たなコミュニティが生まれたのだ。
少なくとも現在、この世界に争いの気配はなく、ラジオパーソナリティのMCからも平和な空気が伺える。

《みんなCDって知ってるか?俺達が子供の頃はプラスチックの円盤をステレオに入れて音楽を聞いてたんだぜ?》
《それじゃあ行ってみよう、お昼一番の曲はPunpeeで『Operation Multiverse of Love』》

時刻は丁度昼時だ。仕事に勤しむ人々が身体を休め英気を養う時。音楽は人々にとって唯一の楽しみなのだろう。
明るい曲調、しかしどこか悲しさを匂わせる歌詞のヒップホップが、トリニティの各所のスピーカーから流れ出す。

《もしアイツが凡人(Punpee)だとしたら もし私がそうじゃないとしたら────♪》

収容所に囚われていた者や、北米以外の各地で大破壊や世界の統合を生き残っていた人々は、今や300人程がトリニティに集っている。
越境者や何も能力のない人間など、その出自は様々だ。しかしそれぞれに平等に役割が分担され、協力し合って生活している。
高いビルが何一つない瓦礫まみれのボストンでは、廃材やレンガなどを用いた建物が多く立ち並んでいた。
生活水準もようやく人並みの生活を安定して迎えられるようになり、少しずつだが人口も増え始めている。

《ジャンルはマルチバース こっちの次元(せかい)では歯食いしばる こと多いが異次元の私(ワタクシ)は モテすぎ数えきれん○ぐり返す数》
《親ガチャ・国ガチャ・宇宙ガチャ 音楽ありゃウガチャカ俺ちゃんは踊る》

数多の次元がこの世界に重ねられ、無理やり生じた越境により数え切れない程の人間が命を落とした。
しかし同時にそれはこの世界だけでなく、他の世界の生き残りも迷い込むという事が稀に生じる訳であり。
今やトリニティには人間・獣人・亜人など……分け隔てなく数多くの種族が肩を並べて暮らしていた。

《死んじゃったアイツをコピペして こっちでまた遊びたいね》
《悲しみは二人で分けて 嬉しみは二人で二倍だ》

街の外れに立ち並ぶ墓標は数えきれず、失われた生命全てを弔おうとすれば地表が墓標で埋め尽くされるだろう。
アルフレッド・ノーマン・ヨハイムと記された墓の前に花を捧げる一人の少女は、機械の身体を造ってくれた父親のために涙を流す。
けれどこうして老人がベッドの上で逝くことができる未来が来ると、どれだけの人間が想像していただろうか。
この世界は10年前に、明確な終わりを迎えようとしていたのだから。

《あのセーブポイントに戻ろう あのセーブポイントに戻ろう》

街の外縁部では今も復興作業が続いている。指揮を取るのは越境者によって運営される組織『調停者(アービターズ)』である。
越境の素質を持つ人間を集め、鍛え、教育し。多元宇宙への越境という、これまでより危険な暴力的次元への越境現象に備えて力を養うのだ。
そして活動の一環として街の運営や防衛、復興作業などを担っているという事になるらしい。

少々年季の入ったかつての聖王は今、復興現場の最前線にいた。
作業員たちの声援を受けながら、巨大なガレキを持ち上げ道の端に避けて、額の汗を拭うダグラス。
若干の衰えを感じつつ倒れた柱に腰掛けて息を整えていると、小脇から小麦色の手が労うように水筒を差し出した。

《いつまででも居たいよ その次元でもそばに》

そしてニュクスといえば、今やすっかりアービターズの首領……そしてマスコットキャラとして指揮権を握っている。
主な業務は並行世界の監視、複数世界を破壊や消滅の危機に至らしめる危険因子への介入、そしてそれらの行く末を見守ること。
ラヴィニスに小言を言われる事はあるが、自分という存在の意味を見出した今の彼女は……とても幸せそうに見えた。

そして────

602家路 ◆4J0Z/LKX/o:2023/01/14(土) 02:08:22 ID:???
「だけど君はもうそこに、居ないかも」
「…………居ないかも」

トリニティ外縁部にほど近い見張り小屋、小さなラジオから流れる音楽に合わせて透き通った声が微かに響く。
床に腰を下ろしたままの成長途上の若い体躯。グレーのショートヘアに赤色の瞳。全身をピッチリと覆う独特のインナー。
何かに、誰かに思いを馳せるように、水平線を見つめるその瞳から一粒の涙が溢れた。

「アザレア、こんな所に居たのか…………訓練の時間忘れてただろ」
「……何かあったのか?」

そのまま膝を抱えていると小さく響くハシゴが軋む音。
アザレアと呼ばれた少女が振り返れば、丁度見張り小屋に一人の男が登ってきた所であった。

ジョシュア・アーリントン。彼は今アービターズの教官として、後進の越境者を育てるために精を尽くしている。
戦うことしか考えて来なかった彼としては、誰かに教えると言う事は新しい試みであったようで。今やすっかり穏やかな日常の、数少ない生きがいとなっているようだった。

今日は少女に銃の扱いを教える日であり、しかし少女が時間通りに現れない為に探し回っていたようだ。
少しばかり絞ってやろうと思っていた所だが、頬を伝う雫を見て一転、心配そうに問い掛ける。

「いえ、少し…………なんとなく切なくなって」
「それより、今日もよろしくお願いします……教官(チーフ)」

対してアザレアは終始ドライに、インナーに包まれた腕で無造作に涙を拭って立ち上がる。
軽い身のこなしで小屋から飛び降りると、何の危なげもなく猫のような身のこなしで着地する。
それを追いかける為、ジョシュアは溜め息の後に梯子を降りる。
アザレアは収容所でとある越境者から生まれ、幼い頃から実験を繰り返されてきた。素質はあるが感情面がまだ不安定だ。

「ところで、いつになったら私も越境させて貰えるんですか?」

「……お前まだ14だろ、現場に出るのは成人してからって何回も言ってるだろ?」

ようやく追い付いたジョシュアに、アザレアは少し不機嫌そうに物申す。なぜ自分を現場に連れて行かないのかと。
それを聞いてジョシュアは実力の伴わない人間を、特に子供を危険な世界に連れていくことはしないと咎める。

「もう一人前です、将軍仕込みのカラテも覚えましたし、もう教官より強いかもしれませんよ?」

「俺が本気出すといつも半ベソかいてンのは誰だったかな、大体お前は────」

二人の他愛の無い言い合い、並んで歩く背中が小さくなると共に、その話し声は遠く聞こえなくなってゆく。
強がるアザレアに言い返すジョシュア。師弟の日常の1ページ。徐々に背中は遠く、声はさらに遠く。
坂道の向こうへ消える頃には、声はもう聞こえない。

脈々と続くいのちの火を絶やさぬようにする為、少女は世界と共に断絶された。
しかしそこから続く道は永遠の監視者としての孤独の絶望でなく、未知の灯火。無限の歴史が広がる未来へと続く道だ。

たとえ一人になっても、別れても。
押しつぶされそうになった時には。胸に触れて甘い記憶を呼び起こせばいい。
いつだって仲間は、思い出と共にそこにあるのだから。

【『スウィート・メモリーズ』────終幕】

603 ◆4J0Z/LKX/o:2023/01/18(水) 00:09:40 ID:???
【Additional Memories - LAST CHAPTER】

6041/4『二面性』 ◆4J0Z/LKX/o:2023/01/18(水) 00:10:33 ID:???
【2033年 マサチューセッツ州ボストン】

「ニュクスが……グリードが、消えた」

HEXAが所有する近未来的な造形のビルディング、そのエグゼクティブ・オフィスにオメガ・インフェリオリティは居た。
ある日、ある時を境にニュクスに埋め込んでいた発信機の反応が途絶えたのだ、跡形もなく。
何も信号を発しなくなったモニターの前で爪を噛みながら、乱れた髪と皺のよったスーツ姿の女は椅子から立ち上がる。

「どうしてだ……間違い無く私の管理下に置いていたはず」

グリードの支配は完璧だった筈だ。暴力や戦争などのセンシティブな情報を遮断し、無垢なままで居させた。
洗脳は滞りなく進めていた。監督者役の越境者による妙な入れ知恵という抵抗は知っていたが……それは些細なものだった。
そして万が一裏切りが起きた場合の為に……珪素コーティングが施された発信機をアーティファクトに混ぜて接種させていた。越境したのであればその世界ごと特定できる筈だ。

「……反カノッサ……『眼』がハイプリエステスを殺した報復に出てきたかな?」
「それとも…………」

自らの想定を超えた出来事に、敵対する組織を連想するのは自然なことだ。ニュクス単体での裏切りは考えにくい。
まずはカノッサ期間と数百年単位で因縁のある組織である『眼(ジ・アイ)』。神の代行者を自称しカノッサへ戦いを挑み続けるカルト集団────

オメガ本人はカノッサ機関に対する帰属意識はない、しかし邪魔となる存在であるハイプリエステスを数日前に越境者のタスクフォースを用いて暗殺している。
恨みを買う理由は十分にある、けれどそれ以上に第二の可能性としてチラつく一人の越境者の存在を無視することは出来なかった。

「いずれにせよ手を打つ必要があるな………ん?」

爪を噛んでいた口元を止める。モニターからの通知音に意識を奪われたからだ。
プロキシミティ・センサーが侵入者を検知していた。本社ビル前に降下する数台の輸送艇、そしてそこから小走りで降りてくる数人の兵士。
監視カメラに映る輸送艇のエンブレムを見てオメガは舌打ちする。あれはISACのものだ。

「チッ……OSAT……つまり後者の方だって事だ」
「やってくれるな……イムカ・グリムナー…………」

「エルミス、キミはエージェントを収集しろ……場合によっては荒事になるよ」

無線機を手に取って全ヘキサエージェントに連絡。OSATがどうやら家宅捜索を目論んでいるらしい。
無論阻止する為に本社ビル一階のエントランスにエージェントを呼び寄せる。

「……だそうだ、貴様ら……無論腹は括っているのだろう?」

それを聞いたエルミスはエントランスに集まったエージェントたちに視線を送る。

エツィオ・ヴェンギェンス。
アントン・ソロー。
オリーヴ・ドゥ・ラブ。
ラディカル・ドクトール。
エルミス・コンツァイアエッティ。
そしてハッシュ・メイヤー。

6人のエージェントは待機の姿勢を崩すことなくエントランスに立ち続けていた。
それぞれが己の得意とする装備と武器を手に、エントランスを、己の家を守る為に。

605イムカ・グリムナー【最善への希求:2023/01/18(水) 01:15:17 ID:???

 時間は少し遡る――

「これが私の調査した限りのHEXA…オメガの反社会的行為の全貌だ」

 イムカにとっての幸運は幾つかあった。まず、OSATの臨時訓練教官だったツテが存在した事。
 そして、サーボスカルが…未来のダグラスが保有し、“ラヴィニス”が自分に託してくれた情報が、
 証明保証AAAランクのパピルス(電子ペーパー)によるものだったことだ。

(これは執念によるものだろうな。全てが終わりかけた世界でも奴の痕跡を多数保存してくれていた。
 情念の力…私には些か理解出来ない代物だが――)

 妻の生き写し――言葉通りの存在が、大いなる災禍を引き起こした。その根源たる咎。
 目を背けたくなる程のそれらを、改竄せず、破却せず、ただただ見つめてきた男の心情とは如何ばかりか。

 イムカには理解出来ない。おそらく誰にも理解することは出来ないだろう。
 だからイムカは“利用”する。世界と時を越えて散逸してなお、己の手元にやってきた手札(カード)なのだから。
 

 ――多くを失敗してしまった男に寄り添うのはおそらく『ニア』の役目だ。イムカはイムカにしか出来ない役割(ロール)を果たそう。


「OSATを動かせるのは賭けになるな。…何より時間が無い。『眼』が動くまでがタイミリミットだ」

 それでも、イムカにとって2033年世界におけるタイムスケジュールは賭けの連続となった。
 ISACへのコネクションがあるとはいえ外様に過ぎない。さらにニュクスの消失が何時、オメガの耳に入るか。そして――

(…考えるな。今は私の感情など無意味だ。至極、問題はない)

 ニュクスとジョシュアはもういない。――そしてそれはさしたる問題ではない。
 今、未来と過去を繋いだ多くの義務と責任が『イムカ』に課せられているのだから。
 結合された世界に残った『自分』とニュクス、ジョシュア。奮戦した仲間達。死した仲間達。

「何一つ無駄になどしてたまるか…そうだろう?」

 ――――――
 ――――
 ――

 数多くの幸運とイムカの視界の外にもあったろう助力。そしてオメガが認識し、あるいは認識できなかった因果。
 その全てが現在の状況に収束した。ISACを説得し、OSATを動かすに至った。

 ISAC…いや、U.S.S.ワールシュタットのデータベースと学習AIがイムカの情報を元にこの案件について試算。
 そこで開示された結論は余りにも破滅的、かつ緊急を要するものであった。
 あまりにも速やかにU.S.S.ワールシュタットまで持ち込んだ案件が到った事。それはイムカにとっての僥倖。あるいは――

