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( ´_ゝ`)二人の旅路は波乱万丈のようです(´<_` )

1 ◆Sci4aLEAnU:2013/01/03(木) 22:34:43 ID:DZDhlMOE0
「兄者、行くぞ!」
 その言葉で、全てが始まった。





第一章  旅立ちの夜

134 ◆tqhinNTqWw:2013/05/05(日) 14:40:49 ID:hEUb2nNA0
(`ω´)「余所者は出ていけお!入ってくるんじゃないお!」

 小石を投げてきたのは、二人と同い歳位の青年だった。その手は微かに震えている。

(゚<_、゚ ξ「こら!ブーン!何してるんだ!!」

 村人達が怒るが、ブーンは聞き入れない。

(`ω´)「出ていけお!怪しい奴に、僕達の村に入ってきてほしくないお!!」

 そう叫び、ブーンと呼ばれた青年はもう一つ小石を投げた。それは人のいない見当違いの方向へ飛んでいったが、オトジャの怒りを買うには十分だったようだ。

(´<_`#)「――おい、お前」

(^ω^;)「ひっ!?」

 殺気をゆらりと揺らめかせ、オトジャはドスのきいた低い声を出した。それは、少し離れた所に立っていた青年――ブーンだけではなく、親切な村人達も顔を引き攣らせて後すざる程だった。
 アニジャは慌ててオトジャの服を掴んだ。

(;´_ゝ`)「あああ、あなた!もうっ、落ち着いて下さい!!皆さん、怖がっています!」

(´<_`#)「・・・アニーが怪我する所だった。許さん」

(;´_ゝ`)「私に石は当たっておりません!ほら、怒りを鎮めて。でないと、私があなたを怒りますわよ!」

(´<_` )「・・・・・・」

 すうっ、とオトジャの殺気が引いていく。アニジャはほっと息をついて、村人達に深々と頭を下げた。ちなみに、青年の姿は既になかった。

(;´_ゝ`)「すみません!夫は私を大事にするあまり、時々暴走してしまうのです」

(´<_` )「・・・・・・」

(;´_ゝ`)「ほら、あなたも頭を下げて!」

(´<_` )「・・・すみませんでした」

(;`ー´)「ま、まあ夫婦仲がいいのは良い事だ」

(゚<_、゚ ξ;「そ、そうだなぁ」

(;‘∀‘)「ああ、二人共、頭を上げておくれ。元はといえば、うちの村の若いのの無礼が原因なんだから。悪かったね」

(;´_ゝ`)(よしっ、やり過ごせた)

 アニジャは心の中でガッツポーズを決めた。まだ少し憮然とした表情のオトジャには、後で拳骨を見舞われるだろう。

135 ◆tqhinNTqWw:2013/05/05(日) 14:41:44 ID:hEUb2nNA0
 親切な村人が宿屋まで送ってくれ、二人は無事に小さな部屋に落ち着くことができた。

(#´_ゝ`)「はい、弟者。歯ぁ食いしばってー」

(´<_`;)「え、な、ちょ」

 ゴンッ!

(#´_ゝ`)「もっと平常心を保て。無駄に目立つんじゃない」
  Ω
(´<_`;)「だって」

(#´_ゝ`)「だっても取っ手もない!俺達は目立っちゃいけないの!」
  Ω
(´<_`;)「でも」

(#´_ゝ`)「でもでもだってじゃない!常に万が一を考えて行動しなきゃいけないのは、よく分かっているだろう?」
  Ω
(´<_`;)「・・・はい」

 オトジャは大きなたんこぶを頭に乗せ、正座をしてアニジャの説教を聞いていた。普段は穏やかなアニジャも、怒る時は怒るのだ。故に、オトジャは大人しかった。
 結局、オトジャが解放されたのは三十分後で、流石の偉丈夫もぐったりだった。

136 ◆tqhinNTqWw:2013/05/05(日) 14:42:44 ID:hEUb2nNA0
(´<_` )「兄者、腹減った」

( ´_ゝ`)「あー、そろそろ夕方か」

 アニジャが窓の外を見やると、赤く染まった太陽が水平線の向こうに沈んでいく所だった。
( ´_ゝ`)(これが・・・海)

 書物で読んだ『海』と、人から聞いた『海』と、眼前に広がる海は、やはり違う。百聞は一見に如かずとはよく言ったものだ。
 いつの間にかオトジャも隣に来ていて、一緒に海を眺めていた。

(´<_` )「兄者」

( ´_ゝ`)「うん?」

(´<_` )「何、考えてる?」

( ´_ゝ`)「んー?知識としての海と、実際に目にする海は違うんだなって」

 くっ、と喉の奥でオトジャが笑う。

(´<_` )「海だけに限らんさ。これからはもっとたくさんの、色んなものが見られるぞ」

( ´_ゝ`)「ああ、そうだな。この海の向こうでは、一体何が待ち受けているんだろうな」

 だがその前に

(;´_ゝ`)「ソーサクに渡る手段を考えないとな〜・・・」

 困った表情でアニジャは腕組みをする。そこへ、階下から宿の主人が声を掛けてきた。

(^ν^)「夕食の支度が出来ましたよ」

 顔を見合わせる双子。その表情は流石と言うべきか、そっくり同じだった。

(*´_ゝ`)「考える事は後でもできる。先ずは腹ごしらえだ」

(´<_`*)「激しく同意だ、兄者」

 すきっ腹を抱え、二人はいそいそと食堂へ向かったのだった。

137 ◆tqhinNTqWw:2013/05/05(日) 14:43:36 ID:hEUb2nNA0
(*´_ゝ`)「ぷはー!美味かったな!海の魚を食べたのは初めてだが、川魚とはまた違った味わいがあるんだな」

