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ダンゲロスSSC3 雑談スレ

1スカーレット:2017/09/28(木) 00:32:43
ダンゲロスSSC3に関連し、プレーヤー同士の交流を深める場としてお使いください。。
執筆者としてのチームメンバー、協力者募集などにも使用してください。

wiki:tps://www65.atwiki.jp/dngssc3/
公式Twitterアカウント:tps://twitter.com/dng_ssc3

58夕二(ゆうじ):2017/11/19(日) 01:49:13
遅れましたが、ダンゲロスSSC3の絵UPします。

OP絵
tps://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=65617327

第1ラウンドSS・オフィスビル街その2 より
tps://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=65951114

第1ラウンドSS・出場選手に縁の深い場所、土地その2より
tps://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=65951146

第2ラウンドSS・豪華客船その1より
tps://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=65951170

篠原 蓬莱ちゃん
tps://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=65951186

59〈私〉:2017/11/19(日) 02:22:07
ケツブルガリア前編(刈谷融介キャラレイプSS)

 人は38度5分を超える高熱に見舞われた時、ケツブルガリアの幻覚に襲われる。
 ケツブルガリア!?

「ケツブルガリア…ケツブルガリアって何だろう?」
「良いんだ、全部出しきれ。疑問に思ったことは何でも聞いてみると良い。」
 布団の中で寒気に震える〈私〉を、ケツブルガリア先生が優しく介抱してくれた。
 いや、解放してくれたのだ。理性の帳から。

「辛かったろう。職場を早退したのに、割とサっと帰れたのは。」
「ああ…はい。ロキソニンが効いてきた見たいです。」
 こいつ全然反省してないな。ケツブルガリア先生は思ったが、口には出さなかった。
 そもそもケツブルガリア先生とは何なのか?新手のスパンキング変質者なのか?

 ケツがブルブルのガリア地方(後のフランス)なのか!?

 いや、下手に疑問に思うのはよそう。これは幕間SSだ。〈私〉が出てきた以上、ケツブルガリア先生にもありとあらゆる可能性が付与される。

 可能性とは「特に何も考えてません。本当にごめんなさい。」という意味だ。
 だが、それは読者が許すことで無限の世界へと回帰する究極の力だ。

 力だ。力が欲しい。
 ケツブルガリア先生は〈私〉の願望が生み出した存在なのかもしれない。

 これは幕間SSなのか?自キャラ敗北SSなのか?幕間SSの読み方は《マクマ》なのか?《マクアイ》なのか?

 マクマホン。
 そうだ。幕間SSの読み方が二つだけだと誰が決めた!?
 これからのダンゲロスはマクマホンSSの時代だーーー!!!

 何故、今朝は体温を測ったら34度2分だったのか?体温計が壊れていたのか?
 否、壊れているのは俺の頭なのか?
 そうだ。俺は正常だ。なぜなら、もう壊れる部分など無いからだ。

「〈私〉は無敵だーーーーっ!!」
「寝てろーーー!」

 ケツブルガリア先生に後頭部を殴られた〈私〉はノックアウトされ、布団の中へとダイブインザスカイした。

 嗚呼。

「何もかも、ボーボボのビデオを久しぶりに見たのが悪かった。」
「そうだな。お前はブルガリアの風上にも置けん男だ。」

「なんかムカついたので神戸屋先生に風邪を感染しに行こうと思う。」
「最低だな。じゃあ早速行動に移そうぜ。」

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 神戸屋先生を訪ねたらめっちゃ怒られたので詳しいことは割愛する。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

60〈私〉:2017/11/19(日) 02:23:58
 刈谷融介は鏡で身だしなみを確認していた。
 最近は外見に気を遣えてなかったが、確認作業はとても大切だ。

 特に、刈谷融介のような、見た目で人を判断"される"ような人間には。

 鏡で自分の顔を凝視する傍ら、その手には電話が握られていた。
「…俺は刈谷融介だ。今は適当な電話番号を『借りて』電話してる。あんたに頼みがある。」
「どうしたんだい?匿名の電話番号なんか使ってさあ?」

 逃亡中の彼だが、彼の手元には何でもあった。その気になれば何でも用意できた。
 それは、彼が刈谷融介だから、という自負に他ならない。

 では何故、他人に頼みごとなどするのか。
 それは、ここ最近の込み入った事情が関係してるのかもしれない。

 刈谷はここ数週間、自分の外見どころか、内面も取り繕えていない。
 それほどまでにVRでのバトルは過酷で、精神を削るものだった。

「俺が本人だという確証が必要か?なら証拠でも見せてやろうか?」
「いいや、止そう。この場で貸借天の能力を使われるとどうなるのか分かったものではないからね。間違いなく君は刈谷融介だよ。」

 電話を通して聞こえる声は鷹岡集一郎。

「ケツブルガリアのビデオが見たいんだ。集一郎、頼むよ。親友だろ。」
「ガチャン」
 無慈悲な音が、電話回線が切れたことを如実に物語っていた。

「ちくしょう、なんで、こんなことに…」
 どうして刈谷融介はケツブルガリアのビデオが見たくなったのか。
 それは間借りしたホテルの従業員達の何気ない会話を横耳に挟んだからだ。

「ケツブルガリアってさーーーっマジイケてるよね〜。」
「は?何言ってんのお前?」

 従業員達は楽しそうにケツブルガリアのことについて会話していた。

「は?何アンタ、ケツブルガリアも知らないワケ?」
「はあっ!?何か言ってんのはテメーだろ!!ワケわかんねーこと言ってんじゃねーよ!!」

「いい度胸してやがる。テメーのことは前からキライだったんだよ。」
「年上に向かって生意気な!野郎、取っちめてやる!」
 従業員達は殴り合いながらケツブルガリアについて語り始めた。その光景を刈谷はただ眺めているしかなかった。

「なんでこいつら、客の前でこんな喧嘩してんねんやろう…?」
 一応、逃亡中とはいえ、このホテルにとって刈谷は上客である。
 かつてホテルに突っかかってきた暴力団を撃退してやったこともあった。

 後に刈谷のところへ無言電話や脅迫メールが大量に届いたが、全部『返して』やった。
 今では、暴力団にとっても刈谷は上客の一人だ。

 いや、"元"上客か。
 三回戦までで、刈谷は社会的信用を圧倒的に失ってしまった。
 激怒、絶望、逃走、敗北、そして貸借天。
 全てが露見され、裏の顔が公の元に晒された今、かつての刈谷の繋がりがどれだけ保たれているか。

 このホテルにも、いつまで居られるのか分かったものではない。
 とはいえ、まだこのホテルにとって刈谷は上客の筈で、ホテルの一室も間借りしている以上、従業員もそれなりの態度で接するべきである。

 このホテルの教育方針が行き届いていることは承知の上だし、そうでなければここを選んだりしない。
 何らかの魔人能力の可能性も疑ったが、ケツブルガリアという単語が何かの魔人能力と想像するだけで悪寒が走る。

 だってほら、ケツでブルガリアだぞ?

「いったい何なんだ、ケツブルガリア…」
 それは刈谷を魔界へと誘う、魅惑のキーワードに他ならなかった。

61〈私〉:2017/11/19(日) 02:26:26
 そんな次第で、恥を忍んで鷹岡集一郎に電話で聞いてみたのである。だって他に友達いないもん。
 ネットで調べてみたが、何もヒットせず。

「降り出しか…これも鷹岡の陰謀なのか?」
 思えばC3バトルの対戦組み合わせは全てがおかしかった。
 まるで、わざと刈谷の精神を摩耗させようとしているかのような戦いばかりを強いられた。

 結果、こうして逃亡生活をしている。
 まさかこうなることも含めて、全て鷹岡は承知だったのか?

「あり得る。ではケツブルガリアも鷹岡の臀部がブルブル震えているのかもしれない。」
 そう考えると辻褄が合っていると言えなくもない。まさか鷹岡は自分の臀部がバイブレーションする動画を世界中に配信して、世の中を支配するつもりなのでは。

 鷹岡集一郎は!自分の臀部がバイブレーションする動画で!
 世界を支配するつもりでは!?

「野郎、絶対に許さねえ。こんなことに俺を利用しやがって。」
 瞬間、刈谷は激怒した!C3バトルでも刈谷は終始すぐに怒っていた!つまり、彼の沸点はどこにあるのかイマイチよく分からないのだ!
 本人もよく分かってない!

「うおおおおお鷹岡の思い通りになってたまるかあああ」
 刈谷はズボンを脱ぎ、ケツを丸出しにすると、猛スピードでケツを降り始めた。

 早い!刈谷がケツを振るスピードは超高速だ!高速スピナーだ!ヘビーウェイトだ!タモリ倶楽部超倍速再生だ!
 この高速ケツ振り、ケツスピナーは対スパンキング翔くん相手に考えていた対策法である。

「まずは、このように高速でケツを振ることで翔くんの注目を集めるでござるな!一流のスパンカーを誘惑するには生半可なケツ振りでは不可能!故に、全身全霊もってケツを振るでござる!絶対にケツを振るでござる!」
 刈谷は久しぶりに開放感に満たされていた。ここ数週間、あまりにも精神的に疲労していたのだ。
 それが彼をこんな無茶な行為に誘ったのだ。

「そして、拙者の魅惑的な腰つきに我慢できなくなった翔くんは思わず拙者のケツにムシャぶりつくでござる!この不埒者!我慢できなくなったでござるか!?」
「ユースケ、何してるの…?」

「そこで拙者が翔くんにサブミッションでござるーー!」
「いやっ離して…!」

「ケツサブミッション!!これこそがラストスパンKING唯一にして絶対の攻略法!!
関節技は!!
ケツを!!
叩かない!!だから強い!ジャンケンの理論でござるな!」
「何してるのユースケ!!離して!」

「ふふ…その表情、ケツに関節など効くのか?という疑問を呈しているでござるな…?しからば!こうしてケツを揉めば良いのでござる!」
「成る程ね!ラストスパンKINGはケツを叩くほど強くなる能力。ならば…ケツを揉めば良い!!ケツをマッサージすれば…ケツを揉まれて力が出ないアンパンマン理論!」

「これがっ…俺の本能寺じゃああああい!」
「テメーは何をやってるんだあああああーっ!」

 刈谷融介は笹原砂羽に蹴り飛ばされて壁に掛けてあった絵画に陳列された。

「すっ…砂羽!?一体いつからそこに!?」
「最初からいたわ!!ていうか途中から気付いてたろ!!気付いて最後までやろうとしたろ!!」

「すみません…最後の方はぶっちゃけ気付いてました。気付いて最後までしようとしてました。」
「だろーが!?この童貞野郎!!だから童貞なんだよ!!」

62〈私〉:2017/11/19(日) 02:27:27
「いや違う…お前は砂羽じゃない!砂羽はもっとこう…淑やかだ!俺のケツも受け入れてくれる筈だ!」
 それきり刈谷は泣き崩れる。砂羽は狼狽した。自分にはこういうとき、出来ることがない。お互いに甘えていたのだ。砂羽は常に被害者だった。彼女は自分より弱っている人物への接し方が分からない。

「こいつ一人の時はこんなことしてたんだな…」
 砂羽は大人になりきれなかった子供で、刈谷は大人の真似が上手な子供だった。二人で少しずつ大人になりたかった。ケツ振りマンになった。

「なあ、砂羽。二人生きることと、一人でケツを振ることでしか生きていけないのは違うんだ。違うんだよ……」
「うん、そうだね、なんかごめんね……」

 砂羽もあまりの事態にまた涙した。二人は折り重なるように抱きしめあい、傷を舐め合った。刈谷融介は童貞を失った。砂羽は自分の女性を受け入れることができた。

 砂羽は顔のマスクを剥がしてオッサンの姿になった。
「残念だったな!僕は笠原砂羽ではない!秋葉原元康氏だ!」
「うわあああああああ」

 笠原砂羽は笠原砂羽ではない。秋葉原元康氏だったのだ!
「笠原氏と入れ替わっておいたのさ!彼女とは昔、仕事の関係で繋がりがあってねえ…!」
「ちくしょうベイベェ、ケツブルガリアとは一体何なんだぜ。」

 あわよくばケツブルガリアの意味が分かるかと思って聞いてみたが、秋葉原元康氏はどうしようもない奴を見る目で刈谷を見返した。
「えっ…何で知らんの、お前…?」
「ええっ知ってて当然のレベルですかぁ?」

 その時、ホテルの窓ガラスが割れた。
 ついにファックマリア様がバイクで刈谷の部屋に突入したのだ。
「卒業おめでとうっ!刈谷融介!」

「アギャギャギャギャ」
「刈谷融介ー貴様の貸借天の弱点は、二階から突然バイクで後頭部を轢かれると防御が間に合わないことだ!」

「アギャギャギャギャ」
「秋葉原氏の仇だーッ!」
 秋葉原氏は部屋の隅で血塗れで動かなくなっていた。

「アギャギャギャギャ」
「卒業おめでとうっ!」
「卒業おめでとうっ!」
「卒業おめでとうっ!」

 こうして刈谷融介はファックマリア様に鎖で首を拘束されたまま、C3ステーションまでバイクツーリングすることになった。
 卒業おめでとうっ!
 後半へ続く

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

63〈私〉:2017/11/19(日) 02:29:41
ケツブルガリア後編(刈谷融介キャラレイプSS)

