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( ^ω^) 剣と魔法と大五郎のようです
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懐かしい夢を見た。
体も心もまだ幼くて、それでも、だからこそ幸せだった頃の記憶。
ξ゚⊿゚)ξ (……)
薄暗闇の中、天井に手を翳す。
思えば遠くに来た。
それは、物理的な距離ではなくて。
ξ゚⊿゚)ξ (……)
体のいたるところに出来た傷跡を、死んでしまった両親が見たらどう思うだろうか。
きっと怒るのだろう。そして、悲しむのだろう。
傷を作ったことでは無くて、傷を作るに至った理由を。
ξ゚ー゚)ξ (……ふふ)
いつもそうだった。
二人の心配を無視して怪我をして、母親の手痛い拳骨を貰ったものだ。
よくよく考えれば、きっとあの頃から成長なんてしていない。
ξ ⊿)ξ =3
脳裏にちらつくあらゆる感情を息と共に吐き出して、硬く目を閉じる。
迂闊にあの頃を思ったりしないように。
幸せな夢を、もう見てしまわないように。
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〈::゚−゚〉 「……全員、引くぞ」
ξ ⊿゚)ξ 「でも!」
〈::゚−゚〉 「こいつが出てしまっては、不利なのはむしろこちらだ」
ィシの指示に従い、シーンとミンクスともう一人は駆け出した。
ツンは無視して飛び掛かろうとしたが、ィシに首根っこを掴まれる。
再び首が絞まった。苦しい。
〈;;(。个。)〉 「……」
(//‰ ゚) 「ァーァ、つまんねえな」
ヨコホリも駆け出した。
どうやら近くに馬を隠していたらしく、素早くまたがり腹を蹴る。
残ったのは、ィシと首根っこを掴まれたツン。
そして、どこを見ているかもわからない、仮面の男。
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〈;;(。个。)〉 「……また会おう。ィシ=ロックス」
〈::゚−゚〉 「出来れば、二度と見たくなかったよ。貴様はな」
その一言だけ、ィシもツンを担いで走り出す。
少し抵抗したが、戦うべき相手が居ない状況ではどうしようも無く、ツンも大人しく従うことにする。
仮面の男も、振り向いた時にはもう姿が見えなかった。
ξ ⊿゚)ξ 「どこに逃げるの?」
〈::゚−゚〉 「すぐ近くに隠れ家がある。とりあえずそこへ逃げ込み、やり過ごそう」
ξ゚⊿゚)ξ 「もう一つ。あいつ、誰?」
〈::゚−゚〉 「……『逆さ男』」
ξ゚⊿゚)ξ 「さかさおとこ?」
〈::゚−゚〉 「ああ。禁酒党、山幻旅団、禁酒委に並ぶ、私たちの天敵だよ」
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今回ここまで
新スレ&久々の投下ですた。
どうにも遅くなるので、今後は予告スレを利用する形でゆきますね。
次はまた、まあ秋よりは早く来る気概で。
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乙です 予告見て飛んできました!
取り急ぎ支援絵描きました
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_1092.jpg
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>>67
やっほう!
相変わらずなだらかなツンさんでとても良い感じです
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乙
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ω・)乙
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仕事終わって憑かれてたけど元気でてきたわ
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憑かれてただと……!
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乙!
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ツンちゃんの可愛さが大変分かりやすい回でしたブヒィ
乙
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乙ー。タカラの死亡フラグがいよいよヤバい領域に……
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相変わらずバトルがハードだなww
ブーンが何してたか気になる
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おつ
相変わらずここの横堀はかっこいいな
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きてたのか
相変わらず面白い
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みんななら知ってると思うが28日の20:00に投稿だってwktkが止まらないよーうがー
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>>80
マジで!!
知らんかった!!
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明日の投下を見られるか分からないので今支援しておこう
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_1288.jpg
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(´・ω・`)楽しみだ
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ω・)wktk
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申し訳ないけれど結構遅くなるよ……
多分10時くらいならいけるかもしれないが、明日になるやもしれませぬ
そんときはまたなんかしらレスつけます
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あいよ!
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△
(=゚ω゚)ノ
( x)
)ノ
)
(
c⌒っ。ω。)っ....
投下は明日の夕方頃に
ごめんぬ……
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おk
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私待ってるからぁ!金麦と待ってるからぁーー!
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いまはゆっくり休むんだ……!
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エターならなければおk
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ω・)ウンウン
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17:30目処に投下する
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〈;;(。个。)〉 「各員、配置についたようだな」
サロンシティの中心部から北へ数キロ。
霊峰イチ山に連なり、オーマ湖を囲う森の中に、その男はいた。
『逆さ男』
顔を隠すために着けた仮面が、笑顔の男を逆さまにした模様のためそう呼ばれるようになった。
自分で選んだものでは無い。
他人に与えられたものを、ただそのままつけた。
顔を隠せれば、なんでもよい。
ただ、『不慣れな職人が間違って模様を描いた不良品』という由来は、少しだけ気に入っている。
(//‰ ゚) 「……よくもまあ、これだけの人数が集まるもンだ」
〈;;(。个。)〉 「……」
(//‰ ゚) 「そこまでして潰す必要があンのかね」
〈;;(。个。)〉 「……」
(//‰ ゚) 「睨むなよ、『逆さ』。仕事なンだからしっかりやるさ」
〈;;(。个。)〉 「……そうしてほしいものだ」
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待ってた待ってた!支援!
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ヨコホリが禁恨党のアジトの一つを襲撃してから、二日が経った。
成果はいまいちではあったがそれでいい。
目的は、禁恨党の頭に血を登らせること。
そしてそれを自覚させ、彼らの持ち味であるフットワークを鈍らせること。
〈;;(。个。)〉 「ィシ=ロックスは力だけの女でない。故に、そのいくらか賢いオツムに、自分の動きを制限してもらう」
(//‰ ゚) 「あー、やだやだ。お前は、もう少し敵をバカにしてやれよ」
〈;;(。个。)〉 「……俺は臆病なんでな」
恐らく、目的は十分に達成しているだろう。
あの襲撃から数度、あえて情報を流したうえで散発的に騒動を起こしているが、禁恨党の反応は鈍い。
楔を打つことは叶った。
あとはその楔が望みのタイミングで外れてくれれば良い。
〈;;(。个。)〉 「さて……」
現在、早朝のまだ日が出かかってすらいない頃。
大五郎の守備が最も薄い時間であり、故に、禁恨党が最も警戒を高めている時間。
狙うのに、これ以上の時間は無い。
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(//‰ ゚) 「……合図だ」
森の中でも小高い山の、枝を払った木の上。
見通しは非常によく、サロンシティの全体が一望できた。
気候にも恵まれ、朝靄も視界を遮るほどの濃度は無い。
その、サロンシティの各地で、細い煙が上がり始めていた。
狼煙。今日のために集めた人員たちが配置についた合図だ。
ヨコホリが横目で逆さ男を見る。
仮面の中で、小さく息を吐いた。
できれば実行せずに何とかしたかった。
彼が合図を送れば、この、まだ辛うじて長閑と呼べるサロンの街は、戦場に変わる。
