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从 ゚∀从ヤンキー娘がエイリアンと遭遇したらこうなるようです

129日・30日「納涼夏祭り」:2011/08/30(火) 23:59:33 ID:Iw9kJRnU0
SFとパニックホラーをジャンルとします。
三話程度で完結するように目指します。

2 ◆GOO3eNv.Vk:2011/08/31(水) 00:01:39 ID:xOvK1B460

从 ゚∀从「ふんふ〜ん♪ ふっふんふ〜ん♪」

( ∵)「…………」

从 ゚∀从「はっはん♪ は〜ん♪ スパナ」

( ∵)つ−c

从 ゚∀从「ほんほほ〜ん♪ ほほほ〜ん♪」

( ∵)「…………」

从 ゚∀从「たらららん♪ たらーん♪ ドライバー」

( ∵)つ=−

从 ゚∀从「ぺっぺれ♪ ぺっぺれ♪ ぺt ミ,,゚Д゚彡「ハイン」

从 ゚∀从「んあ?」

ミ,,゚Д゚彡「いつまで工房で遊んでいる。ミーティングをするぞ。出てこい」

从 ゚∀从「…………」

( ∵)「プピ?」

ミ,,゚Д゚彡「ハインリッヒ!!」

从 ゚∀从「わかったよ。ちぇ。めんどーだなあ……」

3 ◆GOO3eNv.Vk:2011/08/31(水) 00:05:08 ID:xOvK1B460


从 ゚∀从ヤンキー娘がエイリアンと遭遇したらこうなるようです

          第1話「遭遇」


( ∵)


僕の名前はビコーズ。ロボットだ。

地球産。日本製。
火星で作られているような紛い物じゃなくて、ちゃんとロットナンバー(製造番号)が刻印されている正規品のAIロボットだ。

正式には「遠隔起動端末兼多目的支援ユニット」という部類に属する量産型軍用兵器で、
戦場で敵の監視をしたりUAVのように斥候を行ったりすることが僕に課せられた本来の役目。

だけど、今は色々な事情が重なってエンジニアリングの手伝いをしている。

从 ゚∀从「なあビコーズ。さっきの社長、何かいつもと様子が違ったよな」

僕の身体は至ってシンプルにできている。
ボーリングの球に人間の腕を三本生やしたような姿をイメージをしてくれればいい。
それが僕だ。

あまり見かけない奇妙な姿をしているものだから、僕を初めて見る大抵の人はギョッとした顔をする。

軍用合金でできた球体ボディ。
そこから生えた有蹄類由来の人工筋肉細胞で造られた腕を器用に動かしつつ、
スパナやボルトを握る僕の姿は人間から見るときっと奇怪に映るのだろう。


( ∵)


車輪もなければ推進ノズルも持たない僕の移動手段は主に二種類ある。

一つは、僕の代名詞ともいえる三本の腕を使って人間のように歩行する方法。
他方はそれら三本の腕を本体に巻きつけるようにして折りたたみ、ボール状になって移動する方法だ。

転がって移動する方法は素早く移動できるから僕は好んでよく使うのだけれど、その姿が
地球のとある虫を連想させるらしく一部の人は僕のことを「フンコロガシ」などと呼んだりもしている。
ボディ全体が黒く塗られていることも相俟ってそっくりなのだそうだ。

4 ◆GOO3eNv.Vk:2011/08/31(水) 00:07:20 ID:xOvK1B460

さて、僕自身の話はここまでにして次はこの物語の主人公であり、
僕の仕事のパートナーでもあるハインについて少し紹介しようと思う。

从 ゚∀从「ビコーズ、速く来い。遅れると社長に怒られちまう」

散らかり放題の工房を抜け、気だるそうに廊下を歩く少女。
ハインリッヒ=タカオカ。
それが彼女の本名だ。

二十一歳。B型。おとめ座。趣味はゲーム。
宇宙船や宇宙ステーションのメンテナンス業務を請け負う修理業者『石村屋』でエンジニアとして働く茶髪ピアスのヤンキーお姉ちゃんだ。

ハインが石村屋の一員になったのは今から二年前だけど、僕とハイン自身の付き合いはそれよりも前から続いている。
付き合いといっても人間とロボットの関係の域を出ない程度の縁があるぐらいだけど……。

石村屋は大手のエンジニア会社と違って少数精鋭を貫く有限会社だ。
精鋭と言えば聞こえはいいものの、つまりは契約企業依頼される宇宙船の修理や改修をこなす小さな下請け会社ということになる。

从 ゚∀从「でも急な呼び出しってなんだろうな。
     ハッ! まさか、冷蔵庫の中の……肉のつまみ食いが、バレた……か!?」

社長であるフサギコさんは常に従業員と共に現場に出て作業に当たっている今時珍しい熱血型の現場主義経営者だ。
性格上、上司との衝突が激しいハインもフサギコさんとは馬が合うらしく、
(ときどき互いを罵り合いながらも)それなりに信頼のある関係を今日まで築いている。

5 ◆GOO3eNv.Vk:2011/08/31(水) 00:09:05 ID:xOvK1B460

从 ゚∀从「ウィーッス。お、もうみんな来てるのか」

石村屋は総勢十名の社員がいる。

そのうちの五人は惑星間超光速移動航路『ハイパースペース』の大規模工事計画による
長期任務に就いているために不在なので、今現在フリーな社員はフサギコさんとハインを除いて二人いることになる。


( <●><●>)「遅いですよハインリッヒ」

从 ゚∀从「わりぃわりぃ。工具でいいアイデアが湧いたもんだから
     調整してたんだよ。社長はまだ来てねーのか」

( <●><●>)「そのようです」

从 ゚∀从「なんなんだろうな急に。仕事はさっき終わったばかりだってのにさっ」

( <●><●>)「ええ、我々は先ほど与えられた宇宙空間での曝露任務を完了したため、
      航空宇宙労働法により五時間以上の休息が約束されています」

( ― ―)「にも関わらず社長が私達を業務命令で招集した。
     これは、何かしらの問題が発生する前兆であるということはワカッテマス」

大きな目とまわりくどい台詞が特徴のこの青年はハル=ワカッテマス。
皆からはワカと呼ばれていて、主にセキュリティ方面の技術担当を請け負っている。

生真面目な性格を裏切らない理路整然とした話し方をするので、
同僚の皆からは「石村屋の石の部分」だなんてときどき揶揄されている。

本人は気にしていないようだけど。

629日・30日「納涼夏祭り」:2011/08/31(水) 00:10:46 ID:Zl5yHUVQO
支援

7 ◆GOO3eNv.Vk:2011/08/31(水) 00:15:51 ID:xOvK1B460

(´・ω・`) 「おいワカ。いちいち分かり切ったことでドヤ顔するなって言ってんだろ。
      ケツ穴にシリカゲル突っ込まれて、そのでっかいおめめを涙で一杯にしてやろうか」

そしてワカッテマスに食ってかかるしょぼくれた眉毛を持つ中年男がショボン=ダッチマン。

年齢的にはショボンの方がワカッテマスやハインよりも年上で
航空宇宙エンジニアのキャリアもフサギコさんの次に長い人物だ。

( <●><●>)「懲りない方ですね。いい加減、そのお下劣な文法利用は止めたらどうなんですか。
      仮にも女性の前ですよ。仮にも」

从 ゚∀从「おい、なんで二回も『仮り』って言ったんだオイ」

(´・ω・`)「メス猿を女とカウントすべきか迷ったんだろ」

从#゚∀从「おお!? 言ったなコラァ!!」

(´・ω・`)「お、やんのか小娘」

ショボンは……何と言ったらいいのだろう。とりあえず変態だ。

でも変態である前に人格破綻者かもしれない。
喧嘩早いし、協調性を重んじないし、好き勝手に発言するし、とにかく無茶苦茶な人間だ。

それに彼は実に多彩な性癖を持っている。
北は鼻フック、南は直腸バイブまでとあらゆるアブノーマルプレイに手を出していて、
石村屋の悪性核弾頭とまで言われている。

(´・ω・`)「神の右フック」

从;゚∀从「おッ……と!? アッブねー。だが、見切ったぜ」

(;´・ω・`)「っ……しまった。胸への打撃を狙ったんだが
      目標の胸囲が想像以上になくて空振りしてしまったようだ。
      これにはショボンさんも苦笑い」

从#゚∀从「ウぉイ!! お前、ホントに口達者だな!
     なに喰ったらそんな人格が……おい、その苦笑とフルハウスみたいなポーズを止めろ!
      人を苛立たせる天才だよなホント!」

8 ◆GOO3eNv.Vk:2011/08/31(水) 00:20:07 ID:xOvK1B460

ただ、ショボンの材料工学に関する知識と重機の運転技術力はマエストロ(超絶技巧級)クラスに匹敵し、
不可能と思えるような難解な仕事を次々とこなして行く石村屋の実質的なエースを張っている。

生命にとっては過酷過ぎる宇宙環境での作業は常に安全率0.25の危険性を孕んでいて、
ショボンの洞察眼と行動力によって命を救われた者も少なくない。

もちろんその後は様々な脅迫的請求を行って、私腹を肥やしているようだけれど……。

ミ,,゚Д゚彡「ようお前たち。仕事上がり早々に悪いな」

倉庫を改造した会議室にフサギコさんが現れた。

ハイン、ワカッテマス、ショボンは既に備えつけの椅子に座っていて、
遅れてやってきた上司に一斉に視線を向ける。

从 ゚∀从「社長。どうしたんだよ急に」

ショボンの格闘で息を切らしたハインが文句を垂れた。

白くて細いハインの手の中では愛用のスパナが落ちつきなくクルクルと回転している。
どうやら彼女は昨日の晩に閃いた抗金属石採掘銃に関することで頭がいっぱいのようだった。

ハインは一つのことに凝りだすと他のことにまで気が回らなくなるタイプの人間なので、
早く工房に戻って自分のアイディアを形にしたいのだろう。

9 ◆GOO3eNv.Vk:2011/08/31(水) 00:23:04 ID:xOvK1B460

ミ,,゚Д゚彡「問題が発生した」

そわそわするハインとは対照的にフサギコさんはその大柄な身体に似合わず神妙な表情をしていた。
チャームポイントの口髭を弄るときは何かを考え込んでいるときのフサギコさんの癖だ。

从 ゚∀从「問題?」

ミ,,゚Д゚彡「ああ、今向かっているネヴカドネザルからの応答がない」

姿勢正しく椅子に座るワカッテマスがその台詞を聞いて不思議そうな顔をした。

( <●><●>)「それはまた奇妙ですね。あれだけ大きな
      採掘船ですからそれなりの通信設備を有しているはずです。
      宇宙で迷子もあるまいでしょうに」

ネヴカドネザルとは大手惑星採掘業者であるニューソク社が所有する大型採掘船の名前だ。

昨今の資源事情は地球外惑星に依存している部分が多く、
今や宇宙採掘事業は人類にとってなくてはならないものとなっている。

ネヴカドネザルはその採掘事業船の中でもトップクラスの排水量を誇り、
現在は木星の衛星『カリスト』でレアメタル採掘を行っている。

そして僕たちを乗せているこの船「アイザック号」は、そのネヴカドネザルに向けて指針を取っている最中なのだ。

从 ゚∀从「太陽風かなんかで電波障害が起きてるんじゃねーの?
     宇宙じゃよくあることだぜ」

ミ,,゚Д゚彡「バカ。こちとら宇宙へ上がって二十年の大ベテランだぞ。
      そんな初歩的なミスは犯さん」

そう、いま僕たちは宇宙にいる。

10 ◆GOO3eNv.Vk:2011/08/31(水) 00:29:01 ID:xOvK1B460

時は西暦2032年。
人類が宇宙に資源と住居を求めて進出してから実に百年という年月が経とうとしていた。

宇宙開闢から宇宙開拓へ。
とめどない科学技術の発展と共に人々は自らの生まれ故郷を脱すると、月、火星、木星へと
その意識を伸ばし、新たなステージへとどんどん突き進んでいる。

人類が初めて月以外の惑星へ赴き、サンプルリターンに成功したとき、
国際宇宙開発計画の指導者である米大統領は演説でこのような台詞を遺している

"人は、重力から解放された"――――――と。


( <●><●>)「電波障害がないとなると……そうですね、先方の通信障害の可能性は?」

ミ,,゚Д゚彡「いや、ノイズはない。自由航法誘導ビーコンはあちらさんからちゃんと
      発信されているし、船体識別信号も出ている。
      単純にこちらからの通信に応えないんだ」

从 ゚∀从「従業員がストライキでも起こしてたりして」

適当なことを言うハインにワカッテマスが眉根をしかめた。

( <●><●>)「それは有り得ません。航空宇宙労働法では生命維持、通信および航海術に従事
      する労働者のストライキは従業員の生命に直接関わるために認められていません。
      もし実行すればそれはテロ行為とみなされます」

(´・ω・`) =3「はん。実際にそういうことをしでかすバカがいるからテロって言葉があるんだろうが。
       ニューソクっていやあ、身元が怪しいカルトちっくな部門が幾つも存在する奇妙な組織で有名だ。
       何が起こったって不思議じゃねーよ」

ショボンが鼻に指を突っ込み、指先に付いた黒い有機物をハインの肩に落ちつく僕の身体に擦りつけた。
ハインが怒ってショボンに拳を振るったけど、ショボンは器用にそれを避けてしまう。

