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リョナな長文リレー小説 第2話-2

863>>858から:2021/05/06(木) 01:38:23 ID:???
「げほっ!?……ごほっ!!げほっ!!」

急に喉の奥に不快感を催し、エリスは咳き込む。
口を覆った手に、唾液に混じって黒い粉のような物が付着していた。
(これは………先ほど砕いた、骨の粉か…!?)

「砕いた骨の粉塵は、肺の中にちょっとでも入ったら、あっという間に増殖していく。
若いのに残念だったなあ、お嬢ちゃん……あんたもう終わりだよ」
「げほっ!!……げほっ……なん、だと……!?」

咳き込んでも咳き込んでも、不快感はどんどん増していく。
エリスが吐き出す咳は、黒い煙となってエリスの周りを漂った。

「つってもまあ、体の中でスケルトンになって内側から……なんて事にはならねえ。
骨の形に固まる前に、咳で体外に出されて、風で飛び散っちまうからな。
そ、こ、で………」

ボーンドは荷物の中から黒い小瓶を取り出し、エリスの足元に投げた。
(ガシャン! びちゃっ!!)
小瓶が割れて、黒いヘドロのような粘液が飛び散る。

「そいつは『万能武装スライム』。
使用者の思い通りの武器に変化する便利なモノなんだが、ちょっとしたイワク付きでな。
そいつを作ってた生産プラントが破壊されて、所長やってた男は、責任を問われて処分されちまった」

「っ……一体、何の、話を……げほっ!!げほっ!!げほっ!!」
激しく咳き込むエリス。吐き出した黒い煙がひとりでに動き、足元のヘドロに吸着されていく。

「なに。あんまりかわいそうなんで、俺ん所で引き取ることにした、ってだけだ。
スケルトンは粉微塵じゃあ大したことは出来ねえが、そのスライムに溶かしてやれば……」

「じゅぶっ……じゅぶぶぶぶ……こうして、スライムと融合して自在に動けるようになる、というわけです。
感謝していますよ、ボーンドさん。おかげでまた、いたいけな少女を痛めつけることが出来る……ククククッ!!」
黒いヘドロが寄り集まって、人の形に変わっていく。
骨の粉塵を吸収したことで、万能武装スライムに邪悪な意思が宿ったのだ!

「くっ……新手か!……テンペスト……っぐ、げほげほっ!?………こ、のっ……!」

眼前に現れた敵を、槍で薙ぎ払おうとするエリス。
だが、体内を蝕む骨の粉に、魔槍の力を阻害されてしまった。

ぐちゅっ……じゅぶぶぶっ!!
「クックック……無駄ですよ、そんな攻撃では……」
「なっ…は、放せっ!」
魔力の宿っていない物理攻撃では、スライムの身体を滅することは出来ない。
テンペスト・カルネージの穂先は、黒いスライムにずぶずぶと呑み込まれていくのみ。
槍を引き抜こうと力を込めるが、柄の半分ほどまでスライムが巻き付いてしまっている!

「おいおい……俺も残ってる事、忘れてんじゃねえか?お嬢ちゃんよお……」
ガキンッ!!
「っぐ!?」

……スライムから槍を取り戻そうと手間取っている間に、背後から近づいたヴァイスがエリスの脇腹をナイフで狙った。
だがレッドクリスタルスーツの装甲に阻まれ、逆にヴァイスのナイフが折れてしまう。

「はぁっ………はぁっ………うぐ…!……げほっ…ごほっ……うぐ、おえっ…!!」
なんとか槍を取り戻し、ヴァイスたちから距離を取ったエリス。
だが肺の不快感は更にひどくなり、咳はますます激しくなっていた。
まともに呼吸を整える事も出来ず、疲労が急速に蓄積していく。

「チッ……厄介な鎧だ。まるでカニの甲羅だぜ。引っぺがさねーと中身が食えねーってなぁ!」
「私の武装スライムなら破壊は可能かもしれません。
……しかし私自身は、武器の扱いは素人。骨の粉に肺を蝕まれているとはいえ、彼女に攻撃を当てるのは難しいでしょう。
そこで……」
「クックック……なるほど。どうやらお前と俺は、とことん相性がいいようだな、元所長さんよぉ?」

刻々と悪化していく状況に、焦りを感じるエリス。
その目の前で、ヴァイスのスケルトンと、クェールのスライムが、一つに合わさっていった。


「……さーてと。この場はあの二人に任して、俺は早い所、お仲間と合流するかね……」
エリスとヴァイスたちが戦っている一方、ボーンドは余裕綽々で離脱していた。

「まぁ、仲間っつっても……仮初の、だがな」

ボーンドは懐から辞書を取り出し、用済みとなったそれを投げ捨てる。
風でぱらぱらとページがめくられ、しおり代わりに折り目が付けられたページで止まる。
そこには、仲間達の……小隊の名前の元となった単語が記されていた。
tradimento… 裏切り 叛逆、と。

864名無しさん:2021/05/09(日) 22:12:56 ID:???
スケルトンの骨に黒いスライムの肉体の怪人へと合体したヴァイスとクェールは、
右手を鉈、左手をチェーンソーに変化させて猛然と襲い掛かる。

「クックック……貴女のその赤い鎧、どれほどの強度なのか確かめてあげましょう」
ガキンッ!! ガキン!!

「はぁっ……はぁっ……ゲホッ…ゲホッ……こ、のぉっ……!」

すぐにでも撃退して逃げたボーンドを追いかけたいエリスだが、次第に防戦一方に追い込まれていく。
瘴気を纏った骨の粉がエリスの体内に大量に入り込んで、肺腑を冒され、呼吸を阻害され、体力を削り取られ、
その槍さばきは先ほどまでよりも明らかに鈍っていた。

ヴァイスの戦闘スタイルは攻撃一辺倒、防御をまったく考えない。
しかしそれが無限に再生可能なスケルトンの身体と見事なまでに嚙み合っている。

更にクェールの万能武装スライムによって、装備の差は縮まり、
エリスのアーマーでも攻撃を防ぎきれるか怪しくなってきた。

「クックック……そろそろ限界みてえだなぁ?『ナルビアの神風』ちゃんよぉ…!」
「それに、その鎧も。ナルビアの技術で作られただけあって、さすがに大した強度でしたが……」
ガキッ!!………ベキンッ!!
「し、まっ……!」

エリスの防御を掻い潜り、脇腹に鉈が直撃する。
鉈の刀身はへし折れたが、レッドクリスタルスーツにもわずかな亀裂が走った。

「装甲の弱い部分に集中攻撃すれば、この通りってわけだ……
ま、こっちの武器は折れようがいくらでも再生できるがな!」
「それに、スライムの身体は変幻自在。ほんの僅かな亀裂からでも………自由に中に入り込める」

……じゅるるるっ!!
「っ………!!」
スライムの一部がエリスに飛びついて、アーマーの中に侵入してきた。
スライムが直接肌に触れる不快感に、エリスはバイザーの奥で端正な顔を歪ませる。

「ヒヒッ!今度は肺だけじゃ済まねえぜ……前も後ろも上から下まで、ぐっちょぐちょに犯してやる!!」
「フフフフ……私としては、鎧を剝がして、無防備なお腹をボコボコに変色させてあげたいですねえ」

スケルトンに両腕を掴まれ、両脚はスライムに絡め取られ、動きを完全に封じられてしまった。
絶体絶命の危機に陥ったエリスに、反撃の手段は………

「……あれしか、ないか。……バーストモード、起動っ……!」
……残っている。たった一つだけ。

…………

<残念ねぇ〜、私の改造を受けてくれないなんて。
これじゃ、せっかくのスーツの性能を半分も引き出せないじゃない>

<まぁ今更オミットもできないから、機能だけは残しておくけど……
このモードだけは絶対に、使わないでね>

<……今のあなたが使ったら、命の保証はないわよ?フフフ……>

…………

ゴゴゴゴゴゴッ……

「ぐっ!?なんだ……!?」
「一体これは……アーマーが‥…!?」

スーツが赤く輝き、高熱の炎を発生させる。
二本の長槍テンペストカルネージがアーマーと合体して、炎を纏った一本の巨大な槍へと変形した。

……ジュウウウウウゥウゥゥッ……

「う、っぐ……熱………だがっ……アリスの受けただろう苦しみに比べれば、この程度……!」
激しい熱気が、肺の中の骨粉塵を焼き尽くす。
だがあまりに膨大な熱量は、使い手であるエリス自身をも呑み込みかねない勢いで燃え盛っていた。

「構う…ものかっ………全てを、焼き尽くせっ!!
……『クリムゾン・カルネージ』!!」

「「ぐわあああああぁっ!?」」

超高熱の炎を帯びた竜巻で、スライムとスケルトンが一瞬にして蒸発する。
活動限界を超えたレッドクリスタルスーツが、赤い光の粒子となって消えていく。
後に残ったのは、二本の槍を天高く掲げて立つ、エリスただ一人。

「はぁっ……はぁっ……こんな所で……倒れていられるか…!
早く、逃げたスケルトンを……いや、その前に……アリ、ス……」

一歩踏み出した瞬間、膝から崩れ落ちるエリス。
長槍を杖代わりになんとか立ち上がると、妹の名をうわごとの様に呟きながらその場を立ち去った。

865名無しさん:2021/05/13(木) 01:21:00 ID:???
「ふふっ、ようやく、ようやくアリスくんが我が手中に収まった……、従順になるまで躾けるのにどれだけかかるか……想像するだけでも楽しみだ……。さて次は…」

アリスを捕らえ、スネグアは更なる暗躍の前に一度拠点に戻ってきていた。

拠点は配下の魔物兵の中でも、選りすぐりの強個体数匹に守らせている。
各国の動きはスパイからの情報でほとんどを網羅しているが、万が一想定外の奇襲に遭う可能性も、ゼロではない。
そんな時のため、自分のいる拠点には自分の意のままに操れるキメラ兵や最上級の魔物兵を配備し、自分が逃げる時間を十分に確保するための対策を施していた。

「おかえりなさいませ。スネグア様。……お怪我はございませんでしたか?」
天幕に戻ると、中での世話を任せている魔物兵ーー先日のラミア人格のゾンビキメラが、珍しく話しかけてきた。

「?。ああ、当然だろう?私が行く時には、すでに戦いは終わっているのだからね。もっとも、戦闘が終わっていないところには行かない、というのが正しいわけだが……ククク。」
「そうでしたねぇ。貴方はいつも、配下や立場の弱いものに戦わせて、安全なところにいらっしゃる。自分で戦われることはありませんものね」

「……何が言いたい?」
「いえ、なんでもありませんわ。失礼いたしました」
急に話しかけてきたと思ったら、嫌味のようなことを言ってきた。
少し気を悪くしつつも、羽織っていたコートを脱がせながら自分の天幕の入り口をくぐる。
(何だ?今、背中を触られたような……?)

首筋や肩、太ももの付け根に感じた、かすかな違和感。
これ以上不快な言動をするようなら配置を変えようかなどと考えつつ、椅子に腰かけようとした次の瞬間。
視界がぐらついた。身体のバランスがうまく保てない。

急激に地面が近づいてくる。

「…………は?」

地面にぶつかる衝撃とともに視野が回り、周囲に転がったモノが視界に入ってくる。

……バラバラになった、自分の身体だった。
高貴な装いに包まれた胴と、すらりと細い手足。間違いなくスネグア自身の身体だが、手足と首が根本から分離され、まるで解体されたマネキンのように散乱している。

「は!?何が起きている……!?」

頭、胴、両手、両足。6つのパーツに分離されたようだった。
あまりに不可思議な事態。
血は出ていない。手足や身体を動かそうとするとその部位が動くが、パーツ同士の接続を失っているためその場でバタバタと無意味に跳ねるばかり。

「うふふ、上手くいったようねぇ。」

声がした方を見ると、ラミア人格のゾンビキメラが見下ろしていた。
「!!、貴様の仕業か……!!ふざけるな!!早く元に戻せ!許さんぞ貴様……」

咄嗟に腰にある魔獣殺しの鞭に手を回そうとして…

「…っ!!」
手を回した先には、腰がなかった。

「おお怖い怖い。今、鞭を取ろうとしたわね?これは危ないからもらっておくわ」
手が届かなかった腰から、鞭が抜き取られるのを感じた。
「なっ!?待て!返せ!返せぇっ!!」

自分が強大な魔物兵たちに対して一方的に強く出られる理由。それが全てというわけではなかったが、その理由の大半は今取り上げられてしまった鞭、リベリオンシャッターによる痛みと恐怖による支配であった。

魔物兵に対する絶対的な地位が、揺らぎはじめる。

「くっ……!」
悔しそうに歯をギリリと噛み締めて睨みつけてくるスネグアの頭の様子に、満足気に笑みを浮かべるラミア。

「んふふ、大人しくなっちゃって。これがないと強く出られないのかしら?」
「っ!!……貴様の目的はなんだ?……これは立派な反逆行為だ、タダでは済まされないぞ……!」

「あらあら今度は脅迫?心配いらないわ。この後行く当てはあるし。」
「なに……!?」
「目的はそうね、ちょっとした手土産と、貴女への復讐ってとこかしら。今まで散々コキ使ってくれたじゃない?だからその復讐よ。ただそれだけ。ちょうどいいところに手を貸してくれる人がいたっていうのが大きいけど……、っとまあこれは貴女に話すことではないわね」

「ちぃっ…!!」
(どこの差金だ?こんな情報は入っていない……。ナルビアか?ミシェルが何かしたのか?ミツルギか…あるいは他の勢力…?)

「ちなみに外に助けを求めても無駄よ?今ここに残ってる魔物兵は皆仲間に引き入れてあるし、人間の戦力はみんな出払っているもの。あ、そうだ……もう入ってきていいわよ。」
「ンモォォォ……!待ち侘びたぞォォォォ。早速始めようぜェェェ。」
「グギギギ、あのスネグアが無様に地面に這いつくばってらぁ。これはもうブチ犯すしかねぇぜぇ……」
「いつかこんな日が来るんじゃねえかと思ってたぜぇ……。身体の隅まで堪能してやるぜぇ……ギヒヒヒ……」

ラミアが声をかけると、テントの中に図体の大きなオークと2匹のゴブリンがドカドカ入ってきた。

866名無しさん:2021/05/13(木) 01:22:07 ID:???
自分で選んだ選りすぐりの強個体とはいえ、ゴブリンとオーク。見た目は相変わらず醜悪で、異臭を放っているのも一般のものと変わらない。

「お前たち……いい加減にしろ……!貴様らの好きにはさせん!魔獣昇華……!」

汚らしい魔物3匹無遠慮にテントに侵入されたことにより不快感の限界値を越えたスネグアは、近くにいたモグラを魔獣化して魔物兵に立ち向かう。

ドォ゛ォ゛リュゥ゛ゥ゛ゥ゛……!!!!

両手に巨大なドリルを備え、強大なモンスターとなった大土竜が、4体の魔物兵に襲いかかる。が、

「……うふふ。リベリオンシャッター。」
バヂヂヂィィィィーーンッッ!!!

ドォ゛ォッッ!?!?ビクビクッ……キュゥゥゥゥンッ……

「なぁっ……!?そんなバカ…な……」
強力無比な鞭の一打によって動きが止まり、萎縮して全く攻撃する素振りを見せなくなった。

「じゃあなァァァ……!!!」
ドッゴォォォォン……!!

巨体オークが頭上から振り下ろした棍棒が大土竜の頭に直撃し、戦闘不能となった大土竜の魔獣化は解除された。

「グギギギ、やっぱりお前の鞭は強いなァ…!!おいおい、そんな泣きそうな顔すんなって」

「そんな……私の魔獣が……あ…あぁ……!ま、待て!くるな……!!……やめろ、触るなっ…!離せぇっ!!」

逃げることも戦うこともできず、床に転がされて叫ぶことしかできないみじめな男装の麗人に、薄ら笑いを浮かべた魔物兵たちの魔の手が伸びる。

「まあ、こんなにふるふる震えちゃって可愛い……。んふふ、まずはお洋服を脱ぎ脱ぎしましょうね」
スネグアの胴体の部分を持ち上げ、ぎゅっと抱きしめたラミアは、スネグアが纏うベストのボタンに指をかけていく。

「なぁ、あぁ…!?やめ……!!」

手際よくシャツのボタンもベルトもチャックも外されて、しゅるしゅると剥かれていくスネグア。手足のない身体には引っかかるものもなく、あっという間に下着姿にされてしまう。

「あら、見た目は男性的な服装をしてたけど、中はちゃんと女性らしいもの着てるじゃない。」
「〜〜〜ッ!!////」

ところどころレースがあしらわれた、花柄刺繍入りの濃紺のショーツとブラジャー。
それらがスレンダーなボディを、より引き締めて見せている。

「まだまだ若くて健康的な身体だわ……ラミアの時だったら食べちゃいたいくらい……。じゃ、これも脱ぎましょうね」
背中のラインをなぞられながら、滑らかにブラのホックが外され、それほど主張の大きくない胸があらわになった。ショーツにも手がかけられ、ついに一糸纏わぬ姿にされてしまう。
「っ、ううぅぅぅ……!」
ゴブリンたちの好色な目線に晒され、顔が熱くなるのを感じずにはいられなかった。

手足に残っていたシャツの袖やスラックスも、抵抗虚しくゴブリンとオークによって抜き取られ、生まれたままの姿にされてしまう。

「ギヒヒ、こういうのは初めてって顔してるなぁ?そりゃあお高く止まった貴族様には、こんな経験あるはずないってかぁ?今どんな気分でさぁ?」

カアァァッと赤く染まった顔は、ゴブリンの1人に髪を掴みあげられていた。
顔の前まで持ち上げられ、ゴブリンの吐息が頬を撫でる不快な感触に顔が歪む。

「ぐっ……ッ……黙れッ!!こんなことをして、許さん……断じて許さん!!あとで絶対に殺してやる……!!覚悟しておけよ……!!」

泣きそうに顔を歪ませながらも睨みつけ、精一杯の怒声を浴びせるスネグア。
そんな怒るスネグアに怯む様子もなく、ゴブリンはスネグアの顔を持ち変え、目を見開かせるように指で瞼を押し上げ、露出した眼球を舌でベロベロと舐め上げた。

べろり…ぬちゃぁ……

「ひぃっ!?やっ……!ッッぎゃああああああああぁ゛ぁ゛!!や“め“、や“め“ぇぇッ……!!」

「あぁーうまいなぁスネグアさんの目、ほどよいしょっぱさでニュルっとしてて舐め心地もいいし、ほんのりあったかい……。」

ぶちゅり…じゅるじゅる……

そのままゴブリンは目にディープキスをするように唇を沿わせ、まぶたを唇でどかしながら眼球を隅々まで舐め回す。
目の上をザラザラしたものが這い回る感触に、スネグアは鳥肌が止まらない。

「ひッ!?あ゛ッ!舐めるのっ、や゛ぁぁ……!!」

「これが今まで俺たちを見下してきた目だと思うとまたたまらなくウマい……!はぁ……身体が繋がってたらここまで濃密には舐められないよな……分解マジ最高だぜぇ……!」

ぶじゅるるうううううう……

「〜〜〜〜〜〜ッッ!!!」

ゴブリンが眼球にしゃぶりついたまま口をすぼませて吸い上げると、スネグアは言葉にならない悲鳴をあげた。

867名無しさん:2021/05/13(木) 01:23:09 ID:???
「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、……グギギギ、あいつも早速楽しんでやがるなァ。あ、やべ出る。う゛……!!」

もう1匹のゴブリンはスネグアの足でペニスを扱き、早速射精しながら様子を伺っていた。
もがく両足を膝立ちの形に揃えて自分の両足で抱えこみ、ふくらはぎの部分に腰を下ろして動きを封じ、ふとももに自分のペニスを挟んで腰を前後に揺する。

「ッいい加減、脚に挟むのやめ……!?ッくぅぅ……!!…や、やめろ……!!脚に…か、かけるな……!!」

ドロっとした生温かい精液がふとももにべったりと付着するたび、嫌悪感を示すように脚を大きく動かして抵抗しようとするのがおかしくて、ゴブリンは何度も精液を塗りたくっていった。

「……ふふ。あなた、乳首もクリも感度良好じゃない。これはこのあとが楽しみねえ」

ラミアはずっとスネグアの胴体を抱き抱えたまま、乳首とクリトリスをカリカリといじっている。

「ひぅ……んんっ……んあぁっ!」
「ブモモ……早くしろラミアゾンビィィィ……!」

スネグアの指を上から握りしめて自分の竿を無理やり触らせているオーク兵。
元上司に自分のチンポを素手で握らせるという直接的なセクハラがもたらす背徳感は並大抵のものではなかった。自分の竿のサイズと形を、スネグアに無理やり覚えさせていく。

「んもぅ、急かさないでよ、あとその呼び方やめて。……んん、ここをこういじって、と……これでよし。」

「はぁい、スネグアちゃんお待たせ、とっておきのプレゼントよ。あなた、いつも男装をしてるじゃない?だから、その装いにふさわしいような、立派な男性のシンボルをあげるわ」

「ぐぅぅ……何を言って……ッ!?なぁぁぁっ!?」
不穏なセリフを吐くラミアに陰核をギュッと握られた直後、クリトリスからじんわりと染み込むような違和感が下腹部へ抜けていく。
「これ、はぁッ……!?」
嫌な予感がして視線を向けると、そこにはスネグアの身体には似つかわしくない、たくましい男根がそそり立っていた。
「ふ、ふざけるなぁぁ……!!もどせ!!…もどひぐぐぅぅぅぅッ!?」

ラミアに軽く擦られただけの刺激で、抵抗の言葉を遮られてしまう。

「ふふ、感度抜群ね。クリをもとにして、さらに刺激に敏感になるように作ってあげたから、ちょっと触られただけでもたまらないでしょう?」
しゅりしゅりしゅりしゅり……
「あっ!ああっ!!ああああぁっ!!」
ラミアによって優しくしごかれ、ふたなりペニスがむくむくと大きくなっていく。
ひと擦りされるたびにビリビリとした刺激が襲い、スネグアは悶えることしかできない。

(あぁだめだ刺激が強すぎる……!!何かが込み上げてきているようなっ……!!これはぁぁぁッ……!!)

何かがペニスの奥で蓄積され、ドクドクと脈打っているのを感じる。

低俗な魔物どもに反逆され、あろうことか射精までさせられるなど、スネグアのプライドは絶対に許せなかった。
しゅこしゅこしこしこ……
「ん、ぎぎぎぃ……」
限界まで怒張したペニスを尻目に、なんとか歯を食いしばって堪える。
後ろの穴に何かが触れたのは、そんな時だった。
「はっ……!やめ、何して、い゛ぎい゛い゛っ!?」
「ブモモぉォォ……!これがスネグアのケツ……!!犯すぜェェ!!」
オークのデカマラが、スネグアの尻穴を貫く。カウパーでぬらぬらだった肉棒はすんなりと入り、オークはそのまま重量級の身体をスネグアの胴体に打ちつけるようにして、ストロークを開始した。

ずっちゅん、ずっちゅん、ずっちゅん、ずっちゅん……!!

「ひゃぎいいいぃぃ!!ひゃめ、ケツはひゃめろおおお…!お、奥を刺激するなっ!!……っぎぁぁぁあああああああああああああぁぁぁっ!!」

お尻の穴からの突き込みによってペニスの奥のドクドクしている部分を後ろから刺激され、ところてん射精に追い込まれていく。

「ちなみにねそのペニス、絶頂するたびにスネグアちゃんの人格とかをねぇ、精液にして吐き出しちゃうのよ。」

「は……?」

「つまりスネグアちゃんは、このおちんちんでイクたびに少しずつスネグアちゃんじゃなくなっちゃうの。何回もイっちゃったら、ただのお肉になっちゃう。一回出しちゃった精液はもう2度と元には戻らないから、肉人形になりたくなかったら頑張って我慢するのね」

ビクビク震える限界ペニスをしゅこしゅことしごき続けながら、淡々と重大な事実を告げる。

ごりゅ…!!
「あ゛がっ!?」

ビュルルルーーーーッ!

オークの突きにペニスの弱点を裏から擦りあげられた刺激がトドメとなった。
放出された精液が、放物線を描いて勢いよく飛んでいき、床や壁にこびりつく。
ドクン…!という虚脱感が全身を包む。
自身の不可逆な喪失を感じ、スネグアの顔が青ざめていく。

「あ……あ……嘘だ……私が……消えっ……!!そんなことがあってたまるか……!」

868名無しさん:2021/05/13(木) 01:24:57 ID:???
「ブモモ、元気なペニスだなぁぁぁ。射精するとき、ケツ穴も収縮して気持ちよかったぜぇ。」

オークがスネグアのペニスの裏を丁寧にしごくように自身のブツでスネグアの腸壁をこすりあげ、スネグアの射精を残りカスまで搾り取る。
残渣がどろりとこぼれ出るだけでも、自分の人格がこぼれ落ちていくのを感じてしまい必死に身体を捩るが、手足のない体では逃れられず、結局全部搾り取られてしまった。

「ブモ。収まったようだな、じゃあ再開だモォォォ……!」

射精が収まったのをみるや、再びペースをあげるオーク。
スネグアの身体を後ろから抱えあげて密着度を高め、ひと突きごとにスネグアの腸壁をゴリゴリと削っていく。

「や、ちょッ!?ま、まってくれ……!まだイッたばかりで!……ひぎぎぃぃぃぃッ!!」

これ以上はマズイと踏ん張るスネグアだが、オークに無防備なペニスの裏側を容赦なくしごきあげられ、たちまちフル勃起にさせられてしまう。
「あ゛ッ!あ゛ッ!あ゛ッ!や゛ッ!!あ゛ぁぁぁぁッ!!!」

「ブモ?ここを突くとケツの締め付けが強くなるなぁ。さてはお前、ここ弱いなぁ?」

「あ゛がっ!?やっ……!!そこゴリゴリッ……!やめッ!!そこダメだめらぁーーーーーッ!!!」

腰の当たり方を変えて、スネグアの腸の前側にある、無防備な弱点をピンポイントでえぐりぬく。
ごり、ごり、ごり、ごり……

「やだやだやだやだッ……!!イギたくな゛いッ……いやあああああああぁぁぁぁぁぁッ!!!」

ドビュルルルルーーーーッ!!
アナル責めだけで、スネグアは再び達してしまった。
ドクン……!!
さっきよりも大きな虚脱感がスネグアを襲う。何がなくなったか認識はできないが、大切なものを失ってしまっているという確信だけは確かにあり、スネグアの心を恐怖で震え上がらせる。

「あらあらスネグアちゃん、もう2回目出しちゃったの?しかも1回目よりもたくさん。このペースだと、たぶん次でもうスネグアちゃん、終わっちゃうわねぇ」

「なぁ゛……!?いやだ!!もういやだぁッ!!あがぁ!?い、1回休ませてくれ……!!そこ……!そこもうやめっ!!腰を一回止めてくれえぇぇぇ!!!」

イったばかりだというのに、オークは今度は動きを止めず、変わらずスネグアの弱いところを責め続ける。股間に勝手に生やされたペニスは絶倫で、またすぐにビキビキと硬くなってしまう。

「ギヒヒヒ……頑張って耐えてるなぁスネグアさんよぉ。次で終わりってんなら、とびっきりみじめな最期がいいよなぁ」

頭を弄んでいたゴブリンが、あと一歩というところで必死に踏ん張っているスネグアの顔をみて二チャリと笑うと、スネグアの頭を胴体の前まで持っていく。
そして怒張したふたなりペニスに、スネグアの唇をぶちゅりと押し当てた。

「ぐぅぅ……!き、きはまぁッ……!!ふ、ふざけうなぁっ……!!」

ペニスを頬張らせようとぐいぐい押してくるゴブリン。
スネグアは懸命に歯を食いしばりながらギュッと目をつぶり、屈辱に耐える。

869名無しさん:2021/05/13(木) 01:26:59 ID:???
そこへ、両足を持ったゴブリンも近づいてきた。

「グギギギ、口に咥えるのが嫌だからって、足まで動かして暴れるなよぉ。危ないだろぉ?」

両足首を持って、暴れる足先を左右からペニスに近づけていく。
目を固く閉じたスネグアは、目の前で起きようとしている悲劇に気づくことができなかった。

「はぎゅぅぅぅぅああああぁっ!?」

気づかずに足をばたつかせ続けたスネグアは、ついに自分の足先で、思い切りペニスを踏み潰してしまった。
自らの身体で自分の性感を刺激され、思わず口を開けて嬌声をあげてしまう。

ずぼぼぉ!

「んぶうううぅぅぅ…!!」

そのの隙に、口の奥深くまでペニスを咥えこまされてしまった。

「グギギギ、自分で自分のを咥えてらぁ。」
「ギヒヒヒ、無様だなぁスネグアさんよぉ。」

息苦しさと臭さを感じるが、それ以上に自分の舌と唇の感触に、腰が砕けそうになる。


「ブモ、今、腰を後ろに逃がそうとしたなぁぁ?楽なんてさせねぇ。逃がさんぞォォォォ」

ゴブリンたちの動向に注目し、一時的に尻穴へのストロークを緩めていたオーク兵。

スネグアの腰の動きの余裕のなさを感知し、すかさず抽挿を再開する。

「んゔぅぅぅ...!ゔっ!ゔゔぅっ!ゔああああぁぁぁ!!」


(このままではマズイのに、ダメなの、に…!舌が表面を這い回る感覚が、気持ち、いいっ…!舌の動きが制御できない…!マズい...!耐えろ、耐えろおぉぉ…お゛ほぉぉぉぉ!)

頭ではダメだと理解しているのに、気持ちよさのあまり自分の舌でふたなりペニスを舐めまわしてしまう。

後ろからはオークの突き上げが、前からは自分自身の口が。もう後がないスネグアをこれでもかと追い詰めていく。

「スネグアちゃん、そんなにビクビクしちゃって。もう我慢できないんでしょう?手伝ってあげるから、気持ちよくなりましょうねぇ」

ラミアがペニスにしゃぶりついたままの頭を前後に動かして、スネグアのペニスを優しく口でしごかせてあげる。

「ん゛ぅ“ぅ“!??う゛っう゛っうぅぅぅーーっ!!」

ビクビクビクビクッ!ビクッ!ビククッ!!

引かれる時は柔らかい唇や舌がペニスに吸い付き、押される時は口の中の凹凸がペニスを擦りつける。
喉奥まで達するほどに深く押し込まれると息ができなくなり、苦しくなった喉がギュムゥとカリ首を締め付け、たまらない刺激をペニスに与えていく。

セルフフェラの刺激が強すぎて、腰の震えが最高潮に達する。
限界が近い。

「こんなのはどうかしら?」

悪戯な笑みを浮かべたラミアが、スネグアの顔をペニスの根本まで押し込む。
気道が完全に詰まり、スネグアは目を見開いて呻く。
喉がスネグアのペニスを、最大限に締め付けていく。

そしてラミアは喉奥まで飲み込ませた状態のまま強く押し付け、ぎゅるりと90度ほど、スネグアの頭をゆっくりと回転させた。レモンを搾る時のように優しく、力強く、ひねる。

喉奥に締め付けられたままのペニスは、不意に与えられた回転運動に成す術もなく、全てを搾り取られた。


「う゛う゛!!ア゛、ヴアアアーーッッ!!!ッ!ッッ!イヤアアア゛ーーーーッ!!!」


ドビュルルルルルルルル!!!


