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リョナな長文リレー小説 第2話-2

1名無しさん:2018/05/11(金) 03:08:10 ID:???
前スレ:リョナな長文リレー小説 第2話
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/lite/read.cgi/game/37271/1483192943/l30

前々スレ:リョナな一行リレー小説 第二話
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/lite/read.cgi/game/37271/1406302492/l30

感想・要望スレ
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/lite/read.cgi/game/37271/1517672698/l30

まとめWiki
ttp://ryonarelayss.wiki.fc2.com/

ルール
・ここは前スレの続きから始まるリレー小説スレです。
・文字数制限なしで物語を進める。
・キャラはオリジナル限定。
・書き手をキャラとして登場させない。
 例:>>2はおもむろに立ち上がり…
・コメントがあればメ欄で。
・物語でないことを本文に書かない。
・連投可。でも間隔は開けないように。
・投稿しようとして書いたものの投稿されてしまっていた…という場合もその旨を書いて投稿可。次を描く人はどちらかを選んで繋げる。
・ルールを守っているレスは無視せず必ず繋げる。
 守っていないレスは無視。

では前スレの最後の続きを>>2からスタート。

764名無しさん:2020/07/04(土) 17:30:43 ID:???
(バリバリバリバリバリ……!!)
「………………。」
(ひっ!!んうぁっ…!!…っくぁああああああああっっ………!!)

「ヒッヒッヒ………金属化してるから悲鳴も上げられねえか?
だが、俺にはわかる……あれだけ余裕ぶっこいていた貴様は今、追い詰められ、焦っている。
俺のような名無しの雑魚なんざ、軽く蹴散らせると思っていただろ?
そういう愚かなネームドキャラが、自分の思い上がりを知り、苦悶し、泣き叫ぶ……それこそが俺様の生きがいだ。
さあ。五人衆とやらのプライドも……何もかも砕かれ、絶望の底に沈むがいい。クックックック……」

「っぐ……ミツルギ討魔忍衆を……舐めるんやないで……!!」
金属化を解除し、元の姿に戻ったコトネ。
だが電撃によるダメージはかなり深刻で、体中が痺れてうまく動かせない。

「クックック……金属化を解除したか。俺様の電撃が相当こたえたようだな。
では今度こそ、ドリル触手で全身串刺しにしてやるぜぇ…」
「勘違いすな……ウチが『金剛体』を解いたのは、電撃がキツいからやない。反撃するためや!!
……成金術『剛力腕』!」

(…ドカッ!!)

「おごっ!?……テメェ……俺の電撃をあれだけ喰らって、まだ動けるのか……!!」
「はぁっ……はぁっ……あったり前や…五人衆の・・…討魔忍の恐ろしさ、思い知らせたる!」
(く、仕留められんかった……体が痺れて、『剛力腕』の威力が出てへん……!!)

「だったら…お望み通り、串刺しにしてやるぜぇぇ!!」

………………

一方。箱の外側では……

「このっ!!コトネ様を出しなさい!!風遁・練空暴風弾!!」
「召喚!破砕超重鉄球!!」
「忍法・蔓落とし!!」
(ブオオオオンッッ!! ガキンガキンッ!! ガコンッッ!!)

アキナイ三姉妹が、コトネを閉じ込めた黒い箱を一斉に攻撃していた。
だが箱の外殻はとんでもなく頑丈で、三人が全力で叩いてもビクともしない。

「ヒッヒヒヒヒ。無駄無駄……鬼さんコチラ、ここまでおいで〜っと!」
(くっそ。中で五人衆のチビが暴れてるのに、外側からも攻撃されたらさすがにやべぇぜ。いったん退却だ…!!)
(…カサカサカサカサ!!)
しかも、箱からなんだか不気味な脚が生えて、すばしっこく逃げ回る。

「まずいですね……あまり深追いすると、敵陣に誘い込まれるかも」
「このままコトネ様が連れ去られたら、もうこき使われなくなr……じゃなくて、私たち揃って無職ですね。何とかしなきゃ!」
「いや、その理由もどうかと思うけど。…とにかく逃がすわけにはいきませんわ!待てー!!」
三人は和メイド衣装の裾を翻しつつ、黒い六本脚の魔物を必死に追い掛け回す。

「和メイドちゃんカワイイヤッター!!」
「グッヒッヒッヒ……俺たち絶倫三兄弟(陸戦型)と」
「3対3でしっぽりイイコトするでヤンス!!」
「待て待てー!お前ら三兄弟にばっかりイイ事…イイ格好はさせないぜ!」
「俺たち魔物兵軍団は一蓮托生!イく時は一緒だぜ!」
「俺も!」「俺も俺も!」「俺はガンダムでイく!」

だがそこに、馬、サソリ、オットセイ、ニンニク、マムシ……様々な魔物たちが行く手を塞いだ!

「くっ!?…案の定なんかキモい奴らが……!」
「そこをどいてください!早くしないとコトネ様が……」
「……なんて、聞き入れてくれるはずありませんね……速攻で倒しましょう」

「ヒッヒッヒ……そんなつれねー事言うなよ」
「じっくり、ねっとり、時間をかけて楽しませてもらうぜぇ……」
「「「ヒャッハァァァァーーア!!」」」

765名無しさん:2020/07/04(土) 17:32:53 ID:a3kvcF06
前線に突出しすぎたアキナイ三姉妹はあっという間に取り囲まれ、乱戦が始まってしまった。
その間に、ミミックは敵陣へと逃げさってしまう。

「やれやれ。仕方ないのう……行くぞい、お前たち」
(じゅるじゅるじゅる……)

その時。

「クックック……和メイド三つ子ちゃんも地味にけっこうソソルるなぁ。
このチビを本陣に預けたら、戻ってあいつらと集団レイp………ん、あれ?」

(ぐちゃっ ねばっ)
「な、なんだこのネバネバは!!」

逃げるミミックの足が止まった。
周囲がいつの間にかネバネバした大量のスライムで覆われている。

「ひょっひょっひょ……やらせはせぬよ。
ネームドキャラをワンチャンジャイキリしてビッグになろうという心意気はよし、じゃが……」
コトネ様には、ワシも健康食品やら回春サプリやら世話になっとるでな」
「ジジイ……てめえも討魔忍か!!ほとんど本陣近くなのに、どうやってここまで来た!」

現れたのは、上忍「粘導(ねんどう)のウズ」。
使い魔のスライムを自在に操る渦壺忍術の使い手だ。

「いかにも。……しっかし、お主んとこの兵隊どもはわかりやすいのう。
 ワシみたいなジジイがこんな敵陣の奥まで入り込んどるのに総スルーで、
 雪女ちゃんやら巫女ちゃんやらはどこだー!って駆けずり回っとるんじゃから」
「あー…………納得」

「まあ、ワシも男を相手にするのは好かんから人の事言えんが……今回は仕方ないの。行け、スライムたち」
「へっ!!なめるなよジジイ!超硬化した俺様の箱型ボディは、ベヒーモスが踏んでも壊れねえぜ!」

「……確かに、随分頑丈そうな箱じゃ。しかし……開けるのはそう難しくはない」
(……にゅるるるるるっ!!)
「あ?……て、てめっ、そこはっ……ぎゃがはははははは!!!」

ミミックの頑丈なボディに、生半可な攻撃は通用しない。
だがそんなミミックに対して、ウズのスライムはただ一点を狙う。
厳重に閉ざされた宝箱の、唯一の進入路……鍵穴へ入り込んだ。

…………………

「うっぐぉああああ!!入ってきた……俺の中に、スライムがぁああああ!!」

「ひょっひょっひょ……ちなみにお主、噂で聞いたアレじゃろ。
例のスライム工場で作ってたっていう『万能武装スライム』とかいう魔物の……」

「お、おう!!状況に応じていろんな武器とかリョナ道具に姿を変えられる、新開発のスーパースライムだ!
宝箱だけじゃなくて色んな物に化けられるし、電撃やら毒ガスやら、いろんな特殊攻撃もできるんだぜ!
そんな万能武装スライムをベースにして先行量産されたのがこの俺ってわけだ!
あーあ、プラントさえ破壊されてなけりゃ、俺たちをたくさん量産して、連合国の連中を数で圧倒してやれるはずだったのになー!
まあでも先行量産でそこそこの数は作られてるみたいだから、他の書き手の方も俺らの仲間をガシガシ使っていいぜ!
それがどうかしたか!?」

「いやなんとなく裏設定的なのを語ってもらいかっただけじゃ。
ていうかその能力ふつうに便利じゃから、ワシのスライムに吸収させてもらおうかの」
「ウグワーーーーッ!!中でスライムが暴れて……溶かされるぅぅぅぅぅ!!」

「はぁっ………はぁっ………な、なんや……?」

箱を内側から破壊しようと暴れていたコトネ。
謎のスライムが内部に侵入してきて、ミミックを溶かし始めたのを見て、何となく状況を察した。

(………このスライム……ウズの爺さんやな…!)

(どろっ………じゅわっ……ぐちゃぁ)
「はぁっ………はぁっ………く、そ、じじい……。
余計なマネ、しよって。こんな相手、ウチ一人でも……」

全身をドリル触手に貫かれ、ギリギリの状態だったコトネ。
だが……五人衆たるもの、この位で弱音を吐いたりはしない。

「ひょっひょっひょ……相変わらずの跳ねっかえりじゃのう、コトネ様。
せっかく『元師匠』が助けてやったんじゃから、少しは感謝したらどうじゃ」

「…………。」

「ま、ええわい。しかしひどくやられたのう。スライムよ、『コトネ様』を治療してやれ」
「っぐ……おおきに、爺さん。この借りは……」
「ひょひょひょ………んじゃ、肩たたき券でもサービスしてもらおうかの」

766名無しさん:2020/07/23(木) 21:09:22 ID:???
「陽動作戦開始、敵兵をポイントAに誘導……か」
討魔忍五人衆の一人、時見(ときみ)のザギが本陣からの狼煙を見上げる。

敵を攪乱して一か所に誘導した後、術による広域殲滅で一気に片づける作戦であった。

『巫女さん発見!めっちゃ可愛い!!』
『マジか!!場所教えろください!!』
『写真の後ろの杉の木、見覚えあるような…』
『特定した 西側のポイントAだな!』
『あれ、隅っこに写ってんの雪女ちゃんじゃね?』
『桃源郷じゃねーか 全力で行く』

「……カイ=コガのやつも上手くやってるようだな」

後方部隊がSNSなどを通じて偽情報を発信。
一方で、真実の情報はミツルギ伝統の「狼煙」によって伝達される。

もちろん指定のポイントに七華やササメはいない。
あるのは一度入れば容易に脱出できない結界空間、そして大量に仕掛けられたブービートラップである。

だが、『情報戦』の首尾を確認していたザギは、気になる投稿を目にする。

『くっそーー!そっちにも行きてーが、今は和メイド三姉妹ちゃんの方も大詰めだ!
手っ取り早くブチ犯したら、肉盾にして持ってくぜ!』
『追加燃料投入か 期待RT』

「コトネの所の三人か……なんではぐれてんだコイツら?」
写真も投稿されている。魔物兵に取り囲まれた三人……どうやらガチ情報らしい。
幸いにも、というか…場所はここからそう遠くなさそうだ。

「チッ……仕方ねえ」
危機を告げる狼煙が見えた方角に魔物兵の一群が集まっているのを見つけると、
ザギは一陣の風のごとく駆けた。

767名無しさん:2020/07/23(木) 21:12:38 ID:???
「ふんっ!! おりゃっ!! ドラァァァァァ!!」
「「「ッグワァァァーーー!!!」」」

「けっ、雑魚が。こっちは急いでんだ、死にたくなかったら道を……ん?」
「…………。」
(…………シャキン)

魔物の軍勢を蹴散らすザギ。だがその行く手に……浮遊する金属片??のようなものが立ちふさがった。

【リビング・ビキニアーマー】
ビキニアーマーが意思を宿し、魔物となった存在。
軽量なため通常のリビングアーマーよりも素早く、表面積が少ないため攻撃が当てづらい。
魔法防御などの特殊な処理が施されている場合も多く、その戦闘力は決して侮れない。


「…なんだ、コイツ……ビキニアーマーだと?」

……ミツルギ闘技大会エキシビジョンマッチでの、苦い経験が一瞬脳裏をよぎる。
奇しくもあの時と同じ、敵の武装はショートソードとシールドだ。
だがあの時とは決定的に違うのは……

「たっ!! オラっ!! くそっ…!!……攻撃が、当たらねえ!!」
着ている人間が存在しないため、攻撃は鎧の部分に当てなければならない。
その点、通常のリビングアーマーとは段違いにやりづらい。

「…………!!」
(ブォンッ!! シャキンッ!!)
加えて敵の攻撃は鋭く、盾を使っての防御も的確。
早く味方を助けに行かなければ、と焦る中、ザギは一進一退の攻防を余儀なくされる。

リビングアーマーは、死んだ戦士の魂を、鎧に宿させたものだ。
多くの場合、その鎧の元々の持ち主。恐らく『彼女』も、優れた戦士だったのだろう。

「確かに厄介だが、あの『お姫様』に比べりゃ……『怖さ』は全くねえな。 はぁっ!!」
ショートソードが振り下ろされる、その刹那。ザギは思い切り前方に飛ぶ。

「………!?」
必殺の一撃をかわされたリビング・ビキニアーマーは、一瞬敵の姿を見失い困惑した。
そして、次の瞬間………

「オラァッ!!」
(メキッ!)
「………!!!」

攻撃をかわしざまビキニアーマーのお腹の空間を跳び越え、背後を取ったザギ。
相手の動きが止まった隙を逃さず、渾身のサマーソルトキックでビキニアーマーの股間を蹴り上げる。

「……!!…………、…………っ…!!!」

鎧だけの魔物となっても、痛みは感じるのだろうか?
ショートソードとシールドが、音を立てて地面に落ちた。

だが、リビングアーマーはこの程度では倒せない。
ザギはすかさずビキニアーマーのブーツを両脇に抱え込み、鎧の股間部分を踏みつけた。

「これ以上時間を潰されたらかなわねぇ。二度と動きださねえように、徹底的に痛めつけてやるぜぇ!!」

衝撃波と振動の呪符が仕込まれた特殊ブーツが唸りを上げる。
ショートソードがふらふらと浮かび上がる、が……

「うぉらぁああああああああ!!!!往生せいやァァァァァァ!!」
(グオォォォォォォオンッ!!ズドドドドドドド!!!)
「っっっ!!!!」

ザギのブーツが激しく振動し、高速ピストンキックがビキニアーマーの股間を抉る。
ビキニアーマーの胸パーツが反り返りながらビクンビクンと震え。
ショートソードが再び地面に転がり落ち……再び動くことはなかった。

768名無しさん:2020/07/25(土) 05:15:05 ID:???
「ん〜絶頂スプラッシュマウンテン楽しかった〜!次は何に乗ろうかなー?私的には悶絶サンダーマウンテンもっかい乗りたいところだけど、2人はどうー?」

「も、もう勘弁してください……ってうわぁ!スズさん、いきなり触ろうとするのやめてくださいッ!」

「ぴえん……そんな本気で嫌がられると女として自信なくなっちゃうなぁ……カイトくんイケメンだし尚更……」

「ううっ……!す、すいません……スズさんを傷つけるつもりなんて微塵もないのですが……」

「……はぁ……何やってるんだか……」

スズの提案でトーメント王国の人気遊園地、リョナニーランドにやってきた3人。
スズは楽しそうにはしゃいで遊園地を満喫しているが、目的のカイトの治療は全く進んでおらず、リザの口からため息が漏れた。

「もう強硬手段に出ちゃおうかな。カイトくん真ん中でさ、私とリザちゃんを両手に花で手を繋ご!嫌悪感を優越感で塗り替えちゃおう作戦だよ!」

「いや何言ってるんですか、無理に決まってるでしょう!お2人ともその……すごく美人で、魅力的な女性なので……尚更無理なんです……」

「む〜!魅力的で美人なのに手を繋ぐのが無理とはまったく意味が通ってないよ〜!」

「……そもそもなんで無理なの?女が苦手な原因がわからないと、克服のしようがない」

「……確かに、スピカ様の言う通りですね……こんなに時間を使わせてしまっているし、お話しいたします」

「お、リザちゃんもようやく乗り気になってきたね!あ、あっちで電磁棒チュロス売ってるから買ってくるねー!」

なにやら拷問に使われそうな棒形の甘いお菓子を買いに行ったスズ。
ちょうどよく3人座れそうなベンチを見つけたので、リザはちょこんと腰掛けた。



「……座らないの?」

「いや、ちょっと間隔狭いですし……スズさんも座ったらくっついてしまいますので……」

「……そう」

「……スピカ様にもスズさんにも、申し訳ないです。作戦前でピリピリしていてもおかしくないのに、こんな私のために……」

「……気にしなくていい。私にとってはただの暇つぶしだから」

「……でもスピカ様はスズさんと違って、こういう場所は苦手そうですし……」

「……別に、遊園地は……そんなに嫌いじゃない」

「え……そ、そうなんですか……?」

「…………」

リザの脳裏に、家族を殺された日の前日がフラッシュバックする。
遊園地の乗り物をすべて制覇すると意気込んでいた兄。
チュロスという食べ物を食べるのを楽しみにしていた母。
遊園地の後に人気のステーキ店を予約してくれていた父。
自分も姉も、とても楽しみにしていた。
前日の夜は2人でどんな服を着て行こうかで盛り上がって、なかなか寝付けなかったくらいだ。



(……お母さん、お父さん、お兄ちゃん……あとお姉ちゃんも……みんなで来れたら、きっと楽しかったんだろうな……)



「お待たせお待たせー!店員のおじさんがね、可愛い女の子には電圧3倍!とかいってシロップいっぱいつけてくれたー!」

やけに大量のシロップがかかったチュロスを受け取って、リザは母の顔を思い浮かべながらひと齧りした。

「……はむ……もぐもぐ……」

「ひいぃーちっちゃいお口でチュロス食べるリザちゃんかわいぃ……!ねえねえ、どうどう?お味の方は?」

「むぐっ……!ふぁんふぁいは……(3倍は)はまふみっ……!(甘すぎ)」

769名無しさん:2020/07/26(日) 00:14:46 ID:Ur0ouuDw
「ふぅ……なんとか食べれましたけど、あんな砂糖の暴力をよく2本も食べれますね……」

「なに言ってるの?女子ならあれくらい余裕余裕!さあーて、カイトくんのお話を聴かせてもらうぞ〜?」

(……わたしは女子じゃないのか)

電圧10倍かけられてもいけると豪語したスズは、甘すぎて食べられないリザの分もペロリと食べてしまった。



「えっと……昔、好きな人がいたんです。幼なじみの女の子で、家も隣でずっと仲がよかったんです」

目を伏せて語りだすカイトの顔を見たスズの表情が真剣な表情に変わる。
リザはいつもどおりの無表情で話を聞き始めた。

「その子は目立つタイプじゃないけど、女の子らしい白の長髪がすごく綺麗な子でした。性格も明るくて、その娘とだけは何時間一緒にいても、楽しかったんです」

「幼なじみかあ……いいなぁ。私はずっと引きこもりだったからそういうの、憧れちゃうよね」

「え、スズさんは引きこもってた時期があるんですか?」

「あぁ、ごめんごめん。私の話はいいから続けて?」

「…………」

今の明るい性格とは対照的なスズの過去に、リザも少し驚いたが、今はカイトの話を聞いているので掘り下げることはしない。



「それで……僕が14歳の時、思い切ってその子に思いの丈を打ち明けたんです。その……ずっと君の傍にいたい……って」

「わあぁ……!カイトくんみたいなイケメンにそんなこと言われたら溶けちゃうね〜融解しちゃうね〜!」

「……それで、成功したの?」

「はい。相手の少女……シュナも僕を受け入れてくれて、付き合うことになったんです」

「ひゃ〜すご〜……いいなぁ、私もイケメンに告白されたいなあ!リザちゃんは告白されたことあるの?」

「……私に話を振らないで。今はカイトの話を聞いてあげるべき」

「あ、そうだね。ごめんごめん」

「……それで、最初の頃はとても楽しかったんですが……だんだん幼なじみの彼女の裏の顔が見えてきてしまったんです」



「待突然デートのドタキャンとか、お金を貸して欲しいとか、は全然許せたんですが……シュナは他の男とも遊んでいたようで」

「あー……そういう系か……可愛い子にはありがちかもね」

「話をしてもはぐらかすばかりで、その時は信じてあげようと思ったのですが……仕事が早く終わった日に帰ると、僕の部屋からその……いつもより高いシュナの声が……」

「う……」

「…………」

「……裏切られたという感覚よりも、ただただ悲しくなりました。小さい頃仲良しグループのマドンナだったシュナが、そんな人間に変わってしまったことに」

「……てかスルーしたけど、お金貸してとかデートドタキャンとかもかなりまずいけどね」

「……それらしい理由を言っていましたけど……今となってはすべて嘘だったんだろうな……」

「……要するに、浮気をされて女が信用できなくなって、怖くなったのね」

「……そうです、隊長……自分でも情けないと思います。ただの浮気くらいでこんな……全ての女性が怖くなってしまうなんて……」

「……起こった事象をどう受け止めるかは人それぞれでしょ。でもその理由だと……私たちにはどうすることもできないわね」

「うーん……まあそうかもね……幼なじみに裏切られたってのは普通の浮気と違うところかもね……」

「…………」

思い出して辛くなったのか、カイトは俯いてしまった。
リザもスズも、それ以上の言葉が出ない。
生半可な優しさでは、彼を癒すことはできないと理解しているからだ。



3人の間に訪れた沈黙を破ったのは、リザのスマホだった。

ジャジャジャジャーン!ジャジャジャジャーン!
「あ……エミリアから連絡」

「……なんでリザちゃんの着信音、ベートーベンの運命なのぉ……!あ、やばい笑いそ……!」

「……目が覚めたのですか?」

「……そうみたい。出撃の準備もしないと。……息抜きは終わりだね」

「……お2人にお付き合いいただいたのに結局克服はできませんでしたが、必ず戦場では活躍してみせます」

「ねぇねぇカイトくん、私でよかったらなんでも相談してね!恐怖症克服のためなら手繋いだりハグしたりとか、いつでもしてあげるよ♪」

「……け……検討させていただきます……」

770名無しさん:2020/08/02(日) 15:02:27 ID:???
コトネ配下のアキナイ三姉妹は魔物兵の軍団に囲まれ、窮地に陥っていた。

「はぁっ……はぁっ……キリがないですね。
叩いても叩いても、まだこんなに汚れが……きゃあっ!?」

必殺の殴打武器『柊埃叩(ヒイラギハタキ)』を使う、三女ヒイラギ。
三人の中では前衛担当の彼女だが、オーガやゴーレムなど怪力自慢の魔物を立て続けに相手にし、
疲弊した所を大型豚獣人に捕まってしまう。

「ぐっへっへ……やぁっと捕まえたでゴワス。はたしてわしのサバ折りに耐えられるでゴワスかな」

【オーク・スモウレスラー】
脂肪と筋肉に覆われた巨体を持つ、豚型の獣人。
スモウと呼ばれる東洋の武術を使い、女の子に対しては「サバ折り」と呼ばれる技を好んで仕掛ける。

(ぎりぎりぎりぎりっ!!)
「ん…ぐっ………う、ぁああああああああぁっ!!!」

オークの太い腕で腰を強く締め付けられ、ヒイラギの背骨が大きく反り返る。
さらに並のオークの2〜3倍はあろうかという巨体でのしかかられ、ヒイラギはたまらず膝をつく。
これがスモウの取組なら、この時点で勝負ありだが……ここはルール無用の戦場。
地獄の拷問技は、むしろここからが本番である。

(ぎちぎちぎちぎちぎち………ぐぎっ………)
「はっ………はなし、なさ……っう、あっ……!!」
「ひひひ……わしらの仲間をさんざん叩いてくれた礼。たっぷりさせてもらうでゴワスよ」
腰、膝に凄まじい体重がかかり、反撃どころか身動き一つとれないヒイラギ。
オークは獲物を簡単に壊してしまわないよう、締め上げる力をじわじわと強めていく……

………………

「くっ………ヒイラギ、今助け……あう!?」
(じゅるるるるる!!)
「ぐひひひひ……そうはいかないタコ。伝統のタコ触手の餌食にしてやるタコ」

算術により魔法を強化する魔導具『榎算盤(エノキソロバン)』を使う、次女エノキ。
魔法を得意とする彼女だが、次々と押し寄せる大量の魔物を前に、魔力が底をつきつつあった。
呪文詠唱の隙を突いてエノキに襲い掛かったのは、大ダコ型の魔物兵である。

【ドレイン・オクトパス】
獲物を触手でからめ捕って魔力を吸収するオオダコ型の魔物。
ミツルギ近辺にも古くから生息しているが、魔物兵に改造され更に吸引力がアップしている。

(じゅるるるる……ぴたっ くちゅ ちゅぶっ……)
「き、気持ち悪い……やめてくださっ……ひあぅ!?」
必死に振りほどこうとするエノキ。だが触手は素早く服の隙間から入り込み、吸盤で吸い付いて離れない。
魔法で攻撃しようとすると、タコの吸盤が淡く発光して、集中した魔力が霧散してしまう…

「く、うぅ…魔力が吸い取られてる……!?……これは一体……」
「乳首、クリトリス、おへそ、腋……お前の一番弱いところはどこタコ…?
…そこからお前の魔力、根こそぎ吸い取ってやるタコ……ヒッヒッヒ」
「そん、なこと、させなっ……『サンダーブラス……」
(じゅろろろろろろっ!!)
「っあああああっ!!!」
「抵抗は無駄タコ……空になるまで魔力を吸い取ってから、踊り食いにしてやるタコ。ヒッヒッヒ……」

771名無しさん:2020/08/02(日) 15:08:28 ID:???
「エノキ!ヒイラギっ!!…そんなっ……!!」
(私のせいだ…!…私がもっと早く、撤退の決断を下していれば……)
「ゲッヘヘヘ…人間の小娘の割には中々の使い手じゃが、これだけの数の魔物兵には敵うまいて」

風を起こす魔導具『椿張扇(ツバキハリセン)』の使い手、長女ツバキ。
中衛として他の二人をサポートし、司令塔の役割を担う彼女だが、
怒涛のごとく押し寄せる魔物たちにより孤立させられてしまっていた。

「………たかが女三人相手に、よくまあこんなにゾロゾロと……あきれて、物が言えませんね」
「ここは戦場だ!殺し合いをするところだぜ!」
「男も女も関係ねえ…むしろ女の子いっぱい出てきてほしいです!」
「オレらは戦うのが好きじゃねぇんだ…リョナるのが好きなんだよォォッ!!!」

「こんな奴らに、コトネ様やエノキ達を好き勝手させるわけには……そこをどきなさい!!風遁・練空暴風弾!」
「ゲヘヘヘ!!そうはさせんゲェェ!!」
(ドゴッ!!)
「きゃあぁっ!?」

いきなり背後から突進してきた魔物に、ツバキは吹っ飛ばされた。
うつぶせに押し倒され、起き上がる前に背中にまたがられてしまう。
もがくツバキの視界の端に映ったのは、緑色の、大きな亀のような甲羅を持つ魔物だった。

【カッパ】
ミツルギ近辺に生息する魔物。頭に皿があり、体表は緑色で、背中には甲羅を背負っている。
川、沼などに住み、近くを通った人間に襲い掛かる。

「ゲヘヘヘヘヘ……安産型の、なかなかいい尻じゃ。極上の尻子玉が取れそうじゃゲ!」
(じゅぷっ)
「し……尻…?……一体何の、きゃぅ!?」
(ぐっちゅ……にちゅっ……じゅぷっ)
「あ、ひんっ!!なん、です、これ……!?……ふあぁっ、ぁぁああぁぁあぁっ!!」
(う、うそ………お尻に、魔物の手が……こんなの、ありえない……!!)

カッパはツバキの菊門に腕を突っ込み、その中を乱暴にかき混ぜ始めた。
なんと肘の辺りまでがお尻の穴に突き入れられている……もちろん、こんな事が物理的に可能であるはずがない。
魔物の能力によって無理矢理ねじ込まれているのだ。

そして、ツバキの……実際には人体に存在しないはずの『尻子玉』を、
ヌメヌメする粘液で覆われた手でがっちりとつかみ取った。

(ぎゅむっ………ぞわぞわぞわ……むぎゅっ!!)
「ゲヒヒヒヒヒ……柔らかくてスベスベしとるのう。弾力も………極上!」
「えひ!? 、あ、ひょん、な…!
…それ、だめ、ニギ、ら、ないれぇ………あんっ!!」
「思った通り、えぇ尻子玉じゃ。どれ……引っこ抜いて喰う前に、堪能させてもらうとするか」

全身を、魂ごと、文字通り掌握されたかのような恐ろしさ、そしておぞましさ……
ツバキが今までに感じたことのない感覚だった。

(ぬるり………くちゅっ)
「あぅぅ………!!……ひあぁっ……や、めて……それ、らめぇ………」
『尻子玉』を軽くなでられているだけで、身も心も蕩けそうなほどに気持ち良い。
全身が疼き、火照り、甘い声が抑えきれなくなってしまう。

「ゲッヘッヘッヘ……まぁだそんな口答えするか。それなら、こうじゃ」
(ギリっ!!!)
「んぎあぁあああああああ!!?……いやぁああああああ!!!もう、ゆるひて、くださ……っぎぅ!?」
強く握られると、今度は全身を粉々に砕かれているかのような激痛が走る。
反撃の意志も、一瞬にしてへし折られてしまった。
『尻子玉』をカッパに握られたら最後……もはや抵抗する事は不可能なのだ。

「こらーエロガッパー!独り占めすんなー!」
「さっさと俺らにも和メイドちゃんをヤらせろー!!」
「「そうだそうだー!!」」
「ゲヘヘヘ……慌てるでないわ。玉を引っこ抜いて、このお嬢ちゃんをフヌケにしたら交代してやるわい。
その後はお前さんたちヤりたい放題。なんでも言いなり、どんな事でもしてもらえるから、
和メイドちゃんにどんなハードなご奉仕も思いのままじゃぞ」
(ぬ、ヌく…?……そんな……触られただけで、こんなに、ダメになっちゃってるのに…
身体から、抜かれたら……私、死んじゃい……いや……もっともっと、大変なことに……?)

「うぉぉぉおおお!!マジか!?さっさとしろジジイ―!!」
「俺的には多少抵抗してくれた方がそそるんだけどなぁ」
「でもメイドちゃんのご奉仕ってのもいいな……ぐへへへ。俺の鬼チンポもしゃぶってもらえるかなぁ」
「オイオイそれこそ物理的に無理だっつーの」
「「ガハハハハハハハハ!!」」

「ゲッヒッヒッヒ……仕方ない奴らじゃ。では十分熟成できた頃合いじゃし、そろそろいただくとするかの。
カッパの大好物と言えばキュウリじゃが、人間の尻子玉も、これまた美味でなぁ……」
「い、いやぁ……もう、だめ……助けて……コトネ様ぁ……誰か……!」

772名無しさん:2020/08/02(日) 15:13:00 ID:???
カッパに押し倒され、尻子玉を弄り回されて息も絶え絶えのツバキ。
いよいよ最期かと思われた、その時。

「ほぉ、尻子玉ねぇ……そういや、もう一つ。カッパの特徴と言ったら……」
(ガコンッ!!)
「ゲヒッ!?」
「確か、頭の皿を割られると死ぬんだったよな?」
「!……あ、貴方は………」

(バキッ!!!)
「グ、ゲ……なに、もの……ゲ……!」
「それとも甲羅だったか……まあいいや。無事か?」
「…ザギ様……!……は…はい………!」

音もなく現れた『討魔忍五人衆』ザギの鉄拳が、一撃(二撃)の元にカッパを葬り去る。
カッパが息絶えると同時に、カッパの腕はするりとツバキの身体から抜け落ちた。

「うわぁぁぁあああ!!なんか野郎が出てきたぁぁー!!」
「くっそがぁあああ!!なんだよこの胸糞展開!!」
「カッパなんか無視してさっさと全員でやっとくんだったぁぁぁぁあ!!」

(発狂ポイントがわかりみ深いすぎるんだが……まあいいや、どうせ敵だし)

「くっそぉお!!おい!ヘビメタ野郎!!
この人質の命が惜しかったら、大人しく退場しやがれ!!」
「うぐ……あ……ザギ様っ……」
「私達の事より……早く、コトネ様を……!」
魔物たちが、捕らえたヒイラギとエノキを盾に取って迫る。

「ふん。誰がお前ら雑魚の言う事なんざ聞くかよ……討魔忍五人衆を舐めんなっ!!」
ブオンッ!!ドスドスッ!!

「「グゲェェェェッ!?」」
目にも止まらぬ速さで手裏剣を投げ放ち、ヒイラギとエノキを捕らえていた魔物を仕留めるザギ。
ちなみに………

「さ、流石ですザギ様……あの距離で、正確に人質を避けて敵を射抜くなんて」

(……俺、あんま手裏剣投げ得意じゃねーんだよな。こんな所で『能力』使っちまったぜ)

ザギは『忍法タイムエスケープ』という時間を巻き戻す術を使えるので、
うっかり手が滑って手裏剣が人質に直撃してしまった場合でも、やり直すことが可能なのだ!

「コトネのアホは、ザギの爺さんと合流したから安心しろ。
あとは……あの雑魚どもを片付けるだけだな」

「ぐっ……なんて奴だ……」
「これ、数で勝ってるからってイキって戦ったら全滅するパターンじゃねーか…?」
「こうなったら……巫女さんのいるポイントAに全てを託すしかねえ!!」
「そういやそうだな!先に他のやつらも行ってるみたいだし、こうしちゃいられねえ!」
「「「ちくしょーーー!!覚えてろよぉおおお!!」」」

やる気満々のザギに恐れをなし、というか本命の事を思い出し、
魔物たちは一斉に逃げ出していった。

「やれやれ……ま、指定のポイントには誘い込めたみてーだし、追っかける必要もねえか。
俺らは一旦引き上げだ。えーと………(…こいつら三つ子だから、誰が誰だかわかんねーな)」
「エノキとヒイラギです。そちらはツバキ」
「おお、悪ぃな覚えてなくて。立てるか?ツバキ」
「えっと…………その。申し訳ありません。まだ体に力が……」
「ま、カッパに相当やられたみてえだし仕方ねえか。よっこいしょっと」
「…………!…」

ザギに抱きかかえられるツバキ。
尻子玉を抜かれかけた後遺症か、それとも別の要因か……
心臓が早鐘のごとく高鳴り、ザギの顔をまともに見られなかった。

773名無しさん:2020/08/10(月) 11:24:25 ID:???
トーメントとミツルギの戦いの最前線。そこでは作戦通り、五人衆の中でも武闘派のシンとラガールが暴れまわっていた。

「秘奥義、鳳凰美田!」

ラガールがなんかカッコいいポーズを取ったら酒で形成された鳳凰っぽいエフェクトが出てきて、低空飛行していたワイバーンやドラゴンナイトをなぎ倒していく。いぶし銀っぽい技が多かったのに急に鬼滅っぽくなったとか言ってはいけない。

「滅殺斬魔!」

シンは敵陣の中でも一際巨大な多頭龍に肉薄すると、シフトを交えて一瞬でその8つの頭を全て斬り落とす。

「ひいぃいい!!最強のドラゴン軍団がぁああ!!」

「誰だよ圧で押せば勝てるとかポーカー素人みたいなこと言い出したのは!」

「とにかく一旦退け、退けえええ!!」

貴重なドラゴンタイプの魔物を雑草のように刈られた指揮官は、これ以上の損害にビビッて撤退する。
シンとラガールは深追いせずに、刀にべっとりと付いた血を拭いながら休息に入る。

「ふぅ、先方が根負けしてくれて正直助かったぞ……こちらの体力も無尽蔵ではないからな」

「アア」

ラガールは酒を飲み、シンは腕を組んで体力回復に努めているうちに……本陣から合図の狼煙が上がる。

「陽動作戦へ移行か……道理だな、消耗戦はあちらに分がある」

「……ソウダナ」

「ナルビアからの情報や他の忍の目撃では、こちらの方面の指揮官はカペラとのこと。アルフレッド殿やアリサ嬢に任せておけば間違いなかろう」

「十輝星……」

ラガールの言葉を聞いたシンは、顎に手をあてて考え込む。

「ラガール、頼ミガアル」

「ほう?お主の方から頼みとは、珍しいな」

意外そうな顔をするラガールに対し、シンは敵陣の方へスッ、と指を指し示す。

「私単独デ敵陣ヲ掠メルヨウニ突破シ、陽動スル……ソノママ追撃部隊ヲ引キ付ケ、戦線ヲ離脱シタイ」

「一騎駆けとはまた酔狂な……しかも、離脱すると?」

「私ニハ、決着ヲ着ケナケレバナラナイ相手ガイル。ダガ、陛下ヘノ忠義モ果タス。ソノ最善策ダ」

ナルビアからの情報提供で、ある程度十輝星の配置は把握できているが、その中にスピカ……リザの名前は載っていなかった。
リザだけは自分の手で止めたいと思っているシンは、リザを探す為に別の戦場を見に行くことにした。

「……止めるのも無粋、か……あい分かった、陛下には拙者の方から上手く伝えておこう」

「助カル」

そう言って颯爽と馬に飛び乗ったシンは、一刻も惜しいと言わんばかりに、敵陣へ馬で駆けていく。

「なんだぁ!?変な仮面が馬に乗ってやって来るぞ!」

「まるでゴーストオブツシマだ!」

「とにかく迎撃ぃ!」

シンにトーメント兵が魔法や弓矢で攻撃して来る。

「待ッテイロ、リザ……」

周囲から飛んできた魔物兵の攻撃が仮面を掠り、留め具が外れて地面に落ちていく。


「たとえ殺してでも……アンタを止める!」



「仮面の下から美少女が!?」

「まるで2BMODだ!」

「とにかく追撃ぃ!本陣の守りは他の奴に任せとけ!」


どこにいるかも分からない、道を違えた妹。彼女を探すため、シン……ミストもまた、各地を遊撃することになった。

774名無しさん:2020/08/16(日) 06:27:50 ID:73YF2Dn6
「失礼します!ヴェンデッタ第7小隊、ただいま参りました!」

「ああ、来たか。入ってくれたまえ」

シーヴァリア首都、ルネでは来たる進軍に向けて物々しい雰囲気が街を覆っていた。
ヴァーグ湿地帯へとつながる街道は軍の施設が続々と設営されており、一般人の通行も規制されている状態。
大規模作戦の前の大準備も、騎士たちの持ち前の連携力と統率力によってそれほど時間はかからなかった。

その設営の中でもひときわ大きい作戦本部室に現れたのは、唯たちヴェンデッタ第7小隊の面々だった。

「へーここがイグジス部隊長の部屋かー。突貫で作られたからあんまり部隊長っぽい威厳は感じられないねー」

「ルーアさん……この部屋に入ったら口を開くなと言ったはずなのです……」

「あれ、そうだったっけ?忘れちゃってた!てへぺろり☆」

「出た!エルマの屈託のない最&高のハジケル笑顔!新曲のインスピレーションになりそうだぜ!」

「わわわ、み、皆さんちょっと……部隊長の前ですから、お静かに……!」

「ふふふ……みんな仲が良いみたいで何よりだ。ヴェンデッタ小隊のメンバーでここまで明るいのは、君たちくらいかもしれないな」

「えへへ……それほどでもないですよぉニックさあん……」

「唯さん、今のはウチたちへの皮肉だと思うのです……」

この隊に配属される前は暗い性格だったルーアも、段々とツッコミ役が板についてきてしまったのだった。



「さあ、いよいよヴァーグ湿地帯から騎士たちの進軍が始まる。先行している部隊とナルビアの密偵からの情報によると敵はやはり魔物軍。その規模は掴めていないが、逆に言えば掴みきれないということだ。激戦は避けられないだろう。円卓の騎士にも欠員が出ている以上、文字通り総力戦だ」

「確か、ノーチェさんたちは私達と同じヴェンデッタ小隊に配属されているんですよね?」

「ああ。リリス様の勅命によって12小隊の面々は隼翼卿と睥睨卿の救出に向かってもらっている。首尾は上々と伝令もあった。なんでも変な虫に改造されたからセイクリッドのお嬢さんを用意してくれとか……」

「ミライちゃんならなんでも治せちゃいますもんね!」

(……ウチに弟子入りしてきた変な人のことですね)

最近はもはやソウルオブ・レイズデット要因のような扱いのミライだが、彼女もまた余分三姉妹との戦いでは根性を見せた。
その甲斐あってかは不明だが、騎士団の一員として今回の戦いでは前線の後方支援を任されている。



「そして君たちへの司令だが……急ぎ、ゼルタ山地に向かってほしいんだ」

「……え?」

ニックが目をやったホワイトボードに貼られた進軍図には、ゼルタ山地からはナルビアの軍隊と機甲部隊が進軍すると記されている。
唯の視線を確かめたのか、ニックは少し声を潜めた。

「ナルビア……あの国の動きは少し気にかかる。正直なところ、意思を持たない鉄の塊が何台あったところで、トーメントの魔物軍に適うはずがない。シックスデイという幹部たちもいるがその半数は戦闘要員ではない。些か戦力に不安を残しているんだ」

「なるほど……私達がそこに行って、ナルビアの人たちのお手伝いをすればいいんですね!」

「……とまあ、これは表向きの理由だ」

「……え?」

ニックの声がより密やかになる。



「ナルビア……あの国はこの戦争に乗じて何かを企んでいる節がある。君たちには同盟国として戦いに参加しつつ、メサイアと呼ばれる謎の兵器について探りを入れてもらいたい。入手した情報はこのメサイアという通称のみだ。極秘事項のようでそう簡単には聞き出せないだろうが……正規軍ができることでもないからな」

「メサイア……わかりました!ナルビア軍を援護しつつ、情報を集めてみます!」

「……よろしく頼む」



ナルビアの抱える隠し玉兵器メサイア。
その正体がすべてを破壊する最強人造人間であることを知るものは、まだ少ない。

775名無しさん:2020/08/16(日) 06:37:07 ID:73YF2Dn6
所変わってトーメント城、作戦本部室と立て札の置かれた部屋の中では、シアナが戦況情報の対応に追われていた。
机の上には魔法盤が敷かれ、各国の進軍状況と魔物軍の状況が映し出されている。
各戦闘場所に派遣されている伝令役の魔法使いたちが、同じ魔法版に魔力を注いで状況を更新し続けているのだ。

「討魔忍五人衆が全員前線に来て暴れているとは、やはり脳筋集団のようだ。背後からの奇襲にそれだけ対応できるか楽しみだな……」

シアナが魔力を送り、アレイ草原にドラゴンの姿が浮かび上がる。
このように指示を出すことによって、すべての戦況を管理、指示出しをするのが現時点でのシアナの仕事だ。
ミツルギ以外の各国の進軍状況を確認しようとしたとき、部屋のドアがノックされた。

──コンコンコン。

「入れ……って、げっ!」

「…………」

入ってきたのはリザである。彼女の部屋で喧嘩をし恐怖のあまり失禁までしてからというもの、なんだが目が合わせづらい相手であった。
主に男としてのプライド的な面で。

「……な、何の用だよ。お前の部隊への指示は王様から出されるはずで、僕から言うことは何もないぞ」

「王様が、シアナから指示を受けろって。指示内容はシアナに伝えてあるからって言ってた」

「……なんだよ……こんなときにラインなんか見られるわけ無いだろ……」

リザの言う通り、シアナの端末には王からのメッセージが送られている。
これをそっくりそのままリザに送らずシアナから伝えさせるように仕向けるあたり、険悪な状況にあることを知っての確信犯だろう。



「……じゃあお前の携帯に作戦内容を送るから、それで確認しろ。もう行っていいぞ」

「……シアナ」

鈴を転がすようなリザの声に名前を呼ばれ、シアナはゾクッとしてしまう。
その声のトーンが、思っていたより優しいからだ。

「……何だよ」

「この前のことは……私から謝る。シアナの気持ちも知らないで勝手なことを言った私が悪かった……ごめんなさい」

「えっ……!?」

できるだけ見ないようにしていたシアナがリザを見ると、リザは顔が見えなくなるほど深々と頭を下げて謝っていた。

「や、や、やめろよっ!別にもう怒ってもないし、お前の言う通り両成敗で終わったことだろ……何で今更謝ってるんだよ……」

「……私、この戦いで死ぬかもしれないから……少しでも未練はなくしたくて」

「はぁ……なんか前よりメンヘラ度が上がってないか?心配になるからやめてくれないか」

「でも……謝りたい気持ちは本当だから……素直に受け取って欲しい」

「っ……わかったよ……ぼ、僕も悪かった。女の子をリョナるのは好きだけど、仲間のお前に手を出したのは謝る……ごめん」

「……シアナって、根は優しいよね」

「もう、そういうのやめろよ……照れるだろ」

「……ふふっ」

「……ふん……お前もそうやって笑ってるほうが、何倍もマシだ」

自然に笑みが溢れた様子のリザに、アイナの笑顔を重ねるシアナだった。

776名無しさん:2020/08/16(日) 06:39:27 ID:73YF2Dn6
「笑顔見せるなんて、思ったより落ち着いてるみたいだな。何かあったのか?」

「……別に……落ち着いてなんかないよ。最近はもう普通にしてるのが嫌だから、城の地下で魔物と戦ってばかりだし」

「お前どういう属性を目指してるんだよ……」

最近は城の地下に籠り、ひたすら醜い魔物相手に技を磨いていたリザ。その噂はシアナも耳にしている。
なんでも城の地下に行くとリザの悲鳴が響いて漏れ聞こえるとかで、生の悲鳴を聞こうと一部の兵士が連日通い詰めているらしい。
なんとか映像も撮りたいと一部の有志が隠しカメラを仕掛けようとしたらしいが、地下の魔物たちが危険すぎて泣く泣く断念された経緯もあった。

「私……こんな状態でお姉ちゃんと……ちゃんと戦えるのかな」

「さあな……まあ自分語りは女友達にでもやってくれ。お前の遊撃部隊が向かう場所は……ここだよ」

シアナが指を指したのは、机上の魔法盤に大量の機械兵器が浮かび上がっている場所だった。



「……ゼルタ山地……」

「ナルビアはなにか隠し玉を持っているみたいだ。メサイアという謎のキーワードを諜報員が確認している。実態は不明だが、おそらく機械兵器の一種だろう。同盟国にも秘密にしているほどの……な」

「……そんな情報を漏らしてるなんて、ナルビアらしくないような気がする」

「ああ……もしかしたら外部に漏らすことで、外から探りを入れてほしい誰かがいるのかもしれないけどな」

「……ナルビアも一枚岩ではないかもしれないってことか」

「とにかく。このメサイアについて探ってくれ。別に戦う必要もない。どの程度の規模の平気なのか把握しておきたいだけだからな」

「……了解。エミリアも回復したし、準備でき次第トーメントを発つよ」

「ああ……」

指示を把握したリザが部屋を出ようと踵を返すと、それと同時にシアナは席を立った。



「……リザ!」

「……ん?」

「何があっても……死ぬんじゃないぞ。アトラはお前のことが大好きだし、僕だって……ずっと仲良くやってきたお前がいなくなるのは嫌だ。アイナのことだって神器を使って僕がなんとかしてみせる。だから……」

「……やっぱり、シアナは優しいね」

そう言い残し、リザは部屋を後にした。

777名無しさん:2020/08/16(日) 21:04:13 ID:???
「はぁっ……はぁっ……すっかりはぐれてしまいましたね。
…ヤヨイちゃん達は、大丈夫でしょうか」

一方アレイ草原では、ササメが一人、魔物の大群を相手に奮闘を繰り広げていた。

「ヒャッハーー!!見つけたぜ雪女ちゃん!」
「もうすっかり夏になっちまったし、その雪見大福おっぱいで涼しくしてほしいぜ!!」
「むしろ暖めてやるぜ!中からドバっと!!」

「た、確かに近ごろ暑いですが……みすみすあなた方に倒されるほど、私は甘くありません!」

「グワーッ!」「ギャーーー!!」

迫りくる魔物を、忍術と冷気で次々倒していくササメ。
だが、いくら倒しても敵は次々に集まってくる。

それもそのはず。
雪人の城でのササメの活躍(リョナられぶり)、特にリョナの鐘の一部始終は雪人達の手で
動画サイトにも投稿されていたため、トーメント勢の間でも噂になっているのだ。

今やササメは討魔忍の中では七華に次ぐ人気があり、前線に出ようものなら真っ先に狙われるのである。

「くっ……怯むな!雪人がこの暑さで弱ってないはずはねえ!」
「人海戦術おしくらまんじゅう作戦だー!!」
「野郎同士で密なんて嫌だが仕方ねえ!」
「おしくらまんじゅう!押されてなけわめけー!」

無数の魔物が今のご時世など気にするかとばかりに密集し、一斉にササメに襲い掛かった。
みんなで集まって暖め合えば寒さだって怖くない!

