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Ammo→Re!!のようです

1名も無きAAのようです:2013/05/26(日) 19:44:33 ID:cwrc78lw0
いつまでたっても規制が解除されないのでこちらで


纏めてくださっているサイト様

文丸新聞さん
ttp://boonbunmaru.web.fc2.com/rensai/ammore/ammore.htm

ローテクなブーン系小説まとめサイトさん
ttp://lowtechboon.web.fc2.com/ammore/ammore.html

869名も無きAAのようです:2014/12/07(日) 20:21:24 ID:fmUKYYEQ0
瓜゚∀゚)「いいですか? 警察に割り当てられる資金の調整は私がしているんです。
    間接的とはいえ、私がいなければ貴方は好き勝手出来ないんですよ」

(=゚д゚)凸「頼んだ覚えはねぇラギ。
     いちいち言うことやること全部が恩着せがましいんだよ、手前は。
     市長のケツの穴でも舐めてやがれ」

侮蔑を意味する中指を立てたトラギコを見ても、ヅーは怒りを見せない。

瓜゚∀゚)「汚い言葉は尚感心しませんね。
    前々から気になっていたのですが、どうして私のことをそこまで毛嫌いするのでしょうか?」

(=゚д゚)「別に手前に限らず、俺は人が嫌いラギ。
    特に正義正義ってうるせぇくせに、何もしないで綺麗ごとばっかり並べてる奴は大嫌いなんだよ」

瓜゚∀゚)「……話になりませんね。
    まだあの事件のことを恨んでいるのですか?
    CAL21号事件のことを――」

その瞬間、トラギコの顔に明らかな怒りの感情が浮かんだ。
今にも掴みかからんばかりの勢いと目力でヅーを睨めつける。
即座に手を出さないのは彼に理性があるからであって、もう少し理性が足りなければ確実に暴力沙汰に発展しただろう。

(#=゚д゚)「黙って消え失せろ!!」

低い怒声は肉食獣の唸り声にも似ており、トラギコが激情家の一面を持ち合わせていることを知った。
だがヅーは動揺することなく、逆に同情的な視線をトラギコに向けた。

瓜゚ー゚)「あの時の事を謝るつもりはありませんが、貴方の行いを私は評価しています」

870名も無きAAのようです:2014/12/07(日) 20:26:08 ID:fmUKYYEQ0
(#=゚д゚)「……ぶっ殺されてぇのか、糞アマ。
     それとも、殺されに来たのか?」

一触即発の無言の間。
呼吸さえ、忘れてしまった。
これが本物の殺意なのだと、カールは本能で理解した。
トラギコの言葉は嘘ではなく、真実だ。

切っ掛けがあれば間違いなくヅーに掴みかかり、縊り殺す。
自分が切っ掛けにならないように、カールは身じろぎ一つしない。
正確に言えば、動くことが出来なかった。
言葉とその威圧感だけで、カールの足はそこに縫い付けられたかのように動かなかったのである。

人生で初めての体験だった。
武器も脅しもなしに体の自由を奪われるのは。

瓜゚∀゚)「……ドクター、彼はまだ錯乱状態にあるようですので、今しばらく休ませましょう。
    昼食を食べ終わり次第、連絡をください」

ヅーは足早に部屋を出ていき、カールとトラギコが取り残される。
表現し難い空気の中、ベッドに備え付けられた折り畳み式の机を開きながら、トラギコが口を開いた。

(=゚д゚)「ドクター、腹減ったラギ。
    飯くれ、飯」

半臥の状態で食事を要求するトラギコの声には、先ほどのような明確な殺意は微塵も残っていなかった。
自分の傍に食事の乗ったカートがある事を思い出し、カールはそこに載っていたトレーを恐る恐る机に置いた。
熱された鉄板の上で音を立てて湯気を立ち昇らせる二ポンドのステーキ。
添えられたフライドポテトはジャガイモ一つを八等分した物で、かなり大きめだ。

871名も無きAAのようです:2014/12/07(日) 20:30:53 ID:fmUKYYEQ0
(=゚д゚)「ワインはどうしたラギ?」

(,,'゚ω'゚)「駄目ですよ、酒は。 なので、ポートエレン産のグレープジュースを用意しました」

普通、患者の食事のリクエストには応じることはない。
ここはホテルではなく病院であり、入院費に応じた食事を出すしかない。
しかし、トラギコの場合はジュスティア警察の上層部からの圧力か分からないが、ある程度の融通を利かせるようにと言われていた。

(=゚д゚)「ちぇ、まぁいいか。
    そういえば、俺のことを連中に話さなかったみたいラギね。
    礼を言うラギ、ドクター」

(,,'゚ω'゚)「ですから、ドクターは止めてください。
     カールです」

(=゚д゚)「あぁ、ドクター・カール。
    立ち話もなんだし、そこに座ってるといいラギ」

金属製のナイフとフォークで肉を切りながら、トラギコは壁に立てかけられている折り畳みの椅子を視線で指した。

(,,'゚ω'゚)「いえ、これから別の患者さんのところに行かなければなりませんので。
     お気持ちだけ受け取っておきます」

本棟に戻れば、十数名の患者が彼を待っている。
幸いにして病状は皆軽いが、彼と話すのを楽しみにしてくれている。
少なくとも大人は違うが、子供たちはそうだ。
そうだと信じたい。

872名も無きAAのようです:2014/12/07(日) 20:35:51 ID:fmUKYYEQ0
(=゚д゚)「そりゃ残念ラギ。
    仕事頑張るラギよ、ドクター・カール。
    それと向こうに行く前に教えてほしいんだが、俺の荷物を知らないラギか?」

(,,'゚ω'゚)「後で確認しておきますね、トラギコさん」

カールはしずしずと退出し、そこで待っていたヅーに肩を掴まれた。
眼鏡の奥の瞳は静かにヅーを睨み付け、肩に走る痛みに思わず顔を歪める。
何という力だろうか。
筋肉に覆われたカールの肩を握り潰さんばかりに込められた力は、女のそれとは思えない。

相当に鍛え込んだ証拠だ。
トラギコには劣るが、威圧感のある目をしている。

瓜゚∀゚)「彼は何を言っていましたか?」

口元は笑いの形だが、目は一切笑っていない。

(,,'゚ω'゚)「あ、は、はい。 話は食事の後にする、と言っていました。
     後は、荷物はどこにあるのか、と……」

瓜゚∀゚)「……荷物の場所については、くれぐれも教えないように」

それを言って、ヅーはカールの肩から手を離した。
彼女が離れてからも、その痛みだけがカールの肩に残された。

(,,'゚ω'゚)「……何なんだ、ありゃあ」

独り言ちたカールの疑問に答えたのは、意外にも扉の傍に立つ二人の男だった。

873名も無きAAのようです:2014/12/07(日) 20:39:42 ID:fmUKYYEQ0
(■_>■)「災難でしたね、ドクター。
      ヅーさんは根に持ちやすい人で、俺も何度か酷い目にあったことがあるんですよ」

(●ム●)「そうそう。 我々の間じゃあ、粘着女、なんて呼ばれてましてね。
      予算削減はよくされますし、部署にもピンポイントでノルマを課せてくるしで、強烈な人なんですよ」

どうにも、先ほどの光景が二人の共感を得たらしい。
嫌な思いをしたとしてもそれを口に出すようでは、三流の人間だ。

(,,'゚ω'゚)「はは、でも悪い人ではなさそうですね」

当たり障りのない回答をして、カールは二階にあるナースステーションに向かった。
十人は使える大きなテーブルに、十五脚の椅子。
コーヒーメーカーはもちろん、ドリンクバー用の機材が置かれた医師たちの安らぎの場。
仮眠用のベッドには誰もおらず、医師が二人コーヒーを飲んでラジオに耳を傾けながら談笑をしていた。

特徴的な声をした女性のパーソナリティが人気の、最近流行している“極道ラジオFM893”だった。

(,,'゚ω'゚)「やぁ、お疲れさん」

(ΞιΞ)「おう」

Ie゚U゚eI「……あぁ。 どうだ? ジュスティアの客は?」

(,,'゚ω'゚)「あれならすぐに回復するさ。
     起きてすぐに肉を二ポンドだぞ、二ポンド」

Ie゚U゚eI「そりゃすげぇ。 それで、島が封鎖された理由は聞いたか?」

874名も無きAAのようです:2014/12/07(日) 20:44:46 ID:fmUKYYEQ0
珍しく話しかけてくると思ったが、やはりそうだ。
カールではなく、情報に興味があったのだ。
内心で溜息を吐きながら、カールは答える。

(,,'゚ω'゚)「……いいや、教えてくれなかったよ」

実際、彼が言った言葉が真実である保証はない。
それにここで正直に話したところで、おもしろくない。
そう。
面白くないと思ったのだ。

物事の判断基準に面白い、面白くないと考えるのは初めての経験だった。

Ie゚U゚eI「あ、そう」

案の定、興味を失くした風に男は談笑を再開した。
パーソナリティであるQの声が、にわかに緊張みを帯びたものに変わったのはそんな時のこと。

【占|○】『はぁーい、ちょっとしたぁ、臨時ニュースでぇーすぅ。
     ティンカーベルにぃ、凶悪犯が逃げ込んだとのことでぇ、現在島全体の行き来が出来なくなっていますぅ、って話でーすぅ。
     怖いですねぇ、本当にぃ。 皆さぁん、くれぐれも気を付けてくださいねぇ』

Ie゚U゚eI「き、凶悪犯?!」

(ΞιΞ)「マジかよ、飯食ってる場合じゃねぇぞ!!」

(,,'゚ω'゚)「……」

875名も無きAAのようです:2014/12/07(日) 20:50:08 ID:fmUKYYEQ0
恐らく、混乱を避けるために公表された事情がこれ。
そして、真実はトラギコの言う通りの脱獄だ。
どこから凶悪犯が逃げ込んだのか、そして凶悪犯の詳細が流されていないのが、その根拠だ。
ティンカーベルの治安維持に加担しているジュスティアが意図的に情報を操作し、自分たちの失態を知られまいとしているのだ。

そう考えると、この放送は一部だけ真実を織り交ぜている分効果が大きい。
脱獄犯が出たなどと報道されれば、この島はたちまちパニックに陥る。
それだけではない。
長らく続いてきたジュスティアとの協力関係に大きな亀裂を生みかねない。

であれば、情報封鎖と操作は当然の対応と言える。
このタイミングで搬送されたトラギコがこの事件について知っているということは、彼がカールの思う以上に優れた刑事だということだ。
何故だか、カールは誇らしい気持ちになっていた。

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   ,': . ゝ、ソ:.:.:.:.:.:.:.:.メィ:.:.:.:.ー-...`"´r〃 :.:.:.r'/PM 00:20  エラルテ記念病院にて
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表面はうっすらと焦げた茶色をしているが、中身は血を思わせる深紅色をしており、肉の味を存分に堪能できる焼き加減だった。
一見すると肉塊としか思えない大きさだが、それに反してナイフの刃はスムーズに通った。
塩胡椒だけで味付けされた肉を一口サイズに切り分け、口に運ぶ。
奥歯で押し潰された肉から、凝縮された味が染みだす。

876名も無きAAのようです:2014/12/07(日) 20:52:49 ID:fmUKYYEQ0
溶けだした脂身の甘さ。
肉汁本来の持つ旨み成分。
塩気が程よく味を調え、顎の奥から唾液を絶えず分泌させる。
付け合わせのクレソンも新鮮で申し分なく、舌に感じる辛みと歯応えのが心地いい。

三十分をかけて肉厚で食べ応えのあるステーキを完食したトラギコ・マウンテンライトは、フォークを皿の上に置いた。
歯応え、そして鮮度共に素晴らしく、美味い肉だった。
そして美味いジュースだった。
脚の肉を吹き飛ばされた鬱憤は晴れないが、腹は満たされた。

扉の向こうに人の気配を感じ取り、トラギコは紙ナプキンで口元を拭った。
唐突に開いた扉に驚くこともなく、トラギコはその向こうに現れたライダル・ヅーに敵意を込めた視線を向けた。
この女はいつもそうだ。
他人の都合は考えず、己の都合と正義に従って相手を動かそうとしてくる。

だが、そう毎回好き放題されると思ったら大間違いだ。

瓜゚∀゚)「食事が終わったら話をする、とのことでしたので」

(=゚д゚)「……手前に話すことはねぇラギ、失せな」

ヅーは部屋の鍵を後ろ手で閉め、懐からメモ帳とペンを取り出した。
こちらの話を聞くつもりはないが、情報を聞き出すつもりなのがよく分かる。
邪魔な人間が入ってこないように鍵までかけたのは、場合によっては手段を問わずに話を聞き出すためだ。

瓜゚∀゚)「手短に済ませましょう。
     オセアンの事件と、その他の事件の進行状況についてお話を聞きに来ました。
     では、オアシズの話からにしましょうか」

877名も無きAAのようです:2014/12/07(日) 20:56:19 ID:fmUKYYEQ0
こちらが拒絶の姿勢を見せたところで、そう簡単に引き下がるようでは警察長官の秘書は務まらない。
いくつかは情報を提供しなければ、解放はあり得ない。
だがその前に、先に訊かなければならないことがある。
トラギコは曖昧な情報しか聞いていないが、セカンドロックから二人の脱獄者が出たことが真実か否かを確認しなければならなかった。

(=゚д゚)「その前にこっちが質問する。
    ジェイル島からの脱獄者は誰ラギ?」

表情一つ変えず、ヅーは答える。

瓜゚∀゚)「“ザ・サード”と“バンダースナッチ”です。
    公には凶悪犯が島に逃げ込んだということにしています。
    ところで、その情報は誰から?
    まだ公にされていない情報ですよ」

思っていたよりもあっさりと、脱獄の事実を認めた。
彼女の口から出た二人の渾名に、トラギコは聞き覚えがある。
稀代の大泥棒、ザ・サードことデミタス・エドワードグリーン。
子供専門の誘拐魔、バンダースナッチことシュール・ディンケラッカー。

どちらもその犯罪歴の多さから死刑囚として収監され、生きていて誰かが喜ぶ存在とは言い難い。
公にされれば、大勢の市民が不安になる。
最悪の展開は、パニックに陥って捜査の邪魔になることだ。
情報操作は妥当な選択だ。

無言で考えていると、ヅーが再び同じ問いを投げかけた。

瓜゚∀゚)「情報源は?」

878名も無きAAのようです:2014/12/07(日) 21:01:01 ID:fmUKYYEQ0
多大な恩があるため、情報源が船上都市の市長と言うわけにはいかない。
かと言って、下手に誤魔化してもトラギコの入手できる情報源は限られているため、すぐにリッチー・マニーに辿り着いてしまう。
それを避けるためには、もう一つの可能性の提示。
即ち、無関係とは言い難く、情報を漏らさないとは言い切れない存在を代役に仕立てること。

(=゚д゚)「手前の手下からラギ」

瓜゚∀゚)「……そうですか」

セカンドロックは堅牢な刑務所だ。
ジェイル島一つを刑務所にしたその場所からの脱獄は、自力では絶対に無理だ。
一度、トラギコも防犯の面から一週間だけ檻の中で生活したことがあったが、隙は一切なかった。
外部的な助力がなければ、自力での脱獄は決して出来ない。

鍵は錆を知らず、檻は疲労を持たない素材。
二十四時間の監視下におかれ、余計な交流も外出もない。
道具を持ち込むことも不可能。
手立ては何もなく、その機会もない。

(=゚д゚)「で、手口は?」

ヅーは確かに嫌な女だが、救い難い馬鹿ではない。
トラギコがこれまでに築き上げてきた事件解決の実績を認めており、何度か便宜を図ってくれたことがある。
ここに直々に来たのも、何か事件解決の糸口を見出したいからに違いなかった。
そうでなければ、セカンドロックの件を否定すればいいだけだ。

余計な時間を割かずに済むが、それでも話を続行しているということは訊きたいことがあるということ。
彼女がここに来た要件の一つだということが、自ずと導き出される。

瓜゚∀゚)「協力してくれるのですか?」

879名も無きAAのようです:2014/12/07(日) 21:04:18 ID:fmUKYYEQ0
(=゚д゚)「そんなんじゃねぇラギ。
    ただ気になるだけラギよ」

