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もこっち「モテないし、フィギュアスケーターになる」
135
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/08(金) 13:56:04 ID:QvcDFlR2
智子 「げっ、2番!?」
西園寺「あちゃー…くじ運が悪かったな…ま、当たったもんは仕方ない。トップバッターよりはいいさ」
トップバッターは、背の高い中学生男子だった。地元クラブの選手らしく
無難な滑りだったが、2番めのジャンプコンビネーションを失敗。満足いかないという顔で演技を終えた。
西園寺「よし、だいぶ気持ち楽になったろ」
智子 「……あんな、上手そうな子でも失敗、するんですね…」
西園寺「俺の言ったの、覚えてるか?バッジテストは1回までならやり直しが許される。だから、
コケても手ついても、とにかく滑り切る。それが大事だ」ポンポン
審査員「次、常葉アイススケートクラブ、黒木智子さん」
智子 「は、はい!」
西園寺「頑張れよ、ここを通過したらいよいよ6級だからな」ポンッ
西園寺に背中を押されて、審査員の前に進み出る。
緊張をほぐすために、真崎に教わった腹式呼吸を3回繰り返して、目を開けた。
智子 (最初は、スピンか……えーと、スポッティングのポイントは…こいつらでいいか)シャーーッ、ガッ
136
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/08(金) 13:56:53 ID:QvcDFlR2
審査員を目印にして、くるくる回転する。腕を水平に広げてピタッと止まると、
間髪入れずに次の要素が始まる。
智子 (次が、ダブルルッツ…うげ、一番苦手なジャンプだ…)シャーーッ、ガッ
微妙によろけたが、なんとかこらえた。
智子 (ダブルフリップ、からの……コンビネーション)シャーーッ、ガッ、クルクル…ザーーッ
智子 (そしたら、またスピン)クルクルクル…
智子 (6回転したら、チェンジエッジ…そうすると、回転方向が変わるから…うぷっ、なんか喉上がってきた!)ガッ、クルクル
西園寺(よし、ここまでは順調だぞ、智子!)グッ
智子 (うう、回りすぎて頭が痛い…でも、スピンは確かこれで最後だ……ここさえ乗り切れば…!)シャーーッ、シャーッ、ガッ
最後のスピンは、フライングキャメルだ。
これは、キャメルスピンに入る際、フライング(跳び上がり)して入るもので、
ステップから入る通常のスピンよりやや難易度が高い。
智子 (あっ、やべっ……)クルクルクル
審査員(足が水平になってない……微妙に下がってる…フライングは出来ていたが…うーん)カリカリ
西園寺(智子もだいぶ股関節柔らかくなってるんだがな……スパイラルのレッスンを増やすか)
137
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/08(金) 13:57:35 ID:QvcDFlR2
智子 (やっとステップか……もう回るのはこりごりだ……)シャーーッ、ガッ、シャーー
エッジを左右外内に細かく動かし、リンクを縦横無尽に滑る。
そのステップに、審査員からも「おお…」と思わず感心したようなため息が漏れた。
智子 (ここからは延々ステップか……バリエーションはあるけど、結構キツいな……)シャーーッ
〜〜♫♪
智子 (音楽来た!あれ、BPM結構ゆっくりだな、やりやすいかも)シャーーッ、ガッ、クルクル…
西園寺(テンポは合ってる。鍛え始めたとはいえ、智子はまだまだ体力値が低いから、
速い曲だとついていきづらいからな、いい選曲だった。しかし…)
審査員「……」
智子 (あれ、審査員がなんか渋い顔してる!…何でだ!?私まだコケてないぞ!)シャーーッ
西園寺(智子には重大な欠点がもう一つある……)
その後も、審査員は終始厳しい表情ながらも、冷静にジャッジしていった。
審査員「はい、お疲れ様でした」
智子 「うう…精神的にキツかった…」ヨロヨロ
西園寺「頑張ったな、智子。合計で10分近く滑って、よくノーミスにとどめた。偉いぞ!」ポンポン
138
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/08(金) 13:58:06 ID:QvcDFlR2
西園寺(まあ、ジャッジに響くほどじゃない……この問題点は、帰ってからにするか)
その後も20人ほどの受験者が滑り……1時間近くかけて、全員の演技が終わった。
審査員「はい、合格です。おめでとう」スッ
智子 「よかった…名古屋まで来て不合格だったら殺されるとこだった…」
審査員「ころ…」
西園寺「気にしないでください。じゃ、智子。そろそろ帰るか」
智子 (やっぱり手羽先は食えない運命なんだな)ガックシ
西園寺「……と、言いたいとこだが……お家におみやげが必要だろ?新幹線の時間まであと3時間ある。
短いが、存分に楽しんでこい」
ご褒美だ、とウィンクする西園寺に、智子は「やったー!」と万歳した。
□ □ □ □ □ □ □
智子 「ただいまー!」
母 「おかえり智子、遅かったわね」
智子 「お母さん、これおみやげのういろうと手羽先!」
母 「まあ、美味しそう……で、バッジテストは?」
139
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/08(金) 13:58:45 ID:QvcDFlR2
智子 「えへへ」パラッ
母 「あらっ、しっかり合格してるじゃない。おめでとう!お母さんますます鼻が高いわ〜」ニコニコ
智子 「まだだよ、今年中に6級取って、ジュニアに上がんないと」
智子 (ああ、お母さんにこういう顔させられるようになったのは、素直に嬉しいな…)
母 「無理しないの。西園寺さんだって言ったでしょ?毎日の積み重ねが…あら、智貴おかえり。
じゃ、母さんすぐにご飯準備するからね」タタッ
ガチャッ
智貴 「ただいま…姉ちゃん、帰ってたのか」
智子 「出してきてやったぞ、お前の願書」フフン
智貴 「そんなエバることじゃねーだろ……」
智子 「お前なんで原幕受けなかったんだ?あれか、頭足りないのか。我が弟ながら可哀想な奴だな―」プププ
智貴 「……」
智子 「なんなら姉ちゃんが勉強教えてやってもいいぞ、私今機嫌いいからな」
智貴 「……のんきなもんだな」
智子 「へっ?」
140
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/08(金) 14:00:04 ID:QvcDFlR2
智貴 「姉ちゃんがスケートなんてお遊び始めたせいで、俺はこんな時間まで学校で補習受けてんだよ!」
智子 「お前、何言って…」
智貴 「姉ちゃんに金かかってんのに、俺まで私立行けるわけねえだろ!」ガンッ
智貴 「くそっ…」ガシガシ
智子 「あ、お前飯は…」
智貴 「いらねえよ!」タンタンタン
智貴はわざと大きな音をたててドアを閉めた。ドアを閉めた振動で家がぐらぐらと揺れて、
キッチンで調理していた母が「何なの今の!?」と顔を出す。
智子 「……智貴……」
141
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/08(金) 14:01:10 ID:QvcDFlR2
とりあえず今日はここまで。
受験ストレスで当たり散らしたりしなかった原作智貴は偉いと思う
142
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/08(金) 18:25:05 ID:BM8p8mJc
乙です
143
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/10(日) 11:35:33 ID:hk7GUKIk
乙
144
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/12(火) 22:01:57 ID:K.UJ5fXU
願書出し忘れの話ホントかわいそう
145
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/14(木) 15:15:28 ID:x4mokhjE
智子 「……」シャーーッ、シャーーッ、ガッ
智子 「!」ザシャーーッ
西園寺「おい智子、大丈夫か!?」
智子 「だ、だいじょ…いたっ」グキッ
西園寺「!……足ひねってるじゃないか、今冷やすもの持ってくるから、そのまま待ってろ!」タタッ
真崎 「お前らしくないぜ、ステップで転ぶなんて」
智子 「……」
真崎 「なあ、なんかあったのか?」
智子 「別に、何も……」
真崎 「嘘つけ。そんな泣きそうな顔してて、何が別にだよ。いいからお姉さんに言ってみ?」ポンポン
西園寺「スプレー持ってきたぞ!」タッ
真崎 「さんきゅ、コーチ。んじゃちょっと、あっち行っててくれよ」
西園寺「なぬ!?」ガーン
真崎 「女同士の話なんだよ!ほら、さっさと行った行った!……で、何あったんだ?ゆっくりでいいから、話してくれよ。
スケートのことなら、あたしが何でも相談乗ってやるからさ」
146
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/14(木) 15:16:14 ID:x4mokhjE
智子 「えっと…」
智子 (バカ弟の受験ストレスとか私の知ったことじゃねえよ……ていうかなんだよあいつ、
こっちは週六日もレッスン入れられて、毎日死ぬ気でやってるってのに……)
真崎 「……」
智子 (……もう言っちまうか?)
