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Ammo→Re!!のようです

1名も無きAAのようです:2013/05/26(日) 19:44:33 ID:cwrc78lw0
いつまでたっても規制が解除されないのでこちらで


纏めてくださっているサイト様

文丸新聞さん
ttp://boonbunmaru.web.fc2.com/rensai/ammore/ammore.htm

ローテクなブーン系小説まとめサイトさん
ttp://lowtechboon.web.fc2.com/ammore/ammore.html

755名も無きAAのようです:2014/09/15(月) 20:33:55 ID:EXXlvcjc0
通報から七分で対策本部が設置され、部隊を編成し、全てが揃い次第一斉に動くということが決定された。
対策班はすぐさま、情報の収集を開始した。
事件はイセギビルで発生し、防犯カメラの映像から、最上階が占拠されているということと、犯人が七人であることが分かっている。
また、犯人の一部が強化外骨格を使用していることも判明した。

ここまでの所要時間は、二十五分。
対強化外骨格戦の特殊装備が積まれた中型トレーラーが五台、本部用の機器を備え付けた大型トレーラーが一台用意された。
そしていざ出動しようとした、その時。
午後八時二十分のことだ。

この一件で、警察は武力行使をしてはならないと、長官から直々に命令が下された。
結局、現場に向かうことになったのは交渉人と現場を封鎖するための部隊だけだった。
腑に落ちないまま、ボブは装備を身に着けて中型トレーラーに乗り込み、現場へと急行した。
現場に到着した時、ボブは絶句した。

マスコミと野次馬で道路が塞がり、繊細さが求められる人質交渉にとっては最も悪しき状態だったのだ。
トレーラーから降りた警察官一行は、すぐさまテープとコーンを使って野次馬を退去させ、ビルから遠ざけることになった。
だが、マスコミだけはコーンの内側に入ったままで、出ようとはしなかった。
規則に従い、ボブは一度だけ警告をすることにした。

報道の義務がどうのとかのたまった場合、すぐにでも逮捕する用意はあった。
そのついでにカメラを叩き壊してもいい。

(ΞιΞ)「おい、早くどけ!!」

写真を撮っているカメラマンの肩を掴んでボブがそう言うと、カメラマンの男は申し訳なさそうに答えた。

( 0”ゞ0)「いや、犯人からの要求でして……」

(ΞιΞ)「なに?!」

756名も無きAAのようです:2014/09/15(月) 20:37:57 ID:EXXlvcjc0
聞けば、マスコミ各社に犯人から電話があって、この様子を報道し続けろと要求されたというのだ。
二人の話を聞いていた他のマスコミ関係者も口を揃えてそう言い、報道しなければ人質を殺すと言われたという。
世間に注目されることを目的にする、愉快犯。
ボブは怒りのあまり、吐き気がした。

エゴのために人を殺す人間が、ジュスティア内にいることが許せなかった。
だが記者は、更に続けて最悪な情報を口にした。

( 0”ゞ0)「それと、中の様子が今も電話越しに聞こえているんです。
      ラジオで流せと要求があって、それで……
      ……人質の女性が凌辱される様子も、流れていました」

最悪だった。
考えうる限り、最低の人間だった。
犯人は、非常に狡賢い人間だ。
初手から本気であることを見せつけ、要求を通しやすくしたことによって、警察は対等な立場での交渉が出来ない。

更にその状況を世間に周知させることで、時間を引き延ばすという交渉術も出来なくなった。
時間を稼げば稼ぐほど人質が傷つけられ、その様子が広められる。
早急な解決のためには、犯人の要求を全面的に飲む他ない。

(*゚∀゚)「現場の封鎖は完了したのか?」

そう声をかけてきたのは、長官のツー・カレンスキーだ。
唐突な登場に驚いたが、ボブはそれを表に出すことをしなかった。
長官自らが現場に出ることなど、そう滅多にない。
彼女は抜け目のない人物だ。

おそらくは、マスコミたちに対して警察の対応をアピールするために来たのだろう。

757名も無きAAのようです:2014/09/15(月) 20:43:14 ID:EXXlvcjc0
最近は街の外だけでなく、内からも警察に対する批難の声が上がっている。
対応の悪さや、その進展の無さに失望したとの声が大多数だった。
だが警官であるボブは知っている。
怠慢でも対応の悪さが原因ではない。

事件が解決出来ないのは、それほどの巨悪が相手ということなのだ。

(ΞιΞ)「は、封鎖は後一分以内に完了します。
      現在、交渉人が犯人との接触を試みているところです」

(*゚∀゚)「あぁ、ご苦労。
    犯人が分かり次第、教えてくれ」

それだけ命じると、ツーは本部用の大型トレーラーに向かって大股で歩いて行った。
初めて彼女と会話をしたが、ボブはその堂々とした立ち振る舞いに心惹かれてしまっていた。

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从´_ゝ从「ふふ、いいぞ。 現場が温まってきた。
     どうだい、いい眺めだろう?」

758名も無きAAのようです:2014/09/15(月) 20:46:57 ID:EXXlvcjc0
立て籠もりの主犯であるセルゲイ・ブルーノフに髪を掴んで起こされ、ガラスに顔を押し付けられた女は、何も言わずに、ただすすり泣いていた。
女の服は引き裂かれ、足の付け根からはねっとりとした体液が垂れている。
セルゲイによって殴られ、罵られ、同僚に見られ、男達に嗤われながら凌辱された女の目は虚ろだった。
希望となる警察を前にしても、この反応である。

この女は最初の内は抵抗していたが、顔を殴られる内にそれもなくなり、やがて抵抗する気を失った。
その結果として、彼女は希望を失ったのだ。
余計なことは何もせずに、ただの道具として成り下がった。
これで下準備が整った。

人質を女子供に限定したのは、支配が容易だからだ。
支配者がどのように罰するかを見せつければ、すぐに言いなりになる。
一度の見せしめでは足りない。
二度の見せしめによって、女たちは抵抗する気力を失う。

一つ目が抵抗に対する死。
二つ目は、無条件の凌辱。
男には通じず、女にだけ通じる脅迫の技だ。

从´_ゝ从「人質の諸君、警察が到着したぞ。
     さて、どうしたものかな」

女の髪で自らの性器を拭い、セルゲイはズボンをはいた。
汚れていない髪を掴んで女を引きずり、ガラスのない場所に連れてきた。

「や、止めて…… お願い……殺さない……で」

759名も無きAAのようです:2014/09/15(月) 20:50:20 ID:EXXlvcjc0
だが、まだ死に対してだけは抵抗があるようだ。
これだけの凌辱と暴力を受ければ流石に死を選ぶかと思ったのだが、この女にはまだ恐怖と教育が足りなかったようだ。
これでは、他の人間に対する示しにならない。
失敗作だ。

ならば、見せつけ、教えるしかない。
屈辱に耐えて生きるのではなく、潔く死を受け入れるべきなのだと。

从´_ゝ从「聞こえるか、マスコミ!! 聞いているな、警察!! 聞け、ジュスティア!!
     こちらの要求を伝える!! 今すぐにフォックス・ジャラン・スリウァヤをここに連れてこい!!
     我々は、市長と直接話をする!! 要求に応じない場合は、十分毎に人質をこうする!!」

小さな悲鳴を残して、女はジュスティアの空を舞い落ちた。
下から野次馬の声が聞こえてきたが、何も感じない。
窓から離れたセルゲイは、ハンズフリーモードの電話に向かって感情を殺した声で告げる。

从´_ゝ从「俺の名はセルゲイ・ブルーノフ。 警察官だ」

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760名も無きAAのようです:2014/09/15(月) 20:52:55 ID:6PNqbX5Y0
なんだこの女装兄者は

761名も無きAAのようです:2014/09/15(月) 20:56:17 ID:EXXlvcjc0
セルゲイ・ブルーノフ。
警察官として勤勉に働き、多くの犯罪者を刑務所に送り込んだ男だ。
上司、同僚からも模範的な正義漢として評価が高かった。
――そして、ニクラメンの事件で両親と妹を失い、天涯孤独の身となっていた。

トレーラーが牽引するコンテナ内に搭載されたダットシステムに表示された情報を見て、ツーは目頭を押さえた。
これは愉快犯でも思想犯でもない。
正義を見失ってしまった男の、精一杯の抵抗なのだ。
見失った正義を取り戻すために、彼はこのような暴挙に出たのだ。

警察が事件を解決出来ないせいで次々と事件が起こり、被害者が出て、更に彼は家族を全員失った。
例え直接的な原因がないとしても、彼の心の内にある怒りと悲しみは行き場を失い、ジュスティアの正義そのものに矛先を変えざるを得なかったのだ。
彼はいわば、事件の犠牲者。
犠牲者であり犯罪者でありながら、彼がとった行動は実にジュスティア人らしかった。

最後まで正義を信じたかった彼は、一世一代の賭けに出たのである。
圧倒的な悪を演じ、それを裁く存在が現れるのを期待しているのだ。
欲して止まなかった、彼が信じた正義の登場を。
ならば、その求めに応じるのが正義の務めだ。

小細工は一切抜きで向かい合うことがこの事件を終わらせ、彼を救う唯一の手段。
瞼を下ろす僅かな時間で計画を練り、脳内で流れを作る。
ツーは二名で事件を解決出来ると考え、同乗していた人物に声をかけた。

(*゚∀゚)「……いいだろう。
    ショーン、相手は真っ向勝負をご所望だ。
    出来るか?」

隣で腕を組んで話を聞いていた円卓十二騎士の第四騎士、ショーン・コネリは深く頷いた。
彼なら、セルゲイが望む正義を遂行出来る。

762名も無きAAのようです:2014/09/15(月) 21:02:10 ID:EXXlvcjc0
(´・_・`)「あぁ、もちろん。 市長と一緒に行けばいいんだろう?」

流石は円卓十二騎士、言わずともツーの考えが伝わった。
ショーンと共に犯人のいる現場に向かうのは、市長のフォックス・ジャラン・スリウァヤだ。
今は相手が市長を殺すか殺さないかは別として、一刻も早く人質たちに安心感を与え、交渉の場を作ることが必要だった。
相手が所望する市長自らが出向けば、人質を解放させるための話し合いが出来るはずだ。

(´・_・`)「じゃあ、マスコミの方は任せるよ。
    市長の会見が終わり次第、現場に向おう」

そう言い残して、ショーンは後部ドアから降りて行った。
一人残ったツーは、無線の周波数をフォックスの個人用無線機に合わせ、通信を始めた。

(*゚∀゚)「市長、聞こえますか?」

『あぁ、良好だ。 それで、プランは整ったかい?』

フォックスの声の後ろから、報道陣の野次が飛び交っているのが聞こえる。
これから今まさに記者会見をしようと、記者たちを前にしていることが推測された。
彼は冷静で非常に頭の切れる人物だ。
こちらが計画を練るまで、会見は開かないつもりだったに違いない。

一分一秒が争われる現場で、余計な修飾語は不要。
要点をまとめて、ツーは計画を伝えた。

(*゚∀゚)「はい。 犯人の要求に応じ、市長にはビルに向かっていただきます。
    ショーンを同伴させますので、人質を順に解放させて、最後の一人と交換するように交渉してください。
    あとは、ショーンが引き継ぎ、バックアップとしてカラマロス・ロングディスタンス大佐をピースメーカーに待機させてあります。

    万一の際には狙撃にて事態を終わらせ、殲滅後に電話回線を全て切らせることになっています」

763名も無きAAのようです:2014/09/15(月) 21:06:43 ID:EXXlvcjc0
『わかった。 じゃあ、後の処理は任せるよ』

逡巡することのない回答だった。
部下を、そして仲間を信頼しているからこそ出来る返事だ。
ジュスティアがイルトリアに勝っている点があるとしたら、まさにこれだ。
仲間を徹底して信頼し、その判断に無条件で己の命を預ける。

(*゚∀゚)「ご武運を」

無線が切れてからツーに言えたのは、それだけだった。

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会見、準備、そして行動。
全ては異例の速さで進められ、異例の速さで実行に移された。
犯人の要求に応える形となった市長の動きに、マスコミたちはどよめいた。
テロリストには決して屈指ない、それがジュスティアの理念だったからだ。

人質を助けるためとはいえ、テロリストの要求を呑むというのは前代未聞だった。
無責任に発せられる反対意見を退け、市長であるフォックス・ジャラン・スリウァヤは単身でビルに入った。
フォックスの姿がビルの中に消えると、マスコミ各社は訃報と吉報、両方のニュースでもすぐに発信出来る準備を整えた。
だが、市長としてその椅子に座るフォックスは、マスコミの反応を予想していたため、それを制限させなかった。

764名も無きAAのようです:2014/09/15(月) 21:14:21 ID:EXXlvcjc0
彼は、市長は、テロリストに屈した覚えはなかった。
要は戦い方の問題だ。
横合いから殴りつけるか、それとも正面から殴り合うかの違いでしかない。
今回のようにテロリストと真っ向勝負という展開は、フォックスにとって理想的な展開と言えた。

ジュスティアの威光を示す絶好の機会だ。
円卓十二騎士の登場と制圧ぶりは、世界に対して再びジュスティアの力を思い出させる切っ掛けとなる。
この事件の首謀者も、それを望んでいる。
だからこそ、彼らは全力で正面から立ち向かわなければならない。

フォックスには覚悟があった。
撃たれる覚悟。
刺される覚悟。
そして死ぬ覚悟だ。

だが死ぬつもりは毛頭ない。
彼が死ぬことでジュスティアが失う物があまりにも大きすぎる。
今はまだ死ねない。
死んでやることは出来ない。

人気のないビルは不気味だった。
照明は全て消え、暗闇に浮かぶのは非常口を示す緑色の明かりだけ。
そこに響くのは一人分の跫音。
そこを進むのは二人の男たち。

地下駐車場から合流した男は気配を絶ち、フォックスの三歩後ろを歩いている。
彼の背中には背丈と同じ六フィートのコンテナがあった。
軍用第三世代強化外骨格の運搬用コンテナだ。

爪'ー`)「……」

765名も無きAAのようです:2014/09/15(月) 21:17:09 ID:EXXlvcjc0
フォックスは公園を散歩するような気軽さで無人となったエントランスを進み、地面に転がる死体の傍に膝をついた。
瞼に指を乗せて降ろしてやり、背後に立つ円卓十二騎士のショーン・コネリを見た。
彼は無言だった。
だがフォックスは、彼が全てを理解していることを知っていた。

話さずとも、それは分かる。
彼は円卓十二騎士。
ジュスティアの正義を執行する、代表者なのだから。

(´・_・`)「……」

二人は無言でエレベーターに乗り込み、最上階を目指す。
低い唸りを上げて上昇する昇降機内で、フォックスは小さく溜息を吐いた。

爪'ー`)「なぁ、ショーン。 君は彼のことを、どう思う?」

(´・_・`)「どうしようもない愚か者です。
    正義のために悪になっても、根本的な解決にはつながらない。
    ……だから、私が救ってやります」

爪'ー`)「私も同意見だよ。
    ……彼らのこと、よろしく頼むよ」

一人の男が自らの命と他人の命を利用して正義を蘇らそうとしている。
愚かな男だ。
だがそれを産んでしまったのは、フォックスたちでもある。
最上階に到着し、扉が開く。

