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歩夢「君の超高校級の心は輝いてるかい?」Part2
1
:
◆8TImjtGSKs
:2019/08/23(金) 19:36:54 ID:.D1apNcw
※ラブライブ×ダンガンロンパ 2スレ目です
※そのため死亡描写あり〼
前スレ:
https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1506186240/
2
:
◆8TImjtGSKs
:2019/08/23(金) 19:38:46 ID:.D1apNcw
【!】
前回の続きからSSを再開致します
よろしいでしょうか?
前回終了時の状態
Chapter.5 (非)日常編
〔はい〕 いいえ
3
:
◆8TImjtGSKs
:2019/08/23(金) 19:39:25 ID:.D1apNcw
モノっちー「いやいや、むしろ逆なんだよネ」
璃奈「逆……(>_<。)?」
モノっちー「ボクはこの部屋を“当時のままにしておいた”。保存資料みたいなものだよ」
モノっちー「以上、それなりに意地悪なヒントでした」
モノっちー「でもさ。この学園に来る前でも、毎日のように事件や事故のニュースはあったでしょ?」
モノっちー「どんなに凄惨な出来事でも、年月が経てば風化していくんだ」
モノっちー「忘れられないように保存していたボクは、むしろ感謝されるべきなのかもネ」
モノっちー「うけけけけ……」
歩夢(当時のままにしておいた……?)
歩夢(モノっちー以外の誰かが、こんなことを……?)
4
:
◆8TImjtGSKs
:2019/08/23(金) 19:40:16 ID:.D1apNcw
────夜、歩夢の個室
ピンポーン
歩夢「……?」
歩夢(就寝アナウンスのしばらく後。突然、インターホンが鳴った)
歩夢(鞠莉さんの一件から、気を付けろと忠告は受けている)
歩夢(もし千歌ちゃんだとしたら──)ガチャリ
千歌「……」
歩夢「……」バタン
歩夢(扉をすぐに閉めるように。その言いつけ自体は守ったのだが……)
千歌「……危ないなあ。挟んだ衝撃で暴発したら、大変なことになっちゃうよ?」
千歌「歩夢ちゃんを撃ちたくはないからさ。少し、話を聞いてもらえないかな?」
歩夢(……結局、拳銃の脅迫に負けた私は、彼女を部屋に招き入れることになってしまった)
5
:
◆8TImjtGSKs
:2019/08/23(金) 19:41:08 ID:.D1apNcw
歩夢「……何しに来たの?」
千歌「余計なことをしなければ撃つつもりはないから、あんまり警戒しないでよ」
千歌「余計な発言だったら、幾らでも受け付けるからさ」
歩夢「……ノートパソコンを盗んだのも、あなただよね」
千歌「まあそうなるね。ところで……歩夢ちゃんは見た? 第2多目的室」
歩夢「……っ」
千歌「その様子だと……見てないか、見ても大した発見は出来てないのかな?」
歩夢「そんなことを言いに来たんだったら……」
千歌「出ていけって? むしろ、歩夢ちゃんが出て行って、みんなをインターホンで起こした方が早いんじゃないかな?」
千歌「でないと、これの餌食になっちゃうかもね……と言いたいところだけど、中身は空っぽなんだよ、ほら」カチャリ
歩夢「……」
歩夢(弾倉の中には、弾が一発も入ってない。ただのハッタリだったのか)
6
:
◆8TImjtGSKs
:2019/08/23(金) 19:41:59 ID:.D1apNcw
千歌「私はただ、手伝いをしてあげたいんだ」
歩夢「どういうこと?」
千歌「ここから脱出するための、だよ。というわけで、ちょっと耳貸してよ。モノっちーに聞かれたら不味いでしょ?」
歩夢「……」
歩夢(言われるがまま、彼女の話に耳を傾ける)
千歌「第2多目的室にも、小窓とそれを覆う鉄板があった。それくらいは知ってるよね?」
千歌「実はあの部屋の鉄板、少し外れ掛かってるんだ」
歩夢(あの部屋の、窓の鉄板が……?)
千歌「そう。だからさ、それを外せば学園の外に出られるんじゃないかな」
歩夢(外に……出られる……?)
7
:
◆8TImjtGSKs
:2019/08/23(金) 19:42:34 ID:.D1apNcw
千歌「この学園の秘密とか、モノっちーの正体とか。色々気にはなるだろうけど、そういうのは脱出してからでいいんだよ」
千歌「まずは安全な場所に逃げる。それでいいと思わない?」
歩夢(千歌ちゃんの話は、もっともだ)
歩夢(この学園を脱出さえしてしまえば、モノっちーも迂闊に手出しは出来ないだろう)
千歌「でもさ。全員があの部屋に行って、モノっちーに気付かれたらおしまいでしょ?」
千歌「だから、私がモノっちーの注意を引きつけておく」
千歌「その上で……これを使って欲しいんだ」
歩夢(そう言って、何かの箱を渡された)
歩夢(中を確認して見ると、ドライバーやレンチ、ハンマーなどなど。いわゆる工具セットだ)
千歌「流石に、4階から逃げるとなればロープは準備しておいた方がいいかもね」
千歌「そういうワケだからさ。頼んだよ」
8
:
◆8TImjtGSKs
:2019/08/23(金) 19:43:33 ID:.D1apNcw
歩夢「……待って。だったら、鞠莉さんを襲う必要はあったの?」
千歌「ちゃんと理由はあるよ。けど、話すのはここを無事に出られたら」
歩夢「……」
千歌「じゃあね。おやすみ、歩夢ちゃん」
歩夢「お、おやすみ……」
歩夢(渡された箱を手にしながら、考える)
歩夢(確かに、千歌ちゃんの話は筋が通っている。脱出してしまえば、全てを終わらせることが出来る)
歩夢(その筈なのに……この感覚は、何だろう?)
歩夢(何かが歯に詰まっているような違和感は……何なんだろう?)
歩夢(大切な何かを忘れているような……)
9
:
◆8TImjtGSKs
:2019/08/23(金) 19:44:15 ID:.D1apNcw
歩夢(……っ、何を考えているんだ、私)
歩夢(疑問を全て投げ出してでも、ここを出ることが最優先の筈)
歩夢(だったら、答えは決まっている)
歩夢(……そう言い聞かせて、私は布団に体を潜らせた)
10
:
◆8TImjtGSKs
:2019/08/23(金) 19:44:57 ID:.D1apNcw
〜モノっちー劇場〜
悪意とは関わるな……そういう考えが、世間に蔓延っているよネ。
けど、本当にそれでいいのかなって、ボクは思うんだ。
悪意を持った人は、どこからでも湧いて来る。
突然、自分が悪意にさらされる時が来るかも知れない。
そういった時のために少しは悪意を知っておくべきだと、ボクは思うんだ。
悪意を知っていれば、それに対する対処が思いつく。
悪意を知っているから、友人だと思っていた人が悪意を持っている可能性に気付くことが出来る。
要は、一種の予防接種みたいなものだネ!
……けど気を付けて欲しいのは、予防接種とはウイルスを身体に投与するもの。
付き合い方を間違えると、オマエもウイルスに乗っ取られるかも知れないよ……?
11
:
◆8TImjtGSKs
:2019/08/23(金) 19:46:01 ID:.D1apNcw
今回はここまで。
2スレ目突入です。もうしばらくお付き合い頂ければ、幸いです。
12
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/08/23(金) 23:23:50 ID:9lc3Cel6
いきなりセーブしますか?って出てドキッとした
楽しみにしてる
13
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/08/24(土) 01:50:20 ID:mKPEAxEM
おつおつ
μ’sの影がちらついてまいりました
14
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/08/27(火) 22:42:56 ID:XZkWOs62
乙!ついに2スレ目か……次回も楽しみにしてる
15
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/09/20(金) 07:38:49 ID:YNRV7SvM
追いついた!期待!
16
:
◆8TImjtGSKs
:2019/11/04(月) 22:57:38 ID:ypS3Bcfk
────学園生活21日目
キーンコーンカーンコーン
モノっちー『おはようございます、朝7時になりました』
モノっちー『さてさて、今日も1日頑張っていきましょう』
プツン
歩夢(昨日の千歌ちゃんの話が、脳裏にこびりついている)
歩夢(学校からの脱出……どうにかしてみんなに伝えたいけど、どうやって伝えよう?)