智子 「あの……実はですね……」
―翌日―
智貴 (はあ…日曜だってのに補習か……ほぼ毎日学校行ってるせいで制服洗ってる暇がねえよ……)
ピンポーン
智貴 (…また姉貴が着払いでグッズでも買ったのか)
智貴 「はい」ガチャッ
真崎 「よっ」
智貴 「……えっ?……あの、大沢……選手?」ピシッ
真崎 「へー、智子から聞いてたけど、マジで全然似てねえな」ジロジロ
真崎 「お前が智貴だろ?ちょっと面貸せ」グイッ
147
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/14(木) 15:18:20 ID:x4mokhjE
智貴 「へっ!?お、俺今から補習…」
真崎 「んーなもん、1日ぐらい休んだって死なねえだろ。ほら、いいから来いっての!」
□ □ □ □ □ □
智貴 「いって!」ズルッ、ザシャーーッ
真崎 「あっちゃー、軸がぶれてんのに手離すからだろ」
智貴 「くそ…」ヒリヒリ
真崎 「いきなりは無理だって、まずはスケート靴をハの字に…そう、そうやって、バーにつかまって……」
真崎が智貴を引きずっていったのは、智子がいつも練習しているリンクだ。
当の智子は、貴重な練習休みを満喫するべく部屋で爆睡しているので、
リンクには智貴と真崎しかいない。
智貴 (なんで俺は補習サボってこんなこと…)
真崎 「つまんなそーな顔すんなよ。世界女王が気分転換に付き合ってやってんだぜ」
智貴 「……」グッ
シャーーッ
真崎 「おっ、段々安定してきたな。さすがサッカー部」
148
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/14(木) 15:19:08 ID:x4mokhjE
智貴 (……なんだ、簡単じゃねーか…)シャーーッ
真崎 「やっぱ姉弟だな。バランス感覚いいじゃん2人とも。
お前もさ、高校から趣味で始めてみたらいいだろ」
智貴 「趣味って…」ガッ、キュッ
真崎 「大学から始めてプロになってる奴もいんぜ。アイススケートで滑ったり、人に教えたりすんだ。
世界で戦うんじゃなきゃ、大学からでも遅くないし、むしろ遅く始めたほうが
選手生命も長くなって、どうかすると一生現役で滑れるらしいぜ」
智貴 「そんなの、できるわけっ…」
真崎 「できるよ。そんぐらいなら、そこまで金かかんないからな。やろうと思えば、姉弟でフィギュア選手だって夢じゃねえぞ」
智貴 「……」
真崎 「お前、智子に言ったんだってな。"スケートなんてお遊び"って」
真崎 「たしかに、フィギュアって見てる分には綺麗だし、楽しそうに見える。でもさ、
10代のうちからジャンプ跳ばされて、冷たい氷の上で重いスケート靴履いて無理な動きばっかして、
フィギュア選手なんて20代で皆体ボロボロだぜ」
智貴 「……大沢さんも?」
149
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/14(木) 15:19:45 ID:x4mokhjE
真崎 「あたしは元々丈夫だから、まだ大丈夫だけど。でも腰はいてえし、膝もガタが来てっから、
23ぐらいで限界くっかもな。スポーツってのは多かれ少なかれ、そういうもんだ。遊びで出来るスポーツなんてほとんどねえよ」
智貴 「……」
真崎 「お前が受験で不安なのは分かる。でも、高校受験ってのは皆が通過しなきゃいけないポイントだろ。
落ちたって滑り止めに行きゃいいじゃねえか。そこもダメなら通信でも定時制でも行けるじゃねえか。
……高い金出してもらって、後がない智子とは違うだろ」
智貴 「それは……分かってるんです」
真崎 「うん」
智貴 「でも……」
真崎 「今すぐとは言わない。でもいつかは、智子の頑張りが形になるから。その時は智子を思いっきり褒めてやれよ。
お前が辛いって気持ちは、あたしが受け取ったから。これからもなんかあったらあたしに言えよ。
智貴一人分ぐらいのスキマは空いてるぜ」
□ □ □ □ □ □ □
150
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/14(木) 15:20:30 ID:x4mokhjE
―翌日―
智子はスケート靴を履いて、長い髪を後ろでまとめながら考えていた。
智子 (……真崎さん、"あたしに任せとけ"って言ったけど…)
智子 (何したんだ?今朝になってバカ弟のやつ、"この前は悪かった、俺もイライラしてた"なんて言ってきやがって…)
西園寺「よしっ、じゃあ今日から6級に向けてビシバシ特訓してく予定だが…行けるか?」
智子 「……はい!」
智子 (あいつ、私立は併願しないのか……そういえば、願書出してた学校……)シャーーッ
智子 (あれ、優ちゃんが行った、偏差値低いとこじゃねえか……)シャーーッシャーーッ
優 『そういえば、智貴くんにうちの学校のこと色々聞かれたんだけど、もこっちなんか知らない?』
智子 『えっ?いや、なんも…』
優 『なんかね、偏差値どれくらい?とか、大学進学率とか…すごく現実的だったよ』
151
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/14(木) 15:21:07 ID:x4mokhjE
智子 『あの…実際、どんぐらいなの?』
優 『うーん、偏差値は平均だと55ぐらいかな。滑り止めにする人が多いよ。大学はスポーツ推薦が多いし。
智貴くんはサッカーだっけ?』
智子 『えっ、あ、うん』
優 『そっかー。うち、サッカー部は強いからそれで聞いてきたのかなあ。でも、
智貴くんなら、もっと頭いい学校行けると思うんだけど、なんでだろ…』
智子 (あいつ…偏差値15も下げて、確実に受かるとこを選んだんだ…)グスッ
智子 (バカじゃねーの。当たり散らすぐらいなら気遣うなよ……)ガッ、クルクル
ザシャーーーッ
西園寺「よーし、いいぞ智子!その調子だ!」パチパチ
智子 (……がんばろう)
152
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/14(木) 15:22:25 ID:x4mokhjE
>>148
×アイススケート
○アイスショー
誤字すんません。もこっちの家は子供二人を私立にやれているので、
お父さんの年収はおそらく1000万円台だとは思いますが、
家のローンもあるので、智貴には公立に行っていただこうかと。
153
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/14(木) 18:59:56 ID:Gt2q3UJI
アイレボ知らなかったけどこのSS面白いな
続き楽しみにしてます
154
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/14(木) 19:44:02 ID:dU9ilDlM
原作とは異なる選択をした故のその後の展開の違い
二次創作の醍醐味やな
155
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/15(金) 18:30:38 ID:sti7wmfU
>>153
ありがとー。
アイレボは打ち切り漫画だから駆け足なのが残念だけど、絵も可愛いしおすすめだよ。
フィギュア漫画のテニヌことブリアクも出したかったけど、そうなるとダブルクロスだな…どうしようか…
>>154
原作の時は真面目に「優ちゃんの後輩になるのかー」と予想していましたが、
普通に考えてあんだけ賢そうな子がアホな高校行く訳ありませんでした。
_______________________________
厳しい練習をこなすうちに、智子にとって受験に匹敵する難関だったクリスマスが過ぎ、
正月が終わって、冬休みが明けた。西園寺は「万全の状態で、一発合格を目指す」と目標をかかげ、
6級への挑戦は春休み中に行うことになった。
智子 「順調に行けば、2年生が始まる頃にはジュニアに上がってんのか…」
智子 「ふふ、うへへっ……1年でジュニアまで上がるとか、ヤバいぐらいの才能やでえ…」
智子は自宅で靴のブレードを磨きながら妄想に浸った。
156
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/15(金) 18:31:17 ID:sti7wmfU
智子 (いつもクラスの窓際で外を眺めている、目立たない女子。しかしその正体は華麗なる氷上の舞姫……)
智子 (韓流ドラマかっ!!)ガンッ
久しぶりの妄想があまりにこっ恥ずかしいので、壁に頭を打ちつけてツッコミを入れる。
智子 (ロリ体型で一見地味だけど髪の毛下ろすと途端に美少女に変身して、料理とお菓子作りはプロ級で
家事を一通りこなす、実はモテモテだけど気づいていない天然ボケ夢主かっ!)ガンッガンッ
智貴 「うるせーぞ!単語が頭に入んねーだろ!」ゴスッ
壁越しに怒鳴られ、智子はようやく止まる。
智子 (……でも、一番ヤバいのは……)
智子 (それが現実、ってことなんだよな……)ハァーッ
智子は部屋の鏡に映った自分を眺めた。前は思わず吐いてしまったほど酷かった顔面が、
規則正しい生活と運動のおかげで、だいぶマシになっている。
智子 (眉毛整えてもらって、目の濁りとクマ取って、顔出してるだけ……)
智子 (私って、実は美少女だったのか……いや、美ってのは言いすぎだな。
お直ししなくてもAKBで20位以内ぐらいには入れるレベルだったのか……)ウヘヘ
157
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/15(金) 18:31:52 ID:sti7wmfU
―翌日―
廊下を歩いていた智子に、手を拭きながらトイレから出てきた女子が気づいて「お」と声をあげた。
琴美 「久しぶり」
智子 「……お、おお……」
琴美 「……」
琴美 「あのさ、もしかしてなんだけど」
琴美 「私の事、忘れてねえかお前」
智子は、漫画なら『ギクッ』という擬音がつくレベルで動揺した。
智子 「えっ!?わ、わわわ忘れてないよ、もちろん」ブンブン
琴美 (……記憶力と偏差値って比例しねえんだな)
琴美 「じゃあヒント。お前中学時代はいつも3人でつるんでたろ。成瀬さんと、あと1人は誰だっけ?」
智子 「えーと……」
琴美 「こ」
智子 「こ……あ!こみちゃんか!?こみちゃんだろ!」
琴美はハァーッとため息をついて、ハンカチを四折にしてポケットにしまう。
158
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/15(金) 18:32:28 ID:sti7wmfU
琴美 「お前にそう呼ばれるのはなんか嫌だから、覚えなおせよ。小宮山、琴美」
智子 「小宮山さん……琴美ちゃん……」
琴美 「まあどっちでもいいけど。夏休みにアイスショーあったろ?あれ、実は私も見に行ってたんだよ」
智子 「え?」
智子はそこでやっと、優の後ろにチラッと見えたショートカットの女子を思い出す。
記憶の中の顔が、目の前の呆れ顔と重なった。
智子 「そ、そうなんですか…それはどうも……」
琴美 「(なんで敬語?)結構よかったよ。私も思わず応援しちゃったぐらいだし」
智子 「あ、ありがとう……こ、こみ……やまさんも、同じ高校だったん、だね……」
琴美 「まーな。クラス違うから会わなかったけど。もしかしたら来年は一緒になるかもしんないな」
智子 「えっ、あ、あはは……」
キーンコーンカーンコーン
琴美 「あ、チャイム鳴ったから戻るわ。じゃ、私いつも図書室いるから、気が向いたら来いよ」タッ
智子 「あ、ちょっと…」
智子 (これも縁なのか……)
159
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/15(金) 18:33:15 ID:sti7wmfU
―放課後、常葉アイススケートリンク―
西園寺「そういえば、真崎。沙綾から連絡来てないんだが、お前はなんか知らないか?」
6級のバッジテストのため、ショートとフリーの振り付けを決めようと
ホワイトボードを出していた西園寺が、ふと思い出したように聞く。
ウォーミングアップをしていた真崎は、「知らねえけど」と答えた。
西園寺「そうか……」
智子 「あの…サーヤ、って?」
西園寺「ああ。お前も知ってるだろうが、片倉沙綾。去年まで俺が指導していた選手で、
元世界女王。実力は確かなんだが、周りとぶつかりやすい性格でな……まあ、
孤高の天才っていうのか。アメリカに行ったんだが、今のコーチと上手くやれてるのか……」
真崎 「ていうか、コーチに連絡来てないんだったら、あたしに来てるわけねーだろ」
西園寺「まあ、それもそうか。沙綾はあれで、メンタルがそこまで強くないから……心配だな……」
真崎 「片倉を心配すんのはいいけどさ、コーチは今智子と二人三脚なんだぜ?
智子に集中しろよ」
西園寺「あ、ああ…そうだな」
160
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/15(金) 18:34:00 ID:sti7wmfU
智子 (片倉沙綾…あの悪役令嬢か。写真ではそんな風に見えなかったけど……)
西園寺「よしっ、じゃあいよいよ始めるか!受かればジュニア昇格。
本格的に試合に出て、ライバルと競い合うことになる。
この6級は一発合格を目指すぞ!」
真崎 「おー!」グッ
西園寺「……お前は新しいコーチの方に帰れよ」ハァー
真崎 「だってあいつ、教えるのは上手いけど女の子と遊んでばっかなんだもんよー」
西園寺「クビにしろそんな奴!……じゃあまずは、曲からだな。
6級は、2分30秒のショートプログラムと、3分30秒のフリープログラムを続けて滑る。
5級の時は俺が決めたが……今回は特別な級だから、お前が決めていいぞ」
智子 「えっ!?ま…まじですか…!?」
西園寺「ああ。だが、あまりにも長い曲は編集が難しいから勘弁してくれ」
智子 「でも、審査員ってクラシックの方が受けいいとか……」
西園寺「受けの良し悪しがあるとはいえ、最終的には技術だからな。しっかり練習してノーミスに抑えれば、
まず大丈夫だ。ルール改正で、歌詞入りの曲も使えるようになったから、何でもありだぞ」
161
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/15(金) 18:34:33 ID:sti7wmfU
智子 (うっひょおおお!マジかよ、私の妄想現実にktkr!)
