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もこっち「モテないし、フィギュアスケーターになる」
35
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/03/29(火) 16:49:36 ID:sBrmwqUg
ヒエッ........
これは是非とも挫折せずにプロになって欲しい
いや1回は挫折したほうが良いけどした場合の家のアレが怖いわ
36
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/03/29(火) 19:15:56 ID:vskM4OCk
俺たちのもこっちがこんなにも輝いている!
37
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/03/30(水) 11:14:23 ID:Nf65UP1c
>>35
それだけお金をかけても元が取れない可能性の方が高いのは、恐ろしい話ですね。
黒木家では高校受験を控えた弟と家のローン、生活費もあるので…
もこっちはちゃんと一人前にはする予定です。
>>36
そう言っていただくと、嬉しい半面挫折させるのが恐ろしくなります。
フィギュアでプロ目指すには遅い年齢だし、完璧チートではないから、セーフか……?
その頃、智子は部屋で一人、パソコンの前に座っていた。
Google検索して知ったのは、自分が跳ばされたアクセルが、本当は一番難しいジャンプだということ。
そしてもう一つ。フィギュアスケートは、莫大な金のかかるスポーツだということ。
智子 「……言っちゃった……言っちゃったよ、私……」ギィッ
智子 「なんだよ、こんな金かかるって知ってたら……」
智子 (知ってたら……諦めたのかな、私)
智子 (…………)
智子 (……無理だよな、楽しすぎるし)ポフン
母 『何、のんきな事言ってるのよ!』
父 『お父さんが、悪いようにはしないから』
38
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/03/30(水) 11:14:56 ID:Nf65UP1c
階下ではまだ、西園寺と両親の話しあう声が聞こえてくる。足音がしない所を見ると、
弟も聞いているようだ。自分のワガママで一家を振り回しているようで、智子の上がっていた気持ちが
段々と下がってくる。
智子 (……アクセル、って一番ムズいのか……でも私、一応跳べるようにはなって来てるよな?
5回に1回しか跳べてないし、まだ回れないけど……)
智子 (ということは、私……やっぱり、才能あんのか?世界70億のモブの一人でしかなかったはずの私に、そんなものが?)
智子 (……やめよ。考えたら頭グルグルしてきた)
智子 (…………)スー、スー……
――翌朝――
チチチ…チュンチュン……
智子 「…………」ドヨーン
39
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/03/30(水) 11:16:02 ID:Nf65UP1c
智子 (あんまり寝れなかった……おかげでいつも以上に酷い顔になってる……
昨日汗かいたのに、風呂入んないで寝たから体クサいし)ズーン
智子 (歯磨いたらシャワー浴びよう……黒木菌なんてあだ名ついたら終わりだ)シャコシャコ
西園寺 「ふわあ……あー、よく寝た」ガチャッ
西園寺 「おはよう、智子。顔洗ったらランニング行ってみるか」
智子 「あ、はい……おはようございます……」
智子 「…………」シャコシャコ
智子 「って、ええ!?」ポロッ
西園寺 「いやー、ご両親と話しこんでたら遅くなってな。お母さんのご厚意につい甘えちまった」ハハハ
西園寺 「でもおかげで、お前の練習メニューが出来たぞ!」
智子 「と、いうことは……」グジュグジュ…ペッ
母 「あら智子、起きてたの?早いじゃない」ガチャッ
智子 「お母さん!」
母 「あらー、西園寺さんおはようございます〜、顔洗い用のタオルなかったでしょ?持ってきておきましたからね〜」ウフフ
40
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/03/30(水) 11:16:55 ID:Nf65UP1c
脳内母 (こんな時のために、新品のタオルストックしておいてよかったわ〜、
いつお泊りになっても大丈夫なように、着替えも用意しとかなくちゃ……)ヒヒヒ…
智子 (お母さん……やっぱりあんたは私のお母さんだ……)ゾワッ
智子 「って、なんで普通にしてんの!?昨日の話は…… 母「智子、そのことなんだけど」
母 「あんたの、好きにしなさい」
智子 「……えっ?」
母 「その代わり、途中でやめたら許さないわよ。やるからにはしっかり、金メダル目指しなさい。
お母さんもお父さんも、あんたのためなら何だってできるんだから」
脳内母 (そしたら西園寺さんともお付き合いできるし……何より娘がフィギュアスケーターだなんて、
お母さんも鼻が高いわ〜、智子が生まれた時、宝塚スターかアイドルにでもなってくれたらって思ったけど、
これはこれで……)ウヘヘ
智子 (何でだろう。お母さん見てると、みんなに自慢しようとか考えていた自分がアホらしく思える)マガオ
41
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/03/30(水) 11:17:25 ID:Nf65UP1c
――通学路にて――
西園寺 「まずは体力作りと、柔軟性を上げていこう」テクテク
智子 「は、はい……(なんでこの人ついて来てるんだ……ちゃっかり朝飯も食ってったし……
つーかこの人どこ住んでんだ?)」テクテク
西園寺 「ああ、俺の家はバスでちょっと行った先なんだよ」テクテク
智子 (こいつ直接脳内を……!?)ギクゥ
西園寺 「今度お前にも合鍵渡すから、何かあったら遠慮なく来いよ」テクテク
智子 (いきなりお宅訪問!?ダメだ、まだスポーツマンのたくましい肉体を満足させられるような女じゃない……
せめてあと5年、いや10年待ってくれたら今よりはマシなわがままボディに……)モヤモヤ
顔洗いが済んだ後、西園寺は自分も愛飲しているという酵素飲料を智子に飲ませた。
甘くスッキリした味わいのそれは、代謝を高めて、運動効率を上げてくれるという。
それが終わると、ジャージに着替えて、家の周りを30分のウォーキング。
ただしこの間、必ず守るべき2つのルールを西園寺は提示した。
いわく、「腹に力を入れて引っこめる」もうひとつは「中指に体重をかけて歩く」
42
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/03/30(水) 11:19:00 ID:Nf65UP1c
腹に力を入れると自然と背筋が伸びる。そして、中指に体重をかけると体が自然と前に引っぱられるようになる。
確かに、『親指に体重をかけて』歩くより、体が楽に動くような感覚があるので、
智子は半信半疑ながらもトレーニングを続けることにした。
西園寺 「……と、俺は駅に行くから、ここで一旦サヨナラだな。
じゃあ智子、1日学校がんばれよ。終わったらリンクに集合!昼飯はしっかり食べとけよ?」
智子 「は、はい……西園寺さん……」
西園寺 「……違うだろ?」デコピンッ
智子 「西園寺……コーチ」
西園寺 「おう、一緒に頑張ろうな。智子!」スッ
智子 (えっと……これって多分……)スッ
コツンッと合わせた拳の向こう、西園寺はニコッと笑って「ありがとな」と言った。
一昨日までの智子なら、『青春気取った脳筋バカの儀式』と一蹴していた行為は、
思いの外温かい、心に響くものだった。
――放課後、常葉アイススケートリンク――
時刻:午後16時55分
43
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/03/30(水) 11:26:08 ID:Nf65UP1c
西園寺 「おう智子、早いな」
智子 「コッ……コーチがっ、言ったんじゃ、ないですっ……か……」ゼーハーゼーハー
西園寺 「ん?何のことだ?」
とぼける西園寺に、智子はスマホの画面をズイッと見せる。
そこには、『17時までに来るべし コーチより』と簡潔な文面のメール。
西園寺 「いやあ、悪い悪い。1分でも無駄にしたくないと思ったらつい」ハハハ
智子 (やっぱり暗黒微笑系だこいつっ……HR終わって猛ダッシュしてもギリギリだったぞ!
ロッカーで着替える時間、正味1分しかなかったし!)
西園寺 「よし、じゃあ早速始めるか。その前に……練習する上で、当面の目標を決めよう」
智子 「目標……オリンピックじゃなくて……?」
西園寺 「それは最終目標だろ?まずは目の前の壁を1つずつ乗り越えていかないとな。
じゃあここで問題!」ババン!
智子 「えっ、また!?」(フリップ持ってるパントマイムとか、芸が細かいな!)
44
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/03/30(水) 11:26:40 ID:Nf65UP1c
西園寺 「フィギュアスケートには4つのクラスがあります。その中で、今の智子はどれに属するでしょうか!
①ノービスB
②シニア
③ジュニア
④どれでもない さあどれ?」チッチッチッ…
智子 「えーと……④?」
西園寺 「正解!」ピンポーン
智子 (また当たった!)
西園寺 「フィギュアスケートは、下から順番にノービス→ジュニア→シニアのクラスに分けられて、
自分が属するクラスのライバルと競い合うんだ。クラスは年齢と、これから説明するバッジテストの
取得級によって決まる」
智子 (バッジテスト……昨日言ってた例のあれか。直接聞いたほうが分かりやすいと思ってググんなかったんだよな)
45
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/03/30(水) 11:29:42 ID:Nf65UP1c
西園寺 「まず一番下のノービスBが、小学校3年から4年で、バッジテスト3級以上。
その上のノービスAが、小学校5年から6年で、4級以上。
ジュニアは中学から高校までで、6級以上。ここから、世界選手権やGPシリーズが開催される。
最後がシニア。これがテレビで一般的に見れるフィギュアスケートの世界だ。
シニアに上がる条件は、15歳以上で、なおかつバッジテスト7級以上」
智子 「(JubeatのStep機能みたいなもんか……)じゃあ……私の目標って、シニア?」
西園寺 「いや、それは無理だ」スバッ
西園寺 「まず、お前は15歳という、フィギュアでプロを目指すには遅すぎる年齢だ。他の選手が10年かけてじっくりやるところを、
お前は体を壊さないようじっくり、なおかつ最短距離で行かなきゃならない」
智子 「うっ……」ナルホド
西園寺 「つまり、お前の目標はその下のジュニアクラス。まずはここで試合慣れして、経験を積もう」
智子 「ジュニア、って18歳までなんですよね……」
46
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/03/30(水) 11:41:52 ID:Nf65UP1c
西園寺 「ああ。だが、試合に出るなら、今年中に3級ぐらいまではとっておかないとな。
バッジテストは初級から8級まで。だが、シニアになるなら7級までで十分だ。
テスト内容はステップからジャンプ、スピンからシークエンスまで、フィギュアの総合的な技能を見る」
智子 「もし、落ちたら……」
西園寺 「再試験まで数週間、時間を空けるのがルールだ。つまり、一度落ちたらその分時間がなくなる。
だが、このバッジテストは1回までやり直しが許されるんだ。もちろんすんなり成功するに越したことはないが、
それを知ってれば楽になるだろ?それに、お前なら初級は楽々受かる」
智子 「?」
西園寺 「バッジテストの初級は、昨日やったコンパルソリーなんだ」
智子 「マジですか!(やっぱ余裕じゃねーか!こりゃあっという間にマスt「おーっと、そうは問屋がおろさないぞ」
西園寺はチッチッチッ、と指を左右に振る。
西園寺 「いいか、自信を持つのはいいが、自分を過信するのはやめろ。理想と現実に差をつけると、つまずいた時に立ち直れないぞ」
智子 「うぐっ……」グサッ
西園寺 「お前はバランス感覚がずば抜けてるから、ステップは問題なくクリアできるというだけの話なんだ。
大体、忘れてないか?一番下のノービスBで3級なんだぞ。初級は、小学校低学年の子でも取れる子がいるんだ」
47
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/03/30(水) 11:42:49 ID:Nf65UP1c
智子 「し、消防レベル……」ズーン
西園寺 「まあ、小1で初級合格するような子たちは、幼稚園の頃からやってるからな。スタート地点が違うだけだ。
焦らずゆっくり、一級ずつ上に行けばいい。こっから先はウォーミングアップも兼ねて、滑りながら話すか」
智子 「は、はい……」ガッ
シャーーーッ…シャーー…
西園寺 「問題はこっから上だ。ジャンプとコンビネーション、さらにスピンといった要素が入ってくる。
しかも級が上がるごとに難しくなるから、死ぬ気で覚えないとな」シャーー
智子 「あ、あの……コーチ……」シャーー
西園寺 「ん、なんだ?」
智子 「練習時間、って……どんぐらい、なんですか……」オソルオソル
西園寺 「基本的には週6日。月曜から土曜まで。
明日から放課後はみっちり3時間、さらに朝練2時間の、合計5時間を予定してる」シャー
智子 「……えっ?……」タラー
智子 (嘘だろ、5時間!?えっ、朝練あるってことは、朝5時ぐらいからずっと練習?