「こ、これは……!」
ものすごい数の魔物に迫られ、さすがのササメも一瞬怯んだが……

「お、ササメ先輩いたいたー!大丈夫ですか!?」
「なんか敵が集まってるし、派手に吹っ飛ばしちゃうよー!!『爆裂☆スターマイン』!!
ズドオオオオオンッ!!

「「「グワーーッ!!」」」

「ヤヨイちゃん、ナデシコちゃん!…助かりました!」

……ヤヨイとナデシコが駆け付け、密集した魔物を花火爆弾で一網打尽に片づけた。

「そろそろ、例の魔物一か所に集めて一網打尽作戦が始まる頃でしたね……詳細な情報は狼煙で伝えるそうですが」
「うーん。ここからじゃ、狼煙が見えないですね。ちょっと敵陣深くに入りすぎたかな」
「だねー。じゃ、一回本陣に戻ろうか? 地図によるとー、こっちの方角に突っ切っていけば早いよ!」

「……この『ポイントA』という所を通っていくわけですね。
ちょうど私もかなりの冷気を使いましたし、休憩したかったんです」
「実は私らも、ササメ先輩を探して走り回ってたんで、そろそろ戻ろうかなーって」
「アタシも、でっかい花火爆弾あらかた使い切っちゃったし!丁度よかったね!」

……というわけで。

三人はフラグ的な発言をしていることに気づかないまま、
味方の作戦によって大量の罠が仕掛けられ、敵が集中して集められている「ポイントA」に
足を踏み入れる事になるのだった。

778名無しさん:2020/08/23(日) 13:32:23 ID:???
トーメント王国との決戦を間近に控えた、ナルビア王国。
その中枢部、オメガタワーにある、とある研究室で……

「ねぇ〜……お願い。……いいでしょぉ?」

甘い猫なで声を上げているのは、ナルビア王国軍第1機甲部隊師団長、レイナ・フレグ。
キャミソールの肩紐をずらし、「シックスデイのお色気担当」の自称に恥じない健康的な肢体を極限までさらけ出している。

「……だだだだだ、ダメだ!!……いくらレイナの頼みでも、これ以上は……」

誘惑している相手は、椅子に座った白衣の青年……
オメガタワー研究開発部門総括にして、レイナと同じシックス・デイの一人、マーティン。

レイナに少なからず行為を抱いていて、しかも女性にほとんど免疫を持たない彼だが、
今回ばかりは理性を総動員し、必死に誘惑に耐えていた。

「『ライトニングメタルスーツ』のこれ以上の強化改良は無理だ。
体への負担が大きすぎる……下手すりゃ死ぬぞ!」
「だ〜からぁ。上手くやる、って言ってんじゃん。こんなに頼んでもダメなのぉ?」
レイナはマーティンの腕にしがみつき、胸を押し付けた。
上目遣いで見つめられ、マーティンの気持ちも一瞬ぐらつきかけるが……

「…何べんも言わせるな…!…ダメなもんは、ダメだ……!!」
レイナの身を案じ、首を横に振る。
マーティンのレイナへの想いは、……少なくとも、一瞬の肉欲に流されないだけの強さはあった。
しかし。

「へー………ヒルダちゃんの事は、ふつーに改造したくせに」
「え?あ、あ、いや、ボクチンとしてもそこは、立場上仕方なくだな……」
「……それで、メサイアさえいれば、アタシらはもうお払い箱ってわけね。よーくわかった」
(ドカッ!!)
「いや、べ、べ別にそういうつもりは……うおご!?」
レイナはマーティンから離れると、座っていた椅子ごと思い切り蹴り倒す。

「もういい!アンタには頼まない! 一生一人でセンズリこいてろ、このフニャチン野郎が!!」
「……………ん、ぶっ………あ、っが、……おい、待て……!」
悪態を吐き、部屋を飛び出すレイナ。
鼻血を白衣の袖でぬぐいながら、マーティンはその後姿を見送るしかできなかった。

………………

「ふっふっふっふ……どうやら、フラれちゃったみたいねぇ」
「………。」

研究室を出て、自室へ続く薄暗い廊下を歩くレイナに、声をかけたのは……

ミシェル・モントゥブラン。
ナルビアの研究者エミル・モントゥブランの妹であり、
元はトーメント王国の支援を受けて活動していた、マッドサイエンティスト。

「ま、こうなることは想定内だけど……大丈夫よ。
私が言った通り、例の『ブツ』は仕掛けて来てくれた?」
「ええ………アイツを蹴り倒したついでにね」
「OK。これで、そのナントカ君の研究データを手に入れることができる。
そのホニャララスーツとかいうヤツ、私がいくらでも強化してあげる」

エミルがどさくさに紛れて亡命を手引きしたおかげで、
ミシェルの存在は、ナルビアでは限られた人間しか知られていなかった。
だがミシェルはその立場を逆手に取り、こうして『使えそうな人間』に接触を図っていたのだった。

「アンタみたいな胡散臭い奴に、頼りたくはなかったけど……
マーティン君が使えない以上、アンタにやってもらうしかなさそうね」

研究を危険視され、トーメントを追われたミシェル。
メサイアの出現により、ナルビア国内立場を脅かされつつあるレイナ。

二人が密かに手を組んだ事によって、トーメントとの戦い、そしてナルビアの勢力図は、どのように変わっていくのか……

779名無しさん:2020/08/23(日) 18:38:57 ID:???
「久しぶりね、アリスちゃん、エリスちゃん。
アーメルンで会った時は、色々世話になったわね?
まあココは一つ、お互い様って事で水に流しましょ。フフフフ…」

オメガタワー内、訓練施設にて。
ミシェルは開発中の強化スーツの『装着者候補』を密かに呼び集めていた。
レイナと………そして、アリスとエリス。
レイナと同じシックスデイのメンバーである。
二人は以前、任務中にミシェル達と遭遇し、戦ったこともあった。

「レイナ。一体どういうことだ……こんな胡散臭い奴が作った物を、着て戦えと?」
「そういう事。今のままじゃ、メサイアの下っ端に甘んじたまま……
それどころか、トーメントの連中にもヤられちゃいかねないからね」

「!!私たちが、トーメントごときにだと!?……レイナ!私達をバカにしてるのか!?」
レイナの無遠慮な言い草に、エリスはかっとなった。
……それは、心中で密かに抱いていた不安をずばりと言い当てられたから、かもしれない。

「本当のことを言っただけよ。納得いかないなら、試してみる?
今のエリスちゃんの実力が、どの程度のレベルなのか」
「貴様ぁっ!!」
「いけませんエリス!!落ち着いてください!」
挑発され、一触即発状態のエリスを、アリスが必死に止めに入る。

「まあまあ……いいんじゃない?
私としても、ちゃんと納得してから判断してもらいたいし……
それに。思いっきりぶつかり合わないと、見えてこないものもあるものよ。フフフフ」
(くっくっく………笑っちゃうくらい予想通りの反応。
ほんと、レイナちゃんから聞いてた通りの子ね。……転がしやすそうだわ)

……ここまでは計画通り。わざわざ訓練場に呼び寄せたのもこのためだ。
図星をついてエリスを怒らせ、しかる後に………己の立場を叩き込む。

「レイナ。私がお前の目を覚まさせてやる……アリス。手を出すなよ!!」
「やめてくださいアリス!まさか、本気で戦うつもりですか!?」
「べっつに、二人一緒でも構わないんだけどなぁ……
ま、アリスちゃんもじっくり見ておくといいよ。
あなたたちが今、どれだけインフレに置いてかれてるのかをね。
………『雷装!』」

レイナが金色のブレスレットを掲げて叫ぶと、稲光と共に黒地のインナースーツと金色のプロテクター姿に変身した。

780名無しさん:2020/08/23(日) 18:40:54 ID:???
「出でよ!テンペストカルネージ!!…たあああああっっ!!」
2本の長槍を手に、レイナに飛び掛かるエリス。
嵐をまとった攻撃を、レイナは金色に輝く二本のブーメランで受け止める。

(グオオオオオンッ!! ガキン!!ビシッ!!)

過去の訓練データによれば、二人の総合的な戦力はほぼ互角。
レイナの従来の戦闘スタイルは、機動力を生かして距離を取りながらの遠距離戦タイプ。
近距離での戦闘はエリスに分があった。

だが今は………

「ふーん。やっぱ、こんなもんかぁ……
こうしてみるとエリスちゃんって、案外動きが荒いっていうか……」

(バチィッ!!)
「なっ!?消え……」
レイナのアーマーが煌めくと、一瞬にしてその姿がエリスの眼前から消えて…

「……けっこう隙が多いよね。
ちょっと速く動かれただけで、まるで対応できなくなる」
(ドカッ!!)
「うぐっ!?」
次の瞬間、レイナが背後からのミドルキックをエリスに叩き込んでいた。

「が、は………黙れっ!!
アーマーだか何だか知らないが、そんな奴に頼って強くなろうなんて……」

(ブオンッ!! ガキンッ!! キンッ! ドカッ!!)

力任せに槍を振り回すエリスを、軽くいなしていくレイナ。
傍から見ていても、二人の実力差は歴然だった。パワー、スピード、反応速度……すべてが別次元。
横で見ていたアリスも、レイナのスーツの性能を認めざるを得なかった。

「武器と身体能力に頼りすぎてるのはエリスちゃんの方じゃん?
はい、また隙あり」

(ズドッ!!)
「あ、っぐ……がは!!」
エリスの脇腹に、ボディブローが突き刺さる。
更に………

「エリスちゃんの方こそ、早いとこ目ぇ覚ましなよ……『スパーキングフィスト』!!」
(バリバリバリバリッ!!!)
「っぐおあああああああぁぁぁぁっ!!」
強烈な電撃が、エリスの体内に打ち込まれる。
激しいショックと、少し遅れて内臓を焼かれるかのような痛みが全身を駆け巡り、
日々苦痛に耐える訓練を積んできているはずのエリスの口から絶叫が漏れた。

「エリスっ!! レイナさん、もう止めてください!!」
「く、るな……アリ、ス……私はまだ、たたか、え……」

(ドスッ!!)
……立ち上がろうとするエリスに近寄り、レイナはその背中を踏みつけた。

「まったく、何を意地になってるんだか……
言っとくけどあたしだって、ミシェルちゃんが何か企んでんのは百も承知よ?
それでも、あたし達は……生き残るためなら、なんだって利用しなきゃならない。
それがわからないんなら……別に無理にこっちにこいとは言わない。
蹴落とされるその瞬間まで、シックス・デイの座にボケっと座ってなさい」

「ぐっ……!!……わかった。レイナが、そこまで言うなら……」
「決まりだね。アリスちゃんはどうするの?」
「………私も、やります。
私達は……もっと、強くならなければならない。例えどんな手を使っても」

781名無しさん:2020/08/23(日) 20:29:48 ID:???
その数日後。

レイナ、エリス、アリスの三人は、今度はミシェルの研究室に集まっていた。
ミシェルは、エミルからあてがわれた自室の一角を改造し、密かに実験設備を整えていたのである。

「……というわけで、これがあなた達用に作った
『レッドクリスタル・スーツ』と『ブルークリスタル・スーツ』。
急ごしらえだけど、レイナちゃんのスーツと同程度の性能はあるはずよ」

インナースーツの上に赤と青に輝く特殊金属製のプロテクターを装着する構造。
自分たちが最終決戦時に身にまとう事になる、新たな戦闘服を目にしたエリス達は……

「ぐっ……それは、いい。だが……レイナのスーツを見た時から思っていたが、
デザインはもう少しどうにかならなかったのか!? 特にこのインナー……
これじゃほとんど水着じゃないか!!」
……不満たらたらだった。

「は?……いやいやエリスちゃん。今時の水着なんてこんなもんじゃないわよ?
それに結構カワイイじゃない?我ながらいい出来だと思うんだけどなー」
「……エンジニアのセンスは測りかねますが……まあ、仕方ないでしょう。それより」

「ええ……3人がこのスーツを着たとしても『メサイア』には遠く及ばない。
レイナちゃんのスーツも含めて、ここから更なる強化が必要になる。

問題は、装着者が強化したスーツに耐えられるかどうか……でも、それについては安心して」


「……ミシェル・モントゥブラン。……私の方でも、貴女の事は調べさせてもらいました」
ミシェルのテンションが上がって、だんだん早口になり始めた所で、
アリスが口をはさんだ。

トーメントの支援を受けていた頃の、研究内容。
……そして、なぜトーメントを追われたのかも」

「へえ……だったら話は早いわ。人体強化改造なら、私の得意中の得意分野よ」

「!?……レイナ、どういうことだ!聞いてないぞ!!」
「……言ったよ?『生き残るためには何だって利用しなきゃならない』って。
エリスちゃんこそ言ったはずだよね?『わかった』って。」
「っ……!!」

「今後のスケジュールを説明するわね。
まず、私が開発した『人体自動改造システム』で、
三人が改造強化スーツに耐えられるよう段階的に肉体強化していく。
その間に、私は三人分のスーツの改造。
これは、元々の設計者であるマートン君?が理論上は考えててくれたみたいだから、
そのデータをもとに私がチョイっと手を加えれば……まあ、『本番』までには間に合うと思うわ」

「人体自動改造…?…また、とんでもない物を開発してるな……」
「うっわ〜……やっぱそれって、痛かったりする?」
エリスだけでなく、レイナも流石に少し引いていた。
具体的に何をどう改造するのか、知らずに改造されるのは嫌だが、知るのも怖いような。

「……わかりました。お二人が気が進まないようなら、まず私から」
その時。アリスが横から進み出て、改造手術の生贄…実験体、もとい、対象者として名乗りを上げた。

「あら、アリスちゃんだっけ?この中じゃ一番大人しそうに見えたのに、けっこう大胆ね」
「アリス!?…一体何を考えてるんだ!? コイツに何をされるのか、わかったもんじゃないんだぞ!!」
「……エリスちゃん、さっきからズイブンな事言ってくれるわね」
唐突なアリスの提案に、驚きを隠せないエリス。
マッド扱いは慣れているとは言え、流石にムッと来るミシェル。

「……別に、何も考えていませんよ。ただ……

今のヒルダさんは……人の形を保っているのさえ奇跡的な程で、常に大量に薬を服用していなければ危険な状態。
彼女一人にこの国の命運を背負わせるのは……それを『あの人』だけに支えさせるのは……余りにも酷です。

彼女の……『あの人』たちの負担を少しでも減らすにも、私はもっと強くならなければならない。
そのためなら………どんな事だって、してあげたい。

……ただ、それだけです」

「アリス………お前、そこまで………」
アリスがリンネにされた仕打ちを、エリスも知らないわけではなかった。
それでもなお、献身的にヒルダやリンネの役に立とうとするエリスに、
アリスはそれ以上何も言えなくなってしまった。

(ふ〜〜ん。メサイアのお付きの男にホの字(死後)ってのは調べがついてたけど……
なかなか面白い子ねぇ。 っていうか……いぢめがいがありそう)
「……いい覚悟ね。戦争が始まるまで日がないし、さっそく強化改造を始めましょう。
エリスちゃんとレイナちゃんはその間、スーツを着て実戦訓練でもしてるといいわ」

782名無しさん:2020/08/23(日) 21:44:06 ID:???
エリスとレイナが訓練場に行き、実験室にはミシェルとアリスの二人きりになった。

「じゃ、始めましょうか。まずは服を脱いで。あ、脱いだ物はこの籠にどうぞ」
「……はい………」

薄暗い部屋の中、アリスは言われるがままに、軍服の上下と、ブラウス、
そして飾り気のないブルーの縞模様の下着を脱いでいく。

きめ細かく手入れされた肌、控えめなサイズのバスト、きれいなヴァージンピンクの秘処。
同性相手とは言え、間近で誰かに観られていると思うと、
流石に羞恥心が沸き上がってくるが……なるべく表に出さないようにしながら、
アリスは脱いだ服を綺麗に畳んで籠に入れた。

「…………。」
「じゃ、そっちの台に寝て。『人体自動改造システム』起動!……」
産まれたままの姿で、小さなベッドの上に寝かされたアリス。

(ガシャンッ!! ガシャン!ガシャン!!)
ミシェルが端末を操作すると、アリスの手首、足首に金属製の枷がはめられた。
先端にハケのついた無数の機械腕が、アリスの身体にゆっくりと近づいてくる。

「なっ……!…これは…!?」
「あら、ごめんなさい。手術中に動いたりしないように、そうやって固定する仕組みになってるの。
それと……全身に、薬を塗ってあげるわね。心配しないで、ただの筋弛緩剤よ」

淡々と説明するミシェル。顔はアリスの方に向けないが、
その表情は嗜虐心に満ちたニヤニヤ笑いを隠そうともしていなかった。

(ウィーン………)
(ねとっ………)
(にゅるるるるっ)

「え……は……はい、………ひっ!!…」
薬が必要だとしても、なぜわざわざ筆で、皮膚から塗り込めるのか。
若干の違和感を覚えないではなかったが、アリスは素直にミシェルの言う事を聞き、
無数の機械腕に、己の身を晒す。

(ぬちゅっ……)
(つるっ)
(さわさわさわさわ)
「んっ……あ、ん…!………く、うぅ……ひんっ……!!」
……全身にくまなく、乳首の先端やおへそ、クリトリスなど、敏感なところは特に念入りに。
何十本もの細い筆で体中を弄ばれていくうちに、ミシェルが言っていた通り、
アリスは次第に四肢に力が入らなくなっていくのを感じた。

「はぁっ……はぁっ……」
「ふっふっふ……まだまだ行くわよぉ……」
「ふ、ひ……ちょっと、待ってくだ……ふああああああぁっ!!」
ミシェルは明かさなかったが、筆で塗られた薬は、ただの筋弛緩剤だけではない。

全身の感覚を鋭敏にする成分や、肉体を昂らせる媚薬成分、強力な利尿剤など、
これから始まる手術を盛り上げるため、様々な……
世間一般では『劇薬』『違法薬物』『毒』に分類されるようなものも含めて、多種多様な薬品をアリスの全身に塗りこめていた。

783名無しさん:2020/08/23(日) 21:49:43 ID:???
(ウィーン………)
(ガチャリ………ガチャリ………)
「っ…ぅ……ぁ………」
『準備』だけで息も絶え絶えなアリスに、再び機械腕がまとわりつく。
アリスの全身にコードのついた金属板……電極を取り付けていく。

「さ〜て、大丈夫かしら?アリスちゃん。手術はこれからが本番……
全身の筋力を強化するため、その電極から強力な電流を発生させて、
まずはアリスちゃんの全身の筋肉をズタズタに破壊するわ。
続いて、これまた全身に、栄養剤と治癒促進剤、筋肉と骨組織の強化剤を注射。超回復を促して、筋力を劇的に強化させる。
これを繰り返すことで、最終的にアリスちゃんの筋肉密度は今の20倍くらいにはなるはず……
あ、別に見た目がムッキムキになったりはしないから、そこは安心してね!それじゃ、行くわよぉ〜」

「え……そ、れって……」
……興奮気味に早口でまくし立てるミシェル。
意識朦朧としていたアリスは危うく聞き流してしまう所だったが、
頭から終わりまで、素人にもわかるレベルで尋常じゃない事ばっかり言っている。

「なーに、何か問題でも?……
アリスちゃんさっき言ってたわよね?『どんな事だってする』って。
んじゃ、スイッチオン!!」

(バリバリバリバリィッ!!!)
「…っぐああああああああああーーーーーーぁぁっっ!!!」
電極から一斉に、強烈な電流が放出される。
手足の筋肉を焼き切られていく激痛で、アリスの身体はガクガクと、丈夫な金属製の枷が壊しそうなほど激しく痙攣した。


(……ヒ…ルダ…さんが受けた、苦痛に比べれば………この、くら…い………)
普通ならとっくに気絶、下手すればショック死しているほどの激痛。
だが、機械腕に塗られた数々の薬品のせいで、アリスは無理矢理意識を覚醒させられている。

しばらく後。
筋肉を焼き切られたアリスの全身からは、ブスブスと黒い煙が小さく上がっていた。
そのアリスに、今度は……太く鋭い針のついた、無数の注射器が迫る。

「ぅ……ぁ………い、や………ま、って、くださ………おねが……」

「あ、そうそう。いきなり話は変わるけど……
前にアーメルンで戦った時、アリスちゃんには特に色々とお世話になったわよねぇ。
水に流すって言ったけど、やっぱりここでノシつけて倍返しさせてもらう事にするわ。
ま、優秀な軍人さんなら死んだりはしないと思うけど……もし精神壊れちゃったらごめんなさいね。
ウフフフフフ………」

「っああああぁぁああああ!!……っひぎ、いああああああああっっっ!!!」
心底楽しげな表情と声を向けるミシェル。
だが、苦痛の濁流に吞みこまれたアリスの耳に、その言葉はもはや届いていなかった。

784名無しさん:2020/09/11(金) 23:36:41 ID:???
バチバチバチバチ………ジュウゥゥウウ………
「ひっ……っぐ……ぁ………ううっ……!」
「ごめんなさいね〜、今丁度、麻酔薬を切らしちゃってたの。ふふふふ……」

……狭い実験室内は、肉の焼け焦げる異臭と煙が充満していた。
『人体自動改造システム』に拘束されたアリスは、無数の電磁メスによって切り刻まれ、
様々な薬品をこれでもかとばかりに投与されていく。

「はぁっ……はぁっ……う、っぐぅっ………!!」
「もっと思いっきり出してもいいのよ?…この部屋、ボロっちく見えるけど防音設備はしっかりしてるから」
苦し気に呻くアリスを見下ろしながら、鼻歌交じりに端末を操作するミシェル。
その目的は、実験・研究が5割、個人的な楽しみが4割、本来の趣旨である人体強化はそのついでと言った所だろうか。

「……………。」
「ふふ……我慢は、体に毒よ?」
「……っく、ああああああぁっ!?」
ミシェルは、アリスの股間に指を突き立て、尿道の辺りをそっと撫でる。
薬品によって極限まで感覚を鋭敏にされていたアリスは、異様な感覚に思わず悲鳴を漏らした。
そして……

じょろ………じょぼぼぼぼぼ…………
「っ………!!…」

アリスに投与された大量の薬液、それに含まれていた水分が、尿として排出される。
部屋中に響き渡るような、大音量と共に。
尿道の筋肉も疲労の限界に達しており、一度決壊した流れをせき止めることは出来なかった。

人前ではしたなく放尿してしまった屈辱に、アリスは顔を紅潮させ、身を震わせる。

いや、それだけではない……放尿するときに感じてしまった、全身が電撃に打たれたかのような得も言われぬ快感。
その瞬間、全身が骨抜きになり、自分自身に何が起きたのかわからず、思考が真っ白になっていた。
一体目の前にいる女科学者は、自分の身体をどのように変えてしまったというのか。

一方のミシェルは、排水溝に流れ落ちていくアリスの小水を指先で本の一滴すくい上げ、舌の上に転がす。
「ふむふむ……さすがのアリスちゃんも、だいぶ参ってきたみたいね。今日はこの位にしておきましょうか」
……尿はその者の体調を明確に表すバロメーター。
アリスの体調を一瞬にして読み取り、手術……いや実験の終わりを告げた。

「…く………大、丈夫……私は……まだ……耐えられ、ます……!」
「黙りなさい。貴女の身体の事は、私が一番よく理解っている……貴女自身よりもね」
(つぷっ)
「いぎあっ!?」
「貴方のカラダの中……今、どれだけグチャグチャになってるか。自分じゃわからないでしょ?ふふふふ」
股間に突き立てた指を軽く滑らせ、クリトリス、臍、みぞおち、胸の真ん中までなぞり上げる。
刃物で縦に両断されたかのような激痛に、アリスの喉から甲高い悲鳴が上がった。

「本当は、私の『クラシオン』で治してあげたいけど、今は調子が悪いから……こっちで我慢してね。」
(どろっ………ぐちゅ)
「っ………そ、れは………あぅんっ!?」
(じゅぶぶぶっ………にゅるっ!!)
「はぁっ……はぁっ……そ、そこは、待っ……ひっ!」
……自らの意志で動く、白い粘液……『ヒーリングスライム』が、アリスの身体を覆っていく。
アリスの傷ついた体を、外側だけでなく内側も、隅々まで。

「2、3時間その子たちに身を任せてれば、負傷が癒えて、貴女の身体も前より『多少は』強くなってるはずよ。
治るまで、ここでじっくり見ててあげたいところだけど……こっちもそろそろ『本業』にかからなきゃね」

巨大な白いスライムに呑み込まれていくアリスを尻目に、ミシェルは端末のキーを素早くタイプする。

レイナに仕込ませたバックドアによって入手したマーティンのアクセス権限を使い、
オメガタワーの中枢へとアクセスするミシェル。
アリス達の新スーツ開発用AIプログラムを起動する。
CPUをフル稼働させれば、どんな鉄壁のセキュリティを誇るコンピュータでも、必ず綻びが生じるはずだ。

「ナルビアの切り札、『メサイア』の研究データ。
それを手に入れて、私の意のままに動かせるようになれば……この国の全てを掌握したも同然。
私を切り捨てたクソ王や、私のシュメルツとクラシオンを奪ったレズ女に、目にもの見せてやるわ………」

薄暗い研究室の中で、野望に目を輝かせ鍵を叩く女狂科学者。
その傍らで、白濁した粘液の塊の蠢く音と、弄ばれる少女の押し殺すような声だけがいつまでも鳴り響いていた。

785>>761から:2020/09/21(月) 15:45:28 ID:???
「あ……あの場って……こんな所なの…!?」
「ええ……あの子は、辛いことがあった時、いつも……あの塔の上から、街の景色を眺めていました」

フウコと瑠奈がやってきたのは、ムーンライト城で最も高い尖塔の頂上。
今は夜という事もあり、人気は全くない。

『今宵、あの場所で待つ』
手紙によれば、もうすぐこの場所にフウコの弟、フウヤが……王下十輝星の一人、フースーヤが現れるはずだ。
以前の戦いでも、フウコとフウヤはここで再会し……
やはりフウヤを説得することができず、大きな悲劇が起きてしまった。

「とりあえず、尖塔の中に隠れていてください。
私一人じゃないと、フウヤが警戒するでしょうから……」
「わかったわ。私が知る限りじゃ相当ヤバい相手だし…気を付けてね。」
瑠奈は尖塔の中に隠れ、フウコはホウキで尖塔の上空に浮かんで待つ。

不気味な黒い雲が空を覆い、星も月も見えない闇夜。
湿り気を帯びた温い風が肌の上をゆっくりと流れていく。

(光さんも、みんなも言っていた。もうフウヤを改心させるのは無理だって……
でも私は、その時のことを覚えていない。
危険かもしれないけど、やっぱり自分の目で確かめなきゃ……)

弟と戦うべきなのか、止めるべきなのか。
もし今のまま戦場で相まみえてしまったら、自分は一体どうするべきなのか。
フウコの心の中には、再び迷いが生まれていた。

だが………

「……久しぶりだね、姉さん……また逢えて嬉しいよ」
「……フウヤ……!?」

目を見た瞬間、フウコは本能的に悟った。
あの目は……今までフウコが出会ってきた、トーメントの兵士たちや、瘴気から生まれた邪悪な魔物と同じ。

女性をいたぶり、体を傷つけ、尊厳を穢すことに悦楽を見出す……リョナラーの目だ。

「あの手紙を見て、来てくれたという事は……
今度こそ、永遠に僕の物になってくれる決心がついたのかい?
それとも……まさか、僕と戦って勝てるつもりなのかな」

「そ、そんなっ!?……そんなんじゃない。
私は、フウヤとは戦いたくないだけなの……
貴方は本当は、誰よりも優しい子だったはずよ!
お願い、優しかった昔のあなたに、もどっ……」

あの目を見ているだけで、体が恐怖に竦んでいく。
必死で紡ぎ出す言葉の全てが空回りして、あの瞳に全てを弾き返されていくのを肌で感じた。

「……何を言っているんだい姉さん?その話なら、前にもしただろう。
君はそんな僕を受け入れ、全てを赦し……僕の物になってくれたはずだ。
まさか……何も覚えていないのかい? その尖塔の十字架で、串刺しにされたことも?」

「!?……そ、そんな……」

……『優しかった昔のフウヤ』は、もうどこにも居ない。
いや、そんな物はフウコ自身が作りだした幻想だったのかもしれない。

「クックックック………なるほど。姉さん、君はやっぱり最高だよ。
君の選択は、二つに一つだと思っていた。
前と同じく僕に屈服し、永遠に僕の物になるか。
あくまで僕らトーメントに抗って、この国と運命を共にするか。
……まさか何の勝算も覚悟もなく、ただリョナられるために僕の前に現れるなんて……」

分厚く黒い雲の間から、血のように真っ赤な月が覗く。
邪悪な気配が、フウコとフウヤの周りの空間と、尖塔を飲み込む。

「今日は、事を荒立てるつもりはなかったんだけど……予定変更だ
姉さんがあまりにも愚かしくて可愛すぎるせいだよ。……クックック」

結界術によって、時の流れが外界と切り離され、結界の外の時間は停止する。
術が解かれるか、内側から結界が破壊されるまで、外からの干渉は事実上不可能になった。

「少しの間だけ、遊んであげるよ。
前にも一度クリアしたゲームだけど……面白いゲームは、何度遊んでもいいものだよね」

尖塔の超常で鋭く尖る鉄製の十字架が、さながら獲物を待つ処刑槍のように、赤い月の光を反射してギラリと輝いた。

786名無しさん:2020/09/21(月) 18:08:12 ID:tx7ft7JM
「………やるしか、ないの…!?………変身!!」
淡い緑色の光をまとい、風の妖精をイメージさせる『魔法少女エヴァーウィンド』へと姿を変えるフウコ。

その戦闘服は、胸の下側やお臍が大きく露出したインナースーツ、
風魔法を使うにはちょっと短すぎるスカートなど、
大人しく生真面目なフウコには少し大胆過ぎるデザイン。
魔力によって視界は良好になり、メガネの代わりに敵の能力を分析するバイザー『エメラルド・アイ』を装備している。

「毒風・鎌鼬!」
「くっ……ウィンドブレイド!」
二人の魔法がぶつかり合い、相殺した。

「やめて……もう、やめてよ……!!
ルミナスのみんなが、フウヤにした事も……私が、フウヤを守れなかったことも……
ぜんぶ謝るから……償うためなら、どんな事でもするから…!!」

「やれやれ。何を言い出すかと思えば……
僕がこの国の魔法少女たちから疎まれてきた事実は無くならないし、恨みが消えたわけではない。
けど今はもう、そんなのどうでもいいんだ。
そんな事より僕は、愚かな魔法少女たちをリョナってリョナってリョナりまくって、
一人残らず毒と汚泥の底に沈めて、その絶望の悲鳴で最高のオーケストラを奏でたいのさ」

「フウヤ……わからない……あなたの言っていることは、メチャクチャよ……う、あぐっ!?」

「そして、姉さん……君も、このオーケストラの一員……いや、誰よりも愛しい君こそが、メイン奏者となるに相応しい」

最初の攻防は互角に見えた。
だがフウヤの放つ毒風の刃は、打ち消したとしても不可視の毒の風となって対象を蝕む。

「がはっ……げほ、ごほっ!!……こ、れは……毒………!?」
「おやおや……まさか僕に会うってわかってたのに、なんの毒対策もして来なかったのかい?
どうやら本当に、この間の事は忘れてしまったみたいだね。だったら……」

(……ガキィィンッ!!)
「う、ぐっ…!!」

フウヤはフウコに急接近し、魔導指揮棒『エアロ・メジャー』で斬りかかる。
対するフウコも、魔導バトン『トワリング・エア』で辛うじて受け止めたが、
その鍔迫り合いで発生した新たな毒が、フウコの身体をゆっくりと侵食していった。

「次の毒は……姉さんは初めてだったかな?全身の骨を弱くする、『ペインシック・フロスト』だ」
「うっ………く、うああああぁっ……!」

フウヤに押されまいと体に力を込めると、それだけで全身の骨がミシミシと悲鳴を上げる。
まるで全身がガラス細工になってしまったかのようだった。

「もう少しして毒が全身にいきわたれば、防御力はゼロになる。
 衣装を速攻で切り刻むタイムアタックじゃなく、バフ・デバフを限界まで掛けてから……
最強コンボのオーバーキルで、最大ダメージ狙いと行こう」

フウヤは黒いオーラに包まれた右腕を振り上げ、左胸に叩きつける。
黒いオーラが体内に送り込まれ、毒々しいワインレッドに変色したブレザーコート姿へと変身…再結合(リユニオン)した。


「ま、まずいわ……何とかしてフウコを助けないと……!」
一方。尖塔に隠れていた瑠奈も、フウヤの作った結界の中に入っていた。
結界内にいる瑠奈なら、二人の戦いに介入できる。
だがフウヤ……フースーヤは、その存在も先刻承知だったようだ。

(ぞわっ………)
「なに…この気配……まさ、か………」

既に尖塔の中は、無味無臭の毒で充満していた。
『アンチバグ・ザ・ソロー』
……それは五感に作用し、大量の蟲に体内を這い回られているような感覚を与える、
瑠奈にとっては最も恐ろしい毒であった。

787名無しさん:2020/10/10(土) 18:04:30 ID:???
尖塔の頂上の小部屋に隠れ、フウコたちの様子を窺っていた瑠奈。
フウヤ……フースーヤが何か怪しげな魔法を使いはじめ、戦いが避けられそうにないとわかった時、
瑠奈もホウキに乗ってフウコの援護に向かおうとしたのだが……

がさがさがさ………ギチギチギチギチギチ……… じゅるっ……ぞわぞわぞわ……
(なっ!?……何、これ……)

……全身を、何かがはい回っている。
小さく、無数の、たくさんの脚が生えた、鋭い爪と牙の生えた、毒のトゲを持つ、ぬめぬめの、ざらざらの、何かが。

「おやおや……姉さんのことだ。誰か連れて来るかも、とは思ったけど……まさか運命の戦士とはね」
フースーヤは塔の中に誰かが潜んでいる可能性を考え、結界の発動と同時に、毒ガスが発生するよう仕掛けていたのだ。

五感に作用し、大量の蟲に体内を這い回られているような強烈な不快感を与える『アンチバグ・ザ・ソロー』。
フースーヤの魔力によって、その幻覚作用はさらに強化され、本当に大量の蟲に襲われているかのように錯覚させられてしまう。

「ひっ……や、やだっ……登ってこないでぇ……あ、脚……こんなにいっぱい……い、いやあああぁっ……!!」

……瑠奈は今、太ももに巻き付いた幻覚のムカデを追い払おうと必死だった。
太さは瑠奈の指2本分くらい。部屋の奥の暗がりや物影から何匹も何匹も這い寄ってきて、
尻尾がどこにあるのかわからないくらい長い。

更に、こぶし大の蜘蛛が何匹も頭上から降ってきて、耳元や胸の上にしがみつく。
芋虫やアリ、ハエや蚊など、他にも無数の虫たちが、足元、あるいは空中から、一斉に瑠奈に群がった。

ぎちぎちぎちっ………ぶぅぅぅぅん………うぞうぞうぞうぞ………
「ひぎ、うぁぁぁぁぁっ……やだ、やだっ………やめ、てっ……い、やああああああっ……!!」

…一匹一匹は小さく、力も弱い。振り払うのはそう難しくはないだろう。

だが、ダメだった。
羽音や鳴き声を聞くだけで全身に鳥肌が立ち、手足が震え、小さな体を更にぎゅっと丸めて縮こまるしかできない。

瑠奈は昔から、虫だけは大の苦手だった。
幼いころは、面白がったいじめっ子たちに虫をけしかけられたし、
唯と出会い、兄たちの勧めで格闘技を習い、性格も明るく活発になって多くの友達ができた今でも、
その恐怖心だけは、どうしても克服できなかった。

どんなに心を鍛えても、技を磨いても、
おぞましい感触に触れ、音を聞いたその瞬間。
瑠奈の心は無力で幼かったあの頃に引きずり戻されてしまう。

「に、げなきゃ……あ、あれ…?…」
心、だけではない。

これもまた、幻覚の作用だろうか。
瑠奈の身体が見る見るうちに小さくなっていく。手足は細く、疎ましかったバストも平たく。
更に、髪は長く伸び、服は、いつの間にか白いワンピースに変わっている。
……瑠奈がまだ幼かったころ、よく着ていたものだ。

(どうなってるの……まるで……こどものころに、もどったみたい……)
わけがわからないまま、瑠奈はホウキを手にして窓に近づいた。だがその時。

…バサバサバサバサバサッ!!
「ひきゃあああぁっ!?」
窓全体を覆うほどの巨大な蛾飛んできて、窓の外側に張り付いた。

瑠奈は思わず後ろに飛びのく。
巨大な目の模様がついた蛾の翅に、睨みつけられたような気がした。

788名無しさん:2020/10/10(土) 18:05:30 ID:???
「や、やだっ……だれか、たすけて……」
尻もちをついたまま、じりじりと後ずさる瑠奈。
その背中に、蜘蛛の糸が飛んできてべちゃりと絡みついた。

──────
「ひっひっひ……おい、ルナのなきむし!コドク、ってしってるか?」
「ドクのあるムシをつぼにいっぱいいれて、さいごのいっぴきまでたたかわせるんだ!」
──────
「え………?」

蜘蛛糸は、階下に続く梯子穴から伸びていた。
もがけばもがく程、糸は絡まる。
その先にいる何かに、ずるり、ずるり、と、体を引っ張られていく。

ぞわぞわぞわぞわぞわぞわ………
カサカサカサカサ………
ブオォォォォン……
……キチキチキチキチキチキチキチキチ

──────
「なきむしルナも、コドクにいれてやる!」
「ぎゃっはっはっは!ドクムシどもに、くわれちゃえー!」
──────

「い、いやああああぁぁぁっ!!やめて、ひっぱらないでぇぇえええ!!!」
暴れても、もがいても、どうにもならなかった。
今の瑠奈は、幼いころの…唯と出会う前の、無力だった頃の姿に戻っているのだ。

瑠奈はそのまま為す術なく、梯子穴に引きずり落とされ……
暗闇の中、赤い眼を爛々と輝かせた無数の蟲達が、一斉に襲い掛かった。


ぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅっ!!
ざわざわざわざわっ……
ガサガサガサガサガサガサ!!
グキキキキキ……ギチギチギチギチッ

「ひ、ぎあああああああぁぁぁっっ!! い、いやっ……こないでぇっ!!……やめてぇぇえええ!!」
無数の蟲、無数の脚、無数の毒針が、子供の姿に戻った瑠奈を一瞬にして呑み込んでいく。

まだ空手を習い始める前の細い腕や足、腰まで伸びていた髪、白いワンピースが、
爪と毒牙に蹂躙され、噛み千切られ、毒液に穢されていく。

ピギィィィイィッ!!
「ぐふあっ!?……ん、むぐっ、…!!!」
極太の芋虫が、瑠奈の口の中に強引に潜り込む。
粘つく毒液が大量に吐き出され、苦い味が口いっぱいに広がった。

「う、え…………あ……!!」
じゅぷっ じゅぷっ……じゅぷっ!!
吐き出そうにも吐き出せない。それどころか、芋虫は咥内でぶよぶよの身体をくねらせ、
喉の奥にまで侵入しようとしていた。

ぬるり……べちゃ ぐちゅっ………
更に、胸の上に手のひら大のヒルが這い上り、まだ膨らんでいない乳房の先端に吸い付く。
「えぐっ……ん、ぐっ……!?」
(そ、そんなっ……!!……だ、め…そんなとこ、すったら…)

……じゅるるるるるるっ!!
「………ん、〜〜〜〜っっっ!!!」
両胸に張り付いた2匹のヒルは、瑠奈の二つの蕾から勢いよく血を…あるいは別の何かを、容赦なく吸い上げる!
その異常な感覚に、瑠奈の全身は雷に打たれたようにビクンビクンと震え、
ヒル達を引きはがすどころか、気を失わないようにするだけでも精いっぱいだった。

じゅぷっ……ぐちゅっ……じゅるるるる……じゅぶっ!!
「ぐむっ……ん、げほっ……あ、ぐ…!!」
(お、おねがいっ……もう、やめて……だれか、たすけてぇ……!!)
巨大芋虫に口を塞がれているせいで、悲鳴も上げられない。
瑠奈は今起こっている異常が幻覚であることさえわからないまま、
……ルミナスの地で必死に修行して得た新たな力を、振るう事さえできずに、
無数に群がる蟲達に成すがままに蹂躙され続けた。

かさかさかさかさ……
「っぐ……あ、あれ、は……っ……!!」
そんな瑠奈に、新たな…最大の脅威が、忍び寄る。
群れの中のどの蟲よりも大きい、黒光りする、長い触覚を持った大きな虫が、ワンピースのスカートの中に潜り込んできた。

(ひっ………ま、まさ、か………)
台所などで見かけたりしたら、瑠奈でなくても卒倒することは間違いない、巨大で不気味な黒い蟲。
しかも、瑠奈の脚よりも太い巨大な卵鞘を生やし、下着越しにぐいぐいと押し付けてくる。

(い、いやぁっ……ゆるして……それ、だけは……!!)
瑠奈の無言の懇願を意にも介さず、巨大な黒い蟲は、瑠奈の下着をやすやすと食いちぎる。
物理的に到底入るはずのない巨大卵鞘が、幼い秘唇にぴたりと張り付いた。

……どくん……どくん……どくん……
蟲の卵から、不気味な脈動と生温かさが伝わってくる。
そして、恐怖に震える瑠奈の中に、少しずつ、少しずつ、侵入してくる。

ずぶっ……ぬちゅっ………ずぶり!!
「……………っっ…っぐむぅぅぅううっっっ!!!!」
黒い蟲が腰を大きく突き動かし、瑠奈の胎内に卵鞘を半分ほど突き入れた、その瞬間…
瑠奈は目を大きく見開き、大粒の涙をこぼしながら、声にならない悲鳴を上げた。

789名無しさん:2020/10/10(土) 18:07:38 ID:???
「っひぎああああああああぁぁぁっ!!」
幻覚に苦しみ、のたうち回る瑠奈の姿が、フウコとフウヤの前に映し出される。
両胸から母乳を、口から吐瀉物を吐き出し、絶叫しながら虚空に手を伸ばし、大きく背中をのけぞらせ……
やがてぱたりと倒れ込んだ。

「クックック……無様だねぇ。運命の戦士ともあろう者が」
「そんな……瑠奈さんっ!!……フウヤ……どうしてこんな、酷い事を…」

「人の心配をしている余裕があるのかい?……
苦しみ悶える少女の姿は美しい。そして、僕にとっての一番は………あくまで君だよ。姉さん」

ババババババッ!!
「う、ぐっ……!!」

フウヤの手から黒いイバラが伸び、フウコの身体に絡みついていく。
毒で動けない今のフウコに逃れるすべはない。
強い力で締め付けられ、弱体化した骨が今にもへし折れそうなほど軋むのを感じた。

「そのイバラも、トーメントの技術を参考に、僕が新たに開発したものだよ。
全身に食い込んだトゲから獲物の血を吸い、毒の花を咲かせる。」
ズブッ……ずちゅっ……じゅるるるっ…!!
「ぐうっ……!!……なん、ですって………う、あぁぁんっ……!!」

イバラに生えた無数のトゲが、まるで意志を持っているかのようにフウコの肌に食い込み、血を吸い上げていく。
やがてフウコの顔のすぐ横で、小さな黒いバラの花を咲かせた。
そして……

「げほっ……げほっ!!……っぐっ!?……あ、っぐあ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!?」
「その黒い花の花粉は、人間の神経に直接作用して純粋な『苦痛』を与える。
……その神経毒は魔力の循環をも狂わせ、やがて変身さえ維持できなくなる。まさに魔法少女殺しの毒さ。
名付けるなら、そう……『シュメルツ・ブルーメ』とでも言った所か」

全身を貫くような激痛で、狂ったような絶叫を上げるフウコ。
この異様な感覚は……初めてではなかった。
かつて、ミシェルと名乗る怪しげな女研究者が使っていた特殊能力を喰らった時の痛みに近い。
だがそれについて深く考える余裕などなく、フウコは自身の風の魔力の暴走によって、全身をずたずたに切り裂かれていく。

「っぐぅ!!ああああぁぁっ!!!……い、っぐああああああ!!!」
黒い花が二つ、三つ、次々と咲いていく。
そのたびにフウコの全身の苦痛は二倍、三倍に跳ね上がり、
悲鳴のトーンがさらに大きくなっていく。

「変身が解けても、この苦痛は終わらない。魔法少女はひとたびこのイバラに囚われたが最後、
絶え間ない苦痛に悶えながら、全身の血を吸いつくされる事になる。
もちろん今度の戦場となるリケット渓谷にも、至る所にこの花の根が張り巡らされている…今から楽しみだよ」

「でも、姉さんにはこんな物じゃなくて、もっと素晴らしいフィナーレが用意してある。
……見えるだろう?あの鋭い尖塔の十字架が。
僕はいつも思っていたんだ。あの鋭い槍のような先端で姉さんの心臓を串刺しにしたらどんなに素敵かって……」

「あっぐっ……そん、な……こと……うぐ、ぁあああああぁっ!!」

「姉さんは覚えてないようだけど……前回のルミナス侵攻の時、その夢は叶った。
……でも、僕は思ったんだ。
十字架に姉さんを真っ逆さまに堕として、脳みそと心臓と子宮をいっぺんに串刺しにしたら。
……きっともっと、美しいんじゃないかって」

「っぐ、……フウ…ヤ……あなたは……どこ、までっ……!!」
「姉さんのことは、後で王様に復活させてもらうよ。
そして今度こそ……姉さんの存在を永遠のものにして、僕の愛[ドク]を注ぎ続けてあげよう」

黒い花がまた一つ咲き、断末魔のような叫びと共にフウコの変身が解けた。
フウコの身体が、フウヤに抱きかかえられたまま自由落下を始める。
その先には、赤い月の光を受けて輝く十字架の先端があった。

790名無しさん:2020/10/10(土) 18:09:25 ID:???
(もう……だ…め………わたし、このまま……むしに、たべられちゃう……)
消えゆく意識の中、瑠奈が思い浮かべたのは……親友の、唯の事。

(だい、じょうぶ……だよ……)
(こわいむしは……わたしが、みんな……)
(……?……この、こえは……)
ふと、懐かしい声が聞こえた気がした。
おそるおそる顔を上げると、オレンジ色の淡い光が、瑠奈の顔を優しく照らしている。
……まるで夕日のようにきれいで、暖かい光だった。
まるで、唯に初めて会った日に見た夕焼けのように……

瑠奈はふらふらと起き上がり、光に手を伸ばす。
いつの間にか、体は元に戻っていた。あれだけ大量にいた蟲も、一匹もいない。
どうやらあれは、すべて幻覚だったらしい。

「これは……さっき、フウコから借りたイヤリング……」
……ここに来る直前で、『もしもの時のため』とフウコから預かったものだ。
強い守りの力を秘めているのだ、という。

そんなすごい物なら、フースーヤと直接対峙するフウコが持っているべきだ、と瑠奈は主張したのだが……

『いいえ……私は、あの子と戦いに来たわけじゃありませんから。
甘いかもしれませんが、私は……私だけは、あの子とちゃんと話して、
今あの子が思っている事を、受け止めて上げなきゃいけないと思うんです。
例え裏切られたとしても……結局は戦うしかないんだとしても。
……だから、これは瑠奈さんが持っていてください。
もし私に、万一のことがあったら、その時は……』

「………私は、結局また……助けられちゃったのね。
唯を、他の誰かを助けてあげられるように、修行したっていうのに……」

「っぐあ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!」
イヤリングを握りしめ、己のふがいなさを噛み締める瑠奈。
だがその時、塔の外から、今までに聞いたことのないような、凄まじい悲鳴が飛び込んできた。

「フウコっ!?」
ホウキを手に窓を飛び出し、尖塔の屋根に上がる。
頂上の十字架目掛けて、フウコが真っ逆さまに落下してくる。

「やばっ!!……斬鋼・蜥蜴の尻尾切り!!」
ザシュッッッ!!
ドサ!!

