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( ^ω^) 剣と魔法と大五郎のようです
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懐かしい夢を見た。
体も心もまだ幼くて、それでも、だからこそ幸せだった頃の記憶。
ξ゚⊿゚)ξ (……)
薄暗闇の中、天井に手を翳す。
思えば遠くに来た。
それは、物理的な距離ではなくて。
ξ゚⊿゚)ξ (……)
体のいたるところに出来た傷跡を、死んでしまった両親が見たらどう思うだろうか。
きっと怒るのだろう。そして、悲しむのだろう。
傷を作ったことでは無くて、傷を作るに至った理由を。
ξ゚ー゚)ξ (……ふふ)
いつもそうだった。
二人の心配を無視して怪我をして、母親の手痛い拳骨を貰ったものだ。
よくよく考えれば、きっとあの頃から成長なんてしていない。
ξ ⊿)ξ =3
脳裏にちらつくあらゆる感情を息と共に吐き出して、硬く目を閉じる。
迂闊にあの頃を思ったりしないように。
幸せな夢を、もう見てしまわないように。
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ツンがブーンの隣へ。
グラスのソーダにレモンを絞り、シロップを垂らしてマドラーでかき混ぜる。
柑橘の刺激的で爽やかな香りが鼻を抜けた。
( ^ω^) 「そういえば」
改めてのあいさつ代わりに、グラスの腹を軽くぶつけ合った。
殺風景な店の中にいつも通りの音色が響く。
( ^ω^) 「傭兵の仕事はお休みかお?」
ξ゚⊿゚)ξ 「……ちょっとね」
( ^ω^) 「血と薬の臭いがするけど」
ξ;゚⊿゚)ξ 「あんたの鼻、本当に怖いわ」
ツンがソーダを一口。
気泡が弾け、グラスから音と共に小さな水滴が途切れなく飛び上がっている。
ξ゚⊿゚)ξ 「ちょっとへまして、結構深い傷作っちゃったから、とりあえず予備人員として待機中」
( ^ω^) 「ああ、やっぱり……」
ξ゚⊿゚)ξ 「……自覚はしてるけど、不満だわその反応」
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( ^ω^) 「動いてて平気なのかお?」
ξ゚⊿゚)ξ 「ん?ああ、一応リッヒに塞いでもらったし。ほら」
ツンがブラウスの襟をはだけさせる。
隙間から見えた傷は、痛々しさこそまだ残しているもののしっかりと塞がれていた。
目を凝らせば、魔力の糸が上下の皮膚を行き来しているのがわかる。
ξ゚⊿゚)ξ 「痛みどめももらってるし、正直休む必要なんてないんだけど」
( ^ω^) 「もうちょっと、怪我しないように戦わないと」
ξ゚⊿゚)ξ 「それ、真っ向から言い返そうか?」
( ^ω^) 「おーん、返す言葉が無いお」
ξ゚⊿゚)ξ 「それに、未熟者が戦うんだから、怪我ぐらい当然でしょ」
( ^ω^) 「……リッヒには怒られなかったのかお?」
ξ。゚⊿゚)ξ 「めっちゃ怒られた。縫合麻酔なしだった」
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待ってたわ
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ξ゚⊿゚)ξ 「そう言えば、そっちはどうだったの?魔女を追って出てったって聞いてたけど」
( ^ω^) 「おー、魔女自体は、空振りだったお」
具体的にどんな状況だったかは口にしなかった。
酒を飲みながらするような話でも無い。
思い返すだけで鼻に蘇ってきた生臭さを、大五郎で流す。
ξ゚⊿゚)ξ 「それにしては、随分長居してきたのね」
( ^ω^) 「ちょっとね。ドッグの故郷で、色々」
ξ゚⊿゚)ξ 「ふーん。修行とか?」
( ^ω^) 「そんなところ」
( ^ω^) 「……と、」
グラスをカウンターに置く。
( ^ω^) 「今サロンってどうなってるんだお?来た途端に襲われたんだけど」
ξ;゚⊿゚)ξ 「え、マジ?」
( ^ω^) 「マジ。手に余るような相手ではなかったけど、ちょっとびっくりしたお」
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ξ゚⊿゚)ξ 「……うーんま、ここに店があることを考えれば、大まかには何が起こってるかわかると思うんだけど」
こういうことは苦手だ、と顔に出しながらツンもグラスを下した。
頭を指で掻き、しばし思案する様子を見せる。
ξ゚⊿゚)ξ 「……今、サロンには支店襲撃のために根絶法支持団体の主力級がいくつか集まってる」
( ^ω^) 「ほう」
ξ゚⊿゚)ξ 「禁酒党副頭領の一人、ニダー。山幻旅団フォックス。“サイボーグ”ヨコホリ」
ξ゚⊿゚)ξ 「この三人のそれぞれが、本来一つの都市を担当するだけの実力者なのね」
( ^ω^) 「……随分と力が入ってるんだおね」
ξ゚⊿゚)ξ 「でも、実際はそれほど激しい襲撃にはなって無いの」
( ^ω^) 「……ああ、なるほど」
ξ゚⊿゚)ξ 「ドクオ?」
( ^ω^) 「うん。つまり、名だたる将で大五郎の警戒を引き揚げさせて、消耗を狙ってるってことなんだおね」
ξ゚⊿゚)ξ 「そう。時々本気で潰しに来る部隊もいるから、ただの脅しじゃないのが厄介なところなわけ」
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ブーンの目はツンの胸元へ。
別にやましい気持ちとかでは無い。やましい気持ちを覚えるほどでもないし。
注目するのは、胸元を大きく裂いた傷の後。
確かにツンはまだ未熟な、もとい少々思慮の足りない部分はあるが、一人の戦士としては優秀な部類に入る。
それがこれだけの傷を作ったということから、相手の力量は推し量れた。
ξ゚⊿゚)ξ 「その上、禁酒委員会も目を光らせているから、大五郎側から討伐に打って出ることはできない」
( ^ω^) 「なるほど、キツイ状況なのはわかったお」
ξ゚⊿゚)ξ 「ほんと、こんな状態じゃなきゃ呑気にドリンクなんか啜ってないわよ」
(’e’) 「僕はツンちゃんと一緒に居られてうれしいよ〜」
ξ゚⊿゚)ξ 「私は外回りの方がうれしい」
(’e’) 「恋が一方通行で辛い」
ツンが残っていたドリンクを一気に飲み下した。
服装が女らしくなっても、男っぽさは衰えをしらない。
( ^ω^) 「そう言えば、なんでその恰好?」
ξ゚⊿゚)ξ 「治療の副作用で部屋に戻られなかったから、パートの人の服を借りたの」
(’e’) 「今の状態で一人で歩かせるのは怖いし〜、接客ならこっちの方が合うしね〜」
( ^ω^) 「なるほど」
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ξ゚⊿゚)ξ 「さて、休憩終わり!」
(’e’) 「もう少しゆっくりしててもいいのに〜」
ξ゚⊿゚)ξ 「大人しくしてるの性に合わなくて」
背伸びをするツンのエプロンの内側にナイフを見つけた。
何かしらの武器を仕込んでいるのだろう。よく見るとスカートにも歪な膨らみがあった。
靴もいつもの魔道具のブーツだ。
恐らくは、というか予測はできていたが、この娘全く安静にする気が無い。
油被って火事場に飛び込むどころか、火だるまになってから火事場に飛び込んでいくタイプである。
わかっていたけれどバカである。
( ^ω^) (……リッヒに会ったら労いの言葉をかけよう)
('A`) 『苦労のあまり泣いちゃうかもな』
ξ゚⊿゚)ξ 「……なによ」
( ^ω^) 「なんでも。傷は痛まないのかお?」
ξ゚⊿゚)ξ 「今は痛み止めが効いてるから、平気」
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支援
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>やましい気持ちを覚えるほどでもないし
さりげなくひでえ
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自分が使ったグラスを持ち、ツンが席を立つ。
カウンターの奥にある洗い場に引っ込んだ。
ブーンは自分のグラスに目を落とす。
話しながらも口をつけていたので、酒は大分減っていた。
このままもう一杯頼むか、足早に立ち去るか。
状況は何となく把握できたし、できれば早々に立ち去りたいところだが。
( ^ω^) (……)
('A`) 『もう少し残るか』
( ^ω^) (いいのかお?)
('A`) 『キュートの居場所にあてがあるわけじゃねえし、こんな状況じゃ、ツンだけじゃなくリッヒも心配だしな』
面倒事を避けるといいつつも、親交のある人間が危険にさらされるかもしれない状況を見過ごしてゆくわけにもいかない。
ツンもハインリッヒも、他人と言い切るには幾分世話になりすぎた。
せめて新たな魔女の手がかりを見つけるまでは、この街で荒事を収める役を買ってもいいのかもしれない。
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きたきたきたきた!!