歩夢(モノっちーに気付かれないようにする必要があるけど……)
歩夢「……あれ?」
歩夢(ベッドから身を起こして食堂に向かおうとすると、ドアの下に折りたたんだ紙が挟まれていることに気が付いた)
17
:
◆8TImjtGSKs
:2019/11/04(月) 22:58:21 ID:ypS3Bcfk
歩夢(拾い上げ、その紙に書かれた文章に目を通す)
『決行は今日の夜9時半』
『その頃になったら、私はモノっちーの注意を引き付ける』
『あとは、歩夢ちゃん次第だよ ちゃんと全員で脱出してね チカ』
歩夢「……」
歩夢(どうやら、責任重大な役目を任されたらしい)
歩夢(今日1日を使って……上手く、みんなに声を掛けて行くしかなさそうだ)
18
:
◆8TImjtGSKs
:2019/11/04(月) 22:59:07 ID:ypS3Bcfk
────食堂
歩夢「璃奈ちゃん、ちょっといい?」
璃奈「どうしたの(・v・)?」
歩夢(朝食を食べ終えた私は、準備を整え始める。脱出のため、全員に話を通す必要があるからだ)
歩夢(まずは、たまたま近くに居た璃奈ちゃん)
鞠莉「何なに、二人とも内緒の話?」
歩夢「あはは……まあ、そういうところ、かな?」
鞠莉「じゃあ、私たちは一旦退散しておきましょうか」
しずく「え、あ、はい!?」
梨子「ちょっと、まだお皿洗ってないのに……」
鞠莉「いいからいいから♪」
歩夢(ウインクをして、鞠莉さんは残っていた人たちを食堂から引き上げさせた)
19
:
◆8TImjtGSKs
:2019/11/04(月) 22:59:47 ID:ypS3Bcfk
歩夢「……」
璃奈「……(・v・)」
歩夢(いざ2人になってみると、どことなく気まずい)
歩夢(普段はお喋りなのに「自由に喋ってください」と言われると途端に喋れなくなるような……そんな現象)
璃奈「前に言ってたよね。私、恥ずかしいから顔を隠してるって(・v・)」
歩夢(結局、璃奈ちゃんから話題を提供される体たらく。この調子で残りのみんなに話を通せるのかちょっと不安)
歩夢(でも今は、璃奈ちゃんの話を聞いてあげよう)
歩夢「うん、その璃奈ちゃんボード、お手製なんだよね」
璃奈「実はね。もしこの学園を出られたら、ボードを取りたいって思ってるの(・v・)」
歩夢「ボードを……?」
20
:
◆8TImjtGSKs
:2019/11/04(月) 23:00:26 ID:ypS3Bcfk
璃奈「私、子供の頃から感情を表に出すのが苦手で。仏頂面、ロボットみたいってよく言われてた(・v・)」
歩夢「だから……どうにかしたい、って思ったの?」
璃奈「うん。最初は、周りの人たちを真似していけば感情豊かになれるかなあって思ったの(・v・)」
璃奈「真似事をしていくうちに、いつの間にか顔も声もコピー出来るようになってた(・v・)」
歩夢「それが……璃奈ちゃんの、才能のキッカケだったんだ」
璃奈「そう。気が付いたら、変装師とかディスガイザーとか、そう呼ばれるようになった(・v・)」
璃奈「何となく響きが格好良いって思ってたし、変装のクオリティを高めて行くのはとっても楽しかったよ(・v・)」
璃奈「でも、どんなに人の笑顔や怒った顔を真似しても“天王寺璃奈”の顔は固いままだった(>_<。)」
璃奈「ずっと誰かに変装したままってワケにはいかない。だから、璃奈ちゃんボードに頼るしかなくなった(>_<。)」
歩夢「……」
21
:
◆8TImjtGSKs
:2019/11/04(月) 23:01:08 ID:ypS3Bcfk
歩夢(どういう言葉を、掛けてあげればいいのだろう)
歩夢(感情を学ぶためだった筈の変装が才能になり、本来の目的を見失ってしまった)
歩夢(そんな、残酷で皮肉めいた境遇を語る璃奈ちゃんに、どんな言葉を……)
璃奈「でもね。ここでみんなと過ごしていると、すっごく楽しかった(・v・)」
歩夢「えっ……?」
璃奈「モノっちーは、学生生活の記憶を奪ったって言ってた。私も、どのくらい記憶が飛んだのかは分からない(・v・)」
璃奈「でも、段々分かって来た。元の学生生活は、きっと私に沢山の表情をくれていたんだろうって(・v・)」
璃奈「居なくなっちゃったみんなも、元の学校ではきっと優しくて、私に笑顔をくれたんだろうって。証拠はないけど、信じられる(・v・)」
璃奈「だから……色んな顔をくれたみんなに、恥じないようにしたいんだ。だから私は、ボードを取りたい(・v・)」
璃奈「きっと……元の私も、そうしていただろうから(・v・)」
22
:
◆8TImjtGSKs
:2019/11/04(月) 23:02:11 ID:ypS3Bcfk
璃奈「さ、流石に誰かを殺して出ようとは思ってないよ(?□!)!?」
歩夢「ふふっ、分かってるよ」
歩夢(心配した私が馬鹿だったらしい。彼女は彼女なりに、境遇と向き合って生きている)
歩夢(或いは……向き合うキッカケをくれたのが、ここで過ごしたみんなだったのだろうか)
歩夢(愛ちゃんは、今の彼女の姿を見守ってくれているだろうか……。っと、いけないいけない)
歩夢「ねえ、璃奈ちゃん」
璃奈「?」
歩夢「実は、4階の血だらけの部屋なんだけど──」
歩夢(誰も犠牲にならずに、ここから脱出する。そのプランについて、しっかり根回ししておかないと……)
歩夢(感傷に浸るのは、全てを終えた後だ)
23
:
◆8TImjtGSKs
:2019/11/04(月) 23:02:49 ID:ypS3Bcfk
────夕方、鞠莉の部屋
鞠莉「いらっしゃい。遅かったわね、歩夢」
歩夢「あはは……」
歩夢(どうやら、私は鞠莉さんにちょっとした苦手意識があるみたい)
歩夢(核心を突いた推理や、PCから情報を取り出せるその頭脳には、何度も助けられた)
歩夢(けれども、どうにも核心を突きすぎる時があるような……何もかもを見透かされるような気分になる時が、日常的に多々ある)
鞠莉「それで? 計画の準備は整っているの?」
歩夢「どこで知ったんですか……」
歩夢(今だって、これから話そうとしていたことを逆に耳打ちで質問して来るし……)
24
:
◆8TImjtGSKs
:2019/11/04(月) 23:03:23 ID:ypS3Bcfk
鞠莉「あなたが花丸と二人で図書室に居た時にね。ちょっと盗み聞きさせてもらったわ」
歩夢「……まあ、いいです。鞠莉さんが最後だから」
歩夢(そうして私は、鞠莉さんに事のあらましを小声で説明し始める)
歩夢(既に鞠莉さん以外の全員に話を通してある、虹ヶ咲学園からの脱出計画)
歩夢(計画実行は9時半。その時間になれば、第2多目的室の窓を破って脱出するのだ)
歩夢(ロープはしずくちゃんが準備してくれている。劇団に所属して間もない頃、裏方作業として学んだらしい)
歩夢「──ということなんです」
鞠莉「……なるほどね」
歩夢(千歌ちゃんの名前を出した時、鞠莉さんは露骨に怪訝な表情を浮かべる。けれども、私の話を黙って聞いてくれた)
25
:
◆8TImjtGSKs
:2019/11/04(月) 23:03:53 ID:ypS3Bcfk
鞠莉「正直なところ。立案者が立案者だから、あんまり信用したくないのは事実」
鞠莉「でも……」
歩夢(そう言って、再び声のボリュームを小さくする)
鞠莉「確かに、あの部屋の窓……鉄板のネジが欠けていたし、緩んでいるように見えた」
鞠莉「あの部屋が血だまりになる過程で起きた副産物……かはまだ分からないけど」
鞠莉「嘘を言っているワケでもなさそうなのよね……」