瑠奈は、鋼属性の魔力を乗せた手刀で十字架を根元から斬り落とし、
落ちてきたフウコの身体をしっかりと受け止めた。

「はぁ………はぁ………る、な…さん……すみ、ませ……」
「喋らない方が良いわ、フウコ!…にしても何なのよこのイバラ!さっさと解かないと……」
「ふん……無事だったんですか。お邪魔虫の、運命の戦士さん」

フウコに巻き付いたイバラを手刀で切り裂いていく瑠奈。
その目の前に降り立ったフウヤは、苛立ちをあらわにする。

「言ってくれるわね。この私をよりによって『虫』呼ばわりなんて……」

「愛する姉さんとの一時に割って入ってくるなんて『お邪魔虫』以外の何物でもないでしょう。
……僕をあまり怒らせないでください。
どうやらそのオレンジ色のイヤリングで毒を無効化したようですが、そんな物いくらでも対処のしようはある」

「はらわた煮えくりかえってるのはこっちの方よ!よくもフウコに……自分の姉さんに、こんな酷い事をっ!!
って、『愛する』姉さん……??……え、何それ……どういう事……」

「言葉通りの意味ですよ。…僕は前回のルミナス侵攻の時に、自分自身の本当の気持ちに目覚めたんです。
僕は姉さんの事を、世界中の誰よりも愛している。
魔法少女たちに抱いていた憎しみなんて、最早どうでも良いと思えてしまうほどに」

「あ……あなた達って、実の姉弟なのよね!?
いやそれはこの際置いとくとしても、だったらどうしてこんな……!」

「そして、苦痛に歪む姉さんの姿は、誰よりも美しい……
あの時のように、姉さんに不老不滅の屍術を施し、
今度こそ僕の毒で、姉さんの魂に永遠の苦痛……永遠の美しさを与えてあげたい。
それこそが、僕の……姉さんへの、愛なのだから!!」

「なっ…………」

爛々と目を輝かせて語るフースーヤの姿に、瑠奈は眩暈を起こしそうになった。

791名無しさん:2020/10/10(土) 18:12:31 ID:???
「……け……な……」
狂気に吞まれたわけでも、恐れを抱いたのでもない。
むしろその逆……
瑠奈は己の中の怒りを押さえこみながら、気絶したフウコの身体を尖塔の屋根にそっと横たえると。

「ふざっ!!
けんなぁああああああああ!!」

「っ!?速……」
……ドゴォッ!!
「ぐあああああああああっっ!!」

……フウヤに、まっすぐ殴り掛かった。

あまりの速度にフースーヤは反応できず、瑠奈の攻撃…
風の魔力をまとった『鉄拳制裁』をまともに喰らって吹き飛ばされる。

「フウコが、どんな気持ちであんたに会いに来たと思ってんのよ………
何が『本当の気持ちに目覚めた』よ。
相手の気持ちを考えようともしないで、勝手な都合を押し付けるだけ……
そんな物……『愛』なんかじゃない。
アンタはただ自分の欲望を満たしたいだけの異常者だわ!!
私がアンタの姉さんの代わりに……その甘ったれた根性、叩き直してやるっ!!」

「っぐ、がは………さすがは、運命の、戦士。
ですがあなたには……いえ、他の誰にも、姉さんの代わりなんて、務まりません……
残念だけど……今夜はここまでです」

結界が崩れ落ち、月の光が本来の青さを取り戻す。
警備に当たっていた魔法少女たちが異常を察知し、城内に警報が鳴り響いた。

「決着は、明日……リケット渓谷で、付ける事にしましょう。
姉さんに伝えてください。僕の所にたどり着く前に、他の魔物に殺られないよう、くれぐれも気を付けて、と……」

「ま、待ちなさいっ!!このままアンタを逃がすわけには……」
逃げ去るフウヤを追いかけようとする瑠奈。
その時、一匹の蛾がふらふらと飛んできて瑠奈の肩に止まる。

「なによ、また幻覚?そうとわかってればこんな物、怖くもなんとも………」
パタパタと払いのけると、蛾はふらふらと飛び去って行った。
ふと手を観ると、蛾の鱗粉がべったりと付着している……

「あれ?……もしかして今のって………」
瑠奈の顔から、一瞬にして血の気が引く。

「フウコ!瑠奈さん!!」
「一体何があったんですか!!瑠奈さ……ああっ!?」
駆け寄ってくるカリン達の目の前で、瑠奈は再びぱたりと倒れ、そのまま意識を失った。

792名無しさん:2020/10/24(土) 14:16:57 ID:???
「!!……………私、は………」
「フウコ!!」「よかった、気が付いたんだね!」
しばらく後。フウコは医務室のベッドで目を覚ました。
瑠奈、そして同じブルーバード小隊の仲間である水鳥、カリン、ルーフェが安堵の表情を浮かべる。

「…そう、ですか……やっぱり、フウヤは……」
弟フウヤの姿はなかった。彼が改心する事はなく、戦いはもはや避けられない。
自分の考えが甘すぎたことを、フウコは改めて悟った。

「…正直、フウヤに会う前は、迷っていたんです。あの子とは戦えない……戦いたくない。
あの子の心を歪ませたのは、私のせいでもあるのだから。
どうすればいいのか、考えました。
魔法少女と十輝星、互いの立場を捨ててどこか遠い所に逃げる、とか…
またはいっそ、私も……ルミナスを離れて、フウヤの味方になる。
世界中が敵に回ることになっても、家族である私だけは、最後まであの子の味方になってあげる…
そういう選択肢も、ありかもしれないって。」

「え!?…フウコ、それって……」
カリンが動揺し、喉元まで出かかった言葉を飲み込んだ。
…かつてトーメントがルミナスに侵攻してきたとき、実際に一度フウコはフウヤの軍門に下っているのだ。

「だけど、実際にフウヤに会って……やっぱり、無理だと思いました。
私はあの子の姉であると同時に、一人の魔法少女だから……あの子のやってることを、見過ごすことは出来ない。
だから、私は今度こそ…ちゃんとあの子と向き合って、戦う。
そして……『お姉ちゃんの鉄拳制裁』で、あの子の性根を叩きなおしてあげます!」

フウコは力強くそう言うと、しゅっ!と口で言いながら、拳を突き出す。
その目の光には、揺るぎない強い意志が感じられた。

だが……

…ズキッ!!

「あ……いたたた」
「ちょっ…無茶しちゃダメよフウコ!まだ体の毒も抜けきってないんだから!」
今のフウコは『ペインシック・フロスト』で骨を弱らされた上、
『シュメルツ・ブルーメ』で大量に血を失い、神経もボロボロに傷つけられている。
当分は絶対安静。明日フウヤと戦うなんて、そもそも無茶な話だった。

「貴女の気持ちはよーく分かったわ。
でも今は、ゆっくり休みなさい。あの生意気小僧への『鉄拳制裁』は、私たちに任せといて!」
瑠奈はウィンクしながら、フウコの前に軽く拳を突き出す。

「あ、ありがとうございます。
私が覚悟を決められたのも、あの時の瑠奈さんの言葉のおかげ……って、あれ?
瑠奈さん、その手甲は……?」
「あ……これ?……実は……」
……瑠奈の右拳には、オレンジ色の光を放つ、不思議な手甲が装着されていた。

793名無しさん:2020/10/24(土) 14:18:11 ID:???
「私にもよくわからないんだけど、フウヤに一撃入れる瞬間……
フウコから借りたお守りが光って、手甲に変わったの」

(えええ……カナンさん、どういう事なんですか??)
(一言でいうと『その時、不思議なことが起こった!』って感じかしら。
というか正直、あの時は私も無我夢中だったから……)
オレンジの魔石の中の人…カナン・サンセットに、水鳥はテレパシー的なやつで語り掛ける。
……が、肝心なところはやっぱりよくわからなかった。

(魔石が瑠奈さんの……運命の戦士の、強い気持ちに呼応した。って事でしょうか?)
(とりま、そーいう事でいーんじゃない?変身くらいするでしょ、私は魔法少女なんだし。)

「うーーん。まさかこのイヤリングに変形機能がついてたとは…作った私ですら知らなかったわ」
「ご、ごめん……元はと言えば私が、水鳥ちゃん達に黙って持ち出したせいで」
「え。これカリンが作ったの?ご…ごめんね、こんなんなっちゃって。
なんだったら、この埋まってる石だけでも……」

(きゃ!?痛い痛い痛い!!ちょ、やめてー!!!)
「ちょ、瑠奈さん!無理矢理外さなくていいですから!!」
手甲は瑠奈の右手にしっかりと装着されている。
色々と試行錯誤したが物理的に取り外すことはできず、
魔力切れで元のイヤリングに戻るまでに、しばらく時間を要した。

「と…とりあえずその手甲は、瑠奈さんが持ってるのがいいんじゃないかな…」
「な、なんか……本当にごめんなさい。大事な物なんでしょ?」
「い、いえ。今なら多分、瑠奈さんの方が有効に使えると思いますし……」
こうして瑠奈は、伝説の魔法少女の力を宿した魔法の手甲『サンセット・フィスト』を手に入れた。
なんだか申し訳ない気がしたが。

「その代わり〜〜……
じゃーーん!! こんな事もあろうかと!
というか今更だけどルーフェちゃんの入隊祝いも兼ねて!
ブルーバード小隊のおそろいアクセ作ってきましたーー!!」

「わぁ!ありがとうございますカリンさん!」
「いや『こんな事もあろうかと』は絶対ウソでしょ…」
「あはははは。ルーフェちゃんの分を作った後、どうせだからみんなの分も作ろうかなって思って。
で、どうせなら全部そろってからババーンと発表しようと思ってたんだけど、最近は色々あったから遅くなっちゃって……」
「でも時間かけただけあって、すごくキレイで良い出来だよ!ありがとうカリンちゃん!」
水色、緑色、ピンク色。3色のクリスタルのペンダントが、水鳥、フウコ、ルーフェに手渡された。
それぞれ、鳥の頭、左右の翼を象ったかのようなデザインである。

「ふっふっふ〜。しかも、それだけじゃないんだ。これをこうして、こうすると……」
そしてそれらを、カリンが持つオレンジ色のペンダントと合わせると……

「あっ……すごい!鳥の形に……!」
「カリンのは、尾羽になってるのか。なるほどね〜」
4つのペンダントが、ブルーバード……部隊名の由来である幸運を呼ぶ伝説の青い鳥を形作った。
「ありがとうカリンちゃん!」
「私……大切にするね!」
「私も!」

「ふふふ……私もそっちの方がよかったなあ。……あなた達って本当、いいチームね」
(あの子は立派に独り立ちして、もう私の手助けも必要ない……って事なのかもね)
そんなブルーバード小隊の様子を、瑠奈とカナンは微笑ましく見守る。

トーメント王国…フウヤ達との最終決戦を明日に控え、最後の夜はこうして更けていった。

794名無しさん:2020/10/24(土) 14:19:35 ID:???
「クックック……油断したようじゃのう、小僧」
「くっ………この程度の傷、明日の決戦に支障はありませんよ」

一方その頃……リケット渓谷の奥深くにある、トーメント軍の前線基地にて。
フウヤ……フースーヤは、瑠奈たちとの戦いで受けた傷を治療していた。

瑠奈の拳……オレンジ色の光と共に放たれた一撃は、フースーヤの想定以上に強烈な威力だった。
リユニオンによって強化された戦闘服の防御の上から、肋骨数本をへし折るほどに。
(月瀬瑠奈……この世界に召喚されるまでは、ただの人間だったはずなのに。さすがは運命の戦士、と言った所か……)

「そんなザマでは、明日も足元をすくわれかねんのう。わらわが手を貸してやろうか?んん?」
「『黒衣の魔女』様の手を煩わせるまでもありませんよ。それに……貴女に貸しを作ると高くつきそうですし」

そんなフースーヤにニヤニヤしながら絡んでいるのは、
長い黒髪に、透き通るような色白な肌、真っ黒なナイトローブを羽織った妖艶な美女……
『黒衣の魔女』ことノワールである。

フースーヤと同じくルミナスの魔法少女とは深い因縁を持っている。
ルミナス侵攻で共闘して以来、なぜかノワールはフースーヤを気に入ったらしかった。

「クックック……そう遠慮するな。
……わらわの配下『混沌七邪将』を、何人か貸してやろう。こやつらを使って、本命以外の邪魔な脇役を排除するがよい」

「ヒッヒッヒ……邪海将ダゴン、およびとあらば即参上」
「わが名は邪龍将ファーヴニル。ノワール様の命により、うぬに力を貸そう」
「ワタシハ邪骸将デュラハン コンゴトモヨロシク(筆談)」
「邪剣将ダインスレイフ様がめんどくせーけど来てやったぜぇ」
「でもって、邪艶将(姉)アルケニーと……」
「邪艶将(妹)アルラウネちゃんですよ〜」

闇の中からノワールの配下の魔物達が現れた。
タコのような姿の魔物、龍人、首のない騎士、ひとりでに宙に浮かぶ巨大な剣、
そして少女の上半身に蜘蛛の下半身を持つ魔物、植物の魔物。
いずれも並々ならぬ邪気を放ち、ただの魔物とは一線を画す実力を感じさせる。

「まあ、そういう事なら………って、一人足りなくないですか?」
フースーヤの言う通り、現れた魔物は六体。『七邪将』には一体足りない。

「ふむ。こやつらは、以前魔法少女どもに敗れて死んだ連中を、蘇らせてパワーアップしたもの。
その中の一匹は、どうやら死んでなかったようじゃな」
「いわゆる再生怪人みたいなやつですか。まあ6人でも十分…むしろ多すぎるくらいですし、構いませんが」
「マイコニドの奴、一体どこで道草を食っているのやら……」

ともあれ、手下を何人か借りる位なら問題ないだろう。
自分の配下の魔物達、ノワールの部下の六邪将達、戦場となるリネット渓谷の地形、敵の意外な実力、自分自身のダメージ……
様々な要素を再構築し、フースーヤは明日の作戦を練り直すのだった。

795名無しさん:2020/10/24(土) 20:34:16 ID:???
「ふう……これで術式は完了しました。あとは1時間ほどで、広域攻撃術が発動するはずです」
「お疲れ様です、七華様。」
「お疲れ!あとは俺らでやっとくから、七華はちょっと休んでな!」

ミツルギ軍本陣にて。
皇帝テンジョウ・ミツルギと討魔忍五人衆の一人である神楽木七華をはじめ、術を得意とする忍び達の手によって、
一か所に集めた魔物達をまとめて倒す、広域攻撃術「オロチ」の発動儀式がほぼ完成していた。
あとは予め用意してあった護符から自動的に魔力が注ぎ込まれ、放っておいても術は発動するはずだ。

「いえ、他の五人衆の皆様が戦場に出ているのに、私だけ休むわけには……」
「いいんだって!何せ今回、術の発動だけじゃなくて敵を集めるための偽情報にも大活躍してもら……
…いや、ゲフンゲフン。そ、その……と、とにかく今回は、前線に出なくていいから。
ここを突破したらトーメントでの決戦もあるんだし、休めるときに休んどけ!」

今回の作戦のもう一つの要…それは情報戦。
トーメントの魔物たちからリョナりたい人気になっている七華のニセの出現情報を
SNSなどに意図的に流すことで、敵を一か所に集中させていたのだ。
これによって敵をまとめて殲滅し、さらに同時進行で、攻撃部隊が敵大将を討ち取る手はずである。
だが七華本人には、敵を集めるニセ情報のネタにされていることは知らされていない。
どうせスマホを持っていないし、バレないだろう的思考である。

「は、はあ……そこまで仰るなら」
「………なーんか怪しいのう。小僧、わらわ達に何か隠してないか?」
「ちょ!…クロヒメ様、陛下に向かってそのような言葉遣いは……」
横に控えていたクロヒメが、テンジョウの不自然な様子をみて口をはさむ。
ともあれ戦況は今のところ順調、敵戦力のほとんどを「指定のポイント」に誘導できていた。
だが………ここで一つ、問題が生じる。

「報告します!第三十三小隊……ササメ様以下三名からの定時連絡がありません」
「何?どういう事だ。戦闘にでも巻き込まれたか、もしかして……
ササメ、ヤヨイ、ナデシコの小隊の行方が途絶えた。
最後の連絡以降、彼女たちがいた付近で大規模な戦闘が起きた様子はないにも関わらず、である。
「……最後の連絡があったのは……『例のポイント』の近くだな。まさか………」

指定ポイントには特殊な結界が張ってあり、不用意に侵入しようものなら、
脱出も、外部との連絡も不可能になってしまう。
『例のポイント』についての情報が外部に漏れることがないよう、
ミツルギ伝統の情報伝達法…狼煙で全軍に伝えてあったはずだ。

実はナデシコの煙幕花火でササメ達が一時的にはぐれていたり、狼煙を見逃していたり、
と現場では色々とあったのだが、その事をテンジョウたちが知る由はもちろんない。

テンジョウは最悪の状況を想定し、行方不明になったポイント周辺に援軍を向かわせようとする。
だがその時……

「敵襲!敵襲ーー!!」
「報告します!後方に敵軍勢が出現!!トーメントの魔物兵、およそ200体!!」
敵軍が後方から突然突然現れ、ミツルギ軍本陣がにわかに慌ただしくなった。

「何だと?…数は多くないが……っかしーな。奴らがそう簡単にここまで来れるはずないんだがな……
とりあえず全員静まれ!隊列を固め、防御陣形を展開!!五人衆の状況は!?」

浮足立つ味方を落ち着かせ、敵襲に冷静に対応するテンジョウ。
だが、この本陣にたどり着くまでには鳴子の結界やブービートラップ等が無数に張り巡らされていたはず。
誰にも気付かれずそれらを突破することは不可能なはずだ。

五人衆のうち、ラガールは前線で戦闘中。シンは故あって戦列を離れている。
コトネは本陣に戻っているが、部下のアキナイ三姉妹ともども負傷の治療中。
他にすぐに呼び戻せそうなのはザギくらいか。

「しゃーない。ここは俺が行くしかねーか」
「テンジョウ様、私も出ます!」
本陣を守っていた兵たちと共に、テンジョウ、七華、クロヒメが迎撃に出る事となった。

これに対し、トーメント軍を率いるのは……

796名無しさん:2020/10/24(土) 20:35:26 ID:???
「おっと。…意外と対応が早いな。完全に裏をかいたつもりだったんだけど」

王下十輝星「プロキオン」のシアナ。
以前ミツルギに潜入した際、コトネやアキナイ三姉妹と戦ったり、ササメをリョナったり、
ラガールに追い掛け回されたりした事もあったので、シアナ達についての情報はミツルギ側もある程度掴んでいる。

「十輝星……話に聞いてはいましたが、本当にあんな子供が?」
「ま、14歳のガキンチョが皇帝やってる国もあるしのう」
「そーいうこった。情報によれば、奴の能力は……穴を開けること。」
「穴、ですか…?」
……そう。
生命体以外のあらゆる空間や物質に、自在に穴を開ける能力。空間に開けた穴を抜けて、瞬間移動する事も可能だ。
今回のように、遠く離れた敵陣に魔物の軍勢を送り込む事だってできる。

「確かに怖ろしい能力ですが……ここで退くわけにはいきません。行きますよ、クロヒメ様!!」
「七華、お前は「オロチ」の発動儀式で魔力を使いすぎてる…無理はするなよ!」
「心配するな。七華にはわらわがついておる。総大将は後ろでドンと構えとれ!!」

神罰刀『桜花』を抜き放ち、戦場へと駆ける七華。
その横には、同じく両手の仕込み刀を煌めかせながら走る、クロヒメの姿があった。
元々クロヒメは七華が作り出した傀儡であったが、とあるアイテムにより人間の身体へと変化したことで
七華が操らずとも以心伝心で完璧な連携を繰り出すことが可能となった。

「うぉおおお!!まさかこんな所で七華たんと会えるなんてーー!!」
「じゃああの出現情報ガセだったって事か!?」
「奇襲部隊に回されたときはクソガキ死ねって思ったけど超ラッキーだぜー!!」
「結婚してくださーーい!!」
「「はぁぁぁあぁぁああああっ!!」」
(ザクッ!!ザシュッ!!ズバッ!!ザンッ!!)
「「「「っギャワーーーーーーー!!」」」」
討魔五人衆となっても自らの立場に驕ることなく日々精進を続け、剣の腕も達人級。
欲望で動くだけの魔物兵など、物の数ではない。
七華とクロヒメは並みいる魔物兵をバッサバッサと切り伏せ、敵の隊長であるシアナの元へ辿り着いた。

「はぁっ……はぁっ……ここまでです。貴方たちの奇襲は失敗しました……!!」
「そういう事じゃ。ガキはうちに帰って寝ておれ!」
「神楽木七華……さすがは、討魔五人衆の一人、って所かな。
それにあれだけの可愛い系お姉さん、ときたら魔物兵たちに人気なのも頷ける。
……でも、どうして貴女が今ここに?
確か、もっと前線の方で、目撃情報が多数寄せられてたと思うんですが」

「?……何の話ですか?」

「………なるほどね。いや、わからないなら良いんです。
ウチの部下どもときたら、僕の命令もロクに聞かず、その場所にみんな集まっちゃってるものだから……
それに貴女たち二人を同時に相手するのは大変そうだし」
七華の反応を見て、だいたいの状況を察したシアナ。

つまり七華の目撃情報はガセで、あの場所に敵を集める必要があった、と言う事だろう。
と言う事は、あそこには罠……または、自軍を一網打尽にしてしまうような、
とんでもない仕掛けがしてある可能性が高い。

「そういうわけで……手っ取り早く、分断させてもらいますよ」
「だから、一体何を……」
「!!……七華、下じゃ!!」
「えっ!?」

シアナが手をかざすと、七華の足元にぽっかりと大きな穴が開いた。
クロヒメが助けに入る隙もなく、七華は空間に突然開いた穴に、一瞬にして落とされた。

797名無しさん:2020/10/24(土) 20:38:50 ID:???
「貴様っ!!七華をどこへやったっ!!」
「どこって……SNSに出ていた情報通りの場所、ですよ。
あそこに何を仕掛けていたかは知りませんが……
今あそこには、トーメントの軍勢がひしめいている。
仲間の命が惜しかったら、その仕掛けを解除する事を勧めます」

落とし穴は瞬時に閉じたが、七華の行方はわかった。
あの場所に仕掛けてあるのは無数の罠、脱出不可能の結界。
そして……1時間後に発動する、広域攻撃術「オロチ」。
伝説の邪竜の名を冠するだけあって、広範囲に凄まじい爆炎を巻き起こす、禁呪並みに危険な術だ。
これが発動すれば、いくら討魔五人衆と言えどもひとたまりもないだろう。
だがもし今、あの場所に封じ込められた魔物達を解き放ったら、
ミツルギ軍は数で圧倒的不利となり、戦況を一気にひっくり返されてしまいかねない。

「そ、それは………!!」
「ふん。悪いがそれは出来んな。そしてシアナとか言ったか。
お前も色々厄介そうだからな。タダでここからは帰さん」
「!!小僧……総大将は控えておれと言ったはずじゃ!!こやつは、わらわが………」
逡巡するクロヒメ。その横に現れたのは……ミツルギ軍総大将である、皇帝テンジョウだった。

「オロチの発動まで1時間。……お前はこんな奴の相手してる時間はないだろう?
こいつは俺が相手しといてやるよ」
「!!………すまん」
クロヒメはテンジョウの意図を察すると、シアナの前から離脱し、一目散に七華の元へと向かう。

「さーて。久々の運動だからな……うまく手加減できるかわかんねーぜ!」
「大将首を直接取れるなんて、願ってもない。
それにしてもお前……僕の知ってる奴に雰囲気がそっくりだな」

ミツルギの皇帝と、王下十輝星。果たして両者の対決の行方は。
そして………危険区域に送り込まれた七華と、救出に向かったクロヒメの運命や、如何に。

798名無しさん:2020/10/25(日) 21:46:11 ID:???
「……きゃああああああっ!!」
シアナの空間転送落とし穴に落とされた七華は、見知らぬ場所の空中に放り出され、そのままお尻で着地した。
幸い、日ごろ和菓子作り&試食で鍛えたお尻回りのむっちりした脂肪のおかげで、大したケガはしていない。

「……何か、誰かにすごく失礼な事を言われたような……
それにしても、一体ここは……アレイ草原のどこかでしょうか」

一見普通の草原の風景が広がっているが、周囲に味方の姿はなく、魔物兵の気配が無数にひしめいている。
更に、よくよく見るとそこかしこに、ミツルギ伝統のブービートラップ。強力な結界も張られている。
今回の作戦で敵を一網打尽にすべく用意された、危険領域の中である事はすぐにわかった。

「だとしたら……この一帯はもうすぐ『オロチ』の術が発動するはず。
早く脱出しなければ……自分で仕掛けた術に自分でかかるなんて、冗談にもなりません」
……岩陰に身を潜め、周囲の様子をうかがう。
術の発動までおよそ1時間。その前に、魔物に見つからないよう、
トラップに引っ掛からないようにしながら、結界の外に出なければならないのだが。

「いたぞーーー!!あっちだ!!」
「なに!?巫女さんいたのか!?」
「いや違う!雪女ちゃんとJK忍者ちゃんだ!!」
「ウオオオオオそれでも全然アリだ!!取り囲めぇえええええ!!」

……突然、周囲の魔物達がざわつき始め、七華の潜んでいた岩陰とは別の方向に、一斉に走り出した。

「!?………て、てっきり見つかったのかと思いましたが……
雪女と、じぇーけー……?まさか、ササメさん達もここに……!?」

他の仲間がここに居るのなら、放っておくわけにはいかない。
七華は岩陰から飛び出し、魔物達の後を追おうとするが……

(………シュッ!!)
「!?」
突然、背後から手裏剣が飛んできた。
すんでの所で回避した七華だが、長い黒髪が数本斬り落とされ、はらはらと地面に落ちる。
相手はかなりの手練れらしく、全く殺気を感じなかった。
……もう少し気付くのが遅れていたら、危なかったかもしれない。

「ふふふふふ……初めまして、神楽木七華ちゃん。
アナタとは一度、会って話してみたかったの……アタシと同じ『人形使い』として、ね」

…手裏剣が飛んできた方角の樹上に、人影があった。
ギラついた光を放つ黄金色の目、ぼさぼさの黒髪。
やせた体に真っ白い装束を身にまとった、まるで幽霊か何かを思わせる、異様な風体の女忍び。

「あ……貴女は、何者ですか!?」
……だが、ミツルギ討魔忍衆の中に、あのような者がいるとは聞いたこともない。
思い当たるとすれば……

「まさか……抜け忍…?」
「ふふふ……そういう事。ミツルギじゃ『呪詛のサシガネ』って呼ばれてたけど…
元暗部だから、五人衆のアナタでも、知らないかもねえ」

【呪詛のサシガネ】
元ミツルギ討魔忍衆暗殺部隊所属の女忍び。人形を使った呪殺術を得意とする。
人を呪い、苦しめて殺す事を無上の喜びとしており、ミツルギの組織改編の折に討魔忍衆を抜け、トーメント王国へと身を投じた。

799名無しさん:2020/10/25(日) 21:47:24 ID:???
「呪詛のサシガネ……名前は知りませんでしたが、噂を聞いたことがありました。
……暗殺部隊に、呪術を得意とする、恐ろしい忍びがいると……」

………大戦の前に、皇帝テンジョウはアゲハをはじめ望まぬ意思で暗部に入れられた者達を対魔物部隊へと異動させた。
だが「呪詛」の二つ名が示す通り、彼女の呪術は人を呪い殺す事に特化しており、
また本人もそれを無上の喜びとしていた。
暗殺部隊の存続が危うくなったことを感じ取った彼女が「抜け忍」となり、
トーメント王国へと身を投じたのは、ある意味自然な成り行きと言える。

「アナタがアタシを知らなくても……アタシはアナタに、ずっと興味があったの。
だって、アナタも……『人形使い』なんでしょう?」
「貴女も…そんな事を言うのですね。
……クロヒメ様は、人形などではありません!!」

クロヒメは七華が自身が作った傀儡であるが、七華は自身の手を介して神の意志が込められた御神体であると信じていた。
そのため、クロヒメを『人形』呼ばわりされることを、七華は激しく嫌っていた。
そして……紆余曲折を経た後、クロヒメが人間の身体を手に入れた今は……
まるで実の姉妹のように心を通わせ合っている今は、なおのこと許せるはずがない。

「ふん……ま、いいわ。そのクロヒメちゃんとかいう『人形』も、今はいないようだし。
アナタを呪いで徹底的に苦しめて、アタシが最強の人形使いだってことを証明してあげる」

「呪い……どんな術か知りませんが、使わせなければいいだけの事。
討魔忍五人衆が一人、神通の七華の力…見せて差し上げます!!」
「……使わせなければ、ねぇ。でも七華ちゃん、アナタは既にアタシの術中にハマってるのよぉ……?」

七華は神罰刀・桜花を構えなおし、樹上の敵を見据える。
対するサシガネは、余裕の笑みを浮かべ……七華のすぐ脇の地面へと視線を向けた。

「?……それはどういう意味……って、ええっ!?」
「……もぐ……もぐ……もぐ」
「あ、あなたは……一体いつの間に!?」
そこにいたのは……サシガネと同じ白い装束を着た、小柄な少女。年齢は七華の半分くらいだろうか。
その少女は……先の手裏剣によって斬り落とされた七華の髪を拾い集め、むしゃむしゃと咀嚼していた。

「ごっ………くん」
「そ、それは私の髪……そ、そんなもの食べたらお腹壊しますよ!?」
(全く気配を感じなかった……一体この子は……!!)

「クックック……アタシの人形に、間抜けなご心配どうも。……でも壊れるのは、アナタの方よ?」
「………いたいの……すき、ですか……?」
「え……?……な、何を……」

七華の呼びかけに反応を示さず、虚ろな瞳の少女は、懐から大きな釘を取り出す。
襟元から一瞬覗いた少女の身体は極めて華奢で、あばら骨が浮き出るほどにやせ細っていた。

………ドスッ!!!
「!?……っぐ、っ……!!?」

少女は五寸釘……ちょっとした短刀程の長さの大釘を、そのまま自分のお腹に突き刺す。
すると、七華のお腹、刺されたのと同じ場所に、激痛が走った!

「っく……こ、れは……一体、何が………!?」
「クックック……その子はアタシの可愛い藁人形、ワラビちゃん。
敵の体の一部……髪の毛なんかを体内に取り込むと、自分が受けた痛みを相手に送り込むことができるの」

「………いたい、ですか?」
ずぶっ……ぐりっ!
「い、っぎ……っああぁぁぁぁぁぁあーーーっっっ!!?」
ワラビが、自分の腹に刺した釘を掴み、力を込めて捩じる。七華のお腹にも、更なる激痛が走る。
……鉄串で内臓を滅茶苦茶にかき回されるような異常な痛みに襲われ、七華たまらず膝をついた。

800名無しさん:2020/10/25(日) 21:49:41 ID:???
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」
「もっと……いたく、します?」
…ザクッ!!
ワラビは新たな釘を取り出し、自分の左足に突き刺す。

「…あうっ!!」
立ち上がろうとしていた七華の太股に鋭い痛みが走り、再び崩れ落ちてしまう。
刀を杖代わりにしながら、それでもよろよろと立ち上がる七華だが……

ドスッ!!
「うっぐ!!」
ワラビは三本目の肩を右肩に突き刺す。
七華は激痛に刀を手放しそうになるが、体ごと刀に縋りつき、辛うじて己の身体を支えた。

「くっくっく……アタシの呪殺術『ウシノコク』の味はいかがかしら?七華ちゃん」
「はぁっ……はぁっ……確かに、恐ろしい術……ですが、これしきの事で、私は……!!」
(まずい……防御も回避もできないなんて………このままじゃ、やられる……!!)

「本当なら、このままどっかに行方をくらませて、安全な場所からジックリタップリ
嬲り殺しにするのがアタシ必勝パターン、なんだけど……」

……そう。ここでサシガネとワラビに逃げに徹されたら、七華にもはや打つ手はない。
にも関わらず、サシガネは樹の上から飛び降り、ワラビと七華の前まで余裕綽々に歩み寄ってきた。

「っ……一体、どういうつもり……?」
「でもその前に…七華ちゃん、さっき言ってたじゃない。
見せてくれるんでしょ?討魔忍五人衆のチカラ、ってやつ」

サシガネは右手に柄の長い木槌、左手に長剣サイズの大きな釘を持ち、薄笑いを浮かべながら七華を見下ろす。

「!………」
「クスクスクス………それでぇ?いつ、どこで見せてくれるの?
ヒィヒィ言いながらお尻突き出しちゃって、立ってるのがやっとのブザマなカッコで、どうやってぇ?
それとも……七華ちゃんは、お気に入りの『お人形さん』がいないと、なんにもできないのかしらぁ?」

「!………馬鹿に、しないで……たとえクロヒメ様がいなくとも、貴女のような方に、負けはしません!」
「くっくっく……そう来なくちゃ♪」
気力を振り絞って剣を構え、サシガネに斬りかかる七華。対するサシガネは……
七華の方を見る事もせず、傍らにいたワラビに向けて木槌を振り下ろし………

「………これも、いたい、ですか……?」
ドゴッ!!ブシュッ!!
「…っぐあっ!?」

右足の甲に、4本目の釘を打ち付ける。
七華の右足が、地面に縫い付けられたかのように動かなくなり、
振るった刀の切っ先は、サシガネに届くことなく空を切った。

「5本目は、空いてる左腕にしようかしらねぇ……それにしても、拍子抜けだわ。
あの最強の忍、討魔忍五人衆を名乗ってる位だから、どれほどのものかと思ったら
こんな子供のお遊び程度の呪術に手も足も出ないようなクソ雑魚だなんて。
……これは、ミツルギを見限って正解だったかしら」

「うっぐ…………ううっ……!」
強力な呪術の前に手も足も出ず、一方的に嬲り者にされる七華。
クロヒメを人形呼ばわりされ、その人形が居なければ何もできないと揶揄され、討魔忍五人衆の名さえ貶められる。
そうまでされても何もできない自分のふがいなさに、自然と涙がこみ上げた。

ガコン!!ドスッ!!
「んっ………ぐ!!」
(ここで、倒れるわけにはいかない……こんな所で……負けたく、ない…!!)
ワラビの左腕に、五寸釘が撃ち込まれていく。
それと同等の、骨まで達する地獄の痛みが、七華の左腕を貫く。

ゴスッ!! ドスッ!!
「……っ………!!」
(この両手では、手裏剣は投げられない…刀で、それも…身体ごとぶつかっていくしかない)

「クスクス……せっかくだから、他の所にもダメ押ししましょ」
「……ぜんぶ、いたくします……」
「……………………!!」
(もう一歩……せめてもう一歩だけでも、踏み込めれば……!)