いつゲームすんだよ、自由時間ほぼ0じゃねーか!)ブルブル
48
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/03/30(水) 11:44:54 ID:Nf65UP1c
智子 「こ、コーチ……やっぱり、その……」
西園寺 「ん?」クルッ
智子 (いっ、いい笑顔だ!まずい、本能が告げている、神は言っている、ここで死ぬ運命だと!)
智子 「そ、その……がんばります……」ニヘー
西園寺 (……怖がらせてるつもりはないんだがな?……智子は褒めて伸ばす方がいいか)
西園寺 「……ゲームは、昼休みにやればいい」
智子 「へっ、な、何で私がゲーム好きだって……」
西園寺 「カバンのチャック開いてたから、PSP丸見えだったぞ。……なあ、智子。いいとこ取りすればいいじゃないか。
お前はフィギュアもやりたいし、ゲームもやりたい。なら、上手いことスキマ時間見つけて、どっちも
フルに楽しめばいい」シャーー
智子 「…………」
西園寺 「初級のバッジテストは俺の方で申しこんどく。今からだったら、最短で2週間後だ。
その間に、簡単なジャンプやスピンから練習して、出来ることを増やしていこう」
智子 「はい……」
49
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/03/30(水) 11:46:39 ID:Nf65UP1c
なるべくサクサク進めたいのに、
フィギュアのルールが細かいので、解説入れるの大変(´・ω・`)
チートじゃないからサッと上達してくれないし…
一旦投下切ります。
50
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/03/31(木) 13:25:50 ID:4ZfdIFIE
わたモテssだ
嬉しい
51
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/03/31(木) 19:52:12 ID:J0J9da3c
>>50
ありがとー。
アイレボでSSは見たことない…もしかしてこのSSが初なんだろうか。
西園寺は、得意な分野から伸ばして自信とやる気を引き出すタイプの指導者だった。
なのでその日は、智子の得意なコンパルソリーから、リンクを大きく使ったステップを教えた。
西園寺 「よし、じゃあ今日はここまで!……明日からジャンプの練習が始まるから、
今日はしっかり飯食って、ぐっすり寝て、体力を回復させておけ」
智子 「は、はひ……」グッタリ
よろよろとリンクを出てロッカーへ向かう智子を見送って、西園寺はため息をついた。
智子は体力がないのと地道なスポーツが初めてなせいで、やる気にムラがありすぎる。
西園寺 (……こういうのは、無理に引き出しても意味がないからな……本人が自信をつけて
練習に臨むのが一番なんだが)ウーン
西園寺 (こういうのは、自然に任せるしかないか)
52
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/03/31(木) 19:52:50 ID:J0J9da3c
その日の午後21時……遅い夕食を終えて自室に上がった智子は、
ベッドの上でスマホを耳に当てていた。
プルルル…プルルル…
智子 (……ゆうちゃん、いるかな……)ソワソワ
特に何か話したいというわけじゃない。ただ、今は無性に優の声が聞きたい気分だった。
プルルル…プッ、
優 『もしもし、もこっち?』
智子 「ゆうちゃん!……今、いい?」
優 『えっと、ちょっと待ってね。今パジャマ着ちゃうから』
智子 「えっ、お風呂あがりだったの!?
(全裸……ということはまさか、彼氏としっぽりお泊りってわけか。
クソ、こっちが死ぬ気で練習してる間にビッチはズコバコ……中絶不可能な週になってから妊娠に気づけ!
高校中退して劣性遺伝子のクソガキ抱えてソープ嬢にでもなっちまえ!)
53
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/03/31(木) 19:54:28 ID:J0J9da3c
優 『……もこっち?どうしたの?』
智子 「ハッ!?え、いやっ、ごめん!ちょっと疲れてて……」アハハ…
優 『……もしかして、何かあった?』
智子 「へっ…なんで?」
優 『だって、もこっちが夜に電話してくる時って、必ず何かあった時だもん。……大丈夫?私でよければ聞くよ?』
智子 「……うん……」
智子 (ああ、何で私ってこうなんだ……優ちゃんはいつも純粋に心配してくれるのに、私はこんな酷い事考えて……)
智子 「あ、あのね……」
優 『うん』
智子 「私……フィギュアスケート、始めたんだ……」
優 『えっ、それって、あの……氷の上でくるくるーってやる?』
智子 「うん、それ……」
優 『すごいね、じゃあ、もこっちもテレビで見れるんだ……!』パァァ
智子 「い、いや……それはまだ、かなり先というか……地道にやんなきゃ、ダメらしい……んだけど……」
智子 (……やっぱ優ちゃんは天使だ……)
54
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/03/31(木) 19:55:46 ID:J0J9da3c
優 『心配いらないよー、もこっちは頭もいいし、地道にコツコツって、もこっちはそういうの得意じゃない』
智子 「そ、そう?」
優 『得意じゃなかったら、あんなに頭いい高校行けないよ。私なんかいっつも一夜漬けしちゃう方だったし』アハハ
智子 「……練習、いっぱいあるんだ……その、毎日5時間ぐらい……」
優 『5時間!?うわー、うちの高校の野球部より長いね……』
智子 「すごいお金もかかるから……頑張ろうって……頑張らなきゃ、って思うんだけど……なんか、どうしても……怖くて」
優 『大丈夫だよ。もこっちは絶対に、大丈夫』
智子 「優ちゃん……なんで、優ちゃんはそんなに私の事『だって』
優 『友達だもん』
智子 (そっか……私が優ちゃんで酷い事考えるのって、
優ちゃん見てると、自分のダメさを思い知らされるみたいだからなんだ……フィギュアやってるって言って、
ちょっと優越感に浸りたいとか思ってたし)
智子 (多分、こういうとこ優ちゃんには微妙にバレてるかもしれない。私意外と中身ダダ漏れだし。
それでも、変わらないで接してくれんだよな……私はメスブタとか言いながらも友達としてキープしてるのに……)
55
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/03/31(木) 19:56:58 ID:J0J9da3c
智子 「……ありがとう」
優 『んーん、どういたしまして。あはは』
智子 「だから、これからはあんまり遊べないというか……」
優 『そっか……寂しくなるね……あ、でもっ、その分いっぱい電話してね、メールも!』
智子 「ん、分かった」
優 『約束だよ!あ、あと試合とか出る時は言ってね、私絶対応援しに行くから!』
智子 「その日デートでも?」
優 『デートなんて行ってらんないよ!もこっちの晴れ姿のほうが大事でしょ!』プンスカ
智子 「それでいいの、優ちゃん……?」(ドンマイ、優ちゃん's彼氏)
その時、階下から呼ぶ声がした。
母 「智子―!明日も早いんでしょ、お風呂入っちゃいなさーい」
智子 「はーい!……じゃあ、私そろそろ……」
優 『ん……おやすみ、もこっち。またね』
プー、プー、プー…
智子 「…………」
56
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/03/31(木) 19:57:43 ID:J0J9da3c
智子 「…………」
智子 (優ちゃんが応援してくれるんだもんな……いいとこ、見せたいな……)
西園寺 『自分に自信を持つのはいいが、自分を過信するのはやめろ』
智子 (……そうだ。まずは初級からコツコツ上がってこう。そうすれば、いつか……)
智子 (いつか……優ちゃんに心から感謝できる日が来るんだろうか……)
――翌日――
西園寺 「おっ、もう準備できてたのか」
西園寺 (……昨日はどうなるかと思ったが、上手く立ち直ったみたいだな)
智子 「よっ…よろしく、お願いします!」ペコッ
智子 (うぅ、この体育系のノリ、ついていきづらい……)
西園寺 「よし、じゃあ今日はジャンプを一通り練習してこう。まずは1級の必須要素、スリージャンプから練習してみよう」
智子 「……それって、難しいんですか……」
西園寺 「いや?これさえマスターすれば全部のジャンプの基礎は完成するといえる、簡単なやつだ。
まずはお手本見せるから、続けてやってm???「コーチーーッ!智子ー!!」西園寺「うおっ!?」ツルッ
57
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/03/31(木) 19:58:18 ID:J0J9da3c
西園寺 「いてて……」スリスリ
真崎 「智子ー!会いたかったぜ―!」ムギュウ
智子 「ま、ましゃきさ……くるしっ……」ゴボゴボ
真崎 「うわ、ごめん!ついやっちまった!」パッ
真崎 「それよりコーチ!なんで智子が正式に訓練生になったって教えてくんねえんだよ!」
西園寺 「お前が邪魔しに来るだろうが!初心者ってのは段階踏んで行かないと上達しないんだよ!」
真崎 「うぐっ……」
西園寺 「お前はそりゃ、体で覚えるタイプだからいいだろうけどな……まあいい、邪魔しないんだったら」
真崎 「サンキュー、コーチ!」パァァ
西園寺 (……あれ、俺もしかしてこいつに誘導された?)
真崎 「そんじゃ早速、一緒に滑ろうぜ智子!えーと、何やんだ今日?」
智子 「あっ、あの……スリージャンプ……とかいう……」
真崎 「何だそれ」
西園寺 (そうか。真崎は運動神経が鬼だったから、基礎練とか全部すっ飛ばして教えたんだった)アチャー
58
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/03/31(木) 19:59:09 ID:J0J9da3c
西園寺 「基礎練習に必要なジャンプだ。……いいか智子、俺だけを見てろよ!」(真崎なんか参考にさせたらヤバい!)
智子 (えっ、今俺だけを見てろって……まさかこいつ、コーチの立場を利用してロッカールームで夜の延長レッスンする気か!?
2人の秘密のアイスダンスはエキシビジョンに突入ってか!)モンモン
シャーーッッ……シャーーッ 西園寺「やり方は簡単だ。まずは、右足を後ろから前に振り上げる」ブンッ
クルッ 西園寺「そのまま空中で1/2回転して、右足から下りる」ジャーッ
真崎 「要するに、アクセルの基礎みたいなもんか?」
西園寺「まあ、そういうことだ。これが飛べれば、アクセルを練習する下地にもなるな」ウンウン
西園寺「というわけで、行ってみようか智子」
智子 「は、はひ……」(いきなり尻もちついたらどうしよう、このクソ簡単なジャンプで失敗したら……)ガクガク
モヤモヤ…
西園寺『ハア……期待外れだな……』
真崎 『もうちょっと頑張れると思ったんだけどなー』
モヤモヤ…
智子 (あああああああ!!)