 ファックマリア様に貸借天の能力をアッサリと攻略された刈谷融介は首を鉄製の鎖で拘束されたまま、C3ステーションへと拉致された。

「馬鹿な、俺は刈谷融介だぞ…!俺がこんな…こんなことに…」
「暴力は良くないことだ。だが、アタイは良くないことが大好きさ。」

 相手が悪かったのだ。まさか刈谷も予選で敗退した危険人物が寝込みを襲ってくるなど思いもしなかった。
 その可能性は考えてなかった。
 しかし、可能性がある以上、それは起こりうる出来事である。
「しかし、見直したぜぇ刈谷融介。お前、私のような可憐な乙女様には手を出さないんだな。キルヶ島シャバ僧は殺したクセによ?」

 そんな端役のことは忘れた。そう言わんばかりに、刈谷は後頭部から血を流してぐったりしている。
「あがらがががが」
「これはキルヶ島シャバ僧の痛みだと思え。」
 キルヶ島シャバ僧は有名な男優だったが、苛烈な拷問で業界を追われた悲劇の男だ。
 少なくとも、ここではそういう扱いである。

「ウピピピピ」
 刈谷は血を流しながらVRの世界へと堕ちていった…

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 いつからその人のことばかり気になり出したのか。覚えてない。

 兎に角、気がついたらその人ばかり目で追うようになっていた。

 どんな苦境でも
 どんな酷い目にあっても
 眼が死んでいても、その奥底に見える光に惹かれた。

 その人に好きな人がいる、と聞いた。

「俺は刈谷融介…外面だけはいい27歳無職。人に不快感を与えない風貌に、いつも笑顔を絶やさない温和で心優しい人物だと思われている。」

 これでいい。外面さえ取り繕えば、心の中まで顧みられない。
 他人にも、自分にも。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

「面白くないなぁ、そういうことされちゃうの」

開口一番であった。しかし言葉とは裏腹に、鷹岡集一郎の表情は屈託のない笑みのままだった。

「せっかく残虐婦女暴行殺人ストリーマーのキルヶ島シャバ僧にVRカードを送ったのに、君がボコボコにしてカードも奪いとっちゃったんだって?しかもうちの諜報部も返り討ちにしたそうじゃないか」

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

64〈私〉:2017/11/19(日) 02:30:52

 意識が混線していた?
 目を覚ました刈谷は、まず後頭部が無事であることを確認した。
 血も出ていない。

 だが、頭の後ろ部分だけ、バイクで削られたみたいに妙に禿げている。
 これはこれでオシャレだが、これはつまり、バイクに轢かれたところまで事実だったことを意味する。

 ん…惹かれた?
「ここは…つまり、VR空間か。」
 刈谷は頭頂部に浮かんだ緑色の数字を見て確信した。

 彼の頭の上には彼の預金残高が表示されている。
 大した金額だと自分でも思う。全て自分の実力で、力で得た金だ。

 社会的に有利に立ち回り、有効に金を稼ぐ。今までそうして生きてきたはずだ。
 それなりのルックスに、ある程度の身長。筋肉質な体。どれも整形や骨格矯正などで手に入れたものだ。

 何故?…見た目が整っている方が、いろいろと有利だから。
「ここがVR空間なら…俺は一体いつからここにいた?」
 一体いつから?ファックマリア様に鎖で縛り付けられ、C3ステーションまで連れてこられた。
 その時からに決まってる。

「何でだ?今回のキャンペーンは四回戦までのはずだろ?ケツを振ったからか?ケツ…ブルガリア…」

 刈谷融介は目の前に広がる光景に思わず息を呑んだ。
 横たわる急峻な山々、いくつもの湖、広がる緑、そして花々。
 それはまさに、音に聞くブルガリアの大地そのものだった。

「そうか…ここがケツ…ブルガリアなのか。鷹岡マンも味な真似をしおってからに。」
 そのまま彼は…これがVR空間であり…衆人環視に晒されていることも忘れ…ズボンを脱いだ。
 やはり精神的に疲れていたのだ。オッサンで童貞を卒業してしまったのが決定的に彼の破滅願望を刺激してしまったのかもしれない。その可能性はある。

「ケツ…ブルガリア…」
 圧倒的なブルガリアの大地で、ケツ丸出しにして高速ケツ振りダンスをする後頭部が禿げた男がいた。そのスピードはタモリ倶楽部超倍速だ。

 この光景はC3ステーションを通して世界中へ拡散され、ブルガリアの観光収入が五倍以上に跳ね上がったことはあまりにも有名である。
 このケツブルガリアンが誰であろう、あの刈谷融介だとは、さしもの衆人も気が付かなかったであろうて。

「さあいつでも出てこいスパンキング翔くん。いや、最早スパンキングを攻略された君など、私にとってはスパーキングジョーだ。さあジョーくん。僕と楽しくスパーキングしよう。」
 そんな大自然の中でキラリと煌めく光る流星あり。

 光り輝くナイフは、彼方より放擲され、刈谷融介のケツに突き刺さった!
「おぉーっー!刺激的な攻撃だね。」

65〈私〉:2017/11/19(日) 02:33:09
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 高熱で魘された状態で訪問した〈私〉を、友人は怪訝な様子で迎え入れてくれた。

「倒す?刈谷融介を?」
「ああ、そうだよ神戸屋先生。ロキソニンが効いてきたからね。兎に角誰でもいいから、一緒に地獄に堕ちてくれる奴が欲しくてね。」

「ついに狂ったか。前から君はそんな感じのヤツだと思っていたよ。」
「いや、これは熱のせいではない。風邪を拗らせたからでもない。兎に角、単に予選敗退しただけでは癪だからね。なんかしてやらないと気が済まないんだ。」
 熱気を帯びて説明する〈私〉に、神戸屋先生は冷たい視線を遠くから投げかけた。

「僕は全く興味は無いがね。その刈谷ってキャラは僕たち向きのヤツなのかい?」
「いや、割と真面目なヤツで、性格の悪い食えない性格のタイプのヤツさ。あと読者人気が高い。」
 〈私〉が言うと、神戸屋先生は阿呆らしそうに手を振った。
 こういう時の神戸屋先生は、本当に全く物事に興味を示していない。刈谷融介の人となりにも、わざわざ戦わなくていいのに、触れる必要は無いと考えている。

「人気があるんなら、尚更戦っても意味なく無いか。むしろ周りの反感を買うだろ。」
「良いかい神戸屋先生、全ては可能性の話なんだよ。」
 〈私〉は大分アバウトなことを言った。これは熱のためだ。

「〈私〉は予選敗退した時に、今回の可能性が無くなったと思った。しかしだ、神戸屋先生。〈私〉は他者の物語に登場したのさ。」
「何言ってんだこいつ。」
 神戸屋先生はわりと本気で心配していたが、こういう時の〈私〉は早口で説明が止まらないので、やはり自分でも止めることは無い。

「まあ聞いてくれよ。神戸屋先生。」
「いや、流石に寝ろ。」
 神戸屋先生はしゃがみ、〈私〉の目線に合わせて〈私〉を見つめる。

「いや聞いてくれよ神戸屋先生。〈私〉は他者の物語の中でなら存在し得るのさ。つまり、そういうことなんだ。」
「そうか、成る程な。起こりうることは全て起こりうる。要は、何でもアリってことか。」
 神戸屋先生は立ち上がると、後ろを振り向き、障子の戸に手をかけた。
 その手に力が篭る。

「ならば…今この場が現実ではなく、VR空間だという可能性もあり得るわけか。」
「流石神戸屋先生。話が早い。そうさ。〈私〉はそれが言いたかったんだ。」
 最早恐れは無い。ここはVR空間で、ならばこれはC3バトルだ。

 障子の向こうには戦いの舞台が広がっている。
 それは出来ればブルガリアが良い。

「では障子を開くぞ。」
「ああ。」
 障子を開くと、大自然の中でケツを振る一人の男がケツを振っていた。

 神戸屋先生は黙って戸を閉めた。
「説明してもらおうか。」
 ケツブルガリア。
 今や彼は"その怪異"そのものになってしまったのだ。

「神戸屋先生。戦う前に頼みたいことがある。手伝って欲しいんだ。」

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 あり得たかもしれないもう一つのバトル
 ケツブルガリアVS〈私〉
 地形:ブルガリア

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

66〈私〉:2017/11/19(日) 02:34:32

 〈私〉がケツブルガリアに放った投げナイフは敢え無く彼の肛門に突き刺さってしまった。
 これは〈私〉にとって完全な誤算だった。

「おぉーっー!刺激的な攻撃だね。僕に興味があるんだね?」
 魅惑的なイケメンの顔が股ぐら越しに〈私〉に語りかけてくる。

 刈谷融介は今やケツブルガリアとなってしまった。〈私〉は自分で仕掛けた罠で、他人を怪異へと成り果たせてしまったのだ。

 現象の怪異。もはやケツブルガリアは戦う為に誰かから何かを借り続け、狩り続けるブルガリアの大地そのものと言えるだろう。
 実際それくらい刈谷の能力は強く美しいと思う。

「ケツブルガリア。何故〈私〉のナイフを受けた。」
「青いな。5点だ。お前みたいに5点のヤローは嫌いだな。」
 刈谷…ケツブルガリアはどうやら〈私〉のことがお気に召さなかったようだ。

「ケツブルガリア。何故〈私〉がお前を対戦相手に選んだのか分かるか?」
「知らん。興味も無いし、勝手にやってくれ。」
 ケツブルガリアは高圧的に〈私〉に接してくる。考えてみれば当たり前のことで、彼の性格を考えれば当然の態度だ。
 相手は圧倒的な強者。〈私〉も改めて気を引き締める。

「可能性さ。〈私〉と君が対戦する可能性はあったし、こうして"起こりえた"。だが、それは〈私〉が想定していた事態でもあった筈だろ?それは何故だと思う?」
「そんな事より…見ろよこのブルガリアの大地を。俺は今、すごく開放的な気分なんだ。」
 いろいろ開放的過ぎて大変な事になっているけど…それは言ってはいけない気がする。
 口にすると、その時点でこれまでの刈谷が帰ってこないような。そんな予感。

「ケツブルガリア。君の貸借天はハッキリ言ってかなり弄りがいがある。色々応用が考えられる筈だ。そんな無体な使い方をしてしまうものじゃ無い。なのに、これまでの対戦者達ときたら、みんな君の内面にばかり攻撃を仕掛けてくる。」
「ああ…俺がケツブルガリアになっちまったのも…全部これまでの対戦者達のせいってわけか。」
 そうだ。〈私〉は悪く無い。悪く無いんだ。

「〈私〉なら、ケツブルガリア。君の能力を十全に使い潰してやれる。頼む。〈私〉と戦って欲しい。」
「そんなことして俺に何の利益があるんだね。君もケツブルガリアになったらどうだい?」
 駄目だ!ケツブルガリアはもう、壊れてしまっている!

 刈谷はもう刈谷じゃない!彼はケツブルガリアになってしまったんだ!

「良い加減にしろっ!ケツブルガリア先生!!あの時俺を介抱してくれたのは嘘だったのか!?」
「それは多分君がみた幻さ。私では無い。今の俺はただブルガリアでケツを露出するだけの存在。これが鷹岡マンの望みなら、良いぜ。ノってやるよ。癪だがな。」

「それ以上生意気な口を聞くとファックマリア様を呼ぶぞ。」
「ファックマリア様っ!?」

67〈私〉:2017/11/19(日) 02:35:25

 ケツブルガリアのケツが僅かに動揺を見せた。その瞬間を〈私〉は見逃さなかった。
 〈私〉は口から溶解液を吐き出し、ケツブルガリアのケツに吐きかけた。

「喰らえええ溶解液塗れにしてくれるわ。」
「グォアアアアっー!」
 溶解液に塗れたケツブルガリアは、全身が爛れて死んでしまうのかと思いきや、意外と平気だった。

「馬鹿め。貸借天で溶解液の『ケツブルガリアを溶解する権利』を借りたのさ。つまり、俺の服は解けるというわけだなあ。」
「くそっ!全裸というわけか。」
 ケツブルガリアはみるみるうちに服だけが解け、全裸になった。いや、見ないけど。

「この溶解液の『権利』はまとめてお前に返してやるぜ!お前は今まで戦った中で一番弱かったぜ!」
「エジプトパンチ!」
 エジプト仕込みの〈私〉の右パンチが刈谷に炸裂する。
 貸借天の能力は所詮人間が操るものなのじゃ。ならば、目にも留まらぬスピードで殴り抜ければケツブルガリアは防御出来ないというわけじゃな。

 だが、そんな〈私〉を襲ったのは、無傷でニヤリと笑うケツブルガリアの笑顔だった。
「お前、本当に"魔人"なのか?いくら何でも遅すぎるぞ。そんなパンチ、いくらでも『借りる』ことが出来るぜ。」
「そうか…なら、お前はもうケツを振り回すしか出来ないなあ。」
 〈私〉もまたニヤリと笑った。

 果たして〈私〉はおかしくなったのか。ある意味ではそうだ。おかしくてたまらない。
 ケツブルガリアと一緒になったのか?それは違う。〈私〉は〈私〉だ。ケツブルガリアになんてなったりしない。
 遥かなブルガリアの急峻な斜面でケツを振り続ける、現象の怪異には。

「ほう…やっと僕とケツブルガリアする気になったんだね。優しくしてあげるよ。」
「いやあ…やっぱりお前は馬鹿なんだと思ってさ。」
 〈私〉が言うと、ケツブルガリアは怪訝な顔で〈私〉の瞳を見つめた。

「何故?ケツを露出しているからか?」
「まず一つ。お前は自分の預金残高を頭の上に表示してるが、それはお前には見えない。何故って、〈私〉が確認する為だけにそう設定してもらったからさ。お前がどうしようが、実は関係なかったのさ。」

「何を…言っているんだ。」
「そしてもう一つ。君は自分の能力を可能な限り色々試したとどこかで言っていたが。それは多分嘘だ。〈私〉なら怖くて絶対に自分の能力は使わなくなる。」

 物事の価値を、誰が決めるのか。
 お尻を出した子一等賞なのか?
 借りたら返せば、それでチャラなのか?