(//‰ ゚) 「……やらねえのか?」
〈;;(。个。)〉 「……準備を」
(//‰ ゚) 「……了ォ解」
ヨコホリが鋼鉄の腕を前へ。
しっかりと開かれた掌が狙う先は、丁度開けて見える大五郎のサロン支店。
仮面をかぶったような、金属に覆われたヨコホリの右目に、複数の魔法陣が浮かび上がった。
距離、そして風が引力の影響を計算し有効な射線を割り出しているのだ。
彼自身の魔法では無く、造主である魔女が仕込んだ物らしいが、これが恐ろしい精度を発揮する。
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(//‰ ゚) 「対象、固定」
〈;;(。个。)〉 「……撃て」
逆さ男の声を聞くまでも無く、ヨコホリは魔法を発動した。
呼吸のような気軽さで掌に風が集まり、拳大の塊となって即座に放たれる。
普段使う格闘用の風の榴弾砲に、飛距離と追尾性を付加した改良版。
魔女の『目』の魔法による座標指定の効果もあり、この一撃が目標を外れることは無い。
数秒で目標へ到達した榴弾は、凶器と化した風を振りまいて炸裂する。
並の民家であればこれだけで半壊。
多少頑丈に作られている大五郎であっても、数発と持つまい。
しかし。容易く蹂躙を赦すほど、大五郎も無策ではなかった。
〈;;(。个。)〉 「……やはり魔法の障壁を準備していたか」
(//‰ ゚) 「予定通りだな。続けるぜ」
〈;;(。个。)〉 「……ああ」
望遠鏡や遠視魔法でみてやっと目に映る、大五郎の支店を囲む防御魔法。
靄状の、対狙撃に重点を置いた柔軟性の高いものだ。
無数に生み出した魔法のチャフにより魔法を減衰させ、対象に到達する前に劣化発動させるタイプ。
近距離間であれば強引に突っ切ることも可能だが、この距離ではそうそう簡単にはいかない。
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(//‰ ゚) 「さァて、何発耐えル?」
それでも、ヨコホリは狙撃を続けた。
次々と風の砲弾を生み出し、放つ。
新たに魔法を追加することで、それぞれの軌道はバラバラ。
四方八方とはいかずとも、多角的に大五郎の支店に襲い掛かる。
敵方の防御魔法のチャフは、魔法に反応し自動で迎え撃つものだ。
故に、射線がバラバラの攻撃に対応し続ければ、
(//‰ ゚) 「グググ……見ィつけたァ」
自然と、防御に穴が生まれてしまう。
ヨコホリは、チャフの濃度の薄い軌道を計算。
一先ずそれを保存し、別の起動からさらに支店を狙撃する。
チャフが、さらに散った。
その一点においては、もはや支店は丸裸も同然である。
(//‰ ゚) 「砕け散れェ!!」
強化式を加え、威力を増した虎の子の一撃。
それまでの砲弾よりも一回り大きく、単純な破壊力は二倍に近い。
白い雲を引いて直進する魔法。
拡散しきっていたチャフが対応しようとするも間に合わない。
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だが。あえて「やはり」という言葉を使えば。
砲弾が支店に届くことは無かった。
(//‰ ゚) 「グッグッグ……」
周囲で右往左往していた傭兵の中から一人が飛び出し、魔法を放って相殺したのだ。
良い反応だ。高速で飛来する砲弾に、ピンポイントで空弾の魔法を当ててきた。
強化版のため全く無傷では無かったであろうが、直撃の被害とは雲泥の差だろう。
飛び出してきた傭兵は、金色の髪をなびかせて、こちらを睨む。
遠視魔法でもなければ姿が見えてはいないだろうが、経験から放ったのがヨコホリであると気づいているはずだ。
〈;;(。个。)〉 「……相変わらず元気な小娘だ」
(//‰ ゚) 「グッグッグッ!会いたかったぜェ!ディレートリィィィ!!」
金髪の傭兵、ツン=ディレートリ。
ごく最近、大五郎兵士のリスト中で特記戦力扱いになった少女だ。
ある程度の実力者であれば抑え込むことは容易いだろうが、この手の嗅覚鋭いタイプは乱戦で真価を発揮してくる。
現に、彼女には既に何人か手練れを落とされているのだ。完全に無視はできない。
(//‰ ゚) 「やっぱり突っ込ンできやがった……可愛い奴だ」
〈;;(。个。)〉 「お前は狙撃を続けろ。あれは別の人員が対応する」
(//‰ ゚) 「アア、やだねえ。気に入った女の一人狙えねェなンてな」
* * *
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ξ#゚⊿゚)ξ 「ジョーンズさん!!足が早いのでも馬でもなんでもいいから何人か回して!!」
叫ぶと同時、ツンは屋根を飛び降りた。
落下する僅かな時間にブーツの魔法を発動。
着地の衝撃で屈んだ体勢から、
ξ#゚⊿゚)ξ 「ダァッ!!」
爆発を思わせる勢いで駆けだした。
閉め切られた支店の雨戸が、余波の風でがたがたと揺れる。
(’e’) 「おっけ〜無理しないでね〜」
ジョーンズの声を置きざりに、ツンは空を駆けた。
ィシの言っていた通りだ、と独り言を喉の奥に隠す。
〈::゚−゚〉 『鳴りを潜めていたヨコホリの突然の行動に加え、『逆さ男』が現れた』
〈::゚−゚〉 『確実に企みがある。何かあっても迂闊に飛び込むなよ』
走り出してから迂闊に飛び込んでいることに気付いたが、気にしない。
別にうっかり忘れてたわけじゃない。バカにすんな。
理由は今から考えるけど。
……支店の常備障壁と待機していた数人の魔法使いではヨコホリの猛攻はしのぎ切れないだろう。
故に誰かが直接仕留めに行けなければならないのだ。だ。
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ξ#゚⊿゚)ξ 「……ん?」
魔法での迎撃を警戒しつつも、建物の屋根を飛び石の如く駆けて行くその途中。
ツンは周囲の異変に気づく。
明らかにサロンの住人ではない人間が多い。
全員が武装を固めている。
大五郎の傭兵では無い。間違いなく禁酒党だ。
一瞬ツンを見たが、気にもかけない様子で支店の方へ向かっている。
ξ#゚⊿゚)ξ (狙撃だけじゃない、一斉に仕掛けてきた……!?)
ほんの一瞬迷う。
大五郎にも警備の人間はいるが、十分な数とは言いにくい。
近辺に常駐している兵を集めても40前後だろうか。
ただでさえ連日のいざこざで疲弊しているのだから、この準備の差は大きい。
援護に戻るべきか。
しかし、現大五郎サロン支店のメンツで、瞬発的な移動能力に最も長けているのがツンだ。
ツンより先にヨコホリを止めに行けるものはほとんどいないだろう。
ξ゚⊿゚)ξ (支店にはタカラも、他の傭兵もいる。たぶん大丈夫……)
ξ#゚⊿゚)ξ (それより私は、あのクソ○○野郎を、ぶちのめす!)
迷いを振り切り地面を蹴る。
その首元にいたニョロが身を斬る風に耐え兼ねて、服の中に潜って隠れた。
-
ヨコホリの魔法攻撃は依然続いている。
ツンには目もくれず、場所の移動すら行わない。
誘い込まれているのか、それとも、別の狙いがあるのか。
なんにせよツンヘの攻撃が無いならば、存分に飛ばすだけだ。
全開で効果を発揮させていたため、ブーツの効力はもうじき切れる。
ヨコホリの元に着くまでには間に合いそうにないが、どうせ森の中を飛び跳ねることはできない。
ξ゚⊿゚)ξ 「“ウィンドエッジ!!”」
最後の一絞り、ブーツの魔法を一気に噴射し、森の中へ突っ込む。
太い幹と枝だけを避け、細かい枝葉は雑に組んだ鎌鼬の魔法で払った。
発動時間が終わり、ブーツに集まっていた風が周囲に散る。
着地の衝撃で舞い上がった枯葉や腐葉土が錐もみしながら吹き飛ばされた。
ξ゚⊿゚)ξ 「……魔法の気配は……よし、目視と一致してる」
休む暇なく、ツンは駆け出す。額にはじんわりと汗が滲んだ。
魔法の補助があったとはいえ、2km近くを一気に駆け抜けてきたのだから、当然ではある。
シャツの袖で汗を拭いながら、奇襲に備えナイフを右手に握った。
ニョロにはすぐに発動できるよう、風の剣の魔法を展開させる。
攻撃一辺倒でも、防御一辺倒でも無い汎用性の高い魔法だ。
-
森の中を這うように駆けた。
根を飛び越え枝をくぐり、蜘蛛の巣をかき分ける。
時折肌にヒリヒリと響くのは、ヨコホリの放つ魔法が生み出す余剰魔力の波動。
まだ支店が潰されていない証拠であり、これから潰されるかもしれない警告でもある。
急がなければ。
ツンの足は、さらに回転を増す。が。
ξ;゚⊿゚)ξ 「?!グェェッ?!」
ヨコホリがいるであろう地点へあともう少し。
ツンの息の乱れもピークに近くなった時、ニョロが俄かに暴れはじめた。
唐突に首を絞めつけられ、流石のツンも足を止める。
ξ;゚⊿゚)ξ 「ちょ、ニョロ、死ぬから、今のは本t……」
ニョロを引きはがしながら文句を垂れるツンの耳元を、黒い何かが過った。
空気の痺れと、金属の擦れる音。
それが鎖に繋がれた分銅だと気づいたのは、ツンの背後にあった木の皮が派手に飛び散ってからだった。
ξ;゚⊿゚)ξ 「なっ……?!」
鎖が引き戻され、分銅が再び浮き上がる。
暴れる鎖を躱しツンは大きく下がった。
重く硬い鉄の塊だ。掠っただけでも致命傷になりかねない。
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ξ;゚⊿゚)ξ 「……チィッ。ありがとうね、ニョロ……」
引き戻された鎖の先を睨みつける。
そこにいたのは、一人の男。
枯れ木に白髪の鬘を被せたような、貧相な体をしていた。
しかし、その眼光と、裸にジャケットを羽織った姿に、並ならぬ異常性を感じ取れる。
半開きになった口元から、風鳴のような呻きが零れた。
ξ;゚⊿゚)ξ (面倒だな、巻くしかないか?)
ツンの画策を、掲げられた男の左手が封じる。
男を中心に魔法陣が浮き上がり、円の淵に沿って魔法の障壁が現れた。
檻だ。複数の細い障壁によってツンは閉じ込められる。
ξ;゚⊿゚)ξ 「露骨な時間稼ぎを!」
£ ゚ ゞ゚) 「……………………………それは」
ξ;゚⊿゚)ξ
£ ゚ ゞ゚) 「……………………………違うぞ」
ξ;゚⊿゚)ξ
£ ゚ ゞ゚) 「……………………………少女よ」
ξ;゚⊿゚)ξ 「……ハッ!露骨な時間稼ぎを!!」
-
きてたー。しえしえ
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£ ゚ ゞ゚) 「……………………………我が名は」
ξ#゚⊿゚)ξ 「長い!!」
£ ゚ ゞ゚) 「……………………………ロm」
あまりに緩慢に口上を述べる男に対し、ツンは全力の蹴りを放った。
全身で飛び込みながら、足の裏を男の顔面に叩き込む。
ロなんとかは、表記しがたい声をあげ吹き飛ばされ、魔法の檻に背中からぶつかった。
ξ;゚⊿゚)ξ (あれ、意外に弱い?)
