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Ammo→Re!!のようです

1名も無きAAのようです:2013/05/26(日) 19:44:33 ID:cwrc78lw0
いつまでたっても規制が解除されないのでこちらで


纏めてくださっているサイト様

文丸新聞さん
ttp://boonbunmaru.web.fc2.com/rensai/ammore/ammore.htm

ローテクなブーン系小説まとめサイトさん
ttp://lowtechboon.web.fc2.com/ammore/ammore.html

306名も無きAAのようです:2014/01/05(日) 14:44:08 ID:EyqHPYFQ0
最後の一人は、サプレッサーで減らされた銃声よりも小さな悲鳴を上げて死んだ。
“ゲイツ”はジュスティアの海軍の中でも荒療治が得意だと聞いていただけに、がっかりだった。
まぁ、棺桶を装備した人間に勝てるとも思えないが、歯応えは見せて欲しいところだった。
船の格納庫に転がる死体は全部で四十二。

オアシズで起こった事件解決に向けて出発準備を行っていた兵士達だ。

<=ΘwΘ=>『クリア』

特殊強襲部隊“テラコッタ”。
組織にいる人間の私兵で、全員が“ハムナプトラ”と云う棺桶を使用する集団だ。
総数は五十名だが、個々の実力は棺桶持ちが十人束になっても勝てない程だと言う。
それが誇張表現でないことは、作戦に参加した三機の棺桶持ちが証明してくれた。

ハムナプトラの優れた点は、現場での取り回しの良さだ。
道具を使わずに各部位のパーツを換装することが可能で、組み合わせを変えることで遠近の戦闘スタイルに適応させられる。
ジョン・ドゥなどの場合は専用の工具と知識がいるが、こちらはそれもいらない。
代わりに、装甲が若干薄く、軽いことが特徴だ。

<=ΘwΘ=>『同志キュート、殲滅致しました』

櫛の通っていないボサボサの金髪に濁った碧眼を持つ女性はテラコッタの報告を聞いて、わざとらしく肩をすくめて見せた。

o川*゚ー゚)o「なぁんだ、呆気ないの」

そう言ったのは、キュート・ウルヴァリン。
棺桶持ちでありながら、この強襲作戦では棺桶を使わずに参加することに拘っていた。
拳銃とナイフを使った戦闘方法は豹の様にしなやかで素早かった。
何を考えているのか分からない人物だが、腕は確かだ。

( ゚∋゚)「ふん、つまらん」

その隣で腕を組んでいる角刈りの大男はクックル・タンカーブーツ。
彼の手には三十連マガジンを装填した、サプレッサー付きのグロック18が握られている。
図体に恥じぬ頑丈さとパンチ力を持つ男だが、上から目線の態度が気に入らなかった。
ワタナベ・ビルケンシュトックはショートカットの茶髪を左手で漉き上げ、一息ついた。

从'ー'从「仕方ないですよぉ、実戦経験が少ないんですからぁ。
     それに、見せ物としてはよかったですよぉ」

嵐と停電に乗じてジュスティア内にテラコッタが侵入し、この格納庫を目指してトラックで移動。
ワタナベ達は潜水艦で同じ場所を目指し、両側から一気に襲い掛かったのだ。
ジュスティア内にこちらの人間が潜伏するための作戦。
これが、“四歩目”。

三週間と云う期限を残しつつの完遂だ。
“五歩目”はこれに続く形で遂行され、そのまま続々と計画は連鎖してく。
流石は組織の幹部達だ。
元軍人のクックルはさておいて、キュートは自然体で人を殺す。

307名も無きAAのようです:2014/01/05(日) 14:46:54 ID:EyqHPYFQ0
そんな彼女直々のオファーだからこそ、この組織、ティンバーランドに参加したのだ。
まぁ大義名分だとかその辺はどうでもいいのだが。

o川*゚ー゚)o「ねぇワタナベ、折角だからオアシズの旅に行く?」

从'ー'从「私、オアシズ乗った事ないんで、是非乗りたいです」

( ゚∋゚)「おい。 どうして私が勘定に入っていない?」

从'ー'从「あ? 手前はここにいろよ、鳥頭」

(#゚∋゚)「ちょうどいい機会だ、ここで――」

o川*゚ー゚)o「はいはい。 同志クックル、君は私の監視役だろ?
       となると、私も君も、オアシズには乗れないわけだ」

从'ー'从「それぐらい分からないのぉ? 馬鹿ねぇ」

(#゚∋゚)「っ……言わせておけば、この女郎っ……!!」

何時かのタイミングで、このクックルはワタナベに銃口を向ける日が来るだろう。
この男は驚くほど器が小さい。
その時は喜んで殺させてもらおう。

从'ー'从「で、こいつらの上官はどこにいるんですか?」

o川*゚ー゚)o「キャメルストリートの536だ。
       今頃そこで、昼食の真っ最中だろうさ」

ワタナベはあえてクックルを一瞥して、格納庫から嵐の中に出て行った。

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                ‥…━━ August 5th PM12:20 ━━…‥
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キャメルストリートは警察本部から西に行った、非常にみすぼらしい通りだ。
そこにある536と云う店は、軍人たちの溜まり場として連日賑わいを見せている。
特に最近では、この嵐の影響で起こった事故を処理するので大忙しの軍人たちが集まり、互いに励まし合い、健闘を称え合っていた。
店の前にヒヨコ色のタクシーが停車し、中からトラギコ・マウンテンライトが姿を見せた。

(=゚д゚)「請求書の件、よろしくラギ」

308名も無きAAのようです:2014/01/05(日) 14:48:51 ID:EyqHPYFQ0
店に向かいながら、トラギコはそんな言葉を運転手にかけたが、タクシーは彼を降ろすなり走り去っていた。
木製の扉。
ひび割れ、内側から照らされる薄汚れたプラスチック製の看板。
埃を被ったショウウィンドウ内の食品サンプル。

それらを見て懐かしい気持ちになりながら、トラギコは店の扉に手を伸ばした。
ほぼ同時に横から伸びてきた色白の女の指を見て、一瞬手を止める。

从'ー'从「あらぁ? 刑事さん?」

内側と外側に向けて跳ねたショートカットの茶髪と、鳶色の瞳。
忘れるはずがない。
それは、ニクラメンで会った女。
快楽殺人者、ワタナベ・ビルケンシュトックに間違いなかった。

(;=゚д゚)「は?!」

从'ー'从「ハロー、刑事さん」

仮にもここは正義の都と呼ばれる場所。
そこにこの快楽殺人者がいるとは、一体何事だろうか。

(;=゚д゚)「な、何で手前がここにいるラギ?!」

从'ー'从「ランチタイムだもの、普通でしょ?」

(;=゚д゚)「……そうラギか」

いや、そうではない。
優雅にランチを済ませたいのなら、ここではなく大通りのロイヤルフュージストリートにでも行けばいい。
そこの方が美味い店がある。
ここは不味い。

正直に言うと、とても不味い。
若い頃は先輩に連れて来てもらったが、ここの店は料理の味付けは塩か酢しかないのだ。
伝統的なジュスティア料理の味だが、やはり、不味い物は不味い。
懐かしさに浸るために来たわけではなく、単にここにいるであろう、海軍の男に用があるだけなのだ。

(=゚д゚)「……」

从'ー'从「……?」

この女が何を考えているのかは分からないが、野放しにしておけばそれこそ何をするか分からない。

(=゚д゚)「……飯でも食うか?」

从'ー'从「喜んで」

トラギコが扉を開き、店内へ。
従業員が人数を聞きに来たのを見て、トラギコはまず言った。

309名も無きAAのようです:2014/01/05(日) 14:50:02 ID:EyqHPYFQ0
(=゚д゚)「タオル一人前と、一番奥の禁煙席を二人分」

笑顔で席に案内される途中、他の席に目を配り、軍人を見定める。
海軍の特徴は浅黒い肌とネイビーブルーの軍服だ。
見る限り、五十人近くいる客の中に海軍の人間は二十人いた。
しかもそれぞれ席が離れていると云う問題まであったが、階級章を確認すればそれは解決できそうだった。

作戦の指揮を任される人間がまさか私服でここにいるはずがないし、となれば、二十分の一の確立で当てればいい。
要求通り一番奥の席に案内され、トラギコは壁側に座った。
直ぐに店員がタオルを店の奥から持ってきて、トラギコに渡す。

(=゚д゚)「おい」

从'ー'从「ん?」

ワタナベの頭にタオルを乗せ、ぐしゃぐしゃと拭き始める。
この女に風邪を引かれでもしたら面倒だ。
後、ほんの少しの嫌がらせでもあったのだが、予想と違ってワタナベは嫌がらなかった。
タオルから手を離して、後は自分でやらせることにした。

(=゚д゚)「ジュスティアの飯は食ったことあるラギか?」

从'ー'从「ううん」

(=゚д゚)「なら勝手に頼むラギよ」

从'ー'从「どおぞぉ」

(=゚д゚)「おい、マカロニグラタンとホットウィスキー二人分」

この店で唯一まともな味をしているのが、マカロニグラタンだ。
むしろ不味く作りようがない物で、酒のつまみにも最適な一品である。
無言のまま、置かれていたおしぼりで手を拭く。
料理が出てくるよりも先に、酒が来た。

从'ー'从「はい」

ガラスコップを掲げて、ワタナベが言った。

(=゚д゚)「は?」

从'ー'从「乾杯、しないの?」

(=゚д゚)「あぁ、ほいよ」

自分のグラスを軽くぶつけて、一口飲む。
安い酒の味がする。
ブレンデッドウィスキーを使ったのだろう。
大方、シーバス・リーガル辺だろうが、トラギコはその手の混ざった味のする酒が嫌いだった。

310名も無きAAのようです:2014/01/05(日) 14:50:56 ID:EyqHPYFQ0
从'ー'从「美味しいわぁ」

(=゚д゚)「そうか?」

从'ー'从「刑事さんと飲むからかしらねぇ」

(;=゚д゚)「もう酔ってるラギか」

从'ー'从「刑事さんの好きなお酒って何なのぉ?」

(=゚д゚)「俺は、そうラギねぇ……ジェイムソンかカネマラか……あぁ、アードベッグも好きラギよ。
    シングルモルトウイスキーが一番ラギね。
    お前は普段何を飲んでるラギ?」

从'ー'从「何でも飲むわよぉ。
     でも、今日からはシングルモルトのウィスキーにするわぁ」

影響されやすい年頃なのだろう。
まだ十代のあどけなさが残る二十代前半の女性なら、当然だろうか。

从'ー'从「で、刑事さんはどうしてこんなところに?」

(=゚д゚)「それは俺の台詞ラギ。
    まさか、またここで“ヤる”つもりラギか?」

从'ー'从「ううん。 私はここで“ヤる”つもりはないわよぉ」

(=゚д゚)「ふーん。 観光でもないなら、何でこんなところに?」

从'ー'从「仕事。 刑事さんと同じ、仕事よぉ」

(=゚д゚)「……仕事?」

从'ー'从「次は刑事さんの番」

(=゚д゚)「人探しラギ」

熱々のグラタンが二人の前に置かれ、会話はそこで中断された。

(=゚д゚)「まぁ、食え。
    食べないと――」

从'ー'从「――食べないと強く生きられないぞ、でしょう?
     分かってるわよぉ」

自分の台詞を先に言われて、トラギコは複雑な気持ちになった。
快楽殺人者だが、この女には色々と引っかかる部分がある。
今このタイミング、例えば彼女が食べ始めたタイミングで殺そうと思えば殺せる。
そうすれば社会から屑が一人減る。

311名も無きAAのようです:2014/01/05(日) 14:52:46 ID:EyqHPYFQ0
それが警察の仕事だ。
しかし、そうする気が全く起きなかった。
同情しているわけでも、好意を寄せているわけでもない。
どうしてか、この女だけはそう簡単に殺そうとは思えなかったのだ。

随分昔から知っている間柄のような、そんな心境になってしまう。

(=゚д゚)「けっ、小憎たらしい奴」

スプーンを使ってグラタンを黙々と食べながら、トラギコは店から海軍の人間が出ないかどうかを監査する。
音もなく、ワタナベの手がトラギコの口元に伸びた。
気付いた時にはもう遅く、紙ナプキンがトラギコの口の端に付いたグラタンソースを拭い始める。

(;=゚д゚)「何のつもりラギ?!」

从'ー'从「さっき人の頭ぐしゃぐしゃしたじゃない?
     そのお返し」

(;=゚д゚)「ちっ」

倍の人生を生きている自分が、こんな小娘に世話になるつもりはない。
トラギコはその手から逃れ、掻っ込むようにグラタンを胃袋に収めた。
トラギコがそうであるように、ワタナベもまた、トラギコを殺そうと思えば殺せる立場にあるのだった。
ここはもう、殺す殺されるの事を考えずに、食事だけに集中すべきだ。

从'ー'从「汚ぁい」

(=゚д゚)「うるせ」

懐から財布を出して机の上に銀貨を一枚置いて、席を立つ。

从'ー'从「もう終わり? もう少しお話ししないのぉ?」

(=゚д゚)「また後でな」

店から出ようとする一人の海兵の背中を追う。
男の肩に手を乗せ、トラギコは警察バッジを見せた。
一瞬怪訝そうな顔をした男も、そのバッジを見てすぐに納得した顔になる。

(=゚д゚)「トラギコ・マウンテンライト刑事だ。
    この中でオアシズの件を担当している人間は誰ラギ?」

「そこに座っているホプキンス少佐です」

指をさした方向には、モヒカン頭の中年男性がいた。
声を聞いてか、ホプキンスはトラギコの方を見た。

(=゚д゚)「どうも」

312名も無きAAのようです:2014/01/05(日) 14:53:26 ID:EyqHPYFQ0
そのままホプキンスに向かっていくと、彼は席から立ち上がって握手を求めた。
トラギコはそれに応じ、軽く握手をした。

「警察の方が、私に何か御用ですか?」

浅黒く日焼けした肌には細かな傷や大きな傷があり、鼻は少し曲がっていた。
年齢的にはトラギコと同じか、三歳ほど下だろう。
身長はトラギコよりも拳一つ分高い。

(=゚д゚)「オアシズの件だが、あれに俺も行く事になった。
    いつ行くラギ?」

「そんな話は聞いていないですが、どなたの決定ですか?」

(=゚д゚)「俺ラギ」

「悪いですが、それは受け入れられません」

(=゚д゚)「脳筋野郎だけじゃ、あの山は片付けられないって言ったほうがいいラギか?」

「……刑事さん、口の聞き方には気をつけた方がいいですよ。
海兵は少し血気盛んでしてね」

店内の海兵たちの会話が止み、トラギコに視線が集中する。
好意的なものは一つもなかった。
丁寧な言葉遣いだが、要するに、これ以上口を突っ込むなと言っているのだ。
なるほど、やはり脳筋野郎である。

(=゚д゚)「なら訊くが、この件はどう説明を受けているラギ?
    制圧が目的じゃないのは分かっているラギ?」

「もちろん。 乗客全員を調べれば、すぐに済みます。
抵抗されても問題はありません」

(=゚д゚)「阿呆ラギね。 それで済むなら、とっくに解決してるラギ。
    俺の力を貸してやるって言ってるんだ、大人しく受けるラギ」

「……ふぅ、刑事さん、あなたも変わり者ですね。
ですが、その気概は気に入りました。
実に海兵らしい。
どうですか? このジャン二等兵と少し遊んでみて、もし勝てれば参加を秘密裏に認めるというのでは」

ホプキンスの隣には二十代の若者がいた。
スキンヘッドにした頭に、海兵のタトゥー。
首の太さ、そして発達した胸筋。
トラギコに向けるのは、腕っぷしに自信のある若者の眼だ。

(=゚д゚)「瞬殺してやるラギ」

313名も無きAAのようです:2014/01/05(日) 14:55:42 ID:EyqHPYFQ0
敵意に満ちた視線をくれながら、若者は立ち上がり、トラギコを見下ろした。
頭二つ分は身長差がある。

「では、ここでは何ですから店の裏で――」

(=゚д゚)「――いいや、ここで終わりラギ」

その瞬間に、勝負は決した。
油断し切っていた若者の顎に、左ジャブを一発。
脳震盪を起こしたジャン二等兵は力なく席に腰を下ろし、涎を垂らして項垂れた。

(=゚д゚)「な?」

「……いいでしょう、刑事さん。
今晩九時に、格納庫P26番に来てください」

こうしてトラギコは、オアシズに向かうための道を手に入れることが出来た。
後は時間まで装備を整えれば、完璧だ。
この時、トラギコはワタナベが自分に向けている視線に気付くことが出来なかった。
席に戻り、ホットウィスキーの残りを飲もうとグラスを持ち上げた。

(=゚д゚)「……俺の分、減ってないラギか?」

从'ー'从「天使のわけまえって知ってるぅ?」

(;=゚д゚)「手前、自分の分を先に飲めラギ!」

やはりこの女、酔っているのではないだろうか。
普通、そんなことを笑顔で報告する奴はいない。
そんなことを思いながら、トラギコは残ったウィスキーを一気に飲んだ。
心なしか、先ほどよりも甘い香りがした。

(=゚д゚)「じゃあな」

从'ー'从「じゃあまたねぇ」

店を出たトラギコは、向かいにあったビジネスホテルに入って行った。
そして。
やはり、気付くことが出来なかった。
自分に向けられるワタナベの視線。








そして、彼女が浮かべる笑顔の真意を――

314名も無きAAのようです:2014/01/05(日) 14:56:22 ID:EyqHPYFQ0
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To be continued...
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315名も無きAAのようです:2014/01/05(日) 14:57:17 ID:EyqHPYFQ0
これにて第五章の投下は終了となります。

質問、指摘、感想などあれば幸いです。

316名も無きAAのようです:2014/01/05(日) 17:20:10 ID:FXxO7pEEO
2レス目の影はそういうことだったのか

317名も無きAAのようです:2014/01/05(日) 20:13:06 ID:V.V3HQu2O
乙、目の離せない展開だ

318名も無きAAのようです:2014/02/11(火) 20:10:47 ID:1gkL/Ud60
――音。
蛇腹が蠢き奏でる、ピアノアコーディオンの音色だ。
水を掻いて進む船と川波の音だ。
子供がはしゃぎ笑う、幸せな家族の音だ。

大きな川が何本も市内を走り、水と人とが共生する街。
赤レンガ造りの建物が作り出す歴史ある雰囲気と、情緒を残す街並み。
水の都、ヴィンスに漂う空気は柔らかく、初夏を感じさせた。
これは記憶の中の情景だと、彼女はすぐに気付いた。

これは彼女の心象風景。
彼女自身が記憶する、六年前のヴィンスでの記憶。
始まりの記憶。
“レオン”になる前の記憶だ。

歳の離れた幼い弟が笑う。
父親が豪快に笑う。
普段は滅多に笑わない母親が笑う。
嬉しくて自分も笑う。

笑顔があふれる、幸せの絶頂の光景だ。
世界が平和だと信じていた時の光景だ。
失ったものの光景だ。
そして、絶望と復讐の象徴の光景だ。

化粧室に席を立つ母親。
見送る父親。
見送る弟。
見送る自分。

ピザが冷めるのも、時間が経つのも忘れて話をした。
酒で上機嫌になった父親と話をした。
離乳食で汚れた弟の口元を拭った。
そして、音――

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瓦礫と死体。
それだけが事件現場に残された時。
死者は、パズルのピースとなる。
遺族は、ピースの欠けたパズルを眺めることとなる。

パズルを完結させ得るのは、決して揺るがぬ信念の持ち主のみ。

                            ――A.G.クィンシー著・『怒れる男』より抜粋

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319名も無きAAのようです:2014/02/11(火) 20:11:45 ID:1gkL/Ud60
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    |      |┃○─毛 ;;r、__;;;;l L ( <;;;|  / ノ ノゝ ソ ー r ─ -フ┃|      |
    |      |┃彡=二(´`ノ‐─/ヽヒ==〆::〔〕─┌ ヽ/ム√レ┃|      |
    |      |┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛|      |
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                ‥…━━ August 5th AM11:20 ━━…‥
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その部屋は、豪華絢爛と云う言葉が最も似合う、金のかかった部屋だった。
壁にかけられた色彩豊かな絵画は三世紀前の作品で、五百万ドルの値が付いたもの。
食器棚に並ぶ皿やティーカップはどれも超が付くほどの高級品。
部屋にある机と椅子は全てマホガニー製で、一流の家具職人が手間暇かけて手作りした逸品だ。

天井から釣り下がる、星屑のような煌めきを放つシャンデリア。
鏡のように磨き上げられた床一面のフローリング。
柔らかなソファと、踏み慣らされ落ち着いた色合いになった絨毯。
部屋の隅々まで漂うのは、薔薇から作られた貴重な芳香剤の香り。

