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ダンゲロスSSC3 雑談スレ

1スカーレット:2017/09/28(木) 00:32:43
ダンゲロスSSC3に関連し、プレーヤー同士の交流を深める場としてお使いください。。
執筆者としてのチームメンバー、協力者募集などにも使用してください。

wiki:tps://www65.atwiki.jp/dngssc3/
公式Twitterアカウント:tps://twitter.com/dng_ssc3

2翻訳者:2017/09/28(木) 00:38:04
どなたか私とタッグを組みませんか?
基本メインですが、当方、サブでもいけます。

3少年A:2017/09/29(金) 02:36:33
エントリーしちゃったけどよくよく考えると土曜投稿がぜつぼうてきなので
こちらも誰かタッグを希望しますー。

・平日の日中なら相談くらいはできるよ
・土曜日は原則執筆はできないよ(金曜深夜寝るまで+土曜の塾仕事がちょっぱやで終われば仕上げ程度なんかするよ)
・キャラ案は我に腹案あり

4翻訳者:2017/09/29(金) 11:03:18
>>2
でしたら少年Aさん、私と組みませんか?
・基本土曜日午後は空いてます。
・キャラ案は新規キャラが浮かばないのでお任せするかも

5翻訳者:2017/09/29(金) 11:06:02
>>2 ×
>>3

6魚鬼:2017/09/30(土) 00:15:39
金曜日の夜は使えないので、どなたかメインで書いて下さる方がいれば、作戦会議や応援などサポートに徹したいです。
よろしくお願いします。

7少年A:2017/09/30(土) 02:39:02
>>4
よーしそれでは組みましょうぜヒャッハー。

8魚鬼:2017/10/08(日) 01:48:06
>>6に対する反応が特に無いようなので、とりあえず1人で土曜朝で書くことにします。

9マグロ3号:2017/10/11(水) 22:55:09
Twitterに各キャラへの簡単な感想を書いてみました。よろしければ一度見てみてください。

10ネーター(読者):2017/10/23(月) 21:47:06
応援イラスト:可愛川ナズナ
tps://twitter.com/nater_gamer/status/922443106443653120/

11ムゲン:2017/10/23(月) 21:51:39
tp://bit.ly/2iN1fFu

12ニャル:2017/10/23(月) 23:22:58
ぐわー17位!
本来は落ちるべきところをEXで残してもらって申し訳ないきもち
こんなザコを狩れるのは対戦相手を希望できる一回戦のうちだけだよー
やすいよやすいよー たおしやすいよー

13ネーター(読者):2017/10/24(火) 00:14:58
応援イラスト:ミルカ・シュガーポット
tps://twitter.com/nater_gamer/status/922480947328573440/

14ニャル:2017/10/26(木) 15:37:10
>>12
「せっかくなら希望してくれる人と対戦したい!」という思いからの発言でしたが、
ルールを勘違いしておりました。
双方向からの希望でないとマッチングしませんね……。
「こんな素敵なキャラクターからたった3人を選ぶのは無理……!」と対戦希望は「なし」で
指定していました。
なので>>12は撤回します。私への対戦希望は意味がありませんでした。
お騒がせして大変申し訳ありませんでした。

15オスモウドライバー:2017/10/27(金) 22:06:06
野々美つくねの幕間SSです。



【前回までの取組】

(ナレーション)
野々美つくねは、総合格闘技の世界チャンピオンであることを除けば平凡な女子高生である。
ある夜、彼女は突如天から舞い降りた天使に相撲勝負を挑まれ、辛くもこれを降した。
その戦利品として得た物こそ、人間を一瞬にして力士へと変身させる超科学ベルト……オスモウドライバーだったのだ!

「邪魔するぜぇ」
「うわあああ!力士だぁ!」「逃げろォ!」「だっ、駄目だ、完全にふさがれてるよぉ!」
「たった二人並んで立つだけで廊下が通れないなんて……!なんて横幅だ!」

「そのベルト、こっちに渡してくれねぇかな」
「イヤだよーだっ」

「そ、それ反則じゃないか!肘打ちするなんて……!」
「クックック……嬢ちゃん、相撲を知らねぇなぁ」
「ウアアーッ!」

『……野々美つくね!オスモウドライバーを装着したまえ!』
「……そうだ。あの白いベルト!オスモウドライバーを!」
『説明書を読むんだ!』

「……変身ッ!」

「う……うおおおお!ナメるんじゃねぇー!!」

《READY》
《HAKKI-YOI》
《BUCHIKAMASHI》

「こ……国際暗黒相撲協会バンザーーーイ!!!」

「……私の名は親方。親方弦一郎という。君の父上の、旧い知り合いだ」
「君のお父さんから頼まれていたのさ。君が16歳になったときに渡してくれとね。ああ、一日遅れてしまったが」
「髷を結うには必要だろう?……誕生日おめでとう、オスモウドライバー」





某県某山中、秘密稽古場にて。

嵐の夜であった。吹き荒ぶ雨風の轟音が、分厚い壁越しにも響いてくる。
 時折稲光が小さな明かり窓越しに閃き、暗い室内の土俵と、その内側に設置された床几(※1)に座る四つの影を浮かび上がらせた。
(※1床几……しょうぎ。木と布でできた簡易な折り畳み椅子。相撲とは特に関係がない)

 影は皆土俵の中心を向いており、その宙空に投影された映像を注視しているようだった。
 青みがかったホログラム映像に映っているのは、立ち合いの構えを取る力士だ。
 ギリシャ彫刻の如く盛り上がった筋肉と、射すくめるような鋭い眼光が、そのただならぬ力量を物語っている。

さもあらん――そこに映し出されている力士は、今は亡き横綱、千代の富士なのだから。

『こ……国際暗黒相撲協会バンザーーーイ!!!』

男の絶叫と共に、映像は砂嵐へと変わる。一瞬後、ぷつりという音とともに映像が消失した。

 国暗協の関取は皆例外なく関取手術を受け、その過程で一種の記録装置を体内に埋め込まれる。
 万一不覚を取った際、敵の情報を記録し、次の手に繋げる為のブラックボックス。津名鳥高校の教室から回収されたそれに残されていたのが、この驚くべき映像であった。

 四名のうち、もっとも小柄な影が、感嘆とも嘆息とも取れる溜息を洩らした。

「……まさかあのような年端も行かぬ少女がメタモルリキシするとはのう」
「肘魔殺(ひじまさつ)も愚かな男よ。下らぬ矜持を優先するあまり、自ら人質を捨てるとは……
 心技体など弱者の戯言、力技体こそ相撲の全てと、常日頃から言っておろうに」

 金剛力士像を想わせる、隆々とした筋骨の持ち主が吐き捨てる。彼は十五本目のちゃんこ(※2)を直接静脈に注射し、注射器を土俵外へ投げ捨てた。
(※2ちゃんこ……力士が口にする食べ物の総称。または力士の筋力を増幅する特殊薬物のこと)

「予想外の事態ではあるが、見たところ奴もまた未熟。戦力の整わぬ内に適当な幕内でも差し向ければよかろう」
「あらあら……折角適合者を見つけたんだから、もうちょっと楽しんでもいいんじゃなァい?」

 バリトンボイスの力士が茶々を入れた。力士としては異様なほどに細身の男である。
 他の三名と同じく、この男もまたまわしを締めていた。

「それにぃ、かーなり派手に動いちゃったから、きっともう『表』……大日本相撲連盟の方も勘付いてるわよォ。あのコももう保護されてておかしくない頃だわねぇ」
「ブフフォ」

 四名の内もっとも巨大な影が、相槌めいて獣臭を伴う息を吐き出した。全身をくまなく剛毛が覆い、その中で琥珀色の両眼がぎらぎらと輝いている。

「大釜掘……貴様の悪い癖だ。相撲は勝つことが全て、遊びの余地など不要。さっさとケリを付ければよい」
「ンもぉ、羅刹力ちゃんは堅いんだから……黒呪殺のお爺さんだってそう思わない?」
「ふむ……今回ばかりはワシも羅刹力の意見に賛成じゃのう。黒のオスモウドライバーを失い、我が国暗協の力が大きく削がれた事は認めざるを得ん……一刻も早くアレを手に入れ、戦力の増強を図るべきじゃろうて」
「つれないわねぇー。アタシの味方は灰色熊ちゃんだけってことォ?」
「ブフフォ」
「方針は決まったな。ならば速やかに行動すべし」

 羅刹力がそのように促した直後であった。

16オスモウドライバー:2017/10/27(金) 22:07:19
 一際大きな雷鳴が響き、稲光が室内を白く染め上げる。そして再び蝋燭の灯に照らされた薄暗闇に戻った時、土俵の中心に忽然と、車椅子に腰かけた男の姿が出現していた。
 その存在を認知した四人の力士の反応は素早かった。床几に腰かけた状態から、スムーズな土下座姿勢へ。彼らは国際暗黒相撲協会のトップ、三役力士である。その猛者たちにこのような真似をさせる車椅子の男は一体!?

「苦しゅうない。面上げい」

 しわがれた、老人の声でありながら、それは絶対的な威厳を有していた。大気が鉛に置き換わったかのような威圧感。常人であれば顔を上げるどころか、呼吸すらままならず窒息に至るであろう。

「横綱。貴方様が直々にお見えになるとは……一体どのようなご用向きですかな?」

 黒呪殺は確かにその階位を口にした。
 横綱……この男こそが、国際暗黒相撲協会の首魁。ただ一人の横綱であった。
 誰もその顔を見ることはできない。百戦錬磨の魔人たる国暗協の四天王でさえ例外ではない。
 あまりにも重々しい空気が、男の脛から上に視線を上げることを許さないのだ。

「うむ……かの適合者についての沙汰を下しに参った。これを『表』に送るがよい」

 国暗協の横綱は、懐から一枚のカードを取り出した。VRカード……この度行われるDSSバトルに参加する為の資格。
 黒呪殺は恭しくそのカードを受け取った。和装の裾から伸びた骨と皮だけの手指は、その爪先を見るだけで叫びだしたくなる程の負の感情を産む。三役でもっとも肝の座った黒呪殺だけが、横綱から物品を直接受け取ることができる。

「なるほど、なるほど。あの適合者をDSSバトルへ誘い出す……というお心積もりで」
「然り。かの運営にも我が手は届く。オスモウドライバーの詳細を一切分析し、再び黒のオスモウドライバーを我が手中に収める。白のオスモウドライバーを奪うのはその後でよい」
「しかし横綱!」

 声を荒げたのは羅刹力である。四天王でもっとも狂暴なこの男は、搦手の類を嫌う傾向があった。

「今のヤツ程度であれば我々が……否、幕内力士ならば誰もが勝利できましょう!なれば最短の道を――」
「羅刹力」

 その一言で、羅刹力の荒ぶる怒気が遮られた。
 大気の密度が、一層濃さを増したように思える。それは凄まじいまでの不吉を孕んだ、暗黒の闘気であった。

「汝はいつから私に意見できる程に出世した」
「……は、申し訳もなく。出過ぎた真似をお詫びいたします」

 場に満ち満ちていた闘気が潮流のように引いていく。そこでようやく、羅刹力は止まっていた呼吸を再開した。
 恐るべしは暗黒横綱。その気になれば、三役力士とて指一本で息の根を止められよう。

「案ずるな。これもまた天竜計画成就の為の一手よ。いずれ全ては我らの物となる。水が高きより低きへ流れるように、これは動かし難い必然である」

 横綱は厳粛に宣言した。再び雷鳴が轟くと、その姿は幻の如く消え失せていた。
 ただ土俵上に残る禍々しき闘気の残滓だけが、その存在を示す証であった。






「――本当に助かりました。ご協力感謝します、横綱」
「いえ、丁度時間を持て余していましたから。私としてもいい稽古になりましたよ」
「ハッハッハ、ご謙遜を……いずれまたお呼び立てするやもしれませんが、その時は何卒ひとつ、よろしくお願いします」
「ええ、楽しみにしていますよ。それでは」

 堂々たる体躯がリムジンに乗り込むと、黒い車体が大きく左右に振れた。走り去る車が見えなくなってから、親方弦一郎と野々美つくねはおもむろに顔を上げた。

「どうだったかね、現役の横綱の実力は」

 親方は前を見たまま、穏やかな声で尋ねた。
 つくねの表情は晴れやかなものではない。ぎゅっと唇を噛み締め、あるいは溢れそうになる涙をこらえているようにも見える。

「……あたし、オスモウドライバーを全然使いこなせてなかったんですね」
「うむ……それを実感できたなら、わざわざ横綱に来ていただいた甲斐があったな」

 国暗協による津名鳥高校襲撃事件から数日。
 つくねは親方の元、大日本相撲協会が秘密裡に保有する隠れ家に身を寄せていた。
 表向きは何の変哲もないちゃんこ鍋屋だが、店の奥には隠し階段が備えられており、地下へと降りれば面積にして100畳を超える稽古場が姿を現す。つくねはここで相撲の基礎を学んでいた。

17オスモウドライバー:2017/10/27(金) 22:08:18
 オスモウドライバーの力は強大である――相撲に関してはほとんど素人であるつくねでも、国暗協の関取手術を受けた十両力士を瞬殺できる程に。
 つくねは今にして思う。自分にはきっと、驕りがあった。過去の横綱の力をそっくりそのまま使えるなら、きっとどんな相手にも負けないという過信があった。己と敵、両者の実力を正確に見極め、分析した結果の自信ならばよい。しかしつくねは、ただその圧倒的とも思える横綱の実力に溺れかけていたのだろう。

 親方は、つくねのそのような感情を見抜いていた。長くオスモウドライバーの研究に携わっていたが故、それを手にした者の心理にも詳しかった。そして彼は今日、現役の横綱をこのちゃんこ鍋屋に呼び寄せたのだ。
 ちゃんこ屋に力士が出入りした所で何の不自然もない。隠れ家がちゃんこ屋であるのは、そういった訳もあった。

 テレビで見た横綱が突然姿を現したことにつくねは大いに驚き、子犬のように目を輝かせてサインをねだるなどしていたが、横綱の目的が自分との稽古にあることを告げられると、その目付きは瞬時にして格闘者のそれに変わった。

 表向きには存在を秘匿されているオスモウドライバーであるが、三役(※2)に昇進した力士には相撲協会からその実在と役割について説明を受ける。無論、当代の横綱も既知の事実である。稽古相手として、これ以上の存在はなかった。

 稽古は30分程で終わった。正確には、つくねがそれ以上続けられなくなった。

 相撲を司りし天使ガブリヨル――それを相手に一晩格闘し、あまつさえ土をつけたつくねが、オスモウドライバーとなった状態ですら、半時間ともたなかった。それが現役の横綱、神の依り代たる者の実力であった。

「そのオスモウドライバーには、現在72のリキシチップが内蔵されている。それによって君は歴代横綱へとメタモルリキシする訳だが……構築される肉体は仮初とはいえ横綱そのものと言っていい。しかし、その身体に蓄積された技術と経験を最大まで引き出すには、操縦者の確かな力量がなくてはならないのだ」

 つくねは頷いた。そうでなければ、あれだけの圧倒的な実力差は説明できない。
 相撲の基礎稽古、そして歴代横綱についての勉強。親方が立てたプランは、全てつくねをオスモウドライバーとしての完成に導くものだった。
 だと言うのに、自分は。己のものでもない力に酔い、うぬぼれて――

「フン!!」
「野々美くん!?いきなりどうした!?」

 つくねが自分の両頬を思い切り引っぱたくと、バチーン!と威勢のいい音がした。
 今すべきなのは、くだらない自己嫌悪などではない。ポジティブな性格は、つくねの数少ない武器の一つであった。 

「親方さん!あたし、頑張ります!うじうじしてるヒマがあったら稽古しなきゃ!」
「あ……ああ、そうだな。前向きなのはいい事だ。ところで野々美くん、ちょっとこちらへ」

 親方はつくねを店の奥へと招き入れた。それで、なにか誰かに聞かれてはまずい話をするのだなと、つくねにもわかった。

18オスモウドライバー:2017/10/27(金) 22:08:52
 一つ咳払いをすると、親方はおもむろに背広のポケットからカードを取り出した。
 その意匠に、つくねは見覚えがあった。近頃テレビでさかんに宣伝を打っている、VRによる格闘大会への出場資格だ。魔人を含めた、仮想現実世界だからこそ実現可能な、真の『何でもあり』のバトル。

「その顔を見るに、どうやらこれが何かは知っているようだね」
「はい!あれですよね、VR格闘技の!」
「そう、DSSバトル。これはね、今朝日本相撲協会に匿名で送られてきた。宛名には、君の名前が記されていたよ」
「……へっ?あたしですか?どうして?」
「うむ……そこが問題だ。実はね、我々の調査で、DSSバトルの運営元であるC3ステーションに、国暗協の手の者が潜入している可能性が示唆されたのだ」
「国暗協が……C3ステーションの中に!?」

 それが事実だとすればとんでもないことだ。C3ステーションと言えば、パソコン機器に疎いつくねでも知っている超メジャー所である。そこに国暗協が潜んでいるとなれば、世界中のメディアに敵の目があるも同義ではないか。

「たっ、大変じゃないですかそれ!」
「そう、大変なんだ。そしてこのタイミングで、差出人不明のVRカードが君に送られてきた。これは決して安価なものではない。しかも日本相撲協会を経由して、だ……これは偶然とは考えにくい」
「……うーん……、国暗協があたしを誘い出そうとしてる……ってことですか?」
「私もそうだと思う。十中八九……いや、ほぼ十割の確率で罠だろう。どうする、野々美くん」
「うーん…………えっ?」

 しばし腕を組んで考え込んでいたつくねだったが、ふと我に返ったように声を上げた。

「でっ、出れるんですか?」
「君が出たいと言うのならね。VR空間ならば命を危険にさらすことなく、全力で猛者とぶつかり合えるだろう?実戦稽古には持ってこいだ。きっと今よりも強くなれる」
「それは願ったり叶ったりですけど……そもそもオスモウドライバーのことって秘密なんじゃないんですか?よりにもよって全世界中継の配信で正体を明かしちゃうのはまずいんじゃ」
「ハッハッハ、これまでであればそうだったんだがね、君の高校が襲撃されたことで、どうやら国暗協は既に相当の情報を掴んでいる。であれば、下手に秘匿するよりもいっそ全てを明らかにして、国民の理解と援助を乞おうというのも一つの手なんだ。年々減少傾向にある相撲人口の回復効果も見込めるしね!」

 最後の方に相撲協会の本音が見え隠れした気がしないでもないが、そう言われると悪い話ではないように思えてきた。
 何より、魔人と戦える。まだ見たことも聞いたこともないような、とびきりの怪物と戦える。それはつくねにとって、抗いがたい魅力であった。

「どうやら気持ちは決まっているようだね」

 つくねの口の端に、知らずうずうずとした笑みがこぼれているのを見て、親方は満足そうに頷いた。この子の闘争心は本物だ。それは横綱にとってもなくてはならない素養の一つである。

「この件については既に日本相撲協会からバックアップの約束を取り付けてある。現実でも仮想世界でも、万全のサポートを約束しよう。君はなにも遠慮せず、思い切りぶつかって行くといい」
「親方さん……!ありがとうございます!」

 つくねは両拳を強く握りしめた。歓喜と興奮が、小さな身体を震わせていた。
 今よりもっと強い自分に。もっと上手い力士に。
 いつか、あの横綱の高みへ到達する為に。
 数えきれないほどある、大切なものを守る為に。

「あたし、頑張ります!」



 野々美つくねは、相撲を取る。

19ニャル:2017/10/28(土) 01:26:48
刈谷さんよろしくね☆(ネカマムーブ)

刈谷さんはプロローグ採点時に10点満点を付けた相手なので、胸を借りるつもりで頑張ります。

20刈谷融介:2017/10/29(日) 01:07:14
ニャルラトポテトは刈谷と対比がしやすいキャラなのでくるかなーとは思っていたのですが、想定していた話の流れを全部叩きつけることができたかは謎です

ひいひい言いながら書かせていただきました

21刈谷 融介:2017/10/29(日) 03:49:13
刈谷融介 幕間
『特に必要のない話』

「ねえ、ユースケ」
「あん?」

これはDSSバトル前、まだ二人がボロくさいアパートに住んでいた頃のことだ。

「貴方の能力って、結構よくわかんないこと多いわよね?」

狭苦しい台所でじゅうじゅうフライパンを鳴らしながら、ふと砂羽は刈谷に問いかけた。

「俺が分かってるからいいんだよ。昔、検証は飽きるほどした」
「私が分かってないから聞いてるんですけど」
「はい」

刈谷は素直に頷いた。この男、DVくさい空気を醸し出しているくせに妙に弱いところがある。

「貴方の能力で借りられるものって3種類よね?誰かの所有物で触れるもの、誰かの所有物で触れないもの、そして誰のものでもないけど触れるもの」

「その通りです」

「じゃあさ。誰のものでもないけど触れるものを借りたときって、お金はどうなってるのよ。教えてちょうだい」

ぎくり。と刈谷の動きが止まった。目の前の画面では株価が乱高下しているが、どうも目に入っていないようだ。

「内緒」
「内緒もなにもないわよ。教えなさい」
「はい」

この男、そもそも根本的に意思が弱いのである。そしてそういうときは大抵、砂羽は面白がって強気に出る。

「あー、なんというかだな」
「はっきり言って」
「はい。なんか募金とか、そんな感じになる」

砂羽は、にや〜っと底意地の悪い笑みを浮かべた。これは、つつけば面白いものが出る。

「もっと詳しく説明して?」

「……正確にいえば、困ってる人を助ける組織の口座に自動かつランダムに入金されていく」

「へぇ〜ふぅ〜〜ん。続けて?」

「俺が入金した事実は消えないから、たまに子供とかからハガキとかが来るとかなんとか」

「へぇ〜〜〜ふぅ〜〜〜〜んんん???」

「おい!もういいだろ!?」

砂羽はニッコリと頷いた。

「ええ!貴方が海苔の缶詰なんて大事にしまい込んでるからなにかと思っていたんだけれど、お手紙を隠していたわけね」

「そーゆーアレではない。富は再分配する必要があるという、ただそれだけの——」

「あーっ!お昼ご飯ができました!ハイこの話おしまいーっ」

「おいおい。俺たちもガキじゃねぇんだから、全く……」

◆◆◆◆◆

「あの後は大損に気づいてヘコんだなぁ」
「ねぇ!この手紙、どこの子から?」
「ルワンダ。ガキが下手糞な日本語書きやがって……」

今日のように、誰とも知らぬ人たちからの手紙を見せることがある。

「こっちは?えらく立派な感じだけど」
「こりゃアレだな、雇用機会のない中年男性の支援をしてる団体。あっ、この理事会ったことあるわ……あのときスムーズに話がまとまったのはこれか」

ここ数ヶ月ボンヤリと過ごしているうちに、刈谷はいろんなことを砂羽に質問されていた。やれ元カノだのなんだの。彼は童貞である。

「……楽しいか?」
「ええ、とっても!」

それでいい。頭を撫でる。

それでいいのだ。たとえこれが、分かたれていた時間を埋めるための代償行為であっても——

——その代わりにどうか少しずつでいいから、昔のことを忘れてくれ。

22狭岐橋憂 幕間『乙女の旅立ち』:2017/10/29(日) 23:16:35
※第1ラウンド第4試合『高速道路』戦闘後の設定です。不思議なことにその1にもその2にも対応してるよ!



その日、狭岐橋憂は学校中からの注目を集めていた。
彼女の通う“素晴らしヶ丘大学”は、魔人学園ではない普通の学園である。
いや、彼女が通っていたのはその“付属高校”だったかもしれない。
出場選手のプロフィールを作るとき、忙しすぎて履歴書を流し読みしかしてなかったので、文字を見落としていた可能性がある。
とにかくその学園では、魔人に対する目は世間一般とも同程度、酷いものだ。
それでもまだ『DSSバトル』への出場が発表されたとき、憂は英雄扱いだった。
彼女が魔人だと隠していたことをからかう者こそいたが、魔人であること自体を疎む者はいなかった。
『DSSバトル』とはそれほどまでに人々を熱狂させるコンテンツなのだ。
だが、昨日第1ラウンドが放送されてからそれは一変する。
淫魔化能力。彼女のような性魔人は、魔人の中でも特に嫌悪されるうちの一種である。
あるいは勝利を収めてさえいれば何らかの賞賛はあったのかもしれない。
しかし結果は相手の男に助けられての無残な敗北。
四方八方からの突き刺さるような視線が痛い。

「お、おはよう……」

彼女の数少ない友人達も、ややよそよそしい感じである。
まあ、開口一番に絶交を宣言されなかっただけマシだろうか。

「昨日は、お疲れ様」

「うん」

「大変だったね」

「まあ、ね」

ぎこちないながらも、会話は回りだした。

「あんなの相手してたら怖かったでしょ?」

「そうそう、なんかされなかった?」

「え? 彼、いい人だよ?」

しかしエンジンが掛かり始めてた空気はすぐに固まる。
憂の瞳がちょっと輝いた気がした。
不吉な予感を振り払うかのように友人達はまくしたてる。

「でも、あれだよ、尻だよ?」

「動きもキモいし」

「んー、格好いいと思うけどなぁ」

友人達は悟った。自分達普通の人間と魔人との間にある大きな感性の壁を。
「ユウと会ってもできるだけフツーにしよう」という盟約は、暗黙のもとに全会一致で破棄された。

「あの……さきばしさん?」

「腕の中ね、ごつごつしてるんだけど、抱えられるとなんか落ち着いて……」

「ユウ! お願いだから目を覚まして!」

憂の目は夢見る乙女の目だった。
思えば運命だったのだ。
エントリー順も隣。予選結果も隣。
対戦希望だってこんな高順位同士で通るなんて思わなかった。
“別の可能性の世界”があったとしてもきっと彼女は彼に恋したであろう。
憂が総合優勝した暁には復活したカナと百合百合ちゅっちゅさせようと思っていたがそんな考えはもう古い。
今は“スパンキング”翔×狭岐橋憂の時代なのだ!
許されるならば、憂ちゃんを、尻手さん家に嫁がせてあげたい!
それが24時間掛けて真摯に二人と向き合った私の出した結論である。

とはいえ、憂の前にはまだ大きな障害があった。
現状どう贔屓目に見ても憂の片想いであることはとりあえず置いておくにしても、
彼女は実は彼の連絡先を知らない。
別に意地悪で教えられていないわけではないのだ。
裏世界にも名を轟かせる尻手翔である。
そんな彼に女からの電話でもあればどうなるか。
たちまちその女は翔の人質として攫われてしまうであろう。
翔が連絡先を教えてくれなかったのは、むしろ憂を守るためなのであった。
だからといって、待っているわけにもいかない。
憂は決意を胸に宣言する。

「私、千葉県に行く」

「「へっ?」」

友人達の驚きの声がシンクロするのももっともだ。
千葉県。言わずと知れた暴走半島。
翔の出身地でもある。
そこで生まれ育った彼だからこそムキムキマッスルな体を手に入れたのだ。
か弱い女の子の憂が一人で行って、暴走族相手に無事で済むとは思えない。
だが、憂の決意は固い。
昔からそうだ。
前に出て主張するような性格ではないものの、「やる」と決めたことは必ず「やる」子だった。
今回も、きっと翔のルーツなり何なりを掴んでくるのであろう。
それを知っている友人達はもはや何も言わない。
つーか勝手にしろ、と思って見送った。

23狭岐橋憂:2017/10/29(日) 23:36:41
勢いで書いたけど冷静に考えたらこれいろいろ敵に回してるな…

24ルフトライテル:2017/10/30(月) 21:48:43
桜屋敷 茉莉花
tps://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=65657156
ナズナちゃんのお嬢様です

25少年A:2017/11/04(土) 01:58:09

「……っし、まずは一勝か」

都内某所。
テナントが潰れて間もないであろう雑居ビルの一室に、不釣り合いな美少女が一人。
鳴神ヒカリ――またの名を、変幻怪盗ニャルラトポテト。

住処をとある事情から追われた彼――彼女は、こうして
ライフラインが辛うじて生きているような施設に潜り込んで
試合までの一週間を過ごす、という不自由な生活を強いられていた。

幸いなことに、ここに潜り込んで以来、警察や追手に踏み込まれるようなこともなく過ごしていたが――

その平穏は、今日破られることになる。

「ハロー、マドモアゼル!」

ニャルラトポテトのいた部屋のドアを華麗に蹴破り、銀色の探偵――銀天街飛鳥がカチ込んだからだ。

「!」

もちろん怪盗も愚かじゃあない、闖入者の存在に気付いて即座に逃走体制を整えるが――
『世界二位の捕縛術』使いの姿を見てから逃げるようじゃあ遅い、とだけ言っておくぜ?