「お節介な誰かが手を貸してくれているのかもな」

 そして、速度は武器であった。何せオメガにしてみればクリティカルな諜報の痕跡も無く、ここまで状況がここまで運んだ。
 未来の――いや、現代のオメガ・インフェリオリティが踏み躙ったモノ。正に踏み躙ろうとしているモノからの逆襲だ。

 電光石火――イムカの来訪からOSATの出動に到るまでの即断即決。多くの悲願が、憎悪が、あるいは信頼が背を押してくれた。

「ノーブルチーム、速やかにデータルームに急行しろ。情報の確保こそが第一要件だ。学習AIとの接続を必ず果たせ。
 デルタチーム策定通り――」

 OSAT…昨今アーマー性能の向上に反比例して、練度の低下が懸念される面はある。
 ジョシュア・アーリントンの世代と比べて洗練こそされたが、兵士としての強度の弱体は否定できぬところだ。
 が、今回の突入部隊は上澄みも上澄み。出し惜しみなしの最高練度のチームが招集されている。

「テロルではない――アメリカ政府筋にも通達済みの正規ミッションだ。これが何を意味するか解るだろう、オメガ」
『GOGOGOGO!!』

 アーマーに身を包んだOSATの兵士達が瞬く間に集結する兵員輸送車より降車。速やかなる突入を開始した。

6061/4『二面性』 ◆4J0Z/LKX/o:2023/01/18(水) 09:57:11 ID:???
【ボストン港湾部……HEXA本社ビル エントランス】

「…………来たな」

自動ドアをくぐり抜けて侵入するOSATの一個部隊を、エルミス率いるヘキサエージェントは見守っていた。
武装こそしているが即座に交戦といった行動を取ることはせず、その周囲を徐々にOSATの兵士たちが取り囲んでゆく。
逮捕の為に迂闊に距離をつめるのでは無く、異能による攻撃も考慮した適切な射程管理……なるほど、最精鋭だろう。
完全に包囲された状態で、エージェントの中でただ一人無手であったエルミスは静かにその口を開いた。

「イムカ・グリムナー…………俺は"あの未来"を知っている」
「ここへ来たのはそれを止める為なのか、それとも…………『眼』と同じ過ちは犯すまいな」

静かに語られるのは、彼がイムカの受け取ったデータ通りの未来を"直に見てきた"というものだ。
エルミスもまたあの未来を止めるために、過去では起こり得なかった行動を起こしていた。
エージェント達もそれを了承し、イムカの意志を見極めるためにエントランスへと集結していたのだ。
ただの武力行使であるのならそれはラウル・グッドマンによる襲撃と何ら変わらぬ未来を引き起こす事となる。

「15年前のエリュシオンで、『眼』はカノッサ機関を止められなかった……」
「今度はしくじるな、未来は……お前の手の中だ」

そしてイムカにその気はないと確信を得たエルミスは、短く言い残して道を開けるだろう。
それは他のエージェントも同じだ。敵意を以たの破壊より本社を守るため。ひいてはオメガの強行を防ぐ為に。
その武器は襲撃者たる『眼』の到来に備えて、再び構えられることになる。

「は?エルミス、お前……」

「ハッシュ……もう終わったんだ、それとも一人で全員を相手にするのか?」

その中でただ一人殺気立ち、引き金に指を掛けていた狙撃手。ハッシュ・メイヤーだけが困惑したようにエルミスへ吠えた。
彼女はリベルタスにてジョシュアと同じ部隊にいた。オムニ・シューペリオリティ、そして今はニアとなづけられたタェンティース・マウトヘッドタイプと。

失った相棒を絶対時間軸(セイクリッド・タイムライン)にて取り戻し……二度とその手から離さない為に。
しかし破滅の未来においても、彼女の望みは叶うことなく潰える……それを知っているから、エルミスは彼女の復讐を止めたのだ。

ハッシュは狼狽え、直ぐにそれは嗚咽へと変わり……銃を取り落としてその場に崩れ落ちるのである。

6071/4『二面性』 ◆4J0Z/LKX/o:2023/01/18(水) 09:58:02 ID:???
【同時刻、ボストン地下水道にて】

「────そうだ、OSATごと叩き潰せ……その為に最高の越境者を雇ったのだから」

ボストンの地中深く、街全体に張り巡らされた水路にある管理室。
ここは水門など都市インフラを管理しつつ、災害への対処などを行うオペレーティングセンターだった。
システムが自動化されて人間による管理が不要となった今、手動の制御室は機能を剥奪され放棄されている。

「作戦は必ず完遂しろ。神の眼は我等を見ている」

ISACやカノッサ機関の監視網を躱すには好都合だ。時代が進むと共に『眼』は神のそれを自称した頃と比べ劣勢となっていた。
今やビッグブラザーの眼を躱しながら生きなければならないという屈辱的状況に耐えかねた今代党首ラウル・グッドマンは、複数の越境者を雇ってHEXA本社の壊滅を画策していた。

「……これでよい、精々争えカノッサ共…………身内で喰らい合い、疲弊したところを叩き潰してやる」

そしてその矛先は、運営資金のうちの一部にカノッサ機関関連の資本が存在するISACにも向けられている。よってグッドマンにとっては好都合。
ハイプリエステスが倒れた事で純粋な武力は低減しているが、逆にその一件が越境者を複数雇えば強大な個よりも有効であるということを証明していた。
無線機を机に置いてコーヒーをすする。HEXAが不利とみるやカノッサはオメガを切り捨てるだろう。全てはこれでいいと。

「いえ、その必要はありませんよ……グッドマン議長」

しかしその背後から掛かる聞き慣れた声に、グッドマンは血相を変えてマグを倒しながら椅子から立ち上がる。
アルミのデスクの上に広がる琥珀色の液体が、書類に浸りインクを滲ませる。
その視線の先にゆらりと亡霊めいて立つ、橙色の髪の女……身体は生傷絶えず、松葉杖をついて。
黒檀で出来た義手が、蛍光灯の光を鈍く淡く反射していた。

「これはこれは……生きておいででしたか、てっきりカノッサの凶刃に倒れたと」

「HEXAに私の情報を流した何者かは……詰めが甘かったようでして」

直ぐに表情を取り繕うグッドマンであったが、無意識のうちに恐怖が勝り後ずさってしまう。
女は杖をついたまま彼に歩み寄り、狩人装束のフードの中から場違いに明るい笑みを覗かせていた。

「申し訳ないのですが、私はもはや『眼』の一員ではない……穏健派を始末してカノッサと戦争を始めたかったのでしょうが」
「あの歴史を防ぐために……貴方には消えてもらう」

暗く影を落とした部屋の中で、夜猫めいたエメラルドの瞳が爛々と輝く。
グッドマンはやがてデスクに腰が触れるまで後退り……落とした視線の先、天板の上の拳銃の存在に気が付いた。
それを取り上げ引き金を引くのに迷いはない。閃光と共に銃声が一発響き、しばしの静寂の後。
額に深々と短剣が突き立ったグッドマンは、呻き声ひとつ上げずにコンクリートの床へと崩れ落ちる。
弾丸を掠めた頬に鮮血の滴を一筋滴らせ、橙色の髪の女はグッドマンの持っていた無線機に手を掛ける。
そして自らの名と共に攻撃中止の指示を送れば、グッドマンの遺体と無線機を窓から投げ捨てた。
下水門から浄化槽へ流れるウォーターフォールの中へと落ちてゆくそれは、二度と陸へは上がらないだろう。

「ん、こっちは終わったよ。これで『眼』の実行部隊は、当分本社に辿り着かないと思うけど」
「ここから先は私も分からないから…………あとは、任せるよ……イムカに」

越境者のみが持つ、複数世界間での通信が可能な端末を取り出し、通話を始める。
先程までとは打って変わった、安心したような明るい声色は聞き覚えのあるものだ。
無線の先の人物からの返事を待たず、ここから先はかつての仲間に任せると言い……彼女は端末を棄てた

608イムカ・グリムナー【最善への希求:2023/01/18(水) 11:11:27 ID:???
>>606-607

「君と違い、私は“知った”だけだよ。エルミス・コンツァイアエッティ。
 統合と同時に記憶は全て無くなるという話だったが?」

世界修正力にも『あの時点』までは猶予があるのか?それとも越境者とは異なる原理なのか。
考えてしょうがない。今はこの状況を紐解くことより活用することを優先すべきだろう。

今度はしくじるな――エルミスもまた、多くの失敗を経てきた者なのだろうか。

「当然だ。視野の狭かった連中と同じ轍など踏むつもりは無い。私は彼等と違って“手段を選ばん”からな。
 非正規戦ばかりやっている連中はよく解釈を誤る。君もせいぜい気を付けろ」

前回の『眼』が正にそれに当て嵌まるのだろう。イムカに言わせれば彼等は手段を選ばなかったのではない。非合法な手段しか選ばなかったのだ。
自ずから破壊的で、破滅的で、そして後に続かない武力行使に打って出る。短絡的――彼女に言わせればそう評するしかない。

手段を選ばないならば、効率こそをもっとも尊ぶべきだ。散逸したデータを拾い集め、体系化したレポートの作成。繋いだコネクションの活用。
政府関係者との繋がりを有するISACを通じた正規戦の立案と承認。今回は表の権力の強さをイムカは手段として選んだ。

各メディアは同じタイミングでオメガ・インフェリオリティの反社会的行為について報道を開始。
当然、それは口当たり良く加工されたニュースとして、テロ教唆など解りやすい内容となっている。
虚偽ではないが真実を全て語るつもりもない。世論に対する権力者の常套手段であり欺瞞。が、あえてそれに乗る。

この世界にも暗然とした影響力を残し、幾つものパテントを保有したままなどという“襲撃の被害者”にはさせない。
“悪辣な犯罪者”として、社会的な威勢を削れるだけ削りきった上でHEXA本社のデータストレージを確保する。

オメガは…これで終わるタマでは無い事はイムカも重々承知。イムカでは越境世界に根を張ったその力の全てを剥ぎ取ることは出来ない。
だが、より危険性が具体化され、影響力を衰微させたとなれば…ついにカノッサ機関を動かせる。
各カノッサ支部は利に聡いハイエナのような連中だ。弱体を目の当たりにした上え、己の利が侵される危険性(リスク)も勘案すれば――勝算は十二分だ。

「OSAT各チーム、タイムスケジュールに従い作戦を続行しろ」

その気が無いと解ればイムカとてエージェントと無闇に敵対する必要などない。
すれ違いざまに泣き崩れるハッシュへ僅かに目線を映し、すぐに前方に戻すイムカ――重ねるな。共感するな。今は失ったモノの事など無関係だ。

イムカは彼女の物語を知らない。その先に待つのが成功だったか破滅だったかなど興味はない。
誰かの願いを踏み躙り、己の願いを圧し通す。闘争の本質だ。この一点においてはイムカもオメガも変わることはない。


「だからこそ、しくじるつもりなど毛頭ない」

6091/4『二面性』 ◆4J0Z/LKX/o:2023/01/18(水) 20:30:58 ID:???
>>608
「ふゥん、成程……エージェントは裏切ったか……」
「奴が踏み込んできたということは、ジョシュアも期待できないな……」

エグゼクティブ・オフィスで顛末を見届けていたオメガは深いため息と共にデスクから立ち上がった。
エージェントの中でも古株のエルミスが裏切った。腹心であるハッシュはどうやら絆された様子。
連絡の通じないジョシュアに至っては、初めからイムカの手の内であろうことを予測。

誰もいないオフィスに静かな笑い声が響き渡る。
そしてモニターに映るイムカの顔に、青白い拳が叩きつけられた。

「存外やるじゃないか、たかが越境者とキミを嘗めていたかもしれないね」

血の滴る拳をモニターから引き抜いて笑うオメガ。その表情とは裏腹に胸の中に抱くのは純然たる怒りの感情だった。
ネットやメディアによって拡散された情報が、オメガ・インフェリオリティの顔と表向きの名前を世間に吹聴してゆく。
自由の象徴たるアメリカという国家と、デモクラシーに対する反逆者として。

「こぼれ落ちてゆく……この手から、私の築いた全てが」

この世界はもうダメだ。権力を奪われ、財を奪われ、駒を奪われた。
カノッサ機関に取り入って長い時間をかけて準備してきたが、もはやこれまでといった所か。
これまで培ってきたすべてが指の隙間を通り抜けて地面へと落ちてゆくような感覚。
しかし劣等とは理不尽に曝されてこそ、より暗く輝きを宿すものだ。追い詰められたオメガには完全に火が着いた。

「だけど……だけどまだ終わりじゃない」
「私の手の中にはSCRAMLBERがある、ファシリティを起動できれば……」

デスクに置いたタブレットを手繰り寄せてアプリを開く。
港湾部に密かに建設された対越境者兵器、スクランブラーの生産プラントであるオメガ・ファシリティ。
アンティードットのデータを用いた最新鋭の人型SCRAMBLERを、ついにロールアウトする時が来たのだ。