部屋の主が腰掛ける黒い皮張りのプレジデントチェアは、どれだけ凭れかかっても軋み一つ上げない。
金色の髪を頭の横でカールさせて束ねた独特の髪型は、世界最大の豪華客船を支配する彼のトレードマーク。
彼の薄緑色の瞳は立ち上るフォートナム・アンド・メイソンの湯気を纏っても、瞬き一つせず、水面を静かに見つめている。
豪華な調度品で飾った室内に、長い静寂があった。

時計の秒針の音が妙に大きく聞こえる、痛い程の沈黙があった。
沈黙を破り船上都市オアシズ市長、リッチー・マニーは英断を下した。

¥・∀・¥「……ハザードレベル5を発令。 今すぐに。 異議は一切受け付けない」

生まれながらに大富豪の子息として金には一切の不自由なく育ち、大祖父から受け継いだ市長の椅子に座った彼。
彼は、鼻持ちならない性格の持ち主だった。
彼は、世間知らずの大富豪だった。
だが彼は、無責任でも馬鹿でもなかった。

金の力を生まれた時から目にしてきて、その偉大さと尊さを知っていた。
金が恋人同士の絆を壊し、家族を壊し、命を奪い、夢を叶える瞬間を何度も目の当たりにした。
そして、金で買えないものがこの世の中にはあることを知っていた。
彼は一個人の人間としては無能かもしれないが、市長としては決して無能ではなかった。

市長として彼が発令したハザードレベル5。
それは、これまでオアシズ内で一度も発令されたことのない最も高いレベルの警報。
前代未聞の事態を前にした人間の多くは二の足を踏んで決断を誤るが、マニーはそれを恐れなかった。
そんなことに対して恐れた経験がないのだ。

320名も無きAAのようです:2014/02/11(火) 20:15:14 ID:1gkL/Ud60
故に、決断には無駄な躊躇がなかった。
彼の下で働く人間たちは、彼の性格をよく知っていた。
鼻持ちならない性格をした、世間知らずの男。
しかし、大胆さが要求される状況で、決断のタイミングは誤らない男。

だからこそ彼は部下に信頼され、その頼りない部分を補おうとする部下に恵まれていた。
今回の決断も、事件発生から五分後に下されたものだった。
市長室でその言葉を聞いたブロック長達が、前代未聞の警報発令に対し、落ち着き払った態度で、それぞれの権限において部下に命じた。

('゚L'゚)「第一ブロック、作業開始!」

第一ブロック長ノレベルト・シュー代行、ライトン・ブリックマン。
優れた推理力と変装能力を持つノレベルトの代わりとして、最も信頼の置ける部下に無線で指示を出した彼は、誰よりも規律を重んじる人間だ。
ブロック長としての仕事など、ほとんど経験はなかった。
だが、彼は今、自分が行動するべきであることを分かっていた。

£°ゞ°)「第二ブロック、作業開始!!」

第二ブロック長、オットー・リロースミス。
相手の心理を揺さぶる交渉能力と企画力を持つ彼は、唯一同等と認める友人であり部下である男に無線で指示を出し、第二ブロックの安全性の証明を急いだ。
スーツに乱れはなく、ネクタイも、タイピンも、いつもと同じように整っていた。
だが、その目には怒りの色が浮かんでいた。

ノリパ .゚)「第三ブロック、作業開始!!!」

第三ブロック長、ノリハ・サークルコンマ。
天才的な人心掌握術とカリスマ性で信頼を獲得した彼女は、右腕とも呼べる人物に無線で指示を出し、第三ブロックの安全確保を急がせた。
ウェーブをかけたセミロングの髪を手櫛で整えた時、彼女の黒いジャケットの下に銃把がちらついた。
それは、彼女の覚悟の現れだった。

W,,゚Д゚W「第四ブロック、作業開始!!!!」

第四ブロック長、クサギコ・フォースカインド。
人の心を動かす話術と演説能力で圧倒的な指示を得ている彼は、副ブロック長に無線で指示を出し、第四ブロックの信頼を取り戻しにかかった。
独裁的な性格と言われることが多い彼だが、言動は常に一貫している。
ブロックにいる全て人の平穏こそが、彼の最優先目標なのだ。

マト#>Д<)メ「第五ブロック、作業開始!!!!!」

第五ブロック長、マトリクス・マトリョーシカ。
行動力に基づく人望でブロックを束ねる彼女は、無線機に向かって力強く指示し、第五ブロックの信頼に応じた。
彼女は最も無能なブロック長だと言われることがある。
しかし、彼女の行動力は常に部下を惹きつけ、指示は常に最速で部下の間で共有された。

四人のブロック長とブロック長代行者によって命令された作業。
それは、前例のない速度で実行された。
各ブロックの間に設置された特殊防壁が作動し、床から分厚い扉がせり上がって天井に接続され、ブロック間を物理的に区切る。
一階の道路も、その境界線上から防壁が浮上し、大きな吹き抜けだけを残して各ブロックは他ブロックへの移動手段を失った。

321名も無きAAのようです:2014/02/11(火) 20:18:28 ID:1gkL/Ud60
第一段階はこれで終了。
続いて、第二段階へと移行する。
その合図を担当するのは、市長の役目。
咳払い一つせずに、マニーはマイクに向かって声を発した。

¥・∀・¥「皆様、私、市長のリッチー・マニーと申します。
      乗客の皆様、大変ご不便をお掛けしますが、皆様の安全を確保するためにご協力願います。
      尚、この緊急時中に生じる全ての費用は私が負担します。
      どうか、ご理解願いたい」

その言葉と同時に、各ブロックで第二、第三段階への移行が始まった。
ガイ・フォークスのマスク顔を隠し、H&K MP7を肩にかけた探偵達がそれぞれの配置につき始めたのだ。
紺色の制服とライフルを持った警官、警備員たちも同じく現れ、ブロックを封鎖した扉の前に立つ。
物々しい雰囲気のまま、次の放送が入る。

(<・>L<・>)「乗客の皆様、及びに住人の皆様。
       私、オアシズ付き探偵の探偵長、“ホビット”と申します。
       これより十五分以内にお部屋にお戻りください。
       十五分後に室外にいる場合は、先ほど発生した容疑者として確保、拘留させていただきます」

艦内放送を通じて、全ての場所に探偵長“ホビット”の声が届けられる。
放送に従って、各従業員たちが動揺する人々を誘導し、自分の部屋へと帰す。
危機的な状況にもかかわらず反抗する人間もいたが、銃口の前にその反抗は屁にも劣った。
賑わっていた通りから人が消え、船内から喧騒が消えた。

第二段階、乗客乗員住人の拘留による安全の確保。
第三段階、武装制限を解除された探偵、警察、警備員による各ブロックの警備。
全ては順序立て、かつ正確に行わなければならなかった。
月に一度の訓練の成果が見事に実ったことを、マニーは心から感謝した。

船内は刑務所さながらの光景と化すが、まだこれで終わりではない。
警備員達が配置に付いたことを確認してから丁度十五分後、マニーは次の放送を入れた。

¥・∀・¥「ご協力感謝いたします。
      では、改めて放送を入れますので、それまでの間、皆様は自室にて待機していてください」

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                ‥…━━ August 5th AM11:48 ━━…‥
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鉛弾で体重を増やして血液を失った死体が次々と運び込まれた死体安置所は、吐き気がするほどの鉄臭で満ちていた。
常備していたスチール製のベッドは全て使われ、喫茶店から借りた木製の丸机にも遺体が乗せられていた。
薄緑色のリノリウムの床には血溜まりが広がり、一部は乾いてひび割れていた。
全ての遺体は、警備員詰め所から運び出されたもので、ただの一体も医務室に運ばれることはなかった。

322名も無きAAのようです:2014/02/11(火) 20:19:29 ID:1gkL/Ud60
急所を失い、血を失った彼らが蘇生することは絶対に有り得ないと一目で分かる惨状だったからだ。
中には顔を失い、身元の判別が難しい者までいた。
遺族でさえ、その死体に残された特徴を見るまでは分からないほどだった。
運良く身につけていた身分証明を兼ねたカードがあれば、例え顔を失っていようとも遺族がいくら否定しようともその人物の特定は可能となった。

死体が放つ悪臭と陰惨な光景は、長い間苦楽を共にした同僚も見るに耐えない物だった。
遺体を運んできた彼らは涙が乾く前に、リッチー・マニーの指示に従って行動せざるを得なかったが、それはある意味で救いだった。
同僚の死体から逃げる自分を誰かに見せずに済んだのだから。
だが死体を前にしても動じない人物が一人だけいた。

死者の女王と呼ばれ、恐れられ、そして死の国に住まう者が切望する存在。
“ドクター・ストレンジラブ”こと、クルウ・ストレイトアウトだ。
彼女は死体が運び込まれてからすぐに損傷の少ない物から検査を始め、不要な解剖はせずに、身元の判明と銃弾の回収に尽くしていた。
文句一つ、不満一つもらさずに。

顔のない男の入った死体袋のジッパーをそっと閉じたショボン・パドローネは、右手を思い切り壁に叩きつけた。
砕けた人差し指の骨が肉を割き、皮膚を突き破って甲から飛び出した。
激痛だった。
しかし、それ以上に心が痛かった。

いくら銃弾を採取したところで、それから犯人に結びつくものは何一つとして見つからないことを知っているからだ。
遺体の数以上に遺族がいて、理不尽な出来事に憤り、涙している事を知っているからだ。
探偵達が総出で犯人を追っているのに一向に成果が出ないからだ。
何より、自分の予想と異なった展開になったからだ。

川 ゚ 々゚)「なぁに? 何で荒れてるの?」

(´・ω・`)「……どうして」

川 ゚ 々゚)「?」

(´・ω・`)「どうして、探偵はこうも無力なんだ」

犯人の思った通りに翻弄され、オアシズはこの有り様だ。
最終的にはマニーにハザードレベル5を発令させてしまう事態に発展したことは、探偵と警察の無力さを物語る。
今頃は第一ブロックで第四段階を始めるための準備が行われているだろう。
今回、マニーが下した決断は間違いなく英断に分類されるものだ。

自らオアシズが危険な状態にある事を認めることになり、信頼は前例にないほど急落しかねない。
それを恐れずにこの決断を出来るのは、かなりの度胸が必要になる。
彼にはそれがあった。
彼がいなければ、犯人の思う壺だっただろう。

(´・ω・`)「すまない、クルウ。
      僕はまた……」

クルウは振り向かなかった。
淡々と死体に触れてそこから幾つもの証拠を探し続けている。

323名も無きAAのようです:2014/02/11(火) 20:20:25 ID:1gkL/Ud60
川 ゚ 々゚)「謝って死者が蘇るなら、誰も悲しまないんでしょうね。
      そして、誰も感謝しない世界になるんでしょうね。
      ……絶対に、犯人を捕まえなさいよ。
      偽りをどうにかしてくれるんでしょう?」

ショボンは何も言わず、医務室に向かうことにした。
自分の不注意とはいえ、利き手を負傷してしまったことは今後に関わる。
親指以外の指の骨が折れているが、己の行動に悔いはない。
何もしないよりかは、遥かに気分がいい。

(#´・ω・`)「くそっ……!!」

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                ‥…━━ August 5th AM11:53 ━━…‥
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市長室には二人の男がいた。
部下たちが指示に従って慌ただしく最後の準備を進める中、市長リッチー・マニーは椅子の背もたれに脱力しきった様子で寄りかかっている。
表情こそ変わらないが、心中は穏やかではなかった。

¥・∀・¥「……なぁ、ラヘッジ」

「は」

マニーの隣でマニュアルの束に目を通していた船長ラヘッジ・ストームブリンガーは、目を向けもせずに答えた。
彼が普段着用する船長の象徴とも言える装飾付きの制帽は、マニーの卓上にあった。
二人は仕事仲間であるとともに、オアシズで生まれ育った同級生だった。

¥・∀・¥「私が市長を降りたら、次は君が――」

「市長、同い年の人間として言わせていただきますが、私はあなたが大嫌いです。
正直、第一印象は最悪。
金持ちの息子がいきなり船の権利を全て手に入れて、欲望のままに好き勝手……してくれれば、もっと嫌いになれたのに。
なのにあなたは、この船のためを思って好き勝手していた。

金を船の改築や従業員の教育に使い、挙句は安全確保のためのコンセプト・シリーズの棺桶の購入に充てた。
それだけの金があれば、女でも酒でも、別の町の一つでも買えたのに、そうしなかった。
皆が本気で嫌いになれないあなたが、私は嫌いなんですよ。
だから、皆が嫌いな傲慢な市長でいてください。

悪いですが、私はそれ以外の市長の命令には従いませんよ、マニー」

実に十年以上ぶりに友人として名前を呼ばれたことに、マニーは涙を抑えられなかった。
生まれたのが大金持ちの市長の息子というだけで嫌われていれることは、幼少時代から知っていた。
だからこの職に就くよりも前に自分なりに考えて、より市長らしくあろうと務めてきた。
これまでの行いが間違っていなかったと認識できたその言葉は、何よりも嬉しい言葉だった。

そして、自分の傍に友人と呼べる人間がいたことに感謝した。

324名も無きAAのようです:2014/02/11(火) 20:21:07 ID:1gkL/Ud60
「それに、私は市長なんて柄じゃない。
弱音を吐くなんて、一体どうしたんです?」

熱くなった目頭から、熱い液体が流れ落ちる。
忘れかけていた感覚。
友情の尊さを思い知らされ、マニーは落涙した。

¥う∀・¥「……いや、弱音なんて吐いていないぞ。
      市長の職務を知らない人間に引き継ぎもなしで任せるはずがないだろう?
      大金を使ったこともない凡人に、何が出来る?
      何も出来ないさ。

      次は君が……そう、次は君が……
      次の市長に、金の使い方を教えてやってくれ」

「ははっ、私が教えられるのは、美味い料理と酒を安く出す店を教えるぐらいですよ」

ハンカチで涙を拭き取り、マニーは一息ついた。
これ以上、弱気になってはいけない。
自分の決断に自信をもつのだ。
自分の決断は誤りではないと言い聞かせ、それを絶対のものとして意識する。

賽は投げられた。
投げたのは自分。
故に、後悔はない。
一つ深呼吸し、マニーは気持ちを切り替えた。

¥・∀・¥「ラヘッジ・ストームブリンガー」

「はっ」

今度の呼びかけに対して、ラヘッジは先ほどまでのような砕けた態度ではなく、船長としての威厳を身に纏ってまっすぐにマニーの目を見た。
今ここにいるのは、一人の船長と市長。
指示をする者とされる者の関係だ。

¥・∀・¥「嵐を抜けるまでにかかる最短時間は?」

「後二時間もあれば抜けてみせます。
ただし、蓄電池を半分使うので、嵐を抜け出たところでエンジンを切ります。
航海の日数が長引きますがよろしいですか?」

¥・∀・¥「その間、乗客に払う金なら気にするな。
      ジュスティアの警察に連絡をして、事件の早期解決を図ることにした。
      海軍を投入してくれるそうだ。
      逆に、船が止まるほうが好都合なんだ」

「了解しました。
では、フルスロットルで嵐より脱し、停船します。
ああそれと、市長」

325名も無きAAのようです:2014/02/11(火) 20:21:49 ID:1gkL/Ud60
机上から制帽を取って被り、ラヘッジは意味ありげな笑みを浮かべる。

¥・∀・¥「なんだ?」

「船内に音楽が足りませんな」

¥・∀・¥「君の権限で、相応しい曲を流してくれ。
      頼んだよ、ラヘッジ」

ラヘッジは完璧な敬礼をして、部屋を出て行った。
後に一人残されたマニーは、机の中から拳銃を取り出し、久しぶりの銃把の感触を味わった。
これを使う時はそう遠くないかもしれないと思うと、指先が少し震えた。
殺されるかもしれないと云う恐怖は、確かに彼にもあった。

間もなく、スピーカーから女性の歌声が小さく聞こえてきた。
若い頃からマニーがファンの歌手だった。
友人の心遣いに感謝しつつ、マニーは次の放送の準備を始めた。
マイクの前で軽く咳払いをしてから、スイッチを入れる。

¥・∀・¥「お待たせいたしました。
      これより、ハザードレベル5について説明をさせていただきます。
      これは従来、外的、もしくは内的な脅威によってシージャックが行われる、もしくは行われた際に発令されるものです。
      先ほど起こった警備員詰め所の襲撃を受けて、私は市長として、このハザードレベル5を発令いたしました」

声は震えていない。
しかし、胸が震えていた。
緊張など、らしくない。
自分は傲慢で自分勝手な、厭味ったらしい金持ちなのだ。

それを演じることぐらい、訳無い事だ。

¥・∀・¥「皆様のいる部屋の扉は、お手元にあるカードキー以外では開けられません。
      マスターキーの権限も先ほど無効化致しました。
      皆様の安全を害する人間が外部から侵入する経路を断つことが目的です。
      しかし、皆様が外出する権限もまた、同時に無効化致しました。

      ブロックごとに、ドアが開閉する時間を設定し、こちらの権限でそれを実行いたします。
      他ブロックへの移動は一切、何があろうとも出来ません」

素早くブロックを封鎖したのは、シージャック犯を閉じ込めることと、安全を確保する二つの目的がある。
危険を五つに分断して対処する、それこそが各ブロック封鎖の意図だ。
部屋の封鎖の件も同様だ。
シージャック犯がマスターキーを手に入れた場合を考え、部屋を開けられる人間を限定するのだ。

各自が独立した安全な領域にいることが、シージャックに対抗する絶対的な手段と考えた結果だった。
そうしてから、侵入者、不審者に対処するために要所に武装した人間が配置して、驚異の除去を行うのである。
彼らにはアサルトライフルだけでなく、この世界で最も強力な兵器である棺桶を使用させる。
使われる棺桶は二種類。

326名も無きAAのようです:2014/02/11(火) 20:22:32 ID:1gkL/Ud60
ジョン・ドゥ、そしてソルダット。
どちらも傑作機の名に相応しい性能を有するもので、使用者を限定しないよう、音声認識システムがオフにされている。
つまり、キーコードさえ知っていれば誰でも使用が可能なのだ。
しかし。

これだけでは、足りない。
シージャックに対して抵抗するためには、もう一か所、武装しなければならない部分があるのだ。

¥・∀・¥「これより、第一ブロックから順に皆様からお預かりした武器、棺桶を返却いたします。
      オアシズは絶対安全とは言えぬ状況下になった為、皆様の命は皆様の手で守っていただきたく思います。
      残念ですが、武器のレンタルは行っておりません。
      また、同じタイミングで皆様に三食分の食事をお渡しさせていただきます」

武器の返却。
本来、武器を回収していたのはシージャックを避けるためだったが、起こってしまった以上、それは無効となる。
シージャック犯にしてみれば、預かった武器類は宝の山になる。
宝の山が犯人の手で汚れる前に、持ち主の手に返し、本来の目的を果たしてもらう方が遥かにマシだし、警備員のいない場所での迎撃も可能となる。

力が世界を変える時代。
ならば、武器が世界を変えるのも当然。

¥・∀・¥「……最後に。
      これは市長として、また、一人の男としての言葉として聞いて下さい。
      全ての責任は、この私、リッチー・マニーにあります。
      恨み、怒り、悲しみ、その矛先は全てこの私に向けてください」

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Ammo→Re!!のようです
Ammo for Reasoning!!編
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                               ,.-‐ ニ   _,. -‐'´
                               /   '' 、`丶、
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              __,. -―  ´ / / /       /` _ノ第六章【resolution-決断-】

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327名も無きAAのようです:2014/02/11(火) 20:23:26 ID:1gkL/Ud60
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                ‥…━━ August 5th PM13:50 ━━…‥
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リッチー・マニーと云う人物を過小評価していた。
もう少し用心深く、もう少し繊細な人間だと思っていた。
だが違った。
考えていたよりも大胆な人間だったのだ。

探偵を使ってちまちま探す作戦を潔く諦め、最終手段とも言えるレベル5の発令に踏み切った。
これでは余計な警戒心を与えるだけでなく、デレシア達と接触する機会を失ってしまう。
ブーンを始末したところまでは良かったが、ここに来て予想外の展開だ。
次の計画までの時間がそうないことを知っている身としては、どうにかしなければならない。

マスターキーが使用できないことは大きい。
どうにかして、デレシアとヒートを始末するのだ。
と、なると。
最早こちらの美意識やらは置いておき、猛毒と云う原始的な方法で攻めるしかない。

懐に隠し持つ毒のアンプルセットを使い、二人を毒殺する方法を考える。
一つは全ての食事に直接混入させる方法。
もう一つは、食器の一部に毒を塗る方法。
最後は、傷口から毒を体内に侵入させる方法だ。

どれを選んでもいいが、兎に角、近づかないことには殺しようがない。
苛立ちばかりが蓄積される。
計画をスムーズに進行させるのに必要な行動を考えつくために、一度、深呼吸をした。
探偵、警察、警備員を欺いてデレシア達の部屋に接近するには、どうすればいいか。