(´<_`*)「そうだな。それに、海の魚は生で食べられるものが多いと初めて知った。シンプルイズベストだな」

 宿の主人が腕によりをかけて作ってくれた魚料理は、二人の腹を十二分に満足させてくれるものだった。魚介類の刺身やつみれの吸い物、南蛮漬けなど、どれも珍しく、また非常に美味だった。

(*´_ゝ`)「うーん、満足、満足」

 アニジャは満足そうにベッドに倒れ込んだ。そのまま寝てしまいそうに見える兄に、オトジャは声をかける。

(´<_` )「おい、海を渡る手段を考えなくていいのか?」

( ´_ゝ`)「あ、それなら考えがある。まだ漠然としてるけど」

(´<_` )「え?」

 驚いた表情でオトジャは兄を見つめた。いつの間に策を練っていたのだろうかと目を丸くする弟を尻目に、アニジャはよっこらしょと身体を起こし、ベッドに腰かけた。

( ´_ゝ`)「精霊術で渡れないかなと思ったんだ」

(´<_` )「せいれいじゅつ?」

( ´_ゝ`)「そう。これは魔法とはちょっと違っていて、己の魔力と引き換えに、精霊の力を借りる、もしくは精霊そのものを使役する術だ」

(´<_` )「あー・・・何となく分かる。で、その術をどうするんだ?」

 アニジャは紙を一枚取り出し、それに 〜〜〜〜〜 と波線を書いた。その上の左端に小さな船を、右端にはソーサクという文字を書き加えた。

138 ◆tqhinNTqWw:2013/05/05(日) 14:45:16 ID:hEUb2nNA0
( ´_ゝ`)「まずは船を調達する。とりあえず小舟でも何でもいい。で、ここから・・・」

 アニジャは波の上と下に、左から右へ向って一本ずつ矢印を引いた。 

( ´_ゝ`)「海の中にいる水の精霊、もしくは大気中の風の精霊の力を借りて、ソーサクまで運んでもらう。そうしたら、時化も凪も関係なく進む事が出来る」

 アニジャの説明を聞いて、オトジャは拍子抜けする。

(´<_` )「何だ、なら話は簡単じゃないか」

( ´_ゝ`)「ところが、そうもいかないんだよ」

 アニジャは図の上に五十里と書き加える。

( ´_ゝ`)「精霊術は、他の魔法より魔力の消費が激しいんだ。時化や凪になれば消費魔力は上乗せされるし、それに加えてこの距離だ。正直、俺の魔力がもつかどうかが危うい。そうなったら無事にソーサクへ辿り着けるかどうかも分からない」

(´<_` )「だが、その方法で渡るしかないな」

 あっけらかんとオトジャが言い放ったので、アニジャの目が半目になる。

(;´_ゝ`)「弟者、お兄ちゃんの話聞いてた?」

(´<_` )「愚問だな」

( ´_ゝ`)「なら、『無事にソーサクに辿り着けるかどうかも分からない』って言葉を無視するなよ」

(´<_` )「無視なんかしていないさ」

139 ◆tqhinNTqWw:2013/05/05(日) 14:46:25 ID:hEUb2nNA0
 え?とアニジャがオトジャを見つめた。深緑の瞳は真剣味を帯びて、アニジャを静かに見つめている。

(´<_` )「ここに留まっている方が危険だ。マターリからの追手は、遅かれ早かれここにも及ぶだろう。それくらいなら、危険を承知で海へ出た方がまだマシだ」

(´<_` )「それに、俺達は追われる身。どうしたって危険は付きものだろう?」

 アニジャは呆然とオトジャの話を聞いていた。
 そうだ、こののどかで小さな漁村にも、追手はいずれ来るだろう。いや来る、絶対に。

( ´_ゝ`)「そうだよな。忘れる所だった」

 自分達は逃亡者なのだ。ならば全ての行動は賭けとなる。それなら全ての賭けに勝ってやる。

( ´_ゝ`)「明日は、借りれる船を探すか」

(´<_` )「了解」

 図を描いた紙は、くしゃくしゃと丸められた。

140 ◆tqhinNTqWw:2013/05/05(日) 14:47:30 ID:hEUb2nNA0
 その日は野宿の疲れもあって、二人は早々にベッドに横になった。
 窓は少しだけ開けており、そこからは僅かな月明かりと波の音が入ってくる。寄せては返る波の音を聞きながら、いつしかアニジャは夢を見ていた。

〜〜〜〜〜〜〜
〜〜〜〜〜〜〜〜
〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 勝手に外出した事がばれて、村長の家から村外れの塔へと軟禁場所が変わったのは、十三の時だった。
 どうやったのか、何もない所に塔が建つまで二日とかからなかった。だから、村に連れ戻されて二日目の昼には、部屋の中の荷物と共に丸ごと塔へ引っ越した。
 それまでの一日半は、弟者に咎めがいかないように、ただひたすら祈り続けた。けれど連れ戻された次の日は弟者が来てくれなくて、それ所か村長も顔を見せず、魔法を教えてくれる講師すら来なかった。その日一日、俺の部屋にやって来たのは食事を運ぶ使用人だけ。
 嫌な予感しかせず、弟者の事を聞こうと口を開くと、彼等は俺の存在をまるっと無視して食事を置いていくだけだった。