歩夢「は、はぁ……」
歩夢(いつの間に、そんなことまで気付いていたのだろう。やっぱりこの人には敵わない)
鞠莉「いいわ、そのプランに乗ってあげる。ただし、安全の確保はしっかりとね?」
歩夢「は、はい!」
26
:
◆8TImjtGSKs
:2019/11/04(月) 23:04:33 ID:ypS3Bcfk
鞠莉「ああ、それと歩夢。あなた紅茶は好き?」
歩夢(鞠莉さんからの承諾を得たあと。部屋を出ようとする私に、彼女は問う)
歩夢「の、飲めないことはないですけど……」
歩夢(言いながら、既に鞠莉さんはポットとティーカップの準備をしている。いつの間に部屋に持ち込んでいたんだろう)
鞠莉「じゃあ……ちょっと、世間話に付き合ってもらおうかしら」
歩夢「……えっ」
鞠莉「ほら、折角の機会だしね。あなたに一方的に喋らせるわけにはいかないもの」
歩夢「い、一方的……でしたっけ?」
鞠莉「小原グループがどんなものか、知っておいて損はないと思うけど?」
歩夢(『逃げるなんて許さない』と、圧力を纏った笑顔)
歩夢(個室以外で話を持ち掛けるべきだったと後悔したが、もう手遅れのようだ)
27
:
◆8TImjtGSKs
:2019/11/04(月) 23:05:47 ID:ypS3Bcfk
────夜、食堂
歩夢「……」ボーッ
花丸「歩夢ちゃん……何かあったずら?」
ダイヤ「鞠莉さんの長話に付き合うことになったみたいです」
花丸「あぁー……」
歩夢(二人の会話が、何となく聞こえてくる)
歩夢(夕食を食べに来ない私と鞠莉さんを梨子ちゃんが呼びに来るまで、マシンガントークでハチの巣にされていたんだ)
歩夢(……小原グループとして、世界各地で活躍する鞠莉さん)
歩夢(その財力は、あくまで小原鞠莉個人の範疇でも、虹ヶ咲学園サイズの建物なら軽く建てられる代物だという)
歩夢(高校生でありながら既に幾つかのホテルの経営に携わっているらしく、それで得た資産らしい)
歩夢(記憶を奪われた約3年間にどれだけの資産を築いたかまでは分からないが……何にせよ、気の遠くなる話だ)
28
:
◆8TImjtGSKs
:2019/11/04(月) 23:06:18 ID:ypS3Bcfk
歩夢(その割には、あまり小原家という場所を快く思ってなさそうな発言が目立った)
歩夢(というよりも、家族と何らかの確執がある……そんな様子)
歩夢(本人は自由を望んでおり、ホテルの経営も自ら雇った部下に全て任せている)
歩夢(『私はただ、気の合う友達と楽しく過ごせればよかった』という鞠莉さんの言葉が、妙に心に刺さる)
歩夢(とはいえ……それでも、自分の家の事を大切に思っている)
歩夢(『卒業した者は将来の成功が約束されている学園』を卒業すれば、代々続いてきた小原家が、少なくとも自分の代で滅ぶことはない)
歩夢(結局彼女は、自分の事よりも家の事を取り、入学することになった)
歩夢(その選択が後悔するべきものだったのか。記憶を失った今では分からない)
歩夢(だが、コロシアイ学園生活の中でも気の合う人だらけだったのだから、記憶を失う前の自分は、きっと後悔していなかったのだろう……)
29
:
◆8TImjtGSKs
:2019/11/04(月) 23:06:54 ID:ypS3Bcfk
歩夢(というのが鞠莉さんの話を大雑把にまとめたものなのだが……)
歩夢(長い! その上テンポが速い! そしてテンションが上がると外国語が混じるから脳が追い付かない!)
歩夢(……でも。こんな話が出来るのも、学生生活の醍醐味だった)
歩夢(最初の事件が起きる前のかすみちゃんだって、自分のことを惜しみなく話してくれた)
歩夢(彼女が洒落にならない行動を取るようになったのだって、元を正せば原因はモノっちーの筈だ)
歩夢(勿論、彼女自身かなり悪戯好きな面があったが……きっと、それ自体は問題じゃないと信じたい)
歩夢(そんな風に人を狂わせてしまった学園から、もうすぐ脱出する)
歩夢(私と同じく、みんなどこか落ち着かないようで。夕食を食べ終えても、全員が食堂に残っていた)
歩夢(そして。食堂に掛けられた時計が、9時半に近づいて来る)
歩夢(千歌ちゃんの姿は一度も見ていないが、きっと上手くやってくれるだろうと信じる)
歩夢(必要な物をそれぞれ持ち……全員で、第2多目的室へと向かった)
30
:
◆8TImjtGSKs
:2019/11/04(月) 23:07:37 ID:ypS3Bcfk
────9時半前、第2多目的室
しずく「これで……終わるんですね」
璃奈「3週間くらい、ここに閉じ込められていたんだね……(>_<。)」
花丸「でも、これでようやく外に出られるずら」
ダイヤ「……安心するのは、外の様子を確認してからです」
鞠莉「4階ともなればかなりの高さでしょうし、今は夜だから、うっかりして落ちてしまう可能性も高い」
歩夢「……」ゴクリ
歩夢(工具箱から取り出したボックスドライバーで、窓を塞ぐ鉄板のネジを外して行く)
歩夢(その横では、しずくちゃんが壁のフック状になっている部分にロープを結びつける)
31
:
◆8TImjtGSKs
:2019/11/04(月) 23:08:25 ID:ypS3Bcfk
しずく「ロープ、結び終わりました」
歩夢「私も、鉄板はこれで外れる筈」
歩夢(「よいしょ」の掛け声のもと、そこそこの重さを持った鉄板が外れる)
歩夢(窓の外は……漆黒。夜だから仕方ないか)
花丸「真っ暗……」
璃奈「街の灯りすら見えないけど、ここって東京だったよね……(・v・)?」
梨子「でも、今は気にしている暇はなさそうよ」
鞠莉「歩夢、懐中電灯を貸してくれる? 私が最後に降りるから、それまで照らしてあげるわ」
ダイヤ「一応軍手は持って来てあります。これをつければ、手を怪我せずに済むかと」
32
:
◆8TImjtGSKs
:2019/11/04(月) 23:09:01 ID:ypS3Bcfk
歩夢(残っているのは6人。千歌ちゃんを入れれば、7人。たった3週間で、私たちは多くの仲間を失った)
鞠莉「みんな、ちょっと離れて。このトンカチで窓をぶち破るから」
しずく「そうしたら、ロープを降ろして……」
花丸「これで、日常に戻れるずら」
歩夢(日常……)
歩夢(この窓の向こうにあるのは、いつもの退屈で平和な日常で)
歩夢(私たちは……帰れるんだよね。その、日常に)
鞠莉「行くわよ。この学園から卒ぎょ──」
歩夢(掛け声と共に、鞠莉さんがハンマーを振り上げ……)
33
:
◆8TImjtGSKs
:2019/11/04(月) 23:09:32 ID:ypS3Bcfk
鞠莉「────は?」
歩夢(突然、その手が止まった)
歩夢(目を大きく見開いて。まるで、窓の外に『信じられない物』を見たかのように)
34
:
◆8TImjtGSKs
:2019/11/04(月) 23:10:23 ID:ypS3Bcfk
鞠莉「嘘……そんな、筈……」
ダイヤ「どうしたんです、鞠莉さん」
歩夢(その言葉を皮切りに、みんなが窓と、鞠莉さんに駆け寄る)
歩夢(空気を読んだのだろう。誰かが懐中電灯の電源を入れ、窓の外に──)
35
:
◆8TImjtGSKs
:2019/11/04(月) 23:11:14 ID:ypS3Bcfk
歩夢(……最初に映ったのは、大きな“魚”だった)
歩夢(ライトの照らす角度が変わる。下の方……恐らく1階に相当する部分には、コンクリートの地面のような何かが見える)
歩夢(よく見たら……海藻? 海藻が生えている?)
