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勇者「今日より旅立ちか」勇者(……それにしても腹が減ったな)

355以下、名無しが深夜にお送りします:2016/05/30(月) 12:24:55 ID:0Jo.FQnY


356以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/06(月) 22:25:37 ID:y19mWGGM
「あーあれか。もう一ヶ月も前の事だよ」

「いきなりヴェノムドラゴンが現われたそうでなー」

勇者(恐ろしい話だ)

「町の人も半数が亡くなったよ」

勇者「先日、その町を通ってきたのですが、香りは残っているものですね」

「あーそりゃ逆だ。ヴェノムドラゴンの毒は外気に触れると無毒になっていくってやつだが」

「それが大体2,3週間かかるんだが、無毒になると臭いを発するようになんだよ」

勇者「だとしても長いのでは……?」

「それだけ強力って事だよ」

357以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/06(月) 22:27:17 ID:y19mWGGM
勇者「因みにそのドラゴンは?」

「逃げられたそうだ。未だに目撃情報がないところを見ると、外に出て行ったのかもしれないなぁ」


勇者「本当に恐ろしい話だなぁ」

勇者「これから先、ヴェノムドラゴンとエンカウントする可能性があるのか……死ぬ」

勇者「うーん、待っていても解決しなさそうだしなぁ」

勇者「けれども、これで森の西側にいたら最悪だ。いっその事、魔王軍の陣に突っ込んで行ってくれないかな」

勇者「とは言え、森の中の方が接近を許す訳だし、急いで国外に出たほうがいいのかな」

勇者「うーん、うーん……悩むなぁ。こんな状態で無理してあちらの国に?」

358以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/06(月) 22:29:25 ID:y19mWGGM
勇者「うん?」

文字伝達魔石「」キラ

勇者「お、おお、連絡来てる」

勇者「ええ、と。……ふむふむ、急ぎではないけどバジリスクかヒクイドリの羽が大量に欲しい」

勇者「年内での納品は可能か、か……向こうにこの二種類の魔物って少ないのかな」

勇者「しかし、バジリスクなら何とでもなる」

勇者「年内か……そもそもどこら辺なんだろ」

勇者「魔王城の装飾師!? と、とんでもないところから依頼がきちゃったぞ」

359以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/06(月) 22:31:50 ID:y19mWGGM
勇者「魔王城ってどの辺りなんだろう。それを聞くのは不味いよなぁ」

勇者「うーん、あの兵士さんに聞いておけばよかったなぁ」

勇者「年内ぐらいには到達できそうな気がするけども……」

勇者「というか見た目とかで人間ってバレるのかな。向こうまで単身で行ったら、気のせいって思われるかな」

勇者「しかしなぁ……ううん……こちらは遠方にいる為、年内での納品は厳しい可能性がございます」

勇者「納期につきまして、都合はつけられますでしょうか? うーん、完全にナメてる内容だな」

勇者「ええと、文章削除は……あ! 送っちゃった!!」

勇者「げぇぇ……」

360以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/06(月) 22:33:49 ID:y19mWGGM
勇者「うわぁ……うわぁ……」

勇者「印象最悪だぁ、挽回できないぞ、これは」

文字伝達魔石「」キラ

勇者「うわぁ……返信きたぁ」

勇者「ええと、それでしたら下記の量と追加で別の素材もお持ち頂けないでしょうか?」

勇者「それでしたら来年の春まででも構いません……ふんふん」

勇者「バジリスクの蹴爪? 装飾師だよなぁ、何に使うんだろう……まあいいか」

勇者「この数なら時間をかけなくても揃えられるし、納期延長は確保できたな……」

勇者「問題は場所だよなぁ……何処なんだろう」


昔の地図「この辺りだよ!」

勇者(わぉ)

361以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/06(月) 22:35:46 ID:y19mWGGM
「あ、勇者さん。欲しい情報は見つかりましたか?」

勇者「はい、ありがとうございます。資料室をお貸し頂きありがとうございます」

「いいのいいの。勇者の方の力になれたのならそれで十分ですって」


勇者「思いがけず知る事が出来た……役場、優秀だなぁ」

勇者「それにしても戦線からだいぶ離れているなぁ。当然か」

勇者「うーん、こうなるとルートはこうでこうで……圧倒的に食料が足りないなぁ」

勇者「これはかなり長丁場になるな」

勇者「携帯食料……栄養価の高い凄い不味いのをいくつも持っていかないと」

勇者「いざという時の生命線だからなぁ。栄養失調で動けなくなるのだけは避けないと」

勇者「腹具合は最悪、野草で凌ぐしかないな」

362以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/06(月) 22:37:31 ID:y19mWGGM
次の町
勇者「ふう……何とか無事着けたか」

勇者「ソードフォレスト領の森の外まであと町が二つ」

勇者「このルートだと、平地であと一つってところか」

勇者「うーん、何とも心細い話だ。これで数ヶ月近い旅になるやもしれな、いと」

勇者「最悪、転移魔法で帰ってこれるとは言え、人がいる地帯まで行かないと転移魔法の標は得られないしなぁ」

勇者「そういえば魔王の国とかどうなんだろう、行ったら転移魔法でひとっ飛びなのかな」

363以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/06(月) 22:39:36 ID:y19mWGGM
勇者「ここの町の特産品はあんまり他と変わりがないなぁ」

勇者「いや、最近は果実ジュースがよく並んでいるな? そういう季節なのかな」

勇者「よし、もう切り上げてちょっと食べたら宿で休もう」

勇者「とは言え、食事にするにはまだ早いな……」

勇者「軽く食べられるものか。屋台的なものはあるんだろうか?」

勇者「うーん、それっぽい建物はいくつかあるけども」

勇者「このお店……酒場っぽい雰囲気だけど、外に出ているメニューは喫茶店だ」

勇者「何か変わったお店だなぁ。しかし悪くなさそうだ。軽く甘いものでも食べるか」

364以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/06(月) 22:41:12 ID:y19mWGGM
カランコロン
「……」チラ

勇者(寡黙な店主と言うべきか、接客向きじゃない店主と言うべきか)

勇者(しかし、目つきが悪い訳でもないし、下手にベタベタされるよりよっぽどいいな)

勇者(しかもこの店、お酒も並んでいる……夜は酒場として営業しているのか)

勇者(中々雰囲気もいいし、これは期待できるやもしれないな)

365以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/06(月) 22:43:32 ID:y19mWGGM
勇者(思ったよりメニューが少ない。メインは酒か)