必要なのは権限だと一瞬で辿り着いた。
権限さえあれば、二人の部屋に近づける。
そこに運ばれる料理に毒を盛れば、直接会わずに殺害が可能だ。
これで行動計画に目処がついた。

二人がいるのは第三ブロック十八階。
対してこちらがいるのは第二ブロック七階。
第二ブロックで有効な権限は、向こうでは使えない。
ならば、人目につかずに第三ブロックに侵入し、目的を果たす方法を考えればいいのだ。

――いや、違う。

328名も無きAAのようです:2014/02/11(火) 20:24:17 ID:1gkL/Ud60
前例のない事態なのだから、その方法が失敗する可能性もある。
調べる必要があるのは、食事の提供方法からだ。
武器の返却に立ち会えないのはいいとしても、食事がどのようにして提供されるかがまだ分かっていない。
マニュアルには船側から食事が振る舞われるとあるが、それが手作りなのか、それとも既製品なのかが定かではない。

三食まとめて渡すということは、手作りの可能性は限りなく低い。
既成品だとしたら缶詰かもしれないし、パック詰めされた弁当形式かもしれない。
マニーは必要な場面で用心深さを発揮するに違いない。
犯人が船にいる以上、安全が保証されている食事を出すはずだ。

となると、加工のしにくい缶詰が理想的。
船の中にあるスーパーマーケットや食料品を取り扱っている店から持ってくるかもしれないし、非常食として常備している物が出されるかもしれない。
腹立たしいが、マニーの判断は英断と評価するに値する。
ジュスティアの海軍が介入する前に舞台を整える必要が有るため、残された時間は十二時間ほどだろうか。

チャンスは一度だけ。
何も毒にこだわらなくても別の方法もあるが、確実性が欲しいのだ。
探偵達よりも聡明な二人を確実に殺す、確かな方法が。
焦らずに方法を考え、答えを出せばいい。

二人を屠れる方法を模索しながら、その人物は職務にあたっていた。

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 └t'´   l l
   l    l l_..._
   r'"二ニつL /
   ', V'" ̄二つ
   ヽ/ /  ノ〉
    L / / /
                ‥…━━ August 5th PM15:20 ━━…‥
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第三ブロック長ノリハ・サークルコンマは一階にあるブロック長室の書斎で、オイルライターの蓋を開いては閉じて、考え事に耽っていた。
犯人と目される第一ブロック長、ノレベルト・シューの目的をひたすらに考えていたのだ。
何故ハワード・ブリュッケンを惨殺し、警備員詰め所を襲い、その様子を流したのか。
よくある復讐が理由ではないだろうと、ノリハは考える。

復讐なら、事態が大きくなる前に片付けているだろう。
わざわざ映像を流す必要はどこにもないはずだ。
目的は映像を流し、その先にあるものだろう。
混沌を愛する迷惑極まりない思想犯か、それとも別の目的を持った人間なのか。

ノリハはノレベルトとは仲がよく、彼女がこんな下らないことに時間を割く人物だとはとても考えられなかった。
最後に会った時、彼女はいつもと変わらない様子だったが、少しだけ浮ついていたような気もする。
慣れない化粧までしていたから、当時の様子をよく覚えていた。
異性に会うような、そんな感じだ。

329名も無きAAのようです:2014/02/11(火) 20:25:50 ID:1gkL/Ud60
だが探偵としての生活が長すぎて、混乱と恐怖を愛する人間と化した可能性はゼロではない。
そう考え始めると、可能性は次から次へと溢れ出た。
可能性に思考を制限されることほど愚かなことはない。
頭を振って、湧き上がる可能性を一度消した。

ブロック長として、ノリハはこの事件解決の補助をする義務があった。
リーダーとは、率先して困難に挑むもの。
困難とは、考えて挑むもの。

ノリパ .゚)「……むむ」

とは言っても、ヒントは無いに等しい。
限りなくゼロに近い数字から、一を出さなければならないと思うと、それは最早彼女の技量を超えていた。
犯人の思惑よりもまず考えなければならないのは、犯人の居場所だ。
これ以上の被害者を増やさないためにも、今も船の何処かにいる犯人を捕らえなければと云う思いが彼女を苛んだ。

折角、マニーが整えてくれた舞台なのだから、それを活用しない手はない。
第三ブロックとしての方針は決まっている。
極力危険から遠ざかった位置で静観し、機会を伺って介入する。
では、他のブロックはどうだろうか。

犯人の特定と捕獲を急ぐブロックがあるとしたら、間違いなく第一ブロックだ。
最重要人物として今も負われているノレベルト・シューが統治していたブロックだけに、彼女の部下たちはプレッシャーに感じているはずだ。
襲われた“三銃士”は、犯人の顔を見て生きている数少ない人間だが、その顔が変装したものだと考えると、証言の力は弱い。
確かにノレベルトは変装が得意だが、戦闘技術に関しては中の中、といったぐらいのはずだ。

射撃と肉弾戦を駆使した戦い方は探偵試験では必要とされていないし、ノレベルトは体を使うのは苦手だとよく言っていた。
それを考えると、らしくない襲い方だった。
彼女が犯人ではない可能性も確かにあるが、彼女でなければ、一体、誰が犯人なのだろうか。
そうして時間が経つのを待っていると、机上に設置された無線機から、第二ブロック長オットー・リロースミスの声が聞こえた。

£°ゞ°)『お待たせしました、第二ブロック配給・返却完了しました』

ノリパ .゚)「ご苦労さまです。 これより第三ブロックも作業を開始します」

ジャケットを正して、席を立つ。
今は可能な限り乗客に顔を見せて、安心させることに努めることが彼女の義務だと考えを改めたのだった。

330名も無きAAのようです:2014/02/11(火) 20:26:30 ID:1gkL/Ud60
だが探偵としての生活が長すぎて、混乱と恐怖を愛する人間と化した可能性はゼロではない。
そう考え始めると、可能性は次から次へと溢れ出た。
可能性に思考を制限されることほど愚かなことはない。
頭を振って、湧き上がる可能性を一度消した。

ブロック長として、ノリハはこの事件解決の補助をする義務があった。
リーダーとは、率先して困難に挑むもの。
困難とは、考えて挑むもの。

ノリパ .゚)「……むむ」

とは言っても、ヒントは無いに等しい。
限りなくゼロに近い数字から、一を出さなければならないと思うと、それは最早彼女の技量を超えていた。
犯人の思惑よりもまず考えなければならないのは、犯人の居場所だ。
これ以上の被害者を増やさないためにも、今も船の何処かにいる犯人を捕らえなければと云う思いが彼女を苛んだ。

折角、マニーが整えてくれた舞台なのだから、それを活用しない手はない。
第三ブロックとしての方針は決まっている。
極力危険から遠ざかった位置で静観し、機会を伺って介入する。
では、他のブロックはどうだろうか。

犯人の特定と捕獲を急ぐブロックがあるとしたら、間違いなく第一ブロックだ。
最重要人物として今も負われているノレベルト・シューが統治していたブロックだけに、彼女の部下たちはプレッシャーに感じているはずだ。
襲われた“三銃士”は、犯人の顔を見て生きている数少ない人間だが、その顔が変装したものだと考えると、証言の力は弱い。
確かにノレベルトは変装が得意だが、戦闘技術に関しては中の中、といったぐらいのはずだ。

射撃と肉弾戦を駆使した戦い方は探偵試験では必要とされていないし、ノレベルトは体を使うのは苦手だとよく言っていた。
それを考えると、らしくない襲い方だった。
彼女が犯人ではない可能性も確かにあるが、彼女でなければ、一体、誰が犯人なのだろうか。
そうして時間が経つのを待っていると、机上に設置された無線機から、第二ブロック長オットー・リロースミスの声が聞こえた。

£°ゞ°)『お待たせしました、第二ブロック配給・返却完了しました』

ノリパ .゚)「ご苦労さまです。 これより第三ブロックも作業を開始します」

ジャケットを正して、席を立つ。
今は可能な限り乗客に顔を見せて、安心させることに努めることが彼女の義務だと考えを改めたのだった。

331名も無きAAのようです:2014/02/11(火) 20:27:49 ID:1gkL/Ud60
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一人の女性が、ベッドで苦しそうに寝返りを打った。
丹念に鍛え上げられ、贅肉を削いで引き絞られた健康的な肉付きの四肢。
古傷の上に真新しい傷を重ねた色白の肌には汗が滲み、毛並みのいい赤茶色の髪は湿って乱れていた。
整った顔は苦痛に歪み、泣き喚くように嗚咽を上げながらうなされていた。

ヒート・オロラ・レッドウィングは悪夢で目を覚ました。
全身が汗で濡れ、顔は涙でべたついていた。
最低の目覚めだった。
最悪の気分だった。

汗で額に張り付いた髪を後ろに流し、そのまま頭を押さえる。
腫れぼったい目をこすり、まだ残っている涙を拭い取る。
いつの間にか着せられていた寝間着は汗で濡れ、肌に張り付いていた。
膝にはタオルケットが一枚だけかけられていた。

ノハ;゚⊿゚)「……くそっ」

救えなかった過去。
変えられなかった現実。
それを思い知らされる夢だった。
ここ最近は見ることはなかったが、どうしてまた見たのか、ヒートには心当たりがあった。

また救えなかったからだ。
実行犯には逃げられ、一矢報いることも出来なかった憤り。
しかも、今回は手が出せた状況で救えなかった。
守ると決めたのに、それを果たせなかった。

ブーンが海に投げ捨てられた直後、ヒートは海に飛び込もうとした。
だが、デレシアがそれを止めた。
肩に痣が残るほど強い力で。
嵐の中でもはっきりと聞き取れる声で。

ζ(゚−゚ ζ『自殺したいなら、別の機会に一人でしなさい』

332名も無きAAのようです:2014/02/11(火) 20:28:39 ID:1gkL/Ud60
そしてヒートの視界はブラックアウトし、今に至るというわけだ。
おそらく、デレシアがヒートを気絶させてここまで運んだのだろう。
そうでなければ、ヒートは確実に海に飛び込んでいた。
そして溺れ死んでいただろう。

どのようにして気絶させられたかは分からないが、痛みは残っていなかった。

ζ(゚ー゚*ζ「起きた?」

傍でリンゴの皮を剥いていたデレシアが、そう声をかけてきた。
うなされる様子を見られていたのが、少しだけ恥ずかしく感じた。

ノハ;゚⊿゚)「……あぁ」

ζ(゚ー゚*ζ「リンゴ、食べる?」

蜜のたっぷりと入ったリンゴが皿に綺麗に盛られている。
ブーンの好きな種類のリンゴだ。
彼は硬く、噛み応えのある食べ物が好きだった。

ノパ⊿゚)「もらうよ」

一口で食べられる大きさに切られたそれを食べ、思考を冷やす。
リンゴは甘く、よく冷えていた。

ζ(゚ー゚*ζ「さて、ブーンちゃんのことだけど」

ノパ⊿゚)「……おう」

覚悟を決め、二人はブーンの話を始めた。
復讐の話を。

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                ‥…━━ August 5th PM16:57 ━━…‥
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

話が終わり、ヒートは改めてデレシアの恐ろしさを知った。
用意周到さ、聡明さ、そして容赦のなさ。
何が今の彼女を形作り、彼女を育て上げたのか。
彼女がどのような人生を送ってきたのか、ヒートには想像も出来ない。

333名も無きAAのようです:2014/02/11(火) 20:29:29 ID:1gkL/Ud60
時折見せる仕草は十代の少女のそれだし、碧眼の奥でちらつく深遠な雰囲気は老いた獣のそれに近い。
戦闘能力は人間離れしていて、警察の執行部や凄腕の殺し屋が束になっても勝てないことを如実に語っている。
銃の使い方はもちろんだが、肉弾戦も達人の域にある。
二十代半ばにしか見えない彼女の容姿の中に詰まった謎は、深海よりも深淵に近い。

デレシアによって犯人が明らかにされた時、ヒートはその推理力に感服した。
そして犯人が判明したからこそ、悟られずに進める復讐の計画が必要だった。

ζ(゚ー゚*ζ「今後の方針としては、さっき話した通りよ」

ノパ⊿゚)「りょーかい。 で、あたしが寝てる間に何があったんだ?」

ζ(゚ー゚*ζ「はい、これ」

そう言って渡されたのは薄いマニュアルだった。
きちんと付箋が張られていて、ヒートはそのページを見た。
ハザードレベル5の項目に蛍光ペンで線が引かれている。

ノパ⊿゚)「……へぇ、市長もやるねぇ」

ζ(゚ー゚*ζ「そうね。 先代の市長よりも優秀よ」

その時、訪問者を告げるベルが鳴った。
ヒートは咄嗟に自分の銃を探した。
布団の中を探すが、銃がない。

ζ(゚ー゚*ζ「枕の下」

ノパ⊿゚)「ありがとよ」

枕の下に手をやると、触り慣れた柔らかい皮の感触。
タオルケットを胸元まで引き寄せ、ホルスターに入った二挺の銃をその下に隠す。
カーキ色のローブを着たデレシアが玄関に向かい、インターホンに出た。

ζ(゚ー゚*ζ「オアシズの職員の方?」

返ってきたのは、女性の声だった。

「はい、お食事とお預かりした棺桶を返却に」

デレシアは扉を開き、職員を出迎えた。
食事の乗った網棚と青色のコンテナを牽引する電気自動車の前に、ベッドから窓に反射した姿を見る限りで三人。
スーツとアサルトライフルの男。
同じ装備と服装をして、仮面を被った人物。

そして、第三ブロック長ノリハ・サークルコンマだった。

ノリパ .゚)「このたびは本当にご迷惑をお掛けして……」

334名も無きAAのようです:2014/02/11(火) 20:30:16 ID:1gkL/Ud60
多忙だろうに、客の前に出てきて謝罪をするとは何とも殊勝な心がけだ。
流石に、ブロック長として任命されただけあって、責任感と覚悟がある人物の様だ。

ζ(゚ー゚*ζ「ご苦労さまです。 お気になさらないでください、やった人間が悪いだけのことですから」

ノリパ .゚)「こちら、本日の昼食、夕食、明日の朝食の合計三食分となります。
     飲み物については、冷蔵庫の中に入っている物を無料でお飲みいただけます。
     どうしても足りない場合は、大変申し訳ありませんが水道水で我慢して下さい」

三人分の食事が入った大きなクーラーボックスを受取り、それを足元に置く。
仮面の男がコンテナから、黒塗りの運搬用コンテナを運び出し、コンテナの下部に内蔵された車輪を使って部屋の前に持ってきた。
ヒートの使用するAクラスの棺桶“レオン”だ。

ノリパ .゚)「確かにお返しいたします」

ζ(゚ー゚*ζ「確かに受け取ったわ」

ノリパ .゚)「それと、こちら。
     第一ブロックのお客様からお預かりしてきました。
     黒髪の、若い女性の方からです。
     もし心当たりがないのでしたら、こちらで保管いたしますが」

ペーパーバックサイズの封筒だ。
中身は手紙だろうか。

ζ(゚ー゚*ζ「あら、わざわざありがとう。
      受け取らせていただくわ。
      あぁ、そうだ。
      マニーさんにこう伝えておいてもらえるかしら?

      “マカロニ四本食いの癖はもう直ったのか?”って」

ノリパ .゚)「はぁ、かしこまりました」

棺桶とクーラーボックスを室内に入れたデレシアは、改めてノリハ達に一礼して、扉を閉めた。
オートロックが作動し、デレシアがチェーンを掛ける音が聞こえた。

ζ(゚ー゚*ζ「ヒートちゃん、棺桶返ってきたわよ」

ノパ⊿゚)「おう。 ところで、四本食いって何の話だ?」

ζ(゚ー゚*ζ「マニーは昔、マカロニが料理に出るとフォークの先っちょに、四本突き刺して食べていたの。
      だから四本食い」

ノハ;゚⊿゚)「……やっぱ、あれか、知り合いなのか?」

ここまで来たらもう驚かない。
デレシアの交友関係は老若男女を問わず幅広い。
となれば、オアシズの現市長と知り合いでもなんら疑問はないのである。

335名も無きAAのようです:2014/02/11(火) 20:32:01 ID:1gkL/Ud60
ζ(゚ー゚*ζ「まぁね。 ただ、あの言葉がマニーの耳に入れば私達の計画が動かせるわ。
      いつまでもやられっぱなしじゃ、性に合わないもの」

ヒートは改めて、デレシアの恐ろしさを認識したのであった。

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                ‥…━━ August 5th PM21:01 ━━…‥
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正義の都、ジュスティアは依然として嵐の中にあったが、その勢力は弱まっていた。
嵐が最も勢力を増した時でさえ、海軍の持つ格納庫中に収められた船を動かすことは出来なかった。
P26と書かれた格納庫にある、最新鋭の高速戦闘艇“マリンシェパード”五隻の船の前に整列する海上用戦闘服に身を包んだ男四十二名は皆、沈黙を守っている。
そしてそんな男達の前に立つ男、カーリー・ホプキンス少佐が彼らの指揮官だ。

肩から袖に走る赤と白のラインは、指揮官用の戦闘服の証拠。
それは敵の注意を上官に集中させるための工夫だ。
ジュスティア軍人は死を恐れない代わりに、仲間の死を恐れる。
戦場で最初に死ぬのは最も優しい人間である、と云う言葉を掲げる軍ならではの工夫と言える。

「諸君、これより状況を開始する」

上官の声に男達は敬礼で返し、無言の内に船に乗り込む。
電気で駆動する船のエンジン音は静かで、五隻集まっても外の音よりも静かだった。
しかし、それよりも静かに動く男達よりも、更に静かな男が一人いた。
ホプキンスは最前の船に乗り、操舵室の下にある船室にいる先客に一言声をかけた。

「刑事さん、もう引けませんよ?」

船室で腕を組んで毛布に包まっていた男は顔を向け、上機嫌そうに返答する。
この男こそ、格納庫内で最も静かな男。
トラギコ・マウンテンライトである。

(=゚д゚)「誰が気遣ってくれって言ったラギ?
    あぁそれと、キッチン借りてるラギよ」

この戦闘艇の船室は思いのほか広めに作られている。
壁と天井は防弾に優れた軽量合金製。
床は柔らかな素材で作られ、簡易キッチンにトイレ、作り付けの二段ベッドが四つある。
十人の使用を前提に作られただけあり、広さは申し分ない。

トラギコの乗る船には彼とホプキンスを含めて九人の海兵がいた。

「お好きにどうぞ。 ただ、しばらくの間は揺れますよ」

336名も無きAAのようです:2014/02/11(火) 20:33:34 ID:1gkL/Ud60
(=゚д゚)「お湯がありゃあ十分ラギ」

船が発進する前に、トラギコはヤカンに水を注いで電子コンロに乗せてスイッチを入れていた。
荒波にもまれる中で沸騰させれば、船内はシュールな地獄絵図と化す。
トラギコが船内に持ち込んだのは、五百ミリリットルの液体を入れることの出来る魔法瓶が一つ。
銀色のアタッシュケース――携帯に特化した強化外骨格――の二つだった。

後の物は身に付けており、船に置くことはしなかった。
嵐でどこかに行っては事だからだ。
湯を沸かすトラギコに、黒い目出し帽を被った兵士が問う。

(::0::0::)「何を作るんですか?」

(=゚д゚)「あ? 興味あるのか?」

(::0::0::)「えぇ」

(=゚д゚)「味噌汁って知ってるか?」

彼の言葉に首を傾げた男は、近くにいた仲間を見る。
しかし首を横に振るだけだ。
同じようにして男達で奇妙なリレーが行われるも、結局、誰も首を縦に振らなかった。
驚くべきことに、ホプキンスも知らなかった。

ここにはジュスティア料理が美味いと信じている舌の狂った奴しかいないのだと考えると、頭痛がしてきた。

(;=゚д゚)「……じゃあ、少しだけ分けてやるよ。
    お湯が沸くまで待つラギ」

情けない話だ。
だからジュスティアは嫌いなのだ。
外部の事件に関わる中で一番の恩恵は、やはり食事なのだと実感させられる。
週に一度は酢と塩味以外の料理を味わう機会を義務化すべきだと、本気で思う。

船が静かに動き出した。
前方の様子は船室からでは分からない。
音と揺れ。
この二つを頼りに現状を推測するしかない。

先頭を行く船が大きく持ち上がり、そして下がった。
波だ。
となると、格納庫の扉が開いたのだろう。
徐々に船が進む感覚を得て、トラギコは嵐の中に船が飛び出したのだと理解した。

心配事は沈没よりも湯が飛び散らないか、という点にあった。
幸い、湯気はすぐに上がってくれたので、それは杞憂に終わった。
コンロのスイッチを切り、湯を魔法瓶に注ぐ。
必要な分の湯しか沸かさなかったから、余って二次災害を呼ぶこともない。

