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( ´_ゝ`)二人の旅路は波乱万丈のようです(´<_` )

1 ◆Sci4aLEAnU:2013/01/03(木) 22:34:43 ID:DZDhlMOE0
「兄者、行くぞ!」
 その言葉で、全てが始まった。





第一章  旅立ちの夜

2 ◆Sci4aLEAnU:2013/01/03(木) 22:37:24 ID:DZDhlMOE0
 世界の片隅の小さな村に、その塔は建っていた。
 出入口は無く、てっぺんの部分のみに唯一の部屋がある。その部屋の窓から垂らされるロープを登るしか、出入りが出来ない。そのような不便極まりない塔のがなぜ存在するのか。
 それは、軟禁、である。
 凝った内装のその部屋で、今日も青年は目を覚ます。

( つ_ゝ`)「んー・・・、よく寝たなあ」

 彼の名は、サスガ・アニジャ。囚われ人とは思えない呑気な台詞だが、彼にとってここでの生活は既に日常だった。故に、嘆きも絶望もない。

( ´_ゝ`)「弟者、今日も来てくれるかな」

 そう口にするのもいつもの事。今日のおやつは何にしようか、などと朝食も食べない内から考えるのも、いつもの事だった。

3 ◆Sci4aLEAnU:2013/01/03(木) 22:39:06 ID:DZDhlMOE0
 待ち人が来たのは、陽が傾く少し前くらいだった。
 兄者、と声が聞こえて、彼――アニジャは、ぱっと顔を綻ばせた。そして急いで窓辺に駆け寄って、常備してある頑丈なロープを外に向かって垂らす。事情を知らない者が見たら、そのロープで脱走できるじゃないかと言いそうだが、勿論、それが出来ない理由がアニジャにはある。
 外と中とを繋ぐロープがぎしぎしと軋む。その音が段々と近付いてきて

(´<_` )「兄者、元気か?」

 閉じ込められている青年と瓜二つの顔が、窓の向こう側に居た。
 何も驚く事はない。彼らは双子の兄弟なのだから。ただ、髪の色と瞳の色は異なり、アニジャは海のような青、もう一人は森のような緑色をしていた。
 緑色の青年――オトジャという――が部屋の中に入ると、アニジャは彼を歓迎した。

( ´_ゝ`)「俺は今日も元気だ!変わりない。お前も変わりはなさそうで何よりだ」

(´<_` )「・・・ああ」

 心なしか、オトジャの表情には翳りがある。それに気付かない振りをして、アニジャは弟を椅子に座らせた。

( ´_ゝ`)「おやつにしよう。今日は色々作ったんだ」

 そう言って、テーブルの上に素朴な見た目の、けれども甘く香ばしい香りを放つ菓子を次々に並べていく。甘すぎる物は好まないオトジャの為に、アニジャが腕によりをかけて作ったのだ。この部屋には生活に必要な全てが揃っており、新鮮な食材も毎日届けられるからこそ何でも作る事が出来た。
 表面がつやつやしたアップルパイ、香ばしい香りの胡桃のクッキー、ふわふわのパンケーキ、ずっしりとしたフルーツケーキ、どれも美味しそうだ。

4 ◆Sci4aLEAnU:2013/01/03(木) 22:40:26 ID:DZDhlMOE0
( ´_ゝ`)「コーヒーも用意したぞ。お前、好きだろう」

 凄いだろう、とアニジャは胸を張る。コーヒー豆はこんな山奥までは中々流通しない、貴重なものだ。

( ´_ゝ`)「村長に我儘を言ったんだ。今日くらいは許されるかなって――」

( <_ )「兄者!」

 突如、オトジャが大声を出した。アニジャは驚いて飛び上がる。

( ;´_ゝ`)「な、何だ弟者。急に大声をだすな!」

 驚くじゃないか。そう続けようとして、アニジャは言葉を呑み込んだ。オトジャの強い視線がアニジャを射抜く。その表情は深い悲しみと苦悩に歪んでいた。

( ;´_ゝ`)「お、と・・・」

( <_ )「どうして兄者はいつも通りなんだ?もう兄者に明日は来ないのに」
 絞り出すような声だった。

( <_ )「今夜、俺に殺されるのに」

 時が、止まる。
 その瞬間、アニジャの脳裏に、これまでの出来事が走馬灯のように蘇った。

5 ◆Sci4aLEAnU:2013/01/03(木) 22:41:57 ID:DZDhlMOE0
 ――十八年前、世界の片隅の小さな村マターリに、双子の男の子が誕生した。兄は青い髪、青い瞳。弟は緑の髪、緑の瞳。その他は全く同じだった。
 兄はアニジャ、弟はオトジャと名付けられ、両親と姉の愛情に包まれてすくすくと成長した。サスガ家の兄弟なので、村人からは『流石兄弟』と呼ばれていた。
 温かな家庭、穏やかな暮らし。しかし双子が五歳の時、村の占術師が放った一言が、その何の変哲もない普通の幸せを奪ってしまった。

6 ◆Sci4aLEAnU:2013/01/03(木) 22:43:28 ID:DZDhlMOE0
 ある日の午後、村長のモララーと占術師のミルナが連れたって、サスガ家の戸を叩いた。村長が我が家に来るなんて何事だろう、占術師が一緒にいるのは何故だろうと、あの時は疑問に思ったものだった。

( ゚д゚ )「これより十四年後、封印されし“破滅の神”が蘇る。それは即ち、世界の終わり。それを阻止するには、強い強い魔力を生まれながらに秘めた者・・・そう、お前の血が必要なのだ」

 そう言って、ミルナはアニジャを指差した。
 家族の誰も、呆けていた。指を差されたアニジャですら、まるで他人事のようにミルナの指先を見つめていた。そんなサスガ一家を見て、今度はモララーが語り出した。

( ・∀・)「ミルナの占術結果は、必ずその通りになる。ミルナと話し合って、アニジャが十八の誕生日を迎えたら、その首を斬り落とし、流れ出た血を壺に集めて、封印されている神殿に撒く事にした。魔力は血液に凝縮されているから、それが神を再び封印するという」

 その為には、成長と共に魔力を増幅させなければならない。だから

( ・∀・)「この子は私が預かり、魔術師としての英才教育を施してやろう。その暁に、この子は世界を救う者となる」

 モララーの言葉に、家族は我に返り、当然ながら猛反発をした。
 怒れる姿は魔人の如きと称される、母親のハハジャは勿論の事、普段はハハジャの尻に大人しく敷かれている父親のチチジャですら声を荒げた。その後ろで姉のアネジャと弟のオトジャがアニジャを両側から抱き締め、絶対に渡すものかと意思表示をしていた。その時、アニジャは家族に守られているというのに、嫌な予感に胸を押し潰されそうになっていた。
 そしてその予感は、すぐに的中する事になる。

7 ◆Sci4aLEAnU:2013/01/03(木) 22:45:04 ID:DZDhlMOE0
 @@@
@#_、_@
(;  ノ )「――っ!?」

 彡⌒ミ
(; _ゝ )「ぐっ・・・!!」

∬; _ゝ「んあっ・・・!!」

( <_ ;)「かはっ!!」

 突如、両親と姉、弟が喉を押さえて苦しみ始めた。一人平気なアニジャは、「え?え?」と家族、村長と占術師を交互に見遣る。よく見ると、占術師ミルナが両手で包み込むように持っている水晶玉が、赤く光っていた。

( ・∀・)「――アニジャ」

 モララーに名前を呼ばれ、アニジャはビクッと身体を震わせて、視線を水晶玉から外した。
 そんな彼に、モララーは一言。

( ・∀・)「来なさい」

 アニジャは涙を溢れさせ、モララーと占い師に縋りついた。

( ;_ゝ;)「いきます!いくから、みんなをたすけてください!!」

 必死で懇願する。すると後ろから、アニジャの腕を掴む者がいた。

8 ◆Sci4aLEAnU:2013/01/03(木) 22:46:32 ID:DZDhlMOE0
( <_ ;)「あ、あに、じゃ・・・いく、な・・・!」

 オトジャだった。彼は息も絶え絶えに、声を絞り出していた。アニジャは目から大粒の涙をぽろぽろと零して、弟を抱き締める。

( ;_ゝ;)「ああ、おとじゃ!おとじゃ!おとじゃ!!」

 その様子を見て、ミルナはほぅ・・・と感嘆した。

( ゚д゚ )「息の根が止まりかけているというのに、まだ口が聞けるとは。・・・ほぅ、ほぅ、これは面白い」

 彼は微かに笑いながら、水晶玉をひと撫でした。すると赤い光が消え、それと同時に四人が咳き込み大きく息を吸う。呼吸が戻り、辛うじて死なずに済んだらしい。
 それを眺めながら、モララーはオトジャにとって、そして他の家族にとっても、最も残酷な一言を言い放った。

( ・∀・)「オトジャ、お前にはアニジャの首を斬り落とす役目を与えよう」

(・<_・;)「なっ」

 オトジャが声を上げたが、ミルナが水晶をちらつかせると悔しそうに黙りこむ。そしてモララーは言葉を続けた。

( ・∀・)「お前にはあらゆる武器の扱い方を叩き込んでやろう。ついでに武術もな。身体を鍛え抜き、兄の首を一刀両断するといい」

 それが、素直にアニジャを差し出さなかった罰だ。そう言って、モララーは口の端を歪めて笑った。
 愕然とする四人を残し、モララーとミルナはアニジャを連れて行ってしまった。

9 ◆Sci4aLEAnU:2013/01/03(木) 22:47:56 ID:DZDhlMOE0
記念すべき初投下はここまで。
また明日、続きを投下します。

10 ◆Sci4aLEAnU:2013/01/03(木) 23:00:48 ID:y7jPsDDw0
ちょっと文章が直接的すぎる気がする

トリップは変えたほうがいいかも

11 ◆tqhinNTqWw:2013/01/04(金) 22:21:52 ID:gBzeezhs0
>>10

了解、気をつけます。
あとトリップも変更しました。

12 ◆tqhinNTqWw:2013/01/04(金) 22:26:55 ID:gBzeezhs0
 続きを投下。 




 それからアニジャは、村長の屋敷の一室で、様々な魔術師達に様々な事を叩き込まれる日々を送った。モララーは金と人脈を最大限に利用し、優れた魔術師をとっかえひっかえアニジャの講師に宛がった。
 魔力はめきめきと増幅していく。けれど屋敷から一歩も出ることのできない軟禁生活は、幼い子どもにとって孤独以外のなにものでもない。
 その支えとなったのは、アニジャ同様、あらゆる武道家や戦士に戦い方を叩き込まれる生活を送る事となったオトジャだった。彼は兄とは違い、自宅での生活を続けていた。そして一日に一回、兄に会いに行くのを許されていたのだ。今思えば、アニジャの精神が壊れてしまわない為の策だったのだろう。
 兄は魔法の、弟は武術の修行。そんな日々が八年ほど過ぎた頃、ある事件が起きた。
 それ以来、アニジャの軟禁場所は塔になった。
 それでもオトジャの来訪がない日はなく、今に至る。

13 ◆tqhinNTqWw:2013/01/04(金) 22:29:47 ID:gBzeezhs0
 長い長い回想を数秒で終え、アニジャはふぅと息をついた。

( ´_ゝ`)「すまない」

 アニジャがぽつりと言った。

( ´_ゝ`)「俺が魔力を持っていたばかりに、お前には辛い思いをさせてしまうな。これまでも・・・そしてこれからも」

 オトジャは首を振った。ちがう、ちがうと呟きながら。

( <_ )「悪いのは占術師だ。あいつがあんな事を言わなければ、こんな事にはならなかった。それに村長も、兄者の命を何だと思っているのか。兄者の命がなければ滅ぶ世界など、破滅の神に滅ぼされてしまえばいい!!」

( ´_ゝ`)「ああ、弟者。弟者、そんな事を言うんじゃない。世界が滅んだら、大事な家族も死んでしまうんだ。そんなの、俺は嫌だよ」

 アニジャは弟をぎゅっと抱き締めた。

( ´_ゝ`)「・・・そりゃ、もう少し生きていたかったとは思うよ?でも、大事な家族の命を危険に晒す位なら、皆を守る為なら、俺は死んでも構わない」

 オトジャはぎり・・・と唇を噛み締めた。強く噛み過ぎて血が流れている。それを見て、アニジャは血を拭ってやると、己の両手を弟の両頬にふわりと添えた。

( ´_ゝ`)「勿論、家族の皆が俺に対して、同じように生きていてほしいと願ってくれている事は知ってる。・・・そこは心残りでもあるし、申し訳なく思ってる」

 オトジャの右手はアニジャの左手を掴んだ。ごつごつとした武骨な手は、白く繊細な手をいとも容易く握り潰せるだろう。双子ではあったが、全く違う育ち方をしたせいで、二人の外見は似てこそいたものの身体つきは正反対だった。

( ´_ゝ`)つ「弟者」

 掴まれていない方の手で、アニジャはオトジャの頭を撫でる。

( ´_ゝ`)つ「お前の両腕は、誰かを守る為にある。それを忘れるな」

 それを聞いたオトジャは、一気に頭に血を上らせた。

14 ◆tqhinNTqWw:2013/01/04(金) 22:34:00 ID:gBzeezhs0
(°<_° )「違う!俺の両腕は、兄者の首を斬り落とす為のものなんだ!!」

 それはまるで、悲鳴だった。

( <_ )「嫌だ。どうしてこんな・・・」

 大の男が子どものように泣きじゃくる様は中々シュールだが、彼にはそうするだけの理由がある。だからこそアニジャも、弟をただ抱き締めてやる。

( ´_ゝ`)「弟者・・・落ち着け。なあ、頼むから・・・」

 泣きすぎて過呼吸を起こしかけているオトジャの背中を擦り、必死で宥めた。

( ´_ゝ`)「弟者、最期の頼みがあるんだ。だから落ち着いて、俺の話を聞いてくれ」

 頼み、という言葉に反応し、オトジャは顔を上げた。目は真っ赤、顔は涙でぐちゃぐちゃで、折角の整った顔立ちが勿体ない事になっている。アニジャはまず、オトジャの顔を拭いてやり、それからきっちりと畳まれた一枚の紙――手紙を渡した。

( ´_ゝ`)「これ、皆に宛てた手紙。渡しておいてくれ」

 オトジャは渡された物をしばし見つめ、そして静かに頷いた。
 外では、太陽がゆっくりと傾こうとしていた。

15 ◆tqhinNTqWw:2013/01/04(金) 22:35:27 ID:gBzeezhs0
 母者、父者、姉者、弟者、妹者へ。
 
 
 弟者以外の皆に会えないまま逝くことを許して下さい。
 短い人生だったけれど、俺は幸せでした。
強くて頼りになる母者がいて、穏やかで優しい父者がいて、よく遊んでくれた姉者がいて、長い間支えてくれた弟者がいて、会った事はないけれど目の中に入れても痛くないと思える妹者がいて、俺は世界で一番の幸せ者だと、心から思っています。
 どうか、幸せに。安寧に。それを願っています。
 今までありがとう。

 アニジャ

16 ◆tqhinNTqWw:2013/01/04(金) 22:38:51 ID:gBzeezhs0
短いけれど今日の投下はここまでにします。

17名も無きAAのようです:2013/01/05(土) 18:10:55 ID:58YvBjTg0
支援
流石兄弟が好きだから覗いてみたら、俺好みの作品だった。

18名も無きAAのようです:2013/01/05(土) 21:27:33 ID:XkoVuZ5U0
続き待ってるからな

19 ◆tqhinNTqWw:2013/01/05(土) 23:10:24 ID:eihIy5p.0
私も流石兄弟が好きで小説投下を始めたから、支援嬉しい。ありがとう。
続きを待っていると言われて、浮かれながら本日分を投下します。

20 ◆tqhinNTqWw:2013/01/05(土) 23:13:01 ID:eihIy5p.0
 深夜、小さな塔の根元では、ある儀式が行われようとしていた。
 どこから運ばれてきたのか、広く平らな石畳が一枚用意された。その上に横たわるのは、他でもないアニジャだった。
 腰から足首までは、薄い絹の一枚布でぐるりと覆われていたが、他に身に付けている物はは何一つなかった。禊を済ませた身体は月明かりに照らされ、まるで大理石の彫刻を思わせる。
 アニジャの目は閉じられていたが、眠っている訳ではない。周囲に人の気配を感じながら、特に恐怖を感じることもなく、その時を待っていた。
 横たわる彼を囲むのは、村長のモララーと占術師のミルナ、モララーの護衛兼使用人数名である。そして

( ´_ゝ`)(・・・来た)

 ざく、ざく、ざく。砂利混じりの土を踏む足音が聞こえる。それはゆっくりとアニジャに近付き、すぐ傍で止まった。
 もうすぐ、彼の人生は終わる。

( ´_ゝ`)(さようなら・・・)

 家族への思いを胸に、彼はその瞬間を待った。
 ・・・だが、次に聞こえてきたのは、何かが割れる音。ばきっ、どん、という音。苦痛に呻く誰かの声。

21 ◆tqhinNTqWw:2013/01/05(土) 23:14:53 ID:eihIy5p.0
( ;´_ゝ`)(え?)