それでも愛刀を手放さないよう、戦意を、意識を失わないよう、必死に気を張り、
あるかどうかもわからない反撃の糸口を求め、七華はただ必死に思考を巡らせた。

801名無しさん:2020/10/28(水) 23:08:06 ID:???
「ここをこうして、こうやって、っと……じゃ、いくわよワラビちゃん。せーの………」

サシガネは「藁人形」ワラビを木の前に立たせ、あれこれと指示を出す。
ワラビが言われるがままにポーズを取ると、サシガネは木槌を大きく振りかぶって………叩きつけた。

ガンッ!!……ガンッ!!……
「……………………。」
「…っぐ…………うっ………!」

…ガンッ!!…ガンッ!!…ガンッ!!…
「ふぅ、疲れた………でも頑張っただけあって、なかなか上手くできたわねぇ。クスクスクス………」
左足を高く掲げ、それを両腕で抱え込む、いわゆる「I字バランス」を取るワラビ。
その左足と両手を、背後の木に大きな釘で打ち付けて固定している。

そして一方、七華はというと……

「ふぅっ………ふぅっ………」
「クックックック……黒巫女七華ちゃんのくそエロ無防備なI字バランス、一丁上がり〜♪」
藁人形の呪いによって、ワラビと同じ体勢を取らされていた。
しかも、釘で打ち付けられた激痛も、そのまま七華の体に送り込まれてくる。
せめてもの抵抗か、歯を食いしばって羞恥と悲鳴を必死にこらえる七華の姿に、女呪術師サシガネは満足げな笑みを浮かべた。

「クックック……無様な格好ね、な・な・か・ちゃん♥」
「………っ………!」
身動きの取れない七華にサシガネが迫り、吐息がかかるほどの距離にまで密着する。
胸や股間を骨ばった指が無遠慮に撫でまわし、七華の背筋にゾクゾクと悪寒が走った。

「私を……辱めるつもりですか」
両手足は固定されて動かせず、かろうじて指が動かせる程度。
頼みの神罰刀も、あっさり取り上げられ、遠くに投げ捨てられてしまった。

「それも素敵よねえ……こんなに可愛い七華ちゃんを、好き放題に出来るなんて、
トーメントの魔物どもが聞いたらヨダレ物でしょうね。でも、その前に……」

サシガネは手にした木槌を、七華の脇腹めがけて思い切り振りぬく。
ブオンッ!……ドスッ!!
「っあぐ!!」
「藁人形だけじゃなくて、直接この手で……徹底的にいたぶってあげるわ」

ゴスッ!! ドガッ!! ……ズボッ!!
「ぐごっ………っぐ!………っがっ!!」
生けるサンドバッグと化した七華の全身を、サシガネが木槌で乱打する。
呪術で釘を打たれた所もそうでない所も、思い切り、何度も何度も。
そして、トドメとばかりに………

ドゴンッ!!
「…っぐああああぁぁぁぁああああ!!!」
I字に上げていた脚のど真ん中……股間に、思い切り木槌を撃ち込まれ、七華はとうとう抑えていた悲鳴を上げた。

「クックック……大きな声出したら、魔物どもに気づかれちゃうわよ?
ったく、五人衆とかいってチヤホヤされてたクセにだらしないわねぇ……ウチのワラビちゃんを見習ったらどう?」
「………………。」
七華の視線の先には、I字バランスの体勢で、木にくぎを打ち付けられて固定されているワラビの姿がある。

「……一体何者ですか、あの子は……明らかに『藁人形』ではなく……人間ではないですか。
痛みを感じないって、一体どうして……」
そう…最初に彼女を見た時から、ずっと疑問だった。
サシガネから「藁人形」と呼ばれてはいたが、ワラビの身体は藁ではなく、どうみても人間そのもの。
釘を刺された個所からは、血だって出ている。
なのにワラビは、全身に釘を刺されても悲鳴どころか痛がる素振り一つない。
痛みに耐える訓練を積んだとしても、手足を釘で貫かれて何の反応も示さないのは、どう考えても異常だ。

「ああ、あれ?……そう難しい話じゃないわ。
特殊なお薬で脳をジャブジャブ洗ってあげれば、『痛み』なんて認識できなくなるわ。
記憶も人格もぶっ壊れちゃうから、自分じゃゼッタイやりたくないけどね」

「なっ…………あんな幼い子供に、どうしてそんな酷い事を……!」
「酷い事?……あの子は人間といっても、貧民街で拾った奴隷。
何の役にも立たないゴミを、アタシが人形として使って役立たせてあげるのよ?
これってすっごくエコじゃない?」

「……許せません……貴女だけは、絶対に……!!」
「ふふふふ……そんな大股開きでニラんだって、ちっとも怖くないわよ。
まだまだタ〜ップリいたぶってあげるから、せいぜい可愛い鳴き声利かせてちょうだい♥」

奴隷の価値は人間未満、ゴミ同然…ひと昔前のミツルギなら、比較的ありふれた価値観だったのかも知れない。
……だが七華には、到底受け入れられるものではなかった。
瞳の奥に、怒りの炎が静かに灯る。だが、絶体絶命の窮地に立たされた七華に、反撃の機会は巡ってくるか……

802名無しさん:2020/11/08(日) 14:30:31 ID:???
「ふひひひ……巫女さんは見つからないけど、雪女ちゃんにJK忍者ちゃんがいるとはラッキーだぜ!」
「雪女ちゃんのおっぱい、ひんやりして気持ちよさそう……まさにリアル雪見大福だな!」
「討魔忍の装束って、露出度高いか、全身ぴっちり覆ってるけど体のライン出てるか、どっちにしろエロくて最高だよな!」
「フィーヒヒヒヒ…JKの太もも……直接かぶりついて吸血しまくりてぇ…!!」

「あーーーもう!!なんでこんなに敵がいるのよ!!最悪ーー!!」

ヤヨイ、ナデシコ、ササメの三人は、無数の魔物たちに囲まれていた。

ここは『ポイントA』…本来は敵軍をおびき寄せるためのエリアであった。
討魔忍五人衆の中でも最かわと名高い神楽木七華がこのあたりにいる、という偽情報もネット上がばらまかれており、
その上で無数の罠が仕掛けられ、脱出不能の結界が張られている。

何の間違いか運命のいたずらか、三人はそんな敵軍の真っただ中に迷い込んでしまっていた。

「落ち着いて、二人とも!ここは…一気に突破しましょう!」
「はい!」「よーし、ヤヨイ!あれで行くよ!!」
年長のササメがヤヨイ達を先導し、敵の一匹に狙いを定める。
駆けだす三人の行く手には、角を生やした巨人、アカオニの姿があった。

「グヒヒヒヒッ……メスガキどもが。たかが三匹、この俺様がヒィヒィ言わせてやるぜぇ!!」

3m近い巨体に赤銅色の肌の赤鬼が、筋骨隆々の全身をふるわせ、襲い掛かる。
そして、巨大な金砕棒を振り上げた瞬間……

「…はっ!!」
「ぐぬっ!?」
ササメが冷気を放ち、鬼の足元に冷気を凍らせた。
そして鬼がバランスを崩したところへ……

「連携技・打ち上げヤヨイ!」
「からのー!!秘伝忍技・落鳳破!!」
「ぐおおおおおおおっ!!!」

ナデシコがバレーのレシーブの体勢で、ヤヨイの踏み台となる。
ヤヨイはナデシコの力を借りて赤鬼の頭の高さまで跳躍し、そのまま鬼の頭を脚で挟み込み、地面に叩きつけた。
秘伝忍技・落鳳破…ミツルギ流体術の高等技とされる、プロレスでいうフランケンシュタイナーに近い投げ技である。
赤鬼は近くにいた魔物数体を巻き添えに倒れ、後頭部を打って昏倒した。

「今のうちです!!」
「なっ!鬼が倒されただと!?」
「追うぞ、逃がすな!!」

魔物の包囲網に綻びが生まれ、三人は脱兎のごとく走り包囲網を突破する。

「でもってこれは、オマケだよ!!」
追ってくる魔物兵達に、ナデシコが煙玉を投げつける。

「ケッ!!そんな煙に惑わされるか!俺たちから逃げられると……」
煙幕の量はさほど多くなく、魔物達の足元が見えなくなる程度。
しかし……

ぷち カチッ ガコン!
「ん?……」「今何か」「踏んだよう、なっ!?」

ドゴォォオオオオンッ!!
ガラガラガラガラ!!
ドスドスドスドスドス!!
「「「グワーーーーーーッッ!!!」」」

……付近一帯に無数に仕掛けられた、トラップを見えなくさせるには十分だった。
地雷、落石、弓矢などの罠が次々に発動し、追ってくる魔物達を蹴散らしていく。
全滅させるには至らないが、これで時間は十分に稼げるはずだ。

「なんとか逃げられましたね……でも確か、この辺のエリアは出られないように結界が張ってあるんですよね?」
「追手が来る前に、結界から抜け出す方法を考えないと!」
「とりあえず、あそこの林に身を隠しましょう!」
草原を抜け、三人は高い木の茂る林に身を隠す。
三人は、はたして無事に魔の領域から抜け出すことができるのか…

803名無しさん:2020/11/08(日) 14:32:13 ID:???
「はぁ……はぁ……ここなら、少しは安全ですね」
「と、とりあえず……休憩しましょう。朝から戦いっぱなしで、もうクタクタ…」
「アタシも……それにさっきの煙幕で、火薬使いきっちゃった」
「そうですね……私ももう、魔力が……」

林の中に身を隠し、束の間の休憩を取る三人。
だがそこに、音もなく忍び寄る影があった。

「それにしてもトーメントの奴ら、どいつもこいつもスケベ過ぎだわ…
アタシやササメ先輩の胸ばっかガン見してくるし。…その点、ヤヨイっちはうらやましいわ」
「うぐぐ……確かに大きいと色々大変そうだけど、なんか負けた気がする……」
「いやほんとマジで。煽りぬきで」
「ま、まあまあ…ヤヨイちゃんは成長期なんだし、まだまだこれからですよ!
それに、アゲハさんやコトネさんみたいに(身長が)小さくても強い忍びはたくさん……」
(…………?……この気配は………!)

「ササメさん?……どうしたんですか?」
「…………。」
「……!?」「……!!」
ササメは不意に怪しい気配を感じ、唇の前で人差し指を立ててヤヨイとナデシコに沈黙を促す。
二人もすぐに状況を察し、茂みに隠れて周囲の気配を探り始めた。
すると……

ぞわわわわっ…!!
ギュルルルルルルルッ!!

「きゃぁっ!?」
「なっ……何これ、植物が!?」

周囲の草花、そして地中から、無数の蔦が伸びてヤヨイとナデシコの体に巻き付いていく!

「これは…魔物!?……いや、この術は……まさか……!!」
ササメは四方八方から襲い掛かる蔦をかわし、氷刀で切り払う。

「…………。」
「………しゅるるるる…」

そして、林の奥から現れた襲撃者の姿に、ササメは我が目を疑った。

白い髪に赤い瞳、うさぎのような長い耳。
一人はすらりと伸びた長い足の、長身の美女。もう一人は、10代前半くらいの幼い少女。
二人の事を、ササメは知っていた。…見間違うはずもない。

「ゼリカさん、ミゲルちゃん……そんな、一体どうして……!?」

サリカの樹海に住み、魔の山に眠る神器を守護する「ヴィラの一族」。
生まれて間もなく雪人の城から捨てられたササメは、彼女たちの一族に拾われた。
幼少の頃、ササメはヴィラの隠れ里で彼女たちと一緒に、実の姉妹同然に育てられたのだ。

「………じゅるっ……」
「しゅるる……」
「なっ……なんとか、言ってください…!
テンジョウ様から、ヴィラの里がトーメントに滅ぼされたと聞いて、私……」

そう。死んだはずの親友たちとの、感動の再会……であるとは思えない。
現に奇襲を仕掛けてきた二人は、ササメに何の反応も示さない。
そして何より異様なのは……二人の肩に乗っている、オレンジ色のカボチャ。

「クキキキキ……何かと思ったら……」
「俺たちの『ノリモノ』の、『元』知り合い、かぁ?……キキキッ!」

【パンプキン・ビースト+】
人や獣、魔物にカボチャの実に似た植物が帰省した魔物。
宿主自体の能力に加え、イバラのような棘蔓を武器として使う。
実は背中に寄生した植物が本体であり、これを破壊しない限り倒すことは出来ない。
規制する対象は人や獣、魔物と幅広く、死体も操ることができる。
多くの生命に寄生したことで知恵を付け、残忍さや狡猾さがさらに増した。

804名無しさん:2020/11/13(金) 01:43:35 ID:???
「あっ………あなたたちは…!?」

「クキキキ……我々は、偉大な王にたてついたこのメスどもを殺し、ヴィラの里を滅ぼした功績によって」
「我らが王から、更なる知恵と魔力を授かり……そしてこのメスどもを『乗り物』として賜ったのだ」

ゼリカとミゼルの肩の上の不気味なカボチャが、言葉を話し出した。

「しゅる、るるる……」
「うじゅ……るるる……」
ゼリカとミゼルは何も言わず、虚ろな表情のまま……
カボチャ達が言うように、彼女たちは、既に死体になっていた。

「!!……殺して……乗り物、ですって…!?」
「その通り……メスの人間や亜人は、我々にとって様々な使い方がある。
生きていれば食料にも苗床になり、死体もこうして、乗り物や……」

「……武器にもなる」
ゼリカとミゼルの死体を操り、パンプキン・ビーストたちが襲いかかった。

「……許せないっ…!!」
魔物達への怒りに身を震わせ、両手に氷の魔力を込めるササメ。
だがこれまでの戦いで魔力が底をつきかけていて、氷の刀を生成するのが、ほんのわずかに遅れる。

「たああああぁっ!!」
ガキンッ!! ビシッ!! ガキィィンッ!!

刀の強度、切れ味も、普段よりわずかに鈍っている。
何より、冷静さを失っていた事で、剣技が普段より、ほんのわずかに……直線的に、単純になっていた。
いずれも、本人も気が付かないほどの、ほんのわずか。
だが……えてして極限の戦いにおいては、そのほんのわずかの差が勝敗を大きく左右する。

「カボチャさえ壊せば……なっ…!?」
「そして、こうして盾にもなるわけだ……ククククッ」

ミゼルに取りついたパンプキンを叩き切ろうとした瞬間、ゼリカが横から割って入った。
例え死体だとわかっていても、長年姉のように慕ってきたミゼルと目が合った瞬間、ササメの動きは止まってしまい……

(違う……惑わされちゃ駄目……だって二人は、もう…)
メキッ!!
「あぐっ!!」
代わりにゼリカからの一撃、彼女が生前愛用していた『神樹棍』の突きをみぞおちに喰らってしまう。

「ヒヒヒヒヒッ……オタノシミは、これからだ」
(し、まっ……)
体勢を整える間もなく、ゼリカの……パンプキン・ビーストの追撃がササメを襲う。

ビシッ!!バシッ!!
「あ、う……!?」
下段に構えた棍を左右に振るい、ササメの左右の踝の内側を打つ。
脚を開かされ、バランスを崩したササメが、その場に崩れ落ちそうになった所へ……

……ドスッッ!!
「…っんぐあああああっ!!」

……そのまま真上に、ゼリカは棍を振り上げる!!


「クックックック……討魔忍だろうと雪人だろうと、同じことだ。
ここに一発ブち込めば、ノリモノは皆大人しくなる」
「っぐ、あ……が………はっ……!」
必殺の一撃を急所に打ち込まれ、ササメはビクンビクンと全身を痙攣させながら崩れ落ちた。

805名無しさん:2020/11/13(金) 01:44:39 ID:???
…ぐりっ!!
「んあぅっ…!!」

悶絶寸前のササメの股間を、パンプキンビーストは追い打ちとばかりにグリグリと踏みにじる。
みぞおちに喰らった一撃のダメージが深く、手足に力が入らないササメ。
ゼリカの脚を払いのけることができず、回復するまでいいように嬲られ続けてしまう。

「クックック……これほどの上物だ。使う前に傷をつけたくはないが……
まずはノリモノとしての態度を、わからせてやらんとな」

パンプキン・ゴーストの本体から、鋭いイバラのような枝が何本も伸びる。
それらが鞭のようにしなり、ひゅんひゅんと風を切り、そして………

ビュッ!!ビシビシビシッ!!ズバッ!!
「それって…まさか、っきゃああああっ!!」
一斉に振り下ろされた。

「クックック……お察しの通り。
このノリモノも、死体にしてはなかなか気に入ってたが……
そろそろ乗り換え時だからなぁ!!」

ベキッ!!パキィィンッ!!ビシッ!!ザシュッ!!ドガッ!!
「っぐ!うああああっ!!んっぐ、あああああああ!!」
氷の刀は砕かれ、白い忍び装束は引き裂かれ、血の赤で染め上げられていく……

パンプキンが乗り移ったゼリカ達の力は、ササメの予想を遥かに超えていた。
…普通の人間は、全力で運動している時でも、無意識のうちに力をセーブしていると言われている。
そうしなければ、体そのものが、自分自身の力に耐えきれず破壊されてしまうからだ。
だがパンプキン達にとって、人間は単なるノリモノ。死体とあらばなおさらの事
ゼリカ達が壊れようとお構いなしに、乱雑に扱い……結果、常人を遥かに上回る力を発揮していた。

「クックック……これでわかっただろう、我々に逆らっても無駄だと。
さあ、お前を新たなノリモノにしてやろう」

パンプキン・ビーストの蔦がササメに巻き付き、全身を拘束する。
そして、目の前に触手が突きつけられる…その先端には、パンプキン・ビーストの種子が不気味に脈打っていた。

「いいえ……私は、貴方たちの思い通りにはならない…!」

悪魔の子種があわやササメの口にねじ込まれようかという、その時……
ササメの目が見開かれ、右手の指先が素早く動き……何かが飛んだ。

ギュルルルルルッ!!
「馬鹿め。全身を蔦に縛られ、手も足も出ないくせに今更何……っが!?」

それは、分銅のついた鎖鉄球。死角からパンプキン・ビーストの本体に巻き付いて、捉える!

「はぁっ……はぁっ……右手の感覚が回復するまでに、時間がかかりましたが……
私は指一本でも動かせれば、鎖を自在に操る事ができる。油断しきった貴方を捉えるぐらい、造作もない」

「バ、カナ……信じ、られん……そん、な、事が……ッギアアアアアッッッ!!」
ササメが指を軽く弾くと、巻き付いた鎖が万力のような力で締め付けられ……
パンプキン・ビーストの本体は、粉々に砕け散った。

「やったーー!さすが、ササメ先輩!」
「指だけで、鎖をあんな風に操るなんて…すっごいです!」

「いいえ……私の技なんて、まだまだあの人には…七華さんには、遠く及びません」

岩をも砕き、鋼をも撃ちぬく威力を秘めた、ササメの『砕氷星鎖』。
それを指先一つで精密に操る術は……師匠である神楽木七華の下で身につけたものである。

「そ、それよりヤヨイちゃん、ナデシコちゃん。もう一人の敵は……」
「んーっ……!!」
「えっ…んぐむっ!?」

ミゼルと、それに取りついたもう一体のパンプキンビーストはどうなったのか。
状況を確かめる前に、ヤヨイとナデシコが駆け寄ってきて……
有無を言わさず、唇を奪われた。

「んっ。…ちゅぷっ………ふふっ。だけど、こうして……」
「口移しで種を植え付けられたら、どうしようもないよねぇ…‥?」
「ん、むぐ……ぷはっ!!…まさ、か……二人とも…!?」

806名無しさん:2020/11/13(金) 23:11:55 ID:???
前後からナデシコとヤヨイに挟まれ、身動きが取れないササメ。
三人のすぐ脇には、動かなくなったミゼルの死体が転がっていた。
パンプキン・ビーストの姿は、既にそこになく……

「ヒヒヒヒ……久々に、新鮮なノリモノが手に入ったよ」
ヤヨイの肩の上に乗り、トゲだらけの蔦を絡まみつかせている。

「乗り心地も実にイイ……同胞が一体潰されたようだけど
新しいノリモノが三体手に入ったから結果オーライだねぇ……ククク」
そして、もう一体……新たに増殖した、小ぶりなパンプキンビーストがナデシコの胸の上に鎮座していた。

(……そんなっ!!二人とも、体を乗っ取られて……!?)
「ん、ぐむ……う、えっ……!」
ナデシコの口からササメの咥内に、苦くてエグくてカビ臭い、謎の粘液を注ぎ込まれた。。
恐らくこれは、パンプキンビーストの種……
もし呑み込んで、体内で発芽してしまったら、自分まで魔物の支配下に堕ちてしまう。
(そうなる前に、何とかして二人を助けないと……!!)

「う、げ……はぁっ…はぁっ…」
ササメは口に含んでいるだけでも軽い吐き気を催してしまい、思わず白く濁った液体を吐き出した。
唾液混じりの粘液が胸の谷間の窪みに溜まり、小さな三角の池を作る。

「ふふふ……ダメだよ?ちゃんと呑み込まないと。逆らったらこのノリモノがどうなるか…………」
「うっ……っぐ、ササメ、先輩……にげ、て…」
「…私の、か…た……を…っ、ああっ……!!」
(ナデシコちゃん、ヤヨイちゃん……!)

ほんの一瞬、ナデシコとヤヨイの意識が解放され、苦悶の表情を浮かべる。
逃げろ、とササメに訴えかけるが……

「どうすればいいか…わかるよね?…セ・ン・パ・イ♪」
「…っ……………!!」

……二人を見捨てる選択など、出来るはずもない。
一度は吐き出され、胸元に溜まっていた白濁汁を、ササメは舌で舐めとり、意を決して呑み込んだ。

「んっ……く………はぁっ………はぁっ………」
(なんとか、隙を見つけないと……)

「ふふふ……ちゃんと飲んだね、えらいえらい。
じゃあ、僕らの種が芽吹くまで、そのまま大人しくしていてもらおうか。
またあの鎖で反撃されないように、ちゃ〜んと押さえとかないと」

パンプキンビーストに支配された二人が、ササメの手を取り、指の一本一本をしっかりと絡み合わせる。

二人とも年下の後輩とは言え、正面にいるナデシコの体格は、ササメとそう変わらない。
お互いに吐息がかかり、押され合った胸が撓むほどの至近距離。
背後のヤヨイは、空いている方の手をさりげなくササメの胸や太ももに這わせて、微妙な感覚を送り込んでくる。
武器を隠し持っていないか調べるためか、それとも単に、魔物の邪悪な欲望に従っているのか……

操られた二人の表情は、どこか妖艶な雰囲気をまとっていて、
同性ながらもドキドキしてしまいそうな体勢である。……こんな状況でなければ、だが。

こうしてササメはしばらくの間、後輩の少女二人に手を握られながら、
じっくりとじらすように全身を撫で廻され、敏感な場所を舌で転がされたり、甘噛みされたり……

「………ん、っ………!!……」
「……ヒヒヒ……」
「クックック……雪人のノリモノは、今までにも何回か乗り潰した事があるけど、
メスはみんな脆弱で、長持ちしなかったんだよね……」
「…!!………」
「こんな見事な身体と美貌を好き勝手にできるなんて、
これから生まれてくる同胞が羨ましいよ。クックック……」

浴びせられる心無い賛美の言葉に、こみ上げる怒りを抑えながら、ササメはひたすら耐え忍ぶしかなかった。

807名無しさん:2020/11/13(金) 23:13:40 ID:???
「さ〜て……そろそろ、種が完全に根付いた頃合か……気分はどうだい、同胞よ」
「…は……は、い……、……とても、すがすがしい気分です…」

(……大丈夫……まだ、意識を保てている。仲間になったふりをして、チャンスを……)
ササメは「ある方法」で、呑み込んだ種が発芽するのを遅らせていた。

人質を取られ、武器を奪われ、複数の敵に至近距離で監視されている今は、
何としてでも敵を欺き、隙を見つけなければならない。
「魔物に乗っ取られた演技」が当の魔物相手にどこまで通じるかわからないが、とにかくやってみるしかない。

「クックック……それは良かった。
ノリモノの乗り心地はさぞ快適だろうけど……よかったら、『顔』を見せてもらえるかな?」
「……はい、わかりました…。」
(よし……安心してるみたい。あとは、片手だけでも自由になれば……)

ササメは全身をだらりと弛緩させ、虚ろな表情を浮かべた。
敵が乗り移ったナデシコとヤヨイに身を預け、あえて無防備な格好を晒す。
『砕氷星鎖』は敵に奪われていたが、代わりの武器なら、灯台下暗し……
ほんの少し手を伸ばせば、ヤヨイの腰に差した刀に届く。

「………なんて、ね。
なかなかの熱演だったけど、その程度じゃ僕たちを騙すことは出来ないねぇ」
「……っ!!」
「雪人の力で呑み込んだ種を凍らせて、発芽を遅らせていたのか……
いくら演技しようと、胸のあたりの体温がこんなに冷たいんじゃ、丸わかりだよ。クククク」
「く、……!!」
パンプキンビースト達がササメの身体を弄っていたのは、ただの趣味だけではなかったらしい。
ササメは拘束から逃れようと抵抗するが、二人がかりで押さえつけられてしまう。

「ノリモノのくせに小賢しい真似を」
……ドゴッ!!
「っぐほっ!!」
ナデシコの拳が、下腹に突き刺さる。
呑み込んだ種を思わず吐き出してしまうほどの、強烈な一撃。

「おっと、やりすぎたかな……まあいいか。種は後でまた飲ませるとして」
「その前に。このノリモノに新たな同胞を発芽させるには…」
「雪人の力が使えなくなるまで、徹底的に嬲って弱らせるか」
「勿体ないけど、殺した方が手っ取り早くいかもねぇ。
死体になっても、ノリモノとしては使えるんだし……」

「げほっ……が、は………」
(もう、ダメ……ごめんなさい、ヤヨイちゃん、ナデシコちゃん…あなた達を、助けられなくて……)

お腹を抑えてうずくまるササメ。
ヤヨイが腰の刀を抜き、大きく振り上げる。

そして……

「やーれやれ。やっと抜いてくれたわね。一時はどうなるかと思ったけど」
ヤヨイの着ていた忍者装束が、草原の風を思わせる爽やかな緑色に変わっていく。
色だけではなく、その形状も……露出度マシマシ、ミニスカがヒラヒラのフワフワな、妖精風の姿へと。

「なっ!?俺の制御が効かな……貴様、一体何者、っごぁっ!!」
「簡単な話よ。あんたがヤヨイの意識を乗っ取った所に、更に上書きしてアタシが乗っ取った」
その身に纏った風の魔力は刃となり、ヤヨイの肩に乗っていたカボチャの魔物を一瞬にして細切れにした。

「あ、貴女は……あの時の、風の精霊さん」
「お久しぶり、ササメ先輩。
ヤヨイがまたまたお世話になってるみたいね……あとは私に、」

「き、貴様ぁああああっ!!」
「『エアカットアウト』!
 任せといて!!……っていうか、もう終わったけど!」
「ウギ、アアアアアア!!」
ナデシコの胸に乗っていたカボチャも、瞬く間に切り刻まれた。

ヤヨイの持つ精霊刀・ミカズチに宿った「風の精霊」は、
その名の通り疾風のように現れ、絶体絶命の状況を一瞬にして覆したのだった。

808名無しさん:2020/11/21(土) 19:34:48 ID:???
「す、すみませんでしたササメ先輩!!」
「私たちのせいで、大変な目に……!!」
「い、いえ。気にしないで……それより二人とも無事でよかったです」

意識を取り戻したヤヨイとナデシコが、地に頭を擦り付けんばかりに平謝りする。
そんな二人をなだめるササメだったが……

(それにしても、危なかったです……
ナデシコさんなんて、私より4〜5歳は年下のはずなのに、グイグイ来られて危うく流されてしまう所で…
って、いやいやいや!!あれはあくまで、魔物のせいだから!!
二人とも普段はとってもいい子ですし …いやでも、最近の女子高生は進んでるって聞きますが……)
先ほど唇を奪われたナデシコとは、ちょっと二人と目を合わせづらくなっていた。

(さ、ササメ先輩とべろちゅーしてしまった……唇とかおっぱいとかめっちゃ柔らかかった……お、おかわりしてえ……
っていやいやいや!!私何考えてんの!?……っていうか、魔物に乗っ取られてたんだし、これはノーカン!ノーカンで良いよね!?)
ナデシコも割と気にしていた。
二人とも、カボチャの体液の成分が残っているためか、思考がいけない方向に傾いているようだ。

(ヤヨイの身体は、私が乗り移った時に解毒魔法かけといたけど…二人にも掛けといた方が良いかも)
「そうなの?でも、そのためにもう一回変身するのも疲れるし……そうだ。解毒剤、持ってきてたかな?」

「ササメ先輩、さっき腹パンしちゃったところ痛くないですか?本当にごめんなさい…私、肩貸しますね」
「い、いえ一人で歩けますから……あ、痛っ………」
「あ、ほら。気を付けてください……もっと、こっちに来て…」
「ちょっ……そんな、顔、近……」

そんなわけで、ナデシコとササメは危うく流されそうになっていた。

「あのー。お二人さん? ええと……」
(……やっぱまとめて解毒魔法しとく?)

この後二人とも、めちゃめちゃのたうち回った。


「うあああああああ!!!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」
「わわわわわ私も申し訳ありませんでしたすいませんすいませんすいません!!」

「いや、二人とも一旦落ち着いて……敵に見つかっちゃうし」
「いやマジで、何やっとるんじゃお主らは。そんな事より七華を見なかったか?」
「うわあビックリした!?…って、あなたは確か……七華さんの、ええと。お付きの人の、クロマメさん?」

いつの間にか、ヤヨイの隣に人が増えていた。
結界内に強制転移された七華を探しに来た、クロヒメである。

「まさか、七華様までこのエリアに飛ばされてたなんて……」
「まずいですよ!もし魔物達に見つかったら、あれだけの数、いくら七華様でも……!!」
「っていうか、さっき私達を追ってきてた奴ら、ぜんぜん近づいてくる気配ないけど……まさか……」

「既に『本命』を見つけた可能性がある、か……。それなら、魔物の群れを探せば、見つかる可能性は高いな。
…よし。お主らは本陣に戻っておれ。『オロチ』の発動まで時間がない。それに、その様子じゃ戦う余力はあるまい。
この護符を持っておれば、結界から出られるはずじゃ」

「え!?……クロヒメさんは、どうするんですか?」
「七華の事は、任せておけ。
わらわが…付喪神・血贄ノ黒姫が、この身に代えても必ず助け出す」

クロヒメは仕込み刀を抜き放つと、魔物の気配の集まっている方角に一目散に駆け出した。

809名無しさん:2020/12/05(土) 17:18:38 ID:???
…ドスッ!!
「うっ、ぐ………!」
ゴキンッ!!
「いぎ、っぅ…!!!」

I字バランスを保ったまま、巨大な木槌で滅多打ちにされる七華。
全身いたるところが赤黒くはれ上がり、骨も何本か折れている。

「くっくっくっく……なかなか頑張るわねぇ。もっとキャンキャン泣きわめくかと思ったのに」
呪術によって、ワラビと同じ体勢を保つことを強いられているため、
どんなに打たれても、折れた片足で立ち続けなければならない。

「ね〜ぇ、七華ちゃん……アタシ、あなたのことが欲しくなっちゃった。
『サシガネ様は私なんかより万倍強くて美しい、ミツルギ最強の人形使いです。
クソ雑魚ダメ巫女の神楽木七華は、今後一生サシガネ様に忠誠を誓います』
って宣言してくれたら〜、アタシの『お人形』にして、可愛がってあげる。どう?」

「はぁっ………はぁっ……げほっ……何を、言い出すかと思えば……くだらない。
貴方のような人に、人形を扱う資格も、討魔忍を名乗る資格もありません。
従うなんて、絶対にありえな」
……ズドッ!!
「ひぎあうっ!?」

無防備な七華の股間に、木槌の一撃を叩きこむサシガネ。
二発目の痛撃に、断末魔にも似た悲鳴を上げる七華。

「……言ってくれてもいーじゃない?本当の事なんだからぁ〜。
ほらほら、りぴーとあふたーみー?
『私はサシガネ様に完全敗北した、おっぱいだけが取り柄のクソ雑魚です』」

「私は………貴方なんかに、絶対負けな」(ごちゅっ!!)
「っぐあぅ!!」

『五人衆どころか、なんで忍びになれたかわからない、ミジンコ以下の虫けらです』

「私は『神通の七華』……今日まで厳しい鍛錬を重ね、皇帝陛下に認められた討魔忍五人衆の一人。
その矜持だけは、絶対に曲げな」(どぼっ!!)
「んああああんっ!!」

「ったく、口だけは一人前ねぇ。アタシの『ウシノコク』呪術で指一本動かせないくせに」

「はぁっ……はぁっ…………あいにくですが、指一本くらいなら、動かせます」

「プっw だから何?
……ていうか七華ちゃんて、もしかしてドM?あそこボコボコに叩かれて、感じちゃうタイプ?
もうめんどくさいから、トドメにまんこに釘ぶっこんで、終わりにしてあげる。
トーメントに帰ったら蘇生して、お薬ジャブジャブ洗脳コース直行よん♪」

鋭い釘が、七華の股間にあてがわれる。
そこをめがけて、サシガネが木槌を思い切り振りかぶった、その時……

「指一本さえ動かせれば……こういう事も、出来るんです」
ドカッ!!
「んがっ!?」

高々と上がった七華の脚が弧を描いて動き、油断していたサシガネを蹴り飛ばした!

「そんなっ!?どうして……!!」
「……!?……サシガネ様………」

サシガネは何が起こったかわからず、周囲を見回し……七華の動きを封じていた『人形』の異変にようやく気づいた。
ワラビの手足を拘束していたはずの釘が、いつの間にか抜き取られている!

「極細の糸で小型の人形を操り、ワラビさんの釘を抜かせて頂きました……
時間はかかりましたが、貴方がまんまと挑発に乗ってくれたおかげで上手くいきました。
そしてワラビさんの、痛みを感じない体質…これは少々賭けでしたが、釘を抜かれた事に気付かなかったようですね」

「なななな、なによそれ!?指一本で、そんな常識はずれな事が……」
「これでも討魔忍五人衆の端くれ。少々私を侮りすぎましたね…
…これで終わりです!!」

五寸釘を拾い上げ、とどめを刺しに行く七華。
予想外の状況に動転し、立ち上がれないサシガネ。
勝負は決したかと思われた、その時………

「………させない」
「……!!……あなたは」
「ワラビ……!」

藁人形の少女ワラビが、二人の間に立ちふさがった。

810名無しさん:2020/12/05(土) 18:31:41 ID:???
「ワラビさん……退いてください。貴女を傷つけるつもりは……」
短刀代わりの釘を構える七華だが、ワラビに立ちふさがれて動けずにいた。

「だめ……サシガネ様、いなくなる……わたし……帰る所、ない」
「な………!!」

ワラビは元々、ミツルギのスラム街で拾われた、何の力もない奴隷の少女。
術を使うサシガネがいなくなれば……たった一人で生きていく術はない。

「っ………ぎゃーーっはっはっはははは!!
そうよねー!七華ちゃんは、ワラビを斬れないわよねえ?
コイツを攻撃したら、同じダメージが七華ちゃんにも返ってくるんだもんねえ!?」
「あ、貴方はっ…!!」

動きを止めた七華を見て、サシガネが狂ったように笑いだす。
そして、たまたま近くに落ちていた、七華の刀を拾い上げ……

「やっぱり…このアタシこそが最強だったって事ね♪」
(ずぶり………)

ワラビを背中から刺し貫いた。

「あ………え……?」
「っぐ……!?」
状況が呑み込めず、戸惑うワラビ。
そして、七華の背中からお腹にも……刃が通り抜ける感触とともに、耐えがたい激痛が走る。

「大体アンタが釘抜かれたときに気づいてれば、アタシが蹴られずに済んだのよ……
こんな役立たず、もういらないわ。……ふんっ!!」

ずぶっ!!
ブシュッ!!
「そん、な……サシガネ、さま……まっ、て……」
「あ、貴方は一体、どこまで……っぐぅ!!」

サシガネが、刀を勢いよく引き抜く。
血しぶきが吹き上がり、ワラビがばったりと倒れた。
痛みを感じないとはいえ、さすがに致命傷は免れないだろう。

「つーか、いい加減コイツにも飽きてきたし、そろそろ捨てるつもりだったのよね。
代わりに、新しい人形……七華ちゃんが手に入るってわけ」
「……ふざけ、ないで……そん、な、こと…させない…!!」

「イキっても無駄無駄。どーせその傷じゃ、助かりっこないわ。
つまり七華ちゃんも死亡確定ってこと。
七華ちゃんだけは、トーメント王に蘇生してもらうけど♪」

「その後はお楽しみの、脳みそジャブジャブ洗脳コース。
でもって壊れるまでアタシの人形になってもらうから……
七華ちゃんが理性保ってられるのも、残りせいぜい1分くらいかしらね。
それに……」

「えっ………」

「次のお客さんが、もうそこまで来てるわ♪」


「おい見ろ!!あんなところに巫女さんが!!」
「やっときたー!!ほんとにいたんだナマナナカ様!!」
「オイオイ既に虫の息でヤられる準備万端じゃねえか!流石のサービス精神だぜー!」
「ふひひひ……横に転がってる幼女も幸薄そうで良い感じだぜ……合間合間につまみてえ……」
「なんかヤバそうな雰囲気のお姉さんもいるけど……」

七華を探していた魔物の軍勢が、ぞくぞくと集まってきていた。

「あらあら、大人気ねぇ。巻き添えにされる前に、アタシはとっとと退散させてもらうわ。
……あ、結界から出る『護符』だけ頂いていくわね」
「ぜぇっ………ぜぇっ………ま、まちなさ……ぐはっ!!」

全身にまとわりつく激痛に抗いながら、サシガネの足に縋りつこうとする七華。
だがワラビがビクリと大きく痙攣すると同時に、七華は大量の血を吐き出しその場に崩れ落ちた。

「最期の自由時間……魔物ちゃんたちに、たっぷり遊んでもらいなさい。じゃあね〜♪」

魔物達の咆哮が、地響きのような足音が、討ち捨てられた巫女と人形の残骸を今まさに呑み込もうとしていた。

811名無しさん:2020/12/19(土) 14:09:46 ID:???
体中から、血が、抜けていく………
頭がぼーっとして、眠くなってきた。
目の前がゆっくり、暗くなっていく……。

サシガネ様に「いらない」って言われた時から……体中が、熱くて、冷たくて、うまく動かせない……
これが、痛い、っていう感覚なのかな……?

「しっかりして……ワラビさん……」「まずい、このままじゃ本当に……」「今、回復魔法を………」
ななか、さん………サシガネ様の、敵……
私も、この人の、敵………の、はずなのに………

どうして、私を助けようとするの…?
私が死んだら、自分も死んじゃうから…?

どうして………
どうしてそんなに、悲しそうな顔を、しているの………?

……。

(どんどん生気が失われていく……私の回復魔法だけじゃとても……でも、どうすれば……!)

ワラビの受けた傷、特に最後の刀傷は内臓にまで達していた。
必死に治療を試みる七華だが、それでも僅かな延命措置にしかならない。
そして……今二人は、それすらもままならない状況に陥っていた。

「ヒャッハハハハハハハァーー!!まずはそっちの死にかけのガキからいただきだぜぇー!!」
「あ……危ないっ!!」

【カマイタチ】
両腕に鋭い刃のような爪を持つ、獣人型の魔物。
その動きは風のように素早く、肉眼で捉える事すら困難。

……ザシュッ!!

「んぐぅ!!」
カマイタチの斬撃からワラビをかばった七華は、背中をざっくりと切り裂かれた。

「おっとー?
せっかく邪魔なゴミを先に片づけてやろうってのによ!オラアッ!!」

ズバッ!! 

「っく!!……いいえ……この子は、ゴミなんかじゃない。
あなた達なんかに、やらせはしません!…たあっ!」

ガキインンッ!!
「グエッ!?」

気合い一閃、手にした刀でカマイタチの胴を両断する七華。
その手は呪術による激痛がいまだ残っていて、本来ならまともに剣を握れる状態ではない。
さらにサシガネに木槌で滅多打ちにされ、物理的にも満身創痍。

「し、心配しないで……貴女の事は、この身に代えても……キュアライト!!」

それでも七華は身を挺してワラビをかばい、回復魔法をかけ続ける…

「……どう、して……?私は、敵……
それに、私のきず、なおしても、じぶんが、きずついたら……」

「敵だとか、私への呪いだとか……そんな事関係ありません。
……放っておけるはずが、ないじゃないですか………
好き放題に利用されて、飽きたらゴミの様に捨てられるなんて。
いくらなんでもあんまりじゃないですか……!!」
「ななか、さん………」

「ゲヒヒヒヒ!いいねソソルね嬲りがいがあるねえぇ!」
「さーっっすが、神に仕える巫女さんは心がお優しいタコ!」
「かわいそうなのはぬけるでゴワス」
「極上の尻子玉が取れそうだケ!」
「「「イックゼェェェ!!!」」」

「………!!……」

そんな二人を魔物の群れが取り囲み、我先にと襲い掛かる!!

……だが。

「………また、厄介なことになっておるの。少し目を離すとすぐこれじゃ」

長い黒髪、神々しくも妖艶な雰囲気をまとった巫女姿の美女が現れ、魔物達の前に立ちふさがった。

812名無しさん:2020/12/19(土) 16:23:49 ID:???
「あ…あなたは……?」
「……クロヒメ様……!!」
「まったく…何があった、七華。普段のお主なら、こんな連中どうとでもなるじゃろうに」

「ああー!?クソがぁ!またこのタイミングで乱入かよぉぉお!!」
「いやまて、今度の乱入は……美人のお姉様でゴワス!!」
「と言う事は、あのお姉さんも倒してワンチャン三人まとめて年越し祭りの可能性タコ!」
「いや絶対そういう流れじゃないと思うケど」

「……まあ時間もないし、詳しい話はあとじゃ。久々に『アレ』で蹴散らすぞ!」
「は、はいっ!……ワラビさん、もう少しだけ、我慢してくださいね……」

「「…『神火の天照』!!」」

「「「グアアアアアアァァアッッッ!!」」」

人形を人間に、人間を人形に変える魔法の『クリスマスリボン』で、クロヒメは本来の人形の姿へと変わった。
さらに最大奥義『神火の天照』で巨大な龍へと変形し、群がる敵を次々と焼き払っていく!


「間もなく『オロチ』とかいう攻撃術も発動する頃じゃ…このまま結界から脱出するぞ!」

火龍の姿に変わったクロヒメが、七華とワラビを背に乗せて結界の外壁目指して飛ぶ。
一旦は敵を振り切った一行だが、ここで更なる問題が発生した。

「…ところで七華。結界を出る護符は持っておるか?
実はかくかくしかじかで、わらわの分はササメ達に渡してしまってな……」

「そ、それなんですが……実はかくかくしかじかで、サシガネと言う女忍びに奪われてしまって」
「なっ!?なんじゃとぉ!?」

……このままでは、結界から出られない。
そして『オロチ』が発動してしまったら…周辺一帯焦土と化すほどの強力な術。
魔物だろうが討魔忍だろうが、助かる術はないだろう。

「はぁっ………はぁっ………はぁっ………」
「!……ちょっと待ってください。ワラビさんが…」
「…その娘……もう、長くはもたなそうじゃな」

一方。七華の治療もむなしく、ワラビの生命力も限界を迎えようとしていた。

「この子は……敵に利用されていたんです。そして、用済みと判断されて…」
「なるほど。わらわのような人形ならともかく、人のみではこの傷は致命傷じゃろうな。
かわいそうじゃが、こうなっては最早……
…いや、待てよ。人形なら………もしかしたら」

クロヒメはクリスマスリボンを取り出し、ワラビの体に巻き付ける。

「荒療治になるが、許せよ」
「え………あ、………っ……!!……」

すると……ワラビの身体が淡い光に包まれ、人形の姿へと変わっていく。
細身の体、ガラス玉のような瞳、球体関節。
刀傷を受けた個所には大きな亀裂が入っていたが、修復不可能な傷ではなさそうだ。

「よし……あとは修復してから人間に戻せばよいじゃろう」
「あ……ありがとうございます。
……私一人では、この子を助けられなかった。敵の忍…サシガネにも、いいようにやられてしまって……
やっぱり、私……クロヒメ様がいないと駄目ですね」

「……七華、『不還の入滅』の準備じゃ。異空間に入って、治療しながら『オロチ』をやり過ごす」
「え………は、はい。『厨子』がないので、上手くいくかはわかりませんが……」
七華はワラビを抱きかかえると、『不還の入滅』……異空間に身を潜め、自身と人形のダメージを修復する秘術を発動する。
普段は、クロヒメが収めてある巨大な厨子を術の媒介に使用するが、それがない今は……

「そうじゃな。今の状態では、3人分が収まるだけの空間を作り出すのは難しい。
それに厨子がなければ、外部からの干渉に極めて弱くなる。
魔物が入り込みでもしたら、空間自体が維持できぬじゃろう。従って……」

七華の術で、異空間の入り口が出現する。そしてクロヒメは、その術の調整を行う。

「異空間は、七華とそっちの娘、2人分で良い。
魔物どもから空間を守るため、『外』にも一人は必要じゃ」

「!…待ってください、クロヒメ様。それでは……!!」
発動した術を取り消すことは出来ず、異空間の入り口はあっという間に七華とワラビを呑み込んだ。

バチバチバチバチッ……!!

「クロヒメ様がいないと駄目、か……そんな事は無いぞ。
わらわはお主が居なくとも……いや。わらわは、ずっとお主の中に居る。
だから大丈夫じゃ、七華。お主は討魔忍として立派に戦っていける……」

「ヒャッハーー!!見つけたぜ、エロ黒着物お姉さん!!」
「あれ、巫女さんとロリはどこでゴワス?臭いはするでゴワスがなぁ……」
「いい加減辛抱溜まらんケ!尻子玉引っこ抜いてやるケ!!」
「上と下の口がトッロトロになるまでえちえちしてやるタコ!」


「懲りぬ奴らじゃ………よかろう。
付喪神・血贄ノ黒姫末期の舞。
主ら下衆に振る舞うにはもったいない馳走じゃ……存分に味わえ!!

813>>784から:2020/12/25(金) 00:41:05 ID:???
「まったく、エリスちゃんもレイナちゃんも薄情よね、アリスちゃんがこんなに頑張ってるのに」

ナルビアのオメガ・ネットにて。アリスの改造を続けているミシェルがそう呟いた。
既に目当てのメサイアのデータは獲得済だ。あとは戦争のゴタゴタに紛れてメサイアを操れるようになれば、目的は完済だ。
一区切りついたのもあって、改造に集中していたのだが……エリスとレイナはやはり踏ん切りが付いていないようだ。

「むしろ私の本性を知ってて飛びついた貴女に考えが無さすぎるのかもね?」

「ぁ、うあ……」

アリスの顔に触れながらそう聞くも、流石に数多の改造+ヒーリングスライム姦は堪えたのか、アリスの反応は薄い。

「まぁいいわ、実験体……じゃない、被験者データと、盗んだメサイアのデータがあれば後の改造は比較的すぐ済むし、そっちも緒戦が終わってからで……あら?」

アリスの体のあちこちに繋げられた管に繋がっているコンピューターが、脳波の異常を検知した。
記憶を司る部分に僅かな曇りがある。
放置しても問題ない異常だが、攻撃材料を見つけたミシェルは嬉々としてアリスに語りかける。

「まぁ大変!アリスちゃんの脳に異常があるわ!!これは緊急手術が必要ね」

「ぅ、うぅ……?」

「ねぇ、身に覚えがない?記憶の混濁や喪失があるはずなんだけど」

記憶の喪失と聞いて、アリスの目が見開かれる。そう、あの時……リンネを追って赴いた先の月華庭園での記憶が一部ない。スピカやミイラ男と戦って負傷し、リンネと接触していたリゲルが自分を気絶させた所までは覚えている。その後、一瞬目を覚まして何かを見た覚えはあるのだが、肝心の内容が思い出せない。

「あるみたいね。それじゃあ早速手術開始よ!被検体の異常は取り除いておかないと本番で困るからね!」

嬉々として機械を操作し、頭部に電極を貼り付けるミシェル。

「あ、唯一弄ってない脳もグチャグチャになっちゃうけど、構わないわやね?」

「……ぅ、え?や、やめ……」

聞き捨てならない言葉が聞こえ、反応の鈍くなった頭でも必死に否定の意思を紡ごうとするが……もう遅い。

「脳ミソじゃぶじゃぶ洗うのはアンタらの得意分野だし、大丈夫よね?じゃ、スイッチ・オン!!」

アリスを覆う管の2つが、シュルリと彼女の体を離れ、耳元に近寄っていく。
そして、何の前置きもなしに、拘束され息も絶え絶えの少女の耳孔に潜り込んで行った。


……直後にアリスを襲う、脳を直接犯されているかのような激しい苦痛。

「あ゛ぐああぁああああぁぁぁっっ!! ぎっ、ぎぁぁああぁぁぁあぁぁっっ!!」

今まで声を出さないようにしていたアリスも、脳を掻き回されては悲鳴を抑えることができない。

「あた、ま、わ゛れっ……!ぁあぁああああ!!」

ビクンビクンとストレッチャーの上で激しく跳ね、骨が軋むほど背を反らせるアリス。
脳の異常と記憶の混濁は気になるが、明らかに強化手術とは関係のない痛みに、気丈な心も折れていく。

さらには、アリスの痛みを感知したヒーリングスライムが異常を治そうと体に入ってきた。

「ふきゅうううん!??」

脳を揺さぶられ、体内をスライムに蹂躪され、もはやどこを犯されているのかも分からないアリスは、ただただ声をあげてその波を受け入れるしかなかった。

(こ、れ、も……ヒルダ、さんとリンネさん、の、ため……リン、ネさん……リンネさん……!)

