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リョナな長文リレー小説 第2話-2

1名無しさん:2018/05/11(金) 03:08:10 ID:???
前スレ:リョナな長文リレー小説 第2話
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/lite/read.cgi/game/37271/1483192943/l30

前々スレ:リョナな一行リレー小説 第二話
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/lite/read.cgi/game/37271/1406302492/l30

感想・要望スレ
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/lite/read.cgi/game/37271/1517672698/l30

まとめWiki
ttp://ryonarelayss.wiki.fc2.com/

ルール
・ここは前スレの続きから始まるリレー小説スレです。
・文字数制限なしで物語を進める。
・キャラはオリジナル限定。
・書き手をキャラとして登場させない。
 例:>>2はおもむろに立ち上がり…
・コメントがあればメ欄で。
・物語でないことを本文に書かない。
・連投可。でも間隔は開けないように。
・投稿しようとして書いたものの投稿されてしまっていた…という場合もその旨を書いて投稿可。次を描く人はどちらかを選んで繋げる。
・ルールを守っているレスは無視せず必ず繋げる。
 守っていないレスは無視。

では前スレの最後の続きを>>2からスタート。

664名無しさん:2019/12/15(日) 13:19:57 ID:???
「雪山って素敵ですよねー、どっかにア〇雪みたいな氷のお城でもないですかねー」

「〇ナ雪といえば、まさか2でエルサとアナが最後に【ネタバレ】するとは思いませんでしたわね!最近のデズニーはああいうオチが多すぎますわ!」

「えっ、アナとエルサって【ネタバレ】するの!?えー、私まだ見てないのにー!!」

「ふっふっふ……実は江戸川コナンは工藤新一ですわ!!あとナルトの父親は火影ですわ!!あとあと、鬼滅の刃でこれから死ぬキャラは……」

「わーー!!これ以上ネタバレしないでーー!」

「モガモガ」

「ふふ……」

緊張感のないやり取りをするヤヨイと精霊を微笑ましそうに眺めるササメ。思えば、物心ついた頃から、母を救うために修行漬けで、あまり人と関わって来なかった自分にとって……ヤヨイのような天真爛漫な後輩が慕ってくれるのは、ありがたいことだ。

「ヤヨイちゃん、お城ならありますよ」

「え?」

「ヤヨイちゃんが気に入るようなロマンチックなものではないかもしれませんが……ほら」

そう言ってササメが指差した先には……雪のせいで見えにくいが、確かに氷でできた城があった。
少々武骨な作りで、ヤヨイの憧れるようなおとぎ話に出てくるような城ではなかったが、氷の反射で美しく光る城に、ヤヨイは釘付けになった。

「ふわぁ!!?本当に氷のお城だ!綺麗ーー!」

「まるでナル〇ア国物語ですわ!」

「見た目だけなら綺麗ですが……あれが雪人の住処です。ここからはより一層、気を引き締めてください」

「了解しました!不肖ヤヨイ!お仕事モードに入ります!」

「ではゆっくり、安全に……見つからないように潜入しましょう」

(……私一人ならば、多少無理をしてでも正面から押し通りますが……ヤヨイちゃんにそんな無茶をさせるわけにはいきません)

キリコの予想通り、足手纏い……もとい仲間がいるササメは、無理して最短の道を正面突破せずに、面倒でも安全な方法を選んだ。


「雪に紛れて潜入します。ヤヨイちゃん、しっかり付いてきてくださいね」

「任せてください!なんかお菓子の妖精が仲間になってから、ステルス任務ができそうな気がしてきました!」

こうして一行は、雪人の闊歩する氷の城の中へと潜入していった。

665名無しさん:2019/12/15(日) 15:26:58 ID:PxEKczk2
「もう……勝手についてきて盗み聞きなんて……」

「ヤコくんは私を訪ねてきたのよ。どんな要件なのか気になるのは当たり前じゃない。……あ、くん付けで呼んじゃったけど、いいかしら?」

「も、もちろんっしゅ!」
(うおお……リザのお母さん、めっちゃキレイ……)

好きな女子の姉と母親の前で、緊張して思い切り噛むヤコであった。



「それで、リザは私を収容所から助けるためにミツルギの闘技大会を?」

「あ、はい。あいつ今メチャクチャすごい強い女の子になってて、闘技場に出てた強い奴らを全員倒して優勝したんですよ。その後いろいろあって離れ離れになって、あいつにこれを託されて……」

「そう……各国の歴戦の猛者たちが集うミツルギの闘技場で優勝するくらい、リザは強くなったのね。」

「……………」

リザが優勝したことは、ミストはステラに伝えていなかった。
というより、トーメントの兵士として悪逆非道を続けるリザのことは母にはほとんど伝えていない。
リザに会ったと報告したときも、罪のない人を手にかけるなと注意しただけ。と言っただけだ。

「リザのこと、やっぱり私になにか隠していることがあるようね。ミスト。」

「え……?」

「あなたはミツルギの兵士でしょう。そんなことがあったのなら絶対に知っているはずよね。どうして私に教えてくれなかったの。」

「そ……それは……わ、私は遠征中でムラサメにいなかったから、わからなかっただけで……」

「いいのよ。私に隠した理由は今聞かない。それはまた二人でじっくり話しましょう。」

(あ、あれ……?やべ、俺なんか雰囲気悪くしたのかな……なんか話を変えないと!)

俯いてしまったミストに困惑するヤコ。
リザのことをできる限り隠しておきたいミストと、リザのことをもっと知りたいステラの距離感が、ヤコを挟んですれ違いを起こしているのだった。



「そ、それで……!俺はリザに頼まれて、ステラさんをここから出すために来たんです。サクヅキ奴隷収容所はアウィナイトに酷いことをする収容所だって話だから……」

「そうなのね。ヤコくん……リザと私のためにこんなところまでありがとう。でも……私をここから出してどこに連れて行くの?」

「とりあえず、アウィナイト保護地区でいいかなと思ってます。リザが作ったアウィナイトのための安全な場所なんで。」

「あ、その話は……!」

「アウィナイト保護地区?リザが作った場所?……トーメントの兵士になったリザは、そんな場所を作っているの?」

「……あ、あれ。ミストさんもステラさんも知らなかったんですか?リザはトーメントの兵士になって、俺みたいな行き場のないアウィナイトを保護するための場所を作ってるんすよ。衣食住も全部トーメントが負担してくれるし、一日中トーメントの兵士が盗賊たちが来ないか監視してくれてるんです。」

「……ミスト。ヤコくんが言っていることは本当なの?」

「……………………」

「どうして黙っているの?リザがやっていることが私に伝わると、なにか不都合があるの?」

「そ、それは……」

殺すべき妹のことなど、母に伝える必要はない。
そう考え情報を与えていなかったが、ステラはこの状況で昔のように行動的な性格を覗かせ始めていた。

666名無しさん:2019/12/15(日) 17:26:18 ID:???
「……んっ……」

久しぶりに随分と長く眠った気がする。
覚醒し始めた意識で目を開けると、自分の部屋の天井だった。

「あ、リザちゃんおはよう。体は大丈夫?」

優しい声がした方に目を向けると、本を閉じ膝の上に置いたエミリアがベッドの脇に座っている。
自分の体の状態と魔力の残滓を感じたことで、エミリアが私を治療してくれたことが分かった。

「エミリアが私を助けてくれたんだね。……ありがとう。」

「うん……舞ちゃんが私達のことを見逃してくれたおかげで、助けることができたよ。」

柳原舞……サキの手下くらいにしか考えていなかったけれど、あそこまで強いなんて。
サキのことで混乱していたこともあるけれど、あのスピードとパワーの前には正直、手も足も出なかった……と思う。
これから戦争になるのに、私はまだまだ弱いままみたいだ。



「エミリア……この前はごめんね。」

「え?なんのこと?」

「王様にアイナのことでお願いしに行ったとき……私がエミリアを突き放すようなこと言ったでしょ。私のことはほっといてって。……だからもうエミリアには嫌われたと思ってた。」

「あぁ……そんなこと気にしてたの?あいにくだけど、私はリザちゃんに何を言われたって嫌いになんかならないし、ほっとくなんてもってのほかだよ?ずっとリザちゃんの側にいて、助けてあげるって決めてるんだから。」

いつもと変わらない笑顔で、そんなことを言うエミリア。
あのときは正直ちょっと鬱陶しいと思ったけど、今はその優しさがすごく安心するし、嬉しいと感じる。
自分のことを好きでいてくれる人って……やっぱり大切にするべきなのかな。

「……ねぇエミリア。教えてほしいことがあるの。」

「ん?なあに?」

「……エミリアをガラドから誘拐してトーメントの捕虜にした私のことを、どうしてここまでして支えてくれるの?もう拘束はしてないし、帰ろうと思えばガラドの家族にも会いに行けるのに。」

「……そんなの、簡単なことだよ。アウィナイトのためにたった一人で戦ってるリザちゃんの助けになりたいの。」

「………………」

「私ね、ずっと自分の生きる目的とか考えずにだらだらだらだら生きてたんだ。ガラドのレジスタンスに入ったのも、たくさんお金がもらえるって言われたからよく知らずに入ってただけだし……トーメントを倒したいとか全然考えてなかった。だからトーメントに対しても特になんとも思ってないの。二人にさらわれるときはちょっぴり怖かったけど、結局リザちゃんに酷いことはされてないもんね。」

「………………」

「その後ライラのことがあった後に、リザちゃんは私をガラドに返そうとしてくれたけど……自分の正義のために一人で戦ってるリザちゃんを放ってまたもとの生活に戻るのは、やっぱり嫌だった。……私がリザちゃんを助けてあげたいって初めてちゃんと思ったときに、あの言葉が出てきたの。」



『私は、リザちゃんの力になりたい。その苦しみと悲しみを…せめて、一緒に背負ってあげたい。
だから…お願い。私をこのまま、王都へ連れて帰って』



「だ、だからね……!ちょっと鬱陶しいと思われるかもしれないけど、私はいつでもリザちゃんの力になるよ。……ううん。リザちゃんの力にならせてほしい、が正しいかな。」

「……私なんかにそこまで言ってくれるのはすごく嬉しいけど……本当にそれだけなの?私の側にいても見返りもないし、エミリアが楽しいこともないんだよ?」

普通の女の子なら、この前見た女子高生たちのように友達と遊んだり恋をしたりしたほうが楽しいはずだ。
自分のように血生臭い人間の側にいるよりは、そっちのほうがエミリアにとって幸せなのではと思える。

「もう……リザちゃんってほんっとーーーーに現実的だよね!自分のことを助けてくれてるんだから、素直にそのまま甘えればいいのにぃ!……なんですぐに理由を求めちゃうのかなぁ。」

「……ごめん。私がそういう性格だからかな……」



「……じゃあ、鈍感なリザちゃんのために、もっとずっとわかりやすくしてあげるね。」

「え?な、なにっ……?んゆぅっ!?」



立ち上がったエミリアの唇が、私の頬にそっと触れて。
今までの人生で発したことのない声が、自分の口から漏れた。

667名無しさん:2019/12/15(日) 19:10:44 ID:???
「えっ、えっ……ええぇっ!?」

私の思い切った行動を受けて、リザちゃんは耳まで真っ赤になって私のことを見ている。
よかった……冷めた目で見られたり後ずさりされたりしたら、ちょっとだけ心が痛いから。

「えへへ……驚かせてごめんね。」

「い、いや、いやいやいやいや……!そんな……ええ!?」

「あはははっ!流石のリザちゃんでもびっくりするとそういうリアクションするんだね!これは貴重だなぁ。」

「だ、だ、だってだってだって……!」

あーあ。
本当は明かすつもりなんか全然なかったのに、リザちゃんが鈍感すぎてついやっちゃった。
こんなことしたって、リザちゃんを困らせるだけなのに。
私の思いなんかリザちゃんにとっても……



私にとっても、どうでもいいのに。



「……ごめんね!あの、えっとー冗談!リザちゃんの驚く顔が見たくてついやっちゃったの!ごめんね……?」

「……エミリア……あの……私……」

「い、いいよリザちゃん深く考えなくてもー!ただのいたずらだからさ!ね?全然気にしないで!」

「……………」

リザちゃんは言葉を選びかねて、複雑な表情のまま沈黙してしまった。
私の演技なんか見破ってるんだろうなぁ。もうほんと私バカすぎる。なんでリザちゃんを困らせちゃうのよ。
バカバカバカバカバカバカバカ。
バカバカバカバカバカバカバカ!!!
もう一刻も早くリザちゃんの前から消えるしかないや。

「あ!そ、そろそろご飯の準備をしなきゃ!リザちゃんも食欲があったら食堂に来てね!じ、じゃあね!」

「……エミリア……」

その言葉の続きを聞くのが怖くて、私は急いで部屋を飛び出したのだった。





「すみません!遅れましたぁ!」

「エミリアちゃん一体どこ言ってたの!?20分も遅刻よ!」

「ご、ごめんなさいサーリャさん!すぐ食堂清掃行ってきます!」

「そっちは他の子に行かせたからいいわ!すぐ野菜を切って!メニューは机の上にあるから、それにあわせて手順通り!30分で終わらせなさい!」

「はい!」

こんな気持ちでも、しっかり仕事はやらないと。
さっきのリザちゃんの表情が頭にこびりついたまま、私は料理の仕込みを始めた。

668名無しさん:2019/12/21(土) 10:41:18 ID:???
一方。雪人の城の最奥部にて。

「『銀帝』陛下……恐らくはミツルギの討魔忍。見張りのホワイトウルフを倒したのと同じ奴らかと」

……ササメ達の侵入は早くも察知され、雪人達の長『銀帝』に伝えられていた。

玉座に座る男は、『銀帝』と呼ばれていた……
青白い肌に、冷たい印象ながらも端正な顔立ち。若く見えるが、
雪人の寿命は人間よりはるかに長いため、外見から年齢を推し量ることは難しい。

「あのテンジョウとかいう人間の新しい皇帝が、禁足の令を解いたそうだな。
さっそく我らを討伐しにきたか。……下らん。お前達で始末しておけ…私は忙しい」
「ははっ!仰せのままに…!」


「……戻ったぞ、『フブキ』」
「………………………………」

部下たちを下がらせた銀帝は、自身もまた自室と籠る。
広い部屋の中央に、巨大な氷柱が飾られている。その中にはなんと、一人の女性が氷漬けにされて封じ込められていた。

雪人の魔力で作られた氷の檻に囚われた者は仮死状態にされるため、閉じ込められた時から歳を取ることは無い。
故に実年齢は定かではないが…見た目は、20より少し上くらいか。身に着けているのはミツルギの、白い儀礼用忍び装束……

「何者かが、城に侵入したようだが……案ずるな。
手下どもには、丁度いい退屈しのぎになる……じきに始末されるだろう」

(………いけ、ません……)

実際に声を発したわけではない。
『銀帝』は精神感応の力を持ち、氷漬けの女性と意思を疎通する事が出来る。
……だが、女性の心はどういうわけか頑なで、問いかけても答えてくれることは珍しい。

まして、こうして向こうから話しかけてくるのは何年ぶりの事だったか……

(その、人から……貴方と、同質の……雪人の、力を感じます…………間違いない。……あの子は、私達の……)

「……何?……そうか。20年前、お前が産み落とし、密かに逃がした娘だな。
生き延びて忍びになり、母を奪ったこの私を殺しに来たというわけか。
あるいは、裏切者であるお前を殺しに来たか…………クックック」

(ち……ちが、う……私には、わかります。きっとあの子は……)

「なんとなんと好戦的な生き物か。半分雪人の血が混じっていても、これだ……
やはり人間というのは、救いがたい。

いずれミツルギも……いや。人間たちの国など全て滅ぼし、お前以外の人間など根絶やしにしてくれよう。

雪人だけの、完璧で美しい世界が完成した、その時こそ……私は理解し、お前に与える事が出来るだろう。
かつてお前の言っていた『愛』というものを……フフフフ。はははははははは!!」

(………やめ、て……戦っては、いけない……貴方とあの子が、実の親子同士が、殺し合うなんて……!!)

669名無しさん:2019/12/24(火) 02:35:25 ID:???
『銀帝』が自室でフブキと思念をかわしていた、ちょうどその頃。
城の警備兵たちが詰め所にたむろし、勤務中にもかかわらず、酒を飲んでクダを巻いていた。

「銀帝様は、まーた部屋に引き籠って人間の女とイチャイチャしてんのか…」
「あーあ。お偉いさんはイイよなー。こんな山奥じゃ、俺ら低級雪人は出会いなんてねーもんなー!」
「だなー。日付変わって、もうクリスマスイヴだぜ。今年も俺達、彼女ナシのままなのかな……」

「あーあ。俺、一度でいいからJKの太股やらあんな所やらこんな所やらさわりまくって、氷漬け痴漢プレイしてぇ!」
「俺は、美人でかわいくておっぱいでかくて真面目で健気なお姉さんをボロクソにいたぶって、ベアハッグしながら全身嗅ぎまくりてぇ!」
「みんな溜まってんなぁ。じゃ、俺は……この位のサイズのちっちゃい妖精ちゃんを、舌でペロペロして口の中でくちゅくちゅして最後にゴックンしたいかなー」
「なんかお前が一番ヤバそうなんだが」
「なんで俺らに彼女出来ないのかよく分かった気がする」

「………。」「………。」「………。」

「……サンタさんにお願いしようか」

例によって、誰からともなく、そんな言葉が出た。


だが……

「こらーっ!せっかくの聖なる夜にえっちな事を考えてる悪い人達は、このサンタクロースが許しませんよーっ!」
儀式を終えた雪人達の前に現れたのは、髭の生えたおっさんではなく、小学校高学年くらいの幼い少女であった。

「うわっ びっくりした」
「なんだこの女の子……どっから入って来た?」

サンタと名乗るだけあって赤い服を着ているが、白いファーがそこかしこにあしらわれた赤いワンピース。
胸元やおへそがガッツリ開いてたりすることもなく、太股もきっちりタイツで守っていて、可愛らしくも上品さを保っている。
とってもあったかそうで可愛らしい出で立ちだが、やっぱりサンタとしては間違いなく間違っていた。

トナカイのぬいぐるみ型リュックサックを背負い、腰に提げているのは白いポーチ型のプレゼント袋。
伝統的なサンタコスを踏襲しながらも、いろいろと現代風にアレンジされていて……

(あ、やべえ……)
(シコリティたけぇ……)
(この子供子供産めるわ)

おっさん率の高い雪人達に、ものすごく刺さった。……ロリコンと思われるのは嫌なので、みんな表には出さないが。

「え?もしかしてこの子がサンタ?……いやいや。まさか」
「もっと邪悪な感じのおっさんが出てくると思ったのに」

「………えっと、つまりですね。
本来、善のサンタと悪のサンタが一年交代で現れる決まりになってるんです。
だけど一昨年、私のパパ…善のサンタクロースが、事故で亡くなってしまって……ぐすん……
だ、だから、私が代わりにサンタクロースとしてやってきたんです!」

「へー。話はだいたいわかった」「後付け感が半端ないけど」
「そのリュックとかポーチに、プレゼントが入ってるの?」

「あ。リュックはお菓子とかゲームとかの私物入れで、プレゼントはこっちのポートです!
でもダメですよ!これは良い子のためのプレゼントですから!」
(ドスッ!!)
「えっちな事考えてる悪いおじさんにはごぶっ!?」

雪人の一人が無言でサンタガールの髪を掴むと、細くくびれたお腹に思いっきり拳を叩き込んだ。

670名無しさん:2019/12/24(火) 02:42:35 ID:???
「っげ……ぁ……な、に…を……!」
何の前置きもなく腹パンを喰らったサンタガールは、悶絶しながら地面に這いつくばる。

「……つまり、このポーチさえ奪っちまえば」
「おめーは単なるメスガキ、って事だな。ヒッヒッヒ……!」

別の雪人が、サンタガールの頭をぐりぐりと踏みにじりつつ、ポーチを奪い取った。

「だ、ダメッ……それはパパが私にくれた、大切な…」
「ヒッヒッヒ……ちょーっと大人しくしてようなぁ?」
(ドスッ!!ザク!!)
「ぎゃぃっ!!」

サンタガールの伸ばした手の甲に、鋭い氷柱が突き刺さる。
下級と言えども、雪人達はみな強力な氷の術の使い手。プレゼント袋を奪われたサンタガールに対抗する術はない。

「ケツの穴に氷柱突っ込んで、奥歯ガタガタ言わしてやろうか?……ヒッヒッヒ!一回やってみたかったんだよなー!」
「いやいや、それよりもこのポーチで……お、生意気に年齢フィルター掛かってやがる。解除解除、と……」

少女の大切なポーチを好き勝手に弄り回し、何やら設定を変更する雪人。その結果……

(ゴウン ゴウン ゴウン……)
(うねうねうねうね ぐちょっ)
(バチバチバチッ!! ブイーーーン)

……少女の可愛らしいポーチから、見るからに禍々しい様々な道具が次々と姿を現す、悪夢のような光景が繰り広げられた。

「ひっ……な、なんですか、それ……一体、どうする気ですか……」
「けっけっけ……1個ずつ説明してやろうか?まずこれは、パンツの下にこうやって装着して……スイッチオン!」
(グォォォォォォオオン!!)
(ドゴドゴドゴドゴドゴ!!)
「ひぁあ"あ"ああ"ああ"ああ"ああああっ!!!」

こうして善良なる『聖なる夜』の使者サンタガールは、『邪悪な夜』の最初の生贄となってしまったのであった。

「ピコーン 侵入者あり 女3人  雪人(ハーフ)1 人間1 妖精1  容姿レベル 特A 〜 A-」
「おや?サンタレーダーの様子が……」
「ヒッヒッヒ……サンタちゃんを一通り楽しんだら」
「エモノ狩りと行くか……ヒッヒッヒ!」

……そして今年も、惨劇の幕が開く。

671名無しさん:2019/12/29(日) 14:40:14 ID:???
通風孔、屋根裏など、人目に付かない場所を選んで城内部を探索するササメとヤヨイ、そしてお菓子の妖精。

狭い通風孔を這い進むヤヨイの目の前には、前を行くササメの姿があった。

(うーーん。こうして見ると……ササメ先輩の尻、もんのすごいな。
というか上忍クラスの人達って、みんないい身体すぎじゃない?
考えてみればキリコ先輩もけっこうな物をお持ちだし……)

「?……ヤヨイちゃん、妖精さん、どうかしました?」
「い、いえ。何でもないです……」

あと5〜6年でこんなんなれる気がしない。
軽い絶望感を覚えつつ、ヤヨイはひきつった笑みを浮かべるのであった。

「でっかいケツですわー」
「…………。」
「ちょ…妖精ちゃん、言い方ー!!」
一方で妖精は容赦なかった。

それはさておき。


「……ここは……何の部屋なんでしょう。氷の塊がたくさん置いてありますが……」
「!?……これって……まさか……!」

二人&妖精は、城の地下に広間らしき部屋を見つけた。
だだっ広い部屋の中に、氷でできた柱が乱雑に置かれている。
なんと、その一つ一つにが氷漬けにされた人間が閉じ込められていた。

『氷柱の間』と呼ばれるその部屋は、雪人達が、攫ってきた人々を閉じ込めておく部屋……すなわち牢獄だった。

雪人達は、人里から攫ってきた人間を仮死状態にし、氷に閉じ込め永遠の悪夢を見せる。
悪夢に苦しむ人々の嘆き、悲しみといった負の感情が、雪人達の糧となるのだ。

「…か、糧って……食事とかじゃなくて、人間を苦しめることで養分を得るんですか?」
「結構ヤバい魔物だったんですのね、雪人って」
「ちょ、言い方ー!!」

「……ええ。人間から養分を得るタイプの魔物……バンパイアやサキュバスに近い種です。
ちなみに私はハーフなので、普通に食事をとりますが……」
「……ぜ、ぜひ今後ともそうしていただきたく……あ。そうだ。ササメ先輩。攫われた人がここにいるって事は……」

「もしかして……お母様も、この中に……!?」

ササメの母親がここに囚われている可能性に思い当たり、改めて周囲を見渡す。
氷柱は無数。この中から、ササメの母親を見つけ出すのはかなり難しそうだ。
ササメは母親の顔を知らないし、何より……

「ぎっひっひ!見ぃーつけた……ミツルギの雌ネズミちゃん達!」
「来年の干支がもう出てくるなんてなぁ……ぐひひ」
「クリスマスは終わったけどメリークリスマスだぜぇ!!」

こうして雪人に見つかってしまったら、じっくり探している時間はない…!

672名無しさん:2019/12/29(日) 14:44:16 ID:???
【イエティ】
身長2〜3m程の、白い毛むくじゃらの巨猿。
知能は低いが、人間を遥かに超えるパワーを持つ。
主に極寒の山奥で生息しているが、雪人達が捕獲して使い魔、下僕として飼育する事もある。


「ゴガァァァァッ!!」
ササメとヤヨイに、白い魔猿の群れが猛然と襲い掛かる。

「来ますっ先輩!」
「ヤヨイちゃん達は下がって!」
「がんばってですわー!」

氷の刀『氷雨』『雪雲』を生成し、迎え撃つササメだが……。

「グゴォォォォッ!!」
イエティ達の様子が、何かおかしい。
皆怒り、あるいは興奮で凶暴化しているようだ。
雪人に着せられたと思われる赤いサンタ服からは、何か怪しい魔力を感じる。

(正面から受けるのは危険そうですね……ならば)
「氷雪刀……凍波閃!!」
ササメは刀から強力な冷気を放出し。イエティ達を凍らせようとする。
だが。

(パキイイイインッ!!)
「「ゴアアアアアアァッ!!」」
「なっ……弾かれた!?」
……冷気は、赤いサンタ服によって無効化されてしまう。

「先輩っ!?……それなら、これでっ!!」
後衛のヤヨイが、敵の進路にマキビシをばらまく。
対魔獣用の大型のもので、人間が踏めば足を貫通してしまう危険な代物だ。まさに非人道兵器!
しかし……

「「「グゴォォォォォオオンッ!!」」」
「うそっ!?全然効いてな……きゃあっ!!」

マキビシが脚に刺さっても、イエティ達は物ともせず襲い掛かって来る!
たまらず横っ飛びで回避したヤヨイは、その雪崩のような勢いに戦慄する。

「クックック……イエティどもには、サンタ特製『酒と料理』を振る舞ってやった。
ただでさえ脳筋バカだったのが、更に狂戦士化してパワーアップだ……フルボッコにされちまいな!!」


(ドゴッ!!)
「く、っ……!!」

そんな中……イエティの一撃を、正面から受け止めたササメ。
防御してもなお身体が弾き飛ばされ、刀を持つ手がビリビリと痺れる。

イエティ達の持っている武器は…七面鳥の丸焼き、ベル、クリスマスツリー、ブッシュドノエル……のような形の、巨大ハンマー。
ソシャゲのクリスマス限定武器のようなふざけた見た目だが、いずれも超高性能かつ『氷属性特効』持ち。
特にササメにとっては、一撃でもまともに喰らえば戦闘不能必至の凶悪兵器である。

「グロオオオオッ!!」
ガキィィィィンッッ!!……ミシッ!!
「うぐっ……!!」
傘に掛かって攻めてくるイエティ達。その二撃目を受けて、氷の刀に亀裂が走る。

「ゴアアアアアッ!!」「ウゴオオオオオオ!!」
ベキイッ!! ガキンッ!!
三撃目、四撃目で氷雨と雪雲が粉々に砕け散った。

「ササメ先輩っ!?……避けてっ……!!」

……ササメは、避ける事が出来なかった。なぜならば。

ササメの背後には、大きな氷の柱がある。
その中に閉じ込められているのは、ササメ達と同じ討魔忍の女性……
もしかしたらササメの母親かも知れないし、そうでないかも知れない。
だがいずれにしても……イエティ達に壊させるわけにはいかなかった。

673名無しさん:2019/12/29(日) 14:54:27 ID:???
「砕氷星鎖っ!!」
(バキイッ!!)
なおも襲い掛かるイエティに、ササメは必殺の鎖分銅を繰り出す。
雪人の魔氷をも砕く、ササメの切り札ともいえる武器。
こんなに早く、雪人どころかただの魔物相手に使う事になろうとは、全く想定していなかった。

「グロロロッ………!!」
……確かな手ごたえはあった。
死なない程度に加減したとはいえ、いかに屈強なイエティと言えども、鉄の塊で足と分の急所を叩かれれば、気絶は免れないはず。
だが、次の瞬間……

「えっ………」
分銅を受けたイエティがギョロリと目を見開き、ササメの鎖を勢い良く引っ張る。
鎖ごと身体を引っ張られて、体勢を崩したササメは……………

「グオオオオンッ!!」「バルルルルルッ!!」

……前後から迫る敵の攻撃に対し、完全に無防備になった。


「ヒヒヒッ!!ようやく捉えたぜ……こいつで決まりだ」
イエティ達を操る雪人が、物陰で下卑た笑みを浮かべる。

「「バオオオオオオッ!!」」
「……く……氷壁召喚…!!」
(バキィィィィィィインッ!!)
ササメも氷術で防御を試みる。
だが氷属性特効のクリスマス武器と、狂戦士化したイエティ達のパワーの前には、ほとんど意味をなさなかった。

(ドッ!!……ゴォォォォォン……ッ!!)
「うぐ!!……ごはあぁっ!!」
後方からの巨大ベルと前方からのブッシュドノエル型ハンマーが、ササメの背と腹に直撃。
視界がグラグラと揺れ、胃液が逆流し、手足の感覚が喪われ……崩れ落ちるように、その場に膝をつく。

「お、げっ…………しまっ……!!」
「クックック……そういや、もう年越しの時期だっただなぁ……そっちも後でやらねえと、なっ…!」

「グロロロッ……」
立ち上がれないササメの頭上を、赤い影が覆う。
(ドカッ!!)
「うっ……!!」
巨大なブーツでの踏み付けを、辛うじてかわすササメだが……。

立ち上がろうとするが、身体に力入らない。
折れた肋骨から激痛が走り、内臓にも深刻なダメージを負っていて、少し身じろぐだけで血混じりの胃液が込み上げた。

……氷の力は通じず、刀は二本とも失い、切り札の鎖も手放してしまった。
残る武器は補助用のクナイ数本、後は手裏剣くらい。
目の前の凶悪な魔物達、後に控える雪人達を相手にするにはあまりにも心許なかった。
それでも、ササメは……ここで倒れるわけにはいかない。

「はあっ……はあっ……まだ…です……この、程度でっ………ううっ!!」
「グロロロロロ……!!」
「クックック。その通り……この程度じゃ、まだ終わらないぜぇ……クリスマスは、ここからが本番だ」

イエティ達の中でもひときわ巨大な一頭が、ササメの身体を軽々と持ち上げる。
じたばたともがくササメの身体を、両腕で抱え込み……ベアハッグの体勢に入った。


「はぁっ………はぁっ………放してっ………っぐ、う!!」
「この女、どうやら雪人の血が混じってるらしいなぁ……
だったらきっと、コイツのサンタ服ベアハッグは、よーーく効くだろうぜ……!!」
「バルルルルルッ!!」

赤いサンタ服が輝き、強烈な熱を発し始める。
「な……これはっ…!?いっ……嫌ぁっ……っぐあああああああああぁっ!!」
これはただのベアハッグではない。全身に密着されての高熱責め。
ササメの中に、闘技大会での……炎の魔神の力を操る『簒奪のトウロウ』に完全敗北を喫した、苦い記憶が蘇っていく……!

674名無しさん:2019/12/29(日) 15:12:59 ID:???
「………グロロロロロロッ!!!」
(ミシミシミシッ!! ジュゥゥウッ……メキメキメキ!!)
「っぐ、あぅっ……駄、目……うああああああああっ!!……い、やあああああぁっ!!」


「いやー…この『サンタのラジコン』コントローラー、マジ最高だわ。
イエティどもを何体も同時に操れる上に、討魔忍ちゃんを殴ったり、
ベアハッグするときの感触がモロに伝わってくるんだもんなぁ。……やべ、勃ってきた」

ササメの悲鳴、肌の感触、血と汗の匂い、ひんやりとした体温を感じ、雪人は恍惚の笑みを浮かべる。
ダンボール製なので耐久性に難はあるが……サンタクロースのアイテムは、
このように下級の雪人ですら上級討魔忍を手玉に取る事が出来てしまう、恐ろしい力を秘めていた。


「いいなー!俺も、あっちのJKちゃんで楽しませてもらおっと!何を使おっかなー……」
「おれ……あの妖精ちゃん丸呑みしたい」

「ひぐっ……おね、がい……もう、止めてください……。
パパから受け継いだ私の……サンタクロースの力を、こんなひどい事に使うなんて……」

鎖と首輪で縛り上げられたサンタガールが、涙ながらに抗議の声を上げる。
だが………

「んーー?なんかこっちの方からカワイイ声が聞こえたなぁ。
そう言えば君、何て名前だったっけ?サン………サン……そう、サンドバッグちゃんだ」
(ドゴッ!!)
「ぐぇっ!!」
「サンドバッグが、言葉を喋っちゃ駄目だよねぇ?サンドバッグは俺らに殴られるのが仕事なんだから。
まーーた俺らにお仕置きされたいのかなー?」

「おごっ!!……うああああんっ!!……ひぎっ!!……あぐんっ!!
ご、ごめんなさいごめんなさいっ!!……もう、二度と逆らいませんからぁっ!……っぐあああああ!!!」
その声を、雪人達が聞き届ける事は決してない。



「ど、どうしよう……このままじゃ、ササメ先輩がっ……!」
「うう…………クリスマス……調子乗ったザコが、アホみたいな強さで襲ってくる……
なんか前にもどっかでこんな事があったような……だ、だとしたら、あの猿を操ってる奴がいるはずですわ!」

なんだか、前世の忌まわしい記憶がよみがえってくるお菓子の妖精であった。

「じゃあ、そいつを探してコテンパンにすればいいってこと? よーし!じゃあ、急いで見つけてボッコボコにしよう!」

(フヒヒヒ……JKちゃんは普通の人間みたいだなぁ。じゃあ、俺の雪人の力(低レベル)と、サンタの道具があれば楽勝かな?)
(妖精ちゃん……おいしそうだよ妖精ちゃん……)

絶体絶命の危機に陥ったササメ。そして、それを助けようとするヤヨイたちにも魔の手が迫る。
果たして戦いの行方は。無事に母親を助け出す事は出来るのか!

675名無しさん:2019/12/30(月) 14:08:13 ID:???
「で、どーするんですの?まずはこの場をなんとかしないと、操ってる奴を探すどころじゃありませんわよ?」

「逆だよ妖精ちゃん……この場をなんとかするには、操ってる奴を先に倒すしかない!私じゃササメ先輩を助けに割って入っても、返り討ちにされるのがオチだし……」

自分で言ってて悲しくなるが、気を取り直して忍び道具を取り出すヤヨイ。

「裏で操ってる奴自体は弱いってのが、こういうのの定石でしょ!」

そう叫ぶと同時に、ドロン!というお約束の効果音を響かせながら、地面に煙玉を叩きつけるヤヨイ。

「ササメ先輩、待ってて!今、そいつらを強くしてる元凶を倒しに行くから!」

「グヘヘ、バカめ!自分から喋って居場所を教えるとは……先輩の武器であの世に行きな!」

雪人に操られたイエティの1人が、ササメの鎖分堂を投げる。
ハーフのササメでも血の滲む修練をしなければ使いこなせい代物だが……そこはサンタの力と純正な雪人の操作によって、ササメと同等以上の精度を発揮した。

「……なにっ!?」

だが、煙が晴れた先には、「あほ」と書かれた紙と紙コップの糸電話が貼り付けられた丸太が、バラバラになっているだけであった。

「おーっほっほっほですわ!!声は私の糸電話で丸太から発したように見せかけるダミーですわ!中の下くらいのニンポーも私のサポート込みなら、にんじゃりばんばんですわーー!!」

「誰の忍法が中の下よ!……とにかく、今のうちに!」

イエティたちの注意を逸らした一瞬のうちに、ヤヨイは広間を出て、城の奥へ向かう。

「逃がすか!追えぃイエティども!」

「グロロロロォ!!」

ヤヨイを追おうとするイエティたち。だが……ヤヨイが出ていった扉が、突然凍りつく。

「はぁ、はぁ……!!ヤヨイちゃんには……手出し、させません……!」

ベアハッグを受けながらも力を振り絞ったササメが、時間稼ぎに扉を凍らせたのだ。

「テメェ、人間混じりの薄汚いハーフが……!」

「……ひゃぐううぅああぁッッ!!」

ヤヨイを追うのを邪魔されて癇癪を起こした雪人に、さらに激しいベアハッグをされるササメ。
強制的に体を弓なりに反らされ、ミシミシと嫌な音が響く。

(ヤヨイちゃん、お願い……無茶はしないで……無理だと思ったら、私を置いて逃げて……!)