 瞬く間に打撃音が続き、呻き声が増えていく。だがアニジャは目を閉じたまま硬直していた。
 長い長い時間が流れたように感じた。実際はほんの一瞬だったのだが。
 辺りが静かになると、アニジャは急に腕を引かれて身体を起こされた。そこで、彼はようやく目を開いた。

( ;´_ゝ`)「・・・は?」

 思わず、間の抜けた声が漏れた。
 その場に立っているのは自分と、自分を起こしたオトジャの二人だけになっていた。他の者達は全員、口から泡を吹いたり、手足を有り得ない方向に曲げたり、或いは白目を剝いたりと、いずれも悲惨な有様で転がっている。
 そんな現状に目を白黒させるアニジャの手を、オトジャが掴む。

(´<_` )「兄者、行くぞ!!」

 そう叫ぶと、オトジャは兄の手を引いて走り出したのだった。

22 ◆tqhinNTqWw:2013/01/05(土) 23:31:05 ID:eihIy5p.0
(´<_` )「はあ・・・ひとまずここまで来れば大丈夫か」

 村から飛び出して一時間。川を渡り、岩場を抜け、獣道を通り、小さな泉のほとりに辿り着いた所で、ようやくオトジャは足を止めた。息が少々上がっているが、途中からアニジャを抱きかかえていた事を考慮すれば、驚くべき体力といえよう。

(´<_` )「兄者、ここで少し休んだらまた移動するぞ。夜明けまでにシタラバまで行きたい」

 シタラバとは、マターリ村から一番近い町だ。一番近いと言っても、普通に歩けば半日はかかる。
 知識としてそれを知っているアニジャは、移動中は混乱して挟めなかった口を、ようやく開いた。

( ;´_ゝ`)「あのー・・・弟者?」

(´<_` )「何だ兄者」

(;´_ゝ`)「村長達、何で叩きのめしたの?」

(´<_` )「愚問だな。兄者を村から連れ出す為に決まっている。まあ積年の恨みもあるが」

(; _ゝ )「・・・こんな事をしたら、お前、ただじゃ済まないぞ」

(´<_` )「捕まらなければいいだけの話だ」

( ; _ゝ )「母者や父者、姉者に妹者はどうなる?」

(´<_` )「四人とも、今頃は村を離れて安全な場所にいる。心配ない」

(; _ゝ )「・・・俺が生贄にならなかったら、世界は」

(´<_` )「兄者」

 オトジャがアニジャの言葉を遮った。切れ長の目が、ひたとアニジャを見据えている。いつもとは様子の違うオトジャに、アニジャはどきりとする。

23 ◆tqhinNTqWw:2013/01/05(土) 23:33:15 ID:eihIy5p.0
(´<_` )「兄者は、死にたかったのか?」

( _ゝ)「・・・・・・」

 アニジャは俯く。それは、何かに耐えているようでもあった。
 答えない兄に、オトジャは静かに問いを重ねた。

(´<_` )「なあ、俺に殺されたかったのか?」

( °_ゝ°)「――違う!!」

 アニジャは顔を上げ、オトジャの瞳を睨みつけるように見返した。

( °_ゝ°)「死にたくなかったさ!生きていたいとずっと思っていた!書物やお前の話でしか知ることのできない外の世界を見てみたいと、ずっとずっと思っていた!」

 感情を露わにして喋るアニジャを見て、オトジャはふっと笑った。

(´<_` )「それが聞けてよかった。兄者、よく聞け。兄者の手紙を読んで、俺達はこの脱走劇を考えたんだ」

 初めのうちは、あのミルナの水晶玉や他の村人の監視もあり、どうすることもできずただ日々が過ぎていくだけだった。だがオトジャが力をつけるにつれ、アニジャを逃がす為の作戦は少しずつ練られていった。ミルナの魔術をどう防ぐか、どこへ身を隠すか、移動手段はどうするか。だが肝心の、アニジャを連れ出す方法が思いつかなかった。
 しかしアニジャの手紙を読んで、己の死を受け入れた上で家族を案じている彼の思いを知って、家族は決意した。

(´<_` )「敢えて儀式の準備をして、事の寸前で不意を突くことにしたんだ」

 真っ先にミルナの水晶玉を破壊したら、後は簡単だった。元々素質があったのか、オトジャは非常に強い。戦いに慣れていない者も混じっていたので、全員を叩きのめすのは赤子の手を捻るより簡単だったという。

(´<_` )「上手くいくかどうかは、正直五分五分だったが、何とか逃げだせたんだ。だからもう、腹を括って自由になれ。多分、これからは追われる身になるだろうが、何とかやっていけるさ」

24 ◆tqhinNTqWw:2013/01/05(土) 23:35:19 ID:eihIy5p.0
 オトジャの言葉が胸にすとんと落ちて、そこから熱がじわりと滲んでくるような気がした。
 裸足に食い込む小石と、土の感触。身に付けている物といえば、腰に巻いている布一枚のみなので、山の冷たい空気は剥き出しの肌を震わせる。それなのに、それらの感覚はアニジャに『生きている』ことを強く実感させた。

( _ゝ )「旅がしたい」

 アニジャがぽつりと言った。

( ´_ゝ`)「世界が見たい」

 青い瞳は、同じ高さにある緑の瞳を真っ直ぐに見ていた。

( ´_ゝ`)「破滅の神とやらが本当にいるのか知りたい」

 彼は言う。

( ´_ゝ`)「もしも世界が終わるというのなら、それを阻止する方法を見つけたい」

 オトジャは笑う。

(´<_` )「やろう、兄者。俺らなら出来る」

25 ◆tqhinNTqWw:2013/01/05(土) 23:37:18 ID:eihIy5p.0
 だがとりあえず、シタラバまで行かないとな。そうオトジャは言った。
 アニジャは勿論の事、オトジャも儀礼用の薄い服を纏うのみなので、明るくなれば非常に目立つだろう。それに武器も、先立つものもない。

(´<_` )「シタラバまで行けば、知り合いの薬師がいる。そこを頼ろう」

 オトジャは自分が着ていた上着を脱ぎ、アニジャに着せた。

(´<_` )「これも薄いが、裸よりはマシだろう」

( ´_ゝ`)「でも、それじゃお前が・・・」

(´<_` )「俺は鍛えているから平気だ。さあ、行くぞ」

 そう言って、オトジャはくるりと背を向ける。その瞬間、逞しい背中に残る古い傷痕が――まるで滅多打ちにされたかのように凄まじいそれが、アニジャの目に飛び込んでくる。
 彼の息が詰まる。

( _ゝ)(・・・やっぱり、傷は残ったんだ)

 思わず傷に手を触れようとして、直前で引っ込める。オトジャはそれに気付かず、兄の手をとって再び山を下りはじめた。

26 ◆tqhinNTqWw:2013/01/05(土) 23:39:00 ID:eihIy5p.0
今日はここまで。
次は七日の夜に投下予定です。

27名も無きAAのようです:2013/01/07(月) 19:58:12 ID:N640KVh60
七…今日か?

28 ◆tqhinNTqWw:2013/01/07(月) 23:33:35 ID:Ykk9bmtw0
はい、今日です。
では投下します。

29 ◆tqhinNTqWw:2013/01/07(月) 23:34:35 ID:Ykk9bmtw0
 二人は夜通し歩き続け、夜明け前にはシタラバに到着することができた。
 人通りのない道を、疲れた足を引きずるようにして歩く。オトジャが時折きょろきょろと辺りを見回し、目的の家を探す。




第二章  追っ手

30 ◆tqhinNTqWw:2013/01/07(月) 23:35:40 ID:Ykk9bmtw0
(´<_` )「ここだ」

 オトジャは小さな家と店が合体したような建物を指す。彼はドアの前に立つと、こんこんと控えめにノックした。
 起きるにはまだ早すぎる時間帯だよなあとアニジャがぼんやりと考えていると、ドアが静かに開いた。アニジャがびっくりしていると、オトジャがその背を押して家の中に押し込み、自分もその後ろから中に入り、後ろ手でドアを閉めた。
 一瞬の静寂。

31 ◆tqhinNTqWw:2013/01/07(月) 23:36:49 ID:Ykk9bmtw0
(,,゚Д゚)「・・・久し振りだな、オトジャ」

 一本だけ揺らめく蝋燭の明かり。それを持っているのは、双子よりも少々年嵩の青年だった。その隣には、妻らしき女性が寄り添っている。
 オトジャとこの二人は知り合いらしい。アニジャが二人にぺこりと頭を下げると、女性の方がにっこりと笑いかけてくれた。

(*゚ー゚)「貴方がアニジャさんね。オトジャ君から話は聞いていたわ。私はシィ、こっちは夫のギコよ」

 ギコは精悍な顔に笑みを浮かべた。

(,,゚Д゚)「薬師をしているギコ・ハニャーンだ。まあ立って話すのもなんだから、とりあえず椅子に座れ」

 二人は勧められた椅子に、倒れこむように座り込んだ。夜通し歩いてきたので無理もない。座った途端に、疲労がどっと押し寄せてくる。

(*゚ー゚)「その恰好じゃ寒いだろうから、この毛布を羽織るといいわ。貴方達の身体に合うような服がないから・・・明るくなったら買ってくるわね」

 シィは持ってきた毛布で二人を包むと、今度は台所に立ってこんがりと焼いたパンと温かなシチューを用意してくれた。美味しそうな匂いに、兄弟の腹が激しく自己主張を始める。

(,,゚Д゚)「さ、しっかり食べろ。食べながらでも話はできるからな」

 その言葉を合図に、二人は勢いよくパンにかぶりついたのだった。

32 ◆tqhinNTqWw:2013/01/07(月) 23:39:36 ID:Ykk9bmtw0
 ギコとシィの夫婦はシタラバで薬屋を営んでおり、住居に隣接している店舗で、自ら摘んできた薬草やそれらを調合して出来た薬を販売し、生計を立てていた。
 そんな二人がオトジャと出会ったのは、マターリ村からそう遠くない場所で道に迷っている時だった。

(,,゚Д゚)「あの時は店を一日休んで薬草取りに行ったんだが、途中で道を間違えたらしくてな」

 途方にくれてうろうろしている時に、傷だらけの少年が通りかかった。それがオトジャだった。
 一人で鍛錬中だったオトジャは小さな傷を全身に負っていた。見かねた夫婦は彼に手当てを施し、彼はお礼に夫婦を村へと案内した。それ以来、親交があったという。
 話を聞いて、アニジャはああ・・・と思いだした。確かオトジャがたまに話題に出していた、気のいい薬師の夫婦。彼らだったのか。

(,,゚Д゚)「初めて会った時は無愛想だったのが、次第に色々話してくれるようになってな。それで・・・その、昨夜行われる筈だった儀式の事もちらっと聞いていたんだ」

 ギコの様子から、「ちらっと」どころか全ての事情を知っているのだろうとアニジャは察した。オトジャがそこまで心を開くのだから、この二人は信頼できる人達なのだろう。

33 ◆tqhinNTqWw:2013/01/07(月) 23:40:43 ID:Ykk9bmtw0
( ´_ゝ`)「・・・もしかして、俺達がここに来る事を予感していました?」

(,,゚Д゚)「ああ」

 間髪入れずに答えたギコがにやっと笑う。

(,,゚Д゚)「何となく予感はしていたんだ。オトジャはお前さんを心の底から大事にしている。そんな相手を殺すなんて絶対に出来やしない。どうにかして逃げてくるんじゃないかってね」

(*゚ー゚)「あそこから一番近いのは、この村だものね。だからそうなったら、きっとここに立ち寄ると思ったの」

 シィは、私達を頼ってくれて本当に嬉しいと笑った。

(*゚ー゚)「多分、着の身着のままだろうと思って、旅に必要な物は少しずつ集めておいたの。十分とは言えないけれど、少しはましな旅ができると思うわ。服は今日中に何とかするから」

 アニジャとオトジャは、食事の手を同時に止めた。そして同時に深々と頭を下げて、同時に「ありがとうございます」と礼を言う。そのあまりにもそっくり同じ動作に、ギコとシィは声を上げて笑った。

34 ◆tqhinNTqWw:2013/01/07(月) 23:42:28 ID:Ykk9bmtw0
今日の投下はここまでです。
次回投下は九日予定。

35名も無きAAのようです:2013/01/09(水) 21:50:32 ID:Si9gGuBU0
9日だよー待ってるよー!

36 ◆tqhinNTqWw:2013/01/10(木) 00:38:39 ID:V4yhxFSw0
少し遅くなったけれど、本日の投下開始。

37 ◆tqhinNTqWw:2013/01/10(木) 00:39:39 ID:V4yhxFSw0
 食事と話が終わると、二人は屋根裏部屋へと案内された。そこは狭いながらも掃除が行き届いていて、ベッドや小さな棚も置いてあった。隅の方には古着やガラクタが詰め込まれた木箱がいくつか、邪魔にならないように積んであった。オトジャは整えられたふかふかのベッドに目が吸い寄せられていたが、アニジャは何故かガラクタを興味深そうに見ている。
(*゚ー゚)「今日はここでゆっくり休んでね。ベッドは、貴方達二人にはちょっと窮屈かもしれないけど」
(´<_` )「いえ、十分です。本当にありがとうございます」
 一晩、殆ど休まずにシタラバまで移動した身にとっては、ベッドで眠れるだけでも有り難い。
( ´_ゝ`)「シィさん。よかったらこの古着や木箱、使ってもいいですか?」
(*゚ー゚)「・・・?ええ、どうせ使わないから、どうぞ」

38 ◆tqhinNTqWw:2013/01/10(木) 00:41:13 ID:V4yhxFSw0
 シィは「おやすみなさい」と言って下に降りて行った。
 オトジャはさっさと布団に包まって眠りたかったが、アニジャがぼーっと木箱を見ているので、どうしたのかと声をかけた。

(´<_` )「兄者?」

( ´_ゝ`)「マターリからここまでの距離だったら、早ければ今日中には追手が来るかも」

 唐突に言われ、オトジャは戸惑いながらも「そうだろうな」と同意する。するとアニジャはくるりと振り返って、オトジャに言った。

( ´_ゝ`)「弟者、先に休め。俺はいつでもここを出られるように準備するから」

 むしろ休むべきはアニジャだと思っているオトジャは、目を数回瞬かせた後、僅かに首を傾げる。

(´<_` )「兄者、何をするんだ?」

 アニジャはそれに答えず、悪戯っ子のような笑みを浮かべてみせた。そして木箱を漁り、
古着を数枚取り出した。それから丸めて置いてあった古い地図を数枚に切り分け、その内の一枚に何やら図形のような物を書き込んでいく。それが書き上がると畳んで重ねた古着の上に置き、アニジャは口の中で聞き慣れない言葉を紡いだ。
 すると、ただの古着が眩しく発光した。驚いたオトジャが目を閉じると、次の瞬間には古着が大きめのチュニックとズボンになっていた。アニジャがそれをオトジャに宛がうと、それは彼に丁度良い大きさだった。

39 ◆tqhinNTqWw:2013/01/10(木) 00:42:53 ID:V4yhxFSw0
( ´_ゝ`)「よし、ぴったり」

 アニジャは満足気だが、オトジャは驚きのあまり目が点になっている。

(´<_`;)「あ、兄者。これって魔法か?」

 そう聞いてきたオトジャに、アニジャは「んー」と考える。 

( ´_ゝ`)「まあ、魔法の一種とも言えるが、正しくは錬金術だ」

 れんきんじゅつ、とオトジャは復唱する。

( ´_ゝ`)「魔力を込めた魔法陣を材料に貼りつけるか、材料それぞれに同一の魔法陣を描いて、魔力を発動することによって、新たな物を作る事が出来るんだ」
 例えば、数本の材木でいかだを作る事ができる。小麦粉、水、塩、イーストでパンが出来る。壊れた物でもパーツが揃っていれば、元通りに直す事も出来る。
 生み出せるモノは無限大だが、材料と作りたいモノによって魔法陣は細かく変わり、魔力の消費量も異なる。そして、作った物には魔力などの特別な付加が出来ない。

( ´_ゝ`)「でも、こういう時は便利だろう。服も、とりあえず見栄えを整えることが出来れば問題ない」

 そう言って、アニジャは自分用にローブとズボンを作った。それから二人分の外套も。
 次に、アニジャは壊れた燭台を取り出した。

40 ◆tqhinNTqWw:2013/01/10(木) 00:44:25 ID:V4yhxFSw0
( ´_ゝ`)「弟者、得意な武器は何?」

+(´<_` )「拳」

(;´_ゝ`)「・・・OK、ナックルにしよう」

 そうして燭台はオトジャの拳に合ったナックルへと姿を変える。アニジャも護身用に、木箱で棍棒を作った。

( ´_ゝ`)「ひとまず、これで次の町まで凌ぐしかないな。まあどうにかなるだろう」

 弟者、強いし。そうアニジャが言えば、オトジャは苦笑する。

(´<_` )「さて、俺は荷物の点検でもするかな」

 オトジャはギコとシィが用意してくれたのであろう荷袋を開けた。中には携帯食料や火打石、地図やその他細々とした物が丁寧に詰めてあった。その中には、銀貨と銅貨が数枚入った財布もある。決して大きな額ではないが、慎ましく暮らす二人が捻出するには節約が必要だったに違いない。
 オトジャはそれを荷袋の奥深くにしまい込み、出した物を再度丁寧に詰め直した。その中に、アニジャが錬金術で作った着替えを数枚追加した。
 その間、残りの古着や木箱で何やらごそごそとしていたアニジャだが、ひと段落したらしく大きな欠伸をした。

41 ◆tqhinNTqWw:2013/01/10(木) 00:46:16 ID:V4yhxFSw0
( ´_ゝ`)「さー、やることやったし、寝ようか」

 オトジャも欠伸をしながらそれに同意した。そしてふと、ベッドを見る。それは先程とは何かが違った。

(´<_` )「・・・大きくなってる?」

(*´_ゝ`)「その通り!残りの古着と木箱を全力投球してみた。これなら二人で並んで寝てもそんなに狭苦しくないし、手足も十分伸ばせるぞ」

 アニジャは満足気にベッドに横になり――ハッと真顔になった。

(´<_` )「どうした?」

 表情の変化に戸惑いながら弟者が聞けば

( _ゝ )「枕・・・作るの忘れてた・・・」

 オトジャは盛大にずっこけた。そんな事で真顔になるなとも思う。だが口に出して言うには疲れ過ぎていた。

( _ゝ )「古着は使い切ったから、枕が作れない・・・」

 ベッドにうつ伏せになって、足をばたつかせる兄に、弟は溜め息を一つ。

42 ◆tqhinNTqWw:2013/01/10(木) 00:47:28 ID:V4yhxFSw0
 オトジャもベッドに入り、アニジャの隣で横になると、自分の片腕をアニジャの方に伸ばした。その上に、アニジャの頭を乗せてやる。

(´<_` )「ほら、腕枕。固いが我慢してくれ」

 初めはきょとんとしていたアニジャの表情が、みるみる内に嬉しそうなものへと変わる。

(*´_ゝ`)「こうしてお前と一緒に寝るのも、久し振りだな!」

 アニシャのその。あまりにも嬉しそうな様子に、オトジャは胸が詰まる。
 そうだ。兄は長い間一人だったのだ。

(´<_` )「・・・これからは、ずっと一緒だ」

 静かに言ったオトジャの言葉に、アニジャは満面の笑みのまま頷いたのだった。

43 ◆tqhinNTqWw:2013/01/10(木) 00:49:24 ID:V4yhxFSw0
今回はここまで。次回の投下は16日の予定です。

44 ◆tqhinNTqWw:2013/01/15(火) 22:01:18 ID:pyo7vI6Q0
時間ができたので、一日早いけど投下します。

45 ◆tqhinNTqWw:2013/01/15(火) 22:02:38 ID:pyo7vI6Q0
(´<_` )「なあ、そういえばさ」

(‐_ゝ- )「うん?」

 既にうつらうつらと船を漕いでいるアニジャが寝てしまわない内に、オトジャはふと浮かんだ疑問を言ってみることにした。

(´<_` )「今までは、俺が頼んでもどんな事を習っているかとか、魔法については一切教えてくれなかったよな」

(‐_ゝ- )「・・・ああ」

(´<_` )「なのにさっきは、錬金術について解りやすく教えてくれたよな。何でだ?」

 アニジャは眠たげな目をオトジャに向けた。

(‐_ゝ- )「・・・これからは、お前も基本的な知識について知っておいても損はないからな。むしろ手探りの状態で村を飛び出したからこそ、情報を集めたり知識を蓄える必要がある。例え魔法を使えなくても」

(´<_` )「じゃあ、これから毎日、少しずつでいいからアニジャの知識を分けてくれ。俺も一生懸命覚えるから」

 アニジャは答える代わりに微笑んで、すっと目を閉じた。やがて聞こえてくるのは安らかな寝息。
 オトジャはしばらく、アニジャをじっと見つめていた。
 長い間閉じ込められていたせいで、殆ど日に焼けたことのない肌は白かった。時折、顔色が青ざめて見えるくらいに。また、死を前提として魔術を学んでいたので身体を鍛える事がなく、その体躯は華奢ですらあった。何と脆く見える事か。
 守ろう、と思った。
 この両腕はきっと、その為に存在しているのだ。

46 ◆tqhinNTqWw:2013/01/15(火) 22:03:37 ID:pyo7vI6Q0
 アニジャがふと目を覚ますと、幼子のように無心に眠るオトジャの顔が傍にあった。まだ自分の家で暮らしていた頃を思い出し、思わず笑みが零れる。
 弟の寝顔を見ていると、眠る前に彼が聞いてきた質問が脳裏に蘇る。

( ´_ゝ`)(今までは・・・か)