「答えはケツブルガリア先生、『特に決めるものは決まってないし、決めるのは自由』だよ。先生。」
「違う…そんなはずは無い。」

「多分、現実が受け入れられないと思うけど、一応言っておくよ。ケツブルガリア先生の能力は本当に素晴らしかった。弄りがいがある。人は認めない可能性が高いけどね。
物事の価値を決めるのは基本的に社会とか国とかだと思うが、君の能力の場合は違う。本当にありがとう。」
「嫌だ…止めてくれ。」

「ケツブルガリア先生の能力をもう一度よく見てみよう。『金銭的価値が不明のものは希少性を中心に利子が決定する。そのため魔人能力などは非常に高価である。』ここを見たときピンときたんだ。そうだ!なら俺と神戸屋先生で物事の価値を決めてしまえば良いってね。
 だってそうだろ?人間が二人以上いれば、金銭的価値は発生するからさ。本来ならそこに他者が介在する余地は無い。民法は私法のの一般法なのさ。
 人間はどんな契約を結んでもいい。それが、民法の大原則。
 ところがケツブルガリア先生の能力は、その契約自由の原則には準拠していても、肝心の公序良俗の原則を無視し続けいることは、これまでの戦いを見れば明らかだ。
 なら?もう一度聞こう。先生、物事の価値は誰が決める?それは〈私〉と神戸屋先生だ。」
「俺は…刈谷融介だ。」

「話が長くて分かりにくかったかな?とりあえずそこの頭に表示されてる金額を見てくれ。ああ、自分では見えないのか。
 そこに表示されているのは…君の預金残高からマイナスして…8かける…10が120個着く。そういう金額だ。先生の能力のもとではあらゆる公序良俗が排除される。本当にありがとう。」
「止めろ…止めろーーっ!」

68〈私〉:2017/11/19(日) 02:37:29

 刈谷融介…ケツブルガリアの頭上に表示されていたのは、マイナス8不可思議円から本来の預金残高を引いた金額だ。
 不可思議。それは那由多の万万倍の単位で、天文学的とかいう数字すらも遥かに超えた、物凄い金額だ。

 何が起きたのか。
 簡単だ。〈私〉は戦いに臨む前、神戸屋先生と二つ以上の契約を交わした。

 『〈私〉は神戸屋先生に〈私〉の行動によって発生するあらゆる"運動エネルギー"に関する価値を譲渡します。』

『〈私〉、神戸屋先生は以下の貸借契約を結ぶ。神戸屋先生は〈私〉に運動エネルギーを貸し与える。その価値は8不可思議円。もし、運動エネルギーを損耗した場合は同額で弁償します。利子は1秒に10割。』

 つまるところ、契約は契約なので、貸借天の前ではこのような契約ですら正常に機能してしまう。
 契約を甘く見るな。これは古代ギリシャ以前から人類が培ってきた偉大なる知識と知恵の結晶だ。

 本当に自分の能力を確認したのか?
 それは一人でやらなかったか?
 誰か…自分の能力を見てくれる、心の友はいなかった?

「ケツブルガリア先生。人類史上類を見ない大借金を背負ってくれて本当にありがとう。俺の負債は全て先生が奪ってくれた。そして、その運動エネルギーは俺のものではなく、神戸屋先生のものだ。どうやって返す?残高が0を切った時点で、能力はもう行使できない。」
「まだだ、返却すれば…」

「ケツブルガリア先生、これはあくまで可能性の話だが…『〈私〉だけが実在を主張する人物を、どうして存在すると理解できる?』神戸屋先生が〈私〉の妄想だけの存在だと、どうして疑わないんだ?そして、この言葉を聞いた時点で、起こりうることは全て起こりうるのさ。」
「え…」

 チェックメイトだ。ケツブルガリア先生。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 その後、刈谷融介…ケツブルガリアは普通に殴って〈私〉に勝利した。
 〈私〉は体力的には魔人に劣り、所詮は雑魚だったのだ。
 ケツブルガリアは…8不可思議円を超える、ギネス級の大借金を背負ったまま、C3ステーションを追い出されるように後にした。

 そこにいたのは…眉目秀麗な美男子ではない。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

69〈私〉:2017/11/19(日) 02:39:06

「俺は刈谷融介…外面だけはいい27歳無職。人に不快感を与えない風貌に、いつも笑顔を絶やさない温和で心優しい人物だと思われている。」

 これでいい。外面さえ取り繕えば、心の中まで顧みられない。
 他人にも、自分にも。

「俺は刈谷融介だ。見れば分かるだろう。」

「刈谷融介だ。そんなに証拠が欲しいのか。」

「刈谷融介は笹倉砂羽のことが好きではない。俺も、刈谷融介のことが嫌いだ。」

「俺は刈谷融介だ。笹倉砂羽のことが好きではない、刈谷融介なんだ。」

 毎日の日課だ。鏡を見て。自分が誰なのかを再確認する。
 コツは、電話でもいいので誰かに話しかけながら確認することだ。

 振り向いてくれ。
 頼むから。

 俺は狂ってない。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

「面白くないなぁ、そういうことされちゃうの」

開口一番であった。しかし言葉とは裏腹に、鷹岡集一郎の表情は屈託のない笑みのままだった。

「せっかく残虐婦女暴行殺人ストリーマーのキルヶ島シャバ僧にVRカードを送ったのに、君がボコボコにしてカードも奪いとっちゃったんだって?しかもうちの諜報部も返り討ちにしたそうじゃないか」

★★★★★★★★★★★★★

「面白くないなぁ、そういうことされちゃうの」

開口一番であった。しかし言葉とは裏腹に、鷹岡集一郎の表情は屈託のない笑みのままだった。

「せっかく君にVRカードを送ったのに。しかもうちの諜報部も返り討ちにしたそうじゃないか、残虐婦女暴行殺人ストリーマーのキルヶ島シャバ僧くん。」

俺は狂ってない。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
 
「もう飽きたからさあ、何もかも止めにしちゃおうよ。」

 刈谷融介…ケツブルガリアは雨に打たれながら歩いていると、正義の味方タカオカマンに声をかけられた。

 鷹岡集一郎。その正体は、昼は外道行為に手を染め、夜は少女とOLの夢と希望を守るために戦う、正義の味方タカオカマンだ。
 彼の全ては道楽行為。正義も企みも、全てが同じ天秤の秤に乗っかっている。
 釣り合う対価は存在しない。

 だから存在できる。だから両立する。

 そんなタカオカマンに、彼も憧れている時期があった。

「タカオカマン…助けてくれ。」
「おいおい。此の期に及んで救いを求めるのかい?これは君が望んだ結果だろう?」

「助けてくれ…砂羽を!あの子は何も悪いことをしてないんだ。なのに…なんであの子があんな目に会わなくちゃいけなんだ。」
「言うに及ばず、だよ。正義の味方タカオカマンは婦女子の強い味方だからね。」
 タカオカマンが翼状のマントを翻すと、その場には初めからそこにいたかのように、笹倉砂羽が現れた。
 砂羽はしっかりとケツブルガリアの目を見つめていた。

「砂羽…」
「ユースケ…」

 二人はしばし無言で見つめ合っていたが、業を煮やしたタカオカマンが口を開いた。
「いい加減にもうやめたらどうだ。キルヶ島シャバ僧。僕の偽名を演じるのは。」

70〈私〉:2017/11/19(日) 02:39:54
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 キルヶ島シャバ僧。男優。
 かつて業界を追われた彼は、刈谷融介こと鷹岡集一郎が脱税の為に建てた映像会社で、婦女に残虐、暴行、殺人をする端役に成り下がっていた。

 彼はいつも正義の味方タカオカマンに倒される役だったが、女性に対する苛烈な行為が一部で人気を博した。

 いわゆる裏ビデオというものだ。
 会社名は『ケツブルガリア』。
 そんな中で、一人の女性と出会った。

 笹倉砂羽…彼女は、出会った時から"完全に壊れていた"。完全に壊れた人間は、二度と修復できない。
 しかもこの砂羽という女性、鷹岡集一郎の幼馴染で、鷹岡の手によってこの業界に沈められたという。
 それもただの道楽行為だ。
 鷹岡集一郎にとって、笹倉砂羽はその程度の価値しかなかった。

 だが、砂羽は、 どこまでも鷹岡に執心していた。それだけが唯一の希望と言わんばかりの目をしていた。
 しかし、彼女は壊れていたので、鷹岡のことを鷹岡と認識しないことにしているようだった。代わりに、他の人を鷹岡と刈谷を別個の人物と認識するようにしていた。

 その希望が、キルヶ谷は好きになった。
 だってそうだ。何故なら、彼女はこの世界で唯一完全な被害者だから。

 魔人能力もその時に身につけたものだ。
 まず、貸借天の能力で『借りた』のは鷹岡集一郎の『刈谷融介』である権利。

 そこからは、自分が刈谷融介であることを自分に言い聞かせることに終始した。
 最近は、砂羽も漸く自分が刈谷だと認識してくれているようだ。

 砂羽は、ユースケが好き。
 融介は、ユースケが嫌い。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

「お前がどれだけ砂羽に尽くしてきたか。知らぬ砂羽ではあるまい。いい加減に認めたらどうだ、キルヶ島。笹倉砂羽は刈谷融介ではなく、キルヶ島シャバ僧に救われたのだと!」
 タカオカマンの叫びが雨夜に反響する。
 ケツブルガリアは…泣いた。

「お前の借金は俺が背負ってやる。刈谷融介の権利を一旦俺に返せ!そうすれば、もう一度ゼロからやり直せるだろう。」
「何故お前がそこまでするんだ…砂羽を壊したお前が。」

「黙れヒョウロクダマ!俺は自分が気持ちよくなれれば一番良いんだ。今、どうしようもないお前を救ったら最高に気持ち良い気分だ。私の気が変わらないうちに早く!」
「ユースケ…誰がなんと言おうとあなたはユースケよ。いいえ、ケツブルガリアよ。ケツブルガリアのケツブルガリア、最高にカッコよかった。」

 笹倉砂羽は…とうに救われていたのだ。ケツブルガリアによって。
 その日、ケツブルガリアが流した涙はわりと良い値段で売れた。

 その後、タカオカマンに天文学を超える大借金を押し付けたが…何をどうしたのか、翌日には鷹岡集一郎は元の資産規模に戻っていた。
 そう、破産宣告をしたんだね。賢いね。

 おわり

71ゴメス:2017/11/20(月) 12:08:38
最終ssまで書き終わったから白状します。
ゴメスにはモデルがいます。
喧嘩家業のカブトを参考にしました。

72〈私〉:2017/11/23(木) 08:56:01
明らかにカブト以外も混ざってたような…

それはそうとカブトのプロレスは作中で中坊相手にしか披露されていないので、早くパワースピードテクニックを兼ね備えたカブトの戦いが見たいですね

73天問地文:2017/11/25(土) 03:33:35
『答え合わせ』

※注意:この幕間は第4ラウンド第8試合・オフィスビル街その1の重大なネタバレを含んでいます。
まさかいないとは思いますが、現時点で未読の方は読まないようご注意ください。











……よし、こんなもんでいいか。

さてさて、オフィスビル街その1の最後に暗号のおさらいをしていただろう?
アレを解読するとどうなるか、だな。解読方法はもう教えたから答えだけ言うぜ。

「け い た い で よ め」

携帯で読め、となる。
携帯から読めば、俺の『孫』が世界をひっかきまわす様子が見られる、って寸法だ。

……あ?携帯電話を持っていないからなんとかしてくれ、だと?
しょうがねえな。
アドレスの「dngssc3」ってところの後ろに「/sp/」を付け足してみな。
これでパソコンからでも、覗き見できるはずさ。

……ん?先に携帯から見た?
それはそれでいいんじゃねえか、ままならないのが人生ってもんだ。

74天問地文:2017/11/25(土) 03:34:42
(……こんなもんで良くなかったな……悪い悪い。改行が足りなかったぜ)

75minion:2017/11/25(土) 20:41:23
銀天街飛鳥。
tps://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=65832330
世界じゃあ2番目だ。

可愛川ナズナ&桜屋敷茉莉花。
tps://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=66025856
奇術師と令嬢。

珀銀。
tps://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=66025647
二刀流の女剣士さん。

76狭岐橋 憂:2017/11/25(土) 21:08:20
ラジオ間に合わなかったけど結果発表前にと思って

77狭岐橋 憂・プロローグ Side.K:2017/11/25(土) 21:10:10
私のいた学校について「私立ならではの部分は?」と聞かれたら、何パーセントかは「修学旅行で海外に行くこと」だと答えるだろう。
もうどれくらい前の話かも思い出せないけど、あの日、私たちは修学旅行の真っ最中だった。
エキゾチックな寺院。
歴史を感じさせる内部の装飾に私は見入っていた。
生徒の列の前方で解説する先生の話も耳に入らないほどに。
今ならば、私はこの寺院が作られた時代にも、
装飾に語られる神話の時代にさえも行くことができるだろう。
でもきっとこの時と同じ感動は湧いてこない。
私の心は乾いてしまった。
隣で同じように天井を見上げる親友・憂を、この直後に失ってしまったから。