当分の間、トラギコはこのティンカーベルに滞在することになる。
滞在中の捜査に使える情報を手に入れておけば、何かと役に立つ。
勿論、こちらからも少しぐらいは情報を流さなければならない。
ただし、本当に肝心な情報は教えるつもりはないが。

瓜゚∀゚)「外部からの面会者を装った人間が手助けしました。
    非武装の状態の男が二人。
    格闘術に長けた男が騒ぎを起こし、その間に上空にヘリコプターが侵入、コンセプト・シリーズの強化外骨格が降下。
    囚人二名と降下した強化外骨格をヘリコプターで連れ出し、コンセプト・シリーズの運搬用コンテナを投下。

    投下された強化外骨格を使って、ユリシーズとガーディナのカスタム機が撃破され、脱獄されました。
    監視カメラの映像を解析し、使用された強化外骨格の種類を調べましたが、我々のデータベースにはない機体でした。
    おそらく、イルトリアに情報提供してもらわなければ分からないでしょう」

思った以上に深刻な攻め方をされたようだ。
名前の挙がった二機の強化外骨格はジュスティア人が珍重する物で、腕のある人間にのみ配給されていると聞く。
それが負けたとなると、よほど腕の立つ人間が襲撃に関わったと考えられる。
トラギコにとってそれは、驚くべきことではなかった。

オアシズを襲った狂人たちも、同じだったからだ。
目の細い男、狂った探偵、海賊に扮した部隊、そして殺人狂の女。
トラギコの目算では、ジュスティア軍よりも優れた人材が揃っていた。
少なくとも下っ端の部隊は海軍のゲイツを皆殺しにできるだけの実力があったのだ。

ジェイル島に配備されている軍人はずば抜けて優秀な人間ではない。
確かに優秀には違いないだろうが、飛び切りすぐれた戦闘能力を持っているわけではない。
円卓十二騎士の一人がそこの責任者だが、その場に居合わせなければ意味はない。

880名も無きAAのようです:2014/12/07(日) 21:08:26 ID:fmUKYYEQ0
(=゚д゚)「後は?」

ヅーの口調には不自然な点はないが、彼女の話に続きがある事は話の流れ的に考えると明らかだ。
潤沢な装備、大胆な攻め方。
オアシズとセカンドロックの事件を繋ぐには、ある男の名前が挙がるはず。
そう。

彼女が知りたいのは、その男の目的なのだ。

瓜゚∀゚)「……共犯の一人に、ショボン・パドローネが確認されています」

案の定、その名前が出てきた。
オアシズの沈没を目論見、囚人の脱獄を補助した。
その二つの行動が結びつく先。
最終目的が分かれば、先手を打って彼を捕まえられると考えているのだろう。

それが分かれば、苦労はしない。
それが分からないからこそ、事件は起こるのだ。
分かることがあるとすれば、オアシズから逃げてすぐにティンカーベルで事件を起こしたことぐらいだ。
逃走後の予定として組んでいたのか、それとも行きがけの駄賃か。

それもまた、分からない。

瓜゚∀゚)「単刀直入に。
    あの男が何をしようとしているのか、知りませんか?」

(=゚д゚)「悪いが知らねぇラギ。 これは本当ラギよ。
    だけど、何か大きな組織に属していると思うラギね」

881名も無きAAのようです:2014/12/07(日) 21:11:33 ID:fmUKYYEQ0
瓜゚∀゚)「えぇ、それは我々も可能性に入れて捜査しています。
    ヘリコプターとコンセプト・シリーズの強化外骨格を所有しているとなると、財力がある大きな組織と考えられますからね。
    そこで、オアシズでの概要を訊きたいのです。
    何かヒントになる物があるかもしれません」

(=゚д゚)「何もねぇラギよ」

それでもトラギコは、一応自分が手に入れた情報の一部を提供することにした。
一時間かけて丁寧に話したのは、事件の始まり、そして事件解決までの流れとショボンの逃走とその後の船内の様子だけ。
金髪碧眼の旅人も、殺人狂の女のことも口にはしなかったし、存在も語らなかった。
それは、トラギコの獲物だからだ。

横取りも邪魔も、絶対にさせない。

瓜゚∀゚)「……なるほど。 気になったことが二つ。
    どうして、貴方がオアシズに?」

(=゚д゚)「偶然ラギ」

瓜゚∀゚)「偶然で乗るには、予算が足りないはずです。
    まぁ、貴方の事ですから非正規の方法で乗り込んだのでしょう。
    オセアンの事件を追ってそこに辿り着いた、ですか?」

見破られている。
誤魔化しきれるとは思っていなかったが、ここから先の受け答え次第では厄介なことになる。

(=゚д゚)「……そうラギ。
    ポートエレンで発見された死体がきっかけラギ」

瓜゚∀゚)「犯人の目星、もしくは手がかりがあったのですね?」

882名も無きAAのようです:2014/12/07(日) 21:13:45 ID:fmUKYYEQ0
(=゚д゚)「あぁ。 あの部屋から投身自殺、もしくは転落したと考えると、死体がきれいすぎたラギ。
    事件当時の風の強さを考えると、体は絶対に岩場にぶつからなければおかしいラギ。
    そうすると、打撲や深い切り傷が出来なければおかしいラギ。
    それがあの死体にはなかったラギよ」

瓜゚∀゚)「流石です。 で、どうしてポートエレンがオセアンと結びついたのですか?」

不味い。
ヅーのペースだ。
ここで情報交換は終了しなければならない。

(=゚д゚)「一つ、言わなきゃいけないことがあるラギ。
    オアシズの事件で分かったことだが、ジュスティア内にも裏切者がいるラギ。
    それこそ、ショボンと同じ組織に所属している人間が入り込んでいるラギ」

瓜゚∀゚)「この私を疑うのですか?」

物分りのいい女は嫌いではない。
後は、黙って消え失せてくれればもっと好きになれる。

(=゚д゚)「随一の探偵が裏切ったんだ、それぐらいは用心するさ」

トラギコの勘では、ショボンの属する組織の人間はジュスティアの上層部にも入り込んでいるはずだ。
そうでなければ、軍の無線を使ってオアシズに暗号を送れるはずがないのだ。
仮にヅーがその一人だとしたら、トラギコがある程度の情報を持っていると分かった段階で消しにかかるのが自然。
それを避けるためには、情報を隠匿しておくのが一番だ。

結局のところ、オセアンの事件はトラギコ一人で行動した方がいいのだ。

瓜゚∀゚)「分かりました。 では、オアシズの件で最後に」

883名も無きAAのようです:2014/12/07(日) 21:16:14 ID:fmUKYYEQ0
(=゚д゚)「あん?」

瓜゚∀゚)「デレシア、と名乗る人間が事件に関わっていると聞きました。
    それは事実なのですか?」

――デレシア。
金髪碧眼の旅人にして、オセアンの最重要参考人。
フォレスタの事件に関わり、ニクラメンの事件にも関わった。
そして、オアシズの厄日を解決した張本人。

同じ人間とは思えないほどの雰囲気を放つ、若い女性だ。
その存在と名前を誰がどのようにしてジュスティアに伝えたのかは分からない。
しかしながら、その情報を知っているか否かが今回の訪問の大きなカギとなりそうだ。

(=゚д゚)「……さぁな、そんな奴いなかったはずラギよ」

その名前は、今は胸の内に秘めておかなければならない。
あの女は。
あの旅人は、必ず何か大きな嵐を引き起こす存在だ。
だから今は、捕まってもらうわけにはいかない。

瓜゚∀゚)「……」

(=゚д゚)「訊きたいことはもう十分ラギか?」

瓜゚∀゚)「今日のところは」

それはつまり、明日も来るということだ。
まぁ、何度来ようがこれ以上話す情報は何もない。
それで機嫌を損ねて情報が手に入れられなくなることを考え、トラギコは主導権を自分の手に戻すことにした。

884名も無きAAのようです:2014/12/07(日) 21:18:38 ID:fmUKYYEQ0
(=゚д゚)「なら今度は俺の番ラギ。
    俺の足をぶち抜いたのはカラマロスラギね?
    その指示を出したのはどこの誰ラギ?」

足を撃ち抜いてでも捕えられる覚えはない。
指示を出した人間は、間違いなくトラギコの事を嫌っている人間だ。
ジュスティア内でトラギコを嫌っている人間は、五指に余りあるどころか同僚の一部を除いた全員と言ってもいい。
嫌われ者なのは自覚しているし気にもしていないが、殺されかけたとなると話は変わってくる。

瓜゚∀゚)「訊いてどうするおつもりですか?」

(=゚д゚)「ぶちのめすラギ」

瓜゚∀゚)「呆れた人ですね、貴方は」

(=゚д゚)「それで結構ラギ。 俺の荷物を返してほしいんだが、どこにあるラギ?」

拳銃はどこでも買えるが、コンセプト・シリーズの強化外骨格はそうもいかない。
警察から支給されたそれは、今後も使うことになる。
強化外骨格、通称“棺桶”に対抗するには、それなりの装備が必要だ。
足を負傷しているからこそ、高い攻撃能力を持った武器を用意しなければならない。

デレシアを追い、オセアンの真実を知るためには必要不可欠な要素。
あわよくば、長年連れ添った拳銃も返してもらいたいところだ。

瓜゚∀゚)「ここの職員に預けていますが、それ以上はお話しません。
    何せ、貴重なコンセプト・シリーズ。
    もしも貴方がジュスティアの裏切者だとしたら、それをみすみす手渡すわけにはいきませんので」

885名も無きAAのようです:2014/12/07(日) 21:22:07 ID:fmUKYYEQ0
先ほどトラギコが疑ったのと同じように、この女もトラギコを疑っている。
見方によってはオアシズでわざとショボンを逃がしたとも考えられる。
それでいい。
常に人を疑い続けなければ、警察官は務まらない。

出口に向かって踵を返したヅーに、トラギコは一つ気になっていたことを言うことにした。
ある種の意趣返しを考えたのだ。

(=゚д゚)「……分かったラギ。
    あぁそうだ、関係ないことだけど」

瓜゚∀゚)「はい?」

(=゚д゚)σ「その髪留め、似合ってるラギね」

その言葉に憤慨したらしく、ヅーは乱暴に扉を開けて部屋を出て行った。
いい気味だ。

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                 PM 05:50  エラルテ記念病院にて
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886名も無きAAのようです:2014/12/07(日) 21:24:45 ID:fmUKYYEQ0
病棟の明かりが頼もしくなり始めた頃、カールは少し早めの夕食を食堂で済ませ、トラギコの容体を見に隔離病棟へと向かっていた。
夕日が水平線に沈み、空は燃えるようなオレンジ色に染まり、雲は紫影を落として漂う。
敷地内に敷き詰められたタイルと芝生の道は、入院患者にとっては絶好の散歩道となる。
芝生に置かれた木製のベンチに腰を下ろせば、豊かな自然を一望できる。

数人の同僚とすれ違い、隔離病棟に入ると受付の女性――確か、キッカー・コストという名前だったはず――が、手を挙げてカールを呼び止めた。
せめて同僚であれば、声ぐらいかけても損はないと思うが。

(,,'゚ω'゚)「はい?」

川_ゝ川「先生の担当している患者さんが至急お会いしたいと」

(,,'゚ω'゚)「何かあったのか?」

看護師は何も言わず、肩を竦めて見せた。
どうやら、この看護師には嫌われているようだ。
“種馬”という渾名のせいで、一部の女性からはまるでウィルスのように扱われているのだから、慣れたものだ。
だが、職場でそれをされると心に来るものがある。

軽く礼を言ってその場を立ち去り、トラギコの病室に急いだ。
部屋の前に立つ二人の男の足元には、黒いコンテナが置かれていた。
――棺桶だ。

(,,'゚ω'゚)「こんばんは。 何かあったのですか?
     そんな物騒な物出して」

(●ム●)「念には念を、という話です。
     他の利用者の方を怖がらせてしまいましたか?」

887名も無きAAのようです:2014/12/07(日) 21:28:00 ID:fmUKYYEQ0
(,,'゚ω'゚)「いえ、そういうわけではないのですが。
     あまり見慣れない物で」

(●ム●)「見慣れない方がいいですよ、ドクター。
      ドクターが死に慣れているのと同じで、我々はこれを見慣れているというだけの話です」

(,,'゚ω'゚)「なるほど、確かにそうですね。
     ご苦労様です」

笑顔で会釈を交わして、扉を開ける。
ベッドの上で、トラギコは半臥の状態で本を読んでいた。
本を布団の上に置いて、彼はカールに視線を向けた。

(=゚д゚)「よう、ドクター・カール。
    待ってたラギ」

(,,'゚ω'゚)「何か、私にご用件があると伺ったのですが」

(=゚д゚)「あぁ。 ここの保管庫に、俺の荷物があるはずラギ。
    それとスーツがほしいラギ」

確かに、荷物は預かっている。
アタッシュケースと拳銃、後は財布ぐらいだ。
スーツも預かっているが、銃弾で穴が開いているので使い物にならない。
幸いなことに、カールのスーツがあるのでそれを渡せば要求は叶えられる。

(,,'゚ω'゚)「はぁ、構いませんがどうするつもりなんですか?」

(=゚д゚)「刑事ってのは、手前の足で情報を稼いで、手前の足で追いかけて、手前の足で追い詰めるものラギ。
    俺は今から退院するラギ」

888名も無きAAのようです:2014/12/07(日) 21:32:05 ID:fmUKYYEQ0
退院は個人の意向で出来るものではない。
少なくとも、主治医が経過観察をして入院の必要がないと判断してからでなければ無理だ。
主治医でなくとも足を負傷したトラギコが今から退院するなど、認められるものではない。
縫合した傷口が開くと、また出血してしまう。

そうなれば、また入院だ。
しかし。
トラギコの目は、冗談を言っているようには見えない。
明確な意思を示し、断固としてそれを実行すると雄弁に語っている。

(,,'゚ω'゚)「ですが、まだ手術が終わったばかりですよ、刑事さん。
     松葉杖、もしくは車椅子を使わないと歩けません。
     無理ですよ」

(=゚д゚)「知ってるよ」

一瞬の躊躇なく、トラギコは断言した。
だからこそ解せない。
無理をする意味が、解らない。

(,,'゚ω'゚)「ではどうして無理をするのですか?」

(=゚д゚)「……俺はな、そういう生き方しかできない男ラギ。
    犬が犬として生きるのと同じように、俺は俺として生きるラギ。
    だから、今ここで止まっているのは俺の生き方じゃねぇラギ。
    自分を押し殺して生きても、後悔しかないラギ」

(,,'゚ω'゚)「しかし……」

(=゚д゚)「ドクター・カール、頼むラギ」

889名も無きAAのようです:2014/12/07(日) 21:36:47 ID:226w05Qw0
正直なところ、カールはトラギコに協力したかった。
彼の生き方が羨ましいからだ。
しかし。
カールには仕事がある。

仕事には責任があり、責任には意味がある。
患者の要求に応えるのが医師なれど、それを拒むのも医師である。

(,,'゚ω'゚)「駄目です、トラギコさん。
     スーツぐらいはお貸しできますが、お荷物を渡して退院させるわけにはいきません。
     医師としての命令です」

(=゚д゚)「へぇ…… 命令、ねぇ」

(,,'゚ω'゚)「えぇ、命令です。
     自分の体が完全でないのに動いたら、余計な時間がかかります。
     そうなれば、治る物も治らなくなりますよ」

(=゚д゚)「そうラギか…… もういいラギ、悪かったな、無理言って」

明らかに失望した風な口調で、トラギコは力なくそう言った。
胸が痛んだが、仕方がない。
これが医者だ。
他人の生き方に干渉してはいけないのだ。

(=゚д゚)「じゃあな、ドクター」

その言葉は、カールの心に深く突き刺さった。

890名も無きAAのようです:2014/12/07(日) 21:43:39 ID:226w05Qw0
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          : :. ::..       .: :. .:.::.  :. . :. ;:;;: , .,., .,. ;:;:。 ,.:;,;,:,  *
;:;;: , .,., .,. ;:;: ,.:;,;,:,..: ..: :ヽ ::::... ..... ,.': :...  :. :. . :.::,; +;.,;,:: .,... .. ;:
    ;:;;: , .,., *.,::.. :..:. :` ー- ‐ ''"... .   .:::    PM 07:21  エラルテ記念病院にて
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