歩夢(今度は、小さな魚。群れを成して“泳いでいる”)
歩夢(明かりが、震え始める)
歩夢(私たちの身体を、寒気が走る)
歩夢(考えたくない。理解したくない)
歩夢(それでも、誰かが……震えた声で、こう言った)
36
:
◆8TImjtGSKs
:2019/11/04(月) 23:12:00 ID:ypS3Bcfk
「海の……底?」
37
:
◆8TImjtGSKs
:2019/11/04(月) 23:12:36 ID:ypS3Bcfk
千歌「ゲームクリアおめでとう。これでコロシアイは終わりだよ」
歩夢「ち、か、ちゃん……?」
歩夢(いつの間にか……多目的室の扉に、彼女は立っていた)
ダイヤ「あ、あなた……モノっちーを引き付けておくのでは……」
千歌「もうそういうのはいいよ、ダイヤさん。みんなも見たんでしょ、窓の外」
梨子「見た、っていうか……」
璃奈「どうなってるの……(>_<。)?」
千歌「みんな暗い顔してるけど、お楽しみはこれからだよ。ここから、ネタばらしの時間なんだからさ」
花丸「ネタばらし……?」
千歌「それと同時に……最後の動機発表、ってところかな」
歩夢「動機、発表……!?」
38
:
◆8TImjtGSKs
:2019/11/04(月) 23:13:35 ID:ypS3Bcfk
鞠莉「ちょっと待ちなさい! 動機、って……」
千歌「遮るなら、話してあげないよ?」
ダイヤ「鞠莉さん、今は……彼女の話を聞くべきです」
鞠莉「っ……」
千歌「じゃあ、始めるよ。20XX年……地球の温暖化は深刻なものになって、南極や北極の氷が大幅に溶けだした」
歩夢(いきなりスケールが大きすぎて、何のことを言っているのか分からない……が、みんな黙って彼女の話を聞く)
千歌「このままだと海面上昇で世界のほとんどが水没するし、もはやそれを避けることは不可能な領域に入ったんだ」
千歌「そこで政府は、虹ヶ咲学園との協力の末、ある計画を実行することにしたんだ」
千歌「それが……“希望隔離計画”」
39
:
◆8TImjtGSKs
:2019/11/04(月) 23:14:19 ID:ypS3Bcfk
歩夢「希望、隔離計画……?」
千歌「鞠莉ちゃんは心当たりあるんじゃない? あのパソコンの中に入ってたでしょ?」
歩夢(みんなが、一斉に鞠莉さんの方を向く)
鞠莉「……確かに【持ち出し厳禁】のフォルダの中に、その名前のファイルはあったわ」
鞠莉「でも、判ったのはその名前だけ。詳細までは解析出来なかったし、どうしてあなたが──」
千歌「希望隔離計画っていうのはね。海に沈んだ後の地球を、超高校級のみんなの力で再生させるためのもの」
千歌「地球が一度滅ぶまで、超高校級の生徒たちにはコールドスリープをしてもらう」
千歌「扉の開かない生物室があったでしょ? あそこで私たちは、ずっと眠ってたんだ」
千歌「うっすら冷気が漂っていたのも、そのためだね」
40
:
◆8TImjtGSKs
:2019/11/04(月) 23:15:15 ID:ypS3Bcfk
歩夢「……」
歩夢(まるでSFのような話を、急には信じられるわけがない。だが……)
花丸「じゃあ、ここは……海面上昇が起きた後の、虹ヶ咲学園、ってことずら……?」
千歌「そういうことだよ」
歩夢(ここが海の中である理由を説明するには、十分すぎる話だった)
千歌「だから、その窓を破ろうとしても本当は無駄なんだよ。水圧に耐えるために、学園側が分厚いガラスに変えたからさ」
千歌「ある意味、この学園自体が巨大な“シェルター”ってワケだね」
しずく「じゃあ、私たちは……どのくらい、コールドスリープをしていたと言うんですか……?」
千歌「ざっと80年ってところかな。多分、本来なら元号が1つか2つは変わってると思うよ」
しずく「はち、じゅ……!?」
千歌「倒れるのはまだ早いよ、ここからが『絶望』の本番なんだから」
41
:
◆8TImjtGSKs
:2019/11/04(月) 23:16:03 ID:ypS3Bcfk
梨子「これ以上、何かあるの……?」
千歌「不思議だと思わない? そんなシェルターの中で、どうしてコロシアイなんて物が発生したのか」
千歌「何より、どうしてこの部屋が血まみれなのか」
千歌「実はね……希望隔離計画を実行した大人たちは、とんでもない見落としをしていたんだ」
千歌「言うなれば、超高校級のみんなは“地球の希望”を賭けた大切な存在。でもその中に、とんでもない人が紛れ込んでいたんだよ」
千歌「その人はまず、何人かを勝手に起こして、この部屋で殺し合いをさせた。そうして、ここは惨劇の舞台になった」
歩夢「……」
千歌「でも、その人は気付いたんだよね」
千歌「ただ殺し合いをさせるだけじゃなくて、もっとエンターテイメントに富んだコロシアイゲームにすれば……もっと楽しいんじゃないか、って」
千歌「だからモノっちーを作って、みんなの記憶を奪って。このコロシアイ学園生活は、幕を開けることになったんだ」
42
:
◆8TImjtGSKs
:2019/11/04(月) 23:16:55 ID:ypS3Bcfk
千歌「というわけで白状するけど……それを起こしたのが、私なんだよね」
歩夢「……えっ?」
千歌?「だから、このコロシアイ学園生活の黒幕は私、高海千歌……いや」
穂乃果「《超高校級の絶望》高坂穂乃果なんだよ」
43
:
◆8TImjtGSKs
:2019/11/04(月) 23:18:00 ID:ypS3Bcfk
ダイヤ「超高校級の、絶望……高坂、穂乃果……!?」
歩夢「その名前って……!」
穂乃果「果南ちゃんはいいところまで行ってたよね。最後に、自分の部屋に手掛かりを残しておくなんてさ」
穂乃果「でも結局果南ちゃんは死んじゃったし、手掛かりの意味が分かる前に、私が種明かししちゃったんだけどね」
鞠莉「そんなことより、答えなさい! あなたが、このコロシアイを引き起こしたのね!?」
穂乃果「だからそう言ってるでしょ? 私が黒幕」
穂乃果「どうしてこんなことを、って顔をしてるね」
穂乃果「ただ単に、台無しにしたくなっただけだよ」
璃奈「台無し……(>_<。)?」
穂乃果「人類の希望が全滅。しかも、その原因は仲間内での殺し合い……こんなに最悪な結末はないでしょ?」
花丸「理解に、苦しむずら……」
穂乃果「まあ、それが《超高校級の絶望》だからね。深く考えても無駄だよ」
穂乃果「絶望的な思考っていうのは、希望を持っていた人たちには受け入れられないだろうからね」
44
:
◆8TImjtGSKs
:2019/11/04(月) 23:18:41 ID:ypS3Bcfk
梨子「何よ、それ……」
しずく「嘘、ですよね……嘘だと言ってください……」
穂乃果「悪いけど、嘘じゃないんだよね。みんなの帰るべき町も、みんなを待ってくれていた家族も」
穂乃果「劇団も財閥も図書館もコンサートホールも何もかも……全部、海の底に沈んだんだよ」
穂乃果「みんなで仲良く、眠っていた間にね」
歩夢「……証拠は」
歩夢「証拠は……あるの?」
歩夢(震えた声で、目の前の《絶望》に問いかける)
歩夢(《絶望》が、嘘であるように。最後の抵抗)
45
:
◆8TImjtGSKs
:2019/11/04(月) 23:19:38 ID:ypS3Bcfk
穂乃果「──中川菜々ちゃん」
歩夢「っ!?」
歩夢(……けれども。その抵抗は、あっさりと打ち砕かれた)
穂乃果「せつ菜ちゃんって、子供の頃から偽名……いや、彼女に言わせるなら芸名を名乗ってたんだよね」
穂乃果「本名は中川菜々。アイドル活動を夢見る彼女は、昔から芸名で過ごしていた」
穂乃果「歩夢ちゃんも、優木せつ菜として過ごした時間の方が長い……そうでしょ?」
歩夢「ど、どうして、それを……」
穂乃果「みんなも、在学中に知っていた筈なんだけど……記憶を失っちゃったら、覚えてる筈ないもんね」
穂乃果「歩夢ちゃんだけは、子供の頃から知っていたけど……どうして私が知っていたんだろうね?」
穂乃果「これで信じてもらえた?」
穂乃果「私が、みんなの記憶を奪った張本人……このコロシアイ学園生活の、黒幕だって」
歩夢「……」
46
:
◆8TImjtGSKs
:2019/11/04(月) 23:20:34 ID:ypS3Bcfk
鞠莉「……」
穂乃果「怖い顔してるけど……もう、遅いんだよ」
穂乃果「死んだ命も滅びた世界も、戻ることはないんだ」
鞠莉「もう、いい……分かったわ」
歩夢(鞠莉さんが、ハンマーを手に取る)
鞠莉「それでも私はあなたを……っ!」
歩夢「鞠莉さん、駄目です──!」
歩夢(何をするのかに気付き、止めようとするが……)
──パァン!
47
:
◆8TImjtGSKs
:2019/11/04(月) 23:21:13 ID:ypS3Bcfk
花丸「け……拳銃!?」
穂乃果「動かない方がいいよ。今度はちゃんと入ってるからね」
歩夢(「ほら」と彼女は天井を銃口で示す)
歩夢(天井には小さく、弾が貫いた穴が空いていた)
穂乃果「……」ダッ!