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( ^ω^) 「さてっと」
ξ゚⊿゚)ξ 「行くの?」
( ^ω^) 「うんお。もう少しサロンには残ろうと思うけれど、とりあえずリッヒ探しにいくお」
ξ゚⊿゚)ξ 「あんたのことだから心配ないとは思うけれど、気を付けて」
( ^ω^) 「おっおー。服が変わると言うことも違うおね」
ξ;゚⊿゚)ξ 「うっさいわ」
懐を弄り金を収めた麻袋を取り出し中身を確認する。
ブーンとドクオ、二人分の所持金を合わせて持っていたが、流石に心元なくなってきていた。
手元にある分の他に、信頼に足る人物にいくらか預かってもらってるとはいえ、少々問題である。
食事や寝床は何とか狩りや野宿で凌げるにしても。問題は魔女に埋め込まれた呪縛、「大五郎」の確保。
こればかりは金が無くては何ともならない。
('A`) 『禁恨党のフリして荷馬車襲撃するか』
( ^ω^) (おーん。悪くは無いけど。それは最終手段で)
ξ゚⊿゚)ξ 「……どしたの?」
( ^ω^) 「ちょっと悪巧み」
ξ゚⊿゚)ξ 「……?」
* * *
-
( ,,^Д^) 「ちょっとニョロ。大人しくしてくれにゃ」
サロンの市街地から外れた小高い丘の中腹。
大五郎の傭兵、タカラ=イッコモンは首に巻き付いた蛇と格闘しながら農道を歩いていた。
蛇は、イタチと合成され、全身に柔らかな体毛を生やしたキメラである。
本来はタカラのものでは無く、同僚の少女の相棒であるが、出歩けない彼女の代わりにタカラが世話を買って出ていた。
現在大五郎の新サロン支店で給仕の真似事をしている彼女が首に獣を撒くのは流石に問題があったのだ。
なつっこい性格なので世話に苦労は無いが、暇つぶしに耳を甘噛みされると本気で痛いのでやめてほしい。
( ,,^Д^) 「……お」
ニョロと格闘しながら歩を進めたどり着いたのは、治療魔法の使い手、ハインリッヒの家である。
ハインリッヒは庭に立ち、草臥れた白衣のポケットに手を入れたままタカラのことを待っていた。
从 ゚∀从 「……よう、悪いな、態々来てもらって」
( ,,^Д^) 「気にすんニャ。半分我が家みたいなもんだし」
从 ゚∀从 「冗談になって無いからな、それ」
ハインリッヒに招かれ、家の中へ。
家主本人とは異なり清潔に保たれた屋内は、ほんの少し薬品の臭いが漂う。
リビングを抜けてそのまま診療室へ向かった。
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从 ゚∀从 「……さて、ここ数日の様子は、どうだった?」
( ,,^Д^) 「正味な話、調子自体はすこぶるいいニャ。不調を一切感じニャい」
从 ゚∀从 「……それは、よくねえな」
ため息と共に、ハインリッヒが自らの銀髪を掻き上げる。
白い肌の眉間に、深い皺が寄っていた。
从 ゚∀从 「……とりあえず、状態を見せてくれ」
( ,,^Д^) 「おう」
指示通りタカラは服を脱いだ。ニョロは傍の診察用ベッドに乗せる。
山村に生まれ、狩人として生き、傭兵となった彼の体は無駄なく引き締まっている。
歳と共に少々脂肪も乗ってきていたのだが、最近は激務続きで元の状態へ近づいていた。
从 ゚∀从 「……また、怪我をしたのか」
( ,,^Д^) 「まあ、荒事ばかりだからニャ」
体を見て、ハインリッヒはさらに顔をゆがめる。
タカラも自身に視線を落とすが、確かに気分のいい光景では無かった。
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从 ゚∀从 「診るぞ」
ハインリッヒの手が淡く光る。
そのままタカラの肩に触れ、ハインリッヒは目を閉じた。
体の中に冷たい感触が広がってゆく。
今までと比べても、最も長い診察。
途中何度か呪文を呟き魔法を組み換えた。
ハインリッヒの額には汗が浮かび、かなりの負担がかかっていることを物語っている。
从 ゚∀从 「……終わったぞ」
( ,,^Д^) 「どうにゃ?」
从 ゚∀从 「……もう一度、聞くが、本当に不調は無いんだな?」
( ,,^Д^) 「まったく」
从 ゚∀从 「……わかった。状態はかなりよくない」
( ,,^Д^) 「……そうか」
-
从 ゚∀从 「進行の速度に変化が無ければ、平穏に暮らすという条件付きで一年くらいはまあ、問題ないだろう」
( ,,^Д^) 「……」
从 ゚∀从 「あくまで、俺の治療を受け続けての話ではあるけどな」
( ,,^Д^) 「……そうか」
从 ゚∀从 「もしも、今までみたいに怪我をすりゃあ、倍以上の進行度になると思え」
( ,,^Д^) 「……」
从 ゚∀从 「あと、頭だけは本気で守れ。頭が無事なら、せめて人格は保てるはずだ」
( ,,^Д^) 「わかったニャ」
从 ゚∀从 「で、だ」
やや早口に言葉を終え、ハインリッヒが一息つく。
診察中の汗はそのまま。
心なしか呼吸を乱れている。
从 ゚∀从 「傭兵をやめるつもりはないのか」
-
( ,,^Д^) 「……難しいにゃあ。俺、弓を引くしか能ないから」
从 ゚∀从 「戦闘にかかわる場所にいれば、必然的に危険性は増す」
( ,,^Д^) 「……」
从 ゚∀从 「弓を置かないにしろ、せめて、残りの時間、家族の傍にいてやることはできないのか?」
( ,,^Д^) 「……」
从 ゚∀从 「大五郎がダメなら、VIPの知り合いに紹介する。傭兵よりは、安全な仕事のはずだ」
( ,,^Д^) 「……」
从 ゚∀从 「……家族を大事にしねえと、罰が当たるぞ」
( ,,^Д^) 「……そうだ、にゃあ」
从 ゚∀从 「……」
( ,,^Д^) 「……今の仕事が一段落したら、それもいいにゃ」
从 ‐∀从 =3
-
( ,,^Д^) 「じゃ、仕事の途中だし、帰るにゃ」
処置は、それほど時間を取らずに終了した。
もともとできることは少ないから、とハインリッヒは苦々しく呟く。
この男らしい反応だ。患者本人よりも、患者の体に気を遣っている。
从 ゚∀从 「……すまない」
( ,,^Д^) 「なにがだにゃ?」
从 ゚∀从 「毒の治療の時に、俺がもっと入念に診察していれば、対処のしようはあったかもしれない」
( ,,^Д^) 「……俺はあの時一回死んだようなもんだにゃ」
从 ゚∀从 「……」
( ,,^Д^) 「リッヒには、感謝しても恨むことなんかできねえにゃ」
从 ゚∀从 「……すまん」
ぱたりと、扉を閉める。
頭を掻いて、欠伸をひとつ。
外に出れたのがうれしいのか、ニョロが頭を遊ばせて周囲を見渡している。
( ,,^Д^) 「さて、帰るかにゃ」
呟いて再び欠伸をひとつ。
空気の割れるような爆発音が遠くから響いてきたのは、そのすぐ後だった。
* * *
-
〈::゚−゚〉 「……中々似合っているじゃないか」
ミ´・w・ン 「ね。なんか違和感あるけど可愛いっすよね」
ィシの反応は、大よそ他の知り合い共と同じだった。
少し驚いて、上から下、下から上へと視線を動かして、短く考えたあと、一応誉める。
不満だ。
そんなにスカートが珍しいかと。
なんか芋虫を初めて食った人が「意外と美味いな」と言って居るのと同じ反応で、なんかムカつく。
確かにツン自身慣れずに戸惑っているけれども。
ξ゚⊿゚)ξ 「……この間の、返事をしに来た」
遅番で出勤したベルと入れ替わり、ツンは支店を出ていた。
ジョーンズが怪我の療養のためにも早く戻れと言っていたので大人しく甘えさせてもらった。
ミンクスを付き添いに借り、来たところは禁恨党の拠点なのだけれど。
〈::゚−゚〉 「……ああ、聞かせてもらおう」
場所は、サロン近郊の牧場の物置小屋。
小屋といってもかなり広く、設備さえ整えれば居住することも可能そうだ。
現にいくつか、寝床に使用しているらしい藁の塊が見えた。一つにはシーンが胡坐をかいている。
ξ゚⊿゚)ξ 「私も、禁恨党に入ろうと、思う」
ミ´・w・ン 「おっ」
-
椅子に座り、ィシと対面する構図。
出入り口傍の壁に寄りかかっていたミンクスがいかにも嬉しそうな声をあげる。
しかしイシは大きな反応を見せず、ツンの目をまっすぐ見つめていた。
この先に続く言葉があることを、見抜いている。
ツンは少し息を吸い直して、ィシの視線に答えた。
ξ゚⊿゚)ξ 「でも、条件がある」
〈::゚−゚〉 「条件とは?」
ξ゚⊿゚)ξ 「私自身の敵討ちが終わるまで、一緒に行動することは、待ってほしい」
〈::゚−゚〉 「……」
ミ;´・w・ン 「いや、それじゃ意味ないんじゃ」
〈::゚−゚〉 「ミンクス」
ミ;´・w・ン 「あ、ハーイ、大人しくしてマース」
ξ゚⊿゚)ξ 「禁酒党や、根絶法支持のテロから関係ない人たちを守る。私も、その一員になりたいと思う」
ξ゚⊿゚)ξ 「でも。私には、自分の力でやらなきゃいけないことが、あるの」
-
小屋の中が、沈黙に包まれる。
ィシ、シーン、ミンクスの他にも三人の禁恨党員がいたが、誰も口を開かなかった。
意外だ、と思う。
