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【ぼく勉】 文乃 「今週末、天体観測に行くんだよ」

1以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/03(金) 23:07:13 ID:9nEg0gUI
理珠 「ほう。天体観測ですか。どこかの天文台へ行くのですか?」

文乃 「ううん。バスツアーなんだけどね、車で二時間くらいの高原に行くんだよ」

文乃 「結構コアなツアーでね。参加者全員望遠鏡を自分で持って行って、思い思いにレンズを覗くんだ」 ワクワク

文乃 「深夜に駅を出て、数時間天体観測をしたら、早朝に駅に戻ってくるって感じのツアーだよ!」

うるか 「ほへー。そんなのがあるんだねぇ」

成幸 (……それはツアーで行く意味があるのか? とかそういうことは置いておくとして)

成幸 (受験も近いのに大層な余裕だな、というツッコミも置いておくとして)

成幸 「……お父さんと一緒に行くのか?」

文乃 「うんっ! お父さんがね、誘ってくれて……」

文乃 「“一緒に行かないか” って。えへへ……」

成幸 「そうか」 クスッ 「よかったな、古橋」

文乃 「うん! ありがと、成幸くん! 道中のバスではちゃんと勉強するから安心してね!」

成幸 (この寝ぼすけ眠り姫が深夜と明け方のバスで勉強するとは思えないが……)

成幸 (まぁ、たまの息抜きぐらい、問題ないだろうし、何より……)

成幸 (古橋とお父さんの関係が、少しずつ改善しているのが、嬉しい)

298以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/04(水) 23:04:58 ID:x0BKGJhc
紗和子 (……そして、きっと私も)


―――― 『手伝うよ。俺は部外者だから、お前が気にする必要もないだろ』

―――― 『それに、他校のブースも、完成してから見たいしな。それまで、暇つぶしさせてくれよ』


紗和子 (私も、唯我成幸のおかげで、きっと……)


―――― 『お前…… 楽しみにしてたんじゃないの? 今日 緒方と出かけるの……』

―――― 『あーあー 楽しみにしてたわよ 何!? 悪い!?』


紗和子 「………………」


―――― 『あーもー とにかく急いで誤魔化すぞ!! そっち持ってくれ関城!』

―――― 『あああ 愛してるわ唯我成幸ーー!!』


紗和子 (……よくよく思い返してみれば、いつも助けられてばかりね、私)

紗和子 (今度、お礼でもしないといけないわね……)

299以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/04(水) 23:05:36 ID:x0BKGJhc
理珠 「……? 関城さん」

紗和子 「へっ? な、何かしら、緒方理珠」

理珠 「いえ、大したことではないのですが……」

理珠 「顔が少し赤いですが、大丈夫ですか? 体調でも悪いのでは……?」

紗和子 「!?」 (顔、赤……!? そ、そんなこと……)

ピトッ

紗和子 (……熱いわ。ほっぺ)


―――― 『……なんか最近 少し頼もしくなったわね』

―――― ((ちょっとカッコイイじゃない))


紗和子 「……なんでもないわ。大丈夫よ」

理珠 「? そうですか」

紗和子 (……そう。大丈夫。だって私は……)

紗和子 (私は、この子の大親友だから……)

紗和子 (だから……――――)

300以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/04(水) 23:06:06 ID:x0BKGJhc
………………

成幸 「……ああ、小林。急に悪い」

成幸 「今家か? ……ん、そりゃ良かった。今から家に行ってもいいか?」

成幸 「お前、パソコン持ってたよな。ちょっと頼みたいことがあるんだ」

成幸 「……うん。わかった。詳しいことは家に行ったら話すよ。いつも悪いな」

成幸 「ああ、ありがとう。じゃあ、また」

ピッ……

成幸 「………………」


―――― 『そういうの自慢できる友達…… あなたたちしかいないじゃない……?』

―――― 『発表会に、ひとりは知ってる人に来てもらいたいじゃない?』

―――― 『ああいう親子の幸せそうな笑顔って、私から見ても、素敵に見えるもの』


成幸 (……こんなの、ただのお節介だろう。ありがた迷惑だろう)

成幸 (でも……)

成幸 (あんな寂しそうな顔してるやつ、放っておくこと、できないよな)

301以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/04(水) 23:07:05 ID:x0BKGJhc
………………夜 関城家

紗和子 「……ただいまー」

紗和子 (緒方理珠と勉強していたら、もうこんな時間だわ)

紗和子 (ギリギリ補導されるような時間ではないけれど、至福の時間というのは早く流れるものね)

紗和子 (でも、今日は本当は唯我成幸と勉強する予定だったらしいし、悪いことしてしまったわね)

紗和子 (……少なくとも、勉強面では役に立てたならいいのだけど)

紗和子 「ん……?」

「おかえりなさい、紗和子」

紗和子 「……お、お母さん!? お父さんも……」

紗和子 (ふたりそろって出迎えてくれるなんてめずらしい。何かあったのかしら……)

「今日は発表を見に行ってあげられなくてごめんね」

「その代わりといってはなんだが、これ、一緒に見ないか?」

紗和子 (……? どうしてお母さんとお父さんが発表会のことを知っているのかしら)

紗和子 (それに、それって……)

紗和子 「DVD……?」

302以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/04(水) 23:07:56 ID:x0BKGJhc
………………翌週 登校時

成幸 「………………」

ヨミヨミヨミ……

紗和子 「……唯我成幸」

成幸 「……へ? あ、関城」

紗和子 「おはよ。いくら受験が近いと言ったって、歩きながらの参考書は感心しないわよ」

成幸 「ああ、悪い。つい、な……」

紗和子 「まったく。本当にガリ勉ね」

成幸 「そんなところでどうしたんだ? 誰か待ってるのか?」

紗和子 「ええ。待っていたの。あなたをね」

成幸 「……俺を?」

紗和子 「……週末はどうもありがとう。設営の手伝いや、発表を見てくれたりして」

成幸 「あ、ああ。なんだ、そんなことか。何かやらかしたかと思ったよ」

成幸 「どういたしまして。気にしなくていいよ。片付け手伝えなくてごめんな」

紗和子 「それこそ謝られるようなことではないけどね」

303以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/04(水) 23:08:40 ID:x0BKGJhc
紗和子 「……それから、」

成幸 「ん?」

紗和子 「これ。あなたね? うちの両親に渡したの」

成幸 「……なんだ、それ? CDか?」

紗和子 「私の発表が録られたDVDよ。分かってるくせに、とぼけちゃって」


―――― 『紗和子の友達だって言う男の子が届けてくれたのよ』


成幸 「へ、へぇ。親切なやつがいたもんだな」

紗和子 「言っておくけど、私の男友達なんて、あなた以外いないわよ?」

成幸 「………………」

紗和子 「……ん?」

成幸 「……はぁ。悪かったよ、余計なマネして。良かれと思ってさ」

紗和子 「謝れなんて言ってないわよ。悪いとも言ってない。ただ……」

成幸 「ん?」

紗和子 「……どうしてそんなことをしてくれたのか、教えてほしいだけよ」

304以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/04(水) 23:09:27 ID:x0BKGJhc
成幸 「どうしてって……。言わせるのか、それを」

紗和子 「何よ。気になるから聞いてるんだから、教えなさいよ」

成幸 「っ……まぁ、いいけどさ……」

成幸 「………………」

成幸 「……――に、見えたから……」

紗和子 「……? よく聞こえないのだけど……」

成幸 「いや、だから……」 カァアアアア…… 「……お前が、寂しそうに見えたから」


―――― 『私の親、今日も仕事だから。元々、来てくれるはずもないからパンフも渡してないけどね』


紗和子 「へ……?」

成幸 「……お前がどう思ってるかなんて分からなかったから、余計なお世話だったかもしれないけど」

成幸 「お前ががんばってきたものを、お前のお父さんとお母さんにも見せてあげたいと思ったんだよ」

成幸 「化学部で三年間がんばってきたこと、ご両親が全然知らないなんて、寂しいだろ」

紗和子 「唯我成幸、あなた……」 カァアアアア…… 「は、恥ずかしい人ね。そんなこと考えてたの……」

305以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/04(水) 23:10:22 ID:x0BKGJhc
成幸 「悪かったな。仕方ないだろ。そうしたいと思ったんだから」

紗和子 「……まったく。あの後、家に帰ってから大変だったんだから」

成幸 「? 何かあったのか?」

紗和子 「自分が発表している姿を延々とリピートされる様を想像してみなさいよ」

紗和子 「しかも両親と一緒に、よ。気恥ずかしくて仕方なかったわ」

成幸 「……ああ、それは確かに恥ずかしそうだな」

紗和子 「それに、あなた余計なこと言ったでしょ」

成幸 「へ?」

紗和子 「『今まで寂しい思いをさせてごめんね』 って謝られたわ」

紗和子 「受験が終わったらどこかに行こうとか、欲しいものはないかとか……」

成幸 「あ、いや、俺は……すまん。お前に迷惑をかけるつもりは、本当になかったんだ……」

成幸 「家庭に口を出すつもりもなかったんだが……つい、口から……」

紗和子 「………………」 クスッ 「……冗談。迷惑とか余計とか、全然思ってないわ」

ニコッ

紗和子 「唯我成幸。私、あの日の夜、本当に嬉しかったのよ。あなたのおかげよ。だから、本当にありがとう」

306以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/04(水) 23:11:15 ID:x0BKGJhc
成幸 「あっ……そ、そうか。なら良かったよ」

成幸 (な、なんだろ。なんか、変な感じだ。関城って、笑うと……)

成幸 (……あんなにきれいなんだな)

ハッ

成幸 (あ、アホか俺は。友達相手に一体何を考えてるんだ)

成幸 「……関城、そろそろ行こうぜ。学校に遅れちまう」

紗和子 「……そうね。行きましょうか」

紗和子 「………………」


―――― 『……なんか最近 少し頼もしくなったわね』


紗和子 (きっと、いつもあの子はこんな気持ちなのね)

ドキドキドキドキ……

紗和子 (最近というわけじゃない。きっとずっと前から、あの子は知っていたのね)

紗和子 (唯我成幸という男子が、こういう人だって)

307以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/04(水) 23:11:49 ID:x0BKGJhc
紗和子 「………………」

ドキドキドキドキ……

紗和子 (静まりなさい。火照ってはダメよ。顔を赤くしては、ダメ)

紗和子 (私は緒方理珠の親友。親友の想い人に、抱いていい感情ではないから)

紗和子 (……でも、もしも)

紗和子 (唯我成幸、あなたが、緒方理珠の想い人でなかったなら……)

紗和子 「………………」

紗和子 (……バカね、私。何考えてるのかしら)

紗和子 (仮定の話なんて意味がない。あるのは、彼が親友の想い人だという事実だけ)

紗和子 (だから……――)

成幸 「――……あっ、そうだ。関城」

紗和子 「……? 何かしら」

成幸 「発表会の後まっすぐ帰ったから、言えてなかったな」

成幸 「発表、すごくよかったよ。よくあんな大勢の前で堂々と喋れるなって感心しちゃったよ」

308以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/04(水) 23:12:37 ID:x0BKGJhc
紗和子 「あっ……///」 ボフッ 「そ、そんなことないわよ。あれくらい、練習すれば誰だって……」