陽が沈み、月が夜の世界を優しく照らす。
静かな時間が流れるエラルテ記念病院の敷地内で、それは起こった。
第一発見者であるティム・マーベリックはライトで茂みを照らし、隔離病棟の入院患者がなくしたと騒いでいるぬいぐるみを探していた。
五十歳の女性患者は精神疾患を患っており、ぬいぐるみを我が子のように扱っていたという。

ならばベッドに縛り付けておけばいいものをと、ティムは独り言を言いながら茂みの陰に何かないかどうか見て回っていた。
隔離病棟の裏にある従業員専用の入り口に来た時、ティムは誰かがそこに立っているのを見つけた。

ミ;^つ^ル「だ、誰でしょうか?」

返答はない。
影はただ、そこに立っているだけ。
木を見間違えたか。
いや、確かに人影だ。

ミ;^つ^ル「あ、あの〜」

恐る恐るライトを向けると、そこに立っていたのは――

ミ;゚つ゚ル「あなっ」

――白銀に輝く一閃を最後に、ティムの頭が地面に落ちた。
頭のない死体は近くの大型のゴミ箱に入れられ、頭は彼の胸に置かれた。
そして黒い影は、その死体に向けて眩い光を与えたのであった。

891名も無きAAのようです:2014/12/07(日) 21:48:48 ID:226w05Qw0
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          lll iii!:;: :: :: :: :::| ::::::: | |;;:::::::::::::|        __,, !!--'‐ '''''"" ゙""''''' ー'''"
         ,,. ;:''':::::::::::.::::::::::゙::":::::‐-- ..,,,__ |__,,,.. --‐'''PM 07:23  エラルテ記念病院にて
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

異変に気付いたのは、一階の食堂で夜食を食べていた医師たちだった。
最初の異変は、匂いだった。

Ie゚U゚eI「なぁ、何か焦げ臭くないか?」

(,,'゚ω'゚)「そう言われれば、そうだな」

(ΞιΞ)「お前の焼きナスじゃないのか」

(,,'゚ω'゚)「いや、これそこまで焦げ臭くないぞ」

次の異変は、報知器の作動だった。
非常ベルがけたたましく鳴り響き、職員全員が反射的に席を立つ。
マニュアルに従い、患者の誘導と移動を担当する女性看護師達が病室に散っていく。

(;ΞιΞ)「おいおい、マジかよ!!」

892名も無きAAのようです:2014/12/07(日) 21:52:25 ID:226w05Qw0
そして第三の異変は、炎の出現だった。
食堂を飛び出した三人の目に飛び込んだのは、建物の外が赤々と燃え、黒煙が廊下に流れ込んでいる様子だった。
おかしい。
これだけ燃えるとなると、ある程度の時間がかかるはずだ。

燃え広がる速度があまりにも速すぎる。
放火の可能性が高い。

( 0"ゞ0)「火の回りが早い!! 消火活動はあきらめて、患者の救助を第一優先に!!」

当直の男が、大声で叫ぶ。
各担当者は病室に向かい、またある者は消防署に連絡をした。
今自分がやるべきことは放火かそれとも事故かを考えるのではなく、患者を救うことだ。
カールは二階に駆け上がった。

廊下の窓から下を見ると、どうやら火元は東棟からのようだった。
となると、東の部屋にいる患者から救助しなければならない。
火は上に向かう性質がある。
避難する際には危険を承知で下に向かった方が、生存率は高い。

扉を開け、パニックになる患者を落ち着かせつつ、ベッドを移動させる。
病院のベッドはいざとなればそのまま搬送できるようにキャスターがついており、このベッドの場合は更に段差の上り下りにかかる力を軽減してくれる設計になっていた。
部屋からベッドごと患者を出して、階段を使って下に降りる。
この作業が、最も時間と慎重さが必要なものだった。

応援に駆け付けた三人の同僚と共に、ベッドを素早く降ろす。
一階に着いたベッドは看護師たちが外に運び出し、カール達は再び二階に戻る。
その時、視界の端に炎と猛烈な黒煙を捉えた。
遂に、建物の内部に火がやってきたのだ。

893名も無きAAのようです:2014/12/07(日) 21:54:37 ID:226w05Qw0
普段は涼しい夜なのに、炎のせいで病院内は真夏の日中以上の暑さになっている。

(●ム●)「ドクター!! 我々も手伝います!!」

それは、この上なく嬉しい提案だった。
ジュスティアの軍人は、棺桶を持っている。
本来の目的を発揮するのは、まさに今だ。

(,,'゚ω'゚)「お願いします!! 東の方から患者を下に運んでください!!」

(■_>■)『我らの一歩は友の道。我らの歩みは国の路!!』

コンテナ内で強化外骨格を装着した軍人二人は、先陣を切って病室に向かった。
これで、作業速度が上がる。
部屋からベッドをもって出てきた軍人は、そのまま一人で一階に降りていった。
残ったもう一人が、医師たちに指示を出す。

〔 (0)ш(0)〕『もうそろそろ、ここも危なくなります!!
        この階の患者たちは私たちに任せて、ドクターたちは早く外へ!!』

(;ΞιΞ)「た、頼みました!!」

だが、カールはその提案を受け入れなかった。
それは駄目なのだ。
彼は医者であり、医者は患者の命に対して責任がある。
自分らしく生きるのなら。

自分らしくあり続けるのなら、ここで逃げてはいけない。
ここが、自分の生き方を決める瞬間なのだ。

894名も無きAAのようです:2014/12/07(日) 21:59:33 ID:226w05Qw0
(,,'゚ω'゚)「……いえ、自分はまだやります」

一階は、おそらく非難が完了しているだろう。
看護師たちが二階に上がってきたのを見ていない。
彼らは、より逃げやすい一階の避難を優先したのだ。
自分たちの命も含めて、より安全な道を選んだ。

そう、マニュアルにも明記されている。

〔 (0)ш(0)〕『ドクター、無理をしても意味がありません!!
        貴方にしか救えない命があるでしょう!!』

その言葉の直後、大量の炎が黒煙を伴って一階の廊下に波のようにあふれ出した。
意志ある生き物のように炎は壁と天井を走り、病棟を灼熱の地獄へと変える。
今ならまだ、あの炎の中を走って逃げれば助かる。
それは明らかだ。

熱は気温での比較ができないレベルにまで上がり、滝のように汗が吹き出し、地面に落ちる。
匂いと煙で視界が悪く、息をするのも苦しい。
口元をハンカチで押さえて、煙に対処する。

(,,'゚ω'゚)「それが今なんだよ!!」

カールは走った。
西端にある部屋。
救助が最も遅くなるであろう部屋。
そして、避難が困難な男がいる部屋に。

扉を開くと、そこにはトラギコの姿があった。
ただ、ベッドの上ではなく椅子の上に。

895名も無きAAのようです:2014/12/07(日) 22:01:04 ID:226w05Qw0
(=゚д゚)「よぅ、ドクター。
    今日は我慢大会でもしているラギか?」

この状況でも、彼は焦った様子を見せない。
どういう神経をしているのだろうか。
サウナか何かの中でくつろいでいるような、そんな姿。
焦っているこちらが馬鹿なのかと、錯覚してしまいそうになる。

(,,'゚ω'゚)「トラギコさん、逃げましょう!!
     ここはもう!!」

(=゚д゚)「なぁ、ドクター。 荷物が保管されている場所を教えてくれラギ。
    取りに行くラギ」

口調は冷静そのもの。
目は静かに凪いだ海を思わせ、それが逆にカールを苛立たせた。

(,,'゚ω'゚)「何を馬鹿なことを言っているんですか!!
     状況が分かっているんですか?!」

(=゚д゚)「分かってるから言ってるラギ。
    これ、放火ラギ。 ガスなら爆発が起きているはずだが、それがねぇ。
    おまけにこの速さ、不自然すぎるラギ。
    調理で忙しい時間帯ならまだしも、ここは隔離病棟でおまけに夕食はとっくに終わっているラギ」

(,,'゚ω'゚)「だったら!!」

(=゚д゚)「俺を狙ってるラギ、間違いなく。
    だから、武器が必要ラギ」

896名も無きAAのようです:2014/12/07(日) 22:03:13 ID:226w05Qw0
この炎を生み出したのがトラギコを追う何者かであれば、それから逃げるのが一番だ。
足を負傷していて勝てる相手ならばいいが、そうは思わない。

(,,'゚ω'゚)「そんなことをしていたら、焼け死んでしまいますよ!!」

(=゚д゚)「ドクター、あんたがここに来たのと同じように、俺にもやるべきことがある。
    俺の場合は、他の連中に被害が出ないようにここに残って相手をすることラギ。
    それに、だ。 俺が逃げ出すことを想定しているだろうから、待ち伏せぐらいはあるラギ」

(,,'゚ω'゚)「うっ……」

(=゚д゚)「場所だけ教えてくれたら、後は自分でやるラギ。
    隣の部屋の奴らを助けてやってくれラギ」

トラギコという男は。
この男は。
どうして、ここまで。
どうしてここまで、意図も容易く貫けるのか。

この極限状態の中。
自分自身を貫き、流れに反して立ち向かえるのか。
憧れてしまう。
焦がれてしまう。

その在り方に近づこうと。
その生き方を模倣しようとしてしまう。
従うばかりだった人生。
流されるばかりだった人生。

897名も無きAAのようです:2014/12/07(日) 22:05:54 ID:226w05Qw0
その人生を変える瞬間。
それはきっと、この時の決断に委ねられているのだろう。

(,,'゚ω'゚)「……分かりました。 教えます」

(=゚д゚)「助かる。 で、どこラギ?」

(,,'゚ω'゚)「私が一緒に行きます。
     その足ではこの炎の中歩いて行ったら、すぐにバーベキューになります」

火事の中、何か物を取りに戻ることは非常識とされている。
その通りだ。
非常識どころか自殺行為だ。
だが、それでも。

それでも、カールは見届けたい。
せめて、誰よりも間近でこの男の生き方を見ていたいと思ってしまうのだ。
白衣を脱いでそれを洗面台でまんべんなく濡らし、トラギコに渡した。
これを頭から着ていれば、炎から体を少しは守れるはずだ。

(=゚д゚)「すまねぇ、ドクター・カール」

カールの差し出した手をトラギコは強く握り返し、遠慮なくカールの背中を借りた。
火事を知らせるグレート・ベルの鐘の音が、不気味に響き渡る。

898名も無きAAのようです:2014/12/07(日) 22:08:12 ID:226w05Qw0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
                        ノ (
                 、   ,    `Y   |   ∵”
               ,ノ)        |   人
        ,      `Y´(    '     ,/    く、
         ヽ、    |  ) 、    /       }      丿)               、
.        __,ノ ) ' / (_,ノ)  (::::::::::::::::::::::  \ノ!   / (     ノ!        ,ノ)
.      (.  (_,/     (__)    ::::::::::::::::::::::ゝ/  ,)    | \     `Y´(
      ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::        :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

炎の熱は驚くほど強く、そして速い速度で病棟を焼いていた。
念のため、カールは病室を見て回った。
だが、トラギコの部屋以外は誰もいなかった。
ベッドだけが残されているのが多く、火の回りの速さからベッドを放棄しても問題のない患者を動かしたのだろう。

精神的に難のある患者でも、強化外骨格に抱かれてしまえば抵抗は無意味だ。
生身の人間には出来ない避難方法だった。
状況的に、残っているのは二人だけだ。
姿勢を低くし、尚且つハンカチで口元を覆う。

両手が塞がっているカールに代わって、トラギコが二人分のハンカチを押さえていた。

(;=゚д゚)「あっつぃ……!!」

(,,'゚ω'゚)「急ぎましょう、荷物は一階にあります!!」

カールはトラギコを背負い、階段を駆け下りた。
紅蓮の炎は衰えを知らず、消防車の到着を待たずして病棟が焼失しかねない勢いだ。

899名も無きAAのようです:2014/12/07(日) 22:11:10 ID:226w05Qw0
(;=゚д゚)「ドクター、無理しなくていいラギよ。
    これは流石にやばいラギ」

(,,'゚ω'゚)「いえ、もうここまで来たんです。
     最後まで私も一緒に行きますよ」

トラギコの荷物は、院長室の奥にある保管庫にある。
最も厳重な保管場所だが、その解除方法をカールは知っていた。
保管庫は熱に強い設計をしており、そこに逃げ込めば逃げ道はある。
背負ったトラギコに炎の影響が及ばないように歩く中、あり得ない音が聞こえた気がした。

(;=゚д゚)「……銃声?」

(,,'゚ω'゚)「ほ、本当ですか?」

その音は確かにカールも聞いたが、銃声と断定できるほど銃声を聞いたことはない。
何か、木製の調度品が爆ぜる音の聞き違いではないのだろうか。

(;=゚д゚)「悪いが急いでくれ!!」

銃声が本物だとしたら、それが意味するのは二つ。
一つは、逃げ遅れた人間が苦しみから逃れるために自らの脳幹を吹き飛ばした可能性。
そしてもう一つは、戦闘を行っている可能性だ。
火災現場で戦闘行為となると、放火犯と何者かが争っていることになる。

可能性としては、棺桶を装着したジュスティアの軍人が放火犯と戦っているのだろう。
棺桶なしでこの熱の中で戦闘、もしくは発砲をするなど自殺行為以外の何物でもない。
廊下を進み、医院長室へと急ぐ。
息苦しかった。

900名も無きAAのようです:2014/12/07(日) 22:14:22 ID:226w05Qw0
酸素が燃焼し、空気が熱を持っている。
医院長室内に飾られていた観葉植物は燃え、絵画は炭となって床に落ちていた。
最悪の光景だった。
地獄絵図だった。

やっとの思いで保管庫の前に辿り着いた時、この世のものとは思えない悲鳴が聞こえてしまった。

「あがあっあっ!! はっ……ひゅっ……」

その悲鳴はすぐに消え、火が建物を燃やしていく音とトラギコの呼吸音だけが残った。
嫌な声だった。
断末魔の声の方が、まだいいだろうと思えてしまうような、そんな声。

(,,'゚ω'゚)「い、今のは?!」

(=゚д゚)「気にすると駄目ラギ、ドクター・カール。
    俺の荷物を持って、院長室の窓から逃げるラギよ!!」

今は、トラギコの声だけに集中すべきだ。
保管庫に入ると熱がかなり和らいだが、空気の薄さは変わらない。
巨大な正方形の金庫が一つだけ鎮座する室内に来るのは、これで三度目だった。
暗証番号式の金庫を開き、中に入る。

金庫内は更に番号の割り振られた正方形のロッカーが積み重ねられていた。
トラギコの荷物が保管されているロッカーを開く。
そこには、黒塗りのアタッシュケースが一つと拳銃が一挺、そして折り畳まれたスーツがあった。

(=゚д゚)「よし、それは俺が持つラギ。
    ドクター、さっさと――」

901名も無きAAのようです:2014/12/07(日) 22:17:08 ID:226w05Qw0
――次の瞬間、カールは壁を破壊される音を生涯で初めて聞いた。
慌てて金庫の外に出ると、まずは熱風がカールの前髪を焦がした。
目を細めて正面を見据えると、そこには黒い異形が仁王立ちになっていた。

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         /.:.:.i i.:.:.:i{     :}i:.:.:.: i{       }i.:.:.::}fハ }:!
           イ.:i. ∧从 八     八f.:.:八     八.:.:.:'リ ィ.:!
.         乂ハ.:.:.i.{.:.:{: :.ゞ=<: :ハ.:.:.:ハ =彡!i.:.:..:}/.:.::|
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

(:::○山○)