 双子の弟、オトジャ。双子だからこそ、彼がもし万が一、自分と同じような魔力を生まれつき秘めていたら、もしそれにミルナ達が気付いていないだけだったら。自分程じゃないにしても魔力を秘めていたら。もし自分に何かあって、生贄になる歳まで生きられなかったら。
 可能性をいくつも考えた。その上で、オトジャが自分の代わりになる事がないように、魔法については一切教えなかった。自分も無事に成長できるように健康に気を付けた。
 結果、自分はここにいる。家族のお陰で死なずに済んだ。自分が生きている事が不思議ですらあった。
 アニジャはオトジャの寝顔を見続ける。長い間鍛え抜いて逞しく成長した弟はしかし、繊細で柔らかな心を持っている。
 守ろう、と思った。
 この身に宿る魔力は、きっとその為に授かったのだ。

47 ◆tqhinNTqWw:2013/01/15(火) 22:04:24 ID:pyo7vI6Q0
 二人が起きて身支度を整えたのは、夕方になる頃だった。
 追手の事を考慮すれば寝過ぎた感はあるが、二人の疲れはとれ、頭もすっきりしていた。幸い、その追手もまだ来ていないようで、二人はほっとしつつ階下へと降りる。
 下では、少し早目の夕食の準備ができていた。鳥肉のクリーム煮とサラダ、そして香草茶。どれもよい匂い、香りがする。それらはアニジャとオトジャの鼻を心地よくくすぐり、食欲をわかせてくれる。

(*゚ー゚)「丁度良かったわ。今起こしに行こうと思っていた所よ。どうぞ、召し上がって」

(´<_` )「ギコさんは?」

(*゚ー゚)「今、薬草を届けにいっているの。もうすぐ戻ってくると思うから、貴方達は先にどうぞ。私はギコと一緒に食べるから」

 たくさん作ったから遠慮なく食べてね、とシィは笑う。その笑顔が、アニジャの古い記憶の中にある、姉のアネジャと重なった。おっとりとした雰囲気のシィとは違い、アネジャは快活な人だった。けれど双子の弟達である自分達への面倒見がよく、可愛がってくれる心の優しい人だった。
 今は、どのように成長しているのか。

( ´_ゝ`)(――生きていれば、きっと会える)

 生きる為には、まず腹ごしらえだ。二人はシィに礼を言って席に着いた。
 その時だった。

48 ◆tqhinNTqWw:2013/01/15(火) 22:05:06 ID:pyo7vI6Q0
(*゚∀゚)「サッスガ、アニジャー!!オットジャー!!出ッテコーイ!!」

 弾かれたようにアニジャとオトジャが椅子から立ち上がる。今、町中に響き渡るのではないかという大声で叫ばれたのは、確かに彼らの名前だった。シィの表情も強張っている。

( ´_ゝ`)「シィさん、折角用意して下さった夕食、無駄にしてしまってすみません」

 アニジャがシィにそう言いながら、二人分の荷物を手にする。オトジャは窓から外の様子を窺う。だがすぐに「出るぞ」と声をかける。すぐ近くにはいないらしい。
 アニジャはオトジャの分の荷物を彼に放り、シィに素早くお辞儀をする。オトジャもそれに習い、すぐさま二人は外へと飛び出した。

(;*゚ー゚)「気を付けて!無事でいてね!!」

 シィは叫んだが、果たして二人に届いただろうか。

49 ◆tqhinNTqWw:2013/01/15(火) 22:06:36 ID:pyo7vI6Q0
 アニジャとオトジャは全速力で町の中を駆け抜けていた。通りすがりの人が何事かとこちらを見るが、いちいち気にしてはいられない。
 次の行き先は決めていなかったものの、現在の最優先事項は逃げること。とにかく町を出ようと二人は走った。
 だが、相手もそう簡単には逃がしてくれない。

(*゚∀゚)「アヒャヒャ、見ーッケ!!」

 聞いていて頭が痛くなるような、甲高い女性の声がすぐ後ろに追いついていた。はっと後ろを振り向いた二人は、全身が赤い毛並みで覆われた女性と対峙する事となった。
 途端、ぶわっと殺気が広がる。オトジャは咄嗟にアニジャの前に立ち、殺気の元から放たれたナイフ二本を叩き落とす。庇われたアニジャは長身を少し屈め、オトジャの広い背中からそっと顔を出して相手の様子を窺った。

(*゚∀゚)「アヒャ!オ前ラ双子ナンダッテナ。イイ男が二人モ相手ダナンテ、クゥッ!美味シイネェ!」

(´<_` )「黙れ」

 底冷えのするような冷たい声が、オトジャの口から発せられる。初めて聞く声音に、思わずアニジャは上を見た。その表情は声と同様、今までに見た事もないものだった。
 兄の視線に気付いたオトジャは少し表情を緩め、「動くなよ」と囁いた。
 その向こうに一瞬で迫った、赤。

50 ◆tqhinNTqWw:2013/01/15(火) 22:07:45 ID:pyo7vI6Q0
(;´_ゝ`)「――!!」

 アニジャが目を見開き、オトジャが危ないと呪文を唱えようとした時

 赤い女は宙を舞っていた。

 驚愕するアニジャ。
 どさりと落ちる赤い身体。
 
 近くに居た人達は、何事かと集まってきている。

(;´_ゝ`)「お、おま・・・今・・・」

(´<_` )「殴った」

Σ(;´_ゝ`)

 一撃で、あれだけ人の身体が飛ぶ事にアニジャは驚愕する。

(;´_ゝ`)「・・・一応女性なのに、容赦ないな・・・」

(´<_` )「命を狙ってくる奴にかける情けなんてあるのか?」

(;´_ゝ`)「いや、ないけどさ」

 とにかく、今の内に逃げようと二人は踵を返した。しかし

(* ∀ )「ユ、ユ・・・ユルサ、ナイ!コロ・・・コ、コロス!」

 物騒な物言いに、集まっていた町人達が蜘蛛の子を散らすように逃げてゆく。寧ろ、そちらの方が余計な怪我人を出さなくていい、とアニジャはほっとする。そのアニジャをオトジャが再び背に庇い、拳を構えた。
 女はよろよろと立ちあがる。
 その、後ろ。

51 ◆tqhinNTqWw:2013/01/15(火) 22:08:39 ID:pyo7vI6Q0
(#,,゚Д゚)「ゴ――ルァアアアアア!!二人とも無事かあぁぁぁ!!」

Σ(*゚∀゚)「アヒャッ!!?」

 アニジャとオトジャの視線の先で、赤い女の後ろから迫っていた地響きと砂煙が、彼女を高く弾き飛ばした。
 二人が呆然とそれを見ていると、砂煙・・・いや、砂煙を上げて走って来た馬が、彼らの前で足を止めた。標準よりかなり大きめの馬の背には、ギコとシィが乗っている。

(,,゚Д゚)「間に合ってよかった!」

 ギコは馬から降り、シィが降りるのを手伝うと、手綱をオトジャに渡した。

(,,゚Д゚)「こいつは俺の馬で、名はスレだ。二人は楽に乗れるから旅が楽になるだろう」

(´<_`;)「そんな・・・そこまでお世話になる訳には・・・」

 オトジャが困ったように言うと、ギコはガハハと豪快に笑った。

(,,゚Д゚)「いいんだよ。その代わり、また二人でこいつを返しに来い。いいか、二人でだぞ」

 その言葉の真意に気付いた二人は、顔を見合せると、揃ってギコに一礼した。すると今度はシィが、布に包んだ何かを二人に差し出した。

(*゚ー゚)「夕食のサラダを急いでサンドイッチにしたの。途中で食べてね。今度は、腕によりをかけたシチューを御馳走するから、絶対にまた来てね」

 差し出された包みをアニジャが受けとり、オトジャと共に深々とお辞儀をする。その包みは、アニジャの荷物袋にそっと入れられた。
これ以上長居はできない。オトジャがスレに跨り、その後ろにアニジャを引き上げると、手綱をひと振りした。
スレが駆けだす。ギコとシィが、そして町が、瞬く間に遠さがってゆく。

(´<_` )「兄者、しっかり掴まっていろよ!」

 スレの走る速度が更に上がってゆく。
 この町に居たのは一日にも満たないのに、アニジャは一抹の寂しさを覚えた。それはオトジャも同じだったらしい。

(´<_` )「アニジャ。どれだけかかろうとも、絶対にまた二人に会いに行こう」

( ´_ゝ`)「・・・勿論だ」

 もう後ろは振り返らない。
 二人は先へ先へと走って行く。

52 ◆tqhinNTqWw:2013/01/15(火) 22:09:47 ID:pyo7vI6Q0
今日はここまで。
次回は17日投下の予定です。

53名も無きAAのようです:2013/01/17(木) 01:07:37 ID:qOYNS3JU0
今日か…!

54名も無きAAのようです:2013/01/17(木) 20:06:29 ID:qOYNS3JU0
今日ですね!

55 ◆tqhinNTqWw:2013/01/17(木) 21:06:43 ID:rMl4Hz6Q0
ごめんなさい、時間がないので更新は明日にします orz
明日は必ず・・・!

56名も無きAAのようです:2013/01/17(木) 22:02:50 ID:UEd0Ij.Q0
待ってるよー

57 ◆tqhinNTqWw:2013/01/18(金) 21:13:59 ID:uwwojpao0
待ってるよと言われて、再び浮かれながら本日の投下開始。

58 ◆tqhinNTqWw:2013/01/18(金) 21:15:05 ID:uwwojpao0
 シタラバを飛び出して数時間。西日が地平線の向こうに消え、辺りが暗くなってもオトジャはスレを走らせ続けた。
 スレは大した馬だった。普通の馬なら走れなくなる所だが、ここまでの距離を速度を落とすことなく走り抜いた。だからこそ、そろそろゆっくり休憩させてやるべきだろう。

( ´_ゝ`)「オトジャ、あそこの川の傍。そこで今日は野宿しよう」

 今夜中にどこかの町へ辿り着くのは無理だと、オトジャも分かっているのだろう。

(´<_` )「OK、把握した」

 オトジャはスレのスピードを緩め、川の近くにある草地で止まった。二人が地面に降り立つと、スレは早速柔らかそうな草を食み始める。アニジャがその背を撫で「お疲れさん」と声を掛ける。
 それを横目に、オトジャは近くにあった枯れ木の枝をぼきぼきと折り、石で囲いを作った中に組み上げ。火打石で手際よく火を点ける。

59 ◆tqhinNTqWw:2013/01/18(金) 21:16:57 ID:uwwojpao0
( ´_ゝ`)「慣れているな」

(´<_` )「まあな」

( ´_ゝ`)「それも習ったのか」

(´<_` )「・・・村から離れた山の中で訓練させられた上、放置された事がある。その時、寝ずに一晩中火を焚いて凌いで、明るくなってから村へ帰った」

( ´_ゝ`)「・・・・・・」

(´<_` )「そういうことが、何度もあった」

( ´_ゝ`)「・・・オトジャ」

(´<_` )「川魚捕ってくる」

 踵を返し、オトジャは川に向かった。アニジャはその後ろ姿を見送る。
 弟の唐突な告白に、兄は何も言えなかった。

60 ◆tqhinNTqWw:2013/01/18(金) 21:19:38 ID:uwwojpao0
 ものの数分で、6匹の川魚を引っ提げたオトジャが戻ってきた。

(;´_ゝ`)「早っ!」

(´<_` )「これだけあれば充分だろ」

 オトジャは予め用意していた木の枝を手際よく魚に刺し、火の周りに突き立てた。アニジャは荷物袋の中からシィのサンドイッチを取り出し、包みを広げる。二人は並んで座り、サンドイッチを分け合って食べながら魚が焼けるのを待った。

(´<_` )「ほら、焼けた」

 オトジャが、じゅうじゅうと音を立てる魚をアニジャに渡す。齧り付くと香ばしく、塩などを付けなくても十分美味しかった。

(*´_ゝ`)「釣ったばかりの魚をこうして食べるのって、贅沢だよなあ」

(´<_` )「兄者、これは釣ったのではなく掴み取りだ」

(;´_ゝ`)「・・・お前、凄いね」

(´<_` )「これも置き去りにされた時に身に付けた」

( ´_ゝ`)「――なんだ、やけに昔の事を話してくれるんだな。前はどんな修行をしているのか、聞いても教えてくれなかったのに」

(´<_` )「兄者だってそうだろ。だから俺も話した」

 二人の視線が交わった。

( ´_ゝ`)「そうか」

(´<_` )「そうだ」

61 ◆tqhinNTqWw:2013/01/18(金) 21:20:39 ID:uwwojpao0
 それ以上の言葉はいらなかった。
 二人は黙々と魚を頬張った。しばし、心地よい沈黙が二人を包む。
 その沈黙を先に破ったのはオトジャだった。

(´<_` )「なあ、アニジャ」

( ´_ゝ`)「ん、何だ?」

(´<_` )「俺ら、夫婦にならないか?」

( ´_ゝ`)  

(;´_ゝ`)

(; _ゝ ) 

( ;°_ゝ°)

62 ◆tqhinNTqWw:2013/01/18(金) 21:22:25 ID:uwwojpao0
(´<_` )「兄者?」

( ´_ゝ`)「・・・そう、俺はお前の兄だ」

(´<_` )「ああ」

( ´_ゝ`)「お前は俺の弟だ」

(´<_` )「双子のな」

( ´_ゝ`)「で、だ」


(;´_ゝ`)「何故夫婦になろうとイキナリ言い出すのだ!」


 一瞬、オトジャは呆けたような表情になった。そして「あ」と何かに気付いたような表情になる。

(´<_` )「すまん兄者。言葉を省略しすぎた」

(;´_ゝ`)「はい?」

(´<_` )「シタラバには刺客が来た。多分これからも狙われる可能性が高い。双子の兄弟はただでさえ目立つから、『夫婦』に変装して旅を続けないか。そう言いたかったんだ」

( ´_ゝ`)「・・・・・・」

(´<_` )「・・・・・・」

(#´_ゝ`)「省略しすぎだ!!」

 オトジャの頭頂部に、アニジャの拳が落ちた。

63 ◆tqhinNTqWw:2013/01/18(金) 21:25:27 ID:uwwojpao0
今日の投下はここまで。
次は二十日に投下します。
次回は少々長くなる予定です。

64名も無きAAのようです:2013/01/18(金) 21:34:54 ID:ycP45ZEU0
続きが気になるよおおお

待ってる!

65名も無きAAのようです:2013/01/20(日) 17:12:06 ID:plF3vbcc0
今日ですね!

待ってます!

66 ◆tqhinNTqWw:2013/01/21(月) 00:34:26 ID:uabOcV0o0
遅くなりましたが、本日の投下開始。

67 ◆tqhinNTqWw:2013/01/21(月) 00:35:19 ID:uabOcV0o0
( ´_ゝ`)「まあどの道、多少の変装の必要は確かにあるな」
  Ω
(´<_`;)「ですよねー」

( ´_ゝ`)「この場合、非常に癪なのだが・・・俺が女役だな」

(´<_` )「俺、筋肉質だしな。女装したらそれはそれは恐ろしい事に・・・」

( ´_ゝ`)「精神的何とやらは御免こうむる。よって俺が我慢して女装する」

(´<_` )「あの赤い奴、俺達の名前も知っていたから偽名も必要だな。よし、兄者はアニーで俺はオットーだ」

(;´_ゝ`)「決めるの無駄に早いね」

(´<_` )「何を言う。元の名前と似ているから、うっかり本当の名前を呼びそうになっても軌道修正できるだろう」

( ´_ゝ`)「お前にしてはよく考えたな」

 食事も終え、二人は喋りながら寝る準備をする。順番に寝ずの番をする事になったが、兄者は念の為に守りの呪い(まじない)を周辺にかけた。これは術者の近くに害成すものが接近した場合、攻撃魔法が発生するものだ。相手が強いと効果は薄いが、大体はこれで厄介事が凌げるという、中々便利なシロモノである。

68 ◆tqhinNTqWw:2013/01/21(月) 00:37:53 ID:uabOcV0o0
(´<_` )「俺が先に起きてるから、兄者は先に休め」

( つ_ゝ`)「んー、じゃあ、お言葉に甘えて」

 アニジャは毛布に包まると、オトジャの膝に頭を乗せた。呆気にとられるオトジャに、アニジャはにやりと笑ってみせる。

( ´_ゝ`)「膝枕。固いけど文句は言わない」

(´<_` )「ああ、そうですか」

69 ◆tqhinNTqWw:2013/01/21(月) 00:39:43 ID:uabOcV0o0
( ´_ゝ`)「そういえば、シタラバで会った追手のことなんだけど」

(´<_` )「うん?あの全身真っ赤のヒトっぽい奴?」

( ´_ゝ`)「そう、あの女性。何か違和感を感じなかったか?」

(´<_` )「違和感?」

( ´_ゝ`)「うーん、何か上手く言えないんだけどさ」

 アニジャは困ったような表情で言葉を探す。

( ´_ゝ`)「まるで動物のように全身が毛で覆われているっていうのが、そもそも不思議だ」 

(´<_` )「あまり知られていない、辺境に暮らす種族か何かじゃないのか?」

( ´_ゝ`)「うーん・・・」

 どうやら、アニジャには何か引っかかるものがあるらしい。別にそこまで気にならないオトジャは、未だに眠ろうとしないアニジャの目を片手で覆った。

(; _ゝ )「うお!?」

(´<_` )「ぐだぐだ考えている暇があったら少しでも休め」

(  _ゝ )「・・・はーい」

 答えが出ないので、諦めたらしいアニジャは大人しく目を瞑る。
 しばらくしてオトジャが手を外すと、アニジャの瞼は閉じられたまま、微かな寝息が唇から洩れていた。

(´<_` )「やっと寝たか」

 やれやれと溜め息を一つ。その口元は僅かに緩んでいた。

70 ◆tqhinNTqWw:2013/01/21(月) 00:41:16 ID:uabOcV0o0
今日はここまで。
明日も投下予定だったけれど、体調不良にてもしかしたら無理かも。
回復したら投下します。

71名も無きAAのようです:2013/01/21(月) 22:45:12 ID:DDpH0z6.0
乙ー
無理しないで自分のペース投下が一番だと思うよ?
お大事にしてくだい

72名も無きAAのようです:2013/01/29(火) 11:51:14 ID:7ol81Lsc0
大丈夫かー?