智子 (何にしようかな…巫女みこナースとかは狙い過ぎだよな……ちゃんと滑れて、なおかつ
あまり不興を買わないレベルの……うーん……)
いざ自由な曲でいい、と言われた智子は考えこんでしまった。
頭のなかでいくつか候補が上がるが、どれも決定打に欠ける。
智子 (うう…フィギュアの曲決めってこんな難しかったのか…アニソンだと使えそうなのがほとんど思いつかねえし……)
西園寺「大丈夫か?決められないようだったら、ショートを前と同じ椿姫、フリーをラプソディ・イン・ブルーでもいいぞ」
真崎 「智子、とりあえずノリがいいやつ選んどけよ。疲れっけどリズムに乗るの楽だし、滑ってて楽しいぜ?」
悩む智子に、2人が助け舟を出す。
智子 「2分30秒……スムーチ……」ボソッ
真崎 「あ、あたしそれ知ってる!あのちっさいキャラがぴこぴこ踊るやつだろ?」
智子 (はっ!つい思いつきを…)
真崎 「でもあれ、結構速い曲だよなあ……げっ、BPM177…こりゃ人間の限界超えちまうぞ。
おまけに秒単位で時間足りねえし……」
スマホで曲情報を調べた真崎は、「あたしでも無理」と首を左右にブンブン振った。
162
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/15(金) 18:35:15 ID:sti7wmfU
智子 (うーん……パッと思いついたノリノリな曲、がこれだったんだけどな……
滑ってて楽しい…ノリがいい……)
智子 「あ」
真崎 「ん、なんか思いついたか?」
智子 「あの、中学の体育祭で踊らされたやつなんですけど……
オーミキラブミキペコリミキー、ってやつ…あれ、なんでしたっけ」
真崎 「ああ、あれゴリエの……なんだっけ?」
西園寺「Mickeyだろ?元はイギリスのバンドの曲で、ゴリエのはカバーVerだ」
智子 「それ、いいかな……なんて……」モジモジ
西園寺「ああ、ちょっと待て。Youtubeで曲出してみよう」ピッ
西園寺がスマホで検索する。動画では、アメリカンスタイルのチアガール達が
一斉に並んで足を上げる、カンカンダンスを踊っていた。
〜♫ Oh Mickey Love Mickey ペコリMickey
恋する乙女のおまじない 〜♪
智子 「あ、なんか見てるうちに段々思い出してきた……(このゴリエの人、今何してんだろ)」
163
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/15(金) 18:35:49 ID:sti7wmfU
真崎 「これもう15年近く前なのかー。衣装はチアで決定だな!小道具…はたしかダメだったよな……」
〜♬Come on! Do Mickey Do Mickey
Don't break my heart Mickey〜♪
西園寺「うん、BPMもちょうどいいし、素直な譜面だから振り付けも組みやすい。
ただ、どっちかというとフリーに回したほうがいいな」
智子 「?」
西園寺「ショートで落ち着いた演技を見せて、フリーでバーンッと弾ける!
そのギャップは点数高くなるぞ。"あ、この子こんな演技もできるんだ!"って感じになるからな。
お前は体つきも小柄で華奢な方だし、この前の椿姫みたいに、大人っぽく静かな演技の方が
それっぽく見えるんだ」
智子 「(大人っぽい!?そんな評価始めて貰ったぞ……)じゃあ、フリーはこれで」
西園寺「よし、フリーは"Mickey"だな。振り付けはジャンプとステップ主体で、
弾けるような元気な感じに仕上げよう。その前座になるショートは、体力を温存する意味でも、おとなしい印象の曲を選ぶか」
智子 「大人しい……」ウーン
164
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/15(金) 18:36:34 ID:sti7wmfU
だいぶ範囲が決まったものの、やはり難しいものは難しい。
ゲーセン通いのおかげで智子の音楽のジャンルは幅広い。だが、そのほとんどがゲーム性をつけるためかBPMが高めで、
いうなれば『アゲアゲ』な曲ばかりだ。しっとりしたバラードなどもいいが、そうなると逆に合わせづらかったりする。
智子 「……あ、これなんかいいかも…」スッ
〜〜♫♪
真崎 「ん?……マミさんのテーマ?……なんだ、アニメのBGMにしちゃフツーというか、
クラシカルな曲だなー。賛美歌みたいで」
正式な曲名は『Credens Justitiam』
ト長調のイントロから、変イ長調のメインメロディー。
西園寺「全体的に優美な印象のアレンジだな、『大人しい』という条件からはやや外れるが、
チアダンス風のフリーに続く曲としては悪くない。オーケイ、じゃあショートはこれでいこう。
ただ、間を引き伸ばして2分30秒に編集するぞ」
智子 「はい!」(ああ、これがやりたくてフィギュア続けてたんだよ私は……!振り付けにはぜひ
ティロフィナ(ry)
165
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/15(金) 18:37:08 ID:sti7wmfU
真崎 (……智子のやつ、すげえイキイキしてんなー。あたしは音楽とか聴かないし、結局いつも
コーチに選んでもらってるから、羨ましいな)ポワポワ
それから2週間は、苦手な要素を徹底的に特訓することになった。
西園寺「軸がブレてるぞ、もう一回!」ピーッ
智子 「は…はひ…」ゼエゼエ
智子の苦手なジャンプは、まず最高難度のアクセル。それと、踏みきるタイミングでエッジの向きが変わるルッツの2つ。
6級からはダブルアクセルが必須になる。智子はどうしてもアクセルの苦手意識が抜けないせいで、
回転不足になる傾向が強いため、西園寺はアクセルを集中特訓させた。
西園寺「上半身をもっと傾けろ!レイバックは下半身でしっかり回転を支えるんだ!」
智子 「うぶっ…」グルグルグル
スピンでは、体の柔軟性が要求されるキャメルや、そこから派生するレイバックが苦手。
股関節を半年かけてゆるめたおかげで、なんとか180°開脚はできるようになったが…
西園寺「次はビールマン……ああ、ダメだ智子!もっと足を上げろ!そう、骨盤を意識して……
それじゃ非常口だろ!もっとしっかり上に!」ピーッ
智子 (ひぃぃ!鬼コーチ降臨!?)ググーッ
166
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/15(金) 18:37:46 ID:sti7wmfU
なまじステップが完璧なせいか、小さな欠点が大きく目立つのが智子の弱点でもある。
本番ではジャッジに響く危険性が高いため、西園寺はいつもより5割増しで厳しく教えた。
智子 (うぅ…だいぶ慣れてきたと思ってたけど、やっぱりスポ根は向いてないな私…)ヨロヨロ
□ □ □ □ □ □ □ □
―昼休みの教室―
ワイワイ…ガヤガヤ…
智子 「……」チーン
智子 (疲れた…もう髪の毛まとめる気力もない…おかげで頭が入学当時に逆戻りしてる……)
連日の猛特訓で活動限界を迎えている智子は、昼休みは机に突っ伏して寝るのが定番になっていた。
最近では授業中でもこっくり、こっくりと居眠りしているが、元々影が薄いのが幸いしてか、
あまり注意されることはない。
智子 (あー、気持ちいいな……)ウトウト
モブA 「そういえばさ、昨日すっごい人見た!」
モブB 「えー、だれだれ?」
モブA 「あのね、フィギュアの片倉選手!」
智子 「!?(今片倉っていったかこいつ)」ピクッ
167
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/15(金) 18:38:36 ID:sti7wmfU
モブA 「駅前のスポーツ用品店にいたんだけどさ、足とかスラーッって長くて、すっごい美人!」
モブB 「マジで!?すごいじゃん!で、で、サインとか貰った?」
モブA 「それがさー。"プライベートでは話しかけないで、マナーよ"とか言っちゃって、スーッっていっちゃってさー」
モブB 「うわー、感じ悪…」
智子 (写真通りじゃねーか…何が"メンタル弱い"だコーチ…出来損ないの切原みたいな頭して…)
―その頃の西園寺―
西園寺「くしゅんっ!?」
智子 「って、今こっち来てんのか!?」ガバッ
モブA 「うわっ、びっくりした!」ビクッ
モブB 「黒木さんフィギュア好きなの?意外だねー」
智子 「えっ、あ、いや…その、うん…まあ……ごめん、続けていいよ」ススス
智子 (リンクに顔出すかも……つーか、確実に来るよな……まあ、適当に挨拶だけして、後はなるべく関わんないでおこう……
どうせすぐアメリカ帰るんだろうし……)ガタッ
しかし、智子の願いは最悪な形で裏目に出ることになる。
168
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/15(金) 18:39:11 ID:sti7wmfU
その日の放課後。智子はロッカールームでジャージに着替えて髪をまとめていた。
襟足で1つに縛ってみたが、鏡に映ったのは片倉選手リスペクトStyleの自分だった。
智子 (……いつも通りにしとこう)
ゴムを口にくわえて、高い位置でまとめ直す。
だいぶすんなりできるようになったが、これも自分の成長の1つと考えると、自然と顔がほころぶ。
ガタッ
智子 「あ、真崎さん?今鏡空けます……」クルッ
振り返った先にいたのは、いつもの人懐っこい笑みではなく、冷たい無表情。
智子 「か……片倉、さん」
言い直したのは、いつか真崎が『試合以外で大沢選手って言われると、なんか疲れんだよな』と言っていたのを思い出したから。
しかし、すでにジャージに着替えて準備万端の沙綾は、智子を上から下まで見て言った。
沙綾 「……小さい」
智子 「は?(ちゃんと喋れよ悪役令嬢!主語抜きは綾波にしか許されない高等テクだろーが!)」
沙綾 「中学の頃の私より小さいじゃない。……本当にあんたが、西園寺コーチの言っていた"金の卵"なの?」
智子 (あのコーチ、何勝手に人のハードル上げてんだ!)