勇者(うん? サフト? そういえば、あの果実ジュースもそんな名前だったような)

勇者(ほうほう、試しに飲んでみるか)

勇者(あとは食べるものか……ケーキもいいが、たまにはパンケーキにしてみるかな)


 パンヌカック 45G
  四角いパンケーキに、クリームとベリーのジャムが乗っている。
  パンケーキはやや大きめ。
 リンゴンベリーのサフト 10G
  やや透明の赤いジュース。
  とっても爽やか。

366以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/06(月) 22:45:20 ID:y19mWGGM
勇者(ほほう、こりゃ美味そうだ)

勇者(にしても四角いパンケーキ。不思議だ。フライパンが四角なのかな)

勇者(まずはこのサフトとやらを)クピ

勇者(くぅぅぅ、なんだこれ。目の覚めるような酸味っ)

勇者(仄かに甘みもあるけど、中々酸味が強いな。これはかなり好き嫌いが分かれそうだが)グビ

勇者(美味い! これは美味い酸味だ。病み付きになってしまうぞ)

367以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/06(月) 22:47:20 ID:y19mWGGM
勇者(このパンケーキも)パク

勇者(ほう、ほう……味は普通だけど結構どっしりしているんだなぁ)モグモグ

勇者(見た目以上に腹に溜まるな、これ)パク

勇者(その上でこの大きさっていうのは、ちょっとしたトラップのような気がしなくもない)モグモグ

勇者(ここでサフトの援軍)クピ

勇者(うん、うん。これは素晴らしく美味しい口直しだ)

勇者(リンゴンベリーのサフトか。多分これは極端に砂糖を入れていないタイプなんだろうけども)

勇者(覚えておいて損はないな)

368以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/06(月) 22:49:22 ID:y19mWGGM
勇者「ふう……美味しかった」

勇者「味も腹具合も大満足の花丸満点だ」

勇者「しかし、逆に夕食はあまり食べられなさそうだな」

勇者「とは言えこれから先、しばらくはこんな風に腹をさする事もめっきり減るし」

勇者「食える時にめいいっぱい食べておきたいものだ」

勇者「軽く散歩して夕食に備えておくかな」

勇者「食べる事もまた休息と思えばこそ、それも悪くないなぁ」

369明日役立たない雑学:2016/06/06(月) 22:51:12 ID:y19mWGGM
パンヌカック
フィンランドの四角いパンケーキで、パンナリという愛称で親しまれている。
四角い天板に生地を流し込んで、オーブンで焼き上げるから四角い形をしているんだとか。
溶かしバターと卵が多く、焼き上がりはどっしりもちもちの出来上がりになる。
食べ方は他のパンケーキと同じでアイスやクリーム、フルーツ添えたりジャムをかけたりして食べる。


サフト
スウェーデンの無添加フルーツジュース。
夏や秋の季節に採れた果実で作るシロップで、水や氷で薄めて飲んだり料理に使ったりする。
冷凍保存する事で、冬場の貴重なビタミン源にも。
人によって作り方は様々。
煮立たない程度に煮る、加水して煮る、こして砂糖を加えて煮て、とろみがついたらビンに。
逆に初めにこして作ったり、保存性は低くなるけど、砂糖の量をちょっぴりだったり。

因みにサフトで作るスープでバールソッパというものがある。
カシスで作ったサフトに、水、砂糖、シナモンスティックを加えて鍋で煮立たないように暖め、
ポテトスターチでとろみをつけて出来る甘いスープだとか。
冬場に飲んでみたくなる話だ。


リンゴンベリー
コケモモの事。
北欧では野生のコケモモが多く、スカンディナヴィア諸国では公有地から収穫することが許可されているんだとか。
酸味が強いため、砂糖を加えてジャムやコンポート等にする。
コケモモのコンポートは肉料理の供え物にする事もあるんだとか。

370以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/06(月) 23:11:14 ID:IkONlQhE


371以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/06(月) 23:22:18 ID:2mvYrDys
ごちそうさま

372以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/06(月) 23:26:40 ID:4TslZLdU


リンゴンベリーのジャムならイケヤで売ってたな
肉団子に添えられてたような記憶がうっすらと

373以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/07(火) 01:37:23 ID:v91HedmA

旨そうだー
しかし交易やる勇者って珍しいな

374以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/08(水) 16:14:20 ID:LlOfKIHg


375以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/09(木) 06:31:35 ID:3I8QEGfk
火を入れなければ酒にもなりそうだな

376以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/10(金) 09:58:47 ID:mGkQLWd2
美味そうだなあ
商業的なコネがどんどん増えていく!(いいぞ、もっとやれ)


377以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/11(土) 16:35:28 ID:UXOtkhAs
サフトって言葉、最近どっかでみたなと思ったら某キリンから最近出た世界のキッチンシリーズ
だった。あれは5種類のベリーだったな。サフトの作り方をヒントに云々とか書いてた。
ソルティライチと間違って買ってしまったんだけど、勇者ご飯がちょっと近くに感じられたよw
(酸味はあまり感じられなかったデスヨ、万人向けならまあいいのか)

378以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/11(土) 20:48:27 ID:ogcOt1Sg
二週間後 森の外
勇者「ふう……何とか無事に出れたか」

勇者「ここからは一応、ヒューズヒル領か」

勇者「魔王軍の強襲を受けて、首都を含んだ広域を爆破させた国」

勇者「商業都市の西に小さな建物を建てて、そこを仮設の城代わりにさせているとは聞くが……」

勇者「かなり、厳しい状態だろうな……」

379以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/11(土) 20:50:17 ID:ogcOt1Sg
勇者「しかし、これは見誤ったかもしれない」

勇者「随分と傾斜がきつめの丘が立ち並ぶな……。ちょっとした崖の合間を歩く巨人の気分だ」

勇者「これでは、意外と敵に近寄られるかもしれない……」

勇者「むしろ、ヴェノムドラゴンがいたらソードフォレストより危険やも」

勇者「とは言え、魔王軍の兵士が入り込んでいないとも限らない。そういう意味では、やり過ごす事もできる」

勇者「なんとも一長一短な話だなぁ……」

380以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/11(土) 20:52:33 ID:ogcOt1Sg
勇者「丘の上なら……しかし、こちらから見えるという事は相手からも見える」

