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( ・∀・) 夢都市のようです (゚、゚トソン
1
:
名も無きAAのようです
:2012/05/03(木) 15:07:09 ID:pjD1kZAc0
(; ∀ )「あ゛ぁ…ぶ……はっ」
冷たい苦しい沼の中。
息を吸おうとしても咥内に入ってくるのは臭い泥ばかりで。
こんなことはなら、いっそう死んでしまった方がマシだと思った。
(; ∀ )「ぶぁはっぐっふぅ…ぅ」
これは夢だ。そんなことわかってる。いつものように…いつものように冷静にここから這い上がればいい。
けれど、何故かいつもなら自由に動く手足は、恐怖に弄ばれ言うことを聞いてくれなかった。
霞む視界で見上げた空は星一つない暗闇で、黒い空の真ん中には青白く光る鋭い三日月が
こちらをにんまりと見下ろしている。
ああ、苦しい、クルシイ。
83
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 23:36:18 ID:QHk5lOM.0
今回はこれでおわりです。
ここまで読んでくれた人ありがとう。
次回は一応もうありますが、ちょっともう一話分書き溜めてから投下しにきます。
では、また今度。
84
:
名も無きAAのようです
:2012/05/06(日) 23:36:37 ID:RzE4WT1E0
おつ、地の文が綺麗で羨ましいよ
次回も楽しみにしてる、
85
:
名も無きAAのようです
:2012/05/07(月) 06:11:52 ID:cDEcIJlI0
おつ
86
:
名も無きAAのようです
:2012/05/18(金) 20:07:35 ID:X8Lwg1Uw0
好きだわートソン
87
:
名も無きAAのようです
:2012/05/20(日) 19:15:25 ID:l3IWarkw0
マダカナー
88
:
名も無きAAのようです
:2012/05/20(日) 20:23:13 ID:UPqNmzkw0
読み返してる?
第一話脱字が多いお
89
:
名も無きAAのようです
:2012/06/08(金) 22:41:44 ID:oC4lnlaM0
大丈夫大丈夫
90
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 17:04:31 ID:38SxqkVM0
( 、 !iトソン(20XX年5月10日……)
( 、 !iトソン(あ、今現実は夜中だから)
( 、 !iトソン(20XX年5月11日…今回の夢は………)
( 、 !iトソン(…………)
( 、 !iトソン(くそう、ノートがないから記録できないじゃないですか)
( 、 !iトソン(なんか色々ありすぎて覚えていられるか自信が…)
( 、 !iトソン
( 、 !iトソン(というか、これは本当に私の夢なのか?!)
( 、 !iトソン
( 、 !iトソン「うぇっ」
91
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 17:07:27 ID:38SxqkVM0
( ・∀・)「大丈夫かあい、トソーン! バイクに吐いちゃ駄目だよー!」
_
( ゚∀゚)「夢の中で吐くとかねーよ!」
( ・∀・)「そんなこと一概に言えないだろう?!」
( ・∀・)「ここは夢の中なんだから何があったって可笑しくない!」
_
( ゚∀゚)「お嬢ちゃん、あとちょっとで着くからな! それまでの辛抱だぞ!」
( 、 !iトソン
( 、 !iトソン(これは本当に私の夢なのか?!)
( 、 !iトソン「うっ…うぇぇえぇ」
( 、 !iトソン(ああ…吐けない分、ずっと気持ち悪い……)
92
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 17:10:49 ID:38SxqkVM0
彼は目的を達成するまで、木槌を振るい続けている。
第三話「アパートの夢」
.
93
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 17:13:28 ID:38SxqkVM0
現在、トソンを乗せたジョルジュの運転するバイクと、
バイクと並走する足だけ異様に長くなったモララーは、目的地に入ったばっかりだった。
突然周囲に増えた建物は、遠くから見たときとは違い、形がしょっちゅう変わることはなく、
どこか異国を思わせる町並みの形を保っている。
シックな色合いの建物に、石畳の表通り。
見通しはあまり良くなく、道は真っ直ぐではなく緩やかな波のようにくねくねとしている。
そんな道をジョルジュの運転するバイクはスピードを落とさず、爆走していた。
もしもトソンが夢酔いとモララーの姿のせいで気分を悪くしていなければ、
もっと街並みを楽しむことが出来ただろうに。
しかし、あっちこっちへと激しく揺れる車体の上のトソンには、そんな余裕は微塵もない。
吐きたくても吐けない状況に口元を押さえ、彼女は何度もえづきながらサイドカーに掴まっていた。
94
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 17:16:38 ID:38SxqkVM0
表通りを出歩いている人間は誰もいないため、その通りをジョルジュはお構いなく爆走する。
建物の窓は、どれも暗く、その向こう側に人が住んでいる気配はない。
途中、バイクは小さな広場のような場所に出たが、そこもすぐに通り過ぎて後方に遠ざかってしまった。
(゚、゚!iトソン(あれ…)
広場を通ったのは一瞬。
けれど、トソンはその一瞬の間に、広場に人が固まっているのを見た。
町の中をこんな爆音のバイクが走っているのに、彼らはそれには目もくれず、こちらに背を向けて何かをしていた。
何をしていたかまではわからなかった。
でも、トソンは人々の後姿を見たとき、何か嫌な印象を受けたのだ。
心の奥の方に、泥を押し込められたような不快感が、あの場を通った一瞬トソンを襲った。
あれはいったいなんだったのだろう。
95
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 17:19:32 ID:38SxqkVM0
_
( ゚∀゚)「……おい、モララー!」
( ・∀・)「ああ、わかってる」
( ・∀・)「ジョルジュ、トソンをよろしく頼んだ!」
_
( ゚∀゚)「おう、当ったりめぇだ、任せとけ!」
(゚、゚!iトソン「え?」
トソンが後方に遠ざかる広場を、もやもやとした気持ちで見つめていると、
モララーがいきなり長かった足を元の長さに戻して、視界に現れた。
そして、いったいどこに持っていたのか、初めて出会ったときに持っていた木槌を右手に構えると、
バイクの進行方向とは真逆の方向――さっきの広場へと駆け出した。
(゚、゚!iトソン「モ、モララーさん、何しに行くんですか?!」
96
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 17:22:22 ID:38SxqkVM0
どんどん遠ざかるモララーにかけたトソンの言葉は、モララーには届かない。
いったいどうしたのだと、今度はすぐ隣でバイクを操るジョルジュを見る。
ジョルジュはトソンの視線に、口端を上げた。
(゚、゚!iトソン「ジョルジュさん、モララーさんは…!」
_
( ゚∀゚)「ああ、あいつは今な」
_
( ゚∀゚)「片付けに行ってんだよ」
○ ○ ○
97
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 17:25:13 ID:38SxqkVM0
さっき通り過ぎたばかりの小さな広場には、三十人くらいの人だかりが出来ていた。
美しい街並みの中で、その人だかりが出来ている一角だけが、今は異様な空気を放っている。
どろどろとした、頭の痛くなるような空気。
人だかりのその誰もが皆、再び広場に戻ってきたモララーには気がつかないまま、
背を向けて何かを取り囲んでいる。
取り囲まれているモノは、人が壁となっているために確かめることは出来ないが、
モララーにはもう、そこに何があるのかはわかりきっていた。
背後のバイクがカーブを曲がり視界から消えるのを確かめてから、
モララーは広場の入り口に立って木槌を持ち直した。
そして、目の前の沢山の背中の人数に、改めて呆れる。
( ・∀・)(なんかまた数増えてない?)