智子 「…………」シャーー------ッッ!!(猛スピードand頭真っ白)
59
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/03/31(木) 20:00:09 ID:J0J9da3c
西園寺(……メンタル面のケアも必要だな)
智子 (右足を振り上げて)ブンッ
智子 (空中で半回転して、下りる!)クルッ
智子 「で、できたーっ!」ザシャーーッ
真崎 「いいぞ、智子ー!」パチパチパチ
西園寺(智子のバランス感覚は天性のものだが……この調子だと、アクセルもわりとすぐにマスターできそうだな。
問題は体力か……朝のウォーキングを、時期を見てジョギングに変えていこう)
西園寺「よし、じゃあ次トゥループ行ってみるか!」
智子 「はい!」
西園寺「こいつは6種類のジャンプで一番簡単なやつだ、今日中にマスターするぞ!」
智子 「ひえ!?お、お手柔らかに、お願いします……!」
真崎 「お前もだいぶコーチに慣れてきたな〜」
60
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/03/31(木) 20:07:25 ID:J0J9da3c
その後2週間、みっちり練習した成果でトゥループと、2番目に簡単なサルコウジャンプはなんとか形になった。
といっても軸はぶれている上、まだ一回転半くらいしかできない。
西園寺によると、この2つにアップライトスピンを加えたのが、1級の必須要素だという。
智子 (スピンの練習は初級を受けてからか……私胃腸弱いのに大丈夫なのか?あんなグルグル……
うっ、やばい。想像したら胃液が)
つま先で氷を蹴る→跳ぶ→着氷するという一連の流れは、真崎が手でリズムを取ってくれたので、
それに合わせて体を動かすことで覚えた。
西園寺「いいか智子、6種類のジャンプは、つまるところ2つのパターンに分かれる。
トゥで氷を蹴って跳ぶか、エッジで踏み切ってそのまま跳ぶか、その違いで覚えるんだ」
真崎 「ちなみに、トゥで跳ぶのがトゥループ、フリップ、ルッツ。
エッジで跳ぶのがサルコウ、ループ、アクセルな。ちょうど3:3だから分かりやすいだろ?」
西園寺「お前は見たところ、リズム感がかなりいい。ジャンプは流れが一番大事だからな」
智子 (音ゲーで鍛えたのが、まさかこんな役に立つとは……)
61
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/03/31(木) 20:08:05 ID:J0J9da3c
西園寺「ああ、ダメだ智子!力まかせに跳ぶな、サルコウはフリーレッグの遠心力を利用して、その勢いで跳ぶんだ!」
智子 「フッ、フリーレッグって、何……」シャーーッ
西園寺「踏み切らない方の足だ!……要するに、右足のことだ!」
智子 「だったら最初っからそう言えっ…いたっ!」ツルッ、ザシャーーッ
真崎 「あはは、智子のやつ、素が出てんぞ」
そして迎えた6月20日、バッジテスト初級試験日――。
母 「はい智子、お弁当」サッ
智子 「!?あの、お母さん……なんでお弁当が5段もあるの……まさか、これコーチの分も?」
母 「当たり前じゃない!あんたは下2段、西園寺さんは上3段。真ん中の1個だけ色違うのには、デザートが入ってるわよ。
あ、あと水筒も持って来なさい!中にお味噌汁入ってるから」
智子 「あ、ありがとう……(BBA張り切りすぎだろ……まあコーチは私生活も男子シングルだからな、
たまにはこうやって夢見せてやるか)」ズシッ
母 「間違ってもテスト前に食べちゃダメよ、お腹いっぱいになったら力が出ないから」
智子はその後も「トイレはちゃんと済ませて」だの「ハンカチ持った?」だの言ってくる
母を無視して、何気なくテーブルに目を向けた。
62
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/03/31(木) 20:17:39 ID:J0J9da3c
母 「あああそれダメ!!」サッ
智子 「……お母さん、その背中に隠した本、何?」
母 「なっ、ななななんでもないわよ、いいから早く行きなさい」ブンブンブン
智子 (……表紙チラッと見えてるし)
智子 ("メジャーリーガーを作ったレシピ100"……?)
なんということでしょう。
健康雑誌やダイエット本で埋まっていたはずの、黒木家のリビングの本棚が。
プロスポーツ選手のレシピや、国立スポーツ科学センター発行の料理本で埋め尽くされているではありませんか。
まったく隠すつもりのない親心に、智子さんも思わず……
智子 (って、なんだよこのナレーション!ウルッと来たのは認めるけど!)
智子 「……お母さん」
母 「なっ、なあに?」
智子 「ありがと……絶対、受かるね」タタッ
ガチャッ…パタン…
母 「……さて、早速初級合格祝いのご馳走作らなきゃ」
63
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/03/31(木) 20:41:32 ID:J0J9da3c
今日はここまで。
明日はいよいよ初級バッジテストです。
64
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/01(金) 13:53:05 ID:tQpyzzGc
遅れたけど乙。
65
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/01(金) 22:41:34 ID:xWjBX3KE
マダー?
66
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/02(土) 09:17:02 ID:PMKCAyn.
すいません、作者都合により、投下は今日になります。女子SPヨカッタナー
67
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/02(土) 10:46:01 ID:AxPrKRCg
バッジテスト初級の会場は、いつもどおり常葉アイススケートリンクだった。
西園寺曰く、「ここらへんで大きいリンクはウチしかないからな」とのこと。
ただし、級が上がると別の地域で受ける場合も多いという。
智子 (見事にガキばっかじゃねえか…うわ、あそこのケバいババアも受けんのか。コーチは"初級は趣味でやる人への入門編だ"って
言ってたけど…趣味ならソロプレイしてりゃいいだろが、ババアのフィギュアとかどこに需要があんだよ)
西園寺「お前の滑りは美しいからな。きっと満点だぞ」
やがて、日本スケート連盟の審査員が全員を並ばせ、番号を振り分けた。智子の滑走順は真ん中あたりだったので、
ゆっくりと他の受験者が滑るのを眺める。小学校低学年くらいの子供が大半を占めるのもあって、その動きはたいていぎこちない。
68
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/02(土) 10:47:41 ID:AxPrKRCg
西園寺「よしよし、うちの智子が一番だ」ニコニコ
智子 (……意外と皆、ガタガタした滑りしてんだな……あのババアなんて尻もちついてんじゃねえか)
審査員「次、15番。常葉アイススケートリンク.黒木智子さん」
智子 「はっ、はい!(やばい、声裏返った!)」
西園寺「大丈夫だ。落ち着いていけ」ポンポン
耳元で囁かれた声に、すっと背筋が伸びる。智子は審査員の前に滑り出て、ピタッと止まった。
審査員A「……書類によると、まだ2週間の初心者だとか」
審査員B「見た感じ、姿勢はしっかりしてるな」
智子 (最初は、ハーフサークル……)ザッ
審査員A(軸がぶれていないのは、すごいな……バレエ経験者ならよくある事だが……)カキカキ
智子 (エッジを前に出して、体を外側に倒す……ちゃんとできてんのか?……まずい、氷見る余裕が無い……!)シャーーッ、クルッ
69
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/02(土) 10:48:38 ID:AxPrKRCg
初級の試験は、コンパルソリーとステップがメインである。
エッジを内側、外側と倒し、時には後ろ向きに滑りながら、半円を描く。それが終わると、音楽に合わせたステップを見られる。
〜〜〜♫♪
智子 (うわっ、音楽始まってる!てことは……ええと、前向きに氷を蹴って、膝を曲げて、足をクロス……)シャーー
審査員A(……初心者の焦りが出てるな。滑りは美しく、姿勢もいいが……音楽のテンポと微妙にずれている)カキカキ
智子 (えーと、次は……あっ、スパイラル!)バッ
西園寺(よし、順調だぞ!)グッ
智子はまだ、180度の開脚が出来ない。エッジテスト初級の必須要素であるスパイラルをクリアするため、
西園寺が教えたのは、フリーレッグを腰より高く上げる『ファン』と足を後方に伸ばして上体を倒す『アラベスク』だった。
智子 (うっ、腰が…ていうか、背骨がっ…背骨が痛い!)シャーー…グキッ、ゴキッ
審査員A(……体が硬いのは残念だが、スパイラルの姿勢はできている。減点対象になるほどではないか)カキカキ
審査員A「はい、ありがとうございました」
智子 「うう……」ヨロヨロ
西園寺「よかったぞ、智子。後は結果を待つだけだな」
70
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/02(土) 10:49:28 ID:AxPrKRCg
全員の滑走が終わると、赤い手帳が配られた。上の級を受けるときには必ず持参するように、と審査員が叫んでいる。
智子も名前を呼ばれて、『日本スケート連盟』と金文字が刻まれた赤い手帳をもらう。
智子 (……ぬか喜びするな、多分もうすぐ"すいません、間違いでした"って手帳取り上げられて)オソルオソル…パカッ
智子 「……!!」
西園寺「お、合格だ!しかもここ見てみろ、"ぶれがなく、美しいステップです。いいものを見せてもらいました"だと……」
智子 「ご、ごうかく……?」ポロッ
西園寺「お、おい智子、どうした!泣いてるのか!?」オロオロ
この日、智子は大きな一歩を踏み出した。
しかし、まだまだ先は長い!一人前のスケーターになるまでは、超えなければならない壁がある。
テスト翌日の朝。最高のモチベーションで練習に突入した智子に、最初の壁が立ちふさがった!
智子 「げえっ、うぶ……お゛、ごっ……」
真崎 「……おーい智子、大丈夫か……?」コンコン
71
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/02(土) 10:50:18 ID:AxPrKRCg
智子 「だっ、だいじyうごぉぼろろろろろ」ビチャビチャ
真崎 「……あたし、酔い止めの薬持ってるけど……後で試してみるか?」
智子 「あ、ありがとッ……ぜ、ございまっ、ひゅ……」ピチャッ
胃腸というのは、一朝一夕には強くならない。少しの緊張や自分の顔を直視しただけで吐くほど繊細な智子の胃腸は、
5回スピンを回っただけで食べ物を逆流させ、神聖なリンクの氷を吐瀉物で汚す。
しかし西園寺は嫌な顔ひとつせず「ゆっくりやってこう」と智子の体調を気遣い、片付け始めた。
智子 (その優しさが辛い……くそ、どうせ腹ン中じゃ笑ってんだろ、胃腸の中身なんて皆あんなもんだ!)フラフラ
西園寺「……悪かった、智子」
智子 (あ、リンク綺麗になってる……)ショボン
西園寺「プロのフィギュアスケーターでも、ジャンプやスピンで目が回ることはあるんだ。
これはもう仕方ない、慣れで克服するしかない部分もある。だが、いちいち吐いてちゃお前が辛いだろ?
今からコツを教えてやるから、ちゃんと覚えろよ」ナデナデ
智子 ("練習にならない"とか言わないのか……やっぱ、優しいなこの人……)
72
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/02(土) 10:51:07 ID:AxPrKRCg
西園寺「智子、あそこの時計見えるか?」スッ
智子 「あ、はい」
西園寺が指さしたのは、観客席の一番上、後ろの柱にかかっている、セイコー社の壁掛け時計だった。
西園寺「あれから目を離さないようにして、もう一回やってみろ」
智子 「はい……(うっ、あの感覚思い出したらまた吐き気が)」シャーーッ…ザッ、クルクルクル…
智子 「おっ!?」
智子 (なんだ、さっきより全然楽になったぞ!)クルクル…ピタッ
西園寺「どうだ、楽になったろ?体のふらつきもほとんどないはずだ」
西園寺「これは"スポッティング"といってな、回転の多いバレエダンサーが使う、酔い止めの方法なんだ。
最初に、目印になるものを探して、そこから目を離さないように回り続ける。
フィギュアの場合は、ジャンプやスピンが途切れなく続くから、あまり有効な方法じゃないんだが……」
西園寺「何百回、何千回と回るうちに、三半規管が慣れて、目が回りづらくなっていく。
それまではこの"スポッティング"を使って練習しろ。このリンクの場合は、あの時計を使うといい」
73
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/02(土) 10:51:57 ID:AxPrKRCg
智子 「はい……」
西園寺「声が小さいぞ!」
智子 「はい!(前言撤回、やっぱ鬼だ!)」ピーン
その後の2ヶ月間、智子は1日の大半を氷の上で過ごした。食べて、寝て、練習して、また食べて、寝ての繰り返し。
気がつくとパソコンはホコリをかぶった状態で放置され、ゲーム機もベッドの上に放り出されたまま沈黙していた。
そんなある日――。
智子 (……あれ?今日って何月何日?)ガバッ
6月にしては蒸し暑く、パジャマが汗でべったりと皮膚にはりついている。
智子はベッドから抜け出て、スマホの電源を入れた。
智子 「えっ、8月20日……嘘だろ、もう夏休み!?いつ終業式あったんだよ!」
そこで、机の上に置かれた赤い受験者手帳が目に入る。寝ぼけた頭も、段々と昨日までの記憶を思い出してきた。
74
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/02(土) 10:52:38 ID:AxPrKRCg
智子 (そうだ、学校ない夏休みの間に3級合格を目指そうってコーチが言って……毎日死ぬ気で練習して……
で、一昨日2級に受かったんだった……)
智子はハアーッと溜息をついて、再びベッドにぼふんっとダイブした。
智子 「あ、そういや今日……日曜だから練習休みか」
智子 「…………」
智子 「落ち着かねえよ!」ガバッ
リビングへ下りると、「ふんふーん♪」と上機嫌で料理している母がいた。
母 「あら智子、おはよう」キラキラ
智子 「……おはよ。バ……智貴は?」
母 「あら、聞いてないの?サッカー部の練習試合で朝のうちに出てったわよ。たしか埼玉だって」
智子 「……あいつも大変だな……」
母 「そりゃ、あの子推薦狙ってるからね……智子、ご飯まだでしょ?そうめん作ったけど食べる?」
智子 「……食べる」
75
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/02(土) 10:54:01 ID:AxPrKRCg
母が準備している間、リビングを見回す。壁にかけられた額の中、日を浴びて燦然と輝く2つのバッジ。
初級に合格した証の赤、1級のオレンジ、一ヶ月もすれば、2級のバッジも隣に加わるのだろう。
智子 (お母さん、浮かれてんな……初級に合格した夜にはもうあったもんな、この額。
チェストの上もいつの間にか、トロフィー置きやすいように整理されてるし……)
智子 (智貴は色々賞状とか貰ってたけど……まさか、私がこんなもの貰えるようになるとは……
ま、あのバカ弟には一生縁なしのバッジだけどな、希少度なら私の方が上だから、
せいぜい作文コンクールだの地区大会だので浮かれてろ)ウヘヘ
智子 (……はっ!久々に優越スイッチが……)
母 「はい、どうぞ」コトッ
智子 「うわっ!すごい具沢山……」
母 「鶏ササミは筋肉にいいのよ?あとはビタミンたっぷりのかいわれ大根と……」
智子 「いただきます」ズズーッ
母 「…………」シューン
76
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/02(土) 10:54:33 ID:AxPrKRCg
智子 「……美味しい」
母 「でしょ?お母さん、智子がフィギュア始めてから色々レシピ見て研究してるの」
智子 (レシピ本が付箋だらけだ……すごいな、お母さん)
母 「でも、よかった……」ガタッ
智子 「?」
母 「智子、フィギュア始めてからどんどんよくなってる。気づいてない?」ホオヅエ
智子 「よくなってる……って?」
母 「練習があるから早寝早起きになったし、部屋に引きこもってないし、前みたいに変なゲームと会話してないし」
智子 (気づいてたのかよ!)