最初に生産される予定の機体はその1体ずつがダグラスやハイプリエステスに匹敵する戦力を誇る。
それが9機、並の越境者では束になったって敵わないだろう。これは戦争のバランスを根底からひっくり返すゲーム・チェンジャーだ。
ALICEの素体が手元にないのは誤算だったが、この世界の全てを焼き尽くし更地にすれば、何れ向こうから見つかりに来るだろうと。

「ああ、なんだ……もう来たのかい?」
「折角の企業見学だ、もう少しゆっくりして行ったら良いものを」

最後のコマンドを入力する画面に辿り着いたところで、ついにイムカが乗ったエレベーターがオフィスに到着する。
オメガはタブレットをデスクの上に置いて拳銃を手に取った。そしてエレベーターから降りたイムカにそれを突きつけるだろう。
彼女のリフラクターフィールドについてオメガは知っている筈だが、たかだか拳銃で優位が取れるものだろうか。

610イムカ・グリムナー【最善への希求:2023/01/18(水) 22:38:21 ID:???
>>609

「何かと忙しいものでね。さて…」

 直後、随伴のOSATがオメガに向かって室内戦用のサブマシンガンを向ける。
 が、イムカはそれを手で制して、銃を降ろさせた。

「シックス、君達は君達の仕事を。私は少しばかり彼女に用がある」

 イムカの言葉に疑問を呈することなく頷き、OSAT達は散開する。
 訓練教官殿の実力は十二分に承知。ここで間違えるような人物では無いと確信しているのだ。

「では、お言葉に甘えて少しばかりゆっくりさせてもらおうか」

 イムカは銃口を突きつけられたまま、別段気にすることも無くソファに身を預ける。
 粒子短銃はホルスターの中に収められたままだ。もっとも、それはオメガの安全に何ら寄与するものではないが。

「ああ、彼等なら気にすることは無い。ここでの君の身柄確保や殺害の優先度が低い。どうせ無理だろうしな」

 そう、このHEXA本社ビルでオメガ自身を確保する事は極めて至難…不可能に近いと考えている。
 身の危険を感じれば、即座に携帯越境装置(反則的な機構だ。どういう原理だ?)を使用するだろう。
 敵の牙城、備えは十二分。ならば無駄な事にリソースを費やすつもりなどない。

「だから“それ”は止めておけ。この局面での切り札(ジョーカー)など苦し紛れもいいところだ。意味はないぞ」
≪0001111010101≫

 サーボスカルのステイシス圧縮フィールドから水筒を取り出すと、中に入った温かな紅茶を口にする。
 勝者の余裕を見せつけているのか?それとも嘲っているのか?否、断じて否だ。明瞭な殺意は些かも減じる事なし。
 僅かでも携帯越境装置などの脱出手段から気を逸らしてみろ。即座に噛み殺してやる。

「ニュクスはもう居ないぞ。だから君の手には届かない。破壊を振りまいたところで無為だ。
 どうにも君は感情的になりすぎるきらいがあるな。それは自分の身を守るためにでも取っておけ」

 淡々と告げるイムカ。そこの露わになる感情は無く、ただ事実をそのままに口にしているだけだ。
 オメガ・インフェリオリティならばそれが真実か虚偽かを察するくらいは容易だろう。

「君の計画は既に崩れている。ニュクスを失った以上は、君の目的に向けての歩みは大きく後退だ」

 ここであえて“後退”という単語をイムカは使った。“終わり”ではなく“後退”と。
 致命的なまでに崩れた計画。ニュクスという根幹が失われたというのに。

 致命的――それだけのことで歩みを止める程度の者だったなら、世界はあそこまで追い詰められはしない。

 オメガ・インフェリオリティは間違いなく英雄だ。だからこそ必ず殺さねばならない。

「どうにも腑におちない疑問もあった。ニュクスに多数のアーティファクトを喰わせて至高の少女の創造する。
 それは解る。が、自分を吸収させて乗っ取る…というのがどうしても解せない」

 オメガの壮大なる計画。その根幹を既に知悉しているイムカの物言い。オメガにしてみればふざけた話にも程があるだろう。

「グリードを用いている以上、憑依とは言わん。厳密にはニュクスに君を喰わせて『オメガ』をエミュレートさせているようなものだ。
 もっとも、エミュレートが完璧に過ぎて本人と遜色がないレベルだ。人格の規定までいくと哲学となってしまうが」

 そして、無垢であるニュクスはあまりにも黒く輝く『オメガ』の人格に呑み込まれた。それがあのALICEだったのだろう。
 オメガ・インフェリオリティの思惑は、あの瞬間に到るまでは完全に成就していた。

「厳密には自分自身ですら無くなるというのにな。なのに君は歩みを止めなかった。そして今も止めることが出来ない。
 何もかも掌握したいようで捨て鉢でもある。私からすれば矛盾の塊だよ」

 おそらく、この会話自体はオメガの無為な破壊を止める以上にはさして意味はない。
 イムカの疑問もついで以上ではない。理解したいわけでもない。むしろ殺さねばならぬ類だ。

 が、殺さねばならぬ英雄だからこそ、イムカから多くを奪った敵であるからこそ、イムカはある種の礼節を以って接していた。

6111/4『二面性』 ◆4J0Z/LKX/o:2023/01/18(水) 23:27:09 ID:???
>>610
「ふーん……」
「計画の事まで知っている……となると、誰かが口外した訳ではなさそうだ」

イムカの口から放たれた言葉にオメガは我が耳を疑った。しかしさして取り乱すような様子も見せず。
それは手元からニュクスが消えた事と、OSATが今になってHEXAを排除しにかかってきた事からも予測していたことだ。
しかし腹心にすら全貌を伝えていない計画の詳細をこうもベラベラと暴露されては立つ瀬がないというものだ。

「くく……そういう事か…………あははははっ!!」

そして同時にそれはある確信へとオメガを導いていた。故にオメガは銃を下ろし、前髪をかき上げて噴き出す。
イムカが何故こうも必死になって自分を追い詰めようとするのか、そして計画の全てを熟知しているのか。

「どうやら私の計画は思い通りに進んだようだ……"成った"んだね、私は……至高の存在に」

オメガは自らの計画の成功を、彼女の言外から確信した。してしまったのだ。
つまり世界の境界線に致命的な一撃を与え、至高の少女に成り代わることを成功させたのだと。

彼女自身が生き永らえるかはさして重要ではない、オメガの望みは自らを劣等から救済することである。
汚れた肉体を捨てて天上の存在へと昇華する。そしてその歴史を絶対とし、あらゆる可能性を排除することで書き換えられないものとする。
そして物語にピリオドを打つことで、自らを除くすべての著者による歴史の追記を締め切ろうというのだ。

「だが、物語の終わりを見届けることは出来なかった……そうだろう?」
「だからキミらが止めにきた」

その口許が不敵に歪む、ほぼ詰みとなる状況へ至っても、まだ。
何故ならば他でもないイムカ自身が教えてくれたから。ここが運命の分かれ道なのだ。
ここさえ凌げば、オメガの勝利は揺るがないのだと。

「気が変わったよ……今は大人しく捕まっていようと思ったけど」
「ファシリティの事も知っているのなら、従順なフリをする必要は無いね」

携帯越境装置のトリガーに指は掛けている、ファシリティの起動も退避さえ叶うのであればすぐにでも可能だ。
更に緊急事は越境と同時に、このエグゼクティブ・オフィスに仕掛けられた爆薬を起爆することが出来るのだ。
人間一人など、シールドシステム毎木っ端微塵にできる量のプラスチック爆薬が、イムカの踏み締める床下に眠っている。

道筋が見えた今、もう迷うことはないとオメガは机の上のタブレットに手を伸ばす。そしてそのまま越境装置のトリガーを引き絞り────
力を込めていた右手が、装置ごと爆ぜて床に落ちた。

「な…………」

何が起こった?そうだ、何か大きな音がして─────思考が追いつくよりも前にその胸に大きな風穴がふたつ空いた。
糸が切れた人形のように倒れたオメガの向こう側には……大型拳銃を構えたジョシュアが銃口から煙を立ち上がらせている。

「……今度こそ……お前は終わりだ、オメガ」
「…………」

太腿のホルスターに拳銃を仕舞う男の憎たらしい顔は、もはや見間違えようもない。
ジョシュア……ジョシュア・アーリントン。他の次元の誰かとか、別の歴史を辿った誰かではなく。
たった一人の、イムカのジョシュアだった。

612イムカ・グリムナー【最善への希求:2023/01/19(木) 00:01:49 ID:???
>>611

「ああ、成ったよ。そして、それ以上には成れなかった」

 イムカはそれを否定しなかった。実際、オメガは勝利していた。それを認めねば何が何やらわからない。
 何よりもオメガが報われない。彼女はカノッサにも越境者にも勝利し、そして、ニュクスに敗北したのだ。

 越境者達は彼女の野望を止めること叶わなかった。そしてそうなっても、彼女は彼女の悲願を何一つ果たすことが出来なかったのだ。
 だというのに…オメガはそれでもオメガであることを止めることが出来ない。

 憐れむつもりは無い。抹殺すべき対象だ。だが、このどうしようもなさは――救われないものがある。
 至高の少女はもうここにはいないのに。妄執、妄念、だからこそあれだけの事を成せたのだろうが。

「少し違うな。私達の手に届かぬところで勝敗は決した。だから今の私達を評するなら後日談(エピローグ)というのが妥当だ」

 タブレットに手を伸ばすオメガ。サーボスカルが読み取ったのは爆薬の残留分子。お定まりとも言える。
 悪役にとっては自爆装置めいた仕掛けなどそれこそ定番中の定番だ。そして――別段、慌てるような事でもない。

「………」

 再び、紅茶に口を付けるイムカ。耳を劈く銃声。その動作の間に決着がついていた。
 オメガ・インフェリオリティの胸部に大きな穴が穿たれ、華奢な身体はあっけないまでに崩れ落ちた。

「遅い。タイミングを計っていたならあからさまに過ぎる。慌てて駆け付けたなら時間管理に落第点だ」

 突如現れたジョシュアにイムカが告げたのは、淡々としたダメ出しだ。
 感謝の言葉も無ければ、感動的なシーンですらない。実にいつも通りのイムカだった。

「オメガの始末は私がソーマタージに頼んでいたのだがな。これで秘密口座の支払いも無駄になったんじゃあないか?」

 解っていた。解らないわけが無かった。何故、U.S.S.ワールシュタットまでイムカの情報レポートが速やかに到ったのか。
 誰かが助力しているのが見え隠れしていた。そして、そのようなお節介が出来る者を絞れば、答えは自明というものだ。

「いや、自我より自己の救済を優先しているような奴だ。まだ仕掛けの一つや二つはあるやもしれない…か」

 さて、少なくともこのオメガが完全に死亡したのかどうか、サーボスカルに精査させる。
 いつも通りのイムカ。いつも通りの政治将校。しかし――ジョシュアに顔を、紫水晶の瞳を向けようとはしない。

「用向きは終わったか。なら、さっさと帰れ。貴様はここに長居してはいいわけがない」

6131/4『二面性』 ◆4J0Z/LKX/o:2023/01/19(木) 00:33:43 ID:???
>>612
「ソーマタージには、別の仕事を頼むつもりですよ」

眼を逸らしたままのイムカ・グリムナーをジョシュアはただ見つめていた。
努めて冷静に、感情を押し殺した彼女を見ていると、まるで心臓が抉られるように痛む。
もしジョシュアが本当に人間のイミテーションであるのなら、なぜこの痛みを感じるのだろうか?