766名も無きAAのようです:2014/09/15(月) 21:22:59 ID:EXXlvcjc0
待ち受けていたのは、二機の白い強化外骨格だった。
予測はしていたが、驚いたのはその姿だった。
明らかにジョン・ドゥなのだが、そのカラーリングは禍々しささえ感じる。
眩いばかりの純白の外装、ヘルメットに描かれた金色の大樹のエンブレム。

クロジングの強盗未遂事件の報告書にあった棺桶に相違ない。
二人の頭に短機関銃の照準を合わせながらもすぐに発砲しないのを見るに、実戦経験を積んだことのある人間だと推測出来る。

〔欒゚[::|::]゚〕『……本当に来たか』

〔欒゚[::|::]゚〕『そいつは?』

棺桶を背負うショーンに対して、男たちは警戒心を露わにした。
フォックスに向けていた銃口は、今やショーン一人に向けられている。
判断は悪くないが、経験が浅い証拠だ。
仮にフォックスが銃と殺意を隠し持っていたら、目の前にいる二人は銃口を逸らした瞬間に死んでいる。

爪'ー`)「気にする必要はない。 君たちが約束を守りさえすれば、ね」

〔欒゚[::|::]゚〕『……いいだろう。 ならば市長、お前が先だ。
      そこのお前、妙な気を起こすなよ』

(´・_・`)「約束を守るのなら、私もそれを守ろう」

フォックスは男たちの間を通って、扉を押し開いた。
砕けた窓から吹き込む温い風が、フォックスの顔を撫でる。
最初に目についたのは、壁際で震える女たちと泣く子供たちの姿だった。
そして、凌辱される一人の女が目に入った。

爪'ー`)「……」

767名も無きAAのようです:2014/09/15(月) 21:27:19 ID:EXXlvcjc0
从´_ゝ从「おや、市長。 来てくれたのか。
     俺がセルゲイだ」

ガラスに手をつかせた女を背後から犯すセルゲイは、フォックスの姿を見て少年のように目を輝かせた。
思った通り、彼の目に狂気じみた色は覗えない。
女を犯しながらも、彼は楽しそうな顔をしていなかった。
ツーの予想した通り、この男は正義を待っていたのだ。

爪'ー`)「あぁ、来たよ。 さぁ、人質を解放してもらおうか」

从´_ゝ从「そう焦るな。 俺はあんたと話がしたいんだ」

爪'ー`)「私と話がしたいのなら、なおさらだ。
    人質を解放したまえ。
    最後の一人と私を交換すればいいだろう」

セルゲイは少し迷った様子を見せた後、女を突き飛ばした。
陰茎を女の髪で拭い、ズボンにしまう。
セルゲイは人質たちに銃を向けていた仲間に向けて、手短に命令を下した。

从´_ゝ从「いいだろう。 この女以外、全員解放しろ」

提案は驚くほどあっさりと受け入れられ、人質たちを向いていた銃口がフォックスとショーンに向けられる。
自分たちを睨んでいた銃口がなくなったのを知ると、人質たちはふらつきながらも出口を目指して走り出した。
エレベーターに駆け込む女子供を、誰一人として追いかけようとはしない。
昇降機の扉が閉まり、フロアには崩折れすすり泣く女のか細い声だけが残された。

爪'ー`)「約束だ、私がそちらに向かう。
    その代り、その女性をこちらに連れてくるんだ」

768名も無きAAのようです:2014/09/15(月) 21:32:42 ID:EXXlvcjc0
从´_ゝ从「まずはそっちから来い。 両手を頭の上に乗せて、ゆっくりとだ」

いつの間にかに構えた短機関銃が、フォックスの胴体を狙っていた。

爪'ー`)「分かっているよ」

言われた通りに両手を後頭部に当て、フォックスはセルゲイに近づく。
階段をゆっくりと降りて、足元に散った書類を踏みながら、慎重に。

从´_ゝ从「そこで止まれ。
     さて、市長。 話をしよう。
     俺はあんたに一つだけ訊きたいことがあるんだ。
     その答えだけ聞くことが出来ればいい」

後十フィートという所で、セルゲイがフォックスを止めた。
先ほどからの問答は全て、ジュスティアはもちろん、世界中にリアルタイムで配信されているものだ。
迂闊な答えは出来ない。
偽りのない言葉で答えるべきだ。

爪'ー`)「聞こう」

从´_ゝ从「あんた、正義のために死ぬことは出来るか?」

愚かな質問だった。
この事件を起こす人間に相応しい、愚かな質問だ。
答えなど決まっている。
そしてこの男は、こちらが答えることを期待している。

選ぶべきは真実の言葉。
フォックスは条件反射的な速度で答えた。

769名も無きAAのようです:2014/09/15(月) 21:37:53 ID:EXXlvcjc0
爪'ー`)「無理だね。 正義のために死ぬ覚悟はあるが、死ぬわけにはいかない」

セルゲイはその言葉を噛みしめるようにして聞き、瞼を下ろした。
僅かな沈黙。
そして、セルゲイの引きつった笑顔。
次に何が起こるのか、その場の全員が理解した。

从´_ゝ从「……なら、今ここで死ね!」

爪'ー`)「ショーン、正義の時間だ」

両者の言葉が始まりの、そして終わりの合図となった。

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               ゝ| 'y,:_、__,,,,,__y. \ ノ  / /___,,,,,,,,,,,,,,/  |__
              / ヘ   `゙゙゙゙'゚'''゙゙-   ゝ /  |--゙''゙゙     | ヽ
              | | |       /  / ヽ   \        |ヽ |
              | | |          |  |           | | ||
         『我らは巌。 我らは礎。 我らは第九の誓いを守護する者也』

                 ‥…━━ PM 09:05 ━━…‥

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

円卓十二騎士、第四騎士ショーン・コネリ。
彼は、オフィスに足を踏み入れた瞬間から戦闘準備を整え、合図を待っていた。
口にした起動コードは、ガーディナなどの強化外骨格で知られるジャネーゼで作られた最後のガバメント・シリーズのそれだ。
この時代に現存する、最後の一機。

その名は、“アーティクト・ナイン”。

770名も無きAAのようです:2014/09/15(月) 21:42:38 ID:EXXlvcjc0
<::[-::::,|,:::]『御意』

機動性を確保するために全身を特殊軽量合金で覆い、排熱効率を向上させるためにパーツの三割にハニカム状の穴をあけ、同時に軽量化も実現させた。
特筆すべきはその機動性と反応速度、そして僅か二秒と云う装着の速さだ。
従来の棺桶の倍近くの設定を行うことで、使用者の動きを確実に反映させる。
両腕に装備された長さ約三〇インチの対強化外骨格用のライフル、そして背中のバッテリー横に取り付けられた高周波刀がアーティクト・ナインの主兵装だ。

〔欒゚[::|::]゚〕『こ、こいつ!!』

左右を挟んでいたジョン・ドゥ二機は、照準をショーンに合わせていたことが災いした。
運搬用コンテナは非常に堅牢に作られており、よほどのことがない限り絶対に銃弾を通さない。
彼らはショーンがそこに収められ、再び現れるまでに三発の銃弾を無駄に発砲してしまった。
半ば条件反射的な動きだったが、それは無駄な動きだった。

もしも彼らが本当に勝利を狙っていたのであれば、照準をフォックスに変更して銃爪を引き絞るべきだったのだ。
だが、もう遅い。
あまりにも、遅すぎた。
強化外骨格を纏ったショーンが姿を見せた時には、二人の命は二発の銃声で終わりを告げた。

両腕の大口径のライフルが放った銃弾だ。
.700NEと云うライフル弾は、現代で棺桶を一撃で屠る際に使われる切り札的な物だ。
使用される銃は世界で僅かに五挺のみ。
その特殊な口径故に製造は殆どされておらず、使用出来る銃火器も殆ど残っていない。

そして、アーティクト・ナインの両腕に装着されたライフルの装弾数は五発。
大勢を一度に相手にするには頼りない弾数だが、テロリストたちを壊滅させるには十分な弾数だった。
胸部を吹き飛ばされた二機のジョン・ドゥは反動で仰向けに吹き飛び、地面に落ちた。
棺桶を装着していなかった残りの四人が、一斉に解除コードを叫ぶ。

『夢と希望が我らの糧。我ら、正義と平和の大樹也!!』

771名も無きAAのようです:2014/09/15(月) 21:47:50 ID:EXXlvcjc0
だが、手遅れだった。
ジョン・ドゥの起動には約十秒の時間が必要となる。
彼らは知らない。
安全なはずのその時間こそが、ショーンにとっては必殺の時間であることを。

本来、運搬用のコンテナはどの棺桶も本体以上の強度を持たせて製造されている。
使い方によっては榴弾の爆風を受けても動作を保証されており、対棺桶用の銃弾では貫通は不可能だと思われている。
しかし。
何事にも例外がある。

鉄を溶かす炎。
鋼を両断する刀。
物質を瞬時に氷結させる液体。
分厚い装甲を貫通する銃弾もまた、そういった例外の一つだ。

そして、この対強化外骨格用ライフル“八千代”こそが、死角を利用した必殺の兵器である。
棺桶持ちはほぼ全員が、背負ったコンテナの装甲が絶対の装甲であるという心理的な死角を持つ。
一度コードを入力してしまえば、安全な場所に避難出来るという、盲信。
その常識を打ち破るライフルの存在を、彼らは知らなかった。

コンテナに空いた一つの穴。
その穴の向こう側には、飛び散った臓物や血飛沫が伺える。
四人のテロリストたちは、全員、そのコンテナを己の棺桶にして沈黙した。

<::[-::::,|,:::]『……終わりだ、セルゲイ・ブルーノフ』

硝煙と陽炎で揺らぐ銃口をセルゲイに向け、ショーンはそう言い放つ。
圧倒的な威力の銃を目の前にしても、セルゲイは狼狽しなかった。
指揮官としては優秀な類だ。
終わりに際しても動揺しないと云うことは、覚悟が出来ているということだ。

772名も無きAAのようです:2014/09/15(月) 21:52:13 ID:EXXlvcjc0
从´_ゝ从「ははっ…… そうか、もう終わりなのか……」

セルゲイは、そう言って俯いた。
時折聞こえる笑い声には、喜びの色が滲み出ている。
終わりを悲しむのではなく、計画の破綻を嘆くのではなく。
この男は、喜んでいる。

ひたすらに喜んでいるのだ。
歓喜し、感動し、安堵しているのだ。
終わりが訪れ、切望していたものが目の前に現れたことに。
かつて信仰したものが今も変わらずあるということを再認識し、己の愚行を呪い、正義を祝福することに喜びを感じているのだ。

从´_ゝ从「あんた、名前は?」

<::[-::::,|,:::]『円卓十二騎士のショーン・コネリだ』

その時初めて、セルゲイの顔に驚きの感情が浮かんだ。

从´_ゝ从「道理で…… なぁ、市長……
     いや、フォックス・ジャラン・スリウァヤ」

爪'ー`)「何だい?」

フォックスの口調は柔らかだった。
労を褒める父親の口調だった。

从´_ゝ从「正義は、本当にあるのか?」

爪'ー`)「正義は、ここにある」

773名も無きAAのようです:2014/09/15(月) 22:06:16 ID:EXXlvcjc0
静かな返答に、セルゲイは何かを悟ったような顔をした。
ゆっくりと、ガラスの割れた窓辺に歩き出す。
二人はその様子をただ見守った。
彼はおもむろに懐に手を伸ばし、そして――

从´_ゝ从「ありがとう、もう十分だ」

――その言葉の直後、セルゲイの胸に大きな穴が開いた。
ショーンも、そしてフォックスも発砲はしていない。
撃ったのはあらかじめ待機させておいた狙撃手、カラマロス・ロングディスタンスだ。
セルゲイは力なく膝をついて、背中から倒れる。

寄りかかる物が何もない虚空に向けて、セルゲイの体が落ちて行く。
こうして、セルゲイ・ブルーノフの夢は終わりを告げた。
愚直な男は自らの最期を、悪として散ることを選択した。
その様子を見届け、フォックスは懐からシガーケースを取り出し、葉巻を一本咥えた。

マッチで火を点け、深く煙を吸い込む。
ゆっくりと吐き出した紫煙は、風にもまれてすぐに消えた。

爪'ー`)y‐「久しぶりだよ、こんなに不味い葉巻は」

(´・_・`)「……」

これで、事件は幕を下ろすこととなる。
だが、終わりではない。
終わりにしてはならないのだ。

774名も無きAAのようです:2014/09/15(月) 22:12:18 ID:EXXlvcjc0
爪'ー`)y‐「正義のために悪に染まり、悪として死ぬ男。
     それもまた、ある種の正義だろうさ。
     だが、彼の装備は極めて異常だ。
     ……ショーン、彼は誰かに利用されたと思うかい?」

(´・_・`)「おそらくは、そうでしょう」

その判断材料として挙げられるのが、彼らの所有していた棺桶だ。
ジュスティア内では出回ることのない、非正規の棺桶。
クロジングで使用された曰くつきのジョン・ドゥが、ジュスティア内に持ち込まれたのは事実として認めるしかない。
問題なのは、誰が何のために持ち込んだのか、という点である。

内部で手引きをした人間がいなければ、あのような棺桶は持ち込めないはずだ。
考えられるのは、裏切者の存在だ。

爪'ー`)y‐「私が腹を立てているのは、あぁ、聞き流してくれてもいいがね。
      純粋な気持ちを利用して、悪に手を染めさせたその行為だ。
      私の都で、私の街で、よくもまぁここまで好き放題やってくれたものだ。
      裏切者を見つけ出し、必ず裁きを受けさせてやる」

葉巻を握り潰し、フォックスはそれを地面に叩き付けた。

爪'ー`)「十二騎士を本格的に動かすぞ!
    我々の正義を揺るがすわけにはいかない」

(´・_・`)「当然です」

775名も無きAAのようです:2014/09/15(月) 22:17:20 ID:EXXlvcjc0
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                 ‥…━━ PM 09:45 ━━…‥
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主犯であるセルゲイの死体が落下し、事件が終息したことを関係者全員が理解した。
いつの間にか電話も切られ、中の様子の中継も止まっている。
全ては無事に終わった。
多少の被害者と最小の被害で、最大の成果を上げることに成功した。

無事に円卓十二騎士の存在も公にでき、後は正式に発表するだけだ。
セルゲイの犠牲で、ジュスティア全体のみならず、世界中にジュスティアの本気を知らせることが出来る。
彼の夢であった正義の再臨は、こうして成就する。
長い夜はこうして無事に終わる――

(*゚∀゚)「……は?」

――はずだった。

(*゚∀゚)「馬鹿な……そんな、馬鹿なっ……」

コンテナに積まれた無線機を通じて入ってきた新たな情報に、ツー・カレンスキーは声を震わせ、思わず結っていた髪を解いてしまった。
全ては正義のためではなかった。
一連のセルゲイの行動は、あくまでも囮。
本当の狙いは、ジュスティア内に勢力を固めておくこと。

776名も無きAAのようです:2014/09/15(月) 22:22:11 ID:EXXlvcjc0
コンテナに積まれた無線機を通じて入ってきた新たな情報に、ツー・カレンスキーは声を震わせ、思わず結っていた髪を解いてしまった。
全ては正義のためではなかった。
一連のセルゲイの行動は、あくまでも囮。
本当の狙いは、ジュスティア内に勢力を固めておくこと。

セルゲイを惑わした主犯の目的は、ティンカーベルにある監獄島。
その脱獄計画こそが、真の目的だったのだ。
怒りに身を任せ、トレーラーの壁を力任せに殴りつける。

(*゚∀゚)「セカンドロックが、破られた……!?」

脱獄者二名。
それは、ジュスティアの歴史において汚点としか言えない結果だった。
髪ゴムを握りしめ、ツーは歯噛みする。
してやられた。

目撃者多数。
死傷者多数。
実行者の一人は、ショボン・パドローネであることが確定している。

(*゚∀゚)「逃げた奴らはどうした?!」

無線機の向こうから、泣きそうな声で兵士が答える。

『ヘリで逃げられ、ティンカーベルのどこかに着陸したところまでは確認できているのですが……』

状況は最悪だ。
だが、まだ間に合う。
後手ではあるが、手順を間違えなければ好機はある。

777名も無きAAのようです:2014/09/15(月) 22:26:01 ID:EXXlvcjc0
(*゚∀゚)「今すぐに全ての逃走経路を封鎖しろ!!
    相手は凶悪犯だ、絶対に逃がすな!!」

そう言って、ツーは無線を切った。
まだ落ち着くことは難しいが、彼女の中には的確な判断を下せるだけの冷静さは残されている。
ある意味で、これはチャンスだった。
オアシズに乗船している犯罪者、そしてショボン、脱獄者を一網打尽に出来るまたとない機会だ。

これは、絶対に失敗出来ない作戦となる。
ツーはフォックスに意見を求めることなく、元帥のタカラ・クロガネ・トミーに連絡を入れた。

(*゚∀゚)「タカラ、今から五分以内にマン・ハントの精鋭部隊を編成し、ティンカーベルに派兵しろ!!
    月が沈み、太陽が昇る前にはあの島を踏み荒せ!!
    正義の名のもとに、奴らの腸を引きずり出し、目玉を抉れ!!
    事件の関係者は一人残らず死刑台に送り、心臓を串刺しにしてやる!!」

ツー・カレンスキー、またの名を“串刺し判事”。
彼女の判断力と決断力の容赦なさは、警察という機関を象徴する。
そして、この決断が後にジュスティアという街、そしてティンカーベルの歴史を大きく変えることになる。
だが、その結末は今の段階では誰にも分らない。

――今は、まだ。

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Ammo→Re!!のようです                            Ammo for Tinker!!編

第一章 【mover-発起人-】 了                         To be continued...