眼窩で輝く丸く赤い瞳と、骸骨を思わせるデザインの顔。
騎士を思わせる上半身の装甲とは逆に、ほっそりとした脚部はナイフのような鋭利な形状をしている。
周囲を覆うのは灼熱の炎だが、その異形はまるで炎を恐れる様子がない。
それどころか、炎自身に意志があるかのように異形から遠ざかっているようにも見える。

異形自身が炎を引き従え、眷属として扱っているようだった。

(:::○山○)

それを思い知らせるかのように、異形は両腕を広げ、そこから炎を噴射した。
紅蓮の炎が防火加工のされた壁と天井、そして床を燃やす。
この棺桶が火を放った張本人に間違いない。
原初の恐怖が、カールからあらゆる意欲を奪い去った。

(=゚д゚)「ドクター、俺が合図したら俺を置いて逃げろラギ。
    いいな?」

902名も無きAAのようです:2014/12/07(日) 22:19:47 ID:226w05Qw0
そう言いつつ、トラギコはカールの背中から降り、ふらつく足で立つ。
左手にアタッシュケース、右手に拳銃。
この男は、戦うつもりだ。
殺し合いの素人でも分かる。

何故なら、トラギコの右手は異形に対してまっすぐに向けられているからだ。
人間と棺桶が戦えば、当然人間が負ける。
馬鹿でも分かる理屈だ。
猫では獅子に勝てない。

犬では狼には勝てないのだ。

(,,'゚ω'゚)「か、勝てるわけない……勝てるわけないですよ……こんなの……!!」

(=゚д゚)「いいか、勝てる勝てないの問題じゃねぇラギ。
    生きるか死ぬか、それだけラギよ」

銃爪はいつ引かれてもおかしくない。
おかしくはないが、それが引かれれば、トラギコは燃やされる。
そして、遅かれ早かれカールも焼かれる。

(=゚д゚)「覚悟ってのはな、行動が伴って初めて意味を成すラギ!!」

銃声が連続した。
その発砲音、そして閃光にカールの竦んでいた体が反応した。
一歩が動いた。
後は、走るだけだった。

903名も無きAAのようです:2014/12/07(日) 22:22:10 ID:226w05Qw0
だが。
走れなかった。
否。
走らなかったのだ。

逃げなければ危ないということを理解していても、走って逃げ出すわけにはいかなかったのだ。
その理由に気付いたカールは、己の職業病を理解した。
そして、トラギコの気持ちの片鱗を理解できた気がした。

(,,'゚ω'゚)「あ、あ……」

(#=゚д゚)「何してやがる、この野郎!!」

断続的に発砲し、怒鳴るトラギコ。
異形は微動だにせず、攻撃しようともしない。

(,,'゚ω'゚)「い、一緒に逃げて……」

(#=゚д゚)「ふざけんな!! ドクター、あんたにはあんたの仕事があるだろうが!!
    あんたでなきゃ助けられない患者がいるんだろ!!
    単純計算で動け!!
    これは俺の仕事ラギ!!」

拳銃の遊底が後退した状態で固定された。
弾切れだ。

(:::○山○)『……』

棺桶が一歩踏み出す。
火炎放射器を使うよりも殴殺した方が、出費を抑えられると判断したのだろう。

904名も無きAAのようです:2014/12/07(日) 22:24:14 ID:226w05Qw0
(#=゚д゚)「言わんこっちゃねぇ!! せっかくのチャンスを台無しにしやがって!!」

(,,'゚ω'゚)「医者が患者を置いて逃げられるわけないでしょ!!」

それが、本音だった。
結局のところ、カールは医者なのだ。
今救える命をここで見捨てることは、どうしても出来ないのだ。

(#=゚д゚)「だったらこの仕事を辞めろ!!
     まだ死にたくねぇだろ!!」

(,,'゚ω'゚)「これが私の天職なんです!!」

(#=゚д゚)「っ……!!」

その時だった。
新たな影が火の海から飛び出し、その場に現れたのは。

<_プー゚)フ

黒のスーツを着た男だった。
短髪の黒髪、僅かに垂れた眉と眼光鋭い茶色の瞳。
棺桶を背負い、二人を異形から庇うようにして立ちはだかる。
それは騎士のように堂々としていて、英雄のように神々しかった。

(:::○山○)『……』

黒の棺桶は僅かだが怯んだ様子を見せた。
近付くのを止め、両手をだらしなく垂らす。

905名も無きAAのようです:2014/12/07(日) 22:26:23 ID:226w05Qw0
(;=゚д゚)「エクスト!! 来るのが遅いラギよ!!」

<_プー゚)フ「……」

突如として現れた男――エクストと呼ばれた――はトラギコを一瞥することなく、左手の親指を喉に当て、左から右に向けて走らせた。
それは、相手を殺すという動作。
相手を侮蔑するための仕草。
敵意を示すための合図。

そして――

ィ'ト―-イ、
似`゚益゚似『トラギコ、外へ』

――異形に立ち向かう異形への変貌の宣言。
黒一色の鎧は丸みを帯び、人間の筋肉と似た形状をしている。
両手両足にはサポーターらしきものが付いており、腰には尻尾のような太いコードが一本垂れ下がっている。
頭部は鼻先が鋭く尖り、イヌ科の動物を思わせる形状をしていた。

(;=゚д゚)「気を付けろよ、そいつは火を使うラギ!!」

似`゚益゚似『問題ない』

人口声帯の声に従い、トラギコはカールを目で呼んだ。
カールは黙って肩を貸して、炎の中に向かって走り出した。

906名も無きAAのようです:2014/12/07(日) 22:37:53 ID:ycgoSc6E0
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               |:. /i:i/ ̄`''ヽ.  フ }       {:::::::::::::::::::::〉!
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               ヽ ヽ':: /::::::::::::: ヽく   ,ィO´::::::::::::::::::::ノ
                〉. |/::::::::::::::::::::::::::: \/::::::::::::::::::::::::::::/
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              __,/i:i:i:i:i:i:\:. : :|:. 〈.〉ヽヽ、i:i:i:i:i:iヽ:::::::::::ノ
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トラギコたちが逃げたのを見届けることなく、ダニー・エクストプラズマンは目の前に立つ強化外骨格に意識を集中させた。
見たことのない棺桶だった。
火炎放射兵装を見ること自体は初めてではないが、それを主兵装として戦う棺桶は実戦では二度目。
しかし、目の前にいるのは明らかに単一の目的で作られたコンセプト・シリーズのそれ。

心してかからなければならない。

似`゚益゚似『悪いな、待ってもらって』

(:::○山○)『あの医者は殺すには惜しい、そう思っただけアル』

男の声だった。
特徴的な発音で、癖のある言葉遣いだ。
そして男は、炎を噴射してきた。
両腕から放たれる業火を大きく飛び退くことで回避し、すぐさま両腕の兵装を起動させる。

907名も無きAAのようです:2014/12/07(日) 22:39:47 ID:ycgoSc6E0
“ダニー・ザ・ドッグ”。
格闘戦において比類なき破壊力を誇る高周波発生装置を各所に内蔵し、それを武器として戦うことに特化した強化外骨格だ。
エクストは炎がいつまでも噴射できないと予想していた。
燃焼系のガスか、それとも液体かは不明だが無限ということはない。

病院一つを焼き尽くすために使用した燃料を考えると、残りはそうないはずだ。
もしくは、もう残量がないのかもしれない。
そうでなければ、エクストが棺桶を纏う前に焼き殺せたはずだ。
肉弾戦による決着が好ましい。

元より、この棺桶には中・遠距離の武器は備わっていない。
炎にさえ気を付ければ、負ける要素はない。
エクストは燃える地面を蹴って加速し、一瞬の内に肉薄した。
両腕の高周波発生装置を起動させ、左のボディブローで機能停止を狙う。

が、男は無駄を削ったバックステップで回避すると、両腕を交差させた。
高周波振動を行っているこの両腕に触れれば、波の装甲など容易く砕け散る。
それを察したのだとしたら、大した技量だ。
ならば分かるはずだ。

防御など無意味であると。
しかし手遅れだ。
着地と同時に加速。
そして回し蹴りを放つ――

似`゚益゚似『っ?!』

908名も無きAAのようです:2014/12/07(日) 22:42:48 ID:ycgoSc6E0
――のを中断し、エクストは全身の高周波発生装置を起動させた。
ダニー・ザ・ドッグの持つ切り札。
全身を振動兵器と化すことで、あらゆる攻撃を粉砕する強力な楯となる応用技だ。
大量の電力を消費するため、そう滅多なことでは使わないのだが、全身に走った悪寒に従うしかなかった。

その判断は正しかった。
直後、エクストの視界が紅蓮の炎に包まれたのだ。
それは業火とも呼べる火力だった。
炎が付着した場所が溶け、沸騰している。

秘蔵の一撃。
否。
使わなかっただけだ。
初めから、あの棺桶の各所には火炎放射器が備わっており、全身から炎を撒けるのだ。

しかしながら体に付くはずだった燃料は高周波振動によって霧散し、効果を成さなかった。
そして、炎の向こうにいたはずの影はもう消えていなくなっていた。
つまりそれは戦いを放棄して、逃げ果せたということ。
許しがたい無礼。

エクストは激怒したが、一先ずはその場を退去することにした。
もう、この建物内に生存者はいない。
いたとしても、助けられない。
助けても意味がない。

瀕死の人間は、せめてその苦しみが無意味にならないように死ぬべきなのだ。

909名も無きAAのようです:2014/12/07(日) 22:45:09 ID:ycgoSc6E0
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燃え盛る病棟を背に、トラギコとカールは敷地から外に出ようと裏口に向かっていた。
撃たれた右足が酷く痛むが、カールが肩を貸してくれるおかげでどうにか歩けている。
松葉杖をもらっておけば良かったと後悔するが、いまさらもう遅い。
出来る限り茂み沿いに歩き、人目につかないように歩く。

襲撃犯は一人だったが、内通者がいるのかもしれない。
この島にいるショボン・パドローネの仲間たちの仕業としか考えられなかった。
トラギコの口封じが目的だったと考えるが、一体何を闇に葬ろうとしているのか。
少し考えれば分かる話だ。

警察内でオセアン、フォレスタ、更にはニクラメンでの事件の概要を知っているのはトラギコだけ。
そこに謎の組織が関わっており、そのメンバーの数名の顔を知っている。
事件概要や人相などを警察に話されると困るのだろう。
証拠隠滅や目撃者の排除に徹底的に力を入れるのは、街を一つ沈め、更にオアシズを爆破しようとしたことからも明らかである。

犯人が入院場所を知っていたことから、警察か病院にも組織の種が紛れ込んでいるようだ。
今後はあまり表だった捜査が出来ず、情報を警察に話すのも難しくなる。
ティンカーベルが封鎖されている間は適当な宿に隠れ、そこを拠点に情報収集を行うしかなさそうだ。

910名も無きAAのようです:2014/12/07(日) 22:47:57 ID:ycgoSc6E0
(=゚д゚)「助かったよ、ドクター・カール。
    トレードマークだったんだろ、この髪型。
    燃えちまったよ」

一先ず、トラギコは忘れない内にカールに礼を言うことにした。
ポニーテールは焼けてしまい、ただのロングヘアーと化していた。

(,,'゚ω'゚)「髪ぐらい構いませんよ。
     それに、言ったでしょう? 私は医者で、貴方は患者なんですよ」

(=゚д゚)「へへっ、悪かった。
    昔からどうにも医者ってのが苦手でな、だけど、あんたは嫌いじゃねぇ」

(,,'゚ω'゚)「?」

(=゚д゚)「仕事に殉じるって覚悟があるんだろ? 気に入ったラギ」

(,,'゚ω'゚)「それは何よりです、トラギコさん」

このカールという医者は、思ったよりも芯が太い。
そして、自分に正直に生きようとしている。
トラギコの生き方を理解して、それに追従しようとしているのがよく分かった。
あの炎の中で天職だからと叫ばれては、気に入らないはずがない。

同僚にもいないタイプの男だ。
これからの捜査の手助けをしてくれるかもしれない。
街灯一つない裏口の前に来た時、カールは急に立ち止った。

(=゚д゚)「どうしたラギ?」

911名も無きAAのようです:2014/12/07(日) 22:50:38 ID:ycgoSc6E0
(,,'゚ω'゚)「い、いえ……何でも……」

歩くのを再開したが、先ほどよりも明らかに歩き方がおかしい。

(=゚д゚)「疲れたんなら、もういいラギよ?」

(,,'゚ω'゚)「すみま……せん……」

カールの顔から、血の気が引いていた。
恐怖が今になって甦ったのだろうか?
精神病にならなければいいのだが。

(,,'゚ω'゚)「あ……あぁ……」

そして、カールは倒れた。

(;=゚д゚)「おい、どうしたラギ?!」

(,,'゚ω'゚)「さ……寒い……」

カールは震えていた。
馬鹿な。
今は夏だ。
確かに涼しいが、寒いと言って震えるほどの気温ではない。

とにかく、今度はトラギコの番だ。
彼の体を持ち上げようと肩に手を回した時、生暖かい液体が手に着いた。

(;=゚д゚)「いつ怪我したラギ?!」

912名も無きAAのようです:2014/12/07(日) 22:53:21 ID:ycgoSc6E0
(,,'゚ω'゚)「せ、背中に……何かが……さっき……当たって……
     あ、あぁ……」

傷口を確認しようと、背中を見る。
そこに、銃創があった。
銃声はしなかったはずだ。
少なくとも、病院から出て以降は絶対に聞いていない。

サプレッサーを付けた銃による狙撃。
誰が。
誰が一体何のためにカールを撃ったというのか。

(;=゚д゚)「おい、ドクター!! いいか、今人を呼んできてやる!!
    絶対に目を閉じるなよ!!」

駄目だ。
このままでは、カールが死んでしまう。
銃弾は背中から入り、肺を撃ち抜いている。
早急に手術を受けることが出来れば、助かる可能性がある。

医者が必要だった。
だが。
トラギコの腕を、カールが力強く握り締めた。

(,,'゚ω'゚)「だめ、駄目です……!!
     そんなことをすれば……トラギコさんがまた……また、襲われてしまいます……!!」

(;=゚д゚)「遅かれ早かれ襲われるラギ、だったら!!」

(,,'゚ω'゚)「トラギコさん……ぼ、ぼくは……ぼくは……貴方の生き方が羨ましいっ……!!」

913名も無きAAのようです:2014/12/07(日) 22:56:10 ID:ycgoSc6E0
話していることが支離滅裂だ。
出血多量による錯乱状態だろうか。
傷口を直接押させて止血しても、失われた血液量を見るともう助からなそうだ。

(;=゚д゚)「おい、しっかりしろ!!」

(,,'゚ω'゚)「自分のルールにまっすぐで……他を気にしないで……
     気持ちいいほど……まっすぐな生き方が……ぼくはっ!!
     僕は、本当に……羨ましい……っ!!」

カールの手を握りしめる。
手は冷たかった。
顔からは生気が失われつつあり、唇の色も変色している。

(;=゚д゚)「カール、喋るな!! あんたはこれからも患者を助けるんだろ!!
    だったらここで死んだら駄目ラギ!!」

その言葉を聞いたカールは死の淵にありながら、嬉しそうな笑顔を浮かべた。

(,,'^ω'^)「やっと……カールって……呼んでくれました……ね……
     よか……っ……た……」

そして、カールの手から力が失われ、笑顔のまま呼吸も止まった。
消防車のサイレンの音が聞こえ始める。
人々の叫び声が聞こえる。
炎と大きな音に狼狽える動物たちの声が聞こえる。

だが、カールの声は、もう二度と聞こえることはなかった。

914名も無きAAのようです:2014/12/07(日) 22:56:50 ID:ycgoSc6E0
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                    Ammo→Re!!のようです

             Ammo for Tinker!!編 第三章 【preparedness-覚悟-】 了

                      To be continued...!!