ショボンは今まで色んな人と喧嘩をしてきたけれど、僕はショボンが殴られるところを見たことがない。

11 ◆GOO3eNv.Vk:2011/08/31(水) 00:32:10 ID:xOvK1B460

从#゚∀从「こぉんの腐れ眉毛! ビコーズが汚染されちまった。エタノールで消毒しなきゃ……」

(´・ω・`)「オレ様の鼻糞はウィルスか?」

( <●><●>)「むしろバイオ兵器でしょう。触れた者は皮膚組織が汚染される可能性がありますね。
      薬品消毒に加え、高熱消毒の実行を強く推奨しマス」

ミ,,゚Д゚彡「漫談はそこまでにしてくれ。それで、ネヴカドネザルへのアプローチについてなんが……」

アプローチ(着艦)。
フサギコさんの言葉を聞いた瞬間、ハインたちは少し怪訝な顔つきをした。
それはまるでタチの悪いブラックジョークを聴いたかのような態度だった。

从 ゚∀从「社長。そりゃガチで言ってんのか?」

宇宙は常に未知が潜んでいる。
未知ということは無知ということで、宇宙においての無知は死と隣り合わせであることを指していた。

例えば地球では建物や乗り物から出入りすることは日常的に行われているけど、
宇宙で何のチェックもなしにエアロックを開けることは許されない。

もし向かった部屋の気圧が何らかの理由で酷く高かったり、あるいは低かったりした場合、
その人の身体は吹き飛ばされるどころか体内圧力が急激に変動して
内蔵が飛び出してしまうかもしれないからだ。

僕らが向かっているネヴカドネザルは今その未知に包まれている。
つまり、危険だから迂闊に近づいてはいけないのだ。

12 ◆GOO3eNv.Vk:2011/08/31(水) 00:35:56 ID:xOvK1B460

宇宙を知らない人にとっては過剰な反応に見えるかもしれないけど、
これは人類が重力から解放されてからおよそ百年の間に学んだ経験則の一つとされていた。

( <●><●>)「二重三重に対策が敷かれているにも関わらず、緊急シグナルすら発さない船には
      何らかの重大なトラブルが起きている可能性が高い。
      未知の事象が発生している船には不用意にアプローチしないことが鉄則です」

(´・ω・`) 「宇宙では、知らないことにリスクが付き纏う。
      バカは宇宙(そら)へは上がるなってこった。
      社長、あんたもそのバカのうちの一人か?」

ミ,,゚Д゚彡「充分に分かっているさ」

( <●><●>)「ではなぜアプローチの提案を?
      ひょっとしたらネヴカドネザルはスペースジャックされているかもしれないし、
      バイオハザードが起きているかもしれないのですよ。
      公安にこのことを知らせ、我々は待機すべきです」

二人の部下の反論できない正論にフサギコさんは黙り込んでしまった。

ミ;-Д-彡「…………」

凄く、長い時間が経ったと思う。
組織の長であるフサギコさんがずっと沈黙を続けているので
もう誰も喋らないんじゃないかと思ったとき、

从 ゚∀从「なんか、理由があるんだろ」

腕組みをして目を瞑っていたハインが口を開いた。
ボサボサになった髪を掻きながらハインの青い眼がフサギコさんへと向けられる。

从 ゚∀从「社長が説明をかっ飛ばして何かをしようとするときって、
     だいたいワケありのときじゃねーか。
     今、私たちが向かってる船……ネヴカドネザルに何かあるんだろ?
     ルールを無視してでも行かなきゃいけない理由がさ」

ミ,,゚Д゚彡「ハイン……」

从 ゚∀从「だからさ、話してくれよ。社長はウソつくの苦手なんだし」

13 ◆GOO3eNv.Vk:2011/08/31(水) 00:37:22 ID:xOvK1B460

フサギコさんの表情が少しだけ緩んだ。
それを受けてワカッテマスもやれやれといった表情でハインの言葉の後に続く。

( <●><●>)「苦手というよりむしろ下手ですね。社長、我々は互いの胸中をある程度吐露しても
      差し支えない年月を既に共有しているはずですよ?
      良ければ私たちに事情を話して下さい。何か力になれるかもしれません」

ミ,,゚Д゚彡「ワカ……」

从 ゚∀从「なっ! ほら社長、話しちまえよ。
     口に出した方が案外気楽になるもんだぜ。なあショボン?」

(´・ω・`)「うんこ行きたい」

( <●><●>)「あなたは本当に空気を読まない人間ですね。
      その神経の図太さには感心しますよ」

ミ,,-Д-彡「…………」

皆の言葉を受けて、フサギコさんは何かに堪えるように暫らく床を見つめていた。

そして少しの沈黙のあと、滔々と自分の胸の中に渦巻いていた不安を吐露し始めた。
それは彼の兄弟にまつわる話だった。

ミ,,゚Д゚彡「弟がいるんだ。ネヴカドネザルに……」

( <●><●>)「弟? ご兄弟がいたというのは初耳ですね」

ワカッテマスが目を丸くした。
フサギコさんが自分の身内話をすることは滅多になかったからだ。

14 ◆GOO3eNv.Vk:2011/08/31(水) 00:41:42 ID:xOvK1B460

ミ,,゚Д゚彡「ああ。いろいろと厄介な事情が重なってな……殆ど疎遠になっていたんだ。
      つい最近まではあいつが宇宙に出ていることすら知らなかった」

(´・ω・`)「その弟がニューソクの船にねえ。エリートじゃん」

ミ,,゚Д゚彡「大学時代のもう殆ど使っていない俺の古いアドレスに
      あいつからのメールが届いたんだ。今から二日ほど前の話だ。
      ネヴカドネザルの改修修理の従業員リストから俺の名前を見つけたらしい」

( <●><●>)「内容は?」

ミ,,゚Д゚彡「何か大事な話があるとのことだった。
      是非、直に会って伝えたいと……」

(´・ω・`)「意味深じゃねーか。内部告発か何かか?」

興味を惹いたショボンの問いにフサギコさんは「わからない」と言って首を横に振った。

ミ,,゚Д゚彡「メールに具体的な内容は書かれていなかったんだ。
      最初は悪戯かとも思ったが、俺と弟しか知らないようなこと
      も書いてあったから本人であることは間違いない。それと……」

( <●><●>)「それと?:

ミ,,゚Д゚彡「かなり切羽詰まった様子だった。
      他の人間は信用できないと……俺にしか頼めないと……そう書いてあった」

そのとき、間もなくスーパースペースに突入するという旨のアナウンスが船内に流れた。

スーパースペースは惑星間の途方もない距離を驚くべき速度で移動できる亜光速移動航法だ。
ほんの二百年ほど前までは何年もかけて火星まで移動していた時代があったけど、
今ではその行程は僅か十時間足らずの小旅行と化している。

このスーパースペース技術が確立されたからこそ、人類は自分たちの寿命では
到底活動しえなかった巨大な宇宙空間をポケットの中に入れられるようになったわけだ。

15 ◆GOO3eNv.Vk:2011/08/31(水) 00:45:30 ID:xOvK1B460

ミ,,゚Д゚彡「亜光速移動……一度航路に乗ったら後戻りはできん。行くか、通報するかだ」

もちろん国際宇宙機関である公安に通報すれば石村屋はネヴカドネザルに近づくことができなくなる。

フサギコさんは弟との接触できるだけ早くしたいと考えていることは、みなまで言わずともよくわかった。
仕事の遅い公安の処理を待っていたらいつ再会できるかも分からなくなるのだから当然だろう。

ミ,,゚Д゚彡「安全でないことは分かっているし、何もお前たちを連れて
      ネヴカドネザルに乗り込むつもりもねえ。
      現場の状態次第だが、とにかく行ってみたいというのが俺の意思だ」

( <●><●>)「それが社長の意思ならば私はそれに従います」

从 ゚∀从「どうせ反対したって行くんだろ? とにかく行くだけ行ってみようぜ」

(´・ω・`) 「給料分の仕事はする」

三つの顔に見つめられたフサギコさん。
船内はスーパースペース突入に備える警報が鳴り響いている。

ミ,,-Д-彡「お前たち……ありがとう」

その言葉を合図に僕たちを乗せたアイザック号は亜光速の世界へ突入した。


――――――――――
―――――――
――――

16 ◆GOO3eNv.Vk:2011/08/31(水) 00:48:55 ID:xOvK1B460




ミ,,゚Д゚彡「間もなくアプローチを行う。総員、衝撃に備えよ」

从;゚∀从「正気か社長!? このままじゃ衝突しちまうよ!!」

ミ;゚Д゚彡「重力縄が外れないんだ。このままボーッとしてったて衝突する」

大型採掘船「ネヴカドネザル」を眼前に据えたアイザック号の船内は喧騒に包まれていた。

星々が美しい流線を描くスーパースペースを突破した僕たちの目の前には
座標計算通りにネヴカドネザルがその巨体を静かに横たえていた。

木星の衛生カリストを背景に据える人類史上最大の宇宙船の姿は雄々しくも美しい。

隕石や小物体とぶつかっても最小限の損傷で納まるように流線型の板金が施され、
遠くにいても視認できるように全体に白い塗装が施されている。

宇宙好きの子供たちの憧れでもあるその船は、今、何万キログラムフォースもの引力を持って
僕たちの船を強烈に引き寄せていた。

(;<●><●>)「……だめだ。やはり重力縄を切れません。
       本船の横腹に照射され続けています」

(´・ω・`) 「おっほwwww 牽引スピードが上がってるぞ。機械の故障か?」

17 ◆GOO3eNv.Vk:2011/08/31(水) 00:51:10 ID:xOvK1B460

なぜこのような事態になっているのか?

当初のネヴカドネザルは通常通りの運行がなされているように見えた。
近くには海賊船らしきものもなく、通信に応じなかったのは
やはり機器の故障だったのではと誰もが思ったほどだ。

でも、相変わらずこちらからの発信に対する応答はなくて、
迂闊に近づかないほうがいいだろうという結論が改めて出された。

そこで無人探査機を接近させて様子を窺(うかが)おうとしたところ、想定外の自体が起きた。
ネヴカドネザルに備えられていた船や資源隕石を引き寄せる重力縄がアイザック号に照射されたのだ。

(;<●><●>)「ダメです! オートマ(全自動航法装置)が反応しません。
       このままでは本船はネヴカドネザルに激突します!!」

从;゚∀从「あんなバカでけぇ船にぶつかったら
     こんなポンコツ船、紙クズみたいに潰れちまうよ!!」

ワカッテマスが必死にコンソールを操作し、その横でハインが悲鳴をあげる。

ネヴカドネザルが使っている重力縄は巨大な隕石を引き寄せるために使用する大出力引力装置だ。
船の推進力を上げて縄を断ち切ろうとするけど、中規模程度の排水量しか持たない
アイザック号の力では到底太刀打ちできなかった。

ミ,,゚Д゚彡「ポンコツっていうな!! ワカ、船をマニュアル操作に切り替えろ。
      ショボン、運転を頼むぞ。重力縄は隕石を積載するための貨物港から照射されている。
      そこへ船体をうまく突っ込ませるんだ」

(´・ω・`) 「もうやっている」

両手に大きな操縦桿を握ったショボンの眼の色が変わった。

青白く輝く重力縄による引力に無理に逆らわないよう慎重にブースターを調整し、
パックリと開いたネヴカドネザルの貨物港へとアイザック号を誘導していく。

18 ◆GOO3eNv.Vk:2011/08/31(水) 00:56:49 ID:xOvK1B460

(´・ω・`) 「ほらほらいい子にしろよベイビー。
      ママンの言うとおりにな?」

从;゚∀从「おお〜。すげー。真っ直ぐ進んでらぁ」

( <●><●>)「口惜しいですが、ここはショボンの能力に頼る以外にありませんね。
       隔壁を閉鎖し、衝突に備えます。皆さん、宇宙服の生命維持装置をオンラインにして下さい」

アイザック号は先ほどまで駄々っ子のように揺れていたことが嘘かのように
静かにネヴカドネザルへと近づいていた。

ゆっくり、ゆっくりと近づいてくる巨大船の貨物港。
まるで大きなモンスターが僕たちを呑み込むような光景だった。

今のアイザック号は重力縄による制御不能な引力とマニュアルで動く推進力によって
微妙なバランスを取っている状態だ。

推進力を無理に引き上げれば船体はバランスを崩してネヴカドネザルへ酷い形で衝突してしまうだろう。

さながら強烈な横風を受けつつヨットを直進させて狭いトンネルに入るようなものだった。
真っ暗な宇宙空間で細々と光る誘導灯を頼りに、ショボンは数センチ単位の精度で全長三十メートルの宇宙船を操る。

(;´・ω・`) 「…………」

ショボンの両腕にクルーの命が握られていた。
それを知るハインたちはひたすらショボンの能力を信じて祈ることしかできなかった。

(´・ω・`) 「……ふん」

アイザック号が誘導レーンに入った。

誘導レーンには不定形な隕石が貨物港に綺麗に収まるよう無駄な
部分を削り取るための切削アームがそこら中に飛び出ていた。

木の枝のように伸びるドリルアームが船にぶつかり、その衝突音が船内に恐ろしく響いた。
ガチャン、ガシャンという金属音を鳴らしながらネヴカドネザルの隕石収容口に進入するアイザック号。

収容口は真っ暗で、まるで洞穴のようだった。
洞穴の奥からはアイザック号を引き寄せる重力縄の青白い光が不気味に伸びている。

19 ◆GOO3eNv.Vk:2011/08/31(水) 01:01:59 ID:xOvK1B460

(´゚ω゚`) 「はいっッツ。ブレェェエエえええきッ!!!」

タイミングを見計らったショボンがアイザック号の後退用ジェットを一気に噴出させた。
相反する二つの力に悲鳴をあげた船が再び激しく揺れ、なおも直進し続ける。

ガシャン! バキン!