成幸 「いやいや、大したもんだよ。分かりやすかったしさ」

成幸 「一気にお前のファンになっちゃったよ……って、これはちょっと気持ち悪いか」

紗和子 「………………」 プイッ

成幸 「……? 関城? 横向いてどうした?」

紗和子 「……なんでもないわ。なんでもないから、ちょっとしばらく、向こうを向かせてちょうだい」

成幸 「? いいけど……」

紗和子 (……バカ。唯我成幸の、バカ)

カァアアアア……

紗和子 (必死でおさえてたのに、表情がニヤけちゃうじゃない。それに、顔だって……)

紗和子 (鏡を見なくても分かるわ。絶対、真っ赤になってるもの……)

紗和子 (……ああ、もう! やめなさいよ、唯我成幸)

紗和子 (あなたのこと、好きになってはいけないのに、好きになってしまうじゃない……)

おわり

309以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/04(水) 23:13:31 ID:x0BKGJhc
………………幕間 『成ちゃんを幸せにしてくれるなら』

陽真 「おや、あれは成ちゃんと……」

陽真 (……週末、DVDに焼いてあげた動画の女子じゃないか)

智波 「むっ……あれは関城さんだね。緒方さんと仲が良い子だよ」

智波 「……でも、唯我くんとふたりだけってめずらしいな。うーん……」

陽真 「どうしたの? 難しい顔しちゃって……」

智波 「いや、これはあくまでも私の女の勘だけど……」

陽真 「?」

智波 「うるかにライバルが増えそうだと思ってさ」

陽真 「……ああ」 クスッ 「……たしかに、そんな顔してるね。関城さん」

智波 「だよね! うるかにうかうかしてられないよって焚きつけてあげないと」

陽真 「俺は成ちゃんを幸せにしてくれるなら、誰とそういう関係になってもいいけどね」

智波 「私は断然うるかを推すよ!」 フンスフンス 「こればっかりは譲れないからね!」

陽真 (……あー、これは、DVDの話は智波ちゃんには内緒にしておいたほうがよさそうだなぁ)

おわり

310以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/04(水) 23:33:02 ID:wLvv/LDU
来てた!乙
今回もありがとうございます、>>1の書く関城さん好きです

311以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/04(水) 23:46:23 ID:x0BKGJhc
>>1です。
読んでくださった方ありがとうございました。

次投下します。
長いです。
今までで一番長かったのが、水希さんの修学旅行中にあすみさんが押しかけ女房をする話(?)だったのですが、
その1.5倍くらいあります。長い。
三話完結くらいの長編だと思っていただければと思います。
申し訳ないことです。


【ぼく勉】 美春 「今週末、アイスショーがあるんです」

312以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/04(水) 23:47:23 ID:x0BKGJhc
真冬 「知ってるわ。うちの学校にもパンフレットとポスターが来ていたもの」

美春 「洽覧深識。さすが姉さまです!」

美春 「と、いうことで、関係者席のチケットを用意しました! 見に来てくれますよね、姉さま」

真冬 「ありがとう、美春。でも、予定が空いているかどうか確認しないと……」

美春 「……え?」 ブワッ 「ま、まさか、姉さま、来てくれないなんてことは……」

真冬 「………………」

真冬 「……わかったわ。行くわ。多分仕事もないでしょうから」

美春 「姉さま!」 パァアアアアアア……!!! 「とっても嬉しいです!」

真冬 「まったく……」 クスッ (……もう大学生だというのに、無邪気に笑って)

真冬 (この子には敵わないわね……)

真冬 「それにしても、さすがね、美春」

真冬 「まだエリジブルだというのに、もう本格的なアイスショーに、それも主役で出演だなんて」

美春 「いえいえ、私なんて姉さまの全盛期に比べればまだまだです」

美春 「もっともっと練習して、技術を磨かなければなりません!」

313以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/04(水) 23:48:34 ID:x0BKGJhc
真冬 「……まぁ、私を立ててくれるのは嬉しいけれど、あなたが言うほどすごくはなかったわよ」

美春 「そんなことはありません!」

美春 「姉さまは……それはもう、素敵な滑りをなさっていました。今でも私の目標です!」 ウットリ

真冬 「そ、そう。なら、そういうことにしておくわ……」

真冬 (困ったものだわ。子どもの頃に見た私の滑りが強く印象に残りすぎているのね)

美春 「あ、そうだ、姉さま。関係者席のチケット、もう一枚余っているのですが……」

美春 「どなたかお誘いしたい方はいらっしゃいますか?」

真冬 「ん、そうね……」


―――― 『俺は先生を幸せにしたいです』


真冬 「っ……」 (何故……! なぜ彼の顔が思い浮かぶのかしら!)

美春 「姉さま……?」

真冬 「な、なんでもないわ」 オホン 「思い当たる人はいないわ。大学のお友達にでも渡したらどうかしら?」

美春 「わかりました! では、そうします!」

314以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/04(水) 23:49:13 ID:x0BKGJhc
美春 「と、ところで、あの姉さま?」

真冬 「? 何かしら?」

美春 「アイスショーは競技種目ではありませんから、普段とは違う滑りを心がけるつもりです」

美春 「終わった後、姉さまから講評をいただければ嬉しいです、なんて……」

真冬 「………………」

真冬 「……私はもうスケーターではなく一介の教師だわ」

真冬 「だから、今もがんばっている現役選手のあなたの講評なんて恐れ多くてできないわ」

美春 「姉さま、でもっ……――」

真冬 「――けれど、講評はできなくとも、感想を伝えるくらいはするわ。私はあなたの姉ですもの」

美春 「へ……?」

真冬 「………………」 ニコッ 「……だから、がんばってね、美春。応援しているわ」

美春 「姉さま……」

グッ

美春 「はい! 私、全力でがんばります!!」

315以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/04(水) 23:51:54 ID:x0BKGJhc
………………スケートリンク 通し稽古

美春 「………………」

シャッ……シャーーーッ……シャッ!!!

美春 (私はまだ、エリジブルという立場。プロスケーターではありません)

美春 (でも、だからこそ、私の持ちうる能力のすべてで、当たらなければ!)

美春 (……けどっ!)

シャーーーーーッ!!!!

美春 (自分でも分かるくらい、調子が良いです!)

美春 (もちろん、プロの方々と比べて遜色がないとは言えないだろうけど、)

美春 (これならプロデューサーも太鼓判を押してくれるでしょうし、何より……)


―――― 真冬 『よくやったわね、美春。すごいわ』


美春 (姉さまに褒めてもらうのも、夢ではないかもしれません!!)

美春 「えへへ……えへっ……」

プロデューサー 「………………」

316以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/04(水) 23:52:30 ID:x0BKGJhc
………………

美春 「へ……? ぜ、全然ダメ、ですか……?」

プロデューサー 「そうよぉ、美春ちゃん。今のままじゃ、あなたに主役をさせられないわ」

美春 「で、でも、滑りも演技もかんぺきなはずです!」

美春 「どうして……」

プロデューサー 「たしかに、動作だけを取ればあなたは完ぺきよ。エリジブルとして完成されつつあるのね」

プロデューサー 「でも、あなたの滑りはただ動作のみを完ぺきにしただけ」

プロデューサー 「とても演技とは呼べない。これはアマチュアの大会ではないの」

プロデューサー 「プロの演劇のアイスショーの舞台なのよ」

美春 「……わっ、わかりました! では、今から猛特訓して演技力を身につけます!」

プロデューサー 「いえ、違うわ。あなたがしなければならないのは、演技の練習ではないわ」

美春 「へ……? それは、どういう……?」

317以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/04(水) 23:53:25 ID:x0BKGJhc
プロデューサー 「……時に美春ちゃん、少しセクハラめいた問いかけになってしまうのだけど、」

プロデューサー 「あなた、恋をしたことがあって?」

美春 「ふぇっ……?」 ボフッ 「な、なななな、なぜ急にでそんなことを……!?」

プロデューサー 「ああ、答えなくて結構よ。その反応で大体分かってしまったわ」

プロデューサー 「恋がなんだか知っている。でも、具体的には何一つ分からない」

プロデューサー 「なぜなら、経験がゼロだから……ってところかしら」

美春 「うぅ……///」

プロデューサー 「ああ、ごめんなさいね。あなたに恥をかかせるためにこんなことを言っているわけではないのよ」

プロデューサー 「恋を知らないあなたが、恋をして、裏切られたお姫様の表現ができて?」

美春 「そ、それは……」

プロデューサー 「と、いうことで、美春ちゃん。あなたは週末まで練習に出なくて結構よ」

美春 「……つまり、私は降板ということでしょうか」

プロデューサー 「ノンノンノン、違うわ。話は最後まで聞いてちょうだい」

318以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/04(水) 23:53:57 ID:x0BKGJhc
プロデューサー 「ねえ、美春ちゃん。恋というものは、とてもすごいものなのよ」

美春 「……はぁ」

プロデューサー 「恋をすると、回りが見えなくなるの。相手しか見えなくなるの」

プロデューサー 「それなのに、周囲すべてが輝いて見えるわ。もちろん、恋する相手もね」

プロデューサー 「一緒にいると、ドキドキして落ち着かなくなる」

プロデューサー 「でもそれと同時に、どこか落ち着く。ずっと一緒にいたいと思う」

プロデューサー 「……そんな恋を、あなたに知ってもらいたいのよ」

美春 「えっと……、つまり、どういうことでしょうか?」

プロデューサー「……だから美春ちゃん、あなたは週末まで、やってもらいたいことがあるの」

美春 「?」

プロデューサー 「恋愛を経験してきてちょうだい!!」

グッ

プロデューサー 「それこそ、身を焦がしそうなほどのね!!」

美春 「へ……?」

美春 「へぇええええええええええ!?」

319以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 00:00:47 ID:PQ1Q6G.6
………………

美春 「………………」 トボトボトボ


―――― 『もちろん、本物の恋愛をしてこいという意味ではないわ』

―――― 『美春ちゃん、少女漫画は読んだことあるわね? なら話が早いわ』

―――― 『少女漫画でも恋愛小説でも映画でも何でもいいわ』

―――― 『週末までに、恋を題材にした作品にできるだけたくさん触れてきてちょうだい』

―――― 『本当は、実際に殿方とデートをしてみるのが一番いいのだけど、それは難しいものね』

―――― 『と、いうことで、ゲネプロまでに、しっかりと恋愛に触れてくること。いいわね』

―――― 『あなたの中には激しい情動……パッションとラブを感じるわ!! でもそれはまだ眠っているの!」

―――― 『それを呼び覚ますことができれば、あるいは……』

―――― 『週末を楽しみにしているわ!!』


美春 (……はぁ。何がパッションとラブですか。意味わからないです)

美春 (とはいえ、あの人は国内外を問わず凄まじい実績を残している辣腕プロデューサー)

美春 (そして元一流のコーチでもある。きっと言っていることは正しいのでしょう)

320以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 00:01:21 ID:PQ1Q6G.6
美春 「………………」


―――― 『本当は、実際に殿方とデートをしてみるのが一番いいのだけど、それは難しいものね』


美春 (……まるで、私には恋愛なんてできないだろ、と言わんばかりの口調でした)

美春 (いや、もちろんプロデューサーにそんな意図はないのでしょう。でも、そう感じてしまいました)

美春 「………………」

美春 (悔しい。悔しいんです。だから、ゲネプロで、目に物見せてあげます!)

