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( ^ω^)千年の夢のようです
-
9/24(水) 夕方より投下します
よろしくお願いします
前スレ
>( ^ω^)千年の夢のようです
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/13029/1401648478/
まとめサイト様(以下敬称略)
>ブンツンドー
http://buntsundo.web.fc2.com/long/sennen_yume/top.html
>グレーゾーン
http://boonzone.web.fc2.com/dream_of_1000_years.htm
作品フィールドマップ(簡易)
http://imefix.info/20140922/321215/rare.jpeg
http://imefix.info/20140922/321216/rare.jpeg
-
( ´_ゝ`)『ったく…お前は寝不足村の住人かっつーの』
(´<_` )『流石だな兄者、いつまでも発言センスは化石か』
( ФωФ)『久しいであるな、ショボン』
…異質だが、しかし懐かしく。
(´・ω・`) 「なんで居るのさ」
-
( ´_ゝ`)『なんでって…』
(´<_` )『お前が呼んだんじゃないか』
(´・ω・`) 「僕が呼んだ?」
ショボンは彼らに近付こうとして、すぐに理解することになる。
相も変わらぬ闇のなか。
ハインはすぐ隣でしゃがみこみ、ニヤニヤこちらを眺めている。
( ФωФ)『ほら、せっかくなのだから早く起きるのである。
おお…大きくなりおって…』
( ФωФ)『撫でてやりたいが、子供扱いも失礼であろうか』
他の三人は違う。
よろりと立ち上がるショボンにしても、少し見上げた位置にいる。
彼らは…[かがみ]の "向こう側" に映し出されていた。
-
从 ゚∀从 「最初に言っただろ?
念じればこの[かがみ]に映るんだ。
お前の過去の出来事も…お前の過去の記憶の人物も」
遅れてハインも立ち上がり、エッヘンとした様子で腰に手をやった。
ショボンからは背後にいるため見えないが。
(´・ω・`) 「そうか…なら過去を覗いているうち、兄者さんのことを考えた気がするよ」
(´<_` )『俺は?』
( ´_ゝ`)『ふっ、嫉妬するなよ愚弟』
(´・ω・`) 「思い出したのは死に様だけど」
( ´_ゝ`)『…』
(´<_,` )
( ФωФ)『赤い森…そしてそのあとの事も。
色々と見させてもらったのである』
(´・ω・`)
( ФωФ)『大変だったな、ショボン』
-
自らの産み出した幻とはいえ、誰もが以前と同じだと思った…。
サスガ兄弟も、ロマネスク爺も、
かつて少年だった頃のショボンの記憶に彷彿とさせる。
(´・ω・`) 「……なんだよ」
だから、後ろめたさがあった。
(´・ω・`) 「[かがみ]の幻覚のくせに……」
( ФωФ)
時は経ち、ショボンは彼らよりもはるかに齢を重ねてしまった。
二度と変わらない背格好と、過ぎたる現実。
…もう、後戻りもできない。
ショボンがアサウルスと関わったことも。
赤い森が地図から消えてしまったことも。
ナナシがショボンを庇い、氷漬けになって生ける屍と化したことも。
それ以降、呪術師の生き残りであるワカッテマスに永く怨まれていたことも。
(´・ω `)
从 ゚∀从 「俺がクーの景色を覗けるように、
お前がモナーの景色を覗いたように…」
从 ゚∀从 「こいつらも、お前の記憶やその周りを覗くことができたみたいだ」
-
(´<_` )『お前にも伴侶がいたんだな…。
心配してたんだぞ?
兄者が死んでからのお前はそれまでと、まるで別人だったから』
(´<_` )『ずっとじゃなくてもいいんだ。
誰かと過ごす時間…それが人生の潤いになる。
…俺がお前にしてやれなかったことを、他の誰かがやってくれたなら俺も嬉しいよ』
結局しぃとは生涯、顔を合わせなかった。
どんな顔をしておめおめと帰るべきか判らなかった。
誰にも伝えられない大罪に… 彼女とその子供に…
罪悪感を抱き続けていた。
-
( ´_ゝ`)『なのにお前はずっと独りで…
"自分はこの世に独りきり" だと思い込んで、生きてきたんだな』
( ´_ゝ`)『あげく水の都で犠牲になったのは、ヒロイックな感傷にでも浸りたかったのか?
一度くらい死なないと、みんなに申し訳ないってか?』
同族を見渡せば…
クーは死ぬことでかつての記憶を失い、
ジョルジュはワカッテマスを失った。
不死であろうと、人は常に何かを失わねばならないのだと思っていた。
( ´_ゝ`)『人は孤独で死ぬことができる。
信仰という支えの無くなったあの島で、俺が一番気をもんだのは自死への対策』
( ´_ゝ`)『…お前の両親の分まで、俺はお前を孤独にさせないよう過ごしたつもりだ』
(´ ω `)
-
叱られ、怒鳴られ、見損なわれても仕方のない生き方を、
ずっと…自分はしてきたのではないかと……どこかで考えていた。
( ФωФ)『ショボン…お主はバカタレであるな』
(´ ω `)
( ФωФ)『どれだけ人に愛されてきたのか、まだ分からぬか?』
( ФωФ)『思い出してみるが良い。
どれだけの人が、お前を助け、お前を生かしてきたのかを』
[かがみ]の住人は容赦なく言葉を投げつけてくる。
サスガ兄弟からは慰めを…。
ロマネスク爺からは一喝して諭すように。
-
( ´_ゝ`)『ショボン、ふたごじまを…
弟者やロマネスク爺の住んだ三日月島を救ってくれてありがとうな』
( ´_ゝ`)『そして俺のためにアサウルスを延々と追わせてしまって…すまなかった』
(´<_` )『ショボン、お前は凄い奴だよ。
俺たちはすぐに老いぼれるから、
生き方をどうこうだなんて考える以前に楽な生き方を選びがちだ。
…島の技術や人々も、大陸各地にあるだなんて昔なら考えられなかったぞ』
(´<_` )『追放された俺でも、あの島でやっと生きやすさを見付けて天寿を全うできた。
息子の末者も、ちゃんとお前の力になってくれて良かったよ』
( ´_ゝ`)『ぇ、なにそれ、お前子供作ってたの?』
(´<_` )『デレとな』
( ФωФ)『それはそれは……祝えなくて残念だったのである』
( ´_ゝ`)
(´<_` )『…そういえば兄者はミセリよりデレ派だったっけか』
( ´_ゝ`)『実体があったら殴りかかってるところだよ……なあ、ショボン?』
(´ ω `)
( ´_ゝ`) 『……』 (´<_` )
-
ショボンと兄弟の沈黙を受け、再びロマネスクが口を開いた。
( ФωФ)『仲間が出来たのであるな。
お主と同じ時間を共有できる……』
( +ω+)『不思議なものである。
ショボンも、彼らも、なぜ生まれたのであろうか』
(´ ω `)
( ФωФ)『…逆であるか。
生まれてきたからには必ず意味があるはずなのである。
必要だから生まれたのだと、我輩は信じておるよ』
( ФωФ)『一緒に日々を過ごしてくれてありがとう、ショボン。
…我輩は、お主が死ねないことを憂いる。
悦ばしいことも、怨めしいことも…凡てが永遠に終わらぬのだから』
从 ゚∀从 「…」
( ФωФ) 『ショボン、もっと強くなれ。
他人を頼るのだ』
-
( 強くなって…他人を頼る? )
昔はなんと口うるさい爺だと、うっとうしげにあしらっていたものだった。
なのに今なら、ショボンにも分かることがある。
…ロマネスクも微笑んでいた。
血縁はなくとも、孫と話すことがとても嬉しそうに。
そして思う。
ロマネスクはこんなに難しいことを話す人間だったろうか?