( ´_ゝ`)「・・・寂しい」

 誰もいなくなってから、不意に言葉が零れた。

(  _ゝ )「寂しい、寂しいよ」

 次々に溢れて来る言葉は止まらなかった。

( ;_ゝ;)「弟者、会いたいよ」

 言葉にしたら、余計に寂しくなった。
 俺は一人泣いた。

141 ◆tqhinNTqWw:2013/05/05(日) 14:48:20 ID:hEUb2nNA0
 塔への引っ越しは、割合あっさりしていた。
 その日の朝食後、使用人がわらわらと部屋に入って来た。例によって俺の存在を無視しつつ、部屋の中にある俺の私物を片っ端から纏めて運び出してしまった。それをぼんやりと見ていた俺も、最後に両側からがっちりと腕を掴まれて部屋を出た。
 長年過ごしてきた部屋との別れは、特に感慨深くもなかった。空っぽの抜け殻のような状態で、村外れまで連れて行かれた。
 その時、村人に出会う事はなかった。誰も外を歩いていないのは、村長のお達しだろうか。ぼーっと考えてみたが、どうでもよかった。
 連れて行かれた先には、高い塔がそびえ立っていた。二日前、村に連れ戻された際にはそんな塔はなかった。どうやって建てたのか、何時建てたのか、今なら少しは不思議に思うが、その時は興味すら湧かなかった。
 塔の最上部には窓があり、そこから垂れているロープを登るように言われた。そして、こう付け足された。

( ´曲`)「ここから出ようものなら、お前の家族は皆死ぬ。肝に銘じておくんだな」

 俺は一つ頷いて、ロープを登った。塔の中に入ると、俺の私物がきちんと整頓され、あるべき所に収まる形になっていた。ここが新しい俺の部屋。終の棲家。
 独りぼっちの。

(  _ゝ )「・・・・・・っ」

 生活に必要な全ては揃っている。内装は質素どころか贅沢であることが素人目にも分かる。村長の家に居た時と何ら変わりはない。
 だが
 だが
 静かすぎた。

( ;_ゝ )「う・・・」

 ベッドに倒れ込み、俺はまた泣いていた。
 泣いて泣いて泣いて、どれだけ泣いても涙は止まらなかった。

142 ◆tqhinNTqWw:2013/05/05(日) 14:49:06 ID:hEUb2nNA0
(´<_` )「兄者?」

 最初は幻聴かと思った。

(´<_` )「・・・兄者、泣いているのか?」

 もう一度その声が聞こえて、俺ははっと顔を上げた。視界は涙で滲んでいたが、目の前にいたのは、紛れもなく弟者だった。

( ;_ゝ;)「・・・おとじゃ?」

 弟者はびっくりした表情で俺を見ていたが、泣いている俺に慌て、焦ったように言葉を繰り出してきた。どうした、どこか痛いのか、何かされたのか、兄者、と。
 だけど俺は俺で、弟者の姿を見て愕然とした。
 弟者は普段から薄い武道着を着ていた。例え寒い冬でも、自身を鍛える為だからと、それ以外を着ることを許されていなかったと言っていた。なのにその日は、普通の服を着ていた。しかも初夏だというのに長袖の服だった。その理由は、服で覆えない部分に見える生々しい傷に他ならないことは明白で。

( ;_ゝ;)「・・・・・・」

 絶句した。

143 ◆tqhinNTqWw:2013/05/05(日) 14:49:56 ID:hEUb2nNA0
(´<_` )「兄者?」

( ;_ゝ;)「・・・弟者、その傷は?」

(´<_` )「ちょっとな」

( ;_ゝ;)「ちょっと所の傷じゃないよね、それ。なのに、どうして包帯も巻いてないの?まだ少し血が滲んでいるのに」

(´<_` )「・・・・・・」

 弟者は貝のように口を噤んで、視線を逸らしてしまった。
 でも本当は、聞かなくても分かっていたんだ。

拷問されたんだ。
殺されかけたんだ。
俺 の せ い で 。

144 ◆tqhinNTqWw:2013/05/05(日) 14:50:43 ID:hEUb2nNA0
(  _ゝ )「――癒せ、癒せ。温かな風となりてその身を覆え」

 それは、俺のありったけの魔力を注ぎ込んで織り上げた回復呪文だった。  
俺の身体から魔力が弟者へと流れ、服で隠しきれなかった傷がみるみる内に消えていく。同時に、俺の意識が朦朧とし始める。

(´<_`;)「兄者!」

 魔力を一気に使い果たした俺は、その場で崩れ落ちた。意識がどんどん遠のいていく。

(  _ゝ )(折角、弟者が来てくれたのに)

 だが身体中の倦怠感に耐えられず、すぐに視界は暗転した。

145 ◆tqhinNTqWw:2013/05/05(日) 14:51:24 ID:hEUb2nNA0
 目を覚ました時、弟者が心配そうに俺を覗き込んでいた。まだ帰っていなかったことに安堵しつつ身体を起こすと、節々が痛んだ。まるで長期間、床に伏せった後のように。

( ´_ゝ`)「・・・おはよう?」

(´<_` )「やっと目を覚ましたか。もう夕方だぞ」

( ´_ゝ`)「三時間も寝ていたのか、俺」

(´<_` )「いや、丸一日」

( ;´_ゝ`)「え〝?」

 弟者の説明によると、俺は気絶した後、まるで死んだように眠り続けていたらしい。帰らなければならない時間になっても一向に起きないので、心配ながらも弟者は一旦帰宅し、今日の昼過ぎに改めてやって来たという。それでもまだ眠っていたので、このまま目を覚まさないのではとひやひやしたらしい。