「お前ら、日本人だな?」

寺院から外に出たときには既に囲まれていた。
武装した男が数十人。

「ようこそ! 【LOVE・サバイバー】の縄張りへ!」

リーダー格らしい大柄の男が大きく手を広げる。
その姿はまるで演説で大げさなポーズを決め民衆の情に訴えかける政治家であった。

「率直に言う! 組織拡大のためにお前らの金が欲しい! それに……」

男の視線に背筋が寒くなる。
私たちを順に見渡しながら見定めるような視線。

「お前らの貞操も欲しい!」

私たちの学校は女子高だった。
当然、生徒は女の子しかいない。
無駄なあがきだけど、私たちはお互いに身を寄せ合った。
泣き出す子もいた。
私たちの姿を目に、唯一の男性である先生が男の前に進み出た。
先生も、足は震えていた。

「お金は渡します。ですからどうか、この子たちは逃がしてやってくれませんか」

「嗚呼、今時なんという素晴らしい教師! 金も我が身も顧みず、ただただ生徒の安全に気を配る!
 どれほどの聖職者か! 許されるならば、この教師を仲間に引き入れ、心ゆくまで女子高生の身体を味わわせてやりたい!」

「えっ!?」

そこで動揺はしてほしくなかったな。
なんて思っていると、男がするりと懐から銃を取り出した。

「だがやはり、男は死ね!」

私の世界が終わったのは、このときだった。
男が引き金を引く。
弾が、先生にめがけて飛んでいく。
集団の中から一人の生徒が、憂が飛び出す。
憂が、先生を突き飛ばす。
憂が、弾を受ける。
憂が、倒れる。
憂が……。

「ちぃ、一人減っちまったじゃねえか。今度こそ……」

「ウガァーッ!」

「な、なんだ!?」

78狭岐橋 憂・プロローグ Side.K:2017/11/25(土) 21:11:01
私には憂しか目に入っていなかったが、音は聞こえていた。
テロリストの一部の悲鳴と、そいつらが吹き飛ぶ衝撃。
そして、一人の男の声が。

「トム……おめえ!」

「おお、これはこれは我が友・尻手翔ではないか! なんだその目は。
 このオレが本当は蚊も殺せない善人だとでも思ってたのか?
 許されるならば、それが勘違いだということを、その身に刻み込んでやりたい!」

テロリストたちが銃を構えるのを横目に、私は憂のところに駆け寄る。
心臓は……止まっている。
息は……していない。
瞳孔……見てもよく分からないけど、感じが、いつもと、違う。
憂は魔人だった。
とんでもない力を持っていた。
でも、男の前では無力だった。
そんな憂がどうして飛び出したのかは分からない。
ただあるのは、憂が死んだという事実だけ。

「悪りい、その嬢ちゃんは間に合わなかった。俺が奴を逃がしたせいだ」

尻手翔という名らしい男が、私に声を掛ける。
そんなこと、謝られても意味がないのに。

「そこの先公! 俺のケツを蹴れ」

尻手翔は血迷ったことを口にした。

「は?」

「そういうモンなんだよ、俺の魔人能力は」

「……っま!」

先生は驚いているようだけど、この人数相手に一人で戦えるのが魔人じゃないわけないじゃない。
魔人が怖いのはしょうがないけどさ。
それでも、使命感からか、先生はよろよろと立ち上がった。
そして、弱弱しく尻手翔のお尻を蹴った。
尻手翔の筋肉がわずかに盛り上がる。

「おい先公、もうちょい気合いを――」

尻手翔の言葉は一斉に発射された銃声の音にかき消された。

「――っつ! だが、なんとか耐えたぜ! ありがとよ、『お前ら』のスパンキング!」

とっさに瞑っていた目を開けると、尻手翔の筋肉は、常識ではありえないほど膨らんでいた。
後に知った彼の能力『ラスト・スパンKING』の発動だった。
お尻に攻撃を受ければ受けるほど強くなる。
最初の先生の蹴りでわずかに強化された尻手翔は、銃弾のひとつひとつを捌きながらパワーアップに利用していた。

「とはいえ、さすがにこの人数を守りながら戦うのは辛れえ! 俺が道を拓くから、逃げれる奴から逃げてくれ!」

そこからは阿鼻叫喚だった。
真っ先に逃げ出す子。
追うテロリスト。
遮る尻手翔。
最初は震えて逃げられなかった子も、友達に支えてもらい、後に続いていく。
尻手翔は強かった。
一人一人が訓練されていたであろうテロリストを、ことごとくお尻ひとつでいなしていく。
それだけに、私の中で怒りが湧いてきた。
こんなに強いのに、なぜこいつらを逃がしたのか。
そのせいで憂は……!

「ちい、やはり一般兵では何人揃っても一緒か!」

お互いの人数が半分くらいになった頃、たしかトム……と呼ばれていたリーダー格の男が叫んだ。
するとトムの横から一人の男が声を掛ける。

「へへへ、どうですダンナ? 一踏み一万ドル、契約します?」

この場では異質な男だった。
武装もしていなければ、格闘にも向いていなさそうなひょろい体格。
会話の内容も含めて考えると、おそらくはトムの雇った魔人だろう。

「許されるならば、お前を散々使い倒した上で、契約料など踏み倒したい!
 だがいいだろう『シャドー』! 尻手翔を始末できるなら、一万ドルなど安いものだ!」

「へへ、お買い上げぇー」

そう言って『シャドー』は歩みを進め……尻手翔は凍り付いた。

「!?」

金縛りにあったように全く動けないようである。
『シャドー』が得意げに口を開く。

「へっへっへぇー、あっしの『影踏み』に掛かるとぜーーったいに動けないのでやんすよ。
 ダンナもさすがに正面からなぶり続ければ死ぬでやんしょ?」

それは、絶望的な宣言。
この場で唯一状況を変えられる男を失った。
もはや、先生は殺され、私たちは堕とされる。
それならばいっそ、私も憂と同じ世界に……。
でも、できなかった。
憂は特別だけど、今残っている皆だって大切な友達だから。
だから、ムカツくけど、今あの男を失うわけにはいかない。
私はどうなってもいい。
皆が、逃げられるように!

79狭岐橋 憂・プロローグ Side.K:2017/11/25(土) 21:11:18
「へっへーい!」

突然お腹に衝撃を受けた。
だけど、後ろに倒れることができない。
お腹を抱え込むことも。
どうして、私の目の前に『シャドー』がいるの?
どうして、魔人に殴られても大丈夫なの?
その問いに対して、『認識』はすぐに追いついてきた。
『大切な人と、位置を入れ替える魔人能力』。
『大切な人』というのが、のっけからかなり拡大解釈じゃないかなぁとは思うものの、とにかくこれで――。

視界の端で、尻手翔が一瞬の状況の変化に気付いたようだ。
もちろん視点の変わらない『シャドー』の方が入れ替わりには早く対応できた。
だけど、もう能力を知られてしまった『シャドー』は尻手翔の敵ではなかった。
尻手翔の影は『シャドー』の足をするりとかわし、尻が『シャドー』の顔に突き刺さる。
『シャドー』は泡を噴いて倒れた。

「さて、残党整理よ!」

私は殺る気に満ち溢れていた。
憂を殺した奴らを、絶対に許せない!
と、構えたのに。

「お前、何言ってんだ!」

尻手翔が遮る。

「大丈夫よ、さっき魔人に目覚めたから」

「いや、でもよ、あの感じだとお前の能力ってテレポートとかだろ? 普通の魔人の身体能力だけじゃ銃には勝てねえぞ?」

「えっ……」

それは知らなかった。
憂の能力なら多分銃にも勝てただろうし、目の前の尻手翔も銃をものともしなかった。
だからてっきり、魔人なら銃に勝てると思ってしまっていた。

「まあ、魔人に目覚めたのは別の意味で都合がいい。俺の尻を蹴ってくれ」

「は?」

先生と同じやりとりを繰り返すことになった。

「だから俺の能力はそういうモンなんだって」

それはもう分かっている。
私が言いたいのは「女にやらせる?」って部分なのだけど。
まあいい。
こいつらを逃がした恨みだ。
私はそれはもう殺すぐらいの勢いで、尻手翔のお尻を蹴った。

「よっしゃー! お前のスパンキング、受け取ったぜ!」

「キモイ!」

私の魔人の力を受けてはるかに膨れ上がった尻手翔は、そのまま残党共を空の彼方へ吹っ飛ばした。

「許されるならば、こんな雑なまとめ方じゃなく、ちゃんとしたバトルで負けたぁーーい!」

80狭岐橋 憂・プロローグ Side.K:2017/11/25(土) 21:11:30
修学旅行から戻ってから、私は登校する気が起きなかった。
友達と顔も会わせ辛く、寮も引き払った。
ご飯を食べるのとお風呂に入るためだけにリビングに降り、あとの時間は部屋で過ごした。
パジャマも着っぱなしだ。
引きこもり、というやつだ。
別に魔人になったからといって疎まれているわけではない。
多分、最後まであの場に残っていた子たちが気を利かせてくれたんだろう。
だから理由はそうじゃない。
理由はもちろん、憂がいないからだ。
憂がいつもの席にいない風景を見たくなかった。
そんなことしても憂が生き返るわけじゃないのに。
あの日、もう少し早く私が能力に目覚めていれば、憂の身代わりになれた。
だけどもう時間は戻ってこない。
絶対に。

「絶対に?」

頭の中で何かが引っかかった。
あの日……そうだ、あの日。
「ぜーーったいに動けない」尻手翔を、私が、この私が動かしたんだ。
そうだ、私の能力は『絶対』を覆せる。
じゃあ、じゃあ、「死んだ人間は『絶対に』生き返らない」っていうのは?
何の根拠もないけど、でも、覆せるかもしれない。
もし、そんなことができるのなら。
憂が取り返せるのなら。

「それが、できるなら……『私は、神に愛されている』」

その言葉を鍵に、私の『転校生』への扉が、開いた。
そして私は自分の能力に名前を付けた。
これは憂、あなたのための能力。

『for you』

81可愛川ナズナ:2017/11/25(土) 21:25:41
tps://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=65898862

82ニャル@滝口:2017/11/26(日) 01:24:29
tps://dl.dropboxusercontent.com/s/rdvgmla0gi9ac23/ssc3-2.jpg

こっそりこっちで自分語り。
プロローグ・GKのプロローグに触発され書き上げて送る。
五段階を四段階と間違って表記するぐらいだから勢いだけ。
一回戦。キャラ設定ほとんど考えてなかったので、対戦相手の刈谷を参考に決定。
対比になるように理想主義者に設定。なのでハピエン厨は刈谷の影響です。パパー!
二回戦。一回戦のななせちゃんの物語から、リベンジマッチにする。
一回戦からの能力解釈が全てだったので、あの一回戦がなければ書けなかった……。
三回戦。書籍発売やら宣伝とタイミングが重なって時間が取れず……。
でも……「負けSSにしたら2-1になってワンちゃんななせちゃんと戦えるな?」と思ってしまった……。
四回戦。勝負を投げ捨てるつもりの後半。
ここは本当に迷って、投票期間中に削除申請まで一度送った(GKに叱られた)
でもあれは幕間ではない、本編としてエンドマークを付ける最後のチャンスだったと今では思う。
止めてくれてありがとう、GK。刺さってくれた人もいたようなので何より。
プロローグから4回戦までの限られた5Pでは、最高の物語を書き上げたと思ってるぜ!
だから反省しないはしてない! 読んでくれてありがとうなー!

83ニャル@滝口:2017/11/26(日) 01:26:45
>>82
反省してない!の間違いだ! しまらねぇー!
メンタルがクソ雑魚なので迷惑かけてすまねぇ!

84夕二(ゆうじ)@稲葉白兎:2017/11/28(火) 07:39:35
ダンゲロスSSC3お疲れ様でした!

EDイラスト『世界中を驚かせてしまう夜になる』
tps://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=66073148

85ニャル:2017/12/02(土) 16:26:11
幕間SS ダンゲ✕ロンパSSC3

イナリ「死体が発見されたのじゃ! これからみんなにはVR空間で犯人当て学級裁判をしてもらうのじゃー!」

くもり「というわけで私が殺されたらしいから、よろしくね」
ミルカ「そんな……荒川さんが死んでいるなんて……! いったい誰が……!」
稲葉「お、ノリがいいねぇミルカちゃん! ちなみに俺っちはやってないぜ! なにせ俺っちは”逃走王”。魔王なんて戦いにもなりゃしない」
ナズナ「死因は刃物……。これはもしかして、DSSバトルの焼き直しなんじゃ……?」
絆「わ、私じゃないよ! 刃物を使う人なら、他にもいるし」
憂「わわわ、私は犯行時刻付近は翔さんのトレーニングに付き合ってました! 本当です!」
翔「ああ、それは俺が証言するぜ。この尻が動かぬ証拠だ」
露出卿「ふむ、吾輩含めて刃物を扱う者は多数いるな。それに他の者も、刃物を扱う手段がないわけでもあるまい」
刈谷「俺の能力なら刃物なんていくらでも借りられるしな。しかしそれを言うなら、そこの似非怪盗だって外見や他人の能力を借りられるんだろ?」
ニャル「ああ? そりゃそうだが、わたしだってその時間はななせと一緒にいたよ。なぁ、ななせ」
ななせ「うん。ニャルちゃんが支倉さんに追われてたから、ちょっとだけ匿ってたんだ。2時間ぐらいかな?」
支倉「ああー、そうだったのね。ちょっと食べて欲しかっただけなのになぁ。あ、もちろん私の体じゃなくて、普通のごはんの方ね。腕によりをかけて作ったの」
つくね「あの調理場のちゃんこ、不思議な味だと思ったけど支倉さんが作ったんだね! 美味しかった! でも殺人事件を解決するっていうなら、打ってつけの人がいるんじゃないかな?」
銀天街「まあ私が推理するまでもないさ。というか、大真面目に推理している人がいたら申し訳ない。次に喋るヤツが犯人だ」
ゴメス「ああ、俺が犯人だったんだ。えっマジ?」

86夕二(ゆうじ)@稲葉白兎:2017/12/10(日) 12:38:23
待たせしましたSSC3
ボードゲームカード化しました!!
1弾、2弾で全32名34枚の大ボリューム!!
イラストはminionさん、ヴィピアンさん、ささささんに協力してもらい超豪華!!
さぁ君の手でSSC3を続けよう!!