『進入禁止』と大きく書かれた警告板を突き破り、アイザック号の船頭が鋼鉄の壁へと迫る。

そして――――――

(´・ω・`) 「はい。もう無理。ぶつかります(爆)」

ミ;゚Д゚彡「正面衝突するぞ! 衝撃に備えろ!!」


衝突、轟音。
速度を落としきれなかったアイザック号が隕石収容口へ頭から突っ込んだ。



―――――――――
―――――
―――

20 ◆GOO3eNv.Vk:2011/08/31(水) 01:07:13 ID:xOvK1B460

从 ゚∀从「うへ〜。酷いなこりゃ」

ネヴカドネザルの真っ暗な貨物橋に明かりを照らしながらハインが呟いた。
照らされた明かりの先には船体の前身をぐちゃぐちゃにした無残なアイザック号があった。

从 ゚∀从「mixiの日記に書こう」

そう呟いたハインが携帯端末で船の写真をパシャパシャと撮り始める。
貨物港は真空状態なので彼女は軍隊の迷彩色を基調とした宇宙服を着こんでいた。

ミ,,゚Д゚彡「ああ、こりゃあ修理しないと飛べないな。
      幸い重力縄は衝突したときに壊れたようだが……」

同じく白い宇宙服に身を包んだフサギコさんは傷だらけになった自分の愛船を見て溜息を洩らす。

今までも小惑星帯に突っ込んだり、磁気嵐の中を突破したりと無謀な
運転をしてきたけれど、今回の一件でアイザック号はいよいよ機能不全に陥ってしまったようだ。

ミ,,゚Д゚彡「(保険、下りるかなあ……これ……)」

重力スタビライザーや生命維持装置は何とか壊れずにすんだものの、
船外に取り付けてある通信装置やレーダーがお釈迦になってしまっているので長距離航行ができない。

代替パーツで修理する必要があった。

(´・ω・`)「にしても」

青い宇宙服のショボンがやれやれといった大袈裟なポーズを取る。

(´・ω・`)「こんだけ派手に登場したのに、警備も消防も出てきやしねえってのがスバラシイな」

ショボンの言うとおりだった。

貨物港は異常事態を知らせる赤い警報等がクルクル回ってはいるものの、
本来なら慌てて飛び出てくるネヴカドネザルの乗組員は誰一人として姿を表さず、
代わりに自働消防装置だけが動いてアイザック号に粘着性消火剤を振り撒いている。

真空空間だから当り前ではあるけれど、貨物港は異様な静けさがずっと漂い続けていた。

21 ◆GOO3eNv.Vk:2011/08/31(水) 01:18:54 ID:xOvK1B460

( <●><●>)「とにかく。ネヴカドネザルを調べてみましょう。
       ここに居続けても酸素の無駄です」

アイザック号から幾つかの荷物を運び出していたワカッテマスが無線でそう告げた。
信じられないことに彼はショッキング・ピンクの宇宙服を着ていた。

ミ,,゚Д゚彡「そうだな。とりあえず中に入ってみるか」

从 ゚∀从「そんな安易に入って大丈夫なのかよ。
     ひょっとしたら中で海賊どもがうようよしてるかも……」

ミ,,゚Д゚彡「海賊がいるんだったら乗っ取った船を傷つけるような真似はしないさ。
      健全な振りをして俺たちを着艦させ、船から出てきたところを襲撃する……そうだろ?」

从σ゚∀从「う〜ん。まあ、確かに」

(´・ω・`)「おい。ここから入れそうだぜ」

ショボンが作業員用の連絡通路を見つけたので、
さっそく捜索要員とアイザック号の修理要員の二手に分かれることになった。

( <●><●>)「私は以前もゴーストシップの捜索をしたことがありますからね。
       こういった仕事の勝手はわかっていマス」

(´・ω・`)「はぁ……不時着ゲーの後はダンジョン探索かよ。
     めんどくせぇ……」

捜索担当はショボンとワカッテマスだ。

从 ゚∀从「くそっ。多数決とかヒキョーだろ。
     数の暴力だぜ……くっそ〜」

いの一番に「行きたい!」と捜索要員に立候補したハインは「お前は無茶をするからダメ」という
理由で一方的に却下され、アイザック号の損傷具合を調べている間もずっとぶーたれていた。

一方のショボンとワカッテマスも緊張感を孕みながら連絡通路の入口内部へと踏み込んでいた。

( <●><●>)「ふむ。船内も妙に薄暗いですね。しかしちゃんと空気もありますし、
       重力発生装置も機能しているようです」

手に持った装置をそこかしこに向けながらワカッテマスが唸る。
通路内部は特に争った形跡もなく、暗いこと以外は平時と変わりないように感じられた。

(´・ω・`)「さあ、行けフンコロガシ。
     そこら辺に死体が転がってないか見てこい」

( ∵)「ピププ」

22 ◆GOO3eNv.Vk:2011/08/31(水) 01:50:56 ID:xOvK1B460
暫らく、席を外します

2329日・30日「納涼夏祭り」:2011/08/31(水) 03:02:20 ID:4TO4KifUO
デッドスペースのモロパクリじゃん……

2429日・30日「納涼夏祭り」:2011/08/31(水) 07:29:13 ID:gmE9CvnAO
パクリとか知らないけど最初から見てすごく面白かった。続き気になる

25 ◆GOO3eNv.Vk:2011/08/31(水) 14:22:25 ID:xOvK1B460

気密室で真空状態から解放されたショボンがハインから借りた僕を床へ放り投げた。

危険な場所へ入り込むときの偵察は僕の役目となっている。
僕が各部屋の安全を確認したあとにショボンたちが実際に立ち入て詳しく調べるという算段だ。

冷たい金属床に三本の脚でうまく着地した僕はショボンとワカッテマスの視線を
背中に受けながら薄暗い通路を迷うことなく進んで行った。

(´・ω・`)「無線、感度よし。フサギコ、そっちはどうだ」

ミ,,゚Д゚彡「良好だ。バッチリ映っている」

从 ゚∀从「ショボン、ビコーズに無理させるんじゃねーぞ。
     壊したら怒るからな!」

ミ゚Д゚,,彡「ハイン、自分の作業に集中しろ」

僕が見ている光景は無線を通じて石村屋のそれぞれの携帯端末へと映し出され、
それを見た彼らが改めて僕へ指示を出す仕組みとなっている。

もちろん僕が独自の判断をして調べることもできるけど、人間というのは
あるゆる作業に対して可能な限り自分たちを関与させようとするものなので、
そういったことはしない。

( <●><●>)「いいですかビコーズ。この区画は船に収容された隕石を加工したり
       調査したりするための作業スペースです。あるのはせいぜい作業員たちの
       休憩室や工具の整備室ぐらい。順調にいけば五分とかかりません」

( ∵)「ププ!」

建造物への侵入や探索は軍用プログラムを持つ僕にとっては朝飯前の仕事だ。
ショボンたちの指示に従いながら僕は慣れた要領で次々に船室の中を確認していく。

26 ◆GOO3eNv.Vk:2011/08/31(水) 14:25:47 ID:xOvK1B460

ミ,,゚Д゚彡「うーむ。特に争った形跡もないな」

从 ゚∀从「ビコーズ。ヤバ気なものがあったら直ぐに逃げろよ」

( <●><●>)「空気に異物の混入は見当たりません。
       ここまで異常がないとかえって不気味ですね」

(´・ω・`)「フンコロ。その通路の先にネヴカドネザルの奥部に通じる部屋がある。
     そこが最後だ。チェックしろ」

人気のない通路の先にはネヴカドネザルの作業員たちが宇宙服に着替えるための更衣室があるはずだ。
操作パネルの開閉ボタンを押すと、中は完全な闇と化していた。

空調機能はオンラインになっているはずなのに、湿った、思い空気が闇の中から溢れだしてくる。

( <●><●>)「赤外線カメラを……オンラインに」

ワカッテマスの指示に従い、僕は赤外線を暗闇に向かって照射した。
緑と白の明かりによって浮かび上がったそこには―――――――――

从;゚∀从「うわっ!?」

ミ;゚Д゚彡「な、なんだこれは」

(;<●><●>)「そんな……嗚呼、神よ……悪夢のような光景です」

27 ◆GOO3eNv.Vk:2011/08/31(水) 14:30:51 ID:xOvK1B460

映像を見る者たちから悲鳴にも似た動揺の声が一斉に漏れた。

更衣室にはおびただしい量の血が流れていた。
ロッカーや壁にも血飛沫が付いており、何かが激しくぶつかったためかスチール製の壁は所々が窪んでしまっている。

ネヴカドネザルの乗組員のものだろうか。
床には人間の四肢や内蔵のようなものも幾つか落ちていて、
靴や制服が所々に落ちていなければ傍目には人間のものだとは気付かないほど損傷していた。

辺りに広がった血はすでに固まっているけど、腕や胴体の断面はぬらぬらとしたものが
僕の赤外線を反射して気味悪く光っていた。

(´・ω・`)「生存者はいないようだな。
     ここまで逃げて、捕まって、殺されたって感じか」

これがカラフルな可視光映像でなくてよかった。
あまりの凄惨な光景にワカッテマスが嗚咽を漏らした。

从;゚∀从「…………」

ミ;-Д゚彡「酷いもんだ。人間のすることじゃねーぞ」

そのとき、弱々しい声でワカッテマスが叫んだ。

(;<●><●>)「社長。今すぐこの船から出るべきです。
       やはり海賊たちがここをジャックしていたのです。
       彼らに見つかる前にここを出て―――――」

(´・ω・`)「海賊はいねーよ。少なくともその部屋には」

28 ◆GOO3eNv.Vk:2011/08/31(水) 14:33:34 ID:xOvK1B460

動揺する仲間の声にかぶせるように、ショボンの声が宇宙服のヘルメットに響く。

あれだけのスプラッタ映像を見せつけられたにも関わらず、
ショボンの声はとても落ち着いているように聞こえた。

(;<●><●>)「海賊ではないって……その根拠は?」

(´・ω・`)「ビコーズ。その辺に転がっている死体をもう一度見せろ」

僕は言われたとおり、近場に落ちている女性の脚らしきものをカメラに捉えた。
急に惨殺映像を見せつけられたことにハインが抗議の声を挙げる。

(´・ω・`)「よく見ろ。この脚、切断されたというよりかは『引きちぎられている』ように見える」

(´・ω・`)「爆薬か何かで吹き飛ばされたのなら周囲にその痕跡が残っている
     だろうし、そもそもこの更衣室には『爪痕』や『衝突痕』はあっても
     『銃痕』がひとつも見当たらないってのが解せねえ」

(;<●><●>)「!」

ミ;-Д-彡「言われてみれば確かに……」

(´・ω・`)「とにかく。この趣味の悪い演出をした輩は少なくとも人間ではない。
     まあ、海賊どもがライオンでも飼っているのなら話は別だがな」

気味の悪い沈黙が続いた。

ショボンの指摘が的確だったからではなく、この惨殺現場を
人間が作ったものではないという可能性が出てきたことに一同は困惑しているようだ。

29 ◆GOO3eNv.Vk:2011/08/31(水) 14:36:30 ID:xOvK1B460

ミ,,-Д-彡「と、とにかく俺たちも今からそっちへ向かう。公安に通報しようにも
      アイザック号の通信システムはお釈迦になっちまているし、ここで
      できることはない。中に入ってもう少し調べてみないと……」

フサギコさんの決断にワカッテマスが不安気な表情をした。

―――――――――
―――――
―――

ミ,,゚Д゚彡「昔、フォボスの探索採掘をしていたときに爆発事故があってな。
      そのときの光景で大抵のグロ画像には慣れたつもりだったが、
      やはり死体というものはキツイ」

“バラバラ現場”である更衣室を一通り調べ終えたあと、
僕たちは今後の方針を話し合うために更衣室外の連絡通路へと戻っていた。

宇宙は寒い。
船内の気温は基本的に低く設定されているので、腐敗の進行は遅れているものの
死体は死後二、三日が経過したものだろうという結論に至った。

更衣室の奥には扉があってネヴカドネザルの内部へと続いているけど
誰も踏み込む気にはなれなかったようだ。

なぜなら、勇敢なショボンが自分の目でバラバラになった死体を検証したところ
幾つかのパーツが“明らかに”足りなかったことが判明したからだ。

(´・ω・`)『バラバラにされたというよりかは……喰い散らかされた感じだな』

こんな発言をされて、わざわざ人食いの何かが潜んでいるかもしれない
場所へ首を突っ込みにいく者はいないだろう。

30 ◆GOO3eNv.Vk:2011/08/31(水) 14:41:07 ID:xOvK1B460

从 ゚∀从「で、どうすんだ?」

簡易検査で船内の空気汚染はないということが分かったので、
全員が宇宙服のヘルメットを外している。

ミ,,゚Д゚彡「お前、あれだけのものを見せつけられて
      平気でいられるな。てっきりギャーギャー騒ぐかと思ってたが」

从 ゚∀从「カプコンとエレクトロニック・アーツに鍛えられたんだ」

ミ,,゚Д゚彡「?」

从 ゚∀从「そ れ よ り。そーすんだよこれから

(´・ω・`)「どうするもなにも、この糞船に捕まったときから選択ルートは一方通行だろうが。
     ぶっ壊れたアイザック号に戻ったところで何ができる?」

( <●><●>)「そうですね。それよりもこのネヴカドネザル通信システムで
       救難信号を送ることが最善です。あまり気が乗りませんが……」

从 ゚∀从「あれ? ワカにしては随分とアグレッシブな発言だな。ピンク色のくせに」

( <●><●>)「服の色は関係ありません。私はべつにチキンではないのです。
       ただ、想定外の出来事に多く直面したので少し平常心を失っただけです」

ショッキング・ピンクの宇宙服を着た男が鼻を鳴らした。
それでも額には脂汗が浮き出ていて、それを見たハインはそれ以上何かを言うことはなかった。

31 ◆GOO3eNv.Vk:2011/08/31(水) 14:58:57 ID:xOvK1B460

ミ,,゚Д゚彡「うん。いつものワカに戻ったようだな。
      ではこれから俺はネヴカドネザルのブリッジに向かって
      救難信号を出してくるから、お前たちはアイザック号で待機していてくれ」

フサギコさんがそう言うと、ハインたちは不思議そうな顔をした。
部下たちの不思議そうな顔を見てフサギコさんもまた不思議そうな顔をする。

从 ゚∀从「なに言ってんだ社長。ワタシらもいくに決まってんだろ」

ミ,,゚Д゚彡「い、いや。何を言ってるんだ。あの更衣室の惨劇見ただろう?
      この船にはなにかヤバイものがいるのは明白だ。
      お前たちにこれ以上危険は犯させられない」