苦しむ想い人の姿を思い浮かべ、必死に正気を失わないように耐えるアリス。この科学者の遊びにさえ耐えれば、強くなれる。リンネを守れる。そう健気に信じるアリス。
だが……不幸にもというべきか、この脳リョナの本来の目的が果たされてしまう。

余りの刺激に、脳が忘れていた光景を思い出してしまう。

(あ……)

それは、リンネがナルビアを見限り……敵の女であるリゲルのサキと、キスしている光景……

「あ、あああ、ああぁあ……!」

痛みではなく絶望に慄く。
リンネはとっくにこの国を見限っていた。自分の痛みは無駄だった。彼が助けを望んだのは自国のアリスではなく、敵国の少女だった。

「あああああああああぁあああ!!!!」

最後の一線が千切れた。軍人としての高潔な魂が溶けていく。残ったのは男を取られた少女としての感情と、最早なんの為に受けているのかも分からない強化手術の痛みだけ。


「リ、ゲ、ルゥウウウウ!!!」


理不尽と分かっていても抑えられない八つ当たり染みた激情……憎しみ。
アリスが憎しみに支配された瞬間……彼女の強化手術は終了し、刹羅が産まれた。

814名無しさん:2020/12/28(月) 00:37:12 ID:???
「嘆くな七華……わらわは本来、現世に生を受けるはずではない身。何の因果か生身の体を手に入れ、お前たちと過ごした日々……短い間だったが、楽しかったぞ」

オロチから七華とワラビを守るため、自らが外に残ったクロヒメ。舞うような美しい動きで魔物兵を蹴散らしつつ、聞こえていないと知りながら七華に語りかける。

「しかし、願わくば……平和な世を手に入れたら、もう一度わらわの依代を作ってくれ。今以上に立派になったお主の姿を、わらわに見せてくれ」

そうして、オロチが発動し……全てを飲み込んでいった。

◇ ◇ ◇

テンジョウとシアナの戦いは膠着していた。シアナは黒い穴を大量に開けてテンジョウの視界を遮って魔眼を避けつつ攻撃し、テンジョウは忍者としての身体能力でシアナの攻撃を避けつつ魔眼に収めようとする。

互いに殺傷力の高い武器、しかも相手が野郎同士だから楽しむ為の手加減がなかった結果、逆に互いが決め手の欠ける状況だった。

そこに、広域攻撃術オロチの激しい閃光が2人の所にも届く。

「おーおー、ようやく発動したな、うちの切り札が」

「ちっ、あんな隠し玉があったのか……!」

前線の魔物兵は壊滅状態。すぐに大将首を取れれば相手にも打撃を与えられるが、それも難しい。
トーメント側本陣にいる大将……ロゼッタへの道が開かれてしまった。
こんな所で一騎打ちしている場合ではない。軍を再編しなければならない。

「仕方ない、ここは退く……だが、前線の雑魚を倒したからって、お前らじゃこっちの軍団長を倒せない」

ロゼッタは十輝星の中でもヨハン、アイベルトと並ぶ強者。メンタル面の不調も逆に容赦のなさに拍車をかけている。討魔忍程度、束になっても敵わないだろう。

「ああ、そうかもな……そもそもうちの『お姉ちゃん』は、倒そうなんて思ってない。救おうとしてるんだ」

「救う?」

その言葉を聞いて、唯の顔が浮かび……何故か一瞬、アイナの笑顔もチラついた。

「ふん、どいつもこいつも……甘いことばかり言う」

「いいじゃねーの、人生甘口で行こうぜ」

「興味ないな。精々ロゼッタに嬲られてろ。軍団を再編したら、すぐにお前らを蹂躪する」

そう言ってシアナは、現れた時と同じように、空間に開けた穴に入ってどこかへ消えていった。

「さて……露払いは済ませた。あとは頼むぜ、アリサお姉ちゃん」

815名無しさん:2021/01/02(土) 01:53:53 ID:???
「やぁサキくん、久しぶりだね」

サキと舞はナルビアへの行軍の途中、スネグアの呼び出しを受けた。呼び方がいつの間にか『リゲル殿』から『サキくん』とより舐め腐ったものになっていることに気づき、サキは眉をひそめる。

「……何の用よ?」

「やれやれ、嫌われたものだ」

ぶっきらぼうに返すサキにわざとらしく肩をすくめるスネグア。

「アンタがユキを言いくるめて、教授に改造させたんでしょ……!」

「君を守りたいという健気なユキちゃんの願いを叶えてやったというのに、その言い草はないんじゃないか?」

「このっ……!」

「サキ様」

激昂しかけたサキを、横から舞が控えめに制する。それで幾分落ち着いたのか、サキはぶっきらぼうにもう一度聞いた。

「で?何の用よ?」

「なに、私は十輝星人しては新米だからね」

わざとはぐらかすような言い回しをしてサキをイライラさせた後、ようやく本題に移るスネグア。

「運命の戦士や異世界人というものに興味があってね。君の副官を貸してくれないかな?」

「っ……!そんなこと、させるわけがないでしょ……!」

舞はナルビアに囚われ、司教アイリスに囚われ、何度も洗脳されてきた。そんな彼女をスネグアのような信用できない人間の元に預けるなど、できるはずがない。
異世界人に興味があるとは言っているが、それも本当か分かったものではない。

「無論タダでとは言わない。君が彼女を貸している間、君にユキちゃんを預けよう」

「なっ!?」

「感動の再会でも脱走の相談でもするといい。戦争のどさくさ紛れに逃げるつもりだったろうが、今のままでそれが不可能なのは分かっているだろう?」

「そ、れは……!」

逡巡するサキ。天秤に掛けるとなるとやはり舞より妹の方が重い。とはいえ、みすみす罠にかかりに行けと言えるほど舞を大事にしていないわけがなかった。

「サキ様、私は構いません」

迷っているサキを見た舞は、自分から進んで前に出た。

「舞っ!ダメよ、そんな……!」

「私はどうなっても構いません。貴女がユキちゃんと逃げることができれば、それでいいんです」

「舞……どうして、そこまで……私に……」

今までは、踏み込む勇気が足りなくて聞けなかった(断じて書き手が考えてなかったわけではない)事を、絞り出すように聞くサキ。
舞は「失礼」と前置いてサキの耳元に口を寄せると、スネグアに聞こえないように囁いた。

「向こうの世界では私も、貴女と同じ母子家庭でした。母と私、2人だけで生きてきました」

異世界人でありながら舞が帰ろうとしない理由。それは恩人であるサキを思ってのことであるが……それだけではない。

「ある日、母が再婚して……義父も悪い人間ではないのですが、どうしても打ち解けられなくて……やがて、家に居場所がなくなりました」

遠くを想いを馳せるような切なげな声。

「私には何もない。母と義父も、私がいない方がいいでしょう。無事の便りくらいはそのうち送りたいですが……」

そこで言葉を区切ると耳元から顔を離して、サキの顔を正面から見つめる。

「私には貴女しかいないんです。貴女を守るためなら何だってできます。だから、やらせてください」

「舞……」

そうしてしばらく見つめ合っていた2人だが、白々しい拍手の音が邪魔をする。

「いやはや、全く素晴らしい主従愛じゃないか、泣かせてくれる」

「スネグア……!」

パチ、パチ、パチと拍手をするスネグアを、射殺すような視線で射抜くサキ。そんな視線を気にした様子もなく、スネグアは続ける。

「悪いが時間がないのでね、話が決まったのなら、サキくんはさっさと出ていってくれないか?」

「サキ様、私は大丈夫です。私はスネグアの好みからは外れているでしょうから」

そう微笑みかける舞。心配は止まないが、ここまで尽くしてくれる彼女の為にも、今は脱走計画を少しでも練らなければならないと、サキも腹を決めた。

「舞……くれぐれも気を付けて」

「はい、もう二度と敵に洗脳され、貴女の足を引っ張ることはしません。私は……貴女だけの騎士です」

昔見た演劇の記憶を頼りに、舞はサキの前に跪くと、その手の甲にキスをした。それは、アイリスに無理矢理されたキスや、彼女に洗脳されてレイナとしたキスと比べて、とても無機質だったが……今までで一番、舞の心を熱くさせた。

816名無しさん:2021/01/02(土) 16:32:08 ID:???
巨大な火柱が天高く立ち上り、東の空が赤く染まる。
その光を背に受けながら、アリサとアルフレッドは早馬を走らせ、敵軍の懐深くにまで至っていた。

「見えてきましたわ。あれがトーメントの築いた国境の砦……」
「ええ。あそこから先はトーメント王国領。
そしてあの中にいるのは、トーメント王国軍の総大将」

「王下十輝星『カペラ』……ロゼッタ、さん。
アルフレッドがかつて仕えていたラウリート家の、最後の生き残り。…ですわね」

トーメント王国に仕える王下十輝星『カペラ』……
その名の元となる星は、2つの恒星から成る連星が2組ある4重連星であった。

二つの血統、アングレーム家とラウリート家。
代々、その両家のうちいずれかの、最も優れた剣士が十輝星の名を冠する伝統がある。
十輝星の剣士が倒れても、すぐさま代わりとなる剣士が両家から選出される。
そのようにして、長きにわたって常にトーメントを守護し続けてきた。

だが………

「アリサ様もご存じの通り…
『試合中の事故』で世継ぎを失ったことでラウリート家は権威を失い、
間もなく「何者か」の手によって皆殺しにされた」
「ええ……その12年後、アングレーム家の者達もまた、「何者か」の手にかかって殺されてしまった」

ラウリート家を断絶させたのは、当時『カペラ』として君臨していた
ソフィア・アングレーム……アリサの義理の母親。
その復讐のため、アングレーム家の者達を殺害したのは、今アリサの横にいるアルフレッドその人であった。

「いよいよ、決着の時……ですわね」
「ええ、アリサ様………何も知らなかった貴女を巻き込む事になってしまい、本当に申し訳ありませんでした。
それと……ありがとうございます。そのドレスを身に着けてくれて」
「いえ………出来ればロゼッタさんと戦いたくないのは、わたくしも同じですから」

今アリサが着ている服は、いつもの白いドレスではない。ラウリート家に伝わる、深紫のドレス。
白では目立ちすぎるから、という理由ももちろんだが、それ以上に……

深紫のドレスを身にまとったアリサは、ロゼッタの姉ヴィオラ・ラウリートの生前の姿に生き写し。
正気を失ったロゼッタにその姿を見せる事で、
あるいは警戒心を解いて戦いを回避する事ができるかもしれない、と思ってのことである。

そう……ロゼッタもアリサと同じ、何も知らずこの残酷な因縁に巻き込まれてしまった者の一人。
いくら因縁とは言え、アルフレッドとしても、これ以上無駄な血を流すことは避けたい。

……そんな想いにアリサが応えてくれた事に、アルフレッドは素直に感謝の言葉を口にした。

「……それに。これを着てるとアルフレッドの態度もいつもより優しくなりますし。
やっぱり、どうしてもヴィオラさんの事を意識してしまうのかしら?」
「え!そ………そんな、ことは、その………」

確信を突かれ、動揺するアルフレッド。
アリサの指摘は直球であり図星であり火の玉ストレートにして正鵠をがっちりゲットしており、
当時のアルフレッドが彼女に憧れに近い想いを抱いていた事は、否定しようがなかった。

「ふふふ。あの堅物のアルフレッドを、そこまで慌てさせるなんて……
素敵な方だったんでしょうね。出来るなら、一度お会いしてみたかった」

「ええ。ロゼッタ様も、幼いころから難しい方でしたが……あの方には心から懐いておられました。
自然と周りの人たちを明るくさせる、素晴らしい人柄をお持ちでした……そう、まるで太陽のような」

「ふふふ……聞けば聞く程、すごい方でしたのね。
……わたくしでは、とても敵いそうにありませんわ」

いつになく饒舌なアルフレッドは、アリサの小さな呟きに気が付いていないようだった。
心の奥にしまい込んでいたかつての想いが、チクリとかすかな痛みを呼び起こす。

(ロゼッタさんは、そんなヴィオラさんのたった一人の妹……やはり何とかして、戦いは避けなければ)

魔物兵が出払い、閑散とした砦内をひた走る。
その先で二人を待ち受けるものは、果たしていかなる運命か………

817名無しさん:2021/01/02(土) 16:33:52 ID:???
……砦の最奥に、ロゼッタは居た。

「……そこにいるのは……誰……??………」

「では、手はず通り……よろしいですか、アリサ様」
「ええ……アリサ・アングレーム、一世一代の芝居……しかと見届けてください…こほん。」

「ロゼぇぇぇ! そこにいるのは、ロゼなんだねぇ〜!? 
わたしだよ、ヴィオラ姉さまだよぉ、会いたかったよぉおぉぉぉ……!」
「!!……姉さま……!?」

アリサはアルフレッドからの演技指導を忠実に再現し、
『久しぶりにロゼッタと再会した時のヴィオラ』を完璧に演じてみせた。

かつてのアリサなら、こんな己とかけ離れすぎたキャラを演じるなど到底できなかっただろう。
だがこの世界に来てからの様々な経験、戦い、仲間との出会いは、彼女を大きく変えていたのだ!

(全てはロゼッタさんを戦いから解放するため……そのためなら、わたくしは敢えて汚れに徹する事も厭わない!!)
その一方。ロゼッタの姉にして、アルフレッドのかつての憧れの女性で
ついさっき『太陽のよう』と評されていたヴィオラは、なんか汚れ扱いされていた。

「こんな暗い所で一人で寂しかったでしょぉ〜?さささ、お姉ちゃんと一緒に帰ろうねぇ〜。
うーー、もう我慢できないからナデナデしちゃうよもう!ういやつういやつ。ヨイデハナイカ!」

(すごい!…正に『2日ぶりくらいにロゼッタ様と再会した時のヴィオラ様』そのままだ!!
これならロゼッタ様も………!!)

アリサの怪演にアルフレッドも舌を巻き、作戦の成功を確信した。だが………

「………違う。あなたは……姉さまじゃ、ない」
「え?………な、何言ってるの、ロゼ。だって、私、どこからどう見ても……」
「あなたの……運命の糸が、見えない。………異世界人?」
近づき、ロゼッタを抱きしめ、ひとしきり頭をなでくりなでくりした所で、
ロゼッタはアリサの正体を看破してしまう。

ロゼッタの持つ特殊能力……運命を司る糸を見て、それを操る力によって。

「え、え?な、何なに?私に運がないって?いやーおかしいなーどうしてかなー、
そうだ、今日の占いでみずがめ座は運勢最悪って言ってたから、そのせいかなー!?」
(忘れてましたわ……この人には、この能力があった。……運命の糸で、そんな事までわかるなんて!!)

さすがに動揺を隠しきれないアリサ。だがここまで来て後には引けない。
強引に押し通そうと、演技を続けるが………

「それに………私の、本当の姉さまは」
「……え…?」
「そこにいる」

「たっだいまー!!ヴィオラお姉ちゃんが帰ってきましたよ〜〜!!
あーーん、半日もロゼと会えなくて、ロゼ成分枯渇で死にそうだよもぉ〜!!
さっそくちゅっちゅさせて……あ、コタツとテレビとPS5とその他色々、
kononozamaから発送されて今日届くって!
これでこの冬はこの砦でバッチリ快適に過ごせるね!!
って、あれ?」

………突然現れたその少女は、ラウリート家に伝わる紫のドレスを纏い、腰には二本の剣を差していた。
買い出しに行った帰りなのか、食べ物、お菓子、ジュースなどが大量に入った買い物袋を両手に抱えている。

「あ………あなたは、まさか」
「バカな。そんな………そんな、事が……」

「おかえりなさい………
姉さま」

818名無しさん:2021/01/02(土) 16:35:00 ID:???
年の頃は、アリサと同じくらい。……容姿も、着ている服も含めて、アリサと瓜二つだ。
アルフレッドもアリサも、彼女のことを知っている。特にアルフレッドは……忘れようはずなど、絶対にない。

「…あれ?その子は………もしかして王様が言ってた、私のニセモノかな〜?
私のロゼに何勝手に密着してるのかねキミは。随分いい趣味してるじゃないの。
てことは、そっちのイケメンはもしや……アル君!?っかー!!懐かしい!!」

「ヴィオラ様………まさか生きていたなんて。
いや、落ち着いて考えてみれば………それも当然か」

「そういう事。あのトーメント王の事は、アル君も知ってるでしょ?
私ほどの超絶ウルトラ美少女剣士が、一回死んだだけでサヨナラできるはずがないじゃない?
無理矢理生き返らされて、何やかんやあって……改めて、トーメント王に忠誠を誓ったってわけ」

ヴィオラは笑顔のまま、腰の双剣を引き抜く。
アルフレッドは………動けなかった。

「あなた達二人を殺したら、今度こそ私は王下十輝星『カペラ』になれる。
その代わり、ロゼッタを十輝星から解放する……それが王との約束。
私がこの手で、ロゼッタを救いだしてみせる。戦いの運命から解放する……」

ヴィオラは姿かたちこそ昔のままだが、
その瞳からは、狂気を感じさせるほどの静かで不気味な光が宿っている。

「こんなイケメンになったアル君を斬っちゃうのは、もったいないけど、ね」

その目に見据えられながら、アルフレッドは己の迂闊さを呪った。
アリサやロゼッタが王によって生き返らされたことを知っていながら、
なぜヴィオラが同様に蘇生される可能性に、思い至らなかったのか。

『無理矢理生き返らされて、何やかんや』の間に、いかなる地獄を味わってきたのか。
なぜ自分が気付いて、探して、助ける事ができなかったのか……

答えの無い問いが頭の中を何度も巡る中、ヴィオラの刃がゆっくりと振り下ろされる……

ガキィィィンッ!!

すんでの所でアリサが割って入り、ヴィオラの刃を受け止めた。

「アルフレッド………立ちなさい。私たちは誓ったはずです。もう過去を悔やむのは終わりにすると。
今私たちが動かなければ、この人たちを救う事は出来ませんわ!!」

「……アリサ様…!」

「ふふふ。邪魔が入っちゃったねぇ。まずはニセモノちゃんから相手してあげる」
「姉さま………私も、お手伝いする」
「ヴィオラ様、ロゼッタ様……やはり…やるしか、ないか」
「今は……私たちのこの剣だけが、彼女たちと対話する術……ですが、最後には必ず……救って見せますわ!!」

カペラの星の下、数奇な運命に導かれた四人の戦いが、今まさに始まろうとしていた。

819>>815から:2021/01/03(日) 02:21:20 ID:???
「さて、では靴を脱いで上がってきてくれるかな?」

サキが天幕を離れてユキに会いに行き、舞とスネグアが残された場所。スネグアの命令に、舞がピクリと眉をひそめる。

「どうした?まさか上司の天幕に土足で上がり込むつもりか?」

「いえ……脱ぐわ」

舞は屈んでシュルシュルとブーツの靴紐を解き、綺麗に揃えて並べる。
そして天幕の中に入ると、その場でタイツに包まれた美脚を畳むようにして正座し、ピンと背筋を伸ばして毅然とした態度でスネグアを見据える。そんな舞を面白そうに見ながら、スネグアが言う。

「気づいてると思うが、異世界人云々は建前だ。私の目的はユキちゃんとサキくんを引き合わせ、脱走の準備をさせること……ナルビアとは浅からぬ因縁があるようだから、シックス・デイを誘い出す良い囮になってくれるだろう」

囮にする、と言われて顔をしかめる舞。だが、囮だろうと逃げさせてくれるならば好都合、と黙り込む。

「シックス・デイを君たちに向かわせている間に、桜子やイヴをメサイアにぶつけて弱点を探る。加えてスピカ殿の援軍部隊もぶつけて、私は後で安全に戦わせて貰おう」

強かというより卑怯。後方支援型というより卑劣。そんなスネグアに思わず歯軋りしかけるが……『今の舞は別のことで歯を食いしばっていた』。

「敵にもヴェンデッタ小隊という増援がいるようだが、まぁ大した問題にはならないだろうね」

「つまり、サキ様を囮にするのには、命令するよりも自由に動かした方がいいと判断して、私を残したのは……真の目的を一時的にせよ隠すため」

「ご名答。逃げていいと普通に言っても彼女は信用しないだろうからね。君を犠牲にして時間を稼いでと思っているサキくんは今頃珠玉の脱走計画を練っているだろう。後はもう私の目的を知っても、掌で踊るしかない」

「……あまり私たちを、サキ様を舐めないで欲しいわね」

「ククク、『その体』で勇ましいことだ」

敵の牙城でも気丈に振る舞っていた舞。だが、スネグアの意味深な言葉を聞いた瞬間、ゾワリと嫌な予感が走る。
嫌味など無視して早く魔法のブーツを吐こうと腰を浮かせた瞬間……天幕の端に隠れていた影が飛び出して来た。

「──ッ、はぁあんっ♥!?」

謎の影が、煩雑に舞の胸を揉む。普通ならばこそばゆさと嫌悪感を感じるだけのはずのその行為で……舞の体は大きく跳ね、ストッキングに染みが広がっていく。

「ほう、やはりか……」

>>137の拷問以降、舞の体は全身クスリ漬けで、イキ癖がついて、もうまともに足腰も立たない状態になっている。その後はナルビアの機械による調整で手先として無理矢理こき使われていた。そんな所に>>208のアイリスの洗脳だ。恭順の刻印は既に消えているが、邪術的後遺症は今でも体内に色濃く残っている。

ボロボロの体内を時間をかけて治療したわけでもない舞が普通に生活し、あまつさえ戦闘までできるのは……ひとえに魔法のブーツのおかげ。故に今、ブーツを履いていない舞は、全身快楽漬けだ。
そんな状態でも、強靭な精神力で必死に気丈に振る舞っていたが……今胸を揉まれたことで、それも決壊した。

「はひゃぁぁああぁっ!?ひきゅぁぁああぁぁっ!!」

「君を置いて行かせたのにはもう一つ目的があってね。最近使い魔にしたゾンビキメラが、君をご所望なのさ」

「んぐぅっ、ゾンビ、キメラ……?」

少し落ち着いた舞が、ゆっくりと、自分に絡みつく影の正体を見据える。

「シャアァア……久しぶりね、小娘ちゃん」

「お前、は……!?」

ラミア……舞初登場の時に死んだはずの魔物が、舞の体に絡みついていた。いや、違う。あのラミアはもっと大きかったはずだ。こんな天幕に隠れていることなど不可能だし、自分に絡みついたらもっと圧迫感があるはずだ。

「魔物の死体を再利用して作ったのだが……どうやらラミアが一番格が高かったようで、人格は彼女のものとなった」

スネグアの言うとおり、ラミア……ゾンビキメラはほとんどラミアの原型を残していなかった。首以外はインプやジャイアントラットにブラッドバットといった低級魔物を継ぎ接ぎして無理矢理人型を形作っているに過ぎない。

「ウフフフ……この日をどれだけ待ったかしら……」

「殺すなよ。彼女は戦争で使い道がある」

「分かってるわ、スネグア様……ただこうして、抵抗できない状態で徹底的にイキ狂わせでもしないと、私の気が済まないのよ」

ダークシュライクといったレズ魔物も混ざっている故か、人間っぽいプレイができるようになったからか、ゾンビキメラはレズプレイに目覚めていた。

820名無しさん:2021/01/03(日) 02:22:34 ID:???
「さて、舞くん……君がギブアップしたくなったら、すぐにでもギブアップするといい。ただしその瞬間、サキくんとユキちゃんは引き離す」

「な、ぁ……?」

「精々耐えて、感動の再会を邪魔しないようにするんだね」

そう言い残すとスネグアは舞に興味を失ったように、天幕の奥へ引っ込んだ。

「さーて、これで心置きなく、アンタを犯せるわね……」

ゾンビキメラは普通の人型であるインプの左腕で、舞の胸を揉むのを再開する。

「んひぃいいいん!?」

たったそれだけの動作で、舞は再び絶頂してしまう。まるで失禁でもしたかのように、タイツの染みがどんどん広がっていく。

「うっわ、くっさ……犬も入って鼻が良くなったから、雌豚の臭いがプンプンするわね」

「だ、だま、りぇ……!これは、ちが……ふくぅうっ!?」

「アンタみたいな淫乱娘に殺されて、この前まであの世にいたと思うと。本当に腸が煮えくり返るわ……!」

ベトベトで粘着質な、スライム状の腕を舞の股関……既にグショグショになっているタイツに這わせる。
ただ触れられただけで、舞の体は再び狂ったようにビクビクと震えた。

「アンタのせいで、こんな醜いキメラにさせられて、男装女の手下にされて……!」

グチュ、ヌチュ、グッチュグッチュグッチュグッチュチュチュグチュ……!!
怒りのままに、猛スピードでタイツ越しに股間を擦り上げるゾンビキメラ。

「あ"っ♥!? あ、ああ、あっ♥あっ──はぁぁぁァァァああん♥♥!」

プシュッ、プシュッと、タイツで抑えきれない愛液が外に飛び出してくる。

「あっははは!苦しいかしら?あの時殺された私は、もっと苦しかったのよ、もっと喘ぎなさい……!ほら、ほらほらぁ!!」

「あっ、や、あんっ、きゃはああぁっああぁっあぁっ!?」

絶頂。絶頂。絶頂。止まらない。何度も何度もイッて、口からは涎を垂らし、目の焦点も合わず、常にイキっぱなしになる舞。
だが、それでも彼女は、ギブアップしなかった。

「へぇ、頑張るわねぇ……もうとっくに限界でしょうに」

「ス、ネグアは、ミスをしたわ……貴女の、暴挙に耐えれば、サキ様の役に立てると、私に、伝えてしまった……これで私は、いつまででも、耐えられる……!」

「は、イキながら凄んだって滑稽なだけよ」

毅然とした態度で言い返す舞に腹が立ったのか、ゾンビキメラは口を開けて舌を出した。キメラ故に本来なら一つしかない器官も複数ある。
口からラミア本来の蛇舌を、両肩の辺りからジャンピングフロッグの伸縮自在の舌をいくつも出す。

「んうっ!? むぐぅっ、うぅっ、んむっ――ふあぁっ」

舌が歯列を押しのけて口膣内に入ってくる。先ほどサキの手の甲にキスし、神聖な誓いを果たした舌が蹂躙される。その事実に、舞は今までで一番の抵抗をするが……

「んんうぅっ!? みゅひゅぅっ! ちゅむっ……んっ、れろれろっ……んあっ……んひゅうぅ……っ……んむぅっおむぅう!!?」

耳穴を舐める舌、首筋を舐める舌、股間を舐める舌……その全てが、発狂しそうな程の悦感をもたらす。
さらには胸と股間を弄る手の速度もどんどん上がり、舞の抵抗は虚しく無駄に終わる。

「ん、む、〜〜〜〜〜〜っっっ!!!??」





「いやはや、こんな時間まで耐えるとは、恐れ入ったよ」

それから数時間は経っただろうか。スネグアが様子を見に来た時には、舞はピクピクと痙攣しながら、時折プシュッ、プシュッと愛液を吹いている。それでも決して気を失わず、ゾンビキメラの復讐レズレイプを受け続けていた。
スネグアはゾンビキメラを下がらせると舞のブーツを掴み、彼女の足に履かせてやった。次の瞬間、舞が息を吹き返したように咳き込んだ。

「――っぷは!!ごほ、げほごほっ!」

「ほう、もう回復したのか」

「んっ!」

試しにぎゅむぅ、と舞の胸を揉むスネグアだが、舞は先ほどまでのように絶頂はしなかった。

「そんな体を無理に治し、動かすマジックアイテム……ハッキリ言って体への負担は計り知れないぞ」

「そんな、の……分かって、る……それで、も……」

「は、羨ましい忠義者だ」

「ぶっ!」

スネグアは舞の顔を踏みつけて、床に作られた愛液の池に押し付ける。

「それじゃあ君が汚したここを、舌で掃除するんだ。それが済んだら帰してやろう。流石にサキくんも話は終わっているだろう」

「く、うぅう……!」

屈辱に顔を歪ませながらも、サキの為にも言うことに逆らえない舞は……舌を伸ばして、自らの愛液を掃除する。
そのさらに数十分後、舞はサキと合流したが……自分がされたことも、ブーツがなければ快楽漬けの体の事も、ブーツの危険性も、決して話そうとはしなかった。

821>>818から:2021/01/17(日) 14:32:48 ID:???
キンッ!キンッ!!
「「たあぁぁぁぁあああっ!!」」

激しく剣を打ち合うアリサとヴィオラ。

「ヴィオラさん……貴方は間違っています!
あんな王の下で働いては、多くの人々に不幸をもたらすことになる……
貴女の剣をそんな悪事に使わせるわけにはいきませんわ!!」

「ふふふ……まっすぐで、素直な剣。まるで、昔の自分を見てるみたいね……
世の中が、キレイに正義と悪に別れていると思ってる……」

アリサが振るうのは、金と銀に輝く双剣ガルディアーノ。
ラウリート家に伝わる宝刀であり、アングレーム家に伝わる宝剣リコルヌと対をなすと言われている。
二刀での連続攻撃を繰り出すアリサに対し、ヴィオラもまた、二刀を縦横に振るって連撃を受け流していく。

初手から全力で攻勢を仕掛けているアリサに対し、ヴィオラは冷静に受けに徹して手の内を晒そうとしない。
自分よりはるかに上回る技量の持ち主であることが、直接剣を交えているアリサには、はっきり感じ取れた。

「さすがは、ラウリート家歴代最強と言われた天才剣士……
ですが、これなら!!シュヴェールト・ラオフェン!」
「!これは………」

キンッ!………

間合いに大きく踏み込んだアリサの縦斬りを、ヴィオラが刀の峰で受け止めた。
その刹那、アリサの剣は刀の峰の上を滑るように動き、ヴィオラの喉元へと迫る!

直剣を得意とするアングレーム流剣術に、双剣を扱うラウリート流剣技を取り入れた、アリサのオリジナル技である。

だが、次の瞬間。アリサの視界に、二筋の銀色の光が走り……

「ふふふふふ……知らなかったわ」
「え………?」

「……現実を知らないバカな小鳥ちゃんのさえずりが、こんなに聞いててムカつくモノだったなんて」

背後から、ヴィオラの声が聞こえた。

ザンッ……!ズブッ!ブシュッ…!!

アリサの全身を、光が切り裂く。
少し経ってから音もなく赤いしぶきが舞い上がり……

「あっ……!?………っぐ、うあああああっ!?」
さらに数秒遅れで、体中を激痛が駆け抜けた。

「わざわざ『ガルディアーノ』を持ち出してくるぐらいだから、もう少しやるのかと思ったけど……期待外れも良い所ね」
「くっ……まだまだ、これからですわ……!」
派手に血は吹き出たが、見た目に反して傷は浅い。剣を握るのに支障はなさそうだ。

……もちろんそれは、ヴィオラが手加減したからに他ならない。
相手がその気ならアリサは今の攻撃で止めを刺されていただろう。

(これほどの実力を持ちながら、ヴィオラさんも……トーメント王に屈服し、恐怖に縛られて忠誠を誓っている。
……なんとかして、奴らに立ち向かう勇気を取り戻してもらわないと……!)

「そうね。まだまだ、これから……貴女には、苦痛と絶望の泥沼でたっぷりともがき苦しんでもらうわ……ふふふ」
「な……何を、言って……んっく……!?」

双剣ガルディアーノを再び構えなおしたアリサ。
だが突然、全身に痺れが走って動けなくなった。
無理に動かそうとすると全身が震え、それと共に全身の性感帯を一度に愛撫されたかのような刺激が走る。
この感覚……アリサには、覚えがあった。

「こ、れは……まさか、毒……!?」
「そう。ミツルギ原産ブラッディ・ウィドー……獲物を生きたまま捕らえて体液を啜る蜘蛛の毒液。
生かさず殺さず動けなくする、強力な麻痺毒よ。

しかも体中がすっごくビンカンになるから、無理に動かそうとする度に、痛めつけられる度に、
ビリビリ痺れて気持ちよくなっちゃうのよね……
ふふふ。気を付けないとクセになっちゃうわよぉ?」

822名無しさん:2021/01/17(日) 14:35:51 ID:???
「ど、毒、なんて………貴女には、剣士の誇りというものが……んっ、あんっっ!?」

「ああ、その無様な姿。その悲鳴……私もクセになっちゃいそうだわ。
もっと、もっと、魅せて、聴かせて……」

ヴィオラは這いつくばるアリサの後頭部を踏みにじりながら、剣から滴る血を拭い取り、ハンカチを投げ捨てる。
アルフレッドから「太陽のよう」と評された少女の顔に、恍惚とした不気味な笑みが浮かんでいた。

………………

「…やぁやぁヴィオラちゃん。
地獄から舞い戻った気分はどうだい?ヒーーッヒッヒッヒ!!」

「最悪……まだ地獄に居る気分だわ。目の前に悪魔が見える」

トーメント王の力で十年以上の時を経て蘇生されたヴィオラは、
その間に起こった出来事をつぶさに聞かされた。

ソフィア・アングレームがアルフレッドに殺害された事、
アングレーム家もラウリート家も滅亡した事……
そして、妹ロゼッタが王下十輝星『カペラ』になっている事。

復讐すべき相手は、既にいなくなっていた……しかし、最早そんな事はどうでもいい。
ロゼッタがこんな王の下で使われ、戦いに巻き込まれている事だけは我慢ならなかった。

「……あの子が、戦いに向いてるとは思えないわ。十輝星なんて今すぐやめさせて。
……手駒が欲しいのなら、私をいくらでも使えばいい!」

「クックック……戦いに向かない?とんでもない。

アングレーム流剣術、その直剣は『運命を紡ぐ針』。
ラウリート流双剣術、その双刀は『運命を断ち切る鋏』。

両家の剣士たちは、代々伝わる魔剣『リコルヌ』『ガルディアーノ』の力を使って
王に逆らう者たちの運命を刈り取ってきた……

だがロゼッタは違う。『運命の糸』を直接操る、これまでにない能力を持っている……

アングレームとラウリートの血統は、むしろあの能力を産み出すために受け継がれてきたと言っても良い。

事実、その実力は現十輝星の中でも最強クラス。しかもその力は日に日に増して言っている。
そのうちヨハンをも超えるかも知れん……そう簡単に、手放したくはないねえ。」

「私が、それ以上の働きをして見せる!だから……っ……お願い!!」

「ん?今何でもするって言ったよね?……そうかそうか。だったらテストをしてやろう。
君が本当に、俺様の意のままに働いてくれるかどうか……クックック」

こうしてヴィオラは王の部下となる決意を固めた。
だが、そのテストの内容は……

「トーメント王国正規軍、カイト准士官
10歳の時に正規軍に入隊、以来その卓越した刀捌きでめきめきと頭角を現す。
士官に昇り詰めるのもそう遠くはないと噂されている。
戦闘力、判断力、共に軍人としての平均を大きく超えてはいるが、最近恋人ができて浮かれモード……

……普通のイケメンリア充じゃないですか。いいなあ、でも彼女いるのか……この人を、どうしろと?」

「いや何。書いてある通り、最近浮かれて仕事に身が入ってないようなのでなぁ。
その元凶である彼女……シュナちゃんって言って、カイトの幼馴染らしいんだが、これがまたいい子でなぁ。
デートのときなんか、毎回必ず早起きして手作りのお弁当とか持って来てくれるらしくて」

「だから……それがどうしたって言うんですか」

「クックック……イラつかせて済まんなぁ。
つまりだ、そんな出来た彼女がいたんじゃ、幸せ過ぎて気が緩んじゃうのも無理はない。
だが……もしそんな彼女が、付き合い始めた途端、実はどうしようもない悪ビッチだったと発覚したら?
デートのドタキャンはしょっちゅう、恋人に小遣いをせびったり、挙句他の男とも遊んでいたり……」

「だから何が言いた……ま、まさか……!」
「その通り。君が裏で動いて、そういうふうに仕向けるんだよ。具体的なプランはこちらで用意してある。
優秀な軍人が道を踏み外さないよう導くためだ。
シュナちゃんみたいな健気で甲斐甲斐しいタイプの子は、むしろ男をダメにする魔性の女。
悪い奴ってのは、天使の顔をしているもんさ……よくある話だ。君にも経験があるだろう?
これは正義の行いだよ。ヒーッヒッヒッヒ!!」

823名無しさん:2021/01/17(日) 14:41:03 ID:???
……簡単なテストだった。
まずはカイトの恋人、シュナを人気のない裏通りに誘い込み、剣を突き付けて脅す。

「くっ……馬鹿にしないでください!
私だってこれでも剣術道場の娘。あなたの様な強盗に、そう簡単に……」

ザシュッ!!ザクッ!!ズバ!!

「きゃあぁっ!! っぐあ!! っひうんっ…!!」

「ふーん。こんな棒っきれ振り回して遊んでるだけでいいなんて、
道場のお嬢さんってのは人生イージーモードで羨ましいねぇ。
彼氏とデートも結構だけど、今からちょーっとお話させてもらっていいかな?
今後の彼氏の出世にも関わる事だし、さ……」

「どういう事……あ、あなたは何者……んっ、ぐ……!? あ……っふ、ぁ…」

……ブラッディ・ウィドーの毒も、この時初めて使った。
毒に悶え苦しむシュナの姿を見下ろしていると、
私の中にドロドロと煮えたぎっていた正体不明の黒い感情が、少しずつ満たされていく気がした。


「こ……こんな格好で、街を歩けって言うんですか……こんな短いスカート、下着だってこんなスケスケで……」
「ええ、もちろん。街で知らない男に声を掛けられたら、ちゃーんとついて行くのよ?」

……それから私は、穢れを知らない無垢な少女を、自らの手で
薬、男、借金漬け……地獄の泥沼へと引きずり下ろしていった。

逆らったり、誰かに告げ口したら『カレシ』の人生に差しさわりが出る。
そう言い含めるだけで、どんな事でも、シュナはやってのけた。
こっちがドン引きするぐらいの事でも。

「地下闘技場……魔物と…戦うんですか」
「そう。負けたら当然、その場でレイプ。
剣貸してあげるから、全力で抵抗してもいいわよ?その方が盛り上がるし」
「わかりました……その代わり、これで最後にしてください。
魔物達との戦いに勝ち残ったら、もうカイト君には手を出さないって……」

結局シュナが壊れるよりも先に、『カレシ』の心が折れて、離れていった。
自分の部屋でカノジョが別の男…しかも魔物兵の集団とやりまくってたんだから、無理もない。

王の命令?妹を助けるため?そんな事は関係ない。
彼女の『運命』を、ズタズタに引き裂いて、汚して、壊して、ボロクソにしてやったのは紛れもないこの私。

こうして、私はテストに合格した……そう、気づいてしまえば簡単な事だった。
弱者を嬲り、喰らい、踏みにじる快楽。この世のどんな綺麗事よりも美しく、甘美な真実……

………………

「……その後も私は王の下で、何人もの少女を地獄に落とした。
今までも、そしてこれからも」

ヴィオラは血と毒にまみれた剣を投げ捨て、アリサから宝剣ガルディアーノを奪い取る。
金と銀の輝きを放つ双剣は、『真なる主』を得た事で今までにない輝きを放つ……妖しく、脈打つような不気味な光を。

「アリサちゃんって言ったかしら?もちろん貴女も、その一人……
真の絶望は、まだまだこれからよ。ふふふふ……」

824名無しさん:2021/01/31(日) 11:31:10 ID:???
宝剣ガルディアーノがヴィオラの手の中で不気味な光を放ち始めた。
危機に瀕したアリサを助けようと、アルフレッドが割って入る。

「……アリサお嬢様を、やらせはしません!…『ダークゲート・スティング』!!」
ガキインッ!!
「!!」

闇魔法ダークゲートを使って空間に穴を開け、遠距離の相手を剣で攻撃する技。
魔法のコントロールが極めて難しい技だが、アルフレッドは決戦に備えこの技を見事に会得していた。

「へえ……アル君、随分器用なマネするんだね。
でも、私とガルディアーノの前では……笑っちゃうくらい無力」

…だがヴィオラは亜空間からの攻撃に瞬時に反応し、双剣で受け止める。

金銀の刃が輝きを放ち、絡み合うように融合していく。
それはまるで、獣の牙のような波打つ刃の、巨大な鋏。

「運命に定められた者を斬る「運命の螺旋」と、望む運命を引き寄せる「絶対の因果」。
魔剣と恐れられたそれらの力も、実は……封印されていたガルディアーノの、力の一端にすぎない。
ほんのちょっとだけ、見せてあげるよ」

アリサに鋏を向け、じょきん、と刃を閉じて見せた。
「これで、アリサちゃんは斬られた。ヒントは、時間。回数は秒、00は60扱い。
死なない程度の数だといいね。ふふふ……」
「そ……それは、一体どういう……」

何をされたのかわからず、困惑するアリサだったが……

「まずい……アリサ様!!逃げてください!!」
「……無駄よ。アル君ならわかるでしょ?『運命』からは、絶対逃れられない……」


…ギュルルルルッ!!
「っぐ!」
「姉さま……こんな男に構っていても仕方ないわ。こいつには運命を変える力も、資格もない」
「ロゼッタ様っ…!?」

ロゼッタが不可視の糸を操り、アルフレッドを拘束する。
アルフレッドは必死にもがくが、ロゼッタの操る強靭な糸は鋼すら切り裂く。
力づくで外そうとしても、身体に深く食い込むばかりだった。

「でしょうね……貴方はこの場にいる誰も殺したくないと思っている。
昔からアル君って、そういう所が甘いんだよね。
そんな半端な覚悟で、私は止められないよ」

アリサの背中を踏みにじりながら、ヴィオラは冷ややかな笑みを浮かべる。

「うぐっ…!!……ア、アルフレッド…!」
アルフレッドが覚悟を決めてこの戦いに臨んでいる事は、アリサも良く知っている。
だがそれでも、死んだはずの想い人が突然目の前に現れた事が大きなショックを与えているのだろう。

「さーて、この刃が閉じた瞬間、能力は発動する。
果たしてアリサちゃんは何回斬られちゃうのかなー?」

825名無しさん:2021/01/31(日) 12:05:16 ID:???
ザシュッ!!
「ぐっ!?」
…突如、アリサの右脇腹に痛みが走る。

「始まったね……思ったより回数控えめかな?まあ、最初はこんなもんか」

ズバッ!! ザクッ!! ドスッ!!
「っぐ!あっ!?きゃああああっ!!」
続いて、左肩、胸、背中。激痛が次々とアリサを襲い、鮮血があたりに飛び散る。

「い、一体、何が……まさか、その鋏が……!?」
ヴィオラの言葉の通り、アリサは斬られていた。
鋭い刃……というより、鋸の刃で無理矢理斬られ、抉られるような…そんな痛みだった。
例えばそう、ヴィオラが持っている鋏の刃のような。

「あと6回、だね。ふふふ……」
(な、なんだかわかりませんけど……このままじゃ、まずいですわ!)

アリサは毒の残る体でなんとか立ち上がり、リコルヌを抜く。
ヴィオラが動く様子は全くないし、攻撃の気配もまるでしなかった。
なんとか追撃を防ごうと神経を集中させるが……アリサの『斬られた運命』は、既に確定していたのだ。

ザシュッ!! ズブッ! ザンッ!!
……右脚の太もも、ふくらはぎ、左足首。
「い、ぎっ!?ぎゃうっ!!」

立ち上がって早々、アリサは再び膝をついてしまう。
そして、8回目と、9回目の斬撃………

ズバッ!!

「…うああああああっ!!」
「両目……ふふふ。痛そう……」

ドバッ!!
「あらあら……ツいてないね。利き腕を落とされちゃったら、剣士としては致命傷じゃない?」

「アリサ様ァーー!!もうやめろ!!止めてくれっ……!!」
「ふふふ……私も昔は、何回も止めろって思って、叫んだわ。『運命』に。でも無駄だった……」
「……そこで、あの娘が嬲り殺しにされるところを見ていなさい。
所詮、貴方には何もできない。それが運命……」


「…運命………また、その言葉ですか……

思えば、あの時もこうして縛られて………
私はロゼッタ様が弄ばれ、殺されていくのをただ見ているだけだった………」

ロゼッタの糸で縛られ、俯いていたアルフレッドだったが……
不意に、呟いた。

「……………あああああああああ!!!
どいつもこいつも運命運命運命!!