美春 (そっ、そのために……)

ボフッ

美春 (と、ととと、殿方と、おデート、してみようじゃありませんか!!)

美春 「破釜沈船! 生きて帰らぬものと思えば、何だってなせます!」

美春 (……とは、勢いよく言ったものの、実際にデートをするような男性の知り合いは……)


―――― 『あ はい よろしくお願いします美春さん!』


美春 「……ひとりだけ、心当たりがいますね」

321以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 00:02:10 ID:PQ1Q6G.6
………………一ノ瀬学園

陽真 「なーりーちゃん。やっと放課後だね。帰ろー」

成幸 「おう。今日は久々にひとりで勉強できる日だからな。さっさと帰らないと……」

陽真 「うへぇ、さすが成ちゃん。帰った後も勉強か……」

陽真 「明日から連休だってのに、すごいなぁ」

成幸 「連休って、今まで貯めに貯めてた振替休日だろ。実質、受験生のために学校が用意した勉強休日だな」

陽真 「ま、俺はほどほどに勉強するよ。智波ちゃんと一緒にね」

成幸 「そうかよ。お前が幸せそうで俺は嬉しいよ」

ザワザワザワザワ…………

成幸 「ん? なんか校門の方が騒がしいな。どうかしたのかな」

陽真 「人だかりができてるね。有名人でも来てたりして」

成幸 「んなアホな……――」


美春 「――ああっ! いました、唯我成幸さん!!!」


成幸 「……へ?」

322以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 00:04:31 ID:PQ1Q6G.6
トトトトトトト……

美春 「校門前で会えるだろうと待っていた甲斐がありました! お久しぶりです、唯我成幸さん!」

成幸 「あ、えっと……どうしてここに? 美春さん」

美春 「ですから、言っているではありませんか! あなたに会いに来たんです!」

ドヨッ……!!!!

「ゆ、唯我に会いに来た……?」  「あのガリ勉に……!?」

「なぜいつもあいつなんだ!?」  「お姫様たちもそうだが、なぜ唯我ばかり!?」

美春 「そうしたら私の正体がばれてしまって、サインをせがまれて囲まれてしまって……」

美春 「でも、良かったです。こうしてあなたに無事会うことができました」

陽真 「おーう、本当に有名人がいたとはねー」

ニヤニヤ

陽真 「なになに、成ちゃん。実は年上が好きなの?」

成幸 「にやつくのはやめろ、小林。そんなんじゃねーよ」

323以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 00:05:22 ID:PQ1Q6G.6
美春 「……?」

成幸 (美春さんがなぜ俺を訪ねてきたのか、理由も何も分からないけど……)

ザワザワザワザワ…………

成幸 (このまま騒ぎが大きくなったら、きっと生徒指導部の先生が来る)

成幸 (そうしたら、俺だけじゃなくて、美春さんも怒られかねない)

成幸 「美春さん! 美春さんは俺に用があって学校に来たんですよね?」

美春 「? 明明白白。その通りですが……?」

成幸 「なら……」

ギュッ

美春 「!? ふぇっ!? ゆ、唯我成幸さん!?」

美春 (て、手を……!? 殿方に手を握られてしまいました!!)

成幸 「悪い、小林! 先帰っててくれ。また来週!」

タタタタタタ……

陽真 「……はぁ。まったく」 クスッ 「相変わらず、面白いことに巻き込まれるなぁ、成ちゃんは」

324以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 00:05:55 ID:PQ1Q6G.6
………………路地裏

成幸 「……はぁ……はぁ」

成幸 (ここまで来れば大丈夫かな。野次馬たちも追いかけてきてはなさそうだ)

美春 「あっ……あの、唯我成幸さん……///」

成幸 「? はい?」

美春 「そ、そろそろ、その……手を、放していただけると……///」

成幸 「あっ……」

バッ

成幸 「ご、ごめんなさい! あのままじゃ騒ぎが大きくなると思ったので、つい手を……」

美春 「いえ……」

ドキドキドキドキ……

美春 (と、殿方に手を引かれて走るなんて、初めてです……)

美春 (少女漫画のようなことをしてしまいました……///)

成幸 「……あ、あの、今日は一体、俺にどんな用があったんですか?」

美春 「は、はい、実はですね……かくかくしかじかで……」

325以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 00:06:35 ID:PQ1Q6G.6
………………

成幸 「なるほど。そんなことが……」

美春 「悔しかったので、なんとか殿方と……でっ、デートを、と思いまして」

成幸 「……それは分かりましたけど、その……」 カァアアアア…… 「な、なんで俺なんですか?」

美春 「……お恥ずかしながら、男性の知り合いというと、あなた以外思い浮かばなかったので」 ズーーーン

成幸 「ああ……」 (美春さん、男の人苦手みたいだもんなぁ……)

成幸 (こんなきれいな人とデートだなんて、なんか気後れしちゃうけど……)

成幸 (向こうは年上の女子大生。俺のことなんか弟程度とも思ってないだろうし……)


―――― 『悔しかったので、なんとか殿方と……でっ、デートを、と思いまして』


成幸 (それで俺を頼ってくるってことは、よっぽど悔しかったんだろうな……)

美春 「厚かましいお願いなのは分かっています。でも、あなた以外に頼める人がいないんです」

美春 「どうか……どうか、お願いします! 私のデートの相手になってください!」

美春 「何でもしますから!!」

成幸 「ぶっ……!!」

326以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 00:07:13 ID:PQ1Q6G.6
美春 「? どうかされましたか、唯我成幸さん」

成幸 「い、いえ。美春さんは桐須先生とよく似ているな、と思いまして……」


―――― 『なんでもするから 私をひとりにしないで』


成幸 (姉妹そろって、なんというか、警戒心が強いように見えて、その実無防備だよなぁ……)

成幸 (……まあ、困ってるみたいだし)

成幸 「わかりました。いいですよ。役に立てるか分かりませんが、俺でよければ相手になります」

成幸 「以前、ファミレスでもお世話になりましたしね」

美春 「!? ほ、本当ですか!?」

成幸 「はい。本当に、お役に立てるかは分かりませんけど……」

美春 「あ、ありがとうございます! 助かります! あなたは私の恩人です!」

成幸 「恩人って、そんな大げさな……」

成幸 (まぁ、今日の勉強時間がなくなってしまうのは痛いが、仕方ないよな。困ったときはお互い様だ)

成幸 (明日からの休日を使って勉強すれば――)

美春 「――では、これが今日から週末までのデートプランになります! 目を通しておいてくださいね!」

327以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 00:08:34 ID:PQ1Q6G.6
ドサッ

成幸 「へ……? こ、この広辞苑もビックリな分厚さの冊子が、デートプラン……?」

成幸 「い、いや、というか、空耳ですかね? “今日から週末まで” ……?」

美春 「はい? どうかしましたか、唯我成幸さん」

ニコッ

美春 「今日から週末まで、毎日、デートの相手役をやってくれるんですよね?」

成幸 「へ!? ま、毎日ですか!?」

美春 「はい、一ノ瀬学園は明日から休日ですよね。ですから、明日からは朝から夕方までお願いします!」

成幸 (下調べバッチリ!?) 「い、いやいやいや! さ、さすがにそれは……」

美春 「……首鼠両端。おやおやおや?」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

美春 「さっき、引き受けてくれると言ってくれたと思うのですが、」

美春 「……まさか、前言撤回するなんて、言うわけじゃありませんよね?」

成幸 「えっ、いや、えっと、その……」

328以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 00:09:55 ID:PQ1Q6G.6
成幸 (ああ、そうだ……)


―――― 『それはそれ これはこれ 何を帰ろうとしているんですか まだ勉強は終わっていませんよ』

―――― 『有言実行 約束の24時間にはまだあと16時間残っています』

―――― 『言ったでしょう 美春は完璧主義で融通が利かないと』


成幸 (この人は、こういう人だった……)

成幸 (うぅ……仕方ないよな。俺が相手役を引き受ける前に、ちゃんと確認しなかったのが悪い……)

成幸 「……毎日、やらせてもらいます」

美春 「えへへ♪ ありがとうございます、唯我成幸さんっ」

美春 「もちろん、デート後に勉強時間は取りますし、しっかり私が教えますから、安心してくださいね」

成幸 「本当ですか!? それは助かります! ありがとうございます!」

成幸 (以前教えてもらったとき、時間はともかくとしてすごく分かりやすかったから、それは純粋にありがたいぞ)

329以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 00:10:50 ID:PQ1Q6G.6
美春 「………………」

美春 (姉さまの恋人である唯我成幸さんにこんなことをお願いするのは、ややインモラルかもしれませんが、)

美春 (そもそも、教師と生徒がそういう関係を持っている時点でインモラルですし……)

美春 (それに、私はまだ、姉さまと唯我成幸さんの関係を認めたわけではありませんし!)


―――― 『でも姉さま 少し声が明るくなりました 美春はそれが一番嬉しいです!』


美春 (……まぁ、もちろん、あのときのことは感謝していますけど)

美春 (姉さまが教師を続けると決めたのなら、それこそ教師を続けられなくなるような事態だけは回避しなければ)

美春 (懲戒解雇。教え子との恋愛だなんて、職場や保護者にバレれば、即刻クビになってしまいます!)

美春 (今回はあくまで、私のアイスショーの演技力向上のための練習ですが、)

美春 (けれど、それと同時に、私の溢れる色香で今度こそあなたを虜にしてみせます)

美春 (そして、姉さまの平穏な教員生活のために、姉さまを諦めさせてみせますよ、唯我成幸さん!!)

美春 「……では、参りましょうか。今日はもう夕方ですから、近場からです!」

美春 「私を “ゲームセンター” という場所に、連れて行ってください!」

成幸 「ゲームセンター……?」

330以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 00:11:34 ID:PQ1Q6G.6
………………ゲームセンター

ザワザワザワザワザワザワ……

美春 「喧々囂々。随分と想像しい場所ですね……」

成幸 「色々なゲームの音とかも騒がしいですからね。人も多いですし」

美春 「少女漫画ではそんな描写はなかったから分かりませんでした……」

成幸 「少女漫画?」

美春 「い、いえ、なんでもありません」

成幸 「? ところで、ゲームセンターでしてみたいことがあるんですよね?」

美春 「へ? えっと……」

美春 「そのあたりは、よく分からないのであなたにお任せできたら、と……」

成幸 「えっ? いや、でも、俺もゲーセンなんか滅多に来ないから分からないですよ」

美春 「!? 普通の高校生は毎日ゲームセンターで遊んでいるのでは!?」

成幸 「どういうイメージですかそれ……」

331以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 00:12:16 ID:PQ1Q6G.6
成幸 「そういえば、前にお姉さんと一緒にゲームセンターに来たときは、」

美春 「!?」 (姉さまとゲームセンターデート!?)

成幸 「一緒にクレーンゲームをやりましたね」

美春 「………………」

成幸 「……? 美春さん?」

美春 「やりましょう」

成幸 「へ?」

美春 「それをやりましょう、唯我成幸さん」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

美春 (姉さまと一緒にやったことなら、それを上書きしてさしあげます!)