歩夢(そして。急に駆け出したかと思うと、拳銃に足が竦んだ私たちを掻い潜り……)
璃奈「……え(?□!)」
ダイヤ「り、璃奈さん!?」
歩夢(璃奈ちゃんを捕まえて、こめかみに拳銃を押し当てていた)
穂乃果「今度こそ動かないでよ。目の前で、大切な仲間を殺されたくなければね」
歩夢(……人質だ)
48
:
◆8TImjtGSKs
:2019/11/04(月) 23:22:09 ID:ypS3Bcfk
穂乃果「さてと。黒幕の私から、最後の動機だよ」
穂乃果「外の世界は滅んでいる。あなたたちはここから出る理由を失った」
穂乃果「もう、このコロシアイゲームは終わり。あとは好きにしていいよ」
穂乃果「でも……余計な真似をしたら、分かってるよね」
歩夢(ぐい、と銃口を璃奈ちゃんに押しつける)
穂乃果「私に逆らったら……最悪な結末が待ってるかもね」
穂乃果「“エマちゃんのように”」
しずく「……っ」
歩夢(その言葉の意味を……私たちは、痛い程知っている)
歩夢(そして、私たちはどうすることも出来ないまま。彼女と、連れ去られた璃奈ちゃんを見送ることになって)
歩夢(後に残ったのは……絶望的な真実だけだった)
49
:
◆8TImjtGSKs
:2019/11/04(月) 23:22:42 ID:ypS3Bcfk
梨子「……」
花丸「……」
しずく「……」
鞠莉「……」
ダイヤ「……」
歩夢(みんな、無言だった)
歩夢(当然だ。全ての真実は、明かされてしまったのだから)
歩夢(外の世界は、もはや存在しない。生き残っているのは、私たちだけ)
歩夢(それなのに。その記憶を奪われて、無意味なコロシアイをして)
歩夢(何もかも無意味……それが、このコロシアイゲームの結末)
50
:
◆8TImjtGSKs
:2019/11/04(月) 23:23:16 ID:ypS3Bcfk
梨子「こんなことに、なるなんて……」
ダイヤ「ルビィやサファイアたちは、何のために死んだというのですか……っ」
鞠莉「……」
花丸「もしかしたら……かすみちゃんは、武器庫をクリアしてこの事を知ってしまっていのかも……」
花丸「だから自暴自棄に……なんて、考えても無駄ずらね。もう、終わったことなんだし」
歩夢(そう。終わったことなんだ)
歩夢(これ以上続けることに、意味なんてないんだ)
歩夢(もう、意味なんて……)
歩夢(……)
歩夢(……)
歩夢(……)
51
:
◆8TImjtGSKs
:2019/11/04(月) 23:24:00 ID:ypS3Bcfk
────夜、歩夢の部屋
歩夢(気付けば、みんな部屋に戻っていた)
歩夢(そして気付けば、ベッドの上に寝転がっていた)
歩夢「……」
歩夢(既に10時を過ぎている筈だが、モノっちーの定時アナウンスもない)
歩夢(夜時間を知らせるチャイムだけは鳴っていた気がするが……もう、どうでもいい)
歩夢(ただ、絶望から逃げたくて)
歩夢(いとも容易く砕かれた、前へ進む意思なんかには見向きもせず……)
歩夢(眠りに落ちていた)
52
:
◆8TImjtGSKs
:2019/11/04(月) 23:25:01 ID:ypS3Bcfk
〜モノっちー劇場〜
そういえばオマエらは、このモノっちー劇場を喋っているのが誰かって気付いてる?
実は話者がモノっちーじゃなくて、喋り方が似ている別の誰か……とか、考えたりしない?
こう言うと、今ここで喋ってる誰かが茶色と黒の可愛いセイウチじゃないように見えて来るよネ。
ボクをボクたらしめる証拠って、何なんだろうネ?
ほら、段々とボクがモノっちーではない、胡散臭い何者かに見えて来たでしょう?
……まあ、やっぱり喋ってるボクはモノっちーなんだけどネ。
53
:
◆8TImjtGSKs
:2019/11/04(月) 23:25:44 ID:ypS3Bcfk
────学園生活22日目
キーンコーンカーンコーン
『……』
『……』
プツン
歩夢(……今朝も、モノっちーは姿を見せることはなかった)
歩夢(やっぱり……昨日で、すべて終わったんだ)
歩夢(だから、アナウンスをする意味はない。チャイムは精々、健康的な生活をといった配慮だろう)
歩夢(でも……もう、意味はない)
歩夢(コロシアイをする意味も、外に出る意味も、生きる意味も)
歩夢(無意味、無意味、無意味)
54
:
◆8TImjtGSKs
:2019/11/04(月) 23:26:23 ID:ypS3Bcfk
歩夢(きっとここからは……ただの、蛇足のお話)
歩夢(時間を無駄に消費するだけの、エピローグにすら満たない何か)
歩夢「……」
歩夢(他のみんなはどうしているんだろう、なんて一瞬考えたりもしたけれど)
歩夢(せつ菜ちゃんを喪った時とは、わけが違う)
歩夢(今度こそ気力を削がれた私は……)
キーンコーンカーンコーン
歩夢(夜になっても、ほとんどベッドと一体化していた)
55
:
◆8TImjtGSKs
:2019/11/04(月) 23:26:59 ID:ypS3Bcfk
〜モノっちー劇場〜
ホールインワンって知ってる?
ゴルフで、最初にボールを打った時にカップインした時のことを指すあれだよ。
アマチュアだと12000球に1回、プロでも4000球に1回と言われているんだ。
実力も運も求められる、まさしく素晴らしいプレーだネ。
それを賞賛して、ちょっとしたお祭り騒ぎになったりもするけど……
どういうわけか、ご祝儀を払ったり豪華な食事を振舞ったり、そういうのをするのはホールインワンを出した本人なんだ。
それによる急な出費に対応するため、ホールインワン保険という代物まで存在するんだって。
……出過ぎたことをすると痛い目に遭うという、典型的な例だよネ。
56
:
◆8TImjtGSKs
:2019/11/04(月) 23:27:33 ID:ypS3Bcfk
────学園生活23日目
キーンコーンカーンコーン
『……』
『……』
プツン
歩夢(……)
歩夢(璃奈ちゃんは……大丈夫なのかな)
歩夢(……)
歩夢(……ダメだ。頭が働かない)
歩夢(身体、も……)
歩夢(……)
歩夢(……)
57
:
◆8TImjtGSKs
:2019/11/04(月) 23:28:26 ID:ypS3Bcfk
────夜、歩夢の部屋
歩夢(今、何時だろう……)
歩夢(……チャイム……鳴ったんだっけ?)
歩夢(……)
ピンポーン
歩夢「……え?」
歩夢(突然のインターホンに、反射的に身体が飛び起きる。一体誰が……?)
歩夢「いてて……」
歩夢(体の節々が痛いのを我慢して、ドアの方へと向かった)
歩夢(そして、ゆっくりドアを開けると……)
58
:
◆8TImjtGSKs
:2019/11/04(月) 23:29:09 ID:ypS3Bcfk
花丸「……」
歩夢「花丸、ちゃん……?」
歩夢(言いながら、自分の声が少し掠れていることに気が付いた)
歩夢(昨日今日と誰とも会話をしてなかったから、仕方ないのだが……)
花丸「少し、来て欲しいところがあるずら」
歩夢(そう言って、耳を貸して欲しいとジェスチャーを取る)
花丸「穂乃果さんの話で、気になったことがあるんだ。ちょっと、それを確かめたくって……」
59
:
◆8TImjtGSKs
:2019/11/04(月) 23:29:45 ID:ypS3Bcfk
歩夢「……」
歩夢(その名前を出されて、思わず躊躇う。今更何を確かめるというのだ)
花丸「変な事を頼んでるのは分かってる。でも……これだけは確かめたいって、気になっちゃって」
歩夢「……分かった。どこに行くの?」
花丸「付いて来れば分かるずら」
歩夢(どうせ、答え合わせの裏付けでしかない。この虹ヶ咲学園は、絶望のどん底なんだ)
歩夢(だったら、これより下がることはないだろう。花丸ちゃんの誘いを断る理由もなかった)
歩夢(それに……たまには動いておかないと、多分、本当に動けなくなる)
歩夢(それだけは、何となく嫌だった)
60
:
◆8TImjtGSKs
:2019/11/04(月) 23:30:22 ID:ypS3Bcfk
────情報処理室前
歩夢「ここって確か……」
花丸「うん。情報処理室だよ」
歩夢「いやそうじゃなくって、この部屋って鍵が掛かってたよね」
花丸「……」
歩夢(花丸ちゃんから、返事がない)
歩夢「ねえ、花丸ちゃん……」
61
:
◆8TImjtGSKs
:2019/11/04(月) 23:31:33 ID:ypS3Bcfk
バチバチィッ
歩夢「なっ……!?」
歩夢(返事を求めようと振り返った私の身体を、突然電撃が走る)
歩夢(倒れる寸前、私は不可解な物を目にすることになった)
歩夢(そこに居たのは、花丸ちゃんだけじゃない)
歩夢(その手にスタンガンを構え、被服室にあったうちっちーの着ぐるみを来た誰かが一緒に立っている)
歩夢(あれは……だ、れ……)
バタン
花丸「……」
62
:
◆8TImjtGSKs
:2019/11/04(月) 23:32:51 ID:ypS3Bcfk
〜モノっちー劇場〜
実は、今日でモノっちー劇場は最終回なんだ。
辛いネ、哀しいネ。
だから最後にボクから、オマエらへ伝えたいことがあるんだ。
「死をエンターテイメントにしていいのは物語の中だけなんだ」ってことをネ。
死というものは本来、忌避すべきもの。
例えどんなに嫌われた人であっても、その死を笑い物にするのは倫理観が壊れているとボクは思うんだ。
というワケでここまで来たオマエらには、最後までこの
『歩夢「君の超高校級の心は輝いているかい?」』
というコロシアイエンターテイメントを楽しんで欲しいんだ。
それがボクからのお願いだよ。
……途中から主題が変わっちゃったネ?