146 ◆tqhinNTqWw:2013/05/05(日) 14:52:09 ID:hEUb2nNA0
(´<_` )「とにかく、目を覚ましてくれてよかった。気分はどうだ?」

( ´_ゝ`)「身体の節々が痛むが、魔力は元に戻ってるし、頭もすっきりしている」

 それよりも、と俺は続けた。

( ´_ゝ`)「弟者、お前の傷はどうなんだ?」

(´<_` )「ああ、すっかり消えたよ。兄者のおかげだ」

 本当に? とは聞けなかった。

 弟者は、また薄い道着に戻っていた。服の合わせ目から見える胸元や、袖がなく剥き出しの腕には、薄く目立たない傷跡が残っているだけだ。
 だが、その薄い道着の下は?

( ´_ゝ`)(それを脱いで見せてくれ。なんて)

 言えない。
 怖い。
 治りきっていないかもしれない傷と対峙するのが怖い。
 それに、もし本当に傷が残っていたら

(  _ゝ )(俺は、それを治す事が出来ない)

 昨日、ありったけの魔力を注いで回復魔法を施したのだ。己の使える回復魔法の限界を知ってしまった今、弟の身体に傷が――俺の為に無茶をしたせいで付けられたそれが、残ってしまうと思い知るのが・・・ひたすら怖かった。
 だから、聞かなかった。その話はそこでおしまいにした。
 何でちゃんと向き合わなかったんだろうと、今では後悔している。
 弟者は殺されそうになりながらも生き伸びて、ちゃんと前を見据えていたというのに。俺は、自分の心の傷が痛まないように、ずっと目を逸らし続けてきた。
 ごめん、弟者。ごめんな。
 ごめん・・・

147 ◆tqhinNTqWw:2013/05/05(日) 14:53:11 ID:hEUb2nNA0
(´<_` )「兄者!」

(;´_ゝ`)「っ!」

 アニジャはハッと目を覚ました。全身に嫌な汗をかいており、口の中はからからだった。気持ちを落ち着かせる為に深呼吸をしていると、オトジャが水の入ったコップを差し出してきた。

(´<_` )「まあ、飲め」

 それを受け取ってぐっと呷ると、アニジャは小さく息をついた。

(´<_` )「で、何の夢を見ていたんだ?」

(;´_ゝ`)「・・・・・・」

(´<_` )「俺の名前を呼びながら「ごめん」って繰り返していたぞ」

(;´_ゝ`)「・・・・・・」

(´<_` )「隠すな兄者、正直に言え。何が「ごめん」なんだ?」

 射抜くようなオトジャの目に耐えられず、アニジャは思わず口に出していた。

(;´_ゝ`)「き・・・きず・・・」

(´<_` )「は?」

(; _ゝ )「おとじゃの、せなか・・・」

( ;_ゝ;)  Σ(´<_`;)

148 ◆tqhinNTqWw:2013/05/05(日) 14:54:03 ID:hEUb2nNA0
 アニジャは泣き出していた。声を押さえて泣きながら、夢で見た過去を話した。それを黙ってオトジャは聞いていた。

(´<_` )「・・・・・・」

( ;_ゝ;)「ご、ごめ・・・」

(´<_` )「謝るな」

 珍しく強い口調だった。まだ俯いて涙を零していたアニジャが、思わず顔を上げると、新緑の瞳と瑠璃の瞳が交わった。

(´<_` )「兄者が謝るんだったら、俺の方が謝らないといけない。結局、俺は兄者を守れなかったし、むしろ兄者が俺を助けてくれた。傷を負ったのだって、自分が未熟だったせいだ」

( ;_ゝ;)「で、でも・・・」

(´<_` )「だからもう謝るな。俺の為に泣くな、兄者」

( ;_ゝ;)「だけど・・・」

(´<_` )「分 か っ た な ?」

( ;_ゝ;)「・・・うん」

 アニジャの目には少し涙が残っていたが、彼はゆっくりと微笑んだ。

(´<_` )(そう、それでいい)

 あの時も、そして今だって。この笑顔には命を賭けるだけの価値があるのだから。

149 ◆tqhinNTqWw:2013/05/05(日) 14:56:57 ID:hEUb2nNA0
本日の投下はここまで。
この章がここで終わりなので、ちょっとほっとしました。
次の章では、遂に海を渡ります。

150名も無きAAのようです:2013/05/05(日) 16:17:43 ID:JaX/mKs6O
おつうううう!!!

151名も無きAAのようです:2013/05/05(日) 20:09:47 ID:G2F9tHtk0
乙!
海の向こうでどんなことがあるかね、楽しみにしてる

152名も無きAAのようです:2013/06/01(土) 13:41:58 ID:duINTDq60
今読んだ
乙、楽しみにしてる
スレはまた村の外かな

153 ◆tqhinNTqWw:2013/06/18(火) 21:53:43 ID:xx8SP6mk0
スレは自然の中でのんびりするのが好きです。
なので村の中よりも、外で待つ方を選びます。

では、今回の投下開始。

154 ◆tqhinNTqWw:2013/06/18(火) 21:55:05 ID:xx8SP6mk0
走る、走る。
目指すは新天地。




第四章 海渡る風

155 ◆tqhinNTqWw:2013/06/18(火) 21:56:07 ID:xx8SP6mk0
 翌朝、食事を終えた二人は村の中を歩き回ってみることにした。
 勿論、目的は船の調達だが、折角なのでどんな店があるのか見て回るつもりだった。