337名も無きAAのようです:2014/02/11(火) 20:34:51 ID:1gkL/Ud60
ヤカンを元あった場所に戻し、トラギコは魔法瓶に蓋をする。
そして、何度が上下に振って中をよく混ぜる。

(::0::0::)「何をしているんで?」

(=゚д゚)「ジュスティア人には一生分からんことラギ」

後は小腹が空くのを待つだけだ。
船の揺れがひどくなる前に、トラギコは魔法瓶を抱えて毛布に包まり、ベッドの一段目に寝転んで背を向けた。
起きていても得られる情報はたかが知れている。
瞼を降ろし、トラギコは誰とは特定せずに質問をした。

(=-д-)「おー、到着予定は?」

(::0::0::)「三時間後を予定しています」

(=-д-)「あいよ」

(::::0::0::)「……寝るのか?」

先ほどまで会話していたのとは別の人間だ。
随分と若い声だ。
どことなく中性的な声をしている。
ジュスティアの人手不足もここまで深刻化したと考えるべきか、それとも、ジュスティアの若い人間もかなり優秀になったと考えるべきなのか。

判断に困る。

(=-д-)「なんだ? 一緒に寝るラギか?」

(::::0::0::)「そうしよう。 誰も邪魔するなよ」

有無を言わせず、その若者はトラギコと同じベッドに入ってきた。
トラギコの包まっていた毛布に無理矢理手足を侵入させ、手足を密着させて来る。

(;= д ) ゚ ゚「フォッ?!」

驚いて変な声が出る。
偶然乗り合わせた同性愛者が周囲に構わず襲ってくるなど、人生の可能性に入れていなかった。
が、背中に感じた感触を認識して状況認識を改める。
こいつは、女だ。

ホプキンスの嫌がらせだろう。
こんな手を使って意趣返しをしてくるとは、ジュスティア軍人もつまらない物になり下がったものだ。
ここでトラギコが動揺してはじき返そうものなら、それを見て笑いの種にするつもりだろう。
そうはいかない。

こちらは伊達に幾つもの修羅場を潜ってはいない。
追いすがる美女はいなかったし、結婚を迫る女もいなかったが、女性経験はゼロではない。
この程度で動揺を見せては、後で恥になる。
黙殺を決め込み、トラギコは一時間の仮眠を取ることにした。

338名も無きAAのようです:2014/02/11(火) 20:35:36 ID:1gkL/Ud60
だが、決して油断だけはしないように努めた。
例えばその手が懐の拳銃に伸びたり。
例えばその手が魔法瓶に伸びたり。
例えば、その手が“あの鍵”に伸びたりしない様。

トラギコは瞼を降ろしてはいたが、眠りには落ちなかった。

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                ‥…━━ August 5th PM21:57 ━━…‥
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突然差し入れられた箱には、銀紙に包まれた楕円形のチョコレートと共に小さな手紙が入っていた。
手紙には、この状況下でも落ち着いて行動していこう、と云う旨が書かれている。
チョコレートを摂取して気を休めろ、と云うことなのだろう。
どこの誰だか知らないが、ありがたくそれを食べることにした。

ただ食べるだけでは味気がないので、紅茶を淹れる準備を始めた。
ポットに茶葉を三杯入れ、沸騰したミネラルウォーターを注ぐ。
直ぐに赤茶色が染み出るが、まだまだだ。
蓋をしたポットを放置し、カップに湯を入れ、しばし待つ。

後は風呂に入っている相方を待つばかり。
何の気なしに窓の外に目をやると、穏やかな水面に浮かぶ半月が目に入った。
船は無事に嵐を抜け出たのだ。
これで、状況は前よりも遥かに良くなった。

嵐の中では、逃げようにも逃げられない。
事態の好転は望ましいことだった。
風呂の扉が開いた音がした。
どうやら、風呂から出てきたようだ。

湯冷めをしない内に夜の茶会と洒落込もう。
カップの湯を捨てて、そこに紅茶を注ぐ。
二人分の紅茶をテーブルに乗せて、その中央にもらったチョコレートを置いた。
見てくれは悪いが、まぁ、いいだろう。

寝巻き姿の相方が向かい側に座り、船旅の安全を願って乾杯をした。
紅茶を一口啜ると、腹の底から安堵の息が漏れる。
続いて、銀紙を剥いてチョコレートを一口で口の中に入れる。
ほろ苦い風味が気分を――

339名も無きAAのようです:2014/02/11(火) 20:36:51 ID:1gkL/Ud60
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               {三三三三三三三カ
           Y⌒,ー=======孑ヘ、
          八_/          _j_}
          /¨/三三三三三三三爿
            / ,仁三三三三三三三カ
.           / /|三三三三三三三三{|
                ‥…━━ August 5th PM22:15 ━━…‥
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乗り合わせた海兵たちの会話から有益な情報は何一つ、手に入らなかった。
少しは話すのかと思えば、会話一つない有様だ。
背中に張り付いた海兵を引き剥がし、トラギコ・マウンテンライトはベッドから出る。
この一時間弱で波に揺られることに体が慣れたおかげで、船酔いにはならなそうだ。

壁に背を付けて、トラギコは魔法瓶の蓋を開けた。
温かい蒸気と共に、味噌のいい香りが立ち上る。
その香りに気付いたのか、隣にいた男が興味深そうに中を覗き込む。

(=゚д゚)「美味そうだろ?」

(::0::0::)「本当に美味しそうな匂いですね。
     これは何の匂いなんですか?」

(=゚д゚)「へっへー、これが味噌って調味料の匂いラギ」

船室で休んでいた男達が、ぞろぞろとトラギコの周りに集まってくる。
皆口々にこの香りを絶賛している。
いい傾向だ。
塩と酢以外の味が世界にあることを教えてやらなければ。

(=゚д゚)「ま、飲んでみろラギ」

この魔法瓶の蓋は、カップにもなる。
そこに揺れで零れ落ちない量を注ぎ、隣の男に手渡した。
男はマスクを鼻までめくり上げ、息で冷ましながら一口飲む。

(::0::0::)「……すずっあぁぁ……ぁふぅっ……」

感想を口にせずとも、何と感じたのかはその声だけで分かった。
二口目を飲み、三口目を飲もうとする男の手から、別の男が奪って飲む。
後ろからのそりと起き上った例の少女も同じようにして味噌汁の列に加わった。
そして次々に味噌汁が飲まれ、トラギコが注いだ分は船室にいた人間だけで無くなった。

操舵室にいるホプキンスともう一人の海兵には後で持っていくだけの余裕がなさそうだったので、トラギコはキッチンの戸棚から紙コップを拝借し、そこに注いだ。
今回の味噌汁はインスタントの味噌汁を使ったため、非常に質素だ。
薄く小さな豆腐が少々と平べったい万能ネギ、それとワカメ。
しかしトラギコの一工夫によって、乾燥ワカメが増量され、厚く切った歯応えのあるネギがたっぷりと入っていた。

340名も無きAAのようです:2014/02/11(火) 20:37:56 ID:1gkL/Ud60
数ある味噌汁の具の中で、トラギコはネギが好きだ。
最も簡単で、そして最も歯応えがあって健康にいいからである。
後は油揚げが入っていれば文句はないのだが、生憎、ジュスティアのスーパーマーケットでは品切れだった。
インスタント味噌汁が置いてある店舗は一店だけという恐るべき状況を、トラギコは知っていた。

夜の九時に嵐の中オアシズを追って出発したとして、追いつくにはどれだけ早くとも四時間は必要だ。
そうすると、船内で小腹が空くのは予想できる。
ジュスティア軍人がよもや夜食を用意してくれるなど期待しておらず、トラギコは自主的に用意することにしたのだった。
水筒に袋二つ分のインスタント味噌汁を入れておき、そこに刻んだネギを入れておくだけ完成だ。

(=゚д゚)っ凵「これ、上に持って行ってほしいラギ」

(::0::0::)「了解」

少しだけ乗車賃のつもりで具を多めに注いでやり、それを操舵室に持って行かせた。
トラギコの元に戻ってきた蓋に味噌汁を注ぎ、早速一口飲む。
寝起きの口、喉、胃袋にじわりと広がりながら下って行く熟成された塩味と独特の風味。
舌の上に感じる小さなネギの存在と、鼻から抜けていく汁に染み出た具材と味噌の芳醇な香り。

もう一口啜る。
大きなネギが幾つか口の中に入った。
甘口の味噌がネギによく合う。
シャキシャキとした噛み応えのそれを堪能しながら汁を啜り、汁を吸ったネギの風味と辛みと若干の甘みを楽しむ。

具の袋を豆腐にしたのも正解だった。
小さいがこれも汁をよく吸い込んで良い食感になる。
勿論、増量したワカメも忘れてはならない。
絶妙な塩味を付け加えるだけでなく汁全体に豊かな香りを付け足す存在だ。

一息つき、トラギコは水筒を回した。
水筒の壁面に張り付いていたワカメが剥がれ、具が汁の中心に寄る。
そこをすかさず啜る。
大量の具が一度に口に収まり、贅沢な食べ応えに舌鼓を打つ。

味噌汁のいいところは夏場で失われがちな塩分を取れる点と、疲れた体を癒す点にある。
働く男には何ともありがたい料理なのだ。
残った汁を飲み干そうとした時、物欲しげな目で見る海兵がいた。
先ほどの少女だ。

(::::0::0::)「なぁ」

(=゚д゚)「あん?」

(::::0::0::)「それ、もっとくれないか?
      実は晩飯を食べ損ねてさ」

(=゚д゚)「……海兵なのに、か?」

341名も無きAAのようです:2014/02/11(火) 20:39:13 ID:1gkL/Ud60
妙だ。
海兵と云うよりも軍には食堂がある。
オートミールなど食欲を減退させるラインナップで兵士からは不評だが、基地内で訓練後や出動前に食事が出来る場所はそこしかない。
こいつは出動前にもかかわらず、食堂に行かなかったと言っているのだ。

いつまた食べられるか分からない職をしている自覚がないのか。
それを認識させてやるために、トラギコはわざと聞こえるように鼻で笑って味噌汁を飲むことにした。

(=゚д゚)「あああ!! うめぇ」

(::::0::0::)「……くっ」

マスクの下から悔しそうな声が聞こえた。
いい気味だ。
からかい甲斐のある反応だった。

(=゚д゚)「いいか若造、覚えとけ。
    俺らみたいな職業はな、いつ食えなくなるか分からねぇラギ。
    だから、食える時に食わなかった手前がいけねぇラギ」

(::::0::0::)「知ってる」

(=゚д゚)「なら、今がその時だってのも分かるラギか?」

(::::0::0::)「分かってる。 分かった上での頼みだ。
      正直言うと、空腹なわけじゃないんだ。
      世辞抜きに、あんたの味噌汁は美味い。
      だからもっと飲みたいんだ」

ジュスティア人にしては珍しく正直だ。
総じて矜持の高い彼らは、自分達の料理以外をあまり受け入れないし認めない。
正直は良いことだ。
裏を読んだりする面倒を省いてくれる。

(=゚д゚)「そらどうも。 だけど俺はシェフじゃないラギ。
    ……次からは手前で作れ。
    そんなに難しい料理じゃねぇラギ」

ずい、と水筒を差し出す。

(=゚д゚)「フォークを使って食うといいラギ。
    そうすりゃ、ネギもワカメも残さないで済む」

342名も無きAAのようです:2014/02/11(火) 20:40:49 ID:1gkL/Ud60
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                ‥…━━ August 6th AM00:37 ━━…‥
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リッチー・マニーは提出された報告書を見て、サインをするために手にした十五年間使用してきた万年筆を折ってしまった。
愛着ある一本だったが、今はその感傷に浸るどころではない。
新たに若い女性二人が犠牲となった。
それも、毒殺だ。

¥;・∀・¥「どういう事だ、これは?」

声は怒りに震えている。
探偵は、警備員は、そこまで無能なのか。
自分が過大評価しているだけで、その実、張子の虎以下なのだろうか。

¥;・∀・¥「説明してくれ、第三ブロック長ノリハ・サークルコンマ。
       君の考えが私によく伝わるようにだ」

ノリハ;゚ .゚)「はっ、そこの部屋の食事には異常ありませんでした。
     ですが、検出された毒物は我々の提供外の食事、チョコレートに含まれていました」

¥;・∀・¥「チョコ?」

確かに、報告書にはそのように記されている。
チョコレートの表面に塗られたヒ素が死に直結していると書かれているが、こちらではチョコレートの提供などしていない。
提供した食事は安全性第一に考えて選ばれ、毒が混入されればすぐにでも分かる仕組みだ。
それを逸脱した食品が提供された理由とは。

ノリハ;゚ .゚)「はい、そちらの部屋に届けてほしいと頼まれまして」

¥#・∀・¥「この緊急事態に、よくもそんな願いを聞けたもんだ!!」

流石のマニーも、その緊張感の無さに呆れかえり、そして激怒した。
ノリハ・サークルコンマはこんな無能だったのか。
食品以外ならまだしも、食品を渡すとは危機感がなさすぎる。

ノリハ;゚ .゚)「それが……」

¥・∀・¥「……なんだ」

ノリパ .゚)「警備員に頼まれたのです、警備中の」

343名も無きAAのようです:2014/02/11(火) 20:42:28 ID:1gkL/Ud60
¥;・∀・¥「警備員……だと……?」

客同士なら愚か極まりない判断だが、警備員が頼むとなると、話がこじれる。
その警備員が特定の客に対して毒を持ったと云う事になる。
ならば、計画性のある殺人だ。
この状況で殺人をする人間となると、どう考えても、一連の事件を起こした犯人に結び付く。

こちらの懐の奥深くに潜りこまれている。
背筋に寒気が走った。

ノリハ;゚ .゚)「はい。 第二ブロック七階にいたソルフェージュ・ランブランという男が、第二ブロック長の依頼で受け取った、と言って……
     カードも所持していて、スキャンしたら実在の人物であることも分かりましたので……」

マニーはすぐに視線を隣のオットー・リロースミスに向ける。
作業中に誤って負傷したという右手には、真新しい包帯が巻かれている。
彼は微塵の動揺も見せず、首を横に振った。

£°ゞ°)「全く存じません。
      ……そもそも、そのような男、警備員の中に本当にいるのですか?
      データを改ざんしたとか」

¥・∀・¥「“ホビット”、報告しろ」

仮面をつけたままの探偵長“ホビット”は、小さな体をより一層小さく萎縮させた。
哀れだとは思わない。
マニーはこの男にそれなりの報酬を払っているのだ。
オアシズで起こった事件を何一つとして解決していないこの男の処遇を、今ここで決めても何ら問題ではない。

(<・>L<・>)「はっ、そのソルフェージュ・ランブランという男、確かにおります。
       ですが事件後、トイレに行くと言って姿を消しており――」

¥・∀・¥「捜索中、と」

(<・>L<・>)「情けない話ですが。
       しかし、これで犯人が第三ブロックにいることが分かりました」

¥・∀・¥「……情けないを通り越して糞くらえだ」

マニーはこれ以上、ホビットの顔を見たくなかった。
秘匿性を保つための仮面が、道化のそれにしか見えないのだ。
この男にかかれば左耳に付けたインカムでさえ、ただのアクセサリー以下の価値しかもたない。
書類に目を落としはするが、それを読むだけの気力が今はない。

(<・>L<・>)「……いくつか、ご報告があります」

¥・∀・¥「あ?」

(<・>L<・>)「まずはたった今入った情報です。
       消えた銃弾が発見され、線条痕の検査もできました」

344名も無きAAのようです:2014/02/11(火) 20:43:11 ID:1gkL/Ud60
¥・∀・¥「誰の銃だったんだ?」

(<・>L<・>)「第一ブロック長、ノレベルト・シューの銃から発射された物であると断定しました」

やはり、としか言えない。
それだけに、その答えが出たところでマニーは感動も関心もしなかった。
そんなちっぽけな事を追う暇があるのだと、思わず表情に出して呆れたぐらいだ。

(<・>L<・>)「続いて、水中作業用強化外骨格が一機盗まれていることが分かりました。
       種類はBクラスの“ディープ・ブルー”。
       タイミングから考えると、犯人が逃亡用に奪取したと思われます」

¥・∀・¥「保管場所は?」

(<・>L<・>)「襲撃された詰所です。
       ロッカー室と武器庫の鍵が開錠されていました。
       残されていた入室履歴を見ると、部屋への侵入と武器庫の開錠にはサイタマ兄弟のカードが使用されています。
       ただ、奇妙な点が」

苛立ちを表に出さないように努め、マニーは続きを待った。

(<・>L<・>)「一度、武器庫とロッカー室は施錠されています。 もちろん、サイタマ兄弟のカードで。
       ですがその後、もう一度開けられた履歴がありました。
       その際の開錠にはカードが使われておらず、開いた、と云う履歴だけが残されていたのです」

¥・∀・¥「つまり、要約すると?」

(<・>L<・>)「襲撃犯とは別の人間が、事件後にあの場にいた可能性が非常に高いのです。
       単独犯ではないと――」

そこで、マニーの堪忍袋の緒が切れた。
今、目の前で述べたことは推理ですらない。
この男は報告しただけだ。
進展も望めない情報を口にしただけ。

手の中で砕けた万年筆をホビットの仮面に投げつけた。

¥#・∀・¥「それがどうした!? だからどうした!?
       貴様は探偵だろう!!
       少しは頭を使って、この事件をどうにかしようとは思わないのか!?
       盗まれた物云々よりも、犯人の居場所と目的を考えられないのか!?

       警備員の中に紛れている犯人を捜そうとはしないのか!?」

(<・>L<・>)「現在、優秀な探偵が全力で捜査に当たっています。
       今しばらくお待ちください」

¥#・∀・¥「お前が言うんだ、さぞかし優秀なんだろうな。
       期待しすぎて心臓発作を起こしそうだよまったく!!
       全員さっさと持ち場に戻れ!!」

345名も無きAAのようです:2014/02/11(火) 20:43:41 ID:DFRLEcIUC
おお、来てる!

支援

346名も無きAAのようです:2014/02/11(火) 20:43:55 ID:1gkL/Ud60
手を振って報告に集まった人間とブロック長を持ち場に帰す。
このまま彼らといたら、冗談でなくストレスで心臓がどうにかなりそうだ。
激昂するマニーの前に、残った者が一人いた。
第二ブロック長のノリハだ。

¥#・∀・¥「なんだ?」

ノリパ .゚)「……お客様からご伝言です。
     “マカロニ四本食いの癖は直ったのか”、と」

その言葉に、マニーは一瞬怒りを忘れた。
ラヘッジですら知らない、マニーの過去。
幼少期によく叱られた四本食いの癖の事を知っているのは、父と母、そしてある人物だけだ。

¥;・∀・¥「いいか、よく思い出して答えてくれ。
       その客は、どんな人だった?」

ノリパ .゚)「とても綺麗な金髪の女性でしたが」

間違いない。
マニーの知る人物の特徴と一致している。

¥;・∀・¥「その人はどこにいる?」

ただならぬ雰囲気に、ノリハは少し気圧されながらも答えた。

ノリパ .゚)「事件のあった第三ブロック801号室の隣、802号室です」

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その人物は痛む右手を押さえ、部屋に向かって歩いていた。
負傷したのが右手で幸いだった。
周囲には事故でと説明したが、誤魔化せなくなるのも時間の問題だろう。
現場に居合わせた者の口をいつまでも塞げるとは思えない。

全ては自分の油断が招いた結果だった。
大丈夫だろうと思い上がり、警戒をおろそかにした結果がこれだ。
彼はどうにかして、この問題を解決しなければならなかった。
これは自分の責任だ。

(,,゚,_ア゚)「お疲れ様です、具合はいかがですか?」

347名も無きAAのようです:2014/02/11(火) 20:45:00 ID:1gkL/Ud60
道中、知り合いが声をかけてきた。
考え事が顔に出ないように努め、返事をする。

「少し痛むが、大丈夫だ。
利き手じゃなくてよかったよ」

(,,゚,_ア゚)「何かお手伝いできることがあれば、何でも――」

「じゃあ、今君が受けている指示を全力で果たしてくれ。
それが、一番の手伝いだよ」

それは本音だ。
彼らが全力で職務に当たってくれれば、それだけこちらの負担が減る。
負担が減った分、密かに動くだけの時間が得られる。
その後、道々で警戒している部下達に軽く労いの言葉をかけつつ、部屋に戻った。

部屋の扉を閉め、チェーンを掛け、飲料用冷蔵庫に足を向けた。
飲み物が詰まった冷蔵庫からよく冷えたコーラの瓶を取出し、歯で蓋を開ける。
刺激の強い液体を一気に飲み干し、気分をリフレッシュさせる。
夜は明け、嵐を抜けはしたがまだ状況は悪いままだ。

ここから状況を一変させるには、相手の出方と思惑を理解しておく必要がある。
眠気を抑えきれずに、瞼を降ろす。
人差し指と親指で鼻の付け根を押さえ、疲労が目に来ていることを自覚した。
それを誤魔化すために、新たなコーラを取り出して一口飲む。

キッチンに瓶を置き、冷凍庫から袋に入ったミートソーススパゲッティを電子レンジに入れ、温める。
食事をする時間があれば、もっとまともな物を食べたかった。
冷凍食品は総じて不味くもなければ美味くもないのだ。
電子レンジが低い唸りをあげる中、スーツを脱いでハンガーにかけ、ホルスターを机の上に置く。

服装には気を遣わなければならない。
どれだけ忙しくても、スーツの皺は心の皺だと云う考えが彼の中にある以上、それを蔑ろには出来ないのだ。
下着一枚になり、凝り固まった体を伸ばす。
右手の傷が痛む。

この傷を負わせた者に相応の報いを与えることを誓う。


£#°ゞ°)「……許さんぞ、絶対に!!」


第三ブロック長オットー・リロースミスはそう口にして、左拳で壁を殴りつけたのだった。


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Ammo→Re!!のようです
Ammo for Reasoning!!編 第六章 了
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348名も無きAAのようです:2014/02/11(火) 20:46:45 ID:1gkL/Ud60
これにて第六章は終了となります。
支援ありがとうございました。

質問、指摘、感想などあれば幸いです。











































※現在作成中のゲームのイメージとなります。
もしよろしければご覧ください。
ttp://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_1480.jpg

349名も無きAAのようです:2014/02/11(火) 21:37:30 ID:hYH9FeTkC
昨日のVIPのやつの再投下だと思ってたら、VIPで19:00からやってたのね

350名も無きAAのようです:2014/02/12(水) 00:46:03 ID:EHL1CFagO
デレシアさん無双、期待してます

351名も無きAAのようです:2014/02/12(水) 09:26:39 ID:KDMuJ5WkC
乙!