( ・∀・)(前はまだ十三人だったよな)
98
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 17:28:10 ID:38SxqkVM0
( ・∀・)(また現実のほうで何かあったな、ドクオの奴)
( -∀-) ハァー
( ・∀・)「おーっし、さっさと片付けようか!」
広場全体に響く声で宣言し、木槌を手の中で一回転させて駆け出す。
何かを取り囲んでいる人々はこちらに気がついていないのか、振り返ることはせず、
ずっと取り囲んだモノを見下ろしているようだった。
近づけば、なにやらブツブツと呟いているのが聞こえるが、その内容には興味がない。
モララーは人々にぶつかる直前で足を止める。
そして、そのままの勢いで振りかぶった木槌を目の前の男の後頭部に叩き付けた。
パァンとはじける様に男はその場から消え去り、代わりに現れたのは六角形の黒い物体。
コロンと石畳の上に転がったそれを拾っている暇は今はない。
99
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 17:31:21 ID:38SxqkVM0
突然襲われたにもかかわらず、人々はモララーに見向きもしなかった。
ただ只管、取り囲んでいるモノを見下ろしている。
振り下ろした木槌を、今度は左に振るい、男の隣にいた女二人を薙ぎ払う。
吹っ飛ばされた女二人は、モララーよりも後方の石畳にぐしゃりと落ちたが、呻き声一つ上げなかった。
ただ、じっと一点を見つめ、何かを呟き続けているのだ。
その様子に、モララーは少しだけ背筋がゾクリとし、脳裏にある映像が浮かびかけたが、すぐに思考から追い出した。
女たちの反対側にいた老婆と青年もふっ飛ばし、その前に立っていた女も叩き潰し、
やっと彼らに取り囲まれたモノはその姿を現した。
(;'A`)「モ、モモモモ、モッモモモラララーっ」
( ・∀・)「『モ』多過ぎだから。なんかまた人数増えてるけどなんかあった?」
100
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 17:34:17 ID:38SxqkVM0
(;'A`)「そんなそんなそんなこといいいいから早くっ早く助けっ…」
( ・∀・)「あーはいはいわかったから、ほら、ドクオ、さっさとそこから退いて」
そこにいたのは、少し貧相な体格をした、石畳の上に情けなく尻餅をついている青年。
傍らには、蓋が外れ中身が散乱した鞄が転がっている。
ドクオと呼ばれた彼は、長く伸ばした黒い前髪の隙間から、怯えたようにモララーを見上げた。
そして、慌てて言われた通りにモララーの作った隙間から、人の囲いの外に出ようとする。
しかし、ドクオがあとちょっとで囲いから出ようとしたとき。
両側で今までブツブツと何かを呟いているだけだった者たちが、ガシリとドクオの腕を掴んだ。
(;'A`)「ひぃっ」
再び囲いの中に引き戻されそうになる。
が、ドクオは顔を真っ青にして、目立った抵抗なくされるがままになっていた。
恐らく恐怖で身動きできないのだろう。
それを見て、モララーは木槌を振り上げた。
101
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 17:37:04 ID:38SxqkVM0
( ・∀・)「もー、何やってんだ、よ!」
ガッとドクオの腕を掴んでいた者の半分を叩き潰す。
続けざまにもう半分もふっ飛ばし、モララーはドクオの服の襟首を掴むと、広場の反対側へと投げ飛ばした。
('A`;)「ぅわああぁぁぁああぁ……ぐふぁっだふっ」
広場の反対側まで飛んだドクオは、そこにあった建物の壁にぶつかると、ぼたっと石畳に落ちた。
どうやら、飛ばされた瞬間に痛みを意識したらしい。
地面に転がったまま、芋虫のように悶えているドクオをみて、モララーは呆れた顔をした。
(; A )「おまっ…モラ、ぐふっ…なにす…っ」
( ・∀・)「いや、そろそろ学習しような。
そういうときに痛み意識したら駄目だって何回言えばいいんだよ」
('A`;)「んなっ…それ…いってぇえぇ」
( ・∀・)「今から速攻でこいつら片付けるから、そこ動くなよ」
102
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 17:40:04 ID:38SxqkVM0
痛みに悶えるドクオは、まあ大丈夫だろう。
擦り傷ぐらいは出来ているかもしれないが、それはまた帰ったら手当てしてもらえばいい。
それよりも構うべきは目の前にいる奴ら。
ドクオに向かってのろのろと歩み、ずっと何かを呟いている気味の悪い奴らだ。
モララーはまず最初にふっ飛ばした女たちの上に木槌を振り上げ、叩き潰した。
そしてすぐ背後に迫っていた男の横腹を殴り飛ばし、
続けざまそのすぐ後ろにいた子供の体を地面にめり込ませる。
前回片付けたときと比べて増えているとは言え、
そいつらはモララーにとってはただの掃除の対象でしかなかった。
自分やドクオに近づく者は、片っ端から叩き潰していく。
あちらこちらでパンパンと風船がはじけるような音が響き、黒い物体が転がった。
103
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 17:43:15 ID:38SxqkVM0
例え相手がどんな見てくれをしていたって容赦はしない。
男だろうが女だろうが、子供だろうが老人だろうが、叩き潰す。
奴らがいったい何を呟いていたって気にとめることもしない。
奴らはドクオにとって恐怖の対象でしかないのだ。
そして、モララーにとっては片付ける物でしかない――
――“悪夢”なのだから。
都市の皆が平和に心穏やかに暮らしていくために。
モララーがここで目的を達成するまで暮らしていくために。
彼は奴らを、“悪夢”を殴り、叩き、潰す。
( ・∀・)「バイバーイ」
ガッ。
パァンと再び破裂音を立てて叩き潰された老人を最後に、モララーはドクオの“悪夢”の片付けを終えた。
○ ○ ○
104
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 17:46:29 ID:38SxqkVM0
モララーと別れてしばらくして、ジョルジュとトソンは目的の場所にたどり着いた。
いつの間にか周りの景色は異国風の町並みから、寂れた工場地帯のような場所に変わっていた。
トタン塀が続く、殺風景な道。
コンクリートで出来た背の高い、表面ののっぺりとした塔のようなものが、
トタン塀の向こう側にずらりと立ち並んでいて、空は白っぽく、灰色の煙がどこからか漂っている。
どこか寒々しく、ここは胸のうちに心細さを植えつけるような気がした。
町の中で立てていた爆音も成りを潜め、ゆっくりとスピードを落として、ジョルジュはバイクを停止させた。
_
( ゚∀゚)「おい、着いたぞ」
( 、 !iトソン「ふぁ…ふぁーい……」
_
(;゚∀゚)「大丈夫かよ……」
( 、 !iトソン「ふぁ……………うぇっ」
105
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 17:49:12 ID:38SxqkVM0
サイドカーからふらつきながら降りる。
すると、サイドカーは出現したときと同じように、ぐにゃりと変形するとバイクの中に吸収されて、消えてしまった。
ジョルジュが心配して肩を支えようしてくれたが、トソンは首を振って何とか自力で立つ。
視界がまだあちこちに揺れているが、まあ何とかなるだろう。
深呼吸を何度か繰り返し、気持ちを落ち着ける。
しかし、ジョルジュは目的地についたと言ったけれど、ここはどこだろう?
ここは、今までトソンが見たことのない夢だった。
トタン塀だけが延々と続いている殺風景な場所。
さっき別れてしまったモララーが言うには、ここに“案内屋”がいるということだが。
そんな人物はどこにもいるように見えないし、店や家のようなものもあるようには見えない。
只管、トタンばかりが目に付く場所に人気はなかった。
(゚、゚!iトソン「……えっと、ジョルジュさん」
_
( ゚∀゚)「なんだ、立ち直ったか?」
106
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 17:52:27 ID:38SxqkVM0
(゚、゚!iトソン「はい、まあ。……あの、目的地はここであってるんですか?」
_
( ゚∀゚)「あってるぞ」
(゚、゚!iトソン「トタン塀と変な塔しかないように見えるんですけど」
_
( ゚∀゚)「あー、確かにパッと見はそうだよなあ。俺も初めて来たときは同じこと思ったわ」
ジョルジュはトソンの言葉に、懐かしそうに頷きながら、バイクをトタン塀の脇に止める。
そこから少しだけ離れた場所にあるトタン塀に掌を付けると、ぐいっと力を込めた。
すると、その箇所のトタンにだけ、人ひとりが通れるくらいの穴が開いた。
いや、穴が開いたのではなく、そこにどうやら扉があったらしい。
(゚、゚*トソン
まるで秘密の組織の隠し扉のようなそれに、トソンは思わず鼓動が早くなった。
好奇心と緊張が混ぜこぜになったような感覚。
電車の中で、モララーと再び出会ったときのような感覚。
トソンはすっかり夢酔いのことなんて忘れて、トタンに開いた穴に魅入っていた。
107
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 17:54:32 ID:38SxqkVM0
ジョルジュは扉の中に体を半分だけ滑り込ませたところで、トソンが着いて来ていないことに気がついた。
_
( ゚∀゚)「おい、さっさと来いよ。仲の奴らにお嬢ちゃんのこと紹介するから」
(゚、゚*トソン「あ、はい!」
呼ばれて、トソンも慌ててジョルジュに続く。
トタン塀の穴を潜った先には、外とは全く印象の違う風景が広がっていた。
一見、そこは現実ではオンボロアパートと言われる類の建物だった。
二階建ての、ぽろぽろの鉄骨とトタンで出来た建物。
廊下やそれぞれの部屋の扉は木で出来ていて、窓ガラスはところどころ割れている。
建物全体はコの字型になっているらしい。
二階の通路の曲がり角に当たるところが、両側とも壁が黒く塗られているのが奇妙だった。
ちょうどトソンの正面の二階部分には大きなベランダのようなものがあり、
そこには大きなテーブルと椅子が置いてある。
建物を覆うように被さっている高いトタンの天井には、ところどころ穴が開いていて、
そこから光が漏れて、木漏れ日のように地面にさしていた。
108
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 17:57:02 ID:38SxqkVM0
とても綺麗な場所とは言えない。
でも、雰囲気は決して寂れた感じはなく、寧ろどこか暖かい場所だった。
_
( ゚∀゚)「あれ? 誰もいねえなあ」
ジョルジュはアパートを見回し、頭を掻いた。
_
( ゚∀゚)「っかしいなあ、この時間なら皆あそこで何か食ってるんだが」
指差した先は、大きなテーブルと椅子のある場所。
どうやらあそこは食卓らしい。
よく見れば、テーブルよりも奥の壁際に、キッチンの陰が見える。
(゚、゚トソン「ここに住んでいる方たちは皆あそこで食事をしているんですか?」
_
( ゚∀゚)「ああ、ここに住んでなくてもタイミングが合えば皆で食うぞ」
_
( *゚∀゚)「り、料理の上手い人がひとりいて、その人が、いつも作ってくれるんだ。
その人の料理、すっげぇ旨いんだぞ」
109
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 18:00:13 ID:38SxqkVM0
突然頬を染めて、恥ずかしそうにジョルジュは説明してくれたが、
今の話の中に頬を染めるような部分が見当たらなくて、トソンは首をかしげた。
他にも、夢の中で食事をする、ということにもやや疑問を感じる。
夢の中ではたしか食べ物は味を感じなかった気がするのだ。
まあ、痛覚の件もあるから、これも意識の問題なのかもしれない。
もしかしたらこの夢自体がどこか可笑しいのかもしれない。
いや、可笑しい以前にまず夢なのだろから、
夢の中の人物が夢の中の食べ物を美味しいと言っていても何も可笑しくはないのか。
(゚、゚トソン
(゚、゚;トソン(結局この夢は私の夢なんでしょうか……?)