会話からイコールが繋がらない。
少なくともショボンのなかではそうだ。
「どういうこと?」
いつのまにか幼い頃の声色となったショボンが真意を尋ねると、
淀みなくロマネスクは応えた。
-
( ФωФ)『耳を塞ぎ、心を閉じてはならぬのだよ。
お主の過ごした時間は確かに誰かの命を奪い、しかし同時に誰かの命を救ったではないか』
(´<_` )『三日月島では兄者の代わりに俺が生きた。
兄者が生きていたなら、お前がアサウルスの手足になって島の人間を皆殺す未来もあったかもな。
…その手で兄者やデレ達を殺すような、考えたくもない架空の未来だけど』
( ´_ゝ`)『モナーは呪術師の血を薄めて、【ウラミド】の呪いを解き始めた。
…お前も後に逢っただろう? 二代目モナーはあの時の子供だよ』おう
( ФωФ)『水の都に至っては誰ひとり、その命を失ってはおらぬ。
他者には呆気なく映る平和的解決も、お主の迅速な行動が生んだ奇跡なのだ』
( ФωФ)『見誤ってはならぬ。 卑屈にもなるな。
考え方ひとつ、視点を変えれば人は感謝し合って生きていけるのである』
-
ショボンは彼らの言葉を黙って聞いていた。
決して自分を責めない言霊が、
身体中に染み込んでいく心地よさに沈んでいく……。
足は地についているだろうか?
そんな不安に駆られたが、
そもそもここが大地なき宙闇の空間であることをなんとか思い出す。
沈下する目線に追い打ちをかけるよう
ポンっ――と、ショボンの頭に重みが加わった。
ハインの手のひらが置かれたのだと、見てはいないが理解する。
从 ゚∀从 「アタシからもひとつ教えといてやるよ」
从 ゚∀从 「[かがみ]が映すのは過去だけじゃない…
さっきのクーみたく、現在も映してくれる。
要するに思いの大きさ、想いの強さに影響を受けて投影されるってわけだが…」
つっけんどんな口調ではあるが、それはハインなりの照れ隠しなのかもしれない。
ショボンの視線はあくまで[かがみ]の三人に注がれているにも拘わらず、
どうして彼女までが微笑っていると分かるのだろう…。
-
「前に出な… [かがみ]にもっと近付いて」
…ハインの声に導かれ、ショボンは恐る恐る歩を進めた。
眼前にそびえる[かがみ]。
――こんなに見上げるものだったろうか?
変わらず映るはあの頃の三人の姿。
願望に従い、考えるよりも早く腕を伸ばして触れる。
到着点はまっ平らな[かがみ]ではなかった。
紛うことなく、それは[かがみ]を越えて現れた
兄者、弟者、ロマネスクの三者三様の手の感触。
ショボンがそれに驚く間も無くぐいと引き寄せられると、四人は肩を寄せ合う形になる。
-
『どうした、ショボン?』
『…やれやれ』
『家族の前では、
いつまでも子は子であるな』
「…うるさいなあ」
-
( ´_ゝ`)
⊃(´;ω;`)(´<_` )
( ФωФ)⊂
-
人はいつも誰かと共にある。
一匹狼を気取るのは、人を傷つけたことにすら目をそらす愚か者だ。
人はいつも誰かを求めている。
ひとたび出逢えば縁を紡ぎ、その蜘蛛の糸が千切れるまで助け合える。
誰に何を言われても強くあり続けることのできる存在などありはしない。
瞬間を生きる者も、悠久を過ごす者も、
同じ時を歩み寄り添う。
――そうやって、人が安穏と
生きていければどれほど良いか。
-
从 ゚∀从 「…」
从 -∀从
从 -
′
四人を遠目で見つめながら、ハインは闇に消えていった…。
その身を、黒い何かに巻き取られながら。
( ´,_ゝ`)o
⊃(`;ω;)(´<_,` )
( +ω+)⊂
ショボン達はそれに気が付かない。
今はただ[かがみ]が与えた記憶と邂逅に、
束の間のうつつを抜かす。
-
―― 千年を生きる者。
―― 千年を過ごす可能性を秘めていた者。
[かがみ]に善悪はない。
只あるのは、
未来と、それを生き抜く概念と願望…
この世界を構築するエネルギーだけを貪欲に求めている。
-
リミットは刻々と迫りつつある。
"彼ら" は手に入れなくてはならない。
運命を乗り越えなくてはならない。
[かがみ]による願望の投影によって
うたかたの合間、幼くなったショボンに
闇に光る粒子の灯りが不規則に、しかし…確かに三つの輝きが、
煌々と照らされ増えたことにも気付くことはない…。
-
( …あの日以来、初めて )
( 少しだけ、心が休まった気がする )
( 自分を赦してくれる人と一緒に居るのは、こんなにも気持ちの良いものなんだ )
( でも兄者さんたちも、
僕が死んでここに来なければ逢えない幻覚… )
( 不死の僕には、せっかく
寄り添う存在が見つかったとしても
必ず別れが訪れてしまう…… )
-
そしてショボンは少しだけ、
ξ-⊿-)ξ
∪^ω^)
ブーンとツンを、羨ましく想った。
(了)
-
乙
-
乙
引き込まれたわ
-
乙!
-
--------------------------------------------------
※千年の夢 年表※
--------------------------------------------------
-900年 ***********
→信仰の概念がうまれる
( ∵)は偶像生命体として同時に生誕。
-400年 ***********
→結婚(結魂)制度のはじまり
-350年 ***********
【ふたごじま】
→魔導力の蔓延
-312年 ***********
【銷魂流虫アサウルス (´・ω・`)幼年期】
→ "隕鉄" が世界に初めて存在しはじめる
【東方不死 〜山人の夢〜】
→('A`) がアサウルス(a)と相討ち
-220年 ***********
【銷魂流虫アサウルス (´・ω・`)青年期】
【傷痕留蟲アサウルス】
→アサウルス(c)撃破
→騎兵槍と黒い槍(アサウルスb)が融合
→('A`) がアサウルス(a)から解放
-
-210年 ***********
→大陸内戦争勃発。
【帰ってきてね ミ,,゚Д゚彡幼年期】
-200年 ***********
【帰ってきてね ミ,,゚Д゚彡青年期】
【死して屍拾うもの】
【夢うつつのかがみ "赤い森の惨劇" 】
→結魂によって二代目( ´∀`)生誕 ☆was added!
→アサウルス(b)復活 ☆was added!
→ミ,,゚Д゚彡は【ウラミド】に巻き込まれてアサウルス(b)もろとも氷漬けに ☆was added!
-195年 ***********
→大陸内戦争終了。
【はじめてのデザート】
-190年 ***********
【その価値を決めるのは貴方】
-180年 ***********
【老女の願い 復興活動スタート】
-150年 ***********
【老女の願い 荒れ地に集落が出来る】
→川 ゚ -゚) が二代目( ´∀`)に指輪依頼の時期。
-140年 ***********
【老女の願い 老女は間もなく死亡】
→指輪の暴走時期。 川 ゚ -゚) が湖に封印
-
-130年 ***********
【人形達のパレード】
【此処路にある】
→(´・ω・`)( ゚∀゚)川 ゚ -゚) の三人が集結
→二代目( ´∀`)死亡時期
【夢うつつのかがみ 水の都】 ☆was added!
【東方不死 湖から( <●><●>)引き揚げ】
-120年代 ***********
【矛盾の命】
→ξ゚⊿゚)ξが石化(?)