「んふふ、よくできました……!スネグアちゃん、自分の人格の味はどう?」

「ごぼぼ……ごぽッ……ぉ」

スネグアの喉奥に吐き出された精液が、スネグアの首の断面から地面にボトボトと垂れ落ちる。
ペニスを咥えたままの口元からも溢れ、ダラダラとこぼれ落ちていく。

「もしかして。もうただのお肉になっちゃったのかしら。」

90度ほど傾いて己のペニスにしゃぶりつき、自分で自分の人格を根こそぎ搾り取ってしまった、“元”麗人の瞳は裏返り、もはや人としての風格は微塵も残っていなかった。

870名無しさん:2021/05/16(日) 15:27:53 ID:???
前線基地に敵が攻めてきたと知り、急ぎ帰還するオト&エルマ達。そこへ……

「たく、ツイてねーな。ちび子しかいない時に攻め込まれるなんて……早いとこ戻ろうぜ!」
「誰のせいでこうなったと思ってるのよ……
あ、ちょっと待って!?空の向こうから、何か飛んでくる……!?」

唯とサクラが、ホウキを合体変形させた「フライングボート・ダブルジェット」に乗って猛スピードで向かってくるのが見えた。

「くそっ…距離が縮まらない!……まさかアタシ達と互角のスピードなんて!」
「何としても捕まえるのよ!ミストレス様のお怒りに触れたらタダじゃ済まないわ!!」

「うううう、なかなか振り切れない……!!」
「サクラちゃん、前、前みて! 避けないとぶつかr……ってあれ、オトちゃん、エルマちゃん!?」
「うっわあぶね!!」

地面スレスレの低空飛行で突っ込んできた唯達を、慌てて避けるオト達。
そして、それを追ってきた2羽のダークシュライクは……

「……なんか魔物に追っかけられてるみてーだな」
「データベース検索……『ダークシュライク』ハーピー亜種の上級魔物。弱点は光属性……」
「ったく、次から次へと……。まあ要するに」

「……後ろの奴らは、倒しちゃっていいのよね?…ストロボフラッシュ!!」
「「ぐぁっ!?」」
「殺戮する……エメラルドブレード!!」
「「ギャアアアアアアアァッ!!」」

エルマの秘密兵器と、殺戮機兵エミリーのブレードで一刀両断された。


こうして偶然にも合流を果たした唯たちは、重傷のアリスを連れて前線基地へと帰還する。
しかし基地は既に攻撃を受けた後で、周囲は破壊された兵器や機械兵の残骸が散乱していた。

「うわ……荒らされ放題じゃない。ルーアちゃん達、無事かしら…!?」

基地の最奥、司令部へと急ぎ戻る唯達。そこで見たものは……

「うっ……」
「……降参してください。例え機械兵とは言え、できれば破壊したくはありません……」
「………で、できませんっ……私の任務は、この基地と、エミル様を防衛する事…!」
気絶したエミル、中破状態の砲撃機兵サフィーネと、トーメント軍と思われる魔法少女。
そして……

「ゆ……唯、さんっ……!」
敵の猛攻を受け、満身創痍のルーアと……

「何っ……唯……だと…!?」
漆黒の仮面を付け、右腕を魔物のように異形化させた、女剣士の姿だった。

871名無しさん:2021/05/29(土) 21:27:32 ID:???
今から十と五年と、少し前。
その赤ん坊は、トーメントから北方に位置する極寒の町ガラドで、この世に生を受けた。
燃えるような赤い瞳と、赤い髪が特徴的な、可愛らしい女の子だったという。

白い雪と氷に閉ざされたこの地方において、赤い色は暖かさ、幸福の象徴とされている。
エミリアと名付けられたその赤ん坊も、暖かい幸福に包まれ、健やかに育てられる……はずであった。
だが……


ゴォォォォ……パチパチッ!

「火事だぁぁあああああっ!!」
「エミリアが!まだ、中に子供がっ!!」

………エミリアが2歳の時、不幸な事故により母親はこの世を去った。
そして、エミリアが極めて強い、強すぎる魔力をその身に宿していることも明らかになる。

以来。父親は酒に溺れろくに働かなくなり、生き残った娘の事を露骨に避け始める。
ほどなくして、エミリアは近くの山村で暮らしていた祖父に引き取られ、育てられる事になった。

祖父は優しく、時に厳しく、深い愛情をもってエミリアに接した。
エミリアも、祖父の事が大好きだった。

彼はエミリアに、多くの事を教えた。
家事や生活にまつわる様々な事、言葉や文字の読み書き、山や自然にまつわる知識。
そして、強すぎる力の扱い方も。

「エミリア……お前の『力』は、お前の大切な人を守るための物。
だから、決して力を無暗にひけらかしたり、自分のために誰かを傷つけるような事をしてはいけないよ」
「うん、お爺ちゃん。……私、約束する」

「私の大切な人は、お爺ちゃんと、天国のお母さんと……今もガラドにいるはずの、お父さん」
そう嬉しそうに語るエミリアの笑顔を、祖父は優しい眼差しで見つめながらも、少し心を曇らせる。

エミリアの父親、祖父にとっては娘の婿であるその男は、
自分の所にエミリアを預けて以来、娘に顔を見せに来たことは一度も無い。
噂では以前にもまして酒や博打に溺れるようになり、借金まで抱えているという。

祖父もまた、最愛の娘を失った身。気持ちは判らなくもない……
だがこのままではエミリアの為にならないと、男の住居を訪ねては説得した。怒鳴りつけた事も一度や二度ではない。
だが男の態度が改まる事はなく、ついには住居を引き払い、行方をくらませてしまった。

(優しい子じゃの……あんな男でも、エミリアにはかけがえない父親、ということか)

神話や伝説に語られるレベルの超魔力など、平和な村で静かに暮らすには、無用の長物に過ぎない。
エミリアは祖父の言いつけを守り、魔力を制御する術を身に着け、普通の少女として幼少期を過ごした。
生まれつき真っ赤だった髪の色は、いつしか海を思わせる青い色へと変わっていた。

872名無しさん:2021/05/29(土) 21:29:41 ID:???
(お爺ちゃん……あのお姉さんたちは、悪いひとなの?)

……月日が流れ、8歳になったエミリアの家に、ある人物が訪ねてきた。
一人はきっちりとスーツを着こなした大人の女性、もう一人は、ブレザーを着た15〜6歳くらいの少女。

祖父はスーツの女性と大切な話をするから、とエミリアに外で遊んでくるよう言いつけ、
エミリアは、もう一人の少女に遊び相手になってもらった。

小さな村を一回りしたり、まだ夏になる前の川に入って冷たい水を掛け合ったり、
とっておきの場所にある秘密のお花畑に案内したり……
エミリアは初めて会った名前も知らないその少女と、無邪気に笑いあって楽しいひと時を過ごした。

夕方、家路につくと、祖父たちの話も一区切りついたようで、スーツの女性は「また来ます」と言い残し帰って行った。

「お姉ちゃん、またね」
「うん。……またね、エミリアちゃん」

ブレザーを泥だらけにした少女も、スーツの女性と一緒に、ホウキにまたがって飛び去って行った。

……だが家に入り、祖父は暗く沈んだ表情をしているのを見て、楽しかった気持ちは一瞬で吹き飛んでしまう。

「お爺ちゃん……あのお姉さんたちは、悪いひとなの?」
「そんな事はないよ……あの人たちはとても良い人たちだ。何も心配することはない……」

……後になってから、彼女たちは魔法王国ルミナスの魔法少女だった事を知る。
エミリアをスカウトするためにやってきた事も、容易に想像がついた。

(あの子は……とてつもなく強い力を持って生まれてきた。
出来るなら、このままあの子には普通の生活を送らせてあげたかった。

だが強い力は、強い運命…過酷な運命をも呼びよせる。それが避けられない事なのだとしたら……
せめて貴女の言うように、運命に呑まれぬよう、正しい使い方を身に着けるべきなのでしょう。
ですが………せめてもう少しだけ、この老人のわがままを……許していただけませんか)

(お気持ちは、よくわかります……最大限、貴方のお気持ちは尊重しましょう)
(感謝します……私に残された時間は、もう長くない。その時はエミリアの事、くれぐれもお願いします)

「……さあ、そろそろ夕ご飯の時間だ。急いで準備をせんとな……エミリア、手伝ってくれるか」
「うん、お爺ちゃん!」
そう言ってエミリアの頭を撫でた祖父は、いつもの優しい笑顔に戻っていた。

「また来る」と言っていたスーツの女性、一緒に遊んだライトグリーンの髪の少女……
だがエミリアが、後に彼女たちと再会する事はなかった。

873名無しさん:2021/05/29(土) 21:32:13 ID:???
更に2年後。

「お爺ちゃん、死んじゃいやだよ……!!お爺ちゃんがいなくなったら、私……!!」

「エミリアや……よくお聞き。
お前の力は、正しい使い方をすれば、きっとたくさんの人を幸せにすることが出来る。
これからは、たくさんの人と出会って、大切なものをたくさん見つけて、
いざというとき、それらを守れるように……」

「お爺ちゃん……いやああああああぁぁぁ!!」

……エミリアの祖父は、息を引き取った。
村の人たちによってささやかな葬儀が行われた後、エミリアは祖父の家に、一人ぼっちになった。

(最期にお爺ちゃんは言ってた……たくさんの人と出会って、大切な物を見つけて………
でも、どうすれば……)

あまり多くない祖父の遺品の整理を終え、途方に暮れるエミリア。
だがそんな彼女の前に現れたのは、祖父が期待していたのとは異なる人物だった。

「エミリア………ひっひ………大きくなったなぁ」
「!……お父、さん……?」

長い間行方をくらませていた父親。
共に過ごした記憶もほとんどなかった。にも関わらず、エミリアにはすぐにその男が実の父だと確信できた。
父親は、ローブを着た数人の男達と一緒だった。

「どうして……その人たちは、一体……?」
「お前を、迎えに来たんだ……この人たちは……お前の新しい仲間、家族だ」
「その通り。我々は、ガラド解放同盟……歓迎しますよ、同志エミリア」
「どうし……?」

「我々は、ガラドの街をトーメントの支配から解放するため」
「悪の王国トーメントから、我々の大切な故郷を守るために戦っています」
「ガラドの地に生れた貴女も、我々と志を同じくする『同志』」
「貴女の『力』が必要なのです。協力してもらえますね?」

「え………えっと、その………」
「怖がらなくていいんだよ、エミリア……一緒にガラドに帰ろう。これからはお父さんとずっと一緒だ。
それとも……こんな山奥の村で、ずっと一人ぼっちで暮らすつもりかい?……ひひっ」

祖父を失ったばかりの幼いエミリアが、父親と知らない大人に取り囲まれて、毅然とした判断を下せるはずもない。
これからずっと「一人ぼっち」で過ごすことになったら、と想像すると怖くて仕方がなかった。

こうしてエミリアは、言われるがままに「ガラド解放同盟」なる武装組織の戦闘員となる。
トーメント王国を震え上がらせた最凶の魔術師「爆炎のスカーレット」の誕生であった。

だがそれでも、エミリアの孤独は癒される事はなかった。

「ずっと一緒だ」と約束してくれた父親は、ガラド解放同盟から「用済み」と判断され、
その後まもなく「借金の形に娘を売り渡したクズ」に相応しい末路を辿ったという。

874名無しさん:2021/05/29(土) 21:35:53 ID:???
それから更に5年が経ち……

「爆炎のスカーレット」ことエミリアの名はトーメント王国、いや大陸中に轟き、
ガラドの街はエミリアが生まれた頃とは比べ物にならない程、急速な発達を遂げた。

エミリアは「トーメント王国の軍勢を魔法で焼き尽くすだけの簡単なお仕事」に従事し、
大切な生まれ故郷の街を守ることで、日々の生活を賄うには十分すぎるほどの「報酬」を得ていた。

その間、魔法王国ルミナスからの使者が街を訪れ、子供を攫い不当に労働させている事について抗議を申し入れていたが、
ガラドの外交官に冷たくあしらわれ、エミリアに直接会う事さえ叶わずにいた事を、エミリア本人は知らない。

「また『点数』がふえてる……この分だと、今年中には9桁突破しそうだね〜」
敵の軍勢を消し炭に変え、その合間に街の食堂で食事をとり、買い物をして、ついでに振り込まれた報酬の額を確認する。

いつもいつも変わらないルーチンワークの中で数少ない「変化」は、
天井知らずに増え続ける通帳に書かれた数字と……

「このワサビチョコ、なかなか強烈……ハバネロチョコも最高だし、最近のグロルチョコはアタリが多いなぁ」
過激化の一途をたどる、コンビニお菓子の新製品。

(これが……お爺ちゃんが言ってた、大切なものを守る、って事なのかな……)
「……あ、れ?………ワサビで……目が……」

「いったあぁあーーーーい!!!あー!血が出てるうう!アイナの小さく整った美しい手に…汚い血が…醜い血が…!」

その時。
虚空を見つめ、立ち尽くしているエミリアの耳に、甲高い悲鳴が飛び込んできた。

「あ……あれは」
見慣れない二人連れの少女、そのうちの一人が派手にすっ転んで大声で泣き叫んでいた。
転んだ一人は派手なピンク色の髪にピンク色の服の少女、もう一人は金髪と美しい碧眼の、黒い服を着た少女。
年はエミリアと同じか、やや下くらいだろうか………

「たいへん……!」
反射的に、エミリアは二人の元へと駆けだしていた。

「キミ大丈夫!?派手に転んでたけど…うわ!こんなに血が出てる!」

二人組の少女、アイナとリザとの出会いは、エミリアを更なる混沌の運命へと巻き込んでいった。
それと同時に、エミリアは少しずつ、自身の持つ力と過酷な運命に抗い、己の意志で道を選ぶ術を学んでいく事になる。

彼女の祖父が最期に望んだ形とは、やや違っていたのかも知れないが……

875名無しさん:2021/05/31(月) 00:59:21 ID:???
────そして、現在。

「げほっ!! ごぼっ!! がは……!!」
エミリアは水で作られた巨大な蛇に呑み込まれ、重傷を負った傷口から血を絞り出され、半ば意識を失っていた。
いわゆる走馬灯というやつか、幼い日の思い出やガラドでの暮らしなどが唐突に脳裏をよぎる。

(くる、しい……わたし、このまま溺れて……死んじゃう、の……?)
魔法で脱出しようにも、周囲はASMR…魔法や特殊能力を封じる特殊な雨水の塊。
エミリアの超魔力さえも押さえ込まれてしまっている。

「が、はっ……」
(だ、め……まだ、終われ……な……………)
チアノーゼ……長時間呼吸が阻害されたことで血中の二酸化炭素濃度が上昇し、身体が痙攣し始めた。
人が溺れて死に至るまでにはいくつかの段階が存在するが、意識を失う前のこの状態が最も苦しいとされている。

「おっと……まだ楽になるのは早いぜ。もう少し楽しませてくれよ」
そしてDの水責めは、この苦しい状態が最も長く続くよう調整されているのだ。

エミリアが意識を失いかけると、水蛇は体内の獲物を少しだけ呼吸させるため、小さな空気の泡が生み出す。
泡はゆっくりと水中を漂い、エミリアの口元へ向かう。

「…っ……!!」
だが、その時。エミリアの右手がわずかに動き、小さな気泡を指先で捕まえると……

……ズドォォォンッ!!
「うっぐぁっ!?」
凄まじい爆音と共に、水蛇が一瞬にして弾け飛んだ!!

「…………。」
「う、ぐっ……今…一体何が起きた……!?」

ほんの一瞬だけ、エミリアの指先が気泡に触れたことで、水の呪縛から解き放たれた。
その瞬間、無詠唱で攻撃魔法、ファイアボルトを発動。
初歩の火属性魔法だが、エミリアの魔力を以てすれば、触れていた水蛇を水蒸気爆発で一瞬にして吹き飛ばすほどの威力となる。

「これが、『爆炎のスカーレット』……噂通り、飛んでもねえバケモンだぜ。
だが残念だったな……水蛇を吹き飛ばしたところで、俺のASMRは………」

無傷とはいかないが、運良く直撃を避けたD。
再び水蛇を作り出し、エミリアを呑み込もうとする、が。

「そうは行かないっ!!」
「く!……真面目君、思ったより早かったじゃねえか……!」
水人形達を振り切ったカイトが、Dに接近し斬りかかる。
特殊能力抜きでも剣の腕前は確からしく、エミリアの爆発で負傷した今は分が悪い相手だった。

「こりゃそろそろ、潮時みてーだな……あばよ!」
「待てっ!逃げるか!」
「待てと言われて待つ馬鹿いるか、ってね。せいぜいエミリアちゃんと仲良くやんな、真面目君!」
「………くそっ」

Dは水を操って霧を発生させ、一目散に逃げていく。
追いかけたくてもエミリアを置いては行けず、カイトは逃げるDを黙って見送った。

(敵を逃がしたのはまずかったな。増援を呼ばれる前にここを離れないと……)
「エミリアさん……大丈夫ですか、しっかり……!」

あれだけ激しく降っていた雨はあっという間に止んだ。
いつの間にか空は茜色に染まり、夕闇が迫ろうとしている。

「エミリアさん!エミリアさんっ!?………これは……まずいな……」
「…………。」

呼びかけても、エミリアの意識が戻らない。顔色は青白く、呼吸も止まっている……
カイトも軍人のはしくれ、当然こういう時の処置方法は心得ている、のだが……

876名無しさん:2021/05/31(月) 01:06:27 ID:???
……それから、しばらく後。

「……あ、あれ……………わたし……………?」
エミリアは、かろうじて意識を取り戻した。

「エミリアさん。気が付いたんですね。よかった」
「……カイト君……」
体がぽかぽかと暖かい。いつの間にか掛けられていた毛布と、すぐ傍で赤々と燃えている焚火のお陰だろう。

徐々に意識がはっきりしてくると、気を失う前の状況が思い出されてきて、
溺れた自分をカイトが介抱し、敵が来ないよう見張っていてくれていた事を理解する。

「カイト君が、助けてくれたんだね……ありがとう」
「い、い、いいい、いえ、いいんです、この位。むしろ、その……申し訳ない、と言いますか……」
「……え?申し訳ないって?」
感謝の言葉を伝えるエミリアだったが、どういうわけかカイトはしどろもどろになる。

「実は、その……助けるために、ですね。
なんというかその……人工呼吸と、心肺蘇生……
それにあと、体が濡れて体温が下がっていたので………………着替え、を………」

「……ああ、なるほど。……色々ありがとう。
カイト君女の子苦手なのに、ごめんね……嫌じゃなかった?」
「いいいい、いえ!そんな、嫌だなんて!!
僕の方こそ、やむを得ないとはいえ、色々と。その……嫌じゃなかった、ですか?」

「え?…………あ……」
………少し間をおいて、意識がさらにはっきりしてくるにつれて、
カイトが行ってくれた「処置」のアレコレについて改めて意識してしまう。

毛布の中でごそごそと手を動かし、体の状態や、今着ている服を確認するエミリア。
魔法を封じられて開いていた傷口は、どうやらまた塞がったようだ。
服は、生地の感触からすると、自分が持っていた着替えではなく……
おそらく男物の、カイトのシャツ。下着も……

「いや、で、でもほら、気絶してたし……?
 そ、そんな、ぜんぜん……………嫌じゃ、……なかった、…よ…?」
(人工呼吸……って、アレをアレするやつだよね。心肺蘇生って、いわゆる心臓マッサージ?
そういえばなんか、気絶してるときに、そういう感じがしたような、しなかったような……
……ななな、なんか改めて考えると、すっごいドキドキする……!!)

「そ……そう、ですか……なら、ほんと、いいんですけど……」
(めっちゃめちゃ柔らかかった……やばい、思い出してきた……か、顔に出しちゃダメだ!)

「そ、そうだ、あの、まだ無理せず、休んでた方が良いです、僕見張ってるんで!」
「え?あ、そ、そうだね!じゃ、じゃあ、もう少し、寝ようかな!」

意識しだした途端、カイトの顔をまともに見られなくなったエミリア。
絶対寝られるわけない、と思いつつも、ガバっと毛布をかぶった、その数秒後。

ぐぅぅぅぅぅぅ………

………いびき、ではないく、お腹の鳴く音。

落ち着いて考えてみたら、慌ただしく出発したせいで、エミリアは朝から何も食べていなかった。

「あ…………」
「……はは……」
「………先に、食事にしましょうか。簡易レーションと、スープ位ならすぐできますよ」
「うん……ありがとう、カイト君。何から何まで」

二人とも一気に緊張がほぐれたのか、互いに視線をかわしくすりと笑い合う。

「実は私も……お爺ちゃん以外の男の人って、ちょっと苦手だったんだ。
でもカイト君は……本当に、すごく、いい人だなって思う……だから……これから、よろしくね。
私も、もう足手まといにならないように、がんばるよ」

「こちらこそ……今回は僕がエミリアさんの側にいなかったせいでもありますし。
……もう、あんな事にならないよう……僕も頑張ります」
カイトはエミリアの傍に座って、スープの入ったマグカップを手渡す。
スープを口に運びながら、エミリアは穏やかな気持ちで焚火の火を見つめていた。

(たくさんの人と出会って、大切なものを見つける)
(『力』はいざという時、大切な人を守るために……)
(お爺ちゃんが言ってたのは……きっと、こういう事なんだ)
心の奥でずっと凍り付いていた何かが、ゆっくりと溶けていくのを感じながら。

877>>869から:2021/06/06(日) 18:05:32 ID:???
(あぁぁぁぁ……おぢんぽしゃぶるの、すっごいきもちぃぃいい……
あたし、ずっとこれが、ほしかったのおぉぉぉ……これ、さえ、あれば……)

生きたまま体をバラバラにされ、分割したパーツそれぞれを下衆な魔物に好き放題に犯される。

叛逆の首謀者ラミアに無理矢理はやされたペニスをしごきまくられ、
大量の特濃ザーメンと共に、理性や人格を最後の一滴まで搾り取られる。

もはや誇り高き魔獣使いの末裔「スネグア・『ミストレス』・シモンズ」の面影は、微塵も残っていなかった。

(そう……あたひ、おちんちん、ほしかった………おとこのこに、なりたかった……どうして、だったっけ……)

シモンズ家の紋章が刻まれたクラバット・ピンが落ちて地面に転がった。
ラミアとスネグアが無意識にそこへ視線を向ける。
その時、深紅の宝石はまばゆい光を放ち始めた!

「?………あらぁ?スネグアちゃん、これは一体……」

異変を察知したラミア。だが、宝石はそれ以上の変化を見せず、スネグアも問いかけに答えるだけの人格は残っていない。

「もう答えられない、か……でも、問題ないわ。
この大量のザーメンには、スネグアちゃんの記憶や知識が封じられている………つまり」

ラミアはスネグアの吐き出した精液を指で掬って舐め取った。
たちまち、頭の中に、スネグアのかすかな記憶が入り込んでくる……!!

『一体……どうなっている!妻だけでない。妾や使用人やら合わせて、
50人以上もの赤子を孕ませたというのに………こうも女しか産まれないとは!』

『代々男子によってのみ受け継がれてきた家督……遺憾だが、止むをえまい。』

『だが忘れるな!お前は所詮、真の世継ぎが生まれるまでの代理……
シモンズの守護獣『ベヒーモス』も、女のお前を、決して認めはしない………』

「………ふうん。なるほど……
スネグアちゃんは家を継ぐために、ずっと男の子として育てられてきた。
でも本当の男の子じゃないから、『守護獣』とかいうすっごい魔獣は使えなかった……
そして……アタシがおちんぽを生やしてあげた事で、召喚する資格を得た、って事ね……クスクス」

(!………そう……だ……わた、しは………誇り高き、魔獣使いの……)
「はぁっ………はぁっ……守護獣『ベヒーモス』…わが、呼び声に…答え、よ……」

「本当に……クックックック…皮肉な話だわ。
長い間ずっと、欲しくてたまらなかったモノが、ようやく手に入ったって言うのに……!!」

スネグアの瞳に、消えていたはずの意志の光が再び灯る。
ほんのわずかに残っていた意地とプライドを総動員し、理性を必死にかき集め……守護獣に呼びかける。
ブローチはひときわまばゆい輝きを放ち、そして………

878名無しさん:2021/06/06(日) 18:09:29 ID:???
「!?………ど……う……して……」

………それだけだった。
最強の力を持つと伝えられる守護獣が現れる様子はない。

「キャハハハハハハハ!!! あったり前じゃない!!
言ったでしょ?理性や人格を精液として出しちゃったら、もう2度と元には戻らない、って。
今のアナタはもう、魔獣使いの貴族様なんかじゃない、ただのおチンポ生えた肉人形でしかないのよ!」
「ひゃぐぅんっ!?」
ラミアはスネグアのペニスを奪い取ると、トゲだらけの手で力いっぱい握りつぶす。
スネグアの最後の力、最後の理性、最後の希望が、精液となって弾け飛んでいく。

「スネグアちゃん……その宝石が反応してるのは、貴女にじゃないわ。
魔獣使いの遺伝子を取り込み、一族に伝わる魔獣使いの鞭を手に入れ、
貴女より遥かに立派な『オス』のシンボルを持つものが……ここに一人、いる」

様々な魔物の死体をつなぎ合わせたゾンビキメラであるラミアの股間にも、
凶悪なイボイボのついた異形のペニスがそそり立っていた。

「そ、ん………なぁ……う、そ……」
「さあ、いらっしゃい……アタシのカワイイ下僕……ベヒーモスちゃん」

ラミアの足元に、途方もなく巨大な魔方陣が浮かび上がる。
「グロロロロロロォォォォオ………」

「フフフ……長い間出てこられなくて、お腹がすいてるでしょう。
このブツ切り肉人形ちゃんのカラダを召し上がれ♥」

「……グロォォォォッ!!!」
「い……や……やめ、て……たす……」

地の底から鳴り響くような唸り声とともに、魔法陣から巨大な獣の手が現れる。
人格も理性も完全に失われたはずのスネグアさえも、恐怖と絶望に泣き叫ぶ程の威容。

スネグアにはもう、何も残っていなかった。
襲い掛かる魔獣を従える力も、逃げ出すための足も。

(ゴリュッ)(ブチブチブチ)(グチャッ!!)
「…ああああああああぁぁっ!!!」

為す術なく巨大な手に捕まれ、魔法陣の中へ引きずり込まれる。
断末魔の叫び、骨や肉が砕け千切れる音………やがて、静寂。
少し離れた場所で他の魔物達に弄ばれていた手足も、ビクリビクリと痙攣して完全に動かなくなった。

「グギッ?……動かなくなっちまったぞ」
「ケッ!つまらねえ。もっとエサはねえのかよ!!」

「フフフ……そんな物より、もっと新鮮な獲物を探しに行きましょ♥
まずは、スネグアちゃんが連れて来てたおチビちゃんたち。
それから戦場に出れば、いろんな餌がより取り見取りの早い者勝ち♥♥」

「「「ウォォォォォ!!」」」
「さっすがー!!」
「ラミア様は話が分かるっ!!」

「クックック……ここからは魔物の流儀でいかせてもらうわ。さあ、パーティの始まりよぉ……!!」

魔物達の主人となり、最強の守護獣をも手に入れたラミアが、戦場を混沌に染め上げるべく新たな号令を下した。

879名無しさん:2021/06/06(日) 22:19:50 ID:???
唯達のいるナルビア軍の前線基地より更に後方、
旧研究都市アルガスに設置された、ナルビア軍の総司令部にて。

「くそっ……まだ前線基地と連絡は付かんのか!?」
「シックス・デイは一体何をやっている!!」

シックス・デイが出払っている間に、謎の二人組に前線基地が襲撃された……
という報告を受けたものの、その後の動向が全く掴めず、混乱に陥っていた。

「……こちら総司令部。アレイ前線基地。直ちに状況を報告してください」
「アリス、エリス。レイナ。ダイさん……応答願います!!」

観測員であるリンネも、前線基地、そして出動中のシックスデイ達に応答を呼びかけている。

(……ザザザザ……)
「こちら…アリス・オルコット……アレイ前線基地に帰還。基地を襲撃した敵を発見……」
「了解。アレイ前線基地は今回の戦いの要だ。なんとしても死守してくれ」
「わかっています(ザザ……)この身に代えても(ザザザ)」

しばらくして、アリスから連絡が入る。
やや通信に障害があるが、基地に帰還できたなら問題ないだろう。

「おう、やっとつながった……すまん、侵入者の二人組に逃げられちまった。
それに……魔物どもの動きが、急におかしくなったみたいだ。
敵味方の区別なく、女や金目の物狙いで手あたり次第襲ってやがる……おかげで俺はスルーされてるが」

「了解……今は前線基地の防衛を優先してください。既にアリスが戻っているから大丈夫と思いますが」
「オーケー。急いで戻る」

続いて、Dからも報告が入った。
魔物の動きは確かに気になるが……今は防御を固めるのが優先だ。

エリスやレイナとは一向に連絡がつかない。
周囲のお偉方の苛立ちが募っていく中、リンネは一人別な事を考えていた。

(………あの人は……無事に逃げられただろうか)

リンネは最早、ナルビアの事などどうでもよかった。
自分にとって『かつて』最も大切だった存在を失った…否、自らの手で消し去ってしまった。
今はその罪悪感に苛まれながら、こうして無意味に仕事をこなし、
その合間に、大切だった存在の「残骸」の相手をさせられる日々。

いっそ「残骸」すら綺麗さっぱり捨て去って、どことも知れぬ新天地を目指すか。
今の『大切な存在』と、手を取り合って……

リンネも出来る事ならそうしたかったが、いざ実行するとなると、やはりそれは不可能に近かった。
少しでも誤れば、その『大切な』相手を致命的な危険にさらす事になる。
そうなる位なら……
(サキさんは怒るかもしれないけど……やっぱり僕は……)

慌ただしく動く指令室にあって、淡々と、自らの仕事をこなし続けるリンネ。
その様子を、入口の陰から遠巻きに見つめる人影があった。

「………リンネ……」
白い髪、白を基調とした軍服の少女、メサイア……
ナルビアの科学技術を結集して造られた、最終兵器ともいえる存在。
一見普通の少女にしか見えないが、シックス・デイ全員を遥かに凌ぐ力を秘めている。

(……あの人は……何者だろうか。
私に、いつも優しくしてくれる……それなのに、いつも悲しそうな顔をしていて……
今は何か、別の事を考えてるように見える……)

その正体は、かつてリンネと常に一緒にいた少女、ヒルダだった。
遺伝子配合で産まれた試験管ベビー1000号。
だがメサイアとして覚醒した時ヒルダとしての記憶が失われたため、
メサイアにとって、リンネはほとんど面識のない存在。そのはずだった。

(………どうして、私は……あの人物を、こんなに気にしている……?)
リンネと会う機会はそれほど多くはない。
だが彼は自分の事を恐れず、優しく、自分の拙い言語機能での会話をきちんと聞いてくれる。
それなのに、全くと言っていいほど自分の感情をださず、どこかで一線引いて、距離を置いているように思える……

(私が戦って、敵を殲滅したら……少しでも、あの人の負担を減らすことが出来る……?)
いつしかメサイアは、そんなリンネに興味を持ち、出来る事なら手助けしたい、と思うようになっていた。

だがメサイアが戦場に出るには、軍上層部の承認が必要。
他国に対して機密を保つため、今回の戦いで表舞台に出される事はない。

「ふふふふ………お困りのようね」
……そんなメサイアに、怪しい影が忍び寄る。

「もし望むなら、貴女が出撃できるようにしてあげてもいいわよ……私の指揮下で動いてもらうのが条件だけどね」

ミシェル・モントゥブラン……
とある事情でトーメント王国を追放され、とある人物により非公式に匿われている女科学者。

既にアリス達シックス・デイを利用し、掌の上で転がしている彼女が、
『本命』のターゲットであるメサイアにもその魔手を伸ばし始めた。

880>>870から:2021/06/06(日) 22:34:34 ID:???
「……その右腕は……桜子さん!?」
「…………」

……女性らしいプロポーションの体と明らかに不釣り合いな、大剣と一体化した異形の右腕。
あんな腕をしている者は、唯の知る限り一人しかいない。

「まさか、イヴちゃんっ…!?どうしてこんな所に!?」
「え?……知り合いなの、唯、サクラ!?」

一方、剣士と一緒にいた魔法少女の姿を見て、サクラが声を上げる。
同じルミナスの魔法少女だからか、サクラもイヴの事を知っていたようだ。


「イヴ。これ以上の増援が来る前に、メインシステムを破壊するぞ。基地機能を完全に停止させる」
「……わかりました、桜子さん」
「!………ま、待ってください、桜子さんっ!なんでこんな事を!」

「それ以上近づくな……今の私の右腕は、自分の意志では制御しきれない……」
「一体何があったんですか……!それに、スバルちゃんは……まさか……!」

一方の桜子も、唯に気付いて動揺している様子を見せていた。
少なくとも、洗脳などで意思が奪われている様子はない。


「こちら…アリス・オルコット……アレイ前線基地に帰還。基地を襲撃した敵を発見……」
「わかっています……はぁ……はぁ………この身に代えても………っう、ぐ……」

半壊した通信機で、なんとか総司令部に連絡を取るアリス。
桜子の正体に気付き、手を出せずにいる唯を押しのけ、敵の前に一歩進み出る。

「アリスさん!?……下がってください!貴女は戦える状態じゃ…」
「いいえ……この前線基地は、我が第3機動部隊師団が防衛を任された、この戦いの最重要拠点………
絶対に守り抜かなければなりません」

「その通り。いかに秘密主義のナルビア軍といえど、ここを落とされれば……
温存している『切り札』を使わざるをえまい」

「なるほど。やはり、あなた方の狙いは『メサイア』ですか……
ならばなおの事、あなた方の好き勝手にはさせないっ!!」
「っ……来るな……私の右腕が、抑えきれな……うああああああぁあっ!!」

桜子本人に戦う意思が薄くても、本人が言う通り、右腕は近づくものに容赦なく襲い掛かる。
強化スーツも魔法針も使えない、満身創痍のアリスが挑むのは……誰の目から見ても、無謀でしかない。

「あ、危ないっ……!!」
「GRRRRRR……!!!」
ブオンッ!!