勇者「何より、ヴェノムドラゴンが相手であれば、この丘の間なんて飛び越えて隣に移れる」

勇者「見つかったら最後、逃げおおせるものじゃない」

勇者「うーん……中々困った土地だなぁ」

勇者「しばらくはひっそりと進むとするか」

勇者「数kmも行けば少し道が穏やかになるし、そこで考えるとしよう」

381以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/11(土) 20:55:18 ID:ogcOt1Sg
……
勇者「と、思った傍から」


ヴェノムドラゴン「ガアアアアア!」ドドッ

鎧姿の男A「がぁっ!」ドッ
鎧姿の男B「ぐ!」ガッ

鎧姿の男C「くそ……なんて魔物だ」


勇者(あれはどう見ても、魔王軍の兵士の鎧……困ったなぁ)ソヨソヨ

勇者(ヴェノムドラゴンは自らの毒では死なないから、毒の息で殺した獲物をそのまま捕食する)

勇者(あれだけの人数がいれば、ヴェノムドラゴンも満腹だろうし、何とかやり過ごせそうだけど)ソヨソオ

勇者(見殺しにするのも……うん?)フア

382以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/11(土) 20:58:02 ID:ogcOt1Sg
勇者(あれ、ここは風下? しまった、丘の間の道を通っていくのか)ゾォ

勇者(不味い、彼らがやられたら以前の問題だ。毒の息を吐かれたら最後、こっちも死ぬぞ)

勇者(何としてでも倒さないと!)ダッ


ヴェノムドラゴン「グォォ」スゥゥゥ

D「息を……」

E「炎……いや、このドラゴンは毒か!」

B「駄目だ……間に合わない」

石「」ヒュッ

ヴェノムドラゴン「グル」ガツッ

勇者「……」

383以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/11(土) 21:00:20 ID:ogcOt1Sg
A「人、間……?」

B「何故……」

ヴェノムドラゴン「オォォ」スゥゥゥ

勇者(間に合っ……)ギリッ

勇者「たっ!」ビュンッ

ヴェノムドラゴン「グル!?」ゴクン

D「何を投げたんだ?」

C「袋……?」

384以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/11(土) 21:02:01 ID:ogcOt1Sg
ヴェノムドラゴン「ルルル」スゥゥ

勇者「え、嘘ぉ」

勇者(毒食み草は爬虫類や両生類、ドラゴン種のある成分の毒に効くはずなのに)ジリ

勇者(ま、まさか量? 量が足りない? 駄目だ、今からじゃもう逃げられない)

ヴェノムドラゴン「ガアアアア!!」ボコボコボコ

A「ひぃ!」

B「首筋に瘤が……」

勇者(おぉ……だけど、即死じゃなさそうだ……うう、近づきたくないなぁ)

385以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/11(土) 21:04:17 ID:ogcOt1Sg
ヴェノムドラゴン「アアアアア! ガアアアアアア!」ドズンドズン

C「随分と苦しがっているな」

D「瘤も増える一方だな」

E「隙を見て止めを刺すぞ」

ヴェノムドラゴン「ガヒューー……ガヒューー……」ボタ ボタタタ

勇者(凄い量の粘液を吐き出したな……多分、もう体内に毒素は殆ど)

A「今だ!」バッ

B「かかれぇ!」ザッ

386以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/11(土) 21:06:58 ID:ogcOt1Sg
ヴェノムドラゴン「」

勇者「止めを刺して下さってありがとうございます」

A「何故、助けたんだ」

勇者「うーん、やはり人の姿をしている相手を見殺しにするのは心苦しい」

勇者「何より、あのまま毒の息を吐かれていたら、風下の自分は死んでいましたし」

B「ああ……だろうな」

勇者「こちらとしては、争う意思はありませんので、そう警戒しないで頂ければと思います」

E「そうか。いや、すまない、感謝する」

C「にしても、今の一体なんだ?」

勇者「毒食み草という植物の実です」

387以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/11(土) 21:09:12 ID:ogcOt1Sg
勇者「実は潰すと恐ろしく臭いのですが、実と臭いの成分には」

勇者「爬虫類や両生類、ドラゴン種の持つ一部の毒に反応して、無毒の水分に変えてしまうそうです」

D「じゃああの首に出来た瘤は」

勇者「ヴェノムドラゴンは毒を首筋に溜めるそうなんで」

勇者「大抵は無毒化する際に膨張して毒腺などが破裂」

勇者「その勢いで血管や様々な器官に入り込んで、ショック死させたりするのですが」

E「体が大きい分、効きが足りなかったのか」

勇者「恐らくはそうなんでしょうね。いやあ、焦りました」

388以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/11(土) 21:10:51 ID:ogcOt1Sg
勇者「それにしても、皆さんは何故ここに?」

A「戦場で孤立してな。逃げている内にここまで来てしまったんだ」

B「そうしたらあんなドラゴンに出くわすしな」

C「人間も随分と過酷な環境なんだな」

勇者「ヴェノムドラゴンの襲撃はそうそうあるもんではないですけどね……」

勇者「ただ、大戦の空気を感じてか、多くの魔物がピリピリしていると言いますか」

勇者「普段いないような所に出現したりしていますよ」

D「そいつは悪かったな。だが、俺らも好きでやっている訳じゃないからな?」

勇者「分かっていますよ」

389以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/11(土) 21:12:50 ID:ogcOt1Sg
勇者「さて……」チラ

ヴェノムドラゴン「」

A「うん? どうした?」

勇者「これからあれを解体しようと思っていますが、皆さんどうでしょうか?」

B「え? なに? 売るのか?」

勇者「いえ、毒抜きではないですが、無毒化も済んでますし」

C「食うのか?!」

D「凄いな……人間は皆あんななのか?」

E「どうなんだろうな……」

390以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/11(土) 21:15:11 ID:ogcOt1Sg
A「で、俺らはどうすればいい?」

勇者「ええ、と……解体に二人、もう三人は穴掘りと枝や葉っぱを集めてきてほしいです」

B「穴に枝……?」

D「俺とAで解体を手伝おう」

C「じゃあ俺は穴掘るわ」

E「俺も」

B「……薪拾いか」

391以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/11(土) 21:19:59 ID:ogcOt1Sg
勇者「まずは首と小さい手を落としましょう」

A「この装備で出来るものなのか?」

勇者「こうやって」ゴリュ

勇者「骨を外してやれば、意外と簡単に切れますよ。ただ、急がないと硬直が始まるので」

D「そうなると厄介か」

勇者「ですね。そうしましたら次に……」


C「これが図面か」

E「一体、何に使うんだろうな」

392以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/11(土) 21:22:18 ID:ogcOt1Sg
二時間後
A「何が意外と簡単だ……」ヒソ