色々ありすぎて考えるのが遅れていたが、トソンは未だこの夢が自分の夢なのか自信が持てていなかった。
現実でないことは確かだ。現実で人間の足が伸びたり、乗り物の形があんな風に変形するなど考えられない。
でも、電車の中でモララーと再開してからというもの、どうしても違和感が拭えなかった。
110
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 18:03:11 ID:38SxqkVM0
最初は自分の頭の中に異物が入ったような違和感だった。
しかし、今はその逆。
まるで、自分がこの世界にとって異物のような感覚をトソンは感じていた。
初めて来た土地にやってきたような、新鮮な感覚。
夢の中だと例え初めて訪れた場所でも、今までずっとそこにいたような馴染みがあるはずだ。
なのに、今トソンは他人の家に上がりこんでいるような緊張を感じている。
_
( ゚∀゚)「おーい! 誰かいねぇのかあ!」
人気のないアパートに向かって、ジョルジュは声を張り上げた。
すると、アパートの奥から、なにやらこちらに走ってきているらしい、騒がしい足音が響いた。
次の瞬間、二階の通路の左側の曲がり角――だと思っていた場所にあった黒い壁から、人が飛び出した。
(;^ω^)「ぶほっ…はいはいはあい! 今行くお!」
.
111
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 18:06:06 ID:38SxqkVM0
_
( ゚∀゚)「お、ブーン! おいおい、そんなに慌ててどうしたんだよ」
(;^ω^)「いやっはあははは」
黒い壁だと思っていた場所はどうやら、通路があったらしい。
そこから飛び出してきたのは、白いパーカーを着た、少々ぽっちゃりした青年だった。
彼は慌てるように黒い通路からすぐに離れると、アパートの左側の一番端にある階段を使ってこっちに降りてきた。
そして、その直後黒い通路の奥から、今度はまた別の人物が飛び出す。
ξ#゚皿゚)ξ「コルァアアアブゥウウウウゥン!」
現れたのは、白い薄手の、華やかなフリルのついたチュニックに、
紺色のホットパンツを着た、金髪碧眼華奢で色白の超美少女だった。
黒い通路から飛び出し、クルクルと巻いた金髪のツインテールを揺らし、こちらを見下ろす。
112
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 18:09:10 ID:38SxqkVM0
しかし、その表情は阿修羅の如く。
折角の美貌も台無しになるほど、彼女は何故か怒っていた。
_
(;゚∀゚)「げぇっ! ブーンお前何したんだよ、ツンめっちゃ怒ってんじゃねぇか!」
(゚、゚;トソン「え? え?」
(;^ω^)「ツンのプリン間違って食べちゃったんだおー!」
_
(;゚∀゚)「ちょっ…アホ!」
ツンと呼ばれた彼女はアパートの階段の最後の段を踏んでいるブーンと呼ばれた青年を見つけると、
階段の方には向かわずに、食卓のあるベランダの手すりに足をかけた。
トソンは一瞬何をしようとしているのかわからなかったが、ジョルジュにはすぐにわかったらしく、
彼はトソンの手を引くと慌ててその場を離れて、アパートの右側へと避難した。
113
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 18:11:06 ID:38SxqkVM0
(;^ω^)そ「えっちょ、ジョルジュ呼んでおきながらどこ行くんだお?!」
_
(;゚∀゚)「巻き込まれて堪るかっての!」
(;^ω^)「この薄情者! ツンー! この通りだから、許してくれおお!」
ξ#゚皿゚)ξ「 問 答 無 用 !!」
ブーンが、さっきまでジョルジュとトソンがいた場所にやってきて土下座をするのと、
ベランダの手すりに足をかけていたツンが、そこから跳躍したのは同時だった。
(゚、゚;トソン「うわ……」
ひらりとまるでモンシロチョウのように身軽にベランダから飛び降りたツンは、
綺麗な弧を描いて真っ直ぐにブーンのいる場所へと飛ぶ。
空中で振りかぶり握り締めた拳を、落下するタイミングに合わせて、ブーンへと叩き込んだ。
瞬間、隕石が落下してきたかのような轟音が響き、辺りを砂煙が覆う。
114
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 18:14:03 ID:38SxqkVM0
(゚、゚トソン「え」
(゚、゚;トソン「ぇええええなんですかこれえ!」
_
( ゚∀゚)「今回も派手にやったなあ」
(゚、゚;トソン「えええっその程度のリアクションでいいんですかこれ!」
_
( ゚∀゚)「まあよくあることだし」
(゚、゚;トソン「よくあるんですか?!」
_
( ゚∀゚)「おう、お嬢ちゃんもそのうち慣れるよ」
もうもうと砂煙のたつ中、ジョルジュは完全に傍観者の位置で暢気にそういうと、
とりあえず二階に避難しとくか、とすぐ側にある階段を登った。
トソンもそれについて、階段を登る。
今にも板が抜けそうな見た目に反して、階段はしっかりとした作りになっていた。
115
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 18:17:18 ID:38SxqkVM0
「なんであんたは何度言っても私のプリン食べちゃうのよ!!」
「悪かったお! 悪かったから殴らないで…って、あひぃそこはだめえぇ!」
未だ収まらない砂煙の中から響く声。
声のほかにも何やら柔らかいものを殴るような音も聞こえる。
砂煙のおかげで姿が見えなくてよかったとトソンは思った。
きっと今頃あの中では目も当てられないような事が繰り広げられているに違いない。
(゚、゚トソン「……止めなくていいんですか?」
_
( ゚∀゚)「俺が入ったところで止まんねーよ。逆に俺も殴られて終いだ」
アパートの二階の手すりに寄っかかり完全に見物を決め込むジョルジュの隣に立つ。
相変わらず砂煙はやむことなく、ブーンとツンを包んだままだ。
はっきり言えば、置いてけぼりの状況である。
何のためにここに連れて来られたのかわからなくなりそうだった。
116
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 18:20:04 ID:38SxqkVM0
(-、-;トソン(うーん…)
自分は一体どうすればいいのだろうとトソンが考えあぐねていると、
さっきブーンとツンが飛び出してきた黒い通路から、今度は三人目が飛び出してきた。
('、`;川「ツンちゃん、やめてやめて! プリンならまた作ってあげるから!」
飛び出してきたのは、黒い髪の垂れ目の淡い色のワンピースを着た女性で。
彼女は手すりから身を乗り出すと、ブーンに暴力を振るっているであろうツンに必死になって呼びかけた。
しかし、ブーンを成敗することに夢中のツンは気がついていないらしく、全く止まる様子はない。
女性はしばらく呼びかけていたが、いつまでたってもツンが止まらないことを確認すると、
彼女は手すりの一部を掴んで、ばっとそこから一階へと飛び降りた。
すると、彼女に掴まれていた手すりがぐにゃりと曲がって、伸びた。
117
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 18:23:09 ID:38SxqkVM0
ずるーんと柔らかい飴のように伸びた手すりは、女性をゆっくりと地面へと下ろす。
そして女性が手を離すと、びゅるんっと、ゴムのように元の形に戻った。
(゚、゚;トソン(なんと!)
トソンは一瞬、いったいどんな構造をしているのかと目を見張ったが、すぐに、脳内にモララーの声が再生された。
そうだ、ここは夢の中だ。それを忘れてはいけない。何が起こったって可笑しくないのだ。
そんな方法で一階へと降りた女性は、翻ったスカートの裾を一回はらうと、
慣れた様子で砂煙に向かって走り、中へと突っ込んだ。
「もうやめな――さい!」
砂煙の奥から声が響く。
それとほぼ同時に、今まで砂煙の中から聞こえてきた打撃音がやんだ。
今までツンが暴れていたためにずっと舞い上がっていた砂煙が、だんだんと晴れていく。
少しずつ薄い膜の向こうから現れた光景は、女性に抱きつかれてバタバタもがいているツンと、
案外傷一つなく、けれど地面の上で大の字になって伸びているブーンだった。
○ ○ ○
118
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 18:26:08 ID:38SxqkVM0
カタリと目の前に置かれたのは、華奢なティーカップ。
中には、透き通った琥珀色の、香り高い紅茶の水面が揺れている。
大きな食卓の中央には、クッキーが山盛りになっているバケット。
他にもバスケットの周りには、ベイクドチーズケーキやベリータルトなど、様々なお菓子が所狭しと並んでいた。
女性はそれらをすべて並べ終えると、トソンの向かいの席に座ってにっこりと優しく微笑む。
('、`*川「どうぞ、遠慮なく食べて」
(゚、゚トソン「あ、ありがとうございます」
('、`*川「ツンちゃんもジョルジュさんもどうぞ」
ξ*゚⊿゚)ξっ「わーい」
_
( *゚∀゚)っ「い、いただきますっ」
( *^ω^)っ「お!」
119
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 18:29:01 ID:38SxqkVM0
食卓についた全員がお菓子に手を伸ばす。
けれど、女性はブーンの手だけをぺちりと軽く叩くと、彼からお菓子の皿を遠ざけた。
('、`*川「ブーンくんは今回はだめよ?