桜子の異形の右腕が更に巨大に膨れ上がり、アリスめがけて横薙ぎに振るわれた……。

881>>839から:2021/06/07(月) 01:50:37 ID:???
「……あっぐ!?」

「ユキ!?どうしたの!?」

「あ、た、まが……!緊急帰還、コードが……!」

戦場を逃げるサキ、ユキ、舞の三人。洗脳が溶けていないユキは、サキがピンチになった時に手を出させずに『楽しむ』為に舞の体に密かに手を這わせていたのだが……突然ユキが苦しみだした。
スネグアはサキたちをナルビア勢をおびき寄せるデコイにするためにユキの身柄を明け渡したが、当然可能ならばユキだけでも帰還するように手を打っていた。
それが緊急帰還コードである。スネグアを制圧した魔物兵たちが適当に押したスイッチにより、機械化されたユキの体内を電気信号が駆け巡り、スネグアのいる天幕へ戻らなければならないという強迫観念に囚われる。


「帰ら、なきゃ……帰って……スネグア様に……体を……捧げ……」

教授がガチで改造していたらすぐにでも戻っていただろうが、スネグアが楽しむ用で自分に得がないということで緊急帰還コードの効力がやや弱めだった。
むしろヤンデレロリって最高じゃね?とサキへの執心が滅茶苦茶強くなっていたので、ユキは頭を抱えてブツブツ呟きながらも無理に戻ろうとする様子はない。

「ユキ!」

ユキを背負っていた舞から妹を預かったサキは、ブルブルと震えているユキを抱きしめて落ち着かせる。

つい先ほどまでユキに弄ばれていて体が火照っていた舞の様子には気づいていないようだが、それでいいと舞は安堵の溜息を吐く。

(スネグアの身に何かあったのか、単に玩具として呼び戻しただけか……ユキ様の状態が落ち着いてくれないと、正直危うい)

ユキが舞を責めていたのは舞の戦闘能力を奪ってサキのピンチを楽しんでから自分の手で救う為という迂遠極まりない目的だ。そして舞の体の疼きを強めて戦闘能力を奪うことには成功している。
そこまでは成功した上でユキに異変が訪れたというのがまずい。

戦うつもりだったユキは戦闘不能となると、サキを守る為には自分が疼きを押して戦うしかない。



そう決意した直後……舞の体が今まで以上にドクンと疼き、先日ラミアゾンビにされた凌辱がフラッシュバックする。

『じ、つ、はー、隠してこーんなものも持ってるのよねぇ』

『なっ、それは……ふむぅっ!?うっ、ぐぅぅっ!!』

『これは今はただの精液だけど、私が上手いこと力を手に入れたら体内で暴れだすわぁ……スネグアが様子を見に来る前に、さっさと飲みなさい!』

『ぐぐぅ、ぷぉっ……んむむぅうううううううう!!!!?』

直後、今まで必死に抑えていた疼きが一気に爆発的に頂点に達すると同時に、舞の体は考えるよりも先に動き……ユキを介抱するのに必死なサキを、後ろから抱きしめていた。

882>>880から:2021/06/18(金) 23:20:49 ID:???
「……危ないっ!!」

桜子の異形の右腕が、アリスに襲い掛かった。
だが唯が素早く割って入り、巨大な剣を手甲で受け止める!

バキッ!!……ガキィィンンッ!!
「くっ……きゃああぁっ!!」
「あぐっ!!」

剣と呼ぶにはあまりにも巨大な「まさに鉄塊」の薙ぎ払いを、唯は合気道の技法を駆使してなんとか逸らした。
だが、シーヴァリア滞在中に買った店売り最強の篭手「ガントレット」が破壊され、唯の体は後方に吹き飛ばされる。
唯は後方にいたアリスを巻き込み、覆いかぶさるように倒れた。

「くっ……やめろ……沈まれ、私の右腕っ!!」
「グロロロロォォォッ!!」
「えっ……!?」

かつての仲間を攻撃してしまい、悲痛な声を上げる桜子。
だが異形の右腕は、極上の獲物を前に歓喜の雄たけびをあげた。
大剣の刃が、唯の頭上に高々と振り上げられ……

「あ……や、ば」

ブオンッ!!

「唯ぃいっ!!」」

手甲を破壊された唯に、二撃目を防ぐ術はない。
無情にも死の刃が振り下ろされた。その時……

……ガキンッ!!

「エルマちゃん……!」
「ったく……みんな揃いも揃って、何も考えずに突っ込み過ぎだっての!!」

絶体絶命の窮地に、今度はエルマが割って入る。
強化装甲とブレードで異形の大剣を受け止めるが、圧倒的質量で押さえつけられ身動きが取れなくなってしまった。

「ご、ごめんっ……」
「ん、っっぐ………いいから、さっさと下がって……!!」

「……グルルルルッ!!」
「え……今度は、何……?」
数百キロはあろうかという巨大な鉄塊つきの塊を、支えるだけで精いっぱいのエルマ。
だが異形の腕は不気味な唸り声をあげ、更なる変異を始める。

大剣の長大な刃は鋸のように波打つ形に変わっていき……

………ギュイィィィィィインンンッ!!

チェーンソーのように動き出す!!

「ちょ、まっ……」

バキンッ!!ガキガキガキッ!!

普通の大剣を防ぐだけなら、電磁ブレードの強度と強化装甲のパワーで数分は耐えられる計算だった。
だが、この変形はエルマにとって完全に想定外。
エルマの頭脳とナルビアの技術によって作られた強化装甲といえど、凶悪な回転刃の前ではひとたまりもない。
電磁ブレードが激しい火花を散らしてへし折れ、右肩の装甲がいとも簡単に砕かれ……

ギュオオオオオオン!!ズババババババブシュッ!!

「きゃあああああああぁぁぁ!!」
「エルマちゃん!!」
「エルマーーーッ!!」

883名無しさん:2021/06/18(金) 23:27:02 ID:???
大量の鮮血が辺りに飛び散り、思わず目を向けたくなるような凄惨な光景が繰り広げられる。
突然の事態に、絶叫する唯とオト。悲鳴を上げるエルマだったが……

(っぐ………あ、あれ……?
お、思ったより痛くない……いやもちろん滅茶苦茶痛いけど、思ったよりは……
これは、一体………?)

回転刃は、エルマの肩口から袈裟斬りに、胴体を一刀両断……する事はなかった。
魔物の腕が手加減している様子はない。
にもかかわらず、まるで何かに守られているかのように、
巨大チェーンソーはエルマの右肩に少し食い込んだだけでそれ以上動く事はなかった。

「うっぐ……エル、マ……!」
「オト……!?……あんた一体何を……」
苦痛にあえぎながらもエルマが周囲を見渡すと、同じように右肩を抑えて苦痛に呻くオトの姿が目に入った。

何が起きたか、オトが何をしたのかはわからないし、今は問い詰める余裕もない。

「グルルルルッ……!?」
ギュイイイイイインッ!!

「っぐああああああああ!?ゆ、いっ……あああああああ!!」
「エルマちゃんっ!!」

……何らかの術で軽減されているのだとして、それでも気を抜けばショック死しかねない程の激痛が絶え間なく襲い来る。
エルマはたまらず膝を屈し、巨大チェーンソーの刃はゆっくりと、エルマの身体に食い込んでいく。

「止めなきゃっ……柔来拳、大地の型……このおっ!!」
ガコンッ!!

異形の腕に攻撃を加える唯。
だが、いかに唯が技を駆使しようとも、異形の右腕を素手で破壊する事は難しい。

ガキッ!!ブシュッ!!みしっ!!
「………!!」
魔力を込めているとはいえ、拳を守る小手が破壊された今の唯では、
素手で殴っても逆に自分の拳を痛めるだけだ。
そして異形の腕には、人間用の関節技も通用しない。

……ギュルルルルルルッ!!
ズブブブブブッ!!
「っぐ、ううううっ……あああああ!!」
(早くなんとかしないと、エルマちゃんが……!!)

有効打が与えられないまま、刻一刻と時間が過ぎていく……
時間にして十数秒に過ぎないが、唯にとっては何十分、何時間にも感じられた。
異形の刃が唸りを上げ、エルマの悲鳴が響きわたり、更なる鮮血が飛び散る。
唯の心に焦りが募りだした、その時………

「くっ……サンダーブレードッ!!」
「……グギャァァアアアアアアアアア!!!」
「…………っ!!」

桜子が左手で剣を抜き放ち、雷魔法を纏わせ、己の右腕に突き立てる。
異形の右腕は激しい電撃に悲鳴を上げ、エルマを切り刻む回転刃の動きはようやく止まった。

884名無しさん:2021/06/19(土) 22:22:15 ID:???
「イヴちゃん……どうしてこんな所に……!?」
「あなたは………サクラ、なの……!?」

イヴとサクラはともに魔法王国ルミナスの出身で、魔法少女学校の同級生だった。

だがルミナスがトーメントから侵攻された際、イヴは妹のメルと共に、トーメント軍に連れ去られてしまった。
紆余曲折を経て、今のイヴはスネグアの配下、トーメント軍としてこの戦いに参加している。

……イヴにとっては、最悪のタイミングでの再会だった。

「なぜトーメントの手先に……メルちゃんはどこに……まさか」
「ごめんなさい。メルを守るためには、こうするしかないの……変身!」

まばゆい光とともに、イヴの姿が変わっていく。

白と黒を基調としたゴシックドレス。黒と白が幾重にも折り重なったフリルは、囚人服の縞模様を想起させる。
両手両足には鎖付きの金属製のリングが嵌められ、鎖の先には大きな鉄球が繋がれている。

「たあああああぁっ!!」

イヴは変身と同時に、見た目に反して凄まじい速度で突進。
四肢に繋がれた鎖鉄球をそのまま武器にした、単純にして豪快な近距離パワー型だ。

……ブォオンッ!!ドゴッ!!
「待ってイヴちゃん、こんな事やめ……きゃああっ!」

説得しようとしたサクラだが、飛んできた鉄球に弾き飛ばされてしまう。

(もしかして、メルちゃんが人質に……!?…)
「とにかく止めなきゃ…変身っ…!」

イヴの言葉から、サクラもおおよその事情を推察する。
変身したイヴに対応するため、サクラも同じく変身しようとするが……

「……させないわ。その前に……」
ジャラッ!!……ギュルルルッ!!
「え……!」

「………潰す」
ズドンッ!!
「っぐ!」
鎖がサクラの脚に巻き付いて、地面に叩き落す。

「魔法少女クリミナルドール……それが今の、私の名前。
消えない罪を永遠に刻み続ける、咎人の人形……」
……ドゴドゴドゴドゴッ!!
「あぐっ!!…っがは!!」

間髪入れず、鎖鉄球が連続で降り注ぐ。
激しい衝撃で土煙が上がる中、サクラの身体が淡く発光し、変身が発動した。だが……

「はぁっ………はぁっ………う、っぐ……」

淡い緑と桜色を基調としたワンピースは泥と血にまみれてボロボロになり、
花をあしらった髪飾りは鉄球によって無残に砕かれ、額からは流血が滴っている。
全身、特にお腹の辺りに青黒いあざがいくつも浮かび上がっていた。

「サクラ……できれば、貴女を殺したくはない。
見逃してあげるから、もう私達の邪魔をしないで」

「………。」
「力の及ばない相手から逃げるのは、恥じゃない……貴女が教えてくれた事よ」

「………でき、ないよ。
私は……魔法少女『スプリング・メロディ』。
そんなに強くはないし、怖い事、辛い事から、逃げてばっかりの落ちこぼれだけど……
それでも、ルミナスの魔法少女だから」

サクラは大の字に倒れたまま、近くに転がっていた鉄球の鎖を掴むと……小さく呪文を唱える。

「友達が困ってて、目の前で泣きそうな顔してるのに……逃げ出すなんて、できっこない」
……咲いて、安らぎにいざなう花たち!『スリープフラワー』!!」

「……っ!!」
サクラの手からつる草が伸び、鎖を伝ってイヴの顔の横で小さな花を咲かせる。
至近距離で眠りの花粉を嗅いだイヴは、意識が急速に遠くなり……

かくん、と膝から崩れ落ちた。

885名無しさん:2021/06/20(日) 22:13:16 ID:???
「だ……め……サク……ラ……」
「メルちゃんの事、必ず何とかするから……今は安心して眠って」
スリ-プフラワーの花粉で眠りに落ちるイヴの身体を、抱き寄せるサクラだが……。

「だめ、なの……私には……許されない」
「え?」

<……意識レベルの低下を確認>
<作戦行動中の睡眠は許可されていません>

ジャララララッ!!

「きゃあっ!?」
「っぐあ!!」

無機質な機械音声とともに、鎖鉄球が一斉に動き出した。
身を寄せ合っていたイヴとサクラに鎖が巻き付き、二人は抱き合ったまま縛り上げられてしまう!

ウィィィン………
ギチギチギチギチ……
<制裁します><制裁する>
<制裁を開始><制裁>
「う、ぐっ……痛っ……!」
「や、やめて……それだけは……」

四つの鉄球が浮遊し、サクラとイヴの周りをゆっくり旋回しながら、不気味な電子音声を発する。
鎖の締め付けが徐々にきつくなっていき、苦悶の声を漏らすサクラ。
その腕の中で、ブルブルと震えだすイヴ。その表情には明らかに怯えの色が浮かんでいた。

ウィィィィン………
「許して……お願い、せめてサクラだけでも……」
「な……一体、何……!?」
鉄球の前面が開き、まるで生物の目のような、赤いランプが現れる。
そして……

<<<制裁>>>
バリバリバリバリバリッ!!

「「きゃああああああああぁぁっ!!」」

鉄球の動きが一斉に停止し、冷酷な電子音声の宣告とともに、
鎖から強烈な電撃が放たれた!


「さっ……サクラさん…!」
「高圧電流……二人のバイタルが低下……危険な状態」
「っ……あの鉄球壊さないとヤバそうだな!!」

既にイヴと戦い倒されていた砲撃機兵サフィーネ。そしてけが人を介抱していた
殺戮機兵エミリー、格闘機兵ルビエラが、サクラの窮地に助けに入る。

「ガトリング掃射!!」
「……エメラルドスラッシュ」
「バーニングフィストぉ!!」

<制裁> <制裁> <制裁> <制裁>

ババババババ!!
「!!…かわされた……!」
バチイイッ!!
「!……攻撃、失敗……」
ガゴオンッ!!
「……いっででででで…!!」

だが鉄球たちはガトリングガンの掃射を易々とかわし、強固な鎖はエミリーの斬撃を弾き返す。
そして、ルビエラの拳の直撃にも、鉄球はびくともしなかった。

<外部からの攻撃を認識>
<反撃><排除><破壊>
……バリバリバリバリバリバリ!!
「きゃああああぁっ!!」
ジャララララッ!!……ドカッ!!
「拘束……しまっ、ぅああああっ!!」
ドスッ!!ドゴッ!!
「や、べ……うごっ!! っぐああああ!!」

逆に電撃と鎖鉄球による反撃を受けてしまう。
機械、あるいは何らかの魔道具か。謎の鎖鉄球は、ナルビア最新鋭の戦闘機兵すら寄せ付けない驚異の力を持っていた。


<制裁> <制裁> <制裁> <制裁>

「ひ、ぎあああああああ!!………っああああああああんっ!!」
「っうああああああああ!!………が、はああああああああ!!」

長時間に及ぶ高圧電流で、強い耐久性を持つはずの魔法少女の衣装さえボロボロに焦がされていく。
電流が流れる間にも鎖の締め付けはますます強くなっていき、少女たちの柔肌に血が滲み始める。
サクラとイヴは互いの身体をぎゅっと抱きしめ合いながら、いつ果てるとも知れない「制裁」に耐え続けた。

886>>881から:2021/06/21(月) 01:07:44 ID:???
「だい、じょうぶ……強制権は、薄めにされてるみたい……」

「ユキ、ごめんね、その体のことを考えずに、焦って逃げ……っ?」

スネグアを制圧した魔物たちが起動した帰還プログラムは、体の一部が機械化されているユキをスネグアの元へ戻らせるもの。苦しむ妹を介抱するサキは……突然後ろから舞に抱きしめられた。

「ど、どうしたの!?」

「ぁ……ぅ……」

舞の体はとうに限界を超えていた。ナルビアの改造とアイリスの調教で開発されきった体を無理矢理魔法のブーツで押さえつけ、その上でゾンビラミアから何時間も陵辱された。逃亡途中には舞の戦闘能力を奪おうと洗脳されたままのユキが何度も体を弄ばれた。

そして、ゾンビラミアに飲まされた精液が、魔物使いの遺伝子とベヒーモスの力を手に入れた本体の魔力に呼応して、舞の体内で暴れ出す。

『私たちが望むのは混沌としたパーティなの。戦場の端っこに敵戦力を集めるなんて無粋な真似はさせないわ』

「ま、い……?」

虚ろな瞳でサキに抱きついた舞は、そのままスルスルとサキの腕を自らの腕で絡め取って拘束する。

「舞、さん……ごめん、私が、私がずっと舞さんを……!」

帰還プログラムによって逆に精神は正気になったユキが何かを姉に伝えようと立ち上がったが……直後、その鳩尾に、舞の爪先が食い込んでいた。

「ご、ぼぉっふ!?」

「ユキっ!」

サキの悲鳴も聞こえていない様子で蹲るユキ。皮肉にもユキの異常は、それ以上に様子のおかしい舞によって鎮められた。

「は、ぁあ……!あ、んあ、んああぁあ……!」

その間にも舞は苦しげな艶めかしい喘ぎを漏らしている。
ここに来てサキは、舞が自分のあずかり知らぬ所で大変な目に遭っていたことを察した。そしてそれが自分の為であることも。

「ぎ、ぐぐぐぅ……!サキ、様……私を、置いて行って……ください……」

「舞!?あんた正気に……」

「もう、抑えているのも、限界、です……ユキ様に乱暴を働き……サキ様を汚すなんて……嫌です……」

体の内側から作り変えられているような疼きに、舞は息も絶え絶えに喘ぎながら言う。今はサキの体を抑えるだけで済んでいるが、いつ襲ってしまうか分からない。
ナルビアの時にサキに暴力を振るってしまったことは舞にとって許されざることだ。今またサキの体を穢すようなことになるなど、耐えられない。

だから早く振り払ってユキと共に逃げてほしい。そう涙ながらに告げる舞に……サキはぼそりと呟いた。

「……もっと早くこうするべきだったわ。舞の人生を縛るのが怖くて、ずっと後回しにしてた……それが結局、舞を無駄に苦しめてしまった」

「……え?」

サキは自らを絡める舞の腕を振り解くと、今度は逆に自分から舞に覆い被さった。

「サキ様、なにを……?」

「今みたいな名目だけじゃない。邪術で舞を私の……私だけの奴隷にする。刻印の上書きで、その体も楽になるはずよ」

「え……サキ、さ、ま……?」

困惑する舞に、顔を赤くしたサキは唇を近づけ……そっと、キスをした。

887>>885から:2021/06/27(日) 15:11:06 ID:???
ガシャンッ ガシャン ジャララララッ………

ピーーーーー
<制裁完了>

「あ………ぐ」
「うっ………ん……」

<戦闘モード再起動>
<戦闘再開>
<破壊><破壊><破壊>

無機質な電子音が響き、サクラとイヴを縛り上げ、締め付けていた鎖が離れていった。
鎖鉄球はゆっくりと浮遊し、基地の中枢を担うメインコンピュータに近づいてくる。

「エミル博士……無事な人を連れて、退避してください。
私が何とか時間を稼ぐ、です」
「バカ言わないで……だいたい、この場に無事な人なんていないでしょ」

部屋の一番奥、壁一面に設置された巨大コンピュータの前に、エミルとルーアはいた。
背後に逃げ場はない。そして目の前に迫る鎖鉄球も、簡単に横を通してくれそうにはない。

(考える、です……なんとかこの場を切り抜けて、
サクラさんも、助け出さないと……)

(基地とかコンピュータとかは最悪壊されてもいいけど……
鉄球ミンチからの電撃ハンバーグなんてごめんだわ!
……そういえばあの鉄球、どこかで見たことあるような………)

その時。エミルの頭の隅に引っ掛かっていた記憶がよみがえった。
研究都市アルガス壊滅の責任を取らされ、投獄されていた時の事……

……そう。あの鎖鉄球は、当時エミルも着けさせられていた、囚人拘束用のものとまったく同じ。
元がナルビアの機械であれば、基地内のコンピュータでも操作できるかもしれない。

(あの時は本当、死ぬかと思ったわ。思い出したらムカついてきた……
でもあの子、トーメントの兵士なのよね?
それが、なんでナルビアの拘束具を?……まさか、これって……)

(つまり、何者かがナルビア製の機械をトーメントに持ち込むか送るかして、
それを身に着けた兵士をナルビアにわざわざ送り込んできた……?
でも、どうして??)

(こんな回りくどい事思いつくのは、ミーちゃんくらいだわ。
また何か、ろくでもない事企んでるのね……)

(それでも今は……迷っている時間はない。乗っかるしかないわ!!)

ここまでの思考時間、わずか2秒。
エミルはメインコンピュータの端末に駆け寄り、
ナルビア製囚人拘束・監視システム「インヴィンシブル・スフィア」の
強制停止プログラムを起動させる。

「ルーアちゃん!あの鉄球、止められるかもしれないわ!!
30秒だけ時間稼いで!」

「博士!?……わかりました。
でも出来れば20……25秒で頼みます、です!!」

かなり強制力の強いプログラムで、ひとたび発動すれば、
ナルビア国内で使われている拘束・監視システムの全てが
最低24時間は解除・無効化されることになる。

もちろん通常なら、前線基地のコンピュータで動かせる代物ではない。
首都オメガネットのマザーコンピュータに接続し、何重にも渡るチェックを潜り抜け、
認可を得なければならない……はず、だが。

<認証OK プログラム発動まで あと 00:28.57>
(やっぱり……認証があっさり通った)

ミシェルはこうなる事を見越していた……というより、恐らくすべては計算の内。
エミルにこのプログラムを発動させるために、イヴに鉄球を持たせて送り込ませたのだろう。
その真の狙いとは、一体何なのか。

そして、果たしてエミルは、ルーアは、この窮地を切り抜けることが出来るのだろうか……

888名無しさん:2021/06/27(日) 15:20:05 ID:???
プログラム発動まで あと
【00:28.43】

<破壊><破壊><破壊>
ジャラララ……ブオンッ!!

「それ以上は行かせない……です!」

エミルが作業しているコンピュータに近づかせないよう、
ルーアは前衛に出ると、最初の鎖鉄球をギリギリまでひきつけて回避し……

【00:27.19】
「……ヌルインパクト!」
ガシィィンッ!! ガコンッ!

2つ目の鉄球を、魔法杖で打ち返す。
無属性の魔力を乗せた一撃が鉄球は大きく弾き飛ばし、3つ目の鉄球を撃ち落とした。

(よし。あと……一つ!)
横から4つ目の鉄球が飛んでくる。
ルーアは鉄球に向けて杖をかざし、防御魔法を展開する……

【00:26.47】
……ジャラララッ!!
「プロテクト……ひ、ぐぇっ!?」

だが、その時。最初にかわしたはずの鎖鉄球が死角から飛んできて、ルーアの首に絡みついた。
魔法を妨害され、障壁を展開できず、飛んできた鉄球は……

……ドゴッ!!
「んあっ!!」
ルーアの右肩に直撃した。ごきん、と骨の折れる嫌な音がして、ルーアは激痛で手に持った杖を落としてしまう。

【00:25.01】
カランカラン……
ギリギリギリギリギリ……

「し、シールド………あ、ぐぁ……!!」
鉄球が続けて左側からも飛んでくる。
ルーアは残る左手でシールドを張ろうとするが、
本来両手で発動する魔法を片手で、しかも詠唱もままならない状況では、強度がまったく足りない。

……バキンッ!!ドゴッ!!
「……ぐふぇっ!!」
鎖鉄球は簡単にシールドを粉砕し、全く勢いを減じることなく、ルーアの細い脇腹に突き刺さる。

……まさに、一瞬の油断が命取り。
ルーアの目論見としては、杖と体術で出来る限り時間を稼いで、
あとは防御魔法でひたすら守りに徹することで30秒を耐え抜くつもりだったが……
実際にはこの通り。5秒ともたず鉄球の餌食となってしまうのだった。

【00:18.34】
<破壊>
<破壊>
<破壊>
<破壊>
……ドゴッ!! ドボッ!
「えぐ!! あうっ…… ぐぼぁ!!」

左手一本では、締め付ける鎖を外すことは出来ない。
首を絞められていては防御魔法も使えない。
防御も回避も反撃も封じられ、暴風のような鎖鉄球の乱打を、
ルーアはその小さな身体で受け続けるしかできなかった。

889名無しさん:2021/06/27(日) 15:22:59 ID:???
【00:15.00】
<抹殺>
ジャラララッ!! ……ブオオオオンッ!!

鎖が大きく唸りを上げ、鉄球が既に青紫色に腫れあがったルーアのお腹に向かって飛んでくる。
鉄球たちは早くもルーアにとどめを差すつもりのようだ。

(こんな、はずじゃ……すみません、エミルさん、皆さん……)
「ルーアさんっ!!」
……ガゴンッ!!

すでに意識朦朧としているルーア。打つ手は全くなく、万事休すかと思われた、その時……
砲撃機兵サフィーネが、体を張って鉄球を防いだ。

バチバチバチッ……ドゴンッ!!
「い、ぐぁあっ!!」
「さ……サフィーネさん…!!」
鉄球はサフィーネの装甲を突き破り、胴体に深々と食い込んでいた。
全身から火花がバチバチ飛び散り、サフィーネはその場に崩れ落ちる。

「あ、れ……おかしい、な……わワワ私、機兵の中でも一番いちばん頑丈……
予測、もう少し、耐えられ、rrrrr……」
バチンバチン!バシュンッ!!

「…………。」
……ひときわ大きな火花と煙を吹き出し、サフィーネは沈黙した。

「……サフィ……さん……そん、な……!」

【00:10.00】

<抹殺><抹殺><抹殺>

……ジャラララッ!!
グオオオオッ!! ガコンッ!! バキッ!! ドゴッ!!

「い、や……お願い、もう、やめてください……!!」

鎖鉄球の勢いは止まらず、なおもルーアを攻撃し続ける。

ドゴッ!! バチバチバチッ!!
「気に、しないでddd くだssss……仲間を、そして……」
「エミル博士を、mmmmもるrr
それがggg、あたしたち戦闘機兵のtttt務め」

……だがサフィーネと同じ戦闘機兵、エミリーとルビエラが
身を挺してルーアを守っていた。
鎖鉄球は、ナルビアの兵器であるエミリーたちの装甲をも易々と破壊していく。

ドガンッ!! バチバチバチ!! バシュンッ!バシュンッ!!

サフィーネ同様、二体が完全に沈黙するまで、それほど長い時間はかからなかった……。


【00:00.10】

<破壊><攻撃><殺戮><抹殺>

(私の……私のせいで、機兵の皆さんが……)

まるで人間のように笑い、泣き、束の間ではあるが仲間として共に戦った三体の機兵。
それが破壊され、物言わぬ鉄塊へと変えられていく様を、目の前で見せつけられたルーア。

そして今度こそ確実に止めを刺すべく、鎖鉄球は大蛇の鎌首のごとくうねり、
ルーアの顔面目掛けて飛んだ。

「ひっ…!!」
鎖で拘束されたルーアに避けられるはずもなく、思わず目を瞑る。
まともに喰らえば、顔面どころか頭そのものがザクロのごとく吹っ飛ぶ威力。
だが……

「……ヴァインキャプチャー!!」
……ギュルルルッ!!
「!………サクラさん……!!」

……間一髪。意識を取り戻したサクラが、
つる草で強靭な網を作り出す花属性の魔法、『ヴァインキャプチャー』で鉄球を抑え込んだ。

890名無しさん:2021/06/29(火) 22:29:40 ID:???
【00:00.00】
強制停止プログラム作動……
<停止><停止><停止><停止>
ピーーーーー

「げほっ……げほ…」
「ルーアちゃんっ!大丈夫!?」
甲高い電子音が鳴り響き、4つの鎖鉄球は完全に機能を停止する。
首に巻き付いた鎖から、ルーアはようやく解放された。
ギリギリの所でルーアを助けたサクラが、プログラムの起動を終えたエミルと共にルーアに駆け寄る。
鎖に繋がれていた魔法少女イヴは気絶したままだ。

「すみません……私のせいで、機兵さんたちが……」
「大丈夫よ。メモリデータを別のボディに移し替えれば、この子たちは何度でも蘇れる。
……とにかく、ルーアちゃん達が無事でよかったわ」


一方、部屋の中央付近で行われていた、仮面の剣士=桜子と唯達との戦いも終息していた。

「桜子さん、どうしてこんな事に……
というか、なんとなく予想ついちゃったんですが。
もしかしてスバルちゃんが……」
「………そういう事だ。イヴも、妹のメルが人質に取られている。
スバルとイヴが、あいつの……スネグアの手にある限り、私たちは奴の命令に逆らえない」

「やっぱり……桜子さん、その二人を助けましょう!私達も手伝います!」
「……ありがとう。だが、ヤツは恐ろしく狡猾だ。
こうして私が君たちと接触する事すら、計算のうちかもしれない。慎重に動かないと……」

桜子達が受けた命令は、この前線基地を破壊する事。
そして、基地を陥落させたらナルビア秘密兵器であるメサイアを使わざるを得なくなる。
というのがスネグアの読みらしいが……
ナルビア軍の現状をよく知っているアリスには、そう上手く事が運ぶとは思えなかった。

「春川桜子、と言ったわね……今はひとまず、私達と来てもらうわ。ここを離れた方が良い。

基地機能の中枢であるメインコンピュータの破壊こそ免れたけど、
配備されていた兵器や兵士たちはほとんど無力化され、この基地はほぼ壊滅状態。

だけど……多分それでも、ナルビア本体はメサイアを出動させる可能性は低い。
おそらくナルビア司令部は、この基地が落とされると判断したら、私達ごと……」

……ズドォォォンッ!!