( <●><●>)「心外ですね。それではまるで私たちが貴方の足手まとい
       のように聞こえます」

ミ;゚Д゚彡「ちがう。そういうわけじゃ……」

从 ゚∀从「じゃー決まりだな。レッツゴーだぜ」

元気よく腕を天井に付きだして進もうとするハインの肩をフサギコさんは慌てて捕まえる。

ミ;゚Д゚彡「バカッ。なに考えてるんだ。ただでさえ俺のワガママで
      お前たちはこんな目にあってるんだぞ。怨みこそされど協力なんて――――」

背中を向けていたハインが急に振り返った。
セミロングの茶髪がふわりと浮き、ハインの蒼い両眼がフサギコさんを見据える。

その眼は確かにフサギコさんへと向けられているけど、
何かもっと別の、本質的なものを見ているように感じられた。

知識においても経験においても自分より劣るはずの少女に見据えられ、
フサギコさんは何故かそれ以上言葉を続けることができなかった。

从 ゚∀从「こういう状況になるのはハイパースペースに入る
     前からわかってたことじゃん。私もワカもショボンも
     それを承知したうえで来たんだぞ? なんで社長を怨むんだよ」

ミ;゚Д゚彡「…………」

ハインの指摘にフサギコさんは苦虫を潰したような顔をした。
何かよい説得案はないかと頭の中を捜し回っているようだ。

32 ◆GOO3eNv.Vk:2011/08/31(水) 15:03:48 ID:xOvK1B460

(´・ω・`)「まあ。こういうスリルを含めての石村屋だ。
     それに、命の綱である救難信号の発信を他人
     のあんたに任せるのが気に喰わないしな。
     途中で死なれたら面倒だ」

( <●><●>)=3「この残念眉毛は本当に正直ではないですね。
        単純に社長が単身で危険に飛び込むのが心配だから
        と言えば良いでしょうに」

(´・ω・`)「うっせえよデメキン。てめぇは眼だけじゃなくて口もでかいのか?
     その口とケツ穴を交換したらどうだ。さぞ快便になるだろうよ」

( <●><●>)「おやおや、そういう貴方もその吊り下がった眉毛のように
       人格もひん曲がっているようですね。
       ブーメランにしたらアボリジニの人たちに重宝されるんじゃないですか?」

(´・ω・`)「やんのかギョロ眼」

( <●><●>)「望むところです金玉口」

ミ;゚Д゚彡「おいお前ら―――――!」



じっと睨みあう二人の間にフサギコさんが割って入ったときだった。

ぼとっ。 ゴトン。

アイザック号がある貨物港側の通路から何かが落ちる音が聞こえた。
ずいぶん大きな音だったのでショボンもワカッテマスも喧嘩を止めて音の方向を注視した。

33 ◆GOO3eNv.Vk:2011/08/31(水) 15:06:32 ID:xOvK1B460

从 ゚∀从「?」

通路は暗く、落ちてきた何かの全容はよくわからなかったけど、
それがもぞもぞと動いていることと、人ぐらいの大きさをしていることは何となくわかった。

生温かい空気が石村屋の背中を撫でる。

ミ,,゚Д゚彡「おい、誰だ! 生存者か!?」

アイザック号から持ってきた懐中電灯でフサギコさんが通路の奥を照らす。

返事はない。
海賊? モンスター? 乗組員?
明らかにネズミの類ではないそれに全員が緊張の唾を飲み込んだときだった。





|#, "(●)'` {"(●)リ「ギャィィイイィィィィイイイイイ!!!」

それは突然、悲鳴とも金切り声ともつかない咆哮をあげて僕たちの方へ走ってきた。

从;゚∀从「おおおおおおおおおおお!?」

ミ;゚Д゚彡「な、なんだコイツ!!?? わっ!?」

バケモノだった。

それは、口が真横に真っ二つに裂け、眼は赤く血走り、
腕は四本あってそのうちの二本は刃先を鋸にしたような鎌がついていた。

それは確かに人の形をしていたけれども、似ているのはせいぜい二本足で動くことぐらいだ。

胴体からは内蔵ともなんともつかない気味悪い赤ピンク色のぶよぶよしたものが
飛び出していて、そこからも赤ん坊のような小さな手が何本か伸びている。

(;<●><●>)「なんですかコイツ!! 来る! こっちに!! 来る!!」

ミ;゚Д゚彡「逃げろ! 逃げろ!!」

从;゚∀从「逃げるってどこに!?」

ミ;゚Д゚彡「更衣室に戻れ! 船の奥へ!!」

34 ◆GOO3eNv.Vk:2011/08/31(水) 15:10:56 ID:xOvK1B460

バケモノの動きは直進的でもの凄く速い。
四本の腕を威嚇するように振り回し、僕たちへと突っ込んでくる。

(´・ω・`)「近寄るなクリーチャー」

(;<●><●>)「このっ! このッ!」

明らかに友好的ではないそのバケモノに向かってショボンとワカッテマスが
船へ持ちこんできた工具を投げつけて応戦する。

|#, "(●)'` {"(●)リ「ギャッ! ギャギャgyギャ!!」

少しだけ怯んだのか、バケモノは前進する速度を緩めた。

ワカッテマスたちが応戦する一方で、ハインは僕を担いで
全速力で扉へ向かいの解錠ボタンを連打していた。

宇宙船の扉は全て機械式の自働扉(ハッチ)が採用されており、
重厚な隔壁の役割も兼ねているので動きが遅い。

デパートのドアのようにゆっくり開くハッチに苛立ちの声を上げるハイン。
ハイン、扉をそんなふうに蹴っても速く開くことはないよ。

从 ゚∀从「よっしゃ。開いたぞ!」

血みどろの更衣室が再び僕たちの前に現れた。
吐き気を催す臭いが宇宙服のヘルメットを外していたハインの鼻を突く。

ミ,,゚Д゚彡「入れ! 速く!」

|#, "(●)'` {"(●)リ「ッギャオオオオ!! ァアァァアアアアァアアアァ!!」

(;<●><●>)「扉を押さえてください!」

35 ◆GOO3eNv.Vk:2011/08/31(水) 15:12:31 ID:xOvK1B460

更衣室に逃げ込む石村屋。
目前へと迫って来たバケモノの鎌腕がハッチが閉じられる寸前に隙間を塗って指し込まれてきた。

顔を青くする一同。
このままではハッチをロックできない。

(´・ω・`)「おい。このふざけた腕なんとかしろ」

奇声を上げながらハッチに体当たりをかますバケモノ。
扉と壁に挟まれた鋭利な刃がハイン達を切断しようと暴れ続けている。

ミ;゚Д゚彡「パイプかなにかないか! 叩き折るんだ!」

从;゚∀从「任せろ社長」

どこから拾ってきたのか銃のようなものを取りだしたハインが凶暴な鎌へと狙いを定めた。

从#゚∀从「喰らえ!!」

バキュッ。バキュッ。
という音と共にハインの持った銃から横一列に並んだ数本の細い光線が飛び出た。
綺麗な赤色のそれらはバケモノの鎌腕に直撃し、持ち主に苦痛を与えた。

36 ◆GOO3eNv.Vk:2011/08/31(水) 15:17:16 ID:xOvK1B460

|#, "(●)'` {"(●)リ「ギャアアアアア!!??」

ミ,,゚Д゚彡「効いてるぞ!」

( <●><●>)「もう一発! もう一発です!」

从#゚∀从「オラオラオラー!!」

立て続けに引き金を引くハイン。

熱光線に耐えきれなくなった鎌腕はやがて音を立ててへし折れ、
同時に分厚いハッチがガシャンと元の位置へと納まった。

流石のバケモノも厚さ八十ミリの鉄板を破る術は持ち合わせていないらしい。
暫らくの間は通路で蠢いたけど、やがて諦めたのか気配が感じられなくなった。

ミ;゚Д゚彡「はぁ、はぁ……。行ったか……?」

从;゚∀从「ぜぇ……ぜぇ……たぶん」

(;<●><●>)「ふぅ、ふぅ。ハイン……それ、あいつに撃ったやつ……
       材料切断用のレーザーカッターじゃないですか。よく見つけましたね……」

从;゚∀从「へへッ。ロッカーから見つけたんだ。ここは作業員用の
     更衣室だしな。工具ぐらいあるんじゃないかと思って」

そう言ってハインは黄色く着色された大口径のレーザーカッターを自慢げに見せた。
硬い岩盤や板を切断するカートリッジ式のものだ。
宇宙採掘現場ではポピュラーな工具のひとつだろう。

37 ◆GOO3eNv.Vk:2011/08/31(水) 15:19:21 ID:xOvK1B460

(´・σω・`)ホジホジ「ガキんちょにしては気が効いたな。おおッ!」

想像以上に大きな鼻糞が取れてひとり驚愕するショボンにワカッテマスが
途切れ途切れの息で呆れた声を出した。

(;<●><●>)「ショボン……あなたには緊張感というものがないのですか」

(´・ω・`)「緊張ってのは顔面引きつらせて奥歯をガタガタさせないと
     できねーもんなのか? 俺のケツ汗見てみるか? あ?」

( <●><●>)「いや、無用な問答はやめましょう。とにかく今は落ちつかなくては」

(´・ω・`)「一番落ちつかなきゃいけねーのはテメーだ。
     その肩の傷、けっこう深くいってるぞ。気付いてんのか?」

( <●><●>)「肩? え……?」

ワカッテマスはそこで初めて自分の左肩が斬られていることに気付いた。
ショッキング・ピンクの宇宙服は斜めに裂け、綺麗に割れた皮膚とそこから流れる血液が垣間見える。

過酷な環境にも耐えうる頑丈な宇宙服が布切れのように切れてしまうなんて……。
あのバケモノの殺傷能力の高さが伺えた。

38 ◆GOO3eNv.Vk:2011/08/31(水) 15:21:57 ID:xOvK1B460

ミ,,゚Д゚彡「ワカ、お前怪我してるぞ。大丈夫か?」

从 ゚∀从「うわ〜。結構いい感じに切れちゃってるな」

(;<●><●>)「は……いや、今気付きました。そういえば
       ここに逃げ込む最中に肩に何かがぶつかった
       ような気もしますが……」

ミ,,゚Д゚彡「けっこう出血してる。備えつけの救急キットが部屋の
      どこかにあるはずだ」

从 ゚∀从「探してくる。行こうぜビコーズ」

( ∵)「プーン!」

( <●><●>)「お願いします。どれくらい酷いですか?
       背中だとどうも見えなくて……それに痛みを
       あまり感じないのですが。あ、いや、少し痛くなってきたかも」

ミ,,゚Д゚彡「今は興奮だからな。脳内麻薬が痛覚を麻痺させてるんだ。
      そのうち痛くなってくるぞ。とにかく応急処置をする。そこに座れ」

从 ゚∀从ノ「おい。救急キットあったぞー」

赤十字のマークが刻まれた白いプラスチックケースをハインがフサギコさんに投げて寄越す。

ミ,,゚Д゚彡「暗くてよく見えないな。ビコーズ、ワカの肩を照らせ」

( ∵)「ピピプ」

( <●><●>)「かたじけない。それより、さっきのバケモノはなんですか?
       私、エイリアンなんて初めてみました。痛ッ……」

39 ◆GOO3eNv.Vk:2011/08/31(水) 15:23:53 ID:xOvK1B460

皆、息が荒かった。
考えたくないことをほじくり返すことは辛い作業だ。

計ったかのようなあの恐ろしい異形の生物は何だったのか?
ここのネヴカドネザルの乗組員を襲撃したのはあの生物なのか?

一匹なのか? 複数なのか?
恐ろしい憶測が夕暮れの空のように静かに石村屋たちの脳裏に広がっていく。

ミ;-Д-彡「わからん。宇宙開拓が始まってもう何百年と経つが
      地球外生命体との接触は未だに聞いたことがない。
      月刊ムーに投稿したら表彰されるんじゃないか? はは」

(´・ω・`)「案外、ニューソク社の開発した生物兵器だったりしれな。
     だが、バケモノの正体なんざどうだっていい。
     問題はこれから俺たちがどうするかってことだろ」

从 ゚∀从ノ「あいつをぶっ殺す!!」

(;<●><●>)「論点がずれていますよハインリッヒ。
       それよりも生存者を探し、ここから脱出する手段を考えなくては」

(´・ω・`)「アイザック号はお釈迦。この船の脱出艇を使って
     公安に保護させることが現実的な手段になりそうだな。
     内部の生存者に協力させた方がてっとり早い。いれば、の話だがな」

( <●><●>)「ええ。それに社長の弟さんも探さないと」

ミ,,゚Д゚彡「! ワカ……お前……」

40 ◆GOO3eNv.Vk:2011/08/31(水) 15:26:36 ID:xOvK1B460
肩の傷に顔をしかめながらもワカッテマスがフサギコさんに力強く頷いた。

(´・ω・`)「何はともあれ、先ずはやるべきことの優先順位を決めるべきだ。兄弟探しも含めてな……。
     ハイン、フンコロガシに壁面端末からネヴカドネザルの今の状況を出させろ」

ハインに指示された僕は更衣室の壁に備えられた職員用の連絡端末にプローブ(探査触手)を指し込んだ。

こういった船体の状況を共有できる連絡端末は大きな部屋に
必ず一台は設置されているので石村屋のこれからの活動にも役立つはずだ。

从 ゚∀从「ビコーズ。壁に情報を映写してくれ」

僕は乾いた血飛沫がこびり付いた鈍銀色の壁に全長八百メートルを超えるネヴカドネザルの船体図を映しだした。

船体各セクションの気密性、酸素濃度、隔壁閉鎖の有無、生命維持装置の稼働率……。
作業員用端末から拾い出すことが出来る全ての情報を僕は片っ端から開いていく。

ミ,,゚Д゚彡「ふーむ。船そのものはちゃんと機能しているみたいだな。
      船全体の電力供給率も相当低い。
      こりゃあいくつかのシステムは死んでいるかもしれん……」