169
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/15(金) 18:39:55 ID:sti7wmfU
智子 「あの、片倉さんは何を……」
沙綾 「……準備が終わったんなら、早くリンクに来て」スッ
智子 「……やっぱ、感じ悪い奴……よくイジメらんないなあいつ」
腹はたつが、行き先は同じなのでさっさと髪をまとめてリンクに向かう。
ウォーミングアップで滑っている沙綾はすらりと背が高く、3つ違いとは思えないほど大人びている。
滑りも、だいぶ上手いと自負している智子を凹ませる程度に美しい。
智子 (うっ、考えてみりゃこの人、世界一になったことあるんだもんな……
それに比べて私は……)
智子 (まだ、ジュニアにすら上がってない……)
西園寺「沙綾!お前、いつ日本に帰ってきて…」
沙綾 「……昨日です」
西園寺「じゃあ、時差ボケもあるだろ。今日はゆっくり休んだほうが……」
沙綾 「問題ありません」シャーーッ
西園寺「あーあ……智子、沙綾のことは気にしないでいいからな。お前はお前の練習をしろ」
智子 「あ、はい…」
170
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/15(金) 18:40:30 ID:sti7wmfU
西園寺「よし、じゃあ今日は音楽かけて通しでやってみよう」
〜♫
音楽が鳴り出すと、リンクを大きく使って滑っていた沙綾はサッと隅っこにどいた。
智子 (暗黙のルールってやつか……)シャーーッ
荘厳なメロディを歌い上げる、聖歌にも似た女の高い声。
いきなりのダブルアクセルだが、曲がわりとゆっくりなおかげで、落ち着いて踏み切れる。
智子 (よしっ、決まった!)クルクルッ、ザシャーーッ
智子 (すごい、すごいぞ私!一年足らずでこれって、天才なんじゃねーの!?)ウヘヘ
沙綾 「……」
ノーミスでショート、続いてフリーも滑り、天上天下唯我独尊ポーズ(智子命名)で〆る。
西園寺は「いいぞー!」と拍手していたが、一通り見た沙綾はぷいっと横を向いた。
沙綾 「……なんだ、この程度」
智子 「なっ…」カチンッ
西園寺「沙綾、一応智子はお前の後輩なんだぞ。それだけで済ませたらただの悪口だ。
改善点があるならしっかり言え」
171
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/15(金) 18:41:08 ID:sti7wmfU
沙綾 「……そんなことも分からないんなら、やるだけ無駄だと思う」
智子 「えっ……」
沙綾 「あんた、空手でもやってるつもり?……フィギュアはただのスポーツじゃない。
あんな滑りでよく世界を目指すなんて言えるわね」
沙綾 「はっきり言って、全然美しくない。ジャンプもスピンも、ただの技になってる。
女らしさの欠片もないし、動きが硬すぎて、見ていてイライラしてくる」
智子 「……」
西園寺(くっ……普段の指導で少しずつ言っていたのに、こんなビシバシ言っちまうと……)
沙綾 「あんな滑りじゃ芸術点はつかない。ただ曲に合わせて動いてるだけにしか見えない。
……あんたのそれは、フィギュアスケートじゃない」
西園寺「あ、智子!」
後ろから西園寺の声が追いかけてきたが、智子は構わずエッジカバーをつけて、靴を脱ぎ捨てた。
泣きながら走っていく智子とあやうくぶつかりそうになった真崎は、「おい片倉、テメー何しやがった!」と
鬼の形相でリンクに滑り出る。
西園寺「……最悪のタイミングだ」
172
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/18(月) 16:13:34 ID:KSPHjt/w
リンクを飛び出した智子は、足が赴くままトボトボと歩いていた。
智子 (ゲーセンか……)
気がつくと、中学時代から通っていたゲームセンターの前に来ていた。
ポケットを探ると、小銭が何枚か入っていたので、とりあえず音ゲーのフロアに向かってみる。
智子 (……あ、筐体変わってる)
智子 (……)チャリンッ
『Welcome to Jubet Qubell』
智子 (……今更な新曲が多いな……とりあえずLv9の逆詐称で肩慣らしすっか)タカタカタカ
『Clear B』ドーン
智子 「嘘だろ!?」ガーン
智子 (たった半年やんなかっただけでこんな下手くそになってんのか……)
ベンチに座った智子は、何の気なしにあたりを見回した。
と、カードトレード掲示板を見ていたガラの悪い男がくるっと振り返って、「あ」と声を上げる。
荒野 「智ちゃん?何してんだこんなとこで」
智子 「えっ、あの……」
173
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/18(月) 16:14:16 ID:KSPHjt/w
西園寺「……お前のいらだちと、智子の問題は何の関係もない」
沙綾 「……」
西園寺「でも、お前の口からあんな言葉が飛び出した理由ってのはあるはずだ。
元コーチのよしみで、教えてくれないか。お前は考えなしに人を罵るような子じゃないだろ」
真崎 「……片倉……」
沙綾 「……間違いだったの」
真崎 「?」
沙綾 「月刊スポーツの記者が……謝ってきたの。"フィギュアスケート完全特集"で、
私の肩書を"世界女王"って書いちゃったって。本当は"元"がつくのにすいませんって」
沙綾 「世界女王から転落した瞬間、嫌がらせが多くなって……"あの採点は疑わしい"とか
"芸術点なんて不明瞭な基準だから、加点してもらったんだろ"とか
酷いことばっかり言われて……全然、楽しく滑れなくなって……」
沙綾 「だから……羨ましかったのかもしれない……あんなガタガタな滑りで、それでもがんばってるのが……」
真崎 「……」
174
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/18(月) 16:14:56 ID:KSPHjt/w
真崎 (そっか…こいつを天才美少女って持ち上げてた奴らなんて…2位になったらあっという間に興味なくすような
バカばっかだったって事か……)
西園寺「そうか。自分の気持ちに整理がついたんならそれでいい。ただ、後で真摯に謝るんだぞ。
それに…智子の欠点は、はっきり指摘しなかった俺も悪い。智子が自分で乗り越えなきゃ意味ないからな」
西園寺「最後はやっぱり、自分次第なんだ。沙綾もちゃんと、それを分かっただろ」
□ □ □ □ □ □ □
一瞬逃げようかと考えた智子に構わず、荒野は隣に座って「で、何してんだ?今日は練習ねえの?」と聞いてきた。
荒野 「ふんふん、片倉ね……って、あの片倉紗綾か!?」
智子 「えっ、しし…知ってるんですか!?」
荒野 「知ってるも何も、真崎のライバルだっつーの。……いやー、しかしあいつなら言うよなあ」
荒野 「あいつ、親父に金的蹴りかましたんだぜ。真崎がフィギュア始めるって言い出した時、
猛反対した親父が"フィギュアなんてお遊び"って言ったのにブチギレて」
智子 「ひょっ!?き、きんてきっ…」
175
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/18(月) 16:15:38 ID:KSPHjt/w
荒野 「……真剣にやってる事バカにされたら、まあ……誰だってそうなるだろうなとは思った。
でも、智ちゃんのそれとは別だよなあ」
智子 「……」シュン
荒野 「智ちゃんだって、片手間にやってるわけじゃないんだからさあ。そんな言い方ねえよなあ。
せめてどこが悪いかぐらい、教えてやったっていいじゃねーかよ。先輩なんだからさ」
智子 「……私、どうすれば、い、いいんでしょうか……」
荒野 「とりあえず今日は遊ぼうぜ!俺も付き合うからよ!」スクッ
智子 「えっ!?あ、遊ぶって…」
荒野 「パーッと遊んで、飯食って、寝る!ほんで明日、片倉に謝らせて、コーチに教えを請う!」
一気に言い切った荒野のニコニコ笑う顔を、智子はあっけにとられながら見た。
荒野 「片倉のそれは八つ当たりだけど、智ちゃんに問題点があるのは本当なんだろ?
だから、それはコーチに聞く!なんてたって、プロだから!
今はとにかく、前向きになること!」フフン
智子 「……」
176
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/18(月) 16:16:41 ID:KSPHjt/w
ごめん、一文抜けてた。
>>174
に
仕方なく、さっきの出来事を話す。
全部聞き終わると荒野は「ほうほう」と頷いた。
177
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/18(月) 16:17:44 ID:KSPHjt/w
智子 「……はい、わかり……まし、た…」コクン
荒野 「うっし、んじゃ、さっき智ちゃんやってた奴教えてくれよ!」
智子 「お兄さん、さっきポップンやってたじゃないですか…」
荒野 「え?わかんねーからとりあえずボタンテキトーに押してたらクリアできたぜ」
智子 「…!!」
それから2時間、2人は小銭が無くなるまで遊び倒した。
疲れたらベンチで他人のプレイを眺め、遅くなったのでファーストフード店で夕食をとる。
智子 (も、もしやこれはデートというやつでは!?…ふふふ、喪男の素人童貞なんて妄想だけで生きてるような
人種だからな…黙ってるだけで好感度バク上げやでえ…)
荒野 「智ちゃんセットでいいんだっけ」
智子 (DQN系も悪くねーか…なんてったってスクールカーストの最上位はDQNか優等生だからな…
頭空っぽな分こっちで動かせそうだし……こいつ、ちょっと突けば貢ぎそうだし)
荒野 「おーい?」
智子 「はっ!」
荒野 「セットで大丈夫?」
178
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/18(月) 16:18:42 ID:KSPHjt/w
智子 「は、はひ…」コクコク
荒野 (緊張してんのかあ…可愛いなあ…)ホワーン
智子 (なんだ、使えるじゃねえか…ギャルゲーの法則)グヒヒ
―翌日―
智子 「……」ゴクリ
智子 「お、おはようございm ???「おはよう」
智子 「へっ!?」クルッ
沙綾 「……」
智子 (やっ…やっべええ!!いきなりラスボスがっ…)
沙綾 「…昨日は、ごめんなさい」
智子 「えっ」
沙綾 「私も、イライラしてて……だからって、八つ当たりしていい理由には、ならなかったわね。
……本当に、ごめんなさい」
智子 「えっ、あ、あの…その、か、顔上げてっ…」アワアワ
西園寺「お、二人とも早いな」ガチャッ
智子 「あの、コーチっ、昨日は…」
179
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/18(月) 16:19:47 ID:KSPHjt/w
西園寺「大丈夫だ」
智子 「……」シューン
西園寺「……だが、このままというわけにもいかんしな……沙綾にはちょっと、頼みたいことがあるんだが」
沙綾 「……分かりました」
西園寺「よし、じゃあ二人ともついて来てくれ。今日のレッスンは別の場所でやるから」
智子 「え?」
―リンク近く.バレエスタジオ―
智子 「……って、バレエスタジオかよ!」
沙綾 「……まさかと思ったけど、ここまで何も知らないとは思わなかったわ。怒鳴った自分がバカみたい」ハァ…
智子 「なっ!?」ガビーン
沙綾 「フィギュアスケートが、ただのスポーツじゃないってことぐらい知ってるでしょ?
氷の上で、自分なりに広げた音楽の世界を、スケーティングで表現する。つまり、
スポーツ的側面が、ジャンプやスピンといった要素。芸術的要素が、その他の身のこなしに現れるってこと」
180
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/18(月) 16:20:43 ID:KSPHjt/w
紗綾の説明は一見長いが、的を射ていた。続けて「ただのスポーツなら、スピードスケートでいいでしょ」と溜息をつく。
西園寺「その通り。そして、智子に一番欠けているのがこの…"芸術性"なんだ」
智子 「だから、昨日"フィギュアスケートじゃない"って…」
西園寺「ああ。沙綾の言い方はキツかったが、ここまでバッジテストの審査員が誰も指摘しなかったのが不思議なくらいだ。
智子。お前のスケーティングは、力任せで、曲を表現する段階まで至ってない。
ただ、曲に合わせて滑っているだけなんだ」
智子 「えぇ!?」ガーン
西園寺「ちょこちょこ指摘してきたんだが、お前は気づかなかったからな…」
智子 「もし、実際の試合だったら…」
西園寺「芸術点が大幅に低くなって、表彰台が遠ざかる」
智子 (……なら、指摘してもらっただけでもありがたいじゃねえか……飛び出した自分がバカみたいだ…)ズーン
沙綾 「あんた、バレエとかやったことある?」
智子 「い、いえ…」
沙綾 「じゃあ、日本舞踊とか、茶道は?」
智子 「と、とととんでもない!」ブンブン
181
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/18(月) 16:21:14 ID:KSPHjt/w
西園寺「一流の選手は、ほとんど全員がバレエと両立してレッスンを進めている。
演技に取り入れることで、優美な動きになるんだな。だが、お前は未経験だから…とりあえず」
西園寺は、トゥシューズとレオタードを取り出した。
西園寺「論より証拠!まずは、俺が基礎から教えていくから、真似してやってみろ」
―30分後―
智子 「……くっ、キツ…」ゼエゼエ
西園寺「がに股になってるぞ!あと、背筋は伸ばして!」
智子 「の、伸ばすって……言って、も…」ピーン
沙綾 「……」
西園寺「やっぱり、一朝一夕には行かないか……真崎の時も苦労したっけなあ…」ウーン
沙綾 「……ちょっと、いい?」スッ
智子 「へっ?…ひゃ!く、くすぐった…」
沙綾 「暴れないで。体で覚えてもらう方が早いから」グッ
182
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/18(月) 16:21:56 ID:KSPHjt/w
レッスンの成り行きを見守っていた沙綾は、バーにつかまった智子の内股に手をかけ、
片足をグッと上げる。さらに背中が弧を描くように伸ばし、天井に向けた右手首を内側に返す。
沙綾 「……審査員は指先まで見てるの。……一瞬でも、気を抜かないで。
でも、体の力は抜いて。骨だけで立つのをイメージするの」ググッ
揃えさせた右手の指のうち、人差指と中指を残した指を、すっと自然に落とさせる。
沙綾 「……はい、完成。どう?」
智子 「うわっ…!すっご…」
全面鏡に映ったのは、腰と水平に片足を上げた、アティチュードのポーズ。
指も美しく広げられて、まるでしなやかな鳥のようだ。
智子 「わあ……」
沙綾 「この感覚をしっかり覚えて滑れば、多分、大丈夫……」
沙綾 「私も、6級は1回落ちてるから…」
智子 「え、片倉、さんも?」
沙綾はこくんと頷いて、「6級からは、この芸術性が足りないと駄目なの」と答える。
智子 「だから、昨日…」
西園寺「よかったじゃないか!これで6級はバッチリだな!」
183
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/18(月) 16:22:31 ID:KSPHjt/w
沙綾 「……じゃあ、私もう帰るから」クルッ
西園寺「おう!智子の試験日が決まったら、連絡するからな!今日はありがとう!」
沙綾 「……」
智子 「あ、あの!」
沙綾 「なに?」
智子 「そ、その……」
智子は口ごもった。別に何かあるというわけでもないのに呼び止めてしまったので、言葉が出ない。
沙綾 「……頑張って」
智子 「え?今…」
バタン…
智子 「行っちゃった…何なんだあの人…」
西園寺「まあ、らしいっちゃらしいな」ハハハ
かくして、自身の最大の弱点ともいえる『芸術性の欠如』を自覚した智子。
しかし、6級試験は、彼女が想像している以上にプレッシャーのかかるものだった!