「きゃあっ!? な、なになに!?」
「くっ……もうナルビア本体からの攻撃が……いや、これは……」

アリスが「最悪のケース」を想定した、その時。

基地全体を揺さぶるような、激しい衝撃が起き……
……多数の魔物兵が、なだれ込んできた。

「ヒッヒッヒ……かわいい女の子の血と汗の臭いを辿って来たら、極上のお宝級がザックザクだぜぇ!!」
「ひーふーみー……ケケケケ!ロリっ子から白衣のお姉さんまでよりどりみどりじゃねえか!」
「しかも全員、いい感じにズタボロになってやがる……こりゃヨダレが止まらねえぜ!」
「なーんか味方だったっぽい奴もいるけど、こうなりゃ関係ねーや!!全員やっちまえーー!!」

「くっ……こんな時に、トーメントの増援……!?」

「あ……アリスちゃん!!ヤバいわ!!もんのすっごい数の敵の魔物兵が接近中!!
あんなのとてもじゃないけど防ぎきれないわよ!?」
「ええっ!?ちょ、ちょっとタンマ!!せめて先にみんなの治療を……」

怒涛のごとく押し寄せる魔物の大群がモニターに映し出され、狼狽するエミル。
サクラ、ルーア、エルマの治療でてんてこ舞いだった唯が、更なるパニックに陥る。

「この数……スネグア率いる本隊ですね。しかも、異常なほど狂暴化している……!!」
「……まずいな。あいつら、敵も味方もお構いなしだ。なんとか血路を開いて脱出しないと……」

ここは共闘するしかない……アリスと桜子は無言で視線をかわし、魔物の群れに武器を構える。
だが圧倒的な数と勢いの魔物相手に、どこまで持ちこたえられるか。

「クスクスクス……ムダムダぁ。一人も逃がさないわよぉ……」
……状況は最悪にさらに最悪を重ねがけした、阿鼻叫喚の地獄絵図へと突入しようとしていた。

891名無しさん:2021/07/03(土) 17:10:00 ID:???
「本部、本部!こちらアレイ前線基地、敵部隊の増援です!至急援軍を!」
ナルビア軍総司令部に、アレイ前線基地のエミル副指令から緊急通信が入る。

この基地はトーメントとナルビアの国境線でもあるアレイ山脈の要所。
にも関わらず総司令官であるレオナルド・フォン・ナルビアの反応は冷たい物だった。

「前線に敵主力部隊が集中しているようだな……なら話は早い。X3弾道弾で一掃しろ」
「……しかし、あの基地にはまだ、第3機動部隊の残存兵力や外人部隊が……」

X3弾道弾……核兵器並の破壊力を持つ強力な長距離ミサイルである。
アレイ前線基地に撃ち込めば、基地は付近一帯の山ごと、跡形もなく吹っ飛ぶ事になる。
当然その場にいる者は、ひとたまりもないだろう。
アリスが前線基地に帰還したことを報告してきたのはついさっきの事だ。
オペレーターを務めていたリンネが、僅かに眉根を上げるが……

「彼女らとて軍人。敵を殲滅し、ナルビア王国の人民を守る礎となるのが、その使命だ。
……まさか、今までともに戦ってきた仲間を自ら手に掛けるのは嫌だ、とでも言うつもりか?諜報員999号」
「……い、いえ……了解しました。X3弾道弾、発射準備……」

リンネの立場から、口を挟む事は許されない。その気力もない。
コンソールパネルを操作し、弾道弾の発射ボタンを押した。

「それに……丁度いい機会ではないか。
私に刃を向けた叛逆者の一人、アリス・オルコット師団長。
研究都市アルガス壊滅事件の最重要被疑者、エミル・モントゥブラン博士。
トーメント王国討伐後には、我々の世界統一を阻む敵となるだろう、連合国属ヴェンデッタ部隊……
みんなまとめて掃除できる。実に効率的だ。くっくっく……」

──────

「燃料充填完了。X3弾道弾、発射カウントダウンを開始します」
「10……9……8……」

「フン、現代戦ってのは気楽なもんだ……ボタン一つで簡単に前線に死をデリバリー出来る」
シックス・デイの一人、研究開発部門の総責任者であるマーティンは、
ミサイル発射施設の監視に当たっていた。

彼の本来の役目は、最終兵器である「メサイア」の管理と調整。
そのメサイアも、少なくともトーメントとの決戦までは温存する事が決定しているため、
言わば今の監視役はほとんど暇つぶし同然。…の、はずだった。

「ん?………おい、待て。何だあれは……X3弾道弾じゃないぞ!?」
「3………2………1………0」
ズドドドドドッ………

打ち上げ台から発射されたのは、ミサイルではなかった。
どうやら人口衛星打ち上げ用のロケットのようだ。

「どういう事だ!発射されるまで誰も気づかなかったのか、この……無能どもが!!」
「あ、ありえません!マザーコンピュータの認証も、全く問題ありませんでした!!」
「一体、何がどうなってる……一体、何が発射されたというんだ……?」
打ち上げロケットは、数十トンほどの荷物を運んで衛星軌道上を周回させる事が出来る。

「なぜ認証を通した!!一体何が起きたんだ!!応答しろ、マザーコンピュータ!!」
応答はなかった。マザーコンピュータを積載したロケットは、既に遥か上空、間もなく大気圏を突破しようとしていた。

892名無しさん:2021/07/03(土) 17:11:32 ID:???
……場面は戻って、再びナルビア指令室本部にて。

「………というわけで〜。今からアンタたちの大事な大事なメサイアちゃんを貰ってくんで、
最後のご挨拶に来ました〜♥」

「一体……何を言っている?……エミル・モントゥブラン博士……
貴様はアレイ前線基地にいるのではなかったのか!!」

一人の女研究者がレオナルドとリンネの目の前に現れ、ヘラヘラと笑みを浮かべていた。
赤色の髪、薄い青の瞳に分厚い丸眼鏡をかけ、白衣の下には胸元に黒いリボンのついたブラウス。
提示されたIDは、たった今アレイ前線基地から通信を送ってきた、エミル・モントゥブランの物だ。

そして彼女の後ろに控えているのは、真っ白い髪に白を基調とした軍服の少女。
……ナルビア王国軍の秘密兵器である、メサイア。

「ヒルダ……いや、メサイア……!?……なぜ君までが……」
「メサイアをたぶらかしたと言うわけか、ふざけた真似を……インヴィンシブル・スフィア!そいつを捕らえろ!!」

レオナルドは顔に怒りの色をにじませ、すぐさま捕縛命令を出す。
だが、基地内のあらゆる場所を周回し、不穏分子や犯罪者を15秒以内に捕縛するはずの
完全警備システム「インヴィンシブル・スフィア」が作動する事はなかった。

「なっ!?……どうして作動しない!?」
「例の変な鉄球なら、使えなくしといたわ。
だって、メサイアちゃんがこの施設を出ようとしたら、捕まえて連れ戻すように設定されてたんでしょ?」

「貴様。一体何者だ……エミル・モントゥブランではないな!?」
「や〜っと気づいたの?部下の顔もロクに覚えてないなんて、聞いてた以上に使えないクズ上司ね。
……ま、こんなクソださいメガネつけてたら無理もないか」

エミルを名乗った人物が、メガネを投げ捨てる。
その下から現れた素顔は……顔の作りこそよく似ているが、釣り目がちで勝気そうな印象。
バストサイズは同じくらいだが、年齢はエミルよりやや下……明らかに別人だった。

「初めまして、お間抜けさん達。私はミシェル・モントゥブラン。エミルの妹よ。
アンタたちが気付いてないだけで実はけっこう前から出入りしてたわ」

「なっ……指令室の周りには警備兵もいたはずだぞ!?そんな事があり得るはずが……」
「言っちゃなんだけど、あいつらザルも良い所だったわよ?」

……そう。ナルビアの施設内を移動する際、ミシェルはエミルの変装をして、エミルのIDカードを使っていた。
それを見た人間の警備兵たちはというと……
「エミルさんて見た目とか服装とか地味だけど、そこが地味にいいよな……彼女の魅力は俺だけが知っている!(キリッ」
と、全員が思っていた。
そして、メガネの下の細かい顔の違いなどは見ておらず、基本おっぱいしかみてなかった。

(……ガチレズ魔女に無駄に巨乳にされたのが思わぬ所で役に立ったわ)
「ま、そういうわけで……アンタの天下はもうおしまい、ってわけ」
「貴様、黙って聞いていれば……レオナルド様には指一本……!!」

リンネは席から立ちあがり、忠誠心など微塵も残ってはいないものの、一応はレオナルドを守るべくファントムレイピアを構えた。
だが、一方のレオナルドはというと着席したまま、まるで石膏像のように微動だにしない。

「そうね。私はその、レオなんとかいうおっさんに指一本触れられないわ。
なぜなら……そいつは今、この場にいない。そこに座っているのは、本人によく似たロボットですもの」
「な……なんだって!?」
リンネはレオナルドの席に駆け寄り、近くでまじまじとその顔を見る。
……確かに姿かたちは人間そっくり。だが、よく見ればその顔も、身体も……
ミシェルの言う通り、作り物であることが分かった。

893名無しさん:2021/07/03(土) 17:17:45 ID:???
「そいつだけじゃないわ。
ナルビア王国の実権を握る中央高官達は、この戦いが始まる前から全員、
一族郎党引き連れて地下深くのシェルターにこもってる。
そして本人そっくりのロボットを通して、地上に指示を出してたってわけ。
あんたらシックス・デイのメンバーや、それ以下の平民には内緒でね」

「………そんな、馬鹿な。レオナルド総帥!!本当なのか、彼女の言ってる事は!!」
「無駄よ。地下からの通信を管理してたマザーコンピュータは、私が掌握済み。
おっさん達のアクセスは永久的に遮断したし、地上へ通じる入口の電子ロックも封鎖済。
本物のおっさん達は二度と、地上に出る事は出来ないでしょうね」

「そん、な………」
<ヒルダ……僕らの余計なしがらみとか、全部消えてなくなっちゃうような、嵐が起きればいいのにね……>

遥か遠い昔につぶやいた、妄想じみた夢が、突然に、まったく予想もしない形で、現実になった気がした。
だがいちばん大切な存在、ヒルダがヒルダでなくなってしまった今、そんな物に何の意味があるだろう。

(ふざ、けるな……遅すぎるんだよ……)
「何が………目的だ。マザーコンピュータを掌握したって言うのが本当なら……僕なんかに、もう用はないだろ」
「言ったでしょ?メサイアちゃんを貰っていく、って」
「……例えヒルダを……メサイアを連れ去ったとしても、
彼女の身体を維持するには、特殊な薬が必要だ。それがなければ数日ももたない」

「ええ、知ってるわ。『リヴァイタライズ』の材料には、あるものが必要……
私が今日ここに来たのも、それを採取するのが目的よ」
「採取?………どういうことだ」
「フフフ……やってみればわかるわ。さあ、教えたとおりにやるのよ、メサイアちゃん」
「了解………リンネ。すぐ終わりますから、大人しくしていてください」

「な……!?…………メサイア、何をするつもりだ!!」

ミシェルの言葉の意味を測りかねているリンネに、メサイアがゆっくりと歩み寄っていく。
歩きながら、軍服の上着を脱ぎ棄て、ブラウスのボタンを一つ一つ、外していき……
リンネの目の前に来た時には、メサイアは真っ白い下着姿になっていた。

「よ……止せ!!それ以上は……」
「……ゼロエネルギー、放射」
「うあっ……!………」

メサイアの手から放たれた光線はリンネの体を拘束し、空中に浮かび上がらせて磔の体勢で固定する。
光線の正体は、長年の間、机上の空論とされていた幻の技術、すべての力を無効化するゼロエネルギー。
対象の電気信号を麻痺させる力を持ち、これを浴びた者は体を動かすことはおろか、声を発することもできなくなる。

「これから行う行為に、痛みは伴わないと聞いています。
むしろ快感を伴う行為だと」
「そうそう。まずは軽〜く、手コキから行ってみる?」
「………!!」

たどたどしい手つきで、メサイアはリンネのズボンと下着を脱がしていく。
すると年頃の男子としては平均的なサイズの、早くも半勃起状態のペニスが顔を出すが。

「これに刺激を与えればいいのですね……では行為を開始します」
メサイアはそれを間近に見ても、顔色どころか眉根一つ動かす事はなかった。

894名無しさん:2021/07/04(日) 12:13:52 ID:???
「ふーん、女みたいな顔の割にはそれなりのモン持ってるじゃない」

メサイアにまじまじとペニスを見られ、ミシェルには好き勝手に批評され、リンネの顔にカァッと朱が差す。

「まぁ、アンタがわざわざ途中で男性型人造人間に変更された経緯を考えたら普通か」

(こいつ……さっきから、なにを言って……)

「……んっ!?」

ゼロエネルギーによって声も出せない中でも気丈にミシェルを睨み付けるリンネだが、メサイアのたおやかな白い右手が優しくリンネの陰茎を包んだ瞬間、全身をビリビリと電流のような快感が走り抜ける。

「そうそう、教えた通りにね。気持ちいいとはいえあんまり強くやりすぎると痛いし壊れちゃうわよ」

「はい……壊さないように……優しく、ゆっくり……」

無理矢理だというのに慈愛に満ちた手つきで、たどたどしくも熱心に竿をにぎにぎと触って刺激を送る。

「んっ……あ、ひゃっ……いひゅう……っ!!」

(ダメ、だ……こんなこと、お前がしちゃいけない……メサイ……ヒルダ!!)

必死に止めろと伝えようとするも、動かぬ体は言うことを聞かず、ただただ送り込まれる淫猥な刺激に身も心も剛直も震わせるしかない。

「キュウリで予行演習はしましたが、実物はこうなるのですね……プルプルと震えながら大きくなって……リンネへ抱いている感情と似たものを感じます」

最初は形状を確かめるようにさわさわと握っていたメサイアの右手が、徐々にシコシコと上下へ擦る動きに代わっていく。

「ふんふん、やっぱりセット運用目的だったから体の相性も遺伝子レベルで抜群なのかもね」

「んっ……ふっ、くふぅ……!くひぃっ……あぁ、んおぉぉっ……!!」

気づけばリンネのペニスは最初の半勃起状態から二倍程の大きさになっていた。

「さ、私はビーカー準備して……どう?出そう?」

「先ほどから継続的に震えてはいますが……それ以上の変化は見受けられません」

「ふーん、手コキだけでイキそうと思ってたけど……意外に経験豊富なのか、操を立ててる相手でもいるのか……」

ミシェルがリンネの顔を覗き込むと、顔を真っ赤にしながらも必死に歯を食いしばって耐えていた。それは元は妹のように思っていたヒルダであるメサイアへ精を出すことへの忌避と……サキへの想いによる。

(とにかく、こいつの言う通りになっちゃダメだ……ヒルダの為にも……それに戦場が混乱すればするほど、サキさんが逃げられる可能性が下がる……!)

ミシェルがメサイアを連れて何を企んでいるかは分からないが、それがこの戦場に混沌をもたらすのは明らか。せめて時間を稼ぐくらいはしなければと耐えるリンネだが……

「じゃあ次はお口でやってみましょうか」

「はい……は、む……」

手コキから一瞬解放された直後……リンネのペニス全体を、生暖かい感触が包んだ。

895名無しさん:2021/07/04(日) 12:41:31 ID:???
(ヒルダ、やめろっ……ああっ!)

メサイアはリンネのペニスをゆっくりと奥まで咥え込み、そのまま舌でれるれると扱き始めた。

「ふんふん……ナルビアのクローンは本当に人間と変わらないのね。こんなとこの反応までしっかり人間と同じなんて……」

(く、ああああっ……!)

じっと見つめながらモノを扱き続けるメサイアのことも、距離を詰めてまじまじと自分のモノを見つめてくるミシェルの姿もどちらも直視できず、リンネはぎゅっと目を瞑った。

「ぷはっ……リンネ。これで射精可能ですか?」

(ばっ……!何言ってるんだヒルダ!君にこんなっ……!こんなこと、すぐにやめ……んぅッ!)

「あははっ!メサイアちゃん、リンネくんはいまゼロエネルギーを浴びて喋れないんだから、問いかけても無駄よ無駄」

「そうでした……ではこれはどうでしょうか……」

陰茎の下……玉袋に手を当てたメサイアは、そのまま竿を咥え込み手と口で扱き始めた。



「ん……ちゅぅ……れるれる……ちゅぱっ……」

(あ、あ!ぁ……ああああ……!ううう……!)

「うわぁ〜すごいすごい!一気にガッチガチ♡初めてなのにメサイアちゃんすっごく上手ねぇ。可愛い女の子にこんないやらし〜いことされて、リンネくんは幸せ者ねっ、と!」

(ひゃああぅ!)

ミシェルに竿をフェザータッチされ、リンネは女の子のような甲高い喘ぎ声を(脳内で)上げてしまう。

「クスクス……もうそろそろイっちゃいそうなのかしら?メサイアちゃん、拘束したまま喋れるようにしてあげて」

「じゅるる……りょうふぁい」

ビシュン!
「ぁあああっ!」

ゼロエネルギーの出力量を調整し、口だけを動かせる状態にされたリンネの声からすぐさま甘い声が漏れた。



「あらあら、文字通り女の子みたいな声出しちゃって。メサイアちゃんの玉コキ生フェラがそんなに気持ちいいのね?」

「くっ……あ……!どうして、僕にこんなことを……!」

「そんなの当たり前じゃない。メサイアちゃんを完全に私のものにするにはクローンに必要な薬物の成分を手に入れないと。そしてそれが抽出できるのは他でもない、薬物を摂取したクローンの体液でしょ?」

「ぐっ……!だからって、血液や唾液でいいんじゃないのか……?何もこんな……!ああっ!?」

「はむっ!じゅるるるるるるる……!」

「あひあああああぁ……ひ、ひるだあぁ……!」

メサイアの小さな口に、再度リンネの陰茎がぬっぽりと包み込まれる。
腰が溶けるような初めての感覚に、力の抜けたリンネはだらしない声を上げた。

896名無しさん:2021/07/04(日) 12:44:09 ID:???
「クスクス……男のくせにだらしない声出しちゃって。まあ確かに血液とかからでも抽出はできるけど、ナルビアのクローンがココから出す液体がどんな成分で構成されてるのか……不老不死の研究のためにも興味あるのよねぇ」

「はぶっ……んっ……!んぽっ、んちゅるるるる……んぶっ、んぷぷっ……!」

「くっ……僕たちに、生殖能力はない……!体は人間と変わりないけど、精子だけは取り除かれていて、そこから出るのはただの精子を模しただけのモノッ……ああぅ!」

「れるれる……ちゅぶ!ちゅううううっ!……くちゅくちゅっ……ちゅくるっ!!」

「それはアンタらがそう聞かされてるだけでしょ?どうせ実際に自分の精子を調べたことなんてないくせに。いい機会だからこのあたしが、あんたのおちんちんミルク、全部じっくり調べてあげる……」

「う……!くっ……!」

「ちゅうちゅう、れりゅっ、くちゅるっ!……れちゅう!ちゅくっ、ちゅーっ、れちゅれちゅっ、ちゅっ!」

「ひ、うあああああっ!」

美少女にフェラチオされながら美少女に精子を調べると言われ、段々とリンネもこの状況に耐えられなくなって来ていた。



「そろそろ限界みたいね?メサイアちゃん、ラストスパートよ。教えた通り思いっきりバキュームフェラして、リンネくんから全部搾り取っちゃえ♡」

「りょうふぁい……!ん、ちゅじゅるるるるるうぅぅっ!!!んじゅっ、じゅるるっ!ちゅうっ!」

「あ、あ、あああああああっ!!」

舌を大きく動かし、ペニスを唾液でどろどろに濡らされた状態で、吸い上げられる。
先ほどからのぐちゅぐちゅと音が鳴るフェラチオのおかげで、リンネは限界を迎えようとしていた。

「あはははっ!顔も声も女の子みたいなのに、おちん◯んはおっきすぎ♡メサイアちゃん、苦しいと思うけど、トドメにもっかいバキュームすれば今度こそ射精してくれるはずよ♡」

「ふぁい……ちゅるるるるるるっ、ぶちゅうううぅっ……!れるれるっ、じゅちゅううううううっっ!!」

根元まで飲み込まれ、亀頭を引っ張られて精液が先端まで吸い上げられたリンネは……

「ううっくっ!!も、もうっ……!ヒルダ、ヒルダああぁっ!!」

どぴゅるっ!!びゅるるるるるっ!!どくどくっ!!!ぶびゅるる!!!

メサイアの喉に向かって、大量の精液を放出した。

897名無しさん:2021/07/10(土) 14:12:16 ID:???
「………う、ううっ………」
「んっ……うぇ………体液の放出を、確認しました。採取してください、ドクター」

「はぁい二人ともご苦労様ぁ。ふふふふ……随分いっぱい出たわねぇ。溜まっちゃってたのかしら?」

メサイアの咥内や身体についた精子を、スポイトで採取して容器いっぱいに詰める。
「これだけあれば、当面は問題なさそうね……
残った分は、アナタが舐めちゃっていいわよ。
ソレには安定剤の成分が入ってるし、少しは効き目あるんじゃない?」

「了解しました……んっ……ちゅむっ………じゅる」
「やっ……やめろ、そいつの言う事は……うああああぁっ!!」
メサイアはリンネの股間に吸い付き、残った精液を啜り始める。
射精直後の罪悪感や倦怠感、賢者タイムと呼ばれるやつが根こそぎ吹っ飛び、
リンネの一物は再び力を取り戻した。

「フフフ………マザーコンピュータに残っていた開発記録によれば、
メサイアは素体が脆弱すぎて、いくら強化を試みても細胞が耐えきれず死滅してしまっていた。
一時は研究中止の寸前までいったらしいけど……
あなたの体液を成分に加える事で、細胞が安定化する事が発見されて、『リヴァイタライズ』が完成したそうよ。
素敵な話だと思わない?眠れるお姫様を目覚めさせたのは、王子様のキス……ならぬ、体液ってことね」

「な………じゃあ、僕が……僕自身が、ヒルダを怪物に変えてしまったって事じゃないか……
そん、なの………ん、う、あっ………!!」

「再度体温と脈拍の上昇を確認……ドクター。再び体液射出の兆候が見られます……どうしますか」
「ふふふ……薬に必要な分は確保したし、もういいんだけど……
協力してくれたお礼よ。一滴残らず絞り出して、全身キレイになるまで続けてあげなさい」
「わかりました……行為を続行します」
「や……やめてくれぇっ!!………ん、う……っあああああああ!!!」

こうして、リンネはメサイアの奉仕で徹底的に絞りぬかれた。
ゼロエネルギーから解放されても、疲れ切って足腰が立たない。

「ま……て……いくら薬を作ったって……メサイアの身体は、いずれ……」
「そうなる前に……私が戦いを終わらせます」
「なっ………!!……」

「フフフフ……それじゃあね、リンネくん。後はお好きにどうぞ。
オワコンになったこの国にしがみつくもよし、どこか遠くに逃げ出すもよし……」
「どこか国外の、安全な場所に退避する事を推奨します。
……ナルビア国内全域が、今後しばらく危険な状態になると予測されます」
「まって、くれ………ヒルダ……!」

高笑いと共に去っていくミシェルと、名残惜しそうに去っていくメサイアを、
リンネはただ見送るしかできなかった。

898名無しさん:2021/07/10(土) 14:14:57 ID:c8fdNnkA
……ナルビア司令部を出発し、アレイ前線基地へと向かうミシェル達。
その主な目的は、メサイアのお披露目と、試運転である。
だが、そんな二人を追いかけてくる者があった。

バババババ……
「こここ、こらそこの二人ー!!どこへ行くつもりだ!誰の命令でこんな真似してる!」

メサイア陸軍の最新鋭戦闘ヘリ「ドラゴンフライ」。
通常のヘリコプターとは比較にならない機動性、重武装を持つ。
乗っているのは、ナルビア・シックスデイの一人マーティンである。

「……堕としますか」
「フフフ……あんな蚊トンボ、メサイアちゃんの戦闘記録第一号にはもったいないわ。
下がってなさい」

ミシェルは端末を操作しながら、戦闘ヘリの前に悠々と進み出る。

「ふん……投降するつもりか?だったら、さっさとその端末も捨てるんだ!早くしろ無能が!!」
「ギャーギャーうるっさいわねぇ〜……あ、来た来た」

ヘリからの呼びかけを無視し、ミシェルは空を見上げる。
遥か上空、雲の向こうで、何かがキラリときらめき……

「ん?上空からエネルギー反応……っおがああああああ!?」
ヴィンッ……ズドオオオオオオッ!!

「……周辺敵目標の全消滅を確認。第二射を中断、レーザーシステム休止状態に移行します……」
「……サンキューマザー。こっちの試運転も上々ね」

先ほど発射されたロケットに載せられていた物の正体は、ナルビア国内で密かに研究されていた人工衛星。
そこにマザーコンピュータを搭載して威力と精度を飛躍的に上昇させた
通常攻撃が全体攻撃で二回攻撃のサテライトレーザーシステム『マザーズアイ』によって、
マーティンの乗っていたヘリは文字通り消滅した。

「じゃ、行きましょうかメサイアちゃん。
……アナタの試運転の相手は、もう決めてあるの。王下十輝星、フォーマルハウト……」

<お掛けになった番号は、現在使用されていないか、使用者が惨殺されて
怪物に丸呑みされ電波の届かない所にいるため、繋がりません。
番号をお確かめの上……>
「と、思ったら……ちょっと面白い事になってるみたいね。」

「ま、ノンビリ行きましょうか。私たちの新しい『国名』も考えないと」
「了解しました……ランダム名称生成プログラム作成、起動」

「新・ナルビア王国……いや、律儀に古い国の名前使ってあげる意味もないか。
かといって自分の名前つけるのもダサい気がするし」

……かくしてナルビア王国は、
統治者であるレオナルド・フォン・ド・ナルビア総帥が存在を抹消されたことにより、事実上消滅。

衛星軌道上を周回する巨大サーバーを中心に構築されたクラウドネットワークで形成される、
物理的な領土を一切持たない新国家「マザーズ・ドミネーション」が誕生した。

899名無しさん:2021/07/10(土) 15:28:39 ID:???
「感想スレも新しくなったし、主人公ちゃんを思いっきりボコってやるぜ!」
「ついでに、倒れてるお仲間ちゃんも全員いただいちゃうぜ!!」

「な……何言ってるかよくわからないけど、そんな事させないっ!!」

突如乱入してきた多数の魔物の群れに、唯達はあっという間に取り囲まれてしまった。
仲間のエルマ、ルーア、サクラはここまでの戦いで満身創痍、ほぼ戦闘不能。
残った唯も、武器の手甲が破壊され、体力魔力とも限界に近い。

「こ、のおっ……!!」
びしっ!……ぶおんっ!
……拳の威力も蹴りの速度も、普段の状態とは程遠かった。

「ヒッヒッヒ!!いいねぇ〜。そういう可愛い抵抗は大歓迎だぜ……オラァッ!!」
…メキッ!!
「っぐあ……!!」

初撃の回し蹴りを、辛うじて受け止める唯。だが……受けた腕に、嫌な音が響いた。
少し遅れて、ずきずきと痛みが走る。

敵は、強化型のトカゲ型獣人、「リザードウォリアー」。
武器と体力が万全なら、互角以上には戦える相手だ。
だが……

(………まずい。今ので、骨が……)
「ゲヒヒヒヒヒ!!どんどん行くぜえ?」
ビシュンッ!!……ズババババッ!!ブオン!!
「んっ!!く…………きゃああっ!!」
(速い……体が、ついて、こな……)

連続ジャブで瞬く間にガードを崩され、丸太のように太い尻尾の一撃を、まともに喰らってしまう。

……ドスンッ!!
そして、壁……のような何かに、叩きつけられた。

「う、ぐ………あ……?」
「ケケケ……痛いなぁ〜唯ちゃん。
いきなり飛び込んでくるなんて、最近の若い子ってのは積極的だ、ねっと!!」

飛び込んだ先は、もう一体のリザードウォリアー。
体に力が入らず、ずるずると崩れ落ちそうになった唯の、両手を掴んで無理矢理立たせる。

「い……いや、放して……!!」
「クックック……可愛いおててだねぇ〜。恋人つなぎしちゃっていい?」
唯の両手を捕まえ、押し倒して覆いかぶさる。トカゲ獣人の鱗は鎧のようにゴツゴツして硬く、
鋭い爪の生えた手は、唯の手より二回り以上大きい。
身長も横幅も、唯がすっぽり覆いかぶされてしまう程に大きく、
数百キロはあるだろうその巨体は、押しても退いてもビクともしない。

………ミシッ………メキメキメキッ!!
「だ、だめっ……い、ひ、ぎあああああああぁぁぁああ!!!」
「あんまり可愛いから……握りつぶしたくなっちゃったよ。ゲヒヒヒ!!」

そして、圧倒的な「力」で、武術家の命ともいえる拳を破壊され……完全に心を折られてしまった。

「おいおーい。まだオレが遊んでたんだぜぇ?
そのサンドバッグ、ちゃんと支えててくれよ……」
「おう、わりーわりー。ゲヒヒヒ!!」
「い……い、…やっ……」

一体のリザードが唯の身体を軽々持ち上げ、羽交い絞めにする。
足先が地面につかず、バタバタと振り回しても、相手は痛がる素振りすらない。

「ヒヒヒ……んじゃ、順番待ちの連中もつっかえてる事だし……遊びは終わりだ。
コイツで、思いっきり行くぜぇ」
「はぁっ……はぁっ……ひっ……そんなの、しんじゃ、う……!!」

リザードウォリアーは本来の得物、大型ハンマーを手に取った。
それを唯の目の前で、見せつけるように軽々と振り回して見せるが、
サイズから見ても、人間の筋力ならまともに扱えないような重量なのは間違いないだろう。

「……ッラアアアア!!」
「……っ……!!」

攻撃の瞬間、目を閉じ、全身を強張らせ、腹筋にあらん限りの力を込めた……

だが、無駄だった。

ドボォッ……!!

