[
板情報
|
カテゴリランキング
]
したらばTOP
■掲示板に戻る■
全部
1-100
最新50
|
1-
101-
201-
301-
401-
501-
601-
701-
801-
この機能を使うにはJavaScriptを有効にしてください
|
避難所
473
:
水町
:2011/10/19(水) 23:56:06 ID:tElbSrz.
>>472
「犠牲、か」
水町ははたと眼を閉じる。
(やはり、この医者には非の打ち所がない。
殺される側の方に非を求めようとするのは私の我侭ですか)
あらゆる死因を失くすことのできる妙薬。
死者すらも救うことのできる力。
その犠牲にしてはあまりに小さく、そして少ない。
それにどういう形であれ、日野山や黄道は生きている。
小鳥遊が実験の為に殺したのでもない限り、
命の恩人であることに変わりはなかった。
>>471
巴津火からの提案に、水町は頷く。
「かまいませんよ、何でも手伝いましょう」
すっかり毒気の抜かれた口調だった。
「まぁ、竜宮の主に対して私ができることなど高が知れてますがね」
そう、何もできない。
災いを招くだけの神性、人を傷つける為だけに生まれた妖怪。
それゆえに・・・。
小鳥遊から提案された賭け、『クラップス』。
「サイコロですか、いいですね。運を天に任せてみましょう」
そう。結局なにが正しくて、なにが間違いだなんてわかりはしないのだ。
ならばこんな5分の確率でも悪くはない。
「しかしこんな公平な賭けでいいのですか小鳥遊医師?
私が勝ったらまず間違いなく薬は完成しませんよ。
それどころか貴方自身の命すら危ないというのにね」
474
:
巴津火
:2011/10/20(木) 21:03:02 ID:1gBuqmPQ
>>472-473
纏が日野山を従えて部屋を出てゆく音を聞きながら、巴津火は小鳥遊の表情を注視していた。
この人間は自分自身が賭けの対象となったのに、不安がるどころか
むしろサイコロに運命を委ねることすら面白がっている。
「お前らしいな。ごまかしの利かない方法だ」
薄い笑みを浮かべて紫濁の瞳が細められた。
賭けたことが今更惜しく思える程に、この医師は目的のために冷徹で
自覚も公平さも失っていない癖にしっかりと狂っている。
「お前のそういうところがボクは気に入っているんだ。
…使うサイコロは小鳥遊に用意してもらっていいか?」
水町に確認しながら、どんな結果になろうと後に不平を言うことはするまい、そう巴津火は決める。
小鳥遊は用意するサイコロに細工することも可能だ。
そして水町の毒気が抜けるのと反比例して、巴津火の妖気にはどこか含みのある不穏さが混じる。
「お前でなければできないこともある」
次期当主として大人しくしてさえ居れば、今の巴津火には何の苦労もない。
しかしまだ幼い巴津火は、逃げ出そうとすれば守役達に追われ、
逆に歯向かえば数の多さで押さえつけられてしまう。
かと言って竜宮の全員を相手にできるだけの力をつければ、今度は草薙剣に竜宮の主として
認められてしまい、より一層神格としての縛りは強くなるだろう。
そのジレンマから抜け出し自由になるためにも、水町のように竜宮に属さない者を抱き込むのは
逃走のための重要な布石なのだ。
「…竜宮なんかクソ食らえだ」
誰に聞かせるつもりもなく苦々しく呟いた言葉は、小鳥遊たち元人間の耳には届かないほど小さかった。
475
:
病院組
:2011/10/21(金) 22:35:19 ID:???
>>473-474
「あからさまにイカサマができるような賭けを提案しても、納得なさらないでしょう?」
毒気を抜かれてしまった様子の水町に、小鳥遊も刺々しさが消え、にっこりと笑いかける。
しかし細めた目の奥には、決して運に身を委ねる気などなかった。
例えこの賭けに巴津火が負けたとしても、簡単に殺されてやる気は毛頭ない。
死んでも死ぬつもりはない。この薬を完成させるまでは。
しかし、そんな思いはまるで表に出さず、巴津火に視線を移す。
「わかりました」
小鳥遊は軽々と頷く。
簡単に了承する小鳥遊を目下に、東雲は言い知れない不安を感じていた。
コトコトと沸き立つ、気持ちの悪い予感。
(こんな賭けを持ち出した時点で、クソ医者がサイコロに細工をするとは思えねェ。
本当に運に任せるつもりなのか?
なら、なんだ、この胸糞悪ィ感覚は……)
なんにせよ、この賭けは小鳥遊だけでなく、己にも重く関わることなのは事実だ。
水町が勝てば、この鎖から抜け出せるかもしれない――。
476
:
水町
:2011/10/22(土) 22:59:28 ID:tElbSrz.
>>474-475
「どうかな、イカサマは案外得意だったりしますから」
水町はククク、と小さく笑う。
しかし深遠の目はやはり小鳥遊を捉えて離さなかった。
(やれやれ、こちらも一筋縄では行かない相手のようだ)
水町はまたため息をつき、巴津火に目を移す。
(こちらはこちらで稚さ過ぎる。
まったく、親の顔を見てみたいものだ)
役割から解放された神性はどんな末路を辿るのか、
水町には巴津火にそれがわかるとは到底思えず、
また巴津火が神格を邪魔に思っているなどとも知りようがなかった。
“竜宮嫌い”の主をしばし眺めて水町は背を向ける。
「では後日、また会いましょうぞ」
再び透色の迷彩に身を包み、水町はヒタヒタと水音を響かせその部屋から退出した。
477
:
巴津火
:2011/10/23(日) 19:13:01 ID:1gBuqmPQ
>>475-476
「なんだあいつ、ため息ついてボクの顔見やがって。
言いたいことあるならはっきり言えよ。竜宮の奴らみたいじゃないか」
わがままなお子様には、水町の表情が含む何かが気に食わなかったようである。
邪神としての性と幼稚さが入り混じる紫濁の瞳は、拗ねた色を浮かべて消えゆく水町の気配を追った。
そして拗ねた表情のまま小鳥遊の白衣を掴む。
犬御が胸騒ぎを感じた不穏な気配は、小鳥遊の静かな狂気と合わさり巴津火にとっては
苛立ちを宥める方へと作用した。
「これはまだボクんだ」
お気に入りの玩具を手放したくないというように、口を尖らせる。
しかし乗ったのは自分であるし、なにより気に入ったものを賭けるのでなければつまらない。
(いつか自由も手に入れてやる)
首に巻かれた真綿のような「次期当主」の肩書きを振りほどけない子供は
泣き出しそうに歪んだ表情を白衣に埋めて隠した。
そしてしばらくして落ち着いたら、また眠たくなるのだろう。
478
:
病院組
:2011/10/24(月) 23:33:49 ID:/AfNAO.Q
>>476-477
「ええ――それでは、また」
自分を殺そうとしている相手に、殺そうとしている相手に、「また」とは。
あの妖怪も案外性格が悪いんじゃないか、と東雲は訝しむ。
彼にしてみれば、水町の登場は、展開次第によっては好機のはずなのだが……。
水町が消えていったのを見て、黄道が駆け寄ってくる。
「あーもう超怖かったんだけど! なんなのあいつ超ありえない! ……あれ、巴津火?」
「おやおや、大丈夫っすか?」
白衣に顔をうずめた巴津火の頭を、小鳥遊が宥めるように撫でる。
その周りを、黄道はおろおろと回る。
「ちょ、ちょっと巴津火どうしちゃったのよ?」
「きっと疲れたんでしょう。黄道さん、落ち着いたら、巴津火さんを休憩室まで送っていって下さい」
「うん……」
心配そうに黄道が頷く。
しかし小鳥遊にとって、巴津火が自分に執着しているこの状況は好ましかった。
賭けの結果次第では、利用することにもなるだろう――。
小さな竜宮の次期当主を腕の中に、小鳥遊は口端を僅かに釣り上げた。
479
:
名無しさん
:2011/10/29(土) 07:32:46 ID:HbHPxpxY
本スレ
>>124-125
『うん?え、どこに・・・』
「ミナクチ、捕まるなよ・・・」
逃げるミナクチとそれを追う叡肖。きっとミナクチは捕まってしまうのだろう。
そんなことも知らず、二人を見送った。
そして問題はこちらである。
『・・・・・・ッ。』
倒れて行く氷亜を支えると、ゆっくりと河原へ寝かせる露希。
『黒龍、応急処置だけお願い。ボクは包帯買ってくる。』
「えー、俺、カンケーないじゃん。」
『・・・零の等身大抱きまくらをあg「よし、分かった。」』
そう行って露希はどこかに行ってしまい、残された黒龍は治癒魔法を使って治すはず。
今日のぷにゅるの魔法は大活躍した・・・?
そして氷亜が目覚めた時には、包帯で巻かれている自分と、うたた寝しながら膝枕をしている女の露希を見るのだろう。
480
:
氷亜
:2011/10/29(土) 09:53:04 ID:bJBnsqT6
>>479
いくら実践慣れをして、大怪我の一つや二つ経験したはずの氷亜でも、
自分の額から相当な出血をしてしまうほどのものは耐えがたいらしく、
半ばうなされるように、失神しながらも痛みを感じていた。
そしてついに意識は痛みによって再び、半ば強引に呼び戻され瞼が開いた。
「・・っ、あぁ・・・。
成功したんだね、良かった。本物の露希だよ・・・」
寝ぼけ眼と言うか、未だ焦点のしっかり定まっていない目で露希を見つける。
しかし気絶をしてから、目を覚ますと女性の露希がそこにいたので、
まだ氷亜の中では幻想世界こそ、嘘の幻だということは理解できていない。
「にしてもあれだけの強力な幻術、一体誰の仕業なのかな?