木の葉を蹴ったのかと思うほど軽かった。
受け流されたというわけでは無さそうだ。
鼻の骨が粉砕される感触が、ちゃんと足の裏に残っている。
しかし、男はすぐに立ち上がった。
ダメージを思わせないしっかりとした足取り。
右手に巻き付けた鎖を、じゃらりと持ち上げる。
£ ゚ ゞ゚) 「…………………………この程度の攻撃は」
ξ;゚⊿゚)ξ (嘘でしょ?鼻が折れただけじゃ済まないはず……)
£ ゚,ゞ゚) 「…………………………すごい痛い。鼻血止まらない」
ξ゚⊿゚)ξ
正直どう扱っていいか分からなかった。
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とりあえず、ダメージはちゃんとあったらしいので、男は無視し意識をちらりと障壁へ向ける。
頑丈な魔法障壁だ。
触れた際に反動のある準攻撃型のものでは無い様だが、その分強固に作られている。
生半可な魔法では恐らく通用しない。
実際の鉄檻を破壊できる程度の威力は欲しいだろう。
ツンが扱う魔法の中でそんなことが出来るのは、一つしかない。
ここでそれを使うのは、無駄だ。
結果に対する消耗が大きすぎる。
であれば残りの選択肢は。
£ ゚ ゞ゚) 「…………少し、早口で…………話そう」
ξ゚⊿゚)ξ 「……ニョロ、あいつを仕留めるわよ。術者が気を失せれば、効力も下がるはず」
£ ゚ ゞ゚) 「…………この障壁は…………特製だ…………ちょっとやそっとじゃ…………」
言葉と同じくゆっくり近づく男に対し、ニョロが魔法を発動した。
中空に現れる三本の風の剣。
それが三様の軌道を取りながら男に襲い掛かる。
男は雑に鎖分銅を振り回し、これを迎え撃った。
分銅と鎖に弾かれた風の剣は、形状を保てず強めの突風となって男に到達する。
白く艶の無い髪の毛が大きく靡いた。
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£ ゚ ゞ゚) 「……我は、山幻旅団が……末幹……ロミス……オットリー……」
ξ#゚⊿゚)ξ 「こなクソ!!」
ナイフを握りしめ、ツンは突進。
男、ロミス=オットリーは鎖を振るって応対したが、これを伏せて回避する。
分銅が引き戻されるまでのいくらかの隙に、ツンは思いっきり地面を蹴った。
£ ゚ ゞ゚) 「……貴様を……ま」
ナイフを固く握った拳でロミスの頬を全力で殴り抜いた。
肉が潰れ骨の砕ける感触。
大きく仰け反ったロミスは数歩下がって、檻に凭れかかる形で倒れた。
ξ;゚⊿゚)ξ 「強いんだか弱いんだかわかんないわこいつ……」
あまりに全力で殴ったため、拳が少しだけ痛む。
ともあれ術者は気絶させた。
あとは障壁が自然に消えるのを待つか、多少なりとも強度が落ちたところを狙って破壊すればいい。
しかし。
ξ;゚⊿゚)ξ 「?!」
£;#),ゞ゚) 「……………………ふう」
檻に触れようとしていたところ、背後から頭へ向かって飛来した鎖分銅。
直感的に回避できたが、冷や汗が一気に噴き出す。
飛びのきながら睨みつけた先にいるのは、頬を赤くはらした、ロミス=オットリー。
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£;#),ゞ゚) 「……………………早口で話すの」
ξ;゚⊿゚)ξ 「なんなのよこいつ!しつこい!!」
£;#),ゞ゚) 「……………………疲れた」
ξ#゚⊿゚)ξ 「うざいんだって!!」
顔面を打ち据えてもダメならば、呼吸を潰しにゆく。
懐にひと息で潜り込み、鳩尾に拳を叩き込んだ。
ロミスの体が僅かに浮く。口からは唾液と呻きが漏れた。
二歩後ずさって、ロミスは膝をついた。
腹を押さえ、蹲る。
ξ;゚⊿゚)ξ 「流石にこれで……」
£;#),ゞ゚) 「……………………なんちゃって」
ξ;゚⊿゚)ξ 「やっぱりか!!」
起き上がった顔面を膝で打ち抜いた。
ロミスは背骨を軋ませ、ブリッヂの体勢で倒れる。
手ごたえが確実にあるのだが、どうにも嫌な感じが拭えない。
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£;#),ゞ゚) 「……………………さすがにちょっと、やられ過ぎた」
ロミスは、巻き戻しでもするかのように起き上がり、ツンに手を伸ばす。
反射的に後退し、ニョロに鎌鼬の魔法を放たせた。
これは鎖を撒いた腕に弾かれ、直撃には至らない。
ξ;゚⊿゚)ξ 「……なんなのよ、コイツ」
£;#),ゞ゚) 「…………我は、ロミス=オットリー…………山幻旅団で最も…………」
ξ;゚⊿゚)ξ 「でぇい!!」
£;#),ゞ゚) 「…………粘り強い男」
ξ;゚⊿゚)ξ 「?!」
倒せないというだけで弱い相手だと、油断した。
ロミスが左手で鎖の先端を大きく引き、再び飛び込んだツンの足を地面に垂れていた鎖で絡め取る。
軸足を攫われ思いっきり地面に転ばされた。
ロミスの攻撃は止まらない。
左手で短く持った鎖の先端を、倒れているツンに対し思いっきり振り下ろす。
慌てて身を捩じって回避。ツンの体から指一本の隙間も無い地面に分銅が土を散らしながら食い込んだ。
ξ;゚⊿゚)ξ 「くッ」
起きようとするも、足を取られてままならない。
ロミスは、再び鎖を振り上げる。
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ξ;゚⊿゚)ξ 「ニョロ!!」
ニョロが顔を出し、大きく威嚇。
同時に空弾の魔法を放ち、ロミスの顔面をぶち抜いた。
振り上げた鎖の慣性もあり、細い身体は後ろへと倒れる。
やや引き寄せられる形になりつつも、ツンは鎖を振りほどいた。
すぐさま立ち上がり、起き上がりかけのロミスの顔面を、
ξ#゚⊿゚)ξ 「ダラァ!!!」
ブーツの魔法を発動した足で、全力で蹴り抜く。
頭だけで飛んでいきそうな会心の一撃。
少し体を浮かせて吹っ飛んだロミスは頭から落ち、跳ねてから地面をゴロゴロと転がる。
藻のような髪の毛には、折れた小枝が何本か刺さっていた。
ξ;゚⊿゚)ξ 「冗談でしょ……なんで気絶しないのよ……」
まるでゾンビの如く、ロミスは再び起き上がった。その形相に、ツンは後ずさる。
顔は既に原形を留めていない。
ツン自身が「殺してしまったかも」と肝を冷やすほどの攻撃を三発も受けているのだから当然だ。
それでいて復活してくるのは、明らかに異常。
魔法によって体を修復している様子も無いし、本当に死んでしまっていてもおかしくないのに。
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:::£;#),ゞ゚)::: 「叩かれた程度では………………我は落ちん………………」 プルプル
ξ;゚⊿゚)ξ 「くそ……急がないといけないってのに……」
ロミスに捕まり、かなりの時間を食った。
ジョーンズに頼んでいた援軍の方が先についているかもしれない。
魔法の檻のせいでその他の魔法の気配も感じることが出来ず、焦りばかりが募る。
:::£;#),ゞ゚)::: 「…………その手の刃で…………我の首を掻けば…………それで終いであるのに…………」 プルプル
ξ;゚⊿゚)ξ (……めっちゃプルプルしてる)
:::£;#),ゞ゚)::: 「…………甘い。…………殺意の無い戦士など…………じゃれつく猫にも劣る…………」 プルプル
ξ;゚⊿゚)ξ 「ッ……お望み通り、やってやるっての!!」
姿勢を低く前へ出ようとしたツンヘ、ロミスは分銅を投げつける。
横へ飛んで回避するも、ロミスは伸びきった鎖を横へ振り回し追撃。
ツンは跳ねて暴れる鋼鉄の鞭を飛んで躱し、上方を覆う魔法の檻に足をついた。
ξ#゚⊿゚)ξ 「あああ!!!」
全体が振動するほどの力で、檻を蹴る。
落下のエネルギーも付与されたこの一歩は、音に近い速さを生み。
ツンは烈風の如くロミスへと突進する。