〜〜〜〜〜〜

「いやいや安心したまえ、私は別に君を警察に突き出すつもりも押し出すつもりもうっちゃるつもりもないからね!」

「だったらほどけよこの縄! なんか動けば動くほどキワドいところに食い込んでいくんですけど!?」

妙齢のお姉さまが、美少女をSMでも見かけないような複雑怪奇な縛り方で拘束して床に転がしてるってビジュアルを
果たして何人の奴が『探偵が怪盗を捕まえた』と思ってくれるんだろうな。

「私は話を聞きたいだけだよ。刈谷融介のことについて、ね。
 それさえ聞ければ開放するし、ここのこともバラしはしないから安心したまえ」

……いきなり縛り上げておいて信用しろ、ってのもどうかと思うぞ?

「はーあ……つうかカチコミって、随分また探偵らしくないよな。なんか焦ってんのか?」

怪盗のある意味正論ともいえる指摘に、飛鳥が表情をわずかに曇らせる。

「……焦り、か。まあ、無いと言えば嘘になるだろうね。
 何しろ、探偵として見過ごせないトラブルがひしめくこの大会の闇を暴いて、銀の光を浴びせようと
 意気込んだ筈が、蓋を開けてみればブービーと来たものだ。
 それよりは、C3ステーション上層部ともつながりがある刈谷に勝った君のほうが、余程真実に近いところにいると言える。
 もっとも、真実に近い理由は――それだけじゃあ、なさそうだがね」

珍しく弱音を吐くものの、最後に相手への牽制を入れて平常運転に戻る飛鳥。
寧ろ、無理にでもテンションを戻すために入れた呼びかけのようにも聞こえるが――

「……俺のデータも調べ済み、か。そこまで調べてるなら、わざわざ俺に話を聞きに来なくても
 刈谷との戦いもどうとでもなるんじゃねえの?」

「一応、念には念を入れたい、ってトコさ」

「わかんねえなあ……探偵の考えることってのは」

「怪盗に探偵のことはわからないものだし、探偵も怪盗のことはわからないものさ。
 それを互いに考え抜いて推理し、出し抜く。それが探偵と怪盗ってものだろう?」

呆れ、嘆息するニャルラトポテトに対し、飛鳥が意地悪く微笑む。
さっさと用件を済ませて、刈谷の情報を聞き出したいところだが――飛鳥の言葉は、まだ続く。

26少年A:2017/11/04(土) 01:58:32
「何、協力賃は無償開放だけじゃあなく――もうちょっと色をつけてあげるぜ」

「へえ? ……あいにくファイトマネーなら間に合ってるけど」

「“第五段階”」

飛鳥がキーワードを出した時点で、ニャルラトポテトの表情が強張る。
素人目の俺から見ても解りやすいほどの、明らかな緊張と動揺だ。

「君もまだ達していない、君の能力の極み――私は既に、一つの推理を組み立てている。
 正解かどうかは分からないが、少なくとも君の抱える精神的弱点である、自己同一性についての悩みを
 緩和できる程度の解答を、私は持っている。ただし、現状では仮定であり推理ではあるが、ね」

「……先に聞かせろ。そしたら、あんたの望む情報とやらはくれてやる」

「いいぜ、だが今はヒントだけに留めさせてもらうよ?
 懇切丁寧に説明した結果、かえって『そうなる未来』に固定されてもつまらないからね」

「なんだよそりゃ。……じゃあ俺も刈谷のことは喋らないぞ」

「そうかい。まあ聞いておきたまえ、きっと損はしないはずだ。
 “ジャガイモの殖え方を、知っているかい”――ニャルラトポテト君?」

「? それが……ヒント、か?ふざけんな、俺だってそのくらいは知ってる」

「ならいいんだ。んじゃ、縄はほどいておくから好きにくつろぎたまえ」

言うだけ言って、飛鳥がニャルラトポテトの拘束をあっさりと解く。
おい、いいのか?探偵が怪盗を見逃して。

「いいのさ、彼と私の目的はおおよその方向で同じだ。
 ――この馬鹿げた砂上の闘技で流れた涙という覆水を盆に還す、という点でね。
 じゃあ帰ろうぜ、共犯者」

え? ちょっと待てよ、刈谷の情報はどうした?
「え、ちょっと待てよ、刈谷の情報はいらねえのか?」

……怪盗と台詞が被る地の文ってのも、締まらねえなあ……

「ああ、あれかい? 君に会う、というか話をするための口実だよ。
 さっきのヒントを投げた時点で、私の本当の目的は終了だ」

「は? けど、何のため――」

「さあね。答え合わせは、君と私が戦うことがあったなら、その時にでもしようぜ、ニャルラトポテト君」

解き放たれた怪盗の困惑をよそに、銀の探偵は煌めき一つを残してあっさり帰っていっちまった。
さて、俺も置いてかれないよう帰らないとな。
んじゃ、せいぜい頭でも捻ってろ、怪盗殿。

27ニャル:2017/11/04(土) 03:36:55
>>25-26
こ、これが奇策は……! すごい……!

28はっしー:2017/11/04(土) 19:19:08
SS勝負で負けたのに、試合で勝ったせいでSS勝者と当たるってどういうことなの…

29刈谷 融介:2017/11/05(日) 04:43:05
三十路カップル初遊園地デートの巻

笹原砂羽は、大層驚いたように言った。
「なんていうか……広いわね!」
「そうだな」
刈谷融介は、いかにも真剣な面持ちで言う。
「それに、人が多い」

ここは日本有数のテーマパーク、『パチェっと!パーク』だ。中南米の刃物、マチェットを常備している操り人形のパチェットくんがはびこる、おそろしき空間である。

パンフレットを睨み、むむむと唸る砂羽。
「さ、まずはどこに行こうかしら」
「そうだな」
刈谷はいかにも真剣な面持ちで言う。
「砂羽に任せる」

「えっ!?いいの!?」
「もちろんだ。今回のプロジェクトリーダーはキミということになる」

午前九時、二人は園内でしっかりと頷きあった。
それはDSSバトル前日の、番外戦術を避けるための行動でもあったが——有り体に言ってしまうならば、完全にデートである。

そして二人とも、遊園地に来るのは初めてだった。

◆◆◆◆◆

「まずはこれ!断頭ジェットコースターよ。やっぱりそれっぽさが大事だわ」
「すごい名前だ」
「ね!カッコいいわね」
刈谷は押し黙った。彼に女性のセンスは理解できない。

「あっ!あっちにパチェットくんがいるわ!」
「マチェットが返り血で錆びているんだが」
「そういうとこもお茶目で可愛いわね」
刈谷は押し黙った。彼に女性のセンスは理解できない。

「それで、ここに並べばいいんだな?」

行列に指をさす。ロープの内側で人々が長蛇の列を作っている。最後尾の近くには、ちょうど『30分待ち』の看板が建てられていた。

「……ちょっと待ってくれ?待つのか?三十分も?」
「……そうらしいわね」

二人は深刻な面持ちとなる。まさかそんなに待つとは思っていなかったのだ。園内のアトラクションなど一日で全て回りきれるとさえ考えていた。
とはいえ、長期休みにもなっていない金曜日の朝である。まさかかなり空いている時間帯だと彼らは思ってもいないだろう。

「バカバカしい。こんなとこに居られるか!俺は帰らせてもらう!」
「ちょっとユースケ!そんなこと言って、どんどん人が並んじゃったらどうするの?」
「……確かに」

そうしてしぶしぶ、列に並ぶことになる。

「次はどこがいっかなー」
「これなんかどうだ?『火吹きドラゴンの歯磨き体験会』」
「嫌よ!そんなの。なんで遊園地に来ておじいちゃんの介護みたいなことしなくちゃいけないの!?」
「そこまで言うことないだろ……!!ドラゴンだぞ!ドラゴン!!おい!聞いてんのか!?」

ギャイギャイと騒いでいるうちに、三十分なぞあっという間に過ぎてしまう。二人はえらく真剣に従業員の話を聞き、恐る恐るジェットコースターに乗り込んだ。

「こ、これ、事故とかさぁ。起こらないわよね?」

ガタガタと揺れながら、ゆっくりと上昇するコースター。砂羽はおっかなびっくりで刈谷に話しかける。

「心配するな。自動車事故なんかよりよっぽど確率は低いらしい」

引き締まった表情で答える刈谷に少し安心する。しかしどうにも変だ。こういうとき、彼は怖気付いている自分をみて意地の悪い笑みを浮かべるようなタイプの人間なのに。

「そうなの?本当に?本当に大丈夫なのね?」
「心配するな。自動車事故なんかよりよっぽど確率は低いらしい」
「あの、ユースケ?もしかしてすごく怖がってる?」
「心配するな。自動車事故なんかよりよっぽどおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!?」
「きゃあああああああああああああ!!」

高速戦闘さえも可能としている刈谷曰く、自分でコントロールできない浮遊感は非常に怖いらしい。

30刈谷 融介:2017/11/05(日) 04:43:36
◆◆◆◆◆

「……今日は散々だ」
「そんなこと無いわよ!とっても楽しいわ」

お昼過ぎ。食事の時間はレストランがめっちゃ混むという当然の事実を見落としていた二人は、ベンチに座ってマチェット・チュロスを食べていた。
園内の自動販売機が意味不明なほど高価で刈谷が機械を叩き潰しそうになっていたが、そこはプロジェクトリーダー権限で砂羽が止めた形になる。

「ね、半分ずっこしましょ」
「しねぇよ。お前のそれキリング・ソース味だろ。俺そんなん辛くて食えねえって」
「私だって甘ちゃん味なんて食べてらんないわよ!でもいいでしょ?なんかそれっぽいじゃない」

なんかそれっぽい。それは初めての遊園地という状況において、極めて魅惑的な響きであった。

「じゃあ……一口ずつにしよう。それならギリギリいけないこともないかもしれない可能性があると思われる」
「そうね。それじゃあ口を開けて?あーんしてあげるわ」
「は?お前が先に食えよ。あーんしてやるからよ」

ここにおいて、二人の思惑は完全に一致していた。つまり、相手にこの過剰な味付けが施されたチュロスを先に食べさせ、悶絶させる。あとはそれを介抱した後に「やっぱり無理な話だったなあ」などとボヤいておく。そうすれば遊園地デートっぽさの演出とともに自身への被害を免れるのではないかという、卑しい魂胆である。

彼らはお互いの口元にチュロスの切っ先を突きつけたまま、ピクリとも動かない。さながらレイピアでの決闘である。

「砂羽。俺たちは妥協する必要がある」
「興味深い提案ね。続けて?」
「話はこうだ。せーのでお互いに口を開けて、かじる」
「ずいぶんシンプルね」
「こういうのは簡単なほどいい。そうだろ。覚悟は決まったな?」
「ええ」

砂羽の目が面白いくらい泳いだ。全然覚悟決まってないじゃん。

「砂羽ァ!お前、おま、そういうとこだぞ!」
「えい」
「ゔぉあああああああああああああ!!」

会話中に口を開けているところにチュロスを突っ込まないという暗黙の紳士協定を、暗黒面に堕ちた砂羽が破ったことで勝負は終結した。彼女は辛党なのである。

口の中が辛くて仕方がない刈谷は当然自販機で飲み物を買うのだが、やはり高くてキレていた。砂羽はケラケラと笑っていたが、本気で暴れだしかねなかったのでやはりプロジェクトリーダー権限で止めた。

◆◆◆◆◆

結局その後は三回も『火吹きドラゴンの歯磨き体験会』に乗ることになる。剣と盾に分かれて炎のブレスをしのぎつつ剣で歯磨きをしていくこのアトラクションを、砂羽はたいそう気に入っていた。おかげで刈谷は三回とも盾役だ。

夕飯は反省をもとに、ちょっと早めに食べた。砂羽は『ヤマンバのミートシチュー』を、刈谷は『火吹きドラゴンのステーキ』を。

「名前がちょっと恐ろしいけど、このシチュー美味しいわね」
「ヤマンバの用意した肉だもんな」
「どうしてビーフシチューってはっきり言ってくれないのかしら……」

なんて会話をしたのを覚えている。

そうして今はどのアトラクションに乗るでもなく、ぶらぶらと園内の人気のない場所を歩いていた。

「断頭ジェットコースター、楽しかったわね」

「嘘だろ、オイ。あれならパチェットくんコースターの方がマシだ」

「アレ、子供用じゃない!恥ずかしかったわ!親子連れの中に私たちだけ混じって!」

「些細なミスだ。『六脚ロバの千鳥足メリーゴーランド』とか、『残虐コーヒーカップ』はどうだった?」

「もちろん、楽しかったわ!でもやっぱり火吹きドラゴンの歯磨き体験会が最高ね」

「次は俺にも剣をやらせてくれ」

「嫌よ。私、剣より重いものは持てないもの」

「物騒なやつだ」

口のはしをひくつかせるようにして刈谷は笑う。つられて砂羽もクスクスと笑った。

「ねえ。今日、すっごく楽しかった」
「そうか」
「また来ましょう?……来れるわよね?」
「ああ」
刈谷は不自然なほど自然に笑みを浮かべた。
「もちろんさ」

砂羽は少しだけ目を伏せた。それでも、彼女もまた笑顔を作って見せた。

「ねえ、それじゃあこれに乗りましょ」

刈谷の後ろ、その上の方を指差す。

「観覧車か」

他とは違い、なんのひねりもない前時代的とすら言えるアトラクション。それでも、それっぽさにはなかなかのものがある。

砂羽は、二人の時間を大切にしたかった。刈谷は先週の一試合目以降、怒鳴るようなことが減った。嬉しい反面、自分にだけは遠慮しないでほしいと思っていた。

そう、彼女は自分にだけは遠慮しないで欲しかったのだ。

だから嘘をつかれたことが、本当に悲しかった。

31変幻怪盗ニャルラトポテト:2017/11/06(月) 11:06:37
幕間 『泡沫夢幻』 1/2


「ちょっとヒカリ! おーそーいー!」

 帽子とサングラスをかけた学生服の少女の透き通った声が、辺りに響いた。
 そこに駆けてくる、こちらもまた学校指定のブレザーに袖を通した長髪の少女。
 彼女は苦笑しながら、その場に待ちぼうけていた二人の少女に謝った。

「たはは。悪い悪い。数学の補習が終わらなくてさ」

 彼女は胸の前で手を合わせる。
 その様子を見て、サングラスの少女の隣にいたどこかボーイッシュな雰囲気の少女が笑った。

「ナルちゃんも物好きだね。僕には刈谷先生の良さはわからないなぁ」

 ヒカリ、またはナルと呼ばれた少女は慌てたように手を振る。

「そ、そんじゃないってば、ななせ! たしかにあの人はちょっと、ほっとけない部分はあるけれど……って違う! それに刈谷センセ、婚約者がいるんだよ! わたしなんて目に入ってねーの!」

 少し頬を赤らめながら首を横に振る彼女に、サングラスの少女が呆れたように溜息をついた。

「あんたの年上好きはどうだっていいから。それより早く案内してよね。こっちはこの後仕事なんだから」

 悪態をつく彼女に、ヒカリは笑う。

「ああ、ごめんごめん。天下のアイドル様のお時間を頂戴してるんだから、早くしないとな」

 二人を先導するように、ヒカリは歩き出した。
 彼女は前を歩きつつ、振り返る。

「……それにしたってその格好、いつもながら用心しすぎじゃないか?」

「う、うるさいわね。この格好は、その、アイドルとしての身だしなみっていうか……」

 サングラスと帽子の位置を直しつつ、少し恥じらうように彼女は口を尖らせた。
 二人の会話に、ななせと呼ばれた少女が笑う。

「ソラちゃんとナルちゃん、そっくりなのに並んで歩いてるんだから変装の意味がないよね」

「これはヒカリが真似してんの!」

 ソラと呼ばれたサングラスの少女の言葉に、ヒカリは笑った。

「美容室じゃ『進道ソラみたくしてください!』って言ったらてっとり早いからなー」

「やめてよ。ストーカーみたいじゃない」

「熱心なファンと言ってくれ。……と、ここだよ。ここ」

 ヒカリが案内したのは看板に『Eat like you』と書かれた小さな喫茶店だった。

 昭和にでも建てられたかのような古い西洋建築の建物で、二人の少女はヒカリの後に続いて少しためらいながら中へと入る。
 中にはアンティークな家具や、南米かどこかのお土産のような雑貨が溢れており、少々雑多な印象を受ける。
 誰も客のいない店の奥から柔和な笑みを浮かべた女性が出てきて、少女たちを出迎えた。

「あら、また来たの? いらっしゃい」

 にっこりと微笑み大人な女性の雰囲気を出す店主に、ソラとななせは少々気圧された様子を見せる。
 ヒカリは特にためらう様子もなく、店の隅にあるテーブル席へと座った。

「今日は友達連れて来たんだ」

「ふふ。それじゃあサービスしなくちゃね」

「やりぃ!」

 そんな彼女たちの会話を横目に、ソラとななせは小さく会釈しながら席へと着く。

32変幻怪盗ニャルラトポテト:2017/11/06(月) 11:07:13
2/2

 席に着いた二人に対して、ヒカリは自慢するように笑った。

「この前偶然見つけた店なんだ。オシャレだろー? これがこの店、出てくるものみんな美味いんだよ!」

「オシャレ……。まあ、そう……ね」

 柱に立てかけられたどこかの部族が付けているような奇妙な面に視線を送りつつ、ソラは歯切れ悪くそう言った。
 その隣で、ななせが元気に笑う。

「うんうん! すっごく可愛いお店だね! 僕気に入っちゃったなー」

「あらあら。ありがとう。そう言ってくれと、とっても嬉しいわ」

 店主はメニューと人数分のお冷をお盆に乗せて、彼女たちの席へと持ってくる。
 『おしながき』と書かれたそのラミネート加工された紙には、いろいろな品名が書かれていた。

「海鮮丼とかラーメンとか……結構せっそうがない品揃えね……」

 メニューを見つめるソラの横でヒカリが手をあげる。

「はい! わたしこのチョコレートパーフェー!」

「はいはい。りょーかい」

 ヒカリの言葉に店主はメモを取る。
 ソラが呆れたような顔をヒカリに向けた。

「ヒカリまーた甘い物? ……絶対太るから、それ」

「ぐおお! やめてくれ! 今は現実を直視したくない!」

「丸くなったら絶対その髪型似合わないからね。私の引き立て役になりたいならってなら、べつにそれでもいいけど」

「……そのときは厳しいと噂のアイドル式体重管理術を教えてくれ」

 ソラとヒカリのやりとりの向こうで、それまで悩んでいたななせが一つ頷いて注文を口にした。

「……うん! 僕はこの牛タン定食! 大盛りで!」

「この時間にそんなにがっつり食べるの!?」

 ソラの言葉にななせが「えっ!?」と驚きの声をあげる。

「食べ盛りの乙女はこれぐらい食べないと……」

「乙女の定義がおかしい」

 さすがのヒカリもツッコミを入れ、それを聞いていた女店主は笑う。

「いいじゃない、いいじゃない。いっぱい食べる子は好きよ。……それじゃあ、あなたは何にする?」

 女性の言葉に、ソラはメニューを眺めた。

「うーん、どれにしようかな……」

 ――いや、でも。
 ソラの視界がぼやける。
 ――だって、そう。
 彼女は瞳を閉じた。


 ――私に、味なんてわからないから。


  §


 病院のベッドで進道ソラは目を覚ます。
 DSSバトルの録画を見ながら、少々うたた寝してしまったらしい。
 画面には以前の試合の様子が流れていた。

「――ああ」

 なんて。

「……最低な夢物語」

 彼女は白い天井を見つめる。
 設定も関係もメチャクチャの、ありえない夢。
 絶対に起こり得ない物語。
 彼女は自身の頬に、水分が揮発したときのような涼しさを感じた。

「こんな物語……食べられたものじゃあないわ」

 彼女は病室で一人そう呟いて、静かに目を閉じる。

 その物語の味は塩辛く、それでいて少し苦くて。
 そしてどこか、懐かしい味だった――。

33魚鬼:2017/11/06(月) 21:33:29
ゴメスのファンアートです
tps://touch.pixiv.net/member_illust.php?mode=manga&illust_id=65780241&ref=touch_manga_button_thumbnail

34オスモウドライバー:2017/11/11(土) 00:08:42
 某山中の地下に造られた国際暗黒相撲協会第三秘密稽古場は、暗黒力士たちの放つ熱気によって蒸し風呂の様相を呈していた。
 気合のこもった怒声、肉と肉のぶつかり合う弾けるような音、四股が土を踏みしめる衝撃音、一定の間隔で響くすり足が土俵を擦る音――本場所前の相撲部屋にも劣らぬ……あるいはそれ以上の喧噪が、広々とした稽古場の隅々まで響き渡っている。


 暗黒大関・羅刹力が稽古場の木戸を開け放つや否や、正面から肉の塊が吹っ飛んできた。このような光景は、国暗協の稽古においては茶飯事である。


「フン」


 羅刹力は鼻息を一つ鳴らすと、飛び来る肉塊を左腕でもって無造作に薙いだ。
 宙にある巨漢の体がくの字に曲がり、今度は横へと人形めいて振り飛ばされ、20メートルほど先の土壁に激突してした。
 その生死は羅刹力の関知する所ではない。この程度で死ぬようなら、どの道先は知れている。


「オス!」「オス大関!」
「おう」


 暗黒力士たちの挨拶に短く答えてから、羅刹力は正面の力士を目に止めた。先の巨漢を吹き飛ばした男――災虎銃(さいこがん)の姿を。
 よく張った、稽古充分の体。目を引くのは異形と化した右腕である。左腕に比べ、その太さは二倍近くもあろうか。この腕から繰り出される鉄砲は、まともに入れば幕内の上位力士すら喰らうほどの威力を誇る。


「調子を上げているようだな、災虎銃」
「すんません大関、とんだ失礼を」
「構わん。それより少し面を貸せ」


 災虎銃は暗黒大関を見上げた。巌の如き偉容、鋼の如き体躯。その言動に、今日はごく僅かな違和がある。
 その感情を、彼が表に出すことはない。角界では番付こそが絶対、上の者に歯向かうことはすなわち死を意味する。こと国暗協において、不義不忠は命取りだ。
 故に災虎銃は己の感情を押し隠す。その胸にいかなる野心を抱えていようと、決してそれをさらけ出す事はない。
 その心構えと相撲の力量に限り、羅刹力はこの男を信用していた。


「貴様の腕を見込んで頼みがある」


 廊下の隅、主要な動線からは死角となった位置に移動した羅刹力はそう切り出した。
 泥着の中から取り出した茶封筒を、災虎眼のまわしの中へねじ込む。


「……オスモウドライバー所持者の情報だ。今夜、行って奪って来い。本体はただのガキだ……貴様の実力ならば難しくはなかろう」
「……オスモウドライバー」
「悪い話ではないぞ。事が済めば、貴様の幕内入りを審議会に打診してやろう。貴様には既にそれだけの実力がある……不合理な年功序列などに思い煩う必要はない」


 災虎銃の表情は変わらない。土俵上の駆け引きに熟達した羅刹力にも、その真意を読むことは叶わない。
 だが暗黒大関には確信があった。この男は、必ず首を縦に振るという確信が。


「――わかりました。この話、お受けいたしやす」
「ほう……随分あっさりと引き受けたな。もう少し渋ると思っていたが」
「兄弟子の頼みにあごかます(※1)訳にはいかねえんで」
「フ……殊勝な心掛けだ」
(※1……にべもなく断ること)


 頼んだぞ――と、羅刹力は災虎眼の肩を叩くと、早々にその場を後にした。
 その顔には、悪鬼の如き凶悪な笑みが浮かんでいる。
 

 出世の機あらば逃す筈はない。いかに表面を繕おうとも、異形と化すまでに鍛え込まれた体が如実にその野心を示している。そうでなくてはならぬと、羅刹力は声もなく笑った。

35オスモウドライバー:2017/11/11(土) 00:11:02
 その夜。
 険しい山中を下り、公共機関を乗り継いで、災虎銃は野々美つくねの住まう町に降り立った。
 添付されていた資料によれば、八墨川沿いの住宅地に、母親と二人で暮らしているのだという。
 暗黒力士は独り静かに邪悪な笑みを浮かべた。己を知る者の無いこの町で感情をひた隠しにする必要はない。


「(とうとうこの俺にも運が向いて来やがった)」

 オスモウドライバーを奪うことに成功したとなれば、国暗協における己の地位は飛躍的に上昇するとした災虎銃の見立ては正確である。少なくとも国暗協における一般認識として、オスモウドライバーは極めて重要なオブジェクトであり、これを手にすることはかの組織の悲願でもあった。自らまがい物を創り出すほどに。
 暗黒横綱の意志など、一介の十両である災虎銃が及び知ることはない。それも含めての、これは羅刹力の謀略であった。


「(幕内入りすりゃあ本場所で力を見せられる。そうなれば早い段階で三役、ゆくゆくは横綱だって夢じゃねぇ)」


 ぬるい風をその身に受けながら、じゃりじゃりと雪駄を鳴らし、災虎銃は川沿いの土手を行く。
 川に架かる橋のたもとの辺りで、一人の女子学生とすれ違った。制服である。時刻はとうに日の暮れた20時過ぎ、女生徒が独りで出歩くのは不自然な時間帯であったが、災虎銃はそれを気に留めることはなかった。当然、より優先すべき事項があったからである……その時までは。


「お相撲さんですね」


 夜風の鳴らす風鈴の音を思わせる、涼やかな声だった。
 災虎銃が振り向くと、今すれ違ったばかりの女生徒がこちらを向いて真っ直ぐに立っている。
 腰まで伸びた、夜闇に溶けるような黒髪。すらりとした長身だが、眉の辺りで揃えられた前髪と、アーモンド形の瞳がやや幼い印象を与える。


「丁子の香りがします」
「なんだ、嬢ちゃん。家出か?」
「後鉄を付けた雪駄に泥着、すり足気味の歩調。それにアンコ型の立派な体格……かなり鍛錬されていますね」


 災虎銃は頭を掻いた。相撲好きの奇特な少女だろうか。普段であればともかく、今このような者にかかずらっている時間はない。


「悪ィが今急いでんだ。相撲取りとお話しがしたいんなら他当たってくれや」
「――国際暗黒相撲協会の方ですね」


 その一言で、災虎銃の足が止まった。彼が再び振り向くと、少女は学生鞄から黒い布のようなものを引きずり出していた。一見黒い包帯のようなそれの中心部には、力強い二重線に囲まれた黒い桜が咲いている。
 暗黒力士は目を見開いた。黒の……オスモウドライバー!