D「滅茶苦茶重労働だ……」ヒソ

勇者「切り分けた肉の塊はこちらに」

B「穴の上に持ってきた枝を格子状にして置け、てこんな感じでいいのか?」

勇者「お、ありがとうございます」

C「こっちの穴の準備は出来たぞ」

E「こっちの被せ物も出来ている」

勇者「じゃあこっちの穴に火をつけちゃいましょう」

393以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/11(土) 21:24:41 ID:ogcOt1Sg
肉に被せ物をしたところ「」モウモウ

A「はー……上手い事を煙を逃がす道を作ったのか」

D「これで燻せるって事か」

勇者「かなり古い方法ですけどね」

B「どうなっているんだ?」

E「俺もよく分かっていないが、穴の中に火を起こし、煙の逃げ道を肉のある方にってしたんだ」

E「燃すところの穴も別に空気穴がある」

勇者「さて、出来る上がるまでは普通に焼いて食べますか」

394以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/11(土) 21:26:50 ID:ogcOt1Sg
A「ドラゴンステーキか……」ゴクリ

B「豪勢な」

C「仕方がない」ゴソゴソ

D「お、奮発するか」

勇者「と言いますと?」

C「これだ」コト

暗い色をした小ビン「」

勇者「調味料、ですか?」

C「これはグレープソースを濃縮し、冷凍保存しているものさ」

勇者「へえ!」

395以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/11(土) 21:29:56 ID:ogcOt1Sg
勇者「しかし、冷凍保存?」

A「中に凍結魔法の魔石を入れているのさ」

勇者「それは……衛生的に問題ないのですか?」

B「食品用の魔石だから、入れておいても平気だぞ。人間側ではないのか」

勇者「そうですね……直接入れるって事はしないですね」

D「あんまし、人間側は魔法や魔力に関する技術って低そうだな。こっちは魔石の衛生問題なんて相当昔だぞ」

E「まあ、こんだけ濃縮させるのも、魔法学が使われているしな」

勇者(魔法学。完全に学問として浸透しているのか。差がある訳だ)

396以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/11(土) 21:32:07 ID:ogcOt1Sg
C「ま、そんなのは後だ。こいつを軽く砕いて容器に出す」カララララ

C「湯をかけてゆっくり回してやると……」

濃い紫色のソース「」トロォリ

勇者「おお……芳醇な葡萄の香り。これは中々」ゴクリ

A「こっちは焼き始めるか」

B「だな」

397以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/11(土) 21:34:01 ID:ogcOt1Sg
 ヴェノムドラゴンステーキ ブドウソースがけ
  大きなステーキに惜しまずブドウソースをかけてある。
  骨付き肉もあって見た目のボリュームが凄い。


勇者(うーん、これは堪らないぞ。まさかこんなところでこんなご馳走にありつけるとは)

勇者(しかも野営時。はばかれる事なくかぶり付ける幸せっ)ガブゥ

A「おお、いった」

B「この人、結構ワイルドだな……」コソ

C「ああ、見た目や雰囲気や言動が何というか一致しないというか……」

勇者(美味っ! 美味い! このソース、とってもいけるぞ!)モギュモギュ

398以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/11(土) 21:36:28 ID:ogcOt1Sg
D「うぐ……流石にこれは」

E「あの巨体だと専用の器具無しだと、川でもない限り血抜きは難しいからなぁ」

B「お、じゃあこいつを」ゴソソ

A「粒マスタードなんて持っていたのか」

B「好きなんだよ」
  
勇者「皆さん……随分と色々とお持ちですね」

A「そりゃあな。食の楽しみを失ったら疲弊するのはすぐだぞ」

勇者「……なるほど」

399以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/11(土) 21:38:52 ID:ogcOt1Sg
勇者(こういう味も野営での食事の醍醐味だとは思うが……)

B「ほら、あんたも」サッ

勇者「頂きます」ヌラヌラ

勇者「はふっはふっ」ガブゥ

勇者「おほぉっ」

勇者(これはこれで中々! しかも臭みがこんなにも綺麗になるとは。これはいいマスタードだぞ)モギュモギュ

E「良い食いっぷりだな、この人」

D「俺、こんなに美味そうに食べる奴、初めて見たわ」

400以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/11(土) 21:41:26 ID:ogcOt1Sg
勇者「ふう……大満足の大満腹だ」

A「ああ、食った食った」

B「力になるなぁ」

勇者「おっと、そろそろ良い頃か」カポ


 ドラゴンの燻製肉
  昔の燻製方法で作った。しっかりとしたチップを使った訳ではないので、本当に保存の為の加工。
  中は生なので、食べる時には必ず焼くなりしないといけない。

401以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/11(土) 21:43:42 ID:ogcOt1Sg
A「悪いな。こんなものまで」

勇者「いえいえ、お互い様ですよ」

B「にしてもあんた、一人で旅をしているのか」

B「これから何処に向かうつもりだ?」

C「……まさか、単身乗り込む気か」

勇者「ええ、まあ」

D「ほ、本気か」

E「……命の恩人とは言え、暗殺者を見過ごす訳にも」

勇者「あ、いえ、取引があるだけです」

ABCDE「は?」

402以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/11(土) 21:44:07 ID:Ku7778Ew
やべぇ、また腹減ってきた

403以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/11(土) 21:46:14 ID:ogcOt1Sg
勇者「魔王城にいらっしゃる装飾師の方に納品があるんです」

A「の、納品?」

B「どうやって連絡を」

勇者「少し前に、別の魔王軍の方を助けまして。その時にそちらで使われている魔石を譲っていただいたのです」

D「ほう……うーん、ちゃんと初期化しているからいいか」

C「本当にそれだけなんだな?」

勇者「それと……何かあちらの特産とか知っておきたいのと、あちらの料理を食べたいですかね」

D「お、おう……そうか」

404以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/11(土) 21:47:56 ID:ogcOt1Sg
B「うーん、とりあえず知り合いの門番に連絡しておいとくわ」

B「そいつが非番でなけりゃ、話もスムーズだとは思うが……」

A「まあ、止めはしないが気をつけてくれ。人間と俺達は魔力の質が違う」

A「大抵の魔族なら、お前達に会えば人間かどうかは分かるものだ」

勇者「とすると、やはり全ての町は避けないといけないのですか……」

C「お前、楽観視し過ぎだろ……」

405以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/11(土) 21:49:41 ID:ogcOt1Sg
A「俺達はこのまま南西に向かい戦線に戻る。そちらは北を行くのだろうし、ここでお別れだな」