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915名も無きAAのようです:2014/12/07(日) 22:57:30 ID:ycgoSc6E0
支援ありがとうございました。
これにて本日の投下は終了となります。

質問・指摘・感想などあれば幸いです。

916名も無きAAのようです:2014/12/07(日) 23:06:29 ID:7CKgzc9E0

対象的な二人だな……

917名も無きAAのようです:2014/12/08(月) 02:27:27 ID:fp.NGd6gO
乙イトーイ
登場人物全員かっこいいな

918名も無きAAのようです:2014/12/10(水) 11:49:11 ID:HieFnQTs0
まだ読んでないけど乙!
今から楽しむぜ!

919名も無きAAのようです:2014/12/10(水) 12:29:49 ID:HieFnQTs0
毎度面白すぎて短く感じるわ


920名も無きAAのようです:2015/01/03(土) 11:19:23 ID:mWYJPbvk0
                           【第四章予告編】

虎がいた。
傷つき、怒りに燃える虎がいた。
友を失い、復讐に燃える虎がいた。

男がいた。
真実を作り、真実を広め、真実を知ろうとする男がいた。
巨大な流れに身を任せようとする男がいた。

敵がいた。
真実を葬り、真実を生み出し、真実になろうとする敵がいた。
世界中に根を張る巨大な大樹の如き敵がいた。

影があった。
失い、傷つき、それでもなお心に浮かぶ名を求める影があった。
忘失の彼方に浮かぶ名を追い求める影があった。


                     ――獣は、飢えてこそ




今晩VIPにてお会いしましょう。

921名も無きAAのようです:2015/01/03(土) 15:24:35 ID:rVLcbd9w0
全裸に靴下で正座しながら待つわ

922名も無きAAのようです:2015/01/03(土) 19:37:20 ID:mWYJPbvk0
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大衆の望む真実とは目に見える物の集合体であり、
我々はそれを作り上げる共同体でなければならない。

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         /`‐──-、_____,-‐´ /
        ./  / ̄ ̄/ 三三=  彡 /
       /  /__/ 三三=  彡 /
     ./―――モーニングスター新聞社則その1

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923名も無きAAのようです:2015/01/03(土) 19:40:49 ID:mWYJPbvk0
普段は静かな夜なのだが、その日に限ってはサイレンの音が鳴り響く夜だった。
消防車、そして救急車がグルーバー島の各所から集められ、エラルテ記念病院の火災に対処していた。
火を消す事よりも、炎が周囲に被害を及ぼさないようにする事に力が注がれ、怪我人の搬送や継承者の対処には島民も参加した。
その騒ぎは、一目と喧騒とは無縁の路地裏にも届いていた。

生活臭と下水道から込み上げる悪臭が立ち込める民家の間にある薄暗い路地裏には、一匹の王がいた。
薄汚れ、大きな体をした野良の雄猫だ。
その猫は路地裏の主として長らく君臨しており、近隣の住民からはその傲慢な態度とゴミを荒らす事から嫌われていた。
大型犬はもちろん、人間に恐れをなさない姿はまさに王。

猫にしては珍しく、この王は報復と云う事を知っていた。
人間がこの猫に危害を与えれば、間違いなく報復の対象となった。
報復は執拗に行われ、いつしか人間はその猫に手を出す事を諦めたのであった。
王は力もあり、そして行動的だった。

しかしその人物が姿を見せた瞬間、路地裏の王は威嚇の鳴き声を上げる事もなく、脱兎の如く逃げ出した。
王の逃亡は必然だった。
現れたのは、人の姿をした虎だったのだ。
例え狩りをせず楽に餌を獲得する動物であっても、野生に生きる動物である以上は対面した相手との力の差が歴然である事を察すれば、遁走は必至。

ましてや、手負いの獣で怒り狂っている状態ともなれば逃げない方が異常だ。
野生に生きるものとして、王の判断は正しかった。
そんな事情を知らない男の目には野良猫がただ逃げ出しただけにしか映らず、むしろ興味の対象外だった。
男は大激怒していた。

壁に手をつき、足元に転がるゴミを蹴り飛ばして、男は路地を進んだ。
男にとってかつての王の存在など考慮するべき事ではないし、全く知らない事だった。
思考の全ては事態の把握と整理、その解決に使われるありとあらゆる暴力的な手段の算出に割り当てられた。
絞殺か、撲殺か、それとも殴殺か。

924名も無きAAのようです:2015/01/03(土) 19:44:57 ID:mWYJPbvk0
あらん限りの苦痛と屈辱を与えた後に殺すための方法と過程を、男は考えていた。
男は、復讐を誓った獣と化していた。

(#=゚д゚)「……」

中年の男の名は、トラギコ・マウンテンライト。
“虎”と呼ばれ、世界中の犯罪組織からも恐れられる敏腕の刑事である。
二十年以上も刑事として難事件解決の最前線で働き、そして解決してきた男は執拗に犯人を追い立て、捕え、そして殺してきた。
だが今や、トラギコは追われる身となっていた。

誰が追っているのかは分からなかったが、それでも、トラギコは逃げざるを得なかった。
彼を助けた医者の命を奪った人間に復讐するために、今はただ、逃げて生き延びなければならなかったのだ。
そのためには手段を選んではいられない。
無様であろうが、己の矜持に反する事だろうが、関係はない。

重要なのは、心に正直であるか否かの問題なのだ。

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                   Ammo→Re!!のようです
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925名も無きAAのようです:2015/01/03(土) 19:50:10 ID:mWYJPbvk0
土地勘がない状況での逃亡は、非常に危険だ。
危険な場所がどこで、身を隠していい安全な場所も分からないからだ。
追う側にとってはその逆で、戸惑った人間の心理を考えるだけで追いつく事が出来る。
逆を言えば見知った場所であれば危険な場所も安全な場所も分かるため、逃亡は容易に進む。

隠れ場所は早急に決定しなければならない。
人目に付くだけで、隠れ場所はその安全性を欠いてしまうのだ。
ただでさえトラギコは白衣を着ている事もあって、人一倍人目に付きやすくなる。
目撃情報は簡単に広まるだろう。

そのため、トラギコは悪臭を我慢して路地裏を選んで人通りのある道から離れていた。
意味のない事は分かっているが、サイレンの音が通り過ぎるたび、トラギコは警戒してその方向を睨んだ。
炎が夜空を赤く染め、黒煙が星を覆い隠している。
本棟と離れている事を考えれば、被害は隔離病棟だけに留まる事だろう。

放火は衝動的に行える手ごろな犯罪だ。
燃料と火種さえあれば誰にでも出来る。
しかし、燃え広がるには誰にも邪魔されないと云う条件が付加される。
邪魔されると云う状況下においても放火を遂行するためには、強力な燃料が必要だった。

トラギコを襲ってきた人間は、強力な燃料どころか兵器を導入してきた。
棺桶と呼ばれる軍用第三世代強化外骨格だ。
これまでにデヴォティーなどの火炎放射器を主兵装とする強化外骨格を目にしてきたが、その中でもあれは格が違う。
燃料の正体は分からないが粘度が高く、対象を確実に焼き殺すように設計されている。

単一の目的で開発されたコンセプト・シリーズならば、燃料不足で戦えなくなる事はないだろう。
悔しいが、今の装備と状態ではあれに対して報復する事もままならない。
戦うための準備が必要だった。
今は雌伏の時。

926名も無きAAのようです:2015/01/03(土) 20:01:01 ID:mWYJPbvk0
虎視眈々とチャンスを狙うしかない。
決してそれを見逃す事のないように、逃げながらじっくりと追い続ける他ないのだ。
追われるのは初めての経験ではない。
マフィアに追われた事もあるし、カルト集団、果ては堕落した同僚にまで追われた事がある。

コツは分かっている。
振り向きざまの一発を食らわせるのだ。
逃げる事は決して恥ずかしい事ではない。
生き延びて復讐すれば、それは意味のある行為となる。

だが復讐が失敗すれば、意味は失われてしまう。
殺されたカール・クリンプトンの命の意味も、失われてしまうのだ。
それは彼の命を無駄にすると云う事で、決して許容出来る事ではない。
友人の恩に報いるためには、必ずやり遂げなければならない事なのだ。

正体不明の旅人を追うのは後回しにして、まずはこの問題を解決するところから始めなければならない。
視線の先に人気のほとんどない薄汚いアパートを見つけ、トラギコは錆だらけの階段を上った。
人の出入りがなさそうな扉の前に立ち、ノブを回して鍵がかかっているかを確認する。
しっかりと施錠されていた。

扉に耳を当て、中から物音がしないかを探る。
物音は、しない。
人がいないのなら、侵入して拠点に出来る。
一番いいのは天井裏に隠れる方法だ。

天井裏に隠れていれば、人目に付く心配もないし、家主がいなくなった隙に水や食料を確保出来る。
万が一鉢合わせたとしても、力によって制圧し、警察手帳を利用すれば万事解決だ。
侵入しても問題ない事を確認してから、トラギコは鍵穴を覗き込んだ。
昔ながらの作りをした、ピッキングが容易なレバータンブラー錠だった。

927名も無きAAのようです:2015/01/03(土) 20:06:00 ID:mWYJPbvk0
腕時計のベルトに隠していた針金を取り出し、それを曲げて鍵穴に捻じ込む。
上下させ、力を入れて回す。
この手の鍵は、特定のピンを全て持ち上げ、特定の方向に回転させてやれば解錠出来る。
静かに扉を開いて、ゆっくりと中に入った。

入ってすぐに気付いたのは、人の気配がする事だった。
物音をほとんど立てず、僅かな音だけで辛うじて判別出来る気配。
扉の外からでは気付く事の出来ない程の気配だ。
運が悪いが、入ってしまったものは仕方がない。

せいぜい、まともな人間である事を願うばかりだ。
靴を脱いでその場に置き、後ろ手で扉の鍵を静かに閉める。
ベレッタの安全装置をかけ、暴発に備える。
民間人であれば銃口を見れば言う事を聞くはずだ。

気配のする部屋は、玄関を上がってすぐ左の部屋だった。
姿勢を低くし、僅かに開いた扉をそっと押し開くと、そこには赤い空間があった。
狭くて湿った部屋には、赤い光が灯っていた。
壁と壁の間に張られた紐には何枚もの写真がかけられ、ここが現像室である事を物語っている。

写真はまだ現像が完了しておらず、先ほど干したばかりなのか滴が滴り落ち、何も映っていない。
脂ぎった髪を伸ばした背の低い男が、背中を丸めて写真を現像液に浸していた。
女でなくてよかった。
これが若い女だと、泣き叫んで事態が厄介になってしまう。

屈んでいた体を伸ばし、壁をノックしてからトラギコは声をかけた。

(=゚д゚)「お邪魔してるラギよ」

(;-@∀@)「ぬぁあああああ!?」

928名も無きAAのようです:2015/01/03(土) 20:09:46 ID:mWYJPbvk0
写真を現像していた男がトラギコの男に驚き、机の上のものをひっくり返して倒れた。
液体が飛び散り、トレーが床の上に落ちる。
その拍子にスイッチャーを押してしまったのか、部屋のライトの色が白に切り替わる。
慌ただしい男だ。

(;-@∀@)「ぎえええええええ!?」

手に持っていたアタッシュケースとスーツを手放し、代わりにベレッタを構えた。

(=゚д゚)「おい、黙れ」

銃口を向けると、男は両手で口を押えて黙った。
手の下に見えるのは二十代の男の顔だ。
半袖のTシャツは汗で汚れ、ジーンズは色褪せている。
指紋で汚れた厚い眼鏡をかけ、日焼けした肌に不似合いな細い手足。

行動力はあるが力のないタイプだ。
得意分野は環境保護活動か、菜食主義運動だろう。
この手の男は、早めに誤解を解くに限る。
押し込み強盗だと勘違いされると厄介だ。

(=゚д゚)「俺は刑事ラギ。 極秘捜査のために、この家を間借りするラギ」

(;-@∀@)「け、刑事? でも、格好が……」

精神疾患を患った人間だと思われてもおかしくない。
服装とは、そう云うものだ。
患者着に白衣。
どう見ても不審者のそれだ。

929名も無きAAのようです:2015/01/03(土) 20:14:15 ID:mWYJPbvk0
(=゚д゚)「ぶっ殺されてぇのか、手前?!
    カモフラージュラギよ、カモフラージュ!!
    疑うんなら、このスーツの胸ポケットを調べてみるラギ」

男は警戒しながらも言われた通りに床のジャケットを手に取り、警察手帳を探し当てた。
警察手帳には様々な情報が載っており、識別番号や偽造防止の透かしなどが全てのページに記入されている。
顔写真とトラギコとを見比べ、男はようやく警戒を解いた。

(-@∀@)「どうやら、本当のようですね」

(=゚д゚)「最初っからそう言っているラギ」

トラギコも銃口を男から外し、対話をする姿勢をとった。
男はゆっくりと立ち上がって、ずれた眼鏡を直した。

(-@∀@)「トラギコ・マウンテンライト刑事……あぁ、“虎”の刑事さんですね。
      噂は聞いていますよ。
      僕はアサピー・ポストマン、モーニングスター新聞ティンカーベル支社で記者をしています。
      捜査とはいったい?」

記者。
それも、世界最大の新聞社の記者だと云う。
モーニングスター新聞は世界中のニュースを網羅する情報配信会社で、年に十回はジュスティアと衝突している会社だ。
内藤財団が保有する新聞社をも凌ぐ規模を誇る事からか、自分たちが真実の代弁者であると勘違いをしている節が見られる。

捜査の妨害、被害者への執拗な取材など悪質な事もあるが、彼らが手に入れる情報は警察の捜査にかなり役立っている。
使い方を誤らなければ優秀な情報屋だが、本質は大衆に対しての情報発信と自己顕示欲を満たす事にある。
双方の利益が一致しない限りは、関わらないに限る。
実はこれまでに何度かトラギコの捜査を邪魔した記者を殴って整形外科送りにした事があり、アサピーがその事で協力を渋らないか、内心で危惧した。

930名も無きAAのようです:2015/01/03(土) 20:19:41 ID:mWYJPbvk0
協力を拒んだり渋ったりした場合の対処は、いつも通り力による行使である。
最悪の場合、口封じのために両足を砕いてでも協力させるしかない。

(=゚д゚)「それを教えられないから極秘捜査って言うラギ」

(-@∀@)「なるほどですね。 具体的に、どのような事に協力をすればいいので?」

一言で断らなかったと云う事は、話し合いの余地があると云う事だ。

(=゚д゚)「備品を揃えたり、情報収集したり、まぁそんなところラギ」

(-@∀@)「……協力は構わないのですが、僕の利益はどこにあるので?
      言っておきますけど、名誉とか勲章とかはいりませんよ?」

無論、そんなものを渡すつもりはない。
相手は記者だ。
記者が欲するのは名誉ではなく、情報なのだ。
それも、一つの事件の始まりから終わりまでの一連の情報が。

アサピーは自己紹介の際にティンカーベル支社に所属していると言っていた。
この田舎町で新聞記者となると、周囲から得られる記事のネタはつまらないものばかり。
そんな状況でアサピーが最も欲するものとなると、刺激的なニュースだ。
その一つを、トラギコは持っている。

(=゚д゚)「んなもん用意してないラギよ。 もっと実用的な物があるラギ。
    オアシズの事件概要を教えてやるラギ。
    犯人の名前やその職業、過去の経歴についても。
    それと、今起きた火災についてもだ」

931名も無きAAのようです:2015/01/03(土) 20:25:01 ID:mWYJPbvk0
世界最大の船上都市オアシズで起こった殺人事件の概要は、その船に乗り合わせていて尚且つその事件解決に関わった人間でなければ知りえないものだ。
オアシズにはモーニングスター新聞の記者はおらず、オアシズの厄日と呼ばれる事件は簡単な概要だけが広まっている。
エラルテ記念病院で入院していた時、その日の朝刊と夕刊を見たが、詳しい内容は書かれていなかった。
海賊が船を襲い、殺人犯が逃げ出した、と云う事だけが書かれていたがその解決に貢献した人間達の葛藤は当然載っていなかった。

更に、今起きている火災の真相をいち早く手に入れられる。
どのような人間が関与したのか、その概要は非常に高い価値を持つ。
火災現場に行かずにここで現像作業をしていると云う事は、アサピーは現場に出向いても大した情報が得られない事を知っているのだ。
自分がどれだけ聞き込みをしても、地元の新聞社以外には情報開示がされない事を分かっているのだ。