僕もあるていど、そっちのほうにも対策していたつもりなんだけど・・・」
力があまり入らないのかぼそぼそと呟く氷亜。
敵は露希が妥当したのだろう、と納得してから彼の胸に去来した感情は、
なによりもあっけなく惑わされてしまったことへの悔しさであった。
存在しない幻術の、存在しない幻に自ら惑わされたのだから、
到底打破できないというのは当然のことなのだが。
しかし、氷亜のそう言った戦闘分析の思考は、あまり長く続かなかった。
あえて言うのなら30秒だけ、それから後はふと気付いた事実に驚くのである。
「(ろ、ろろ露希が、が、ひ、膝まく、ら!?)」
頭に強烈すぎる衝撃を負ってしまったため、
まだ体が思い通りに動かせない氷亜はいわゆるラッキースケベ(彼なりの沸点で)
を強制的にか自発的にかで体験した。
それからは華音が目覚めて、再び別の誰かをホイッスルで呼ぼうとするまでは、
氷亜はずっと胸の動悸が露希に気づかれないかにびくびくしながら、
膝枕をしてもらうのである。
/僕のほうもこれで〆ます
/絡みありがとうございました
481
:
露希
:2011/10/29(土) 15:44:04 ID:HbHPxpxY
>>480
『んみゅ・・・あふぅ・・・zzz』
むにゃむにゃとうたた寝した露希は正に氷亜にとっては天使なのだろう。
うたた寝といっても、結構深い眠りのようで、氷亜の呟きには全く気づかない。
なんせ、包帯を巻くのに氷亜が唸り声を上げるので、何かと大変だったのだ。
だが、それでも氷亜を治そうと頑張った露希の想いは膝枕で現れた(?)ようだ。
露希もしばらくは目覚めないので、誰かが呼びにきたついでに起きるだろう。
//絡みありがとうございました&お疲れ様でした
482
:
俺様(フェルニゲシュ)
:2011/11/03(木) 23:05:32 ID:HbHPxpxY
ここは街の繁華街。
夜もふけ、人通りの少なくなった通りに、妙な人物がいた。
紫色のくせっ毛、口にはタバコを加えているのが印象的だ。
「やっぱり生きるっていいな、タバコを吸うときとビール飲むときは、最高に生きがいを感じるぜぇぇっww」
ニヤニヤとやらしい笑みを浮かべた男は、ふらふらと繁華街を歩いている。
483
:
黒蔵
:2011/11/03(木) 23:13:03 ID:1gBuqmPQ
>>482
(役立たず…俺、役立たず)
今のお前じゃ仕事にならないからちょっと頭冷やして来い、と言われ
ふらふらと店を出てきた貧乏ホストは、すっかり冷え込んだ夜の空気と
タバコの煙を胸いっぱいに吸い込み、思い切りむせた。
「…げっほ!」
今でこそ人とほぼ変わらない肉体ではあるが、うわばみの性としてタバコのヤニは大嫌いである。
「うぇっほ、げっほげほ、ぐえーーっほ!!!」
酔いも相まってのことだろう。
愛煙家の皆様にいちゃもんをつけるかの如く、派手に大げさな咳が、静かな夜の空気を揺らす。
「…おぇっ、タバコ臭っ」
わざわざ最後に小さく嗚咽するあたり、もう喧嘩を売っているとしか思えない。
484
:
俺様
:2011/11/03(木) 23:21:10 ID:HbHPxpxY
>>483
「ああ?www」
ざまあみろ、とでも言うように黒蔵の前で再び煙を吐く。
そもそも、常識とか通用しないコイツは、人の嫌がることを平気でやるのだ。
そして、再び歩こうとしたとき。
「ぎゃああああ!?い、いてえ、いてえええー!死ね糞、こんなとこに自転車置くなカスww」
路上駐車してある自転車に脛をぶつけたのだ。
まだこれはいい方、酷い時にはショーウインドーに頭を突っ込む。
多分、ドジじゃなくて馬鹿なのだ。
485
:
黒蔵
:2011/11/03(木) 23:27:55 ID:1gBuqmPQ
>>484
「おいお前ぇ!俺を殺す気かぁっ!!」
貧乏ホストは、中性的な顔立ちを赤く上気させて俺様を指差して怒る。
この体だからタバコも臭いだけで済んでいるが、元の身体だったら数日寝込んでいるところだ。
しかし怒ってはいるのに、どこかその目は焦点が定まらない。
「あはははは!!うはははは!馬ー鹿でぇーー!!!」
そして自転車につまずいた俺様のドジっ子ぶりに、たがが外れたように笑い出した。
ちなみにまだ指差したままである。
その赤い顔が吐く息はどうにも酒臭く、酔っているのは明白だった。
486
:
俺様
:2011/11/03(木) 23:38:02 ID:HbHPxpxY
>>485
「なんだぁ、お前は?俺様を笑ったなあ!?www
いい度胸してるなぁ・・・・・・!!・・・っ、いててて!」
酷く赤面した俺様、だがまだ脛が痛む。
きっとペダルの硬い部分にぶつけたのだろう。
「ならばいいぜ、乗ってやるよHoooo!www」
フー!と叫ぶかと思えば、懐からカンビールを取り出し、黒蔵に吹っ掛けた。
「ぶっ、ははははは!ざまあみろwwww俺様がお前みたいなチャラ男に負ける訳ねーwwwwww」
チャラい=ホスト らしい、俺様の中では。
487
:
黒蔵
:2011/11/03(木) 23:46:58 ID:1gBuqmPQ
>>486
「目が!目がァァ!!」
ビールは目に染みる液体だ。
「やりやがったなー、こンのぉ!」
びっしゃぁぁぁ!!と発泡性の液体を頭から被った貧乏ホストは
前髪に白く流れるビール泡をくっつけ、ずいずいっと俺様の方へ歩み寄る。
しかしどうにも上体がふらつくのは隠せない。
「だーれーがチャラ男だぁぁぁ!!!そういうのは虚冥さんに言えぇぇっ!!」
先輩ホストが聞いたら怒られそうな台詞も、酔っていればこそ吐けるのだ。
酒臭い息を吐き、服をビール臭く塗らした貧乏ホストは右拳を大きく振りかぶって俺様の頭を狙い
「おわっ!」
ぶん殴るのかと思いきや、その首に右腕を絡めようとした。
というのも貧乏ホストの足元の歩道には小さな段差があって、そこに躓いたためである。
488
:
俺様
:2011/11/03(木) 23:56:55 ID:HbHPxpxY
>>487
「ぶっはははは・・・あん、・・・・・・ぐえっ!?」
黒蔵の攻撃は成功(?)して、俺様は顔面から地面にぶつけた。
きっと効果は抜群、もの凄い勢いでたたき付けられたらしく、すぐに鼻血が吹き出した。
「いっいっ、俺様死んじゃうよ、うぎゃああっ!」
鼻を抑えながらその辺りを走り回り・・・。段差に躓いた。
「ぬぶおっ・・・◎×△mたJPぎhに・・・・・・」ピクピク
再び顔面から、地面とお友達した俺様は、動かなくなった。
489
:
黒蔵
:2011/11/04(金) 00:04:55 ID:1gBuqmPQ
>>488
「……。」
俺様の受けたダメージを貧乏ホストが知ることはなかった。
というのも、俺様の首に腕を絡めつつ、躓いたことで貧乏ホストも一緒に倒れ、
歩道の敷石に頭をぶつけていたためである。
鼻血の出た俺様が大騒ぎして走り回っているその間、貧乏ホストのほうはピクリとも動かないで
うつ伏せに倒れていた。
そして酔い覚ましにしては余りにも遅いので様子を見に出て来たホスト仲間に回収されるまで、
ビール塗れで地べたに横たわっていたこの貧乏ホストは、その後の数日間を、風邪で寝込むことになる。
490
:
俺様+α
:2011/11/04(金) 00:13:28 ID:HbHPxpxY
>>489
『フェルニゲシュ・・・我を困らせるな・・・。
この者にも迷惑掛けたのか・・・。』
黒蔵が倒れた後に現れる白い影。
呆れた顔のそいつは、俺様を回収すると同時に、黒蔵を見つめた。
しかし、何かをするわけでもなく、血塗れの俺様を持って返ってしまった。
491
:
黒蔵
:2011/11/04(金) 00:19:05 ID:1gBuqmPQ
>>490
「あー?こいつ酒被ってね?」
「マジ?またクリーニング代で泣きを見るんだな」
「おい、起きろ黒蔵?でないとこのままランドリーマシンに突っ込んで洗うぞ?」
「だめだコイツ、起きねー」
自分を回収してゆくホスト達の会話も、白い影も、酔いが覚めた貧乏ホストの記憶には
残っていないのだった。
//では、ここで〆で。絡みありがとうございました!
492
:
巴津火
:2011/11/05(土) 22:45:50 ID:1gBuqmPQ
以前に、氷亜が雪猩々の身体を捨てた戦いの場となったあの山の中。
傾いた太陽が日差しを木々の隙間から差し込ませているが、
晩秋の山の気は既に酷く冷たい。
そこにジーンズにニット帽、青いジャンパー程度の軽装の少年が一人でいるのは奇妙でもある。
もっと奇妙なのはその小柄な少年が、自分の身の丈ほどの大剣を振り回して
辺りの潅木をなぎ払っているのだ。
「うがーっ!!!いい加減に従え!!ボクを誰だと思ってるんだ!!」
(くっそ、言うこと聞かないでやんのっ!)
その少年、巴津火は苛立ちを隠そうともせず、誰に当り散らしているやら判らぬ台詞を
一人喚いている。
493
:
夜行集団
:2011/11/05(土) 22:57:26 ID:bJBnsqT6
>>492
身の丈に合っていない彼の大剣が、空を数回ひっ掻いた時、
少年のいるこの山の木々、葉、草、全てが激しく揺れ動き始めた。
それは、とある暴風による仕業である。
「はっはっはっはっは!!
未熟的だな、とは言ってもそれは神器だから、
貴様は別段恥じる必要もないがな」
そこら中から反響する男の声の後、
日常でこれだけの風が吹けば当然暴風警報が出されるほどの、
凄まじい突風があたりに渦巻き始める。
大量の砂ぼこりに舞うこの場の中心に、この暴風の目が出現し、
中には、赤く塗られた天狗の面が見えた。
494
:
巴津火
:2011/11/05(土) 23:08:59 ID:1gBuqmPQ
>>493
「うぷっ!天狗の羽団扇風か!?」
暴風に舞い上がる木の葉と塵に、巴津火は左袖で鼻を覆い目を細める。
「はっ、はっ、……未熟で悪かったなっ!言うこと聞かないと鋳潰すぞゴルァ!」
既に大きく肩で息をついていたこのクソガキ様は、天狗に答えて直後、大剣に悪態をついた。
どうやら順調にDQNへとお育ちにおなり遊ばしている模様。
「これが神器なこと位はボクだって判ってる!
けど、コイツの前の持ち主はボクに役目とともにこれを譲ったんだ!
ボクの言うこと聞かないのはこれが悪い!」
いくら巴津火が見た目によらぬ腕力を持つとは言っても、体格が秋牙羅未とは圧倒的に違うのだ。
大剣の太すぎるその柄を握るだけでも、巴津火の手には余る。
駄々をこねる半邪神の手の中で、夕陽を浴びてその長い刀身が橙色に輝いた。
495
:
天狗
:2011/11/05(土) 23:21:01 ID:bJBnsqT6
>>494
あたりを突然に騒々しくした暴風は止んでいき、
彼の姿を隠している砂ぼこりも静まって少し落ち着きを取り戻す。
丁度風の渦巻きの中央にいたこの天狗の姿も、
巴津火の前に堂々と腰に両手をやった、俗に言うえばる格好で現れた。
「ふむ、若干失望的だ。
あの骨から生意気だが実力は相当、と聞いてやってきてみたのだが存外、
いややはりまだまだ未熟的だな」
どうやら、勝手に期待を抱いて飛んできて、
勝手にこの天狗は巴津火の姿を見、そしてがっかりしたようである。
顔の片面でかぶられた、赤い天狗の面がない方の頬をぽりぽり掻きながら、
天狗はゆっくりとした足取りで巴津火に近づく。
「無知的だ。言うこと聞く聞かんなど、神格を纏った神器相手の言い草ではない。
貴様はそもそもを間違っておるのだ」
振り回される大剣に恐れる風もなく近づいた天狗は、
にやっとその中年男性の口角を上げて、見下ろし笑った。
496
:
巴津火
:2011/11/05(土) 23:29:54 ID:1gBuqmPQ
>>495
「骨?ああ、あいつか」
既に消耗している巴津火は、大剣とともに落ち葉の吹き溜まりにどさりと腰を落ち着ける。
散り落ちた錦秋の名残が橙色に輝く刀身と、青い服の子供とを柔らかく包んだ。
「だってコイツ、破邪の剣なんだもん。邪神のボクを嫌ってるのは嫌でも感じるし」
巴津火は口を尖らせて、膝の上に大剣を横たえた。滑らかな刀身には紫濁の瞳が映る。
大剣相手に十二分に暴れ疲れて、今の巴津火は少々大人しい。
神崩れとなった穂産姉妹神を守護する神格であった秋牙羅未は、本来なら神崩れの責を追う立場ではない。
その神器であるこの大剣もまた、その持ち主の役割と破邪の力を正しく受け継いだままである。
それ故に半邪神の巴津火と、この神器とは相性がとことん悪いのだ。
497
:
天狗
:2011/11/05(土) 23:38:29 ID:bJBnsqT6
>>496
巴津火の言葉を聞いた、この中年男は口をつぐみ、
何かを考え込むように視線を斜め上へと放り投げていた。
しかし答えが出たのかふむ、と一言呟いて天狗はいきなり、
どかっと巴津火の目の前に胡坐をかいて座った。
「唐突的だが、少しのヒント、むしろ答えを教えてやろう」
どうやらこの天狗は気まぐれで、巴津火に何かを教えようとしているらしい。
だが、気まぐれとは言っても恐らく、
その発想の裏で仲間穂産姉妹の守護神の形見、彼が預けた理由が脳裏をよぎったと思われる。
「まず貴様がこいつを扱えん最大の理由は、
貴様がこいつを扱おうとしておるからじゃ」
そして天狗の口から出たそのヒントとやらは、
到底参考にもできないような荒唐無稽なものであった。
498
:
巴津火
:2011/11/05(土) 23:46:13 ID:1gBuqmPQ
>>497
「扱おうとするのは駄目なの?」
天狗の言葉にもう一度じっと刀身を見つめて、その神器としての能力に触れなおす。
どこかぴりりとした緊張感のある、剃刀のように鋭い反応が、巴津火の意識に返ってきている。
「でも扱おうとしないと、こいつはボクを切るつもりなんだ」
破邪の刃を半分とは言え邪神が握る、その矛盾を簡単に受け入れるような神器ではない。
この刃に切られれば巴津火でも無事には済まないのだ。
「…無理もないけど、な」
そして巴津火は穂産姉妹を討つ名目の神代にも与している。
499
:
天狗
:2011/11/06(日) 00:00:40 ID:bJBnsqT6
>>498
答えるように巴津火を指差して、
天狗はのそのそと懐から酒の入った酒瓶を取り出した。
「当然的。刃が物切るのは最初からではないか?」
真面目な話をしているはずなのに、躊躇する素振りも見せずそれの栓を開け、
ぐいっと傾けて豪快に天狗は酒をかっ食らい始める。
しかし巴津火に向かったその瞳孔は、
酒にわくわくと喜び弾むような爺の気配なく、どこか戦士の持つ光を感じさせていた。
「確かにそれは破邪の力。だが、穂産姉妹の守護神ともなるような輩だ、
多分こいつにとっての邪は、恐らく神々の認めるところのそれとは違うのだろう。
まあ僕がそのまま無粋に答えを教えるならば、
邪とは邪神の邪でなく、禍々しき、邪心の邪なのじゃろう。
大事なのは貴様じゃ。託されたのはマンドラゴラや燈篭でなく、貴様なのじゃろう?」
その自分の行いによって、今まさにむざむざと殺される運命を選ぶような、
強烈で苛烈すぎる意思の強さを持った穂産姉妹。
姉妹の守護神なのだから、では彼らも、
独自に惨すぎるほどに愚直な正義を持っている、天狗はそう考えたのだ。
500
:
巴津火
:2011/11/06(日) 00:18:32 ID:1gBuqmPQ
>>499
「そりゃ、こいつは剣だし託されたのもボクだけどさ…」
この時の巴津火は何時になく不安気だった。
穂産姉妹を守るための剣なのだから、そのために巴津火が動くならばこの刃は
巴津火を狙わずにこの手にも扱われるだろう。しかしそのためには
「そうなるとボクはこれで、神代を斬らなくちゃならなくなる。あいつには何の非もないのに」
そして神格の役割として、穂産姉妹を討つこともしなくてはならない。
「でも、神格の役目だからと双子を討つのもボクにはちょっと腹立たしいんだ。
理由をぼかされたままで、天界の言うことにボクが黙って従ってやる義理はないからな」
天界への怒りが思い出されると同時に、暴れ神の性も復活してきたようだ。
不穏で不敵な笑みが、徐々に疲労の表情に取って代わった。
「いっそ、どっちもぶち壊してやるのも面白いと思う」
501
:
天狗
:2011/11/06(日) 00:32:06 ID:bJBnsqT6
>>500
「不可避的。貴様も縛られておるのだな」
目線を伏せて、また酒瓶を傾ける。
そして瓶から口を離して天狗は、やれやれと溜息をついた。
「当然的、わしの方でも天の意向に探りを入れておるが、
何故か天のこの件に関しては、異常なほどに情報の規制が厳禁となっておる」
どうやら天狗にもそのぼやけた部分は分からないようで、
仲間、僕、全てに情報を探らせているが、
深く天と関わりのある神格持ちまでもが、神代の件の情報は得られなかった。
「壊してやる、不遜的だ。
だが、俺も貴様のそれには賛成しよう。
骨もあの桔梗も言っておったが、実はそれぐらいの妨害が、
この流れは必要なのかもしれん。場合によっては神代を殺める程でな」
巴津火の不敵さに呼応するように、
天狗も機嫌よさそうにニカっと顔を輝かせて笑った。
しかし最後の言葉に関しては、目に映るものは非情、である。
502
:
巴津火
:2011/11/06(日) 00:47:14 ID:1gBuqmPQ
>>501
「本当にぶち壊してもいいのか?