「……!!……げ、ばぅっ……!!」
血混じりの胃液が飛び出て、瞳は裏返り…唯の身体はだらり、と弛緩した。

900名無しさん:2021/07/16(金) 23:01:35 ID:???
「……が……は、ぁ……。」
「ヘヘヘ……たまんねえなぁ……今の感触だと、内臓2〜3個は潰れたかぁ?」
「痛ってー…つーか俺まで痛かったじゃねえか!ざけんなよ!?」

「おー、ワリィワリィ。
まあ運命のナントカだかなんか知らねえが、所詮は人間のメス。
俺らエリート魔獣にかかりゃぁこんなもんよ!」

「ケッ!ワリィと思ってんなら、次は俺に先ヤらせろよ!
唯ちゃんの潰れかけの子宮、俺がパンパンに膨らませてやるぜェ!!」
「………ぅ……げほ…」
……リザードウォリアーが唯を向かい合わせにして、お尻を持ち上げて両脚を抱える。
裏四十八手櫓立ち……いわゆる駅弁ファックの体勢だ。

「唯ッ!!」
「っく……早く助けないと……!!」
「おっとぉ、行かせねえぜェ?お嬢ちゃん達」
「グヒヒヒ……俺らとも遊んでくれよぉ……!!」
……オトとエルマが助けに入ろうとするが、他の魔物に遮られてしまう。

むにっ!…ぐに、むにむにむに……
「んうっ………ぁ……」
「ふひょぉぉぉおお!!唯ちゃんの尻やわらけぇえええ!!
もう一生揉んでられるわコレ……!!グヒヒヒ……あーもう、我慢できねえ」

リザードウォリアーは気絶した唯のお尻を好き放題に弄り、剛直ペニスをはちきれんばかりに屹立させる。
絶体絶命と思われた、その時……

「………唯ぃいいい!…まだ終わってねえぞ、目え覚ませぇぇ!!!」
オトが周囲一面に鳴り響く大音量で唯に呼びかけた。

(……今の声………オト…ちゃん……?……あ……あれ、私……まだ、死んでない………)
その大声に、朦朧としていた唯の意識が覚醒する。
同時に、つい先ほど強烈な一撃を喰らったお腹や、握りつぶされた拳の痛みが、嘘のように引いていき……

(そう、だ……私は、仲間と……みんなと一緒に戦ってる……だから絶対に、弱音なんて吐いちゃいけない……)
(……まだ、動ける………まだ、戦えるっ……!!)
「篠原流柔術・四天連脚!!」
「……グゲェッ!?」
……ドカドカドカッ!!
次の瞬間。唯は目を見開き、素早く体を跳ね上げ、リザードウォリアーの顔面に連続蹴りを叩き込んだ。

「唯っ……!?……まさか、あのダメージで……」
「っしゃ!やっちまえー!!」

「からの……奥義・天地落としっ!!」
そのままリザードウォリアーの首を太股で挟み込み、フランケンシュタイナーの要領で投げ飛ばそうとする、が……

「グギッ……!!……させるかぁァアッ!!」
……ガブッ!!
「っぎゃうっ!?」
リザードウォリアーも黙ってはいない。
頭を挟まれたままの体勢から、口を大きく開き……その鋭い牙で、唯の股間に思い切りかぶりついた!

「フゴォォォオオオオッ!!」
「痛、っ……!?…は、放して……あ、ああああんっ!!」
股間から臍の上までをがっぷりと咥えられてしまった唯。
鋭い牙が柔肌に深々と食い込み、鮮血があたりに飛び散る。
更にリザードウォリアーは、唯の股間を咥えたまま首を振り回し……

………ズドオオンッ!!
「………っやゃぁぁああっ!!」
勢いをつけて、地面に叩きつけた!

901名無しさん:2021/07/16(金) 23:10:40 ID:???
ぬちょっ……ずぶ、ずぶ、じゅるるるるっ……
「ゲヒヒ……太股の感触も、齧り心地も最高だったぜ……だが、足癖の悪い子にはお仕置きが必要だよなぁ…?」
「……っ………ぐ、あ……」
動かなくなった唯の股間から、ゆっくりと牙を引き抜く。
唾液まみれの長い舌で、唯の下着をぐちょぐちょに嘗め回しながら。

「唯ーーーー!!!」
「クックック……ありゃ、今度こそ死んだなぁ?……なーに、てめえらもすぐに後を追わせてやるさ。
その前にタップリ楽しませてもらうけどなぁ!!」
「あ……アンタたち……絶対、許さない……!!」
再び強烈な一撃を喰らってしまった唯。もはや立ち上がることは不可能だろう。
嘲り笑いをあげる魔物達に、エルマは激しく怒りを燃やす。
……だが。

「へっ……そうは行かねえよ……唯、聞こえるか……まだ、やれるよなぁ……!?」
オトの目が静かな光を放つと、どこからか湧き出した霧のようなオーラが、唯の身体を包み込んでいき……

「はぁっ……!!…はぁっ……!!……大丈夫……行けるよ……!!」
(……動ける……自分でも不思議だけど……噛まれた所も、叩きつけられた頭も、痛みがほとんどない……!!)
「なっ?!て、テメェ、まだ動けるのか!?」
「ゆ、唯……!?……オト……今、何を……?」
(回復魔法?……いや、でも……何か、違和感が……)

唯を再び犯そうとしていたトカゲの目の前で、唯はゆっくりと立ち上がった。
完全にトドメを刺したつもりでいたトカゲは、突然蘇った唯に一瞬怯む。

その瞬間。オトが、行く手を遮る敵の脇を疾風のようにすり抜け……

「っしゃ!……合わせろ唯っ!!」
「うん!いくよオトちゃんっ!」

「鳳凰旋風脚!!」「タチバナ流奏法・壱越粉砕!」
ベキッ!! 
ドゴッ!!
「グギアアアアァァァ!!!」

唯の回し蹴りがリザードウォリアーの顔面を捉える。
同時に、オトの琵琶が後頭部に直撃。トカゲはその場で膝を折り、ズシン!と地響きを立てて倒れた。

メキッ……!!
(うっげ……兄貴の形見なのに………)
……だが。オトの琵琶も本体が割れ、柱の部分が半ばから折れてしまう。

「あ、ありがとうオトちゃん…!!」
「おう、唯……大丈夫か?」
「うん。だけど、その琵琶……」
「………こんなもん、別にいいって。お前を助けられたんだから、これ位安いもんだ」

オトは唯から目を逸らし、照れくさそうにお腹を押さえる。
エルマからは、その表情が……痛みをこらえているかのように見えた。

「テメエらよくも……やりやがったなァァァ!!」
なんとか一体は倒したものの、戦いはまだ終わっていない。
もう一匹のリザードウォリアーが、激昂して二人に襲い掛かる!

「オト!!唯!!」
ザシュッ!!
「…うぐっ………!!」

エルマが素早く割って入り、トカゲの爪を背中で受けた。
強化装甲の一部が切り裂かれ、左肩から背中にかけて、ざっくりと爪痕が刻まれる。

(……つぅ……けど、これくらいなら、まだ………!)
……何とか痛みに耐え、エルマが反撃に移ろうとした、その時。

「っぐああああああ!!!」
「オトちゃん!?どうしたの!?」

庇ったはずのオトが、悲鳴を上げた。

902名無しさん:2021/07/16(金) 23:22:20 ID:???
「やっぱり……あなた、術か何かで、私達の痛みを……!」
「えー?……な、なんか言ったかエルマ……ホラあたし、ちょっと耳悪いからさ」
「とぼけないでよ!私たちの受けてる痛みを、あなたが一人で引き受けてるんだとしたら……このままじゃ命に係わるわ!!」

桜子の腕に切られた肩の傷も、今受けた背中の傷も、予想していた半分も痛みを感じない。
今の戦いで重傷を負ったはずの唯も、痛がっている様子がない。
一方でオトは、見た目はほとんど無傷なのに、肩やお腹を苦しそうに押さえ、全身から異常なほどの脂汗をかいている。

オトの身に異変が起きているのは明白だった。そしてそれをオト自身が隠そうとしている、ということは……
この現象を起こしているのは、オト自身。
何らかの術、あるいは能力で自分たちの痛みを一部…いや大部分、引き受けている、とエルマは結論付けた。
……だが、今はそれをゆっくりと問い詰めていられる状況ではない。

「ケッ!何ゴチャゴチャ言ってやがる!!今度こそブチ殺してやるぜ!!」
「……天葬・心破掌底!!」
「ゴハッ!?」
「うぐっ……!!」

再び襲ってきたリザードウォリアーを、唯が掌底で迎撃。強烈な一撃に、巨体の突進が一瞬止まる。
と同時に、オトが両手を押さえて苦し気に呻いた。
確か唯の両手は、さっき別のトカゲに骨を砕かれていたはず……!

「くっ………このおおおお!!」
エルマは素早くトカゲの身体に飛びつき、喉笛に電磁ブレードを突き立てる。

……ベキンッ!!
既に桜子との戦いで半分に折られていた電磁ブレードが、今度は根元からへし折れた。

「…唯っ…!!」
「柔来拳、雷の型…雷震掌!!」
「……ギアァアアアアアアアアァッ!!」
更に唯が飛び込み、折れたブレードに電撃を叩き込む。
リザードウォリアーは断末魔の叫び声を上げた後、ぶすぶすと黒煙を吐き出し、動かなくなった。

「はぁっ……はぁっ……さす、がに……限界……」
「もう、魔力が………」
「っは……あたし、は……まだまだ、やれる……ぜ…」
「バカ言わないで……あんたが一番無理してるはずよ。今すぐ、私達に掛けた術を解いて」
「さー、て……何の、事だか……」

武器を失い、体力も魔力も使い果たし、体は傷だらけ。三人ともいつ倒れてもおかしくなかった。
だがエルマと唯は、傷の痛みをほとんど感じていない。

「いい加減、隠し事はやめにしてよ!……お願い。私達の事、仲間だと思ってくれてるなら……」
「………………。」

「ヒヒヒ!!そんな死にかけの女の子相手に、なーんでやられちゃうかなぁ?」
「所詮トカゲは、我らの中では最弱……なんつって。ヒヒヒ!!」
「さっさとブチのめして、全員マワしちまおうぜぇ……!」
「グフフフ……やっぱ女は、抵抗できなくなるまでボッコボコに潰してから犯すのが最高だよなぁ」
「オレはやる直前まで抵抗してくれる方が好きだな……ブヒ」

だが新手の魔物達が続々と現れ、エルマ達の周りを取り囲む。
ざっと数えただけでも、二十体以上はいるだろうか。

絶望的な状況の中、オトは一歩、前に進み出て……
足元に転がっている機械兵の残骸から、何かを拾い上げた。

……ナルビアの技術で作られた特殊合金製の手甲。格闘機兵ルビエラの愛用していた武器だ。

「……あたしが突っ込んで、道を作る。お前は唯を連れて、ここを脱出しろ」
「オト!?……ちょっと、待ちなさい!!戦うなら私も……」
「いーからいーから。……ケガ人は無理すんな」

「!?……っぐ……!!」
「う、ごは………!!」

再びオトの瞳が光を放つと、エルマと唯の身体に、「本来の痛み」が戻ってきた。
唯はたちまち気を失い、エルマも腕が上がらず、思わずその場に膝をつく。
(……想像、以上だわ……アイツ今まで、こんな痛みの中で戦ってたって言うの……!?)
これでは戦うどころではない。オトの言う通り、気を失った唯を背負って動くのがやっと、といった所か。

「ありがとな、エルマ……唯のことを頼む。死なせないでくれよ。あたしたちの隊長を、さ……」
「ま……待ちなさ……っぐ……!!」

敵に向かって一人突っ込んでいくオトを、エルマは追いかけることが出来なかった。

「オラオラオラああ!!こっからはアタシの、一世一代のワンマンショーだ!!
全員耳かっぽじって、アタシの歌を聴けぇぇぇ!!」

903名無しさん:2021/07/26(月) 00:36:42 ID:???
「っしゃ、行くぜ!まずは、ファーストナンバー…真紅の★芸者!!」
オトは大声で歌いながら、オーガ、トロル、ミノタウロス、etc……の屈強な魔物達の群れに飛び込んだ。

「♪…急に歌うよーー♪オラオラオラー!!」
……ドガッ!!ベキッ!! ばこんっ!!

「ッグオアアアアッ!!」
「グギッ!?なんだ、コイツ……!」
「クソガぁぁ!!構うこたねえ、相手は一人だ、全員でつぶせぇぇ!!」

自分の倍以上の体格を持つ魔物たち相手に、拳や蹴りだけで互角以上に渡り合うオト。
ひたすらテンションを上げながら魔力のこもった歌を歌うことで、
自らのパワー、身体能力を爆発的に向上させるのだ!

だが当然の事ながら、歌いながら戦う行為は激しく体力を消耗する!
良い子は絶対真似しちゃいけない、無謀な玉砕戦法なのである……!!

「ぁぁあーー♪2番のサビの後ぐらいにあるちょっとメロディ変わるやつーー!
覚えるの面倒だからこの世からなくなって欲しいぜー♪っとくらぁ!!」

………………

「サクラ、唯の治療をお願い!」
「は、はいエルマさん!でも、エルマさんの傷も治さないと!」
「平気よ、唯やオトの痛みに比べれば、この位……!」

オトが魔物の軍勢を相手にしている間に、エルマはなんとかサクラ、ルーア達と合流した。
周りを囲まれないよう壁際に固まっているが、魔物に囲まれているため逃げ場がない。

そこへオトが討ち漏らした魔物、ゴブリンの一団が一斉に襲い掛かる!
「ゲキキキッ!!コイツラ全員ボロボロだぜ!」
「これなら俺達でも勝てるキッ!!」
「オラオラ!全員マワしてやるぜー!!」

(どうする……応戦するにしても、何か武器は……!!…)
足元に転がっていた、機械兵の残骸を拾い上げると……

「借りるわよ、エミリーっ…だああぁっ!」
「「ギァアアァァァ!!」」
電磁ブレードを両足に装着し、飛び掛かってきたゴブリン達を斬り飛ばす!

「サクラ、ルーアちゃん、エミルさん!私がここを食い止めるから、その間に考えて!
……全員で、脱出する方法を!!」

「ギギギッ……あの女、生意気だゲッ!!」
「全員で一気にかかって、やっちまえ!」
「グヒッ……ゴブリンぐれえでヒーヒ―言ってるようなら、楽勝だベ…!!」
オークやガーゴイル、トロルなど、中・大型のモンスターがぞろぞろとやって来る。

「はぁっ……はぁっ……はぁっ……いくらでも、来なさいよ……
唯やサクラたちには、指一本触れさせないから……!!」

疲労と失血、早くも息が上がり始めたエルマ。
肩や背中の傷が今さらになってずきずきと痛み始めた。

(オト……あんたの事も絶対、死なせない……
あたしらが行くまで、倒れるんじゃないわよ……!!)

904名無しさん:2021/07/26(月) 00:39:34 ID:???
一方。指令室の入り口付近では、アリスと桜子、そしてイヴが雪崩れ込んでくる魔物達を必死に食い止めていた。

「くっ……私の右腕……こんな時に限って、動かないなんて……!」
「はあっ……はぁっ………魔力が、もう……!!」
「数が多すぎる……せめて、魔法針があれば……」
元々の戦闘力は高かった3人だが、こちらも武器や体力、魔力が底を突きつつある。

「くそっ……スネグアめ。なぜこんななりふり構わない総攻撃を……
私たちもろとも、この基地を潰すつもりなのか…!?」

そんな窮状に追い打ちをかけるかのように、敵の軍勢を率いる『総大将』が姿を現した。

「ふふふふ……はぁ〜い。お久しぶり、桜子ちゃん♪」
「!?……お前は確か、ゾンビキメラ………なのか……!?」

スネグアの使い魔の一匹、ゾンビキメラ……桜子たイヴも、何度か顔を見た事があった。
全身に様々な魔物の部位をつなぎ合わせたような、醜悪な姿の魔物……だったはずなのだが。

「ふっふーん。正解〜♪よくわかったわねぇ。
色〜んな魔物とかを取り込んで、昔よりビューティ&セクシーになったつもりなんだけどぉ♪」

今の姿は、人間に似た手足と胴体を持ち、角や尻尾、翼などが生えていて、
ベースとなったラミア…蛇女より、どちらかというと魔族に近い。
眼光の鋭さや邪悪そうな表情など、顔に僅かな面影が残るのみであった。

「色んな魔物……他のスネグアの配下の魔物を、か?
そんな勝手な振る舞いを、お前のご主人様が許すとは到底思えないが……」

そして何より異様なのが……ゾンビキメラの服装。
あれは間違いなく、王下十輝星であるスネグア専用の軍服。
更に、スネグアの家系に代々伝わるという魔獣使いの鞭『リベリオンシャッター』を腰に着けている。

「……あぁ〜。桜子ちゃん達はまだ、知らなかったのねぇ〜♪
あたしの『元』ご主人様のスネグアとかいうクソ女なら、
全身バラバラにされて、魔物の餌になって死んだわよぉ?」

「なっ……!?」
桜子もイヴも、衝撃的な事実が告げられて動揺を隠せなかった。
にわかには信じられないが、本当だとしたら、魔物たちが今暴走状態になっているのも納得がいく。
何しろ制御するものが居なくなったのだから、当然とも言えるだろう。

しかし、まだ気になる事がもう一つ……
スネグアが死んだのだとしたら、捕らえられたスバル、そしてイヴの妹メルは、今どうしているのか……

「そういうわけでぇ〜、ワタシが桜子ちゃん達の新しいご主人様になりました♪
いつまでもゾンビキメラ何て名前じゃダサいし、支配者に相応しい新しい名前、考えないとね♪」

「黙って聞いていれば、勝手な事を……そもそもスネグアの下に付く事さえ不本意だったのだ」
「そうです……あなたの手下になんて、なるつもりはありません!」
桜子とイヴは、当然ながらゾンビキメラに反旗を翻す。

「いいのかなぁ〜?そんな事言って……断言してもいいけど、あなた達はアタシにゼッタイ逆らえない。
……嘘だと思うなら、掛かってきてみれば?」
「……いいだろう。その余裕ヅラ……後悔させてやるっ!!」

姿が変わったゾンビキメラ。人型に近い、すなわち上級クラスの魔物を何体も取り込んでいるという事は、
恐らく戦闘能力も格段に上がっているだろう。
だがあの理由は、本当にそれだけだろうか……?
……挑発を仕掛けて来るゾンビキメラに、桜子たちは敢えて乗ることにした。

「……でやああああぁぁぁっ!!」
「行きますっ……ファイアボルト!!」
異形の右腕を大剣へと変え、ゾンビキメラに斬りかかる桜子。そして、炎の魔法を放つイヴ。
だが、攻撃が届く、その寸前……

「ふふふ……斬ってごらんなさい。斬れるものなら、ね」
……ゾンビキメラの両肩が膨れ上がり、人の顔を形作る。

「!?……こ……これ、は……」
「まさか……」
「桜…子……おねえ、ちゃ……」
「イブ……姉……」
それは……見間違えるはずもない、スバルとメルの顔だった。

905名無しさん:2021/07/27(火) 22:01:35 ID:???
「ふふふふ……どうしたの桜子ちゃぁん?余裕ヅラを後悔させてくれるんじゃなかったの〜?」
「………スバルっ……!!……」
「そんな……メル……!?」
ゾンビキメラの両肩が不気味に蠢き、スバルとイヴの頭が現れる。

ゴオォッ!!
「っぐ……!!」
「桜子さんっ…!!」
斬りかかろうとしていた桜子は咄嗟に攻撃を中止し、イヴの火炎魔法を背中で受け止める。

「……貴、様っ………二人に何をしたっ!!」
「ふふふ……見ればわかるでしょ?体ごと取り込んだのよ。この子たちは今、私と一心同体ってわけ」

「しかも、痛覚はぜぇんぶこの子たちに引き受けてもらってるから、少しでも私を傷つけたりしたら……」
ゾンビキメラは、ニヤニヤと笑いながら、鋭い爪を自分の胸に突き刺す。

……ズブッ!
「ひゃっ!?うっぐぁあ!?」「いぎっ!?痛だあああああ!!!」
すると、スバルとイヴの顔が苦痛に泣き叫ぶ。一方、ゾンビキメラ本人は涼しい顔のままだ。

「………この通り。この子たちが痛がることになっちゃうの。
ま、私は全然痛くないし、多少の傷口はすぐ再生するから、気にせず攻撃していいわよ〜?」

「そん、な……なんてこと……!」
「この……外道めっ……!!」
桜子、イヴ、そして横にいたアリスも、ゾンビキメラの所業に憤りを隠せなかった。
だが人質を取られていては手も足も出ず、ゾンビキメラを睨みつけながらじりじりと後退するしかない。

「ふふふふ……いい表情♪……パワーアップのついでにレズい魔物もいっぱい同化したから、そー言う顔みるとゾクゾク来ちゃうわぁ♪
んじゃ、立場の差が理解できたところで……桜子ちゃん達には改めて、あたしの手足として働いて貰おうかしら」

「…………結局、そうなるのか……済まない、スバル……」
「メル……ごめんなさい、私に力がないばっかりに……」
「だ、め……こんなやつの、言う事なんか……」
「……わたしたち、の事は、いいから……!……」
無念そうに顔を伏せる桜子とイヴ。そして、同じく悲痛な表情を浮かべるスバルとメル。
不幸な少女たちの運命は、またもふりだしへ戻るのか。………それとも、更なる絶望の底へと墜ちていくのか。

「う〜〜〜ん………でもでもぉ。
使えそうなパーツは、せいぜい桜子ちゃんの右腕くらいかしらねぇ?」

ゾンビキメラは桜子達を吟味するように眺めた後、ドライバーのような道具を取り出して桜子に軽く触れる。

「何?……それは、どういう………」

次の瞬間。桜子は、首、肩、脚の付け根の関節に、違和感を覚える。
身体を動かそうとしたとき、視界が激しく揺れ、身体のバランスが保てなくなり……衝撃と共に、頭から地面に転げ落ちた。

「意味、だ、っぐあっ!?」
「桜子さんっ!?」
「なっ……一体、これは……!?」
……バラバラバラッ!!

驚愕するイヴとアリス。何が起きたかわからず、手足をばたつかせる桜子。
両手、胴体、両足と、桜子の全身はバラバラに分解し、地面に散乱していた。

「うふふふ………いつ使っても面白いわぁコレ。何が起きたのかわからない、っていう間抜けな表情がサイコー♪」
スネグアを葬り去った時にも使用した、「とある協力者」から借り受けたナルビア製の秘密アイテム。
その名も「デストラクション・ねじ回し」である。

「じゃ、アナタの右腕もらっとくわ……ナリはちょっとダサいけど、そこそこ使えそうな剣ね♪」
「っ………貴、様っ………!」
ゾンビキメラは桜子の右腕を拾い上げる。
禍々しい刃を持つ異形の右腕は、さらに姿を変異して大型の剣へとなり、ゾンビキメラに取り込まれていく。

「ふんふんふ〜ん……それじゃ、早速………試し斬りっと♪」
ゾンビキメラは、山道で拾った枯れ枝でも振り回すように、異形の大剣を軽く横に振るった。

……ブオンッ!!
「っ………!」
動けない桜子の頭上を、巨大な異形の刃が唸りを上げて通過する。

「くっ……!!」
アリスは、ギリギリの所で身を伏せてかわした。

……バシュンッ!!
「!……ぁ…………?」
イヴは、反応できず、吹き飛ばされて……十数メートル先の壁まで叩きつけられた。

906名無しさん:2021/07/27(火) 22:50:47 ID:???
(え……?……わ、た………し……今、どうなったの………?)
ほんの一瞬、気を失っていたようだ。イヴはぼんやりと、周りの状況を確認し始める。
頭を打ったせいか、なんだか視界がぐらつく。
メルや桜子の声が遠くの方で聞こえる。

お腹の下あたりが妙に温かかった。

猛烈に眠くて、このまま眠ってしまいそうだ………

「……ぁ………ぇ……」

「イヴーーーーッ!!!」
「いやあああ!!お姉ちゃぁああああん!!」

泣き叫ぶメルとスバル。絶叫する桜子。

「ん〜……切れ味はイマイチだけど、こんな物かしらねぇ」
ゾンビキメラは邪悪な笑みを浮かべながら、ぶん、と剣を一振りして返り血を払う。

「許せません……スネグアも最低の敵でしたが、あなたはそれ以上に邪悪です……!!」
魔物に取り込まれ、弄ばれ、無残に殺された、姉妹の姿を見せつけられ……
アリスは、自分の中の怒りの感情を抑えきれなかった。

「なーんか、さっきから無駄にウロチョロしてるウサギちゃんがいる、と思ってたけど……
スネグアのお気に入りだった、エリスだか、アリスだか言う子だっけ?
……あなたもなかなか、嬲りがいのありそうな顔してるわねぇ」

アリスの反抗的な視線に、嗜虐心をそそられたゾンビキメラ。
右手に異形の大剣、左手にはスネグアの鞭「リベリオン・シャッター」を持ち、べろりと唇を舐めた。

(……私一人の力じゃ、勝ち目はないかもしれない……だけど……)
「お前のような奴を……許しておくわけにはいきませんっ………!!」

アリスの腕のブレスレットが青い光を放つ。
修復・スタンバイ中だった「ブルークリスタル・スーツ」が使用可能になったサインだ。

そして………

「アリスーーーっ!!……一体、何が起きているっ!どうして、基地にこんなに魔物が……!!」

……アリスの双子の姉妹、エリス。
自陣地に潜入した敵特殊部隊の妙な骸骨に思わぬ苦戦を強いられ、
さらに期間中に魔物兵の大群に遭遇し、ボロボロに疲弊しながらも……たった今、前線基地に帰還した。

「アリスっ………力を貸して下さい……!」
「……エリス………ああ、もちろんだ……!!」

それ以上の言葉は不要だった。
エリスのブレスレットにも、赤い光が灯り……

「……蒼填!!」「……紅衣!!」

蒼と紅のまばゆい光と共に、二人は輝く装甲を身に纏った。

907名無しさん:2021/08/03(火) 21:53:52 ID:???
一方。前線基地に帰還予定だった、他のシックスデイのメンバーは……

「うぉおおおお!いたぞー!!」
「ナルビア兵の……シックスデイのお色気担当の子だーー!!」
「っしゃー!!とっ捕まえて軍服プレイだぜーー!!」

「ったく、しつこいなぁ……あんたらの相手なんて、してられっかっつーの」

レイナ・フレグは、大量の魔物に追われて一目散に逃げていた。
彼女のスピードなら、まず追いつかれる事はない……が、このままの状態、というわけにもいかない。
現在走っているのは、基地とは反対の方角だった。

「およ、あそこにいるのは……Dさん!ちょーどよかった!」
「ん?あれは……レイナじゃねーか。追われてるのか……!?」

同じくシックス・デイのダイ・ブヤヴェーナが、追われるレイナを見つける。
彼は急に魔物が大発生したため、様子を見ながら基地に帰還中だった。

「しゃーねぇなぁ……スリップレイン!」
ツルッ!ズルッ!!ベシャッ!!
「ブモっ!?」「ゲヒッ!?」「「「グワアーーーー!」」」

レイナが追われているのを見て、すぐさま特殊能力を発動する。
滑りやすい性質の水を雨のように降らせて、魔物達を派手に転倒させた。

「やれやれ……こいつらから見りゃ、お前も女扱いって事か。怪我はねえか?」
「さんきゅーDさん!それじゃ……後はよろしくぅ!」

「そういや、さっきエリスにも会ったぜ。
ヒールレインで治療してやったら、礼も言わずに速攻で基地に戻っていきやがった。
俺らもさっさと……って、おいぃ!?」

レイナは雑に礼を言ったと思ったら、速攻で基地とは反対方向に全力で走って行った。

「なんなんだよ、アイツ……どこ行くつもりだ?
本部にもさっきから連絡付かねーし、何がどうなってやがる……!」

「ガルルル……おい、俺らをコケさせたのはテメエだな…」
「おかげで軍服少女ちゃんを逃がしちまったじゃねーか!」
「野郎、ぶっ殺してやる!!」
「っええ!?ちょちょちょ、待て待て!落ち着け……アッーー!!」

今度はDが全力で逃げ回る羽目になった。

そして……レイナは追跡を再開した。目指すは前線基地とは反対方向、戦場の端の端……
海沿いで、近くに小さな漁港があり、逃亡者が隠れるには、うってつけの場所。

「この臭い……感じる。感じるよぉ………そっちにいるんだね……舞ちゃん……」

……レイナが狙っている獲物は、そこに間違いなくいる。
野生の勘。狩猟者、捕食者、殺戮者としての勘が、そう告げていた。

908名無しさん:2021/08/03(火) 21:58:21 ID:???
「んむっ…!…ん……サキ…様……」

サキは舞の唇を奪い、舌を深く差し込み、そこから闇の魔力を流し込んでいく。
刻まれた者の魂を奪い尽くし、術者の思うがままとする「隷属の刻印」を刻むために。

(……!……魔力を介して、サキ様の心が……)
(舞の心が、流れ込んでくる……)

二人の魂が繋がり合い、言葉を交わさずとも互いの想いが通じ合った。
そして……

ずぶっ……ぞわわっ………
(!……)(これは……)

舞の身体から、黒い影のようなものが無数に現れ始める。
これまでに舞が受けてきた呪いや邪念が、可視化したものだ。

全身、特に、誰しもが見とれるすらりとした美脚に、数多くの思念がまとわりついているのが見える。

(どっかのガチレズ司教、ツギハギの化物。通りすがりの雑魚兵士やスケベなおっさんまで……
よくまあこれだけ集まったものね。でも……もう誰にも、渡さない…!)
これらの邪念を取り除く……手段はモノによって様々だが、もっとも単純なのは、物理的な除去。

「んっ……!………ぅ……はぁ……はぁ……」
「………ほら。化け物の精液とか、良くない物も、全部い吐いちゃいなさい」
サキは舞の口の中に指を突っ込んで、ゾンビキメラの精液を無理矢理吐かせる。

「!………げほっ!!……っぐ、ぉぇ……はぁっ……はぁっ……
そんな、サキ様自ら、そんな、こと……!」
「構わないでしょ。……あんたはあたしの物なんだから、何やったって……ね」
「ふいっ!?……ふ、ぁぅん………!!」
舞の体内に残る邪念の元を一つ一つ探り当て、丁寧に除去していった。

「……これで、少しは楽になったでしょ。……少し休んでから、ユキたちの所に戻りましょう」
司教によって刻まれた呪術の刻印は、より強固な印によって上書きする。
右足の太もも、かつて火傷を負った場所に、黒い紋様が浮かび上がっていく……

呪術的な処置は、ひと段落着いた。
調教などを受けて、敏感になった体は徐々に慣らしていくしかないだろう。
ブーツの力で無理矢理押さえ込むこともできるが、それは……舞の寿命を縮める行為に他ならない。
このブーツは、すぐにでも破棄した方が良い。

「近くの漁港に、脱出用の船を手配してある……
それに乗って、こんな糞みたいな国、みんなでおさらばしちゃいましょ。後の事はどうとでもなるわよ。だから……」
「あ……ありがとうございます、サキ様……ですが……」

ジャララララッ!!
「……うっ!?」
「……舞!?」
その時。
金色に輝く鎖が、舞の身体に絡みついた。
……これは本物の鎖ではない。誰かの思念が視覚化した物……

「舞ちゃん、み〜つけた。
こんな所で、他のやつとイチャイチャしてるなんて……マジ許せないわ」
今度こそ、ゼッタイ逃がさないからね……『雷装』!!」

二人の前に現れたのは、シックスデイの一人、レイナ。
以前から舞に並々ならぬ執着を示していた彼女の眼は、飢えた獣のごとくギラギラと光を放つ。
金色のブレスレットを掲げて叫ぶと、稲光と共に黒地のインナースーツと金色のプロテクター姿に変身した。

「舞………!」
「ユキ様と、船で待っていてください……後から追いつきます。必ず」
黒いブーツが、舞の脚に収まり、ふわりと浮かぶように立ち上がる。
全身から何か……取り返しのつかない何かが失われ、羽のように軽くなった。

「……これが私の、最後の舞。
私がサキ様の物になる前に………最後の呪いは自らの手で、断ち切ってあげる……!!」

「ふふふ………しばらく見ないうちに、いい眼するようになったじゃない。
今度こそ、とことん遊べそうだね。あたしの舞ちゃん……♪」

909>>903から:2021/08/09(月) 17:55:40 ID:???
「燃えろバーニン♪心のハートー♪くらえ鉄拳アイアンパンチー♪
 うらうらうらぁぁぁっ!!」
大声で歌い、敵の大群をひきつけながら戦い続けるオト。

「ぐうっ!?……なんつー声だ……!!」
「くっそうるせぇぇ!!誰かそいつを黙らせろぉぉぉ!!」
そのバカでかい歌声は、自身の戦闘力を高めるだけでなく敵をも魅了…
…というか、うっすらヘイトを買ってる感もあった。

……ドゴッ!!ベキッ!!
「このガキがぁ!!さっさと倒れて、俺らにヤられろやぁぁ!!」
「♪熱くヒートだ力の…っぐは!!……っく……パワー…っだぁああ!!」

ごきんっ!!
「っぐべっ!?」
「ぜぇっ……はぁっ……まだ、まだ……次のナンバーいくぜおらああああ!!」

「おいどうなってんだ。こいつ全然倒れねえぞ……」
「どう見てもボロボロで、ワンパンどころかデコピンでも倒せそうなのによぉ!」
「へっ……俺らがトドメ刺してやるぜぇぇ!!」

大型の上級モンスターも含め、既に十体近くの敵を倒していた。
反撃も数多く喰らい、今にも倒れそうな程ボロボロの傷だらけ。
肩で息をしていて、体力も明らかに限界のはずだった。

だがそれでも……

「すーーーー……
止まるんじゃーねぇぞー♪ アタシは止まんねぇからよー♪
っであぁあっしゃ!!」
どかっっ!!べき!!
「っぐお!?……このアマ、ふざけやがって……!!」

オトはひたすら歌い、戦い続ける。
唯やエルマ、ヴェンデッタ小隊のメンバー達を……仲間を守るために。

バキッ!ドガッ!!……ドボッ!!
「あぐっ!!っうあ!!………げほっ!!」
「グヒッ……メスガキの腹ってのはいつ殴ってもサイコーだなぁぁ!!」
「もうフラフラじゃねえか。いい加減ラクになっちまえよ……!」

「っぐ、えほっ……ぜんぜん……効か、ねえな……今度はこっちから行くぜぇ!!
お前が止まらねえ限りー♪…その先にアタシはいんぞー♪っと……おらぁっ!!」

………………

オトの一族に伝わる秘術「イタミワケ」は、他人の受けたダメージを自分が代わりに引き受ける、自己犠牲の術。

オトの兄、シラベ・タチバナもまた、この術の使い手で、また優秀な討魔忍でもあった。
だがある時、彼の部隊は敵の罠に陥り、全員が重傷を負ってしまい……
その傷を一人で引き受けた事で、彼は命を落とす事になった。

………………

……ドゴッ!!
「っぐは……なん、だと……!」
「はぁっ……はぁっ……どう、した……げほっ!!……あたしは、まだまだ……歌えんぞ……!!」

「チィ……この死にぞこないが!……いい加減そのへたくそな歌を止めやがれぇ!」
「あーーー?聞こえねえなぁ……!……もう一曲行くぜ、おらぁっ!!」

バキッ!!……ドカッ!!