成幸 「じゃあ、いくつかありますから見てみましょうか」

美春 「はい!」

332以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 00:12:54 ID:PQ1Q6G.6
………………クレーンゲーム

美春 「はぁ〜〜〜〜……」 パァアアアアアア……!!!

美春 (か、かわいい! かわいいものがいっぱいです!!)

美春 (ゲームセンターなんて不良が行くところだと思い込んでいましたが……)

美春 (こんなにかわいいものがたくさんあるなんて……!!)

美春 「あっ! これがいいです! このくまさんのぬいぐるみストラップがほしいです!!」

成幸 「はい、じゃあ百円玉を入れて、やってみましょうか」

美春 「はいっ」 ワクワクワクワク……

チャリン……

美春 「次はどうしたらいいですか!?」 キラキラキラ……!!!!

成幸 「ええと、そのボタンを押すとアームが横に移動して、次は……」

ズイッ

美春 「!?」 (ち、近い! 近いです唯我成幸さん!!)

美春 (で、でも、姉さまとの思い出を上書きするには、これくらいのことは……)

カチッ……カチッ……

333以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 00:13:40 ID:PQ1Q6G.6
ウィーーーン……

美春 「あっ……」 (間違えて押してしまったら、アームが動き始めてしまいました)

成幸 「あ……」

ムンズ……ポイッ……

成幸 「す、すごい!! 一発で取れちゃいましたよ!」

美春 「100円でストラップが手に入ってしまいました……! やりました!」 ピョンピョン!!!!

成幸 (はは、飛び跳ねて喜んじゃって。こういうところ、妹だけあって桐須先生とそっくりだな)

成幸 「さすが美春さんですね。先生がやったときはなかなか取れなくて、結構お金を使ってましたよ」

成幸 「最終的に一緒に押してくれなんて言って、それでやっと取れたんですから」

美春 「!?」 (一緒に!? 共同作業!? どれだけラブラブですか!!)

美春 (一発で取れてしまっては、姉さまとの思い出を全然上書きできてないですね……)

美春 「も……もう一回! もう一回やります!!」

グイッ

成幸 「わっ……」 アセアセ 「み、美春さん!?」

成幸 (何で急に腕を組まれたんだ!?)

334以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 00:14:14 ID:PQ1Q6G.6
美春 「もうひとつ手に入れます! そうしたら、それをあなたに差し上げます!」

チャリン……

成幸 「あ、は、はい……」

美春 「……なので、今度は一緒にやってください」

ズイッ

成幸 (ちっ、近い! 顔が、すぐ近くに……!)

フラッ……カチッ、カチッ……

成幸 「あっ……」 (ふらついた拍子に、ボタンを押してしまった……)

ムンズ……ポイッ……

成幸&美春 「「あっ……」」

335以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 00:14:44 ID:PQ1Q6G.6
成幸 「……取れちゃいましたね」

美春 「……取れてしまいましたね」 ズーーーン (姉さまとの思い出を上書きする必要があるのに……)

美春 「……これ、さしあげます。どうぞ」

成幸 「あ、ありがとうございます」 クスッ 「色違いですけど、おそろいですね」

美春 「お、おそろい……?」

カァアアアア……

美春 (な、なんて蠱惑的な響きでしょうか。おそろいだなんて……)

美春 「………………」

美春 (おそろい、ですか……)

美春 (えへへ……)

ハッ

美春 「!?」 (わ、私は一体、何を考えて……!?)

成幸 「美春さん? 次はどうしましょうか?」

美春 「ふぇっ!? あ、そ、そうですね! では、次の場所に向かいましょう! 次は流行りの喫茶店です!」

336以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 00:15:21 ID:PQ1Q6G.6
………………喫茶店

成幸 「すごい偶然ですけど、ここも以前先生と一緒に来たことがあるんですよ」

美春 「!?」

成幸 「そのとき、先生が間違えてこのカップル専用の飲み物を頼んでしまって大変でした」

美春 「!?」 (さ、さすがは姉さま! 唯我成幸さんの誘惑に余念がないですね……!!)

美春 (でも、負けません!!)

店員 「ご注文お決まりでしょうか?」

成幸 「あ、では、この一番安いコーヒーを……――」

美春 「――あ、あの! 私たちは恋人同士なので!」

美春 「このカップル専用のドリンクをいただきます!!」

成幸 「!?」

美春 「それから、このカップル専用ハート型パンケーキもいただきます!!」

成幸 「美春さん!?」

337以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 00:15:57 ID:PQ1Q6G.6
………………

成幸 「うおう……」

バーーーーーーン!!!

成幸 (す、すごい。飲み物は相変わらずだけど、パンケーキの迫力もすごい……)

美春 「………………」

ドキドキドキドキ……

美春 (わ、私は今、すごくはしたないことをしている気がします……!)

美春 (今から、このストローで、ふたり同時にこのドリンクを……)

美春 「………………」

カァアアアア……

美春 (寡廉鮮恥!! 世の恋人たちはなんてはしたないのでしょう!!)

美春 (でも……こ、これも、恋する少女の気持ちを知るため……)

美春 (そして、唯我成幸さんと姉さまを引き離すため……)

美春 「で、では行きますよ、唯我成幸さん!」

成幸 「!? 本当に一緒に飲むんですか!?」

338以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 00:16:49 ID:PQ1Q6G.6
美春 「……はむっ」

美春 「………………」 ジーーーーッ

成幸 (ストロー咥えたままめっちゃ見てくる。これは、早くしろということだろうな……)

成幸 (うぅー……)

成幸 (ええい、ままよ!)

ハムッ

美春 「!?」 (こ、これは予想以上に、近いです……!)

美春 (と、殿方のお顔がこんなに近くにあるなんて……)

成幸 (うぅ……)

美春 (はうっ……)

………………

339以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 00:17:27 ID:PQ1Q6G.6
………………

美春 「………………」

カァアアアア……

美春 (も、もうお嫁に行けません。ジュースを通して、唯我成幸さんの口と繋がってしまいました……)

美春 (これが俗に言う “間接キス” というものなのですね……) ※ちがいます。

成幸 「うぅ……///」 プシューーーー

美春 (でも、まだ姉さまに並んだにすぎません! 次は……)

美春 「さあ、では唯我成幸さん、次はパンケーキですよ!」

成幸 「そ、そうですね! これは普通に半分こして食べればいいですもんね……」

美春 「ええ! では、行きます!」 ズイッ

美春 「さあ、食べてください! あーん!」

成幸 「!? 自分で食べればよくないですか!?」

美春 「ダメです! ほら、メニューにも!」

 『カップルで食べさせ合うのにぴったりのホットなパンケーキです♪』

成幸 「その煽り文句真に受ける必要あります!?」

340以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 00:18:06 ID:PQ1Q6G.6
美春 「ほら、食べてください!」

ズイズイッ

成幸 「わ、わかりました……」

ハムッ……

美春 「……!?」 (またまた少女漫画みたいなことをしてしまいました……!)

美春 (でも、まだです……)

美春 「おっ、美味しいですか、唯我成幸さん」

成幸 「は、はい……///」

美春 「で、では……次は、私に、食べさせてください」

成幸 「!? 俺もやるんですか!?」

美春 「至極当然! やってください!」

成幸 「わ、わかりました……」

成幸 「えっと、あの……」 カァアアアア…… 「あーん……」

美春 「……あ、あーん」 ハムッ

341以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 00:18:44 ID:PQ1Q6G.6
………………

成幸 (け、結局全部食べさせあいっこで食べたぞ……)

ドキドキドキドキ……

成幸 (大変だった……)

美春 (はうぅ……)

ドキドキドキドキ……

美春 (なんてことをしてしまったのでしょう。結婚相手でもない殿方と、とんでもないことを……)

美春 (姉さまはこんなことを毎日やっているのですか。さすが姉さまです……)

342以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 00:19:16 ID:PQ1Q6G.6
成幸 「……美春さん、次はどこに行きますか?」

美春 「次は、えっと……」

美春 「……ショッピングの予定ですね。まだ時間は大丈夫ですか?」

成幸 「はい。さっき遅くなると家に連絡はしたので、大丈夫です」

成幸 「そういえば、服も先生と一緒に見ましたよ」

成幸 「先生は本当にジャージ大好きですよね。また新しいジャージを見てましたよ」 クスッ

美春 「!?」 (ね、姉さま……! あらゆるところに唯我成幸さんを連れて行っているのですね……!)

美春 (望むところです! 姉さまのため、絶対に姉さまに負けませんから……!)

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

成幸 (すごい、やる気満々だ。スケートについて、少しの妥協もしたくないんだな……)

成幸 (美春さんがこんなにがんばってるんだ。俺も、恥ずかしがってる場合じゃない!)

成幸 (勉強も教えてくれると言ってくれているんだ。なら、その分程度はしっかりがんばらないとな!)

成幸 「じゃあいきましょう! 美春さん!」

美春 「はい!」

343以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 00:19:54 ID:PQ1Q6G.6
………………服屋

美春 「お洋服屋さんについては事前にしっかりと下調べをしておきました!」

美春 「このお店は安くてデザインもいいと評判でした……って、どうかされました、唯我成幸さん?」

成幸 「……あ、いや、えっと」

成幸 (な、何でよりによってこのお店なんだ!? 俺のバイト先じゃないか……)

店長 「いらっしゃいませー……って、ナリユキ君じゃないか。オフなのに来てくれるとは嬉しいねえ」

成幸 「あっ、店長。いらっしゃったんですね……」

店長 「そりゃ、あたしの店だからねぇ……ん?」

美春 「……? お店の方とお知り合いなのですか、唯我成幸さん?」

店長 「……おやおや、おやおやおやおや?」 ニヤァアアア

店長 「……まったく君も、隅に置けないねえ、ナリユキ君」

成幸 「店長が何を考えてるか分かりませんけど、それ絶対違いますからね」

店長 「彼女に服でも買ってあげるのかい? このこのー。しかもすごい美人さんじゃないかー」

店長 「ひょっとして年上好きかー? ませてるねー」

成幸 「いや、だからそういうのじゃないんですって!」

344以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 00:20:47 ID:PQ1Q6G.6
美春 「その通りです、店長さん。私と唯我成幸さんはそういう関係ではありません」

成幸 (美春さん! そうだ! 言ってやってください!)

美春 「私が頼み込んで無理にデートをしてもらっているので、服を買って頂くなんて、道義的に許されません!」

成幸 「……美春さん!?」

店長 「へぇ……?」

美春 「今日のデート代だって、全部私が持つつもりです!」

美春 「唯我成幸さんにお金を出していただくつもりはこれっぽっちもありません!」

店長 「へ、へぇ〜……///」 カァアアアア…… 「も、モテるんだね、ナリユキ君。お姉さん尊敬しちゃうよ……」

店長 「でも、あんまり健全な関係とは言えないかな。一応花枝さんに報告しておくべきか……」

成幸 「絶対やめてください! 誤解です誤解!」

店長 「……ん? あれ、そういえば彼女さん、どこかで見たことあるような……?」

成幸 「!?」 (まずい、正体がばれたらまた騒ぎになる……!)