【東方不死】
【白い壁 黒い隔たり】
→ウォール高原の国法制度が崩壊
-100年代 ***********
【繋がれた自由】
【遺されたもの】
【時の放浪者】
→ミ,,゚Д゚彡( <●><●>)( ゚∀゚)川 ゚ -゚)が同じ場所にいる
( ´∀`)は四代目。
-40年代 ***********
【老女の願い 集落は町として発展】
00年代 ***********
【老女の願い】
→( ^ω^)がプギャーとギコに再会
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これで今話の投下を終わります、ありがとうございました
大陸マップの更新もしてあるのですが
肝心のデータを手元に移し忘れたので後日貼り付けます
…残り6話、その後エンディングです
読んでくださる方には是非とも、もう少しのお付き合いをよろしくお願いします
(´・ω・`)ω・´): 傷痕留蟲アサウルス >>6
('A`) :東方不死 >>170
( ^ω^) :白い壁 黒い隔たり >>329
(´・ω・`) :夢うつつのかがみ >>438
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乙 もう残り6話か…長いような短いような
続きも楽しみに待ってるわ
-
読レスありがとうございます
いつも読んでいただいて嬉しいです
★誤字脱字の修正について
>>587
>「不死にすら敵わぬ我に、人間が
随分と余裕を見せるものだな」 ミ●皿●,,彡
※正しくは↓
「不死すら敵わぬ我に、人間が
随分と余裕を見せるものだな」 ミ●皿●,,彡
>>600
>自身の腕ではない。
彼は両足のスタンスを自然にとり、両手は下がったままだ。
※正しくは↓
自身の腕ではない。
彼は両足のスタンスを自然にとり、両肩は下がったままだ。
>>637
>…お前も後に逢っただろう? 二代目モナーはあの時の子供だよ』おう
※↑おう、は消し忘れ
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おう乙
あと六話か
楽しみにしてる
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投下できなかった大陸マップの更新についてだけ
作品フィールドマップ
http://imepic.jp/20150728/318990
http://imepic.jp/20150728/319000
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いつも読んでくださる方、ありがとうございます
時間の都合上、今回もひとつの話を前後編として分けて投下します
本日の19時過ぎから前編を。
後編は少し間をおいてしまうかもしれませんが、
今週末には投下し終えると思うのでどうかよろしくお願いします
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('∀`)うわーい
投下予告ありがとー
楽しみにしてるぞ
-
wktk
-
その状態を、なんと呼べば良いのだろう。
从 ゚∀从
暇をもて余す…いや、やるべきことはある。
そのために彼女は存在していなくてはならない。
::从;゚∀从::
手持ち無沙汰…というほどには楽もできない。
現にいまも彼女へと闇が巻き付き、その身を拘束し始めたところだ。
-
::从↑∀::::
冥獄の亡者が絡める果てなき腕。
溶け込む背景もまた常闇。
从;:'' '
そして呑まれていく。
これまでも、これからも。
彼女の身体がすべて喰い尽くされると、この空間は真に静寂をもたらす。
呼吸音も、心音も、光さえ誰にも届かない。
――まさしく【無】。
-
彼女が居なくなっても…観測を続けるかのように闇は続く。
意識だけは何処かにあるものの、しかし彼女が何かを視ることは叶わない。
…そうして幾ばくの刻を経て、やがては前ぶれなく、宙に色が生まれる。
はじめは黒く。
白を混ぜて灰色がかり、同時に碧と紅に脈打つ線が走り出した。
-
血を通わせ――、
神経を通わせ――…
それすら見えなくなる頃、宙に浮かぶのは橙色の、歪な様相を醸す珠だった。
ブヨブヨと弾力性を伴うせいかまともに円すら描けずもがく様が、
グロテスクな剥き出しの心臓を思わせる。
ドクン....
ドクン …
ド ク ン・・・
鼓動は徐々に大きくなっていく。
人のいない真っ暗闇に唯一、息づく太陽が主張を開始した。
-
膨張した太陽は人の大きさほどになると、大樹に実る果実となる。
吊るされた提灯のように、その内部に明かりを灯した。
……更なる静寂の後、
ベリベリベリ…ッ!
(=⊂从; ゚∀从⊃=) 「――暑っいんだよ!」
熟れた果実が反転して人の形を成した。
途端、彼女は薄殻を乱暴に破り捨て現れる。
从 ゚∀从ゞ 「…ぁー、くそ」
ベタベタとまとわりつく保護液は放っておけばすぐに渇くことは知っている。
…そもそも、拭き取るものすらここにはない。
一糸纏わぬ姿で軽く足踏みすると、
髪をバサリと振りあげ後頭部を掻きむしった。
そして二、三の咳払い。
-
从∀゚ 从 「ショボンはもう戻ったか」
从 ゚∀从 「そしてまた誰も居ない…ね」
寂しげにひとり呟き、歩き出す。
先ほどまでは見えなかった紫色のモヤが前方に陰ったかと思えば、
あっという間に眼前立ちはだかる自分自身。
――どこか歪な写し身。
彼女はそれを[かがみ]と呼んでいる。
兄者、弟者、ロマネスクは
ショボンと共に解放されたのか姿を見ない。
代わりに映るのは。
スレンダーではあるがどこか不健康で、女性らしさを失ってしまった骨と皮の構成体。
あえて直視せぬまま[かがみ]に手をかざし、意識を集中させる。
从 -∀从
从 ゚∀从 「……たまにはこんなのもいいか」
手を離し、顔を下げた。
[かがみ]に照らす景色は変化している。
-
白基調のタートルネックに露出した肩。
二の腕を残し、指先まで覆うレッグウォーマー。
膝下まで垂れ下がる絹の法衣は、白と灰の緩やかすぎるコントラストを描く。
スリットがはいっているが、ロングブーツとの狭間に揺れる素肌をチラつかせる風はない。
从 ゚∀从 「へへっ」
…彼女の髪の色と相まり、よく映えた。
装飾は肢体を彩り艶やかにしてくれる。
貧相さを覆い隠してくれる。
片足を軸にくるりと廻ってみた。
布きれが生む動きは少ないものの、
彼女のためにデザインされた法衣は何者にも侵されぬ神聖さを醸し出している気がした。
-
从 ゚∀从 「…懐かしいな、これも」
[かがみ]で具現した衣類…それは遠い過去、譲り受けたものだ。
少なからず辛いこともあったが、嬉しいことのほうが多かった日々を思い出す。
从 ゚∀从 「結局…三人並んでは着られなかったしな」
人は永遠を憶えることはできない。
かつて所持した品々は、そんな頼りない脳細胞の代わりに当時の記憶を受け継いでくれる。
彼女――ハインリッヒは、[かがみ]の前でもう一度くるりと舞った。
続いて右へ、左へ…時に弾みながら、リズミカルに小さくゆったりと。
まるで玩具を買い与えられた女の子が、全身で喜びを表現するかのように。
タン…
タン…
タタン…
从 ^∀从
心のなかで鳴り響く足音はとても愉しげに聴こえた。
闇に浮かぶ、満面の笑み。
止める者は誰もいない。
真っ暗闇に、一人きりの舞踏演。
それで良い。
ハインにとって、それは人生で一番輝いた感情。
きたる日が来ず、あのままであったなら…。
二度と表に出すことを赦されていなかったのかもしれないのだから。
-
( ^ω^)千年の夢のようです
いつか帰る場所で
-
----------
誰しも物心のつく遥か昔から――。
外の世界は蒼と灰闇によって、天地が延々と支配されていた。
土も、木も、湖も、岩も、雪も、砂もない。
一面の大海……ただそれだけ。
人類はそれが当然であると受け入れていた。
いつから始まったものなのか、当の人々ですら誰も知る由はない。
翼もつ存在はとうに絶え、大海原を住み処とする存在もすでにいない。
唯一…海洋の最果てにそびえる巨大な塔、グランドスタッフだけが
この世界に生ける者の闊歩できる唯一の箱庭だった。
-
「もう用意は出来たのか?」
辛うじて聞き取れるほどのくぐもった声が、明るい密室に木霊する。
対照的に薄暗い死の外界を窓越しに眺めながら、小太りな男は振り向かずにそう言った。
背後には頭を垂れる痩せこけた女が立っている。
両者ともに制服であろう外套に全身を隠し、フードを目深く被っているため
その表情を互いにうかがい知ることはできない。
「ぬかりなく」
「よろしい。 あとは六人次第か」
返答して…女には聞こえないよう、ため息をついた。
原因は彼自身にもわかっている。
「あとどれくらいの猶予があると?」
「約3日後に沈むとの観測が評議会指令本部から」
「平時すら悲観的なことに敏感な奴等だ。
何度もシミュレートした結果だろうから間違いはあるまい」
「こちらの準備も迅速に、との通達を共に」
「俺たちにそれを言う時点で、連中は本質が理解できているのかを問い詰めたいところだな」
-
太った男は宙に向けて言葉を吐き出す。
本来向けるべき相手…評議会員はこのグランドスタッフ地下で飽きもせず、
地核振動演算に精を出していることだろう。
働いている分には文句などないが、
今更わかりきった世界の行く末と、行き着く末の向こう側……。
それをわざわざ狂った人形のように、
繰り返し明らかにする人種を二人は最後まで好きになれないままだ。
「互いに息子がいる。
親ならばせめて立場を放り出してでも傍に居てやりたいのだろうな」
「そうですね、そうなります」
「保ちそうか?」
「わかりません。
ですが彼の人生ですから。
彼自身に満足いくピリオドを選んでもらうつもりです」
「そうか」
「西川さん、報告は以上ですが何か折り返しますか?」
「不要だ、戻ろう。
我々に出来ることも、三日後までは何もない」
不自然なほどに抑揚の無い会話を終え…二人はひとつしかない扉を後にした。
空調の効いた室内はしかし静かで、足音だけが彼らの在りかが遠ざかることを教えてくれる。
-
----------
その日、外は大嵐だった。
だが報せの音は箱庭の誰にも響かない。
窓もなく、目を惹く色も形もなく、ただ広大…。
無限を思わせる無機質な白のエントランスの一角で、
人目を気にもとめない荒い声が反響する。
(;^ω^)「どういうことだお?!