相当な嫌われ者だからこそ、アサピーはここにいる。
しかし、だからと言って彼が記者として腐っているかと言えば、それは断言できない。
無駄足を踏むのを嫌っているだけだろう。
トラギコの提案は、かなり魅力的なはずだ。

記者であれば是が非でも知りたいはずだ。
ニュースの裏側を。

(-@∀@)「へ、へへ……!!
      刑事さん、そうですよ、それがほしいんですよ、僕はぁ!!
      流石だ、いや、流石ですトラギコさん!!
      いやぁね、この島に飛ばされてからと云うもの、事件と云うような事件もニュースもなくてうんざりしていたんですよ。

      隣の家で双子の牛が産まれただの、三つ子の赤ちゃんの名前を募集しているだの、そんなのばっかり。
      おまけにここは閉鎖的で、新聞記者だと云うだけで邪魔者扱いですよ。
      せっかく寄港したオアシズの情報を手に入れようとしてもオアシズの乗客に話す事も出来ない。
      困っていた、そして欲していたんですよ、そんな情報を!!」

932名も無きAAのようです:2015/01/03(土) 20:30:14 ID:mWYJPbvk0
アサピーは嬉々とした表情に変わり、握手を求めてきた。
銃を持ち替え、右手でそれに応じた。
協力者を得ただけでなく、協力関係を結ぶ事が出来た。
この男は使い方次第では役に立つ。

単純な性格をしているため、使いやすそうだ。

(=゚д゚)「オアシズの乗客の扱いは今どうなっているラギ?」

(-@∀@)「朝到着してから一時間だけ外出が許されました。
      それ以降は全員船の中に戻り、ジュスティアが発表している逃亡犯が捕まるまでは船内で待機となってます。
      表では、ね」

(=゚д゚)「裏があるのか?」

(-@∀@)「いや、僕の勘ですよ。
      誰か戻っていない人がいるんじゃないか、そう思うんです。
      例えば、オアシズから降ろされた積荷の中に人が隠れていたとしたら、とか可能性はあるわけで」

(=゚д゚)σ「あの写真は? それに関係があるラギか?」

もしもそうであれば、トラギコはかなり申し訳ない事をしてしまった事になる。
新聞記者にとって写真は武器だ。
武器を失ってしまえば、新聞としても記事としても効果は低くなる。

(-@∀@)「あぁ、気にしなくていいですよ。 どうせ、価値のない写真ですから。
      何枚かいります?」

933名も無きAAのようです:2015/01/03(土) 20:36:07 ID:mWYJPbvk0
床に落ちていた数枚の写真を拾い上げ、アサピーはそれをトラギコに差し出した。
それは風景を写した白黒の写真だった。
山を写したもの、山から海を見下ろした構図のもの。
若干の手振れによって輪郭がぼやけてしまい、上手いとは言い難い。

(=゚д゚)「へぇ、白黒とはまた変わった写真ラギね」

(-@∀@)「仕事の片手間でコンテストに出して賞金をもらおうとしたんですけど、どうも才能がないみたいで。
      やっぱり、新聞用の写真と風景では撮り方が違いますね」

(=゚д゚)「仕方ねぇラギよ」

最後の一枚は、街中の写真だった。
客で賑わう市場の様子だったが、そこに見た事のある人物の横顔が映っていた。
注意してみなければただの風景の一部として見過ごしてしまう所だった。
スカルキャップを被った男は、特徴的な垂れ眉毛と老犬のような頬の皺を持っている。

間違いなく、ショボン・パドローネだ。
そしてその横に立つ男にも、見覚えがあった。
癖の強く長い黒髪の下から覗く、鋭く細められた目。
長身に似合う長い山羊髭、まっすぐに結ばれた口。

人相が変わっているが、漂わせる雰囲気と目つきは見間違えるはずがない。
この二人が、この島にいる。
グルーバー島にいるのだ。
脱獄犯、デミタス・エドワードグリーン、通称“ザ・サード”が。

(=゚д゚)「……この写真、いつ撮った?」

934名も無きAAのようです:2015/01/03(土) 20:41:05 ID:mWYJPbvk0
(-@∀@)「それは今朝の四時ですね。 朝市の写真です。
      生活の躍動感を撮ってみたつもりなんですが……」

(=゚д゚)「お前は才能があるラギよ」

これで、追っている人間の正体に確信が持てた。
黒幕はショボンの所属する組織だ。
勘付いてはいたが、それが確信に変わった。

(-@∀@)「本当ですか? 差し上げますよ」

(=゚д゚)「まずはこいつらだ。 この二人を探すラギよ」

追われるのは性に合わない。
今この段階から、迎え撃つ。

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                          第四章【preliminary-準備-】       |!
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935名も無きAAのようです:2015/01/03(土) 20:45:32 ID:mWYJPbvk0
まず調達しなければならないのは、松葉杖と武器だった。
脹脛ならまだしも太腿の一部を失ってしまった以上、歩行は困難だ。
かと言って車椅子を使うつもりはない。
車椅子は脚力が著しく低下する上に、タイヤがパンクしてしまえばそれまで。

もっと言えば、コントロールを簡単に奪われてしまう欠点がある。
その点、松葉杖は武器にもなるし隙が少ない。
トラギコが好むのはボルトアクション式のライフルを仕込み、有事の際に使う事だ。
工作は得意な方で、これまでに三回その作業をした事がある。

一度は同僚に頼まれ、後の二回は捜査中に相手を油断させるための道具として松葉杖を使った際に仕込んだ時だ。
勿論、命中精度は悪い。
所詮は急造品の暗器だ。
銃身を杖先として使う以上、弾道に若干の歪みが生まれてしまう上に、静音性はほぼ皆無となる。

一発ごとに弾を込めるボルトアクションライフルとしては申し分ないが、如何せんトラギコの性格は狙撃手に向いていない。
出来れば銃弾は連続して発砲出来る方がいい。
それでも、奇襲するには十分な道具だ。
松葉杖を二つ用意すれば銃は二挺になる。

必要な道具はボルトアクションライフルと松葉杖、そして加工するための工具一式だ。
特製の松葉杖の制作が完了し次第、街中に出向いて捜査が出来る。
全てをメモに残し、トラギコはそれを渡した。

(=゚д゚)「一か所で買い揃えるなよ、変にマークされると厄介ラギ。
    それと、ライフルの弾と俺の銃の弾も忘れずにな」

(-@∀@)「えぇ、買うのはいいんですけど、お金は?」

936名も無きAAのようです:2015/01/03(土) 20:50:52 ID:mWYJPbvk0
薄手の外套を着ながら、アサピーがそんな事を尋ねてくる。
本来であればトラギコが赴いて警察手帳を使って手に入れるのだが、新聞記者がそれを代行するわけにはいかない。
今の状況を考えれば即座に通報されるのは明らかだ。
となれば、正攻法で行くしかない。

(=゚д゚)「お前のおごりに決まってるラギ」

現金の持ち合わせは少ししかない。
警察手帳と云う便利な存在がなければ、刑事はろくに飲食も出来ないのだ。
それは、横領や買収を防止する名目で経費が削減されているのだと聞いた事があるが、どうやらトラギコだけらしかった。
何故か上司に嫌われていて、トラギコだけ捜査費用を現金で渡されないのだ。

(;-@∀@)「ちょっ!! ライフルを買うお金なんてありませんよ!!」

この島の相場は知らないが、安い銃なら百ドルもあれば買える。
後は工具の値段だが、それはアサピーの交渉に任せる。

(=゚д゚)「支社の金庫を使えばいいラギ」

(;-@∀@)「そんな事できませんって!!」

(=゚д゚)「ネタが必要なんだろ? だったら、協力するラギよ。
    なぁ、早いところ調達してきてくれたら、明日の朝には記事に出来るラギよ。
    どこの新聞社よりも正確な記事、こいつぁ本社にも認められるチャンスラギ」

記者が食べていけるのは、記事になるネタがあり、新聞を読む人間がいるからだ。
新聞を読む人間は過激なニュースを好み、その続報を知りたいがために新聞を購入する。
その購買者を増やすには、継続性のあるニュースが必要だ。
そして、そのニュースが大衆の要求に応じているか、と云う点も忘れてはならない。

937名も無きAAのようです:2015/01/03(土) 20:56:20 ID:mWYJPbvk0
(;-@∀@)「むむ……む……」

(=゚д゚)「ライフルは安いのでいいが、プラスチックとか使ってるのは駄目ラギよ。
   木で作られた奴か鉄の奴ラギ。
   松葉杖はアルミ製の軽い奴ラギ」

(;-@∀@)「金庫については保留して、一先ず買いに行ってきます」

(=゚д゚)「それでいい。 お前が出かけている間、記事になりそうな事をメモに書いておいてやるラギ」

要求だけでは交渉は進まない。
相手の望むものが手に入る、そんな状況を示してやらなければならない。

(-@∀@)「お願いしますよ、ほんと」

(=゚д゚)「一先ずはエラルテ記念病院の話ラギ。 後は、俺の捜査が終わったらオアシズの事を教えてやるラギ。
    酒はなんかあるラギか?」

(-@∀@)「あぁ、キッチンの奥にビンゴ大会の景品でもらったのがあります。
      どうぞお好きにしていてください」

話が分かる男だ。
トラギコはアサピーと云う男に利用価値を見出すのと同時に、今後とも付き合っていれば何かしらの恩恵がある物だと考えた。
マスコミ関係者は好かないが、この男は利用しやすい。

(=゚д゚)「じゃ、頑張ってくるラギよ」

938名も無きAAのようです:2015/01/03(土) 21:09:21 ID:mWYJPbvk0
玄関から出て行ったアサピーを見送り、トラギコはびっこを引きながら、空のペットボトルや古い日付の新聞、洗濯物が散乱したリビングを通って台所に向かった。
電気を点けてると、そこには見た事のある黒い酒の箱が転がっているのが見えた。
金色の線で描かれたシルクハットに杖と云う特徴的なシルエットは、その酒の名前を広く知らしめるのに一役買っている。
人々は親しみを込めて、その酒をこう呼ぶ。

(=゚д゚)「ジョニ黒かよ」

ジョニー・ウォーカーは代表的なブレンデッド・ウィスキーだ。
様々な種類が出ており、その中で最も有名なのは赤ラベル。
それに次いで黒ラベルが広く知られている。
違いは熟成年月や混ぜている酒の種類だが、値段には雲泥の差がある。

黒ラベルは十二年以上熟成されたものを四十種類使用しており、複雑な香りが売りの一品だ。
だがトラギコはブレンデッド・ウィスキーが好きではなかった。
この際文句を言っても仕方がないが、ティンカーベルはウィスキーの名産地でもある。
それなのに、とどうしても愚痴が出てしまう。

手つかずの状態のボトルを片手に、次は冷蔵庫の中を物色する。
つまみになりそうなものは、何もなかった。
仕方なく魚肉ソーセージを一本取って、扉を閉める。
洗濯物の上に座って、トラギコはボトルの封を切った。

(=゚д゚)「……カール、仇は必ず取るラギよ」

目の前で死んだ友人を想って、トラギコは酒を掲げた。
これは死者に対する儀式ではなく、自分に対する儀式だった。
覚悟を決める、決意を固める。
必ず復讐を果たすと、己に言い聞かせるための儀式なのだ。

939名も無きAAのようです:2015/01/03(土) 21:14:05 ID:agZNneXE0
支援

940名も無きAAのようです:2015/01/03(土) 21:14:30 ID:mWYJPbvk0
ボトルから直に飲み、ソーセージにかぶりつく。
味は殆ど感じられなかった。
いい酒、いい肴だったとしても同じだっただろう。
途方もない怒りが全身を支配している時は、いつもそうだ。

酒は何の効果もたらさず、料理も味を感じない。
ただ吸収し、動くための燃料としてしか体が受け付けないのである。
新品のボトルを十分足らずで飲み干すと、トラギコは適当な服を見繕って持ってきたスーツに着替える。
脚の傷を触って確かめるが、まだ痛む。

(=゚д゚)「くっそ……」

カールを殺害した人間は、射撃に自信のある人間に違いなかった。
夜の狙撃は非常に繊細な物だ。
通常、狙撃とは湿気、風の動き、そして温度に左右されるもの。
夜になるとそれに加えて、火災によって発生する風や熱の動き、そして視界の悪さが付け加わるからだ。

風の動きを読まなければ銃弾は流され、別の標的に当たる事もあるし、外れる事もあり得る。
あの時は風の動きが熱によって滅茶苦茶、そしてそれを判別するための目標物すら見えない状況だった。
だが、だがしかし。
その状況を踏まえて狙撃を行ってきた。

いや、考えようによっては建物の陰から拳銃、もしくはライフルで撃たれた事も考えられる。
かと言って、近距離であればマズルフラッシュや銃声を聞かせない位置から、目撃される事なく射撃をした事になる。
それは現実的とは言い難い。
目撃されずに近・中距離から狙撃してきたと考えるのが、最も現実的だ。

941名も無きAAのようです:2015/01/03(土) 21:21:22 ID:mWYJPbvk0
消音器付きの中距離狙撃銃、VSSヴィントレスあたりが可能性としては最も高い。
殆どが曖昧な事だらけだが、二つ確かな事がある。
一つは、犯人はトラギコたちの声が聞き取れない距離から撃ってきた事。
そしてもう一つは、襲撃者はトラギコとカールを間違えて撃ったと云う事だ。

恐らくは暗視装置を使ったために二人の区別がつけられず、服装から判断して発砲したのだ。
白衣を着ていた人間と、そうでない人間。
カールの気遣いが、二人の生死を分けたのだ。
もし、カールがあの時、白衣を着せていなかったら。

背中を撃たれて倒れ、死んだのはトラギコの方だった。
礼を言うべきか、それとも謝るべきかは分からない。
それでも、彼の意志を尊重する事だけは確かだ。
まず捜査をするべきは、病院周辺にある建物の屋上と空き部屋だ。

薬莢を落としておくような馬鹿ではないと思うが、何かしらの手がかりが残っているかもしれない。
可能性を探す事。
それが捜査なのだ。

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942名も無きAAのようです:2015/01/03(土) 21:25:17 ID:mWYJPbvk0
その店に入った瞬間、アサピー・ポストマンは店主から軽蔑の目を向けられた事を理解していた。
店主だけでなく、居合わせた客からも汚物を見るような目で見られた事も知っていた。
記者とは常に嫌われるものだ。
嫌われると云う事は、それだけ情報を嗅ぎまわっている事の証拠であり誇るべき事だと、アサピーの先輩は教えてくれた。

今なら言える。
そんな事はない、と。
人から好かれなければ欲しい情報もニュースも一向に耳に入らず、詳細は彼方へと遠ざかる。
昔の自分にそれを教えてあげたかった。

ジュスティアの膝元であるティンカーベルに事件など転がるはずもなく、そこに飛ばされると云う事は遠まわしに退職を宣告されたのと同義だと。
それに気付いた時にはもう遅い。
牛の出産の写真を撮り、迷い猫の捜索を行ったりと、新聞記者としては最低の仕事ばかりだった。
でかい仕事が出来たと思えば、地元住民の妨害にあって記事に必要な情報や写真が手に入らないなど、

しかし、トラギコの出現によってそれらは大きく変わる事になった。
“虎”と呼ばれる刑事の話は、何度か聞いた事がある。
本社に勤務している敏腕の記者が病院送りにされたり、高級なデータ保存式のデジタルカメラを粉砕されたりと散々な暴れ者。
事件解決能力に関してはジュスティアでも屈指の人間で、関わった事件のほぼ全てを単独で解決している凄腕の刑事だ。

中でも彼の名を広めたのは、“CAL21号事件”だ。
アサピーがまだ記者になる前に起こった事件だが、今でもその残酷かつ理不尽な展開は克明に記憶している。
一人の異常者が施設にいた女児たちを次々と犯し、殺し、その結果出た判決は無罪。
無罪に喜ぶ犯人を殴殺したのは、トラギコだった。