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778名も無きAAのようです:2014/09/15(月) 22:27:23 ID:EXXlvcjc0
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                        次回予告

正義と悪。
悪と正義。
どちらが先に生まれたか、どちらが先に決まるのか。
答えは誰にも分らない。

鐘の音響くこの島に、二つの想いが集いだす。
追うは信念、追われるは旅人。
果たしてどちらの想いが叶うのか。
答えは誰にも分らない。

孤高の虎はただ、その行く末を見守るのみか。
答えは誰にも分らない。

次回 Ammo→Re!!のようです Ammo for Tinker!!編

                  第二章 【集結- concentration -】

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779名も無きAAのようです:2014/09/15(月) 22:28:20 ID:EXXlvcjc0
これにて本日の投下は終了です。
支援ありがとうございました。

質問、指摘、感想などがあれば幸いです。

780名も無きAAのようです:2014/09/15(月) 22:36:29 ID:a8UqpoLQ0
乙、面白い。
デレシアについてはほとんど謎なのにまた謎が増えた。
デレシアのことが明らかなになる時を待ちたい。
Tinker編は章ごとにスポットが当たるキャラが変わるのですか?

781名も無きAAのようです:2014/09/16(火) 04:14:37 ID:BvKtkcbc0
あれ!?Ammo→Reってもう完結してるもんだと勘違いしてた!ごめんなさい!
最近まとめで読んでたところだから続けて読ませてもらいます。
頑張ってください。楽しみです。

782名も無きAAのようです:2014/09/16(火) 22:24:09 ID:NJVNfBM20
>>780
あの人のことについては、まだまだ先が長くなる予定ですので、今しばらくお付き合いいただければ幸いです。
Tinker!!編は旅の一行以外にスポットが当たることになります。
たまには別の人たちの動きも書いてみたいなーと思いましてね。


>>781
我ながら愚かなことに一度打ち切りかけて、恥ずかしげもなくこうして戻って連載を再開した次第でございます。
ローテクさんが今のところまで全てまとめて下さっております。
ありがたいことです。

783名も無きAAのようです:2014/09/17(水) 02:36:30 ID:dH0K5wIU0
作者は靴とバックホーン好きかい?

784名も無きAAのようです:2014/09/17(水) 11:27:01 ID:Md/E5yLY0
Ammo for Reasoning*編の第1章の頭でコナン君否定されててワロタ

785名も無きAAのようです:2014/09/19(金) 23:00:39 ID:xFHo.TnI0
>>783
お察しの通りです。
ティンバーランドが最も嫌いな靴好きです。
THE BACK HORNも好きですが、鬼束ちひろも大好きです。

786名も無きAAのようです:2014/09/30(火) 09:59:44 ID:gizFTldc0
ようやく読めたー
フォックス達はトラギコみたくデレシアと共闘になるんだろうか
アーティクトナインと八千代ってことは、日本国憲法第9条か

787名も無きAAのようです:2014/10/25(土) 00:18:40 ID:JEaoxdfI0
明日の日曜日にVIPでお会いしましょう。

788名も無きAAのようです:2014/10/25(土) 00:40:12 ID:sn6BbmWs0
きたー!
楽しみにしてます!

789名も無きAAのようです:2014/10/25(土) 00:44:23 ID:ggKgVFCs0
ウッヒョオーー!きてたー!

790名も無きAAのようです:2014/10/26(日) 19:44:26 ID:5VIcN39Q0
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                     災厄と因縁は引力を持っている。

                                 ――経済学者   モンゴメリー・ポン


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791名も無きAAのようです:2014/10/26(日) 19:47:22 ID:5VIcN39Q0
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  (⌒ヽ                                              (⌒ヽ
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波は穏やかだった。
潮騒に紛れてカモメが鳴く。
水平線の向こうには白い雲が浮かぶ、穏やかな夏の朝。
巨大な客船が、ゆっくりと海上を進んでいた。

世界最大の豪華客船にして世界最大の船上都市、オアシズ。
“オアシズの厄日”と呼ばれる連続殺人事件がもたらした混乱はその解決と同時に落ち着きを見せ、船は最初の目的地であるティンカーベルを目指して大海原を進んでいた。
船内では従業員とボランティアの乗客が薬莢を拾い、血の跡を洗い流して争いの痕跡を少しずつ消し始めている。
八月七日早朝、特別に割り当てられた一室に居座るその男は、事件終了から一睡も出来ないでいた。

必要最低限の調度品と食糧、そして酒があれば十分な男にとって、その部屋は十分すぎる部屋だった。
毛足の長い絨毯が敷かれた部屋にはシングルベッドとソファ、そしてウォークインクローゼットとキッチンが標準で付いている。
洗面場の隣に作られた風呂には底の深い大きな風呂桶があり、当然のことながら、ジャグジーも備えられている。
これでも船内で最低ランクの部屋だが、正規の値段は男の年収の半分に相当した。

だが男は正規の乗客ではないため、その料金を請求されることはなかった。
オアシズの厄日発生に伴い、ジュスティアから派遣された海軍と共に乗り合わせただけの刑事だ。
事件解決の中で、彼はオアシズに仕掛けられた高性能爆薬を全て撤去し、船の沈没を防いでいた。
賞賛の言葉も労いの言葉もなかったが、名誉を糞と言い換える刑事にとってそれは、別段不満を感じる要素ではなかった。

792名も無きAAのようです:2014/10/26(日) 19:51:53 ID:5VIcN39Q0
刑事を不眠にさせている原因は、オアシズの厄日にはあまり関係がなかった。
確かに心底疲れる事件ではあったし、苛立たしい結果になったのも事実だ。
しかしそれと不眠とは、まるで別問題だった。
例え女を抱くその寸前で破局したとしても、男は熟睡出来る太い神経を持っていた。

その男でさえ、今では目の下に濃い隈を作り、半ばまで落ちた瞼のせいで人相はいつも以上に悪くなっている。
それでも男は、眠るわけにはいかなかった。
ここで眠ってしまえば、新たな事件が起こりかねない。
不眠に通じる全ての原因は、目の前でふてぶてしく熟睡している女にあった。

ショートカットの茶髪、ほのかに少女の名残を残す顔。
穏やかな寝顔の下に隠した狂気。
鳶色の瞳の奥に宿る底知れぬ悪意。
快楽殺人鬼、ワタナベ・ビルケンシュトックだ。

この糞忌々しい殺人狂の女と出会ったのは、海上都市ニクラメンが沈没した際の事だ。
逃げ惑う人々の前に現れ、毒ガスを使用する強化外骨格で殺戮し、それに快感を覚えていた。
偶然居合わせた男が対処したが、殺すには至らなかった。
耳付きの子供に対して何故か配慮する一面を見せたが、殺人鬼である事実に揺るぎはない。

だが、オアシズに仕掛けられた爆弾の在処を全て男に教えた人物でもあった。
トラギコ・マウンテンライトはスコッチウィスキーを飲みながら、彼女が妙な動きをしないかどうかを見張るためにベッド傍のソファで夜を明かした。
何度も殺人鬼らしからぬ行動をしてきたとはいえ、本質に変わりはないはずだ。
万が一の際には、すぐに殺さなければならない。

いつでも銃を構えられるようにと、左手にベレッタ、右手にグラスを持って六時間以上にもなる。
流石に、銃を持つ手が痺れてきた。
撃鉄は起こさずにいるため、生娘の肌のように敏感な銃爪に指が触れていても、今のところ問題はない。
今のところは、だが。

793名も無きAAのようです:2014/10/26(日) 19:55:24 ID:5VIcN39Q0
ワタナベは油断ならない女だ。
笑顔で無抵抗な人間を殺し、更なる快楽を得るためにトラギコを殺しに来るような女は紛れもなく敵だ。
仮にワタナベが今回限りの味方だったとしても、彼女が行った殺人の経歴がなくなるわけではない。
よくいるのだ、妙な勘違いをする犯罪者が。

笑顔で人を殺しておいて、心を入れ替えたのを機に人のために何かをしようとする輩はいつの時代も消えることはない。
それで罪が消えると思っているのだ。
愚かな話だが、トラギコは現実にそういう人間を何人も見てきた。
そして殺してきた。

警察としては彼らからもたらされる情報や技術に価値を見出していたが、トラギコには関係なかった。
むしろ、警察に蓄積されているノウハウで役立ったことと言えば、警察の身分を表に出せば様々な面で金が不要になるということぐらいだ。
現場で働いていれば、ある程度の知識は身につく。
わざわざ犯罪者に頼るなど、愚かな話だ。

犯罪者に対して、トラギコは常に独りで挑んできた。
警察に入る前から、トラギコは常に独りだった。
独りだからこそ、トラギコは強かった。
独りだからこそ、トラギコは強くなれた。

ジュスティアで生まれ育ったが、正義という言葉には反吐しか出ない。
そんなもの、どうでもいいのだ。
そんなもの、この世にはないのだ。
確かに若い頃は正義を信じた頃もあったが、今では身悶えるほど恥ずかしい思い出だ。

事件を解決することに情熱を注ぐトラギコの行動理念は、非常にシンプルだ。
人間としてのルールを守る、それだけである。
だから、例えワタナベが乗客たちの命を救ったという事実があったとしても、ニクラメンで猛毒ガスを散布して大量殺人を行った事実は消えない。
人の命が消えるごとに快楽を感じるような女は、死んだ方がこの世界のためになる。

794名も無きAAのようです:2014/10/26(日) 19:57:50 ID:5VIcN39Q0
殺すのは簡単だ。
今ここで急所に銃を向けて銃爪を引けば、痛みを感じる間もなく殺せる。
しかし、引けない。
女だからという理由ではなく、この女があまりにも有益な情報を持ちすぎているからだ。

様々な場所で蠢く陰謀の片棒を担ぐ女。
オアシズ襲撃とほぼ共に現れ、設置された爆弾の位置を全て知り尽くし、それを解除させた意図。
そして、トラギコが追う金髪碧眼の旅人に関する情報を持っている可能性。
ここで殺せば、それら全てが消える。

尋問したところで、この女は口を割らない。
今出来るのは、逃げないように見張ることだけだ。
つい最近、トラギコはある事件に関与した重要参考人に逃げられたばかりだった。
自力での脱出が不可能なように足の腱を切ったのだが、何者かによって運び出されてしまったのだ。

油断が招いた結果だ。
次は同じ過ちを犯すまいと、トラギコは徹底して参考人を拘束することに決めた。
事件が終わってからすぐに、市長であるリッチー・マニーに空き部屋を用意してもらい、そこにワタナベを連れ込んだ。
ワタナベに睡眠薬入りのコーヒーを飲ませ、寝入ったところで手足を拘束し、部屋にある全ての脱出路を厳重に塞いだ。

仮に何かしらの手段によってトラギコを殺したとしても、この部屋から逃げる手段はない。
しばらくの間、二人きりで船旅を楽しむしかないのだ。
無防備な寝顔を見て、トラギコはワタナベの行動が矛盾していることに納得がいかなかった。
この女は、人を殺すことを快楽に変換する。

ならば、沈没していくオアシズの中で逃げる人間を殺せばいいはずだった。
快楽殺人鬼ならば、そうしているのが自然なはずだ。
しかしながら、そうはならなかった。
沈没させるために設置された爆弾の解除に手を貸したのだ。

795名も無きAAのようです:2014/10/26(日) 19:58:18 ID:uSr/Fhhs0
読んでる支援

796名も無きAAのようです:2014/10/26(日) 20:01:31 ID:5VIcN39Q0
設置場所、解除方法。
ワタナベはその全てを知っていた。
そのことから、実行犯であるショボン・パドローネと何らかの関係があるのは間違いなかった。
だが、ワタナベはそれを裏切った。

目的が全く分からない。
考えたところで分かるとは思えないが、考えなければそもそも始まらない。
殺人狂の気持ちなど、分かるのだろうか。
トラギコは最後の一口となっていたスコッチを飲み干し、すぐそばのテーブルに置いた。

鼻から空気をゆっくりと出すと、鼻孔の奥から燻製された木の香りが排出され、得も言われえぬ高揚感に満たされた。
スコッチはこれがいいのだ。
他のウィスキーではこうはいかない。
これだけ強烈な煙の香りを堪能出来る酒は、スコッチを置いて他にない。

絨毯に置いていた深緑色のボトルを手に取り、ラベルを見る。
予想通り、アードベッグだった。
思考力がある一定の状態を保って動き続けるためには、薬物よりもスコッチに限る。
栓を抜いてグラスの淵まで注ぎ、トラギコは深い溜息を吐いた。

命の音。
それは、人が生きてきた全てを示すものだ。
ワタナベはそれを断ち切ることで、快感を得ていた。
何かを終わらせるという行為は、何かを壊すという行為。

それは言わば、圧倒的な優位性に酔い痴れるようなものだ。
生殺与奪の一切を集中に収め、それを踏み躙る行為。
抵抗できない子供たちに対して命令を下し、性奴隷としての人生を設計する人間の心情と似ている。
このような行為の背景には、過去に人生を踏み躙られた、もしくは自分の意志で人生を作り上げられなかった場合が多い。