ブーンどうなった?

352名も無きAAのようです:2014/02/13(木) 03:43:37 ID:1rYal672O
第二章一話目の女教師とノリハのAAが被ってる

353名も無きAAのようです:2014/02/15(土) 19:11:12 ID:gXHG1F2I0


ブーンの耳は垂れてるのか 何故か猫みたいなのを想像していた

354名も無きAAのようです:2014/03/01(土) 23:47:35 ID:0W69t5vI0
明日3/2日曜日にVIPでお会いしましょう!

355名も無きAAのようです:2014/03/03(月) 19:36:26 ID:Dz5RW/cY0
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Words to words. Voice to voice.
言葉と言葉。 声と声。

Eye to eye. Hand to hand. Skin to skin.
目と目。 手と手。 肌と肌。

Heart to heart.
心と心。

How can I convey my passionate feeling to my darling?
私の熱い想いを如何にして、最愛の貴方に伝えられるのだろうか?

                                     Cynthia・Penisus・Claudia
                                     シンシア・P・クラウディア

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            _/⌒ ̄⌒`´ ̄`〜ヽ'ー--、
           _/      ιυっ ̄~つyへつ
         /    フっιつ人´ / /つυ^っへ  っっ
       /   /つつ。o/ / / /  ^つっへυっつ
      _/     〉o°o。   。 / /  /°>つっっっつっっ
     /      \γ、。 o 。 /o。/ /つっっつっつ
__/           `⌒ヽっ/ 。/  / っつ) っつっつ
=/     っっ       τ-っつつっ、。|    つ  っつつつ
                 ‥…━━ August 5th AM11:35 ━━…‥
  つつっιつ) ⌒つっ)   っつっつ。 °|  °           o 。
  っつっo °。 υつ っ つっυ。o。°| ° °           °。
 っ\\っoっ。  °° つ。°°。o。o。\o。° 。°°。
  つっつ _o°°。 ° ° 。o/⌒\。 o\°°o  。
 )へ)つ\///`ー、_ ° °。_/    \°。\。 。°°
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荒れ狂う海。
嵐にかき回され、海底深くに沈殿していた泥が舞い上がり、晴天時には黒に近い群青色をしていた海は、今や墨汁の色になっていた。
一度落ちれば決して助からないことが、一目で理解できる色合い。
その海に浮き沈みする一人の少年がいた。

彼には犬の耳があり、尻尾があった。
彼の名は、ブーンと言う。
ファーストネームでも、ファミリーネームでもない、ただのブーン。
恩人に貰った名前を、彼はとても大切に思っていた。

(;∪´ω`)「げっ、げほ……」

356名も無きAAのようです:2014/03/03(月) 19:37:09 ID:Dz5RW/cY0
鼻から入った海水を吐き出し、一度息を吸っては、直ぐに海中に姿を消してしまう。
彼の視線の遥か先には巨大な船があった。
世界最大の豪華客船にして船上都市であるオアシズ。
そこから放り出された彼は、波に頭を掴んで海に引きずり込まれても尚諦めず、ひたすらに同じ行動を繰り返していた。

即ち、生きるための行動だ。
大粒の雨で霞む視界の先に見える小さくか細くなりつつある明かりを頼りに、彼は船を目指していた。
海面がどれだけ荒れていても、海中ではそれほど大きな揺れはない。
海岸近くや浅瀬でもない限り、海面よりも海中の方が安全だ。

そのことにブーンが気付いたのは、感動するほどの高波に飲まれた時だ。
暗い海中では体が左右に揺さぶられる程度の影響しかなく、波に殴られるよりも遥かに楽だったのである。
ヒート・オロラ・レッドウィングに泳ぎを教わり、デレシアに水を習ったおかげでこの状況でも苦も無く泳ぐことが出来た。
濁った海中で目を開けることは流石に難しく、天候の影響もあり海中から目標を目視することは不可能だった。

そこで酸素を取り入れることと目標の方角を確認するために、海面に顔を出していたのだ。
しかし、船はみるみる遠ざかるばかりで、到達は絶望的だった。
だが。
だがそれでも彼は泳いだ。

無理を承知でブーンは泳ぎ、抗っていた。
心が折れそうになる度に、これまでに出会った人の声が聞こえてきた。
女性も、男性も、本人の口から聞いたことのない言葉を喋るのだ。
代わる代わる、ブーンの耳元で、脳の奥で、何度も同じような言葉が木霊する。

――諦めるな、と。

その言葉が幻聴であることは分かっている。
そんなことは、知っている。
諦めたらそこで何もかもが終わることも承知している。
だからブーンは抗っているのだ。

水は怖くなかった。
溺れて死ぬことは嫌ではなかった。
怖いのは諦める事だった。
嫌なのは諦めて死ぬことだった。

(;∪´ω`)「ぷはっ……!!」

不意に、何かの気配を感じた。
何か、静かな気配が近づいてきている。
それは、前方の海中から感じ取れた。
一定の距離を保ち、こちらの動向を観察しているような、その気配。

海中から、何かがこちらを見ている。
恐ろしいという思いもあったが、それで怖気づくわけにもいかなかった。
息を吸い込んで海中に潜り、腕を動かし、足を動かして泳ぐ。
が、突如として体が一気に力を失った。

357名も無きAAのようです:2014/03/03(月) 19:38:18 ID:Dz5RW/cY0
四肢の付け根から力が染み出したかのように抜け落ち、言うことを聞かない。
全力で泳ぎ続けたことによる影響と体が冷えていることが原因だと、その時になって気が付いた。
浮上するだけの体力もなく、成す術もない。
軽いパニックに陥り、ブーンは残り少ない酸素を全て吐き出してしまう。

最後の力を振り絞って吐き出した言葉は泡となって、海に溶けて消えた。

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厳戒態勢のオアシズ内は寝静まり、極めて小さな音量で流されるクラシック音楽が優雅さを演出している。
普段なら夜通し営業している居酒屋も、この時ばかりはシャッターを下ろさざるを得ない。
特に警備が厳重になっているのは、第三ブロックだった。
他のブロックの警備を行っていた人間を密かに移動させ、そこにいるとされている犯人の捜索を行っているためだ。

トイレ、排気口、人が隠れられる空間を虱潰しに探し、警備員同士の検査も同時に行われていた。
犯人の最有力候補であるノレベルト・シューは変装の達人にして、元探偵。
一連の犯行と逃亡手段が全て誰かに化けて行われていることから、まずは身内を疑うことになった。
変装を見抜くためにカードと顔の確認が行われ、第三ブロックで捜査に当たる全員が間違いなく本人であることが証明されている。

五分前、第三ブロックにオアシズ市長リッチー・マニーが足を踏み入れていた。
だが、彼は決して人目に付かないように気を付けていた。
第三ブロック長、ノリハ・サークルコンマに協力してもらい、返却予定の衣装ダンスの中に隠れて移動していた。
無事に目的の部屋まで運ばせ、そこでノリハと別れた。

部屋の主が荷物の封を切り、マニーに声をかけてきた。
それを合図に荷物から出て、その人物の顔を見るや否や、マニーは頭を垂れ、敬意を表した。
三十年以上の時を経ても、増すのは老いではなく美ばかり。
豪奢な金髪を持つ旅人、デレシアはそんな彼を静かに見つめている。

¥・∀・¥「お久しぶりです、デレシアさん」

ζ(゚ー゚*ζ「久しぶりね、マニー」

彼女が放つ慈母の様な雰囲気に、思わず屈してしまいそうになる。
だが今の彼には立場がある。
今の彼には目的がある。
マニーは再会の感動に浸るのを堪え、訪問の意図を明らかにした。

¥・∀・¥「現在、犯人はこのブロックに閉じ込めているそうです。
      ですが、一体誰が犯人なのか、皆目見当も付かなくて……」

358名も無きAAのようです:2014/03/03(月) 19:39:38 ID:Dz5RW/cY0
ζ(゚、゚*ζ「私の方で見当は付いているけど、確たる証拠がまだないのよ。
      それに、目的が分かっていない以上、迂闊な手出しは身を亡ぼすわ。
      先手を打たなければこの相手、潰せないわよ」

流石はデレシアだ。
限られた情報をこの短時間で分析し、もう犯人の目星をつけている。
彼女の助けになるようにと持ってきた資料を、マニーは衣装ダンスから取り出す。
厚さにして一インチ。

彼女の存在を聞いてから急いで纏めたものだ。
全ての細かな情報も洩れなく書き記し、事件解決の手がかりになればと思って作ったのである。
クリップで挟んであるのは、現場や証拠品、全関係者の写真だ。

¥・∀・¥「こちら側で手に入れている情報を書類に纏めてきました。
      何かの役に立ててください」

ζ(゚ー゚*ζ「……私に、事件をどうにかしてほしいの?」

マニーは頷いた。
その通りだった。
正直、探偵達は信用できない。
警備員も、警察も、だ。

糞の山の中から銃弾一発を見つけただけで喜ぶ輩が、この事件の全体像を見ることなど出来るはずがない。
そして、信頼できるのは船長のラヘッジ・ストームブリンガーだけだ。
しかし彼には事件を解決に導く技量はない。
だがデレシアなら。

デレシアなら、その両方をどうにか出来るだけの力がある。

¥・∀・¥「この船の探偵も警備員も、このままでは事件を解決出来るとは思えません。
      ジュスティアの警察も呼びましたが、彼らにもどうにもできないでしょう……
      この船の乗客を守るためなら、私は土下座でもなんでもします。
      デレシアさん、どうかご協力をお願いいたします」

マニーは深々と頭を下げた。
正直に言うと、万策尽きたのだ。
犯人が投じた事件で生じた波紋はあまりにも大きく、それは船と云う小さな街を滅茶苦茶にした。
最早、誰かに頼るしかなかった。

デレシアは沈黙したが、彼女の息遣いに続いて紙を捲る音が静かに聞こえる。
一分もしない内に、その音が止んだ。

ζ(゚、゚*ζ「……なら、まずやることがあるわ」

デレシアの声が、頭上から響いた。
顔を上げて、彼女の表情を窺う。

¥・∀・¥「とは?」

359名も無きAAのようです:2014/03/03(月) 19:40:29 ID:Dz5RW/cY0
ζ(゚ー゚*ζ「警察が到着してから、ハザードレベル5を限定的に解除する準備よ」

耳を疑った。
折角全乗客の安全を確保したと思ったら、それを解除しろと言う。
デレシアの真意を聞こうと身を乗り出したところで、デレシアが人差し指を立ててそれを彼女の唇に当てた。
慌てて、開きかけた口を閉じる。

黙れ、と云う意味だ。

ζ(゚ー゚*ζ「限定的、と言ったでしょう?
      解除するのはこのブロックだけの話」

¥;・∀・¥「ですが、どうしてこのブロックだけを解除するのですか?
      それと教えていただきたいのですが、探偵長“ホビット”は、犯人は第三ブロックにいる、と言っていました。
      しかし、犯人は第二ブロックにいたことが確認されているのですから……」

その点は、マニーが不思議に思っていたところだ。
探偵長の“ホビット”は、犯人が第三ブロックにいる、と言っていた。
第二ブロックにいた犯人がどうして第三ブロックで、と疑問に感じていたのだ。
今は彼の指示で第三ブロックには探偵と警備員が集まっているが、マニーは未だにその意味が分からないでいる。

彼からは何の説明もなかったが、デレシアはマニーの顔を見て理解してくれたのか、手短に説明してくれた。

ζ(゚ー゚*ζ「殺しをしくじったからよ。
      今回のような犯人は、一度しくじったら絶対に同じ手は使わないわ。
      遠隔地から殺人を画策するよりも、確実に対象を殺すために、このブロックに潜りこむはずよ。
      本来殺そうとした対象は私達だったから、もうここに潜りこんでいると考えるべきでしょう?」

デレシアが注目しているのは犯人の性質だった。
確かに、ここに至るまで犯人は何一つ決定的な証拠を残すことなく来ている。
その犯人がしくじったとなれば、事は重大だ。
犯人が初めて犯した失態なのだ。

緻密に計算されたであろう計画の唯一の綻び。
その修復のために犯人が動くのは、想像するに難くない。
そうなると、あるものが必須となる。
犯人が殺す予定だったのはデレシア達だった、と言い切れる材料だ。

それがなければ、デレシアの言葉はただの都合のいい解釈でしかない。

¥;・∀・¥「デレシアさん達が標的だった、と断言できる理由と云うのは?」

ζ(゚ー゚*ζ「毒殺の前に、私達、犯人に会っているのよ。
      犯人がわざわざ、自分の犯行を見た人間を野放しにすると思う?
      ましてや怪我まで負わされたんじゃ、ねぇ?」

マニーは背筋に氷を突っ込まれた気分がした。
これまでに手にした初めての情報だった。
犯人と遭遇した初めての人物。
それは、目撃情報と言っていい物だ。

360名も無きAAのようです:2014/03/03(月) 19:41:28 ID:Dz5RW/cY0
¥;・∀・¥「い、一体、何時に?」

ζ(゚ー゚*ζ「警備員詰所の襲撃の際よ。
      次はあそこに来るだろうと予想して向かったら、ビンゴだったってわけ。
      まぁ、ジョン・ドゥとボイスチェンジャーを使っていたから性別は分からないけどね」

それで合点がいった。
ホビットの報告にあった武器庫の件は、デレシアが関係していたのだ。

¥;・∀・¥「デレシアさんでも仕留めそこなったんですか」

ζ(゚、゚*ζ「ま、そうね。 私だって無敵なわけじゃないわよ」

マニーの中で、デレシアの武力は絶対だ。
棺桶持ちの一個師団だろうが大隊だろうが、彼女の前には赤子に等しい。
その彼女の力を前に生き延びる人間がいる事は、驚きとしか言えない。
どのような手を使ったにせよ、後で彼女に殺されることだけは確実だろう。

ζ(゚ー゚*ζ「それに加えて、殺しの手段が今までと違ったことね。
      今までは直接手を下して来たのに、それをしなかった。
      それはね、私が面と向かっての戦闘では確実に殺せない可能性があると判断したからよ。
      ある意味で完璧主義者の犯人だからこそ、連続して同じ方法を取らなかったの。

      私との戦闘で負傷させられたことを考えて、安全な手を選んだのでしょうね。
      それでも失敗したとなると、今まで通り、直接殺しに来ると考えたの。
      でも実際のところは、私の勘が九割五分よ」

¥;・∀・¥「いえ、デレシアさんの勘ならばまず間違いはないはず。
      ですが、どうしてそのことを探偵長が知り得たのでしょうか?
      今の話では、犯人とデレシアさん達が対峙した、という情報を知っていない限りはそこに到達できないはずです」

ζ(゚、゚*ζ「多分だけど、探偵長は犯人が逃げ込む先としてここを推理したのかもしれないわね。
      第二ブロックで姿が見られている以上は、そこにいつまでもいるはずがない。
      だとすれば、これまでの行動を鑑みて、最も混乱が生じている第三ブロックに逃げ込んでいる、って具合にね。
      だから、念押しの意味を込めて警備員を第三ブロックに集めたのね」

デレシアとは違う方法で、あの男は犯人の居場所を突き止めたということだ。
思わず感情的になって罵倒したが、やはり、探偵長をしているだけある。
推理を断言の域にまで持って行った彼の力を、再評価せざるを得ない。
だが、だからこそデレシアの提案で理解できない点がある。

犯人がこのブロックにいるのなら、それこそ、ここを厳重に封鎖すればいい。
それを解除するということは、犯人にとって格好の狩場を作ることになる。
好きに移動して、好きに人と接触できるのだ。
それだけでなく、どこかに逃げるかもしれない。

報告書にある通り、水中作業用の棺桶が一機奪われているのだ。
海に逃げられたら、追い様がない。
然るべき報いを与える事が、市長としての義務だ。

361名も無きAAのようです:2014/03/03(月) 19:44:32 ID:Dz5RW/cY0
¥・∀・¥「ですが、やはり犯人がいるのであれば、それこそ解除は――」

ζ(゚ー゚*ζ「人の動きが制限されるほど、犯人にとっては有利な状況になるのよ。
       このブロックで人が動くことが、逆に犯人にとって行動を制限することになるの。
       自由ゆえの不自由ってやつよ」

¥・∀・¥「他の乗客への影響を考えると危険では?」

ζ(゚ー゚*ζ「一度失敗した人間はね、臆病になるか大胆になるかなの。
      この事件の犯人は、前者でしょうね。
      これから先、無駄な動きはしないで機会を待つはずよ」

そして、デレシアはにこやかな表情を浮かべてマニーの返事を待った。
この指示に従うか否かで、乗客達の命が大きく左右される。
偽りに満ちた、この忌々しい事件。
その解決に向けた対抗策の指揮を、いや、全権をデレシアに任せるべきなのだろうか。

答えは決まっている。
だからこそ、ここに来たのだ。
彼女の判断を疑ってはいけない。
真実に辿り着きたいのであれば、デレシアに従うべきなのだ。

それは幼少期に実感した事。
自然の摂理の様に当たり前で、当然の事なのだと、幼少期の自分にさえ理解できたことなのである。
嵐を消し去ることが不可能なように。
大地震を止めることが出来ないように。

¥・∀・¥「デレシアさん、どうか、この事件を終わらせていただけませんか?」

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、いいわ。
       それと、マニー」

¥・∀・¥「はい」

ζ(゚ー゚*ζ「探偵長も気付いているはずだけど、犯人は上層部の情報を知り得る人間よ」

それはつまり、犯人は外部ではなく身内の人間。
マニーに近しい人間が犯人だと云うことを意味していた。

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   ̄)ヽ__ノ( ̄ ̄ ̄ Ammo→Re!!のようです
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362名も無きAAのようです:2014/03/03(月) 19:45:18 ID:Dz5RW/cY0
ブロック長全員が会議室に呼び出され、その場に揃うまでには二十三分の時間を要した。
これはデレシアが予想した範囲内の時間だった。
円卓を囲んで座る五人のブロック長達を前に、マニーはデレシアからの言葉を反芻していた。
彼女からは話し方一つ、仕草一つに至るまで、事細かな指示を受けていた。

その通りにすればどうなるのかも、デレシアは言っていた。
ただ、彼女は計画の詳細を話さなかった。
マニーはただ彼女の指示に従って動くだけで、後は彼女自身の裁量で動くとの事。
それでいい。

仮に犯人がマニーを捕まえて拷問したとしても、情報が漏れることはない。
情報の秘匿性を高めるための手段だ。
だからこちらは、彼女の意志通りに立ち振る舞えばいい。
この船に平穏が戻るのであれば、それでもいい。

¥・∀・¥「よく集まってくれた」

五人は表情一つ変えない。
ここでデレシアに言われたのは、彼らの表情、態度の変化の観察だった。
それによって今の精神状態が分かるそうだ。
ひょっとしたら、この中に犯人がいるかもしれない。

¥・∀・¥「今から四時間後、第三ブロックに全ブロック長は集合してくれ。
      そして、それから五分後の七時五分、第三ブロックのハザードレベル5を解除する」

£;°ゞ°)「し、正気ですか?!」

¥・∀・¥「あぁ、正気だとも。
      では訊くがね、第二ブロック長オットー・リロースミス。
      正気とはなんだ?
      正気なら、この事件は解決できているのではないかね?