この件にボクが関わっていることは天界に隠しようがない。
お前達、夜行集団は双子の為なら天界に喧嘩を吹っかけてもいい、と?」
沈み行く太陽がその影響力を失いつつある中で、紫濁の瞳は俄然輝きだす。
しかし神代のことに触れられると、ごく僅かその視線が伏せられた。
「神代を…」
しかし、その口元は企みを含んだ笑みを浮かべ、機嫌よさそうな天狗に笑い返した。
「そうだな、どうせぶち壊すんだ。覚悟は何時でもして居よう」
しかしこの時の腹の底で、巴津火は全く違うことを考えていた。
(天界だけでなく、どうせなら竜宮にも一泡吹かせてやろうか。折角コイツがあるんだ)
言うことを聞かない大剣を値踏みするように見て、使い道を思いついた暴れ神は
夕闇の迫る中一つ深呼吸をして伸びをした。そろそろ汗も冷えて体が冷たくなってきたのだ。
503
:
天狗
:2011/11/06(日) 01:02:56 ID:bJBnsqT6
>>502
堂々と座って巴津火を見つめる。
そして彼のその質問に答える前に、天狗は手に持った酒瓶の中身をぐいっと傾け、
全てを喉を鳴らしながら飲み干して見せた。
息継ぎとして、大きくそして深いため息。
「はっはっはっはっは!!滑稽的!!
それは、吾輩たちに向けられるべき疑問では到底ないぞ!!」
だが突如、天狗は大口を開けて笑いだすのだ。
「我ら夜行は、天を恐れん。地も恐れなければ海も恐れん。
光も闇も、善も悪も、仲間のためとあらば全てに、拙者らは牙をむく。
滝澪王に関しても波旬に対してもそうであったようにな」
巴津火のした笑みにも負けないほどに、
不敵に天狗は口角を大きく釣りあげて見せる。
夜行に対するそう言った心配は、まったくの必要はないようだ。
「くっく、有望的。貴様、私が思った以上に見込みがある。
それだけ貴様に何かの筋があるのだ、
秋牙羅未の託したその刃も応えて、貴様とともに道を切り裂いてみせるだろう。
扱うのではない、自身の後に前にはべらし付き従わせるのだ」
504
:
巴津火
:2011/11/06(日) 01:20:40 ID:1gBuqmPQ
>>503
「それなら安心してボクのすることをお前達に手伝わせていいんだな。
言っておくが、ボクは妖怪遣いが荒いぞ?」
体格はともかく、態度のデカさでは天狗に引けをとらない巴津火。
見込みがある、と偉そうな天狗に上から言われて少々カチンときたために、
ニヤニヤと笑いながらもそう言い返した。
しかしその直後。
「付き従わせる、か。実は面倒なんだよなー、それ」
その言葉にいつも後をついてくる竜宮の守役達を連想し、ちょっぴり苦い顔となる。
「確かさっきこの辺に置いてた……あった」
気分を振り払うように落ち葉の中に立ち上がると、その下から金具の埋め込まれた
真新しい木の鞘とそれを収める布袋を掘り出した。
その鞘からごく僅かに神気が漂っているのは、あの牛神神社の旧神木から材を貰っているためだ。
秋牙羅未の大剣をそこに収めて斜めに背負おうとしたその時、山中に隠しようの無い音が響き、
巴津火がちょっぴり苦い表情になる。
空腹を訴えて、巴津火の腹の虫が鳴いたのだ。
505
:
天狗
:2011/11/06(日) 01:31:53 ID:bJBnsqT6
>>504
「無問題的。貴様程度のわがまま、
あの骨に振り回されている己たちにとっては乳飲み子の泣きべそじゃ」
巴津火に対してよほど気に入ったのだろう、
態度に関して何を言うこともなく、こちらもお前が言うなな内容で返した。
「初歩的。
流れを纏う者が、自分の流れに巻き込まれたものに気を取られてどうする。
貴様も水の流れを宿しているのだろう?」
風も水も、属性を異なる物としている様でいて実は、
流動、という二字においてはとても近しい性質を有している。
だから天狗は全てを介さず巻き込め、と知った者の立場として助言したのだ。
「はっは、空腹的か。
よかろう、自分も丁度腹が空いてきた。話はこれで終いじゃ。
そうじゃ、貴様はどうやって帰るのだ?」
鳴き声を聞いて笑い、天狗は大儀なふうで立ち上がった。
506
:
巴津火
:2011/11/06(日) 01:47:20 ID:1gBuqmPQ
>>505
「でもボクは流れの中のものに纏わりつかれずに、もっと自由に流れたいの」
流れの持つ力は水のほうが大きいが、ずっと自由なのは風のほうなのだ。
力の大きさ故に巴津火には、色々な形の束縛がある。
だから巴津火は頬っぺたを膨らませてそんな我侭を言った。
「歩いてここまで来たから歩いて帰るんだ。ノワールでご飯が待ってる」
低級の水神達のように、自由に水を渡る能力が無いのもその縛りの一つ。
大きな力の神格に気まぐれに動かれては困るのだ。
腹の虫の声を笑われて、気まずい巴津火は俯いて山道へ踏み出した。
その頬の赤みを、夕闇が隠させてくれるだろうか。
507
:
天狗
:2011/11/06(日) 01:58:21 ID:bJBnsqT6
>>506
膨らむほっぺに向かって、
面を半分かぶった男は腕を組み、胸を張ってさらにどんと威張りだした。
「容易的。自由に流れたくば、もっと強くなることだ。
それができれば、纏わる者も纏わりきれずに後を付き従い巻き込まれるしかなくなるからな」
自分はそれができる、そう言いたかった天狗は鼻息を荒くする。
そしてそんな威張り腐った態度のまま、
恥ずかしさを隠して去っていく巴津火を見つめ見送った。
「終着的、どうせ流れるしかないのだ。
ならば、無理やり自分の流れを生み出しても誰も文句は言うまい?」
しばらく巴津火の姿を見つめてから、
天狗は自身の黒翼を大きく広げ、そして雄大に羽ばたいた。
その彼の団扇とともに煽がれた風はとても強大で、
あたりに再び突風を起こしたかと思うと、天狗の姿は一瞬にして消え去った。
/僕の方はこれで落ちにさせてもらいます
/絡みありがとうございました
508
:
巴津火
:2011/11/06(日) 02:09:45 ID:1gBuqmPQ
>>507
「風はいいよな、重いものが纏わって来ないんだもん」
自由に水を渡れないのが恨めしい。
空腹を抱え剣の重みを背負い、
天狗に見送られた巴津火は山の冷気に身をすくめながら夕闇のなかを下りてゆく。
(秋牙羅未の場合は、流されたほうなんだろうか?)
肩に食い込む大剣は、その疑問に答えてはくれなかった。
//絡みありがとうございました!
509
:
夜行集団
:2011/11/10(木) 22:15:38 ID:bJBnsqT6
>>229
,
>>230
,
>>231
黒龍が記憶をゆっくり辿っていき、
突然、虚冥の顔からは血の気が引いていた。
今年はあまり日焼けをしていないこともあるが、それとは無関係に、
今の彼の顔色は、土気色である。
「お・・・おい黒龍・・・。
無?・・・無って言ったか・・・?」
そんな虚冥の言葉は途切れ途切れで掠れ、
見るからにいつもとは違っていた。
「おい・・・おい黒龍・・・
も、もしかしてだが・・・違ったら違うでいいんだが・・・・
そいつは」
手がかすかに震え、目はどうしようもなく泳いでいる。
冷や汗は、既に顔のそこら中から。
「榊、紫陽花って言ったか?」
510
:
田中姉弟
:2011/11/10(木) 22:35:30 ID:c1.PBF/s
本スレ
>>230
本スレ
>>231
>>509
夜「………なんか厄介そうね〜
貴方はその相手に心当たりあるみたいだけど…」
澪に撫でられ落ち着いたようだが、やはり澪の手を握ったまま
虚冥の様子を見て、何か知ってると思いそう聞いた。
夕「零に会ったなら良かった
……って彼女じゃなくって彼氏でいいんじゃない?」
そんな周りのシリアスな空気に関わらず、田中くんは《普通》に黒龍の発言につっこむ。だが虚冥の様子をみて、黒龍が生き返ったのに何かヤバイのが絡んでるかと思ってしまった。
真剣な顔つきで虚冥を見る。
511
:
澪『』&黒龍「」
:2011/11/10(木) 22:46:07 ID:HbHPxpxY
>>509-510
『お前、急にどうした。雰囲気変えて。そんなにも、その榊と言う奴が危険なのか?黒龍さん、どうなの?』
いつもと違って、どうかしている虚冥に問い掛ける。
「彼氏か!そうだアイツ男だ・・・・・・。
すまぬ、話を戻す。・・・・・・確かに本人は名乗っていた、榊と。
本当に無なんだ、無で、何もかも見え透いてるような。」
実際、黒龍が魔法神と言うことも彼女は知っていた。やはり、虚冥は知っているのだろうか。
512
:
虚冥
:2011/11/10(木) 22:54:30 ID:bJBnsqT6
>>510
「い、いや。
多分ただの気のせいだから、俺の思ってる奴と違うと思うし」
虚冥は何故か危うく、焦りが過ぎて取り乱すところであったが、
隣の夜の言葉で我に返り少し落ち着きを取り戻す。
しかし、それがかりそめの安心であることは虚冥の顔を見れば明らかで、
まだ目には怯えに似た光が灯っていた。
「た、ただの気のせいだ・・・・ていう。」
苦笑いをしながら、半ば祈るように俯いてそう呟く。
>>511
それでもなんとか平静を保とうとしていた虚冥は、
黒龍の返答によってまるで雷に打たれたかのように固まり、しばらく何も喋ることができなかった。
どうやら虚冥には、澪の声も聞こえてはいないようで、
先ほどは手にだけであった震えが、今は全身を駆け巡っている。
「な、なあおい!!
嘘だよな!?ただの悪い冗談だよな!?