676名無しさん:2019/12/30(月) 15:54:40 ID:???
1「気がついたらもう2019年も終了!こっからはいきなり始まる今年の総集編や!今年はこの金尽のコトネと!」
「私……神楽木七華が担当いたします。」

去年はなかったような気もするが、今年はやります総集編。
なぜこの2人なのかというと、コトネと七華は口調が対照的で喋らせやすいからであって、それ以上でもそれ以下でもない。

「地の文でしょーもない説明言うのもそれまでや!ウチらで今年一年全部まるっと振り返っていくでー!」
「コトネさん……私、なにも聞かされていないのですが、大丈夫でしょうか……クロヒメ様も年越しそばを買いに行ってしまいましたし。」
「もうななっちはクロちゃんいなくても平気やろ?それにこれはあくまでも番外編や。ウチらが知らないことも勝手に頭に入ってきて解説できるようになる、不思議空間が展開されてるんや!」
「そ、そうなんですか。それなら、なんとかなるかもしれませんね。……あとクロちゃんじゃなくて、クロヒメ様です。」
「ほな他にも書かなあかんスピンオフもあるからさっさといくでー!2019年のリョナリレー小説、まるっとおさらいやー!!!」
「お……おー!」



「んじゃまず新年明けて始まったとこからサラッと見てみよか!ななっち、教えてや!」
「ええっと……今年初めての投稿は>>380です。ナルビアのエリスさんとアリスさんが雨の中で……え!?そ、そそそんな……!」
「わわ、今年は美人姉妹の接吻から始まっとるんやな……まあこれはエリスが司教アイリスに操られていただけで、ほんとに姉妹好き合ってるわけじゃないやで。」
「そ、そうなんですか……いきなりそんなシーンから始まっていたなんて……」
「そのあとの>>381はミツルギの洞窟内での戦闘シーンやな。運命の戦士たちと竜殺しのダンvs王下十輝星のガチンコバトルや。」
「リザさんとミストさんの、姉妹同士の戦闘>>382もありますね。お互い仲の良かった姉妹だったはずなのに、道を違えてしまったのは……悲しいです。」
「ほんまやなー。ナルビアではキスしあってた美人姉妹もいるのにこっちは殺し合いなんて、まったくどうなっとるねんって話やな!」
「……こうしてみると、新年とはいってもそれぞれの展開が続いていたように見えますね。」
「まあ年変わるからってそれまでの展開全部終わらせて第2部第3部とはいかへんよ。いつどこでどのように収束するのかわからへんのが、リレーのいいところやからな。」



「で、その他は……わわ!これはだめですっ!紹介しなくていいですうぅ!」
「ナハハハハハ!クリスマス恒例行事の続きとして、ななっちのサービスシーン>>383が展開されとるなぁ!サンタ服でボコボコにされとるで!」
「うぅ……あれ以来、サンタさんを見ると思い出してしまうのです……」
「まあでも>>385で終わって、人間になったクロちゃんとはその後も仲良くなっとるんやろ?ハッピーエンドならええやないか!」
「まぁ、あの一件がなければクロヒメ様が顕現されることもなかったとは思いますが……あとクロちゃんじゃなくてクロヒメ様です。最近アイドルをプロデュースして解任された人みたいな呼称でクロヒメ様を呼ばないでくれますか……?」
「げげ!?ななっちがマジでブチギレしそうや!次行くで次!!!」

677名無しさん:2019/12/30(月) 15:57:56 ID:???
「洞窟での戦闘が続き、ナルビアへと場面展開されています。>>400でついに、ナルビアの最終兵器と言われるヒルダさんが覚醒しました。」
「クローン兵士メサイア……この子は大戦の目玉になってきそうやで?拘束ビームのゼロエネルギーに雷大剣ブラストブレード……ナルビアのシックスデイも太刀打ちできんほどの強さや。」
「トーメントへの切り札になるのでしょうか。制御しきれず暴走してしまったら……考えたくありませんね。個人的にはリンネさんのために、元の優しい人格に戻って欲しいですが……」
「そのリンネもなぁ……最近はトーメントに女作って遊んでるみたいやから、あんまり期待できんかもしれへんな(笑)よし、次や!」



>>435でトーメント十輝星、アイナさんが不慮の事故で死亡しましたね……最初期の方から登場していた方だけに、衝撃は大きかったです。」
「特になんのドラマもなくパッと死んでもうたなー。ウチらもこんな感じであっさり死なないようにせんと、頑張って行かなあかんで!」
「そ、そうですね……でもなんか最近、妖精になって再登場してきたような気もしますが……」
「死んだら妖精なるのはお約束になりつつあるなあ(笑)まあ人死にの辛気臭い話は嫌や!次行くで!」



>>438でついに、魔の山頂上にてトーメント王と運命の戦士が集合しました。」
「ここは物語の大きな節目やで。ガーディアンゲートが開いて、神器セーブザクイーンが王の手に渡ってしもうた。アレについてはようわからんが、事象を書き換える力を持つかなりやばい力のようやな。」
「……そんなものを奪われて勝てるのでしょうか。」
「正直わからん。でも>>442で主人公の唯ちゃんが言い放ったんや。私たちが王様を倒します……必ず倒しますってな。まるで究極召喚を控えた召喚士みたいやで。」
「トーメント王……その力は未だ未知数……これから始まる大戦でついにその力の全容が明らかになるわけですね……」



「ほんで、>>455ではずっとどっちつかずな感じだった魔剣使いアルフレッドがついに味方になったわけやな。」
「アングレームとラウリートのいざこざを乗り超えて、アリサさんと修行している姿を最近よく見ます。仲良くといった様子ではないまでも、お互いのことを認め合っているのはわかります。」
「ずっと2人っきりで修行してるみたいやもんな。しかも元々アリサの方はアルフレッドを好いとったんやろ?大戦前に間違いが起こらへんといいんやが……」
「え?間違いってどんなことですか……?」
「そりゃもちろん〇〇とか〇〇や」
「きゃああああああぁ!!!次行ってくださいいいいいぃ!!!」



>>472からは月花庭園での話やな。リザっちがアリスと戦ったり憎むべき敵を倒したりと、まぁここでもリョナられて大活躍や。アリスの方もかなりエロいことやられてるから、金髪美少女好きは要チェック回やで。」
「あと、リンネさんとサキさんのお話もありますよね。2人が再開して>>485で……え?え!?」
「優しく啄むようなキスをした後、宣言通り、唇を吸い上げ口内をかき回すような激しいキスをする」
「いやあああああああああぁ!!!地の文を読まないでくださいいいいいいぃ!!!」
「異性を強く感じるような激しいキスに、サキも追いつけるよう必死にテンポを」
「クロヒメ様アアァ!!!コトネさんを殺しますううぅ!!」
「ひぇっ!?わかったウチが悪かった!やめてぇやななっちー!!!」

678名無しさん:2019/12/30(月) 16:02:26 ID:???
「はぁ、はぁっ……つ、次は……>>486あたりからサラの話やな。虫責めにあってるのはサラの先輩的ポジションのマリアや。」
「クレラッパーでしたっけ……人から人へ受け継がれていく力だったとは、ちょっと驚きました。」
「記憶喪失になったサラのその後は……>>532でジェシカに捕まったみたいやな。今頃何してるんやろうなぁ。」



「えっと……その後は運命の戦士たちの展開が多いですね。唯さんはシーヴァリア、瑠奈さんと鏡花さんはルミナス、アリサさんはミツルギ、彩芽さんはナルビアで修行をしています。」
「途中、ミシェルのリョナシーン>>499やリザっちとシアナの喧嘩>>523もあったな。ミシェルは姉のいるナルビアに亡命をしたから、もはや味方になったかもしれんな。」
「リザさんとシアナさんの喧嘩は……子供っぽいといえば子供っぽいような気がします。お互い感情を抑えられなくなっていたような気がしますから……」
「まあまだ2人ともガキやからな。ウチも18やが、賭場で汚い大人たち見てるからもう精神年齢はななっちと変わらんと思うで。」
「……コトネさんは、お金に対しての感情を全然抑えられていないような……」



「その後はついに、ヴェンデッタ小隊の面々の登場やな!主人公の新たな仲間枠や。ルーア、オト、エルマ、サクラ。どれも癖強いさかい、まとめるリーダーの唯ちゃんは大変そうやな。」
「実力は認められてはいるものの、ちょっと協調性が足りない人たちみたいですね。個性が強いのはそのせいみたいです。」
「でもマイコニド襲撃>>572やプラント攻略作戦
>>595でもチームワークで乗り切ってるしなあ。さすが主人公、リーダーシップは完璧みたいやな!」
「このあとの大戦でもみなさんの大活躍が期待されますね。裏切る人とか出てこないといいのですが……」
「えぇっ!?ななっち、いきなり不穏なフラグ立てんといてや……?」



「プラント編では新キャラも登場してますね。殺人鬼ヴァイス……殺人鬼として各国にその名を轟かせている、恐ろしい人です。」
「ま、ああいうんはどうせ噛ませやろ。リザっちには頭が上がらないようやしな。それよりもや!プラント編のリザっちと水鳥のリョナ>>613は必見やでえ。敵同士なのに拘束されて同時にリョナられる様はエロすぎや。この時のビデオが残ってれば荒稼ぎ間違いなしやったんやが……」
「コトネさん……なんでもお金で考えるのやめてください……」
「何言うてんねん!金こそこの世の全てなんや!金さえあればごっつ美味いもんもめっちゃ綺麗な服もだだっ広い家もとんでもないイケメンも全部手に入るんや!人生成功するためのもの、それが金や!!!」
「……私にとってのクロヒメ様のように、コトネさんにも譲れないものがあるということですね……」



「さて、もう現行に追いついてきたな!>>615からのヤコの動きや>>658からのまた年跨ぎそうなクリスマス編!そして来年からはラストスパートや!」
「ここで上げていない細かいお話もいっぱいありますが……大筋はこんなところでしょうか。」
「全部やってたらキリないからなぁ。まぁ大体こんなもんやろ。」
「このお話……しっかり始まったのは2016年の10月なんですよね。もう3年以上大きな停滞もなく続いているなんて……すごいです。」
「ほんとなんでこんなに続いてるのかわからへんな(笑)まぁリョナれればなんでもいいのスタンスで自由にやってるからとちゃうか?」
「そうですね……来年もよろしくお願いします。コトネさん。」
「こちらこそやで、ななっち!トーメント王ぶっ倒して大団円といこうや!」
「はい!ザギさんやラガールさんやシンさんとも力を合わせて、私たち討魔忍もがんばっていきましょう!」
「せやな!じゃ、今年の総集編はここまで!来年もよろしく頼むでーーー!!!次レスから本編再開やー!」

679名無しさん:2019/12/31(火) 16:57:08 ID:???
「ピカッと閃きましたわ!!忌まわしい気配を向こうから感じますわよーー!」

「今は妖精ちゃんレーダーだけが頼り……お願いね、妖精ちゃん!」

「合点承知の助、当たり前田のクラッカーですわ!!思い出すのも忌まわしい空気の元は……この部屋ですわ!!」

お菓子の妖精の案内でヤヨイがたどり着いたのは……下級雪人たちの詰所であった。

「ひぃい!!なんでここにくノ一が!?」

「イエティも出払っていてとても敵わん!に、逃げろー!」

突然現れたヤヨイを見て驚いた様子の雪人たちが、慌てた様子で部屋の奥へ逃げていく。

「逃がさない……!見た感じ怪しいのは……コントローラー持ってる、そこのオジサンでしょ!」

ヤヨイは普段使いの量産品ではなく、精霊刀ミカズチを逆手に持つと、軽やかに飛び上がって、一気にコントローラーを持つ雪人に斬りかかる!!

「その首、貰ったぁあああ!!」

お菓子の妖精の力がエンチャントされた精霊刀は、寸分違わず雪人の首に吸い込まれるように入っていき……



「……いってぇえええええ!!!??」

「え……?」


完全に首を刎ねると思われた刀は、ガキ、という音と共に弾かれた。

「テメェ……いてぇじゃねぇかクソ人間があぁあああ!!!」

「ごふぁっ!?」

コントローラーを持った雪人が、力任せに腹パンをする。空中で身動きの取れないヤヨイは、その攻撃をもろに受けて、地面に仰向けで倒れてしまう。

「おいおい、なにしてんだよバカww見習いの剣なんて痛くも痒くもないんじゃなかったのか(笑)」

「わざわざ逃げ惑う演技までしてやったってのに、ガチで痛がってんじゃんwwちょっと危なかったんじゃないかお前?」

「ちげーよ、こいつ……精霊刀なんて持ってやがった!!あーくそ、滅茶苦茶いてぇ!!」

イエティを操っている者自身は弱いと思っているヤヨイを嵌めようと、雪人たちはヤヨイが来たらわざと逃げて彼女の攻撃を受け、希望を持たせてから全く効いていない姿を見せて絶望させようとしていた。

だが、ヤヨイがキリコから貰った精霊刀の力は、ヤヨイをただの見習いと高を括っていた雪人には少々想定外だったのだ……
それでも、痛いで済む程度のダメージしか与えられなかったが。


「ぐっ……」
(こいつら、強い……!でも何とか、コントローラだけは破壊しないと……!)

手の中に隠し持った手裏剣で、ササメを苦しめるイエティを操っていると思われるコントローラを壊そうとするヤヨイ。仰向けのまま手先だけで素早く取り出した手裏剣を、真っ直ぐに投げようとして……

「はいざんねーん!!」

「っ!?」

雪人が手に持っていた鎖を手繰り寄せ、サンタコスをした少女を盾にした。思わずヤヨイの動きが止まった瞬間……

「ひゃっ!?冷たっ!」

手足を床ごと凍らされて、仰向けの大の字状態で床に磔にされる。

680名無しさん:2019/12/31(火) 16:58:54 ID:???


「う、うぅう……ごめん、なさい……私の、せいで……」

「ケケ、クソ人間……セクハラレベルの痴漢プレイで済ませてやろうと思ったが、もうやめだ……俺をキレさせると何するか分かんねぇぞ?」

サンタ効果により、ネットでよく見るイキリ発言がガチで危ない意味になっている雪人と、さめざめと涙を流すサンタ少女。
危険を感じたヤヨイは身を捩って拘束から逃れようとするが、手足はガッチリと氷で床とくっつけられており、腰を振ったセクシーダンスにしかならない。

「ククク、サンタのポーチに、イイ感じの肉切り包丁がありやがった……これなら肉もバターみてぇに切れそうだな」

「……?アンタたちは、お肉なんて食べないんじゃ……」

「ああそうだよ、俺たちは肉なんて食わねぇ……だけど斬りはするんだよ……こうやってなぁ!!」


雪人の叫びと共に、ザン!!という音が響く。その直後……ヤヨイの左足首に、凄まじい激痛が走る。

「っ、が、っっ〜〜〜!?あ、足、が……!?」

肉切り包丁は、ヤヨイの左足首……氷で拘束されている箇所の少し上に振り下ろされたのだ。

「ギャハハハ!!どうした?まだ足首の先がちょっと落とされただけだぜ?こんなのシンデレラの姉だってやってるぞ?」

「あ、あ、いやぁああぁあ゛あ゛あ゛!!!!」


その結果……ヤヨイの左足首は完全に切り落とされていた。

痛みの余り無意識に激しく暴れるヤヨイ。拘束されていた足が切り落とされたことで、一部体の自由が戻ったかに見えたが……

「はい氷結〜!!これで逃げられませーーん!!」

切り落とされた所を再び氷漬けにされ、再び動きを封じられる。

「良かったなー、すぐに冷やしたから多分くっつくぞ?治療さえできれば……だけどなぁ!!」

「っぎ、やぁああぁああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」

普通の食事を行わない雪人が人の絶望を食う為に行う『料理』……それは、氷で動きを封じながら、獲物の体を少しずつ少しずつ切り刻むことを言う。
まな板の上の鯛を捌くように、人間の体を切り刻み、切った部分を氷漬けにしていく……

獲物が死んでしまうため、普段は滅多にやらない『料理』だが……クリスマスに凝った料理はお約束である。

681名無しさん:2019/12/31(火) 19:35:08 ID:ajCO3ff.
「「「グルァァァァッ!!」」」
氷に閉ざされたドアを、イエティ達が集団で壊しに掛かるが……ドアを覆う氷はびくともしない。

「はぁっ……はぁっ……無駄、です……あれは、私の魔力のほとんどを込めた封印の氷……そう簡単に壊れはしないっ……!」

(けっけっけっ……そうやって必死こいて逃がした所で、無駄な事だぜ。
ただの人間が、冬の雪人に……ついでにサンタの力でパワーアップした俺達に、勝てるわけがねえ。
だが……)
「その眼、気に喰わねえな………半分人間のクセに、生意気な真似してくれやがって。
氷が壊れねえなら、お前を徹底的に痛めつけてやるぜぇ!!オラァアアア!!」

ギリギリギリギリッ!!
みしみしみしみし……!!……ブチブチッ!!

「んっぐ………う、っあああああああああああっ!!!」
丸太のようなイエティの剛腕が、ササメの腰を力いっぱい締め上げた。
筋繊維や背骨が破壊されていく音が、広間に響きわたる。


ササメの視界は明滅し、意識が飛びそうになるが……それでも必死にもがき続けた。
「諦め……ないっ……お母様を助け出すまでは……絶対に……!!」

(ザクッ!!)
クナイを取り出し、イエティの腕に突き立てる。
だが、小さなクナイで貫けるのは、せいぜいイエティの毛皮の表面程度。
凶暴化したイエティ、そして遠隔操作で操る雪人にダメージが通るはずもなかった。

「無駄無駄無駄ァアアアア!!背骨へし折ってやるぜェェ!!」
「くっ……!!」
(ゴキイイインッ!!)

凶暴化したイエティが、渾身の力を腕に込めると……
大音量と共に、太い、固い、何かが折れた。


「グオオオオオオオッ!?」
「はぁっ………はぁっ………」

『それ』は、ごろりと床を転がり、数秒経ってから鮮血を吹き出し始める。……凍り付いた、イエティの左腕だった。

「なん、だと……どういう事だテメェェェ!!」
イエティ達が着ているサンタの服に、ササメの冷気は通用しない。

だが、クナイを通して体内に直接冷気を送り込めば……短時間なら、凍らせることが可能だ。

イエティが止めに入る一瞬を見極め、腕を瞬間冷凍する。こうしてイエティの力を逆に利用する事で、
ササメはベアハッグ地獄から逃れる事に成功した。

「言った……はず、です……私は決して、諦めない……!」

だが、右腕だけのベアハッグでも、ササメの腰と背骨は甚大なダメージを受けている。
しかも、扉を守る氷壁と今の一撃で、魔力を完全に使い切った。

「クソ女が……だがなあ。イエティ一匹の腕を落とされた所で、俺様は痛くもかゆくもねえ。
状況は変わらねえ……いや。俺様を怒らせた分、前よりもっと悪くなってるかもなぁ?」

「グルルルルッ!!」
「うぐっ……!?」

怒り狂った隻腕のイエティが、右腕一本でササメの首を掴み、持ち上げる。
……ワンハンド・ネックハングツリー。
3m近い巨体に吊り下げられ、ササメの身体はちょっとした一軒家程の高さまで持ち上げられている。

「そのツラ、絶望のどん底に沈んで泣き叫ぶまで、年をまたいでトコトンいたぶってやる……
まずはツリーでクリスマスをシメて、その後は年越し名物、例のヤツだ……」

「ぐっ……あ……が、はっ……!!」
(まずい……意識、が……!!)

なんとか脱出を試みようとするササメ。
だが呼吸を妨げられ、視界が急速に暗くなり、手足の力が抜け……

カラン……
手にしたクナイが滑り落ちて、床に転がった。

682名無しさん:2019/12/31(火) 21:23:38 ID:???
「確かコイツ、母親がどうとか言ってやがったなぁ。こいつも捕まった人間を助けに来たクチか…」

雪人はイエティ達を操作し、気絶したササメの両手を砕氷星鎖で縛りつけた。
そして……

「ま、どれだかわかんねえけど適当に似てる奴に……よし、こいつだァッ!!」

(ドガアッ!!)
「んぐあああっ!?」

チョークスラムの要領で、ササメの身体を思い切り氷柱に叩きつける。
無理矢理意識を覚醒させられたササメだが、後頭部と背中をもろに打ち付けられたため依然として意識が朦朧としている。

「っ……あ………な、何……?」
「ヒッヒッヒ……まずは目覚めの一発だな。やれ、イエティども!!」

「「「グルォォォォォォォ!!」」」
数頭のイエティ達が、太い丸太を抱えながらササメ目掛けて突進する。

(……ドゴンッ!!)
(ごぶちゅぅぅっ!!)
「っごぇっ!!?」
狙いは、さっきベアハッグで散々痛めつけた、ササメの下腹。
巨大な丸太と、背後の氷柱に挟まれて、ササメは踏みつぶされたカエルのような情けない悲鳴を上げる。

「ひとぉーーつ。……ヒッヒッヒ。なかなかいい音させるじゃねえか。
こいつは、『リョナの鐘』と呼ばれる年越しの儀式……確か人間の流儀じゃ、108回ほど撞くらしいな?」

「げ、ほっ……ふ、ざけた、真似、を……っぐぷ!!」
反論しようにも、胃液がこみあげてまともに言葉を紡げない……ただの一突きでこれだ。
あんな丸太をそんなに喰らったら、間違いなく死んでしまうだろう。

「ヒッヒッヒ……避けたり逃げたりしようとは思わねえほうがいいぜ。後ろを見てみな」
「はぁっ……はぁっ……う……これ、は……!!」

氷の中には、仮死状態で閉じ込められた女性の姿があった。
ササメと同じ、忍び装束。……どことなく顔立ちも似ている気がするが、母親かどうかはササメにはわからない。
そして……氷柱には、恐らく今の丸太の衝撃だろう。僅かに亀裂が走っている。

「丸太の一撃をしっかりお前が受け止めねえと、そいつの氷は粉々に砕けちまう。
乱暴に砕けば中の奴も無事じゃ済まねえし……仮に身体が無事だとしても、すぐに治療しなけりゃそのままオダブツ。
つまり。そいつが助かるかどうかは、お前次第って事だ。ヒッヒッヒ……」

「……っぐ………卑劣、な………!!」

「……いいねぇ〜。絶望に染まった、いいツラになってきた。
俺達雪人は、人間どものそういう感情が何よりの活力なんだ……。
同族の女も対象だから、もちろんハーフも全然アリだぜぇ!!」

イエティ達が、再び助走を始めた。
ドス黒くはれ上がったお腹は、早くも限界を超えている。
両手は後ろ手に縛られていて、僅かな抵抗も試みられない。
両脚は縛られていない。だが……今のササメには逃げる事も、倒れる事も許されない。

「そのやわらかーーいハラワタが、ぶっとい棒であと107回ぶち抜かれて!!
その可愛いツラが、こっから更に!どんだけグッチャグチャに歪んでいくのか、今から楽しみだぜぇ!!」

「「「グルァァァァァアアアアアア!!!」」」
(ズドドドドドドドッ……!!)
「はぁっ………はぁっ……」
(こんな所で、終わるなんて……きっと七華様は、私の力不足を見抜いていたのですね)

(ズドオオオンッ!!)
「んぶぉああああああぁぁっ!!!」
(後ろに、いる方……私の母様なのか、もう確かめる術はありませんが……
私の命に代えても、守り抜いて見せます……)

「クックックック………どんどん行くぜぇ。次、3発目だ」
「「「グルルルルルッ………!!」」」
(そして、ごめんなさい。ヤヨイちゃん……せめて、貴女だけでも無事に、逃げ延びて……)

悲壮な決意を胸に、振るえる脚で必死に立ち続けるササメ。
しかし、その時………

「っぎ、やぁああぁああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」

「おいおい何だよー。お前もリョナの鐘やってんの?俺らもこの後、とっつかまえたJKちゃんでやろうと思ったのによ!!」

(えっ…………ヤヨイ、ちゃん……?)

何らかの魔法、アイテムによるものだろうか。雪人達の詰所の様子が、広間の中に映し出された。
恐らくはイエティ達を操っている者と、その仲間の姿。そして……
……手足を拘束され、斬り刻まれ、絶望に満ちた悲鳴を上げる、ヤヨイの姿。

「そうなのか?考える事はみんな同じだなぁ。ケケケケケ!!
ま、同じことやっちゃダメって事はねえんだし、今夜はダブルで楽しもうぜぇ!!」
「「「さんせーーーい!!」」」

「「「グルォォォオオオオ!!」」」」
(ドゴッ!!)
「っぐおぁああああっ!!!」
(ビシ………)

3発目の丸太がササメの腹部を直撃する。
ふらついた足、折られた心ではその衝撃に耐えきれるはずもなかった。
背後の氷柱の亀裂が、また少し大きくなった。

683名無しさん:2020/01/01(水) 16:41:41 ID:???
「グルオオオオオオオォ!!」
(ドゴオオオォッ!!!)
「ぐああああああああっ!!!」

広間に響き渡るのはササメの悲鳴と、無抵抗な彼女の腹に容赦なく打ち付けられる丸太の音。
20回目の叩きつけでササメは意識を失いかけるが、激しい痛みがそれを許さなかった。

「グルアアアアオオオオォ!!!」
(ドゴッ!ベキッ!グシャアアア!)
「っんぐおおッ!があああ!ごえええッ!!!……っ……」



(……おかあ……さま……)



痣だらけのササメの腹に、短い感覚で一気に三連突。
三発目の突きでこみ上げてきた血を吐き出したササメは、ついに完全に気を失ってしまった。

「おいおい、あのハーフ落ちちまったぞ?流石に三連突はキツすぎたんじゃねえの?」
「だってよー、108までやんのだるくなってきたし。ちょっとペース早めていこうかなーと思ったらすーぐ落ちたわwww」
「じゃあイエティに持たせてるスタンガンを……こうだ!」



(バチバチバチバチッ!!!)
「ぎううううああああああんッッ!!!」
(ビリビリビリッ!)



全身に走る痺れと強烈な痛みで、ササメの意識は無理やり覚醒される。
ただのスタンガンではなく電圧強化型であることは、装束のスリットが破れたことで理解した。



(くうぅ……氷雪装束がっ……!)



「あのハーフ、いい顔だなー……根性もあるみたいだし、雪人だったら好きになってたかもしれねえなぁ。」
「なにいきなり恋愛対象にしてんだよwwwお前女ならなんでもよくなってきてんだろ?」
「とはいええっちな装束姿も最高だし、ボンキュッボンだよな。こっちの嬢ちゃんより断然イイ女なのは認めるが。」
「んーというか、あれ誰の娘なんだ?俺たち雪人の誰かの娘なんだろ?」
「「……あ。」」

広間に現れた男の姿に、硬直する雪人たち。
その男は凶暴化しているイエティたちを一瞬で凍らせると、ゆっくりササメへと近づいていった。



「目元も、声も……母親によく似ているな。名はササメといったか?」

「はぁ、はぁ……誰……?」

「私か……?数十年前に雪人討伐の任を受けた美しい人間の女を、拷問し、陵辱の末に子種を注ぎ込んで孕ませ……生まれた忌み子をこの山から突き落としただけの男よ。」

「……ッ!」

雪人たちの長、銀帝の言葉を聞いた瞬間、ササメの目が見開かれた。

684名無しさん:2020/01/03(金) 20:29:17 ID:???
「つまらん……母を助けに来たのか、或いは始末しに来たのかと期待してみれば……強化されているとはいえ、雪下級の者共やイエティ風情にやられるとはな」

「あなたが……お母さまを……!」

絶体絶命の状況ながら、仇敵の登場に目に生気が戻る。

「お前の母は私の部下を掻い潜って、私に刃を向けるまでは行ったぞ……その母と私の血を引いていながら、ここまでの弱さとは……よほど鍛錬を怠ったと見える」

「く、うぅうう……!」

物心ついた時から、母を助ける為に血の滲むような鍛錬を繰り返してきたササメにとって、その侮辱は許しがたい。
だが、事実として下級雪人やイエティにこうして追い詰められている以上、ササメはただ悔しげに歯を食いしばるしかできない。

「歯応えのある忍ならば、母共々子種を注いでやろうと思ったが……余りの弱さに、流石の私も少々親心が出たぞ」

「えっ、銀帝様、親子丼しないんすか!?」

部屋にいた方の下級雪人は、皆でササメを犯すのを期待していたのもあり、思わずツッコミを入れてしまう。

「そう急くな……もっと面白いものを見せてやる」

そう言うと銀帝は、ササメのお腹にある痛々しい傷の中に、指を突き入れた。

「ぐっ……!」

鋭い痛みにうめき声をあげるササメだが、銀帝の意図が読めずに怪訝な顔をする。

「な、なにを……」

「哀れな娘に、私の力を分けてやろう……お前の中に混ざる人間の血を凍らせ、雪人の血を活性化させる……」

そう言った直後、傷口に入った銀帝の指から、凄まじい冷気がササメの体の中に入り込んで来る。

「が、はっ……!?」

「普通の人間ならば、血を凍らせると息絶えるが……混血のお前ならば、雪人として覚醒できる」

体の底から凍りつくのではないかと思うほどの冷気がササメを襲うが、どうしてか体の奥が疼く。
必死に拘束された体を動かして逃れようとするが、無駄な足掻きであった。

「い゛あ゛あぁぁぁっっ!! あっ、あ゛ぅ゛っ! あ゛────っ!! 熱いっ、のにっ、冷た、い、あ゛ああぁぁああぁっ!!」

「娘よ……脆弱な人の身を捨て、雪人として生きるがいい……」

「あ゛ぐああぁああああぁぁぁっっ!!」

血が凍りつく度、自分の体が雪人に近づいていくのを感じる。あくまでも人として、討魔忍として生きてきた高潔な精神が、雪のように溶けていく。

「ずっと孤独だったのだろう?だがもう大丈夫だ……これからは母と父と共に暮らせるぞ?」

「ち、がうぅっ!! わたしは、わだじはぁっ!!」

「何を躊躇うことがある……その血の衝動を受け入れるのだ……それがお前の、定められし宿命……」

「い゛や゛ああぁあああぁぁッッ!!」

助けを求めるような、縋るような絶叫が響いた後……静寂が訪れた。

685名無しさん:2020/01/03(金) 20:30:23 ID:IGS.DvAA

「はぁ、はぁ……キリコ先輩直伝の……含み針……!」

ヤヨイは一瞬の隙をついて、拘束された状態から、イエティを操っている雪人のコントローラーを破壊していた。

「あっ、テメェこのメスガキ!?」

「へへん……アンタたちも、これで終わりよ……その装置さえ壊しちゃえば、ササメ先輩が……」

「くっ、この野郎!!」

肉切り包丁を振りかざす雪人。再び襲う痛みを予期して、ヤヨイがギュッと目を瞑った瞬間……


「よせ」

「あぁ、なんだようるせぇな……って、ぎ、銀帝様!?し、失礼いたしました!!」

突然割り込んできた声に、雪人の凶行は止められた。

「銀帝様、なぜこのような、下級雪人の詰所に……?」

「なに、娘に人間の絶望の味を覚えさせてやろうという親心だ」

(銀帝……?ってことはこいつが、雪人のボス……!?)

突然現れた銀帝と呼ばれる男に、ヤヨイは混乱する。

(こいつさえ倒せば、全部終わる……でも、さっきの含み針で暗器も使い果たしちゃったし……やっぱり、ササメ先輩を待つしか……)

「はぁ、娘……ですか?」

「ククク、お前たちにも紹介しよう……入ってこい」

その言葉を受けて、詰所の扉が、ゆっくりと開かれる。

「……え?」

扉の先にいる人物を見て、ヤヨイは思わずきょとんとした声を出してしまう。


薄い青だった瞳は深いダークブルーに染まり、銀色の髪は若干白みがかり、白銀と呼ぶべき色になっている。透き通っていた肌は病的なまでに白くなり、美しさを際立たせると同時に、不気味ささえ感じさせる。
そして何より、数々の戦いを潜り抜けてきた歴戦の氷雪装束ではなく、雪のように白いドレスを身に纏っている。

知っている姿とは余りにも違う。けれど扉の先にいたのは、間違いなく……


「……お待たせしました、お父様」

「ササメ……先輩?」

686名無しさん:2020/01/04(土) 15:04:47 ID:???
「紹介しよう。彼女が私とフブキのたった1人の愛娘……名はササメだ。」

「……ササメと申します。皆様、よろしくお願いいたします。」

(((……お……おっぱい、でっか……)))

礼儀正しく頭を下げるササメ。姿勢が下がって露わになった胸の谷間を、雪人たちは一気にガン見した。

「この人間の始末はササメにやらせる。お前たちは黙って見ていろ。」

「「「か、かしこまりました!」」」

雪人たちが下がったのを確認すると、ササメは仰向けで拘束されているヤヨイの側に立った。

「ササメ先輩、ですよね……?ど、どうしちゃったんですかその格好!?まさか、洗脳されてるんですか……?」

「洗脳ではありません。お父様から頂いた雪人の血によって、本来の姿を取り戻したのです。」

「そ、それ絶対洗脳ですよぉ!ミツルギで育ったことを思い出してください先輩!このままじゃ、ササメ先輩が今までやってきたことが全部無駄になっちゃう……!」

「……そんなこと、もう思い出す価値もありません。」

「そ、そんな……きゃああぁ!?」

必死に訴えるヤヨイの身体は、ササメの生み出した氷によって完全に凍らされてしまった。



「雪人になったボスの娘……美しすぎる。さっきまで可愛い女の子だったのに、ここまで変わるもんなのか……」

「大人っぽくなったよな……スタイルも抜群だし、誰も放っておかないだろこんな女……」

「リョナってた子が一気に高嶺の花になって、頭混乱してきたわぁ……」

突然のササメの変貌に戸惑う雪人たち。
敵から味方へと認識が変わったことよりも、雪人となったササメの圧倒的な美しさに、見惚れることしかできなかった。



「人間の娘よ。貴様にも私の子種を注ぎ込んでやろう。ササメ、下半身の凍りを砕け。」

「はい。お父様。」

ササメが手をかざすと、ヤヨイの下半身の氷が欠片も残さず綺麗に砕かれた。

「こ、子種って、嘘でしょ……?やだ、やだぁ!」

「雪人に刃を向けた罰だ、愚かな人間よ。だが安心するがいい。子種を注ぎ込んだ後は貴様も冷凍してやる。悪夢を見ながら我らの養分となって、永遠に生き続けるのだ……!」

(ビリビリビリッ!!)

「いや、いやぁ……!ひやあああああああッ!!」

セーラー服のスカートは脱がさず、中の忍び装束とショーツのみを強引に引き裂いた銀帝は、露わになったヤヨイの入り口に自らの剛直を容赦なく突き入れた。

(グチュチュッ!)
「ひうううんっ!?」
「んっ……!やはり人間の膣はほどよく暖かくやわらかで……クク、最高の玩具だ……!」
「つ、冷ッたあああぁっ!!うぅ、やめて、お願い……抜いてぇ……!」

雪人のそれは氷のような冷たさであり、人間の中で暖められても冷たさがなくなることはない。
実際ヤヨイは凍るような冷たさしか感じられず、性の快感などはそこになかった。

(ズチュ!グチュ!びちゅ!ばちゅ!)
「やぁっ!ひぅっ!ひゃあんっ!あああぁ!」
「ククク……このまま身体の中からじっくり冷やして……子種を注ぎ込むと同時に凍らせてやろうッ!」
(グチュゥウウゥっ!!)
「うぎああああああああああああああああ!!!」


銀帝は肥大しきった剛直を、勢いをつけて一気にヤヨイの奥に突き入れる。
子宮の奥まで一気に冷凍されたような感覚に、ヤヨイは絶叫した。

687名無しさん:2020/01/12(日) 15:55:24 ID:???
「クックック……まだ若いが、中々に鍛えられているな。人間の中でもかなりの名器だ」
「ひっぐ……痛、い……さむ、い……………」
(ビキ……ビキビキ!!)
一度は氷を砕かれ解放されたヤヨイの下半身が、

雪人達に好き勝手に斬り刻まれた四肢、銀帝の凍てつく剛直に刺し貫かれた下半身が、再び魔性の氷に覆われていく。

(うご、けない……身体中の力が、抜けてく……)
極寒から来る激痛、恐怖がもたらす絶望に、ヤヨイの瞳からは生気が失われていた。

「いい表情ですね。貴女の恐怖と絶望こそが、私達雪人にとって力の源……」
「ササ…メ…せん、ぱ……たす、け………ひっ……!!」
ササメはヤヨイのセーラー服の裾から手を差し込むと、まだまだぜんぜん膨らみ切っていない胸の先端を、冷たい指で弄ぶ。

「ふふふふ……どんな気持ちですか?……『心臓が凍り付く』恐怖というのは……
下の方から、ゆっくり、ゆっくりと凍らせて差し上げますから、じっくりと聞かせてください……ね?」

「いっ……や、ぁ………こんなの、だ、めっ……ひ、ぅぁぁぁああっ………!!」
ササメが指を転がすたびに、魔性の氷がゆっくりと這い上がってヤヨイの胸元から全身を呑み込んでいった。

(やべえよやべえよ……ササメちゃん……いや、ササメ様……)
(ドM雪女討魔忍からドSレズリョナ氷の女王へ、完全に覚醒しちゃってるよ……)
(まさにレズリョナキマシタワーだぜ……)
じっくりねっちりヤヨイをいたぶり続けるササメ。雪人達も皆、前傾姿勢でその様子をガン見していた。

その一方で。

「やべえよやべえよですわ……この展開を打開するには……アレしかないですわね……!」
お菓子の妖精、動く。

「ああ……私が、しっかりしなかったせいで、こんな事に……クリスマスもとっくに終わっちゃったし、
やっぱり私なんかじゃ、世界中の夢と幸せを送り届ける『サンタクロース』になるのは無理だったんだ……」
「ベタな凹み方してる場合じゃありませんわ!早くここから脱出しますわよ!」
「えっ!?……だ、誰ですか!?」
「しーーっ!! 特殊能力でステルス状態になったお菓子の妖精ですわ!
生前は話し声も聞こえない能力だった気がするけど細けーことは置いといて!
とにかく見つかりたくなきゃ静かになさい!今縄を解いてあげますわ!!」

まずは、すっかり忘れられているサンタガールを救出し……

「えっ……で、でも。あの人達を置いて逃げるなんて……!」
「うるっさいですわね!貴方みたいなポンコツサンタも助ける気なんてないですけど、
妖精は精霊刀に封じ込められてるから、刀から遠くに離れられないのですわ!
ほらさっさとダッシュで取って来いですわーーー!!」
「ちょ、妖精さんけっこう辛辣……てか声が大きい……!!」

言われるままにダッシュし、『精霊刀ミカヅチ』を手に取ったサンタガール。
だがその時……

「おやぁ?……こんな所に、うんんまそうな妖精さんがいたぁ……」
(…ぐいっ!)
「ひえっ?! ちょ、何ですのこいつ!……」

…ちょっとイエティの血も混じっててガタイの大きい雪人に、お菓子の妖精が捕まってしまった。

(べろおぉぉぉぉっ!!)
「ふひひ………あんまぁぁぁぁぁい……さっそく、いだだぎま"ぁず!」
「ちょっ!!それ、雪人じゃなくて腐った外道なやつですわーー!?」

巨大な舌でべろりと味見した後。大きく口を開けて……お菓子の妖精を放り込んだ!

688名無しさん:2020/01/12(日) 17:04:08 ID:???
「なっ!?妖精さんっ……!?」
「ちゅぶっ……ちゅぶ、んまぁぁぁあ……ぐちゅつちゅぅ……ちゅぶぶぶぶぶ………ぐぶびびびびひひひ……」
「ギャ――ス!!ポンコツサンタヘルプミーですわーー!! そ、そうだ!風を、風を呼b……うひぎいいっ!?」
「えっ……か、風……!?」

口の中で全身舐めまくられ&しゃぶりまくられる妖精。
助けを求められたサンタガールだが、刀が手に入ったからと言って何かできるはずもない。
そしてこれだけ騒ぎまくれば、さすがに周囲に気付かれないはずもなく……

「……おやぁ?おいおいみんな。サンドバッグちゃんが逃げ出そうとしてるぜ!!」
「やっべー。ササメ様のどエロレズリョナプレイに気を取られて見逃す所だった……」
「さっき、もう逆らわないって言ってたよね?……何でもするって言ったよね?……俺らに嘘をつくなんて、悪い子だなぁ…」
「そんなオモチャの刀で何しようってんだぁ?おイタする子はオシオキしねえとなぁ…ヒッヒッヒ」

「いっ………い、やぁっ……来ないで、下さ……」
サンタガールもあっという間に追い詰められてしまう。
部屋の出入口は雪人達に塞がれ、背後は大きな窓、その外は断崖。
プレゼントの無い今のサンタが飛び降りれば無事では済まない。

「ふん、騒がしくなってきたな。……ササメよ。人間を絶望させ、苛める愉悦。十分に理解できたな?」
「ええ、お父様……あまりに甘美すぎて、まだまだ物足りない位ですわ」
「ひぁっ………おね、がい……ささ、めせんぱい……正気にもど……っうあああああああっ……!!」

「ふむ……よかろう。私は玉座の間に戻る……気が済むまで人間どもを嬲ったら、私の所に来るがいい」
「かしこまりました。では後ほど……」

銀帝はササメにその場を任せ、雪人達の詰所から去っていった。
ヤヨイは魔の氷に首まで包まれ、間もなく完全に氷漬けにされようとしている。

「ぐちゅっ。………にゅる………ごっ……くん!!」
「きゃふううんっ!!? の、呑み込まれる……もう近くまで来てるはずですわ!早く風を……アイエエエエエ!!」
「よっ、妖精さんっ!!」
頼みの綱?のお菓子の妖精も、雪人に呑み込まれてしまった。
一人残されたサンタガールを守る物は、もう誰もいない………

「【クリスマス終了のお知らせ】」
「ウヒヒヒ……泣き虫サンドバッグちゃんの怯え顔もソソるなぁ……」
「俺らの巨大氷柱がもう辛抱堪らんですたい!!」


「ひっ……ち、ちがうん、です……ゆるして……」
(ビュオオオオオオオ!! ガタガタガタ!!)
「!?……今、何か………」


……その時。『いるさっ!ここに一人な!』と言わんばかりに、激しい風が窓を叩いた。

(……そろそろ……の……出番かしら…?………)
バリイイインッ!!
「え………!?」
「「なっ、何だ!?」」
(あらあら。まるで誰かさんみたいにボロボロになっちゃって。……ヒールウィンド!)

癒しの魔力が風に乗り、サンタガールを包み込む。
雪人達に嬲り者にされた傷が急速に癒えていく……

(あ、あなたは一体……!?)
(お菓子の妖精の、友達……むしろ姉貴分、ってところかしら?……少しの間、その身体を借りるわね)
ボロボロにされたサンタガールの赤い服が、『風の精霊』の力によって草原の風を思わせる爽やかな緑色に変わっていく。
色だけではなく、その形状も……露出度マシマシ、ミニスカがヒラヒラのフワフワな、妖精風の姿へと。

「ふー。これでだいぶ動きやすくなったわ。」
(えええ!?ちょっと、スカート短すぎませんか…!?)