63
:
◆8TImjtGSKs
:2019/11/04(月) 23:33:39 ID:ypS3Bcfk
────学園生活24日目
「──さん、歩夢さん!」
歩夢「……ん、あれ?」
ダイヤ「どうやら、あなたが最後のようですよ」
歩夢(状況が飲み込めない)
歩夢(昨日、花丸ちゃんに連れられて情報処理室に向かって、気絶させられて……)
歩夢(ひとまず、周りを見渡す。どうやらここは……第2ではない多目的室──第1多目的室と呼ぼう──だ)
歩夢(そしてここには……穂乃果さんと璃奈ちゃん、そして梨子ちゃん以外の全員が居る)
花丸「……」
歩夢(……花丸ちゃんの姿もだ)
64
:
◆8TImjtGSKs
:2019/11/04(月) 23:34:15 ID:ypS3Bcfk
ダイヤ「全員、ここに連れて来られたようです」
歩夢「えっ……」
しずく「あの着ぐるみは何だったのでしょう……」
歩夢「しずくちゃんも、着ぐるみを見たの!?」
しずく「え、ええ……」
鞠莉「というより……多分、全員が着ぐるみに襲われた」
鞠莉「気になることは多いけど、まずはここを出──」
歩夢(疑問だらけの中、一旦この場を収めようとした鞠莉さんの言葉を遮るように……)
歩夢(突然、それは始まった)
65
:
◆8TImjtGSKs
:2019/11/04(月) 23:35:05 ID:ypS3Bcfk
ゴォッ!
しずく「ひ、火が!?」
歩夢(真っ赤な炎が、廊下を踊り始める)
鞠莉「ッ!?」
花丸「消火器……嘘、置いてないずら!?」
しずく「このまま、焼け死ぬしかないんですか!?」
ダイヤ「皆さん、落ち着いてください! 口を押えて姿勢を低く!」
歩夢(急いで扉を閉める鞠莉さん。慌てふためくみんな)
歩夢(この部屋は、廊下に面した一箇所しか出入り口がない。火の手がこちらまで来たら一巻の終わりだ)
歩夢(……だが、およそ10秒後)
66
:
◆8TImjtGSKs
:2019/11/04(月) 23:35:47 ID:ypS3Bcfk
歩夢「水の、音?」
しずく「もしかして……スプリンクラーが作動したのでしょうか?」
花丸「た、助かったずら……」
ダイヤ「ですが油断はなりません。煙を吸わないよう、慎重に行動しましょう」
歩夢(やがて、スプリンクラーの音も聞こえなくなる)
鞠莉「どうやら、収まったみたいね……」
しずく「と、とにかく! 一旦食堂まで行きませんか? あそこなら煙も来ないでしょうし……」
歩夢(そうして、私たちは順番に第1多目的室を出て行く)
歩夢(しずくちゃん、花丸ちゃん、梨子ちゃん……次が、私)
67
:
◆8TImjtGSKs
:2019/11/04(月) 23:36:29 ID:ypS3Bcfk
歩夢「……?」
歩夢(不意に、第2多目的室の方が気になった)
ダイヤ「歩夢さん、どうかしました?」
歩夢(ドアは開いている。中に何かあるが……煙でよく見えない)
鞠莉「そっちに何かあるの?」
歩夢「……」
歩夢(先に行こうとした3人も、心配して戻って来る)
歩夢(何か……何か、嫌な予感がしてたまらないのだ)
歩夢(一歩、また一歩。煙を吸い込まないように、奥へと進んで行く)
68
:
◆8TImjtGSKs
:2019/11/04(月) 23:37:57 ID:ypS3Bcfk
歩夢(自然と呼吸を止めているのは……煙を吸わないためだけではないのかも知れない)
歩夢(そんな筈はないと信じて、また次の一歩を踏み出す)
歩夢(けれども……いつもそうだった)
歩夢(絶望は決して待ってくれない)
歩夢(そして……煙の中で、見た。見てしまった)
69
:
◆8TImjtGSKs
:2019/11/04(月) 23:38:36 ID:ypS3Bcfk
落ちている拳銃。
焼けているが、顔の絵の端っこが僅かに見える……スケッチブックと思しき物の残骸。
そして、着ぐるみを着ているものと、そうでないもの。
2つの……焼け焦げた、ヒト……。
70
:
◆8TImjtGSKs
:2019/11/04(月) 23:40:19 ID:ypS3Bcfk
今回はここまで。
既存の章の一部含めスクスタの設定と幾つか矛盾することになりましたが、これはこれということで。
71
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/11/05(火) 21:44:36 ID:jEFlibOw
おつおつ
死んだのが誰か分からない系か・・・
72
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/11/05(火) 21:54:19 ID:2/6RpTQQ
23日目の花丸は本人なのか
もしかしたらりなりーだったりしないかな
73
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/11/09(土) 14:15:17 ID:zzDBeGFY
おつ
千歌はほんとに穗乃果なのかな…どっちにせよ次回が楽しみ
74
:
◆8TImjtGSKs
:2019/12/13(金) 22:38:14 ID:9e.uoI0w
Chapter5
キボウハドコニ? 非日常編
75
:
◆8TImjtGSKs
:2019/12/13(金) 22:38:45 ID:9e.uoI0w
歩夢(これは、何?)
歩夢(何が起きたの!?)
花丸「な、何ずら、これ……」
鞠莉「……」
しずく「酷い……」
歩夢(困惑、動揺……いや、混乱?)
歩夢(とても、冷静では居られなかった)
ダイヤ「2人分の焼死体……惨たらしいですわね……」
76
:
◆8TImjtGSKs
:2019/12/13(金) 22:39:38 ID:9e.uoI0w
歩夢(惨たらしい。ダイヤさんの言葉は、的確だった)
歩夢(今までも、死体は何度も見て来た。見て来てしまった)
歩夢(けれども……いま目の前に転がっている2つは、そのどれよりも凄惨で)
歩夢(“絶望”……そう表現せざるを得なかった)
ダイヤ「ですが……こうなってしまっては、誰が死んだのかも……」
鞠莉「それを解き明かすカギは……これらでしょうね」
歩夢(そう言って、鞠莉さんは2つの物品を手に取る)
歩夢(拳銃と、スケッチブックらしき物の残骸)
歩夢(私たちは、それらの持ち主をよく知っている)
花丸「拳銃は、穂乃果さんが持っていて……」
しずく「それは、璃奈ちゃんボードじゃ……」
77
:
◆8TImjtGSKs
:2019/12/13(金) 22:40:28 ID:9e.uoI0w
歩夢(そう。だとしたら、ここに転がっている2つの死体は……いや、待って欲しい)
歩夢「じゃあ────梨子ちゃんは?」
ダイヤ「えっ?」
歩夢「だって、梨子ちゃんも居ないんだよ? だったら、このどっちかが梨子ちゃんの可能性もあるんじゃ……」
歩夢(そう。行方不明者は3人、目の前の焼死体は2つ)
歩夢(単純に考えるなら、誰か1人が見当たらないことになるのだが……)
鞠莉「もしかしたら、そういったところも含めて学級裁判で──学級裁判?」
ダイヤ「どうかしたのですか?」
鞠莉「ねえ。“死体発見アナウンス”は?」
歩夢「?」
鞠莉「いつもならそろそろアナウンスがある筈でしょう? 死体が発見されました〜って」
78
:
◆8TImjtGSKs
:2019/12/13(金) 22:41:04 ID:9e.uoI0w
しずく「もしかして……モノっちーを操っていた黒幕が亡くなったから?」
花丸「そ、そんなことってあり得るずら?」
鞠莉「考えられない話ではないでしょう?」
歩夢(黒幕が死んだから、アナウンスが鳴らない。確かに、理にはかなっている)
歩夢(けど、黒幕が死んだということは……)
歩夢「じゃあ……コロシアイは、終わった……の?」
歩夢(だとしたら、この様相は何だ? 誰かが黒幕と刺し違えたりでもしたのだろうか?)