ツンの言っていることは、ただのわがままだ。
禁恨党側からの誘いとはいえ、条件を付けるほどの対等な力関係でないことは自覚している。
それなのに、禁恨党側からは「ふざけるな糞アマ」に類する発言は一切ない。
何かしら呆れたり批判されるなりの反応を予想していたツンとしては、すこし拍子抜けだ。
〈::゚−゚〉 「……仇が誰か、わかっているのか?」
ξ‐⊿‐)ξ゙
首を横に振った。
大五郎にあった記録をツンの両親が殺された時期まで遡って見たものの、それらしいものは見つからなかった。
そもそも、襲撃が多すぎたのだ。
当時二月程度の襲撃記録だけで、百科事典に並ぶ厚さがあった。
しかも、それでもすべての襲撃事件を網羅していたわけでは無い。
あれを見れば、この国から大五郎以外の酒造や酒店がほぼ消えたのが納得行く。
まともな神経、思想のもとに行われたものとは思えなかった。
〈::゚−゚〉 「……そうか」
-
ξ゚⊿゚)ξ 「禁恨党でも、何か知らない?九年前の、秋ごろなんだけど」
〈::゚−゚〉 「……いや、我々も自分の敵を明確に把握していないものがほとんどだ」
ξ゚⊿゚)ξ 「……そっか」
〈::゚−゚〉 「もしも、だ」
ィシの声のトーンが僅かに変わる。
シーンの眉が動いた。
〈::゚−゚〉 「君が追う仇が、既に死んでいたら、どうする」
ξ゚⊿゚)ξ 「……」
〈::゚−゚〉 「あり得ない話では無い。九年前といえば、酒造連盟と根絶法支持側との抗争が佳境を迎えていたころだ」
〈::゚−゚〉 「その中で死んだ、ということも十分にあり得る」
ξ゚⊿゚)ξ 「……考えたことが、無かったわけじゃないけど」
木の軋みがギイとなった。激しくも濁った風の音が聞こえる。
吊るされランタンの光が、ゆらりと影を揺すった。
風が吹き、小屋全体が揺れているらしい。
-
ξ゚⊿゚)ξ 「なんでか、生きているような気がする。確信は、無いけど」
〈::゚−゚〉 「優秀な傭兵だった君の父上と母上を屠った相手だからか」
ξ゚⊿゚)ξ 「……そう、なのかな。でも、私は話に聞いてただけで、戦っているのを見たことはほとんどなかったし」
〈::゚−゚〉 「……」
ξ゚⊿゚)ξ 「家で何かもめごとがあっても、大抵は見回りの傭兵さんたちが何とかしてくれていたし」
ξ゚⊿゚)ξ 「強いんだって思ってはいたけれど、目で見て実感したことはなかったから」
〈::゚−゚〉 「……」
ξ゚⊿゚)ξ 「ただ、殺せる状態でいてほしいっていう希望的な勘なのかもしれない」
憎き相手に生きていてほしい希望とは滑稽だな、と思った。
しかし、それは紛れも無い本心で。
どうせ誰かの手で殺されるならば、その手は自分のものであってほしい。
否、そうでなければ、そうしなければ、ツンの腹の底でとぐろを巻いているこれは、決していなくなりはしないだろうから。
-
ξ゚⊿゚)ξ 「あの」
〈::゚−゚〉 「ん?」
ξ゚⊿゚)ξ 「ィシさんは、誰を誰に?」
〈::゚−゚〉 「……」
ξ゚⊿゚)ξ 「答えたくないなら、いいんだけど」
〈::゚−゚〉 「夫だ。酒造連盟に雇われ、酒場の警備を任されていた」
ξ゚⊿゚)ξ 「相手は、やっぱり……」
〈::゚−゚〉 「ああ。『サイボーグ』、ヨコホリ=エレキブラン」
ξ゚⊿゚)ξ 「……」
〈::゚−゚〉 「奴は長いからな。うちに居るメンツのいくらかは、奴に家族や友人を奪われている」
ξ゚⊿゚)ξ 「だから、優先してあいつを狙ってるのね」
〈::゚−゚〉 「向こうの重要な戦力でもあるからな。被害を増やす前に、潰しておきたいというのもある」
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ξ゚⊿゚)ξ 「……私の仇が、あいつってことは?」
顎に手を当て、ツンが呟く。以前からその考えはあった。
ツンの両親が襲われた時と、支店が襲撃された時の手口が似ているのと、
なんかとりあえず不快な人間だ、というそれだけなのだけれど。
ヨコホリの使う風の砲撃は、特別珍しい魔法では無い。
風の魔法自体が(魔法全体で見れば)手軽な上に、直撃であれは即死程度の威力もある。
特に戦闘を生業とする者たちには好まれる魔法だ。
故に、その特徴だけで断定することは出来ずにいた。
ミ´・w・ン 「……」
〈::゚−゚〉 「……可能性はゼロでは無いな」
ξ゚⊿゚)ξ 「だとすると、今から一緒に行動するのも、悪手ではないのかな……」
ヨコホリは常に奇襲する側だ。
ツンが接触しようとしても逃げるか、あしらうかのどちらか(一回色々危なかったけれど)。
その上ィシたちがサロンで活動を始めてからは、姿そのものを見せなくなっていた。
実際に接触できるかはともかく、ただ受けに回る側よりも討ちに向かう禁恨党と共にいた方が気分がいい。
-
ミ´・w・ン 「……でもさあ、仮にヨコホリが怪しいとしてさ、どうやって確かめるの?」
ξ゚⊿゚)ξ 「直接聞く」
ミ´・w・ン 「答えるか分からないし」
ξ゚⊿゚)ξ 「とりあえず殴る」
ミ;´・w・ン 「そもそも星の数ほど殺してるやつだから、忘れてるかもしれないし」
ξ゚⊿゚)ξ 「なんにせよあいつはブッ倒す」
ミ;´・w・ン 「……」
仇かどうかを差し引いても、ヨコホリには少なからず因縁がある。
現状で最も叩き潰して地面に埋めたい敵だ。
それに、いくらか恩のある禁恨党の怨敵となれば、もはや「仇じゃないから」で見逃せる相手では無い。
〈::゚−゚〉 「もし、奴が君の両親の敵だったら?」
ξ゚⊿゚)ξ 「……その時は、悪いけど一人でやらせてもらう。それは譲れない」
〈::゚−゚〉=3
大きなため息。
表情は変わっていないが呆れやその他もろもろの、少なくとも喜びでは無い感情がうっすらと滲んでいる。
-
〈::゚−゚〉 「断言するが、今の君では絶対に勝てんぞ」
ξ゚⊿゚)ξ 「勝てないから諦めるくらいなら、こんなところにいないわ」
〈::゚−゚〉 「……少しは、自分を大切にしろ」
ξ゚⊿゚)ξ 「投げ出すべき時には、投げ出すつもりで生きてきた。それは変えられない」
〈::゚−゚〉 「……」
ミ;´・w・ン 「まあまあ、まだヨコホリが仇ってのは、仮定の……」
剣呑な空気に耐え兼ね、ミンクスが二人をなだめようとしたとき、入口の扉がノックされた。
全員の動きがぴたりと止まる。
突然の来訪者に対する当然の警戒。
ここにいるのは飽くまで、禁恨党という「賊」である。
禁酒委員会のみならず、治安維持のための憲兵ですら遭遇は避けなければならない。
この本来人の寄り付かない小屋の扉をノックした、その人物の正体と目的を全員が推し量っている。
逆に目立つという理由から、見張りの類を立ててはいなかった。
不用心なようではあるが、シーンが常に索敵の魔法を張っているため安全性はそれなりに確保されていたのだが。
〈::゚−゚〉
( ・−・ )゙
ィシの目線にシーンが首を振って応えた。魔法による索敵はできなかったらしい。
緊張が高まる。恐らく一般人の類では無い。
-
コンコン。
ξ゚⊿゚)ξ 「……」
ツンは腰からナイフに手をかけた。
ィシがそっと、椅子の足に立てかけていた剣を引き抜いたのを見たからだ。
少なくとも彼女は、扉の向こうにいるのが友好的な存在ではないと考えている。
ミ´・w・ン 「はいはい、どちらさん?」
普段通りの間抜けな声でミンクスが返事をした。
全員が息を殺して返答を待つが、一向に来る様子が無い。
壁に張り付き、ミンクスがドアの閂に手を添える。
目で、小屋の中にいた全員に合図を送った。
シーンは静かに魔法式の展開を始め、党員の一人がスリングショットに小石を装填しゴムを引き絞る。
ツンもシーンに倣い身体強化の魔法を展開。
ニョロをタカラに預けっぱなしにしたことを少しだけ後悔する。
ミ´・w・ン 「……」
ミンクスが最後の確認。
閂を指ではじいて外し、そのまま一気に扉を叩き開いた。
蝶番が外れるのではと心配になるほどの勢いで現れた外の景色。
長方形のそこには、何者の姿も存在しなかった。
-
そして、扉とは真逆の壁の向こうに突然現れた、強い魔法の気配。
〈::゚−゚〉 「!!、全員壁から離れろ!!」
ィシがそう叫んだのと同時。
僅かな魔法の気配を二つ先行させて、壁がはじけ飛んだ。
空気の痺れる爆発音に、薄い木材が瓦礫に代わる音。
その中に、血煙と、スリングショットを握る腕をツンは見つける。
一つ目の砲弾が壁を破壊し、二発目が彼の肩口を捕らえた。
肉片になった彼の胴は瓦礫と共に吹き飛び、残っていた対面の壁に張り付いてゆく。
〈::゚−゚〉 「シーン!!」
荒れ狂う木端と埃の中、再び魔法の気配を察知する。
今度は三つ。
壁は完全に破壊されているし、障壁にできるものは存在しない。
ξ゚⊿゚)ξ 「!」
一瞬見えた砲弾が、空気中に解けるように消えた。
それまで組んでいた攻撃魔法を放棄し、シーンが分解したのだ。
相変わらずの速度と精度。
続いてきた数発の魔法攻撃も、一発たりとも炸裂させずに消し去られた。
-