「おおっ!?清楚系健気キャラだったサンドバ…サンタガールちゃんが」
「スカスカスケスケで活発系ながらもエロス漂う妖精ドレスに……!!」
「確かに、あの顔色悪くて下衆そうな連中っぽい連中に見られるのは嫌だけど……
まあ、何も問題ないわ。……速攻で、片付ける!!」

689名無しさん:2020/01/13(月) 19:34:34 ID:???
「す、すごい……!体の奥から、風の魔力がどんどん溢れてくるっ……!」

「聞き覚えのある声がしてきてみれば……アンタは子どもたちに夢を与えるサンタクロースなんでしょ?こんな雑魚いおっさん共に負けてどうすんのよっ。」

「は……はいっ!クリスマスは終わってしまったけれど……こんな人たちに私は負けるわけにはいかないんです!」

演説中のヤジに向かって内閣総理大臣が飛ばしたセリフを発しつつ、サンタガールは緑色の妖精の服と精霊刀ミカヅチを構えた。

「へん!緑色のサンタなんて見たことねえぜ!サンタといえば赤だろうが!」

「いいえ!私たちの服が赤いのは某有名炭酸飲料会社のキャンペーンの際にサンタが着ていた服が赤だったから、そう世間に刷り込まれてしまっただけです!実際、緑色の服を着ているサンタも地域によってはいるんです!」

「ふん!クッソどうでもいいトリビアだぜ!さっさと捕まえてやる!」

「その成長

露出マシマシのサンタガールの胸元や太ももに興奮しきった雪人たちは、一斉にサンタガールへと襲いかかる。

「サンタちゃん!風魔法なんでもいいから唱えてみなさい!」

「ええっ!?お父さんに教えてもらった一つしか知らないんですけど……」

「いいから早く!」

「わ、わかりました!!エア・カットアウト!!」

「えぇ!?よりによってそれ!?あーまあいいわ!あたしの魔力で!」

エア・カットアウトはサンタ服を作る際やプレゼント箱に巻く帯を切る際にサンタたちが使う魔法である。
この世界では女の子の服をいい感じに切り刻むときに使われる威力が抑えめの魔法であるが、ドロシーの精霊力によってその威力は中級魔法程度に倍増された。

「ぐおおおおおおおお!?」
「ぎゃああああああっ!ふっとばされたああぁ!?」
「俺たちのこの体を、あんな初級魔法でぇぇぇ!?」

「上出来上出来!ほら、風にのって追撃するわよ!ウィンドブロー!」

「きゃっ!ちょっ、見えちゃう……!」

ドロシーの作り出した風で宙に浮かび上がると同時に、素早くスカートを手で抑えるサンタガール。

「こ、この服!どうしてこんなにスカート短いんですかぁ!」

「こんなときに文句言ってんじゃないわよ!あたしの魔力をその精霊刃に込めるから、アンタはそれ当てることだけ考えて!行くわよー!」

「う、うわあああああああああ!!」

ドロシーの風によってジェットコースターの如く吹き飛ばれるサンタガール。
この風に乗って敵に急接近し、強化された精霊刃で敵を斬るというのはなんとなく理解したのだが……

「きゃあああああああああ!!!」

「何やってんのよぉ!さっきからチャンスいっぱいあるのに、全然斬れてないじゃない!」

「むむむむ無理ですよぉ!わたし戦うことなんかしたことないのに、こんなのできませんんんん!!」

「それならそうと早く言いなさいよ!ちょっとアンタの体借りるわ!」

「ええ!?うぐっ……?」

精霊のドロシーは加護を与えた者の体を操ることもできる。
以前リザがワルトゥに追い詰められた際も、リザの体を操って風魔法を放ち窮地を脱した。
今回のように戦闘未経験者のサンタガールでも、体さえ操ることができれば……

「ほっ!」

(ズブシュッ!!!)
「ぎええええええええおおおおおあああ!!」

「せいやぁ!」

(グブリュゥ!)
「あびょおおおおおおおおお!!」

「もいっちょ!」

(ギュブリュ!)
「びぎいいいいいいいいいいいいぃ!!」


3人の雪人ごとき、朝飯前どころか寝てても楽勝であった。

690名無しさん:2020/01/15(水) 02:30:21 ID:RCHBUVgA
「本当にいいんだな?ここの魔物たちは処刑用に作られた凶暴な獣たちだ。新兵器を強い相手で試したいのはわかるが……本当にどうなっても知らんぞ。」

「……いいから早く魔物を出して。」

「むむむぅ……」

トーメント城の地下には人が訪れない廃棄施設がある。
劣化した拷問部屋、強すぎる魔物を何年も閉じ込めている部屋、ヴァイスのような大罪人の隔離部屋など、トーメントという闇のまたさらに深部だ。

その中の一つ、獣たちの唸り声が止まないホールのような大部屋にいるのは、金髪碧眼の少女。
そして少し離れた窓付きの安全場所には、相変わらずやせ細っている教授がいた。

「怪我をしても助け出せるレベルの魔物じゃないんだぞ?毒を持ったものもいれば炎を吐くものもいる。ただの獣ではない。当時のマッドサイエンティストたちに魔改造された裏ボスダンジョンに徘徊してるレベルの【バ獣】たちだ。……本当にそれでもやるのか?」

「……やる。」

小さくそう言いながら、リザは伸びた金髪を後ろできゅっと縛った。


(おおっ、髪を縛ってくっきり見えたうなじがめちゃめちゃセクスィー……!いいなぁ、嗅ぎたい……)

一仕事する前にぎゅっと髪を縛る女の子ってなんかいいよね。と思う人はきっと多いはず。
そんな教授のいやらしい視線など気付けるわけもなく、リザは自分の武器の最終確認をしていた。

(篠原唯……市松水鳥……お前たちに私の目的を邪魔されるわけにはいかない。戦争までにもっともっと……強くなってみせる。)

プラントで戦った市松水鳥は、伝説の魔法少女とアウィナイトの魔法少女の加護を受け、自分とは違うやり方で世界を変えてみせると言った。
その目には誰も殺さないという、リザとは違う正義の心が宿っていた。

(違う……!この世界は力こそ全て、力こそが正義。だから私はトーメントの兵士になった。……自分の目的のために大切なものを失う覚悟もなく、周りと仲良しこよししてるだけのあいつなんかに……私は絶対負けない。)

市松水鳥も、あのサキも、自分とは違う恵まれた境遇にいる。
友人、兄弟、恋人、家族……そういった繋がりのために戦っていては、本当の意味で強くなれないとリザは思う。


(つながりなんていつ跡形もなく消えるかわからない。現に私には……そばにいてくれる友達も信じ合える家族も、もう……いないんだ。)

691名無しさん:2020/01/15(水) 02:35:51 ID:RCHBUVgA
武器の最終確認を終えたリザは、ピョンピョンと跳ねたり手首足首を回したりして、さながら運動前の準備体操のごとく体を動かし始めた。

「美少女の準備体操……なかなか健康的に見えてマニアックなエロさがあるな。」

入念に体を動かすリザを見て、そんなことを小さく呟く教授。
彼もこう見えてまだ10代の若い男子ゆえ、仕方のないことである。

「それにしてもまったく、美少女のくせにいつもいつも命知らずだな……なあリザ!もしかしたら最後になるかもしれないし、もったいないから私と○ックスしないか!?死ぬ前に四十八手全部試してからでもいいだろ!特にお前とやってみたいのは松葉崩s」

「いいから早くやらないと……殺すよ。」

「ひいいいいぃっ!もう、ほんと最近のアンタホントに怖ぁい!やだぁもう!どうなっても知らないわよぉ!?」

なぜかオネエ口調になった教授がボタンを押すと、リザの周りの扉が一斉に開かれる。


(……ほんとに気持ち悪いな……)

中から出て来たのは、身体中に目がつけられている不気味な空飛ぶ怪鳥、10本足の猫と蛸を混ぜ合わせたような獣、球体に目と口と足がついただけの獣なのかすらわからない魔物……と、見た目が気持ち悪すぎる魔物しかいない。

(昔の十輝星には教授よりも頭の切れる研究者や、どんな魔物も操る魔獣使いがいたらしいけど……その人たちが作ったのかも。)

「グルルルルル……!」
「シュルルルルルルル!」
「キーーーーー!!」

リザを見た魔物たちは、久しぶりに見た人間の体に興奮を隠そうともせず襲いかかる。
脆弱なアウィナイトの人間、しかも子どもの女だ。苦戦するわけもない。さっさと噛み付いて引き裂いて泣き喚く姿を堪能してから食べてしまおう。
と、当たり前のように思っていた魔物たちは……



「シャドウブレード……!はあああぁっ!」

「ギイイイイイイィ!!」
「グルルアアアァ!?」

刀身をさらに倍増させ、もはや剣といっても差し支えないレベルに進化した刃によって、簡単に斬り伏せられた。



(す、すごい……!これなら魔物も倒せる……!)

「シャドウブレード……闇の魔力によって増幅させた刀身での一閃は、炎を断ち風を裂き水を割る。魔を切ることも容易い。だがその代償に失うのは……持ち主の血。まさに諸刃の剣でもある。」

誰も聞いてくれないから1人語りするしかない教授。
魔物を倒せないというリザの弱点を克服するために作り出した改造兵器だが、その代償は少なくない。
持ち主の血を強化に使う以上、シフトを使うリザが少しでも使い方を間違えてしまえば、あっという間に体力も魔力もボロボロになってしまうのだ。


「連斬断空刃・闇華!!!」

「グオオオオオオオオオオオオオオォ!!!」

シフトを交えたブレードでの連続攻撃に加え、ワープしたすべての箇所から闇魔法が連続で放たれる斬撃と魔法弾を組み合わせた奥義。
自分の身の丈をはるかに超えるドラゴンでさえも、圧倒的な斬撃と強力な闇魔法の前では子犬同然である。

自分の命と引き換えに力を得る刃。
それがリザの新しい武器となった。

692名無しさん:2020/01/18(土) 11:58:51 ID:???
「へっへーん!ざっとこんなもんよ!」
(ううっ……怖かったよぉ……)

「がはっ!!トナカイ柄に、クリスマスリースのワンポイント……」
「げほっ……慣れない戦いで動き回ったせいで、喰い込んでるのも高ポイント……」
「うぐ………時おり人格が入れ替わって、パンモロ状態に赤面しちゃうのすき」

(ひっ!?ま、まだ生きてる!?)
「はいはい、キッチリとどめ刺しときましょうねー」
「たらば!」「あわび!」「けばぶ!」

一人ずつ顔面を踏みつけでトドメを刺すドロシーinサンタガール。
雪人達はありがとうございます的な断末魔を上げつつ戦闘不能になった。

「で、あなたのプレゼント袋ってこれ?」
「は、はい!ありがとうございます!……なんか、見た事ないアイテムがいっぱい追加されてるんですけど……」
「うわぁ。大人用というか……変態用のやつだ。あのスケベ雪人たちが勝手に追加したのね」
「な、なんだかわからないけど処分しなきゃ……」

そして、サンタガールは奪われたプレゼント袋を回収し……

「さーて。これでひとまず、一件落着かしら」
「色々ありがとうございました。……で、でも……」

「うぉぉぉいい!ちょっと待つですわー!!」

丸呑みにされたお菓子の妖精は、忘れ去られて消化され……
なかった。

「HAHAHAHA ごめんごめん!でも無事でよかったわー」
「大事な友人を忘れて放置なんてサイテーですわ!
さあ!闇堕ち雪女に気付かれる前にさっさと脱出しますわよ!!」
「え?このままラスボスぶっ倒しに行く流れじゃないの?」
「あ、あの。あっちで氷漬けにされてるお姉さんは……?」

そう。一件落着までには、まだまだやる事が山積みなのだ!


「ふ……妖精やら精霊やら、騒がしいですね……貴女達にも、血の凍る絶望を与えてあげましょう」


「OH...実の父親に完全に悪エロ堕ちしてますわね。JK忍者YAYOIも完全に氷漬けですわ」
「わ、私のサンタ道具で戻せるかも……?…この『お目覚め!ハピハピ★クラッカー』を、目の前で鳴らせば……」

「『目の前』って……言うのは簡単だけど。相手は雪女で、しかもニンジャなんでしょ?
素のサンタちゃんや、アi……お菓子ちゃんが行ったところで氷漬けにされるのがオチだろうし……」
「ですわよねー」
「………です、よねぇ……てことは……」


「ふふふふ……冬と風の精霊……どんな甘美な絶望を見せてくれるのか、楽しみですね……」

「ううう……あの人すっごく、怖そうです……」
(ビュオオオオオオ!!)
「ひっ!?ま、またスカートがぁ……!!」
「……私達が隙作ってどうするのよ。
ま、ここは私がメインで動くしかないわね。手加減できる相手じゃなさそうだし……ひっさびさに全開で行くわよ!!」

……ドロシーinサンタガール、続投決定。

悪堕ちしたササメに、どう立ち向かうのだろうか……!

693名無しさん:2020/01/19(日) 15:41:47 ID:???
「はぁ……はぁ……」

戦闘が始まってから魔物たちが全滅するまで、そう長い時間はかからなかった。
リザの手に握られた愛用のナイフは、普段通りの銀光ではなく禍々しい黒に染まっている。

「驚いた……まさか本当に全滅させてしまうとは。やはり天才か……あんな武器を作りあげた私の頭脳は。」

ナイフの刀身を切り替えて扱う改造武器シャドウブレード。
もちろん教授は妥協なく作り上げたが、普通の人間に扱いきれるシロモノかは測りかねていた武器だ。
成果としては素直に納得しているが、リザ以外にここまで使いこなせる者はいないだろう。


「……教授、これ……血を代償にするんだよね。」

「ん?あぁ、そうだが?」

「結構力を使ったけど……体力はそこまで落ちなかった。むしろ斬れば斬るほど力が湧いてきた……」

「ククク……流石に気づいたか。シャドウブレードは諸刃の剣であると言ったが、お前が戦う意思を持って敵を斬り続けている間は大丈夫だ。」

「えっと……つまり、敵を斬ることで敵の血を吸収して強くなるってこと……?」

「Exactly!たくさん殺したいならばひたすら斬れ!敵を斬りまくれ!そうすればまだまだ殺せる。斬れば斬るほどたくさん殺せる。フヒヒヒヒヒ!ついに私は完成させたのだよ。戦闘兵器の永久機関を!!!フゥーハハハハハハハハハ!!!」

「……………………」

大笑いする教授には目もくれず、リザはブレードの刀身をまじまじと見つめる。
シャドウブレードには邪神アドラメレクの魔力が込められているという、黒い炎が揺らめく魔石がはめ込まれている。
今の戦いは自分で思い返しても、まるで精密機械のように最適解を繰り返す動きであり、立ち回り全てに隙がなかった。

敵の動きを察知し、シフトで安全圏に移り攻撃態勢を整えている間に闇魔法で牽制し、その魔法によってダメージを負った相手を素早く一刀の元に斬り伏せる。
自分の得意とする戦い方に闇魔法のアシストが入ることで、攻守ともに隙のない戦闘ができる。


(この力があれば……もう誰にも負けない。市松水鳥にも、柳原舞にも、篠原唯にも。……お姉ちゃんにも。)

694名無しさん:2020/01/19(日) 15:43:15 ID:???
「おうリザ、こんなところで教授とイチャイチャしてるのか。お前の男の趣味は読めんなあ。」

「んなななっ!?王様!?」

立ち尽くすリザの前に突然音もなく現れた王は、いつものようにヘラヘラしながらリザの方へと歩いてきた。

「若い男女がこんな暗い部屋で何しようとしてたんだぁ?おじさん怒らないから言ってごらん?んん?」

「えっと……松葉崩s」

「王様、どうしてここへ?」

「んー?決まってんだろ。俺様のかわいいかわゆいリザちゃん人形が元気にしてるか見にきたんだよ。」

「…………」

発言でも行動でも変態ぶりを隠すことなく、王はねっとりした手つきでリザの背に手を回す。
それに対してリザが無抵抗でいると、王はそのままリザの細い体を強引に抱きしめた。

「んっ……!」

「クックック……お前もいい顔つきになってきたじゃないの。力を求めるその貪欲さ、ストイックさ、俺様の大好物だぜ。こうやってついついセクハラしちゃうくらいにはな。」

「……王様、質問があります。」

「ん?なんだ?なんでも言ってみろ。今の俺様は美少女にハグしながら耳元で囁かれて気分がいいからなぁ。ククク!」

「……王様は、戦争に負けないですよね。私が生きてる限りはアウィナイトのみんなを、守ってくれますよね。」

「当たり前だろ?俺様が負けるとこなんて見たことあるか?他の国がいくら小細工しようと、常勝不敗のトーメントが負ける道理はないさ。お前が生きてる限りは、ちゃんと保護区も続けてやる。」

「……………………」

「なんだよ、不安か?お前も今やこんなに強い暗殺者になったんだ。なにも心配することいいだろ。俺様にすべて任せておけ。」

王は自信たっぷりにそう言って、リザの顔を自分の顔の前に寄せた。

「……………………」

「お前も変わったねえ……前はセクハラしたら顔真っ赤にしてビンタしてきたのに、今となっては全然抵抗もしないで無表情とはな。別の意味で興奮するぜ……このままキスされてもいいのか?」

「……戦争に勝ってくれるなら、私のことなんて好きにしてもいいですよ。」

「ぶっ!?」
「ぶほおぉっ!!!」

リザがさらりと言ったとんでもないセリフに、王も教授も吹き出した。
教授の方は鼻血つきである。

「あ、ごめん。流石に抵抗すると思ってたからそんなこと言われると思ってなかったわ……」

「でも……その代わりお願いがあります。私にお姉ちゃんは……ミストは殺せません。ミストを殺す任務だけは……取り下げてください。」

「お前……アイナを生き返らせてやるなら殺すって言ってたのに、やっぱ無理ってかい。」

「……どんな条件を出されても……やっぱり私には……できません。」

少し目を伏せながらの切ない声。
友を失い家族に否定されたリザの表情を見て、王はわかりやすくため息をついた。

「まあいいさ。それがお前の出した結論なんだろ?その可愛さに免じてとりあえず取り下げてやるよ。」

「……ありがとうございます。」

「でも戦争では容赦するなよ。アイツが俺様に向かってきたら、その時はお前が殺せ。それは絶対だ。いいな?」

「……………………」

「はいって言わないとそのキュートな唇に思いっきりキスするぞ。ちなみにもう気づいてるかもしれないが、俺様の昼食はニンニクラーメンだ。」

「……………………」

沈黙を貫くリザ。
その目は静まり返った夜の海に移る月光のように、静かに光を放っていた。

695名無しさん:2020/01/19(日) 16:22:12 ID:???
「参ります……!氷遁・氷縛暴風雪!」

ササメがすばやく印を結び前に突き出した右手から、猛烈な吹雪が吹き荒れ始める。

「これが雪人の力です……全員まとめて凍りなさいっ!」

「す、すごい吹雪っ……!このままじゃ……!」

回避しようにも部屋を埋め尽くすほどの吹雪では、空中すらも安全場所ではない。
このまま吹雪に囚われてしまえば、なすすべもなく一瞬で凍らされてしまうだろう。

「ド、ドロシー!あなたの風で吹き飛ばせばいいじゃありませんの!」

「ふ、普通に名前呼ぶな!あたしの風でも吹き飛ばせる威力じゃないのよあんなの!」

「こ、ここはわたしに任せてください!風の精霊さん、体を私に!」

「え、あぁ、はい!」

すばやく体を交換したサンタガールはプレゼント袋の中から、筒状の先端が丸くなっている紫色の道具を取り出した!

「じゃじゃーん!これは、ブリザードバリアーです!暴風地域でも安全に配達ができるように開発された、サンタ道具なのです!」

「さ、サンタちゃん……それ、バ○ブ……」

「ああああ!?似てるから間違えちゃいましたあぁ!こ、こっちですっ!」

光の速さでバ○ブを袋にしまったサンタガールは、色しか違わない白い筒状の装置を取り出して起動した。

「ほんとに似てますわね……なんでバ○ブみたいになってるんですの(笑)」

「あのまま起動してたらめちゃくちゃシュールな光景になってたわね(笑)」

「ちょっと、2人とも笑わないでくださーい!!」

サンタ道具のセンスはともあれ、サンタガールが装置を起動させると、ドロシーたちの周りに吹雪が届かなくなった。

「そんな……私の術が……!」

「やった!雪崩防止用の道具がこんな形で戦闘に役立つなんて、思ってもみませんでした!」

「ナイスよサンタちゃん!さぁ次はこっちの番!吹き飛べゲイルインパクトーーー!!!」

「くっ……!きゃああああああああ!!!」

装置によって風魔法の軌道を確保したドロシーの術が、吹雪の間を縫ってササメに直撃する。

「ああぁんっ!!」

悲鳴をあげて吹き飛ばされたササメは、そのまま氷の壁に叩きつけられてぐったりと項垂れた。

「無駄にエッチな声ですわ……!リザちゃんもそうでしたけれど、どうして悲鳴がこんなに女の子要素全開のエッチな声になっちゃうんですの……」

「アイ……お菓子の精霊!あんまり前世の話をあけっぴろげにするんじゃないわよ!もうわたし達は精霊なんだから!」

「ふ、2人とも喧嘩してる場合じゃないです!早くあの氷漬けの子を助けてあげましょう!」

696名無しさん:2020/01/26(日) 14:26:59 ID:???
私は……………夢を見ていた。


「っきゃああああああぁぁぁ!!!体がっ……私の体が、凍り付いて……!!」

(うう、ん……あれ?……私、たしか、あの雪人のボスっぽい奴に、無理やり……
それから、ええと……どうなったんだっけ………?)

「まずいっ……!!…下がって、サツキ!この男は、私が相手をします!!」
「そ、それでも……あなた達を、討魔忍の使命を捨てて、私一人逃げるわけにはいきません……!!」

(サツキって、わたしのこと……?あの人、誰かに似てるような……
なんだか記憶が、ぼんやりしてる……私、夢見てるのかな……?)

「はぁっ………はぁっ………お逃げ、ください……そいつは、強すぎます!…フブキ様おひとりでは……!!」

(そうだ………思い、出してきた………
私は、討魔忍衆中忍サツキ………
皇帝ゲンジョウ様の命を受け、上忍フブキ様の下、部隊の仲間とともに雪人を討伐に来た。)

(だけど…私とフブキ様を残し、味方は全滅。
たった一人の雪人、『銀帝』と名乗る、その男によって……)


「ふん。その程度の実力で、雪人の城まで乗り込んでくるとはな……貴様らも我らの『餌』になりたいのか」
「ふ、ふざけないで……私たちは、雪人にさらわれたミツルギの人々を助けに来たのです!!
あの人たちを、どこにやったのですか……!」

(あ、あれ……?…ちが、う……私の名前はヤヨイ……ササメ先輩と一緒に来た、はずなのに……
じゃあ今見ているのは、誰かの……サツキっていう人の、過去の記憶……?)


「……さらった人間どもなら、『氷柱の間』で兵士どもに好きに嬲らせている。
奴らの嘆きと絶望が生み出す負のエネルギーが、我ら雪人の糧となるからな……」

「なんて酷い……許せません!!……火遁・カグツチ!!」
「ふん………ぬるいわ」
(ビキビキビキッッ!!)
「ぐ……うああっ!!」

(そんな……火炎の術が全然効いてない……雪人は炎が弱点のはずなのに……!
それどころか、ものすごい冷気で、巻物ごと腕が凍り付いていく……!!)

「く、ううっ……ならば、これでどうですっ!!白雁の太刀!!」
「無駄だ……出でよ、妖なる刃…『凍月(イテツキ)』!!」

(ガキィィンッ!ザシュッ!!!)
「んあうっ!!っくあああああぁっ!!」
(な、なんなのあの剣!?斬られた所が、氷におおわれていく……!!)

(キンッ!!ドスッ!ザクッ!!!)
「ぐっ!!……うああああんんっ!!」

(左手が、氷漬けになっちゃった!……これじゃ、戦ってるだけで動きが封じられちゃう!
あいつ、ヤバすぎるよ……!!)

697名無しさん:2020/01/26(日) 14:28:23 ID:???
「ふん……さっきまでの威勢はどうした?……やはり、人間には堪えるか……体中を凍らされながら切り刻まれるのは」
「う、ぐう……なん、の……この程度の攻撃で、私は……っぐ!…つあああああ!!!」
「だ、だめっ……逃げてください、フブキ様ぁあぁっ!!」
(そ、そんな……一方的すぎる……あの人、ササメ先輩と同じくらい強いっぽいのに……!)


「……退屈しのぎにはなったな。そろそろ、幕引きとしよう……魔凍・無限陣!!」

(……ピキピキ……バキバキバキバキッ!!)
(や…やばいっ!!ものすごい冷気で、フブキさんの周りに無数の氷の刀が!!
……って、さっきから誰に解説してんのよ私は…)


「いい、え……まだ、ですっ……砕氷星鎖……流星の舞!!」
(ブオォォォォォンッ!! バキバキバキバキバキッ!!)

(すごい…鎖で氷の刀を弾き返してる…!だけど……)

「ほう。まさか、雪人の氷を弾き返すとはな……だが、無駄だ。
片腕が凍っている今のお前に、我が無限の氷刀は受けきれぬ」

(ガキン!ガキンッ!……ザシュッ!!)
「…はぁっ……はぁっ……こんな所で、負けるわけには……んあううっ!!」

「脚が凍ったか……いい的だな」
(ビキッ!! ビキビキ!……カキンッ! ザクッ!!)
「くっ………!………私、には……ミツルギの人々を、守る使命が………っぐあ!!」

「両腕とも凍り付いたか…これでもう、その鎖は使えまい。我ら雪人に刃を向けた報い。その身に刻んでやる」

(ドスッ!! ドスドスドスッ!!)

「んぐっ!!あうっ!!く、ああああんっ!!」

(………ザシュ!!スブッ!!)
「ひぐっ!!……っう、ああああぁあっっ!!」

「嫌ぁああああ!!フブキ様ぁあああああああ!!」

(それにしても……こんな時に思うのもアレだけど、
フブキさんって、めちゃめちゃ美人なうえにスタイルもササメ先輩並みに良いなあ。
衣装もえちえち着物アレンジ風忍者装束って感じでフェチいし、おまけに悲鳴がもんのすごくエロイし……
というかあの声、誰かに似てるような………あ。もしかしてあの人って、ササメ先輩の……??)

698名無しさん:2020/01/26(日) 14:30:08 ID:???
「はぁっ………はぁっ………はぁっ………
まだ、です……人々を苦しめる魔の者達などに…私は決して、屈しない……!」

「人間にしては、よく持った方だな。
それに……こんな状況にあっても、強い意志を失わない、その目……雪人の女たちとは、全く違う。
奴らは皆、我を……雪人の男を、恐れる。怯える、許しを請う、媚びる」

「?……どういう、ことですか……!?」

「嘆きと絶望のエネルギーが、我ら雪人の糧となる……例え雪人同士でも。
故に、弱い者、特に女は、真っ先に標的になるのだ。」

「人里に降りてくる雪人に女性が多いのは、そのせいだったのですね……なんて酷い事を」

「だが……絶望にも、鮮度というものがある。
心が壊れ切ってしまえば、その者から新鮮なエネルギーを取り出すことは出来ん。
我ら雪人は今、食糧難でな……雪人の女たちからは、あらかた絞りつくしてしまった」

「だから、人間をさらい始めたのですか…………雪人達が、生きるために……」

「そういう事だ……だが、貴様は妙な人間だな。
これほど痛めつけたというのに、絶望のエネルギーを全く感じぬとは……」

「私には……ミツルギの人々を守り、討魔忍衆の仲間を守る、使命があります……
忍びが心を失えば、そこに残るのは誰かを傷つける刃だけ。
だから……忍びたるもの、心だけは失ってはならない。
それが討魔忍衆を代々務めてきた、私の家の……祖父、曾祖父から何度も聞かされた教えです」

「なるほど……興味深いな。貴様から、何としてでも絶望を引き出したくなってきたぞ。
私が直々に、じっくりと嬲り、犯し、苛み……どこまで耐えられるか、確かめてやる」


(フブキさん……あいつに、連れてかれちゃう……。あれ?ていうか私、放置?)

「兵士ども……そっちの女はくれてやる。好きにしろ」
「「「さっすがーー!!銀帝様は話が分かる!」」」
「ひっ……!?」
(ですよねーーーー!)
「さわらないで……おねがい、やめて……!」
(ちょ、待ってこれ、私にも感覚が伝わってきちゃう……
あ。おっぱい大きいと、揉まれる時こういう感じなんだ……とか言ってる場合じゃないって!!)

「「イヤあああぁああああああ!!!」」

「あれ?なんか、二人分の絶望エネルギーが感じるぞ?」
「一粒で二度おいしいって事だな!よーし、さっそく『氷柱の間』に連れてって、みんなで林間してやろうぜ!」
「「「さんせーーーい!!」」」

(その後、私は……氷漬けにされたサツキさんが、雪人達に好き放題に犯される感覚を共有し続けた。
何時間も、何日も……何年にも渡って。
終わりのない悪夢に時間の感覚さえも失い、心が壊れようとしていた時……
誰かの鳴らす『目覚めのクラッカー』が、鳴り響いた。)

699名無しさん:2020/01/26(日) 17:06:33 ID:???
私の名は……討魔忍衆上忍、ササメ。

私は………夢を見ていた。


「おぎゃぁ…!!…おぎゃぁ…!!…」
「産まれたか……無理矢理だろうが何だろうが、子というのは出来るものなのだな」

「この子が……私の、私たちの……子供………なのですね。
……抱かせてもらっても、よろしいですか」
「?………好きにしろ」

雪人の城内と思われる、見知らぬ一室。
雪人の男と、出産を終えたばかりの人間の女性。そして、一人の赤ん坊……
……どこか、見覚えがあるような気がする。

「!?………なんだ、この感覚………全身から活力がみなぎるような……
絶望のエネルギーとは、真逆の……
貴様。……いや。フブキ……なんだ、お前のその感情は?……何故その赤子を抱こうと思った」

「これは……『愛情』というものです。……親が子に抱く、人が大切な誰かに抱く、深い慈しみの気持ち。
経緯や過程はどうあれ……この子は大切な、私たちの子供ですから。
母親として、我が子を抱きたいと思うのは、当たり前のことです」

(そうだ………抱きしめた時の感覚。いや。お母様に、抱きしめられた時の感覚……今でも鮮明に思い出せる。
……間違いない。この人は、私の………!!)

「言葉で説明するのは難しいですが……一つ、言えるとすれば。
きっと貴方自身も、この『愛情』を、持つことができるはずです。
雪人が皆、愛の持つ力を理解することができれば、雪人が人間を襲う必要もなくなる……」

「…………一つだけ、言っておく。その赤子は、女だ。
雪人どもが『愛』とやらを理解する前に、他の雪人の女と同じように……
絶望のエネルギーを限界まで搾り取られ、いずれ使い潰されるであろうな」

「!!………」

「だが、問題ない……我から受け継いだ雪人の血を覚醒させれば、
周りの者どもをねじ伏せるだけの力を得る事ができよう。
奪われるのではなく、奪う側に回るのだ。この私と、同じようにな」

「そん、な……」

「そうして、いずれは私の跡を継ぎ、この城の長として雪人達を率いる……
雪人は何千年もの間、そうしてこの『魔の山』で生きながらえてきたのだ。
どちらの道を選ぶのか……母親である貴様に、選ばせてやる。明日までに決めるがいい」


(その夜……お母様は、決断を下した。
私をこのまま『奪われる側』として生かすのでも、雪人に目覚めさせ『奪う側』になるのでもない。
それは……あまりにも無謀な、第三の選択肢。)

「……クックック。まさか、せっかく生まれた赤子を谷底に捨てろ、とはな……
人間の持つ『愛情』とやらは、まったく意味不明なものだ」
「ううっ……ササメ………許して、なんてとても言えない………」

「谷の底は絶えず流れ続けて消して凍らぬ激流。川下は、魔物の徘徊する樹海………
こんな赤子が、生き延びられる環境ではないぞ」
「わかって、います……だけど今の私には、こうするしか……」

「森には、山と森を守護する『ヴィラの一族』の集落がある。
仮に、その者らに運よく拾われたとしても……」

「その子はきっと、恨むでしょう。我が子を捨てた私を……
それでも……構いません」

(お母様の深い悲しみが、痛いほど伝わってくる………
私は……お母様を、憎いなどと思ってはいない。
お母様の決断が、私の進む道を与えてくれたのだから……
早く戻らなくては。そのことを、伝えに行かなければ……そう思ったとき。

誰かの鳴らす『目覚めのクラッカー』が、鳴り響いた。)

700名無しさん:2020/02/01(土) 01:57:24 ID:LFPL1yzg
「う……あ、あれ……?」

「おー! ほんとにクラッカーでお目覚めですわね!J K忍者復活ですわ!」

「うぅん……あっ……」

「お、こっちも起きたわね。あのクラッカーで正気に戻ったみたいよ」

「お目覚めクラッカーはクリスマスに絶対寝坊しないように使われるサンタ道具です! 当日2日酔いになってグロッキーだったときのために、正気に戻る効果もついてます!」

「もはやドラ○もんのひみつ道具ね……」

サンタガールのクラッカーによって目を覚ましたヤヨイとササメ。これで戦力は妖精も合わせて5人分。
銀帝との戦いにフル戦力で挑むことができる。

「ヤヨイちゃん……本当にごめんなさい。私の雪人の血が、あなたを傷つけてしまいました……」

「き……気にしないで、ください……ササメ先輩は、なんにも悪くないです……」

「ヤヨイちゃん……!」

いつもの様子でにっこり笑ってみせるヤヨイ。だがその笑顔はどこかぎこちないものだった。
だが、夢の中で何年間も犯され続ければ普通の少女であれば心が壊れてしまうだろう。
そうならなかったのは、ヤヨイには心を乱されないという忍びの才があるということなのかもしれない。

「それより……ササメ先輩のお母さんが……」

「……ヤヨイちゃんも、過去を見たのですね。私の母はやはり、まだこの城のどこかにいるようです」

「えっえっ、なんの話なのよ……いきなりついていけないわ。説明しなさいよお菓子の妖精!」

「ど、どうでもいいですけどさっきからお菓子の精霊だの妖精だの表記のぶれが起こっていますわ! 妖精に統一してほしいですわ!」

「……えっと、この方たちは……?」

「あ、説明しないとですよね……ていうか私も、こっちのサンタみたいな二重人格の女の子のことはよくわからないし」

「あ……みたいじゃなくて、わたしサンタガールなんです。こんなんでも一応、サンタさんなんですよ」

「二重人格のもう一つはうるさくてガサツでバカで気が強くて演技が下手くそで男の筋肉が好きで友達の買った下着を恥ずかしさから穿けないって言いつつちゃっかり穿いてる風の精霊の人格ですわ! サンタガールちゃんとは無関係ですわ!」

「アイナ……今のあんた程度の小ささなら地球の裏側まで吹っ飛ばせるんだから、そのつもりでいなさいよね」

「ひいいいぃっ!」




「……みなさんが敵ではないのは理解いたしました。私は母を……探しに行きます」

「せ、先輩……本当に行くんですか?雪人はかなり強いし、多分あの銀帝ってやつはそれとは比べられものに……!う、ぁ……!」

「……?ヤヨイさん……?」

銀帝のことを話し始めた途端、ヤヨイは恐怖感に襲われてしまう。
それは銀帝に犯された記憶が原因だ。氷漬けにされ、氷を体に突き入れられたあの痛みと恐怖は、ヤヨイの中で溶けることはない。

「……ササメ先輩……やっぱり帰りませんか……?わたし、こうして現実に戻ってきただけでもすごく嬉しいんです……!早く帰って、お母さんとお父さんに会いたい……それに、ササメ先輩にも危険な目にあって欲しくない!」

「……もちろん無理強いはいたしません。ヤヨイちゃん、貴女はもう十分戦いました……ここからは、私の……銀帝の娘として、けじめをつけるための戦いです」

「……ササメ先輩……!」

使命感に駆られるササメ。それを止めようとするヤヨイ。
両者の想いが通じ合うことはできるのか。

701名無しさん:2020/02/08(土) 14:36:02 ID:iH0lu9bg
「話し合う必要などない。お前もそこの娘も、ここで再び凍てつくのだからな」

その時、雪人が全滅したはずの部屋に男の声が響く。その声の主は言わずもがな……

「ぎっ、銀帝!?ヤバいですよ、ササメ先輩!!」

雪人の王、銀帝である。その傍らには、氷漬けにされた一人の女性がいる。

「あの銀帝って奴、親玉のくせに無駄にフットワーク軽いわね」

「まぁ、いい加減いつまでサンタ編やってんだって感じですし、テンポよく行かないといけませんわね」

「お父様……っ!?その氷漬けの女性は、もしや……!」

「察しがいいな。私とお前の戦いを、特等席で見せてやろうと思ってな……自分の娘の戦いをな」

「お母様!!」

初めて見る、ずっと追い求めていた母の姿……思わず駆け出したササメだが、その直後、床からせり出した氷の檻が、フブキの周りをぐるりと囲む。

「親子の感動の再会は、戦いが終わった後にしろ。お前が再び雪人として覚醒した後でな」

「いいえ、今度は負けません。お父様にも、私の中の雪人の血にも!皆さん、下がっててください!」

「なに言ってんの!どうせ奴を倒さなきゃ、逃げることすらできないでしょ!私らも行くわよ!」

「ええ!?あんな強そうな人と戦うんですか!?うぅ、サンタは思っていたより肉体労働ですぅ……」

「お菓子!アンタはサンタに憑依して潜伏しつつ道具で援護!私はくノ一に憑いて戦闘力マシマシで行くわ!多分これが一番相性いいでしょ!」

「相変わらず戦闘になると急にイキイキしますわね」

風の精霊の指揮により、サンタガールとヤヨイにそれぞれ憑依するお菓子と風の妖精。

「なんだ、無駄なギャラリーがぞろぞろと……邪魔だ、少し眠っていろ」

銀帝が手をかざすと、怪しい冷気が周囲を包みだす。雪人の持つ精神感応の力……その力が一際強い銀帝によって、お菓子の精霊とサンタガールの精神が、風の妖精とヤヨイの精神が感応する。

「ええ!?氷属性のくせにまたメンタル系攻撃ですの!?ワンパターンですわ!」

「え、なんですかそれ!?私どうなっちゃうんですかー!!?」

「大丈夫ですわ、アイナの記憶はそこまでエグいのないですから……って問題は、B級スプラッター映画みたいな過去のドロシーですわーー!」

「だから名前呼ぶな!でも確かにヤバい、ただでさえ精神的にキテるくノ一に、あの記憶を見せたら……」

「え……?あぐぅ!!」

風の精霊と精神感応したことにより、彼女の……ドロシーの生前の記憶がフラッシュバックするヤヨイ。
それは先ほどの討魔忍の記憶と同等……いや、それ以上に残酷な記憶だった。

詳しくは下記参照。
http://ryonarelayss.wiki.fc2.com/wiki/09.ドロシー

702名無しさん:2020/02/08(土) 14:37:04 ID:???
「なに……これ……!?いや……いやあぁああああ!!!!」

「落ち着いて!それは私の過去!アンタは関係ない!追体験してるだけ!!」

「ええぃ、こうなったらアイナたちだけでも援護に行きますわよ!」

「は、はい!」

崩れ落ちるヤヨイと、お菓子の精霊の力で姿を消すサンタガール。

「半分仕留め損ねたか……まぁいい、どうせ大した影響はない」

「ヤヨイちゃんに……手を出さないでください!『氷雨』!『雪雲』!」

ササメは氷の刃を生成して、銀帝に切りかかるが……

「ふん、人の身に戻った途端、また貧弱になったな」

「な……!?」

ササメの氷の刃は、銀帝の体に到達した瞬間に、呆気なく折れた。

「半分の雪人の力で、完全な雪人に……ましてや王に勝てるわけがないだろう」

ササメが驚いている間に、素早く伸びた銀帝の腕が、ササメの首を掴んで持ち上げる。

「ぐっ、が!!かはッ!」

「さぁ、再び覚醒するがいい」

冷気が銀帝の腕に溜まり、ササメの首を伝って、彼女の口に入りそうになる。

「させませんわーー!」

「ホカホカ加湿器!!」

だが、サンタガールのアイテムから出た暖かい湯気が、銀帝の冷気を食い止める。

「ちっ、猪口才な……もういい、このまま絞め殺すか」

「ぐぅ!!ぎ、があぁ、がはっ!!」

メリメリ、とササメの首を締める銀帝。雪人の力で強くなったササメには、力比べで銀帝を下すのは難しい。
サンタとお菓子コンビは道具によるサポートはできるが、戦闘力自体は低い。

つまり、この状況を何とかできるとすれば……




「うああああぁああああ!!!!!」


精神感応を振り払うように叫びながら、精霊刀を持って突進している、彼女しかいない。

703名無しさん:2020/02/08(土) 15:45:22 ID:bfITBHT.
「話し合う必要などない。お前もそこの娘も、ここで再び凍てつくのだからな」

その時、雪人が全滅したはずの部屋に男の声が響く。その声の主は言わずもがな……

「ぎっ、銀帝!?ヤバいですよ、ササメ先輩!!」

雪人の王、銀帝である。その傍らには、氷漬けにされた一人の女性がいる。

「あの銀帝って奴、親玉のくせに無駄にフットワーク軽いわね」

「まぁ、いい加減いつまでサンタ編やってんだって感じですし、テンポよく行かないといけませんわね」

「お父様……っ!?その氷漬けの女性は、もしや……!」

「察しがいいな。私とお前の戦いを、特等席で見せてやろうと思ってな……自分の娘の戦いをな」

「お母様!!」

初めて見る、ずっと追い求めていた母の姿……思わず駆け出したササメだが、その直後、床からせり出した氷の檻が、フブキの周りをぐるりと囲む。

「親子の感動の再会は、戦いが終わった後にしろ。お前が再び雪人として覚醒した後でな」

「いいえ、今度は負けません。お父様にも、私の中の雪人の血にも!皆さん、下がっててください!」

「なに言ってんの!どうせ奴を倒さなきゃ、逃げることすらできないでしょ!私らも行くわよ!」

704名無しさん:2020/02/08(土) 17:02:22 ID:???
「受けてみなさいっ……忍影斬!!」
「ぬうっ……それは、精霊刀………!?」

精神攻撃を耐え抜き、銀帝に斬りかかるヤヨイ。
とっさにかわした銀帝だが、腕にわずかな裂傷が刻まれる。

精霊刀は従える精霊の数と強さによってその威力を増す。
手下がお菓子の精霊だけだった時は雑魚雪人にさえ通用しなかったが、今は格段に威力が増していた。

「そっちの雑魚と風の精霊……だけではない。『もう一人』いるな。だが何匹群れたところで結果は変わらぬ!」
「う………げほっ、げほっ!!」
「ササメさん!大丈夫ですか!?」
(さらっと雑魚扱いされましたわ…)

(ギンッ!!ガキン!!ザシュッ!!)