797名も無きAAのようです:2014/10/26(日) 20:05:08 ID:5VIcN39Q0
恐らくはワタナベも、人生の歯車もどこかで狂わされたのかもしれない。
何があったにせよ、同情はしない。
トラギコがこれまでの人生で同情したのは、十五年前に担当したCAL21号事件の被害者だけだ。
嫌な記憶を消すようにして、グラスを傾けて唇を湿らせるほどの量を飲む。

一度に飲む酒量は若い頃に比べて大分増え、時間をかけて飲むようになった。
幸いなことに異存はしておらず、普段は飲まなくても十分なぐらいだ。
深く考え事をする際にのみ、酒の量が増える。
これまでに一度も醜態を晒したことがないのが救いだった。

透明のグラスに注がれた黄金色の液体。
漂う香りは、強烈な煙のそれだ。
舐めるようにグラスからそれを口に含み、空気と共に喉の奥に落とす。
焼けるような熱さを伴った液体は、トラギコの胃袋に強い刺激を与える。

酒に合う肴は多くある。
ドライフルーツにチョコレート、鮭の燻製があればなおいい。
だがトラギコは、肴を用意していなかった。
空の胃袋に流し込む酒が健康的なはずもなく、トラギコは軽食を食べたい欲求と戦っていた。

ゆっくりと時間をかけて鼻から空気を出して、燻された風味を堪能する。
脳髄の奥からじわりと体全体に広がる感覚は、快楽に近い。
空腹を誤魔化しきれないと悟ったトラギコは、拳銃を懐に収めて立ち上がった。
ワタナベは目を覚ます気配を見せない。

薬物に耐性があると厄介なことになるため、トラギコは大目に薬を盛っていた。
彼女の横を通り過ぎ、トラギコはキッチンを物色し始める。
物色しながらも、思考はオアシズの厄日の背景と今後の動きについて向けられていた。
解決の鍵を握るのは、ワタナベの存在だ。

798名も無きAAのようです:2014/10/26(日) 20:09:40 ID:5VIcN39Q0
一体どこから侵入してきたのか。
どうして海賊の襲撃に合わせて虐殺を行わなかったのか。
どうしてトラギコに大人しく捕まったのか。
彼女の口から情報を聞ければ、必ず進展はある。

硬い黒パンとハム、そしてプロセスチーズを見つけた。
挟めば十分な料理になる。
拳と同じ大きさのパンに切れ込みを入れ、そこにハムと薄く切ったチーズを挟み込む。
皿など用意せずに、それを口に咥えて先ほどのソファに戻る。

ワタナベはベッドの上で少女のような寝顔で眠っている。
大きな口を開けてパンに噛り付き、力任せに食い千切る。
単純かつ素朴な味だが、歯応えがあってトラギコの好みだった。
口いっぱいのパンを噛みながら、トラギコは爆弾解体とその後に行った“大掃除”を振り返った。

――ワタナベはまだ、眠りの中にいた。

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                          【原作】
                     Ammo→Re!!のようです

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爆弾解体の経験は三度あった。
アナログ時計と繋がったもの。
二色の液体が混合することで爆発する時限式のもの。
そして、高性能爆薬の仕掛けられたクマのぬいぐるみ。

799名も無きAAのようです:2014/10/26(日) 20:12:15 ID:zEynx1aU0
なるほどこれが原作ありってやつか

800名も無きAAのようです:2014/10/26(日) 20:14:31 ID:5VIcN39Q0
今回解体することになった爆弾の種類は、そのどれにも該当しなかった。
マッチ箱ほどの黒い箱状のものがテープで固定されているだけだった。
どのような仕組みで爆発し、どの程度の威力があるのかも分からない。
テープをはがした時、近づいた時、音を感知した時、振動を感知した時、可能性は無限にあった。

金髪碧眼の旅人と別れてから、トラギコは短時間で爆弾の種類を特定しなければならなかった。
ツールナイフを取り出したはいいが、ここから先どうすればいいのか、トラギコには判断出来なかった。
専門家の助言が必要だった。
苛立ちと焦りから、トラギコは“ブリッツ”の主兵装である高周波等を床に突き刺した。

(;=゚д゚)「くそっ」

一か八かの賭けで船の命運を決めるには、トラギコには荷が重すぎる。
爆弾を前に一人格闘したのは、わずかに十秒程度。
カーゴパンツと赤いポロシャツ姿の女性がショットガンを手に現れたのは、トラギコが思案していた時のことだった。

从'ー'从「はぁい、刑事さん」

(;=゚д゚)「ワタナベ……ビルケンシュトック!?」

トラギコは咄嗟に死を覚悟した。
武器を構えていないトラギコに対して、ショットガンを持つワタナベとの間にある戦力差は、運動能力や経験で埋めることの出来ない絶対的な物だった。
出来る抵抗と言えばツールナイフを投げるぐらいだが、そうなる前にワタナベはトラギコを挽肉に出来るだろう。
出方を待つというのが、今のトラギコにとって最善の手だった。

現在装着している強化外骨格、ブリッツは近接戦特化のものであるため、全く役に立ちそうもない。
急所に放たれる散弾を防げるかもしれないが、足を撃たれれば終わりだ。
つまり、何をどうしたところでトラギコの負けは揺るがない。

从'ー'从「あらぁ、別に殺そうってわけじゃないわよぉ」

801名も無きAAのようです:2014/10/26(日) 20:18:42 ID:5VIcN39Q0
(;=゚д゚)「どういう意味ラギ?」

从'ー'从「手を貸そうって言ってるのよぉ」

意味が分からなかった。
ワタナベと言えば、ニクラメンで大量殺人を犯した快楽殺人者だ。
人を助けるような人間性をしているとは、到底思えなかった。

(=゚д゚)「何が目的――」

从'ー'从「それはプラスチック爆弾。
     取り外す以外、解除は出来ないわよ」

そう言って、ワタナベはショットガンを袈裟懸けにして、パイプに取り付けられていた爆弾を無造作に取り外した。
爆発は起こらない。
その自然な仕草に、トラギコは得たばかりのチャンスを失ったことを忘れていた。
殺すのなら、今しかなかったのだ。

从'ー'从「起爆装置が押されるか、中にあるコードを切断したらアウト。
     それ以外では爆発しないわよ」

(=゚д゚)「どうして手前がそれを知ってるラギ?
    ショボンと仲間ラギか?」

ツールナイフを持つ手を下ろしながら、トラギコは解除よりも先に質問をした。
事件の首謀者であるショボン・パドローネとつながりがあれば、この解除という行為も罠の一つの可能性がある。
あの男はそういう男だ。
だがワタナベは鼻で笑って、床板の下から新たな爆弾を取り外してみせた。

802名も無きAAのようです:2014/10/26(日) 20:27:05 ID:5VIcN39Q0
从'ー'从「仲間なんかじゃないわ。
     私は私。 向こうは向こう。
     私は雇われているだけで、あの人たちの目的だとか夢だとかなんて、興味ないもの。
     そして今は休暇中」

(=゚д゚)「爆弾を解除する目的は何ラギ?」

ワタナベは思わせぶりな笑顔を浮かべ、答えた。

从'ー'从「刑事さんへの個人的なお礼よ」

(=゚д゚)「お礼?」

お礼を言われるような間柄ではない。
むしろ、互いに相手を殺そうと考えた仲だ。
彼女の言う礼が、ジュスティアで再会した時のことだとしたら、とんだ勘違いだ。
あれはあえて殺さなかっただけで、別に、食事を楽しんだわけではない。

从'ー'从「細かいことはいいじゃない、今は」

ワタナベの言うことは正論だ。
こうして問答をしている間に一つでも多く解除した方が利口だ。
話すのを止め、トラギコは爆弾を探す作業を再開した。
隠されている場所はワタナベがその都度指示し、トラギコはそれに従って外した。

合計で二十七のプラスチック爆弾が発見され、トラギコはその量に背筋が凍る思いだった。
少量の爆薬で大きな破壊をもたらすプラスチック爆弾がこれだけの量になると、船に穴が開くだけでなくこの区画を全て吹き飛ばす程の威力になる。
一つでも見逃していれば間違いなく沈没するだろう。

(=゚д゚)「これで全部ラギか?」

803名も無きAAのようです:2014/10/26(日) 20:30:47 ID:5VIcN39Q0
从'ー'从「えぇ、全部で二十七個。
     間違いないわぁ」

トラギコは上着を脱いで、それで全ての爆弾を包んだ。
一秒でも早く船から遠ざけさせなければ、オアシズに危害が及ぶ。
ワタナベの真意は分からないが、今見つけられる分はこれが全てだ。
彼女の言葉が嘘かどうかは、この際でもいい。

爆弾を持ったまま、トラギコは機関部から急いで抜け出し、船の最後尾を目指した。
脱出用の船に爆弾を積んで沖に走らせれば、オアシズに被害は出ない。
意識の全てを爆弾にのみ集中させ、トラギコはワタナベをその場においていく勢いで駆け出す。
階段を三段飛ばしで駆け上がり、死体を飛び越え、血溜まりを踏みつけた。

船外にあるプールサイドを通り過ぎ、手摺の向こうに吊り下げられた小型船が見えてきた。
だがそこには、瀕死の状態の海賊が一人手すりにもたれ掛かっていた。
トラギコの姿を見て、男は頭を動かした。
手にはサブマシンガンが握られており、銃を構えて銃爪を引くだけの力は残っていそうだった。

最悪の展開だ。
今ここでどうにかしなければ、トラギコが撃たれる。
その海賊がトラギコを気にしなければいいのだが、相手は意地の悪い海賊。
ただで死ぬぐらいなら、トラギコに発砲するぐらいの根性を見せるだろう。

(;=゚д゚)「ちっ」

男は最後の力を振り絞り、銃口をトラギコに向けた。

(::0::0::)「ひ、ひひ」

804名も無きAAのようです:2014/10/26(日) 20:37:40 ID:5VIcN39Q0
それは結局、背後から響いたショットガンの銃声によって杞憂に終わった。
男の顔が覆面ごと吹き飛び、ザクロのような姿と化したのである。
理由を問うよりも早く、男を殺したワタナベは次の展開をトラギコに思い出させた。

从'ー'从「ほらぁ、急がないとぉ」

その言葉の意味は、音が教えてくれた。
上空から響くローターの音。
今やるべきことに集中するため、トラギコは船に爆弾を放り込み、自らも飛び乗った。
操舵室は誰でも使えるように簡略化されており、自動操縦に切り替えるためのボタンはすぐに見つかった。

自動操縦に切り替え、座標を船の百マイル後方に設定する。
船から体を出すと、ワタナベが手を伸ばしてきた。
気に入らなかったが、トラギコはその手を掴んで船に戻った。
女にしては、かなり力が強かった。

脱出艇を切り離すためスイッチを押すと、船は海の上に落ちてすぐに走り出した。
白い泡の尾を残して遠ざかる船が水平線に消えようとした時、上空で爆発音が響き渡り、それに連鎖するようにして脱出艇も爆発した。
衝撃波がトラギコの顔を殴りつけた。
船内で爆発が起こった様子はない。

ワタナベは、真実を言っていたのだ。

(=゚д゚)「……どうして、協力したラギ?」

ますます答えが分からなくなる。
二人だけとなったプールサイドで、トラギコはワタナベに問う。

(=゚д゚)「答えろよ」

805名も無きAAのようです:2014/10/26(日) 20:41:18 ID:5VIcN39Q0
ワタナベは答えない。

(=゚д゚)「あいつらの仲間なんだろ?
    どうして裏切ったラギ?」

ワタナベは首を横に振るだけ。

(=゚д゚)「裏切ってないなら、どうして爆弾の位置を全て教えたラギ?」

笑顔のまま、ワタナベは答えを言おうとしない。
気に入らない。
この、善意で動いたと言わんばかりの態度が気に入らない。

(=゚д゚)「おい、答えろよ、ワタナベ・ビルケンシュトック」

从'ー'从「……」

それでもワタナベは、黙ったままだった。
潮風がうるさい。
懐に手を伸ばして、瞬時にベレッタを構えた。
銃口はワタナベの心臓に向けられていたが、ワタナベは銃を構えようともしない。

こちらが撃たないと思っているのだろう。
悔しいが、正解である。
今は撃てない。
ワタナベは多くを知り、多くを隠している。

それ故に、殺せない。
殺させることさえも出来ない。
この女は、それを知っているのだ。

806名も無きAAのようです:2014/10/26(日) 20:45:17 ID:5VIcN39Q0
从'ー'从「もういいかしらぁ、刑事さん?」

(#=゚д゚)「この糞アマが!!」

その挑発に乗るほど、トラギコは愚かではない。
怒りに身を任せて銃爪を引けば、真実に繋がる道が一つ途絶える。
ベレッタをホルスターに収めようとした時、ワタナベは船首を指さして言った。

从'ー'从「操舵室の人間、全員さっきのお仲間よぉ」

(;=゚д゚)「何?!」

从'ー'从「早めに処理しておかないと、後が大変だと思うなぁ」

つくづく腹の立つ女だ。
必要な情報が手に入り次第、必ず殺そうとトラギコは決意した。
今すぐに操舵室に駆け出したいところだが、ワタナベを放置しておけば逃げられる可能性がある。
むしろ先ほどの段階で逃げられたのに、それをしなかったことが奇妙だ。

だが今度は逃げるかもしれない。
そう思ったトラギコは、迷わずに手錠を取り出した。

(=゚д゚)「一緒に来るラギ」

从'ー'从「手錠なんかいらないわよぉ」

(=゚д゚)「殺人狂の言うことなんて、信じられるわけねぇラギ」

从'ー'从「ふふふ、刑事さぁん。 すぐに分かる嘘はだめよぉ。
     今は私の言葉を信じるしかないものねぇ」

807名も無きAAのようです:2014/10/26(日) 20:54:38 ID:5VIcN39Q0
その通りだ。
完膚なきまでに、その通りだ。
徹頭徹尾、一部の隙もなくその通りだった。
ワタナベは船内にいる、唯一の情報源。

それからもたらされる情報を信じる以外、今のトラギコにはなす術がない。

(=゚д゚)「……手錠とそれとは別ラギ。
    俺が見てないところで手前が余計なことをしない保証はないラギ」

相手は殺人狂。
殺すことで快楽を得る、最悪の類の人種だ。
間違いなく今ここで殺すことこそが、世界平和のために出来る最も手軽な手段だ。

(=゚д゚)「だが情報源は逃がしたくない。
    だから、一緒に来るラギ」

从'ー'从「乱暴なのはいやだしぃ、手錠なんてもっといやだわぁ」

(#=゚д゚)「図に乗るなよ、殺人狂。
     この糞事件がなければ、手前を刺身にしてやってるところラギ」

从'ー'从「ふふ、それは楽しそうねぇ。
     それより、ねぇ、時間は大丈夫?
     その気になれば、この船をどこかの岩礁にぶつけることも出来るのよぉ?」

彼女の言う通り、時間がなかった。
手錠を元に戻し、トラギコは操舵室に向けて走り出した。
ワタナベ一人を殺すことよりも、まずはオアシズの乗客たちの安全を確保する方が重要である。
非常に惜しいが、今は諦めるほかない。

808名も無きAAのようです:2014/10/26(日) 20:55:22 ID:5VIcN39Q0
何から何までワタナベの思惑通りに動いている自分が、トラギコはこの上なく嫌だった。
そして、操舵室に駆け込んだ時、トラギコはその異様な光景に我が目を疑った。