母 「何より、ちゃんと話せるようになってくれたのが、昔に戻ったみたいで嬉しいの。
智子……小学生の時は自分の思ってることとか、すらすら話してくれたけど……
中学からは本当、何考えてるのか分かんなくて、お母さんもお父さんも不安だったから」
智子 「……智貴も?」
母 「もちろんよ、あの子昔は作文に書くほどあんたのこと大好きだったじゃない」
智子 「……そうだっけ」
77
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/02(土) 10:57:00 ID:AxPrKRCg
智子 (そういや、いつの間にかクマも消えてたな……)ブーン
智子 「あれ、コーチからだ」
母 「西園寺さんから!?何何、ちょっと見せて!」グイッ
智子 「おい、私のスマホ……おっ?」
母智 「「"大事な話を忘れてた、悪いがすぐ来てくれ、西園寺"……?」」
――15分後、常葉アイススケートリンク――
西園寺「本当にすまん。夏休み始まった時に言うつもりだったのが、すっかり忘れてた」ズーン
西園寺「実はな、うちのリンクでアイスショーが開かれるんだ。一番下のノービスBの子たちから、
シニアまで、超豪華なメンバーが揃い踏みだ。お前も2級まで合格したことだし、
観客の前で滑るというのに慣れておいたほうがいいと思ってたんだが……」
智子 「へ、へえ……それ、すごいですね……(なんか嫌な予感がする)」
78
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/02(土) 10:57:39 ID:AxPrKRCg
西園寺「実を言うと、もうポスターとかHPでお前が出るのは宣伝してあるんだ……
やってるうちについ悪ノリしちまってな……"スケート歴2ヶ月の天才美少女、現る!"ってキャッチコピーつけて……
うちのリンクも経営厳しいから、こうやって少しでも客を呼ばないと……」
智子 「あの、コーチ……それ、いつなんですか……?」
西園寺「……」タラー
智子 「コーチ!」
西園寺「明後日、22日だ」
智子 「……」
西園寺「とりあえず、今日中に曲とプログラムを決めて、明日までに振り付けを覚えて……」
智子 「できるかーーーっ!!」
とはいえ、もう出演が決まっているのは仕方がない。
休日を犠牲にして駆けつけてくれた真崎は、「あたしのお古でよければ、衣装貸すぜ!」と頼もしい一言をくれた。
79
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/02(土) 10:58:23 ID:AxPrKRCg
真崎 「お古って言っても、アイスショーで1回着ただけだから綺麗だぜ?コーチ、あたしのプログラムを
ちょっと簡単にして、智子に使ってやれよ」
智子 (おお、なんと頼もしい……コーチよりキビキビ動いてるし……)ジーン
真崎 「これ、あたしが去年ここで滑った時のプログラムなんだけど……」スッ
見せられた紙には、トリプルフリップ→ステップ→トリプルアクセル→スパイラル→キャメルスピン→
トリプルトゥループ+ダブルトゥループ→ステップ→コンビネーションスピンと順番が書いてあった。
西園寺「最初のトリプルフリップは、ダブルルッツに変更しよう」
智子 「わっ、私2回転も怪しい、んですけど……ていうか、ルッツって一番苦手……」
ちなみに、智子がルッツを苦手な理由は、その跳び方にある。
ルッツは、6種類のジャンプの中で2番めに難しい。また唯一、滑走と踏切りのエッジ方向が反対になる。
遠心力を利用できない、パワーで跳ぶタイプのジャンプだからだ。
80
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/02(土) 10:59:15 ID:AxPrKRCg
西園寺「大丈夫だ、シングルになってもいいから、とにかく跳べ。
一番苦手なジャンプを最初に持ってくれば、気が楽だろ?次のステップは問題なし……
トリプルアクセルはダブルサルコウにして、スパイラル。キャメルスピンからのダブルサルコウ、ダブルトゥループ」
西園寺「最後はステップ.シークエンスからのシット→アップライトのコンビネーションスピンで、フィニッシュ」
真崎 「おい、ダブルジャンプが4つもあんぞ。智子でついていけんのか?まだ1分のしか滑ったことないんだろ」
智子はその言葉に、コクコクと激しく頷く。
バッジテスト2級からは、1分間のフリー演技が加わる。3つのジャンプが必須要素のこの試験、
智子は汗だくになって、肩で息をしながらクリアした。
西園寺「そこがネックなんだ。智子もだいぶ滑れるようになったが、曲に合わせて、しかも失敗の許されない
観客の前で滑るとなると、話は別だ。圧倒的に体力が追いつかない」
81
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/02(土) 11:00:18 ID:AxPrKRCg
西園寺「まあ、智子は持久力があるからな。これから級が上がって、大会で滑るようになったら、
そんなことは言ってられないんだ。審査のないアイスショーで慣れておく必要がある」
真崎 「まあ、それもそうか……んじゃ智子、早速衣装合わせてみようぜ!この中で気に入らなかったら、
ウチにまだまだあるからな!」ドサッ
智子 「う、うわっ……可愛いのばっか……」タジタジ
真崎 「だろー?あたし女の子っぽい方が好きだからさ」テレッ
智子 「……こんなの、私が着たって……」ポロッ
真崎 「……お前、今なんつった?」ガシッ
智子 「(ひいい!)だって……だって私、真崎さんみたいに美人じゃないしっ…自分で見ても吐くぐらい酷い顔だし……
弟にすっげーブスって言われたような奴が着たって、似合うどころか七五三以下に決まってるんです……」
真崎 「いいか智子、もっと自分に自信持てよ!あたしだって……あたしだって、フィギュア始める前は
ブスどころか女ですらなかったんだぞ、コーチだってあたしの事、しばらく男だって思いこんでたぐらいだからな!」
智子 「えっ…真崎さんが?」
西園寺「おーい……それは悪かったからもう引っぱり出さないでくれ……」
82
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/02(土) 11:00:54 ID:AxPrKRCg
真崎 「……まずは合わせてみろよ。お前が一番可愛いって…一番着たいって思うやつを選べ」スッ
智子 「は、はい……(なんだろ、真崎さん……ちょっと、悲しそうな目してた……)」
智子 (あ、これなんか可愛いかも……)
最初に取り出したのは、右肩に蝶のような飾りがついた、黒のワンピース。
真崎 「……地味だな」
西園寺「ああ。智子の可愛さを引き出すには、もっとポップな方がいい」
智子 「(何でお前らが駄目出ししてんだよ!)……じゃあ、こっち……」
次に引っ張りだして合わせたのは、背中に天使の羽がついた、白とピンクの半袖コルセットワンピース。
さっきのものよりは段違いで少女らしいデザインだが……
真崎 「……うーん、分かった。これ第2候補な」シブシブ
智子 (可愛い系ならいいってわけじゃねえのか!)
その後も、2人はあれもダメ、これも可愛くないとダメ出しを繰り返し……
結局、ファッションショーが終わったのは1時間後だった……。
智子 「ど、どうでしょう」
83
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/02(土) 11:01:41 ID:AxPrKRCg
胸元に赤いリボンをあしらった、フリルたっぷりのホワイトワンピース。
レースのガーターリボンと、ハートの模様がついた白手袋がセットになっている。
智子 (じっと見んなよ恥ずかしい!……こんな二次元でしか許されないデザイン、どうせ……)
真崎 「うん、いいんじゃねーの?」
西園寺「かなり少女趣味なデザインだからな……智子の体格にはぴったりだ」ウンウン
真崎 「よしっ、そうと決まれば善は急げだ!ついて来いよ、智子」グイッ
智子 「え、ちょっ、どっ……どこに?あのっ……」
ズルズルと引きずられていく智子を見送る西園寺は、「真崎系か?いや、顔から言って沙綾かな……」と
早速智子の変身後を妄想して楽しんでいた。
――30分後.都内某所――
真崎 「着いたぜ、ここがお前を変身させてくれる魔女のアジトだ」クイッ
智子 「Soyez amoureux……嘘だろ、ここってあのカリスマ美容師の!?」
84
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/02(土) 11:02:33 ID:AxPrKRCg
真崎 「へへっ、びっくりしただろ。あたしを生まれ変わらせてくれたのが、ナオさんなんだよ」ガチャッ
真崎 「ナオさーん!」
真崎の大声に、店内の客と美容師がビクッと一斉に振り向く。
やがて奥から、気だるげな声と共に、派手な服装の女性が出てきた。
???「その声は、真崎ね……?まったく、世界女王がこんなはねっ返りで大丈夫かしら」
真崎 「悪い悪い。でも今日はあたしじゃなくって……」
???「あら、だあれその子?」
智子 「へ、あ、あの……」
真崎 「こいつ、明後日初めてアイスショーに出んだよ。だからちょっと、ナオさんのテクで
パパパーッて変身させてやってくんねえかな」
???「簡単に言ってくれるわね……まあいいわ、素材は悪くないし。ついてらっしゃい」
店に入ると、彼女が指さしたのは奥のカーテンだった。言われるがままにくぐると、
小さな椅子と鏡、メイク道具がずらりと並ぶ、明らかにVIP用の個室だ。
智子 (……やばい、もう限界だ。1000円カットですら入れない私に、このオサレな美容室は敷居が高すぎた……)フラッ
85
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/02(土) 11:03:22 ID:AxPrKRCg
気圧されている智子を無視して、彼女はてきぱきとカットの準備を進める。
そこで、ふと思い出したように振り向いた。
???「ああ、ごめんなさい。自己紹介がまだだったわね。私はナオ。真崎のショーメイクを担当してるわ。あなたは?」
智子 「く、くろきともこ……でひゅ」
ナオ 「智子、ね。座って。……ずいぶん緊張してるみたいだけど、こういう美容室初めて?」パサッ
智子 「は、はひっ……」
ナオ 「そう。じゃあ……目をつぶって。次に目を開けるときには、きっと別人が鏡に映ってるから」
智子 「こ、こうですか……?」スッ
ナオ 「そう。それでいいわ。……あら、あなたずいぶん前髪が長いわね…つむじも滅茶苦茶だし……
これじゃ、髪がバサバサになるのも頷けるわ。水素で毛穴洗浄して、トリートメントしちゃいましょ。
その前にカットね。毛の量も多すぎるから、梳いていくわ」チョキチョキ
智子 (……怖えよ!ハサミの音だけが聞こえるのって逆に不安だよ!目開けたら波平カットか、それとも聖子ちゃんか!?