歩夢(いや、それ以前に。確かめないといけないことがある)
歩夢「ねえ、ちょっと気になる場所があるんだけど……」
79
:
◆8TImjtGSKs
:2019/12/13(金) 22:41:44 ID:9e.uoI0w
────情報処理室
歩夢「開いた……」
歩夢(情報処理室。視聴覚室と役割が被るが、てっきりパソコンが多く設置している部屋だろうと思っていた)
歩夢(何故か開いた扉の向こうに広がっていたのは……奇妙な光景だった)
しずく「モニター……ですよね」
ダイヤ「しかも、映し出されているのは……」
歩夢(あったのはパソコンではなく、壁面に埋め込まれた幾つものモニター)
歩夢(それらは全て、私たちが過ごしているこの虹ヶ咲学園の様々な場所を映し出している)
歩夢(若干煤けているが、もちろん死体のある第2多目的室も)
歩夢(それが意味するのは……)
鞠莉「監視カメラの映像のようね」
80
:
◆8TImjtGSKs
:2019/12/13(金) 22:42:31 ID:9e.uoI0w
花丸「じゃあ、この部屋って……」
歩夢(この学園において、監視カメラの映像を必要とするのは1人しか居ない)
鞠莉「間違いないわ。黒幕の部屋よ」
しずく「黒幕の、部屋……」
ダイヤ「奥にも扉があるようですが……」
ガチャガチャガチャ!
ダイヤ「こちらには入ることは出来ませんわね」
しずく「確か、地図にも奥の部屋は描いてありましたね」
鞠莉「ええ。おおかた黒幕のもう1つの部屋ってところかしら」
モノっちー「御名答、あの奥はボクのパーソナルスペースだよ」
81
:
◆8TImjtGSKs
:2019/12/13(金) 22:43:08 ID:9e.uoI0w
歩夢「……えっ?」
モノっちー「えっ?」
ダイヤ「なっ……」
モノっちー「な?」
花丸「ずらぁああぁぁあぁあっ!?」
モノっちー「うけけけけけ……オマエら、久しぶりじゃねえの」
歩夢「も、モノっちー!?」
しずく「死んだ筈じゃなかったんですか!?」
モノっちー「ボクが死んだなんて、ご冗談を抜かしおるのう若造めが!」
82
:
◆8TImjtGSKs
:2019/12/13(金) 22:44:01 ID:9e.uoI0w
花丸「だって、チャイムは鳴っても、アナウンスはしなくなって……」
モノっちー「それだよそれ。記憶喪失だったことをバラした時もそうだけど、オマエらやっぱりいい顔してくれるよ」
モノっちー「希望が踏みにじられる瞬間の顔……うん、やっぱり心地いいよネ」
ダイヤ「まさか、そのためだけに沈黙を貫いていたというのですか……!?」
歩夢(モノっちーが、生きていた……? じゃあ、それが意味するのって……)
鞠莉「待ちなさい! あそこに死体があって、あなたが動いているということは……」
モノっちー「察しがいいネ。今か今かと待ち詫びていたんだけど、ようやくこれを言えるよ」
83
:
◆8TImjtGSKs
:2019/12/13(金) 22:45:08 ID:9e.uoI0w
ピンポンパンポーン
モノっちー『死体が発見されました。一定の捜査時間の後、“学級裁判”を開きます』
モノっちー『オマエら、死体発見現場の第2多目的室にお集まりください!』
プツン
ピンポンパンポーン
モノっちー『死体が発見されました。一定の捜査時間の後、“学級裁判”を開きます』
モノっちー『オマエら、死体発見現場の第2多目的室にお集まりください!』
プツン
84
:
◆8TImjtGSKs
:2019/12/13(金) 22:47:05 ID:9e.uoI0w
モノっちー「そう、コロシアイは終わらない。まだまだ続くんだよ!」
モノっちー「あっはははははははははは……!」
歩夢(連続で流れた、2つの死体発見アナウンス)
歩夢(黒幕は生きていて、コロシアイは続行される……)
歩夢(悪意を煮詰めたモノっちー……いや、その向こうに居る黒幕の高笑いに、思わず目が眩みそうになる)
歩夢(じゃあ、あの死体は……)
モノっちー「とりあえずモノっちーファイルは置いといてやるからさ。好きなだけ捜査しなよ!」
モノっちー「まあ特殊な事件だし、あんまりアテにはならないかも知れないけどネ」
モノっちー「じゃあ、頭を振り絞って頑張ってネ! うけけけけけ……」
85
:
◆8TImjtGSKs
:2019/12/13(金) 22:47:45 ID:9e.uoI0w
歩夢(高笑いと共に……モノっちーは去っていった)
歩夢(意味も理屈も分からない事実と、数多の疑問)
歩夢(そして、絶望を残して……)
歩夢(しばらくの間、私たちはその場に立ち尽くしていた)
鞠莉「死んだのは……梨子と璃奈で、確定ね」
花丸「……」
しずく「じゃあ、殺したのは……」
ダイヤ「それはまだ分かりませんが……間違いなく、高坂さんが一枚噛んでいるでしょうね」
86
:
◆8TImjtGSKs
:2019/12/13(金) 22:48:28 ID:9e.uoI0w
鞠莉「捜査を始めましょう。とにかく、今は手掛かりが欲しい」
歩夢(そう……始めるんだ)
歩夢(全てを解き明かして、希望を掴むために)
歩夢(でも、ここで言う“希望”って何なんだろう?)
歩夢(外の世界は滅んでいるのに。どのみち、私たちには破滅の未来しか残されていないのに)
歩夢(……)
歩夢(……不安でも、やるしかないんだ)
歩夢(答えを間違えれば、絶望まっしぐらなんだ)
歩夢(それだけは……モノっちーの思い通りにだけは、絶対にさせない!)
87
:
◆8TImjtGSKs
:2019/12/13(金) 22:49:09 ID:9e.uoI0w
捜査開始!
歩夢(何はともあれモノっちーファイル……と、目を通そうとする私だったが)
歩夢(『特殊な事件だから、アテにはならないかも』というモノっちーの言葉の意味を、すぐに実感することになった)
『死体発見現場となったのは校舎4階、第2多目的室』
『黒焦げになったため、被害者の身元及び外傷、死因等は不明』
『ただし、死体の心臓付近には矢が突き刺さっている』
『死体発見現場となったのは校舎4階、第2多目的室』
『黒焦げになったため、被害者の身元及び外傷、死因等は不明』
『また、被害者は着ぐるみを着用していた』
《モノっちーファイル5》《モノっちーファイル5-2》のコトダマを入手しました。
88
:
◆8TImjtGSKs
:2019/12/13(金) 22:49:43 ID:9e.uoI0w
歩夢「たった、これだけ……」
鞠莉「ファイルはいつも作っていたから、便宜上とりあえず作りましたって感じね」
しずく「これじゃあ、ほとんど何も分からないじゃないですか……!?」
ダイヤ「被害者の身元すら書かれていませんが……もはや、分かり切ったようなものでしょう」
鞠莉「とりあえず、あの死体を調べる必要がありそうだけど……」
花丸「うっ……」
歩夢(2番目の事件からずっと検死を任されていた花丸ちゃん。だが、今回ばかりは及び腰な様子だ)
歩夢(……無理もない。今回の死体は黒焦げで、今までのどれよりも凄惨で、直視するに堪えないものだから)
89
:
◆8TImjtGSKs
:2019/12/13(金) 22:50:32 ID:9e.uoI0w
鞠莉「……まあいいわ。あまりそういった知識はないけど、死体は私が調べるわ」
鞠莉「あの様子じゃ、死亡推定時刻も割り出せそうにないし」
花丸「申し訳ないずら……」
ダイヤ「では、私はあの第2多目的室自体を調べて来ましょう」
花丸「じゃあ、オラは第1多目的室の方を……」
しずく「私は……少し気になるところがあるので。失礼します」
歩夢(こうして、みんな散り散りになった)
歩夢「……よし」
歩夢(私も、頑張らなきゃ……!)
