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( ^ω^)は街で狩りをするようです

1名も無きAAのようです:2012/02/07(火) 20:29:47 ID:.JjyiNM60
今後の投下はこちらでやらせて頂きます。
まとめ 内藤エスカルゴさん
ttp://localboon.web.fc2.com/

70名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 03:53:34 ID:C0RcvdDk0

阿部「あと二人……!」

 阿部は腰だめに銃を構え、臨戦態勢を保つ。
 サプレッサーは音を消すが死体が臥す際の音までは消せない。
 急襲と言えるのはここまでだ。
 ばたんと響き渡って間もなく、目的地の方から何者かが足早に駆けつける音が聞こえていた。

 クローン兵の一人が宙を舞いながら、角から現れた。
 素早い動作で壁を蹴り、且つ、阿部の銃撃を避けながら間合いを一気に詰める。
 両者共に運動性能は高い水準で均衡。
 尽く中空を切る弾丸と光線、同等以上の速度で駆ける二人。
 衝突寸前、同時に繰り出したストレートで両者の体が飛んだ。 

阿部「ぐ……!!」

 頭を地に叩き付ける寸前、阿部の放った弾丸がクローン兵の体幹を裂いた。

 しかし安堵に浸る猶予はない。
 新手の気配だ。情報通り一人――――来る。
 阿部はどうにか立ち上がり、声を上げ、姿を見せた敵に突撃した。

71名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 03:54:55 ID:C0RcvdDk0

(  〓 )「チッ!」

 お互い手首を撃ち落した。
 流血、紫電と迸りながら粗暴な殴り合いに転ずる。
 強靭なクローンの身体から繰り出される体術は、先ほど僅かに劣化した阿部のそれを上回る。
 阿部の動きに陰りがあった。
 阿部はスタンを仕掛ける機械など与えられず、じりじりと追い詰められ防戦を強いられる。

<;プ−゚)フ「っにゃろう!」

 そこで、二人が予想だにしなかった第三者、エクストが場に介入した。
 彼に一瞬見とれたクローン兵の隙を突き、阿部が強烈な蹴りを後頭部に与える。
 クローン兵は滑るようにして倒れこみ、エクストの手の届く位置に無防備な頭を晒した。

<;プД゚)フ「――――――――ッ!!」

 瞬間、乾いた音が廊下に木霊した。
 クローン兵のマスクに弾痕が穿たれている。
 徐々にエクストの足元へ血が忍び寄り、エクストは腰を抜かして後ずさりした。

<;プД゚)フ「う、わ、ああ、ああああ……」

 エクストの持つ銃から、僅かに硝煙は上がっていた。
 しかしながら彼の放ったエネルギーの弾丸は、大きく逸れて地を抉るに過ぎなかった。

72名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 03:57:05 ID:C0RcvdDk0

ξ;゚⊿゚)ξ「はあッ、はあッ」

 レーザーが銃身を焦がす独特の匂いがもう一つ、エレベータ内からも流れていた。
 クローン兵に弾丸を直撃させたのはツンだった。
 エレベータ前に滑り込んできたクローン兵を見るや、反射的にトリガーを絞ったのだった。

 ツンは息が整わぬ内にエレベータを出てエクストに歩み寄る。
 手を差し出して彼を立たせ、恐らく鬼の形相を浮かべているであろう阿部を共に待った。
 が、阿部は呆れた風に頭を掻きながら、

阿部「いや、咎めやしないよ。助かった、博士」

ξ;゚ー゚)ξ「いえ、こちらこそ」

 長い緊迫から解放され、ツンは溜め込んだ息をどっと吐いた。

阿部「だがなエクスト。金輪際一線に足を踏み入れるんじゃない。
   お前さんのような子供が穴倉の外に出るには、まだ早い」

ξ;゚⊿゚)ξ「本当よアンタ! いきなり飛び出したり、何考えてるのよ!」

<;フ− )フ「……悪かった、悪かったです。俺、まだこんなの……無理、でした……」

阿部「分かったんならいいさ。まあしかし、正直助かったぜ。勇敢だよ、お前さん」

<;プ−゚)フ「阿部さん……」

ξ;゚⊿゚)ξ「でもこれで残るはあと一人! モララーに引導を渡してやろうじゃないの! 行きましょう!」

 三人はモララー、モナー待つ第2会議室へと走る。

73名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 04:01:00 ID:C0RcvdDk0
 あれだけ派手な銃撃戦があったというのに、どよめきといった雰囲気が先々から伝わってこない。
 会議室のいずれも防音に優れているお陰であろう。

 今頃モララーが我々の死体を想像してほくそ笑んでいる頃だろう。
 侵入者が目と鼻の先まで来ているというのに。
 してやったりと、ツンは不敵な笑みを浮かべた。

 第2会議室前に辿り着いた。
 ツン、エクストには途方もなく長い道程に感じられた。
 しかし、ここからであった。
 モララーの目論見、真相を暴いてやらなければならないのは――――

 一同頷いて意思疎通し、阿部がドアのタッチセンサーに手を翳した。
 ドアが開いた瞬間、阿部が吼えるように第一声を発した。

阿部「動くな! 全員その場を動くんじゃない!」

ξ;゚⊿゚)ξ「モララー博士! 直ちに全クローン兵に攻撃停止を呼びかけなさい!」

 議会員達は一斉に視線を阿部に注ぎ、銃の携帯に気づくや諸手を挙げた。
 モナー・ヴァンヘイレンも戸惑いながら要求に応じる。

 その中、懐に手を忍ばせる者がいた。モララー・スタンレーだ。

74名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 04:03:30 ID:C0RcvdDk0

( ;・∀・)「ぐあっ!?」

 そのモララーが両膝を撃ち抜かれる。
 彼の想像と予想の範疇を越えた、背後からの一撃であった。
 すかさず阿部はモララーに飛びつき、身動きが取れぬよう間接を決める。

 かつかつと、その者は空恐ろしいまでに静かな足取りでモララーの前に立った。

( ;・∀・)「な、何を……くう……ふ、ふざけるな! 貴様に私を撃つ理由は、ないだろう!」

 地に伏したモララーは頭を動かしてその者を見ようとした。
 するとその者は眉一つ動かさず、モララーの眉間に銃口を定めて告げる。


( ´Д`)「動くなと言われたろうが、モララー。ん? こんな理由では不服かね?」


(;・∀・)「グッ、モナー……貴様……!」


ξ;゚⊿゚)ξ「モ、モナーさん!?」

( ´Д`)「さて……同じく、断りなく動いてしまった私に君達が攻撃しないとなれば、
       モララーに用があって此処へ来たと察するが……?」

75名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 04:05:41 ID:C0RcvdDk0

ξ;゚⊿゚)ξ「もしや彼の企みに気づいていたのですか?」

( ´Д`)「いいや……何か裏があるような気はしたが……しかしコイツはね、
       ツン君、荒巻を暗殺した張本人なのさ。今日も何度か不審な動きを見せてくれもした」

ξ;゚⊿゚)ξ(ドクオの言ってた事、まさか本当だったなんて……)

( ´Д`)「良い機会だ。聞け、モララー」

( ´Д`)「私はね、いつ君に寝首を掻かれるのかと、不安を抱えていたのだよ。
       だからな、どうやって君を排除しようか常に考えていた」

( ´∀`)「独裁権を持つ身とはいえ、あからさまな処刑は避けたいのでね。
       市民の信頼を失いかねんのでな……君を牢にぶち込む正当な理由が欲しかった。
       それが、たった今、ここに舞い込んできたのだ……フフッ」

( ´Д`)「私を上手く操っていたつもりのようだが、侮るな。
       これでもな、争い絶えぬ米国の政界で長年生き長らえてきたんだ」

(;・∀・)「この、タヌキめ……!」

( ´Д`)「黙れ。ではツン君、まず君から聞こう。コイツの企みとは一体何だね?」

ξ;゚⊿゚)ξ「は、はい」

76名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 04:07:38 ID:C0RcvdDk0

ξ;゚⊿゚)ξ「モナーさん、まず彼、モララーはビロード・ハリスの誘拐を目論見ました。
       貴方の政権樹立と共に囁かれたテロリストの噂に乗じ、
       特殊な細胞を持つビロードを保護するという名目で、クローン兵で我々に接触したのです」

ξ;゚⊿゚)ξ「彼女はこうも言いました。私、ツン・ディレイクとの交渉など端から予定にない、と。
       その際の証言者もここにいます。
       このエクスト・プラズマンはテロリストの一味だとでっち上げられ、
       ビロードを保護という名目で確保する理由付けに利用されたのです」

(;´Д`)「プラズマン……リレント・プラズマン氏の息子か。エクスト君、そうなのかい?」

<;プ−゚)フ「お、おうよ! お姉ちゃんの言ってる事は本当だぜ!
       それにクッソ痛かったぜ、あの女のパンチ!」

ξ;゚⊿゚)ξ「しかし我々は、人権から鑑みてビロードを渡すのは不適当だと考え、拒否を。
       するとクローン兵は力づくでビロードを連行しようとしました。
       私はジョルジュ・ジグラード、ショボン・トットマン、ヒート・ダイムバッグ三名にに応援を要請し、
       ビロードを守ろうと現在も尚、交戦中です」

(;´Д`)「ジグラード氏が第4階層で暴走している、というのも、嘘か? モララー」

(;・∀・)「さてね、どうだか」

(;´Д`)「モララー! 今すぐクローン兵に攻撃の停止を呼びかけろ!」

(;・∀・)「それならまずネットワークのメインフレームを再稼動させるんだな。
      といっても、そこのツナギ男のジャミングが解除されない限り、彼女達と連絡が取れんのだがね」

77名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 04:09:51 ID:C0RcvdDk0

(;´Д`)「君! 電波妨害を解除してくれ!」

阿部「了解した総統閣下…………OK、いいぜ。ケツから垂れ流していたジャミングは止まったよ。
   すぐにオタクの回線も復帰するだろうぜ、モララーさんよ」

(;´Д`)「モララー、直ちに停戦命令を下せ!」

(;・∀・)「そう逸るなよモナー。まずはネットワークの復旧が先だと言ったろう?」

 携帯端末に文字を入力しながら、モララーは返した。

(;・∀・)「よし。Hollow-Soldierが作業に掛からせた。間もなく映像が出せるぞ」

(;´Д`)「何を悠長に……! 人命が掛かっているのだ! 早く停戦を呼びかけろ!」

(;・∀・)「仰るとおり、人命が掛かっている。ビロードも、ディレイクの戦闘員共も、市民もね。
      第4階層が激しい交戦状態にあるのは本当の事さ。
      感染者ジョルジュ・ジグラードが暴走している可能性は否定できんのだぞ?」

ξ;゚⊿゚)ξ「いいえ! IRON MAIDENの抑制機能が働いているはず! それは有り得ない!」

(;・∀・)「ツン博士、戦闘状態のジョルジュの身体データを測定した事なんてないだろう?」

ξ;゚⊿゚)ξ「な、無いわ……それが一体……
       ――――まさか!?」

78名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 04:12:06 ID:C0RcvdDk0

(;・∀・)「我がクローン兵が実戦を持って収集したデータでは、もはや彼は人の域を遥かに超えていたぞ。
      IRON MAIDENに抑制されているとは思えんほどにね。
      戦闘の最中、変異し続ける彼が人の意思を保っていられるかどうか。
      ククク、それとも成ってしまったかな? 市民が恐れる、セカンドに!」

ξ; ⊿ )ξ「な、なんて奴……!」


(;´Д`)「ダルシム! 映像を出せるか!?」


ダルシム「つ、繋がりましたヨガ! 第4階層の映像を出すヨガフレイム!」

79名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 04:13:24 ID:C0RcvdDk0

(;・∀・)「フ、フフフッ! さてさて! どうなったかなぁ!? ジョルジュ君!!
      つまらん結果だけは見せてくれないでたまえ! アッハッハッハハハハハハ!!」


  ___


 連携乱れた第3階層とは反し、第4階層には統率の取れた集団行動があった。
 直下の第4階層のクローン兵達は、阿部のジャミングの影響をまるで受けていなかった。

 敵の追跡を振り切ったと思われたジョルジュとビロードの前に、再び彼女達が現れようとしている。

 ジョルジュ・ジグラードは路地裏にバイクを捨てていた。
 目的地バーボンハウスへの距離はジョルジュの推定でおよそ2キロ。
 一時は目前に迫っていたが、クローン兵の攻撃から逃れている内にすっかり遠ざかってしまっていた。
 
 2キロ程度の道のりを歩くのは本来大した労力とはならない。
 陸軍歩兵師団で鍛え上げたジョルジュは――しかも現在はウィルスで増強――無論のこと。
 今年で10歳になるビロード・ハリスだって、愚痴を零そうと歩きのけるはずだ。

 だがしかし、たった2キロの道のりが極めて困難である事を、地に足をつけた瞬間から二人は悟った。
 むしろ地に足つけた時にはバーボンハウスを目前に控えていたかった。
 ジョルジュもビロードも、共に焦燥し、疲弊していた。
 一度は振り切れたとはいえ、クローン兵は猛然とした追跡を続行するだろう。

80名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 04:15:23 ID:C0RcvdDk0
 多勢に無勢という形勢も懸念材料の一つであるが、現状、危惧すべきは敵の探査機能だった。
 彼女達は街を利用した包囲網を敷いている。
 ジョルジュの憶測にすぎないが、一連のチェイスを通じ、監視カメラを使っているとしか考えられなかった。
 でなければ、いつまでも振り切れぬ敵の気配に説明がつかない。

( ;゚∀゚)(行ったようだ……まだ直接発見されていないようだな……)

 彼は壁から顔を覗かせて安全を確認した後、ビロードの手を引いて影から影へと身を移した。
 大通りを避け、監視の薄い路地やビルなどの遮蔽物を壁に、転々と移動を続けていった。
 監視カメラが超小型であるのは噂にも高く、ジョルジュの視力を持っても視認は不可能だった。
 従って設置されているであろう箇所に目星を付けて進むしかなかった。

 今のところ二人の足取りは順調と呼べるが、やはり余裕を感じるゆとりは持てなかった。
 一度カメラに映りもすれば銃撃に見舞う。
 モーションセンサーで作動する爆弾が仕掛けられた中を進むような、恐ろしい気分をジョルジュは味わっていた。

 それでも発見され次第銃撃に襲われるという心配はしていなかった。
 唯一無二の免疫の所持者、ビロード・ハリスがいる。
 チェイス中の銃撃は出力が抑えられていたし、直撃を狙ったものではなかった。

( ;゚∀゚)(あくまでも連中の目的はビロードの確保のはず……)

 ジョルジュは視線を落とし、少年の顔を見つめる。
 そうしている内に、ふと脳裏に一筋の疑念が走った。

81名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 04:16:10 ID:C0RcvdDk0

(;><)「……どうしました? ジョルジュさん」

 一瞬、握られた手に力が入ったのをビロードは感じた。
 フェイスカバーで隠れジョルジュの表情は伺えないが、どうも様子がおかしい。

( ゚∀゚)(……思えば腑に落ちない点がある。
      ビロードが狙いだとしたら何故、最初の接触の時点で部隊で臨まなかった?
      小僧と小娘くらい一人で始末できると踏んでの事か?)