客 「あの、すみません。この服のサイズなんですけど……」

店長 「あっ、はーい! ただいま!」

店長 「じゃ、ナリユキ君、またバイトよろしくね。彼女さんも、あんまりナリユキ君甘やかしちゃダメだよ!」 タタタタタ……

345以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 00:22:23 ID:PQ1Q6G.6
成幸 「……はぁ」 ガクッ (どっとつかれた……)

美春 「……はうっ」 ポッ

成幸 「美春さん? どうかされました?」

美春 「彼女扱いされてしまいました……///」

成幸 「今そこですか……」

美春 (私が、この方の、彼女……)

美春 (今の私は、唯我成幸さんの彼女に、見えているということ……――)

成幸 「――美春さん?」

美春 「ひゃいっ!?」 ビクッ

成幸 「服、見ないんですか?」

美春 「み、見ます! もちろん見ますとも!」

美春 (意味不明。理解不能。私はなぜ……)

美春 (それを、“嬉しい” などと思っているのですか……)

346以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 00:23:25 ID:PQ1Q6G.6
………………ボウリング店

美春 「次はボウリングです! 初めてなのでやり方を教えてください」

成幸 「はい……って言っても、俺もそんなに詳しくないですけど、こうして……こうです」

美春 「ふむふむ……」

スッ……パッカーーン!!!

成幸 「おお! さすが美春さん。早速ストライクだ……」

美春 「なるほど。あのピンをたくさん倒せばいいわけですね」

成幸 「さすがですね。先生も毎回ストライクを出していましたよ。300点取ってたかな」

美春 「……ほう。なるほど。そうですか。やはりここにも姉さまと来たことがある、と……」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

成幸 「へ……?」

美春 「分かりました。それなら、私も300点を取らなければならないようですね……」

美春 (そして、今度こそ姉さまとの思い出を上書きしてみせます!)

347以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 00:24:16 ID:PQ1Q6G.6
………………

美春 「今日はすみませんでした。すっかり遅くなってしまって……」

成幸 「い、いえ……」

成幸 (300点出すまで帰らないって意地になってたからな。さすが完璧主義者……)

成幸 (もうすっかり真夜中だ……)

成幸 「ところで、少しはお役に立てました? 俺」

美春 「へっ? そ、それは……」


―――― 『色違いですけど、おそろいですね』

―――― 『あーん……』

―――― 『彼女に服でも買ってあげるのかい?』


美春 「はうっ……」 ドキドキドキドキ……

成幸 「あはは、まぁ、俺なんかじゃなかなかうまくいかないですよね」

美春 「い、いえ、そんなことは!!」

成幸 「気を遣わなくていいですよ。明日はもっとお役に立てるようにがんばりますね!」

348以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 00:25:17 ID:PQ1Q6G.6
成幸 「それじゃ、美春さん。明日は駅前に集合ですよね。また明日」

美春 「あ……唯我成幸さん! まだ勉強を見ていないですが……」

成幸 「ああ、もう遅いですし、明日に響いてもよくないですから、今日はいいですよ」

成幸 「また明日、教えてください」

美春 「わ、わかりました! 明日、絶対教えますから!」

美春 「あと、あの、その……」

成幸 「?」

美春 「明日も……楽しみに、していますから」

成幸 「あっ……」

カァアアアア……

成幸 「……はい。俺も、楽しみです」

美春 「では、また明日、唯我成幸さん」

成幸 「はい、また明日。美春さん」

349以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 00:26:17 ID:PQ1Q6G.6
………………夜 唯我家

成幸 「………………」

成幸 (うーん、うまくデートの相手ができなかった気がするぞ……)

成幸 (デートの相手役って、どういう風にすればいいんだ……?)

成幸 (こういうとき、頼りになりそうなのは……)

成幸 (まぁ、ひとりしかいないよな)

ピッ……prrrr……

 『もしもし? 成幸くん? こんな時間にどうしたの?』

成幸 「ああ、古橋。悪いな。夜中に電話して」

文乃 『べつに、これくらいの時間だったらいいけど。勉強中だったし……』

成幸 「実は、お前に相談したいことがあってさ。例によって、お前にしか相談できないようなことなんだけど……』

文乃 『へ、へぇ。わたしにしか話せないようなこと、ね』

文乃 『しっ、仕方ないなぁ』 ニヘラ 『弟の相談に乗るのも、姉の役目だからね。もちろん、聞いてあげるよ』

成幸 「ああ、いつもありがとな、文乃姉ちゃん」

350以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 00:26:55 ID:PQ1Q6G.6
………………古橋家

文乃 (まったく、成幸くんは仕方ないなぁ……)

文乃 (わたししか頼れる相手がいないんだね。まったくもう、本当に……)

ニヤァアアア

文乃 (しっ……仕方、ないんだから……///)

文乃 「で? 相談ってどっちのこと? りっちゃん? うるかちゃん?」

成幸 『へ? 緒方とうるか? いや、あいつらは関係ないけど……』

文乃 「へ?」

文乃 「………………」 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!! 「へぇ。へぇ。なるほど? で、相談って何?」

成幸 『な、なんだ? 急に声が怖くなった気がするんだけど……』

文乃 「そんなことないよ。いいから早く話しなよ、唯我くん」

成幸 『そ、そうか? ならいいけど……』

成幸 『えっと、相談っていうのが……ちょっと恥ずかしいんだけど……』



成幸 『デートって、どんな風にしたらいいんだ?』

351以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 00:27:43 ID:PQ1Q6G.6
文乃 「………………」

文乃 「……は?」 メキョッ

成幸 『……? なんか、今、何かが軋むような音がしたんだけど……』

文乃 「気のせいだよ。何もないよ。携帯電話が応力でひずんだりしてないよ」

文乃 (……デートを、どんな風にしたらいいか、だって?)

文乃 「……あの、唯我くん、まさかとは思うけど、明日からの勉強休みに、誰かとデートするのかな?」

成幸 『へ? ああー……まぁ、うん。成り行きでそうなっちゃってさ』

文乃 「へぇ……」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

文乃 「で、その相手はりっちゃんでもうるかちゃんでもない、と?」

成幸 『何でその二人の名前が出てくるんだ? 違うに決まってるだろ』

文乃 「なるほどなるほど」

文乃 (……この男、今度は成り行きでフラグを……) ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

352以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 00:28:48 ID:PQ1Q6G.6
成幸 『古橋師匠なら知ってるだろ? デートの作法というか、なんというか……』

文乃 「知らない」

成幸 『へ? あ、いや、えっと……』

成幸 『俺、そういうの全然分からないからさ。教えてほしいんだけど……――』

文乃 「――知らない」

成幸 『そ、そう言わず、教えてもらえると……」

文乃 「……だから、知らないんだってば」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

文乃 「成幸くんのことなんて、もう知らないって言ってるの」

成幸 『へ? ふ、古橋……――」

――プツッ……

文乃 「……ふんだ。成幸くんのことなんか、もう知らない」

文乃 「人が色々がんばってあげてるのも知らないで、またどこかの誰かとフラグ立てて……」

文乃 (……わたしはべつに、彼がどこの誰と一緒にいようと、知らないけど)

文乃 (べつに、わたしには関係ないことだけど、さ……)

353以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 00:29:20 ID:PQ1Q6G.6
文乃 「………………」


―――― 『実は、お前に相談したいことがあってさ。例によって、お前にしか相談できないようなことなんだけど……』


文乃 (……成幸くん、困ってるんだろうな)

文乃 (急に怒って電話切ったりして、悪いことしちゃったかな)

文乃 「………………」

文乃 (……わたしはもちろん、りっちゃんとうるかちゃんの友達で、ふたりを応援してあげたい)

文乃 (だから、成幸くんのどこの誰とも知らない相手とのデートを応援してあげることは、できない)

文乃 (でも……)

文乃 (同時に、わたしは唯我くんの友達で、成幸くんの……お姉ちゃん、だもんね)

文乃 (困ってる成幸くんを助けてあげるくらいは、いいよね)

文乃 (……仕方ないなぁ) ハァ (少しだけ。少しだけだからね、成幸くん)

ピッ……ピッ、ピッピッ……

354以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 00:29:59 ID:PQ1Q6G.6
………………

成幸 「………………」 ズーーン (……何か知らんが古橋を怒らせてしまった)

成幸 (きっと俺がまた失言をしたんだろうな。うぅ、古橋に申し訳ない)

成幸 (とりあえず、メッセージで謝っておかないと……――)

…………ピロリン♪

成幸 「ん……? 古橋から?」

 『さっきは急に電話を切ってごめんなさい。ちょっとびっくりしちゃってさ』

 『お詫び、というわけではないけど、男子高校生必見のデート指南サイトをいくつか送ります』

 『よく目を通して、デート、がんばってね』

成幸 「………………」 ブワッ (師匠……!!)

成幸 (なるほど! さっき古橋が少し怒っていたのは、何でもかんでもまず自分を頼るなということか!)

成幸 (まずは自分で色々なものを読んで、その上でがんばれということだな!)

成幸 (さすがは師匠だ! 答えをすぐ教えず、俺に考えるチャンスをくれたんだな!)

成幸 「……よし、明日のデート、がんばるぞ!」

水希 「!?」 (い、今お兄ちゃんからデートって言葉が聞こえた!?)

355以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 00:35:17 ID:PQ1Q6G.6
………………東景女子大学 学生寮

美春 「………………」

美春 「……えへへ。かわいいストラップを手に入れてしまいました」

美春 「唯我成幸さんと、おそろいの、くまさんのストラップ……」

カァアアアア……

美春 「……あ、あれ? 何ででしょう。顔が熱いですね」

美春 (……明日は、遊園地デート)


―――― 『明日も……楽しみに、していますから』

―――― 『……はい。俺も、楽しみです』


美春 「っ……」 ボフッ (ち、違います。私はただ、遊園地が楽しみなだけです)

美春 (唯我成幸さんだって、きっと話を合わせてくれただけです)

美春 (……でも、) クスッ

美春 「本当に楽しみですね。遊園地デート」

おわり

356以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 00:35:55 ID:PQ1Q6G.6
………………幕間 「デート」

水希 「お兄ちゃんがデート……」

水希 「デート……」

水希 「………………」

ポン!!

水希 「……よしっ! 明日は学校サボって尾行ね!!」

葉月 「和樹」 スッ

和樹 「ほいさ」 スッ

おわり

357以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 00:37:49 ID:PQ1Q6G.6
>>1です。
すみません。眠気が相当なので寝ます。
ちょうど半分くらいです。
明日後半を投下します。明後日かもしれませんが。

あともういくつか書き上げてある話があるので、それも一緒に投下できたらと思います。

358以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 07:26:14 ID:Ll8ZvOCE
おつ!

359以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 19:38:56 ID:jG0I.A.w
おつんこ
やっぱり妹が最かわなんだよ!!

360以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 23:00:31 ID:35jgZeyU
怒涛の更新で歓喜だわ

361以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 23:38:59 ID:PQ1Q6G.6
>>1です。
続きから投下します。

362以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 23:39:33 ID:PQ1Q6G.6
………………翌日 駅前

美春 「………………」 ドキドキドキドキ……


―――― 『……はい。俺も、楽しみです』


美春 「うぅ……///」

美春 (私は何をしているのでしょう……)

美春 (アイスショーの演技力を高めるため、そして姉さまの安寧な生活のため、がんばると決めたのに……)

美春 (これから唯我成幸さんと会うと考えるだけで、どこか浮ついた気持ちになります……)

美春 「………………」

グッ

美春 (こんなことではいけません! 私は、アイスショーのため、そして姉さまの未来のため、がんばると決めたのです!)