(//‰ ゚) 「グッグッグ……相変わらず面倒な小僧だ」
( ・−・ ) 「……」
ツンは、皆を守るために前に歩み出たシーンの横顔を見て、額に汗を滲ませた。
口数の多い男ではないし(そもそも喋らないし)、何を考えているか分からない男であったが、今だけは彼の胸中が分かった。
怒り。
彼の全身から途端に立ち上った魔力が、まるで炎のように揺らめく。
その波動は制御されることなく、味方であるツンたちの皮膚さえ震えさせた。
〈::゚−゚〉 「……まさか貴様から来るとはな」
(//‰ ゚) 「元々我慢は苦手でなァ……やられる前にやろうと思って来てみたンだが」
ィシが剣を構える逆の腕には、吹き飛ばされた男の腕があった。
もう一方の腕と足、半壊した頭が辛うじてつながっている体は、ミンクスが丁寧に抱き上げ壁によりかけさせる。
ツンは、それをできるだけ見ないよう、ヨコホリを睨みつけた。
死人は苦手だ。
血の臭いを鼻から追い出し、歯をかみしめる。
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(//‰ ゚) 「できりゃァあんたか、小僧のどっちかをやりたかったンだが。惜しかったなァ」
被弾した男は、ヨコホリとィシを結ぶ射線上にいた。
もし、彼がいなければ、吹き飛ばされていたのはィシだっただろう。
シーンが一歩前に出た。
ヨコホリはたじろぐ様子なく、その鋼鉄の腕を差し出し、狙いを定める。
(//‰ ゚) 「小僧。近づいて、俺の心臓を分解しようとすルのは構わねえがよ」
( ・−・ )
(//‰ ゚) 「俺は、てめえが俺を殺すより先に、てめえを殺すぜ」
( ・−・ )
シーンは、純粋な魔法使いだ。
お世辞を込みにしてもヨコホリと格闘戦をやり合える膂力があるようには見えない。
ヨコホリの「命」を司る魔法を解析、分解するのに最低限詰める必要のある距離は、ヨコホリの格闘攻撃の範囲内。
シーンは、まだ触れたことすらない魔法の解析と分解を、ヨコホリが間を詰め攻撃を行う一瞬の内に行わなければならなくなる。
賭けにしても分が悪い。
恐らく、負けるだろう。
しかし、その賭けをいくらか盛り返すだけの戦力が、この場には存在していた。
-
〈::゚−゚〉 「お前の指一つ、シーンには触れさせんよ」
膝を折り亡骸に腕を返し、ィシは立ち上がった。
剣を捨て、ミンクスが藁の山から引き抜いたハルベルトを受け取りシーンの横に並ぶ。
(//‰ ゚) 「だから嫌なンだよなァてめえらは!」
ィシが前へ。ハルベルトを腰に腰元に引き、刺突の構え。
ヨコホリはすぐさま魔法を放ったが、全て消える。
〈::゚−゚〉 「フンッ!」
(//‰ ゚) 「シィッ!」
金属同士がぶつかり合う残響。
突き出されたハルベルトを鋼鉄の手が掴むように受け止めた。
ィシの勢いはそれでも止まらず、力任せにヨコホリを突き飛ばす。
体勢を調えながら、ヨコホリは魔法を乱射。
全てシーンが分解するが、そのおかげでシーンは他の行動に移られない。
ィシが介在しなければシーンはヨコホリの解析は難しく。
ィシがヨコホリと戦う間は彼女を守るために魔法を分解せねばならない。
少しずつ解析は行っているようだが、精神、脳への負担は非常に多くなるはずだ。
-
おお支援
-
ξ#゚⊿゚)ξ 「……“ビートアップ!!”」
ミ;´・w・ン 「ちょ、ディレートリ!なにしてんの!」
ξ#゚⊿゚)ξ 「援護するに決まってるでしょ!」
ミ;´・w・ン 「ダメだよ!僕らみたいな半端モンが介入したら姉御たちの負担を増やすことになる!」
ξ#゚⊿゚)ξ 「上手くやるわ!」
ミンクスの制止を振り切り、ツンはヨコホリに突っ込む。
身体強化の魔法を活かしィシの頭を飛び越え、ヨコホリの頭部に蹴りを放った。
スカートが多少捲れ上がるが、気にしない。
(//‰ ゚) 「!」
〈::゚−゚〉 「!」
ξ#゚⊿゚)ξ 「ダッシャァ!!」
丁度、ィシが深く踏み込みヨコホリの胴を薙ぎ、ヨコホリがそれを受け止めたタイミングだった。
鋼鉄の腕は、ハルベルトの斧刃を抑えるために塞がっている。
チャンスではあったが、しかしヨコホリが一枚上手。
頭を蹴り抜くかに思えた鉛を仕込みの靴底は、左腕に阻まれた。
-
並ならぬ腕力だ。
慣性を含んだツンの体重を丸々受け止めまるで体幹がぶれない。
ツンはそのままヨコホリを足場にぴょんと跳ねて、背後に回り込む形で飛び降りた。
ィシとツン、挟み撃ちの形にもヨコホリは動揺を見せない。
組み合ったハルベルトを弾き、肩ごしに掌を背後へ。
着地と同時に切りかかろうとしていたツンに対し魔法を放つ。
シーンからは死角。
分解が間に合わず地面が爆ぜる。
元よりシーンに頼るつもりの無かったツンは、大きく横へ転がり回避していた。
この隙に、ィシは弾かれたハルベルトを、そのまま上体ごと大きく振り回す。
左右の手を持ち替え、回転の力を殺さぬまま、逆からヨコホリの首を薙いだ。
ヨコホリは転がって逃げるツンに腕を向けなおして追撃を放ちつつ、ィシの一撃を掻い潜って躱す。
攻撃後の隙だらけのィシの腹へ、姿勢を持ち上げながら半歩踏み込み。
ツンヘ向けていた右腕を引き戻し、掌底の打撃と魔法の同時攻撃を放つ。
ィシの攻撃がかわされた瞬間にシーンは魔法分解の為の魔法式の展開を始めていた。
今までと同じ魔法であれば解析せずとも分解が可能だ。
打撃ばかりはどうしようも無いが、魔法は発動と同時にキャンセルに成功する。
シーンの援護を信頼していたィシは、掌底のダメージを殺すことだけに意識を切り替えた。
回避は絶対に間に合わないが、反撃を合わせることは可能だと本能的に判断。
振り切ったハルベルトの切っ先をくるりと翻し、そのままスコップを掬い上げる要領で振り上げる。
ヨコホリの掌底がィシの脇腹を捉えたのと同時。
矛先がヨコホリのジャケットを、皮膚を、掻っ捌く。
-
(//‰ ゚) 「カァァッ!」
脇腹から胸元にかけて、浅く皮膚を割かれたヨコホリ。
やや姿勢をぶれさせたものの、後退しながらィシに砲撃を行った。
もちろんシーンがすべてキャンセルしたため、当たりはしない。
しかし、威力を多少殺したとはいえ直撃した掌底は、確実にィシの足を鈍らせていた。
砲撃を続けながらもヨコホリは素早くィシへ間合いを詰める。
この状況ならば、攻撃は十分に防御を抜けるだろう。
ξ#゚⊿゚)ξ 「どっ」
が、痛烈な殺気に、ヨコホリは視線を横へ流す。
ξ#゚⊿゚)ξ 「せえええい!!!」
少々体勢を立て直すのに手間取ったが、間に合った。
ブーツの魔法を発動し、二重に強化された脚力でツンが蹴りかかる。
頭部を薙ぎ払う形で放った蹴りにヨコホリは右腕を合わせて防御した。
激しい衝撃。
ツンの足がビリビリと痺れた。
ブーツの加護なしだったら、骨が割れていたかもしれない。
現状でも正直涙が滲むくらいには痛かったが、昂った精神はそれを上手くごまかしてくれた。
着地したツンヘ、ヨコホリは魔法の連射。
大きく後転しこれをやり過ごす。
-
ξ#゚⊿゚)ξ 「シーンさん!私の援護はいいらないから、解析に集中して!」
( ・−・ )bそ
(//‰ ゚) 「グッグッグ、今日は随分愛らしい恰好してるじゃねえか」
ξ#゚⊿゚)ξ 「……」
(//‰ ゚) 「しかしその下着はいただけねえな。色気が無さすぎル」
ξ#゚⊿゚)ξ 「下着じゃなくて、短パンだ!」
着地の姿勢で屈んでいたツンの足元の土が飛び散った。
魔法の補助を受けた蹴りは地面を抉り、ツンの姿は残像を遺すほどの速さで横へ流れる。
このまま一撃ぶちかます。
ヨコホリの体の強度は以前に見て知っているが、対策は考えていた。
ニョロの居ないこの状況、魔法攻撃は諦め、とにかく格闘戦に集中しなければ。
-
(//‰ ゚) 「ヨっと」
ツンを目で追いながら、ヨコホリは右手を左の脇へ。
さりげなくィシに狙いを定め、魔法を放つ。
〈::゚−゚〉 「!」
( ・−・ ) 「!」
態々大きく腕を構えて撃つ動作に慣れてしまっていたため、僅かにだがシーンの反応が遅れた。
ィシが自力で横へ回避するも、避けきれない。
体に直撃する寸前でなんとか分解は間にあったが、二人の額からは大きな汗が流れ落ちる。
(//‰ ゚) 「チィッ」
ξ#゚⊿゚)ξ 「ハァ!」
無視された腹立たしさをそのまま脚力に変え、ツンは真正面からヨコホリへ。
突進の勢いのままナイフを大きく引き、振りかぶる。
(//‰ ゚) 「シィッ!!」
ィシを狙撃したその体勢から、ヨコホリが右腕を振り上げた。
丁度居合抜きの要領。
するどい手刀の斬撃がツンを迎え撃つ。
-
ξ; ー )ξ
ツンはその瞬間、口の端を持ち上げた。
(//‰ ゚) 「?!」
ナイフ如きでは通用しないことも、その安心からヨコホリが反撃に来ることも、ちゃんとわかっていた。
その上であえて飛び込んだのは、もっと確実な目的があったからだ。
上体を、体が軋むほど大きく倒し、手刀を掻い潜った。
耳元で空気が切り裂かれ、甲高い音が鼓膜をしびれさせる。
予測してはいても、当たれば即死級の攻撃には肝が冷えた。
しかし、動きは止めない。