73 ◆tqhinNTqWw:2013/01/29(火) 23:05:49 ID:VC4GW5Cg0
大丈夫、生きています。
インフルエンザかと思ったら過労と診断され、養生していました。
明日あたり、更新しようと思います。

74 ◆tqhinNTqWw:2013/01/31(木) 00:50:59 ID:TUWrOarM0
体調も回復したので、久しぶりに投下。

75 ◆tqhinNTqWw:2013/01/31(木) 00:52:00 ID:TUWrOarM0
 ニューソクは、商業で栄えている町だ。
 港町ビップから近く、そこを目指す人々、またそこから来た人々が多く立ち寄る為、宿屋の数も多い。抜け目のない旅の商人達はこぞって露店を開き、朝から晩まで終日賑わいを見せる。

(´<_` )「人、多いな」

 町に入った時の、オトジャの第一声がそれだった。隣に居るアニジャも無言で頷き、同意を示す。
 ちなみにアニジャは、女性に変装するにあたって声を出さないように心掛けていた。見た目ならどうにか誤魔化せるが、声はどうしようもない。彼の声はそんなに低くはないものの、やはり男のそれだった。

( ´_ゝ`)(不便だけど、狙われるよりいいや)

 アニジャは既に諦め、割り切り、達観していた。

(´<_` )「先に宿をとる?」

( ´_ゝ`)(ふるふる)

(´<_` )「露店で稼ぐ?」

( ´_ゝ`)(こっくり)

(´<_` )「んじゃ許可書も貰ってるし、さくっと行くか」

 許可証とは、露店を開く為に必要となる。
 四方を高い塀に囲まれたこの町では、東西南北に一つずつ存在する大きな門が出入り口となる。そこに詰めている警備兵に申請し、諸々の手続きを行って許可証を貰えば、露店を開く事ができるのだ。
 ちなみに二人が売ろうとしているのは、護身用の棍棒と薬草である。
棍棒は、折れて落ちていた木の枝をアニジャが錬金術で加工したものだ。軽くて持ちやすく、誰にでも扱える分威力は弱いが、形にバリエーションがあり多少の強化を加えている。使いようによってはそこそこの威力を発揮する。薬草も、知識のあるアニジャが集めたもので、これもまた錬金術を用いて乾燥させた。乾燥させたものは持ち運びに便利な上、すぐ調合できるので便利なのだ。

76 ◆tqhinNTqWw:2013/01/31(木) 00:52:58 ID:TUWrOarM0
(´<_` )「場所、空いているといいな」

( ´_ゝ`)(こっくり)

 露天商のスペースはほぼ埋め尽くされ、夕方という時間も相まってか多くの人でごった
がえしていた。その中を上手く歩けないアニジャは、人の波に押し流されかけた。

(;´_ゝ`)「・・・っ」

(´<_` )「おっと」

 オトジャがアニジャを自分の方へ引き寄せる。

(´<_` )「大丈夫か兄・・・アニー」

( ´_ゝ`)(こっくり)

 人ごみに揉まれながらも、アニジャの心は知らず知らずの内に浮き立っていた。このように人の多い所へ来たのは初めてで、戸惑いも大きかったが、この賑やかしさには心躍るものがある。

(*´_ゝ`) ♪

(´<_` )(あ、楽しいんだな)

 アニジャの表情を見て、自然とオトジャも嬉しくなる。
 今まで、静かな生活を余儀なくされてきたのだ。オトジャの思い出の中にある兄の笑顔は、どこか諦念が付き纏っていたが、今はそんなものは見受けられない。オトジャはそれが本当に嬉しかった。
 機嫌のいい二人は手を繋ぎ、何とか空いているスペースを見つけてそこに敷布を広げた。アニジャがその上に手際よく売り物を並べ、どうにか露店の体裁を整える。

77 ◆tqhinNTqWw:2013/01/31(木) 00:53:54 ID:TUWrOarM0
(´<_` )「さて・・・俺の本気を見せる時がきたようだ・・・」

(;´_ゝ`)(どういう本気?) 

(n‘∀‘)η「あら、これって白及(ビャッキュウ)じゃない?」

 並べていた薬草に目と足を止めた女性に、オトジャの表情と口調ががらりと変わった。

(´<_` )「はい、そうです!一匙100アンカーになります」

(n‘∀‘)η「思ったより安いのね。じゃあ、そっちの棍棒も見せてもらおうかしら」

(´<_` )「どうぞ!お手にとってゆっくりご覧ください。こちらは一本500アンカーになります」

 女性はいくつか試し振りをし、棘付きのものを一本購入してくれた。

(´<_` )「合わせて600アンカーになります」

 女性が硬貨をいくつか取り出して、オトジャに渡す。

(´<_` )「丁度ですね。ありがとうございました!」

 顔立ちの良い偉丈夫のにこやかな笑み。それを真正面から見た女性客が顔を赤くしたのは、気のせいではないだろう。

(;´_ゝ`)「・・・・・・」

 見たことのない弟の一面に、アニジャは少々戸惑っていた。彼はいつの間に、こんなに世渡り上手になったのだろう?
昨日、追手と対峙した時といい、自分がオトジャの全てを把握している訳ではないのだと痛感する。それは一抹の寂しさをもたらした。
 だが、きっとオトジャも同じ思いをしているに違いない。

( ´_ゝ`)(例えば、魔法とか)

(´<_` )「アニー、そこの薬草を二匙包んで」

 思考の深みに嵌まりかけた所で声をかけられ、アニジャは我に返った。言われた通りに薬草を量って袋に包み、オトジャに手渡した。買ってくれたのは自分達と同い年くらいの青年だ。
 声は出せないので、にこりと笑って会釈をする。すると青年は先程の女性と同様に、顔を赤らめていた。アニジャは憮然としたいのをぐっと我慢する。

( ´_ゝ`)(弟者と同じ顔の筈なんだけどなー。鼻の形がほんのちょっと違うだけで、他は一緒の筈なんだけどなー)

 女顔ではないし、今はまだ化粧すらしていない。なのにあのような態度をとられると、男としてのプライドは粉々だ。そして、それを見透かしたかのように笑うオトジャにも腹が立つ。
 アニジャは不貞腐れたような表情をしたものの、次の客が来た瞬間には既に愛想笑いを貼り付けていた。後でオトジャに一撃を入れようと心に決めて。

78 ◆tqhinNTqWw:2013/01/31(木) 00:54:47 ID:TUWrOarM0
 意外な事に、商品は二時間足らずで売れてしまった。
 売上は一万アンカー程だが、この内一割は出店税としてニューソクに納めなければならない。それでも、夕食を食べ、宿に一晩泊まっても余裕がある。今日はこれで十分だ。
 二人は露店で串焼きや果物、それと女性用の化粧を買い揃えると、こじんまりとした宿に入った。

( ´_ゝ`)「疲れた・・・」

 宿屋の部屋に入り、ようやっと口を開く事ができたアニジャは、開口一番そう言った。一つしかないベッドに力無く転がると、既に目が閉じかけている。

(´<_` )「眠いなら、今後の事は明日に話し合うか?」

( ´_ゝ`)「・・・・・・」

(´<_` )「兄者?」

 返事がないのでベッドを覗き込むと、アニジャは長い身体を丸めるようにして、小さな寝息を立てていた。余程疲れていたのだろう。

(´<_` )「もう夢の中か。流石だな、兄者」

 身体も拭いていないが、明日でいいだろう。シーツは少々汚れてしまうかもしれないが、オトジャは特に気にしなかった。

(´<_` )「・・・おやすみ」

 オトジャは静かに呟いた。

79 ◆tqhinNTqWw:2013/01/31(木) 00:57:27 ID:TUWrOarM0
今日はここまで。
時間ができたらまた更新します。

80 ◆tqhinNTqWw:2013/02/02(土) 00:14:33 ID:PF0ewU8A0
れっつ更新。

81 ◆tqhinNTqWw:2013/02/02(土) 00:16:26 ID:PF0ewU8A0
 次の日、オトジャは美味しそうな朝食の匂いで目を覚ました。それだけで何だか幸せな気持ちになれたが、それよりも兄の姿がそこにあることに対する安堵の方が大きかった。

( ´_ゝ`)「お早う弟者。顔を洗って着替えておいで」

 アニジャは既に身支度を済ませていた。しっかり眠れたらしく、表情に疲労は残っていない。
 オトジャは顔を洗い、ついでに手拭いを濡らして身体を拭き、用意しておいた服に着替えた。昨日はオトジャも湯浴みをしなかったので、それだけでさっぱりした心地になる。

(´<_` )「凄いな。旨そうだ」

 身体がさっぱりした所で、オトジャの腹がぐぅと鳴る。テーブルの上には、山盛りのパンケーキの皿とバターが詰まった壺、卵とベーコンを一緒に炒めたものが一杯に乗った大皿、色とりどりの珍しい野菜のサラダ、瑞々しい果物の盛り合わせ、そしてコーヒーが乗っていた。あまり贅沢は出来ない筈だが、かなり豪勢な朝食である。

(´<_` )「これ、どうしたんだ?宿の女将に頼んだのか?」

( ´_ゝ`)「いや、俺が作った」

(´<_` )「材料はどうしたんだ?」

(*´_ゝ`)「朝市とやらがあると女将さんに聞いて、ちょっと行ってみたんだ。面白かったぞ!朝早いから、新鮮な魚介類やとれたての野菜や果物が並んでいるんだ。昨日見た露店の集まりとは、また違った雰囲気だったな」

 わくわくした表情で語るアニジャとは対照的に、オトジャの表情は曇る。

(´<_` )「一人で行ったら危ないだろう。そういう時は俺を起こせ」

( ´_ゝ`)「お前、さっさと寝ちゃった俺の代わりに荷物の整理や何やら、色々してくれただろ。いつ寝たのか分からなかったから、起こすのが忍びなくて」

(´<_` )「・・・・・・」

( ´_ゝ`)「心配させてごめん。今度から気を付けるから」

(´<_` )「絶対だぞ。後、俺も朝市を見てみたい」

(*´_ゝ`)「おう、明日の朝は一緒に行こうな!」

 オトジャの不安気な表情が消え、アニジャはほっとする。そのまま気分を変えようと、明るい声で「朝食にしよう」と言った。

82 ◆tqhinNTqWw:2013/02/02(土) 00:18:09 ID:PF0ewU8A0
(´<_` )「そういえばこれ、アニジャが作ったんだよな。もしかしてこれも錬金術か?」

( ´_ゝ`)「そうだ。材料を買って作った方が安上がりだし、多少の魔力は使うが、短時間で調理できるし。それに、ほら」

 アニジャは部屋の隅に置いていた四つの鍋を指差した。

( ´_ゝ`)「林檎、マーマレード、無花果のジャムと、マロンペーストだ。今日はこれを売りに行くぞ」

(´<_` )「仕事が早いな、兄者。流石だ」

( ´_ゝ`)「出来る時に出来る事をしておかないとな。もうちょっと稼いで、装備を整えたり旅に必要な物を買い足したりしたいし」

(´<_` )「確かに、今のままでは少々心もとないな」

( ´_ゝ`)「まあ、そこまで長居する訳にもいかないから、一週間を目途にしよう。その間に整えられるだけ整えて、調べられるだけ調べよう」

 話しながら、二人は朝食に手を付けた。まだ温かいパンケーキの上に乗せたバターが溶けて、端からたらりと垂れている。それを半分に折って勢いよく口に押し込むのはオトジャだ。口の端に付いたバターをぺろりと舐めつつ、既に二枚目にバターを落としている。それも二口で食べてしまうと、今度はベーコンエッグの半量を自分の皿に取り、これもまた勢いよくかっ喰らう。清々しい食べっぷりを、アニジャは嬉しそうに眺めている。彼自身は、のんびりと果物をつまみ、コーヒーを啜っている。見た目以外も、何とも対照的な二人である。

83 ◆tqhinNTqWw:2013/02/02(土) 00:19:46 ID:PF0ewU8A0
(´<_` )「それで、何から調べる?」

( ´_ゝ`)「まずは、古の魔神とやらについて知りたい。それから、そいつが以前はどうやって封じられたかも」

(´<_` )「ふむ、対策を立てるには、まず相手を知ることからだな。とりあえず歴史の本を読み漁ってみるか?」

( ´_ゝ`)「古い本や、各地の伝承や口伝もヒントになるかもな。さて、とりあえずどこから手をつけたものか」

(´<_` )「とりあえずは商売だな。金がないと、宿に滞在も出来ないし、装備も本も買えない」

( ´_ゝ`)「だな」

 ある程度腹に収めて落ち着いたのか、オトジャは食べる速度を落としている。ただ、彼の皿にはサラダと果物がこれでもかと盛られており、食欲はまだ満たされていない事を示していた。アニジャはその四分の一くらいの量のサラダをつつきながら、自分の分のベーコンエッグを差し出した。

(´<_` )「ん?兄者は食べないのか?」

( ´_ゝ`)「俺の胃はお前ほど大きくはないからな。これはお前が食べろ。しっかり食べて、しっかり稼ぐぞ」

(´<_` )「兄者、そういえば食が細かったな。せめてもう少し食べてほしいのだが」

(;´_ゝ`)「お前と一般人の食事量を一緒にするんじゃない。俺は別に食が細い訳じゃない」

 オトジャは困ったようにベーコンエッグの皿とアニジャを交互に見たが、アニジャが自分のフォークでオトジャの口にベーコンエッグを突っ込むと、諦めたように皿を引き寄せた。
 ぱくぱくもぐもぐ、よく食べるオトジャを見つめるアニジャの表情は優しかった。

84 ◆tqhinNTqWw:2013/02/02(土) 00:20:57 ID:PF0ewU8A0
短いけれど、とりあえずここまで。
次回は四日に更新の予定です。

85名も無きAAのようです:2013/02/02(土) 00:59:21 ID:TvRQh7uA0
面白いよ!
待ってる!

86名も無きAAのようです:2013/02/02(土) 03:33:46 ID:iaq19Stk0
乙ー!
なんか今回はほのぼのしてていいな

87 ◆tqhinNTqWw:2013/02/04(月) 23:55:40 ID:SHIwLhEg0
書かれているコメントが嬉しくて、張り切って本日分投下します。

88 ◆tqhinNTqWw:2013/02/04(月) 23:59:55 ID:SHIwLhEg0
 それから数日間、二人は商売に精を出した。売る物は毎日違う物を用意したが、日持ちのするドライフルーツやピクルスは特に売れ行きがよく、財布は順調に重くなっていった。

+(´<_` )「見たか、俺の本気を」

( ´_ゝ`)「あーはいはい」

 ある程度の貯蓄が出来た所で、装備品を買い足した。そう値が張る物は買えない為、露店や古道具屋を回って自分に合う物を探さなければならなかった。だが店の数は膨大で、見て回るだけで一苦労だ。
 結局買えたのは三つ。魔力を増強させる作用のあるサークレットと指輪、そして鋭い爪が付いた鉄製のナックルである。

( ´_ゝ`)「いつか、オーダーメイドの杖やローブが持てるようになりたいな」

(´<_` )「そうしたら、身体のサイズに合う物を探す苦労はなくなるな」

( ´_ゝ`)「・・・お前、長身の上に規格外のガタイの良さだからな。まあ、身長は俺も同じだけど」

 買い物は装備品だけではない。野宿用の鍋と食器も最低限揃え、保存食も買った。

(´<_` )「鍋や食器や食料も錬金術で作ればよかったんじゃないか?」

( ´_ゝ`)「鍋や食器は適当な材料が身近にないから、買った方が安上がりだ。食糧につい
ては、その土地の特産品的な物を味わってみたいしな」

(´<_` )「成程」

 調べ物も行った。貸本屋や本を売る露店を見つけたら、必ず覗いた。今の所は有益な情報は得られていないが、調べ物をする時のアニジャは生き生きとしていた。そんな兄を見て、オトジャは分厚い歴史の本の購入を勧めた。アニジャが「ヒントが隠されているかも・・・」と言いつつも、重くてかさばるし多少値が張るので、購入を迷っていた本だった。

(´<_` )「手がかりになりそうな物は、一つくらい得ておいた方がいいと思う。大きな買い物かもしれないが、もし必要な情報が書かれていなくても、知識は無駄にならないだろう?」

( ´_ゝ`)「・・・うん、そうだな。――ありがとう」

89 ◆tqhinNTqWw:2013/02/05(火) 00:00:43 ID:wZru7BM20
 そんな日々を過ごして、六日目に至る。
 その日は焼き菓子を売り終え、売上金の一割を役人に納めると、二人は少し早い夕食に繰り出した。いつもは露店で買って宿へ持って帰るか歩き食いだが、今日はちょっと贅沢をして酒場に行くのだ。

( ´_ゝ`)「どこにする?」

(´<_` )「『宝石箱』はどうだ?町で一番大きな所らしいが」

( ´_ゝ`)「いいな。よし、行ってみよう」

 二人は明日、この町を出る。長いとは言えない滞在だったが、二人にとっては感慨深いものがあった。
 次に行く町も決めている。港町ビップへ行き、そこでまたしばらく商売や調べ物をして、その後は船でソーサク大陸へ渡るのだ。アニジャは勿論、オトジャも、まだ見ぬ海とその先の大陸への期待に胸を膨らませていた。
 ――何が待ち受けているのか。そんな高揚感だ。
 だからだろう。気付いた時には“それ”が近くにいた。

90 ◆tqhinNTqWw:2013/02/05(火) 00:01:56 ID:wZru7BM20
 気が緩んでいたと言われれば否定はできない。二人はもっと、身辺に注意を払うべきだった。
 先に気付いたのはアニジャだった。

(;´_ゝ`)「あ」

 アニジャと“それ”――シタラバで会った、赤い女性の視線がかち合う。女性はフード付きの外套で身体を覆っており、見えたのは顔だけだが、その表情は忘れたくても忘れられるものではなかった。
 手の届く距離ではないが、追い掛けられればすぐに捕まる。アニジャは咄嗟に声が上げられず、傍に居たオトジャの服を握りしめた。オトジャは女の存在にまだ気付いていなかったが、服を掴んできたアニジャを怪訝そうに見て、固定されたアニジャの視線を辿って

(´<_`;)「――っ、逃げるぞ!!」

 即、アニジャの腕を引っ張って走り出した。女はその後ろを追ってくる。人ごみの間を上手く縫うようにして、オトジャは走る。しかし女もまた、距離を広げる事無く人ごみを器用にかき分けていた。

(´<_`;)(・・・拙いな)

 このままだと、捕まるのは時間の問題のように思えた。しかも宿に荷物をそっくり置いたままになっている。だが、着のみ着のままでこの町を出るのは少々辛い。

91 ◆tqhinNTqWw:2013/02/05(火) 00:03:14 ID:wZru7BM20
(´<_` )「兄者」

( ´_ゝ`)「アニーじゃなかったのか?」

(´<_` )「見つかった今、その呼び名には既に意味がない。それよりも」

 一呼吸。

(´<_` )「一度、宿に戻って荷物を取ってきてくれ」

 アニジャの目が見開かれる。

( ´_ゝ`)「弟者は?」

(´<_` )「あいつを引きつけておくよ」

( ´_ゝ`)「やだ」

 子どものような言葉で即答するアニジャに、オトジャは苦笑する。

(´<_` )「何で?」

( ´_ゝ`)「弟者に会えなくなるかもしれない。だから嫌だ」

(´<_` )「そんな事はない。ここで一旦別れたら、北の門の外で待ち合わせだ」

( ´_ゝ`)「嫌だ」

 頑なに拒否する兄者は珍しい。オトジャは走りながらふむ・・・と考える。

(´<_` )「今までに、俺が兄者に会いに行かなかった日が一日でもあったか?」

( ´_ゝ`)「あった。一回あった。忘れたのか?」

(´<_` )「・・・」

( ´_ゝ`)「・・・・・・」

(´<_`;)「・・・あー・・・」

 完璧に忘れていたオトジャは墓穴を掘った事を悟り、頭をフル回転させて言葉を選んだ。

92 ◆tqhinNTqWw:2013/02/05(火) 00:03:55 ID:wZru7BM20
(´<_`;)「もう絶対にそんな事はしないと約束する。誓う。だから頼む、兄者」

 アニジャは硬い表情でオトジャの手を握りしめていたが、やがてふっと小さく息を吐いた。ゆっくりと手が解かれて、その姿はゆらりと雑踏に紛れてゆく。
 オトジャもほっとしたように小さく息をつき、すぐに表情を引き締めた。それまで抑えていた殺気がじわりと滲み出るように放たれる。後ろで、女が笑っているような気配を感じた。まだそれなりに距離は空いているのだが。
(´<_` )「・・・気に入らないな」
 オトジャは呟くと、北の門を目指した。ここで騒ぎを起こすわけにはいかない。
 女との距離を保ちつつ、町の外へ向かった。