ツンちゃんのプリン食べちゃったペナルティ」
(;^ω^)っ「……おーん」
('、`*川「もー、ごめんなさいね。来て早々でびっくりしたでしょ?」
(゚、゚トソン「ああ、いえ、まあ」
トソンはなんと返せばいいかわからなかった。
ブーンとツンのことは確かに驚いたといえば驚いた。
リアクションも大いに取った。
だけれど、トソンはここにくるまでにも、十分に驚くことに遭遇していたため、少しだけ体制がつきかけていた。
120
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 18:31:17 ID:38SxqkVM0
今はここにいないモララーの言う通り、ここは夢なのだ。
何かが起こる度に驚いていたらキリがないだろう。
とりあえず曖昧に頷き、トソンはティーカップを手に取った。
さっきも疑問に思っていたが、味を感じることは果たしてできるのだろうか?
鼻先までカップを持っていき、香りを嗅いでみる。
(゚、゚トソン(ん……?)
ふわりと香ったのは、今まで嗅いだことのない種類の香りだった。
これはなんの紅茶だろう?
ダージリンでもアールグレイでもなければ、その他の紅茶の香りにも似ていない。
もしかしたら目の前の女性のオリジナルブレンドなのだろうか。
試しに、一口だけ口に含んでみる。
(゚、゚トソン(……んー?)
121
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 18:34:09 ID:38SxqkVM0
味は確かにちゃんとした。
これで、最初の疑問は解決したのだが。
トソンは首を傾げて紅茶を見た。
いや、これは紅茶と言っていいのだろうか。
今まで飲んだことのない味は、トソンの知っている紅茶のどの味にも当てはまらなかった。
といっても、トソンがそんなにたくさんの紅茶の味を知っている訳でもないけれど。
それでも、この味は紅茶ではないとは思った。
なんと表現すればいいかわからないが、とりあえずこれだけは言える。
(゚、゚*トソン(すごく美味しい)
次いで、トソンは食卓中央の山盛りのクッキーに手を伸ばした。
一つだけ手に取り、端をかじって紅茶(のようなもの)を啜る。
(゚、゚*トソン(おお〜……!)
122
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 18:37:08 ID:38SxqkVM0
_
( ゚∀゚)「美味いか」
(゚、゚*トソン「はい、とっても!」
_
( *゚∀゚)「だろだろ? これ全部ペニサスさんが作ったんだぜ……!」
(゚、゚トソン「ペニサスさん?」
('、`*川「そういえばまだ自己紹介してなかったわね。
ツンちゃんやブーンくんもまだじゃない?」
( ^ω^)「お、そうだったお。僕としたことがすっかり忘れてたお」
ξ*゚⊿゚)ξ゛モグモグコクコク
_
( ゚∀゚)「そういや、俺もまともに名乗ってなかったな」
女性の言葉に、その場にいた皆はいったん食べるのをやめた。
123
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 18:40:01 ID:38SxqkVM0
(゚、゚トソン「えっと、私は都村トソンといいます」
(゚、゚;トソン「突然ここにやってきてしまって、右も左もわからない状態なんですが…」
('、`*川「ああ、気にしないで。最初のうちは皆そんなものだから」
_
( ゚∀゚)「じゃあ改めて、まずは俺から。
俺の名前はジョルジュ……つっても、もう知ってるよな」
_
( ゚∀゚)「『運び屋』ていう配達の仕事をしてる。ちなみに荷物担当だ。
新入りの夢遊者をここまで連れてくるのも俺の役目だ」
('、`*川「ペニサスよ。
ここではみんなのご飯係と、時々怪我しちゃう子の手当なんかをしてるの」
('、`*川「クッキーと紅茶、気に入って貰えて良かったわ」
(゚、゚トソン(あ、これやっぱり紅茶なのか……)
124
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 18:43:24 ID:38SxqkVM0
自己紹介の終わったジョルジュが再びお菓子に手を伸ばす。
それを見てトソンも、もう一口紅茶(らしい飲み物)を飲んだ。
作った本人であるペニサスが紅茶と言っているのだから、やはりこれは紅茶なのだろう。
正直得体が知れないが、味は申し分ないので、その辺は今は黙っておく。
ξ*゚⊿゚)ξ モグモグ…ゴクン
ξ*-⊿-)ξ フゥ…
ξ゚⊿゚)ξ「私はツン。一応この都市のリーダーみたいなことしてるわ」
次に自己紹介をしたのは、お菓子を食べてやっと機嫌が直ったらしい、
先の阿修羅のような顔をしていた超美少女のツンだ。
ツンは、すっかり怒気が抜けたために、素の表情でトソンに微笑みかけた。
ξ゚ー゚)ξ「何か困ったことがあったらことがあったら、遠慮なく言ってね」
(゚、゚*トソン「あ……はい、よろしくお願いします」
125
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 18:46:02 ID:38SxqkVM0
彼女が笑えば、柔らかいツインテールがしゃらんと揺れる。
意志の強そうな碧い瞳は細められ、優しい視線がなんだか気持ちがよかった。
先程の阿修羅の顔とのギャップも相まって、彼女の笑顔はとても綺麗だった。
そして、歳はトソンと変わりないように見えるのに、何だか頼りになりそうな雰囲気。
最初にこの都市のリーダーと聞いたときは少し以外だった――どちらかというと、大人の女性である
ペニサスさんの方がリーダーっぽいと思ったのだ――が、この感じなら確かに頷ける。
ツンの微笑みに少し惚けてしまっていたトソンの肩をつついたのは、
隣でお菓子のお預けを食らっていたブーン。
( ^ω^)「ツンに見惚れてるところ悪いけど、自己紹介するお」
(゚、゚;トソン「はっ…あ、すこません」
( ^ω^)「僕はツンの補佐みたいなことと、
新入り夢遊者さんの都市案内をしているブーンだお」
126
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 18:49:11 ID:38SxqkVM0
ブーンはぽっちゃりと丸い顔で、ニコニコと人当たりのいい笑みを浮かべながらよろしくと言った。
弓なりになった目の奥の瞳は、どこか不思議な色に輝いていて、
誰だったか忘れたが、最近見た誰かを思わせる気がする。
( ^ω^)「わからないこととかは僕に聞いてくれれば何でも答えるお」
(゚、゚トソン「あ、モララーさんの言ってた案内屋って」
( ^ω^)「そうそう、それ、僕のこと」
( ^ω^)「…ん? モララーにはもう会ってるのかお?」
_
( ゚∀゚)「お嬢ちゃんと最初に会ったのはモララーだぞ」
( ^ω^)「おっ、そうだったのかお。で、そのモララーは?」
_
( ゚∀゚)「最初は一緒にこっちに向かってたんだけどな。あいつは片付けのために途中で別れたんだ」
_
( ゚∀゚)「今頃はもう片付け終えてドクオと一緒にこっちに向かってんじゃねぇかな」
127
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 18:51:38 ID:38SxqkVM0
(゚、゚トソン(片付け……)
“片付け”とはいったいなんだろう。
この単語はモララーと出合った時にも彼が言っていた。
モララーとはあの異国風の街で別れたきりだが、
あの時ジョルジュも確かに、モララーは“片付け”をしにいったと言っていた。
何だか、この夢の中にやってきてから、知らない単語がどんどん出てきている気がする。
それも、現実では聞きそうもない妙な言葉ばかりだ。
“片付け”は言葉自体は聞く事はあるが、恐らく使われ方が現実とは異なるのだろう。
現実で聞く言葉のニュアンスとは少し違った意味を彼らの会話の中でトソンは感じていた。
あと、ドクオとは誰だろう。
ξ゚⊿゚)ξ「あら、片付け対象ドクオのなの?」
_
( ゚∀゚)「おう、あれはどう見てもドクオのだった。なんか人数増えてるように見えたけどな」
ξ゚⊿゚)ξ「そう……また現実の方で何かあったのね。ちょっと悪いことしちゃたかなあ」
128
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 18:54:07 ID:38SxqkVM0
('、`*川「ツンちゃん、ドクオくんと何かあったの?」
ξ゚⊿゚)ξ「うん…前にドクオが見つけてきてくれた香水の香りが好みだったから、
また探してきて欲しいってこないだ言ったの」
( ^ω^)「あの好い匂いの、ドクオが見つけたのかお」
ξ゚⊿゚)ξ「場所はパレードの街?」
_
( ゚∀゚)「おう、パレードは今回はやってなかったけどな。だから思いっきり爆走してやった」
ξ゚⊿゚)ξ「あーじゃあやっぱり香水探しに行ってくれてたんだわ。
あいつがここに来たら謝らなくっちゃ」
(゚、゚トソン「あの」
( ^ω^)「なんだお?」
(゚、゚トソン「ドクオさんというのは」
( ^ω^)「あー、あいつはまた会った時に紹介するお。
それよりもまずはこの都市についてのことを説明しなきゃならんのだけど…」
129
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 18:57:21 ID:38SxqkVM0
ξ゚⊿゚)ξ「じゃあすればいいじゃない、何渋ってんの?」
( ^ω^)「んー、先にモララーに会ったの考えると」
('、`;川「ああ、彼たまに新入りさんにあることないこと吹き込むものね」
( ^ω^)「クーなんか最初の頃はそれのせいで勘違いが酷かったお……」
ξ゚⊿゚)ξ「ハインも少しだけ洗礼受けてたわね」
_
( ゚∀゚)「ああ、お化けアパート『ラウンジ』な」
('、`*川「それ懐かしいわねえ」
ξ゚⊿゚)ξ「確かにお化けアパートは別にあるんだけどね」
( ^ω^)「ハイン、嘘だって知るまでビクビクしながらここを出入りしてたおね」
( ^ω^)「ま、そういうわけで、新入りが最初の頃にモララーと二人っきりの時間が長かった場合、
この都市について嘘八百言われることがあるんだお」
( ^ω^)「トソンはどうだお? モララーから何か聞いたかお?」
130
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 19:00:10 ID:38SxqkVM0
(゚、゚;トソン「あー……」
トソンはブーン言われ、すぐに今までのモララーとの会話を思い出した。
モララーに言われたことは、今までトソンが認識していた夢の中の常識からは、
俄かには信じられないことが多かったのは確かだ。
でも、それらは、すぐにこの夢の中では本当だとわかった。
だから強いて嘘っぽいことがあると言えば、ジョルジュとの吐く吐かないという会話くらいだろう。
トソンは凄く吐きたかったが、結局吐くことはできなかった。
ブーンにそれを伝えれば、それじゃあ大丈夫だと安心したようだった。
( ^ω^)「それじゃあまずはこの付近を簡単に散策しながら説明しようと思――」