( ゚∀゚)(いや、そうではない。端から大部隊で行う“この作戦”を画策していたのは間違いない。
     奴等に高度な情報シェア手段があるにしろ、用意周到と言うものだ。
     インフラの停止、避難アナウンス、高機動バイク、対セカンド兵器……手が込んでやがる)

( ;゚∀゚)(チーム・ディレイクが応援を呼ぶと予想したのなら、それで説明はつく。
      だが、腑に落ちない。ビロード・ハリスの確保を優先したのなら、もっと秘密裏に事を進めたはずだ。
      ビロードも狙いだろうが、本命があるはずだ……何か、もっと、別の――――)

(;><)「ジョルジュさん……服、破けてるんです!」

 何気ないビロードの一言、されどジョルジュは顔をはっとさせた。
 そしてジョルジュの思巡は一つの可能性を導いた。

(#゚∀゚)(そういう事かよ! クソが!)

82名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 04:17:26 ID:C0RcvdDk0

(#゚∀゚)(唯一無二の存在はなにもビロードに限った話じゃねえ。
     俺も、同じだ! 俺は意思を保つ感染者じゃねえか!
     イカれたマッドサイエンティストからして見りゃ、これ以上ない研究対象って訳か……!)

 自惚れ端々しいと自虐的に笑みを浮かべるが、辻褄は合う。
 歯をぎりりと鳴らすジョルジュ。
 少年が痛がっている事に気づかず怒りにわなわなと震えた。

(#゚∀゚)(化け物になる覚悟は出来ちゃいるが、化け物に仕立て上げられるつもりはねえ。
     クソつまらねえ目論見を企てた事を後悔させてやるぞ、モララー・スタンレー……!)

(;><)「い、痛い、痛いんです!」

 ビロードは思わず声を上げてしまう。
 ようやく我に返り、ジョルジュはビロードの手を解放した。

( ;゚∀゚)「す、すまねえ。大丈夫か?」

( ><)「……それはこっちの台詞、なんです。大丈夫ですか? ジョルジュさん……」

 ビロードは眉を顰めた目で見つめ、そう言った。
 するとジョルジュは強い衝動に駆られてビロードの胸倉を掴みあげた。
 ひっ、と、ビロードは怯えた声を洩らすも、ジョルジュは少年に容赦なく怒りを吐き出した。

83名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 04:18:43 ID:C0RcvdDk0

( ゚∀゚)「……水臭ぇな。仲間だって言ったろ?
     少なくとも俺は、二度とお前をガキ扱いしたりしねえ。お前は自分の意思を貫ける強い奴さ」

( ゚∀゚)「いいか、ビロード。よく聞け。人ってのは一人じゃ生きていけないもんだ。
     一人で抱え込んじゃ何も解決出来ない事は腐るほどある……俺だってそうだ。
     だから、困った時ぁ俺達を頼りな。じゃなきゃ、どこかのクソサイボーグみたいになっちまうぜ」

 一言一句、己を戒めよう言ったものであった。
 なんと愚かで、なんと情けなかったか、その二言がジョルジュの心を埋め尽くしていた。

 自棄になるな。まだ化け物らしい化け物になると決まってはいない。
 まだ奴等の研究資料にもなっていない。
 仲間がこんな化け物の為に身を窶して戦ってくれている。
 彼等に報わなければならない。この少年を守り抜いて、報うのだ。

( ><)「…………ジョルジュさん、ありがとなんです!」

( ゚∀゚)「こちらこそだよ、ビロード。さあ行こう。もう少しでゴールだ」

 嘘のない笑顔を眺めながら、フェイスカバー越しにジョルジュも微笑む。 

 再び少年の小さな手を引いて、ジョルジュは合流ポイントへの移動を再開した。
 辺りを慎重に見回した後、物影から飛び出す。

84名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 04:20:31 ID:C0RcvdDk0

( ;゚∀゚)「なっ――――」

 その時、頭上で衝撃音が鳴り響いた。
 冷や水を浴びせられるよりも、ずっと冷ややかな感覚が全身に走る。
 直後、心臓が激しく動き、一気に全身が熱を上げ、目が眩むのを感じた。

 突然の発砲に硬直した彼等の頭上に、コンクリの破片がパラパラと降りかかる。
 路地のずっと先に見える大通りに、ジョルジュとビロードは視線を走らせた。

( ;゚∀゚)「……クソッタレ……」

(;><)「そ、そんな……」

 そこには銃を携えたクローン兵が立ちはだかっていた。
 直ちに周囲に不穏な物音が連なって響く。
 前方、背後、高所。
 瞬く間に配置を完了させ、ジョルジュ達の退路を断ったクローン兵が警告する。

(  〓 )「逃げ果せたと思っていただろうが逆だ。貴様等は追い込まれていたのだ。
      観念しろジョルジュ。ビロードを引き渡せ。
      そうすれば貴様も無傷で逮捕してやる。これは取引だ」

( ;゚∀゚)「くっ……」

85名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 04:22:23 ID:C0RcvdDk0

(;゚∀゚)(……前方の敵はざっと5人ってところか……どうにか切り抜けられる数だ……やるしかねえ……)

(;゚∀゚)「……ハッ。無駄な抵抗は止せってか」

(;゚∀゚)「街には俺達しか残ってねえ。てめえ等は容赦なく獲物を扱えるつもりだろうが、
     ビロードには手を出せねえんだろ? こちらにはまだ、利があるぜ」

(  〓 )「その期待には沿えんな。
      あくまで我々は、生きた状態でビロードを連行しろと、そのように命令されている」

(;゚∀゚)「ビロード! 伏せてろッ!」

(;><)「は、はいッ!」

 ジョルジュは黒いロングコートに隠し持っていたマシンガンを取る。
 そして身体を躍動させた――――――その瞬間、

86名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 04:26:15 ID:C0RcvdDk0

(; ∀ )「があああああああああああああああああああああああああ!?」

 突然、ジョルジュは叫び、無様な格好で転がり回った。
 痙攣とは呼べぬほど全身を大きく波打たせ、息苦しそうにスーツの首周りを引掻いた。
 手先には掻く爪や鋭利な物など持たず、尽く滑った。
 丸みを帯びたグローブでいくら掻いても苦しさから解放されず、今度は腕に付けられたポッドを地面に叩きつけた。
 ブーンの細胞と血から作った抗体を注入するポッドを、力のまま叩きつけた。

(;><)「ジョルジュさん!?」

「うがぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 ポッドは頑丈だ。
 これまで幾度となく自室の壁や地面に叩きつけていた。
 皹の一つも入らないのをジョルジュは思い知っている。

 それでも、やめられない。いや、早く、破壊しなければならない。
 なにかがくる。ナニカガ―――――

 震える手で必死に握ったマシンガンをポッドにあてがった。
 だが、ショック吸収に優れたポッドは弾丸の勢いを完全に殺し、虚しく地に転がった。
 怒りのままにマシンガンを投げ捨て、ジョルジュは再びポッドを地面に殴りつけ始めた。

(  〓 )「……IRON MAIDENの抗体注入か。戦闘状態に移行したのと同時だったな」

 無様にもがくジョルジュに対し、銃口を向けてクローン兵士の一人が無感動に呟いた。

87名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 04:27:56 ID:C0RcvdDk0
 ジョルジュは悶絶し狂ったように叫び続けている。
 彼女の声は音として耳に入っていた。
 ジョルジュには、何と言っているのかまるで分からない。
 今のジョルジュには耳障りなノイズにしか聞こえなかった。

 視界も現実とは思えないほど酷く歪み、ジョルジュは胃の中の物を――液体化食料でありほぼ水分――を血反吐と共に吐いた。
 フェイスカバーと一緒くたに顔面が汚れるが、そんな事に気を留められぬくらい、痛みは激しさを増していく一方だった。

 クローン兵士No87は、そんなジョルジュに蹴りを入れて仰向けに転がした。
 次いで、銃口をフェイスカバーに打ち付けるようにして当てた。

(  〓 )「ウィルスは貴様の意思に応じ、反応を見せた。
      だがしかし、貴様はもうウィルスをコントロールしているようには見えん。
      貴様は、ウィルスに支配されてしまったようだな、ジョルジュ」

「あ゙ぁぁぁああああ! ぐ、が、あ、ああッ! ああ、お゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ!!!」

(  〓 )「ギコ・アモットが既に強靭な意思によるウィルス制御を見せている。
      だから貴様はもう、サンプルとしても市民としても、存在する意味を失ったのだよ」

(  〓 )「ジョルジュ・ジグラード、貴様をセカンドと見做し処分しよう」

 No87が指をトリガーに掛けた。


(  〓 )「死ね」

88名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 04:32:15 ID:C0RcvdDk0
 まさに引き金を絞ろうとした時、彼女の視界から銃口が突然消え去った。
 間髪入れず、血飛沫がフェイスカバーを汚し、視界の八割が赤く塗り替えられた。
 不可解な現象に一瞬思考を止めるが、肘から先が妙に軽くなった事に猛烈な違和を覚え、No87は腕を掲げた。

(  〓 )「何……貴様……」

 肘から先がなかった。
 心臓の鼓動に合わせ、歪な断面から血が飛び出ている。
 数瞬遅れて情報シェアは行われ、彼女と彼女達は一斉に腕の行き先を目で辿った。
 とあるクローン兵士の足元に、びゅうびゅうと勢いよく血を噴出す奇妙な肉片があった。

(  〓 )「がふぁ!?」

 気を取られていると今度は腹に高熱を得た。
 痛みなど一切感じないが生理的現象は押さえ切れず、声と血を吐き出したのだ。
 クローン兵士No87特に臆する様子も見せず腹部を見る――黒いスーツに覆われた腕で貫かれていた。

 ずるずると、腸が引っ張り出される。
 その力に引き寄せられたNo87は体勢を崩して不恰好にジョルジュへと覆い被さった。
 すると、もう一度、背から手が突き抜けた――――手先に、長い爪がある。

 骨のような物で刺々しく突起した手が握り掴むのは、心臓。
 まだびくびくと鼓動を続け、千切れそうな血管に血液を送っている最中の心臓。

「ううぅぅぅうううあああああがああああああッ!」

 “それ”は叫喚をあげて彼女の心臓を握り潰し、完全に脱力したクローン兵士を投げ飛ばして、立ち上がった。
 爪を自分のフェイスカバーに突き刺し、力任せにマスクを切り払った。
 そして、同様に、忌まわしいポッドもスーツから切り落とした。

89名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 04:34:01 ID:C0RcvdDk0
「ふう、ふう、ふう、ふう、」

(;><)「ジョルジュ、さん……?」


「う、ううう、ううううううううッ!」


 枷、IRON MAIDENが切り裂かれ現れたジョルジュの姿は、

 人に限りなく近いだけの、決して人と呼べる物ではなかった。

 銀に輝く髪は元より色素操作により人為的に手を加えられたもの。
 しかし感染前には小奇麗に切り揃えてられていた短髪が、腰に届くまで伸びていた。

 肌は病的なまでに白く、黒がかった血が流れる血管が浮き出、
 顔や二の腕には禍々しいタトゥーが彫られているようである。

 瞳は焼けるように赤く、口元には牙が見える。

 背がぼこぼこと蠢いている。
 数秒、気味悪く波打った後、鋭い突起が立って、スーツを破った。

 赤い翼であった。
 闘病生活の中、有り余るほど膨れ上がっていた筋繊維と背骨が作った、肉の翼だ。
 肉の翼は血を滴り、不気味なほど深い赤みを帯びている。

90名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 04:34:58 ID:C0RcvdDk0

 翼が、ゆっくりと大きくはためく。
 もう一度大きく、今度は鋭く上下し、纏わりつく血を払った。



《あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あああああああああああああああああああああああああああああ!!!》