910名無しさん:2021/08/09(月) 18:00:42 ID:???
オトは幼い頃から歌が好きな少女で、亡き祖母から習った琵琶を片手に、暇さえあればいつも歌っていた。
将来はアイドル歌手になりたい!と淡い夢を抱いていたのだが……
当時親友だった少女を守るため、「イタミワケ」の術を使い、それが元で耳に深刻なダメージを負ってしまった。

それ以来、アイドル歌手になる夢をあきらめ……たりはせず。
調律も出鱈目な琵琶をかき鳴らし、やたら大きい声でひたすら歌いまくった。
おまけに人の話も聞こえづらいため会話がズレて、いつしか周囲から浮くようになっていった。


そして……今。

「……はぁっ…………はぁっ…………はぁっ…………はぁっ……」
「ガルルッ!しぶといメスガキだぜ。大人しく犯されてりゃぁ天国見せてやんのによぉ!」
「俺らはまだまだ大勢いるんだ。抵抗したって、その分あとで痛い目見るだけだぜ!」

魔物の大群に囲まれ、今にも倒れそうになりながらも……未だオトの目は、死んでいなかった。

(唯……お前がエルマを助けるために、スライムプールに飛び込んだ時……バカだなって思ったよ。
あたしと同じくらい……あたしより、バカな奴がいたんだ、って……すっげえ嬉しかった)

「がはっ!………へっ……雑魚がピーチク、囀ってんじゃねえ。黙ってアタシの歌を聞きやがれ……!
よ、み、が、え、る よみがえる 甦る―♪」

「チッ!またあの下手糞な歌か!鬱陶しいぜ!」
「あのガキ、何度ボコっても、あの変な歌を歌い出すたびに復活しやがる!」

(エルマ、サクラ、ルーアも……みんな、同じように良い奴ばっかでよかった。
仲間を……誰かを助けるために、自分を犠牲にして突っ込んでいける、そんな奴らで。
兄貴やアタシが、間違ってなかったって……一人じゃないって、そう思えたから……)

バキッ!! ドガッ!!
「ぐはっ!!……うっぐ、ぁ……痛く、ねえ……!!
アイツらのためなら……あたしは、いくらだって歌えるんだっ……!!」
「ゲヒッ!……だったら、これならどうだギィ!!」
「次の曲は……うっ!?……む、ぐっ……!!」

血の塊を吐き出しながら、気炎を上げるオト。
だがその時。背後から一匹のゴブリンが飛び掛かり、オトの口を塞いだ。

「んぐ……むぅぅっ!……」
(ちくしょう、放せっ……!!)
「ゲヒヒヒ!!思った通りだギ!歌が止まったら、力も弱くなったギ!!」

ゴブリンは両脚でオトの胴体にしがみつき、両手で羽交い絞めしながら口を塞ぐ。
……単純ながら、効果覿面だった。
歌を封じられた今のオトには、本来非力な小鬼の拘束すら振りほどけない。

「ゲヘヘ!雑魚のくせにナイスだぜぇ!……オラ、喰らいやがれぇぇ!!」

………ドガァッ!!
「むぐ…!……んう、っぐ…………っぐあああああぁっ!!」
「ギッ!?ちょ、ちょっと待……ぶべらっ!!」

ミノタウロスの豪快なヤクザキックが直撃し、オトの身体はゴブリンもろとも吹っ飛ばされた。

911名無しさん:2021/08/09(月) 18:07:25 ID:???
ガコンッ! ズシャ! ドガガガッ!!
「………っ、あぐ!……っうぎ!…………!!」

オトの身体は硬い石床をバウンドし、何かの塊にぶつかって止まった。

「…はぁっ……はぁっ…………!」
頭が痛い。胸と腹が痛い。背中も腰も、両手両足全身全てが死ぬほど痛い。

………ズキンッ………
「ち……まだ、まだぁっ……っぐ……!?」
もう一度歌おうと、息を吸い込もうとして……激痛で体がビクンと震えた。
どうやら肋骨が折れているらしかった。歌おうにも、これでは大きい声が出せない。

「ゲッヘッヘッヘー! トドメを刺してやんぜぇぇ!!」
「……はぁっ……げほっ……ま、まだだ…………あたしは、まだ……!」
巻き添えでのびているゴブリンを振り払い、何かの塊に捕まって立ち上がるが……

ぐちゃっ………
(……?……何だ、これ……………?)
何かの塊の正体は、さっき倒したリザードウォリアーの死体……ではなく、抜け殻だった。

「ゲッゲッゲ………テメエは琵琶で俺を思いっきり殴ってくれた、クソ女じゃねえか……」
「ヒヒヒ……丁度いいぜ。脱皮したてで腹が減ってたんだ」

抜け殻……そう。
一度倒されたはずのこのトカゲ達は、仮死状態になった後、脱皮して新たに生まれ変わったのだ。
前よりも格段に力を増して。

………ズドンッ!!
「……っがは!」

長大な尻尾が振り下ろされ、オトは一撃で叩き伏せられる。

「ヒヒヒ!あっけねえなぁ……じゃ、さっそく踊り食いと行くか」
「待て待て。さっきの礼に、たっぷり甚振ってからだ」
「おいおいトカゲのダンナよお……そいつは俺らが先に遊んでたんだぜぇ?」

「……ま、だ……あたし、は……」

魔物達が集まり、動けないオトの首を掴んで、ひょいと持ち上げる。
はたして獲物を手に入れるのは誰なのか。はたまた仲良く山分けか………

912名無しさん:2021/08/13(金) 16:41:41 ID:???
「スズ……!スズッ!!」

アリスの強襲によって湖に落ちたリザとスズ。
意識のあったリザがスズを担いで湖畔に移動したが、彼女は目を覚まさなかった。

「……死なせないッ……!もう、死なせたくない……!」

心臓マッサージと人工呼吸を繰り返すが、スズは目を覚まさない。
静かに胸が上下しているので、生きてはいるのだが、意識が戻らない状態であった。



<敵性反応検知>
<敵性反応検知>
<敵性反応検知>

「ナルビアの偵察機……?こんなときに……!」

自分一人ならば戦えるが、動けないスズを庇いながら戦うのは流石に厳しい。
そう判断したリザは、急いでスズの体を草陰に隠した。

<敵発見><敵発見><敵発見>
<<<攻撃を開始します>>>

バチバチバチバチバチッ!!
「くっ……!」

放たれた電撃をシフトで回避する。
リザの目の前に現れたのは、鉄球のような浮遊マシーン。
イヴを捉えていたものと同様の機械だが、この時はまだ稼働が停止していないため、トーメントの兵士であるリザに襲いかかってきた。

<敵反応消失>
<座標変更>
<座標再設定>
<<<攻撃を開始します>>>

「嘘、そんなっ……!きゃああああああぁっ!!」
バチバチバチバチバチバチバチバチバチッ!!!

シフトで離れた後にすぐに攻撃される可能性を、リザは考えていなかった。
人間相手ならば一度見失うが、この鉄の塊は熱源探知と音で攻撃対象を瞬時に捕縛し、電撃を放出する。
一度視界から消えたとて、攻撃範囲であればすぐに再攻撃が可能な高性能マシーンの電撃が、リザの身体を貫いた。

(ぐ……甘、かった……湖に、落ちる……)

空中で電撃を喰らったリザは、真っ逆様に湖へと落ちた。



<対象の敵を殲滅>
<警戒モードへ移行>
<警戒モードへ移行>

「ごぼ、がぼっ……!」

地上の敵は追撃を諦めたようだが、体が痺れているリザは泳ぐことができなかった。

(このままじゃ溺れる……!早く戻らないと、スズが……!)

シフトの力は指定座標を強く念じることで発動する。それは水中でも可能だ。



ビュンッ!
「ぷはっ!」

<<<敵性反応検知。攻撃を開始します>>>

「ッ!雷禍斬滅!!」

地上に出た途端に放たれた電撃を、予測した通り斬り払う。
その後はすぐにシフトで急接近し、自身の血液を犠牲に発動する破壊力重視のシャドウブレードを起動させた。

「闇烈斬!!」

バゴン!!
<ビービービー!>
<修復、不可kkkkkkkk>
<キ、ノウ、テイ、シssssss>

鉄球マシーン3体をまとめて斬り払い、リザはぺたんと座り込んだ。



「はぁっ、はぁっ……!」
(血が吸えないと、これだけの技でも……少しふらつく……)

シャドウブレードは火力重視の武装のため、魔物にも効果的だが、使用者の血液を吸い取る。
ただし、斬った人や魔物の血液を吸収すれば、自身の血液ではなくそちらを還元させることができるため、高火力を維持できる。

だが、このような無機物相手では吸い取る血液がないため、技を出そうものならかなり体力を吸い取られてしまうのであった。

913名無しさん:2021/08/13(金) 16:42:57 ID:???
「おお〜!リザちゃんかっこいい!」

「……スズ、起きたんだ。よかった……」

いつのまにか起き上がったスズが、草陰から出てきてリザの下に駆け寄った。

「リザちゃんが献身的に助けてくれたおかげだよ!ありがとう〜!」

「それはいいんだけど……どうして、あのセリフを知っているの?」

「え?なんの話?」

「……湖に落ちる瞬間に言った、母なる海が守ってくれる……って」

「……….」

「あれは、私のお姉ちゃんが私を庇って海に落ちるときに言ったセリフで……私以外、誰も知らないはず」

「……私の異能力は、運命の予知。だからリザちゃんの運命はたくさん見たの。多分その中で印象的だったセリフを、ポロッと言っちゃったんだろうね!てへへ!」

「……他人に知られたくない過去もあるから、無闇に人の運命を見ない方がいいと思う。……少なくとも私は、あまりいい気がしない」

吐き捨てるようにそう言うとリザは立ち上がり、濡れた髪を手櫛で整え始めた。

「……あ、あれ?怒ってる?リザちゃん怒っちゃった?ご、ごめんね!もう見ないから許して!」

「……別に怒ってないよ……エミリアたちとも連絡を取りつつ、メサイアを探そう。動ける?」

「う、うん!この破壊プログラムをメサイアちゃんに打ち込めばいいんだよね!早速探そうー!」

「…………」

スズの掛け声にも返事をせず、リザは地図で道を確認しつつ歩き始めた。

「や、やっぱり怒ってる……?」

「……怒ってない。任務に集中して」

「うう、リザちゃんが怖いよぉ……」

914名無しさん:2021/08/14(土) 23:27:11 ID:???
 前線で戦い続けていたが、ついに捕まってしまったオト。
 激しい戦闘で消耗しきった彼女は、もはや声も出せなくなっていた。

 「ゲヘヘヘヘへ……ようやく捕まえたぜぇ。このご時世にマスクもせず歌って飛沫をばら撒きまくるたぁ、いい度胸だなあ!」
 「ぐ……ぅ……!」
 「こうしてよく見りゃ、かなりの上玉……!歌は下手くそだったが、身体は極上じゃねえか、キヒヒヒヒ!!!」

 ミノタウロスとトカゲの魔物に下卑た視線を浴びせられても、抵抗はおろか声も出せない。
 オトのイタミワケは出血こそしないが、その痛みは確実に術者の体力を奪う異能。
 戦闘中に自分の痛みに加えて他人の痛みまで肩代わりするのは、並大抵のことでは不可能。
それでもオトがここまで戦えたのは、ヴェンデッタ小隊としてではなく、大切な仲間を守るためであった。

 (もう声も、出ない……結局兄貴と同じ末路か……でも、後悔は、してないけどな……)

 「さあ身包み剥がすぜ!戦場の1番の楽しみは、敵国の女を犯すことって相場が決まってらぁ!」
 「キヒヒヒヒ!脱皮したてのツルツルチンポを上と下の穴に突っ込んでやるぜェ!」

 ようやく捕まえた美少女に舌鼓をうつ魔物たち。
 ボロボロの戦闘服を強引に引き剥がすと、オトのむっちりとした柔肌が魔物たちの前に姿を表した。
 
 「ゲヘヘヘ……引き締まった体してるじゃねえか。さすがミツルギのくノ一……だが、どこまで耐えられるかなッ!」
 ミノタウロスはそう言いながら、オトの体を引き倒して仰向けの上にマウントポジションを取った。

 「ぐあっ!」
 「俺たちを散々コケにした罰を受けやがれ!オラッ!オラッ!オラァッ!」
 「ひっ……!あがっ!ごぶっ!ぐええっ!!」
 ミノタウロスの大岩のような拳が、1発、2発、3発とオトの腹に容赦なく突き刺さる。
 肋骨がさらに砕かれた激痛に、オトは目を見開いて絶叫した。
 
 ミノタウロスは教授ガチャの中では中位に存在している。
人間と同じ二足歩行かつ凄まじいパワーと高い知性を持つ彼らは、魔物軍の中でも白兵戦に優れる上級戦闘兵だ。
その拳の威力は、本気を出せば人間の骨など易々と砕くという。

 「とはいえ、いきなり殺しちゃ面白くねえ……嬲って嬲って絶望させて、壊してやるよ」
 「キヒヒヒヒ!それなら俺の舌でこうして、がんじがらめにしてやろう……!」
 「おお!トカゲのダンナ、気がきくじゃねえか!」
 
 「うぐっ……!あッ!」
 トカゲ兵の粘つく長い舌が、オトの腰と足に何十にも巻きつき拘束される。
 彼女が助かる道は、あるのだろうか……

915名無しさん:2021/08/15(日) 18:21:23 ID:???
「よーし、行くわよ!!せーのっ……」
……ドゴォオオオオンッ!!

敵に包囲された基地からの脱出を図るエルマ達。
その方法はいたってシンプルで、砲撃機兵サフィーネの使っていた大砲を使って基地の外壁を破る、というものだった。

「穴が開いた!……魔物が飛んで入ってくるかもしれないわ。急いで脱出よ!!」
「サクラ、あなたのホウキ…ホウキ?は、何人くらい乗れる?」
「ええと、4人……5〜6人くらいなら何とか……!!」

2本のホウキを合体させて作った「フライングボート・ツインターボ」は、
スピード、安定性、居住性、その他において普通のホウキを遥かに凌ぐが……これほどの大人数を乗せた事はない。
加えてサクラの魔力も枯渇寸前。非常に危うい賭けだが、他に助かる道はなかった。

「……ギリギリ全員、行けるかしら……と、とにかく後は、オトを……」

エルマがオトの姿を探そうとした、その時。

………ドガンッ!!……べちゃっ!!

「………!!」
敵のボスと戦っていたイヴ……の上半身が飛んできて、壁に激突した。

「……………。」
「え………ちょ、これ……」
「いっ………イヴ……ちゃん……?………い、やぁぁあああっっ!!」

巨大な剣で横薙ぎに斬られ、吹き飛ばされ……下半身は、離れた所に転がっていた。
即死……いや、かすかにまだ息があるが、時間の問題だろう。
余りの無残な状態に、エルマは絶句。サクラは……耐えきれず、泣き叫んだ。


「落ち着いて、サクラ!……今は、全員で……」
(そうか……さっき私は「全員で脱出する」って言った。
だけど、サクラにとっての「全員」は……)

エルマは泣き崩れるサクラに声を掛けようとして、気づいてしまった。

エルマにとって「全員」は、小隊のメンバー、あとはエミルくらい。
だがサクラはイヴと旧知の仲であり、更に言うなら唯も、桜子達と知り合いだった……


「っうぁああああああぁっ!!放せ、はなせぇええええ!!」
「グヒヒヒッ!!めちゃカワお姉さんのバラバラ死体みーっけ!!いや生きてるからバラバラ生体か?」
「ツーカこれどういう仕組みなんだろな!科学の力ってスゲー!」

「デストラクション・ねじ回し」でバラバラにされた桜子の身体に、ゴブリンやインプたちが群がっている。

じゅぽっ!じゅぷ!! ばちゅん!ばんばんばんばん! むぎゅっ!
「や、やめ…!!…っぐ、むぅうっ!!」
がりっ!ごり!!ブチッ!!
「あっぐ……うぐ、あああぁぁっ!!」

口や前後の穴、胸の谷間にペニスをねじ込む者もいれば、
太股を齧る者、脇腹に噛みついて血を啜る者、
腋の下や臍など敏感な箇所を舐め回す者など。
バラバラ状態ではろくに抵抗もできず、あらゆる場所を多数の魔物に好き放題されていた。

 「俺たちを散々コケにした罰を受けやがれ!オラッ!オラッ!オラァッ!」
 「ひっ……!あがっ!ごぶっ!ぐええっ!!」

巨大なミノタウロスに嬲られる、オトの絶叫が耳に突き刺さる。

「エルマさんっ………オトさんが………!」
「…………。」
(どうする……どうすれば、いいの……時間がない、すぐに決めないと……!)

エルマは思い知らされた。
この場の全員で助かる、というのがそもそも無理な話だったと。
隊長である唯は気絶、そして他のメンバーもまともに動ける状態ではない。
自分が決断しなければならないのだ。誰を切り捨てるのかを……!

916>>913から:2021/08/15(日) 23:06:56 ID:???
「…………。」
「…………………。」

黙々と歩き続けるリザの後に、黙ってついていくスズ。
その表情は、いつになく暗く沈んでいた。
(どうして、いつもこうなっちゃうんだろ……私はただ、リザちゃんを死なせたくないだけなのに……)

これまでのリザの道のりは、常に死と隣り合わせだったと言っても過言ではない。
実はスズはこれまでにも、リザが死の運命から逃れられるよう、運命を選択し続けていた……

「いつから………見てたの」
「………え?」
リザが立ち止まり、ぽつりと呟く。
それは、リザの心の中に渦巻いた、スズへの疑念だった。

「あの日の、私の運命を見ていたって言うなら………あなたは、見殺しにしたって言うの?お姉ちゃんを……!!」
「そ………それは………!!」

「ずっとずっと、黙って見てたって言うの……!?
お父さんや、お母さん、ミストやレオ、ドロシーや、アイナが、みんなみんな死んでいって!!
私だけが生き残って、苦しんでるのを、ただ………!!」

「そ……そうじゃないよ……!!私はリザちゃんを、死なせないために、必死で……」
「そんな事……誰も頼んでないっ!!」
「………!!」

リザは道端の木に拳を叩きつけ、叫ぶ。
そしてビクリと身をすくませるスズに目もくれず、一目散に駆け出した。

「ま………待って、リザちゃん……!!」

リザが己の運命を呪った事は、一度や二度ではなかった。
普段どんなに考えないようにしていても、死んでいった家族や、ドロシーやアイナの事は忘れる事など出来るはずがない。

そして、こうも考える。
彼女たちが死んだのは、自分の呪われた運命のせいではないのか……
自分のせいで、みんな死んでしまったのではないだろうか。私さえいなければ……

「ぜーっ……ぜーっ……ま、まって………リザ、ちゃん……そっちの方向、は……!」
リザの後ろ姿が、あっという間に森の奥へと消えていく。
元引きこもりで人並程度の身体能力しかないスズは、あっという間に置いて行かれた。
そして………


「はぁっ………はぁっ………はぁっ………!」
(最低だ…………私は……)

走りながらリザは、深い自己嫌悪に陥っていた。

自分を取り巻く「運命」そのものに対する、激しい憎悪。
リザの心の中の、最も暗く醜い部分を……あろうことか、仲間であるスズに向けてしまった事で。

だが。
恨んで当然なくらいには、運命から嫌われているのもまた事実。

スズを置いて全力で走り、息を切らしたリザの前に現れたのは………


「やっと会えたわね。探したわ………リザ」
「……お姉……ちゃん……」

リザの姉、ミスト。
トーメントの手先として凶行を続けるリザを止めるため、ミツルギの戦線を離脱して各地を遊撃していた。

ミツルギ討魔忍五人衆でもある彼女にとって、
リザが特殊部隊に配属され、ここナルビアの戦線に投入された、という情報を掴むのは……
そう簡単ではなかったが、執念でやってのけた。

「今度こそ、私があんたを止める。……たとえ殺してでも」
ミストは胸の前で手の平を合わせる。左手を下、右手を上に向ける。
反射的にリザも、同じ挨拶を返す……アウィナイト式の、出会いと、「別れ」の礼である。

「………私、は……」
固い決意と覚悟を胸に、リザの前に現れたミスト。
だがリザは……

<私にお姉ちゃんは……ミストは殺せません>
<……どんな条件を出されても……やっぱり私には……できません>

残影のシン、ミストを殺せ、という王からの命令を、この戦いに赴く前に取り下げてもらったばかりだ。
いざ出会った時にどうするべきか……考える暇もないままに、今こうして再び出会ってしまった。

「こんなのって、ないよ……どうして、いつも……」

………運命はいつだって、考えたり悩んだりする時間を、与えてくれない。
魔剣シャドウブレードが、血に飢えた獣のごとく震え……流れるように鞘から抜き放たれた。

917名無しさん:2021/08/16(月) 02:30:16 ID:???
 「……いくよ、お姉ちゃん」
 (……前に戦った時と目が違う……戦う覚悟はできているみたいね)

 前回の戦いにはなかった闇の魔力を注がれたナイフを見て、ミストは確信した。
 いざとなれば姉を殺すために、リザは新たな武装を準備してきたことを。

 「「「たあああああっ!!」」
 「えっ……!」

 刹那、背後と左右から、3人のリザが襲いかかる。
 ミツルギに伝わる分身の術の類かと思ったが、リザに印を結んだ様子はない。

(これは……私の体得していないシフトの力!)

 リザがマルチシフトと名付けた複数箇所へのテレポートに対し、ミストは長刀を薙ぎ払いつつ、最小限の動きで3人のリザを仕留めた。

(斬った瞬間に消えた……手応えもない。こんな能力を会得していたとはね)
「こっちだよ」
「ッ!?」

 息がかかるほどに背後へ肉薄されたことに気づき、背後を斬り払いながら後退するミスト。
 だがそこにリザの姿はなく、シフトの残滓である僅かな時空の揺れが残されていた。

「…………」

 訪れた静寂に、ミストは全神経を張り巡らせる。
 リザが前回とは比べものにならないほどの実力を身につけていることは、肌で感じられた。

(……気配が全くない。一体どこにいるの……ッ!?)

 現在地の森の奥から一転、なぜかミストの視界が瞬時に切り替わり、足元には断崖絶壁があった。



「こ、ここは……ナルビアの終末の断崖!?」

 先ほどまでいた森の奥からそう遠くない場所にある、終末の断崖と呼ばれる、ゼルタ山地の断崖絶壁。
どういうわけか、ミストは今その断崖絶壁のそばに立っていた。

 シフトチェンジ……自身と対象者の位置を入れ替える異能の力だが、これもミストは習得していないシフトの異能力である。
突然の場所変えに戸惑っていると、反対側の断崖にシフトでリザが現れた。

「薄暗い森の中より、こっちの方が戦いやすい」
「……シフトから派生する力をいくつか使っているようね」
「……無策でお姉ちゃんに勝てるわけないからね」



 崖の下から強い風が吹き、リザとミストの服を揺らす。
 リザは潜入用の黒い戦闘服。漆黒の黒と鮮やかな金髪のコントラストが印象的だ。
ちなみに今回は教授にしっかり希望を出して露出を抑えてある。
 
ミストは前回とは違い、軽装である討魔忍の忍び装束を纏い、ボイスチェンジャーや兜はつけていない。
奇しくもミストは白装束を纏っており、姉妹で黒と白の対比が生まれていた。



 「……この崖に落ちれば、死体の処理は必要ない。戦いの後はすぐに立ち去ることができる」
 「…………」
 
 冷たい声でリザはそう言い放つ。
真っ暗な谷底は、川に繋がっているらしい。そしてその先は、アウィナイトの民が崇める、母なる海である。

 「……リザ。前にも言ったけど、トーメント王に操られているのなら、私が王を殺してみせる。だからもうあの男に従うのはやめて」
 「それこそ前にも言ったでしょ?私は自分の意思でトーメントの暗殺者になったの。お姉ちゃんになんと言われようと、アウィナイトのみんなを守るために十輝星をやめるつもりはない……同じことを言わせないで」
 「そう……操られてるわけでもない、か。それなら、ミツルギの兵士としても姉としても、アンタを斬るしかないわ」

 改めて長刀を抜いたミストに対し、リザも仕込みナイフを構える。
 張り詰めた空気の中、風の音も自分の息遣いすらもリザはうるさく感じた。

 (……この戦いの中で、答えを見つけるしかない。私が、お姉ちゃんを、どうするのかを……!)

918名無しさん:2021/08/22(日) 18:34:31 ID:???
束の間の休息を終え、任務を再開したエミリアとカイト。
メサイアと呼ばれる秘密兵器を探して、ナルビア軍の本部を目指していたが……

「おうおうテメェ!いっちょ前にマブいスケ連れてんじゃねーか!」
「ようようねーちゃん!そんなイケてない野郎より俺らと遊ぼうぜえ!」

……魔物に絡まれていた。

「くっ……またか!?………水流斬!!」
「なんなのさっきから!魔物兵って、一応味方のはずじゃ……ファイアボルト!」
「「ッグアアアアア!!」」

味方のはずのトーメントの魔物兵に、昭和の漫画に出てくる不良みたいなノリで頻繫に襲われる。
どうやら魔物達は、敵味方の区別なく人々(主に女の子)を襲っているようだ。


「それにしても、魔物の量が多すぎますね。それに空の様子も……」
「うん……何か、とんでもないことが起きてるみたい。リザちゃん達、大丈夫かなぁ……」

空は真っ黒な雲に覆われ、ところどころ漏れ出てくる陽の光も血のように真っ赤だ。
邪悪な魔力……いわゆる瘴気のようなものが周囲に漂っているのも感じる。

不安を抱えつつも、二人は魔物達をやり過ごしながら、細い崖道を進んでいく。
すると………
白衣を着た科学者らしき女性と、白い髪、白を基調とした軍服の少女が歩いてくるのが見えた。

「待った、エミリアさん。……誰か来ます。どうやら……女性の二人連れ……」
「あの服装……ナルビアの科学者さんかな?」
「もう一人は軍人ですが……無駄な戦闘は極力避けたいですね」

まずいことに、道の横は岩壁と切り立った崖。身を隠す場所がない。
そこで……

「!!……前方に生体反応……識別コードなし」

「……そこの二人、止まってください。
この先は戦闘区域で、トーメントの魔物が異常発生しています。
至急引き返すか、別の道へ迂回してください」

……仕方ないので、堂々と姿をさらす事にした。
こちらの方が戦力が上である事、かつ戦う意志がない事をアピールしつつ。

「あらあら。ご親切にどうも〜。でもあなた達って、トーメントの軍人さんよね?」
「ええまあ、そうなんですけど……お互い、無駄な争いは避けたいと思いまして。
このあたりは魔物兵が多くて、特に女性だけだと危険です。迂回するか、引き返した方が良いですよ」
(………あれ?あの科学者の人、どこかで見たような……)

「ふーん。トーメントは糞みたいな奴ばっかりだと思ってたけど、案外いい人もいるのねぇ。
でも心配いらないわ。この子、それはもうメチャメチャ強いのよぉ?
聞いたことあるでしょ?ナルビアの秘密兵器、メサイアって……」

「え?………メサイア……って」
「まさか………こんな子供が!?」
科学者の口から出た思わぬ言葉に、カイトとエミリアは絶句した。

「ふふふ……あなた達、メサイアをどうにかするためにここまで来たんじゃないのぉ?
攻撃対象がどういうものかも知らされてなかったなんて、間抜けな話ねえ」
「!!………」

返す言葉もなかった。
『破壊プログラム』が入っているというダーツ型デバイスの形状から、
相手は機械ではなく生体兵器の類か、と予想してはいたのだが……

「まさか、こんな可愛い女の子だったなんて……どうしよう、カイト君」
「………やるしか、なさそうですね。僕が相手の動きを止めます。エミリアさんは援護を」

にわかに両者の間に緊張が走り、エミリアは魔法詠唱の準備に入る。
カイトも長刀を抜き放ち前に出た。

「どうしますか、マスター」
「ふふふ………調水の継承者に、爆炎のスカーレット……予定にはなかったけど、初戦の相手としては悪くないんじゃない?
割と親切な子たちだったし……お礼に少しだけ、遊んであげなさい」

「了解……雷魔剣ブラストブレード、出力25%……」

919名無しさん:2021/08/22(日) 18:39:19 ID:???
「水練一刀流、カイト・オーフィング……参るっ!!」
「行くよカイト君!!『グレーターストレングス』!!」

……ガキィィンッ!!