氷亜か姫か、それか他のに聞いたんだよな!?
ちょっと俺の反応が変わるとか言われて、カラかってみたかっただけだよな!?」
そして突如虚冥は、黒龍に弾かれたような速さで近づき、
乱暴に彼の両肩を掴んで全身をゆすった。爪が黒龍の肉に食い込む。
その様はまるで、子供が駄々をこねている様であった。
目に浮かんでいるのは、もはや驚きなどではなく、
三白眼にも見える状態の目には、涙すら浮かんでいる。
513
:
田中姉弟
:2011/11/10(木) 23:07:57 ID:c1.PBF/s
>>512
>>513
虚冥が黒龍つかみ掛かった瞬間、田中姉弟が動いた。
夕「ちょっとメリーのおじさん!落ち着いて!!」
夜「落ち着いてください!!
澪!!ちょっと離すの手伝って!!」
夕が《八握剣》の右手で黒龍に食い込む爪を外そうと
夜が革手袋からでる無数の妖気を含んだ特殊ワイヤーで虚冥の腕に絡ませ止めようと
店員雪女も慌ててそちらに近づいてくる。
それだけ虚冥の動揺はただごとではなかった……
514
:
黒龍「」&澪『』
:2011/11/10(木) 23:14:41 ID:HbHPxpxY
>>512-513
「い、痛っ・・・、違うって!俺の人間体、柔らかいからあんまり強く触るなっ!」
『お前、どうしたんだ!?早く黒龍さんから離れて!』
澪は微弱ながらの電流で、虚冥を痺れさせようとする。
黒龍が解放されれば、黒龍は元の姿へと戻る。
「そんなに信じられないなら、これを見てからにしろ!!」
虚冥の額へと、手をやり、何やら呪文を唱えだした。どうやら、その時の事を脳波に伝えるようだ。
515
:
虚冥
:2011/11/10(木) 23:25:09 ID:bJBnsqT6
>>513
息荒く、目には血走りが窺える虚冥は、
彼自身があまり強靭な肉体ではないにも関わらず、黒龍に掴みかかるその力はやけに強かった。
まるで溺れる者が手当たり次第何かをつかむ時、強烈な握力を発揮するように。
しかし、それでもあの田中姉弟の力は強く、そして澪の電流は今回は力とならず
虚冥から力を奪い去ることに成功し、
なんとかながらも虚冥は黒龍から離された。
「・・・はぁ・・・・はぁ・・・・!!」
まだ興奮か恐怖か、激情が抜けきらない虚冥は黒龍に、
離されてからでも睨むような視線を向けている。
>>514
息を荒げながら近づく黒龍を睨みつけ、
しかし抵抗はせずに黒龍の術を、虚冥は大人しく受けた。
黒龍の力は強大で、錯乱気味の彼の脳内にも術は問題なく投影される。
そして彼が見るのは、
復活する黒龍から見た黒龍自身の姿と、
全てを無と呼ばせる漆黒を携えた、黒いあの女であった。
「あ・・・あぁ・・・・」
投影が終わり、状況を全て把握した虚冥は、
気の抜けた声を発して、突如膝から崩れ落ちた。
「・・・させろ」
女性が座りこんだような体勢のまま、
虚冥は何かをぼそっと呟く。
顔は俯いて表情は窺えず、震えは先ほどよりも強くなっていた。
516
:
田中姉弟
:2011/11/10(木) 23:38:18 ID:c1.PBF/s
>>514
>>515
夕「はぁ……はぁ………どうしたんですか?一体?」
夜「霙。大丈夫だから仕事に戻って」
店員雪女「は…はい(店長が真面目モードだ)」
なんとか引き離し、田中くんは龍化した隣にいき、夜はその場で様子を見ながら雪女に仕事に戻るよう言う。
517
:
黒龍「」&澪『』
:2011/11/10(木) 23:48:13 ID:HbHPxpxY
>>516
「・・・・・・もしかして、俺が生き返ったのが悪かったのか?」
崩れた虚冥、それを黒龍は黙って見ていた。
先程よりも震えている虚冥を、宥めさせる為、澪は夜を呼ぶ。
『とりあえず彼を落ち着かせるから、何か飲み物を。』
頼んだコーヒーは冷めてしまっただろうから、また何か持ってくらしい。
「なぁ、何があった。無理にとは言わない、だけど奴と関わった以上、俺も他人の振りは出来ない。」
518
:
虚冥
:2011/11/10(木) 23:59:46 ID:bJBnsqT6
>>516
、
>>517
「神代に止めさせろ・・・」
先ほどまであれだけ荒れ狂っていた彼の口から出た言葉は、
驚くほど弱く、か細い雰囲気を帯びていた。
虚冥は脱力、いや虚脱してしまっていて、
目や体には力が一切抜け落ちて一瞬で彼がやつれた様であった。
「お前は生き返ってよかった・・・
本当は・・・駄目だが・・・良かった」
しかしなんとか黒龍の質問に関して、首をゆっくりと横に振る。
状況がどうあれ、黒龍が復活したのは喜ばしいことで、
後輩の零がまた彼に会えるという事実は、
虚冥にとっても心幸せにさせるものであるのだ。
「問題は・・・むしろ・・・
いや全てが、榊だ。あいつが・・・あいつが・・・」
途切れ途切れとなった彼の言葉が続く、が、
何かを言い掛けたとき虚冥は、胸に溢れた思いに遮られ言葉を詰まらせる。
なんどか言おうとするもできず、虚冥はついに諦めまた俯いた。
「と、取り敢えず・・・神代。
神代を止めろ。最悪息の根を・・・あいつのためにも・・・」
そして俯いたままの虚冥から発せられた言葉は、
あまりにも乱暴でおそろしいものであった。
519
:
田中姉弟
:2011/11/11(金) 00:22:28 ID:c1.PBF/s
>>517
>>518
夜「わかったわ〜〜」
澪にそう言われ、カウンターに入り新しくコーヒー1:ミルク1のコーヒーを作り始めた。
夕「ちょっと待って!メリーのおじさん!いきなり物騒な事を言って
神代って誰かわからないけど、理由を教えて?おじさんと榊ってどんな関係か教えてください。そして、榊って人が何を企んでるのかを」
夕は坊ちゃんの件に多少なりと関わってるも、坊ちゃんの本名が神代ってのを知らない。
彼の右手の甲に《丸い円に八つの棒生えた模様》が光り輝いた。
夜「とりあえずコレでも飲んでくださ〜〜い
………神代って坊ちゃんって言われてる妖怪と人間の間に産まれた子よね〜?夕…貴方とメリーと牛神神社が首突っ込んでる問題よ」
夕「え?もしかして神殺しの件の?」
夜は戻り、その話を聞き渋い顔をしながら虚冥に入れ直したコーヒーを渡そうとする。
澪はなんとなく夜の渋い顔をした理由がわかるだろう。
妖怪と人間の間に産まれ人生を狂わされた坊ちゃん―――それが…………
520
:
黒龍「」&澪『』
:2011/11/11(金) 00:33:01 ID:HbHPxpxY
>>518-519
「・・・神代とは?
息の根を?なぜだ!?」
今度は黒龍が、虚冥を揺さぶる。
たくさんの疑問が入り混じるなか、榊と神代、どんな繋がりがあるのかが知りたかった。
『人間と妖怪の子供、言わば・・・半妖。』
ちらりと夜を見て、一度俯いてしまった澪。
話はある程度、知ってるようで、何か突っ掛かる物があるらしい。
521
:
虚冥
:2011/11/11(金) 00:41:06 ID:bJBnsqT6
>>519
「まず・・・榊が、あの女が、
何かを企んでるという発想は止めた方が良い・・・」
虚冥は疲弊しきっているようでありながらも、
ゆっくりと夕の質問に答える。
首を振りながら話し始める虚冥は最初に、彼の質問の内容を訂正した。
「あいつが何かの目的のために何かをしている・・・
そう考えると何もかもがつじつまが合わなくなるんだ・・・
俺の時だって多分神代のだって、あいつはきっと得などしない・・・」
小さく会釈とともにコーヒーを受け取り、
そっと彼はカップを傾けた。
そしてこんな状況でもしっかりとこだわりが加わっている苦みは、
虚冥の心をいくばくか和らげたのである。
「取り敢えず・・・俺にも神代が計画を成し遂げて、
榊がそれに関わって何が起こるのかは分からない・・・
ただ一つだけ確証を持てるのは、
神代の討伐が例えどんな大義で行われようとあれが関わった時点で、
最後に存在しているのは、無、だ」
>>520
理由のわかっていなかった黒龍とは対照的に、
虚冥は彼のされるがままで、体を大きく揺さぶられた。
しかし、そこに彼の反応はなく、感情もどこか乏しくなっている。
「神代は・・・アネさんアニさんを討伐する命を受けた、
神話では怪物と称された存在らしい・・・。
俺達が今手に持っている情報だと、
その神代が率いている謎の集団の中に、榊が紛れ込んでいる」
でもこんな情報、榊の前ではどうしようもないがな、
虚冥はそう呟いて自嘲的に笑った。
522
:
田中姉弟
:2011/11/11(金) 01:03:34 ID:c1.PBF/s
>>520
>>521
夕「………えっ?目的がない?残るのは《無》って…?」
夜「……メリーが言うにはハツビーと稀璃華っていう人が内部調査の為に坊ちゃんの仲間に入ってたって………今すぐハツビー……いや叡肖さんにこの事連絡しないと…稀璃華っていう人にも連絡できれば……」
夕は呆気になるのも、夜は何かヤバイ事があると思い考えを巡らせ
夜「榊の種族か能力はわかる?
坊ちゃんの能力は牛神の暴れ姫から聞いた話だと触れたモノを死にいたらしめる呪いみたいなのって聞いたわ〜
神殺しが可能なマンドラゴラとミイラ男みたいの……それだけでも厄介そうだから…せめて榊の手札はわからない?」
523
:
黒龍「」&澪『』
:2011/11/11(金) 01:17:04 ID:HbHPxpxY
>>521-522
「・・・・・・もしも榊単独なら、俺らで勝てる気もしなくないが・・・。
やはり怪物と言われるだけの力はあるようだな。
アネさん、アニさんを助ける為には・・・。殺す、だな。」
導き出した答えはこれくらいしかない。
夜がタイミング良く、敵の情報を聞いてくれているので、それを参考にするようだ。
『人数ならこっちの方が上、あとは実力か。』
524
:
虚冥
:2011/11/11(金) 01:29:53 ID:bJBnsqT6
>>522
、
>>523
「その方がいい・・・
榊がどれだけ二人のことを知っているかは分からないが、
こちらは万全を期さないと駄目だ。万全であっても駄目なんだしな」
夜に小さく頷いて言葉を繋いだ。
虚冥はその裏で、ひどく後悔していた。
巴津火や稀璃華が潜入しているのは知っていたし、危険だが必要であることも。
だが、それは榊が関係していないという大前提があってのことで、
彼はいち早く榊が神代と関わっていることを知っていれば、
二人を偵察に送ることは絶対なかったからである。
「種族は、分からない・・・
あいつはそうなんだ。向こうはいつだって知っているくせに、こちらの情報は無い。
でもあいつがどんな種族だろうが、たとえ上級の神格持ちであろうが、
どんな空前絶後の種族だった所であいつには関係ない。
問題なのは、あいつがなにより榊 紫陽花であることなんだ・・・
でも、あいつの手札、はない。」
虚冥はこう言う。
榊が、呪詛や妖術の類を使った所を見たことは一度もない。
そしてなにより、あいつは多分田中夕の左手でも簡単に殺せる強度の肉体しか持っていない。
「それと黒龍。
これは絶対に覚えて忘れないでいてほしいことだけどな、
榊は勝てる気がする、で絶対に戦うな」
虚冥は突然そう言って、
一瞬力が戻ったのか黒龍に対してとても真剣で、それでも怯えた目つきで見つめた。
「これは勝負じゃない・・・戦闘でもない・・・
神代に対してはそれでよくても、榊に対しては、
絶対的に殺意をこめて対応してくれ。頼む。」
525
:
田中 夜
:2011/11/11(金) 01:49:47 ID:c1.PBF/s
>>524
>>525
夕「……」
夜「夕……貴方の言いたい事はわかるけど〜、一旦帰りなさ〜い」
夕「…わかった」
黒龍も殺す意見に賛成なのに反対しようとするも場の雰囲気に負け言えない。
それに気付き夜は夕に一旦帰るよう言った。
彼は浮かない表情で喫茶店を出た。
夜「……なにもかも不明。目的はない。手札もない。けど、戦っても勝てる気はする。だけど…戦っちゃいけない
わからない相手ね〜……ただ、坊ちゃんより……いや誰よりも危険だってのはわかったわ〜」
それを考えるとハツビーは大丈夫なのか?と彼女は心配した。
526
:
黒龍「」&澪『』
:2011/11/11(金) 02:10:24 ID:HbHPxpxY
>>523-524
「・・・解った。覚えておく。あ、零にも言った方がいいか?」
ほんの一瞬だが、黒龍のものとは思えぬ殺気を虚冥に見せ付けた。
やるときはやる、それが黒龍のプライドらしい。
『夕、夜、今まで以上に、一致団結しようね。
もう、何があってもおかしくない状況だから。』
真面目過ぎる雰囲気をちょっぴり和ませるように、澪はやんわりと笑って見せた。
『虚冥、僕も出来ることは少ないだろうけど協力する。』
「・・・っし、さてと。夕にも会えたし、今日はおいとまするかな。
店長さん、お代は置いておく。虚冥のこと、落ち着くまでよろしくな。」
『ご来店、ありがとうございました。黒龍さん。』
会計を虚冥の分も済ませた黒龍は、ノワールを後にした。
//私はここで落ちます!