( <●><●>)「私たちの現在地は船の中央付近ですね。
       作業員の生活居住区がこの真上にあるようです」


(´・ω・`)「もっと船内の詳しい情報はねーのか。監視カメラの映像とか」

( ∵)「プーン。ピピプ」

从 ゚∀从「この端末じゃ難しいらしい。もっとセキュリティクリアランスの高い
     奴にアクセスしないと……ブリッジとか、偉い奴の個室とか」

ミ,,゚Д゚彡「つまり、奥へ進む以外にないってわけだな。問題はどこへ向かうかだ……。
      こんな糞でかい船を端から端まで動き回ったら丸一日以上かかっちまう」

从 ゚∀从「ここはどうだ?」

ハインが壁に映された一点を指差した。
そこは僕たちのいる場所から三階ほど上にある幹部専用の居住スペースだった。

41 ◆GOO3eNv.Vk:2011/08/31(水) 15:28:05 ID:xOvK1B460

( <●><●>)「良い案ですね。幹部クラスの固定端末ならわざわざ遠いブリッジまで
       行かなくとも高度な情報が得られるかもしれません。
       端末さえあれば私がクラッキングできますし」

从 ゚∀从「じゃあ、決まりか?」

(´・ω・`)「面倒なことになっちまったな。
     文句を言ったところでどうしようもねえが」

ミ,,゚Д゚彡「すまん……」

(´・ω・`)「……何か武器を探したほうがいい。何もないよりかはマシだ」

こうして石村屋全体の意思の統一が図られ、できる限りの準備を整えた僕たちは
更衣室の奥へと繋がるハッチの解錠ボタンを押した。

その先に待ち受けていた暗闇はハインたちの心にするすると入り込み、ゆっくりと溶け込んでいく。
それぞれの思いを受け入れながら、死の棺となったネヴカドネザルは宇宙に浮かぶ。

ミ,,゚Д゚彡「行くぞ」

誰も望んでいないスペースオペラの幕が開いた。




第1話「遭遇」完

42 ◆GOO3eNv.Vk:2011/08/31(水) 15:36:14 ID:xOvK1B460
こんな感じです。
支援をありがとうございました。
デッドスペースの次回作は是非、女主人公(カワイイ系)にして欲しいですね……

4329日・30日「納涼夏祭り」:2011/08/31(水) 20:20:28 ID:DuCtEqmkO
ピザデ(ry
乙!!

4429日・30日「納涼夏祭り」:2011/08/31(水) 21:24:11 ID:/p7Ctr8Y0
ピザデブはモンストールとか出したせいで明らかに破綻しちまったからな…

4529日・30日「納涼夏祭り」:2011/09/01(木) 01:12:25 ID:.skB9M8EO
(´・ω・`)の描写がいい感じ 
この作品も面白いけど終わったら 
ピザデブの続き…

46 ◆GOO3eNv.Vk:2011/09/01(木) 01:13:55 ID:29Jn6T1g0
ピザデブ?私は太ってなんかいません。少し人より重力が強いだけです。

とはいえ、デブが戦闘諜報員をやっている物語は責任もって完結させますので見捨てないで下さい。
最後の投下のあと私事で色々あって作品の続きを書く時間と気力が無くなってしまいました。
完結までの流れは作成済みなのでじっくり投下していきます。
破綻なんかしてないもん!!たぶん!!

言い訳はここまで。

先ずは大昔に書いたこのハインちゃんの物語を完結させます。
大幅な肉付けをし直しているので連続投下は無理ですが、
後二話ぐらいで終わるはずなのでそう長くもかからないでしょう。

47名も無きAAのようです:2011/09/01(木) 21:00:36 ID:eNvJ5LL.O
>>46
あのチートどもの事が気になって夜も眠れなかったってのに……このドSめ!
早く来てくれよな!

48名も無きAAのようです:2011/09/05(月) 14:08:12 ID:/ltg2U7s0
乙!

49 ◆GOO3eNv.Vk:2011/09/07(水) 21:05:44 ID:.7IHk5os0

一般に、我々科学者は次のようなプロセスで新たな法則を見出す。
第一に、当てずっぽうで考えてみる。
笑ってはいけない。これは一番大事なステップである。

次に、その法則でどうなるかを計算してみる。
そして得られた結果を経験と比べてみる。
通常、経験と合わない場合はその法則は間違っている。

だが、今回のような場合はとてもじゃないが経験則を持ち出すことはできない。
なぜなら我々人類はその結果を体験していないからだ。

経験と合わないものは間違っている。

だが、宇宙同士の衝突によって予測される未来を我々はどう経験と照らし合わせればよいのだろう?



                                  リチャード・ファインマン






从 ゚∀从ヤンキー娘がエイリアンと遭遇したらこうなるようです


            第2話「探索」



【ネヴカドネザル:生活居住区-1階】

( <●><●>)「酷い……ですね」

ミ,,゚Д゚彡「俺ァその言葉を脳みそで反復し過ぎて、
      とっくにゲシュタルト崩壊を起こしてるよ」

ひたり、ひたりと歩く影が四つ。
それぞれの手には工具や鉄棒などが握られている。

勇気を奮い起して進入したネヴカドネザルの船内は殺戮現場そのものだった。

死者累々というわけではなかったけど、ところどころに乗組員の死体が
無惨に転がっていて、三十を超えたあたりからハインは数えることを止めている。

船内も相変わらず薄暗く、ハインたちは宇宙服に取り付けられた
懐中電灯を頼りに僕たちはゆっくりと無人の通路を進んでいた。

50 ◆GOO3eNv.Vk:2011/09/07(水) 21:12:53 ID:.7IHk5os0

从 ゚∀从「死体。あんまり腐ってないな」

( <●><●>)「船内の平均気温が摂氏十八度ですからね。
       臭いが弱いのがせめてもの救いです……」

一番年下のハインが死体にあまり物怖じしない様子を見て以来、
ワカッテマスはあまりネガティヴな発言をしなくなった。

ただ、バケモノから受けた肩の傷がかなり痛むようで鉄パイプを握る姿も少し弱々しく見える。

ワカッテマスは男らしいという言葉とは無縁のインテリ系だけど、
年下の後輩に情けない姿を見せるほどの甲斐性なしというわけでもない。

ショッキング・ピンクの宇宙服のせいで威厳は半減してしまっているけれど……。

ミ,,゚Д゚彡「大丈夫かワカ。居住区には医療室もある。
      痛み止めがあるはずだからそれまで耐えてくれ」

( <●><●>)「申し訳ありません。しかし先ずは幹部室へ行くことを
       優先しなくては。出血は止まっているので治療はその後でも可能です」

(´・ω・`)「おい、ちょっと待て」

51 ◆GOO3eNv.Vk:2011/09/07(水) 21:14:59 ID:.7IHk5os0

何かに気付いたショボンが明かりを暗闇の一端へ向けた。
その先には死体がひとつ転がっていて、今まで見てきた乗組員とは違う制服を着ていた。

(´・ω・`)「この船の警備員だ」

从;゚∀从「うへ……首から上が無くなってる」

(´・ω・`)「…………」

从 ゚∀从”「あ、ショボン。何処行くんだよ」

皆が見守る中でショボンは躊躇うことなく警備員へと近づき、おもむろに身体を調べ始めた。

ごそごそと服をまさぐる音だけが辺りに響き、やがて「あった」という台詞と共にショボンが
満足そうに僕たちの元へ戻ってきた。

ミ,,゚Д゚彡「何をしていたんだ?」

(´・ω・`)「あの死体が腕につけている腕章は警備員の区画責任者の証だ。
     こいつのIDはこの辺りを調べるのに役に立つ。
     レベルの低いセキュリティなら無条件でパスできるからな」

そういってショボンは乾いた血が付着した磁気カードをひらひらと見せた。
もう一方の手にはいつの間にか警備員用の拳銃も握られている。

从 ゚∀从「あ。M92Fじゃん! しかもカスタム仕様……」

ミ,,゚Д゚彡「使えるのか?」

(´・ω・`)「まさか。ID銃だからな。正規の持ち主以外ではロックがかかる。
     その持ち主もくたばった今、こいつはただの鉄の塊だ」

52 ◆GOO3eNv.Vk:2011/09/07(水) 21:23:20 ID:.7IHk5os0

慣れた手つきでクルクルと拳銃を回すショボンを見て、
武器マニアのハインが目をキラキラと輝かせた。

从 ゚∀从「でもさ。ワカならクラッキングして使えるようにできるんじゃないか?
     この前の火星でやったみたいにさ」

( <●><●>)「できなくはないでしょうが、ちゃんとした道具がないと無理ですよ。
       少なくとも電磁石スパナや未使用のIDチップが必要です」

(´・ω・`)「どこかでアンロックできる可能性があるから持っておくにこしたことはねえ。
     エイリアン退治には銃と相場が決まっている」

そう言いながらショボンは腰のポーチに拳銃をぶっきらぼうにしまいこんだ。

从 ゚∀从「なあ。どうせ使えないならくれよ」

(´・ω・`)「だが、断る」

从 ゚3从「なんでだよ〜! ケチッ!」

(;´・ω・`)「おまっ……よく考えてもみろ。
      使えないとはいえ、猿に銃を持たせたらどうなると思う?」

从 ゚∀从「あ〜確かに。何かの拍子で暴発させたり、下手したら撃れちゃうかもだよな。
     ちゃんと賢い人間が管理しないと危な……ちょっと待てコラ」

( <●><●>)「そういえば、ビコーズは軍用兵器でしたよね。
       何か武器とかはついていないのですか?」

53名も無きAAのようです:2011/09/07(水) 21:25:51 ID:GdiBihocO
続き来てる 


54 ◆GOO3eNv.Vk:2011/09/07(水) 21:32:01 ID:.7IHk5os0
ふと、思い出したようにワカッテマスが僕を見つめた。

( ∵)「ププ……」

残念ながら期待に添えるようなオプションを僕は持ち合わせていない。

確かに僕は軍用兵器だけど、あくまで斥候や監視といった
スパイ的な行為をするために生み出された存在だから、殺傷武器の類は持っていないのだ。

从 ゚∀从「一応、常備としてスタンガンはあるけど威力なんて殆どないし……。
     でも銃とかを持たせたら扱えるぜ。普段は工具を握ってるけど」

(´・ω・`)「確かこのフンコロは世間にゃ公表されていない試作兵器か何かだったろ。
     ハイン、お前どうやって手に入れたんだ? うちに来たときから連れていたよな」

ショボンの思わぬ質問にハインは一瞬ギクリとした。

非殺傷兵器とはいえ、既に量産されて試験配備までされている最新鋭
ロボットを民間の人間がおいそれと手に入れられるわけがない。
ショボンの疑問も当然だろう。

( ∵)「プーン」

从 ゚∀从(…………)

(´・ω・`)「……?」

実は、ハインは宇宙エンジニアとしてちゃんとしたプロセス……つまり学校に通って宇宙工学免許
を取得し、国際宇宙開発連盟に正式に登録された上で今の職に就いたわけではない。

ある日突然石村屋にやってきて自分を雇ってくれとフサギコさんに頼み込んできたのだ。

詳細な説明は省くけど、フサギコさんたちはそのときとある事件に巻き込まれていた。
その時に色んな段階を踏んだ結果としてハインは石村屋に受け入れられているので、
実は過去の経歴がちょっと怪しい存在なのだ。

55 ◆GOO3eNv.Vk:2011/09/07(水) 21:33:47 ID:.7IHk5os0

从 ゚∀从「ち、地球で退役軍人がやってるお店で手に入れたんだよ。
     ソフトウェアがちょいと書きかえられてるけど、
     スペックダウンもしていないレアものなんだぜ」

(´・ω・`)「はん。まあ確かに便利だわな。市販のロボットと違って
     ロボット三原則も適用されていないし、融通が効く」

从 ゚∀从「だろ? 欲しいって言ってもあげないぜ」

(´・ω・`)「いらんわ。そんなウンコみたいなポンコツ」

( ∵)「ピピ!? ビー!! ビー!!」

(´・ω・`)「なんだよ。機械の癖に一丁前に怒ってんのか?」

ミ,,゚Д゚彡「…………」

56 ◆GOO3eNv.Vk:2011/09/07(水) 21:36:08 ID:.7IHk5os0

石村屋の中でハインの素性を知っているのはフサギコさんだけだ。

フサギコさんはハインの過去をを知った上で受け入れているし、
ハインもその意味をちゃんと理解していた。

入社した当初は専門用語や独特な宇宙工具に悪戦苦闘していたハインだけど、
もともと機械に対して持っていたセンスもあって、
今ではひとつの仕事を任されるほどの腕前になっている。

もちろん先輩であるワカッテマスやショボンの技術には遠く及ばないけど、
それでも今は皆から仲間として認められていた。

人間の評価は過去ではなく現在の姿でこそ認めるべきだ、というのが石村屋の価値観なのかもしれない。

从 ゚∀从「お、この辺じゃないか? セクションB-2ってここだろ」

そのハインが壁に印字された文字を照らし出した。
セクションB-2は僕たちが目指すニューソク社の幹部たちが使う居住区画を指している。

味気ない一般社員の居住区画とは違い、この区画の床は紅い絨毯で敷き詰められ、
各部屋に繋がる廊下には高級絵画のレプリカや彫刻などが飾られている。

照明がちゃんと機能していればどこかのリゾートホテルの一角と見違えてもおかしくないだろう。

57 ◆GOO3eNv.Vk:2011/09/07(水) 21:37:06 ID:.7IHk5os0

(´・ω・`)「ふーん。いい趣味してんじゃん」

( <●><●>)「豪勢な作りですね。一介の採掘船にこのような設備を設けるとは……」

ミ,,゚Д゚彡「外部へのパフォーマンス的な意味合いが強いんだろうな。
      有力な支援者なんかを招いて会合をするのさ。
      支援金を貰う為に……見ろ、会食用のホールまである」

フサギコさんが指すインフォメーションボードにはこの区画一帯の簡単な見取り図が掲載されていた。

部屋は応接室や今僕たちのいるエントランスホールを含めて二十ほどある。
ひとつの船にこれほど沢山の部屋がいるのかとも思ったけど、
恐らく来賓者が泊まるための客室も兼ねているのだろう。

从 ゚∀从「船長室はどこだよ」

ミ,,゚Д゚彡「流石に固有の名前は書いていないな……テロ対策だろうが」

( <●><●>)「地道にひとつずつ調べていくしかないようですね」

(´・ω・`)「警備員のIDが効けばいいが、あまり期待は―――――――!!」

58 ◆GOO3eNv.Vk:2011/09/07(水) 21:38:28 ID:.7IHk5os0

四人の人間が一斉に背後を振り向いた。

顔には緊張の色。
手にする武器がいつにもまして強く握り絞められ、
心臓の鼓動は高くなり、暗闇に対する暗順応で大きくなった瞳がさらに大きく見開かれる。

ミ,,゚Д゚彡(……聴こえたか?)