 そして、叫んだ。

 今度は激痛に苛む叫びではなく、それ以外の何かを発散するような――――

91名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 04:36:22 ID:C0RcvdDk0



ミ# Д シ《あ゙あ゙ぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!》



 それは自由を取り戻した歓喜の叫びか。
 それとも、理性を失った暴虐なる獣の咆哮か。


(;><)「あ、ああ…………」


 少なくともビロードには、あの優しくも厳しいジョルジュとは思えなかった。

 ビロードは無意識の内に、今のジョルジュを「彼」に重ねた。

 自分自身の母親代わりでもあり、そして彼が心から愛していた者――――シーケルト・ゴソウ、
 彼女をブーンに奪われ憎悪に狂ったかつての兄分、ギコ・アモットの姿と。


ミ# Д シ《グルルルルルゥゥゥゥゥ…………》

92名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 04:37:08 ID:C0RcvdDk0
 ――――第4階層、第17番アベニュー、某オフィスビル屋上。

(;´・ω・`)「クソッ! やはりセカンドウィルスの熱量反応だったか! 最悪だ!
       考え得る最悪のケースが起こるなんて……クソ!
       やはり敵の狙いはこれだったのか!?」

ノハ; ⊿ )「……そんな……」

 高所からスナイパーライフルを構える、ショボン・トットマン、ヒート・ダイムバッグの2名は戦慄していた。
 守るべきジョルジュがセカンド化したという事実、市内でセカンドが発生してしまったという、事実に。
 銃口を向けるべき狙いが定まらない。ポインタはクローン兵とジョルジュの間で揺れ動いている。

ノハ; ⊿ )「ショボン、教えてくれ。私は、どっちを攻撃すればいい? どっちを」

(;´・ω・`)「それは…………」

ノハ; ⊿ )「教えてくれ! どっちを、どっちを殺せばいい!?
      アンタが選んだ方を私が殺す! 私が殺してやる!」

(;´・ω・`)「僕に聞くな! 引き金を引くだけで済ませようとしやがって! 僕に、選ばせるんじゃない……!」

(;´・ω・`)「それに、まだだ! 焦るには早い! 可能性が潰えた訳ではないんだ!」

ノハ;゚⊿゚)「――――そうか! ギコ・アモットのように……!」

(;´・ω・`)「なってくれればいいが、議会がどう判断するか……チッ! 堂々巡りか!
      どちらを……我々は、どちらを攻撃すればいい……!?」

93名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 04:39:27 ID:C0RcvdDk0

 ――――広大な『セントラル』の何処か、フォックス・ラウンジ・オズボーンのアジト。 


爪'ー`)y‐「……おや? 突然、映像が回復したぞ……もしや進展があったかな?」

爪;'ー`)y‐「……おお! おお、ジョルジュ! ジョルジュ・ジグラード! 拘束を遂に解いたか!
       我が右腕モララーよ! よくぞ彼をここまで追い込んだ! 褒めてつかわす……」

爪'ー`)y‐「のはまだ早いか……逸るな、フォックス。ふー…………。
      ここからが見物なのだ、ここからが……フフフフフ………」


爪'ー`)y‐「人の意思を保ったままの人間、サードになれなければ、それまでだ。
      ジョルジュ・ジグラード、足掻くがよい。そして私に見せてみろ!
      貴様が私の想像通りの人間ならば! 人類の希望を見せてくれるはずだ!」

爪'ー`)y‐「……ふー……」

爪;'ー`)y‐「にしても……凄まじい変異を遂げたな。呆れたパワーよ。
       人形が文字通り人形扱いされているではないか。
       本当に暴走されたら現存のHollow-Soldierの数では制圧できんぞ……」

94名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 04:41:14 ID:C0RcvdDk0

 ――――第3階層、議会堂3階、第2会議室。


(;・∀・)「は、ハハハハハハッ! よくやった! Hollow-Soldier!
      さあジョルジュッ! 足掻け! 足掻いて、お前はサードにふぐおぉぁッ!?」


ξ# ⊿ )ξ「ふざけるな!!」

 哄笑するモララーの口に思い切り爪先を叩き込んだツン。
 燃え滾る怒りに瞳を潤ますが、その目は憎きセカンドを見る時以上に歪んだ形を作っている。

(;・∀・)「フッ、ブフッ! フハッ、ヒッハッハッハッハッ………!」

ξ#;⊿;)ξ「くっ……」

 モララーは口と鼻から夥しい血を流しながらも笑い続けた。
 抱腹の思いが込み上げて止まらず、肉体を刺していた激痛すらも忘れていた。
 そしてモニターに映る変わり果てたジョルジュを見つめ、己と主の願望の成就を祈る。

 モナーは醜く笑い続けるモララーを侮蔑の目で一瞬睨みつけた後、

(;´Д`)「ツン君……緊急事態につき、容赦してくれ。
       ブーンを、ブーンを出撃させて欲しい……」

 苦渋のその判断を、ツンに請った。

95名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 04:45:00 ID:C0RcvdDk0

ξ; ⊿ )ξ「モナーさん、それは」

(; Д )「分かっている! 分かっている……だが……!」

 セカンド狩りに恐ろしいまでの執着を見せるブーンに、その手の頼み事をするのが気が楽だという依頼人の数は知れない。
 モナー・ヴァンヘイレンも気づけばそうであったし、総統となった今後は特に彼に頼ろうと考えていた。
 彼はこの5年間のどんな時よりもセカンドを容赦なく駆逐してくれるだろう。

 それでも、この依頼だけは避けるべきだと常に考えていた。
 この依頼だけはあってほしくないと、祈っていた。

 ジョルジュが感染したと報じられ、どうにかして彼の保護方法を模索した。
 これに関し、ツン博士、ハインリッヒ博士の両名が手がけた“IRON MAIDEN”は良い助けとなり、決め手となった。
 結果、監視付きの居住という名目で、彼の『セントラル』居住願いを通らせる事も出来たのだ。

(; Д )(なのに、何故だ……何故こいつは、こんな真似を……!
       それが科学者のする事なのか! お前達は、人を導くのが役割のはずだろう!?
       それが、どうしてだ……)

(; Д )(こんな、狂った科学者に片棒を担がせた私が愚かだったのか……
       もう少し早く、コイツを排除していれば……いや、だが、
       モララーという断行者がいなければ『セントラル』は荒巻の毒牙に掛かったままであった)

(; Д )(私は、それを代価とは呼ばんぞ…………責任は、必ず…………)

96名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 04:51:50 ID:C0RcvdDk0

(; Д )「……ツン君。万が一の事もある。もはやクローン兵を持っても彼には歯が立たんだろう」

(; Д )「ブーンを、B00N-D1に、出撃要請を」


ξ; ⊿ )ξ「…………分かりました」


 ツンは携帯端末の液晶パネルにタッチし、ホログラムを虚空に投影させる。
 小さなウィンドウの片隅に書かれた宛名はホライゾン・ナイトウ。
 コール音が、しばらく響く。

 8回目のコール音の末、通信先から無言が流れた。
 ウィンドウはブラックアウトしたまま。
 映像の送受信を先方に拒否されたようだ。

 恐る恐る、ツンが切り出す。

ξ; ⊿ )ξ「ナイトウ、聞こえる? 緊急事態よ。ジョルジュさんが――」


『分かってる』


 弾丸よりも鋭く空気を切り裂くような、そんな声であった。

 普段のあの間抜けた調子を伴っていない。
 怒気といった激情を抱えているはずと場の誰もが想っていたが、恐ろしいまでに静かな一言であった。

97名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 04:52:46 ID:C0RcvdDk0

 しばしツンは呆然と真っ黒な画面を見つめた。
 心臓が激しく鼓動し始めた事に気づかないほど、ツンは圧倒されてしまったのだ。
 彼の無念の怒りによってか、それとも、悲しみだったか。
 伝わって来た感情と意思は分からないが、ナイトウが激情に滾っているのだけは確かである。

ξ; ⊿ )ξ「…………そう、状況は把握しているのね。
       総統閣下の命令も直々に下ったわ……出られる? そう、何とか出られるのね? 分かった……。
       それから……うん、ハインには絶対に言わないようガイルさんに伝えて」

ξ; ⊿ )ξ「ではミッションを通達するわ。
       ブーン、直ちに第4階層17番アベニューへ。
       ビロード君を救助なさい………そして…………」

 そしてツンは唇を咬み、断腸の思いで命令を下した。

98名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 04:53:29 ID:C0RcvdDk0




『そして……判断はアンタに委ねる。
 目標、ジョルジュ・ジグラードがセカンドだと判明次第、ブルーエネルギーを持って抹殺しなさい』



「了解。B00N-D1……」


(  ω )「……出撃する」



 ――――第3階層、チーム・ディレイク、ラボ。

 四肢の着工を終えていないボロボロのサイボーグは、
 愕然と立ち竦むドクオを見据え、そう告げた。




                            第37話「解かれた拘束」終

99 ◆jVEgVW6U6s:2012/02/14(火) 04:57:03 ID:C0RcvdDk0
以上、第37話でした。
次の投下は2月終わりから3月頭を予定してます。

100名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 06:25:29 ID:y1tbxecY0
きてた!おつ

101名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 06:39:21 ID:PK/rBNncO
乙トーイ!

凄まじい展開だな……
これでようやくジョルジュの件に片が付くのか

果たしてどうなるのか、期待して待ってます

102名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 09:37:41 ID:LRbkkUUI0


103名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 17:47:07 ID:qmuzufu20
おっつー

104名も無きAAのようです:2012/02/15(水) 13:03:32 ID:pu5pdFDYO
モナー大したやつだな

105 ◆jVEgVW6U6s:2012/02/16(木) 00:00:27 ID:cO6rHEl60
ふと読み返してたら・・・修正です
>>79

×
(;・∀・)「フ、フフフッ! さてさて! どうなったかなぁ!? ジョルジュ君!!
      つまらん結果だけは見せてくれないでたまえ! アッハッハッハハハハハハ!!」


(;・∀・)「フ、フフフッ! さてさて! どうなったかなぁ!? ジョルジュ君!!
      つまらん結果だけは見せんでくれたまえ! アッハッハッハハハハハハ!!」


日本語でおk

106名も無きAAのようです:2012/02/16(木) 01:46:51 ID:AtbfmGtoO
ちょっと前に合作でこの作品を知って一気に読み上げてここまで追いついた!
モナーさんがいい人でよかった…
あーとにかく色々かっこよすぎる! 乙!!

107名も無きAAのようです:2012/02/19(日) 11:37:57 ID:m4IX3fEEO
かなり遅れたけど乙でした!

108名も無きAAのようです:2012/02/20(月) 23:18:00 ID:dqTOKAPEO
( ´ω`)ジョルジュ…

109名も無きAAのようです:2012/02/23(木) 07:04:09 ID:sZtLRklkO
一週間かけて読破してきた!気になるところで追いついちまったぜ…ジョルジユが生き延びることを祈って乙

110 ◆jVEgVW6U6s:2012/03/01(木) 17:36:24 ID:M92hnJG20
>>109
ここまで読破するのに一週間・・・だと・・・!?
手軽に読めない長い作品になったんだなーなんて感じるレスでした

まだまだ続きますが、最後までお付き合いいただければ幸いです

ってことで第38話投下!

111名も無きAAのようです:2012/03/01(木) 17:37:22 ID:M92hnJG20
〜あらすじ〜


ィ'ト―-イ、
以`゚益゚以「イトーイ!!イトイトットトトイトイトイトーーイ!!
      イイイイトトトトトトットトオトオイイイイトイイトイイトーイ!! イイイイットトトト!!! トットットットトトトトトト!!
      フウウウオオオオオオオオオオオオオイトーーーーーーーーインンァアアアアアアアアアアあああああああああ!!!」


ィ'ト―-イ、
以`゚益゚以「わんわん!わんわん!わんわん!わんわん!わんわん!わんわん!わんわん!わんわん!
      わんわん!わんわん!わんわん!わんわん!わんわん!わんわん!わんわん!わんわん!
      わんわん!わんわん!わんわん!ちんちん!わんわん!わんわん!わんわん!わんわん!
      わんわん!わんわん!わんわん!わんわん!わんわん!わんわん!わんわん!わんわん!」



ィ'ト―-イ、
以`゚益゚以「…………」





ィ'ト―-イ、
以`゚益゚以「詳しくはまとめがございますので、そちらをご覧ください」

112名も無きAAのようです:2012/03/01(木) 17:39:22 ID:KQZ47c8k0
我々は君を待っていた!!