(;=゚д゚)「あぁん?」

从'ー'从「あれれ〜?」

そこには、誰の姿もなかったのである。

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                       Ammo for Tinker!!編
                   第二章 【集結- concentration -】
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二口目のパンを口に含み、それをゆっくりと噛み締める。
味はあまり感じられなかった。
あの時、操舵室には誰もいなかった。
徹底的に現場を調べたが、僅かな血痕すら見つけられなかった。

809名も無きAAのようです:2014/10/26(日) 21:00:29 ID:5VIcN39Q0
埃が拭き取られた跡を見つけ、誰かが何かを隠したことが分かった。
だが、誰が隠し、何を隠したのかは分からない。
同伴していたワタナベは肩を竦めて、自分は知らないと主張した。
ここまで来て無関係を装う意味はない。

つまり、ワタナベはこの事態を本当に想定していなかったのだ。
今頃、船内の警察たちが証拠を探している事だろう。
ルミノール反応が一部の床から検出されたと報告があったが、死体が見つかっていない。
どのタイミングで何が起きたのかが分からないが、船長とその他クルーが失踪していることから、全員殺されて海に捨てられたのだろうと推測された。

ワタナベの証言が狂言だったとは思えない。
この時点でトラギコは、ある推論を持っていた。
確かに操舵室は海賊たちによって一時的に占拠されたが、何者かの活躍によって奪い返されたのだと。
それが誰であるか、概ね見当はついている。

金髪碧眼の旅人だ。
トラギコと別れた直後、あの女が操舵室に直行していたと考えれば、被害が拡大しなかったのも頷ける。
気に入らないのは、それ以降会えていないことだ。
一時的に手を組んだ間柄ではあるが、トラギコはあの旅人のことを快く思っていない。

沿岸都市オセアンで起こった大きな事件。
その重要参考人として、トラギコはその旅人をマークしている。
現場に残された大口径の拳銃弾の薬莢だけが、旅人と事件を結びつける唯一の手がかりだ。
何度か取り逃がしたが、ようやく追いついた。

このまま決定的な証拠を見せるまで、執念深く追跡を行えば何か一つぐらいは成果があるだろう。
そのためにも、早い段階でこの殺人鬼から情報を絞り出して殺さなければならない。
再びパンを齧り、咀嚼し、味わい、ウィスキーにて飲み込む。
兎にも角にも、今は待つしかない。

810名も無きAAのようです:2014/10/26(日) 21:04:11 ID:5VIcN39Q0
――トラギコはグラスの中身を一気に飲み干し、深い溜息を吐いた。

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それが夢だと分かるのに、そう時間は必要なかった。
両の拳は赤く腫れ、皮が剥け、血が滲んでいる。
焼けつくような頬の痛み。
頬にできた深い切創から滴り落ちる血が足元を汚す。

足元には顔が変形した男の死体が転がっていた。
砕けた頬骨が皮を突き破り、歯は根元から折れて辺りにその破片が散っている。
片目は抉れ、潰れた眼球が床に落ちていた。
頭皮ごと引き剥がされた髪の毛は暖炉の中で燃え、異臭を漂わせている。

肋骨、肺、内臓は外部からの強い衝撃によって砕け、潰れていた。
取り分け損傷が酷かったのは、男の股間だ。
そこにある性器は睾丸が両方とも捻り潰され、陰茎は力任せに引っ張られたために内部の血管や神経系の管が裂かれ、亀頭は乱暴に千切られ、性器は皮一枚の状態で根元と付いていた。
全体的に念入りに何度も蹴り潰されたために鬱血しており、黒ずんだ色をしていた。

絶命に至るまでに男が味わった苦痛は、筆舌に尽くしがたいものだっただろう。
だが、この男がやってきた事を考えれば当然の報いだ。
罰は確かに下された。
法と正義が見過ごした畜生を、確かにこの手で殺めた。

811名も無きAAのようです:2014/10/26(日) 21:09:16 ID:5VIcN39Q0
それがこの上なく嬉しく感じ、それが人生で最も虚しい喜びでもあると感じた。
当時とは違い、今は虚しさに胸を痛めることもない。
周囲からの罵倒に対して苛立ちを感じることもない。
何故ならこれは夢。

ただの、夢なのだ。

これは全て夢なのだ。
もう終わった事だ。
十五年前に起こり、そして終わった話だ。
何故このような夢を見たのか、理由は分かっている。

“CAL21号事件”

ショボン・パドローネが口にした忌々しい事件。
その結末が、この夢だ。
刑事になって間もない頃に起きた、異常性癖者による女児暴行殺人事件。
これは、終わった話だ。

そして夢だ。
夢を見ているということは、眠ってしまったということ。
最悪の目覚めだが、トラギコはゆっくりと瞼を上げ、項垂れていた頭を持ち上げた。
ワタナベはまだ眠っているだろうか?

从'ー'从「おはよー」

(;=゚д゚)。゚ ・ ゚「ぬおっ?!」

眠っていた時間は分からない。
うたた寝とはそういうものだ。

812名も無きAAのようです:2014/10/26(日) 21:16:22 ID:5VIcN39Q0
(;=゚д゚)「手前、いつから……」

从'ー'从「刑事さんが眠ってからよぉ」

あり得ない。
そんなタイミングよく事が起こるはずがない。
となれば、考え得る限り最も高い可能性があるのは――

(#=゚д゚)「寝たふりしてたラギね!!」

――この女は、演技をしていたのだ。
睡眠薬が盛られたということを理解しており、それに備えて意識を固めていたのだ。
薬による睡眠に対して最も有効なのは、個々人の意識だ。
現在自分が陥っている状況が、異常か否かがすぐさま判断出来れば、目覚めるのは難しくない。

そして推測ではあるが、ワタナベは睡眠薬に対して耐性がある。
適量以上を盛ったにも拘らず自らの意志で目覚めるためには、薬に対する耐性が欠かせない。
恐らくは常人以上の睡眠薬を飲んで訓練を積み、その体に耐性を付けたのだろう。
数ヵ月ではなく、数年の時間をかけて、その耐性を手に入れたのだ。

从'ー'从「思いの他楽に事が進んで助かったぁ。
     おかげで、刑事さんの寝顔を見れたわぁ」

(#=゚д゚)「いいか阿婆擦れ、手前の状況が分かってるラギか?」

从'ー'从「尋問しても何もしゃべらないわよぉ。
     それともぉ、私と一発犯ってみるぅ?
     そうしたらぁ、喋っちゃうかもしれないわよぉ」

(#=゚д゚)「お断りラギ!!」

813名も無きAAのようです:2014/10/26(日) 21:20:14 ID:5VIcN39Q0
从'ー'从「ふーん」

駄目だ。
この調子では尋問したところで意味がない。
かといって、この女の言った通りにしたところで話す保証はどこにもない。

从'ー'从「ねぇ、この手錠外してくれないかしらぁ?
     それとも、手錠をしたまま犯すのが好みぃ?」

(=゚д゚)「ふざけるのもそこまでにするラギ、ワタナベ。
    俺は短気ラギ」

从'ー'从「知ってるわぁ」

トラギコの言葉を聞いて、ワタナベは軽く笑ってからそう言った。
人を小ばかにしたような飄々とした態度。

(=゚д゚)「手前をダルマにしてやろうか?」

ダルマとは、遥かな昔に山で修業をした一人の僧を意味する。
その僧は不屈の精神をもって山籠もりをし、幾日も岩肌を前に精神統一をしたという。
彼に因んで作られた人形は四肢がなく、何度倒しても必ず起き上がる性質を持っている。
人形同様、四肢を失くした状態のことをダルマという。

从'ー'从「無理無理ぃ。 刑事さんはぁ、とーっても頭がいいからぁ、そんなことはしないわぁ」

ワタナベの何が嫌いかと問われれば、トラギコは真っ先にその勘の良さを挙げるだろう。
彼女の言う通り、トラギコはワタナベを殺せない。
ましてや、四肢を切断することに対してのメリットを見出せない。
最悪の場合は死に至る四肢切断を、ここで行えるはずがない。

814名も無きAAのようです:2014/10/26(日) 21:24:07 ID:5VIcN39Q0
(=゚д゚)「……だけどな、腱を切ることぐらいは出来るラギよ」

腱を切るのは得意だ。
目隠しをしてでも、正確無比に切断出来る自信があった。

从'ー'从「あぁ、やっぱりアニーは刑事さんの仕業だったの」

その言葉は、トラギコの頭の中で瞬時に別の物事と結び付けられた。
フォレスタで発見された、青年。
腱を切って逃げ出せないようにしておきながら、何者かに持ち去られた男。
ここ最近で名前を知らずに腱を切ったのは、その男だけだった。

(=゚д゚)「あの男と知り合いラギか?」

从'ー'从「手錠を外してくれたらぁ、そのあたりのこと教えてあ・げ・る」

トラギコは何も言わずに、食べかけのパンと酒の入ったグラスをテーブルに置いた。
そして、振り返りざまにワタナベの腹を強打した。
予め備えていなければ、内臓を破裂させ得るほどの強打だったが、帰ってきた反応は内臓の柔らかなものではなく鉄のように固いものだった。

从'ー'从「こわーい」

(=゚д゚)「そんな固い腹筋の女の両手がフリーになったら、ろくでもないことにしかならないラギ」

案の定、ワタナベは腹筋に力を入れてトラギコの不意打ちに対処した。
これぐらいは出来るだろうと思っていたのだが、正解だった。
初めてこの女に会った時、正直トラギコはときめいた。
久しぶりの強敵だと思ったのだ。

815名も無きAAのようです:2014/10/26(日) 21:28:30 ID:5VIcN39Q0
その直感は、半分だけ当たった。
確かに強敵ではあったが、極上の屑だった。
極上の屑は、大嫌いだった。

(=゚д゚)「意地でも吐くつもりはないラギか?」

从'ー'从「お仕事だもの、当然よぉ」

(=゚д゚)「なら、手前はセカンドロックに送るラギ」

世界で最も堅牢な警備態勢が敷かれた刑務所、セカンドロック。
離島一つを刑務所として作り変えたそこは、脱出不可能と言われる施設だ。
尋問担当の人間は生粋のサディストで、人の叫びを聞くことを生き甲斐とし、相手に苦痛を与える様々な手段を知っている。
人から情報を聞き出すという点で言えば、トラギコよりも優れた人間が揃った場所だ。

从'ー'从「あらあら、随分と乱暴ねぇ」

(=゚д゚)「俺に話すか、それとも尋問担当の糞野郎に話すのか、それだけの違いラギ」

从'ー'从「ふぅん…… ティンカーベルに着いたら、その時に答えるわぁ」

狡い女だ。
可能な限り時間を引き伸ばし、状況を打破する糸口を掴む算段なのだろう。
少しでも可能性を手に入れておけば、それに越したことはない。
しかし、それに頷くトラギコではない。

犯罪者に余計な考えをさせる隙を与えては、この先に影響が出ることをよく知っていた。

(=゚д゚)「駄目ラギ。 今日中に答えを出すラギ。
    返答によっちゃ、ジュスティアの刑務所で勘弁してやるラギ」

816名も無きAAのようです:2014/10/26(日) 21:31:47 ID:5VIcN39Q0
从'ー'从「私が唯一の証人なのにぃ、そんなに強気でいいのかしらぁ?」

自分の重要性を理解しているからこそ出来る言動。
どこまでも腹立たしい女だった。
トラギコがワタナベを重要視し、その情報に対してかなり期待していることを見抜かれている。
この短時間の間に、そこまで見抜かれたのは計算外だ。

正直、トラギコはワタナベを殺せない。
少なくとも、彼女が豊富な情報を持っている以上、彼女を守ることさえ有り得る。
脅しはするが、結局のところ、それは言葉だけで終わってしまう。
もちろん、セカンドロックの尋問担当官に引き渡すのも一つの手だが、それは避けたい。

死なれては困るし、心を壊されても困る。
出来ることなら、自分の手で情報を自分のところにだけ残しておきたい。
警察本部には知られたくなかった。
トラギコには彼なりの考えというものがあり、それを乱される要因は作りたくないからだ。

(=゚д゚)「……じゃあ、今すぐに一つだけ教えてほしいことがあるラギ。
    どうして、俺に情報を流したラギ? それを言えば、今日は待ってやるラギ」

从'ー'从「だからぁ、お礼だってばぁ」

(=゚д゚)「俺は手前に貸しを作った覚えはねぇラギ」

从'ー'从「お味噌汁美味しかったわよぉ」

トラギコは一瞬、その言葉の意味が分かりかねた。
確かに最近、味噌汁を作った。
インスタント食品だけを使った、非常に質素な味噌汁を。
だが、それはジュスティアからオアシズに向かった高速艇の中で振る舞ったのが最後だ。

817名も無きAAのようです:2014/10/26(日) 21:38:55 ID:5VIcN39Q0
その時に振る舞ったのは海軍の強襲専門部隊、“ゲイツ”だけだった――

(;=゚д゚)「……まさか」

从'ー'从「うふふ」

あの時、船に乗っていたのだ。
ワタナベはゲイツに紛れて、オアシズへの乗船を成功させた。
ならば、必然的にもう一つの可能性が浮上する。
カーリー・ホプキンスを除いたゲイツの全員が、入れ替わっていた可能性だ。

いや、変わっていたに違いない。
この殺人鬼が紛れ込むということは、そういうことなのだ。

(;=゚д゚)「手前、“本物の”ゲイツの連中を殺したラギか!?」

力量、度量、そして場数。
トラギコには及ばないが、海軍からの選りすぐりの人間がジュスティア軍に知られることなく殺された。
ショボンとワタナベが属する組織は、ただの狂人の集まりではない。
実力が伴った集団だ。

从'ー'从「なーに言ってるのぉ?
     ゲイツの人たちはぁ、ここで戦ってぇ、ここで死んだのよぉ?」

ワタナベたちの計画の全貌はどうあれ、ゲイツはその中身のほとんどが入れ替わった状態にあった。
その状態にもかかわらず、ホプキンスは気付けなかった。
ゲイツの全員が目だし帽を被っており、ほとんど言葉を発さなかったからだ。
だが、それだけでは隠しきれない。

818名も無きAAのようです:2014/10/26(日) 21:42:40 ID:5VIcN39Q0
軍人の絆は非常に硬い。
部隊外の人間が紛れ込めば、気付くはずだ。
それを避けるには、二つだけ方法がある。
ホプキンスと共に乗船する予定の人間だけが事前にジュスティアに潜り込み、ゲイツとして部隊に編入されるのを待っていた可能性が一つ。

もしくは、もともとゲイツだった人間が裏切ったのか。
どちらにしても、あの時トラギコの乗った船にはトラギコとホプキンスの二人を除いて、全員が裏で手を組んでいたのは間違いない。
それならば、気付けるはずがない。
最低限のカードだけ本物にし、目の届かないカードを全て入れ替えれば、真実に気付く方が異常だ。

ゲイツが瞬殺されたのも得心がいく。
瞬殺されたのはホプキンスだけで、それ以外はその場で海賊へと転身したのだ。
後は全員殺されたと偽りの報告をすれば、状況的にはゲイツは全滅したことになる。
それは、海賊から別の存在になり替わることも可能だということを示していた。