倒した体を起こし、その一連の流れでナイフを肋骨の隙間に向かって突いた。
体勢の開き切っていたヨコホリは、成す術なく身体でナイフを受け止める。
まるで、革張りの盾を突いたようだ。
刃がロクに潜らず、いとも簡単に止まってしまう。
(//‰ ゚) 「良い動きだが、残念。俺の体はまともじゃねえンだ」
ξ゚⊿゚)ξ 「残念、まともじゃないことは知ってるわ」
(//‰ ゚) 「?!」
-
ξ# ⊿ )ξ 「ハァァァァァァッ!!」
(//‰ ゚) 「グッ!」
突き刺したナイフの先端から、ヨコホリの体にありったけの魔力を叩き込んだ。
ヨコホリ=エレキブランは魔女によってゴーレム化している。
体が鉱物で構成されているゴーレムを倒すには、圧倒的な力で破壊するか、原動力の魔力を乱すか。
破壊するためには天叢雲並の魔法が必要だ。
そもそも戦士として各上のヨコホリに、使いこなせない魔法で挑むのはさすがのツンも倦厭する。
だからこその、魔力強制ぶち込み注射である。
本来であればこういった「他者の魔力を乱す」ための手順もあるのだが、面倒なので力技。
無理やり、強引に、自身の魔力を殺気に乗せて、ヨコホリの体に送り込む。
(//‰ ゚) 「ガァッ!」
-
振り切っていた右腕を、ヨコホリは全力で殴り下ろした。
ツンはナイフを引き抜きこれを何とか躱す。
直撃は免れたが、こめかみに掠める。
意識が飛びそうになった。
脳が揺れ、目の前がかすむ。
切り裂かれた瞼の上から血が流れ出、目に入った。
(//‰ ゚) 「ハァーッ、こンな強引な魔力の送り方があルかよ」
ξ ⊿゚)ξ 「……」
(//‰ ゚) 「流石の俺も、こンな方法への対策は練って無かったぜ」
ヨコホリの右腕が、細かに痙攣していた。
意識ははっきりしているようだが、本人の言葉通りいくらかは効果があったらしい。
ξ ⊿゚)ξ 「一つ、聞きたいことがある」
(//‰ ゚) 「良いぜ、ご褒美だ」
ξ ⊿゚)ξ 「……『酒処しそ屋』っていう居酒屋に、覚えは?」
〈::゚−゚〉 「……」
(//‰ ゚) 「ンン?なんだそりゃァ」
-
ξ゚⊿゚)ξ 「……そう」
ヨコホリの後ろから、ィシが迫るのが見えた。
ツンも手に、足に、打ち込み用の魔力を纏わせる。
(//‰ ゚) 「なンだよ、もっと楽しい質問でもいいンだぜ?」
ヨコホリの右腕が、頭を掻くような気軽さで背後からのハルベルトを防ぐ。
この隙に乗じ再び懐に潜ろうとしたツンの襟首を左腕が掴んだ。
(//‰ ゚) 「ハァッ!」
ツンの体が宙を浮く。無理やり放り投げられ、首が絞めつけられた。
空中で何とか体を捻り着地するが、思いのほか締め付けられた首に、つい噎せる。
ブラウスのまま、襟のボタンを外さなかったのは失策以外の何物でもない。
ヨコホリはィシのハルベルトを弾き、問答無用で魔法を叩き込んでいた。
一発一発の完成度は落ちているようだが、それでも危険な威力には変わらない。
シーンが眉間に皺を寄せながら相殺してゆく。
そのままヨコホリはシーンへ。
目的を切り替えたのだ。
ィシを無視し、強引に天敵を討つ方へ。
-
〈::゚−゚〉 「く!」
ィシが咄嗟に割って入る。
ヨコホリは三発を横に線を引く形で地面へ。
土を舞い上げ視界を潰す。
次いでこの怯みを利用し、ィシを右腕で薙ぎ払った。
ハルベルトの柄が直撃を防ぐも、ィシの体は横へ流される。
ミ;´・w・ン 「ニャロメ!!」
一応ミンクスがシーンの前に立ったが、ものすごい頼りない。
簡単にやられる未来しか見えない。
ごめんほんと頼りない。
ィシの稼いだ僅かな時間に、ツンもヨコホリを追う。
呼吸はいくらか整った。
残り僅かのブーツの魔法を解放し、体を風に変える。
(//‰ ゚) 「カカッ!」
愉快そうに笑いながら、ヨコホリは地面に向かって空弾を乱発する。
弾けて衝撃と共に舞い上がる土くれ。
手から地面への短距離間で分解を行うのは容易くは無く、どうしても漏れが出てしまう。
-
ξ# ⊿゚)ξ 「ダァ!」
蹴りの射程に入り、ツンは跳んだ。
ブーツの魔法はこの瞬間に解けたが、代わりに魔力を集中させる。
躱されない限りは、また無理やり打ち込んでやるのだ。
が。
(//‰ ゚) 「魔力が昂りすぎて、見なくても攻撃がわかルぜ?」
振り向きざま、ヨコホリが右腕でツンの足を掴んだ。
跳び蹴りの勢いを利用したまま振り回し、傍に迫っていたィシに対し放り投げる。
刹那の判断でィシがツンを抱き留めたが、二人そろって絡まりながら地面へ倒れた。
ィシはぶつかり合った衝撃で、ツンはそれに振り回されて頭に血が寄ったダメージを上乗せ。
気合いで立ち上がるも、ふらついてヨコホリを追える状態では無い。
ミ;´・w・ン 「!!」
残るはミンクスと、見かねて入ったもう一人の党員。
バカにするわけでは決してないが、無理だ。
実力うんぬん以前に、二人とも完全に腰が引けている。
-
〈::゚−゚〉 「シーン!!」
( ・−・ ) 「!」
ミ;´・w・ン 「く、くそ!!」
ξ; ⊿゚)ξ (ダメだ!)
剣を構えるミンクス。
魔法を放ちながら接近するヨコホリ。
ツンの脳裏には、ミンクスともう一人が跳ね飛ばされ、シーンが仕留められる映像が、嫌な生々しさを持ってよぎる。
しかし。
(//‰ ゚) 「グッ!?」
ヨコホリとは異なる僅かな魔法の気配。
真横から飛来した青白い矢がヨコホリの首に突き刺さる。
ついで、やや間をおいて鎌鼬の魔法がヨコホリの膝を真一文字に切り裂いた。
どちらも浅いが、足を止めさせるのには十分な威力だ。
-
( ,,^Д^) 「もういっちょ!!」
ツンの視線の先には、弓を携えた男が一人。
大五郎のジャケット。タカラだ。
そうなると、首元でやたらピコピコと動いているひも状のものが。
ξ ⊿゚)ξ 「ニョロ!!」
( ,,^Д^) 「俺は無視かにゃ?!」
言葉と同時に矢が放たれる。
相変わらず青白いそれはやや弧を描き、正確にヨコホリへ飛来。
(//‰ ゚) 「次から次へと!」
ヨコホリは後退しながら矢を腕で払う。
この隙に乗じたのは、ミンクス。
たまたま目の前にがら空きの胴が見えたので。
ミ;´・w・ン 「うぇい!」
剣で突いたら刺さった。
硬い身体に深くは通らないが、ヨコホリの顔が不快に歪む。
-
(//‰ ゚) 「……少し遊びずぎたな。悪い癖だ」
左手で矢を引き抜いて捨て、右手でミンクスの剣を握ってへし折り、ヨコホリは後退する。
状況の不利を察したというよりは、時間制限に舌を打ったように見えた。
それもそのはず、周囲には複数の人影が見えた。
騒ぎを駆けつけてタカラのみならず人が集まってきたのだ。
そして、今のサロンで集まってくるとすれば、何かと荒事の好きな連中である。
根絶法側か、大五郎か、どちらかは判断つかない。
なんにせよ禁恨党とヨコホリ両者にとって都合のいい展開では無いだろう。
(//‰ ゚) 「仕方ねえ、帰ルか」
〈::゚−゚〉 「この好機、逃がすわけには……」
〈;;(。个。)〉 「そうはいかんな」
〈::゚−゚〉 「?!」
ハルベルトを構えたィシの目の前に、突然一人の人物が飛び込んだ。
あまりの唐突さに、この場にいた全員が面を喰らう。
〈;;(。个。)〉 「……ヨコホリ、引け。大五郎と禁酒委、両方がかぎつけた」
篭っているためはっきりとはしないが、男の声だ。
奇妙な面をし、黒い布を巻きつけるように纏っている。
足に見えたのは、脚甲。独特の黒い光沢は恐らく鋼だ。
-
〈::゚−゚〉 「……全員、引くぞ」
ξ ⊿゚)ξ 「でも!」
〈::゚−゚〉 「こいつが出てしまっては、不利なのはむしろこちらだ」
ィシの指示に従い、シーンとミンクスともう一人は駆け出した。
ツンは無視して飛び掛かろうとしたが、ィシに首根っこを掴まれる。
再び首が絞まった。苦しい。
〈;;(。个。)〉 「……」
(//‰ ゚) 「ァーァ、つまんねえな」
ヨコホリも駆け出した。
どうやら近くに馬を隠していたらしく、素早くまたがり腹を蹴る。
残ったのは、ィシと首根っこを掴まれたツン。
そして、どこを見ているかもわからない、仮面の男。
-
〈;;(。个。)〉 「……また会おう。ィシ=ロックス」
〈::゚−゚〉 「出来れば、二度と見たくなかったよ。貴様はな」
その一言だけ、ィシもツンを担いで走り出す。
少し抵抗したが、戦うべき相手が居ない状況ではどうしようも無く、ツンも大人しく従うことにする。
仮面の男も、振り向いた時にはもう姿が見えなかった。
ξ ⊿゚)ξ 「どこに逃げるの?」
〈::゚−゚〉 「すぐ近くに隠れ家がある。とりあえずそこへ逃げ込み、やり過ごそう」
ξ゚⊿゚)ξ 「もう一つ。あいつ、誰?」
〈::゚−゚〉 「……『逆さ男』」
ξ゚⊿゚)ξ 「さかさおとこ?」
〈::゚−゚〉 「ああ。禁酒党、山幻旅団、禁酒委に並ぶ、私たちの天敵だよ」
-
今回ここまで
新スレ&久々の投下ですた。
どうにも遅くなるので、今後は予告スレを利用する形でゆきますね。
次はまた、まあ秋よりは早く来る気概で。
-
乙です 予告見て飛んできました!