36オスモウドライバー:2017/11/11(土) 00:11:47
「てめえ、まさか『力士狩り』!」
「――変身」

 
 少女が滑らかな動作で腰にオスモウドライバーを巻くと、エンブレムからもう一本の布がその股下を潜り……「あッ……」一つのまわしとなった。同時に、暗黒の粒子が少女の体を包み……闇が晴れた時、そこには一人の力士の姿が顕在していた!


《CLASS:OZEKI》《KONISHIKI》
《こにぃい〜〜しぃきぃいい〜〜》


「土俵下が、お前のゴールだ」
「ウオオォーッ!」


 あまりにも予想外の状況であったが、災虎銃の切り替えは素早かった。
 泥着をはだけて半裸になるや否や、気合の雄叫びと共に必殺の右張り手を繰り出したのだ。右腕が唸りを上げ、鉄板のような硬さを誇る掌底が小錦の顔面に直撃した。小爆発にも匹敵する破裂音が、夜の川面を打った。


「貰ったァー!何が目的が知らんがこの俺を狩ろうとしたのが運の尽きよ!脳漿ブチ撒けて死ねぃッ!」


 ぎょろり、と――小錦の黒い瞳が、指と指の隙間から災虎銃を睨み付けた。僧帽筋に埋もれた首がミシミシと音を立てている。4分の1トンを超える小山の如き巨体がおもむろに動き、災虎銃の右腕を掴んだ。


「な、に――」


 これまで災虎銃の鉄砲をまともに受けて立っていたものなどただ一人として居なかった。それが彼の矜持でもあった。ただの一合で、小錦はその拠り所を粉々に打ち砕いたのである。
 既に勝負は決していた。小錦に抱きかかえられた時点で、脱出を果たせるのは横綱ぐらいのものであろう。最盛期においては300キロ近い体重を誇った小錦の、その荷重を存分に活かした鯖折りが極まっていた。
 災虎銃は、己の背骨の軋む音を聞いた。明確な死の予兆が、その野心と闘志をへし折った。


「ま……参った」
「ふふ」


 耳元に吹きかけるような微笑である。憐れむような、あるいは嘲るような――どちらにせよ、対手の心を暗黒で満たすに十分な笑声。


「黒のオスモウドライバーは横綱と成れなかった者たちの無念の集積。敵にかける情けなど、一片たりとも存在しないわ」
「アガッ……た、助け」

 
 拘束の手は緩まない。肉の山は更に前傾し、慈悲も容赦のなく体重を災虎銃へと乗せ……やがて限界に達した。
 暗黒力士が最後に耳にしたのは、己の背骨が砕ける音であった。


「こ……国際暗黒相撲協会バンザーーーイ!!!」


 断末魔の絶叫とともに、力士の肉体が爆発四散した。黒い雪のような粒子が河原に降り積もる。
 その中に舞い落ちる茶封筒を、いつの間にか変身を解除していた少女が掴んだ。


「……野々美つくね。あのオスモウドライバーは、やはり本物……」


 素早く資料に目を通すと、少女は鞄からマッチを取り出し、封筒に火を放った。
 それを見つめる瞳は、夜の色よりなお黒い。




 御武(みたけ)かなた。18歳。女子高生。そして……オスモウドライバー。

37はっしー:2017/11/12(日) 00:22:46
【第3ラウンド第2試合・その3】

(これまでのあらすじ・ロックンローラーは死んだ。だが、雑談スレは死んでいなかった……!)

2287年度・世紀末フードファイト大統領決定戦が始まって、既に三時間が経過しようとしていた。

世紀末でフードファイト?と思う方もいるだろうが、決闘者がどんな世でも決闘するように、フードファイターが戦えばそれはもうフードファイトなのだ。
ドントシンク、フィール。そういうことだ。

だが、世紀末においては食事にありつくだけでもかなりの努力を必要とする。餓死者が出ることも珍しくはない。
そんな環境でフードファイトをするためには、ルールの最適化が必要となった。

それこそが、今回初めて使われることとなった新ルール『スカベンジング・フードファイト』だ!

基本ルールは『大食い』、すなわちどちらが多く食べられるかの勝負である。
だが、運営は食料を用意しない。ではどうするか?
参加者が自ら廃墟を漁り、旧文明の遺食物を集め、そしてそれを用いてフードファイトをしようというのだ!
集められる食料は缶詰、保存食、よくわからない変異動物の肉など多岐にわたる。それらを集め、そして食う!

なんたる世紀末に根ざした自給自足のフードファイトルールか!筆者は感動を抑えられない!

そして今!
参加者たる狐薊イナリと支倉饗子は、廃墟の中で食料を探しているのだった!


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38はっしー:2017/11/12(日) 00:23:23


「のじゃー、のじゃー」

世紀末名物、ミュータントのじゃロリの鳴き声が響く。
彼らは降りしきる放射性廃棄物によって突然変異を起こしたのじゃロリの成れの果ての姿であり、この世紀末においてはポピュラーなタンパク源である。

だが侮るなかれ。彼らはただののじゃロリではない、突然変異したミュータントのじゃロリなのだ。当然、ただののじゃロリにはない特異な生態を持つ!

「ロリー、ロリー」

な、なんということか!ミュータントのじゃロリはのじゃだけでなくロリとも鳴けるのだ!
これでのじゃロリ濃度は二倍!突然変異が引き起こした奇跡が、そこにはあった!

その時!

「ヒャッハーー!!のじゃロリ狩りだぜェーーッ!!!」
「のじゃーっ!?」

モヒカン・のじゃロリハンターだ!髪型がモヒカンで凶悪!

「ヒャッハハハーーッ!喰らえやーーッ!」
「のじゃーっ!のじゃーっ!」
「大漁だぜェーッ!ヒャーッハハハーーッ!!」

哀れなミュータントのじゃロリ達が、モヒカンの持つテニスラケットで捕獲されていく!
だが、これも世紀末で必死に生きる人々の暮らしの姿なのだ!
我々文明人に、どうしてこの光景を責めることができようか!?いやできるはずがない!

「待てえーーい!待つのじゃーーーっ!!」

その時!一人の少女が廃墟の陰から現れた!

その髪はキツネ色、その目は緑!そして輝くのじゃロリソウル!
何を隠そう、彼女こそDSSバトル参加者・狐薊イナリその人(AI)だ!
彼女はフードファイトに使う食料を探す中、こののじゃロリ虐待現場に遭遇し、我慢できず飛び出したのである!

「のじゃロリを虐めるのはやめるのじゃ!モヒカン!」
「なんだァ、てめぇ」

モヒカン、キレた!
テニスラケットを振り上げ、イナリに迫る!

「なにおう、来いっ!エクス……カリバーーーッ!!!」

イナリも対抗してデータキューブからエクスカリバーを呼び出す!
黄金に輝く剣が出現!貴方が私のマスターか!

ガキィィィン!ガシィィィン!

打ち合うテニスラケットとエクスカリバー!その力は互角!

「くっ、さては貴様ただのモヒカンではないな!なにやつ!?」

激しいサーブの連続を捌きつつ、イナリが問う!
対するモヒカンは余裕の表情!やはり只者ではない!その正体は!

「へっ、よく気づいたな!その通り、俺はただのモヒカンじゃあないぜ!俺は」
「のじゃー、のじゃー」
「俺は何を隠そうあの」
「ロリー、ロリー」
「何を隠そうあの地下シェルターの」
「のじゃー、ロリー」
「うるせーーーッ!!!テメーら黙っとんかい!!!」
「のじゃーーっ!?」

モヒカンの標的がミュータントのじゃロリに移る!
そして、その隙を逃すイナリではなかった!

「食らうのじゃーッ!エクスカリバー……ッガラティーーーン!!!」
「うっウワァーーーーーッッッ!!?」
「のっのじゃーーーーーッッッ!!?」

エクスカリバーからエクスカリバー光線が発射!
モヒカンとミュータントのじゃロリは星の光になった!あばよ、ダチ公!

「ふう……強敵だったのじゃ」

力尽きるように、地面に倒れるイナリ。
手に持ったエクスカリバーが灰になって、荒野の風に飛ばされていった。
百戦錬磨ののじゃロリたる彼女にとっても、今回の戦いは厳しかったのだ。

「というか、マジで何者だったんじゃあのモヒカン……」

その答えを知るものは、もうこの世にはいなかった。


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39はっしー:2017/11/12(日) 00:24:05


ついに、スカベンジング・フードファイトの時間がやってきた。

支倉饗子の前には集めに集めた缶詰、保存食、よくわからない変異動物の肉が山と積まれている。
この短期間で集めた量としては異常だが、それには秘密がある!
それは、彼女の能力……1回戦と2回戦でやってた、あの、あれ。増えるやつ。あれを使って集めたのだ!筆者はあんまり好きじゃないネタだ!

かえってイナリは!?
彼女の前には小さな袋がひとつだけ。
フードファイターからすれば一食分にも満たないそれが、イナリの集めた食料の全てだった。

一体なぜこんな事に!?
その理由は簡単、モヒカンとの戦いで力を使い果たしてしまい、食料集めに使うだけの体力が残っていなかったのだ!
ああ、ミュータントのじゃロリを助けたばっかりにこんな事に!なんという運命!
だが、彼女はそれを悲観してはいない!人助けをして窮地に陥るのは、騎士にとってはむしろ名誉である!

しかし、これでは勝負にならない!支倉が勝ったも同然だ!
狐薊イナリは、このまま敗北を喫してしまうのか!?

その時!

「あの、提案があるんですけど」

支倉が声をあげた!

「これだとイナリちゃんがあんまりにも可哀想ですし、私の食料を分けてあげても」

な、なんと!彼女は自分の食料をイナリと分けようと言うのだ!聖女か!

「え、えっ!?いや別にいいのじゃ、気を使わなくても!」

慌てるイナリ!それもそのはず、はっきり言って、彼女には支倉が集めた食料の1割でも食べ切ることはできない!貰ってもありがた迷惑だ!

「いえ、みんなで食べた方が美味しいと思いますし、分けましょう!」

だが支倉も引かない!その言葉はすべて善意でできている!
なんだこいついい奴じゃん!筆者も見直した!

イナリと支倉が譲り合い宇宙(そら)を始める中、審査員によって協議が進んでいく。
そして……結果が出た!

『食料を分けるのは不可、全部交換なら可』

「「ええーーーーーッッッ!!!?」」

その判定に、全選手(2名)が涙した。


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40はっしー:2017/11/12(日) 00:24:35


現在、イナリの前には支倉が集めに集めた食料の山がマウンテン存在していた。

そして、支倉の前には、小さな袋がひとつだけ、存在していた。

選手は、みな泣いていた……。

そうして準備か整った後……ついに、フードファイトが始まろうとしていた!

世紀末には、時計などと言う気の利いたマシンは無い。
フードファイトの開始時間は、東の空から太陽が出た時だ!

イナリが、支倉が、モヒカンがミュータントのじゃロリが、東の空、地平線を見つめる。

そして……日が、昇った!

「もっきゅもっきゅ、もっきゅもっきゅ!」

凄まじい勢いで食べ始めるイナリ!ここまで来たら、もはや皿まで食う心持ちだ!

缶詰の赤飯を、レトルトの赤飯を、そしてよくわからない変異赤飯をかっ喰らう!
赤飯しかないのかこの世紀末には!

対して、支倉は!?

「そっそれはワシの種もみ〜ッ!?」
「えっそうなの、おじいちゃん!?」

支倉は、謎の老人に絡まれていた!

彼の名は種もみの老人!何を隠そう、小さな袋の持ち主だ!
実はイナリがモヒカンから奪った小さな袋は、モヒカンが彼から奪った種もみだったのだ!

「おお、それはまさしくワシの種もみ……見間違えるはずもない、そのふぐりのような姿……」
「なんてこと……でも、私はフードファイトしないと」
「待って、待ってくれ!今食べてはそれまで。だが種もみを植えれば、来年も、再来年も米にありつけるのじゃ……!」
「そ、それは……」

支倉を説得にかかる種もみジジイ!フードファイトとジジイの間で揺れる支倉!本当にこいついい奴だな!

そんな間にも、イナリは食べ続ける!

「もっきゅもっきゅ、もっきゅもっきゅ!」

だが、ここで想定外の出来事がイナリを襲った!

「もっきゅのじゃ。のじゃ、のじゃ……」

赤飯が、思っていたよりもおなかに溜まってきたのだ!
少し考えればそれも当然。赤飯に使われるもち米は通常の米に比べて粘度が高く、そのぶん咀嚼を要求される。
つまり、多く噛む分たくさん食べたような気になってしまうのだ!
満腹感がイナリのAI脳を襲う!

一方、支倉は!?

「だが種もみを植えれば、来年も、再来年も米にありつけるのじゃ……!」
「そ、それは……」

その話まだ続いてたの!?
駄目だ、話に夢中になって周りが見えていない!
そんな事ではフードファイトに勝てないぞ、支倉饗子!

「もっきゅのじゃ、のじゃもっきゅ、うう
……」

イナリの食事ペースが目に見えて落ちている!限界が近い!
だが、負けるわけにはいかない!散って行ったミュータントのじゃロリ達のためにも!

そして!

そして!!!

「も、もう食べられないで、ヤンス……がくっ」

フード・ノックアウト(食い過ぎによる気絶のこと)!!!
狐薊イナリの気絶により、支倉饗子の勝利が決定した!

「だが種もみを植えれば、来年も、再来年も米にありつけるのじゃ……!」
「そ、それは……」

いい加減その会話止めろよ!


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41はっしー:2017/11/12(日) 00:25:51


薄暗い部屋の中で、阿久津海斗はイナリの試合を観ていた。

そして、試合終了後。
彼は、頭の中に渦巻く困惑、疑念、陰謀、その他色々な感情を、一つの言葉にまとめた。

「……なんじゃ、こりゃあ」

それは奇しくも、『太陽にほえろ!』で松田優作演じるジーパンが殉職した時のセリフと、同じものだった。



【勝者・支倉饗子】
【決まり手:フード・ノックアウト】

(おわり)

42ミルカ・シュガーポット:2017/11/12(日) 07:02:32
【第2ラウンド第1試合その2・後日談】



――重い目蓋を開けてみれば、腕の中には確かなぬくもりが存在していた。
淡いシャンプーの香りが鼻孔をくすぐる。
暗闇の中でもよく分かる栗毛色の長髪、白い手足。
怪物園の主――篠原蓬莱。影を操る少女。

「負けちゃいましたね……私たち」

私に抱きついたまま、落胆の言葉をポツリと漏らす。
それでようやく事態を飲み込めた。
――私たちは野々実つくねと戦い、敗北したのだ。

気まずい空気が部屋に立ち込めている。
……いや、その空気を作っているのは私だった。
何を切り出すか、何を言ったらいいのか、複雑な心境のまま。
天蓋の窓を見ると、今夜は満月だった――。

「ねぇ、蓬莱」
「……なんですか、ミルカさん」

次にかける言葉を持たぬまま、彼女の名前をつぶやく。
長い沈黙の中に、私たちは立たされている。
月は黄金に輝いている。――どんな暗闇にも動じない輝きを放ちながら。
たとえばその月が銀色に変わったとき……。

「あの月を取り替えることも出来るのよね?」

あの時はVR空間だったから、事なきを得たが。
外道太郎を、銀天飛鳥を、そして私を――無差別に死に追いやったあの月。
もしもアレが現実世界に出たとき……想像を絶することが起こるだろう。



「死んじゃいますよ」



少女は自嘲気味につぶやいた。
誰が――とは言わずに。

蓬莱は第1試合以降、多くの人に目を付けられてしまった。
テレビを付ければコメンテーターが地球滅亡を熱く語り、元凶である彼女を捕まえて欲しいと訴えていた。
SNSでも彼女の能力議論がたびたびトレンドに上がり、嫌でも目に入ってしまう。
ある者は切実に、ある者は面白半分に「彼女を殺せ」とつぶやいていた。

一般人はもちろん、魔人でさえ『銀色の月』に怯えている。
――誰もが恐れていた能力者が野放しにされていることを、世間は決して許さない。
誹謗中傷の爆心地で私たちは戦っていた。


そんなことがあって、第2試合で見せた蓬莱の狂気は変な話、人間らしい行動だった。
怪物園は彼女一人が背負うには重すぎる――。
彼女を表舞台に立たせたのは間違いなく失敗だった。誰もが『もしも』と悲観を嘆くようになってしまった。
その悪意を一身に背負わされた彼女の心は、とっくにドス黒く染まってしまったのだろう。
そんな中、蓬莱が第2試合で取った行動は「自ら悪役を買って出ること」。
――詰まるところ、自身の破滅を望んでいた。

「ごめんね、蓬莱……。ごめん……」

私が弱音を吐かなければ彼女が出て来ることもなかった。
山奥でひとり静かに暮らすべきだった少女だ。
本当は全て自分が背負うばずだった悪意を、蓬莱に背負わせてしまった。
もしも過去を変えられるなら――彼女に、平穏を。

「…………」

肩を震わせて怯えている蓬莱を、ぎゅっと抱きしめた。
朝が来るまで――ずっとこうしていたかった。



その夜、彼女がすすり泣く声を何度も聞いた。



◇ ◇ ◇



「おやおや、随分と久しぶりじゃないか。
 もちろん覚えているさ。銀色の月を退けたのかい?
 いやいや、これからだね。お前さんは毒にやられているじゃないか。
 それに――もうすぐ、破滅の日がやってくる。一番先に倒れるのはお前さんだよ。
 一度満ちた月は欠けるだけ。新月になったとき――審判の時は訪れる。せいぜい頑張んなさい」

(第4ラウンドへ続く)

43狭岐橋憂 幕間『プレゼント作戦』:2017/11/17(金) 15:20:18
憂は恐ろしいことに気付いてしまった。
それは彼女が現在想いを寄せる男、“スパンキング”翔についてのことである。

DSSバトル第1ラウンドにおいて、彼女は自身の作戦ミスによってあわや墜落という所を対戦相手の翔に救われた。
それはいい。それこそが惚れる最初のきっかけになったわけだし。
しかしその後、第2ラウンドにおいて翔は露出卿(女性)と対戦。
卿のお供の少女(女性)の仕掛けた罠による古城の崩壊から、翔は2人を助けた。
さらに第3ラウンド、翔は野々美つくね(女性)と対戦し、なんか戦いの手助けをしたらしい。

これは最近流行りのアレではないか?
プロローグまでは女っ気も無かったのに、物語が始まると圧倒的な優男っぷりで女の子を次々と落としてゆく。
すなわち『ハーレム主人公』!
そうだ、翔はその素質を持っていたのだ!
きっと他の3人も翔に惚れているに違いない!(憂ちゃんの想像です)
しかもそのうち対戦者の2人は翔と同じく武の道を志す者である。
通じ合うものがある可能性は高い。
まずい!
かなりまずい!
メインヒロイン(最初に落ちた子)としてもっとアピールの機会を増やさなくては!



「で、なんで僕なのさ」

そういう訳で憂が相談相手に選んだのは、第2ラウンドで戦った恋語ななせであった。
その戦いで色々あったものの、現在彼女たちの仲がどうなってるかとかは幕間なので深く考えないことにする。

「他に好きな人がいるんでしょ?」

つまりライバルにならないということ。
恋愛相談では重要である。
まあ実際はななせは「他に」とは言ってないので、『その2』が正史になったら衝撃の事実が明らかになるかもしれない。
その場合「妹」もきっとライバルに違いない!
『その1』が正史の場合は大丈夫だが。

「それに、男の子の気持ちも分かると思って……」

自然と憂の視線が下がる。
ななせは割とシャレにならない目付きで凄んだ。

「絞めますよ?」

「ゴメンナサイ」

しゅんとする憂を前に、ななせは溜息をついた。

(そもそもアピールの方法なんて知ってたら僕自身『おまじない』なんかに頼ってなかったよ……)

なので回答は当たり障りの無いところに落ち着く。

「物で釣る……って言うと言い方悪いけど、プレゼントなんか贈ってみたらどうでしょう?」

「なるほど! 恋語さん、ありがとう!」

憂は一気に笑顔になった。
そのはしゃぎように、「そんなに名案言ったかな?」と首を傾げるななせであった。

44狭岐橋憂 幕間『プレゼント作戦』:2017/11/17(金) 15:20:56
憂が向かったのはデパートの衣料品売り場であった。
翔へのプレゼントとして真っ先に思い付いたのがふんどしである。
ぶっちゃけ異性からいきなり下着贈られたらどんなに好感持ってる人でも若干引くと思うのだが、その辺りは憂の頭には無かった。
まあ翔も翔で全く気にせず受け取る姿が目に浮かぶのであんまり問題ないだろう。
今は「クラシックパンツ」と称してふんどしのレパートリーもそれなりにあるらしい。
色、柄、生地。
吟味に吟味を重ね、「これだ!」と思った一品をレジに持っていく。
すると会計の前に店員にこんなことを言われた。

「こちら男性用になりますがよろしかったでしょうか?」

「女性用もあるんですか!?」

思わず聞き返した。

「ええ、あちらのコーナーになります」

店員は丁寧にも場所を教えてくれた。
即答で拒否! ……しかけて思い止まる。
憂の頭には勝手にライバル認定した一人、野々美つくねの姿が引っ掛かっている。

(あの子だってまわし着けてるんだから……負けられない!)

それは力士への変身のためなのだが、憂には関係なかった。

「お下着の上からならご試着もできますが」



そんなこんなで試着室。
憂の手にあるのは翔のために選んだのと同じで一回り小さなもの。

(ふふ、おそろいだ……)

どうしようこの子ちょっと怖くなってきた。
ストーカーとかになりませんように。
パッケージ裏の説明を読みながら憂はふんどしを巻いていく。
越中ふんどしなので割と簡単。
それに、憂独自のメリットもあった。

(あ、これサイズ調整できる!)

憂は変身のとき体格が変わるが、衣服までは一緒に変わってくれない。
そのため変身することをあらかじめ決めている日は、ゆったりした服を着たりスカートだったりノーブラだったりする。
しかしパンツだけはそういうわけにはいかない。
お尻も大きくなるので結構キツキツなのだ。

そんな説明をしてて今気付いたけど羽の所どうしてるんだろう。あんまり考えてなかった。
まあそこは魔人能力なので、四次元的な何かで服に穴を開けずに背中から羽を出す方法があるのだ!
としておこう。

それはともかく。
ふんどしの着け心地は意外と悪くなかった。
今はパンツの上からなので実際に下着として着用してみるとまた違うのかもしれない。
しかしそれを言っても始まらない。
憂は自分用、プレゼント用の合計2点をレジまで持っていった。

「お買い上げ、ありがとうございます!」



その後、憂は翔を呼び出し、無事プレゼントを渡すことができた。

「翔さん、これ、あの時のお礼です」

もちろんそれはどれだけ返しても返し足りないのだが、よく考えるとプレゼントを贈るには口実が必要だったのでそう繕っておいた。

「あ、ああ、全然気にしないでいいのに」

翔の方は翔の方で見返りなど求めていなかったが、受け取らないというのも不誠実そうなので受け取った。
そうして渡したところまではよかった。
しかし会話が続かない。
側で見ていた通りすがりの一陣の風さんが、2人を見かねて親切にも話題を提供してくれた。

「きゃあっ!」

すなわち、憂のスカートをまくりあげた。
はためくふんどし。

(ど、どうしよう、おそろいだってバレちゃう!)