逆手に持ったナイフの狙いは、ロミスの首。
いくらタフであっても首を裂かれれば無事に済むはずがない。
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交叉。
耳を劈くような金属音が響き渡る。
すり抜けざまに首を切り裂こうと振り抜いたツンのナイフは、右腕の鎖に防がれた。
僅かに腕を斬ったが、深い傷では無い。
勢い止まらず、半ば檻に衝突する形になったツンヘ、すぐさま分銅が放たれる。
何とか横へ躱すも、鎖に引かれるようにロミス本体も飛び込んできた。
体勢も意識も整わないツンは、回避だけに集中し地面を蹴る。
ロミスとは対極の位置へ転がって距離を取った。
:::£;#),ゞ゚)::: 「…………貴様……………人を殺めたことが…………無いな…………」 プルプル
ξ;゚⊿゚)ξ 「……だから何だってのよ」
:::£;#),ゞ゚)::: 「…………愚かしい…………我が出向いて…………時間を稼ぐような相手には…………」 プルプル
ξ;゚⊿゚)ξ 「やっぱり時間稼ぎか!」
:::£;#),ゞ゚)::: 「…………さて小娘…………我が「稼げ」と言われた時間…………」プルプル
ξ;゚⊿゚)ξ
:::£;#),ゞ゚)::: 「……………………貴様は立っていられるか?」 プルプル
ξ;゚⊿゚)ξ 「…………クソッ!」
* * *
-
( ;`ー´) 「魔法反応3、位置情報送るんじゃネーノ!」
( ,,^Д^) 「……」
タカラは弓を構え、支店の屋根に立っていた。
目元には味方の魔法使いが発動した探知魔法の簡略図が浮かび上がっている。
方角と魔法反応の位置がわかるだけの簡素なものだが、今はこれで十分だ。
やっと見慣れてきた探知図に従い、飛来する魔法へ弓を構えた。
秒と待たず直撃する恐れのあった魔法弾を、タカラの放った矢が貫く。
風の暴威が散乱し、その余波でもう一つの魔法弾も誘爆した。
残りの一つを支店にかけられたオートの防御魔法が防ぎ、一旦は攻撃をやり過ごす。
( ;`ー´) 「何度見てもすげえんじゃネーノ……あれを射抜くのかよ……」
( ,,^Д^) 「さてと」
タカラは魔法の迎撃が終わりと判断ずるや否や、再び背中の筒から矢を引き抜く。
弓にあて、やや上方に向かって指を離す。
風切り音を立てて発射された矢は空中を弧を描きながら泳ぎ。
( ;゚'μ゚) 「ぬうあ?!」
大剣を振り回し暴れていた禁酒党兵士の太腿に突き刺さった。
今まさに斬り下しをしようとしていた敵の男は、膝から崩れ落ちる。
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( ,,^Д^) 「ジョーンズさん、倉庫に予備の矢があるから取ってきてくれにゃ」
(’e’) 「うわぁ〜〜店長マジ雑用〜〜」
ジョーンズに頼みながら、さらに矢を放ち敵兵の一人を無力化する。
物陰にさえいなければ、どこでも狙える。
支店周囲は今現在タカラの独壇場であった。
( ,,^Д^) (……まあ、悪いことばっかりじゃないにゃ)
( ;`ー´) 「砲撃来るんじゃネーノ?!さっきより反応デカいんじゃネーノ!!」
( ,,^Д^) 「矢がねーにゃ。魔法班頼むにゃ」
今のところ最後の矢を、路地を抜けて支店に接近してきていた敵兵に放つ。
肩口に矢を受けた敵は仰け反って尻を着いた。
再び飛来した、これまでより大きな魔法弾を地上の魔法使いが障壁を作って防ぐ。
準備していた設置型の障壁魔法はかなり消耗しており、ほとんど役には立たない。
タカラと、数人の魔法使いで何とかしのぐしかない状況だ。
( ,,^Д^) 「きついにゃぁ……せめてツンがあと三人くらい居たらにゃ……」
ぼやいてから、やっぱ嫌だなと考えを改めた。
ツンの特性はこういった乱戦の遊撃に非常に向いているが、あれが四人となると心労が10倍くらいになりそうだ。
支店を守り抜く前にタカラの頭の毛が抜けてしまう。
-
禁酒党及び付随する敵の兵士達は、小隊を組んで街の構造を利用し進撃してくる。
大五郎側の警備は元々支店に待機していた十数人と、近辺からかき集めた計40名弱。
現在密使を走らせて各地の待機場所に駐在していた傭兵も呼び戻しているが、敵に妨害されうまくいかない。
敵方も街に余計な被害を出さないよう意識しているお蔭もあってか、
強引に数で押し切るようなマネをしてこないのが幸いだ。
もしそうなれば疲弊している環境もあって、確実に押し負けるだろう。
希望は、サロン各地で自主的に集い、後方から敵を乱している大五郎の傭兵隊。
そして早々に連絡を飛ばした本隊からの援軍。
長期戦になるだけの拮抗する戦力を集めれば、相手も兵を引くだろうとジョーンズは予想していた。
( ,,^Д^) 「つったって、援軍が来るまでもつかにゃあ……」
(’e’) 「タカラく〜ん、矢持ってきたよ〜」
ジョーンズの放り投げた矢の束を矢筒に差し、一本を弓につがえる。
素早く引いてチラと目標を定め、指を開く。
木製の矢が飛来した無色の砲弾を貫き、炸裂させた。
( ,,^Д^) 「ジョーンズさん、ありったけ持ってきてくれにゃ」
(’e’) 「うわ〜ハードワーク〜〜」
なんでこの非戦闘員こんな余裕なんだろうか。
敵はまだ支店までは至ってこそいないが、いつどこから抜けてきてもおかしくない。
目的は確実に、支店そのものと、サロン大五郎のトップである店長のジョーンズ。
傭兵たちを信じるが故の余裕か、何か策があるのか、それとも天然か。
周囲の人間の方がハラハラしてしまう。
-
支店に至る道は、主に二つ。
一つめは目の前を通る商店通り。
現在ここは魔法のトラップと、弓矢等による遠距離の射撃合戦だ。
商品用の樽や木箱を土嚢代わりに、敵の侵攻を抑えている。
二つめは、裏通り。
表側に比べれば道も狭く入り組んでいるため、敵も好んでは使わない。
ここには腕利きの隊が出張っており、散発的に来る敵の侵入を防いでいる。
このほかにも細い路地があるが土嚢を積んで塞いだのでノーカウント。
支店がここに選ばれた理由は、単なる人の多さだけでなく、この防衛の容易さだ。
建物の密度が高く、敵の進路を限定しやすい。
もし、支店がもっと開けた土地にあったならば、この人数差で凌ぐことは難しいだろう。
だがそれでいても、敵は別の道を見出してくる。
たとえば、
\(^o^)/ 「ィィィィッヤッハァァァァァ」
魔法使いや身軽な戦士による、屋根や空中を使った奇襲。
主に、タカラが警戒するのはこれらだ。
( ,,^Д^) 「ッ!」
\(^o^)/ 「オワタァ?!」
木の板に乗り飛来した魔法使いを撃ち落とす。
彼に便乗していた二人の戦士が、屋根に飛び降り一直線にこちらを目指してきた。
-
( ;`ー´) 「魔法反応!さっきのデカいのが三つ!!」
( ;,^Д^) 「くっ、二つは何とかしてくれにゃ!!」
一つは魔法のチャフが相殺。
二つはタカラは矢を撃ちこみ防御。
三つは味方の魔法使いが上手く軌道を変え、空で爆発させた。
しかし、この隙に先ほどの戦士二人がタカラにたどり着く。
タカラは矢を抜き取るが、迫る敵兵に構える余裕が無い。
不安定な屋根の上で、首に向かって振るわれた短剣を伏せて躱し。
肩を入れたタックルで、そのまま突き落す。
( ;`ー´) 「やばいんじゃネーノ?!小さいのが反応五つ!!軌道がはバラバラ!!」
( ;,^Д^) 「クッ!」
半端な受け身で地面に落ち呻く敵の顔面にジョーンズが立て看板を叩きつけた。
さすがに堪えたのか、看板をずらしたそこには白目を剥いた敵の姿。
(’e’)bそ ビシッ
ドヤ顔で親指を立てるジョーンズを無視し、タカラは低い姿勢のまま弓に矢を当てた
-
鏃を向けると、もう一人の敵兵が怯む。
手に持った草刈鎌を反射的に眼前に引き上げた。
元からこの近距離で矢を放つ気の無かったタカラは、この隙に立ち上がりながらの前蹴り。
唐突の攻撃に反応の遅れた敵は、一人目と同じく地面に落ち、ジョーンズの看板攻撃を脳天で受け止めた。