三日間、絡みお疲れ様でした!!!
527
:
虚冥
:2011/11/11(金) 02:24:27 ID:bJBnsqT6
>>525
、
>>526
黒龍の問いに、虚冥は首を横に振った。
その顔は苦々しげで、目は自然と細められている。
「いや、できる限りこれ以上、
誰かを巻き込みたくは無い。どちらかというなら黙っていてくれ」
この事態は、想像以上にまずい状態なのだ。
その為、全員がバッドエンドともなりかねないこの中では、
もしもがないように、虚冥はあまり仲間を増やしたくは無いらしい。
「ありがとうな、澪」
おそらく、普段ならば口が十文字に割かれようが決して言わない台詞を、
無意識に出なく心から、虚冥は澪に対して告げた。
「・・・店長。
少しここで休ませてくれないか?
本当なら今すぐにでも夜行に戻りたいんだが、
いかんせん力が入らない。まだ感情が上手くコントロールできてないみてえだ」
よろよろと近くのテーブルまで歩いて座り、
顔を片手で隠しながら、虚冥は夜に対してお願いした。
確かに、榊の単語を聞いてからの虚冥は、ひどく疲弊しているようである。
虚冥にとって榊とは、形容できないほどの傷の別称なのだ。
/僕の方もこれで落ちにします
/長くロールお疲れ様&ありがとうございました
528
:
田中 夜
:2011/11/11(金) 02:36:25 ID:c1.PBF/s
>>526
>>527
夜「……そうね〜。澪〜」ニコッ
澪に笑いかけられ、夜も自然に落ち着き癒され笑顔になった。
夜「いいですよ〜。好きなだけ休んでくださ〜い」ニコニコ
虚冥を癒すかのように、店内に穏やかなジャズの音が響き渡った。
/三日間お疲れ様でしたー
/絡みありがとうございます
529
:
零「」&黒龍『』
:2011/11/11(金) 23:11:06 ID:BQ990e1A
ここはとある山の上り坂。
この坂を昇りきったところには、澪の湖がある。
『えぇと、サンドイッチとかデザートとか買ったからさ、
とりあえずお互い、仲良くなろう、な?
(ああ…俺、凄い帰りたい……。)』
「」ニコニコ
実は黒龍が提案したのだ。
いい場所があるから、そこでゆっくりと話しあおうと言う。
…宛誄達を半ば無理矢理連れてきたのも黒龍である。
530
:
宛誄&蜂比礼
:2011/11/11(金) 23:20:49 ID:tElbSrz.
>>529
「あぁ、これはご丁寧にどうも。
本当に誰かさんは見習っていただきたいですよね。
いや、誰とは言いませんけどね」
宛誄、ピキッてる。
傍らに浮かぶ蜂比礼も居心地悪そうである。
「あ、あのさー。あとどれぐらいで着くのかなー?
ほらオレって虫だから寒いの苦手じゃん?だからしばらく引っ込んでても・・・」
「いやいやそんなに厚着してるんですし、大丈夫でしょ。
せっかくのハイキングじゃないですか」
蜂比礼、すごく実体化解きたそう。
かくして針の筵のような雰囲気を流しながら、一向は晩秋の山を登って行くのだった。
531
:
零「」&黒龍『』&フェルニゲシュ(俺様)
:2011/11/11(金) 23:33:22 ID:BQ990e1A
>>530
『(だーっ!少しは手伝えよ蜂!!
そんなに寒いなら燃やしてやろうかぁ!?)』
「いや、寒いんならしょうがないよね。
ハイキングっていっても、風邪ひいちゃまずいしね。」
余りにも酷い雰囲気を保ちながら、湖へと着いた。
秋もかなり深まり(というか冬に近いけど)紅葉などが良いグラデーションを出している。
黒龍はレジャーシートを広げると、宛誄達に座るよう言う。
ランチタイムが始まろうとしたその時だった。
俺様「ひゃっほーう、言うとおりに来てやったぜっていねぇよ!!!」
やけにテンションの高い人が一人。
少し癖っ毛で、へらへらした男が宛誄達のところへ寄って来た。
俺様「おいおい、おチビさん、この辺で白い女、見なかったかぁ!?
あと上手そうなサンドイッチ、俺様にくれたっていいんだぜ?」
もしも宛誄がサンドイッチを手に持っているなら奪って食べる筈だ。
532
:
宛誄&蜂比礼
:2011/11/11(金) 23:44:56 ID:tElbSrz.
>>531
「は?」
明らかにイラッと来てる宛誄。
(そこそこ強い妖気・・・)
しかし安っぽい雰囲気とは裏腹のフェルニゲシュの妖気を感じ取ると、
鋭く目を光らせ、語りかける。手に持つサンドイッチはノーガードである。
「見ませんでしたね、知り合いか何かだったんですか」
「なんなんだよー、お前。見るからに登山者じゃあなさそうだしさー」
蜂比礼も重苦しい雰囲気が破れて幸いとばかりに口を開く。
零をサンドイッチを持たない左手でつついて警戒を呼びかける。
533
:
零&黒龍&フェルニゲシュ(俺様)&白龍
:2011/11/12(土) 00:00:32 ID:BQ990e1A
>>532
俺様「は?じゃねーよ、は?ってなんだよ?
まさか、俺様の登場に何処かジェラシー心燃やしてんのかぁ?
しかも何怒ってんだよー。俺様、マジ何もしてねぇし?」
サンドイッチを奪い取り、もしゃもしゃと食べ始める俺様。
そんな俺様に気を取られて、唖然としていたが、次の瞬間には表情が一変した。
巨大な爆発音と共に奥の湖から大きな水飛沫が上がった…かと思えば、
そこからは白き神龍、バラウールが現れたのだ。
白龍「……まさか、な。こんなところで出くわすとは、我も思わなかった。
宛誄、そして…ジルニトラ。」
黒龍「お前…生きていたのか…?」
零「………っ。」
俺様「お、来たな?紹介するぜ。奴がこの、俺様の心強い味方。
白き神龍こと、白龍。又の名をバラウール、だ。フヒヒww」
534
:
宛誄&蜂比礼
:2011/11/12(土) 00:12:38 ID:tElbSrz.
>>533
サンドイッチを奪われ、気をとられていたその直後であった。
耳を劈き、腹に響くような爆発音が駆け巡る。
「!?」
山彦が反響する。
現れたのは、白竜・バラウール。
「・・・あなたの事だったんですか」
(まずいな、この前よりも幾分か妖気が上がっている)
強がって見せるものの、宛誄の内心では腰が引けていた。
戦えない
その歴然とした事実が重く圧し掛かる。
いかに蜂比礼の力、病魔の力を持つとはいえ。
所詮は暗殺術、最も必要な正面から戦う能力は無かった。
(・・・まったく、逆心がいかに便利な力だったか思い知らされる)
「で、フェルニゲシュさんでしたっけ。
バラウールさんと黒竜は知り合いのようですが、あなたは一体なんなんですか?」
535
:
零&黒龍&フェルニゲシュ(俺様)&白龍
:2011/11/12(土) 00:34:26 ID:BQ990e1A
>>534
白龍「宛誄、ジルニトラ。なぜ貴様らが一緒に居るんだ。
殺すのにはちょうどいい機会だが、あえて問う。」
黒龍「くっ……。(バラウールの力が読めない…戦ったら殺される、全員。)」
白龍は宛誄と黒龍を殺す気だ。
それは妖気だけでなく、言動からも読める物だった。
黒龍も負けを悟った今、どう勝てばいいのだ。
その空間を、絶望と笑い声が支配した。
俺様「俺様はな……グハハハハハハハハハ!!!!!!
かつて王と称され、あげく人間や仲間共から追放された…竜王だ!!!!」
フェルニゲシュ、態度はでかくとも、並みの強さではないことは
宛誄は分かっているらしい。
零「………」ニコニコ
だが、まだ終わっちゃいない。
逃げればいいのだ。零はその要点だけを理解していた。
今は白龍が生きていたと言うことより、宛誄達と逃げる事を優先させる。
零「(宛誄、はっちーを連れて、走れ!!)」
536
:
宛誄&蜂比礼
:2011/11/12(土) 00:54:50 ID:tElbSrz.
>>535
「・・・」ガクガク
「不本意ながら同行を強制されてましてね」
蜂比礼は怪しい妖気の渦に顔を青くしていたが、
宛誄はギュッと蜂比礼の手を握り締めて落ち着かせる。
バラウールに語りかける宛誄は零の瞳をチラリと流し見た。
(逃げろ、か)
わかっている。
相手は上位の神格持ちクラスの力を持っている。
白竜と黒竜に何があったかは知らないが、自分には関係ないこと。
逃げてしまえばいい、虫を遮蔽にして。
そのまま一目散に後ろを向いて駆け出せばいい。
僕は戦えないから。
「フェルニゲシュ、竜王とまで言われたあなたがこの国になんの用ですか?
バラウール、僕や黒竜をなぜ殺す気かは知らないが、僕はそう簡単には殺されません」
宛誄は逃げる様子も無く、真っ直ぐに2匹の竜を見据えていた。
逃げる様子も無く、その手には刃は無く、それでも瞳は揺らがなかった。
戦えないことは、逃げていいことにはならない。
ここで逃げ出すようじゃ、到底七罪者は救えない。
なにより・・・僕が成りたかった“幸せな人”は。
刃を持つ者を絶対に見捨てたりはしなかった。
537
:
零&黒龍&フェルニゲシュ(俺様)&白龍
:2011/11/12(土) 01:17:27 ID:BQ990e1A
>>536
俺様「何の用。言えないな。いくら俺様でも。」
白龍「蜂比礼、我に従えば命は助けてやる。
宛誄、貴様のその言動が命取りにだってなる。
始末はジルニトラの後だ。」
フェルニゲシュとバラウールの表情が一変した。
視線の先にはジルニトラ。…殺す気だ。
バラウールは水龍の分身を作りだし
フェルニゲシュは陰からいくつもの刃を作りだす。
白龍「我の為に黄泉の国で償え、ジルニトラ。」
黒龍「……俺は死なない。」
攻撃が一斉に黒龍へと放たれた時、白龍とフェルニゲシュ以外の4人は亜空間へ吸い込まれた。
再び目を開ければ、零のマンションの一室にいるであろう。
黒龍「はぁっ、はぁっ……。」
零「あ、宛誄、はっちー、大丈夫!?怪我とかしてない?」
538
:
宛誄&蜂比礼
:2011/11/12(土) 01:29:53 ID:tElbSrz.
>>537
「そうですね、どうやら僕は頭の回る冷静なキャラじゃなくて。
馬鹿馬鹿しい事ですぐ熱くなるキャラだったようです」
ミシリ、と宛誄の腕から何かが軋る音がした。
戦えない宛誄が、戦う為の秘策・・・。
黒竜へ向けて攻撃が放たれたとき、宛誄もまた同時に駆け出した。
しかしその瞬間、
「!?」
気がつくと、マンションの一室へと転移していた。
黒竜が荒い息で、疲労していたのを見ると状況を把握する。
「空間転移術・・・」
零が駆け寄ったとき、宛誄は頭を下げた。
「すいませんでした、勝ち目も無く向かっていってしまって」
無謀、蛮勇。愚かな行為。
それはヒシヒシと感じている。
「・・・よければ聞かせてください、バラウールはどうして。
あそこまであなたを殺したがっていたのですか?」
539
:
零「」&黒龍『』
:2011/11/12(土) 01:44:31 ID:BQ990e1A
>>537
「いや、黒龍がこれをしてくれなかったら、私たちは負けてたよ。
あの、俺様、とかって言ってる奴一人にね。
だから、勇気を出して行った宛誄君は凄いと思うよ、ありがとう。」
小さく微笑んだ零は、黒龍をソファへ寝かせようとした。
しかし頭の中では、白龍のことを露希に言うべきかと考えていた。
『俺だけじゃないよ、アイツは。
零も、宛誄も、もしかしたらフェルニゲシュも。すべてがバラウールの敵なんだろう。
宛誄、しょうもないことに巻き込んで悪かったな。』
ぽんと宛誄の頭に手を載せると、すやすやと寝息を立てて、寝てしまった。
540
:
宛誄&蜂比礼
:2011/11/12(土) 01:57:51 ID:tElbSrz.