彼はこの事件の担当者で、判決が出た後も裁判官、検事、弁護士、その場にいて不服を言わなかった人間全員に怒鳴り散らした。
その様子はラジオで流れ、あまりにも放送禁止用語が多く出過ぎた事で彼のやり方を非難する人が続出した。
何故なら正義を重んじるジュスティアの人間がそのような言葉を使うのはどうなのか、と思う人間がいたからだ。
特に、ジュスティアに住む人間からの文句が多かった。

943名も無きAAのようです:2015/01/03(土) 21:29:54 ID:mWYJPbvk0
その後についてはよく分からないが、犯人が殺され事は覚えている。
そんなトラギコと仕事を共に出来るとは夢にも思わなかった。
正直、彼が怪我をしていなければあの場でサインでも求めていたかもしれない。
ともあれ、現実的な事に目を向けると金が手元にほとんどなかった。

要求されたものを買えないわけではないが、店側が気前良く売ってくれるのかどうか、そしてトラギコのネタが金に結び付くのか、それが心配だった。
ともあれ、品物を用意しなければチャンスはない。
この島で手に入れた数少ないチャンスだ。
使わない手はない。

品物を探して店内を歩くアサピーは、溜息を五回ほど吐いた。
デジタルカメラを買うために貯めていた金をここで使う事になるとは思わなかった。
記者になってからずっと貯めてきたのは、ジュスティアの高級店で見かけたニッコール製の一万五千ドルするカメラのためだった。
発掘されたカメラを基に発掘された基盤や機材を繋ぎ合わせて作られたモデルで、世界で使われているデジタルカメラのほとんどがそれだ。

発掘された太古の遺産を復元している職人、そして昔ながらの手作業を街の名物とする“ギルドの街”ラヴニカの品だ。
いい品物はラヴニカから、と云う諺もあるぐらいだ。
松葉杖を見つけ、加工に使えそうな工具もカートに乗せる。
それを転がして会計を済ませ、乱暴に釣銭を受け取り、車に戻った。

希望のカメラから遠ざかったのか、それとも近づいたのかは分からないが、アサピーの財布から百五十ドルがなくなった事だけは確かだ。
車を走らせ、アサピーは銃の販売をしている店に向かった。
銃を買うのは初めてではないが、この島に来て買うのは初めてだ。
どこの店でもそうだが、銃を買う時には信頼関係が必要になる。

客から強盗に転じるのはよくある事。
同時に、店が強盗に転職する可能性もある。
だから、店主に怪しまれずに銃を買わなければならない。
一歩間違えば、店主は商品の動作確認を含めて発砲してくる。

944名も無きAAのようです:2015/01/03(土) 21:34:26 ID:mWYJPbvk0
たどり着いたのは、住宅地から離れた場所にある古びた店の前だった。
看板は錆だらけで店の壁は黒ずみ、店内の明かりがなければ店だとは分かるまい。
廃墟だ。
陰鬱な気持ちのまま店先に車を止めて店に入ったアサピーは、気付く事が出来なかった。

――路地裏から彼を見つめる瞳があった事に。

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アサピーは二時間ほどで家に戻ってきた。
その頃には火事は収まり、周囲の騒々しい空気もどこかに消えていた。
残ったのは、焼け焦げた匂いだけだった。
トラギコはアサピーから頼んだ品を受け取り、その質を確認した。

ライフルはウィンチェスターのボルトアクションライフル、M70だった。
狩猟用の銃として重宝されている一品だ。
構造が単純なことから大量に生産された事もあるが、精度の良さと手頃な値段から猟師に好まれている。
そのため、狩猟のためと言えば疑われずに買える一挺。

良い選択だ。
構造も簡単で、加工も容易に出来る。

(=゚д゚)「ありがとよ。 尾行は?」

945名も無きAAのようです:2015/01/03(土) 21:39:07 ID:mWYJPbvk0
さっそくドライバーとレンチを使って標準装備の光学式照準器を取り外しながら、トラギコは万が一のために質問をした。
その質問が意外だったのか、それとも意味が分からなかったのか、アサピーは首を傾げて聞き返した。

(-@∀@)「尾行?」

事前に言っておけばよかったと、今さらながらアサピーの職業を思い出した。
新聞記者は追われる事に慣れていないのだ。

(=゚д゚)「何事にも気を配っておいた方がいいラギよ」

(-@∀@)「大丈夫ですよ、尾行なんて来ないですよ」

(=゚д゚)「どうかな。 まぁいい、メモの用意は?」

(-@∀@)「あ、大丈夫です」

スコープを慎重に床に置き、発射機構の分解を始める。
この時にバレルも一緒に取らなければならない。
アサピーがメモ帳とペンを手にしたのを見てから、トラギコは先ほど自分でメモにした内容を噛み砕いて話し始める。

(=゚д゚)「そもそも俺が病院にいたのは、足を撃ち抜かれたからラギ。
    撃った相手はまぁ、ジュスティア軍の人間ラギ。
    目的はお前と同じで情報を得るためラギ」

(-@∀@)「なら、何で撃つ必要があったので?」

(=゚д゚)「俺が逃げたからラギ」

(;-@∀@)「何故逃げたので?」

946名も無きAAのようです:2015/01/03(土) 21:42:38 ID:mWYJPbvk0
(=゚д゚)「あいつら嫌いラギ。
    ……ってのは冗談で、俺は別の事件を追っていたから時間を使いたくなかったラギ。
    それに、俺は嫌われてるからそのまま事件の担当から外される可能性もあったラギ」

取り外した発射機構を床に置いて、次に松葉杖に手を伸ばす。
アルミ製の軽い物で、大きく三つのパーツに分かれている高さ調節が可能な物だった。
脇の下に押し当てる部分、二股に分かれたパイプ、そしてまっすぐに伸びる伸縮可能な支柱。
これがいいのだ。

(=゚д゚)「まぁそんなわけで入院したわけラギ。
    1923時に火災に気付いて対応が始まったラギ。
    言っておくけど、あくまでも気付いた段階がその時間ラギ。
    発生時間とは違うラギよ」

(-@∀@)「なるほど、その時の病院の対応は?」

(=゚д゚)「全く問題はなかったラギ。 避難が必要な患者から随時避難させたラギ」

松葉杖の杖先を取り外す。
今回は銃が一挺だけのため、一本だけ加工することになる。

(=゚д゚)「問題だったのは、火の回る速さラギ。
    発覚とほぼ同時に消火が不可能と判断されるレベルの炎。
    間違いなく、放火ラギ」

(;-@∀@)「ほほう」

(=゚д゚)「で、ここからがもっと問題だったラギ。
    最後に俺が避難する事になったんだが、院内で発砲音がしたラギ」

947名も無きAAのようです:2015/01/03(土) 21:46:39 ID:mWYJPbvk0
(;-@∀@)「発砲?」

(=゚д゚)「俺は自分の荷物を回収するために金庫に寄ったんだが、そこに強化外骨格が出てきたラギ。
    黒い奴で、火炎放射兵装。 紛れもなくコンセプト・シリーズの奴ラギ。
    そして、放火の主犯ラギ」

メモ帳にペンを走らせながら、アサピーは当然の質問をした。

(-@∀@)「どうして避難の途中で金庫に? 何を回収する必要があったんですか?」

(=゚д゚)「俺がここに持ってきた荷物ラギ。
    まぁ、非常識なのは分かってたラギ。
    話を戻すラギ。 主犯は何故か俺を狙っていたラギ。
    口封じが目的だと考えるのが自然ラギね」

空洞になった杖先に発射機構を入れるため、金属用の鋸で加工を始める。
棹桿操作が行えるようにするには、一部を縦に切り取らなければならない。

(-@∀@)「何故口封じを?」

(=゚д゚)「んなもん知らんラギ。
    ただ分かるのは、でかい組織が絡んでいるって事ラギね。
    その内の一人は、ショボン・パドローネって云う元警視、現探偵ラギ。
    そして、オアシズの事件の実行犯の一人ラギ」

その時、眼鏡の奥でアサピーの目が輝いた。
元警官がオアシズの事件、そして今回の放火事件に関係していると云う情報は、かなり貴重なものだ。
恐らくはアサピー以外の記者は知らないだろう。
この情報だけでも、アサピーは昇進出来るかもしれない。

948名も無きAAのようです:2015/01/03(土) 21:51:11 ID:mWYJPbvk0
トラギコとしてはこれが記事になり、世界中に知られる事でショボンのいる組織が白日の下に晒されればと考えている。
そうすれば、これまでのような秘密裏の行動も警戒されて破綻するかもしれない。
あくまでも、邪魔が出来ればいい。
そのためならば、例え警察本部に流していない情報だとしても喜んでマスコミに提供し、利用させてもらう。

(;-@∀@)「なんて事だ……!!」

(=゚д゚)「記事にする時に絶対に忘れないでほしいのが、あの火事で一番の功労者はカール・クリンプトンって男ラギ。
    この島の出身者じゃねぇが、かなり優秀な医者だったラギ……
    俺と逃げてる時、背中から撃たれて殺されたラギ」

(;-@∀@)「なんと……誰に?」

(=゚д゚)「それを調べるのが、俺の仕事ラギ。
    ……一応、簡単に概要をこっちでも書いておいたラギ、好きに使ってくれ」

洗濯物の山に置いたメモ帳を顎で示し、トラギコは作業を続行する。
ボルトと銃爪は支柱と二股のパイプの付け根に合わせる事で、秘匿性を高める。
バレルは支柱の中に入れればいいし、ボルトなどもパイプに加工をすれば問題はない。
発射機構が松葉杖の動きや射撃の反動でずれないように固定させる作業が、最も難しい。

銃の反動はかなり強く、ライフル弾ともなれば拳銃の比ではないのだ。
そこに加えてボルトアクションと云う強い負荷がかかる動作を考慮すると、溶接するぐらいでなければならない。
が、溶接機を用意させるには金もかかるし何よりも目立つ。
新聞記者が溶接の工具を何に使うのか、と云う疑念は瞬く間に住民間に広まってゆくゆくはトラギコの捜査にも支障をきたしかねない。

そこでトラギコが考えたのは、非常にシンプルな方法だった。
四方から差し込んだネジとボルトによる固定だ。
アルミのパイプに穴をあけ、そこからネジを通してボルトと鉄板を使って発射機構を固定させる。
単純だが確実だ。

949名も無きAAのようです:2015/01/03(土) 21:56:48 ID:mWYJPbvk0
バレルは特に念入りに固定し、万が一にもずれないようにする。
精度は低くても、狙い通りに弾が飛ばないと困るのだ。
腋当て部分には予備の弾が収納できるように、クッション材を詰めた。

(=゚д゚)「他のは?」

(-@∀@)「あ、これです」

ずっしりとした袋の中には、長方形の箱が二つとケーブルが一本あった。
箱の中を見ると九ミリ口径の通常弾とウィンチェスターのためのライフル弾が入っていた。
本当は装甲の薄い棺桶にも通用する徹甲弾が欲しかったのだが、駄目だったようだ。

(-@∀@)「フルメタルジャケット? は売ってませんでした」

(=゚д゚)「仕方ねぇラギ」

ケーブルをアタッシュケースの淵に突き刺し、それをコンセントと繋いだ。
これで、棺桶の充電が出来る。
電気代についてはアサピーに頑張ってもらうしかない。

(=゚д゚)「一先ずはこんなところで情報の交換はおしまいラギ。
    ほれ、さっさと支社に行って新聞にするラギ。
    本社に送るのも忘れるなよ」

(-@∀@)「ありがとうございます、トラギコさん!」

(=゚д゚)「……いいから急ぐラギ」

950名も無きAAのようです:2015/01/03(土) 22:09:39 ID:mWYJPbvk0
礼を言われる事は何もない。
利害関係が一致していなければ、こんな事はしない。
トラギコはカールの仇討を、アサピーはスクープを。
それだけの関係だ。

――だから、彼が会社に行っている間に尾行者を処分するのはトラギコの役目なのだ。

(-@∀@)「じゃあ、ちょっと行ってきます」

(=゚д゚)「人通りの多いところを行けよ」

再び家を出て行ったアサピーが車に乗ったのを見届け、トラギコは窓の下にいる尾行者を目の端で見下ろした。
黒いセダンはアサピーが帰ってくるのとほぼ同時に現れ、その後部屋を見上げられる位置に駐車されたままだ。
運転手はそこから降りてきていない。
見張られている。

(=゚д゚)「……素人ラギね」

スモークガラスでない上に街灯の下に駐車しているのが仇となり、中に乗っている人間の姿が見えている。
素人ではあるが、トラギコがここにいる事を見つけ出している。
恐らくはショボンの組織から指示を受けた人間だろう。
一先ず窓を開け放ってからカーテンを閉め、部屋の電気を消した。

追手ならば、殺せばいい。
この場所に留まるつもりはないが、次に拠点とする場所のヒントを与えるつもりもない。
こう云う時は、殺すに限る。
サプレッサーが欲しいところだが、そんなものは――

(=゚д゚)「お」

951名も無きAAのようです:2015/01/03(土) 22:14:19 ID:mWYJPbvk0
――代用品なら、あった。
ペットボトルを使えばいい。
作った仕込み杖の射撃性能を試す絶好の機会だ。
車までの距離は目算で二十ヤード。

狙撃と云うよりも、射的と言った方がいい距離だ。
このぐらいの距離ならば、あまり誤差は出ないはずである。
すぐに大きめのペットボトルに加工を施す。
加工といっても底と飲み口を切り落とし、アサピーの衣服を中に詰めてテープで止めただけのものだ。

杖先のゴムの部品を取り、音と熱が出ていくように数か所穴を開ける。
そこに先ほどのペットボトルをはめ込むと、衣服とペットボトルがある程度の音を吸収してくれる仕組みだ。
即席にしては上出来だ。
まだ取り付けていなかった照準器を、把手の横にテープで強引に固定する。

棹桿操作をしてから引き金を引いて、一先ずの動作確認を済ませる。
がたつく事もなく、しっかりと撃針が落ちた。
素早く初弾を薬室に入れ、ボルトでロックする。
行動は早めに起こすに限る。

部屋の奥へと移動し、衣類を山のように積み上げ、即席の狙撃台を作り上げる。
警官時代に狙撃を行った経験が役に立つ時が来た。
狙撃の成績は中の下。
それも、高性能なライフルを使っての結果だ。

今回はどうなるか分からないが、やるしかない。
膝と腕を使って杖全体を抱え込むようにして固定し、車内を見る。
人影は二つ。
時折カーテンが動いて視界が遮られるが、どうにか確認は出来る。

952名も無きAAのようです:2015/01/03(土) 22:19:03 ID:mWYJPbvk0
狙撃は忍耐が必要な攻撃だ。
動じず、慌てず、静かにその時を待つ。
だからトラギコは苦手だった。
相手の動きを見る。

五分、十分と時間が過ぎてゆく。
そして、その時が来た。
車の運転席、そして助手席の扉が開いたのだ。
ここで焦ってはいけない。

後部座席に人が残っている可能性がある。
また、彼らがトラギコを狙っているのかもまだ不明だ。
あくまでも尾行者の可能性が非常に濃厚である、と云うだけの話。
現れたのは、十代半ばの少年たちだった。

ピアス、服装、そしてその手にあるのは金属バットだ。
これから野球の練習に精を出すような顔には見えない。
何かを襲おうとしているのは間違いない。
まだだ。

まだ、撃てない。
疑わしい、と云うだけでは人を殺せない。
アサピーの部屋をバットで示したからと言って、彼らが敵だとは分からない。
そうこうしていると、二人の少年はアパートに向かって歩き始めた。

(=゚д゚)「くそっ……」

953名も無きAAのようです:2015/01/03(土) 22:24:31 ID:mWYJPbvk0
もう少し血気盛んな若者であれば銃を手にしていただろう。
それなら、気前よく銃弾を胴体に撃ち込んでやれたのに。
そして二人は建物の死角に入り込み、終ぞ撃つ事が出来なかった。
こうなっては仕方がない。

残った車に照準を合わせ、人の動きがないかを見る。
どうやら、中には誰もいないようだ。
ボルトを引いて銃弾を取り出し、床に杖を置いた。
この部屋に来られたらこのライフルでは戦えない。