エミリアの魔法で筋力強化されたカイトの一撃を、雷の魔剣で受け止めるメサイア。
凄まじいパワーのぶつかり合いに、周囲の大気がビリビリと振動する。

「なっ………互角……!?」
「………大したものね。本気じゃないとはいえ、メサイアちゃんの剣を受け止めるなんて」

体格ではカイトが明らかに有利。しかもエミリアの魔力で筋力強化で大幅に強化されていたにも関わらず、
全力の一撃はメサイアに易々と受け止められてしまった。

「雷魔剣ブラストブレード出力調整、30%……40%……50%」
メサイアはバックステップで距離を取ると、更にパワーを上げ、刀身に雷の魔力を発生させる。

「……カタストロフィ・ブロンテ」
………バチバチバチッ!!
少女の華奢な身体からは想像もつかない、豪快な横薙ぎの斬撃。
そこから繰り出される、雷を纏った衝撃波が、カイトとエミリアを襲った。

「あぶないっ!!……プロテクトシールド!!」
ミシッ……ミシッ……バキンッ!!
「!!……まずいっ!」

咄嗟に前に出て、魔力障壁を張るエミリア。
だが、エミリアの防御魔法も見る見るうちにひび割れ、ものの数秒で障壁は破壊されてしまい……

……ズドォォォオンッ!!

「う……!!………」
「………………。」

「あ………あれ、何ともない……?……!!……カイト君っ……!?」
激しい爆炎が収まり、エミリアが目を開けると……
自分に覆いかぶさるようにして倒れている、カイトの姿があった。
背中を大きく切り裂かれ、倒れたまま動かない。

「あらあら……魔法使いちゃんをかばったってわけ?
流石イケメン君はやる事がいちいちカッコいいわねぇ」
「そ……そんな……カイト君、目を開けて、お願いっ……!!」

急いで回復魔法を詠唱するエミリアだが、どうやら傷はかなり深いようだ。
カイトは目を覚ます気配はない……

「目標Aのバイタル低下……戦闘不能を確認」

「ふふふ……ありがとう。ちょうどいい遊び相手だったわ。
もう一人は例のアレで、手っ取り早く片付けちゃいましょう」
「了解……ゼロエネルギー照射」

エミリアに向け、メサイアが手をかざし、指先から光線を放つ。
するとエミリアの回復魔法が、ぴたりと途絶えた。

「……え、あれ?……なんで、魔法が使えないの…………それに……動けないっ……!……」

魔法を封じられ、動揺するエミリア。
その身体がふわふわと浮き上がり、白い魔法陣のようなフィールドに大の字の体勢で磔にされてしまった。

あらゆる力が無効化される「ゼロエネルギー」。
ひとたびこの力で拘束されれば、魔法や特殊能力の類を封じられ、身動き一つできなくなる恐るべき能力であった。

「ふふふ……個々の実力も優秀だし、連携もなかなかイイ線行ってたけど……相手が悪すぎたわねぇ。
じゃ、そろそろ行きましょうか、メサイアちゃん」

「!!………ま、待って……!!」
「………おっと、脚が滑っちゃったわ……よいしょっと♪」
「……っっ!!」
空中で身動きできないエミリアの目の前で、
ミシェルは傷つき動けないカイトを崖の下に蹴り落とす。

「かっ……カイト君っ!!……そん、なっ……どうして……!!」
「ふふふふ……あらあらごめんなさぁい。
アナタ達みたいな素直なイイ子ちゃんを見ると、ついつい虐めたくなっちゃうのよね♪」

エミリアは必死に手足に力を込め、ミシェルを睨みつけるが、ゼロエネルギーの拘束はビクともしなかった。

「そうそう……あなたには、さっきの忠告そのままお返ししてあげる。
このあたりは魔物兵がウジャウジャいるから、女の子ひとり……
しかも魔法も使えなくて身動きできないんじゃ、と〜〜ってもアブナいわよ。
せいぜい気をつけてね♪あはははははは!!」

「い、いやっ……カイト君っ……カイトくーーーんっ!!」
悠然と立ち去っていく二人を、磔にされたまま黙って見送るしかできず。
エミリアは崖下に落ちたカイトの身を案じ、悲痛な叫び声をあげた。

920名無しさん:2021/08/22(日) 18:43:12 ID:???
「おい。しっかりしろ、若造……まだ生きてるかぁ……?」
「!!………ここ、は……って、うわああ!!」

……崖下に落ちたカイトが、目を覚ますと……目の前に、骸骨の顔があった。

「……ボ、ボーンドさん!?……あーびっくりした……って、痛っ!!」
「せっかく骨身を惜しまず助けてやったってのに、随分な言い草だなぁオイ。
……っと、まだ動くなよ。
俺はアンデッドだから回復魔法とかムリなんで、雑に応急手当てしただけだからな。
まあ、ダメージの半分は俺の使い魔に肩代わりさせてるから、死にはしないだろ」

ボーンドの後ろに、もう一体のスケルトンが控えていた。
その背中には、大きなキズがついている……あれがどうやらボーンドの言う「使い魔」らしい。

「肩代わり?……よくわからないですが……おかげで、だいぶ楽になりました。ありがとうございます」
「……ま、あくまで痛みを和らげてるだけで、重傷には違いない。
あの魔法使いの嬢ちゃんにでも、治療してもらうんだな」

「魔法使い……そうだ、エミリアさんが、崖の上に!!」
「なに?……一体何があったんだ?」
「それが……かくかくしかじかで、崖の上でメサイアと戦闘になって……!」
「そいつはマズいな……そんな化け物相手に、嬢ちゃん一人じゃ……」

「……きゃああああああああぁっ!!」
「エミリアさんっ!!早く行かないと……っぐ……!!」
「仕方ねえなぁ……お前さんは大人しくしてろ。俺の使い魔に、助けに行かせる」

………………

一方その頃、崖の上では。

「いっ……いやぁっ……来ないでっ……!!」

メサイアのゼロエネルギーによって動けないエミリアを、
早くも魔物が嗅ぎつけて襲い掛かっていた。

「ヌメヒヒヒヒ……こんな所で、かわい子ちゃん無防備に磔されてるなんて、ラッキーだナメ……!!」

【ワースラッグ】
全身がぬめぬめの粘液に包まれた、ナメクジ型の亜人。
体表を接触させることで獲物の魔力や生気を吸収する。

じゅぶじゅぶにちゃぁ……………にゅるっ!……
「い、や……気持ち悪いっ……触らないで……ひゃうぅんっ!!」

ナメクジの獣人ワースラッグは、ヌメヌメの身体をエミリアの身体に絡みつかせ、
極上の魔力を体全体で吸い上げていく。

ぐちゅっ……じゅるるるるぅっ!!
じゅぼじゅぼじゅぼじゅぼじゅぼ!!
「フヒョヒヒヒヒ……どこもかしこも肌がスベスベ柔らかくて、最高の感触ナメ……
こいつは吸い付きがいがあるナメ!!」
「ぎゃ……ぁう………んふあああああああぁぁぁっ……!!」
急激に魔力を吸われる事による喪失感、脱力感。
さらには粘液の毒がもたらす、性的に快楽にも似た多幸感。
身動きできないながらも必死に抵抗しようとしていたエミリアの瞳が、徐々に光を失っていく……


「次はいよいよ、ここから吸ってやるナメ……人間のメスは、この柔らかい所から吸う魔力が一番ウマいナメ……!!」
更にナメクジ獣人の手足が、エミリアの服の隙間、下着の中にまでじゅるじゅると潜り込んでいく。
そして、むっちりしたほどよいボリュームの胸、そしてパンツの下の秘所の中にまで潜り込もうとしている。

「や……ぁっ……これいじょう、ひゅわれたら……おかしくなっちゃ……ひゃあああああああんんっっ!?」
じゅぶじゅぶじゅぶっ!……ちゅるるるる!!……じゅぽっ!!
「ヌメヒャハハハッ……美味い旨いウマい……こんなにウマい魔力、初めてだナメェ!
それに、吸っても吸っても魔力の蜜が体中から溢れてくるナメ……こいつは極上の餌だナメッ!!」

意識が朦朧として呂律が回らず、それでも本能的な危機を感じたエミリアの哀願は、あっさりと無視された。

じゅぶぶぶぶ!!じゅるるっ!!
ぬちゅっ!ぬちゅっ!にゅるるるるっ!!
ぎゅぽぎゅぽぎゅぽぎゅぽっ!!
「や、ひぁぁあああぁぁぁんっ……!!……い……やぁ……もう、やめてぇっ………!」
「ヌヒャハハハハ!!最高だナメェッ!!空になるまで吸い尽くしてやるナメェェ!!」

視界がちかちかと明滅し、エミリアの意識が闇の底に堕ちようとしていた、その時……

「ケッ……ザマァねえぜ。俺様を殺しやがった『爆炎のスカーレット』が、こんなザコに良いようにやられてるなんてな……」
「え…………あなたは……」
「な、何者だヌメェっ!?」

黒い骸骨が地面から這い出し、禍々しいナイフを手に呟いた。

921名無しさん:2021/08/22(日) 20:08:50 ID:???
びちびちびちっ!!じゅぶぶうっ!!
「ッギアアアアァッ!? や、やめろ!やめてくれナメェェッ!!」
「ったくよぉ。なーんで俺様が、こんなキメえ奴を解体さなきゃなんねえんだか……」
「っ……ん、くあぁぁっ……!!」

黒い骸骨はブツブツと文句を吐きながらも、ナメクジ獣人にナイフを突き立ててあっさりと仕留める。
ナメクジの死体をエミリアから引きはがすと、固まりかけの糊のような粘液がエミリアの肌の上で糸を引く。
魔力を大量に失って、感覚が鋭敏になったエミリアは、その異様な感触に、こらえ切れず甘い声を漏らした。

「ケッ……暢気なもんだぜ。
俺はボーンドの旦那から、テメェを死なせず連れ帰るよう、命令されてる。
これがどういう事かわかるか……?」

「え………ボーンドさん、の……?」
「テメェ……俺様の、このナイフを見ろ……忘れたとは言わさねえぜ!?」
「きゃっ!?」
スケルトンはナイフを振りかぶり、エミリアの首の横に思い切り突き立てた。
白い魔法陣が砕け散り、拘束を解かれたエミリアはお尻から地面に着地する。

「!!………ま、まさかあなたは……ヴァイス……!?」
「そういう事だ。テメェのせいで、俺様は哀れなアンデッドの身ってわけよ……
こんな身体じゃ、女を犯すのも満足にできねえ。
マスターの命令に逆らえねえから、好き勝手に嬲り殺す事も出来ねえ。まったくムカつくぜ!!」
「そ、そんな勝手な事……!」

「だから、こういう機会は大事にしねえとなぁ?俺に下された命令は、テメェを死なせねえこと……
つまり、殺しさえしなけりゃ何やったっていい、って事だよなぁ!?」
「!?……そ、そんな……やっ………やめてっ……いやあああああぁっ!!」

グサッ!!ザシュッ!!ドスッ!!
「っひぎ!!うあああぁっ!!いやあああああああっっ!!」

ヴァイスはエミリアに馬乗りになり、脇腹や手足、肩口など、エミリアの全身いたる所に黒い刃を突き立てる。
急所を巧みに避け、殺さないよう、生かさないよう、ギリギリの所で苦痛を与え続けるように。

「さぁーて……俺様の繁殖肉ナイフは無くなっちまったし、
代わりに地獄から持ち帰った『真・斬魔朧刀』で、てめえのマンコグチャグチャに切り刻んでやろうかぁ!?」
「っ……ファイアボル……」
「へへっ!やらせるかよぉっ!!」
……ザシュッ!!
「っうあああああっ!?」

魔法少女殺しの刃を手の平に突き立てられ、エミリアの反撃の魔法は打ち消された。
もうエミリアに、抵抗、反撃する気力は残っていない。
かつてヴァイスと戦い、殺されかけた時の恐怖が蘇り、ただ苦痛と凌辱の嵐が立ち去るのを待つしかできなかった………

「………その辺にしておけ、ヴァイス」
「ああん?……なんだ、シラベの野郎か。今良い所なんだから、邪魔すんなっての」
「それ以上やれば、娘は死ぬ……主の命令に背けばどうなるか……わかっているだろう」

しばらく後。エミリアを好き勝手に切り刻むヴァイスの元に、もう一体のスケルトンが現れる。

「ちっ!……しゃーねえなぁ、エミリアちゃん。優しい優しい俺様が、今回だけは特別に命を助けてやる。
いずれお前もリザの奴も、まとめて俺様のナイフで切り刻んでやるよ………ヒヒヒヒ」
(………そん、な………どうしてヴァイスが、ボーンドさんの……)

シラベ、と呼ばれたスケルトンがエミリアの身体に手をかざすと、エミリアの全身の痛みが引いていき、代わりにスケルトンの身体のあちこちが傷つき、ひび割れていく。
まるでスケルトンが傷の痛みを引き受けているかのような不思議な術だが、
当のエミリアにそれを気にする余裕はなく、スケルトンに抱きかかえられたまま意識を手放した。

922名無しさん:2021/08/22(日) 23:43:28 ID:???
「エミリアさんっ!!しっかりしてくださいっ!!」
「………あ、カイト君……無事だったんだね……よかった」

カイトの必死の呼び声で、エミリアは再び目を覚ました。
その後ろにはボーンドと、2体の使い魔……スケルトンが居る。

「ヴァイス……お前やりやがったな?」
「へっへっへ……何のことだ旦那ぁ?俺が行った時にはもう、魔物に滅茶苦茶にヤられてたぜ」
「ふん………まあいい。一応二人とも生きてる事だしな。
……嬢ちゃん、その若造と自分の分、回復魔法で治療できるか?」

「は、はい。ありがとうございました、ボーンドさん……!
じゃあカイト君。ケガを見せて……」
「僕は後でいいです。エミリアさんの方が重傷じゃないですか……くそ、メサイアめ……許せないっ……!!」
「わ、私は大丈夫だよ……見た目ほどは傷が深くないみたいで、あんまり痛くないし……」

お互い遠慮しあっていたが、とにかくカイトの背中に手をかざし、治療を始めるエミリア。
その様子を見たボーンドは……

「しかし……若造。お前、大丈夫なのか?」
「え……ですから、僕の傷は大丈夫です。そちらの使い魔さんにも痛みを和らげて頂きましたし」
「いや、そういう事じゃなくてだな……まあいいか」

パラシュートで降下する前は、女嫌いで触れられるのも嫌だと言っていたはずだが……
あの荒療治が、思った以上に功を奏したのだろうか。

「しかし……これからどうしたもんかねえ。
若造の話じゃ、メサイア達はアレイ前線基地に向かったみたいだが……」
「僕たちだけでは、破壊プログラムを打ち込むのは難しいと思います……まずは、スピカ隊長と合流しましょう」
「そうだね……リザちゃんとスズちゃん、無事だといいけど……」

………………

そして、エミリアとカイトを退けたメサイアと共に、山道を進んでいくミシェルは……

「……これが、破壊プログラムねぇ。
メサイアちゃんが素直に言う事聞いてくれてる分には、必要ない代物だけど……」

カイトが落としたダーツを密かに回収し、その内容を確認していた。
注文通り、このプログラムを打ち込めばメサイアの「人格を」完全に破壊できるだろう。

「………マスター。これで、良かったのでしょうか……先ほどの方たちは、本当に倒すべき『悪』だったのでしょうか」
前を歩いていたメサイアがふと立ち止まり、ぽつりと呟く。
敵対する立場とは言え、彼らは自分たちが魔物に襲われないか心配してくれていた。
……悪人だったとは、どうしても思えない。

「あらあら……メサイアちゃんたら。倒しちゃってから言わなくても良くない?
だいたい、さっきの子たちは向こうから襲ってきたのよぉ?」
「それは確かに、そうですが……」

「メサイアちゃんは、とっても素直でイイ子だけど……悩めるお年頃みたいねぇ。
あなたは何も心配せず、私の命令に従っていればいいの」
「…………。」

不気味な笑みを浮かべるミシェル。その様子を見て、メサイアは不安に駆られた。
(マスターの命令は絶対……リンネの負担を軽減するため。ナルビア王国を守るため……ですが……)

(ふふふ………もうしばらく、私の手の平の上でコロコロ転がっててもらうわよ。世界最強の破壊兵器ちゃん……♪)

923名無しさん:2021/08/25(水) 13:13:11 ID:???
「はあああああああっ!」

沈黙を破り、長刀を構えたミストが勢いよくリザに斬りかかる。
できるだけ引きつけてからシフトで回避したリザは、ミストの上方に移動し素早く体を捻った。

「転移崩襲脚!」
「はっ!」

上空からのリザの踵落としを構え直した刀でガードするミスト。
と同時にリザの姿が消え、元いた場所には闇の魔力が残された。

「これは……ぐっ!!」

リザの残した斥力を発生させる闇魔法、ダークショックで吹き飛ばされるミスト。
すぐさま空中で受け身を取ると、目の前にはリザの白刃が迫っていた。

キィン!!
「ぐ、くぅッ!!」

振るわれたリザのナイフを、辛くもガードするミスト。
一瞬間近で見えた妹の顔は、目を伏せ、思い詰めたような顔だった。
そして、またもその姿は一瞬で消え……

ヒュンッ!
(なっ!?また場所が変わって……!)

リザの攻撃をガードした時よりも、さらに高高度の空中に投げ出されたミスト。

「くっ……ああっ!!」

その上空でまたも先ほどの闇魔法、ダークショックが発動し、ミストの体はさらに吹き飛ばされた。

「これで……とどめっ!!」
「がはあ゛あ゛ぁ゛ッ!!!」

吹き飛ばされた先に先回りしたリザの三回転スピンからの強烈な回し蹴りが、ミストの体に叩きつけられる。
たまらず濁った悲鳴を上げたミストは、悲鳴を上げながら地面に叩きつけられた。



「痛っ!あ゛っ!がはっ!ぐっッ!」
「…………」

地面をバウンドしながら吹き飛ばされた後、地面に倒れ伏すミスト。
一連のリザの猛攻に、ミストは成す術がなかった。
シフトチェンジで空間認識をしている間に来る攻撃を回避することは困難。
そしてリザのシフトの正確性とタイミングの妙技。
転移座標に寸分の狂いもない追撃と、攻撃をガードしても2手3手先を読まれたかの様な追撃が入ってくる。

(これが……リザではなく、スピカの力……!)
「…………」

だが、ミストがよろよろと立ち上がる隙だらけのチャンスにも関わらず、リザは離れた場所で目を伏せていた。

「ぐっ……リザ、あんたこの後に及んでまだ迷ってるっていうの……?」
「……迷うも何もないよ。お姉ちゃんと戦いたくなんかないのに……どうして、こんなこと……ッ!」

イラついているのか、悲しんでいるのか、それともその両方か……
青い目に少しの赤が差された瞳をゆらゆらと揺らしながら、リザはわなわなと両手を振るわせた。

「さっきの連携も、蹴りじゃなくてナイフで刺せば、私は終わっていたかもしれないのに……」
「そんなこと、できるわけない……でもお姉ちゃんが私を殺そうとするなら、私は……ここで死ぬわけにはいかないっ……!」

片手で頭を抱えながらも、毅然と言い放つリザ。
前回のように泣いたり喚いたりはしないながらも、まだ彼女の中には迷いがある。
その迷いが命取りになることを知りながらも。

「いいわ……私も、この技を使いたくはなかったけど、本気を出す」
「えっ……?」

ミストが前に手をかざすと、構えると、魔力が人の姿を形作り始め、もう1人のミストを作り出した。

「お、お姉ちゃんが2人……?」
「幻覚じゃないわよ。どっちも本当の私。ミツルギの分身の術を、私の魔力でより強化した術……シフトコピー」
「シフト、コピー……」

リザのマルチシフトも分身を作り出す技だが、もう1人のミストは作り出された魔力で存在が固定されている。
肉体改造の結果、シフトに魔力を使わなくなったミストだからこそできる離れ業だ。

(持続時間は5分くらい……この技で一気に勝負をかける!)
「リザ、覚悟ッ!!」
鏡合わせのミスト2人がシフトを使い、リザに襲い掛かる!

924>>906から:2021/09/19(日) 15:49:13 ID:???
ガキィィンッ!!
「はああぁぁぁっ!!」
「うおおおおぉっ!!」
「ククク………そぉれっ!!」
エリスの槍、アリスの針とゾンビキメラの大剣が激しくぶつかり合う。

「止められたっ……!?」
「ふふふ……威勢だけはイイけど、その程度の力じゃあたしを倒すことは出来ないわよっ!」
二人の突進はあっさりと止められ、弾き飛ばされてしまう。
様々な魔物を取り込んだゾンビキメラの力は強大。
強化スーツの力を持ってしても、純粋なパワーでは圧倒的に分が悪かった。

「うぐああっ!」
「きゃああああぁっ!!」
「くっ……強化スーツのパワーすら通用しないとは……どうする、アリス……!?」
「攻撃し続けてください、エリス……私に作戦があります」

「作戦、か……わかった。ならば、私が時間を稼ぐ」

アリスと短く言葉をかわすと、再びゾンビキメラに飛び掛かる。

ガキンッ!! ドガッ!! 

強化スーツすら通用しない圧倒的パワー差、体格から来るリーチの差。
それを補うために高速の突進を繰り返す事で、エリス自身の体力も急激に消耗していく。

「きゃははははは!!何度やっても同じよぉ!
『ナルビアの神風』って、もしかして学習能力ゼロの脳筋ちゃんなのかしらぁ!?」

「っぐあっ!……くっ……何とでも言うがいい……!」
(確かに……こんな怪物をどうやって倒せばいいのか、私には見当もつかない。
だが『作戦』がある、とアリスが言うのなら……私はそれを信じるだけだ!!)

長年共に戦ってきたエリスは、どんなに不利な状況でも常に最善手を導き出してきたアリスの『作戦』に、絶対的信頼を寄せていた。

そして、アリスは……

ドスッ! ……ガキンッ!! ゴスッ!

「んっ……ぐ、ああっ!!」
「ふ……アリスちゃんの方はもっと話にならないわねぇ。
あの変態女に全身弄られまくって、普通の人間より弱くなっちゃったんじゃないのぉ?」

「……大きな、お世話です……
もともと私の力など、エリス達に比べればたかが知れたもの……」
(そんな私に、できる戦い方と言ったら……)

エリスの攻撃もあっさり叩き落とされる。
だが、魔力で生成した針がゾンビキメラの足に突き刺さっていた。

(……あの針の毒で、人質の痛覚も遮断されるはず。
あとは、針が体内を通って脳内に達すれば……)

アリスの奥の手の一つ、暗殺用の魔法針である。
通常なら刺した針が体内を通る過程で激痛が走り、必ず相手に気付かれる事になるが、
毒で痛覚を麻痺させれば、気付かれないうちに暗殺できる。

(奴に気付かれて、針を人質の体内に送られでもしたらまずい……攻撃し続けて、奴の注意を引かないと)

二人で絶え間なく攻撃を仕掛けるエリスとアリス……だがここで、計算外の事態が起こる。

「グェッ!? しまった、その女を止めろっ!!」
「はぁっ……スバルっ!!今、助けるっ……!!」

「!?……あれは」
「春川桜子………!」

「デストラクション・ねじ回し」で全身をバラバラにされ、ゴブリンに犯されていた春川桜子だった。

925名無しさん:2021/09/19(日) 15:51:49 ID:???
「グゲゲッ!畜生、俺のチンポに噛みつきやがった!!そいつを捕まえろっ!!」
「ケケケ……おいおい。おっぱいを逃がしちまったのかよ。でもとっ捕まえる前にもう一発」
「ん、ぐうっ!?………こ、この位、でぇっ……!」

頭と上半身、左手だけでゾンビキメラに向かって這っていく。
どうやらゴブリン達から体の一部を元に戻したものの、下半身はまだゴブリン達に捕らわれているようだ。

「あらあら……スネグアちゃんのペットだったゴミムシ…じゃなくて、桜子ちゃん。
だめよぉ?そんな所で這いずり回ってたら………うっかり踏みつぶしちゃうじゃない♪」

巨大な足が、桜子の頭めがけて振り下ろされる。
その瞬間……

「調子に乗るな………今度はお前が、地べたを虫のように這う番だ!!」
ドスッ!!……ガラガラガラッ!!
「なっ!!これはっ……!?」

桜子はゾンビキメラの脚に、デストラクション・ねじ回しを突き刺した!

「おま、えっ……いつの間に、ねじ回しをっ………!!」
手足、胴体、左右の翼……ゾンビキメラの異形の巨体が分解していく。

「桜子お姉ちゃんっ!!」
両肩に取り込まれていた、スバルとメルも自由を取り戻す。

「予想外の事態ですが……好都合ですね」

アリスの打ち込んだ針は、バラバラの身体のどこに行ったのだろうか。
このままではキメラの頭を貫くことは出来ない。が……もはやその必要もなくなった。

「作戦変更です、エリス。バラバラになったパーツを叩いてください!私は、人質を……!」
「了解だ!」
「なっ……やめっ………グアァァァァぁぁぁっ!!」

ゾンビキメラの身体は、様々な魔物をつなぎ合わせたの集合体。
故に、パーツ一つ一つが独立した魔物として活動可能だが……変身したエリスにとって見れば、物の数ではない。
手足、尻尾、翼を、テンペストカルネージで一つ一つ刺し貫いていった。

そして……

「春川桜子……あの状況から復活するとは、大した物ですね。おかげで、手間が省けました……」
スバルとメルを連れ、後方に下がったアリスと桜子。
ついでにゴブリンを蹴散らし、桜子の『下半身』も回収している。

「お、のれっ……こうなったら、アンタ達の身体も取り込んであげるわっ!!」
「!……アリス、危ないっ!!」
首だけになったゾンビキメラが、そんなアリス達に襲い掛かる。
その動きは素早く、離れた位置にいたエリスにもカバーできない。

「……これで直接、奴の『頭』を狙えます」
ドスッ!!
「ッグェアッ!?」
背後から迫るキメラに振り向く事もせず、隠し持っていた針の最後の一本を、ゾンビキメラの眉間に突き立てた。


「……やったな、アリスっ!! ……よし、キメラの身体も、これで最後だ!」

エリスも、バラバラになったパーツの最後の一つ、キメラの右腕に止めを刺そうと、槍を振り下ろした。

だが……

「……クククク。
邪魔な身体が無くなって……無能な頭が潰れて………ようやく身軽になった。
礼を言うぞ、人間よ」

右腕と一体化した、巨大な刃……桜子の右腕から奪い取り込んだ異形の魔剣が、
ビクリと大きく脈打ち、刀身の半ばほどにある不気味な単眼をぎょろりと見開いた。

926名無しさん:2021/09/19(日) 19:27:29 ID:???
「な、なんだこいつはっ……槍が、抜けないっ……!?」

「ククク……あのキメラどもに吸収されたことで、他者を取り込む術を会得したのだよ。
我の場合は、生物でなく、同類である『武具』を吸収し、自分のものとする」

異形の魔剣が、エリスの「テンペスト・カルネージ」を吸収していく。
そして、まるで昆虫のような脚を生やして、大きく跳躍した。

「馬鹿な……テンペスト・カルネージが、奪われた……!?」
「エリスっ!?……これは一体……ゾンビキメラとは、別の魔物……!?」
「そもそもキメラとは、複数の魔物の集合体。融合した者の中で、最も強き魔物がその主人格を司る。
我もそのうち主人格を乗っ取るつもりだったが……お前たちのお陰で『手間が省けた』というわけだ」

異形の魔剣がエリスとアリスの周囲を飛び跳ねる。
その速度は驚異的で、消耗してろくに武器もない今の二人には、とても捉えられるものではない。

「そして、確かこの鞭は……魔物や魔獣を統べる力が備わるのだったな」
「!!それは、リベリオンシャッター……まさか!」

続いて異形の魔剣は、スネグアやゾンビキメラの使っていた、魔獣使いの鞭を吸収する。
魔剣が、この武器の能力までも取り込むことが出来るのだとしたら……

「グオォォォォ………」
「!?……この唸り声は……」
「クックック……お前達にはもう、用はない。シモンズ一族に伝わる、最強の守護魔獣とやらの餌になるがいい」

鞭を取り込んだことによって、魔獣を操り、最強の守護獣を呼びだす能力をも身に着けた。
アリス達の足元に巨大な魔方陣が現れ、怪しい光を放ち始める。

「グギエエエエッ!? な、なんだこれはぁっ!?」
「スバル、メル、逃げろっ……っぐあ!?」

バリバリッ!! ぐちゃ!!
「……ぎゃぁぁああああああぁっっ!!」

ゴブリンやゾンビキメラの破片など、魔法陣の上に居たものは、魔物も人間も関係なく次々に取り込まれていく。
足元からは巨大な何かの唸り声、何かを食いちぎる音、断末魔の悲鳴が止むことなく響き続けた。

そして………

「アリスっ……!!」
「これが………魔獣……!?」

巨大な手、巨大な顔、巨大な身体。基地の壁や天井を軽々と破壊しながら、
シモンズ家に伝わる最強の守護獣「ベヒーモス」が魔法陣の中から姿を現した。

927名無しさん:2021/09/19(日) 19:30:36 ID:???
「ななななな、何あれ!!なんか、ヤバいの出てきちゃったよエルマちゃん!!」
「エミルさん落ち着いてください!とにかく今は、サクラを落ち着かせないと……」

少し離れた所にいたエルマ達は、魔法陣から現れた巨大な魔獣の姿に、ただただ圧倒されていた。
もはや一刻の猶予もない。すぐにでも脱出したいが、魔法のホウキを操れるのはサクラだけ。

そのサクラは、ゾンビキメラに惨殺されたイヴの死体を目の当たりにして、放心状態に陥っている……

「なに、これ……イヴちゃん……どうしてこんな事に……」
とっくに動かなくなったイヴの前でひざを折り、俯くサクラ。

イヴの死体は巨大な剣で上半身だけ斬り飛ばされ、壁に叩きつけられ、無残な有様だった。
下半身は……見つからない。ゴブリンの群れがそれらしき物を抱えていたのを見た、ような気がするが、……もう見つける術はない。

「サクラっ!!……しっかりしなさい!すぐに脱出するわよ!!唯と、ルーアちゃんと一緒に!」
エルマが駆け寄り両肩を掴み、サクラを無理矢理立たせる。

「で………でも………まだ、メルちゃんが……それに、オトさんは」
「時間がないの。2度は言わせないで………とにかく、今は何としてでも生きて脱出しましょう……私たちだけでも」
「!!………エルマ、さん……」

エルマはサクラの頬を張り、肩をゆすり、有無を言わせず立ち直らせる。
ルーアは、気絶した唯をホウキに乗せている。
……そして、その後ろでは。

「あーーーもう!もう待てないわ! わるいけど私、先に行くから!!
そのホウキ、私が乗ったら定員オーバーっぽいし!じゃあね!!」
「えっ……エミルさん、ちょっと待つです。今は……」

エミルはどこから持ってきたのか、個人用のジェットパックを背負っていた。
そしてルーアが止める間もなく、壁の穴から外に飛び出していき……

「グギッ!!親方!基地から女の子(20代・白衣・眼鏡)が!」
「グヒヒヒ……ちょっと地味だが、けっこういい感じじゃねえか……一斉に行くぜお前ら!!」
「「「ヒャッハーーー!!」」」

「え?……あ、あれ!? ちょっと待って、っぎゃあああああああぁぁっっ!!!」
ガーゴイル、ハーピーなど、基地の周りを大量に飛んでいた飛行型魔物の餌食となった。

「えええ!?エルマさん、エミルさんが……助けないと!!」
「ジェットパックはあくまで非常脱出用。あんなのでフラフラ飛び出したら、そりゃああなるでしょ……」

エルマは気付いていた。
エミルが密かに、指令室に一つだけ残っていたジェットパックを隠していたことを。
基地の周りに、飛行型の魔物が大量に飛び交っていた事も。

指令室の壁に穴を開けた事で、魔物が大量に集まって来ていたが、基地内の様子がわからないため、様子見していた。
そんな中に、最低限の飛行能力しかないジェットパックで飛びだそうものなら、どうなるかは火を見るよりも明らか。

「……でもエミルさんが犠牲になっている今のうちなら、私たちは安全に離脱できる」
「エルマさん。まさか、初めからエミルさんを………」
「行きましょう………恨むなら後でいくらでも、私を恨んで」

眉一つ動かさず、あまりにも冷静なエミルの様子に、サクラはそれ以上何も言えなかった。
サクラ、エルマ、ルーア、唯の4人を乗せた改造ホウキ「フライングボート・ダブルジェット」は、
エミルの断末魔を背に受けながら、前線基地を全速力で飛び出した……

928>>923から:2021/10/17(日) 17:35:22 ID:???
「「たぁぁぁぁぁっ!!」」
「っ………やああああぁっ!!」

同時に襲い来る2人のミスト。
確かに1対1では互角以上に戦えていたが、
相手はミツルギ討魔忍衆でも最強と言われる剣士。
戦力差は完全に逆転されたと考えるべきだろう。

(受けに回ったら押し切られる!!一人ずつ仕留めないと……!)
(一人ずつ……仕留める……?)