全員の死亡が確認されたゲイツだが、誰も、彼らの素顔を知らない。
ただ、ゲイツの格好をしていたから、という理由だけで死体袋の中に収められているだけなのだ。

从'ー'从「うふふぅ」

トラギコはワタナベをその場に残し、拳銃とアタッシュケースを手に部屋を飛び出した。

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819名も無きAAのようです:2014/10/26(日) 21:46:01 ID:5VIcN39Q0
部屋は第五ブロックの最後尾にあり、無骨なパイプが剥き出しとなった機関室に通じる道の途中にあった。
本来の目的としては、要隔離者を安全に隔離するためのもので、一般人はその存在に気付くこともない部屋だ。
医務室に向おうと勇んだトラギコだったが、そこに辿り着くことは叶わなかった。
部屋を出てすぐの場所で彼を止めたのは、意外な人物だった。

£;°ゞ°)「トラギコ様、ですね」

それは、五つのブロックに分けて統治されるオアシズの第二ブロック長、オットー・リロースミスだった。
いつものように糊の効いたシャツと皺のないスーツ、そして胸ポケットにモノクルを挟んだ姿はどのような時でも絵になる。
オアシズの厄日を解決する際に図らずも大きな影響を与えた人物だが、それを鼻にかけるような真似をしないところに、トラギコは好感を持っていた。
呼び止められたトラギコは、彼からただならぬ空気を感じ取り、大人しくそれに従った。

£;°ゞ°)「至急、お伝えしなければならないことがあります」

(=゚д゚)「何ラギ?」

£;°ゞ°)「実は、先ほどジュスティア海軍からオアシズ向けに無線信号が届きまして……
       そのコードが、私共の持ち合わせているどのコード表とも合わないのです。
       無論、ジュスティア軍が使用している緊急信号コードでもありませんでした。
       何かの指示だと思うのですが、妙なことに、我々には一切事前の連絡がないのです。

       つまり、これは船内にいる軍の方に向けて送られているものだと推測されます」

(=゚д゚)「それがどうしたって言うラギ?」

苛立ちが声に出てしまったことに、トラギコは気付いていた。
だが、時は一刻を争う。
もしも残党がオアシズ内に残っていたら、再び船を沈めるための工作をするに違いないからだ。

820名も無きAAのようです:2014/10/26(日) 21:49:42 ID:5VIcN39Q0
£;°ゞ°)「おかしいとは思いませんか?
       ゲイツは全滅しているのに、どうして軍から連絡が来るのでしょうか?」

(;=゚д゚)

確かに、その通りだ。
全滅したということを知っているはずなのに、連絡を入れるということは明らかに異常だ。
死人に手紙を書くよりも無意味だ。
今はまだ、その意味が分からない。

£;°ゞ°)「何かが、おかしいのです」

(;=゚д゚)「それで、俺に何を期待しているラギ?」

£;°ゞ°)「暗号解読の協力をお願いしたいのです。
       恐らく、トラギコ様はこれから船内で海賊の残党を探そうとしていたのではないでしょうか?」

(=゚д゚)「何でそれを?」

海賊の残党が生き残っている可能性については、先ほどのワタナベの発言があったからこそ気付けた。
会話を盗み聞きしていない限り、ロミスがそれを知れるはずがない。

£;°ゞ°)「とある方が、そのはずだ、と……
       そのため、すでに信頼出来る人間が船内の調査に入っております」

一瞬で思い当たる人物が浮かんだ。
例の旅人だ。
勘の良さはこれまでに会ってきたどの女よりも優れ、底知れぬ謎は未知のものだった。
ここは思案のしどころだった。

821名も無きAAのようです:2014/10/26(日) 21:53:36 ID:5VIcN39Q0
誰の考えに従うのか。
自分か、それともあの旅人か。

(=゚д゚)「……そいつに、分かった、と伝えてくれラギ。
    で、暗号は?」

そう言って、トラギコはロミスから暗号の書かれた紙を受け取った。
暗号は全て、数字で送られていた。
一瞥してからそれを懐にしまい込み、踵を返した。

£;°ゞ°)「よろしくお願いいたします、トラギコ様」

(=゚д゚)「他の客には知られないようにしておくラギよ。
    今の空気を保ったまま、捜査を続けるラギ」

£;°ゞ°)「はい、勿論でございます。
       あの方も、そう仰っていました」

その言葉に、トラギコは苛立ちを覚えた。
歯噛みし、部屋に戻った。
乱暴に扉を閉め、懐から紙を取り出す。
数字だけを使った暗号だった。

数は多いが、法則性を見つければ解読に時間はかからない。
しかし、一秒でも時間を節約したいトラギコとしては、それを真っ先に解読しようとは思わなかった。
手錠でベッドに貼り付けにしたワタナベの傍に立ち、紙を見ながら質問した。

(=゚д゚)「おいワタナベ。 手前、暗号は得意ラギか?」

从'ー'从「ぜぇんぜん。 ねぇ、それより喉乾いたんだけどぉ」

822名も無きAAのようです:2014/10/26(日) 21:57:27 ID:5VIcN39Q0
その言葉を黙殺し、ソファに腰かけた。
並んだ数字はある塊ごとにスペースが挟まれ、区切られていることが分かる。
つまり、文章であることが分かる。
数字の法則性を見ると、一から二十六までしか使われていない。

これを文字に直せば、と考えるのは誰もが通る道だろう。
実際に文字に置き換えると、意味の通らない文章になる。
この文字を更に、別の配列表に従って変換しなければならないのだが、その表がないことには分からない。
文章の先頭にある数字が、おそらくはその配列表の種類を指しているのだろう。

从'ー'从「おしっこもしたいなぁ」

海軍の暗号表は頭の中に入っている。
その番号に該当するものに照らし合わせて改めて文章化するが、意味が通らない。
全く新しい暗号だ。
普通、新たな暗号が開発されたら警察官にも知らされるはずだ。

無線が使えるオアシズにそれが来ていないということは、出来たばかりの暗号表ということになる。
しかし、それでは筋が通らない。
オアシズに向かう直前になって発行された暗号でない限り、オアシズの警察官にそれが知らされていないはずがない。
軍が独自で動いている可能性が、そこから浮上した。

トラギコはこれまでに何度か軍上層部の人間と会ったことがある。
融通の利かなそうな堅物ばかりという印象があったが、規則を破ることはしない性格をしていた。
その軍がこのような行動に出るということは、何か大きな思惑が働いていると考えられる。

从'ー'从「ねぇ、刑事さぁん。 聞いてるぅ?」

823名も無きAAのようです:2014/10/26(日) 21:58:08 ID:5VIcN39Q0
この非常時において、軍が動くメリットとは何であろうか。
事実の隠蔽工作ぐらいしか、思い浮かばない。
軍が行う隠蔽工作は存在の抹消だ。
いや、ジュスティアに限ってそれはない。

市長であるフォックス・ジャラン・スリウァヤが許すはずがない。

从'ー'从「ねぇってばぁ」

(#=゚д゚)「さっきから五月蠅いラギ!!
     牛乳を拭いた雑巾でも咥えたいラギか!!」

从'ー'从「それ、ちょっと見せてくれるかしらぁ?」

(#=゚д゚)「あぁん?! これはおもちゃじゃねぇラギ!!」

从'ー'从「いいから早くぅ」

珍しく、ワタナベの目が笑っていなかった。
いつもの狂ったような光はなく、それまでの全てが演技であるかのような、静かな目をしていた。
口調こそ変わらないが、その言葉の中に含まれる彼女の本心の片鱗を垣間見たような気がして、トラギコは仕方なしにそれを見せた。
一分ほどの沈黙を挟んで、ワタナベがトラギコを見て言った。

从'ー'从「あららぁ、刑事さん、人気ねぇ」

(#=゚д゚)「どういう意味ラギ?」

从'ー'从「 “指示があるまで待機。 虎から目を離すな” だってさ」

(=゚д゚)「は?」

824名も無きAAのようです:2014/10/26(日) 22:00:14 ID:5VIcN39Q0
从'ー'从「虎って刑事さんのことでしょぉ?」

何故、自分が監視の対象になっているのか。
その意味が分からない。
そしてこれが事実だという証拠は、どこにもない。
ワタナベが面白がっている可能性も否定出来ない。

(=゚д゚)「テキトーかましてるんじゃねぇラギ」

从'ー'从「解釈はどうぞお好きにぃ」

仮に、ワタナベの言が本当だとしたら、この部屋から出ない方が何かと便利だ。
監視対象だとわかっているのなら、監視されないようにすればいい。
この部屋には監視カメラがない。
中の様子を知りたければ集音マイクを使うしかない。

(=゚д゚)「何で手前が、この暗号を読めるラギ?」

从'ー'从「そりゃあ、知ってるからに決まってるじゃなぁい」

(=゚д゚)「これは軍から送られてきた暗号ラギ。 手前が読めて、俺が読めないってのがおかしいラギ」

从'ー'从「発信元が軍ってだけでしょぉ?」

先入観は真実を捻じ曲げる。
それは、警官として初めて人を殺した時に学んだことだ。
ワタナベが実証した通り、軍には彼女の仲間が潜伏している可能性が大いにある。
暗号を発信することなど、難しくないはずだ。

ワタナベにそれを思い出させられたと考えると、無性に腹が立つ。

825名も無きAAのようです:2014/10/26(日) 22:04:42 ID:5VIcN39Q0
(=゚д゚)「一体手前らは、軍のどこまで入り込んでるラギ?」

从'ー'从「しーらない」

軍部に深く入り込んでいるのならば、下手に関わらない方がいい。
トラギコがそのことをジュスティアの上層部に話したとしても、揉み消されたりトラギコが消されたりする可能性の方が高い。
知らないふりをしたまま、ことを進めるのが利口だ。

(=゚д゚)「ちっ、まぁいいラギ。
    俺はロミスを探してくるラギ」

ソファから立ち上がると、ワタナベが声をかけた。

从'ー'从「で、喉が渇いたしぃ、トイレにも行きたいんだけどぉ」

(=゚д゚)「我慢しろ」

とは言う物の、ベッドの上で失禁、脱糞をされれば困るのはトラギコだ。
異臭の中で眠るのも食事を摂るのも好きではない。

(=゚д゚)「ったく、面倒な奴ラギね」

まず、ワタナベの足をベッドと繋いでいた手錠を外す。
足癖の悪い人間と何度か殴り合ったことがあったので、あらかじめ警戒を怠らない。
特に抵抗する素振りも見せず、ワタナベは両足に手錠がかけられるのを黙って見ていた。
最後に、両手の手錠を外し、改めて後ろで手錠をかけた。

(=゚д゚)「ほら、トイレに行くラギ」

从'ー'从「どうもぉ」

826名も無きAAのようです:2014/10/26(日) 22:07:30 ID:5VIcN39Q0
トイレにワタナベを押し込み、扉を開けてその様子を監視する。

从'ー'从「ちょっとぉ、そういうのが好きなのぉ?」

(=゚д゚)「五月蠅い黙れ」

無論、異性の放尿に興奮する趣味はない。
羞恥に頬を赤らめる様に対して性的な魅力を感じることもまた、あり得ない。

从'ー'从「見られてるとしにくいんですけどぉ」

(=゚д゚)「黙れ、そしてさっさと済ませろ」

先ほどからワタナベといるせいで、ペースが乱れてしまう。
それを防ぐ最善の手段は、会話をしない、ということしか考え付かなかった。
瞬きひとつせず、腕を組んでワタナベが用を足すのを見届けた。
後ろで手錠をかけられている割には、器用にズボンを履き、水を流して手を洗っている。

从'ー'从「変態ぃ」

(=゚д゚)「黙れ」

一定の距離を空けて後ろから追い立て、ベッドにワタナベを仰向けに寝かせる。
トラギコは両足首にそれぞれ新たに手錠をかけ、それをベッドと繋いだ。
これで、逃げることは出来ない。

(=゚д゚)「俺は出かけてくるが、知らねぇ連中が来るかも知れないラギ。
    ま、そん時はそん時ラギ」

827名も無きAAのようです:2014/10/26(日) 22:10:14 ID:5VIcN39Q0
犯罪者の身の安全など、守る義務はない。
トラギコが守るのは、情報だ。
ワタナベの持つ情報を護るために、少しだけ手を貸すことはするつもりだった。
そう。

護るのは、情報のためなのだ。

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ロミスを探す中で、トラギコは自分が複数人に尾行されていることを察知した。
部屋から出て、第五ブロックの一階の通りを早足で歩く中で、少なくとも二人の存在を確認した。
上手に尾行しているが、トラギコの研ぎ澄まされた感覚と積み重ねてきた経験の前には無意味だ。
船の構造を完璧に知っているわけではないため、誘い込んで撃退することは出来ない。

第二ブロックまでの道中で五回、尾行されていることが分かった。
同一人物かどうかの判断は出来なかったが、三度同じ癖を感じることがあった。
危害を加えられることも交戦をすることもなくロミスの部屋に来たトラギコは、改めて左右を確認してから、扉をノックした。
ほどなくして扉が内側から開かれ、ロミスは軽い挨拶をして、トラギコを招き入れた。

828名も無きAAのようです:2014/10/26(日) 22:16:22 ID:5VIcN39Q0
来客用の部屋に通されそうになったが、トラギコは手早く要件を伝えて部屋に戻りたかった。

(=゚д゚)「指示があるまで待機。 虎から目を離すな、だとよ。
    どうやら連中の狙いは俺らしいラギ。
    あの女にそう伝えておけラギ」

£°ゞ°)「かしこまりました。 この後の予定は?」

(=゚д゚)「部屋に戻るラギ。
    俺が注目を集めていれば被害は広がらないはずラギ。
    また何か連絡があったら、俺に教えろラギ」

挨拶も会話も最低限で済ませ、トラギコは部屋を足早に出て行った。
帰り道、トラギコは尾行者が一人もいないことに気付いた。
それがあまりにも不自然なことであると理解したのは、第四ブロックに差し掛かった時だった。
行き先だけを確認する尾行など、聞いたことがない。

尾行とはその人間の行動を監視するもので、監視対象から目を離すことがあってはならないのが鉄則だ。
そもそも、トラギコを監視対象にした理由が分からない。
暗号解読は得意な方ではないし、その手のことで何か功績を残したこともない。
この事件解決にあたって活躍したのはトラギコではなく、別の旅人だ。

――それは本当に、尾行だったのだろうか。
もしもそれが、トラギコがロミスの部屋に行くのを見届けただけだとしたら。
その目的は、部屋への侵入と物色。

(;=゚д゚)「あ、あ……」

829名も無きAAのようです:2014/10/26(日) 22:19:41 ID:5VIcN39Q0
トラギコは、全力で駆けた。
人とぶつかり、押しのけ、部屋に向かう。
角を曲がり、部屋に通じる廊下を走りながら、ベレッタを抜く。
部屋の前に来て、扉が少しだけ開いているのを見てトラギコは背筋が凍る思いをした。

扉を蹴って開き、トラギコは叫んだ。

(#=゚д゚)「ワタナベェ!!」

そこに、ワタナベの姿はなかった。

(#=゚д゚)「くそっ!!」

まず初めに、トラギコは部屋の中に踏み込むことをしなかった。
這いつくばるようにして絨毯の敷かれた床に目線を合わせ、足跡を探す。
三人分の足跡が僅かだが残されていた。
侵入者は二人、部屋を出ていったのが三人だ。

毛の倒れ具合を見ると、侵入者の二人は男で、出て行った内の一人は女だ。
証拠を残さないためか、手錠は現場に残されていない。
争った形跡もなく、ワタナベが侵入者の力を借りてここから逃げたのだと推理できた。
これが故意か偶然かは、正直分からない。