もううんざりなんだよっ!!」

そして、吠えた。

「!?……き、急にキレたって、無駄……」
「今さら足搔いたって、どうせ運命には……」

ロゼッタとヴィオラが困惑する中、
10回目、最後の斬撃がアリサの首を捉える……!

826名無しさん:2021/01/31(日) 12:56:19 ID:???
………ガキィンッ……!!

「え………う、嘘……何よ、それは……」
アリサの首を刈りとろうとした最後の斬撃は、一振りの剣によって受け止められた。
確定したはずの『運命』を変えたのは
……アリサの左手に握られた、一本の「木刀」だった。

「これは……ただの木刀ですわ。……だけど私にとって、大切なもの。
この世界で出来た、大切な親友の一人が、お守りとして持たせてくれたものですわ」

…その木刀の持ち主は、アリサがミツルギに滞在している間に友達になった、一人の少女。
アリサにとって、かわいい妹分であり、修行相手、あるいは油断ならないライバルでもあり……。
特別な力があるわけでもない、一人の少女。

「どういうことなの…?…ただの木刀で、私の刃が……運命が、変えられるわけない」
「わからないかしら?この木刀は……異世界人のわたくしが、この世界に住む、ある人から託され、この場に持ち込まれた品。
つまり。
わたくしが…今までの戦いの中で、運命を変え、あの子との出会いを果たしていなければ…
本来なら、絶対ここにあるはずのない一本。いわば、わたくしが運命を乗り越えた証……!
だから、その鋏の言う「運命」によって折られる事は……決してない!!」

「は!?…えええ!? でも、木刀……いや、ええ!?」

「ヴィオラさん……貴女、よく似ていますわ。昔の私に。……厄介事を一人で抱え込もうとするところとか!」

アリサは、再び立ち上がった。拙いながらも回復魔法を使い、一時的に痛みを抑える。
目は見えないし、リコルヌは右腕もろとも斬り飛ばされたが、問題ない。
この場に置いて運命よりも強い剣が、この手の中にある。

「おおおおおおっっ!!」
「ふざけないで……納得できるか、こんなの!!」

木刀を手に、飛び掛かるアリサ。迎え撃つヴィオラ。そして……

(その傷で、まだ動けるなんて……運命を、乗り越えた…!?
そんなの、認められない。認めたら、今までの私は一体……!!)

心の中に生まれた、僅かな迷いを振り払うヴィオラ。
鋏を振り下ろそうとした刹那……

アリサの右足が、地面の土塊に引っ掛かった。

「!その手には……」
遥か昔、ソフィアと戦った時の記憶がよみがえったヴィオラは、反射的に「目潰し」を警戒して地面から目を反らす。

「っ、と、あぶなっ……ったああああ!!」

だが。
アリサは前につんのめりながら鋏の刃をかわし、木刀を地面に突き立てて……
「今ですわ!アングレーム流剣術奥義!アリサちゃんキィーーーック!!」
「ぐあうっっ!!?」

全身のばねと木刀のしなりを利用して棒高跳びのようにジャンプし、捨て身の飛び蹴りを叩き込んだ!

827名無しさん:2021/01/31(日) 13:53:24 ID:???
「どこのどいつだ………
アリサ様を私に殺させ、ヴィオラ様の笑顔を奪い、
今なおロゼッタ様を縛りつけているのは……」

アルフレッドは双剣を手にし、怒りをあらわにしながらロゼッタに歩み寄る。

「な……なにを、いまさら……アルのくせに……わたしに、ねえさまに……うんめいに……
さからっちゃだめぇっ!!」

鬼気迫るアルフレッドに気おされ、不可視の糸で攻撃するロゼッタ。
無数の斬撃が、全方位からアルフレッドに襲い掛かるが……その全てが、目にも止まらぬ斬撃によって斬り落とされてしまう。

「誰だ……トーメント王か、それとも……あいつ、なのか………」
……アルフレッドの目にも、いつの間にか見えるようになっていた。
ロゼッタが操る、そしてロゼッタを何重にも縛り付けている、不可視の糸が。
この糸一本一本が、「運命」というやつなのだろうか。

「こないで……アルは……どうして、いつも……わたしの、じゃまするの……?」
「こんな……こんな物に………貴女はずっと縛られて、今も苦しめられて」

アルフレッドは、自分に向けて語り掛けている……はずなのだが、
虚ろな目をして、こちらを見ていない。そして会話が通じていない。
剣を持つ手が、わなわなと震えていて……ここに居ない誰かに対して、怒っているような感じだった。

得体のしれない恐怖を感じ、じりじりと後ずさるロゼッタ。
だが……どうやらアルフレッドにも「糸」が見えているらしいことは、理解できた。

子供のころから、ずっと見えていた糸。
手を伸ばしても届かない所にあった、糸。

<姉さま…もう、ロゼと遊んでくれない?>
<え、えーと、その……遊んであげたいのは山々なんだけど>
<……やっぱり、きらい。ソフィア様も、姉さまも>

わたしは、あのとき……姉さまにひどい事を言ってしまった。
悪い子だから、悪いやつにさらわれて、じごくに落とされて……

<グヒヒッ!!……ロゼッタちゃんの中、相変わらずキツキツだなぁ。
蘇生すると処女膜も再生するし、ホント最高だよ…グヒッ!また出るっ…!!>

じごくの魔物に、いっぱいいっぱい、いじめられた。
大きくなって、「糸」に手が届くようになって……魔物を、他の人たちを、殺せるようになった。

でも。

糸は、触れた瞬間から、私を縛り始めた。
殺すたびに、糸はどんどん増えていった。

……解けなくなった。糸が私を、操り始めた……

「……やめ、て………その、糸は………!…」
「はあっ……はあっ……ダメだ……普通の剣じゃ、切れないのか……?」

「そうだ………ガルディアーノ……ラウリートに伝わる双刀………『運命を断ち切る鋏』なら…!」

糸………糸を、切られたら……
わたしまた、じごくに落とされちゃう………?

828名無しさん:2021/02/11(木) 17:05:00 ID:???
「くっ……ただのお嬢さんかと思ってたら、意外と根性あるじゃない」

(左手で剣の特訓、した甲斐がありましたわね……)
「はぁっ……はぁっ……まだ……ここからですわっ!!……「四天連斬」!」

「なっ…!?」

ドガガガガッ!!
……ビシッ!!
「っぐあ!」

アリサの意表を突いた豪快な飛び蹴りで体勢を崩したヴィオラに、更なる追撃。
全身を駒のように回転させながら、木刀を連続で繰り出した。
一撃目は紙一重で交わされ、二撃目はヴィオラの鋏に弾き返されたが、
三撃目で逆に弾き飛ばし、最後の一撃がヴィオラの脇腹を打ち抜いた。

「こ、のっ……何なのよっ!!もうボロボロのくせに、どうしてそこまでして……!」

「言った、でしょ……あなたは昔の私に似てるって。
ロゼッタさんを守るために、他の全てを犠牲に……他人を、自分さえ傷つけてしまう。
でもそれじゃ、駄目なの……ボロボロになってるのは、あなたの方なのよ!!」

「………うるさいっ…!あんたなんかに何がわかるの!?
私には何も残ってない。もう、引き返せない……
ロゼさえ………ロゼッタさえ守れれば、私はどうなっても………!」

お互い素手の取っ組み合いになる二人。
だが負傷度の差はやはり大きく、何度かの攻防の後ヴィオラはアリサに馬乗りになる。

「悪あがきは終わりよ。アンタを殺して、私は……私は、ロゼを守る…守り続ける…!」
「このままずっと……トーメント王の言いなりになるつもり?
他人を傷つけ……自分を偽って。
今の、私を見て……『弱者を踏みにじる快楽』ってやつを、感じる?」
「…………!」

満身創痍になってもアリサは動じることなく、その言葉はヴィオラを鋭く射抜く。
自分とそっくりな顔立ちの少女と目を合わせられず、ヴィオラがアリサの上で動けずにいると……。

「勝負はつきました……もう十分でしょう。ヴィオラ様」

いつの間にか、アルフレッドが二人の側に立っていた。

「……奴らのやり口は、わかっているはずです。
貴女がどれだけあの男の言いなりになろうと、ロゼッタ様を救う事にはならない。
……あれを、ご覧なさい」

アルフレッドの指さす方には、宙に浮かぶロゼッタの姿があった。

「もう、じごくはいや……やっと……姉さまと、あえたのに……
いと…糸……きらないで、糸………」

魔法や能力で浮いている…のとは、少し様子が違う。
ロゼッタは意識が朦朧としているのか、がっくりとうなだれ、何かをうわごとの様につぶやいているようだ。
そしてロゼッタ以外にも、かすかに何者かの気配がする。

「………ロゼッタ…!?……あ、あれは……一体……!?」

……ヴィオラにも一瞬、見えた気がした。
ロゼッタの四肢に絡みついた、無数の糸が。
その無数の糸の先にいる、ロゼッタを傀儡の様に操る、何者かの巨大な手が……


【運命の見えざる手】
具現化した運命そのものか、あるいは何者かの悪意の塊か。
巨大な人の手のような姿をした、正体不明の存在。
その指の先からは不可視の「運命の糸」が無数に伸びている。

普通の人間にはその姿を認識する事も、攻撃する事も不可能……?

829名無しさん:2021/02/11(木) 17:06:29 ID:???
「見えますか………ロゼッタ様を縛り付けている、あの糸が。
……あれこそが、我々の本当の敵」
「何よ、あれ……ロゼは、今までずっと、あんな化物に捕らえられてたっていうの……?」

ガルディアーノを手にし、意識を集中すると、おぼろげだが「見えざる手」が見える。


糸でロゼッタの四肢を雁字搦めにし、分身体らしき通常サイズの手が、ロゼッタの全身に無数に群がっていた。

(ぞわっ……すりすりすり……くちゅくちゅくちゅ)
「ん、っはぁ……っ…!?……か、らだ……うず、く……ま、また、薬切れ……!?」

「……ガルディアーノを貸してください。ロゼッタ様は私が…」
「くっ……ロゼから離れろぉっ!!」
「ヴィオラ様っ!いけません、今の貴女では……!!」

アルフレッドの制止を振り切り、ロゼッタの元へと駆けるヴィオラ。
だが、「運命の手」にガルディアーノを突き立てる寸前。
「運命の手」の先に居る存在…得体のしれない何かと、「目」が合ってしまった。

「許さないっ……よくもロゼをっ!!………っぐ…!?」
そして、気付いた。
自分もまた、運命の糸に縛られていて、既に身動きすら取れなくなっていたことに。

ぎちっ………ぎちぎちぎちっ……
「い、いつの間にこんな……い、いや……もしかして、最初から……ずっと昔から、私は……」
<私に逆らっても無駄な事……大人しく、従っていればよいのです……>

ぎりぎりぎりっ!!
「っいぎああああああぁあぁぁっ!!」

運命の手が、わずかに指先を動かした。
それだけで、ヴィオラの全身が締めつけられ、手足があらぬ方向に捩じり上げられてしまう。
「運命」に弄ばれ続けるロゼッタを目の前にしながら、ヴィオラはどうする事もできなかった。

<……ラウリートの剣姫……所詮貴女は運命の駒にすぎない……>

巨大な手が、ヴィオラの身体を掴む。ゆっくりと、手に力が込められていく。

ぎゅっ………ぎち、ぎち…ぎちっ!
「や、めろっ………っぐ……あああああああっ!!」
<貴女はただ、踊っていればいい……私の掌の上で>

運命の巨大な手の中で好き放題に嬲られるヴィオラ。
一方ロゼッタも、無数の小さな手によって全身を隅々まで弄り回され、性感を無理矢理に昂らされていく…

(むにっ……ぐにぐにっ……ぎゅむっ……)
<それにしてもロゼッタちゃん、ほんとーーに大きくなったねえ。昔はあんなにつるぺったんだったのに>
「んっ……あ………だ、め……くす、り……効か、ない……!…」

(ざわざわざわっ……むちっ……じゅぷん)
<こっちも、こーんなに大きく実ってすっかり食べごろじゃぁ……
これもワシら分身体が長年ねちっこくマッサージしてやったおかげじゃのう…ウヒョヒョヒョ>
「からだ、じゅう………疼きが、とまらなくて……!!」

(くにくにくに……くりっ!)
<うふふふ♪こっちはアタシの指一本でいつでもイけるように調教済みよん♪>
「い、や………たすけっ……ねえ、さま……ん、むぐっ!?」
<はいはーい、ロゼちゃんの大好きなお姉さまがレズレズおしゃぶりフィンガーしてあげますよ〜♪>

「やっ……やめ、ろ……ロゼを、放っ……!!」
ぎりぎりぎりぎりっ!!
「っぐああああああんっ!!」
<貴女は人形……その体は、血の一滴、髪の毛一本まで運命の奴隷>

ぎゅむっ……ぐぎっ………
「うっぐ………が、は……!!」
<トーメントに仕え、トーメントのために振るわれる一振りの剣……>
「そん、な………嫌………私、もう………戦いたく………」

<逆らう事は不可能。運命からは決して逃れられない……>
ぎちぎちぎちぎちっ………ぶち……ぶしゅっ……
「お願い………せめ、て………ロ、ゼ……だけは…」

……文字通り、運命の見えざる手に弄ばれ続けるヴィオラとロゼッタ。
運命の糸は二人の全身にびっしりと絡みついて、もはや自分の意志では指一本動かせなくなっていた。

830名無しさん:2021/02/11(木) 17:09:14 ID:???
<ぐひひひひ……これでわかったかぁ?>
<ロゼッタちゃんは、こうしてワシらに弄ばれ続けて……>
<オイシくいただかれちゃう『運命』って事♪>

「んっ……う、ああっ……!!」

<そして貴女たちは……トーメントの手駒として、
永遠に殺戮と絶望を振りまき続ける『運命』という事を……>

「そ、……そん、な……の………」

ヴィオラとロゼッタは運命に、縛られ、苛まれ、弄ばれ、……屈服しようとしていた。


「……嫌なら、抗い続けるしかないのですわ。」
「そう……このふざけた運命に!」

……そこへ、アリサとアルフレッドが斬り込む。
二人の手にはリコルヌとガルディアーノがそれぞれ握られていた。

ザシュッ!!
<ぐっ!?…貴様らはっ……やは、り…>

二人の剣が運命の手を貫き、糸を次々と切り裂いていく。
不可視にして絶対、攻撃など不可能なはずの運命を。

「……運命に打ち克つには、リコルヌだけでも、ガルディアーノだけでも足りなかった。」
「運命に反する、ありえない存在。
本来互いに対立しあい、交わらないはずの両家の剣……
それらを合わせる事こそが、奴を倒す唯一の手段だったのですわ」

ズバッ!!ドスッ!!ザンッ!!

<ぐわあああああぁぁ!!>
<きゃあああああぁぁ!!>
<ひいいい!!と、年寄りに何を、っぎゃああ!!>

二人を縛っていた糸が半ば以上切り裂かれ、分身体も霧散していく。
ヴィオラとロゼッタも、もう少しで体の自由を取り戻せそうだった。

だが……

「しまっ……」「きゃあああっ!?」

<そこまでです………そう簡単に『運命』を乗り越えられるとでも、お思いですか>
……二人は、運命の巨大な手に捕らえられてしまう。

グリッ………ゴギッ………ギチッ!!
「はぁっ………はぁっ……まずい……アリサ様…!」
「っぐ……この、くらいで………っぐ、う、ああああああぁっっ!!」

運命の手は、万力のごとく二人の身体を締め上げる。
特に、既に重傷を負っていたアリサは、全身の傷から大量の血を絞り出されてしまう。


<思い知りなさい。私に………運命に逆らうなど、無駄な事だと……>
「いい、え……諦め…ません、わ……
腕を落とされようと……光を失おうと………何が、あっても……!」

力を振り絞り、運命の手から逃れようとするアリサ。
だが、アリサの身体はとうに限界を超えていた。
上半身を抜けだしたところで意識が途絶え、あふれ出た血で手が滑り、リコルヌが零れ落ちる。

「!?…し………まっ……」
「アリサ様っ!!」

<……アングレームの剣士が堕ち、リコルヌの使い手は居なくなった。
やはり、『運命』を斬る事など不可能ということです……くっくっく……>

831名無しさん:2021/02/11(木) 19:23:24 ID:???
<さあ……残りの者達も一人ずつ、片づけてあげましょう。
『運命』を受け入れ、ひれ伏すのです……>

不可視の糸と分身体が再び生み出され、残る三人に迫ってくる。
『運命』を倒すには、リコルヌとガルディアーノ、二組の剣が必要。
しかしアリサは戦闘不能へと追い込まれ、勝ち目が完全に潰えてしまった……

その時。

「まだ、とどく………私には、とどく。いいえ…‥届いて。うんめいの、いと……!」
ギュルルルルッ!!

<!……まだ糸を………運命を操る力が……!?>

ロゼッタはわずかに残った力で運命の糸を操り、床に落ちたリコルヌを絡め取る。

「姉さまっ!!」
「……ロゼ……!!」
そして、回収したリコルヌをヴィオラに投げ渡した。

<ふん……無駄な事です。
ラウリートの剣姫である貴女に、リコルヌが……アングレームの剣術が、使えるはずは……>

「だいじょうぶ……姉さまなら………」
「………貴女次第です、ヴィオラ様。運命に従うか、抗うか」
「そういう………事、なのね……」


………ジャキンッ!!
<何、だと………>

ヴィオラは……アングレームの剣術を、知っている。
かつてアングレーム家でも歴代最強と言われた剣士の技を、いつも間近で見て、憧れ、目標にしていた。
……その奥義に至っては、この身で受けて命を奪われた事もある。

「なんか……笑うしかないわね。これが運命の皮肉、ってやつかしら」

幼いころから何度も何度も見て、真似して、体に染みついた技だ。
捨てたい、忘れたい、そう思ったこともあったが……

「………アリサって子の言ってたこと、ちょっとわかったかも。
本当はすごく怖い、けど……ロゼッタのために、そして私自身のために……アイツを倒したい。
アルフレッド………手を貸してくれる?」

「もちろん。私の気持ちは………あの時と、少しも変わっていません。
微力ながら私たちも、ロゼッタお嬢様と共にヴィオラお嬢様をお支え致します。
だから……」
「……うん。きっと……大丈夫、だよね」


「アングレーム流奥義、トラークヴァイテ・ギガンティッシュ・シュトラール!!」
「ラウリート流奥義、グランドゥレ・タルパトゥーラ!」

<やっ……止めろっ……っぐあああああっ……!!>

とても初めて共闘するとは思えない、完璧な連携で舞うように敵を斬る二人。
二つの奥義が、「運命の手」を縦横に切り裂いた………


一方。トーメント城の、とある一室。
ローブをかぶった一人の男が、テーブルの上の水晶玉に何やら一心に念を込めていたが……

「……っぐあああああっ!!」
中空に現れた光の刃が、男に襲い掛かる。
厚手のローブ、目深にかぶったフード、そして両腕を、刃が切り裂いていき……

「やはり………こうなりましたか。
アングレームとラウリートは手を結び、私に立ち向かってくる」

男の素顔が、ランタンに照らされる。
彼の正体は………王下十輝星の一人「アルタイル」のヨハン。

「ラウリート、アングレーム、そして運命の糸を操る力……
……良いでしょう。
果たしてあなた方が、私を………『運命』を越えられるか。
決着をつける時が来たようです」

832名無しさん:2021/02/12(金) 00:00:42 ID:???
「アリサ様!大丈夫ですか!?」
「失血がひどいわね……今まで動けてたのが不思議なくらい」
「止血……しないと」

「運命の手」をなんとか退けたアルフレッドたち三人は、倒れたアリサの元へと駆けよる。
特に右腕が重傷で、すぐにでも治療しなければ危険な状態だ。

「ど……やら……決着がついた、ようですわね………」
アリサがわずかに意識を取り戻した。
深い傷を負ったその目は、見えているのか定かではないが、
アルフレッドとヴィオラたちの雰囲気を感じ、全てが解決したことを察したようだ。

「丸く収まって、何よりですわ。ヴィオラさん、ミツルギの方々に宜しく……
後ほど、トーメントで…合流しましょう………」
「トーメントって、まさか………ちょっと、待ちなさいよっ!?」
「アリサ様っ!?いけません、アリサ様っ……!!」

……そう。もしアリサが絶命すれば、トーメント王の能力によって蘇生される事になる。
復活する場所は当然、王の居るトーメント城。
今の状況で、アリサがトーメント城に送られたら……最悪の事態だ。

「大丈夫よ、アルフレッド……知っているでしょう?
……わたくしなら、たとえ、死んだとしても……」
「くっ……アリサ様、気をしっかり持ってください!今、本陣に応援を……アリサ様!!」
「アリサっ!?ちょっと、さっきまでの根性はどーしたのよっ!?」

……アルフレッドたちの必死の手当ても空しく、
アリサの呼吸はだんだんと弱弱しくなり。そして………息絶えた。

「………………。」
「なんて事だ………アリサ様が、トーメントの手に……!!」
「………ど、どうしよう。アルフレッド………」

アリサの死体が淡い光を放ち、転送される。
更に悪い事に、彼女の愛剣リコルヌはヴィオラが持っていたため置き去りとなった。
身を守る武器もなく、王の喉元トーメント王国に送り込まれる事となったアリサ。
このままではアリサがトーメントに囚われ、どんな目に遭わされるかわからない。
それだけではなく、これから本格的に始まるトーメントとの戦いにも、大きく影響するだろう。

「……我々だけでは、どうしようもありません。
ひとまずミツルギ本陣に戻り、協力を仰がねば。
ですが……」
ロゼッタとヴィオラを見やり、アルフレッドは躊躇する。
言うまでもなく二人は、ミツルギにとって敵であるトーメントの人間。
アリサが居ればともかく、外様のアルフレッドが事情を話したとしても、果たして納得してもらえるか。

「わたしは糸……使えなくなったみたい。つまり……運命に、見放された。
だから、ミツルギがわたしに何かする、場合は……にるなりやくなり」
「いやいやいや……そのテンジョウ皇帝とかいう奴、大丈夫なんだよね?
最悪の場合、私とロゼは別行動するけど…」
「大丈夫です……ヴィオラ様、ロゼッタ様。お二人の事は、決して悪いようには致しません。
それに、アリサ様の事も……このアルフレッド、身命を賭して必ず無事に助け出します」

最終決戦の舞台、トーメントを見据え、想いを新たにする三人であった。


「ウィーー、ヒック。アルフレッド殿、それにアリサ殿ー!どうやら無事なようだな!」
……そこへ、アルフレッドの救援要請を受けて、五人衆の一人、酔剣のラガールが現れる。

「え、アリサ様?……そうか。私をアリサと間違えてるんだ」
「ラガール様!実は大変な事が起きてしまいまして………かくかくしかじか」

「ウィー……いや、カクカクシカジカじゃわかんねーでござるっつーの!
あれ、そっちの人はトーメントのロゼなんとかでござるじゃないか!
つまり、説得して和解したって事でござるな?いや流石アルフレッド殿!これにて一件落着ござるじゃないか!」

今回ラガールは、戦場の至る所を駆け回り、数多くの魔物を蹴散らし、窮地の味方を助け、
戦闘描写こそバッサリカットされたが、まさに獅子奮迅、八面六臂の大活躍。
かつてないほど酔剣を使いに使った結果、今の彼はぐでんぐでんのヘロヘロ状態であった。

「と、とりあえず……テンジョウ様の所に戻りましょう。詳しい事情はその時に……」
「アルフレッド……本当に大丈夫なの?こいつら……」
「………もうどうにでもなーれ」

833名無しさん:2021/02/13(土) 21:32:59 ID:???
「……なん…だとっ……アリサ姉ちゃんが………!?」
「申し訳ありません、テンジョウ様。……全てはこの私の責任です」
ミツルギ軍は、アレイ草原の戦いにおいて見事トーメント軍を打ち破った。
その矢先のアリサの「戦死」報告に、テンジョウたちは衝撃を受ける。

「……陛下…この事が兵たちに知れたら、全軍の士気に影響します。今は我々だけの秘密に留めておくべきかと」
この重大な報告はごく限られた者にのみ伝えられた。
今ミツルギでこの事実を知る者は、皇帝テンジョウ、執事ローレンハイン、
そして当事者であるアルフレッド達のみである。

「ちっ………わかってるよ!
……アルフレッド。今すぐお前をボッコボコに殴ってやりたい所だが……
今はアリサ姉ちゃんを助けるのが先だ。トーメントに着いたら、速攻で城に潜入して救出するぞ!」

かくしてテンジョウ率いるミツルギ軍は、改めてトーメントの首都へ向け進軍を開始するのであった。

………………

「ふん……アレイ草原を突破され、ミツルギに差し向けた魔物兵どももほとんどやられたか。
ロゼッタ達も、「向こう側」に落ちたと考えるべきだろうな。
……まあ、こうしてアリサお嬢様が手に入ったのは良かったが。ヒヒヒヒヒ………」

一方、トーメント城内の中庭にて。
巨大な十字架に磔にされたアリサが目を覚ます。

「……んん、っ………ここ、は……?……」
(!……迂闊でしたわ。アルフレッドとヴィオラが仲直りしたのを見て、気が緩んでしまったのかしら……)
目の前には、ニタニタと笑うトーメント王の姿。
自分が一度死に、蘇生されたのだとすぐにわかった。

「お目覚めのようだな、アリサお嬢様。
ようこそ……いや、おかえりというべきか。ヒッヒッヒ!
運命の戦士の一人である君が、早々に『処刑場』に送られてくるとはね……」

「トーメント王………処刑場、ですって…‥!?」
アリサが周囲を見回すと、広大な庭の中に無数の十字架が立てられているのが見えた。

「開戦後は、女の子たちが戦死したら自動でここに送られてくるようにしておいた。
ここに来た子はスイッチ一つで拷問部屋や地下闘技場に送り込めるし、
もちろんこの場で痛めつけても良し……以後いろんなシチュでリョナり放題というわけだ。
いずれはここに設置されている十字架を全部埋めてやる……
目指せネームドキャラフルコンプ!ってところだな!」

「ネームド…?……またわけのわからないことを……そう上手く事が運ぶと思わない事ですわ。
今にアルフレッド達や、唯達が……必ず、助けに来てくれる…!」
「ヒッヒッヒ!アルフレッドのアホはどうでもいいが、
ミツルギの女の子や唯ちゃん達には、もちろん全員ここに来てもらうとも。
今まで君たちは散々俺様に盾突いてきたが、今度こそ、二度と逆らう気にならないよう徹底的にいたぶってやろう」

「くっ………見損なわないで。
どんな卑劣な事をされようと、わたくし達は貴方たちに決して屈しませんわ!」
身動きが取れないながらも、アリサはトーメント王を毅然と睨み返す。
王は「その言葉が聞きたかった!」と笑みを浮かべ、満足げにうなずいた。

「さてさて……アリサちゃんはこの手で直々に嬲ってやりたいところだが、俺様も色々忙しい身でな。
ひとまず地下闘技場で、魔物どもの相手をしていてもらおうか。
あそこの奴隷闘士たちはスネグアの奴に傭兵として連れて行かれたから、観客も魔物どももみんな血に飢えている……
格ゲーのサバイバルモード回復なし版か、無双できない無双ゲーみたいな事になるだろうな……ヒッヒッヒ!」

「ふん……わたくしだって、大人しくやられる気はありませんわ。
地下闘技場の貴方の手下どもを、一匹残らず切り捨てて差し上げます!」
「ヒッヒッヒ……その木刀で、かね?」
「!?……これは……!」

王に指摘されて、初めて気づいた。
アリサが腰に差していたのは宝剣リコルヌではなく、エリから貰ったお守りの木刀。
トーメントに送り込まれる際、手放してしまったのだ。

「君の戦いは、録画して後でじっくり見させてもらうよ。では健闘を祈る。ヒヒヒヒヒッ……!!」
「くっ……負けるものですか。みんなが来るまで、絶対に持ちこたえてみせる………!」

834名無しさん:2021/02/13(土) 23:05:15 ID:???
「さ〜てと。今回の『戦利品』で、目ぼしいのはもう一人……傀儡人形のクロヒメちゃんか。
たしか主人の身代わりになって爆死したんだっけか?泣かせるねえ」
「………ぜんぜん違う。過去ログを見直してこい、愚か者が」

トーメント王は闘技場に送られたアリサを見送った後、
少し離れた場所で同じく磔にされた、もう一人の戦死者……クロヒメに話しかけた。

「がははははメタい!きみ巫女さんより現世に馴染んでない?!
まあそんな事より……君の処遇については、実はある人物に一任してある。
ミツルギに派遣した軍勢の、数少な〜い生き残りだ。ヒッヒッヒ………」
「生き残りじゃと?………まさか…」

王が合図をすると、黒い人影が風の様に現れる。

「ハーイ♪私は人呼んで『呪詛のサシガネ』よん。初めまして、クロヒメちゃん♪
思った通り、素敵な人形ねぇ。あのクソ巫女には勿体ない逸品だわ。フフフフ………」

……元ミツルギの暗殺部隊所属、今はトーメントに仕える女忍び。
先の戦いでは七華を一方的にいたぶり、クロヒメの死の間接的な原因にもなった。

「ふん。誰だか知らんが……わらわはどうせ一度死んだ身。
何をされようと、今更どうという事もないわ。こんな戒めなど、そのうち抜け出してくれる」
トーメント王は、死者蘇生の力がある……噂には聞いていたが真実だったとは、
しかも人形である自分にも適用されるとは思っていなかった。
だがこうして生き返った以上、なんとか脱出してもう一度七華に……
クロヒメが、そう考えていると。

「あらそう……じゃあ、遠慮なく。
クロヒメちゃんにはこれから、アタシの呪詛人形になってもらうわ。
呪う相手はもちろん、あの忌々しいクソザコ巫女ちゃんよ。
ここに送られてくると思ってたのに、まーだゴキブリみたいにしぶとく生き残ってるなんて……絶対許せないわぁ」

「なっ………なんじゃと!?……そうか、貴様が七華を……!」
「………だからアイツがここに送られて来るまで、呪いで徹底的にいたぶりまくってあげるの。
まずは釘で両目を潰してあげましょうか?それとも独蟲攻めがいいかしら?楽しみねぇ………」

………………

ところ変わって、戦いを終えたミツルギ軍本陣。
危ない所で撤退に成功した七華は、先の戦いでの負傷を癒していたのだが……。

……ズキンッ!!
「っぐ、あぁっ……!?」
巨大な釘で全身を刺し貫かれるような、鋭い痛みに襲われた。

ザクッ………ブシュッ………ドロッ
「これは………まさ、か………奴の、呪術……っきゃあっ!?……」
傷口を覆う包帯から、血が滲みだす。両目にも同様に痛みが走り、目を開けていられなくなった。

「七華様…!?……これ、まさか……サシガネ様が…」
「え、ええ………間違い、ないでしょう……ん、あああんっ!!」

七華は苦しみにのたうち、時折甲高い悲鳴を上げ、全身に玉のような汗が浮かべる。
横に居たワラビ……サシガネの『人形』だった少女が、思わず心配そうに声をかけた。

<安全な場所からジックリタップリ嬲り殺しにするのが本来の必勝パターン……>
サシガネが言っていた通り、これほど理に適った暗殺手段はない。
術者が遠く離れた場所にいる上、呪術に対する知識がない以上……対処は不可能。

「七華様……ミツルギに戻りましょう。そんな身体じゃ、戦うどころじゃ……!」
「……だ、め…です……私は……五人衆の一人。
クロヒメ様がいなくても、私は……戦い抜かなければなりません……!」

「ですが、このままでは……トーメントに……サシガネ様に近づくにつれて、
呪いの力は、もっともっと強くなっていくんですよ…!」
「それに、私に呪術を使っているという事は、サシガネはまた誰かを『人形』にして使っている。
そんな事、許しておけない……だから、ワラビさん。
この事は……絶対誰にも、言わないでください。お願い、します………!」

満身創痍になりながら、最後の戦いへの決意を新たにする七華。
果たして、仇敵サシガネの元へとたどり着き、呪いを打ち破ることは出来るのだろうか……

835名無しさん:2021/02/27(土) 20:32:58 ID:???
深夜。
トーメント軍の小型ステルス機が、ナルビアとの国境、ゼルタ山地付近を飛行していた。

「間もなく目標地点へ到達する。作戦を説明するから、降下準備しながら聞いて」
「はいはーい、全員けいちゅー!リザ隊長のお言葉ですよー」
「……スズ。黙って」
「…………はーい」

乗り込んでいるのは、リザ率いる小隊のメンバー、エミリア、スズ、カイト、ボーンド。
降下用のパラシュートを装着しながら、リザの話に耳を傾ける。

「目的は、ナルビアの最終兵器『メサイア』の破壊、無力化。
この高速ステルス機で目標地点近くまで一気に接近し、この『破壊プログラム』を対象に打ち込む」

リザは懐からダーツ型デバイスを取り出し、メンバーに1本ずつ配った。
これをメサイアに打ち込めば、プログラムが作動してメサイアを無力化する仕組みらしい。

「『破壊プログラム』……そんな物、よくこの短時間で準備できましたね」
「詳しくは聞かされてないけど………情報提供者が居た、みたい」
「ま、知る必要はない、って奴だな。俺らの仕事は、メサイアちゃんに一発ぶち込むだけ、と」
「そういう事……簡単だけど、説明は以上。何か質問ある?」

「うーん……あ、そうだ!私たちのチーム名、まだ決めてなかったよね!
『トーメント小隊』はダサいから、なんかオシャレでかっこいい感じにしたい!」
「……なんでもいいよ。任せる」
スズに適当に受け答えしつつ、リザもパラシュートを付けて降下準備を整えた。

「チーム名、ねえ。…それじゃ………」
ボーンドはどこからか古びた辞書を取り出し、ぱらぱらとめくり始めた。

「…………『トラディメント小隊』、ってのはどうだ」

「その決め方、なんかおしゃれでイイ!さっすがボーンドさん!」
「な、なんかあんまり変わってないような気がしますけど……どういう意味なんですか?」
「ああ。これはだな………」

………ドガーーーンッ!!

その時。激しい衝撃が走り、機体が大きく傾いた。
リザたちの居る降下口も、一瞬にして半壊する。

「これは…敵襲!?」
「レーダーに反応なし!これは……戦闘機じゃない。正体不明の何かが、攻撃を仕掛けてきました!」
「ま、まさかメサイアってやつが向こうから仕掛けてきたの!?」

「いや、これは……魔法針………!」
リザは、足元に金属製の小さな針が転がっているのに気付いた。
これが無数に飛んできて、機体を破壊したのだ。

「正体不明の敵、再接近してきます!」
「この機は持たない!全員、すぐ降下して!私が時間を稼ぐ!」

リザは叫ぶと、ナイフを抜き放って敵に備える。
青い光が、急速に接近してくるのが見えた。あれは………


「第3機動部隊師団長………シックスデイの一人、アリス・オルコット……!」

836名無しさん:2021/02/27(土) 20:36:42 ID:???
…その少し前。


「失礼します!ヴェンデッタ第7小隊、隊長篠原唯以下5名、現着しました!」
唯達ヴェンデッタ小隊のメンバーは、ゼルタ山地の中腹に建てられたナルビア軍の前線基地へ到着した。

「はーい、ごくろうさまです。
第3機動部隊、副師団長臨時補佐代理のエミル・モントゥブランよ。よろしくね♥
これからあなた方は、我々の指揮下の元行動していただきます。
それで、こちらが隊長の………」

「アリス・オルコットです。あなた方が連合軍からの援軍ですね」
唯より少し年下に見える、軍服を着た少女がほんの少しだけ顔を見せ……

「……せいぜい足を引っ張らないように。後の説明は任せます、エミル副団長」
5人を一瞥すると、またどこへともなく歩き去ってしまった。

「……なんだ今の!感じ悪っ!」
「あー……ごめんなさいね。彼女、最近とくにピリピリしてるみたいで……」
(最近ずっとあの調子なもんだから、副団長がコロコロ変えられて、とうとう私にお鉢が回っちゃった……のよね)

「うーん……確かに元々あんな感じだったけど、昔はあそこまでではなかったわよね」
憤慨するオトをなだめるエミル。
そして、エルマもアリスの様子にただならぬ不自然さを感じていた。

「そういやエルマは地元だっけ。知ってんの?今のやつ」
「うーん……まあ知り合いって程じゃないけど、有名人だからね。かくかくしかじかWiki参照で」
「へー。双子の姉妹がいるのか。てことは、片方が毒舌でもう片方が常識人なパターン?」
「残念だったな……さっきのが、比較的常識人な方だ」
「なん………だと………」
「ちょっとエルマちゃんオトちゃん!ストップストップ!」

悪口大会に発展しそうだったので、唯が慌てて止めに入る。

「……ごめんなさいね。ああ見えて本当は、優しくて繊細な子なの。
ああなった原因は……心当たりがあるから、私の方でなんとかしてみる。
とにかく今は、なるべく彼女をフォローしてあげてほしいの」
「りょ、了解であります!」
「ふふふ……貴女が唯ちゃんね。彩芽ちゃんから聞いてた通りの子だわ……アリスちゃんの事、よろしくね」
「!…彩芽ちゃんを知ってるんですか!」
「ええ、そうよー。あの子、一見ぐうたらしてるように見えてなかなかどうして、
ウチに滞在してる間に、研究データを利用してあんな事やこんな事……」

妙なところから思い出話に花が咲き、
ブリーフィングルームは、間もなく戦いが始まるとは思えない和気あいあいな雰囲気に包まれた。


一方………

「アリスちゃん。調子はどう?」
「………問題ありません。何か用ですか?……ミシェル博士」
首都オメガネットからの通信を受けたアリス。

「トーメントの特殊部隊が乗り込んだステルス機が、間もなくそっちにやって来る。
おそらく陸上部隊も、それに合わせて奇襲してくるはずよ」

管制からは何も報告はない。レーダーにかからない高性能ステルス機、だとしたらその出撃をなぜミシェルが知っているのか。

「……それも、『信頼できる情報筋』からですか」
「ふふふ、どうかしらねえ……とにかく。『あれ』の実践初運用の相手には、丁度いいじゃないかしら?」

恐らくミシェルは、トーメントと内通しているのだろう。
アリスはそれを知りつつも、ミシェルを利用している……
というより、そんな事は、何もかも、今のアリスにとってはどうでもよかった。

「いいでしょう……『ブルークリスタル・スーツ』で、出ます」

……目の前に現れる敵を、ただせん滅するのみ。

837名無しさん:2021/02/27(土) 20:41:27 ID:???
「滑走路開けなさい。私が出ます……『蒼填』!!」

アリス・オルコットが<蒼填>に要する時間はわずか1ミリ秒に過ぎない。
ではその原理を説明しよう!
オメガネットのマザーコンピュータによって増幅された未知の物質、
ブルー・エネルギースパークが衛星を通じて転送され、ブルークリスタル・スーツへ変換。
わずか1ミリ秒で<蒼填>を完了するのだ!

アリスがブレスレットを掲げ、コマンドワードを叫ぶと、よくわからない謎の原理によって
一瞬にしてコンバットアーマー……
レオタード型のインナースーツに、青く輝く金属装甲を装着した姿へと変わった。

サラ・クルーエル・アモットの装着していたアーマーに似ているが、
こちらはより機動力を重視……そして防御を捨てて一撃に特化しているのか、装甲は少なく、肌が露出している部分も多い。
そして何より特徴的なのは、背面のバックパックに付いている、巨大な羽とスラスター。

そう……アリスのために特別に作られた「ブルークリスタル・スーツ」は、
エリスやレイナのそれにはない、飛行能力を持っていた。


「え、ステルス機が奇襲!?
アリス隊長が単独で突っ込んでったですって!?
どどど、どうしましょう……!」

遅れて敵の襲来を察知したエミルたちは、隊長不在で混乱に陥ってた。

「わ、私、追いかけます!ホウキで飛べるんで!」
「ええ!?ゆ、唯ちゃん!じゃあ私も……!」
唯とサクラはホウキにまたがってアリスの後を追う。
……とは言え、圧倒的なスピードで飛んで行ったアリスに、追いつくのは難しいだろう。

「あ、うちらはムリ」
「あたしの強化装甲も、飛べる事は飛べるけどさすがに戦闘機レベルの高度は……」
「ここは唯さんたちに任せましょう。それに……」

「えええ!?地上からも敵の魔物兵ですって!?」
エミルが再び叫び声をあげる。
前線基地のあるゼルタ山に、トーメントの軍勢が押し寄せていた。

「やはり……地上からも来ましたね。ウチらは地上の守りを固めましょう」
「そ、そうね。じゃあ、紹介するわ。わが第3機甲師団が誇る、頼もしき究極機兵部隊たち!」

「我ら機兵部隊『地獄の絶壁Ω』!!」
「格闘機兵最終決戦仕様『ルビエラ・リアライジングホッパー』!」
「殺戮機兵最終決戦仕様『アルティメット・エミリー』!」
「砲撃機兵最終決戦仕様『フルアーマー・サフィーネ』!」
「であります!」

「赤がルビ、緑がエミ、青がサフィか!よろしくな!」
「一瞬で略された!?」

もちろん機甲師団というくらいだから他にもいっぱい色々いるのだが、ここでは省略。
残ったルーア達は、ナルビアにおけるセロル枠『地獄の絶壁Ω』と共に戦う事になった。

「みんな頑張ってね!他の機甲師団とも連携して、前線基地を守るのよ!」
「「「おーーー!!!」」」

かくして戦いは、トーメント王国軍の奇襲により慌ただしく幕を開けた。
前線基地の防衛に当たるルーア達。そして、アリスの後を追う唯達の運命やいかに……

838名無しさん:2021/02/28(日) 01:02:19 ID:???
「よし、このまま身を潜めて逃げるわよ。連中が潰し合ってるうちに、リンネと合流できたらいいけど……真っ白幼女の件もあるし難しいかしら」

戦闘のどさくさに紛れて逃げているのは、サキ、ユキ、舞の三人。サキが先導してトーメントにもナルビアにも見つからないルートを探し、ユキを背負った舞が後ろに続いている。

舞がスネグアの天幕で時間を稼いでいる間、サキはユキと再会し、脱出計画を話した。舞から自分たちはシックス・デイを誘い出すデコイにされていると聞かされても、脱出しなければ遅かれ早かれ破滅しかない。作戦を強行するしかなかった。
ユキは機械化はしているが、素直に話を聞いてくれた。そもそも今回はサキを守る為に自分からされた改造であり、サキを傷つける気持ちは全くないと、ユキはサキの胸に顔を埋めながら言った。

ユキは機械化された影響で立って行動することもできるが、エネルギー補給の目途がない今、舞に背負われている。

「んっ!」

「……舞?大丈夫?やっぱりスネグアにやられたのがまだ……」

「い、いえ、大丈夫です。ユキ様は私が背負うので、サキ様は探索にご専念ください」

「……分かったわ。でも辛くなったら、すぐに言ってね」

心配そうな顔をしたサキ。だが、だからこそ早く安全圏まで逃げなければならないと、再び前を向いて先導した。



「んふふ♡お姉ちゃんにバレないで良かったね、舞さん?」

サキが前に行ったタイミングで、ユキは舞の耳元で囁き……その耳穴に、舌を捻じ込んだ。

「んっ……!ふ、わぁ……!」

「ふふ♡頑張るなぁ♡でも、お姉ちゃんがピンチの特に舞さんが助けたらヤだからね?」




時は、前日の夜に巻き戻る。

ゆっくり休息できるのは今日が最後だからと、ユキは三人で寝ることを提案した。不埒な輩がサキを狙わないかと警戒した舞も、スネグアの作戦に自分たちが逃げることも組み込まれている以上、開戦前の今何かしてくることはないと思い直した。

サキの天幕で、三人川の字になって眠っていたが……舞に問題があった。ブーツがなければ体に刻まれた快楽が抑えられないことをサキにも伝えていないが故に、寝る時にブーツを脱がなければならないことだ。

今まではブーツを履いたまま寝るか、一人で喘ぎながら何とか眠りについていた舞。
サキに心配をかけたくない彼女は、自分の体のことを伝える気はない。ブーツがないからと言って喘いではいけない。

キメラに責められてから、ブーツがない時はより一層体が疼くようになった舞。それでもサキにもユキにも心配をかけない為、喘ぎ声を我慢して眠りについたのだが……

それは、突然訪れた。


「うぅん……ユキ様……?」

サキに抱きついて眠っていたはずのユキが、もぞもぞと身じろぎしてこちらに来た。何か伝えることでもあるのだろうかと、寝ぼけまなこを擦ったその時……ユキの唇が、舞の口を塞いでいた。

「んむぅ!?」

「んちゅ、はむぅ……んっ、は、はぁ、はぁんむ……」

熱い吐息を吐きながら、一心不乱に舞の口の中に舌を入れてディープキスを繰り返すユキ。
思わず相手がユキだというのも忘れて力を入れて抵抗しようとしたが……

839名無しさん:2021/02/28(日) 01:03:28 ID:???