「…………本当は、姿を見せずに帰るつもりだったんです」
「会えば、俺は……戻れなくなるかもしれないから」

OSATへの根回し、エルミスとミスカへの連絡。この襲撃を確固たるものとする為にジョシュアは暗躍を続けていた。
本来ならば後はイムカに任せて跡を濁さず立ち去るのが正しい選択肢なのだろう。けれどジョシュアにはそれを選ぶことは出来なかったのだ。

姿を表せばまたイムカの傷を抉ってしまうことになる。彼にとってはそれが何より大きな罰として降り掛かるから。
だが、もはや彼の気持ちに歯止めをかける全ての理由や制約は、すでに崩れ去っている。

「それでも……俺は……!!」
「あなたに会いたかった、ずっとこうしたかった……」

足早にイムカへと歩み寄れば、ジョシュアは間髪入れずに彼女を両腕で強く、強く抱き締めたのだ。
ソファに腰掛けていようと、紅茶の注がれたティーカップに口を付けていようが関係ない。
今はジョシュアがそうしたいからそうするのだ。イムカの都合など関係なく、彼のみのエゴによって。
殴られようが刺されようが、ジョシュアは決してその手を離そうとはしないだろう。

「許してほしいとは言いません、俺は貴女の大切なものを……奪ってしまったから」

ニュクスは彼女にとっての存在意義と幸せを手に入れた。
けれどそれは、この時代のイムカにとってはいきなり引き離されたに等しい仕打ちと言えるだろう。
自らの手の届かない所で、自らの知り得ぬ『ラヴィニス』がニュクスの母親となっているのだから。
『イムカ・グリムナー』にとっては、たまったものではない。

「これは俺の自己満足かもしれない……だけど」
「俺は全ての世界、全ての時間軸のイムカ・グリムナーを……ラヴィニスを……愛してるんです」

「だから……」

故に、ジョシュアはようやくイムカの背から手を離して……全てを受け入れると言った。
憎まれても、敵と見做されても構わない。イムカが心の痛みを忘れられるのであれば、どのような形でもジョシュアは贖うつもりだ。
たとえ命を差し出せと言われたとしても……、それがジョシュアの、究極の愛のカタチなのだから。

614イムカ・グリムナー【最善への希求:2023/01/19(木) 00:56:04 ID:???
>>613

「放せ。私はオメガの死を確認せねばならない」

 やはり淡々と告げるばかりのイムカだ。その肩が――常に無く小さく見えたならそれは気のせいに違いない。
 そうであらねばならない。託された義務、多くの責務、それを果たさねばイムカ・グリムナーではない。

≪00011111010101≫

 サーボスカルはややワザとらしく縦回転。この狂気に陥ったドローンの電子音声をもし訳したならばこうなるだろう。
 やせ我慢も過ぎれば見ている方も辛いものだ、と。

「はぁ…つくづくダメな男だ。後で精々、あちらの私に制裁されることだな」

 よりにもよってイムカ・グリムナーにそのような言葉を吐くのだからある意味では剛毅とも言えるのか?
 いや、これはやはりダメ人間の類だろう。と、イムカは嘆息をついたものだ。
 先ずは――彼の思い違いを正してやるのが上官としての務めだろう。

「勘違いをするな。貴様――君とニュクスを失ったのは私の怠慢ゆえだ。それ以上でもそれ以下でもないよ。
 もし責任を感じているとするなら、それは自己過信というものさ。気にするな」

 少しだけイムカの口調が変わる。それは政治将校としてのイムカではなく――責務も何もない時間を共有したイムカだ。
 ジョシュアに膝枕を強制したり、ニュクスに普通の弁当を作っていた時のイムカ。

「それに私は帝国貴族であるが重婚には否定的だ。君が愛するのは君のラヴィニスだけにしろ。浮気は処刑モノだ」

 それでも決してイムカは顔を向けようとしない。本当につくづくダメな男だ。
 今、自分が、どれだけ残酷な事をしているのか。解っているのだろうか。

「だから、もう帰れ。帰って君は君の家族に尽くせ。『私』はニュクスとジョシュアを護り通した。
 私は私の好きな連中の未来を護り通せそうだ。十分だ。十分に報われている」

 イムカ・ラヴィニス・ヴァール・ウル・グリムナーはニュクスとジョシュアを失った。それは己の咎ゆえに、だ。
 そして、それでもなお、大切な二人の未来を繋ぐことができたのだから。

6151/4『二面性』 ◆4J0Z/LKX/o:2023/01/19(木) 20:27:22 ID:???
>>614
「……分かりました……」

今だに眼を合わせようとしないイムカ。約束された離別はきっともう、避けようも無い。
愛を伝えれば伝えるだけ彼女を傷付けてしまう事を、ジョシュアもまた気付いていたからこそ、その肩から手を離すだろう。
離れた手はイムカの腕を伝い、やがて手首のリ・エグザイルに触れる……霊銀で出来た、己の分身へと。

「約束です……俺は必ず、あなたとニュクスを守ります……」

もう帰れと二度言われて、ジョシュアは俯き気味に後ずさる。
ぬち、と床に広がった血に足音が立つ。オメガの瞳は虚空を見据えており、完全に死んでいるであろうことが伺えた。

本来彼女が死ねば、事前に取られていた意識のバックアップデータがニュクスの体内の遺物に送信されることになっていた。
完璧なエミュレートを可能とするための遺物、だがそれを飲み込んだ少女は、この世界の何処にもいない。
オメガ・インフェリオリティの野望は……各世界やファシリティに隠された不穏因子を残し、完全に停滞したのだ。

「今度は絶対にこんな終わり方にはしない」
「例え世界が終わっても、そばに居ます……二人の隣に……!」

例えオメガを排除したとしても、無限のマルチバースにて同じ様な事が起これば、今度こそ防げる保証はない。
だからこそジョシュアは統合された世界に残り、調停者(アービターズ)の一員となる未来を選んだのだ。

それは余りにも身勝手だが、ニュクスとイムカの隣にあり続けるため。二度とあのような未来を生み出さない為だった。
だからこそこの時代のイムカや仲間たちが置き去りになる事を考えると、ジョシュアは顔を見せたくなかったのだ。
会えば帰れなくなる、互いの別れの痛みをより深めるだけだから。

「だから……俺は、帰ります」
「二人のもとへ……俺のあるべき場所へ」

だからイムカは、自らの感情に歯止めが効いている内にジョシュアを送り出そうとしている。
ジョシュアがそう思うのは彼女の真意を汲み取れているのか、はたまた彼の空回った願望か、それは分からないが。
イムカの言葉はジョシュアの決意を揺るぎないものとしたのは、代わりようのない事実だった。

「さようなら……貴女をコミッサーと呼べた時間は、俺の幸せでした」

イムカが発した『報われた』という言葉を聞いて。ジョシュアは静かに涙を流していた。
その表情はとても穏やかで、別れを惜しみながらもこれからの未来に、切り離されてしまった歴史に希望を託す、そんな表情。

迷いが吹っ切れたようにジョシュアは深々とイムカに頭を下げ、そのまま腕に巻いていた時計型の装置に触れると。
小型のワールド・タイム・ゲートが生成され……最後までイムカの姿を見届けながら、ジョシュアはゲートの向こうへと消えた。

ビルの外からサイレンが聞こえる。どうやら騒ぎに通報を受けた州警察が駆けつけてきたらしい。
ふもとではOSATの指揮官が警官隊に事情を説明している。ここも直ぐに警察の捜査が入るだろう。
工作を終えたOSATの隊員が戻ってきた時には、すでにオフィスはイムカ一人と、物言わぬオメガだけだった。

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【2048年、統合された世界……】

616イムカ・グリムナー【最善への希求:2023/01/19(木) 23:19:48 ID:???
>>615


「――私も幸せだったよ。ジョシュア」

 イムカがその言葉を口にしたのはジョシュアが去ってからしばらくの後であった。
 まだやる事は多い。多い方がいい。感傷になど浸っている暇などないくらいに。

≪000111101010101≫
「これで良かったに決まってるだろう?私はイムカ・グリムナーだぞ?」

 サーボスカルが横観点グルングルンしながらイムカに食い下がっている。珍しいことだ。
 やはり狂気に陥ったプログラムらしい挙動だ。余計な事ばかりしてくる。

≪000111010100011≫
「報われた…か。いいセリフだっただろう?――未熟者め。そんなワケが無いのにな」

 道は別たれた。もう交わることは無い。ならば彼の上官として送り出すのが筋というものだ。
 自分の事を引き摺られていては、互いにとっていい事など何一つ無い。後はラヴィニスがどうにかするだろう。

 だから、これは良い別離なのだ――

「………」

 イムカは膝を降ろすと物言わぬオメガの両の瞼を閉じてやる。許しがたい敵だ。イムカから多くを奪った仇だ。それでも――

 妄執に駆られ、己が劣等を覆す事に文字通り全てを賭し、最期の瞬間には勝利を確信していただろう。
 フィーンの現身でも、劣等に苛まれるクローンでもない。オメガ・インフェリオリティとして歓喜の祝福の中で絶命したのだ。

「随分といい死に方じゃないか。別の貴様よりも遥かに、な」

 夢の残照――もはや意味を為さなくなった彼女の切り札(カード)だったタブレットを持たせる。
 錯覚かもしれないが、その顔は穏やかで、どこか微笑んでいるようにも見えた。

「OSAT各チーム、データを回収。オメガ・インフェリオリティは死亡した。が、まだ終わったと思うな」

 この後、イムカは回収したデータを元に今後のスケジュールを策定。
 カノッサ機関を動かすに十分な資料を入手すると共に、越境者に対してもリーク。

 敵対者としての流儀として、オメガ・インフェリオリティの遺した全てを駆逐すべく奔走するのだ。

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■2048年:統合された世界にて――

「アリー。先程、君にインプットしたオシオキ108選を完璧に遂行しろ。
 このダメ男は、歯の浮く台詞をほざきながら後先考えない行動をまたやったのだからな!」

 白衣に身を包み、シンプルだが高級な設えの丸眼鏡の位置をクイっと直しながら、
 イムカ――否、ラヴィニスは非情なるオーダーをアリーに下していた。実際ヒドい。

 ナムサン!100tと決断的ショドーで書かれた木製ハンマーもスタンバっている!!!

(しかし、聞けば聞く程…なんて面倒くさい女なのだろうか。私と同一存在とはとても思えない…!)

 ラヴィニスは大きなため息をついたものだ。『ラヴィニス』に憤り、罵る権利が『イムカ』にはあったろうに終ぞ恨み言のひとつも無かったという。
何も感じていない訳がないだろうに、多くを奪い去られた上に責務と課されたというのに。

「いや、解っててやったのだったな。私は。それしか思いつかなかったにせよ、な」

 白衣――そう、ラヴィニスは今はもっぱら研究者であると自負している。
 あの日以来、軍服に袖を通したことは一度もない。既に政治将校ではないのだから。

 なお、ときおりウズウズして、少しだけジョシュアに代わって部下の“面倒”を見ることもある。 
 それもあってか何なのか、恐怖の記憶と共に『将軍』呼ばわりされる。個人的にはドクターと呼んで欲しいのだが。

6171/4『二面性』 ◆4J0Z/LKX/o:2023/01/20(金) 00:25:56 ID:???
>>616
「アイアイサー、将軍」
「このAllie、完璧にオーダーを実行してみせマス!」

キャンプ・トリニティの一角、復興を始めた街の本拠地として建てられた、しっかりとした作りの集合邸宅。
約数十名の生存者達がそれぞれの寝床を手に入れた今、そこはすっかりラヴィニスとニュクスの家として役割を変えていた。
かつてボストン・ヒルにあったジョシュアのセーフハウスを思い出す造りは、ダグラスが親子で完成させたものだった。

ラヴィニスの下した命令に敬礼で答えるのは最後のSTであるA-07 Allie。武装の類は取り外され、随分と家庭的な格好をしている。
少女の姿形をしていながらも、一目で人間でないと分かるその肉体にエプロンは激烈似合わないのであるが。

「ただい……ああぁああああぁあああ!!!!」

帰宅したジョシュアの頭にゴチンと巨大木槌を振り下ろし、一撃で失神させてその襟首を掴み引きずってゆくのだ。
気を失った彼は目元を赤く晴らして、しかしようやく過去への迷いが振り切れたような清々しい顔で地下室へと連れ込まれていった。

「最近ファーザーは足腰が悪いデス、15年で結構老けマシたからネ、人間って不便デス」
「ファーザーの代わりに今日もバリバリ働くデスよ!」

人類が存続という道筋を手に入れてから、すっかりヨハイムは外骨格がなければ立てない程に弱ってしまったようだ。
高齢の身体を引きずってたった一人でトリニティを切り盛りしていたのだから当然といえば当然なのだが。
今では指導者の立場から身を引いて、たまにラヴィニスの研究を手伝う程度の事をして余生を過ごしているようだ。

そんな訳で、今ではアリーがラヴィニスの家政婦としてヨハイムを養っているということになる。
そして、寝室から眠い眼を擦りながら現れた少女……ニュクスのボディーガードという仕事も担っているのだ。

「ママ、またジョシュアのこと苛めてるの?」

伸びと共に大きなあくびを一つ。寝巻き姿でやってきたニュクスは連日世界線の修復に勤しんでいる。
ALICEとしての能力はゲートの解放時に蘇った世界の修正力によって消えてしまったのだが、
世界を隔てる境界線に触れる力だけは彼女に残り、その力を用いて複雑に絡まった糸を解くように……少しずつ世界を元通りにしているのだ。

「……街もだいぶ出来上がってきたね?」
「私……本当はこんなに沢山の人たちと暮らせるなんて、思ってなかったんだ」

ニュクスはリビングにある大きなカウチに腰掛けて、肘掛けにもたれかかりながら窓の外の景色を眺める。
空は青く、宇宙に出来た裂け目も閉じている。文明こそ崩壊したが、境界は閉じられ……天まで突き立った水晶の塔を除き、全てが元通りとなっていた。
ニュクスはこの場所でただ一人、世界を修復しずっと見守る。ただそれだけの為に残るつもりであったが、ラヴィニスをはじめ越境者達の意地がこの結果をもたらしたのだ。
キャンプ・トリニティは復興し、他の世界からの生き残りも見つかった。上手くいけば人口も増えてくれるかもしれないと。