そんなこと、昨日までは一言も……」
「当然だ、本日付けの決定事項であり当人らも既に輸送した」
(;^ω^)つ 「一週間後には結婚式だお!
伊出に逢わせてくれお!!!」
「本日の許可は降りない」
荒声の主はがっしりとした、恵まれた体躯を目立たせる青年だった。
奥に鎮座する大扉。
その門番を務める相手の胸ぐらを掴むほどに興奮し、くってかかっていたところだ。
誰もが通り過ぎ、横目に見ることもない。
門番も、自身への暴力的行為についてなにも言及しない。
ただただプログラムのように最後の言葉を繰り返した。
「許可が降りない以上、通すことはできない」
でき損ないのオートマトンが台本を棒読むような無気力さだった。
-
「その手を離しなさい」
(^ω^;) 「西川…」
青年に向けて新たに吐かれた言葉は、門番のものではない。
くぐもった声…先程まで職務室にいた小太りの男だった。
「内藤の声は大きすぎる、あちらのほうまで聴こえていたぞ。
彼も仕事で言っているだけだ。
判ったらその手をおろしておくように」
そう咎める助け船にも、門番は表情を変えない。
ただ無表情に乱された外套の襟元を正し、数分前と同じように己が職務に戻ってこう言った。
「西川にはすでに通達が届いているはずだな?
説明はそちらでおこなっておいてくれ」
( ^ω^)「…あんたがこんな時間に出歩くなんて珍しいお」
「息子との時間を作りたくてな」
( ^ω^)「僕との?」
内藤は耳を疑った――。
血の繋がりはあれど情はなく、縁も果てなく薄い…。
間もなく二十を数える人生ではじめて聴く台詞を受けた。
それほどの父、西川との関係性。
-
だがそれ自体は珍しい光景ではない。
家族をもつ誰もが、同じように希薄な繋がりで生きている。
希薄…そう感じる事こそマイノリティといえる。
違和感を覚えるのは、グランドスタッフにおいて極一部の者だけだ。
( ^ω^)「いったん家に戻るお。
知ってること…詳しく教えてくれお」
頷き、父は息子の肩を抱き連れ歩きだす。
息子は父の温度を感じながら歩きだす。
そこに気恥ずかしさを持つのも、
いまこの場では、やはり内藤ただ一人の胸中にしか生まれない感情だった。
-
薬剤の包装アルミ箔にも似た、
おなじ間隔おなじ扉がずらりと並ぶ住居エリア。
( ^ω^)「評議会でなにが起きたんだお」
――010号室。
カーペットの敷かれた部屋には、
内藤が木材でこしらえた背の低い椅子が乱雑に置かれている。
「三女神の一人となるべく、井出はいま最上層にいる」
( ^ω^)「めがみ?」
しかしお互いそこには座らず、床から延びた円柱を椅子がわりにした。
西川が選ぶのはいつもそちらだ。
内藤の造った椅子に腰を下ろす場面を見たことがない。
日常の光景。
内藤の舌打ちが虚しく空に舞うが、
それを気にする様子は父親から見られなかった。
-
「なにか可笑しいか?」
( ^ω^)「なにか、って……」
女神――いにしえの比喩表現において表れた、実在なき偶像の概念。
創られては地母や鬼母のような両極面をもち、感情の象徴として捉えても差し支えない。
それを目の前の男が発する異物感が大きい。
「私も生まれる遥か以前のロストワードだからな、無理もない」
( ^ω^)「…回りくどいお…その女神が、井出とどう関係して――」
「あの針が6度回る頃にこのグランドスタッフは沈み、硬く暗い海でみな死ぬこととなった」
( ゚ω゚)「 は?」
-
「お前にもやってもらうことがあるのだ。
次に呼ばれる時は井出とも逢えるだろうが、それが見納めだと思ってくれ」
( ゚ω゚)
「せめてお前の結婚式は見てみたかったが」
( ゚ω゚)
人類の歴史は間もなく終着点に到達する。
緩やかに…しかし加速度的に、
幾星霜の果てで世界は死に辿るのだ。
( ゚ω゚) 「……それ、どういう意味だお」
――確定済みのロストオデッセイ。
(消えゆく人類の遍歴)
-
世界には。
物質を物質足らしめるための二大要素がある。
【魔導力】は想像と魂を生み出し、
【重力】は命をはじめとする総ての存在を具現した。
どちらも欠けてはならない。
重力がなければ、生まれるはずの命も魂と成るまえに散る。
魔導力がなければ、何一つ創造されない【無】の世界となる。
バランスを保って過ごしていたはずの永き史上に飽いた摂理の結果か…。
そもそもが平等性を欠いた別離の繰り返しか…。
いつしか暴走を始めた魔導力によって、天地は人の手を離れ、
重力は彼方に消えようとしている。
何年前…何十年前…
それとも何百年、何千年と…。
星はもはや、ひたすらに生の息吹をぐしゃぐしゃにかき回し、
虚しく命の粒子を巻き散らかすだけの遊戯処刑場と相違無い。
それでも…定まることを知らぬすべての生命。
感情が失されながらも、
辛うじてその名残をもつ人間が存在した。
(; ω ) 「いや、それよりも彼女は…ツンはどうなってしまうんだお?!」
「どうにかなってしまうのは我々のほうだ。
私も、お前も」
(; ω ) 「…」
「伊出は生き残るために礎となる。
人が、人であるうちにな」
-
----------
从 ゚∀从
_
ξ゚⊿゚)ξ
川 ゚ -゚) 「私達は…これからどうなるんだ?」
「どうにかなってしまうのは我々だ。
高岡、伊出、素直。
君たち以外は針が6度回る頃にグランドスタッフと共に沈み、魔導力の藻屑となる」
――時、同じくして。
グランドスタッフ最上層に位置する赤い空間…。
やはり全身に外套を被る評議会員の元、終末を通達される三人の女性がいた。
「君たちは尖兵であり、さもなくば最後の人間だ」
ξ゚⊿゚)ξ 「…なぜ、私たちなのですか?」
天井というものはそこに有って無いような場所だった。
内部での視界は不思議とクリアだが、
半透明に映る外を悠長に眺めるには、外壁をなすクリムゾンカラーのベールが邪魔をする。
吹きすさぶ大嵐がノイズとなって更に不透明さを増した。
ここに立つ限り、世界は紫と濁赤に染まり、世の終わりの増殖を連想させる。
-
名前通り、グランドスタッフは杖の形状をしている。
天空から見下ろせばスケールに従い、先端には巨大な紅きオーブが嵌め込まれていた。
そんな球体内部からはじめて見る景色。
素直はほんの少しだけ目を細め、
伊出は大きく眉をひそめ、
高岡は微動だにしない。
「感情値の高い者と想像値の豊かな者、そして性別が雌の君たちが選出された。
もっとも可能性が高いために」
从 ゚∀从
川 ゚ -゚) 「中身の説明はいただけるのか?