(’e’)bそ ビシィッ
もはや落とした後については一切気にかけていないタカラ。すぐさま振り返り矢を放つ。
狙いは味方が防ぎきれなかった最後の魔法弾。
ほぼ直撃寸前のそれに辛うじて間に合った矢は、屋根をいくらか剥されるだけの功績をあげた。
( ;`ー´) 「タカラァ!また三つ!!」
( ;,^Д^) 「おいおい、まだ止められねえのかにゃ、ツン!」
( ;`ー´) 「そろそろ俺たちの魔力も苦しいんじゃネーノ!!」
( ;,^Д^) 「死ぬ一歩前までひねり出せにゃ!!」
( ;`ー´) 「辞めてやるこんな仕事!!」
文句を言いつつも、飛来した三つをそれぞれ相殺。
しかし、余波により少しづつ支店の損傷が増えている。
-
誰が一人欠けても危ういこの状況。
再び敵方の魔法使いが飛行魔法を使って空に躍り出る。
先ほどと異なるのは、同乗していたのが短弓を構えた弓兵だったこと。
( ;,^Д^) 「ッ!」
タカラの反応よりも早く、敵が矢を放つ。
素早く撃ちこまれた矢を躱すことは難しく、タカラは左の肩口で受け止めた。
(;’e’) 「うわぁ〜〜」
( ;,^Д^) 「チィッ!」
タカラは突き刺さった矢を引き抜き、唇で血を拭ってから射返す。
見事に魔法使いを射抜き、二人揃って地面へ落下させた。
矢創はすぐに塞がった。問題は傷よりも、純粋に押し切られ始めているということ。
この状況で、敵の幹部クラスが前線に出張ってきたとしたら洒落にならない。
( ;`ー´) 「タカラァ!!」
( ;,^Д^) 「うっせ!!黙って情報送れ!!」
( ;`ー´) 「酷いんじゃネーノ?!」
味方から送られてくる座標を確認し、目視。
瞬く間に迫る五つの魔法弾の先頭を射抜き、誘爆でさらに二つ。
残った二つは魔法使いが補充した魔法のチャフが防いだ。
-
( ;`ー´) 「……ん?」
( ;,^Д^) 「どうしたにゃ?」
( ;`ー´) 「敵の狙撃手の魔法の反応はあるんだけど、こっちには飛んできてねーんじゃネーノ」
( ;,^Д^) 「ツンが着いたってことかにゃ?」
( ;`ー´) 「対象増やすと俺が死ぬから誰だかはわかんねえんじゃネーノ。でも、狙撃は止みそうじゃネーノ」
( ;,^Д^) 「……わかったにゃ。ネーノは変わらず警戒続けてくれにゃ」
( `ー´) 「わかったんじゃネーノ」
( ,,^Д^) 「魔法班は交代で温存しながら地上班の援護。ジョーンズさん、矢の補充遅いにゃ」
(’e’) 「うわぁ〜威厳がみるみる無くなっていく〜〜」
( ,,^Д^) 「あんた初めから威厳なんてねえにゃ」
(’e’) 「言葉の矢に射抜かれて辛い」
( ,,^Д^) 「……さて、やっと攻めに出られるかにゃ……」
タカラの弓が、キリキリと音を立てる。
狙いを定める彼の目は、狩人のそれとなっていた。
* * *
-
<#、`∀´> 「ウリィ!!」
( ;^ω^) 「くッ」
鋭く突き出された手槍を、辛うじて受け流す。
すぐに引き戻しからの、連続突き。
ブーンは後退しながら内の一撃に狙いを定め、槍を斬り払った。
矛先が宙をクルクルと舞い、少し離れたところに落ちる。
敵の男は、すぐさま距離を取ると、持っていた柄を捨て、盾の裏から剣を抜き取った。
<ヽ`∀´> 「……まさか、準備していた三本すべてを払われるとは」
剣を構え、低い姿勢の男。
身の回りには、失神した彼の仲間と、使い物にならなくなった手槍が散乱している。
<ヽ`∀´> 「噂に偽りなしと、いったところニダ。オルトロス」
(;'A`) 『やっぱりばれてんのね』
( ^ω^) (これはもう、完全に首突っ込んじゃったおね……)
-
<ヽ`∀´> 「得物が、聞いたものとは違うニダが」
( ^ω^) 「……」
<ヽ`∀´> 「なぜ、二刀で無いニダ?」
( ^ω^) 「ちょっと訳ありで」
ブーンの手に握られているのはサスガ兄弟が置いて去ったククリ刀。
諸事情あってぽっきりと折られてしまった二刀の代わりに、ハインリッヒの家から持ち出してきた。
特別武器を選ばないブーンではあるが、少々扱い憎さを感じている。
<ヽ`∀´> 「……噂に名高き“杉浦双刀流”の技、ぜひ拝見してみたかったニダ」
( ^ω^) 「見逃してくれたら今度いっぱい見せてあげるお!」
<ヽ`∀´> 「…………それは、残念」
( ;^ω^) 「くぅ〜〜〜ッ!」
突き出される、鈍色の剣。
ブーンは舌打ちを口内に留め、ククリを眼前に持ち上げた。
-
今朝、騒動に気づいてハインリッヒの家を出たブーンたちを迎え撃ったのは、禁酒党の兵士だった。
恐らくは、各地に駐在していた大五郎の兵士と勘違いされたのだろう。
早々に市街地へ向かうつもりだったブーンも、やむなく戦闘に突入することになった。
そのままなし崩しに戦闘を続け、そして現れたのがこの男、ニダー=ジリン。
市街地に留まっているツンとタカラの身が案じられた。
こうして戦闘をおこない敵兵を引きつけていることがせめて援護になっていればいいが。
<ヽ`∀´> 「随分と余裕ニダ」
ニダーが迫る。
左手の盾を、殴りつけるように前へ。
ブーンはこれに蹴りを合わせ、互いの体を弾く。
ニダーの剣が盾の陰から飛び出しブーンの足を狙ったが、辛うじて回避が間に合った。
( ^ω^) (強い)
今度はブーンが自ら前へ。
ククリ刀を居合抜きの形で脇に構え間合いを詰めた。
全身を軋ませ、一撃に全霊を込める。
-
<ヽ`∀´> 「ッ!」
音を断ち、景色を歪ませる振り抜きの一撃。
ニダーは後退しながらも盾で受け流すが、対応は間に合わない。
丸い盾が、右から中央へ引き裂かれた。
逃がしきれない力の波がニダーの体を揺るがせ、体を開かせる。
が、ニダーの右腕は狡猾に獲物を狙い定めたまま。
崩れた体勢ながらも、剣をブーンの胸へ。
よく磨がれた切っ先がブーンの肉を分かつ寸前。
居合抜きで振り切った腕にそのまま体を託し、ブーンは体を回転させる。
伴って吹きまわされた左の掌底が、ニダーの剣を横から弾く。
両者回転し、左肩と右肩を合わせる形で密着する。
左側のニダー。
自身の右側にいるブーンの首元へ、肘から先を持ち上げてのコンパクトな刺突。
ブーンは左腕でニダーの腕を抑え、仰け反って剣の到達を防ぐ。
そのまま掌を回し、ひっかき上げるように斜め上へニダーを弾いた。
体勢を崩させ、がら空きの胴が現れる。
密着し力を籠めにくい状況を上半身の力で強引に解決。
この時左足を後ろへ引いて遠心力で勢いをつけ、右手のククリを叩き付ける。
ニダーはこれに左手を差し出した。
重いククリの一撃を、崩れた体勢の中で上手く殺し、盾を割られることなく受け止める。
-
<#ヽ`Д´> 「ニダァ!!」
盾で強引にククリを弾き、ニダーは剣を振るう。
ブーンは押し返す力に逆らわず、後ろに飛んで回避した。
強引な攻撃からすぐさま身体を整えたニダーは再び盾を前に、突進の姿勢。
ブーンもククリを前に、自然体。
両者の動きがぴたりと止まった。
相手の呼吸を読み、張りつめた空気が流れる。
が、その時。
<ヽ`∀´> 「?!」
( ^ω^) 「!!」
突然に響き渡った、謎の咆哮。
遠いが、確実に聞こえる。
牛や馬では無い。もっとおぞましい、胸を騒がせる禍々しさを持っていた。
-
<ヽ`Д´> 「!!」
ニダーはすぐさま意識を集中し直し、地面を蹴った。
剣を体の陰に隠し、盾によって打撃を狙う。
対するブーンは、まだ意識をこちらに戻しきれずにいた。
集中を欠いた動きで一先ず後退する。
(;'A`) 『どうしたブーン!!』
( ;^ω^) (今の咆哮……)
<#ヽ`∀´> 「隙ウリィ!!!」
まだ数歩分の間合いが開く距離から、ニダーが剣を放つ。
回避とククリ刀での叩き落としを同時に行うが、ブーンは足を止められた。
ニダーは腰の裏からもう一本を引き抜き、一気に間合いを詰める。
( ;^ω^) (わずかだけど、キュートの魔力……!)