113名も無きAAのようです:2012/03/01(木) 17:41:47 ID:M92hnJG20

 情報とは何よりも重要視される存在だ。

 例えば偏に水を指してもそれがどんな水であるかは不明だ。
 美味いのか、不味いのか、はたまた人体に悪影響を及ぼす汚染水なのか。
 深刻な渇きに耐え切れずに手を出した水がもしも毒であったのなら、それは元も子もないというものだ。
 そう否定する一方で、勇や好機に鼓舞した者による検分、経験が情報となるのだ。

 しかし何らかの形で伝達、収集されなければ意味を成さないのが情報だ。
 それに託けて独占を目論む者すらいる。
 いずれにせよ、情報とは自分と他人の行く末を決定づける物である。
 迅速な伝達を可能とした現代社会においては、情報取得に疎い者、怠る者を淘汰する一つの物差しとなるのだ。
 
 ――――感染の可能性がある。
 そう報じられた市民において最重要視される情報が“場所”と“現状”の2点であった。
 何処が危険区域なのか、何処の避難場所が既にキャパを超えたのか。
 議会と対セカンドチームのセカンドウィルス除去の状況は、現状どうなっているのか。

 第4階層に取り残された市民の行く末を決定づける、即ち死活問題である。
 それら情報の精度と、早急な伝達に、彼等は飢えていた。そして、怯えていた。

 尤も、この状況は第4階層に限定されている。
 一つ上と下の第3第5階層の者は、復旧されたネットワークを趣味などに利用したかったに違いない。
 事実、事態を知らぬ者達は何事もないような顔でそうしようとしていた。

 だが口コミの伝播速度というのは素早い。
 メディアが情報規制を掛けて速報を流そうとも、網目を抜けるようにして情報は拡散していった。
 すぐに趣味、仕事そっちのけで市民全員が注目するようになった。

114名も無きAAのようです:2012/03/01(木) 17:43:31 ID:M92hnJG20


 "ジョルジュ・ジグラードが遂にセカンド化した"


 どのようなコミュニティにおいても人々は同じ話題で白熱していた。
 帰りを待つ妻子に一つ声息を送る者、友人恋人の安否、恐慌状態を楽しむ者、好機に鼓舞し街を出歩き実況を試みる者……。
 と、情報はあらゆる形に変えられてネットワークを介し、『セントラル』全体に広まっていった。
 憶測が飛び交うようになり、やがては尾ひれが付き、人々はますます疑心暗鬼に陥っていった。

 しかしその内、話題は一つの事柄に絞られるようになる。
 その発端となった質問は、

「B00N-D1は何をやっているんだ?」、という短い内容であった。

 呟きに等しい一つの書き込みが果ては論争へと発展し、ネットワーク利用者の6割がブーンについて議論を交わした。

 果たして彼は戦えるのだろうか。
 損傷は修復できているのか。
 彼は実の友人を殺せるのだろうか。
 彼はセントラルを危機から救ってくれるのだろうか。

 やがて市民の想いは一つに共通する。

 "ブーンよ、セカンドウィルスを街から消し去ってくれ"と。

115名も無きAAのようです:2012/03/01(木) 17:48:20 ID:M92hnJG20

 ――――第3階層、チーム・ディレイク・ラボ、メンテナンス室。

 
 出撃する。

 分厚いガラスで隔離されているブーンが、はっきりとドクオにそう言った。

 数え切れぬ諍いを共にし、だからこそ絆の深い友人となった彼を、抹殺しろという残酷な令を反発せずに受けたのだ。
 燃えるような怒気を孕んだ何と鋭い目つきは、しかし氷のように冷ややかでもある。
 親殺しのセカンドを見つけると躍起になっていた近寄りがたい頃のブーンの目だ。
 ドクオはその迫力に呆然としていると、耳に装着したヘッドフォンに流れた深沈な声にはっとした。

(  ω )「何してんだお、ドクオ。早く現場に向かわないと」

 ドクオはたじろいだ。

 ブーンの落ち着いた調子は、だからこそ逆に焦りを伺えるものだった。
 誰かに言われずとも、事態は深刻で急を要しているのは分かる。
 だが、四肢の着工を終えていないブーンを今出した所で何が出来るというのだ?
 一つだけ戦う手段は残されているが、出来ることなら「アレ」の使用は避けたい。
 
(;'A`)「……無理だ! 歩くこともできねえのに! 俺が連れてけって言うのか!?」

(# ω )「BLACK DOGⅡがあるだろう! 僕はまだ戦える!」

(;'A`)「……やっぱそれに目をつけてたか……」

 悪い予感が的中し、ドクオは項垂れて油っこい頭を乱雑に掻いた。
 ドクオは黙考する。
 このまま、閉じ込めておくべきか? と。

116名も無きAAのようです:2012/03/01(木) 17:50:41 ID:M92hnJG20

 ブーンという男は後先を考えぬ直情的な男でもある。
 これまでオペレータとして彼を支えてきたドクオは彼の性格をよく理解していたし、昔話を聞かされより理解を深めた。

 そして先日の演説で表明した確固たるセカンド狩りへの意思。
 ブーンは己が身に何が起きようと這ってでも奴等を狩り殺すだろう。
 先日の戦いでは脳へのダメージを負いはしなかったが、あのような無茶な戦いを続ければ、いずれ障害を患うだろう。
 任務に私情を挟んでいないと言えば嘘になるが、肝心の戦闘員の肉体を軽率に乱費させるのは考え物だ。

 ドクオはそれを懸念し、アーマーシステムの使用を控えたかった。
 友の身を慮るのが私情と言われればそれまでだが。

(  ω )「安心するお。無茶苦茶な戦いはしない」

(;'A`)「ブーン……」

 しかし、ブーンはまるでドクオの心を見透かしたかのように告げた。
 刺々しさも消え去っている。

(  ω )「それにジョルジュさんがまだセカンド化したとは決まってないお」

(;'A`)「……そうか! ギコの例がある!」

(  ω )「ギコさんは稀な例だと思いたかったお。
      じゃなかったら今頃世界中がセカンドと人のハーフみたいな存在で溢れかえってるお。
      でもジョルジュさんはギコさんの実態……いや、抗い方を知っているから、もしかすると……」

(;'A`)「可能性は残っているって訳か……!」

 頷き、肯定するブーン。
 ドクオを説得した一方で、ブーンもまた、その僅かな可能性に縋りたい者の一人である。

117名も無きAAのようです:2012/03/01(木) 17:55:55 ID:M92hnJG20




  「半年後か一年後か、あるいは一ヵ月後かもしれねえ。
   とにかく、俺がセカンドになった時は、俺を撃ってくれ」



 ブーンはボストンに出立する際、ジョルジュにそう頼まれていた。


(  ω )(お願いだ、ジョルジュ隊長……どうか、無事でいてくれお……)


 今がその時だとは、信じたくなかった。
 その時が来るとは、信じたくなかった。

(; ω )「だから、早く出してくれお! 僕はこの目でジョルジュさんを見守りたい!
      クローン兵の攻撃も心配だお! それに……」

 そしてもう一つ。
 そのボストンで死したパートナーより託された遺言があった。


  「一時パートナーは休止だ、若いの。ビロードを、頼むぞ」



(; ω )「あそこにはビロードもいる……助けてやらなくては……!」

118名も無きAAのようです:2012/03/01(木) 17:57:31 ID:KQZ47c8k0
Ⅱの性能が気になる所

119名も無きAAのようです:2012/03/01(木) 18:00:35 ID:M92hnJG20

(;'A`)(……スネークさんの遺言、か……)

(;'A`)「わ……分かった! おい! 誰かBLACK DOGの準備に取り掛かってくれ!」

 スタッフ2名が両脚パーツの調整作業を中断し、公共格納庫に向かった。
 ドクオはブーンの寝台の周囲に目を配らせながら手元のタッチパネルに素早く打ち込む。
 次々とブーンの肉体に繋がれていた配線が外れてゆき、
 まるで動きを封じ込めるように突きつけていたドリルやカッターも本来の位置へと成りを潜めた。
 そうして寝台には、黒色のパンツ一枚を身につけた裸体のブーンのみが綺麗に残った。

(;'A`)「よし……ブーン、外に行こうか」

(; ω )「ああ、頼むお。早くしてく――――」

 その時、ブーンはガラス越しに起こった異変を見て声を失った。


ガイル「動くな」

 ドクオの頭部に銃を向けるガイル。

 実弾を撃ち出す自動式拳銃を片手で構えるガイルはいつになく軍人然としていた。
 敵兵を容赦なく撃ち殺す冷酷な兵士そのものに見える。
 額を濡らす油汗を除けば、だが。
 事実、ガイルは自分の行いに恐怖を感じていた。

120名も無きAAのようです:2012/03/01(木) 18:01:52 ID:M92hnJG20

(;'A`)「……ガイルさん、どういう、つもりですか?」

 反射的に諸手を挙げたドクオだが、真っ当な対話をする余地があると見、臆せず問うた。
 ブーンも、まだ銃は撃鉄すら上げていない事を確認し、彼の言い分を待った。
 尤も、彼が撃鉄を起こすかどうかは、自分の返答次第なのだろう事も理解している。

ガイル「まだ話はおわりじゃない! そうだろう!?
    万が一が起こった場合、ブーン! お前はどうするつもりなんだ!?
    隊長が、ジョルジュ隊長がセカンドになっちまったら――お前は、本当に殺すのか!?」

ガイル「答えるまでは、行かせる訳にいかねえ……!」

(# ω )「殺す……そう言ったら行かせる訳にはいかない、でしょう? ガイルさん」

ガイル「お、お前……!」

 スピーカーとガラスを越して伝えられた揺ぎ無い殺意に対し、ガイルは己が耳を疑う想いであった。
 前言撤回を求めるが如く撃鉄を起こし、本格的な射撃体勢で銃を構えた。
 もはや、ドクオを殺し、ブーンの脳を破壊してやりたい激情が彼の胸を満たしていた。

(;'A`)「ブーン……お前……」

 一方、弱弱しく吐いたドクオだが、何も発言の撤回を求めたく彼の名を呼んだのではない。
 後頭部をガイルに晒し、より無防備な格好となったのも、ブーンを直視したかったからだ。
 己が目を疑いながらも。

 遅れてガイルも気づいた。
 発言から汲み取った殺意とは程遠い、ブーンの寂寞な心境を。

 ブーンは、怒りに狂いもせず、ただただ悲しみを顔に張り付かせていたのだ。
 それはガイルを憐れむものではなく、もっと、何か別の理由を秘めているように見えた。

 二人は無言無動で彼の次の言葉を待った。

121名も無きAAのようです:2012/03/01(木) 18:02:47 ID:M92hnJG20

(  ω )「僕だってジョルジュ隊長を殺したくない。
      でも、誰かがやらねば彼が市民の殺戮に及んでしまう。
      セカンドとは生物の本能そのものだ。
      あらゆる欲望の衝動に駆られ、躊躇いなく満たそうとする、生物の恐ろしい成れの果てだ」

(  ω )「そんな化け物になってしまうジョルジュ隊長を、ガイルさん、貴方はどうしたい?
      外へ逃がしてやりたいんですか?
      それとも幽閉したいのですか? 街で暴れぬよう、理性のない肉食の動物を飼い慣らすように」

ガイル「ふざ、けるな……! 俺は、俺はそんなつもりで言っているんじゃ……」

(# ω )「では、どうしたいのですか!?」

ガイル「お、俺は……」

(# ω )「それとも、抹殺命令に対し了解を唱えた僕に怒りを抱いているのですか!?
      貴方だって命令で人を殺す職を生業とした軍人だったはず!
      地上の感染者だって元は人であった者が大半だ! 今更奴らを人間として見るのですか!?
      貴方はただ、差別したいだけだ! 他の感染者とジョルジュ隊長を!」

ガイル「あ、当たり前だ! お前はセカンドとなったコイツを、ドクオを殺せるのか!?
    ツンを殺せるのかよ!? 俺にはそんな非道なマネ、無理だ! それなら、いっそ――」

(# ω )「全員で心中するべきだとでも言うのか!? ふざけるな!!
      何のために今日まで人々が生きて来たんだ!?
      再び地上に出るのか、治療法を見つけるのか、それともただ生きていたいのか、
      目的はどうだっていい! 貴方だって『セントラル』の為に戦ってきたはずだ!」

(# ω )「何の為にハインリッヒさんは実兄を亡くしたんだ!? 言え! ガイル!」

ガイル「だ……黙れッ! 復讐の為に生きてきた奴が綺麗事を!」

122名も無きAAのようです:2012/03/01(木) 18:05:02 ID:M92hnJG20

(#'A`)「ブーンはもう復讐の為なんかに戦ってるんじゃねえ!!
    俺達やアンタの為にセカンドを倒すと、言ったんだ!」

ガイル「自分の罪滅ぼしの為にな! そうだろう!? ブーン!」

(#'A`)「違う! ブーンはなぁ、アンタがジョルジュさんを想うのと同じように戦おうっつってんだ!
    何でそれがわからねえ!? 話にならねえな! こんな茶番はもうヤメだ、ヤメ!
    アンタにゃ俺を殺せねえようだしな……遠慮なく行かせてもらうぜ」

 ドクオは銃口を無視し、ブーンを隔離する手術室へ通ずるドアに近づこうとした。


( ;゚ω゚)「ドクオ、危な―――――――」


 瞬間、2種類の銃声が室内に鳴り響いた。

 ガイルが握る銃は硝煙を上げている。


ガイル「うあッ!?」


 しかし、崩れ落ちたのはドクオではなく、ガイルその人であった。

ガイル「……何故、アンタが……」

 義足の右膝が上げる煙越しに見える者に、ガイルは怯えを潜む目を向けた。

123名も無きAAのようです:2012/03/01(木) 18:06:07 ID:M92hnJG20

 場は時を止めたかのように静まり返り、銃撃の余韻が煩いほどに残る。
 一斉に後方へと3人は視線を注ぐが、ドクオを救ったその人物はいつもと何ら変わらない調子で言った。


「ったく、廊下まで響いてきたぜ。お前の恥ずかしい言葉の数々がよ」


 指先でくるくると銃を回した後、白衣のポケットに銃を収めた振る舞いは慣れたものであった。


从 ゚∀从「まさか週3回通ってる射撃訓練の成果が、こんな形で出ちまうとはな。
     よりによって撃ったのが他ならぬ仲間っつーのは……今だけはスカっとするもんだが、
     二度としたくないもんだぜ」


ガイル「な、何故だ!? 博士! 何故アンタがここにいる!?」

从 ゚∀从「インフラが再稼動してからネットはジョルジュの話題で持ちきりだぜ。
     私のラボでも同様、嫌でも耳に入っちまった」

ガイル「そ、それなら何でアンタがコイツらを止めないんだ!?」

(;'A`)「そ、そいつだけは同感だ、ガイルさん。正直この人だけにゃ殺される覚悟だった。
     尤も、アンタが本当に俺の頭でも撃ち抜こうとしていたのかどうかは聞かないでおくけどよ」

124名も無きAAのようです:2012/03/01(木) 18:08:38 ID:M92hnJG20

(;^ω^)「二人の言う通りだお。それにハインさん……アンタはジョルジュ隊長の事が――」

从#゚∀从「その先を言うんなら口に銃を突っ込んで黙らせるぜ!?
     そんなんじゃねえ。私はな、お前に頼みがあってここに来たんだよ」

(;^ω^)「頼み?」

从 ゚∀从「ああ……他でもないお前にな」

从 ∀从「……アイツがセカンドになっちまった時は、ブーン、お前が殺してくれ。
     私には、出来ない。それがお前にも酷だと承知の上で、頼みに来た」

从 ∀从「頼むよブーン。お前にしか、頼める奴がいない。
     万が一の時ぁ……私の兄、ミルナ・アルドリッチのように、送ってやってくれ」

(;^ω^)「ハインさん……」

ガイル「博士……本気か……」

从 ゚∀从「正気を欠いているように見えるか? 私は、本気だ」

 ハインの確固たる意思は、彼女の目の光が如実に証明している。

 ガイルは思わず、目を逸らしてしまった。
 それは場において負けを意味した。
 ガイル本人も、口には出さないも認めるしかなかった。
 もはやハインリッヒを反証する事は出来ないと悟ったのだ。

 ガイルは、愕然と手を着いた。

125名も無きAAのようです:2012/03/01(木) 18:10:39 ID:M92hnJG20
 
 項垂れ、床を呆然と見つめるガイルは、頭の中で延々と疑問を反芻していた。
 兄を殺されて吹っ切れたのは分かるが、ジョルジュは兄と同等以上の存在のはず。
 生き別れた兄の代わりとして見ていただろうし、女としてジョルジュを見ていたはずだ。

 それなのに、どうしてだ? どうして、殺すと決断できたのだ?