いや、それとも拒否権の有無は」
「拒否はすなわち人類への反逆を表すことになる。
しかしそれを罰することは評議会でも決定していない」
ξ゚⊿゚)ξ 「…」
「説明に入る」
从 ゚∀从
-
海に沈殿する魔導力の暴走により、ことごとく触れた物質が海面に熔けてゆく。
例外はない。
魔導力は人のみならず、星への猛毒としてすべてを滅ぼしにかかっていた。
かつてのグランドスタッフならば天を貫くほどの高さを誇るも、
今では最下層が浸かり、その根元すら維持できていない状態だ。
事ここに到り、評議会は科学技術による回避手段が尽きてしまい、
ついにははち切れんばかりの魔導力を、反対に利用することに活路を見いだした。
「有を減退させることは出来たとしても、
無になったものを再び呼び起こすことは出来ない」
それが発足したばかりの評議会が出した結論。
重力はもう戻らない。
もはや魔導力を抑え込んでも人類の末路は変わりない。
評議会は移住を決めた。
"別の星" ではなく、"別の世界" へ。
それは魔導力を結晶化し、概念に乗せ、新しい世界へと人類を移す方舟計画。
「そのためには我々では話にならないのだ。
感情をもつ者が想像し、はじめて創造できる」
_
ξ゚⊿゚)ξ
「世界を……?」 从∀゚ 从
川 ゚ -゚)
-
グランドスタッフに生き残る評議会員、あるいは他の外套姿の者達に
感情というものは大概残っていない。
空っぽだ。
泣くことも…笑うことも…
怒ることも、悲しむこともない。
現代人類には表現できなくなった、"心" 。
たとえ言葉を駆使し、喜怒哀楽というものを伝えられたとしても、
果たして真意まで解らない。
たとえば訝しげに顔を歪める井出の表情は、他人にしてみれば理解しがたい反応に映る。
「グランドスタッフにおいて感情をもつと評される6名のうち、雌三名。
君たちには古来伝わった運命の女神たる称号を与える。
私には無意味でも、言霊は君たちの力になるのだろう」
彼女たちの反応は気にすることなく、外套の男は三者三様の衣装を差し出した。
特注品の儀式衣裳。
いまや珍しい、色彩とデザインを伴う、実用外に見出だされる感情の賜物。
受領者の意思などお構い無しに手渡した。
評議会が導きだしたキーワードと共に、未来は彼女たちに握られる。
-
現――。
川 ゚ -゚)
「素直、君は表面上を我々にいくら真似ていようと
心中穏やかではいられない生き物らしい。
それは太古の空模様と同じだという」
「空、そら、から、くう…。
三日後までに好きなものを選び抱いておけ。
」
渡された絹の法衣…
カラーは覚めるような青。
-
未来――。
ξ゚⊿゚)ξ
「伊出、君の名は創造にとても都合が良いとのデータがある。
原初たるアルファ(a)を抱け、未来を育む者…イデアよ」
渡された絹の法衣…
カラーは赤と黒のツートン。
-
過去――。
从 ゚∀从
「高岡、君は」
差し出される法衣…
白地に灰色ラインの紋章。
从 ゚∀从
「その前に。
選出のためのデータ誤りを私は疑っている。
なぜ君なのか、評議会の誰もが理解できなかった」
从 ゚∀从
『呼びつけておいて何を……』
そう素直と伊出が、怪訝な表情を向ける先に立つ高岡の顔は動かない。
しかし議会の評価はもっともだった。
高岡は常に笑顔を絶やさぬ代わり、変化に乏しい。
周囲はそんな彼女を "能面" と呼ぶ。
張り付いた笑みが、文献に載る舞踊に用いられたというマスクに酷似していた。
地位高い評議員の前でも決して媚びず、
誰かの提案に否定したことも、命令には質問を返したこともない。
能面を除けば、高岡もまた普遍的な人間に数えられた。
从 ゚∀从
-
「我々にとってこれが最後の任務となる。
成功してもそこから先は君たちにしか認識できない。
もともと亡ぶ運命にある人類の足掻きだ」
从 ゚∀从 「わかります」
「なぜ君が選ばれたのだろうか、本人ならば答えもでるのではないか」
从 ゚∀从 「答える材料がありません」
「運動能力、知能、神経率のいずれも君の水準は高い。
認めよう。
しかし今回に最も必要なものは "感情" だ。
君には本当にそれがあるのか?」
从 ゚∀从 「データに出たのであればそれは相違なく」
「それが信じがたい。
ならばどうしてそれが外面に表れないのだろうな。
それとも以前に比べて減少傾向にあるのか」
从 ゚∀从
从 ゚∀从 「それは―― 」
-
-
高岡の夢は
もうこの世界では叶わない
-
----------
―― 十数年前。
静寂に混ざってけらけらとあがる、幼い笑い声。
从 ´∀从 (´- ` 川
ξ´⊿`)ξ(^ω^*)
(`・ω・)
('A` )
葵色モザイクの空間…育児院。
天井と壁に名残ある彩りは、かつての空と大地を模していたのだろう。
幼児たちの感情と想像の具現を受容していた壁画だ。
羊皮紙代わりの記録群。
それも年月を重ねるたび、記憶のようにかすれていくこともまた摂理。
-
人類の記録が語る。
『おめでとう! 無事産まれたよ』
無事、出産を告げる声。
いくつもの母胎がひとまずの役目を終えて安堵するであろう。
それはいつの時代も変わらない。
『可愛いね、元気な子だね』
連れ歩けば届く声。
何人もの父像が未来を夢見て奮起するはずの。
何時なんときも変わらない…?
( ∵) 『高岡、おいで』
『ハイ、せんせー』从∀` 从
――そして、過ぎ去りし夢。
変わらないでいてほしいのは、今を生きる者にとって共通の願い。
しかし、過去と未来はそれを保障しなかった。
安心を生むはずの感情は、やがて変質していくことになる。
嫉妬や怠惰という天秤にかけられる労い。
失った感情がコピーにコピーを重ね、様式美すらも一寸先は形骸。
傾いた感情は徐々に淘汰されてしまった。
-
この世にはもう、幹も枝もない。
だから巻き取る蔓も居られない。
涙ほどの新樹の種が
ぽつり、
ぽつり、
蒔かれても、迎え入れるには心モノクロな箱庭。
新生児専用の容器…並ぶ空白。
それが表すは絶対的人口数と、未来好奇心の減少だ。
ゆくゆくは魔導力の海に沈んでしまった育児院にも、玩具と呼べるものはなにもなかった。
イメージを投影する積み木も、
法則を超越するトランポリンも、
音を歌にするハーモニカも。
( ∵) 『見よう見まねだけどね。
私からのプレゼントだ』
『センセー!
なぁに、これ??』 从∀` 从
博物な文献に遺されるのみ。
『そっか!
こうやって遊ぶんだ』从∀` 从
( ∵) 『そうか。
そうやって遊ぶものだったのか』
-
比ぶれば、両手から零れるほどに新たな生命が生まれていた時代…。
人が願望を叶え、理想を現実にする都度、その心は空っぽになってしまった。
空虚な大人たちは、わずかに守った自己の投影を我が子に託す。
怪我をさせない…不慮の事故に備えたい…。
言う通り生きなさい…心配させないで過ごしなさい…。
『子供たちのため』
『子供たちのため』
『子供たちのため』
呪いを勝手に背負わせてきた、そんな幾多ものエゴイストたちすらもう居ない。
創造物を奪い続け、去りゆくものを遺すことすら許せない化け物は
後の魔導力によって暴走した感情の末路…そのパラドクスだったのだろう。
( ∵) 『高岡が一番よく笑うからな』
『わらうとだめ??』从∀` 从
もはやグランドスタッフにいるのは、感情を失った人類の成れの果てだ。
( ∵) 『いいや、そのままで生きてほしいと私は思った。
だがいつか評議会に強く目をつけられてしまう』
( ∵) 『だから――』
育児院に預け、いずれは手がかからなくなるほど、
人はますます我が子と逢う頻度を減らしていく。
生死の確認だけが、親たちが顔を出す基準。
『感情がないのだから仕方ない』
『心配する情などないのだからやむを得ない』
それが現代人類の持ちうる免罪符。
白紙同然の証明書。
その溝を埋めるように……
感情を持つ僅かな子供たちは自然と集い、
同じ仲間と過ごす時間を一層大切にした。
-
从 ´∀从 『はい、ツンのまけ〜♪』
ξ´⊿`)ξ 『だからイヤだって言ったのにー』
川 ´ -`) 『…ふたりとも、なにやってるの?』
ξ´⊿`)ξ 『クーだー。
あのねー、かくれんぼー』
从 ´∀从 『いつも布団のすきまでねたふりしてるんだもん、わかるよ♪』
ξ´⊿`)ξ 『目をとじてるのにどうして見えるの?』
川 ´ -`) 『…だれが? …だれを?』
ξ´⊿`)ξ 『あたしのこと。 ハインが』
从 ´∀从 『わたしとじてないよ! だからみえるよ』
ξ´⊿`)ξ 『おかしーなー??』
川 ´ -`) 『…みえるよ、目をとじてるのはツンだけだもん。
…たまにへんなこというよね』
从 ´∀从 『へんなこという、いう!』
ξ´⊿`)ξ 『ブーン、ふたりがバカにしてくるよー』
(*^ω^) 『おっおっみんな仲良くしようお!