93 ◆tqhinNTqWw:2013/02/05(火) 00:04:51 ID:wZru7BM20
今日はここまで。
次回の投下予定は8日です。

94 ◆tqhinNTqWw:2013/02/08(金) 22:26:40 ID:DKF9PPlM0
本日の投下開始。

95 ◆tqhinNTqWw:2013/02/08(金) 22:27:41 ID:DKF9PPlM0
 アニジャはオトジャと別れた後、急いで宿へ戻り、かき集めるようにして二人分の荷物を纏めた。そしてそのままの勢いで宿を引き払う。旅に必要な物を買い足した分、荷物はかさばり重くなっていたが、持てない程ではない。荷物袋を背中に括りつけ、腰に巻き付け、肩から斜めに掛け、少しよろめきながら北の門を目指した。そこにはきっと「遅い」と文句を言いつつ笑う、弟の姿がある筈なのだ。

(だから、遅くなる訳にはいかない)

 長身だが華奢な身体付きの女性(に扮したアニジャ)が、少々身に余るような荷物を抱えていても、商人と見られているようで特に目立ちはしない。それでも念の為、外套のフードは目深に被っていた。
 それは正解だったと、直後にアニジャは知ることになる。

「!?」

 見憶えのある集団を見つけて、アニジャは咄嗟に細い路地に入り込んでいた。

(あれは・・・マターリの人達・・・)

 そっと様子を窺っていると、何やら話しながら時々周囲を見回している。商売や物見遊山といった感じではなく、自分を捜しているのだと直感した。心臓の音がどくどくと五月蠅い。
 アニジャは心を鎮めようと、深呼吸を繰り返した。あの様子ならオトジャはまだ見つかっていない・・・多分。だがこのままでは時間の問題だ。

(北の門に行くにはあの道を通るしかない。路地を使って迂回するのは迷子になりかねないし、時間がかかりすぎる)

 アニジャは腹を括った。

96 ◆tqhinNTqWw:2013/02/08(金) 22:30:26 ID:DKF9PPlM0
 町から少し離れた森の中、張り詰めた空気の中心に二つの人影が存在した。

「・・・・・・」

 一人はオトジャ。無表情で相手を見つめている。深手こそ負っていないものの、服のあちこちが切り裂かれており、血が滲んでいる箇所すらある。

「・・・・・・」

 もう一人は赤い女。だが様子がおかしかった。

「・・・・・・」

 目は虚ろで口からは涎が垂れており、およそ生気というものが感じられない。身体もゆらりゆらりと頼りなげに揺れている。
 しかし、時々だがふとした拍子に女の眼はぎらぎらと光る。涎を垂らし続ける口元はにぃっと笑いの形を作り、血のように赤い身体からは爆発的な殺気が発せられる。その度に、女はオトジャに襲いかかってナイフを一閃し、またすぐにゆらりゆらりと身体を揺らす。
 ナイフが一閃するたびに、オトジャの服は切り裂かれていった。シタラバの時とは動きが全然違う。

「ヤバい薬でも飲んだか。――いや、飲まされたのか?」

 独り言のような問いに、彼女が答える事はない。オトジャは膠着している現状を打開すべく、鉄の爪を構えなおした。

(目がぎらつく時以外なら、こっちの攻撃が入る可能性が高い。落ち着け、落ち着け俺。好機を見逃すな・・・!)

 オトジャは素早く爪を振りかぶり、女に襲いかかった。
 だが

「・・・あ?」

「ケケケ・・・キャーハハハハハ!アハハハハ!!」

 女が狂ったように笑いだした。いや、既に狂っているとしか思えないような笑い声だった。
 オトジャの爪は、女の左肩から腰の右側までを斜めに浅く切りつけていた。元より殺す気はなく、戦闘力さえ奪えれば無益な殺生をするつもりはなかった。
 それが仇となった。

「・・・・・・」

 オトジャはゆっくりと視線を下ろし、自分の腹を見る。そこに埋まっているのは、紛れもなく女の――

97 ◆tqhinNTqWw:2013/02/08(金) 22:31:30 ID:DKF9PPlM0
「風よ襲え!」

 オトジャの耳に、聞き慣れた声の聞き慣れない声音で紡がれた言葉が届いた。同時に、一陣の風が頬を掠めていく。それは目には見えなかったが、鋭い刃のようだとオトジャは感じた。
 その考えはあながち間違っていなかったようで

「ギャ――!!アァァァァアアア!!イヤ、ダアアアア!!イタイイイイイ!!!」

 オトジャの目の前で、女が悲鳴を上げている。
 死んではいない。ただ深い傷をいくつか負って、もんどりうって絶叫している。それをぼんやりと見つめ、それから女を挟んで向こう側に現れた兄に視線を移した。

「弟者!」

 アニジャが駆け寄ってくるのも、ぼんやりと見ていた。

「弟者・・・少し我慢しろ」

 言うか早いか、アニジャはオトジャの腹に埋まっていたナイフをひと思いに抜いた。激痛が走り、傷口からは鮮血が溢れる。オトジャの顔は蒼白だったが、呻き声一つ上げない。
 アニジャは目を閉じ、オトジャの腹を慈しむようにひと撫でした。その手は淡い光に包まれており、温かさを感じる。心地よさに、思わずオトジャは目を閉じた。

「痛まないか?」

 オトジャがゆっくりと目を開けると、腹の傷は綺麗に塞がっていた。ついでに、いくつかあった全身の傷もなくなっている。

98 ◆tqhinNTqWw:2013/02/08(金) 22:32:25 ID:DKF9PPlM0
「ひやひやさせるな。心臓が止まるかと思った」

「・・・すまない。だが、もう大丈夫だ。ありがとう兄者」

「どーいたしまして」

「・・・女はどうする?」

「・・・・・・気絶させて」

 オトジャは言われた通りに、未だに悲鳴を上げる女の鳩尾に一撃を入れ、昏倒させた。その上でアニジャが傷を塞いだ。

「弟者、ビップは駄目だ。さっき町でマターリの村人を何人か見かけた。多分、他にも追手がいる。港町にも先回りされているかもしれない」

「ここも人が来るかもな。こいつの声は甲高くてよく響くし。よし、離れるか」
 オトジャが口笛を吹いた。それは空気を震わせ、木の間を反響していく。すると、軽やかな蹄の音がこちらへ近付いてきた。

「スレ!よかった、お前も無事だったんだな」

 スレは町に入りたがらなかったので、外で好きなようにさせていたのだ。スレは賢く、一日に一回様子を見に行っていたが、その度に町の傍でのんびりと過ごしていた。
 そのスレは今、早く乗れと急かすように足踏みをしている。

「お前は賢いね」

 オトジャが先に飛び乗り、アニジャを後ろに引き上げてやるとスレが走り出した。オトジャが手綱を操り、南の方角へ走らせる。

「どこへ向かう?」

「ここから南下した所に、小さな村があった筈だ」

「ノーカ、だったか?」

「そう、そこ。巨大な港町ビップの陰に隠れて、目立たない村。取りあえず身を潜めるには打って付けだろう」

「その先は?」

「どうにか船を借り受ける」

 そこで会話は途切れた。
 小さな漁村に、大陸まで渡れる船があるのかどうかは、正直期待しない方がいいだろう。
 それでも、賭けるしかなかった。

99 ◆tqhinNTqWw:2013/02/08(金) 22:33:50 ID:DKF9PPlM0
本日の投下はここまで。
・・って、うわあああああ顔文字つけるのをわすれたああああ orz

脳内補完をお願いします orz

100名も無きAAのようです:2013/02/08(金) 23:52:12 ID:nv19ofn60
なんか違和感あると思ったら顔文字かwwww
案外気が付かないもんだ

101名も無きAAのようです:2013/02/09(土) 06:06:28 ID:WdDsLRNQ0
顔文字がなくても誰が喋ってるかわかる
さすがの文才だな!乙!

102 ◆tqhinNTqWw:2013/02/14(木) 23:12:27 ID:ygEwq9SI0
優しいコメントをありがとうorz
大分立ち直ったので、明日投下します。

103 ◆tqhinNTqWw:2013/02/15(金) 23:30:00 ID:PCEAT.VM0
持ち帰った仕事が終わらない・・・
少しだけ投下します。

104 ◆tqhinNTqWw:2013/02/15(金) 23:32:13 ID:PCEAT.VM0
背中の傷と、一人だったあの日。
なかった事に出来るのなら。



第三章  過去の傷

105 ◆tqhinNTqWw:2013/02/15(金) 23:35:35 ID:PCEAT.VM0
 火に掛けられた鍋の中身がくつくつと煮え、いい匂いが立ち上っている。アニジャはそれをかき混ぜて、砕いた岩塩と胡椒を入れて、またかき混ぜる。
 それを一匙掬って味見をすると、満足そうに彼は微笑んだ。

(´<_` )「つまみ食いか」
( ´_ゝ`)「味見と言え」

 干し肉と野菜の香草入りスープは、いい塩梅に出来上がった。これにパンを添えれば、今日の夕食は完成だ。鍛錬をしていたオトジャもひと段落したのか、手拭いで汗を拭いて火の傍に寄ってくる。

(´<_` )「旨そうだ」
( ´_ゝ`)「旨いぞ。何てったって、俺が作ったんだからな」
(´<_` )「いいから、早くくれ」
( ´_ゝ`)「無視するなよ」

 口を尖らせながらも、アニジャはスープをたっぷりとよそい、パンと一緒に手渡してやった。両手が器とパンで塞がるので、匙は敢えて付けない。
「頂きます」の言葉もそこそこに、オトジャはパンにかぶりつき、スープを勢いよく口に流し込む。そしてその熱さに悶絶した。

(´<_`;)「熱っ!あっつっ!!」
( ´_ゝ`)「・・・馬鹿?ほら、水飲んで」
(´<_`;)「ごくごくごくごく」
( ´_ゝ`)「そんなに勢いよく飲んだらむせるぞ」
(´<_`;)「げほっごほっ!」
( ´_ゝ`)「期待を裏切らない奴め」

 くるくるとよく変わる弟の表情は、見ていて飽きない。思っても口には出さず、アニジャはオトジャの背中を叩いてやった。
 背中を叩いていると、服に覆われて見えもしないのに、凄惨な傷跡が目の前に浮かんでくる。アニジャは瞬きをして、その幻を消した。

106 ◆tqhinNTqWw:2013/02/15(金) 23:38:21 ID:PCEAT.VM0
今回はこれだけ。
次回は長くなる予定です。

107名も無きAAのようです:2013/02/16(土) 15:52:13 ID:SJnBAi.A0
待ってる

108名も無きAAのようです:2013/03/04(月) 03:15:54 ID:sq.V4mxA0
待ってる

109名も無きAAのようです:2013/04/11(木) 21:50:51 ID:5zMLrqG60
遭遇したいなー待機!

110名も無きAAのようです:2013/04/13(土) 00:00:12 ID:7tqmEdHo0
楽しみししてるー待機

111 ◆tqhinNTqWw:2013/04/26(金) 23:25:38 ID:H.Nn5ErM0
長い間放置してすみませんでした。
環境が落ち着いたので、またぼちぼち投下していこうと思います。
107〜110の言葉がとても嬉しかったです、ありがとうございますm(_ _)m。
ひとまず、明日の夜に投下します。

112 ◆tqhinNTqWw:2013/04/28(日) 00:13:10 ID:74gYseYE0
ちょこっと投下。

113 ◆tqhinNTqWw:2013/04/28(日) 00:14:45 ID:74gYseYE0
(´<_` )「時に兄者」

( ´_ゝ`)「何だ?」

(´<_` )「ニューソクで村人を見かけたって言ってたよな。見つからなかったか?」

( ´_ゝ`)+「大丈夫。妖術で透明人間になってやり過ごしたから」

(´<_` )「・・・ヨージュツ?」

( ´_ゝ`)「ああ、錬金術と並ぶ、魔法の一種だ」

 アニジャは傍に落ちていた小石を拾い、短い呪文を唱えた。するとそれは、たちまち鳥の卵になってしまった。
 息を呑むオトジャに、卵を渡す。するとオトジャの顔が「あれ?」という表情になる。手の中にあるモノは、見た目こそ卵だが、感触と重さが卵とは全く違うのだ。そう、まるで先程アニジャが拾った小石のような。
 その不思議なモノを、オトジャは手の中で転がしたり握り締めたりして首を傾げた。それを見て、アニジャが小さく笑う。

( ´_ゝ`)b「妖術っていうのは、モノ自体に魔力を注ぎ込んで、本来とは全く違う形をとらせる事ができるんだ。ただし、元々の質感や重さは変わらないので、モノによってはばれやすい」

(´<_` )「その妖術とやらで、アニジャは透明人間になったのか」

( ´_ゝ`)「ああ。だが妖術の中でも、透明にするのは術の難易度が高い上に、魔力の消費も激しい。滅多な事では使えないから、緊急用だな」

(´<_` )「何だ、勿体ないな」

(;´_ゝ`)「何が?」

(´<_` )「いや何でもない。ともかく見つからなかったのならよかった」

( ´_ゝ`)「だけど、あの女を放置してきた事で、俺達があそこにいたことはばれているだろうな」
(´<_` )「まあ、当然そうなるな。だがそれは仕方ない事だ。後は、奴らがビップに向かってくれることを願おう」

114 ◆tqhinNTqWw:2013/04/28(日) 00:15:55 ID:74gYseYE0
会話の合間に、アニジャは思う。
 この術で、オトジャの傷も消す事ができたらいいのに。

(´<_` )「え?」

( ´_ゝ`)「え?」

 オトジャが驚いたような表情でこちらを見ている。アニジャは思考を読まれたのかと本気で焦ったが、何の事はない。

(´<_` )「今、「オトジャの傷も消す事ができたらいいのに」って呟いてたぞ」

 思った事が駄々漏れになっていただけだった。

(;´_ゝ`)「あ・・・うー」

 咄嗟に言葉に詰まり、アニジャはスープを口に流し込んだ。だがオトジャは真顔でアニジャを見ていた。

(´<_` )「アニジャ、妖術とやらはモノの見た目が変わるだけで、本質を変える事は出来ないのだろう?なら、俺の傷を消す事はできまい」

 それに、とオトジャは続ける。

(´<_` )「この背中にある傷は、別に消す必要はない。俺にとっては必要なものなんだ」
 アニジャは弾かれたようにオトジャを見た。

( ´_ゝ`)「ひつ・・・よう?」

(´<_` )「うん、必要」

 だって、この傷は俺の――

115 ◆tqhinNTqWw:2013/04/28(日) 00:20:34 ID:74gYseYE0
すみません、今日はここで切ります。
続きは明日。

116 ◆tqhinNTqWw:2013/04/29(月) 00:31:43 ID:s6TB2rZc0
〜〜〜〜〜〜〜
〜〜〜〜〜〜〜〜
〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 軟禁生活を送る兄者を外へ連れ出したのは、十三歳の時だった。
 その頃はまだ、モララーの屋敷の一室に兄者はいた。俺が会いに行く度に、兄者は喜色満面で出迎えてくれ、決して長くはない時間を共にした。同じ顔の片割れはいつも穏やかで優しかったが、時折その表情に翳りがあったのを俺は見逃さなかった。
 理由は聞かなくても分かっていた。

(´<_` )(外に出たいんだろうな)

俺が外の世界での出来事を話す度、見知らぬ国の物語を一緒に読む度、壁に貼られた世界地図を見上げる度に、兄者は強い憧れと同時に諦念を持っているようだった。そして、気持ちを一生懸命に押し殺している事も、俺は知っていた。
 どうにかしたい、と思うようになっていった。兄者をこの部屋の外へ連れ出してやりたい。喜ぶ顔が見たい。その思いは次第に強くなっていった。

(´<_` )「なー。兄者」

( ´_ゝ`)「何?弟者」

 一日だけ外に出られるとしたら、どこへ行きたい?

( ´_ゝ`)「・・・・・・」

 俺の考えを知る由もない兄者には、酷な質問だったろう。だが兄者は何も言わず、静かに微笑んで首を振った。それが俺には悔しかった。
 もっと本当の気持ちを言ってくれたっていいじゃないか。兄弟なのに。そう言ったら兄者は、困ったように笑っていた。

117 ◆tqhinNTqWw:2013/04/29(月) 00:33:31 ID:s6TB2rZc0
 兄者を外に出す。そのチャンスは意外と早く訪れた。数日後にモララーとミルナが共に村を留守にすると、たまたま小耳に挟んだのだ。これを利用しない手はない。
 留守にするのは二日ほど。情報はこれだけで十分だった。
 半日で行って帰ってこられる場所の選定、使用人達の目をどう掻い潜るか、用意すべきは何か、練りに練った。その日が近付くにつれて浮足立つのを必死で押さえていた。


 当日。

(´<_` )「兄者、ちょっと目隠しさせろ」

(;´_ゝ`)「何?急に」

(´<_` )「いいから」

( ´_ゝ`)「・・・くすぐったら拳骨だぞ」

 何故そういう考えに至ったのかは謎だが、とりあえず目隠しをさせることには成功した。
 ここからが正念場だ。モララーとミルナが帰ってくる前に、屋敷の使用人らや村人達に見つからないように行って戻ってくる。上手くいくように、居るのか居ないのかも分からない幸運の神に祈った。

(; _ゝ )「え、ちょ、何!?うわあっ!?」

 アニジャの身体を掬い上げるようにして抱え上げ、俺は窮屈な部屋を飛び出した。

(; _ゝ )「弟者!?」

(´<_` )「静かに。見つかる」

118 ◆tqhinNTqWw:2013/04/29(月) 00:34:25 ID:s6TB2rZc0
 流石金持ち。普通の家なら板張りの廊下は、絨毯で覆われていて足音がしない。何という好都合。その廊下を、兄者を抱えたまま早歩きし、外へ出た。そこからは村人に見つからないように村の外へ突っ走る。ちょうど昼時で、外は閑散としていたのも幸いした。まあ、この時間帯を狙っての行動だったが。
一方兄者は、振り落とされるのが怖いのか、俺の服の胸元をぎゅっと握りしめていた。安心させるように「大丈夫だから」と声を掛けると、目隠しをしているのに不安一杯の表情がみてとれた。思わず苦笑する。
 そうして村の外へと飛び出して、歩き慣れた道を走った。これは村人が使う道ではなく、俺が修行の際によく通る獣道だ。ほぼ毎日のように行き来しているので割としっかり踏み固められ、獣道から多少はマシになっている。
 ・・・だけど今日は修行じゃない。兄者がいる。
 その事実に、胸が躍った。これから行く場所は、兄者を連れて行きたいとずっと思っていた場所だ。喜んでくれるだろうかとわくわくしながら目的地へ向かった。

119 ◆tqhinNTqWw:2013/04/29(月) 00:35:42 ID:s6TB2rZc0
 目的地への到達までは、そう時間はかからなかった。
 ようやく俺が足を止めたので、ほっとしたのか兄者がほっと息をついた。俺は兄者を地面に降ろして目隠しを取ってやった。
 そこは、小さな泉がある場所で、背の高い草で囲まれた場所だった。俺がここを見つけたのは偶然で、それ以来、修行の帰りにここによく来るようになった。静かで、時々風に靡く草の音がして、心が落ち着くのだ。