B「何にせよ達者でやってくれ」

C「縁があったらまた会おうぜ」

D「だな。礼も返さないといけないしな」

E「あ、これプライベート用の文字伝達魔石だ。連絡先交換しておこう」

勇者「ええと」ゴソソ

E「ここをこうしてこう。こうする事で、このリストからすぐに相手を探して、連絡を取る事ができるんだ」

勇者「なるほど、ありがとうございます」

406以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/11(土) 21:52:14 ID:ogcOt1Sg
勇者「思いがけず大量の食料が得られてしまった……」

勇者「少しは楽になるかなぁ」

勇者「それにしても魔族の人、やっぱり話せるもんだなぁ」

勇者「とっとと和平組んで国交正常化してくれないかな」

勇者「その前に、ひと稼ぎしておきたいなぁ」

勇者「魔族の国、何があるのかなぁ」ワクワク

勇者「さ、まずは生きて着く事だ」

407雑談:2016/06/11(土) 21:54:36 ID:ogcOt1Sg
>>372
よくよく考えたらお惣菜のオードブル的な物にも、よくさくらんぼがついてくるし
そういうもんか

>>373
国が勇者の称号を与えているだけだから何ちゃって勇者が後を絶たない

側近「今時、旅をして生活している者がいる件について」
王「kwsk」
側近「ほぼソロ縛りプレイ中」
王「次の勇者そいつで」
側近「おk」

>>377
某キリンってまんまキリンっ
サフトはそれで知った口
個人的に世界のキッチンからはハズレがないイメージ

サフト自体が家庭で作られるものだから味(砂糖の量)や工程も千差万別で、決まりはなかったり
言ってしまえば、
スウェーデンで親しまれている伝統的なフルーツジュースの総称とかなんかそんな感じなのかなぁ

408明日役立たない雑学:2016/06/11(土) 21:58:07 ID:ogcOt1Sg
マスタード
カラシナやシロガラシの種子やその粉末に水や酢等を練り上げた調味料。洋がらしとも呼ぶ。
マスタードの歴史は古く、古代ローマ時代には既に使われていたとか。
ギリシアでは紀元前2000年頃の遺跡や、
同時代のエジプトの遺跡からもマスタードの種子が発見されている。
時代を考えると、スパイスは元より臭み消しとしても重宝されていたのは、想像に難くない話だなぁ。

409以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/12(日) 12:30:48 ID:c/kgfqk.
乙!
魔王軍にも認められる食いっぷり

あの五種ベリーのは適度に甘酸っぱくて好きだわ、昔飴もあったような

410以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/13(月) 10:00:02 ID:/cQwipO2


これもしかしてホントに商売通して和平結べないか?この勇者

411以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/13(月) 10:15:07 ID:xjA79A1Q
魔族にもヒかれる&感心されるレベルの食欲ってw
しかし腹が減るわ


412以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/19(日) 19:47:37 ID:N3HQ9Uqk
しばらく後……
勇者「とっくに魔王の領土に入ったわけだけど」ザッザッ

勇者「魔王領土内のこの北の山……」

雪「」シンシン

勇者「参ったな……この山、こんなに早くに雪が降るなんて」

勇者「手前の山が平気そうだから入山したけども、一山超えたら既に積もっているじゃないか」

勇者「本格的な冬までには、魔王城へ南下するだけってところまで行きたかったけど」

勇者「完全にやらかしたなぁ」

413以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/19(日) 19:50:00 ID:N3HQ9Uqk
勇者「見た事のない魔物いるけども、あまり強くないのが不幸中の幸いか」ザッザッ

勇者「とは言え、うかうかしていたら食料が尽きる……急がないと」ザッザッ

勇者「しかし完全に雪山。下手をすれば死ぬぞ、これ」ザッザッ

勇者「あの時の兵士の人達ともっと情報交換しておけばよかったなぁ」

勇者「まあ、今更言っても」ズボ

勇者「! しま」ボボッ

勇者(落ち……)


勇者「」

「……」

414以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/19(日) 19:51:34 ID:N3HQ9Uqk
勇者「う……ん」

勇者「!」ガバッ

勇者「いつつつ……」

勇者(どうなった? 確か、雪に隠れていた崖か何かに落ちたはずだが)

勇者(どう見ても家の中だ……狐に化かされているのだろうか)

子供「……」ジー

勇者「おっと……」

子供「母ちゃん母ちゃん! 生き返った!」

女性「こら、死人じゃありません」メッ

415以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/19(日) 19:53:34 ID:N3HQ9Uqk
男性「目が覚めたか」ノソ

勇者(人……魔族の……)

勇者「はい。貴方がここまで運んで下さったのですか?」

男性「ああ、そうだ。お前さんにとっては、色々と感謝の言葉を言いたいのだろうが」

男性「その前に、こちらの質問に答えてもらいたい」

男性「お前は人間だな?」

勇者「ええ、そうです」

子供「!」ビク

女性「こちらに来なさい」コソ

男性「即答、か」

416以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/19(日) 19:55:39 ID:N3HQ9Uqk
男性「ここは魔王様の領土だ。何をしにこんなところまで、というのも野暮な事か」

勇者「私は勇者と言う立場の者です。勇者は各国の王が様々な者に任命するもので」

勇者「いくつかの特典と共に、魔王討伐を命じられた者達です」

男性「ほう……」

勇者「私は……気が合う者もなく、こうして一人で旅をしております」

勇者「無論、一人で魔王に叶う訳もなく、討伐の旅のふりをしながら行商をしています」

男性「そうか……うん? え?」

勇者「行商してます」

男性「そ、そう、か?」

417以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/19(日) 19:57:34 ID:N3HQ9Uqk
勇者「魔物は倒していますが、魔王軍の兵士の方は……一応、六名を助けた事になりますね」

勇者「まあ、流石に国に見つかる事はないでしょうから、反逆罪で捕まる事もありませんが」

男性「……」

勇者「そんな訳でして、私個人は魔族の方と戦う意思はありませんので、どうか警戒を解いてください」

男性「ならば何故、単身こちら側へ? まさか迷子とでも言う訳でもあるまい」

勇者「魔王城にいる方に、商品を届けに行くところです」

男性「……。え? 何だって?」

勇者「こちらがその時のやり取りです」

文字伝達魔石「」ポゥ

男性「……本当だ」

418以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/19(日) 20:00:20 ID:N3HQ9Uqk
男性「これは何処で?」