184
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/18(月) 16:23:07 ID:KSPHjt/w
今日はここまで。明日は6級バッジテスト編。
185
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/18(月) 16:47:15 ID:dvPB/936
http://jump.cx/G7H2l
186
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/18(月) 22:36:17 ID:UzROANyY
乙
スケートに釣られただけでわたもてすら殆ど知らないんだが、面白いな
187
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/19(火) 13:44:18 ID:./v6ymZs
>>186
ありがとう。なるべくスケートの方は分かりやすくに留めたいんだが、
どうしてもクドくなる…ルール細かいよ……
作者都合でルールを変えてる部分がありますので、ご容赦下さい。
_________________
6級バッジテストの試験日は、奇しくも始業式の前日に決まった。
西園寺「すまん…新学期が始まる前に休みを確保してやりたかったんだが……」
智子 「(チッ、結局春休みは練習漬けかよ……)で、試験会場は…」
西園寺「今回は横浜のリンクだ。当日は朝9時に駅で一旦集合して、俺と一緒に現地入りだ」
智子 「一人で…」
西園寺「だめだ。万が一乗り換えが分からなくて遅刻とかになったら困るからな。
不測の事態があっても、一緒にいれば俺がリンクの方に連絡できるだろ?」
智子 「ま、まあ…それは、そうですけど…」
智子 (なんだろう。この人、全体的に私を子供扱いしている気がする)
188
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/19(火) 13:45:13 ID:./v6ymZs
―試験当日―
智子 「コーチまだ来てないのか…」ピロンッ
智子 「ん?ゆうちゃんからメールだ」
優 『もこっち、おはよー!もうリンクには着いた?今日はこみちゃんと応援に行くから、がんばってね!』
智子 「……こみちゃん……あ、小宮山か」
琴美 『結構良かったよ。私も思わず応援しちゃったくらいだし』
智子 (……あいつも来んのか、確かあいつライトヲタだったし、休日はどうせ予定ないか)
西園寺「おーい、智子―!来る途中でお母さんに会ってな、お前に渡すの間に合わなかったお弁当預かってきたぞ―!」ブンブン
智子 (……6段、だと……!?……花見か!)
一旦都心に出て、そこから東海道線に乗り換える。
たまたま快速が捕まったので、ボックス席をキープして、ゆったりと車窓の景色を楽しみながら行くことにした。
智子 (……どんどん、のどかになるな……海見えねえかな)ソワソワ
西園寺「なあ、智子」
智子 「はい?」クルッ
西園寺「去年の今頃はお前、スケートやるとか考えらんなかっただろ」
智子 「それは、まあ…」
189
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/19(火) 13:45:56 ID:./v6ymZs
西園寺「そっから1年で、お前はここまで来たんだ…」
西園寺「すごいことだよ、本当に」
智子 「……」
西園寺「だから、今までの力を全部出し切って、ジュニアの舞台に殴りこみだ」
な?とウィンクする西園寺に、智子は「はい」と頷いた。
智子 (今日、合格すれば…いよいよ、ジュニアクラス!)
智子 (そしたら…そしたら、今度こそ…!)
モヤモヤーン…
モブA 『すごーい、黒木さんフィギュアやってたの!?なんで言ってくれなかったのー?』
モブB 『ウチのクラスにそんなすごい人いるなんて…』
モブC 『ねえねえ、今度の大会は出るの?クラス皆で垂れ幕作ろうかと思うんだけど……』
キャーキャー
モヤモヤ…
智子 (う、うふふ……うへへ…)ニマー
西園寺「智子は想像力が豊かだなあ」
190
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/19(火) 13:47:20 ID:./v6ymZs
智子 「はっ!え、そ、そうぞ…(恥ずっ、バレてた!)」アワアワ
西園寺「イメージトレーニングは存分にしろよ!人間はな、頭で考えてるとおりに運命が動くもんなんだ。
俺もよく、インタビューに来た女子アナと結婚する妄想してたなあ……」ジーン
智子 (実現してねえじゃねーか!)
智子 (まあ、妄想がコーチ公認になったのはありがたいけど…)
横浜までは、一時間ほどで到着した。タクシーでリンクに向かうと、常葉とたいして変わらない、やや古い建物だった。
西園寺「俺はちょっと手続きをしてくるから、お前は先にロッカーで着替えとけ。もちろん、衣装にな」
智子 「…!(いよっ、っしゃあああ!キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!)はい!」
意気揚々とロッカールームに入った智子は、中学生の受験者たちの間に場所を確保する。
智子 (チラッと見た限りでは…結構顔面偏差値低いな、向こうの女なんてエラ張ってるし…
親は自分の子供の容姿見てから習わせろよwww顔面凶器じゃねえかw
うん、ノーメイクでも私が一番マシだ)ムフフッ
モブ女(何この人、一人で笑ってる。気持ち悪…)
智子 (えーと、ショートの衣装は…真崎さんのお古っと)ガサゴソ
191
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/19(火) 13:48:45 ID:./v6ymZs
無印良品の紙袋を漁って、丁寧に畳まれた衣装を取り出す。
透け感のある、半袖Aラインワンピース。色はサックスで、裾と袖口、襟ぐりには
少し深い青のレースがあしらわれている。
智子 (贅沢を言えば、マミさんコスで滑りたい所だったけど、まあ、いっか)ゴソゴソ
智子はジャージを脱いで、肌色のストッキングの上からレースのニーソックスを履いた。
髪は迷った末、左に寄せてひとまとめにする。なぜか沙綾が貸してくれた花のヘアゴムで結んだ後、
いざワンピースを着ようとしたところで、智子は真崎の重大な見落としに気づいてしまった。
智子 「ん!?」ピタッ
智子 「胸が…足りない……」ペターン
智子 (……どうしよう、胸のあたりがパフパフして気持ち悪いし、袖がずり落ちるし……)ズーン
???「あの」
智子 「へっ!?」クルッ
振り返った先に立っていたのは、おっとりした雰囲気の少女だった。
髪を後ろでひとまとめにしていて、胸元に3本のラインが入ったジャージを着ている。
???「胸、足りないんでしょ?私のでよければ、詰め物貸してあげる」スッ
192
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/19(火) 13:49:40 ID:./v6ymZs
智子 「あ、ありがとう……あれ?でも、どうやって…」
???「ふふ、こうやるんだよ」ギュッ
智子 「ひゃあっ!?む、胸に……」ビクッ
???「んっ…と、胸を寄せて……よしっ、入った!後はピンで固定して、っと……あ、この羽飾りもつけるの?」
智子 (可愛い顔して、大胆な奴だな……こんなボディタッチ、百合漫画でしかお目にかかれねえぞ…!)
???「これもつけとくよ。背中って大変だもんね」パチンッ
???「わあ、すっごく可愛い衣装だねー!」
智子 「おっ…おお、谷間が…!」ジーン
???「よかった、衣装着れなかったらテンション下がっちゃうもんね」ニコニコ
智子 「ありがとう、えっと…」
小雪 「桜田小雪、高校2年。今日は後輩の子が滑るのを応援に来たの。
……常葉FSCの西園寺コーチと一緒に来た子だよね?」
智子 「は、はい…あの、もしかして私の名前……」
小雪 「知ってるよ。黒木智子ちゃん。まだ始めて1年しか経ってないのに、すごい子がいるって、
私のクラブでもちょっと話題になってたんだよ」
193
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/19(火) 13:50:27 ID:./v6ymZs
智子 「えっ!?い、いつのまに……」
小雪 「だって、うちの…白帝FSCのオーナーと常葉の西園寺コーチは、昔からの知り合いだから」
小雪 「ねえ、智子ちゃんって呼んでいい?」
智子 「あ、それはもうお好きなように…(智子ちゃん…女子にそう呼ばれるの、生まれて初めてだ…)」アワアワ
智子 「こ、小雪さん……」
小雪 「うん、よろしくね!」パアッ
智子 (可愛い……あやうくロリコンに目覚めそうな可愛さや……)ホワーン
ガチャッ
審査員「6級バッジテストを受験する方は、リンクに集合して下さい!」
小雪 「じゃあ、がんばってね智子ちゃん。私も観てるから」
智子 「はい……一発合格、目指します!」
小雪 「ん、その調子だよ!」
智子 (小雪さんはもうとっくにシニアなんだろうな……いや、上がっちまえば全員同じだ、
ここまで来て、失敗できっか!絶対に一発で受かる!)ギュッ
194
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/19(火) 13:51:26 ID:./v6ymZs
―リンクにて―
西園寺「……智子。お前のくじ運、前回より悪化してないか?」
智子 (……あばばばば)チーン
滑走順は、「せめて真ん中、ダメでも後半」と願っていた智子の意に反して、堂々のトップバッターだった。
西園寺「ま、まあポジティブに考えろ。トップということは、早く終われるしな」
智子 「あれ、そういえばショートとフリーの滑走順が決まってないような…」
西園寺「ああ、それは全員の必須要素試験が終わった後に決めるんだ。今は何も考えず、一つ一つの課題を丁寧に滑ろう」
智子 「……」
西園寺「大丈夫だ。もし再試験になったとしても、その時は落とした必須要素だけを滑る。
……着実に、上がっていこう」
審査員「ではこれより、バッジテスト6級の試験を始めます!」
審査員「1番、常葉FSC、黒木智子さん!」
智子 「は、はひっ!」
クスクス…
智子 (やっべ、声裏返った…)カァァ
西園寺「智子、お前なら大丈夫だ。毎日の練習が証明してる。……お前はもう、去年の6月のお前じゃない」
195
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/19(火) 13:51:59 ID:./v6ymZs
智子 「…!」
西園寺「じゃあ、行って来い!」ドンッ
いつか妄想した時のように、西園寺に背中を押されて真ん中へ滑り出る。
智子はそこでやっと、周りを見回す余裕ができた。
智子 (あ、みんな大会用の衣装着てる……観客席は……ゆうちゃん!と、小宮山も!)