「うわ、すごい……!」
(な、なんかあのJK忍者、思ったより剣技レベル高いですわね)
「あれは……ヤヨイちゃん、じゃない。一体……?」
(え?あの動き、多分ドr…風の精霊とも違いますわよ?……じゃあ誰が…)

(ヤヨイ、よく動けたわね!さすがに精神的に限界かと思ったわ……ヤヨイ?)
(う……うん。なんとか、大丈夫……)
(あれ?ヤヨイも「」じゃなくて()で喋ってるってことは……今、表に出てるのって……)

「フブキ様を長年苦しめた報い……今こそ受けてもらうぞ、銀帝!!」
「なるほど……そういう事か」
(なんか敵は納得してるっぽい!?どういう事、ヤヨイ!?)

(私が、最初に氷漬けにされたとき……
サンタちゃんのクラッカーがならされても、悪夢から抜け出す力が残っていなかったの。
その時、あの人が助けてくれた。)

………………………………

「グッヒッヒッヒッヒ!!夢の中だと何しても死なねーから、色々やっちゃうもんねー!
いっけーイエティ!!サツキちゃんの足と両腕持って〜……地獄のゾウキン絞り!!」

「っぐ……は、放しなさいっ……!」
(うう……手足を掴んで、一体何を……ゾウキン絞りってまさか……)

「グロロロロロゥッ!!」
メキメキメキメキッ!!!
「「っひぎあああああああああああぁっ!!」」

「いやー!いつ見ても骨折音と血のエフェクトがド派手だなー!コマンド複雑すぎて実戦じゃなかなか出せねーけど!」
「イエティって、技がどれもこれも大振りでコンボがつながりづらいんだよな! よーし今日もいっぱい練習しちゃうぞー!」

私が追体験した、ユキメ先輩のお母さんの部下、サツキさんの過去。
夢の中……真っ暗な部屋の中で、格ゲーのトレーニングモードみたいに、自分の意志じゃ身動き一つできなくて……
イエティとかホワイトウルフとか、いろんな魔物に一方的にやられ続けるの。

絶対死んじゃう、っていうような大ダメージも、次の瞬間には元通りになって……
すぐまた、何度も何度も痛めつけられる。でもあの時……

(パアアアアアンッ!!)

「うおっ!?なんだ今の音!?」
「おい見ろ!空中に亀裂が……!!」

<異常発生……異常発生……悪夢空間に亀裂が発生。再構築します>
「うっぐ……何、あの亀裂…………これは…夢……?」
(あれは……………あくむの、でぐち……でも、もうだめ……私……もう、うごけな……)
「……だ……誰かいるの……!?」
「何だかわからねーが、嫌な予感がするぜ……イエティ!サツキちゃんを押さえつけとけ!」

「はぁっ……はぁっ………そうは……行かないっ…忍影斬!!たああああぁっ!!」
「グオォッ!?」
「何っ!?悪夢の中じゃ動けないはずなのに……!!」
「う、動けたっ……!…そうか、あの亀裂のおかげで、悪夢の力が弱まって……」

「くそっ!だが、無駄だ!イエティ超必ゲージ最大!!
ジャンプ強キック!下強パンチ!からのビッグフットスタンプ!」
(ドゴ!! ゴスッ!! ゴシャッ!!)
「んうっ!! うあっ! げううっ!!」
「そして超必投げ!アルティメットイエティバスターコンボ!」
「グオッ!!」
「うっぐ!……これ、は……普通の打撃…?」
「しまっ…!コマンドミスった……!!」

「い、今だっ……奥義・影刃蒼月閃!!」
「グアオォォォォォォゥッ!!」

「クッソがぁぁぁ!!逃がすな、イエティ!!」
「はぁっ……はぁっ……しっかりして……誰だか知らないけど……いるんでしょう、私の中に…」
(………う………ぁ………)

「グロロロロォ!!」
「やってくれたなぁ……だが、悪夢の中ならイエティだって何度でも復活するんだぜ……!」
「もうちょっとで結界も復旧するみたいだしな!コンボ表の上から下まで順番に試してやる!」

(そ、そんな……!!)
「……くっ……せめて、貴女だけでも……!!」

705名無しさん:2020/02/08(土) 17:05:10 ID:???
(その後なんやかんやあって、私たちは奇跡的に脱出した……サツキさんがいなかったら、私は目覚めることができなかったかもしれない)
(ええ……かなり良いところで終わったわね。kwskしたら長くなりそうだから突っ込まないでおくけど)

「私の実体は、未だに氷の牢獄に閉じ込められている。
だから、今の私は影の精霊となって、精霊刀の持ち主に憑依しているのよ!!」

「……雑魚どもが、次から次へと群がりおって……消え失せろっ!!『凍月』!!」
「くっ……!!」

巨大な凍気と共に、氷の刃が振り下ろされる。
回避は不可能。受ければ刀ごと全身が凍り付くだろう。
かつてのサツキが銀帝に挑んだ時も、同じようにこの剣の前に敗れ去った……

(ガシッ!!)
「……ササメ………!!」
「はぁっ……はぁっ……『銀帝』……いいえ。お父様……もう、おやめください」

サツキの前に立ち、真剣白刃取りで銀帝の死の刃を受け止めたのは……ササメだった。

「そもそも……貴様はなぜ、その姿のままでいる。雪人の血に覚醒したのではなかったのか」

「……あなたの言うように、雪人からすれば人間など『雑魚』にすぎないのかもしれません。
ですが、彼らがいなければ、私は……あなたの前に立つことなど到底できなかった。」

「私は……今日、すべてを終わりにするつもりでした。
雪人は、人を襲って、苦しめる魔物……私の体にもその血が半分流れている。
何かのはずみで、さっきのように『雪人』として覚醒し、罪もない人々を……自分の大切な人を、襲い始めるかもしれない。
そうなる前にあなたを殺し、雪人達をすべて殺し、そして自分自身も……そう考えていた」

「なっ……」
(ササメ先輩……!?)

「だけど、お母様の過去を覗いた事で……私は自分の考えの浅はかさを知ったのです。
……私は、疎まれ捨てられた忌み子ではなかった。
私を拾い育ててくれたヴィラの集落、ミツルギの人々、様々な人たち。

雪人の血を引く私を、今日まで受け入れ支えてくれた皆さんのおかげで……
他人を苦しめねば生きていけない雪人の宿命に、私は打ち克つことができた。
お母様が示してくれた私の道は、間違っていなかった……
それを今、お見せします。
雪人の力、忍の技、そして……人の心。その全てを一つに束ねた、私の、この奥義で……!!」

「そんなものは……幻想にすぎぬ。 雪人の『宿命』は、そんなに軽くはない……
受けるがいい!!奥義『永久氷晶』!!」
「『雪月花』!!」

ササメと銀帝、二人の刀が交錯する。
雪人の悲しい運命に翻弄された親と子の、勝負の行方ははたして……

706名無しさん:2020/02/16(日) 19:24:07 ID:WsW31b7A
「くうぅ……!はああああっ!」

「ぬおおおおおおおおお!!!」

ビュオオオオオオオオオオオ!!!

氷の氷華と父の氷晶が炸裂し、部屋中に吹き荒れる吹雪。
その勢いは凄まじく、サンタガールたちは吹き飛ばされないように耐えるのみで精一杯だった。

「ぐ……これじゃ、援護も何も……!」

「むむむ無理ですわ……!あっあっ!吹き飛ばされますわああああぁ!」

「お菓子の精霊さん!危ない!」

吹き飛ばされそうになったお菓子の妖精の小さな手をサンタガールが掴み、なんとか踏みとどまった。



「存外にやるな……腐っても私の血を引いているだけはある」

「負け……ません……!お母様のためにも……お母様と共に戦い命を散らした、サツキ様のためにも……!」

「くだらん。親子の絆だろうと、部下との繋がりだろうと……ここですべて砕いてくれるッ!!!」

ビュウウウウウゥ!!!!ゴオオオオオオオオッ!!!

「な、まだそんな力が……?あああああぁっ!!!」

その身に宿した雪人の力を全開放する銀帝。
先程までは互角に渡りあっていたものの、勢いを増した暴風雪の前に、ササメの足が後退する。



ビュウウウウウウウウゥオオオオオオオオオオオッ!!!

もはや銀帝の吹雪は、吹雪なのかもわからなかった。
目の前が白一色に染められたと同時に、初めて感じる体の感覚にササメは困惑する。

「くっはぁ……!この……感、覚は……?」

「ククク……それが人間どもが感じる、寒さという感覚よ。お前が感じることは今までなかっただろうがな……」

「う、はぁ、はぁ……こ、こ……これが……寒、さ……?」

「私の氷の前には絶対零度すら生ぬるい……お前はまた雪人の血を覚醒させてやろうと思っていたが、気が変わった。貴様も永久に凍結させて、雪人の糧となってもらおう。その美しい肢体でな……」

「……はぁ……ぅ……くぅ……!ま……け……ません……!」

言葉とは裏腹に、ササメの氷の花びらが、一つ、また一つと散っていく。
雪人のハーフとして生まれたササメは、今まで寒さを感じたことがなかった。
銀帝の圧倒的なまでの吹雪を浴び、初めて感じる身体の感覚に意識が遠ざかってゆく。



パリィン!

ササメの氷の花びらが、最後の一つとなった。

「は、は、はぁぁぁ……ぁ……」

「……フフ、怖いか?この氷の花弁が散ったとき、貴様も母親と同じように、永久に凍り続けるのだ……」

「はあああぁっ……ふううううぅ‥…!」

歯がガチガチと音を鳴らす。体の震えが止まらない、
目の前の氷柱は自分の髪だと気づいたとき、ササメの足は完全に凍りついていた。



(……寒さ、とは……こんな、にも……絶望的な……感覚……なのですね……)



銀帝の吹雪の前に、ゆっくりと目を閉じるササメ。
だがその時、豪雪の音に混じって声が聞こえてきた。

「……輩……!……けないで……負け……で!」

(……この声は……ヤヨイ……ちゃん……?)



「……諦め……で……!ササメ先輩!!!負けないでッ!!!」



必死に吹雪の中で声を上げるヤヨイの声に気づいたとき、閉じかけたササメの目が開いた。

707名無しさん:2020/02/23(日) 15:28:13 ID:???
「……ヤヨイ…ちゃんっ……!?………」
必死に叫ぶヤヨイの声に、朦朧としていたササメの意識がほんの少し覚醒した。


「ちょっと、ヤヨイ…!?……無茶よ、戻りなさいっ……!!」
「冷気無効のサンタ服すら貫通する寒さですわよ!?……生身の人間じゃ、持ちませんわ……!!」
「って、つめたっ!!わ、私の服の中に入らないで下さいっ……!」

精霊やサンタガールですら耐えられない、荒れ狂う猛吹雪の中。
ヤヨイは体半分氷漬けになりながらも、ササメの元に必死に這い寄り、しがみつく。

「っぐ……こんな、所で……諦めちゃ、ダメです……先輩のお母さん……フブキさん、やっと目の前に……」
(………ビキビキビキビキッ!!)
「「うっぐ……あああああああぁぁ!!!」」

「先輩……これを………受け取っ、て……」
「……ヤヨイ…ちゃん……!!」
(パキンッ…!)

「……無駄だ。二人まとめて、氷漬けになるがいい」

咄嗟にヤヨイを抱き寄せるササメ。だが、銀帝の吹雪は、更にその威力を増していった。
やがて最後の花びらが散り、二人の体は氷に包まれて……

「フン。所詮は、人間の血が混じった半端者……この私に勝つ事など、不可能だったな」

……ササメとヤヨイは、互いに身を寄せ合ったまま、氷の柱に閉じ込められてしまった。


「さてと。妖精ども……ついでに、貴様らも凍らせてやる。我ら雪人の糧となるがいい」
「ぎょえぇぇぇ、こここ、こっちに来ますわっ……!!」
「うっ……動けない……風が、凍って……っぐ、あああぁっ……!!」

後衛にいたサンタガール+妖精ズにも、少しずつ冷気が迫っていく。
もはや、銀帝の暴虐を止めるものは誰もいないかに見えた。


(……寒い……ヤヨイちゃん、貴女は……今まで、こんな感覚に耐えていたのですね。
これほどの危険も承知で、私のために……ここまで着いて来てくれた。)
(…………。)
(ヤヨイちゃんの、体……とても、温かい……)

(……そうだ。確かに、私は……今まで本当の『寒さ』を知らなかった。
だけど、その代わり……お母様や、今まで出会った大勢の人たちから大切なもの……
『温かさ』を、私は知っている)


「だから……ここで、終わるわけにはいかない……『砕氷星鎖』っ!!」
(バキバキバキッ……!!)
「何っ……!!」


その時。

氷塊に大きく亀裂が走り、中からササメが現れた。
左腕に気絶したヤヨイを抱きかかえ、右手には、ヤヨイから受け取った『砕氷星鎖』を携えている。

そして、全身に纏っている凍気は……今までと、何かが違った。
雪人の長として長年君臨する銀帝も、感じたことのない種類の感覚。


「馬鹿な。下等な人間、中途半端なハーフごときが……銀帝の氷棺から脱出しただと……!?」
「はぁっ………はぁっ………
下等で半端……そんな脆く儚い存在だからこそ……人は、互いを想い、助けあう。
時にそれが……どんな寒さも、絶望さえも、乗り越えるほどの力を生み出すのです」

「ほざくな……そんな不安定なものに、この私が……
雪人の長たるこの銀帝が…惑わされるわけにはっ……!!」

「やはり……一度力で打ち倒さなければ、貴方に認めさせることは出来ないようですね。」

「…………」
「……決着を、付けましょう。
貴方に教えて差し上げます。お母様が……命がけであなたに伝えようとしていたことを」

両者の剣がぶつかり合う。激しい光と凍気が周囲を包み込み……

「「はああああぁっ!!」」

無数の氷の結晶が、咲き乱れる花のごとく舞った。

708名無しさん:2020/02/23(日) 18:32:43 ID:???
(………ここは、一体……?……私は…………)
銀帝は……夢を、見ていた。

「お目通りが叶い光栄です、ゲンジョウ様……
この度、見習いとして新たに討魔忍衆に加わらせていただくことになりました、ササメと申します」

「うむ……事情はヴィラの民から聞いておる。……選抜試験でも、優秀な成績を収めたそうじゃな。
だが、討魔忍とは読んで字のごとく魔を討つ忍び。
事と次第によっては、おぬしの同族である雪人とも戦うことになるやもしれぬ。……その覚悟はあるか」

「ええ、もちろん。……むしろ、私はそのために討魔忍を志したのです。
攫われたお母様を取り戻し、邪悪な雪人達を殲滅するために……」

「うへー。アブネーねーちゃんだな!
でもメチャクチャ可愛いし、まだ1x歳になのにイイカラダしてるぜ!将来が楽しみだ!」

(あれは……ササメか。だが、雰囲気が今と別人……それに、なんだあの失礼なガキは…?)


「これ、お前は黙ってれ!……と。紹介が遅れたな。こやつはテンジョウ。
見ての通りの鼻たれ小僧じゃが……いずれは儂の跡を継ぐことになる。
そして、見習いとなったお主の教育係を務めるのは……」

「神楽木七華と申します。よろしくお願いしますね、ササメさん」

「七華はまだ上忍になったばかりじゃが、実に優秀な忍びじゃ。
彼女の下でよく学び、早く一人前の忍びとなるよう精進するがよい」

「この方が……?
こう言っては何ですが、とても強い忍びには見えませんが。
見たところ、歳も私とそう違わないようですし……」

「ええっ!?………そ、それはその。見た目が強くなさそうなのは、確かにその通りかも、しれませんが……」
「ちょwwwこのねーちゃん、けっこう言う事キツいなwww」

「……ふむ。七華の下には付きたくないか?
ならば……我がミツルギは、知っての通り完全実力主義。
七華と勝負して実力で示す事ができれば、配置については考え直すとしよう」

(そうか。これは過去の記憶……ササメが討魔忍になったばかりの頃、というわけか。しかし……)


「ええ、それで構いませんわ」
「え?い、いきなり勝負するのですか……?」
「安心してください。痛みを感じる暇もないよう、すぐに終わらせて差し上げます。
そんなおかしな人形を持ち歩いてるおかしな人に、長々と付き合うつもりはありません」
(……ピキッ)
「あ。ねーちゃんそれは……」「マズい、のう………」

「……ササメさん、と言いましたか。良いでしょう……
ですが、私は貴女ほど気が短くないので……ゆっくりじっくり、教えて差し上げます」

(なっ……さっきまでと雰囲気が……)

ギギギギギギ……
「っ!?…に、人形が動い………」
「まずは……言葉遣いと態度から、ですかね」

「いやあああああああああああぁぁぁぁっ!!!」

709名無しさん:2020/02/23(日) 18:46:32 ID:???
「ぶはぁぁっ!!………こここここ、殺されるっっ!!!………って、あれ……??」

身の危険を感じ、銀帝は意識を無理矢理覚醒した。

「あ、気が付かれましたか……お父……いや。その……ええと」

気が付くと、すぐ横にササメがいた。
お互い、氷の力を使い果たしていて、しばらく戦闘は出来そうにない。

「……なんか随分うなされてたけど、大丈夫なの?このおっさん」
「ええと……雪人の『他人に回想シーンを見せる能力』で、討魔忍になりたての頃、お世話になった人の夢を見せて、人間の想いのすばらしさをわかっていただきたいこうと思ったんですが……」
「そ……それにしてはシーンのチョイスがかなり間違っていたような気が」
「こ、この手の能力には不慣れなもので、間違えたみたいです……
 では他に、そうですね……
 あの方の経営する和菓子屋さんでアルバイトをして、季節ものの特殊な服装で売り子をした時の事とか」
「あ。そっちの方がよかった」
「おいコラおっさん」
「というかうなされてるときのリアクションが、ボスキャラの威厳ゼロでしたわ?」

妖精ズもいた。そして……

「ふふふふ……この人、結構気が小さいですから。
いつも雪人の長としての重圧に苦しめられて……私に愚痴を吐き出すしかない、可哀そうな人」

「…………フブキ…………。
そうか………私は………敗れたのか」

「ええ。ササメに……私たちの娘に。
雪人としての力だけではない。あの子が自分で手にした、忍びの技と……人間の、絆の力に。
もう意地を張るのはやめて、話くらい聞いて差し上げたら?」
「ぐぬぬぬぬ………」
「あ、尻に敷かれてる系ですわねコイツ」

すっかり毒気を抜かれた父親、銀帝。
見た目はササメそっくりだが性格は意外とあっけらかんとした性格だった母親、フブキ。
……ササメは、互いの年月の隙間を埋めるかのように、互いに色々なことを話し合った。

………………

「おおおお、親子水入らずはいいですけど、待ってる間に寒すぎるぜーですわ!!」
「運動でもして体あっためないとマジで死ぬわこれ!!
ついでだから、例の鎖借りて氷柱に閉じ込められた人を助けてきましょ!」

「あ、でもあの鎖、訓練しないと使えないとかなんとか、そういう設定があったんじゃ…」
「うがあああああ!!そんなこまけーこと気にしてる場合じゃねーですわ!!」

「あ、私その鎖使えます!!生前に特訓したんで!!」
「ナーーイス影の精霊!!」
「自分で自分を助けるのもちょっとどうかと思いますけど!!」

そして……

710名無しさん:2020/02/23(日) 19:01:54 ID:???
「部下たちも含め、雪人の生き方をすぐに変えるのは難しいが……少しずつ、考えてみようとは思う。
どの道、今のままでは雪人と討魔忍の衝突は避けられぬからな……
………それは、どうにかして避けたい」

雪人の長・銀帝は、人間との和解の道を歩むことを決意した。
あるいは、人間と敵対している現在よりも、イバラの道になるかもしれないが……決して、不可能ではないはずだ。

「おおう……まさかの『決まり手:人形女こわい』ですわ?」
「い、いや…別に、そういうわけではないぞ。人間の持つ力も侮れぬ、という事だ…うん」

(あの人形女は今ちょっと状況変わってるらしいけど…言わない方がよさそうですわね。面白いし)

「……私は一度、ミツルギに戻るわ。テンジョウ新陛下にも、挨拶しないとだし……」
「そうだな……それが良い。私からも、近いうちに使いを送ると伝えてくれ」
「すぐ戻ってくるから、浮気しちゃダメよ?」
「な………わ、わかっている…!」

「それに下界に戻るのは20年ぶりくらいだしー、せっかくだから色々見て回りたいわ!
てことで、おススメのお店とか案内してね、ササメちゃん!」
「は……はい、お母様」
「もーぉ。ササメちゃんたら、お母様なんて……フブキちゃんでいいわよ!!」

「……20年間仮死状態だったから、肉体年齢変わってないみたいね。あと精神年齢も」
「若作りの母親属性……通常攻撃が全体攻撃で2回攻撃しそうですわ」


こうしてササメ達は、母親フブキ、その部下サツキ、他囚われていた人々と共に雪人の城を後にし………


「いろいろと助けていただいて、ありがとうございました。
……お父様のような、素敵なサンタクロースになれるといいですね」
「は、はい!こちらこそ…!
ササメさんも、お父さんとお母さんと、仲良くしてください」

空に消えていくサンタガールを皆で見送った。
クリスマスどころかすっかり年が明けて、暦の上では春が近づきつつあったが、考えたら負けである。

「いやー……思った以上に色々あったけど、丸く収まってよかったです!
正直、私あんまり役に立ってなかった気がするけど……」
「ふふふふ……そんな事ないですよ。
私の力だけじゃ、きっと……こうして、ここに帰ってくることは出来なかった。
最後まで戦い抜く事ができたのは、ヤヨイちゃんや、サンタさんや、精霊さんや……皆のおかげです。
本当に、どうもありがとうございました」

ばつが悪そうなヤヨイに、ササメは優しく微笑みかける。
精霊たちの方にも向き直って、改めて頭を下げた。

「お礼なんていーって。その代わり……
あんたたち、これからトーメントと戦うんでしょ?
その時になったら……私らの方から、頼みたいことがある。止めてほしい奴がいるんだ」
風の精霊、お菓子の精霊は、いつになく神妙な面持ちで応える。

次なる戦い……最後の、負けられない戦いが、間近に迫っていた。
ササメとヤヨイ、そして討魔忍衆を待ち受けている運命とは……

711名無しさん:2020/03/08(日) 14:17:03 ID:Fx3fdoF2
(今日も、ユキに会えなかった……)

サキはトーメント城の廊下を暗い表情で歩いていた。
リンネと繋がって脱走を図っていたことがバレ、リザによって重症を負わされ、舞の助けでリザを退けたが、留守にしている間にスネグアにユキを改造され……今は姉妹揃ってトーメントの駒に逆戻りだ。

いや、むしろ悪化しているかもしれない。

スネグアによって「サキは裏切ったふりをしてナルビアから情報を盗もうとしていたが、スネグアが本当に裏切ったと勘違いして、早まってユキを改造してしまった」ということにされているが……そんな建前を信じている人間はいない。

城の人間は全員、サキが本当に脱走しようとしたことを知っている。
そしてスネグアに弱みを握られていることも知っている。
つまり……以前とは周りからの扱われ方が違う。

ユキに会おうとスネグアの部屋や教授の実験室に行っても、雑に門前払いされるのが当たり前。さらに……


「んむぅ!?」


疲れ果てて歩いていたサキは、背後から音を消して迫る男の存在に気付かなかった。
突然後ろから伸びてきた手に口を塞がれたと思うと、体を乱暴に掴まれて近くの部屋に無理矢理連れ込まれる。

「よっしゃ、よくやった!」

「誰にも見られてねぇな?」

「まぁ別に見られてても問題ないけどな……そっちこそ邪魔な小娘、略してJKの舞ちゃんがいないのは確認済だな?」

「ああ、なんか王様に呼ばれてたっぽい。しばらくは出てこないだろうよ」

連れ込まれた部屋には別の男が2人いた。サキは知る由もないが、>>598とかでちょくちょくいた、サキ派のトーメント兵士である。

「んっ……んんぅ!!ぷはっ!!こ、のぉ……!急に何すんのよ!」

サキは他の十輝星に比べれば身体能力は低いが一般兵よりは十分強いし、邪術を使えば他の十輝星にも引けを取らない戦闘力を誇る。
こんなモブ共に襲われた程度、本来何ともないのだが……


「おーっと、抵抗するなよ……抵抗してもし俺らが傷を負ったら、暴れたサキちゃんのせいで怪我しましたって王様やスネグア様に伝えちゃうからな?ちなみに殺しても無駄な。俺らが戻らなかったらチクるように、別の仲間に伝えてある」

「そうなったら大変だなー、サキちゃんは処罰されるし、ユキちゃんはスネグア様の正式な奴隷。舞ちゃんも誰の下につけられるか分かったもんじゃない」

「お母さんも後追い自殺とかしちゃうかもね。他殺っぽいけど自殺処理される、ドラマでよくある感じの自殺の仕方を、さ」

「っ!」

一連の件以降、サキの弱みにつけこんで好き勝手してくる人間もいる。

家族と舞を人質にされてしまえば、サキはもう何も抵抗できない。

射殺す様な視線をクズ兵士たちに向けながらも……サキは体の力を抜いて、自分を掴んでいる男に身を預ける。

「おほっ!!ホントに抵抗止めたよ!!」

「スネグア様の話は本当だったんだな!」

「ヒヒヒ……これで、憧れのサキちゃんで滅茶苦茶できるのか……嬉しいなぁ!」

サキを掴んでいる兵士は、少し前までサキの口を塞いでいて、微かに彼女の唾が付着している手をベロリと舐めると……そのままその手で、サキの右胸を乱暴に握りしめる。

「ひゃっ!?ぐ、つぅ……!」

童貞らしい乱暴な掴み方。ただ痛いだけで、快楽など微塵もない。

「あー、やーらけー……なんかサキちゃんの胸って、現実離れしてないレベルの程よい巨乳さでいいんだよな……ベロォ!」

「ひっ!」

恍惚としながらサキの胸を揉みしだき、汗の浮かんだ彼女の首筋に舌を這わせる兵士A。ゾワゾワとした気色の悪い感覚に、サキの肌が粟立つ。

「あっ、おいお前だけずるいぞ!いくら直接捕まえた功労者とはいえ!」

「まぁまぁ、俺らも楽しめばいいじゃん……こうやって、さ!」

「っ!」

兵士Bがサキのお腹に向けて拳を振りかぶる。襲い掛かるであろう痛みを予期して、目をギュッと瞑るサキだが……

「おい、お腹はちょっと待ってくれ」

兵士CがBの拳を止めた。

「あぁ?なんで邪魔すんだよ?」

「いやさ、俺、実はガチ恋勢だったんだ」

「お、おう、そうか。唐突なカミングアウトありがとう……で?ガチ恋だから止めてあげてってことか?」

「バカ、そんなんじゃじゃなくてだな……お腹殴ったらえずいちゃうだろ?」

そう言いながらCは、Aに押さえつけられたままのサキに近づいていき……

「はぁ、やっぱりいい……無造作にしてるスピカと違って、髪もお肌もちゃんと手入れされてる……多分毎日ちゃんとそれなりの時間かけてヘアアイロンとかしてるんだろうなぁ……ねぇ、使ってるシャンプーとリンス教えてよ、グルシャンするから。あ、グルシャンっていうのはね、シャンプー飲むことでね……」

めっちゃ早口で気持ち悪いことを喋り始めた。心なしか口調も急にキモオタ化したように見える。

712名無しさん:2020/03/08(日) 14:20:08 ID:Fx3fdoF2
「……キモ」

アイベルト辺りの無害なアホに言う感じの呆れ混じりの『キモ』ではなく、心の底から気持ち悪いと思っている、渾身の『キモ』であった。

「おい、シャンプーは飲み物じゃないぞ。腹壊しても知らないからな」

余談だが、兵士Bは割とガチめにCを心配していた。

「こんな顔して腹黒なのも、腹黒のくせに身内には甘いのも、強いけど戦闘キャラには勝てないくらいの程よい強さなのも、髪飾りとかニーソとかローファーとか、細かい所に光る女の子らしさも……なんていうか、ほんとに好きになっちゃったっていうか……」

サキからキモがられても同僚から心配されても構わずに、ガチ恋っぷりを披露する兵士C。サキの胸を揉んでいた兵士Aも思わずドン引きしていた。

「……好きとかいうなら、このクズ2人から助けるくらいしてみたら?ワンチャンに賭けることもしないで、好き勝手に甚振るだけなんて……そんなんだから彼女の1人もできないのよ」

「何にベットするかは、自分で決める……サキちゃんと付き合えるというメインキャラですら難しいワンチャンに賭けるよりも、モブキャラが好き勝手できる状況が来るのを待つことを選び、そして勝った!」

突然映画のカ○ジみたいなことを言った兵士は、顔をさらに近づけて、サキの頬を両手でガッチリと掴む。

「……だからダメなのよ……最初はアイツの好感度だって最低だったけど……なんやかんや、助けてくれて……」

サキが遠い目をして、リンネのことを想った瞬間……兵士Cは嫉妬の炎に狂った。

「んな!?まま、まさか、敵国に彼氏がいたって話も本当!?」

「へー、そうだったんだ……なぁ、部屋からカメラ持ってくるからさ、ビデオレター作ろうぜ。俺一回『うぇーい!カレシ君見てるー!?』って言ってみたかったんだよな」

「諦めろ……こいつ、聞いてないぜ」

「ちゃっかり彼氏まで作っちゃう性格も含めて、本当に最高だよサキちゃん!なんだかんだ普通の女の子らしさ全開じゃないか……!も、もう辛抱たまらん!!」

Cは早口でまくしたてると……サキの顔をホールドしたまま、口を近づける。

「っ……!何すんのよ!!」

「ぶげ!」

サキは咄嗟に、Aに抑えられていない足でCを蹴り飛ばしてしまう。

「あ……」

「ふ、ふふふ……!手ェ出しちゃったねぇ!!これをあることないこと捏造して報告したら、君の大切な人たちがどうなっちゃうかな!?あ、でもツバ付ければ治るかもね……ということでさぁ!サキちゃんの方からキスしてよ!!」

そして、それもCの計画通りであった。ガチ恋故に、無理矢理犯すみたいなキスをするのではなく、無理矢理サキの方からキスをさせるシチュエーションを作ったのである。

「お前すげぇな……」

「おいA!サキちゃんがキスできないだろ!その手を離せ!」

「はいはい、っと」

Aは言われるままに、サキの体を離す。解放されたサキだが、結局言うことを聞かなければならない状況には変わりない。

ぐっ、と唇を噛むサキ。言われるままにするしかない状況。しかし決断できずにいると……


「あのー、お楽しみのところ申し訳ないんすけどー、モブにヤられちゃうエロパートはスピンオフでやってもらっていーすか?」

いつから見ていたのか、天井から突然声と共に少女が降ってくる。

「ああ?ジェシカじゃねぇか。ガキは帰った帰った」

親切なおじさんと化したBがジェシカを連れ出そうとするが、ジェシカは動く様子はない。

「おっちゃん、あっしもリゲルに用があるんすよ。スネグアさん関係で」

「う……」

スネグア関係と言われると、この状況を作れたのもスネグアのおかげである兵士たちは何も言えなくなってしまう……ガチ恋以外は。

「ふざけんな!ここまでお膳立てしといてそりゃないだろ!!」

「バカ、こいつガキだけど結構強いんだから喧嘩売るな!しかもスネグア様関係だろ?」

「別の機会(スピンオフ)を待てばいいじゃないか。ほら、さっさと行くぞ」

AとBにズルズルと引きずられていくC。それを黙って見送ったサキは……ゆっくりと口を開いた。

「一応、礼は言っといた方がいいかしら?」

「いやいや、礼なんていらないっすよ。あっしはあっしで用があるのは事実っすから」

「用?」

「オカンの仇に記憶を取り戻してもらう為に、記憶喪失になった時と逆のことをして貰おうかな、と」

意味の分からないジェシカの言葉に眉をひそめるサキ。

「とりあえず会うだけ会って欲しいんすよ……サラ・クルーエル・アモットに」

713名無しさん:2020/03/14(土) 22:28:05 ID:???
「コルティナさん!この間はありがとうございました!」
「おー、ルーフェにフウコ。お前ら、あれから元気だったなりかー?」
「はい、おかげさまで! あの。コルティナさんは『次の作戦』に参加されると聞いたんですが……!」
「そうナリよー。なんか、ヴェン何とかの第何小隊って所に呼ばれる事になったなり。
 数字は忘れたけど7じゃないことだけは確かなりよ!」

コルティナ・オプスキュリテ……
「ミッドナイトヴェール」の異名を持つ、ルミナスの魔法少女であり、シーヴァリアの円卓の騎士の一人『暗幕卿』と呼ばれていた。
『ぐーたら三姉妹』の三女、と言った方がわかりやすいかもしれない。

実際には姉妹じゃないので、誰が姉とか妹とか厳密に決まっているわけではないのだが、なんとなく三女っぽい位置づけである。

以前、ブルーバード小隊がトーメントの海上プラントの襲撃作戦に参加した際、
重傷を負ったルーフェやフウコを治療したのは、実はコルティナのオリジナル安眠魔法「スリーピー睡眠」だったりしたのであった。

「それで、コルティナさんが出発される前に、あの時のお礼をしたくて!」
「いやー、そんな本編に出てきてないような事でわざわざお礼だなんて…お前らイイ奴なりね。
アイツらに爪のアカでも煎じて飲ませてやりたいナリよ」
「え、アイツらって…?」

「それがさー。こないだの襲撃で国中に瘴気バラまかれて、みんなで国中を浄化作業してるじゃん?
で、帰ってくるとみんな『疲れたからそのマントで休ませて!』って言ってくるなり!
自分が安眠するために編み出した魔法なのに、なんでみんなを休ませて自分がずーっと働かなきゃいけないナリか!!」
(そ、そんな本編に出てきてないような事でキレられても……)

「え、ええと……わかりました!今日はそんなゆっくり休みたいコルティナさんのために、
私の使い魔のしーぷーちゃんを、フレンド登録しちゃいます!」
「めーー!!」
「おおーー。すっげぇ!もこもこなりー!」

ルーフェの呼び声に応え、羊型使い魔がぽん!と召喚された。
本来の持ち主はルーフェのままだが、フレンド登録する事によって
コルティナも自由にシープーを呼び出すことができるようになる!

……という事で、コルティナは早速しーぷーにガバっと抱きつき、そのもこもこ具合を堪能するのだった。

「……あー…………良いわこれ…………すっげー良い………」
「私もお気に入りなんですよー。気に入っていただけてよかったです!」

「…………。」
「…………。」

「……マジ最高だわー……ありがとうマジで……………ていうかこれ良いわ……すっげー良い……」
「あ………は、はい……どういたしまして……」

「…………。」
「…………。」

「めええええええ」

「…………。」
「…………。」

「…………。」
「……あ、あの。どうしていいのかわからなくなっちゃうので、一旦起きてもらっていいですか……」

「…マジ良いわ………これ…………『マジ良いわ』しか言えなくなっちゃうくらい、ホントにガチのマジで良いわコレ……」
「わ、わかりましたから……一旦起きましょう。ね? 話が空中停止しちゃってるので……」

「いやでもこれ、マジでほんと良いわ……最高にマジで良いわ……ルーフェっちには、ほんと感謝しかないわ……」
「…………。」

(………もしかして私……やっちゃいけないことをやっちゃったのでは……?)