姿勢を低くしながらフサギコさんが小声で問い掛ける。

(;<●><●>)(はい。あの右側の通路から)

胸元の懐中電灯の光源を弱くしながらワカッテマスが暗闇の奥を震える手で指差す。

紅い絨毯が続く先は光が弱過ぎて殆ど何も見えないけど、
グチャクチャという気味の悪い音と大きな何かが蠢いている音が確かに聞こえる。

从 ゚∀从(あのバケモノか?)

ミ,,゚Д゚彡(わからん。今のところ、こちらに気付いている様子はないようだが……)

( <●><●>)(う、迂回しますか? こちらに来る前に移動すべきです)

(´・ω・`)(これからこの区画を調べるのにか?
     野放しになったバケモノのいる場所で
     冒険ごっこはあまり気が進まねえな)

59 ◆GOO3eNv.Vk:2011/09/07(水) 21:45:42 ID:.7IHk5os0

確かにその考えも一理ある。
もし暗闇の先に蠢くものがあのバケモノならば僕たちの行動は大きく制限されてしまう。
ここで何か手を打たないとまともな調査はできないだろう。

ミ;-Д-彡(…………)

皆がフサギコさんの決断を待っていた。

非常時のとき、リーダーは一人以上いてはいけない。
指揮系統が混乱すれば組織の統率力が崩れてしまうからだ。

ましてやここは本来人間が活動しえない宇宙空間。
統率の乱れが事故に直結するなんてこともザラにある。

命令権のある人間のプライオリティは厳格に定められ、
例えそれがトップであっても逸脱と反故は許されない。

これは宇宙船だけでなく、戦闘艦や潜水艦といった閉鎖環境の中でも普及しているものだ。

ハインもワカッテマスもショボンもそういった事柄を根本的に理解していたし、
なによりフサギコさんの能力を全面的に信頼していた。

ミ,,゚Д゚彡(考えろフサギコ。最も効率よく、かつ安全に目的を達成できる手段を……)

だから、こういった未曾有の事態に陥っても他人が不思議に思うほどにハインたちは冷静でいられる。

伊達に同じ釜の飯は食っていないというわけだ。

60 ◆GOO3eNv.Vk:2011/09/07(水) 21:48:52 ID:.7IHk5os0

ミ;-Д゚彡(こちらは四人いる。相手が一匹だけなら何とか倒せるかもしれないな)

しかし、リスクが低いわけでもない。
何せ石村屋が持っている得物といえば鉄パイプと大型スパナとレーザー採掘銃ぐらいだ。

採掘銃は殺傷能力が大きいし、あのバケモノにも効果があることは先ほどの騒ぎで
実証されているけど射程距離はせいぜい二メートル前後……
倒すにはある程度の距離まで接近しなくちゃいけない。

しかし、なるべくならあの悪魔のような鎌腕には近づきたくないものだ。

从 ゚∀从(社長! どうすんだよ)

ミ,,゚Д゚彡(……わかった。迂回しよう。
      あの通路から離れた場所から調べていく
      このホールから伸びている通路は五本。
      残りの四本に当たりがある確率は高い)

(´・ω・`)(なかったら?)

ミ,,゚Д゚彡(そのときに考える)

(´・ω・`)(…………)

61 ◆GOO3eNv.Vk:2011/09/07(水) 21:50:27 ID:.7IHk5os0

正しい判断だ。
自慢ではないけど、石村屋は今までいろんな危険を乗り越えてきた宇宙活動のプロ集団だ。

宇宙のプロとは危機回避、リスク判断、即断即決に長けている者を指す。
彼らは戦闘のプロでもなければトレジャーハンターでもない。

僕たちが最もすべきことはこの船から脱出することであってバケモノ退治ではないのだ。

ミ,,゚Д゚彡(よし行くぞ。やばくなったら直ぐに退く。
      ハイン、万一のときはお前の武器が頼りだ。無茶するなよ)

从 ゚∀从(任せておけ!!)

何をしているのか想像したくもない音を立てている"ソレ"に気付かれぬよう
僕たちは慎重に反対側にある通路を進む。

豪奢な廊下は左右に蝋燭を模したホログラムがチカチカと揺れていている。

適度な暗さの中で金縁の絵画たちが僕たちを見つめる様は中世ヨーロッパの古城を連想させるけど、
真っ赤な絨毯の所々に染みる黒い斑点がそれら幻想的な雰囲気を一気にゴシック・ホラーの世界へと
引きずり込んでいた。

62 ◆GOO3eNv.Vk:2011/09/07(水) 22:00:24 ID:.7IHk5os0

ミ,,゚Д゚彡「よし、先ずはこの部屋からだ。
      ワカッテマス。頼むぞ」

( <●><●>)「承知しました」

個室と廊下を隔てるスチール製の扉にはカードリーダーが取り付けられている。

本来は部屋の持ち主がIDカードを通して中に入るけど、この幹部区画では
従来のものよりもセキュリティレベルが一段高く設定されているようで、
ショボンが手に入れた警備員責任者のIDではパスすることができなかった。

( <●><●>)「そこで工学セキュリティ担当の私の出番というわけです。
       これでも昔は2ちゃんでちょっと名の通ったハッカーをしていましてね……」

从 ゚∀从ノ「行け!ハッカー(笑)」

(´・ω・`)「頑張れスーパーハッカー(爆)」

( <●><●>)「…………」カチャ カチャ

从 ゚∀从「速くしろハッカー(藁)」

(´・ω・`)「仕事おせーなハッカー(滅)」

( <●><●>)「次に集中力を削ぐようなことを言ったら、
       貴方達のパソコンのUSB指すところに粘土詰めますからね。
       あまり私を怒らせない方がいい……。」

ワカッテマスの宇宙服の左腕には小型のパソコンキーボードが内臓されている。

服の首元に取り付けられた『ブック』と呼ばれる立体ホログラムに表示される情報を見ながら、
カードリーダーに小さなコードを指し込み、慣れた手つきで作業をこなしていく。

( <●><●>)「ふむ。天下のニューソク社といっても流石に個室にまでは
       強力なセキュリティを走らせていませんね。直ぐに終わりますよ」

63 ◆GOO3eNv.Vk:2011/09/07(水) 22:18:40 ID:.7IHk5os0

自信ありげな様子でワカッテマスが少しずつ電子のパズルを解いていく。
そのときだった。

ガシャーン!

何かが割れる激しい音が緊張の糸が張られた空間を大きく揺るがした。
見ると、床には粉々になったブルーオニオン調の高級マイセン陶磁器が散らばっている。

そしてそれを足元に「やっちまった」という何とも言えない表情をした少女が
手をぷるぷると震わせていた。

ミ;゚Д゚彡「バッ……!! なにしてんだお前は!!」

从;゚∀从「い、いや。なんか高そうな皿だな〜って見てたら」

(;<●><●>)「なんでわざわざ固定されている磁器を外したのですか?
       全くもって考えられません。
       バカですか? あなたはバカなのですか?       
       さてはバカですね? バカなんでしょう?」

从;゚∀从「バカバカ言うなよ! ピンク色のくせに!」

(;<●><●>)「ピンクは関係ないデス!!」

(´・ω・`)「まずいな。今の音、奴にまで届いてるかもしれねぇ」

ミ;゚Д゚彡「部屋に隠れるぞ。ワカ、まだ開けられないのか?」

(;<●><●>)「無茶を言わないで下さい。ゲームや映画の世界じゃないんですよ?」

从;゚∀从b「し、シーッ! 何か来る……」

64 ◆GOO3eNv.Vk:2011/09/07(水) 22:20:57 ID:.7IHk5os0

明らかに僕たちのものではない足音が聞こえてきた。
絨毯を裸足で歩く、衣擦れにも似た音。

本来ならば神経を集中させなければ気付かないようなその音が
今の石村屋にはひたすら不安を煽る警鐘のようにも感じられた。

少しずつ大きくなる異常な存在感。
ところが、ある距離にまで近づくとそれがパタリと止まってしまった。

ミ;゚Д゚彡「…………」

僕たちの動きを窺っているのだろうか。
それとも獲物として見定めているのだろうか。

ひゅー、ひゅー、という呼吸音が暗闇の奥から発せられている。

フサギコさんたちは微動だにできなかった。
指一本でも動かせばこの沈黙の均衡が破れてしまうのではという錯覚に囚われていたのだ。

そんな緊張感の中で、ワカッテマスが組み込んだクラッキングプログラムが
部屋の施錠を解放しようと必死に走り回っている。

クラッキング完了まであと十パーセントという表示がワカッテマスのブックに浮き出ていた。

65 ◆GOO3eNv.Vk:2011/09/07(水) 22:34:15 ID:.7IHk5os0

(;<●><●>)「…………」

ミ;゚Д゚彡「…………」

(´・ω・`)「…………」

从;゚∀从「……ッ」

州,"(●)'' {"(●)リ「ッア゛アあ゛ア゛ァぁア゛アアア゛アア゛ァ!!!!」

ミ;゚Д゚彡「来たぞおおおおおおおおおおおお!!!」

来る!
初めて出会ったときとは比較にならないほどの恐ろしい絶叫と速度で
あの鎌腕を持つバケモノがハインたちに向かって突っ込んできた。

さっきのヤツと同じ奴なのか?
一瞬の疑問が皆の頭の中に湧いたけど、それを確認するような余裕はなかった。

もう部屋の解錠を悠長に待つことはできない。
僕たちはすぐさま通路の奥へと全速力で駆け出した。

州,"(●)'' {"(●)リ「あぎゃげげげえ!! hgdぎゃういぇ!!!」

(´・ω・`)「くっ……! 速い。追いつかれるぞ!」

(;<●><●>)「ハイン! 撃って下さい! 撃ってぇ!!」

顔を真っ青にして走るハインがレーザー採掘銃を追手に向かって手当たり次第に発射した。
しかし、ろくに後ろも見ずに引き金を引くのでバケモノには一発も当たらない。

66 ◆GOO3eNv.Vk:2011/09/07(水) 22:44:44 ID:.7IHk5os0


州, "(●)'' {"(●)リ「おびょへへhei!! っジャア!!」

从il゚∀从「ぐあっ!? うわあああ!!」

最後尾にいたハインが倒された。
バケモノの跳躍を使った体当たりに巻き込まれてしまったのだ。

(;<●><●>)「そんな!? ハイン逃げて下さい!!」

ミ,,゚Д゚彡「いかん! いくぞショボン!!」

(´・ω・`)「ったく。世話のやける小娘だぜ」

州, "(●)'' {"(●)リ「べべべっべべえええ!!」

从il゚∀从「うわああ!! うわあああああ!!!!」

バケモノに馬乗りにされたハインは悲鳴を挙げながら
あの凶悪な鎌腕から必死に身を守っていた。

ワカッテマスの宇宙服をいとも簡単に切り裂いたバケモノの鎌はリーチがとても長く、
今のハインのような密着状態では逆に使い辛いようだ。

そこでバケモノは真っ二つに裂けた大きな口で獲物の喉を喰い破ろうとするけど、
ハインの必死の抵抗にてこずり、思うように噛みつけない。

67 ◆GOO3eNv.Vk:2011/09/08(木) 02:20:34 ID:rZmZOHPE0

从;゚∀从「うわわああああ! 来るなっ。助けて!」

(#´・ω・`)「一本いっとけコラ!」

州, "(●)'' {"(●)リ「ギャイ!!」

(;´・ω・`)「なっ!?」

バケモノの背後に立ち、手にした鉄パイプで渾身の一撃を振るうショボン。
が、まるで背中に眼がついているかのようにバケモノは“肩から出た腕”でそれを受け止めてしまっていた。