……本当に大丈夫なんだろうな、この人……)
86
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/02(土) 11:03:54 ID:AxPrKRCg
ナオ 「ここからは独り言だから……別に聞き流してくれていいわ」
ナオ 「私ね、こんな格好してるけど……実は男なの」
智子 (!!)
ナオ 「体は男で、心は女。だからあんたぐらいの時はずいぶん苦しんだわ。自分の感情のやり場がなくって、
親や周りに当たり散らして……本当に、沢山の人を傷つけた」
ナオ 「でもね、この世界に入って私、やっと自分の心に正直に生きられるようになったの。
その時気づいたわ。私は周りに疎外されてるわけじゃない……私が、自分の周りの世界を拒絶してただけなんだ……って」シューッ
ナオ 「だから、私みたいに世界と分かり合えない人がいたら……その手助けをしたいって思った。
真崎もその一人よ……私はあくまで背中を押すだけ」カチャカチャ
ナオ 「智子……見た目をいくら変えても、あんたが心に自信を持たなかったら何にもならないわ。
だから……次に目を開けたら、もう二度と……自分を卑下しないで。
前を向いて、歩いて行きなさい」スーッ、チョキチョキ
智子 「…………」
87
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/02(土) 11:04:32 ID:AxPrKRCg
カットが終わると、今度は顔を整える。
その間も智子はずっと目を閉じたままで、ナオの指や眉カッターが肌の上を滑る感触しか分からない。
ナオ 「智子、あんたメイクしたことある?」キュッ
智子 「い、いえ……」
ナオ 「やっぱりね。道理で肌がきれいだと思った。高校生ぐらいの子って肌をいじり倒しちゃうから、
年に似合わず肌の汚い子が多いのよ。……お願いだから、そのままでいてね。普段から可愛いようにしてあげるから」
その言葉通り、智子がぼんやりと想像していた『メイク』とはかなり違った。
目にライナーも引かれないし、つけまつげもつかない。ただ、唇にだけはリップとグロスが重ねづけされた。
ナオ 「……はい、完成。……まだダメよ、カーテンをくぐってから……はい、開けて」
智子 「……ん……」パチッ
目を開けた智子が最初に見たのは、こちらを見て「あ」と声をあげる客と美容師達。
次に、「えっ、智子……だよな?」と確認してくる真崎。その手からパサッと雑誌が落ちた。
立ち尽くす智子の前に、お団子頭のスタッフが「はいっ」と鏡を差し出す。
88
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/02(土) 11:05:18 ID:AxPrKRCg
智子 「んん……?誰だこいつ……」ペタッ
智子 「…………」
智子 「うっ…うわあああああ!!顔が!顔が変わってる!!」
智子 「……って、あれ?よく見るとそれほどでも……」
ナオ 「落ち着いた?普段から自分の顔しげしげ見てないから、そうなるのよ」ハァーッ
鏡に映っていたのは、骨格と顔立ちこそ自分だが、まるで別人のような少女だった。
右目を覆い隠していた前髪は眉が隠れるぐらいの長さまで切られ、
ボサボサの長髪はツインテールにまとめられている。毛量も減っているおかげでかなりスッキリして見えた。
智子 (こっ……これが……私……!?)ポカーン
不健康な色だった唇には、桃色のリップとグロスが重ねづけされて、ぷるぷるに輝いている。
いつか自分でやってみた時とは大違いの出来だ。顔の産毛は剃られ、手の入っていなかった眉は薄いアーチを描いている。
たったそれだけで、人間の顔の印象はここまで変わるかと、智子は恐れおののいた。
真崎 「いや、すげーよ……なんか、智子なのに智子じゃない感じだ」
智子 (褒めてんのかけなしてんのかどっちだよ!)
真崎 「やっぱ可愛いぜ、お前」ニッ
89
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/02(土) 11:05:57 ID:AxPrKRCg
ナオ 「あ、智子。ちょっとこっち来て」スマホロックカイジョ
智子 「……?」トコトコ
ナオ 「これ、見てごらんなさい。誰か分かる?」スッ
智子 (うわ、ドンキとかでたむろしてるDQN系……)
ナオ 「これね、3年前……初めて会った時の真崎なの」
智子 「……えぇっ!?」
ナオ 「しーっ。これ真崎には内緒よ?」
智子 「あの人、こんなんだったんですか!?
(性別まで変わってんじゃねーか!少なくとも女に見える私の方がマシなレベルだ……)」
ナオ 「……人間、変わろうと思えば何にだってなれるわ」
智子は黙って頷いた。
ナオ 「さ。もう夜も遅いし帰りなさい。……次はリンクで会いましょ」
智子 「あっ、お代は……」
ナオ 「いらないわ。その代わり、もっと可愛く滑る姿を見せてちょうだい。私はそれで十分」チュッ
智子 「……!!(ほ、ほっぺに…)」カァァ
90
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/02(土) 11:06:39 ID:AxPrKRCg
真崎 「じゃナオさん、またなー!」ブンブン
□ □ □ □ □ □ □
テクテク…
真崎 「いやー、旨かったなあのラーメン!こう、塩がピリッときいてて、麺もチュルチュル〜って感じで……」ホワーン
智子 「焦がし味噌って、苦いかと思ったけど……なんか、すごく深みがあって……」ホワーン
智子 (はっ!これってまさか、部活仲間と買い食いって例のアレか!?
……ふふふ、すごいぞ私!今日一日で一気に進歩してるぞ!)ウヘヘ
真崎 「また行こうなあそこ。替え玉無料券貰ったし」〜♫
テクテク…
真崎 「お、ここか智子ん家」
智子 「は、はい。あ、あの、今日は……ありがとうございました……」
91
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/02(土) 11:07:14 ID:AxPrKRCg
真崎 「いーってことよ」ヒラヒラ
智子 (……最初も思ったけど…やっぱり、真崎さんとゆうちゃんって似てんな……優しいのに、全然苦にしてないとことか……)
真崎 「なあ、今度遊び来ていいか?」
智子 「……へっ、真崎さんがうちに!?」
真崎 「ダメか?」
智子 「う、うちには思春期の弟と、恋愛脳の母親がいるので、こんな美少女が来たら刺激が強すぎるかと……」アタフタ
真崎 「あははっ!なんだよそれ、面白え事言うなお前!」
智子 (……弟はもう寝てるか……しゃーねえな、明日自慢してやろう)
真崎 (あ、そういやカオル紹介すんの忘れた。ま、いっか。カオルは人当たりいいし、人見知りの智子でも大丈夫だろ)
それぞれの思惑を胸に、夜が明けて――
いよいよ、アイスショー当日の朝がやってきた。
92
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以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/02(土) 11:07:47 ID:AxPrKRCg
一旦投下切ります。
気が向いたら今日中にアイスショーまで行けるかも。
93
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/02(土) 11:17:48 ID:NLpL3aMA
おっつん
進化したもこっち絵におこすとどんな感じだろうな
94
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/03(日) 16:41:39 ID:k8togrlA
――アイスショー当日――
優 「うーん……」キョロキョロ
優 「スマホで地図見て来たのはいいけど……入り口どこ!?」
優 「もー、早く行かないといい席取れないよ……どうしよ……」
??? 「あの……」
優 「ひゃっ!?」ビクーッ
??? 「ご……ごめん!驚かすつもりはなかったんだけど……」
??? 「エントランスなら向こうだよって教えようと思って……」スッ
優 「あ、ありがとうございます!」ペコー
??? 「どういたしまして。じゃあ、楽しんでいってね」スタスタ
優 「あれ、あの人はエントランスから入んないのかな?……ま、いっか。最前列キープしなきゃ!」ダッ
優がこの日のために買った一眼レフを手に走っていった頃。
ロッカールームで着替えた智子は、姿見とにらめっこしながら髪をとかしていた。
95
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/03(日) 16:42:34 ID:k8togrlA
真崎 「とーもーこっ。ツインテ作りたいんだろ。あたしがやってやってもいいぜー?」
智子 「こ、これぐらい……出来ます!」
真崎 「左右で高さ違ってるじゃねえか……いいから貸してみ、今日はお前の初舞台なんだぞ。ちゃんと可愛くしねえと」
真崎はブラシを取り上げると、毛先から丁寧にとかして艶を出していく。
智子 (そういえば、真崎さんって髪の毛短いのによくこういうの出来るな。女子力って才能だったのか……)
真崎 「はいっ、完成!横の髪はちょっと残しといたぜ」パチパチ
智子 「お、おぉ……」
真崎 「後はヘアゴムの上からリボン結んで、ピンで前髪留めるだけ。お前つむじ右なんだな」シュルシュル
智子 「……なんか、夢みたいだ」
真崎 「ん?」
智子 「私……こんなの、一生着ないと思ってました」
智子は、胸のリボンとお揃いの赤で結ばれた髪束を指でつまんで、ぱらっと放した。
鏡に映った自分はまるでアイドルのようだ。
96
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/03(日) 16:43:20 ID:k8togrlA
真崎 「氷の上は別世界。そこは、なりたい自分に会える場所」
智子 「……なんですか、それ」
真崎 「あたしのモットーだ」
智子 「……なりたい、自分……」
智子 (皆にちやほやされて、すごいって言われて……そんな、恥ずかしい妄想がちょっとずつ形になってる)
智子 (……よくここまで、弱音吐かないで練習できたな、私……)
智子はスケート靴の紐をしっかり結んで、エッジカバーの上からそっと刃をなぞった。
まだ2ヶ月のお付き合いだが、厳しい練習でだいぶ潰れて、形が崩れてきている。あと1ヶ月もしないうちに買い換えることになりそうだ。
西園寺 「おーい、そろそろ出番だぞ。リンク横にカーテン張ってるから、そっちに詰めとけ!」ガチャッ
――観客席――
優 「よしっ、ちゃんとフイルム入ってる……任せてねもこっち、可愛い姿は私がバッチリ撮っとくから!」サッ
智貴 「あの、成瀬さん……姉ちゃん出てくんの、多分まだ先ですよ?」
優 「ベストショットのためには、努力は惜しみません……ああっ、三脚が……」ガチャガチャ
優 「それにしても、すごい偶然だね!智貴くんと隣同士だなんて。やっぱり智貴くんも?」
智貴 「……別に、たまたま暇だったから見に来ただけですよ」プイッ
97
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/03(日) 16:43:57 ID:k8togrlA
優 「ふーん、"たまたま"最前列をリュックでキープしてたんだ〜」フフフ
智貴 「い、いいでしょ俺の話は!誰があんな残姉ちゃん…『レディース・アンド・ジェントルメーン!』
『ウェルカム・トゥ・ザ・ネバーランド・イン・アイス……フロム・トコハァァァ、アイススケート・リィィンク!』
ワアアアアッ……パチパチパチ……
智貴 「やけにテンション高いな……」
ダラララッ、とドラムロールが入る。と同時に、無人のリンクにスポットライトがパンッと当たった。
軽快な音楽と共に、縦横無尽に動きまわる照明。お揃いのシニョンに青いワンピースの少女たちが出てくる。
体が小さい所を見ると、どうやらノービスBに満たない、低学年の子どもたちのようだ。
優 「わあっ、すごい!あの子たち、手繋いでダンスしてるー!」
智貴 「へえ……前座もなかなか凝ってますね」
少女たちがリンクを去ると、音楽も止んだ。しーんと静まり返ったリンクに、再び甲高い声が響き渡る。
司会 『さあ、ついに始まりました。常葉アイススケートリンク主催、サマータイム・アイスショー!