 ガイルには未だハインリッヒの心情が分からなかった。
 ハインリッヒ・アルドリッチがジョルジュに恋慕の情を抱いているのは、長い付き合いで勘付いているのだ。

从 ゚∀从「さあ、行こう。手伝うよドクオ」

(;'A`)「あ、ああ……助かる」

ガイル「待ってくれ。本当に、いいのか? それで……」

从 ゚∀从「……ガイル」


从 ∀从「ガイル……私は――――」

 6年前、メリーランド州で車を失い一人歩いてマンハッタンを目指すと言ったハインリッヒ。
 ジョルジュ達米軍残党が彼女をワシントンDCで拾ってから、今日までに至る彼等の関係は始まった。

 「命知らずの特攻野郎」の渾名を持つジョルジュは、北上中に度重なった戦闘でも特に活躍を見せた。 
 攻撃を決めたら相手がセカンドであろうと徹底的に攻撃し、
 逃げると決めたら非感染の暴徒――しかも女であった――から車を奪って逃げもした。
 その冷酷なまでの決断力に導かれる内、ハインリッヒは自然とジョルジュに惹かれたのだ。

126名も無きAAのようです:2012/03/01(木) 18:12:31 ID:M92hnJG20

 ジョルジュの決断力と行動力は、操る武器がバトルスーツとなった後もますます磨きがかって発揮した。
 バトルスーツを眺めるジョルジュの横顔は、玩具を与えられた無垢な子供のようでもあった。
 しばしばバトルスーツの調整について二人は話し合った。
 ハインリッヒにとってそれは最も心地よい時間であったし、心浮き立つ時間でもあった。

 意中の想い人が既婚の男で、妻を失った悲しみを戦闘で忘れようとしていたと知っていても。

 恋情はジョルジュが感染しても尚消える事はなかった。
 ガイルは、寝る間を惜しんで治療法を模索しているハインリッヒの姿を、時折見かけていた。
 普段は気丈に振舞っているが、誰もいないはずのラボからたまに嗚咽が響いているのを知っている。

从 ゚∀从「――――私は、アイツがセカンドウィルスに負けるような奴だと思ってない」

ガイル「博士……」

从 ∀从「だけど! アイツだって本当は……弱い人間なんだ。
     あれからも命知らずと謳われてたアイツは、実は嫁さんの事を忘れようと
     我武者羅に戦ってただけに過ぎないんだ……」

从 ∀从「もしかすると、心の何処かで死に場所を求めてたのかもしれねえな……」

 ハインリッヒは、そう言い、胸中に隠した「セカンド化の可能性」を露呈した。
 そしてガイルはようやく気づいた。
 それを懸念していたのは自分だけではなく、他でもないハインリッヒもそうだったのだと。

ガイル「……隊長の事はアンタが一番よくわかってるんだったな……」

 呟きに対しハインリッヒが頷いて見せた後、ガイルがドクオに向き直す。

127名も無きAAのようです:2012/03/01(木) 18:13:54 ID:M92hnJG20

ガイル「すまなかった。俺は、お前を撃つつもりだった。
    ……愚かだった。情けない。博士が止めてくれなければ、俺は……」

('A`)「いえ……気持ちは、分かりますから……」

ガイル「謝罪は後でいくらでもする……だから、今は俺にも手伝わせてくれ。
    煙が上がった膝だが、歩くのに支障はない。
    ブーンを、隊長の所に行かせてやってくれ!!」

('A`)「ガイルさん……」

('∀`)「……そういやあ、アイツの体って半端じゃなく重いんですよ。
    実は、一人でどうやって車椅子に乗せようか悩んでまして。
    屈強なガイルさんに手伝って貰えればなと思っていたんです」

( ^ω^)「お前の細腕でどうやって僕を運び出すのか楽しみにしてたのに」

(;'A`)「うるせえ! テメエは黙ってシステムの再チェックでもしてろ!」

ガイル「……ハハッ、喜んで手伝わせてもらおう」

从 ゚∀从「急ごう! 随分話し込んじまった! ケツに火が着けられたつもりで動くぞ!」

ガイル「「おう!」」('A`)

128名も無きAAのようです:2012/03/01(木) 18:15:03 ID:KQZ47c8k0
しーえーん

129名も無きAAのようです:2012/03/01(木) 18:16:43 ID:M92hnJG20
 命令を下されてから実に15分もの時間が経過していた。
 その事を誰も口に出さなかったが各々焦りを隠せずにいた。
 特にガイルは、ドクオに指示を仰いでからというもの口を一切開こうとしなかった。
 ブーンの為にと誰よりも動いていたのは要らぬロスを生んでしまった張本人だと自覚しているからだ。

 彼は、酷く落ち込んでいた。
 あのバトルスーツ隊隊長ジョルジュ・ジグラードがおぞましきセカンドになるはずがない。
 現バトルスーツ隊隊長を務めるガイルは、ジョルジュが感染した当初から今日までそう信じていたのだ。

 しかし心の奥底で燻っていた「悪い方の可能性」を、ふと思い出す日もあった。
 そして今日、その命運を別ける時がとうとう来てしまうと、ガイルは悪い想像ばかりするようになってしまったのだ。
 彼の慎重な性格は長所と呼べるが、それはマイナス思考という短所なんだと覆す事も出来よう。

 或いは、仲間を想う気持ちが誰よりも強い彼の、その優しさ故の凶行であったのだろう。
 そして彼がブーンとドクオに立ちはだかったのは、実はハリンリッヒの恋情を慮っての事であった。
 上司であるハインリッヒは、ガイルという男をよく理解している。
 だからこそ、ハインリッヒはブーンを侮辱したガイルを許せなかったのである。

从 ゚∀从「いつまでもショボくれてんじゃねえよ、DJテーブルが」

ガイル「博士、俺は……」

从 ゚∀从「いいって事よ。それに……な、ガイル。私は、感謝してるんだぜ?」

从 -∀从「……ありがとうな。アイツを、庇ってくれてさ……。
     街中がアイツを敵視してる中、お前はやっぱり味方だったな」

ガイル「ハ、ハイン博士ぇ―――――!!!」

从;゚∀从「うわっ!? やめ、ちょ、抱き着くんじゃ――いってええ!? お前の頭硬ってぇな!」

130名も無きAAのようです:2012/03/01(木) 18:17:55 ID:M92hnJG20

  ※

 結局、女手も借りて3人掛かりでブーンを車椅子に乗せ、彼等はラボを出た。
 ラボの出入り口を抜けた所で待っていたのは、チーム・アルドリッチ所属の戦闘員、春麗だった。

从 ゚∀从「悪いな春麗、突然自宅から呼び出してすまなかった」

春麗「いいえ。状況が状況ですし、私も居ても立ってもいられず自宅を出ようとしてたところだったので」

 外周に沿って段を成すドーナツ状の構造の廊下は、その何処に立とうと第3階層の街並みを一望する事が出来る。
 ドーナツ構造で対面に位置するアルドリッチ・ラボから此処に向かうには、本来アクセサーを用いている。
 しかし現在は停止中につき、空陸両用バイクで交通法を無視しての大胆なショートカットを余儀なくされたのである。

ガイル(……一時の迷いとはいえ、春麗にあんな姿見せなくて済んで、ほっとした……)

 ハインリッヒをここまで連れて来たのは春麗であったと気づいたガイルは、胸を撫で下ろした。
 密かに恋慕を抱く当の本人が先ほどの現場に居合わせたと想像すると、ゾッとした。

春麗「にしても、遅かったですね。ま、大方、ガイル隊長がブーンを止めようとしてたんでしょうけど」

ガイル「うっ、何で分かるんだよ……!?」

春麗「あら? 本当だったんですね」

ガイル「おい!」

131名も無きAAのようです:2012/03/01(木) 18:18:56 ID:M92hnJG20

春麗「ふふ……ま、そこが隊長の良いところでもあるんで……ハッ!!
   そ、それはさておき、今の状況を簡潔に伝えてますね!」

 何故か慌てて取り繕った春麗。咳払いした後、ブーンを見て切り出した。

春麗「確かな情報筋によると、両者はまだ交戦状態に入っていないようです。
   クローン兵は攻撃を開始せず、ジョルジュさんの様子を伺っているような状況みたいです。
   どうやらまだジョルジュさんは変異の途中らしく、その、何ていうか……」

 春麗は口を噤みながら、ハインリッヒの顔色を伺った。
 ハインリッヒは張り詰めた表情で、頷いて続きを促した。

春麗「セカンドに成り次第、攻撃を開始するのかと思われます。
   その理由は定かではありませんが、彼女達がモララー・スタンレーの配下であるのなら、
   研究の対象として、今は重要な瞬間なのではと、情報屋の間では持ちきりです。
   尤も、セカンド化したジョルジュさんをクローン兵が止められるか疑問されているんですが……
   だから今、市民がこぞってB00N-D1の出撃を期待しているんです」

 春麗はブーンに向き直し、更に続けた。

春麗「ブーン。私も一市民として貴方に問いたい。
   万が一の場合、貴方にジョルジュ・ジグラードを殺す覚悟はあるのでしょうか?
   セカンドとなったジョルジュさんに助力し、反旗を翻すなんて考えてないですよね?」

 数秒の沈黙の後、ブーンは口を開いた。

( ^ω^)「……春麗さん、いや、皆。
       ジョルジュさんの矜持を守ろうと胸の内に秘めておくつもりだったけど、言うお」

 一同息を呑み、次に吐かれる言葉に臨んだ。

132名も無きAAのようです:2012/03/01(木) 18:20:20 ID:M92hnJG20

( ^ω^)「ボストンに向かう日の事だったお。
       そうなった場合、俺を殺してくれと、ジョルジュ隊長は自ら僕に頼みに来たんだお。
       あの時から、ジョルジュ隊長は万が一の事も予見なさっていたんだお」

从 ゚∀从「そう、だったのか……」

( ^ω^)「だからこそ、ジョルジュ隊長は今日まで必死にウィルスに抗ってきたんだお。
       それでも、ハインさん、貴方が万が一の事を考えていたように、
       ジョルジュさんもその可能性を否定する事は出来なかった……だから、死ぬ時と場所を、僕に委ねたんだお」

(  ω )「だから、もし――――」



( ゚ω゚)「もし、今日がその時となるのであれば――――だから僕は迷わない!
      ジョルジュ・ジグラードが意思なきセカンドとなるのなら! 僕はセカンドとして彼を殺す!」



(;'A`)「……ブーン……」

 達磨の如き姿となったブーンは、その姿故に言い様のない殺意を放つのかもしれない。
 手足が捥げようと、このサイボーグは命ある限りセカンドに喰らい付くのだろう。
 チーム・アルドリッチの面々は勿論、車椅子を押すドクオも寒気を覚えた。

133名も無きAAのようです:2012/03/01(木) 18:24:32 ID:M92hnJG20

( ゚ω゚)「BLACK DOG!!」

 愛機が整備を終えたとリンク機能を介して知っているブーンは、地下の空に向けて声を発した。
 公共格納庫の方角から間もなく姿を現し、その駆動音は彼等の場の空気を尽く割った。
 オーナーの意思を感知した戦闘用可変型バイクBLACK DOGⅡが、星空色のボディを輝かせて現れた。
 子供も大人も超えられぬよう設置された高い鉄柵を、BLACK DOGは硬質且つ鋭利なボディでぶち抜き、主人の下に近づいた。

 バイクの規範を大きく超えた設計であると、見たままの大きさが証明している。
 コクピットもまた巨大だが、数多の制御装置やモニターパネルで埋め尽くされている為、搭乗者は一人に限られる。
 それでも達磨の如き姿の今のブーンには遊びの多くなった空間と化している。
 両者共に優れたバランサーを搭載しているとはいえ、足も着けぬ運転は危険であるだろう。

 従って、たった今からプログラムを起動しなければならない。
 ドクオが手を払い、周囲から離れるよう皆を促した。

(;'A`)「お前とBLACK DOGのバッテリーは充電済みだが、戦闘中を加味して稼動時間は10分が良いところだろう。
     それを過ぎればBLACK DOGは予備電源の使用に強制移行し、バイクに戻っちまう。いいな?」

(  ω )「分かっている」

「アーマーシステム、起動」

 システム・ディレイク、BLACK DOGⅡ戦闘プログラムアーマーシステムの起動解除コード出力。
 コード認証/着装/神経接続及び電気系統接続を開始/システム・ディレイク並びアーマーシステム同調――システムオールクリア。
 B00N-D1本体からの電力供給を開始/スタンバイモードに移行――強制パージまで残り30m。
 スタンバイモード終了/戦闘モードに移行――――強制パージまで残り21m。

134名も無きAAのようです:2012/03/01(木) 18:25:07 ID:KQZ47c8k0
遂に来るぞ新システム!