714名無しさん:2020/03/14(土) 22:44:13 ID:???
「よー!キリコにコルティナ、久しぶりだな!」
「ノーチェも元気そうなりねー!」
「やっぱこうなったかー。この人選、絶対リリスっちの差し金だろ」

……そんなわけで、ヴェンデッタ第12小隊に召集されたコルティナは、案の定というかなんというか、
同じく『ぐーたら三姉妹』と呼ばれていた『鉄拳卿』ノーチェ・カスターニャ、『裁断卿』キリコ・サウザンツと再会。
再び同じチームを組むことになったのであった。

「奴は円卓の騎士の中でも最弱……な姫騎士系リョナられ役だったのに、今じゃメインストーリーの中核を担う主要キャラ。
昔はうちらにパシりにされてたっつーのに、随分遠い存在になったもんナリ」

「それはともかく……確かヴェンデッタ小隊って、主要4か国から最低一人はメンバー出すんだろ?
てことは、ナルビアから来るのってまさか」

「いや……リンネきゅんもなんやかんやで物語の本筋にガッツリ食い込んでるし、
こういうはぐれもん部隊には回ってこないんじゃね?」
「……まあ言い方はメタいけど、実際そんな感じかもな。あいつナルビアじゃ最高幹部の一人らしいし。
だとしたら、一体誰が……」

「あのー、すいません。ボク、ここに来るように言われたんですけど……」
「ん?お前は……」

ヴェンデッタ第12小隊のブリーフィングルームに姿を見せたのは……
古垣彩芽。
言わずと知れた「運命の戦士」の一人、ボクっ子メガネっ子もやしっ子の発明ガール。
ナルビアで科学技術を学び、今回のトーメント王国への侵攻に合わせて他の仲間と合流したいと思っているが……

「主要キャラじゃねーか!帰れ帰れ!」
「ええええ!?何その理不尽な理由!?」

めっちゃ邪険に扱われた。

「あたしら、ただでさえ師匠キャラになったり先輩キャラになったり宿屋キャラになったり余計な個性がついちゃってるんだぞ!」
「これ以上キャラが濃くなったらリョナられ役にされちゃうだろ!」
「そうだそうだ!キャストオフが描かれたりしたらどう責任取ってくれるんだ!」
「スピンオフの事かな」

「とにかく!ナルビアじゃどんだけダラけてたか知らねえが、
その程度のキャラの濃さであたしたち『チームGTR』に入れると思ったら大間違いだかんな!」

「……ところで、今回の作戦内容ってどんなんなんだ?」
「それが、えーー……トーメント王国に潜入して、捕虜になってる連中に接触せよ、だと」
「ルミナスの魔法少女とか、ミツルギ最強女剣士と大陸最強拳法使いとか、しぇりめでゅとか、色々捕まってるなりからなぁ…」
「いやいや。そういうのは男キャラにやらせろよ。
あたしらみたいな美少女、捕まったら何されるかわからないぞ!エロ同人みたいに!」

「もちろん全員を国外脱出させるのは無理だから、
一旦敵の目に届かないところに身を潜めさせつつ、
連合軍の侵攻に合わせて、内側から攻撃を仕掛けて暴動を起こさせる……みたいな」
「なるほど絶対無理」
「なり」

「それなら……ボクの発明品が役に立つんじゃないかな。
『アヤメカNo.18「着れば透明になれるよ!キエールマント」』とか使えば、大抵の所には潜入できるよ」
「お前ド○えもんかよ」
「異世界人の科学力やべえ」

トーメント王国に仲間が捕らえられてる、という意味では、お互いの利害は一致している。
こうして彩芽はぐーたら三姉妹と協力し、トーメント王国に潜入することになった。
はたして、サラ、桜子、スバルの三人や、しぇりめでゅコンビなど、捕らえられた仲間を救い出すことは出来るのだろうか。

715名無しさん:2020/03/15(日) 04:26:40 ID:???
「……はぁ、はぁ……!お、王様……き、きき、キスしちゃうんですか?そこにいるリザと……!ほ、ほひっ、ほひっ」

「なんだ教授……なんでお前が1番興奮してるんだ?」

「いやぁ……!最近VR兵器を開発したんですよぉ。それの応用でリザとキスしてる王様の体を遠隔スキャンしてデータ保存すれば、いつでもリザといやらしいキスがVRで鑑賞できる素敵データが出来上がっちゃうんですよぉ〜〜〜!!」

「…………」

「これを使って僕はいつでも金髪美少女JKとベロチューチュパチュパできるVRデータを作りたいんですよ〜〜〜!ぜったいにぃ〜〜〜!」

蚊帳の外の教授がト〇ブラウンの漫才のように好き勝手に騒いでも、リザの表情は変わらなかった。

「なるほど。儚げで危うげな金髪美少女のキス顔が、いつでもどこでもVRで楽しめるようになるわけだ。しかもかなり嫌がってる感じの、なぁ……」

「……………」

リザの顔が嫌悪感に歪む。
そのような対象として見られることばかりの自分の容姿にすら、最近は嫌悪感しか感じられない。
よく知らない自分に対してすぐにそのような感情を持つ男という生き物の感覚が、リザにはどうしてもわからないのだ。

「お!いま明らかにしかめっ面して嫌悪感出したな!今のお前の蔑んだような呆れたような表情、最高にキュートだったぞぉ。辛気臭いツラばっかじゃなくて、たまにはそういう顔もしろよリザぁ」

「……もういいです。するなら、早くすればいいじゃないですか」

「はぁ……そうやってすぐ拗ねんなって。安心しろ。俺様はなにもしないさ」

「……え?」

「えぇ〜〜〜!王様ああぁ!後生ですからリザにこれでもかといやらしいキスをしてくださいいい!お願いですからああぁ!」

教授の懇願も虚しく、王は踵を返してリザに背を向け出口へと歩き出した。

「リザ。今姉を殺すか答えが出せないのなら然るべき時にもう一度聞いてやる。その時にお前が俺様の言うことを聞かないようだったら……姉とお前の姉妹丼リョナをたっっっぷり楽しんでから、仲良く一緒に殺してやるからな」

「……………………」

「沈黙は肯定と取るぞ。まったく……闇堕ちするならちゃんと闇落ちして家族も全部殺すとか言ってみろよ。中途半端に愛情が残ってるからそうやって余計に悩むことになるんだ。なにが大切か判断したらそれ以外はきっぱり割り切ることだな」

「……………………」

何も言い返せなかった。
自分の中で大切なものが家族なのか、アウィナイトを守ることなのか、割り切ったつもりでなにも解決していない。
がむしゃらに力を求めるのも、自分の弱さを隠したいだけ。その事を考えたくないだけ。
考えれば考えるほど沼に嵌って頭痛がする。



「……教授、ありがとう。……私はこれで」

「くっ……キス顔堪能したかったのに……なぁリザ、お金なら好きなだけやるから俺とキスしてくれない?もう最近病んでるお前の姿が性癖に突き刺さってやばいから顔見るだけで勃起しちゃうんだよ。ほんとどーしてくれるん?責任取って?」

「……………………」

教授の戯言は無視して、リザは部屋を出ていった。

716名無しさん:2020/03/15(日) 11:45:01 ID:???
「お前は……!」

「柳原、舞」

教授の部屋を出たリザは、柳原舞とバッタリ行き当たる。
舞はキッと射殺すような視線をリザに送った後に、唇を噛みしめながら横を通り過ぎようとするが……

「待って」

気づけばリザは、舞を止めていた。

「……なに?急いでいるのだけれど。ただでさえ王の部屋に呼ばれたと思ったら教授の部屋にいるとかでたらい回しにされて、サキ様のお側を離れてから時間が経ってるのに」

棘のある口調を隠そうともせず、鬱陶しそうにリザに振り返る舞。
自分がサキにした事を考えれば当然のことだが……リザにはその『当然』が分からなかった。

「異世界人である貴女がなぜ、サキにそこまで肩入れするの?」

「っ……!サキ様を傷つけたお前に、教える義理はない」

「お願い、教えて……私、異世界人と……篠原唯や市松水鳥と、このままじゃ、戦えないかもしれない……」

気づけば口から出ていたのは不安。リザにとってどこまでも眩しい存在であるあの2人。
自分と同じだったはずのサキは、家族も、信頼できる人も、恋人もいて……いつの間にか遠く眩しい存在になった。

なぜ異世界人とサキが信頼関係を結べたのか……自分にできないことをできたのか……暗い色を宿したリザの瞳に思うところがあったのか、舞はポツリポツリと語りだした。

「サキ様は私を救ってくれた……それにあの方は……私と同じだけど、同じじゃないんだ」

「え?」

「私も向こうではサキ様と同じ母子家庭だった。けれど、母が再婚してから……家に居場所がなかった」

故郷のことを思い出すように瞳を閉じた舞はかぶりを振ると、リザに背を向けて教授の部屋に入ろうとする。

「これ以上答えるつもりはない。こうしている間にも、サキ様を不埒な輩が狙っているかも……」

「おう、その通りだよ舞ちゃん」

その時突然、王の軽薄な声が響く。

「王様?まだいたんですか」

「神出鬼没が俺のいいところだろ。決して書き手が上のレスで俺様が教授の部屋から出ていってたのを投稿直前に気づいたわけじゃないからな!」

「はぁ……」

相変わらず意味の分からない事を言う王に、リザは生返事をする。

「それでだ舞ちゃん、君を呼んだのは、ちょっとサキのそばを離れてもらいたかっただけさ。今頃ジェシカかスネグア辺りに捕まってんじゃね?」

「なっ!?」

「ほらほら、早く行った方がいいぞぉ?」

「っ、この……!」

舞は一層強く唇を噛み締めた後、足早に去っていった。

「おーおー、色んなしがらみがあって国にしがみつく姿……お前なら共感できるんじゃないか?」

「王様……あまりサキに、酷いことは……」

しないでください、と続けようとして、リザは口を噤む。
自分がサキを追って深手を負わせたにも関わらず、そんなことが口を出る自分の2枚舌っぷりに、リザは自己嫌悪に陥った。

そんなリザのより一層暗くなる瞳を楽しみながら、王は愉快そうに語る。

「まぁ安心しろ、もうちょい虐めたら、サキへの当たりは緩くするつもりだ……戦争で活躍してくれなきゃ困るからな」

717名無しさん:2020/03/15(日) 11:50:38 ID:uBnACP7I
「サラ……?誰かしらそいつ?助けてもらって悪いけど、協力する義理はないわ」

あれから色々あったのと、気に入らないリザと同じ金髪碧眼としか認識せずに水責めをしていたのもあり、サキはサラのことをすっかり忘れていた。

「まぁまぁそう言わずに。あっしを手伝ってくれたらもうちょっとマシな立場にするって、スネグアさんも言ってたっすよ。ずっとこの立場のままってのも嫌っすよね?」

にべもなく断ろうとするサキに対し、人懐っこそうな笑顔で少しずつ近づいていくジェシカ。

「どうせ騙そうってんでしょ……その手には乗らな……!?」

乗らない、と続けようとしたサキの言葉は、突然サキの首を掴んで来たジェシカによって遮られる。

「あ、があぁああああ……!」

「あっしさー、ずっと気になってたんすけど……ミシェルさんが逃げるの、アンタが手伝ったっすよね?」

ジェシカはサキの首を絞める手に力を入れると、そのまま体を持ち上げた。

「手伝いはしないまでも、見逃しはしたっすよねぇ。ぶっちゃけあの時のヘロヘロのミシェルさんが、誰にも見つからずに脱走できるわけないっすから。
……まぁ、あっしもミシェルさんは嫌いじゃなかったっすから、それは別にいいんす。急に敵国に亡命しちゃったフクザツな気持ちを、あんたにぶつけてるだけっす。」

「か、かひゅ……」

サキはメリメリと音を立てる首に手をかけて、必死にジェシカの腕を外そうとするが、万力の如く……いや、クワガタの如く締め付ける腕は、疲労困憊の少女の細腕では引き剥がせない。

「無駄っすよ。面倒な手下は王様に頼んで足止めしてるし、もうアイツ以外にあんたの味方はいない……まぁ、さっさと気絶した方が楽じゃないすか?」

「うぐううっ………!っが…あぁ………!」

しばらく手足をバタバタと動かしていたが……やがてサキは気を失った。




「ん……ん!?」

目を覚ました時、サキは全裸で寝台に拘束され、目と口も粘着性のある糸で塞がれていた。

(な、なに、どういう……!?)

困惑するサキの唯一塞がれていない耳に、どこかで聞いた覚えのある声が聞こえてきた。

「こんな事をして、意味があるの?記憶を失った時と、逆のことなんて……」

「試せるモンは何でも試すもんっすよ!それにこいつも十輝星だし、アンタが気に病むことはないっす!悪人への正義の鉄槌ってやつっす!」

「……そう」

(この声、あの金髪刑事!?そういえば奴の名前って……!)

ジェシカの言っていたサラという名前の人物を思い出したサキ。
同時に、サラが記憶を失った時と逆の事をするという断片的な発言の意味も分かってしまう。
事実、サキの拘束されている寝台のすぐ横には……12〜3万くらいしそうな、水滴拷問の機械があった。

「ん、んんーー!!んむぅうう!!」

何をされるか分かったサキは必死に体を捩り、塞がれた口からくぐもった声をあげる。

「なんスか急に暴れて……あ、耳も塞がないとダメだったっすね」

ジェシカが指から蜘蛛の糸を出すと、乱暴にサキの耳に突っ込む。

「んぶぅ!?」

完全に五感を遮断されたサキ。否が応でも以前アルガスで受けた水責め拷問を思い出してしまう。
それを再現して気に入らない人間に使っていた機械が、まさか自分に牙を剥くとは思いもしなかった。

「……貴女の言うようにこの子も悪人かもしれないけど、こんなに怖がってる子を痛めつけるなんて……」

「あーもーじれったいっすね!早くアンタの記憶を戻してあっしがアンタをブチ殺すんすから、レッツゴーっす!」

強引にサラの手を取ったジェシカは、そのまま水責めマシーンのスイッチを一緒に押す。


「ん、んんむうぅうう!!?」

718名無しさん:2020/03/27(金) 05:10:35 ID:UsCBJaJU
「……!」
小鳥と鶏の鳴き声が聞こえる。階下からは朝御飯のいい匂いがする。
「怖い夢だった……」
まだ震える足でなんとか立ち上がり、日常に舞い戻っていくのだった。

おわり

719名無しさん:2020/03/27(金) 22:00:30 ID:???
ぽたり。……ぽたり。…………ぼたっ

「…んむっ!!………っぐむ………ん〜〜〜〜〜っっっ!!」

「な、なにこれ……?……ただの、水………?」

「っそ。水滴拷問……これが結構効くらしいっすよ?
あっしもWikiで調べただけっすけど。
そもそも脳はすべての感覚をつかさどる超重要器官。
そこに微弱な、しかも無視できない程度の刺激を、ランダムに与え続ける……
……つーか、ついこの間アンタもされたはずっす。思い出さないっすか?」

………ぽたり。ぼたぼたぼたっ!!………
「……ひぐむっ!!…っぐむぉおおおおおぅっっ!?」

(効いてる…なんてレベルじゃないわ。始まる前の怯え方も異常だったけど、始まった直後から狂ったように暴れだして…)
「…………!!……お……思い出すわけないじゃない。……こんなふざけた事、終わりにしましょう」

拘束具を付けられた手足に血がにじんでいる。鬼気迫るサキの様子に戸惑いつつ、サラは停止ボタンに手を伸ばすが。

「ふざけた、事………?」
……ジェシカの声が、一段低くなる。

……ガシッ!!……ドカ!!
「っぐぁ……!?」
瞬時にサラに詰め寄り、片手で首を掴んで持ち上げ、力任せに壁に叩きつけた。

「あんねぇ……あっしはこれでも、大マジなんすよ。
別に、あっしのママが殺された事は、恨んではねーっすよ?
でも、あっしが復讐のため……アンタを徹底的に破壊して、ぶち殺すために生み出されたのは確かっす」

「っぐ…あ………は、なし………げほっ……」
ギチッ………ギリギリギリギリッ!!

……サラは両手でジェシカの手を引きはがそうとするが、ジェシカの手はビクともしない。
むしろジェシカは、サラの首の骨をへし折ってしまわないよう、懸命に力を抑えている様子だ。
人間と、人知を超えた魔蟲の力の差は、それほどまでに歴然としていた。

「アンタを見るたびに……あっしの身体が疼くんすよ。……あっしの中の蟲が、騒ぎ出すんす……
完全復活したアンタを、完全敗北させたい。破壊して、屈服させて、蹂躙して、絶望させたいってね……!!
あっしの牙も、爪も…あっしの体は全部、そのためにこの世に生み出された道具なんスよォッ!!」
「っぐ………あぁっ……!!」

ジェシカの瞳が妖しく輝くと、全身が甲虫の装甲で覆われていく。
両腕はカマキリの鎌とクワガタの鋏へと変化し、お尻からは蜂を思わせる鋭い針。
獲物を目の前にしながらお預けを食わされ、力を、本能を、抑えきれなくなっているのだ。


……ぐちゅっ!!
「………っ!?」
「この産卵管はぁ……クレラッパーの装甲をブチ破って、アンタの膣をぴっちりみっちり埋め尽くすように出来てるっす……
 こーんなゼロサム8Pカラーみたいなショートパンツなんて、濡れたトイレットペーパー同然っすわ!!」
「う、そ……そんなの、入るわけ……うぐあっ!!………が………あ、ぅ……っぐ!!
 いやぁぁぁぁぁぁっっ!!!」

720名無しさん:2020/03/27(金) 22:03:05 ID:???
ずぶずぶずぶずぶっ!!

「うぁああああああああああああぁぁぁっっっ!!!」

人間の腕、いや脚ほどもある極太産卵管が、サラの秘唇を容赦なく貫く。
ジェシカの言う通り、産卵管は圧倒的な密着感でサラの膣道が埋め尽くし、内側の性感帯を全部一度にこすり上げていく。

「い……やあ………♥♥…こ、れ…だ…めっ……!!………ぬい……て………んにゃああああああ♥♥!!」
しかも、特に弱い部分を狙い撃ちにするかのように、産卵管表面に微細なイボイボが絶妙に配置されている。
…ほんの少し動かしただけでも……全身を激しい悦楽が電流のごとく駆け巡り、サラの理性をあっという間に焼き尽くしてしまう。

(な、に…これぇっ……こんな、感覚…♥…しら、にゃいぃぃ……♥♥♥)
「ぃ……♥♥………ぅ……♥♥♥♥」
「痛いっすかぁ!? 抜いてほしいっすかぁあ!? そんなワケないっすよねぇ!!!
あっしの身体から出るフェロモンで、アンタの身体ギュンギュンに発情しまくってておまんこもぐっちょぐっちょで、
根元まであっしの産卵管ずっぷし吞みこんじゃってんじゃないっすかぁあああ!!」

ぐちゅっぐちゅっぐちゅっグリグリグリグリグリ!!

「あ♥あ♥あ♥あ♥ああああああッッッ!!!……も、やめてぇえええ♥♥!!ゆるひへぇえええええ!!!♥♥♥」
(だ♥♥♥だ、めぇ……♥♥♥……これ、ほんとに、だめなやつ……♥♥♥♥)

(やっぱり、むり、だったのぉ…♥♥…あたしなんかが、マリアさん、みたいにたたかう、なんてぇ…♥♥♥)

(いまの、あたしのすがた……もし……アヤメたち……みられ……たら………っぉおおおお……♥♥♥♥)

いつしかサラは、敵であるジェシカにしがみついて、許しを乞いながら獣のような咆哮を上げていた。

マリアに助けられ、クレラッパーとして戦った日々の記憶。
彩芽たちと出会い、旅をした記憶。
それらがサラの脳裏に次々と浮かび上がっては……砂のように崩れ落ちていく。

「はぁっ…♥♥♥…はぁっ…♥♥♥…はぁっ…♥♥♥」

身体が動かない。特に下半身は、溶けてなくなってしまったかのように感覚そのものがまるでなかった。
サラは自らが撒き散らしたねばつく液体だまりの真ん中で、お尻を突き上げたまま突っ伏して荒い息を吐き続ける。

「…ふん。ただの軽〜い挨拶程度で、そこまで気持ちよくなれるなんて……いい気なもんっす。
今の腑抜けたアンタなんて、ゴキブリの餌にもなりゃしない。
早く、記憶を取り戻したアンタにあっしの卵を全〜〜部ブチまけて、内臓全部食い破ってあげたいっすわぁ……」

ジェシカは産卵管をゆっくりと引き抜くと、この上なく惨めな姿で突っ伏すサラの姿を一瞥する事もなく部屋を出ていった。

後に残されたのは、骨の髄までの恐怖と絶望、そして快楽を叩き込まれ、気を失ったサラと……

「…あう………っぐ…!!……っ………!!!」
………サラ達が争っている間中、ずっと水滴拷問に晒され続けていた、サキ。
異変に気付いた舞がこの部屋に駆け付けるまで、サキは延々と地獄の苦しみを味わい続ける事となった……

721名無しさん:2020/03/27(金) 22:57:56 ID:2Y..UVLs
「こんなんじゃ全然、喰い足りねっすわ……
誰か……誰でもいいから、ブチ喰らえるエサは………」

……地下闘技場。
そこでは、トーメント王国に捕らえられた捕虜たちが闘士となり、日々過酷な戦いを強いられる。
観客達がそれを賭けの対象にし、ゆがんだリョナ性欲のはけ口にするという、まさに悪魔の娯楽施設である。

ジェシカの向かった先は、その選手控室……つまりは捕虜たちが捕らえられた牢獄だ。

「てなわけでぇ……お二人さんに相手してほしいっす。
もちろん二人まとめて、フル装備オプションマシマシの特殊能力アリアリでいいっすよ?
そのくらいじゃないと、楽しめないっすからねぇ」

「随分と、舐められたものですね………」
「良いでしょう。受けて立ちます……せいぜい後悔なさい」

勝てば捕虜から開放……という条件をちらつかせるまでもなく、『二人』はジェシカの誘いに乗った。


「赤コーナー!!
虫っぽいことは大体できる という大雑把にして最強最悪な特殊スキル持ち!
虫嫌いな人は観戦注意だ!『恐怖の気まぐれ虫娘』ジェシカー!!」

「「「ウォオオオオオ!!!!」」」
「やっちまえーー!!」
「虫子今日も世界一キモかわいいよー!!」

「青コーナー!!
シーヴァリア円卓の騎士は伊達じゃない!固い絆と完璧なコンビネーションを武器に、
無茶ぶり無理ゲー当たり前な地下闘技場を勝ち抜いてきた実力は本物!
『隼翼卿シェリー』&『睥睨卿メデューサ』……しぇりめでゅコンビの登場だー!!!」

「「「ヴァァァアアアアア!!!」」」
「なんだよ今日は普通の鎧かよー!!………アリだと思います!!」
「めでゅ様こっち向いてーーー!!!」

「実況は例によって私ジッキョー、解説はいつものカイセツさんでお送りします!!
さぁー! というわけで急遽始まりましたこのエキシビジョンマッチ!!
正体不明のインセクトガールvsどこか百合を超えたガチさを感じる危険なハードコアタッグ!
この勝負どうみますかカイセツさん!!」

「そうですねー。
しぇりめでゅコンビはシーヴァリア編後半の時点でやられ役になってたし、流れ的にも所詮かませ犬って感じですから…
たぶん次の書き手さんが1レスであっさり終わらせて終了なんじゃないですか?
それより私、聖剣3体験版と熱森をですね」

「ひひひひ……行くっすよぉぉぉ!!」
「シーヴァリア円卓の騎士の剣……」「とくとご覧なさい!!」
「「はぁぁああああああああぁぁっ!!!」」

「「「ウォォォオォォォオオオ!!!」」」
「ちょ、待ってください!そんな事言ってる間に試合が……って、これは…!?」

722名無しさん:2020/04/02(木) 20:26:34 ID:4vmvxjBI
「ウ、ヴ、ギシャーーーー!!!」

実況が驚きの声をあげるのも無理はない。
突如叫び声をあげたジェシカの下半身がブクブクと膨れ、あちこちから虫の鎌や角、牙、さらには先ほどサラを犯し尽くした産卵管が大量に生えてくる。ジェシカの下半身はそのまま大量の虫の武器を生やしながら膨張を続け……最終的には、ワームやドラゴンのような大型モンスター程の大きさにまで到達した。
元の少女の姿のままの上半身が、ポツンと残されているのが余計に不気味さを増している。

「な、何ですかあの奈落の最終形態みたいな姿は!?」

「えー、ここで、解説助手として依頼を出したフォーマルハウト様と、通話が繋がっております。現場のフォーマルハウトさーん」

「解説さん、現場にいるのは私たちです!」

『ククク、やはりこうなったか』

声を加工して正体を隠しているため、観客たちには分からないが……スネグアの声が、実況席に置いてあるパソコンから響く。

「フォーマルハウトさん、一体どういうことですか!?」

『親の仇を殺す本能を無理矢理抑えた結果、破壊衝動が爆発したのさ。今まではミシェルから貰っていた薬で本能を抑えていたようだが、彼女が消え、さらには世界を越えてようやく見つけた仇の前でお預けを食らい……簡単に言えば欲求不満なのさ。ひとしきり暴れたら姿も戻るだろう』

「なるほど、だから最近のジェシカは荒れてたんですね!」

「解説さん、フォーマルハウト様、ありがとうございました!さぁ、一気にグロい形態に進化したジェシカを前に、騎士コンビはどうするのでしょうか!?」



「はっ!!」

剣を鞘から抜きながらの居合切りを交えた、高速剣術。シェリーの得意とする戦法で、襲い来る尻尾や舌を的確に切り落とす。

「今よめでゅ!」
「喰らいなさい!」

シェリーが時間を稼いでいる間に、メデューサの蛇剣ウロボロスがジェシカの巨大な下半身を這うように進んでおり、元の少女の姿である上半身を狙う。

「ガアア!!」

だが、一見弱点に見えた部位も、薄いが硬い透明な殻に覆われていて、攻撃を阻む。

「くっ、攻撃が通らない……!」

「こういう時にベルガやデイヴがいれば、助かるのだけれどね……」

「ないものねだりをしても仕方ないわ。何とか私が攻撃を通すから、しぇりはその間私を守って!」

「ええ!」

異形と化した少女と、二人の女騎士の戦いは続く。



そして、それと同じ頃……



「ふぅ、何とか忍び込めたな……みんな、このまま観光客になりすましつつ、捕まった仲間たちを……」

「あ、トーメント名物のクッコロポックル人形とかハーラーブレッドとか買ってこうぜ!アゲハ用に、ヤヨイ用に……テンジョウ様にはスケベーカリーでいいか」

「女の子の肌の柔らかさを再現したサンドバッグから転じて、滅茶苦茶人肌の暖かさに近い布団があるらしいなり!これで旅先でも安眠間違いなしなり!」

「この無骨なメリケンサック、あたしの趣味ピッタリだ……中々どうして、悪くないじゃないか、イータ・ブリックス」

「いやガチで観光を楽しまなくていいんだよ!?」

喧しい4人組も、王都に到着した。

723名無しさん:2020/04/05(日) 16:03:06 ID:???
「………あれ………ここ、は………?」
サラが目覚めると、そこは見知らぬ部屋のソファの上だった。
体を起こして周りを見渡すと、近くのベッドには、サキがすやすやと寝息を立てている。
その横に控えているのは、柳原舞………ジェシカが去った後、二人を救出したのは、言うまでもなく彼女である。

「目が覚めたわね。ここは、私たちの隠れ家の一つよ。
……サキ様のついでに助けてあげたんだから、感謝しなさい」

「そう……ありがとう。………あの虫女は?」
「地下闘技場で、捕虜相手に暴れてるわ。ちょうどTVで中継されてる」

─────

ガキンッ!!ザシュッ!!ズバッ!!
「キャーーハハハハハハ!!
ムダムダムダムダムだっすよぉおお!!二人とも、あっしの蟲に喰われるっすァァアアアアア!!」

「くっ……まだ、まだ……このくらいでぇぇぇっ!!」
「しぇり、あぶないっ!!戻れ『ウロボロス』っ……!!」

「さあー大変なことになってきた!!
ムシムシ大行進状態のジェシカの猛攻を、しぇりめでゅコンビが鉄壁のコンビネーションで防ぐ!かわす!捌き切るぅぅ!!」

「ジェシカの発狂モードは、ますますヒートアップしています!
対するしぇりめでゅコンビは、今のところほぼ防戦一方!!
スタミナが尽きる前になんとか有効打を与えたい所ですが、あの怪物相手にはそれも難しいでしょう。
当然その後は、お約束コースへ一直線……」

「いわゆる時間の問題ってやつですね!その時を今か今かと待ちわびて、会場のボルテージもうなぎ上りであります!」

─────

「もう、いいわ………消して」

圧倒的物量の蟲の海に、徐々に飲み込まれていく二人の女騎士。
その光景を見たサラの表情からは、完全に血の気が引いていた。

「厄介なやつに目を付けられたみたいね……それで、どうするの?
本来、アイツの狙いは貴女なんでしょ?」

「私に、どうしろって言うの………今の私じゃ、あんな奴に敵うわけない。
……この世界に来て、つくづく思い知らされたわ。
マリアさんから『クレラッパー』の力を受け継いで、強くなったつもりでいたけど……
結局あの頃から、私は何一つ変わっていなかった。
彩芽や唯達…この世界に連れ去られた子を助け出すつもりだったのに、逆に助けられたり、足手まといになったり。
……私一人じゃ、結局何にもできない……」

「『どうしろ』、なんて言うつもりはないわ。『どうする』のか、聞いてみたかっただけ。
そもそも最初に出会った時点で私より弱かったあなたが、一人で出来る事なんてたかが知れてる」
「……言ってくれるわね」

サラは、舞と初めて遭遇した時のことを思い出した。
ほとんど何もできずに一方的に叩きのめされ、彩芽やアリサの助けで難を逃れた……サラにとって、苦い過去の一つである。

「でも正直あの時、あなたが羨ましかったわ。私はあの時『一人』だった。……だから、敗れた」
「…………。」

「……悪いけど、私たちはこの後、フォーマルハウト隊の指揮下として従軍する事になってる。
この隠れ家は引き払わなきゃいけないし、サキ様が目覚める前に出て行ってもらうわ」

今のサキと舞の立場では、脱走捕虜であるサラを匿うだけでもかなりの危険を伴う。
味方のはずのトーメント兵たちは信用できないし、この隠れ家も、いつ危険にさらされるかわからない。
まして、サキが気絶しており、サラを助けたのは完全に舞の独断……一時的に匿うだけでも御の字と言うべきだろう。

「……私にだって……今やるべき事くらい、わかってる。でも……」
ゆっくりと立ち上がり、体の調子を確かめ……部屋を立ち去ろうとするサラ。
だがその時……

(良いじゃなぁい……あの蟲娘ちゃんなら貴女を確実に、グッチャグチャに嬲り殺してくれそう♥
そして、貴女の魂は晴れて私の所有物になるってわけね♥……フフフフフ……)

……サラの頭の中で、忌まわしい悪魔『アージェント・グランス』の声が囁いた。

724名無しさん:2020/04/05(日) 20:07:38 ID:???
「う、ぅ……!」

頭を抑えてふらつくサラ。だが耳を塞いでも、悪魔の声は変わらずに聞こえて来る。

(多分蟲娘ちゃんはお留守番だろうから、貴女を助け出そうとしてる『あの子』たちと戦いになるでしょうね。
そしてそれを見てられなかった貴女はぐちゃぐちゃに殺されるか、私と本契約する……どちらにしても魂は私のものね♪)

「あの子……?まさか、アヤメが……?」

「ちょっと、大丈夫?」

突然ふらついてブツブツと独り言を言うサラに、訝しげな目線を送る舞。


「え、ええ、大丈夫よ。ごめんなさい……それと、助けてくれてありがとう」

頭を抑えながらふらつく足取りで今度こそ部屋を出るサラ。そのまま、内なる声と会話を試みる。

「なぜ、そんなことを知っているの……?」

(ふふん、悪魔の力を舐めないことね。戦争の予兆であちこちに邪悪なマナが漂っている今、私に分からないことなんてないの)

「じゃあやっぱり、アヤメやアリサたちが、私やサクラコを助けに?」

(アヤメちゃんはいるみたいだけど、他は知らない子だわ)

「そう……今アヤメはどこにいるの?」

(そこまで教える義理はないわ。自分で探すのね……でも特別に、『足』を用意してあげたわ♪)

その声の直後、どこからか聞き慣れたエンジン音と共に、サラの目の前にバイクが無人で走ってきた。

「これは……」

アージェント・グランス。悪魔の化身。
サラがトーメントに捕まった時にナルビアのスパイがどさくさ紛れに盗み……それをまた彩芽が盗んだもの。
彩芽が持っていたはずだが、独りでに走り出し、今こうしてサラの前に戻ってきたのだ。

ブレスレットがないので変身はできないが……それでも移動手段があるのとないのとでは、大違いだ。

「ジェシカと戦うかは今は置いておいても……何もしないわけにはいかないわよね」

戦争の時は近い。彩芽たちが行動を起こすとしたら、その時だろう。それまでに覚悟を決めることができるか……今回も運命の戦士たちに任せきりになってしまうのか……


一抹の不安を覚えながらも、サラはバイクに跨って、当てもなく走り出した。

725名無しさん:2020/04/11(土) 21:42:51 ID:???
「「たあああああぁぁっ!!」」

爪、鎌、産卵管、その他さまざまな蟲触手の大群を、次々に切り伏せていくシェリーとメデューサ。
虫たちの圧倒的物量に圧され、このままでは埒が明かないと、ここに来て二人は攻勢に転じていた。

「クックック……そう来なくっちゃっす……GGRRRRRRRAAAAAA!!!」

「「「ジュルルルルルルッッッ!!」」」
臆することなく向かってくる二人に、蟲触手の大群が襲い掛かる。

「甘いわっ!!」
シェリーは必要最小限の動きで行く手を塞ぐ触手を切り捨て、血路を切り開く。

「「ブオォォォォォォンッ!!」」
更に空中からは、毒蜂、甲虫、吸血羽虫などが群れを成す。

「こんな物で……私たちは止められないっ!!」
メデューサが鞭剣を振るい、迫りくる虫たちを次々と撃ち落としていく。

……足元に無数の蟲の死骸が散らばる。
飛び散る毒液が白銀の鎧を汚し、体力を削っていく……だが、二人は速度を緩めることなく走り、
一気にジェシカの本体へと迫った。

「奴の防御壁を破るには……」
「……私たちの、最大火力をぶつけるしかない。行くわよ、しぇり!!」

「サーペンツ・ペネトレイション!!」
「ヴァンダーファルケ・クライゼン!!」
……バキィィンッ!!

メデューサが鎖剣をドリル回転させながらの鋭い刺突。それに合わせて、シェリーが目にも止まらぬ連続切りを繰り出す。

「ヒヒヒヒ……あっしの『シェルターウォール』は、クロカタゾウムシ級の硬度を持つっす。
アンタら程度の力じゃ、貫けないっすよ」

「それは……どうかしらっ!!」「出でよ、翼ある蛇……」
「「ケツァル・コアトル!!」」

……ビキィィンッ…………!!
「おぉっ!?」

シェルターウォールに突きたてられた二本の剣の切っ先から、竜を象った雷撃が発生する。
雷の竜はシェルターの外殻にぐるぐると巻き付き、激しい熱を放った。

「あっちゃぁ……こりゃちょっと、ヤベー感じっすねぇ」

シェルター内部の温度が急上昇し、ジェシカの笑みが引きつり始める……

「ふ……確か、虫は炎に弱いんだったかしら?」
「このまま丸焼きにしてあげるわっ!!」

ドガアァァァァッ!!!

「………っ!!」
シェルター内で激しい爆炎が巻き起こり、その衝撃で外殻が粉々に砕け散った。


「おおおおっ!!なんと、大番狂わせ!!かませ犬かと思われたしぇりめでゅコンビ、強烈な一撃!!
ジェシカの上半身を……いや。ここでやったか!?とか言っちゃうと、大概フラグなんですが……」

煙が徐々に晴れ、シェルター内部の様子が徐々に明らかになる。
そして……シェリーとメデューサが目にしたのは、本体から切り離され、黒焦げになったジェシカの上半身の残骸だった。

「……どうやら、死んだみたいね」
「厄介な化物だったわ……倒せたのは貴女のおかげよ、しぇり」
「ふふ……めでゅの方こそ。貴方が背中を守ってくれるから、私はまっすぐ前を向いて戦える」
シェリーとメデューサは、手を取り合って、イチャイチャと互いの健闘を称え合う。
だが……

(どくん………どくん………)
巨大な昆虫の下半身は、未だ不気味に脈動していた。

726名無しさん:2020/04/11(土) 22:17:43 ID:???
「決着ーー!! 巨大昆虫触手怪物と化したジェシカ選手でしたが、
シェリー&メデューサの合体技によって焼却されてしまいました!!」

「ジェシカ選手の蟲触手攻撃も圧倒的な物量でした、が……
それを掻い潜って本体に接近できたのは、二人の絶妙なチームワークあってこそ。
そして、最後のあの大技。実に見事と言わざるを得ませんねこれは」

「おおーい!まじかよぉお!大穴じゃねーか!!」
「くっそあああ!!俺の全財産がぁぁぁ!!」
「いやぁぁぁ!!今日こそめでゅ様の泣き叫ぶお顔が見られると思ったのにいぃぃ!!」

悲鳴と怒号に包まれる大観衆。……どうやらその大半は、シェリーとメデューサが負ける方に賭けていたらしい。

「まぁ、ここの連中らしい、というか……ほっといてさっさと帰りましょう」
「そうね、めでゅ……蟲の体液で下着までぐちゃぐちゃ。早く帰って……」
「ええ。久々に、ゆっくりシャワーでも浴びたいわね。しぇり……」

「クックック……そうは問屋が卸さないっすよぉ」
「「きゃぁあっ!?」」

手を取り合いながら、巨大虫の下半身から降りようとする、メデューサとシェリー。
だがその時。
新たな『手』が二人の足元から突然生え、がっしりと足首を掴んだ!!

「うっ……嘘……こんな事って……!!」
「何よこれ……一体、どうなってるの……!?」

「言ったはずっすよぉ?あっしは、虫っぽい事なら大体できるって………」

巨大虫の身体を突き破って現れたのは、二人のジェシカ。
シェリーとメデューサの身体にムカデのごとく巻き付きながら、カギ爪や触手で手足を絡め捕っていく。

……それだけでは、ない。

「キヒヒヒヒ……あっし『達』を倒したと思いました?甘いっすねぇ……」
…3匹目、4匹目。

「駆除したと思ったらわらわら大量に出てくるのって、虫っぽくないっすか?」
…次々に、巨大虫の残骸を食い破って新たなジェシカが二人の前に姿を現す。

「昔からよく言うっすよねぇ…」「…一匹見たら、30匹はいると思えって」
「しぇ…しぇりっ……」
「めでゅっ…!!」
つないだ二人の手が、力任せに引きはがされる。
分断されたシェリーとメデューサを、それぞれ十数匹ずつの殺戮昆虫が取り囲んだ。

「さぁ、第2ラウンドの、始まり…」
「いや……終わり、っすかねぇ?」
「「「ギヒヒヒヒヒヒヒッ!!」」」

727名無しさん:2020/04/12(日) 20:44:13 ID:???
「久しぶり、マスター……『オリジナルカレー ハチミツ抜き ガラムマサラマシマシ』で」
「ほう、『白銀の騎士』様か、久しぶりだな。……生きていて何よりだ」

「え……ええ。あれから、色々あって……この店も、まだ営業してるとは思わなかったわ」

……サラが訪れたのは、イータ・ブリックス城下にある宿屋兼酒場、『邪悪にして強大なるワイバーン亭』。
その裏では『情報屋』としての側面も併せ持ち、サラがこの世界に来て間もない頃にはよく利用していた。

「ふん……俺もしばらく留守にしていたからな。……で、何が必要だ?武器か、それとも情報か」

一方、店主の男……『竜殺しのダン』も、唯たちと別れた後、つい最近戻ってきたばかり。
今は連合国陣営からの要請を受け、来るべき『戦争』に備えてトーメント王国内の情報を収集している。

「アヤメ・フルガキ…彼女がこの町に潜入していると聞いたわ。詳しい情報があったら教えて」
「ああ、あいつか。実は、この店で落ち合う事になっていたんだが……想定外の事態になってな」

そう言って、ダンがTVを付けると……映し出されたのは、闘技場の試合中継。
そこには先ほどサラが観た時よりも遥かに凄惨な、地獄絵図が繰り広げられていた。

─────

バキッ!メキッ!!
「やっ……やめてっ……ひっ!!」
シェリーは蜂型に変化したジェシカの一群に捕らえられ、空中で磔にされていた。
元々騎士の中では軽装だったシェリーの鎧は簡単に引きはがされる。

「さっきは、アンタらに」「あっし達の分身が、お世話になったっすからねぇ……」
「お礼に、じっくり時間をかけて」「たっぷりと、いたぶってあげるっすよ」

そこに他のジェシカ達が何匹も群がり、太くて長い毒針を次々と突き立てた。
ドスッ!!ザクッ!!ブスッ!!
「いやああっ!!ふぐうっ…!!……め、めでゅっ……助け……うごぉあああぁ!!!」
薄手のハイレグレオタードはあっという間にボロボロにされ、鮮血で真っ赤に染め上げられていく……

「しぇりっ!!くっ……あなた達……絶対に許さないっ!!『邪眼発動』……」
「おっと……ヤらせないっすよぉ?」
ビュッ!!