「だから……こんな希望のある未来を作ってくれてありがとう、ママ」

大破壊という災禍の果てに、しかし復興という希望の光が見えるこの未来をニュクスは愛している。
それを導いてくれたラヴィニス達には、ニュクスは感謝以外をもって応える術を知らない。
白衣の似合わない彼女に、淡い色の視線が向けられる。ポンポンとカウチを叩き母を呼ぶニュクス。

618イムカ・グリムナー【最善への希求:2023/01/20(金) 01:04:07 ID:???
>>617

「全く、相も変わらぬ未熟者め」

 アリーに仕置きを任せつつもヨハイムについての言を聞く。
 実際、生命を絞りつくすような闘争を経たのだ。老け込むのも無理は無い。

 とは言っても、ラヴィニスがヌカ・コーラの再現や味覚をアレにする完全栄養食なエネルギーグリスに傾倒した時は、
 思いっきり舌戦を繰り広げる事になったりと、彼女の天然かつゴーイングマイウェイのいい抑止力になってもいるようだ。

【かつては想像も出来ていなかったような愉快で少しお馬鹿な日々。長い戦いを経てヨハイムが勝ち取った確かな戦果だ】

 そうしているとニュクスが起床したようだ。相も変らぬ寝ぼすけさんめ。

「ニュクス、だらしない姿で徘徊するのは考え物だぞ。身なりはきちっと心がけるように言っているだろう」

 ジョシュアを苛めているなどと言う、相も変らぬ誤解(?)を別段訂正する事無く、
 立派な士官の対応というものを説くラヴィニス。なお、実は私生活がかなりだらしないのはとっくにバレている。
 サーボスカルを手放して以降、あっという間に汚部屋になりがちなイムカの身の回りの掃除はアリーやジョシュアの義務となった。

 トーストと、ハムエッグ、サラダにサニーサイドアップと紅茶を用意していただきます、だ。
 完璧な栄養価の食事。文句のつけどころの無い朝と言えるだろう。

「沢山の人達、か。当たり前だろう?食糧プラントに水浄化プラント。そしてヌカコーラ。そして希望を持って生きるに足る労役だ。
 私がやると言ったんだ。ならば、この程度はしてみせるさ」

 自分自身に自信満々な傲慢発言。惑星総督でもあったのだから慣れたものだと言う。なんか余計なモノが混じっていた?気のせいだろう。
 そうだ、枯れ果てた未来ではない。ニュクスに希望のある世界を。そして人間として生きられるよう。最大限の努力を重ねている。

 荒廃し、何も無くなった世界で他の者は早晩に死にただひとり、あるいはジョシュアと二人きり。
 そんなクソの如き環境では、どのような高次元的存在、あるいは無機質なシステムと成り果ててしまうことか。

「ソーマタージにも啖呵を切った手前もあるしな。ざまあみろ、さ」

 別れ際に彼が見せた虚を(うろ)を忘れる事はない。だからこそ愉快に、騒騒しく暮らさねばならない。
 奴のアレコレが完全な杞憂であったことを証明するように。それゆえの、ざまあみろ、だ。

 ニュクスのため、そしてここに居る仲間と帰還した仲間のため。ついでにジョシュアのため。
 責務と義務。政治将校では無くなったとてそれを怠るラヴィニスではないのだ。

(私がもし、この子達を見捨てていたら、私は私を赦しはしなかっただろうな。だから、『イムカ』に対しての罪悪感は私一人が負うべきなのだろう)

 ラヴィニスは、ニュクスとジョシュアのためにそれ以外の多くを犠牲にした。
 越境者としては本来有り得ない同一存在が確立されることも、もう一人の自分にどれだけ暗い影を落としてしまうかも承知で。
 それでも、エピローグの大筋を託せるほどに能力と信頼に置けるのは自分自身であったし、そうするしか選択肢が思いつかなかった。

「ジョシュアに対しても…私のことだ。あの顔を見るに上手くやったのだろうさ」

 ニュクスが自分を呼んでいる。幸福と希望に満ちた娘の姿。彼女が罪を犯してでも護りたかったモノ。
 ラヴィニスが生涯抱えるべき心臓に突き立つ冷たく濡れた針は、ラヴィニスだけのモノだ。他の誰にも渡すつもりも捨てるつもりもない。

「まったく、感傷などしている場合ではないか。…ニュクス、私の娘としてはもう少し典雅さをだな――」

 何故か何時まで経っても着こなせない白衣を正して、ニュクスの側に向かうラヴィニスだった。

6191/4『二面性』 ◆4J0Z/LKX/o:2023/01/20(金) 22:25:09 ID:???
>>618
「んふふ……いいのいいの、外ではキチっとしてるんだし」
「あ、天国天国」

カウチに寝転がったまま、他所行きの格好では息苦しいと反論するニュクス。
誰かさんみたいに、と付け加えると流石に制裁が飛んできそうなのでしなかった。

家庭内での家事のアレコレはアリーが主にこなし、不在時にはジョシュアとニュクスで行っている。
今日はアリーが居る日ということは、ニュクスの出番は余りない日のようだ。なので今日は甘えさせて貰おうと。
隣に招いたラヴィニスの膝に、ころんと仰向けになって眼を瞑る。昔に比べれば感情も素直に出すようになった。

「将軍、このリスト12番にある『垂直落下コブラツイスト』ってマジでやるデスか?」
「流石にAllieのパワーだと、この死ぬ死ぬ詐欺男=サンもガチで死んじゃいそうなんデスけど……あ」

そこへ地下室から戻ってきたアリーが、手順の確認をしようとブツブツ言いながら戻ってきたのであるが。

「親子水入らずデス、邪魔しない方がいいデスね」
「その代わりダメ男=サンはAllieといっぱい遊びまショウね」

空気を読んでそそくさと退散、地下室に監禁されたジョシュアのもとへスキップ混じりに帰ってゆくだろう。
暫くして、地下から再び悲痛な声が響くのであった。

「ねぇママ?」
「いつジョシュアの事、お父さんって呼べるようになるのかな?」

もしもアリーの方を向いていたのであれば、ニュクスはツイツイとラヴィニスの服を引っ張りその気を引いて。
イムカの膝の上で柔らかな微笑みを浮かべながら、三人での穏やかな暮らしを夢見るのであった。

統合された世界は今日も廻る。故郷を、根幹を、意義を失った者達、歴史から切り離された者達を乗せて。
どの世界にも、どの歴史にも属さないからこそ見出せる希望もあるのだから。

620イムカ・グリムナー【最善への希求:2023/01/20(金) 23:13:12 ID:???
>>619

「うーむ…」

 腕を組んで唸るラヴィニス。膝枕されてもムスっとした無表情となるばかりで特に抵抗もしない。
 何だかんだ言って、ニュクスには相も変わらず甘いのだ。実際、ニュクスの髪の感触は心地よい。
 するとアリーがとてもとても些細な事で質問をしてきたので、

「………」

 口元に一本指を立てて制止するのだ。察したアリーは地下に引っ込む。
 空気の読める使用人だ。今月のお給金は弾んでやろう。そうしていると白衣の裾を引っ張られて、

「ジョシュアがお父さんか―――――――――???」

 反射的にニュクスの台詞を繰り返したが、数秒経過するとあからさまに首を傾げた。
 どうも質問の意味がちゃんと脳に伝わっていなかったようだ。その間にも地下室から響く悲痛なる叫び!!

「…奴はまだまだ要修行だな。私の採点は厳しいんだ」

 肩を竦めながら、ラヴィニスは呆れたような仕草で言ったものだった。
 誓いは果たした。ニュクスとジョシュアに陽だまりの世界を。機構などではなく人間として生きられるように。

 ニアに約束したハッピーエンドを。ソーマタージが懸念したような事態になどさせない。
 アキレスとの別れも意義と意味のあるものだったことにするために。

(どうにも、いけないな――)

 穏やかで希望のある世界。イムカ・ラヴィニス・ヴァール・ウル・グリムナーが夢見た事すら無かった日常。
 膝の上には大切なニュクス。ついでに頼りなく情けないが愛しくもあるジョシュア。

(すまない)

 だからこそ、ありえないくらいに幸せだからこそ心臓がじくじくと痛みを覚える。
 ラヴィニスは膝に乗せたそっとニュクスを撫でる。愛しく心地よい髪に、自分に似ているようで表情豊かなその顔に。

 そして彼女の目を塞ぐように。きっと、今の自分の顔は見られたものではない。

(すまない)

 後悔は無い。再度、同じ選択が迫られたなら躊躇うことなく同じ選択をするだろう。出来得る限りの最善を選んだ。間違いなく。
 それでも…同じ過ちを犯したというのに『ラヴィニス』はこうして暖かな希望を甘受している。

 なのに『イムカ』は恨み言一つ零すことなく、ジョシュアにも後腐れの無い決着を与えてくれた。

(至らなくて、本当にすまない)

 謝罪すらも傲慢でしかない事は理解している。全て解っていた。イムカとオメガの真なる決着も計算済みだった。
 それゆえに、この罪は癒せない。ラヴィニスは咎人として何よりも大切な二人を護る。
 そのためにはラヴィニス自身も罪に溺れたままではいけない。困難なミッションだが、やってみせる。


 ――ニュクスとジョシュア、二人と共にあるならばやれるはずだ。


 愛娘の髪に優しく指を絡めながら、ラヴィニスは一筋の涙を零すのだった。

621イムカ・グリムナー【最善への希求:2023/01/21(土) 00:07:13 ID:???



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■2033年:マサチューセッツ州ボストン/深夜

「………」

 慌ただしく激しい一日が終わろうとしている。オメガとの暗闘も遂には決着し、既にカノッサ機関も動いている。
 オメガ・インフェリオリティの悪しき遺産も、カノッサ機関と幾人かの越境者がしかるべき決着をつけるだろう。
 ゆえにそのロードマップを敷いたイムカ自身の役割は、もうさほど残ってはいない。

「………」

 おそらく、今のイムカを仲間達が見たならば本人だと解るかすら疑問だ。
 表情は無機質でなく無気力そのもの、意識も全く思考という行為を行っていない。
 ただフラフラと、サーボスカルを侍らすこともなく、無目的に歩いているだけだった。

「………」

 だが、足取りは慣れている。何度、気恥ずかしさに浮かれてこの道を通っただろうか。
 バーボンのロックを飲ませた時も、無重力ルームに三人で行った時も、車両を爆走させた時も、


「本当は解っていた。何時までも続けられない事は…」


 小さな、誰も聞き取れない程の小さな声量。誰にも向けていない。自分にすら向けていない懺悔にも似た独白。


「決断すれば壊れることも解っていた。だから、ずっと続けたかった。幸せだったから」


 だから、保留してしまった。致命的な破綻の予感に気付かぬフリをして、布石を打つばかりで、決断を怠った。
 その怠慢の咎は、罪は、当然の如くイムカに代償を求め、しかるべき報いを与えた。
 ニュクスとジョシュアを護り切ったのは『ラヴィニス』だ。自分には何ひとつの功も無い。失うのも当然だ。

「あっ…」

 信じられないほど腑抜けた声が口から洩れた。ボストンのセーフハウス。通い慣れた家。自然と向かっていたのだろうか――




『うひゃ、ひっでえ!水、冷てッ!』『ママ、虹が出てるよ!』

 無遠慮に降り注ぐ太陽の光。スプリングラーは勢いよく回ってジョシュアはあっという間に水浸しだ。
 さらにニュクスまでが、自分から水の方に飛び込んで、濡れながら朗らかに笑っている。

「………」

 手で覆いをつくりながら、立ち尽くしてジョシュアとニュクスの様子を見ているイムカ。
 たかが水が出ている程度で大はしゃぎする二人。まったく何がそんなに楽しいのやら、だ。

「―――」

 二人が笑いながらこちらを振り向く姿にイムカも思わず笑みを洩らし手を伸ばそうと――
  ――――映像ファイルを停止するように、突然に消える二人。太陽など昇っていない。空には蒼月だけだ。


「ああ…」




 目を見開いて息を洩らす。幻視も去った。誰も居ない。すれ違う人影すらも。


「―――」


 腕を降ろし、視線を落として芝生を見つめていたイムカは、やがて泣きそうな笑みで瞳を閉じて顔を上げる。
 瞼の裏に僅かに見えるのは冷たくも優しい月光。淡い光を浴びながら、イムカはそれでも過ぎ去った沢山の思い出に感謝した。


「私に暖かな日々をありがとう」


 Additional Memories - LAST CHAPTER Imca/Ravness fin

6222/4『あなたの声』 ◆4J0Z/LKX/o:2023/01/24(火) 21:32:45 ID:???
【LAST CHAPTER 2/4 「あなたの声」】