取り急ぎ支援絵描きました
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_1092.jpg
-
>>67
やっほう!
相変わらずなだらかなツンさんでとても良い感じです
-
乙
-
ω・)乙
-
仕事終わって憑かれてたけど元気でてきたわ
-
憑かれてただと……!
-
乙!
-
ツンちゃんの可愛さが大変分かりやすい回でしたブヒィ
乙
-
乙ー。タカラの死亡フラグがいよいよヤバい領域に……
-
相変わらずバトルがハードだなww
ブーンが何してたか気になる
-
おつ
相変わらずここの横堀はかっこいいな
-
きてたのか
相変わらず面白い
-
みんななら知ってると思うが28日の20:00に投稿だってwktkが止まらないよーうがー
-
>>80
マジで!!
知らんかった!!
-
明日の投下を見られるか分からないので今支援しておこう
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_1288.jpg
-
(´・ω・`)楽しみだ
-
ω・)wktk
-
申し訳ないけれど結構遅くなるよ……
多分10時くらいならいけるかもしれないが、明日になるやもしれませぬ
そんときはまたなんかしらレスつけます
-
あいよ!
-
△
(=゚ω゚)ノ
( x)
)ノ
)
(
c⌒っ。ω。)っ....
投下は明日の夕方頃に
ごめんぬ……
-
おk
-
私待ってるからぁ!金麦と待ってるからぁーー!
-
いまはゆっくり休むんだ……!
-
エターならなければおk
-
ω・)ウンウン
-
17:30目処に投下する
-
〈;;(。个。)〉 「各員、配置についたようだな」
サロンシティの中心部から北へ数キロ。
霊峰イチ山に連なり、オーマ湖を囲う森の中に、その男はいた。
『逆さ男』
顔を隠すために着けた仮面が、笑顔の男を逆さまにした模様のためそう呼ばれるようになった。
自分で選んだものでは無い。
他人に与えられたものを、ただそのままつけた。
顔を隠せれば、なんでもよい。
ただ、『不慣れな職人が間違って模様を描いた不良品』という由来は、少しだけ気に入っている。
(//‰ ゚) 「……よくもまあ、これだけの人数が集まるもンだ」
〈;;(。个。)〉 「……」
(//‰ ゚) 「そこまでして潰す必要があンのかね」
〈;;(。个。)〉 「……」
(//‰ ゚) 「睨むなよ、『逆さ』。仕事なンだからしっかりやるさ」
〈;;(。个。)〉 「……そうしてほしいものだ」
-
待ってた待ってた!支援!
-
ヨコホリが禁恨党のアジトの一つを襲撃してから、二日が経った。
成果はいまいちではあったがそれでいい。
目的は、禁恨党の頭に血を登らせること。
そしてそれを自覚させ、彼らの持ち味であるフットワークを鈍らせること。
〈;;(。个。)〉 「ィシ=ロックスは力だけの女でない。故に、そのいくらか賢いオツムに、自分の動きを制限してもらう」
(//‰ ゚) 「あー、やだやだ。お前は、もう少し敵をバカにしてやれよ」
〈;;(。个。)〉 「……俺は臆病なんでな」
恐らく、目的は十分に達成しているだろう。
あの襲撃から数度、あえて情報を流したうえで散発的に騒動を起こしているが、禁恨党の反応は鈍い。
楔を打つことは叶った。
あとはその楔が望みのタイミングで外れてくれれば良い。
〈;;(。个。)〉 「さて……」
現在、早朝のまだ日が出かかってすらいない頃。
大五郎の守備が最も薄い時間であり、故に、禁恨党が最も警戒を高めている時間。
狙うのに、これ以上の時間は無い。
-
(//‰ ゚) 「……合図だ」
森の中でも小高い山の、枝を払った木の上。
見通しは非常によく、サロンシティの全体が一望できた。
気候にも恵まれ、朝靄も視界を遮るほどの濃度は無い。
その、サロンシティの各地で、細い煙が上がり始めていた。
狼煙。今日のために集めた人員たちが配置についた合図だ。
ヨコホリが横目で逆さ男を見る。
仮面の中で、小さく息を吐いた。
できれば実行せずに何とかしたかった。
彼が合図を送れば、この、まだ辛うじて長閑と呼べるサロンの街は、戦場に変わる。
(//‰ ゚) 「……やらねえのか?」
〈;;(。个。)〉 「……準備を」
(//‰ ゚) 「……了ォ解」
ヨコホリが鋼鉄の腕を前へ。
しっかりと開かれた掌が狙う先は、丁度開けて見える大五郎のサロン支店。
仮面をかぶったような、金属に覆われたヨコホリの右目に、複数の魔法陣が浮かび上がった。
距離、そして風が引力の影響を計算し有効な射線を割り出しているのだ。
彼自身の魔法では無く、造主である魔女が仕込んだ物らしいが、これが恐ろしい精度を発揮する。
-
(//‰ ゚) 「対象、固定」
〈;;(。个。)〉 「……撃て」
逆さ男の声を聞くまでも無く、ヨコホリは魔法を発動した。
呼吸のような気軽さで掌に風が集まり、拳大の塊となって即座に放たれる。
普段使う格闘用の風の榴弾砲に、飛距離と追尾性を付加した改良版。
魔女の『目』の魔法による座標指定の効果もあり、この一撃が目標を外れることは無い。
数秒で目標へ到達した榴弾は、凶器と化した風を振りまいて炸裂する。
並の民家であればこれだけで半壊。
多少頑丈に作られている大五郎であっても、数発と持つまい。
しかし。容易く蹂躙を赦すほど、大五郎も無策ではなかった。
〈;;(。个。)〉 「……やはり魔法の障壁を準備していたか」
(//‰ ゚) 「予定通りだな。続けるぜ」
〈;;(。个。)〉 「……ああ」
望遠鏡や遠視魔法でみてやっと目に映る、大五郎の支店を囲む防御魔法。
靄状の、対狙撃に重点を置いた柔軟性の高いものだ。
無数に生み出した魔法のチャフにより魔法を減衰させ、対象に到達する前に劣化発動させるタイプ。
近距離間であれば強引に突っ切ることも可能だが、この距離ではそうそう簡単にはいかない。
-
(//‰ ゚) 「さァて、何発耐えル?」
それでも、ヨコホリは狙撃を続けた。
次々と風の砲弾を生み出し、放つ。
新たに魔法を追加することで、それぞれの軌道はバラバラ。
四方八方とはいかずとも、多角的に大五郎の支店に襲い掛かる。
敵方の防御魔法のチャフは、魔法に反応し自動で迎え撃つものだ。
故に、射線がバラバラの攻撃に対応し続ければ、
(//‰ ゚) 「グググ……見ィつけたァ」
自然と、防御に穴が生まれてしまう。
ヨコホリは、チャフの濃度の薄い軌道を計算。
一先ずそれを保存し、別の起動からさらに支店を狙撃する。
チャフが、さらに散った。
その一点においては、もはや支店は丸裸も同然である。
(//‰ ゚) 「砕け散れェ!!」
強化式を加え、威力を増した虎の子の一撃。
それまでの砲弾よりも一回り大きく、単純な破壊力は二倍に近い。
白い雲を引いて直進する魔法。
拡散しきっていたチャフが対応しようとするも間に合わない。
-
だが。あえて「やはり」という言葉を使えば。
砲弾が支店に届くことは無かった。
(//‰ ゚) 「グッグッグ……」
周囲で右往左往していた傭兵の中から一人が飛び出し、魔法を放って相殺したのだ。
良い反応だ。高速で飛来する砲弾に、ピンポイントで空弾の魔法を当ててきた。
強化版のため全く無傷では無かったであろうが、直撃の被害とは雲泥の差だろう。
飛び出してきた傭兵は、金色の髪をなびかせて、こちらを睨む。
遠視魔法でもなければ姿が見えてはいないだろうが、経験から放ったのがヨコホリであると気づいているはずだ。
〈;;(。个。)〉 「……相変わらず元気な小娘だ」
(//‰ ゚) 「グッグッグッ!会いたかったぜェ!ディレートリィィィ!!」
金髪の傭兵、ツン=ディレートリ。
ごく最近、大五郎兵士のリスト中で特記戦力扱いになった少女だ。
ある程度の実力者であれば抑え込むことは容易いだろうが、この手の嗅覚鋭いタイプは乱戦で真価を発揮してくる。
現に、彼女には既に何人か手練れを落とされているのだ。完全に無視はできない。
(//‰ ゚) 「やっぱり突っ込ンできやがった……可愛い奴だ」
〈;;(。个。)〉 「お前は狙撃を続けろ。あれは別の人員が対応する」
(//‰ ゚) 「アア、やだねえ。気に入った女の一人狙えねェなンてな」
* * *
-
ξ#゚⊿゚)ξ 「ジョーンズさん!!足が早いのでも馬でもなんでもいいから何人か回して!!」
叫ぶと同時、ツンは屋根を飛び降りた。
落下する僅かな時間にブーツの魔法を発動。
着地の衝撃で屈んだ体勢から、
ξ#゚⊿゚)ξ 「ダァッ!!」
爆発を思わせる勢いで駆けだした。
閉め切られた支店の雨戸が、余波の風でがたがたと揺れる。
(’e’) 「おっけ〜無理しないでね〜」
ジョーンズの声を置きざりに、ツンは空を駆けた。
ィシの言っていた通りだ、と独り言を喉の奥に隠す。
〈::゚−゚〉 『鳴りを潜めていたヨコホリの突然の行動に加え、『逆さ男』が現れた』
〈::゚−゚〉 『確実に企みがある。何かあっても迂闊に飛び込むなよ』
走り出してから迂闊に飛び込んでいることに気付いたが、気にしない。
別にうっかり忘れてたわけじゃない。バカにすんな。
理由は今から考えるけど。
……支店の常備障壁と待機していた数人の魔法使いではヨコホリの猛攻はしのぎ切れないだろう。
故に誰かが直接仕留めに行けなければならないのだ。だ。
-
ξ#゚⊿゚)ξ 「……ん?」
魔法での迎撃を警戒しつつも、建物の屋根を飛び石の如く駆けて行くその途中。
ツンは周囲の異変に気づく。
明らかにサロンの住人ではない人間が多い。
全員が武装を固めている。
大五郎の傭兵では無い。間違いなく禁酒党だ。
一瞬ツンを見たが、気にもかけない様子で支店の方へ向かっている。
ξ#゚⊿゚)ξ (狙撃だけじゃない、一斉に仕掛けてきた……!?)