>>539
「・・・」
(教える気はない、ということか)
頭に手を載せられながら、宛誄は内心でため息をつく。
無理にでも聞き出してやろうと思ったが、相手が寝込んでしまっては仕方がない。
「えぇ、それではまた」
それだけ言うと、宛誄は部屋から退出した。
「・・・」
「今日は随分大人しいですね」
二人で歩くマンションの廊下。
宛誄がポツリと尋ねる。
「・・・まぁね。今日に始まったことじゃないけどさ、色々と巻き込まれすぎでしょ」
「そうですね、まったく面倒なことになりました」
いきなり現れて自分の命を狙う竜・バラウール。
宛誄にとってこの上なく理不尽で、酷い相手である。
おまけに何かを知っている黒竜も自分には話したくないときたものだ。
「やれやれ」
不安に押しつぶされそうな憂鬱なため息をついて、
寒風の中宛誄は帰路を急いでいた。
541
:
白龍「」&フェルニゲシュ『』
:2011/11/12(土) 02:07:09 ID:BQ990e1A
一方で、取り逃がした二人はどうなっていたか。
『なんだし、逃げるとか。今からでも追撃すれば間に合うんじゃね?』
「いいや、これも手のうちだ。逃げる他、奴らは手段が無かったから。
しかし、こんなにも早く会えるとは。ふふっ。」
その後、二人がどこへ向かったのかは分からない。
542
:
東雲 犬御&小鳥遊 療介
:2011/11/12(土) 08:25:26 ID:???
本スレ
>>256
にこにこ、にこにこ。
幼児がお菓子を頬張る微笑ましい姿を見つめる。
口の周りにお菓子の屑がたくさんつきはじめると、ハンカチで拭いてあげたり。
なにかと満喫中だ。
そして、犬御ちゃんはというと。
黒蔵に組みつくと、手加減も忘れて頭を殴ろうとする。酷い。
「忘れ……うわァァ!?」
しかし、その前に黒蔵が鼻血を噴出した。
驚いた東雲が、慌てて尻餅をつく。
その態勢は非常にまずい。なにがまずいって、ばっちり黒蔵には見えたはずである。
絶対領域の内に潜む、誰の趣味かわからない黒い下着が……。
「叡肖さんからの粋な贈り物っすよ♪」
とっても楽しそうな小鳥遊がいう。
「今日一日はその姿でいましょうか?」
「嫌に決まってンだろうがァァ!」
543
:
巴津火『』 黒蔵「」
:2011/11/12(土) 09:49:14 ID:1gBuqmPQ
>>542
『けふっ…』
胃袋が満たされると幼児はげっぷを一つして、今度はうとうとし始めた。
あくびの拍子に柔らかそうな頬の内側がちらりと覗く。
さっきまでお菓子を握り締めていた小さな右手は、小鳥遊医師の白衣の袖をきゅっと掴んだままだ。
その傍らでは鼻血が飛び散っていた。犬御に殴られたわけではない。
黒いレースに装飾されたそれは、鼻血をさらに派手に散らさせる程度の追加ダメージを
黒蔵に与えていた。
「うっわ…うーっわー……」
犬御ちゃんが飛びのいて尻餅をついたため、上体を起こせるようになった黒蔵は袖を鼻に当てる。
そして灰色の作業服の袖へ染みが広がっていく速度に、今更ながら焦った。
同時に、その事実に自分でもショックを受けている。
(無いよ、幾らなんでもこれは無い。だって狼だよ?それに俺には四十萬陀が…)
しかしあの白い太ももを思い出そうとしても、今しがた記憶された黒のレースのイメージは強烈だ。
背中を丸め頭を抱えた悩める青少年な黒蔵に、小鳥遊医師からの追撃が来る。
「叡肖、さん?…来てるのかあの人?」
跳ねるように上げた顔が蒼白なのは出血量のせいだけじゃない。
「まずい、まずいよ隠れなきゃ…」
泡を食った黒蔵は、箒を掴み上げるとふらふらと階段のほうへ逃れてゆこうとする。
流石に地下ならば、あの衣蛸も入ってはくるまい。
そう思って以前から地下の物置には、簡易ベッドやら毛布やらを隠しておいたのだ。
「先生、叡肖さんには俺が居るの内緒だからねっ!でないと借金返せなくなるからね?頼むよ?」
駄目押ししながら地下の「巣」に潜りに行く黒蔵の顔も作業服も、鼻血で酷いことになっている。
後で色々と複雑な気持ちになりながら洗濯することだろう。
(ダメだ今は四十萬陀の太もも思い出すんだ、黒いのは違うんだ)
階段の下に黒蔵の姿が消えて少ししてから、変な音が響いたのはきっと段を踏み外したのに違いない。
544
:
東雲 犬御&小鳥遊 療介
:2011/11/12(土) 16:31:12 ID:/AfNAO.Q
>>543
「眠たいすか? ふふ」
うつらうつら、眠たい目をした巴津火を抱き上げる。
それから、あやすようにぽんぽんとリズムよく背中を叩き、ゆりかごのように、ゆっくりと揺らしはじめた。
巴津火の柔らかい髪を、さらさらと撫でる。
眠り心地はさぞいいだろう。
「痛ゥ……、っ!」
東雲が自身の体勢に気付いた時は、既にばっちりと黒蔵に見られた後であった。
慌てて体を起こし、両腕で前を隠す。
まるで本当の女のような体勢に、東雲は羞恥心とずたずたの自尊心で泣きそうになってくる。
可愛くなってしまった赤い目で黒蔵を睨み付けると、相手は顔面蒼白していた。
「あァ?」
「……ええ、分かりました」
察したらしい小鳥遊は、巴津火をあやしながら、素直に頷く。
東雲も何かあることくらい察しはつくが、あれを見られてすたこら去ってしまわれては、腹の虫も収まらなかった。
「あのヤロウ、今度会ったらブッ殺す……!! 」
現在人間体の黒蔵には厳しい言葉ではないだろうか。
しかし黒蔵が過ぎ去っても、まだあの蛸も、というか一日この体でいなければいけない危機を思うと、胃に穴が開きそうな気分になるのだった。
545
:
叡肖「」 巴津火『』
:2011/11/12(土) 18:19:29 ID:1gBuqmPQ
>>544
黒蔵が居なくなったエントランスに磯の香りが戻ってくる。
「おや、眠っちまいましたか。いつもこう大人しくしてくれれば有難いんですがね」
小鳥遊医師の腕の中ですうすうと寝息を立てている幼い主をみて、磯臭い男、
叡肖は携帯電話を取り出す。
「今のうちにこれ撮っておきましょう。また次にこの坊ちゃんが暴れた時、弄るネタに使えますから」
『んー…』モゾモゾ
そして巴津火の寝顔だけでなくミニスカナースの犬御ちゃんにも携帯電話のカメラを向ける。
こっちも撮影するつもりのようだ。
(丑三にこの動画送ってやろうかな)
「良くこの衣装に着替えさせられましたね先生。もっと抵抗するかと思いましたよははは。
また今度、他の衣装でも試してみたいもんです」
和やかに小鳥遊と談笑しながら、叡肖のやってることは非道。
このエロ蛸の発言からすると、小鳥遊先生がノリノリであればいつでも犬御ちゃん化は叶うらしい。
今日は診療所に新たな客寄せパンダが誕生した記念すべき日、となるのだろうか。
546
:
東雲 犬御&小鳥遊 療介
:2011/11/12(土) 21:39:03 ID:/AfNAO.Q
>>545
「どうも、叡肖さん」
(戻ってきた……)
エントランスに戻ってきた叡肖を見て、笑顔で迎える小鳥遊に対し、東雲は心底憂鬱そうな顔で体を丸めた。
すやすや夢見心地の巴津火の頬を軽くつつき、「寝顔が可愛いっすねえ」「どこが」と東雲は悪態をつく。
携帯のムービーカメラがこちらに向けられると、東雲は威嚇するようにカメラを睨み付けた。しかし今の顔ではあまり怖くない。
「撮ンな!!」
「あ、それ後で僕にも送ってください」
「だから何でテメェはノリノリなんだよ!!」ウガー!
わなわなと震えるも小鳥遊はニコニコしたまま。
でも欲しいのは割と本気だったりするのだ。
かわいい巴津火と可愛くなった助手が映った動画、これをもらわない手はない。
「いやあ、纏さんに抑えつけ……ゴホン、手伝ってもらって」
(おかげで骨が折れるかと思ったわ)ゲンナリ
衣装を選んだのは黄道。下着を選んだのは小ry。……どこから引っ張りだしてきた、とかは言わない約束だ。
非道なる叡肖の発言に、東雲がカッと目を見開く。
「はァァ!?」
「いいっすねえ。今度いずみさんに服を選んでもらいますか」
「やーめーろォオ!!」
哀れ、犬御ちゃんは遊び道具にされてしまった!
小鳥遊だって男である。目の保養は必要なのだ。
547
:
叡肖「」 巴津火『』
:2011/11/12(土) 22:20:16 ID:1gBuqmPQ
>>546
「うーむ、寝顔だけなら可愛いかもしれんのですがね」
喋ったり動いたりしたらきっと可愛くない、と言外に滲ませつつ、叡肖は幼児巴津火と犬御ちゃんを撮影終了。
そして動画送信も完了したようだ。
「先生のアドレスにも送っときましたよ。そうですか、纏さんはそんなところでも
先生のお役に立ててますかははは」
医師が自分の携帯を確認できるように、寝付いた巴津火を小鳥遊から受け取ろうと叡肖は手を伸ばした。
それは一見、小児科に子供を連れて来たパパの様相ではあるが、割り込んできた抗議の叫びに蛸の視線は
犬御ちゃんへと粘っこく絡む。
「どうやら彼女はあの服がお気に召さないようですね…?」
エロ蛸は流し目で小鳥遊に意味深な問いかけをした。
気に入りの女性に可愛い服を着せるのも好きだが、脱がせるほうはもっと大好きという輩は
それなりの数居るものである。
叡肖はもちろんその範疇、さて小鳥遊医師はどうだろうか?