勇者「先ほど言いました魔王軍の兵士の方から譲って頂きました」

勇者「その後に別の方々を助けた際に、登録の方もしてもらいました。一名だけですが」

男性「……」チラ

女性「失礼ながら荷物の方、見させてもらいました」

勇者「ええ、どうぞどうぞ」

女性「……。この大量の羽と爪のような物は何でしょうか?」

勇者「両方ともバジリスクのものです。羽と蹴爪、そちらが今回納品する商品です」

男性「商売の為にこんなところまで……あんた、本当になんなんだ……」

419以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/19(日) 20:02:53 ID:N3HQ9Uqk
男性「悪いが長居はさせてやれん。明朝には出て行ってもらうからな」

勇者「明朝まで居させて下さるのですか?!」

男性「あんたといると……調子が狂うな。人間は皆そんなものなのか?」

勇者「いえ、自分が変人なのは自覚の上なので」

男性「……はあ、まあいい。お前」

女性「ええ、もうすぐですよ」

勇者「……?」

女性「あれから一日眠ってらしたんですよ。お腹、空いているでしょう?」

勇者「あ」グゥゥ

勇者「これは、かたじけないです」

420以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/19(日) 20:04:56 ID:N3HQ9Uqk
 すいとん入りけんちん鍋
  根野菜たっぷりの中に、ごろっとすいとんが入っている。
  肉はないが豪勢に見える。


男性「ここらは貧しくてな。こんなものしかないが、これで我慢してくれ」

勇者「いえいえ、こんなご馳走、申し訳ないぐらいです」

女性「え、ご馳走?」

子供「何時もこれだけど……」

421以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/19(日) 20:06:25 ID:N3HQ9Uqk
勇者(それにしてもこのけんちん、野菜量が半端ないな)パク

勇者(うん、美味い美味い。味噌仕立てか)モグモグ

勇者(これは白米が欲しくなる味だが……米は取れないのかな)パク

勇者(その代わりがすいとんって事なのだろう)モグモグ

勇者(しかしこの暖かは困るな。実に困る。箸が止まらなくなってしまうじゃないか)パク

勇者(こんなにも早くに雪が降る地方ならではなんだろうな)モグモグ

女性「いっぱいありますから、おかわりして下さいね」

勇者「ええ、ありがとうございます」

422以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/19(日) 20:08:26 ID:N3HQ9Uqk
勇者(このゴボウ、噛み締める度に味が染み出てくるようだ)モグモグ

勇者(里芋の多さも頼もしい)パク

勇者(ああ、いかん。ついがっついてしまう)モグモグ

勇者(寒い中の熱い鍋、幸せだ。なんて幸せなんだろう)パク

女性「悪い人には、とても見えないわね」フフ

男性「……うるさい」

子供「母ちゃんおかわりっ」

女性「はいはい」

423以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/19(日) 20:10:53 ID:N3HQ9Uqk
勇者「ご馳走様でした」

勇者「あの、もしご迷惑でなければ、何か食材等を仕入れてきてお譲りしたいのですが」

男性「裕福でないと……」

勇者「いえ、助けて頂いた事と二泊の恩です。とてもお代は頂けません」

女性「とは言っても……急に言われても中々思いつかないものねぇ」

子供「母ちゃん、俺肉食いたい!」

勇者「お肉、ですか」

男性「というか、一体どれだけ時間をかけるつもりなんだ?」

勇者「転移魔法が使えますので明日、戻ってきますね」

男性「転移魔法だと?」

424以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/19(日) 20:12:55 ID:N3HQ9Uqk
男性「お前、分かっているのか?」

男性「それはつまり、一度訪れたところに大量の軍隊をけしかけられると言っているのだぞ」

勇者「そうでもないですよ? 定員ってそこまで多くないですし、基本的に魔方陣は魔法発動と共に消えてしまいます」

勇者「それこそ岩盤に彫ったものでもなければ、魔方陣はその都度書くのが普通」

男性「……人間側の転移魔法は違うのか」

勇者「え? ああ、なるほど。もっと発展したものなのですね。こちらのは」

425以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/19(日) 20:14:27 ID:N3HQ9Uqk
勇者「人間側の転移魔法は、魔方陣をその都度描く必要があり、触媒も必要」

勇者「転移できるのは、人が建物を立てている場所。大雑把に言えば町等です」

勇者「これは、人間が建物を建てる事で、地中深くに何かしらを打ち込む」

勇者「これが地脈とでも言うのでしょうか。周囲のそれを支配する事で」

勇者「転移魔法における魔方陣がその地点を探す事ができる、というものです」

勇者「なので、ここから近くの森に兵士を送り続けて、数が揃ったら、という事も出来ません」

勇者「あと、転移魔法は一日一回までしか使えません」

男性「ほお、制約が多いのだな」

男性「だが、それなら……そうだな」

426以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/19(日) 20:16:13 ID:N3HQ9Uqk
翌日
勇者「ではこちらが暴れ軍鶏の肉です」ドサッ

子供「おおお! 肉!」

女性「まあまあ、こんなに」

男性「ほ、本当にいいのか? まさかこんな量を持ってくるとは思っても」

勇者「ええ、構いませんよ」

男性「なんだか、すまないな」

勇者「こちらこそ、お世話になりました」

427以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/19(日) 20:18:31 ID:N3HQ9Uqk
勇者「ふう……」ザッザッ

勇者「まさかこんな命拾いをするとは……」

勇者「絶対に死んだと思った……」

勇者「気を引き締めていかないと」

勇者「何より、町自体に近寄らないほうがいいんだし……良い人達でよかったぁ」

勇者「さ、まだ少しかかるんだ」

勇者「美味い物も食ったし、食料調達にも戻る事が出来た」

勇者「あと少し……年明けぐらいにはつけるだろうか」

428以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/19(日) 20:20:23 ID:N3HQ9Uqk
しばらく後
勇者「……ようやく山を抜けられたか」

勇者「ここからだと……問題がなければあと一月程度かな」

勇者「うん、うん。終わりが見えてきたぞ」

勇者「魔王城、何とか辿り着けそうだ」

勇者「と言ったものの、食料が心細い」

勇者「どうにか得られないとギリギリだなぁ」

勇者「機会があれば、必ず獲る事を意識しないと」

429以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/19(日) 20:22:01 ID:N3HQ9Uqk
勇者「しかし、この辺りは魔物も動物も見ないな……何でだろうか」

勇者「うん? あれは……」

勇者「何かの群れかな? 念の為に隠れてやり過ごすか」ガササ

勇者(結構速いな。一体なんだろうか)


グリーンドラゴンの群れ「……」ダガダガダガダガ


勇者(グリーンドラゴン!? 初めて見た……けど、これは不味いんじゃないか?)