(;'A`) 『マジで?!』
突き出された剣に、辛うじてククリを合わせる。
金属の擦れ合う煩わしい音が耳を貫いた。
ニダーの攻撃は止まらず、そのまま盾によるタックルでブーンを跳ね飛ばした。
-
飛びのいてダメージを減らすも、多少ふらつき着地する。
気を乱した状態で勝てる相手では無い。
脳にちらつく魔女の気配を一旦押し込め、ブーンは自らニダーへ躍りかかる。
ククリ刀を体を開いて振りかぶる。
ニダーは前には出ずに、万全の態勢で迎え撃とうと盾で体を隠す。
( ^ω^) 「杉浦双刀流―――」
<ヽ`∀´> 「!!」
( ^ω^) 「鐘砕き」
ブーンは振りかぶった手から、そのままククリを手放す。
そのまま上半身をのけぞらせ、筋肉を軋ませ。
両脇に構え直した拳を盾に向かって突きだした。
<#ヽ`Д´> 「ぬぅ!!」
双の拳が生み出した力が盾を中心にぶつかり合い、鉄板の内側の木を粉砕した。
剣戟を受け流し、反撃を合わせる腹積もりだったニダーを、すさまじい衝撃が襲う。
-
( ^ω^) 「!!」
この大きな隙に、ブーンは渾身の蹴りで追い打ちを仕掛ける。
速さは少々足りないが、『杉浦』の技を支える強靭な足腰は、ニダーを蹴り払うのに十分な威力を持っていた。
<#ヽ`Д´> 「くっ、なるほど、徒手空拳の技もあったニカ」
不十分な状態からも受け身を取ったニダーだったが、全ての威力を殺すことはできなかった。
内臓にダメージを受け足に普段通りの力が無い。
呼吸も乱れ、はた目には勝敗は半ば決しているように見える。
( ^ω^) 「……おまけにもう一つ、無刀の型を見せてあげるお」
<ヽ`Д´> 「……」
( ^ω^) 「杉浦双刀流、無刀奥義……」
両手を軽く広げ、ブーンが姿勢を下げる。
ニダーは剣を一文字に寝かせ、目の前へ持ち上げた。
睨みあう両者。
ブーンの放つ闘気が、周囲の空気を歪ませて見せる。
( ^ω^) 「……“脱兎走”」
緊張が最大に高まったその瞬間、ブーンはくるりとニダーに背を向け走り出した。
機敏に、落ちていたククリを拾い、そのまま駆けて行く。
あらゆる攻撃を想定し、反撃を狙っていたニダーはしばし呆然として。
<#ヽ`Д´> 「って!ただ逃げてるだけじゃないニカ!!!!待つニダ!!」
叫んだ時には、ブーンの背中は既に追いつけない距離まで走り去っていた。
-
( ;゚ω゚) 「待てって言われて待つくらいなら最初っから逃げたりしないお!!!」
罵声を追い風に全速力で逃げるブーン。
正直戦っている時よりも目が本気だった。
(;'A`) 『ねえちょっと!!それは無いんじゃないの?!俺ですら奥義期待したんだけど!!』
( ^ω^) (逃げることを考えながら闘気を昂らせるのって大変なんだお。気分的には奥義だお)
(;'A`) 『つーか別に勝てただろ。なんで逃げるんだよ』
( ^ω^) (あの人なめちゃいけないお。迂闊に止めを刺しに行ってたら、やられたのはこっちかもしれない)
(;'A`) 『そうなの?』
( ^ω^) (倒せるイメージが最後まで具体的にならなかったお。無理に倒す必要が無いなら、逃げた方が確実だお)
(;'A`) 『……まあ、それならいいけどよ』
( ^ω^) 「それよりも……」
手ごろな農場を見つけ、身を隠すブーン。
ニダーからは逃げ切れたようだが、周辺にはまだ禁酒党の兵士がうろついている。
特別手を焼く手練れでは無いだろうが、今は僅かな時間も惜しい。
-
( ^ω^) 「やっぱり、キュートの魔力だ」
('A`) 『本人か?キメラか?』
( ^ω^) (遠すぎてはっきりしないけど、他人のそら似でないことは確か)
('A`) 『……どこだ?』
( ^ω^) (向こうの、湖の方の山だお)
('A`) 『遠いな。行くのか?』
( ^ω^) (放っておくわけにはいかないお)
('A`) 『……わかった、代われ』
( ^ω^) 『お。いつもすまないお』
('A`) 「きにすんな」
( ^ω^) 『多分、結構やばいのがいると思うから、着いたらすぐに代わるお』
(;'A`) (……お前はホント、不吉なことを平然と言うよね)
* * *
-
〈::゚−゚〉 「…………」
顎が砕けてしまいそうだ。
頭蓋の中に反響する、ギリギリと奥歯が削り合う音は、周囲にまで漏れ出している。
(//‰ ゚) 「思ったより遅かったなァ」
〈;;(。个。)〉 「……怖気づいてもう現れないかとも思ったがな」
〈::゚−゚〉 「…………」
( ・−・ )
ィシと、シーン。
そしてサロンに連れてきていた禁恨党八人全員が、この場に集結していた。
目的は、ついに強硬な手段に出た根絶法側の暴挙を止めること。
そして、何よりの本懐が。
(//‰ ゚) 「グッグッグ、いつもの威勢がねえな」
この男。
ヨコホリ=エレキブランを仕留めること。
-
主武器であるハルベルトを構えたまま、周囲をぐるりと睨む。
敵は、ぞろぞろと現れた十余人。しかし、並ぶ顔ぶれは、憎らしいほどに豪華だ。
ヨコホリ、逆さ男の他に、
爪'ー`)y‐~ 「やれやれ、すごい気迫だ……どちらが罠に嵌ったのか分からないねえ……」
イ(゚、ナリ从 「……だんちょ、森の中で煙草は危ない」
山幻旅団筆頭フォックスと、側近の娘、イナリ。
この四人だけでも十分すぎる戦力だ。
個人間で比べれば、彼らとまともな勝負になるのはィシしかいないだろう。
状況は芳しくない。
人数は相手に分があり、さらに待ち伏せにより地の利を取られている。
しかし、それは初めから予想出来たことだ。
罠であることは予想できたが、だからこそチャンスであるとも思った。
ヨコホリは釣り餌であるからこそ、ィシたちががっちりと食いつくまでは下げられ無い。
ィシは、胸元に手を当てる。
食いつくための準備はいくらでもしてきた。
糸を千切り、針を捩じり、竿をへし折るその準備。
-
ヨコホリが魔法を放ち、シーンが分解したのをきっかけに、両者が動いた。
相手も手練れではあるが、こちらも雑魚では無い。
一旦武器をかち合わせてしまえば、そこらの傭兵など軽くしのぐ猛者たちだ。
戦況は、一気に乱戦へ。
地元の農夫たちが手入れをしているお蔭か、近辺の足場はある程度開けているが、木は当然多い。
幸いにしてこの窮屈さが、数の差を埋めてくれていた。
敵の主力四人がまだ様子見していることも、大きい
腹が立つほど余裕の態度ではあるが、その分踏みにじり甲斐がある。
〈::゚−゚〉 「!!」
立ち位置さえ注意すれば、ィシの腕ならばハルベルトも問題なく扱える。
ィシは大きく踏み込み、自身に迫ってきていた二人の敵を武器で薙いだ。
斧刃が一人目の腹を大きく抉り、その体を刃に絡めたまま勢いでもう一人も払い退ける。
巻き込まれた枝葉が、抵抗も敵わず舞い散った。
刃を直接受けた方は今の一撃でほぼ即死。
巻き込まれ突き飛ばされた方は、身動きしなくなった仲間にのしかかられ、自由に動けない。
この機会を逃すことなく、ィシはその男の頭に斧刃を落とす。
頭蓋が割れ、脳漿と血液が噴き出した。
自らの服にはねた赤を気にする様子も無く、ィシはハルベルトを引き、刃の穢れを払う。
-
〈::゚−゚〉 「我々は大五郎とは違う」
未だ血のこべりつくハルベルトを脇に構え、ィシが一歩前へ。
無表情でありながら、その気迫が肌を震わせるようであった。
迎え撃とうとしていた敵兵の足が、自然に二歩後ずさる。
〈::゚−゚〉 「失うものなど何もない。故に、貴様らに容赦もしない」
ィシの奮起を目にし、禁恨党員たちが戦意を取り戻し始めた。
士気さえ釣り合えば、人数差を埋める十分な実力はある。
いくらかの余裕を見せていた根絶法側に緊張感が走った。
〈::゚−゚〉 「我々に武器を構えたからには、死ぬと思え」
根絶法側が有利なことには変わりない。
しかし、決して安全な勝負では無い。
初老でありながら、女でありながら重量武器を振るうィシの姿は、畏怖を覚えさせるに十分な迫を持っていた。
雄叫びをあげ、禁酒党の男が手斧を振り上げィシに襲い掛かる。
背後、死角の位置。
自らを奮起させるための雄叫びが攻撃を悟らせはしたが、十分に奇襲の役を果たしている。
-
〈::゚−゚〉 「……」
ィシは頭だけを振り向かせ、その姿を確認。
手斧のリーチは短いが、威力は高い。
喰らえば相当に致命的な傷を負うだろう。
しかし問題は無い。
〈::゚−゚〉 「……」
ィシは、左足を一歩、後ろへ引く。
爪先は横向き。それに従い体もやや開く。
この時点で既に、ィシの上体はハルベルトを振るう準備を終えていた。