「きゃぅっ…!?」
石化能力を発動しようとしたメデューサだが、髪に隠れた『邪眼』が見開かれた瞬間……
横からジェシカの毒液が浴びせかけられた。

ジュゥゥゥゥゥッ……!!
「っいやぁあああぁぁぁっ!!…目……私の、目が……!!」
「別に一体や二体、石にされたところで、痛くも痒くもないっすけど…」
「……やっぱ多少はムカつくっすからね」
「アンタらのターンは……もう永久に回ってこないっすよ。ククク」

毒液に焼かれ、目が見えなくなったメデューサも、ジェシカたちに捕らえられてしまう。

「こっちは、相方ちゃんの目の前で公開産卵ショーといくっすかね……ひひひひ!」
「『本命』の前に、あんまり無駄打ちするのもイヤっすけど……」
「減った分は増やさせてもらうっすよぉ?」
「産卵、って……そんな……いっ、嫌ぁぁああああああああ!!!」

シェリーに比べて重装備なメデューサの鎧も、ジェシカ達の手に掛かればさしたる違いはない。
ロングスカートを引き裂かれ、腰部装甲は粉々に噛み砕かれ、サラを犯した時と同じ、極太の産卵管が鼻先に突きつけられる。

「がはっ………う、ぐ……やめ、なさい……め、でゅを……放せ…!」
「しぇ、りっ………うぅ……お願い、見ないで……!!」

「見えなくても大きさがよくわかるように、体中にスリスリしてあげるっすよ……けっけっけ」
「ほれほれ。抱き着いて、感触を確かめてみるとイイっす……!」
「ひ………!!」
(やっ……すっごい、太い……熱くて、脈打ってる……こんなの、無理よ……入るわけ、ないぃ……)

「ウォォオオオ!!いいぞ虫女ー!!」
「いけいけー!!ヤっちまえーーー!!」
「キャァァァァめでゅ様素敵ィィぃ!!私も犯したーい!!」

百合NTR+虫産卵の危機を迎えたしぇりめでゅコンビに、会場の熱狂は天井知らずに高まっていく。

─────

「…………。」
一方、中継を見てしまったサラは、今まで以上に顔色を失っていた。
あの偏執的な破壊衝動が、もしまた、自分に向けられたら……そう思うと、体の震えを抑えることができない。

「あの二人は、シーヴァリア所属の聖騎士だ。いずれ隙を見て、救出してこっちの戦力に加えるつもりだったんだが……」
「仕方ないわ……あのジェシカってやつは、正真正銘の化物よ。……勝てるわけない」

「おかげで………予定が早まっちまった。アヤメ達は、既に二人の救出に向かってる」
「なん…ですって……!?」

…ダンの予想外の言葉に、サラは思わず目を見開いた。

728名無しさん:2020/04/18(土) 15:56:05 ID:???
「ぐっへっへっへー。男好きするいいボディっすねぇ〜。鎧で隠すなんて勿体ないっすよぉ」
「んっぐ…!!……う、っむ……ん、ぁぁんっ……っぐぅっ…!!…」

ローブと鎧を引きちぎりながら、下卑た笑い声をあげるジェシカ。
口を塞がれ、苦し気にうめく事しかできないメデューサ。
割れんばかりの大歓声と衆人環視の元、女騎士の身体を苗床とした悪夢の産卵ショーが繰り広げられていた。

目に毒液を浴びせられ、両手を蜘蛛糸で拘束された状態で、
咥内膣内菊穴耳穴……全身至る所に、太ささまざまな産卵管が差し込まれ、大量の虫の卵が注ぎ込まれる。
…文字通り、細身な身体がはちきれんばかりに。

「いいぞもっとやれーー!!」
「たまんねぇなぁ……あの女騎士、鎧の下はとんだドスケベボディだぜ!!」
「ああ、私のめでゅ様が……あんな無様で惨めな格好で、誰とも知らない虫の卵を孕ませられて、……最、高……」

「やめ…て………やるなら、私をやりなさいっ……彼女は……めでゅは……うぅ……!!」

その様子を、特等席で見せつけられているのは、パートナーとして共に戦っていたシェリー。
だが、ジェシカ達の針や鎌に全身を刺し貫かれて身動き一つできず、目の前で犯されていく親友を観ている事しかできない。

「ひっひっひ……彼女は…何だっつーんすかぁ?…大体予想はつくっすよぉ〜?
こんなエロい体と顔してるくせに、ガッチガチに鎧でガードしてるようなタイプって…
よほどのムッツリドMか、男嫌いか……」

「……見ない、で……おねがい……見ないで……」
「おんやぁ?………これは、隷属の刻印……なるほど、そういう事っすか……ひっひっひ」

メデューサの背中に刻まれた刻印を目ざとく見つけ、ジェシカが口元をゆがめた。
その時……


……ブツンッ!!

会場内の照明が、一斉に消える。

「おおーっと!?これは一体どうした事でしょう。真っ暗になってしまいましたよカイセツさん!?
 ただいま入った情報によりますと……どうやら、会場内のシステムがハッキング攻撃を受けているようです!」

「これは、まさか……近頃世界各地で暗躍しているという、スーパーハッカーAYMの仕業でしょうか!
だとすると、犯人が更に何かを仕掛けて来るかもしれません!!」

「おいおいマジかよぉぉーー!」
「騎士のねーちゃんが見えねーぞーー!!」
「くっそぉ…スーパーハッカーAYMめ!!お前が美少女だったらレイプしてやる!!」
「ふっふっふ……こんなこともあろうかと、望遠カメラの暗視機能でめでゅ様の艶姿をばっちり(ry」


「ん〜?誰だか知らないけど、乱入なら大歓迎っすよぉ?
……ちなみにあっしは虫っぽいこと大体できるんで、暗闇なんて何の目くらましにもならないっす」

辺りが闇に包まれ、観衆がざわめき始めた。

「ずいぶん有名だなスーパーハッカーさん」
「通称が糞ダサくて草なり」
「ボクが名付けたわけじゃないんだけど……そんなことより、第1作戦ゴーだ!!」

「おっけー!……でやっ!!」

物陰に潜んでいたノーチェが、ボールのようなものを、思いっきり投げる。
「『アヤメカイNo.089 バーニング照明弾』……発火!(ハッカーだけに)」

(ドーーーーン)
放り投げられたボールは、ちょうど試合場の真上あたりで突如爆発し、太陽のごとく燃え盛った。

「っお!?びっくりしたっす……何なんすか、あれ……は……?…」


闇の中で赤々と燃える光源。
ジェシカは、それを見ているだけで……魂が、光の中に吸い込まれていくような感覚を覚える。

ぶぉぉぉおおおおおおん………

「「ギエェェェェェ!!!!」」
「………は!?……っうおっ!!あぶねっす!!」

気が付いたら、ジェシカ達は一斉に羽を広げて、燃え盛る謎の火球に向かって一直線に飛んでいた。
飛び込んでしまった数匹の悲鳴で、残りのジェシカ達は何とか我に返る。
走光性……光に集まる虫の性質を利用した罠である。

「よし、今のうちだ!二人を回収して……」
「秘密通路で地下道に逃げるなり!」

キリコが格闘場の壁を叩くと、まるで忍者屋敷のように壁が回転して通路が現れた。
昔々は、唯やアリサ達も蟲から逃げるために利用した事があるという、由緒ただしい通路である。
塞いどけよって言いたくなるけど、それは置いといて……

「やってくれたっすね……絶対、逃がさないっす……!!」

729名無しさん:2020/04/18(土) 19:52:50 ID:wOstanUQ
「あーくそ!メデューサの奴重いんだよ!!主に胸が!チクショウめ!!」

「お前が一番パワータイプなんだから我慢しろ!ちなみにシェリーは割と軽いぞ!」

「一番大荷物なのは撃退アイテム持たされてる私なり!あ、でも毛布で包んで浮かせてるから重くはないなり」

「えーと、次の別れ道を左に曲がって、2つ目の牢屋を壊してショートカットして……」

ノーチェがメデューサを、キリコがシェリーを抱え、コルティナはアヤメカイNo.64「殺虫カンシャク玉」をばら撒き、彩芽は眼鏡にインプットされた地下道の地図を見ながら最短経路を指示する。

役割分担しつつ順調に逃走していた一行。このまま首尾よくダンの店まで行けるかと思ったが……そう、上手くはいかない。

「ひっひっひ……地下は虫の巣窟と、相場が決まってるっすよー!」

「くっ……みんな!こっちだ!」

熱感知で正確に一行の位置を把握したジェシカが、カンシャク玉をものともせずに後ろから凄まじいスピードで追走してくる。
さらには、地下の虫たちが密集して彩芽たちの前に文字通り壁になって立ち塞がり、カンシャク玉で撃退する暇もなく、彩芽はやむを得ず逃走ルートを変える。

「ヤバいなりヤバいなりヤバいなりーー!このままじゃとうとう私たちもリョナられちゃうなりー!」

「キリコとコルティナはミツルギ編とルミナス編でそれなりにリョナられてたから手遅れだろ!」

「ノーチェてめぇ!一人だけ後方師匠キャラとかいう美味しい上に安全な位置につきやがって!」

「ふん!何とでも言え!多分今回も追い詰められたところでメインキャラが颯爽と助けに来てそいつがリョナられるパターンだし、私だけはリョナとは無縁に逃げ……おわぁ!?」

自分だけは助かる!という映画とかだったら死亡フラグな台詞を言った直後……ノーチェが突然転ぶ。
別に足を滑らせたわけではない。ノーチェに抱えられたメデューサが、いきなり後ろに体重をかけて転ばしたのだ。

「いってぇ……おいゴルァ!なにしやが……る……」

「ハァ……ハァ……!」

押し倒された格好のノーチェが文句を言うが、それは徐々に尻すぼみになっていく。
どう見てもメデューサの様子がおかしい。さっきまで犯されていた事を鑑みても、息が荒すぎるし頬も上気している。

そして何より……毒液で焼かれたはずの目が、まるで昆虫類かのような複眼になって復活していた。

730名無しさん:2020/04/24(金) 03:23:39 ID:tsrYPuAA
「ヴヴヴ……ヴヴヴ……!」

ノーチェの背から転がり落ちたメデューサは、焦点が合っているのかもわからない複眼をギョロリと回しながら手を擦り始める。
それは明らかに人間の動きとは思えない、異質で、奇妙で、不気味なものだった。

「うえぇなんだこれ……!キッショ!円卓の騎士の中で1番のセクシー度を誇るメデューサが 、こんなになっちまうなんて……」

「ずっと某ロボットアニメの略称みたいにヴヴヴ言ってるなりよぉ……!これ、一体どうするなりか……?」

「どうするもこうするもこうなったら無理だろ!相手してたらあの親玉が来るし、シェリーだけでも連れて行くぞ!」

判断の早いキリコの言葉にうなずくノーチェとコルティナ。なんだかんだで1番人間のできているキリコの意見に従うことが多い2人であった。



だが──



「ダメだ。メデューサさんも助けないと……ちょっと気が引けるけど、ここで大人しくさせよう」

「ななな!?この状況で時間使うつもりか!?もうあいつはすぐそこまで来てるんだぞ!」

「そもそもの目的は、シェリーさんとメデューサさんの救出がメインクエストだよ。それを達成できないまま帰るわけにはいかない….この選択で今後の展開が変わるかもしれないし」

「………?ええっと……何て?ドラゴンクエスト?今後の展開?」

「……いったい何言ってんだこいつは……まあでも、最初の方に言ってた2人を助けるために来たのはそうだけど……」

「そ、そ、それに……なんか妙〜に説得力あるなり!これがメインキャラの発言力、スピーチスキルの力なりか……!」

異形と化したメデューサを諦める選択肢を捨て、アヤメカの入った鞄に手をかける彩芽。
以前の自分ならこんな危ない橋を渡ることはなかった。
迷わず逃げていた。
自己保身第一、いのちだいじにが1番大事な作戦だ。
そんな彼女を変えたのは、これまでの経験と、最近ヴェンデッタ小隊内で話題になっている第7部隊の活躍だった。



(唯……君は仲間を見捨てなかった。だからみんな君を信じて戦って、プラント作戦が成功したんだろ?……なら、君と同じ運命の戦士とやらのボクも、ここで頑張ってみるさ……!)



「ヴヴヴ……ヴヴヴヴヴ!!!」

「来るよ!3人とも気をつけて!」

初めてリーダーシップを取った彩芽の声が、地下水道に響き渡る!

731名無しさん:2020/04/25(土) 17:27:32 ID:???
「ギシャァァァァァ!!」

メデューサの腕がサソリの尻尾のような異形に変化。
伸縮させながら、毒針攻撃を連続で繰り出してくる。
その太刀筋は、彼女がかつて得意としていた『蛇剣ウロボロス』を彷彿とさせた。
しかもあの頃以上に速く、重く、そして毒!

ビシッ!! バチン!! ガキン!!

ノーチェは渋々ながらも覚悟を決め、手甲『ストレングス・イズ・ザ・パワー』で攻撃を捌いていく。

「ったく、マジでやるのかよ!唯と言いコイツといい……異世界人ってのは、どいつもこいつもバカばっかりか!」
「それをお前が言うか……『くるみ』ちゃん」
「うっさいなーもう!!」

そこへキリコが横からツッコミを入れる。
そう。ノーチェの本名は「名栗間 胡桃(なぐりま くるみ)」……彼女もまた、異世界人なのであった。

「いっくぞおらぁぁああぁ!!」

(だいたい仲間っつってっも……私コイツの事あんまり好きじゃなかったんだよな。
新人とか後輩とか、平気でリョナって喜ぶようなヤツだったし………)

─────

(……ガキンッ!! ギュルルルルッ!! ザシュッ!!!)
「っきゃあああああああぁぁっ!!!」

「こんなものですか、リリス………
防御力だけは大したものですが、その亀のような鈍足では、私の『ウロボロス』の格好の餌食ですよ。
こうして全身を絡め捕って、隙間から刃を入り込ませて………」

(ギチギチッ……ギシッ………ずぶり!!)
「んっ………く………うっ、っぐあああああっ!?」

「ふふふ……このまま内臓を引きずり出してあげましょうか?
そもそも、この程度の実力で、円卓の騎士の末席に加えられるなんて……おかしいと思わなかったんですか?」

「はぁっ……はぁっ……ど、どういう、ことですか…!?」

「リリス・シヴリス。経歴書によれば没落貴族シヴリス家の子女。
騎士養成学校を優秀な成績で卒業したそうですが……シヴリスなんて貴族は聞いたことありませんわ。
あなたは一体、何者ですの?………と言っても、司祭様もおおよその見当はついているようですけどね」

「あの……おっしゃっている意味が、よく…っぐ!!……っう、あああぁ!!」

「これは、模擬戦の名を借りた尋問……いや、拷問。
貴方が心底から屈服するまで……徹底的に嬲って差し上げますわ、お姫様?」

「姫…?……い、一体、何の話…あんっ!!…きゃあああああ!!」

「………あーもう。うるせえな、おちおち昼寝もできねーじゃんか」
「貴方は…『鉄拳卿』ノーチェ…誰も来ないはずの、円卓の騎士専用地下訓練場に、なぜ貴女が!?」

「いやサボってたんだけど…………おい、そっちの新入り!」
「え?わ、私ですか!?」
「お前たしか、さっきコーラ買って来いって頼んだよな。覚えてねーけど頼んだ気がする!
グズグズしてねーで、さっさとキリコ達からも注文取って来い!」

「で、ですが私は……」
「何を勝手なことを。まだ拷問 …もとい、模擬試合は終わって」
「グダグダ言ってねーでさっさと買って来い!モタモタすんな!駆け足!!」
「は、はいっ!!」

─────

「いやー、懐かしいなぁ。……とか言ってる間にメデューサの懐まで潜り込んだぜ!」
「シャゲァァァァァッ!!!」
「こいつ……リョナシーンを回想内の他人に押し付けやがった」
「その発想はなかったなり」

「まあでもアレだ。そんな感じに、一番こっぴどくヤられてたはずのリリスの奴が…
コイツらの行方をマジで心配して、必死に探して、あたしらに『絶対連れて帰ってくれ』って頼んだわけで。」

「器がでかいのか、お人よしなのか……
世界を救ってやろうってな連中の考えは、あたしら庶民にはおよびもつかねー、ってな!」
(…ザシュ!!ザクッ!! ズバッ!!)
新たに伸ばされた触腕が、キリコの『千斬』で瞬く間に斬り落とされていく。

「……ギィィィッ!!」
追い詰められたメデューサは、目を大きく見開いた。
もともと持っていた邪眼の能力……それを、昆虫の複眼で増幅させた、全方位石化光線が発射されようとしている!!

「かくして我々『グータラ三姉妹』は、頭お花畑な女王様の元、平和なよの中で平和にグータラするために……
しょーがないから、たまにはちょっとくらいお仕事するなりよ。『ダークスモーク』!」

……短い詠唱から放たれた、コルティナの魔法。黒い煙が、ピンポイントにメデューサの視界を覆い隠す。

(すごい……この三人、ふだんはグダグダ言ってるけど、息がピッタリじゃないか…!)
メデューサの攻め手を次々塞いでいく完璧な連携に、
後ろで見ていた彩芽も思わず舌を巻く。

「ってことで、さっさと目ぇ覚ませ!!峰打ちアッパー!!」
「ギァァァァァアァァッ!!!」

732名無しさん:2020/04/26(日) 12:16:36 ID:???
(ドゴッ!! ズドン!!)
「ギァァァァァアァァッ!!!」

ひとたび近づけば、『鉄拳卿』ノーチェの必殺の拳に砕けぬものはない。
何がどう峰打ちだったのか全くわからないが、とにかくメデューサは昆虫っぽい外甲を粉々に砕かれて戦闘不能に陥った。

「ギ、ギギギ……」
「…目ぇ覚まさないじゃん。しゃーない、今のうちにふんじばっとこうぜ」
「まあ単に殴っただけだしな。元祖虫女が来る前に、とりあえず移動しよう」
「まだ虫要素が抜けきってないし、安全なところで治療しなきゃなり」
「そうだね……でも、ボクが言いだしといてなんだけど、ここまで虫化しちゃって、ちゃんと治るのかな」

「つーか、無理だろ治すの。いっそ一回死なせちゃえば『王様のところで復活』するんじゃね?」
「いやー……ボクも殺されて復活した事はあるけど、あれはお勧めできないよ?
痛いし怖いし、血がいっぱい出るし、所持金半分になるし、何よりトーメント王にどんな事されるか」
なお我らが主人公は移動手段に使っていた模様。

「………アイツなら、何とかできるかもな」
しばらく考えた後、ノーチェがぼそりとつぶやいた。

「アイツって……もしかして、あのヒーラータンク女なり?」
「いたなー。そういやミツルギでちょっと会ったわ…でもあいつ、今どうしてるんだ?」
続いてコルティナとキリコも、彼女の存在を思い出す。

騎士志望の天才ヒーラー少女、ミライ・セイクリッド……
グータラ三姉妹も以前戦った事があったが、その反則じみた回復魔法には心底ウンザリさせられたものだった。

ただ一つ、問題があるとすれば……

「……聞いた話じゃ、ミライはトーメント攻略軍の一員に加わってるから……
今シーヴァリアから進軍中で、間もなくヴァーグ湿地帯へ辿り着く。戦闘が始まる前に合流できりゃいいんだが……」
「……あんまり時間はないって事か。……今はひとまず、安全を確保しよう」

ふたたびメデューサとシェリーを担ぎ上げ、地下水道をひた走る4人。
目指すダンの店は、あと少しのはずだ。

─────

「……ってなわけで、一応救出には成功したらしい。
アヤメ達は、もうすぐここにやってくる……下手すりゃ、例の虫女も一緒かもな」
「そう……今度出くわしたら…間違いなくバレるでしょうね。私の記憶が、戻ってる事」

ダンとサラは、酒場の地下室…下水道への秘密の出入り口の前で、彩芽たちの到着を待っていた。
その時……

「うわあああああああっ!!」
「出たなりーーーっ!!」
「くっそ、たまにゃーやる気出すかと思ったら…やっぱフラグかよぉぉおお!!」

通路の奥から、叫び声が聞こえてきた!
……どうやら「最悪の事態」が起きてしまったらしい。

「避けられない運命ってのは……どんなに逃げた所で、しつっこく追ってくるもんだ」
「ええ、わかってる………立ち向かうしかない、って事ね」

「…………。」
耳元で、また悪魔が何事か囁いていたが……サラはもう耳を貸さない事にした。

733名無しさん:2020/04/26(日) 13:05:14 ID:???
時は僅かに巻き戻り、彩芽たちが逃走している間……

「っ!おいコルティナ!ちょっと持つの変われ!」

「え?ちょ、へぶっ!」

抱えていたメデューサをコルティナに投げ渡したノーチェは、近くの地下牢に駆け寄ると、馬鹿力で扉を開いて中に入っていった。

「おいノーチェ、何してる!早く逃げないと……!」

「うるせぇ!!」

止めるキリコを大声で一喝すると、ノーチェは地下牢の中に横たわれていた『死体』に駆け寄り、かき抱いた。

「ああ、くそ、どっかでおっ死んでるとは思ってたが……こんな所にいたのかよ、華霧……!」

「……ノーチェさん、ひょっとして、知り合い……?」

いつになく悲しげな声を出して死体を抱きしめるノーチェに、彩芽が恐る恐る声をかける。

「ああ、私の……友達だ。この世界に来てすぐ、はぐれたんだ……クソッ!モブ顔だから王も蘇生しなかったのかよ!」

ノーチェの腕の中にいるのは園場 華霧(そのば かぎり)……かつてルミナスとの戦争の前に、魔喰虫たちの餌にされて死んだモブである。

「なぁ、こいつも連れてっていいか?どっかで眠らせてやりたいんだ」

「いい話っすねー、不可能ということに目を瞑れば……なんつって!」

その時、突然ジェシカの声が響いたかと思うと……華霧の死体から伸びてきた鎌が、ノーチェの体を貫いた。

「が、はっ……!?」

「きっひっひ……『死体から沸いてくる』っていうのも……中々に虫っぽいっしょ? こいつの死体、ちょうど虫にやられてたっすし」

鎌に続いて全身を現したジェシカが、思いっきり鎌を振りぬいて、ノーチェを彩芽たちの方へ吹き飛ばす。

「うわあああああああっ!!」
「出たなりーーーっ!!」
「くっそ、たまにゃーやる気出すかと思ったら…やっぱフラグかよぉぉおお!!」

「ひーひっひっひ!!逃さないっすよぉ、このまま虫の苗床にして、あっしの分身を産むだけの存在にしてやるっす〜!」

慌てて逃げようとするが、負傷者が3人もいては逃げるのも叶わない。
ジワジワと迫るジェシカに、最早ここまでかと思われた時……



「待ちなさい、ジェシカ……貴女の相手は、私よ」

「……おんやぁ?」

「アヤメたちには……手を、出させないわ」

「サ……サラさん!!」

734名無しさん:2020/04/29(水) 17:34:53 ID:???
「…サラ…さん………良かった…無事だったんだね…!」
「久しぶりね、アヤメ……色々話したいことはあったけど、あまり時間はないみたい。
みんなと一緒に下がってて」
サラは彩芽達をかばうようにジェシカの前に立ち、ハンドガンを構える。
かつて一緒に旅をしていた時と全く同じ、頼もしい後ろ姿がそこにあった。

「おい、お前らこっちだ!早く下がれ!!」
後から追い付いてきたダンが、重傷者を素早く担ぎ上げて退路を確保する。
……幸いジェシカが深追いしてくる様子はなさそうだ。
『本命』さえいれば、それでいい……そういう事なのだろう。

「その目、その雰囲気……もしかして記憶、戻ったんすかぁ?
ていうか実は、とーーっくに戻ってたとか?……ま、どっちでもいいっすけどねぇ……ククククク」
ジェシカの瞳が赤く輝き、全身が禍々しい装甲におおわれていく。
そして、目の前の一体だけではなく、通路の奥から同質の邪悪な気配が無数に近づいてくるのが、肌で感じられた。

「フフフフ……いよいよねぇ、サラちゃん…♥
ここでじっくり、貴女がぶち殺される所を見物させてもらうわ。
あ、本契約したかったらいつでも言ってね?
もし口が使えなくっても、心で私を呼ぶだけでいいわよ?それだけで、貴女の魂は……」
「…………。」

『悪魔』が耳元でささやく。サラは、振り返らない。ただ目の前の敵だけを見据えていた。


「……なんすかその目はぁ……ッヒヒヒヒヒ。そんなキラッキラした目ぇ見せられたら……
滾ってきちゃうじゃないっすかぁ……光に吸い寄せられちゃうのって……虫っぽくないすかぁぁ!?」

ジェシカが飛び掛かってくる。
サラは冷静にひきつけ、ハンドガンを撃ちながら紙一重で回避。
銃弾は、甲虫の装甲に弾き返される。

(……私は、ずっと、怖かった。
死ぬ事が、じゃない。
何もできないまま、この狂った世界を何一つ変えられないまま、消えてしまう事が……)


「ヘンシンできないのはちょーーっと残念っすけど、モー我慢できねっす!!
グッチャんグッチャンにしてやrっぼべ!!」
(ズドン!ズドン!ズドンッ!!)
「やってみなさい……やれるもんならね」

すれ違いざまに回し蹴りを叩き込み、脳天に残弾を叩き込む。
2匹目、3匹目のジェシカがすぐ背後に迫っていた。
カマキリの鎌と蜂の針を横っ飛びでかわし、マガジンを詰め替える。

(私がいなくなった後も、悪党どもはどこかで高笑いして、罪のない誰かが悲しみの声を上げる。
その声は誰にも届かなくなって…世界は、何も変わらない。)

(私のやってきたことも、マリアさんから受け継いだ正義も、私が死んだら全部無意味になってしまう。
そう思うと……怖くてたまらなかった。…どんなに悪党どもを逮捕しても、心が休まる日はなかった。
でも……)

「……さっきから、ブツブツうるさいっすねえぇ?」
「あっしが聴きたいのは、アンタの悲鳴っすよぉ」「っすよぉぉ?」
ブオンッ!! ガキンッ!!
「っく………!!」

横薙ぎに振るわれたかぎ爪を、拳銃でガードする……が、銃身が半ばから斬り飛ばされてしまう。
サラはやむなく銃を捨て、腰に差した小型ナイフを取り出すが……

「……ま、こんなオモチャでどうにかなる相手じゃないわよねぇ……♥
ところで、『次』は誰がいいと思う?
アナタのお気に入りのアヤメちゃんは、正直ちょっと貧弱すぎなのよねぇ。
どうせなら、前に一緒にいたサクラコって子か、いつだったかの黒セーラーの子とか…
さっき死にかけてたノーチェとかいう子も、なかなかオイシそうだったわねぇ…ふふふ」

(アヤメや、他のみんなに会って、少しずつ分かってきた。時空刑事の力なんてなくても……
正義の心を持っている人はたくさんいて、みんなそれぞれ、自分なりに戦っている。
闘技場に捕まっていた私を、アヤメが助けてくれたように。だから……)

「……あんたみたいなクソ悪魔、誰もおよびじゃないわ。アヤメも、サクラコも、他のみんなも。
諦めて、私と一緒に地獄に帰りなさい。あの子たちは……私が必ず守ってみせる。
それが私の……マリアさんから受け継いだ正義に、繋がっていくはずだから……!!」

「ふぅん……そこまで言うなら、貴女の魂だけで我慢してあ、げ、る♥
その代わり、地獄でたぁっぷり満足させてもらうわよ?」

全力で戦えば、あと10秒……いや、5秒は時間が稼げる。
それから口が動く限りジェシカを挑発して、徹底的にこの身体を嬲らせる。
うまくすれば、自分を殺した事で満足して、立ち去ってくれるかもしれない。

あとは…逃げ延びたアヤメ達が、きっとこの世界も、現実世界のことも……

「サラさんっ!!」

突然、誰かが耳元で叫んだ。
悪魔でも、虫女でもない。それは……

「あ、貴女…とっくに逃げたんじゃ……」
………彩芽が、サラのすぐ隣に立っていた。

735名無しさん:2020/04/29(水) 18:06:22 ID:???
「ったくもー。すぐそうやって、一人で突っ込もうとするんだから……
ほらこれ!
ボクこういうの、バシッ!!とかっこよく投げ渡したりできないから、ちゃんと手渡さないとね」

……彩芽から手渡されたのは、以前敵に奪われたはずの変身ブレスレット。
クレラッパーに変身する……つまりはアージェント・グランスの力の一端を、一時的・限定的に借りるためのアイテム。
だが、以前とはどこか雰囲気が違うような……

「アヤメ……どうしてこれを?とっくになくしたと思ってたわ」
「いやー、(ナルビアの研究所に)偶然落ちてたのを拾ったっていうか……
でも、ただ拾っただけじゃないよ。
色々と中身を弄らせてもらって……なんかリミッターみたいなのがあったから、外してみたんだ。
たぶん以前とは比べ物にならないパワーアップしてるよ!」

「え?………そうすると、じゃあ……どうなるのかしら、この場合」
(はぁぁ!?ちょっとぉ!?このチビ、私の魔界アイテムに何してくれるわけぇぇ!?)

さすがの悪魔も、魔界のテクノロジーで作られたブレスレットを魔改造されるとは想定外だったようだ。
ブレスレットを改造して悪魔の力を無尽蔵に使うなど、
言うなれば「体験版のコードちょっといじったら本編丸々遊べちゃいました!」みたいなものである。
(あ、…ありえない。まさに……悪魔的所業だわ…!!)
「……ちょっと意味がよくわからないけど、とにかく使わせてもらおうかしら」

「サラさん、前にボクに言ったよね……パートナーにならないかって。
知っての通り、ボクは運動音痴だし、逆立ちしたってサラさんみたいに戦うことは出来ないけど……
その代わり、こういうボクにできる事でなら、全力でサポートする。……それじゃダメかな?」

「いいえ……十分よ。アヤメはアヤメのやり方で、あなたらしく。
そして、私は……やっぱり、こうじゃないとね!!………『閃光』!!」

女時空刑事サラ・クルーエル・アモットが<閃甲>に要する時間はわずか1ミリ秒に過ぎない。
ではその原理を説明しよう!
時空間に存在する未知の物質シャイニング・シルバー・エネルギーが超時空バイク「アージェント・グランス」によって増幅され、コンバットアーマーへ変換。
わずか1ミリ秒で<閃甲>を完了するのだ!

(い、いやぁぁぁっ……!?…なにこれ、私の力、全部吸い取られて……!!)
「何回聞いても何言ってるのかよくわからないっていうか、未知の物質とか言ってる時点で原理の説明になってないよね」

「そんな事より……すごいわね、これ。力がどんどん溢れてくる。
これなら5秒と言わず……10分くらいは持ちそうかしら」
「……5分で片づけられるさ。ボクとサラさんならね」
白銀のスーツに身を包んだサラ。
その横で、彩芽も対昆虫用のアヤメカイを取り出し、戦闘態勢を整える。

「ヒッヒヒヒ。……ついに出たっすねぇ、白銀の騎士ィィィ……」
「空気読んで、大人しくしてた甲斐があったっすわぁぁぁ……ギギギギギ!!」
「「ギシャァァアアアアア!!!」」
……ジェシカの大群が、一斉に飛び掛かってきた。
さながら、光に群がる羽虫のように。

「こういうの……何て言うんだったかしら?」
「『飛んで火にいる夏の虫』かな」

「オッケー……それじゃ、ガンガン行くから、サポートよろしく!」
「がってん承知!!」

736名無しさん:2020/05/03(日) 21:41:31 ID:???
「アヤメカイNo.29『リフレクタービットまんまなやつ!』
…サラさん、ポイントA1、10時方向だ!」
「了解!ライトニングシューター・フルバースト!!」
バシュッ!!…ズドドドッ!!
「「んぎゃおおおおっ!?」」

彩芽が小型浮遊マシンを大量に放ち、指示に従ってサラがビームを放つ。
ビームがマシンに搭載されたミラーに乱反射し、何匹ものジェシカの群れを一度に焼き払った。
「ナイス彩芽!だいぶ敵を減らせたわ!」
「ピンボールシューターの計算アルゴリズムを効率化・応用したんだ。
端末の性能もナルビアで大幅バージョンアップしたし、計算も一瞬だよ!」

「くっそー。ちょぉぉっち劣勢っすねぇ……!!」
「奴のなんとかプラズマパワー、もしかして無尽蔵っすかぁ…!?」
「でもあっしもゲーマーの端くれ。ここで退くとかありえねーっす……狙うは」
「「「一発逆転っすよォォォ!」」」

即効性の毒針を手に、残った十数匹のジェシカが一斉に飛び掛かる。

「そろそろフィニッシュね……シルバープラズマソード・モードX…純粋起動!!」
対するサラは、必殺のシルバー・プラズマソードの二刀流、しかもフルパワー。
以前は限られた時間しか使えなかったが、クレラッパーの全機能がアンロックされた今は使い放題だ。

「ジャッジメント・サイクロン!!」
舞うような動きで二刀を振るい、迫りくる敵を次々に切り伏せる。

残り三体、その一体目。毒針の生えた腕を斬り飛ばし、胸板を串刺しにするが……

「ひっひっひ……げほっ…ようやく、取ったっすよぉぉ!!」
「!?…まだ生きて…」
「サラさん!!……」
(ドォォンッ!!)

……ジバクアリ、と呼ばれるアリの一種が存在する。
その名の通り、敵に襲われるとその身を破裂させ、粘性の毒液を撒き散らす。
……つまり、『自爆』もまた虫っぽい攻撃という事だ。

至近距離で、直撃を喰らったサラは……

(まずい、目が……!!)
アーマーこそ無事だったが、飛び散った毒粘液にバイザーの全面が塞がれ、片腕を封じられた。

「今度こそ」「もらったっすぁああああ!!!」
それらを脱する前に、二体目、三体目のジェシカが同時に襲い掛かる。

「正面!!」
(……ズドンっ!!)
彩芽が叫ぶ。同時に、サラがライトニングシューターのトリガーを引いた。

「ん、ぐぉぁ……マジ、すか……」
「あの、クソガキ……」
「先、倒しとくべきだったっす、ね………」
放たれた光条は、正面の二体目と……リフレクターに反射され、頭上の三体目、そして足元に潜んでいた四体目のジェシカを貫く。

……かくして、サラは宿敵ジェシカを倒し、悪魔に魂を奪われる「運命」を乗り越えた。
ジェシカは完全に死んだのだろうか?
だが、そう思わせておいて、実は密かに……というのもまた「虫っぽい」話ではある。

「ふぅ………どうやら、全部倒したわね」
「おかげで助かったよ……サラさんはやっぱり…ボクにとっての、ヒーローだな。
いちばん助けてほしい時に、ズバッと現れてズバッと助けてくれるんだから」

「アヤメ………それは、あなたも同じよ」
「…え?なんか言った?」

「なんでもない……ダンの所に戻りましょう。お腹すいたし、シャワーも浴びたいわ」
(……これで2度目。私がいちばん助けてほしい時に…貴女は現れて、助けてくれた)

「そうだね。下水とか虫とかですっかり汚れちゃったし。一休みしたら…桜子さんとスバルも探し出そう」
「ふふふ……目指すはチームアヤメ、リブートってわけね。」
「え。。そのチーム名はちょっと……」

緊張が解け、和やかに言葉を交わしながら仲間の元へ向かう二人。
だが……『チームアヤメ』の全員集合は、もう少し先の話になりそうだ。

なぜなら。

…………

「クックックック……噂の秘密兵器『メサイア』を前線に引きずり出せるかどうかは、
ひとえに君たちの働きにかかっている……期待しているよ、桜子、イヴ……他の諸君にも」

……春川桜子は今、王下十輝星「フォーマルハウト」のスネグアに従軍し、ゼルタ山地に向けて移動していたからだ。

「……そんな事より、あの約束……忘れるなよ」
「成功したら、今度こそ……開放していただけるんですか。あの子たちと、私たちを」

「もちろんだとも。奴を倒せとまではいわないが、首尾よく奴の弱点でも見つけ出してくれれば上等だ。
その時は、スバルちゃんやメルちゃん達と一緒に、君たちを自由にしてやろうじゃないか。クックック……」

737名無しさん:2020/05/10(日) 09:48:20 ID:???
トーメント王城地下、廃棄施設。
劣化した拷問部屋、危険な魔物や大罪人を隔離した部屋など、トーメントの闇の更に深部が凝縮された場所。

リザは最近、そこへ毎日のように足を運び、凶悪な魔物や罪人たちとの戦いに明け暮れていた。
それは、来るべき戦いの備えて魔剣『シャドウブレード』の扱いに習熟するため……
というより、むしろ戦うことそのものが目的化しつつあった。

戦っている間だけは、余計な事を考えなくて済む……
戦っていないと精神を保っていられない。
そんな、極めて危うい状態に陥っていたのである。

「シャァァァァァッ!!」
「ッグルァァアアアアアアア!!!」
「メスァアアアアア!!」
三人の男が、巨大な鎖鎌を振り回し襲い掛かる。彼らはみな理性を失い、身体も半ば魔物化していた。

ジャキン!! ガキンッ!!  ジャラララッ!!
「はあっ!!……たあ!!………っぐ!」
錆びついた鎖は一見簡単に斬り落とせそうだったが、この地下施設に住み着いているだけあって一筋縄ではいかない。
鎖は強い邪術の力で蛇のように不規則に動き、リザの腕や首に絡みついていく。

ギリギリギリッ……ジャリッ……!!
「くっ………この、位で……」
呪われた鎖が、リザの首に食い込む。ざらついた感触と共に、白い細首から血が滲みだす。

「ヒヒヒヒ……」
「ツカマエタゾ」
「シネヤァァァアアアアア!!」
動きを封じられたリザに、三人…否、三体の異形が一斉に飛び掛かる。

「この程度で、やられるかっ……!!」
「「「ッグアアアアアアア!!」」」
だがリザは、シフトの力…テレポートを発動して拘束から逃れ、三体の魔物を「同時に」斬り伏せた。


「……はぁっ………はぁっ………今……の、感じだ…」
戦いを終え、一息つくリザ。……彼女が今発動したのは、普通のテレポートではない。
普通のテレポートなら、攻撃後に僅かな隙が生じ、一体を倒せたとしても他の二体に反撃されていただろう。

だから……「同時に」三か所にテレポートし、全ての敵を「同時に」倒した。
複数の可能性を選択する事で、一つだけを選択した時にはあり得なかった結果を導く。

新たな能力…「マルチシフト」とでも呼ぶべきか……に、リザは今、目覚めつつあった。

量子的ゆらぎを操作しているのか、あるいは篠原唯達のような『運命を変える力』の一種なのか……
詳しい理屈はリザ本人にもわからないし、また興味もない。

(この力を使いこなせれば、誰にも負けない。『戦争』にも…………勝てる)
………リザにとって重要なのは、ただその一点のみだった。

738名無しさん:2020/05/10(日) 09:49:58 ID:???
「もしもーし。……電波わりーな。また潜ってんのか?
おーいリザ。きこえるかー?」

その時、リザのスマホにトーメント王から着信が入った。
現在地は、城の地下十階。
……こんな地下深くでも辛うじて通信可能なのは、教授の技術力によるものだろう。

「……はい」
「前に言ったかどうか忘れたが、お前は今回の戦争では『遊撃部隊』の隊長をやってもらう。
これからメンバーの顔見せするから、さっさと上がってこい」

「…………」
「返事ぐらいしろっつーの。
そっちにメンバーの一人を迎えに行かせるから、それ以上奥に行くなよ?行くなよ?絶対行くなよぉー?」

「……………………。」
リザがしばらく黙っていると、ブツリ、と音がして電話が切れた。

(……さっきの感覚…忘れないようにしないと)

新たな能力「マルチシフト」はまだ未完成。これまでは数日に一度発動できるかどうか……という程度だった。
しかし今日は、能力を発動するのは今ので2度目。
もう少し続ければ、完全に体得できるような気がする。

(……もう少しだけなら、いいよね…)
リザは迎えを待たず、さらに地下深くへ進もうとした。

その時………。

「ダメだよ、リザちゃん。そこから先は………地獄だよ」
「!?」

いきなり背後に、人の気配が現れる。
…誰かがリザに抱き着いてきた。

「トーメント城地下10階……ここは別名『黄泉比良坂』。この世とあの世の境界線」

背はリザよりやや低いようだ。
ふわりと揺れるオレンジ色の髪。
柑橘系のコロンの香り。
鈴の音のように甲高い、少女の声。
……どこかで、聞いたことがあるような気もする。

「この先に住んでる奴らは、今までとは比べ物にならないくらい、ずーっとずーっと強くて恐ろしい。
 今のリザちゃんじゃ、あっという間に殺されちゃうよ?」
「……放して。誰なの、あなた」

「私は、スズ。 
………スズ・ユウヒ」

リザは振りほどこうとしたが、体にうまく力が入らず、テレポートも発動できない。
柑橘系の香りに包まれているうちに、頭の中に霞がかかったように意識がおぼろげになっていく……。

◇◇◇◇◇◇

「『初めまして』だね、リザちゃん。
……私のことは『スズ』でいいよ」

「スズ・ユウヒ…?……あなたが……王様の、迎え…なの……?
 …王様の所へは、もう少ししたら自分で行くから…とにかく、離れて………」

激しい戦闘を何度もこなした後のような、疲労と倦怠感が全身を包んでいた。
いや、実際ここに来るまで戦いっぱなしではあったが……魔剣の力で倒した敵の力を吸い取り、体力魔力とも万全だったはずだ。

「ふふふふ……そんなにこの先に行きたいの?
……だったら、見せてあげるよ。この先に行けばどうなるか」

739名無しさん:2020/05/10(日) 09:51:09 ID:???
<1>

「それって、どういう………
…!?…あれ、いない…?」

……気が付いたら、スズは消えていた。姿も、気配も、柑橘系の香りも、跡形もなく。

(いない……って、誰、が?………今、私……誰かと、話してたんだっけ…?)
…何も、残っていない。

(ええと、そうだ…。王様に、呼ばれてたけど……もう少しだけなら、いいよね)

体力、魔力とも問題ない。地上に戻る前にもう少し戦って、新しい能力の感覚を掴んでおきたかった。


…ここはトーメント城地下10階。
王国の創始者が建造したとされる巨大地下迷宮の『浅層』の終端で、別名を『黄泉比良坂』と言うらしい。
ここから下、地下11階から先は『中層』と呼ばれている。
どのくらい地下深くまで続いているのかは、誰も知らない。

下階へ続く扉が、目の前にあった。
リザは……ゆっくりと、その扉に手を伸ばす。すると……

(バタン!!シュルルルルッ!!!)
「なっ……!?」

いきなり扉が開き、
黒い影のような手が無数に伸び出してリザの全身を捕らえた。

「放、せっ……!!」

一瞬で、扉の中に引きずり込まれた。
扉の先はろうそく一つの明かりもない真っ暗闇。
影の手に捕らわれたリザは、成すすべなく引っ張られ、そして落ちていく。
はるか後方で、バタンと扉が閉まる音がした。
リザがその扉を開くことは、二度とない。

740名無しさん:2020/05/10(日) 09:52:35 ID:???
<2>

「う………ここ、は……?」
…光さえ届かない、混沌と魔の領域にリザは堕ちた。

周囲は完全な暗闇。近くに壁らしきものはないが、広間の中だろうか。
立ち上がってみるが、視界が全くないため、平衡感覚が掴めない。
数歩歩くだけで、なんだか身体がふらつくような、妙な感覚に襲われる。

「シャァーーーッ……」
「グルルルルル……」
「グキキキキ……!!」
(!!……何か、いる!!)