憂はあくまで自己満足のためにおそろいを買ったのだ。
翔に見せるつもりなど全く無かったのである。
今は包んであるためにプレゼントの中身は分からないが、それも時間の問題。

「憂ちゃ……」

「バカーーーーっ!!」

混乱しきった憂は、翔にビンタして去っていったのだった。
まるでラッキースケベで主人公のせいじゃないのに主人公に八つ当たりするヒロインのように。

45銀天街飛鳥 第四回戦前幕間その2:2017/11/17(金) 22:04:58
夜半の汽車に頭を預け、肘掛けには頬杖をひとつ。睡魔に身を委ねてしまいたいほどの虚脱に、それでも心は泡立ち、これだけは見てみたいと車窓に、精一杯、目蓋を開ける。
眼下では漆黒に染め上げられた水飛沫が散っている、行き交う中で海を渡りゆく鳥を濡らすのだろうか。規則的な揺れに、心なしか揺らぎが混じるようだった。

手の内、時刻表を放り出す。鉄道派のお株は奪えないし、奪えない。
それに生憎、私に翼は生えていない。歩んでいくにはあまりにも遠い距離だ。だから本州と四国を結ぶ連絡橋から吊り下がるレールに身を委ねるしかなかった。
きっと、かつてはこうではなかった、私はそう信じている。

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かつて名を馳せた探偵の年忌法要の案内がやってきたのはついぞ三週間前になる。あの時は追われる身になることなど思ってもみなかっただろうか。
そして、今。私は熱気が増すDSSバトルの最中にあって、逃げるように発った。
故人が亡くなってから幾星霜を経たか、思い出すには外道太郎を失った今の私では偲びないだろう。彼の人となりを語り、宴席では懐かしき人々とお喋りに耽る、そんな時は過ぎ去った。

夜は陰影を濃くする。かつて私が歳若い少女だったころ、よく通ったその建物の輪郭を際立たせた。よく茂った草で足を切らないように、丸い日本庭園にでんと置かれたお池にはまらないように、硝子の格子戸を引いた。軒先から失礼しますと心でいい、彼に詫びた。

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幼少期に、はじめて知ったはじまりの暗号を辿って、生前は夜目の利かなかった彼の足跡をたどる。

人目を避け、ただ一人線香を上げようと、享年からすればあまりにも歳若い遺影に触れる。
満天の星だけ、せめてあの月だけよ、目撃者たれ。

「詩人だねっ」

ふとした声、顔を跳ね上げると一人の少女が立っていた。
アッシュグレイ、つまりは灰色の短髪はキャスケット帽によって隠したてられている。だからこそ飾り気のない美しさを演出するかのようだった。
服飾も、いささか子どもじみたサスペンダースカートと素っ気なくこそあった。
闇夜に慣れたこのまなこが映すのは、にこやかに細められたその両眼だった。ぎゅっと閉じられ、なにも映すものなどないはずなのに、すべてを見透かすような雰囲気を放っている。
……知らない名ではなかった。

「伊――」

「おおっと! それは言わない約束だぜ」

貴様は誰か? という問いと対になる答えは遮られた。

「ソレすなわち、我々は君を探偵とは認めてないってことさ。わかりる?」

ひどく挑発的な文言に、言い返す余地は与えられていなかった。
見目は駆け出しの助手に過ぎない、はずなのに言葉をかぶせてくる。

「読んでくれたかな? って言っても行間を読み取るにも限界があるから直接言いに来たよっ」

あー、結論から言うとね。

「銀天街飛鳥、あなたには失望した」

46銀天街飛鳥 第四回戦前幕間その2:2017/11/17(金) 22:05:57
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「事件に首を突っ込んだ以上、どんな目に遭おうともそれは探偵が負うべき責務だよ。
汚名も屈辱も罵声も浴び続ける覚悟もなしに、挑んだわけじゃあないだろう。
しかしそれにしたって、焦りすぎたんじゃないかな?
あんな、君らしくもない短慮な行動……。

……まあ、少なくとも。あたしはこれ以上は君の敵に回らないようにしておくよ」

探偵助手は、私の言いたいことを言い立てるだけ言い立てて去っていった。
現れた時と同様、瞬きひとつの暇を挟んでまるで煙のように消え失せてしまう。それはまるで“彼女”が私自身が生み出した幻想であるかのように。

誘拐などという探偵らしからぬ犯罪へ手を染めたことへの糾弾、それは本来己自身の言葉で、行動で、償うべき行為。
公衆の面前にさらけ出した時点で、大勢は庇い立てする意志を失ったか。世界第二位の探偵などと言っても、いや、だからこそ一位と三位以下の合算に勝てると思い上がる理を、私は持てなかった。法廷の場で、弁護人として君とふたり立つには、片割れを含め欠いているモノが多すぎた。

「私も、焼きが回ったとはこのことか。純粋でない銀は誰も愛さない……。鍛え直そうにも熱は、もう生まれない。
ねえ、&ruby(あまどいじぶん){天問地文}。貴方と同じ時代を生きることが叶ったならば、私はずっと世界二位でいられましたか……?」

銀天街飛鳥は泣いた。彼の霊前で弱音を零した。老境に至り、視力をすべて失い、往年の推理力に見る影なくなっても、同時代で世界一位を目された伝説の探偵の名声に陰りはなく。
だから、銀天街が、彼女が、自分自身が情けなくて、くやしくて、それでも、寄る辺を求めるには死んでしまっては無力で、けれどとても大きな大きな影は役に立ってしまった。
皮肉なことに、銀天街が流す大粒の涙はまるで銀の雫のようであったという。

彼女は知らない。
天問地文の本分が探偵ではなく、むしろ助手であることに。だが、それも無理はない。この時点での彼女に知る術はないのだから。

47―――第三試合決着前:2017/11/18(土) 01:21:26
C3ステーション・サーバールーム。

「第三試合ともなると、やっぱ盛り上がってくるねえ――うん」

さきほど行われた第三試合の様子を映したVTRを見ながら、鷹岡集一郎は満足げに微笑んだ。
思えば、第二試合では色々と不本意なトラブルもあった――

刈谷の壮絶な塩試合や、荒川くもりによるVRルールの破壊、
“スパンキング”翔VS露出卿の全面画像処理、
国際暗黒相撲協会の予想以上の介入、
そして自身が全裸になったあげく殺される始末――

「――あれ?」

一瞬違和感を覚えるが、しかしそれもすぐに霧消する。
そりゃあそうだ、自分が死んでいたら今これを見ている自分がいないわけだから。

「……そういえば、美樹ちゃん随分と遅いねえ」

そして、鷹岡は先程とは異なる違和感に行き着く。
普段ならば、この時間には秘書である進藤美樹もここに訪れて、妹のソラに差し出す為の試合記録を預かりに来る頃合なのだが――

「秘書室でうたた寝でもしてるかな?ここのところ激務続きだったしね――」

VTRを収めたディスクを手にした鷹岡が、サーバールームを後にする。
彼らしく気まぐれに仏心を出して、第三試合の映像を届けようと向かった先で
彼が予想もしていない、最大のトラブルが待ち受けているとも知らず。


秘書室の扉を開けた鷹岡が見たものは――
C3ステーション社長秘書・進藤美樹が、殺されている姿だった。

48銀天街飛鳥・プロローグ0:2017/11/18(土) 03:17:17
これは、いわゆるDSSバトルが始まるよりも少し前の話。

〜〜〜

俺と飛鳥の甘々な安息、その締めくくりの就寝タイム。
あいにく100万ドルを積まれてもその仔細を語るつもりはないが、
(逆に聞くが、お前らはそこまでしてバカップルの体験談を聞きたいか?
 聞きたいんなら裸になって『だんげろだんげろ』と唱えな)
飛鳥なら今俺の横で完全にとろけて寝ているぜ。

「はにゃーん……」

普段、探偵として様々な相手と対峙し、退治してきた飛鳥だが――
この時ばかりは無防備上等、完全にリラックスしている様子だ。
そんな飛鳥の寝顔を眺めながら、俺は飛鳥と初めて出会ったときのことを、ふと思い出す。

〜〜〜

さて、そういえばなんだかんだで自己紹介が済んでいなかったな。
俺の名は&ruby(あまどいじもん){天問地文}。
銀天街飛鳥の『共犯者』だ。

俺の能力は『地の文からの空襲(エアレイド・フロム・アンダーグラウンド)』。
一言で言えば地の文を操る能力、ということになるが……
それは今俺が降り立っている、飛鳥のいる世界から見た場合の話だ。

もう少し厳密に言うならば、『下層世界に自在に干渉する能力』といったところか。
地の文として振る舞うことで、世界を書き換える能力。
イメージとしては箱庭遊び、が一番近いかな。
箱庭の中の街や人に、手を伸ばして掴んだり動かしたり――壊したり。

余談だが、一応できないこともある。
1つ、『既に書かれた過去を書き換えることはできない』
2つ、『モノローグを読めない』
他にもこまごまとした制約はあるが――
それ以外なら、地の文として『嘘』もつけるし、逆にホラ話を現実にもできる。
……そんな万能性を手に入れたら、色々と試したくなるだろう?

言っちゃなんだが、俺にとっての『現実』は、あまりにもつまらないものだった。
まあ、よくある底辺労働者の暮らし向きを、もうちょっとだけ悲惨に報われないものにしたものだ、と理解してくれりゃそれでいい。わからない奴は幸せ者だ、そのままでいろ。
……ともあれ、だからこそ、俺はこの『箱庭』に憂さ晴らしをしていたのだと思う。
だが、なんでもかんでも思い通りってのは逆に面白みを削ぐことだということも、俺は思い知らされた。

建物を壊しても、物品を盗んでも――人命を奪っても。
面白い、はすぐに麻痺して削れていく。
憂さ晴らしのつもりが、それにさえ倦んでいく。

そんな中で、俺は飛鳥に出会った――

〜〜〜

49銀天街飛鳥・プロローグ0:2017/11/18(土) 03:18:12
「犯人は、天上――いや、この世界の理の外側にいる、ってところかな」

俺が戯れに起こした盗難事件(確か、アレキなんちゃらとかいうデカい宝石を盗んだ気がするが――忘れた)の捜査に、当時まだまだ駆け出しの銀天街飛鳥が乗り出してのたもうたセリフがこれだ。
無論、現場の捜査員にはゲラゲラ笑われたが――それを外側から見ていた俺は、ドキリとした。
下の世界で、初めて俺の存在に気づき、辿り着いた――犯人であることを見抜かれた動揺だったのかもしれないし、あるいは歓喜だったのかもしれない。

それからというもの。俺が事件を起こす度、飛鳥は嗅ぎつけて現場に現れるようになった。
手口も変えてみたり、ミスリードもバラ撒いてみたり、スケープゴートも用意してみたり――その度に、飛鳥は綺麗さっぱり俺の存在を看破してみせた。

〜〜〜

「やあやあ、天上人くん? 今度はまた随分チープな仕掛けだったねえ。
 力任せではなく、もう少し知恵も絞り給え。探偵には脳細胞へのストレスが必要なのさ」

やがて、飛鳥は――周囲には独り言にしか聞こえない、俺への呼びかけを始めた。
その口調や表情は、俺の存在を疑いもしていない――自信に溢れた、銀の天使のようだった。

「しかし、君は優しいね――」

? 優しい、だと? 俺が?
……あいにく、そんな言葉をかけてもらう資格はない。
この箱庭で、俺はお前の知らない無法も働いている――

「私が関わる前がどうだったかは分からないが、私が関わってから――
 一件も、君が関わる殺人事件を見ていない」

……それは、確かに。飛鳥が俺の存在に気付き始めてから、色々手を変え品を変えて事件を起こしてはいるが――殺人は、していない。

「だから、私は安心しているのだよ――姿も声も、証拠一つまともに残さない犯罪者であっても、君は本当は優しい人物だ。
 できうることならば、自首を勧めたいところだけれども。天上人では、収監のしようもないからねえ」

だから、私にできるのは――君のいるところに馳せ参じて、ちゃんと君を見ている、と教えることだけだよ。

そう呟いて、事件現場から飛鳥は颯爽と去っていった。
俺が起こす事件以外にも、事件は起こり続けているのだから。

そして、その数時間後。
銀天街飛鳥と俺は、ついに“出会う”こととなる――

50銀天街飛鳥・プロローグ0:2017/11/18(土) 03:19:36
〜〜〜

「……」

港に面した、あからさまに長年マトモな用途で使われていないのが丸わかりな倉庫の一つ。
その中で、銀の駆け出し探偵が紅の中に沈んでいた。

「……」

ひゅうひゅう、と気管が隙間風を立てる。まだ、かろうじて生きている。

その周囲には、粗末な檻の残骸と、床のあちらこちらに転がる肉塊が数個。
――俺が、殺した。

経緯を説明すると、こうだ。

いわゆる人身売買のヤマを追って、被害者を救うべく駆けつけた銀天街飛鳥を待ち受けていたのは――卑劣な罠だった。
被害者――否、被害者役の殺し屋が毒ナイフで不意討ちをカマしてきて、飛鳥はとっさに『世界二位のCQC使い』となって対応したが――それ故に、&ruby(・・・・・・・・・・・・・・・){伏兵どもの銃撃を防げなかった。}

銀の銃弾ならぬ、無粋な鉛玉をその身に数発受けた女探偵は倒れ込み――
それを見た俺は、沸き上がる感情を抑えきれぬままに、銃撃者と暗殺者を諸共に虐殺した。
地の文として振る舞える以上、俺が『銃撃者は死んだ』と言えばそれだけでカタがつく。
尤も、死に様を見る限り――俺は相当、残酷になっていたようだが。

「……みて、るのか」

口から血の泡を零しながら、飛鳥が口を開く。
頼む、それ以上喋るんじゃない――!

俺は、矢も楯もたまらず、飛鳥の元へと&ruby(・・・・・・){降り立った。}

「……死ぬな。頼む」

冷たくなっていく飛鳥の手を取り、必死に懇願する。
それが無駄だとわかっていても、俺はそうするしかなかった――

「……はは、やっと、つかまえたね」

弱弱しい声で、しかし飛鳥はそう言って微笑んだ。

51銀天街飛鳥・プロローグ0:2017/11/18(土) 03:20:48
「……馬鹿野郎、命と犯人、どっちが大事なんだよ……!」

「……どっちも、さ。
 しかし、まさか本当に、会えるとは――触れ合えるとは、思わなかった」

「もういい、もういいから喋るな! お願いだから――」

俺のことを見てくれていた、あの美しい銀色が、赤くくすんでしまう。
その後に残されるものを思うと、怖くて怖くてたまらなかった――

「いや――本当に、ありがとう。おかげで、命を繋げるよ」

「……え?」

その時の俺がどんな間抜けな声で返事をしたのか、いささか思い出したくないが――

俺が降り立ったことで、飛鳥の『比較対象』が生まれ。
飛鳥は即座に『世界二位の自己再生力』を発揮して、瀕死の重傷から生還したのだった。

「――そして、本当に、すまない」

みるみるうちに傷が癒えていく飛鳥だったが――もう一つの傷は、そうはいかなかった。
俺がつけてしまった、心の引っかき傷は。

「私のせいで、君を――殺人者に、してしまった」

――ぽろり、と飛鳥の瞳から銀の雫が一粒、零れ落ちた。

「……気に病まないでくれ。これは、俺の罪だ」

長らく越えなかった、一線を越えた。それは、揺るぎのない事実だった。

「いいや。私を救うためにやったのなら――私の罪だ」

口元の紅と、目元の雫を拭いながら。探偵見習は、静かに、厳かに宣言した。
だが――俺は折れる訳にはいかなかった。
俺が折れちまったら、こいつは――銀天街飛鳥は、ただの人殺しとして終わってしまう。
俺のせいで。俺ごときのような、くだらない人間のせいで!
それだけは、まっぴらごめんだ。

「――罪の償い方は、一つじゃないだろう。
 これがお前の罪だと言うのなら、今死んだこいつらの分――その分も他の奴を、探偵として救えよ!
 世界二位の才能があるんだろう!?なら、刑務所で燻るんじゃねえ!現場で輝けよ!
 それがお前の、お前にしかできない償いだろうが!
 こんなちゃっちい罠なんか蹴散らして、犯人を一網打尽にできるような!
 下らない連中の企みを正面切って叩き潰せるような!
 どんな逆境にも折れず曲がらず挫けない、そういう探偵に!なってみせろよ!」

でなきゃ、俺が命を救った甲斐がないじゃねえか――!

たぶん、そのとき俺は泣いていたのだろう。みっともなく、声の限り、ガキのように。
だが、その言葉は飛鳥の胸を打った。言葉が届いた。
地の文としてではなく、一人の男、天問地文としての言葉が。

「……そう、だね。
 経緯はどうあれ君に救われた命、私の好き勝手で散らしていいものではなくなってしまったのも道理だ。
 いいだろう、君の望む通り――探偵として、生き恥を曝し続けてやるさ」

飛鳥もまた、目から涙を溢れさせながら――しかし、さっきまでとは&ruby(クオリティ){質}の違う、決意のこもった涙だ――力強く、頷いた。

「……こちらからも一つ、いいだろうか。
 これから私は君のことを、&ruby(スイートハニー){共犯者}と呼ばせてもらおう――異議は認めないぜ」

こうして、俺と飛鳥は――共犯関係になった。
共犯関係が、男と女の仲になるのは、もう少しだけ先の話だ――


(プロローグ0:終。プロローグに続き、そしてどこかに続く)

52刈谷融介:2017/11/18(土) 16:56:21
『おのれゴメス』

刈谷融介の逃亡は、果たして何から目を背けたかったが為だろうか?
自分が笹原砂羽のことを好きで特別視していることではない。もちろんそれは認めたくない事実ではあった。

彼は自分のせいで彼女の人生を歪めてはならないと思っていたからだ。少なくとも銀天街飛鳥のときはそういった理由での逃亡だった。

笹原砂羽は、両親、金銭、債権者などの自分ではどうしようもない事柄ばかりから被害を受けていた人物だ。
それでも今こうして毎日生きているというだけで、それは刈谷にとっては素晴らしく尊いことだったのだ。自分ならば自死を選んでいてもおかしくない。

そんな彼女に、どうして自分がまたしても負荷をかけることが許されようか。あのとき確かに彼は、愛と自責の狭間で混乱しながらも行動を選択したのだ。

では、今回は?


◆◆◆◆◆


笹原砂羽は、なにか取り返しのつかない出来事が起きたのを知覚した。彼女は目の前の刈谷が、こんな表情をしているのを見たことがなかった。
いや、正確に言えばある。ただその表情が自分に向けられていることは一度もなかったはずなのだ。

——それは怒り、諦め、そして失望。

「ユ、ユースケ?」

一回戦前にとったホテル。二人はそこで顔を合わせていた。

「はっきり言う。俺たちは今後、二度と会うことはない」

キッパリとした口調だった。彼の鋭くつり上がった瞳が砂羽を射すくめる。恐怖を抑えることはできなかったが、それでも口を開くことはできた。

「な……なんで?私、あのことなら気にしてないよ?」
「銀天街飛鳥が証拠隠滅の為の記憶処理を君に施していなかったのは予想外だった。いや、何かの拍子に記憶が戻ったのか。まあどうでもいいことだ」

刈谷の瞳は砂羽を捉えているようで、どこかもっと遠くを見ているようでもあった。

「あのとき君を見捨てたことは、本当に申し訳と思ってる。ごめん。安全性が保証されていたとはいえな」
「そうなの?」
「彼女なら推理していたはずだ。俺はすぐキレるし、キレたら何をするかわからないってな」

吐き捨てるような言葉だった。砂羽は彼の度を越した自己嫌悪が改善されていないままなことを悲しく思う。

「なあ、砂羽。お前はなぜ三回戦にきた?」
「それは、ななせちゃんが……」
「そそのかされたのか?」
「そんな言い方しないで!私が自分でお願いしたの」
「どうだか」

彼の表情に変化は見られない。怒り、諦め、失望。それは砂羽に向けられたものでもあり、彼自身に向けられたものでもあった。

「今大会最強は力士でも全裸でも俺の能力でもない。『エンゼル・ジンクス』なんだよ。なぜだか分かるか?対策が取れないからだ。砂羽、お前は利用されたんだよ。どうせ奴とは『偶然』出会ったんだろ?そんな都合のいいこと、普通は起こらない」

「それがなんだって言うの?負けたから八つ当たり?」

「仲良くなるのは良いが、利用されていたのを理解しているのか?」

「そんなことわかってる!私は自分の意思で利用されたの、貴方に会いたかったから」

砂羽は刈谷の目をしっかりと見ていた。彼はこちらを見ている。しかしその目に自分は、本当に写っているのだろうか?

「ねえ、ユースケ。私、貴方のことが好きよ」
「俺も……お前のことが好きだったよ」

53刈谷融介:2017/11/18(土) 17:00:05
「どうして?」
「なにが」
「もう私たちは、戻れないの?」
「ああ。もう無理だ。俺たちは決定的に駄目になってしまったんだ」

「ユースケ。私、貴方がいればなにもいらないの。だから、ねえ!お願い、お願い……」
「駄目だ、砂羽。それが駄目なんだよ」

砂羽は見た。あの刈谷融介が涙を流している。全くもって考えられないことだった。

「なあ、砂羽。お前はいつからそうなっちまったんだよ。親に、金に縛られて、クスリで骨の髄までしゃぶられて!それでも立ち直れたじゃないか。ようやく自分の人生を始められる所だっただろ?」

彼の目はしっかりと砂羽を見ていた。いや、本当は最初から見ていたのだ。砂羽が見られたくないと思っていただけで。

「どうしてそこで、俺に人生を委ねるんだ!!お前は俺のものなんかじゃないッ!!自分の命は、人生は!自分だけのものじゃないと駄目じゃないか……あとちょっとだっただろ?もう少しだったのに、なんで」

それきり刈谷は泣き崩れる。砂羽は狼狽した。自分にはこういうとき、出来ることがない。お互いに甘えていたのだ。砂羽は常に被害者だった。彼女は自分より弱っている人物への接し方が分からない。
彼が暴力的態度を取るのは、そういった理由もあった。そしてお互いに、そういった悪癖は少しずつなりを潜めていたのだ。遊園地に行ったときはそれが出来ていた。

しかし時は巻き戻らない。とあるたったひとりを除き、時間は不可逆である。

「ごめんね、ごめんね……」

謝り続ける。砂羽は大人になりきれなかった子供で、刈谷は大人の真似が上手な子供だった。二人で少しずつ大人になりたかった。

だが、もうその願いが叶うことはない。

「なあ、砂羽。二人で生きることと、二人でしか生きていけないのは違うんだ。違うんだよ……」
「うん、そうだね、ごめんね……」

砂羽もまた涙した。二人は折り重なるように抱きしめあい、傷を舐め合った。刈谷融介は童貞を失った。砂羽は自分の女性を受け入れることができた。

「ねえ、本当にもう駄目なの?私、頑張るから……」

このとき砂羽の認識は確かに改められていた。すなわち自分は彼のものではないと。

「駄目だ」

『貸借天』その効果。借りたものはふたつ。ひとつは意識。砂羽は気絶し、コトリと刈谷の胸の中に倒れる。

もうひとつは——

——刈谷融介と関わる権利。

砂羽は知らぬことであったが、DSSバトルでの彼の行いは積み重ねてきていた社会的信用を徹底的に破壊していた。

いままで社会で胃をねじ切られるようなストレスに晒されながら舌戦を繰り広げた彼が、その破滅性をあっさりと発露した理由は分からない。疑似的とはいえ、命のやり取り出会ったことが災いしたのだろうか。

とにかく確かなことは、彼はもはや社会人として生きていくことが不可能だということだ。危険性の高い魔人能力に加え、自分をコントロールできない人物としての評価が決定づけられてしまっている。魔人警察も既にマークを始めた。

刈谷融介は自覚していたのだ。もう、彼女のそばにはいられないと。

砂羽が刈谷への権利を失った以上、彼女は彼に関する記憶を失う。思い出すこともない。偶然出会うこともない。ましてや偶然手が触れて能力が解けるなど、そんな奇跡は起こり得ない。

その結果、目覚めたあとの砂羽は記憶喪失に似た状態になっていた。彼女にとっての刈谷融介は、そういう存在だったのだ。

恐らく、彼にとっての彼女も。

54刈谷融介:2017/11/18(土) 17:04:46
◆◆◆◆◆


七年後。砂羽は記憶喪失にもめげず力強く生活していた。出会いにも子宝にも恵まれ、今は会社を辞して子育てに励んでいる。

今日は三人で遊園地に遊びにきていた。息子がどうしても行きたいとねだったのである。

「おとーさん!おかーさん!俺これ乗りたい!『火吹きドラゴンの歯磨き体験会』!!」

パタパタと走り回る息子。砂羽はそれを見て、自分でも幸せになれるものなのだなと思う。そして夫と目を合わせ、微笑んだ。

直後、頭に割れるような痛みが走る。

そうだ、自分は不可解な増え続ける預金残高にさえ疑問を持つ権利を奪われていた。とある人物の記憶が、彼にまつわる権利が全て帰ってくる。

なぜ今、記憶が帰ってきたのか。
簡単だ。刈谷融介は、死んだのだ。

果たしてこの七年間、彼はどう過ごしていたのだろう。妻はできたのだろうか?子は生まれただろうか?幸せに……生きて、死ねただろうか。自分の人生を。

分からない。もはや彼女にそれを知るすべはない。二人はあの時と違い、別の時間を生きてきたのだから。

「どーしたのおかーさん、泣いてるの?」

息子が自分を見上げている。悔やんでも彼を見取り戻せはしないし、今の生活を捨てることもできない。彼女は今の生活も愛していた。

夫もまた、気遣わしげにこちらを見ていた。顔を見られたくなくて、膝をついて子を抱きしめる。

「なんでもないわ……大好きよ、大好き……」

彼女にできることはこれまで同じ。ただ懸命に生きることのみである。


◆◆◆◆◆


これは余談ではあるが。とある男は死ぬまで、肌身離さずキャラクターがあしらわれたネクタイをつけ続けていたという。


◆◆◆◆◆


ところでよぉ〜〜、幕間SSは参照してもしなくてもいいんだよなぁ〜ッ!?俺には参照しない自由がある……多分これは平行世界的なアレでしょう。

55ニャル:2017/11/18(土) 20:15:09
四回戦の内容、先に謝っておきます!! ごめんなさい!!!!!! > もろもろの方

56蜜ファビオ:2017/11/18(土) 21:29:05
幕間SS「拘束と衝突〜ラストレシピ〜」(中編その1)


●―逢魔が刻 999番地―
逢魔が刻
それは全ての時が交じり合い。行きかうという時空の交差点。

目的地に急ぐ制服の少女は白帽子の男に足止めを食らった。
彼は識家の拘束を一時受けたというのにその窮地を脱してここにきたらしい。そこに驚きではない、性根はともかくその有用さは前から周囲の人間から聞き及んでいたからだ。
だがら、どうだという話ではある。彼女は先を急いでいた。

「なるほど、お前は『時逆順』殺しの容疑で拘束はされたが、同時に『時逆順』に送りこまれた世界の調査でシュガー殺しの確証を得ており、一難逃れたというわけだ。で?」
「ところが『転校生が死にいたる経緯』に関しては全く不自然なところがなくてねー。
確証のかの字、証拠のしょの字も掴めなかった。
しかも僕やってないですー無罪ですと訴えても聞いてもらえず、今度こそ意識唯のお隣に永久投獄かというお話に」

思わず、ふぅと息を吐く。買い被り全否定。想像以上に無能だった。

「・・・・。で?」
「いやいや、そこで抜刀スタイルに戻らないで。あとは時空時計事件の話だけ、巻いて話すから
いや実際、転校生絡みでは粗がなかったんだよ。ただ流石にこの状況は流石にまずいということで改めて真剣に考えてみると
1点だけ、彼の死ではなく事件全体のほうに不明慮な部分があったことを思い出した。

登場人物の中で番長君に電話で匿名で助言を行い事件解決に導いた人物がいたんだけど、この人の身元が最後まで分からなかった。
僕は日雇い助手で脱走ばれのリスクもあったから早々放置して帰ったけど、名無しのアクター(事件関係者)が存在するのはいかにも気持ちが悪い。
なので、やや突飛ではあるがこの人を事件の真犯人または重要なファクターを握っている仮定して考えてみることにした。」

「話が長い、手短に結論から言え。」

白帽子は首肯した

「『物語をミステリー化する能力』

僕はそう推定した。今までの事件を「物語」として不偏してみると「彼らの死」は物語の本題では常になかった。
あくまで主要人物を彩る経過や事件を彩るファクターとしてのみ書かれている。
物語上の登場人物や探偵(加えるに読者)は、それに衝撃を受けこそすれ、起こったことそれ自体には注視しないはずだ、ノンストップで事態は進んでいるからね。
誰も実はあれが配役の段階で死ぬように配置され、その結果殺されていたんだーなんて疑わないだろう。

ただ、あの時は結末に至る過程でなんらかのイレギュラーが起きてた。だから物語外から最低限度の『干渉』で調整を行ったんだと考えた。物語を完結させるために」

だから顔出し名前だしNG電話のみの1回きりのアドバイス。

「本当に突飛だな。」
「実はそれほど突拍子のない話でもないでもない。僕は日雇い助手で脱走ばれのリスクもあったから早々放置して帰ったけど、
キーキャラに名無しのアクター(事件関係者)が存在するのは調査する側にとってはいかにも気持ちが悪いことなんだ。
時間制限がない彼女本人がいたら、きちんと調べていただろうと思う。そして僕と同じ結論に行き着いてーー
結局、彼女は『真犯人』に殺されていたんだろうと思う。

彼女の死は運命ではないけど、結末は変わらない。彼女は殺されるという筋書き(デストラップ)が既に各所に張めぐされており、
その一つに引っかかっただけ。
有能で勤勉な彼女なら、見落とさずにきちんと踏込み、同じように死んでいただろうって確信が今の僕にはある。
彼女の死という事実が僕にそう告げてくれてるんだ。」

――ある種、彼女が最後に残した無言のダイニングメッセージなのかもね。僕限定で届いたのが困り事なのだけど―

耳にそんな声が言外に聞こえてきたような気がした。
改めて男をまじまじと見たが、そこには変わらず、ぼややんとした雰囲気だけがあたりに漂っているだけだった。


「――――あと5分だ。それ以上は待たない。」
「ありがとう。続けるね。自力解決が無理そうだと考えた僕は代理人を立てることを考えた

これから事件か行方不明者が発生しますんで、その対策用に人物一人推薦します。事象の解明を依頼してください。
そう、僕はかつ丼も頼まず必死に彼らに頼み込んだ。
いやまあ正確には予告かな。問題の『迷宮時計』は、その24時間後に発生したから。

僕にとっての幸運は、彼らの中に一人、あの人のファンがいたこと。その人が、先生の実力も公平性も担保してくれた。
僕はみっともなくも元助手という立場を利用し、自分の師匠にSOSをうつ。
助けてぷーりず。先生に『迷宮時計』の「解明」をお願いしたいです。ただし絶対に『解決』はしないでくださいとね。」

『迷宮時計』そこで行われた『物語』のはじまりの一つがそこから始まった。

57蜜ファビオ:2017/11/18(土) 21:30:28
幕間SS「拘束と衝突〜ラストレシピ〜」(中編その2)


●賢者の贈り物

C3ステーションの本社ビル。
進道 美樹は本社ビルの応接室で目を覚ました。

「会議の途中で、確か転校生が現れて案内を・・・・夢?」

連日の疲れからかいつの間にか寝てしまっていたようだった。慌てて近くの端末を操作し、今の時間とスケジュールを確認し、ほっと息をつく。
大丈夫だ。黒塗りベンツで追突されたり示談を要求されるような穴は作っていない。

「しかし変な夢よね。あの鷹岡があんな思い違いをするなんて」

夢の中で舞踏を取り扱った映画として鷹岡は「パッション」語っていたが、実際の映画『パッション』は
”キリストの受難”を描いた作品だ。共通項が全くない。全編に渡って痛々しい作品で
あまりの凄惨さにショックで観客から死人を出したことで話題にもなったが…。

「受難…ね。」

そこでデスクに紙切れが一枚おいてあることに気が付き、何気なく目をやる。
そこにはたった一行
『賢者の贈り物』とだけ書かれていた。

彼女が一番好きな小説、オー・ヘンリーの短編小説の題名。


「・・・っ」
何故だが、とりとめとなく涙があふれてきた。
自分が本当に描きたかったのはこういう話だったはずだ。

進道 美樹の半生や価値基準は妹のソラと共にあったといっていい。
おもえば小説家への道、物語を書き始めたのも物語好きの妹の影響だった
アイドルの道や将来女優になりたいという夢に惜しみなくバックアップしようとした。
妹の成長や喜びが美樹の喜びだったのだ。
妹も”きっとそうだったに違いない”。
それが全てを奪う形になってしまった。二人にとって最悪の結末を生み出してしまった。

お互いを理解しあう? とても無理だ、あの物語のようにはいかない。
自責の念もある。そしてそれ以上にことが露見し妹から糾弾されることを自分は何より恐れていた。

私は動けない。
もし、このような物語のような選択があっても、私は決して踏み出すことはないだろう
ただ縮こまって穴倉の中で蹲っているのだ。ずーと

「だけど」

湧き出る涙の源泉はそこではなかった。彼女の中を覆っていたのは全く別の感情だった。


「でも、なんなの…今感じる、この”選ばれなかった感”は?」


                    (後編に続く)

58夕二(ゆうじ):2017/11/19(日) 01:49:13
遅れましたが、ダンゲロスSSC3の絵UPします。

OP絵
tps://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=65617327

第1ラウンドSS・オフィスビル街その2 より
tps://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=65951114

第1ラウンドSS・出場選手に縁の深い場所、土地その2より
tps://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=65951146

第2ラウンドSS・豪華客船その1より
tps://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=65951170

篠原 蓬莱ちゃん
tps://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=65951186

59〈私〉:2017/11/19(日) 02:22:07
ケツブルガリア前編(刈谷融介キャラレイプSS)

 人は38度5分を超える高熱に見舞われた時、ケツブルガリアの幻覚に襲われる。
 ケツブルガリア!?