( ´_ゝ`)「・・・いい場所だな」

 兄者が嬉しそうに微笑んで言った。
 その笑顔が見れただけで、命を賭ける価値があると思った。

( ´_ゝ`)「秘密基地みたいだ」

(´<_` )「そうだな。じゃあ、今日からここは俺達の秘密基地だ」

( ´_ゝ`)「ここは、人が来ない場所なのか?」

(´<_` )「ああ、丈の高い草で囲まれて、本来の道からかなり離れているからな。俺もここを見つけたのは偶然だ」

(*´_ゝ`)「そうか!凄いな弟者!」

 満面の笑み。何が凄いのかよく分からないが、褒められた俺は単純に嬉しくて同じように笑った。笑って、寝転んで、空を見上げた。

120 ◆tqhinNTqWw:2013/04/29(月) 00:37:19 ID:s6TB2rZc0
( ´_ゝ`)「空って、高いなあ」

(´<_` )「何だ、藪から棒に」

( ´_ゝ`)「人って、死んだらあそこに行けるのかな?」

(´<_` )「・・・知らね」

( ´_ゝ`)「そっか・・・そうだよな」

 死んだら、なんて。せめて今だけは考えたくない。兄者は察したのか口を噤んだ。だけどもしかしたら、その言葉は兄者の不安の表れなのかもしれないと思った。
 今の兄者の人生には、確実なリミットがついている。死んだらどうなるのか、どこへ行くのか、そもそも死後の世界など存在するのか、そんな不確かな未来が兄者を待ち受けている。

(´<_` )「兄者」

( ´_ゝ`)「何?」

(´<_` )「兄者も俺も、死んだらきっと同じ場所に行くと思う」

 兄者が目を見開いた。俺がこんな事を言うのが意外だったのだろう。しばらく目を真ん丸にして呆けたようにこちらを見ていたが、やがてふっと表情を緩ませて、花開くように笑った。

(*´_ゝ`)「なら、死んでも一緒だな」

(´<_` )「そうだな。腐れ縁というやつか」

( ´_ゝ`)「母者の腹の中に居る時からの仲だしな」

(´<_` )「生まれる前から死んだ後まで一緒か」

( ´_ゝ`)「飽きないか?」

(´<_` )「飽きないさ」

( ´_ゝ`) 「「流石だな、俺ら」」 (´<_` )

 二人で声を上げて笑った。最高に幸せなひとときだった。


 だがしかし

121 ◆tqhinNTqWw:2013/04/29(月) 00:39:32 ID:s6TB2rZc0
( ´曲`)「こっちだ!声がしたぞ!」

 聞き覚えのある声。俺と兄者ははっと顔を見合わせた。モララーの屋敷の使用人だ。

(´<_`;)「っ!」

 俺は瞬時に飛び起きて、真っ青になった兄者の手を掴んで走り出した。逃げる場所がある訳でもないのに、後先考えずにとにかく逃げた。
 捕まったら終わりだと思った。もう二度と会えなくなると。

( ´曲`)「どこだ!待てガキ共!」

(;´_ゝ`)「ひっ!」

 兄者が小さく叫ぶ。恐怖に慄いているのが手に取るように分かり、俺は兄者の手を強く握り直した。

(´<_`;)「兄者、大丈夫だ。絶対に」

 根拠のない言葉を吐いて、ただ必死だった。大丈夫、大丈夫、大丈夫だからと。

(;´_ゝ`)「・・・と、じゃ」

(´<_`;)「喋ると疲れるぞ。口を閉じてろ」

(;´_ゝ`)「俺が・・・囮になるから・・・」

 その瞬間、心臓を鷲掴みにされたような気がした。多分、血の気が一気に失せた。

(´<_`;)「馬鹿言うな!それなら俺が囮に」

(;´_ゝ`)「駄目」

(´<_`;)「何でだよ!?」

(;´_ゝ`)「だって・・・お前、いなく、なったら・・・誰が会いに、来てくれるの?」

(°<_°;)「・・・・・・!!」

(;´_ゝ`)「お前が、居なくなったら、俺は・・・独りだよ」

(; _ゝ )「俺なら、すぐに、殺されることはない。けれど、お前は、何をされるか・・・最悪、殺されて、しまうかも・・・だから」

122 ◆tqhinNTqWw:2013/04/29(月) 00:40:41 ID:s6TB2rZc0
 兄者は馬鹿だ。大馬鹿だ。そんな事をしたら、兄者は再び閉じ込められてきっと二度と会えない。だけど俺も大馬鹿だ。追手がいる事も忘れて叫んでいたのだから。

(°<_°#)「俺は!この手を離したくないんだよ!!一緒に居たいんだよ!!」

(; _ゝ )「おと・・・じゃ」

(°<_;#)「家族なのに!兄弟なのに!どうして一緒に居られないんだよ!!」

 自分の非力さが、自分達に振りかかった不条理が憎かった。

(;<_;#)「畜生!畜生っ!!」

 走りながら叫びながら、俺はかなりみっともない顔で泣いていたと思う。後ろからは兄者の嗚咽も聞こえていた。そして泣きながら走っていたのが災いして、俺は木の根に躓いて転んでしまった。手を繋いでいたせいで兄者も巻き添えになった。
 慌てて身体を起こした時には、既に大人の男達に囲まれてしまっていた。全員、モララーの屋敷の者たちだ。奴らは他の村人と違って特殊な訓練を受けており、一人ひとりがかなり強い。即ち万事休す。
 それでも諦めの悪い俺は、囲みを突破しようと男の一人に飛びかかった。が、強烈な蹴りを腹に喰らって無様に倒れ伏した。目の前は真っ白だ。

(; °_ゝ°)「弟者あぁぁぁぁぁ!!」

 兄者が悲痛な声を上げる。その声に必死で起き上がろうとするが、背中を思いきり踏みつけられていて、身体が動かせない。肺が押し潰されそうで、ごふ、と息が止まりかける。

( ´曲`)「手間掛けさせやがって。おい双子の弟、お前はここで殺す。双子の兄、お前は戻ってこい」

 冷徹な声に、ああもう駄目なのか、これまでなのかと覚悟を決めた。だけど、一足先に逝って兄者を待つのも悪くない――そんなことも思った。

123 ◆tqhinNTqWw:2013/04/29(月) 00:41:44 ID:s6TB2rZc0
(  _ゝ )「その足をどけろ」

 幻聴か。いつも優しい兄の声が、凄く冷たい。何て言うんだったかこういうの。ああそうだ、絶対零度。

( °_ゝ°)「どけろと言っている」

 はっとして、遠のいていた意識が戻ってくる。顔を上げると、少し離れた所で兄者が男達と対峙していた。1対5という構図であるのに、兄者は臆した様子がなく、声と同様の冷たさを持った表情で男達を睨みつけていた。男達は俺の視界に入っていないので様子が分からないが、俺の背中を押さえつけている足の力が緩むのが分かった。
 俺は渾身の力で身体を動かし、足の下から抜け出ると兄者の傍へ走り寄った。すると兄者の絶対零度が溶けて、安堵の表情が生まれた。しかし、すぐに表情を引き締めると、俺の一歩前に立ち、再び男達と対峙した。

( ´_ゝ`)「取引をしよう」

 兄者は言った。

( ´_ゝ`)「どうせこのまま俺達が逃げたら、その皺寄せは俺達の家族に及ぶんだろう?なら、俺はそちらへ戻る」

 兄者。兄者、何を言っている?
 声を出したいのに、口の中はからからで一言も喋れない。
 男達も、兄者の言葉をいぶかしむように聞いている。

( ´_ゝ`)「ただし、条件がある」

 兄者の口調が一際鋭くなる。

( ´_ゝ`)「俺の弟を殺すのは許さない」

124 ◆tqhinNTqWw:2013/04/29(月) 00:42:26 ID:s6TB2rZc0
(´<_`;)「・・・・・・!」

( ´曲`)「そいつは無理な相談だ。お前を逃がそうとした者は、誰であれすぐに処分せよと命令されている」

 男達の言葉はにべもない。だが兄者は強い口調のままこう言い放ったのだ。

( ´_ゝ`)「なら、俺は命を絶とう。それによって家族全員が死ぬかもしれんが、家族の誰か一人でも失う事になるのであれば、俺は今すぐにでも死んでやる」

( ´曲`;)「なっ・・・!!」
 
 男達が狼狽した。俺も呆然としていた。1か0か、有か無か。兄者は極論でこの場を切り抜けようとしていた。

( ´_ゝ`)「まあ、そうなったら、帰ってきた村長とミルナは何て言うかな?俺達の後を追ってくる羽目になるかもしれないな」

 どこに持っていたのか、兄者はナイフを取り出した。そして、その先端を何の躊躇いもなくその首に突き刺した。

( ´曲`;)「や、やめろ!!早まるな!!」

(´<_`;)「あ、あ、あ・・・あにじゃ・・・あにじゃ・・ああ・・・あ」

 死に至る程の傷ではないが、決して軽傷ではない。兄者の首から、鮮血がたらたらと流れていく。なのにこの場で一番冷静なのは、当の兄者なのだ

( ´_ゝ`)「どうする?取引に応じるか?」

( ´曲`;)「応じる!応じるからやめろ!!」

(´<_`;)「・・・・・・兄者」

125 ◆tqhinNTqWw:2013/04/29(月) 00:43:52 ID:s6TB2rZc0
( ´_ゝ`)「弟者、先に家へ帰ってろ」

(´<_`;)「え?」

( ´_ゝ`)「大丈夫だから。ほら、早く帰らないと、母者達が心配するぞ」

(´<_`;)「だ、だけど」

( ´_ゝ`)「弟者」

 振り返った兄者は、いつものように穏やかに笑っていた。首から血は流れ続けてはいたが。

( ´_ゝ`)「また、明日な」

 兄者は笑ったまま男達の元へ。俺は足に根が生えたかのように動けなかった。
 兄者が男達に連れられて行ってしまっても、しばらくそこにいた。

(´<_` )「兄者・・・」

 俺は助けられたのだ。
 自分の考えなしな行動のせいで、俺が未熟なせいでこんなことになったのに。なのに兄者はその身を挺して俺を助けてくれたのだ。
 無力。
 無力。
 なんという。

( <_ )「う、が、あああああああああああああああああ!!!!!」

126 ◆tqhinNTqWw:2013/04/29(月) 00:44:35 ID:s6TB2rZc0
 その後、俺はとぼとぼと村へ向っていたが、途中で背後から不意打ちを受け、気がついたら地下牢のような所にいた。と、いうか、まんま地下牢だった。
 日の差さない石畳の牢の中、俺は手足を鎖で繋がれた状態で、壁に背を預けて座り込んでいた。兄者との取引は反古にされ、俺は殺されるのかと漠然と思った。
 実際、目が覚めた後は殴る蹴る所じゃない凄まじい暴行を受けた。モララーの側近達により、全身の骨を砕かれる勢いでぐしゃぐしゃにされた。

( ・∀・)「鍛えていても、所詮子どもだね。未来は無限大だが、現在は実に非力で弱々しい」

 血塗れになっている所にモララーがやって来て、それはそれは楽しそうに笑っていた。
 憎い、と思った。
 憎い、殺してやりたい。いや殺してやる。今は叶わなくても。ここで自分が殺されるとしても。

127 ◆tqhinNTqWw:2013/04/29(月) 00:46:05 ID:s6TB2rZc0
( ・∀・)「無理だよ。君には私を殺せない。何故なら、君の命は私の手中にあるのだから」

 心を見透かし、奴は嗤った。

( ・∀・)「だが」

( <_ )「・・・・・・?」

( ・∀・)「アニジャは私の使用人達と取引したそうだな。己の命を盾にして」

( <_ )「・・・!」

( ・∀・)「実に見上げた根性だ。面白い、実に面白い」

 愉快そうにモララーは笑った。

( ・∀・)「君の兄の度胸に免じて、君を助けてやろう」

 それに君がいなければ、彼はいつか隙を突いて自害しかねないからな。呟くように言ったモララーの言葉は、心から兄者が死ぬ事を懸念しているようだった。

( ・∀・)「行くぞ」
 モララーは男達を引き連れて出て行った。牢の鍵は閉めずに行ったという事は、勝手に帰れということか。

( <_ )「・・・ざまあねえな、俺」

 全身傷だらけでの血塗れだったが、幸い骨が折れている感じはなかった。まあ、ヒビ程度なら全身に広がっていそうだったが、何とか動けたのでよしとする。
 ぼろぼろの身体を引きずって、家に帰った。

128 ◆tqhinNTqWw:2013/04/29(月) 00:49:43 ID:s6TB2rZc0
今日の投下はここまで。
次は少し期間を開けて、またまとめて投下します。

129名も無きAAのようです:2013/04/29(月) 01:00:39 ID:xfgUxqtk0
乙…うおお…兄者も弟者もせつねぇ…
楽しみにしてるよ
流石兄弟好きで見たが面白いわ

130名も無きAAのようです:2013/04/29(月) 01:13:11 ID:gFwu2sCkO
わああああギリギリ遭遇できなかったか…!おつおつ!!
兄者かっけえなあ

131 ◆tqhinNTqWw:2013/05/05(日) 14:38:20 ID:hEUb2nNA0
(´<_` )「戒め、なんだ」

 オトジャはぽつりと言った。
 あの時の自分は、涙が出る程に弱かった。だから強くなろうと思った。
 命懸けで修行に明け暮れて、誰よりも強くなってやる。
 そして忘れるな。
 未熟さ故に傷を負い、大切な人を守れなかった事を。

132 ◆tqhinNTqWw:2013/05/05(日) 14:39:07 ID:hEUb2nNA0
 あの日、オトジャの身に降りかかった出来事を、アニジャは静かに聞いていた。初めて聞いたこの話を、アニジャは忘れまいと誓った。

( ´_ゝ`)「・・・全く、お前は。何もかもを背負いすぎなんだよ」

(´<_` )「自分がやりたいようにやっているだけだ」

( ´_ゝ`)「俺も、弟者の強さを半分くらい持ち合わせていたかったよ」

(´<_` )「兄者はそれ以上強くならなくていい。それに、兄者には魔力がある。今日みたいに俺が怪我をした時、傍にいて治してくれればそれでいい」

( ´_ゝ`)「分かった。魔力を以ってして共に戦う事を約束しよう」

(´<_` )「ちょっと待て俺の話を聞いていたか?」

( ´_ゝ`)〜♪キイテタヨ~ ウソツケ(´<_`;)

( ´_ゝ`)「ま、俺にもお前の事を守らせろよな。一応、俺が兄ちゃんなんだから」

 その言葉に、オトジャは嬉しそうな、それでいて困ったような表情になる。
 だが嫌ではないと、微かに笑んだ口元が表していた。

133 ◆tqhinNTqWw:2013/05/05(日) 14:39:53 ID:hEUb2nNA0
 翌日の昼過ぎ、陽が傾く直前に二人は小さな漁村に着いた。
 のどかで静かなこの村は、ノーカといった。
 二人が村に入ると、旅人が珍しいのか、立ち話をしていた村人達が揃って目を丸くしていた。だがすぐに笑顔になり、「ようこそ」と歓迎してくれた。

( ‘∀‘)「旅の人がこんな村に立ち寄るなんて、珍しいねえ」

(゚<_、゚ ξ「道に迷ったのかい?」
 
村人の言葉に答えたのは、アニーこと再び女装したアニジャだ。

( ´_ゝ`)「いえ、ソーサク大陸へ渡りたいので、船をこちらでお借りできないかと思って参りました」

 すると村人達はきょとんとした後、どっと笑った。

( `ー´)「ここには近海で漁をするだけの船しかないよ」

( ^×^)「大陸に渡りたいのなら、ビップに行けばいいのに」 

 予想内の返事ではあったが、二人は落胆の色を隠せなかった。その様子を見て取って、村人達は労わるような視線を向けてきた。

(゚<_、゚ ξ「まあ、折角来たんだ。小さいが、一応宿屋もあるから泊まっていくといい」

( `ー´)「ここではとれたての新鮮で美味しい魚がたくさん食べられるからね。楽しみにしてな」

( ‘∀‘)「ほら、案内してあげよう。こっちだよ」

 気の良さそうな中年の女性が、二人を案内しようと手招きをした。どうせ他に行く所もないので、二人は有り難くその好意を受け取ることにした。すると

( ´_ゝ`)「ん?」

 アニジャとオトジャの傍に、かつん、かつんと小石が降ってきた。

134 ◆tqhinNTqWw:2013/05/05(日) 14:40:49 ID:hEUb2nNA0
(`ω´)「余所者は出ていけお!入ってくるんじゃないお!」

 小石を投げてきたのは、二人と同い歳位の青年だった。その手は微かに震えている。

(゚<_、゚ ξ「こら!ブーン!何してるんだ!!」

 村人達が怒るが、ブーンは聞き入れない。

(`ω´)「出ていけお!怪しい奴に、僕達の村に入ってきてほしくないお!!」

 そう叫び、ブーンと呼ばれた青年はもう一つ小石を投げた。それは人のいない見当違いの方向へ飛んでいったが、オトジャの怒りを買うには十分だったようだ。

(´<_`#)「――おい、お前」

(^ω^;)「ひっ!?」

 殺気をゆらりと揺らめかせ、オトジャはドスのきいた低い声を出した。それは、少し離れた所に立っていた青年――ブーンだけではなく、親切な村人達も顔を引き攣らせて後すざる程だった。
 アニジャは慌ててオトジャの服を掴んだ。

(;´_ゝ`)「あああ、あなた!もうっ、落ち着いて下さい!!皆さん、怖がっています!」

(´<_`#)「・・・アニーが怪我する所だった。許さん」

(;´_ゝ`)「私に石は当たっておりません!ほら、怒りを鎮めて。でないと、私があなたを怒りますわよ!」

(´<_` )「・・・・・・」

 すうっ、とオトジャの殺気が引いていく。アニジャはほっと息をついて、村人達に深々と頭を下げた。ちなみに、青年の姿は既になかった。

(;´_ゝ`)「すみません!夫は私を大事にするあまり、時々暴走してしまうのです」

(´<_` )「・・・・・・」

(;´_ゝ`)「ほら、あなたも頭を下げて!」

(´<_` )「・・・すみませんでした」

(;`ー´)「ま、まあ夫婦仲がいいのは良い事だ」

(゚<_、゚ ξ;「そ、そうだなぁ」

(;‘∀‘)「ああ、二人共、頭を上げておくれ。元はといえば、うちの村の若いのの無礼が原因なんだから。悪かったね」

(;´_ゝ`)(よしっ、やり過ごせた)

 アニジャは心の中でガッツポーズを決めた。まだ少し憮然とした表情のオトジャには、後で拳骨を見舞われるだろう。

135 ◆tqhinNTqWw:2013/05/05(日) 14:41:44 ID:hEUb2nNA0
 親切な村人が宿屋まで送ってくれ、二人は無事に小さな部屋に落ち着くことができた。

(#´_ゝ`)「はい、弟者。歯ぁ食いしばってー」

(´<_`;)「え、な、ちょ」

 ゴンッ!