ほんの一瞬迷う。
大五郎にも警備の人間はいるが、十分な数とは言いにくい。
近辺に常駐している兵を集めても40前後だろうか。
ただでさえ連日のいざこざで疲弊しているのだから、この準備の差は大きい。
援護に戻るべきか。
しかし、現大五郎サロン支店のメンツで、瞬発的な移動能力に最も長けているのがツンだ。
ツンより先にヨコホリを止めに行けるものはほとんどいないだろう。
ξ゚⊿゚)ξ (支店にはタカラも、他の傭兵もいる。たぶん大丈夫……)
ξ#゚⊿゚)ξ (それより私は、あのクソ○○野郎を、ぶちのめす!)
迷いを振り切り地面を蹴る。
その首元にいたニョロが身を斬る風に耐え兼ねて、服の中に潜って隠れた。
-
ヨコホリの魔法攻撃は依然続いている。
ツンには目もくれず、場所の移動すら行わない。
誘い込まれているのか、それとも、別の狙いがあるのか。
なんにせよツンヘの攻撃が無いならば、存分に飛ばすだけだ。
全開で効果を発揮させていたため、ブーツの効力はもうじき切れる。
ヨコホリの元に着くまでには間に合いそうにないが、どうせ森の中を飛び跳ねることはできない。
ξ゚⊿゚)ξ 「“ウィンドエッジ!!”」
最後の一絞り、ブーツの魔法を一気に噴射し、森の中へ突っ込む。
太い幹と枝だけを避け、細かい枝葉は雑に組んだ鎌鼬の魔法で払った。
発動時間が終わり、ブーツに集まっていた風が周囲に散る。
着地の衝撃で舞い上がった枯葉や腐葉土が錐もみしながら吹き飛ばされた。
ξ゚⊿゚)ξ 「……魔法の気配は……よし、目視と一致してる」
休む暇なく、ツンは駆け出す。額にはじんわりと汗が滲んだ。
魔法の補助があったとはいえ、2km近くを一気に駆け抜けてきたのだから、当然ではある。
シャツの袖で汗を拭いながら、奇襲に備えナイフを右手に握った。
ニョロにはすぐに発動できるよう、風の剣の魔法を展開させる。
攻撃一辺倒でも、防御一辺倒でも無い汎用性の高い魔法だ。
-
森の中を這うように駆けた。
根を飛び越え枝をくぐり、蜘蛛の巣をかき分ける。
時折肌にヒリヒリと響くのは、ヨコホリの放つ魔法が生み出す余剰魔力の波動。
まだ支店が潰されていない証拠であり、これから潰されるかもしれない警告でもある。
急がなければ。
ツンの足は、さらに回転を増す。が。
ξ;゚⊿゚)ξ 「?!グェェッ?!」
ヨコホリがいるであろう地点へあともう少し。
ツンの息の乱れもピークに近くなった時、ニョロが俄かに暴れはじめた。
唐突に首を絞めつけられ、流石のツンも足を止める。
ξ;゚⊿゚)ξ 「ちょ、ニョロ、死ぬから、今のは本t……」
ニョロを引きはがしながら文句を垂れるツンの耳元を、黒い何かが過った。
空気の痺れと、金属の擦れる音。
それが鎖に繋がれた分銅だと気づいたのは、ツンの背後にあった木の皮が派手に飛び散ってからだった。
ξ;゚⊿゚)ξ 「なっ……?!」
鎖が引き戻され、分銅が再び浮き上がる。
暴れる鎖を躱しツンは大きく下がった。
重く硬い鉄の塊だ。掠っただけでも致命傷になりかねない。
-
ξ;゚⊿゚)ξ 「……チィッ。ありがとうね、ニョロ……」
引き戻された鎖の先を睨みつける。
そこにいたのは、一人の男。
枯れ木に白髪の鬘を被せたような、貧相な体をしていた。
しかし、その眼光と、裸にジャケットを羽織った姿に、並ならぬ異常性を感じ取れる。
半開きになった口元から、風鳴のような呻きが零れた。
ξ;゚⊿゚)ξ (面倒だな、巻くしかないか?)
ツンの画策を、掲げられた男の左手が封じる。
男を中心に魔法陣が浮き上がり、円の淵に沿って魔法の障壁が現れた。
檻だ。複数の細い障壁によってツンは閉じ込められる。
ξ;゚⊿゚)ξ 「露骨な時間稼ぎを!」
£ ゚ ゞ゚) 「……………………………それは」
ξ;゚⊿゚)ξ
£ ゚ ゞ゚) 「……………………………違うぞ」
ξ;゚⊿゚)ξ
£ ゚ ゞ゚) 「……………………………少女よ」
ξ;゚⊿゚)ξ 「……ハッ!露骨な時間稼ぎを!!」
-
きてたー。しえしえ
-
£ ゚ ゞ゚) 「……………………………我が名は」
ξ#゚⊿゚)ξ 「長い!!」
£ ゚ ゞ゚) 「……………………………ロm」
あまりに緩慢に口上を述べる男に対し、ツンは全力の蹴りを放った。
全身で飛び込みながら、足の裏を男の顔面に叩き込む。
ロなんとかは、表記しがたい声をあげ吹き飛ばされ、魔法の檻に背中からぶつかった。
ξ;゚⊿゚)ξ (あれ、意外に弱い?)