(´_ゝ`)「のどかですねえ」

(´<_` )「ああ」

 二人は相も変わらず夫婦を演じながら(人がいなくなると口調は戻るが)、のんびりと狭い道を歩いた。閑散として人通りは少ないものの、途中、すれ違う村人はにこやかに挨拶をしてくれ、二人は居心地のよさを感じた。
 他の町村と目立った交流はなく、昨日村人が言っていたように、余所の人間が訪れる事も殆どないようだ。その為、村の中にある店も、日用品を売る雑貨屋や小さな食堂、それにアニジャ達が泊まっている宿屋くらいしかない。その宿屋も、普段は村の集会所として使われているという。

(´<_` )「米や小麦、野菜なんかはどうやって調達してるんだろうな。こんな海の傍で作物は育つのか?」

(´_ゝ`)「育たない訳じゃないが、自給自足をする分には厳しいかもしれないな。まあ、ビップもあるし、行商人の行き来くらいはあるんじゃないか?」

(´<_` )「だよなあ。じゃなきゃ、昨日の食事に米や野菜があんなに出てくる訳はない」

 昨日の夕食は、久方ぶりの客が嬉しかったのか、宿の主人が張り切って大判振る舞いをしてくれたのだ。その九割方は、オトジャの腹に消えていったが。

(´<_` )「ああ、そうだ。折角だから、昼は村の食堂へ行ってみないか?宿の食事も美味かったが、また違ったものが食べられるかもしれん」

(´_ゝ`)「よし、持ち合せもあるし、ちょっと奮発するか」

156 ◆tqhinNTqWw:2013/06/18(火) 21:56:50 ID:xx8SP6mk0
 まだ昼食には早かったので、二人は海岸に行った。冬が近いので、海風は身を切る冷たさだったが、潮の香りは山育ちの二人にとって新鮮だった。足をとられそうになる砂浜も、空を飛ぶ海鳥も、海の向こうの水平線も、何もかもが目新しかった。そして、ふとアニジャは、村から逃げだした夜の事を思い出していた。
 裸足に食い込む小石と、土の感触。剥き出しの肌を震わせる山の冷たい空気。それらの感覚に『生きている』と実感した時と、今の心情は近かった。
 自然と笑みを浮かべるアニジャを見て、オトジャも笑う。
 そこへ、何かが飛んできて、二人の近くにぽとっと落ちた。出し抜けに飛んできたので二人はびっくりしたが、よく見るとそれは貝のようだった。

(´_ゝ`)「何だ?」

 それは白く平べったい、アニジャの掌くらいの大きさの二枚貝だった。貝はぴったりと口を閉じていたが、中身は入っていないようだ。アニジャはそれを拾うと、それが飛んできた方を見やった。

(´<_`#)「あいつ、また・・・!」

 既にオトジャは、眼光鋭く睨みつけていた。その視線の先には、昨日石を投げつけてきた、あの青年がいた。

(`ω´)「僕は出てけって言った筈だお!余所者は早く出ていけおー!!」

 それだけ言うと、青年はあっという間に姿を消してしまった。オトジャの怒りの表情が、あまりにも恐ろしかったからかもしれない。

(´<_`#)「っち、逃げ足の速い・・・!」

(´_ゝ`)「まあまあ、落ち着け弟者」

 青筋を立てているオトジャを宥めていると、アニジャの手の中で、貝がぱかっと口を開けた。

(´_ゝ`)「・・・おお、開いた」

 アニジャはそれをしばし眺めた後、まだ怒りの収まらない様子のオトジャを宥めつつ、ひとまず宿に戻ることにした。オトジャの額の青筋は、中々消えなさそうにくっきりと浮いたままだった。

157 ◆tqhinNTqWw:2013/06/18(火) 21:57:59 ID:xx8SP6mk0
 その日の夜も、昨日と同じく平穏な夜だった。月明かりの灯る夜空と、穏やかに寄せては返る波の音。
 その夜空の下、波の音を聞きながら、とある建物の平らな屋根の上で、

(´_ゝ`)「見えたか?」

(´<_` )「いや、まだだ」

 こんなやり取りをしている声があった。

(´_ゝ`)「星の位置からして、そろそろだと思うんだけどな」 

高い背を低く屈め、海を見つめるアニジャと

(´<_` )「宿の入口付近に三人いる。多分、マターリの奴らだ」 

同じく高い背を折り曲げ、周囲の様子を窺っているオトジャ。
 二人がいるのは、宿泊していた宿屋の屋根の上だった。潮の香りを含んだ夜風が、二人を優しく撫ぜてゆく。静かで、本当に穏やかな時間が流れていた。
 が、それも、二人の足の下――屋根一枚を隔てた所から響いた叫び声で終わりを告げた。