      ならば、我々は正気と言えるのか?」

£;°ゞ°)「ですが……」

¥・∀・¥「第三ブロック長ノリハ・サークルコンマ、答えろ。
      君は正気か?」

高圧的。
そして自信に満ち、一片の揺らぎも見せない喋り口調。
それがデレシアに要求された芝居だった。
一歩違えば気の触れた市長だが、上手くいけばカリスマ色を出せるとのことだ。

ノリパ .゚)「はい」

¥・∀・¥「質問よりも先に、話を聞いてもらおうか。
      これより我々オアシズ上層部は、反撃に転じる。
      全警備員、探偵を重装備で再配置。
      棺桶による完全武装を徹底しろ」

363名も無きAAのようです:2014/03/03(月) 19:46:07 ID:Dz5RW/cY0
W,,゚Д゚W「ですが、どうやって反撃を? 犯人の位置はまだ把握できていないのでしょう?」

¥・∀・¥「方法は機密事項だ。 例え君らであっても、教えられない。
      だが、警備員が完全装備で待ち構えている場において、無謀をやらかす相手ではないことは分かるだろう?」

これ以上の会話はデレシアには指示されていない。
なのでこれ以上、マニーは言葉を発しなかった。
ブロック長達は、この沈黙の裏を読んで行動しないほど無能ではない。
無言で席を立ち、それぞれのブロックに戻る。

予定されている時間に怒る事態に備えて、各々の準備を行うためだ。
彼らが従順で助かった。
誰もいなくなった会議室で、力尽きたように椅子に腰を下ろす。
これで、反撃の手は回り始めた。

後はデレシアに任せるしかない。
無能な市長は、こんな時にも無力だ。
しかし、手は打った。
手を打つための手配はした。

それだけで、十分だ。
これ以上、自分にできることはそうない。
デレシアの思惑を邪魔しないようにするだけだ。

¥・∀・¥「……無力だな、私は」

分かっていたつもりだった。
無能で、無力な市長だと。
しかし無責任で無謀な市長ではない。
それを実感する機会は度々あったが、ここまで強く実感したのは初めてだった。

自信を持つのだ。
根拠のない自信でも。
自分の力でない自信でも。
行動に移し、状況を変えたことに対して自信を持つのだ。

¥つ∀;¥「本当に……私は……」

途方もない脱力感に押し潰されそうだ。
本当に、無力だ。
何をやっても成し遂げられない。
何をするにしても、他者の助けなしでは何もできない。

虚しい。
それがとても虚しい。
それがあまりにも虚しい。
ただ、虚しい。

364名も無きAAのようです:2014/03/03(月) 19:47:12 ID:Dz5RW/cY0
こうして座っているだけで、何もできない自分が情けない。
金でどうにも出来ないことの一つに、他人の強い思惑がある。
いくら金を積んでも、こればかりはどうにもならない。
どうにかなるのなら、全財産を差し出してもいい。

¥つ∀-¥「だが……」

だが。

¥-∀-¥「だが」

だが!

¥#・∀・¥「だが!!」

だが、デレシアの協力が得られた以上、こちらの戦力は犯人を遥かに上回った。
彼女がいれば、少なくとも武力と知力で敗北はない。
これで迎え撃てる。
これで立ち向かえる。

¥#・∀・¥「次は、こちらの番だ!!」

いざとなれば、高額で購入した“キングシリーズ”の棺桶を使って自ら戦線に立つ覚悟もある。
一方的にやられる時間は終わりを告げた。
無力な市長には牙も爪もないが、反撃が出来ないわけではない。
彼以外の誰かの牙と爪を使えば、返り討ちにも出来るのだ。

今は、力が世界を動かす時代なのだから―――

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                    Ammo→Re!!のようです
                    Ammo for Reasoning!!編
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                 ‥…━━ August 6th AM04:33 ━━…‥

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痛み、苦しみの混濁の中、夢のような物を見ていた気がする。
だがその記憶はもうない。
波に揺られる中、見ていたのはきっと、悲しい夢だったに違いない。
そうでなければ、胸に残るこの痛みは何なのだろうか。

365名も無きAAのようです:2014/03/03(月) 19:48:10 ID:Dz5RW/cY0
寒気がする。
ひどい寒気だ。
体の芯から冷えて、手足が震えている。
嫌な記憶が蘇る感覚が、ぞわりと足元から這い上がってきた。

見世物小屋での記憶だ。
首輪を嵌められて、鎖でつながれて、外に置き去りにされている自分だ。
ぼろきれ一枚と、ひび割れた皿に乗る腐った食べ物。
あれは、パンだったのかもしれない。

そうして、時間になると鎖を引っ張られてテントの中に連れて行かれた。
好奇の視線と軽蔑の声。
それを全身に受けて感じたのは、言いようのない嫌悪感だった。
それに慣れたのは一週間、だっただろうか。

ある日、大きな図体の男に別の小さなテントに連れて行かれた時のことを覚えている。
見世物小屋の記憶の中で、それが一番の苦痛だった。
鉄の塊が飛んできたり、汚い言葉や蔑む眼差しを向けられたりするなら、まだ耐えられた。
しかし、それにはどうしても耐えられなかったのだ。

初めてその痛みを味わった時のことはよく覚えている。
首輪に繋がった鎖を引かれ、汗臭く、毛むくじゃらの大男にその部屋に連れて行かれた。
ベッドの上に投げ出され、いつもとは違う気配に、身を震わせた。
抵抗は考えなかった。

『大人しくしてな』

頭を黴臭い枕に押し付けられ、視界を奪われた。
そのまま服を脱がされ、空いた手で太腿を触られた。
気色が悪かった。
全身に鳥肌が立った。

その手が尻に伸び、尻尾を掴んだ。
毛が何本か抜けた。
何をされるのか、全く分からなかった。
尻尾を引っ張って尻が持ち上げられ、肛門に少しだけ濡れた指が突っ込まれた。

(∪;ω;)『ひっ?!』

指が上下に動き、奥へ奥へと突き進んできた。
強制的に排泄させられ続けているような、不快な感覚だった。

(∪;ω;)『あっ、あぅぁ?!』

『へへへ、いい声で泣いてくれよ』

指が引き抜かれ、別の何かが押し当てられた。
男の手が頭から退かされた時、ブーンは意図せずして見てしまう。
毛むくじゃらの男の股間に生えた、自分の手首ほどの太さもある陰茎が肛門に突き付けられているのを。

366名も無きAAのようです:2014/03/03(月) 19:49:26 ID:Dz5RW/cY0
(∪;ω;)『ら、らに……?』

『いいねぇ、その顔!!』

反射的と云うか、本能的にブーンは逃げようとした。
自由な両手で前に這って進むが、鎖を引かれてずるずると戻される。

(∪;ω;)『や、やぁ……』

『よーく味わいな!!』

そして、激痛が走った。

(∪;ω;)『ひぎっ!!』

肛門に陰茎を突っ込まれ、何度も出し入れされた。
腸が裏返るかと思うほど乱暴で、気遣いなど当然なかった。
あまりの痛さに、声を上げて泣いた。
そんな姿を見て一層興奮した男は直腸に体液を出し、汚れた陰茎を無理やり咥えさせられ、舐めさせられた。

その際、喉の奥がどうのとか言っていたような気がする。
それから月に二回は、男に乱暴され、どうすれば早く終わらせられるのかだけを学習し、何も考えないようにした。
兎に角痛く、気持ち悪かったが、その後にはシャワーを浴びることが許された。
時間が過ぎ、心が灰色になるのが感じられたが、次第にそれもなくなった。

心が壊れるのを防ぐために脳が感覚を麻痺させたのだと、今にして思う。
寒さに体を震わせて、雨晒しになって、体調を壊して、そして一年が経って。
どうして自分がここに来たのかの理由も忘れて、日々を過ごした。
やがて、船に乗せられ、オセアンに着いて――

――それから、体が徐々に暖かくなってきた。
何故だろうか。
嗚呼。
そうだ。

オセアンで、デレシアと会ったからだ。
枯れ果てたはずの涙を、知らなかったはずの人の優しさを与えてくれた人。
そして彼女と会った最初の夜、教えてくれた人の温もり。
今感じているのは、それに非常によく似た温もりだった。

冷え切った体が最初にその温もりを感知した時、火傷をするかと錯覚した。
柔らかい感覚が体を包み、温めてくれている。
それは実体のある温かみだった。
流動的な熱を肌と肉の内側に閉じ込めた温かさ。

人の体。
これは、人の素肌から伝わる体温だ。
自分以外の誰かが、自らの体温でブーンの体を温めているのだ。
それに、匂いがする。

367名も無きAAのようです:2014/03/03(月) 19:50:31 ID:Dz5RW/cY0
甘い匂い。
優しい匂い。
肺に取り込んだ途端に眠気を誘う、安心できる匂い。
知らない誰かの匂いだ。

命の恩人であり、ブーンに全てを与えてくれた人、デレシア。
湾岸都市オセアンで共に旅をすることになった、ヒート・オロラ・レッドウィング。
海上都市ニクラメンで出会った初めての友達、ミセリ・エクスプローラー。
彼女のボディガード、トソン・エディ・バウアー。

初めての先生、ペニサス・ノースフェイス。
彼女の教え子、ギコ・カスケードレンジ。
刑事、トラギコ・マウンテンライト。
船上都市オアシズで友人となった、ロマネスク・オールデン・スモークジャンパー。

美味い餃子を作るシナー・クラークス。
探偵、ショボン・パドローネ。
第二ブロック長、オットー・リロースミス。
その誰でもない。

初めて会う人の匂いだ。
初めてなのに、とても気持ちのいい匂いがする。
優しい匂いだ。
優しくて強い人の匂いだ。

心地いい。
細い指が背中に回され、力強い足がブーンの脚に絡みつく。
躊躇いながらも、その腕の中に納まり、冷えた体が温まるのをただ感じ続ける。
足の指先から、手の指先まで、じわじわと温もりが広がっていく。

体が溶けて、その温もりと一体になる感覚。
穏やかな感覚の海の中を漂う。
それは、ヒートと泳いだ湖を思い出させた。
あの時、湖は冷たかった。

周りは穏やかで、静かで、木々のざわめきが僅かにあるだけ。
その中で湖に漂っていた時、自分と云うものを忘れかけた。
見上げた先には木々に縁取りされた空があって、力を入れなくてもそこにいる事ができた。
さざ波の音に混じって聞こえたヒートの息遣いは、安心感を与えてくれた。

今聞こえるのは、血潮と鼓動、そして知らない人の呼吸音。
嫌な思いも、嫌な過去も、一時とは言えそれを忘れさせてくれる不思議な音。
皮の一部が硬くなった指が背中を擦り、後頭部を撫でる。
この指の感触も、感じる気持ちも、デレシア達にそっくりだ。

抱き寄せられた先に、弾力のある柔らかい肌。
瑞々しく艶やかで滑らかな肌は、触れているだけで気持ちいい。
唇に触れる少し硬い突起物から感じる、若干の甘さと塩気。
それは女性の胸だった。

368名も無きAAのようです:2014/03/03(月) 19:51:15 ID:Dz5RW/cY0
知らない女性の胸は柔らかく、上質な枕の様だ。
何度か目を覚まそうと思ったが、体は、瞼を開かせようとはしなかった。

「まだ寝ていなさい」

と、聞こえた声。
それは女性の声だった。
ヒートに似た力強い口調だが、力強さが違う。
デレシアの声に秘められた強さを思わせる、静かな強さ。

それが放つ雰囲気はトソン、ペニサス、ギコ、そしてロマネスクに限りなく近い。
言葉の通りに体が従い、瞼は張り付いたかのように動かない。
不思議と警戒心は働いていなかった。

(*∪-ω-)「お……」

「そうだ。 今はそれでいい」

そうしてまた、夢を見る。
黒い空間の夢。
そこには色はなかった。
だから、黒い空間だと思った。

他には何もなかったが、春の陽だまりの様な温もりがあった。
それだけだった。
それだけの夢だった。
それだけで幸せな夢だった。

声が聞こえた。
それは聞き慣れた声だった。

『ブーンちゃん、今すぐに選びなさい』

オセアンで聞いた声だった。
オセアンの地下で聞いた声だった。
生きることを選ぶきっかけとなった声だった。
何もなかった空間に、その声を聞いた時の映像が浮かぶ。

アメリア・ブルックリン・C・マートに羽交い絞めにされ、交渉の材料にされた時。
地下に造られた巨大な空洞。
そこに聳え立つ巨大な棺桶。
確か、ハート・ロッカーの名で呼ばれていた棺桶だ。

巨大なキャタピラに、両椀と両腕の強力な火器。
その武骨な兵器に悠然と立ち向かう、ヒートが駆る禍々しい爪と杭打機を持つ黒い棺桶。
打倒されるヒート。
爆風に巻き込まれてからの記憶がない。

されるがまま、足手纏いになろうとしていた時。
その声が聞こえたことは覚えている。

369名も無きAAのようです:2014/03/03(月) 19:52:18 ID:Dz5RW/cY0
『何もしないで死ぬか、抗って生きるか』

そして選んだ。
戦って生き延びた。
それを決断させた言葉は、デレシアがくれたものだった。
今があるのはそのおかげだ。

何度も足手纏いになりながらも、デレシア達は見捨てなかった。
失敗を笑顔で許してくれて、だけど、それを正してくれた。
今回もまた、自分のせいで二人に迷惑をかけてしまったことが悔しかった。
確かに抗うことは出来た。

しかし、それだけだった。
自分は海に投げ出され――

(;∪´ω`)そ「お?!」

――自分の状況が異質なものであることをようやく理解した。
デレシアでもヒートでもない誰か。
その誰かの胸に抱かれて温まっているのは、何故か。
依然としてその女性の両手両足はブーンを抱き寄せたまま。

瞼を開くと、そこには女性の白い肌があった。
キメの細かな肌は若い女性特有の物で、小振りな胸に顔が埋まっている状態だった。
今まで気付かなかったが、女性の体温だけでなく、一枚だけかけられたタオルケットもブーンの体を温めていた。
頭を動かして、ほっそりとした体で自分を抱いている人物の顔を見る。

初めて見る女性だった。
鋭い眼光を放つ深紅色の瞳は氷の様に冷ややかで、半月から少しだけ膨らんだような形をした大きな眼。
その目尻は弓なりに弧を描いて垂れ下がり、慈しみの眼差しでブーンを見つめている。
少しだけ波打つ、限りなく黒に近い灰色の髪は短く、艶やかだ。

笑みの形を浮かべる唇は薄らとしたピンク色で、瑞々しく輝いていた。

!ヽ, __ ,/{
リi、゚ー ゚イ`!「寝てていいと言ったのだが……」

そして、女性の頭部には獣の耳がついていた。
先端部が尖った耳は鋼鉄を思わせる濃厚な黒に、僅かな群青色が混ざった短い毛に覆われ、髪の毛とは色合いが若干違う。
犬の耳ではない。
それは写真でしか見たことがないが、狼の耳に間違いなかった。

リi、゚ー ゚イ`!「まぁ、いいだろう。 おはよう、ブーン」

名前を知られている。
何故。

(;∪´ω`)「お、おはようございます」

リi、゚ー ゚イ`!「怖がらなくていい。 私は君に危害を加えるつもりはない」

370名も無きAAのようです:2014/03/03(月) 19:53:18 ID:Dz5RW/cY0
女性はそう言って、両手足を使ってブーンを再び胸に抱き寄せた。
抵抗すると云う選択肢は頭に浮かばない。

リi、゚ー ゚イ`!「私はロウガ・ウォルフスキン。
       ロウガと呼んでくれればいい」

胸の間からロウガを見上げながら、ブーンはその名を呼んだ。

(∪´ω`)「ロウガさん?」

リi、゚ー ゚イ`!「そうだ」

(∪´ω`)「ロウガさん、きいてもいいですか?」

リi、゚ー ゚イ`!「答えられる範囲でなら」

(∪´ω`)「あの、どうしてぼくはたすかったんですか?」

まずは、その疑問だった。
荒れ狂う海に落ちて、力尽きて、沈んだはずだ。
その状況から偶然助かるなど、有り得るはずがない。
ブーンとて、現実と非現実の区別はつく。

リi、゚ー ゚イ`!「私が、海に落ちた君を助けた。
      主に頼まれたのでね」

(∪´ω`)「あるじ?」

主君。
支配者。
飼い主。
マスター。

ロウガの言う主とは、彼女にとっての何なのだろうか。

リi、゚ー ゚イ`!「そうだ。 我々の王にして恩師、師匠にして父、恩人にして家族。
      それこそが、我らの主だ。
      その主が君を必ず助けろと命じたので、助けさせてもらった。
      悪いが、君が気を失うまで観察していた。

      そうしなければ、私まで巻き込まれかねない状況だったからね」

どうやら難しい関係の様だ。
詳しく話を聞いてもよく分からないだろうと考え、ブーンはとにかく礼を言うことにした。

(∪´ω`)「お……ありがとう、ございました……」

リi、゚ー ゚イ`!「礼には及ばない。 いい運動になった」

371名も無きAAのようです:2014/03/03(月) 19:54:04 ID:Dz5RW/cY0
海中で感じ取った視線は、ロウガの物だったらしい。
しかし、ブーンに追いつくならまだしも、あの距離から船まで、どうやって追いついたのかが理解できない。
何かしらの方法があったのだろうが、それがどうしても気になった。

(∪´ω`)「どうやって、ふねにおいついたんですか?」

リi、゚ー ゚イ`!「ふふ、気になるか?」

その時、ロウガが浮かべた表情はデレシア達に質問をした時に返ってくるそれに、とてもよく似ていた。

リi、゚ー ゚イ`!「強化外骨格を知っているだろう?
      用途に合わせて様々な種類が開発され、そして現代に復元されている。
      その中には、水中用の棺桶も数多くあり、深海潜水用、水陸両用、水中作業用などが存在する。
      いずれも水中で長時間の作業と優れた機動性を発揮できる。

      私が使ったのは、ディープ・ブルーと云う棺桶だ」

棺桶の種類については少しだけ、デレシアとペニサスから教えてもらったことがある。
一日もいられなかったが、フォレスタで受けた特別授業の一つだ。
特に、デレシアからはペニサス以上の知識を教わった。
棺桶とは、軍用第七世代強化外骨格、開発コード名“カスケット”の事を指し示す俗称。

俗称の由来は運搬用コンテナが棺桶に似ている事などから来ており、それは音声コードの入力によって起動する。
使用者をコンテナ内に収容し、内包された外骨格の装着を速やかに行う。
単一の目的のために設計された唯一無二の棺桶を、“コンセプト・シリーズ”。
宗教団体が開発した物を“レリジョン・シリーズ”、政府と呼ばれる組織が開発した物を“ガバメント・シリーズ”と呼ぶ。

優れた性能を有し、少数だけ製造された棺桶は総じて“名持ち”の棺桶と呼ばれる。
ロウガの言葉で新たに覚えたのは、水中での行動に特化した棺桶が存在するという情報だ。

(∪´ω`)「お……」

助けてくれた人物の名前と、その手段を知った。
他に、自分が知るべき情報を考える。

リi、゚ー ゚イ`!「さて、今君が知るべき情報を教えてあげよう。
      今、このオアシズ内は最高レベルの厳戒態勢、ハザードレベル5となった。
      君が海に落ちた直後にだ。
      最低でも後二時間は、この部屋からできることはできない。

      ブロック間の移動は厳禁、運よくこのブロック内を出歩けたとしても、二時間だけ」

(;∪´ω`)「お」

自力で思いついたこと以上の情報を、全て言われた。
その情報を元に次の思考へと繋げるが、直ぐにロウガに先を言われてしまう。

372名も無きAAのようです:2014/03/03(月) 19:54:51 ID:Dz5RW/cY0
リi、゚ー ゚イ`!「そしてここは第一ブロックの一階。
      断っておくが、君の部屋まで誰にも見つからずに移動することは無理だ。
      焦ることはない。
      今は出来る範囲で出来ることをすればいい」

(∪´ω`)「できること?」

リi、゚ー ゚イ`!「君は強くなりたいのだろう?
      ならこの時間を使って学べばいい。
      どうする?」

(;∪´ω`)「つよくなるべんきょうしたいですお……
       でも、ぼくあたまよくないから……だれかにおしえてもらわないと……」

リi、゚ー ゚イ`!「大丈夫。
      私が、君に、教えてあげよう」

そして、ブーンの体がふわりと持ち上がった。
タオルケットがベッドの上に落ちる。
ロウガの腰には、耳と同じ毛色をした毛並みのいい狼の尻尾が生えていた。
一糸纏わぬ姿のロウガに抱きかかえられ、ブーンは自然と彼女を見上げる形となる。