135名も無きAAのようです:2012/03/01(木) 18:26:54 ID:M92hnJG20
 瞬く間に変形を終え、それまで赤子のように抱かれていたブーンは変貌した。
 更なる機械仕掛けの存在に。

 その全身は漆黒の金属に固められ、「元の姿形」をイメージさせる鋭利なフォルムを全身に余す事無く施している。
 頭部は「バイクのフロントボディ」を想起せざるを得ないと同時、獰猛且つ冷酷な猟犬を彷彿させる口先のようである。
 こめかみから後頭部に伸びた突起は、獲物の位置を聞き立てる耳のようである。
 背、腰の辺りから伸びる計4本の長いノズルは尾のようである。
 銀色の鋭き2つの光を放つそれは、獲物を逃がさんと追う眼そのものである。

 分厚い手足は、それぞれが数多の武器を隠す武器庫である。
 敵が如何なる悪鬼であろうと、その息の根諸共忌まわしき病原体の活動を止める、強力な武器と化す。

 全てが、セカンドを殺戮するが為に生み出された外骨格機構、BLACK DOGⅡアーマーシステム。
 強力が故に、使用者の身をも滅ぼす、破壊の兵器である。


 漆黒の猟犬は口元を僅かに開き、熱を帯びた蒸気と、曇った声を吐き出した。


ィ'ト―-イ、
以`゚益゚以「行ってくる」


 4本のノズルと両脚から蒼炎を吹かし、ブーンは飛び立った。

 死して去ったパートナーに託された、一人の少年を守る為に。
 そして、死となるか、それとも別の結末を共に迎える事となるか。

 しかし果たすであろう、友との送別の為に――――――――

136名も無きAAのようです:2012/03/01(木) 18:29:31 ID:KQZ47c8k0
パワー高めのタフネス低めって感じになったんか

137名も無きAAのようです:2012/03/01(木) 18:32:59 ID:M92hnJG20
 
  第38話「美女と野獣」


 第4階層を二分するように縦列する総20の街。
 その内8番から14番までの街道は『セントラル』のメインストリートと言われている程に、個々が巨大なスケールを誇っている。
 数多の超高層ビルが立ち並び、その目下に劇場と商店、カジノとあらゆる施設が列挙し、まさに眠らぬ街を再現している。
 全てを嘗てのニューヨークを模したかのようなこの街は、嘗てに倣い、ビジネスとエンターテイメントを混雑し、
 両者が依存し合い生んだ一大マーケットを有しているのだ。

 このストリートに政治を憂いアナーキズムに走ったパンクロックは存在しない。
 旧政体を賛美するような絢爛なポップスとヒップホップばかりが流れている。
 無機質なビート、それを打ち鳴らすのは音楽だけでなく、建造物も同様だ。

 建造物はいずれも近代建築様式の外観と機能の美に満ちている。
 建物の内外を問わず保有した数多のオートメーションがプログラムに沿って静かに、そしてめぐるましく変動し続けている。
 眩い輝きを放つ無数のネオンですら、その引き立て役に過ぎないだろう。

 街が洗練されれば人もまた洗練されるものだ。
 ニューヨーカーを示す気取った衣服なくしては此処を歩けず、白衣を着ようものなら忽ち浮ついた存在になってしまう。
 選ばれた者だけが出入り出来るような、そんな風潮を示すように、このメイン街は「ヴィッパ」と名づけられた。
 それはもはやヴィッパのルールと言えようものである。
 連日多くの市民が夢見心地の顔で闊歩する為、暗黙の内に取り決められた様々なルールだ。

 加え、何より警察と優れた監視システムが存在するお陰で、「嘗て」とは比較にならぬほど平穏で満ちていた。
 犯罪者は徹底して排除されてきた。
 所謂アウトローに分類される者は活動拠点を他に設けなければならなかった。
 マイノリティーだとか、単に貧民層などと区分される者達も同様だった。

138名も無きAAのようです:2012/03/01(木) 18:35:55 ID:M92hnJG20

 そういった者達はもう一つの市場を作り出して個々の生業を持つようになった。
 番外認定された幾つかの街は、嘗てに倣って「ゴッサム」と呼ばれるスラム街と化したのだ。
 公共サービスを受けられないほど荒廃していないが、スラムの持つ意味合いは住宅街でも顕著に現れている。
 貧富の差別を生み出した荒巻政権は、働けぬ者を安くて狭いアパートに追いやったのだ。
 果てはアクセサーが走る高架の下に違法住宅を構えるホームレスさながらの人物が、市民権を持ちながらも、そうして存在するのだ。

 そして15番街は、ヴィッパともゴッサムともつかぬ街である。
 大勢の人間、そしてジャンクとも言うべき物品と資材が行き来する中間地点、それが15番街の役割だ。
 その日常を送る最中、人のみが消え去った15番街は、物だけが取り残されたゴーストタウンさながらの状態にあった。
 過去最大の注目を浴びるにしては、寂しくも奇妙な光景である。

 緊急避難警報が発せられ、運搬途中であった列車がターミナルに辿りつかず停止している。
 それと同じように、トラックなどの運搬用車も道端に乗り捨てられている。
 たとえそれらを撃ち抜き爆発させようと、死傷者が出ないというのは有難い。

 しかし、ショボン・トットマンは、どちらの為に戦闘介入しようか未だに判断がつかずにいた。
 ゴーストタウンに潜む幽霊よりも気配を消し、人ならざる者を監視し続けていた。

(;´・ω・`)「IRON MAIDENのパージから15分26秒が経過……両者ともに依然膠着。
       両者とも動けずにいる、と言った方が正しいか……。
       ジョルジュさんは、まだ変異途中にあるようだ」

ノハ;゚⊿゚)「ウィルスに抗っていると訂正するべきか? しかし酷い有様だ、見てられねえ……」

 精神を“戦闘状態”にシフトしているヒートも、ジョルジュの変貌ぶりには戦慄していた。

139名も無きAAのようです:2012/03/01(木) 18:37:55 ID:M92hnJG20

 変異開始から15分、最初の一人を除外し、死人は出ていない。

 ジョルジュは全身を激しく痙攣させながら、その身をより複雑に変形させ続けていた。
 翼が生えたかと思えば、今度は背骨が皮膚とスーツを破り、尾として見せた。
 こびりつく程度に肉を持つ、歪で貧相な尾であった。
 かと思えば倍速再生されたCGのように非生物的に血肉を及ばせ、赤みのある猛々しい尾に成長させる。

 嘗てのジョルジュの姿に見る影はない。
 刻々と、悪魔の化身へ近づいている。
 そしてそれを、自らの意思で完了させんとしているかどうかは、定かではない。

ミ# Д シ《あ゙ あ゙あ゙あ゙あああ……》

 激痛に苛み苦痛を漏らす彼は、まるで延々と肉を裂き続けられる凄惨な拷問に掛けられているようである。
 がば、と音を立てて肉が剥がれ、突出を目論んでいた不気味な形の骨が現れる。
 顔とて例外ではなく、歪な突起が輪郭に沿い幾つか立っている。
 全身を包んでいた拘束衣IRON MAIDENは幾つかの装具を残した軽装の鎧と化し、
 だが、体外に飛び出た骨の棘の装飾に相まい、禍々しい重装の甲冑にも見えよう。

 それまで爪に留まっていた獣の刃も、今やその付け根を拳骨に及ばせ、物を掴めぬ五指と化していた。

 シザーハンズ。

 顔面だけは蒼白く生気を感じさせないジョルジュを見、ふと、ショボンはそんなタイトルの古い映画を思い浮かべた。
 しかし容姿だけで鑑みれば、映画の主人公のように純真な人の心を持つとは思えなかった。

140名も無きAAのようです:2012/03/01(木) 18:40:38 ID:M92hnJG20


ミ# Д シ《グルルゥ…………》


(;´・ω・`)「――ッ、変異を完全に終えたようだ……」

 突然ジョルジュが身をぴたりと止めた。
 呼吸こそ肩を上下させてするものの、聞くに堪えぬ叫喚は止んでいる。
 代わりに獣のような唸りを静かに上げた後、腕に残るスーツの籠手で血みどろの顔を拭った。
 籠手にべっとりと残った血糊より、ショボンをぞっとさせたのは長く伸びた髪の隙間に見えた赤い瞳だった。

(;´・ω・`)「――――ッ」

 ショボンは咄嗟に狙撃ライフルの向く先を空へ向けた。

ノハ;゚⊿゚)「……ショボン?」

 ヒートは訝しげにショボンを伺うが、ショボンは恐怖を顔に張り付かせて絶句で狼狽している。
 一体何を見たのか、疑問しながらヒートはスコープに再び目をあてがった。
 
 ショボンは呼吸を整えた後、銃を構えなおして再度スコープでジョルジュを観察する。
 万が一の時は狩るのは我々である、それを再確認する為に。

(;´・ω・`)(こちらを、見ていた……偶然か?)

 一瞬、スコープを通してショボンはジョルジュと目を合わせたのだ。

 この場においては最も高所に位置するというのに、ショボンは獰猛な肉食動物に発見されたような戦慄を覚えたのだ。
 だが、ジョルジュは興味ないように視線を移らせ、再び場を改めるように周囲を見渡していた。
 それは生まれたての獣が生きる世界を初めて見ているかのようである。
 故に偶然の出来事だとショボンは考えたが、確かに獣と目を交したと、そう錯覚した。

141名も無きAAのようです:2012/03/01(木) 18:42:37 ID:M92hnJG20
 ジョルジュは視線を左から右へ、ゆっくりと時計回りに街を見渡す。
 そして背後で腰を抜かしていたビロードに、果たしてジョルジュは視線を向けた。
 ショボンが再び戦慄したのは、ジョルジュが獣のように本能に従って獲物を求めんとしたからだ。

(;><)「ひっ」

ミ Д シ《う、あ……》

 ジョルジュは血を滴らせる爪の手を伸ばし、ゆっくりとビロードに近づいた。
 涙で顔を小水で下半身を汚すビロードは、血塗れの異形の接近を許しがたく、無意識に後ずさりした。
 その光景を見るショボン、ヒートは痺れを切らしそうになるが、二人より先に動いた者達がいた。


(  〓 )「――――ビロード・ハリスを保護する! 攻撃しろ!」

 クローン部隊だ。

 低出力に設定されたエネルギー兵器による射撃は威嚇に留まらず、ジョルジュの背に直撃した。
 痛烈な叫喚が上がり、銃撃の余韻を切り裂く。
 そして背を攻撃されたと知ったジョルジュは、敵愾心剥き出しの目を彼女達に向けた。

 これにはクローン兵達も戸惑い、銃撃を一時中断する。
 あくまで威嚇に留めるつもりだった。回避するものだと想定していた。

 しかし、これでようやく結論を見出せた。
 ジョルジュ・ジグラードはやはりセカンド化したのだと。
 銃撃の意味と結果を思考する理性がないと、今の一連の流れでそう判断するしかないのだ。

142名も無きAAのようです:2012/03/01(木) 18:43:49 ID:M92hnJG20

 高所から様子を伺っていたショボン、ヒート両名も、クローン兵と同様の決断をする。 
 ジョルジュ・ジグラードはセカンドと化した、と。
 理性を欠き、血に飢える彼はその渇望をビロード・ハリスに向けようとしていたのだ。
 そして二人は言葉を交さずとも今すべき事を悟る。
 ジョルジュを殺さなければならない、と。

 スコープを覗き見る。
 情報処理システムと連携したライフルは300メートル先の虫けらすら撃ち抜くだろう。
 しかし、スコープに映るのは化け物の頭部ではなく、蒼い光条の数々だった。
 目の細かい光の網が決して広くはない路地に広がっているようである。
 これでは狙撃しようにも実弾は空中に消え去るだろう。

 文字通り、蚊帳の外に立たされてしまった。
 焦燥を煽り立てるように、雑然と積み置かれたコンテナが炎を巻き上げる。
 路地を見下ろすショボンとヒートも、さすがに苦悶を浮かべて顔を背けてしまう。

 咄嗟に二人の脳裏に走ったあどけない少年の顔。
 蚊帳の内側には一匹の獰猛な獣と、それを仕留めようとする数多のハンター。
 危険な狩場に迷い込んでしまった少年が、そこに――――

(;´・ω・`)「――――ビロードは何処だ!?」

 爆炎から顔を背けた一瞬、ジョルジュの傍らで蹲っていたビロードが忽然と消え去っていた。
 機械の目と耳を持って必死に捜索するが見当たらない。
 クローン兵が連れ去ったかと思い彼女達の動向にも目を配るが、誰かがビロードを確保したような気配は伺えない。
 それどころか彼女達は、遂に攻撃を開始したジョルジュとの交戦に必死なようであった。

143名も無きAAのようです:2012/03/01(木) 18:46:26 ID:M92hnJG20
 稲妻の如く迸るレーザー攻撃を掻い潜り、擦れ違い様に振るわれる爪。
 瞬く間に首、臓物が鮮血と共に舞い上がり、夥しい量の血液が路地を赤く塗り替えてゆく。
 その最中、ジョルジュは腕か足かの肉片にかぶり付いて喰ったのだ。
 血肉の美味を知るや所構わず牙を立て、クローン兵を啄ばんでいった。

 しかし、クローン兵達に分があった。
 高度な機関で統制されている彼女達は如何にジョルジュが素早くとも、次に銃口を向ける位置を予測する事が出来る。
 壁を飛び交うジョルジュを追うようにして放たれる銃撃、遂にその翼に穴が穿たれた。
 悲痛な叫びを上げながら墜落するジョルジュ。
 クローン兵達は一定の距離を保ちつつ、彼を囲んだ。

 現状を見下ろすショボン・トットマンは目を瞑った。
 たとえセカンドとはいえ、友人が撃ち殺されるのを見るのは胸が痛む。

(;´‐ω-`)(違う、ショボン・トットマン。お前は誰かが手を下すのにほっとしているんだ。
       僕なんかに彼を撃ち殺す度胸なんてない。これでいい。そう安心しているんだ……クソ!)