観客席で、『もこっち Fight!』とマジックで書かれただけの応援垂れ幕を持った小宮山が手を振っている。
その横でカメラを構えた優も、両手でハートマークを作って左右に揺れて、「がんばってー」と声をあげた。
智子 「……うん、頑張る」
小さくつぶやいて、智子は姿勢を整えた。
智子 (最初は、ダブルアクセル……くそ、しょっぱなから一番苦手な奴だ……!)シャーーッ、シャーーッ…ガッ
智子 (――あっ、微妙にタイミングが…)クルク…
智子 「あっ!」ベシャッ、ザーーッ
優 「ああっ…」
琴美 「……あいつ、苦手な奴はとことん苦手なんだな…」
審査員(ダブルアクセル、転倒……と)カキカキ
196
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/19(火) 13:52:37 ID:./v6ymZs
西園寺「智子、もう一回だ!」
智子 「うう…」フラッ
シャーーッ、シャー…ガッ
智子 (うっ、尻が痛いっ…)クルクル…ザシャーーッ
審査員(手をついている…が、減点ほどではない。……ただ、一回目の失敗もある。再試験項目だな)カキカキ
智子 (えーと、次は…うっ、たしか三連続ジャンプ…尻も足も痛いけど、ここは失敗できない…)シャーーッ
女子の場合は、2回転を3連続跳ぶのが課題となる。
ルール上、着氷する際にエッジの向きを変えたり、足を入れ替えたりといった行為は認められない。
つまり、バックアウト(後ろ向き外側)に踏み切れるジャンプしか、コンビネーションには使えないのだ。
智子 (最初は、ダブルルッツ…くそ、もっと練習しとくんだった……何でこんなジャンプがあんだよ、
ルッツとアクセルの考案者、絶対ドSだ……いたいけな女の子で777つ道具試すような奴だったに違いない…)グッ
クルクル…ザシャーッ
智子 (で、すぐにループ…)ガッ、クルクル…
197
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/19(火) 13:53:19 ID:./v6ymZs
た、回転方向が逆になるのも認められないため、
2回目以降のジャンプは、自動的にトゥループかループということになる。
智子 (よし、最後のトゥループは余裕だ!)ザッ、クルクル…ザシャーーッ
西園寺「よしっ!」グッ
優 「はあ……」ホッ
次の課題は、バックエントランスによるスピン。
西園寺は「簡単なクロスフットで行け」とアドバイスをした。
智子 (う、上がってきた…スピンっていつになったら慣れるんだ…)ガッ、クルクル…
バックエントランス、とは。通常は左足を軸に反時計回りに回転するのを、
右足を軸にして、内側に深く踏み込んだ状態からターンしてスピンに入ることを言う。(ただし、回転方向は同じ)
優 「普通のスピンより難しい動きなんだって」
琴美 「ふーん…級が上がるとさすがにレベルも高くなんだな…つーか、成瀬さん勉強してんの?すごいじゃん」
優 「えへへ、もこっちが始めてから、いろんな選手の動画見て研究してるんだー」テレッ
優 「あ、スピン終わった……と思ったら、またスピン?」
次は、フライング(跳び上がって)入るシットスピン。
198
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/19(火) 13:54:09 ID:./v6ymZs
智子 (……お、ちょっと薄目にしてると吐き気がおさまるぞ!…すごい、私大発見した!)クルクルクルクル
智子 (で、次は…ステップからのジャンプ。たしか、種類選べないんだったよな……)シャーーッ、キュッ、シャーッ
智子 (サルコウでよかった…アクセルだったら死んでた……)ガッ、クルクル…ザーッ
審査員(うん、エッジさばきは綺麗だな。これだけなら今すぐ世界ジュニアに出ても通用するレベルだ。
……さすがは、ステップの片倉を指導したコーチなだけはある)カリカリ
審査員(ただ、表情は硬いな…こればっかりは、慣れか)
審査員「はい、では必須要素はこれで終わりです。ショートの滑走順は全員の試験が終わり次第決めますので、
しばらくお待ちください」
智子 「うう…最初のアクセルで打った尻がまだ痛い…」ヨロヨロ
西園寺「よかったぞ、最初のDアクセルは再試験になるだろうが、それ以外はよくノーミスにおさえた。
気持ちの切り替えがうまくなったな」ポンポン
西園寺「じゃあ、ショートが始まるまで時間もあるし…弁当にすっか」
智子 「あ、じゃあ優ちゃんたちも一緒でいいですか?」
西園寺「ゆうちゃん?」クルッ
199
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/19(火) 13:54:47 ID:./v6ymZs
―リンク外のベンチにて―
琴美 「なんか、すみません。昼食はどっかで食べるつもりだったんですけど、私たちまで頂いちゃって…」
西園寺「いやあ、いいんだよ。どうせ2人じゃ食べきれなかったしな。それに、俺も智子の友達には興味あったし」シュルシュル
優 「うわっ…すごい、6段もあるよ!こっちはお味噌汁!もこっちのお母さん、料理上手なんだねー」
智子 (お母さん…あなたは一体どこに行こうとしてるんだ…)
ショートが始まるまで2時間ほどかかるということで、西園寺は観客席にいた2人も呼んで昼食にした。
いわく「必須要素もショートもトップというのはない」というので、正味3時間ぐらいは時間がある。
西園寺「腹一杯になると動きづらいから、8分目ぐらいにしとけよ。あと、水分をがぶ飲みすると疲れがとれないから、
味噌汁とほうじ茶は一杯までにしとけ」
智子 「は、はい」モグモグ
西園寺「……で、2人は智子の友達か?たしかアイスショーに来てくれてたよな」
優 「あ、はい。私は成瀬優っていいます」
琴美 「小宮山琴美です。いや、私たちは友達というか…中学からの腐れ縁というか」
智子 「くさっ…」ゴフッ
200
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/19(火) 13:56:00 ID:./v6ymZs
琴美 「モノの例えだっつ―の!ちゃんと飲み込めよ汚えなあ」パクッ
智子 「ご、ごめん…でも、小宮山…さんが来るとは、思わなかったというか…」
琴美 「いや、私野球しか観ないからさ。たまには違うスポーツも行ってみようかなって思っただけだよ。
あとは単純に、お前のフィギュアがどんなもんか興味あっただけ」
西園寺「琴美は野球ファンなのか…どこの球団が好きなんだ?」
琴美 「ち、千葉ロッテ…毎週末通ってるんで、サポーターかな」テヘヘ
智子 「ロッテって、あのたけし軍団でも余裕で勝てそうなとこだろ?」
琴美 「てめっ…野球を何だと……」
西園寺「たけし軍団って、昔阪神の二軍に勝ってたよな」ハハハ
琴美 「マジで!?阪神終わってんな……」パクッ、モグモグ
智子 (そんなオワコンスポーツ毎週観るとか、どこに金落としてんだこいつ。ま、人の自由だけどな)モグモグ
優 「でも、スポーツやる人って皆すごいと思うよ。こっちからだと楽そうに見えるけど、
実はすっごく頑張ってるんだって分かると、なんだか見方が変わっちゃうよね」
智子 「え、えへへ……そう?」モグモグ…ゴクン
優 「うん。もこっちのおかげなんだよ?こういう風に考えられるようになったの」ズズーッ
201
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/19(火) 13:56:44 ID:./v6ymZs
琴美 「おい、やめとけよ。こいつ調子に乗るとヤバいぞ」パクパク
智子 「お前さっきから、なんか私に恨みでもあんのかよ!」
西園寺「……」
西園寺(……智子にも、支えになってくれる友達がいるんだな……本音で話し合える相手がいるんなら、
きっとそれは武器になる。……世界を目指す、武器に)
―再び、リンクにて―
審査員「ではこれより、6級バッジテストのショートプログラムを始めます!」
智子 「よかった……後ろの方だ……」ホッ
西園寺「25人中、20番……うん、気持ちを整えるにはいい順番だな」
審査員「1番、白帝FSC……」
智子 「はくてい……小雪さんの所だ!」
西園寺「お、もう小雪と知り合ったのか。白帝は日本でも古参に数えられる、名門FSCだからな…
バンクーバー五輪で、ペアとシングルの2冠を達成した、北里吹雪もあそこの出身だったはずだ。
金やコネが一切通用せず、純粋に才能のある子しか所属させない。……卒業すれば金メダルが約束されるクラブとまで、言われている」
202
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/19(火) 13:57:33 ID:./v6ymZs
智子 (……希望ヶ峰学園みたいなもんか……)
〜♪
白帝FSCの生徒は、中学2年生の男子だった。
とはいえ、西園寺によると「その年でまだ5級だったということは、白帝では落ちこぼれだ」とのことで、
動きには伸びやかさがなく、途中のジャンプで転倒するなど、上手だがどこか精彩を欠いた演技だった。
智子 「あれ、白帝であんなもんか?」
西園寺「ああ、だから自信持っていいぞ。お前はもう6級に挑戦できるほど上手になってるんだ」
その後も何人かの演技が終わり、いよいよ智子の番が来た。
審査員「20番。常葉FSC、黒木智子さん!」
智子 「あ、はい!」
西園寺「よし、太郎パワー注・入!」ドンッ
がんばれーと手を振る西園寺に背中を押されて、リンクの真ん中に滑り出る。
智子 (観客がいない分、気が楽だな……実質、審査員だけ見てりゃいいようなもんだし)
優 「もこっちー、がんばってー!」ブンブン
琴美 「コケんじゃねえぞ、根性で踏ん張れ!」ブンブン
203
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/19(火) 13:58:29 ID:./v6ymZs
智子 (あいつ、応援に来たのかけなしに来たのかどっちなんだよ)
ヒソヒソ…
審査員A「曲はCredens Justitiam……アニメのBGMだそうで」
審査員B「こういう色物な曲を選ぶ子は大体、実力が伴ってない場合が多いからな…」フン
審査員C「でも、容姿は悪くない。フィギュアは敷居が高いせいか、容姿の粒が揃わないのが残念ですからね。
アジア人だというだけで芸術点が下げられた時代は過ぎたとはいえ、やはり心証というものはある。
日本女子は他国に比べて容姿が劣ると言われて久しいですからなあ」
審査員A「……まあ、後は静かに演技を見ましょう。色物かどうかは、ここで決まる」
〜♪♪
智子 (――絶対に、受かる!)シャアッ
204
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/19(火) 14:00:18 ID:./v6ymZs
一旦切ります。明日はショートとフリーにいけるかも。
205
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/19(火) 16:13:36 ID:oORlWKUk
乙
マミさんだけに胸が足りなかったかwww
銀盤カレイドスコープだっけか、ドレミの歌とかシンデレラとかで滑るの
あれは読んでて楽しかったな
206
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/19(火) 18:23:37 ID:UMBY2lLU
まあ本人らには悪いが、実際アジア人というか名の知られた日本人女性スケーターの容姿が格別に良いかというとそうじゃないよな
昔であれば伊藤みどりや、最近なら「ミニラ」と揶揄される鈴木明子とか
207
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/19(火) 20:46:57 ID:V730ZVqA
乙 おもろい!
>>206
あれは「ミニラ」だったんか。「どやさ」だと思ってた
208
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/20(水) 16:48:53 ID:d5Po6G0A
>>205
分かってもらえて嬉しいw
銀盤カレイドスコープは面白いですよね、女子フィギュアの漫画が恋愛メインだったのに対し、
人間ドラマを主軸に置くのはよかったです。
>>206
>>207
個人的に一番美人だと思うんですが、鈴木選手…
審美眼は人それぞれですね。海外だとやっぱりグレイシー・ゴールド選手が
アメリカンな顔立ちで好きです。
209
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/20(水) 16:49:37 ID:d5Po6G0A
静かになったリンクに、柔らかいソプラノが響き渡る。
〜Solti ola i amaliche cantia masa estia〜♪
智子 (……今度こそ、Dアクセル…!)シャーーッ…ガッ
クルクルッ…ジャーーッ
智子 (よしっ、決まった!)
西園寺「ふーっ、まったく、危なっかしいな智子のアクセルは」
〜e sonti tolda i emalita cantia mia distia〜♪
智子 (短くステップ踏んで……キャメルスピン)
軽く跳び上がり、Tの字になって回転する。
西園寺『いいか、智子。スピンというのはつまるところ、一箇所で小さく円を描く技だ。
つまり、なるべく小さな円を描けば描くほど、回転数は上がって、速くなる。
昔話題になった村主選手の高速スピンも、要はこの原理だな』
智子 (うえっ、ぷ…終わったらすぐトイレ行こう)シャーーッ
〜a litia dista somelite esta dia...
智子 (Dルッツからの……Dループ、Dトゥループ!)クルクルッ…ザッ、クルクル…
210
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/20(水) 16:50:17 ID:d5Po6G0A
a ditto i della filloche mio sonti tola...♪
智子 (決まった!……すごい、私どんどんルッツ上手くなってる!)ザシャーーッ
曲は最大の盛り上がりに入った。西園寺のアドバイスにより、ここはあえてステップのみ。
エッジを前、後ろと動かして、幾何学的な模様を描く。審査員の目が変わった。
智子 (もっと……もっと、見て欲しい)キュッ、シャーーッ、ザッ
〜a lita della mailche sonta dia...