(#´_ゝ`)「もっと平常心を保て。無駄に目立つんじゃない」
  Ω
(´<_`;)「だって」

(#´_ゝ`)「だっても取っ手もない!俺達は目立っちゃいけないの!」
  Ω
(´<_`;)「でも」

(#´_ゝ`)「でもでもだってじゃない!常に万が一を考えて行動しなきゃいけないのは、よく分かっているだろう?」
  Ω
(´<_`;)「・・・はい」

 オトジャは大きなたんこぶを頭に乗せ、正座をしてアニジャの説教を聞いていた。普段は穏やかなアニジャも、怒る時は怒るのだ。故に、オトジャは大人しかった。
 結局、オトジャが解放されたのは三十分後で、流石の偉丈夫もぐったりだった。

136 ◆tqhinNTqWw:2013/05/05(日) 14:42:44 ID:hEUb2nNA0
(´<_` )「兄者、腹減った」

( ´_ゝ`)「あー、そろそろ夕方か」

 アニジャが窓の外を見やると、赤く染まった太陽が水平線の向こうに沈んでいく所だった。
( ´_ゝ`)(これが・・・海)

 書物で読んだ『海』と、人から聞いた『海』と、眼前に広がる海は、やはり違う。百聞は一見に如かずとはよく言ったものだ。
 いつの間にかオトジャも隣に来ていて、一緒に海を眺めていた。

(´<_` )「兄者」

( ´_ゝ`)「うん?」

(´<_` )「何、考えてる?」

( ´_ゝ`)「んー?知識としての海と、実際に目にする海は違うんだなって」

 くっ、と喉の奥でオトジャが笑う。

(´<_` )「海だけに限らんさ。これからはもっとたくさんの、色んなものが見られるぞ」

( ´_ゝ`)「ああ、そうだな。この海の向こうでは、一体何が待ち受けているんだろうな」

 だがその前に

(;´_ゝ`)「ソーサクに渡る手段を考えないとな〜・・・」

 困った表情でアニジャは腕組みをする。そこへ、階下から宿の主人が声を掛けてきた。

(^ν^)「夕食の支度が出来ましたよ」

 顔を見合わせる双子。その表情は流石と言うべきか、そっくり同じだった。

(*´_ゝ`)「考える事は後でもできる。先ずは腹ごしらえだ」

(´<_`*)「激しく同意だ、兄者」

 すきっ腹を抱え、二人はいそいそと食堂へ向かったのだった。

137 ◆tqhinNTqWw:2013/05/05(日) 14:43:36 ID:hEUb2nNA0
(*´_ゝ`)「ぷはー!美味かったな!海の魚を食べたのは初めてだが、川魚とはまた違った味わいがあるんだな」

(´<_`*)「そうだな。それに、海の魚は生で食べられるものが多いと初めて知った。シンプルイズベストだな」

 宿の主人が腕によりをかけて作ってくれた魚料理は、二人の腹を十二分に満足させてくれるものだった。魚介類の刺身やつみれの吸い物、南蛮漬けなど、どれも珍しく、また非常に美味だった。

(*´_ゝ`)「うーん、満足、満足」

 アニジャは満足そうにベッドに倒れ込んだ。そのまま寝てしまいそうに見える兄に、オトジャは声をかける。

(´<_` )「おい、海を渡る手段を考えなくていいのか?」

( ´_ゝ`)「あ、それなら考えがある。まだ漠然としてるけど」

(´<_` )「え?」

 驚いた表情でオトジャは兄を見つめた。いつの間に策を練っていたのだろうかと目を丸くする弟を尻目に、アニジャはよっこらしょと身体を起こし、ベッドに腰かけた。

( ´_ゝ`)「精霊術で渡れないかなと思ったんだ」

(´<_` )「せいれいじゅつ?」

( ´_ゝ`)「そう。これは魔法とはちょっと違っていて、己の魔力と引き換えに、精霊の力を借りる、もしくは精霊そのものを使役する術だ」

(´<_` )「あー・・・何となく分かる。で、その術をどうするんだ?」

 アニジャは紙を一枚取り出し、それに 〜〜〜〜〜 と波線を書いた。その上の左端に小さな船を、右端にはソーサクという文字を書き加えた。

138 ◆tqhinNTqWw:2013/05/05(日) 14:45:16 ID:hEUb2nNA0
( ´_ゝ`)「まずは船を調達する。とりあえず小舟でも何でもいい。で、ここから・・・」

 アニジャは波の上と下に、左から右へ向って一本ずつ矢印を引いた。 

( ´_ゝ`)「海の中にいる水の精霊、もしくは大気中の風の精霊の力を借りて、ソーサクまで運んでもらう。そうしたら、時化も凪も関係なく進む事が出来る」

 アニジャの説明を聞いて、オトジャは拍子抜けする。

(´<_` )「何だ、なら話は簡単じゃないか」

( ´_ゝ`)「ところが、そうもいかないんだよ」

 アニジャは図の上に五十里と書き加える。

( ´_ゝ`)「精霊術は、他の魔法より魔力の消費が激しいんだ。時化や凪になれば消費魔力は上乗せされるし、それに加えてこの距離だ。正直、俺の魔力がもつかどうかが危うい。そうなったら無事にソーサクへ辿り着けるかどうかも分からない」

(´<_` )「だが、その方法で渡るしかないな」

 あっけらかんとオトジャが言い放ったので、アニジャの目が半目になる。

(;´_ゝ`)「弟者、お兄ちゃんの話聞いてた?」

(´<_` )「愚問だな」

( ´_ゝ`)「なら、『無事にソーサクに辿り着けるかどうかも分からない』って言葉を無視するなよ」

(´<_` )「無視なんかしていないさ」

139 ◆tqhinNTqWw:2013/05/05(日) 14:46:25 ID:hEUb2nNA0
 え?とアニジャがオトジャを見つめた。深緑の瞳は真剣味を帯びて、アニジャを静かに見つめている。

(´<_` )「ここに留まっている方が危険だ。マターリからの追手は、遅かれ早かれここにも及ぶだろう。それくらいなら、危険を承知で海へ出た方がまだマシだ」

(´<_` )「それに、俺達は追われる身。どうしたって危険は付きものだろう?」

 アニジャは呆然とオトジャの話を聞いていた。
 そうだ、こののどかで小さな漁村にも、追手はいずれ来るだろう。いや来る、絶対に。

( ´_ゝ`)「そうだよな。忘れる所だった」

 自分達は逃亡者なのだ。ならば全ての行動は賭けとなる。それなら全ての賭けに勝ってやる。

( ´_ゝ`)「明日は、借りれる船を探すか」

(´<_` )「了解」

 図を描いた紙は、くしゃくしゃと丸められた。

140 ◆tqhinNTqWw:2013/05/05(日) 14:47:30 ID:hEUb2nNA0
 その日は野宿の疲れもあって、二人は早々にベッドに横になった。
 窓は少しだけ開けており、そこからは僅かな月明かりと波の音が入ってくる。寄せては返る波の音を聞きながら、いつしかアニジャは夢を見ていた。

〜〜〜〜〜〜〜
〜〜〜〜〜〜〜〜
〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 勝手に外出した事がばれて、村長の家から村外れの塔へと軟禁場所が変わったのは、十三の時だった。
 どうやったのか、何もない所に塔が建つまで二日とかからなかった。だから、村に連れ戻されて二日目の昼には、部屋の中の荷物と共に丸ごと塔へ引っ越した。
 それまでの一日半は、弟者に咎めがいかないように、ただひたすら祈り続けた。けれど連れ戻された次の日は弟者が来てくれなくて、それ所か村長も顔を見せず、魔法を教えてくれる講師すら来なかった。その日一日、俺の部屋にやって来たのは食事を運ぶ使用人だけ。
 嫌な予感しかせず、弟者の事を聞こうと口を開くと、彼等は俺の存在をまるっと無視して食事を置いていくだけだった。

( ´_ゝ`)「・・・寂しい」

 誰もいなくなってから、不意に言葉が零れた。

(  _ゝ )「寂しい、寂しいよ」

 次々に溢れて来る言葉は止まらなかった。

( ;_ゝ;)「弟者、会いたいよ」

 言葉にしたら、余計に寂しくなった。
 俺は一人泣いた。

141 ◆tqhinNTqWw:2013/05/05(日) 14:48:20 ID:hEUb2nNA0
 塔への引っ越しは、割合あっさりしていた。
 その日の朝食後、使用人がわらわらと部屋に入って来た。例によって俺の存在を無視しつつ、部屋の中にある俺の私物を片っ端から纏めて運び出してしまった。それをぼんやりと見ていた俺も、最後に両側からがっちりと腕を掴まれて部屋を出た。
 長年過ごしてきた部屋との別れは、特に感慨深くもなかった。空っぽの抜け殻のような状態で、村外れまで連れて行かれた。
 その時、村人に出会う事はなかった。誰も外を歩いていないのは、村長のお達しだろうか。ぼーっと考えてみたが、どうでもよかった。
 連れて行かれた先には、高い塔がそびえ立っていた。二日前、村に連れ戻された際にはそんな塔はなかった。どうやって建てたのか、何時建てたのか、今なら少しは不思議に思うが、その時は興味すら湧かなかった。
 塔の最上部には窓があり、そこから垂れているロープを登るように言われた。そして、こう付け足された。

( ´曲`)「ここから出ようものなら、お前の家族は皆死ぬ。肝に銘じておくんだな」

 俺は一つ頷いて、ロープを登った。塔の中に入ると、俺の私物がきちんと整頓され、あるべき所に収まる形になっていた。ここが新しい俺の部屋。終の棲家。
 独りぼっちの。

(  _ゝ )「・・・・・・っ」

 生活に必要な全ては揃っている。内装は質素どころか贅沢であることが素人目にも分かる。村長の家に居た時と何ら変わりはない。
 だが
 だが
 静かすぎた。

( ;_ゝ )「う・・・」

 ベッドに倒れ込み、俺はまた泣いていた。
 泣いて泣いて泣いて、どれだけ泣いても涙は止まらなかった。

142 ◆tqhinNTqWw:2013/05/05(日) 14:49:06 ID:hEUb2nNA0
(´<_` )「兄者?」

 最初は幻聴かと思った。

(´<_` )「・・・兄者、泣いているのか?」

 もう一度その声が聞こえて、俺ははっと顔を上げた。視界は涙で滲んでいたが、目の前にいたのは、紛れもなく弟者だった。

( ;_ゝ;)「・・・おとじゃ?」

 弟者はびっくりした表情で俺を見ていたが、泣いている俺に慌て、焦ったように言葉を繰り出してきた。どうした、どこか痛いのか、何かされたのか、兄者、と。
 だけど俺は俺で、弟者の姿を見て愕然とした。
 弟者は普段から薄い武道着を着ていた。例え寒い冬でも、自身を鍛える為だからと、それ以外を着ることを許されていなかったと言っていた。なのにその日は、普通の服を着ていた。しかも初夏だというのに長袖の服だった。その理由は、服で覆えない部分に見える生々しい傷に他ならないことは明白で。

( ;_ゝ;)「・・・・・・」

 絶句した。

143 ◆tqhinNTqWw:2013/05/05(日) 14:49:56 ID:hEUb2nNA0
(´<_` )「兄者?」

( ;_ゝ;)「・・・弟者、その傷は?」

(´<_` )「ちょっとな」

( ;_ゝ;)「ちょっと所の傷じゃないよね、それ。なのに、どうして包帯も巻いてないの?まだ少し血が滲んでいるのに」

(´<_` )「・・・・・・」

 弟者は貝のように口を噤んで、視線を逸らしてしまった。
 でも本当は、聞かなくても分かっていたんだ。

拷問されたんだ。
殺されかけたんだ。
俺 の せ い で 。

144 ◆tqhinNTqWw:2013/05/05(日) 14:50:43 ID:hEUb2nNA0
(  _ゝ )「――癒せ、癒せ。温かな風となりてその身を覆え」

 それは、俺のありったけの魔力を注ぎ込んで織り上げた回復呪文だった。  
俺の身体から魔力が弟者へと流れ、服で隠しきれなかった傷がみるみる内に消えていく。同時に、俺の意識が朦朧とし始める。

(´<_`;)「兄者!」

 魔力を一気に使い果たした俺は、その場で崩れ落ちた。意識がどんどん遠のいていく。

(  _ゝ )(折角、弟者が来てくれたのに)

 だが身体中の倦怠感に耐えられず、すぐに視界は暗転した。

145 ◆tqhinNTqWw:2013/05/05(日) 14:51:24 ID:hEUb2nNA0
 目を覚ました時、弟者が心配そうに俺を覗き込んでいた。まだ帰っていなかったことに安堵しつつ身体を起こすと、節々が痛んだ。まるで長期間、床に伏せった後のように。

( ´_ゝ`)「・・・おはよう?」

(´<_` )「やっと目を覚ましたか。もう夕方だぞ」

( ´_ゝ`)「三時間も寝ていたのか、俺」

(´<_` )「いや、丸一日」

( ;´_ゝ`)「え〝?」

 弟者の説明によると、俺は気絶した後、まるで死んだように眠り続けていたらしい。帰らなければならない時間になっても一向に起きないので、心配ながらも弟者は一旦帰宅し、今日の昼過ぎに改めてやって来たという。それでもまだ眠っていたので、このまま目を覚まさないのではとひやひやしたらしい。

146 ◆tqhinNTqWw:2013/05/05(日) 14:52:09 ID:hEUb2nNA0
(´<_` )「とにかく、目を覚ましてくれてよかった。気分はどうだ?」

( ´_ゝ`)「身体の節々が痛むが、魔力は元に戻ってるし、頭もすっきりしている」

 それよりも、と俺は続けた。

( ´_ゝ`)「弟者、お前の傷はどうなんだ?」

(´<_` )「ああ、すっかり消えたよ。兄者のおかげだ」

 本当に? とは聞けなかった。

 弟者は、また薄い道着に戻っていた。服の合わせ目から見える胸元や、袖がなく剥き出しの腕には、薄く目立たない傷跡が残っているだけだ。
 だが、その薄い道着の下は?

( ´_ゝ`)(それを脱いで見せてくれ。なんて)

 言えない。
 怖い。
 治りきっていないかもしれない傷と対峙するのが怖い。
 それに、もし本当に傷が残っていたら

(  _ゝ )(俺は、それを治す事が出来ない)

 昨日、ありったけの魔力を注いで回復魔法を施したのだ。己の使える回復魔法の限界を知ってしまった今、弟の身体に傷が――俺の為に無茶をしたせいで付けられたそれが、残ってしまうと思い知るのが・・・ひたすら怖かった。
 だから、聞かなかった。その話はそこでおしまいにした。
 何でちゃんと向き合わなかったんだろうと、今では後悔している。
 弟者は殺されそうになりながらも生き伸びて、ちゃんと前を見据えていたというのに。俺は、自分の心の傷が痛まないように、ずっと目を逸らし続けてきた。
 ごめん、弟者。ごめんな。
 ごめん・・・

147 ◆tqhinNTqWw:2013/05/05(日) 14:53:11 ID:hEUb2nNA0
(´<_` )「兄者!」

(;´_ゝ`)「っ!」

 アニジャはハッと目を覚ました。全身に嫌な汗をかいており、口の中はからからだった。気持ちを落ち着かせる為に深呼吸をしていると、オトジャが水の入ったコップを差し出してきた。

(´<_` )「まあ、飲め」

 それを受け取ってぐっと呷ると、アニジャは小さく息をついた。

(´<_` )「で、何の夢を見ていたんだ?」

(;´_ゝ`)「・・・・・・」

(´<_` )「俺の名前を呼びながら「ごめん」って繰り返していたぞ」

(;´_ゝ`)「・・・・・・」

(´<_` )「隠すな兄者、正直に言え。何が「ごめん」なんだ?」

 射抜くようなオトジャの目に耐えられず、アニジャは思わず口に出していた。

(;´_ゝ`)「き・・・きず・・・」

(´<_` )「は?」

(; _ゝ )「おとじゃの、せなか・・・」

( ;_ゝ;)  Σ(´<_`;)

148 ◆tqhinNTqWw:2013/05/05(日) 14:54:03 ID:hEUb2nNA0
 アニジャは泣き出していた。声を押さえて泣きながら、夢で見た過去を話した。それを黙ってオトジャは聞いていた。

(´<_` )「・・・・・・」

( ;_ゝ;)「ご、ごめ・・・」

(´<_` )「謝るな」

 珍しく強い口調だった。まだ俯いて涙を零していたアニジャが、思わず顔を上げると、新緑の瞳と瑠璃の瞳が交わった。

(´<_` )「兄者が謝るんだったら、俺の方が謝らないといけない。結局、俺は兄者を守れなかったし、むしろ兄者が俺を助けてくれた。傷を負ったのだって、自分が未熟だったせいだ」

( ;_ゝ;)「で、でも・・・」

(´<_` )「だからもう謝るな。俺の為に泣くな、兄者」

( ;_ゝ;)「だけど・・・」

(´<_` )「分 か っ た な ?」

( ;_ゝ;)「・・・うん」

 アニジャの目には少し涙が残っていたが、彼はゆっくりと微笑んだ。

(´<_` )(そう、それでいい)

 あの時も、そして今だって。この笑顔には命を賭けるだけの価値があるのだから。

149 ◆tqhinNTqWw:2013/05/05(日) 14:56:57 ID:hEUb2nNA0
本日の投下はここまで。
この章がここで終わりなので、ちょっとほっとしました。
次の章では、遂に海を渡ります。

150名も無きAAのようです:2013/05/05(日) 16:17:43 ID:JaX/mKs6O
おつうううう!!!