下は小学3年生、上は……40歳?ノービスからシニアまで、総勢25名が揃い踏みだぁ!
それでは皆さんお待ちかね。トップを飾るのは……この選手だ!』
98
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/03(日) 16:44:35 ID:k8togrlA
カーテンをバサッと持ち上げて、リンクに踊り出た人影。
それを視認した瞬間、会場のボルテージが一気に高まる。
優 「あ、さっき道教えてくれた人!」
司会 『GPファイナル3連覇、ソチ五輪銀メダリスト!日本男子の華はまさにこの人にふさわしい!
橘ァァァ、カオルゥゥゥ!!』
カオルは観客席の最前列にいる優を見つけると、笑いながら軽く会釈した。
袖の広がったドレスシャツにボウタイ、黒ベストを合わせたクラシカルなスタイルで、髪をオールバックにしている。
智貴にとっては、名前しか知らない選手だったが、その装いは彼の個性を存分に引き出しているように思えた。
カオル (……久しぶりだな、このリンクも……)シャーーッッ、ザッ
カオル (……懐かしむのは後だ。今は全力で滑ろう……)
リンクの真ん中で、両手を広げ天を仰ぐカオル。
〜〜♫♪
優 「……なんだっけ、この曲」
智貴 「待って下さい」
スマホの音声認識をONにすると、すぐに『The Pantom of the Opera』と答えが出た。
99
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/03(日) 16:45:10 ID:k8togrlA
カオルはゆっくりと滑り出したかと思うと、一気にスピードを上げた。
そのまま前向きに踏み切って、軽々と回って着地する。
ワアアアッ……
智貴 「すごいのか、あれ……?」
優 「あれはトリプルアクセルっていうの、アクセルは前向きに踏み切って
跳ぶから、半回転余計に回んなきゃいけないの。だから、一番むずかしいジャンプなんだよ……って、ネットに書いてあった」
テヘッと笑う優に、「簡単そうに見えるけどなあ」と智貴は首をかしげる。
ワアアア…
司会 『橘カオルさんの演技でした!』
観客席から投げこまれる花束やぬいぐるみを、前座の少女たちが再び出てきて拾い集める。
優によるとこれは『キスアンドクライ』というらしいが、智貴にはさっぱり意味がわからない。
その後も小学生や中学生の選手が何人か、ぎこちないながらも演技を終える。
優 「もこっち、もうすぐかな……」ソワソワ
その時だった。
モブA 「ねえ、この"天才美少女"って誰かな」
??? 「さあ……まあ、期待しないで待っとこうぜ」
100
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/03(日) 16:45:41 ID:k8togrlA
聞こえてきた声に、優はなりげなく振り向いた。
優 「……こみちゃん!?」
琴美 「あ、ゆうち……成瀬さん!(くそう、タイミング逃した……自然にゆうちゃん呼びするチャンスを……)」ギリギリ
智貴 「誰?」
優 「この子はこみちゃん。もこっちと私の中学時代のお友達だよ」
琴美 「小宮山琴美です、よろしく」ペコッ
智貴 「あ、弟の黒木智貴です。(成瀬さん以外にも友達いたのかあいつ)」ペコッ
優 「その子、高校の友だち?」
琴美 「えっ?ああ。同じクラスの奴。アイスショーのチラシ配ってたの駅前で貰ったらしくてさ。
夏休みも後半になると暇だから、付き合って来たんだ」
優 「そうなんだー。私てっきり、もこっちを見に来たんだと思ったよー」
琴美 「は?……っていうか、あいついつからフィギュアなんか『それでは皆さんお待ちかね!』
司会 『スケート歴2ヶ月の天才……少女!目指すはもちろん金メダル!未来のスターの、今日がその第一歩だァ!
……黒木ィィィ、智子ォォォ!』
智子 (……やばい、来た、来ちゃった!私の番!)バサッ
101
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/03(日) 16:46:11 ID:k8togrlA
ワァァァ…
カーテンをあげて出てきた智子に、琴美は「マジか!?」と叫び、優は「もこっち、可愛い…!」と口をおさえて、智貴は。
智貴 「……」クチアングリ
優 「とっ、智貴くん!?どうしたの、すっごい白目になってるよ!」ガクガク
琴美 「大丈夫かおい、水飲むか!?」キュポッ
会場の期待値は、かなり高い。だが智子は、案の定というべきか、その空気に気圧されていた。
智子 (嘘だろ……このリンクって、こんなに人入ったのか!?)
人、人、人。知らない人達が、自分を見ている。最前列で手を振る優と、智貴が見えた。
そこだけがスポットライトが当たったように光って、後は全部灰色の、同じ顔ばかりに見える。
智子 (……妄想してたのと全然違うじゃねーか!足震えるし、胸がぞわぞわするし、……怖え!!)
助けを求めるようにリンク横を見ると、西園寺が両手で丸を作って、「がんばれ」と口を動かした。
智子 (そうだ……待ってたはずだろ、この瞬間をよぉ……!)
智子はリンクの真ん中に滑り出て、止まる。瞬間、ぴたっと会場の拍手が止んで、静寂があたりを包み込んだ。
智子 (……落ち着け、落ち着け私。あれは全部ジャガイモ、あれは全部ジャガイモ、あれはジャガイモ…)
ぎゅっと拳を握りしめて、鼓動を抑えようとするが、智子の耳にはやけに大きく聞こえる自分の呼吸音だけが届く。
102
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/03(日) 16:46:43 ID:k8togrlA
智子 (ハーッ、ハーッ……ハァ……)ドクン、ドクン
〜〜♪♫
ガーシュウィン作曲『ラプソディー・イン・ブルー』智子は『のだめのアレ』としか知らなかったが、
西園寺によるといくつかのメロディーパターンが繰り返されるらしく、2日間エンドレスで聴いてなんとか覚えられた。
クラリネットの、低いグリッサンドが響く間、智子は直立のまま立っている。そして。
タタタタラタタ タラタタ タラタタ…♫
智子 (最初は……ダブルルッツ!)シャーー…ザッ
西園寺 「ああっ!(軸がななめに…)」
タラタタタラタタ タラタタ…♪
智子 「――っ!」ベシャッ
観客 「あああー……」
智子 「うぅ……」ヨロヨロ
タラタタン…
智子 (あ、曲が進んでる!やばい、次ステップ……あ、ダメだリズムがずれて……)シャーーッ、シャーー
〜タララン…♪
103
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/03(日) 16:47:22 ID:k8togrlA
智貴 「あーあ、しょっぱなから……」
優 「しっ、しょうがないよ。ルッツってすごく難しいジャンプなんだもん」アセアセ
琴美 「つーかあいつ、表情硬くね?(微妙にキモい……なんだよあのニヤケ面……)」
智子 (笑顔、笑顔!この曲はとにかく笑顔!)シャーー、シャーー
冒頭のダブルルッツは失敗したが、その後のステップはさすがに得意なだけあって、
白けかけた会場の空気も、徐々に温まっていく。
ターラララ…タラタタン…♪
智子 (今度こそっ……)シャーーッ…ザッ
智子 (ぐっ、回転が足りない!でも転ぶわけには……)クルク…スタッ、シャーー…
優 「決まったー!」パチパチ
琴美 「ふう…危なっかしいなあいつの滑り」
シャーー…シャーー
智子 (よし、なんとか持ちこたえた!)
西園寺 (あっちゃー、スッポ抜けちまった……実際の試合なら、回転不足で減点だ……)
智子 (次はアラベスク…)グッ
104
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/03(日) 16:47:54 ID:k8togrlA
両手を水平に広げて、足を高く上げる。毎日股関節をゆるめるストレッチをしていたおかげか、
初級バッジテストの時よりはすんなり上がった。
智子 (くっ…足痛い…特にふくらはぎのあたりと、股が痛いっ…)プルプル
智子 (で、次は……)シャーーッッ
キャメルスピン。それは片足を軸に体を横向きに倒し、もう片方の足を水平に上げて
T字型になって回る、スピンの基礎の一つである。しかし、まだ体の硬い智子には…
智子 (イッ…痛いイタイイタイ!!)グルグル…
優 「わー、綺麗だねー」
琴美 「顔引きつってっけどな」
西園寺 (しょっぱなで転んだせいで、テンパっちまったのがまずかったか。
一つ一つの要素の繋ぎが悪い……正直、ガタガタだ。でも)
西園寺はちらっと観客席を見た。
ダブルルッツを転んだ時の失望感はすでになく、今はただ、一生懸命に滑る一人の少女を見守っている。
西園寺 (智子の根性が、客席を惹きつけてるんだ)
105
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/03(日) 16:48:27 ID:k8togrlA
2分30秒に編集された曲は、いよいよ最後の盛り上がりに入った。
智子はやっと大人数の視線を浴びるのに慣れてきたのか、最初と比べて動きが軽快になっている。
智子 (ダブルサルコウ……!)ザッ、クルクル…スタッ
智子 (着地すると同時に、トゥループ……)ガッ、クルクル…
西園寺 『いいか智子、コンビネーションジャンプは、流れが一番大事なんだ。2本目のジャンプは間を空けるな。
空中にいる間に、次のジャンプの準備をしろ』
智子 (決まった!)ザーーッ
ワアッ…パチパチパチ…
優 「もこっちー!」キャーッ
琴美 「おお、いいじゃん今の!」
智貴 「姉ちゃん……」
トランペットに合わせての、ステップ。エッジを右、左と軽快に動かし、氷の上に複雑なパターンを描く。
時々ぱっと両足を広げてバレエのように跳んだり、トトトッとエッジで歩いたりと、バリエーションをつける。
西園寺 (最後だ。きれいに決めろよ、智子――!)
智子 (シットからの……)クルクル
106
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/03(日) 16:48:57 ID:k8togrlA
智子 (アップライトスピン!)クルクルクル…
タラタタ…ジャンッ♪
智子 (終わった……!)ピタッ
ワアアアア…パチパチパチ…ヒューヒュー
司会 『黒木智子さんの、演技でした!』
終わった。
智子の頭の中にあったのはそれだけ。ゼー、ハーと呼吸を整えて汗だくの額をぐいっとぬぐう。
段々聞こえてくる、拍手と大歓声。
西園寺 「智子、お辞儀だお辞儀!」パクパク
智子 「えっ?あ……」ペコッ
西園寺 「笑顔で!あと、全方向に!」パクパク
智子 「細けえよ!」ペコッ、ニタァ……
リンクを去って、エッジカバーをつけながら。ちらっと観客席の最前列を見る。
一眼レフを構えたままの優が大きく手を振った。振りながら、隣で顔をそらしている智貴の腕をぐいっとあげて、無理矢理左右に振らせる。
107
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/03(日) 16:49:28 ID:k8togrlA
智子 (優ちゃん……ほんとに来てくれたんだな……)ブンブン
智子 (ありがと……)
真崎 「うっし、じゃあ次あたしか」スッ(エッジカバー外す)
智子 「あ、あの……」
真崎 「ん?」
智子 「がんばって……下さい……」
真崎 「うん、お疲れ」ニコッ
ワァァァ…
ロッカールームに続く廊下を歩く間も、智子の耳の中でその大歓声が止むことはなかった。
□ □ □ □ □ □
初めての大舞台を終えた後。
ロッカールームでジャージに戻った智子に、西園寺は待ちに待った一言を告げた。
西園寺 「えー、2学期が始まるまでの、11日間は……レッスンお休みにします!」
智子 「いやっほおおおう!!」グッ
108
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/03(日) 16:50:05 ID:k8togrlA
西園寺 「ただし!トレーニングはちゃんと毎日続けるように!」
智子 「うへえ…」ゲンナリ
西園寺 「夏休みが明けたら、また厳しいレッスンに入るからな…今だけはゆっくり遊んどけ」ポンポン
真崎 「フィギュアのシーズンって、10月からなんだよ。シーズンに入っちまえば、遠征してバッジテスト受けたり、
ジュニアの大会を見に行ったり、レッスン以外も忙しくなっからな。コーチの言うとおり、
今はちゃんと遊んどけ」
智子 「は、はい」
西園寺 「というわけで、今日は解散!…と、言いたい所だが……このリンクで学んだ先輩をもう一人、紹介するのを忘れてた」
西園寺 「……カオル!」
はい、と爽やかな返事があって、ロッカールームのドアが開く。
今までリンクの片付けを手伝っていたのか、衣装の上にジャージを羽織った青年。
カオル 「橘カオル、17歳。クラスはシニアだから、一緒の大会には出られないけど、よろしくね」ニコッ
智子 「ふぁ、ふぁい!よろしく、お願いしまふっ…」ペコー
カオル 「これから一緒の時間帯に滑ることも多くなると思うから、その時はお互い頑張ろうね。ええと……
智子ちゃん、どうしたの?具合悪い?」
109
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/03(日) 16:50:40 ID:k8togrlA
真崎 「こいつ、人見知りなんだよ」
カオル 「そっか……ちょっと距離感近すぎたかな。ごめんね」
智子 「い、いえっ!大丈夫です……(スー、ハー…すげえ、男子なのにいい匂いする……こんなイケメンと合法的に
お近づきになれるとか、フィギュアスケート様様やでえ……)」
カオル 「さっきの演技、とてもよかった。2ヶ月であんなに滑れるんなら、これからが楽しみだよ」ニコニコ
智子 (ああ……なんて心洗われる笑顔なんだ……)ポーッ
西園寺 「さて、今度こそ解散にするか。じゃあ皆、また夏休み明けに!」
真智カ 「「「ありがとうございましたー!」」」
□ □ □ □ □ □ □
アイスショー翌日。
撮り溜めていたアニメを見終わった智子は、スマホ画面を見つめてゲスい笑い声を漏らしていた。
智子 「むふふ……へへっ、うへへ……」ニタニタ
110
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/03(日) 16:51:15 ID:k8togrlA
智子 (ついにっ…ついに、私のスマホに男子の番号が!弟とお父さん以外の番号がアップデートされた……!