「ん……大きい音、出さないで……お姉ちゃんが、起きちゃうよ……?」

一旦キスを止めてそっと耳元に口を近づけたユキに囁かれて、抵抗が止まる。

「やはり、改造の洗脳が……」

「んふ、そんなのどうでもいいじゃない……重要なのは、私がお姉ちゃんを守るのに、貴女が邪魔ってことだけ」

妖艶に微笑んだユキが、スルスルと舞の寝間着の隙間に手を差し込む。

「お世話になったから着いて来るなとは言わないけど、お姉ちゃんを守れないくらいにはなってもらわないと、ね?」

「ユキ様、いけ、ませ……」

「声を出さないで」

ゾッとするほど冷たい声で囁かれた瞬間……ユキは片手で舞の左胸の乳首をギュゥウウ!と摘まみ、片手で陰口に指を突き入れて掻き回す。さらに舌は舞の左耳をじっとりと舐める。


「んっ、〜〜〜〜!?」

キスをされていないのも、声を抑えなければいけない今となってはデメリットでしかない。ただでさえ疼いていた体に、13歳とは思えぬ手管で三点責めされる。

声を押し殺す為に、サキを起こさない為に、守る為に、必死に歯を食いしばる。

「んっ、ふっ、ふぅう……お姉ちゃんは、誰にも渡さない……!んちゅっ、れろ……お姉ちゃんは、ユキだけのもの……!はむっ、むぅ……お姉ちゃんを守れるのは、ユキだけ……!」

熱い吐息を耳に吹き掛け、じっとりと耳穴をねぶりながら、ユキは興奮気味に言う。やはり、前に機械化した時と同じ。洗脳され、それを隠している。サキを守りたいという想い自体は本物なのだからたちが悪い。

「あああンッッ!」

「もう、そんなに大声出したら、お姉ちゃんが起きちゃうよ?どうやって誤魔化すつもり?」

「は、あぁ……んっ!!や、やぁあ……!」

「私、別に逃げるのは止めないよ?舞さんが邪魔なだけで。でも私がこうだって知ったら、お姉ちゃんは逃げるの諦めちゃうかな。そうしたら、スネグアさんに使い潰されて、姉妹揃って玩具になっちゃうかも♡」

「だ、めぇええ……!」

「そーう?私は別にそれでも構わないけど……嫌なら、我慢しなきゃね?」

「やぁん、やはぁぅっ、あん、あんぅぅ!!」

大声を出さないように必死に我慢する舞。限界が来そうになっても、隣で安らかに眠るサキの顔を見て、決意を新たに耐える。だがそれを見てユキが嫉妬し、舞への責めをさらに激しくする。
最早何回イッたか分からない程、舞は下着どころか寝間着までぐしょ濡れにしていた。



結局、舞はそれ以降、一睡もできなかった。そして今も、おぶったユキが隙あらば耳を舐めて来る。
ブーツを履いていても走る電流に、とうとう抑えるのも限界が来たと悟る舞。

サキさえ無事なら、ユキが守ってくれるので問題ないが……もしもユキでも勝てないような相手と当たってしまった時は……その時は、命を捨ててでも盾になる、悲壮な覚悟を決めた。

840名無しさん:2021/03/06(土) 18:41:41 ID:???
リザたちを乗せた輸送機は半壊し、墜落は確実だった。
だが、攻撃を仕掛けてきた青い飛行体………アリスは、なおも輸送機に襲い掛かる。

「あの青いの、まだ追ってくるみたいだな。ここは隊長のお言葉に甘えるとしますか……お先に失礼」
「わわわわわ!待ってボーンドさん!パラシュートのつけ方、これで合ってるかな!?」
「やれやれ……面倒見てやれ、小僧」
「ええ、僕ですか!?……エミリアさん、ちょっと見せて下さい……」

ドガァァァンッ!!

「「わああああっ!?」」

「また来たっ……みんな、急いで降りて!私も後から行く!」
(接近してきたところを、テレポートで……迎え撃つ…!)

炎上する輸送機から、「トラディメント小隊」のメンバーが次々飛び出していく。

「………逃がしません」
飛行能力を持つ特殊スーツを身に着け、高速で迫りくるアリス。その周囲には、小さな光が無数に追随している。

……ズドドドドドッ!!

光の正体は、アリスの得意とする魔法針。
改造手術で魔力が大幅に強化された事で、以前とは比較にならないほどの数を同時に、自由自在に動かす事が可能。
そして超鋭敏になったアリスの感覚は、周囲の空間すべてを支配する。
羽虫一つでさえ見逃さず、戦闘機や巨龍すら撃墜する、恐るべき兵器へと進化を遂げていた。

「はーい、アリスちゃん。こちらミシェルよ。調子はどうかしら?」

「問題ありません……既に交戦状態です。無駄話は止めて、オペレートに専念して下さい」

「ふふふふ……これでも心配してるのよ?
ついさっき『改造手術』を終えたばかりなのに、いきなりの実戦ですもの。
本当はこのシステム、レイナちゃんかエリスちゃんに使ってもらう予定だったのよ?
アリスちゃんたら、元の体力や筋力は三人の中じゃ一番低かったのに、
あんまり可愛くおねだりしてくるもんだから、ついついサービスしすぎちゃったのよね……」

「頼んだ覚えは……ありません……再び接敵します。もう、切りますよ……!」

改造される前後のアリスの記憶は曖昧だ。
この状況を自ら望んだのか、強要されて拒めなかったのか、今のアリスにはもうわからない。

ただ一つ覚えているのは……リンネがナルビアを見限り、敵であるリゲルと愛を交わしていた、あの日の光景。
自分にはもう何も残っていない、という、絶望的な現実。

それを束の間でも忘れるためには、目の前の敵を殺して殺して殺して殺しまくるしか……

「はいは〜い。それじゃ頑張ってね〜♪
あ、最後に一つ忠告(ブツッ!!」

「……アリス・オルコットぉぉぉっ!!!」
「…………スピカ……!!」

ミシェルからの通信が突然途切れ、アリスの思考が中断される。

敵が、目の前に居た。
自分と同じ目をした少女が。

841名無しさん:2021/03/06(土) 18:45:14 ID:???
「たああああぁっっ!!」
「やぁぁぁぁぁぁぁ!!」
キンッ!!キンッ!!ガキンッ!!

テレポートで一瞬にして斬りかかってきたリザを、
アリスはスーツに内臓された接近戦用の電磁ブレードで迎え撃つ。

((強い………!!))
過酷な修行の経て、戦闘力に更なる磨きをかけたリザ。
強化手術を受け、近接戦闘力も格段に向上したアリス。
両者とも、まるで殺気をむき出しにした獣……否、眼前の敵を殺すだけの、殺人機械のような戦いぶりだった。

(仲間を守るため、時間稼ぎのため……?…違う。私はただ、戦いたかっただけ……一秒でも、一瞬でも早く…)

リザとアリスは、目が合った瞬間、少しだけ互いの事が分かった気がした。
過酷な運命の濁流に飲み込まれ、戦い、抗いながら、ここまで押し流されてきた事を。
……そして、お互い引き返す術は既にない事も。

(アリス……貴女を殺して、私は生き延びる。お姉ちゃんも、篠原唯も、私の敵は……トーメントの敵は、全員……)
(スピカ……貴女も何か……背負いきれないものを背負っている。しかし、今の私には関係ない事)

アリスは高速飛行で間合いを離し、魔法針の弾幕を張る。
対するリザは、針の弾幕をナイフで弾き返しながら、連続テレポートで再び間合いを詰めていく。

(ここで……)
(………決める!!)

激しい空中戦が繰り広げられ、目まぐるしく攻防が入れ替わった後。

リザはナイフから魔剣『シャドウブレード』に持ち替え、アリスもまた魔法針に魔力を込め、必殺の構えを取った。

その時。

「そこまでよ、リザちゃん……みんな無事に降下したわ。」
「スズ…!?」
いつの間にか、スズ・ユウヒが二人の近くに飛んできていた。
背中には個人用の飛行ユニットを背負っている。

「非常用ジェットパック?…ありえない。そんなもので、私たちに追いつけるはずが…」
「ふふふ……リザちゃんと私は、運命の赤い糸で結ばれてるからね♪」
「……誰だか知りませんが、邪魔をするなら、貴女も一緒に始末するまで」

「今のリザちゃんの、深海みたいな碧い眼はとっても素敵だけど……
ここで散るには、まだまだ早すぎる。わかるでしょ?」
「スズ……わかった。先走ってごめん」
「いいのよ、これくらい♪……だってリザちゃんを守るのが、私の生きがいだもの」

ズドンッ!!
……スズは不敵に笑い、ハンドガンを頭上に向けて放った。

「っぎあ!?」

閃光弾。周囲に激しい光と衝撃が走る。
常人より遥かに鋭敏な感覚を持つアリスには、格段に効いた。

「さ、リザちゃん。今のうちに、降下しましょ」
「う、うん。でも………」
リザは飛び出すとき、パラシュートを持って来なかった。
スズの飛行ユニットも、二人で飛べるほどのパワーはないし、何より燃料がもう切れかかっている。

「大丈夫、そこも計算済みよ。……この下は、ちょうど湖があるの」
「え……でも、下が湖だとしても、この高さじゃ……!?」

慌てるリザの身体を、スズはゆっくりと優しく抱きしめる。
リザの中で、かすかな記憶がよぎった。
前にもこうして、誰かに守られた事があった……遠い遠い、昔の事のような気がする。

「大丈夫。きっと……母なる海が守ってくれるわ。湖だけど」
「スズ……!?」

………ザバンッ!!

微笑むスズの顔が一瞬、姉ミストと重なって見えた。
リザが何か言葉を紡ごうとしたその時。大きな水音と共に、視界は暗転した。

842名無しさん:2021/03/06(土) 18:47:58 ID:???
「あらら……通信切れちゃったわ。忠告してあげようと思ったのに。
改造手術したばかりで体がまだ慣れてないだろうから、体力や魔力の使い過ぎには注意しなさい、って……」

リザとアリスの空中戦が始まった頃。
ミシェルはアリスからの通信が一方的に切断されて困惑?していた。

「今のあの子じゃ、全力全開で戦えるのは、せいぜい10分か15分くらい。
困ったわねぇ、あんまり無理せず、早く帰ってきてくれるといいんだけどぉ〜♪」

「おやおや……いけないなぁ。
そんな大事な情報を本人に教えず、あろうことか『敵』に漏らしてしまうなんて」
「あらやだ、すっかり忘れてたわぁ。『昔の友達』との通信、入れっぱなしだったなんて♪」

しかもしかも、敵軍の司令官であるスネグアに、うっかり独り言を聴かれてしまっていたのである。

「フフフフ……ま、君の独り言という事にしておいてあげようか。
しかし、良いのかい?彼女は君の、お気に入りだったのでは?」

「ふふふふ……確かに。いっぱい弄ってデータも沢山とれて、もう十分満足したからね。
最後に、手土産として役に立ってもらうわ……私がトーメントに舞い戻るための、ね。
ああいう子、貴女も好きでしょ?スネグア司令官様」

「なるほど……『古い友人』だけあって、私の好みを心得てるね。
それじゃ、私も遠慮なく君の玩具で遊ばせてもらおうか。
継戦能力に乏しい相手には、飽和攻撃……ひたすら数で押すのが有効そうだ。

それにしても、分断されたウチの特殊部隊のメンバーも心配だなぁ。
ナルビアの軍勢に待ち伏せされて、各個撃破されていなければいいんだが……?」

「そうねえ。あの5人の降下ポイントは大体わかってるし、
私の『切り札』ちゃんに近づかれないうちに、始末しておかないと……」

適度に情報を分け合い、互いに貸し借りなし。
二人はサキとリンネがやっていた「協力者」に近い関係を保っていた。
だが、二人は本心から互いを信頼しているわけではない。
隙あらば相手を葬り去り、最終的に自分だけが利益を得ようと、水面下で互いに爪を研いでいるのである。

(切り札……ナルビア最強の生物兵器『メサイア』か。そいつも近いうちに、私の手中に収めてやる)
(スネグア……気の毒だけど、あんたの天下もそろそろ終わり。一度どん底を味わった私にはわかる。
……そろそろ貴女も、これまでのツケが回ってくる頃よ……フフフフ)


「シックスデイのアリス・オルコットが現れ、特殊部隊の乗った輸送機が撃墜されたとの報告が入った!
空戦部隊、総員出動!グズグズするな!!」

私室から戻ったスネグアは、鞭を振るって飛行型魔物兵の舞台に指令を送る。
その様子を、物陰から見つめる一匹のインプが居た。

(……王下十輝星「フォーマルハウト」、スネグア・『ミストレス』・シモンズ様か……
普段は男装してるけど、俺の目はごまかせねえ……あの尻は、間違いなく極上モノ……)

「………何をしている?貴様も空戦隊所属だろう、グズグズするな!」
「は、はい!かしこまりました!!」

(あー、なんとかしてあの雌犬を調教でもなんでもして、俺のものにしてぇ……
男装しようが所詮は女だってわからせてやりてぇ……
無理かなぁ、俺みてえな底辺魔物じゃ……なんかチャンスはねえかなぁ……)

高みから鞭を振るい、邪悪な魔物達を従えるスネグア。
下賤なモノたちからの視線など、意にも介さない。

ミシェル、ナルビア軍、魔物兵、王下十輝星、運命の戦士……
全ては、自分が成り上がるための単なる道具にすぎない。

そんな連中に自分が足元を掬われるなんて、夢にも考えていなかった。
……この時は、まだ。

843名無しさん:2021/03/06(土) 20:58:52 ID:???
「エミリアさん!足から着地してください!最後に気を抜いた時が一番怪我しやすいんですから!」

「あわわわわわ〜!!!」

四苦八苦しながらパラシュートを付けて飛ぶエミリアと、その近くでアドバイスを続けるカイト。

何とか無事に着地したエミリアは、弾けるような笑顔を続けて着地したカイトに向ける。

「ふぅ……ありがとうカイトくん!助かったよ!」

「ひぇっ、ち、近寄らないでくださいー!まだ業務上以外で近寄られると……」

「あ、そっか、女の子苦手なんだっけ……」

「と、とにかくこうなっては仕方ありません。各々メサイアを急襲し、破壊プログラムを打ち込むとしましょう」

エミリアのパラシュートが絡まったのを声だけのアドバイスで解いたり、無駄に離れて地図を確認したエミリアとカイト。

目的地へと向けて歩き出してしばらくすると……ポツポツと、雨が降り始めた。

「……雨?妙だな、この辺りだけ……」

「よぉ、はじめましてだな」

雨霧の中から声がし、エミリアとカイトは身構える。

「二人か、貧乏クジだな……まぁいい、まだまだインフレに置いてかれちゃいないって事を見せてやるぜ」

「何者だ……!」

「シックス・デイのダイ・ブヤヴェーナ。思う所はあるが、とりあえず今はうちの最終兵器を守ってる」

「シックス・デイか……早速一人釣れるとはありがたい!」

カイトは名刀『調水』を構える。雨水ではない水が剣を包み、戦闘態勢に入る。

「水の剣士か……アクアリウム好き?」

「戯言を……なに?」

だが、カイトの水の力を秘めた魔法剣は、ある程度の時間雨に触れると纏っていた水を霧散させてしまう。

「同僚がデバフの研究ばっかしてて、ちょっと俺も覚えてみたんだよ。アンチ・スキルマジック・レイン……略してASMRってんだ」

決してちょっとエッチな同人音声を聞いてる時に思い出したわけではない。

「ならば純粋な剣技で押し通るまで!」

「勇ましい真面目クンだな、でも隣……というには離れ過ぎてるな……とにかくそこの女の子は辛そうだぜ?」

「なに?」

先ほどから黙っているエミリアの方を見ると……滝のような汗を流しながら自分の体を抱きしめて、苦痛に呻いていた。

「く、っ、んぅ……!は、ぐぅう……!」

「ははん、つい最近回復魔法で無理矢理傷を治したな……俺のASMRで傷が開いたってわけだ」

ヴァイスとの戦いで付けられた傷を、回復魔法で回復させて無理矢理リザに付いてきたエミリア。
その強行軍のツケが、ここに来て巡ってきたのである。

「貝殻イメージの女の子を水責めってのもいいな……舞い踊れ水たち!」

三下なのか実は黒幕なのか分からないあの人みたいな掛け声を出すD。すると、シックス・デイの仲間を模した水の分身たちが現れる。

「初戦闘は無双したいだろ?しばらくソイツらと遊んでてくれ」

「しまっ……!」

離れていたのが仇となり、カイトとエミリアの間に素早く水の分身たちが立ち塞がる。その間にDは、とうとう蹲ってしまったエミリアに歩み寄る。

「楽しまなきゃ戦争なんてやってらんねぇし、悪く思うなよ」

844名無しさん:2021/03/13(土) 11:44:05 ID:???
「ぷるぷる……」」
「じゅるっ……」
「ざばざば……」
「ていっ!! はあっ!! ……くっ……し、しがみつくなっ……!!」

アリス、エリス、レイナ、そしてリンネの姿をした水人形が、カイトに襲い掛かる。
というより、一斉に抱き着いてくる。

「うっ……な、なんか適度にあったかくて、柔らかくて………こ、これは……!……や、止めてくれっ…!!」
必死に刀を振って抵抗するが、水の塊相手では斬っても突いてもまるで効果がない。

水流を操る『名刀 調水』の力を封じられた今のカイトが、
水人形達のぬるま湯おっぱい抱擁地獄から抜け出すことは難しかった。


「あの感じじゃ、真面目君は当分足止めだな。さてと……」

ブシュッ………じわっ……
「っく……う、うぅ……!!」

「雨の中しゃがみ込んで苦しんでる女の子ってのも、また乙なもんだ」
それに、白いワンピースの背中にブラ紐が濡れ透けて見えるのがたまらなく良い。
またロリコン扱いされてしまうから、レイナ達の前でこんな事言えないが……

エミリアの両脚にはヴァイスの凶刃によって刻まれた無数の傷が再び表れ、
その時の痛みと恐怖までもが心に蘇っていた。

「や、ば……立たな、きゃ………っく、あうっ……!」

逃げられないよう、抵抗できないよう、筋肉や腱を念入りに切り刻まれている。
立ち上がろうとしようものなら、激痛と共に大量の血が傷口から噴き出してしまう。
動けずにいるエミリアに、ダイがすぐそばまで迫っていた。

「……回復魔法は、言わば生命力の前借り。
借りる相手が神か悪魔か精霊かによって、細かい所はイロイロ違うが……
基本、借りた分は利子つけて返さなきゃならないもんだ。
だから、治ってすぐの時は、魔力そのものを封じられると、こういう事になっちまう」

エミリアたちの能力はASMRによって封じられているが、
もちろん仕掛けた側であるダイは、水を操る能力を自由に使える。

「しゅるるるる………」
「い、やっ………っ、こ、れはっ……!?」

周囲の水たまりが集まり、巨大な蛇へと姿を変え、エミリアの足に絡みついた!
「そんな身体で戦場にノコノコ出てきた、自分の迂闊さを呪うんだな……そらっ!」
「……ぎちぎちぎちぎちぎち!!」
「っぎ、いやあ"あ"あ"あ"あああぁぁっっ!!!」

845名無しさん:2021/03/13(土) 11:46:24 ID:???
水蛇は、その丸太のように太い身体で、エミリアの脚を力いっぱい締めあげる。
傷口からは新たな鮮血が絞り出され、更なる激痛、骨までも砕かれそうな程の圧力。
だが、水蛇の責めはこれだけでは終わらない。

巨大な鎌首が、エミリアの頭上でその顎を開いた。
そしてエミリアを頭から丸吞みにしようと、鎌首がゆっくりと降りてくる。

「っぐ、うぅ……や、めて……!!」
水蛇の口をおさえ、抵抗するエミリア。だが、腕力だけでは長く持ちこたえられそうにない。
「……こ、のっ………!!」
残った魔力を総動員して、爆炎魔法を発動しようとする。

「霊冥へと導く爆炎の魔神よ。我が声に耳を傾け賜え。浄化の炎、その聖火をいま召喚す…」
エミリアの青色の髪が、燃えるような赤へと変わった。

圧倒的な魔力によって、ASMRによる封印ごと、力づくで吹き飛ばす……
およそ作戦とも呼べない作戦だが、その力づくこそが最善、最適解だった。

ただし………

それもエミリアの魔力や体力が万全の状態だったら、の話である。

………ぽたり。
「ひゃんっ!?」
水蛇の舌先から、粘つく唾液が一滴、エミリアの額に垂れ落ちた。

「無駄だ……」

唾液の正体は、濃縮された高純度のASMR。
触れた途端、エミリアの魔力は霧散し、髪色は再び元の青色に戻ってしまう。

「ん、ぐっ……!!…だ、だったら……もう、一度……」
「『爆炎のスカーレット』……いくらアンタでも、そんなズタボロの状態じゃ、俺のASMRは破れん」

蛇に半分吞まれかけながら、再び魔法を詠唱しようとするが、
ダイが言う通り、今のエミリアにASMRの呪縛を跳ね返す事は不可能だった。

蛇の唾液が再びエミリアの髪を穢すと、
熾火のようだった暗赤色の髪が、凪いだ海のような青色へと戻ってしまい……

……どぷんっ!!
「……っが……ごぼっ…!!」

エミリアの頭は、そのまま水蛇に飲み込まれてしまった。
水蛇の口の中は、すなわち水中。呼吸ができないことに気付き、咄嗟に息を止めたエミリアだが。

「こっちも久しぶりの得物だからな。……ゆっくり、じっくり、溺れさせてやぜ」
ダイが、エミリアの肩を掴む。
そこにあるのは……ヴァイスによってつけられた、深い刃傷。

ギリギリギリッ……!
「……〜〜〜〜っ…!!!………ごぼごぼごぼごぼっ!!……!!」
激しい痛みに襲われ、エミリアはたまらず肺の空気を吐き出されてしまう。

「苦しんで苦しんで、苦しみ抜いて………底の底まで、沈んでいきな。
お友達も、後からそっちに送ってやるぜ」

水蛇に巻き付かれた手脚を、必死にばたつかせるエミリアだが、
抵抗は次第に弱まっていき、やがてその全身が水蛇に吞み込まれていった。

846名無しさん:2021/03/14(日) 20:50:14 ID:???
一方。エルマ、ルーア、オトは、
ナルビア軍の部隊と協力して前線基地の防衛に当たっていた。

「グワーーッ!!く、なんだこいつら、つえええ……!!」
「オラオラー!ルビ!そっちに行ったぞ!」
「おっけーオト!全員ボコボコにしてやんよぉー!!」

先陣を切ったのは、短めなポニーテールに体操服っぽい戦闘服、赤く輝く装甲が印象的な格闘機兵ルビエラ。
そしてヴェンデッタ小隊所属、琵琶を背負った音使いの討魔忍オト・タチバナである。

「地の文にも略された!くっそー、こうなったら……バーニング・エイトビート・キック!!」
「「「グワーーッ八つ当たり!!」」」

オトは琵琶をブンブン振り回し、楽器が壊れるとか全くお構いなしにゴブリン、オークなどの一般魔物兵を蹴散らしていく。
そしてルビエラは、討ち漏らした魔物達を炎をまとった跳び蹴りで次々となぎ倒す。
二人は初共闘とは思えない抜群の連携を見せ、同型の格闘機兵たちと共に敵陣深くへ攻め込んでいく。

「うおーー!待て待てこのやろー!!」
「くっ……おい、一旦引け!こいつらに後を追いかけさせて、他の連中と一緒に待ち伏せるぞ!!」
「ちょっと、オトちゃん!ちょっと奥まで突っ込みすぎじゃね!?
自重せい自重……って、聞こえてないのか、おーーい!!」

……だが、オトは耳が悪かった。過去に耳に大きなダメージを受けているためだ。
このため特に戦場のような喧しい環境では、相手の声を聞き取れないことが多々あった。


「仕方ない……救援に行ってくるわ。
エミリー、一緒に来て。ルーア達は援護射撃をお願い」
「了解」「です」
ヴェンデッタ小隊最年長、装着型人体強化マナ装甲によってどんな局面でも万能に戦う天才少女、エルマ・ミュラー。
そして、ツインテールに緑色の装甲、白スク水っぽい戦闘服が特徴で、
高い機動力とブレード型兵装による一撃離脱を得意とする、殺戮機兵エミリー。
この二人が、オト達の救助に向かった。

「どーせ、オトさんが一人で突っ込んだのでしょう。仕方ないですね……フレイムバースト!!」
「支援砲撃開始ー!です!」
ズドォォォォンッ!!
敵の包囲に魔法と砲弾の雨を降らせるのは、
ヴェンデッタ小隊最年少にして、攻撃・回復とも高レベルな魔法の使い手、ルーア・マリンスノー。
長距離砲を搭載したランドセル、青い装甲、戦闘状況をリアルタイムに映し出すメガネ型デバイス、セーラー服っぽい戦闘服など、
地獄の絶壁でも最も重装備かつ高火力な、砲撃機兵サフィーネ。

前線基地を守る第3機動部隊は、隊長であるシックス・デイのアリス・オルコットは不在ながらも、
この6人を始めとする多数の機兵部隊が協力して、敵の侵攻を食い止めていたが……

847名無しさん:2021/03/14(日) 20:51:46 ID:???
「ヒッヒッヒ……こんな所までノコノコ責めて来るとは馬鹿なやつ……琵琶女にロボ娘なんざ、スクラップにしてやるぜぇ!!」

「んっ?……なーんか、気が付いたら周りに味方がやけに少ないような。
ていうかここ、けっこう敵陣の奥深くなような……」

……オトとルビエラ、そして付いてきた機械兵部隊、総勢10体ほどは、敵陣の中で孤立してしまった。

「だから、さっきからそう言ってただろーが!」
「おいお〜いルビ子ー。気付いてたんならもっと早く言えよ!
おかしいと思ったら、まずは隊長に『ほーれんそう』だろーが!」
「だーれが隊長だ!オトのアホ!!」
「なにー!?アホとは何だアホとはー!」
「ていうかちゃんと聞こえてんじゃねーかボケ!」

周囲は敵魔物兵の大群。どうにか包囲を突破して、自陣に戻りたいところだが……

「グッヒッヒ……イキの良さそうな元気系ロリっ子ロボに」
「アホそうなガサツ女か」
「オレたちの歌で、徹底的にメス堕ちさせてやる…」
「「…ゲロ!!」」

【ワーフロッグ】
カエル型の獣人。高い跳躍力を生み出す強靭な脚、自在にのびる長い舌が特徴。
その鳴き声は強力な催眠&催淫音波で、今回の戦闘にあたりナルビアの機械兵にも効果を発揮するよう調整されている。


「あーー?なんだお前ら!見せもんじゃねーぞ、引っ込んでろ!」
「「「げろ♪げろ♪げろ♪げろ♪」」」

「バーニング・トルネード・キーッk………あ………あ、れ………?」

カエルたちが一斉に鳴きだすと、ルビエラを始め、戦闘機兵たちの動きが鈍くなっていく。


「おいっ!?どうした、ルビ子!」
(戦闘モード、強制終了………た、体内温度、急激に上昇中……い、いったいどうなってんだ……?)

「「「げろ♪げろ♪げろ♪げろ♪」」」
「さあ、ロリ機兵ちゃん達、こっちに来るゲロ……」
「ご主人様に、その幼い身体を使って、ご奉仕するゲロよ……!」

「はあー?何キメー事言ってんだロリコンクソガエルが!
そんなんするわけ……ってルビ子、どこ行くんだ!?」
「はい………ごほうし、します……
娼婦モード用プログラム、ダウンロード開始………」

「おい、ちょっと待てルビ子!どうしちまったんだよ!!」
「邪魔、するな……」
(!?……な、なんなんだ、これ……オト、たすけ………)

「おやぁ?一匹、聞き分けのない子がいるゲロね……」
「悪い子には、お仕置きが必要ゲロ……どうやらこいつ、人間のようゲロね」
「それなら、媚薬唾液入りの舌鞭連打でイチコロゲロ!!」

怪しい声に誘われるまま、ふらふらと歩いていく機兵たち。
果たしてオトは、カエル男達から仲間の危機を救うことは出来るのだろうか…

848名無しさん:2021/03/27(土) 21:35:36 ID:???
ガシャン! ガシャン!!

右腕武装解除……
左腕武装解除……
「ゲロゲロゲロ………そうだ、余計なものは全部脱ぎ去ってしまえ……ゲゲゲ」

背部バックパックパージ……
胸部メイン装甲パージ……
ガシャン! ガシャン!!

脚部装甲パージ……
腰部メイン装甲パージ……
ガシャン! ガシャン!!

全身を覆っていた大量の鉄塊を脱ぎ捨てながら、ルビエラはカエル男たちの方にふらふら歩み寄っていく。
残るは、体操着っぽい見た目のインナースーツと、その下は最低限の防護面積しかないサブ装甲のみとなった。

「ゲロゲロゲロ……その体操着も、さっさと脱いじまうゲロ」
「だ……、め………これ以上、は………!」

胸部インナースーツ、手動パージ……
「なんで、手が、勝手に………や、だぁっ………!!」
涙声になりながら必死に抵抗するルビエラだが、カエル男の声にどうしても逆らえない。

「やだ、やだ、止まってぇっ!!……どう、して……こんな事、したくないのにっ……」
「ゲロロロロッ!!ほれほれ、手伝ってやるゲロォッ!」
バリバリバリッ!!

……カエルの舌が、体操服の上着を、その下のブラ型サブ装甲ごと強引に剥ぎ取る。
「ゲヒヒヒヒ!!これでスッキリしたゲロ……どれさっそく味見を、べろべろべろぉっ……」
「ひ、や、あぁあぁあんっ!!」

「グヒヒヒヒヒ!!ほのかに染み出た冷却水の甘みが、また格別だゲロ!
それじゃ、お次は……下の装甲も頂くゲロよっ!!」
じゅるるる………じゅぽんっ!!
「ひ、待って、そこ、だけは………ふぁぁぁぁぁっ!?」

じゅぷっ!じゅぷっ!じゅぷっ!!
「待って、だめ、いやぁぁぁぁっ!」
じゅるじゅる……ぐちゅっ!!
「もうやめてぇぇぇっ!!」


「ルビ子っ!みんな!!……クソっ、どうなってんだ!」
他の機兵たちもカエル達の声に操られており、
カエルの舌に全身を舐めしゃぶられる者、醜い身体に抱き留められて甘い嬌声を上げさせられものなど、
周囲は惨憺たる有様になっていた。

カエル達は、機兵たちの管理者権限情報を自身の声紋に紛れ込ませていた。
もちろん、管理者情報はナルビア王国の最高機密。
スパイに情報を盗まれていたのか、あるいは内通者が流出させたのか……
いずれにせよこのままでは、機兵たちは皆、トーメント軍の思うままに蹂躙されてしまうだろう!

「ゲロゲロ、お前には効いてないゲロか?……っかしいゲロなぁ……俺らの歌は、人間にも効果あるはずゲロ?」
「くっ……なんだかよくわかんねーけど、よーするにお前らの仕業だな!さっさとルビ子たちを元に戻せ!!」
「まあいいや!残りの一人くらい、俺らでヤっちまおうぜ!!、全員で掛かれーー!!」
「くそっ……こっちの言う事なんて、聞く耳もたねーってか!!」

残ったオトにも、他の魔物達が一斉に襲い掛かった。
無数の攻撃を掻い潜り、なんとか元凶のカエル男に近づこうとするが……

「音の忍びを舐めんな!だりゃああああ!!」
「おーーっと!俺様を攻撃しようったって無駄ゲロ!
こっちには……人質が、いるゲロ!」
「きゃぁっ!!お、オトっ……!!」

(ギュルルルル!!)
「!?……ルビ子っ……しまっ……!!」

素早くルビエラを盾にしたカエル男。
攻撃の手を止めてしまったオトを、長い舌で瞬時に捕える。

「ゲロロ!一丁上がり……お前一人が何をしたところで、所詮は無駄な足搔きゲロ!
機兵どもに『ご主人様刷り込みプログラム』をインストールして、俺らのラブドールにしてやるゲロ!」

849名無しさん:2021/03/27(土) 21:40:50 ID:???
「こんのカエル野郎ぉぉ!ルビ子たちを放せっ!!」
「ゲロゲロ……そこは『ご主人様刷り込みプログラム』って何だ!って聞いてほしかったゲロ。
これをインストールすると、機兵の機能が停止して、再起動する……
そして、再起動後に初めて見たものをご主人様と認識して、永遠の忠誠を誓うんだゲロ!!」

カエル男の舌に捕らえられたオト。
必死に暴れるが、ゴムのように伸縮する舌を引きちぎる事はできず、逆に粘着質の唾液を全身に塗りこめられてしまう。

「てめえ!一体ルビ子たちに何する気だ!ていうかアタシも放せ!」
「な、なんか会話が微妙にかみ合ってないゲロ……まあいいか」
「それよりも、おい。ロボ子ちゃ〜ん?にプログラムを入れてやるから、データスロットの場所を教えるゲロ……!」

「だ、だめ……そんな、プログラムなんか……
 み、耳の後ろの、隠しスロット、に……い、入れられちゃったら、あたいは……」
「ゲロゲロ、なるほど耳の後ろかぁ……それじゃ教授から貰った、このクラゲ型マシンで、っと」

ぷすっ……ちくちくちく! チキチキチキチキチキ………
「や、なにこれ……ひゃうっ?!………んぅ、やぁ、ん………!!」

手のひらサイズの小さなクラゲが、発光する糸のような触手を無数に伸ばし、ルビエラの耳の隠しスロットを探し当てる。
教授が開発した『ご主人様刷り込みプログラム』はデータ量が大きいため、こうして「有線」でインストールを行うのだ!

<データアップロード中……25%>
チキチキチキチキチキ………
「や、ら……あたひ、の中に、………ふぁ♥、あああ♥♥、ぁぁぁぁ♥♥♥」
「なにか、はいって………や、ああんぅっ♥」
「ら、らめっ、うわがき、されて…………ひいぃぃぃんっ♥♥♥♥」

<データアップロード中……60%>
チキチキチキチキチキ………
「やっ♥♥あ♥♥♥♥あああっ♥♥♥」
「ひゃ、ふぅんっ♥♥♥」
「ルビ子ぉっっ!!くそぉ!!なんだかよくわかんねーけど、やめろぉぉ!!」
「グヒヒヒヒ……お仲間の機兵ちゃん達も、俺らの仲間にプログラムをインストールされてるゲロ。」
「インストールが終わったら、一斉再起動して……全員、俺らの下僕にしてやるゲロ!!」

<データアップロード中……99%>
チキチキチ………
「おいこらルビ子ぉ!!そんなクラゲみてーのに負けるんじゃねー!変態ガエルなんかぶっとばしちまえ!!」
「ん、ふぁ……オ…ト…♥♥…も、だ、め……」
「あたま、なか……かきかえられてぇぇ……♥♥♥」
「……ヘンに、なっちゃ……ぁぁぁぁっっ♥♥……」
「「「い、くぁぁぁぁぁあああああんんんっ♥♥♥♥」」」

「ルビ子ぉーーー!!」

<データアップロード完了……再起動を開始します>

「「「………………。」」」
「み、みんな…!?………死んだ……いや、気絶したのか……?」
「グヒヒッヒッヒ……これで、ロボ子ちゃん達が目を覚ましたら」
「俺らの虜ってわけだゲロ!」
がっくりと項垂れ、動かなくなったルビエラ達。
お姫様抱っこやら駅弁やら騎乗位やら、魔物達に好き勝手な体勢で拘束されていく。
中には、装甲剝き出しの股間に、早くもイボだらけの生殖器をねじ込まれている者もいる。
いずれも、目を覚ませば真っ先に魔物達の顔が目に入る体勢だ。


「畜生……お前ら、しっかりしろぉぉぉ!……」
「忍びちゃんもさっさと諦めて、そのおっぱいで俺らに奉仕するゲロ!」
「くっそぉ……こうなったら、アタシの歌で……目を覚まさせてやるぜえええ!!」
「あ、相変わらず話が嚙み合わないケロ!こいつ人の話聞いてないケロか!?」
カエルの舌に拘束され四苦八苦ながらも、オトは背負っていた琵琶をなんとか構え直し……

ジャカジャジャジャジャジャーーーーンッッ!!
「っしゃおらお前らぁあぁあああ!! アタシの歌を聴けぇぇぇえええ!!」
「ッゲロ!?な、なんだこの喧しい声はッッ!?」
周囲一帯に響き渡る大音量で歌い始めた!

850名無しさん:2021/03/27(土) 22:03:55 ID:???
「……!!!♪♪♪……♪♪!!!!!」
「……ましいゲロ!!………黙れゲロ!!」

(あ………)
(あの声、は………?)

再起動したルビエラ達が目を開けるより前に、真っ先に飛び込んできたのは……
激しく情熱的でひたすら喧しい、オトの歌声と琵琶の音だった。

ギュウゥウウイイイイイイン!!ベベベンベベン!!!
「カエルだろうが何だろうが♪♪!アタシの歌はとめられねーぜ!!♪♪
アタシゃミツルギのビワリスト〜!!!兄の形見の琵琶背負い〜!!♪♪仇探して西から東、っとくらぁあ♪♪」

「オト…ちゃん………?」
「そうさアタシはオト・タチバナ!!!ミツルギの音の忍び一族!!!未来の究極スーパーアイドル!!!
スズ・ユウヒなんて目じゃねーぜッ!!………って、おお、ルビ子、それに他のみんなも、目ぇ覚めたか!!」

………あまりの大音量に、魔物達もオトを止めるどころか近づく事さえできず。
いつしか、周囲の魔物達……そして再起動から目覚めた機兵達、全員の視線がオトに向けられていた。

「う………うん。目、覚めた」
「っしゃー!んじゃ、こっから反撃だぜ!みんな、遠慮はいらねえ!魔物どもに一発ブチかましてやれ!」
「げ、ゲロロロッ!?」
「ま、まさか、あの忍び女を見たせいで、制御権が……!!」
「了解……ファイナルバーニングモード発動承認」
「敵を殲滅する」
「殲滅する」
「する」

「「「ゲロロロロロォォォォォ!!!」」」

………こうして、最強モードを発動したルビエラ他十数体の機兵の活躍により
カエル男たちは徹底的にオーバーキルされ、オト達は辛くも敵陣から離脱したのであった。

851名無しさん:2021/03/28(日) 13:27:28 ID:???
……オトとルビエラ他機兵部隊はなんとか敵陣から後退し、救援に来たエルマ&エミリーと合流した。

「……ったくアンタは、余計な手間かけさせんじゃないの。ルーアちゃんも心配してたわよ」
「わりーわりー!なんか、カエルみてーなやつにルビエラ達が操られたみたいでさー!」

元はと言えばオトがルビエラの話を聞かず前線に突っ込み過ぎたせいなのだが、
本人はきれいさっぱり忘れているようだ。

「やっぱり……どうやら、機兵ちゃん達の情報が敵に洩れてるみたいね。
ワクチンプログラムを作ってあるから、ルビエラ達にインストールするわね」
「あー?よくわかんねーけど、ルビ子たちの事が敵にスパイされてたのかもな。
エルマ、メカに詳しいんだろ?どうにかできねーかな?」
「………はいはい。んじゃ機兵ちゃん達、こっち集まってー」

エルマは会話の噛み合わないオトをスルーしつつ、小型のメモリスティックを取り出す。
すると、ルビエラ達がワラワラと集まってきて……

「じゃ、このワクチンプログラムを一人ずつ入れてくから、私の所に並んで……」
「………やだー。オトママ、やってー」
「え?アタシが?」
「あたしもー」「あたしが先―」
「え?なんか幼児化してる?……しかも、オトに懐いちゃってる……?

ルビエラを始め、前線にいた機兵達は、オトの周りに集まってきゃいきゃい騒ぎ始めた。
前線で一体、何があったのか……
とにかく、また敵と遭遇する前に、さっさと機兵たちにワクチンを接種させなければならない。

「って言われてもなー。これ、どこに入れりゃいいんだ?」
「耳のうしろ……隠しスロット」
「え?何?この辺か?どれどれ」
「あんっ……♥♥……そこじゃなくてぇ、もっと、下ぁ……♥♥」

「ルビエラがおかしくなった…」
「……つーか、一体何したのよアンタ……」
オトにぎゅっとしがみ着いて、甘えた声を上げるルビエラ。

普段のルビエラを知るだけに、唖然とするエミリー。
エルマにも何か異常な事態が起きていることは一目瞭然だった。
ワクチンプログラムで、すっきりさっぱり元の状態に戻ればいいのだが。

……

「っしゃ、全員終わったー!」
「はー……見てるだけで疲れたわ。あたしが手伝おうとすると全力で拒否ってくるし……」
「ってことで、さっさと基地に引き上げよーぜ!腹も減ったし!」
「はいはい。もしもしルーアちゃん?これから帰還するわね……もしもし?」

ザザザザザ………ガー……
「エルマさ……早く、帰還……敵襲………剣士と、魔法少女が……きゃあっ!!」
ドガンッ!!ザァァァァァァ………

帰還報告のため、ルーア達の待つ前線基地に連絡するエルマ。
だが何かが爆発したような異音を最後に、通信は途切れてしまった……!

「こ、これ………ヤバいんじゃない!?早く戻らないと……!」

852名無しさん:2021/04/06(火) 00:45:40 ID:???
アリスの後を追う唯とサクラは、戦闘機の離発着所にやって来ていた。
なんでも、アリスはここの滑走路から出撃したらしい。

「兵士さん!アリス隊長は、どちらへ行かれましたか!?」
「えー?なんか、北東の方角からステルス機が奇襲してくるとかなんとか言って、飛んでったぜ?」
「レーダーにゃ何も映ってなかったのになー。なんで知ってたんだ?隊長は」
「え、じゃあ……隊長一人で出撃したんですか?」
「だ、大丈夫なんでしょうか……」

「さーねー。あのへんの空域は、トーメント領だしな。魔物兵がウジャウジャ飛んでるみてーだぜ?」
「……そ、それって……大変じゃないですか!皆さんは救援に行かないんですか!?」

「まー大丈夫なんじゃね?なんたってあの『シックス・デイ』のアリス・オルコット様だし(棒」
「『私一人で十分。足手まといは付いてこないでください』なーんて自信満々に言ってたしな〜」
「ったく、馬鹿にしてるよなー!お嬢ちゃん達も、クソ隊長なんかほっといて、俺らと遊ぼうぜぇ〜?」
「け、けっこうです!(うっ……酒臭い……)」

格納庫内には待機中の戦闘機が何機も並んでいるが、兵士たちの士気はかなり低い。
……そのは、アリスの態度にも原因があるらしかった。

「ヒヒヒ!いいじゃねえかよ。どーせシックスデイなんて、もうオワコンだし」
「いざとなりゃ、メサイアとかいう秘密兵器でトーメントなんてイチコロらしいからな」
「もう俺らが真面目に戦う必要なくね?それより俺らとイイことしようぜぇ〜?」
「そんな……ちょっと、放してください!いい加減に……きゃっ!?」

兵士たちはかなり泥酔しているようで、態度がかなりおかしくっていた。
慣れなれしく唯の肩を抱き、酒焼けした顔を近づけ、空いた方の手は、唯の太ももをいやらしく撫でまわす。
(こ……この人…!)

一応は味方同士。唯が強く反抗できないのをいいことに、兵士の手はスカートの中まで侵入し始め……
「やめて………それ以上やったら、容赦しませんよ…!」
「クックック……篠原唯ちゃんって言ったっけ?噂で聞いたことあるぜぇ。
アンタら『運命の戦士』には、それぞれ『致命的な弱点』があるってな。
唯ちゃんは確か……ここだろ?」

ぞわ、ぞわり………しゅるっ!
「な、何を言って……ひゃぅん!?」
兵士は慣れた手つきでするりと唯のショーツに指を滑りこませ、ピンポイントでクリトリスを探り当てた。

「や、あっ…!……そ……こ、は……っ!…」
いざとなったら兵士を投げ飛ばしてやろうと身構えていた唯だが、
その瞬間、頭の中が真っ白になり、全身の力が抜けてしまう。

くに、くに、くに……むにむにむにっ!
「や、めて……くださっ……あんっ…!!」
「ヒヒヒヒヒ……イイじゃねえかよ、唯ちゃぁ〜ん?」
「おいおい、お前らだけお楽しみってかぁ?」
「俺らも混ぜろや…けっけっけ」

そのまま身を預けるような恰好で兵士に抱きつかれ、さらに他の兵士たちも群がってきた。
乱暴にブラウスを引きちぎられ、胸を無遠慮に揉みしだかれる。
押し当てられた兵士の股間の、熱くて硬い感触が伝わってくる。

(ど……どうして……?クリトリス、弄られてるだけなのに……)
「ほらほら唯ちゃん、アーンしな〜www」
「おいしいおちんぽミルクだよ〜www」
(逆らえない……体が、言う事聞かないっ……!!……私、このままじゃ……!)