(;´・ω・`)(せめて、ビロードだけでも――――)


「――――ぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああ!!」


 ショボンがそう思った矢先であった。暗澹とした空気を祓うかのように、上空から叫び声が木霊したのだ。
 ショボン、ヒートは一瞬呆気に取られるが咄嗟に彼の落ちゆく場所へと駆け込んだ。
 損傷を負っていないショボンが難なく彼をキャッチし、お互い、目を丸くして見合った。

(;´・ω・`)「ちょ、なっ、何で、君が!?」

144名も無きAAのようです:2012/03/01(木) 18:47:52 ID:M92hnJG20

(;><)「はあ、はあ、し、死ぬかと思ったんです!」

ノハ;゚⊿゚)「お、おいおいおい、何でお前が空から落ちてくるんだよ?」

(;´・ω・`)「ビロード! 一体、誰に何をされた!?」

 なんと陳腐な問い質しか。しかしショボンは他に言葉が思いつかなかった。
 地面から約250メートル離れたビルの屋上に突如現れたのは、ビロードだった。
 ショボンはビロードを降ろし、涙と鼻水で散々に汚れた顔をハンカチで拭ってやった。
 緊張から解放されたと理解したビロードは綺麗になった顔をまた涙と鼻水で濡らし、ショボンの胸に飛び込んだ。

(;><)「ジョ、ジョルジュさん、ジョルジュさんが!!」

 嗚咽に加え荒立った呼吸とあり、ビロードはショボンに縋りたいも喋るのがままならなかった。
 ショボンはビロードの両肩を持って彼の目線まで膝を折り、落ち着いた声で問い質す。

(;´・ω・`)「落ち着け。ジョルジュさんがどうしたんだ?」

 ビロードは呼吸を整えた後、答えた。

(;><)「ジョ、ジョルジュさんは、セカンドなんかじゃ、ない!」

(;><)「僕をまた! な、投げてくれたんです! たっ、助ける為に!」

(;´・ω・`)「ジョルジュさんが、お前を助けた……?」

145名も無きAAのようです:2012/03/01(木) 18:49:22 ID:M92hnJG20

ノハ;゚⊿゚)「ショボン。ビロードの服に、爪で引っ掛けられたような痕があるぜ。だとしたら……」

(;><)「ジョルジュさんを助けてください! このままじゃ殺されるんです!!」

 ビロードが目下に指を刺して縋った。
 だが、ショボンとヒートの表情は依然として曇っている。

(;´・ω・`)「……しかし、彼は……」

 俄かには信じられない発言であった。
 現にジョルジュは人肉を喰らう獰猛な獣と化している。
 にも拘らず、ビロードのみを救うのは腑に落ちない事である。

 思考を巡らせている内に、ショボンはジョルジュと目を合わせた出来事を思い出した。
 そして一つの可能性を立てる。
 あれはもしかすると、此処にいるであろう我々を探していたのではないかと。
 それからクローン兵の初撃を被弾した事、あれはビロードを庇ったとも取れる。

 しかしながらあくまで可能性なのだ。
 一個人の観察から立てた推測なのだ。
 事実に至らせる材料は揃っていても、解明すべき対象が特別種のセカンドとあれば迂闊に手を出せない。
 ショボンは、最もジョルジュをセカンドたらしめる要素をヒートに差し向けて尋ねる。

(;´・ω・`)「……彼は、人を喰らっている。これにどう説明をつける?」

ノハ;゚⊿゚)「それは……それにしても、腑に落ちない事が多すぎる」

(;´・ω・`)「ああ、依然正体は不明だ。どちらを手助けするか、もう少し様子を……いや、もはや我々は撤退すべきかもしれないな」

146名も無きAAのようです:2012/03/01(木) 18:49:31 ID:KQZ47c8k0
やっぱり理性があったかジョルジュ!!

147名も無きAAのようです:2012/03/01(木) 18:50:32 ID:M92hnJG20


(;><)「何で助けないんですかショボン!? ジョルジュさんは人間なん――――」


 言いかけたビロードを襲ったのは、まず音圧であった。

 僅かに遅れ、目の覚めるような色の閃光が立て続けに路地へと降り注いだ。

 誰も予兆せぬ突然の事であった。


(  〓 )「――――回避しろ!」

 更に蒼光は爆音を伴い上空から降り注ぐ。
 滅多撃ちだ。
 生身の人間ならそう思うだろうが、熟練のサイボーグ達は不気味なまでに正確な射撃に対し、口を開けて驚愕した。
 クローン兵の腕と銃のセットを、秒間で2セットのペースで消し炭にしているのだ。

 クローン兵とて生身の人間と懸け離れたデザインドヒューマンだ。
 近代サイボーグと戦闘しても十分渡りゆける身体能力を持つ。
 そんな彼女達が地を飛び跳ねようが地を転がろうが、蒼き閃光は腕だけを撃ち抜いて行く。

 抵抗反撃の余地はない。
 防戦、退避も許されぬ一方的な蹂躙だ。

148名も無きAAのようです:2012/03/01(木) 18:53:16 ID:M92hnJG20


(  〓 )「体感して初めて理解したが……アーマーシステム、これ程とは……」


 闖入者の攻撃が終わった。
 路地に犇くのはジャンクの残骸と、片腕を失い沈黙したクローン兵達であった。

 裂傷と大火傷を一緒くたにした腕の断面から零れる血はない。
 高速且つ高熱の攻撃は止血作用すら残していったようだ。
 加えて彼女達は痛覚が鈍い。
 混乱せずに現状を受け入れる彼女達の統制は見事なまでである。

 しかし同時に歯がゆさも伺えた。
 総勢20といる誇り高きスタンレーの尖兵、その誰もが成す術もなくじゅ蹂躙され、
 闖入者を見上げて睨みつけるのが精一杯となったのだから。

 戦慄するショボン、ヒート、ビロード、クローン部隊。

 そして胸に何を抱くか定かではないが、ジョルジュすらも上空を見上げた。

149名も無きAAのようです:2012/03/01(木) 18:54:25 ID:KQZ47c8k0
誰だってあんな顔のが来たら見上げちまうよ

150名も無きAAのようです:2012/03/01(木) 18:55:50 ID:M92hnJG20

 一斉に上空へと注がれる視線と、偽りの星雲の煌きを浴びるそれは、漆黒の鎧であった。

 両腕と腰に携えた銃口から立ち上る銃撃の硝煙。
 蒼き輝きを放つバーニアンとイジェクト。
 銀色の瞳を持つ、機械仕掛けの猟犬の顔貌。


ィ'ト―-イ、
以`゚益゚以「…………」


 B00N-D1が愛機BLACK DOGを身に纏った最強の戦闘形態だと、その場の誰もが知っていた。

 ショボンはブーンに拝跪するように愕然と膝をつけ、思い切り膝つく地に拳を突きつけた。
 銃を奪われたクローン兵達は二人を囲うような配置取りをした後、総じて直立不動した。

ミ,, Д シ《……ガルルルゥゥゥ……》

 処分の危機から解放された獣、ジョルジュは、何事もなかったかのようにその身を正し、降り立った鎧と向き合った。

151名も無きAAのようです:2012/03/01(木) 18:58:58 ID:xcex.K2w0
初遭遇、街狩り大好きだ

152名も無きAAのようです:2012/03/01(木) 18:59:20 ID:M92hnJG20



ィ'ト―-イ、
以`゚益゚以「…………………………》ミ Д ,, シ



 有機的な身を持つ獣、無機質な身を持つ獣。
 人ならざる姿を持つ両者は、静かであった。

 何かを語ろうともせず、威嚇の唸りもあげず、銀と赤の双眸で睨みあうのであった。

 兜から漏れる金の髪、血に染まった銀の髪。

 対照的で相容れそうに無い両者を煽るように、場に熱風が吹き荒れた。
 常人ならば途端に苦悶する高温の風を、両者は指一つ動かさず、共に浴びた。

153名も無きAAのようです:2012/03/01(木) 19:00:49 ID:M92hnJG20

 突風は、更なる闖入者の訪れを知らしめるものであった。

 INDIGA(インディガ)。
 土色をベースに黄金色を施したYOGA製最後の戦闘用ドロイドが、7機の編成で介入した。
 全長4メートルを超える巨躯に搭載されたバーニアンとエアーイジェクトが生む流れこそ、突風の正体であった。

 両脚両腕を伸縮自在させる高機動戦闘ドロイドINDIGAは、全身に機関銃、火炎放射、レーザーと豊富な武装を秘めている。
 手足は細く、反して図体は太いというアンバランスなボディ、そこに座する細長の頭部が緑色のモノアイを光らせている。
 モノアイを始めとする機関の情報収集を元に、INDIGAの高度なAIは命令遂行の為に人間以上に思考するのだ。

 人間以上、つまり、冷酷且つ非人道的な行動を何の疑いもせずにやってのけるのがドロイドの本質だ。
 そして、欠陥である。
 この欠陥を埋めた戦闘兵器の完成品こそHollow-Soldierである。
 しかし、皮肉にも彼女達は今、旧時代の兵士に銃を突きつけられているのだ。

 配置を速やかに終え、機関銃による圧力でクローン兵を制圧したINDIGAが外部スピーカーより告げる。
 AIの電子的な声による語りではなかった。

『――テロ首謀者、モララー・スタンレーは逮捕された!
 貴様等もテロに加担する反乱分子と見做し、逮捕する! 速やかに投降せよ!
 貴様等のマスター、モララー・スタンレーの命は、我々の握る銃で左右されているぞ!』

ィ'ト―-イ、
以`゚益゚以「その声、モナーさんか」

『ブーン、すまない……君の手を煩わせる事に……ましてや、こんな事になるとは、私は……』

 総統、モナー・ヴァンヘイレンの肉声であった。

154名も無きAAのようです:2012/03/01(木) 19:02:28 ID:M92hnJG20

(  〓 )「フン、抵抗しようにも腕ごと奪われているというのに、新しい権力者も随分臆病な事だ」

 皮肉に対しモナーは反論せず沈黙する。
 ドロイドも特に思考せず、銃を構えたまま静寂を保っている。

(  〓 )「まあいい。大人しく投降してやる。たった今、マスターからもそう命令された。
      我々も任務を全うし果せた。結果的には失敗のようだがな」

(  〓 )「B00N-D1、最後に聞かせてもらおうお。何故邪魔をした。奴はセカンドだ。
      貴様はセカンドを保護しようというのか」
ィ'ト―-イ、
以`゚益゚以「ジョルジュ隊長を殺すのは僕の役目だ。
      それに、まだだ。まだジョルジュ隊長がセカンドになったとは分からない」

(  〓 )「戯言を」

 クローン兵は肘から先のない腕をジョルジュに向け、無感動に言い放つ。
 止血効果が切れて血を滴る腕の断裂面を敢えて向けたのは、血に飢えた獣を挑発したとしか見えない。


(  〓 )「そいつはもう、人を喰らうセカンドだ」


 侮辱に対し激情を放ったのはジョルジュではない。
 機械仕掛けの猟犬の方であった。

155名も無きAAのようです:2012/03/01(木) 19:03:33 ID:M92hnJG20
 左腕を振るう。激情のまま無意識に取った動作はそれだけであった。
 しかし重量感と速度を伴った動作は、クローン兵を圧倒させるに十分過ぎるものだった。


ィ'ト―-イ、
以`゚益゚以「黙れ、さっさと去れ」


 何よりB00N-D1自身の冷やかな声が、例えようのない殺意を孕んでいた。
 サイバーウェアで制御された彼女達は、無意識に、じりと地を鳴らした。

(  〓 )「……好きにするがいい。ビロード・ハリスも貴様達に預けておこう」

(  〓 )(尤も、貴様等にはどちらの重要性も理解できないようだがな)

 クローン兵隊を臨時で代表した者が最後に胸中でごちると、彼女達は潮らしく片手を上げて投降した。
 INDIGAに圧されるように歩いてゆく。
 恐らく第3階層のセントラル警察に身柄を渡されるだろう。
 モララー・スタンレーが徹底した監視を受ける限り、彼女達が武器を取る事もないはずだ。

 ブーンは一度息を吐く。
 これで騒動の発端となったスタンレー一味は排除した。


 後は――――

156名も無きAAのようです:2012/03/01(木) 19:05:04 ID:M92hnJG20

『ショボン、ビロードを頼む』

(;´・ω・`)「ブーン!?」


 不意に入信した無声通信。頭に入った声に対し、思わずその場で叫んでしまったショボン。
 屋上から身を乗り出してブーンを見るが、ブーンはショボンに一目もくれず、

『ジョルジュ隊長は僕に任せろ』

 ジョルジュと対峙したまま、そう続けた。

(;´・ω・`)「ブーン、すまない。僕はまた誰かに頼ろうとしていた。
       ましてや敵のクローン兵に判断を委ねてしまった。
       そして結局、君に頼ってしまう事に……」

『構わない、ショボン。君は店で客に酒を持て成していた方がずっといいお。
 ウィルス絡みの仕事は僕が片付けてやる。それに、これは――――』

157名も無きAAのようです:2012/03/01(木) 19:06:03 ID:hxJCgslI0
支援支援

158名も無きAAのようです:2012/03/01(木) 19:07:05 ID:M92hnJG20



ミ,, Д シ《…………》


ィ'ト―-イ、
以`゚益゚以「――――僕とジョルジュ隊長の約束だ」



 ――――後は、目の前の男に集中するのみ。


 ようやく舞台は整った。




 果たして、彼は人間なのか。
 果たして、彼はセカンドなのか。
 それとも、もっと別な、何かなのか。

 様々な憶測が脳裏を巡るが全て定かではない。

 確かな事はただ一つ。
 送別の時という事だけである。

159名も無きAAのようです:2012/03/01(木) 19:09:01 ID:M92hnJG20

ィ'ト―-イ、
以`゚益゚以(ジョルジュ隊長……!)