美春 (こんなことでは……――)


成幸 「――あっ、美春さん。もう来てたんですね」


美春 「……!?」 ズザザザザッ!!!!

363以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 23:40:26 ID:PQ1Q6G.6
成幸 「お待たせしてごめんなさい……って、」

成幸 「……なぜ、受け身を?」

美春 「なっ、なんでもありません。リンクで転倒したときの受け身の練習をしていただけです」

成幸 (往来でスケートリンクの受け身が取れるとは思えないけど……)

成幸 「……えっと、美春さん。かなり早いですね。まだ集合時間の三十分前ですけど」

成幸 (古橋の教えてくれたサイトで勉強して、三十分前には待っていようとがんばったのに……)

美春 「え、ええ。偶然、家を早く出てしまいまして。でも、ついさっき来たところですから」

美春 (……本当は、寮にいると落ち着かなくて、早く出過ぎてしまっただけですけど)

成幸 「………………」

美春 「………………」

ドキドキドキドキ……

美春 (うぅ、さっき決意を新たにしたばかりだというのに、また浮ついた気持ちに……)

成幸 (な、なんだろう。美春さん、昨日とまた少し違う格好で、すごく……)

成幸 (きっ、綺麗だな……)

364以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 23:41:26 ID:PQ1Q6G.6
成幸 「………………」


―――― 『女心鉄則! 「お出かけ時は必ず服を褒めるべし!!!」』


成幸 (よ、よし。今こそ師匠の今までの教えをフルに活用するとき……!!)

成幸 「み、美春さん!」

美春 「は、はい!」 ビクッ

成幸 「えっと……」

カァアアアア……

成幸 「き、昨日も、すごく素敵でしたけど……今日も、その……」

成幸 「……今日も、その、すごくきれいで、素敵です」

美春 「………………」

成幸 「………………」

成幸 (……し、しまったぁああああああ!! これは外したやつか!? ダメなやつだったか!?)

成幸 (セクハラで訴えられるやつか!?)

365以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 23:41:59 ID:PQ1Q6G.6
美春 「………………」

ボフッ

美春 「ひゃっ、ひゃい……あ、ありがとう、ございます、です……///」

美春 (ひゃあああああ……と、殿方に褒められてしまいました!!)


―――― 成幸 『昨日も素敵でしたけど、今日もきれいで素敵だよ、美春さん』(※誇張あり)


美春 (ひゃああああああああああああ……!!!)

成幸 (よ、よかったぁあああああああ……。セーフみたいだ……)

美春 (きれい……きれい、ですか……)

美春 (えへへ……)

成幸 (で、でもなんか、恥ずかしいな、これ……)

成幸 「……ん?」

成幸 「あ、そのぬいぐるみのストラップ……」

美春 「へ……? ああ、これですか? 可愛かったので早速カバンにつけてしまいしまいました」

美春 「ちょっと子供っぽいですかね……」

366以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 23:42:41 ID:PQ1Q6G.6
成幸 「あ、いや、全然いいと思います。すごく自然ですし……」

成幸 「えっと……その、一応、恋人役なので、その……俺も、」

スッ

成幸 「ちょっと恥ずかしかったけど、昨日いただいたストラップ、つけて来ちゃいました」

成幸 「……お、おそろい、ですね」

美春 「へっ……///」 カァアアアア…… 「そ、そうですか。それは、その、なんというか……」

美春 「……あっ、ありがとう、ございます……?///」 (な、何故お礼を言っているのですか私は……)

成幸 「あ、いや、全然、そんな……こちらこそ、ありがとうございます……?///」

通行人 (……初々しいバカップル)

通行人 (なにあのカップルめっちゃかわいい……)

通行人 (無自覚純情バカップル……)

男の子 「ママー、カップルー」

お母さん 「こら、指さしちゃダメよ」

成幸&美春 「「っ……///」」

367以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 23:44:06 ID:PQ1Q6G.6
………………遊園地入り口

成幸 「そういえば、今日の予定は遊園地でしたね……」 ゴクリ

美春 「? なぜそんなに緊張しているんです?」

成幸 「いや、うちは貧乏なので、あまりこういう場所に来たことがないので……」

成幸 「あの、入園料とかすごく高いですよね。さすがに俺も少しは……」

美春 「結構です。私が頼み込んで、無理を言って来てもらっているんですから」

成幸 「でも……」

美春 「でもも何もありません。そもそも、年下の男子にお金を出させるなんて、女がすたるというものです」

成幸 「……わかりました。じゃあ、チケット、いただきます。ありがとうございます」

美春 (だから、私が頼んで来てもらっているのだから、お礼を言う必要もないというのに……)

美春 (まったく、融通の利かない子ですね。そういうトコロ、きらいではないですが……)

美春 「………………」 ハッ (き、きらいでないだけで、好きというわけではありませんからね!?)

美春 (……って、私は一体誰に言い訳しているのでしょうか? は、恥ずかしい……)

成幸 「……?」 (美春さん、なんかあたふたして、どうかしたのかな……?)

368以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 23:44:49 ID:PQ1Q6G.6
………………

成幸 「美春さん、何か乗りたいものとかありますか?」

美春 「えっと……」 カァアアアア…… 「実は私も、恥ずかしながら、あまりこういったところに来たことがなくて……」

成幸 「ああ、そうなんですね。そういえば先生も同じようなこと言ってたしなぁ」

成幸 「じゃあ、俺と同じですね。パンフレットを見ながら、行きたい場所を探してみましょうか」

バサッ……

美春 「色々なところがありますね……うーん……」

成幸 (ふふ、悩んでるなぁ、美春さん。アスリートだから、ジェットコースターとか好きそうだけど……)

美春 「……ああっ!」

成幸 「気になるところがありました?」

美春 「ここ! ここに行きたいです!」 ビシッ

成幸 「……? “キャラクターたちと遊ぼう! ファンシーエリア” ……?」

369以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 23:46:37 ID:PQ1Q6G.6
………………

美春 「きゃああああああああああああ!!!」 キラキラキラキラ……!!!

美春 「かわいいモフモフがたくさんいますよ、唯我成幸さん!!!」 ブンブンブン

成幸 「あ、はい。大丈夫です。俺にも見えてますから。揺らさなくていいですよ」

美春 「ぎゃんカワです!! これがぎゃんカワというものなのですね唯我成幸さん!!」 ブンブンブン

成幸 「あ、はい。その言葉は知らないですけどたぶんそうです」

成幸 (揺すられすぎてアトラクションに乗ってもいないのに酔いそうだ……) ウップ

美春 「えっ、一緒に写真を撮っていいんですか!?」 キラキラキラ……!!!!

美春 「唯我成幸さん! キャラクターさんたちと写真を撮りたいので、撮影をお願いしてもいいですか?」

成幸 「あ、はい。わかりました」

美春 「だ、抱きついてもいいですか? ……わっ、もふもふです」

成幸 (キャラクターに囲まれて、子どもみたいにはしゃいじゃってまぁ……)

クスッ

成幸 「じゃあ撮りますよ。はい、チーズ」

パシャッ

370以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 23:48:56 ID:PQ1Q6G.6
………………

美春 「………………」

カァアアアア……

美春 「す、すみません。はしゃいでしまって……」

成幸 「いえいえ、楽しかったなら何よりじゃないですか」

成幸 「写真、たくさん撮ったから送りますね」

美春 「うぅ……。こんな無防備に笑って、はしたないです……」

成幸 「そんなことないですよ。どれも良い笑顔だと思いますよ」

成幸 (……ん、そういえば古橋師匠の教えてくれたサイトに、こんなときのアドバイスもあったな)

成幸 (こういうときは、たしか……)

成幸 「……えっと、その……どの写真も、とっても可愛くて、綺麗です」

美春 「ふぇっ……」 ボフッ 「しょ、しょう、でしゅか……///」 プシューーー

成幸 「あっ……」 (しまったな。やっぱり俺に言われても嬉しくないよな。そっぽ向いちゃった……)

美春 (と、とととと、殿方に、可愛いなどと言われてしまいました。うぅ……///)

371以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 23:49:48 ID:PQ1Q6G.6
成幸 (……でも、どの写真も、本当に楽しそうだ)

成幸 (アイスショーのこととか抜きにしても、普通に楽しんでくれているなら、何よりかな)

成幸 「……美春さんは可愛いものがお好きなんですね」

美春 「へ……? え、ええ。昔、犬を飼っていたことがあって。そのときからずっと、モフモフは好きです」

成幸 (……ああ。例の逃げ出してしまったというワンちゃんか)

美春 「こうやってキャラクターに囲まれて写真を撮るなんて初めてで、興奮してしまいました」


―――― 『……全てにおいてフィギュア第一だったから』

―――― 『あんな風に 学校帰りに寄り道して談笑した記憶もほぼないわね』


成幸 (……先生は、友達と一緒に遊んだり、そういったことはほとんどしたことがないと言ってたけど)

成幸 (やっぱり、美春さんもそうなんだろうな……)

成幸 「………………」

成幸 (……よし、それなら!) グッ (アイスショーの助けになるのは元より!!)

成幸 (できるだけ、今みたいに美春さんに楽しんでもらえるように、がんばるぞー!)

372以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 23:50:33 ID:PQ1Q6G.6
成幸 「美春さん、次はどこに……って、あれ? 美春さん?」

美春 「………………」 ジーーーーッ

成幸 (いつの間にか売店にいる……。忙しない人だなぁ……)

美春 「ふわぁあああ……」 キラキラキラ……!!!!

成幸 「美春さん? 何を見てるんですか?」

美春 「あ、すみません。ちょっと、ぬいぐるみを……」

美春 「このぬいぐるみ、昔飼ってた犬にそっくりでかわいくて……」

成幸 「ああ、さっき言ってた子ですね」 (なんか、俺がよく着させられる着ぐるみにも似てるな……)

美春 「………………」 キラキラキラ……!!!!

ハッ

美春 「い、いけません。またぬいぐるみを増やしたら、母さまに怒られてしまいます!」

美春 「実家に置きっぱなしの子たちもいるんだから、我慢しないと……」

美春 「……では、次に行きましょう、唯我成幸さん。次はジェットコースターに乗りたいです!」

成幸 「? いいんですか? もっと見ていっても……」

373以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 23:51:16 ID:PQ1Q6G.6
美春 「いいんです。もう大学生なのだから、子どもっぽい趣味も大概にしないといけませんし」

美春 「姉さまみたいな立派な女性になるには、大人にならないといけませんから」

成幸 (言うほどあの人は立派な女性だろうか……。いや、言うとまた怒られそうだからやめておこう)

成幸 (でも……)

美春 「……はぁ、でも本当にかわいいですね」 シューン

成幸 「あ……すみません、ちょっとお手洗いに行って来ます。待っててください」

美春 「? わかりました」

成幸 「………………」

トトトトト……

成幸 (……チケットも何もかも奢ってもらって、悪い気持ちもあるし)

成幸 (少しくらい、いいよな……)


―――― 『いいんです。もう大学生なのだから、子どもっぽい趣味も大概にしないといけませんし』


成幸 「………………」

成幸 (……あんな寂しそうな顔、してほしくないしな)

374以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 23:52:36 ID:PQ1Q6G.6
………………ジェットコースター搭乗後

美春 「ふふっ、楽しかったですね、唯我成幸さん! 加速感がたまりません!」

成幸 「うっぷ……うぅ、そ、そうですね……」 フラフラフラ

成幸 (事前に美春さんに揺すられていたのも相まって、滅茶苦茶酔ってしまった……)

成幸 (加速感とか言っちゃうあたり、この人はやっぱり桐須先生の妹だな……)

美春 「もう一回乗りましょう、唯我成幸さん!」

成幸 「か、勘弁してください……」

………………コーヒーカップ

美春 「ふふふ、回転軸が自分にない回転は新鮮です!!」 グルグルグルグルグル!!!!