(‘台‘)「流石兄弟が逃げたぞぉぉぉ!!!」

 窓から顔を出して叫んだのは、宿の主人だった。彼が叫んで顔を出すと同時に、出入り口付近でたむろしていた人影達がざわめき出す。

(丶´鄴`)「何だと!?勘付かれたのか!!」

((=゚Д゚=)「ちっ!役立たず共め!」

¥ ・∀・¥「とにかく捜すぞ!!」

 それらの声は、兄弟にとって、やはり聞き覚えのあるそれだった。アニジャは瞑目し、
オトジャの表情が険しいものになる。
 その時、海に小さな明かりが灯った。

158 ◆tqhinNTqWw:2013/06/18(火) 21:58:42 ID:xx8SP6mk0
(´_ゝ`)「弟者、明かりついた!」

(´<_` )「ギリギリだな。よし、行くぞ」

 言うか早いか、オトジャは下に向かってビー玉くらいの大きさの玉を纏めて投げつけた。渾身の力で投球されたそれらは、地面とぶつかると破裂して、煙がぶわっと噴き上がる。アニジャ特製の煙幕だ。
 下にいた人々が激しく咳き込むのを確認して、オトジャはアニジャを抱え、煙が上がっている側とは反対に飛び降りた。大の男を抱えているにしては、軽やかに音もなく着地しているのは流石と言える。
 アニジャがオトジャから降り、二人は一目散に海岸を目指した。荷物は縮小の魔法を使い、スレも一緒に小さく纏めてオトジャが身体に括りつけているので身軽だ。
 狭い道を走る。曲がりくねった道を抜け、真っ直ぐな道を走っていると、前方に人影がわらわらと集まり出した。他に脇道がなかった為、二人は仕方なく一旦足を止める。

159 ◆tqhinNTqWw:2013/06/18(火) 21:59:34 ID:xx8SP6mk0
(´_ゝ`)「・・・・・・」(´<_` )

 異様な光景だった。
 銛や鉈、松明を手に、目をぎらぎらとさせて道を塞ぐ男達。彼等は全てノーカの村人だった。若者は一人もおらず、壮年の終わりから高齢の者のみに限られていた。その中には、兄弟に親切にしてくれた者もいた。温かい言葉で村へ迎え入れてくれた者も、美味しい食事でもてなしてくれた宿の主人も。
 それらの優しさは全て・・・嘘だった。 

( `ー´)「逃がさんぞ・・・流石兄弟」

(‘台‘)「お前らを捕まえれば、報酬がたんまり貰えるんだ」

(゚<_、゚ ξ「そうすれば、この貧しい村も豊かになって、若い奴らもこの村に戻ってくる。村は生き返る!!」

(´_ゝ`)「・・・・・・」(´<_` )

 哀れだ、と兄弟は思った。
 この村は豊かとは言えないが、決して貧しい訳ではないことは見て取れる。ならば何故、若者が離れていったのか。その理由は、はっきりとしているように二人は感じた。

(´_ゝ`)「ねむ――」

( `ー´)「させんぞ!」

 呪文を唱えようとしたアニジャに、鎌を持った男が襲いかかる。当然、オトジャがそれを許す筈もなく、その男は容赦なく殴り飛ばされた。村人達は怖れ慄くが、その場から離れようとする者はいなかった。

(´<_` )「そこをどけ」

 珍しく静かに、けれど恐ろしい程の怒りのオーラを発しながらオトジャが言う。これで素直に引き下がってくれればよかったのだが、逆に武器を掲げて襲いかかってきた。
ち、と舌打ちひとつ。オトジャが迎撃の為に構えた瞬間

160 ◆tqhinNTqWw:2013/06/18(火) 22:00:29 ID:xx8SP6mk0
(´_ゝ`)「眠れ!!」

 アニジャの鋭い声が響き渡った。どうやらこっそり呪文を唱えていたらしく、発動した魔法が村人を次々に眠らせていく。
 最後の一人が倒れると、二人は視線を合わせて頷き、再び走り出した。遠くでマターリ村の人々の声も聞こえたが、もう兄弟には追い付けないだろう。二人は既に砂浜に到達していた。足を取られそうになるが、走る速度は緩めない。

(´_ゝ`)「海に住まいし水の精霊、我等に道を与え給え!」

 走りながらアニジャが詠唱し、それが終わる頃には、海まで後数歩の所まで来ていた。

(´_ゝ`)「このまま走れ、弟者!」

 そうして海へと踏み出した足は・・・沈まない。不思議な事に、二人は地面を歩くのと何ら変わりなく海の上を走っている。

(´<_` )(魔法ってすげぇ・・・!)

 水面を踏みしめる感覚は、水溜まりを踏んだ時のそれだった。だが水は殆ど跳ねず、また服の裾を濡らす事もない。
 アニジャは息を切らせて、オトジャは余裕で、海の上に浮かぶ一隻の船を目指した。そこに居るのは

(^ω^)「おーい、もうちょっとだおー!頑張るお――!!」

 兄弟に「出て行け」と叫んでいた、あの青年だった。

161 ◆tqhinNTqWw:2013/06/18(火) 22:11:17 ID:xx8SP6mk0
今回の投下はここまでです。

この作品内での兄弟の描写について色々悩んでいましたが、吹っ切れました。
このままマイペースでいきます。
次は二週間後位に投下します。

162名も無きAAのようです:2013/06/18(火) 23:23:42 ID:m6eZhw/60
おつ
ブーンいい子なのかもしかして
すっごい気になってしまったんだがアニジャとブーンの顔変じゃないか…?

163 ◆tqhinNTqWw:2013/06/18(火) 23:28:44 ID:xx8SP6mk0
・・・ちょっと失敗したorz
改めて見直したら確かに変だorz

164名も無きAAのようです:2013/06/19(水) 00:07:02 ID:UkTwBFDsO
乙乙
超ドキドキする展開だ

165名も無きAAのようです:2013/06/19(水) 01:21:27 ID:/X9DLoX.0
ブーン気になりすぎる!!!!

おつー(^ω^)

166名も無きAAのようです:2014/04/09(水) 01:08:01 ID:Txeg.NS.0
おー....