ワタナベが解読した暗号に別の何かが記載されていた可能性も十分にあり得る。
そして、侵入者がワタナベの脱走の手助けをするために来たのか、それとも何か物色するために来たのか、今は分からない。
トラギコは常に道具を持ち歩く癖をつけ、メモは取らないようにしている。
万が一の際、誰かに情報を与えないためだ。

830名も無きAAのようです:2014/10/26(日) 22:24:31 ID:5VIcN39Q0
しかし、最も重要な情報源が失われてしまった。
これは由々しき事態だったが、ここは洋上の孤島にも等しい場所だ。
必ずどこかにいる。
ティンカーベルに到着する前に見つけ出すことが急務だった。

――だが、二日が経ってもその姿を見つけることは出来なかった。

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八月九日、午前九時十分前。
見事なまでの青空が広がっていた。
水平線の彼方に小さな雲が浮かび、その手前に小さな島々が見える。
あれが、ティンカーベルだ。

“鐘の音街”と呼ばれる所以は、最も大きな島に聳え立つ鐘楼にある。
重々しくも澄み渡った鐘の音が島全体に響き渡る姿は、小さな島ながら圧巻だという。
大きく分けて三つの島、そして複数の小さな島からなるティンカーベルは、ジュスティアと長い間協力関係にある街だ。
世界で最も警備の厳しい、脱獄不可能と言わしめる“セカンドロック刑務所”があるのは、更に沖にあるジェイル島だ。

831名も無きAAのようです:2014/10/26(日) 22:27:49 ID:5VIcN39Q0
三つ折りの観光用のパンフレットを広げ、島の名前と建物の位置を見る。
街の中心となるのが、今目の前に見えている鐘楼を持つ“グルーバー島”。
そこから東西に向かって伸びる二本の長い橋がある。
西には“バンブー島”、東には“オバドラ島”。

ウィスキーの製造が盛んなのがバンブー島で、オバドラ島は豊かな自然と調和した街並みが見どころだという。
一ミクロンも観光に興味がないトラギコは、ワタナベ達を探すのであれば、グルーバー島に滞在するべきだと考えた。
このオアシズが寄港するのは、船着き場としての役割を持つ小さな島だ。
グルーバー島まで徒歩五分。

オアシズが出航するのは、明日の午前十時ちょうどだ。
このまま船に残れば、トラギコを監視する人間をオアシズに残すことになる。
それならばいっそ、ティンカーベルに連れ込んだ方が何かとやりやすい。
船首に立って潮風を顔に浴び、苛立つ頭を冷やすトラギコは、パンフレットをジャケットの懐にしまった。

(=゚д゚)「ん?」

背後に気配を感じ、振り返る。
そこには、オアシズの市長であるリッチー・マニーが立っていた。

(=゚д゚)「何か?」

声をかけると、マニーは笑顔を浮かべながらトラギコの横に並んだ。
まっすぐに前を向きながら、マニーは口を開いた。

¥・∀・¥「お話があります」

それに倣って、トラギコも前を向く。

832名も無きAAのようです:2014/10/26(日) 22:33:29 ID:5VIcN39Q0
¥・∀・¥「警察、およびジュスティア軍にある命令が下りました。
      極秘裏にという念押しつきでしたが、トラギコ様にはお伝えしなければならないと思いまして」

(=゚д゚)「もったいぶらないでいいラギ」

¥・∀・¥「まず、昨晩、セカンドロックから脱獄者が二名出ました。
      首謀者は、ショボン・パドローネ。
      警察が現在行方を追っているとのことです。
      そしてこれは現地からの情報ですが、ティンカーベルから外部に出る全ての道が封鎖されます。

      当船も例外ではなく、事件終息までは現地に滞在することになりそうです」

動揺を隠すのは得意だったが、セカンドロックが破られたこととショボンの名前が同時に出てきたことを聞いては、それも無理だった。
マニーは返答を待たずに、話を続ける。

¥・∀・¥「そして、警察と軍がトラギコ様をジュスティアに連れて帰るよう、命令を受けています。
      手荒な真似をしてでも、と」

その内容は、ジュスティア軍から発信された未知の暗号文と似た部分があった。
両方の目的はトラギコに向けられており、つまり、発信者が同一人物である可能性が高い。
だがやはり、いくら考えても監視される理由が浮かばない。

(=゚д゚)「理由は? 経費の使い過ぎとかラギか?」

飲食代の全ては領収書を嫌がらせのように本部に送っている。
経理の人間が激怒しているらしいが、そこまでされるものだとは思えない。

¥・∀・¥「不明です。 ですが、ティンカーベルの警察にも同様の暗号文が送られている可能性があります。
      すでに我がオアシズ内の警官たちも動いています。
      降船してからすぐに、ティンカーベル署の人間と協力して確保する作戦を立てています」

833名も無きAAのようです:2014/10/26(日) 22:36:36 ID:5VIcN39Q0
嫌な話だ。
捕まってしまえば、あの旅人を追跡することが困難になる上にワタナベへの足掛かりも失ってしまう。
今はまだ追い続けなければならない。
ようやく追いついた手がかりをここで失えば、これまでの時間の全てが無駄ということになる。

どうあっても、捕まるわけにはいかない。
特に、以前からトラギコに対して風当たりの強い警察上層部とは話をしたくはなかった。

(=゚д゚)「あんた、市長だろ? そんなことホイホイと伝えたら不味いラギよ?」

¥・∀・¥「承知の上です。 トラギコ様は恩人です。
      我が家では、恩人に対しては最大限の感謝と恩返しをするのが流儀とされています。
      ……軍が動くなど、ただ事ではありません。
      何がご入用の品があれば、お申し付けください。 もうあと十分で、到着いたします」

(=゚д゚)「気遣いありがとうよ。 なら、ちょっと頼まれてほしいことがあるラギ」

それからトラギコは、小さな声で二つの要求を伝えた。

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834名も無きAAのようです:2014/10/26(日) 22:41:24 ID:5VIcN39Q0
殺風景な港だった。
船がゆっくりと停船し、接岸し、タラップが下ろされた。
窓から外の様子をうかがいながら、トラギコは舌打ちをした。
黒塗りのSUVの前に、観光客とは思えない風体の男が四人も立っている。

懐の膨らみは、テーザー銃か拳銃のそれだ。
目の配らせ方、足の運び方は間違いなく戦闘の訓練を積んだ人間であることを物語っている。
恐らくは、この部屋を出た場所には警官が待っているだろう。
力で押し通る他ない。

(=゚д゚)「……さて」

扉の前に来て、靴紐がしっかりと結ばれていることを確認する。
気配がすると思った矢先、その勘が正しかったことを肯定するかのように扉が力強く三回ノックされた。

「トラギコ・マウンテンライト、いるか?」

(=゚д゚)「ちょっとそこで待ってるラギ」

馬鹿だ。
救いようのない馬鹿だ。
本当に捕まえたかったなら、扉を吹き飛ばして侵入するべきだった。
扉を開くと、そこには制服に身を包んだ警官がいた。

人数は二人だった。
足を扉の内側にさりげなく入れ込んできたあたり、話し合いということはなさそうだ。
爪先を扉の内側にすれば、扉を閉じることは出来なくなる。
聞き込みの時によく使う手だ。

(=゚д゚)「どうしたラギ?」

835名も無きAAのようです:2014/10/26(日) 22:45:23 ID:vSyrMVtM0
「少し話を――」

扉を閉じさせないためのフット・イン・ザ・ドアではあるが、それ故の欠点がある。
足を動かしてはならないという、精神的な拘束があることだ。
つまり、攻撃をバックステップによって回避することは出来ないということ。
ましてや、足に対しての攻撃は確実に受け入れなければならないのだ。

この際、最も有効な攻撃は関節を狙った蹴りである。
トラギコは躊躇うことなく、男の膝関節を踏みつけた。
膝が逆向きに折れ、男は激痛と衝撃に転倒した。

「ぐぅあっ!!」

(=゚д゚)「おいおい、どうした?」

待機していたもう一人が、腰から警棒を取り出した。

「何をするかっ!!」

(=゚д゚)「外出ラギ」

警棒を降り被ったのが、男の敗因だ。
トラギコはアタッシュケースを男の股間に向けて振り上げ、急所を強打した。
多少の手加減をしたつもりだったが、声もなく気絶した男の様子を見ると、睾丸が潰れた可能性も否定出来ない。
まずは二人を黙らせ、次にトラギコは貨物が積まれた船倉に向かった。

積み荷を降ろす作業に紛れて船を降りれば、捕まらないで済む。
三段飛ばしで階段を駆け下り、事前に用意されていた道を通って船倉に辿り着く。
巨大な下開き扉の向こうから朝日が差し込み、船倉内のくぐもった空気は外の風が攫って行った。
男達が大声を張り上げながらクレーンでコンテナを吊り上げ、移動させ、積んでいる。

836名も無きAAのようです:2014/10/26(日) 22:48:34 ID:vSyrMVtM0
事情を知らない男たちは、トラギコを不審な目つきで見るが、積み替え作業という最も慌ただしい状況のために構うような素振りは見せなかった。
積み上げられたコンテナの壁の間を走り、目印のつけられたコンテナの隣にやって来る。
コンテナの扉を開き、そこに積まれていたフルカウルの電動バイクに跨り、エンジンをかける。
アタッシュケースを後ろの席に紐で固定し、アクセルを弱めに吹かす。

安全に留意しながら、ゆっくりとバイクを走らせ、ベルトコンベアに載せられて今まさに荷卸しされようとしているコンテナの隣に着いて進む。
穏やかな坂を下り、遂に波止場に降り立つことに成功した。
先ほど確認した警官たちは、タラップの傍から離れていない。
気付かれないように慎重に進み、橋の前に来た時、彼は現れた。

<_プー゚)フ「……」

(;=゚д゚)「げぇっ!?」

――円卓十二騎士の一人、ダニー・エクストプラズマンだ。
渾名である“番犬”は、下された命令を必ず遂行することからきている。
言葉を滅多なことでは発しない分、彼の目と雰囲気は雄弁だ。
一緒に来い、と言っている。

<_プー゚)フ「……」

(=゚д゚)凸

橋の前に陣取り、腕を組む姿はあまりにも威圧的だ。
だが、無言の圧に従う理由はない。
中指を立て、トラギコはそれを返事とした。
限界までアクセルを捻り、トラギコはバイクをエクスト目掛けて一気に走らせた。

唸りを上げるバイクはまるで鉄の獣。
その迫力は見かけ倒しではなく、実際に破壊力を持った現実的なもの。

837名も無きAAのようです:2014/10/26(日) 22:52:05 ID:vSyrMVtM0
<_プー゚)フ「……」

エクストは慌てることなく腰の位置で抜いたテーザー銃をその位置で構え、発射した。
二本の針が突き刺されば、一発で感電し、動きを止められてしまう。
咄嗟に車体を傾けてそれを回避し、エクストの脇を通り抜ける――

(;=゚д゚)「ぬあっ!?」

――はずだった。
突如としてバイクがつんのめり、トラギコの体が宙に投げ出される。
中空で回転し、受け身もままならないまま、顔から地面に落下した。
一瞬だけ目の前に火花が散ったが、命に係わる怪我はしなかった。

悪態をつきながら上体を持ち上げ、状況の把握に努める。

(;=゚д゚)「何だってんだ、糞っ」

足元で無残に横転したバイクをよく見ると、フロントホイールの軸が不自然に砕けていた。
何かが食い千切ったような痕跡を見咎め、トラギコはその正体に気付いた。
銃弾だ。
何者かがどこからか高速で移動するバイクの狙撃し、接合部を破壊したのだ。

海風の影響を考えたとしても銃声が全く聞こえなかったことから、サプレッサーを付けた銃、もしくは遠距離からの狙撃だと考えられる。
四方を海に囲まれ、その内一面はオアシズという巨体が遮っている。
詳しくは分からないが、弾痕の形を見ると横から大口径の銃で撃たれたのだと分かった。
方角はオアシズの方だった。

838名も無きAAのようです:2014/10/26(日) 22:55:48 ID:vSyrMVtM0
つまり、中距離の狙撃だ。
コンテナか、あるいは船のどこかに狙撃手が隠れているのだ。
一歩間違えればトラギコの足が吹き飛ばされる可能性のある狙撃を、躊躇うことなく成功させた人間がいる。
“鷹の眼”の異名を持つジュスティア屈指の狙撃手ならば、それも可能。

カラマロス・ロングディスタンスならば、あるいは。

<_プー゚)フ

二十フィート離れた位置からトラギコを見るエクストはテーザー銃のカートリッジを交換し、再び狙いをトラギコにつけた。
テーザー銃の威力はよく分かっている。
チンピラ相手によく撃ったことから、その特性や癖を細かく体が覚えている。
無論、訓練期間中に同僚に撃たれたり、上司に撃たれたりしたことで、その痛みも知っている。

(;=゚д゚)「わかった、わーかったラギ。 とりあえず、荷物を持ってそっちに行くから撃つなよ」

バイクに固定していたアタッシュケースを取り外し、両手で持って頭上にそれを掲げた。

(=゚д゚)「全く、ついてねぇラギ…… なぁおいエクスト、一ついいか」

<_プー゚)フ「?」

(=゚д゚)『これが俺の天職なんだよ!!』

<_プー゚)フ「!!」

起動コードの入力と共に発射された二本の針。
しかし、落下してきたアタッシュケースがそれを阻んだ。
コードの入力が確認された時点で、コンテナ内の籠手はその姿勢から使用者の腕の位置を認識し、自動的に装着されるように工夫されている。
緊急事態の近接戦闘に特化して作られただけあり、その装着速度と装着の容易さは他のそれとは一線を画すものがある。

839名も無きAAのようです:2014/10/26(日) 22:57:10 ID:vSyrMVtM0
素早く空中で装着されたのは、トラギコの強化外骨格“ブリッツ”の籠手だ。
状況を一瞬で把握したエクストは、テーザー銃を捨てて肉薄しようとする。
それに対してトラギコは、バイクを投げ飛ばして応じた。
急ごしらえの鎚ではあるが、威力と迫力は十分である。

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獣じみた反応速度でエクストが後退し、その隙にトラギコはアタッシュケースを持って橋に駆け出していた。
装備のおかげでエクストはどうとでも出来そうだが、厄介なのはカラマロスだ。
動く目標に対しての狙撃技術が高く、乗り物に乗ろうものならすぐにエンジンを壊される。
どれだけ狙撃の才能があろうとも、捕獲を義務付けられている以上は下手な狙撃は出来ないはずだ。

それでも、足を撃たれる可能性は十分にある。
狙撃から身を守るには、狙撃地点を把握し、動き続けることにある。
出来る限り直線の動きを避け、動きを予測させないようにしなければならない。
グルーバー島までの僅か百フィートの距離を、トラギコは全力で走った。

840名も無きAAのようです:2014/10/26(日) 22:59:38 ID:vSyrMVtM0
このまま行けば直線に伸びる橋を渡ることになる。
つまり、工夫を凝らそうとも必然的に直線に近い動きしか出来なくなってしまう。
狙撃地点はこの船着き場の三時方向。
予想ではあるが、カラマロスは小型船舶から狙撃してきた可能性がある。

狙撃手は一度攻撃を与えたらその場から動くのが鉄則だ。
それを簡単に行える船ならば、トラギコがどう逃げようが自分にとって有利な立ち位置を確保出来る。
ここまでして捕えられる理由が知りたい。
一体、ジュスティアはトラギコに何を求めているのか。