いつの間にか、周囲を無数の魔物の気配に取り囲まれていた。
赤く光る無数の瞳が、獲物であるリザを、じっと見つめている……

「シャァァ!!」

ザシュッ!!
「痛ぅっ!!」

敵の声や気配を頼りに防御を試みるが、周囲が敵だらけの状況ではどうしようもなかった。
背中に激痛、熱、そして……背中がぐっしょりと濡れていた。鉄の…血の臭い。
敵の鋭い爪…あるいは牙で切り裂かれたのだと、数秒遅れで理解する。

「こ、のっ……!!」
文字通り闇雲に剣を振り回すが、当然ながらまともに当たるはずもない。
ほどなくして、激しい疲労感がリザにのしかかってくる。
シャドーブレードは、持ち主の血を代償とする魔剣。
誰かを切り続けていなければ、リザの身体はあっという間に衰弱してしまうのだ。

(まずい……このままじゃ…!!)
人間は、自分で考えている以上に、何をするにも視覚に頼っているものだ。
いきなり完全に視覚を奪われれば、リザのような歴戦の戦士といえども……

「ケケケケケッ!!」
ビシュッ!!
「んぐあっ!!」

「ガオォゥゥンッ!」
ザクッ!!
「いっ……!!」

ドゴッ!!
「あぐうっ!!」

ザクッ!!
「きゃああああああああぁつ!!!」

……成すすべなく、蹂躙されるしかなかった。

体中が痛い。痛い場所が、次々と増えていく。
全身が濡れているのは、汗か、血か、それとも別の何かだろうか。

腕が動かせない。
呼吸も苦しい。
首が、全身が、締め付けられている。
魔獣の腕に、それとも植物の蔦、悪魔の鞭?

周囲に無数にいると思われる敵がどんなやつらで、誰に何をされているのかすら、全くわからなかった。

「ガルルルルッ……」
「キキキキキ……オワリダ」
「ガサガサガサガサガサガサ」
「んっ………ぐ、うぅ……!!」
何かが、太股に噛みついている。
鋭いカギ爪を突き立て、体を這い登って来る。

逃げなければ。…どこでもいい、どこか安全なところへ……
「マルチ……シフト……!」

741名無しさん:2020/05/10(日) 09:54:16 ID:???
<3>

「グォォォォォォッ!!」
「えっ……しまっ」

ぐちゅん!!!
「きゃあああぁっ!!!」

テレポートした先で、リザは生温かい空気が吹き付けるのを感じた。
巨大な口を持つ巨大な魔物が、大きな口を開けてリザを飲み込んだ。


<4>

「ギギギギギッ……マヌケメ」
どすっ!!!
「っぐおぁ、は……!!」
下腹に、激しい衝撃。

……リザはどうやら、敵の目の前にテレポートしてしまったようだ。
みぞおちの辺りに激痛。手で触れてみると、何か硬い棒状の物が突き立てられていた。

太く鋭い、角…あるいは槍に、串刺しにされた…
そう認識するより前に、リザの意識は深い闇へと消えていった。

<14>

「きゃああああああ!!」
何が起きたのかさえ分からず、
リザは死んだ。

<57>

「なに、これ……糸……!?」
「キチキチキチキチキチ………」

ねばつく糸が、リザの絡みつく。切っても切れず、もがいても解けない。
魔蟲の巣網の中に、リザは迂闊にも飛び込んでしまったのだ。

硬い、大量の、何か小さなものが、足元から次々と這い上がって来る。
頭上からもばらばらと振ってきて、耳や鼻、口など、小さな穴を見つけて侵入してくる。

針のような無数のトゲのついた脚が、リザの全身を這いまわる。
トゲからは麻痺性の神経毒が分泌されており、
リザは生きながらにして虫達に体を食い尽くされることになった。


<1086>

「……………」
メキッ!!……ゴキゴキゴキ!!
「あがっ!!……な、あっ………っごああああああ!!!」

硬い岩のような感触の巨大な手に、リザは捕らえられた。
その手に凄まじい力が込められ、有無も言わさずリザの身体を握りつぶした。


<????>

「はぁ………はぁ……………どこ………出口は、一体……」
何度もテレポートを繰り返し、リザは敵の追撃をようやく振り切った。
全身は傷だらけ、出血・失血で意識が朦朧とする。体力と魔力は既に底をついていた。
だが上階へと続く出口はどこにも見つからない。

(あらあら。こんな可愛らしくて美味しそうな女の子が、一体どうして迷い込んできたのかしら……)
(さあ、こっちにいらっしゃい……私たちと、もっとたくさん楽しみましょう………ふふふふふふ)

目の前には、更なる下層へと続く真っ暗な穴が、大きな口を開けて待ち構えている。
リザは、吸い寄せられるように、ふらふらと歩みを進めていく……

742名無しさん:2020/05/10(日) 09:55:47 ID:???
◆◆◆◆◆◆

「!?……あ、あれ……私、今…………
あ、あなたは………………」

「ふふふふ……『初めまして』だね、リザちゃん。
……私のことは『スズ』でいいよ」

唐突に、視界に光が戻ってきた。
汗と血と汚泥の臭いは消え、懐かしい、柑橘系の香りが鼻孔をくすぐる。

目と鼻の先に、『中層』へと続く扉があった。その先で見た、何百、何千という死のイメージ。
それは、まるで実際に体験したかのようにリアルだった。

(私……夢を見てた?………いや……違う。全く別の、何かが…起きていた……?)

「リザちゃんは、ほんとにかわいいなぁ。
ねえ……王様の所に戻る前に、もう少しだけこうしてていい…?」

コロンの香りに包まれているうちに、リザの思考に霞がかかっていく。
スズはリザの腰に手を回しながら、耳元に顔を近づけてくる。
温かい吐息はリザの首筋が優しくくすぐると、リザの身体から力が抜けていく。
何かがおかしい。この少女から離れないと……

「だ、め………はな、して………」

リザは全身に力を込め、スズの手を強引に振りほどく。そこで初めてスズ・ユウヒの顔を見た。

(!………ドロシー…!?………いや、違う………)

今はもういない親友の顔と、スズの顔が一瞬重なって見えた。
…もちろん、彼女がドロシーであるはずがない。
髪の色も瞳の色も違うし、雰囲気だってまるで違う。

「もう。どうしてそんな意地悪言うの?
私、リザちゃんのこと助けに来てあげたのに。
今までもずっと、リザちゃんのこと助けてあげてたのに…」

「一体何を言って……やめ、て……触ら、ない…で………!!」

「リザちゃんにとっての『黄泉比良坂』……地獄の入り口は、ここだけじゃない。
この世界中、あらゆる場所に、たくさんあるんだよ。
でも安心して。
リザちゃん『だけ』は『どんなことがあっても』生き延びられるように、
私が運命を選んであげる。これからもずっと……」

【スズ・ユウヒ】
人気急上昇中のアイドル歌手。……だがどうやらそれは仮の姿。
トーメント王国軍に結成される予定の『遊撃部隊』のメンバーのようだ。

外見:髪と瞳はオレンジ色。
アイドル歌手というだけあってかなりの美少女だが、
細部の特徴・印象は、なぜか人によってかなり異なる。
服装はかなりオシャレで、ブランドものを効果的にコーディネートしている。
柑橘系の香水を愛用しているようで、近くにいるとほのかに香りがする。

特殊能力?:「黄泉比良坂坂で抱きしめて」
誰かの運命を予知し、いずれかを選ぶ。
または選んだ場合の運命を相手に体験させる事ができる。

裏設定:
様々な世界線を行き来することができる、謎の存在。
もともとは別世界で暮らしていた引きこもりの少女だったが、
ふとしたきっかけで特殊能力に目覚め、自分が人気アイドルになっている世界、すなわちこのリョナ世界にやってきた。

ちなみに、リョナ世界でアイドルだった方のスズは普通の人間。
アイドルとしての多忙な日々に嫌気がさしていたので、
能力者スズとは合意の下で入れ替わり、現在は異世界で引きこもりを満喫中。

743名無しさん:2020/05/13(水) 03:59:02 ID:l0q/Von2
「トーメントの魔物兵発見! まもなく戦闘に入る! みな準備はいいか! ミツルギ皇国の名にかけて、アレイ草原を突破するぞおおぉ!」

「「「うおおおおおおおおおおお!!!」」」

草原で両手を広げて 駆け抜けていくのは忍びの大群。
迎え撃つはトーメントの教授ガチャにより魔物 改造された兵士たち。
アレイ草原攻略を担当するミツルギの忍びたちと、トーメントの防衛部隊の戦闘が開始されようとしていた。



「はぁーあぁ……なんでウチまで駆り出されるんや……闘技場の興行収入が盛り上がってきて、今が絶好の稼ぎ時やっちゅうのにぃ!」

「仕方ないです……討魔忍五人衆は最前線で戦うための実働部隊ですし」

「久しぶりに血が滾る戦闘になりそうだな……酒も大量に持ってきた。皆、今日は派手に宴会を楽むとしようじゃないか!わっはっはっは!」

「やれやれ……あなたたちと一緒に戦うと、巻き込まれないように気をつけないといけませんからほんとにめんどくさいんですよねぇ……」

「……手筈通リ私トラガールガ最前線ニ出ル。ザギ、ナナカ、コトネ、オ前タチハ他ノ忍ノ援護ニ回レ……兵ヲ無駄死ニサセルナ」

「「「「了解!!!!」」」」

討魔忍五人衆全員が参加する戦闘自体、かなり珍しいことである。
シンの指示に従い、3人が散開したと同時に敵の魔物兵たちの進軍が始まった!



「ササメせんぱーーい!!」

「……え、ヤヨイちゃん!? 貴女もこの戦闘に参加していたんですか?」

「当たり前ですよー! 討議大会とかこの前の雪人との戦いで経験を積んだあたしは、今やもうその辺の中忍よりも強いんですから! 自称だけど!」

「自称なんですね……やはり総力戦。戦える忍はほぼすべて投入されているようです。ここまでの規模の戦争……いったいどうなるのでしょうか……」

たくさんの血が流れることは必死のこの戦いに、大した反対意見も出ずこうしてたくさんの忍が戦いに参加しているということは、少なからずトーメントに恨みを持つものが多いことに他ならない。
そもそもミツルギとトーメントは古来より犬猿の中であった。最近は小康状態であったが、戦う口実ができればご覧の有り様である。



「どうなるもこうなるも、勝つに決まってます! 討魔忍五人衆が全員揃って戦ってるんですから、負けなんかありえないですよっ!」

「……そう簡単にはいきません。トーメント兵たちの中には十輝星ではなくとも、各国の幹部クラスの者が大勢いるのです。それがこの世界で一強を誇る何よりの証拠……油断は一切できません」

「まじですか……!七華さんやシンさんと同レベルのモブ敵がいるなんて信じられないですけど……」

「….…前線が見えてきました。私が先行します!ヤヨイちゃんは後ろを!」

「お、おっけーです!」

草原に似つかわしくないドラゴンや狼、魔法生物らしき甲冑や揺らめく人魂、巨大スライム……
驚くべきはこれらはすべて人で、高い知能を持って襲いかかってくるということだ。

「来て、氷雨!雪雲!」
「雑魚どもは全員、この斑鳩の錆にしてやるんだからぁ!」

このアレイ草原でついに、最後の戦いの火蓋が切って落とされた。

744>>742から:2020/05/17(日) 10:06:08 ID:???
「………というわけで。
スズちゃんをはじめ4名のメンバーが、これからお前の部下になるわけだが…」

王様の横にいる2人は、COMPと呼ばれる未登場のキャラの正体を隠しておくマントを着ている。

「なに、一人足りないって?…ま、この手の顔合わせに1人2人遅刻するのはよくある事だろ?
残る1名は、お前がよーく知ってる人物……とだけ言っておこうか。ヒッヒッヒ!!」

「ふふふ…♪…いったい誰かしら。気になるねぇ、リザちゃん」
「……別に。……それより、くっつかないで。……」
(この『顔合わせ』が終われば………やっと戦場に行ける)

だがリザは…他のメンバーが誰であろうと、関心はなかった。



…その頃。

「………おっと。もう召集の時間か。
その前に……行きがけに『ちょっと一刺し』していくかな。クックック……」

イータブリックスの路地裏。
鈍く光るナイフを手に、一人呟くのは、悪名高い無差別大量殺人鬼ヴァイス。

『遊撃部隊』のメンバー候補に選ばれた彼は、
「隙があればいつでも『隊長』を殺して良い」「『隊長』を殺したら、その瞬間自由の身」
…という条件で召集に応じていた。

「……さーてと。どうしてやろうかな、っと……」
この国に住む女性、特に今この状況でなお平然と街を闊歩している彼女たちは、
いずれも見た目によらぬ猛者だったり、魔物化していたり、しかも重度なリョナラーだったり……と、
一筋縄ではいかない者たちなのだが、ヴァイスからすればさしたる問題ではない。

道行く女子高生や、水商売風の女性に視線を泳がせ、獲物を物色する。
そして、酔っ払いのようなふらついた足取りで、細い路地に入っていく。

(……一体、どこへ行くつもり…?)
……その後方数メートルには、マントをかぶった小柄な追跡者があった。
だが、迷路のように入り組んだ路地を、くねくねと曲がっていくうちに……

(?……い、いない…!?)
「どういうつもりだぁ?……さっきから、ずーーっと俺様をつけてきやがって……ククククク」
「なっ……!!」

……あっさりと背後を取り返す。
生粋の捕食者であり、狩人、追跡者であるヴァイスからすれば、尾行者のそれは素人同然だった。

(ブオン……!!ガキィィィンッ!!!)
ヴァイスはすかさず相手の脇腹あたりにナイフを突き立てようとしたが、硬質な感触に弾き返される。

「ほほー、コイツは……『爆炎のスカーレット』……エミリアちゃんじゃねえか。
俺に一体何の用だぁ?……なんて、聞くまでもねえか」

「あなたを、リザちゃんの所へは……行かせません!!」
(姿を消してたのに、こんなあっさりバレるなんて……あらかじめ防御魔法を張っといてよかった……)

エミリアは数歩下がって、ヴァイスの方に向き直る。

場内で食堂や雑用の仕事をしていると、情報は嫌でも入って来る。
ヴァイスが「遊撃部隊」にスカウトされたこと、リザの寝首を掻こうと狙っていること。
そして今日、部隊メンバーとしてリザと顔を合わせる予定であることも。

「ふん。それってつまり……力づくで止める、って事かぁ?……おもしれえ」
(ギンッ!! バキン!! ビシッ……!!)
「んっ!!……く………うぅっ!!……」

ヴァイスはへらへらと笑いながら、エミリアに無造作に歩み寄り、ナイフをぶんぶんと振り回す。
すさまじい速度の連続切りに、エミリアの魔法防壁は瞬く間に劣化していく。

…近接戦は、相手の方が間違いなく格上。
奇襲を仕掛けられなかったのは痛いが、エミリアは退くつもりは毛頭なかった。

「……ファイアボルト!!」
「な……!!」
(…ズドォォォォオンッ!!)
至近距離からの攻撃魔法。
エミリアの規格外の魔力で繰り出されるそれは、並の魔導士の中〜上級魔法にも匹敵する。
さすがのヴァイスも避けきれるものではない。

「ゲホッ!ゲホッ!!……てん、めぇぇ……
…イカれてんのか?この距離でそんなものぶっ放したら、テメェだって無事じゃ済まねえぜ……」
直撃は辛うじて避けたヴァイスだが、上着が吹き飛び、右半身に火傷を負う。

一方のエミリアも、着ていたマントが弾け飛び、防御魔法も失われた。
魔法障壁のおかげで外傷はほとんどないが、もうヴァイスの攻撃を防ぐことは出来ない。
新たに障壁を張りなおす時間も、そのつもりも、エミリアにはなかった。

「……この身に代えても……リザちゃんは、私が守る…!」

リザを殺そうと狙うヴァイスを倒し、代わりに「遊撃部隊」メンバーに加わる。
かなり強引なエミリアの目論見は、果たして成功するのか。
それとも………

「ヒッヒヒヒヒ……いいぜぇ。こうなりゃ、とことんヤってやるよ。
火傷の礼に、俺のナイフコレクションで、全身グチャグチャに切り刻みながら犯してやる……いくぜぇぇぇ!!」

745>>743から:2020/05/17(日) 21:28:26 ID:???
「くらいなさいっ!桜花手裏剣!」
「氷刃乱舞!!」
「ギャアッッ!!!」「グアーーッ!!」

後衛から敵の軍勢に手裏剣を投げ込むヤヨイ。
その隙に乗じ、氷の剣で縦横無尽に斬りかかるササメ。
二人の連携に、トーメントの魔物兵たちはバタバタとなぎ倒されていく。

「こ、こいつら、強いぞ!」
「闘技大会で一回戦負けしてたくせに!」
「もー、昔のことをいつまでも!…っていうかコイツらも見てたの!?」
「……あの時の私達と同じだと思ってるなら……後悔させてあげます!」

二人の活躍で勢いづいたミツルギ軍。さらに後続の忍び達が攻勢を仕掛ける!

「あっはははー!甘いねヤヨイ!
飛び道具の破壊力なら、このアタシの爆裂☆スターマイン攻撃がマジ最強だから!」

(ドカーーンッ!!)
「「「ッグアアアアアアア!!」」」

【シノブキ・ナデシコ】
ヤヨイの同級生。忍びなれども忍ばない、おバk…元気いっぱいなギャル系見習い忍者。
髪は金に近い茶髪のポニーテール、なんか瞳の中に星型の光がある謎の体質。おっぱい。
実家は花火師で、お爺ちゃん直伝の火薬攻撃が得意技。
ナシ子ってよんでね!

「ちょっ……ナシ子!爆弾多すぎじゃない!?」
「今日に備えてめっちゃいっぱい作ってきたからね!まだまだ行っくよー!!」

もうもうと上がる爆煙に視界を閉ざされ、前を行くササメ達と分断されてしまった二人。
そこへ……

「くっくっく……自分から孤立してくれるとは馬鹿なやつらね。あんま強くなさそうだし、先に潰してやるわ!!」
「誰がバカよ!!って、誰…!?」「上っ!?」
「「きゃああああああぁ!!!」」

謎の黒い影が、上空からヤヨイ達に襲い掛かってきた!


【ドラコ・ケンタウロス】
人間の身体に、竜の角と翼。怪力やブレス能力など竜の特徴を併せ持つ上級魔物兵。
好戦的な性格の者が多く、武器や素手での近接格闘が得意。
ぷよぷよした同色のものを4つ以上集めるのが趣味だとかなんとか。

(ドガッ!!)
「あぐっ!?」
敵は深紅のチャイナドレスを着た竜人型魔物兵。
炎をまとった回し蹴りで、ヤヨイとナデシコの身体を豪快に蹴り飛ばす!


「っぐ……竜人…!? こんな上級魔物が、雑魚兵士に混じってるなんて…!」
「ふふーん。このドラコ・ケンタウロス『炎脚のニィズ』が、
蹴って燃やして踏んづけて……ボロっクソに痛めつけてあげるわ!!」

「なっ……なめんじゃないわよ!あんたなんか、この『斑鳩』の……」
「この安物刀の錆にしてくれるって?……ムリムリ」
「えっ……!」
(ズドンッ!!)

ヤヨイはなんとか起き上がり、愛刀「斑鳩」を構えなおす。
だが、ニィズはその斬撃を軽くかわしながら、カウンターの膝蹴りをヤヨイの腹に叩きこんだ。

「あ、ぐっ……!!」
ヤヨイの身体がくの字に折れ曲がり、足先が浮く。
忍び装束の蹴られた個所には、竜人ニィズの「炎脚」によってで黒い焦げができていた。
「そんなナマクラが私の鱗に通じるわけないけど……そもそも当たんなきゃ話にならないわね、お嬢ちゃん♥」

(ドスッ!ベキッ!!ゴウンッ!!)
「うぁっ!!ぎゃんっ!!っぐああああああ!!!」
連撃、追撃、ダメ押しの連続蹴りが、ヤヨイの脚、胸、側頭部を撃ちぬく。
たまらず前のめりに崩れ落ちたヤヨイの背中を、ニィズは宣言通り思い切り踏みつけた。

746名無しさん:2020/05/17(日) 21:30:28 ID:???

「こらぁっ!ヤヨイっちを放せ!!『スターマイン☆ナックル!!』」
ナデシコが繰り出すのは、火薬を仕込んだ耐火手甲による一撃。
当たれば手甲に内蔵された火薬が炸裂し、ド派手な爆発とともに敵を倒す驚異のカラクリナッコーである。

「へっへーん。こんなヌルい花火、アタシに効くわけないでしょ!」
バシュン!!
「ふぎっ!!」
…だがその一撃が届く前に、ニィズの長い尻尾が鞭のように飛び、ナデシコを力任せに叩き落す。

「はい、さっそく二人ゲット〜。かわいい女の子は生死問わず、捕獲したら報奨金が出るのよん。
この戦いでいくら稼げるか、今から楽しみだわ」

「な、ん、ですって……」
「そんな事、させるかっ……」
(ギリギリッ………グキッ!!)
「ぅ、っぐあああああ!!!」

立ち上がろうとしたナデシコに尻尾が巻き付き、全身を締め付ける。
圧倒的な力を持つ魔物兵に、下忍コンビは早くも窮地に追い込まれた。


「まったく、だらしないわねー……『今やその辺の中忍より強い』んじゃなかったの?」
そこへ助けに入ったのは……

「なっ……何者だ!」
「あ………あなたは、ええと………どなたでしたっけ」
「す、すいません。私マジ初対面なもんで」

【血華のスイビ】
『ガチレズ吸血鬼』の異名を取る女忍び。前回の闘技大会の準決勝でアゲハと対戦した。
他にも彩芽を襲ったり、唯と瑠奈を苦戦させたりしている。

「……アンタたち、先輩に対する敬意がなさすぎじゃない?
つーか解説まで入れてくれなくていいわよ!新キャラじゃないんだから!」

「す、すいませんスイビ先輩!」
「で、でも……大丈夫かな。こいつメチャクチャ強いですよ?」

「助けに来てやったのに、失礼な子たちね。
 だいたい私は吸血鬼なのよ?強キャラに決まってるでしょ!」
「すぐ死ぬフラグみたいにも聞こえるんですが」

「ふん……まあ、こっちの雑魚どもよりは骨があるのかしら。楽しませてくれそうね」
「そういうアンタこそ、なかなか良い体してるじゃない。……いっぱい楽しませて、骨抜きにしてあげる」

ドラゴンVS吸血鬼。魔物界の頂上決戦ともいえる戦いの行方は………

「や、やめろぉ!!は、放せっ……んにゃあああああ!!!」
「ふふふふ……だぁ〜め♥竜人の血なんてめったに吸えないレアものなんだから」
「や、やめぇぇ……しっぽ、そんな風に触られたら………ん、ああああんぁっ♥♥♥」

((うわぁ……))

………こんな感じになった。

747名無しさん:2020/05/17(日) 21:31:46 ID:???
「くっそ……なんなんだ、おまえぇ……なんでそんな、私の弱いところばっかりぃ……」
「ドラゴンだろうとなんだろうと、どんな魔物にも弱点は必ずあるものよ。
私の友達にマジメで研究熱心な子がいてね。一時は暗殺チームにいたんだけど、
そこを抜けてからは魔物対策の戦法もいろいろ研究してて……」
「…たぶん、アゲハさんが研究してるのはそういう戦法じゃないと思うんですが」

……接近戦では無類の強さを誇ったニィズを、完全に押さえ込んで無力化している。
やり方はどうあれ、血花のスイビもまた、決して侮れない実力者だったようだ。

傷の手当てを済ませたヤヨイとナデシコは無言でうなずき合い、
スイビにこの場を任せてササメを追う事にした。というかここから離れたい。

「ふふふ……大分身体が出来上がってきたかしら?……でもここからが本番よ」
「ひ……!!……や、やめろ……そこだけは、ぁ………!!」
ニィズの首のチョーカーを、手慣れた手つきで外すスイビ。
その下には、小さな鱗が隠されていた。

手足を覆う深紅の鱗とは明らかに違った、まるで宝石のように淡い光を放つ鱗が白日に晒されると、
ニィズの表情に明らかな動揺と、羞恥の色が浮かび上がる。

「竜の喉に一枚だけあるっていう、『逆鱗』……きれいなピンク色してるのね。
確か伝説では、竜はここを触れられると激怒するんだったかしら?
そして竜人の女の子は、ここを人目に晒す事さえ極端に嫌う……」

スイビはニィズの逆鱗を犬歯で軽くついばみながら、耳元でささやく。
「やっ……め、ろぉ………おまえ……ぜったい、ころして、や………んっ、ふぁあああああ♥♥♥」

「ちゅぷっ……れろ……思った通り、可愛い反応。やっぱりココって、そーいうトコだったのね。
やっぱり実際試さなきゃわからないものだわ……後でアゲハちゃんにも教えてあげなきゃ」

「やぁぁ………だ、めぇ………そこ、ぺろぺろしないれぇ……♥♥」

「ふふふ……ちょっと舌で転がしただけなのに、もうすっかりメロメロね。
……ここから直接吸血したら、一体どうなっちゃうのかしら」
「ひ………だ、めぇ………もう許してぇ……」

「ふふふ…楽にしていいのよ。お姉さまに、身も心も任せちゃいなさい…かぷっ♥」
「お、おねえさまぁぁぁぁぁ……んあぁぁぁっ♥♥♥」

……竜人にとって、逆鱗は乳首やクリトリス以上に敏感な性感帯。
後に編纂された魔物辞典には、そう記されるようになったとかならなかったとか。

748名無しさん:2020/05/22(金) 11:34:02 ID:???
「さあいくぜぇエミリアちゃあぁん!これが俺様のナイフコレクションの中でもお気に入りの、斬魔朧刀だ!ククククク!」

ヴァイスが懐から取り出したのは、漆黒に染まった禍々しいナイフ。
何らかの魔法が掛かっているかのようにバチバチと黒の稲妻を放つ刀身は、その様子からしても一太刀の威力を誇示していた。

(アレで切られたら危ない……!ナイフの届かない遠距離から、魔法で攻める!)

「ウィンドブロー!」

(チッ、風魔法か……)

風の力で後方に素早く移動し距離を取ったエミリアは、すぐさま次の魔法を放つ。

「……サンダーブレード!!」

「おおっとぉ!聞かねーよォ!」

バチバチバチバチっ!
エミリアの打ち出した雷の刃は、ヴァイスのナイフで簡単に切り払われてしまった。

「嘘……!魔法を無効化するナイフなの……?」

「ご名答!!魔法少女どもはみんなこのナイフでバラバラにしてきたってもんよ!知ってるか……?お得意の魔法がこんなちゃっちいナイフ一本に無力化されたあいつらは、小便ちびりながら助けてください!助けてくださいっ!って命乞いするんだぜええぇ!勿論結果はバラバラだけどなぁ!!ククククククク!ヒーッヒッヒッヒッヒ!!!」

「……やっぱり……絶対に、貴方をリザちゃんの元には行かせませんッ!!」



殺人鬼の狂気をまざまざと見せつけられたエミリアは、魔法詠唱を始める。
生半可な魔法が無力化されるならば、ナイフでも切り払えない威力の魔法……上級魔法が必要だ。

(ここで普通に発動したら他の人たちも危ない……!威力を抑えずあの男に一点集中……難しいけど、それしかない!)

「はあああああああああああぁっ!!」

ボワアアアアアアアァッ!
エミリアが魔法を唱え始めた瞬間、彼女の周囲を激しい炎が取り囲んだ。

「なんだぁ?詠唱中に邪魔されないための足止めのつもりか?ククク……斬魔朧刀にかかりゃこんなもん、さけるチーズと同じだぜぇ!!」

ナイフを振り上げ、エミリアを囲む炎を一閃するヴァイス。
だが、その結果は彼の思い通りにはならなかった。



「ちくしょう!んだこの炎は!?全然消えねえぞっクソがああああぁ!」

ヴァイスが何度斬っても斬っても、エミリアの炎の威力は弱まるどころか、さらに勢いを増していく。

(私の得意魔法は火……!爆炎のスカーレットの炎は、たとえ水でもそう簡単には鎮火できない!)

「霊冥へと導く爆炎の魔神よ。我が声に耳を傾け賜え。浄化の炎、その聖火をいま召喚す….!」

「このクソアマァ!炎の中に閉じこもってないで出てこい!ぶっ殺してやるよおおおおお!!」

接近戦に持ち込めないヴァイスが喚いている間にも、エミリアの詠唱は続いていく。
それと同時にエミリアの長い青髪が、燃えるような赤へと変わっていく。
まるで燃え盛る炎のように髪が逆立っていくエミリアの様子を見て、ヴァイスはようやく事の重大さを理解した。



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!

(なんだ!?化物かコイツ!?自分の髪色まで炎のマナに染めたり地鳴りまで起こしたりする馬鹿魔力、魔法少女の連中の中にすら1人もいなかったぞ!?)

あまりにも強い魔力は、術者にもなんらかの影響を与えることがある。
エミリアのように頭髪の色が変わったり、身体からマナのオーラを発したり、体型まで変わってしまったりと様々だ。
だがエミリアの長髪の全てが赤に変わったのは、その魔力の強大さを証明するには十分だった。

「炎獄顕現せよっ……!我に仇なす物に裁きを与えんっ!!」」

エミリアが詠唱を終えた瞬間、すべての炎が激しく燃え上がり、エミリアを中心に回転を始めた。

「わ、わかった……悪かった……!だから頼むからやめてくれ!こんなのやべえだろぉ!」

命乞いをするヴァイスの声も、もうエミリアに入っていない。
あまりにも強い魔力を持つエミリアにとっては、敵がいる場所に魔法を一点集中させることはかなりの集中力を要する。

今回のように上級魔法でそれが成功したことは、1度もない。
だがこの殺人鬼は確実にリザの命を狙っている。ここで除かねば必ずリザの脅威になり、いつか殺されてしまうかもしれない。
もし失敗すれば周囲の建物をも巻き込み、とてつもない規模の爆発になってしまうが、エミリアに迷いはなかった。



(私が上級魔法を使うのは……大切な人を守るとき!この一撃に全てをかける!!!)



「インフェルノ・ディストラクション!!!」

749名無しさん:2020/05/22(金) 11:41:06 ID:???
ドゴオオオオオオオオオオン!!!

「くっ……!きゃああああああっ!!」

自信の起こした爆発による熱風で、エミリアは吹き飛ばされた。
視界はゼロに近い。爆発の規模はわからないが、目の前には天まで届く炎の柱が見えている。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」

(……成功……! 建物が倒れてない……あいつの位置にピンポイントで超爆発を起こせた……炎の勢いは全部上に……)

炎の柱はメラメラと立ち上っているが、火の粉を撒き散らすことはなく、ほどなくして消失した。

(……勝った……! やったよ、リザちゃん……! 私、リザちゃんを守れたよ……!)

周りを巻き込まなかったことに安堵しながら、エミリアはへたりと座り込む。
彼女が本気を出した炎に焼かれた者は骨も残らず消えてしまうので、死体の確認はできない。
それでも魔法は発動の瞬間、確実に敵を巻き込んだ。あの一瞬で逃げ延びる術はない。
あの殺人鬼を確実に葬ることができたはずだ。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……えへへ….…私だって、やるときはやるんだか……ら……」

魔力を使いすぎた上に、それをコントロールするための精神力も使い果たしてしまったエミリアは、ゆっくりと気を失った。



「ん……あれっ……?」

エミリアがゆっくりと目を開けると、見慣れない光景だった。
広い空間にたくさんのコンテナに工事用の立て看板、天井にはクレーンが吊り下がっている。

(なにかの倉庫……? わたし、気を失って……ッ!?)

ジャリ、という音でエミリアは完全に覚醒する。
寝台のようなコンテナの上に寝かされたまま、四肢が完全に鎖で拘束されているのだ。

「なにこれ!? 動けないッ……! いやっ……! ど、どうして……?」

「ようやくお目覚めか? EMT……エミリアたんよぉ」

倉庫の奥の暗闇から現れたのは、葬ったはずのヴァイスだった。



「嘘!貴方は私の魔法で……!」

「おおそうさ! だが地獄の閻魔様をぶっ殺して甦ったのよ!クククク!」

「……その、ナイフは……!」

「チッ、もうバレたか……斬魔朧刀はもうダメになっちまったよ。誰かさんの馬鹿魔力をちょっと反らしただけでなぁ」

エミリアの魔法は確かにヴァイスを狙っていたが、炎弾の着弾範囲で爆発を起こすものだった。
その炎弾を少しずらされて、爆発から逃れられてしまったらしい。

「まああれだけの炎魔法、回避できるか微妙だったが……さすが俺様のお気に入りナイフだ。しっかり守ってくれたぜええぇ!」

「そんな……そんなぁっ……!」

「お前、周りの奴らを巻き込まないためにあんな魔法の使い方したんだろ? 遠慮なく全部吹っ飛ばしちまえば俺様を消しとばせたのになぁ? なんて優しいエミリアたんなんだあぁ! そのせいで俺にブチ犯されて殺されてしまうたぁ……涙が出るぜ……!」

「ううぅ……!」

「クククク……その鎖は魔装具の一種。そのでっけえおっぱいに詰まった残りわずかな魔力も全部、吸い上げさせてもらったぜぇ?」

残りわずかな魔力すら、エミリアの中にはない。むしろ体内の魔力がなさすぎて、軽い目眩がするほどだった。

「はぁっ、はぁっ……」

(……ごめんね、リザちゃん……私じゃ、無理だったみたい……)

「さて、俺様はせっかく牢から出たってのにいろいろお預け食らってたんだ……ここなら何の邪魔も入らねえ。全部発散させてもらうぜ? エミリアちゃんよぉ!」

「ひっ、い、いやっ……! 来ないで……! いやああああああああああああああ!!!」

「あの金髪のガキとは違っていい反応するじゃねぇかあああああぁ!! ククククク! 思いっきりブチ犯してやるぜええぇ!」



エミリアの絶叫は、ヴァイスの口で強引に塞がれた。

750名無しさん:2020/05/22(金) 21:02:02 ID:nbNP2NFE
「あははははは!!お祭り!お祭り!ララララ!ラララララ!!」

アレイ草原、トーメント側本陣。そこではクルクルと回って紫色のドレスをはためかせたロゼッタが、特に指揮とかする様子もなくケタケタと笑っていた。

「おい、大丈夫かよあの人……俺、生存率高そうなルミナス側が良かったなぁ。あいつらには勝ち癖ついてるし」

「まぁなぁ……あっちは魔法少女特攻とか、デネブ様の毒に耐性があって巻き込まれても大丈夫な奴がメインらしいぞ」

そんなロゼッタの周りでは、やる気のなさそうな兵士たちが雑談をする。戦えば滅茶苦茶強いのは知っているが、幼児退行した指揮官に不安を覚えるなというのは無理な話だ。

「まぁ、多分後詰のシリウス様かプロキオン様辺りがそのうちサポートに来るだろ」

「だといいけど……まぁ前線がようやくぶつかったくらいだし、本陣の俺らにまで危険が及ぶのはまだ先……ふんぬ!」

「お、おい兵士A!どうし……ぐわし!」

雑談していた兵士2人が、突然北斗のモヒカン的悲鳴をあげて爆散する。

「……本陣の警備がこの程度とは、逆に罠を疑ってしまうな」

「て、敵襲ー!であえであえーー!」

まさかの本陣への奇襲に大慌ての魔物兵たち。それを冷静に俯瞰する白髪の女性……アゲハは、奥にいる総大将……ロゼッタに狙いを定める。

「テンジョウ様への恩義……貴様の命で返させてもらう!」

大戦へ向けた人事異動として、テンジョウはアゲハを暗殺部隊から対魔物部隊へと異動させていた。
否、アゲハだけではない。望まぬ意思で暗部に入れられた者のほとんどを、戦争の為と称して通常の部隊に組み込んでいた。

それ故、アゲハを始めとする元暗部の指揮は高い。

しかし、偵察だけして帰るつもりだった彼女がロゼッタを狙ったのは、テンジョウへの恩義で功を焦っただけではない。


(力を持った気狂いは、ただでさえ危険だが……こいつは輪をかけて危険!キリコやテンジョウ様に危機が及ぶ前に、私が仕留める!)