ねえドクオ、シャキン?』
(`・ω・) 『仲良くなんて…』
『…ブーンが代わりに
やりかえせば?』"('A` )
ケホッ ケホッ
-
必要最低限にしか口を開かない同級生と比べ、
なんにでも笑い合える彼女たちは、かけがえのない友だった。
暗号を決め、秘密基地を作り、食事の時間になるまで遊戯に興じた。
人に無意味と断された "渾名" という文化すら独自に作り上げた。
…はじめこそ気付けなかった違和感。
他の誰と話したところで、返ってくるのはイエス・ノーの二者択一。
誰の家族も皆が皆、それが当然だったのだから致し方ない。
このグランドスタッフにおいて、
彼女たちこそが異質であることを知ったのは、六人が成長を経てごく最近のことだ。
从 ´∀从 『わたなべー、わたなべー!』
从 ´∀从つ◇ 『ねぇみてみて! 今日もテストで100点だよ!』
从 ´∀从つ◇ 『井出ちゃんと素直ちゃんよりも!
内藤っちよりも点数良かったんだよ!』
『100点はすごいことねぇ、一度できたのだから次回もできるはず。
何より他者より優れていて不利なことはないわよ〜』
『あぁでも声のボリュームが大きいかな。
もう少し下げなさい、人間の聴力も許容量は有限なのだから』
从 ´∀从つ◇
从 ´∀从
从 ∀从 『……うん』
-
小さな枯れ井戸も、
大きな海の枯渇へと続く路となる。
突然変異などではない。
高岡の味わった家族愛の先天的喪失など、ほんの一部でしかない。
共存社会においても、
競争社会においても。
弱者への口先だけの庇護と、
強者に向けた反逆においても。
喜びも、寂しさもぜんぶ。
自らの意志で、長く永い時間をかけて、
人は他人への無感情を呼び込み続けた。
『魔導力値が上昇している』
『例がない。 誰だ?
何かが共鳴しているとでも』
『吸いこんでいるのか、
それともこれは――』
記録に頼り、データをなによりも最重要視する世界。
感情を司るはずの原子たる【魔導力】は、もはや人と依存し合うことが無くなった。
…酸素と同じく、人に必要とされるはずの粒子はとうに破棄されていたのだ。
それは過剰な毒となって
人類へと襲い掛かる。
-
( ∵) 『高岡、何歳になった?』
『17歳だよ、名瀬せんせー』 从 ∀゚ 从
( ∵) 『結婚相手はもうアーカイブに記されたのか?』
『…ねえ、アタシは好きでもない人と
結婚しなくちゃいけないのかな』从∀゚从
( ∵) 『…』
( ∵) 『だれか "好き" な人がいるのか?』
从∀゚ 从
『……あれっ?』从∀゚ 从
-
数百年、数千年と。
大地震や巨大竜巻、はたまた病原ウィルスの超蔓延……。
人がおおよそ体験してきた天災の歴史は数えれば果てがない。
しかし言い換えればそのたびに克服し、免れてきた勝利者の歴史でもある。
人の生命と共に曖昧なる記憶が消えたとしても、記録はカタチとなって残る。
客観性をもつ事実は文字となり、脳裏に刻まれやすい。
ひとつ…またひとつと積み重ね構築されたそんな歴史。
アーカイブが人々の信頼に足るのも、致し方ないのかもしれない。
…しかし、これでもう最後だ。
供給過多の魔導力が大気を支配した時、星の中心に大きな穴が開いた。
【重力】と【魔導力】が流れ込み、
置き去りの世界からは多くの魂…感情が、光の粒子となって空と大地に散る。
『現在、建設中のグランドスタッフ。
これなら穴を塞げるかもしれん』
高岡の先祖たちはそう提案した。
致命的傷痕をたんなる物理的な穴としか認知できず、
だからこそ物理的な解決方法しか思い付かなかったのだろう。
当時すでに失いかけていたのかもしれない。
移入できなかったのだ…
星が嘆く感情に。
安易な記録が、訴えるべき情を持ち得ないことを誰もが見過ごしていた。
-
眠っていた大穴――深淵に潜む[かがみ]の存在。
その本質を人類が認識したのは百数年後。
世の万人が取り戻せなくなった感情に
世の番人が改めて縋ったのは、
さらにその数十年後のことだった……。
----------
-
------------
〜now roading〜
从 ゚∀从
HP / D
strength / E
vitality / E
agility / C
MP / B
magic power / B
magic speed / B
magic registence / C
------------
-
----------
「具合はどう?」
('A`) 「良くならないからここにいるんだろうが」
グランドスタッフには、人が必要とする設備のすべてが詰め込んである。
外套姿の女性――西川と別れてから、直接向かった先の病室に現れた彼女。
その目線は痩せこけた頬に目の下のくまが目立つ、実の息子に注がれていた。
('A`) 「今さらなにか用か?」
周りには誰もいない。
二人だけの空間…ベッドに沈む鬱田の口調は冷たい。
だらりと垂らした両腕。
力が入っていないことが見てとれる。
更にいうなれば彼の両脚も、幼少の頃から動くことがなかった。
いくら感情を抑えても、内包する感情は漏れ伝わりそうな吐き捨てる言葉。
…そんな親子関係も時代によって確かにあったのだろうが。
「三日後に世界は終わるんですって」
('A`)
('A` ) 「ああ、そう…」
病室に窓はない…それでもまるで外の景色を眺めるような素振りを鬱田はした。
つるりと白い壁一面。
治療を名目とし、自死防止のための措置として
娯楽性を廃して機能美のみを求めた部屋。
-
壁の向こう側を席巻しているはずの大嵐と同様に、彼の機嫌を感じられる者はここに居ない。
項垂れた彼が一度大きく咳き込むと、
シーツの上にべたべたと少量の血が飛び散った。
混じりけのない鮮血が、内臓から涌き出たことを暗に示す。
( A ) ハァ… ハァ…
「大丈夫?」
( A`) フゥー…
( 'A`) 「うわべの言葉はいらねえよ」
心配を口にする母親ではあるが、それもまた先人に学んだ結果に過ぎなかった。
こういうとき、親はこうするものだ…そんな習性を反復しているだけ。
息子もそれを見破っている。
「生徒たちはお見舞いに来てくれてる?」
('A`) 「アンタの用件をまず言えよ、なにかあるんだろ?」
「素直、井出、高岡の三人。
彼女たちを[かがみ]にぶつける【魔導力】の塊にして、
別の世界に移住してもらうわ」
切り返される会話が異なろうと、母親は言い淀まなかった。
感情を失くした者はそういった躊躇がない。
-
('A`) 「別の、世界だあ?」
「それだけじゃない。
これは秘密事項だけれど、貴方に隠し事はできないから言うわね。
貴方と内藤を含めた感情値の高い三人は――」
続く言葉を訊き終えた頃、彼の身体は悲鳴をあげた。
苦痛のなか、鬱田の瞳に映るのは
無表情にこちらを見やり、コールスイッチを押しながら状況を伝える母の姿。
「ヒーラー、病号666にてクランケの容態悪化。
喀血量の増大が見られるため迅速に」
がフッ―― ('A`)、'、
「血量さらに増加」
( A`)
「ひ… ひひひっ」( ∀`)
――こんなことなら早く死ねばよかった。
感情をもつ鬱田は母親に聞こえないよう呟き、意識が果てた。
生まれつき病いに冒され、
苦しめられ、
三日後に世界に殺される運命を背負う彼は、より明確な死を宣告されたことになる。
-
…次に意識を取り戻したのは、針が一回転半した頃。
('A`)
誰もいない病室――のはずが、
彼を取り囲むように子供たちが立っていた。
「起きた?」
('A`)
「目が覚めたみたい」
「おはよう、せんせー」
まるで砂漠で見付けた蜃気楼のようだった。
嬉しさや驚きのない、事実をなぞるだけの淡々とした響き。
子供の声からやはり感情というものは感じられない。
彼らもまた鬱田の母親…そして評議会の者と同じ顔をしている。
('A`)
なのにどうして…
彼の目尻は僅かに下がっていた。
-
('A`) 「なぜ、ここにきた?」
鬱田は問う。
「せんせーにお礼を伝えるためです」
と、子供たちは答える。
('A`) 「そうか…」
('A`) 「もう少しだけ教えてやれることもあったがな。
誰かから聞いたのか、明後日のことを?」
鬱田は幼少から病いに伏しながらも、
勉学に励み、手作りの教壇に立ち、
車椅子から降りることなく職務を全うする教師だった。
表向きは生徒の知識量向上。
その裏、主体性を育まんと、自らの想う感情のなりたちを教示した。
『有を減退させることは出来たとしても、