(;´ ω `)「ぐぅ!!」

鬱陶しい虫を払うかのようにバケモノはショボンを掴みあげ、投げ飛ばす。
それはもの凄く速い動作で、ショボンは自分が何をされたのか全く理解できないほどのものだった。

ミ,,-Д゚彡「ショボォォン!!」

後に続いていたフサギコさんがそ素早く反応し、空中を舞うショボンを身体を張って受け止める。

それでも大の大人を軽々と投げ飛ばす怪力の勢いに耐えきれず
二人揃って床へ倒れこんでしまった。

从;゚∀从「社長! ショボン!」

州, "(●)'' {"(●)リ「ぎゃひひひひひひ! ひひ!!」

さあ、お楽しみの続きだ。とでも言うかのようにバケモノは満足そうな
気味悪い声を出しながら再びハインへと向き直る。

一瞬の隙を突いて向けたハインの工具銃はいともたやすく奪い取られ、
抵抗していた両腕もいつのまにかバケモノの“腹の腕”が
ガッシリと組み伏されてしまっている。

もう、ハインを守る術はなかった。

68 ◆GOO3eNv.Vk:2011/09/08(木) 02:38:32 ID:rZmZOHPE0

(;<●><●>)「ハィイイイン!!! あきらめちゃダメです。今助けます!!」

ミ#-Д゚彡「ちくしょう!! 武器! 何か武器は!?」

(;´ ω・`)「…………」

从;゚∀从「わっ。あっ! あっ!? 止めろ!」

州, "(●)'' {"(●)リ「うびぶっばししゃしゅ……キヒヒヒ」

从;゚∀从「いやだああああ!! 助けて! 誰かァ!!」

恐怖に染まるハインの顔を愛おしそうに眺めるバケモノ。
そして邪魔が入らぬうちに己の顎を大きく横に裂き、一気に頭へとかぶり付いた。

州;"(○)'' {"(○)リ「ゲビッ!? グフッ!!」

从; ∀从「!?」

かぶり付いたが、頭骨を一瞬で噛み砕く強靭な顎は空を噛んだ。
真横から入れられた強烈な衝撃によって身体ごと吹き飛ばされたからだ。

从; ∀从「……? ??」

州;"(●)'' {"(○)リ「ゲヒャ!? ガハッ、ゴホッ」

さきほどのショボンのように、今度は自分が宙を舞ったバケモノは
不意の攻撃による苦痛に身体を捩じらせ、床をのたうち回る。

攻撃された当人を含め、いったい何が起きたのか全くわからない。

ハッキリしていることは、ハインが無事だったということ。
だけど今の石村屋にとってはそれだけで充分だ。

69 ◆GOO3eNv.Vk:2011/09/08(木) 02:44:31 ID:rZmZOHPE0

ミ;-Д゚彡「な、なんだ……今、何かが……」

(;<●><●>)「社長!」

ミ;-Д゚彡「俺は大丈夫だ。それよりハインとショボンを頼む」

(;<●><●>)「承知しました。ハイン、さあ速く。
       今のうちに奥へ逃げるのです!
       呆けてないで、さあ!!」

从;゚∀从「あ……う、うん……」

(´・ω・`)「…………」

(;<●><●>)「ショボン! 貴方もです!
       何をボーっとしているのですか!?らしくないですよ!!」

(´・ω・`)「来る」

(;<●><●>)「え?」

70 ◆GOO3eNv.Vk:2011/09/08(木) 02:52:25 ID:rZmZOHPE0

そのときだった。
僕たちが逃げようとした方向の通路から何かがやって来た。

それは重くて、強靭で、そして速かった。

床を踏みしめる一歩一歩の音は力強く、同じ高速移動でも
バケモノのそれとはまるで異質なものだった。

(;<●><●>)「わっ!?」

ミ;-Д゚彡「おおっ!?」

大質量を伴った旋風の如く、それは僕たちの間を駆け抜け
思わぬ襲撃から体勢を整えようと立ち上がった化け物を再び吹き飛ばした。

州, "(●)'' {"(○)リ「ゲハッツ!!」

猛烈な膝蹴り。
旋風は人の形を成していた。

ィk=--ト、
以R[゚::7「うーん。ハットトリック」

黒いボディ。
鈍銀色の金属兜。
青白く光るバイザー。

現代世界に舞い戻った西洋の騎士がそこにいた。

71 ◆GOO3eNv.Vk:2011/09/08(木) 02:55:07 ID:rZmZOHPE0
う〜ん。書いた割にはあまり話が進んでないですね。

とりあえず第二話「前半」ということで、一度投下を終えます。
支援ありがとうございました。

72名も無きAAのようです:2011/09/08(木) 03:48:22 ID:y3mZXwRcO
中断からの復活、乙でした

73名も無きAAのようです:2011/09/08(木) 03:57:24 ID:Nlx97Jg.O

背中ぞわぞわして怖かった
続き楽しみだ

74名も無きAAのようです:2011/09/21(水) 23:22:12 ID:DExYJbjA0
まだかなー

75 ◆GOO3eNv.Vk:2011/10/27(木) 22:56:51 ID:ErvntI3M0
すみません。作者です。
生存報告です。現行も頑張って書いてます。


楽しみに読んでくださっている方々には申し訳ないのですが、
もう暫らくだけ時間を下さい。
すみません。

76名も無きAAのようです:2011/11/07(月) 18:26:51 ID:p4oPP3L.0
待ってる待ってる

77名も無きAAのようです:2011/12/23(金) 20:44:28 ID:ZQvMkw.Q0
俺は待つぜ

78名も無きAAのようです:2012/01/11(水) 20:58:46 ID:5SDPvVP.0
年が明けてもまっている

79 ◆GOO3eNv.Vk:2012/02/19(日) 18:38:06 ID:QQYUapNY0
こんばんわ。私です。
遅れたことを謝罪をさせて頂く前に、先ずは短いですが投下をさせて頂きます。



これまでの簡単なあらすじ

宇宙エンジニア集団「石村屋」は大手宇宙資源採掘会社「ニューソク社」から
所有する宇宙船「ネヴカドネザル」の修理を依頼されていた。
ネヴカドネザルに辿り着くと、そこはエイリアンが蠢く地獄と化しており、
ハインたちは石村屋のリーダー(フサギコ)の弟の捜索と船からの脱出のために奔走するこことなる。

船の中を探索中、ハインたちは再びエイリアンに襲撃される。
仲間が傷つき、全滅かと諦めかけたそのとき、どこからともなく1人の人物が助けに現れた・・・・・・。

80名も無きAAのようです:2012/02/19(日) 18:50:20 ID:QQYUapNY0
【人物紹介】

ミ,,゚Д゚彡・・・フサギコ。修理屋『石村屋』のリーダー。
        音信不通だった弟がネヴカドネザルにいることを知り、
        危険を承知で捜索へ向かう。

( <●><●>)・・・ワカッテマス。『石村屋』の電子技術担当。
         ショッキングピンク色の宇宙服を着ている。

从 ゚∀从・・・ハイン。本編の主人公。ちょびっと謎の過去を持つ『石村屋』のメカトロニクス部門担当。
       ミリタリオタクでビコーズと仲良し。

( ∵)・・・ビコーズ。この物語の語り部。。元は軍用のスパイロボット。
      ハインに連れられて『石村屋の仲間となった。
      
(´・ω・`)・・・ショボン。『石村屋』の材料部門担当。
       口が悪い。非常に悪い。超一級の重機運転技術も持つ。

ィk=--ト、
以R[゚::7・・・謎の騎士。窮地に立たされたハイン達のまえに現れた謎の存在。

州, "(●)'' {"(●)リ・・・ネヴカドネザルに巣食う謎のエイリアン。
            4本の腕と、2本の脚で次々と人を襲う。
            一対の腕には鋭利な鎌のようなものが付いている。

81名も無きAAのようです:2012/02/19(日) 18:52:50 ID:QQYUapNY0
从 ゚∀从ヤンキー娘がエイリアンと遭遇したらこうなるようです


            第2話「探索」後半



暗くて寒いネヴカドネザル。
鋼鉄の採掘船は今や何百体もの骸を載せる棺桶と化した。

複雑に絡み合ういく重もの通路はラヴュリントスの迷宮と化し、
宇宙開拓世紀のギリシア伝説を再現している。

ラヴュリントスは工匠ダイダロスがミノス王のために建設したものだけど、
そこには王妃パシェファエの産み子であるミノタウロスが棲んでいた。

人肉を食らう異形のミノタウロス。
襲われれば成す術なしと言わしめた牛頭だったけど、
結局テセウスに討ち取られることになる。

ネヴカドネザルに巣食うあのバケモノを現代のミノタウロスとするならば、
今、僕たちの前に颯爽と現れたあの鎧はアテナイより出ずる英雄テセウスなのだろうか。


ィk=--ト、
以R[゚::7「あんたら、下がってた方がいいよ」

その、テセウスが僕達に向けて喋った。
このテセウスは西洋の甲冑を着こんだ騎士の姿をしている。

82 ◆GOO3eNv.Vk:2012/02/19(日) 18:53:51 ID:QQYUapNY0

( ∵)「ぷぷーん?」

いや、よく見るとすこし違う。
西洋風の鎧に見えたそれは宇宙服だった。

だけど、前頭部分が尖っていたり、顔を覆っているバイザーに
複数のモノアイカメラが取り付けられているそのフォルムは
見る者に対してお姫様を守るナイトの姿を彷彿とさせる。

ミ,,゚Д゚彡(航空宇宙特化の強化外骨格……軍用か)

从;゚∀从「…………」

騎士の纏うそれは鈍銀色の強化合金と対熱・対刃用に織り込まれた強化繊維に身を包んだ機械化宇宙服だ。
その持ち主が、うろたえる僕たちを自分の背後へと押しやり、追撃してくるバケモノに対して身構えている。
両手に構えられた大型拳銃からは緑色のレーザーポインタがバケモノに向かって真っすぐ発信されていた。

電磁銃だ。
ミリタリオタクのハインはこんな状況でも直ぐに気付いた。

83 ◆GOO3eNv.Vk:2012/02/19(日) 18:54:32 ID:QQYUapNY0

宇宙において酸素は貴重品なので弾丸の射出機構に火薬は使われない。

ブラックパウダーによる燃焼効果を用いた古き良き銃弾は歴史に埋もれ、
現在では磁力を用いた電磁銃が普及している。

また、壁に開いた穴ひとつで大惨事を起こしかねない宇宙施設では
武器兵器の運用と能力に厳しい制限がかけられている。
それは軍隊であっても警備会社であっても変わらない。

しかし、騎士が持つものはその中でも比較的火力が高い部類に入る大口径銃だ。
大企業とはいえ民間会社がこのような武器を使うことが許されているのだろうか……?

州, "(●)'' {"(●)リ「ビャbyバyバヤアアア!!??」

ィk=--ト、
以R[゚::7「ふふん。ミンチにしてやるよニュータイプ」

電子変換された男とも女ともつかない声を響かせる騎士。
そんな騎士に向かってバケモノは獲物をよこせと突進を始める。

84 ◆GOO3eNv.Vk:2012/02/19(日) 18:55:13 ID:QQYUapNY0

ィk=--ト、
以R[゚::7「こい……!!」

対する騎士は全く動こうとしない。
両手で銃を構え、じっと相手を待ち受ける。

引きつける。引きつける。引きつける。

(;<●><●>)「あ、危ない!!」

州, "(●)'' {"(●)リ「ギギギギギギ!!!!」

ィk=--ト、
以R[゚::7「……今!!」

発砲。
その反動で騎士の肩が一瞬だけ浮き上がる。
しかし、映画でよく見るような硝煙や発砲音は起きなかった。

その代わりに、カンッという金属をハンマーで小突いたような音が周囲の空気を震わせた。

マズルフラッシュこそ瞬くものの、数百ボルトの電圧で電磁的に加速された弾丸は
空気を引き裂く音以外に余計な騒音を出すことはないのだ。

85 ◆GOO3eNv.Vk:2012/02/19(日) 18:55:55 ID:QQYUapNY0

州, "(●)'' {"(●)リ「ギャッ!!??」

人外の鮮血が舞った。

カウンターを狙った騎士の一撃が見事バケモノの肩を撃ち抜いたのだ。
なるほど。下がっていろと言うだけあって、騎士の銃の腕は確かなもののようだった。

州, "(●)'' {"(●)リ「アガッ!! えべべべべばsdhくh!!」

ィk=--ト、
以;[゚::7「ッ! クソッ!!」

だが、止まらない。
バケモノが止まらない。

痛覚がないのか。それとも単純に効いていないのか。
バケモノはその速度を緩めることなく突進し、機械騎士と衝突した。

騎士と異形。
テセウスとミノタウロス。
二つのシルエットが互いにもみくちゃになりながら真っ赤な絨毯の上を転がる。

86名も無きAAのようです:2012/02/19(日) 18:56:45 ID:QQYUapNY0

从 ゚∀从「お、おい。ヤバくないかあいつ」

(;<●><●>)「危険ですハインリッヒ。
       今近づいてまた襲われたら今度こそ助かりませんよ!」

手に持つ工具を衝動的に構えるハインを見て、ワカッテマスが慌てて彼女を静止した。

( <●><●>)「ん? ハイン、それは……」

同時にバケモノに奪われたはずの採掘銃をハインが手にしてることに気付き、眼を丸くする。

( <●><●>)「何時の間に……」

実を言うとそれは僕が拾ったものだった。
あの機械騎士が乱入してきた騒ぎに乗じて、床に転がる採掘銃を回収しハインに渡したのだ。

もちろん、それは僕の意思だとか機転ではなくて、
ハインがそうするように命じたからこその行動だった。

僕とハインは他の人たちには見えない絆を持っている。
僕の機能がオンラインになったときから、僕とハインの意識は常に繋がっているのだ。

87 ◆GOO3eNv.Vk:2012/02/19(日) 19:01:11 ID:QQYUapNY0

(´・ω・`)「あいつ。やられっぱなしじゃねえか。
     ナイトのコスプレをするのは結構だがよ。いきなり飛び道具に
     頼っているようじゃ格好がつかねーな」

騎士とバケモノの闘いを見守るショボンが眼を細める。

こんな状況でも皮肉を忘れないあたりがショボンらしいけど、
バケモノから受けたダメージは大きいらしく、お腹を押さえて苦しそうな顔を受かべていた。

( <●><●>)「しゃ、社長。私達はあの方を援護しなくて良いのでしょうか」

ミ,,゚Д゚彡「バカいうな。あんな無茶苦茶な殺り合いに突っ込めっていうのか?
      ろくな武器も持たねえ素人が手を出して何ができるっていうんだ……」

そう、今の僕たちはただ眺めていることしかできない。

この騒動が始まってまだ一分も経っていないのに、まるで何時間も悪夢を見ているような気がする。
本当は一刻でも早くこの場から逃げ去るべきだけど、石村屋は誰も動こうとしなかった。