430以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/19(日) 20:24:27 ID:N3HQ9Uqk
勇者(特定の生息地域なし、常に群れで移動しながら獲物を捕食して生活するドラゴン)

勇者(確かに人間側の領土内での目撃情報は少ないけども……魔王領土内をメインに移動しているのか?)

勇者(生態については詳しく分かっていないんだよなぁ)

勇者(とは言え、10体ぐらいか? 仮に火も何も吹かないとしても、あの数に襲われたら一溜まりもない)

勇者(ここは手を出さずに穏便にやり過ごすしかないな)


緑竜の群れ「……」ザザァ

緑竜の群れ「……」キョロキョロ


勇者(何か探している?)

勇者(ああ、そうか。獲物でも探しているんだろうな……。うん? 何であそこで立ち止まって探しているんだろう)

431以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/19(日) 20:26:07 ID:N3HQ9Uqk
緑竜の群れ「……」ジッ


勇者(……こっち、見てる? しまった……嗅覚とかが発達しているのか?!)

勇者(少しずつ……音を立てずに後退して……)ソロリ


緑竜の群れ「……」ソロリソロリ


勇者(! 気づかれている! 絶対にこっちにいる事を分かっていて近づいてきている!)バッ

432以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/19(日) 20:28:37 ID:N3HQ9Uqk
勇者(くそっ! なんだ? 何の能力でこっちに気づいた!)ダダダ

緑竜の群れ「クエエエエエエ!!」ダガダガダガ

勇者(駄目だ! 逃げ切れない!)ゴソゴソ

勇者(爆発魔石!)バッ

黄色い魔石「」カラララ カッ

勇者(これで少しでも時間を……!)ッドドドォォォン

爆煙「」モウモウ

爆煙「」ボボフッ

緑竜の群れ「……」ボシュッボボッ

勇者(怯みも警戒もしていない……!?)

433以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/19(日) 20:30:20 ID:N3HQ9Uqk
勇者「フランベ!!」カッ

火の海「」ゴォォォ

勇者「それと」バッ

赤い魔石「」ガララララ

火柱「」バァァァン

勇者「どうだ……」ダダダ

緑竜の群れ「……」ダガダガダガ

勇者(まだ来るか!)

勇者(駄目だ、彼らの探索能力を突き止めた所で、撒く為の準備をする時間がない!)

434以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/19(日) 20:32:18 ID:N3HQ9Uqk
勇者(追いつかれる!)

緑竜A「ガアアア!」バッ

勇者「くぅ!」ガァァン

緑竜A「クゥゥゥン」バッ

緑竜B「シャアアア!」ザザッ

勇者「つっ!」ガギィン

緑竜B「シィッ!」バッ

勇者(ヒットアンドウェイ!? くそ、嫌な戦い方を!)

緑竜C「シャッ!」ビッ

勇者「くあ!」ザシュゥ

荷物「」ドサァッ

勇者(爪が荷物に当たったか!)

435以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/19(日) 20:34:05 ID:N3HQ9Uqk
緑竜D「……」ピク

緑竜E「……」チロチロ

勇者(動きが変わった……? それに舌を出して……)

勇者(逃げられるか?)ササ

緑竜A「……」ソロリ

緑竜G「……」ソロリソロリ

勇者(荷物に集まっていく……嗅覚が発達しているのかも)

勇者(食料……命あってのものだねか)バッ

436以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/19(日) 20:36:16 ID:N3HQ9Uqk
勇者「はー……はー……」

勇者(ここまで来るまでにいくつか臭いのトラップや対策をしたけども……)

勇者(これで追いつかれたらもうどうにもならないなぁ)

勇者「……」ゴソゴソ

勇者「納品の品は無事、か。落としたのは食料バックだけ」

勇者「手痛いがよしとするか……」

勇者「問題は食料もそうだけど、持ち運べる量がかなり減ったって事だよなぁ」

437以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/19(日) 20:38:19 ID:N3HQ9Uqk
二週間後
勇者「……」フラ フラ

勇者「……」ドザァ

勇者(こっちのバッグにも……もっと水筒になるものを入れておくべきだった)

勇者(空腹より……これは枯死するなぁ)

勇者(何とか凌いできたけど、もう限界だ。池すら、見当たらない……)

勇者(……)

438以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/19(日) 20:40:14 ID:N3HQ9Uqk
……
勇者「……」

勇者「……」ムク

勇者「なん、で……生きているんだ」

獣人「あら、気がついたようね」

勇者(獣のような耳と尻尾……魔王の領土にいるという獣人か)

勇者「貴女が助けてくれたんですか?」

獣人「ええ、そうよ。文無しで損したわ」

439以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/19(日) 20:42:12 ID:N3HQ9Uqk
獣人「とは言っても、まだ動き回るほど回復していないはずよ」

獣人「食べる物を持ってくるから大人しくしてなさいな」

勇者「ありがとうございます」

獣人「礼はいいわよ。後でしっかりと返してもらうから」

勇者「働けって事ですか」

獣人「物でもいいのよ。貴方、人間でしょ」

獣人「こっちじゃ珍しいものとか、色々と候補はあるんじゃないかしら?」

勇者「まあ、そうですね……」

440以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/19(日) 20:44:09 ID:N3HQ9Uqk
 けの汁
  根菜類を中心に細かく刻んだ具が、鍋から溢れんばかりの汁。
  汁物だけど、完全に食べる料理。
  

勇者「ほほう……」

勇者(これは美味そうだ)

獣人「見たところ、飢餓よりも脱水症状が強かったみたいだから、普通の食べる物だけど大丈夫そうか?」

勇者「ええ、量は少なかったですけど、直前まで食べる事はしていました」

獣人「そりゃ良かった。さ、召し上がれ」

勇者「いただきます」パク

勇者(ほうほう、味噌仕立てか。ここらは寒い地域なんかな。やたらと汁物に味噌を入れたがる)モグモグ

勇者(しかし美味いぞ、この鍋。この小さくさいの目に切った野菜達、思った以上に量があるし)パク

勇者(これはかなり大当たりな郷土料理なんじゃないだろうか)モグモグ

獣人「……」

441以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/19(日) 20:46:29 ID:N3HQ9Uqk
獣人「口に合うようで何よりだよ。さて、あたしも食べるかな」