「ケツブルガリア…ケツブルガリアって何だろう?」
「良いんだ、全部出しきれ。疑問に思ったことは何でも聞いてみると良い。」
 布団の中で寒気に震える〈私〉を、ケツブルガリア先生が優しく介抱してくれた。
 いや、解放してくれたのだ。理性の帳から。

「辛かったろう。職場を早退したのに、割とサっと帰れたのは。」
「ああ…はい。ロキソニンが効いてきた見たいです。」
 こいつ全然反省してないな。ケツブルガリア先生は思ったが、口には出さなかった。
 そもそもケツブルガリア先生とは何なのか?新手のスパンキング変質者なのか?

 ケツがブルブルのガリア地方(後のフランス)なのか!?

 いや、下手に疑問に思うのはよそう。これは幕間SSだ。〈私〉が出てきた以上、ケツブルガリア先生にもありとあらゆる可能性が付与される。

 可能性とは「特に何も考えてません。本当にごめんなさい。」という意味だ。
 だが、それは読者が許すことで無限の世界へと回帰する究極の力だ。

 力だ。力が欲しい。
 ケツブルガリア先生は〈私〉の願望が生み出した存在なのかもしれない。

 これは幕間SSなのか?自キャラ敗北SSなのか?幕間SSの読み方は《マクマ》なのか?《マクアイ》なのか?

 マクマホン。
 そうだ。幕間SSの読み方が二つだけだと誰が決めた!?
 これからのダンゲロスはマクマホンSSの時代だーーー!!!

 何故、今朝は体温を測ったら34度2分だったのか?体温計が壊れていたのか?
 否、壊れているのは俺の頭なのか?
 そうだ。俺は正常だ。なぜなら、もう壊れる部分など無いからだ。

「〈私〉は無敵だーーーーっ!!」
「寝てろーーー!」

 ケツブルガリア先生に後頭部を殴られた〈私〉はノックアウトされ、布団の中へとダイブインザスカイした。

 嗚呼。

「何もかも、ボーボボのビデオを久しぶりに見たのが悪かった。」
「そうだな。お前はブルガリアの風上にも置けん男だ。」

「なんかムカついたので神戸屋先生に風邪を感染しに行こうと思う。」
「最低だな。じゃあ早速行動に移そうぜ。」

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 神戸屋先生を訪ねたらめっちゃ怒られたので詳しいことは割愛する。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

60〈私〉:2017/11/19(日) 02:23:58
 刈谷融介は鏡で身だしなみを確認していた。
 最近は外見に気を遣えてなかったが、確認作業はとても大切だ。

 特に、刈谷融介のような、見た目で人を判断"される"ような人間には。

 鏡で自分の顔を凝視する傍ら、その手には電話が握られていた。
「…俺は刈谷融介だ。今は適当な電話番号を『借りて』電話してる。あんたに頼みがある。」
「どうしたんだい?匿名の電話番号なんか使ってさあ?」

 逃亡中の彼だが、彼の手元には何でもあった。その気になれば何でも用意できた。
 それは、彼が刈谷融介だから、という自負に他ならない。

 では何故、他人に頼みごとなどするのか。
 それは、ここ最近の込み入った事情が関係してるのかもしれない。

 刈谷はここ数週間、自分の外見どころか、内面も取り繕えていない。
 それほどまでにVRでのバトルは過酷で、精神を削るものだった。

「俺が本人だという確証が必要か?なら証拠でも見せてやろうか?」
「いいや、止そう。この場で貸借天の能力を使われるとどうなるのか分かったものではないからね。間違いなく君は刈谷融介だよ。」

 電話を通して聞こえる声は鷹岡集一郎。

「ケツブルガリアのビデオが見たいんだ。集一郎、頼むよ。親友だろ。」
「ガチャン」
 無慈悲な音が、電話回線が切れたことを如実に物語っていた。

「ちくしょう、なんで、こんなことに…」
 どうして刈谷融介はケツブルガリアのビデオが見たくなったのか。
 それは間借りしたホテルの従業員達の何気ない会話を横耳に挟んだからだ。

「ケツブルガリアってさーーーっマジイケてるよね〜。」
「は?何言ってんのお前?」

 従業員達は楽しそうにケツブルガリアのことについて会話していた。

「は?何アンタ、ケツブルガリアも知らないワケ?」
「はあっ!?何か言ってんのはテメーだろ!!ワケわかんねーこと言ってんじゃねーよ!!」

「いい度胸してやがる。テメーのことは前からキライだったんだよ。」
「年上に向かって生意気な!野郎、取っちめてやる!」
 従業員達は殴り合いながらケツブルガリアについて語り始めた。その光景を刈谷はただ眺めているしかなかった。

「なんでこいつら、客の前でこんな喧嘩してんねんやろう…?」
 一応、逃亡中とはいえ、このホテルにとって刈谷は上客である。
 かつてホテルに突っかかってきた暴力団を撃退してやったこともあった。

 後に刈谷のところへ無言電話や脅迫メールが大量に届いたが、全部『返して』やった。
 今では、暴力団にとっても刈谷は上客の一人だ。

 いや、"元"上客か。
 三回戦までで、刈谷は社会的信用を圧倒的に失ってしまった。
 激怒、絶望、逃走、敗北、そして貸借天。
 全てが露見され、裏の顔が公の元に晒された今、かつての刈谷の繋がりがどれだけ保たれているか。

 このホテルにも、いつまで居られるのか分かったものではない。
 とはいえ、まだこのホテルにとって刈谷は上客の筈で、ホテルの一室も間借りしている以上、従業員もそれなりの態度で接するべきである。

 このホテルの教育方針が行き届いていることは承知の上だし、そうでなければここを選んだりしない。
 何らかの魔人能力の可能性も疑ったが、ケツブルガリアという単語が何かの魔人能力と想像するだけで悪寒が走る。

 だってほら、ケツでブルガリアだぞ?

「いったい何なんだ、ケツブルガリア…」
 それは刈谷を魔界へと誘う、魅惑のキーワードに他ならなかった。

61〈私〉:2017/11/19(日) 02:26:26
 そんな次第で、恥を忍んで鷹岡集一郎に電話で聞いてみたのである。だって他に友達いないもん。
 ネットで調べてみたが、何もヒットせず。

「降り出しか…これも鷹岡の陰謀なのか?」
 思えばC3バトルの対戦組み合わせは全てがおかしかった。
 まるで、わざと刈谷の精神を摩耗させようとしているかのような戦いばかりを強いられた。

 結果、こうして逃亡生活をしている。
 まさかこうなることも含めて、全て鷹岡は承知だったのか?

「あり得る。ではケツブルガリアも鷹岡の臀部がブルブル震えているのかもしれない。」
 そう考えると辻褄が合っていると言えなくもない。まさか鷹岡は自分の臀部がバイブレーションする動画を世界中に配信して、世の中を支配するつもりなのでは。

 鷹岡集一郎は!自分の臀部がバイブレーションする動画で!
 世界を支配するつもりでは!?

「野郎、絶対に許さねえ。こんなことに俺を利用しやがって。」
 瞬間、刈谷は激怒した!C3バトルでも刈谷は終始すぐに怒っていた!つまり、彼の沸点はどこにあるのかイマイチよく分からないのだ!
 本人もよく分かってない!

「うおおおおお鷹岡の思い通りになってたまるかあああ」
 刈谷はズボンを脱ぎ、ケツを丸出しにすると、猛スピードでケツを降り始めた。

 早い!刈谷がケツを振るスピードは超高速だ!高速スピナーだ!ヘビーウェイトだ!タモリ倶楽部超倍速再生だ!
 この高速ケツ振り、ケツスピナーは対スパンキング翔くん相手に考えていた対策法である。

「まずは、このように高速でケツを振ることで翔くんの注目を集めるでござるな!一流のスパンカーを誘惑するには生半可なケツ振りでは不可能!故に、全身全霊もってケツを振るでござる!絶対にケツを振るでござる!」
 刈谷は久しぶりに開放感に満たされていた。ここ数週間、あまりにも精神的に疲労していたのだ。
 それが彼をこんな無茶な行為に誘ったのだ。

「そして、拙者の魅惑的な腰つきに我慢できなくなった翔くんは思わず拙者のケツにムシャぶりつくでござる!この不埒者!我慢できなくなったでござるか!?」
「ユースケ、何してるの…?」

「そこで拙者が翔くんにサブミッションでござるーー!」
「いやっ離して…!」

「ケツサブミッション!!これこそがラストスパンKING唯一にして絶対の攻略法!!
関節技は!!
ケツを!!
叩かない!!だから強い!ジャンケンの理論でござるな!」
「何してるのユースケ!!離して!」

「ふふ…その表情、ケツに関節など効くのか?という疑問を呈しているでござるな…?しからば!こうしてケツを揉めば良いのでござる!」
「成る程ね!ラストスパンKINGはケツを叩くほど強くなる能力。ならば…ケツを揉めば良い!!ケツをマッサージすれば…ケツを揉まれて力が出ないアンパンマン理論!」

「これがっ…俺の本能寺じゃああああい!」
「テメーは何をやってるんだあああああーっ!」

 刈谷融介は笹原砂羽に蹴り飛ばされて壁に掛けてあった絵画に陳列された。

「すっ…砂羽!?一体いつからそこに!?」
「最初からいたわ!!ていうか途中から気付いてたろ!!気付いて最後までやろうとしたろ!!」

「すみません…最後の方はぶっちゃけ気付いてました。気付いて最後までしようとしてました。」
「だろーが!?この童貞野郎!!だから童貞なんだよ!!」

62〈私〉:2017/11/19(日) 02:27:27
「いや違う…お前は砂羽じゃない!砂羽はもっとこう…淑やかだ!俺のケツも受け入れてくれる筈だ!」
 それきり刈谷は泣き崩れる。砂羽は狼狽した。自分にはこういうとき、出来ることがない。お互いに甘えていたのだ。砂羽は常に被害者だった。彼女は自分より弱っている人物への接し方が分からない。

「こいつ一人の時はこんなことしてたんだな…」
 砂羽は大人になりきれなかった子供で、刈谷は大人の真似が上手な子供だった。二人で少しずつ大人になりたかった。ケツ振りマンになった。

「なあ、砂羽。二人生きることと、一人でケツを振ることでしか生きていけないのは違うんだ。違うんだよ……」
「うん、そうだね、なんかごめんね……」

 砂羽もあまりの事態にまた涙した。二人は折り重なるように抱きしめあい、傷を舐め合った。刈谷融介は童貞を失った。砂羽は自分の女性を受け入れることができた。

 砂羽は顔のマスクを剥がしてオッサンの姿になった。
「残念だったな!僕は笠原砂羽ではない!秋葉原元康氏だ!」
「うわあああああああ」

 笠原砂羽は笠原砂羽ではない。秋葉原元康氏だったのだ!
「笠原氏と入れ替わっておいたのさ!彼女とは昔、仕事の関係で繋がりがあってねえ…!」
「ちくしょうベイベェ、ケツブルガリアとは一体何なんだぜ。」

 あわよくばケツブルガリアの意味が分かるかと思って聞いてみたが、秋葉原元康氏はどうしようもない奴を見る目で刈谷を見返した。
「えっ…何で知らんの、お前…?」
「ええっ知ってて当然のレベルですかぁ?」

 その時、ホテルの窓ガラスが割れた。
 ついにファックマリア様がバイクで刈谷の部屋に突入したのだ。
「卒業おめでとうっ!刈谷融介!」

「アギャギャギャギャ」
「刈谷融介ー貴様の貸借天の弱点は、二階から突然バイクで後頭部を轢かれると防御が間に合わないことだ!」

「アギャギャギャギャ」
「秋葉原氏の仇だーッ!」
 秋葉原氏は部屋の隅で血塗れで動かなくなっていた。

「アギャギャギャギャ」
「卒業おめでとうっ!」
「卒業おめでとうっ!」
「卒業おめでとうっ!」

 こうして刈谷融介はファックマリア様に鎖で首を拘束されたまま、C3ステーションまでバイクツーリングすることになった。
 卒業おめでとうっ!
 後半へ続く

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

63〈私〉:2017/11/19(日) 02:29:41
ケツブルガリア後編(刈谷融介キャラレイプSS)

 ファックマリア様に貸借天の能力をアッサリと攻略された刈谷融介は首を鉄製の鎖で拘束されたまま、C3ステーションへと拉致された。

「馬鹿な、俺は刈谷融介だぞ…!俺がこんな…こんなことに…」
「暴力は良くないことだ。だが、アタイは良くないことが大好きさ。」

 相手が悪かったのだ。まさか刈谷も予選で敗退した危険人物が寝込みを襲ってくるなど思いもしなかった。
 その可能性は考えてなかった。
 しかし、可能性がある以上、それは起こりうる出来事である。
「しかし、見直したぜぇ刈谷融介。お前、私のような可憐な乙女様には手を出さないんだな。キルヶ島シャバ僧は殺したクセによ?」

 そんな端役のことは忘れた。そう言わんばかりに、刈谷は後頭部から血を流してぐったりしている。
「あがらがががが」
「これはキルヶ島シャバ僧の痛みだと思え。」
 キルヶ島シャバ僧は有名な男優だったが、苛烈な拷問で業界を追われた悲劇の男だ。
 少なくとも、ここではそういう扱いである。

「ウピピピピ」
 刈谷は血を流しながらVRの世界へと堕ちていった…

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 いつからその人のことばかり気になり出したのか。覚えてない。

 兎に角、気がついたらその人ばかり目で追うようになっていた。

 どんな苦境でも
 どんな酷い目にあっても
 眼が死んでいても、その奥底に見える光に惹かれた。

 その人に好きな人がいる、と聞いた。

「俺は刈谷融介…外面だけはいい27歳無職。人に不快感を与えない風貌に、いつも笑顔を絶やさない温和で心優しい人物だと思われている。」

 これでいい。外面さえ取り繕えば、心の中まで顧みられない。
 他人にも、自分にも。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

「面白くないなぁ、そういうことされちゃうの」

開口一番であった。しかし言葉とは裏腹に、鷹岡集一郎の表情は屈託のない笑みのままだった。

「せっかく残虐婦女暴行殺人ストリーマーのキルヶ島シャバ僧にVRカードを送ったのに、君がボコボコにしてカードも奪いとっちゃったんだって?しかもうちの諜報部も返り討ちにしたそうじゃないか」

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

64〈私〉:2017/11/19(日) 02:30:52

 意識が混線していた?
 目を覚ました刈谷は、まず後頭部が無事であることを確認した。
 血も出ていない。

 だが、頭の後ろ部分だけ、バイクで削られたみたいに妙に禿げている。
 これはこれでオシャレだが、これはつまり、バイクに轢かれたところまで事実だったことを意味する。

 ん…惹かれた?
「ここは…つまり、VR空間か。」
 刈谷は頭頂部に浮かんだ緑色の数字を見て確信した。

 彼の頭の上には彼の預金残高が表示されている。
 大した金額だと自分でも思う。全て自分の実力で、力で得た金だ。

 社会的に有利に立ち回り、有効に金を稼ぐ。今までそうして生きてきたはずだ。
 それなりのルックスに、ある程度の身長。筋肉質な体。どれも整形や骨格矯正などで手に入れたものだ。

 何故?…見た目が整っている方が、いろいろと有利だから。
「ここがVR空間なら…俺は一体いつからここにいた?」
 一体いつから?ファックマリア様に鎖で縛り付けられ、C3ステーションまで連れてこられた。
 その時からに決まってる。

「何でだ?今回のキャンペーンは四回戦までのはずだろ?ケツを振ったからか?ケツ…ブルガリア…」

 刈谷融介は目の前に広がる光景に思わず息を呑んだ。
 横たわる急峻な山々、いくつもの湖、広がる緑、そして花々。
 それはまさに、音に聞くブルガリアの大地そのものだった。

「そうか…ここがケツ…ブルガリアなのか。鷹岡マンも味な真似をしおってからに。」
 そのまま彼は…これがVR空間であり…衆人環視に晒されていることも忘れ…ズボンを脱いだ。
 やはり精神的に疲れていたのだ。オッサンで童貞を卒業してしまったのが決定的に彼の破滅願望を刺激してしまったのかもしれない。その可能性はある。

「ケツ…ブルガリア…」
 圧倒的なブルガリアの大地で、ケツ丸出しにして高速ケツ振りダンスをする後頭部が禿げた男がいた。そのスピードはタモリ倶楽部超倍速だ。

 この光景はC3ステーションを通して世界中へ拡散され、ブルガリアの観光収入が五倍以上に跳ね上がったことはあまりにも有名である。
 このケツブルガリアンが誰であろう、あの刈谷融介だとは、さしもの衆人も気が付かなかったであろうて。

「さあいつでも出てこいスパンキング翔くん。いや、最早スパンキングを攻略された君など、私にとってはスパーキングジョーだ。さあジョーくん。僕と楽しくスパーキングしよう。」
 そんな大自然の中でキラリと煌めく光る流星あり。

 光り輝くナイフは、彼方より放擲され、刈谷融介のケツに突き刺さった!
「おぉーっー!刺激的な攻撃だね。」

65〈私〉:2017/11/19(日) 02:33:09
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 高熱で魘された状態で訪問した〈私〉を、友人は怪訝な様子で迎え入れてくれた。

「倒す?刈谷融介を?」
「ああ、そうだよ神戸屋先生。ロキソニンが効いてきたからね。兎に角誰でもいいから、一緒に地獄に堕ちてくれる奴が欲しくてね。」

「ついに狂ったか。前から君はそんな感じのヤツだと思っていたよ。」
「いや、これは熱のせいではない。風邪を拗らせたからでもない。兎に角、単に予選敗退しただけでは癪だからね。なんかしてやらないと気が済まないんだ。」
 熱気を帯びて説明する〈私〉に、神戸屋先生は冷たい視線を遠くから投げかけた。

「僕は全く興味は無いがね。その刈谷ってキャラは僕たち向きのヤツなのかい?」
「いや、割と真面目なヤツで、性格の悪い食えない性格のタイプのヤツさ。あと読者人気が高い。」
 〈私〉が言うと、神戸屋先生は阿呆らしそうに手を振った。
 こういう時の神戸屋先生は、本当に全く物事に興味を示していない。刈谷融介の人となりにも、わざわざ戦わなくていいのに、触れる必要は無いと考えている。

「人気があるんなら、尚更戦っても意味なく無いか。むしろ周りの反感を買うだろ。」
「良いかい神戸屋先生、全ては可能性の話なんだよ。」
 〈私〉は大分アバウトなことを言った。これは熱のためだ。

「〈私〉は予選敗退した時に、今回の可能性が無くなったと思った。しかしだ、神戸屋先生。〈私〉は他者の物語に登場したのさ。」
「何言ってんだこいつ。」
 神戸屋先生はわりと本気で心配していたが、こういう時の〈私〉は早口で説明が止まらないので、やはり自分でも止めることは無い。

「まあ聞いてくれよ。神戸屋先生。」
「いや、流石に寝ろ。」
 神戸屋先生はしゃがみ、〈私〉の目線に合わせて〈私〉を見つめる。

「いや聞いてくれよ神戸屋先生。〈私〉は他者の物語の中でなら存在し得るのさ。つまり、そういうことなんだ。」
「そうか、成る程な。起こりうることは全て起こりうる。要は、何でもアリってことか。」
 神戸屋先生は立ち上がると、後ろを振り向き、障子の戸に手をかけた。
 その手に力が篭る。

「ならば…今この場が現実ではなく、VR空間だという可能性もあり得るわけか。」
「流石神戸屋先生。話が早い。そうさ。〈私〉はそれが言いたかったんだ。」
 最早恐れは無い。ここはVR空間で、ならばこれはC3バトルだ。

 障子の向こうには戦いの舞台が広がっている。
 それは出来ればブルガリアが良い。

「では障子を開くぞ。」
「ああ。」
 障子を開くと、大自然の中でケツを振る一人の男がケツを振っていた。

 神戸屋先生は黙って戸を閉めた。
「説明してもらおうか。」
 ケツブルガリア。
 今や彼は"その怪異"そのものになってしまったのだ。

「神戸屋先生。戦う前に頼みたいことがある。手伝って欲しいんだ。」

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 あり得たかもしれないもう一つのバトル
 ケツブルガリアVS〈私〉
 地形:ブルガリア

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

66〈私〉:2017/11/19(日) 02:34:32

 〈私〉がケツブルガリアに放った投げナイフは敢え無く彼の肛門に突き刺さってしまった。
 これは〈私〉にとって完全な誤算だった。

「おぉーっー!刺激的な攻撃だね。僕に興味があるんだね?」
 魅惑的なイケメンの顔が股ぐら越しに〈私〉に語りかけてくる。

 刈谷融介は今やケツブルガリアとなってしまった。〈私〉は自分で仕掛けた罠で、他人を怪異へと成り果たせてしまったのだ。

 現象の怪異。もはやケツブルガリアは戦う為に誰かから何かを借り続け、狩り続けるブルガリアの大地そのものと言えるだろう。
 実際それくらい刈谷の能力は強く美しいと思う。

「ケツブルガリア。何故〈私〉のナイフを受けた。」
「青いな。5点だ。お前みたいに5点のヤローは嫌いだな。」
 刈谷…ケツブルガリアはどうやら〈私〉のことがお気に召さなかったようだ。

「ケツブルガリア。何故〈私〉がお前を対戦相手に選んだのか分かるか?」
「知らん。興味も無いし、勝手にやってくれ。」
 ケツブルガリアは高圧的に〈私〉に接してくる。考えてみれば当たり前のことで、彼の性格を考えれば当然の態度だ。
 相手は圧倒的な強者。〈私〉も改めて気を引き締める。

「可能性さ。〈私〉と君が対戦する可能性はあったし、こうして"起こりえた"。だが、それは〈私〉が想定していた事態でもあった筈だろ?それは何故だと思う?」
「そんな事より…見ろよこのブルガリアの大地を。俺は今、すごく開放的な気分なんだ。」
 いろいろ開放的過ぎて大変な事になっているけど…それは言ってはいけない気がする。
 口にすると、その時点でこれまでの刈谷が帰ってこないような。そんな予感。

「ケツブルガリア。君の貸借天はハッキリ言ってかなり弄りがいがある。色々応用が考えられる筈だ。そんな無体な使い方をしてしまうものじゃ無い。なのに、これまでの対戦者達ときたら、みんな君の内面にばかり攻撃を仕掛けてくる。」
「ああ…俺がケツブルガリアになっちまったのも…全部これまでの対戦者達のせいってわけか。」
 そうだ。〈私〉は悪く無い。悪く無いんだ。

「〈私〉なら、ケツブルガリア。君の能力を十全に使い潰してやれる。頼む。〈私〉と戦って欲しい。」
「そんなことして俺に何の利益があるんだね。君もケツブルガリアになったらどうだい?」
 駄目だ!ケツブルガリアはもう、壊れてしまっている!

 刈谷はもう刈谷じゃない!彼はケツブルガリアになってしまったんだ!