キンッ!! ガキンッ!! ……ザシュッ!!
「っぐあぁっ!」
「まだまだっ……一気に決めさせてもらうわ!」

一人を相手にしている隙に、もう一人が死角から斬りつけてくる。
同一人物であるがゆえに、二人の連携は完璧だった。
連続シフトで敵の攻勢から逃れようとするリザだが、ミストも同じくシフトの使い手。
背後、足元、頭上など、対応できない角度から次々と斬撃が飛んできて、リザは瞬く間に劣勢に立たされてしまう。

ザクッ!! ズバッ!! ブシュッ……
「っぐぅ……あ、ううっ!!……こ、のおっ!!」

急所や利き腕など、致命的な部位への斬撃を避けるだけで精いっぱいのリザ。
背中や太もも、胸元などに次々と傷跡が刻まれ、鮮血が飛び散っていく。

体勢を立て直そうとしたとき、足元がわずかにふらついた。
度重なる失血で、貧血の症状が出はじめている。
意識が朦朧とする中、リザはいちかばちかの反撃に出るが……

「そう来ると思った……これで終わりよ」
「っ………!!」

リザが斬りかかると同時に、待ち構えていたミストがカウンターの突きを繰り出す。
両者の剣が目にも止まらぬ速さで飛ぶ、その刹那……

リザの刃が動きが、わずかに鈍った。

(だ、め……!!)

シャドウブレードは敵の血を吸い、使い手の生命力とする魔剣。
その刃は常に血を求め、使い手自身の血を少しずつ奪い取る。

(今、斬ったら……)
戦場に降り立つ前、リザはアリスと激しい空中戦を繰り広げたが、仕留めるには至らず。
既にリザの身体は大量の血を失い、剣は血に飢えていた。
斬れば間違いなく……ミストが死に至るまで、血を吸いつくす事になる。


連戦と失血による疲労、そして……いまだ残っている僅かな心の迷い。
それらがほんの少しだけ、リザの剣を鈍らせた。

超常の力を持つ達人同士の、ギリギリの戦いの明暗を分けるのには十分すぎる程の、ほんの少し。

「あ………」

リザよりも一瞬早く、ミストの剣がリザを刺し貫こうとした……だが、その、次の瞬間。

「え………!?」
「………どうして……?……まさか……」
リザの予想していた痛みは訪れず。
代わりに、ミストのもう一人の分身が、リザの前に立ちふさがり刃に貫かれていた。

929名無しさん:2021/10/17(日) 17:37:27 ID:???
「………。」
「まさか、あなたは………」

白い忍び装束が、赤黒い血で染まっていく。
ミストの刃を受けて倒れたのは、リザではなくミストの分身だった。

その姿が、リザとミストの目の前で変わっていく。
ミストよりもやや大柄な、アウィナイトの男性。……二人のよく知る人物だった。
彼はミストと同じ体に宿っていた人格、ミストの弟で、リザの兄……

「レオ……!!……そんな、私のせいで……」
「……お兄……ちゃん……!?……一体、どうして……!!」

「いいんだ……初めから、こうするつもりだった。
お前達のどちらかが、どちらかを斬る事になったら……
小さい頃から、二人がケンカしたときは、間に入って収めるのが俺の……げほっ!……がはっ……」
「レオ、それ以上しゃべったら……!!」

剣を収め、レオの元に駆け寄るリザとミスト。
だが二人の斬撃をまともに浴びたレオの傷は深く、もう長くはもたないだろう事は明らかだった。
レオは大量の吐血にも構わず、二人に語り掛ける……

「リザ。お前は真面目過ぎるから……
自分の手を汚す事も構わず、なるべく多くの物を守ろうとしてきたんだろう。
だけど……いつも肝心の、自分自身を守る事を後回しにしちまう……
おまえが守りたいものの中に、お前自身も入れてやってくれ。
俺もミストも、それが一番…心、配……」

「そんなっ……お兄ちゃんっ……」

「ミスト、姉ちゃんは……リザが、悪事に手を染めていくのに、耐えられなかったんだろ…?
だから強引な手を使ってでも……それこそ殺してでも、止めようとした。
だけど、リザの、根っこの所はまだ変わってないはずだ。
だから……取り返しがつかないからって諦めて、殺し合う前に……
もう一度リザのことを信じ、て……分かり合う道を探してほしい……それができるのは、姉ちゃん…だけ………」

「待ってよ、レオ……!……そんな事……!!」
「今さら言われたって、無理だよ……!!」
「………………。」

リザの両目から大粒の涙がこぼれる。
目の前で大切な人が死んでいくのを観るのは、もう何度目になるだろうか…………

だがリザにとってそれ以上に悲しいのは、レオの最後の想いに応えられそうにない事だった。

「父さんや母さんが死んで、一人ぼっちになって……
私……頑張ったんだよ。必死に戦って、やりたくない事も沢山した。
そのうちなんとか食べ物や寝床には困らなくなって……友達も、できた。
でも……やっとの思いで手に入れた物も……すぐに、なくなっちゃう……だから、必死で……

お兄ちゃんだって、私やミストの事、かばってくれたじゃない……
どうして……私が同じことをしたら、いけないの……?

私は、ただ……私の大事なものを守りたかっただけなのに……
う、ううっ………うぁぁあああああああああぁぁっっ!!」

事切れたレオの亡骸を前に、リザは泣き崩れる。
そして、それを見つめるミストも……
胸中に複雑な思いが渦巻き、これ以上リザと戦う気にはなれなかった。

930名無しさん:2021/10/17(日) 17:48:01 ID:???
「リザちゃぁーーーん!!ぜえ……ぜえ……やっと、追いついた………って、あ………」

スズがリザに追いついたときには、既に戦いは終わり、レオの命もまた尽きていた。
声を上げて泣き叫ぶリザに、スズがなかなか声を掛けられずにいると、
近くにいた、ミツルギの装束を着た剣士……ミストが話しかけてきた。

「リザのお仲間ね。……ああ、身構えなくていいわ。もうお互い、戦う気はないから。
落ち着いたら………これだけ伝えておいて。
あなたたちがこのまま、トーメント王国に従い続けるなら……いずれまた逢う時があるでしょう。
私も、その時までに……どうするべきか、答えを探しておく、と」
ミストはスズに言伝ると、いずこへともなく去って行った。

(もう私たちは、元には戻れない。
あの王の下でリザが戦えば戦う程、多くの人々が不幸になり、リザ自身も傷ついていく。
私も討魔忍衆として、多くの人を傷つけ、殺めてきた……。
だから私の手で、リザの運命を終わらせて、その後は私も……それで、終わりにしようと思っていた。
だけど………レオ。私は……私たちは、どうしたらいい……?)
………………

後に残されたは、レオの死体と、すすり泣くリザ。
スズは無言でリザに寄り添い、ひたすら泣き止むのを待ち続けた。

「…………スズ………あなた、言ってたよね。運命を選んで、変えられる力があるって……」
「え………う、うん。でも………」

………しばらく後。
いつの間にか泣き止んでいたリザが、顔を伏せたまま、ふいにスズに問いかける。

「レオを………死んでしまったこの人を、生き返らせることは出来る?
死ななかった運命を、見つける事は………」

「………それは……」

スズの能力は、運命を予知し、その無数の可能性の中からいずれかを選ぶことができる。
場所や時間を、ある程度超越する事も可能だ。
既にリザが泣き止むのを待つ間に、スズは時間を遡って運命を覗き、この場で起きた事もおおよそは察することが出来ていた。

だが………

「…………出来ないよ。私が着いた時には、その人の運命は、もう………」

ミストとリザが出会えば、戦いは避けられなかった。
リザはミストを殺すまいとしていたが、ミストはリザを殺そうとしていた。
二人が戦えば、ほぼ必ず今回のようにレオが身を挺して犠牲となる。数少ない例外は……

レオがリザをかばいきれず、リザが死ぬ事になった場合、である。

リザはそれでも、レオを助けてほしいと言うに違いない。
スズとしては、絶対にその運命を選ぶわけにはいかない。
だから、出来ないと嘘をついた。

「…………そう。なら、いい……任務に戻りましょう」
「あ、ちょっと待って。傷を………きゃっ!?」
「…………」

ぼそりと一言だけ呟くと、立ち上がろうとするリザ。だが失血でふらついて、スズにもたれかかるようにして倒れる。

「…………あ、れ………」
「ああもう、言わんこっちゃない。早く治療しないと………!」

「リザ隊長ーー!!スズさーん!!ご無事ですかーー!?」
「……って、リザちゃんまたまた大ケガしてるー!!だだだ、大丈夫!?」
「……安心しな嬢ちゃん。どうやら急所には入ってねえ……さっさと治療してやんな」

遅れて他のメンバーも二人の元に駆け付け、特殊部隊のメンバーが再び揃った。

傷が得たら、任務が再開される。
攻撃目標はナルビアの秘密兵器『メサイア』、向かった先はアレイ前線基地。

リザがその歩みを止めない限り、戦いは続く。どこまでも果てしなく……

931>>908から:2021/10/24(日) 18:01:52 ID:???
「サキ様を守るため……そして、私自身の因果を断ち切るため。
レイナ……ここで貴女を倒すっっ!!」

「ふふふふ………この時をずっと待ってたよ……
ぶち壊してあげる、舞ちゃんっ!!」

黒い風と黄金の雷が、正面から激突する………

「連牙百烈蹴……黒翼!!たあああああぁっ!!」
……ドガガガガガッ!!
「うぐっ!?」

すれ違いざまの一瞬、舞が十数発の蹴りを見舞った。
スピードは舞が上手。……だがその差は紙一重。

「ちょっと見ないうちに、すばしっこくなったねぇ……一発貰っちゃったよ」
「………!」

魔物をも蹴り倒す舞の連続蹴りは、そのほとんどがレイナに防御された。
唯一まともに急所を捉えた一撃も、痛がるそぶりすらない。

(だったら……倒れるまで、百発でも千発でも打ち込む!)
二度、三度と交錯する両者。
その度に、舞はレイナの攻撃をギリギリでかわし、可能な限り攻撃を打ち込む。
しかしそれでも、レイナに有効なダメージを与えることは出来なかった。

「っつー……今のはちょっと痛かったかなぁ?お腹エグれちゃってるよ……あ、ちょっと待ってね」
「……傷が塞がっていく……!?」

レイナの反射神経と、身に纏っている黄金のスーツの防御力……だけではない。
レイナ自身の身体が、人間を超えた異常なタフネスと回復力を有しているのだ。

「ふっふっふ……結構やるねぇ舞ちゃん。じゃあアタシもそろそろコレ、解禁しちゃうよんっ♪
ブーメランイーグルっ!!」
「くっ!!」
……ブオォンッ!!

レイナの得意武器のブーメランが、雷光を纏って飛ぶ。
常人なら目で追うのも難しいほどの超高速の刃を、舞は何とか回避するが……

……バチバチッ!!
「あぐっ!!」

電撃の余波で、セーラー服の袖口が弾け飛んだ。
背後にあった大岩が、溶けたバターのように両断される。
……まともに喰らったら一巻の終わりだ。
2本のブーメランが鋭く弧を描いて飛び、今度は背後から舞を狙う。

ブオンッ!!バシュッ!!
(まずいっ……!!)
「はっはー!!隙ありぃっ!!」

更に、レイナ本人の同時攻撃……雷を纏った両脚でのドロップキックが襲い掛かった。

ベキィッ!!
「っぐ!?……」

両腕でガードするが、ほとんど役には立たず。
喰らった瞬間、全身を雷に打たれたかのような衝撃が走って意識が飛び……

……ドゴォッ!!
「……っうああああああっ!!」
そのまま体ごと吹っ飛ばされ、受け身も取れずに岩に叩きつけられた。

「ふっふっふ……ま〜いちゃん、まさかこれで終わりじゃないよねぇ?」
「はぁっ………はぁっ………はぁっ………当り前でしょ……!」

折れた利き腕を押さえながら立ち上がる舞。
息が上がり、心臓が喰らったように暴れ、膝がガクガクと震えていた。

黒いブーツの力をフルに開放し続けているせいで、急激に体力を消耗しているのだ。
それでも全力で走り続けなければ、たちまちレイナに追いつかれてしまう。

セーラー服の右肩周辺が焼け落ち、黒いブラジャーが半分見えているが、気にしている余裕は当然なかった。

(速さが、足りない………もっと、あいつが追いつけないくらい、速く……!!)

舞の想いに応えるかのように、ブーツから立ち昇る漆黒のオーラがより一層強くなる。
再び走り出そうと、舞が一歩を踏み出した、その瞬間。

ぽつり。
 ぽつり。

それまで晴れ渡って空ににわかに雲が集い、にわかに雨が降り始め………

(!?………これ、は………)
舞の身体から、急速に力が抜けていった。

932名無しさん:2021/11/01(月) 22:22:59 ID:???
(右足が、動かな………!!)
「ほらほら、何ぼーっとしてんのぉ?っうらあっ!!」
ブオンッ!!
「くっ……!!」

突然降りだした雨に触れた瞬間、舞の身体、特に右足から力が抜けていくのを感じた。
その隙を見逃さず急襲してきたレイナを、舞は左足一本で辛うじて迎撃する。

レイナの突きを弾き、連続蹴りを繰り出し、反動を利用して後方に跳ぶ。
だが、レイナもしつこく追いすがり、なかなか振り切れない。

「はい、つっかまえた♪」
……ドボッ……!!
「っう、ぐぁっ………!!」
強烈なボディブローが脇腹に突き刺さり、胃液を吐き出す舞。
特殊金属製の強化アーマーで覆われたレイナの拳は、舞に膝を屈させるのに十分すぎる威力を秘めていた。

「今までオアズケ喰らってた分、きっつーいの入れてあげるね……『ヒステリックスパーク』っ!!」
バリバリバリバリバリ!!
「っぎあああああああああっっっ!!!」

更に、追撃の電撃攻撃。舞の黒いセーラー服が瞬く間に焼け焦げていく。
辛うじて保たれていた両者の均衡が、ここに来て一気に崩れ始めた。

その原因は、降り出した雨によって、舞の魔法のブーツの力が半減した事にある。
レイナの仲間で、特殊な水の使い手……舞にも心当たりがあった。

「はぁっ……はぁっ……ブーツの力が封じられてる………この雨、まさか……」

「はは〜ん……さてはDさんだな?
まったく、余計なお世話だっつーの……
ま、べつにいっか。
考えてみたらアタシ、舞ちゃんと『勝負』したかったわけじゃないもんねぇ」

レイナは倒れた舞の髪を片手で掴み、無理矢理立たせる。
ナルビアの科学力で体を改造し、強化スーツまで身に纏ったレイナに対し、ブーツの力を失った今の舞は生身同然。
ひとたび捕まれば逃れる術はない。

「あの一緒にいた蝶の髪留めの女やガキは、Dさんが始末してくれるだろうし……」
(!!……そう、だ……奴が近くにいるとしたら、サキ様が……!!)

「とっ捕まえて、徹底的にナブってイジめてイタぶって………」
ぶっ壊れるまで、とことん遊んであげる♪」

「………っいぎあああああああぁぁっっ!!」
舞の頭と股間を両手で鷲掴みにし、再び容赦なく電撃を放つレイナ。
大音量で奏でられる舞の悲鳴に聞き入りながら、恍惚とした表情を浮かべた。

933名無しさん:2021/11/06(土) 18:50:50 ID:???
一方、突然襲ってきたレイナを舞に任せ、漁港へと急ぐサキ、ユキ、サユミの3人。

……今はユキとサユミを安全な所に逃がす方が先決だ。
今の自分では、足手まといになるだけ……
何度も自分に言い聞かせるサキだが、胸のざわつきがどうしても収まらない。
それに……

「心配しないで、お姉ちゃん……舞さんなら、きっと大丈夫……ちゃーんと、私たちが逃げ切るまで時間稼ぎしてくれるよ……ふふふふ」
………ユキの様子も、再びおかしくなりはじめていた。

やはり引き返して、舞を助けに行くべきか……
そう思い始めた矢先。……空が急速に曇りだし、ぽつぽつとにわか雨が降り始めた。

「!………雨………」

サキの表情が一層こわばる。
雨には、良い思い出がない……などという生温い表現では到底言い表せない、強烈なトラウマがあった。
無意識に体が竦んでしまうのをこらえ、来た道をふと振り返ると……
人影がこちらに近づいてくるのが見えた。フードをかぶっていて顔は見えないが、背の高さから、おそらく男性のようだ。

「……っかしーな。レイナの奴、この辺りに居るはずなんだが……
………お前なら知ってるんだろう?……いつぞやの、スパイのお嬢ちゃん」
「!?………ま、さか………なんで、こんな所に、アイツが……!」


男が近づくにつれ、雨脚はだんだんと強くなっていく。
男が更に目の前まで近づき、フードの中の顔を覗かせた時………
サキの緊張が頂点に達し、抱いていて不安が確信に変わった。
その男はダイ・ブヤヴェーナ。
ナルビア王国幹部、シックスデイの一人……サキがかつてナルビアに囚われた時、苛烈な水責め拷問を行った張本人だった。

あの時の苦痛、恐怖、絶望が、サキの脳裏に鮮明に蘇り、言葉を失ったまま数歩後ずさる。
(どうしよう……なんとかして逃げないと。でも、母さんやユキを連れたままで、逃げ切れるの……?)

「はぁっ………はぁっ………こっ………来な、いでっ……」
息が荒くなり、声がかすれる。
体中の震えを押さえて、ダイに向けて手をかざしたが、どういうわけか魔力が発動しない。

「……無駄だよ。俺が今降らせている、この雨……アンチ・スキルマジック・レインの範囲内にいる限り、
お前らは魔法も特殊能力も使えない。
効果範囲も見ての通り、この辺一帯はカバー可能だから、逃げても無駄だぜ……
この間みたいに俺の水でたっぷり溺れて、洗いざらい吐いてもらう」

「……そ、んなっ……!!」

……実際の所、雨雲は空一面を覆ってはいるが、ASMRを降らせることが出来る範囲は限られている。
まず自分の身を守るため、周囲数十メートルに降らせ、あとは周辺をランダムに、降ったり止んだりさせているだけだ。
そういう意味でも、レイナの今いる場所を早く突き止める必要がある。

(今日のアイツは明らかに様子がおかしかった……さっさと回収して帰還しねえとな。
基地の方は、先にエリスとアリスが戻ってるはずだから大丈夫だとは思うが………)

年こそやや幼いが、サキは拷問対象として抜群に好みのタイプ。
状況が許せばじっくり時間をかけたい所、だが。

「ふふふふ………そうはさせないよ。お姉ちゃんは、アタシが守るんだから!」
「!………だ、だめっ、ユキ………あなた一人じゃ………!!」

サキの妹ユキが、体に仕込まれた機械兵器を起動させて、ダイに飛びかかった。

「ガトリングいっせーそーしゃ!くらえーーーっ!!」
………ガガガガガガガガッ!!
「!?……このガキ、体をサイボーグ化してるのか!!
だが……」

ユキの仕込んだ武器は機械兵器。ダイのASMRの対象にはならない。
だがダイの水を操る能力も、ASMRだけではない………

「……その程度で、俺に勝てると思うなよ…」
目の前に水の障壁を作り、ユキの弾丸をいとも簡単に受け止めるダイ。
直接戦闘ではエリス達やレイナといった女性陣に注目が集まりがちだが、彼もまたシックスデイの一員。
並の兵士やサイボーグ等とは、比較にならない戦闘力を有していた。
果たしてサキ、ユキ、そしてサユミは、この窮地を切り抜けることが出来るのか……

934名無しさん:2021/12/05(日) 11:00:45 ID:???
「おじさんをブッ倒して、アタシがお姉ちゃんを守るっ!!」
「おじさん呼ばわりひでぇなぁ。こーんな渋くてイケメンなお兄さんに向かって……キツめにオシオキしてやるぜ、お嬢ちゃん」
ユキは右腕をドリルに変形させ、ダイに飛び掛かる。
一方のダイは、再び周囲の水で障壁を作ってドリルを防ぐ。

ギュルルルル……ジュブッ!
「ここら辺は海が近いからな。水の壁は無限に作れる。そんなドリルじゃ貫けねえぜ」
「ふっふーん……まだまだぁっ!!スパイラルヒートぉぉ!!」
水の壁に粘性を持たせて、ドリルの回転を止めようとするダイ。
だがその時、ユキのドリルが赤く発光し始めた。ドリルそのものが発熱しているのだ!

ジュウウウウウウウゥッッ!!
温度は急上昇し、水の壁が瞬く間に蒸発し始め……

「なっ……やべえっ!!」
「もう遅いよっ!くらえぇぇーーーー!!」
……ブシュオォォォッ!!
「きゃああぁっ!?」
突然の高温で水が大量に気化し、大量の水蒸気が発生。小規模な水蒸気爆発が発生した。
ダイは咄嗟に身を伏せ爆発を免れたが、
至近距離にいたユキは直撃を喰らい吹き飛ばされる。

「……ムチャクチャしやがるぜ。そんな方法で水の壁を破ったらどうなるかぐらい、中学生でも……って、まだ学校じゃ教わってねえか」
「ぐっ………う、うるさいっ……このくらい、なんてことないもん……!!」
ユキは大きく後方に吹き飛ばされ、右腕のドリルが半壊していた。
周囲一帯は水蒸気の霧で包まれ、互いの位置は視認できない。

「ど、どこに隠れたのっ……エネミーサーチャー、作動!」
今度はユキの右目が赤く発光し、霧に紛れて身を隠すダイを探し始めた。
「おいおい……全身ほとんど機械なのか?ナルビアの連中でも、そこまでえげつない改造はそうそうやらんぜ」

「アタシ……が……サキお姉ちゃんを守る……ユキなんかじゃない、『アタシ』が………」
「なるほど……ガキの脳ミソで、それだけの種類の兵器なんて扱えるはずねえと思ってたが……
戦闘用AIまで搭載とは恐れ入ったぜ。脳みその中まで機械化済みってわけだ」

「……こ、子供だからって、馬鹿にして……今に、みてな、さい……!!
(音響から位置を解析して……今度こそ、ぶっ潰してやる……!)」
左腕からガトリングガンを出して構え、周囲を油断なく見回す。

「へっ……そっちこそ考えが甘いな。俺がいつまでも反撃もしねーで、お嬢ちゃんに好き勝手させてやると思ったか?」
「え………!?」
ダイの声がする方に、ガトリングガンの狙いをつけようとしたその時。
声は突然、その反対の方向……ユキの真後ろから聞こえてきた。
水の壁を使って、自在に声の反響を変えていた……気付いた時には、細く鋭い水流がユキの死角から飛んできていた。

シュバッ!!
「………っ!?」
水流が一閃し、ガトリングガンの砲身をユキの左腕ごと斬り飛ばす。

「そんなっ………アタシの特殊金属製の腕が、水鉄砲なんかで……!!」
「ウォーターカッターって言ってな。
ダイヤモンドや金属の微粒子を混ぜた水を勢いよく飛ばして、岩だろうが金属だろうがキレイに切断する。
兵器としては、国際条約で対人間への使用は禁じられてるほど危険な代物だが……
お嬢ちゃんみたいな『モノ』に対して使う分には問題ない」

シュバッ………ザンッ!!
「きゃぅう!?」

……別の方向から水流が飛んできて、今度はユキの右脚を斬り落とした。

「さぁて。それじゃそろそろ、オシオキの時間だ……せいぜい泣き喚いてくれよ。
そうすりゃ本命の『サキお姉ちゃん』も、逃げずに向かってきてくれるだろうからな」

「や、やだっ……くるなっ…………!!」
倒れた水たまりの中から、水の蛇が無数に現れ、ユキの身体に絡みついていく。
降りしきる雨の雫が、蜘蛛やミミズのような姿に代わり、ユキの体内に潜り込んでくる。
片足と両腕を破壊され、抵抗する術を失った少女に、容赦なく牙を剥いた。

「ひっ………っぎああああああああああ!!!」

935名無しさん:2021/12/05(日) 13:26:58 ID:???
ベキベキベキベキッ!!バチュンッ!!ガギンッ!!

「っぐああああああ!!いぎあああああぁぁぁぁぁああああぁっっ!!」
(左脚ユニット大破……右肩関節部破損、左肩……右足……腹部装甲版、破損………!!)
「いぎ、やはぁ……アタシ、が、こわされ………」
(メインCPUユニットに浸水……機能停止テイ、s……)

体の外から、中から、邪悪に蠢く水が次々とユキの身体に入り込み、破壊していく。
バチンッ!!バシュッ!!
特に、コンピュータ内部への浸水が深刻で、ユキの頭部に激しい火花がスパークした。

「ユキッ!?………ユキィィィイイイイッッ!!」
霧の中から泣き叫ぶユキの声が聞こえる。
斬り落とされた腕や、メカの破片サキの足元に跳んできて転がる。
中で何が起きているのか、ユキが今どうなっているのか、想像するだけで恐ろしくなり、サキもまた悲痛の叫びをあげた。

(この、ままじゃ……アタシが、きえちゃ、う……アタシじゃ、なきゃ………)
(ミキ……ミキ、しっかりして……私じゃ、お姉ちゃんを……)
『ユキ』じゃなくて、『ミキ』じゃなきゃ、お姉ちゃんを……守れないのに……)

ミキ。……それは、サユミが、三人目の娘が生まれたらつけようと思っていた名。
死産して生れることができなかった、ユキの双子の妹の……

「武器も手足も、何もかもぶっ壊した。戦闘用AIもこうなっちゃ形無しだな」

「いっぎあああああああああ!!!」
バチバチバチッ………ボンッ!!
飛び散る小さな火花と爆煙を残して、ユキの中に眠っていた戦闘用AI……「ミキ」は、永遠に沈黙した。

「ミキ………ミキっ………う、あぐっ………!!」
おなじ体を共有していた、双子の姉ユキ以外に、その存在を認識する者さえ無いままに。

「………残るは、元の人間の人格か。それにしても、肺が片方だけでも残っててよかったぜ。
ほんのわずかでも生身の身体が残ってりゃあ、それを維持するのに呼吸が必要だからな。
これで……………水責めが出来る」
「い、や……待って……ごぼっ!!」

水蒸気の霧が徐々に晴れていく。水蛇と蟲の群れが一か所に集まっていく。
それらは一つな巨大な球体に変化し、ユキの身体をゆっくりと呑み込んでいった。
戦う事も逃げる事も出来ず、ただ座り込んでいるだけのサキに、見せつけるように。

「がぼっ!!ごぼごぼごぼ!!がはっ!!いやあああ!!お姉ちゃん、たすけっ………ごぼ!!」
「ユキ………ユキッ……!!」
サキは、動けなかった。かつて受けた水滴拷問の影響で、心に刻みつけられた、水への強い恐怖心に縛られ続けていた。

「サキ……逃げなさい。貴女だけでも……!」
「母さん……!?」
だがその時。サキの横に居たサユミが、サキの護身用小型拳銃を手に、ダイに向かって走り出す。

「ほう……?……一般人にしちゃ大した度胸だが………状況を正しく理解できているとは、言えねえなぁ」
だが多少なり戦闘訓練を受けたサキと違い、サユミは普通の女性でしかない。
……ナルビアの軍人、しかもシックスデイの一員であるダイに、敵うはずもなかった。

……シュバッ!!
「あ、あれ、引き金が…あ、ぐっ!!」
発砲しようとするが、構えは素人。しかも、セーフティが解除されておらず、引き金が引けない。
戸惑っている隙に水の触手が飛び、サユミは銃を弾き飛ばされてしまう。

「お母さんも妹ちゃんも確保……もうお前を守る手駒は誰もいないぜ、サキお姉ちゃん。
……そもそも、この俺に見つかった時点で詰んでたんだよ。
船に乗って、海に逃げる……俺相手にそんなことが出来ると思うか?」
(ま、見つけたのは全くの偶然だが……)

「いや………い、やぁぁぁ………」
サキは腰が抜けて立ち上がれず、目に涙を浮かべて後ずさる。
いつもの勝気で小生意気な姿も、今や見る影もなかった。

じゅるり……
「ひっ!?……ま、待って……だ、だめっ……!」
水たまりから水の触手が伸び、サキの脚に絡みついて、ダイの元へと引きずり寄せる。

降りしきる雨に打たれてサキの白ブラウスが透け、Dカップのバストを包む紫色のブラジャーや、体のラインがくっきりと浮かび上がっていた…が、それを気にしている余裕なども当然無い。

「さあ、とことん溺れさせてやるぜ。お前らが土左衛門になる頃には……多分レイナの方も、片が付いてるだろ」

どぷんっ!!
「い、や………ごぼごぼっ!!」
サキは悲鳴を上げる暇もなく、ユキが囚われているのと同じ巨大な水の玉に呑み込まれてしまった。


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