6232/4『あなたの声』 ◆4J0Z/LKX/o:2023/01/24(火) 21:33:18 ID:???
統合された世界、破滅の未来からの帰還を果たしたアキレス達。
"あの日"を切っ掛けに起こった破滅は、まるで現実とも思えぬ程に影も形もなく。
何もかもが巻き戻ったように平時へと戻った世界は、今日もまたシステマティックに廻っていた。

そして戸惑いを混じえながらも日常へと戻りつつあったアキレスのもとへ、ある日一通のメッセージが届く。
差出人は共に過去と未来の世界を渡り歩いた越境者、エルミス・コンツァイアエッティであった────

【魔法世界エリュシオン:王都エリシウム郊外】

「来たな、アキレス……どこまで記憶が残っているか知らんが、俺の事は覚えているな?」
「お前にはある作戦に参加して貰いたい」

剣と魔法が跋扈するファンタジー世界に似合わない無骨な兵員輸送車が、ブレーキを鳴らし待ち合わせ場所に停まる。
後部のハッチを開けたのはストライプスーツの男、エルミス。彼はアキレスへ短い挨拶を交わすと、手を差し出して乗る様に促す。
本来であれば兵士たちが詰め込まれる輸送スペースは、10人は座れるほどに広い。駄賃がわりに飲料の缶とタブレット端末を投げ渡すエルミス。

「この作戦は本来、俺が指揮を執る筈だったが……結末は知っての通り悲惨なものだった」
「ハイプリエステス暗殺作戦……お前が居合わせなかった運命の分かれ道だ」

失われた歴史において今日は何があった日かと言えば、エルミス率いる越境者部隊がハイプリエステスを抹殺したその日だった。
オメガからの指示だったとは言え、仲間殺しという咎を越境者に負わせてしまった罪を、エルミスが忘れる訳もない。

「イムカ嬢とソーマタージはこの事を知らない様子だった。つまり……俺達二人だけが、更に前の時間へと飛ばされたらしい」
「ニュクスは……やり残したことをやってこいと言いたいのだろう」

本来過去へと飛ばされた時間軸よりも数週間ほど前に、エルミスとアキレスの二人は飛ばされていた。
エルミスは未来に関する記憶は割と鮮明に残っているようだが、アキレスはどうだろうか?
少なくとも未来において覚醒した究極の能力は、復活した世界の修正力によって消えてしまっているようだが。

「今回の作戦にはゲストも呼んである……噂をすれば来たようだ」

アキレスの言葉を聞くよりも先に、エルミスは第二の待ち人の到来に気付きアキレスの肩越しに軽く挨拶を交わす。
開きっぱなしのハッチから、おずおずと顔を出した少女……橙色の髪とエメラルドの瞳。

「失礼します……わ、アキレス……久しぶりだねっ!」
「ベティも元気だった?」

ミスカ・リーゼロッテ・エリッタ。年のわりに小さな身体に、生身の左腕。
時が巻き戻った世界では彼女は一つの傷も負うことなく生きている。
アキレスの顔を見て嬉しそうに表情を明るく変えて、たっと駆け寄るだろう。
ベティの甲羅を柔らかな掌が撫でる。連れていた小鳥……もとい不死鳥のジョナもまた、嬉しそうにベティの甲羅を突いた。

「…………どうかしたの?」

こちらを向いて首を傾げるミスカは、いつもと何ら変わらない……穏やかな微笑みを浮かべている。
この少女がハイプリエステスと成り果てる程に殺伐とした歴史を……アキレスは生き延びたのだ。

624かぶり ◆qg2zP.O3iQ:2023/01/25(水) 00:56:14 ID:???
戸惑いの中で巻き戻った平穏の中 アキレスはあの世界で処分されてしまった皆と再会を果たす
その時の取り乱し様は見る者が頭の病院を進めるほどであったという

それも落ち着いたころ アキレスは芸術活動を再開する
あの世界に残ることを選択した仲間たち 閉ざされた世界でもなお自分の名が轟くほどに 自分の絵を広げんが為

スプレー缶をひっさげ 治安維持部隊に追いかけられ それに愉悦とほんの少しの寂しさを覚えながら逃げ 描き続けた

・・・そんなアキレスの元にメッセージが届く・・・

【場面転換】
アキレス「・・・あぁ 久しぶり」
―――ギィ!!

メッセージの内容から 彼もまた あの時の記憶があると思っていたが やはりだ
投げ渡された缶とタブレットを受け取り タブレットはベティに持ってもらう

―――ギィ!!
ベティちゃんは何かゲームが入ってないかと タブレットを弄り始めた

アキレス「………」
そう 自分が居合わせなかった事件 手傷を負ったハイプリエステスの殺害
あの時のことはロイから聞いた α-12のブレードに貫かれ 谷底に落とされたんだった

アキレス「あぁ だからオッサンには今回 この依頼を辞退してもらった」

〜場面変わって 狭間のスクラップヤード〜
ジョージ「随分と大量ですね これ全部注文分で?」
ロイ「あぁ 全く千客万来たぁこのことだ 忙しすぎて荒事はご無沙汰よ」

なぜか最近スプロールで自分の密造酒の需要が急増したのだ 現地世界の醸造所だけでは足りず
狭間のスクラップヤードの施設もフル稼働しての酒造り おかげで割りのよさそうな仕事・・・あの時のハイプリエステス関連に関しては眼を通す以前に認知すらできていなかった

〜場面転換終わり〜

アキレス「大丈夫 おっさんから聞いた言葉は覚えているし あの時のことも忘れてない・・・忘れられないよ・・・」

そう 覚えているのは死に物狂いの越境の時 足を取られたミスカ 伸ばした手は届かなくて ジョシュアがやっとのことでつかんだ手
手が・・・手だけがそこにあって・・・彼女はハイプリエステスを名乗って・・・

たくさんのハイプリエステスに会ってきた気がする 満身創痍だったハイプリエステスは あの時自分の手を握っていてくれと言っていたのを思い出す

・・・・・・
・・・・
・・


いけない 思考が巡り 気分が落ち込む 考えを振り切るかのようにかぶりを振った・・・その時飛び込んできた声 懐かしき声に顔を向けた

アキレス「・・・・・・・・・ミス・・・か・・・・・・・・・・っあ・・・・・あ゛ぁ・・・ぁ・・・あ あああ・・・!」

久しぶりとほほ笑むその少女の言葉 涙が堰を切ったかのようにあふれ出し 思考が追い付かぬままに駆け寄る
制止が無ければその勢いのまま抱き着いてしまうだろう

―――ギィ!! ギィ!!
ベティもまた 嘗ての親友 不死鳥のジョナとの再会を喜ぶかのようにハサミを振り上げる

6252/4『あなたの声』 ◆4J0Z/LKX/o:2023/01/28(土) 21:12:51 ID:???
>>624
「わっ……!」
「なになに、どうしたの…………!?」

少し慌てるそぶりを見せたものの、抱き着いたアキレスを止めることも咎める事も無く。
ミスカはただ受けいれ、泣きじゃくる彼の背中にゆっくりと腕を回すだけだった。
車内には彼の嗚咽だけが響き、ジョナはベティの甲羅の上で不思議そうにその光景を眺めているだろう。

「……何かあった?」

「…………」

彼が落ち着くまでその背中を撫でながら、ミスカは優しく問いかけるだろう。
まるで慈母のようなその声色は、しかし彼の辛い過去を詮索するような意図は微塵も含まれていない。
気を遣ってかしばらく黙っていたエルミスだったが、やがて運転席に続くドアを拳で叩いて発車を促す。
低いディーゼルエンジンの音色が響き、輸送車はゆったりと発進するだろう。

「今回は俺たちの記憶よりもカノッサ陣営の支援が色濃い。C.T.S.Sだけでなく多方面から戦力が投入されているようだ」

エルミスはタブレットに表示された情報をアキレスとミスカに見せながらそう呟いた。
彼は作戦を降りたが、この時代のオメガにはまだ内通者であると気付かれていない。
その為作戦情報や展開されている戦力などをある程度知ることは出来る。
数名の越境者が辞退した為、その穴埋めとして用意された戦力は、よりカノッサに近い。

「記憶?記憶って何の話ですか?」
「ひょっとして……ガブリエラ教皇と話していた内容って……この事でしょうか」

エルミスの発した言葉に違和感を覚えたミスカがすかさず追求する。
そういえばエルミスがミスカを借りる為にガブリエラにこの作戦の阻止を進言した際にも、同じような言葉を聞いていたと。

初めは気が弱くおっとりしていた少女が、今ではいっぱしの越境者らしい気概が身に付いているものだ。
仮にもエリシウムの騎士団長の一人を任される立場である以上、当然といえば当然であるのだが。

しかしミスカが答えを聞く事はなく、すぐに響く轟音と地鳴りに輸送車の窓に張り付いて外を眺めた。
森が燃えている。空には数機のSCRAMBLER/HORNETが飛行し、何者かに向けて機銃掃射を行なっていた。
エルミスはこの先の出来事を知っている。掃射で深手を負ったハイプリエステスは、越境者の手により敗北する────

「口で説明するより会った方が早いだろう…………チッ、思ったよりも戦局の展開が早い」
「行くぞ……時間はもう残されていない」

装甲車を止めてハッチから降りれば、カノッサチームが山狩りを開始する前に森の中へと駆けてゆく。
あの時ハイプリエステスは渓谷の方へと向かった。真っ直ぐ渓谷へ向かえば先に彼女を見つけられる筈だ。

626かぶり ◆qg2zP.O3iQ:2023/01/28(土) 21:44:22 ID:???
>>625
「ミスカ・・・が・・・・・ぁ・・・・・・ハァ・・・ッぁ‥‥ッ・・・ミスカが・・・!」

優しく問いかけるミスカであったが 言葉は嗚咽と混じりつっかえて出てこない

――—ギィ!!
ベティは今は許してやってほしいと 彼女のボディーガードであるジョナにハサミを振り上げていた

〜それからどうした〜
―――ギィ!!
アキレス「ありがと・・・ちょっと・・・色々ありすぎて・・・」

ベティがポケットティッシュを差し出す アキレスは色々とみるに堪えない顔を拭い それだけを告げた
エルミスの話では ロイやこの場にいない皆を補完するように戦力のお代わりを頂いたらしい
それゆえだろう 過去と今とで乖離が起き始め ハイプリエステスは早速ピンチかもしれないというのだ

アキレス「大丈夫・・・絶対に大丈夫・・・! ベティ 一発頼む!!」
―――ギィ!!

ベティはアキレスの背中に登り 闘魂注入ドタマ目掛けてクラブハンマー!!

アキレス「ッシャア!! 矢でも鉄砲でもどんとこいや!! ・・・んであの機銃をどうにかすりゃええのん?」
―――ギィ・・・

気合が入った直後に間の抜けた質問 これにはベティちゃんも苦笑いであった

6272/4『あなたの声』 ◆4J0Z/LKX/o:2023/01/29(日) 22:10:55 ID:???
>>626
「ふふ…………すっかり元気になったね、アキレス?」
「────私の知らない間に、なんだか少し大人になっちゃったなぁ……」

ベティの一喝にすっかり調子を取り戻した様子のアキレス。やや空回り気味のやる気にミスカは苦笑を漏らす。
今日のアキレスは何処かミスカの知らない一面を覗かせていたが、ようやく元の彼に戻ったようだと。

しかし元気よく輸送車から飛び出していくその背中を眺めながら、ミスカは確かに彼の変化を感じ取っていた。
少し寂しそうな笑顔を両手でぱしぱしと叩き、気を取り直して彼等の後に着いてゆく。

「いや、スクランブラーに直接攻撃する必要は無い、奴は────」

気合十分なアキレスであったが、エルミスはスクランブラーへの攻撃は必要ないと告げた。
大型のスクランブラーは異能妨害装置を搭載しており、しかも相手は空中のガンシップである。
デモンレッグで空中に飛び出したとしても、返り討ちを喰らうリスクが大きい。アキレスをそんな相手と戦わせる訳にはいかない。
それにエルミスの記憶が正しければ、スクランブラーはそう長く戦場に居座ることはないだろう。
と、そこへエルミスの握っていた無線機から通信が流れる。

『制圧射撃完了、グッドエフェクト。ハイプリエステスによる攻撃を受けたが損傷は軽微』
『…………フューエル・ビンゴだ、1-1は帰投する』

それはスクランブラーのパイロットによる状況報告だった。
ハイプリエステスが身を隠す森林への機銃及び無誘導ロケットによる掃射はすでに完了している。
今のスクランブラーは搭載する火器の殆どを使い切り、燃料も基地への帰還分を残して消費しきっている状態。
兵器というのは正しく運用してこそ最大の効力を発揮するものだ。近接航空支援が不可能となった今、役目は果たされていた。
ヴヴヴヴ、とまるで雀蜂が羽ばたくようなプラズマエンジンの音を轟かせ、スクランブラー・ホーネットは戦場より離脱するだろう。

「空からの支援は暫く無い筈だ、今のうちに彼女を助けるぞ」

当面の脅威は去ったが、しかし手放しで喜べる状態ではないとエルミスは言った。
グッドエフェクトという言葉は、すなわち制圧射撃の効果はあったという事だ。
ハイプリエステスはあの時と同じように酷く負傷していると見ていいだろう。
そして追撃部隊と鉢合わせれば、無事でいる可能性は限り無く低い事は間違いない。

エルミスは記憶を頼りに先を目指す。ミスカは杖を両手で握りしめてその後を着いてゆき。
木々をかき分けて進んでいると、やがて森の奥から咳き込む声が聞こえる。
ミスカの眉がぴくりと動く。この声は……どこか自分に似ていると。

628かぶり ◆qg2zP.O3iQ:2023/01/30(月) 21:30:06 ID:???
>>627
アキレス「あれをどうにかすればいいのかと言っておいてなんだが 何とかしてくれと言われたらどうしようと思ってた」
―――ギィ!!