167名も無きAAのようです:2014/05/29(木) 22:59:15 ID:x0h1TA120
もうじき一年か…

168名も無きAAのようです:2014/05/30(金) 00:08:37 ID:D/jAQgwQ0
いちいちあげんなやゴミ

169名も無きAAのようです:2014/10/08(水) 21:30:07 ID:QApqHoOw0
乙!面白いな、待つぜ

170 ◆tqhinNTqWw:2015/05/06(水) 00:07:31 ID:ekWKSxPw0
約二年、放置して申し訳ない。
これからぼちぼち投下を再開していこうと思います。

171 ◆tqhinNTqWw:2015/05/06(水) 00:08:49 ID:ekWKSxPw0
 話を少し戻そう。
 
 青年が投げつけてきた貝をアニジャが拾った時。それがぱかっと割れて、アニジャは細い目を僅かに見開いた。
 何と、貝の内側に小さな文字がびっしりと書かれていたのだ。

(´_ゝ`)「・・・・・・」
 
ここで読むのは不味いような気がして、アニジャは、怒り冷めやらぬオトジャを引っ張って宿まで戻った。そこで初めてオトジャに、貝に書かれた文章を見せた。

(´<_` )「!・・・これは・・・」

 オトジャの細い目が限界一杯まで見開かれる。
 貝に書かれていた文章は、二人を驚かせるには十分な威力を持っていたのだ。

“流石兄弟へ

 この村は、既にマターリの手が伸びているお。
 昨日、君達がここに来てから、使者がビップに向かったお。ビップ周辺にマターリの人達が点在しているらしいから、早ければ今夜には押し寄せてくる可能性が高い。
 捕まったら、二人とも殺されちゃうお。だから僕が助けるお!
 夜になったら、僕は船を出す。20時になったら海に明かりを灯すから、もし信じてくれるのなら、何とかして船まで来てくれお。
                     ナイトー・ホライゾン”


(´_ゝ`)「・・・どう思う?」

(´<_` )「・・・正直、信じていいものか迷うが・・・」

(´_ゝ`)「でも、これに書いてある事が真実なら、昨日の行動にも説明がつくよな」

(´<_` )「まあな」

 村に入った時、このナイトーという青年は石を投げつけてきたが、それは一つも当たらなかった。おそらくは、マターリとノーカのやり取りを良しとせず、兄弟が村に立ち入らないように画策したのだろう。――失敗はしたが。

(´_ゝ`)「じゃあ、行動開始、だ。とりあえず、スレを連れてくる」

 アニジャがそう言って立ち上がると、オトジャは戸惑ったように兄を見上げた。

172 ◆tqhinNTqWw:2015/05/06(水) 00:10:33 ID:ekWKSxPw0
(´<_` )「連れてくるって・・・あいつ、普通の馬より大きいから、村の狭い道は通れないんじゃないか?第一、どこに繋いでおくんだ?」

(´_ゝ`)「まあ任せろ。お前はここから動くなよ」
 アニジャはそう言って、口の中でぶつぶつと何やら呟いた。すると、彼は足元からすうっと消えていくではないか。オトジャが驚いて立ち上がる。

(´_ゝ`)「ただの魔法だよ。透明になるだけだ。すぐ戻るから、お前はじっとしていろよ」

 アニジャに念を押され、オトジャは仕方なくその場に座り直した。不安はあったが、アニジャが戻ってきたのはほんの数分後だった。
 魔法を解いて、再び姿を現した彼の手には、手乗りサイズの馬がちょこんと乗っていた。

(´<_`;)「・・・スレ?」

(´_ゝ`)「うん、スレ。大きいままじゃ運べないから、小さくした。とりあえず、ここを出るまではこのままの大きさでいてもらおう」

(´<_` )「・・・何でもありだな、魔法って」
 サイドテーブルに降ろされたスレを人差し指で撫でてやりながら、オトジャは感嘆とも呆れともつかない声で言った。
 
それからは、二人と一頭は部屋の中で静かに過ごした。
夕食の際は、察しのいいアニジャが、夕食に眠り薬が仕込まれていると気付き、食べるふりをして、用意しておいた皮袋にこっそり捨てて部屋まで持ち帰った。代わりの夕飯は、荷物の中の固パンと干し肉、それと水だけで済ませた。その荷物もスレ同様、掌サイズまで小さくし、オトジャの背に纏めて括りつけられた。スレは眠らせて、アニジャのローブの袂に入れられた。眠らせたのは、服の中で暴れないようにする為だ。
それらの作業が終わった後、二人は眠っているように見せかける為、部屋の中の物を適当に布団内に詰め込み、陽が落ちるとすぐに屋根の上に上がって合図を待った。
それから先の動きは、先述の通りである。

173 ◆tqhinNTqWw:2015/05/06(水) 00:12:02 ID:ekWKSxPw0
 青年によって二人が船の上へ引き上げられると、船は滑るように沖へと進み始めた。予め、潮の流れを読んでおいたのだろう。ノーカの村はどんどん遠さがり、すぐに闇の向こうに消えてしまった。後は、波の音が寄せて返るだけ。