人体のマナの流れに敏いアゲハには、ロゼッタのマナの異常な流れを感知できた。彼女は『今』倒さねばどんどん危険になるという直感……それがアゲハに無理攻めを選ばせた。

邪魔する兵士たちの秘孔を突いて最小限の動きで撃破しつつ、一気にロゼッタまで迫るアゲハ。

「命、消える!天使、迎えに来る!天使!ラララ!ラララララ!ララ天使!」

目の前に死が迫っているというのに避ける様子もないロゼッタに、アゲハの手が迫った時……見えない何かの気配を感じた。

「ふん、お前が不可視の糸使いということは知っている!」

前述のように人体のマナの流れに敏いアゲハは、ロゼッタの糸の攻撃も大まかにだが把握できる。
暗器使いとの戦いも多い暗殺部隊にいたのと、予め情報があったのもあり、アゲハは初見ながら運命の糸に抵抗してみせた。

「当たりさえすれば……取った!!」

糸を完全に回避したアゲハは一息にロゼッタに肉薄し、すれ違いざまに秘孔を突こうとした。
だが……

「が、は……!?」

あと一歩でロゼッタに手が届くというところで、なぜかアゲハは口から吐血し、膝をついてしまう。

(な、んだ……?攻撃を受けた感覚もないのに、血が……?)

血の流れを逆流させる秘孔ならばアゲハも使える。だが、自分は全く攻撃を受けていないはず……

「赤い糸!血の糸!!運命の赤い糸!!」

膝をついたアゲハの目の前で変わらずクルクルと踊るロゼッタ。その左手薬指に……アゲハの吐いた血が細長い糸状になって絡みつく。

「な、に……!?」
(馬鹿な、触ってもいないのに、相手の血を操るだと……!?)

「運命の赤い糸は、全部私のもの!アハハハハ!」

「ぐ、ぶ……!ごぽ……!」

信じられない光景に驚いている間にも、アゲハの口からはとめどなく血が吐き出され、ロゼッタの左手薬指に巻きつく「運命の赤い糸」は増える一方。

751名無しさん:2020/05/22(金) 21:03:59 ID:???
(悔しいが、どうしようもない……!何とか離脱しなければ……!)

止血の秘孔を突いて無理矢理吐血を止めようとするが、一向に効果は現れない。

「う、ぷ……!ご、ぶぅ……!がはっ……!」

「なんか分からんがチャンス!ノコノコやってきた白女にお灸を据えてやるぜ!」

苦しげに呻くアゲハを見て、これ幸いと逃げ惑っていた魔物兵が、アゲハの顔を蹴り上げる。

「ぐはぁ!!」

貧血と血の逆流で動けないアゲハは、一瞬宙に浮いた後、受け身も取れずに硬い地面に倒れこむ。

「アハハハ!踊ろう?歌おう?天使!愛の歌!ラララ!」

ロゼッタ本人は追撃する様子もなく歌って踊っているが、相手の血を操る能力を解除する様子もない。
身動きも取れず、最早これまでかと思われたが……



「ニューベアランス・ベルトコンベアー!!」

突然、アゲハの倒れている地面が高速でベルトコンベヤーのように動き、彼女をトーメント本陣からミツルギ軍側へと引き戻す。

「な、なんだぁ!?あの女、動いてないのに急に遠くへ!?」

「ロゼッタ様!止めてください!」

「タラリラ〜♪ルラララ〜♪」

「ロゼッタ様ぁあ!?」

踊るばかりのロゼッタに兵士たちのツッコミが入るのを聞きながら、アゲハはある程度離れた草陰にまで運び込まれた。

「この忍法、まさか……」

「ぜ、前々回の大会ぶりだでな」

「グリズ、貴様に助けられるとはな……どういう風の吹き回しだ?」

【熊腕のグリズ】
前回の闘技大会の一回戦でアゲハと対戦した。その名の通りベアハッグを得意とする。
怪力と高い再生能力を持つ魔物「トロール」の血を引いており、少々の傷ならあっという間に回復してしまう。
鏡花をあと一歩の所まで追い詰めるが、魔法少女特有の友情パワーに逆転されたりもした。


「お、おでは今回はサポートに徹するんだな。負傷者を後方まで運ぶのがおでの仕事なんだな」

「ふ、随分牙の抜けた熊だ……まるでプーさんだな」

「な、なんとでも言うんだな。もう負けて痛いのはこりごりなんだな」

以前しのぎを削った相手に助けられるという奇妙な体験に何とも言えないこそばゆさを覚えながら、アゲハは口元の血を拭う。

「私が言うのも何だが、変わったな……とにかく、テンジョウ様の所へ私を送ってくれ。至急報告したいことがある」

752>>749から:2020/05/24(日) 15:27:29 ID:???
「あっぎあああああ!!! い、痛いぃっっ!!
 太くて、固くて……奥まで、刺さって………いやああああああ!!!!」
「ギャーーッハッハッハッハ!!痛くて当然。
俺様の特別製改造繁殖肉ナイフは、刺した奴に快楽なんてヌルいもんは一切与えねえ。
純度120パーセントの苦痛。その悲鳴が、俺様をより滾らせるのよォォ!!」

ヴァイスの改造ペニスは、鋭いスパイクが無数に生えた特別製。
彼の性格を反映し、対象に苦痛を与えるためだけに特化した恐るべき代物だった。
伝え聞いていたような『快楽』なるものは一切なく、
代わりにエミリアを襲うのは、覚悟していたより何十倍、何百倍もの純粋な苦痛の渦。
そしてそれは、ヴァイスが腰を一突きするたびに、更に勢いを増していく。

「げほっ!!がは!!!う、ぐ……っつああああああ!!!」
(こ、んなに……太くて、固くて、痛いなんて……!……この、ままじゃ……殺される…!)
前の穴だけでなく後ろも、穴以外の場所も、ヴァイスの肉棒は無差別に暴れまわる。
まるで、ノコギリで股間とその周辺を無差別に切り刻まれているかのような激痛。
エミリアの下半身は既に血の海だった。

「んぐぁああああぁぁぁぁぁぁっ!!いやあああ!!や、やめてっ……」
(私の命は……アイナちゃんが、守ってくれた命……こんな所で、無駄には……)
エミリアは、消えそうな自らの生命を燃やし、最後の魔力を振り絞ろうとする。だが……

「ヒッヒッヒ………ムダムダぁ!!」
(……バチバチバチバチバチッ!!)
「ひっ、が、っぐああああああ!!!」
(私の命は……リザちゃんを守るため。そのためだけに、使わ………な、きゃ……)
四肢を拘束する鎖に、必死に紡ぎだした魔力も根こそぎ吸い取られてしまう。

「ギッヒヒヒヒ……そろそろ出すぜぇ。その死にぞこないの身体で、たっぷり味わいなぁぁぁ!!」
……エミリアに、もはや打つ手は残されていなかった。
全てをあきらめ、瞳から意志の光が消えようとした、その時………

……さわやかな柑橘系の香りが、エミリアの鼻腔をくすぐった。

753名無しさん:2020/05/24(日) 15:29:15 ID:???
◇◇◇◇◇◇

「……ねえねえリザちゃん。王様が言ってた、リザちゃんが知ってる人って誰のことだと思う?」
「別に、誰でもいい……誰が来ようと、私のやることに変わりはない」

……トーメント王は勿体つけていたが、リザにも察しはついていた。
そもそもリザが知っている人物自体そう多くないし、その中で『遊撃部隊』に選ばれるだけの実力者。
更に、王が選んだメンバーとなると……心当たりは一人、あの狂った殺人鬼しかいない。

「ふふふ。王様はそのつもりかもしれないけど……別の可能性も考えられない?
運命って、意外とちょっとした事で変わるものなんだよ。
例えば………」

「っていうか、遅ぇなぁ。ヴァイスはいつになったら来るんだよ、ったく……」
「はぁっ………はぁっ………はぁっ………」
「あれ?……おいおいエミリアちゃん。なんで君がここに?」
「エミリア!?……傷だらけじゃない。一体何があったの!?」
「ヴァイスは……あの人は、ここには来ません。私が倒しましたから……
…王様、そしてリザちゃん。……代わりに私を、『遊撃部隊』のメンバーに加えてください!」

「……確率で言ったら、10%にも満たないけど……こういう事だって起こりうるの。
私としても、きったないオジサンよりは女の子の方がいいし……」

ヴァイスを倒したというエミリアは、下半身が血まみれ。
そして肩には、大ぶりなナイフが深々と突き刺さっていた。
一体何があったというのか。想像はつくが、想像したくない。

「……あの殺人鬼じゃなくて、エミリアがメンバーに?………?」
「そう……あくまで、これは可能性。だけど今なら、私の能力で、好きな方を選ぶ事ができる。
リザちゃんは……どっちがいいかな?」

「………そんな………エミリア、ボロボロじゃない。この後すぐ戦場に行くのに、こんな状態で、なんて……」
「…平気、だよ。リザちゃんのためなら。…それに、しばらくすれば魔力も回復して、治療できるし……」
「ふふふ。けなげねえ……戦力的には足手まといでも、イザってとき盾くらいには使えそうじゃない?」

「……待って。……やっぱり、ダメだよ。こんなの」
「……リザ…ちゃん……?」
「あら。この可能性は要らない?」

「…こんな状態のエミリアを、戦場に連れていけるわけないでしょ。
それに………もうこれ以上、エミリアを戦いに巻き込みたくない。
ガラドの……エミリアの故郷の人たちも、敵になるかもしれないのに」
「……そんなの、とっくに覚悟してるよ。
私はそれでも、リザちゃんの力になりたい。だから。お願い………!!」

(何より………戦場で、これから私は、たくさん殺す。人も魔物も、手当たり次第に…
そんな姿を……エミリアにだけは、見せたくない)

「リザちゃん!!」
「さあリザちゃん。貴女なら、どっちを選ぶ?
その仲良しの子を戦場に連れていくか。……それとも、汚らしい殺人鬼の方がお好み?
……ふふふふ……」

◆◆◆◆◆◆

754名無しさん:2020/06/08(月) 03:06:37 ID:TcsuKX4Q
「……あの殺人鬼とエミリアなら……エミリアの方が大事に決まってる……」

「あははっ! そうだよね、リザちゃん。だっていまエミリアちゃんを選ばないと、彼女は死んじゃうんだもん」

「……えっ?今なんて……」

「なんでもないよ。じゃあこれで運命を確定させちゃうね!」

リザの感じる柑橘系の香りが強くなる。
その香りに一瞬まどろんだリザが目を開けると、王の前でエミリアが倒れていた。



「はぁ……仕方無いな。ヴァイスがいないんなら代わりにエミリアたんにするか。リザもそれでいいんだよな?」

「……え? あ……」

「? なに惚けてるんだよ。俺様は同じ話をするのは嫌いだぞ。お前可愛いから許すけど、エミリアたんをお前の遊撃部隊に組み込むけどいいよな?」

「……は、はい」

「はいじゃあエミリアたんの治療は適当に済まして後から向かわせるから、お前らさっさと出てけ。もう戦争は始まってるんだ。テキパキ仕事しろよ」

「はい、王様。イータブリックスのために、リザ隊長と戦果を上げてまいります」

「……お前……」

スズの顔を見た王は、一瞬だけ露骨にいやそうな顔をしたが、すぐに元のニタついた顔に戻った。

「……まあいいさ。リザをよろしく頼むな?だが勝手な真似をしすぎるようならお前も俺様の玩具にしてやるからな」

「……? ……なんのことかわかりませんが、肝に銘じておきます」

「ケッ、ほらさっさといけ! お前らみたいな美少女見てると忙しいのにリョナ欲がムラムラして敵わんわ!」

半ば追い出されるように、2人は王の間から出て行った。



「……ねえ、さっきの……エミリアが死んじゃうっていうのは、どういうこと?」

「気にしなくていいよ。エミリアちゃんは今はまだひとまず、死なないことになったからね。リザちゃんが選んだ運命が、そうさせたんだよ」

「……全然答えになってない」

「言ったでしょ? リザちゃん『だけ』は『どんなことがあっても』生き延びられるようにしてあげる。たとえリザちゃんがどんなに過酷な目に遭っても、もう死にたいと思った時でも、私が生きているうちは、リザちゃんを守ってあげるよ」

「……話が通じないんだね。もういいよ」

「フフフ……釣れないなあ。けどそういうところも好きだなぁ……」

言いながらスズはリザの腕を掴み、自分の胸にくっつけて恋人のようなスキンシップをしてきた。

「……ねえ、そういうのやめて……」

「残りのメンバーあと2人、どんな人たちだろうね?楽しみだね」

「…………」

どうやらスズはあまりこちらの話を聞かないタイプらしい。
そう判断して閉口したリザの前に、COMPを纏った人物が1人で現れた。

755名無しさん:2020/06/08(月) 03:09:55 ID:TcsuKX4Q
「失礼。王下十輝星のスピカ様でいらっしゃいますか?」

「……そうだけど」

「では、ご挨拶させていただきます」

低音だが凛とした声の主は、ゆっくりとCOMPを脱ぎ去った。



「トーメント王国正規軍、階級は少佐。カイトと申します。遊撃部隊員の任を受け、十輝星のスピカ様と共に戦うべく馳せ参じました。若輩者ではありますが、どうぞよろしくお願いいたします」

175くらいの身長に聞きやすい低音の声。
整った黒髪に真面目そうな顔立ち。
このトーメント軍の兵士には珍しく、まさに好青年という印象をリザは受けた。

「カイトくんかぁ。年は幾つなの?」

「……17でありますが……貴女は?」

「私はスズ。スズ・ユウヒ。貴方と一緒の遊撃部隊だよ」

「……失礼ですが、所属部隊は?」

「私は表立った部隊には所属してないよ。トーメントの暗部……って言えばわかるかな?」

「……詮索はしないでおきますが、その言葉遣いはなんとかなりませんか? 軍人である以上、上官の前でそのような振る舞いは失礼ですよ」

「上官って、リザちゃんのこと?」

「なっ!? す、スピカ様を名前で、しかもちゃん付け!? 一体なに考えてるんですか!! 立派な軍法会議ものですよ!!」

「…………」



どうやら目の前の青年は、あまり融通がきかないらしい。
魔物軍とは別の正規軍はガチガチの軍人社会であるそうなので仕方無いのかもしれないが、リザとしてはコミュニケーションの弊害となる言葉遣いはどうでもよかった。

「……ねえ。貴方が正規軍でどういう風に扱われてきたか知らないけど……私のことはリザで呼び捨てにしてくれていい。敬語を使うかも任せる」

「ええ!? そんな……! 上官を呼び捨てなんて……」

「カイトくん硬い硬いよー。せっかく一緒の舞台に配属されたんだから、もっと仲良くしよう?」

そう言ってスズがカイトの手を握ろうと接近したその時……

756名無しさん:2020/06/08(月) 03:10:55 ID:TcsuKX4Q
「うわあああああぁ!!! ち、近づかないでくださいっ!!!」

「え、ええっ!?」

「む、無理なんです! お、おんなの人、おんなのひと、僕、無理なんです!!!

「……はぁ?」

「あ、すすすすみません!! 今のは決してスピカ様を侮辱したわけではなく、そ、その……私の体質といいますか……!」

スズが近づいた瞬間に距離を取り、慌てふためくカイト。その動作の俊敏さから只者ではなさそうだが、体質に難があるらしい。



「……女性恐怖症だね。過去に何かあった?」

「……いえ、あの、ここで話すほどのことではないです……ただ、距離を詰められたり、触られたりするのは、ちょっと……」

「……どうでもいいけど、作戦行動に支障を来すなら降りてもらう。この部隊は私とスズともう1人も女だから、半数以上貴方に近づけない」

「もしかしたら最後の1人も、女の子かも知らないよね? そしたらカイトくん、どうするの?」

「そ、そそ、ソーシャルディスタンスで距離を離していただければ……」

「ねえ、この世界にはコ○ナは蔓延ってないよ?」

「う、うううぅ……」



遊撃部隊としての任務は、なにが起こるかわからない。小隊として活動する以上、潜伏する際や戦闘の際は隊員同士触れ合うことも容易に考えられる。
そんな中触っただけで騒がれては、不要な戦闘を招射てしまう可能性は高いだろう。



「……あの、僕……だめでしょうか」

「……無理かな。私たちが男だったらよかったかもしれないけど」

「……じゃあさ。私たちでカイトくんを女の子大丈夫な体にしてあげようよ。それならいいでしょ? リザちゃん」

「……なにそれ」

「だから、スキンシップとかして、カイトくんの女の子嫌いを克服させてあげよう大作戦! 楽しそうでしょ?」

「あ、女性が嫌いなわけではないですよ?むしろ好きなんですけど……その、触られるのとかは……と、特に美人の人は無理で……」

「……楽しくもないし、そんなくだらない作戦してる場合じゃない。もう1人も合流したらすぐに戦闘に入るんだから」

「でも遊撃部隊は、戦闘が激化したら派遣される予定なんだよ。だから指示があるまでは待機なの。その間にやってみようよ」

「……………」

「ね? リザちゃん。私たちならきっとカイトくんを治せるよ。やってみよう?」

「……はぁ……仕方ないな」

「え、あの、なんか勝手に変なことされそうになってる気が……」



カイト
年齢:17

黒髪黒目の青年。10の時に正規軍に入りその卓越した刀捌きで17にして士官に昇り詰めた。
武器は一子相伝の『名刀 調水』
水の力を纏った刀で、斬撃と共に水流を発生させることができる。
戦闘力、判断力、共に軍人としての平均を大きく超えてはいるが、女性が大の苦手で接近されるのはもちろん触られるのはもってのほか。
それには過去のトラウマが関係しているようだ。

758名無しさん:2020/06/15(月) 05:10:50 ID:TYGwGQpQ
「おーおー。みんな楽しそうで何よりだ。年齢層低そうだから、俺の居場所はなさそうだな」

「ん?誰……?」

突然の男の声に一同が視線を送った先にいたのは……
理科室によくある人体模型をそのまま太らせたような、人間の骨だった。

「って、うわわぁ! 骨!? きもちわるっ!!」

「うわあああっ! 女の人の次はスケルトンッ!? スピカ様お下がりくださいっ!」

「……2人とも落ち着いて。ただの魔物兵。敵じゃない」

リザが前に出て2人を制すると、骨男はカラカラと笑った。

「そうそう。金髪ちゃんの言う通り。人を見た目で判断するのはよくないぜ?俺は骨だが心はある。今のオレンジちゃんと真面目くんのリアクションは悲しさが骨身に染みたぜ……ホネだけにな!」



「…………….」

「おいおい、3人して黙っちまって、誰か死んだのか? あ、死んでるのは俺だった。なにしろもう焼かれて骨になっちまってるもんなぁ」

「……どうでもいいお喋りはやめて。ここになにしに来たの」

面食らってしまったスズとカイトの代わりに、リザが話を進める。
どこでCOMPを脱いだのかわからないが、骨男はダボついたコートに手を突っ込みながらニヤリと笑みを浮かべた。



「俺はボーンド。見た目通りのわっかりやすい名前だろ?遊撃部隊とやらに配属されることになったんでこの辺歩いてたら、それっぽい会話が聞こえたんでね」

そういうとボーンドはウインクして見せた。
落ち着いてよく観察すると骨の目の奥には黄色の瞳があり、空洞ではないようだ。

「……あ、じゃあ私たちの仲間なんだね。私はスズ・ユウヒ。よろしくね」

「ぼ、僕はカイトです。あの、あなたの所属は……?」

「俺の所属? 俺はちゃんとした部隊には所属してねえよ。トーメントの暗部……って言えばわかるか?」

「ま、またそれですか……正規軍以外の管理体制はどうなってるんですかね……」

「真面目くん。管理体制なんてどこの企業も団体もガバガバなんだよ。そもそも人間が管理してるもんなんて、すべてガバガバさ……で、誰がスピカだい?」

「……は?」

「金髪ちゃんはどう見ても細すぎだしちっちゃいしなぁ。オレンジちゃんは強そうだがスピカってほどじゃないだろ。真面目くんはモブっぽいし……まさかこの中にはいないのか?」

どうやらこの男は、管理体制どころか自分の上官の姿さえ知らないらしい。
まあ十輝星は正体を明かしていないので、その反応は当たり前ではある。



「……さっき人を見た目で判断するのは良くないって言ったのは、誰だったっけ」

「……え、まさか金髪ちゃん……?ウソだろ……?」

「十輝星であるスピカ様になんと失礼な……! 気軽に金髪ちゃんなどと呼んでいいと思っているのか!」

「まあまあカイトくん。仲間なんだし仲良くしようよ。リザちゃんもそんなに怒らないで。ね?」

「……別に私は怒ってない」

「いやあ、申し訳ねえ。穴があったら入りたい気分だ……俺の場合はそこがそのまま墓穴になっちまうけどな」

「……この人さっきからくだらないことしか言ってないですけど、ほんとに強いんですかね?」

「え? 俺は弱いよ。人員不足でわけわかんないとこにアテンドされただけの窓際族さ。だからわざわざ作戦に参加する価値もないし、俺のことは透明人間として扱ってくれな。これがほんとの透けルトン……なんつって」

「……ぷっ、あはははは! ボーンドさんおもしろい! さっきから笑い堪えてたから……もう……!」

「おっ! オレンジちゃんは話がわかるな! 柑橘系女子の側にいるとみかん食いまくった後の手みたいに俺の骨が黄ばんじまいそうだが、気に入ったぜ!」

「あははっ!わたしのこと柑橘系女子だって……!じゃあリザちゃんは何系女子?」

「金髪ちゃんはツンデレだろ? 古来から金髪美少女はツンデレって相場が決まってるのさ」

「おお! 結構あってるかも! リザちゃんってツンツンしてるけど意外と優しいもんねー」

「……ま、まだ金髪ちゃんだのツンデレだのと呼んでる……!どうなってるんだ、魔物軍の上官への対応は……!」



ボーンドを加えた場は和んだように見せかけて混沌としていた。
スケルトンは魔物兵の中でも下層に位置しており、その見た目から表舞台に出てくることは極めて少ない。
地下で魔物の世話をさせられているか、重要拠点の夜間防衛などが主な任務となっている。
本人の言う通り、ボーンド自身は本当に弱いのかもしれないが、リザはそうは思えなかった。



(この人……侮れない気がする……)



死戦をくぐり抜けてきた者にしか発することのない雰囲気が、彼の周りにはあった。

759名無しさん:2020/06/20(土) 20:30:23 ID:???
「それじゃさっそく街に出て、カイトくんの女の子嫌いを(略)作戦、いってみよー!ボーンドさんも一緒に行こ!!」
「…悪いが、俺はこの後ちょいと野暮用があるんでね。…ま、三人で楽しんでくるといい」

「えー?残念だなぁ。それじゃ、リザちゃん!」
「カイトって言ったっけ……確かに、今のままじゃまともに使えそうにないし…仕方ないか」
「ふっふっふ…そうこなくちゃ!カイトくんの(略)作戦、開始ー!!」
「えっ……ちょっとまさか、本気なんですか!?か、勘弁してくださいよ…!」
「何言ってんの!こ〜んな超絶美少女2人と一度にデートできるチャンスなんて滅多にないんだから、
もっと喜ばなきゃだよー?」

「ボーンドさん、た、助けてくださいよぉ……」
「クックック……そっちのお嬢ちゃんの言うとおりだな。
どうせこれから糞みてえな戦場に送られるんだ。今のうちに骨休めでもしてきな、若造」
「そ、そんなぁ……!」

「……それじゃ、後で連絡する」
「おう……またな」


スズはカイトを引きずるようにして強引に連れていき、その後をリザが追いかけていった。
三人を見送った後、ボーンドが向かったのは………

「あれが俺らの隊長さんねぇ。……ま、どうなることやら、っと……いたいた。」

人気のない廃倉庫。そこには、瀕死の男が一人、倒れていた。

「初めまして……お前さんが、ヴァイスだな」
「う……げ、ほ………誰だ、テメェは………」
「………クックック。そうだなぁ。ま……死神みたいなもん、とでも言っておこうか。
 見た感じそれっぽいだろ?骨だし」

「クッソがぁ……俺は、死ぬのか……畜生……あのエミリアって女……
まさか、あんな方法で手錠から抜け出すなんて……許さねえぇ……
エミリアも、リザも……ブチ犯して殺しまくるまで、俺はぁ……」

「クックック……まさに恨み骨髄、ってやつか。お前さん、思った通りなかなか骨があるねぇ。
そのすさまじい恨みのパワー……この俺が、骨の髄まで使いつくしてやるよ」
「な……何をしやがる……っぐ、うごぁああアアアアアアァァァァア"ア"ア"ア"……!!!」

「ヴァイス・ザ・リッパー。今からお前さんはこの俺の使い魔……『不死の兵団』の一員だ。
骨身を惜しまず働いてくれよ。
なあに…この俺の下にいりゃ、恨みを晴らすチャンスはきっとめぐって来るさ」

760>>751から:2020/06/21(日) 14:51:59 ID:???
敵陣の奥で見聞きしたことを、テンジョウに報告するアゲハ。
傍に控えていたローレンハインとアルフレッドは、それを聞いて確信を抱いた。

「敵軍の大将……糸使いの女性。紫の髪と瞳……アルフレッド殿、これはやはり」
「ええ。間違いありません………ロゼッタお嬢様です」

ロゼッタ……
不倶戴天の敵、トーメント王下十輝星「カペラ」の星位を持つ者。
そして、かつてアルフレッドが仕えていたラウリート家の、最後の生き残りでもある。

「運命の、赤い糸……確かにそう言ったのか。
そのロゼッタってねーちゃんの能力が、言葉通り、相手の運命を操れるんなら」
「ええ……それに対抗できるのは、この世界の運命の外にいる者……すなわち、異世界の戦士のみ」
「…こんなに早く、切り札を切る事になるとはな」
「………行けますか、お嬢様」
ため息を吐くテンジョウ。
アルフレッドは、柱の陰にそっと目配せを送る。それに応えるのは……

「ええ。……遅かれ早かれ、避けて通れない相手ですわ」
戦闘用ドレスを身に纏い、二刀を腰に差した金髪の少女……アリサ・アングレーム。

「うちの兵士たちもがんばっちゃいるが、そもそもドラゴンなんかの魔物どもと
真っ向からやり合うのは専門じゃないからな。長引けばそれだけ消耗も大きくなる。
……作戦はシンプル、かつ忍びらしく。少数で敵陣深くまで潜入して、大将を直接…倒す」

「ええ、心得ていますわ。この白ドレスでは目立ちすぎますから……はっ!!」
アリスは『早着替えの術』により、一瞬にして深紫色のドレスに着替える。
アルフレッドは、その姿を目にした時、……遠い過去の記憶を、ふと思い出した。

「さあ。行きましょう、アルフレッド………どうしたの?」
「……え、……は、はい。…お嬢様の事は、私が命に代えてもお守り致します」
「もう…そういうのは無し、って約束したでしょう?
 守ってくれるのは背中だけで結構ですわ」

「!……申し訳ありません。あの方に、本当に生き写しだったものですから……」
「ふふふ……アルフレッドが、そこまで上の空になるなんて。
わたくしは話に聞いただけですが……本当に、よく似ていたのですね」

「ええ……ヴィオラ様。そして、ロゼッタ様……今度こそ、決着をつける。
トーメント王を打倒し、お二人を残酷な『運命』の輪から解放してやらねば。
……アリサ様。私に、力を貸してください」
「ええ、もちろん。そのために、わたくしはここにいるのですから」

出陣の準備を整えた、アリサとアルフレッド。
淡い慕情、殺意、憎悪、そして和解……紆余曲折の果てに、今二人は共に戦場に肩を並べる事になった。

「ところでアルフレッド………」
「?」
「……もしかしてヴィオラ様は、貴方の初恋の相手……なのかしら?」
「なっ!?……え、ええと……それは、その……」
「ふふふふ……貴方のそんな顔、初めて見ましたわ。
いつか……すべてが終わったら、ゆっくりとお話を聞かせてほしい所ですわね」

二人の長い長い旅の終着点……最後の戦いが今、幕を開けようとしている。

761名無しさん:2020/06/25(木) 23:58:58 ID:???
「いよいよ作戦間近ね……燃えてきたわ!」

ルミナスの首都、ムーンライトにて。
各地を転戦する魔法少女たちに随員し、実戦で各属性の魔法拳を覚えた瑠奈は、来る決戦に向けて意気込んでいた。

(思えば、この世界に来て戸惑ってばかりいた私たちに希望をくれたのは、ルミナスの攻撃作戦だった……今度は私が!)

手を握りしめて気合を入れる瑠奈。

「あの、瑠奈さん……少しお時間よろしいですか?」

そこに、何やら思いつめた様子のフウコが近づいてきた。水鳥やカリン、ルーフェは一緒ではない。

「フウコ?どうしたの?」

「ここじゃちょっと……場所を変えてもいいですか?」

フウコの真剣な表情を見て、どうやら大声で話すようなことではないと察した瑠奈は、コクリと頷く。

「分かったわ、私の部屋に行きましょう」

瑠奈は以前ルミナスに身を寄せていた時に使っていたのと同じ部屋にフウコを通す。
思い返せば、フウコと初めて会ったのもこの部屋だったが……今は唯もカリンもおらず、自分とフウコしかいない。

「それで、話っていうのは一体なにかしら?」

フウコは出されたお茶にも手を付けずに、少し俯きながらポツポツと喋り始める。

「瑠奈さん、私……実は、フウヤと戦う覚悟が、まだできてないんです」

泣きそうになりながら言うフウコ。フウヤと聞いて、瑠奈はヒカリから聞いた情報……デネブのフースーヤの正体は、フウコの弟であるフウヤだった事を思い出す。

「え、っと……まぁそりゃ、弟が敵になってたなんて納得できないわよね……」

瑠奈としても、もしも兄がなんやかんやあってトーメントの手先になっていたとしたら……など、想像すると悪寒がする。

「でも、前にソイツが攻めてきた時に覚悟を決めて戦ったって聞いたけど……」

「実は、フウヤが攻めてきた時の記憶がないんです」

一度死んでから復活したせいで、フウコはルミナス侵攻編の記憶を丸ごと失っていたのだ。後から何があったかは聞いたが……それだけで納得できるわけもない。

「私は、どうしても納得できないんです、フウヤが裏切ったなんて……だから、だから……!」

鏡花を含め、ルミナスにはフウヤの裏切りによって大打撃を受けた者が大勢いる。そんなフウヤをそれでも信じるという話など、部外者の瑠菜にしか話せないだろう。

「それで、その……カリンちゃんたちに言ったら止められると思って、言ってないんですけど……実は今朝、こんなものが届いてたんです」

そう言いながらフウコは、懐から風魔法のかかった矢文を取り出して瑠奈に見せる。

『今宵、あの場所で待つ。親愛なる姉へ、愚弟より』

シンプルながら中二感溢れるその手紙は、フウヤからフウコへの手紙で間違いない。

「あの場所……心当たりがあるのね?」

「はい。だから、その……このことで、行くべきか少し相談したくて」

「なるほど……話は分かったわ」

瑠奈はデネブとはほとんど接点はないが、以前8対5でひたすら甚振られた時にいた人間だというのは分かる。
正直、説得に応じるような相手だとは思えないが……

(こんな時、きっと唯なら、フウコの背中を押す……なら、私も!)

「フウコは行きたいって思ってるんでしょう?なら行くべきよ!こういう時は自分に素直になるべきだわ!」

「瑠奈さん……」

「そんなに不安そうにしなくても大丈夫!私も一緒に行ってあげるわ!」

「え、ええ!?その、確かに一人は不安でしたけど……」

「姉弟水入らずの邪魔はせずに様子を伺ってるから、納得いくまで話し合って来なさい!」

決戦を控えた中で行われる、姉弟とそれを見守る運命の戦士の密会。
罠の可能性を考慮しながらも、血を分けた家族への情がフウコを動かした。

この小さなうねりがやがて、ルミナス方面の戦局を大きく動かすことになる……

762名無しさん:2020/06/28(日) 15:16:04 ID:???
アリサたちがロゼッタとの決着をつけるべく出陣した、ちょうどその頃。
テンジョウらは前線で戦う五人衆たちに本陣から狼煙で合図を送っていた。
その内容は……

「……お、テンちゃんからの合図や。それじゃ、手はず通り……ウチらは派手に暴れるで!
 陽動作戦開始や!!」
「「「ハイヨロコンデー!!」」」

(ズドーーンッ!! ビシュビシュビシュ!!)

「「っぐわーーー!?」」
「なっ、なんだコイツら!いきなり攻撃が激しく……」

「張り倒して差し上げます……椿張扇(ツバキハリセン)!!」
「貴方のお命、ご破算します……榎算盤(エノキソロバン)!!」
「汚物は清掃ですわ…………………柊埃叩(ヒイラギハタキ)!!」

「こっからは遠慮ナシや。ガンガン行くでぇ!…
『風遁・カマイタチ』!『水遁・ミズチ』!!…からのー!『雷遁・タケミカヅチ』!」

(ズドドドドドドドッ!!……バリバリバリバリッ!!)

「「「グワーーーーッ!?」」」

テンジョウの居る本陣から狼煙があがり、前線で戦う『金尽のコトネ』達の部隊が大きく動く。
『巻物などの消耗品は公費で落として良い』という言質(煙質)を得たので、強力なアイテムも解禁。
並みいる魔物兵たちを次々となぎ倒していった。

「よーし、このあたりの敵はあらかた片付いたな!……んん?…あれは……」
「コトネ様、どうしました?」
一息ついたコトネは、敵軍がいた場所に、見慣れない箱が置かれているのに気が付いた。
金属製の頑丈そうなチェストで、人一人すっぽり入れそうなほど大きい。
どちらかというと、こういう物はダンジョンの奥深くやお城の宝物庫などに置かれているのが普通なのだが……

「宝箱やん!!いやー、これもウチの日ごろの行いが良いからやな!」
「……やめときましょうよコトネ様。あからさまに怪しいじゃないですか」
「大体こんなフィールドに宝箱が落ちてるのはおかしいですよ」
「いやいや。フィールドの宝箱落ちてたりモンスターが落としたりするのはJRPGじゃ普通やん?」
「そりゃ、JRPGなら普通ですけど……」


お供のアキナイ三姉妹が止めようとするが、もちろんテンションの上がったコトネは止まらない。
「大丈夫大丈夫!罠探知機が反応してへんから、何も仕掛けられて……」

(ばくん。)
「え?……」

………そう。箱には何も仕掛けられておらず、罠探知機にも反応はなかった。
しかし、箱そのものが、宝箱に擬態した魔物だったのだ。

(ブワワワワワワワッ!!)
「なっ!?なんやこr……むっぐ!!」
「「「コトネ様ぁーーーー!!」」」

コトネが箱の前に立った瞬間、箱の蓋が開き、黒い触手が無数に飛び出して………
コトネを箱の中に閉じ込めてしまった。

763名無しさん:2020/06/28(日) 15:17:52 ID:???
【ダークミミック】
不定形などす黒いタール状の身体を持つ魔物兵。
身体を自在に変化、硬質化させ、宝箱など、あらゆる物体に擬態する事ができる。
硬質化させた時の身体は驚異的な防御力を持ち、武器や魔法による攻撃で破壊することは非常に困難。

(ぐちょ………ぬちゅ………)
「フヒヒヒヒ……まさか、五人衆の一人をこうもあっさり捕らえる事ができるとはなぁ」
宝箱に擬態したミミックに飲み込まれたコトネ。
箱の中は狭く、黒い鎖で手足を絡め捕られ身動きが取れない。

「くっ………甘く見られたもんやな。今のウチは能力使いたい放題なんや。こんな拘束、一瞬で抜け出して………」
(あれ、待てよ?テンちゃんは『消耗品は公費』て言っとったけど、
ウチの能力で使った分のお金って、経費で落ちるんやろか……)
力づくで抜けようとするコトネ。だが、彼女の能力『成金術』は、所持金や宝石などを消費する事で力を発揮する。
フルパワーを使ってしまうと、後で経済的・精神的ダメージが自分自身に跳ね返ってくるのだ。

「クックック……その余裕ヅラ、どのくらい持つかな?……喰らえ!硬質化ドリルアーム!!」
「!!…しゃーない……『金剛体・部分課金モード』!」
(………ギュイィィィィィィンン!! ガリガリガリガリガリ!!)

ドリル型に変化したミミックの触手が、コトネの胸を貫こうとする。
コトネは成金術で胸の部分だけを硬質化させ、攻撃を防いだ。

「うっ………ぐ……!!」
(……ウチの『金剛体』でも、防ぐのがやっとや……こいつ、ザコかと思ったら意外と……!)

「ほほーぉ。さすがは討魔忍五人衆の一人……だがドリルはまだまだあるぜぇ?
つぎは……クリトリスだぁっ!!」

(グオンッ!!……ガキィィンッ!!ギュルルルルルルルッ!!)

コトネは課金を最小限に抑えるため、攻撃される個所をピンポイントで硬質化させて防ぐ。
火花が飛び散り、激しい衝撃が生身の部分にビリビリと伝わってきた。

「んぐ……あ、ぅっ……!!………こん、のド変態が…!!
つーかこーいう奴は、ふつう七華かササメっちの所に行くはずやろ……」

「ヒヒヒ…俺はむしろ、自分だけは安全、自分がヤられる事なんて考えもしてないってタイプの奴を
じっくりねっとりいたぶって、『あれ?これもしかしてウチやばいんと違う?』って
気づいたときにはもう手遅れ、みたいなシチュが大好物なんだ。」

「……ガチのドクズやな……こんなんとダラダラ付き合ってたら時間と金の無駄や。さっさと反撃……」
「オラオラ!今度は全身串刺しだぁぁぁ!!」
「!!……『金剛体・全身モード』!!」
反撃に転じようとした瞬間。
ミミックは周囲の触手を無数のドリルに変え、攻撃してきた。
コトネは反撃を中止し、全身を硬質化させて防御せざるを得ない。

まともに戦えば遅れをとる相手ではないはずなのに、コトネはことごとく後手に回らされている。

敵を無名の格下と侮り、課金を渋ったせいか。
五人衆の座について実戦から遠ざかり、戦いの勘が鈍っていたからか。

何にせよ。
「正体不明の敵に捕らえられ、閉じ込められ、全身を拘束されている」
という圧倒的不利な状況を、コトネは甘く見すぎていた。

「クックック……全身を金属化……そう来ると思ったぜ。だが無駄だぁ!!。高圧電流放出!!」
(バリバリバリバリッッ!!)

(んっぐ、ぁあああああぁぁああああああああぁぁっ!!!)
敵はコトネの能力を見抜き、すぐさま攻め手を変えてきた。
コトネの全身に巻き付いた触手から、強力な電流が流される。
金属化した体に、電撃は効果が抜群だ!
しかも、全身を金属化している間、課金はどんどん累積していく。
金属化を解除しても、今度はドリルで全身を刺し貫かれることになる。

(あ、れ………?これ、もしかして…………ウチ、やばいんと違う………?)


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