「良い加減にしろっ!ケツブルガリア先生!!あの時俺を介抱してくれたのは嘘だったのか!?」
「それは多分君がみた幻さ。私では無い。今の俺はただブルガリアでケツを露出するだけの存在。これが鷹岡マンの望みなら、良いぜ。ノってやるよ。癪だがな。」

「それ以上生意気な口を聞くとファックマリア様を呼ぶぞ。」
「ファックマリア様っ!?」

67〈私〉:2017/11/19(日) 02:35:25

 ケツブルガリアのケツが僅かに動揺を見せた。その瞬間を〈私〉は見逃さなかった。
 〈私〉は口から溶解液を吐き出し、ケツブルガリアのケツに吐きかけた。

「喰らえええ溶解液塗れにしてくれるわ。」
「グォアアアアっー!」
 溶解液に塗れたケツブルガリアは、全身が爛れて死んでしまうのかと思いきや、意外と平気だった。

「馬鹿め。貸借天で溶解液の『ケツブルガリアを溶解する権利』を借りたのさ。つまり、俺の服は解けるというわけだなあ。」
「くそっ!全裸というわけか。」
 ケツブルガリアはみるみるうちに服だけが解け、全裸になった。いや、見ないけど。

「この溶解液の『権利』はまとめてお前に返してやるぜ!お前は今まで戦った中で一番弱かったぜ!」
「エジプトパンチ!」
 エジプト仕込みの〈私〉の右パンチが刈谷に炸裂する。
 貸借天の能力は所詮人間が操るものなのじゃ。ならば、目にも留まらぬスピードで殴り抜ければケツブルガリアは防御出来ないというわけじゃな。

 だが、そんな〈私〉を襲ったのは、無傷でニヤリと笑うケツブルガリアの笑顔だった。
「お前、本当に"魔人"なのか?いくら何でも遅すぎるぞ。そんなパンチ、いくらでも『借りる』ことが出来るぜ。」
「そうか…なら、お前はもうケツを振り回すしか出来ないなあ。」
 〈私〉もまたニヤリと笑った。

 果たして〈私〉はおかしくなったのか。ある意味ではそうだ。おかしくてたまらない。
 ケツブルガリアと一緒になったのか?それは違う。〈私〉は〈私〉だ。ケツブルガリアになんてなったりしない。
 遥かなブルガリアの急峻な斜面でケツを振り続ける、現象の怪異には。

「ほう…やっと僕とケツブルガリアする気になったんだね。優しくしてあげるよ。」
「いやあ…やっぱりお前は馬鹿なんだと思ってさ。」
 〈私〉が言うと、ケツブルガリアは怪訝な顔で〈私〉の瞳を見つめた。

「何故?ケツを露出しているからか?」
「まず一つ。お前は自分の預金残高を頭の上に表示してるが、それはお前には見えない。何故って、〈私〉が確認する為だけにそう設定してもらったからさ。お前がどうしようが、実は関係なかったのさ。」

「何を…言っているんだ。」
「そしてもう一つ。君は自分の能力を可能な限り色々試したとどこかで言っていたが。それは多分嘘だ。〈私〉なら怖くて絶対に自分の能力は使わなくなる。」

 物事の価値を、誰が決めるのか。
 お尻を出した子一等賞なのか?
 借りたら返せば、それでチャラなのか?

「答えはケツブルガリア先生、『特に決めるものは決まってないし、決めるのは自由』だよ。先生。」
「違う…そんなはずは無い。」

「多分、現実が受け入れられないと思うけど、一応言っておくよ。ケツブルガリア先生の能力は本当に素晴らしかった。弄りがいがある。人は認めない可能性が高いけどね。
物事の価値を決めるのは基本的に社会とか国とかだと思うが、君の能力の場合は違う。本当にありがとう。」
「嫌だ…止めてくれ。」

「ケツブルガリア先生の能力をもう一度よく見てみよう。『金銭的価値が不明のものは希少性を中心に利子が決定する。そのため魔人能力などは非常に高価である。』ここを見たときピンときたんだ。そうだ!なら俺と神戸屋先生で物事の価値を決めてしまえば良いってね。
 だってそうだろ?人間が二人以上いれば、金銭的価値は発生するからさ。本来ならそこに他者が介在する余地は無い。民法は私法のの一般法なのさ。
 人間はどんな契約を結んでもいい。それが、民法の大原則。
 ところがケツブルガリア先生の能力は、その契約自由の原則には準拠していても、肝心の公序良俗の原則を無視し続けいることは、これまでの戦いを見れば明らかだ。
 なら?もう一度聞こう。先生、物事の価値は誰が決める?それは〈私〉と神戸屋先生だ。」
「俺は…刈谷融介だ。」

「話が長くて分かりにくかったかな?とりあえずそこの頭に表示されてる金額を見てくれ。ああ、自分では見えないのか。
 そこに表示されているのは…君の預金残高からマイナスして…8かける…10が120個着く。そういう金額だ。先生の能力のもとではあらゆる公序良俗が排除される。本当にありがとう。」
「止めろ…止めろーーっ!」

68〈私〉:2017/11/19(日) 02:37:29

 刈谷融介…ケツブルガリアの頭上に表示されていたのは、マイナス8不可思議円から本来の預金残高を引いた金額だ。
 不可思議。それは那由多の万万倍の単位で、天文学的とかいう数字すらも遥かに超えた、物凄い金額だ。

 何が起きたのか。
 簡単だ。〈私〉は戦いに臨む前、神戸屋先生と二つ以上の契約を交わした。

 『〈私〉は神戸屋先生に〈私〉の行動によって発生するあらゆる"運動エネルギー"に関する価値を譲渡します。』

『〈私〉、神戸屋先生は以下の貸借契約を結ぶ。神戸屋先生は〈私〉に運動エネルギーを貸し与える。その価値は8不可思議円。もし、運動エネルギーを損耗した場合は同額で弁償します。利子は1秒に10割。』

 つまるところ、契約は契約なので、貸借天の前ではこのような契約ですら正常に機能してしまう。
 契約を甘く見るな。これは古代ギリシャ以前から人類が培ってきた偉大なる知識と知恵の結晶だ。

 本当に自分の能力を確認したのか?
 それは一人でやらなかったか?
 誰か…自分の能力を見てくれる、心の友はいなかった?

「ケツブルガリア先生。人類史上類を見ない大借金を背負ってくれて本当にありがとう。俺の負債は全て先生が奪ってくれた。そして、その運動エネルギーは俺のものではなく、神戸屋先生のものだ。どうやって返す?残高が0を切った時点で、能力はもう行使できない。」
「まだだ、返却すれば…」

「ケツブルガリア先生、これはあくまで可能性の話だが…『〈私〉だけが実在を主張する人物を、どうして存在すると理解できる?』神戸屋先生が〈私〉の妄想だけの存在だと、どうして疑わないんだ?そして、この言葉を聞いた時点で、起こりうることは全て起こりうるのさ。」
「え…」

 チェックメイトだ。ケツブルガリア先生。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 その後、刈谷融介…ケツブルガリアは普通に殴って〈私〉に勝利した。
 〈私〉は体力的には魔人に劣り、所詮は雑魚だったのだ。
 ケツブルガリアは…8不可思議円を超える、ギネス級の大借金を背負ったまま、C3ステーションを追い出されるように後にした。

 そこにいたのは…眉目秀麗な美男子ではない。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

69〈私〉:2017/11/19(日) 02:39:06

「俺は刈谷融介…外面だけはいい27歳無職。人に不快感を与えない風貌に、いつも笑顔を絶やさない温和で心優しい人物だと思われている。」

 これでいい。外面さえ取り繕えば、心の中まで顧みられない。
 他人にも、自分にも。

「俺は刈谷融介だ。見れば分かるだろう。」

「刈谷融介だ。そんなに証拠が欲しいのか。」

「刈谷融介は笹倉砂羽のことが好きではない。俺も、刈谷融介のことが嫌いだ。」

「俺は刈谷融介だ。笹倉砂羽のことが好きではない、刈谷融介なんだ。」

 毎日の日課だ。鏡を見て。自分が誰なのかを再確認する。
 コツは、電話でもいいので誰かに話しかけながら確認することだ。

 振り向いてくれ。
 頼むから。

 俺は狂ってない。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

「面白くないなぁ、そういうことされちゃうの」

開口一番であった。しかし言葉とは裏腹に、鷹岡集一郎の表情は屈託のない笑みのままだった。

「せっかく残虐婦女暴行殺人ストリーマーのキルヶ島シャバ僧にVRカードを送ったのに、君がボコボコにしてカードも奪いとっちゃったんだって?しかもうちの諜報部も返り討ちにしたそうじゃないか」

★★★★★★★★★★★★★

「面白くないなぁ、そういうことされちゃうの」

開口一番であった。しかし言葉とは裏腹に、鷹岡集一郎の表情は屈託のない笑みのままだった。

「せっかく君にVRカードを送ったのに。しかもうちの諜報部も返り討ちにしたそうじゃないか、残虐婦女暴行殺人ストリーマーのキルヶ島シャバ僧くん。」

俺は狂ってない。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
 
「もう飽きたからさあ、何もかも止めにしちゃおうよ。」

 刈谷融介…ケツブルガリアは雨に打たれながら歩いていると、正義の味方タカオカマンに声をかけられた。

 鷹岡集一郎。その正体は、昼は外道行為に手を染め、夜は少女とOLの夢と希望を守るために戦う、正義の味方タカオカマンだ。
 彼の全ては道楽行為。正義も企みも、全てが同じ天秤の秤に乗っかっている。
 釣り合う対価は存在しない。

 だから存在できる。だから両立する。

 そんなタカオカマンに、彼も憧れている時期があった。

「タカオカマン…助けてくれ。」
「おいおい。此の期に及んで救いを求めるのかい?これは君が望んだ結果だろう?」

「助けてくれ…砂羽を!あの子は何も悪いことをしてないんだ。なのに…なんであの子があんな目に会わなくちゃいけなんだ。」
「言うに及ばず、だよ。正義の味方タカオカマンは婦女子の強い味方だからね。」
 タカオカマンが翼状のマントを翻すと、その場には初めからそこにいたかのように、笹倉砂羽が現れた。
 砂羽はしっかりとケツブルガリアの目を見つめていた。

「砂羽…」
「ユースケ…」

 二人はしばし無言で見つめ合っていたが、業を煮やしたタカオカマンが口を開いた。
「いい加減にもうやめたらどうだ。キルヶ島シャバ僧。僕の偽名を演じるのは。」

70〈私〉:2017/11/19(日) 02:39:54
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 キルヶ島シャバ僧。男優。
 かつて業界を追われた彼は、刈谷融介こと鷹岡集一郎が脱税の為に建てた映像会社で、婦女に残虐、暴行、殺人をする端役に成り下がっていた。

 彼はいつも正義の味方タカオカマンに倒される役だったが、女性に対する苛烈な行為が一部で人気を博した。

 いわゆる裏ビデオというものだ。
 会社名は『ケツブルガリア』。
 そんな中で、一人の女性と出会った。

 笹倉砂羽…彼女は、出会った時から"完全に壊れていた"。完全に壊れた人間は、二度と修復できない。
 しかもこの砂羽という女性、鷹岡集一郎の幼馴染で、鷹岡の手によってこの業界に沈められたという。
 それもただの道楽行為だ。
 鷹岡集一郎にとって、笹倉砂羽はその程度の価値しかなかった。

 だが、砂羽は、 どこまでも鷹岡に執心していた。それだけが唯一の希望と言わんばかりの目をしていた。
 しかし、彼女は壊れていたので、鷹岡のことを鷹岡と認識しないことにしているようだった。代わりに、他の人を鷹岡と刈谷を別個の人物と認識するようにしていた。

 その希望が、キルヶ谷は好きになった。
 だってそうだ。何故なら、彼女はこの世界で唯一完全な被害者だから。

 魔人能力もその時に身につけたものだ。
 まず、貸借天の能力で『借りた』のは鷹岡集一郎の『刈谷融介』である権利。

 そこからは、自分が刈谷融介であることを自分に言い聞かせることに終始した。
 最近は、砂羽も漸く自分が刈谷だと認識してくれているようだ。

 砂羽は、ユースケが好き。
 融介は、ユースケが嫌い。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

「お前がどれだけ砂羽に尽くしてきたか。知らぬ砂羽ではあるまい。いい加減に認めたらどうだ、キルヶ島。笹倉砂羽は刈谷融介ではなく、キルヶ島シャバ僧に救われたのだと!」
 タカオカマンの叫びが雨夜に反響する。
 ケツブルガリアは…泣いた。

「お前の借金は俺が背負ってやる。刈谷融介の権利を一旦俺に返せ!そうすれば、もう一度ゼロからやり直せるだろう。」
「何故お前がそこまでするんだ…砂羽を壊したお前が。」

「黙れヒョウロクダマ!俺は自分が気持ちよくなれれば一番良いんだ。今、どうしようもないお前を救ったら最高に気持ち良い気分だ。私の気が変わらないうちに早く!」
「ユースケ…誰がなんと言おうとあなたはユースケよ。いいえ、ケツブルガリアよ。ケツブルガリアのケツブルガリア、最高にカッコよかった。」

 笹倉砂羽は…とうに救われていたのだ。ケツブルガリアによって。
 その日、ケツブルガリアが流した涙はわりと良い値段で売れた。

 その後、タカオカマンに天文学を超える大借金を押し付けたが…何をどうしたのか、翌日には鷹岡集一郎は元の資産規模に戻っていた。
 そう、破産宣告をしたんだね。賢いね。

 おわり

71ゴメス:2017/11/20(月) 12:08:38
最終ssまで書き終わったから白状します。
ゴメスにはモデルがいます。
喧嘩家業のカブトを参考にしました。

72〈私〉:2017/11/23(木) 08:56:01
明らかにカブト以外も混ざってたような…

それはそうとカブトのプロレスは作中で中坊相手にしか披露されていないので、早くパワースピードテクニックを兼ね備えたカブトの戦いが見たいですね

73天問地文:2017/11/25(土) 03:33:35
『答え合わせ』

※注意:この幕間は第4ラウンド第8試合・オフィスビル街その1の重大なネタバレを含んでいます。
まさかいないとは思いますが、現時点で未読の方は読まないようご注意ください。











……よし、こんなもんでいいか。

さてさて、オフィスビル街その1の最後に暗号のおさらいをしていただろう?
アレを解読するとどうなるか、だな。解読方法はもう教えたから答えだけ言うぜ。

「け い た い で よ め」

携帯で読め、となる。
携帯から読めば、俺の『孫』が世界をひっかきまわす様子が見られる、って寸法だ。

……あ?携帯電話を持っていないからなんとかしてくれ、だと?
しょうがねえな。
アドレスの「dngssc3」ってところの後ろに「/sp/」を付け足してみな。
これでパソコンからでも、覗き見できるはずさ。

……ん?先に携帯から見た?
それはそれでいいんじゃねえか、ままならないのが人生ってもんだ。

74天問地文:2017/11/25(土) 03:34:42
(……こんなもんで良くなかったな……悪い悪い。改行が足りなかったぜ)

75minion:2017/11/25(土) 20:41:23
銀天街飛鳥。
tps://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=65832330
世界じゃあ2番目だ。

可愛川ナズナ&桜屋敷茉莉花。
tps://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=66025856
奇術師と令嬢。

珀銀。
tps://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=66025647
二刀流の女剣士さん。

76狭岐橋 憂:2017/11/25(土) 21:08:20
ラジオ間に合わなかったけど結果発表前にと思って

77狭岐橋 憂・プロローグ Side.K:2017/11/25(土) 21:10:10
私のいた学校について「私立ならではの部分は?」と聞かれたら、何パーセントかは「修学旅行で海外に行くこと」だと答えるだろう。
もうどれくらい前の話かも思い出せないけど、あの日、私たちは修学旅行の真っ最中だった。
エキゾチックな寺院。
歴史を感じさせる内部の装飾に私は見入っていた。
生徒の列の前方で解説する先生の話も耳に入らないほどに。
今ならば、私はこの寺院が作られた時代にも、
装飾に語られる神話の時代にさえも行くことができるだろう。
でもきっとこの時と同じ感動は湧いてこない。
私の心は乾いてしまった。
隣で同じように天井を見上げる親友・憂を、この直後に失ってしまったから。

「お前ら、日本人だな?」

寺院から外に出たときには既に囲まれていた。
武装した男が数十人。

「ようこそ! 【LOVE・サバイバー】の縄張りへ!」

リーダー格らしい大柄の男が大きく手を広げる。
その姿はまるで演説で大げさなポーズを決め民衆の情に訴えかける政治家であった。

「率直に言う! 組織拡大のためにお前らの金が欲しい! それに……」

男の視線に背筋が寒くなる。
私たちを順に見渡しながら見定めるような視線。

「お前らの貞操も欲しい!」

私たちの学校は女子高だった。
当然、生徒は女の子しかいない。
無駄なあがきだけど、私たちはお互いに身を寄せ合った。
泣き出す子もいた。
私たちの姿を目に、唯一の男性である先生が男の前に進み出た。
先生も、足は震えていた。

「お金は渡します。ですからどうか、この子たちは逃がしてやってくれませんか」

「嗚呼、今時なんという素晴らしい教師! 金も我が身も顧みず、ただただ生徒の安全に気を配る!
 どれほどの聖職者か! 許されるならば、この教師を仲間に引き入れ、心ゆくまで女子高生の身体を味わわせてやりたい!」

「えっ!?」

そこで動揺はしてほしくなかったな。
なんて思っていると、男がするりと懐から銃を取り出した。

「だがやはり、男は死ね!」

私の世界が終わったのは、このときだった。
男が引き金を引く。
弾が、先生にめがけて飛んでいく。
集団の中から一人の生徒が、憂が飛び出す。
憂が、先生を突き飛ばす。
憂が、弾を受ける。
憂が、倒れる。
憂が……。

「ちぃ、一人減っちまったじゃねえか。今度こそ……」

「ウガァーッ!」

「な、なんだ!?」

78狭岐橋 憂・プロローグ Side.K:2017/11/25(土) 21:11:01
私には憂しか目に入っていなかったが、音は聞こえていた。
テロリストの一部の悲鳴と、そいつらが吹き飛ぶ衝撃。
そして、一人の男の声が。

「トム……おめえ!」

「おお、これはこれは我が友・尻手翔ではないか! なんだその目は。
 このオレが本当は蚊も殺せない善人だとでも思ってたのか?
 許されるならば、それが勘違いだということを、その身に刻み込んでやりたい!」

テロリストたちが銃を構えるのを横目に、私は憂のところに駆け寄る。
心臓は……止まっている。
息は……していない。
瞳孔……見てもよく分からないけど、感じが、いつもと、違う。
憂は魔人だった。
とんでもない力を持っていた。
でも、男の前では無力だった。
そんな憂がどうして飛び出したのかは分からない。
ただあるのは、憂が死んだという事実だけ。

「悪りい、その嬢ちゃんは間に合わなかった。俺が奴を逃がしたせいだ」

尻手翔という名らしい男が、私に声を掛ける。
そんなこと、謝られても意味がないのに。

「そこの先公! 俺のケツを蹴れ」

尻手翔は血迷ったことを口にした。

「は?」

「そういうモンなんだよ、俺の魔人能力は」

「……っま!」

先生は驚いているようだけど、この人数相手に一人で戦えるのが魔人じゃないわけないじゃない。
魔人が怖いのはしょうがないけどさ。
それでも、使命感からか、先生はよろよろと立ち上がった。
そして、弱弱しく尻手翔のお尻を蹴った。
尻手翔の筋肉がわずかに盛り上がる。

「おい先公、もうちょい気合いを――」

尻手翔の言葉は一斉に発射された銃声の音にかき消された。

「――っつ! だが、なんとか耐えたぜ! ありがとよ、『お前ら』のスパンキング!」

とっさに瞑っていた目を開けると、尻手翔の筋肉は、常識ではありえないほど膨らんでいた。
後に知った彼の能力『ラスト・スパンKING』の発動だった。
お尻に攻撃を受ければ受けるほど強くなる。
最初の先生の蹴りでわずかに強化された尻手翔は、銃弾のひとつひとつを捌きながらパワーアップに利用していた。

「とはいえ、さすがにこの人数を守りながら戦うのは辛れえ! 俺が道を拓くから、逃げれる奴から逃げてくれ!」

そこからは阿鼻叫喚だった。
真っ先に逃げ出す子。
追うテロリスト。
遮る尻手翔。
最初は震えて逃げられなかった子も、友達に支えてもらい、後に続いていく。
尻手翔は強かった。
一人一人が訓練されていたであろうテロリストを、ことごとくお尻ひとつでいなしていく。
それだけに、私の中で怒りが湧いてきた。
こんなに強いのに、なぜこいつらを逃がしたのか。
そのせいで憂は……!

「ちい、やはり一般兵では何人揃っても一緒か!」

お互いの人数が半分くらいになった頃、たしかトム……と呼ばれていたリーダー格の男が叫んだ。
するとトムの横から一人の男が声を掛ける。

「へへへ、どうですダンナ? 一踏み一万ドル、契約します?」

この場では異質な男だった。
武装もしていなければ、格闘にも向いていなさそうなひょろい体格。
会話の内容も含めて考えると、おそらくはトムの雇った魔人だろう。

「許されるならば、お前を散々使い倒した上で、契約料など踏み倒したい!
 だがいいだろう『シャドー』! 尻手翔を始末できるなら、一万ドルなど安いものだ!」

「へへ、お買い上げぇー」

そう言って『シャドー』は歩みを進め……尻手翔は凍り付いた。

「!?」

金縛りにあったように全く動けないようである。
『シャドー』が得意げに口を開く。

「へっへっへぇー、あっしの『影踏み』に掛かるとぜーーったいに動けないのでやんすよ。
 ダンナもさすがに正面からなぶり続ければ死ぬでやんしょ?」

それは、絶望的な宣言。
この場で唯一状況を変えられる男を失った。
もはや、先生は殺され、私たちは堕とされる。
それならばいっそ、私も憂と同じ世界に……。
でも、できなかった。
憂は特別だけど、今残っている皆だって大切な友達だから。
だから、ムカツくけど、今あの男を失うわけにはいかない。
私はどうなってもいい。
皆が、逃げられるように!

79狭岐橋 憂・プロローグ Side.K:2017/11/25(土) 21:11:18
「へっへーい!」

突然お腹に衝撃を受けた。
だけど、後ろに倒れることができない。
お腹を抱え込むことも。
どうして、私の目の前に『シャドー』がいるの?
どうして、魔人に殴られても大丈夫なの?
その問いに対して、『認識』はすぐに追いついてきた。
『大切な人と、位置を入れ替える魔人能力』。
『大切な人』というのが、のっけからかなり拡大解釈じゃないかなぁとは思うものの、とにかくこれで――。

視界の端で、尻手翔が一瞬の状況の変化に気付いたようだ。
もちろん視点の変わらない『シャドー』の方が入れ替わりには早く対応できた。
だけど、もう能力を知られてしまった『シャドー』は尻手翔の敵ではなかった。
尻手翔の影は『シャドー』の足をするりとかわし、尻が『シャドー』の顔に突き刺さる。
『シャドー』は泡を噴いて倒れた。

「さて、残党整理よ!」

私は殺る気に満ち溢れていた。
憂を殺した奴らを、絶対に許せない!
と、構えたのに。

「お前、何言ってんだ!」

尻手翔が遮る。

「大丈夫よ、さっき魔人に目覚めたから」

「いや、でもよ、あの感じだとお前の能力ってテレポートとかだろ? 普通の魔人の身体能力だけじゃ銃には勝てねえぞ?」

「えっ……」

それは知らなかった。
憂の能力なら多分銃にも勝てただろうし、目の前の尻手翔も銃をものともしなかった。
だからてっきり、魔人なら銃に勝てると思ってしまっていた。

「まあ、魔人に目覚めたのは別の意味で都合がいい。俺の尻を蹴ってくれ」

「は?」

先生と同じやりとりを繰り返すことになった。

「だから俺の能力はそういうモンなんだって」

それはもう分かっている。
私が言いたいのは「女にやらせる?」って部分なのだけど。
まあいい。
こいつらを逃がした恨みだ。
私はそれはもう殺すぐらいの勢いで、尻手翔のお尻を蹴った。

「よっしゃー! お前のスパンキング、受け取ったぜ!」

「キモイ!」

私の魔人の力を受けてはるかに膨れ上がった尻手翔は、そのまま残党共を空の彼方へ吹っ飛ばした。

「許されるならば、こんな雑なまとめ方じゃなく、ちゃんとしたバトルで負けたぁーーい!」

80狭岐橋 憂・プロローグ Side.K:2017/11/25(土) 21:11:30
修学旅行から戻ってから、私は登校する気が起きなかった。
友達と顔も会わせ辛く、寮も引き払った。
ご飯を食べるのとお風呂に入るためだけにリビングに降り、あとの時間は部屋で過ごした。
パジャマも着っぱなしだ。
引きこもり、というやつだ。
別に魔人になったからといって疎まれているわけではない。
多分、最後まであの場に残っていた子たちが気を利かせてくれたんだろう。
だから理由はそうじゃない。
理由はもちろん、憂がいないからだ。
憂がいつもの席にいない風景を見たくなかった。
そんなことしても憂が生き返るわけじゃないのに。
あの日、もう少し早く私が能力に目覚めていれば、憂の身代わりになれた。
だけどもう時間は戻ってこない。
絶対に。

「絶対に?」

頭の中で何かが引っかかった。
あの日……そうだ、あの日。
「ぜーーったいに動けない」尻手翔を、私が、この私が動かしたんだ。
そうだ、私の能力は『絶対』を覆せる。
じゃあ、じゃあ、「死んだ人間は『絶対に』生き返らない」っていうのは?
何の根拠もないけど、でも、覆せるかもしれない。
もし、そんなことができるのなら。
憂が取り返せるのなら。

「それが、できるなら……『私は、神に愛されている』」

その言葉を鍵に、私の『転校生』への扉が、開いた。
そして私は自分の能力に名前を付けた。
これは憂、あなたのための能力。

『for you』

81可愛川ナズナ:2017/11/25(土) 21:25:41
tps://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=65898862

82ニャル@滝口:2017/11/26(日) 01:24:29
tps://dl.dropboxusercontent.com/s/rdvgmla0gi9ac23/ssc3-2.jpg

こっそりこっちで自分語り。
プロローグ・GKのプロローグに触発され書き上げて送る。
五段階を四段階と間違って表記するぐらいだから勢いだけ。
一回戦。キャラ設定ほとんど考えてなかったので、対戦相手の刈谷を参考に決定。
対比になるように理想主義者に設定。なのでハピエン厨は刈谷の影響です。パパー!
二回戦。一回戦のななせちゃんの物語から、リベンジマッチにする。
一回戦からの能力解釈が全てだったので、あの一回戦がなければ書けなかった……。
三回戦。書籍発売やら宣伝とタイミングが重なって時間が取れず……。
でも……「負けSSにしたら2-1になってワンちゃんななせちゃんと戦えるな?」と思ってしまった……。
四回戦。勝負を投げ捨てるつもりの後半。
ここは本当に迷って、投票期間中に削除申請まで一度送った(GKに叱られた)
でもあれは幕間ではない、本編としてエンドマークを付ける最後のチャンスだったと今では思う。
止めてくれてありがとう、GK。刺さってくれた人もいたようなので何より。
プロローグから4回戦までの限られた5Pでは、最高の物語を書き上げたと思ってるぜ!
だから反省しないはしてない! 読んでくれてありがとうなー!

83ニャル@滝口:2017/11/26(日) 01:26:45
>>82
反省してない!の間違いだ! しまらねぇー!
メンタルがクソ雑魚なので迷惑かけてすまねぇ!

84夕二(ゆうじ)@稲葉白兎:2017/11/28(火) 07:39:35
ダンゲロスSSC3お疲れ様でした!