木の葉を蹴ったのかと思うほど軽かった。
受け流されたというわけでは無さそうだ。
鼻の骨が粉砕される感触が、ちゃんと足の裏に残っている。
しかし、男はすぐに立ち上がった。
ダメージを思わせないしっかりとした足取り。
右手に巻き付けた鎖を、じゃらりと持ち上げる。
£ ゚ ゞ゚) 「…………………………この程度の攻撃は」
ξ;゚⊿゚)ξ (嘘でしょ?鼻が折れただけじゃ済まないはず……)
£ ゚,ゞ゚) 「…………………………すごい痛い。鼻血止まらない」
ξ゚⊿゚)ξ
正直どう扱っていいか分からなかった。
-
とりあえず、ダメージはちゃんとあったらしいので、男は無視し意識をちらりと障壁へ向ける。
頑丈な魔法障壁だ。
触れた際に反動のある準攻撃型のものでは無い様だが、その分強固に作られている。
生半可な魔法では恐らく通用しない。
実際の鉄檻を破壊できる程度の威力は欲しいだろう。
ツンが扱う魔法の中でそんなことが出来るのは、一つしかない。
ここでそれを使うのは、無駄だ。
結果に対する消耗が大きすぎる。
であれば残りの選択肢は。
£ ゚ ゞ゚) 「…………少し、早口で…………話そう」
ξ゚⊿゚)ξ 「……ニョロ、あいつを仕留めるわよ。術者が気を失せれば、効力も下がるはず」
£ ゚ ゞ゚) 「…………この障壁は…………特製だ…………ちょっとやそっとじゃ…………」
言葉と同じくゆっくり近づく男に対し、ニョロが魔法を発動した。
中空に現れる三本の風の剣。
それが三様の軌道を取りながら男に襲い掛かる。
男は雑に鎖分銅を振り回し、これを迎え撃った。
分銅と鎖に弾かれた風の剣は、形状を保てず強めの突風となって男に到達する。
白く艶の無い髪の毛が大きく靡いた。
-
£ ゚ ゞ゚) 「……我は、山幻旅団が……末幹……ロミス……オットリー……」
ξ#゚⊿゚)ξ 「こなクソ!!」
ナイフを握りしめ、ツンは突進。
男、ロミス=オットリーは鎖を振るって応対したが、これを伏せて回避する。
分銅が引き戻されるまでのいくらかの隙に、ツンは思いっきり地面を蹴った。
£ ゚ ゞ゚) 「……貴様を……ま」
ナイフを固く握った拳でロミスの頬を全力で殴り抜いた。
肉が潰れ骨の砕ける感触。
大きく仰け反ったロミスは数歩下がって、檻に凭れかかる形で倒れた。
ξ;゚⊿゚)ξ 「強いんだか弱いんだかわかんないわこいつ……」
あまりに全力で殴ったため、拳が少しだけ痛む。
ともあれ術者は気絶させた。
あとは障壁が自然に消えるのを待つか、多少なりとも強度が落ちたところを狙って破壊すればいい。
しかし。
ξ;゚⊿゚)ξ 「?!」
£;#),ゞ゚) 「……………………ふう」
檻に触れようとしていたところ、背後から頭へ向かって飛来した鎖分銅。
直感的に回避できたが、冷や汗が一気に噴き出す。
飛びのきながら睨みつけた先にいるのは、頬を赤くはらした、ロミス=オットリー。
-
£;#),ゞ゚) 「……………………早口で話すの」
ξ;゚⊿゚)ξ 「なんなのよこいつ!しつこい!!」
£;#),ゞ゚) 「……………………疲れた」
ξ#゚⊿゚)ξ 「うざいんだって!!」
顔面を打ち据えてもダメならば、呼吸を潰しにゆく。
懐にひと息で潜り込み、鳩尾に拳を叩き込んだ。
ロミスの体が僅かに浮く。口からは唾液と呻きが漏れた。
二歩後ずさって、ロミスは膝をついた。
腹を押さえ、蹲る。
ξ;゚⊿゚)ξ 「流石にこれで……」
£;#),ゞ゚) 「……………………なんちゃって」
ξ;゚⊿゚)ξ 「やっぱりか!!」
起き上がった顔面を膝で打ち抜いた。
ロミスは背骨を軋ませ、ブリッヂの体勢で倒れる。
手ごたえが確実にあるのだが、どうにも嫌な感じが拭えない。
-
£;#),ゞ゚) 「……………………さすがにちょっと、やられ過ぎた」
ロミスは、巻き戻しでもするかのように起き上がり、ツンに手を伸ばす。
反射的に後退し、ニョロに鎌鼬の魔法を放たせた。
これは鎖を撒いた腕に弾かれ、直撃には至らない。
ξ;゚⊿゚)ξ 「……なんなのよ、コイツ」
£;#),ゞ゚) 「…………我は、ロミス=オットリー…………山幻旅団で最も…………」
ξ;゚⊿゚)ξ 「でぇい!!」
£;#),ゞ゚) 「…………粘り強い男」
ξ;゚⊿゚)ξ 「?!」
倒せないというだけで弱い相手だと、油断した。
ロミスが左手で鎖の先端を大きく引き、再び飛び込んだツンの足を地面に垂れていた鎖で絡め取る。
軸足を攫われ思いっきり地面に転ばされた。
ロミスの攻撃は止まらない。
左手で短く持った鎖の先端を、倒れているツンに対し思いっきり振り下ろす。
慌てて身を捩じって回避。ツンの体から指一本の隙間も無い地面に分銅が土を散らしながら食い込んだ。
ξ;゚⊿゚)ξ 「くッ」
起きようとするも、足を取られてままならない。
ロミスは、再び鎖を振り上げる。
-
ξ;゚⊿゚)ξ 「ニョロ!!」
ニョロが顔を出し、大きく威嚇。
同時に空弾の魔法を放ち、ロミスの顔面をぶち抜いた。
振り上げた鎖の慣性もあり、細い身体は後ろへと倒れる。
やや引き寄せられる形になりつつも、ツンは鎖を振りほどいた。
すぐさま立ち上がり、起き上がりかけのロミスの顔面を、
ξ#゚⊿゚)ξ 「ダラァ!!!」
ブーツの魔法を発動した足で、全力で蹴り抜く。
頭だけで飛んでいきそうな会心の一撃。
少し体を浮かせて吹っ飛んだロミスは頭から落ち、跳ねてから地面をゴロゴロと転がる。
藻のような髪の毛には、折れた小枝が何本か刺さっていた。
ξ;゚⊿゚)ξ 「冗談でしょ……なんで気絶しないのよ……」
まるでゾンビの如く、ロミスは再び起き上がった。その形相に、ツンは後ずさる。
顔は既に原形を留めていない。
ツン自身が「殺してしまったかも」と肝を冷やすほどの攻撃を三発も受けているのだから当然だ。
それでいて復活してくるのは、明らかに異常。
魔法によって体を修復している様子も無いし、本当に死んでしまっていてもおかしくないのに。
-
:::£;#),ゞ゚)::: 「叩かれた程度では………………我は落ちん………………」 プルプル
ξ;゚⊿゚)ξ 「くそ……急がないといけないってのに……」
ロミスに捕まり、かなりの時間を食った。
ジョーンズに頼んでいた援軍の方が先についているかもしれない。
魔法の檻のせいでその他の魔法の気配も感じることが出来ず、焦りばかりが募る。
:::£;#),ゞ゚)::: 「…………その手の刃で…………我の首を掻けば…………それで終いであるのに…………」 プルプル
ξ;゚⊿゚)ξ (……めっちゃプルプルしてる)
:::£;#),ゞ゚)::: 「…………甘い。…………殺意の無い戦士など…………じゃれつく猫にも劣る…………」 プルプル
ξ;゚⊿゚)ξ 「ッ……お望み通り、やってやるっての!!」
姿勢を低く前へ出ようとしたツンヘ、ロミスは分銅を投げつける。
横へ飛んで回避するも、ロミスは伸びきった鎖を横へ振り回し追撃。
ツンは跳ねて暴れる鋼鉄の鞭を飛んで躱し、上方を覆う魔法の檻に足をついた。
ξ#゚⊿゚)ξ 「あああ!!!」
全体が振動するほどの力で、檻を蹴る。
落下のエネルギーも付与されたこの一歩は、音に近い速さを生み。
ツンは烈風の如くロミスへと突進する。
逆手に持ったナイフの狙いは、ロミスの首。
いくらタフであっても首を裂かれれば無事に済むはずがない。
-
交叉。
耳を劈くような金属音が響き渡る。
すり抜けざまに首を切り裂こうと振り抜いたツンのナイフは、右腕の鎖に防がれた。
僅かに腕を斬ったが、深い傷では無い。
勢い止まらず、半ば檻に衝突する形になったツンヘ、すぐさま分銅が放たれる。
何とか横へ躱すも、鎖に引かれるようにロミス本体も飛び込んできた。
体勢も意識も整わないツンは、回避だけに集中し地面を蹴る。
ロミスとは対極の位置へ転がって距離を取った。
:::£;#),ゞ゚)::: 「…………貴様……………人を殺めたことが…………無いな…………」 プルプル
ξ;゚⊿゚)ξ 「……だから何だってのよ」
:::£;#),ゞ゚)::: 「…………愚かしい…………我が出向いて…………時間を稼ぐような相手には…………」 プルプル
ξ;゚⊿゚)ξ 「やっぱり時間稼ぎか!」
:::£;#),ゞ゚)::: 「…………さて小娘…………我が「稼げ」と言われた時間…………」プルプル
ξ;゚⊿゚)ξ
:::£;#),ゞ゚)::: 「……………………貴様は立っていられるか?」 プルプル
ξ;゚⊿゚)ξ 「…………クソッ!」
* * *
-
( ;`ー´) 「魔法反応3、位置情報送るんじゃネーノ!」
( ,,^Д^) 「……」
タカラは弓を構え、支店の屋根に立っていた。
目元には味方の魔法使いが発動した探知魔法の簡略図が浮かび上がっている。
方角と魔法反応の位置がわかるだけの簡素なものだが、今はこれで十分だ。
やっと見慣れてきた探知図に従い、飛来する魔法へ弓を構えた。
秒と待たず直撃する恐れのあった魔法弾を、タカラの放った矢が貫く。
風の暴威が散乱し、その余波でもう一つの魔法弾も誘爆した。
残りの一つを支店にかけられたオートの防御魔法が防ぎ、一旦は攻撃をやり過ごす。
( ;`ー´) 「何度見てもすげえんじゃネーノ……あれを射抜くのかよ……」
( ,,^Д^) 「さてと」
タカラは魔法の迎撃が終わりと判断ずるや否や、再び背中の筒から矢を引き抜く。
弓にあて、やや上方に向かって指を離す。
風切り音を立てて発射された矢は空中を弧を描きながら泳ぎ。
( ;゚'μ゚) 「ぬうあ?!」
大剣を振り回し暴れていた禁酒党兵士の太腿に突き刺さった。
今まさに斬り下しをしようとしていた敵の男は、膝から崩れ落ちる。
-
( ,,^Д^) 「ジョーンズさん、倉庫に予備の矢があるから取ってきてくれにゃ」
(’e’) 「うわぁ〜〜店長マジ雑用〜〜」
ジョーンズに頼みながら、さらに矢を放ち敵兵の一人を無力化する。
物陰にさえいなければ、どこでも狙える。
支店周囲は今現在タカラの独壇場であった。
( ,,^Д^) (……まあ、悪いことばっかりじゃないにゃ)
( ;`ー´) 「砲撃来るんじゃネーノ?!さっきより反応デカいんじゃネーノ!!」
( ,,^Д^) 「矢がねーにゃ。魔法班頼むにゃ」
今のところ最後の矢を、路地を抜けて支店に接近してきていた敵兵に放つ。
肩口に矢を受けた敵は仰け反って尻を着いた。
再び飛来した、これまでより大きな魔法弾を地上の魔法使いが障壁を作って防ぐ。
準備していた設置型の障壁魔法はかなり消耗しており、ほとんど役には立たない。
タカラと、数人の魔法使いで何とかしのぐしかない状況だ。
( ,,^Д^) 「きついにゃぁ……せめてツンがあと三人くらい居たらにゃ……」
ぼやいてから、やっぱ嫌だなと考えを改めた。
ツンの特性はこういった乱戦の遊撃に非常に向いているが、あれが四人となると心労が10倍くらいになりそうだ。
支店を守り抜く前にタカラの頭の毛が抜けてしまう。
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