「たっだいまー!」
噂をすればなんとやら。
ブーンの言葉を遮ってアパート中に響いたのは、先程別れてからしばらく聞いていなかった声。
131
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 19:01:15 ID:38SxqkVM0
( ・∀・)「おお、皆お集まりのようで。ほらドクオ、ペニサスさんのお菓子の香りがするよ」
(!i'A`)「…………うぇっ」
( ・∀・)「こらこら、『うぇっ』はないだろ。ペニサスさんに失礼じゃないか」
(!i'A`)「いや…これお前のせいだから……なんだよあれ…足長過ぎ…気持ち悪過ぎ…」
( ・∀・)「君もジョルジュと同じこというのか。あと僕の上では絶対吐くなよ」
_
( ゚∀゚)「何度も言うけど、夢の中で吐くとかねーから!」
トソンたちが入ってきたトタン塀にある入り口。
そこから入ってきたのは、貧相な体格の青年を背負ったモララーだった。
モララーは二階の食卓に人が集まっているのを見つけると、貧相な青年を背負ったまま、
左の階段を使ってこちらへとやって来た。
恐らく、あれがドクオという人物なのだろう。
トソンはモララーに背負われている、顔色の悪い青年を見て、そう思った。
その予想通り、階段を登っている最中にモララーは青年のことをドクオと呼んでいた。
132
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 19:04:04 ID:38SxqkVM0
周りの人々は、モララーの背中でぐったりしているドクオを見ると、皆一様に心配そうな顔をする。
('、`;川「どうしたの? ドクオくん、大丈夫?」
ξ;゚⊿゚)ξ「ま…まさか“悪夢”にどこか喰われたんじゃ…」
( ・∀・)「いや、その心配は全くないよ」
( ^ω^)「じゃあどうしてそんな具合悪そうなんだお?」
( ・∀・)「ああ、それは……」
(!i'A`)「モララ…の足…長……キモ…チ悪………うぇっ」
_
( ゚∀゚)「な、ドクオもやっぱり気持ち悪いと思うよな!」
(!i'A`)「うぇっ」
(゚、゚;トソン(ああ、把握)
133
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 19:07:02 ID:38SxqkVM0
('、`*川「あら、ちょっと両膝小僧と両肘と顎擦り剥いてるじゃない!」
('、`*川「モララーくん、ドクオくんそこの椅子に下ろして。今消毒液持ってくるから」
( ・∀・)「はいはい」
( ・∀・)「……で、トソン」
(゚、゚トソン「はい?」
モララーは背負っていたドクオをぽすんと軽く、椅子の一つに座らせると、
自分は立ったまま食卓の上のベリータルトに手を伸ばしつつ、トソンを見た。
不思議な色合いをした瞳が、トタンの屋根の穴から漏れる陽に、キラリと光る。
( ・∀・)「僕と別れて結構時間経つけど、都市の案内とかはもう終わったのかい?」
(゚、゚トソン「あ、それならさっきちょうど行くところだったんですけど」
( ^ω^)「モララーたちが帰ってきて話が中断されたんだお」
( ・∀・)「そりゃ悪かったね。でも良かったや、僕が帰ってくる前に終わってなくて」
134
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 19:10:07 ID:38SxqkVM0
もごもごと、言葉の合間にベリータルトを頬張っては飲み込む。
なんとも器用な行為だ。
というよりも、トソンには何だかモララーの口の動きが何だか霞んでよく見えなかった。
これも、モララー曰くの「夢だから」なのだろうか。なのだろう。
( ・∀・)「だって折角僕が見つけた新入りに僕が構えないなんて詰まんないもんね」
(;^ω^)「構うのはいいけど、あんまり変なことは吹き込んだりしないで欲しいお」
( ・∀・)「ええ? 僕がいつ誰に変なこと吹き込んだっていうのさ」
ξ゚⊿゚)ξ「よく言うわ、全く」
モララーは、本当に何を言われているのかわからない、と言った様子で、首をかしげている。
本人はもしかしたら自覚がないのかもしれない。
もしかしたら、わざとそうしているのかもしれない。
どっちにしろ、トソンは最初にモララーに抱いた印象が、この夢の中でガラガラと崩れて行くのを感じていた。
まあ、もともとそんなに期待していたわけでもないから、別段ショックはないが。
135
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 19:11:20 ID:38SxqkVM0
( ^ω^)「まあ、そんなわけでさっきトソンに話してたドクオも来たんだし」
( ^ω^)「ほら、ドクオ、新入りさんのトソンだお、自己紹介自己紹介」
(!i'A`)「お……おぅ…」
ドクオは頭をぐらぐらと揺らしながらも、何とかブーンの言葉に頷く。
どうやら相当辛いらしい。
彼がモララーに背負われてきたことを考えれば、トソンには痛いくらいその気持ちがよくわかった。
きっとモララーの背中の上は、がくがくと上下に揺れて非常に居心地が悪かっただろう。
加えて、恐らくモララーはあの長い足の状態だったことは間違いない。
それで気持ち悪くならないはずがない。
トソンはドクオに同情すると、彼の血色の悪い手をそっと取った。
(゚、゚トソン「初めまして、都村トソンといいます」
(!i'A`)「俺……ドクオ」
(゚、゚トソン「ドクオさんのお気持ち、すごくよくわかります」
136
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 19:13:02 ID:38SxqkVM0
(!i'A`)「おぉ…おう」
(゚、゚トソン「今はまだ気分が優れないかもしれませんが、終わらない気持ち悪さはありません!」
(!i'A`)「……」
(゚、゚*トソン「またきっとすぐに元気になれますよ! 私がついてます!」
('A`)
(*'A`)(……かわいい)
(*'A`)「あ、あの」
(゚、゚トソン「はい、なんですか?」
(*'A`)「俺、調達屋っつって…この都市探索して見つけたものを…それが必要な奴に渡すっていう仕事してて……」
(゚、゚トソン「はい」
137
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 19:19:08 ID:38SxqkVM0
(*'A`)「で…たまに、頼まれたものを探しにいくっていうのも…やってるんだけど……」
(゚、゚トソン「はい」
(*'A`)「な、なんか必要なものがあったら…言って欲しいな……俺、探してくるから」
(゚、゚トソン「はい、よろしくお願いします、ドクオさん!」
(*'A`)「よ…よろしく……」
ドクオは照れくさそうに頭を掻くと、俯いてしまった。
もう少し、トソンは何か言おうかと思ったが、彼女が口を開くよりも先に、ブーンが二人の間に割ってはいる。
( ^ω^)「はい、じゃあお互い自己紹介も終わったところで。
トソン、これからこの都市のこと説明しながら、実際歩いて案内しようと思うお」
(゚、゚トソン(あ、そうだった。忘れてた)
本当なら、もう少し前にブーンの案内を受けていたはずだったのだ。
それが、いつの間にやらいろいろとずれてしまっていた。
もともと予定なんて合ってなきが如しだが、案内してもらう以上、彼に迷惑をかけるわけにはいかない。
138
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 19:21:07 ID:38SxqkVM0
ついて来てくれ、と手招きするいうブーンに、トソンはすぐに駆け寄ろうとした。
ところが、一歩踏み出したとたん、視界がガクッと傾き、思わず立ち止まる。
眩暈とはまたちがう、目の前の世界と自分が、グラグラと揺れる感覚に、トソンは目を白黒させた。
(゚、゚;トソン「あ……あれ?」
( ^ω^)「お、どうしたお?」
(゚、゚;トソン「なんか、地震? が……」
( ・∀・)「ブーン、あれだよ、時間切れ。ほら、今現実も多分」
( ^ω^)「お…」
(;^ω^)「おー、本当だお。皆でわいわいしてたらもうこんな時間だお」
(;^ω^)「時間切れなら仕方がないお。トソン、案内はまた今度ここにトソンが来たときにするお」
(゚、゚;トソン「は、え?」
突然辺りをきょろきょろ見回し、額に手をやって「しまったしまった…」と呟きだしたブーンに、
トソンは疑問の表情を浮かべつつ、どうやら己だけに起こっているらしい地震と戦っていた。
自分の頭が揺れているのか、自分の足元が揺れているのか全く判別できない感覚に、
また、あの夢酔いがぶり返す気がして、口元を押さえる。
139
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 19:23:02 ID:38SxqkVM0
食卓の周囲でお菓子を食べていたジョルジュ、ツンや、
ドクオの手当てをしていたペニサスもトソンの様子に気がつくと、
皆一様に残念そうな表情を浮かべて、口々に「じゃあ」「バイバイ」「またね」と言い出す。
トソンはいったい何が何だかわからず、縋るようにモララーの方を見れば、
彼は最初に出会ったときの別れ際の瞬間と同じ顔をして、こちらに掌を向けて、くいくいと指の先を曲げた。
( ・∀・)「じゃあね、トソン、また今度」
( ・∀・)「ちなみに今君はめちゃくちゃ揺れてると思うけど、それも慣れればなくなるからね!」
(゚、゚;トソン「え? モララ、さん、え? あ、れ、わ、ちょ、お――」
( 、 ;トソン「 ! 」
一回揺れるごとに、視界が白んでいく。
一回グラつくごとに、頭から思考が飛んで行く。
そうして、トソンは最終的に、真っ白に眩む世界に放り出された。
○ ○ ○
140
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 19:25:56 ID:38SxqkVM0
耳元で、激しい邦楽ロックが鳴り響く。
携帯のスピーカーから流れる音は、普通にイヤホンで聴くときよりも、
高温が耳を刺す様な響き方をしていて耳障りだった。
正直、あまり朝っぱらから聞きたくない音域だったが、
トソンの携帯には今、この曲しか彼女が起きれるアラーム曲はない。
布団の中から手を出し、目を瞑ったまま手探りで携帯を掴み、停止ボタンを押す。
ついでにスヌーズも解除してしまい、布団を体の上から跳ね除けた。
時刻は午後七時半。今から準備しても、十分に学校に間に合う時間だった。
が、しかし。
(゚、゚トソン
,_
(゚、゚;トソン「……う、ん」
,_
::( 、 ;トソン::(お腹……痛い…)
*
141
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 19:27:26 ID:38SxqkVM0
その日、トソンは腐ったものを摂取してしまったことによる腹痛で、
久々に仮病を使わずに学校を休むことになったのだった。
,_
::( 、 ;トソン::(もう絶対……)
,_
::(;、;トソン::(日向に置いといた牛乳は飲みません……!!)