ダメだこりゃとハサミを振り上げるベティであった

なにはともあれ事前の情報通り ガンシップはどこぞに飛び去っていく
ならば下手な行動に出て制裁を食らう可能性は低いと見た

なにはともあれ好機だ 今のうちにハイプリエステスと接触する

走っていくうちに聞こえてくるせき込む声 確かに負傷しているらしい

急く気持ちを何とか抑えながら声のする方に向かう
――—ギィ!!

ベティちゃんの焦るな落ち着けといわんばかりにハサミを振り上げるのを横目に木々をかき分ける・・・
自分が姿を現したら 一体どんな反応をするのだろうか? そう思いながら 最後の茂みをかき分ける

6292/4『あなたの声』 ◆4J0Z/LKX/o:2023/01/30(月) 23:27:07 ID:???
>>628
「あっ……アキレス、待って……!」

ベティの静止を横目に木々をかき分けて我先とばかりに飛び出すアキレスを、ミスカは静止しようと手を伸ばす。
当然と言えば当然だが、はやるアキレスの気持ちをミスカは理解できなかった。虚しく空を切る手、静止を振り切ったアキレスは一番に森を抜けて開けた場所へと辿り着いていた。

「はぁッ…………はぁ…………早いじゃないの……」

彼の目は捉えるだろう。痛々しく銃弾に脇腹を抉られてシャツを血に染めているハイプリエステスの姿を。
若い頃の彼女の姿を見るのは本当に久しぶりの事かもしれない。敵対するよりも前にエリュシオンで一度会っただけなのだから。

もう一度しっかりと見たその姿は、やはり大きくなったとはいえ……ミスカ・リーゼロッテ・エリッタの面影がある。
ハイプリエステスは出血が酷く、ぼやけた視界の中でアキレスに剣を向ける。追跡は完璧に振り切った筈だけど、と首をかしげながら。

「おかげで目が覚めたよ……泣きっ面に蜂?あはは……」
「それじゃあ、やろっか…………って、あれ……?」

続いて出てきたエルミスとミスカ。アキレスが剣を向けられているという状況にその表情は険しくなる。
エルミスはともかくミスカは完全に臨戦体制であったが、しかし先に剣を下げたのはハイプリエステスであった。

「なんで"君"が居るのかな…………ここに来ないように根回しをした筈だったんだけど」
「ああ……なるほど、彼が居れば私が戦えなくなると?」

明らかな戸惑いの表情。先ほどまでの戦線に参加していなかったアキレスが何故この場に居るのだろうかと。
エルミスの顔を見つけると、舌打ち混じりに肩をすくめ再び剣を構える。今度はアキレスではなくエルミスへと。
アキレスをダシに何かしようとするのは考え直した方がいいと言外に告げて。

630かぶり ◆qg2zP.O3iQ:2023/02/01(水) 22:22:29 ID:???
臨戦態勢のミスカに対し 視線と共に手をかざして攻撃しないよう合図を送る
そして歩き出した ハイプリエステスへと

その道中リボルバーを取り出す・・・捨てる
ショットガンを取り出す・・・ガンベルトごと捨てる
特殊警棒を取りだす・・・捨てる

ありとあらゆる武器を捨て

アキレス「ベティ 救急箱」
―――ギィ!!

ベティに合図 リュックからファーストエイドキットを取り出す なおも近づいていく
攻撃されることを厭わない・・・否 攻撃されてもいいやぐらいの勢いで近づき 傍にたどり着くならば

アキレス「大丈夫? 痛み止め飲む?」

まるで状況が分かってないかのように さも当然と言わんばかりに治療を開始するのであった

アキレス「痛かったらゴメンね おっさんみたいに上手じゃないからさ」

6312/4『あなたの声』 ◆4J0Z/LKX/o:2023/02/02(木) 22:44:25 ID:???
>>630
「え……何、してるのかな……?」
「状況分かってる?ここ……一応戦場だよ」

銃を棄て、武器を棄てて。歩み寄るアキレスにハイプリエステスは呆気に取られた表情。
エルミスへ剣を向けて動かぬまま、彼が自らの元へと到達するまで動けないでいるだろう。
取り出したファーストエイドキット、特に出血の激しい腹部に止血用のガーゼと包帯が巻かれてゆく。

「俺達は戦う為にここに来た訳じゃない……」
「お前をここで殺し、グッドマンは『眼』の実権を握るつもりだ……そして、取り返しのつかない大破壊が始まる」

困惑するハイプリエステス、エルミスは剣を向けられたまま彼女へと近付いてゆく。
エルミスが知っている歴史では、ここでハイプリエステスは越境者に敗北する。
そして彼女の報復を大義名分とした総攻撃が、HEXA本社にて行われる。それが破滅へのトリガーとなっていた。
たとえ攻撃が止められなかったとしても、ここで彼女を失うわけにはいかないのだ。

「ははっ……だからって、何故HEXAに降伏しなけりゃならない?」
「断れば私の可愛いアキレスを人質にでも使うつもりかい?」

しかし派閥は違えど『眼』の指揮官である彼女もまた、その理想に恭順しカノッサ機関を憎んでいたのだ。
越境者とは敵同士でなくとも、その雇い主であるHEXAとなれば話は別である。エルミスはHEXAの最も古株だ。
近付いたエルミスの喉元に剣を突きつけ、アキレスを片腕で守るように抱き抱える動作は一瞬の事である。

「あっ……あああぁぁーー!」
「んなっ……なっ、何してるんですかぁーーーっ!!」

その言動や行動にミスカが顔を赤くしながら叫ぶのは次の瞬間である。
涙目になりながらも迸る巨大な魔力。彼女の周りの植物がザワザワと呼応し攻撃体制に入るが。
エルミスはまたもミスカに手を翳して静止し、苦々しそうにその口を開く。

「ハイプリエステス……いや、ミスカ……頼む、俺達は敵じゃない」

「えっ……エルミスさん、それってどういうこと……?」

ミスカと呼び掛けられ、ハイプリエステスの顔色が一瞬変わった。
橙の髪も、エメラルドの瞳も、その言葉にエルミスを覗き込む『ミスカ』となんら変わりはないが。
齢にして29、完全に大人として成熟したその姿を。少女は自分であると直ぐに受け入れることはできないだろう。

エルミスは剣を突きつけられながらもアキレスに視線を送る。共に時間を旅した彼にしか言えない言葉もある筈だ。
ミスカもまた戸惑うような視線をアキレスへと向けていた。答えを求めるように。
ただハイプリエステスのみが、歯を食いしばって項垂れているだけだ。

632かぶり ◆qg2zP.O3iQ:2023/02/03(金) 19:12:30 ID:???
あっけにとられ 治療を受けるハイプリエステスの言葉に耳を貸さず 黙々と治療をしていく
その間エルミスが状況説明をしてくれたよう

だがハイプリエステスはエルミスのことを信じられず 自分を担ぎ上げて臨戦態勢

―――ギィ!?
アキレス「あらやだ力持ち」

ベティは驚いたようにハサミを振り上げる アキレスは暢気なものだ ハイプリエステスの首に腕を回すのは落ちないようにするためである・・・顔が近い

アキレス「あぁ・・・えと・・・わ・・・私のために争わないd『ギィ!!』ンベッ!!」

なんとか場を和ませようと冗談を言いかけて ベティちゃんのお叱りクラブハンマーを受けるアキレスの図

アキレス「イテテテ・・・さて冗談は兎も角 聞いてハイプ・・・あぁ面倒だな・・・よし 聞いて大ミスカ」

大ミスカ→ハイプリエステス
小ミスカ→ミスカ

アキレス「耳よりな情報なんだけどさ グッドマンはもうすぐ死ぬ それだけじゃない 今回のことを裏で操ってる連中は全員死ぬか似たような状況になる
     エルミスがなんで大破壊なんて大それたことを言ったと思う? 見てきたからだ 俺たちはその大破壊後から戻ってきたんだ」

ここらでアキレスはハイプリエステスにネタ晴らしをする ミスカも理解したかもしれない 様子のオカシイ自分に

アキレス「俺だけじゃない 他にも帰ってきた仲間がいる ちょっとばかり戻る時間軸が 自分より遅いみたいだけどね
     だからこそ 全てを知ったみんなが大破壊を止めようと躍起になってくる グッドマンとやらの命も風前の灯火さ」

アキレス「だからこそ時間は俺たちの味方だ 時間がたてばたつほど俺たちの都合のいい結果となる そしてだ・・・わかるだろ?」

ニッコリと 自信に満ち溢れた笑み

アキレス「ガチ逃げした俺はちょ〜っとばっかし手ごわいんだぜ? というわけでだ・・・ちょっと俺たちと『時間稼ぎ』しちゃおうぜ
     だからさほら 剣を下げてさ 喧嘩をやめて〜二人を止めて〜♪ なんてさアハハハハハハハ・・・あれ 面白くない?」

6332/4『あなたの声』 ◆4J0Z/LKX/o:2023/02/06(月) 00:13:52 ID:???
「はは…………ははは……」
「面白くない……全然面白くないよ、アキレス」

アキレスとエルミスの言葉に声を詰まらせ、崩れ落ちるハイプリエステス。
彼らは自分すら知り得ない未来のことを知っている。それにそこからの帰還者だと言い張った。

すなわち自分は本懐を果たせなかったということだ。ここで己を犠牲にメッセージを残してもHEXAの暴走を止められず。
結局世界は崩壊し、エルミスの言う大破壊が訪れる。15年前エリュシオンで経験した惨劇のように。
ハイプリエステスはアキレスを抱いていた腕を離し、力なく項垂れた。

「エルミスさん、彼女は…………」

「ああ……ハイプリエステスは、君の未来の姿だ」

そんな彼女の姿を見て、ミスカも何が起きているのか大体を察している。彼女は仲間を失い、心折れた自分の姿なのだと。
何故同じ時間に二人の自分が同時に存在しているのか、考えも及ばないが。きっとアキレスが取り乱していた理由と、何か関わりがあるのだろうから。
今はハイプリエステスの暗殺計画を止めることが先決だろう。説明はその後でエルミスからじっくりと聞けばよい。

「じゃあ、私がやってる事は……全部無駄だったんだ……」
「私もう…………戦わなくていいんだ……はは……」

絶望するハイプリエステスに、エルミスは静かに語り掛ける。

「いいや……君の戦いは無駄では無かった、確かにグッドマンの侵攻は最悪の結果を引き起こし、乱心したオメガによって世界は滅亡へと追いやられる」
「しかし、ミスカ……君が最後の切り札を我々に託してくれたおかげで、こうして我々はここに戻る事ができた」

「15年前のエリュシオンで俺達は分たれたが……それが存亡の別れ目になったんだ」
「ここが運命の分かれ道だ、一緒にこの状況を切り抜けて……グッドマンに引導を渡そう」

15年前、ミスカは越境者達と道を分つこととなった。重傷を負い、初代のハイプリエステスに助けられて。
カノッサを憎むあまり『眼』の一員として殺しの技を身に付け、そして『女教皇』の名を継いだのだ。
その足掻きは破滅を止められなかったが決して無駄ではなく、統合された世界に於いてSTに対抗する最後の手段を残すという功績を果たしている。

「……それに時間も無いようだ、女教皇狩りのお出ましという事か」

今はとにかくこの場を切り抜けることが最優先である、既にカノッサによる山狩りは終盤を迎え。
茂みをかき分けて幾人かの兵士が現れた。少女めいた外見に物々しい装備の数々。
越境者であれば見たことはあるだろう……カノッサ・テクノロジーの主戦力……C.T.S.S.である。

634かぶり ◆qg2zP.O3iQ:2023/02/07(火) 22:20:45 ID:???
>>633
アキレス「ミスカ お願い聞いてミスカ」

崩れ落ちたハイプリエステスの正面に回り その肩を掴む

アキレス「まだ無駄になってない 俺たちは無駄になった世界から戻ってきたけど 『まだ』無駄になってない
     まらやり直せる まだ間に合う だから・・・お願いミスカ 立ってくれ」

アキレス「大丈夫 何とかなるから 俺とかみんながどうにかするから」

だが時間は有限であり ここで後続に追いつかれてしまう
CTSS・・・α-12の仲間たち ここでα-12がいれば少しは話が通じたのであろうが ないものねだりである

だからこそ自分が奮い立たねばならない カノテク主力がなんぼのもの 決断的に腰のショットガンに手・・・

アキレス「・・・・・・」

ショットガンに手を・・・

アキレス「・・・・・・」

視界の先に見えたのは 先ほど捨て去った武器の数々

アキレス「・・・・・・・すぅ〜」

息を吸って〜

アキレス「デモンレッグ」

脚から青き霧を放出し ハイプリエステスをお姫様だっこして脱兎重点!!