勇者(肉は一切入っていないのか。獣人ってもっと肉を食べるもんだと思っていた)モグモグ

勇者(それにしても不思議な味だ。味噌以外にも出汁は取っているんだろうけど……何だろう)

勇者(うーん、何にしても美味しいし、かなり腹が膨れるぞ。そしてヘルシー。いくらでも食べたくなるぞ)

獣人「……」モグモグ ゴクン

獣人「で、あんたはなんでまた一人でこんな所まで来たんだ?」

獣人「とても魔王様を暗殺できるようにも見えないが」

442以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/19(日) 20:48:35 ID:N3HQ9Uqk
勇者「一応、魔王討伐を命じられている者の一人ですが、監視がある訳でもないので」

勇者「色々とありまして行商の真似事をしています。それで、魔王城にいる方から注文がありまして」

獣人「それでここまで一人で? あんた……ただの商人、いやここまで来たんだからただの商人でもないか」

獣人「あんた、強いのか?」

勇者「うーん、そこそこ戦える程度ですよ。上手く立ち回って逃げ回っているだけです」

獣人「ふーん、まあそれでもここまで来たんだ。それなりのもん持っているんだろうな」

443以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/19(日) 20:50:18 ID:N3HQ9Uqk
獣人「あんたらはどうか知らないけども、あたし達はさ、別に戦争なんてしたい訳じゃないんだ」

獣人「ま、あたしらが徴兵されている訳じゃないけども、やっぱり気分がいいもんじゃないし」

獣人「どうにか上手くやってよ。魔王城に行くんでしょ?」

勇者「流石にそれは無茶振りですよ」

獣人「そこをどうにかしてよって話」

獣人「あ、じゃあこの礼はそれで返してよ」

勇者「転移魔法使えるので、人間側の方から何か買い付けてお譲りしますね。何か欲しい物はありますか?」

獣人「完全スルーかよ」

444以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/19(日) 20:52:16 ID:N3HQ9Uqk
獣人「まあ、本気で一人でどうにかなるなんて思っていないわよ」

獣人「ただ、もしも機会があったらお願いって事」

勇者「はあ……」

勇者「あー……その、そもそも何で魔王は侵略を?」

獣人「単純に土地問題ね」

獣人「東の果てには瘴気が溢れる土地があるのよ。その所為でこっち側の土地って」

獣人「面積の割りに使えないところが多いのよ」

勇者「住む場所ですか? それとも食糧問題?」

獣人「差し迫っては食糧問題じゃない? 力のある種族が東に移るとかすれば、居住地は余裕ができるだろうし」

445以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/19(日) 20:54:19 ID:N3HQ9Uqk
獣人「野菜だけでいいなら、ここら辺は豊かなんだけどねー」

勇者「獣人の方は肉などは食べないんですか?」

獣人「食べるよー。ただ、ここら辺はよくグリーンドラゴンが通るからね。中々いないのさ」

勇者「食い尽くされる、と」

獣人「お陰で野菜や山菜なんかは多く自生しているんだけどね」

獣人「ぶっちゃけ、ここら辺で肉を得る機会ってそのグリーンドラゴンそのものよ」

勇者「倒すんですか……あれ」

446以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/19(日) 20:56:16 ID:N3HQ9Uqk
……
勇者「はー……美味しかった。ご馳走様です」

獣人「はい、どうも」

勇者「しかし、野菜だけなのに力が湧いてくるなぁ」

獣人「肉はないけど豆も多く入っているからね」

勇者「え? 豆?」

獣人「すりつぶした物を溶かしてあんのさ」

勇者(あの不思議な味は豆の味だったか)

447以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/19(日) 20:58:32 ID:N3HQ9Uqk
獣人「さっきのお礼の話だけど、気にしなくていいからね」

勇者「え?」

獣人「あたしが好きでやった事だからさ」

獣人「何なら、たまにはここに立ち寄っていきなよ。転移魔法あんでしょ?」

獣人「その時に色々と物持ってきて、ここで交換なり販売していってくれればいいよ」

獣人「重要な土地じゃないから、割と魔王様からは見放されているのよ」

獣人「お陰で自国の商人もあんまり来ない。グリーンドラゴンが原因ってのもあるんだけどね」

勇者「ああ、なるほど」

448以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/19(日) 21:00:41 ID:N3HQ9Uqk
獣人「ま、少しゆっくりしていきなよ」

勇者「……」

勇者「それではご好意に甘えさせてもらいます」


数日後
勇者「お世話になりました」

獣人「こっちこそ、色々手伝ってくれてありがとうね」

獣人「ま、またいらっしゃいな」

勇者「ええ、そうします」

獣人「魔王城はこのまま南下していけば着くだろうけど、歩きだと結構かかるかなぁ」

獣人「ま、気をつけてね」

449以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/19(日) 21:02:37 ID:N3HQ9Uqk
勇者「また命を拾った……」

勇者「なんか魔族の人に拾われるなぁ」

勇者「それにしても、何だかんだであんまり警戒さていないな」

勇者「まあ、単身でこんな荷物なら争いに来たとは思われない、か」

勇者「意外と話せるもんなのかもしれないなぁ」

勇者「和解ってそう難しくないような……いや、国が関わる事だし、そうでもないか」

勇者「まあ、自分のやるべき事だけしていればいいか」

450明日役立たない雑学:2016/06/19(日) 21:05:13 ID:N3HQ9Uqk
けの汁
東北の郷土料理で、津軽から秋田にかけて作られる。
きゃの汁やきゃのことも呼ばれ、細かく刻んだ根菜に、ワラビ等の山菜。
更には高野豆腐に油揚げ、こんにゃくにずんだと具だくさんの汁物である。
野菜の味が染みる事もあって、日が経つ程に美味いという。

名前は粥の汁という意味で、"かゆ"が訛って"け"となったんだとか。
昔は米が貴重だった為、刻んだ野菜を代わりにして食べたのが起因しているそうな。

451以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/19(日) 21:07:33 ID:yEptkmtk
乙乙
腹減るなぁ

452以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/19(日) 23:21:58 ID:7zyqeizU
乙、うまそう

453以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/19(日) 23:59:57 ID:.yJiQnGc

魔王領は味噌味がお好きかw
けの汁もいいけど、すいとん食べたくなってきた

454以下、名無しが深夜にお送りします:2016/06/20(月) 01:54:01 ID:f5arv6uk

出会いに恵まれているあたり、名ばかりの勇者というわけでもなさそうだ


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