( ^ω^)「おっおっ、二人共、僕の事を信じてくれてありがとうだお」

 のんびりとした口調で、青年は言う。そのほんわかとした表情は、ぷっくり膨れた甘い大福餅のようだ。

(´_ゝ`)「お礼を言うのはこちらの方だよ。助けてくれて本当にありがとう」

 ほっとしたような表情のアニジャは、顔色があまり良くない。緊張と、荷物やスレを小さくし続けている事で魔力を常に消費していた為、疲労が溜まったらしい。

(´<_` )「舵は取らなくていいのか?」

 何となく感情の読めない表情でオトジャが問うと、青年――ナイトー・ホライゾンはにかっと笑って答えた。

( ^ω^)「今は潮の流れだけで進めるから大丈夫だお。もう少し進んでから、錨を下ろして停泊するお」

 そして、彼は改まった様子で頭を下げた。

( ^ω^)「僕の名前はナイトー・ホライゾン。皆からはブーンって呼ばれているから、そう読んでくれたら嬉しいお」

(´_ゝ`)「俺はサスガ・アニジャ。アニジャって呼んでくれ」

(´<_` )「俺は双子の弟のオトジャ。呼び捨てでいい」

174 ◆tqhinNTqWw:2015/05/06(水) 00:13:26 ID:ekWKSxPw0
 簡単な自己紹介も済んだ所で、アニジャが大きな欠伸をした。疲労が溜まっている上に夜も遅いので、眠くなったらしい。元々細い目が、更に細くなっていた。

( ^ω^)「あ、今晩は僕が寝ずの番をするから、二人とも休むといいお。そこの扉から下に行けば船室があるから、好きに使っていいお」

(´_ゝ`)「すまないが、そうさせてもらう。弟者はどうする?」

(´<_` )「俺はまだ眠れそうにない。兄者、先に休んでいてくれ」

(´_ゝ`)「了解。それじゃおやすみ」

 アニジャが船室に引き上げるのを見送って、オトジャはブーンに話しかけた。

(´<_` )「お前、俺達の事をどこまで知っている?」

( ^ω^)「全てを知っている訳ではないお。『マターリ村の双子の兄弟が、神聖な儀式を放りだして逃げ出した。だがらその二人を追っている』そのくらいだお」

 オトジャの細い瞳が、驚愕で見開かれる。

(´<_` )「たったそれだけの事しか知らないのに、俺達を助けてくれたのか?」

( ^ω^)「・・・『殺す』」

(´<_` )「は?」

175 ◆tqhinNTqWw:2015/05/06(水) 00:17:24 ID:ekWKSxPw0
 唐突に物騒な単語が飛び出したので、オトジャは咄嗟に身構える。だがブーンの表情は攻撃する者のそれではなく、暗く沈んでいた。

(  ω )「殺すって、言ってたんだお・・・」

 ブーンの声も、表情と同じくらい暗くなっていた。

( ´ ω ` )「会話を全てきちんと聞き取る事は難しかったけれど、その端々で『殺す』っていう言葉が飛び出してたんだお・・・だから、君達二人は見つかり次第、殺されるんだって事は分かったお」

 眉毛がしょんぼり下がった彼は、長身のオトジャを見上げて言葉を続けた。

( ´ ω ` )「僕は、それが理解できなかったんだお・・・」

(´<_` )「だから、助けてくれたのか」

 ブーンは頷いた。

(´<_` )「なら、教えてやろう。・・・いや、違うな。聞いてほしい、俺達の事を」

( ^ω^)「聞くお!知りたいお!」

 五歳の時の出来事に始まった、自分達兄弟の半生を。何があってどうやって逃げ出し、ノーカまで辿り着いたのかを掻い摘んでオトジャは話した。

(´<_` )カクカクシカジカシカクイムーヴ アイツライツカブッコロス
( ^ω^)ホンネガモレテルオ

176 ◆tqhinNTqWw:2015/05/06(水) 00:18:22 ID:ekWKSxPw0
(´<_` )「まあ、そういう訳で、俺の兄が死なないと世界は終わるんだそうだ。どうするブーン?今からでもノーカに戻るか?」

( ^ω^)「頼まれたってお断りだお」

 即答だった。少々意外に思ったオトジャは、思わずブーンを見つめていた。

( ^ω^)「誰かの犠牲の上に成り立つ世界なんて間違っているお。世界を救う別の方法が、絶対ある筈だお」

 根拠などないのに、ブーンの言葉は確信に満ちていた。そしてそれは、オトジャの心を少し軽くした。

(´<_` )「ああ、そうだ。だから俺と兄者は旅をする。だがお前は村を飛び出してきてよかったのか?」

( ^ω^)「うん。元々村を出る予定だったから、いいんだお」

 ブーンは、悲しげな、それでいて希望を見出しているような、何とも不思議な表情をしていた。

177 ◆tqhinNTqWw:2015/05/06(水) 00:20:27 ID:ekWKSxPw0
今回の投下はここまで。
ゆっくりになるけれど、書き上げていきます。

178名も無きAAのようです:2015/05/06(水) 01:37:14 ID:AWFT5TSc0
あら。
カムバックに出会うのはいつもいい物だな。

179名も無きAAのようです:2015/05/09(土) 00:29:08 ID:Hhc5UFKwO
お帰りなさいませ

180名も無きAAのようです:2015/05/09(土) 15:20:29 ID:BfwKU9E60
はじめて読んだが面白い
無理せず自分のペースで書き上げていってくれ

181名も無きAAのようです:2015/07/24(金) 22:11:54 ID:/50UJ8560
飯テロから来ました
期待待機

182名も無きAAのようです:2015/11/25(水) 08:45:37 ID:hn8GwXWo0
久々に読んだけどやっぱり面白いわ……
ずっと待ってるよ作者!

183名も無きAAのようです:2023/09/29(金) 01:03:48 ID:Nv95yJb20
だいぶ昔のやつだが何回も読んでる
何度読んでも好きだ


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