アキレス「ウハハハハハハハハば〜かこ〜こま〜でお〜いで〜!!!!」
―――ギィ★

出来ることが逃げることであるならば 自分はただ逃げるだけである
ベティちゃんも煽るようにハサミを振り上げるのであった

6352/4『あなたの声』 ◆4J0Z/LKX/o:2023/02/15(水) 20:14:10 ID:???
>>634
「──────ドーモ、C.T.S.S.クローントルーパーα-03です」

現れた兵士達の足並みは完璧に揃い、その統率力の高さが窺える。先頭に立つ指揮官(コマンダー)が拳を振り上げると、兵士達は一斉に銃を構えて止まった。
一見して脆弱に見える少女型の素体には、これまでの戦闘データが蓄積され、高度に統合されている。
カノッサ・テクノロジー・セキュリティ・サービス。クローン技術によって半無尽蔵の兵力を有するカノッサ機関の尖兵である。

「……奴はただのクローンじゃない、厄介だぞ」

「あっ……待って!」

ゼロスリーと名乗った兵士を見てエルミスは眼を細める、その名乗りには聞き覚えがあった。
かつて只のクローン・インファントリーとC.T.S.S.を一蹴したエルミスに、その有能さを見せ付けた個体だ。
武装を無くし我先にと逃げ出したアキレスに抱かれたまま茫然自失としていた彼女は、ふと我に帰ると静止を求める。だが既にデモンレッグは宙を舞う。
木々を飛び移って森の上空に飛び出したアキレスを迎えるのは、ガンシップのプラズマエンジンの羽音……先程帰投した筈のSCRAMBLER/HORNETである。

「なんで、さっき戻ったはずなのに……!!」

「私の進言です、越境者はこのコントラクトを次々に断っていった……まるで示し合わせたかのように」
「故に、邪魔が入ることを予測するのは……当然の事」

(セフィロトを……魔力が…………間に合わない……!)

戸惑うハイプリエステスに平然と言い放つα-03。正確には、2機目のガンシップを投入したのだ。燃料満タン、銃火器の弾も有り余った状態の雀蜂を。
そして旧世代のスクランブラーにはその名の通り異能を阻害する装置が搭載されている。近付けば近付くほどにアキレスの力は弱まってゆくだろう。
二基の機銃が空中のハイプリエステスとアキレスを捉える。回転し始める銃身を見て背筋に悪寒が走る女教皇。
傷が深く、今からでは攻撃魔法は間に合わない。どうしようもない。心の中でアキレスに謝りながら両目を瞑ったその時である。

「呼ばれて飛び出て…………え、呼んでまセンでシタ?」
「ともかく、アービターズでとびっきりの美少女戦士、キューティーAllieのご登場デス」

雀蜂の背中に何かが降り立ち、その巨体が傾く。まるで鐘を鳴らすかのような金属音が重く響く。
凹んだ装甲の上、立ち上がったのは未来に残った筈の人型兵器……SCRAMBLER/TACTICであった。
それは越境者の知っている個体である。トンチキな言動、桁違いの出力……A-07 Allie(アリー)である。

「フム……旧式SCRAMBLER……やっぱり図体はデカいデスね」
「しかし我々S/Tと何方が優れているか……ほぼ全ての戦力が我々に置き換えらレタ事実を見れば明らか……デス!!」

唖然とした表情のハイプリエステスであったが、すぐにアキレスを抱き抱えて近くの木に降り立つだろう。
アキレスと共に地面へと滑り降り、クローントルーパーに囲まれたミスカとエルミスの居る戦列へと戻る。
ここで自分だけが逃げても二人が無事で済むとは限らない。とりあえずこの状況を脱するまでは……心折れてなど居られないだろう。

「こんなモンですかね……んじゃ、またいつか会いまショウ?」

一方でアリーは首の稼働部をポキポキと鳴らし、手刀を唸らせてその排熱口に手を突き刺せば、エンジンへと向けて直接ブラスターを幾度か発射した。
急所を抉られ煙を噴いて回転し、落ちていく雀蜂。まるでクジラの背に乗ってサーフィンでもするかのように悠然とその上に立つ支配機兵は。
背中から越境者達に投げキッスを放つと、そのまま雀蜂と共に崖の反対側へと墜落して爆炎の中に消える。

「命拾いしたね……アキレス、私の剣を使って」
「この子たちはここでカタを付けるしかないようだ…………クロ!!」

自らの持つ双剣の片割れをアキレスへと預け、ハイプリエステスは眷属であるシャドークローを召喚してクローン兵の方へと突っ込んでゆく。
そして残されたアキレスの背中に小さな張り手が叩きつけられる。振り向けば膨れっ面のミスカ。
アキレスの落とした武器を拾ってきてくれたようで、それを押し付けると前線へと走り出そうとし。

「……さっきの事、じっくり説明して貰いたい所だけど」
「私相手っていうのもあるから、今回は見逃してあげるね?」

「色男は辛いな……せいぜい殺されないようにしろよ」

もう一度振り返ってアキレスをジト目で睨みつけると、魔法で草木を操りながら戦場へと戻っていった。
最後にエルミスに追い越し際に軽く茶化されると、今度こそ彼は一人戦場の端に残されることになるだろう。
一人っきり。あの時と同じ……しかし今は取りこぼした命が、未来が、手の届く所に……目の前にある。

636かぶり ◆qg2zP.O3iQ:2023/02/18(土) 21:07:39 ID:???
>>635
アキレス「実力でトゥエルブ以下の輩の名前なんぞ知らんわ」

エルミスの忠告にはそう答え 制止の声を聞き逃して逃亡・・・しようとしたところに例のガンシップ
異能阻害装置により脚力が人のそれに戻っていくのを感じる

さしものアキレスも動揺は抑えられず ベティがその身を晒してどうにか2人を生かそうとアキレスの頭上に登った・・・その時である

アキレス「え? あれ・・・おま・・・えっ…? なんでいんの?」
―――ギィ!!

あっけにとられるアキレス ハイプリエステスに抱きかかえられてただいまである

アキレス「・・・・・・・・・・タダイマ」
―――ギィ!!

なんかばつの悪そうな顔のアキレス ベティちゃんはしっかりしろ!とクラブハンマー

アキレス「ありがとねー・・・って あの・・・やっぱり戦わなきゃだめ? デスヨネーっていテェ!?」

ハイプリエステスは双剣の片割れを差し出してくる そして背中を張り飛ばされて視線を向ければそこにはお怒りミスカ

アキレス「・・・・・・・いざという時には助けてねベティ」
―――ギィ!!

なんとも情けない援護要請に 絶対にノゥ!!と言わんばかりのベティであった

アキレス「なんだかんだ剣には妙な縁があるなぁ・・・」

確か魔王討伐軍遠征だったか? 魔王に最後の一撃を与えたのも自分で その時も聖剣を手にしていた
あれからロイに稽古してもらったりもしたが 結局 剣の扱いはへたっぴのままであった

アキレス「・・・えぇいアキレス男を見せろ!! ベティ行くぞ!!デモンレッグ!!」
―――ギィ!!

ここでしょげていても埒が明かない 雀蜂が落ちたことで異能も回復したことだろう
再び青き霧を纏い 鮮烈に突撃するアキレスであった

6372/4『あなたの声』:2023/09/23(土) 01:46:18 ID:???
>>636
「雀蜂が墜ちた…………?フム、とんだ邪魔が入ったものですが……我々の戦術的優位に揺るぎはありません」

突如として現れた未来からの乱入者に眉を顰めつつも、これしきのイレギュラーで作戦が崩れる事はないと自信満々に言い放つ。
元々外様のHEXAに関してはそれほど信頼を置いてはいなかった。もとよりこの『眼』討伐作戦はカノッサ主導ものだ。
戦力供与とは言いつつも、投入戦力の規模はHEXAよりもC.T.S.S.の方が上回るだろう。
両者一歩も引かず、ついに互いの間合いの中で戦闘が始まった──────!

──────────────────
────────────
──────

「──────そこで私は銃を引き抜き、複数人の越境者を相手に大立ち回りを見せつけたのです」
「残念ながら決着こそ付きませんでしたが……その実力を買われ、こうして治安維持の立役者に抜擢されたという事ですね、ウン」

戦いを終えてもなお、a-03の雄弁な語り口調は衰えることを知らない。
少々自信過剰な気もするが、それでも通常のクローン兵の常識を覆すほどに彼女は強かった。
しかしそれを語るのは瘴気の溢れる崖際の戦場ではなく、ランタンと白熱級の明かりが照らす木造の酒場の中である。

──────6か月後、狭間のスクラップヤード──────

a-03はスクラップヤードにも顔を出すようになっていた。まだバロウズに仕えているのか、それともフリーランスで行動しているのかは謎であるが。
元々がコントラクトありきの執行部隊である以上、一度敵対したとしても特別怨恨のようなものは抱かない性分であるのかもしれない。
そして酒場の老人たちに己の武勇を口伝するa-03の姿を遠巻きに見守っているのは……ミスカ達である。

「かなり私たちが勝ってた気がするけどねぇ〜……」
「ですよね、”未来の私”さん?」

彼女らもまたHEXA部隊やa-03らを撤退へと追い込み、生き残った。あり得なかったはずの未来を勝ち取ったのである。
ハチミツエードで満たされたジョッキを両手で抱えながら笑う姿は、教皇ガブリエラに仕える騎士団長や、エリシウム魔法大学の研究員としての側面があるとは思えない。
アキレスの隣に腰かけたまま、彼を挟んで反対側に座る橙の髪の女へと声をかける。

「私の事は”ハイプリエステス”でいいって言ったのを忘れたのかい、ミスカ?」

彼女は小さな自分から「私」と呼ばれるのを訂正する。彼女はミスカとしてではなく、”ハイプリエステス”として生きるという選択をした。
HEXA本社襲撃の日、彼女はやり残していた最後の仕事を、ジョシュアと共同でオムニとグッドマンの同時多発的な暗殺を成功させたのである。
今ではかつての圧倒的な強さはなく、内臓の損傷によって長時間の運動は出来なくなってしまったが。気分は晴れ晴れとして表情もとても穏やかになった。

「…………あれから半年も経つのか……だけど、まだ帰ってきた実感がないよ」
「こうして、キミの隣に」

薄布のチュニックから伸びた細い腕がアキレスの膝に触れる。
女教皇として戦場に出ていた際、闇夜に紛れるような色の革コートの下にはこんな傷だらけの体が隠されていたのだ。
一体どれだけの研鑽を重ねたのだろうか、きっと血の滲むような努力だったに違いない。
だがそうやって得た強さを失ってもなお、有り余る幸せがこの未来にはあった。

638かぶり ◆qg2zP.O3iQ:2023/09/25(月) 21:48:44 ID:???
アキレス「うわぁぁぁぁぁぁん刀の錆にしてくれるぅぅぅぅぅぅぅぅ・・・・・・!!!!!!」

ハイプリエステスの双剣の片割れを振るい 敵の軍勢へと切りかかる
そこに確かに未来があると信じて 高々足が速いぐらいしか取り柄のない青年が突撃していく

・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・

老人たちがα-03の武勇伝に笑い 杯を干していく 暖かくて優しくて平和な時間

アキレス「アハハ〜そうだね〜」

勝ってた気がする というミスカの言葉に 張り付けたような笑顔で答えるアキレス
注がれた酒は一ミリも減ってない

アキレス「ウフフ〜そうだね〜」
君の隣に帰ってきた というハイプリエステスの言葉に 張り付けたような笑顔で答えるアキレス
注がれた酒は一ミリも減ってない

アキレス「えへへへへ〜なんでアテクシ挟まれてるんでしょ?」
冷や汗がタラリ 誰がどう見ても垂涎の的 2人の美女にはさまれるなんて 一体前世でどれだけ徳を積んだのかと問われかねないシチュエーション
こちらを見る男衆の視線がとっても刺々しい 針の筵とはこのことだ

アキレス「オホホホホ・・・ベティ・・・助・・・タスケテ」
消え入りそうな声で相棒にヘルプを唱えるも

―――ギィ!!
ベティちゃんは常連客からナッツを頂いたから一緒に食べようと ジョナに向けてハサミを振り上げていた


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