「今日のところはこの坊ちゃん連れてかえらなくちゃならないんで、後は先生にお任せしますよ。
それじゃ可愛いお嬢さん、俺とのデートは邪魔が入らない時にでもまたよろしく☆」
犬御ちゃんが嫌がるのを知っていて、わざと気障ったらしい文句で囁いた叡肖。
この蛸はエロ好き女好きとは言え、女性の扱い方にもそれなりの拘りがある。
それが幸いして今日の犬御ちゃんはこの程度で済んだようだ。
小鳥遊医師から眠ったままの巴津火を受け取ったら、夷磨璃の部屋で談笑している瞳と合流して
叡肖は帰ってゆくだろう。
548
:
東雲 犬御&小鳥遊 療介
:2011/11/12(土) 22:56:25 ID:/AfNAO.Q
>>547
「纏さんにはいつも助かってますよ」
(あの女河童、力だけは有り得ねえくらい強いしな……)
それなりに力の強いはずの東雲でも、純粋な腕力だけでは全く歯が立たない。
それゆえ彼女の不器用さは凶器になりえるのだが。
小鳥遊の携帯がブブブと震える。
添付されたムービーを見て口元を釣り上げると、にこにこしながら東雲を見る。
(あれ? 俺またコイツに弱み握られたンじゃね?)と思っても時すでに遅し、である。
粘っこい叡肖の視線に背筋がぶるっと震える。
やばい。嫌な予感しかしない。
意味深げな問いかけに対し、小鳥遊はふっとその表情を「悪く」変えた。
一瞬で視線の意図を読み取ったらしい。なんだこいつら。
「ええ、巴津火さんにもよろしくお願いします」
「早く帰れッ!!」
「さ、東雲さんも行きましょうか?」
「……えっ」
その後、診療所の奥の院長室にて、高い女性の叫び声が聞こえたという。
549
:
巴津火
:2011/11/21(月) 23:34:07 ID:1gBuqmPQ
退屈しきった我侭なお子様は、白いベッドの上で泣き言を言っていた。
「こざると一緒の部屋がいい!お菓子欲しい!暑い、痒い、蛸、どこ行った!」
しかし、誰も応答しない。
ナースコールはとっくに鳴らせないようにされてしまった。
ベッドの傍らには水を注いだガラスボトルが置かれ、監視役の水神は水を通して
何時でもこの子供の様子を見ることが出来る。
「うーーっ!!」
右の肩から腕には分厚く包帯が巻かれ、その長さは上腕の半分しかない。
今の巴津火は唯一自由になる左手で、上掛けをばたばたと叩くことしかできないのだ。
それもやりすぎると、他の傷に響く。
病室の扉の前に誰かが来た時、一瞬、期待するようにその子供の表情が輝いた。
550
:
夜行集団
:2011/11/21(月) 23:45:51 ID:EK/9fLvc
>>549
満身創痍のその少年の、期待に添えるのかは分からないが、
少なくともこの姉妹にとっては、
巴津火が我儘に動き回らないこの状況は好ましかった。
「・・・どうも」
『・・・外まで声が・・・聞こえてたよ』
先日のあれだけの激闘。
上位神格の卵の巴津火でも、意外なほどにけがを負っているのに、
当事者のこの姉妹は何事もなかったかのように、無傷そのものである。
「・・・これ、好き?」
状況が状況なだけに何と話しかけてよいものか、
姉妹は扉の前にしばらく二人で相談をしていた。
だがやはり実際会ってしまうと、言葉は思った以上に白紙状態だ。
551
:
夜行集団
:2011/11/21(月) 23:47:21 ID:EK/9fLvc
>>550
に追加です
その為のご機嫌とりなのだろう。
日子神が小さく上げたスーパーの袋に入っているのは、
複数の菓子類と、オレンジジュースであった。
552
:
巴津火
:2011/11/21(月) 23:54:57 ID:1gBuqmPQ
>>550
「……。無事か」
思った相手ではなかったので、恥ずかしいせいで何ともいえない表情をして、
ごそごそと上掛けを顎まで引っ張りあげた巴津火は姉妹にぽつりとそう言った。
しばらくつづく無言に、居心地悪くなったのだろう。目をそらす。
「痛かったろ。黙ってああして悪かった」
姉妹に何も伝えずに剣を刺したことを詫びているのだ。
好きかどうか尋ねられたことには、無言でこくりと頷く。
553
:
穂産姉妹神
:2011/11/22(火) 00:04:38 ID:EK/9fLvc
>>552
『・・・うん』
死ぬという啖呵を切ったのに現にまだ生きている穂産姉妹。
本当に強引なままで全てを振り切っていこうと啖呵を切った相手に、
自らの意思を見事に阻止、救出されなおかつ神代も救おうとした。
心得ずにそんな大恩人かつ、後ろめたさを常に抱えさせる巴津火と、
一緒のこの狭い空間に三人だけというのは、なんとも気まずいものだ。
「い、いえ・・・おかげで助かったのですし」
『・・・ありがとう・・・ごめん』
気まずくなっているのを悟られないようになのか、
ゆっくりとした足取りで巴津火のベッドに歩み寄り、
そっとジュースの栓を開け、近くに備えてあったコップに注ぐ。
「あれから、彼には会っていますか?」
無言も不味い、巴津火のまだ手の動く方へそれを置いて、
日子神はそっと神代の消息を聞いた。
554
:
巴津火
:2011/11/22(火) 00:17:46 ID:1gBuqmPQ
>>553
「助けたわけじゃないよ。状況によってはボク、二人の神体を食べるつもりだったから」
付喪神である彼女らの神体は無機物。
それを咀嚼しない蛇が呑み込んだところで壊れたりはしない。
神代を試すために呑み、後で吐き出して返すことを想定してはいたが、
状況によっては呑んだ神体を返さないままであるつもりは十分に有った。
「神代に?ううん。ずっとここにいたから」
会いに行けたとしても、会いにはいかなかっただろう。
次に会うときは、おそらく穏便にあうことは出来まいと判っているのだ。
「二人は、会ってやってよ。お願い」
ようやく日子神のほうに顔をあげたのは、ジュースを受け取るためではなくて
そう頼むためだった。
555
:
穂産姉妹神
:2011/11/22(火) 00:29:15 ID:EK/9fLvc
>>554
近くにあった椅子に腰かけて、巴津火に返答に声は出さず頷いた。
おそらく巴津火が咀嚼できるか本当に食べたのか、
答えはこの姉妹は知らないのだろうが、それでもその報いは受けるべきだ、
とまだ穂産姉妹の心には夜行、巴津火たちへの背徳の念があった。
「会う、ですか」
『確かに・・・会いに行くべきだと思う・・・
また機会を得たら・・・会うと約束する』
思わず巴津火に視線を向けられて、
まだ心は後退気味の日子神は思わず目を彼から逸らしてしまう。
しかし穂産姉妹は、それだけはしっかりと言った。
だが本来ならば、姉妹はいつも神代の件に関して口に出す時、
こうもはきはきと薄暗い念を出さずに話す事はなかった。
いつもは常に哀しげに言葉を詰まらすどころか、鼻から話題に出さないはずなのだ。
しかしこの姉妹には今、そう言った感情は感じられない。
「巴津火君、私たちの因果を請け負ったのは本当ですか?」
しばらく躊躇うように黙った日子神は意を決し、
今度は目を逸らさずに巴津火を見据えた。
556
:
巴津火
:2011/11/22(火) 00:39:19 ID:1gBuqmPQ
>>555
「…ありがと」
約束すると聞いて、じわりと巴津火の心に鈍い痛みが広がった。
自分では神代に何もしてやれないことを、改めて感じるのだ。
いらないものを取り除いてやることは出来ても、正の感情は与えられない。
ため息を付いてジュースに伸ばした左手が、日子神の問いに止まった。
「請け負ったよ。天が神代と戦うように仕向けた因果だけだけど」
この未熟なヤマタノオロチの半分しかない神格が背負うには、それでも十分に重かった。
その重みで神格が潰れた時、残った半分の邪神格が天への怒りと神代への同情とを
持たなかったら、事はどうなっていたか判らないのだ。
「剣で刺した時に、その因果を漱いだ」
神代の意とも姉妹の意とも違う、巴津火の意思でそうしたのだ。
いかなる責めでも巴津火は受けるつもりだ。
557
:
穂産姉妹神
:2011/11/22(火) 00:53:49 ID:EK/9fLvc
>>556
『あの時・・・か・・・
僕は・・・何も理解できていなかったから・・・ただ刺されただけだと思っていたけど』
穂産姉妹にも思うところがあるのだろう。
どこか雨子神の言葉には歯切れが無く、巴津火に気を使っているようであった。
「あの因果は、少なくともあの因果の一角は、
明確な言葉で言うと神話を完成させるための、天の絶対的な命令」
『あの子も・・・巴津火も・・・
きっと分かっているだろうけど・・・次は宿敵・・・』
「でも、あなたがその因果を請け負って、本質が変容したんです」
『多分・・・物事の整合性を失くしたあの天命は・・・弱体化している・・・
あなた達が感情に呑みこまれなければ・・・無効化できるはず』
元は穂産姉妹神の自責や罪悪感につけこんだ、
天界の半ば言いがかりに近いペテンなのである。
そして巴津火が神代にとっての討伐すべき相手となった時、
神話の流れとは逸脱した矛盾が生じたので、その強制力は弱まったはずなのだ。
「でも、あの子は他にも逃れられない因果にまだ絡めとられています」
『だから巴津火も・・・あの子が因果に呑まれてしまう前に・・・
友達としてまた会ってほしい・・・』
558
:
巴津火
:2011/11/22(火) 01:09:53 ID:1gBuqmPQ
>>557
「うん。あの時は、あらかじめ伝えることは出来なかったから」
巴津火はあの場に討伐する側として居たのだ。
しかも、依頼主である夜行集団との繋がりは神代に隠しておかねばならない。
「あの因果、半分までは漱げたんだ。
あの時神代が怒ってボクに攻撃を仕掛け、ボクがそれを受けて力尽きたから。
…でも、もう半分が残っている」
本来ならその因果は、一度神代が巴津火を打ち負かした時点で全て水に流されるはずだった。
そのために巴津火は直前まで血を流し、神代の本気を受け止めた時点で力尽きねばならなかったのだ。
しかし、双子のそれぞれが負っていた因果を、巴津火が一人で請け負ったのだ。
もう一度神代と戦い、しかも全力を尽くした結果として巴津火は負けなくてはならない。
「無効化できるんだ。よかった。
できればボク、早いうちにもう一度神代とあいたいんだ」
この傷が癒えてしまう前に、神代の勝ち目がなるべく多く見込めるうちに、再戦しなくてはならない。
「一つ頼みがあるんだけど。
ボクが立てるようになったら、ここを抜け出すの手伝ってくれる?」
巴津火の傷が癒えないうちに病院を抜け出すことは、誰かの手引きがなくては無理だろう。
そして竜宮の者たちは、なんとしても巴津火の一人歩きは阻止する筈なのだ。
559
:
穂産姉妹神
:2011/11/22(火) 01:21:04 ID:EK/9fLvc
>>558
「無効化ができなくても弱体くらいでしたら、
もう既に進んでいると思います」
『天界も・・・この件はあまりにも繊細なことだから・・・
あまり強引な縛りはしていない筈だし・・・』
巴津火がまだ神代と仲を絶たないでいてくれることに、
穂産姉妹は安心して、思わず両方とも静かにだが溜息をついていた。
祝福した子供であり死んででも守ろうとした子供なのだ。
姉妹の神代への愛は、今はそれがほとんど失せてしまっていてもやはり、
あの両親に勝ることはなくとも差がないほどに大きいのである。
「当然です!」
『水が駄目なら・・・僕達の土の力で地下も進める・・・』
その為ならば巴津火逃亡で多少竜宮に慌ててもらっても、穂産姉妹は構わない。
胸を張る穂産姉妹は、巴津火に確かな約束をした。
560
:
巴津火
:2011/11/22(火) 01:32:51 ID:1gBuqmPQ
>>559
もしも因果がどうやっても完全に漱げず無効化もできないものならば、
ずっと神代会わずにいることも巴津火は考えていた。
そうすれば、神代は思い残すことが消えず死ぬ気にもならないですむ。
「無効化できるのならば、あともう一度でこの残り半分の因果を片付けられるんだ」
しかし姉妹の思いと巴津火の目的は少々異なる。
巴津火は神代に憎まれるために会いに行くのだ。
巴津火に触れるのさえも嫌がる神代の怒りを掻き立て、攻撃させねばならない。
(あいつの泣きべそ見れたらそれで満足しよう。それ以上は期待しない)
「ありがと。そのときが来たら頼む。
あと、出来れば時々神代のこと知らせてくれると嬉しい」
そしてようやく、安心したように双子に笑って見せた。
561
:
穂産姉妹神
:2011/11/22(火) 01:42:12 ID:EK/9fLvc
>>560
『でも無効化は・・・天命・・・
つまり天界の神のどれかを上回る程の・・・力が必要になる』
事実上、神代はともかく天にまだ昇れない巴津火には、
まだ因果を消滅させる見込みは立っていないということである。
しかし、穂産姉妹に不安な色は無い。
夜行に帰った時、虚冥がいの一番に言った言葉
―あいつの予想を打ち砕いたんだよな!?
なら多分最悪の終わりはねえっていう―
巴津火がこうも見事に、崩壊の危機を拭いさってくれたのだ。
「分かりました。これからどんなことを話すかでわくわくします」
『こちらもできることは探しておく・・・巴津火も・・・お願い』
不安よりも彼らへの信頼を熱くして、元気溢れるように立ち上がり、
日子神はベッドのわきにお菓子の山を置いた。
それから二人はもう時間だと、病室の戸を開け去って行った。
562
:
巴津火
:2011/11/22(火) 01:51:13 ID:1gBuqmPQ
>>561
「天界の神を上回る力、か」
巴津火は難しい顔になる。
それほど強大な力を持ち、尚且つ神代よりは弱っていなければならない。
そんな都合の良い方法はあるのだろうか。
(蛸に聞いてみるのは……駄目だ。あいつに話したら何をどう察知されるか判らん)
竜宮の手を使わないとなると、自分で知恵者を訪ね歩くしかないが
そもそもそれが出来たら入院などしていない。
「頼む。この件で頼れるのは、二人しかいないんだ」
今何も出来ない巴津火には、姉妹にそう言うことしかできなかった。
そして、お菓子の山はまだ眺めるだけで、欲しいだけ食べられる訳ではないけれど
これからたっぷりつづく悩み時間の慰めにはなるのだった。
563
:
竜宮
:2011/11/26(土) 22:56:45 ID:3FBgi9l6
(主様の居ない竜宮の仕事がこれほど虚しいとは思わなんだ……)
伊吹の一喜一憂する表情が、それだけで自分の仕事への報いであり
やりがいであったのだとアッコロカムイは今更に思った。
そして政務には終わりが無い。
執務室の窓から水晶の塔を眺めながら、蛸の大臣は今日も政務の合間にため息をつく。
海の中は今この時まで、今日も変わらず静かであった。
564
:
天界使節
:2011/11/26(土) 23:21:30 ID:tElbSrz.