第三話「アパートの夢」 おわり
142
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 19:40:53 ID:38SxqkVM0
どうも、ちょっと日が経ってしまいましたお久しぶりです。
ここまで読んでくれた人ありがとう。
ちなみに、
>> ,_
::( 、 ;トソン::(お腹……痛い…)
*
部分の「*」は投下する瞬間に誤入力しました、脳内補正で消していただきたい…
>>88
一応読み返してはいましたがチェックが甘かったようです。
今後誤字脱字を見つけたら遠慮なく(^Д^)9mしてください。
最近別ジャンルのSSを書いたり、
妹にニートと蔑まされ誹られるのでそんな状況から脱却すべくバイト探したりとやや忙しくなり、
投下間隔が疎らになると思います。
次はできるだけ早く投下できるように努力します。
では、また今度。
143
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 19:45:00 ID:IkdMLo7w0
良かったぁぁぁぁ!!
乙ですたい!
144
:
名も無きAAのようです
:2012/06/09(土) 20:55:57 ID:JkGaKvc.0
おつおつ
次も期待してる
145
:
名も無きAAのようです
:2012/06/10(日) 21:00:13 ID:qi9Qdbdg0
良いねえ良いねえ
146
:
名も無きAAのようです
:2012/06/11(月) 12:42:08 ID:g4busvtcO
面白いな、これ
147
:
名も無きAAのようです
:2012/07/06(金) 21:02:54 ID:D7XzqI0s0
待っているでっせ。
148
:
名も無きAAのようです
:2012/07/23(月) 00:42:24 ID:9emK3DuQ0
影ながら待ってますよ。
149
:
名も無きAAのようです
:2012/07/23(月) 22:43:01 ID:/Mu/ZirkO
じゃあ俺は堂々と待ってるわ
150
:
名も無きAAのようです
:2012/08/06(月) 18:57:25 ID:Oy1t64MA0
ヘブシッ!
151
:
名も無きAAのようです
:2012/08/08(水) 22:58:51 ID:3jvwzcDU0
ブラクラと夢都市好きよ。
152
:
名も無きAAのようです
:2012/08/12(日) 19:17:46 ID:vUGObwiE0
まだかなー
153
:
名も無きAAのようです
:2012/08/17(金) 13:37:10 ID:SqPCEpRA0
どうもご無沙汰しています、作者です。
前話から結構時間が経ってしまいました。
四話はすでにあるのですが、如何せん投下する時間が取れません。
今月末にはその時間が取れるはずなので、今月以内には四話投下したいと思います。
あとトリってつけたほうがいいんでしょうか?
こんな感じで投下も話の進行もどうもゆっくりですが、
待ってくれている人ありがとう。
励みになってます。
では、また今月中のどこかで。
154
:
名も無きAAのようです
:2012/08/17(金) 14:39:37 ID:dHy7Olrk0
うひょょーおおおおあおお!待ってます!トリは好きなようにしていんじゃないすか?
とりままってます。
155
:
名も無きAAのようです
:2012/08/28(火) 01:40:25 ID:Nz8JKbJ20
まだ慌てる時間じゃない。
156
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 00:10:00 ID:tiBT7kFY0
【20XX年5月11日
今回の夢は、なんとまたあの男の人に出会えた!
……といっても、実際話してみると想像していた人物像とは随分違っていたけれど。
また、あの銀色と黒の駅から発車する電車の中で、男の人とは出会った。
彼の名前はモララーというらしい。そして“片付け屋”という仕事をしているらしい。
彼は“夢都市”という謎の都市に住んでいて、そこは外側から見たら万華鏡のように
くるくると形や風景を変える都市だった。
そこのある工場地帯のような場所の一角にあるアパートで、
都市のリーダーであるツンさん、“案内屋”のブーンさん、
美味しいお菓子を作るペニサスさん、“調達屋”のドクオさんと出会った。
157
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 00:13:04 ID:tiBT7kFY0
そこまで連れて来てくれたのは、真っ黄っきのド派手な、爆音バイクに乗っている
“運び屋”のジョルジュさん。
途中までは、足が長ーく伸びたモララーさん(すごく、気持ち悪い)も一緒だった。
モララーさんやブーンさんたちは、私のことを“新入り”と呼んでいた。
あと、“ムユウシャ”(漢字はあるのだろうか)なんていう言葉も何度か聞いた。
他にも、何だか今回の夢はいつも以上にわからないことだらけで。
そのくせ無駄にリアルな夢だったから、何だか混乱しそうだった。
今回の夢は、診断サイトは見ないことにする。
だってどう考えてもどうやって項目に当てはめればいいか、わからないから。】
(゚、゚トソン パタン
(-、-トソン フー…
(゚、゚トソン(あの夢はなんだったんだろうか……)
158
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 00:16:10 ID:tiBT7kFY0
幻は、忘れていた宝物を、彩り照らしている。
第四話「思い出とパレードの夢」
.