無になったものを再び呼び起こすことは出来ない』
評議会…いや、この世界において通説となる言葉。
昔から幾度となく聞かされたものだが、鬱田はそれに強く反発して生きてきた。
('A`) 「率直に訊く。
お前らはどうやら二日後に死ぬ、そして俺もな」
('A`) 「それについてどう思うか、答えてみせろ」
-
子供たちはさほどの反応を示さない。
…だがしかし数人。
窺うように隣の者と目を合わせた生徒が居たのを、鬱田は見逃さない。
('A`) 「理解出来はしても、言葉にできる奴はいないか?」
「いま僕たちにうかんだ言葉は、きっとせんせーの望むものではないとおもうんです」
('A`) 「…そうか、それならいい」
拒絶じみた反論。
なのに鬱田は満足げに頷き、生徒を並ばせると
各自の頭に ぽん…ぽん… と、手を置いた。
('A`) 「たった数年の付き合いだったが…楽しめた」
('A`) 「じゃあな」
-
結局、退出し終わった子供たちはなにも答えなかった。
二、三人振り返ったのを鬱田はただ見届けた。
迷ったのだろう…だが、鬱田にとってはそれこそが望んだ答え。
――迷い、戸惑い、躊躇する。
まさに感情が為せる沈黙に他ならない。
( 'A) ( …他人の気持ちを理解すべきだなんて思っちゃいない。
くそくらえだ。
どうせ心があろうとなかろうと、真に解り合える人間なんていやしねえ )
…世界が終わらなければ。
後天的に感情を取り戻した子供たちが
次世代を繋いだかもしれない未来を思い、鬱田はほくそ笑む。
だがそれは決して子供のためでなく、
人類と世界構造への挑戦ともいえた自身の人生に対する自嘲に過ぎない。
( 'A) ( 俺が教師になったのも、
可能性すら決め付ける俺以外の人間が許せなかっただけ…。
奴らは俺のエゴに付き合わされただけ… )
横たわる以外の時間を指導に費やし、
感情の伝達――その達成率は低くとも、不可能と云われたことを可能にしたのだと。
ささやかながら自負し、何も遺らない未来に唾を吐いた。
そして酸素と魔導力漂うベッドの上で一人、入り口に背を向けて眠りにつく。
次に目覚めた時は…世界最後の日であればなお良い。
――そんな達観の境地を邪魔する者ありて。
( 'A) 「…」
( 'A) 「おめーかよ」
-
彡
彡
( ^ω^) ( 'A)
彡
-
風が吹く。
窓もない袋小路の一室に。
その来訪に、鬱田は背中越しでも正体が判る。
( 'A) 「ブーンか」
( ^ω^)「…ドクオはもう聞いたかお、例の話」
顔も向けない鬱田の様子は、内藤にとっていつも通りだ。
ベッド脇に寄り、座りもせず視線を下ろす。
( 'A) 「おめーはなんて聞いてる?」
( ^ω^)「西川からは、
三人が[かがみ]に突入する際の "つがい" だって…」
( ^ω^)「ドクオは?」
( 'A) 「"壁" だってよ」
鬱田が「ひひひ」と嘲笑った。
共に両親は評議会メンバーであり、重要事項は洩らすところなく伝達される。
-
"つがい" と "壁" ――。
内実の意味は同じであっても、言い方に差異が生じていることもまた感情の証。
鬱田は嘲笑いが止まなかった。
…それは内藤の父親に対して向けられてはいない。
西川には極々僅かながら感情があるのではないかと、母親から聞いたことがある。
評議会の言葉を、より正しく伝達したであろう己の母とは違う。
…だから嘲笑う。
( ^ω^)「ドクオはやるのかお?」
( 'A) 「そもそも選択肢なんてねえだろ」
( ^ω^)「でももし、グランドスタッフが沈まなかったら――」
( 'A) 「ふざけんな、俺にはその可能性すらすがれねえ。
おめーはそれで良かろうがよ」
( ^ω^)「…ドクオ…」
-
他の者に比べ、鬱田には絶対的な時間がない。
彼の死は約束されたもので、たまたま今に至り生き延びているだけの偶然。
血を流すたび臓物は抉れ、体力を削られる。
内藤もそれを知らぬわけではなかった。
ただ…友が自分より先に死ぬことは信じられないのだ。
幻想に縋りたいだけだ。
( ^ω^)「せめて最後まで一緒にいたいお」
とはいえ評議会の計算ミス、地殻変動の気紛れ……。
はたまたその他、いかなる理由によってグランドスタッフが生き残ろうとも
その直後に病いが生命を喰い尽くすならば、
鬱田にとってはやはり世界が終わるに同じこと。
( 'A) 「…井出のところにはもう行ったのか?」
-
内藤の慰めには応えず、恐らくの本題を問うた。
( ω )「…」
( 'A) 「…けっ、相変わらず優柔不断なヤローだ」
沈黙――…感情の表れ。
( ω )「どんな顔でツンに…最後になんて言えばいいのか判らないんだお」
迷い――…感情の表れ。
( 'A) 「だったら尚更…こんなところに来るんじゃねえよ、クソったれが」
( 'A`) 「おめーのやりてーことをやる。
…それの何が難しい?
誰に遠慮して、何を恐がるって――ゲホッ んだ」
('A`) 「死ぬことよりも、ツンに会うことが恐いか?
だったら生まれた時期を間違えたな、早く死ね、ボケ」
( ω )
向き直した先、内藤が大きく項垂れている。
『あまりにも女々しい』と鬱田は胸中で毒づいた。
('A`) 「……チッ」
彼はそんな内藤が好きではない。
…枕元に隠し持つタバコに火をつけ、煽るように煙を吹き掛ける。
そして――
('A`)y-~ 「なぜ、ここに来た?」
生徒たちと同じ言葉をぶつけた。
-
( ω )
( ^ω^)「…」
( ^ω^)「友達に会いに来たらダメなのかお?」
('A`)y-~ 「…… わかってんじゃねえか」
鬱田はまた舌打ちしてしまう。
しかし風を扇ぎ、煙を払いのける内藤の答えは明るかった。
上げたその表情からは一種の爽やかさすら感じさせる。
ε_ ('A`)y-~
( ^ω^)「……そうだおね。
行ってくるお、ツンのところにも」
( ^ω^)「最後でも、そうじゃなくても…
会わなきゃなにも始まらないんだおね」
('A`) 「…」
――嫌いだった。
内藤の愚直さも。
どんなに悪態をつこうと、決して友を拒絶しない情の持ちようも。
愚痴り、迷いはしても帰る場所をもつ、心ひとすじなところも。
僅かでも感情をもつ者が親であったことも。
自分には叶えられないことに手を伸ばせる、その自由さも。
-
二吸いほどしかしていないタバコをもみ消すと、鬱田はゴソゴソと身を下げてしまった。
( 'A) 「もういけよ、時間は足りねえくらいじゃねえか?」
「疲れたから寝かせろよ」
…そう言ったきり、鬱田は眠りに入る。
隠れて小さく何度も咳き込む唇が赤く染まり、
シーツを同色に汚したことを内藤は気付いただろうか…。
( ^ω^)「ありがとうだお、ドクオ」
入室時とはまるで正反対に、跳ねる靴裏。
井出の元へと歩く内藤の足取りは軽かった。
…鬱田の元を離れるその足取りは速かった。
二人のあいだに別れの言葉はない。
内藤は想う。
最後まで鬱田は自分にとっての友でいてくれる、と。
彼は井出との時間と、求めるための勇気のひと押しを与えてくれたのだ。
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鬱田が毎日血を吐き、死の淵を往来していることを知っている。
それを自分たちの前に決して見せまいと振る舞うことも知っている。
だから、走った。
自らもいままで通りの友で居なくてはならない。
井出を優先し、鬱田に甘え、背筋を伸ばす。
(^ω^ )
情を繋いだ存在。
友が最後までこの世界にいることが嬉しくもあり…楽しかった。
( A)
背後に消える鬱田の病室…。
そよいだ風は、もう止んでいる。
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川 ゚ -゚) 「…感情を魔導力としてぶつける、か」
ξ゚⊿゚)ξ 「そもそも[かがみ]を信じていいのかしらね」
从 ゚∀从
三人はトボトボと階段を降りる。
高岡以外の表情は暗い。
先ほど評議会との作戦会議を終えたところだった。
…世界のリミットはあと二日。
グランドスタッフが沈むまでに実行、そして成功しなければ、
人という種はこの星から完全に消える。
川 ゚ -゚) 「どう思う?」
ξ゚⊿゚)ξ 「どうって…」
魔導力渦巻く猛毒の海――その排水口となる、
[かがみ]への突入だけならば、
生死を問いさえしなければ誰にでもできること。
川 ゚ -゚) 「なにを創造すれば良いと思う?