両弾ともpixivでダンゲロストーン10個で配布中(嘘)
え? 足りない? C3ステーションに詫び石をたかろう!!(嘘)

第1弾 〜選ばれた16人〜
tps://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=66219173

第2弾 〜ハッピーバースディ〜
tps://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=66219224

87蜜ファビオ:2017/12/10(日) 17:28:47
幕間SS「拘束と衝突〜ラストレシピ〜」(後編)その1

●人物(ダンゲロス流血少女)
真野片菜。転校生。
黒い瞳、黒の長髪、長身貧乳の女性。

かの剣は、無双にして唯一、あらゆるものを両断し、
かの身は、「空」にして押し寄せるあらゆるものを流転する。
信に厚く義を重んじ、理を外さない性格であり、妃芽薗学園において誰もが頼り、
誰もがかくありたいと願う学園『最強』。

だが、何故か彼女を識るものは学園にいない。
安全院ゆらぎの古き友人。だが、その真実の意味を識るものは真実をおいてほかにいない。
彼女は駆ける、あの日あの刻の約束を守るため。
そして果たせずの誓いを果たすため、彼女は時代の奔流のまっただ中を駆け抜ける。


●―魔界ケ辻ー(元世界時刻:2014/12/26)

逢魔が時。
それは全ての時が交じり合い。行きかうという時空の交差点


「   ほわんほわんほわん〜まのまの〜      
というわけで”誠意ある説得”の末”善意の協力”を取り付け僕は今君の目の前にいるのでした〜。ってアレ?」

てっきり罵声か斬撃が飛んでくるかと身構えていた白帽子。だが、予想に反し、女からの答えは沈黙だった。沈黙ののち、ため息。ただ、その吐息には前のような殺気もいらだちは含まれてはいなかった。

「その手の悪ふざけを含んだ言いざまは感心しない――――が、存在をかけてまで戦う者の言葉もまた無下にできるわけがない。お前は私を止めに来た。命と存在をかけてまで。最後まで話せ。そして言うべきことを私に告げろ。」
ただ、凪のように静かな声で彼女は告げた。
白帽子はちょっと困ったように視線を宙に泳がした。どうやらどこかで真意が悟られてしまったらしい。

「最後――話の残りは『時空時計』事件の顛末だけなんだけど、実は”僕たち”にとって
本当にたちの悪い話はここからなんだ。
”迷宮時計”の発生を認識した当初、識家の中で事態はそれほど深刻に受け止められていなかった。
何故発生したか謎は謎だが”全智全能に等しい力”を保有する識家の力をもってすれば、
過去の経緯をさかのぼり、必要な情報を取り出すことはそれほど難しいことではない、そう捉えられていたんだ。

ある意味それは正しい、ワンターレンと時逆順の能力はたしかに強力であるけど、全能ではない。そして識家の力は全能に等しい。
誤算があるとすれば、その全能に等しい力とやらが『時空時計』の前には全く歯が立たなかったことぐらい。全く奢れるものは久しからずだね。

『遡れない!そんな馬鹿な!』
担当者はそう叫んだそうだそうだよ。
『この私が時空の優先権が取れないだって!?ありえない絶対にありえない!十束学園の秘奥の武装『時の導き手-クロックアーム-』装着する事で時間を自由に操る事が可能になり、時間改変はあらゆる能力による改変よりも優先されるといわれる学園長が持つ門外不出のS級神具『時の導き手-クロックアーム-』でも使わない限り、こんな馬鹿なこと、絶対に起こりえるはずがない。何かの間違いだぁぁぁぁ。なお『時の導き手』の詳細に関して知りたい人はダンゲロス流血少女2の白河一の項を参照してネ、うぃあでゆー☆』と。」

「…誰だ、その担当。」
もっともな疑問だが生憎どこからも返答はなかった。
女はMrウィッキーが語ったという言葉を思い出す、たしか彼は「複数の転校生または”転校生クラスの力”の複合によってもたらされた現象といってはいなかったか。
時間に関する優先権をとられていた…不可能…今までの在りえない展開の数々…。

「十束学園の神具が実際に使われていた?」
「その思い付きで正解。これは後追いの調査で判明したんだけど、実は”偶然にも”あの世界線に十束学園の最高戦力”ストレングステン”の白河一が派遣されており、その活動期のはじまりが”たまたま”2014年下半期、迷宮時計が発生したその日その時とぴたり重なっていたんだ。」

そういって右手と左手の人差し指を合わせた。
すごい偶然だね!
ただでさえ軽薄な白帽子の物言いが天井ふきんでふわふわ漂っていた。もはやフレンチカンカンを踊りだしそうな勢いだった。そんな偶然があるわけがない。つまり何者かの意図が働いたということだ。

88蜜ファビオ:2017/12/10(日) 17:36:20
ラストレシピ(後編その1)の続き

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「”迷宮時計”は『時空時計』ではなかった。
だが時計の位置を合わせるように綺麗に重ねられた動き、その短針と長針を見て、我々はそれが同じものだと勝手に勘違いしていたんだ。
伝承によれば神具は『手甲にアナログ時計をはめ込んだような形をしている』そうだから
各地に飛び散った”迷宮時計”のかけらの中に紛れ込んでしまえば、その看破はまあ無理だろうね。実際、魔力波長も極めて近いものだったし。
結局、真犯人にとっては”迷宮時計”はもう終わった存在で次の犯行の準備のためのデコイでしかなかった。
迷宮というミストで隠した本命は白河一の派遣先。十束学園支配下の『妃芽薗学園』だったんだ。そしてそこは―――」
「先日の妃芽薗2回目となる黙示録において”安全院ゆらぎ”が復活をした場所であり、そのもとに向かおうとする私が最初に選ぶ場。
つまり―――転校生連続殺人事件の次のターゲットは”私”というわけだ。」

白帽子は首肯した、僕はここで君を止めるために来た。そして地におち、分かれた標識を再度指さした。
『最強』の二つ名を持つ転校生、真野片菜。君は彼女の『物語』に足を踏み入れてはいけない。
例え『最強』であっても。
その先、DANGEROURS生命の保証なし。

◆◆◆

真野片菜は自らが両断したプラカードに歩み寄ると拾い上げ、その断面をすいっと合わせた。

「むこうの状況はどうなっている?」
「真犯人の『物語』に踏込かねないので干渉は自重はしているけど、相当錯綜してるみたい。
主な原因は学園首謀者だった白河一がハルマゲドン直後に行方知れずになっているためで、学園側もその原因を掴めてない様子。あの子も同時に姿を消しているから、白河のひと多分、運悪くあの子にぶち当たって隷属しちゃったんじゃないかなー。あとなんかデカい『薔薇』が一輪咲いているらしい。」

「まあ。そんなところだろうな。『薔薇』?」
「うん『薔薇』。赤いやつ」
「だが、すでにその白河某がゆらぎに膝を折っているなら互いに争う理由はない。私の世界渡航を止める必然性はあるのか?」

男は投げ返された標識を軽く振ってみる。それはいかなる技をもって切られたか吸い付くように接合を果たし、完全に融合していた。標識や薔薇より前に十束学園関係者が目をむきそうな発言があったような気もするが二人は特に気にしなかった。実際、事実であったし。

「確かに白河一と君が正面からぶつかる線はほぼ消えたと思う。けど、それくらい『真犯人』は織り込み済のはずだ。本当の危険はそんなことじゃないくらい知っているだろう。策にしてもいくらでも代替えは効く。
例えば、君、『最強』の登場をもって十束学園は一連の混乱と最高戦力の喪失を識家の手によるものではと疑い始めるだろう。逆に識家は神器の件から「転校生連続殺人」に学園が関与した疑いを払しょくできず、手を色々出し続ける。その両者の疑念に水をやっていくだけでことはすむ。
両陣営とも今まで直接的な衝突は避けてきたが基本的に敵対関係といっても関係だ。これを契機に大規模な抗争に発展していっても不思議ではない。というか僕ならそうする。
だって一度そうなれば、ほら、あとはもう――――――『殺したい放題』になるわけだし。」

「虐殺」というつま開いた事態になってしまえば、もう隠匿する必要すらない。あとは一気苛勢に一切鏖殺。殺しつくすのみだ。そういう相関図(プロット)をかき上げてしまえばいい。
きっといい花が咲くだろう。そこまで言って白帽子が首をかしげた。花…花。何かが引っかかったが。どこだ。

「…まあ、そんな死に方をし始めるようなら、幾ら彼らが死のうが責任持てない。他人事ですますよ。
それに最悪の展開は過程で君が死ぬことであることは、変わりない。結局、事態の危険度は変わらない。
君は”安全院さん”の安全弁だ。
あの子が先に死ぬのはいい。その時傍らに君がよりそっていてくれさえすれば、あのこは満足して受け入れるだろう。だけど、逆は駄目だ。それでは暴走した肝心かなめの時に『事故』を止めれる人間がいなくなってしまう。」

――あの人はいない、だから、次はない。―――
図らずとも二人の心中は一致していた。だが、進む道が同じとは限らない。女は歩みを再び始める。
 、、、、、、、、、、、
「適切なアドバイス感謝する。十二分に注意させてもらう」

カタナは折れず曲がらず突き進む。
結局、彼にできたのは10分余りの足止めだけだった。
君が本気になったら誰も止められない。そういったのもまた外ならぬ彼だった。

「これから…
これから君の行く先は魔界の底。地獄にも等しい場所だ。それでも歩を進めるかい?」

89蜜ファビオ:2017/12/10(日) 17:40:43
ラストレシピ(後編その1)の続き。その2へと続く・・・(全然終わらない)

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最後に投げかけられる真実の言葉。それは事実であり同時に呪いの言葉でもあった。
女は答えた。無論だと。

「そしてその行いは正しく自業自得。何が起ころうともその結果を誰のせいにもできない、その責と愚かさをすべて君自身が引き受けなければならない。そんことを誓えるかい?」

真実の言葉。それは彼の責任逃れの言葉であり同時に彼の優しさでもあった。
女は答えた。どんな災厄を引き起こそうとも誰も責めはしない、全ては自身の愚かさ故。女は笑った。

「安心しろ、ゆらぎをおいて私は先に死ななない。それがあの男との約束だ。同時にもう二度と死なせもしない。それが今の私の誓いだ。」
「ならもう止めない。無駄に時間を使わせてしまってごめんね。」

女は振り返った。何故男が謝るか女には理解できなかったから。そして、その男の名前を最後に呼びかけようとし、それが使えないことに改めて気づいた。
頭の中で形作れる言葉を探す。そして彼の師がとった先例に倣うことにした。

「さようなら、”あんちゃん”。」

男は音もなく静かに笑った。
「懐かしいな、初めて会ったころそう呼んでくれたっけ。でも、それ、たぶん過去一回くらいしか聞いてない言葉だ。」
女は少し顔をゆがませると、吐き捨てるよう吠えて答えた。
「当たり前だ、こんな恥ずかしい台詞、誰が二度というものか。」

出会いは偶然で会ったかもしれない、だが出会えば必ず別れがやってくる。両者の間に必ずそれは必ず舞い降りるものだ。そして、再会の期がいつか、また別れが永劫のものとなるかを人の身では知ることができない。


「じゃ僕も二度といいそうもないこと言っておくとする。

真野片菜、 『妹を頼む』 」

「―――――――――――――――――承知した。」


そして、それが二人が面と向かい話す、最後の機会となった。



●―逢魔が刻 999番地―

そこは全てが行きかうという逢魔が刻。その地には残されたのは男ひとり。

「―――かくてこの世はこともなし。やれやれ僕たちは実に無力だね。」

そう首を振った拍子に耳につけたイヤリングが揺れる。男はついと片手を耳の装飾具に当てた。

「で、そちらの結果は?」
その問いに、どこからともなく返答があった。





「結論から言おう。進道 ソラは”大当たり”だ。」

                    (その2へとつづく)

90狭岐橋 憂・エピローグ:2017/12/10(日) 19:26:32
見上げると、上層階の欠けたC3ステーション本社ビルが目に入ってくる。
そのバーには1組の男女がいた。
女は酒が飲めず、男は未成年である。
ロックのウーロン茶を一口あおり、女――露出卿は話を切り出した。

「運営から特別に聞かされた話であるが、『真の報酬』の対象者は吾輩となるらしい」

天問地文の復讐、鷹岡集一郎の暴走、人類チャンコ化事件。
長い長い1日であったが、この日、DSSバトルは全ての対戦を終了した。
6つの試合に決着が付き、支倉饗子は彼女のVRカードを持つ者がいないため、稲葉白兎は試合に現れなかったため、それぞれ不戦敗となった。
そして視聴ポイントの集計は既になされており、後は明日の表彰式を残すばかりとなっていた。
男――“スパンキング”翔は、やや神妙な面持ちで露出卿の言葉を聞いていた。
しかし、コーラのソーダ割を一気に飲み干すと、翔の表情は爽やかな笑顔に変わっていた。