智子 (もっと、褒めて欲しい!)シャーーッ
mia sonta della i testa mia testi ola solti ola...♪
智子 (…多分、それでいいんだ……それで十分なんだ……)シャーーッ、ガッ
最後は、足を交差させたスタンドスピン。
声が切れる瞬間、バッと両手を広げて天を仰ぐ。
ワアッ…パチパチパチパチ…
智子 (ああ……最っ高!やっぱりこの瞬間が最高!)ゼーハー
優 「もこっちー、こっち向いてー!」パシャパシャ
琴美 「成瀬さん、恥ずかしいからちょっと座って!頼むから!」
智子は観客席に向かって手を振ると、審査員に一礼して西園寺の方へ帰った。
211
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/20(水) 16:50:53 ID:d5Po6G0A
西園寺「おつかれ。沙綾のアドバイスが生きてたな」スッ
渡されたエッジカバーをつけながら「?」と首をかしげる。
西園寺「お前、今までは手を無視してたんだが…今回は指先がきちんと上を向いていたぞ。
だいぶフィギュアの真髄に近づいてきたな」ポンポン
智子 「はあ…」
西園寺「さて、じゃあフリーの滑走順決めまでこれを飲んで休め。ただし、がぶ飲みすると疲れが出るから半分までだぞ」スッ
智子は渡されたスポーツドリンクをぐびぐびと飲んで、フーッと息をつく。
智子 「……げっ、そうだった……まだフリー残ってんだった」
西園寺「大会だったら間が空くし、滑走順も開会式の後に決められるから……バッジテストの方が、
心の準備が出来ないって意味では過酷だな」
その後、残った5人の演技が終わり……いよいよ、フリーの滑走順決めが始まった。
箱の中に入った紙を、選手1人1人が抜いていく。
智子 「えーと……4番」
西園寺「速いほうだが、悪くないな。とりあえず、衣装を替えてこい。……お前の前に滑る選手は、正直そこまで見る価値ないからな」ボソッ
智子 「は、はい(コーチ、段々ハッキリ言うようになったな)」
212
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/20(水) 16:51:41 ID:d5Po6G0A
―ロッカールームにて―
智子 「……つっても、時間あんまりないし、さっさと着替えないと」ゴソゴソ
智子 「えーと、こっちか?」
紙袋を漁って、チアの衣装を取り出す。ピンクを基調とした生地に白いラインが入ったノースリーブ、ミニスカート。
智子 「さっむ!…ヘソ出てるし、太ももむき出しだし…(そういやチアって、こんな衣装で大股開きして跳んでんだよな。
高校球児になるだけで合法的にJKの生足見れるとか、童貞には優しくない環境だな…)」ゴソゴソ
智子の頭からは、自分も今からそれをやることはスッポ抜けている。
髪はゴリエスタイルと迷ったが、結局いつもどおりに高い位置でツインテールにした。
智子 「よし、準備完了。智子、いっきまーす!」バターン
智子 「……よかった、誰もいなくて」
意気揚々と廊下を歩き、リンクへ向かう。
ちょうど3番めの選手が演技を終えたところで、衣装を替えた智子を、審査員は口をあんぐりさせて見ている。
西園寺「お、なかなか似合ってるじゃないか。スポーティーなスタイルは新鮮だな」
優 「……」パシャパシャパシャ
琴美 「成瀬さん、フイルム勿体無い」スッ
213
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/20(水) 16:52:29 ID:d5Po6G0A
審査員「4番、常葉FSC、黒木智子さん!」
智子 「……あ、はい!」シャーーッ、キュッ
どうやら智子の前3人は全員クラシックだったらしく、審査員はいささか退屈しているようだった。
西園寺(最初が夜想曲、次が白鳥の湖、花のワルツと来れば、そりゃあ、な……
ショートでもほとんどがクラシックで、似たりよったりの選曲だったし)
審査員A「選曲は"Mickey"。トニー・バジルのVerなら安藤選手がエキシビジョンでやってましたが…
ゴリエとは、懐かしいというか何というか…世代の違いを感じますなあ」
審査員B「ショートとはグッと印象を変えてきましたね。私は楽しみですよ?」
審査員C「チアの人気曲だから体力が求められる。果たして3分30秒保つか……フィギュア歴1年未満にはいささか厳しいプログラムだな」
智子 (……このプログラムは、終始笑顔。で、なるべく動きは大きく、キビキビ……)
審査員席の前に滑り出た智子は、下を向いて真崎からのアドバイスを反芻する。
ゴロロロ…
智子 (!始まった…)
両手を脇の下で締めたクラスブのポーズから、ドラムロールが終わると同時に、顔を上げる。
214
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/20(水) 16:53:07 ID:d5Po6G0A
〜♪Oahu its so fine its fo fine my Waikiki Mickey!
両手に持ったボンボンを振って、右手を腰に当てて左腕を伸ばす。
〜♪Oahu its so fine its fo fine my Waikiki Mickey!
歌詞に合わせてボンボンを振りながら、伸ばした左腕を斜めに落とし、『Mickey!』でMの字を作り首をかしげる。
智子 (これ、"ウッキー!"ポーズだ……恥ずかしい……)カーッ
〜♪Oahu its so fine its fo fine my Waikiki Mickey!Hey!Hey!
Hey! Mickey! hey!hey!〜♪
智子 (フリーも、最初はDアクセル…曲が速いから、回転も速く…)シャーーッ、ガッ
クルクル…
智子 (…っとと、なんとか転ばないで済んだ!えらいぞ私!)ザーーッ
Hey Mickey!で一旦止まって、胸の前でボンボンを合わせてから、大の字に開く。
それが終わったら、再びステップ。
智子 (くっ、これ…練習でも思ったけど、結構キツいっ……!)
〜恋するチャンスは無限大 ボヤボヤしてたら負け犬だワン♪
215
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/20(水) 16:54:02 ID:d5Po6G0A
カンカンダンスのように足を上げたり、両足を揃えて軽くジャンプしたりしながら、
リンクを大きく使ってステップを踏んでいく。その間もボンボンは絶え間なく動かして、笑顔も消せない。
〜チョーSEXYよ 振り向いてMickey♪
智子 (腰をくねらせて、投げキッス……あああ、うっかり審査員にやっちまった!)カァァ
想像なんかじゃYou don't know forever
Love is bodyでEverytime kiss♪
智子 (ここで、足を交差させてスピン……)ガッ、グルグルグル…
智子 (からの、レイバック!……う、おぶっ…反った拍子に舌にゲロがっ!……ここは飲み込んで後で出すしか…)グルグル…
Oh Mickey Love Mickey ペコリMickey 恋する乙女のおまじない 〜♪
西園寺『サビは、お前の体力も考えてステップを主体にしてこう。足はしっかり上げろ、腕もちゃんと、氷と水平になるように)
Come on! Do Mickey Do Mickey Don't break heart Mickey 〜♪
智子 (やっと半分まで来た……もう息上がってる、大丈夫か私)バッサバッサ
智子 (審査員席の前に出て、その場で止まる)シャーーッ、キュッ
松浦ゴリエと申します 〜♪
ペコリ、のところで両手を後ろに伸ばし、尻を突き出すポーズ。
216
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/20(水) 16:55:21 ID:d5Po6G0A
普通の可愛い巨乳です(ボイン) 〜♪
智子 (うう、こんな公衆の面前でボインポーズする日が来るなんて…やっぱりフィギュアなんて公開ストリップだ!)カァァ
『V』を逆さにしたような体勢から、「うで、ワキ、ヘソ毛」に合わせて腕を交互に上げ下げする。
歌詞もあいまってか、厳しい目をしていた審査員がだいぶ和んできた。
My name is Joahn from Hawaii 〜♪
Ja Ja Ja jasmine my blond in cute!
『Cute!』で両足を揃えてジャンプ…が。
智子 (!!…詰め物がズレてきてる!ヤバい!…あっ)パサッ
ずる、とリンクに落ちた詰め物を見て、青い顔になった西園寺が『蹴飛ばせ!』と腕を斜めに動かす。
智子 (くそー!やっぱ作ってもらえばよかった…!)シュッ
跳ぶ前の勢いのまま蹴飛ばすと、重量感のある詰め物はクルクルと回転しながら、控えている選手たちの方へ滑っていく。
それを見た琴美は「吉本新喜劇かよ!」と笑い転げ、
優は「もこっちには、もこっちの良さがあるんだよ…」となぜか自分の胸をおさえて頷く。
Oh Mickey Love Mickey ペコリMickey 恋する乙女のおまじない 〜♪
智子 (ダブルトゥループ……からの、シングル!)ガッ、クルクル…クルッ、ストンッ
217
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/20(水) 16:56:16 ID:d5Po6G0A
西園寺『ジャンプは最低限の要素だけにして、後はステップを主体にしていこう。
チアダンス風の振り付けだから、ボンボンを激しく振って、最後まで気を抜くな』
Oh Mickey Love Mickey ペコリMickey 私だけを見て 〜♪
智子 (軽くステップ、からの)
Come on! Do Mickey Do Mickey Don't break heart Mickey 〜♪
智子 (トリプルサルコウ……うう、私3回転ほとんど成功しないんだよな……)ガッ
クルクルクル…
西園寺(ああっ、微妙に回転が足りてない…1/5回転ぐらい足りてない!)アチャー
智子 (うう、体力残ってない所に跳んだから、ダブルになっちまった……やっぱ、前半に跳んどくべきだった…)シャーーッ
審査員(回転不足1、と。ここまでノーミスだから、得点には響かないが)カリカリ
Oh Mickey Love Mickey ペコリMickey 恋する乙女のおまじない
Oh Mickey Love Mickey ペコリMickey 私だけを見て 〜♪
智子 (まだか……まだ、終わんないのか……)ゼエゼエ
智子 (もう、自分がどんな動きしてんのかすら分かんねえ……音楽もなんかぼんやり聞こえるし、頭痛いし喉乾くし
見られてるって思うと、なんでこんなに疲れんだ!?)ゼエゼエ
218
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/20(水) 16:57:09 ID:d5Po6G0A
Come on! Do Mickey Do Mickey Don't break heart Mickey! 〜♪
智子 (ここさえ、ここさえ乗り切ればっ……)クルクルクルクルクル…
シット、からのY字スピン。伸ばした足を支える右手は止まっているが、自由な左手でボンボンをシャカシャカ振る。
西園寺『最後だ、バッチリ決めろよ智子……!』グッ
智子 (よし、最後……)バッ
再び腰に右手を当て、左腕を伸ばすパンチアップの姿勢から、
音楽が鳴り止むと同時に、足と両腕できれいなVの字を作り、ボンボンを振る。
智子 (決まった……)ゼーハー
パチパチパチ…
西園寺「いいぞ智子!アクシデントもあったが、よくやった!」パチパチパチ
優 「……ああっ、最後のポーズ撮り忘れた!」ガーン
琴美 「コジマで買ってきたフイルム1回で使い切って、まだ足りないか」
智子はボンボンを持った両手を腰に当てて、西園寺の方へ帰った。
疲れがピークに達したので、椅子に座ってエッジカバーをはめてもらう。
西園寺「……あっ」
219
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/20(水) 16:58:23 ID:d5Po6G0A
智子 「!」
そこで、ボロッと右のエッジが取れた。正確には、半分外れて靴底からぶら下がった。
西園寺「……お前、毎日良く頑張ったな……」ナデナデ
靴に対してか、それとも智子に対してかは不明瞭だが、西園寺は嬉しそうだ。
智子 (これで3足目もダメになったか……私、自分じゃ実感してないけど、結構頑張ってんだな……)
智子 (打ち込めるものが出来たって考えれば、悪くないかも)ニマー
その後、全員のフリーが終了した後に、受験者手帳が返された。
取りに行った西園寺は「Dアクセルが再試験だ」と笑う。
智子 「……再試験……」ズーン
西園寺「でも、それ以外は全部オッケーだったぞ。5月にはお前もジュニアだ」ポンポン
智子 (ジュニア……いい響きだな……へへ、うへへへっ…どうせ次の再試験は
Dアクセルだけだし、私も来月には……どぅふ、ふ…)ニヘニヘ
こうして、ジュニア昇格のかかった6級バッジテストは、1番目の必須要素、Dアクセルのみ
再試験という、フィギュア歴1年未満には十分すぎるほどの結果に終わった。
そして――不純な思惑を抱えたまま、一夜が明けた。
220
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/20(水) 17:00:04 ID:d5Po6G0A
今日はここまで。
221
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/20(水) 17:27:04 ID:BnVXCeYk
乙!