全国の喪女の皆さんごめんなさい!フィギュアヲタのBBAども涙拭けよ!)
智子 (橘カオル様の番号とメアドだぞーっ!ひゃっほーう!)ゴロゴロジタバタ
智子 「ふふ…しかも向こうから"赤外線出る?"だぞ……」
智子 「……まあ、真崎さんの彼氏なんですけどね……」ズーン
智子 (……あんな美少女でフリーとかありえねーしな……なんかもう、罵る気も起きねえ……)
智子 「……ゲームでもするか」ムクッ
それから2学期が始まるまでの10日間。智子はリンクで軽く滑って調整したり、
家の周りをジョギングする以外はほとんど外出せず過ごした。
そして迎えた始業式当日――。
智子 「……ふっふっふ、ついにこの日がやってきた……」
智子 (一学期までの冴えない私とはサヨナラだ。クラスのアイドルとして、今日からモテモテリア充ライフが始まる……!)
智子 「あっ…あれ?上手くリボン結べないぞ……あ、そっか。まず最初に髪束分けて……」アセアセ
母 「智子―!朝ごはんできたわよー!さっさと食べちゃいなさい!」
智子 「……な、なんとか形になったけど……なんか、形崩れてる……」ヘローン
111
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/03(日) 16:51:46 ID:k8togrlA
智子 「しかも、クマが微妙に復活してきてる!……最近またちょっと夜更かしだったせいか!?」ガーン
智子 「……」
母 「智子―、まだ支度できないのー?」
智子 「これが、4歩進んで3歩下がるというやつか……ふふ、ふふふ……」ズーン
―リビングにて―
智貴 「あ、姉ちゃん髪型変えたんだ」モグモグ
智子 「へっ?ま、まあな……」
智貴 「……いいじゃん」
智子 「えっ?」
智貴 「前のボサボサ頭よりはいいじゃんって、言ってんだよ。カタムツリ並の速度でも、進歩してたらそれで上等だろ」モグモグ
智貴 「んじゃ、俺今日日直だから」ガタッ
智子 「……」モグモグ
智子 「一歩ずつ……か」ゴクン
112
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/03(日) 16:52:18 ID:k8togrlA
―校門前―
ハヨーザイマース オハヨウ オハヨウゴザイマース…
先生 「おはよう!」
智子 「おっ…おはようございます!」
智子 (ふふふ…確かに進歩している…一学期までの私がいわば修行開始前の桑原だとすれば、今は智子100%といった所か……)ガラッ
モブA 「でさー、夏休み海行ってきたわけよ」
モブB 「へー。それで焼けてんだ。いい感じじゃん」
智子 (……準備はできている。こうして頬杖をついていたら、"あれ、黒木さんなんか一学期と違わない?”とか言い出す奴いて……)ガタッ、ストン
モブC 「はよーっす!」
モブD 「お前朝から元気だな―。俺なんてまだ7月気分だぜ」
智子 ("えー、知らないの?黒木さんフィギュアやってんだよー。アイスショーで見た―"とか言う奴が……それでクラスメイトに囲まれて、
質問攻めにあって、私は顔を真っ赤にして、あたふたしながら"そ、そんな……まだ始めたばっかだもん"とか言っちゃって……)
キーンコーンカーンコーン
先生 「皆廊下に背の順で並べー。体育館まで移動するぞー」
ザワザワ…スタスタ
113
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/03(日) 16:52:52 ID:k8togrlA
智子 「……」ガタッ
モブA 「あ、そーいやこの前アイスショー見たんだけど。常葉スケートリンクってとこで」
智子 「……!」ピクッ
モブA 「なんかー、スケート歴2ヶ月の天才美少女とか出てた」
モブB 「えー、どんな感じだった?」
モブA 「うーん、覚えてない。つーか名前も忘れた」
智子 (……その天才美少女、お前らの隣にいるよ!気づけよクソども!)ドンッ 智子「いたっ」
モブA 「あ、ごめん。えーと……」
モブB 「黒木さんだよ」
モブA 「あ、そーだった。黒木さんごめんねー」
智子 「い、いや……別に平気……」
智子 (……そうか。そもそも私という存在がクラスで認識されてないから、結びつかないのか……)
智子 (……チクショーーーッ!!)
114
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/03(日) 16:53:35 ID:k8togrlA
今日はここまで。
そう簡単に行くわけがなかろうという話。
>>93
誰か竹村絵で描いてくれと願望を抱きつつ。
個人的には、アニメのツインテもこっちをイメージしてます。
115
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/03(日) 18:09:51 ID:JUsnP1sw
花見
u.xsm.jp/cGoU
116
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/03(日) 21:19:19 ID:HC/EfqkY
乙。
117
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/04(月) 21:46:56 ID:UkomGyPk
西園寺(智子が本格的にフィギュアスケートを始めたのが、6月。そしていまは10月…
4ヶ月の間に2級まで取得できた。ジュニアに上がるためにはあと4級)
智子 (……)シャーーッッ、シャーッ、ガッ、クルッ
智子 「いたっ!」ベシャッ、ザザーッ…
西園寺「回転が遅いぞ、軸もぶれてる。もう一回!」ピーッ
智子 「てて……」ヨロヨロ
西園寺「アクセルの形はできている。お前の場合、上半身が弱いから回転不足になって転ぶんだ。
ついでにいうと、前を向くタイミングも合ってない!」
西園寺(むしろ今までが順調すぎたのか……真崎は一発で跳べたのに……ん、真崎……?)
西園寺「そうだ、真崎だ!」ポン
智子 「!?」ツルッ、ザシャーーッ
118
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/04(月) 21:47:35 ID:UkomGyPk
―翌日―
智子 (昼休みにコーチからメール来たと思ったら、"今日の練習はここに行け"って住所だけ書いてやがった…)トコトコ
智子 (……ここか?……ここじゃないよな……でも住所は合ってるし……)
目の前にそびえたつ、大きな木の門。看板には『大沢流空手道場』と仰々しい文字が刻まれている。
真崎 「おう智子、来たのか!」ギィッ
智子 「え!?え、え、なんでましゃきさんがこんな、オスの巣窟に…」
真崎 「落ち着け、まずは深呼吸。ビックリしただろ、ここあたしの家」クイクイ
真崎 「オスの巣窟ってのは当たってるぜ?母さんはちっさい頃に死んじまったから、男所帯なんだよ。
女はあたし一人。門下生も男ばっかだしな。ま、とりあえず入れよ」
真崎の案内で門をくぐり、道場の方へ向かう。広々とした敷地内に広がる日本庭園を歩いているうち、
「えいっ」「やあ!」と野太いかけ声が近づいてきた。
智子 (……ダメだ、孕まされる。筋骨隆々とした毛むくじゃらの腕におさえつけられて集団レ)ガクガク
真崎 「親父!ちょっと邪魔するぜ―!」ガラガラッ
真崎の大声に、練習していた門下生が一斉にこちらを見る。
その中から、ひときわ立派な体躯の中年男が、のそっとこちらにやってきた。
119
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/04(月) 21:48:09 ID:UkomGyPk
???「ん〜?」ズイッ
智子 (ひィ!)ガタガタブルブル
???「なんだ、女の子じゃねえか!お前、どこでこんな可愛い子さらってきたんだ」ニカッ
智子 (あれ、見た目より怖くなさそう……ていうか、チョロそう……?)
真崎 「人聞きのわりい事言うな!最近常葉に入ってきた子だよ。西園寺コーチが教えてんだ」
???「へえ、あの西園寺がねえ……あいつが直々に教えてんだったら、確かだな」
大五郎「俺は大沢大五郎。真崎の父親で、この道場の師範だ。よろしくな、嬢ちゃん」スッ
智子 「えっ…え、と…あの、くろき……ともこ、でしゅ……よ、よろしくおねがい、しまふ……」
大五郎「智子ちゃんか、んで、智子ちゃんはいくつなんだ?……5年生ぐらいか?」
智子 「えっ…」ガーン
真崎 「親父、智子は高1だよ」
大五郎「えぇ!?嘘だろ、こんなにちんまいのに……」
智子 「ちんまい……」ズーン
ない胸に手を当てて落ちこむ智子に、無意識に罪を重ねた大五郎は「ごめん、本当にごめんな!」と平謝りしている。
その様子を見ていた門下生の中から「親父、デリカシーなさすぎ」と呆れた声がした。
120
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/04(月) 21:48:48 ID:UkomGyPk
???「つーか原幕の制服着てんだから、高校生に決まってんだろ」
???「だよなあ…つーか原幕!?すげーな、あそこって、偏差値70ぐらいのとこだろ!?はー、お前よく姉貴と話合うな」
真崎 「うっせー!」ドゴッ
???「おごっ…」
智子 (チャリで来そうなDQNキター!!…あれ、よく見ると真崎さんに顔似てるような……)
智子 「あ、あの…もしかして、真崎さんのご兄弟…」
大翔 「正解!俺は弟の大翔、高2。んで、こっちが兄貴の荒野!三兄弟の一番上で、空手は…2番目」
荒野 「ぐっ…」プルプル
大翔 「姉貴は全日本で優勝してっけど、兄貴はたしか…10位にもかすってないんだよなー」ニヤニヤ
真崎 「おまけにここだけの話……」コソッ
荒野 「やめろ、それだけは!」
真崎 「彼女いない歴=年齢の、喪男だぜ」
智子 「!」ピクッ
荒野 「あああ…」ガクーン、サラサラ…
膝から崩れ落ち、灰化していく荒野を見て、智子は不思議な親近感が沸いていた。
121
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/04(月) 21:49:19 ID:UkomGyPk
智子 (喪男か…こんなビッチ釣れそうなスペックでも喪男なのか…なんか、元気出るな)
真崎 「さて、じゃあそろそろ始めっか!とりあえず智子、これ着ろ」スッ
智子 「へっ、道着!?」
真崎 「今からお前に、アクセル習得の極意を教えてやるよ」ニッ
□ □ □ □ □ □
真崎 「いーち!」シュバッ
智子 「い、いーち!」バッ
真崎 「にーい!」シュバッ
智子 「にー!」バッ
道着(一番小さいサイズ)に着替えた智子は、真崎と一緒に正拳突きの練習をしていた。
真崎いわく、幼い頃から空手をやっていた自分は、ごく自然にアクセルの動きができていたという。
そのヒントがこの前蹴りと、回転蹴りにあるというのだが……
122
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/04(月) 21:49:55 ID:UkomGyPk
智子 (なんで空手やってんだ私!……こんなんで本当にアクセル跳べるようになんのか!?)