「そうか、おめで「吾輩は次点のお主に権利を譲渡するつもりでいる」

翔は数秒考え、ゆっくりと口を開く。

「いいのか? お前にだって変えたい過去の一つや二つ、あるんじゃねえか?」

露出卿はまぶたを閉じた。浮かんでくるのはあのドラゴンの姿。救えなかった人々。しかし。

「今日の戦いで一つ思い出したのだ。あれはまさしく天災であったよ。
 あの時、吾輩はもっと救えたのかもしれぬ。だが、救えなかったことが今に繋がっている」

露出卿が基準にしたのはあくまで『今を生きる人間』の側だった。

「翻ってあの娘の場合、過去の行いを自分の『罪』だと認識している」

翔の頭に疑問符が浮かぶのを見て、露出卿は続ける。

「彼女の見せていた意志の強さは本当の強さではない。
 彼女は今も自らの『罪』に対する使命感で動いているのだ」

翔はそこでテーブルを叩いた。

「馬鹿なっ! そいつは俺が背負ってやるって!」

翔に着席を促しながら、呆れ顔で露出卿は言う。

「まったくお主という者は……。いいか、女はただ男に守られているだけを是とはせぬ。
 だが、彼女が願いを叶えられぬなら、その『罪』に押し潰されてしまう可能性があるのもまた真実」

聞いているうちに冷静さを取り戻した翔が答えた。

「要は、俺がありがたく受けとりゃそれで済むってことか」

91狭岐橋 憂・エピローグ:2017/12/10(日) 19:26:54
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翌日。

「それではC3ステーションDSSバトル、優勝者は――!」

鷹岡は堂々とした態度で表彰式に臨んでいた。
彼の身柄はこの後警察に引き渡されることになっている。
本来ならば現行犯逮捕も可能であったが、大会の影響力を考え、表彰式の終了までは確保しないこととなった。
彼はその信頼に応え最後の仕事を全うする。

「最多勝者、野々美つくね選手! 彼女には優勝賞金5億円!
 そして、C3ステーションから『現実世界で可能な限りの望みを叶える権利』を贈呈します」

何人か欠けた選手席から拍手が送られる中、つくねは鷹岡の前で手刀を3つ切り、恭しく小切手を受け取る。
彼女が壇上から降りると、また空気の張りつめ方が変わった。

「そして、視聴ポイントを元に独自の集計を行いました結果、本大会で最も支持を集めたのは――!」

鷹岡はそこでも一旦声を区切った。
唾を飲む音さえも許されない静寂にひとしきり酔いしれた後、鷹岡は続ける。

「“露出卿”ことアンナ・ハダカレーニナ選手! 彼女には賞金1億円が贈られます!」

彼女はこの場においても全裸であった。露出亜の魔人にとって全裸は正装なのである。
しかしこの時ばかりは彼女を咎める者はいなかった。
表彰式にミテランジェリ氏が関わっているというわけではない。
さらには映像処理も施さない完全生中継なのにである。
それは、この場の全員が、彼女の出身地・露出亜に敬意を払った結果なのだ。
そして鷹岡の刑期が1か月延びた。

「残念ながら『真の報酬』についてその詳細をこの場でお伝えすることはできません。
 ですがこれだけは申し上げておきましょう。必ずや! 『彼女』の人生は変わる、と!」

鷹岡は最後の台詞を前に、姿勢を正した。

「それでは皆さん、この放送をご覧いただき誠に有難うございました。また、どこかでお会いしましょう」

こうして、予選から数えることおよそ2か月に渡るDSSバトルはその幕を閉じたのであった。

92狭岐橋 憂・エピローグ:2017/12/10(日) 19:27:23
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翔は進道美樹の部屋に来ていた。
表彰式の余韻や後片付けの作業でざわめく会場とはまるで無縁な静けさがそこにはあった。

「話は聞いています。『真の報酬』をあなたに譲渡すると」

「ああ、すまねえが頼む。俺を憂ちゃんの過去に送ってくれ」

翔がそう言うと、美樹はため息をついた。

「なんだ、できねえのか?」

「いえ、感心していたのです。迷わず他人のために行動するあなた、いえ、あなたたちに」

美樹は鷹岡に一番近いところですべての試合を見ていた。
だから16のカメラが映す選手たちの行動も、鷹岡の表情も、すべて知っていた。

「社長も私も妹も、あなたたちに救われました。もちろん直接、というのもあるのですが、精神的にも。
 本当にありがとう」

美樹は深々と頭を下げる。

「いや、いいっていいって、これから憂ちゃんとカナちゃんを救ってもらうんだから」

「それなんですが……」

美樹の顔色が不安げに変わる。

「まだあるのか?」

「私の『S・S・C』は、決して無条件に過去を変えられる能力ではないの。
 その過去の展開が『人々を魅了する』ものにならないといけない……」

翔はその不安を笑い飛ばした。

「そんなことか! じゃあ心配いらねえだろ!」

そして豪快な笑いから不敵な笑みに変えて。

「探偵の姉ちゃんじゃねえけど、俺は世界で2番目に面白え奴だぜ?」

93狭岐橋 憂・エピローグ:2017/12/10(日) 19:28:29
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星の綺麗な夜であった。
遥か上空に一つの影が見える。
翔はそれを全力で追いかける。

「あれからそんなに経ってねえのに、もう随分と懐かしく思っちまうな」

彼は第1ラウンドでの戦いを思い出していた。
この夜で彼がやらないといけないことは決まりきっていた。
あの戦いの再現だ。
例のマンションにまで狭岐橋憂より先にたどり着き、落ちてくる彼女を抱きとめる。

ただ、第1ラウンドの時とは違うところがあった。
あのとき彼は既に憂の攻撃によるスパンキングを受けていた。
しかし今、彼を強化するものは無い。

(不安が無いわけじゃねえ)

誰もが寝静まった深夜である。
例えば、適当な民家に入り込んで住民を叩き起こし、無理やりスパンキングを頼み込む。
そういうことも考えられないではないが、今、それを実行に移すことはできない。
なぜなら、『そんなのつまらない』からだ。
人命を天秤にかけるに当たっておおよそまともな理由とは思えないが、ここは『S・S・C』影響下。
面白さだけが絶対のルール。

もちろん、彼は能力に溺れるような魔人ではない。
自らのスパンキング道を極めるため、肉体の鍛錬は欠かさない。
その積み重ねと、あとは魔人としての基礎的な筋力強化。
これだけを頼りに、マンション15階の高さから落ちてくる人間を受け止める。

(五分五分、ってとこか)

考えているうちに、影が降下体勢に入り始めた。
まずい!
翔は走るペースを上げる。
ところで皆さんは翔の足の速さについてどうお考えだろうか?
もしかしてその巨体ゆえに走るのは苦手だと思っていないだろうか?
そうではない。
まず一つに、体が大きいということはそれだけストライド、つまり歩幅が広いということだ。
そしてもう一つが重要なのだが、走るという行為には太ももから尻にかけての筋肉が使われる。
全身を余すことなく鍛えている翔であるが、スパンカーとして当然、尻の筋肉は一番鍛えてある。
つまり翔は走るのもめちゃくちゃ速いのだ。

(間に、合えーーーーっ!!)

マンションにはたどり着いた。が、一呼吸置く暇なんてものは全く無かった。
もう既に眼前には憂の一糸纏わぬ姿が! そうだねこのとき全裸だったね。
反射だけで彼女の体を受け止める。
衝撃に骨がみしみしと音を立てている。

(くっ……!)

歯を食いしばるが、腕は地面に向けてずり落ちていく。
やはり、無謀だったのだろうか。

(ふんっ……がっ!!)

肩が、外れそうだ。
このままでは重力に負けてしまう……。

(無理……なのか……?)

94狭岐橋 憂・エピローグ:2017/12/10(日) 19:28:48
と、そのとき!
突如、翔の脳裏にある光景が走る。
それは、天問地文の事件によって混じり合った、第1ラウンド『失われた可能性』の記憶!

(こう……だぁーーーーっっ!!!)

体勢を落とし、後ろに倒れ込む。
その『尻餅』の衝撃で瞬時にパンプアップした翔は、再び憂をがっちりと抱え込む。
そして彼女の無事を確認し、ようやく一息ついた。

数秒して、気を失っていた憂が目を覚ました。

「ん、んん……」

「いてぇとこ、ねえか?」

翔が、あの時と同じ言葉を、あの時をまだ知らない憂に投げ掛ける。

「あなた……は?」

「おう、俺は“スパンキング”翔!」

「“スパン……キング”……翔……さん……」

憂を下ろしながら、翔は話を続ける。

「ヨシオカって野郎は俺がぶん殴っておいてやるから、憂ちゃんは家に帰んな」

「なんでそれを! それに、私の名前……!」

自分の上着を脱ぎ、憂に掛けてやる。
そしてぽんぽん、と憂の頭を軽く叩いた。

「詳しくは説明できねえ。けど、未来で助けを求められたからな」

「未来……?」

翔はこれ以上の追及を避けるため、憂に背を向けた。

「1年後、また会おうぜ!」

後ろ向きに手を振りながら、翔は歩き出した。
憂は呆気にとられ追いかけることができなかった。

「あ、お礼、言ってなかった! “スパンキング”翔さん……」

慌ててマンションの玄関まで行くも彼の姿は既に無かった。
そしてどうやってマンションを出たのか分からないが、憂が朝まで待っていても彼が再び降りてくることはなかった。

この後、元の時代に戻った翔は、また人知れず旅に出ることとなる。
もはや憂のそばには支えてくれるカナがいる。
自分が隣にいる必要は無い、と。
彼は知らなかった。
憂がなぜ表彰式にいなかったのか、その理由を。
この時の憂がまだカナの復活に気付いていないことを。
そして、露出卿が危惧した事態が進行していたことを。

95狭岐橋 憂・エピローグ:2017/12/10(日) 19:29:19
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時はさかのぼる。
露出卿と翔がバーで話していたのと同じ頃のこと。

『無茶なお願いしてすみません』

「ううん、恋語さんには前に相談に乗ってもらったから」

憂は恋語ななせとVRカードの通信機能を使って話していた。
全ての試合が終わった後ではあるが、ななせは自身の目的のためにVR戦場へのアクセスを試みようとしていた。
ただし、この特殊な戦場地形に向かうには『対戦相手』が必要だった。
それは、憂も第3ラウンドで戦った『出場選手に縁の深い場所、土地』である。

「なんなら、ついでにあっちのカナちゃんに会ってこようかなって」

憂はその試合で、憂の記憶を元に再現されたNPCのカナと出会っていた。
憂は彼女に対して、現実のカナとは違うもう一人のカナとして友情を築いていた。

『あっ、それはいいですね!』

カードを通してななせの笑い声が聞こえてくる。
VR空間での戦いとはいえ、ほんの2週間前に裏切り合い、殺し合った仲とはとても感じられなかった。

『では、30分ちょうどにアクセスということで』

「うん、また向こうでね」

通信機能を切って、時計を見ながらVRカードの戦場アクセス機能を起動する。
しかしここで予想外のことが起こった。
第4ラウンド、憂は対戦相手がいないためにVR空間にアクセスしなかった。
彼女のVRカードにはその戦場データがインプットされたままになっていたのだ。

彼女が降り立った先は『異世界』。
そこは憂の第4ラウンド本来の対戦相手、サイバーゴーストとなった支倉饗子がとある『実験』を行っている空間だった。

「ここ……は?」

いきなり頭痛を感じ、憂は頭を抱え込む。
そしてそのまま意識を失った。
この後1か月近くの間、憂はVR空間に囚われ続けることとなった。

96狭岐橋 憂・エピローグ:2017/12/10(日) 19:29:41
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………………

…………

……

わたし……。

わたし、は……。

そうだ、また、負けたんだ。

……。

ねえ、支倉さん。

「なあに?」

結局、私、乗せられてるばっかりだったんです。

恋語さんのときも、支倉さんのときも。

試合としては勝ったけど、稲葉さんのときでも。

「憂ちゃん……」

それどころか、きっと、私自身でさえ、翔さんに頼りっきりだったんです。

自分でカナちゃんを救いたいなんて、ただの見栄でしかなかった!

「それは……」

こんなことなら……もう私、いらないんじゃないかな?

自分で悩んで苦しんだつもりになったって、結局自分の意思で動いてないんだから。

私なんてもう、いなくなっちゃえば……!

「……いいのよ」

支倉、さん?