やっぱ知ってる曲だとイメージわきやすくて良いな
222
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/20(水) 18:08:35 ID:s7x10Xks
一般的に美人と言われる顔立ちではないわな、鈴木選手
グレイシー・ゴールドはオードリー・ヘプバーンっぽい
それはそれとして乙
223
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/21(木) 21:30:30 ID:BWuY4pYE
>>211
なるべく偏りすぎず、そして万人に知られている曲を選んでいるつもりです。
フィギュアは意外と使える曲少ない…orz
>>222
ヘプバーン…確かに、クラシックな美人ですね。
丈の長いドレスにボンネットとか合わせているのを見てみたい。
224
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/21(木) 21:31:04 ID:BWuY4pYE
―翌日、昇降口―
ザワザワ…ペチャクチャ…
智子 (あー、昨日の今日でもう始業式かよ……体のあちこち痛えし、眠いし…)ガコッ
智子 (ま、どうせこいつら春休みはネズミの国とか出かけて、くっそ不味いパンケーキだの
すぐ綿出る低クオリティのぬいぐるみだの、あそこでしかつけらんない
カチューシャという名の不燃ゴミに金落としてきたんだろうしな…
そんな資本主義社会の豚どもと比べれば、私の春休みは有意義だったはずだ……)ハキハキ
モブA 「なあなあ、今日帰ったらゲーセン行かね?」
モブB 「いやー、俺金欠だからさあ」
モブA 「いい加減パセリにしとけよ!リニューアルで弐寺の筐体が増えてたんだよ」
智子 (ぷっ、学校行ってテキトーに遊ぶしか能のない奴らは可哀想に……
何の才能もない凡人の日常って感じだな、まあ、世の中はこの90%の凡人で回ってんだからしょうがないか…
10%の私がこんな奴らを気にかける必要なんてないな)
???「あ、黒木さんおはよー」タタッ
智子 「お、おはよっ…」ビクッ
225
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/21(木) 21:31:39 ID:BWuY4pYE
???「黒木さん、髪型おそろだね、可愛いよー」ピコピコ
智子 「えっ、あ、ありがと…」
智子 (誰だっけこの草食系ビッチ…確か…ネモ船長みたいな名前の…ネモ…ネ…
あ、陽菜……根元陽菜だ、思い出した!)
智子 (大人になっても"ヒナ"とか一生出世できなそうな名前だな……少しは出世魚見習えよ……)テクテク
―教室にて―
ザワザワ…ガヤガヤ…
陽菜 「隣の席だねー、よろしく」
智子 「よ、よよよよろしく…」
智子 (ま、まあこいつしか私を覚えてる奴いなそうだしな…0からスタートという意味ではいい滑り出しだ…)
陽菜 「そういえば黒木さん、去年の自己紹介で面白いことやってたよね。
ほら、あの白紙持って話すやつ」
智子 「へっ?あ、あれっ…あれは、その…」
陽菜 「あれすっごく面白かったのに、なんでみんなスルーしたんだろ?鉄板でしょああいうの」
226
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/21(木) 21:32:21 ID:BWuY4pYE
智子 「さ、さあ……(痛いと思われたんだろうか…いや、それはない。ヤッターヤッターヤッターマンとか
最後にくっつけたアイツよりはマシなはず…つーかこいつ、細かいモノボケ見逃さないあたりお笑い好きなのか?)」
陽菜 「今年は、そういうのないの?」
智子 「えっ、あ…その、考えて、たんだけど…準備が……えっと…(話なげえよ!いい加減開放してくれネモ…)」
陽菜 「あ、そっか。黒木さん忙しいもんねー」
智子 「へっ?」
すっとんきょうな声をあげた智子の耳元で、陽菜はそっと囁いた。
陽菜 (夏のアイスショー、かっこよかったよ)ヒソヒソ
智子 「!!」
陽菜 (黒木さん、学校終わってすぐ練習行くから、スケート靴持ってたでしょ。
あれ見てたから、スケート歴2ヶ月の、って黒木さんじゃないかって思ってたんだ)ヒソヒソ
陽菜はそっと体を離して、「自己紹介でこれ言ったら、多分みんなびっくりだよ」と笑った。
智子 「……そんなの、覚えてたの……?」
陽菜 「えっ?あ、あー…」
陽菜 「実は、さ。黒木さんのことちょっと気になってたんだー。
普段みんなとお弁当食べたりしないし、帰りも一人でまっすぐ帰っちゃうし、なんというか…ミステリアスで」
227
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/21(木) 21:33:08 ID:BWuY4pYE
智子 (素直にコミュ障と言え、ネモよ)
陽菜 「だから、2年で隣の席になれてよかったなって思ってるの。こうやってお話できたし」
智子 「根元、さん…」
ガラッ
荻野 「はーい、みんな席ついてー」パンパン
智子 (うわ、体育会系…苦手なタイプだ…暑苦しいおっさんならまだ分かりやすいのに、こういう女子に人気出そうな
部活の先輩系って、一番厄介なタイプじゃねえか!こいつ教師としては失k…)
荻野 「とりあえず私が担任の…」カッカッカッ
荻野 「荻野です。みんな、一年間よろしくね!」
荻野 「さて、それじゃ待ちに待った自己紹介だけど……廊下側の方からいこっか」
智子 (……でも、ない…か。西園寺コーチも似たようなもんだしな……)ボー
智子 (なんか、1年の時より冷静に物事見れるようになってる気がする…武器商人としての適性が育まれつつあるというか…
これも一種の成長なのか、コーチ)ボー
陽菜 「もうすぐだよ」チョンチョン
智子 「はうあ!?」ビクッ
228
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/21(木) 21:33:52 ID:BWuY4pYE
荻野 「そこ、どうしたの?」
智子 「い、いえ!何でもないです!」
クスクス…
智子 「……」カァァ
陽菜 「ご、ごめんね…びっくりさせちゃって。でもみんな、バカにしてるわけじゃないから大丈夫だよ?」
智子 (こいつ直接脳内を…!?)
智子 (あ、私の番だ)ガタッ
智子 「く、黒木智子…です」
荻野 「それだけ?……もうちょっと何か欲しいかな」
『自己紹介でこれ言ったら、多分みんなびっくりだよ』
荻野 「なんでもいいよ、趣味とか特技とか、あとは今年の目標とか」
智子 「趣味……は、ゲーム、です。音ゲーが、すごく、得意です…あとは、アニメも…見ます……」
アニメ、のところで近くの席のオタクっぽい男子がぴくんと反応した。
それ以外にもインドア趣味の男子たちがいい反応を示す。
智子 「……」グッ
229
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/21(木) 21:34:58 ID:BWuY4pYE
智子 「特技…じゃ、ないんですけど……去年から」
智子 「フィギュアスケートを、やってます」
その一言が出た瞬間、教室は一瞬だけシーンと静まり返った。そして。
モブA「えー、嘘、フィギュアスケート!?やってる人初めて見た!」
モブB「じゃあ、去年アイスショー出てた天才美少女って、黒木さんなの!?」
清田 「おい、何だよそのアイスショーって、俺にも分かるように言えよ!」
蜂の巣をつついたように騒がしくなった教室中の視線が、小さな智子に集中する。
智子 「えっ、あ、あの…」
陽菜 「はいはい、黒木さんへの質問は私を通して!はい、座って!みんな座って!」
まるで熱愛報道を受けてマスコミに取り囲まれているアイドルと、そのマネージャーだ。
陽菜が手を振って黙らせようとするが、止まらない。
陽菜 「ご、ごめんね!こんなことになるなんて思わなくて…」アタフタ
荻野 「はい、みんな静かにして!まだ終わってないでしょ!」パンパン
智子 (おお、意外とこいつちゃんと担任やってんぞ!)
智子 「えっと……今年の、目標は……」
230
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/21(木) 21:36:38 ID:BWuY4pYE
智子 「学校、生活を……た、たの…楽しく、送りたい……です」
智子 「……以上です」ストン
荻野 「はい、いい自己紹介だったね。じゃあ次、いこっか」
騒がれすぎた智子に気を遣ってか、荻野は当たり障りない自己紹介の時と同じように流した。
……が、智子は気づいた。フィギュアスケート、と聞いた瞬間、
荻野の中のスポーツウーマンの血が目覚めていたのを……。
___________________________
繋ぎ回。
自己紹介がなんとか無事に通過、できたのか?
最初に書くのを忘れていましたが、このSSは「もこっちに何か打ち込めるものをあげたい」というのがテーマです。
231
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/21(木) 22:54:27 ID:OHWSTnvs
まあ原作のもこっちはその……まあ……うん……
乙
232
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/21(木) 23:28:07 ID:QrMaGhWE
乙
原作は…うん…あんな出来た友人がいるだけで勝ち組ではあるんだよな…
233
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/24(日) 13:04:56 ID:wxNvaEIg
西園寺「……いいか、せーので開けるぞ」
智子 「は、はい」
西園寺「せーのっ」
ペラッ
智子 「!!」
西園寺「いっ……」プルプル
西園寺「いやったあああ!これでお前も、ジュニアだーーっっ!」グイッ
智子 「わっ!」
始業式から3週間後。智子は無事に残りの必須要素だったDアクセルをクリアし、6級に合格した。
西園寺は喜びのあまり智子を抱き上げると、そのままぐるぐると回転する。審査員の中でノリのいい男性がパチパチと拍手してくれた。
西園寺「よく頑張ったなあ、お前」グシャグシャ
智子 「……なんか、信じられねえ……」ポーッ
西園寺「多分明日あたりにドカンと来るぞ……ん?お前のスマホ、鳴ってんぞ」
智子 「?」スッ
母 『合格したんならさっさと帰ってきなさい!』
234
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2016/04/24(日) 13:05:45 ID:wxNvaEIg
タクシーの絵文字つきで送られてきたメールに、智子は思わず苦笑する。
「あの、コーチ…」という前に、西園寺はもうムースを取り出して、髪のセットを始めていた。
智子 (……私がこんな妄想ガールになったのは、なるべくしてだったのか)ムー
□ □ □ □ □ □ □
母 「はい、今日は智子の大好きな回鍋肉と、中華フルコース!どんどん食べて、
あ、西園寺さんビール飲めます?智子は烏龍茶とジュースあるけど、どっちいい?」テキパキ
智貴 「うっわ、ご馳走だな……あ、姉ちゃん。合格おめでと」トクトク
智子 「えっ?あ、ありがと……」
飲み会における「まあまあまあ」の要領でオレンジジュースを注いでくれる智貴の気持ちを、
戸惑いながらもありがたく受け取る。
智子 「あ、そういやお前高校もう慣れたのか?」
智貴 「姉ちゃんじゃあるまいし、平気だよ」
智子 「……」イラッ
智子 「クラスで友達出来なくても気にする事ないからな、いざとなったらゆうちゃんに頼んどいてやるぞ」
智貴 「なっ…いいか、絶対にやんなよ、今度友達連れて来て証明してやるから!」
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