充電中の棺桶を使うか、それともM8000を使うか。
答えは決まっている。
棺桶を使うしかない。
音を聞かれずに処理するには、肉弾戦で制圧するに限る。

その場を離れ、アタッシュケースを手にする。

(=゚д゚)『これが俺の天職だ』

解除コードを入力し、籠手を両手に装着する。
高周波刀も手に取り、トラギコは部屋の隅に身を潜め、落ちていた衣類を山にしてそこに隠れた。
片足のハンデを考えても、チンピラ相手に負ける事はない。
仮に相手が素人の振りをしたプロでも、強化外骨格“ブリッツ”があれば対処は出来る。

ただし、相手が強化外骨格を使ってきた場合は例外だ。
Bクラスのサイズにもなれば、トラギコは抵抗の末に殺される。
そうでない事を願いながら、トラギコは敵襲を待った。

『……な……っ……』

954名も無きAAのようです:2015/01/03(土) 22:32:23 ID:mWYJPbvk0
玄関付近から人の声がしたのは、二分も経った頃。
どのような手段で訪問してくるのか、それが問題だ。
爆弾で扉をぶち破る事はしないだろうが、ショットガンでも持ち出されていたら事だ。
室内であれに勝てる見込みがない。

ドアノブが回り、扉が開いた。
跫音を忍ばせて進入してきた気配は二つ。
床を軋ませながら、土足で上がってきた。

「すみませーん、隣の部屋の者なんですが……」

気配の一つは現像室に向かい、もう一つがリビングに向かってくる。
リビングに現れた男の手には、ナイフが握られていた。
洗濯物の陰に潜むトラギコには、まだ気付いていない。

「あびっ?!」

予想外の悲鳴は、現像室の方から聞こえてきた。
直後、床に固いものが落ちる音が続く。

「どうした?!」

その音に、男は廊下を振り返る。
そして、悲鳴と共に倒れた。
悲鳴を上げる前に飛来したワイヤー付きの二本の針を、トラギコは見逃さなかった。
テーザーガンだ。

しかも電圧が改造されているのか、悲鳴を上げて倒れた男は白目を剥いて痙攣を起こしている。
瀕死の一撃。
相手の動きを奪うためにここまでする人間を、トラギコは一人だけ知っている。

955名も無きAAのようです:2015/01/03(土) 22:39:40 ID:mWYJPbvk0
(;=゚д゚)「ライダル・ヅーか?」

肯定するように、廊下から現れた人影はリビングの電気を点けた。
そこにいたのは、昼に見た時と同じ格好をした警視長官の専属秘書だった。

瓜゚∀゚)「こんばんは」

どうしてここが、とは訊かなかった。
ジュスティアとティンカーベルは協力関係にある。
街中の監視カメラの映像を調べれば、トラギコが逃げている様子も分かるはずだ。
それをこの短時間で調べ上げた行動力は、流石としか言えない。

そもそも、チンピラたちがトラギコの居場所を突き止められてヅーに突きとめられないはずがない。
恐らく、チンピラたちよりも早い段階でトラギコの場所を突き止めていただろう。
敵の動きを見るためにあえて襲わせ、トラギコが白である事を確認したのだ。
ヅーは過程よりも結果を重要視する女だ。

白黒を確認するためには、手段を選ばない。
挨拶もそこそこに、ヅーは率直に用件を伝えた。

瓜゚∀゚)「貴方の言っていた通り、なにやらきな臭い人間が動いています。
    ダニー・エクストプラズマンからも証言がありました。
    これはどう云う事ですか?」

(=゚д゚)「知るかよ。 で、連れ戻しに来たラギか?」

棺桶を取り外さなかったのは、襲われた際に抵抗するためだ。
彼女のテーザーガンは時に死者を出す程強力な物で、それをまともに受ける気はない。

956名も無きAAのようです:2015/01/03(土) 22:50:12 ID:mWYJPbvk0
瓜゚∀゚)「……結論から言うと、その逆です。
    円卓十二騎士でも始末できない輩が所属している組織が相手となると、我々は協力しなければなりません。
    そこで、トラギコさんには独自で捜査をしてほしいのです」

らしからぬ指示だった。
ジュスティアは集団行動を好む。
だからトラギコは嫌われている。
なのに、今さらになって単独行動を認めるとはどう云う事態の変化だろうか。

(=゚д゚)「それは署の判断ラギか?」

瓜゚∀゚)「私の判断です」

(;=゚д゚)「熱でもあるラギか?」

危うく言葉を失いそうになった。
規律の鬼とも言われるこの女が、そのような特例的な指示を出す。
これは異常である。
明らかに、異常である。

疑い続けなければならない事態だ。

(;=゚д゚)「それとも何か、俺をはめるつもりラギか?」

瓜゚∀゚)「どうしてそう云う考えしかないのですか?
     それとも不服ですか?」

957名も無きAAのようです:2015/01/03(土) 22:55:59 ID:mWYJPbvk0
不服、と言えばその通りだ。
不服なのは、ヅーの対応そのものにある。
ある意味で、トラギコはヅーを信頼していた。
規則に対しては馬鹿のように真面目な人間の変貌に、失望したのかもしれない。

(;=゚д゚)「お前はいつも規則に従ってきた人間ラギ。
    そんな奴がいきなり規則に反するような事を言い出したら、誰だって疑うラギ」

瓜゚∀゚)「まぁその通りですが、今回ばかりは特別です。
    ……貴方の担当医だったカール・クリンプトン氏ですが、射殺体で発見されました。
    合わせて、軍の人間二人が焼死体で発見。
    正直、これだけの事態を隠し通すのは非常に難しいのです。

    隠すだけならばまだいいのですが、脱獄犯の件もあります。
    私の見立てでは、この事態は更に混沌とした事になります」

正しい見立てだ。
恐らくは遅かれ早かれ、脱獄犯を始末しなければこの島は混沌と化すだろう。
しかしその見立てが出来るようになるには、何かしら別の切っ掛けが必要になる。
この女の固まった思考を柔軟にする切っ掛けとは、何なのか。

(=゚д゚)「……何があったラギ?」

瓜゚∀゚)「……何が、とは?」

(=゚д゚)「お前をそうさせる切っ掛けラギ。
    それ以外にも何かあったんだろ?」

しばしの沈黙。
ヅーは、やや沈んだ声で言った。

958名も無きAAのようです:2015/01/03(土) 23:00:21 ID:mWYJPbvk0
瓜゚∀゚)「私を信用できないのですか?」

(=゚д゚)「あぁ、無理ラギ。 ショボンがあんな凶行に走ったのに、他の人間が大丈夫なんて保証はどこにもないラギ」

これまで、トラギコの捜査についても疑念しか持ってこなかった人間を信用するのは難しい。
ましてや、ヅーは規則一筋の堅物。
その堅物が柔軟な対応をする裏には、何かがあるとしか考えられない。
それこそ、純粋な善意を持っているのならば別だが、ことこの女には適応されない。

警戒して対応をしていたトラギコは、彼女に現れた些細な変化に気付く事が出来なかった。
落胆の色を浮かべた瞳が僅かに潤んでいた事など、トラギコには分からなかった。
仮に分かったとしても、興味の対象外の話だったのだが。

瓜゚∀゚)「……そうですか。 なら、好きにしてください。 私は私で動きます。
    ただ一つ警告しておきます。
    貴方が病院から抜け出した事を、警察と軍は把握しています。
    そして、アサピー・ポストマンと接触した事も」

(=゚д゚)「早いラギね」

瓜゚∀゚)「えぇ。 島中のカメラが警察の監視下にあります。
    どちらかと言えば、軍の方が貴方の捜索に躍起になっていますね」

(;=゚д゚)「俺が何かしたラギか?」

警察に追われるよりも軍に追われる方が悪い。
彼らは情け容赦なく任務を遂行する機械だ。
が、対処出来ないわけではない。
ただ、性質の悪い女のようにしつこく追いかけてくるのが厄介なのだ。

959名も無きAAのようです:2015/01/03(土) 23:06:26 ID:mWYJPbvk0
瓜゚∀゚)「彼らが欲しているのは、何故オアシズで“ゲイツ”が壊滅したのか、と云う情報です。
    その必要があれば、自白剤の使用も許可されています」

(;=゚д゚)「……マジかよ」

洒落や冗談では済まされない待遇だ。
容赦なく足を狙ってきた軍ならば、手足の一本を吹き飛ばしてでも襲ってくるだろう。
そこまでして今すぐに情報を手に入れなければならないと云うのか。
何を焦っているのだろうか。

必要なら、メモ書きで伝えることが出来る。
軍内部に潜り込んだ人間のせいで全滅した、と。
それを伝えることは非常に簡単だが、信じはしないだろう。
あまりにも馬鹿げている、と一蹴されるのがオチだ。

瓜゚∀゚)「グレート・ベルの近くにあるブライアンホテルの一室を借りました。
    そこを使ってください」

今さら、恐れる事はない。
ヅーが何を考えていようと、今はどうでもいい。
警察がトラギコを利用しようと云うのなら、トラギコも彼らを利用するだけだ。
全ては人生最後に相応しい事件を解決するための途中経過。

(=゚д゚)「分かったラギ。 送って行ってくれるんだろうな?」

瓜゚∀゚)「……それしか無いでしょう。
    それと、もう二つ。
    オセアンの事件に関係している意識不明の男が目を覚ましました。
    記憶障害が出ていて、証言を得られるまでには時間がかかりそうです」

960名も無きAAのようです:2015/01/03(土) 23:12:35 ID:mWYJPbvk0
(=゚д゚)「……そいつぁ何よりな情報ラギ。 いいのかよ、そんな事まで俺に教えて?」

その質問に対して、ヅーはまっすぐに目を見つめ返してから返答した。

瓜゚∀゚)「それが二つ目。
    この事は、全て私の独断です」

今度こそ、トラギコは言葉を失ってしまった。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
   |l'-,、イ\:   | |            |::..
   |l  ´ヽ,ノ:   | |             ,l、:::
   |l    | :|    | |,r'",´ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`ヽ、l:::::
   |l.,\\| :|    | ,'        :::::...  ..::ll::::
   |l    | :|    | |         :::::::... . .:::|l::::
   |l__,,| :|    | |         ::::....  ..:::|l::::
   |l ̄`~~| :|    | |             |l::::             同時刻
   |l    | :|    | |             |l::::          ジュスティアにて
   |l    | :|    | |   ''"´         |l::::
   |l \\[]:|    | |              |l::::
   |l   ィ'´~ヽ  | |           ``'   |l::::
   |l-''´ヽ,/::   | |   ''"´         |l::::
   |l  /::      | \,'´____..:::::::::::::::_`l__,イ::::
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

正義の都と呼ばれるジュスティアにある病院に、一人の入院患者がいた。
あわや全身骨折に脳挫傷となりかけた患者は、全身に包帯を巻かれた状態でベッドの上にいた。
白いベッドとは対照的に黒いスーツを着た男たちは、皆一様に険しい表情を浮かべて患者を取り囲んでいる。
患者は二十代後半の男で、濁った血の色の目を持つ男だった。

961名も無きAAのようです:2015/01/03(土) 23:13:23 ID:agZNneXE0
支援

962名も無きAAのようです:2015/01/03(土) 23:21:48 ID:mWYJPbvk0
顔つきは剣呑で、少なくともまともな仕事をしてきた人間には見えない。
服の下に見える体には無数の傷があり、筋肉もかなりついている。

从*´_ゝ从「で、何か思い出したか?」

スーツの男が問うも、患者は首を横に振るだけ。
男が目覚めてから何度も繰り返されてきた質問は、いまだ進展を見せない。
患者の男はある事件の最重要参考人として、ジュスティア警察に保護されていた。
オセアンで起こった事件を解決するために必要となる、貴重な情報を持っているとされているからだ。

男が生きている事は奇跡に近かった。
貴重な情報源だけでなく、貴重なモデルケースとなった。
即ち、高層ビルから落下して生還した数少ない人間の一人、と云うモデルだ。

从*´_ゝ从「そうか…… じゃあ、何かイメージでもいい。
       こう、頭に浮かんだ光景とかはあるか?」

スケッチブックと鉛筆――無論、先端はあえて潰してある――を渡された男は、慣れない手つきで絵を描き始めた。
これは初めての進展だった。
周囲の男達が固唾を飲んで見守る中、スケッチブックには一人の女性の姿が浮かび上がってきた。
上手くはないが、特徴を捉えていると考えられる。

軽くウェーブした髪。
そして、マントもしくはローブを着た優しげな眼をした女性だった。

从*´_ゝ从「これは女性か?」

男は頷く。
実のところ、男が声を発した事はこれまで一度もなかった。
故に男はサイレントマンと呼ばれていた。

963名も無きAAのようです:2015/01/03(土) 23:30:09 ID:mWYJPbvk0
从*´_ゝ从「この人がどうしたんだ?」

男――サイレントマン――は首を横に振る。
言わんとする事が分からなければ、捜査の役には立たない。
ログーランビルから落ち、トレーラーの上に落下した男。
名持ちの強化外骨格に身を包んでいた男。

その男の口が、ゆっくりと動いた。

「……会いたい」

サイレントマンの第一声。
それは、求める言葉だった。

( ゙゚_ゞ゚)「この人に、会いたい……」

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
    ll::::::::::::::,'      ';:::i,  ,ィ'"   ヾ:
     ll::::::::::::.,' -―‐- 、 'i,:'!  ゙ ,. , -‐,,z=
.    l!::::::::::::!   ._,,,_' ,ヾi,:i,   シ',r'"{:.`''′Ammo→Re!!のようです
    l|l::::::::::::l , z,=r;;テミ、', ゙li,   '゙ _,,`ニ
    ゙il::::il ',:::l '´ ヾ.゙''゙ノ   '! ':,        Ammo for Tinker!!編
    li,''゙ ゙' l `' == ''"  l  丶
     lト,、',, :'i,          l            第四章 了
     llゞ:::::::::',         l
     llリ>、::::::',      〈 _ _

                     To be continued...!!

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

964名も無きAAのようです:2015/01/03(土) 23:33:11 ID:mWYJPbvk0
支援ありがとうございました!

これにて本日の投下は終了となります。


質問、指摘、感想などあれば幸いです。

965名も無きAAのようです:2015/01/03(土) 23:55:38 ID:agZNneXE0

此処でコイツか!
てっきりあのまま退場したとばかりと思ってたので。

Tinker編ではAugust〜は使ってないのは仕様?
あと作中で登場する棺桶には第一世代から第七世代まであるけど、各世代ごとに棺桶のコンセプトはあったりするの?

966名も無きAAのようです:2015/01/04(日) 00:00:23 ID:7BS9kn7MO
超絶乙!
やべぇトラギコかっけぇ…続きが超気になるわ。続きがあったら寝ないで見れるレベル
とってもいいお年玉をありがとう

967名も無きAAのようです:2015/01/04(日) 00:39:23 ID:wKDM/.V.0
>>965
彼については、実は地味に生きているフラグがありました。
Augusut〜としていないのは仕様ですが、あまり深い意味はありません。

棺桶の歴史ですが、あると言えばありますが基本的に個人携行を目的とした開発の歴史です。
第一世代は弾薬などの運搬補助が目的で、戦闘には使われませんでした。
世代を重ねるごとに戦闘に使う事を前提に開発が進み、より実用的な物へと進化します。
第四世代までは世間に一度も出ることはありませんでした。

ですが第五世代の強化外骨格“ドレッドノート”が市街で使用されたことから、
強化外骨格のことが世間に初めて認知され、世界中で強化外骨格の開発が進みました。
そのため、世間ではこの第五世代を第一世代として呼ぶようになり、
現代では第七世代に位置する“カスケット”を第三世代と呼んでいるのです。
これを知っているのはすんごい昔のことを知っている人だけです。

なお、第七世代は後期型になるにつれてある傾向が出てくる……という設定なっています。

968名も無きAAのようです:2015/01/04(日) 13:33:38 ID:dAZ8QXv.0
>>967
レスサンクス。
考えながら読み返してくる。


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