151名も無きAAのようです:2013/05/05(日) 20:09:47 ID:G2F9tHtk0
乙!
海の向こうでどんなことがあるかね、楽しみにしてる

152名も無きAAのようです:2013/06/01(土) 13:41:58 ID:duINTDq60
今読んだ
乙、楽しみにしてる
スレはまた村の外かな

153 ◆tqhinNTqWw:2013/06/18(火) 21:53:43 ID:xx8SP6mk0
スレは自然の中でのんびりするのが好きです。
なので村の中よりも、外で待つ方を選びます。

では、今回の投下開始。

154 ◆tqhinNTqWw:2013/06/18(火) 21:55:05 ID:xx8SP6mk0
走る、走る。
目指すは新天地。




第四章 海渡る風

155 ◆tqhinNTqWw:2013/06/18(火) 21:56:07 ID:xx8SP6mk0
 翌朝、食事を終えた二人は村の中を歩き回ってみることにした。
 勿論、目的は船の調達だが、折角なのでどんな店があるのか見て回るつもりだった。

(´_ゝ`)「のどかですねえ」

(´<_` )「ああ」

 二人は相も変わらず夫婦を演じながら(人がいなくなると口調は戻るが)、のんびりと狭い道を歩いた。閑散として人通りは少ないものの、途中、すれ違う村人はにこやかに挨拶をしてくれ、二人は居心地のよさを感じた。
 他の町村と目立った交流はなく、昨日村人が言っていたように、余所の人間が訪れる事も殆どないようだ。その為、村の中にある店も、日用品を売る雑貨屋や小さな食堂、それにアニジャ達が泊まっている宿屋くらいしかない。その宿屋も、普段は村の集会所として使われているという。

(´<_` )「米や小麦、野菜なんかはどうやって調達してるんだろうな。こんな海の傍で作物は育つのか?」

(´_ゝ`)「育たない訳じゃないが、自給自足をする分には厳しいかもしれないな。まあ、ビップもあるし、行商人の行き来くらいはあるんじゃないか?」

(´<_` )「だよなあ。じゃなきゃ、昨日の食事に米や野菜があんなに出てくる訳はない」

 昨日の夕食は、久方ぶりの客が嬉しかったのか、宿の主人が張り切って大判振る舞いをしてくれたのだ。その九割方は、オトジャの腹に消えていったが。

(´<_` )「ああ、そうだ。折角だから、昼は村の食堂へ行ってみないか?宿の食事も美味かったが、また違ったものが食べられるかもしれん」

(´_ゝ`)「よし、持ち合せもあるし、ちょっと奮発するか」

156 ◆tqhinNTqWw:2013/06/18(火) 21:56:50 ID:xx8SP6mk0
 まだ昼食には早かったので、二人は海岸に行った。冬が近いので、海風は身を切る冷たさだったが、潮の香りは山育ちの二人にとって新鮮だった。足をとられそうになる砂浜も、空を飛ぶ海鳥も、海の向こうの水平線も、何もかもが目新しかった。そして、ふとアニジャは、村から逃げだした夜の事を思い出していた。
 裸足に食い込む小石と、土の感触。剥き出しの肌を震わせる山の冷たい空気。それらの感覚に『生きている』と実感した時と、今の心情は近かった。
 自然と笑みを浮かべるアニジャを見て、オトジャも笑う。
 そこへ、何かが飛んできて、二人の近くにぽとっと落ちた。出し抜けに飛んできたので二人はびっくりしたが、よく見るとそれは貝のようだった。

(´_ゝ`)「何だ?」

 それは白く平べったい、アニジャの掌くらいの大きさの二枚貝だった。貝はぴったりと口を閉じていたが、中身は入っていないようだ。アニジャはそれを拾うと、それが飛んできた方を見やった。

(´<_`#)「あいつ、また・・・!」

 既にオトジャは、眼光鋭く睨みつけていた。その視線の先には、昨日石を投げつけてきた、あの青年がいた。

(`ω´)「僕は出てけって言った筈だお!余所者は早く出ていけおー!!」

 それだけ言うと、青年はあっという間に姿を消してしまった。オトジャの怒りの表情が、あまりにも恐ろしかったからかもしれない。

(´<_`#)「っち、逃げ足の速い・・・!」

(´_ゝ`)「まあまあ、落ち着け弟者」

 青筋を立てているオトジャを宥めていると、アニジャの手の中で、貝がぱかっと口を開けた。

(´_ゝ`)「・・・おお、開いた」

 アニジャはそれをしばし眺めた後、まだ怒りの収まらない様子のオトジャを宥めつつ、ひとまず宿に戻ることにした。オトジャの額の青筋は、中々消えなさそうにくっきりと浮いたままだった。

157 ◆tqhinNTqWw:2013/06/18(火) 21:57:59 ID:xx8SP6mk0
 その日の夜も、昨日と同じく平穏な夜だった。月明かりの灯る夜空と、穏やかに寄せては返る波の音。
 その夜空の下、波の音を聞きながら、とある建物の平らな屋根の上で、

(´_ゝ`)「見えたか?」

(´<_` )「いや、まだだ」

 こんなやり取りをしている声があった。

(´_ゝ`)「星の位置からして、そろそろだと思うんだけどな」 

高い背を低く屈め、海を見つめるアニジャと

(´<_` )「宿の入口付近に三人いる。多分、マターリの奴らだ」 

同じく高い背を折り曲げ、周囲の様子を窺っているオトジャ。
 二人がいるのは、宿泊していた宿屋の屋根の上だった。潮の香りを含んだ夜風が、二人を優しく撫ぜてゆく。静かで、本当に穏やかな時間が流れていた。
 が、それも、二人の足の下――屋根一枚を隔てた所から響いた叫び声で終わりを告げた。

(‘台‘)「流石兄弟が逃げたぞぉぉぉ!!!」

 窓から顔を出して叫んだのは、宿の主人だった。彼が叫んで顔を出すと同時に、出入り口付近でたむろしていた人影達がざわめき出す。

(丶´鄴`)「何だと!?勘付かれたのか!!」

((=゚Д゚=)「ちっ!役立たず共め!」

¥ ・∀・¥「とにかく捜すぞ!!」

 それらの声は、兄弟にとって、やはり聞き覚えのあるそれだった。アニジャは瞑目し、
オトジャの表情が険しいものになる。
 その時、海に小さな明かりが灯った。

158 ◆tqhinNTqWw:2013/06/18(火) 21:58:42 ID:xx8SP6mk0
(´_ゝ`)「弟者、明かりついた!」

(´<_` )「ギリギリだな。よし、行くぞ」

 言うか早いか、オトジャは下に向かってビー玉くらいの大きさの玉を纏めて投げつけた。渾身の力で投球されたそれらは、地面とぶつかると破裂して、煙がぶわっと噴き上がる。アニジャ特製の煙幕だ。
 下にいた人々が激しく咳き込むのを確認して、オトジャはアニジャを抱え、煙が上がっている側とは反対に飛び降りた。大の男を抱えているにしては、軽やかに音もなく着地しているのは流石と言える。
 アニジャがオトジャから降り、二人は一目散に海岸を目指した。荷物は縮小の魔法を使い、スレも一緒に小さく纏めてオトジャが身体に括りつけているので身軽だ。
 狭い道を走る。曲がりくねった道を抜け、真っ直ぐな道を走っていると、前方に人影がわらわらと集まり出した。他に脇道がなかった為、二人は仕方なく一旦足を止める。

159 ◆tqhinNTqWw:2013/06/18(火) 21:59:34 ID:xx8SP6mk0
(´_ゝ`)「・・・・・・」(´<_` )

 異様な光景だった。
 銛や鉈、松明を手に、目をぎらぎらとさせて道を塞ぐ男達。彼等は全てノーカの村人だった。若者は一人もおらず、壮年の終わりから高齢の者のみに限られていた。その中には、兄弟に親切にしてくれた者もいた。温かい言葉で村へ迎え入れてくれた者も、美味しい食事でもてなしてくれた宿の主人も。
 それらの優しさは全て・・・嘘だった。 

( `ー´)「逃がさんぞ・・・流石兄弟」

(‘台‘)「お前らを捕まえれば、報酬がたんまり貰えるんだ」

(゚<_、゚ ξ「そうすれば、この貧しい村も豊かになって、若い奴らもこの村に戻ってくる。村は生き返る!!」

(´_ゝ`)「・・・・・・」(´<_` )

 哀れだ、と兄弟は思った。
 この村は豊かとは言えないが、決して貧しい訳ではないことは見て取れる。ならば何故、若者が離れていったのか。その理由は、はっきりとしているように二人は感じた。

(´_ゝ`)「ねむ――」

( `ー´)「させんぞ!」

 呪文を唱えようとしたアニジャに、鎌を持った男が襲いかかる。当然、オトジャがそれを許す筈もなく、その男は容赦なく殴り飛ばされた。村人達は怖れ慄くが、その場から離れようとする者はいなかった。

(´<_` )「そこをどけ」

 珍しく静かに、けれど恐ろしい程の怒りのオーラを発しながらオトジャが言う。これで素直に引き下がってくれればよかったのだが、逆に武器を掲げて襲いかかってきた。
ち、と舌打ちひとつ。オトジャが迎撃の為に構えた瞬間

160 ◆tqhinNTqWw:2013/06/18(火) 22:00:29 ID:xx8SP6mk0
(´_ゝ`)「眠れ!!」

 アニジャの鋭い声が響き渡った。どうやらこっそり呪文を唱えていたらしく、発動した魔法が村人を次々に眠らせていく。
 最後の一人が倒れると、二人は視線を合わせて頷き、再び走り出した。遠くでマターリ村の人々の声も聞こえたが、もう兄弟には追い付けないだろう。二人は既に砂浜に到達していた。足を取られそうになるが、走る速度は緩めない。

(´_ゝ`)「海に住まいし水の精霊、我等に道を与え給え!」

 走りながらアニジャが詠唱し、それが終わる頃には、海まで後数歩の所まで来ていた。

(´_ゝ`)「このまま走れ、弟者!」

 そうして海へと踏み出した足は・・・沈まない。不思議な事に、二人は地面を歩くのと何ら変わりなく海の上を走っている。

(´<_` )(魔法ってすげぇ・・・!)

 水面を踏みしめる感覚は、水溜まりを踏んだ時のそれだった。だが水は殆ど跳ねず、また服の裾を濡らす事もない。
 アニジャは息を切らせて、オトジャは余裕で、海の上に浮かぶ一隻の船を目指した。そこに居るのは

(^ω^)「おーい、もうちょっとだおー!頑張るお――!!」

 兄弟に「出て行け」と叫んでいた、あの青年だった。

161 ◆tqhinNTqWw:2013/06/18(火) 22:11:17 ID:xx8SP6mk0
今回の投下はここまでです。

この作品内での兄弟の描写について色々悩んでいましたが、吹っ切れました。
このままマイペースでいきます。
次は二週間後位に投下します。

162名も無きAAのようです:2013/06/18(火) 23:23:42 ID:m6eZhw/60
おつ
ブーンいい子なのかもしかして
すっごい気になってしまったんだがアニジャとブーンの顔変じゃないか…?

163 ◆tqhinNTqWw:2013/06/18(火) 23:28:44 ID:xx8SP6mk0
・・・ちょっと失敗したorz
改めて見直したら確かに変だorz

164名も無きAAのようです:2013/06/19(水) 00:07:02 ID:UkTwBFDsO
乙乙
超ドキドキする展開だ

165名も無きAAのようです:2013/06/19(水) 01:21:27 ID:/X9DLoX.0
ブーン気になりすぎる!!!!

おつー(^ω^)

166名も無きAAのようです:2014/04/09(水) 01:08:01 ID:Txeg.NS.0
おー....

167名も無きAAのようです:2014/05/29(木) 22:59:15 ID:x0h1TA120
もうじき一年か…

168名も無きAAのようです:2014/05/30(金) 00:08:37 ID:D/jAQgwQ0
いちいちあげんなやゴミ

169名も無きAAのようです:2014/10/08(水) 21:30:07 ID:QApqHoOw0
乙!面白いな、待つぜ

170 ◆tqhinNTqWw:2015/05/06(水) 00:07:31 ID:ekWKSxPw0
約二年、放置して申し訳ない。
これからぼちぼち投下を再開していこうと思います。

171 ◆tqhinNTqWw:2015/05/06(水) 00:08:49 ID:ekWKSxPw0
 話を少し戻そう。
 
 青年が投げつけてきた貝をアニジャが拾った時。それがぱかっと割れて、アニジャは細い目を僅かに見開いた。
 何と、貝の内側に小さな文字がびっしりと書かれていたのだ。

(´_ゝ`)「・・・・・・」
 
ここで読むのは不味いような気がして、アニジャは、怒り冷めやらぬオトジャを引っ張って宿まで戻った。そこで初めてオトジャに、貝に書かれた文章を見せた。

(´<_` )「!・・・これは・・・」

 オトジャの細い目が限界一杯まで見開かれる。
 貝に書かれていた文章は、二人を驚かせるには十分な威力を持っていたのだ。

“流石兄弟へ

 この村は、既にマターリの手が伸びているお。
 昨日、君達がここに来てから、使者がビップに向かったお。ビップ周辺にマターリの人達が点在しているらしいから、早ければ今夜には押し寄せてくる可能性が高い。
 捕まったら、二人とも殺されちゃうお。だから僕が助けるお!
 夜になったら、僕は船を出す。20時になったら海に明かりを灯すから、もし信じてくれるのなら、何とかして船まで来てくれお。
                     ナイトー・ホライゾン”


(´_ゝ`)「・・・どう思う?」

(´<_` )「・・・正直、信じていいものか迷うが・・・」

(´_ゝ`)「でも、これに書いてある事が真実なら、昨日の行動にも説明がつくよな」

(´<_` )「まあな」

 村に入った時、このナイトーという青年は石を投げつけてきたが、それは一つも当たらなかった。おそらくは、マターリとノーカのやり取りを良しとせず、兄弟が村に立ち入らないように画策したのだろう。――失敗はしたが。

(´_ゝ`)「じゃあ、行動開始、だ。とりあえず、スレを連れてくる」

 アニジャがそう言って立ち上がると、オトジャは戸惑ったように兄を見上げた。

172 ◆tqhinNTqWw:2015/05/06(水) 00:10:33 ID:ekWKSxPw0
(´<_` )「連れてくるって・・・あいつ、普通の馬より大きいから、村の狭い道は通れないんじゃないか?第一、どこに繋いでおくんだ?」

(´_ゝ`)「まあ任せろ。お前はここから動くなよ」
 アニジャはそう言って、口の中でぶつぶつと何やら呟いた。すると、彼は足元からすうっと消えていくではないか。オトジャが驚いて立ち上がる。

(´_ゝ`)「ただの魔法だよ。透明になるだけだ。すぐ戻るから、お前はじっとしていろよ」

 アニジャに念を押され、オトジャは仕方なくその場に座り直した。不安はあったが、アニジャが戻ってきたのはほんの数分後だった。
 魔法を解いて、再び姿を現した彼の手には、手乗りサイズの馬がちょこんと乗っていた。

(´<_`;)「・・・スレ?」

(´_ゝ`)「うん、スレ。大きいままじゃ運べないから、小さくした。とりあえず、ここを出るまではこのままの大きさでいてもらおう」

(´<_` )「・・・何でもありだな、魔法って」
 サイドテーブルに降ろされたスレを人差し指で撫でてやりながら、オトジャは感嘆とも呆れともつかない声で言った。
 
それからは、二人と一頭は部屋の中で静かに過ごした。
夕食の際は、察しのいいアニジャが、夕食に眠り薬が仕込まれていると気付き、食べるふりをして、用意しておいた皮袋にこっそり捨てて部屋まで持ち帰った。代わりの夕飯は、荷物の中の固パンと干し肉、それと水だけで済ませた。その荷物もスレ同様、掌サイズまで小さくし、オトジャの背に纏めて括りつけられた。スレは眠らせて、アニジャのローブの袂に入れられた。眠らせたのは、服の中で暴れないようにする為だ。
それらの作業が終わった後、二人は眠っているように見せかける為、部屋の中の物を適当に布団内に詰め込み、陽が落ちるとすぐに屋根の上に上がって合図を待った。
それから先の動きは、先述の通りである。

173 ◆tqhinNTqWw:2015/05/06(水) 00:12:02 ID:ekWKSxPw0
 青年によって二人が船の上へ引き上げられると、船は滑るように沖へと進み始めた。予め、潮の流れを読んでおいたのだろう。ノーカの村はどんどん遠さがり、すぐに闇の向こうに消えてしまった。後は、波の音が寄せて返るだけ。

( ^ω^)「おっおっ、二人共、僕の事を信じてくれてありがとうだお」

 のんびりとした口調で、青年は言う。そのほんわかとした表情は、ぷっくり膨れた甘い大福餅のようだ。

(´_ゝ`)「お礼を言うのはこちらの方だよ。助けてくれて本当にありがとう」

 ほっとしたような表情のアニジャは、顔色があまり良くない。緊張と、荷物やスレを小さくし続けている事で魔力を常に消費していた為、疲労が溜まったらしい。

(´<_` )「舵は取らなくていいのか?」

 何となく感情の読めない表情でオトジャが問うと、青年――ナイトー・ホライゾンはにかっと笑って答えた。

( ^ω^)「今は潮の流れだけで進めるから大丈夫だお。もう少し進んでから、錨を下ろして停泊するお」

 そして、彼は改まった様子で頭を下げた。

( ^ω^)「僕の名前はナイトー・ホライゾン。皆からはブーンって呼ばれているから、そう読んでくれたら嬉しいお」

(´_ゝ`)「俺はサスガ・アニジャ。アニジャって呼んでくれ」

(´<_` )「俺は双子の弟のオトジャ。呼び捨てでいい」

174 ◆tqhinNTqWw:2015/05/06(水) 00:13:26 ID:ekWKSxPw0
 簡単な自己紹介も済んだ所で、アニジャが大きな欠伸をした。疲労が溜まっている上に夜も遅いので、眠くなったらしい。元々細い目が、更に細くなっていた。

( ^ω^)「あ、今晩は僕が寝ずの番をするから、二人とも休むといいお。そこの扉から下に行けば船室があるから、好きに使っていいお」

(´_ゝ`)「すまないが、そうさせてもらう。弟者はどうする?」

(´<_` )「俺はまだ眠れそうにない。兄者、先に休んでいてくれ」

(´_ゝ`)「了解。それじゃおやすみ」

 アニジャが船室に引き上げるのを見送って、オトジャはブーンに話しかけた。

(´<_` )「お前、俺達の事をどこまで知っている?」

( ^ω^)「全てを知っている訳ではないお。『マターリ村の双子の兄弟が、神聖な儀式を放りだして逃げ出した。だがらその二人を追っている』そのくらいだお」

 オトジャの細い瞳が、驚愕で見開かれる。

(´<_` )「たったそれだけの事しか知らないのに、俺達を助けてくれたのか?」

( ^ω^)「・・・『殺す』」

(´<_` )「は?」

175 ◆tqhinNTqWw:2015/05/06(水) 00:17:24 ID:ekWKSxPw0
 唐突に物騒な単語が飛び出したので、オトジャは咄嗟に身構える。だがブーンの表情は攻撃する者のそれではなく、暗く沈んでいた。

(  ω )「殺すって、言ってたんだお・・・」

 ブーンの声も、表情と同じくらい暗くなっていた。

( ´ ω ` )「会話を全てきちんと聞き取る事は難しかったけれど、その端々で『殺す』っていう言葉が飛び出してたんだお・・・だから、君達二人は見つかり次第、殺されるんだって事は分かったお」

 眉毛がしょんぼり下がった彼は、長身のオトジャを見上げて言葉を続けた。

( ´ ω ` )「僕は、それが理解できなかったんだお・・・」

(´<_` )「だから、助けてくれたのか」

 ブーンは頷いた。

(´<_` )「なら、教えてやろう。・・・いや、違うな。聞いてほしい、俺達の事を」

( ^ω^)「聞くお!知りたいお!」

 五歳の時の出来事に始まった、自分達兄弟の半生を。何があってどうやって逃げ出し、ノーカまで辿り着いたのかを掻い摘んでオトジャは話した。

(´<_` )カクカクシカジカシカクイムーヴ アイツライツカブッコロス
( ^ω^)ホンネガモレテルオ

176 ◆tqhinNTqWw:2015/05/06(水) 00:18:22 ID:ekWKSxPw0
(´<_` )「まあ、そういう訳で、俺の兄が死なないと世界は終わるんだそうだ。どうするブーン?今からでもノーカに戻るか?」

( ^ω^)「頼まれたってお断りだお」

 即答だった。少々意外に思ったオトジャは、思わずブーンを見つめていた。

( ^ω^)「誰かの犠牲の上に成り立つ世界なんて間違っているお。世界を救う別の方法が、絶対ある筈だお」

 根拠などないのに、ブーンの言葉は確信に満ちていた。そしてそれは、オトジャの心を少し軽くした。

(´<_` )「ああ、そうだ。だから俺と兄者は旅をする。だがお前は村を飛び出してきてよかったのか?」

( ^ω^)「うん。元々村を出る予定だったから、いいんだお」

 ブーンは、悲しげな、それでいて希望を見出しているような、何とも不思議な表情をしていた。

177 ◆tqhinNTqWw:2015/05/06(水) 00:20:27 ID:ekWKSxPw0
今回の投下はここまで。
ゆっくりになるけれど、書き上げていきます。

178名も無きAAのようです:2015/05/06(水) 01:37:14 ID:AWFT5TSc0
あら。
カムバックに出会うのはいつもいい物だな。

179名も無きAAのようです:2015/05/09(土) 00:29:08 ID:Hhc5UFKwO
お帰りなさいませ

180名も無きAAのようです:2015/05/09(土) 15:20:29 ID:BfwKU9E60
はじめて読んだが面白い
無理せず自分のペースで書き上げていってくれ

181名も無きAAのようです:2015/07/24(金) 22:11:54 ID:/50UJ8560
飯テロから来ました
期待待機

182名も無きAAのようです:2015/11/25(水) 08:45:37 ID:hn8GwXWo0
久々に読んだけどやっぱり面白いわ……
ずっと待ってるよ作者!

183名も無きAAのようです:2023/09/29(金) 01:03:48 ID:Nv95yJb20
だいぶ昔のやつだが何回も読んでる
何度読んでも好きだ


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