「もう、いいのよ。憂ちゃんは、私の中で眠っていてくれたら」

支倉さん……。

「疲れたでしょう? ゆっくり、おやすみなさい」

うん……。

なんだか……とっても……あったかい……。

……

…………

………………

97狭岐橋 憂・エピローグ:2017/12/10(日) 19:30:16
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「うーん、美味しくない、かな?」

やせ細った腕に、私は感想をつぶやく。
反対側の腕には点滴がつながっている。
どうやらここは病院らしい。
健康には気を使っていたのであまり馴染みが無い。
あの世界では医者をやっていたけれど、こんな現代的な設備なんて無かったもの。
そういえば、病院食というのは美味しいのかしら?
味が薄いという話もあるけれど、それは塩分を控えるべき病人に対してだけだという話もある。
この身体の場合、何も食べていないだけの単純な衰弱だろうから、おそらく普通の食事が出てくるはず。
残念ながら、その前に退院となる可能性の方が大きいのだけれども。

「ん……」

体を起こして眼鏡を掛け、鏡を見る。
鏡の中の憂ちゃんは辛そうな顔をしていた。
心配しないで、と私は彼女に笑い掛ける。

そこに、突然の来訪者が現れた。
知っている顔だった。
と言っても私の方ではない。憂ちゃんの方。
そう、たしか……。

「夢、さん」

「久しぶりね、ユウちゃん」

違う私になってから最初に名前を呼ばれるときはいつも、なんだか騙しているような気分になって、何も言えなくなる。
私が答えに詰まっている間に、夢さんは話を続けてきた。

「ごめんなさい、あなたを巻き込んで」

「いえ……」

あいまいな返事でごまかした。
ただ、ちょっと夢さんの言い方には引っかかる部分がある。
『巻き込んで』と言うからには、彼女自身にもこの大会で何か目的があった?
その疑問は、すぐに晴れることになる。

「私の本当の名前は、ユメス」

「ユメ……ス?」

「そう、昔ゴメスと共に暮らしていたゴ人のメスのうちの一人。
 私は彼を貶めた国暗協がこの大会の裏に絡んでいることを突き止めた。
 そこで私は復讐のため、コミュニティの人脈を使ってVRカードを手に入れ、出場してくれる子を探していたの。
 国暗協が関わる以上、盤外戦は避けられない。あなたを現実の危機に巻き込むことになると知っていながら。
 それどころか私は、国暗協壊滅のために、あなたを報酬に『転校生』を呼ぶことまで考えていた」

彼女はそこで一息ついて、

「だから、私が今からやることをユウちゃんには気にしないでほしいの。これは、私の償いだから」

上着を脱ぎ始めた。

「支倉饗子は、私が引き取るわ」

98狭岐橋 憂・エピローグ:2017/12/10(日) 19:30:36
「なっ……!」

気付いていたというの?
でも、『引き取る』って……。

「その意味が分かってるの?」

私を『引き取る』というのは、私、つまり憂ちゃんの体を食べるということ。
私は別にそれでもいいけど、あなたはそれで納得なの?
そういうつもりで聞いたのだけど、彼女の答えは私の予想外だった。

「私は、ユウちゃんと違って『完全な』サキュバスになることができる。
 『食欲が性欲に変換される』なんて、そんな程度じゃないの。
 うふ、完全なサキュバスにとって、セックスとは『食事そのもの』なのよ」

彼女の姿が禍々しく変質を遂げていく。

私が怒りというものを感じたのは生まれて初めてかもしれない。
繰り返すけど、私は彼女がこの体を食べてくれるなら別にそれでいいと思っていた。
まだ痩せてるからあんまり美味しくはなさそうだけど。
でも、この人は肉体を食べることなく『私』だけを奪おうとしている。
私にとってそれは、何よりも屈辱だった。
それに、憂ちゃんがあんなに思い詰めたのも……。
憂ちゃんを最初に舞台に『乗せた』のは、あなたじゃない!
今さらまた、憂ちゃんをこの世界に放り出そうっていうの!?

「あ、あなた、なんかに……!」

けど、言葉とは裏腹に私の腰はすっかり抜けてしまっていた。
それに全身の感覚が鋭敏になっている。
こんなに強いなんて。サキュバスの催淫効果……。

「ふふ、強がってもムダよ」

「ひゃう!」

い、今の感覚……VR空間で何度も体を重ねた憂ちゃんの比じゃなかった。
まるで、肉体じゃなくて、むき出しになった『私』そのものに触れられてるような……。

「あ……ぁああ……だめえぇぇぇ……」

吸い寄せられる……何か大きな力に……。

「んっ……わかる? これが、私の、食事」

「あっ……!」

心外ながら、その意味は解ってしまう。
魂が少しずつ千切られて取り込まれていく、いつもの感覚。
これは紛れもなく『食事』なのね。

早くも、彼女の食事は既に半分くらい終わっていた。
そうは言っても、このままなすがままにされている私ではない。
彼女が半分私だというのなら……『食べ返す』までよ!

「むぐ……」

だけど。

「あら? 甘噛み? 可愛いのね」

文字通り、歯が立たない。
あごに力が入らない。
必死で喰らいつこうとするものの、彼女の食事は最終段階に入ろうとしていた。
最後に彼女は私の耳元に、優しい声でささやいた。

「ユウちゃん、『皆』があなたの幸せを望んだの。
 それだけは、誰が仕組んだでもなく、あなたが自分で勝ち取ったもの。
 だから、帰っておいで」

「んむぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーっ!!」

一番、大きな波が襲ってきて、そして私は、支倉饗子を、手放した。

99狭岐橋 憂・エピローグ:2017/12/10(日) 19:30:56
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うう、腰が……。

「うーん、『前の私』を自分の目で見るのは初めてね。なんだか新鮮」

「支倉、さん……」

「そんな顔しないで。私は止めようとしたんだから」

「そう、でしたね」

夢さん、ごめんなさい。
あの人はそんな言葉を望んでいないだろうから、心の中だけでつぶやいた。
そのかわりの言葉を口に出して言う。

「ありがとう、ございます」

夢さんも、支倉さんも。
方向は違っても、2人とも私を守るために戦ってくれたから。

「……あ、そうだ! あっちに」

支倉さんは嬉しそうに病室の入口の扉を指さした。
つられて私はそちらに目を向ける。

「彼からの贈り物が待ってるわよ」

彼? 贈り物?
言葉の意味を考えていると、急に後頭部に風を感じた。
振り返ると、窓が開け放たれて、カーテンがはためいている。
そこにもう支倉さんの姿は無かった。
まるで、最初から夢だったみたいに。

100狭岐橋 憂・エピローグ:2017/12/10(日) 19:31:39
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おそるおそる扉を開く。
すぐそばに、長椅子をベッドにして、私と同じくらいの歳の女の子が眠っていた。
……お行儀悪いよ。

「ん……あ、ユウ……?」

彼女が目を覚ました。
やっぱり、ずっと、追い求めてきた人だった。
今度こそ、夢でも、仮想空間でもない。
彼女の名前を、私は確かめるように呼ぶ。

「カナ、ちゃん」

私は必死で涙をこらえる。なぜか向こうのほうも泣きそうな声だった。

「この馬鹿っ! なんであんな危ない大会に……」

そうだった。カナちゃんの方からしてみれば、私の方こそ1か月眠りっぱなしで、心配だったんだ。
改変された記憶を紐解いて、適当な答えをでっちあげる。

「ごめんね。もう一度、翔さんに会いたくて」

「もうっ!」

おかしいな。責められてるのに、嬉しさしか感じない。
『喧嘩』がしたかったはずなのに……。
このまま雰囲気に飲まれて私がごめんなさいして終わりになりそう。

(いやいや)

違う。それだと今までの私と一緒だ。
言うべきことはちゃんと言っておかないと!

101狭岐橋 憂・エピローグ:2017/12/10(日) 19:31:58
「でも、カナちゃんだって私に危ないこと隠してるでしょ」

「えっ?」

動揺してる動揺してる。
こっちは全部知ってるんだからね!

「その、ふぉ、ふぉー……ゅぅ……」

うぅ、口にするの恥ずかしいよこの能力名。
ビシッと決めてやろうと思ったのに……やっぱりズルい!

「なんで!? パパとママにしか言ってないのに! バラした!? でも、え〜?」

あ、効いてた。顔真っ赤だ。
あっちもあっちで私にバレるなんて思ってなかったんだろうなぁ。
よし、今が攻め時だ。

「私はこんな恥ずかしい能力明かしたのに、自分だけ隠すの酷くない?」

「それは……」

「例えばもしそれで、私の知らないところでカナちゃんが勝手に死んだりしたら許さないんだから!」

「でも……」

うん、分かってる。そんな勝手な言い方無いよね。
勝手に死にかけたのは私の方だし。だから。

「だから私は、もう絶対にその能力を使わせない!」

カナちゃんの、次の反論を用意していただろう口が途中で止まる。

「ユウ……」

『皆』が作ってくれた奇跡は、今度こそ、今度こそ! ちゃんと私の手で守っていかないといけないと思った。
けれどそれは、私1人では到底背負えそうになかった。
さっきの支倉さんのことで、それがよーく分かった。

「何でも話すから、何でも話してよ」

だから、2人で。そのための親友なんだから。

「……ユウ、なんか成長したね」

「何その上から目線!」

「ごめんごめん。でも、これが大会の影響なら、出て良かったのかもね」

本当に、いろいろあったんだから。
落ち着いたら全部包み隠さずに話してやろう。
自分が死んでたなんて知ったらこの子、どんな顔するかな?

「そうだね」

さてさて、『喧嘩』はこれでおしまい!
カナちゃんとやりたいことはまだまだ山のようにある。
まずは……、

「ところでさ、カナちゃんに会わせたい人がいるんだ」

「へぇ、どこに?」

「VR空間!」

約束を果たしにいかないとね!



―― Fin. ――

102qaz:2017/12/18(月) 07:57:21
>>86
遊びました、楽しかったです。

ヴィピアンさんのイラストをもとにもう1枚作りましたのでこれも混ぜてみてください!
tps://twitter.com/qazdng/status/942190682889842689

103夕二(ゆうじ)@がちゃどくろ:2017/12/19(火) 19:37:46
>>102
遊んでいただきありがとうございます!!
報告を受けて修正しました、また遊んでください
tps://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=66355959

【変更点】
・狐薊イナリ(LV2,3)、阿久津ミカ、稲葉白兎、進道ソラ
 先に山から除けてプレイを始めるのでわかりやすくレベルの色を黄色に
・侍べる少女
 後ろに居たらどこでも使えたので直前のカードが戦闘中のみに
・ゴメス
 色のムラ修正
・可愛川ナズナ
 探索での対象は他のプレイヤーを選べない事を追記
・刈谷融介
 決戦での能力使用を追記
・<私>
 机からダイスを落としてしまった時の処理を追記
・鷹岡集一郎
 除外リサイクルでのLV3回収が強いため、1プレイヤー1度のみの記述を追記
・露出卿
 アイテムがランダムでの除外だったので、ダイス目により選べるように上方修正
・フルチン三刀流
 せっかくなので『勝利時』の能力に強いように上方修正
 金玉にはフルチンをぶつけんだよ!!!
・ねさる崎ニルニール
 相手が選ぶ仕様からこちらが選べるように上方修正
・一七八十
 自分が捨て札になるのではなく、後ろで昼寝してしまう仕様に上方修正
・毒島薫子
 作戦会議後から作戦会議前に変更

・魔技姫ラクティ☆パルプ
 気持ちプロモカード、やったー!!

104蜜ファビオ:2017/12/31(日) 06:56:56
ファビオさんや出場者が全然出てこない(出ていないわけではない)SS後編その2です。



====================================

SS「拘束と衝突〜ラストレシピ〜」(後編)」その2




「大当たりだ。
進道ソラの【Cinderella-Eater】は『物語』を味わうことができる。
テイストの結果、彼女は、一連の事件を”同じ書き手”による”連作”の『物語』であると断言した。

そして、こう言い切った。

この『三ツ星シェフ』が作ったモノなら、一口食べただけで作り手が一発でわかるわ。たとえどんな
畑違いのジャンルで腕を振るおうとも絶対に違えない、絶妙にして巧智、こんなミステリアスな味、
一度味わったら絶対忘れられないわ。

今は、過去に遡って類似の事件がなかったかを洗い出し中だ。真犯人にとって
”腕があまりにも良すぎた”のが仇になった形だ。

そして阿摩羅識は遅まきながら一連の転校生の不審死を『連続殺人事件』と断定。
お前があの世界で繰り返し行った『実証実験』及び『臨床試験』のデーターと鑑みた結果、
お前の提案するプランを採用することとなった。
以上が現状の報告だ―――――――――――――――だが、本気で実行する気か?」

耳飾りからの報告は事務的な調子で続いていたが、最後は、なんともいえない口調で終わっていた。
本気というより、よほど正気かといいたかったのかもしれない。

果たして、次の物語、誰が望んだ結末に落ち着くのか。



●乙女心と秋のソラ

それは、きらめくような眩しい夏だった。

進道ソラはアイドルコンテスト決勝戦で惜敗した後、事務所との契約更新を行わず、アイドル活動の
無期の休止宣言を行った。それは事実上の引退宣言といえるものだった。突然の引退劇にファンの
間からは惜しむ声も多かったが、
「夏の戦いで全てを出し切りました。今度はまた新しい別のことに挑戦してみたいと思っています」
という本人のコメントを受け、周囲もやがてそれを受け入れていった。

一度、そうなると時の流れははやい。まるで潮を引くように彼女の周囲からひとの渦が消えていった。
彼女の活動といえる活動はアイドルの一環としてやっていた個人ブログぐらいになっていた。

しばらくして彼女は料理と文芸に関する投稿するようになったのだ。
自身の足で巡ったお店の料理の感想、またある時は書評を味に例えながら、自分の言葉で綴っていく
フォローするひとはがくんと減ったが、反応はそこそこ好評――だと思う。
実際に自分で料理にもチャレンジしている。実践、実行、それはまるで『何事も勉強』という感じで―――


〇〇〇

「まなかちゃんの最新作、決め手はやはりオーロラソース!使用していたのは通常のトマトピューレ
でなくなんとイチゴ! あまおうによる甘みと酸味でかつてない仕上がりに…
意見を聞かれたので”オーロラ”はフランスで明け方を意味するので、今後このソースに
『〇〇のヨアケ風』と名付けるのはどうかと提案してみた。…まさに新時代『ヨアケ』の味…っとと」