――突如、トラギコはその場に倒れた。

半瞬遅れて、焼けつくような痛みが足に走る。
この独特の痛みに、トラギコは覚えがあった。
肉が抉られる痛みだ。
痛む右足に目を向け、想像以上の負傷具合に冷や汗を流す。

(;=゚д゚)「……ウソだろ、おい」

トラギコの右足から、夥しい量の血が流れ出していた。
銃創が太腿の裏側にあった。
大口径の銃弾が掠めたことによって肉の一部が抉れただけで済んでいるが、当たり所によっては失血死もあり得る部位だ。
直撃していれば、トラギコの右足は膝から先が吹き飛んでいただろう。

これは警告の一撃ではなく直撃を狙った銃撃だと、トラギコは本能で理解した。
すぐにアタッシュケースを広げ、それを楯の代わりに体の前に掲げる。
小型ではあるが強化外骨格を運搬するためのコンテナだ。
装甲の硬さは、下手な楯を容易く凌ぐ。

841名も無きAAのようです:2014/10/26(日) 23:01:12 ID:vSyrMVtM0
狙撃手はトラギコを殺すことに対してなんら抵抗を抱いていないことを考慮すると、この状態ですら十分にまずい。
片手で服の袖を引き千切り、止血作業を行う。
出来るだけ早い段階で病院に行き、処置を受けなければならない。
血が止まらない。

血溜まりがみるみる大きく広がっていく。

(;=゚д゚)「くっそ!!」

目の前に掲げたケースを、尋常ではない衝撃が襲った。
それを片手で抑えることは不可能であり、飛んできたケースが顔を強打する。
その一発で軽く意識が飛びかけ、次の一撃でトラギコの意識はあと一歩で闇に落ちるところだった。
失血による影響が思いのほか大きい。

動脈を撃ち抜かれたとは考えにくいが、太い血管が数本千切れたのかもしれない。
何度思い返しても、カラマロスに恨みを買った覚えはない。
関わったこともないのに、瀕死の状態に追い込まれる意味が分からない。
エクストですら、テーザー銃で対処していたのに、大口径の実弾で殺しにかかるというのは異常だ。

思考が混乱していることに気付けなかったトラギコは、背後から近づいてくる車のエンジン音に気付くことが出来なかった。
黒塗りのSUVがトラギコを銃弾から庇うように停車し、スライドドアを開いてエクストが現れた。

<_プー゚)フ

腕を掴んで引き上げられ、車に乗せられる。
体の後ろで手錠をかけられ、顔に黒い頭巾を被せられた。
抵抗は無駄だと分かっていたため、トラギコは状況の把握に努めることにした。
運転手が一人、おそらく助手席にももう一人。

842名も無きAAのようです:2014/10/26(日) 23:02:07 ID:vSyrMVtM0
そしてエクストともう一人が後部座席に座っている。
自らの血の匂いに交じってするのは、新車とタバコの匂い。

「トラギコ、止血作業をするから暴れるなよ」

言われた通り、トラギコは足から力を抜いて止血作業を受け入れた。
音から察する慣れた手つき。
肌に触れる用意された道具の数々。
一連の動きは全て、トラギコを誘い込むための罠だったのだと認識した。

カラマロスは殺す覚悟でトラギコを襲い、怯んだ隙をエクストが捕獲するという流れ。
足を撃ったのも計画に織り込み済みということだ。
止血材を振りかけられ、痛みに耐えて歯を食いしばる。

「まずい、血が止まらない…… 隊長、総合病院への搬送許可を!!」

だが、カラマロスの与えた傷はこの作戦の予定にはなかったらしい。
意識が朦朧とする中、トラギコは少しでも情報を手に入れようと五感を研ぎ澄ませる。

「……ありがとうございます。 “P”、本部に連絡しろ。 “虎”は負傷したために、ティンカーベルの総合病院に搬送する」

それは、ある意味で願ったり叶ったりの展開だった。
問題なのは、入院してからだ。
何をされるのか、あまりいい予感がしない。
半殺しにしてでもトラギコから何かを引き出そうとする姿勢は、ジュスティアらしからぬものだ。

警察と軍の合同作戦。
円卓十二騎士、そして凄腕の狙撃手を導入しての捕獲劇。
トラギコは無意識の内に、邪悪な笑みを浮かべていた。
自覚はあったが、難問が次々と降りかかることを楽しむのは彼の悪い癖だった。

843名も無きAAのようです:2014/10/26(日) 23:03:10 ID:vSyrMVtM0
だが楽しいものは楽しいのだから、仕方がない。
状況が混沌とすればするだけ、トラギコがこの世に生きる意味を見出せるというものだ。
生涯最後の事件と誓ったオセアンの事件。
それを追う中で事件に彩を加える混沌は、大歓迎すべきことだ。

恐らく、全ては繋がっているはずだ。
オセアンの重要参考人である、金髪碧眼の若い女性の旅人。
彼女の行く先々で起こる事件は、偶然ではない。
つまり、この混沌とした展開も彼女がもたらした一つの影響である可能性が高い。

だから、これでいい。
この際、これでいいのだ。
ティンカーベルに行けるのであれば、当初の予定と同じだ。
怪我をして入院するかどうかの違いだけだ。

まだ手はある。
あの島にさえ行けるのであれば、まだチャンスは失われていない。
チャンスを失うのは、ティンカーベルからジュスティアに移送された時か、入院している間に情報源がどこかに去る時だけだ。
ジュスティアから糞が集まる前に病院から逃げ出して、ティンカーベルに集結した連中を探せばいい。


――腕に小さな痛みが走ったのを最後に、トラギコは意識を失った。


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           Ammo for Tinker!!編 第二章 【集結- concentration -】
                            了
                      To be continued...!!
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844名も無きAAのようです:2014/10/26(日) 23:07:50 ID:vSyrMVtM0
これにて本日の投下は以上となります。
支援ありがとうございました!!

845名も無きAAのようです:2014/10/26(日) 23:11:23 ID:uSr/Fhhs0


846名も無きAAのようです:2014/10/26(日) 23:22:48 ID:r8xMpVMQ0
乙!

847名も無きAAのようです:2014/12/02(火) 22:34:22 ID:6vgmNNy.O
相変わらずアツい展開
続きが気になって仕方ないわw

848名も無きAAのようです:2014/12/06(土) 23:44:49 ID:VAOnfuVY0
ヨヤクソウシン メッセージ

アシタハ トウカデス タノシミデス
ジブンヲ ユウキヅケルタメニ トウカガ セイコウシ
アトニ コノ メッセージガ トドクヨウニ オクリマス

ワタシハ チャント ニゲナイデ トウカヲ シタデショウカ
ワタシハ チャント サルラナイデ デキタデショウカ

ソシテ ソノ アト
ワタシハ チャント イイタイコトガ イエタデショウカ
ズット トウカシカッタ ハナシヲ ツタエラレタデショウカ

ソレデハ
マタ
アエルト イイネ

ミャーコ

849名も無きAAのようです:2014/12/06(土) 23:46:14 ID:IS5R7ilg0
なるほどね…

850名も無きAAのようです:2014/12/07(日) 19:17:53 ID:fmUKYYEQ0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

That time will come to everyone at least once.
誰にも、一度は訪れる。

The ability.
己の器。

The power.
己の力。

The moment to test their preparedness will come.
己の覚悟を試す瞬間が。

――Jacob “The Founder” Bean
   “発見者” ジェイコブ・ビーン

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

851名も無きAAのようです:2014/12/07(日) 19:24:42 ID:fmUKYYEQ0
透き通る蒼穹は磨き上げられたガラスのように霞一つなく、高度が上がるにつれ、薄い青から濃い群青色へと移り変わる。
そして、高高度に浮かぶ雲は風の流れによって千切れては生まれ、新たな形を生み出し続ける。
空は飽きることなくその作業を繰り返している。
見事なまでの夏の空模様だ。

夏の日差しは強くて暑いが、潮の香りを含んだ風は冷たく、肌寒いほどだ。
北部に近い位置に浮かぶ島街ティンカーベルは、避暑地として非常に優れている。
あまり便利な街ではないが、豊かな自然とウィスキーを目当てにする観光客が毎年大勢訪れる人気の場所でもある。
大小様々な島で形成されるティンカーベルには一日に約数百人の観光客が来るが、その多くは最も栄えているグルーバー島に足を運ぶ。

グルーバー島に行くには、最寄りの街であるジュスティアから直接通じる橋を渡るか、定期便を利用する方法しかない。
島に来るための交通の便は、お世辞にも良いとは言えない。
東西に位置するバンブー島とオバドラ島に住む人間は橋を利用してグルーバー島を行き来し、最新の商品を買いに行くが、行かなくても生活には困らない。
だが、住民がグルーバー島を訪れなければならない時がある。

それは、大きな怪我や重い病を患った時だ。
小さな病院ではどうしても医療機器や薬、最新の知識が足りない問題がある。
その一方で、島最大の病院、“エラルテ記念病院”には世界でも最先端の医療器具や機器、名医と呼ばれる医者たちが揃っている。
その規模の充実度は島民の数と収税を考えても、余りある設備だ。

島の歴史を語る上で、ジュスティアとの繋がりは欠かせない。
病院の名前にもなっているエラルテ・ニエバズとは、ティンカーベルの市長だった男で、ジュスティアとの繋がりを親密なものにしたことで知られている。
彼がジュスティアとの取引の中でジェイル島を監獄として貸出し、犯罪者の減少に貢献したことはジュスティア史にも明記されている。
話の発端者はエラルテではあったが、それをジュスティアに提案することは容易な話ではなかった。

誰も住んでいない離島とはいえ、危険な犯罪者を島で引き受けるということに対して当時の島民たちは大反対した。
過半数以上の島民が納得するまで市長は粘り強く話し合いを続け、ようやく合意が得られたのも束の間、すぐさまジュスティアとの間で交渉が行われた。
ここまでに、三年の月日を要した。
最終的にはジュスティア側からの多額の寄付金と最新設備の寄付、そして島の安全に対する全面的な支援を約束することで概ね合意した。

852名も無きAAのようです:2014/12/07(日) 19:29:11 ID:fmUKYYEQ0
そこから更に規定や原則を細部に渡って決め、ようやく現在の関係が築き上げられたのは交渉開始から三十年の時間が経ってからのことだ。
いわば、ジュスティアとティンカーベルは兄弟のような関係なのである。
エラルテ記念病院の緊急外来に一か月ぶりの連絡があったのは、八月九日の午前九時半のこと。
やってきたのは救急車ではなく、黒塗りのSUVだった。

異様な光景だったが、入り口で待機していた医者たちは動じることなく素早くストレッチャーを用意し、車から怪我人をそこに乗せ換えた。
怪我人の男は鎮静剤によって眠らされており、右足は血まみれだった。
脚の付け根を止血しているためにあまり派手な出血はしていないが、抉れた肉の色とその深さから軽傷とは言い難い。
ストレッチャーを四人の看護師が押し、二人の医者が男の容体を確認しながら病室へと運んだ。

それに続いて車から降りたスーツ姿の男達が院内に入り、そのまま緊急医療室の前で待機した。
医療関係者は、誰も何も言わなかった。
男が運び込まれる前にティンカーベルは全ての島で出入りが封鎖され、島同士、更にはジュスティアへの行き来も禁止されていたのである。
運ばれた男がそれと関係しているのは、明らかだった。

それは奇しくも、豪華客船オアシズが寄港する日の出来事であった。

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                    Ammo→Re!!のようです
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853名も無きAAのようです:2014/12/07(日) 19:32:14 ID:fmUKYYEQ0
カール・クリンプトンはエラルテ記念病院に勤務する三十代半ばの男性で、筋骨隆々とした健康的な外科医だった。
トレードマークのポニーテールは彼が“種馬”と陰で同僚から呼ばれる原因となっているが、本人は気にしていなかった。
むしろ、それが同僚から認められている証だと解釈し、そして受け入れていた。
この閉鎖的な街では、親しい人間には渾名を付ける習慣がある。

ティンカーベルから西に位置する街、バルベニー出身の彼がこの島に来たのは、三年前のことだ。
医者として志高く、そして心臓手術の腕が認められた彼は地元からジュスティアへと派遣され、そこからこの島へと移動になった。
この島に集まる医者の多くは医療従事者として非常に優秀な人間ばかりで、ここに来たということは腕を認められたことを意味している。
一年目は非常に辛い日々が続いた。

観光客に対しては開けた島だが、そこから奥に入ろうとする余所者に対しては非常に閉鎖的な場所だったのである。
覚悟はしていたが、自宅にまで島民が来て昼食に金を使いすぎているだの、女性患者を誘惑するだの難癖をつけて文句を言いに来たのは流石の彼も滅入ってしまった。
それから少しずつ外堀を埋め、距離を縮めることに一年の時を要した。
そして今、彼はようやく島から受け入れられ、もともと整った顔立ちということもあって多くの女性と関係を持つことになったが、長続きはしなかった。

狭い土地だからこそ噂はすぐに流れ、彼が多くの女性と性交したこと、その内容についても瞬く間に広まった。
その経緯が彼に対して種馬という渾名をつけるに至り、自らの行いが導いた結果だとして彼はそれを甘んじて受け入れた。
世界最大の豪華客船オアシズが寄港するという話を聞いて、一目見ようと彼は屋上から船が停泊する様子を眺めていた。
離れていても分かるその非現実的な大きさに、不思議と胸が痛んだ。

ある種の恐怖感、そして感動が彼を襲った。
白い船体は澄んだ海に対してよく映える。
それだけではない。
あれだけの船舶を人間が作り、そして操っているということに対する感動が、彼の体を自然と振るわせた。

膝まである白衣を風に靡かせながら、カールは感嘆の声を口にした。

(,,'゚ω'゚)「すげぇ……」

854名も無きAAのようです:2014/12/07(日) 19:36:01 ID:fmUKYYEQ0
十五階建ての病院の屋上には、朝の空いた時間を利用している者や夜通し行った手術明けの医者がコーヒーを片手に十人ほど集まっている。
屋上の手摺から離れ、カールは手に持ったコーヒーを一啜りして、自らの目が錯覚を起こしていないことを確かめる。
熱い液体が喉を下り、溜息が漏れる。

(,,'゚ω'゚)=3「ふぅ、俺も乗りてぇなぁ……あんな船によぉ……」

溜息と共に口から出た言葉に、それまでベンチでくつろいでいた同僚のカンイチ・ショコラが反応した。
呼んだわけでもないのにカールの隣に来て、手摺に背を預けた。

( ''づ)「自慢じゃないがね、私は一度乗ったことがあるんだ。
    いい船だった」

カンイチはこの病院に来てから初めて喋った人間で、ティンカーベルで出来たカールの数少ない友人だ。
金持ちであることをたびたび鼻にかけることからあまり好かれていないが、友人が少ない者同士、彼とは何か通じるものがあった。

(,,'゚ω'゚)「またエスプレッソの砂糖漬けか?」

( ''づ)「あぁ、仕事終わりにはこいつが一番だからね」

(,,'゚ω'゚)「ふーん。 それで、あの船に乗ったんだって?」

( ''づ)「五年前にまとまった休暇が取れたんだ。
     せっかくだから予約して、一か月だけだがいい時間を過ごせたよ」

職業柄、休暇はあまりとれるものではない。
限られた時間の中で自分という存在を認識するために、カールは自らの肉体を鍛えることをしている。
ボクシング、カラテ、射撃。
一通りの護身術と格闘術を身につけ、いつ誰に襲われても対処できるようにしたが、その機会はいまだ訪れていない。


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