リi、゚ー ゚イ`!「まずは、風呂だ。
      その次に食事。
      戦い方はそれからだ」

(;∪´ω`)「じ、じぶんであるけますお」

リi、゚ー ゚イ`!「子供は遠慮をするものではない。
      甘えるのは子供の特権。
      そして、保護者は子供に甘えられる特権があるのだよ」

そう言い切られ、ブーンは風呂場に連れて行かれた。
風呂場からは新しい湯の匂いがする。
脱衣所を通って、二人は浴室へ。
白い浴槽には湯がなみなみと張られている。

風呂椅子と風呂桶が一つずつ、浴槽に立てかけられている。
ロウガは足の指で器用に椅子と桶を摘まんで、それを置き直した。
ブーンを椅子に座らせた後、シャワーからお湯を出してその温度を手で確認している。

(∪´ω`)「あの、じぶんで……」

リi、゚ー ゚イ`!「自分でやるか? なら、力でそうしてみるといい」

勝てる気がしなかった。
実力を見ることなく、それを体験するまでもなく、理解できるからだ。
匂いが違うのだ。
この女性の立ち振る舞いは、デレシアやヒートのそれに近い。

373名も無きAAのようです:2014/03/03(月) 19:55:40 ID:Dz5RW/cY0
(;∪´ω`)「……おねがいしますお」

リi、^ー ^イ`!「それでいい」

頭の先からシャワーで湯を浴びせられ、体全体を濡らされる。
お湯はちょうどいい温度だった。
頭の先から足の指先までロウガに洗ってもらい、代わりに、ブーンはロウガの頭と背中を洗った。
この行為が互いの距離を縮める一種の儀式だと分かったのは、つい最近の事。

湯船に入ろうとした時、それをロウガが制止した。

リi、゚ー ゚イ`!「一緒に入ろう。 いい音が聴けるから」

そう言われ、再びブーンはロウガに抱き上げられる。
二人揃って湯船に浸かると、湯が勢いよく浴槽から溢れだした。
その音は確かに、いい音だった。
湯の中で解放され、ブーンはロウガの背中にもたれかかる様に姿勢を直された。

(*∪´ω`)「ほー」

リi、゚ー ゚イ`!「ふぅ……
      な? いい音だとは思わないか?」

(*∪´ω`)゛「いいおとですお……」

ロウガの鼓動を背中で、息遣いを首で、優しさを体全体から感じ取った。
疲れた体を癒す様に、湯船に浸かること十五分弱。
すっかり温まったブーンは、ロウガを見た。

リi、゚ー ゚イ`!「それじゃ、そろそろ出ようか」

風呂から上がる際、ロウガはその尻尾だけを左右に勢いよく振り、水を飛ばした。
ブーンもそれを真似したが、ロウガほど勢いよくは水を飛ばせなかった。
壁と床に付着した毛をシャワーで洗い流してから、二人は脱衣所に進んだ。
洗面台の前に積まれていた柔らかく、ふわりとした白いバスタオルで髪を拭かれ、体を拭かれる。

尻尾も念入りに拭かれた。
用意されていた新しい下着と服に着替え、風呂場を出る。

(*∪´ω`)「おー、さっぱりしましたお」

リi、゚ー ゚イ`!「なら、次は食事だ。
      昨夜君達が食べたピザには劣るが、口に合えば幸いだ」

374名も無きAAのようです:2014/03/03(月) 19:56:25 ID:Dz5RW/cY0
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                                  { {   ツ爪笊ミ从从气ミ, /}
            -‐ ´ ̄ ̄ ̄ ̄`  - 、         ヾ 、 笊从圦从从彡イ//
          ,  ´               `ヽ、     ヽ\,彡'ミ三ニ彡'//
.        /  , -‐===ァ=-、    __      \     \ ̄ ̄ ̄ ̄./
     /    i! : : : : ,'' '; ,,'   ,ィ'´ヾ:ヽ     ヽ      ` ̄ ̄ ̄´
                    Ammo→Re!!のようです
    /     i!: : : : ,' ; ; ;   : : : :   vヘ       ',
.  /     / : : : :,'   ,.': : : : : : : :   ヾヘ       i        / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\
.  ,'     / : : : :,', ;  ,' : : : :  : :   vヘ.      }       /  ,....:.:.:.:.:.:.:.:.:.:...、 ヽ
  i       / : : : :,' , , ,' : : : : : : : : : :  ヾヘ    i        ! /.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.ヽ ',
  {    /, -==-.<   ,'  : :  : :   : : : :   _,}:.i!   ,'    Ammo for Reasoning!!編
  {     ヽ、: : : : , >t'  : : : : : :     , -‐: :´: :ノ  /    第七章【drifter -漂流者-】

                 ‥…━━ August 6th AM05:02 ━━…‥

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鰯の刺身とガーリックトースト、砂糖がたっぷりと入った紅茶の朝食は、大満足だった。
刺身の鮮度は良く、紅茶は甘くて美味かった。
食後には歯応えのある甘いリンゴが丸ごと一つ出てきて、ブーンは思わず喜んだ。
その食事に毒が混入されている可能性など、微塵も考えなかった。

その後、戦い方を学ぶ前に改めて服を着替えることとなり、ブーンは上下黒のジャージ。
ロウガは髪を後ろで一つに結い、黒のスパッツにタンクトップ姿となった。
着替えを済ませたブーンとロウガは、その部屋に備え付けられた特別な部屋にいた。
天井から釣り下がる二つのサンドバッグに、ロープに囲まれた小さなリングが一つ。

大きな一枚の鏡に、鉄アレイやダンベルが置かれた部屋。
ここはトレーニングルームだと、ロウガから説明を受けた。

リi、゚ー ゚イ`!「さて、これから私が言うことを全て体に覚えさせるんだ」

(∪´ω`)゛

ロウガの後ろに付いて、ブーンは部屋を眺めながらゆっくりと進む。
サンドバッグの前で立ち止まると、ロウガが振り向き右手の指を三本立てた。

リi、゚ー ゚イ`!「戦闘には三種類ある。
      近・中・遠距離だ。
      全ての距離において使用可能な武器は、現代では銃火器に限られる。
      現実的な話をすれば、銃は剣よりも遥かに強い」

その口調はとても早く、難しく聞こえたが、不思議とすんなりと心に染み込んできた。

リi、゚ー ゚イ`!「だが、日常生活において発生する戦闘の割合のほとんどを占めるのは、近距離だ。
      誰よりも早い攻撃こそが、戦闘で優位に立つ秘訣だ。
      先手必勝、と言う。
      近距離に限定して言えば、銃や刃物よりも早い攻撃方法がある」

375名も無きAAのようです:2014/03/03(月) 19:57:43 ID:Dz5RW/cY0
瞬きする間もなく、ロウガの拳がブーンの左の頬に当てられた。
いや、気付いた時には既に当てられていた後だ。
油断していたと言えばその通りだが、攻撃の気配、予備動作すら気が付かなかった。

リi、゚ー ゚イ`!「それが、これだ」

(∪´ω`)「てあし、ですか?」

リi、゚ー ゚イ`!「そうだ。 拳足、徒手とも言う。
      これを鍛え上げ、練り上げ、洗練すれば、立派な武器になる。
      特に、私達の様な人間が本気で使えば、相手を一撃で殺すことが出来る力を持つ。
      現実問題、常時、武器を手の中に収めている人間――例えば安全装置を外して初弾を薬室に装填し、撃鉄が起こされ銃爪に指がかけられた状態の銃を持つ奴――はそういない。

      それを考えれば、近距離でこれほど理に適った武器はないんだ」

頬から拳が離され、ロウガはサンドバッグに向き合った。
先ほどまでブーンの頬に当てていた拳をサンドバッグに押し当てる。

リi、゚ー ゚イ`!「使い方は様々だ。 例えば、超近距離。
       この距離になると、銃は使えない。
       ナイフも抜くには近すぎる」

ロウガが拳に力を入れたかと思うと、サンドバッグが天井まで跳ね上がった。
踏み込みもなしに見せた芸当。
理屈は、感覚的にだが分かる。
力の入れ方が、ブーンの知るそれとは異なるのだ。

リi、゚ー ゚イ`!「これを腹にお見舞いすれば、内臓を潰すことが出来る。
      いきなり君にこのパンチを繰り出せとは言わないが、将来的にはこれ以上を期待するよ」

(∪´ω`)゛

リi、゚ー ゚イ`!「続いて、蹴り。
      基礎を固めれば、こんな風にできる」

綺麗な半円を描いて放たれた回し蹴り。
その直撃を受けたサンドバッグは、文字通り吹き飛んで壁にぶつかり、床に落ちた。

(;∪´ω`)「えぇぇ……」

その威力が人間離れしている事が一目で分かる蹴りだった。
直撃を受けた人間が即死することは、容易に想像できる蹴りだった。

リi、゚ー ゚イ`!「全ては一歩から始まる。
      踏み出さなければ到達できないのは当然。
      やり始めもしないで無理と口にするのは簡単。
      だが、やり抜くことはそれよりも遥かに難しい。

      君なら、後者を選ぶと私は分かっている」

376名も無きAAのようです:2014/03/03(月) 19:58:55 ID:Dz5RW/cY0
その通りだった。
頷く代わりに、ブーンは質問をした。

(∪´ω`)「なにをすれば、いいんですか?」

リi、゚ー ゚イ`!「まずは基本だ。 君の様な人間の我武者羅な姿は嫌いではないが、今は時間がない。
      私が見せる通りにやってみなさい」

ロウガは先ほどまでと違い、僅かに左足を動かして重心を移動させた。
重心の移動に伴い、体が沈む。
両腕はまだ拳を作っていない。
どちらの腕が動くのか、まだ分からない。

そして――

(∪´ω`)そ「お?!」

――拳が、一瞬でその場所を変えた。
かのように見えた。
ブーンの動体視力を上回る速度で放たれた拳。

リi、゚ー ゚イ`!「基本はこれだ。
      攻撃を悟らせるようなテレフォンパンチは論外。
      また、型に拘るのも論外だ。
      どのような状況下でも出来る攻撃が、打撃戦では最も好まれる。

      そこのサンドバッグに、今のパンチをしてみなさい」

とりあえずは実践あるのみ。
言われた通り、サンドバッグの前に立つ。
肩から力を抜いて、拳を突き出すイメージをする。
そして、右の拳を撃ち抜くように突き出した。

サンドバッグにめり込んだ初めての拳。
ロウガの様に動きはしなかったが、サンドバッグは確かに揺らいだ。
不格好で貧弱なパンチだった。
腕を組んでそれを見ていたロウガは少し考え、口を開いた。

リi、゚ー ゚イ`!「ふむ…… 打撃に必要な筋力を鍛えながら、基本を体に染みつけようか」

(∪´ω`)゛「わかりました、ロウガさん」

リi、゚ー ゚イ`!「いい返事だ。 だが、そうだな……」

頷いたブーンの眼を真っ直ぐに見つめながら、ロウガは微笑を浮かべて言った。

リi、゚ー ゚イ`!「私のことは、師匠と呼ぶがいい」

377名も無きAAのようです:2014/03/03(月) 19:59:37 ID:Dz5RW/cY0
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               ',ヘ::l:::::::::_ノ彡jt从 'ヘソリ=ムミヘ\:::::ソ://
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              ,彳ノ::::::川人゙乂::ノ′  `ゞ=イ´//:リ::::::ソヾヽ、
               ノ/::::::::巛::::li , , ,   !  , , , ノリ:i::l::::::::::ミ\i、
             /::::::/(:l:::::/:::::::へ   __  __,   (:::::::'l、`‐":::::,:::`i'ゞ
           !, (::'., 人:::::::::_-‐心 、     ∠!ー一',>li::::::l:::::l ))
                 ‥…━━ August 6th AM06:08 ━━…‥
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378名も無きAAのようです:2014/03/03(月) 20:36:48 ID:7xi15QlEO
主はだれなんだろう、気になるな

379名も無きAAのようです:2014/03/03(月) 20:59:37 ID:Dz5RW/cY0
オアシズの船長、ラヘッジ・ストームブリンガーは操舵室から見える外の景色に胸をなでおろした。
引き千切られた綿のような形をしている紫色の雲。
雲に覆われた水平線の果てを染める、濃厚なオレンジ色の光。
世界最大の豪華客船オアシズは、無事に嵐を抜け出たのだ。

朝日を見た瞬間、操舵室は安堵のため息で溢れかえった。
流石の船長も、それに参加せざるを得なかった。
船は沈没も難破もせず、ここまで来ることが出来た。
それだけでも上出来だ。

「全エンジン停止、蓄電モードに移行。
ヨセフ、航行設定を波力推進に切り替えろ。
操舵はグスタフ、お前に任せる。
キース、エル、レーダーと無線機に注意しろ。

ジュスティア軍の船影を確認したら、すぐに交信するんだ」

ヨセフ・ガガーリンが無線機を使って、エンジン室に指示を出す。
操舵輪から離れたラヘッジに変わり、グスタフ・スタンフィールドがその場所に着く。
ヘッドセットを装着してレーダーを凝視するキース・バレル、そしてエル・マリンが親指を立てた片腕を上げた。
細かな指示は彼ら自身が考えて下す。

このメンバーだからこそ、あの嵐を切り抜けられた。
経験を積んだ者達でなければ、殺人鬼の策略にはまってまともな判断が出来なくなっていただろう。

「……皆、ご苦労だった。
ディアナ、ここにいる全員に今すぐ、ホットコーヒーを……」

「船長、何年一緒だと思っているんですか?」

380名も無きAAのようです:2014/03/03(月) 21:00:23 ID:Dz5RW/cY0
白いカップとポットを積んだカートを押しながら、ディアナ・カンジンスキーが操舵室に入ってきた。
流石だ。
きっと、あのポットの中のコーヒーには砂糖がたっぷりと入っているに違いない。
一人一人の席を回って、コーヒーを注いで回る彼女の姿は給仕ではない。

立派な、一人の船員の姿だ。

「さて、後は軍隊の到着を待つだけ、か」

自力で事件解決に協力できれば、どれだけよかったことか。
船長として、船の安全と平和を願うのは当然だ。
そしてそれを他力本願にしたくなかった。
しかし現実問題、彼には優れた推理力も洞察力もなく、事件解決に助力できることは何一つない。

悔しいが、事実だ。
精々彼に出来るのは、こうして船を安全に航行させ、軍を招き入れることぐらいだ。
それを果たしさえすれば、彼は義務を全うした事になる。

「なんだか、スッキリしないな……」

自分の前に置かれたコーヒーの水面を見つめる。
それを掴もうと手を伸ばした時、キースとエルの声が前方から聞こえてきた。
少し油断していたため、カップを倒して中身を全て床に零してしまう。
幸いなことにカップは割れず、誰にも気付かれていない。

「いかんっ……」

381名も無きAAのようです:2014/03/03(月) 21:03:53 ID:Dz5RW/cY0
嫌な予感がする。
予感とは、微細な情報の蓄積による推理だと、ラヘッジは考えている。
これまでに起こった事件の数々。
船内で感じ取れる微妙な空気の変化。

それらを統合して、ラヘッジはこの後何かが起こるのではないか、と考えた。
予想した。
予期した。
覚悟した。

船長になって以来、一度も使ったことのない腰のベレッタが、急に頼もしく感じられた。
傷の少ない黒いベレッタM92F。
装弾数十七発。
護身用にも戦闘用にも適した自動拳銃。

これを使う機会が、訪れるかもしれない。
ラヘッジは外れてほしい予感を胸に抱きつつ、床に零したコーヒーにハンカチを多い被せた。

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             }二二二二≠´     x≪////≫─ 、
            イ⌒¨  ´     x≪ミ}   ミ//| r ヽ ',
       .  ´         x≪≫''⌒Y   }//i >   }___
     ≠    __ .斗r弋え ヘ==彳ゞ'′ 八  V/| {   / ̄≧=‐-}
   ` ̄ ̄ ̄       ∧ ー彡}   ヾ  ̄´     }/|_ .イ ´    /
                 '.   i      ¨   r≦´         /
                 ‥…━━ August 6th AM06:17 ━━…‥
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382名も無きAAのようです:2014/03/03(月) 21:07:16 ID:Dz5RW/cY0
潮風は冷たかった。
まだ嵐の余韻が残った海上を漂う香りを肺に取り込み、レインコートの裾を風に棚引かせ、片手で帽子を押さえる男は口の端を吊り上げた。
なるほど、いい匂いだと男は唸った。
足元のスーツケースに染みついた匂いと同じ匂いがする。

これは事件の匂いだ。
トラギコ・マウンテンライトは視線の先に捉えた巨大船舶を前に、胸を高鳴らせた。
同時に、残虐な笑みを浮かべた。
嵐の中の船と云う逃げ場の限定された空間での犯行は、絶対に自分だけは大丈夫だと云う犯人の自信の表れ。

それが気に入らない。
どれだけ念入りな計画だろうと、必ず噛みつける箇所がある。
偽りに満ちた事件だとしても、絶対に糸口はあるのだ。
トラギコはそれを知っている。

少なくとも、今の警察の中では誰よりもそれを知っていると言っても過言ではない。
だからこそ断言できる。
この事件、デレシアの手に手錠をかけるまでのいい暇潰しになるだろう、と。

(::0::0::)「トラギコ・マウンテンライト刑事、乗船準備整いました」

(=゚д゚)「おう。 おいホプキンス、まだ誰も乗船させるな」

同じ船に乗り合わせているカーリー・ホプキンスは、不機嫌そうな顔でトラギコを見た。
それはそうだ。
この隊は、彼の部下達で構成されている。
その指揮を執るのは彼であり、トラギコではない。

383名も無きAAのようです:2014/03/03(月) 21:11:35 ID:Dz5RW/cY0
それに、彼らから見ればトラギコは余所者だ。
例え同じ街の組織の人間であっても、軍と警察は慣れ合っている訳ではない。
根本的な部分はほとんど同じだが、上司が違えば中身も考え方も違うのだ。
無理を言って乗せてもらったトラギコに指示をされるのは、ホプキンスとしては不愉快の極みだろう。

まして、相手は誇りに対する意識の高い軍人。
この発言をした段階で殴り掛かられてもおかしくはなかった。

「刑事さん、この隊の指揮権は……」

だが、それが何なのであろうか。
トラギコには関係ない。
これは事件であり、事件を解決するのは警察。
そして、今この船にいる警察官は自分だけだ。

揉め事、争いごとの解決には慣れているだろうが、軍人は事件の解決には慣れていない。
事件が起こるとしたら、戦地で起こる程度の糞つまらない略奪だとか、強姦程度だ。
そんなもの、事件の内に入らない。
犯人は決まり切っており、捕まえるのも見つけるのも、判決を下すのもあっという間だ。

それは、事件に関しては素人と同じであることを意味しているのだ。

(=゚д゚)「素人は黙ってな。 事件現場ってのは、ベッドの上の女と同じラギ。
    繊細で、直ぐに機嫌を損ねて最悪の場合は何もかもを滅茶苦茶にして帰るラギ。
    いいか、ここの市長が作った密閉状態を無駄にするもしないも、俺ら次第ラギ。
    まずは状況の詳細な把握を全体で共有してから、船に乗るラギ。

    おいそこの」

384名も無きAAのようです:2014/03/03(月) 21:15:20 ID:Dz5RW/cY0
(::0::0::)「はっ。 既に全船に無線で通達してあります。
     通達内容は、犯人は銃器を所持し、棺桶を使用。
     また、犯人は変装を得意とし、戦闘経験は豊富。
     現在入っている情報によれば、第三ブロック内にいる可能性が最も濃厚であると伝えてあります」

(=゚д゚)「上出来ラギ。
    俺達が入る場所を一か所に限定するラギ。
    見取り図はあるラギか?」

(::0::0::)「こちらに」

紙に印刷された見取り図を広げ、直ぐに決断を下す。

(=゚д゚)「……第三ブロック一階にある右舷の非常口を使うラギ」

第三ブロック以外から入った場合、船側の作り上げた閉鎖的な空間を台無しにすることになる。
ならば第三ブロックからの乗船が理想的だ。
また、一階から入ることによって船の全体像を思い描ける。

「……そうしましょう」

ホプキンスは苦虫を潰したような顔をしていた。
だが、それはトラギコの言葉が正しいことを理解している何よりの証拠。
彼は馬鹿な指揮官ではない。
感情に流され、無謀な指示をする類の人間ではなかった。

捜査開始前に仲間から死人を出さずに済んだ。
これで彼が矜持に拘る屑の類だったら、迷わずに懐のベレッタM8000が火を噴いて彼の脳味噌を海に撒き散らしていただろう。

385名も無きAAのようです:2014/03/03(月) 21:19:09 ID:Dz5RW/cY0
(=゚д゚)「お前らの指揮権は、当然、そこのホプキンスが持っているラギ。
    だけどな、事件の指揮権はこの俺の物ラギ。
    そこだけはっきりさせておくラギよ」