90
:
◆8TImjtGSKs
:2019/12/13(金) 22:51:09 ID:9e.uoI0w
歩夢(そういえば、この情報処理室には何か手掛かりはあるのだろうか)
歩夢(と、一通りこの部屋を物色してみたが……)
歩夢「……何もないや」
歩夢(この部屋にあるのは、大量のモニターと1つのパソコン)
歩夢(モニターの向こうでは、みんながせっせと捜査に励んでいる様子が見える)
歩夢(パソコンの方は……どうやら、別館の監視カメラの映像が見られるようだった)
歩夢(つまりこの部屋は、黒幕が私たちを監視するための部屋でしかないのだ)
歩夢(奥の部屋には入れないが……きっとこの奥で黒幕はモノっちーを操作しているのだろう)
91
:
◆8TImjtGSKs
:2019/12/13(金) 22:51:47 ID:9e.uoI0w
歩夢「……ん?」
歩夢(そもそも。昨日、花丸ちゃんに連れられてここに来た時は、まだこの部屋には入れなかった筈だ)
歩夢(あのあと、着ぐるみを着た何者かに襲われて意識を失った私)
歩夢(あの時襲われたことが気になってここに来たら、何故か扉が開いていた)
歩夢(……どういうことなんだろう?)
歩夢「一応、覚えておいた方がいい……のかな?」
歩夢(それに、あの襲撃事件は……きっと、今回の事件で重要になって来る筈だ)
《開いていた情報処理室》《上原歩夢襲撃事件》のコトダマを入手しました。
92
:
◆8TImjtGSKs
:2019/12/13(金) 22:52:26 ID:9e.uoI0w
────被服室・衣装倉庫
歩夢(情報処理室のモニターには、ここに来ているしずくちゃんの姿があった)
しずく「歩夢さんも、やっぱり着ぐるみが気になりますか?」
歩夢「う、うん。というか、しずくちゃんもあの着ぐるみに……?」
しずく「昨日、夜時間のチャイムが鳴るよりも前のことだったんですが……」
歩夢(……それからしずくちゃんは、昨晩起きた出来事を話してくれた)
歩夢(夜時間を告げるチャイムが鳴るより前、誰かが部屋のインターホンを押したこと)
歩夢(開けると、目の前には大きなうちっちーの着ぐるみ)
歩夢(悲鳴をあげるよりも早く、電撃のような感覚を食らって気を失った……らしい)
93
:
◆8TImjtGSKs
:2019/12/13(金) 22:53:04 ID:9e.uoI0w
しずく「──ということだったんです」
歩夢「ありがとう、しずくちゃん。じゃあ、その着ぐるみについてなんだけど……」
歩夢(私の時と同じで、犯人はうちっちーの着ぐるみを用いてしずくちゃんを気絶させたんだろう)
歩夢(けれど……彼女の話の中に出て来た着ぐるみと、私を襲った着ぐるみ、その2つには決定的な違いがあった)
歩夢「私が襲われた時は、茶色だった気がしたんだけど……」
歩夢(襲われた着ぐるみについて、彼女は『灰色のうちっちー』と口にした)
歩夢(だが……私が見たうちっちーは『黒色要素を取っ払ったモノっちー』。つまり、茶色のモノっちーだった)
歩夢(照明のせいで見え方に差が出来た……だけなんだろうか?)
94
:
◆8TImjtGSKs
:2019/12/13(金) 22:53:40 ID:9e.uoI0w
モノっちー「それはだネ、君たち忘れたのかい?」
しずく「わっ!?」
歩夢「忘れたって……何を?」
モノっちー「うちっちーには初代と2代目が居る。このフロアが解放された時、渡辺さんと高海さんとボクがそんな話をしていたでしょうよ」
曜『ちなみに、初代うちっちーの着ぐるみもあったよ!』
歩夢『初代うちっちー?』
千歌『んーとね……そもそもうちっちーって、沼津のマスコットキャラクターなんだ』
曜『最初は人っぽい造形だったんだけど、後から今の丸っこい着ぐるみにデザインが変更されたんだよ』
モノっちー『そうそう。パイセンにはお世話になってたよネ』
95
:
◆8TImjtGSKs
:2019/12/13(金) 22:54:20 ID:9e.uoI0w
モノっちー「まあ今となっちゃ、渡辺さんは別人だとバラしちゃったし、高海さんも別の名前を出したけどネ」
しずく「そのことは今はいいんです。それより、初代うちっちーというのは……」
モノっちー「早い話が、灰色の方が初代で茶色の方が2代目。そう覚えといてくれた方がいいネ」
歩夢「でも……2つとも、この部屋からなくなってるんだね。他に着ぐるみはないし……」
モノっちー「それはボクに聞かれても困るよ。ボクは学級裁判を公正に運営する立場なんだから、オマエらの頭で考えてちょうだい」
モノっちー「ああ、でもそうだネ。公正に裁判を運営すると言ったからには、この情報は出しておこうか」
モノっちー「初代うちっちーは人型だって言ってたでしょ? でも、この学園に置いてある初代うちっちーの着ぐるみは、2代目うちっちーと同じサイズ・形だからネ」
しずく「じゃあ、違うのは色だけなんですね?」
モノっちー「ボクから与えられる情報はここまでだよ。後でしっかりと他の人たちにも情報共有しておくよーに!」
《桜坂しずく襲撃事件》《2つの着ぐるみ》のコトダマを入手しました。
《上原歩夢襲撃事件》のコトダマの情報を更新しました。
96
:
◆8TImjtGSKs
:2019/12/13(金) 22:55:02 ID:9e.uoI0w
────第1多目的室
花丸「……昨日の夜?」
歩夢「うん。あの時、どうして情報処理室に行こうと思ったの?」
花丸「情報処理室? そんなところには行ってないずらよ?」
歩夢「えっ……?」
歩夢(正直なところ。昨日の出来事のせいもあって、私はずっと花丸ちゃんを疑っていた)
歩夢(実行犯ではなくとも、着ぐるみの人物の協力者ではないかとばかり思っていた)
歩夢(ところが、何度聞いても返って来るのは「知らない」「行ってない」といった答えばかり)
歩夢(それどころか……)
97
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◆8TImjtGSKs
:2019/12/13(金) 22:56:16 ID:9e.uoI0w
花丸「そもそも昨日は大変な目に遭ったし……」
歩夢(花丸ちゃん自身も、着ぐるみの人物に襲われたと話し始めたのだ)
歩夢(しずくちゃんの時と同じく、部屋に訪れた着ぐるみによる襲撃)
歩夢(時間は分からないが、夜時間のチャイムはまだ鳴っていなかったという)
歩夢「ちなみに……そのうちっちーの着ぐるみは、何色だったの?」
花丸「茶色だけど……それがどうかしたずら?」
歩夢「……」
歩夢(私の時と同じ、2代目の方……)
歩夢(花丸ちゃんが嘘をついているのかは、まだ分からない)
歩夢(けど。もし嘘じゃないとしたら、昨日私が見た花丸ちゃんは……)
歩夢(いや……“彼女”に限って、そんな事をする筈……?)
《国木田花丸襲撃事件》のコトダマを入手しました。
98
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◆8TImjtGSKs
:2019/12/13(金) 22:57:07 ID:9e.uoI0w
花丸「ところで歩夢ちゃん、ちょっと見てもらいたい物があるんだけど」
歩夢(花丸ちゃんが示したのは、第1多目的室唯一の出入り口である引き戸)
歩夢(みんながここで目を覚ました時は、部屋を出ようとした矢先に火事が起きて大変なことになった)
歩夢(結局、その火自体はスプリンクラーで消し止められたんだけど……)
花丸「これ……糸、だよね」
歩夢「本当だ……取っ手に絡まってる」
https://i.imgur.com/ZyJTZw6.jpg
歩夢「確かにドアノブ付近で絡まってるけど……でも、この糸はどこにも繋がってないよ?」
花丸「火事で燃えたのかも知れないずらね」
歩夢「うーん……」
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