EDイラスト『世界中を驚かせてしまう夜になる』
tps://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=66073148

85ニャル:2017/12/02(土) 16:26:11
幕間SS ダンゲ✕ロンパSSC3

イナリ「死体が発見されたのじゃ! これからみんなにはVR空間で犯人当て学級裁判をしてもらうのじゃー!」

くもり「というわけで私が殺されたらしいから、よろしくね」
ミルカ「そんな……荒川さんが死んでいるなんて……! いったい誰が……!」
稲葉「お、ノリがいいねぇミルカちゃん! ちなみに俺っちはやってないぜ! なにせ俺っちは”逃走王”。魔王なんて戦いにもなりゃしない」
ナズナ「死因は刃物……。これはもしかして、DSSバトルの焼き直しなんじゃ……?」
絆「わ、私じゃないよ! 刃物を使う人なら、他にもいるし」
憂「わわわ、私は犯行時刻付近は翔さんのトレーニングに付き合ってました! 本当です!」
翔「ああ、それは俺が証言するぜ。この尻が動かぬ証拠だ」
露出卿「ふむ、吾輩含めて刃物を扱う者は多数いるな。それに他の者も、刃物を扱う手段がないわけでもあるまい」
刈谷「俺の能力なら刃物なんていくらでも借りられるしな。しかしそれを言うなら、そこの似非怪盗だって外見や他人の能力を借りられるんだろ?」
ニャル「ああ? そりゃそうだが、わたしだってその時間はななせと一緒にいたよ。なぁ、ななせ」
ななせ「うん。ニャルちゃんが支倉さんに追われてたから、ちょっとだけ匿ってたんだ。2時間ぐらいかな?」
支倉「ああー、そうだったのね。ちょっと食べて欲しかっただけなのになぁ。あ、もちろん私の体じゃなくて、普通のごはんの方ね。腕によりをかけて作ったの」
つくね「あの調理場のちゃんこ、不思議な味だと思ったけど支倉さんが作ったんだね! 美味しかった! でも殺人事件を解決するっていうなら、打ってつけの人がいるんじゃないかな?」
銀天街「まあ私が推理するまでもないさ。というか、大真面目に推理している人がいたら申し訳ない。次に喋るヤツが犯人だ」
ゴメス「ああ、俺が犯人だったんだ。えっマジ?」

86夕二(ゆうじ)@稲葉白兎:2017/12/10(日) 12:38:23
待たせしましたSSC3
ボードゲームカード化しました!!
1弾、2弾で全32名34枚の大ボリューム!!
イラストはminionさん、ヴィピアンさん、ささささんに協力してもらい超豪華!!
さぁ君の手でSSC3を続けよう!!

両弾ともpixivでダンゲロストーン10個で配布中(嘘)
え? 足りない? C3ステーションに詫び石をたかろう!!(嘘)

第1弾 〜選ばれた16人〜
tps://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=66219173

第2弾 〜ハッピーバースディ〜
tps://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=66219224

87蜜ファビオ:2017/12/10(日) 17:28:47
幕間SS「拘束と衝突〜ラストレシピ〜」(後編)その1

●人物(ダンゲロス流血少女)
真野片菜。転校生。
黒い瞳、黒の長髪、長身貧乳の女性。

かの剣は、無双にして唯一、あらゆるものを両断し、
かの身は、「空」にして押し寄せるあらゆるものを流転する。
信に厚く義を重んじ、理を外さない性格であり、妃芽薗学園において誰もが頼り、
誰もがかくありたいと願う学園『最強』。

だが、何故か彼女を識るものは学園にいない。
安全院ゆらぎの古き友人。だが、その真実の意味を識るものは真実をおいてほかにいない。
彼女は駆ける、あの日あの刻の約束を守るため。
そして果たせずの誓いを果たすため、彼女は時代の奔流のまっただ中を駆け抜ける。


●―魔界ケ辻ー(元世界時刻:2014/12/26)

逢魔が時。
それは全ての時が交じり合い。行きかうという時空の交差点


「   ほわんほわんほわん〜まのまの〜      
というわけで”誠意ある説得”の末”善意の協力”を取り付け僕は今君の目の前にいるのでした〜。ってアレ?」

てっきり罵声か斬撃が飛んでくるかと身構えていた白帽子。だが、予想に反し、女からの答えは沈黙だった。沈黙ののち、ため息。ただ、その吐息には前のような殺気もいらだちは含まれてはいなかった。

「その手の悪ふざけを含んだ言いざまは感心しない――――が、存在をかけてまで戦う者の言葉もまた無下にできるわけがない。お前は私を止めに来た。命と存在をかけてまで。最後まで話せ。そして言うべきことを私に告げろ。」
ただ、凪のように静かな声で彼女は告げた。
白帽子はちょっと困ったように視線を宙に泳がした。どうやらどこかで真意が悟られてしまったらしい。

「最後――話の残りは『時空時計』事件の顛末だけなんだけど、実は”僕たち”にとって
本当にたちの悪い話はここからなんだ。
”迷宮時計”の発生を認識した当初、識家の中で事態はそれほど深刻に受け止められていなかった。
何故発生したか謎は謎だが”全智全能に等しい力”を保有する識家の力をもってすれば、
過去の経緯をさかのぼり、必要な情報を取り出すことはそれほど難しいことではない、そう捉えられていたんだ。

ある意味それは正しい、ワンターレンと時逆順の能力はたしかに強力であるけど、全能ではない。そして識家の力は全能に等しい。
誤算があるとすれば、その全能に等しい力とやらが『時空時計』の前には全く歯が立たなかったことぐらい。全く奢れるものは久しからずだね。

『遡れない!そんな馬鹿な!』
担当者はそう叫んだそうだそうだよ。
『この私が時空の優先権が取れないだって!?ありえない絶対にありえない!十束学園の秘奥の武装『時の導き手-クロックアーム-』装着する事で時間を自由に操る事が可能になり、時間改変はあらゆる能力による改変よりも優先されるといわれる学園長が持つ門外不出のS級神具『時の導き手-クロックアーム-』でも使わない限り、こんな馬鹿なこと、絶対に起こりえるはずがない。何かの間違いだぁぁぁぁ。なお『時の導き手』の詳細に関して知りたい人はダンゲロス流血少女2の白河一の項を参照してネ、うぃあでゆー☆』と。」

「…誰だ、その担当。」
もっともな疑問だが生憎どこからも返答はなかった。
女はMrウィッキーが語ったという言葉を思い出す、たしか彼は「複数の転校生または”転校生クラスの力”の複合によってもたらされた現象といってはいなかったか。
時間に関する優先権をとられていた…不可能…今までの在りえない展開の数々…。

「十束学園の神具が実際に使われていた?」
「その思い付きで正解。これは後追いの調査で判明したんだけど、実は”偶然にも”あの世界線に十束学園の最高戦力”ストレングステン”の白河一が派遣されており、その活動期のはじまりが”たまたま”2014年下半期、迷宮時計が発生したその日その時とぴたり重なっていたんだ。」

そういって右手と左手の人差し指を合わせた。
すごい偶然だね!
ただでさえ軽薄な白帽子の物言いが天井ふきんでふわふわ漂っていた。もはやフレンチカンカンを踊りだしそうな勢いだった。そんな偶然があるわけがない。つまり何者かの意図が働いたということだ。

88蜜ファビオ:2017/12/10(日) 17:36:20
ラストレシピ(後編その1)の続き

==============================

「”迷宮時計”は『時空時計』ではなかった。
だが時計の位置を合わせるように綺麗に重ねられた動き、その短針と長針を見て、我々はそれが同じものだと勝手に勘違いしていたんだ。
伝承によれば神具は『手甲にアナログ時計をはめ込んだような形をしている』そうだから
各地に飛び散った”迷宮時計”のかけらの中に紛れ込んでしまえば、その看破はまあ無理だろうね。実際、魔力波長も極めて近いものだったし。
結局、真犯人にとっては”迷宮時計”はもう終わった存在で次の犯行の準備のためのデコイでしかなかった。
迷宮というミストで隠した本命は白河一の派遣先。十束学園支配下の『妃芽薗学園』だったんだ。そしてそこは―――」
「先日の妃芽薗2回目となる黙示録において”安全院ゆらぎ”が復活をした場所であり、そのもとに向かおうとする私が最初に選ぶ場。
つまり―――転校生連続殺人事件の次のターゲットは”私”というわけだ。」

白帽子は首肯した、僕はここで君を止めるために来た。そして地におち、分かれた標識を再度指さした。
『最強』の二つ名を持つ転校生、真野片菜。君は彼女の『物語』に足を踏み入れてはいけない。
例え『最強』であっても。
その先、DANGEROURS生命の保証なし。

◆◆◆

真野片菜は自らが両断したプラカードに歩み寄ると拾い上げ、その断面をすいっと合わせた。

「むこうの状況はどうなっている?」
「真犯人の『物語』に踏込かねないので干渉は自重はしているけど、相当錯綜してるみたい。
主な原因は学園首謀者だった白河一がハルマゲドン直後に行方知れずになっているためで、学園側もその原因を掴めてない様子。あの子も同時に姿を消しているから、白河のひと多分、運悪くあの子にぶち当たって隷属しちゃったんじゃないかなー。あとなんかデカい『薔薇』が一輪咲いているらしい。」

「まあ。そんなところだろうな。『薔薇』?」
「うん『薔薇』。赤いやつ」
「だが、すでにその白河某がゆらぎに膝を折っているなら互いに争う理由はない。私の世界渡航を止める必然性はあるのか?」

男は投げ返された標識を軽く振ってみる。それはいかなる技をもって切られたか吸い付くように接合を果たし、完全に融合していた。標識や薔薇より前に十束学園関係者が目をむきそうな発言があったような気もするが二人は特に気にしなかった。実際、事実であったし。

「確かに白河一と君が正面からぶつかる線はほぼ消えたと思う。けど、それくらい『真犯人』は織り込み済のはずだ。本当の危険はそんなことじゃないくらい知っているだろう。策にしてもいくらでも代替えは効く。
例えば、君、『最強』の登場をもって十束学園は一連の混乱と最高戦力の喪失を識家の手によるものではと疑い始めるだろう。逆に識家は神器の件から「転校生連続殺人」に学園が関与した疑いを払しょくできず、手を色々出し続ける。その両者の疑念に水をやっていくだけでことはすむ。
両陣営とも今まで直接的な衝突は避けてきたが基本的に敵対関係といっても関係だ。これを契機に大規模な抗争に発展していっても不思議ではない。というか僕ならそうする。
だって一度そうなれば、ほら、あとはもう――――――『殺したい放題』になるわけだし。」

「虐殺」というつま開いた事態になってしまえば、もう隠匿する必要すらない。あとは一気苛勢に一切鏖殺。殺しつくすのみだ。そういう相関図(プロット)をかき上げてしまえばいい。
きっといい花が咲くだろう。そこまで言って白帽子が首をかしげた。花…花。何かが引っかかったが。どこだ。

「…まあ、そんな死に方をし始めるようなら、幾ら彼らが死のうが責任持てない。他人事ですますよ。
それに最悪の展開は過程で君が死ぬことであることは、変わりない。結局、事態の危険度は変わらない。
君は”安全院さん”の安全弁だ。
あの子が先に死ぬのはいい。その時傍らに君がよりそっていてくれさえすれば、あのこは満足して受け入れるだろう。だけど、逆は駄目だ。それでは暴走した肝心かなめの時に『事故』を止めれる人間がいなくなってしまう。」

――あの人はいない、だから、次はない。―――
図らずとも二人の心中は一致していた。だが、進む道が同じとは限らない。女は歩みを再び始める。
 、、、、、、、、、、、
「適切なアドバイス感謝する。十二分に注意させてもらう」

カタナは折れず曲がらず突き進む。
結局、彼にできたのは10分余りの足止めだけだった。
君が本気になったら誰も止められない。そういったのもまた外ならぬ彼だった。

「これから…
これから君の行く先は魔界の底。地獄にも等しい場所だ。それでも歩を進めるかい?」

89蜜ファビオ:2017/12/10(日) 17:40:43
ラストレシピ(後編その1)の続き。その2へと続く・・・(全然終わらない)

==================================

最後に投げかけられる真実の言葉。それは事実であり同時に呪いの言葉でもあった。
女は答えた。無論だと。

「そしてその行いは正しく自業自得。何が起ころうともその結果を誰のせいにもできない、その責と愚かさをすべて君自身が引き受けなければならない。そんことを誓えるかい?」

真実の言葉。それは彼の責任逃れの言葉であり同時に彼の優しさでもあった。
女は答えた。どんな災厄を引き起こそうとも誰も責めはしない、全ては自身の愚かさ故。女は笑った。

「安心しろ、ゆらぎをおいて私は先に死ななない。それがあの男との約束だ。同時にもう二度と死なせもしない。それが今の私の誓いだ。」
「ならもう止めない。無駄に時間を使わせてしまってごめんね。」

女は振り返った。何故男が謝るか女には理解できなかったから。そして、その男の名前を最後に呼びかけようとし、それが使えないことに改めて気づいた。
頭の中で形作れる言葉を探す。そして彼の師がとった先例に倣うことにした。

「さようなら、”あんちゃん”。」

男は音もなく静かに笑った。
「懐かしいな、初めて会ったころそう呼んでくれたっけ。でも、それ、たぶん過去一回くらいしか聞いてない言葉だ。」
女は少し顔をゆがませると、吐き捨てるよう吠えて答えた。
「当たり前だ、こんな恥ずかしい台詞、誰が二度というものか。」

出会いは偶然で会ったかもしれない、だが出会えば必ず別れがやってくる。両者の間に必ずそれは必ず舞い降りるものだ。そして、再会の期がいつか、また別れが永劫のものとなるかを人の身では知ることができない。


「じゃ僕も二度といいそうもないこと言っておくとする。

真野片菜、 『妹を頼む』 」

「―――――――――――――――――承知した。」


そして、それが二人が面と向かい話す、最後の機会となった。



●―逢魔が刻 999番地―

そこは全てが行きかうという逢魔が刻。その地には残されたのは男ひとり。

「―――かくてこの世はこともなし。やれやれ僕たちは実に無力だね。」

そう首を振った拍子に耳につけたイヤリングが揺れる。男はついと片手を耳の装飾具に当てた。

「で、そちらの結果は?」
その問いに、どこからともなく返答があった。





「結論から言おう。進道 ソラは”大当たり”だ。」

                    (その2へとつづく)

90狭岐橋 憂・エピローグ:2017/12/10(日) 19:26:32
見上げると、上層階の欠けたC3ステーション本社ビルが目に入ってくる。
そのバーには1組の男女がいた。
女は酒が飲めず、男は未成年である。
ロックのウーロン茶を一口あおり、女――露出卿は話を切り出した。

「運営から特別に聞かされた話であるが、『真の報酬』の対象者は吾輩となるらしい」

天問地文の復讐、鷹岡集一郎の暴走、人類チャンコ化事件。
長い長い1日であったが、この日、DSSバトルは全ての対戦を終了した。
6つの試合に決着が付き、支倉饗子は彼女のVRカードを持つ者がいないため、稲葉白兎は試合に現れなかったため、それぞれ不戦敗となった。
そして視聴ポイントの集計は既になされており、後は明日の表彰式を残すばかりとなっていた。
男――“スパンキング”翔は、やや神妙な面持ちで露出卿の言葉を聞いていた。
しかし、コーラのソーダ割を一気に飲み干すと、翔の表情は爽やかな笑顔に変わっていた。

「そうか、おめで「吾輩は次点のお主に権利を譲渡するつもりでいる」

翔は数秒考え、ゆっくりと口を開く。

「いいのか? お前にだって変えたい過去の一つや二つ、あるんじゃねえか?」

露出卿はまぶたを閉じた。浮かんでくるのはあのドラゴンの姿。救えなかった人々。しかし。

「今日の戦いで一つ思い出したのだ。あれはまさしく天災であったよ。
 あの時、吾輩はもっと救えたのかもしれぬ。だが、救えなかったことが今に繋がっている」

露出卿が基準にしたのはあくまで『今を生きる人間』の側だった。

「翻ってあの娘の場合、過去の行いを自分の『罪』だと認識している」

翔の頭に疑問符が浮かぶのを見て、露出卿は続ける。

「彼女の見せていた意志の強さは本当の強さではない。
 彼女は今も自らの『罪』に対する使命感で動いているのだ」

翔はそこでテーブルを叩いた。

「馬鹿なっ! そいつは俺が背負ってやるって!」

翔に着席を促しながら、呆れ顔で露出卿は言う。

「まったくお主という者は……。いいか、女はただ男に守られているだけを是とはせぬ。
 だが、彼女が願いを叶えられぬなら、その『罪』に押し潰されてしまう可能性があるのもまた真実」

聞いているうちに冷静さを取り戻した翔が答えた。

「要は、俺がありがたく受けとりゃそれで済むってことか」

91狭岐橋 憂・エピローグ:2017/12/10(日) 19:26:54
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翌日。

「それではC3ステーションDSSバトル、優勝者は――!」

鷹岡は堂々とした態度で表彰式に臨んでいた。
彼の身柄はこの後警察に引き渡されることになっている。
本来ならば現行犯逮捕も可能であったが、大会の影響力を考え、表彰式の終了までは確保しないこととなった。
彼はその信頼に応え最後の仕事を全うする。

「最多勝者、野々美つくね選手! 彼女には優勝賞金5億円!
 そして、C3ステーションから『現実世界で可能な限りの望みを叶える権利』を贈呈します」

何人か欠けた選手席から拍手が送られる中、つくねは鷹岡の前で手刀を3つ切り、恭しく小切手を受け取る。
彼女が壇上から降りると、また空気の張りつめ方が変わった。

「そして、視聴ポイントを元に独自の集計を行いました結果、本大会で最も支持を集めたのは――!」

鷹岡はそこでも一旦声を区切った。
唾を飲む音さえも許されない静寂にひとしきり酔いしれた後、鷹岡は続ける。

「“露出卿”ことアンナ・ハダカレーニナ選手! 彼女には賞金1億円が贈られます!」

彼女はこの場においても全裸であった。露出亜の魔人にとって全裸は正装なのである。
しかしこの時ばかりは彼女を咎める者はいなかった。
表彰式にミテランジェリ氏が関わっているというわけではない。
さらには映像処理も施さない完全生中継なのにである。
それは、この場の全員が、彼女の出身地・露出亜に敬意を払った結果なのだ。
そして鷹岡の刑期が1か月延びた。

「残念ながら『真の報酬』についてその詳細をこの場でお伝えすることはできません。
 ですがこれだけは申し上げておきましょう。必ずや! 『彼女』の人生は変わる、と!」

鷹岡は最後の台詞を前に、姿勢を正した。

「それでは皆さん、この放送をご覧いただき誠に有難うございました。また、どこかでお会いしましょう」

こうして、予選から数えることおよそ2か月に渡るDSSバトルはその幕を閉じたのであった。

92狭岐橋 憂・エピローグ:2017/12/10(日) 19:27:23
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翔は進道美樹の部屋に来ていた。
表彰式の余韻や後片付けの作業でざわめく会場とはまるで無縁な静けさがそこにはあった。

「話は聞いています。『真の報酬』をあなたに譲渡すると」

「ああ、すまねえが頼む。俺を憂ちゃんの過去に送ってくれ」

翔がそう言うと、美樹はため息をついた。

「なんだ、できねえのか?」

「いえ、感心していたのです。迷わず他人のために行動するあなた、いえ、あなたたちに」

美樹は鷹岡に一番近いところですべての試合を見ていた。
だから16のカメラが映す選手たちの行動も、鷹岡の表情も、すべて知っていた。

「社長も私も妹も、あなたたちに救われました。もちろん直接、というのもあるのですが、精神的にも。
 本当にありがとう」

美樹は深々と頭を下げる。

「いや、いいっていいって、これから憂ちゃんとカナちゃんを救ってもらうんだから」

「それなんですが……」

美樹の顔色が不安げに変わる。

「まだあるのか?」

「私の『S・S・C』は、決して無条件に過去を変えられる能力ではないの。
 その過去の展開が『人々を魅了する』ものにならないといけない……」

翔はその不安を笑い飛ばした。

「そんなことか! じゃあ心配いらねえだろ!」

そして豪快な笑いから不敵な笑みに変えて。

「探偵の姉ちゃんじゃねえけど、俺は世界で2番目に面白え奴だぜ?」

93狭岐橋 憂・エピローグ:2017/12/10(日) 19:28:29
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星の綺麗な夜であった。
遥か上空に一つの影が見える。
翔はそれを全力で追いかける。

「あれからそんなに経ってねえのに、もう随分と懐かしく思っちまうな」

彼は第1ラウンドでの戦いを思い出していた。
この夜で彼がやらないといけないことは決まりきっていた。
あの戦いの再現だ。
例のマンションにまで狭岐橋憂より先にたどり着き、落ちてくる彼女を抱きとめる。

ただ、第1ラウンドの時とは違うところがあった。
あのとき彼は既に憂の攻撃によるスパンキングを受けていた。
しかし今、彼を強化するものは無い。

(不安が無いわけじゃねえ)

誰もが寝静まった深夜である。
例えば、適当な民家に入り込んで住民を叩き起こし、無理やりスパンキングを頼み込む。
そういうことも考えられないではないが、今、それを実行に移すことはできない。
なぜなら、『そんなのつまらない』からだ。
人命を天秤にかけるに当たっておおよそまともな理由とは思えないが、ここは『S・S・C』影響下。
面白さだけが絶対のルール。

もちろん、彼は能力に溺れるような魔人ではない。
自らのスパンキング道を極めるため、肉体の鍛錬は欠かさない。
その積み重ねと、あとは魔人としての基礎的な筋力強化。
これだけを頼りに、マンション15階の高さから落ちてくる人間を受け止める。

(五分五分、ってとこか)

考えているうちに、影が降下体勢に入り始めた。
まずい!
翔は走るペースを上げる。
ところで皆さんは翔の足の速さについてどうお考えだろうか?
もしかしてその巨体ゆえに走るのは苦手だと思っていないだろうか?
そうではない。
まず一つに、体が大きいということはそれだけストライド、つまり歩幅が広いということだ。
そしてもう一つが重要なのだが、走るという行為には太ももから尻にかけての筋肉が使われる。
全身を余すことなく鍛えている翔であるが、スパンカーとして当然、尻の筋肉は一番鍛えてある。
つまり翔は走るのもめちゃくちゃ速いのだ。

(間に、合えーーーーっ!!)

マンションにはたどり着いた。が、一呼吸置く暇なんてものは全く無かった。
もう既に眼前には憂の一糸纏わぬ姿が! そうだねこのとき全裸だったね。
反射だけで彼女の体を受け止める。
衝撃に骨がみしみしと音を立てている。

(くっ……!)

歯を食いしばるが、腕は地面に向けてずり落ちていく。
やはり、無謀だったのだろうか。

(ふんっ……がっ!!)

肩が、外れそうだ。
このままでは重力に負けてしまう……。

(無理……なのか……?)

94狭岐橋 憂・エピローグ:2017/12/10(日) 19:28:48
と、そのとき!
突如、翔の脳裏にある光景が走る。
それは、天問地文の事件によって混じり合った、第1ラウンド『失われた可能性』の記憶!

(こう……だぁーーーーっっ!!!)

体勢を落とし、後ろに倒れ込む。
その『尻餅』の衝撃で瞬時にパンプアップした翔は、再び憂をがっちりと抱え込む。
そして彼女の無事を確認し、ようやく一息ついた。

数秒して、気を失っていた憂が目を覚ました。

「ん、んん……」

「いてぇとこ、ねえか?」

翔が、あの時と同じ言葉を、あの時をまだ知らない憂に投げ掛ける。

「あなた……は?」

「おう、俺は“スパンキング”翔!」

「“スパン……キング”……翔……さん……」

憂を下ろしながら、翔は話を続ける。

「ヨシオカって野郎は俺がぶん殴っておいてやるから、憂ちゃんは家に帰んな」

「なんでそれを! それに、私の名前……!」

自分の上着を脱ぎ、憂に掛けてやる。
そしてぽんぽん、と憂の頭を軽く叩いた。

「詳しくは説明できねえ。けど、未来で助けを求められたからな」

「未来……?」

翔はこれ以上の追及を避けるため、憂に背を向けた。

「1年後、また会おうぜ!」

後ろ向きに手を振りながら、翔は歩き出した。
憂は呆気にとられ追いかけることができなかった。

「あ、お礼、言ってなかった! “スパンキング”翔さん……」

慌ててマンションの玄関まで行くも彼の姿は既に無かった。
そしてどうやってマンションを出たのか分からないが、憂が朝まで待っていても彼が再び降りてくることはなかった。

この後、元の時代に戻った翔は、また人知れず旅に出ることとなる。
もはや憂のそばには支えてくれるカナがいる。
自分が隣にいる必要は無い、と。
彼は知らなかった。
憂がなぜ表彰式にいなかったのか、その理由を。
この時の憂がまだカナの復活に気付いていないことを。
そして、露出卿が危惧した事態が進行していたことを。

95狭岐橋 憂・エピローグ:2017/12/10(日) 19:29:19
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時はさかのぼる。
露出卿と翔がバーで話していたのと同じ頃のこと。

『無茶なお願いしてすみません』

「ううん、恋語さんには前に相談に乗ってもらったから」

憂は恋語ななせとVRカードの通信機能を使って話していた。
全ての試合が終わった後ではあるが、ななせは自身の目的のためにVR戦場へのアクセスを試みようとしていた。
ただし、この特殊な戦場地形に向かうには『対戦相手』が必要だった。
それは、憂も第3ラウンドで戦った『出場選手に縁の深い場所、土地』である。

「なんなら、ついでにあっちのカナちゃんに会ってこようかなって」

憂はその試合で、憂の記憶を元に再現されたNPCのカナと出会っていた。
憂は彼女に対して、現実のカナとは違うもう一人のカナとして友情を築いていた。

『あっ、それはいいですね!』

カードを通してななせの笑い声が聞こえてくる。
VR空間での戦いとはいえ、ほんの2週間前に裏切り合い、殺し合った仲とはとても感じられなかった。

『では、30分ちょうどにアクセスということで』

「うん、また向こうでね」

通信機能を切って、時計を見ながらVRカードの戦場アクセス機能を起動する。
しかしここで予想外のことが起こった。
第4ラウンド、憂は対戦相手がいないためにVR空間にアクセスしなかった。
彼女のVRカードにはその戦場データがインプットされたままになっていたのだ。

彼女が降り立った先は『異世界』。
そこは憂の第4ラウンド本来の対戦相手、サイバーゴーストとなった支倉饗子がとある『実験』を行っている空間だった。

「ここ……は?」

いきなり頭痛を感じ、憂は頭を抱え込む。
そしてそのまま意識を失った。
この後1か月近くの間、憂はVR空間に囚われ続けることとなった。

96狭岐橋 憂・エピローグ:2017/12/10(日) 19:29:41
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………………

…………

……

わたし……。

わたし、は……。

そうだ、また、負けたんだ。

……。

ねえ、支倉さん。

「なあに?」

結局、私、乗せられてるばっかりだったんです。

恋語さんのときも、支倉さんのときも。

試合としては勝ったけど、稲葉さんのときでも。

「憂ちゃん……」

それどころか、きっと、私自身でさえ、翔さんに頼りっきりだったんです。

自分でカナちゃんを救いたいなんて、ただの見栄でしかなかった!

「それは……」

こんなことなら……もう私、いらないんじゃないかな?

自分で悩んで苦しんだつもりになったって、結局自分の意思で動いてないんだから。

私なんてもう、いなくなっちゃえば……!

「……いいのよ」

支倉、さん?