念押ししてから、船尾に仁王立ちになったトラギコは操舵室に声をかけた。

(=゚д゚)「行け、右舷ラギ」

ジュスティアから出発した船団を引き連れ、巨大な船に右側からゆっくりと近づいていく。
徐々に巨大な船舶はその大きさを現実的な物へと変え、トラギコは威圧感に興奮を覚える。
何と、何と大きいのだろうか。
糞を閉じ込めるために作られたジュスティアの誇る三重防壁“スリーピース”など、比較にならないほどの威圧感だ。

真横に来ると、視線を真上に向けても視界に収めきれない。
巨大な建築物を見ると、トラギコはどうしても胸が高鳴ってしまう。
それは一種の趣味や趣向に近いものだ。
感動とは違う。

純粋な興奮だ。

(=゚д゚)「……よし、乗船準備が整い次第、無線で連絡を入れるラギ」

操舵室の男に指で指示を出すと、男は頷いて無線機を手にした。
訓練されているだけあって、行動が早くて好感が持てる。

(::0::0::)「刑事殿、一ついいですか?」

隣にいた男が、尋ねてきた。

(::0::0::)「そのアタッシュケースの中身は?」

386名も無きAAのようです:2014/03/03(月) 21:23:03 ID:Dz5RW/cY0
(=゚д゚)「手前は、デートの度に女のカバンの中身を聞くラギか?」

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                 ‥…━━ August 6th AM06:21 ━━…‥
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その人物は、コーヒーの香りの混じった深い溜息を吐いた。
部屋に戻ることが許され、計画の修正案を考える時間が得られた。
流石に、厳戒態勢で他人の目がある中では、集中力を十分に発揮することは難しい。
簡単に朝食を済ませ、ベッドの上に倒れて考え込んでいた。

あまりいい気分はしなかった。
僅かな油断が、全てを台無しにしてしまったのだ。
定められている時間がある中で、予定通りに舞台を揃えられなかったことは恥だ。
そしてこれは、計画が失敗に至る可能性が生じたことを意味する。

387名も無きAAのようです:2014/03/03(月) 21:26:57 ID:Dz5RW/cY0
第一に、リッチー・マニーを過小評価していたことが、それに繋がった。
彼に対する評価を改め、残された数少ない時間で場を仕切り直すことが必要だ。
第二に、デレシア一行の力を甘く見ていた。
彼女達は、自分の手に負いきれないかもしれない。

しかし、まだ修正は可能だ。
自分の一声が持つ力が健在な内は、それは夢ではない。
不用意な行動を避けて、必要な行動を――

『乗客の皆様、私はオアシズ船長、リッチー・マニーです』

――マニーの声が、頭上のスピーカーから聞こえてきた。

『お客様に幾つかお知らせがあります。
現在、本船は嵐を抜け、蓄電のために風力のみで航行しております。
ティンカーベルへの到着は、予定よりも大幅に遅れる見込みです。
これにより生じる料金は、当方で全額負担いたします。

船内でのお買い物にかかる料金もまた、同様となります。
詳しくは、お部屋に備え付けられているマニュアルの百六十五ページをご参照ください。
そして、先ほど発令いたしましたハザードレベル5ですが、一部ブロックにて限定的に解除いたします。
それに合わせて、待機していたジュスティア海軍の応援がもう間もなく乗船を開始いたします』

遂に、来た。
世界に散る警察の大元。
正義の執行者を語る、正義の模倣者。
ジュスティア軍の介入は、予定通りの動きだ。

388名も無きAAのようです:2014/03/03(月) 21:30:13 ID:Dz5RW/cY0
だが、聞き間違いか何かだろうか。
“鉄壁”に匹敵するハザードレベル5の限定解除。
それは、この警備態勢にわざと穴を空ける行為だ。
船に穴が開けばその箇所から浸水するように、その穴は攻め手側にとって恰好の突破口となる。

罠だ。
間違いなく。
マニーと云う男は、ここまで大胆な男だったのか。
この事件を引き起こした犯人に対して挑戦するだけの自信があるのか。

誰かに入れ知恵された可能性が濃厚だ。
彼一人の決断ではない。
デレシアが手を貸したのだろうか。
いや、まさか。

見ず知らずの人間に対して最も警戒心を抱いている時であろうに、デレシアと接触するなど、不可能だ。
何はともあれ、これは好奇だ。
愚か也リッチー・マニー。
大方、第三ブロック以外を解放するのだろうが――

『重ねてご連絡いたします。
今回警戒を解除するのは、第三ブロックだけにいたします』

「馬鹿なっ?!」

思わず、口に出して驚きを露わにする。
探偵たちも、犯人は第三ブロックに追い込んだと信じているのに、よりによって、真逆。
犯人がいるとされている第三ブロックだけを解放する。
それは、考え方としては虎の入った檻を開けるのに等しい。

389名も無きAAのようです:2014/03/03(月) 21:33:12 ID:Dz5RW/cY0
何を考えているのか。
こちらがその誘いに乗るのを躊躇うとでも思っているのだろうか。
だとしたら、愚かの極みだ。
この船を救うための唯一の手段、この自分に対抗できるただ一人の存在を屠る機会を、見逃す手はない。

デレシア達さえ消せば、この船は完全にこちらの意のままに動く。
その為なら、デレシアを殺すために生じるリスクなど、軽い物だ。
今度は焦らずに、デレシア達を殺す。
時間が限られているのが残念極まりないが、今日は手を出さないでおこう。

まだ時間はある。
状況が落ち着き、水底が見えるぐらいに事態が収縮してから動いても、まだ間に合う。
枕元に置いていた電話が、低い電子音を立てて鳴り出した。

「……何か?」

次に電話口から聞こえてきた言葉は、またしてもその人物を興奮させた。
欠けていたパズルのピースを見つけた気分だった。

「そうか、分かった。
すぐに行く」

ようやく、この第三ブロックだけを解放した理由が理解できた。
要するに相手が求めたのは、犯行現場の限定だ。
殺人をコントロール下に置き、そこで犯人の動きを捉え、封じる。
統制された殺人事件、と云う訳だ。

390名も無きAAのようです:2014/03/03(月) 21:37:18 ID:Dz5RW/cY0
実に理に適った方法だ。
全員を檻に入れたままでは犯人は見つからない。
誰が人の皮を被った虎かを見破るには、虎にとって都合のいい状況を用意し、観察することが有効だ。
虎からすれば餌場に放たれたわけだが、この餌場には罠が多すぎて逆に手出しを躊躇わざるを得ない。

どうやら、オアシズ内にも切れ者がいるようだ。
だが、こちらの想像の域を越えるほどではない。
これを逆手に取ればデレシアを殺すのは難しくない。
全ては。

そう、全てはこちらの思うまま。

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      rfニ、ヽ
      l。 。 f9i
      t≦_ノゝ、            ,,....,,,,__        ,rrテ≡==-、
      `ブ´,,:: -- ::、       ,r''"''''''ヽ:::`ヽ.     (〃彡三ミミ::`ヽ
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      ム゚゙゙' く、'゚`  ゙'"):::l    ヽ''    ゙'⌒リ:ノ    ノ゚ヲ ''・=  リ::r-、リ
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                 ‥…━━ August 6th AM07:01 ━━…‥
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そこに揃った面々の肩書、素性を知る者がいれば、間違いなくその場から何かしらの理由をつけて立ち去った事だろう。
オアシズ側からの出席者は、五つのブロックを統治する五人のブロック長。
船に常駐している警察、探偵の代表合わせて十四名。
船長、そして市長の合計二十一名。

391名も無きAAのようです:2014/03/03(月) 21:40:12 ID:Dz5RW/cY0
それに合わせて、つい先ほど乗船したジュスティアからの応援部隊代表者二名。
錚々たる代表者達が集められたのは、第三ブロック一階にある大会議室だった。
赤い絨毯が敷き詰められ、部屋全体を照らすのは天井一面の薄型照明器具。
全員が椅子に座ることなく、壁にかけられたスクリーンを注視していた。

やがて、光がゆっくりと消されて部屋が暗闇に染まり始めた。
スクリーンだけが光を浴びる中、一枚の写真が映し出される。
それは、この事件の最初の被害者ハワード・ブリュッケンの死体の写真だった。
軍人としてその席にいたカーリー・ホプキンスは、思わず口元を押さえた。

その隣で紅茶の注がれたマグカップを手にする男、刑事トラギコ・マウンテンライトは左眉を持ち上げた。
一目で事件現場の矛盾点に気が付いたのである。
風呂場での殺人では、基本的に証拠を洗い流すことを目的としている。
しかし、これは安いカモフラージュを目的としていた。

狙いは、銃弾の隠ぺいだ。
頭部に穴があり、壁には汚れがない。
貫通したはずの銃弾による傷も汚れもないのは、明らかに異常だ。
その異常が意味するものは、銃弾が持つ重要性。

それを補足する情報として、使用された銃が現在行方不明となっている第一ブロック長、ノレベルト・シューの物であることが断定されたと付け加えられた。
この死体の写真と映像が船内で流されたのは、八月五日の午前十時十三分。
それから間もなく、サイタマ兄弟と呼ばれる探偵が襲撃を受け、そこで奪われた鍵を使って警備員詰所で虐殺が起こる。
犯人が棺桶を使用し、また、水中作業用の棺桶が奪われたことも告知される。

使用された棺桶はジョン・ドゥ。
奪われたのは、ディープ・ブルー。
いずれも珍しくない棺桶だが、武器を使わずとも人を縊り殺せる代物だ。
ディープ・ブルーは陸上での戦闘に向かない。

392名も無きAAのようです:2014/03/03(月) 21:43:30 ID:Dz5RW/cY0
逃走用のために奪取したのだと考えられる。
昨日午前十一時二十分、この船で最も危険度が高い状況でのみ発令されるハザードレベル5によって、船全体が厳戒態勢となる。
そして、厳戒態勢にもかかわらず、昨夜十時頃に女性二人が毒殺された。
犯人が警備員に扮し、変装技術が非常に高いことが確認されている。

最重要人物にして容疑者は、ノレベルト・シュー。
彼女の行方は、今なお捜索中である。
用意されていた全てのスライドを流し終えてから、探偵長“ホビット”は一同を見た。

(<・>L<・>)「……以上が現時刻までに起こった事件の概要となります。
       この時点で、何か質問は?」

このプレゼンテーションで大まかな事が分かった。
トラギコは他の人間の下らない質問で時間を失う前に、事件の核心に触れた。

(=゚д゚)「クリス・パープルトンと云う乗客はこの船にいるラギか?」

ポートエレンで発見された溺死体。
トラギコの推理が正しければ、あの死体はこの船の乗客だ。
船から落とされて溺死したのではなく、船で殺されて遺棄されたものだ。
それが丁度コクリコ・ホテルまで流れ着いたのである。

タイミングから考えて恐らくそれは、計画された動きだったはずだ。
何を目的としたのかは、まだ分からない。
しかし、トラギコはクリス殺害の犯人がこの船に乗っていること。
そしてそれがこの事件の犯人と繋がっていることを、確信した。

(<・>L<・>)「……いいえ、そのような人物は名簿にありません」

393名も無きAAのようです:2014/03/03(月) 21:47:02 ID:Dz5RW/cY0
背の小さな男の隣でしきりにトラギコに視線を送っていたショボン・パドローネが、それに反応した。
彼も、ポートエレンの事件に関わっている人物だ。

(´・ω・`)「トラギコ君、どうして――」

(=゚д゚)「……いいや、気にしなくていいラギ。
    ただの好奇心ラギよ」

¥・∀・¥「それでは、集まってもらった理由を話そう。
      皆には、この第三ブロック内に常駐して、犯人を確保してほしい。
      生きたまま、だ」

その言葉に食いついたのは、意外にも、ショボンだった。

(´・ω・`)「市長、お言葉ですが、生け捕りは困難かと」

¥・∀・¥「それは何故だ?」

(´・ω・`)「第一に、犯人が武装している事。
     第二に、棺桶を所有する人間を生捕るなど、あまりにも理想論過ぎます。
     それにですね、第三ブロックの開放などあまりも軽率過ぎです」

ショボンの言うことは理に適っている。
生け捕りをするには、まず、相手よりも戦力で上回っている必要がある。
そして何より、その機会を手に入れられるかどうかが重要だ。
出会った瞬間に攻撃されでもしたら、反撃をするのが人である。

394名も無きAAのようです:2014/03/03(月) 21:49:14 ID:Dz5RW/cY0
殺す気で攻撃をしなければ、絶対に勝てない。
ましてや、こちらが生け捕りを狙っていることが判明すれば、それを犯人に利用されて被害が拡大する一方だ。
躊躇せずに殺すのが望ましい。
第三ブロック解放についてはまだ情報が少ないため、何とも言えない。

¥・∀・¥「ショボン君、だったね。
      いいかい、よく聞いてくれ」

マニーは一つ咳払いをしてから言った。

¥・∀・¥「無能は黙って指示に従えばいいんだよ」

(;´・ω・`)「っ……!?」

その部屋の誰も、もう、これ以上の質問をしなかった。
彼の発言に呆れたからではない。
彼らは、自覚せざるを得なかったのだ。
ここまで人が集まらなければ、犯人に太刀打ちできない現実を。

そして、トラギコ達が来るまでの間、犯人に翻弄され続けたことを正当化できなかったのだ。
トラギコはマニーをただの無能な金持ちでは無い事を、その発言から察した。
同時に、今の言葉は本当に“彼自身の言葉”なのか、とも思った。
経験上、誰かに対して攻撃的な言葉を口にする際には、口元に特徴が現れるはずだ。

少しだけ、彼の喋り方に違和感を覚えたのだが、あまり深くは考えないことにした。
今トラギコが探すべきは、この船に乗っている彼の宿敵。
金髪碧眼の流浪の旅人。
湾岸都市オセアンを事実上の崩壊へと導いたと考えられる、素性不明の女。

395名も無きAAのようです:2014/03/03(月) 21:51:58 ID:Dz5RW/cY0
彼女について分かっているのは、デレシアという名前だけ。
彼女がこの事件を引き起こしたとは考えられないが、カギを握っていると、勘が告げている。
最優先事項は事件の解決だが、デレシアとの合流も考えに入れておく必要がある。

(=゚д゚)「なぁ市長、俺はこう考えているラギ。
    恰好だけのくっだらねぇ会議より、現場を歩いて調べる方が時間を無駄にしないって」

¥・∀・¥「全くもって同感だよ、えーと……」

(=゚д゚)「トラギコ・マウンテンライト、トラギコと呼べばいいラギ。
    じゃあ俺は適当に散策するラギ、後は好きにしてくれや」

市長は、馬鹿ではない。
それが分かっただけで収穫だ。

(=゚д゚)「邪魔だけは、してくれるなよ」

アタッシュケースを持って、トラギコはその陰気くさい部屋を出て行った。

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396名も無きAAのようです:2014/03/03(月) 21:54:29 ID:Dz5RW/cY0
その光景を目にした時、思わず、観光で訪れたアルカトラズ島の監獄での出来事を思い出した。
脱獄不可能と言わしめたアルカトラズ刑務所の跡地。
観光の目玉とも言える監獄体験の時に起こった、一つの事件、事故。
当時の情景の懐かしさに、デレシアは思わず頬を緩ませた。

鉄格子の代わりに開いたのは装飾された扉。
現れた人々の顔に浮かぶのは安堵と疑問の色が入り混じった、歓喜と恐怖の表情は同じ。
籠から出された鳥が外の世界を恐れるような、そんな感じもまた同じだ。
それはそうだ。

実際、彼らを待つのは殺人鬼。
飼い慣らされた鳥にとっての自然と同じなのだ。
気の毒だとは思うが、自分自身を守ることが必要とされている時代だと云うことは、生まれた時から教わっているはずだ。
幸いなことに、彼らは武器を手にしている。

昔とは違い、銃を携帯することに誰も躊躇をしない。
平和主義だとか、共存だとか抜かす阿呆はとうの昔に絶滅した。
だが不幸なことは、彼らが怯える対象にあった。
彼らに危害を加え得る存在には、偏執がある。

それも、異常な類の。
デレシアはこの狩場で、犯人の目的と偏執を探らなければならない。
判断材料が極めて少ないため、相手が動きやすい場を作り出しでもしないとパズルのピースが揃わないのだ。
パズルのピースを強引に引き出せれば重畳。

次の被害者が出たとしたら、それは残念なことだ。
犯人が早計で、浅はかだと分かってしまうからだ。
出来ればそうであってほしくない。
ブーンを海に放り、デレシアを怒らせた人間が、ただの精神異常者であっては困るのだ。

397名も無きAAのようです:2014/03/03(月) 21:57:56 ID:Dz5RW/cY0
ζ(゚、゚*ζ「……さて、と。 ヒート、私達も動くわよ。
      用意は?」

すっかり人気のなくなった第三ブロック一階にある大会議室。
その出口から姿を現したのは、カーキ色のローブで身を固めたデレシア。
彼女の腋の下に吊るされたホルスターと、腰のホルスターには銃が収められている。
腋の下の二挺は、傷だらけの黒のデザートイーグル。

装填されているのは、マンストッピングパワーに優れたホローポイント弾。
腰のソウドオフショットガンには、対棺桶用の大口径のスラッグ弾が詰まっている。
予備の弾も弾倉もローブの下にある。
正面切っての戦闘だろうと、左右を挟まれての攻撃だろうと、切り抜けられる。

この準備は大げさとは思わない。
デレシアの推測では、この殺人劇は序章。
全体の注目をこれに集めるための茶番劇に過ぎない。
ならば、その茶番劇に全力で付き合う人間を宛がい、こちらはこちらで、準備をすればいい。

敵がそれに気付いたとしても、反応することは難しい。
反応すれば、それはデレシアの推測を肯定することになるのだ。

ノパ⊿゚)「いつでも。 で、あたしが合流する協力者ってのはどんな奴なんだ?」

ヒート・オロラ・レッドウィングは、ダークグレーのシャツに黒のジャケット、そして下はスラックスと云う姿だ。
堅気の格好とは言えないが、動きやすさとカモフラージュのアレンジはデレシアのそれよりも遥かに高い。
防弾・防刃の服装ではないが、その代わりに、彼女の背中には棺桶がある。
Aクラスのコンセプト・シリーズ、対強化外骨格用強化外骨格“レオン”が。

ζ(゚、゚*ζ「そうねぇ……」

398名も無きAAのようです:2014/03/03(月) 22:00:27 ID:Dz5RW/cY0
さて、協力者の事をどう語ろうか。
湾曲表現は好まない。
特に、親しい人間に対する隠し事は好きになれなかった。
だが迂闊にその人物の情報を公開するべきでないことは、この状況では明らかだ。

デレシアの見立てでは、犯人はあの会議室にいた人間の中にいる。
それが変装をしているにしろ、していないにしろ、だ。
となれば、今こうしている間にもどこかでデレシア達を監視しているかもしれない。
一先ず、真実を一つだけ教えることにした。











     ζ(゚ー゚*ζ「ちょっとだけ不器用な、私の親友よ」











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                           ___________|\
‥…━━ August 6th AM07:15 ━━…‥[|[||  To Be Continued....!    >
                            ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|/

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399名も無きAAのようです:2014/03/03(月) 22:20:16 ID:Dz5RW/cY0
これにて第七章の投下は以上となります

質問、指摘、感想などあれば幸いです。

400名も無きAAのようです:2014/03/03(月) 22:57:11 ID:eNVGNUmcC
途中まで流し読みしてたよ、後編の投下がまさか今日だとは思ってなかった 
主とか犯人の影とか色々盛り上がってきた、主と犯人誰だろ

401名も無きAAのようです:2014/03/04(火) 00:15:13 ID:9tBCDAyEO
VIPのログ読んできた、こっちを先にしたんだな

402名も無きAAのようです:2014/03/29(土) 00:47:12 ID:ykRLbvVU0
Ammo→Re!!のようです
Ammo for Reasoning!!編 第八章

3/29 夜 VIPにて投下します!!

ttp://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_1511.jpg

403名も無きAAのようです:2014/03/29(土) 00:56:16 ID:.SyG0gmY0
よしきた

404名も無きAAのようです:2014/03/29(土) 01:52:00 ID:OUCATiFQC
( ^ω^)はあくしたお

405名も無きAAのようです:2014/03/29(土) 20:09:37 ID:ykRLbvVU0
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In the flame if you hide a tree.
木を隠すなら炎の中。

In the water if you hide the flame.
炎を隠すなら水の中。

In the rain if you hide the water.
水を隠すなら雨の中。

In the storm if Hide rain.
雨を隠すなら嵐の中。

- Now, if you hide the mystery?
――では、謎を隠すなら?

                                  The last examination of detective
                                          【探偵試験最終問題】

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