今ではなじみの洋食屋から新作の試食をお願いされることもある。進歩だ。
レポートを書きつつ、体が左に傾きつつあることを意識した私は、大きくのびをし、矯正を行った。

おいち、にい、ぐぎぎぃ

いつの間にか変な癖がついていたらしく椅子に座っていると、どんどん姿勢が悪くなっていく。
どうも一度ついた悪い癖はなかなか治らないようだ。整体師さん曰くデスクワーク長いヒトだと
なりやすいデスヨネとのこと。
うーむ、事務方はどちらかといえばお姉ちゃんの方であるはずなんだけど(ただ彼女の姿勢およびスタイルはすごくいい。流石やりて秘書だ。)

姉の美樹とは今は離れて暮らしていて、今はちょっと距離をおくようにしている。
別に仲が悪くなったわけではない。むしろ美樹姉が、いつまでも妹離れしない相変わらずべったり
仕様なので、しびれを切らしたこちらが対処療法として行っている感じだ。なにせ自らの天職と
言い切る小説に至っても油断すると私好みの味付けで書き始めるくらいだから(そして真っ先に私
にメールで読んで読んで感想頂戴とよこす!)困ったことだ。
おかげで「いい加減に自分の書きたいお話を、読者側をむいて書きなさい!!」とお尻を叩くのが最近の日課となっている。

最近はようやく妹中心主義を諦めたのか、寓話を基にした創作物を書き始めている。
うんうん、もう一押しだろう。元々、デザート向きな作風なのだ。カスタードクリームのように
甘さをぎゅっと中に押し込め、周りをサクサクとした歯ごたえのあるパイの皮で包み込めば、
甘いけれどしつこくないあの作風はより際立つはず、きっと万民に受け入れられていくだろう。

105蜜ファビオ:2017/12/31(日) 07:00:53
(つづき)

自分にはその手のことには『確信』があった。
”そういうこと”に最初に気づいたのは、プログで書籍と料理の批評を始めたとき。
熱心に感想を述べてくれるひとがいたので、その人に私はこう返信を返したのだ。

「現役時代から変らず応援ありがとうございます。励ましのお便り、いつも楽しく読ませて
いただいてました。あの時はお返事することができず心苦しかったのですが、今は〜」

現役時代一番熱心にファンレターを送ってくれていた相手と『同じ味』がしたから無意識で”つい”
そう返してしまったのだが、メールの返信相手はさぞかし驚いただろうと思う。なにせ彼は
ずーと匿名で応援の手紙を書き続けてくれていたのだから。
でも、私にとって話の書き手を取り違えることはもはや茶碗と花瓶を取り違えることがないように
ごく当たり前のことになっていた。
茶碗は茶碗だし、花瓶は花瓶だ。それが今の私には手に取るようにわかる。

「貴方のための物語」(メルヒェン・マイネス・レーベンス)

『物語』はドラマや小説だけではない。あらゆる創作に息づいている。手紙もその人の『物語』の一部なのだ。
私は一度味わった味は忘れない。ただまあ、それで返ってきたメールが「脱兎。。。。」の一文
だったのには笑ってしまったけど。それはもう実に”味のある”文章だった。その人とのやり取りは
今も続いている。折を見てオフ会に誘おうと画策しているが、いつもするりと逃げられている。

ぐぬぬ、さすがのHN:逃走王。何処まで行っても捕まらない。


〇〇〇〇〇


秋が深まり、冬の音連れを待とうかというころ
私は、某けやき通りにいた。

始まりは家の書斎で書棚のファイルを取ろうとしたときだ。 ひらり と今年さいしょの初雪がまいおりてきたのだ。

それは一枚の白紙の用紙。
無地の中、『思い出ラーメン』という文字と通りの住所が手書きで書き綴ってあった。
字は私の字体だった。一瞬、首を傾げたけど、
大丈夫、間違いないこれは私の物語だ。とすぐに思い直した。

『思い出ラーメン』

ネット検索で言葉を調べると「食べると人生の思い出がよみがえる、その人の物語が味わえる
”うわさの”ラーメン」とあった。一種の都市伝説のようだった。
こうなると物語と味に関しては一家言ある私である。もうもう見過ごすことはできない。

ということで、私こと進道ソラは秋仕様コーデに身を固めるとすることにした。
駅を降り、スマホのナビに従って路地を回る。そこに映った風景に思わず口から感嘆の声が零れ落ちた。


「わあぁ  …」

黄色い銀杏の葉が一面絨毯のように道を舗装していたのだ。
思わず写メを一枚とってから、銀杏拾ってかえろうかしらという考えがちらっと浮かぶ。
頭をぶんぶんふっとふりその考えを追い出す、。
そんなことをしたら折角お気に入りで固めてきたのに匂いが移ってしまう。あと今からそんなこと考えているとまた食い意地がはっていると思われてしまいそうだ。

―――――――――――――――――――
―――――――誰に?

OTIBAFUMI OTIBAFUMI

小気味よい音を立てつつ道を進む。お店は黄色の絨毯の先、こじんまりした佇まいで立っていた。
『白蘭』と書かれた看板を横目に、白樺でできた扉を私は開ける。

カランコロン、ベルの音と外の気温とは温かい空気が新規のお客を出迎えた。

「――――――――――――――」

店にはテーブルが一つとカウンターがあるだけだったが、その分、贅沢に間取りを取っており、
置時計や絵画などが置かれ、とてもラーメン屋には見えなかった。
内装はどちらかといえば個人の洋食専門店といった感じだった。少々、服に気合い入れ入れすぎ
たと感じてた自分は逆にこれにほっとした。

メニューに目を通し、目当てのものを注文する。

「―――――――。」

注文した後、調度品に目を移す、アンティークの中でひときわ目を引くのは肖像画だろうか、
女の人の油絵が飾ってある。生憎絵にはそこまで詳しくないが、確か印象派?
こってりとした絵の具の乗り方が目を引いた。でも絵具のにおいはしない。においが移らない
ようしっかりコーティングをされているようだ。 


やがて、良い香りが届き始め、鼻孔を刺激するようになる。――

おそらくはブイヨン・ド・レギューム。

フランス料理の「野菜の旨み」だけで作るだしだ。
残り野菜や調理に使用しない端切れなど、普段捨ててしまうものを有効活用して作る。

香りを嗅ごうと無意識に眼を閉じると、今度は耳元にコトコトとスープを煮る音が届けられた。
眼を閉じ、しばしその音に耳を傾けることにする。併せて聞こえる包丁のおとが、心地よい。

106蜜ファビオ:2017/12/31(日) 07:06:01
(つづき)

「――――。」

こと。気づいた時には目の前に料理が置かれていた。

それは「塩ラーメン」だった。透き通ったスープに。水晶のような細麺。

その上に上品におかれたもやしとハーブ、あとマロン? 私はレンゲでスープを掬い、一口、口に含んだ。

能力「Cinderella-Eater」が発動する。

〇〇〇〇〇

―――それは一人の青年の物語だった。

物語としてはよくある話。父親に反発した少年はある日、家を飛び出す。
少年には特殊な才能があった。世間を騒がせることになる少年。増長する少年の前に現れる壁。

「貴方は世界の敵なんかではありませんヨ。ちょっとオイタが過ぎた唯の悪ガキデス。CHOKUZUKI」

やがて知る、父親の過去、想い、そして死。暗転。安易に逃げたしっぺ返しは大きかった。

暗雲。新宿で出会ったもう一つの出会い。絶対独立。暗転。新世界。ホールでの予期せぬ出来事。出会い。

お店でお菓子をぱくつく女の子は、扉をあけ書生風の男性が入ってくると喉を詰まらせ急き込む。暖かな笑い声。

暗転。

死の知らせ。暗転。死の知らせ。暗転。続く、死の知らせ。暗転―――

暗闇を歩きながら、彼は灯りを灯す方策を探す。弔いの灯を求めてではない。彼はその時、私に光を見出した。
わたしはその時、闇を見つめていた。

わたしは―――


「――――――――――このペテン師!

なにが通りがかりの転校生よ。偶然装っているだけで、完全に能力目当ての仕込みじゃない。
嘘つき!変態!ストーカー! 全く『EURIKA!』(見つけた!)じゃないわよ!
あと話や登場人物の表記がごじゃごじゃして全体的に分かりにくい、一見さんにも分かり易く書く
とかいう気配りや目配りする気はないの? 
しかも黒歴史といいつつ、やってる演出は怪盗そのものじゃないの!ぜんぜん昔のくせ抜けてない、
主題ももう少しはっきり!
そして”相変わらず”おいしくない! 
何よりこの物語、全然、完結していないじゃないの!全くこんなの出すなんて何様のつもり……」

吹き出た言葉の勢いのまま、どん!とどんぶりを置く、
そこは一粒の涙もなく、全てが綺麗に飲み干されていた。
あふれんばかりの涙でも飲み干せば最後には笑いに変わることもある。アレはどこで聞いたのだろう。

カウンターの向こう側にいたシェフは、私の罵声と酷評に帽子を取ると謝意を示した。

「うーん。僕が今出せる精いっぱいだったんだけど、お客様にはご満足いただけなかったようで。
じゃあ、約束のお代は頂けないかな。」

全然、謝意を感じない。笑ってるし。わたしはえへんえへんと2度ほど咳払いをした。

「そういうわけにはいかないわ。代金を支払わないなんて、進道ソラという人間の沽券にかかわる。
働かざる者”くう”べからず。ソラは働き者、ゆえに食べた分はきちんと働いて返す。


―――――――――――――だって貴方、・・・『私』が必要なんでしょ?」

ふいに風が吹いた。目の前に突如として無限の荒野が広がる。先ほどまで目の前にいた
彼がひどく遠くに映った。

「これから…
これから、君が選ぼうとしている道は安穏と平凡から程遠い異邦の旅路だ。
僕は君の安全を担保できない。選択後のすべての宿痾は君自身が受けもたなければならないからだ。それでも新しい挑戦に歩を進めるかい?」

真実の言葉。それは事実であり同時に呪いの言葉でもあった。
私は答えた。質問を質問で返さない、と。

「こちら側に踏み込めば、後戻りできない。それは君が今までいた世界の因果から外れることを
意味するんだ。
今まで築きあげた大切な関係、想いをすべて置き去りにして、君は後悔しないでいてくれるかい?」

それを無視し続く真実の言葉。それは彼の責任逃れの言葉であり同時に彼の優しさでもあった。

私は答えなかった。
代わりにカウンターに手をかけるとひらりと飛び越え、向こう側に着地してみせた。
RASAHAI!
相手の心の距離や垣根なんて関係ないとばかり、詰め寄る。そして店主に向き直ると手を胸に当てて宣言した。

「いい、私は”みんなに愛されるアイドル”になりたくて頑張ってきたんじゃない。
ただ『アイドル・進道ソラ』というこの世に一つしかない綺羅星になりたくて、切磋琢磨してきた。
同じように”姉さんの作品の主演女優になる”のが夢だったじゃない。
姉の作品に妹として主演ができる人間が、私一人だけしかいなかったから、それを『夢』にした。
私は、私を優先する。私は私だけにできることを探している。そういう人間なのよ。」

「うん、それはよく知っている。」

男はうなずいた。
彼女は見つめる先は空高く、常に上を向いていた。進む道は、空。二つとない唯一。
そしてもし更にその先があるなら、彼女は当然のようにそれを目指すだろう。傷つき、折れた翼は癒えたのだから。

107蜜ファビオ:2017/12/31(日) 07:08:28
(つづきラスト)


「もう一度聞くわ。きちんと答えなさい。私じゃなきゃ駄目なんでしょ。
私にしかできないことが”そこ”にある。そうよね? 」


男は―――

「あと返事するときはうんじゃなくハイ。こういう大事な返事の時くらい、もっとシャキッとしなさい」

男は音もなく爆笑した。全く反論の余地がなかった。

「『はい』、世界中どころか三千世界を探しても君に変わる人間なんていない。
君でなくては駄目なんだ。是非、僕の仕事を手伝ってほしい。」

そういって彼は手を差し出した。その差し出された手は救いの手でも憐憫でも同情でもなかった。
ただ、対等な関係を示すモノ。自分の欲していたものとはたぶん”ちょっとだけ”ずれているけれど――


―まあ、今回はこれで及第点としますか―

この出会いは偶然で会ったかもしれない、そして、その出会いの別れがいつとなるか、人たる身で知ることはできない。けれども


「よろしい。では契約成立。」


けれども、私がこの手をとったことを後悔する日がくることは決してないだろう。








「じゃ、あらためて。ハッピーバースディ、進道 ソラ。

――――――――――――――――――――――転校生の世界にようこそ。」







●スズハラ本社ビル地上”存在しない”130階 ― 存在しない時間にて ―


蒼い空の中、テーブルを挟み、一組の男女が向かい合っていた。


「はぁ『未来探偵』を殺す方法ですか…」

定時報告の後、不意に投げられた問いに対し女はテーブルに置かれた紅茶を手に取り、ひとくち口に含む。
そして舌の上でアッサムを転がすように味わった後、世界第一の名推理を披露した。

「なるほど、それは遠回しに

『お前のことを殺したいほど愛しているんだ』という意思表示、つまりプロポーズということですね。

判りました。そこまでおっしゃるなら仕方ない。寿退社一直線、早急に準備に取り掛かります。
大丈夫有給はくさるほどありますから…え、違う?

どちらかというと『スタローンとジャン・クロード・バンダムはどっちが強いと思う?』的な
お遊び的な質問?

ははぁ、なるほど、ではそんな感じで。少しお話していきましょうか? どうやったら『私』を殺せるかに関して。」


無論、この物語、綺麗ごとのみで終わるはずもない。


 
                             『進道ソラの自力本願』(了)

                      (「インタビュー・ウィズ・スズハラZERO」につづく)


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