荒野 「うっし、じゃあ次、前蹴り100発!行くぞォ!いーち!」シュッ
智子 「(ひぃぃ!)いーち!」シュッ
―2時間後―
智子 「うう、……もう一歩も動けない……」グター
真崎 「だ、大丈夫か智子!つい…」アセアセ
荒野 「お前根性あんなあ、普通の奴なら30分でヘバってんぞ」グビグビ
智子 「…だって、上手くなりたいから……」ボソッ
荒野 「……そっか。智ちゃんも好きなんだな、フィギュア」
智子 「好き……かあ(考えたことなかったな…褒められて嬉しいとか、自慢したいとか、そっちばっかで……)」
荒野 「んでも、前蹴りと回転蹴りは形になったし、これでもうアクセルはバッチシだと思うぜ?」
智子 「バッチシ…」
荒野 「まあ、それを確認するのは明日のお楽しみにして……とりあえず」
真崎 「風呂と夕飯、食ってけ!……覗くなよ」
荒野 「もうしねーよ!」カァァ
123
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/04(月) 21:50:26 ID:UkomGyPk
智子 ("もう"ってことは、前覗いたのか……)
□ □ □ □ □ □ □
大五郎「はっはっは、んじゃ、智子ちゃんの前途を祝って……カンパーイ!」
全員 「カンパーイ!」
ワイワイ…ガヤガヤ
真崎 「悪いな、無理矢理引き止めちまったみたいで」
智子 「い、いや…その……お、お風呂までいただいちゃって……そ、それに…」カチャッ
真崎 「うまいだろ、うちの特製チャンコ鍋」ニヘヘ
智子 「は、はい……(味なんかしねーよ!落ち着かねえ……)」
真崎 「遠慮しないでどんどん食えよ、お代わりいっぱいあっからな」ズズッ
大翔 「なあ、智ちゃんって最近フィギュア始めたの?」ヒョイッ
真崎 「だから、さっき言っただろ!まだ4ヶ月目だよ」
大翔 「ふーん。なんか、姉貴がフィギュア始めた頃思い出すな」
智子 「えっ!?い、いえっ、私ごときが真崎さんなんか…」アセアセ
124
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/04(月) 21:51:01 ID:UkomGyPk
大翔 「いや、こいつ今でこそ世界女王だけどよ?始めたばっかの頃はそりゃもう、酷いもんだったぜ。
動きなんてガッタガタだし、女らしさの欠片もない滑りだったし、初めてのアイスショーでしょっぱなからコケたし!」
智子 「えっ…(真崎さんも、同じ失敗を……)」
真崎 「ひ〜ろ〜と〜」グイーーッ
大翔 「ひでででっ!いひゃい、いひゃい!」ジタバタ
荒野 「ま、あれだ。智ちゃんはこっからどんどん上手くなっから、気にすんなってことだ」ストンッ
智子 「お兄さん……」
智子 (あれ、なんでこいつごく自然に隣座ってんの?)ダラダラ
荒野 「明日、俺もリンク行くわ。今日一日の特訓の成果、見てやんよ!」グッ
智子 (……やめろおおお!嫌だ、もし跳べなかったらリンチだ……公衆便所に連れこんで個室で集団リンチだあああ!
お前らDQNの思考回路なんて読めてんだよ!絶対来んじゃねえ、朝の卵で下痢して寝込め!)
智子 「そ、そうですか……がんばり、ます……」ダラダラ
荒野 (……奥ゆかしい子だなあ……真崎とは大違いじゃねーか)ホワーン
真崎 (我が兄ながら、見る目のなさに泣けてくる)
125
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/04(月) 21:51:36 ID:UkomGyPk
―翌日―
西園寺「じゃ、早速行ってみるか!」
智子 「はい!……よし、あいつ来てないな」キョロキョロ
シャーーーッ…シャーーーッ
荒野 『いいか、体を軸にして、足を半月形に回すんだ』
荒野 『俺は滑れないから、そっちの方は智ちゃん任せだけど…この回転蹴りの動きをそのまま応用すれば、
多分タイミングもばっちり合うんじゃねーのか?』
智子 (……行ける!)ガッ
回転蹴りの要領で足を動かすのと同時に、離氷。
智子 (すごい……引っ張られるみたいだ!)
体は軽々と跳び上がり、遠心力でくるくると回った。
智子 「……できた!」ザーーーッ
パチパチパチ…
聞こえてきた拍手に振り向くと、観客席の所から荒野が手を振っている。
智子 (あいつマジで来たよ……)
とりあえず振り返すと、笑顔で親指をグッと立てた。
126
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/04(月) 21:52:35 ID:UkomGyPk
智子 (ま、まあよかった……リンチは回避したしな……変なフラグは立てないで済んだ…)シャーーッ
智子 (ん?そういやあいつ、私と真崎さんの後に風呂入ってたな……)シャーーッ、キュッ
智子 「〜〜〜!?」ボンッ
西園寺「どうした智子!?」
その後の2ヶ月で、智子は無事3級、1回は落ちたものの、なんとか4級に合格した。
西園寺いわく「驚異的なスピード」とのことだが、4級の試験内容は今までの総復習なので、特に苦ではなかった。
そして12月――。
西園寺「智子、来週の5級バッジテストなんだが……」
智子 (なんだ、なんで渋い顔してんだ……やめろよ、不安になるだろうが!)
西園寺「……名古屋で、受けることになった。学校の方は悪いんだが、休んでくれ」
智子 (そんな顔で言うことじゃねえだろ!大体、学校でもソロプレイだから私が休んでも何も起きねえよ!)
西園寺「すまんが、そういうことだ。名古屋に1泊することになるから、費用の面が、ちょっとな……」
智子 「あ……」
西園寺「ま、お前は気にしなくていい。万全の状態でテストを受けて、一発合格しちまえ!」ポンポン
智子 「は、はい……」
127
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/04(月) 21:53:27 ID:UkomGyPk
智貴 「おはよ……姉ちゃんは?」
母 「今頃、名古屋行きの新幹線の中よ。名古屋のリンクで次の級を受けるんですって」
智貴 「ふーん……」ガタッ
母 「あんたの願書、駅前のポストに出してくれるって言ってたから。帰ってきたらちゃんとありがとう言いなさいよ?」
智貴 「何、姉ちゃんが出しに行ったのかよ」
母 「ついでよ……トーストは2枚でいい?」
智貴 「ん」
母の朝食を待っている間、智貴は頬杖をついてリビングの壁を眺めていた。
額の中に飾られたバッジが、いつの間にか増えている。チェストには、優が現像してくれたアイスショーで滑る智子の写真。
智貴 「母さん、皿は俺が洗うから」
母 「何言ってるのよ、家事は主婦の仕事じゃない。あんたは受験勉強……」
智貴 「勉強なんて手伝いながらでも出来るよ。だって母さん、最近働いてんだろ、姉ちゃんは全然手伝いしないし……」
母 「嫌ねえ、あの子にも練習帰りにお使いとか頼んでるわよ。願書出してもらったのもそうじゃない。
それに私、お家で校正のお仕事してるだけよ。外に出てないんだし、全然楽……」
智貴 「母さん、ずっと主婦だったじゃねーか。姉ちゃんに金がかかるから――」
128
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/04(月) 21:54:00 ID:UkomGyPk
その言葉が出た瞬間、母はガチャンと調理器具を置いた。怒りをこめた表情で振り返り、智貴を睨みつける。
母 「……そんなこと、二度と言わないで」
くるりと背中を向けて調理に戻った母の背中を見つめながら、智貴はテーブルの上の拳を握りしめた。
□ □ □ □ □ □ □
一方その頃、名古屋へ向かう新幹線の中では。
西園寺「智子、お弁当買ってきたぞ!お前の大好きな回鍋肉丼と、俺の大好きな鯖の押し寿司…」〜♫
智子 「コーチ……まさか、ホテルって二人部屋ですか……?」
西園寺「まさか!」
智子 「……」ホッ
129
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/04(月) 21:55:00 ID:UkomGyPk
西園寺「10人部屋だ」
智子 「……は?」ポロッ
西園寺「スケート連盟が持ってる宿舎があるんだ。露天ありの大浴場つき、朝夕は食堂で30種類のバイキング、男女別の宿泊棟……
あ、部屋にモーニングコールがついてるから、安心しろ!」
西園寺「それと、5級テストでは3分半のフリー演技があるんだが、曲は自由だからお前の好きに選んで……」
智子 「だからそれを、もっと早く言えーーっ!!」
波乱の予感を含みながら、新幹線は名古屋への線路をひた走っていった。
______
とりあえず、大沢兄弟とイベントを起こしてみた。
打ち切りになった時一番悲しかったのは真崎の家族があんまり見れなかったことです。
130
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/04(月) 23:22:50 ID:qU8PkEIo
130げっちゅぅぅぅぅぅ!!
130取れなかった奴ざまああああああ
こんなところで130も取れない奴は惨めな人生送るんだろうな
↓以下130取れなかった負け犬の遠吠えをお楽しみくださいwwww
マジすいません
131
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/05(火) 01:15:13 ID:KDtuQxjs
オォン!アォン!
132
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/06(水) 12:46:38 ID:evjsFycI
まじおもしろ
133
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/08(金) 13:52:55 ID:QvcDFlR2
名古屋駅からタクシーで15分。
リンクに併設された宿舎は、智子の『60年代あたりに建った白いコンクリートのボロい建物』という予想に反して、
近代的で清潔なデザインだった。案内されたのは和室の40畳で、布団がひとつだけぽつん、と敷かれている。
智子 「えっ…ここって、マジで10人部屋かよ!私しかいねえじゃねえか!」ドサッ
智子 「ひゃっほーーい!自由だ、私は自由だあああ!!」ゴロゴロゴロ
智子 「はっ…そうだ、明日バッジテスト受けて、終わったらすぐ帰るんだ……」ピタッ
智子 「じゃあいつ名古屋観光すんだよ!?シャチホコ見てえよ、手羽先食いてえよー!!」ゴロゴロゴロ
智子 「その前に、これ覚えないといけないんだったな…」カサッ
取り出した紙には、プログラムの要素が矢印で結ばれて書かれている。新幹線の中で、30分で決めた振り付けだ。
しかもステップシークエンスに至っては『好きにしろ』と丸投げされている。
智子 「椿姫か……」
―回想―
西園寺『好きな曲をやるのはまだ先の話だ。バッジテストの審査員は全員クラシック信仰持ってると思え。
公式戦に出るようになっても、ショートはクラシックにしとくのが無難だ』
智子 『えっ…でも、つべで見た動画ではヤマトとか、ルパンとかやってましたけど……』
134
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/08(金) 13:54:14 ID:QvcDFlR2
西園寺『それはアイスショーか、もしくは審査がないエキシビジョンだろ?公式戦やテストでは受けのいい曲を選ぶのが常識だ』
智子 『マジですか…』ゲンナリ
西園寺『じゃあ、こうしよう。ジュニア大会では好きな曲を選んでいい。ただしバッジテストは俺が選ぶ。
これを期にクラシックに詳しくなるのもいいんじゃないか?』
智子 『うー…』
―翌朝―
智子 (緊張してあんま眠れなかった…)ドヨーン
西園寺「大丈夫か?なるべく後ろの方だといいんだがな…」
5級バッジテストは、宿泊施設に併設されたリンクで行われる事になっていた。
常葉のリンクより天井が高く、客席も多い。
智子 (中学生っぽいのが多いな……)キョロキョロ
すっかりお馴染みになった赤い受験者手帳を提出して、
審査員が滑走順を決めるのを待つ。西園寺の願いに反して、智子は2番目だった。
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