成幸 「うぷっ……ち、ちょっと、美春さん、回しすぎ……」

成幸 「っていうかよく酔いませんね……」

美春 「鍛えてますから! これくらいの回転数なら首を回さなくても酔いません!」

美春 「もっと速く回せませんかね、これ!」

成幸 「か、勘弁してください……うぷっ……」

375以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 23:53:10 ID:PQ1Q6G.6
………………

成幸 「………………」 グタッ……

美春 「唯我成幸さん、大丈夫ですか?」

成幸 「すみません……。少し、休ませてもらえると……」

美春 「もちろんです! ゆっくり休んでください!」

シューーーン

美春 「……すみません。私のせいですね」

美春 「楽しくて、ついハメを外しすぎてしまいました……」

成幸 「あ、いや、全然、美春さんのせいじゃないですよ……うぷっ……」

美春 「ああっ、やっぱりつらそうです。何か飲み物でも買ってきますね!」 ピューン!!!!

成幸 「おかまいなく……って、もう行っちゃったか」

成幸 (うぅ、情けない。がんばるって決めたのに、もうダウンしてしまった……)

成幸 (美春さん、せっかくすごく楽しそうだったのに……――)

  「――……えぐっ、ぐすっ……」  「お母さん、どこー……えぐっ……」

成幸 「ん……?」

376以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 23:53:49 ID:PQ1Q6G.6
………………

美春 「………………」

ハァ

美春 (私としたことが、後先考えず、唯我成幸さんに迷惑をかけてしまいました)

美春 (年上の女として、色香を振りまいて誘惑するつもりが、何をしているのでしょうか、私は)

美春 (……きっと、唯我成幸さんも呆れているでしょうね)

美春 (これ以上の醜態を晒す前に、今日は早々と勉強タイムにした方がいいでしょうか……)

美春 「……ん?」

成幸 「そうかそうか。お母さんとはぐれちゃったのかー」

みな 「えぐっ……ぐずっ……」 コクコクコク かな 「ぐすっ……」 コクコクコク

成幸 「怖かったなー。でも大丈夫だぞー。お兄ちゃんと一緒に迷子センターに行こうな」 ナデナデ

かな 「ぐすっ……ん……」 ギュッ みな 「……うん」 ギュッ

美春 「……? 唯我成幸さん、その子たちは?」

成幸 「ああ、美春さん。どうも迷子みたいです。お母さんとはぐれてしまったみたいで……」

美春 「迷子さんですか。おやおや、それは困りましたね……」

377以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 23:54:28 ID:PQ1Q6G.6
成幸 「……すみません。あの、恋人役をやっている最中で、恐縮なのですが」

成幸 「この子たちを迷子センターに届けてもいいでしょうか」

美春 「当然です! 小さな子供の庇護は何をおいても優先されるべきです!」

美春 「お嬢さんたち、この桐須美春が来たからにはもう安心ですよ!」

かな&みな 「「………………」」

スススススッ……

成幸 「あっ……」 (俺の後に隠れてしまった……)

美春 「なっ……」 ガーーーーン

美春 「………………」

美春 「……では、行きましょうか、唯我成幸さん。お嬢さん方」 ズーーーン

成幸 (迷子に振られて少し暗くなってしまった。分かりやすい人だ……)

378以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 23:55:22 ID:PQ1Q6G.6
………………迷子センター

成幸 「放送もしてもらいましたし、じきにお母さんも来るでしょう」

成幸 「あとは係員さんに任せて大丈夫だと思います。すみません、お時間を取らせました」

成幸 「遊園地デートの続きに戻りましょう」

美春 「……いえ、まだ無理だと思いますよ」

成幸 「へ?」 ギュッギュッ 「あっ……」

かな&みな 「「………………」」 ジーーーーーーッ

成幸 (俺の服の裾を掴んで離しそうにない。目線は無言で何かを訴えている……)

成幸 「……あー、えっと、その、美春さん。大変申し上げにくいのですが……」

美春 「皆まで言う必要はありません。先ほども申し上げた通り、子供の庇護が最優先です」

美春 「唯我成幸さんがいた方がその子たちの精神が安定するのなら、一緒にいてあげてください」

成幸 「あ、何なら美春さんだけ遊園地を回っていていただいても……」

美春 「は? 私に一人で遊園地ではしゃぎ回る浮かれた成人女になれと?」 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

成幸 「……すみません。一緒にいていただけると、すごく頼もしいので一緒にいてください」

379以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 23:55:53 ID:PQ1Q6G.6
………………

美春 (……とは言ったものの)

かな 「おにいちゃん、まえにどこかであったことある?」

成幸 「え? ……んー、そういえば、見たことがあるような……」

みな 「かな、おにいちゃんなんぱしちゃだめよ」

かな 「なんぱじゃないよぉ。ほんとにどこかであったことあるのー」

美春 (ふたりとも随分と落ち着いて来たようですね。いいことではありますが……)

みな 「かな、むこうのおねえちゃんがしっとしちゃうわ」

美春 (……随分とませたことを言うものですね)

美春 (まぁ、私のことは少し怖いようですし、このまま少し離れたところにいれば……――)

かな 「……? あ、くまちゃん!」

美春 「……?」 (こっちを見て、一体何を……)

美春 (……ん、ひょっとして、昨日ゲームセンターで取ったこのぬいぐるみのストラップですか)

かな 「くまちゃん……」 キラキラキラ……!!!!

380以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 23:56:55 ID:PQ1Q6G.6
美春 「………………」

美春 『や、やぁ。ぼくはくまきち! こんにちは!』

成幸 「!?」

かな&みな 「「……!」」 パァアアアアアア……!!!

かな 「おねえちゃん、くまちゃんしゃべったよ!」

みな 「そうね、かな。かわいいわね」

美春 (口元に当てて喋っただけですが、想像以上に喜んでくれている……)

美春 (す、少し嬉しいですね……)

成幸 「………………」 クスッ (美春さん、嬉しそうだな。じゃあ……)

成幸 「ふたりとも、くまきちくんを呼んだら、きっとこっちに来てくれるよ?」

かな&みな 「「!!」」

かな 「くまきちー! おいでー!」

美春 「あっ……」

美春 『い、いま行くよー!』

トトトトト……

381以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 23:57:35 ID:PQ1Q6G.6
………………

成幸 『こ、こんにちは! わたしはくまこ!』

かな 「くまこちゃん! こんにちは!」

みな 「くまこちゃんはおんなのこなのね!」

成幸 (気づいたら成り行きで俺までごっこ遊びに巻き込まれていた……)

成幸 (でも懐かしいな。昔、よく水希、葉月、和樹にせがまれてごっこ遊びをしたなぁ)

みな 「くまこちゃんとくまきちくんはどんなかんけいなの?」 ワクワク

成幸 「えっ、関係……?」 (なんでこの子たちはこんなにませているんだろう……)

成幸 『えっと、わたしとくまきちくんは、仲良しのお友達よ』

美春 『そう、ぼくたちは仲良しのお友達!』

みな 「ほんとに〜? そんなこといって、ないしょでおつきあいしてたりしない?」

美春 「な、内緒でお付き合いって……」 (本当におませな子たちですね……)

かな 「ちゅーするかな。ちゅーするかな」 ワクワク

みな 「きっとするわよ、かな」 ワクワク

成幸 (本当におませだな!)

382以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 23:58:08 ID:PQ1Q6G.6
………………

かな 『くまこちゃん。ただいまー』

みな 『くまきちくん、おかえりなさい』

かな 『ただいまのちゅー……』

みな 『もうっ、くまきちくんったら……ちゅっ』

美春 (っ……私と唯我成幸さんの、おそろいのストラップが、キスを……///)

成幸 (気づけばストラップも取られてしまいましたね) コソッ

美春 (!?) ビクッ (そ、そうですね! でも楽しそうに遊んでいるようで何よりです) コソッ

成幸 (? 元気に遊んでる間にお母さんが来てくれるといいんですが……――)

「――かなー! みなー!」 バーーーン!!

かな 「! おかあさん!」

みな 「おかあさーん!」

ギュッギュッ

お母さん 「ふたりとも、遅くなってごめんね! 無事で良かった……!」

383以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 23:58:55 ID:PQ1Q6G.6
………………

お母さん 「本当に、なんとお礼を申し上げていいか……」

成幸 「気にしないでください。一緒に遊んでいただけですから」

かな 「おにいちゃん、おねえちゃん、ありがとー!」

みな 「くまきちくんとくまこちゃんも、ありがとね」

かな 「くまきち……くまこ……」

みな 「ほら、かな。おにいちゃんとおねえちゃんにかえしてあげないと」

かな 「うん……」

美春 「………………」

クスッ

美春 「くまきちもくまこも、ふたりと一緒に行きたいって言ってますよ」

かな 「へ……?」

美春 「だから、もしよければ連れて行ってあげてくれませんか?」

みな 「……いいの?」

美春 「はいっ! ふたりとも、かなちゃんとみなちゃんと遊ぶのが楽しかったみたいですから!」

384以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 23:59:44 ID:PQ1Q6G.6
………………

成幸 「ふー。やっと解放されましたね。ませた子たちでしたね」

美春 「………………」

成幸 「……美春さん? どうかしました?」

美春 「すみません、唯我成幸さん。あなたのストラップまであげてしまいました」

成幸 「へ?」

美春 「あれは、私があなたに差し上げたものなのに、勝手をしました。ごめんなさい」

成幸 「い、いやいや! 謝らないでください。あの子たち喜んでたじゃないですか」

成幸 「俺は気にしてないですから、大丈夫ですよ」

美春 「……はい」


―――― 『……お、おそろい、ですね』


美春 (……せっかく、おそろいだったのに)

美春 「……ん?」

美春 (“せっかく” ……?)

385以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:00:19 ID:ho235Jjg
美春 「………………」

ハッ

美春 (わ、私は、何を考えているのでしょう……/// こ、これではまるで……)

美春 (私が、唯我成幸さんとおそろいの物がなくなったことを残念がっているようではありませんか……///)

成幸 「………………」

成幸 「……あ、あの、美春さん」

美春 「!? ひ、ひゃい!? な、なんでしょうか、唯我成幸さん!」

成幸 「えっと……その、ストラップの代わりというわけではないのですが……」

成幸 「こ、これを……」

スッ

美春 「へ……? この遊園地の包装紙……? これは何ですか?」

成幸 「さっき買ったんです。あの……お気に召すか分からないですけど、開けてみてください」

美春 「は、はい……」

ガサゴソガサガサ……

美春 「あっ……」

386以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:00:56 ID:ho235Jjg
美春 「……ふぁぁあああああああああああああ!!」 パァアアアアアア……!!!