159
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 00:19:08 ID:tiBT7kFY0
午前診に行った結果、案の定、食あたりという診断結果を貰ったトソンは、今回ばかりは仕方なく、
担任に食あたりのために休みますという、久々に正当な理由で学校を休むことになった。
ぎゅるぎゅるとお腹を絞られているような感覚に腹を抱えてベッドに蹲り。
時にはトイレに篭って一時間くらい過ごしたり。
とりあえず、それはもうトソンは初めて体験する辛さだった。
やっと落ち着いてきたのは、次の日のことで。
処方された薬が効いたのか、もともとそんなに重い症状ではなかったのか。
とにかくトソンは、買ってきた牛乳の始末をしたのだった。
腹を壊した日は、“夢都市”の夢を見ることはなく、寧ろ何の夢も見なかった。
夢を見なかったなんてことは生まれて初めてだったため、
トソンはそれを腐った牛乳のせいだと決め付けて怨み節を呟く。
夢は、つまらない日常の中の数少ない楽しみの一つなのだ。
160
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 00:22:07 ID:tiBT7kFY0
(-、-!iトソン(あーもう絶対に腐った牛乳は飲まない……)
まだ時折しくしくと痛み出す腹を撫でさすり、リビングのソファーにごろんと横になる。
先日はすっかり寝込んでいたせいで、勉強もまともにすることが出来なかった。
一日のノルマを増やさなければ、今後もしかしたら学校側にカリキュラムが追い抜かれてしまうだろう。
折角、学校に行ったときに、周りに置いてけぼりを食らわぬように、こまめに勉強をしていたというのに。
先程書き終わって、ソファーの前のテーブルに置いていた“夢日記”を手に取り、ぱらぱらとページをめくる。
書き込んだばかりの一昨日見た夢。
そのページは、今まで記録してきたものの中でも一番長い文章で埋まっている。
なんたって、あんな夢を見たのは今回が初めてだったのだ。
そりゃ、書きたいことも多くなるに決まっている。
ちなみに言うと、今回は途中で頭の中で整理がつかなくなり、
そして書きつづけていたらそのまま延々と書き続けてしまうような気がしたから、渋々書くのをやめた。
だから、本当はもっと長くなるはずだったのだ。
161
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 00:25:32 ID:tiBT7kFY0
(゚、゚トソン(“夢都市”……)
(゚、゚トソン(“片付け屋”“ムユウシャ”……)
(゚、゚トソン(あ、そういえば誰かが“悪夢”が何とか言ってたような…)
ソファーに寝っころがったまま、気になる単語を指でなぞる。
このほかにももしかしたら聞き漏らした言葉もあるかもしれないし、
起きてすぐに忘れてしまった言葉もあるかもしれない。
(゚、゚トソン(でも……)
(゚、゚トソン(なんかこの夢は他の夢みたいに、あんまり霞がかからないんですよね)
くっきりと、気持ち悪いぐらい鮮明に思い出したのは、ペニサスさんの作ったお菓子たち。
他にも、ツンがベランダの手すりから飛んだ瞬間や、ドクオの照れた顔など。
普通の夢ならしばらくすれば忘れてしまいそうなことを、今回トソンは一日たった今でも、
きちんと目の前に思い浮かべることが出来た。
162
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 00:28:12 ID:tiBT7kFY0
バイクの振動と鼓膜を叩くエンジン音。
気分の悪さにトソンを励ますジョルジュの大声。
舞い上がる砂煙の匂いに、見た目の割に頑丈だったアパートの階段。
美味しかったクッキーと紅茶(のような飲み物)。
ドクオの血色の悪い冷たい手。
本当に、気持ち悪いくらい鮮明に、リアルに思い出せる。
(゚、゚トソン(……お昼ごはん作りますか)
仰向けの状態から、足で勢いを付けて起き上がり、台所へ入る。
何かめぼしい物はあっただろうかと冷蔵庫を開けた。
中に入っていたのは、中身がもう殆ど入っていないケチャップと、
空っぽのジャムの瓶、それから底に申し訳程度に残っているマーマレードだけだった。
○ ○ ○
163
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 00:31:15 ID:tiBT7kFY0
今日は久しぶりに食パン意外の物を食べようと、チンして食べられるタイプの白米を買ったトソンは、
少しだけうきうきした気分で帰路をトロトロ歩いていた。
相変わらず、平日のこの時間、この街の人気は殆どない。
帰ったら一緒に買った新商品のフリカケをかけて食べよう。
そのあとには、これまた新商品の林檎風味のプリンとやらもデザートに買った。
食べることに普段はそこまで執着していないトソンだったが、
“夢都市”の夢の中で見た、“ペニサスさんのお菓子”を思い出すと、
どうしても何か美味しいものが食べたくなったのだ。
(゚、゚*トソン(林檎風味プリン〜)
プリンといえば、そういえばツンはあの後新しいプリンを作ってもらえたのだろうか。
(゚、゚*トソン(ペニサスさんのお菓子美味しかったなあ)
今まで、夢の中で何かを食べたことは多々あった。
でも、こんな風に味を感じ、しかもその事をちゃんと、起きてからも覚えているのは初めてのことだった。
これからは意識さえすれば、他の夢でも食べ物の味を感じることが出来るのだろうか?
164
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 00:34:16 ID:tiBT7kFY0
(゚、゚トソン「あ」
食べたクッキーの味を思い出しながらトロトロ歩いていると、あの公園の前を通った。
時間はあの時よりも少し遅いが、あの男の子は今日も来ているだろうか。
気になったトソンは、公園の入り口から中を覗いた。
見えたのは、いつもの申し訳程度に置かれている遊具に、一つだけあるベンチ。
ベンチの上には今日は、ビロードはいなかった。
(゚、゚トソン(今日はちゃんと学校に行ってるんですかね)
人気のない公園は、何だか少しだけ寂しい。
そういえば、トソンも昔はここでよく遊んでいた覚えがある。
確か、あの頃は、まだここまで遊具は少なくなかった気がした。
165
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 00:37:31 ID:tiBT7kFY0
小さな公園に、ぎゅうぎゅうに詰まった遊具たちは、この地域の子供たちの大切な遊び場だった。
その中でもトソンが大好きだったのが、公園の中央にあった、回転する丸いジャングルジムだ。
最近、ネットを徘徊していて知ったのだが、あれにはグローブジャングルジムという名前がちゃんとあるらしい。
トソンは、あれに掴まって、吹っ飛ばされそうになるぐらいぐるぐる回るのが大好きだった。
それも親たちの「危ないから撤去して欲しい」という声によって消えてしまった。
今では、ここには鉄棒が大小一組と、滑り台だけ。
ちょっと前まではシーソーもあったはずだが、気がついたら消えてしまっていた。
(゚、゚トソン(懐かしいなあ)
雑草がところどころ伸びている地面を踏みしめ、公園の中に入る。
この前は、ビロードを気にしていたため、あまり見ていなかった。
ちょうど、グローブジャングルジムがあった場所に立つ。
小さい頃はここも、トソンにとってはそれなりに大きな公園だった。
(゚、゚トソン(もっかいあれで回れたらなあ…)
166
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 00:39:17 ID:BMtJ5SCo0
きたか!
167
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 00:40:35 ID:tiBT7kFY0
足元にあった石を蹴飛ばし、滑り台に近寄る。
ここの滑り台は、丸いドーム型の石の建物の外側に、階段と滑る部分が着いているタイプになっている。
そして、中にはトンネルが通っていて、夏は皆その中に入り、太陽から逃げている風景がよく見られる。
トソンも、小さい頃はよくここに雨宿りなどをしていた。
しかし、そのトンネルは公園の入り口からは視覚になっている為、もしも不審者が隠れていても、
すぐには気が付けないかもしれない、という保護者の意見が上がっているらしい。
もしかしたら、この滑り台もそのうちここから消えてしまうのかもしれなかった。
(゚、゚トソン(あら)
滑り台の傍らで思い出にふけっていると、頬にぽつりと水があたり、トソンはふと空を見上げた。
直後、ぽつぽつと地面に黒い染みが現れ、ザアァと急激に雨が降って来る。
(゚、゚;トソン「うわっ」
慌てて、滑り台のトンネルの中に入り、雨を凌ぐ。
トンネルは子供にあった大きさのため、トソンはその場にしゃがみ込まなければならなかった。
168
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 00:43:28 ID:tiBT7kFY0
(゚、゚;トソン(あー、一瞬だけなのに髪の毛びっしょり……)
雨水の滴る前髪を、ポケットに入れていたハンカチで拭ぐう。
きっとにわか雨だろう。ここでしばらく待てばきっと止む。
再び、懐かしい気持ちになりながらトンネルの陰から空を眺めていると、背後で人の気配がした。
誰だろうと思い、振り返る。
(゚、゚トソン「あ」
( 。><)「あ…」
(*‘ω‘ *)「ぽっ!」
トンネルの中にいたのは、白いあの猫を抱えたビロードだった。
(゚、゚トソン「奇遇ですね、ビロードくん」
169
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 00:45:15 ID:tiBT7kFY0
( つ<) グシグシ
( ><)「こ、こんにちわなんです…」
(゚、゚トソン「こんにちわ」
ビロードはトソンに気がつくと、ゴシゴシと袖で目元を擦ってから、小さく会釈した。
トソンは、それににっこりと笑って、ビロードの隣にしゃがむ。
(゚、゚トソン「雨ですねえ」
( ><)「雨なんです…」
トンネルは、こういう時の為に中に水がたまらないよう、中心が少し盛り上がり、
出入り口に向けて緩やかな傾斜がついている。
二人は、ちょうどその頂点、トンネルの真ん中でそれぞれ、両側の出入り口の外を見ていた。
170
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 00:47:06 ID:tiBT7kFY0
(゚、゚トソン「ビロードくん」
( ><)「なんですか?」
(゚、゚トソン「プリン食べます? 林檎風味の」
( ><)「いいんですか?」
(゚、゚トソン「どうせ雨が止むまでここ出られませんし」
(゚、゚トソン「腐ったら困りますから、一緒に食べましょ」
( *><)「…ありがとうなんです」
ビロードと二人、雨が止むまでトンネルの中にしゃがみ込んだまま、顔を見合わせ、微笑みあう。
コンビニ袋から出したプリンの蓋をぺりぺりと剥がせば、狭いトンネルの中には甘い香りが広がった。
171