数人の兵士が我先にとズボンのチャックを下ろし、いきり立った剛直を眼前に突きつけてきた。
鼻を突くような青臭さに、嫌悪感しかないはずなのに、目を逸らす事が出来ない。
促されるまま、唯の口がゆっくりと開かれていく。黒々と反り返った兵士たちのペニスへと、舌が伸びていく……

だが、その時。

「……?………こ、れは……?」
唯は、足元に大量のつる草が生え、小さな花が無数に咲いているのに気付いた。

(ぼわんっ!)
「な、なんだこr………ふごっ」
「ぐごぉぉ……ぐごぉぉ……」
「ZZZ……ZZZ……」
そこから白い花粉が大量に舞い上がると、兵士たちはバタバタと倒れ、一斉に寝息を立て始める。

「ごめんなさい、助けるのが遅れちゃって。大丈夫、唯ちゃん?」
スリープフラワー……眠りの花の魔法を発動したサクラが、眠りこけた兵士たちをどかして唯を助け起こす。

「う、うん。ありがとうサクラちゃん……」
サクラに魔法で服を直してもらう唯。よく見ると、サクラにもわずかに着衣に乱れがあった。
恐らく同じように兵士たちに襲われたのだろう。

「だめだな、私。隊長なのに……もっとしっかりしなきゃ」
「気にしないで、唯ちゃん。
とにかくアリス隊長が向かった場所はわかったんだし、いそいで追いかけよう!」

思わぬトラブルに見舞われた唯達だったが、
アリスの援護に向かうため、北の空域を目指して飛び立つのだった。

853名無しさん:2021/04/11(日) 17:01:43 ID:???
ズドォォォンッ!!…ドガガガガガッ!!

「グワァァーーーァッ!!」
「ギヒアァァァ!!」
「こんな物ですか……他愛もない」

リザたちの乗っていたステルス機を撃墜したアリスは、
その後間髪入れず襲い掛かってきた飛行型魔物の大群を相手に、単独で交戦を続けていた。

大量の魔法針でインプ、ハーピー、ガーゴイルなど幾千もの魔物を瞬く間に屠りながら、
青い光の翼で風のように大空を舞う。
その姿は、さながら天使……いや。敵対する魔物達からすれば死神のように見えた事だろう。

「グキィッ!!スネグア様ァ!!あの青い奴、とんでもねえ強さです!!どうか撤退を!
このままじゃ、俺たち全滅しちまいますぜェェ!!」

「ふん……問題ないさ。お前達の代わりなどまだまだ無数に居る。
あの子を堕とすまで、退く事は許さん……わかったら、安心して逝くがいい」
(ビシッ!!)
「グキィッ!?そ、そんなぁ……!!」
撤退を進言する手下のガーゴイルを、にべなく一蹴するスネグア。

彼女からすれば、下級の魔物などいくら失おうと痛くも痒くもない。
そして、彼女の支配下にある魔物達は、その命令に背くことは出来ず、死力を尽くしてアリスを襲い続けた。

「たあああぁぁっっ!!」
ドスッ!! ザシュンッ!!
「「「「ギュギィィィイイイッ!!」」」」
アリスは一斉に飛び掛かってきたガーゴイル4〜5匹をかわしざま、電磁ブレードで斬って捨てていく。

「キシャァァァァッッ!!」
「!……こ、のっ……!!」
ズドオオオンッ!!

更に、真上から迫るハーピーの群れに、魔法針が射出された。
アリスの周囲を常に浮遊し、意のままに操り攻撃できる。いわばファンネル的な超兵器だが、その残弾も底を突きかけていた。

「はぁっ……はぁっ……」
(おか、しい……こいつら、倒しても倒しても、ぜんぜん怯まない……それに……)

死を恐れず襲ってくる魔物達。しかも戦っているうちに、アリスは少しずつ、敵陣深くへと誘導されていた。
恐らく偶然ではない。何者かが魔物達を操って、アリスを孤立させているのだ。
これだけの魔物を支配し、戦略的に操る狡知を持つ敵……心当たりが、一人いる。

(魔物を操る……魔獣使い、フォーマルハウト……)
<警告……残エネルギーが20%を下回っています。セーブモードに移行、スーツ出力低下……>

「!?……まずい、想定より早い……すぐに、離脱しないと……」
それだけではない。
当初ミシェルが懸念していた通り、アリスの「ブルークリスタル・スーツ」のエネルギーも残り少なくなっていた。
スーツの能力、特に飛行性能の低下は、そのままアリスの機動力、戦闘力の低下に直結する。

だが、そんなアリスの異変を察したのか、
周囲の魔物の数は、ますます数と勢いを増していき、じわじわとその包囲を狭めていった。

「……グロロオオオオオッ!!」
ドガッ!!
「っうあぁっ!?」

突如、死角から襲ってきたのは、大鷲の首と翼、ライオンの身体を持つ魔獣グリフォン。
巨体から繰り出された突進をまともに喰らい、アリスはゴムまりのごとく吹き飛ばされてしまう。

(し、まっ……今ので、片翼が……!!)
<警告!!……飛行ユニット破損 右メインスラスター出力45%低下……>

改造されて鋭敏になった全身が、衝撃と風圧と、凄まじいGによってかき混ぜられる。
アリスは軍人として鍛え抜いてきた精神力でなんとか意識をつなぎ留めながら、きりもみ回転で吹っ飛ぶ体を必死に制御する。

「ま、だ……私は……誇り高き、ナルビア軍人……この位でっ……!」
「グルァァアアアア!!」
「くっ……!!」
ザシュッ!!
追撃を仕掛けてきたグリフォンの喉笛を、アリスは自身の回転を利用して電磁ブレードで搔き切る。
計算や、軍人としての戦闘勘、ではない。……ほとんど偶然といってよかった。

854名無しさん:2021/04/11(日) 17:04:12 ID:???
「グエァァァァァァ!!!」
「ぜぇっ……ぜぇっ……たお、した……?」
(目が回って………頭、くらくらする……)
(一、体……これ、は………体に……力が、入らない……?)

<危険……残エネルギーが5%を下回っています。直ちに着陸し、エネルギーを……>

「キキキキッ……!」
「なっ……!?」
意識が朦朧とする中、危険を告げるアラームに一瞬気を取られたアリス。
だがその隙を突いて、いつの間にかインプが接近し、アリスの胸にしがみついていた。

「このっ……放し、なさいっ……!」
倒したグリフォンの背中に乗っていたのだろう。
すぐさま引きはがそうとするアリスだが、インプの様子は明らかに異常だった。
見た目からは信じられないような力でアリスの身体にしがみつき、しかしそれ以上は攻撃を仕掛けようとはしてこない。
そして身体の内側から、時計の秒針のような音が聞こえてくる……

カチ、カチ、カチ、カチ………
「まさか、これって………」
「キキッ!!」
ズドォォォンッ!!!
「っきゃああああああーーーっ!?」

………自爆。
スーツの胸部装甲が破壊され、アリスは悲鳴と共にまたも大きく吹き飛ばされた。

(だ……め………わたし、もう………)

今までシックス・デイの一員として戦いの中で生きてきたアリスにとって、
窮地に追い込まれた経験も数限りなくあった。しかし今回は……これまでとは決定的に違っていることがあった。

過酷な状況に追い込まれた時、アリスの心を支えてきたのは、
ナルビア軍人としての誇りと、姉妹であるエリス、そして仲間の存在。

だが、あの時。
自分の目の前で愛を確かめ合う、リンネとサキの姿を思い出してしまってから、アリスの中で何かが壊れてしまっていた。

(たたかえ、ない……何のために、頑張ればいいのか………もう、わからない……)

心の奥底にある、戦う理由、生への執着、大切なものが、ごっそりと抜け落ちて……
何のために、あの狂った女科学者にこの身を改造されたのか。
どうして、こんなに辛く苦しい思いをしてまで、戦い続けなければならないのか。
もうアリスには、わからなくなっていた。

<危険……危険……危険……メインスラスター、機能停止……>
「………。」


「ふふふふ……さあ、捕まえた♥」
「だいぶお疲れみたいねえ、かわいい子ウサギちゃん?」
「!……また、新手………」

スーツからエネルギーが失われ、落下するアリスの身体を受け止めたのは、
ダークシュライヒ……黒い翼を持つハーピーの変異種の群れだった。

「もうあと一押し、って所かしら……♥♥」
「ここからは、私達ダークシュライヒが」
「たぁっぷり、可愛がってあげるわ♥♥♥♥」

「だ、黙りなさいっ………お前たちごときに、シックス・デイの一員であるこの私が、やられるわけには………」

「ふふふふ……無理しちゃって。体が震えてるわよぉ?」
「クスクス……もう、まともに飛ぶ事すらできないんでしょう?」
「ほらほら、どうしたの〜?お姉さん達が、身体を支えてあげましょうか?フフフフ………」

ここは戦場。
戦えなくなった戦士、絶望に染まった少女の運命は……一つしかない。

855名無しさん:2021/04/11(日) 18:51:17 ID:???
「アリスが単独で緊急出撃しただと!?クソッ!」

エリス・オルコットはトーメント軍の遊撃に出ていたが、突然入ってきた連絡に顔を歪める。
エリスは結局、ミシェルの改造手術を受けなかった。決して怖気づいたわけではない。どんどん様子がおかしくなっていく妹を見て、自分だけはまともなまま支えなければならないと思っただけだ。

『……とにかく、アリスが敵ステルス機を破壊し、乗組員は散会した。降下ポイントはこっちで観測したから、エリスはそちらの撃破を頼む』

通信機からは落ち着き払った指示……リンネの声が響いている。直接的な戦闘力を持たないリンネはメサイアの近くに控えながら、観測員として戦場を見渡していた。

「リンネ……」

『急いだ方がいい。くれぐれも指示された以外のルートを通らないでくれよ。変な敵と遭遇されたら予定が崩れる』

妹がその身を犠牲にして尽くしているというのに、全く意に介した様子のないリンネ。彼に思うところはあるが、今は彼の言う通りそれどころではない。
『ほとんどのシックス・デイが遊撃に出ている間に奇襲があった』ことは気になるが……結果として各個撃破の機会ができたのだ。それにリンネや例のミシェルは独自の情報入手ルートがあるようだった。そういうツテは深入りしない方がいい。
違和感を無理矢理拭いながら、エリスはリンネに指定されたルート……『サキと遭遇する可能性の低いルート』を通って、降下した敵部隊の元へ向かっていく。
すると……

「やれやれ、パラシュートはホネが折れるぜ」

骨をカラカラと鳴らして伸びなのかよく分からない行動をしている、ボーンドがいた。

「おっ?もう来たのか、ナルビア人は仕事が早いねぇ」

「貴様がトーメントの特殊部隊か……スピカでないのは残念だが、スケルトン如き手早く片付けてやろう」

相手がいかにも弱そうなスケルトンだったのを見て、にわかに残念そうな顔をするエリス。明らかにシックス・デイが出張るような魔物ではない。

「怖い怖い、ナルビアの神風はスケールがトンでもないねぇ」

「ほう、私の異名を知っているのか」

「ああ、骨身に染みて知ってるよ……俺の知り合いがな」

ボーンドが取り出したのは、骨の棒。棍棒とも言えないような、ただの棒だった。

「ならば今日、貴様自身の身で味わうのだな!!」

勝負は一瞬だった。風を纏って急加速したエリスの槍が、一撃でボーンドを真っ二つにする。

「この程度か……特殊部隊といえど、全員が戦闘員というわけではなかったのか?とにかく、アリスの援護へ……」

「おいおい、連れないこと言うなよ。これっぽちじゃ足りねぇ。もっと骨抜きにしてくれよ」

だがさすがはスケルトンというべきか、上半身だけになったボーンドから下半身が生え、再び立ち上がる。

「ちっ、雑魚のくせにしぶとい……ならば今度は木端微塵にしてやろう」

そう言って再びボーンドに向けて槍を構えた瞬間……後ろから斬撃が飛んできた。

「ぐっ!?」

「あぁ?なんだ、あのクソガキ共じゃねぇじゃねぇか!」

咄嗟に回避して後ろを振り返ったエリスの目には……先ほどボーンドが復活した上半身ではなく、下半身から生えてきた別のボーンド……否、スケルトンがいた。

「分身……いや、別人か?まさか……!」

「そ。骨さえあればいくらでも復活できるけど……復活に使わない骨が勿体無いじゃん?だからそっちには別の人格を宿すってわけ」

それこそがボーンドの『不死の軍勢』。集めた魂さえあれば、自分一人を元手に無限の手下……それも戦闘経験に溢れた手下をスケルトンにして呼び出せる。

「おいボーンドォ!本当にクソリザとエミリアがここにいるんだろうなぁ!?」

「おう、さっきまで一緒にいたから間違いない」

「ケケッ……ならこんなガキさっさとぶっ殺して……俺はあの二人を犯しに行かせてもらうぜ!!」

「……少しばかり、厄介そうだな……!」

856名無しさん:2021/04/18(日) 12:37:48 ID:???
ガキンッ!! ザシュッ!! ギインッ!!

「くっ………きゃうっ!!………っああっ!!」
「ほらほら、どうしたの?もっと反撃していいのよぉ?」
「逃げ回ってばっかりじゃ、面白くないわ♥♥」

ハーピーの変異種『ダークシュライク』の毒爪が、四方八方から襲い掛かる。
既に魔法針は打ち尽くし、近接用の電磁ブレードで必死に応戦するアリスだが、
スーツのエネルギーも既に使い果たし、空中に浮かんでいるだけで精いっぱいだった。

ギンッ!!……ベキンッ!!

「!!ブレードが……‥!」
「フフフ……これで武器もなくなっちゃったわねえ」
「クスクス……そんなオモチャを気にしてる場合かしらぁ?ほら、隙ありぃ♥」
ザシュッ!!
「あうっ!!」
「背中もガラ空きよぉ♥」
ズバッ!!ザクッ!!ドスッ!!
「きゃ、あぐっ!んあああああっ!!」

……空中戦においてもっとも重要な「スピード」を失ったアリスは、もはや敵の的になるしかなかった。
敵の攻撃を辛うじて防御できても、他の敵に死角から襲われ、嵐のような連撃に晒される。
そして反撃に移る前に、はるか遠くへ飛び去ってしまう。
圧倒的なスピードとパワー、数の暴力の前に、
アリスは防戦一方、とすら呼べない程、ただひたすら一方的に弄ばれた。

「うっ………ぐ………あ、ぁっ…………!!」
全身に痛々しく刻まれた無数の爪痕が、どす黒く変色している。
ダークシュライクの爪は猛毒を持っており、普通の裂傷とは比較にならない激痛をもたらす。
しかも今のアリスは改造手術で全身の感覚を強化されており、痛覚も常人以上、必要以上に、敏感になってしまっていた。

「クスクスクス……あんまり虐めちゃ可哀そうよ。アリスちゃんてば、泣いちゃってるじゃない、ほらぁ♥」
べろお……
「ん、ぐっ!?」

黒翼の魔鳥がまた一羽、後ろからアリスにまとわりつき、激痛に思わず零れた涙の雫を長い舌で舐め取る。
ナメクジの這うような不快な感触に、思わずアリスは眉をひそめた。

「だ、め……放しなさっ……んぅ、あっ…!」
「ウェスト細くて羨ましいわぁ。でもちょこっと力入れたら折れちゃいそうねぇ。
バストもヒップも、小ぶりで可愛い……ふふふふ………」

ハーピーの変異種ダークシュライクは、高い知性と冷酷かつ変態淑女な性格を持つ。
獲物を生かさず殺さずしつこく嬲るねちっこさは全魔物中でも上位に属し、
同性のどこを弄ればどう気持ちよくなるか…といった性知識も、淫魔並に熟知している。

「やっ………あ、ん……♡」
「あ、アリスちゃんの弱いとこみーっけ♪ここ、気持ちよくて力抜けちゃうでしょぉ〜♥」
「アタシにも触らせて〜…ふふふ、ココなんて、手触りすべすべ〜♥」
「いっ……痛…あ、ん……♡」
「ほらほら、もっと可愛い鳴き声聞かせてちょうだい♥」

傷だらけの肢体を好き勝手に弄られるアリス。
時に敏感な性感帯を優しく愛撫され、時には傷口を爪で更に抉られ……
痛みと快感がないまぜの不思議な感覚に翻弄されていくうち、いつしか魔物に身を任せてしまっていた。

「も……やめ、て………は、な…して……あ、あぁっ……ま、た……♡」
「クスクスクス……アリスちゃんたら、すっかり大人しくなったわねぇ」
「これだけボロクソにいたぶられた相手に好き放題弄られて、えっちに感じちゃうなんて……」
「アリスちゃんって、ひょっとしなくてもドMなのかしら?フフフ……」

「もう。アンタたちばっかり独り占めなんてズルいわよ?私にもよこしなさい」
「んもう、まだ壊しちゃダメよ?……アリスちゃんはアタシたちみんなのオモチャなんだから」

すっかり脱力したアリスを、別のダークシュライクが無理矢理奪い取る。

「わかってるわ。それにこの後は、『ミストレス』様も……」
「そういう事。アタシ達の役目は、あくまで『味見』……まだまだ、お楽しみはこれからよん♥」
「はぁっ………はぁっ………(や、はり………こいつらの、主は……)」

857名無しさん:2021/04/18(日) 13:21:29 ID:???
「お次は私と、二人っきりで空中デートなんてどう?………こんなふうにっ!!」
「!?………っぐ、うああああああああ!!!」

アリスの脚をがっしりと掴んだまま、ダークシュライクは翼を畳んで一気に急降下した。


……ゴオオオオオオ!!

「っぐ……!!……う、………うああああああっ…………!!」

ダークシュライクに足を掴まれたアリスは、そのまま一緒に急降下させられ、
目の前が急速に暗くなっていく感覚に襲われる。

大きな下向きのGによって脳に血液が回らなくなり、視界が失われる、
いわゆる「ブラックアウト」と呼ばれる症状を起こしていた。

このまま続けば失神してしまう事もある、極めて危険な状態。
だが今のアリスには、反撃する力も、逃げる術も、残されていなかった。

「う……あ………殺……して………お願い、もう……終わらせて……」
「キャハハハハハ!!何言ってんのアリスちゃん♥♥お楽しみは、まだまだこれからよぉ〜?」
「……っ……ひ、いやああああああああああぁぁぁっっ!!!」

身体能力を強化され、常人よりはるかに死ににくくはなったが、
同時に感覚も超鋭敏に強化されたため、痛みや快感に極端に弱くなってしまっている。
そんなアリスは、魔物達にとってこれ以上ない格好の玩具であった。

「いっくわよぉ〜〜、アリスちゃんっ!」
「………ひぐっ!?………っあ………!!」
ダークシュライクは数秒掛けて急降下した後、地表スレスレの超低空飛行で飛ぶ。

ドガッ!!……ザリザリザリザリッ!! ガゴンッ!!
「んぎっ!! も、やめ………っぐぁぁあああああ!!………ひ……んぎゃうっ……!!」

荒れ果てた山肌の上を高速で引きずられていくうち、スーツの装甲や飛行ユニットなどは次々と砕かれ、削ぎ落とされていく。
その下に着ているのは、ハイレグレオタードと薄いタイツで形成されたインナースーツのみ。
それらも角ばった岩や砂利であっという間にボロボロにされ、アリスの全身に切り傷と擦り傷が刻みつけられていった。

ガリガリガリガリガリ…………ザシュッ!!
「っ………んぐあああああぁっ!!」

インナーに覆われていない背中が、尖った岩の先端に斬りつけられる。
白とブルーを基調としたインナースーツは、あっという間にボロボロに引き裂かれて赤い血と黒い泥に汚れていった。


「この辺りの岩山は、瘴気のおかげでイイ感じの岩とか枯れ木が沢山あって最高の眺めなのよね〜♥
………そぉ〜〜、れっっ!!」
「…ぅあ……ぐ……………ろ…し、て………」

そこから更に急上昇に転じ、今度はアリスの身体をはるか高空まで一気に引きずり上げる。
高低差はざっと、2000m以上はあるだろうか。
激痛と失血に加え、急激な気圧変化と激しすぎるGを受け、アリスの脳裏に明確な死のイメージが浮かび始める。

だがそれでも、ダークシュライク達の言うように、お楽しみは……
アリスにとっての地獄は、「まだまだこれから」だった。

858>>855から:2021/04/24(土) 12:01:31 ID:???
「くっ、テンペストカルネージ!」

エリスの一閃が走る度にスケルトンは真っ二つになる。しかしすぐに分裂したかのように復活し、また動くようになる。
ただ復活するだけのスケルトンならばエリスの相手にならないが、スケルトンに宿る魂は皆ボーンドが見繕ったそれなり以上の使い手。最初はボーンド一人だったのが、いつの間にか10人以上のスケルトンに囲まれていた。

「俺まで駆り出されるとは久しぶりだなあ!!」

「しかもガキだがいい女だ!骨じゃなかったらお楽しみもできたんだがなぁ!!」

死を恐れないスケルトンが左右から素早い動きで挟み込む。

「でぇえりゃぁぁ!!」

二本の槍を振るって左右のスケルトンを両断する。直後、斬り飛ばされた上半身に宿った新たな魂が、再生する前に上半身だけでエリスの顔に飛びかかる。

「しまっ……!?ぐぅうう!!」

咄嗟に長物の槍を捨てて手で素早く防御するが、大口を開けるスケルトンが目の前にいるのは気色が悪い。

「隙ありぃ!!」

「ごぼっ!?」

顔面を守っているうちに、他のスケルトンに腹部を思い切り蹴られて吹き飛ばされる。

「か、はっ……!」

衝撃で顔に張り付いていたスケルトンは外れたが、受け身も取れずに地面に転がり、蹲ってしまう。

「あ、おい!せっかく顔をグチャグチャに噛み千切ろうとしてたのに!」

「ばーか、防がれてたくせにナマ言うな」

「ま、この調子だとあと何体か仲間を増やせば倒せるだろ、その後で楽しむとしようぜ」

「さっき槍も捨てちまってたしな。素手じゃあ俺らには勝てんぜ?」

「……ちっ、悔しいが、私もアレに頼るしかないらしい」

武器を失ったエリスはゆっくりと立ち上がると、赤いブレスレットを掲げる。

『紅衣!!』

原理……はいい加減聞き飽きたと思うのでかっ飛ばし、水着のような露出のレオタード風のインナースーツと、アリスと色違いの赤い金属装甲がエリスの身を包む。
エリスのものと違い、背面にスラスターは付いていないが、その代わりに……

「テンペストカルネージ、キャストオン!」

近くに落ちていた二本の槍がひとりでに動き出し、エリスの背中にクロス状に収まったかと思えば、カシャンカシャンと変形して装甲に組み込まれていく。

「これが『レッドクリスタル・スーツ』……矜持を捨てて手に入れた、新たな力だ!」

腕部装甲からブレードを出現させ、迫ってきているスケルトンを切り刻む。これだけなら先ほどまでと同じだが……

「はぁああああああ!!!」

復活するより早く斬る。斬る。斬る。石ころ程度の大きさに分割され、放っておいたら大量のスケルトンが生まれるそれを……

「粉微塵にして、吹き飛ばす!!風雲紊乱!!!」

背面の排熱機構から凄まじい暴風が吹き荒び、復活する前の骨を戦場の遠くへ吹き飛ばした。

「げっ!?」

「多少手間だが、復活するスケルトン程度、こうすれば何の問題もない」

「お、おい、どうすんだよボーンドの大将?」

「まぁ落ち着け、変身時間は3分ってのがお約束だ。実際はそこまで短くないだろうが、長期戦にすりゃ勝てるのには変わらないさ」

「それは……どうかな!」

エネルギー効率は確かにまだ最適化されていないが、アリスのように飛行ユニットにエネルギーを割いていないエリスのスーツは、比較的長期戦にも耐えられる。

次から次に襲い来るスケルトンを粉微塵にし、風で吹き飛ばす。スーツの補助があれば、時間は少しかかるが造作もない。
気づけばあれだけいたスケルトンはボーンドと最初に呼び出したヴァイスだけになっていた。

「あーあー、やってくれちゃって……回収には骨が折れそうだぜ」

「ふん、その心配はない。確かに私ではお前を完全に消滅させるのは難しいが、粉微塵の状態で戦場に放り込めば流れ弾でいつかは死ねるだろう」

「粉微塵、ね……」

ボーンドは含みのある笑みを浮かべる。

「俺らの対策として粉微塵にするってのは正解だよ。でもさ、粉塵って勝手に体に入るよな。地下労働してたら肺がやられるもの粉塵のせいだし……お前みたいなお嬢さんには分からないか」

「……何が言いたい?」

苛立たしげに吐き捨てるエリスに対し、ボーンドは表情のない骨でも分かるくらいに口を広げて笑い……




「お前さ……吸い込んだな?」

直後……エリスの体内で、何かが急激に膨れ上がった。

859名無しさん:2021/04/25(日) 15:57:10 ID:???
「……そろそろ頃合のようだね。ご苦労様、シュライク達」

「ふふふ……ようこそおいで下さいました、ミストレス」
「下ごしらえは、万事整えて御座いますわ。あとは煮るなり焼くなり、存分に……」

「やれやれ……。私の分を残してくれないのかと、こっちはヒヤヒヤしたよ」

その後、ダークシュライク達に何度も何度も「空中散歩」に付き合わされ、息も絶え絶えのアリス。

岩山の頂上に立つ枯れ木に拘束され、隠し持っていた武器も残らず取り上げられていた。
そして、目の前に姿を現したのは………

「………やはり……現れ、ましたか…………スネグア・『ミストレス』・シモンズ……!」

「久しぶりだね、アリス・オルコット……愛らしい私の仔ウサギちゃん。
そんな状態でも、まだ元気に喋れるとは驚いたよ。さすがミシェルが改造しただけの事はある」

ナルビア方面に展開するトーメント軍の総司令にして、魔獣を操る一族ミストレス家の現当主。
性格・趣向はいささか偏り気味で、幼い少女を愛玩用の奴隷として飼うのが趣味と噂されている。
思えば初めて遭遇した時から、スネグアはアリスやエリスを「別の意味で」狙っている気配があった。

「相変わらず、気色の悪い……!
おおかた私が戦闘不能になったと見て、姿を現したのでしょうけど、
甘く見たら、痛い目に遭いますよ……!!」

ニヤニヤと笑うスネグアに、嫌悪感をあらわにするアリス。
武器を失い、戦うどころか自力で立っている事すらままならない状態だが、
それでも弱みだけは見せまいと、スネグアを睨みつけた。

「ふふふ……怖い怖い。では、手っ取り早く要件を済ませるとしようか。
君の身体が、とあるマッドな女科学者に色々と改造されてしまった事は私も聞き及んでいる。
その影響で、君の遺伝子は今、非常に不安定な状態にある事もね。
自分でも、薄々わかっているだろう?」
「…………。」

スネグアの言う通り、アリスの身体はミシェルによって好き放題に弄りまくられた。
結果、たしかに筋力や耐久力は大幅に増大し、飛行ユニットでの高速戦闘も可能になった。
だが、その代償……というより、ミシェルが他にも色々と改造を施したことで、
アリスの身体に様々な「異変」が生じ、戦闘どころか日常生活にも重大な悪影響が及んでいる。

「そこで……この『薬』だ」
……ズブッ!!
「ひぐぁっ!?」

スネグアは笑みを浮かべながら、アリスの左肩に注射器を突き立て、毒々しい色の薬を打ちこむ。
「重大な悪影響」のせいで、今のアリスは痛覚も常人の何倍も敏感。
注射器の小さな針がアリスの肩に刺さった瞬間、鉈で肩の骨ごと叩き割られたかのような激痛が走った。

「その薬は、君の不安定な遺伝子を安定させる作用がある。
きっと今の君にぴったりの姿に変わる事だろう……フフフフ」

「遺伝子改造薬……そんなものまで用意していたなんて……!」

スネグアの言う「とあるルート」が、改造を施した「マッドな女科学者」と同一である事はもはや明らか。

「遺伝子を安定」と言っても、まともな人間に戻るとは思えない。
恐らくこれは、「最後の仕上げ」。
かろうじて戦闘可能だった身体を、完全な愛玩用へと造り変えるための……

「初めから……計画通りだったという事ですか。私を捕らえて、その薬を打ちこむ所まで」
「そういう事さ。君の肉体を改造し、単独で出撃させる所から、ね」

「やはり……あの女科学者と、裏で通じていたんですね……!」
「まあ、そういう事だ。
つまりミシェルの奴は、君の身体を弄るだけ弄った挙句、敵であるこの私に売り渡した……
我が旧友ながら、まったくあれはワルい女だよ……くっくっく」

ミシェルの技術を利用して力を得るつもりでいたアリス。
だが実際は、手のひらで良いように転がされていただけだった事を思い知らされる。

「もっとも、二重スパイや裏切りなんて、良くある話だ。
君の知り合いにも居るんじゃないかな?そういう手合いが……」

………ドクンッ!!
「……許しません……あなた達は、絶対に……っ、ぐあっ!?」

体中が熱い。
全身の細胞が悲鳴を上げながら溶け落ち、全く別の存在に造り変えられていくのを感じた。
傷口が、淡く発光し始め、そして……

アリスの頭の上に、ウサギのような長い耳が生える。
お尻の上には、白くて短いふさふさの尻尾も。

「……君のような純真な子供が、大人の世界の醜い騙し合いに関わってくるのが、そもそも間違いだったのさ。
安心したまえ。これからはこの私が、たっぷりと君を可愛がってあげよう……ククク」

860名無しさん:2021/04/25(日) 16:02:06 ID:???
「はぁっ………はぁっ………はぁっ………」
「なるほど。戦闘服自体、この変化ありきのデザインだったわけか……
実に最低の発想だ。私の好みを心得ている」

アリスの頭上にウサギのような長い耳、お尻には尻尾が生えた。
身に着けているレオタードスーツと相まって、まるでバニーガールのような姿になっている。

「ふ、ざけないで………んっ、ああっ…!!」

自然界において、ウサギは天敵が多いため、生き残るために常に生殖行為が可能……つまり、一年中が発情期。
故に古来よりウサギは「性」のシンボルとして捉えられてきた。
獣人化した事で、そんなウサギの特徴が、より色濃くアリスの身体に現れる。

全身に受けた傷の痛み、目の前に現れた恐るべき「天敵」。
己の生命に危険が迫るその感覚が、体中の性感を昂らせてしまう。

「気持ちよくてたまらないだろう?
ウサギ型の獣人、特に愛玩用に調整された品種は、激しい苦痛を脳内で快楽に変換する。
もともと『ドM』の素質十分な君には、まさにぴったりだ」

「ふ……ふざけた、事を……私はぜったい、あなたの様な人には屈しません……!」

「フフフ……まだそんな反抗的な口を利けるなんて、さすがは『元』ナルビア王国軍シックスデイ。
まずは、その身体で存分に、ご主人様のムチの味を味わうがいい……!」

体中に湧き上がる疼きを抑え、それでもなおスネグアへの反抗心をむき出しにするアリス。
スネグアは配下の魔物達を下がらせると、愛用の鞭をピシリと地面に打ち付ける。

「はぁっ………はぁっ………」
(ほんの少しだけど、魔力が回復してる……これなら、魔法針一本くらいは……)

改造されたアリスの身体は、耐久力と回復力にだけは特化しているらしかった。
少し休んだおかげで、体力と魔力がわずかに戻っている。
針一本に至るまで奪われたが、こうした事態に備えて、針そのものを魔法で生成する術も扱える。

「たああああああぁっ!!」
瞬時に拘束を解き、スネグアの喉笛を狙い、一直線に飛び掛かるアリス。

「フフフ………そらっ!!」
その動きに合わせて、スネグアの鞭「リベリオンシャッター」が飛ぶ。

(スネグア……こいつは私を捕らえた後、間違いなくエリスも狙う……そうなる前に私が……!!)

一発受ける事は想定の内。例え刺し違えてでも、アリスはスネグアを倒す覚悟だった。
だが……

バシュッ!!ドガンッ!!ズガッ!!
「きゃあぐっ!?っぐあああああああ!!!」

魔獣使いの鞭「リベリオンシャッター」は、その名の通り魔獣の「反抗心をへし折る」。
一撃を受けた瞬間、頭が真っ白に、視界が真っ暗になり……アリスは体勢を崩して顔から地面に叩きつけられた。

「っぐあぅっ…!?………あ、っっぎ…いっ……!!」
まともな言葉を紡げなかった。激痛、というのも生温い。体中が痺れて、吐き気と眩暈すら催して、
自分が今立っているのか倒れているのか、敵がどの方向に居るのか、どちらが上か下かすらわからない。

「いっ……っぎ、あ……!!」
(な、っ……今、何が………!?)
左手の感覚が、全くない。右手で恐る恐る触れてみると、
左肩から背中にかけて、肉を抉られ、焼かれたような壮絶な傷跡が刻まれていた。

「おやおや、たったの一発で終わりかい?
案外だらしないな……もう一鞭くれてやるから、お腹もだしたまえ」
「ひぅ……や、っ……そん、…なっ………」
戦う事も立ち上がる事もできず、無様に地面を転げまわるアリス。
スネグアの声に従うかのように、気づけばお腹を上に向け、脚を無防備に広げた、服従のポーズを取らされてしまう。

「クックック……素直で良い子だ。思った通り、君には…愛玩奴隷の素質があったようだね!」
ビシュッ!!バシッ!!ドシュンッ!!ギュバッ!!

「あぎっ!! っぐあぅっ!! ふぎああああああああぁぁぁっっ!!」
右胸、左胸、お腹………打ち据えられるたびに、アリスの腰がビクンビクンと跳ね上がる。

「ひっ………が………は…………」
「クックック………上々の仕上がりだな。それっ!!」
「ひぎゅううううううんんんっっ!!?」

最後のトドメに、股間へ一撃。
アリスは白目を剝き、口から泡を吹き、そして股間からは薄いレモン色の小水を垂れ流しながら意識を失った。

861名無しさん:2021/05/04(火) 11:48:45 ID:???
「ふふふ……できればこのままずっと楽しんでいたいのだが……私には、まだやることがある」

スネグアはアリスの顎を持ち上げ、耳元でささやいた。
気絶したアリスがその声に反応できるはずもなく、その身はダークシュライクに預けられる。

「続きはトーメントに帰った後、じっくりと楽しむとしよう……
シュライク達、彼女をトーメントに『送って』さしあげなさい」
「かしこまりました、ミストレス……フフフフ」

二羽のシュライクに両脇を抱きかかえられ、アリスの身体は再び宙を舞った。

………………

(ふふふふ……イイのは見つかった?)
(ええ、あの山の頂上……高くてブッとくて、あれならバッチリだわ♥)

「…ぅ……ぁ……?…わた、し……きぜつ、して………」
「ふふふ……お目覚めね、アリスちゃん♥」
「これからアナタを、トーメントに送ってあげる所よん♥」

ダークシュライク達の囁き声で、意識を取り戻したアリス。
2羽のダークシュライクに手足を押さえつけられ、空中で逆さづりの体勢にされている。
眼下にはゼルタ山地の山々が広がっているのが見えた。飛行スーツを破壊された今のアリスでは、落ちたらひとたまりもない。

「トーメント?……このままイータブリックスまで飛んでいく気ですか……?」
「クスクス……そんな面倒なことしないわ」
「アリスちゃんは知ってる?この戦争で死んだ女の子は、王様の能力で蘇生されることになってるの」

王の蘇生能力「ロード・オブ・ロード(おお しんでしまうとはなさけない)」は、この世界全体に効果を及ぼすことが可能らしい。
今行われている世界大戦で命を落とした場合、王が選択した者……要するにかわいい女の子は……
王のいる場所、すなわちトーメント城に送られ、復活する事になる。

「!……それって、まさか……」
「察しがついたみたいね、アリスちゃん。」
「名残惜しいけど、そろそろフィナーレの時間、ってわけ♥…そ〜れっ!!」
「っぐえ!?」

首と手足を掴まれ、再びの急降下。
今度は下を向いたまま落とされているので、前髪が風圧であおられ、まともに目を開けていられない。
遊園地の絶叫マシーンなど、これと比べれば可愛いものだろう。
(くっ……このまま地面に叩きつけて……とどめを刺すつもり……?)

「ふふふ……もう少し右、かしら」
「オーケー。この位?ふふふ……さあアリスちゃん、見えてきたわよぉ♥」
「え…………、あ………あれ、まさか……」

眼下に見えるのは、荒れ果てた岩山。その頂上に立つ、一本の枯れ木。
どす黒く変色したその幹は、瘴気の影響で硬質化し、枝の先端は槍のように鋭く尖っていた。

「ふふふ……ぶっとくて鋭くて、ロケーションも最高ねぇ」
「でしょぉ〜?これならサイコーのオブジェになるわ♥」

ハーピーの変異種である、ダークシュライク。
彼女たちはモズと呼ばれる鳥の性質を持ち、無力化した獲物を木の枝等の鋭い物に突き刺す、『早贄』と呼ばれる行為を行う。

「ひっ……い、いやっ……やめて…それ、だけは……!!」
「だぁ〜め♥あの一番てっぺんの枝にぶっさして……」
「アリスちゃんをサイコーに芸術的な早贄にしてあげる♥」

アリスは半狂乱でじたばたともがくが、二人掛かりでがっちり押さえつけられて逃げられない。

「いやっ……はなして、おねがい、誰か、助けてっ……
エリス……レイナ……り…………い、やあああああああああぁぁっっ!!」

少女のが岩山にこだまする。だがその悲痛な声に、救いの手は間に合わず……

………ザシュッ!!
「ぐぶっ…!!………」

黒く鋭い枝槍がアリスのみぞおちへ突き刺さり、脊椎をかすめて背中まで貫通。
口から血の泡を吐き出し、全身をビクンビクンと痙攣させる。

「ぁ………っが………は………!!」

常人なら間違いなく致命傷だろう。
だが邪悪な改造が施されたアリスの身体は、ここまでされてもなお、彼女の魂に安らぎと解放を与えようとしなかった。

862名無しさん:2021/05/04(火) 12:34:10 ID:???
「げぼっ……が、あぁっ………!!」
鋭い木の枝に串刺しにされ、アリスは小さな体をビクビクと震わせる。

「あはははは!ぴくぴくしちゃって、可愛い〜♥」
「こんなになってもまだ生きてるなんて、アリスちゃんてば本格的に人間やめちゃってるわね♥
でも、周りをごらんなさい……」

「グゲゲゲッ!」「ハヤク、クワセロォォ!!」

「インプやガーゴイルちゃん達も、もう我慢の限界」
「生きながら肉を食いちぎられて、上も下も後ろも犯されて……」
「最高に気持ちよくなりながら、確実に逝けるわね♥」

「そ………んな、の………」

「もちろん、これで終わりじゃないわよ。
なにしろトーメントに帰ったら、ミストレス様に毎日たっぷり可愛がってもらえるんだから……」
「ドMなメスウサギのアリスちゃんには、きっと最高の環境よねぇ……フフフ」

「い………い、や………!」

「さあ、みんないらっしゃい………食事の時間よ!!」
「「グゲェァアアアアアアア!!!」」
絶望に沈む少女の悲鳴は、魔物達の嵐のような咆哮にかき消された。
無数の魔物が爪と牙を剥き、早贄にされたアリスに一斉に群がる………

(ぼふん!!)
「「!?」」

……だが、その時。

アリスが串刺しにされている木に突然、無数の花が咲き、大量の花粉を撒き散らす。
そして、魔物達の只中に、二人の人影が、風のように飛び込んできた。

「っぷ、何これ……!?」
「一体何者っ……!?」

「神速・薙手刀!!たあああぁっ!」
アリスが突き刺さった枝を、唯が手刀の一閃で斬り落とす。
落ちてきたアリスの身体を、サクラが受け止める。

「……あ……なた、たちは……」
「アリスさん、しっかりしてください!!」
「サクラちゃん、全速離脱っ!!」

救援に駆け付けた唯とサクラの二人は、一瞬の早業でアリスを助け出すと、あっという間にその場を離脱した。

「はぁぁ!?……何よあいつら、アリスちゃんを攫ってくなんて…!」
「アリスちゃんを確実に殺さないと、ミストレス様がお怒りになるわ。追うわよ!!」

グォォォォォォォ……

「あ、あの黒いハーピー、追ってくる!?」
「アタシ達の得物を横取りするなんて、生意気な泥棒猫ちゃんね!!」
「こうなったらまとめて片付けて、ミストレス様に献上してあげるわ!!」

ダークシュライクの飛行能力は極めて高く、その速度は通常のハーピーとは比較にならない。
アリスを抱えながらホウキで逃げる唯達が、追いつかれるのは時間の問題……かと思われた。

「……大丈夫だよ、唯ちゃん。」
しかしサクラは慌てることなく、呪文を唱え始める。
すると、サクラのホウキの柄から枝が伸び、唯のホウキと合体していき……

「……私、逃げるのだけは得意中の得意だから」
「!?……サクラちゃん、これは……」

小型の飛空艇へと変わった。

サクラが最も得意とするのは、植物を操る花属性の魔法。
木と藁でできたホウキは、魔法の媒体としても最適であった。

「全力で逃げ切るよっ……フライングボート・ダブルジェット!!」
正しくはツインターボだ!

863>>858から:2021/05/06(木) 01:38:23 ID:???
「げほっ!?……ごほっ!!げほっ!!」

急に喉の奥に不快感を催し、エリスは咳き込む。
口を覆った手に、唾液に混じって黒い粉のような物が付着していた。
(これは………先ほど砕いた、骨の粉か…!?)

「砕いた骨の粉塵は、肺の中にちょっとでも入ったら、あっという間に増殖していく。
若いのに残念だったなあ、お嬢ちゃん……あんたもう終わりだよ」
「げほっ!!……げほっ……なん、だと……!?」

咳き込んでも咳き込んでも、不快感はどんどん増していく。
エリスが吐き出す咳は、黒い煙となってエリスの周りを漂った。

「つってもまあ、体の中でスケルトンになって内側から……なんて事にはならねえ。
骨の形に固まる前に、咳で体外に出されて、風で飛び散っちまうからな。
そ、こ、で………」

ボーンドは荷物の中から黒い小瓶を取り出し、エリスの足元に投げた。
(ガシャン! びちゃっ!!)
小瓶が割れて、黒いヘドロのような粘液が飛び散る。

「そいつは『万能武装スライム』。
使用者の思い通りの武器に変化する便利なモノなんだが、ちょっとしたイワク付きでな。
そいつを作ってた生産プラントが破壊されて、所長やってた男は、責任を問われて処分されちまった」

「っ……一体、何の、話を……げほっ!!げほっ!!げほっ!!」
激しく咳き込むエリス。吐き出した黒い煙がひとりでに動き、足元のヘドロに吸着されていく。

「なに。あんまりかわいそうなんで、俺ん所で引き取ることにした、ってだけだ。
スケルトンは粉微塵じゃあ大したことは出来ねえが、そのスライムに溶かしてやれば……」

「じゅぶっ……じゅぶぶぶぶ……こうして、スライムと融合して自在に動けるようになる、というわけです。
感謝していますよ、ボーンドさん。おかげでまた、いたいけな少女を痛めつけることが出来る……ククククッ!!」
黒いヘドロが寄り集まって、人の形に変わっていく。
骨の粉塵を吸収したことで、万能武装スライムに邪悪な意思が宿ったのだ!

「くっ……新手か!……テンペスト……っぐ、げほげほっ!?………こ、のっ……!」

眼前に現れた敵を、槍で薙ぎ払おうとするエリス。
だが、体内を蝕む骨の粉に、魔槍の力を阻害されてしまった。

ぐちゅっ……じゅぶぶぶっ!!
「クックック……無駄ですよ、そんな攻撃では……」
「なっ…は、放せっ!」
魔力の宿っていない物理攻撃では、スライムの身体を滅することは出来ない。
テンペスト・カルネージの穂先は、黒いスライムにずぶずぶと呑み込まれていくのみ。
槍を引き抜こうと力を込めるが、柄の半分ほどまでスライムが巻き付いてしまっている!

「おいおい……俺も残ってる事、忘れてんじゃねえか?お嬢ちゃんよお……」
ガキンッ!!
「っぐ!?」

……スライムから槍を取り戻そうと手間取っている間に、背後から近づいたヴァイスがエリスの脇腹をナイフで狙った。
だがレッドクリスタルスーツの装甲に阻まれ、逆にヴァイスのナイフが折れてしまう。

「はぁっ………はぁっ………うぐ…!……げほっ…ごほっ……うぐ、おえっ…!!」
なんとか槍を取り戻し、ヴァイスたちから距離を取ったエリス。
だが肺の不快感は更にひどくなり、咳はますます激しくなっていた。
まともに呼吸を整える事も出来ず、疲労が急速に蓄積していく。

「チッ……厄介な鎧だ。まるでカニの甲羅だぜ。引っぺがさねーと中身が食えねーってなぁ!」
「私の武装スライムなら破壊は可能かもしれません。
……しかし私自身は、武器の扱いは素人。骨の粉に肺を蝕まれているとはいえ、彼女に攻撃を当てるのは難しいでしょう。
そこで……」
「クックック……なるほど。どうやらお前と俺は、とことん相性がいいようだな、元所長さんよぉ?」

刻々と悪化していく状況に、焦りを感じるエリス。
その目の前で、ヴァイスのスケルトンと、クェールのスライムが、一つに合わさっていった。


「……さーてと。この場はあの二人に任して、俺は早い所、お仲間と合流するかね……」
エリスとヴァイスたちが戦っている一方、ボーンドは余裕綽々で離脱していた。

「まぁ、仲間っつっても……仮初の、だがな」

ボーンドは懐から辞書を取り出し、用済みとなったそれを投げ捨てる。
風でぱらぱらとページがめくられ、しおり代わりに折り目が付けられたページで止まる。
そこには、仲間達の……小隊の名前の元となった単語が記されていた。
tradimento… 裏切り 叛逆、と。


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