どう想像すれば…私たちや、皆が、生き残ることができるんだろうか」
从 ゚∀从
ξ゚⊿゚)ξ 「…みんなが生き残る」
川 ゚ -゚) 「会議ではその点にまったく触れられなかった。
つまり評議会…しいてはアーカイブにも答えがないということだろう?」
-
三人に課せられた事項は多くない。
ひとつ、――[かがみ]への突入。
ひとつ、――創造。
ひとつ、――移住の達成。
从 ゚∀从
ξ゚⊿゚)ξ 「[かがみ]がどこまでの力を持っていて、どこまで反映できるのかよね」
星の外に目を向けて
『世界はまだまだ広い』と豪語した学者のいた時代は確かにあれど、
達したのは絶望的結論。
観測上、そして現実問題においても
人類は星間移動を成し遂げられていなかった。
川 ゚ -゚) 「それも不安要素のひとつか。
誰かが先に飛び込んで、試してみるか?」
ξ;゚⊿゚)ξ 「…」
川 ゚ -゚) 「……すまない、さすがに不謹慎だった」
すでに大地を飲み込み、グランドスタッフという最後の一口も喰らおうとしている魔海。
飛び込むことはイコール死を意味する。
前例もある。
――星の外も同じ。
例外なく、飛び立つことは死を約束されていた。
-
从 ゚∀从
川 ゚ -゚) 「とはいえ実質あと一日だけが私達に残された時間か。
悔い無く取り組まねばな」
先の素直の言葉は、誰かを犠牲に試そうと言ったわけではない。
問題点とその解決方法について近道を口にしただけ。
「なんなら私が先に飛び込むさ」とフォローしたものの、
首を横に振る友の姿から余計に、ばつの悪さを覚えてしまったようだ。
ξ゚⊿゚)ξ 「ねえ…クー、ハイン」
川 ゚ -゚) 「ん?」
ξ゚⊿゚)ξ 「ブーンに逢ってきても…いい?」
川 ゚ -゚) 「ああ、行ってくるといい。
ハインも構わないだろう?」
从 ゚∀从 「いいよ」
ξ゚⊿゚)ξ 「ありがと、二人とも。
また明日ね」
-
…去り行く姿は背筋を伸ばし、凛としていても、バタバタと急く足取り。
小さな背中と、ウェーブがかるブラウンの巻き髪がゆらり揺れるのを見送った。
――まるで、さよならの挨拶のように。
从 ゚∀从
外見ならば、素直。
振る舞いや言動をみれば、井出。
高岡にとって彼女たちは、それぞれ女性らしさという点において突出している気がした。
同性からみても愛らしさを感じてしまうほどに。
川 ゚ -゚) 「結婚式を前に、とんだ邪魔もあったものだな」
从 ゚∀从 「ああ」
川 ゚ -゚) 「ハインは? 名瀬先生はいいのか」
从 ゚∀从 「!!」
川 ゚ -゚) 「隠さなくてもいいさ、私達をなんだと思ってる」
从 ゚∀从 「それを言うのはクーだけだよ」
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川 ゚ -゚) 「む、そうか」
素直の観察眼…昔から鋭かったのを思い出す。
彼女に嘘や、場凌ぎの言い訳は通用しない。
それゆえに小さい頃は誰とでもよく喧嘩をした。
川 ゚ -゚) 「ドクオの顔でも見てくるよ。
おそらく、あいつが私のパートナーになるはずだから」
そう言って、彼女もその場を後にした。
真っ直ぐな黒髪の先が柳のように左右を泳ぎ、
その姿が消えるまで、ついつい目線を釘付けにされてしまう。
从 ゚∀从
……居残った高岡だけはそのまま立ち尽くし、階段を降りようとはしなかった。
从 ゚∀从
パートナー、つがい、壁……。
人は感情の差によって、同じ意味を違う言葉で表す。
从 ゚∀从
-
時間だけがただ流れていく。
…いまの高岡にはそれも心地良かった。
もう少しで自由になれる気分だった。
手持ち無沙汰に壁に背を預けると、そのまましゃがみこむ。
从 ゚∀从
両膝を抱えて顎をのせ、じっと動かず耳を澄ます。
あの時と同じように…
"能面" の彼女は待っていた。
从 -∀从
「…二人はもう行ったのか」
――その声を。
-
从∀゚ 从 「うん」
/ ∵) 「場所を移ろう。
さすがにここでは他の者も来る」
外套の隙間から覗く瞳は一見して、感情を表さない。
だが高岡はその顔が昔から好きだった。
挨拶もそこそこに寄り添い歩く。
無駄という無駄を省かれた、同じ内観を。
階段… 踊り場… 横に伸びる通路は円を描き、遠く反対側で連結している。
リング状のエリアをひとフロアに数え、延々と階層を連ねているグランドスタッフ。
从 ゚∀从 「評議会はもういいの?」
/ ∵) 「ほとんどの者は残るがね、私は今をもって解放されたよ」
魔導力を悦ばしく定義した、歴史上の象徴的建造物。
……皮肉にも、過剰な魔導力を集めてしまった諸刃。
そんなグランドスタッフに似つかわしくない光景といえば、
元評議会員の外套が女性の指先によって、ささやかに引っ張られていることだろうか。
从 ゚∀从 「…そっか」
/ ∵) 「…これで私も、君たちと一緒だ」
-
高岡、素直、井出。
内藤、鬱田… そして、名瀬。
選択されし[かがみ]の贄たち。
たどり着いた名瀬の部屋は殺風景なものだ。
感情のない者にレイアウトなど必要なかった。
全面は真っ白。
放り投げた書類を受け止めるだけのローテーブルが、ぽつりと備えられているだけ。
他には何もない。
――高岡と出逢う前であれば。
从 ゚∀从 「相変わらずだなー」
/ ∵) 「習慣はそうそう変わらないよ」
从 ゚∀从つ∥ 「お邪魔しまーす」
言うより早く、リビングとキッチンを通った高岡が、奥へと続くカーテンをめくり開けた。
(▼・ェ・)
(^ω^∪)
四方壁を金糸の刺繍で施された、
荘厳たるレリーフ布で囲むプライベートルーム。
ゴシック調の棚の上では彼女たちを出迎えるように、
二体の大きなぬいぐるみが左右に鎮座している。
両極の愛らしさを表す動物をモチーフにした綿人形。
どちらも高岡が造ったものだ。
「ただいま!」
そう言って、彼女が二体の頭をころころ撫でる。
そして止まらぬ歩調で最奥のベッドに倒れ込む一連の様子を、
名瀬はただじっと眺めていた。
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( ∵) 「…」
从 ゚∀从 「ねー、センセーも疲れたっしょ?
こっちで横になろうよ」
( ∵) 「……その前に、君に謝らなければ」
緩慢な動きで脱いだ外套を備え付けのフックにかけるなり、名瀬は深く頭を下げた。
从 ゚∀从 「なんだよー……そんなに改まって」
( ∵) 「昔、君に言ったことを憶えているか?」
当然憶えている。
だからこそ高岡は、友の前でも能面であり続けたのだから。
从∀゚ 从
ザ――ザッ
彼女の網膜に焼き付いた四角いモニタ。
白い枠、映り流れる時の思い出…。
三三三三三三
( ∵三三三
――ザザッ
脳裏からめくり被さるあの頃が、 ザッ
目の前に広がる視界を揺らがせた。
三三三三三三三三三三三
三三三三三从
三 夢――ノイズが…走る。
ザザッ――
三三三三三三三三三三三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三三三
ザーーッ 三三三三三三三
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推奨BGM:lipse of Time (Harp Version)
(https://www.youtube.com/watch?v=UJrCeAOO3Xo)
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