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 00:50:25 ID:tiBT7kFY0
( *><)「わあ、良いにおいなんです」
(゚、゚トソン「スプーンは一本しかないんですけどいいですか?」
( *><)「大丈夫なんです」
(*‘ω‘ *)「ぽっぽっ」
( ><)「あっ、ぽっぽちゃんは食べちゃだめなんです」
(*‘ω‘ *)「ぽー」
プラスチックのスプーンで、薄黄色の柔らかいプリンを掬い、ぱくりと食べる。
ビロードは美味しそうに目を細めた。
雨はいったい何時になったら止むだろう。
今のところ、止む気配は一向にない。
ビロードから受け取ったスプーンで、一口プリンを食べながらトソンは、
これから暇つぶしになりそうな話題を探した。
172
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 00:52:38 ID:tiBT7kFY0
ふと、ビロードを見て、何故今日はベンチではなくトンネルの中にいるのだ、
という疑問が浮かんだが、それは、彼の頬に残っている涙のあとを見て飲み込む。
代わりに、トソンは“夢都市”の話をすることにした。
(゚、゚トソン「ビロードくん、聞いてくださいよ」
( ><)「なんですか?」
(゚、゚トソン「一昨日、面白い夢見たんですよ」
( ><)「聞きたいんです! どんな夢なんですか?」
ざあざあと雨の降る音を聞きながら、トソンはビロードに夢の話をした。
○ ○ ○
173
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 00:55:18 ID:tiBT7kFY0
電子レンジに入れた、チンして食べられるご飯がくるくると回る。
棚からフリカケを出し、割り箸をもって電子レンジの前に立ったトソンは、
レンジのオレンジ色の光に照らされ、くるくると回るご飯を見つめた。
きゅるきゅると空腹を訴えるお腹は、今ではすっかり好調だ。
誰も居ないリビングからは、家に独りしかいない静けさを消すために付けたテレビから、
アナウンサーの読み上げるニュースが聞こえる。
《意識不明者は未だ回復の兆しは見られず、原因の究明の……》
内容は、最近よく見聞きする話題だった。
けれど、特に世の中の事象に興味のないトソンは、すぐに音を聞き流した。
今は、己の空腹を満たすことだけで頭がいっぱいだ。
チン、と可愛らしい音をたてて、レンジの中の光が消える。
トソンは自分の脇にあるティッシュ箱から二枚取り出し、レンジの蓋を開けた。
四つ折にしたティッシュで、熱くなったご飯の容器の端を持ち、調理台に一回置く。
もう一度今度はもう少ししっかり容器を持ち、リビングまで早足で向かった。
174
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 00:57:19 ID:tiBT7kFY0
洗い物を(洗うのが面倒だから)極力減らすため、お茶碗は使わない。
ソファーの前のテーブルにご飯を置き、トソンはその上にフリカケをかけた。
久々の、食パン以外のご飯である。
(゚、゚*トソン(はー、やっぱり米はいいですね)
(゚、゚*トソン(また買ってこようかなー)
ニュース番組はいつの間にか終わり、テレビは料理番組に変わっていた。
画面の中で、残り物でも美味しくできる、と銘打った料理を、
最近流行のまとめ売りアイドルグループのメンバーが作っているが、その様子は見ていて酷いものだった。
(゚、゚トソン(フライパンから零れてる零れてる)
(゚、゚トソン(えっ、そんなにお塩入れちゃうんですか)
(゚、゚トソン(うわあ……)
(゚、゚トソン
(゚、゚トソン(まあ、私も人のこと言えないんですけどね)
料理に挑戦しているだけ、まだマシなのかもしれない。
175
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 01:00:12 ID:tiBT7kFY0
食べ終わり、空になったご飯の容器をビニール袋に詰め、燃えないゴミに捨てる。
割り箸は半分に折り、チラシに包んで捨てた。
ついでに、だんだん聞いてて五月蝿く感じてきたテレビも消す。
すると、トソンにはもう特にやることがなくなってしまった。
(゚、゚トソン(……暇)
(゚、゚トソン(勉強も今日の分は終わっちゃいましたし)
(゚、゚トソン(ちょっと早いですけど、今日はもう寝ましょうか)
さっさと風呂に入り、ベッドの中に潜る。
枕に顔を埋めたときに思い出したのは、昼間にビロードとした会話だった。
“夢都市”の話を聞いたビロードは、最初驚いた様子でしばらくトソンを見ていた。
変な話をしたせいで戸惑ってしまったのかとトソンは思ったが、
ビロードはすぐに笑顔になり、瞳を輝かせて「面白いんです!」と言ってくれた。
それから、ビロードは少しだけ考えるそぶりを見せると、
“夢都市”には図書館はあるのかと聞いてきた。
結局、都市の中を案内して貰い損ねたトソンには、図書館があるかわからない。
そして、次もまた都市の夢を見ることができるかもわからなかった。
176
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 01:01:09 ID:tiBT7kFY0
だから、トソンはビロードに首を横に振った。
この返答に、てっきりビロードは残念がるだろうとトソンは思ったが、
予想とは逆に、ビロードは嬉しそうな顔でトソンのほうに身を乗り出し、こう言った。
「つぎ、“夢都市”に行ったときは必ず図書館に行ってほしいんです!」
そして、慌てて付け加えるように。
「あ、えっと、その……もしも図書館があったら、どんなところだったか教えてほしいんです」
「僕、本と図書館が大好きだから……」
手に持っていた本を胸に抱きしめ、片手で猫を撫でるビロードは、嘘を吐いているようには見えなかった。
でも、何故かトソンはあの時の彼に少しだけ違和感を感じたのだ。
177
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 01:01:50 ID:tiBT7kFY0
(-、-トソン(…………)
(-、-トソン(図書館、か)
(-、-トソン(またあの夢、見れますか…ね……)
(-、-トソン
(-、-トソン
○ ○ ○
178
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 01:03:19 ID:tiBT7kFY0
どんどんと階段を下りていく。ここはいったいどこの階段なのだろう?
暗いのか明るいのかよくわからないその場所は、ビルでよく見かけるタイプの階段に似ていた。
自分がどの辺りから階段を下りているのかはわからない。何で階段を下りているのかもわかっていない。
今、トソンはとにかく階段を下りることしか考えていなかった。
このまま下り続けていれば、きっといつかどこかへ出るだろう。そこへたどり着くまで、ただ只管下り続ける。
階段の壁には、ところどころ壁を四角くくりぬいて作った窓があり、そこから光が漏れている。
でも、窓の外の景色は見ることが出来ない。見ようとも思わなかった。
足音は聞こえない。自分以外誰かがいる気配もない。こういう夢は珍しくなかった。
夢は何時だってなんだってありえる。夢の中で起こらないことなんてない。
音のない世界だってあれば、自分以外誰もいない世界だってあるのだ。
こうして、階段だけが続く世界だって。
179
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 01:05:01 ID:tiBT7kFY0
この夢を見たのはこれで五回目だった気がする。
今までの四回の中で、トソンが階段の一番下にたどり着いたことはなかった。
いつも、途中で目覚めてしまうのだ。
今回こそは、一番下までたどり着いてやろうと意気込み、トソンは必死に足を動かし続けた。
足の裏が、階段の一段一段にきちんとついている感覚はない。
階段の手すりに手を置き、それを支えにして、滑るように階段を駆け下りる。
その速度は常に一定。早くなることも遅くなることもない。
途中、踊り場に来たときだけ、足の裏に床の存在を感じた。
ふわりと浮く感覚。次に斜面を滑る感覚。そして踊り場の床を踏みしめ、手すりに体重をかけ方向転換。
くるんと次の階段の前に足を持って行き、再びふわりと浮く感覚。
ちらちらと視界に移る、四角い窓から漏れる真っ白な光。
同じことを繰り返していると、夢の中ならトソンはいつもだんだん楽しくなってくる。
このまま、ずっと階段を下り続けて行ける気がする。
けれど、そんな楽しい時間も長くは続かなかった。
突然、トソンは足の裏にはっきりと、階段の段の存在を感じたのだ。
今まで、滑るように階段を駆け下りていた体は、少しだけ重くなり、
踊り場からふわりと飛び出す感覚もなくなる。
そしてトソンの目の前に現れたのは、木で作られた、古い扉だった。
180
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 01:07:12 ID:tiBT7kFY0
トソンはすぐに、今自分が居る場所は、階段の一番下なのだと気がついた。
今まで一度もたどり着くことの出来なかった一番下。
この先にはもう階段はない。あるのは、古い木の扉だけ。
体の中に、緊張が生まれる。
階段の手すりから手を離し、トソンはゆっくりと扉に近づいた。
どこかで一度見たことのあるようなその扉は、少し薄汚れていて、あちこちに傷がある。
ドアノブは丸く、真鍮で出来ていた。
そっと、手を伸ばしドアノブに触れる。冷やりとした手触りは、トソンの心臓の鼓動を早めた。
ここから先、扉を開ければきっとトソンの見たことのない夢が広がっているのだ。
いや、もしかしたら既に一度見たことのある夢に繋がっているのかもしれない。
どちらにしろ、自分はこれから、この階段を使って、一度もたどり着くことが出来なかった場所へ行く。
しっかりと握った、真鍮のドアノブをゆっくり回す。
ガチャリ、と音がするのを確認し、ぐっと扉を押した。
扉は、軋んだ音をたてて開く。扉の向うからは、少し埃っぽい匂いがした。
181
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 01:08:47 ID:tiBT7kFY0
トソンは、自分の足元を見たまま、扉を開け放す。
そして、おずおずと顔を上げ、扉の向うの景色を見る。
果たして、トソンがその目で見た景色とは――
( *^ω^)
ξ*゚⊿゚)ξ
(゚、゚トソン
(゚、゚;トソン(……お?)
182
:
名も無きAAのようです
:2012/08/30(木) 01:10:48 ID:tiBT7kFY0
( *^ω^)「おー、ツン良い匂いだおー」
( *^ω^)「ドクオが持ってきた香水っていうのがなんか気に食わないけど良い匂いだおー」
( *^ω^)「ツンにぴったりだお!」
ξ*゚⊿゚)ξ「べ、別にあんたを喜ばせようと思ってつけてるわけじゃないんだからね!」
カップケーキがいっぱい盛ってあるバスケットを前に、ベタベタといちゃついている男女だった。
(゚、゚トソン(……え)
(゚、゚トソン(ここはもしや……)
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