しかしそんな竜宮の内部に。
小さな具象が現れる。
その小さな具象はやがて大きな変異へと転じる。
突如として空間にゆがみが現れ、膨大な妖気が竜宮を包み込んだ!
それはただひたすらに大きく、ただそこに現れただけで建造物は振るえ、水面は白く泡立つ!
信じがたい大きさである、これは竜宮だけでなく下手すれば世界地図が書き換えられる!
しかしその中に白い靄が現れた。
白い靄は徐々に濃くなっていく。
妖気は急激に小さくなっていき、反比礼して質量が増加していく。
「やれやれ、やはり人の姿は窮屈じゃのう」
「ギシシシシシシ、勘弁してください。あなたが原型に成ったら竜宮どころか瀬戸内海を器にしても足りない」
「・・・」
霞の中から現れた、2つの人の姿をした“なにか”と霞を吐く巨大な二枚貝。
1人は黒いスーツに身を包み、革の手袋をした髭の老人の姿。
1人は白い喪服を着て、紅い布を頭に巻いて目隠しをした女性の姿。
妖気はすっかり小さくなっていた。
霞が消えると巨大な2枚貝はアメリカンカジュアルな格好の青年へと変化する。
「ギシシシ、お邪魔しますよー」
「これ、人の形でももっとちゃんとした格好をせい」
「えー、いーじゃねーですか! 窮屈なのにもっと窮屈な格好するこたぁないでしょうよぉ!」
アメカジな青年は老人に杖で小突かれると、反省してなさげに笑った。
〜妖怪目録〜
【蜃竜】
蜃気楼図、竜宮図など多くの絵巻や幻想譚に登場する大蛤。
春から夏にかけて海底から霞を吐き出し、
海原に天界の楼閣を描き出すと謂われ、蜃気楼の語源となった。
565
:
竜宮
:2011/11/26(土) 23:39:21 ID:3FBgi9l6
>>564
『大臣。もしやお部屋にどなたかいらっしゃいましたか』
白くなった髪を高く結い上げ凛と背筋を伸ばした女が、部屋の扉の外から
見た目の年齢にそぐわない張りのある声で尋ねた。
その衣は宮女にしては袖も裾も短く、従えている黒蟹の衛士達と同じく袴姿である。
しかし赤い上衣に施された丁寧な刺繍がそれなりに高位であることを示していた。
「白累殿、心配は要らぬよ」
執務室の中から、蛸の大臣はこの白髪の老女に普段どおりの声にて答える。
「門を通る間も惜しいほどの急ぎのお客人じゃ。もてなしの支度を」
赤い衣の禿頭の老蛸は、執務室の中央に現れた3人に悠然と立ち上がって一礼する。
「わしはアッコロカムイ。竜宮へのご用向きは大臣であるわしが承りましょう」
そして蛸の大臣は、自分の袖から伸びる見えるか見えないかほどに細い蜘蛛の糸を一本、
ついと引きぬいた。
566
:
天界使節
:2011/11/26(土) 23:54:01 ID:tElbSrz.
>>565
「ギシシシシシ、ご丁寧にどうもぉ」
下賎な笑い声を上げる辰竜にあきれ果て、杖を突く老人が歩み出る。
「御門をくぐらぬ無礼を失礼仕る。
何分私は体格が大柄でして、御門の前でも変化するに難い次第」
深く一礼をして顔を上げる老人。
目隠しをした女性も辰竜に手を引かれて前に出る。
「我々は天界の神性、今回はある事件についてお聞きしたくて参上しました。
・・・できればあなたでなく竜宮の主殿と直接お話をさせていただきたく存じます」
老人の目が鋭く光った。
567
:
竜宮
:2011/11/27(日) 00:05:54 ID:3FBgi9l6
>>566
その頃、竜宮の下層階の一室で謹慎中の叡肖は、
部屋の扉が開いたのに気づいて手にした筆を置いた。
「謹慎中のこの俺に、どこの誰が用事だい?
爺ィの許可が降りたって事は、今の妖気の揺らぎはやっぱり何かあったんだろうな」
扉のほうへ顔を上げたが、部屋には誰も入ってこない。
この部屋の扉は叡肖が勝手に出歩くのを防ぐために、祖父のアッコロカムイが
蜘蛛の糸で封じていた筈なのだ。
(妙だな?)
このまま出て行くべきか否か、迷う叡肖の前には書きかけの美人画が置かれている。
三次元で遊べない憂さを二次元にぶつけていたこの衣蛸は結局、
絵を片付けて部屋の外へと出ることにした。
(ここは真っ直ぐ爺ィの所へ行くのが、後々を考えると無難だな)
のらりくらりとこの孫蛸が執務室へ向かうまでの間、蛸の大臣は一人で客人の相手をしていた。
「天界より折角のお運びを頂いたところ相すみませぬが、
只今この竜宮に主は不在で御座います。わしがお話を伺うことは難しいですかな?」
三人に椅子をすすめながら、アッコロカムイは尋ねる。
客人の様子に、どうやら事は難しい局面であると感じながらも
正直なところ、いつ終わるとも知れぬ政務からほんの一時でも解放されるのは
有難いことでもあった。
568
:
天界使節
:2011/11/27(日) 00:15:58 ID:tElbSrz.
>>567
「左様ですか・・・」
椅子に腰掛けると難しそうな顔をして老人が唸る。
「あぁ、申し送れました。
私は天界の神格・燭陰、こちらの方は徳叉迦」
「・・・ども」
目隠しの女性はペコリと頭を下げる。
「こちらは辰竜といいます」
「よろしくなぁ〜」
さて、と。息をつき燭陰の声が重々しくなる。
「事は重大にして急を要する事態でしてな。
できれば主殿以外の者に漏れることは避けたいのですよ」
やがて脅しを含んだ響きに成る。
「主殿はいったい何用なのでしょうな、できれば早急にお呼びしていただきたいのですが」
〜妖怪目録〜
【徳叉迦竜王】
西洋のバシリスクに当たる存在であり、八大竜王の一角。
その視線によってあらゆる生命を腐らせ、一瞬で絶命させることが出来る。
多くの竜や水の神性は浄化や大流など禊の面を持っているに対し、
この竜王は水の陰の特性である“腐食”を司っている。
海水は金属を冒し、長雨は木を朽ちさせ、深き霧は疫病を呼ぶ。
【燭陰】
その瞳を空ければ朝となり、閉じれば夜となり、
その息を吹きかければ嵐となって地上を蹂躙し、
その身の丈は数多の山を覆ってしまうと謂われる巨大な神性。
その正体は天を覆う雲やオーロラの擬人化だという。
自然界において最も雄大で神聖な水の動きを司り、
最も天道に近い龍神。
569
:
竜宮
:2011/11/27(日) 00:45:24 ID:3FBgi9l6
>>568
祖父の執務室の前で、衣蛸は白髪の老女に尋ねた。
途中で出会った蟹も蛸も魚も海老も、どこかきりきりとした緊張感に溢れていた。
「白累様〜。一体どうしたんです?」
のほほんと尋ねる叡肖に、この白髪の老女は妙に鋭い黒い瞳を向けた。
『叡肖。良いところに来てくれました。貴方、これ持ってちょっと中へ行って来なさい』
押し付けられた盆には酒と盃。
「え?…こういうのって普通、綺麗どころがやることでしょ?ねぇ?」
あれよあれよと言う間に、適当だった衣装はきっちり調えられて、文官の位を示す冠が叡肖の頭に載せられる。
『門を通らぬ謎のお客人で、かなりの大物らしいのですよ』
(まじで?)
嫌な予感しかしない叡肖。
(この婆さんが張り切ってるときって、俺良い思い出ないんだよ)
竜宮一の年寄りである出世法螺のお累婆さんにうながされ、執務室の扉の前に立たされた叡肖は腹を括って中へ入った。
中では丁度、面々の紹介が済んだところらしい。
蛸の大臣は入室した叡肖へ無言で頷くと、客人に応えた。
「我が主は既に身罷っており、次期当主は未だ幼く今は陸にて療養中の身に御座います。
なにとぞ天界にはご配慮のほどを願いたい。
……杯が参りましたので、まずは一献如何でしょうか」
客人と祖父へ一礼して、叡肖は面を伏せたまま盆を捧げて控える。
(なるほど、婆さんが張り切ってるわけだ)
おそらく出世法螺は杯が跳ね除けられると見越して、綺麗どころではなく叡肖をここへ送り込んだのだろう。
そして今背後で締まり行く扉の向こうへも、祖父の「天界」の言葉は届いたはずだ。
(あーあ。俺終わった)
570
:
天界使節
:2011/11/27(日) 01:07:01 ID:tElbSrz.
>>569
「ふむ・・・、それは申し訳ない。
おぉ、それでは頂きますかな」
燭陰は難しそうな顔をして髭を擦ると、杯を受け取る。
隣で辰竜がニヤニヤ笑い始めた。
「燭陰さ〜ん、これもう話出した方が早くないですかぁ〜?」
「これ、お前という奴は・・・」
「いーじゃねぇーですか、別にやったと決まったわけじゃねぇーんでしょー?」
「うむぅ・・・」
燭陰の沈黙を許可と受け取ったのか、辰竜は語り始めた。
「実はウチの身内が下界(した)からなんらかの方法で殺されましてねぇー。
天界(こっち)で色々調べまわったところ、
どーやら容疑者とそちらの主が何度か接触しているらしいんですわー」
「もう少し言葉を選ばんか・・・」
燭陰の眉間の皺が濃くなっていく。
「まぁ、極論で言っちゃうと。
もしかして共犯(グル)なんじゃないかなー、って疑ってるわけですよ」
「これっ!!」
「あいたー!」
カツーン、といい音が部屋に響いた。
燭陰はやれやれとため息をついて、辰竜の頭から杖を下ろす。
「まだ確証も証拠も無い話でございますよ。
共犯かどうかなどはこちらは露とも思っておりません。
とりあえず犯人の動機や特徴でもお聞きできれば、という次第なのですよ」
燭陰は「失礼な言い方をしてすみませんな」と、笑いながら杯に酒を受けていた。
571
:
竜宮
:2011/11/27(日) 01:32:50 ID:3FBgi9l6
>>570
蛸の大臣は、客人の言葉に得心したように頷いた。
「なるほど。その件でしたら、こちらの叡肖が詳しいでしょう。
わしもまだ、報告書の全てには目を通しきって居らぬのです」
話を振られて叡肖は今更、部屋を出たことを後悔していた。
糸も餌も無く、祖父には上手いこと釣られてしまった。
「私の発言をお許し頂けるでしょうか」
まず燭陰へ、次いで辰竜へと確認すると、衣蛸は説明をし始めた。
「全ては我が竜宮が、かつて窮奇の討伐の為に陸のとある集団と同盟を結んだことに端を発します。
窮奇により前の主が殺害されし後に、その同盟相手の重要人物が失踪する事件が持ち上がりました。
集団からの協力要請に応じた次期当主は、その失踪に関与すると思われる神代なる少年の一派を
探っている過程で、神代少年が天界より上位神を打ち落とす場面に遭遇したのです。
その直後に次期当主は神代と戦い、その傷から臥せったままで御座います。
これが次期当主が天界よりのお客人を直々にお迎えできぬ理由に御座います。どうかご容赦を」
次期当主が天神殺しの共犯かそうでないか、全ては暈してありながらも、嘘ではない。
衣蛸の黒い舌先は、嘘をつかずに真実を隠した。
572
:
天界使節
:2011/11/27(日) 01:42:46 ID:tElbSrz.
>>571
「ほぅ・・・それはなかなか殊勝なことですな。
疑ったようなことを言って、大変失礼仕った」
燭陰は杯の酒をぐぃ、と飲み干すと言葉を繋ぐ。
「しかし何処かぼんやりした物言いですな。
失礼ですがご確認させていただきたい」
叡肖のぼんやりとした言い方は逆に燭陰のほんの僅かな不審を買ってしまった。
横で辰竜がニヤニヤとし始める。
「つまり竜宮の主は共犯などで無く、
神代なる者の凶行を止める為に紛争していただいたということですかな?」
新着レスの表示
名前:
E-mail
(省略可)
:
※書き込む際の注意事項は
こちら
※画像アップローダーは
こちら
(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)
スマートフォン版
掲示板管理者へ連絡
無料レンタル掲示板