―――― 『このぬいぐるみ、昔飼ってた犬にそっくりでかわいくて……』


美春 「さ、さっきのペロ似のぬいぐるみ! なんで……?」

成幸 「さっきトイレに行くフリをして、こっそり買ってたんです」

美春 「そ、そうではなくて! どうして買ったのかを聞いているんです」

成幸 「いや、それは、だって……」


―――― 『いいんです。もう大学生なのだから、子どもっぽい趣味も大概にしないといけませんし』


成幸 「……美春さんに、あんな顔、してほしくなかったので」

美春 「へ……?」

カァアアアア……

美春 「は、はうっ……///」

美春 「……えっと、あの……その……」 ギュッ

美春 「あ、ありがとうございますっ! すごく嬉しいです……」

387以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:02:07 ID:ho235Jjg
成幸 「あっ……///」 カァアアアア…… 「そ、それなら良かったです」

美春 「……あ、あの、大切にします。大切に……///」

成幸 「は、はい……///」

美春 (……摩訶不思議。少し寂しい気持ちだったのがウソのようです)

美春 (今は、とても満ち足りた気持ちです……) ドキドキドキドキ……

成幸 「……? 美春さん?」

美春 (落ち着いているのに、胸は高鳴っている……)


―――― 『恋をすると、回りが見えなくなるの。相手しか見えなくなるの』

―――― 『それなのに、周囲すべてが輝いて見えるわ。もちろん、恋する相手もね』

―――― 『一緒にいると、ドキドキして落ち着かなくなる』

―――― 『でもそれと同時に、どこか落ち着く。ずっと一緒にいたいと思う』

―――― 『……そんな恋を、あなたに知ってもらいたいのよ』


美春 (……私は) ドキドキドキ

美春 (ああ、そうか。私は、この人のことを……) ドキドキドキドキ……

388以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:02:45 ID:ho235Jjg
成幸 (……? 美春さん、急にボーッとしちゃったけど、どうしたんだろ)

美春 「………………」

美春 「……何かをつかめた気がします」

成幸 「へ?」

美春 「感謝します、唯我成幸さん。そして、ごめんなさい」

美春 「この感覚を忘れないうちに、練習に戻りたいんです。なので……」

成幸 「………………」 ニコッ 「何か分かったんですね! すごいじゃないですか!」

成幸 「俺のことは気にせず、練習に戻ってください!」

美春 「あっ……ありがとうございます!」

美春 「すみません。勝手を言って、勝手に振り回して……ご迷惑をおかけしました」

美春 「結局勉強も見て差し上げられませんでした。本当にごめんなさい」

美春 「この埋め合わせは必ずします! それでは、また!」

トトトトト……

成幸 「あっ……」 グッ 「が、がんばってくださいねー! 応援してますからー!」

美春 「はいっ! がんばりますー!」

389以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:03:17 ID:ho235Jjg
………………スケートリンク

プロデューサー 「………………」

プロデューサー (……さて、美春ちゃんは今ごろ何をやっているかしらね)

プロデューサー (まじめなあの子のことだから、古今東西あらゆるラブストーリーを観ているかしら)

プロデューサー (それとも、本当の恋愛に挑戦していたりして……)

クスッ

プロデューサー (……なんて、まさかそんなことは……――)

――――バーーーーン!!

プロデューサー 「!? み、美春ちゃん!?」

美春 「………………」 ゼェゼェゼェ……

プロデューサー 「そ、そんなに息を切らしてどうしたの!? ゲネプロは三日後よ?」

美春 「わっ……わかり、そうなんです……」

プロデューサー 「へ……?」

美春 「わかり、かけているんです。恋心、というものが、きっと……」

390以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:04:19 ID:ho235Jjg
美春 「その人と一緒にいるとドキドキして、でもどこか心地よくて……」

カァアアアア……

美春 「だから……」 キッ 「私を練習に戻してください! 私が、この気持ちに慣れてしまう前に!」

プロデューサー 「………………」

美春 「………………」

プロデューサー 「……わかったわ。美春ちゃん。何かをつかめたようね」

プロデューサー 「練習に戻る事を許可します。早速着替えてらっしゃい」

美春 「は……はい!」 パァアアアアアア……!!!

トトトトト……

プロデューサー 「……驚いた。二日で随分と変わったものだわ」

ドキドキドキドキ……

プロデューサー 「この私がドキドキさせられてしまうなんて、相当ね……」

プロデューサー (……さすがだわ、桐須美春。まったく、将来有望ね)

プロデューサー (それにしても……) クスッ

プロデューサー (一体どこの素敵な殿方かしら。あの美春ちゃんに、あんな顔をさせるなんて)

391以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:05:00 ID:ho235Jjg
………………週末

成幸 「………………」

カリカリカリ……

成幸 「……ふぅ。少し休憩しようかな。だいぶ進んだし」


―――― 『へ……? こ、この広辞苑もビックリな分厚さの冊子が、デートプラン……?』


成幸 (……結局、あれから美春さんから連絡はない)

成幸 (きっと、俺とのデートで何かが掴めたんだろう。今も練習しているに違いない)

成幸 (それは純粋に嬉しいし、俺も役に立てたなら少し、誇らしい気持ちもある)

成幸 (でも、不思議だ。本当だったら今日もあの人とデートをしていたと思うと……)

クスッ

成幸 (……少し、寂しい、なんて思ってしまうのだから)

成幸 (まだ、冊子の半分も終わってなかったんだけどな……――)

――――ピンポーーン

成幸 「……? 誰だろ?」

392以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:05:33 ID:ho235Jjg
ガラッ……

美春 「あっ……」

成幸 「へ……? 美春さん?」

美春 「ど、どうも、唯我成幸さん。こんにちは」

成幸 「こんにちは。一体どうしたんですか? 俺の家、よく分かりましたね」

美春 「姉さまに教えてもらったんです。生徒の個人情報だからと渋られましたが……」

成幸 「あ、お茶でもいれますよ。どうぞ上がってください。今は家族も誰もいませんし」

美春 「!? い、いえ! すぐに練習に戻らないといけないので、結構です!」

美春 (とっ、殿方一人のお宅にお邪魔するなんて、さすがにできません!)

美春 「あの、今日はこれをお渡しするためだけに来たんです」

成幸 「……? 何です、これ? チケット?」

美春 「は、はい。明日、私が出演するアイスショーのチケットです」

美春 「も……もしよろしければですが! 観に来ていただけませんか……?」

成幸 「えっ……あっ、えっと……」

成幸 「……わ、わかりました。わりがとうございます。観に行きます。絶対」

393以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:06:08 ID:ho235Jjg
美春 「は、はい! ありがとうございます! 嬉しいです!」

成幸 「う、嬉しいって、そんな、大げさな……」

美春 「……いえ、嬉しいです。本当に」 クスッ 「正真正銘。本当の本当ですからね」

成幸 「は、はい……」

美春 「……すみません。関係者席のチケットがなくなってしまったので、一般席ですが」

成幸 「いえいえ! チケットがもらえるだけで嬉しいです!」

美春 「………………」

成幸 「………………」

美春 「……では、そろそろ、私は練習に戻ります」

成幸 「あ、はい! わざわざ来ていただいて、ありがとうございました」

美春 「いえいえ、お勉強の邪魔をしてしまいましたね。それでは、また」

成幸 「……は、はい。また……」

成幸 「………………」

成幸 「……あっ、あのっ」

美春 「……? 何でしょうか?」

394以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:06:43 ID:ho235Jjg
成幸 「……この前のデート、とても楽しかったです」

美春 「えっ……」 ドキッ

成幸 「だ、だから、その……」

カァアアアア……

成幸 「じ、自家撞着、です。まだあのデートプランの半分も終わってないですよ」


―――― 『では、これが今日から週末までのデートプランになります! 目を通しておいてくださいね!』


成幸 「み、美春さん的にも、一度自分が言った事を曲げるのは、納得いかないんじゃないですか?」

美春 「えっ……ええと……」 ドキドキドキドキ……

成幸 「だから、その……俺は、楽しかったので、もし美春さんさえよければ……」

成幸 「……また今度、あのデートの続きをしませんか? 俺の受験が終わった頃にでも」

美春 「ふぁっ……」 カァアアアア…… 「そっ、そそそ、そう、ですね……」

美春 「一度言った事を曲げるのは、やっぱり、だ、ダメですよね……」

成幸 「も、もちろんそのときは、ちゃんとバイトしてお金を貯めておきますから!」

美春 「………………」 クスッ 「……ふふ。なんですか、それ。そんなこと気にしていませんよ」

395以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:07:56 ID:ho235Jjg
美春 「………………」

成幸 「………………」

美春 「……では、そろそろ失礼しますね」

成幸 「はい。引き留めてしまってすみません。練習、がんばってくださいね」

成幸 「アイスショー、楽しみにしていますから!」

美春 「ありがとうございます。がんばりますっ!」


―――― 『その人と一緒にいるとドキドキして、でもどこか心地よくて……』

―――― 『私を練習に戻してください! 私が、この気持ちに慣れてしまう前に!』


美春 (プロデューサーにあんな啖呵を切ってしまいましたけど、杞憂でした……)

ドキドキドキドキドキドキドキドキ……

美春 (な、慣れるはずありません。ますますドキドキが大きくなった気がします……)


―――― 『……また今度、あのデートの続きをしませんか?』


美春 「っ……///」

396以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:08:35 ID:ho235Jjg
トコトコトコトコ……ピタッ

美春 「……うそ、ついてしまいました」


―――― 『あ、そうだ、姉さま。関係者席のチケット、もう一枚余っているのですが……』

―――― 『……すみません。関係者席のチケットがなくなってしまったので、一般席ですが』


美春 「………………」

ピラッ

美春 「……結局、余らせてしまいました、関係者席。これは、プロデューサーにお返しした方がいいですね」

美春 (……だって、仕方ないじゃないですか。関係者席のチケットを渡したら、彼は――唯我成幸さんは、)

美春 (きっと、姉さまと一緒にアイスショーを観ることになる。仲睦まじく。お似合いの様相で)

ズキッ

美春 (……私はなんて浅ましいのでしょう。それが耐えられないと思ってしまう)

美春 (悲しいって、辛いって、苦しいって……そう、思ってしまう)

美春 (この気持ちはなんでしょう。まさか本当に、恋というものなのでしょうか)

美春 (私は、唯我成幸さんのことを好きだと……そう、思ってしまっているのでしょうか)

397以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:09:32 ID:ho235Jjg
美春 「………………」

フルフルフル

美春 (夏炉冬扇。今は考えても詮無いことですね。本番に向けて、集中しなければ……)

美春 (私の気持ちがどうであれ、この気持ちが私の演技のプラスになるのなら)

美春 (それだって利用するだけです。私はスケーターなのですから)


―――― 『……美春さんに、あんな顔、してほしくなかったので』


美春 (……嬉しい気持ち)


―――― 『……また今度、あのデートの続きをしませんか?』


美春 (ドキドキする気持ち……)


―――― ((悲しいって、辛いって、苦しいって……そう、思ってしまう))


美春 (胸が張り裂けそうな気持ち)

美春 (その全部……全部全部、スケートのために使うだけです!)


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