「?!」
迫る男の脇、あばらに向けてィシはハルベルトを振り上げる。
敵の攻撃も、回避も間に合いはしない。
斧刃が男の肋を捉えた。
骨が割れ、肉が裂かれ、内臓が潰れ。
それでも重厚の刃は止まらない。
両手から片手に移行しながらも、ィシは完全に得物を振り抜いた。
男の体が宙に浮き、鮮血が吹き上がる。
ほぼ即死したその体が衝撃で回転するのに従って、血が生臭い螺旋を描いた。
-
爪;'ー`)y‐、 ~ 「……人間か?」
イ(゚、ナリ从 「だんちょ、ちびりそう」
爪;'ー`)y‐ 「安心しな。俺なんか既にちびったよ」
(//‰ ゚) 「俺が言うのもなンだが、人間じゃねえな」
〈;;(。个。)〉 「ヨコホリ、フォックス、予定通り行くぞ」
爪;'ー`)σ ⌒ 、 「あーあ、こんなんならニダの旦那の方行けばよかったな」
逆さ男が前へ。後ろにヨコホリが続きフォックスとイナリはその場にとどまる。
ィシが腰の剣を投げつけさらに一人を討ち、いくらか情勢を持ち直した禁恨党。
目の前の一人を危なげしかない動きで何とか切り伏せたミンクスが、ィシの横につく。
〈::゚−゚〉 「……ミンクス」
ミ;´・w・ン 「言わないでくださいよ。俺だって、意地はあるんです」
〈::゚−゚〉 「せめて一人は、引きつけろよ。そして、危なくなったらすぐに逃げろ」
ミ;´・w・ン 「……ゥス」
-
〈;;(。个。)〉 「……行くぞ」
飛び立つ燕のようであった。
音も無く逆さ男の姿が残像に変わり、ィシへ迫る。
空中へ飛翔。全身のばねを利用し、鋼鉄の脚甲でィシを薙ぎ払った。
ハルベルトの柄を引き揚げ、これを受け止めるィシ。
互いの衣服が衝撃で靡き、足が地面に深く食い込む。
逆さ男の手には輝く指輪があった。
魔道具だ。これによって身体能力を強化している。
脚甲をつけていることもあり、直撃であれば必殺に近い破壊力だ。
逆さ男は蹴り終わりの着地と同時に後転。
反撃に振るわれたィシのハルベルトをやり過ごす。
振り切られた武器を剛力で制動し、ィシは踏み込んで追撃の刺突を放った。
空気がうねりをあげるこの一撃を、逆さ男は飛び越えて回避。
胴を軸に数度の回転を加え、体重の乗った蹴りをィシの頭へ叩き付ける。
〈::゚−゚〉 「フンッ」
〈;;(。个。)〉 「ッ?!」
鉄槌のごとき一撃を受けたのは、頭蓋では無く、筋肉の隆起する二本の腕。
ィシがハルベルトを手放し、素早く防御に回したのだ。
骨が砕けても不思議は無いというのに、まるで巨木を叩いたようにびくともしない。
-
〈::゚−゚〉 「ぬうん!!」
着地でバランスを崩した逆さ男の服をィシの手が掴んだ。
振りほどこうとする抵抗を無視し、片腕で軽々と振り上げる。
〈::゚−゚〉 「ハァ!!」
〈;;(。个。)〉 「グッ!?」
ィシは、持ち上げた逆さ男を、メンコで遊ぶかのように地面に叩き付けた。
地面は柔らかい腐葉土。
しかしそれでいても、2m弱の高さから受け身も取らず叩き付けられれば。
〈;;(。个。)〉 「……ッ……、恐ろしく強い」
ダメージは相当なものになる。
叩き付けからすぐさま転がって距離を取った逆さ男ではあったが、その足取りはいささか頼りない。
指輪の輝きはいつの間にか消え、彼が魔法の補助を失っていることを示す。
〈;;(。个。)〉 「……なるほど、魔法を解除されるというのは、なかなか厄介だ」
( ・−・ )
逆さ男の視線の先には、魔法使いシーン=ショット。
蹴りを放った時点で、身体強化は解けていた。
この援護が無ければもう少しまともなダメージを通せただろう。
-
(//‰ ゚) 「ハッハァ!!」
逆さ男がィシを引きつけている内に、ヨコホリはシーンに迫っていた。
魔法分解の能力を除いてもシーンは優秀な魔法使いだが、正面からヨコホリの相手をするだけの技量は無い。
割って入った数人の禁恨党員を吹き飛ばし、鋼鉄の腕をギシリと鳴った。
シーンはィシの援護にで魔法分解を行っており、ヨコホリへの対処が遅れている。
下がって間合いを取りながら、ヨコホリの「心臓」の魔法の解析を始めるが、接近の方が早い。
ミ;´・w・ン 「させないって!!」
割って入るミンクス。実力差は歴然だが、僅かな時間稼ぎにはなる。
シーンは魔法を展開。
丸めて背中に括っていた魔道具の布を、大きく広げる。
布は蛇の如く揺らめき、ヨコホリの体に絡みつく。
ミンクスを捻りつぶそうとしていた腕が寸前で止まった。
狙ったのは関節。万力を誇る“サイボーグ”の体であっても要所を抑えれば拘束は可能だ。
(//‰ ゚) 「チィッ!せこいマネ…………ヲッ?!」
悪態をつく彼の背後迫るィシ。
反応したヨコホリだが、布に動きを邪魔され対応が間に合わない。
大きく振りかぶったィシの裏拳がヨコホリの頭を側面から殴り抜く。
金属が砕ける音とは、ここまで響きがよいものか。
ヨコホリの体は鞠のように跳ねて転がり、木に激突して止まった。
轟音と共に彼の体を受け止めた木が、軋みを立てて傾いていく。
-
〈::゚−゚〉 「……」
ィシがヨコホリを跳ね飛ばすと同時、がら空きの背中に逆さ男が躍りかかる。
再び強化魔法を発動していたが、すぐにシーンによって強制解除された。
それでも勢いのまィシの背中を蹴り抜く。
〈:: − 〉 「ぐっ!」
蹴りの衝撃は分厚い胸部を駆け貫く。
ィシは苦しげに呻くも、すぐさま反撃の体勢。
振り向きざまに裏拳を放ったが、逆さ男はひらりと飛びのいてやり過ごす。
(//‰ ゚) 「おィィ……逆さァ……しっかりひきつけといてくれよォ……」
ヨコホリが魔法布を引き千切りながら立ち上がる。
頭の形が変形している上に、よく見れば首は横に折れているだけでなく180度捩じれていた。
それを、自身の両手で挟み、ゴキゴキと整形しなおす。
(//‰ ゚) 「俺も不死身じゃねえンだ。死ンじまうぞ」
〈;;(。个。)〉 「想像以上の戦力だ」
(//‰ ゚) 「こいつ、なンかやってやがるぜ、気ィつけな」
余裕は未だあるようだが、ダメージがゼロでは無かったらしい。
少しばかり、彼の醸す空気に真剣みが混じり始めている。
-
爪'ー`)y 「……イナリ、もう大丈夫だ。お前も旦那たちに加勢しなさい」
イ(゚、ナリ从 「わかった。だんちょ、わたしが離れてる間に死ぬなよ」
爪;'ー`)y 「いやははは……厳しいねイナリは」
逆さ男たちから離れて後方、フォックスとイナリ。
フォックスは逆さ男がィシに仕掛けた時点から魔法の展開を開始し、イナリはそれをずっと守護していた。
現在魔法は無事に発動し、フォックスの周りには青みがかった煙が滞留している。
フォックスの言葉に従い、イナリは得物である剣を構えて飛び出した。
獣の如くとはこのことで思慮も策略も無く真正面から切り込んでゆく。
部下の背中を笑顔で見送り、フォックスもゆっくりと前に出た。
武器も持たず、まるで散策するように歩く彼を、禁恨党の兵士は見逃さない。
それまで刃を合わせていた敵を力ずくではじくと、フォックスに襲い掛かった。
爪'ー`)y‐ 「やれやれ」
怪しげに揺れ漂う煙が兵士を迎え入れる。
爪'ー`)y‐ 「良い夢をごらんよ」
その次の瞬間、唐突に兵士が膝をついた。
白目を剥き、口をだらしなく開けて、そのまま地面に倒れ込む。
死んではいないが、意識を取り戻す様子も無い。
-
爪'ー`)y‐~ 「ふむ、どうやら何か魔道具を使っているね」
フォックスが煙草に火を点け、乱戦するィシたちに歩み寄る。
それに伴って魔法の煙が周囲に拡散し、敵性の兵士のみを次々と不能にしていった。
ィシの奮闘で均等になっていた力のバランスが、一気に根絶法側に傾く。
爪'ー`)y‐~ 「だがまあ、脳があるなら問題ない」
ィシの体は、元よりも一回りほどパンプアップしていた。
動ける禁恨党の兵士は、既にィシ、ミンクス、シーンの三人のみ。
それでいても押し切れないのは、彼女の能力がいよいよ人知を凌駕し始めていたからである。
〈::゚−゚〉 「ォォォォオオオ!!!」
混戦の中取り戻したハルベルトを、豪快に振り回す。
接近していたイナリは守りに構えた武器ごと弾き飛ばされた。
ヨコホリが安全圏から魔法で攻撃するも、全てシーンに無効化される。
〈;;(。个。)〉 「フォックス!」
爪'ー`)y‐~ 「わかっている。あの化け物にどれだけ効くか分からないけどね」
周囲に散っていた煙が、意志を持ってィシたちの周囲に集まる。
ミンクスが抵抗し剣を振るうが、もちろん意味は無い。
-
( ・−・ ) !