 人であって欲しいと願うばかりだが、心の奥底に眠る可能性をどうしても払拭出来ずにいた。
 一刹那の後、血を血で洗う殺し合いに転じるという可能性を。

 ブーンは、武装解除しないどころか、今一度アーマーシステムの再チェックを密かに行う。
 ジョルジュには伺いようのないデジタルグラフィックスでエネルギー装填率、バッテリー残量を表示。
 強制パージまで残り13分、だがエネルギー及びバッテリーの残量は一体のセカンドを屠るに十分だ。

 ジョルジュが如何様な攻撃を繰り出してこようと対処出来るのを、ブーンは至って冷静に確認した。
 言い返せば、いつでも殺せるという安堵を得たとも言えた。
 アーマーシステムの攻撃及び移動速度の恐ろしさを、B00N-D1は文字通り身を持って体感している。

 それは揺ぎ無い自信でもある。
 相手がどんなセカンドであれ追随を許さぬ、それがアーマーシステムだ。

 両腕に変形した武器庫、テールノズル、どちらも射撃可能。
 いつでも、撃てる。

 従ってブーンは試みる―――――ジョルジュとの対話を。


 開かぬ猟犬の口先から、くぐもった声が漏れる。

ィ'ト―-イ、
以`゚益゚以「……ジョルジュ隊長」

160名も無きAAのようです:2012/03/01(木) 19:10:30 ID:M92hnJG20

ィ'ト―-イ、
以`゚益゚以「奴等は去った。もう監視カメラを気にする必要だってない。貴方はもう、自由だ」

ィ'ト―-イ、
以`゚益゚以「だからジョルジュ隊長、喋れるんなら、何か言ってくれ」


ィ'ト―-イ、
以` 益 以「頼むお……」



ミ,, Д シ《…………》



ミ,, Д シ《………………》




ミ,, ∀ シ《………………ヘッ》

161名も無きAAのようです:2012/03/01(木) 19:11:51 ID:M92hnJG20


ミ,, ゚∀゚シ《待ちわびたぜ、ブーン》



ィ'ト―-イ、
以`゚益゚以「ジョルジュ隊長、やっぱり……」




ミ,, ゚∀゚シ《ああ、自我を保ってるぜ》



 ブーンは頭部を背に収納し、肉眼と呼べる双眸で改めてジョルジュと見合った。
  


(; ゚ω゚)「ではどうしてクローン兵を喰った!? 獣染みた行為をどうして!?」



ミ,, ゚∀゚シ《……酷く》

162名も無きAAのようです:2012/03/01(木) 19:13:29 ID:M92hnJG20


ミ; ゚∀゚シ《酷く、腹が減っててな、腹が。それに、喉も渇いてた。
      酷い渇きと餓えだった。思わず喰っちまったんだよ、アイツ等ならいいんじゃねえかって。
      クククク、中々美味いもんだぜ? 人の肉って。この体だからか、それともアイツ等が特別美味いのか知らねえが》


(; ゚ω゚)「う……ジョルジュ隊長……」


ミ; ∀ シ《なあブーン、お前には俺がどう見える? お前の鎧に映る俺は、醜い化物だ。
       人を平気で喰っちまえる化物だ! ウ、ク、クッククククク!!
       ああ! 喰い足りねえ! 喉も渇いた! ずっと我慢してたんだよ! 分かるだろ!?
       お前の血を流されてずっと縛り付けられたんだ!》

(; ゚ω゚)「……誰かを喰おうって言うのか……?」

 ブーンは思わず疑ってかかってしまったが、ジョルジュは邪な笑みを消して、フンと鼻を鳴らし、

ミ,, ゚∀゚シ《その口ぶり、やっぱり化物に見えちまうか》

 当然、ブーンは狼狽した。
 カマをかけられたと言えばそうなるが、試すにしても自虐的すぎる。
 しかし、そんな事をジョルジュに言えるはずもない。
 ジョルジュにとっては重要な問題だったのだ。

(; ゚ω゚)「ジョルジュ隊長、僕は、そんなつもりじゃ、」

 慌ててブーンは取り繕うが、

163名も無きAAのようです:2012/03/01(木) 19:13:32 ID:KQZ47c8k0
実写版のブランカみたいなジョルジュさん!!

164名も無きAAのようです:2012/03/01(木) 19:16:50 ID:M92hnJG20

ミ,, ゚∀゚シ《分かってる。分かってたさ。自我を保てようと俺は此処にいちゃいけねえって。
      俺は血に飢えた獣だ。獣は人と一緒にゃいられねえ。
      人を獣に変えちまう病気を振り撒く、セカンドなんだ》

 ジョルジュは困惑するブーンを宥めるように、落ち着いた調子で遮る。
 タチの悪いカマかけも、それは改めて確認しなければならない事だったのである。
 ブーンのように免疫と自分の身を守る力を持ち合わせる者であれば、自分のような化物とだって共にいられるのだろう。

 だが、ブーンが見せた懸念とは、非力な市民に対しての事であった。
 ジョルジュはそれを再確認し、脳裏に描かれ続ける友との別れを酷く惜みながら、静かに続けた。


ミ,, ゚∀゚シ《俺は、人とは相容れない存在なんだな》

(; ω )「ジョルジュ隊長……」

 ジョルジュの言葉は寂しげに響いた。
 今、彼の目には、相対する鎧が映し出す変わり果てた自分の姿がある。
 そして脳裏には恐怖を張り付かせたビロードの顔があった。

 仲間と呼んでくれた少年ですら、今の自分に怯えていた。
 手を差し伸べてくれる市民はいないのだ、そうジョルジュは悲観して止まなかった。

 だが、目の前の男だけは違う。
 見込んだとおりの男は、化物になった俺に対し、まず対話する事から初めてくれたのだ。

ミ,, ゚∀゚シ《ブーン》

ミ,, ゚∀゚シ《約束を果たそうと、来てくれたな。俺は、お前に……》

165名も無きAAのようです:2012/03/01(木) 19:18:30 ID:M92hnJG20

ミ,, ゚∀゚シ《……感謝す――――》



ミ; Д シ《ぶっはぁあっ!?》



 突然、ジョルジュは夥しい量の血を吐いた。

 爪で傷つけないよう掌で胸と腹を押さえ身体を撓ませた。
 苦しそうに唸り続け、終いには膝を着き、尚も血反吐を足元に広げた。
 ぴんと張っていた翼も萎れたように閉じ、丸くも歪な背を激しく痙攣させた。
 大型の虫か何かが背中で蠢いているようである。

(;゚ω゚)「ジョルジュ隊長!!」

 ブーンは咄嗟に駆け寄り、背に触れようとした。
 だがジョルジュは腕で振りのけ、血走った目を向けて叫ぶ。


ミ; Д シ《その手で触るんじゃねえ!》

166名も無きAAのようです:2012/03/01(木) 19:19:26 ID:M92hnJG20

(; ゚ω゚)「――そうか、抗体が……」

 抗体。セカンドにとって最悪の劇薬。
 重要な事を失念していたと気づき、ブーンは酷く動揺した。
 制御を忘れられた巨体は尻餅をついて、じっと腕を見つめた。

 配線、回線、配管を通り全身に巡る蒼き光、その動きは、指の関節部分で顕著に現れていたのだ。
 直に手で触ろうと抗体がジョルジュの身を焼くことはない。
 それでもジョルジュは、ブーンの持つブルーエネルギー、抗体が、恐ろしくて堪らなかった。

ミ; Д シ《そうだ。俺は、毒されていたんだ……ずっとな。お前の抗体は俺にとって猛毒だ。
      治療法でも抑制法でもない、ただの、毒だったんだよ。
      別にお前やツン博士を恨んじゃいねえ。こんな結果になるとは誰も思わなかったろうよ……》


ミ; Д シ《なに、その内良くなる。外の連中でも喰えば毒も抜けるはずだ》


ミ; ゚∀゚シ《……それが、獣になっちまった俺の、これからの生き方でもある……》


(; ω )「……ジョルジュ、隊長……」

167名も無きAAのようです:2012/03/01(木) 19:21:55 ID:M92hnJG20

ミ; ゚∀゚シ《なあブーン。セカンドウィルスってのは、何なんだろうな。
      人智にも及ばぬ存在ってのは分かる。だが、我々人類にこれから何を齎す?》

ミ; ゚∀゚シ《一度は人類と文明を破壊し尽した存在が、今度は俺に力を与えている。
      傷つかぬ身体、車よりも速く走れる脚……空を飛べる翼。
      人が持たぬ人が望み描いた物を与えてくれるウィルスと考えるべきなのか?》

 そこで、ジョルジュは立ち上がり、しっかりと地に足をつけ、ブーンに問うた。


ミ,, ゚∀゚シ《ブーン。お前はどう思う》


(; ω )「……ジョルジュ隊長、僕は、」


(  ω )「僕は、ボストンで知った事がある。
      この世界に取り巻くウィルスは、禁断の果実に等しい存在なんだと」

(  ω )「邪な考えを持つ者が悪戯に手にすれば、たちまち悲しみと憎しみを生み出す代物と化してしまう。
      或いは、この禁断の果実を好奇心を抑え切れない弱い者の前に差し出せば、垂涎の思いで彼等は縋り付くかもしれない」

(  ω )「オットー・サスガは人類を成長をウィルスに願いもしたが、本当は違った。
      彼がウィルスを解明しようとしていたのは事実だが、彼は好奇心に屈服したに過ぎなかった。
      そう。ウィルスに可能性を求めたのではなく、強大な力を持つウィルスに依存しようとしていただけだった。
      それは大きな間違いだった。人として外れた道を行くものだった」

168名も無きAAのようです:2012/03/01(木) 19:23:45 ID:M92hnJG20

(  ω )「僕はオットーを認めない。彼の考えを肯定すれば、生き残った我々人類の努力は全て水泡と帰してしまう。
      ジョルジュ隊長、今日までの貴方が抗ってきた努力の全ても、否定する事になる」

ミ,, ゚∀゚シ《ウィルスに非はないと考えるか》

(  ω )「僕が許せないのは欲望に狂った者全てだ。クローン兵とモララー・スタンレーは断じて許さない。
      そして可能性を食い破る地上の獣、セカンドが存在する事を許したくない」

(  ω )「両親の殺害したセカンドを殺すまでは……僕は死ねない」


( ^ω^)「…………或いは、貴方を治す治療法を見つけるまではね」


ミ,, ∀ シ《…………ハッ》


ミ,, ゚∀゚シ《泣かせてくれるじゃねえか、クソガキ》

(; ^ω^)「からかわんでください」

( ^ω^)「……ジョルジュ隊長、人の可能性は無限だと思います。歴史に学べば、その事は文字通り歴然だと分かります。
       人類は何度も障害にぶちあたってきたが、宇宙というステージにも飛びたてた。
       まあ、運悪くセカンドウィルスに出会ってしまいましたが……それは恨みますけどね」

ミ,, ゚∀゚シ《なるほどな》

169名も無きAAのようです:2012/03/01(木) 19:25:23 ID:M92hnJG20

ミ,, ゚∀゚シ《だが、想像してみろ。人類がセカンドウィルスと付き合えるような未来が訪れたら、お前はどうする?
      現に俺とオットー……いや、ギコ・アモットがウィルスとの付き合い方の一つを確立させちまった。
      もしかすると、世界には俺のような人種が存在するかもしれねえ。この大陸にもだ。
      もし世界中が俺のような人間になっちまったら、お前やツン、ビロードは孤立しちまうかもしれねえぞ》

(; ^ω^)「ジョルジュ隊長、それは……」


( ^ω^)「それは僕にとっては何とも途方もなく、遠い未来の世界のように思えますお」


ミ,, ゚∀゚シ《はっはっは。だろうな。正直、毒さえ抜けりゃ俺は死ぬ気がしない。
      サイボーグのお前がこの先何年生きるのか、見ものだぜ》


( ^ω^)「はは……それにこうして、僕は貴方と友人のままでいられる。孤立してるだなんて思わないでしょう」


ミ,, ゚∀゚シ《…………ああ、互いに、な…………》


( ^ω^)「……貴方と殺し合いを演じずに済んだのは、本当にホッとしました」

( ^ω^)「……ジョルジュ隊長」

 ブーンは視線を落とし、長い髪で表情を隠し、声を震わせて続けた。

(  ω )「ジョルジュ隊長、僕は寂しい。そして不安です。
      過酷な地上で生きる事を強いられてしまった貴方の、これからの行く先々が、不安で仕方がない」

 弱弱しく呟くブーンに対し、ジョルジュは声を荒立てて返す。

ミ#゚∀゚シ《ああ? 舐めてンのか? 俺を誰だと思ってる? 軍人時代の俺の渾名を知らねえのか?》


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