「もう、いいのよ。憂ちゃんは、私の中で眠っていてくれたら」

支倉さん……。

「疲れたでしょう? ゆっくり、おやすみなさい」

うん……。

なんだか……とっても……あったかい……。

……

…………

………………

97狭岐橋 憂・エピローグ:2017/12/10(日) 19:30:16
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「うーん、美味しくない、かな?」

やせ細った腕に、私は感想をつぶやく。
反対側の腕には点滴がつながっている。
どうやらここは病院らしい。
健康には気を使っていたのであまり馴染みが無い。
あの世界では医者をやっていたけれど、こんな現代的な設備なんて無かったもの。
そういえば、病院食というのは美味しいのかしら?
味が薄いという話もあるけれど、それは塩分を控えるべき病人に対してだけだという話もある。
この身体の場合、何も食べていないだけの単純な衰弱だろうから、おそらく普通の食事が出てくるはず。
残念ながら、その前に退院となる可能性の方が大きいのだけれども。

「ん……」

体を起こして眼鏡を掛け、鏡を見る。
鏡の中の憂ちゃんは辛そうな顔をしていた。
心配しないで、と私は彼女に笑い掛ける。

そこに、突然の来訪者が現れた。
知っている顔だった。
と言っても私の方ではない。憂ちゃんの方。
そう、たしか……。

「夢、さん」

「久しぶりね、ユウちゃん」

違う私になってから最初に名前を呼ばれるときはいつも、なんだか騙しているような気分になって、何も言えなくなる。
私が答えに詰まっている間に、夢さんは話を続けてきた。

「ごめんなさい、あなたを巻き込んで」

「いえ……」

あいまいな返事でごまかした。
ただ、ちょっと夢さんの言い方には引っかかる部分がある。
『巻き込んで』と言うからには、彼女自身にもこの大会で何か目的があった?
その疑問は、すぐに晴れることになる。

「私の本当の名前は、ユメス」

「ユメ……ス?」

「そう、昔ゴメスと共に暮らしていたゴ人のメスのうちの一人。
 私は彼を貶めた国暗協がこの大会の裏に絡んでいることを突き止めた。
 そこで私は復讐のため、コミュニティの人脈を使ってVRカードを手に入れ、出場してくれる子を探していたの。
 国暗協が関わる以上、盤外戦は避けられない。あなたを現実の危機に巻き込むことになると知っていながら。
 それどころか私は、国暗協壊滅のために、あなたを報酬に『転校生』を呼ぶことまで考えていた」

彼女はそこで一息ついて、

「だから、私が今からやることをユウちゃんには気にしないでほしいの。これは、私の償いだから」

上着を脱ぎ始めた。

「支倉饗子は、私が引き取るわ」

98狭岐橋 憂・エピローグ:2017/12/10(日) 19:30:36
「なっ……!」

気付いていたというの?
でも、『引き取る』って……。

「その意味が分かってるの?」

私を『引き取る』というのは、私、つまり憂ちゃんの体を食べるということ。
私は別にそれでもいいけど、あなたはそれで納得なの?
そういうつもりで聞いたのだけど、彼女の答えは私の予想外だった。

「私は、ユウちゃんと違って『完全な』サキュバスになることができる。
 『食欲が性欲に変換される』なんて、そんな程度じゃないの。
 うふ、完全なサキュバスにとって、セックスとは『食事そのもの』なのよ」

彼女の姿が禍々しく変質を遂げていく。

私が怒りというものを感じたのは生まれて初めてかもしれない。
繰り返すけど、私は彼女がこの体を食べてくれるなら別にそれでいいと思っていた。
まだ痩せてるからあんまり美味しくはなさそうだけど。
でも、この人は肉体を食べることなく『私』だけを奪おうとしている。
私にとってそれは、何よりも屈辱だった。
それに、憂ちゃんがあんなに思い詰めたのも……。
憂ちゃんを最初に舞台に『乗せた』のは、あなたじゃない!
今さらまた、憂ちゃんをこの世界に放り出そうっていうの!?

「あ、あなた、なんかに……!」

けど、言葉とは裏腹に私の腰はすっかり抜けてしまっていた。
それに全身の感覚が鋭敏になっている。
こんなに強いなんて。サキュバスの催淫効果……。

「ふふ、強がってもムダよ」

「ひゃう!」

い、今の感覚……VR空間で何度も体を重ねた憂ちゃんの比じゃなかった。
まるで、肉体じゃなくて、むき出しになった『私』そのものに触れられてるような……。

「あ……ぁああ……だめえぇぇぇ……」

吸い寄せられる……何か大きな力に……。

「んっ……わかる? これが、私の、食事」

「あっ……!」

心外ながら、その意味は解ってしまう。
魂が少しずつ千切られて取り込まれていく、いつもの感覚。
これは紛れもなく『食事』なのね。

早くも、彼女の食事は既に半分くらい終わっていた。
そうは言っても、このままなすがままにされている私ではない。
彼女が半分私だというのなら……『食べ返す』までよ!

「むぐ……」

だけど。

「あら? 甘噛み? 可愛いのね」

文字通り、歯が立たない。
あごに力が入らない。
必死で喰らいつこうとするものの、彼女の食事は最終段階に入ろうとしていた。
最後に彼女は私の耳元に、優しい声でささやいた。

「ユウちゃん、『皆』があなたの幸せを望んだの。
 それだけは、誰が仕組んだでもなく、あなたが自分で勝ち取ったもの。
 だから、帰っておいで」

「んむぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーっ!!」

一番、大きな波が襲ってきて、そして私は、支倉饗子を、手放した。

99狭岐橋 憂・エピローグ:2017/12/10(日) 19:30:56
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うう、腰が……。

「うーん、『前の私』を自分の目で見るのは初めてね。なんだか新鮮」

「支倉、さん……」

「そんな顔しないで。私は止めようとしたんだから」

「そう、でしたね」

夢さん、ごめんなさい。
あの人はそんな言葉を望んでいないだろうから、心の中だけでつぶやいた。
そのかわりの言葉を口に出して言う。

「ありがとう、ございます」

夢さんも、支倉さんも。
方向は違っても、2人とも私を守るために戦ってくれたから。

「……あ、そうだ! あっちに」

支倉さんは嬉しそうに病室の入口の扉を指さした。
つられて私はそちらに目を向ける。

「彼からの贈り物が待ってるわよ」

彼? 贈り物?
言葉の意味を考えていると、急に後頭部に風を感じた。
振り返ると、窓が開け放たれて、カーテンがはためいている。
そこにもう支倉さんの姿は無かった。
まるで、最初から夢だったみたいに。

100狭岐橋 憂・エピローグ:2017/12/10(日) 19:31:39
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おそるおそる扉を開く。
すぐそばに、長椅子をベッドにして、私と同じくらいの歳の女の子が眠っていた。
……お行儀悪いよ。

「ん……あ、ユウ……?」

彼女が目を覚ました。
やっぱり、ずっと、追い求めてきた人だった。
今度こそ、夢でも、仮想空間でもない。
彼女の名前を、私は確かめるように呼ぶ。

「カナ、ちゃん」

私は必死で涙をこらえる。なぜか向こうのほうも泣きそうな声だった。

「この馬鹿っ! なんであんな危ない大会に……」

そうだった。カナちゃんの方からしてみれば、私の方こそ1か月眠りっぱなしで、心配だったんだ。
改変された記憶を紐解いて、適当な答えをでっちあげる。

「ごめんね。もう一度、翔さんに会いたくて」

「もうっ!」

おかしいな。責められてるのに、嬉しさしか感じない。
『喧嘩』がしたかったはずなのに……。
このまま雰囲気に飲まれて私がごめんなさいして終わりになりそう。

(いやいや)

違う。それだと今までの私と一緒だ。
言うべきことはちゃんと言っておかないと!

101狭岐橋 憂・エピローグ:2017/12/10(日) 19:31:58
「でも、カナちゃんだって私に危ないこと隠してるでしょ」

「えっ?」

動揺してる動揺してる。
こっちは全部知ってるんだからね!

「その、ふぉ、ふぉー……ゅぅ……」

うぅ、口にするの恥ずかしいよこの能力名。
ビシッと決めてやろうと思ったのに……やっぱりズルい!

「なんで!? パパとママにしか言ってないのに! バラした!? でも、え〜?」

あ、効いてた。顔真っ赤だ。
あっちもあっちで私にバレるなんて思ってなかったんだろうなぁ。
よし、今が攻め時だ。

「私はこんな恥ずかしい能力明かしたのに、自分だけ隠すの酷くない?」

「それは……」

「例えばもしそれで、私の知らないところでカナちゃんが勝手に死んだりしたら許さないんだから!」

「でも……」

うん、分かってる。そんな勝手な言い方無いよね。
勝手に死にかけたのは私の方だし。だから。

「だから私は、もう絶対にその能力を使わせない!」

カナちゃんの、次の反論を用意していただろう口が途中で止まる。

「ユウ……」

『皆』が作ってくれた奇跡は、今度こそ、今度こそ! ちゃんと私の手で守っていかないといけないと思った。
けれどそれは、私1人では到底背負えそうになかった。
さっきの支倉さんのことで、それがよーく分かった。

「何でも話すから、何でも話してよ」

だから、2人で。そのための親友なんだから。

「……ユウ、なんか成長したね」

「何その上から目線!」

「ごめんごめん。でも、これが大会の影響なら、出て良かったのかもね」

本当に、いろいろあったんだから。
落ち着いたら全部包み隠さずに話してやろう。
自分が死んでたなんて知ったらこの子、どんな顔するかな?

「そうだね」

さてさて、『喧嘩』はこれでおしまい!
カナちゃんとやりたいことはまだまだ山のようにある。
まずは……、

「ところでさ、カナちゃんに会わせたい人がいるんだ」

「へぇ、どこに?」

「VR空間!」

約束を果たしにいかないとね!



―― Fin. ――

102qaz:2017/12/18(月) 07:57:21
>>86
遊びました、楽しかったです。

ヴィピアンさんのイラストをもとにもう1枚作りましたのでこれも混ぜてみてください!
tps://twitter.com/qazdng/status/942190682889842689

103夕二(ゆうじ)@がちゃどくろ:2017/12/19(火) 19:37:46
>>102
遊んでいただきありがとうございます!!
報告を受けて修正しました、また遊んでください
tps://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=66355959

【変更点】
・狐薊イナリ(LV2,3)、阿久津ミカ、稲葉白兎、進道ソラ
 先に山から除けてプレイを始めるのでわかりやすくレベルの色を黄色に
・侍べる少女
 後ろに居たらどこでも使えたので直前のカードが戦闘中のみに
・ゴメス
 色のムラ修正
・可愛川ナズナ
 探索での対象は他のプレイヤーを選べない事を追記
・刈谷融介
 決戦での能力使用を追記
・<私>
 机からダイスを落としてしまった時の処理を追記
・鷹岡集一郎
 除外リサイクルでのLV3回収が強いため、1プレイヤー1度のみの記述を追記
・露出卿
 アイテムがランダムでの除外だったので、ダイス目により選べるように上方修正
・フルチン三刀流
 せっかくなので『勝利時』の能力に強いように上方修正
 金玉にはフルチンをぶつけんだよ!!!
・ねさる崎ニルニール
 相手が選ぶ仕様からこちらが選べるように上方修正
・一七八十
 自分が捨て札になるのではなく、後ろで昼寝してしまう仕様に上方修正
・毒島薫子
 作戦会議後から作戦会議前に変更

・魔技姫ラクティ☆パルプ
 気持ちプロモカード、やったー!!

104蜜ファビオ:2017/12/31(日) 06:56:56
ファビオさんや出場者が全然出てこない(出ていないわけではない)SS後編その2です。



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SS「拘束と衝突〜ラストレシピ〜」(後編)」その2




「大当たりだ。
進道ソラの【Cinderella-Eater】は『物語』を味わうことができる。
テイストの結果、彼女は、一連の事件を”同じ書き手”による”連作”の『物語』であると断言した。

そして、こう言い切った。

この『三ツ星シェフ』が作ったモノなら、一口食べただけで作り手が一発でわかるわ。たとえどんな
畑違いのジャンルで腕を振るおうとも絶対に違えない、絶妙にして巧智、こんなミステリアスな味、
一度味わったら絶対忘れられないわ。

今は、過去に遡って類似の事件がなかったかを洗い出し中だ。真犯人にとって
”腕があまりにも良すぎた”のが仇になった形だ。

そして阿摩羅識は遅まきながら一連の転校生の不審死を『連続殺人事件』と断定。
お前があの世界で繰り返し行った『実証実験』及び『臨床試験』のデーターと鑑みた結果、
お前の提案するプランを採用することとなった。
以上が現状の報告だ―――――――――――――――だが、本気で実行する気か?」

耳飾りからの報告は事務的な調子で続いていたが、最後は、なんともいえない口調で終わっていた。
本気というより、よほど正気かといいたかったのかもしれない。

果たして、次の物語、誰が望んだ結末に落ち着くのか。



●乙女心と秋のソラ

それは、きらめくような眩しい夏だった。

進道ソラはアイドルコンテスト決勝戦で惜敗した後、事務所との契約更新を行わず、アイドル活動の
無期の休止宣言を行った。それは事実上の引退宣言といえるものだった。突然の引退劇にファンの
間からは惜しむ声も多かったが、
「夏の戦いで全てを出し切りました。今度はまた新しい別のことに挑戦してみたいと思っています」
という本人のコメントを受け、周囲もやがてそれを受け入れていった。

一度、そうなると時の流れははやい。まるで潮を引くように彼女の周囲からひとの渦が消えていった。
彼女の活動といえる活動はアイドルの一環としてやっていた個人ブログぐらいになっていた。

しばらくして彼女は料理と文芸に関する投稿するようになったのだ。
自身の足で巡ったお店の料理の感想、またある時は書評を味に例えながら、自分の言葉で綴っていく
フォローするひとはがくんと減ったが、反応はそこそこ好評――だと思う。
実際に自分で料理にもチャレンジしている。実践、実行、それはまるで『何事も勉強』という感じで―――


〇〇〇

「まなかちゃんの最新作、決め手はやはりオーロラソース!使用していたのは通常のトマトピューレ
でなくなんとイチゴ! あまおうによる甘みと酸味でかつてない仕上がりに…
意見を聞かれたので”オーロラ”はフランスで明け方を意味するので、今後このソースに
『〇〇のヨアケ風』と名付けるのはどうかと提案してみた。…まさに新時代『ヨアケ』の味…っとと」

今ではなじみの洋食屋から新作の試食をお願いされることもある。進歩だ。
レポートを書きつつ、体が左に傾きつつあることを意識した私は、大きくのびをし、矯正を行った。

おいち、にい、ぐぎぎぃ

いつの間にか変な癖がついていたらしく椅子に座っていると、どんどん姿勢が悪くなっていく。
どうも一度ついた悪い癖はなかなか治らないようだ。整体師さん曰くデスクワーク長いヒトだと
なりやすいデスヨネとのこと。
うーむ、事務方はどちらかといえばお姉ちゃんの方であるはずなんだけど(ただ彼女の姿勢およびスタイルはすごくいい。流石やりて秘書だ。)

姉の美樹とは今は離れて暮らしていて、今はちょっと距離をおくようにしている。
別に仲が悪くなったわけではない。むしろ美樹姉が、いつまでも妹離れしない相変わらずべったり
仕様なので、しびれを切らしたこちらが対処療法として行っている感じだ。なにせ自らの天職と
言い切る小説に至っても油断すると私好みの味付けで書き始めるくらいだから(そして真っ先に私
にメールで読んで読んで感想頂戴とよこす!)困ったことだ。
おかげで「いい加減に自分の書きたいお話を、読者側をむいて書きなさい!!」とお尻を叩くのが最近の日課となっている。

最近はようやく妹中心主義を諦めたのか、寓話を基にした創作物を書き始めている。
うんうん、もう一押しだろう。元々、デザート向きな作風なのだ。カスタードクリームのように
甘さをぎゅっと中に押し込め、周りをサクサクとした歯ごたえのあるパイの皮で包み込めば、
甘いけれどしつこくないあの作風はより際立つはず、きっと万民に受け入れられていくだろう。

105蜜ファビオ:2017/12/31(日) 07:00:53
(つづき)

自分にはその手のことには『確信』があった。
”そういうこと”に最初に気づいたのは、プログで書籍と料理の批評を始めたとき。
熱心に感想を述べてくれるひとがいたので、その人に私はこう返信を返したのだ。

「現役時代から変らず応援ありがとうございます。励ましのお便り、いつも楽しく読ませて
いただいてました。あの時はお返事することができず心苦しかったのですが、今は〜」

現役時代一番熱心にファンレターを送ってくれていた相手と『同じ味』がしたから無意識で”つい”
そう返してしまったのだが、メールの返信相手はさぞかし驚いただろうと思う。なにせ彼は
ずーと匿名で応援の手紙を書き続けてくれていたのだから。
でも、私にとって話の書き手を取り違えることはもはや茶碗と花瓶を取り違えることがないように
ごく当たり前のことになっていた。
茶碗は茶碗だし、花瓶は花瓶だ。それが今の私には手に取るようにわかる。

「貴方のための物語」(メルヒェン・マイネス・レーベンス)

『物語』はドラマや小説だけではない。あらゆる創作に息づいている。手紙もその人の『物語』の一部なのだ。
私は一度味わった味は忘れない。ただまあ、それで返ってきたメールが「脱兎。。。。」の一文
だったのには笑ってしまったけど。それはもう実に”味のある”文章だった。その人とのやり取りは
今も続いている。折を見てオフ会に誘おうと画策しているが、いつもするりと逃げられている。

ぐぬぬ、さすがのHN:逃走王。何処まで行っても捕まらない。


〇〇〇〇〇


秋が深まり、冬の音連れを待とうかというころ
私は、某けやき通りにいた。

始まりは家の書斎で書棚のファイルを取ろうとしたときだ。 ひらり と今年さいしょの初雪がまいおりてきたのだ。

それは一枚の白紙の用紙。
無地の中、『思い出ラーメン』という文字と通りの住所が手書きで書き綴ってあった。
字は私の字体だった。一瞬、首を傾げたけど、
大丈夫、間違いないこれは私の物語だ。とすぐに思い直した。

『思い出ラーメン』

ネット検索で言葉を調べると「食べると人生の思い出がよみがえる、その人の物語が味わえる
”うわさの”ラーメン」とあった。一種の都市伝説のようだった。
こうなると物語と味に関しては一家言ある私である。もうもう見過ごすことはできない。

ということで、私こと進道ソラは秋仕様コーデに身を固めるとすることにした。
駅を降り、スマホのナビに従って路地を回る。そこに映った風景に思わず口から感嘆の声が零れ落ちた。


「わあぁ  …」

黄色い銀杏の葉が一面絨毯のように道を舗装していたのだ。
思わず写メを一枚とってから、銀杏拾ってかえろうかしらという考えがちらっと浮かぶ。
頭をぶんぶんふっとふりその考えを追い出す、。
そんなことをしたら折角お気に入りで固めてきたのに匂いが移ってしまう。あと今からそんなこと考えているとまた食い意地がはっていると思われてしまいそうだ。

―――――――――――――――――――
―――――――誰に?

OTIBAFUMI OTIBAFUMI

小気味よい音を立てつつ道を進む。お店は黄色の絨毯の先、こじんまりした佇まいで立っていた。
『白蘭』と書かれた看板を横目に、白樺でできた扉を私は開ける。

カランコロン、ベルの音と外の気温とは温かい空気が新規のお客を出迎えた。

「――――――――――――――」

店にはテーブルが一つとカウンターがあるだけだったが、その分、贅沢に間取りを取っており、
置時計や絵画などが置かれ、とてもラーメン屋には見えなかった。
内装はどちらかといえば個人の洋食専門店といった感じだった。少々、服に気合い入れ入れすぎ
たと感じてた自分は逆にこれにほっとした。

メニューに目を通し、目当てのものを注文する。

「―――――――。」

注文した後、調度品に目を移す、アンティークの中でひときわ目を引くのは肖像画だろうか、
女の人の油絵が飾ってある。生憎絵にはそこまで詳しくないが、確か印象派?
こってりとした絵の具の乗り方が目を引いた。でも絵具のにおいはしない。においが移らない
ようしっかりコーティングをされているようだ。 


やがて、良い香りが届き始め、鼻孔を刺激するようになる。――

おそらくはブイヨン・ド・レギューム。

フランス料理の「野菜の旨み」だけで作るだしだ。
残り野菜や調理に使用しない端切れなど、普段捨ててしまうものを有効活用して作る。

香りを嗅ごうと無意識に眼を閉じると、今度は耳元にコトコトとスープを煮る音が届けられた。
眼を閉じ、しばしその音に耳を傾けることにする。併せて聞こえる包丁のおとが、心地よい。

106蜜ファビオ:2017/12/31(日) 07:06:01
(つづき)

「――――。」

こと。気づいた時には目の前に料理が置かれていた。

それは「塩ラーメン」だった。透き通ったスープに。水晶のような細麺。

その上に上品におかれたもやしとハーブ、あとマロン? 私はレンゲでスープを掬い、一口、口に含んだ。

能力「Cinderella-Eater」が発動する。

〇〇〇〇〇

―――それは一人の青年の物語だった。

物語としてはよくある話。父親に反発した少年はある日、家を飛び出す。
少年には特殊な才能があった。世間を騒がせることになる少年。増長する少年の前に現れる壁。

「貴方は世界の敵なんかではありませんヨ。ちょっとオイタが過ぎた唯の悪ガキデス。CHOKUZUKI」

やがて知る、父親の過去、想い、そして死。暗転。安易に逃げたしっぺ返しは大きかった。

暗雲。新宿で出会ったもう一つの出会い。絶対独立。暗転。新世界。ホールでの予期せぬ出来事。出会い。

お店でお菓子をぱくつく女の子は、扉をあけ書生風の男性が入ってくると喉を詰まらせ急き込む。暖かな笑い声。

暗転。

死の知らせ。暗転。死の知らせ。暗転。続く、死の知らせ。暗転―――

暗闇を歩きながら、彼は灯りを灯す方策を探す。弔いの灯を求めてではない。彼はその時、私に光を見出した。
わたしはその時、闇を見つめていた。

わたしは―――


「――――――――――このペテン師!

なにが通りがかりの転校生よ。偶然装っているだけで、完全に能力目当ての仕込みじゃない。
嘘つき!変態!ストーカー! 全く『EURIKA!』(見つけた!)じゃないわよ!
あと話や登場人物の表記がごじゃごじゃして全体的に分かりにくい、一見さんにも分かり易く書く
とかいう気配りや目配りする気はないの? 
しかも黒歴史といいつつ、やってる演出は怪盗そのものじゃないの!ぜんぜん昔のくせ抜けてない、
主題ももう少しはっきり!
そして”相変わらず”おいしくない! 
何よりこの物語、全然、完結していないじゃないの!全くこんなの出すなんて何様のつもり……」

吹き出た言葉の勢いのまま、どん!とどんぶりを置く、
そこは一粒の涙もなく、全てが綺麗に飲み干されていた。
あふれんばかりの涙でも飲み干せば最後には笑いに変わることもある。アレはどこで聞いたのだろう。

カウンターの向こう側にいたシェフは、私の罵声と酷評に帽子を取ると謝意を示した。

「うーん。僕が今出せる精いっぱいだったんだけど、お客様にはご満足いただけなかったようで。
じゃあ、約束のお代は頂けないかな。」

全然、謝意を感じない。笑ってるし。わたしはえへんえへんと2度ほど咳払いをした。

「そういうわけにはいかないわ。代金を支払わないなんて、進道ソラという人間の沽券にかかわる。
働かざる者”くう”べからず。ソラは働き者、ゆえに食べた分はきちんと働いて返す。


―――――――――――――だって貴方、・・・『私』が必要なんでしょ?」

ふいに風が吹いた。目の前に突如として無限の荒野が広がる。先ほどまで目の前にいた
彼がひどく遠くに映った。

「これから…
これから、君が選ぼうとしている道は安穏と平凡から程遠い異邦の旅路だ。
僕は君の安全を担保できない。選択後のすべての宿痾は君自身が受けもたなければならないからだ。それでも新しい挑戦に歩を進めるかい?」

真実の言葉。それは事実であり同時に呪いの言葉でもあった。
私は答えた。質問を質問で返さない、と。

「こちら側に踏み込めば、後戻りできない。それは君が今までいた世界の因果から外れることを
意味するんだ。
今まで築きあげた大切な関係、想いをすべて置き去りにして、君は後悔しないでいてくれるかい?」

それを無視し続く真実の言葉。それは彼の責任逃れの言葉であり同時に彼の優しさでもあった。

私は答えなかった。
代わりにカウンターに手をかけるとひらりと飛び越え、向こう側に着地してみせた。
RASAHAI!
相手の心の距離や垣根なんて関係ないとばかり、詰め寄る。そして店主に向き直ると手を胸に当てて宣言した。

「いい、私は”みんなに愛されるアイドル”になりたくて頑張ってきたんじゃない。
ただ『アイドル・進道ソラ』というこの世に一つしかない綺羅星になりたくて、切磋琢磨してきた。
同じように”姉さんの作品の主演女優になる”のが夢だったじゃない。
姉の作品に妹として主演ができる人間が、私一人だけしかいなかったから、それを『夢』にした。
私は、私を優先する。私は私だけにできることを探している。そういう人間なのよ。」

「うん、それはよく知っている。」

男はうなずいた。
彼女は見つめる先は空高く、常に上を向いていた。進む道は、空。二つとない唯一。
そしてもし更にその先があるなら、彼女は当然のようにそれを目指すだろう。傷つき、折れた翼は癒えたのだから。

107蜜ファビオ:2017/12/31(日) 07:08:28
(つづきラスト)


「もう一度聞くわ。きちんと答えなさい。私じゃなきゃ駄目なんでしょ。
私にしかできないことが”そこ”にある。そうよね? 」


男は―――

「あと返事するときはうんじゃなくハイ。こういう大事な返事の時くらい、もっとシャキッとしなさい」

男は音もなく爆笑した。全く反論の余地がなかった。

「『はい』、世界中どころか三千世界を探しても君に変わる人間なんていない。
君でなくては駄目なんだ。是非、僕の仕事を手伝ってほしい。」

そういって彼は手を差し出した。その差し出された手は救いの手でも憐憫でも同情でもなかった。
ただ、対等な関係を示すモノ。自分の欲していたものとはたぶん”ちょっとだけ”ずれているけれど――


―まあ、今回はこれで及第点としますか―

この出会いは偶然で会ったかもしれない、そして、その出会いの別れがいつとなるか、人たる身で知ることはできない。けれども


「よろしい。では契約成立。」


けれども、私がこの手をとったことを後悔する日がくることは決してないだろう。








「じゃ、あらためて。ハッピーバースディ、進道 ソラ。

――――――――――――――――――――――転校生の世界にようこそ。」







●スズハラ本社ビル地上”存在しない”130階 ― 存在しない時間にて ―


蒼い空の中、テーブルを挟み、一組の男女が向かい合っていた。


「はぁ『未来探偵』を殺す方法ですか…」

定時報告の後、不意に投げられた問いに対し女はテーブルに置かれた紅茶を手に取り、ひとくち口に含む。
そして舌の上でアッサムを転がすように味わった後、世界第一の名推理を披露した。

「なるほど、それは遠回しに

『お前のことを殺したいほど愛しているんだ』という意思表示、つまりプロポーズということですね。

判りました。そこまでおっしゃるなら仕方ない。寿退社一直線、早急に準備に取り掛かります。
大丈夫有給はくさるほどありますから…え、違う?

どちらかというと『スタローンとジャン・クロード・バンダムはどっちが強いと思う?』的な
お遊び的な質問?

ははぁ、なるほど、ではそんな感じで。少しお話していきましょうか? どうやったら『私』を殺せるかに関して。」


無論、この物語、綺麗ごとのみで終わるはずもない。


 
                             『進道ソラの自力本願』(了)

                      (「インタビュー・ウィズ・スズハラZERO」につづく)


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