爪'ー`)y‐~ 「君の分解は防ぎようがないけどね。手間をかけさせるくらいなら簡単さ」
煙には複数のダミーの魔法式が含まれていた。
主となる魔法式への介入を防ぐ性質があり、シーンの分解を妨害する。
魔法同士が干渉し合い、空中に激しい閃光の粒が生まれたが、肝心の煙は全く減らなかった。
ミ;´・w・ン 「やられる前にやるしかないっしょぉ!!」
ミンクスが口元を腕で抑え、煙を低い姿勢でフォックスへ。
意志をもって持続させるこのタイプの魔法は術者を落とすのが一番手っ取り早い。
もちろん、敵もそれは十分に理解しているため。
イ(゚、ナリ从 「させねっし」
イナリの持った鉤爪のような剣がミンクスを薙ぐ。
持ち前の臆病さでこれに気づいていたミンクスは大げさに転がって逃げた。
他の主力三人はミンクスの相手はイナリ一人で十分と判断したのか、ィシとシーンに迫っている。
( ・−・ )
爪;'ー`)y‐~ 「いやあ虚しくなるなあ……もう見破ったのかい」
シーンは、驚くべき速さで煙の魔法を看破していた。
すべてを消し去ることは叶っていないが、それでも自分たちに絡みつこうとしている部分は片っ端から消されていく。
-
だが、結果的にそれは、シーンを封じる役目となった。
魔力を注いだ分だけ増幅する魔法の煙は、消しても消しても後を絶たない。
発動者であるフォックスの保持する魔法式を瓦解できればよいのだが、煙に対処しながらできることでは無かった。
(//‰ ゚) 「カカカカァッ!!」
〈::゚−゚〉 「くッ」
分解される恐れの薄まったヨコホリは、思う存分に魔法を放つ。
無論シーンの援護は成り立たない。
ィシはハルベルトで土を舞い上げ、魔法攻撃を防ぐ煙幕とした。
炸裂し拡散する衝撃波で、互いに弾き飛ばされる。
ヨコホリが次の魔法を放つまでの隙を埋めるように間合いを詰める逆さ男。
彼は指輪の強化魔法を思う存分に使い、膂力を増していた。
地に足をついた状態で放たれたハイキックは、防御のために引き上げられたハルベルトの柄をゆがませる。
〈;;(。个。)〉 「これだけのメンツを集めて、成果なしとはいかんのでね」
〈::゚−゚〉 「……」
〈;;(。个。)〉 「貴様一人が優秀でも、この差は覆せん」
足を引き戻してからの、連撃。
激しく重い追撃はガードを突き抜けて体に響く。
強化魔法により倍近くまで引き上げられた脚力は、乱打にも関わらず大槌での殴打を思わせる。
-
振り抜きの強打を一撃、逆さ男が飛び跳ねて離脱した。
これで終わりではない。
むしろ。
(//‰ ゚) 「ラァ!!」
入れ替わりに、ヨコホリが右手を突き出し接近する。
格闘の間合いであるが、掌が僅かに輝くのをィシは見逃さない。
弓のように体を横にしならせ、放たれた魔法を回避。
倒れた姿勢のまま、腕力のみでハルベルトを振り上げる。
先端が鋼鉄の腕を弾き上げ、体はその慣性を利用して起き上がり。
腕を弾くために振り上げた武器は、そのまま攻撃への予備動作へと、流れるようにつながった。
しかし。
〈;;(。个。)〉 「ハッ」
剛力で振り下ろされたハルベルトは、黒鉄の脚甲に払われる。
鈍い音を立てて柄が弾け折れた。
飛んでいった先端の行方を気にする余裕は無い。
腕を弾かれた勢いで後退したヨコホリが、十分に立て直している。
突き出される右腕。照準は紛れも無くィシ。
飛翔蹴りから着地した逆さ男がすぐさま距離を取る。
(//‰ ゚) 「カカカッ」
-
〈::゚−゚〉 「――――――ッ!!」
輝くヨコホリの腕。
掌に生み出された無数の魔法弾が、花火のように飛び散った。
空気が歪み、蜃気楼のような帯が伸びる。
数え切れぬ魔法の榴弾は、小粒ながらも十分な破壊力。
ィシは咄嗟に折れたハルベルトの柄をバトンのように回転させて投げた。
だが、藁ほどの助けにもならず、数発で砕かれ盾の役目は果たさない。
強化された体が魔法の暴威に食い荒らされてゆく。
歪む視界。
頭にもらった一発が頭蓋を抉り取ってゆく。
視界の端で、ミンクスが切り伏せられるのが見えた。
膝が折れる。
シーンの姿は見えない。
彼は、どこにいる。
ィシの探し出した、切り札だ。
仲間であり、友であり、実の家族のような存在。
まだ失うわけにはいかない。
何度も何度も奪われるわけにはいかない。
-
〈;゙゙−゚〉 「……グッ、ハァァッ!!」
倒れかかった体を、背骨と腹筋で強引に持ち直す。
頭から、ごぽりと血が零れた。
熱いのに、冷たい。しかし、不思議と痛みは無かった。
(//‰ ゚) 「…………人間辞めすぎだぜェ」
飽きれるヨコホリを殴ろうとして、右腕が無いことに気がついた。
左腕はあった。指が無いため拳は握られないが、手刀の形で強引に叩き付ける。
(//‰ ゚) 「ナッ?!」
回避されるも、ヨコホリには普段のキレが無い。
戸惑っている?あるいは、怯んでいる?
ィシは左腕を振るった力を制御せず、そのまま頭からヨコホリに飛び込む。
額はヨコホリの鼻っ柱を捉えた。
自身の頭に走る痛烈な痺れに、目の前が白と黒の明滅を繰り返す。
何はともあれ、ヨコホリに隙を作った。
今ならば、分解が通用するはずだ。
ィシは振り返る。
声が出ないので、視線でシーンに指示を飛ばすつもりだった。
-
〈:;゙゙−゚〉
( − )
〈:;゙゙−゚〉
ああ。
.
-
シーンには、左腕が無かった。
ィシを外れた流れ弾が吹き飛ばしたのだろう。
そして、目は白を剥き、地面に半身を沈めていた。
集中力を失い、フォックスの魔法に飲まれたのだろう。
〈:;゙゙−゚〉
ィシは、膝から崩れ落ちる。
終りだ。
復讐のために積み上げてきた戦力はすべて失われた。
無謀だった。
無策だった。
何より無能だった。
大五郎への襲撃など、黙って見逃せばよかった。
罠にわざと食いつくことなどせずに身を潜め、虎視眈々と隙を伺うべきだった。
そうできなかったのは、おのれの甘さに他ならない。
-
(//‰ ゚) 「……」
〈;;(。个。)〉 「……ヨコホリ、もういい」
(//‰ ゚) 「まだ息があル。止めを刺すまで安心はできねェ」
〈;;(。个。)〉 「不要だといっている。既に治る傷では無い」
(//‰ ゚) 「……逆さァ、お前のそれは情けでも仁義でもねえ。ただの侮辱だ」
〈;;(。个。)〉 「……」
地面に膝を折ったィシの頭に、ヨコホリが右手を押し付ける。
これで終わりだ。頭を吹き飛ばされて終わりだ。
夫のもとへ行ける。
散々苦労を掛けた同胞たちと共に行ける。
(//‰ ゚) 「あんたとは、長い付き合いだったなァ。あばよ……」
〈:: − 〉
ああ。
だけれど。
(//‰ ゚) 「?!」
この男を遺していくことだけは、やはり出来ない。
-
今まさに魔法を放とうとしていたヨコホリの腕を、ィシの左腕が鷲掴む。
指を失っていたはずの手には、歪な木の枝が生え、鋼鉄の腕をギリギリと締め上げた。
反射的にヨコホリが魔法を放つ。
力づくで射線をずらされた魔法弾は、地面を炸裂させるに終わる。
(//‰ ゚) 「何事だよ、こりゃあ」
ヨコホリが言うが早いか、ィシはその体をいとも簡単に振り上げた。
そして、高い位置からの叩き付け。
逆さ男に行ったような、一度限りのものでは無い。
何度も、何度も執拗に地面に叩き付けヨコホリの体を痛めつける。
逆さ男が蹴りかかったのをヨコホリの体を投げつけることで迎え撃った。
爪;'ー`)y‐ 「おいおいおい。嘘だろう?!」
イ(゚、ナリ从 「だんちょ!ダメだ逃げろ!」
フォックスの魔法煙がィシに絡みついたが、彼女の動きは止まらない。
虫を追い払うような雑な動きでフォックスに体引き千切った欠片を投げつける。
間一髪飛びついたイナリによって直撃は避けたが、射線にあった木の幹が大きな音と罅を作った。
-
(//‰ ゚) 「あの、胸…………糞がァッ!」
起き上がったヨコホリの視線の先。
体を再生し、一歩一歩地面を貫くように歩み寄るィシの胸元。
破れた服の隙間から、赤黒い木片のような物が覘いている。
木片はィシの皮膚に根を張り、鼓動に呼応して生き物のように脈を打つ。
見れば彼女の体表は、木の皮のように変貌をはじめ、もはや人間のそれでは無くなっていた。
(//‰ ゚) 「成程なァ。ババアとは思えねえ戦闘力、逆さの蹴りが通じねえ頑丈さ。そう言うことか」
ィシの右の肩口から先が割れて尖った木の枝が三本張り出す。
それはギシギシと軋みを立て、先端をヨコホリへ。
完全に向き直ると同時に、バリスタの如く高速で射出された。
〈;;(。个。)〉 「ッ!一体、何が起きている」
二本をヨコホリが魔法で。
一本を傍らにいた逆さ男が蹴りで軌道を変えた。
ィシは立ち止まり、ヨコホリを睨みつける。
ただそうしているわけでは無い。
周囲に落ちていた木の枝や木の葉などを足から取り込み、体表を作り替えてゆく。
-
〈;;(。个。)〉 「あの赤い木片、魔道具か?」
(//‰ ゚) 「魔道具なんて甘いもンじゃねえ」
ィシが大口を開けて吠えた。
既に人間の声では無い。
よだれが飛び散り、口の奥から猪の牙のように木の枝が伸びる。
抉れていた頭部も、もがれていた腕も節張った木の肌として再生。
さらに一回り大きくなり、元の名残はどこにも無い。
(//‰ ゚) 「魔女の呪具だ。俺と同じく、体内に埋め込ンで、体そのものを変えちまう」
〈;;(。个。)〉 「……」
(//‰ ゚) 「あそこまでなったらもう元には戻らン。あの女、本当に人間を辞めやがった」
人の輪郭を失い、上半身が以上に発達した姿。
ィシ、だったそれは、ヨコホリを見据えもう一度大きく吠える。
その姿には、知性も、心も、人間であった面影は一切残ってはいなかった。
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おわりんこ
次は年内目標で。
まあできるだけ早く来る気概だけは忘れず
あとこんだけ間開けてんのに支援とか絵とか貰えるのは相当嬉しいッス
ほんならまた。次回も予告スレをsageていくスタイルで
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乙乙!
やっぱり戦闘シーンかっこいいなー
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乙!!ブーンの奥義にワロタwww
相変わらずの戦闘シーンだうめぇ…
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うへあおつ
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おつ面白い。
ィシ…
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強すぎるィシは身を滅ぼす
のび太
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おつ
緊張感ある戦闘が熱い
ィシ辛いな…
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待ってた!乙!
ィシも魔女の被害者なのか…
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