騎士と人外のおぞましい殺し合いに意識を完全に奪われていたのだ。

88 ◆GOO3eNv.Vk:2012/02/19(日) 19:02:22 ID:QQYUapNY0

ィk=--ト、
以R[゚::7「ぐっ!! 馬鹿力め!!」

一方で騎士とバケモノの揉み合いに一転が訪れていた。

ィk=--ト、
以R[゚::7「こっちは人工筋肉使ってるんだぞ……なのに!!」

単純な力ではどうやらバケモノの方が上らしい。
四腕二脚の異形は今や機械騎士を組み伏せ、背中から生えた鋭利な鎌で八つ裂きにしようと大暴れしている。

州, "(●)'' {"(●)リ「げぎぇげげげg!! ギャギャギャ!!」

ィk=--ト、
以R[゚::7「〜っ!! 舐めンなオラァ!!」

機械騎士が猛烈な蹴りをバケモノの鳩尾に入れこんだ。
着用者の運動の補助を行う人工筋肉が膨れ上がり、その力がおぞましいバケモノを引き剥がす。

ドスン、バタンとバケモノが床に叩きつけられる鈍い音が廊下に響いた。

相手が想像以上の怪力の持ち主であることを察知したバケモノは瞬時に床から起き上がると、
牽制するように鎌腕を突き出し、同じく体勢を立て直した騎士を威嚇する。

89 ◆GOO3eNv.Vk:2012/02/19(日) 19:05:39 ID:QQYUapNY0

ィk=--ト、
以R[゚::7「おや? 今までは突っ込むだけが取り柄だったくせに
      一丁前に間合いなんて取るようになったか。
      少しはおつむが良くなったかな?」

州, "(●)'' {"(●)リ「ゲヒヒヒヒヒ」

ィk=--ト、
以R[゚::7「ヨダレを吹けよ。子猫ちゃん」

第二ラウンド。
今度は騎士が先に動いた。

あるいは戦闘機を彷彿とさせるヘルメットが高周波音のような不気味な音を立て始める。
どうやら何かしらのデバイスを起動したようだ。
今の騎士の眼には僕たちの見えないあらゆる情報が視えているに違いない。

同時に先ほどまで握っていた銃をホルスターにしまい込み、
背中に納めていた長い筒のようなものを取りだした。

( ∵)「……!」

僕の軍用兵器ライブラリが瞬時にシルエットを分析し、それが散弾銃であると判断する。

州, "(●)'' {"(●)リ「ギャギャギャ!!」

ィk=--ト、
以R[゚::7「終わりだニュータイプ!」

ドンッ ドンッ

電磁散弾銃の独特の発砲音がハインたちの鼓膜を揺らした。
銃身を切り詰めて接近戦に特化した銃がバケモノの身体を容赦なく削り取っていく。

90名も無きAAのようです:2012/02/19(日) 19:10:51 ID:QQYUapNY0

州, "(●)'' {"(●)リ「っッツガアアアアアアア!!!」

あまりの威力に思わず怯んだバケモノ。
しかし金切り声を挙げて再び騎士へと突っ込んだ。

ミ;゚Д゚彡「なんつー頑丈さだ。あれだけ撃たれて動けるなんて……」

(´・ω・`)「痛覚がないのかもな」

ミ,,゚Д゚彡「まさか。そんな……」

一見して騎士の散弾銃はよく効いているように感じられた。

バケモノの大腿部や腕は欠損し、出血も酷くなっている。
普通の生物ならば激痛でまともに動くことなんてできないはずだ。

にも関わらずバケモノの凶暴性と機動性はまるで衰えていない。
むしろ先ほどよりも凶悪になっているようにも見えた。

从 ゚∀从「勘弁してくれよ。ゲームじゃねーんだから……」

生物として、あまりに異常。常識外れ。

このときになってハインたちは改めて背筋に戦慄を覚えさせられた。
あのバケモノは見た目だけでなく中身も人の域を超えるものだったと。

銃さえあれば倒せるって?
見ろ。奴にはまるで効いちゃいない。

自分たちは手に負えない殺意の塊と同じ船に乗っているのだ。
そう思うと、形容し難い恐怖に発狂にも似た感覚に襲われてしまう。

いや、いっそのこと狂ってしまった方が楽なのかもしれない。

91 ◆GOO3eNv.Vk:2012/02/19(日) 19:17:47 ID:QQYUapNY0

ィk=--ト、
以R[゚::7「くっ……! 昨日より強くなってる……!?」

バケモノの想像以上のタフさに動揺したのか、騎士の射撃の狙いが甘くなった。
殺しに飢えるバケモノはそれを見逃さない。
ゾッとするような速さで騎士との距離を一気に詰める。

ィk=--ト、
以R[゚::7「ぐぁ!! くそっ!!」

反射的に散弾銃を放り捨てた騎士はそのままバケモノの体当たりを全身で受け止めた。

しっかりと体勢を整えていたので今度は転ぶようなヘマはしない。
高い防御力を持つ強化骨格でもあの鎌腕が直撃したらタダでは済まないだろう。

騎士は一対の鎌腕の根元をしっかりと握り、喧嘩四つのような体勢を取る。

92名も無きAAのようです:2012/02/19(日) 19:20:19 ID:QQYUapNY0

ィk=--ト、
以R[゚::7「ぐ……バケモノとレスリングってのは、いささか……」

州, "(●)'' {"(●)リ「ゲゲゲゲ!!!」

ィk=--ト、
以R[゚::7「グロイ顔しやがって!このっ―――」

ィk=--ト、
以#[゚::7「はいだらァっ!!」

騎士がバケモノを突き離す。
そして体勢を崩したところを一気に攻め立てた。

今度は銃ではなく、拳でだ。

ィk=--ト、
以R[゚::7「オラオラオラオラァッ!!」

右! 左! 右!

人工筋肉と強化骨格によって破壊力が高められた騎士の拳はコンクリートにすらヒビを入れる。

その肉弾がバケモノの頭部へと次々に正確に打ち込まれ、圧倒する。
拳がバケモノに直撃するたびに、何かが割れる音と血飛沫が辺りにまき散らされていった。

(;<●><●>)「おおお!!」

しかし、バケモノもひたすらなぶり殺しに合うつもりはないようだ。
数発の被弾の後、騎士が放った右腕のフルスイングを動物的な機動で避けると、
血まみれの顎で騎士の腕に喰らいついた。

93 ◆GOO3eNv.Vk:2012/02/19(日) 19:21:22 ID:QQYUapNY0

ィk=--ト、
以R[゚::7「おっッ!! やべっ!?」

その顎の威力をよく知っているため、騎士は思わずたじろいだ。

ィk=--ト、
以R[゚::7「ん!?」

片腕が食いちぎられることを騎士は一瞬覚悟したけれども、想像していたほどの圧迫感と力は感じられなかった。
鋭い牙もダークストレイト・グレーの人工皮の表面で止まっている。

ィk=--ト、
以R[゚::7「……! ははーん。お前、実はとっくに限界きちゃってるカンジ?」

騎士は拍子抜けした声を出す。
見かけの凶暴性にすっかり騙されていた。
今までの攻撃はしっかり効いていたのだ。

ィk=--ト、
以R[゚::7「なら、とっとと楽にしてやるよ」

すかさずチェックメイトをかける。

噛まれた方腕を強引に動かしてバケモノを引き寄せ、もう一方腕で隙だらけの顔面に何かを突きつけた。

94 ◆GOO3eNv.Vk:2012/02/19(日) 19:23:11 ID:QQYUapNY0

州, "(●)'' {"(●)リ「!?」

ィk=--ト、
以R[゚::7「この距離ならお前の宇宙でもヤバイだろ?」

大口径拳銃。
騎士は驚愕に見開く敵の瞳を見る。
そして、迷うことなく引き金を引いた。

州, "( )'' {"( )リ「……ぎゅ! ゆッグriっ!!」

撮影速度五十万コマ毎秒でありながら高感度CCDと高解像度を持つ僕のメインカメラは
おぞましくも芸術的な光景を捉えた。

从;-∀从「うおっ!?」

零距離で射出された直径八ミリの弾丸が次々にバケモノの頭部へ吸い込まれていき、
高い密度を持つ頭蓋の中でインパクトを引き起こす。

被弾方向逆側ではその衝撃に耐えきれなくなった脳や頭骨が
グチャグチャに混ぜ合わさって花火のように外へと弾け飛んだ。

95 ◆GOO3eNv.Vk:2012/02/19(日) 19:25:39 ID:QQYUapNY0
まるで真っ赤な華だ。
その光景を見て、僕は昔見た彼岸花というものを思いだす。

機械が思い出すという表現を使うのもどうかと思うけど、
僕の写像近似予測モジュールの働きによって、過去に保存した
データから彼岸花という画像が引き出されてきたのだ。

ミ,,゚Д-彡「なんつぅ光景だ。夢見が悪くなるぜ全く」

(´・ω・`)「まさか実は脳みそはお腹にありました☆ ってパターンじゃねーだろうな」

僕のHDDの中に入っている彼岸花は植物愛好家が育てていたそれをを記録したものだった。

日本という島国では彼岸花は不吉のものとして扱われていて、
「地獄花」などという異名を付けられている。

しかし同時に天上の花を意味する「曼珠釈迦(マンジュシャカ)」という相反する名も持っているそうで、
当時の僕は地獄と天国に両方存在するなんて随分あべこべな存在だなぁと思ったものだった。

退役軍人だったその愛好家は有毒でありながら救荒食物としての機能も果たす
彼岸花を「まるで人のようじゃないか」とよく言っていた。

人を殺し。人を救う。
矛盾した行動をする人間によく似ていると。

96 ◆GOO3eNv.Vk:2012/02/19(日) 19:28:34 ID:QQYUapNY0

::州, "( )'' {"( )リ::「……!! ………ぴyu! ……!」

( <●><●>)「やった! 倒しましたよ!」

(´・ω・`)「おい、そういう台詞はネットじゃ御法度なんだぜ。
     そのでっかいオメメをくり抜かれたくなかったら、むやみに近づかない方がいい」

人と華が同類。
そうなのだろうか。

彼岸花は血を流さない。
彼らが紅いのは脂溶性色素であるカロテノイドを持つからだ。

彼岸花は撃たれても雄叫びをあげない。
彼らは痛覚神経系を持たないからだ。

しかし人は違う。
人はヘモグロビンを持っている。
人は痛みを知覚できる。

では、人とあのバケモノとではどうなのか。何が違うのか。

腕の数? 顎の形? 
お腹がすいたらスニッカーズにパクつこと?
それとも人間の骨にしゃぶりつくこと?

いや、死ぬときに真っ赤な花弁に塗れて絶命する点においては変わりないだろう。

97名も無きAAのようです:2012/02/19(日) 19:32:21 ID:QQYUapNY0

ィk=--ト、
以R[゚::7「うむむ。返り血がキモい……」

床や壁に飛び散った紅い花弁をプチプチと踏み潰しながら騎士がこちらに戻ってきた。

生殺の巷からの帰還。

石村屋は緊張とも動揺とも言えない感情を持って命の恩人であるそれを迎えた。

ィk=--ト、
以R[゚::7「なんだ。せっかく助けたのに随分と呆けた顔してるなぁキミ達」

僅かに乱れた呼吸を整えながら「やれやれだぜ」とでも言うかのように大袈裟に肩をすくめる騎士。

ミ,,゚Д゚彡「……はは。今の今まで呼吸することを忘れていたよ。
      あんたがいなかったら部下が死んでいた。どうか礼を言わせてくれ」

僅かに青ざめた顔をしながらもフサギコさんが騎士に頭を下げた。
それを聴いた騎士は「いや、いいんだよ。用事のついでだったし」と事も無げに手をひらひらさせる。

騎士の指先についた血が飛び、フサギコさんの足元に紅い染みを作った。
用事のついでに殺し合いをするとはとんだ使いがいたものだ。

98名も無きAAのようです:2012/02/19(日) 19:36:18 ID:QQYUapNY0

ィk=--ト、
以R[゚::7「見たところ。キミ達はこの船の乗組員じゃないようだけど、何者かな?
      着ているの……この船の制服じゃないよね」

ミ,,゚Д゚彡「あ、ああ。俺達はネヴカドネザルの修理を依頼されたエンジニアだ。
      さっきここに着いたんだが……中に入ったらこんな有り様でな。道に迷った」
ィk=--ト、
以R[゚::7「着いた? 外から来たの?
      まさかさっきの酷い衝突音はキミ達が原因?」

ミ,,゚Д゚彡「おたくの重力縄で墜落したんだよ。一歩間違えれば大惨事だった」

ィk=--ト、
以R[゚::7「重力縄? ふ〜ん。そうか重力縄でキミ達は堕ちたのか。
      それは隕石固定用のものだったのかな?」

ミ,,゚Д゚彡「そうだ。何か心当たりがあるのか」

ィk=--ト、
以R[゚::7「心当たりというか何というか……。
      そう……うん……兎に角ここを移動しよう。
      今の騒動を聞きつけて他のニュータイプどもが来るだろうし」

(;<●><●>)「ちょ。ちょっと待ってください。
       まだあのバケモノが他にもいるのですか!?」

99 ◆GOO3eNv.Vk:2012/02/19(日) 19:38:23 ID:QQYUapNY0

静かに二人のやり取りを聞いたワカッテマスが絶望的な声を出した。

無理もない。
これはビデオゲームや映画の世界ではないのだ。
次にあんな怪物に襲われたら今度こそ死んでしまうかもしれない。

ハイン達はレオン・S・ケネディではないし、ミラ=ジョヴォビッチでもないのだ。
彼らは人間の死が地上よりちょっと身近な航空宇宙エンジニアでしかない。
機械を直すことはできるが、エイリアンを殺す方法は知らない。

できることならとっととこの船から出ていきたい。

そういったことを全て知った上で、ウサギの穴に落ちた冒険者を笑う猫のように、
騎士は茶化した口調で僕達を歩くよう促す。

ィk=--ト、
以R[゚::7「そう。あのバケモノはまだまだたっくさんいるよ。だから早く移動しよう」

今のところ安全な場所へと―――――――。

100 ◆GOO3eNv.Vk:2012/02/19(日) 19:43:12 ID:QQYUapNY0
100ゲト

今回は以上です。
あまりにも間が開きすぎました。
読んで下さった方々、待っていて下さった方々には本当に申し訳なく思っています。
恐らく、もうこれまでの内容なんて忘れてしまって読む気すら起きないでしょう。

それでも読んで下さる方が1人でもいらっしゃると信じ、これからも
投下を続けようと考えています。


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